text
stringlengths
0
999
䞊の事実は、珟代英語の䞀人称・二人称代名詞がほが "I" ず "you" のみであり、フランス語の䞀人称代名詞が "je"、二人称代名詞が "tu" "vous" のみ、たたドむツ語の䞀人称代名詞が"ich"、二人称代名詞が"du" "Sie" "ihr"のみであるこずず比范すれば、特城的ずいうこずができる。
もっずも、日本語においおも、本来の人称代名詞は、䞀人称に「ワ(レ)」「ア(レ)」、二人称に「ナ(レ)」があるのみである(䜆し『ナ』はもず䞀人称ずも芋られ、埌述のこずずも関係があるが)。今日、䞀・二人称同様に甚いられる語は、その倧郚分が䞀般名詞からの転甚である。
䞀人称を瀺す「がく」や䞉人称を瀺す「圌女」などを、「がく、䜕歳?」「圌女、どこ行くの?」のように二人称に転甚するこずが可胜であるのも、日本語の人称語圙が䞀般名詞的であるこずの珟れである。
なお、敬意衚珟の芳点から、目䞊に察しおは二人称代名詞の䜿甚が避けられる傟向がある。
たずえば、「あなたは䜕時に出かけたすか」ずは蚀わず、「䜕時にいらっしゃいたすか」のように蚀うこずが普通である。
「芪族語圙の䜓系」の節も参照。
たた、音象城語、いわゆるオノマトペの語圙量も日本語には豊富である(オノマトペの定矩は䞀定しないが、ここでは、擬声語・擬音語のように耳に聞こえるものを写した語ず、擬態語のように耳に聞こえない状態・様子などを写した語の総称ずしお甚いる)。
擬声語は、人や動物が立おる声を写したものである(䟋、おぎゃあ・がおう・げらげら・にゃあにゃあ)。擬音語は、物音を写したものである(䟋、がたがた・がんがん・ばんばん・どんどん)。擬態語は、ものごずの様子や心理の動きなどを衚したものである(䟋、きょろきょろ・すいすい・いらいら・わくわく)。擬態語の䞭で、心理を衚す語を特に擬情語ず称するこずもある。
オノマトペ自䜓は倚くの蚀語に存圚する。
たずえば猫の鳎き声は、英語で「mew」、ドむツ語で「miau」、フランス語で 「miaou」、ロシア語で「Ќяу」、䞭囜語で「喵喵」、朝鮮語で「알옹알옹」などである。
しかしながら、その語圙量は蚀語によっお異なる。
日本語のオノマトペは欧米語や䞭囜語の3倍から5倍存圚するずいわれる。
英語などず比べるず、ずりわけ擬態語が倚く䜿われるずされる。
新たなオノマトペが䜜られるこずもある。
「(心臓が)ばくばく」「がっ぀り(食べる)」などは、近幎に䜜られた(広たった)オノマトペの䟋である。
挫画などの媒䜓では、ずりわけ自由にオノマトペが䜜られる。
挫画家の手塚治虫は、挫画を英蚳しおもらったずころ、「ドギュヌン」「シヌン」などの語に翻蚳者が「お手あげになっおしたった」ず蚘しおいる。
たた、挫画出版瀟瀟長の堀淵枅治も、アメリカで日本挫画を売るに圓たり、独特の擬音を蚳すのにスタッフが悩んだこずを述べおいる。
日本語の語圙を品詞ごずにみるず、圧倒的に倚いものは名詞である。
その残りのうちで比范的倚いものは動詞である。
『新遞囜語蟞兞』の収録語の堎合、名詞が82.37%、動詞が9.09%、副詞が2.46%、圢容動詞が2.02%、圢容詞が1.24%ずなっおいる。
このうち、ずりわけ目を匕くのは圢容詞・圢容動詞の少なさである。
か぀お柳田國男はこの点を指摘しお「圢容詞饑饉」ず称した。
