Sakura-13B-Galgame-Archived / test_normal_v0.8_4bit_compare.txt
sakuraumi's picture
Upload test_normal_v0.8_4bit_compare.txt
71b30d1
raw
history blame
No virus
32.5 kB
満月の夜だった。青白い丸い大きな月が、森に覆われた北国の雪山をほんのりと照らし出していた。
那是个满月之夜。苍白色的圆月,微微照亮了被森林覆盖的北国雪山。
【挿絵表示】
【插图】
「………」
「……」
幾つもの影が鬱蒼と茂る森の中に浮かび上がる。入念に臭いを落とした特殊な黒衣に身を包む面を被った人影達が佇む。
好几道人影浮现在苍郁茂密的森林中。穿着仔细除过臭味的特殊黑衣,戴着面具的人影们伫立着。
その内の一人に俺がいた。
其中一人就是我。
「……」
「……」
手信号で互いにやり取りをして情報共有。そして……黒い影達は一斉に散る。疾走する。夜の闇の中を。
我们透过手势互相交流情报,然后……黑影们同时散开,在夜晚的黑暗中奔驰。
そう、俺達は黒い影となって森を駆けていた。言葉は発しない。沈黙のまま、足音も立てず、特殊な呼吸法を使う事で息を荒らげる事もなく、まるでトップアスリートの如き速度で舗装もされていない獣道を突き進んでいた。
没错,我们化为黑影在森林中奔驰。不发一语,保持沉默,不发出脚步声,使用特殊的呼吸法,不急促呼吸,以媲美顶尖运动员的速度,在未经铺设的兽径上冲刺。
「……っ!!」
「……!」
先頭に立つ仲間がそれに気付き手信号で合図する。同時に俺達は疾走するのを止めて各々物影に隠れた。そして、木々の影から覗き見る。その巨大な影を。
带头的同伴注意到那个,用手势发出信号。同时,我们停止奔驰,各自躲进阴影中,从树木的阴影中窥视那个巨大的影子。
「………」
「……」
大樹の影に隠れた俺はゆっくりと『それ』の影を覗きこむ。同時に息を呑んだ。
躲在巨树阴影下的我缓缓窥探「那个」的影子,同时倒抽了一口气。
漆黒の巨大な影が月明かりに照らし出されてその姿をはっきりとさせていく。全長は……一〇メートルはあるかも知れない。唸り声をあげるは白銀の毛に覆われた巨大な狼だった。
漆黑的巨大影子在月光照耀下逐渐现出身影。它的全长……说不定有十米。发出低吼声的是一只覆盖着白银毛皮的巨狼。
……明らかにそれが自然界のものでないのは分かった。どうやっても普通に考えれば地上で狼がこれ程巨大になるまで成長出来る筈もない。いや、そんな理屈はどうでも良い。そのような理屈を労さずとも一目で俺には、俺達にはそれがこの世ならざるものである事が分かっていた。
……很明显地,那并非自然界的生物。照理来说,狼不可能在陆地上成长到如此巨大的体型。不,那种理论根本不重要。用不着那种理论,我一眼就看出它并非这个世界的东西。
俺達には見えた。奴の身体から溢れるどす黒い光が。あの人外人共が言うには『妖気』と言ったか?禍々しく、吐き気を催すそれを身に纏うは目の前の化け物がただの生物ではなくこの世の摂理から外れた存在……『妖』である事を意味していた。そして……。
我们看得到。那家伙身上散发出漆黑的光芒。那些外国人好像说是「妖气」?那股不祥、令人作呕的气息,代表眼前的怪物不是普通的生物,而是脱离这个世界法则的存在……也就是「妖」。而且……
(糞が!!事前情報と違うじゃねぇか……!!こりゃあ、どう見ても中妖じゃねぇ!大妖だろが!!)
(该死!!跟事前情报完全不一样啊……!!这样看来,怎么看都不是中妖!是大妖吧!!)
