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高等学校生物 > 生物I > 環境と生物の反応に関する探求活動
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%89%A9_%E7%94%9F%E7%89%A9I%E2%80%90%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%81%A8%E7%94%9F%E7%89%A9%E3%81%AE%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%8E%A2%E6%B1%82%E6%B4%BB%E5%8B%95
※ 化学式を使ったアミノ酸の構造式の説明も、専門『生物』科目の範囲内です。生物の検定教科書で説明されています。(下記の説明は『化学』からの引用ではないです。) アミノ基( -NH2 )とカルボキシル基( -COOH )を1つの分子中にもつ化合物をアミノ酸という。この2種の官能基が同一の炭素C原子に結合しているアミノ酸をαアミノ酸という。 アミノ酸の一般式は で表される。(Rは炭化水素基あるいは水素など。) なお、R-の部分をアミノ酸の側鎖(そくさ)という。側鎖は20種類あるので、アミノ酸は20種類である。 アミノ酸で、側鎖を除く他の部分は、共通である。そのアミノ酸が、水に溶けやすい(親水性)か、または溶けにくい(疎水性)かは、側鎖の種類によって決まる。側鎖は水に溶けやすい基なら、そのアミノ酸は親水性になる。側鎖が水に溶けにくいなら、そのアミノ酸は疎水性である。 ヒトが体内では合成できないアミノ酸を必須アミノ酸(essential amino acid)という。 ヒトの必須アミノ酸は、 である。 2個のアミノ酸分子が結合し、いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)と、もう一方のアミノ酸のアミノ基(-NH2)が縮合して、水1分子が取れて脱水縮合して結合することをペプチド結合という。それぞれのアミノ酸は、べつに同一種でなくても良い。また、ペプチド結合によって生成する化合物をペプチド(peptide)という。 2個のアミノ酸がペプチド結合した重合数が2個のアミノ酸化合物(ジペプチド)は、末端にアミノ基とカルボキシル基を持つので、このアミノ酸の化合物もまた同様に他のアミノ酸と化合が出来て、重合数を3個(トリペプチド)や4個・・・と、どんどんと増やしていける。数十個から数百個と重合数を増やしていける。 2分子のアミノ酸がペプチド結合したものをジペプチドという。3分子のアミノ酸がペプチド結合したものをトリペプチドという。多数のアミノ酸が縮合重合したものをポリペプチド(polypeptide)という。 ペプチド化合物で縮合に使われなかったアミノ基が末端に残るが、このペプチド化合物の縮合に使われなかった末端のアミノ基をN末端という。同様に、カルボキシル基も末端に残るが、これをC末端という。 なおジペプチドなどペプチド化合物の構造式を書くときは、縮合に使われなかったN末端のアミノ基を左に配置して、C末端のカルボキシル基を右に配置して書くのが慣習である。 タンパク質を構成するアミノ酸の配列順序のことを一次構造という。たとえば表記「Gly-Gly-Ala」などは一次構造の表記である。 タンパク質のポリペプチドの多くの構造は、時計回り(右回り、Z撚り「ゼットより」)のらせん構造をもつか、またはジグザグ状に折れ曲がっていたりする。 このポリペプチドのらせん構造をαヘリックス(アルファヘリックス)という。 ポリペプチドのジグザグ状に折れ曲がっている構造をβシートという。これらの構造(αヘリックス、βシート)を二次構造という。 αヘリックスのらせん1巻あたり、平均3.6個のアミノ酸が含まれる。 このらせん化は、水素結合による現象であり、 アミノ酸の分子中の-C=Oと-N-Hの間のOとHが水素結合し、 のように水素結合した結果、ペプチド全体ではらせん構造を取る。 αヘリックスをとったポリペプチドや、βシートをとったポリペプチドなど、二次構造をとったポリペプチドが、さらに折りたたまれて三次構造になる。三次構造の形成には、側鎖どうしに働く引力や、システインどうしによるジスルフィド結合(S-S結合)によるものが関わっている。システインの側鎖は-SHであり、側鎖どうしで水素原子が取れてS-S結合することがある。 三次構造の生体組織の例として、ミオグロビンがある。 複数個ポリペプチド鎖が組み合わさって集合体をなした立体構造を四次構造という。 四次構造の生体組織の例として、赤血球にあるヘモグロビンがある。ヘモグロビンは、2種類のポリペプチド鎖が、2個ずつ集まった合計4本のポリペプチド鎖でできている。 タンパク質を加熱したり、酸や塩基を加えたりすると凝固する。タンパク質に重金属を加えたり、有機溶媒を加えたりしても凝固する。これをタンパク質の変性(へんせい)という。加熱によって変性することを熱変性という場合もある。 ゆで卵などのように、いったん熱変性したタンパク質は、元には戻らない。熱変性では一次構造の配列順序は変わっていないが、立体構造が壊れており、二次構造以上の構造が変わっている。 (※ 未記述) プリオンはタンパク質の一種である。プリオンは細胞ではない。正常なプリオンなら、なにも病気を起こさない。 立体構造が異常な、異常プリオンが、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病の原因物質であり、また、ウシ海綿状脳症(BSE、いわゆる狂牛病)の原因物質である。 と思ってたら、2022年度からの新科目「現代の国語」で、書籍『プリオン説はほんとうか?』の著者である科学者・福岡伸一の別の科学エッセイ『ルリボシカミキリの青』が、東京書籍(教科書会社)の教科書で、国語の題材に選ばれたので、間接的だが『プリオン説は本当か?』も一部の高校では教養として紹介される可能性が生じることになった。 体内に、この異常プリオンが取り込まれれると、正常なプリオンも、異常なプリオンに変えていく。 脳や神経細胞に異常プリオンが蓄積すると、細胞死が起きるので、脳がすき間だらけになって海綿状になっていく。 われわれ人間の呼吸では、おもにグルコース(C6H12O6)などの炭水化物を分解して、生命活動に必要なエネルギーを取り出している。このグルコースの分解反応で酸素が必要なため、人間は呼吸で酸素を取り入れている。呼吸によるグルコースの分解で、グルコースに蓄えられていたエネルギーを取り出しており、さまざまな生態活動のエネルギーになっている。 なお、呼吸におけるグルコースのように、呼吸につかわれてエネルギーを取り出す元になっている物質を呼吸基質(こきゅう きしつ)という。 人間や魚類の呼吸は、細胞での酸素を用いる呼吸のためであり、このときの細胞での酸素を用いた呼吸を好気呼吸(こうきこきゅう)という。細胞での好気呼吸によるグルコースの分解は、おもにミトコンドリアで行われている。 そのため、ミトコンドリアを持たない微生物では、呼吸の仕組みが、人間や魚類などとは違っている。 微生物には、酸素を用いないで呼吸を行うものもあり、このような無酸素の呼吸を嫌気呼吸(けんきこきゅう)という。 まずは、好気呼吸について整理しよう。 われわれ人間の肺呼吸は、細胞での好気呼吸のために、酸素を身体各部の細胞に血管などを用いて送り込んでいるのである。魚類の「えら呼吸」も、酸素を細胞に送り込んでいるので、細胞での好気呼吸のためである。植物の呼吸もしており酸素を取り入れており、植物の呼吸は好気呼吸である。なお、光合成は呼吸ではない。 人間・魚類の呼吸も植物の呼吸も、これらの呼吸は、細胞では、どれもミトコンドリアが酸素を使ってグルコースなどを分解する反応である。 さて、細菌やカビなどの一部の微生物には 、必ずしも酸素を使わなくてもグルコースなどの炭水化物を分解できる生物がいる。酵母菌や乳酸菌は、そのような菌である。酵母菌によるアルコール発酵や乳酸菌による乳酸発酵などの発酵は、これらの菌が生存のために栄養から必要なエネルギーを得るために化学反応を行った結果であり、酵母菌や乳酸菌の発酵では酸素を用いていない。 このような、酸素を使わないでグルコースなどの炭水化物を分解する活動も呼吸にふくめる場合がある。これらの菌などがおこなう無酸素の化学反応でグルコースなどの炭水化物を分解することを嫌気呼吸(けんきこきゅう)という。 そのため、酸素が少ない環境、あるいは酸素が無い環境でも、栄養があれば、嫌気呼吸をする菌は生きられる。 微生物による腐敗も、その微生物の嫌気呼吸である場合が普通である。 発酵(はっこう)と腐敗(ふはい)の区別は、ある微生物の呼吸の結果の生産物が、人間によって健康的な生産物の場合が発酵で、有害な生産物の場合が腐敗(ふはい)である。つまり発酵と腐敗の分類は、人間の都合による。 微生物の種類によって、嫌気呼吸の生産物の方法は違うが、基本的にはATPを生産している。 嫌気呼吸による、このような酸素を用いない分解では、ミトコンドリアを用いていない。微生物は細胞質基質で嫌気呼吸を行っている。 酵母菌は、嫌気呼吸と好気呼吸の両方の呼吸ができる。そのため、アルコール発酵をさせる場合には、酸素の無い環境に置く。酵母菌はミトコンドリアを持っており、酵母菌の好気呼吸はミトコンドリアによるものである。 乳酸菌と酢酸菌は原核生物であり、ミトコンドリアを持たない。 なお、酵母菌は単細胞性だが真核生物である。このため、酵母菌は分類学上は、カビやキノコ(ともに真核生物である)に近いと考えられている。(※ 2015年のセンター生物基礎の本試験で出題) 酵母菌(こうぼきん)のアルコール発酵での化学反応式は、まずグルコースC6H12O6からピルビン酸C3H4O3に分解される。この、グルコースからピルビン酸を得る過程を解糖系(かいとうけい、glycolysis)という。解糖系でATPが2分子つくられる。そしてピルビン酸が、無酸素の状態では酵素デカルボキシラーゼによってアセトアルデヒドCH3CHOによって分解され、そのアセトアルデヒドがNADHという物質によってエタノールC2H5OHへと変えられる。 まとめると、アルコール発酵の反応式は、次の式である。 グルコース1分子あたりATPが2分子できる。アルコール発酵のATPは解糖系に由来しており、それ以降はATPを産生してない。 解糖系による、グルコースからピルビン酸ができる反応は、嫌気生物に限らず、ほとんどすべての生物の呼吸で行われている。(※ そのため、ピルビン酸は呼吸の学習における重要物質である。) 乳酸発酵(にゅうさんはっこう)とは、乳酸菌が行う嫌気呼吸である。 まずグルコースC6H12O6が解糖系によって、ピルビン酸へと分解され、このときATPが2分子できる。そしてピルビン酸がNADHによって乳酸:C3H6O3に変えられる。 酢酸菌(さくさんきん)は、 酸素O2を用いて、エタノールを酢酸CH3COOH に変える。 酸素を用いるため、一般的な無酸素の発酵とは区別して、酸化発酵とよぶ。 酢酸発酵のとき、酢酸のほかに水ができる。 筋肉では、はげしい運動などをして酸素の供給が追いつかなくなると、グルコースやグリコーゲンなどを解糖をして、エネルギーを得る。筋肉での解糖のときに、乳酸ができる。 反応のしくみは、乳酸発酵と、ほぼ同じである。 呼吸で使われる基質は通常はグルコースだが、グルコースが不足した場合などに脂肪やタンパク質やグルコース以外の炭水化物などの栄養が基質として使われる場合がある。 なおデンプンやグリコーゲンなどは、呼吸の過程で、グルコースへと分解される。 呼吸によって排出されるCO2と使用される酸素O2の、体積(または分子数)の比率 CO2/O2 を呼吸商(こきゅうしょう)といい、RQであらわす。呼吸基質によって、呼吸商は異なる。気体の体積は圧力によって変化するので、測定するときは同温・同圧でなければならない。同温・同圧で測定した場合、気体の体積比は分子数の比になるので(物理法則により、気体の体積は、分子数が同じなら、原子・分子の種類によらず、分子数1モルの気体は0℃および1気圧では22.4L(リットル)である。モルとは分子数の単位であり6.02×1023個のこと)、よって化学反応式から理論的に呼吸商を算出でき、その理論値と実験地は、ほぼ一致する。 呼吸商の値は、おおむね、次の値である。 化学式 C6H12O6 + 6O2 + 6H2O → 6CO2 + 12H2O よって RQ = CO2/O2 = 6÷6 = 1 より RQ = 1.0 トリアシルリセロールの場合、 よって RQ = CO2/O2 = 55÷77 ≒ 0.7 より RQ = 0.7 トリステアリンの場合、 よって RQ = CO2/O2 = 114÷163 ≒ 0.7 より RQ = 0.7 ロイシン C6H13O2N の場合、 よって RQ = CO2/O2 = 12÷15 = 0.8 測定実験の結果の呼吸商が0.8だからと言って、必ずしも基質がタンパク質とは限らない。なぜなら炭水化物(RQ=1)と脂肪(RQ=0.7)の両方が基質に使われている場合、呼吸商が0.7~1.0の中間のある値を取る場合があるからである。 好気呼吸は細胞質基質とミトコンドリアで起こる。とくにミトコンドリアを中心に、呼吸によって多くのATPが合成される。 1分子のグルコースが、2分子のピルビン酸(C3H4O3)にまで分解される。この反応は細胞質基質で行われる。酵素を必要としない。ATPを2分子、生成する。反応の途中でATPを2分子消費するが、4分子のATPを生成するので、差し引き2分子のATPを生成する。 グルコースは、まずATP2分子によってリン酸化されフルクトース二リン酸(C6化合物)になる。 フルクトース二リン酸が二分して、グリセルアルデヒドリン酸(C3化合物)の二分子ができる。 グリセルアルデヒドリン酸が、いくつかの反応を経て、ピルビン酸になる。この間の反応で、電子e-とプロトンH+が生じて、補酵素NADに渡されNADHになる。ここで生じたNADHはミトコンドリアに入り、あとの電子伝達系で利用される。また、ATPが4分子できる。よって、差し引きグルコース1分子につき、2分子ATPが、解糖系で生じる。 ピルビン酸が、ミトコンドリア内に入り、ミトコンドリアのマトリックスという内膜にある酵素で、ピルビン酸がコエンザイムA(CoA)と結合してアセチルCoA(活性酢酸)というC2化合物になり、段階的に分解される。二酸化炭素が、ピルビン酸がアセチルCoAになる際に生じる。 アセチルCoA以降の反応図は回路上であって、回路のはじめにクエン酸(citric acid)が生じることから、クエン酸回路(Citric acid cycle)という。 と変化していく。(「C6」とはC6化合物のこと。C5とはC5化合物のこと。C4も同様にC4化合物のこと。) このクエン酸回路の過程でATPが2分子できる。また、電子が放出される。 C2化合物のアセチルCoAがC6化合物のクエン酸に変化する際、クエン際回路の最後のオキサロ酢酸(C4化合物)と化合するので、炭素の収支が合う。クエン酸回路では、脱炭酸酵素や脱水素酵素の働きで、クエン酸は変化していく。 クエン酸回路でコハク酸からフマル酸になる際に発生する水素は、補酵素FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)が受け取り、FADH2になる。 コハク酸以外での脱水素反応では、NADが水素を受け取っている。(「NAD」とは「ニコチン アデニン ジヌクレオチド」のことである。) ミトコンドリアの内膜にシトクロム(cytochrome)というタンパク質がいくつもあり、このシトクロムは電子を受け渡しできる。解糖系やクエン酸回路で生じたNADHやFADH2から、電子e-と水素イオンH+が分離し、電子はシトクロムに渡される。そしてシトクロムどうしで電子を受け渡す。このとき、H+が、いったんマトリックスから膜間にくみ出され、それから水素イオンの濃度勾配に従ってATP合成酵素を通ってマトリックス側に戻る。このH+がATP合成酵素を通る際のエネルギーを利用して、ADPからATPが生成される。最終的に生成するATPの数は、グルコース1分子あたりATPを最大で34分子を生じる(生物種によって生成数が異なる)。 これらの反応ではNADHなどが酸化される反応が元になってATPを生成しているので、一連の反応を酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)という。シトクロムのことをチトクロームともいう。 電子e-は、最終的に酸素原子に渡され、酸化酵素の働きで水素イオンと反応し水になる。この水の生成反応のときの反応エネルギーを用いて、マトリックスの水素が膜間へと運ばれており、さきほど述べたようにATPが合成されている。 好気呼吸でのATPの収支は、グルコース1分子あたり解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子ATP、電子伝達系で最大34分子ATPであり、合計で最大38分子のATPになる。 脂肪は加水分解されて、脂肪酸とグリセリンになる。その後、グリセリンは解糖系に入る。脂肪酸はβ酸化という過程を経て分解されてアセチルCoAになり、クエン酸回路に入る。 タンパク質は、まずアミノ酸に分解され、アミノ酸のアミノ基を、アンモニア(NH3)として遊離する。この過程を脱アミノ反応という。アラニンは脱アミノ反応によってピルビン酸になり、以降は、糖の分解でのピルビン酸の分解と同じ過程を経る。グルタミン酸は、脱アミノ反応でケトグルタル酸になり、クエン酸回路でのケトグルタル酸と同様の代謝をされる。 その後の分解の過程はアミノ酸の種類によって異なるが、最終的にどのアミノ酸もクエン酸回路で代謝される。ピルビン酸も、解糖系では最終的にクエン酸回路に合流するからである。 1939年、ヒル(イギリス人)は、葉をすりつぶしたのを混ぜた水にシュウ酸鉄(III)をくわえた液を用意して、つぎの実験を行った。 この液に、光を与えると、酸素が発生し、またシュウ酸鉄(III)は、シュウ酸鉄(II)に還元された。この反応をヒル反応という。このヒル反応では、二酸化炭素を除去した場合でも酸素が発生する。なので、ヒル反応は二酸化炭素を必要としない。 シュウ酸鉄(III)は、水素を受け取りやすい物質であり、酸化剤である。 光によって、水が分解され、酸素と水素イオンH+と電子e-に分解されると考えられた。 そして、光合成で発生する酸素は、二酸化炭素の由来ではなく、水に由来すると考えられた。 のちにルーベンが、酸素の同位体18Oを用いて、光合成で発生する酸素が水に由来することを直接的に証明した。 ルーベンはクロレラと酸素同位体を用いた実験で、 をそれぞれ実験し、 この結果、H218Oを与えた場合からは、光を照射するとクロレラから18O2が発生した。 しかし、C18O2およびH2Oを与えた場合からは、光を照射しても18O2が発生しない(これら一連の酸素同位体の実験を「ルーベンの実験」という)・ なお、厳密には、自然界にも18Oは自然発生するので、実験で用いる C18O2 や H218O は、自然界よりも酸素同位体18O を多く含む二酸化炭素および水である。(※ 啓林館がそう説明している) 光の照射の結果、発生する酸素を集める必要があり、その酸素気体のうち、通常の酸素原子と同位体酸素との比率を分析する必要があり、本当はもっと実験に手間が掛かっている。 なお、上述のルーベンの実験のような、代謝などの反応経路を調べる際の放射性同位体などのように、反応の経路を追跡するための材料のことを「トレーサー」という(※ 第一学習社の巻末付録に「トレーサー」の用語あり)。トレース trace とは「追跡」という意味。 当然だが、放射性同位体をトレーサーとして用いる実験では、その元素を化合物などの放射線を調べたりすることで、反応の経路を調べている。 植物の生体内では、シュウ酸鉄のかわりにNADPが光合成の際に水素を受け取る酸化剤として働いている。 炭素の放射性同位体14Cをふくむ二酸化炭素14CO2を含む溶液中で、クロレラなどの緑藻などに光合成を5秒ほどの短時間行わせる。その後、すぐに光を当てるのを中止し、熱したアルコールに浸して、光合成を中止させる。 このとき、どのような物質に、14Cが取り込まれるかを調べる。 この結果、まずC3化合物であるホスホグリセリン酸(PGA)が増加していることが分かった。 光の照射時間を変えていく方法などで、詳しく調べたころ、代謝の経路が回路状になっている事が分かった。 葉緑体の内部の構造には、チラコイドという膜状の構造と、ストロマという無色の基質の構造がある。 チラコイドにある色素が光エネルギーを吸収する。この吸収のとき、特定の波長の光を吸収している。赤や青の光が葉緑体に吸収される。緑色の光は吸収しない。吸収しなかった波長の光は反射される。植物の緑色は、反射した光の色であり、光合成には使用していない光である。 吸収した光エネルギーで、ATPの合成やNADPHの合成を行っている。(「NAD」とは「ニコチン アデニン ジヌクレオチド」のことである。) 次の(1)~(3)の反応がチラコイドで行われる。 (4)の反応がストロマで行われる。 (1):  光化学反応 光エネルギの吸収は、色素のクロロフィルで吸収する。クロロフィルは活性化し、活性クロロフィルになる。クロロフィルの存在する場所は、チラコイドの膜である。 この反応には、光が当然に必要である。温度の影響をほとんど受けない。 (2):  水の分解とNADPHの生成 1の反応に伴って、活性クロロフィルから電子が飛び出す。水が分解され、できた水素Hが、さらに水素イオンH+と電子e- に分解される。あまった酸素O2は、以降の反応では利用せず、このため酸素O2が排出される。 この反応でのHの分解から発生したe- は、チラコイドの膜上で伝達され、最終的にHとともにNADP+という物質にe- は結合し、NADPHが生成する。 (3):  ATPの合成 2の反応に伴って、ADPがリン酸化されATPが合成される。 (4):  二酸化炭素の固定 ストロマで、(3)の反応で作られたATPのエネルギーも利用して、いくつもの過程を経て、植物が気孔などを使って細胞外から取り入れた二酸化炭素から、有機物(グルコース C6H12O6 )を合成する。 生成された物質の一部が同じ物質のもどる反応経路になっており、カルビン・ベンソン回路という。 このカルビン・ベンソン回路の過程で、(3)の反応で作られたATPを用いている。 このカルビン・ベンソン回路の反応は、温度の影響を受ける。 通常の植物は固定でC3化合物のPGA(ホスホグリセリン酸)が回路(カルビンベンソン)の最初にできるC3植物である。 リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼという酵素(略してRubiscoという。ルビスコと読む)が、カルビンベンソン回路での、CO2 を取り込む段階での酵素。 リンゴ酸などのC4化合物が回路の最初にできる代謝系のC4植物といい、カルビンベンソン回路とは別の代謝系(C4回路)を持っている。 熱帯にC4植物が多く、サトウキビやトウモロコシがC4植物である。 C4回路というオキサロ酢酸から開始する回路があり、このC4回路によりCO2を効率よく固定している。葉肉細胞にリンゴ酸などをC4化合物として固定している。そして、炭素が必要なときは、維管束(いかんそく)鞘細胞(しょうさいぼう)に送り、分解してCO2を発生させる。 砂漠に多い。パイナップル、ベンケイソウ、サボテンなど。 昼間は空気が乾燥していて気孔を開いてしまうと水分をうばわれてしまうので、かわりに夜に気孔を開いて、二酸化炭素を固定する。二酸化炭素をもとにリンゴ酸などを蓄えることで、昼までCO2を固定して保存しておく。光合成は、たくわえたリンゴ酸などを材料にして昼間に光合成を行う。 CAMとは、ベンケイソウ型酸代謝(crassulacean acid metabolism)という意味である。 白血球が異物を取り込む場合など、細胞が、異物などを取り込む際の、取り込みかたの仕組みは、つぎの仕組みである。 細胞膜がくぼみ、そしてくぼみの頂上部分の細胞膜どうしが接合して閉じることで、小胞が出来る。 なお、この現象をエンドサイトーシス(飲食作用)という。マクロファージが異物を取り込む場合や、細菌が異物を食す場合の取り込みが、エンドサイトーシスである。 一方、細胞が、物質を細胞外に分泌する仕組みは、つぎの仕組みである。 まず、分泌される物質を囲む小胞にも膜がある。この小胞の膜が、細胞膜と融合し、その結果、小胞の内部の物質が細胞外に現れる。これをエキソサイトーシス(開口分泌)という。酵素の分泌や、ホルモンの分泌、神経伝達物質の放出なおど、エキソサイトーシスが行われている。 このように、細胞内外への物質の流入・流出には、細胞膜が深く関わっている。 多細胞生物において、細胞の外にも基質があり、たとえばコラーゲン(collgen)やフィブロネクチンなどの糖タンパク質がある。(コラーゲンは糖タンパク質である。検定教科書で記述を確認。[1]) この糖タンパク質のように、細胞外にあって、細胞膜とくっついている基質を、細胞外基質(さいぼうがい きしつ、extracellular matrix:ECM)という。(細胞外基質のことを「細胞外マトリックス」ともいう。) 細胞外基質の種類によって役目は違うが、たとえば受容体などとして働き細胞どうしの情報伝達をする役目や、あるいは細胞どうしの結合などの役目をしている。 糖タンパク質とは、多糖類とタンパク質で、できている。 インテグリン(integrin)は、細胞膜を貫通するタンパク質であり、細胞外基質を構成する糖タンパク質と細胞骨格をつなげる役目をしている。 カドヘリン(cadherin)という細胞膜を貫いて細胞外に出ているタンパク質がある。このカドヘリンが、細胞どうしの接合に関わっている。カドヘリンには多くの種類があり、同じ種類どうしのカドヘリンが接着する。 なお、このような現象を、「細胞接着」(さいぼう せっちゃく)という。 さて、カドヘリンには いくつかの種類があり、種類の異なるカドヘリンどうしは接着しない。これを細胞選別(さいぼう せんべつ、sorting out of cells)という。 カドヘリンの立体構造の維持にはカルシウムイオン Ca2+ が必要である。そのため、Ca2+が無い状態で培養すると、細胞どうしの接着が弱まるので、個々の細胞に解離しやすくなる(※ 高校の範囲内: 啓林館や第一学習社の教科書などに記述されている)。 なお、カドヘリンは細胞内でアクチンフィラメントに接続している。 (※ 右の原理図ではアクチンフィラメントが省略されている。※ より正確には、カドヘリンとアクチンフィラメントの間に、細胞内で連結タンパク質を仲介してるが、ほとんどの教科書でも参考書でも言及されてないので、無視する。 数研出版の教科書で、連結タンパク質に言及している。) カドヘリンは、細胞どうしを接着させるほかにも、さらに細胞どうしの情報伝達にも関与している。(※ 第一学習社の検定教科書で記載。)(※ 羊土社『理系総合のための生命科学』2007年第1刷、にてカドヘリンが情報伝達にも関わってることの裏付けを確認済み。) 隣接した細胞を、筒のような中空軸の構造のタンパク質が結合しており、これをギャップ結合(gap junction)という。この筒をイオンや低分子の糖やアミノ酸などが移動する。 となりあう細胞どうしが、間にいくつかのカドヘリンを介して、ボタン状に固定されている構造をデスモソーム(desmosome)という。 なお、デスモソームのボタン状部分には、中間径フィラメントが接続している。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%89%A9/%E7%94%9F%E7%89%A9II/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E3%81%A8%E7%94%9F%E7%89%A9%E4%BD%93%E3%81%AE%E6%A9%9F%E8%83%BD
ヒトのDNAは塩基数が約30億個であり、遺伝子は約2万個と考えられている。(暗記しなくていい。) DNAの複製では、2本鎖が1本ずつに別れ、それぞれ鋳型になって複製される。これをDNAの半保存的複製(はんほぞんてきふくせい、semiconservative replication)という。 DNAの半保存的複製の仮説は、メセルソンとスタールの実験で証明された。 まず、基準として、あらかじめ通常の窒素14Nをふくむ培地で、大腸菌を培養しておく。この基準とはべつに、もう一種類、重窒素15Nをふくむ培地を、次のように用いる。 (1)  大腸菌を培養する際、区別のため、重窒素15Nをふくむ塩化アンモニウム(15NH4Cl)を窒素源とする培地で、培養して増殖させる。 すると、大腸菌の窒素原子に、すべて重窒素15Nだけをふくむ大腸菌が得られる。 まず、この大腸菌を保存しておく。理由は、もうひとつの基準とするため。 (2)  さらに、15Nだけをふくむ大腸菌を、ふつうの窒素14Nをふくむ培地に移して培養して、分裂1回目・2回目・・・といった分裂ごとにDNAを抽出するため遠心分離機で遠心分離して、DNAの比重を調べる。 塩化セシウム(CsCl)溶液を加えた試験管を遠心分離機に取り付け、高速回転させると、試験管の底ほど塩化セシウム濃度が高くなるという密度勾配が出来る。 このときDNAを混ぜておくと、DNAの密度とつりあう溶液の密度の位置に、DNAが集まる。 こうして、DNAの質量のわずかな違いを検出できる。 結果 ・ 1回分裂後のDNAからは、15Nと14Nを半々にふくむDNAだけが得られ、重さは中間の重さだった。 ・ 2回分裂直後のDNAからは、15N-14Nの半々のDNAと、14NだけをふくむDNAが、1:1の割合で得られた。 重さは、14NだけをふくむDNAが、もっとも軽い。 ・ 3回目の分裂後は、軽いDNAと中間の重さのDNAの比が3:1だった。 ・ 4回目の分裂後は、軽いDNAと中間の重さのDNAの比が7:1だった。 ・ n回目の分裂後は、軽いDNAと中間の重さのDNAの比が 2n-1:1 だった。 中間の重さのDNAは、何世代たっても消滅しなかった。 この実験によって、DNAの半保存的複製は証明された。 アカパンカビは、糖といくつかのビタミンなどを加えただけの培地(最小培地、minimal medium)で育成できる。アメリカのビードルとテータムは、アカパンカビにX線や紫外線などの放射線を当てて、DNAを変化させ、突然変異させた。 突然変異したものの中には、最小培地だけの栄養素では増殖できず、さらに他の栄養素も必要とする株が生じた。このような最小培地の他の栄養素も要求する株を栄養要求株という。 アルギニンを加えないと増殖できない株をアルギニン要求株という。このアルギニン要求株には、実験の結果、次の三種類あることが分かった。 このことから、 という、なんらかの順番が予想される。答えを言うと、これはアカパンカビによるアミノ酸の合成の順番である。 アカパンカビのアミノ酸合成で、グルタミン酸を材料に、 というふうに合成していく。グルタミン酸からオルニチンを合成し、オルニチンを材料にシトルリンを合成し、シトルリンを材料にアルギニンを合成していく。 そして、それぞれのアミノ酸を合成する酵素は、それぞれ別の酵素である。グルタミン酸からオルニチンを合成する酵素(仮に酵素Aとする)があり、オルニチンからシトルリンを合成する酵素(仮に酵素B)があり、シトルリンからアルギニンを合成する酵素(仮に酵素C)がある。 そして、これらは遺伝子の突然変異によるものだった。つまり、それぞれの酵素は、遺伝子が異なる。 酵素Aに対応する遺伝子Aがあり、それとは別に、酵素Bに対応する遺伝子Bがあり、それとは別に、酵素Cに対応する遺伝子Cがあることになる。 ビードルとテータムは、このような考察をもとに、「1つの遺伝子は、対応する特定の1つの酵素の合成を支配する。」という一遺伝子一酵素説(いちいでんし いちこうそせつ)を立てた。 現代では、さらに一遺伝子一ポリペプチド説へと拡張された。「1つの遺伝子は、対応する特定の1つのポリペプチドの合成を支配する。」というような説である、 もっとも、実際には選択的スプライシングによって、1つの遺伝子が、複数のポリペプチドに対応することもある。 ともかく、遺伝子は、ポリペプチドの合成を支配しているのが原則だろうと考えられている。 DNAの方向の定義は、デオキシリボースの五炭糖の炭素原子にもとづき、鎖の末端が5´の端部と、鎖の反対側の末端の3´の端部がある。3´の部分には水酸基OHが、もとから付いている。 この5´と3´の位置にもとづき、DNAの二本鎖のそれぞれ一本ずつの方向が定義される。なので、向かいあってるDNAの二本鎖は、定義にもとづき方向が逆となる。 DNAの片方の鎖の5´側の末端(つまりリンPがある側の末端)を、5´末端(5´ terminal)という。同様に、3´側の末端(つまり水酸基OHがある側の末端)を、3´末端(3´ terminal)という。 DNAを合成する酵素であるDNAポリメラーゼは、一方向にしか合成できない。このため、もう一方の鎖の合成は、合成前でのDNAのほどけていく向きとは逆向きに進行する。 このため、逆向きに合成するほうは、細切れの断片ずつでDNAを合成していく。そしてDNAリガーゼという酵素が断片をつないでいく。 ほどけていく向きと同じ向きに新しく合成される鎖をリーディング鎖(リーディングさ、leading strand)という。 ほどけていく向きと反対向きに合成される鎖をラギング鎖(ラギングさ、laging strand)という。 そして、ラギング鎖のそれぞれのDNA断片を、発見者の名前にちなんで岡崎フラグメント(Okazaki fragment)という。 DNAポリメラーゼがデオキシリボースの3´末端の位置に新たにヌクレオチドを付け加えていくことで、DNAは伸長される。伸長の方向について新生鎖を基準にすると、DNAの合成は5´から3´の方向へと合成していく。この5´→3´という方向に合成する法則は、リーディング鎖とラギング鎖ともに共通である。 ただしラギング鎖では断片がいくつもできから、3´に近い断片ほど、古くに合成された断片である。なので、長期的に見るとラギング鎖の合成方向が、新生鎖を基準にすると、まるで3´から5´に合成されていくように観察されることになる。 DNAポリメラーゼによる合成の開始の際に、一時的に、新生鎖の塩基にプライマー(primer)というRNAの配列が必要である。(※ RNAについては、のちの節で後述する。) プライマーはあとで分解されて、DNAに置き換わる。ラギング鎖では断片がいくつもあるので、結果的にラギング鎖ではプライマーが、伸張時には、いくつも作られることになり、それぞれの断片の最初にプライマーがあることになる。 DNAの塩基情報がRNAに写し取られ、そのRNAの情報をもとにタンパク質が合成される。RNAは1本鎖である。 RNAの基本構造は、 塩基+糖+リン酸 からなるヌクレオチドである。 RNAの糖はリボース(英:ribose)である。RNAでは、DNAのアデニン(A)に結びつくのは、RNAのウラシル(U)であり、RNAはT(チミン)を持たない。(ウラシル、英:uracil) RNAポリメラーゼ(RNA polymerase、RNA合成酵素)という酵素の働きによって転写され、RNAが合成される。このときDNAの領域で、RNAポリメラーゼが結合する領域をプロモーター(promoter)という。 RNAの種類は、働きによって、メッセンジャーRNAとトランスファーRNAとリボソームRNAの3種類に分けられる。 メッセンジャーRNA(mRNA)は、DNAの情報を写し取るためのRNAである。また、真核生物の場合、mRNAはリボソ-ム内へ移動し、そこでトランスファーRNAを正しくならべるための鋳型(いがた)としての役割を持つ。 トランスファーRNA(tRNA)は、リボソ-ムまでアミノ酸を運ぶためのRNAである。なので、アミノ酸がトランスファーRNAに結合している。 後述するが、mRNAの塩基3個ぶんの並びによってアミノ酸が決定される。なので、この塩基3つぶんの情報しか、トランスファーRNAは情報をふくまず、タンパク質を構成する多くものアミノ酸の並びについての情報はふくんでいない。 アミノ酸を正しく配列するためには、真核生物の場合、メッセンジャーRNAが必要である。 タンパク質の合成はリボソーム(ribosome)で行われ、トランスファーRNAの運んできたアミノ酸からタンパク質をつくる合成がリボソームで行われる。リボソームのもつRNAは、mRNAとは別の系統であり、DNAにもとづく別系統のRNAをリボソ-ムが持っているので、リボソームRNA(rRNA)という。 真核生物の場合、メッセンジャーRNAが核膜孔から出てきてリボソ-ムへ移動し、トランスファーRNAを正しく並べることで、結果的にアミノ酸を正しく並べる。 このように真核生物では、リボソーム内で、メッセンジャーRNAとトランスファーRNAが再開することになる。 このように、リボソ-ムで合成されるタンパク質でのアミノ酸の並びの決定方法は、おもにメッセンジャーRNAの配列にもとづくのであり、いっぽうリボソームRNAの配列は直接にはアミノ酸の並びの決定には関わっていない。 まず、DNAの塩基情報を写し取ることで合成されるRNAをメッセンジャーRNA(略記:mRNA)という。 