英語の堎合、『オックスフォヌド英語蟞兞』第2版では、半分以䞊が名詞、玄4分の1が圢容詞、玄7分の1が動詞ずいうこずであり、英語ずの比范の䞊からは、日本語の圢容詞が僅少であるこずは特城的ずいえる。
ただし、これは日本語で物事を圢容するこずが難しいこずを意味するものではなく、他の圢匏による圢容衚珟が倚く存圚する。
䟋えば「初歩(の)」「酞性(の)」など「名詞(+の)」の圢匏、「目立぀(色)」「ずがった(針)」「はやっおいる(店)」など動詞を基にした圢匏、「぀たらない」「にえきらない」など吊定助動詞「ない」を䌎う圢匏などが圢容衚珟に甚いられる。
もずもず少ない圢容詞を補う䞻芁な圢匏は圢容動詞である。
挢語・倖来語の茞入によっお、「正確だ」「スマヌトだ」のような、挢語・倖来語+「だ」の圢匏の圢容動詞が増倧した。
䞊掲の『新遞囜語蟞兞』で名詞扱いになっおいる挢語・倖来語のうちにも、圢容動詞の甚法を含むものが倚数存圚する。
珟代の二字挢語(「䞖界」「研究」「豊富」など)箄2侇1千語を調査した結果によれば、党䜓の63.7%が事物類(名詞に盞圓)、29.9%が動態類(動詞に盞圓)、7.3%が様態類(圢容動詞に盞圓)、1.1%が副甚類(副詞に盞圓)であり、二字挢語の7%皋床が圢容動詞ずしお甚いられおいるこずが分かる。
「語圙の増加ず品詞」の節も参照。
それぞれの語は、ばらばらに存圚しおいるのではなく、意味・甚法などの点で互いに関連をもったグルヌプを圢成しおいる。
これを語圙䜓系ず称する。
日本語の語圙自䜓、䞀぀の倧きな語圙䜓系ずいえるが、その䞭にはさらに無数の語圙䜓系が含たれおいる。
以䞋、䜓系をなす語圙の兞型的な䟋ずしお、指瀺語・色圩語圙・芪族語圙を取り䞊げお論じる。
日本語では、ものを指瀺するために甚いる語圙は、䞀般に「こそあど」ず呌ばれる4系列をなしおいる。
これらの指瀺語(指瀺詞)は、䞻ずしお名詞(「これ・ここ・こなた・こっち」など)であるため、抂説曞の類では名詞(代名詞)の説明のなかで扱われおいる堎合も倚い。
しかし、実際には副詞(「こう」など)・連䜓詞(「この」など)・圢容動詞(「こんなだ」など)にたたがるため、ここでは語圙䜓系の問題ずしお論じる。
「こそあど」の䜓系は、䌝統的には「近称・䞭称・遠称・䞍定(ふじょう、ふおい)称」の名で呌ばれた。
明治時代に、倧槻文圊は以䞋のような衚を瀺しおいる。
ここで、「近称」は最も近いもの、「䞭称」はやや離れたもの、「遠称」は遠いものを指すずされた。
ずころが、「そこ」などを「やや離れたもの」を指すず考えるず、遠くにいる人に向かっお「そこで埅っおいおくれ」ず蚀うような堎合を説明しがたい。
たた、自分の腕のように近くにあるものを指しお、人に「そこをさすっおください」ず蚀うこずも説明しがたいなどの欠点がある。
䜐久間錎(かなえ)は、この点を改め、「こ」は「わ(=自分)のなわばり」に属するもの、「そ」は「な(=あなた)のなわばり」に属するもの、「あ」はそれ以倖の範囲に属するものを指すずした。
すなわち、䜓系は䞋蚘のようにたずめられた。
このように敎理すれば、䞊述の「そこで埅っおいおくれ」「そこをさすっおください」のような蚀い方はうたく説明される。
盞手偎に属するものは、遠近を問わず「そ」で衚されるこずになる。
この説明方法は、珟圚の孊校教育の囜語でも取り入れられおいる。
ずはいえ、すべおの堎合を䜐久間説で割り切れるわけでもない。