隠行衆共の雑な仕事に舌打ちしたい気分になるのを俺は我慢する。舌打ちした瞬間には奴は確実に俺達の居場所を察知して襲いかかってくるからだ。目標との距離は三〇メートルはあるだろうが……その程度の距離からの音なら『大妖』は確実に聞き付ける。奴らの五感は俺達人間、いや野生の獣とも隔絶していた。
我忍住想对那些隐密行动者粗劣的工作表现咂嘴的冲动。因为只要我咂嘴的瞬间,那家伙肯定会察觉我们的位置,然后发动攻击。虽然跟目标的距离有三〇米……但「大妖」肯定能听见这种距离的声音。他们的五感跟我们人类,不,跟野生动物完全不一样。
「……」
「……」
思わず俺は首にかけた御守りに触れる。あの地雷しかないパワー系ゴリラ姫から押し付けられたそれは、受け取った以上着けない訳にはいかないので念のために調べて呪術的な効果はないと事は分かっていたが……癪ではあるがこれなら本当に効能のある御守りでもねだった方が良かったかも知れない。
我不由得摸了摸挂在脖子上的护身符。那只全是地雷的暴力系大猩猩公主塞给我的护身符,既然收下了总不能不戴,所以我事先调查过,知道它没有咒术效果……虽然有点不爽,但早知道会这样,当初还是该跟她们讨个真的有效的护身符。
(運が悪い……いや、もしかして嵌められたか……?)
(运气真差……不,搞不好是中了圈套……?)
その可能性もなくはない。あの糞っ垂れな一族の事だ。原作で主人公にしてきた所業から見てあっても可笑しくない。家柄が良い主人公様ですらあの扱いだったのだ。ましてや身分卑しき俺相手ならこれくらいの事……。
也不是没有这种可能。毕竟她们是那个没水平的一族,从原作中她们对主角的所作所为来看,就算这样也不奇怪。就连家世良好的主角大人也被她们那样对待,更何况身份低贱的我,会这样也是应该的……
(だとしたら仲間には悪い事をしたな)
(这样的话,对同伴们就不好意思了。)
別に同行する下人衆の間で殊更友情がある訳ではない。原作を見れば分かるが心を殺し、冷徹に、機械の如く戦うように『調教』されたのが俺達下人衆である。嵌められなくても消耗も激しいので顔見知りも多くはない。実際俺の顔見知りで今も生きているのは三人に一人だ。
我和其他同行下人之间并没有多深厚的友情。看过原作就会知道,我们这些下人被「调教」成杀心、冷酷、如机械般战斗。就算没被她们算计,我们也已经消耗得很厉害了,所以认识的人并不多。实际上,现在还活着的熟人,只有三个。
……だとしても、彼らが俺のせいで巻き添えを受けた事実は変わらないのだが。
……但就算是这样,他们被牵连进这件事的事实也不会改变。
「っ……」
「……!」
最前列の下人組の班長が手信号で新たな指示を出す。それに従い俺達は各々に武器を引き抜く。刀に弓矢に槍……それらは月明かりを反射しないように炭を塗って、更に金属と血の臭いがしないように薬草を塗っていた。そしてその上には毒薬、しかも無味無臭の劇薬である。
最前排的下人组长用手势发出新的指示。我们遵照指示各自拔出武器。刀、弓箭、长枪……为了不让月光反射,我们在武器上涂了炭,又为了不让金属与血腥味散发出来,涂上了药草。然后,还在上面涂了毒药,而且是无味无臭的剧毒。
これらも全て目の前の化け物対策であった。中妖迄ならばこれで誤魔化し切れるのだが……大妖相手にこれは初めてなのでこのまま行けるかは分からない。行けなくてもやるしかなかった。因みに俺の手にする武器は槍だ。
这些全都是为了对付眼前的怪物而做的对策。如果是中妖,靠这些应该就能蒙混过去……但这是第一次对付大妖,不知道能不能顺利。就算没办法,也只能硬着头皮上了。顺带一提,我手上的武器是长枪。
既に他の班も化け物を包囲している筈である。一班五人前後の下人衆が四個班、中妖相手ならばこれでも十分……とは行かぬまでも余程の事がなければ壊滅する事はない。だが……。
其他小组应该也已经包围住怪物了。一班五名左右的下人,四个班就是二十人,对付中妖应该很足够……即使如此,如果没发生什么大事,应该不至于会全灭。但是……
『グオオオォォォ……ッッ!!!』
「咕哦哦哦哦哦哦……!!!」
「えっ……?」
「咦……?」
突然の咆哮、それを認識するより前に凄まじい衝撃が俺達を襲った。俺は頭を鈍器で殴られたような痛みを頭に受けて視界が回転し、意識が混濁する。
突然的咆哮,在认知到那是什么之前,一阵剧烈的冲击袭向我们。我的头受到钝器殴打般的痛楚,视野天旋地转,意识变得混浊。