真核生物の場合、核内で、DNAの一部が二本にほどけて、そのうちの一本の情報がRNAに相補塩基として写し取られる。 なお原核生物の場合、そもそも核膜が無いので、原形質の中で同様にDNAがほどけて、RNAに情報が写し取られる。 また、このようにDNAの情報がRNAに写し取られることを転写(てんしゃ、transcription)という。 mRNAの塩基3個の配列が、1つのアミノ酸を指定している。この塩基3個の配列をコドン(codon)という。コドンは、すでに解読されており、この解読結果の表を遺伝暗号表(いでんあんごうひょう)といい、mRNAの配列で定義されている。ほとんどの生物で、遺伝暗号(genetic code)は共通であり、原核生物か真核生物かは問わない。 このように、mRNAの塩基配列にもとづいてアミノ酸が合成される過程を翻訳(ほんやく、translation)という。 塩基3つの組をトリプレットという。DNAの塩基は4種類あるので、トリプレットは4×4×4=64種類ある。天然のアミノ酸は20種類であり、じゅうぶんにトリプレットで指定できる。もし塩基2つでアミノ酸を指定する仕組みだとすると、4×4=16となってしまい、アミノ酸の20種類には不足してしまう。 UUU (Phe/F)フェニルアラニン UUC (Phe/F)フェニルアラニン UUA (Leu/L)ロイシン UUG (Leu/L)ロイシン UCU (Ser/S)セリン UCC (Ser/S)セリン UCA (Ser/S)セリン UCG (Ser/S)セリン UAU (Tyr/Y)チロシン UAC (Tyr/Y)チロシン UAA Ochre (終止) UAG Amber (終止) UGU (Cys/C)システイン UGC (Cys/C)システイン UGA Opal (終止) UGG (Trp/W)トリプトファン CUU (Leu/L)ロイシン CUC (Leu/L)ロイシン CUA (Leu/L)ロイシン CUG (Leu/L)ロイシン CCU (Pro/P)プロリン CCC (Pro/P)プロリン CCA (Pro/P)プロリン CCG (Pro/P)プロリン CAU (His/H)ヒスチジン CAC (His/H)ヒスチジン CAA (Gln/Q)グルタミン CAG (Gln/Q)グルタミン CGU (Arg/R)アルギニン CGC (Arg/R)アルギニン CGA (Arg/R)アルギニン CGG (Arg/R)アルギニン AUU (Ile/I)イソロイシン AUC (Ile/I)イソロイシン AUA (Ile/I)イソロイシン, (開始) AUG (Met/M)メチオニン, 開始[1] ACU (Thr/T)スレオニン ACC (Thr/T)スレオニン ACA (Thr/T)スレオニン ACG (Thr/T)スレオニン AAU (Asn/N)アスパラギン AAC (Asn/N)アスパラギン AAA (Lys/K)リシン AAG (Lys/K)リシン AGU (Ser/S)セリン AGC (Ser/S)セリン AGA (Arg/R)アルギニン AGG (Arg/R)アルギニン GUU (Val/V)バリン GUC (Val/V)バリン GUA (Val/V)バリン GUG (Val/V)バリン, (開始) GCU (Ala/A)アラニン GCC (Ala/A)アラニン GCA (Ala/A)アラニン GCG (Ala/A)アラニン GAU (Asp/D)アスパラギン酸 GAC (Asp/D)アスパラギン酸 GAA (Glu/E)グルタミン酸 GAG (Glu/E)グルタミン酸 GGU (Gly/G)グリシン GGC (Gly/G)グリシン GGA (Gly/G)グリシン GGG (Gly/G)グリシン たとえばAUGはメチオニンを指定する。またAUGは翻訳を開始するコドンでもある。 AUGのように、翻訳を開始するコドンを開始コドン(initiation codon)という。 いっぽう、UAA、UAG、UGAは対応するアミノ酸がなく、翻訳を終了させるので終止コドン(termination codon)という。 また、たとえばUUUはフェニルアラニンを指定する。 生物学者のニーレンバーグは1961年、塩基としてウラシル(U)だけを持つRNAをリボソ-ム溶液に加えたところ、フェニルアラニンが大量に合成されたことで、フェニルアラニンの遺伝暗号がUUUであることが発見された。 その後、生物学者コラーナなどのによって、遺伝暗号が解読された。 遺伝情報は、原則として DNA→RNA→アミノ酸→タンパク質 というふうに一方向に写されていき、その逆方向は無い。この原則をセントラルドグマ(英: central dogma)という。 セントラルドグマの例外的な存在として、ウイルスによってはRNAを遺伝物質として持つものがいて、このようなウイルスをRNAウイルスという。 また、RNAを鋳型としてDNAを合成することを逆転写といい、そのような働きの酵素を逆転写酵素という。 RNAウイルスは、逆転写酵素をもち、逆転写を行う能力をもっている。 エイズの原因であるHIVウイルスもRNAウイルスであり、また、HIVウイルスは逆転写酵素をもっている。 なお、ウイルス種類のグループの呼び名として、RNAウイルスであり、さらに逆転写酵素を持っているウイルスのことをレトロウイルスという。 エイズの治療薬は、この逆転写などを阻害することで、HIVウイルスの増殖を抑えるものである。[1] 現在の科学力ではエイズを完治することはできない。 エイズの治療薬は、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)阻害剤、インテグラーゼ阻害剤の3種類を組み合わせている。(※高校の範囲内)[2] [3] なお、現代ではウイルス以外の真核生物からも、RNAの遺伝情報をもとにDNAをつくる酵素が発見されている(※ 東京書籍の検定教科書で報告されている。東京書籍の教科書では、その酵素も「逆転写酵素」と呼んでいる)。 トランスファーRNA(tRNA)は、リボソ-ムまでアミノ酸を運ぶためのRNAである。なので、アミノ酸がトランスファーRNAに結合している。 トランスファーRNAには、mRNAのコドンの3塩基(トリプレット)と相補的に結合する3塩基をもち、トランスファーRNAのその3塩基の部分をアンチコドン(anticodon)という。 トランスファーRNAに、どの種類のアミノ酸が結合するかは、RNAのアンチコドンの配列によって異なる。 一本の、メッセンジャーRNAに対し、トランスファーRNAはいくつも作られる。なぜならトランスファーRNAのアンチコドンは、メッセンジャーRNAのたったの3つぶんの配列にしか相当しないからである。 メッセンジャーRNAの塩基配列をもとに、トランスファーRNAのアンチコドンが決定される。メッセンジャーRNAのコドンとトランスファーRNAのコドンは、お互いに相補的であるので、配列が違うので注意。遺伝暗号表などはメッセンジャーRNAのコドンを基準としており、アンチコドンは基準にしてない。 さて、トランスファーRNAのアミノ酸の種類は、トランスファーRNAのアンチコドンの塩基配列にもとづいており、トランスファーRNAのアンチコドンの塩基配列の決定は、メッセンジャーRNAの塩基配列のコドンにもとづいておるから、最終的に(トランスファーRNAに結合している)アミノ酸の種類の決定はメッセンジャーRNAにもとづく事になる。 タンパク質の合成はリボソーム(ribosome)で行われ、トランスファーRNAの運んできたアミノ酸からタンパク質をつくる合成がリボソームで行われる。リボソームも、独自のRNAを持っているのでリボソームRNA(rRNA)という。 真核生物の場合、メッセンジャーRNA(mRNA)が核から外に出てきて、トランスファーRAN(tRNA)とmRNAがリボソームで出会って、ポリペプチドをつくる。 リボソームに移動したmRNAの塩基配列に、tRNAのアンチコドンが結合する事によって、いくつもあるtRNAの並びが正しく並ぶ。 このようにアミノ酸の配列を決めているのはmRNAであり、けっしてリボソームRNAの配列はアミノ酸の配列決定には関わっていない。 また、リボソームへ移動するRNAは、けっしてトランスファーRNAだけでない。メッセンジャーRNAも、リボソームへと移動している。 さて、リボソ-ムで、tRNAからアミノ酸を切り離す作業が行われる。 そしてリボソームで、アミノ酸をペプチド結合でつなぎ合わせてポリペプチド鎖をつくり、そのポリペプチド鎖が折りたたまれてタンパク質になる。 アミノ酸を切り離されたtRNAは、mRNAからも離れ、tRNAはふたたびアミノ酸を運ぶために再利用される。 このように、リボソ-ムで合成されるタンパク質でのアミノ酸の並びの決定方法は、おもにメッセンジャーRNAの配列にもとづくのであり、いっぽうリボソームRNAの配列は直接にはアミノ酸の並びの決定には関わっていない。 mRNAへの転写が行われると、転写の終わりを待たずに、転写中に、ただちにリボソームがmRNAに直接に取りつき、そこでタンパク質の合成が行われる。 真核生物では、DNAからRNAへの転写時に、核の中で、いったん全ての配列が転写され、そのあとに配列のいくつが除去されて、残った部分がつなぎあわされてmRNAが出来上がる。 RNAの転写直後の、まだ何も除去されてない状態を mRNA前駆体 という。除去される部分に相当するDNA領域をイントロン(intron)という。mRNA前駆体からイントロンが取り除かれて、残って使われる部分に相当するDNA領域をエキソン(exon)という。エキソンに相当する部分どうしのRNAが繋がる。よってエキソンの領域が、タンパク質のアミノ酸配列を決めることになる。 このようなイントロン除去の過程をスプライシング(splicing)という。スプライシングは核の中で起きる。 mRNAは、転写直後のRNAから、こうしてイントロンに相当する配列が除去されてエキソンに相当する配列どうしが繋がった物である。 スプライシングが完了してmRNAになってから、mRNAは核膜孔を通って核の外へと出て行き、リボソームでのタンパク質合成に協力をする。 ある遺伝子の配列から、2種類以上のmRNAが作られる場合がある。これは、mRNA前駆体は共通だが、スプライシングの過程で、エキソン対応領域が除去される場合もあり、どのエキソンを除去するかの違いによって、最終的に出来上がるmRNAが変わってくるからである。また、いくつかのイントロン対応領域が除去されずに残る場合もある。エキソンどうしが繋がるときに、となりどうしのエキソンではなく、離れたエキソンと繋がる場合もある。 こうして、数種類のmRNAが作られる。これを選択的スプライシング(alternative splicing)という。 こうして少数の遺伝子から、選択的スプライシングによって多種類のmRNAが作られ、多種類のアミノ酸配列が出来て、多種類のタンパク質が作られる。 原核生物の場合は、一般に、転写で出来た配列が、そのままmRNAになる。よって原核生物ではスプライシングは起こらず、したがってイントロンを原核生物は持たない場合が普通である。 2本鎖のうち、転写されるのは、どちらか片方である。残りのもう片方の鎖は転写されない。 どちらの鎖が転写されるかは、場合によって変わり、けっして、あらかじめは決まってない。 転写されないほうの鎖をセンス鎖(センスさ、sense strand)という。転写されたほうの鎖をアンチセンス鎖(アンチセンスさ、sense strand)という。 どちらがセンス鎖になるかは、けっして、あらかじめは決まってない。 ある生物の細胞内に、もし外部からウイルスが侵入した場合、その細胞はすでにウイルスに感染されてしまってるので、生物はウイルスの増殖を防ぐ必要があり、ウイルスに感染した細胞の増殖やさまざまな活動を止めなければならないだろう。 上記のような理由だろうか、下記のような実験事実がある。 まず、真核生物では、RNAには、翻訳を行わない種類のものや、翻訳を妨害するものがあることが、わかっている。 真核生物でのmRNAの転写後に、もし、細胞内などに、そのRNAとは他のある短いRNAが存在している場合、そのある短いRNAがmRNAに結合して、mRNAを分解したり、リボソ-ムの翻訳を妨げたりするなどして、mRNAに(たいていは妨害的に)関わることをRNA干渉(RNA interference、略称:RNA i)という。 このような反応によって、mRNAの発現が妨げられる。このときの短いほうのRNAの長さは、切断され、塩基対の数が21塩基ほどになる。(参考文献: 羊土社『理系総合のための生命科学』、著: 東京大学生命科学教科書編集委員会、2007年第1刷、120ページ、コラム内の記事) または細胞の遺伝子組み換えの際に、短いRNAを目的の細胞に人工的に導入して、上記のような切断反応や妨害反応などによる、遺伝子の発現の妨害(ノックダウン)を起こさせる事にも利用される。 RNA干渉は、外部から侵入したウイルスなどのRNAも切断したりもする。 歴史的な経緯によりセンチュウに存在するRNA干渉が有名だが、しかし、センチュウのほかにも、多くの菌類や植物などにもRNA干渉の現象は存在する(※ 第一学習社の検定教科書:)。 このため、外部の病原体や異物などの分解の仕組みとして、RNA干渉が発達してきたのだろうと考える研究者もいる。(参考文献: 裳華房『理工系のための生物学』、坂本順司、2015年8月10日 改訂版、133ページ、傍注、) RNA干渉の発見者はファイアーとメローであり、センチュウを用いた実験で1998年に発見された。ファイアーらはノーベル生理学・医学賞を2006年に受賞した。 医療応用などにも期待されており、RNAの制御を通してDNAの発現を制御できそうだという期待をされている。 RNAを導入するときに、相補的なRNAどうしを結合させて二本鎖RNAにした場合のほうがRNA干渉が発現しやすい。書籍によっては、RNA干渉の紹介のときに最初から、「細胞に、ある短い二本鎖RNAを導入すると、mRNAを切断したりリボソームの結合を阻害したりして発現を阻害することをRNA干渉(略称:RNA i)という。」などというように、二本鎖RNAであることを前提としてRNA干渉を紹介している場合もある。 (※ 範囲外) よく、セントラルドグマの例外的な現象として、エイズなどの逆転写が上げられるが、逆転写以外のセントラルドグマの例外として、RNA干渉もセントラルドグマの例外とみなせる。(※ 参考文献: たとえば 東京大学理学系研究科-理学のキーワード-『RNA干渉』 2018年10月21日に閲覧) ※ じつは、本wikibooksの本章にあるような、前書きでの免疫的な説明による仮説は、検定教科書には無い(ただし、第一学習社だけ(「免疫」ではなく)「生体防御」という語で、後書きしており、センチュウなどからの防御と説明している)。検定教科書では、先入観を除去するためだろうか、免疫的な内容を、説明の前置きにはしていない。しかし、本wikibooksでは、まずRNA干渉の動作過程を学生に覚えやすくするため、便宜的に、免疫的な内容を前置きした。 大学レベルの教科書でも、免疫的な説明の前置きは無く、免疫的な内容は、あとがき的に、仮説のひとつとして説明されている場合が多い。 かま状赤血球貧血(sickle-cell anemia)は、欠陥をつまらせる。溶血して貧血の原因にもなる。 原因は、ヘモグロビンをつくるアミノ酸配列の異常であり、その配列異常の原因は、DNA配列の異常。 そもそもヘモグロビンはタンパク質で、できている。 ヘモグロビンタンパク質の6番目をつくる遺伝子のDNA配列上のある一個のチミンが、アデニンに置き換わっているため、この病気が起きる。 この置き換えによって、本来ならmRNAのコドンのGAGという配列によってグルタミン酸(Glu)というアミノ酸が出来るべきところが、GUGというコドンになってしまっているのでバリン(Val)というアミノ酸が出来る。 このためヘモグロビンのアミノ酸配列が変化し、結果的にヘモグロビンタンパク質の立体構造が変化して、かま状の構造になる。 鎌状赤血球貧血症の患者はマラリアに強く、そのためマラリアの生存地域のアフリカなどでは、むしろ生存に有利でもある。 マラリアの起こる仕組みは、マラリア原虫が赤血球に感染して起きる病気である。 ショウジョウバエやユスリカの幼虫の唾腺(だせん)の細胞では、巨大な染色体が観察でき、その唾腺(だせん)染色体では、パフという、膨らんだ部分のある染色体が観察される。パフでは転写が活発に行われている。パフの位置は、発生の成長の段階に合わせて、パフの位置も変わっていく。 このようなことから、遺伝子は、けっして常に同時に転写されるわけではなく、そうではなくて、発生にともなって活発化する遺伝子が変わっていくことが分かる。 昆虫の脱皮やさなぎ化などの変態はエグジステロイドというホルモンによって促進される。パフの発現も、エグジステロイドによって促進されている。 ヒトの必須アミノ酸でフェニルアラニンというアミノ酸がある。 健康な人間なら、不要になったフェニルアラニンは分解される。しかし、フェニルケトン尿症(phenylketonuria)の患者では、そうではない。 この病気は遺伝病であり、原因は遺伝子の配列にある。 フェニルケトン尿症では、フェニルアラニンをチロシンに変換する酵素の遺伝子の塩基が変化してしまっていることが原因であり、そのため変換酵素が合成できず、その結果、チロシンが合成されないで、ファニルアラニンが血液中に余り、フェニルケトンに変化して、尿中にフェニルケトンとして排出される。 チロシンをもとにして、メラニン(melanin)やアルカプトンなどが合成される。 メラニンを合成する酵素に異常が起きた遺伝性の症状が、アルビノ(albinism)である。 アルカプトン(ホモゲンチジン酸)は、健康なヒトでは最終的に分解され、水と二酸化炭素になる。を分解する酵素(ホモゲンチジン酸オキシダーゼ homogentisate dioxygenase)に異常が起きたため、この酵素が無く、アルカプトンを分解できなくなった遺伝病がアルカプトン尿症(alcaptonuria)である。アルカプトン尿症では、尿中に尿を放置すると、尿が黒くなる。 なお「アルビノ」とは、メラニン色素をつくる遺伝子が突然変異などで欠損したことによって起こり、そのために、体が全体的に白く、瞳(ひとみ)は赤い、症例または そのような動物個体。わかりやすい例でいうと、白ウサギのような色をしている動物がアルビノである。なお、アルビノ者の瞳の赤色は、毛細血管の色である。 紫外線により、DNA上で隣接する2個のチミンどうしに紫外線が当たれば、チミンどうしが結合してしまい、こうしてチミンは損傷する。 こうした損傷を受けると、損傷を直すために、二本鎖のうちの損傷を受けた側のヌクレオチドとその周囲の塩基(除去される塩基数は十数ほど)が除去されて、新しい塩基と置き換わる。 DNAポリメラーゼによって、損傷を受けてない側の鎖の塩基をもとに、相補的な配列が加えられ、DNAリガーゼで両端がつながれることで、修復される。 大腸菌は、生育にグルコースを必要とする。では、乳糖(ラクトース)などの、他の糖では、どうなるか。 フランスのジャコブとモノーの1965年ごろの実験により、大腸菌とラクトース(乳糖)について、以下の事が明らかになった。 大腸菌はグルコースがある環境では、ラクトース(乳糖)を消化しない。しかし、グルコースが無くて、ラクトースがある環境では、ラクトースを分解する酵素(βガラクトシダーゼなど)を合成し、大腸菌はラクトースを消化する。 また、突然変異をした大腸菌では、グルコースがあってもラクトースを分解する株も、あらわれた。 この突然変異の事から、遺伝子が、関わっていることが予想される。 また、突然変異でない通常の株について、糖の分解では酵素が働いてるわけであるが、そもそも酵素の合成には遺伝子が発現をしているわけだから、つまり遺伝子の発現の何かが環境によって変わったことになる。通常の株については、グルコースが多かろうが少なかろうが、DNAの塩基配列そのものは同じであり、DNAの塩基配列は何も変わっていない。グルコースの多いか少ないかで変わったのは、DNAの発現の何かである。 では、具体的に、いったい、DNAから酵素合成までのどの段階で、発現の有無を切り替えているのだろうか、という疑問が、本節で説明することである。 つまり、もしやDNAが発現しないことでRNAが存在してないのか、それともRNAが発現しないことでポリペプチドが存在していないのか、あるいはポリペプチドが発現していないことで酵素として発現していないのか、それとも・・・、などの検討である。 大腸菌のラクトース分解の場合は、DNAに調節タンパク質がくっつく事によって、DNAの発現の調節が起きていることが分かっている。このような調節タンパク質がくっつくDNAの領域をオペレーター(operator)といい、その遺伝子群をオペロン(operon)という。 (※ 以下、参考文献:Wikipedia日本語版記事『オペロン』) この大腸菌のラクトース分解の機構は、1980年ごろからの遺伝子工学やX線構造解析などの実験などによって、近年になって機構が証明された。1960年代の当事では、まだ仮説であり証明できておらず、おそらくDNAの段階で調節されているのだろうという仮説の段階であった。 (Wikipedia解説おわり) ジャコブとモノーは、おそらくDNAの段階で調節されているのだろう、というオペロンの機構の説を提唱し、これをオペロン説(operon theory)という。 RNAポリメラーゼは、DNAからmRNAへの転写の開始の際、まずプロモーターというDNA領域に、くっつく。 大腸菌のラクトース分解の事例では、大腸菌DNAのプロモーターと、酵素の遺伝子との間に、オペレーターがあって、このオペレーターに調節タンパク質がつくことで、mRNAへの転写を中断させるという仕組みで、発現を抑制してるのである。 そして調節タンパク質がDNAに結合できるかどうかが、環境中の物質によって変わってくることになる。 さて、転写を抑制する調節タンパク質のことをリプレッサー(repressor)という。 大腸菌の場合、グルコースが多い通常時は、ラクトース分解酵素の遺伝子DNAの直前の領域について、リプレッサーとして働く調節タンパク質が、オペレータ領域に結合することでRNAポリメラーゼの進展を妨害し、こうしてラクトース分解酵素の発現を抑制している。 またラクトースがありグルコースが無い環境では、大腸菌は、リプレッサーとして働く調節タンパク質の形状が変わり、もはや調節タンパク質はオペレータ領域に結合できなくなる。すると、グルコースが多い通常時ではRNAポリメラーゼの進展を妨害していた結合タンパク質がなくなるので、RNAポリメラーゼが酵素遺伝子に向かって進展ででるようになり、こうして酵素の遺伝子をRNAポリメラーゼが転写して、ラクトース分解酵素が発現する。 なお、大腸菌のラクトース分解の以外の事例では、別にRNAやタンパク質などが酵素の発現を調節する事が無いわけではない。そのような現象もある。単に大腸菌のラクトース分解の場合では、DNAにリプレッサーが結合することで、酵素の発現を調節しているということである。 これらの結果から、また、調節タンパク質をつくるための遺伝子も存在している事が分かる。 調節タンパク質をつくるための遺伝子を調節遺伝子(regulatory gene)という。 大腸菌では、アミノ酸のトリプトファンが多いとき、転写が促進される 。トリプトファンが少ないとき、転写が抑制される。 真核生物のDNAは、通常時は、ヒストン(histone)という球体のタンパク質に、まとわりついている。このヒストンは、ヒストン4個(つまり球体4個)で、一つの組になっている。ヒストンにDNAがまとわりついた構造をヌクレオソーム(nucleosome)という。さらに、このヌクレオソームが連なったものが、折りたたまれる構造をとっており、このヌクレオソームの折りたたまれた構造をクロマチン繊維(chromatin fiber)という。 DNAからRNAへの転写について、このようなヌクレオソームな状態では(つまり、ヒストンにDNAが、まとわりついた状態ではクロマチン繊維がぎゅうぎゅうにくっついているため、RNAポリメラーゼがくっつくことができない)、転写できない。転写の前にヒストンから、DNAが、ほどかれる必要がある。 ヒストンの特定のアミノ酸にアセチル基 -CH3CO- が結合することで、DNAとヒストンとの結合が弱くなり、ヒストンからDNAが、ほどかれる。 いっぽう、ヒストンの特定のアミノ酸にメチル基が結合すると、ヒストンに強く結合するので、ほどけにくくなるため、転写されにくくなる。 (※ 未記述) 染色体は、ふつうは2nだが、まれに2n±1や2n±2などの個体が現れ、このような性質を異数性といい、その性質を持って生まれた個体を異数体という。 染色体の核相が3nや4nの場合、そのような性質や現象を倍数性といい、その性質を持って生まれた個体を倍数体(ばいすうたい、ploid)という。3nのものを三倍体といい、4nのものを四倍体という。なお、通常の核相2nの個体を二倍体という。 三倍体は正常には減数分裂ができないため、生殖能力が無い。たねなしスイカは三倍体であるので、種を持たないのである。 4nなどの倍数体は、化学薬品のコルヒチンなどで生じやすい。なお、コルヒチンそのものはユリ科のイヌサフランなどに含まれる。 細胞分裂時の紡錘体の形成を、コルヒチンが阻害する。このため、細胞分裂時に倍増した染色体が両極に分かれず、そのまま四倍体の細胞になる。 三倍体は、四倍体と二倍体とを交配させて作る。 (※ 未記述) 「アルビノ」とは、メラニン色素をつくる遺伝子が突然変異などで欠損したことによって起こり、そのために、体が全体的に白く、瞳(ひとみ)は赤い、症例または そのような動物個体。わかりやすい例でいうと、白ウサギのような色をしている動物がアルビノである。なお、アルビノ者の瞳の赤色は、毛細血管の色である。 フェニルケトン尿症やアルカプトン尿症については、他の単元で説明する。(単元「遺伝性の代謝異常」など。) ダウン症候群とは、ヒトの遺伝病の一つであり、21番目の染色体が一本多い。先天的な知能障害がある(※ 参考文献: 『チャート式新生物 生物基礎・生物』平成26年版)。このため染色体数は合計で47本になる。母親の高齢出産で生じやすい。 (※ 理科の範囲外 :)なお、人間の場合、高齢出産でダウン症が起きる確率が上がる。(※ 清水書院の社会科の資料集『現代社会ライブラリーへようこそ 2018-19』でも紹介。) 近年、出生前診断(しゅっせいまえ しんだん)により、胎児のダウン症や流産などの異常の有無を検査できるようになった(※ 2019年に記述)。 おもに遺伝子工学について、この単元では解説される。 たとえば大腸菌は、菌体内に侵入してきたウイルスのDNAを切って殺す酵素を持つことがわかっている。この酵素は、特定の配列をもつDNAの特定の箇所を切断することがわかった。制限酵素にDNAを混ぜると、DNAの特定の配列を切断する。 大腸菌の持つEcoR1(エコアールワン)は GAATTC という配列を持つDNAをその個所で、GとAの間を切断する。 というふうに、切断する。 ほかのバクテリアなどからは、BamH1(バムエイチワン)が発見された。 BamH1は、GGATCCを切断する( G(切)GATCC )。 このように酵素が異なれば、切断する配列も異なる。 これらのような、特定の配列のDNAを切断する核酸分解酵素を制限酵素(せいげんこうそ、restriction enzyme)という。 いっぽう、切れたDNAをつなげるDNAリガーゼ(DNA ligase)という酵素も見つかっている。 制限酵素とDNAリガーゼは、DNAを組替えるための、ハサミとノリのような物として利用できる。制限酵素がハサミであり、DNAリガーゼがノリである。 このような酵素をいくつも用意しておけば、人間が酵素を混ぜることによって、遺伝子の組換えができる。 二本鎖DNAでは、A-T、G-Cがついになっている。 EcoR1の切断する、GAATTCの対は、 というふうに、下側のDNA配列(CTTAAG)を逆向きに読むと、上の配列と同じになっており、回文(かいぶん)構造である。回文とは、「たけやぶ やけた」とか「しんぶんし」とかのような逆さ読みしても同じ言葉になる文のことである。 なお、遺伝子組み換えした生物のことをトランスジェニック生物(トランスジェニックせいぶつ)という。 2本鎖DNAの両端がつながり、環状になっているDNAをプラスミド(plasmid)という。大腸菌にはプラスミドがある。遺伝子の組換えではプラスミドが、用いられる場合が多い。プラスミドは菌体内で独立して増える。バイオテクノロジーでの遺伝子組み換えのときに、大腸菌などのプラスミドに遺伝子を組み込んで、その菌に取り込ませて菌のDNAに組み込む事が多い。DNA発現時に有用なタンパク質を生産するDNAを組み込めば、遺伝子組み換えした菌を増殖させることで、その菌に有用なタンパク質などを作らせたりもできる。 遺伝子組み換えのときのプラスミドのように、遺伝子組み換えのときに目的の生物に遺伝子を組み込むための容れ物のことをベクター(vector)という。vectorとは「運び屋」という意味である。 ヒトの糖尿病の治療に用いられるインスリン(すい臓のホルモン)や、ヒトの成長ホルモンも、遺伝子組み換えした大腸菌で、すでに生産できるようになった。このように天然からは少量しか採取できないタンパク質や酵素などを遺伝子組み替え技術を用いて大量生産する技術が研究・開発されている。 大腸菌はプラスミドを持ち、プラスミドの中に、大腸菌自身が作る制限酵素をコントロールする遺伝子を持つ。 たとえば輪ゴムを切ると一本のゴム糸になるように、プラスミドは制限酵素を用いて切断されると、切断されたプラスミドは線状になる。 植物に遺伝子を組み込む場合は、アグロバクテリウム (Agrobacterium)という土壌細菌と、そのプラスミドを用いる場合が多い。アグロバクテリウムを植物に感染させて遺伝子を組み込む。 目的の遺伝子をプラスミド中に組み込み、そしてアグロバクテリウムを植物に感染させる方法で、植物に組み込む。 なお、このように、遺伝子組み換えした植物のことをトランスジェニック植物という。 植物によってはアグロバクテリウムが感染しづらい場合もある。そのような感染しづらい場合、後述の細胞融合などの方法を用いたり、微小ピペットなどで直接的に導入する場合もある。 遺伝子組み換えなどによって、個体の形質を変えることを、形質転換(けいしつ てんかん)という。 研究中の遺伝子組み換え生物では、その安全性が、まだ検証中の場合もあり、なので実験中の生物が外部に漏れないようにするなどの対策も行う必要もある。 カルシウムイオンCa2+は大腸菌の細胞膜の透過性を上げるので、カルシウムイオンを発生させる物質を加えると大腸菌がプラスミドを取り込みやすくなる。このカルシウムイオンによる大腸菌へのプラスミド組み込みの実験では、塩化カルシウム Cacl2 がよく使用される。このようにして大腸菌にプラスミドを取り込ませて形質転換を起こさせる。 DNAは95℃程度の高温にすると、塩基間の水素結合が外れて、一本鎖に分かれる。この現象を利用して、さらにDNA合成酵素のDNAポリメラーゼ(DNA polymerase)と、材料の塩基対4種類(アデニン・チミン・グアニン・シトシン)を使って、DNAの個数を2倍に複製する事が出来る。 95℃で2本に分かれた一本鎖の両方ともDNAポリメラーゼで相補塩基を足されて2本鎖になるから、最終的にDNAの個数が2倍になる。 同じ反応を何回も繰り返すことで、最初から数えて 2倍→4倍→8倍・・・ と倍倍でDNAの個数を複製できる。 増幅率は、理論上は20回くりかえすと、220=1048576個になる。 DNAポリメラーゼは、すべての生物にあるが、この反応で用いるDNAポリメラーゼは温泉などから発見された細菌に由来する、熱に強い耐熱性のDNAポリメラーゼを用いている。 このようなDNAポリメラーゼを用いたDNAの複製技術をPCR法(ピーシーアール法)あるいはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)という。 DNAポリメラーゼによる合成の開始には、出発点としての塩基対の一本鎖が別に必要である。あらかじめ化学合成しておいた短めの相補塩基対の一本鎖をプライマーという。プライマーが合成の出発点として必要である。 くわしい手順は、次の通り。 増幅率は、理論上は「20回くりかえすと、220=1048576個になる」だが、実際には、一回の工程では、かならずしも複製しきれないこともあり、理論値よりも実際の増幅率が低くなる。 まず、DNAは、水の中では負の電荷を帯びる。なぜなら、DNAのリン酸基が電離するためである。よって、適切な緩衝液の中ではDNAは負に帯電している。このような緩衝液の水溶液で湿らした寒天ゲルの中にDNA断片を置く。寒天の材質にはアガロースが良く用いられる。 さて、DNA断片に電場をかけると+極に引かれて動き出す。 このとき、移動速度は、長いDNA断片ほど、寒天の網目に引っかかるので移動速度が遅い。 このような実験を電気泳動(でんき えいどう、electrophoresis)という。電気泳動によって、移動速度を実験的に調べることで、DNAの長さを実験的に調べられる。つまり、DNA断片の分子量や塩基数を実験的に調べられる。 実験の際、比較のため、長さを調べたいDNA断片とは別に、すでに塩基数・分子量が分かっている別のDNA断片も用いて比較実験する。このような比較のための既に塩基数や分子量の分かっているDNA断片をマーカーという。 観測する際は、泳動後にDNA染色液を用いて染色する。実験装置の構造上、DNAが帯(バンド)状に染めだされるので、DNA電気泳動で染めだされた物をバンドという。このバンドの位置から、塩基数を推定する。 まず人によってDNAの配列は微妙に違っている。制限酵素でDNAを切ると、得られるDNAの断片の長さは人によって違う。このDNA断片を電気泳動にかけると、人によって、DNA断片の移動速度が違う。 刑事捜査や血液鑑定などに応用されている。 オワンクラゲは緑色に光る蛍光タンパク質を持つ。このオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質のことをGFP(green fluorecent protein)という。このGFPが、遺伝子組み換え実験での、組み込んだ遺伝子の発現を調べるための目印として、よく用いられる。 まず、GFPに紫外線を与えると、緑色の蛍光を発する。 調べたいDNA配列の一部に、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を組み込む。すると、調べたいDNA配列が発現している箇所で、いっしょにGFPの遺伝子も発現し、その結果、緑色の蛍光を発する。調べたい対象の生物を生きたまま蛍光させられるので、生きたまま遺伝子の発現を調べることができる。 下村修(しもむら おさむ)が2008年に、オワンクラゲのGFPの研究でノーベル賞を受賞した。 なお、ホタルの発光は、これとは異なる仕組みであり、ホタルの光は化学反応による発光でありATPを消費する。 実は、オワンクラゲの体内では、光のおおもとの光源はGFPではない。イクオリン (aequorin) というタンパク質が、オワンクラゲの発光の光源である。イクオリンにカルシウムが結合すると、青く光る。(このため研究ではイクオリンは細胞中のカルシウムの検出にも用いられる。) 目的の細胞への注射、または組み換え遺伝子により、目的の細胞の部位にイクオリンを含ませるのである。) (※ イクオリンの導入方法が注射の場合もあることについての参考文献: 羊土社『基礎から学ぶ生物学・細胞生物学』和田勝、2015年第3版、194ページ、) イクオリンからの青色の光をGFPが受け取り、緑色に変換しているのである。 このイクオリンを発見した人こそ、ノーベル賞受賞をした下村修(しもむら おさむ) である。 なお、単にGFPで緑色に光らせたい目的の実験なら、イクオリンが無くても紫外線を照射すれば、GFPが緑色に発光する。(※ 参考文献: チャート式の生物、平成26年4月版) DNAポリメラーゼを用いたDNAの複製時に、材料のヌクレオチドに、塩基配列中のデオキシリボースの代わりにジデオキシリボースを持つ特殊なヌクレオチド(つまりジデオキシヌクレオチド)を作っておくと、そのジデオキシリボースがDNAに混ざったところで合成が止まる。 これを利用して、塩基配列を解析する方法が、ジデオキシ法(あるいはサンガー法ともいう)である。 まず、解析したいDNAを一本鎖にする。 そしてジデオキシリボースの塩基ごと(A、T、G、C、)に、合計4色の異なった蛍光色素で標識する。 あとはDNAポリメラーゼで合成を開始させればよい。 たとえばA(アデニン)にジデオキシリボースwp持つ物をある蛍光色素(1とする)で染色し、Tに持つ物を色素2で染色し、Gに持つ物を蛍光色素3で染色、Cに持つ物を蛍光色素4で染色する。このように、それぞれを異なる色素で染色しておく。こうすれば、合成が止まったときのDNAの蛍光色素の色で、止まった部位の塩基が分かる。 これと電気泳動を組み合わせれば、長さごとに分けられるので、あとは長さの順に並べて塩基を読めば、DNAの配列が分かる。 植物や菌の細胞を、まずペクチン質が細胞どうしをくっつけているので、ペクチナーゼで、そのペクチン質を溶かす。そしてセルラーゼで細胞壁を溶かす。