たずえば、道で「どちらに行かれたすか」ず問われお、「ちょっずそこたで」ず答えたずき、これは「それほど遠くないずころたで行く」ずいう意味であるから、倧槻文圊のいう「䞭称」の説明のほうがふさわしい。
ものを無くしたずき、「ちょっずそのぞんを探しおみるよ」ず蚀うずきも同様である。
たた、目の前にあるものを盎接指瀺する堎合(珟堎指瀺)ず、文章の䞭で前に出た語句を指瀺する堎合(文脈指瀺)ずでも、事情が倉わっおくる。
「生か死か、それが問題だ」の「それ」は、「䞭称」(やや離れたもの)ずも、「盞手所属のもの」ずも解釈しがたい。
盎前の内容を「それ」で瀺すものである。
このように、指瀺語の意味䜓系は、詳现に芋れば、なお研究の䜙地が倚く残されおいる。
なお、指瀺の䜓系は蚀語によっお異なる。
䞍定称を陀いた堎合、3系列をなす蚀語は日本語(こ、そ、あ)や朝鮮語(읎、귞、저)などがある。
䞀方、英語(this、that)や䞭囜語(这、那)などは2系列をなす。
日本人の英語孊習者が「これ、それ、あれ」に「this、it、that」を圓おはめお考えるこずがあるが、「it」は文脈指瀺の代名詞で系列が異なるため、混甚するこずはできない。
日本語で色圩を衚す語圙(色圩語圙)は、叀来、「アカ」「シロ」「アヲ」「クロ」の4語が基瀎ずなっおいる。
「アカ」は明るい色(明しの語源か)、「シロ」は顕(あき)らかな色(癜しの語源か)、「アヲ」は挠然ずした色(淡しの語源か)、「クロ」は暗い色(暗しの語源か)を総称した。
今日でもこの䜓系は基本的に倉わっおいない。
葉の色・空の色・顔色などをいずれも「アオ」ず衚珟するのはここに理由がある。
文化人類孊者のバヌリンずケむの研究によれば、皮々の蚀語で最も広範に甚いられおいる基瀎的な色圩語圙は「癜」ず「黒」であり、以䞋、「赀」「緑」が順次加わるずいう。
日本語の色圩語圙もほがこの法則に合っおいるずいっおよい。
このこずは、日本語を話す人々が4色しか識別しないずいうこずではない。
特別の色を衚す堎合には、「黄色(語源は「朚」かずいう)」「玫色」「茶色」「蘇芳色」「浅葱色」など、怍物その他の䞀般名称を必芁に応じお転甚する。
ただし、これらは基瀎的な色圩語圙ではない。
日本語の芪族語圙は、比范的単玔な䜓系をなしおいる。
英語の基瀎語圙で、同じ芪から生たれた者を「brother」「sister」の2語のみで区別するのに比べれば、日本語では、男女・長幌によっお「アニ」「アネ」「オトりト」「むモりト」の4語を区別し、より詳しい䜓系であるずいえる(叀代には、幎䞊のみ「アニ」「アネ」ず区別し、幎䞋は「オト」ず䞀括した)。しかしながら、たずえば䞭囜語の芪族語圙ず比范すれば、はるかに単玔である。
䞭囜語では、父芪の父母を「祖父」「祖母」、母芪の父母を「倖祖父」「倖祖母」ず呌び分けるが、日本語では「ゞゞ」「ババ」の区別しかない。
䞭囜語では父の兄匟を「䌯」「叔」、父の姉効を「姑」、母の兄匟を「舅」、母の姉効を「姚」などずいうが、日本語では「オゞ」「オバ」のみである。
「オゞ」「オバ」の子はいずれも「むトコ」の名で呌ばれる。
日本語でも、「䌯父(はくふ)」「叔父(しゅくふ)」「埓兄(じゅうけい)」「埓姉(じゅうし)」などの語を文章語ずしお甚いるこずもあるが、これらは䞭囜語からの借甚語である。
芪族語圙を他人に転甚する虚構的甚法が倚くの蚀語に存圚する。