「ぐっ……な、糞!こんな所で気絶出来るかっ……!!」
「唔……可、可恶!在这种地方怎么可能会昏倒……!!」
俺は遠のく意識を無理矢理覚醒させて転がる身体を、その体勢を立て直す。こんな所で意識を失ったらそれこそ死しかない事を俺は良く良く分かっていた。
我硬是让自己清醒,撑起倒地的身体。我很清楚,在这种地方失去意识,就代表死亡。
「痛っ……畜生、一発でこれかよ……!!?」
「好痛……混账,居然一击就成这样……!!?」
俺は立ち上がると共に周囲の惨状に臍を噛む。俺以外の班員は全員死んでいた。それも惨たらしく、人の形を殆ど保っていなかった。恐らくは大狼の尾の一撃によるものだろう。凄まじいその一撃は俺達を隠れる木々や岩ごと吹き飛ばしたのだ。
我站起身,同时因为周围的惨状而懊悔。除了我以外的组员全都死了。而且死状凄惨,几乎已经看不出人形。恐怕是大狼尾巴的一击造成的吧。那猛烈的一击,甚至将躲藏的树木和岩石都轰飞了。
尾に直接触れた者は上半身が千切れ飛び、直撃を避けても砕けて高速で飛んできた石礫や木片で人体をズタズタに引き裂かれた。俺が生きてたのは奇跡と言って良い。どうやら俺は強風で吹き飛ばされただけのようだったから。まぁ、その突風で地面に叩きつけられて左肩が外れたようだけど。
直接被尾巴扫到的人上半身被撕碎,即使躲过直接攻击,也会被飞来的碎石或木片撕碎。我还能活着可以说是奇迹。看来我只是被强风吹走而已。不过,左肩似乎因为被强风吹到地上而脱臼了。
「ぐっ……奇襲は失敗、か……!!」
「呜……奇袭失败了吗……!!」
俺は武器の槍を手放して、必死に残る三個班の下人衆が狼の化け物と戦う中で退避に入る。言っておくがこれは敵前逃亡ではない。肩が外れて班が壊滅した下人が一人あの中に突っ込んでも足手まといになるだけだからな。
我放下武器长枪,拼命在剩下的三个班还在和狼怪物战斗时撤退。话先说在前头,这不是临阵脱逃。因为一个肩膀脱臼、班被破坏的仆人冲进去也只会碍手碍脚。
少し離れた大樹の影で俺は戦闘を観察する。既に生き残った下人衆は半分近い人員を失っていた。弓矢や刀の一撃は鋼のごとき硬さのある毛で止められ、霊術・陰陽術の類いもまた、強力な妖力の前に瞬く間に中和されてしまう。文字通り打つ手無しだ。下人衆もモブなりに十分人間離れした立ち振舞いをしている筈だが、それでも化け物の振るう理不尽な暴力の前には焼石に水であった。一人、また一人と下人達は討ち取られていく。それでも彼らは逃げずに戦う。いや、戦わざるを得ない。彼らに逃げ道はない。選択肢なんてないのだから。
我在稍远的大树阴影处观察战斗。已经存活下来的下人们已经失去将近一半的人数。弓箭或刀剑的一击被钢铁般坚硬的毛挡住,灵术、阴阳术等法术也在强大的妖力面前瞬间被中和。真的无计可施。下人们应该也发挥路人应有的表现,但面对怪物施展的不合理暴力,根本是杯水车薪。下人们一个接一个被杀害,但他们没有逃走,而是继续战斗。不,是不得不战斗。因为他们无路可逃,也没有选择。
「糞……糞糞糞っ!!糞が!!」
「可恶……可恶可恶可恶!!可恶啊!!」
俺は木の幹に左肩を叩きつける。ゴキッ、という気味の悪い音と共に無理矢理肩を嵌め込んだ俺は痛みに蹲り、しかし直ぐにその痛みに耐えて立ち上がる。どうせ逃げられないのだ、ここで痛みに甘えて時間が過ぎるのを待つ訳にはいかない。時間を浪費すればそれだけ味方が減って俺の生き残る可能性が減るのだから。
我用左肩撞向树干。随着「喀叽」一声令人不舒服的声音,我硬是把肩膀嵌进树干里,痛得蹲了下来,但立刻又忍着痛站起身。反正逃不掉,不能在这里因为疼痛而浪费时间等待。因为浪费时间,同伴就会减少,我存活的可能性也会跟着降低。
「ぐっ……やってやる……あぁ、やってやるさ。このクソッタレの……」
「呜……我要干掉你……啊啊,我要干掉你。你这个混账……」
そこまで言って立ち上がった俺は、そこから先の言葉を紡ぐ事が出来なかった。何故ならば俺の目の前に絶望が鎮座していたから。
说到这里,我站起身,但接下来的话却说不出口。因为绝望正坐镇在我的眼前。
『グウウウゥゥゥ……!!』
「咕呜呜呜呜……!」
唸り声を上げる大狼が赤い瞳で俺を見下ろしていた。その口に咥えるのは全身血塗れで右手があらぬ方向に曲がっていた同じ下人衆の仲間だった。仮面は半分割れて、荒い息をして口からは血を吐き出す。誰だったか。確か河内班の八尋だったか?