(またはリン酸カルシウムを用いて、細胞壁を溶かす場合もある。) なお、実際の実験では、浸透圧を調節する必要がある、浸透で細胞を壊さないようにするためセルラーゼ液などにマンニト-ルやグリシンなども加えている。[5] 細胞壁がなくなると、細胞融合が起こりやすくなる。細胞壁がなくなると、内側の球形の細胞だけが残る。この細胞壁の無くなった残りの内側の球形の細胞をプロトプラスト (protoplast) という。プロトプラストは細胞膜だけに包まれている。プロトプラストと組換えプラスミドを混合すれば、細胞融合が行われる。細胞壁が残ったままだと、融合はほとんど行われない。 融合を開始するにはポリエチレングリコール(PEG)を加えるか、あるいはセンダイウイルス(HVJ)を用いる。センダイウイルスは動物細胞の融合でも利用される。 このような細胞融合の方法で、ポマトとトマトの細胞を融合したポマトも開発された。しかし、特性などが悪く、たとえばジャガイモの芽にある毒がポマトにも含まれるなどの短所もあり、実用化されなかった。 ホタルの尻尾にある発行物質ルシフェリンは、ルシフェラーゼを酵素として、アデノシン3リン酸ATPと酸素O2と反応して、オキシルシフェリンという、ルシフェリンに酸素の化合した物質を生成する。この反応に伴って、発光が起こる。 よって、ルシフェリンと蛍光光度計を用いることにより、ATPの量が測定できる。 反応する前のルシフェリンとルシフェラーゼの量を、一定にしておけば、ATPの量によって発光の強さが変わるからである。 ところで、ほとんどの細菌は体内にATPをもつから、ルシフェリンを用いて、細菌の量を測定できる。つまり、微生物による汚染の度合いを測定できる。 実用品として、すでに食品やレストランの衛生の度合いを測定するためのキットとして、ルシフェリンを含んだキットが実用化している。 (※ 以降、範囲外?) ルシフェリンを用いた微生物量の測定 しかし細菌の体内にあるATPはこのままでは、ルシフェリンの混合液とは反応しない。細菌の細胞壁を破壊して、菌体外にATPを出してからでないと、ルシフェリンとは反応しない。よって、水に油を混ぜて菌を破壊して、ATPを菌体外に出す必要がある。 従来の方法では、検査対象をガーゼでふき取り、付着した微生物を寒天培地で一晩ほど培養し、バクテリアのコロニーを数えていたので、検査に1日かかっていた。 だが、ルシフェリンを用いた方法では短時間で終わる。 この方法には、大量のルシフェラーゼが必要になる。ホタルは希少な昆虫であり、乱獲するわけには行かないので、ホタル以外からの生産方法が必要になる。 日本の民間企業であるキッコーマン株式会社は遺伝子工学を用いてルシフェラーゼを大量生産することに成功した。大腸菌にルシフェラーゼを作る遺伝子を導入して、大腸菌にルシフェラーゼを生産させる方法である。 ルシフェラーゼの生産 植物の細胞片に植物ホルモンや培養液などを与えると、それから未分化の細胞の塊(かたまり)を育成したり、さらには個体を育成できる。こうしてできた未分化の細胞塊(さいぼうかい)をカルス(callus)という。 培養する前の細胞片は、植物の分化した細胞だったわけだから、その培養細胞から個体が作れたということは、再び分化したことになる。このような植物は条件を整えれば再度の分化をすることを再分化(さいぶんか)という。また、植物の細胞片から培養などで個体を作れることを分化全能性(ぶんかぜんのうせい)あるいは単に全能性という。 このように、分化した細胞片が全能性のある細胞に戻ることを脱分化(だつぶんか)という。 ちなみに細胞壁を除去した植物細胞であるプロトプラストを培養すると、細胞壁を再生する。 カルスを培養する際、添加する植物ホルモンの種類と量により、どのような組織に分化するかを制御できる(※ 高校理科の範囲内。)。 高いオーキシン濃度で、さらに低いサイトカイニン濃度という条件では、カルスは根に分化する。 いっぽう、高いサイトカイニン濃度、および、低いオーキシン濃度では、カルスは芽に分化する。(2016年現在の新課程生物でも、範囲内。数研出版や啓林館の検定教科書に記述あり。) 培養元の細胞片がウイルスに感染していると、培養中にウイルスごと培養して増殖してしまう。植物の茎の頂上である茎頂(けいちょう)の組織は、つねに成長分裂をしているので(茎頂分裂組織)、一般に、まだウイルスに感染していない(ウイルスフリー)。なので茎頂から採取した細胞片が、培養によく用いられる。(これを「茎頂培養」という。) おしべの やく から取った花粉も、培養できる。これをやく培養という。生殖細胞の核相は、減数分裂によって核相が体細胞の半分(核相:n)であるので、よって培養された細胞も半数体(核相:n)である。なので、そのままでは花粉などの生殖細胞をつくれず生殖できない。これにコルヒチンを茎頂に加えると、コルヒチンは細胞分裂での紡錘体の形成を阻害して倍数体をつくる作用があるので、半数体の核相が2倍になって、もとの核相(2n)に戻る。染色体の2本鎖の両方とは、もともと同じ半数体の染色体だったので、コルヒチン処理後の染色体の遺伝子は純系(ホモ)になっており、やく培養前の遺伝子とは異なっている。 短時間で純系の植物を培養したい場合に、よく利用される。 農学などの応用の理由もあり、植物細胞の培養のバイオテクノロジーは、よく研究されているが、詳しい説明は高校理科の範囲を超えて、大学生物学や農学などの範囲になるので、説明を省略する。 一般に、発生後の多くの動物の細胞は、すでに分化を終えているので、培養しようと培養液につけても分裂・増殖できない。ただし例外として、発生中の動物細胞や、いくつかの動物を除く。 しかし、がん細胞は、発生後の個体から採取したがん細胞でも、培養できる。 がん研究などで、Hela細胞(ヒーラさいぼう)が用いられている。子宮がんで死んだアメリカ人女性ヘンリエッタ Henrietta Lacks の細胞である。1951年にHela細胞が実用化された。 1907年、アメリカのハリソンはカエルの神経細胞を培養し、培養した神経細胞から神経繊維が突起を伸ばすことを観察した。 植物に突然変異を起こしたい場合、放射線を用いる場合がある。 あるいは倍数体(核相が3nや4nなどのこと)を作りたい場合に化学薬品のコルヒチンを用いる事がある。(倍数体育種法) なお、コルヒチンそのものはユリ科のイヌサフランなどに含まれる。 通常の細胞は二倍体である。細胞分裂時の紡錘体の形成を、コルヒチンが阻害する。このため、細胞分裂時に倍増した染色体が両極に分かれず、そのまま四倍体の細胞になる。 たねなしスイカは三倍体などの倍数体であるので、種を持たないのである。 この単元では、おもに遺伝子組み換えの観点からテクノロジーを解説しているが、これら遺伝子工学的なテクノロジーのほかにも、多くのバイオテクノロジーがある。 たとえば動植物の伝統的な育成方法にも様々な知識や技術が必要だし、また、たとえば人工授精には発生の仕組みの理解が必要である。身近な食品などでも、たとえば納豆やヨーグルトなどの発酵食品だって、生物を利用した技術である。ほかにも、木材を用いた家具とか、イグサを用いたタタミとか、生物に由来する材料は多くある。そのような生物に関する様々な技術の原理を理解できるようにするため、読者は、けっして、この単元だけでなく、ほかの単元も学ぶ必要もあり、よって生物I・IIを全体的に学ぶ必要がある。 また、薬品も用いることが多いので、読者は化学なども勉強しなければならない。遠心分離機も使うことがあるから物理の力学も勉強しなければいけないし、電気装置や照明機器・光学機器なども用いることがあり、さまざまな物理を勉強しなければならない。 読者は勉強する事は多いが、あまり気負いしないようにして、とにかく、きちんと高校の各教科の教科書・参考書・問題集などにマジメに取り組めば良いだろう。 (未記述) (未記述) iPS細胞は、体細胞に、ある4種類の遺伝子を入れるだけで分化全能性のある細胞になったのをiPS細胞というのである。では、どうやって、その4種類を特定したかというと、・・・ まず、ES細胞などの研究により、分化全能性をつかさどってる可能性のある遺伝子の候補を、24種類までに特定できた。 この24種類のなかには、分化全能性をつかさどるのに必要不可欠な遺伝子と、いっぽう、文化全能性には不要な遺伝子とが、混ざっており、一体どれが本当に必要な遺伝子かを、さらに調べる必要があった。 しかし、224(2の24乗)は16777216である。 そんな莫大な回数(16777216回)の実験をするのは無理だし、実際に山中伸弥らのグループはそのような実験はしてない。 山中らのグループは、24個の候補遺伝子から1個だけ遺伝子を抜いた23個の遺伝子を、使って実験したのである。 つまり、例えば、 ・・・ たった24回の実験をするだけでよい。そして、山中らは実際に24回の実験をして、このようにして、山中のグループは、iPS細胞の発見にたどりついた。 なお、現状では、iPS細胞化のための4種類の遺伝子のひとつに、がん化を引き起こすウイルスから採取したDNAを使っているので、がん化のリスクがある。(※ 清水書院の社会科の資料集『現代社会ライブラリーへようこそ 2018-19』で紹介。) 高校用の検定教科書・受験参考書などを確認のために参考してるが、どこの教科書にも書かれているような共通的な内容のため、引用などの特別な理由の無い限り、これら検定教科書および参考書については参考文献としての文献紹介を省略する。 バイオテクノロジーについては、検定教科書のほか、次の文献を参考にした。 そのほか、大学用の教科書などを確認のため参考にしたが、高校範囲外なので、書名を高校生に知らせないほうが良いと考えて、特別な理由の無い限り、文献紹介を省略する。 ルシフェラーゼの記述の参考文献については、手元に文献が無いので書名を思い出せない。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%89%A9/%E7%94%9F%E7%89%A9II/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%81%AE%E7%99%BA%E7%8F%BE
地球は約46億年前に誕生しました。地球が誕生したときは、高温のマグマに覆われていたと考えられています。その時は、生命は存在していなかったと考えられています。 表面が徐々に冷えてくると、水蒸気が冷えて雨になり海ができました。 最初の生命は、この原始の海の中や近くで生まれたのではないかと考えられています。 また、隕石に有機物が含まれていることがあるので、有機物の起源を宇宙に求めるという説もあります。 ミラーは原始地球の大気を想定した気体中で放電することで、アミノ酸などの有機物が合成されることを発見した(1953年)。 ミラーが想定した原始大気は、メタン(CH4)・アンモニア(NH3)・水蒸気(H2O)、水素(H2)の混合気体である。 このような実験結果から、原始大気で放電などによってアミノ酸などが発生し、それをもとに生命が誕生したという可能性が、生命の発生の一説として考えられている。 また、このように、単純な化学反応によって最初の生命ができたという説を化学進化(かがく しんか、chemical evolution)という。 海洋の海底で、熱水が噴出している場所があり、これを熱水噴出孔(ねっすい ふんしゅつこう)という。地下のマグマによって熱せられている。 噴き出す熱水にはメタン・硫化水素・アンモニアなども含まれており、これらの物質は有機物の原料になるものが多いので、このような場所で生命の発生が起きた可能性も、生命の発生の説として考えられている。 オパーリン(生物学者)は、タンパク質をふくむ水の液滴、あるいは核酸をふくむ水の液滴などをコアセルベートとよび、コアセルベートから生命が誕生したと考えた。 今日の生命の遺伝物質はDNAであるが、しかし最初の生命はRNAを遺伝物質とする生命だったという考えがあり、RNAを遺伝物質とする生命が繁栄していたという考えがある。このようなRNAを遺伝物質とする生命の時代や、このような考えをRNAワールドという。 これに対して、今日の生命のようにDNAを遺伝物質とする生命の時代や考えをDNAワールドという。 最古とされる生物化石が、オーストラリアの約35億年前の地層から、見つかっている。この生物化石の最古の生物は、原核生物だろうと考えられている。 グリーンランドの約38億年前の地層の堆積岩から、生命の痕跡が見られる。これらのことから、約40億年前には、生命が誕生していたと考えられている。 27億年前の地層から、ストロマトライトとよばれる岩石状の層状構造が見つかっており、この構造は原核生物のシアノバクテリアが作る構造として知られている。この時代以降の地層で、世界各地からストロマトライトの地層が見つかっている。よって、この時代にシアノバクテリアが大繁殖していたと考えられている。 光合成をシアノバクテリアは行う。光合成で酸素が放出される。そのため、シアノバクテリアが繁栄していれば、海洋や大気で酸素が増加する。はじめは海洋中に解けていた鉄イオンと酸素が結びつき、酸化鉄として海底に沈殿していったと考えられている。(なお、今日、海底や地中にある鉄鉱床は、この時代に作られたと考えられている。) 海水中の鉄イオンが酸化して沈殿していくので、しだいに海洋中の鉄イオン濃度が低下していき、こんどは大気中で酸素濃度が増大することになった。この大気中での酸素の増加によって、酸素を好む好気性細菌が増加したと考えられている。 また、大気中の二酸化炭素が光合成などにより低下していたと考えられる。その結果、二酸化炭素による温室効果が低下し、地球の温度が低下したと考えられる。また、地上では酸素が増大したことにより、オゾンが形成され、地表に降りそそぐ紫外線の量が減るようになり、生物が生息しやすくなったと考えられる。 真核生物の中にあるミトコンドリアは、独自のDNAを持っている。 このことから、原核生物の嫌気性細菌の中に、ミトコンドリアの祖先である好気性細菌が入り込んで、それらが共生していった結果だと考えられており、このような説を共生説(きょうせいせつ)といい、マーグリス(アメリカ人)などによって提唱された。 葉緑体も独自のDNAを持っている。同様に、原核生物に、葉緑体の祖先の生物が入り込んで、共生していった結果だと考えられている。葉緑体の祖先は、シアノバクテリアに近い生物であることが、DNAの塩基配列の解析によって、分かっている。 地球上で最古の岩石ができてから現在までを地質時代(ちしつ じだい)という。 地質時代の区分は、先カンブリア時代・古生代(こせいだい)・中生代(ちゅうせいだい)・新生代(しんせいだい)に分けられる。 最古の生物が現れてから真核生物が現れるまでの時期は、先カンブリア時代にふくまれる。 各代は、さらに、いくつかの紀に分けられる。たとえば古生代は、カンブリア紀・オルドビス紀・シルル紀・デボン紀・石炭紀・ベルム紀に分けられる。 なおカンブリア紀は、古生代であり、先カンブリア時代ではない。 三葉虫(さんようちゅう)は古生代の生物であり、アンモナイトは中生代の生物である。三葉虫は古生代末に絶滅してしまう。よって、三葉虫の化石がある地層から出土すれば、その地層が形成された年代は古生代であることが分かる。このような、時代を知れる化石を示準化石という。三葉虫の化石は、示準化石である。いっぽう、サンゴは暖かくて浅い海に生息するので、サンゴの化石があれば、その化石ができた時代に、その場所は暖かくて浅い海底だったことが分かる。このサンゴの化石のように、場所の特徴を知れる化石を示相化石(しそう かせき)という。 先カンブリア時代の後半である約7億年前、地球が寒冷化して、地球の大半が氷河で覆われた。これを全球凍結(ぜんきゅう とうけつ、Snowball Earth スノーボール・アース)という。全球凍結によって、多くの生物が絶滅した。一部の生物は絶滅をまぬがれて、生き残った。 示準化石によって、地層の新旧は分かるが、具体的に何年前のものかは分からない。具体的な年代は、放射性年代測定によって測定される。放射性同位体は、一定の速さで壊変して最終的に安定な原子に変わっていく。(と考えられている。実際に古代から現在までの放射同位体の壊変速度を測定した人はいない。) 放射性同位体のもとの原子の総数が、もとの半分になるまでの間にかかる時間のことを、半減期(はんげんき、half-life)といい、放射性同位体の種類によって異なる。 半減期は、その原子ごとに一定であり、変わらない。この法則を利用して、化石の年代を測定する。 元素の種類によって、測定方法は細かくちがう。 生物の化石の場合、つぎに述べる炭素の放射性同位体がよく利用される。 地上の大気にふくまれる炭素Cは、太陽光線などの影響により、いくらかの割合で一部の炭素が放射性同位体の炭素 14C に変わる。生きている植物体は光合成などにより、放射性炭素ごと、炭素を取り込む。このため、生きている植物体は、一定の割合で放射性炭素をふくむ。放射性炭素の半減期は、約5700年である。 植物体が死ぬと、大気との循環が止まるので、新たな放射性炭素が増えなくなるので、これを利用して化石の年代を測定できる。 炭素の半減期は、約5700年と、地球の歴史の中では短いほうなので、数万年以内という新しい時代の年代を測定するときに用いる。 古い地質時代の年代測定は、ウラン(238U)などの半減期の長い元素の放射性同位体による。ウラン238Uの半減期は4.5×109 年。 化石や地層の古さを数値で具体的に、たとえば「約200万年前」「約2500万年前」のように表した年代を、絶対年代(ぜったい ねんだい、absolute age)とか数値年代()という。 放射性同位体による測定を利用して数値年代を測定する場合が多いので、放射性年代(ほうしゃせい ねんだい、radiometric age)ともいう。 一方、示準化石などを利用して、「この地層は、あの地層よりも古い」などというように地層の新旧関係のみを考えた場合の年代を相対年代(そうたい ねんだい、reklative age)という。 最初の多細胞生物が出現した時期は不明だが、おそらく約10億年前の先カンブリア時代だと考えられている。最古の多細胞生物の化石が、約6.5億年前とされる地層から見つかっている。世界各地で、同時期の地層から、この時代の生物の化石が見つかっている。オーストラリアのエディアカラという地域が、そのような化石の産出地として代表的であるので、この6.5億年前ごろの時代の生物群をエディアガラ生物群(エディアカラせいぶつぐん)という。エディアカラ生物群のほとんどは、体がやわらかく、殻を持たず、扁平な形をしている。 体が扁平なことから、移動能力は低いと考えられ、また、海中から酸素を直接に取り入れていたと考えられる。 クラゲのような生物の化石も見つかっている。 このエディアカラ生物群は、気候の変動などにより、ほとんどの種が絶滅した。 そして、約5億4000年前に先カンブリア時代が終わる。 軟体動物や節足動物、環形動物など、多くの種類の動物が誕生した。このような、カンブリア時代での生物の多様化を「カンブリア大爆発」という。 カナダのロッキー山脈のバージェスで化石が発見されたことから、この時代の生物群をバージェス動物群という。 三葉虫、アノマロカリスなどが、バージェス動物群である。 殻の成分としてカルシウムを持つ生物が多くいることから、海水中にカルシウムが豊富だったと考えらている。また、硬い殻は、捕食者に対抗するためのものだと考えられており、つまり、捕食者-被食者の関係が、この時代の生物群で既に存在していたと考えられている。 カンブリア紀の末までに多くが絶滅した。 カンブリア紀末~オルドビス紀(古生代)の魚には、顎(あご)が無く、ヤツメウナギの仲間である無顎類(むがくるい)だった。 古生代シルル紀~デボン紀に、顎のある魚が出現し、シーラカンスなどが出現した。 カンブリア時代に光合成をする藻類が繁栄し、酸素が大気中に増大し、それによってオゾン層が形成された(オゾンの化学式はO3)。  このため、地表にふりそそぐ紫外線が減った。(紫外線は、DNAを傷つける。) 化石が確認されている最古の陸上植物は、シルル紀のクックソニアである。(クックソニアの高さは数cm) クックソニアの個体は、二つに枝分かし、その枝の先に胞子のうをつける。 その後、リニアという維管束をもつ植物が出現し、のちの維管束植物の祖先になった。 デボン紀には、維管束を持ち、根・茎・葉の区別があるシダ植物のような植物が繁栄した。また、シダ植物のような種子植物が繁栄し、シダ種子植物といわれる。シダ種子植物が、ソテツとよく似ているシダ植物なので、ソテツシダともいう。 これらの植物には高さ20mにもなるものもあり、森林をつくるほどであった。 植物の陸上進出と同じころ、動物も陸上に進出した。植物と動物のどちらが先かは、不明である。 このころの動物は、ムカデやクモや昆虫のような節足動物であったと考えられる。 デボン紀の末期には、魚類から進化したと考えられる原始的な両生類が現れた。最古の両生類として考えられているイクチオステガは肺を持っており、また四肢を持っており、浅瀬や陸上を歩いて移動できたと考えられている。 石炭紀になると、ハ虫類が出現した。ハ虫類は、胚発生時に、胚膜(はいまく)で胚が保護されておる。また、卵の外側は硬い殻で覆われている。卵が陸上で生存できるようになり、脊椎動物の陸上への進出が、達成された。 また、羽を持った昆虫も出現した。巨大なトンボ(80cmくらい)の化石が見つかっている。 古生代の末、地球が寒冷化し、大量絶滅が起きた。三葉虫は絶滅し、シダ植物の森林は衰退した。 寒冷化の原因は不明だが、この時期に大規模な地殻の変動が起き、また酸素濃度が激減したことが分かっている。 古生代最後のペルム紀から中生代の初めごろに、地球の乾燥化が起き、乾燥に強い生物が繁栄した。中生代には、植物ではイチョウやソテツなどの裸子植物が繁栄した。また、中生代の中ごろから、被子植物が出現した。被子植物は胚珠が子房の中にあり、そのため乾燥に強い。 中生代の動物では、ハ虫類の大型化した恐竜類が出現して繁栄した。また、三畳紀(さんじょうき、別名:トリアス紀)には哺乳類(ほにゅうるい)が出現した。 ジュラ紀には、恐竜から進化した鳥類が出現した。始祖鳥(しそちょう)が、中生代ジュラ紀には出現していた。ジュラ紀の地層から始祖鳥の化石が見つかっている。中生代の海中ではアンモナイトが繁栄した。 中生代の最後の白亜紀(はくあき)には、現在でいうカンガルーにあたる、有袋類(ゆうたいるい)が出現していた。白亜紀には、草本の被子植物が出現した。 中生代の末期、大量絶滅が起きた。中生代末期である約6600万年前に、大型の隕石が地球に衝突したことが分かっているので、この隕石衝突による気候変動が原因だろうという説が有力である。 新生代末期の白亜紀の地層と、新生代の初めの地層から、高濃度のイリジウムが多く見つかっているが、このイリジウムは小惑星に多いことが知られている。また、メキシコのユカタン半島に巨大なクレーターがあり(クレーター直径は100km以上)、この時代の隕石衝突によるものだろうと考えられている。ここに衝突した隕石の直径は10kmだろうと計算されている。 大きな隕石の衝突により、粉塵などが舞い上がり、太陽光がさえぎられて、植物の光合成が低下し、 そのため、植物の衰退および、食物連鎖で繋がっている動物が死亡し、動植物が大量絶滅した、などという説が考えられている。 中生代の末期ごろ、恐竜類は絶滅し、アンモナイトも絶滅した。なお、恐竜の色素は化石としては残りづらく、そのため恐竜の表皮などの色は不明である。 (※ 未記述) 新生代に入り、哺乳類が繁栄し始め、また哺乳類は多様化していった。 ヒトは哺乳類の一種の霊長類(れいちょうるい、別名:サル類)である。霊長類が出現したのは、新生代に入ってからである。 霊長類でヒトに、遺伝子が、もっとも近いヒト以外の動物は、チンパンジーであり、DNAの塩基配列の違いが1.2%程度である。 霊長類に含まれる動物はゴリラやチンパンジーだけでなく、キツネザルやテナガザルなども霊長類である。 霊長類の祖先は、現在でいうツバイに似た食虫類だと考えられている。 このような食虫類が進化して、現在でいうキツネザルに似た霊長類が出現した。 霊長類は、樹上で生活するように進化していった。霊長類は目が顔面の前のほうに集中しており、そのため立体視ができる。この立体視は樹上での素早い移動のために獲得された特徴だと考えられている。また、手は、親指が他の指と向かい合っており(ぼ指対向性、「ぼしたいこうせい」)、指の爪は鉤爪(かぎづめ)ではなく平爪(ひらづめ)になっているので、枝をつかみやすい。 新生代の第三期に、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル、ボノボなどの類人猿(るいじんえん)の祖先が出現した。 古い地質時代に繁栄していた生物の子孫で、現在でも、その個体の体の特徴が、古い地質時代の体の特徴と、あまり変わっていない生物を 生きている化石という。 植物では、イチョウやソテツやメタセコイアが、「生きている化石」の具体例である。イチョウは裸子植物だが、精子をつくる。(シダ植物は精子をつくる。) 動物では、カモノハシやシーラカンスやカブトガニが、「生きている化石」の具体例である。 オーストラリアに生息するカモノハシ(英:platypus)は、子を母乳で育てるのでホニュウ類だが、卵生であり、くちばしを持っている。このため、カモノハシは、ハチュウ類から哺乳類への進化の間の特徴であると考えられている。 またカモノハシは体が毛におおわれている。このことからも、ハ虫類と哺乳類との近縁関係が、うかがえる。 シーラカンスは魚類の一種である。胸びれ(むなびれ)の内部にある骨のつくりが、両生類の前足に当たると考えられている。 人類はアフリカ大陸で誕生した。人類と類人猿の違いとして、人類は直立二足歩行(ちょくりつにそくほこう)が可能である。 最初の人類は 猿人(えんじん) である。アフリカで440万年以上前の地層(ちそう)からラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)の化石が発見されている。猿人は二本足で立って歩ける直立二足歩行(ちょくりつにそくほこう)が可能だった。 二足歩行ができるようになった結果、手で使う道具が発達していき、それにともなって知能も発達していったと考えられている。 また、東アフリカの300万年ほど前の地層からアウストラロピテクス類 の足跡化石が見つかっており、直立二足歩行をしていたことが分かっている。アウストラロピテクスの脳容積は500mLであり、現生人類の半分以下である。なお、現生人類の脳容積は約1500mLである。 ラミダス猿人やアウストラロピテクス類をまとめて、猿人といい、初期の人類と見なしている。また、これら猿人の化石がアフリカからのみ見つかっていることから、人類はアフリカで誕生したと考えられている。 なお、猿人は石を打ち砕いてつくった打製石器(だせいせっき)を使っていた。打製石器は旧石器(きゅうせっき)とも呼ばれる。このような打製石器までしか使っていない時代を旧石器時代(きゅうせっき じだい)という。 その後の100万年〜200万年後の時代の間に、人類はアフリカから出て、各地に散らばっていった。 今から200万年ほど前に 原人(げんじん、hominid) があらわれた。 中国大陸の中国の北京(ペキン)の近くの周口店(しゅうこうてん)からは、 北京原人(ペキンげんじん、シナントロプス=ペキネンシス) のあとが発見されている。 原人の脳容積は約1000mLであり、猿人と現生人類の中間である。 北京原人は火を使用していたことが分かっている。 インドネシアのジャワ島からはジャワ原人のあとが発見されている。 ドイツからはハイデルベルグ人が発見されている。 原人は、言葉を話せた。 石器は、打製石器を使っている。旧石器時代にふくまれる。 旧人のうちの一種の ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス) の化石が、ドイツのネアンデルタールから発見されている。ネアンデルタール人は、約3万年前に絶滅した。ネアンデルタール人の脳容積は、現生人類とほぼ同じである。(ネアンデルタール人の脳容積は約1500mL) 私達、現在の人間の直接の祖先である 新人(しんじん) が、4万年前には、あらわれていた。 新人を、現生人類(げんせいじんるい)とも言い、また、 ホモ=サピエンス(Homo sapiens) とも言う。ホモ・サピエンスの最古の化石がアフリカのエチオピアで見つかっていることから、現生人類はアフリカで誕生したと考えられている。また、ミトコンドリアのDNAの解析も、アフリカで現生人類が誕生したことと一致している。 人類は約10万年前にアフリカ大陸を出て、世界中に散らばった。 新課程・現過程「生物」の進化の証拠を見てください。 交配して生殖可能な集団に存在する遺伝子全体の集合を遺伝子プールという。 ある遺伝形質について、対立形質のそれぞれの遺伝子の割合を遺伝子頻度(いでんし ひんど、gene frequency)という。 たとえば、白黒の碁石が50個ずつ計100個の入った不透明の袋から、中を見ないで10個の石を取り出した場合、たまたま白6個で黒4個だったり、あるいは白3個で黒7個だったりする場合もあり、必ずしも白5個かつ黒5個とは限らない。もちろん、たまたま白5個かつ黒5個を取り出す場合もある。 遺伝子の進化でも、子供の世代での、ある遺伝子の頻度が、親の世代とは同じとは限らない。子供の世代で、たまたまある遺伝子の頻度が増える場合もあれば、減る場合もある。 仮に先ほど、白6個で黒4個を取り出したとしよう。 次に、先ほどの結果を反映して、今度は白石60個と黒石40個を用意したとして、それを不透明の袋に入れたとしよう。そして、中を見ないで、石を10個だけ取り出したとしよう。 結果で、たまたま白7個で黒3個の場合もあれば、たまたま白6個で黒4個と先ほどと同じ場合もあれば、たまたま白5個で黒5個という場合もある。 このように、自然選択や突然変異などの生物的な過程が起きて無くても、偶然という確率的な過程によって遺伝子頻度は変動していく。このような遺伝子頻度の偶然による変化の現象を遺伝子浮動(いでんし ふどう、genetic drift)という。 ある集団で交配が自由に行われる場合、単純計算では、遺伝子頻度は変化しないことになる。(だが実際は、仮定どおりにいかないので遺伝子頻度は変化する。) 単純計算では、つぎのような計算が成り立ち、なので遺伝子頻度は変化しない。 まず、ある個体群の集団で、対立遺伝子Aとaの頻度を、それぞれAの頻度はpとして、aの頻度はqとする。(p+q=1) 次世代の遺伝子型はAA、Aa、aaの三種類である。 それぞれの遺伝子型の頻度は、 ( p A + q a ) 2 = P 2 A A + 2 p q A a + q 2 a {\displaystyle (pA+qa)^{2}=P^{2}AA+2pqAa+q^{2}a} の展開式より、AAはp2であり、Aaの頻度は2pqであり、aaの頻度はq2である。 この世代のA遺伝子の頻度は、 2 p 2 + 2 p q = 2 p ( p + q ) = 2 p {\displaystyle 2p^{2}+2pq=2p(p+q)=2p} である。(2p2の係数の2の理由は、AAではAが2文字あるから。) 同様に、この世代のa遺伝子の頻度は、 2 p q + 2 q = 2 ( p + q ) q = 2 q {\displaystyle 2pq+2^{q}=2(p+q)q=2q} となる。 Aとaの遺伝子頻度の比は、A:a = 2p:2q = p:q となり、親の世代と同じにA:a=p:qになる。 よって、このような集団では、遺伝子頻度は、その後の世代でも同じである。これをハーディ・ワインベルグの法則(Hardy-Weinberg principle)という。 この法則の前提として、 という前提がある。 個体数が少ないと、ハーディ・ワインベルグの法則が成り立たない。では、個体数がが少なくなると、遺伝子頻度はどうなるかを、具体的に考えてみよう。たとえば、親の世代の遺伝子頻度が A:a=p:q であっても、子供の数が少なくて、たったの4個体しかない場合、 子供の形質が仮に全員aaという場合も起こりうる。(計算の都合上、子世代の男女比は無視する。無性生殖の場合を考えると計算が簡単である。) この場合、子供の世代以降は A:a=0:1 となり、親の世代とは遺伝子頻度が変わる。 このように、個体数が小さくなると、遺伝子頻度が変わりやすくなる現象をびん首効果という。 そして、いったん遺伝子頻度が変わると、今度はその遺伝子頻度が受け継がれていく。 先ほどの例では、極端な例としてA遺伝子が失われる場合を挙げたが、べつにA遺伝子が失われなくても個体数が少数の世代のときに遺伝子頻度が変わってしまえば、以降の世代では、その頻度が受け継がれていく。 いろいろな生物種のヘモグロビンのα鎖のアミノ酸配列を調べてみると、生物種に関わらず、生物種どうしのアミノ酸配列の違いが、その2種の生物が進化的に分かれてからの時間に比例して増えていくことが分かった。そして生物種に関わらず、この配列の変化速度が、ほぼ一定だということが分かった。同様に、他のタンパク質のアミノ酸配列でも、DNAの塩基配列でも、変化速度が一定だということが分かった。 このような、遺伝される配列の変化の速度を分子時計(ぶんしどけい、molecular clock)という。 分子時計は、種間の類縁関係を測定する手段の一つとして用いられる。 また、DNAやタンパク質の変化など分子レベルでの進化を分子進化(ぶんし しんか、molecular evolution)という。 遺伝子の種類によって、分子進化の起こりやすさは違う。その遺伝子が少しでも変化してしまうと生存に不利な遺伝子の場合、分子進化は遅い。 DNAのある箇所の塩基配列が突然変異したとしても、発現されるアミノ酸が変わらない場合もある。(コドンやイントロンなどを参照せよ)  このような場合、そのDNAの変化は、生存に有利でも不利でもないのが普通である。 このような、生存に有利でも不利でもない形質も、遺伝によって受け継がれていく。このような有利でも不利でも形質は、自然選択(いわゆる「自然淘汰」のこと)を受けない。進化では、このような場合が大多数であるという説を中立説といい、木村資生(もとお)などが分子的な解析にもとづいて提唱した。また、このような、自然選択に掛からないで起こる進化を中立進化(ちゅうりつしんか、neutral evolution)という。 塩基配列などの分子レベルの変化(つまり分子進化)で中立進化が多く見られるが、表現型でも中立進化は起こる場合もある。 ダーウィン(Darwin)は若手のころ、イギリスの軍艦ビーグル号に同乗して、世界一周の航海をしており、南米に立ち寄ったとき、ガラパゴス諸島で生物の研究をした。このガラパゴス諸島で、ダーウィンはトリの形質が、島ごとに形質が違うのに注目した。また、トリ以外も調査した。 同じころ、イギリス人のウォレスもマレー諸島で同じような研究をしており、そこでダーウィンの帰国後、二人は共同研究をして、その結果をもとに『種の起源』を1859年に出版した。進化の原因として、彼らは自然選択(自然淘汰)説などを考えた。 ド フリースは、同じ環境でオオマツヨイグサを栽培しても、突然変異体が現れることを発見した。また、それらの突然変異体の交雑実験をして、突然変異(mutation [1])の形質は遺伝することを明らかにした。これらの結果をもとに、突然変異が進化の主な原因であるという突然変異説を唱えた。(1902年)  ある場所に済んでいた集団が、生息地の中に、地殻変動などで移動不可能になる地理的な障壁ができて二分されると、その二箇所の往来が出来なくなる。このような環境を地理的隔離(ちりてき かくり)という。 こうなると、その二箇所のそれぞれに住んでいる生物で、飛行できない生物は、交配をする機会が無くなり、よって、別々に進化をしていくことになる。やがて、二地域の、その生物の遺伝的な差が大きくなっていくと、ふたたび出会っても、もはや交配できなくなる。これを生殖的隔離(せいしょく かくり)という。 このようにして、新たな種が生じていくと考えられる。このようにして、新たな種が生じていくことを種分化(しゅぶんか)という。ダーウィンの観察した、南米ダーウィン諸島で野鳥のフィンチが島ごとに違っている事例は、地理的隔離による種分化の典型的な例である。 地理的隔離をしていなくても、同じ場所に住んでいても生殖隔離をする場合もある。ある種の一部に繁殖時期が変化する突然変化がおきれば、その二種は生殖する機会が無くなり、種分化をしていく。 種分化に至らない小規模な進化を小進化(しょうしんか、micro evolution)という。一方、種分化にいたるほどの大きな進化を大進化(だいしんか、macro evolution)という。 近代19世紀のイギリスの工業地帯(マンチェスターなど)で、ガの一種のオオシモフリエダシャクで、体色が黒っぽく変化した個体が増えるという現象が起きた。 オオシモフリエダシャクの体表の色には二型があって、白っぽい明色型と、黒っぽい暗色型がいた。 イギリスでは木の幹に白っぽい地衣類が生えており、白型白っぽい明色型のオオシモフリエダシャクの白色は保護色になっていたので、捕食者の鳥などに見つかりにくかった。 工業化の進む前の時代は明色型のほうが多く、暗色型の個体数は、明暗全体の1%程度であった。 しかし、工業により大気汚染が進んだことで、白い地衣類が減ったり、また大気汚染の黒煙などにより、黒色のほうが目立たなくなった。このため暗色型が増えた。リバプールでは、暗色型は90%を超えるほどになった。 この現象を工業暗化(こうぎょう あんか、industrial melanism)という。オオシモフリエダシャクの工業暗化は、小進化の例でもある。 現在では大気汚染への規制や対策が進み、その結果、暗色型の個体数は減っており、地域にもよるが、暗色型の個体数は、明暗全体の個体数のうちの10%~20%程度である。