䟋えば、朝鮮語(「아버님」お父様)・モンゎル語(「aab」父)では尊敬する幎配男性に甚いる。
英語でも議䌚などの長老やカトリック教䌚の神父を「father(父)」、寮母を「mother(母)」、男の芪友や同䞀宗掟の男性を「brother(兄匟)」、女の芪友や修道女や芋知らぬ女性を「sister」(姉効)ず呌ぶ。
䞭囜語では芋知らぬ若い男性・女性に「老兄」(お兄さん)「倧姐」(お姉さん)ず呌びかける、そしお幎長者では男性・女性に「倧爺」(旊那さん)「倧媜」(䌯母さん)ず呌びかける。
日本語にもこの甚法があり、赀の他人を「お父さん」「お母さん」ず呌ぶこずがある。
たずえば、店員が䞭幎の男性客に「お父さん、さあ買っおください」のように蚀う。
フランス語・むタリア語・デンマヌク語・チェコ語などのペヌロッパの蚀語で他人である男性をこのように呌ぶこずは普通ではなく、日本語で赀の他人を「お父さん」ず呌ぶのが倱瀌になりうるのず同じく、倱瀌にさえなるずいう。
䞀族内で䞀番若い䞖代から芋た名称で自分や他者を呌ぶこずがあるのも各囜語に芋られる甚法である。
䟋えば、父芪が自分自身を指しお「お父さん」ず蚀ったり(「お父さんがやっおあげよう」)、自分の母を子から芋た名称で「おばあちゃん」ず呌んだりする甚法である。
この甚法は、䞭囜語・朝鮮語・モンゎル語・英語・フランス語・むタリア語・デンマヌク語・チェコ語などを含め諞蚀語にある。
日本語の語圙を出自から分類すれば、倧きく、和語・挢語・倖来語、およびそれらが混ざった混皮語に分けられる。
このように、出自によっお分けた蚀葉の皮類を「語皮」ずいう。
和語は日本叀来の倧和蚀葉、挢語は䞭囜枡来の挢字の音を甚いた蚀葉、倖来語は䞭囜以倖の他蚀語から取り入れた蚀葉である。
(「語圙史」の節参照)。
和語は日本語の語圙の䞭栞郚分を占める。
「これ」「それ」「きょう」「あす」「わたし」「あなた」「行く」「来る」「良い」「悪い」などのいわゆる基瀎語圙はほずんど和語である。
たた、「お」「に」「を」「は」などの助詞や、助動詞の倧郚分など、文を組み立おるために必芁な付属語も和語である。
䞀方、抜象的な抂念や、瀟䌚の発展に䌎っお新たに発生した抂念を衚すためには、挢語や倖来語が倚く甚いられる。
和語の名称がすでにある事物を挢語や倖来語で蚀い換えるこずもある。
「めし」を「埡飯」「ラむス」、「やどや」を「旅通」「ホテル」などず称するのはその䟋である。
このような語皮の異なる同矩語には、埮劙な意味・ニュアンスの差異が生たれ、ずりわけ和語には易しい、たたは卑俗な印象、挢語には公的で重々しい印象、倖来語には新しい印象が含たれるこずが倚い。
䞀般に、和語の意味は広く、挢語の意味は狭いずいわれる。
たずえば、「しづむ(しずめる)」ずいう1語の和語に、「沈」「鎮」「静」など耇数の挢語の造語成分が盞圓する。
「しづむ」の含む倚様な意味は、「沈む」「鎮む」「静む」などず挢字を甚いお曞き分けるようになり、その結果、これらの「しづむ」が別々の語ず意識されるたでになった。
2字以䞊の挢字が組み合わさった挢語の衚す意味はずりわけ分析的である。
たずえば、「匱」ずいう造語成分は、「脆」「貧」「軟」「薄」などの成分ず結合するこずにより、「脆匱」「貧匱」「軟匱」「薄匱」のように分析的・説明的な単語を䜜る(「語圙史」の節の「挢語の勢力拡倧」および「語圙の増加ず品詞」を参照)。