大狼发出低吼,以红色眼睛俯视着我。它嘴里叼着的是同样浑身是血,右手往不自然方向弯曲的下人同伴。面具裂成两半,呼吸急促,嘴里吐出鲜血。他是谁?我记得是河内组的八寻吧?
「あっ……がっ………伴部?た、頼む。助け……たす……」
「啊……嘎……伴部?拜、拜托,救我……救……」
目のあった八尋は俺にそう懇願する。しかし、それは無駄だった。俺が助ける積もりがなかったからではない。そもそも助ける時間がなかったからだ。
眼睛还看得见光的八寻对我如此恳求。但那是白费力气。不是因为我无意救他,而是根本没有时间救他。
『グオオ!!』
「咕哦哦!」
「あっ……」
「啊……」
次の瞬間咥えた仲間をそのまま丸呑みする大妖。悲鳴を上げる暇もなく、そのまま仲間は胃袋に飲み込まれた。
大妖就这么一口吞下咬在嘴里的同伴。同伴连惨叫都来不及,就这么被吞进它的胃袋。
そして、その運命はもうすぐ俺にも迫っていた。
然后,这样的命运也即将降临在我身上。
唸りながら俺に顔を近づける大狼。俺はその威圧感に恐怖に涙を浮かべ、足が震える。しかし、それでも俺はそれが殆ど無駄と理解しつつも懐から短刀を引き抜き構える。あのパワー系ゴリラ姫から無理矢理下賜された短刀は呪いの力もあって切れ味は悪くないが……槍や大刀でもどうにもならなかった化け物相手にこんな小刀一本でどうなるのかという事位俺でも分かる。それでも……それでも俺は死にたくなかった。こんな場所で、こんな終わりを迎えるのは真っ平ごめんだった。
大狼一边低吼一边把脸凑近我。我因为那股压迫感而害怕得眼眶泛泪,双脚发抖。尽管如此,我依然理解到这么做几乎没用,但还是从怀里拔出短刀摆出架势。那只力量型大猩猩公主硬塞给我的短刀因为带有诅咒之力,所以相当锋利……但是面对用长枪或大刀都奈何不了的怪物,我当然也知道一把短刀根本没用。即使如此……即使如此,我还是不想死。我可不想在这种地方迎接这种结局。
……それが、無駄な足掻きなのを分かっていても。
……即使知道这是无谓的挣扎。
「畜生……!!」
「混账……!!」
俺の最期となるだろう言葉と共に化け物はその大顎を開き俺に食らいつこうとした。そして……上空からの大剣の一撃に脳天を貫通されてそのまま地面に倒れ伏した。
随着我最后的话语,怪物张开大嘴,准备咬我。然后……从空中挥下的大剑贯穿它的脑袋,让它直接趴倒在地。
「あっ………」
「啊……」
突如の出来事に俺は言葉を失った。化け物の巨体が倒れたことで土埃が宙を舞う。そしてその土埃が止むと同時に俺は奴を視界に収めた。俺が良く知る……いや、一方的に良く知る忌々しい一族のその一員を。
突如其来的状况让我说不出话来。怪物巨大的身躯倒下,扬起漫天尘土。当尘埃落定的同时,那家伙也进入我的视野。我认识……不对,是单方面认识的可恨一族的其中一员。
息絶えた化け物の頭部に佇む人影は少女だった。俺と同じくらいの年頃の、黒髪の幼そうだが絶世の美少女……動きやすそうな男物の和服を着込む彼女は手に持つ彼女とほぼ同じ位の大きさの大剣に背後を照らし出す満月も相まって実に幻想的に見えた。
伫立在断气怪物头部的人影是少女。与我年纪相仿,黑发显得稚气,却是绝世美少女……身穿方便活动的男性和服,手持几乎与她同高的巨剑,再加上背后照出满月,看起来就像幻想世界。
同時に俺は安堵する。こいつは……この姉御様はまだ地雷的な意味で言えばマシな方だ。少なくとも何処ぞの拗らせババアや女狐よりは余程まともだ。
同时我也松了口气。这家伙……这位大姐在地雷意义上还算正常。至少比某个闹别扭的婆婆或母狐狸正常多了。
「……これは驚いた、生き残りがいたのか?」
「……真令人惊讶,原来有人活下来吗?」
少女はふと、足下の虫に気付いたように俺の存在に気付いた。その美貌と幼い顔つきに似合わない男言葉だった。