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たとえばヒトは、動物界・セキツイ動物門・哺乳綱・霊長目・ヒト科・ヒト属・ヒト である。 イヌは、動物界・セキツイ動物門・哺乳綱・食肉目・イヌ科・イヌ属・イヌ である。 このように、属(ぞく、genus)・科(か、family)・目(もく、order)・綱(こう、class)・門(もん、divisio)・界(かい、kingdom) という階層に分類される。 ある生物の種(しゅ)の名前には、世界共通の学名がある。学名のつけかたには、二名法(にめいほう、binominal)という命名法にもとづく国際規約が定められている。 たとえばヒトの学名は Homo sapiens 。 このように、二名法では2単語のラテン語で表す。最初の Homo は属名(ぞくめい、genus)。 sapiens が種小名(しゅしょうめい、species epithet)である。このように二名法では、属名と種小名を併記する。このようなな命名法を、18世紀の中ごろにカール・フォン・リンネが確立した。 いっぽう、ヒト や イヌ や ネコ などと言った、ある種について、日本で一般的に使われる呼び名は、和名(わめい)である。 かつて生物の分類で「界」というのが、よく使われ、「二界説」や「五界説」などが使われていたが、1977年代ごろからリボソ-ムRNAなどの研究が進み、やがて、それらRNAなどの研究の知見を反映した「ドメイン」という分類が生物の分類に使われるようになった。 植物界と動物界の2つに分ける。昔からある分類法。 単細胞生物からなる原生生物界(げんせい せいぶつかい)を加えて、植物界と原生生物界と動物界の3つに分ける。ヘッケルが提唱した。また、へッケルは生物の分類を、樹木形であらわす系統樹(けいとうじゅ、phylogenetic tree)として表現した。 全ての生物は真核生物と原核生物とに分類される。この知見を生物の分類に反映して、五界説などが提唱された。 五界説は、つぎの5つの界からなる。 この5つの界からなる。 ホイタッカーやマーグリスによって提唱された。 原生生物界は、他の界に入らなかった系統の寄せ集めである。 食物連鎖の観点から見ると、植物界・動物界・菌界は、それぞれ、植物=生産者、動物=消費者、菌=分解者というふうに理解できる。 リボソームRNAの構造をもとにした分類が、カール・ウーズにより1977年代後半に提唱された(六界説)。 そして、この分類のためウーズは、ドメインという分類を提唱し、すべての生物は 細菌ドメイン または 古細菌ドメイン または 真核生物ドメイン の3つのグループのうちの、いずれかのグループに属すると1990年に提唱した(3ドメイン説)。 ドメインは界より上位の分類である。 遺伝子などの解析結果から、古細菌は、細菌よりも真核生物に近いことが分かっている。 五界説における原生生物界、菌界、植物界、動物界の4つの界は、真核生物ドメインに属する。 なお大腸菌もネンジュモも、単細胞の原核生物である。現在では、「細菌」の分類の条件として、原核生物であることを要求するのが一般的である。 シアノバクテリアは光合成を行える。なのでシアノバクテリアをついつい植物に分類しがちであるが、しかし上述のような理由からシアノバクテリアは細菌に分類する場合が多い。 (光合成などを行う)独立栄養生物であるかどうかは、「細菌ではない」かどうかは無関係である。もし、シアノバクテリアは「光合成を行うので独立栄養生物である」という理由で、仮に「細菌でない」(仮)と仮定すると、硝酸菌の硝酸からのエネルギー摂取の行為も独立栄養生物の行為なので、硝酸菌が「細菌ではない」(仮)になってしまい、不合理である。 また、「細菌は原核生物」とする前提をもとにすると、酵母菌は単細胞であるが真核生物なので、「細菌」でないことになる。(※ 教科書では特に明記されてないが、センター試験で出題された。)そのため酵母菌は、カビやキノコ(ともに真核生物)の仲間であると考えられている。 「菌」であるかどうかは、原核生物とは無関係。たとえばキノコなどは「子のう菌」(しのうきん)に分類される。(※ 詳しくは、後述する。) 胚に、内胚葉(endoderm)、中胚葉(mesoderm)、外胚葉(ectoderm)というふうに、3つの胚葉がある動物を三胚葉性という。 いっぽう、外胚葉と内胚葉というふうに2種類の胚葉しかない動物を二胚葉性といい、クラゲやサンゴやカイメンなどが二胚葉性である。 海綿動物と刺胞動物は二胚葉性の動物である。 クラゲは刺胞動物門であり、クラゲの胚は、中胚葉を持たない。 海綿動物と刺胞動物を除く、他の多くの動物は三胚葉性である。 三胚葉性の動物のうち、原口(げんこう、blastopore)が口になるのが旧口動物(きゅうこう どうぶつ,protostomes)。原口または、その付近が、肛門(こうもん、anus)になるのが新口動物(しんこう どうぶつ,deuterostomes)。 脊椎動物は新口動物である。ヒトデ、ウニは新口動物。 旧口動物はゴカイ、プラナリア、イカ、昆虫、エビなど。 カイメンは、胚葉が分化しない、無胚葉性の動物である。カイメンには、組織・器官の分化が無い。 カイメンには神経が無い。 体内の体壁に、多くの えり細胞 が存在し、体内に取り入れた水とともに、プランクトンをこしとって食べる。 えり細胞には、1本の べん毛 がある。このべん毛の動きで水流を作り、体内に水を取り入れている。 カイメンの えり細胞 が、原生生物の えりべん毛虫 に似ているので、えりべん毛虫から進化してカイメンが出来たと考える研究者が多い。 カイメンは、海綿動物である。 クラゲやヒドラやイソギンチャクなどが、刺胞動物。 形状は、放射相称である。 動物食性である。接触したものを、刺胞(しほう)で刺し、捕食する。 肛門が無い。排泄物は、口から排出する。 触手には刺胞(しほう)という細胞小器官があり、これを外敵などに刺して、外敵から身を守ったり、食物を捕食したりする。 神経が分化しており、散在神経系である。 扁形動物(へんけいどうぶつ)、環形動物、輪形動物、軟体動物をまとめて、冠輪動物(かんりんどうぶつ)という。 近年の分子データの解析から、これら冠輪動物どうしは、比較的、近縁であることが分かってる。 扁形動物(へんけいどうぶつ)、環形動物、輪形動物、軟体動物は、旧口動物である。 プラナリアなどが扁形動物。 体腔を持たない。頭部に脳や眼を持つ。呼吸器や循環器を欠く。肛門が無い。口は体の中央にあり、腹部のあたりに口がある。 プラナリアは淡水中で生活する。 ミミズやゴカイやヒルが環形動物。 多数の体節を持つ。太い2本の神経を持つ、はしご形神経系。 発生の過程で、トロコフェア幼生の時期を持つ。 イカやタコなどの頭足類や、貝などが軟体動物。 外とう膜という、内臓を保護する膜を持つ。殻は外骨格であり、外とう膜から分泌されたカルシウムなどによって、殻が作られている。 貝殻は炭酸カルシウムなどの石灰質。 発生の過程で、トロコフェア幼生の時期を持つ。 なお、イカやタコなどの頭足類は、体の中央の眼がある部分が頭部である。つまり、頭部から足が生えている。(だから、「頭足類」と呼ぶ。) 頭足類を、足を下にした向きで見た場合、頭足類の体の上端のほうの、ふくらんでいる部分は、胴であり、頭部ではない。頭足類の上部のほうのふくらんだ部分は胴なので、中には内臓がつまっている。 線形動物と節足動物をまとめて、脱皮動物(だっぴどうぶつ)という。 近年の分子データの解析から、これら脱皮動物どうしは、比較的、近縁であることが分かってる。 線形動物と節足動物は、旧口動物である。 エビやカニなどの甲殻類。昆虫類。クモなど。 動物の中で、最も種類の多いのが、節足動物である。 体表の殻は、キチン質からなる外骨格。 体節からなる。神経系は、はしご形神経系。 成長の過程で脱皮(だっぴ)を行う。 排出器は、甲殻類は、腎管が排出器。 甲殻類以外は、マルピーギ管という器官が排出器。 センチュウなどが線形動物。 クチクラに被われている。脱皮する。 キョク皮動物(きょくひどうぶつ、棘皮動物)、原索動物、脊椎動物が、新口動物である。 ヒトデ、ウニは新口動物。 ヒトデやウニ、ナマコが、キョク皮動物。 水管系を持つ。この水管系が、呼吸器や循環器として働いている。運動は管足(かんそく)で行う。管足は、水管系と、つながっている。 原索動物には、ナメクジウオやホヤなどがある。 発生の段階で、脊索(せきさく)を持つ。ナメクジウオは、終生、脊索を持つ。ホヤの場合は、幼生のときには脊索を持つが、成体になると脊索が退化する。 環状神経系を持つ。 ホヤの幼生は、オタマジャクシのような形をしており、名前も「オタマジャクシ幼生」という。 脊椎動物では脊索は退化し、脊椎が出来る。 植物の外表面はクチクラ層で覆われている。 光合成色素(photosynthetic pigment)として、クロロフィルaとクロロフィルbを持つ。 種子植物・コケ植物・シダ植物がある。 シダ植物と種子植物には、維管束(いかんそく)がある。 コケ植物とシダ植物は、胞子で繁殖する。種子植物は、種子で繁殖する。 胞子で繁殖する。光合成をしない。維管束を持たない。ゼニゴケ、ツノゴケ、スギゴケなどが、コケ植物。 普通に見かける植物体は配偶体(核相:n)である。 胞子は、受精せず、発芽して、株の形状である配偶体になる。 胞子には、雄になる胞子と、雌になる胞子とが、別々にある。このように、雄と雌とは、株が異なるのが、普通。それぞれ雄株または雌株という。 普通は、コケ植物には、根・茎・葉の区別が無い。 雄株の造精器で精子が作られる。雌株の造卵器で卵が作られる。 胞子で繁殖する維管束植物である。 普通に見かける植物体は胞子体(核相:2n)である。減数分裂によって、胞子が生じる。 胞子体には根・茎・葉の区別があり、維管束がある。 胞子は発芽して、前葉体という配偶体(n)になる。配偶体には、維管束は無い。前葉体が成熟すると、造精器または造卵器が生じる。造精器で精子(n)が作られる。精子が、雨の日などに、水を伝わって泳いで、造卵器の内部にある卵細胞(n)に到達すれば、受精して、受精卵(2n)となる。 この受精卵から、胚発生と体細胞分裂によって、胞子体が発生する。 種子植物のうち、イチョウやマツなどは、子房が無く、胚珠がむきだしなので、裸子植物(らし しょくぶつ)という。 いっぽう、胚珠が子房の中にあるのを被子植物(ひし しょくぶつ)という。 菌糸(きんし)という糸状の構造が、多数、組み合わさって、体が出来ている。 光合成の能力が無い。光合成色素を持たない。 細胞壁の主成分は、多糖類の一種であるキチン。 胞子で繁殖。 種類は、接合菌類、子のう菌類、担子菌類、がある。 クモノスカビやハエカビなどが、接合菌類である。 無性生殖が通常だが、有性生殖も行う。 有性生殖では、菌糸が接合して接合胞子を作る。 アカパンカビ、アオカビなどが、子のう菌類 である。 マツタケ、シイタケなどが、担子菌類 である。 子実体(しじつたい) 真核生物のうち、植物界・菌界・動物界には、属さないものを、原生生物(げんせい せいぶつ)という。単細胞のものもあれば、多細胞のものもある。 アメーバやゾウリムシなどの単細胞生物。ミドリムシも原生動物である。ミドリムシは、葉緑体を持ち、光合成を行う。 べん毛や仮足、繊毛などで運動を行う生物が多い。 ミドリムシは、べん毛で運動する。(ミドリムシを原生動物ではなく藻類に分類する場合もある。その場合、ミドリムシはケイ藻類またはミドリムシ類に分類される。) ムラサキホコリなどの真性粘菌類、およびキイロタマホコリなどの細胞性粘菌などが、変形菌類。 ケイ藻類など。光合成を行う、独立栄養生物である。水中で生活する。 光合成色素に、クロロフィルaが必ず含まれている。 ミドリムシを藻類に分類する場合もある。(ミドリムシは、藻類のうちのケイ藻類に分類される場合もあれば、藻類のうちのミドリムシ類という独立した類に入れる場合もある。) 藻類には、ケイ藻類、緑藻類、紅藻類、褐藻類、シャジクモ類などがある。 ケイ藻類と褐藻類とは、同じ光合成色素を持つ。 ケイ酸の殻を持つ。 クロロフィルaとクロロフィルcを持つ。(ケイ藻類と褐藻類とは、同じ光合成色素) ミドリムシが、ケイ藻類に分類される場合もある。 アオサやアオノリなど。クラミドモナスやクロレラなどは単細胞生物であるが、緑藻類。 ボルボックスは細胞群体であるが、緑藻類。 緑藻類は、クロロフィルaとクロロフィルbを持つ。 シャジクモ類を、緑藻類に含める場合もある。 アサクサノリやテングサ。 クロロフィルaを持つ。 コンブやワカメなど。 コロロフィルaとクロロフィルcを持つ。 光合成色素の違いは、届く波長の違いであり、水深の違いが原因。浅い海にいるのは、緑藻類であり、赤色光を光合成に利用している。深い海にいるのは、紅藻類であり、緑色光を利用している。 中間の深さの海にいるのが、褐藻類であり、青色光を利用している 植物は、クロロフィルaとbを持ち、これは緑藻類の光合成色素と同じである。 したがって植物は、緑藻類から進化してきた、と考えられている。シャジクモ類と陸上植物で、細胞分裂の様式が似ていることから、近縁だと考えられている。 陸上植物の進化は、緑藻類を祖先として、シャジクモ類を経て、陸上植物が進化してきた、と考えられている。
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ある場所に生育してる植物の集まりを植生(しょくせい)または植物群落(しょくぶつ ぐんらく)または植物群集(しょくぶつ ぐんしゅう)という。 植物のうち、一年以内に枯れる植物を一年生植物(いちねんせい しょくぶつ)という。 一年を越えて生育する植物を多年生植物(たねんせい しょくぶつ)という。 森林の見た目を相観(そうかん)という。 ある地域が森林で覆われているとき、その森林のそれぞれの木の頂上部付近の集まりを林冠(りんかん)という。森林で被われると、その木の下の生物には日当たりが減るので、林冠は、その場所の植生に大きな影響を与える。また、森林外から人間が観察している場合、林冠の植物が目立つので、相観には林冠が大きな影響を与える。 いっぽう、森林がある場所において、草木やコケ植物、キノコなど、地表に近い部分の植物をまとめて林床(りんしょう)という。林床の草木は、日当たりが悪いため、ふつうの林床は陰生植物である。 植物の生育により、環境が変わっていく。たとえば背丈の高い木が生えれば、その下の植物の環境では日当たりが減る。このように、植物の生育によって環境が変わっていくことを遷移(せんい、succession)という。 つまり、植生は遷移していく。 たとえば、ある陸上の地域で火山が噴火し、森林に溶岩が流れ込むなどして、森林が焼き払われたとする。そして、時間が経過し、溶岩が常温まで冷めたとする。 その地域には、まだ森林が育つような土壌が出来上がって無いので、森林は育たない。また、植物の根や種子も、溶岩で焼き払われており、存在していない。植物が育つのに必要な窒素分などの栄養分も、少ない。保水力も少ない。 その焼かれて冷めたあとの地域には、まずコケ類や地衣類などが、その地域に入り込み、遷移が始まる。このように、植物が生育していなかった場所から始まる遷移を一次遷移(いちじ せんい、primary succession)という。 また、このように初期の遷移で、その地域に入りこむ植物種を先駆種(せんくしゅ)という。あるいは、先駆種のことをパイオニアともいう。 ある遷移が、陸上で起きた遷移なら、乾性遷移(かんせい せんい、xerarch succession)という。いっぽう、湖沼などの水辺で起きる遷移を湿性遷移(しっせい せんい、hydrarch succession)という。 先ほど例にあげた、溶岩が流れたあとの遷移は、乾性遷移(かんせい せんい)である。 乾性遷移での一次遷移は、普通、コケ類・地衣類の侵入から始まり、続いて同じ場所に草木が侵入し、そのあと、同じ場所に木が侵入する。 木には、日当たりの良い場所で育ちやすい陽樹と、日当たりの悪い場所でも育ちやすい陰樹がある。一次遷移で草が生えてた場所に、始めて木が侵入していく場合、最初に侵入する木の種類は、陽樹である場合が、普通である。 しかし、その陽樹がつくる陽樹の子は、日当たりが悪いので、育ちにくい。いっぽう、陰樹は、日当たりが悪くても育つので、陰樹の子は育つ。なので、やがて森林は陰樹に変わっていく。 日なたで成長しやすい植物を陽性植物(ようせいしょくぶつ、sun plant)という。アカマツ・クロマツ・ソラマメ・ススキ・カラマツ・カタクリ・トマトなどが陽性植物である。 森林内などの日かげで成長しやすい植物を陰性植物(いんせいしょくぶつ、shade plant)という。ブナ・シイ・カシ・ドクダミ・カタバミ・モミ・アオキやシダ・コケ植物などが陰性植物である。 光合成速度と光について、補償点や光飽和点は図のようになる。 陽性植物は光飽和点が高い。 一般に、光の弱い状態では、陰性植物のほうが光合成速度が大きい。このため、日かげでも陰性植物は生活できる。いっぽう、光の強い状態では、陽性植物のほうが光合成速度が大きい。 同じ一本の木の中でも、日当たりの良い場所でつく葉と、日当たりの悪い場所でつく葉で、特性が異なる場合がある。ブナ・ヤツデなどが、そのような植物である。 日当たりの良い場所につく葉を陽葉(ようよう, sun leaf)といい、陽性植物と同じような補償点や光飽和点は高いという特性を現す。いっぽう、日当たりの悪い場所につく葉を陰葉(いんよう, shade leaf)といい、陰性植物と同じように補償点や光飽和点は低いという特性を現す。 陽性植物の樹木を陽樹(ようじゅ)といい、陽樹からなる森林を陽樹林(ようじゅりん)という。アカマツなどが陽樹である。陰性植物の樹木を陰樹(いんじゅ)といい、陰樹からなる森林を陰樹林(いんじゅりん)という。モミなどが陰樹である。 樹木は、草など背丈の低い植物への日当たりをさえぎるので、地表ちかくでは陰性植物が育ちやすくなり、また、日当たりが悪いので地表ちかくでは陽性植物が育たなくなる。 森林が陽樹林の場合、新たな陽樹は芽生えなくなるが、新たな陰樹は芽生えることが出切る。このような仕組みのため、森林は、陽樹から陰樹へと移っていくことが多い。 いったん森林が陰樹林になると、災害や森林伐採などが起きない限り、普通は、もう、あまり、それからは遷移しない。 ある植生が、さまざまな遷移を経過した結果、もうほとんど変わらない状態になり、安定的な状態になる。この最終的な植物群の状態が極相(きょくそう)である。極相のことをクライマックス(climax)ともいう。日本の場合、たいていの森林では、陰樹林が極相である。 森林が極相の場合、その極相の森林を、極相林(きょくそうりん)という。 山火事や地滑りや台風などで、森林で一部の木が破壊されると、その破壊されて倒れたりした木の部分での植生の競争の安定が崩れ、その破壊された木の付近の場所は草原などに戻る。倒れた木のあった場所では、今まで覆っていた木が無くなったため、光が差し込むようになり、日当たりが増す。このような、森林内部の日当たりの良い場所をギャップという。 このようなギャップの場所では(森林内の日当たりの良い場所では)、陽生の植物が成長できるので、新たに遷移していく。これを二次遷移(にじ せんい、secondary succession)という。二次遷移では、土壌がすでに形成されているため、一時遷移と比べて遷移が速く進行する。 二次遷移が起きるのは、けっして地滑りや台風による倒木などの自然災害だけでなく、人間が森林伐採をした場合にも二次遷移は起きる。 また、湖沼でも遷移は起きる。湖沼など水場で起きる遷移を湿性遷移(しっせい せんい、hydrarch succession)という。いっぽう、陸上での遷移を乾性遷移という。 まず、水深によって、湖沼での遷移は変わる。あまりにも水深が深すぎると、日光が水底に届かないため、水草は生えにくい。 そこそこの深さの湖沼だと、水底に日光が届くため、水底には水草が生えている。 まず、クロモは、全身が水中にあっても育つので、初期の遷移ではクロモなどの全身が水中でも育てる植物が生えていく。クロモなどのように、全身が水中でも育てる植物を、沈水植物(ちんすい しょくぶつ)という。クロモやマツモが沈水植物である。 スイレンは、根が水底の地中にあるので、そこそこ浅くないとスイレンは育たない。 スイレンやヒシなどの、葉が水面にあり、根が地中にある植物のことを浮葉植物(ふよう しょくぶつ)という。 湖沼には、付近の土砂が堆積していくのが普通なので、だんだん水深が浅くなっていく。浅くなってくると、スイレンなどの浮葉植物でも、湖沼に侵入できるようになる。 さらに堆積が進行し推進が浅くなってくると、今度はヨシなどの抽水植物(ちゅうすいしょくぶつ)が侵入してくる。 ヨシは、全身の大部分は水上にあるが、根は水中にある。ヨシのような、全身の大部分は水上にあるが、根は水中にある 植物を抽水植物(ちゅうすい しょくぶつ)という。 こうして、沈水植物 → 浮葉植物 → 抽水植物 というふうに、湿性遷移が進んでいくのが普通である、 水深がさらに浅くなると湿原(しつげん)になる。 冒頭の植物のバイオームと気温、降水量のグラフを分析しよう。 まず、森林が形成されるには、あるていどの降水量が必要である。じっさいにグラフを見ると、確かに、降水量の多いほど、樹林が形成されている。 降水量が少ないと、森林が維持できなくなり、草原になっていく。さらに降水量が少ないと、砂漠などになっていく。 たとえば草原には、サバンナとステップがある。 サバンナとステップの気候は、一見するとぜんぜん違う気候だが、じつは気温が違うだけで、降水量は同じくらいなのである。 サバンナは、熱帯の中にある乾燥地域に見られ、サバンナの草の種類は、イネの仲間の植物を主体としている。 ステップは、温帯の中にある乾燥地域に見られ、ステップの草の種類も、イネの仲間の植物を主体としている。 アフリカのサバンナでは、シマウマなどの大型の草食動物が住む。また、その草食動物を捕食する、ライオンなどの肉食動物も、アフリカのサバンナには住む。サバンナというとアフリカが有名だが、オーストラリアや南アメリカなどにもサバンナはある。 サバンナには、乾季があるのが普通である。乾季のあいだ、草食動物は、水場や食料などを求めて、集団で大移動する。 アフリカに限らず、サバンナには草食動物が住みつき、その草食動物を捕食する肉食動物も住みつく。 いっぽう、気温がほぼ同じ地域を見てみると、たとえば年平均20℃〜30℃の地域は、熱帯多雨林、雨緑樹林、サバンナが、気温が同じ気候である。これらの植生を分けるのは、たんに降水量の多少なのである。 砂漠は、地域によって、温度の差が、とても広い。日本人はついつい「砂漠」と聞くと、熱い地域を想像してしまいがちなので、気をつけよう。砂漠では、サボテンのような、乾燥に適応した植物が、まばらに生育する。 なお、グラフには無いが、土壌や水質などによっても、植生は異なる。たとえば海水の多い地域では、海水の耐性のある植物が分布する。 またなお、グラフでの各植生の各領域の温度範囲や降水量範囲の広さや値は、教科書ごとに若干、異なる。なので、あまり細かな数値を覚えても無価値である。 熱帯・亜熱帯の気候の地域に、分布している。 高木(こうぼく)が多い。30m〜60mの高木もある。林内は暗い。 また、つる植物も多い。 東南アジアや南アメリカ大陸などで、このような熱帯多雨林が見られる。 海岸や河口付近では、海水にも耐性のあるマングローブ林などが分布し、マングローブであるヒルギ類などが分布する。 日本では、九州地方南端から沖縄地方、小笠原地方に、亜熱帯多雨林が見られる。 熱帯・亜熱帯の地域のうち、雨季と乾季のある地域に、雨緑樹林が分布する。 乾季に落葉するチークなどが見られる。 温帯地方では、硬葉樹林、照葉樹林、夏緑樹林が分布する。 地中海沿岸の、温帯のなかでも冬に雨が多く、夏に雨が少ない地中海性気候の地域で見られる。 夏の乾燥に耐えるため、葉が小さく、クチクラ層が厚く、一年中、葉をつける、オリーブやコルクガシなどが見られる。 日本では、関東から四国、九州地方までの低地に分布する。スダジイやアラカシなどが生育する。 温帯の中でも、比較的寒冷な地域に分布し、ブナ、ミズナラ、カエデ類などが見られる。 冬に落葉する。秋に紅葉する。 日本では、北海道南部の低地、東北地方に分布する。 シベリア、スカンジナビア半島、アラスカなどで亜寒帯の地域に見られ、常緑針葉樹のトウヒ類、モミ類などがある。東シベリアにはカラマツなども見られる。 樹種が少ない。 日本では、比較的寒冷な北海道東北部に見られる。トドマツやエゾマツが見られる。 針葉は、凍結に耐えるための仕組みである。 北極圏の寒帯などに分布する。夏の一時期を除いて、年中、土壌が凍結している凍土(とうど)のため、高木が育たない。草本は育つが、地衣類やコケ類などが混ざる。 この地域は降水量も少ないため、低温で降水量の少ない地域に、ツンドラが分布することになる。 日本では、どこでも降水量が多いため、森林が形成される。 よって日本では、おもに気温の地域差によって、各地の植生が違ってくる。 そして、気温の地域差は、おもに緯度と標高により、決まってくる。一般に、高度が1000m増すごとに気温が5〜6℃下がる。 なので結果的に、緯度と標高によって、植生が違ってくる。 標高に応じてバイオームの地域差を、垂直分布(すいちょく ぶんぷ)という。 いっぽう、緯度によるバイオームの地域差を水平分布という。 人工林としてスギなどを植えてた地域も日本では多く、そのため人の手が加わってない自然な植生は、日本では少ない。 2600m以上くらいに、標高が高くなりすぎると、気温が低すぎるため、森林が形成されない。この、森林の形成できる高さの限界を森林限界(しんりん げんかい)という。 また、森林限界を越えた、標高の高い場所は、強風の場所でもある場合が多く、そのため風に強い植物が多い。 また、その森林限界より前でも、高木の形成できる限界の標高があり、これを高木限界(こうぼくげんかい)という。 高木限界より高い場所の植物は、草や花や低木である。夏には、お花畑と呼ばれる高山草原が見られることもある。 また、森林を形成するには、夏の平均気温が10℃以上は必要である。 このような現象のあるため、森林限界(2500mあたり)をさかいにして、標高により、高山帯と亜高山帯とに分かれる。森林限界より高い側が高山帯(こうざんたい)で、森林限界より低い側が、亜高山帯(あこうざんたい)である。 2500m〜あたりが高山帯であり、コケモモ、コマクサなどが見られる。 1700m〜2500mあたりが、亜高山帯であり、シラビソ、コメツガなどが見られる。 1700m〜600mあたりを山地帯といい、夏緑樹林が見られ、ブナやミズナラなどが見られる。 〜600mあたりを丘陵帯(きゅうりょうたい)という。 沖縄や鹿児島は亜熱帯である。日本でもマングローブが沖縄県など南西諸島の海岸などで見られ、ヒルギ類がマングローブとして分布している。海岸以外では、ソテツ、ヘゴ、ガジュマルなどが分布している。 九州中部から関東までの、標高の低い地域で、照葉樹林の生育する気候である。 日本では、その地域の気温によって、植生が決まる。 よって、その地域の気温の積算値をもとにした指数によって、植生が説明できる。 植物の生育がうまくできる下限の値を5℃と考え、よって月平均気温からマイナス5℃をした値を各月もとめ、さらにその各月の値を足し合わせた積算値を、暖かさの指数(warmth index, WI)という。 WIが15〜45は、トドマツなどの針葉樹が分布し、亜寒帯に相当し、北海道の北東部などである。 45〜85は、ミズナラなどの夏緑樹林が分布し、冷温帯に相当し、東北地方などである。 85〜180は、スタジイなどの照葉樹林が分布し、温暖帯に相当する。 180〜240は、沖縄県や鹿児島などで見られ、亜熱帯多雨林が分布し、亜熱帯に相当する。 (※ 未記述) (※ この解説は、現時点では 中学校理科のWikibooks を引用したものです。そのため、高校および大学受験では、不適切な可能性があります。) 動物性プランクトンは、エサとして、植物性プランクトンを食べている。 具体的に言うと、ミジンコやゾウリムシなどの動物性プランクトンは、ケイソウやアオミドロなどの植物性プランクトンを食べる。 そして、動物性プランクトンも、メダカなどの小さな魚に食べられる。 メダカなどの小さな魚も、さらに大きな魚に、エサとして食べられる。 というふうに、より大型の生き物などに食べられていく。 生きてるあいだは食べられずに寿命を迎えて死んだ生物も、微生物などにエサとして食べられていく。 このように、生き物どうしが、「食べる・食べられる」 の関係を通じて関わり合っていることを 食物連鎖(しょくもつれんさ、food chain) という。食べる側を捕食者(ほしょくしゃ、predator)といい、食べられる側を被食者(ひしょくしゃ)という。ミジンコとメダカの関係で言えば、メダカが捕食者、ミジンコが被食者である。捕食者も、さらに上位の捕食者によって食べられて、捕食者から被食者へとなる場合も多い。このように、捕食者-被食者の関係は、立場によって変わる相対的なものである。 実際には、捕食者が1種類の生物だけを食べることはまれであり、2種類以上のさまざまな種類の生物を食べる。食べられる側も、2種類以上の捕食者によって食べられる。このため、食物連鎖は、けっして1本道のつながりではなく、網状のつながりになっており、この食物連鎖の網状のつながりを食物網(しょくもつもう、food web)という。 食物連鎖は、なにも水中の生き物だけでなく、陸上の生き物にも当てはまる考え方である。 植物など、光合成を行って有機物を豪勢する生物のことを 生産者(せいさんしゃ、producer) と言う。動物のように、別の生物を食べる生き物を 消費者(しょうひしゃ、consumer) という。消費者は、生産者の合成した有機物を、直接または間接に摂取していると見なす。 動物は、他の動物または植物を食べているので、動物はすべて消費者である。肉食動物(carnivore)も草食動物(herbivore)も、どちらとも消費者である。 消費者のうち、草食動物のように、生産者を直接に食べる生物を一次消費者(primary consumer)という。その一次消費者を食べる肉食動物を二次消費者(secondary consumer)という。二次消費者を食べる動物を三次消費者という。さらに三次消費者を食べる生物を四次消費者という。 なお、二次消費者を食べる三次消費者が一次消費者を食べるような場合もある。このように、実際には、必ずしも直接に1段階下位の生物を食べるとは限らない。 いっぽう、菌類(きんるい)や細菌類(さいきんるい)のように、(落ち葉や 動物の死がい や 動物の糞尿(ふんにょう)などの)動植物の遺体や排泄物などの有機物を分解して無機物にする生物を分解者(ぶんかいしゃ、decomposer)と言う。 菌類とは、いわゆるカビやキノコのことである。シイタケやマツタケは菌類である。アオカビやクロカビは菌類である。 細菌類とは、たとえば、大腸菌(だいちょうきん)、乳酸菌(にゅうさんきん)、納豆菌(なっとうきん)などが菌類である。 分解によって、有機物は、二酸化炭素や水や窒素化合物などへと分解される。さまざまな分解者によって有機物は分解されていき、最終的には無機物へと変わる。 これら、菌類や細菌類は、普通は、葉緑体を持っていないので、光合成によって栄養を作ることができない。 菌類は葉緑体を持っていないため、菌類は植物には、ふくめない。細菌類も、同様に、植物にふくめない。 菌類の栄養の取り方は、カビ・キノコともに、菌糸をのばして、落ち葉や動物の死がいなどから、養分を吸収している。 一般的に、長期的に見れば、一次消費者の個体数は、生産者よりも少ない。なぜなら、一次消費者が一時的に生産者よりも増えても、食べ物の植物が足りずに一次消費者は死んでしまうからである。同様に、二次消費者の個体数は、一次消費者よりも少ない。 なので、本ページの図のように、生産者の個体数と一次消費者・二次消費者・三次消費者・ … の個体数を積み上げていくと、三角形のピラミッド型の図になる。このような個体数を生産者・一次消費者・二次消費者・ … と積み上げた図を個体数ピラミッドという。 同様に、生物量について、積み上げた図を生物量ピラミッド という。 個体数ピラミッドや生物量ピラミッドをまとめて、生態ピラミッドという。 これらのピラミッドのように、生態系を構成する生物を、生産者を底辺として、一次消費者・二次消費者・ … と食物連鎖の段階によって段階的に分けることができ、これを栄養段階(えいよう だんかい)という。 栄養は、おおむね、 というふうに、移動していく。そして、消費者も一生の最期には死ぬから、死んで分解されるので、栄養は分解者へと移動する。 栄養素として食べられる物質も、このように循環していく。 物質は、生物どうしでは上記の食物連鎖のように循環をするが、しかしエネルギーは循環せず、最終的には地球外(宇宙空間)に熱エネルギーなどとして出て行く(※ 東京書籍、数研、実教、啓林などの見解)。 (※ 第一出版の教科書を紛失したので、第一は分からない。) 生物の利用するエネルギーのおおもとは、ほとんどが太陽からの光エネルギーであるので、光エネルギーが光合成などによって有機物に変えられるなどして化学エネルギーとして変換され、消費などによって熱エネルギーとして排出さて、その熱エネルギーが宇宙に放出されている、というような出来事になっている。 つまり、エネルギーは生態系の中を循環はしていない。 このようなことから、検定教科書では「エネルギーは生態系の外に放出される」とか「エネルギーは生態系外に出ていく」などのように説明している。 ある生態系の一定面積内において、一定期間において生産者が光合成した有機物の総量を総生産量(そう せいさんりょう)という。生産者である植物は、自身の生産した有機物の一部を、自身の呼吸で消費している。呼吸によって使われた有機物の量を呼吸量という。 総生産量から呼吸量を差し引いた量を、純生産量(じゅん せいさんりょう)という。 純生産量の一部は、落ち葉となって枯れ落ちたり( 枯死量、(「こしりょう」) )、あるいは一時消費者によって捕食されたりする( 被食量、(「ひしょくりょう」) )ので、生産者の成長に使える量は、純生産量よりも低くなる。 純生産量から、枯死量と被食量を差し引いた量を、成長量(せいちょうりょう)という。 植物が成長に使える有機物の総量が、成長量である。 消費者である動物は、食べた有機物の一部を、消化・吸収せずに排泄する。食べた有機物の総量を摂食量(せっしょくりょう)という。消化吸収せずに排出したぶんの量を、不消化排出量(ふしょうか はいしゅつりょう)という。 消費者の同化量は、摂食量から不消化排出量を差し引いた量であるので、次の式になる。 さらに、ある動物の群れを、集団全体で見ると、その群れの一部の個体は、食物連鎖で、より上位の個体によって捕食される。なので、群れの成長に使える有機物の総量から、被食量を差し引かねば、ならない。さらに、動物には寿命があり、かならずいつかは死滅する。死滅するぶんの量が死滅量である。 これらを考慮すると、消費者の成長量は、次の式になる。 ある環境において、生産者の被食量は、一次消費者の摂食量と等しい。 同様に、一時消費者の被食量は、二次消費者の摂食量と等しい。 食物連鎖で生物間を移動する物質は栄養素だけではなく、生命には望ましくない有害物も、食物連鎖を移動していく。 たとえば、かつて農薬として使用されていたDDTは、自然界では分解されにくく、脂肪に蓄積しやすく、そのため食物連鎖を通じて高次の消費者へも取り込まれ、動物に害をおよばした。 生物内で分解・排出できない物質は、体内に蓄積しやすいという特徴がある。さらに、その生物を食べる消費者の体には、もっと多く蓄積しやすい。このため、生態ピラミッドで上位の生物ほど、高濃度で、その物質が存在しているという現象が起き、この現象を生物濃縮(せいぶつ のうしゅく、biological concentration)という。 毒性のある物質で、生物濃縮を起こす物質によって、高次の消費者を死亡させたり、高次の消費者の生命が脅かされた事例が過去に起きた。 生物濃縮を起こす、危険物質は、DDTのほか、PCB(ポリ塩化ビフェニル)や有機水銀などである。 現在、アメリカおよび日本などでは、DDTの使用は禁止されている。 なんらかの理由で、生産量ピラミッド中での、ある生物の個体数の比率が変わっても、時間が経てば、もとどおりに近づいていく。 そのため、しだいに、もとどおりに近づいていく。 他の場合も考えてみよう。 つりあいの状態から、なんらかの理由で、肉食動物が増えた場合も考えよう。仮に、この状態を「(肉食動物=増)」と書くとしよう。 このように、食物連鎖を通じて、個体数の比率は調節されている。 (※ 画像を募集中。カナダでの、オオヤマネコ(捕食者)とカンジキウサギ(被食者)の個体数のグラフなどを作成してください。) 環境破壊や森林伐採などで、ある地域で、大規模に森林が破壊されてしまうと、生産量ピラミッドの最下段の生産者が減ってしまうので、上の段の消費者の動物も、その地域では生きられなくなってしまう。 人工的な環境破壊のほかにも、火山の噴火、山くずれ、洪水などの自然災害で、生物の量が大幅に減る場合もある。 現在の日本に生息している ブラックバスの一種(オオクチバス) や アメリカザリガニ やブルーギル などは、もともとの生息環境は外国だが、人間の活動によって日本国内に持ち込まれ、日本に定着した生物である。このような外部から、ある生態系に持ち込まれた生物を、外来生物(がいらい せいぶつ)という。 ある生態系に、遠く離れた別の場所から持ち込まれた外来生物が入ってきてしまうと、(天敵がいない等の理由で外来生物が大繁殖しやすく、その結果、)持ち込まれた先の場所の生態系の安定が崩れる。なぜなら、その外来生物の天敵となる生物が、まだ、持ち込まれた先の場所には、いないからである。 このため、外来生物を持ち込まれた場所では、外来生物が増えてしまい、従来の生物で捕食対象などになった生物は減少していく場合が多い。 その結果、外来生物によって(捕食対象などになった)従来の生物が単に減るだけでなく、絶滅ちかくにまで従来の生物が大幅に激減する場合もある。(※ 検定教科書ではここまで書いてないが、センター試験でここまで智識を要求する。※ 2016年の生物基礎の本試験) 外来生物の例として、オオクチバス(ブラックバスの一種) や ブルーギル という肉食の魚の例があり、これら肉食の外来生物の魚が在来の魚の稚魚を食べてしまうので、在来の魚の個体数が減少してしまうという問題も起きている。 一説では、湖沼によっては、オオクチバスやブル-ギルなどの繁殖した湖沼にて従来の魚が激減しているという(※ 数研の教科書や2016年センター試験がその見解)。 社会制度としては、上述のように外来生物が従来の生物に多大な悪影響を及ぼしかねないので、日本では法律で外来生物の持込みが規制されている。生態系を乱す恐れの特に高い生物種を「特定外来生物」に指定して、飼育や栽培・輸入などを規制したり、他にも日本政府は生物多様性条約の批准を受けて日本国内で『生物多様性国家戦略』などの構想を打ち立てたりしている。 植物でも、セイタカアワダチソウ や セイヨウタンポポ などの外来生物がある。 沖縄のマングース(ジャワマングース)も外来生物であり、ハブの捕獲の目的で沖縄へと持ち込まれた。しかし、ハブ以外の生物も捕食してしまい、オキナワの固有種のアマミノクロウサギやヤンバルクイナなどを、マングースが捕食してしまうという問題が起こった。また、ハブは夜行性であり、そのためマングースとは行動時間が一致せず、ハブ捕獲の効果も低いことが分かった。 現在、環境省は、対策として、沖縄でマングースを捕獲している。 日本の外来生物には、これらのほか、アライグマ、カミツキガメ、ウシガエル、セイヨウオオマルハナバチなどが外来生物である。 絶滅のおそれのある生物種を絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ、an endangered species [1])という。絶滅危惧種のリストをレッドリストといい、それらをまとめた本をレッドデータブックという。 世界各国の政府や環境団体などは、絶滅を防ぐための取り組みとして、レッドデータブックをまとめている。日本では、環境省によりレッドデータブックが作成されている。 動植物への乱獲などによる絶滅を防ぐため、絶滅危惧種の取引を規制する条約としてワシントン条約などがある。 干潟は、渡り鳥の生息地になっていたり、貝などの生息地になっている。現在では、干潟は自然保護の観点から、環境保護をされている。だが昔は、干潟はたんなるドロの多い場所と考えられており、そのため、干拓や埋立て工事などによって、多くの干潟が消失した。 かつて冷蔵庫などの冷媒として利用されていたフロンガスという物質が原因で、オゾン層が破壊され減少していることが1980年代に分かった。 オゾン層は紫外線を吸収する性質があるので、オゾン層が破壊されると、地上にふりそそぐ紫外線が増え、生物が被害を受ける。 大気中で二酸化炭素の濃度が上がると、地球の気温が上昇すると考えられている。大気中の二酸化炭素には、赤外線を吸収する性質があるので、その結果、熱を吸収する働きがある。なので、二酸化炭素が増えると、地上の熱が宇宙に逃れず地球の周囲に閉じ込められるので、地上の気温が上がる、と考えられている。これが、温暖化の原因と考えられている。また、大気中の二酸化炭素が、熱を閉じ込める作用のことを 温室効果(おんしつ こうか) と言う。二酸化炭素など、熱を閉じ込める温室効果のある気体のことを温室効果ガスと言う。 地球温暖化(ちきゅう おんだんか) の主な原因は、石油などの化石燃料(かせき ねんりょう)の大量使用によって、排気にふくまれる二酸化炭素(にさんかたんそ)により、空気中の二酸化炭素が増加したためと考えられている。他にも、森林伐採などによって光合成によって固定される炭素の総量が低下した結果も含まれる、という考えもある。 もし、温暖化が進行して、南極の大陸上の氷や氷河の氷が溶ければ、海面上昇する。低地が水没する。海抜の低いツバル、モルディブ、キリバスの国は、海水面が上がれば、国土の多くが水没してしまう恐れがある。 なお、北極の氷が溶けても、もともと北極海に浮かんでいる氷が水に変わるだけなので、海面は上昇しない。 また、温暖化によって、熱帯で生息していた蚊の分布域が広がることが心配されている。マラリアを媒介する蚊のハマダラカの生息域が広がる恐れが有る。 酸性雨の原因は、化石燃料の排気にふくまれる窒素酸化物などの物質が、雨の酸性化の原因と考えられている。酸性雨により、森林が枯れたり、湖や川の魚が死んだりする場合もある。 耕作や工業用地化や住宅地化を目的にした森林伐採などで、世界的に森林面積が減少している。森林の減少により光合成量が減るので、温暖化の原因にもなっていると考えられている。また、動物の生息域が減るので、生態系の保護の観点からも、森林破壊が問題である。 なお、温暖化の化石燃料以外の他の原因として、森林伐採などによる森林の減少によって、植物の光合成による二酸化炭素の吸収量が減ったのも理由の一つでは、という説もある。 また、過度の森林伐採などにより、土壌の保水性が失われたために、その土地で植物が育たなくなる砂漠化(さばくか)も起きている。 植物プランクトンによる光合成量と消費量のつりあう水深のことを補償深度(ほしょう しんど)という。 補償深度は、外洋で水深100メートルまでに存在している。 湖の水質で窒素やリンなどの濃度の高くなると、硝酸塩やリンは植物プランクトンにとっての栄養でもあるので、植物プランクトンにとっての栄養に富んだ湖になるので、そのような窒素やリンの濃度の高い湖の事を富栄養湖(ふえいよう こ)という。生活排水や農業廃水などに含まれるリンや窒素(ちっそ)化合物などの成分の流入によって、富栄養湖になっている場合もある。 また、湖や海などが、そのように窒素やリンなどの濃度の高い水質になる事を富栄養化(ふ えいようか, entrophication)という。 いっぽう、窒素やリンなどの濃度の低い湖のことは「貧栄養湖」(ひん えいようこ)という(※ 数研の教科書で紹介)。 検定教科書によっては「窒素」ではなく「硝酸塩」(しょうさんえん)と書いてある場合もあるが(たとえば啓林館)、これは硝酸は窒素化合物だからである。(※ 高校の『化学基礎』や『専門化学』などで硝酸を習う。) ここでいう「塩」は、けっして塩化ナトリウムのことではない。そうではなく、「陽イオンと陰イオンとの化合物」というような意味での「塩」である。 「硝酸塩」と書く場合は、「リン」のほうも「リン酸塩」と書いたほうがバランスが取れるだろう。(実際、啓林館の教科書はそうである。) つまり、上記の富栄養湖の記述を「硝酸塩」および「リン酸塩」を使って言い換えると、下記のような言い回しになる。 のような記述になろだろう。 さらに、これら硝酸塩やリン酸塩をまとめて、「栄養塩」または「栄養塩類」という事もある。「栄養塩」という語句を使って上記文を言い換えれば、 のような記述にでも、なるだろう。 なお、「栄養塩」という用語は、けっしてプランクトン限定ではなく、一般の樹木や草などの植物の生育に必要な硝酸塩やリン酸塩などのことも「栄養塩」という(※ 数研の検定教科書『生物基礎』でも、植物の遷移の単元でそういう用語を使っている)。 さて、「栄養」と聞くと、よさそうに聞こえるが、これはプランクトンにとっての栄養という意味であるので、水中の水草や魚などにとっては、プランクトンの増大が害になっている場合もある。 なぜなら、プランクトンにより日照がさえぎられるので(植物プランクトンは光の届く水面近くにいるので)、湖の底にある水草は光合成をできなくなる。 自然界の河川や海水にも、栄養が溶けており、それらは水中の生物の生存にも必要な場合もあるし、プランクトンが少なすぎても、それを食べる魚介類が増えない(※ 数研の見解 )。また、微生物がそれら水中の窒素やリンを消費するなどして、ある程度の範囲内なら窒素やリンなどは自然に分解消費されていく(自然浄化) しかし栄養が過剰になりすぎると、プランクトンの大量発生などにより水系の生態系のバランスが崩れ、水草の現象や魚介類の大量死などの原因にもなる。過去には、過剰に富栄養化した湖や沿岸などで、魚介類の大量死が発見される場合もあった。(※ 数研の『生物基礎』に記述あり。) 赤潮(あかしお、red tide)という海水面の赤くなる現象の原因も、水質の富栄養化である。(※ 数研の『生物基礎』に記述あり。) なお、淡水では、富栄養化により(赤潮ではなく)水面の青緑色になる「水の華」(みずのはな)が発生する(「アオコ」ともいう)。 なお、プランクトンとは、水中を浮遊する微生物の総称で、そのうち光合成をするものが植物プランクトンとして分類されている。水中の、光合成しない浮遊微生物は動物プランクトンに分類される。 (※ 範囲外、資料集などに記載あり) アオコの植物プランクトンは、シアノバクテリア類である。(たぶん暗記は不要。市販の受験問題集でも、ここまで問われていない(※ 旺文社の入試標準問題精講で確認)。) なお、「シアノバクテリア」という品種名ではなく、ミクロキスティスなどの品種名であり、そのミクロキスティスがシアノバクテリア類に含まれるという事(※ 数研の資料集『生物図録』229ページにそう書いてある)。 (赤潮のプランクトンの名称については、資料集などに記載が無い。) 赤潮で、色が赤く見える原因は、その赤潮を起こすプランクトンの色がわずかに赤いからであり、そのプランクトンが大量発生しているから赤く見えるという仕組みである。[2]。 ※ つまり、けっして、塩化ナトリウムの化学変化などで赤いわけではないようであるという事を、wikibooksでは言いたい。 ※ 入試には出ないだろうが、河川では水が流れてしまうので、プランクトンも流れてしまうためか、アオコは発生しないのが通常である(※ 教科書では、いちいち説明されていないが、丸暗記をしないで済ませるために、こんくらい分析しよう)。 また、赤潮の発生しやすい場所は、沿岸部や内海である。検定教科書でも、「内海」だと明記しているものもある(数研出版など)。つまり、外洋では、赤潮は発生しづらい(※ 教科書では、いちいち説明されていない)。 おそらくだが、沿岸から遠いと、栄養塩が陸地から流れてこなかったり、または栄養塩が滞留しづらいからだろう。(※ 丸暗記せず、分析して理解するようにしよう。) 有機物による水質の汚染の具合を定量的に測定するための指標として、BODおよびCODというのがある。 BODは、生物学的酸素要求量というものであり、その水の単位量あたりの有機物を分解するのに、水中の微生物が必要とする酸素量が、どの程度かというものである。 いっぽう、CODは、化学的酸素要求量というものであり、その水の有機物を酸化剤で酸化分解するのに必要な、化学計算に換算した際の酸素量のこと。 BODおよびCODは、数値が大きいほど、有機物による汚染がひどい事を表す。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%89%A9/%E7%94%9F%E7%89%A9IB%E2%80%90%E7%94%9F%E6%85%8B%E7%B3%BB
ある地域に住む同種の個体(indvidual)の群れを個体群(こたいぐん、population)という。ゾウの群れでもウマの群れでも、ハエの群れでも、同種の個体の群れでさえあれば、個体群という。 ショウジョウバエの雄と雌とのつがいを、エサの足りた飼育ビンなどの中で飼育すると、初めは個体数が急激に増加する。 もし、エサが限りなく豊富にあり、居住空間も広ければ、どんどん増えていくことになる。しかし、実際には、エサには限りがある。 ある環境において、個体数の密度が高まると、食べ物の不足や、居住空間の減少、排出物の増加などによって、生活空間が悪化する。その結果、生まれてくる子が減ったり、あるいは生存競争が激しくなって死亡率が増えるなどして、個体数の増加が抑えられる。そのため、個体数の時間についてのグラフを書くと、図のようにS字型になる。このグラフのように、個体群における個体数の推移を描いたグラフを個体群の成長曲線(せいちょうきょくせん、growth curve)という。 動物でも植物でも、このような現象が見られる。 ある環境においての、個体数の最大数を環境収容力(かんきょう しゅうようりょく、carrying capacity)という。 また、密度によって、個体の成長や発育などが変化することを密度効果(みつど こうか、density effect)という。 植物でも密度効果はある。 ダイズでは、種をまいたときの密度に関わらず最終的な単位面積あたりの総重量が、ほぼ同じ値になる。 これを最終収量一定の法則(さいしゅうしゅうりょう いってい の ほうそく、law of constant final yield)という。 トノサマバッタでは、幼虫時の密度で、成虫になったときの様子が変わる。 幼虫時に密度が低いと、成虫は孤独相(こどくそう、solitarious phase)になる。子には遺伝しない。 孤独相 いっぽう、幼虫時に密度が高いと、成虫は群生相(ぐんせいそう)になる。子には遺伝しない。 群生相 移動能力の高さは、新しい環境を探すためのものである。 このように、個体群密度によって、同じ種の形態や行動に違いが出ることを相変異(そうへんい)という。アブラムシやヨトウガでも相変異が見られる。 動物の、ある個体群で、個体の生存数を数表にしたものを生命表(せいめいひょう、life table)といい、生命表の内容をグラフにしたものを生存曲線(survival curve)という。 種によって生存曲線は違い、主に3つの型に分かれる。 晩死型と早死型と平均型という3つである。 晩死型は、死期が寿命の近くである。早死型は、生まれてから、すぐに死ぬ個体が多い。平均型は、時期によらず死亡率が、ほぼ一定である。 魚類など、産卵数の多い生物は、子育てをせず、そのため早死型が多い。 いっぽう、大型の哺乳類は、晩死型である。 鳥類・爬虫類などは平均型である。 台風や山火事、土砂崩れや噴火など、環境に変化を与える現象を 攪乱(かくらん、かく乱) という。 たとえば、台風で、熱帯のサンゴ礁が傷付くのも攪乱である。 種の多様性について、いちばん多様性を多くする攪乱の規模は、攪乱が中程度の場合であり、この理論を 中規模攪乱説(ちゅうきぼ かくらんせつ) という。 たとえば熱帯のサンゴ礁では、中規模の台風が起きた方が、サンゴの種の多様性が高まることが知られている。オーストラリアのヘロン島でのサンゴ礁の調査で、このような中規模攪乱説どおりの事例が知られている。 たとえば右の図のような地域の場合、30%くらいの被度で、もっとも種数が多くなる。 攪乱が強すぎると、攪乱に強い種しか生き残れない。 攪乱が弱すぎると、通常時の競争に強い種しか、生き残れない。 人間が森林を伐採したりするなどの、人為的なことも攪乱である。 森林の場合、攪乱がないと、陰樹ばかりになる。攪乱が起きて、噴火などで、いったん樹木が焼き払われると、そのあとの地には、まず陽樹が生えてくるようになる。 里山(さとやま)など、人里ちかくの森林では、かつては人々が林業などで木材として森林資源を利用してたので、かく乱が適度に行われていた。だが、最近では林業の後継者不足や経営難などで放置される森林も増えており、そのため木材として伐採されなくなり、攪乱されなくなったので、種の多様性が低下していると主張する者もいる。種の多様性確保のため、適度に木材などの森林資源を理容すべきだと主張する者もおり、日本国での小中高の公教育での検定教科書なども、そのような立場に立っている。 持続可能な社会のためには、持続可能な生態系が必要である。人間が食べる動植物は、生態系があるからこそ生存できるのである。もし、動植物がいなくなれば、人間にとっても食べ物が無くなり、人間も滅ぶ。生態系の維持のためには、根本的な対策は、人間が、資源の消費や森林伐採された土地の利用などに基づいた現代の文明を見直して、消費を控え、持続可能な文明へと変えていく必要があるのかもしれない。そのためには我慢をする事が今後の人類には必要であり、今後はおそらく現代のような放漫な消費ができなくなり、かつて住宅地や工業用地などとして開発された土地のいくつかを農地や雑木林などにも戻す必要もあるかもしれない。現時点で存在している里山を維持するだけでは、すでに宅地化などの開発によって消失した里山は、復活しないのである。 また国によっては人口も減らす必要もあり、おそらく今後は人間が不便も感じることもあるだろう。 学校教科書は、政治的に中立でなければならないので、具体的な環境対策には踏み込めない。しかし、自然環境は、そのような人間の都合になどには、合わせてくれないのである。たとえば日本ではニホンオオカミや野生トキなど日本の固有種の動物のいくつかが絶滅したが、けっして自然環境は、日本人に合わせて、ニホンオオカミなどの生物の絶滅のスピードを緩めてなんて、くれなかったのである。日本の政治家や学校などが、「日本は素晴らしい国」だと言っても、日本での動植物の生態の歴史の観点から見れば、日本国および日本人は、ニホンオオカミや野生トキなどを絶滅させた環境破壊を行ったという、不名誉な実績のある国および国民なのである。人間の学生が「環境問題や環境の生物学について、勉強しよう」などと考えている間にも、人類が生態系に負荷を与える活動を続けていくかぎり、生物種は絶滅に近づいていくのである。 商人や、一部の政治家や有権者にとっては、人間が資源を消費をするほうが商人が売買をしやすく、そのため税収も増えるので、彼らには都合が良い。しかし、そのような人間中心の都合に、生態系は合わせてくれない。 乱獲や農薬の乱用によって、絶滅したり激減した生物種も、世界の自然界には、事例が多い。 自然界だけが日本人の都合になんて合わせてくれないどころか、人間社会の内部ですら、日本以外の外国は、日本国の都合になんて合わせてくれない。たとえば、魚などの海洋資源の漁獲の規制のありかたについての問題は、魚は各国の領海や沿岸を移動するため、漁獲資源は世界的な感心後とであり、諸国が自国の立場を主張するので、たとえ他国の立場も尊重することはあっても、けっして他国の立場には従わない。だから世界各国の主権国家は、日本国の命令には従わないので、仮に日本が自国の漁獲を伝統文化などと主張しても、外国からすれば、「日本の文化」などと主張するだけでは根拠不十分として、それだけでは日本国の主張には従ってくれない。また、ヨーロッパの国では、環境問題が国を越えて影響を与えることもあり、環境問題は国際問題として取り組むべきだと、考えられている。 さらに、じつは農地などの里山ですら人間が利用しやすいように環境を改変した人工的な環境であり、けっして本来の自然環境ではなく、農地などは人間にとって不要な森林を「開墾」(かいこん)などといって森林伐採するなどして環境破壊されたあとの状況なのである。(農業が森林伐採を伴うことは、検定教科書でも説明されている。[1])よく書籍などでは、途上国での焼畑(やきはた)農法が環境破壊として問題視されるが、何も農業による環境破壊は、焼畑に限った話ではないのである。水田も、森林伐採をした結果の場所名のである。ただし、アスファルトやコンクリートなどで舗装したりするのと比べれば、農地などの里山のほうが生態系への負荷が少なく、里山のほうがアスファルト舗装よりかは種の多様性が大きくてマシである、ということである。 また、ひとまとめに「農地」と言っても、現代の農法は、江戸時代などの古くからの農法とは異なり、現代では農業に化学肥料や農薬などを用いる場合が多く、暖房や照明なども用いる場合があり、現代の農法の多くは石油資源などの消費に頼った農法である。現代の食生活は、現代の農法を前提としており、その農法は、資源の消費を前提としている。いつの日か、人類は、食生活を見直す必要があるのかもしれない。 ハチ、アリ、シロアリなどでは、同種の個体が密集して生活し、コロニーとよばれる群れを形成している。これらの昆虫(ハチ、アリ、シロアリ)は、社会性昆虫と呼ばれる。 シロアリの場合、産卵を行う個体は、ふつうは1匹に限られる。その産卵を行うアリが、女王アリである。 女王アリ以外のメスは不妊である。 女王以外のアリには、ワーカーや兵アリがいる。 ワーカーとは、いわゆる「はたらきアリ」のことで、食物の運搬や幼虫の世話などの仕事をする個体のことである。 シロアリのワーカーや兵アリには生殖能力が無い。 ハチも同様に、女王バチやワーカーがいる。ハチでも、産卵を行うのは女王ハチのみであり、ワーカーや兵ハチには生殖能力が無い。 (ほうかつ てきおうど) ニワトリやニホンザルやオオカミなどで、よく見られる。 ニワトリの場合、何羽かを檻(おり)の中で買うと、つつきあいをして順位が決まる。順位の高いほうが、つつく。順位のひくいほうが、つつかれる。 ニホンザルの場合、順位の高い個体のほうが、順位の低い個体の尻の上に乗っかり、これをマウンティングという。 ある種の個体群について、必要とする資源の特徴や、活動時間などのように、生態系の中で占めている地位を生態的地位(ニッチ、niche)という。 異種の個体群のニッチが似ている場合、ニッチを奪い合って競争が起きる場合が多いので、そのようなニッチの似ている異種個体群が共存するのは難しい。 たとえばゾウリムシ(P.caudatum)とヒメゾウリムシ(P.aurelia)は、ともに細菌を食物とするためニッチが似ており、よって共存は難しい。 いっぽう、タカとフクロウは、食べ物が似ているが、活動時間が違うため、自然界なら共存は可能である。 ゾウリムシとヒメゾウリムシのように、異種がニッチを奪い合って競争することを種間競走(しゅかん きょうそう、interspecific competition)という。 ヒメゾウリムシのほうが体が小さく、そのため、少ない食料でもヒメゾウリムシは有利である。なので、ヒメゾウリムシとゾウリムシを、たとえば狭い容器などに入れて競走させると、ゾウリムシが競争にやぶれて減少し、やがてゾウリムシは絶滅するという場合が多い。 このように、異種が競争して、どちらかが絶滅することを競走的排除(きょうそうてき はいじょ、competitive exclusion)という。 ニッチが異なっていれば、同じ場所であっても、異種の個体群が共存できる場合がある。 たとえばミドリゾウリムシとゾウリムシは、ニッチが微妙に異なっており、そのため共存しやすい。ミドリゾウリムシは光合成でエネルギーを生産できる。 縄張り(テリトリー) シジュウカラは一夫一妻制。 アリとアブラムシ サメとコバンザメ 寄生者、宿主(しゅくしゅ) 寒冷地ほど、体が大型化。 ホッキョクグマ(大きい)と、ツキノワグマ(小さい )との関係など。 寒冷地の動物は、耳などの突起物が小型である。寒冷地であるほど、突起物が小型化している。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%89%A9/%E7%94%9F%E7%89%A9II/%E5%80%8B%E4%BD%93%E7%BE%A4%E3%81%A8%E7%94%9F%E7%89%A9%E7%BE%A4%E9%9B%86
この項目は、高等学校の化学基礎を学ぶ上で、そのもっとも基本的な考え方である「物質の源泉を探る」というテーマに対して、物質がどのようなものからできているのか、それらによってどう構成されているのか、といった事柄を基本にして、解説を記述したページである。 化学とは、物質同士の反応を扱った学問であり、その知識によって自然観察の視野を広げることを目標としている。まずその基礎である物質と元素について知ることからはじめよう。 物の呼び方として、物質という言葉がある。物質とは次の二つの事柄を満たすことを言う。 例えば、プラスチックは物質であり、鉄も物質である。これらは上の事柄を満たす。しかし、虹や映像は物質ではない。虹はあくまで人間の網膜に光が届くことで認識されるものでしかない。映像も、単なる光学現象に過ぎない。物質は、現象ではない。ただし、虹を見せる原因になっている空気中の水滴などは物質である。また、映像を見せるスクリーンやモニターも物質である。同様に、夢や時間といった観念も物質ではない。これは、容易に理解出来得るだろう。人の考えなどによって生み出されたものである観念は、空間を占めないし、質量も持たない。 これら物質は、元素(Element)と呼ばれる基本要素が組み合わさることでできていることがわかっており、また、原子(atom)という基本構造が組み合わさることによって構成されていることもわかっている。それでは、元素について、基本的な事柄を知ろう。 元素は、現在では118種類見つかっており、それぞれに名前と、原子番号、元素記号が割り当てられている。元素記号はラテン語、英語、ドイツ語の元素名から1文字または2文字を取って表される。一文字目は必ず大文字であり、二文字目は必ず小文字である。後で詳しく述べるが、物質を表す際に、2つ以上の元素記号を並べて書くことがあるので、大文字・小文字を正しく使い分けなければ混乱してしまう。以下に、代表的な元素の元素記号を右の表に記したので、参考にしてほしい。詳しい元素記号の表は、関連項目に掲載しておいた。 一つの物質がどのような種類の元素の組み合わせになっているか、どのような元素の集まり方によって成立しているか、といったことは当然ながら物質ごとに異なっている。具体的にある物質がどういった元素から組み合わさっているのか、といったことはこれから先で学んでいく。まずは、元素の組み合わさり方から生まれる物質の分類について記述しておく。 物質は元素から構成されているが、ある物質が一様な元素のパターンで形作られているとき、それらの物質は単体と化合物に分けることができる。 一種類の元素のみから構成されている物質を単体という。鉄は鉄元素のみからなる単体であり、水素は水素元素のみからなる単体である。ダイヤモンドも、炭素元素が結びついた単体である。炭素の単体には黒鉛やフラーレンなどが存在する。鉄や銅、水素、酸素、窒素など、代表的な単体が存在する元素は、その単体の名前が元素名になっていることがある。 単体に対して、二種類以上の元素から構成されている物質を化合物という。水(H2O)はH元素とO元素からなる分子から構成されている化合物である。他にも、酸化銅II(CuO)や、塩化アルミニウム(AlCl3)など、多くの種類がある。これらの言葉は、物質を、その要素となる元素の集まり方に着目して分類している。単体か化合物か、どちらかに属する物質を純物質というが、この言葉については後述する。 単体は、ひとつの元素によって構成されている物質を言うが、単体に属する物質の中には、同じ元素から成る単体であってもその性質が異なる場合がある。これらを互いに同素体(allotrope)という。イメージでとらえるのなら、同じ組木細工を使った工作品でも、組み合わせ方によって大きく形が変わることがある様に、元素の組み合わさり方によって物質全体の形が大きく変わることがある、ということである。 主な同素体は次の表の通りである。 この表にあげた同素体を持つ4つの元素 S, C, O, P はSCOP(スコップ)と覚えられることがある。 炭素の同位体には、上表で上述した以外にも、フラーレンやカーボンナノチューブなどが知られている。 純物質は、物理的操作(叩く、引っ張る、ろ過する、といった操作)によってそれよりも小さい構成パターンに分けることができないようなパターンの集まりだと考えられる。ここで言うパターンとは、元素の組み合わせのことである。単体や化合物は、物理的な操作だけではその構成を変えることができない。例えば、水は蒸発させても凍らせても叩いてもろ過しても、水のままである。しかし、電気分解を行うことで水素と酸素に分解できることは、中学校で学習した通りだ。具体的には、前者を物理的操作、後者を化学的操作と呼ぶ。 混合物は、単体や化合物が混ざり合っている物質である。液体や気体が容易に想像できるが、固体にも混合物は多く存在する。多くの岩石は混合物である。火成岩にさまざまな鉱石が含まれていることは中学校で学習したことであろう。鉱石ひとつひとつは、一部には不純物が含まれることはあるものの基本的には純物質であり、それらが集まってできている火成岩は混合物である。ほかにも、塩酸は塩化水素(HCl)と水(H2O)の混合物であるなど、混合物は非常に多い。 純物質と混合物の分類の定義自体に対しては、直観的な理解をしていればかまわない。しかし、ある物質が純物質か混合物かということはしっかりと把握する必要がある。 これまでに学習した単体、化合物、混合物についてまとめた。右側には具体例となる物質を挙げたので、参考にしてほしい。 物質は元素から成り立っている。この、元素というものは、物質を構成する物の性質について言った言葉である。したがって、実際の「物質を構成している最少の粒」を言うものと元素とでは、言葉の意味が異なってくる。物質は原子という構造によって構成されており、元素という要素によって成立している。 物質は、原子(Atom)と呼ばれる、小さないくつかの粒子(これらを素粒子と呼ぶ)が集まった構造を持つ粒で構成されている。物質は原子という小さな構造から作られていると考えることができる。 原子が物質を構成する粒子であるのに対し、元素は物質がどんな性質のものの集まりであるかを示す。「水は水素元素と酸素元素からできている」というのは「水が水素という基本要素と酸素という基本要素から成り立っている」という意味である。この、基本要素とは原子の集合のことでもあるため、元素と原子は非常に意味が似ている。 意味が似ている上に、日本語では音が似ていることもあり、しばしば混同されるが、両者はまったく別の概念であり、英語にすると元素は「element」、原子は「atom」と、まったく異なる単語である。元素は世界を形作る要素のことであり、原子はそれ以上分割できない最小の単位である。元素は構成しているものの種類のようなものを指すのに対し、原子はそれ自体分類の意味を含まず、単に最小の粒の意味にとどまっている。これが、元素と原子の意味の違いである。 実際には、元素は原子の種類を表す語であるという認識が普通である。また、発見当初は最小単位だと思われていた原子は、素粒子と呼ばれるさらに小さな粒から出来上がっていて、最小の単位ではないことがわかっている。しかし、通常の化学反応や物質の性質を見ていく中で、素粒子のことまで考える必要はないので、ここでは扱わない。原子がどのような構造をしているかということについては、次のセクションで解説していく。 高等学校では、素粒子については高等学校理科 物理IIで扱う。 この、原子と元素の言葉の違いについては、できるだけしっかりと理解しておくことができれば、後々の内容で混乱しないと思われる。どうしてもイメージがつかめないのなら、読み飛ばしてもかまわない。 基本的に、原子がいくつか結びつきあうことで分子が生じ、原子や分子が電荷をもつことでイオンが生じる。これらの語について簡単に説明しておく。この、分子やイオンも、物質を構成する単位であるが、詳しくは後述する。 原子とは、物質を構成する粒子一粒の呼び名である。膨大な数の原子が相互に結び付きあって、私たちの体や、他の様々なものは形作られている。原子そのものも、素粒子と呼ばれる粒が構造的に結びついて構成されているが、化学では、原子を基本単位としてその性質を分析していく。 元素と原子の違いについては物質を構成する実体を参照。 原子はあまりに小さいため、特殊な電子顕微鏡などを用いなければ観察することができない。その直径は約100億分の1メートル(1×10-10m = 0.1nm)である。つまり、原子をだいたい1億個くらい並べればやっと1cmである。原子がどれほど小さいか、想像することができるだろうか? 原子は、中心にある原子核(atomic nucleus)と、その周り(電子殻、electron shell)を飛び回るいくつかの電子(electron,図では黄色)の構造である。原子の構造は簡単には説明できないが、高等学校の化学においては一般的に、ボーアの原子模型と呼ばれるモデルを使って理解する。右に示した図は、ヘリウム原子(He)のボーアモデルである。ボーアモデルでは、原子の化学的な性質を全て説明することはできない。その意味でこのモデルは不十分ではあるが、高等学校の化学の範囲ではこのモデルでも十分にイメージをつかめる内容を扱っているため、紹介した。原子の構造について記述するときは、基本的にこのモデルを用いて行う。 まず、原子の構造の要素である原子核と、陽子・中性子・電子について知ろう。これらは高等学校化学で扱う最も小さな粒である。 右に示した図で言えば、真ん中の赤い粒が陽子、おなじく真ん中の黄緑色の粒が中性子。それから、周りにある黄色い粒が電子である。全ての原子は、このような「原子核の周りに電子」という構造をしていると考えられている。 考えられている、というのは、原子があまりに小さく、直接観察することができないためである。科学者がさまざまな実験・考察を積み重ね、それらを総合的に判断した結果、「原子は中心に原子核、周囲には電子という構造をしている」ととらえるのが最も妥当だと考えられている。このことについては、ウィキペディアの「原子」項の「歴史」セクションやラザフォード散乱に記事があるので、興味のある人は参考にすると良いだろう。 原子の構造のうち、電子が並んでいる原子核の周りの部分について、より詳しく見ていこう。 この電子殻は何重かにわかれており、内側からK殻(K shell)、L殻(L shell)、M殻(M shell)、……と呼ぶ。基本的に電子は内側の電子殻から入っていく。それぞれの層に入ることのできる電子の数は決まっており、その数以上の電子が一つの層に入ることは無い。たとえば、K殻に入ることのできる電子の数は2つまでである。内側から数えてn番目の電子殻に入ることのできる電子の数は、2n2個である。 また、いちばん外側の電子殻にある電子を最外殻電子と呼ぶ。最外殻電子は化学反応などにおいて重要な役割を担うため原子の性質に大きな影響を与える。ある原子とある原子との接点が、実際には最も外側の電子殻であるため、原子の結合にはこの最外殻電子の個数が重要になってくる。原子の性質を決める最外殻電子を特別に価電子(valence electron)と呼ぶ。 最外殻にそれ以上電子が入ることのできない状態を閉殻という。閉殻になっている原子の価電子の個数は0であると約束する。 各々の原子の電子の、電子殻への配列の仕方を電子配置 (electron configuration)という。K殻に2個の電子が全て収められた場合の電子配置は、希ガスであるヘリウムHeの電子配置と同じである。L殻まで電子が全て収められ、L殻に8個の電子とK殻に2個の電子の合計10個の電子が全て収められた場合の電子配置は、希ガスであるネオンNeの電子配置と同じである。 同様に、M殻の終わりまで全て電子が収められた状態は、希ガスであるアルゴンArの電子配置と同じである。 原子の構造を理解する助けとして、これから先になって必要になってくる概念である電荷という言葉については、ここで簡単な説明を加えておく。 この電荷という概念は、高等学校物理などでも扱う。電荷を持った粒子がどのような振る舞いをするかについて興味を持ったなら、そちらを参考にすると良い。 電荷を持った粒子は基本的に次の性質を持っている。これらを知っていれば、高等学校の化学においては十分であろう。 ある原子核に陽子が3つ含まれているとき、原子核全体の電荷は と表される。さらに、この原子核の周りに電子が3つ回っているならば、原子全体の電荷は、 となる。これは、原子全体では電荷を持っていないということである。このことがらを利用すれば、原子全体の電荷や、原子の名称などから、それにいくつの陽子や電子が含まれているかを計算することができる。 原子の性質は、その原子の原子核に含まれる陽子の数で決まる。これは、原子の性質そのものが、電子や周囲の原子に対してどのように結びつきあうか、ということと同じであるからだ。プラスの電荷はしりぞけあうため、原子核同士は容易に衝突はしない。しかし、電子は原子核に引き寄せられる。電荷が0の原子と電荷が+eの原子があれば、電子は-eの電荷を持っているので、+eの電荷を持つ原子に引き寄せられる。といった具合である。 実は、元素の分類、つまり原子がどの元素に属するかという判断は、その原子の原子核に含まれる陽子の数によって行われている。例えば、水素(H)に属する原子の場合、それに含まれる陽子の数は必ず1個である。同じように、炭素(C)に属する原子の原子核には、必ず6個の陽子が含まれている。