少女似乎忽然注意到脚边的虫子,而注意到我的存在。那不符合她美貌与稚嫩脸孔的男性语气。
「……雛様、いと貴き貴方様が直々にこの場所に御出向きになり助太刀頂けた事、身に余る光栄。恐縮の至りで御座います」
「……雏大人,您尊贵无比,能亲自前来助我一臂之力,实在令我深感荣幸,实在惶恐至极。」
俺は膝を屈して、深々と頭を下げて礼を述べる。本当なら比較的マシとは言えあの糞一族の一員であるこの小娘にこんな事したくなかったが……その絶対的な実力差と、身分の差は理解していた。ここで反発しても意味はない。今はただ卑屈に、目立たぬように振る舞い、機会を待つ……それだけが取れる道であった。
我屈膝跪下,深深低头致意。其实那群人渣之中,这小丫头还算比较好相处,但我实在不想对她做这种事……不过我明白我们之间的实力差距与身份差距,在这里反抗她也没有意义。现在只能卑躬屈膝,低调行事,等待机会……这是唯一可行的方法。
「別に、仕事帰りにそれなりに強い妖力を感じたから来ただけだ。……それにしてもこれは酷いものだな。隠行衆の奴ら、伝える情報を間違えたのか?お前達下人衆だけで挑むにはこの数は少なすぎる」
「没什么,只是下班途中感受到一股强大的妖力才过来的……话说回来,这还真是严重。隐行众那群家伙,难道是搞错情报了吗?你们这些下人,只靠你们来对付这些数量未免太少了。」
周囲に散らばる人間だったものを興味も無さそうに一瞥して、彼女は感想を述べる。俺が情報に誤りがあった事を口にすれば彼女は鼻白む。そして何かを察した顔つきになる。
她一脸无趣地瞥了一眼散落于四周的人类,接着说出感想。我表示情报有误,她便露出不屑的表情,接着露出有所察觉的表情。
「そうか。……面倒だな。幾ら下人とは言え、簡単に揃えられる訳じゃないのにこんなに被害が出るとなると困る」
「这样啊……真麻烦。虽说是下人,也不是说召集就能召集到的,出现这么多牺牲者的话,会很伤脑筋。」
まるで帳簿の出費を気にするような素振りで彼女は嘯く。そして、思い出したように俺に命じた。
她以一副像是在意账簿支出似的模样放话,接着又像是想起什么似的对我下令:
「お前、私に同行しろ。此度の失敗は隠行衆によるものだと言う生き証人が必要だから。貴方の口で長老方に御報告しなさい」
「你跟我一起去。需要有人当活证人,证明这次的失败是隐行众造成的。由你亲口向长老们报告。」
それは上位の者による命令であった。本来ならばそれを拒否する事は不可能であり、当然これ以上悪目立ちしたくない俺もこの申し出を恭しくと承ら……。
这是上位者下达的命令。照理来说,我是不可能拒绝的,当然,不想再引人注目的我,也恭敬地接受了她的提议……
「申し訳御座いません、姫様。今すぐご同行は不可能で御座います」
「非常抱歉,公主大人。我现在无法与您同行。」
……なかった。
……没有。
「……何故?下人の分際で私に逆らう積もりか?」
「……为什么?区区下人,想违抗我吗?」
「仲間と、妖の死骸を処理しなければなりません」
「我必须处理同伴与妖的尸体。」
妖の生まれる原因は数あれど、特にメジャーなのは異能持ちの人間や妖の血肉を獣が食らう事だ。故に化け物や同胞の死体は可能な限り回収するか処分しなければならなかった。
妖怪诞生的原因有好几种,其中最常见的是拥有异能的人类或妖兽的血肉被野兽吃掉。因此妖怪或同胞的尸体必须尽可能回收或处理掉。
特に仲間の死体は出来るだけ丁寧に処理したい。それほど交流があった訳ではないが……それでも同じくこの糞みたいな世界で糞みたいな一族に消耗品として扱われた同類だ。同情もする。
尤其是同伴的尸体,我想尽可能慎重处理。虽然我和他们没什么交流……但好歹是同样被这个狗屎般的世界当成消耗品对待的同类,我还是会同情他们。