逆に、ある原子の原子核に陽子が6個含まれるなら、その原子は炭素である。 このように、ある原子の原子核に含まれる陽子の数がわかれば、その原子がどの元素に属するかも分かる。逆に、ある原子がどの元素に属するのかがわかれば、その原子の原子核に含まれる陽子の数がわかる。よって、ひとつひとつの元素に分類される原子について、そこに属する原子の陽子の数を元に番号を付けることができる。こうしてつけられた番号を、原子番号(atomic number)と呼ぶ。原子番号は 6C のように、原子の左下に小さく書いて示す。原子番号は多くの場合において省略される。 炭素に属する原子を炭素原子、あるいは単に炭素などと呼ぶ。よって、「炭素」という言葉が元素としての炭素を指し示す場合もあれば、原子一粒としての炭素を指し示す場合もある。一般的には、炭素と言えば原子の方を指す。これは、元素と原子が同一視されやすい原因の一つである。さらにいえば、元素の項目で解説した番号とは、この原子番号を指す。元素の番号は、その元素に属する原子の原子核に含まれる陽子の数と一致する。元素記号も、多くの場合では、原子の分類を示す時に用いられる。 原子は陽子、中性子、電子から構成されているため、これらの粒子の質量の総和が、原子全体の質量になる。電子の質量はとても小さい(陽子の1/1836。9.1093826×10−31kg)が、陽子の質量は1.67262×10-27gで、中性子も大体同じくらいの質量を持っている。しかし、このような桁の多い数字をいちいち用いて計算するのは無駄手間である。幸い、陽子と中性子はほぼ同じ質量であり、また電子の質量はそれと比べて無視できるほど小さいので、原子全体の質量は、おおざっぱには陽子と中性子の数の和で表す事ができる。これを質量数 (mass number) と呼ぶ。質量数は 12C のように、原子の左上に小さく書いて示す。 質量数はあくまで、陽子と中性子の個数の和であり、質量そのものではないことに注意が必要である。さらに言えば、これら質量数はあくまで指標であり、実際の質量は厳密には異なってくる。また、ある質量数の原子の個数と実際の質量との関係については、物質量と化学反応式のページで解説していくことになる。 具体的には、ある原子の質量数が16で、その原子に中性子が8個含まれている場合、 より、8個の陽子が含まれていることが分かる。8個の陽子が含まれている原子は、酸素(O)である。 ある二つの原子について、原子番号が同じでも質量数が異なることがある。言い換えると、原子番号は陽子の数であるため、陽子の数が同じ二つの原子であっても、その原子核に含まれる中性子の数が違うことがある。 このような、同じ元素でも質量数のことなる原子を互いに同位体(isotope)と呼ぶ。あるいはアイソトープと呼ぶ。 なお、「同位体」という名前が「同素体」と似ているが、異なる概念なので混同しないように読者は注意のこと。 炭素Cの代表的な同位体には、12C と13C がある。 炭素Cの同位体には14Cも存在する場合もあるが、この14Cは不安定であり、すぐに崩壊して質量数が変わってしまう。原子核が壊れるとき、一般に放射線をだすので、不安定な同位体が壊れたときも放射線を出す。14Cも崩壊するときに放射線を出す。 14Cのような、すぐに崩壊して放射線を出す同位体を放射性同位体(ラジオアイソトープ,radioisotope)という。 これに対して安定して存在できる同位体を安定同位体(stable Isotope)という。 同位体であっても、安定な同位体の化学的な性質は、ほとんど等しい。なぜなら、それらの原子核に含まれる陽子の数が同じだからである。 他の多くの元素にも同位体は存在する。 たとえば水素Hには、自然界には1H と2Hがある。1Hの存在比率は、およそ99.98%である。2Hの存在比率は、およそ0.02%である。質量数2の水素2Hのことを重水素(じゅうすいそ)あるいはジュウテリウム(deuterium)という。 原子力発電所の原子炉内では、質量数3の水素3Hも存在する。この水素3Hをトリチウム(tritium)という。3Hは放射性同位体である。 なお、すべての元素に、自然界で同位体が存在するわけではない。 Be,F,Na,Al,P,Sc,Mnなどには、天然には同位体は存在しない。 元素を原子番号の順に並べると、性質のよく似た元素が周期的に現れることがある(例:1価の陽イオン(→高等学校化学Ⅱ/化学結合)になりやすい物質……3Li、11Na、19K、など。ここまでは8個間隔で現れている)。このことを元素の周期律(periodic law)という。また、図のような表を、周期表(periodic table)という。 元素を原子番号の順に並べて、かつ周期律に併せて配列した表を周期表という。周期表の縦の列を族(group)といい、同族内では性質のよく似た元素が並ぶ。周期表の横の列を周期(period)と呼び、周期の番号は電子殻の数と一致する。 「族」は、1族から18族までの、合計18個がある。「周期」は、1族から7族までが、現在(2013年に本文を執筆。)では確認されている。 具体例をいくつか挙げると、族については、水素HとリチウムLiとナトリウムNaとカリウムKは、ともに1族の元素である。周期に関しては、水素Hは第一周期であり、リチウムLiは第二周期であり、Naは第三周期である。 他の族の元素でも、例を挙げる。酸素Oは、16族で第二周期の元素である。炭素Cは14族で第2周期である。塩素Clは17族元素で第3周期である。 族が同じ元素どうしを同族元素という。たとえば、HとLiとNaとKとルビジウムRbとセシウムCsとフランシウムFrとは、お互いに同族元素である。 他の族でも例を挙げれば、14族の炭素Cと,シリコンSi,ゲルマニウムGeと,すずSnと,鉛Pbとは、お互いに同族元素である。 1族の同族元素のうち、水素Hを除いた残りの元素の、LiとNaとKとルビジウムRbとセシウムCsとフランシウムFrを、アルカリ金属(alkali metals)という。Hはアルカリ金属には含めない。 2族元素のうち、ベリリウムBeとマグネシウムMgを除いた残りの元素の、カルシウムCa,ストロンチウムSr,バリウムBa,ラジウムRaをアルカリ土類金属(alkaline earth metal)という。ベリリウムBeとマグネシウムMgはアルカリ土類金属には含めない。 17族の元素のフッ素F,塩素Cl,臭素Br,ヨウ素I,アスタチンAtをハロゲン元素(halogen)という。 18族のヘリウムHe,ネオンNe,アルゴンAr,クリプトンKr,キセノンXe,ラドンRnを希ガス元素(rare gas)という。 3族から11族の元素を遷移金属(せんいきんぞく,transition metals)という。 遷移金属は、価電子の数が1個または2個であることが多く、族と価電子数が一致しない。 遷移金属以外の元素である元素はどうだろうか。1族と2族と12族~18族の元素を典型元素(main group element)という。典型元素では、族の番号の1の位の数が、最外殻電子の数と一致する。 1族の元素と2族の元素は陽イオンになりやすい。 17族の元素は陰イオンになりやすい。 18族の元素は化合物をつくりづらい。天然には単分子で存在するのが一般である。 なお、原子番号、核子の個数をa,bとすればその原子を a b {\displaystyle _{a}^{b}} Aの様に書く事がある。 物質は、元素という成分から成り立っていることは前述の通りである。しかし、物質が原子という小さな構造によって構成されているという側面もある。そこで、原子同士がどのような構造を形成して物質が形作られているのか、といった視点から物質を分けることもできる。高等学校化学では主に、イオンからなる物質、分子からなる物質、原子からなる物質の三種類を考える。 これらの物質に関して理解する前に、まずは物質を構成する原子の異なった姿である分子・イオンについて知ろう。 分子は電気的に中性であるため、これらが物理的に運動する限りにおいては、電磁気の問題は基本的に発生しない。 一般に分子は原子が複数個集まってできていることが多いが、ただ一つの原子だけで独立して分子となるものもいる。希ガスと呼ばれる種類の原子は、他の原子と結びつかず、独立で分子を構成する。 ある分子が、どのように原子が結びついて出来ているのかということを表記するとき、一般的には分子式を用いる。 以下に、様々な分子の例を示した。また、それらの分子式も付け加えた。分子名はウィキペディアのそれぞれの分子の項目にリンクしているので、より詳しい性質を見たい人は参考にすると良い。 最外殻電子に含まれる電子の数が8個(K殻のみ2個)である状態を閉殻構造と呼ぶ。原子は、電子を受け取ったり、他の原子に電子を渡したりして、閉殻構造を作ろうとする。これは、閉殻構造が非常に安定した形であるためだと考えられている。原子は通常の状態であれば電荷的に中性だが、このように電子を渡したり受け取ったりして粒子全体として電荷をもつことがある。このように、電荷を持った粒子のことをイオン(ion)という。特に正の電荷を持つ粒子を陽イオン(positive ion)と言い、負の電荷を持つ粒子を陰イオン(negative ion)と言う。 価電子の少ない原子は、電子を失って陽イオンになりやすい。逆に価電子の多い原子は、電子を受け取って陰イオンになりやすい。このように失ったり受け取ったりした電子の数を、そのイオンの価数(valence)という。価数が1のときそのイオンは1価であるといい、以下2価、3価と数える。電子の電荷は-eであるが、ここでは、電子一つを基準にしていることに注意。 左の図はナトリウム原子(Na)のボーアモデルである。ナトリウムの原子番号は11であるため、K殻に2個、L殻に8個、M殻に1個の電子が含まれる。電子が11個あり、この時点では原子核の電荷+11eと電子の電荷-11eが相殺し合って、原子全体としては電荷的に中性である。しかし、価電子数が1で、閉殻構造を取れていない。右の図は塩素(Cl)のボーアモデルである。塩素の原子番号は17であるため、K殻に2個、L殻に8個、M殻に7個の電子が含まれる。これもやはり電荷的に中性であるが、閉殻構造を取れていない。最外殻電子の数、すなわち価電子数は7である。 そこで、この二つの原子がある条件下でお互いに電子を受け渡すことが起こる。上の図は、最外殻電子のみを描いたボーアモデルで、電子の受け渡しを表現したものである。ナトリウム原子は原子核の+11eと、ひとつ数の少なくなった電子による-10eで、全体として+eの電荷をもっていることになる。塩素は、ナトリウムから電子を一つ受け取って、全体で電子が一つ多いので、-eの電荷をもっていることになる。イオンは普通、このようにして作られると考えられている。また、NaCl全体で見れば電荷的に中性であり、ナトリウムイオンも、塩化物イオンも、ともに閉殻構造を取っている。 イオンとなった原子は、その元素記号の右上に価数と符号をつけることで表現する。このような表現法をイオン式という。 これは、2価の陽イオンとなったマグネシウムをイオン式で表現したものである。数字が先に来ることにも注意したい。また、+1や-1のときには、数字は書かずに符号のみを付けることになっている。 イオンは必ずしも一つの原子からなるわけではない。原子がいくつか集まった原子団(もしくは、分子)でも、様々な理由からイオンになる。 一般的に、陽イオンは「~イオン」、陰イオンは「~化物イオン」と呼ばれる。また、多原子イオンであれば、それがイオンになる前の分子の名前に「~イオン」や「~化物イオン」と付けて呼ばれることが多い。上述の例で言うなら、アンモニアのイオンはアンモニウムイオンである。 これまでに学習してきた原子・分子・イオンという粒を使って、実際の物質がどのように構成されているかを見て行こう。このセクションの多くは具体的な物質の紹介になっている。ウィキペディアへのリンクも付けているので、参考にしてほしい。分子の名称は、一般的に用いられているものを示した。ここで挙げた以外の名称で呼ばれる物質もあるため、注意が必要である。 分子は基本的に独立した一粒である。身近な例を挙げるなら、水や多くの気体などの構成単位は、分子である。分子が構成単位になっている結晶(固体)を分子結晶(molecular crystal)という。分子結晶は融点・沸点が低く、やわらかい。また電気を通さない。ずっと拡大すると、分子が規則正しく並んでいるのも、分子結晶の特徴である。 水は、実際には不純物を含んでいることが多い。純粋な水は天然には存在しない。 NaCl(塩化ナトリウム)という化合物は、ナトリウムイオンNa+と塩化物イオンCl-がお互いに偏った電荷を補い合おうとして結合する。このようにイオン同士がひきつけあってできた結合をイオン結合(ionic bond)という。また、イオン結合によってできた固体をイオン結晶(ionic crystal)という。イオン結晶は融点・沸点が高く、硬いがもろい。これらは基本的にイオンが並んで出来ており、水に解ければ簡単にそれぞれのイオンに分かれる。そのため、固体のときは電気を通さないが、液体あるいは水に溶解した状態では電気をよく通すという性質を持っている。 原子からなる物質には、自由電子を共有する金属結合によってできるものと、共有結合によってできるものとがある。金属結合によってできた物質は金属光沢を持ち、熱や電気をよく通し、展性(たたくと広がる性質)・延性(引っ張ると延びる性質)を持つ。また共有結合によってできた物質は硬く、融点が高い。例えば、ダイヤモンドは炭素原子が共有結合してできた物質である。 このセクションで用いられた「共有結合」「イオン結合」「金属結合」に関しては、詳しくは粒子の結合で扱う。そのため、ここではそのような種類がある、という理解に留めておいてかまわない。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6%E5%9F%BA%E7%A4%8E/%E7%89%A9%E8%B3%AA%E3%81%AE%E6%A7%8B%E6%88%90
塩化ナトリウムNaClでは、ナトリウム原子は電子の1個を出して陽イオンのナトリウムイオンNa+になっている。塩素原子Clは、ナトリウムから放出された電子を受取り、陰イオンの塩化物イオンCl-になっている。 N a → N a + + e − {\displaystyle \mathrm {Na} \rightarrow \mathrm {Na} ^{+}+\mathrm {e} ^{-}} C l + e − → C l − {\displaystyle \mathrm {Cl+e^{-}\rightarrow Cl^{-}} } この Na + {\displaystyle {\ce {Na+}}} と Cl − {\displaystyle {\ce {Cl-}}} との電気的な引力(クーロン力)によって、分子が互いに引き付け合い Na + {\displaystyle {\ce {Na+}}} と Cl − {\displaystyle {\ce {Cl-}}} が交互に配置することによって NaCl {\displaystyle {\ce {NaCl}}} の結晶が作られている。 このように、陰イオンと陽イオンによる電気的な引力による結合をイオン結合といい、そのイオン結合をしている陰イオンと陽イオンからなる結晶をイオン結晶(ionic crystal)という。イオン結晶では、陽イオン(positive ion)と陰イオン(negative ion)が規則的に配列をしている。 イオン結合は非金属元素と金属元素の化合物で発生しやすい。元素の電気陰性度の差が1.8以上の場合はイオン結合になると考えていい。 イオン結合の電気的な引力は強いためイオン結晶の融点は高い。イオン結晶は電気を通さないが、イオン結晶を加熱して溶融したものや、イオン結晶を水に溶かした水溶液は電気を通しやすい。これは、自由に動けるようになったイオンが電気を通すためである。 イオン結晶は分子では無いため分子式を持たないが、イオン結晶を構成する原子数の比を使った組成式で表すことが出来る。イオン結晶の組成式では左側に陽イオン、右側に陰イオンを書く。 例えば、塩化ナトリウムは、ナトリウムイオンと塩化物イオンが1:1の割合で構成されているため、その組成式は NaCl {\displaystyle {\ce {NaCl}}} である。 一般に、陽イオン A m + {\displaystyle {\ce {A^{\it {m}}{}^{+}}}} と陰イオン B n − {\displaystyle {\ce {B^{\it {n}}{}^{-}}}} のイオン結晶の組成式は A n B m {\displaystyle {\ce {A_{\it {n}}B_{\it {m}}}}} となる。なぜなら、イオン結晶は全体で電気的に中性であるため、陽イオンの価数 × 陽イオンの個数 = 陰イオンの価数 × 陰イオンの個数 が成り立つためである。 イオン結晶の名称は、陰イオン、陽イオンの順に、そのイオンの名前をつなげることで命名する。ただし、「-(物)イオン」の部分は省略する。 例えば、 NaCl {\displaystyle {\ce {NaCl}}} は塩化物イオンとナトリウムイオンの組み合わせなので、名前は塩化ナトリウムである。 Na 2 SO 4 {\displaystyle {\ce {Na2SO4}}} は硫酸イオンとナトリウムイオンの組み合わせなので、名前は硫酸ナトリウムとなる。 共有結合は、おおむね、以下のような仕組みである。 例として、水素分子での水素原子どうしの結合で説明する。 ここで注意すべきなのは、電子どうしには引力が生じない、ということである。原子核どうしにも引力は生じない。あくまでも電荷の異なる粒子どうしの、原子核と電子とが電気引力を及ぼしているのである。同種の電荷である原子核どうしには反発力が生じている。同様に、同種の電荷である電子どうしにも反発力が生じている。 このように価電子を仲立ちとして、電子を共有することによって生じる結合を共有結合(covalent bond)という。 対電子は、なにも結合だけではなく、1個の原子の電子殻上でも、価電子が多い場合は、対電子が生じる。 たとえば、L殻の原子では、5個の価電子を持つN原子は1組の電子対をもつ。6個の価電子を持つO原子は2組の電子対をもつ。7個の価電子を持つF原子は3組の電子対をもつ。比較のため、同じL殻のC原子を例に出すと、4個の価電子を持つC原子は0組の電子対をもつ。 電子対は、必ずしも全てが結合に寄与するわけではない。結合に寄与する電子は、他の原子の価電子と対を作る場合のみである。したがって、同じ原子内の電子どうしで対を作っている場合は結合に寄与しない。このような同じ原子内の価電子どうしで対を作っている電子対を非共有電子対(ひきょうゆうでんしつい,shared electron pair)という。 対を作らない価電子を不対電子(unpaired electron)という。 たとえばL殻の原子では、4個の価電子を持つ炭素原子Cは不対電子を4個もつ。5個の価電子を持つ窒素原子Nは不対電子を3個もつ。6個の価電子を持つ酸素原子Oは不対電子を2個もつ。7個の価電子を持つフッ素原子Fは不対電子を1個もつ。 なお、K殻原子である水素原子の不対電子は1個である。 共有結合を行う電子は、不対電子である。たとえば4個の不対電子をもつ炭素原子Cは、水素Hと結合してメタン CH4 を作る事ができる。 3個の不対電子を持つ窒素原子Nは、水素原子Hと結合すれば、アンモニアNH33 を作ることができる。 また、水素との結合のように、各原子が1個ずつ相手原子に不対電子を提供して共有電子対になった結合を単結合(たんけつごう)という。 構造式では単結合を1本の棒線で表す。たとえば水素分子は である。棒線の1本あたり、1組の共有電子対を表している。 なお、このような共有電子対を表す線を価標(かひょう,bond)という。 ニ酸化炭素CO2 でのCとOと結合を考える。不対原子は、O原子には2個あり、C原子には4個ある。 そうすると、1個のC原子と1個のO原子との結合に参加する不対原子は、O原子からは2個であり、C原子からはOの不対電子の相手をするC原子の不対電子が2個ほど必要である。 そうすると、結合は4個の不対電子から2対の共有電子対が形成される。このように2対の共有電子対が形成される結合を二重結合(double bond)という。 構造式で表す場合、二重結合は = のような、上下の長さが等しい2本線で表す。(つまり2本の価標である。)棒線の1本あたり1組の共有電子対を表している。 ニ酸化炭素CO2の構造式は である。 なお、構造式は、分子の実際の形には対応しない。あくまで構造式は共有電子対の共有の様子を表示したものである。 たとえば窒素分子N2のN原子どうしは3組の共有電子対で結合している。3組の共有電子対による結合を三重結合(triple bond)という。構造式では、3本の価標で表す。 アンモニアNH3を水や濃塩酸HClと反応させるとアンモニウムイオンNH4+が生じる。 これはアンモニアの非共有電子対に、水素イオンが吸引された結果である。水素イオンは価電子を放出して正電荷になっているので、電子に引きつけられる。 このように非共有電子対に、価電子が空のイオンが吸引されてできる結合を配位結合(はいい けつごう ,coordinate bond)という。 NH4+の結合について、アンモニウムイオンNH4+の持つ結合N-Hの4個の結合は、4個とも同等であり、配位結合したあとは区別できない。 このような理由から、配位結合は共有結合の一種と見なされる。 水H2Oや、希塩酸などの酸性溶液では、少しだけイオン化をしていて、H3O+とOH-とにイオン化をしている。このH3O+は、H2OにHが配意した配位結合である。このH3O+をオキソニウムイオン(oxonium ion)という。 水素分子H2や塩素分子Cl2のように同種の原子の共有結合で出来た結合において、電子対はどちらにも片寄らず、したがって電荷はかたよらない。 このような電荷の片寄りのない分子を無極性分子(むきょくせいぶんし,nonpolar molecule)という。 いっぽう、塩化水素分子HClでは、塩素に電子は片寄っている。その結果、H原子は、すこしばかりの正の電荷 δ+ を持ち、塩素原子は少しばかりの負の電荷 δ- を持つ。このように分子内に電荷の片寄りのある状態を極性(きょくせい,polarity)と言い、極性の有る分子を極性分子(polar molecule)という。 ニ酸化炭素CO2ではC=Oの結合には極性があるが、分子全体ではO=C=Oが直線上の形状のため、2個のC=O結合の極性同士が反対向きになり、極性が打ち消し合う。したがって、分子全体ではニ酸化炭素は極性をもたない無極性分子である。このように原子数が3子以上の場合は、分子の形状が極性に関係してくる。 水H2Oは極性分子である。分子全体では折れ線の形になっている。 メタンCH4は無極性分子であり、正四面体の構造をとる。正四面体の4個の頂点に対応する位置に水素原子Hがあり、正四面体の中心に対応する位置に炭素Cがある。 16族原子のOと結合したH2Oは、同じ16族原子との化合物のH2SやH2Seとくらべて、沸点が特に高い。 17族のFとの化合物のHFは同じ17族原子の HCl などとくらべて沸点が特に高い。 15族のNとの化合物のNH3も同様に、他の同属化合物より沸点が特に高い。 このような現象の仕組みを述べる。 O、F、Nとも電気陰性度の高い元素である。 例としてHFを解説する。フッ化水素HFはフッ素の電気陰性度が大きく、電子はフッ素に吸引される。この結果、水素原子は静電荷にかたよる。この大きく分極した水素を仲立ちとして、周囲のHF原子のFを吸引することで、物質全体として強い結合をする。 これを水素結合(hydrogen bond)という。水素結合は、相手の原子がO、F、Nなどの電気陰性度の高い場合である。 電気陰性度が3番目に高いClは、原子半径が大きいため、電荷密度が小さい。そのため、水素結合は起こらない。 金属では、電子は金属全体を動ける。電子殻の視点で見れば、実際に電子殻を周辺の多くの原子と共有している。共有結合と違って特定の原子間で電子を共有しているのでは無い。金属原子は、電子の広がらせやすさが大きい。 金属内の電子は、その結晶全体を動け、特定の原子には拘束されない。このような電子を自由電子(free electron)という。 また、自由電子による金属同士の結合を金属結合(metallic bond)という。 金属の特徴的な性質は、展性と延性や金属光沢、また、熱や電気を伝えやすいといったようなものがある。 金属を強く叩く加工をすると、箔状に広げることが可能だが、箔状に広げても、金属がつながったままで、割れたり切れたりしにくく、叩いても金属がつながったままで広げやすい性質を展性(てんせい,ductility)という。また、金属を伸ばして線状に引き伸ばしても、切れにくくつながったままの性質を延性(えんせい,malleability)という。 この展性や延性は、自由電子による。金属結合が自由電子による結合なので、加工によって変形をしても、原子の配列が変わっただけで、金属全体では自由電子を共有しつづけるので、金属結合を維持し続けるからである。 金属には光沢が有る。これは、金属表面で光の反射が起こるからである。より正確に言うと、光をいったん吸収して、その直後に再放出をするので、反射をする。金属によっては、全ての波長を反射せずに波長の一部の光を吸収するので、その結果、金属は色みを帯びて見えることになる。 銀では、ほぼすべての入射光を反射するので、銀白色に見える。(白色とは、可視光の波長が全て揃っている光の状態である。) 銅や金など、色づいて見える金属は、入射光の一部の波長の光を金属が吸収している事による。 金属は自由電子の働きで熱や電気をよく伝えるため導体である。さらに、単体のケイ素Siや、ゲルマニウムGeのように、導体と絶縁体の中間的な性質をもつものを半導体という。 金属は一般に温度が高くなればなるほど電気抵抗が大きくなる。これは、金属原子の熱運動が激しくなり、自由電子の移動を妨げるためである。また、金属の中には、低温状態で電気抵抗が0になるものがあり、この現象を超伝導という。
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高等学校の学習>高等学校理科>化学基礎>物質量 原子の質量は非常に小さく、1個単位で扱うのは非常に煩雑である。そこで化学ではふつう、6.0×1023個をひとまとまりにして原子・分子などを数える。この6.0×1023個のまとまりを1molと呼ぶ。「mol」は「モル」と読む。molは原子や分子の、まとまりを表す単位である。 1個、2個、……と「個」の単位で数えたものを数というのに対して、1mol,2mol,……と「mol」の単位で数えたものを物質量(ぶっしつりょう, amount of substance)という。 1mol、すなわち6.0×1023という数値は、12gの炭素の中に含まれる炭素原子12Cの数にほぼ近い。しかし、厳密には少し質量がずれるので、相対的に、12Cが1molの相対質量を12と定義する。なお、1molに相当する6.0×1023という数値この数値はアボガドロ定数(Avogadro constant)と呼ばれ、記号NAを用いて表す。 ある原子Aについて、炭素12Cの相対質量を12とおいた時の、その原子Aの質量の相対値を原子量(げんしりょう, atomic mass)と呼ぶ。よって、原子量には単位を付けない。 正確に言うと、原子量の計算には、同位体も考慮する。たとえば天然の炭素Cは安定同位体が2種類あり、12Cと13C(相対質量は13.003)がある。存在比は、12Cが98.90%に対し、13Cが1.10%なので、炭素Cの原子量は、 よって炭素Cの原子量は12.01である。 分子についても、質量の基準として12C=12を基準とした相対質量で表す。この分子の相対質量を分子量(ぶんしりょう, molecular mass)という。分子量の大きさは、原子を構成する各々の原子の、原子量の総和である。 H2Oの分子量は18.0である。H2SO4の分子量は 98.1である。CO2の分子量は 44.0 である。 塩化ナトリウムNaClのようにイオン結晶構造をとる化合物は1個の分子のような単位粒子の形を取らない。金属結晶も同様に単位粒子の形を取らない。これ等の化合物は、組成式の中に含まれる原子の原子量の総和を相対質量として、この組成式を構成する原子の原子量の総和を式量(しきりょう, formula weight)という。 物質1molあたりの質量のことをモル質量(molar mass)といい、単位[g/mol]を用いて表す。ある物質のモル質量は、その物質の原子量・分子量・式量にg/molをつけたものである。 気体は、物質の種類にかかわらず、温度0℃かつ圧力101kPaていどの状態(これを標準状態という)のもとでは1molの体積は22.4Lになる。単位の L はリットルのことである。 101kPaは、通常の大気の平均的な気圧である。「kPa」とは圧力の単位Pa(パスカル)の、キロパスカルである。 1kPaとは1000Paである。 101.3kPaとは、1.013×105 Paである。 中学で「気圧は平均で1013hPa」とならったが、高校や大学の物理学や化学では、ケタの多い場合の圧力単位にはhPa(ヘクトパスカル)ではなく、kPa(キロパスカル)を使う機会が多い。 なお、やや古い単位だが100kPaていどの圧力のことを「1気圧」といい、1atmと書くことも昔はあった。(atmは「アトム」と読む。1atmは「いちアトム」と読む。) 高校の検定教科書でも、近年では「0 °C,1.013×10⁵ Pa」と温度と圧力を明記するスタイルになってきている[1]。初出のページでだけ「標準状態」という用語を教え、あとのページでは数値を明記する編集方針を検定教科書会社が行っている。 1molというのは、原子の数を示す単位である。 例えば、リンゴを6個入れた箱が、3箱あると考えると、合計でリンゴは 6×3=18個 あることになる。 つまり、箱の数と実際のリンゴの数には関係があるが、箱の数とリンゴの数は同じ数値で表現できるものではない、ということである。 原子を仮にa個集めたとしよう。このとき、この原子の集まりが、原子量に重さの単位であるグラムを付けただけの質量を持つとしたらどうだろう。 例えば、H2は分子量2であり、これをある個数あつめたときにちょうど2gになったとしたら、このある個数は非常に重要ではないだろうか? なぜなら、どの原子や分子でも、その数分だけ集めれば、その質量数にgを付けた質量を持つのだから。 このように、本来ならばとらえにくい原子や分子を、まとまった個数にして扱おう、というのが物質量、すなわちmolの考え方である。 ある物質がある液体に溶かし込まれて均一に混じりあったとき、このような現象を溶解と呼ぶ。このとき溶かし込んだ物質を溶質(solute)と呼び、溶かした物質を溶媒(solvent)と呼び、できた液体を溶液(solution)と呼ぶ。 ある溶液の濃度の表し方には2通りある。質量パーセント濃度は溶液の質量に対する溶質の質量を百分率で表したものである。また、モル濃度は、溶液1リットル中の溶質の物質量を表したものである。 イオン結晶が水へ溶解して、陽イオンと陰イオンに分かれることを電離(ionization)という。水溶液で電離する物質を電解質(electrolyte)という。これに対し、電離しない物質を非電解質ということもある。 水素と酸素が反応して水ができるなど、化学結合が変化してある物質が異なる物質に変化することを化学変化(化学反応)という。これに対して、水が蒸発して水蒸気になるなど、物質を構成する粒子そのものが変化しない状態変化を物理変化という。ここでは主に化学変化のみを扱う。物理変化については、高等学校化学Ⅱ/物質の三態を参照すること。 化学変化を表した式を化学反応式(chemical equation)という。 化学反応式では左辺に変化前の物質(反応物)の化学式を、右辺に変化後の物質(生成物)の化学式を書き、矢印「→」でつなぐ。さらに、それぞれの化学式の前に係数をおいて全体の原子の比率があうようにする。触媒などの変化しない物質は記述しない。 化学反応式では係数の比と物質量の比が等しい。 化学反応式における量的関係は、以下のような基礎法則がもととなっている。
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高等学校の学習>高等学校理科>化学基礎>酸と塩基の反応 塩酸HCl 、硫酸H2 SO4 、硝酸HNO3 、酢酸CH3 COOH などの水溶液は、次のような性質を示す。 このような性質を酸性(さんせい、acidity)といい、水溶液が酸性を示す物質を酸(さん、acid)という。または、その酸の溶液を簡略化して酸という。 酸は、次のような性質を持つことが多い。 酸性の溶液に対して、水酸化ナトリウムNaOHのように、酸性の溶液に添加することで、その酸性の性質を打ち消す種類の物質がある。このような酸性を打ち消す性質を塩基性(えんきせい、basic)またはアルカリ性(alkaline)という。また、水溶液が塩基性を示す物質を塩基(base)という。塩基性の物質には以下のような特徴がある。 酸性を示さなければ塩基性も示さない物質の性質を中性(ちゅうせい,)という。塩基性の物質が酸性を打ち消して、溶液を中性にすることを中和(ちゅうわ、neutralization)という。また、塩基性の溶液に、酸を加えて溶液を中性にさせることも中和という。 例えば、酢酸、塩酸、硫酸などは酸であり、水酸化ナトリウム、アンモニアなどは塩基である。さまざまな水溶液が、酸性や塩基性や、そのどちらでもない中性といった性質を持つ。 1887年、スウェーデンの化学者アレニウスは、酸と塩基を次のように定義した。 「酸とは、水に溶けて水素イオンH+を生じる物質であり、塩基とは、水に溶けて水酸化物イオン OH− を生じる物質である。」 塩化水素HClや硫酸H2SO4は、水溶液中で次のように電離して、水素イオン H+ を生じる。 アレニウスの酸の定義の提唱よりも後の研究では、水素Hは単独で塩基と電荷のやりとりを生じているのではなく、オキソニウムイオン H3O+ として、電荷の授受をしていることが明らかになった。たとえば、塩酸の場合は以下の様な式である。 しかし書式では、簡略化のため、特別にオキソニウムイオン(oxonium ion)を強調したい場合を除いて、酸の水素イオンは単にH+と書くことが多い。 アレニウスによる酸と塩基の定義の後、彼の定義では例外の物質があり、不都合なことが分かってきた。たとえば、アンモニアNH3は分子中には水酸基OHを含んではいないが、塩酸HClなどの酸を中和する能力をアンモニアは持ち、明らかにアンモニアは塩基性を持つと見なせることが分かってきた。このような例に基づき、そこでブレンステッド(デンマーク)とローリー(イギリス)は、アレニウスの酸・塩基を拡張して、1923年に、次のように酸と塩基を定義した。 「酸とは、水素イオンH+を与える分子・イオンである。塩基とは、水素イオンH+を受け取る分子・イオンである。」 今日(西暦2023年)における、酸と塩基の化学上の定義は、このブレンステッドの定義に近い定義である。 ブレンステッドの定義によると、塩酸HClが水H2Oに溶解して電離する反応では、水H2Oは水素イオンを受け取りオキソニウムイオンになるので、水H2Oを塩基と見なせる。 いっぽう、アンモニアが水に溶解して電離する反応では、水H2Oは、アンモニアに水素イオンを提供し、水酸化イオンOH-になるので、水は酸と見なせる。 このような例から、ブレンステッドの定義では、水は反応する相手によって酸として働いたり、塩基として働いたりする物質(両性物質)になる。 酸では、化学式中に含まれる水素原子のうち、H+イオンになることのできる水素原子数を酸の価数(かすう、degree of acidity)という。たとえば塩酸HClでは価数は1である。酢酸CH3COOHの価数は1である。酢酸のCH3の基の部分のイオンにはならず、酢酸でイオンになるのはCOOHの部分に含まれる水素Hのみである。硫酸H2SO4の価数は2である。 塩基では、化学式中に含まれる水酸化物イオンOH-の数を塩基の価数 (degree of basicity) という。または塩基1化学式が受け取ることができるH+イオンの数ともいえる。例として水酸化ナトリウムNaOHの価数は1である。水酸化カルシウムCa(OH)2の価数は2である。 塩酸と酢酸は、ともに1個の酸であるが、同じモル濃度のこれらの酸に亜鉛を加えると、塩酸のほうが酢酸より激しく水素を発生する。この反応は、次のイオン反応式で表されれるが、H+ イオンの濃度は、塩酸のほうが非常に大きいためである。 水に溶けて陽イオンと陰イオンを生じる物質を電解質(でんかいしつ、electrolyte)という。電解質の水溶液で溶けている電解質全体の物質量に対して、そのうち電離している電解質の物質量の割合を電離度(でんりど、degree of electrolytic dissociation)という。 電離度αを式であらわせば、 電離度α= (電離した電解質の物質量)/(溶解した電解質の物質量) である。電離度αの値は 0<α≦1 である。 電離度は温度によって変わる。 酸の強さの定量化は、電離度を用いて定量化ができる。塩酸HClや硫酸HNO3などは電離度が、塩酸の電離度は約0.9、硝酸の電離度は約0.9、などと電離度が1に近く、このように電離度の大きい酸を強酸(きょうさん、strong acid)という。 いっぽう、酢酸CH3COOHの電離度は0.01程度と非常に小さく、このように電離度の小さい酸を弱酸(じゃくさん、weak acid)という。 塩基の強さについても、電離度を用いて定量化される。水酸化ナトリウムNaOHの電離度は約0.9であり、水酸化カリウムKOHの電離度は約0.9である。これら水酸化ナトリウムのように、電離度の大きい塩基を強塩基(strong base)という。アンモニアは電離度の観点からは、アンモニアの電離度が約0.01と低い。アンモニアのように電離度が低い塩基を弱塩基(weak base)という。 強酸や強塩基のように電離度の高い電解質のことを強電解質という。 弱酸や弱塩基のように電離度の低い電解質のことを弱電解質という。 溶液中で、多価の酸が水素イオンを電離するときは、段階的に1個ずつ水素イオンを電離をしている。 たとえば2価の酸である硫酸では、以下のように電離をする。 このように段階的に多段階に電離することを、多段階電離という。 一般に、多価の酸の電離度は、第2段階以降の段階の電離度と比べて、第1段階の電離度がもっとも大きい。 硫酸の場合も第一段階の電離度が、もっとも大きい。 いっぽう、多価の塩基が電離するときについては、事情が異なる。たとえばイオン結晶である水酸化カルシウムCa(OH)2の水に溶けて生じた電離では、1段階でまとめて電離をする。 純水の水は、わずかであるが電離をしていて、水素イオンH+と水酸化物イオンOH-を生じて、電離平衡(でんりへいこう)の状態になっている。このとき、水素イオン濃度[H+]と水酸化物イオン濃度[OH-]は等しく、25℃で1.0×10-7[mol/l] となっている。 水の電離は[H2O]の値はほぼ一定で、定数とみなせる。これより、[H+]と[OH-]の積の値も温度一定のときに一定値となる。この値を水のイオン積(ion product)といい、Kwで表す。イオン積Kwは以下の関係にある。 このイオン積の値が成り立つのは、水だけでなく、酸や塩基や他の中性の水溶液でも同様に、水素イオン [ H + ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} } と水酸化イオン [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[OH^{-}]} } とのイオン積 [ H + ] [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}][OH^{-}]} } は一定で、1.0×10-14 [mol2/l 2]が成り立つ。また、値の1.0×10-14 [mol2/l 2]は常温付近での値であり、温度がかわると少しだけ値が変わるが、常温付近ならば桁の10-14のところまでは変わらないので、実用上は一定値1.0×10-14 [mol2/l 2]と見なすことが多い。 この [ H + ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} } や [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[OH^{-}]} } といったイオン濃度の概念を用いると、水溶液における酸性の定義や塩基性の定義を以下のように数値的に定義できる。 水溶液における酸性とは、水素イオン濃度 [ H + ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} } が水酸化イオン [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[OH^{-}]} } よりも大きい状態である。 同様に、水溶液の中性や塩基性も、イオン濃度で定義できる。 水溶液の酸性は、水素イオン濃度[H+]が大きいほど強くなり、塩基性は水酸化物イオン濃度[OH-]が大きいほど強くなる。 [H+]の値は広い範囲で変化するため、扱いにくい。そこで、[H+]の常用対数をとって、それに負符号を付けたものを用いて、酸性/塩基性の程度を表す。この値を水素イオン指数といい、pHで表す。pHの読みは「ピーエイチ」またはドイツ語読みで「ペーハー」と読む。日本語訳ではpHを水素イオン指数(hydrogen ion exponent)ともいう。 pHの値がpH=7ならば中性である。 pHの値は塩基性になるほどpHが高くなる。pHが7より高いpH>7の状態では塩基性である。pHがとりうる最大値は理論上では14である。pH=14のときは、 [H+]=10-14 である。 pHの値は酸性になるほどpHが低くなる。pHが7より低いpH<7の状態では酸性である。pHがとりうる最大値は理論上では0である。pH=0のときは、 [H+]=100=1 である。 水酸化イオン[OH-]の対数をとったものをpOHという。(「ピー オーエイチ」と読む) pHとpOHについて、イオン積から次の公式が成り立つ。 あるいは 物質の中には、水溶液に接触させた時に、水溶液のpHの値によって色が変化するものがある。このような物質はpHを調べるのに用いることができるので、これらの物質のうちpHを調べる物質として実用化されている物質をpH指示薬(pH indicator)という。いわゆるリトマス試験紙もpH指示薬に含まれる。またリトマス試験紙のように、pH指示薬を試験用の紙に染み込ませて用いる事が多い。このようなpH指示薬を染み込ませてある紙をpH試験紙(pH indicator paper)という。 pH指示薬は、その物質によって、色を変えるpHの範囲が限られている。たとえば、メチルオレンジはpH=3.1以下では赤色で、そこからpHが高くなると黄色味を増していき、pH=4.4では橙黄色である。pH=4.4より高いpHでは橙黄色のまま、ほとんど色が同じなので、このpHの範囲では指示薬として用いられない。 このように指示薬の色が変わるpHの範囲を変色域(へんしょくいき)という。 pHを正確に測定するには、電位差を測定する方法が用いられる。そのための測定機器としてpHメータがある。 酸と塩基が反応すると、酸から生じるH+と塩基から生じるOH-が結びついてH2Oとなり、互いの性質が 打ち消されるこのような変化を中和という。 たとえば、塩酸HClと水酸化ナトリウムNaOH水溶液の反応は、次のように表される。 また中和後の反応液を蒸発させると、塩化ナトリウムNaClの結晶が得られる。 NaClのように、中和反応で生じる酸の陰イオンと塩基の陽イオンとからなる化合物を塩(えん)という。 中和反応は、次のようにまとめられる。 '注意' この分類は、塩の水溶液の液性とは無関係なので要注意。 例 NaHCO3は、酸性塩だが水溶液は塩基性。   NH4Clは、正塩だが、水溶液は酸性。 この単元「酸と塩基の反応」の内容は、詳しくは化学Ⅱの「化学平衡」などに続く。
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銅Cuの粉末を空気中で加熱すると、銅が空気中の酸素と結合して、酸化銅(II) CuO が得られる。 このように物質に酸素が化合することを酸化(oxidation)という。酸素が化合した物質については、その物質は酸化されたという。酸化によって生成した生成物を酸化物という。以上のような酸化の反応を酸化反応という。 つぎに、この酸化銅の粉末を耐熱ガラスなどに入れ、水素を通じながら加熱をすると、粉末は赤褐色の銅に戻る。 これは酸化銅から水素が酸素を奪い、もとの銅に戻した現象である。 このように、ある物質が酸素を失うことを還元(reduction)という。このような還元の反応を還元反応という。この銅の還元反応では、水素は逆に酸化をして水になっている。このように酸化反応と還元反応は、同時に起こる。そこで、これら同時に起こる酸化反応と還元反応とをまとめて、酸化還元反応という。 銅の電荷を考えると、還元されることによって、酸素に吸引されていた電子が銅に戻り、銅は電子を獲得している。 このような考えのもと、還元の定義を拡張して、原子が電子を獲得することを還元という。また、原子が電子を放出することを酸化という。 この化合の際の、原子の電子の授受に基づく定義で酸化と還元とを定義すると、酸素と化合しない反応の場合にも、酸化の定義を拡張できる。同様に、原子の電子の授受に基づいた定義で、水素と化合しない反応にも、還元の定義を拡張できる。 このように、普遍的に物質の酸化と還元とを判別するには、電子の授受で考える。 酸化と還元とをまとめると、以下のようになる。 酸化とは 1. 酸素を得る(化合する)こと 2. 水素を失うこと 3. 電子を失うこと 還元とは 1. 酸素を失うこと 2. 水素を得ること 3. 電子を得ること (マグネシウムが酸化(酸素が化合)して酸化マグネシウムになった) この化学反応式は以下の2つのイオン半反応式に分解することができる。 酸化還元反応の化学反応式は、まず半反応式をつくり、それを足し合わせることで作る。 イオン結合では、電子の授受の方向が判別しやすいが、いっぽう共有結合からなる化合物の化合反応では、電子の授受の方向が判別しづらい場合が多い。そこで、共有結合のような、電子の授受の方向が判別しづらい場合でも、酸化の度合いを定義できるように、次のような酸化数(oxidation number)という概念が考えられた。 (例) 単体の水素H2の酸化数は0である。単体の酸素O2の酸化数は0である。単体の炭素Cの酸化数は0である。単体のFeの酸化数は0である。 (例) Na+の酸化数は+1。Cl-の酸化数は(-1)。Al3+の酸化数は+3。 (例) H2Oの酸化数の総和は0である。実際に総和を計算すると、水素原子の酸化数(+1)×2と、酸素原子の酸化数(-2)の和であり、確かに、酸化数の総和は (+1)×2+(-2)=0 となる。 酸化還元反応で、相手の物質から電子を奪って酸化をする物質を酸化剤という。また、相手の物質に電子を与えて還元をする物質を還元剤という。 主な酸化剤と還元剤とその反応は次の表の通りである。 これらの酸化剤・還元剤とその反応は覚えておくと良い。この際、酸化剤・還元剤が還元・酸化される前後の物質のみを覚えていればその反応が分かる。 例えば、二クロム酸カリウムが還元される反応は二クロム酸イオンが Cr 2 O 7 2 − ⟶ Cr 3 + {\displaystyle {\ce {Cr2O7^2- -> Cr^3+}}} と変化することさえ覚えておけば、次のように両辺で原子の個数、電荷の和が等しいことより、その反応式が導ける。 金属元素の単体を水または水溶液に入れたときの、陽イオンのなりやすさをイオン化傾向(ionization tendency)という。 例として、亜鉛Znを希塩酸HClの水溶液に入れると、亜鉛Znは溶け、また亜鉛は電子を失ってZn2+になる。 一方、銀Agを希塩酸に入れても反応は起こらない。 このように金属のイオン化傾向の大きさは、物質ごとに大きさが異なる。 今度は、銅を希塩酸の溶液に入れてみた場合を考える。この場合は、なにも反応しない。 以上の例では、銅と銀のイオン化傾向の大きさの大小は不明である。 そこで、銅と銀のイオン化傾向を比べるための実験例として、硝酸銀AgNO3の溶液に、銅線や銅板などの銅の固体を添加する。ここでは、銅板を添加したとしよう。すると、銅板の表面に銀が付着し、銀が析出する。いっぽう、この硝酸銀の溶液中では銅板は陽イオンとなり溶ける。溶液は、しだいに青くなるが、この青色は銅イオン溶液の色である。 以上の変化を反応式で書くと、 なお、この反応で生じた銀を、生じ方が樹木が伸びるように析出した銀が伸びることから銀樹(ぎんじゅ)という。 いっぽう、今度は溶液を変え、硫酸銅 H2SO4 の溶液に銀板Agをいれても、なにも析出せず、なにも変化は起きない。 これらのことから、銅は銀よりもイオン化傾向が大きいであろうことが予測できる。 また溶液を変え、硫酸銅の水溶液に亜鉛板Znを添加すると、亜鉛の表面に銅が析出する。このことから、亜鉛Znは銅Cuよりもイオン化傾向が大きいことが予想できる。 さまざまな溶液や金属の組み合わせで、イオン化傾向の比較の実験を行った結果、イオン化傾向の大きさが決定された。 左から順に、イオン化傾向の大きい金属を並べると、以下のようになる。 金属を、イオン化傾向の大きさの順に並べたものを金属のイオン化列という。 水素は金属では無いが比較のため、イオン化傾列に加えられる。 金属原子は、上記の他にもあるが、高校化学では上記の金属のみのイオン化列を用いることが多い。 イオン化列の記憶のための語呂合わせとして、 「貸そうかな、まあ、あてにすな、ひどすぎる借金。」 などのような語呂合わせがある。ちなみにこの語呂合わせの場合、 「Kか そう かCa なNa、まMg あAl、あZn てFe にNi す なPb、ひH2 どCu すHg ぎAg る 借金Pt,Au。」 と対応している。 Mgは希塩酸とも強く反応し、水素を生じる。 (KやCaについては、溶媒の水そのものと激しく反応するので、ここでは考察対象から外される。) Al,Zn,Feは希塩酸 HCl や希硫酸 H2SO4 とも反応し、水素を発生する。 Pbは希酸とは反応しない。 Cu,Hg,Agは塩酸や希硫酸には溶けない。これを溶かす酸には、硝酸HNO3か、熱した濃硫酸が必要である。 Pt,Auは硝酸や濃硫酸では溶けない。これを溶かす酸は、王水(おうすい、ラテン:aqua regia)と呼ばれる、濃塩酸と濃硝酸の混合液を、体積比が塩酸3:硝酸1の体積割合で混合した混合酸で溶ける。 Al,Fe,Niなどは濃硝酸とは表面に緻密な酸化物の被膜を作るため反応しない。このような金属の状態を不動態(アルマイト)という。 電池の化学反応
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この単元では、イオン同士が結合する仕組みと、結合したイオンからなるイオン結晶について学ぶ。 生成されたイオンには大きく分けて陽イオンと陰イオンがあった。これらのイオンは静電気力(クーロン力)で引き合って結びつく。このようにしてできた結びつきをイオン結合という。例えば、陽イオンのNa+と陰イオンのCl-はイオン結合をしてNaCl(塩化ナトリウム)となる。 個体のNaClは、同じ数のNa+とCl-が交互に並んだ構造になっている(図を参照のこと。紫色の球はNa+を表し、緑色の球はCl-を表す。)。このように、多くの粒子が規則正しく配置されている個体のことを結晶といい、そのうち、イオン結合によるものをイオン結晶という。イオン結晶は、全体としては電気的に中性となる。イオン結晶を表すには組成式が用いられる。組成式は化学式の一種であり、同じく化学式の一種である分子式との違いは、物体がイオン結晶を取るか否かである。(つまり、H2Oは分子式であり、NaClは組成式である。)このような違いが存在するのは、分子には区切りがあるのに対し、イオン結晶には区切りがないためであり、イオン結晶を化学式で表すのに最小単位を取ろうとしたためである。  粒子同士の結合のうち、イオン結合は強い結合であるため、イオン結晶は融点が高く、硬い。しかし、外部からの力には弱い。これは、外部からの力によって結晶がずれ、陽イオンや陰イオン同士が隣り合うことで反発するためである。また、結晶のままでは電気は導かないが、水溶液にしたり、融解させると電気を導くようになる。 結晶を構成する粒子の規則正しい配列構造を結晶格子といい、この結晶格子の最小の繰り返し構造を単位格子という。右の図は、塩化ナトリウムNaClの単位格子を表しており、Cl-に最も近いNa+の数は6であり、このように、ある粒子に最も近いほかの粒子の数を配位数という。NaClにおけるNa+とCl-の配位数は、ともに6である。  図より、塩化ナトリウムの単位格子に含まれるイオンの数は、点に 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} 個、辺に 1 4 {\displaystyle {\frac {1}{4}}} 個、面に 1 2 {\displaystyle {\frac {1}{2}}} 個含まれているため、次のようになる。 Na+: 1 4 × 12 + 1 × 1 = 4 {\displaystyle {\frac {1}{4}}\times 12+1\times 1=4}   Cl-: 1 8 × 8 + 1 2 × 6 = 4 {\displaystyle {\frac {1}{8}}\times 8+{\frac {1}{2}}\times 6=4} よって、それぞれ4つづつあるので、イオンの数の比は Na+:Cl-=1:1 となり、組成式はNaClとなる。 金属結合では、原子は規則的に配列をして結晶を作る。金属の結晶の配列を結晶格子(crystal lattice)といい、その結晶格子の最小となる単位を単位格子(unit cell)という。 その結晶は主に3種類ある。列記すると、 である。 単位格子の中に1個の原子があり、単位格子の立方体の8頂点にあるそれぞれの原子は単位格子の中に 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} 存在する。 したがって、単位格子中の原子の数は 1 8 ⋅ 8 + 1 = 2 {\displaystyle {\frac {1}{8}}\cdot 8+1=2} 立法体の隅の原子は、格子に属する部分の大きさが球の 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} である。これが8か所ある 面の中央の原子は、大きさが、球の 1 2 {\displaystyle {\frac {1}{2}}} である。これが6か所ある。 したがって、単位格子中の原子の数は 六方最密構造の所属原子数は、図から分かるように、2個である。 結晶構造で1個の原子に最近接している原子が何個かを表した数を配位数(coordination number) という。結晶格子の種類によって配位数は決まる。配位数の計算では、単位格子の図では省略された隣の格子の近接原子の数も考慮しなければならない。 たとえば、面心立方格子では配位数は12である。 配位数の算出の数え方では、まず単位格子を見る。単位格子の図だけだと面心立法格子では、面の中心の原子には8個が近接しているが、この図はあくまでも単位格子だけの原子を表したものにすぎない。実際の結晶配列では、単位格子のとなりには同じ配列の格子が繰り返しているので、そのような単位格子の図では省略された近接原子の数も考慮しなければならない。図示で省略された分の近接原子数も数えると、省略された最近接原子は、4個である。 なので、配位数は となるので、面心立方格子の配位数は12である。 つぎに体心立方格子の場合に配位数を考えよう。 「体心」という名の通り、単位格子の立体の中心にある原子に注目する。 まず、他に格子の図上だけで見た、格子中央の原子の最近接原子数は8である。 つまり、体心立方格子の配位数は8である。 6角形の真ん中の原子に注目すると計算がラクである。 まず、単位格子図上では9個と接触している。(6角形の6個と、下の3個)。6角計の上の3個を足して、合計12個である。 よって六方最密構造の配位数は12である。 密度を求めるには、単位格子の1辺あたりの長さを知らなければならない。もし、原子半径 r と、単位格子の1辺あたりの長さ l には、図からわかるように、次の関係がある。 体心立方格子の場合、原子半径rと、単位格子の1辺あたりの長さ l との関係式は、図のように三平方の定理より、 よって である。 面心立方格子の、原子半径rと、単位格子の1辺あたりの長さ l との関係式は、三平方の定理より、 である。 単位格子中に原子の占める体積の割合を 充填率(じゅうてんりつ) という。充填率を計算で求めるには、定義どおりに、単位格子中の体積を、単位格子の体積で割れば、求まる。 まず、単位格子中の原子の体積は、以前の節で説明したように、原子2個ぶんの体積である。 つまり体積は、 である。 そして、 体心立方格子の場合の原子半径rと、単位格子の1辺あたりの長さ l との関係式は、前の節で計算したとおり、 なので、代入するなどして連立方程式を解けば、充填率が求まる。 よって体心立方格子の充填率は 68% である。 よって面心立方格子の充填率は 74% である。
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物質は温度・圧力によって物質の状態が変化する。物質自体は同じであり、状態だけ変わるので物理変化である。化学変化とは違うので注意すること。 どの物質にも、固体・液体・気体の3つの状態がある。これを 物質の三態(さんたい、three states) という。 一般に、物質の温度や圧力を変化させていくと、物質の状態が変わる。 物質の三態は、物質を構成する粒子の集合する状態によって決まり、粒子の熱運動の激しさと、分子に働く引力との関係によって決まっている。 ・固体から液体になる変化を融解、液体から気体になる変化を蒸発(気化)と呼ぶ。気体から液体になる変化を凝縮(液化)、液体から固体になる変化を凝固と呼ぶ。固体から気体になる変化を昇華、気体から固体になる変化を凝華という。 状態が変わっても物質の名前は変わらない。ただし例外として水(H2O)がある。水は固体を特別に氷、液体を水、気体を水蒸気と呼ぶ。また、液体窒素など慣用的に呼ばれるものもある。ただしどのような状態でも化学式は変わらない。 また、純物質において固体が液体になる温度は物質ごとに決まっており、その温度をその物質の融点と呼ぶ。同様に液体が気体になる温度をその物質の沸点と呼ぶ。大気圧での水の融点は0度、沸点は100度である。 ふつうの純物質は、温度と圧力が決まると、その状態が決まる。 温度と圧力によって、その物質がどういう状態をとるかを表した図を状態図(phase diagram)という。 図に、水の状態図と、二酸化炭素の状態図を表す。 図の中央付近にある3本の曲線が交わったところは三重点(triple point)といい、気体・液体・固体の状態が共存する。 なお、図中にある 1.013×105Pa は、大気圧である。図より、大気圧で水の融点は0℃、沸点は100℃であることが分かり、たしかに実験事実とも一致してる。 また、物質の温度と圧力を高めていき、温度と圧力がそれぞれの臨界点(critical point)を超える高温・高圧になると、その物質は超臨界状態(supercritical state)という状態になり、粘性が気体とも液体ともいえず(検定教科書の出版社によって「気体のような粘性」「液体のような粘性」とか、教科書会社ごとに記述が異なる)、超臨界状態は、気体か液体かは区別できない。 二酸化炭素の超臨界状態ではカフェインをよく溶かすため、コーヒー豆のカフェインの抽出に利用されている。 物質はどんなに冷却しても、-273.15℃(0K)までしか冷却しない。この温度のことを絶対零度(ぜったい れいど)という。(※ 詳しくは『高等学校物理/物理I/熱』で習う。)
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実際の気体はボイル・シャルルの法則は、高温・低圧の場合はよく当てはまるが、低温・高圧の場合には、ずれが大きくなってくる。ボイル・シャルルの法則が、厳密に成り立つ気体を考えると、計算の都合がいい。このような、ボイル・シャルルの法則が厳密に成り立つ想像上の気体のことを理想気体(ideal gas)という。現実の気体を実在気体という。 分子の大きさと分子間力を考慮して、理想気体の状態方程式を改良したファンデルワールスの状態方程式がある。 ファンデルワールスの状態方程式は、 である。a,bは定数であり、aが分子間力、bが分子の大きさを反映したものである。 まず式中のaの係数について考えよう。 係数の + n 2 v 2 {\displaystyle +{\frac {n^{2}}{v^{2}}}} が分かりづらいかもしれないが、プラス符号がついているのは、分子間力によって圧力が減少するからであり、そのためには、符号をプラスにする必要がある。 では、 + n 2 v 2 {\displaystyle +{\frac {n^{2}}{v^{2}}}} をどう解釈するかを述べる。 先に結論を述べるが、 である。 では、この結論を導く。 まず、このような気体中の、ある1つの分子に作用する分子間力の大きさは、その分子の近くにあるまわりの分子の数に比例するので、よって、ある1つの分子に作用する分子間力の大きさは、気体の濃度 c = n v {\displaystyle c={\frac {n}{v}}} に比例する。 そして、すべての分子が、このような分子間力を作用しあっている事を考慮する必要があるが、しかし分子間力の性質として、近くどうしの分子のみを考えれば充分なので、現実的には、単位体積中の分子数で計算する事になる。 単位体積中の分子数とは、つまり、その気体のモル濃度 c = n v {\displaystyle c={\frac {n}{v}}} である。 (なお、理想気体の式 pv=nRT は、 P = c R T {\displaystyle P=cRT} と変形できたことも、思い出そう。) 結局、 + n 2 v 2 {\displaystyle +{\frac {n^{2}}{v^{2}}}} は、単に、 という計算である。 さて、bの係数について考えよう。 ボイル・シャルルの法則 P V = n R T {\displaystyle PV=nRT} での体積Vとは、何かというと、これは気体分子が動ける空間である。だったら、それぞれの分子が動ける空間の体積は、その分子以外の他分子の体積を減算する必要がある。一般の気体の分子数は膨大なので他分子の数はn[mol]に比例すると見て良い。こうして、他分子の体積を減算した、気体分子が動ける分だけの体積 ( V − n b ) {\displaystyle (V-nb)} を考慮すればよい。 このような気体における、上述のようなファンデルワールス方程式のような実験結果をひきおこす分子間力の原因は何だろう? 読者の高校生は、化学Iで「ファンデルワールス力」を習ったと思う。 このファンデルワールス力こそが、このような実在気体での、分子間力の原因だと考えられてる。 分子や原子では瞬間的な分極が頻繁に起きていて、つまり、瞬間的に、プラス電荷とマイナス電荷が分子の両端に発生していて、ほかの分子と電気的な引力をおよぼしあっている、・・・というような説が、定説である。(量子力学などによるエネルギーの「ゆらぎ」が、その瞬間的な分極の起きる根拠とされている。) 分極の影響は、たとえば磁石なら遠くにいくほど、測定位置から両極の距離がほぼ同じになり、そして反対符号のN極とS極の磁力が打ち消しあうので、磁石全体の影響は逆2乗よりも急激に減少していく。このような原理で、分極では、遠くの物体の影響は無視できるのである。 反応しあわない分子式の異なる気体を混合させた複数種の気体を、一つの密閉した容器に混ぜた気体を、混合気体という。 混合して生じた混合気体の圧力を、その混合気体の全圧という。 例として、2種の気体Aと気体Bを混ぜた混合気体を考える。混合気体の各成分AとBをそれぞれ別に、Aだけにして同じ容器に同じ温度で入れた時の圧力を気体Aの分圧(ぶんあつ)という。同様に、気体Bを気体Bだけにしておなじ容器に同じ温度で入れたときの圧力を気体Bの分圧という。 気体Aの分圧を p A {\displaystyle p_{A}} として、気体Bの分圧を p B {\displaystyle p_{B}} とすると、全圧pと分圧の間に次の関係が成り立つことが知られている。 p = p A + p B {\displaystyle p=p_{A}+p_{B}} このような、「全圧は分圧の和に等しい。」という関係式をドルトンの分圧の法則という。 気体成分が3個以上の場合でも、同様の結果が成り立つ。3種の場合は、気体A,B,Cについて、全圧と分圧の関係は、 p = p A + p B + p C {\displaystyle p=p_{A}+p_{B}+p_{C}} である。気体成分の種類の数に関わらず、これらの「全圧は分圧の和に等しい。」という関係式をドルトンの分圧の法則という。 分圧の法則は、「混合気体でも、状態方程式が各成分単独の場合と同様に成り立つ」と仮定すれば、状態方程式から分圧の法則を導出できる。この法則は、気体成分の種類が何種類でも成り立つが、説明のため、気体成分は3種類と仮定しよう。混合気体の物質量について、以下のような関係が導出できる。 n = n A + n B + n C {\displaystyle n=n_{A}+n_{B}+n_{C}} これを示そう。まず、状態方程式より、全圧の状態方程式を表すと、 p v = n R T {\displaystyle pv=nRT} である。 このとき、分圧と物質量は、分圧の定義より、次の式になる。 p A v = n A R T {\displaystyle p_{A}v=n_{A}RT} p B v = n B R T {\displaystyle p_{B}v=n_{B}RT} p C v = n C R T {\displaystyle p_{C}v=n_{C}RT} これ等の3個の式を足し合わせると ( p A + p B + p C ) v = ( n A + n B + n C ) R T {\displaystyle (p_{A}+p_{B}+p_{C})v=(n_{A}+n_{B}+n_{C})RT} これを、pv=nRTで割ると、 p A + p B + p C p = n A + n B + n C n {\displaystyle {\frac {p_{A}+p_{B}+p_{C}}{p}}={\frac {n_{A}+n_{B}+n_{C}}{n}}} また、物質量の n {\displaystyle n} と、 n A + n B + n C {\displaystyle n_{A}+n_{B}+n_{C}} との関係は、質量保存の法則より、以下の関係が成り立つ。 n = n A + n B + n C {\displaystyle n=n_{A}+n_{B}+n_{C}} これより、 p A + p B + p C p = n A + n B + n C n = 1 {\displaystyle {\frac {p_{A}+p_{B}+p_{C}}{p}}={\frac {n_{A}+n_{B}+n_{C}}{n}}=1} つまり、 p A + p B + p C p = 1 {\displaystyle {\frac {p_{A}+p_{B}+p_{C}}{p}}=1} 両辺に分母を掛けて p A + p B + p C = p {\displaystyle p_{A}+p_{B}+p_{C}=p} これは、分圧の法則に他ならない。 かくして、ドルトンの分圧の法則は導出された。 混合気体の物質量の総和に対する、各成分の物質量の比をモル分率という。 たとえば、3種類の混合気体A,B,CにおけるAのモル分率は n A n {\displaystyle {\frac {n_{A}}{n}}} である。 同様に、Bのモル分率は、 n B n {\displaystyle {\frac {n_{B}}{n}}} である。 モル分率と全圧について、次の関係式が成り立つ。 各成分の分圧は、全圧にその成分のモル分率を掛けたものに等しい。 p A v = n A R T {\displaystyle p_{A}v=n_{A}RT} ・・・(1) p v = n R T {\displaystyle pv=nRT} ・・・(2) これより、(1)を (2)で割って、 p A p = n A n {\displaystyle {\frac {p_{A}}{p}}={\frac {n_{A}}{n}}} 分母の全圧pを両辺に掛ければ、 p A = p n A n {\displaystyle p_{A}=p{\frac {n_{A}}{n}}} となり、命題「各成分の分圧は、全圧にその成分のモル分率を掛けたものに等しい。」を状態方程式から導出できた。以上。 水素H2などを水上置換法で集める場合を考える。水上置換法で集められる気体は、水蒸気の混じった混合気体である。捕集した気体の圧力には、水蒸気の分圧が含まれている。 この例の水素の場合、水素のみの分圧を求めたい場合は、捕集した気体の全圧から、水蒸気の分圧を差し引く必要がある。 つまり水素の分圧 p H 2 {\displaystyle p_{H_{2}}} は、全圧 P {\displaystyle P} から水蒸気の分圧 p H 2 O {\displaystyle p_{H_{2}O}} を差し引いた値になる。 p H 2 = P − p H 2 O {\displaystyle p_{H_{2}}=P-p_{H_{2}O}} 大気圧下での水蒸気圧については表などで与えられるので、それを利用する。なお、参考値を言うと、温度t=27℃で、水蒸気圧は、およそ3.6kPa、あるいは単位を変えれば27mmHgである。 酸素と窒素のまじった大気中の空気などのように、2種類以上の気体が混在してる時、この混合気体を、仮に1種類の気体からなると仮定して、その気体の分子量[mol]を算出したものを平均分子量という。たとえば、空気は混合気体であり、主成分の窒素と酸素の物質量[mol]の割合が、 窒素:酸素=4:1 であるが、モル質量が窒素28g/molであり、酸素は32g/molなので、空気の平均分子量は 28.0[g/mol] × 4 5 {\displaystyle {\frac {4}{5}}} + 32.0[g/mol]× 1 5 {\displaystyle {\frac {1}{5}}} = 28.8[g/mol] となる。 実際にはアルゴンやニ酸化炭素なども含まれているので、これより少し式や値は変わるが、ほとんど同じ値になる。 以上の例では、大気中の空気を例に平均分子量を解説したが、なにも空気で何くても平均分子量は必要に応じて定義される。