「そうか。確かにそれは困るな。……分かった。だが貴様一人でこれだけのものを処理するのは時間がいるだろう?これを使うが良い」
「这样啊,那的确很伤脑筋……我知道了。不过你一个人处理这么多尸体很花时间吧?用这个就好。」
そういって姉御様が懐から取り出すのは式神であった。人形のそれが十前後に鳥形のそれが一つ。それが次の瞬間には彼女の手元からするりと離れて、人形のそれは案山子のような人間大のそれに、鳥形のそれは顔を札で覆った巨大な化け烏へと変貌する。
大姐头说完,从怀里取出式神。人形的式神约十岁左右,鸟形的式神只有一个。下个瞬间,人形的式神离开她的手,变成像稻草人一样高的人类大小,鸟形的式神则变成脸被符咒盖住的巨大乌鸦。
「死体の処理は人形を使いなさい。終わり次第その烏に乗って私を追うと良い」
「处理尸体用这个人形式神就好。结束后,你骑上那只乌鸦追我。」
淡々と、冷徹にそう言い放つと次の瞬間には彼女の傍らには巨大な龍がいた。突如、何の前触れもなく現れた強大な神霊力を纏う神々しい神獣に俺は息を呑む。姉御様はそんな龍に当然のように乗り移る。
她淡然又冷酷地这么说,下个瞬间,她身旁出现一头巨大的龙。看到突然毫无预警地现身,身缠强大神灵力的神兽,我倒抽一口气。大姐理所当然地骑到龙身上。
「では、待っているぞ」
「那么,我等你。」
そう言い残した刹那、龍は天に向かって跳躍する。そしてそれは流れ星のように光ると、次の瞬間には最早天を照らす星星との区別は困難になっていた。
她留下这句话的瞬间,龙朝天空一跃。接着,龙如流星般发光,下个瞬间,已经难以区分是照亮天空的星星。
「……ありゃあ『黄曜』か。ははは、直に見るととんでもない代物な事だな」
「……那是『黄曜』啊。哈哈哈,亲眼看到,还真是不得了。」
原作では終盤に漸く使用可能な最上級の式神なのだが……流石は原作最強キャラトップスリーに名を連ねるだけはある。人間ではあるがある意味化け物だ。
在原作中,那是终于能在最后阶段使用的最上级式神……不愧是名列原作最强角色前三名的人物,虽然是人类,就某种意义来说,她也是怪物。
「……問題はあれ程でなくてもこの世界は化け物だらけってことだがな」
「……问题不在于怪物多不多,而是这个世界到处都是怪物。」
俺は目の前の頭蓋骨を砕かれた化け物の死体を見て思い出す。原作では中盤以降主人公達に雑魚同然に殺られていく大妖であるが……実際の所主人公達だから出来る事であって何の才能もない俺にはどうしようもない化け物だ。そして、問題はそれより遥かにやべー化け物がゴロゴロいる事、そして……。
我看着眼前被敲碎头盖骨的怪物尸体,想起一件事。在原作中,这只大妖在中盘之后,就被主角们当成小怪一样杀掉……不过,实际上,这只怪物是主角们才能杀掉的,对毫无才能的我来说,根本是无能为力。而且,比起这只怪物,这个世界里还有一大堆更可怕的怪物,还有……
「目の前の敵だけを見ていられないって事なんだよな……」
「我没办法只注意眼前的敌人啊……」
いや、寧ろある意味背後の連中の方が質が悪い。特に直線的に敵意を向けられるのはまだ良い。本当にヤバいのは好意である。何せ……。
不,就某种意义来说,背后的家伙们更糟糕。尤其是直线性朝我释放敌意的家伙们还算好,真正糟糕的是对我释放好意的人。毕竟……
「ヤンデレヒロインしかいない鬱ゲーだからなぁ、この世界……」
「这个世界里,只有病娇女主角,根本是款忧郁系游戏啊……」
俺は小さく溜め息を吐く。しかも既に俺はそのヤンデレちゃんの一人に目をつけられているのだから笑えない。おい、俺名前すらないモブだぞ。お願いだからヤバい好意は原作主人公に向けてくれない?
我轻轻叹了口气。而且,我已经有一个病娇小妹妹盯上我了,实在笑不出来。喂,我可是连名字都没有的路人啊。拜托,不要对我释放糟糕的好意好吗?
「……嘆いている訳にもいかないか。まずは仕事をって……はは、マジかよ」
「……也不能一直唉声叹气,得先完成工作……哈哈,真的假的。」
そこで漸く俺は気付く。首にかけた御守りがなくなっている事を。
这时我才终于发现,挂在脖子上的护身符不见了。
「無くした……と正直に言うのは不味いか。となると……」
「弄丢了……老实说出来应该不太妙吧。这么一来……」
俺は森を心底嫌な顔で見る。
我一脸厌恶地看着森林。
「……見つかるかな?」
「……找得到吗?」
俺は最悪の事態を思い天を仰いで嘆息した……。
我仰天叹息,想着最糟糕的事态……
「………」
「……」
星星が輝く空、そこを突き進む一頭の龍、そしてその頭にしがみつく一人の凛々しい少女……扶桑国が妖退治の名家『鬼月家』の直系の娘は手元にある御守りを一瞥する。
繁星闪烁的夜空,一头龙在其中穿梭,一名凛然的少女紧抓住龙的头部……扶桑国驱妖名家『鬼月家』的嫡女瞥了一眼手中的护身符。
それが何なのかを彼女は知っている。あの無邪気で天真爛漫で、身勝手で気分屋の妹があの下人に下賜したものだ。あの何でも貰えるのを当然と勘違いした、人を見下した女がよりによって……。
她知道那是什么东西。那是那个天真无邪、天真烂漫、任性妄为、爱耍脾气的妹妹赐给那个下人的东西。那个误以为什么都能拿到是理所当然,瞧不起人的女人,偏偏是那个女人……
「よりによってこんな気味が悪くて品のないものをあいつに………」
「居然把这种恶心的东西送给那家伙…………」
ぼおっ、と次の瞬間には巧妙に偽装を施した精神操作と千里眼の呪いがかけられた御守りは彼女の手元で生じた青白い炎の前に術式ごと焼き尽くされていた。
下一瞬间,鬼月家的大小姐将经过巧妙伪装的精神操作与千里眼诅咒的护身符,连同产生的青白色火焰一起烧成灰烬。
「…………」
「…………」
残った灰を汚いものとでも言うように放り捨てた鬼月家の長女は、そのまま夜空を駆ける。そして、考える。彼を嵌め、謀殺しようとした奴が誰かを、そしてそんな身の程知らずの愚か者をどう処分しようかを。
鬼月家的大小姐将剩下的灰烬当成脏东西一样扔掉,在夜空中奔驰,然后开始思考。是谁陷害他,企图谋害他,而那种不知天高地厚的愚蠢之徒又该如何处置。
「他のものはこれまで通り幾らでもくれてやる。土地も、金も、家も、全部くれてやる。だから……」
「其他东西我都可以照旧给你,土地、金钱、房子,我全部都可以给你。所以……」
一瞬沈黙して、彼女は良く響く声音で呟く。
她沉默了一瞬间,以响亮的声音低语。
「あいつは私のものだ……!!」
「那家伙是我的……!!」
夜のように静かな声音には、しかしドロドロとした劣情と激情が染み出していた……。
宛如夜晚般宁静的声音,却渗出粘稠的性欲与激情……