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水 H2O に、塩化ナトリウム NaCl を、混ぜると、塩化ナトリウムは水中に拡散していき、やがて肉眼では見えなくなる。そして、混ぜた食塩の量が少なければ、水中にも食塩は沈殿しない。このように、液体に混ぜた物質が、沈殿や凝集物を作らず、液中に拡散することを溶解(dissolution)という。そして、水のように他のものを溶解する物体を溶媒( solvent)という。塩化ナトリウムのように溶けた側の物質を溶質( solute)という。 溶媒が液体の場合に、溶解によって生じた均一な混合液体を溶液(solution)という。 この例の場合は、食塩の量をもっと増やすと、やがて、かき混ぜても、溶けきらずに、時間が経てば底に食塩の沈殿が貯まるようになる。 このように、一定量の溶媒に溶ける溶質の量には限度がある。この溶ける限度の限界まで、溶質が溶けている状態の溶液を飽和溶液(saturated solution)という。これに対して、溶質がまだ溶ける溶液を不飽和溶液という。 塩化ナトリウムNaClを水に溶かすと、ナトリウムイオンNa+と塩素イオンCl-のような、正負のイオンに分かれる。このように溶解の際に、イオンに分かれる現象を電離(でんり, ionizasion)という。そして、水に解けて電離する物質を電解質(でんかいしつ, electrolyte)という。 グルコースの溶液は、水に溶けても電解しない。このような水に溶けても電解しない物質を非電解質という。 電解現象と溶解とを混同しないように注意しよう。 電解質のうち、塩化ナトリウムの水溶液と、酢酸の水溶液との比較をすると、酢酸は溶解をするし電離もするが、塩化ナトリウムよりも電離しづらいことが分かっている。 電解質のうち、塩化ナトリウムのように電離をしやすい物質を強電解質という。酢酸のように、溶液中のイオンの電離が弱いが、電離をしている物質を弱電解質という。 水分子の酸素原子が分子中の電子を引き付けるため、酸素原子は負の電荷を帯び、水素原子は正の電荷を帯びる。このような分子を極性分子(polar molecule)という。 塩化ナトリウムを水に入れると、電離したそれぞれのイオン原子1個ずつについて、ナトリウムイオンNa+は水分子の陰性の酸素原子と引き合い、塩素イオンCl-は水分子の陽性の水素原子と引き合う。その結果、イオン原子は、周囲を水の分子によって囲まれる。 このように、溶質原子が水分子によって取り囲まれる現象を水和(すいわ, hydration)という。溶媒が水でない場合には、イオンが溶媒に取り囲まれるこのような現象は、溶媒和(solvation)と呼ばれる。 食塩の水和では、ナトリウムイオンでは隣に水分子の酸素原子の側が来る。塩素イオンでは、隣に水分子の水素原子の側が来る。 水和しているイオンを水和イオン(hydrated ion)という。 エタノールC2H5OHやグルコースC6 H12 O6 などは水に良く溶ける。このエタノールの分子は、分子中にヒドロキシ基 OH を持つ。エタノールでは、このヒドロキシ基の部分が、水分子と水素結合を生じて、エタノール分子が水和をする。グルコース分子も、実はヒドロキシル基を持っており、このヒドロキシ基の部分が、水分子と水素結合を生じて、グルコース分子が水和をする。 このエタノール分子中のヒドロキシ基のように、水和されやすい原子団の部分を親水基(しんすいき, hydrophilic group)という。水和されやすい性質を親水性(hydrophilicity)という。 これに対して、ベンゼンC6H6などは水に溶けない。このような分子は極性をもたない無極性分子である。一般に、親水基を持たない無極性分子は、水には溶けない。 また、エタノール分子中のエチル基C2H5の部分は、極性を持たず、この部分は水和には寄与していない。この分子の他にも、一般の炭化水素CmHnは無極性で、水和には寄与しない。このような、炭化水素のみからなりエタノールと違って親水基を持たない炭化水素分子は水和されにくい。このような親水性をもたない原子団を疎水基(そすいき, hydrophobic group)という。水和されにくい性質を疎水性(hydrophobicity)という。 無極性分子からなるヨウ素I2やナフタレンC10 H8 は、無極性分子の液体であるベンゼンC6 H6や、四塩化炭素CCl 4 (テトラクロロメタン)には、よく溶ける。 このように無極性分子の物質は、無極性分子の液体に溶けやすい。いっぽう、極性分子の物質は、極性分子からなる水に溶けやすいのであった。 これらのように、一般に極性の似ている分子は溶けあいやすい。 ある一定の温度で、ある一定の質量の溶媒に対して、溶質を溶かして、溶質が溶けきる最大限の飽和溶液を得た場合、その飽和溶液に溶けている溶質の量を溶解度(solubility)という。つまり、溶解度とは、未混合の溶媒に対して、「この溶媒は、これから、どれだけの溶質を溶かせるか」という能力のことである。溶解度と濃度とは、別の概念なので、混同しないように。 溶解度の数値の表し方は、2種類ある。 一般的なのは、溶媒の質量100gに対して、溶かせる溶質の質量の割合[g/100g]、またはその溶質の質量[g]で定義する方法である。 溶解度の単位は、無次元で表す場合もあるが、無次元だと状況が分かりづらいという考えのもと、[g/100g]や、[g]などと表す場合もある。 溶解度は、溶媒の温度によって変化する。溶媒が水の水溶液の場合、水の温度によって、溶解度は変化する。 水に溶かす溶質では、一般に水の温度が高まるほど、ほとんどの溶質で、溶解度は高まる。ただし、例外的に水酸化カルシウムCa(OH) 2など、いくつかの分子では、温度上昇によって溶解度が下がる物質もある。 溶解度の温度変化をグラフで表したものを溶解度曲線(solubility curve)という。 不純物の混ざった混合物の固体に対して、その各成分の溶解度が大きく異なる場合は、その混合質を、熱した溶媒に飽和するまで溶かし、飽和後に冷却をしていけば、溶解度の小さい物質の側から先に、結晶が析出をしていくので不純物を取り除ける。このように、何らかの方法で溶質の結晶を析出させて不純物を取り除き精製する方法を再結晶法(recrystallization)という。 「再結晶」という語について、この例では、水溶液を用いた再結晶を紹介したが、「再結晶」とは、なにも水溶液にかぎらず、何らかの方法で結晶をいったん溶解または溶融させて、そのあとに結晶を析出させてえられた結晶ならば、一般に再結晶という。 なお、溶媒を冷却していく時に、あらかじめ他の実験で得られた、その物質の、平均的な溶解度を超えるまで冷やしても、析出しない場合がある。このように通常の溶解度を超えて溶質を含んでいる状態を過飽和(かほうわ, supersaturation)という。溶質を溶解度よりも過飽和に含んでいる溶液のことを過飽和溶液という。過飽和の状態は不安定であるので、過飽和溶液の場合は、少量の撹拌や振動などが加わるだけで、結晶の析出を始める。 溶質の種類によっては、再結晶法で結晶分子中に水分子が化合した結晶が得られる場合がある。このように結晶分子と化合している水を結晶水あるいは水和水という。結晶水は、加熱などによって除去できる場合が多い。 結晶から水和水を除去することを無水化などという。無水化して得られた結晶水を含まない固体を無水物(むすいぶつ, anhydride)という。 結晶が水和水を含む物質に対する溶解度の定義は、無水物の質量を、溶質の質量とみなして、溶解度を定義する。 砂糖水や食塩水は、100℃にしても沸騰しない。 不揮発性の溶質を溶媒に溶解させると溶液の沸点が上昇する現象を沸点上昇(boiling-point elevation)という。 純溶媒の沸点t1 [K]と溶液の沸点t2[K]との沸点の差Δtb=t2- t1 [K] を沸点上昇度(boiling-point elevation constant)という。 水が蒸気になる時に、水に溶けていた溶質は蒸気からは追い出され、蒸気には溶質は混じらない。このときに、溶質を追い出すためには、蒸気にエネルギーを与えなければならない。その結果、溶質がなかった場合より、高い温度にしないと沸騰しないのである。 沸点上昇Δtb は質量モル濃度c[mol/kg]に比例するので、式で書けば、 である。 なお、「質量モル濃度」とは、その溶媒 1kgあたりに溶けている、溶質のモル数のことである。 なお、沸点上昇度Δtbの比例係数をKb とした。比例係数Kb の単位は、[K/(mol/kg)]つまり[K・kg/mol]で定義される。この比例係数Kb [K・kg/mol]をモル沸点上昇(molal boiling-point elevation constant)という。 真空ポンプなどで水が入った溶液の周囲の気体を減圧していくと、100℃にならなくても沸騰する。このときの気体圧を飽和蒸気圧(saturated vapor pressure)という。この飽和蒸気圧が、溶液では下がり、より減圧しないと沸騰しなくなる。このことを蒸気圧降下(vapor pressure depression)という。 砂糖水や食塩水を冷やしても0℃では凍らない。このように不揮発性の溶質を溶媒に溶かすと溶媒の凝固点が下がる。 水が氷になる時に、溶質を追い出す。このときに、溶質を追い出すためには、溶質の動きを押さえなければならない。その結果、溶質がなかった場合よりも低い温度にしないと氷にならないのである。 不揮発性の溶質を溶媒に溶解させると溶液の凝固点が下がる現象を凝固点降下(freezing-point depression)という。 純溶媒の凝固点t1 [K]と溶液の凝固点t2[K]との凝固点の差Δtf=t1- t2 [K] を凝固点降下度(freezing-point depression constant)という。 凝固点降下度は質量モル濃度 m [mol/kg] に比例するので、凝固点降下度 Δtf の比例係数を Kf としたとき、つまり の比例係数 Kf の単位は、 [K/(mol/kg)] つまり [K・kg/mol] で定義される。この比例係数 Kf [K・kg/mol] をモル凝固点降下(molal freezing point depression constant)という。 右図のように、冷却による温度変化と時間との関係をあらわしたグラフのことを冷却曲線という。 液体を冷却していって凝固点になっても、すぐには凝固しない。この状態を過冷却(かれいきゃく、supercooling)という。 冷却が進んで凝固点よりも少し温度が下がってから、凝固点まで温度が上がり、凝固が始まる。 凝固点降下と過冷却の関係は、右図のグラフのようになる。 セロハンは、水分子など小さな分子は通すが、スクロース分子などの大きな分子を通さない。このように、分子サイズの小さな分子を通し、分子サイズの大きな分子を通さない膜を半透膜(semipermeable membrane)という。 半透膜には、セロハン膜の他にも、動物の膀胱膜(ぼうこうまく)や、セルロースを硝酸でニトロ化した化合物の一種のコロジオン(collodion)という物質から作られるコロジオン膜や、生物の細胞膜がある。 ろ紙はセルロースなどの溶質を通してしまうため、ろ紙は半透膜ではない。 U字管の下部を半透膜で仕切って、片側に純水を入れ、もう片方にスクロース溶液を入れると、純水の一部がスクロース溶液の側に移動して、純水の液面が下がる。この現象を浸透という。このように両溶液に濃度差がある場合は、溶液を薄めて濃度差を無くそうとする力が働くので、この濃度差を無くそうとする力を浸透圧(osmotic pressure)という。 両液の水位を等しくするには、スクロース水溶液に圧力を加えないといけない。この圧力の大きさを浸透圧の大きさとする。 浸透圧を数値化する際や数式化する際に、純水を基準にして、純水と溶液との浸透圧を、単に浸透圧と言って用いる場合が多い。 絶対温度Tで、濃度c[mol/L]の溶液の浸透圧Π[Pa]は、気体定数をRとして、 Π = cRT であることが知られている。 モル濃度c[mol/L]は、溶液中のモル数をn[mol]として、その体積をV[m3]とすれば、 である。(1L=1000cm3なので、モル濃度を体積に換算できる。) これを浸透圧の公式に代入して、 という式が得られる。このように、気体の状態方程式 PV = nRT と似た形の式が得られる。この ΠV = nRT の式を浸透圧に関するファントホッフの式という。 直径がおよそ10-9mから、10-7mの粒子をコロイド粒子(colloid)という。デンプンはコロイド粒子である。 コロイド粒子はろ紙を通過できるが、半透膜を通過できない。 コロイド粒子が液体中に均一に分散している液をコロイド溶液という。 コロイド粒子を分散させている液体を分散媒( disperse medium)といい、コロイド溶液中のコロイド粒子を分散質( dispersoid)という。 セッケン分子は、親水性の水に水和しやすい部分と、疎水性の水とは水和しない部分とからなる。 疎水性の部分が、まるで疎水コロイドと同じように集まり、その結果としてセッケン分子は数百個ほど集まる。しかし、分子に親水性の部分があるので、まるで保護コロイドのように、セッケン分子は沈殿せず、コロイド溶液であり続ける。 このセッケン分子が凝集する際、親水性の部分を外側に向けて集まり、疎水性の部分は内側に向けて集まる。 セッケン分子の集合体のように、親水基と疎水基を持つ分子が、親水基を外側に向けて集合したものをミセルという。 このようなコロイドを会合コロイド(association colloid)という。会合コロイドは親水コロイドの一種に分類される。 デンプンやタンパク質の分子は大きく、分子1個でコロイド粒子として存在する。このようなコロイドを分子コロイド(molecular colloid)という。 溶媒には本来溶解しない不溶性物質が細かく分散される事によって構成されるコロイド。 炭素や水酸化鉄など疎水コロイドの多くを占める。 沸騰している水に、塩化鉄FeCl3 を少量ほど加えると、赤色の水酸化鉄Fe(OH)3 のコロイド溶液ができる。 Fe(OH)3 は水に不溶であり、これのコロイド溶液は不溶のFe(OH)3 が水に分散したものである。このような不溶の物質が分散したコロイド溶液を分散コロイド(dispersion colloid)という。 U字管にコロイド溶液を入れ、電極を用いて、直流電圧を掛けておくと、コロイド粒子はいっぽうの電極の側に移動する。 電気を用いて液体の中から特定の粒子を移動させる現象を電気泳動(electrophoresis)という。 このことから、コロイド粒子は電荷を帯びている事が分かる。コロイド粒子は溶液ごとに、正または負の電荷を帯びている事が分かる。 水酸化鉄 Fe(OH)3 は正に帯電している。コロイド粒子が正に帯電している場合を正コロイド (positive colloid)という。また水酸化アルミニウムAl(OH)3は正に帯電している。水酸化アルミニウムも正コロイドである。 一般に金属の水酸化物と液体との混合物がコロイド溶液になる場合は、正コロイドであることが多い。 負電荷び帯電するコロイドを負コロイド(negative colloid)という。負コロイドの具体例は、粘土、イオウS、CuS などの金属硫化物、デンプン,Au, Ag, Pt, などである。 コロイドが沈殿しないのは、この帯電によって、互いの粒子どうしを反発させているからである。 では、なぜコロイドが電荷を帯びるのか。水酸化鉄Fe(OH)3のコロイドが正に帯電するのは、化合物中のOH基の部分が、溶液中の陽イオンのH+あるいはFe+を吸引しやすいからだと考えられている。 セッケンのコロイドでは、コロイド粒子そのものがイオン化している。 セッケンは と電離する。 水酸化鉄Fe(OH)3 のコロイド溶液に、少量の電解質を加えるとコロイドが沈殿する。 粘土のコロイド溶液に電解質を加えても同様に沈殿をする。 水酸化鉄は正コロイドであり、粘土は負コロイドであることから、この沈殿現象はコロイドが正負どちらの電荷でも生じる。 少量の電解質で沈殿するのは、最初に加えた電解質によって、コロイド粒子に反対符号のイオンが吸着し、その結果、分子間力が増えた結果、凝集しあって沈殿するからである。 このように少量の電解質で沈殿するコロイドを疎水コロイド(hydrophobic colloid)という。疎水コロイドが少量の電解質で沈殿する現象を凝析(ぎょうせき, flocculation)という。 海水の陽イオンによって粘土のコロイドが凝集する。これは地理で習う三角州の形成の原因である。 いっぽう、デンプンやタンパク質のコロイドは、多量の電解質を加えないと沈殿しない。このデンプンやタンパク質の化学式を見ると、-OH基や-COOH基や-NH2基などの基がある。これらは水と吸着しやすい親水性の原子団の親水基である。 このため、沈殿させるには、水との吸着を無くすために多量の電解質を加えて、溶液全体のイオンにおける、水の影響を薄めて吸着を無くさなければならない。電解質を加えても溶液全体の電荷の合計自体は同じだが、水素結合は、他の結合よりも強いことを思いだそう。 デンプンやタンパク質などのように、水和しているコロイドを親水コロイドという。 親水コロイドに多量の電解質を加えて沈殿させることを塩析(えんせき, salting out)という。 電気泳動に関して、親水コロイドは水和のため、疎水コロイドと比べて、親水コロイドは移動速度が小さい。 疎水コロイドと親水コロイドとを混ぜたコロイド溶液は、どういった特性を持つだろうか。 疎水コロイドが、電解質を加えても沈殿しにくくなる。 親水コロイドは疎水コロイドと吸着しても、親水コロイドの親水性のため、少量の電解質を加えても親水コロイドは沈殿しない。その親水コロイドと吸着した疎水コロイドは、吸着している親水コロイドが少量の電解質では沈殿しないため、一緒の疎水コロイドも少量の電解質では沈殿しない。 このように親水性の高い親水コロイドとの吸着を仲立ちとして疎水コロイドが沈殿しづらくなる現象を、親水コロイドによる保護あるいは保護作用といい、この親水コロイドによる疎水コロイドの保護を目的として加える親水コロイドを加えた場合、その親水コロイドを保護コロイドという。 保護コロイドの例として、タンパク質の一種であるゼラチンや、墨汁に含まれるニカワなどがある。 ゼラチンもニカワも親水コロイドでもある。 インキに含まれるアラビアゴムも保護コロイドである。ゴムというと、つい連想で輪ゴムのような固体状のものを連想しがちかもしれないが、このアラビアゴムの純物質は、多糖類であり、水溶性が高い親水コロイドである。 ゼラチンのコロイド溶液を冷やすと固体状に固まる。寒天のコロイド溶液を冷やすと固体状に固まる。 このようにコロイド溶液が冷えて固まったものをゲル(ドイツ語:Gel)という。 ゲルを乾燥させたものをキセロゲル(xerogel)という。高野豆腐やシリカゲルは、キセロゲルである。 乾かした寒天やゼラチンなどもキセロゲルである。キセロゲルを水につけると水を吸って膨らむ。これを膨潤(ぼうじゅん)という。 コロイド溶液とも言う。 コロイド粒子が分散している流動性のある溶液のこと。 コロイド粒子が光を散乱させ、光の通路が輝いて見える現象。 コロイド粒子が、熱運動する分散媒粒子に衝突されて行う不規則な運動。 水50mLとエタノール50mLを混ぜると、合計の容積は97mLになり、単独の液体の体積の単純な和よりも小さくなる。 これは、エタノール分子の方が水分子より大きいため、エタノール分子の間に水分子が入り込んでいるためである。
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化学反応や状態変化に伴って熱エネルギーの出入りが起こる時の熱のことを反応熱(heat of reaction)という。反応熱には燃焼熱、溶解熱(heat of dissolution)、中和熱(heat of neutralization)、生成熱、融解熱、蒸発熱(heat of evaporation)、昇華熱などがある。熱量の単位にはJ(ジュール)を使う。反応熱の表記は、1molあたりの熱量(単位はkJ/mol)で表すことが多い。 化学反応式の右辺に反応熱を記し、両辺を等号で結んだ式を熱化学方程式(thermochemical equation)または熱化学反応式という。 たとえば、炭素(黒鉛)の1molを燃焼させた場合の熱化学方程式は次のようになる。 水素を燃焼させた場合、次のようになる。 反応熱は、上の式のように右辺に表す。 反応熱を測定するには、外部からの熱の出入りのない断熱した容器が必要である。反応熱などの熱量を測定するための測定器を熱量計という。反応熱の熱量計には、燃焼熱測定用のボンベ熱量計や、溶解熱測定用熱量計などがある。 ボンベ熱量計の測定原理は、試料を燃焼させた後に、容器内の水の温度変化を測定することで燃焼熱を測定する方式である。 図のように、固体の水酸化ナトリウムから塩化ナトリウムを生成する反応には2つの経路があるが、どちらの経路で合成を行っても、出入りする熱量(反応熱)の総和は同じである。 化学反応の反応熱は、反応途中の経過には影響しない。反応の始めの状態と反応の終わりの状態によってのみ、反応熱が決定する。このことをヘスの法則という。 水素分子1molに432kJのエネルギーを与えると、結合を切り離すことができる。この結合を切り離すのに必要なエネルギーは、結合の強さを表すと考えて、この結合の切り離しに要したエネルギーを結合エネルギー(bond energy)と言う。結合エネルギーは1molあたりのエネルギーで示されるのが通常である。 たとえば水素の結合の切り離しを熱化学方程式で表すと、以下の様になる。 検定教科書では、よく練習問題で、COの生成熱を求めさせる問題が出題される。 解法は、図より よってCOの生成熱は 111 kJ/mol である。 気体や液体、固体などといった状態変化も同様に、経路によらず、発生する熱量の総和は一定である。 同じ結合でも、周辺の分子の配置や数によって、すこしだけ結合エネルギーが変わってくる。そのため、正確な結合エネルギーの値は、分子ごとに違ってくる。高校では、ふつう、これら周辺分子の影響は扱わないので、無視してよい。 以上の表での結合エネルギーは、おおよそのエネルギーであり、正確なエネルギーの値は分子ごとに違うので、学校のテスト問題などを解くときは問題文を参照のこと。 3個以上の分子は、結合の数が複数になる。この分子の全ての結合を切り離すのに必要なエネルギーを解離エネルギー(bond dissociation energy)という。通常は1molあたりの切り離しのエネルギー量で解離エネルギーを表す。 解離エネルギーは、その分子の持つ全ての結合の結合エネルギーの総和である。H2やO2などの結合を一個しか持たない分子では、結合エネルギーの値と解離エネルギーの値は一致する。 反応熱や生成熱は、反応の前後の物質の結合エネルギーが分かっている場合は、計算で求められる。その物質の、反応後の結合エネルギーの総和から、反応前の結合エネルギーの総和を引いた値で、反応熱を近似できる。 「近似」といったのは、分子間引力などの、結合の変化以外にもエネルギーが使われる場合があるからである。 である。 (※ 数研出版の教科書、第一学習社の教科書などで紹介されている。) 金属結合や、イオン結合の結晶、共有結晶(ダイヤモンド)などの、結晶を構成するために必要とされるエネルギーのことを「格子エネルギー」という。この格子エネルギーは直接には測定できないので、ヘスの法則で間接的に求める。 化学の用語で、「エンタルピー」というのがあるのだが、これは何かというと、エンタルピーとは、内部エネルギーUに、圧力Pと体積Vの掛け算 PV を足したもののことである。 物理学では、加えた熱エネルギーをQとすると、熱は物質内部に内部エネルギーUとして蓄えられて内部エネルギーの変化分ΔUに寄与するか、または体積変化による膨張の力学的仕事 PΔV を行うので、 のような公式が(物理学では)知られている。 さて、あまり学問的には深い意味が無いのだが、たいていの化学反応の実験では、普通、圧力が一定なので、 となる。 熱力学の別の理論で、もともとエンタルピーHという物理量があり、 と定義されている。これを差分形を下記のように式変形すると、 と式変形できるので、 もし圧力一定の環境なら、 とも表せる。 だが、あくまでも、圧力一定の環境でしか成り立たないので、あまり、この式に深い意味は無い。 なので、たとえば右に再掲したヘスの図の表などでは、縦軸の「エネルギー」のところを、「エンタルピー」と書いてもいい。
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金属の水または水溶液中での、陽イオンへのなりやすさをイオン化傾向(ionization tendency)という。 硫酸銅 CuSO 4 {\displaystyle {\ce {CuSO4}}} 水溶液に亜鉛板Znを入れると、亜鉛の表面に銅が付着する。これは、亜鉛Znは銅Cuよりもイオン化傾向が大きいため、 Zn {\displaystyle {\ce {Zn}}} がイオン化し、 Cu {\displaystyle {\ce {Cu}}} の単体が析出したためである。 銅と銀のイオン化傾向を比べるために、硝酸銀AgNO3の溶液に銅板を入れる。すると、銅板の表面に銀が析出する。いっぽう、銅は陽イオンとなり溶ける。この銅イオンのため溶液はしだいに青くなる。以上の変化を反応式で書くと、 なお、この反応で生じた銀を、生じ方が樹木が伸びるように析出した銀が伸びることから銀樹(ぎんじゅ)という。 また、硫酸銅 CuSO4 の溶液に銀板Agをいれても、変化しない。 これらのことから、銅は銀よりもイオン化傾向が大きいことがわかる。 さまざまな溶液や金属の組み合わせで、イオン化傾向の比較の実験を行った結果、イオン化傾向の大きさが決定された。 イオン化傾向の大きい金属を並べた金属のイオン化列は、以下のようになる。 水素は金属では無いが比較のため、イオン化列に加えられる。金属原子は他にもあるが、高校化学ではこの金属のイオン化列がよく使われる。 語呂合わせとして、 「リッチにかそうかな、まあ、あてにすんな、ひどすぎるハク金」 がある。 二種類の金属単体を電解質水溶液に入れ、極間を導線でつなぐと電池ができる。これはイオン化傾向が大きい金属が電子を放出して陽イオンとなって溶け、電子が導線を伝って、水溶液中のイオン化傾向の小さい金属のイオンが電子を得て析出するためである。 電子の流れ出す側の電極の金属を負極(negative electrode)という。電子を受け取る側の金属の電極を正極(positive electrode)という。 正極と負極の電位差を起電力という。正極で還元される物質を正極活物質、負極で酸化される物質を負極活物質という。 亜鉛板Znを入れたZnSO4水溶液と、銅板Cuを入れたCuSO4水溶液を、両方の溶液が混ざらないように素焼き板(溶液は混合しないがイオンは通過できる)などで区切った電池をダニエル電池(Daniell cell)という。素焼き板の間をSO42-が亜鉛板側に移動する。CuSO4水溶液は濃く、ZnSO4水溶液は薄い方がよい(Znの溶出が進み、Cuの析出が進む方向)。 陽極(負極)での反応 陰極(正極)での反応 電池式:(-) Zn| ZnSO4aq | CuSO4aq |Cu (+) 起電力:1.1 V 電池の電解液は液体なので、そのままでは持ち運びに不便である。電解液を糊状にして携帯できるようにした電池を乾電池(dry cell)という。 代表的な乾電池にマンガン乾電池(zinc–carbon battery)がある。 電池式:(-) Zn | ZnCl2aq, NH4Claq | MnO2,C (+) 起電力:1.5 V 反応式は、負極では亜鉛が以下のように反応して溶け出る。 正極の炭素棒は電子を媒介するだけで、炭素は反応しない。電子を受け取るのはMnO2である。 ダニエル電池や乾電池は、使用していると、だんだん起電力が低下し、再び電池として使えるようにすることは出来ない。このような電池を一次電池(primary cell)という。充電によって、放電時との逆反応が起こし、繰り返して使用できる電池を蓄電池または二次電池(secondary cell)という。 電池から電流を取り出している状態を放電(discharge)という。 鉛蓄電池は代表的な二次電池で、自動車のバッテリーなどに利用される。 電池式:(-) Pb | H2SO4aq | PbO2 (+) 起電力:2.1 V 放電 放電時の反応は、 負極: Pb + SO 4 2 − ⟶ PbSO 4 + 2 e − {\displaystyle {\ce {Pb + SO4^2- -> PbSO4 + 2e^-}}} 正極: PbO 2 + 4 H + + SO 4 2 − + 2 e − ⟶ PbSO 4 + 2 H 2 O {\displaystyle {\ce {PbO2 + 4H^+ + SO4^2- + 2e^- -> PbSO4 + 2H2O}}} である。放電では、正極と負極の両方に、 PbSO 4 {\displaystyle {\ce {PbSO4}}} が付着する。電解液である硫酸は消費され、硫酸の濃度は低下していく。 充電時は放電の逆反応が起こる。 負極: PbSO 4 + 2 e − ⟶ Pb + SO 4 2 − {\displaystyle {\ce {PbSO4 + 2e^- -> Pb + SO4^2-}}} 正極: PbSO 4 + 2 H 2 O ⟶ PbO 2 + 4 H + + SO 4 2 − + 2 e − {\displaystyle {\ce {PbSO4 + 2H2O -> PbO2 + 4H^+ + SO4^2- + 2e^-}}} 鉛蓄電池の反応をまとめると次のようになる。 Pb + 2 H 2 SO 4 + PbO 2 ⇌ c h a r g e d i s c h a r g e 2 PbSO 4 + 2 H 2 O {\displaystyle {\ce {Pb + 2H2SO4 + PbO2 <=>[{discharge}][{charge}] 2PbSO4 + 2H2O}}} 放電時は、極板の質量が増加し、硫酸の濃度が減少する。 充電時は、極板の質量が減少し、硫酸の濃度が増加する。 水素などの陽極の燃料を、触媒を用いてイオン化させ、余った電子を取り出す電池。陽極の燃料が水素の場合は、陰極で酸素および回収した電子と反応し水になる。 様々な方式の燃料電池がある。 リン酸型燃料電池の場合、 電解質にリン酸水溶液を用いている。負極に水素を供給する必要があり、正極に酸素を供給する必要のある電池である。 負極で起きる反応は、 である。負極で生じた水素イオンが電解質を移動し、反対側の正極にまで達し、つぎの反応が起きる。 つまり、水素イオンが酸素によって酸化したわけである。つまり、水素イオンが燃焼したわけである。 この方式の燃料電池の反応式については、高校生はとりあえず、負極で水素が反応して水素イオンが発生することを、覚えておけばよい。そして、正極では酸素と反応して水が生じることを覚えておけばよい。 起電力は約1.2Vである。このリン酸型燃料電池は、酸素の酸化によって生じたエネルギーの一部を、電気エネルギーにしている装置として、解釈できる。 水の電気分解の、逆の原理であると、解釈してよい。 なお、正極と負極は多孔質になっており、水素や酸素を通過させられるようになっている。 この燃料電池の生成物が水なので、環境にやさしいと考えられおり、開発が進められていて、一部は実用化もしている。 また、反応源の水素を発生するためにも、電気分解などの電力エネルギーなど、なんらかのエネルギーが必要なことから、この電池は、水素のエネルギーを電気エネルギーに変換している装置として、解釈もできる。 アルカリ型燃料電池とは、電解質に水酸化カリウム KOH などを用いる方式である。 他に、固体高分子型や固体酸化物型などがある。 リチウムイオン電池は軽く、起電力が大きいので、携帯電話やノートパソコンなどに幅広く利用されている。 実用電池には上述した乾電池や鉛蓄電池の他にも、さまざまな電池があるが、イオン化傾向を利用しているということなどの基本的な仕組みは、あまり変わらない。 その他の実用されている化学電池には、 などがある。 銀電池は電圧が安定しているため、時計や電子体温計などに用いられる場合が多い。 リチウムは水と反応するので、電解質に水を使うことができない。このため、エチレンカーボネートなどの有機物を電解に用いる。 リチウム電池は長寿命のため、時計や電卓、心臓用ペースメーカなどに用いられている。 空気電池は軽量なので、よく補聴器に用いられている。購入時には、空気の侵入をふせぐシールが貼られている。使用し始める際には、シールをはがす。シールをはがすと放電が始まる。はがしたシールを貼り直しても、保存は効かない。 ニッケルカドミウム電池は電動工具などによく利用されている。カドミウムの有害性の問題があるので、生産量は減少しており、代替品としてニッケル水素電池に置き換えられていっている。 負極の水素吸蔵合金は、結晶格子の間に水素を取り込め、必要に応じて取り込んだ水素を放出できる。ニッケル水素電池は自動車のハイブリッドカーのバッテリーに用いられる。なお、水素記号のことを記号でMHと表す場合もある。 ボルタ電池 ボルタ電池は教科書では次のような説明がされるが、不正確な部分があるため、定期試験で出題されない限りは、覚える必要はない。 負極(亜鉛板)での反応 正極(銅板)での反応 ボルタの電池では、得られる両極間の電位差は、1.1Vである。起電力は、両電極の金属の組み合わせによって決まる物質固有の値である。 ボルタの電池の亜鉛板で起きている反応は、電子を放出することから酸化反応である。また銅板で起きている反応は、電子を受けとっているので還元反応である。 ボルタ電池の構造を以下のような文字列に表した場合、このような表示を電池図あるいは電池式という。 aqは水のことである。H2SO4aqと書いて、硫酸水溶液を表している。 ボルタ電池では、正極の銅板で発生する水素が銅板を包むので、銅板と溶媒とのあいだの電子の移動が妨げられる分極が起きる。このような分極を防ぐために酸化剤を溶液に加える。この分極を防ぐ目的で加える酸化剤を減極剤という。減極剤としては過酸化水素水 H2O2,またはMnO2,またはPbO2を使用する。 電解質の水溶液に、電極を2本入れて、それぞれの電極に、外部の直流電源から電気を通じると、各電極で水溶液中の物質に化学反応を起こせる。これを電気分解という。 電気分解で、直流電源の負極につないだ側の電極を陰極という。 電気分解で、直流電源の正極につないだ側の電極を陽極という。 陰極の電荷は、電源の負極から電子が送られてくるので、陰極は負電荷に帯電する。いっぽう、陽極の電荷は、正電荷に帯電する。 なお、電気分解の電極には、化学的に安定な白金 Pt や炭素 C などを用いる。 電気分解のさい、陽極では酸化反応が起こり、陰極では還元反応が起こる。 この電気分解の実用例として、金属の精錬に利用されている。 陰イオンのイオン化傾向は NO 3 − > SO 4 2 − > OH − > Cl − > Br − > I − {\displaystyle {\ce {NO3^- > SO4^2- > OH^- > Cl^- > Br^- > I^-}}} である。語呂合わせとして、昇龍の水は演習用がある。 水溶液の電気分解では、水溶液中で、もっとも還元されやすい物質が電子を受け取り、還元反応が起こる。 電極がPt,Au,炭素の場合、イオン化傾向が OH- より小さい Cl-,I- ,Br- があれば、酸化されてCl2、I2などが発生する。 イオン化傾向が OH- より大きい SO42-、NO3- は酸化されにくいため、かわりにH2Oが還元される酸素O2が発生する。 塩基性溶液では、OH-が酸化されてO2が発生する。 白金や炭素以外の物質を陽極(Cuの場合が多い)にした場合、陽極が酸化されて溶け出す。 電極には、炭素電極または白金 Pt を用いる。塩化銅CuCl2水溶液では、陰極付近の水溶液では、電源から電子が送られてくるので以下の還元反応が起こり、陰極からは銅が析出する。 陽極では、電源へ電子が奪われるので、以下の酸化反応が起こり、陽極からは塩素が発生する。 電極には、白金 Pt を用いるとする。硫酸銅 CuSO4 水溶液。 陰極での反応は還元反応である。 陽極での反応は酸化反応である。 この硫酸銅での電気分解の現象は、銅の電気精錬に応用されている。 純水な水は電気を通さないので、導電性を高めるために硫酸か水酸化ナトリウムを加える。 H2とNaのイオン化傾向を比べた場合、Na>H2なので、陰極で還元されるのは水素イオンH+である。 陰極では、水素H2が発生。 工業的な水酸化ナトリウムの製造にはイオン交換膜法が使われている。 図のように陽イオン交換膜による隔壁でへだてて片方に陽極、もう片方に陰極の電極を配置する。 そして、陽極側にNaCl水溶液を入れる。電圧をなにも加えて無い状体では、NaイオンとClイオンに分離している。 そして電圧を加えると、電気分解が起きる。 陰極では 陽極では という反応が起きる。 その結果、Cl-イオンが発生する。このCl-イオンは陽イオン交換膜を通れず、Cl-イオンはそのまま陽極側にとどまる。そしてCl-イオンは陽極のプラス電荷を受け取って塩素ガスになり気体となって排出される。 いっぽうで、Na+イオンはそのまま水溶液中にとどまり、また陽イオン交換膜を通過する。 いっぽう陰極側ではOH-は陽イオン交換膜を通過できないので、そのまま陰極側にとどまる。また、水素イオンH+は陰極で電荷を受け取り、水素ガスを発生して、排出される。 こうして、陰極側の溶液ではNa+イオンとOH-イオンばかりになる。 Naはイオン化傾向が水よりも大きいので、陰極ではNa+はイオンのままである。なので陰極では水H2Oだけが還元されてOH-ができる。 こうして、陰極ではNaOHの濃度の高い水溶液が得られる。この水溶液を濃縮することによって、水酸化ナトリウムNaOHが得られる。 以前は、アスベストなどをもちいた隔膜法(かくまくほう)が用いられていた。この隔膜法も、電気分解を用いる。濃い食塩水(塩化ナトリウム水溶液)を電気分解する方法で水酸化ナトリウムは生産できる。電気分解したときに、塩素の気体が発生するので、気体を排出することにより、溶液中にNa+イオンを多くさせている。 なお、陽イオン交換膜をもちいた方法とは違い、隔膜法の隔膜では塩素イオンも通過してしまうので、この方法では、得られる水溶液に不純物としてNaClが混ざる。 またなお、陽極は炭素Cである。陰極は鉄網Feである。隔膜の外部を鉄網で覆っている。 陽極では 陰極では という反応が起きる。Naはイオン化傾向が水よりも大きいので、水が還元されてOH-ができる。 陰極で発生したOH-によってNaOHができるが、そのままだと陽極のCl2と反応してしまいNaClになってしまうので、NaとClとを結合させず隔離するために、隔膜としてアスベスト(「石綿」ともいう。)などでつくった多孔質の膜を用いる。アスベストは人体に有害である。 なお、水酸化ナトリウムのことを苛性ソーダ(かせい)ともいう。 銅の鉱石を、コークスCなどとの加熱反応で還元したものは、純度が約99%で、粗銅とよばれる。粗銅には、亜鉛や銀などの不純物が含まれるので、純度をあげためには、不純物を分離する必要があり、そのために電解が利用されている。 硫酸銅(II)水溶液をもちいる。そのさいの電極(陽極)に、純度をあげたい銅を用いる。つまり、粗銅を陽極に用いる。純度の高い銅を陰極に用いる。電気分解により、次の反応が起こる。 陽極からは、銅だけが溶け出すのではなく、イオン化傾向の大きい鉄や亜鉛やニッケルなども溶け出す。しかし陰極で析出するのは、ほとんど銅だけなので、よって陰極にて高純度の銅が得られる、という仕組みである。 粗銅中に含まれている銀や金はイオン化傾向が銅よりも小さいため、陽極の下に沈殿する。これを陽極泥(ようきょくでい、anode slime)という。 陰極には純度の高い純度99.99%程度の銅が析出する。これを純銅という。 アルミニウムやマグネシウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属はイオン化傾向が大きいため、そのイオンをふくむ溶液を電気分解しても、アルミニウムなどの単体は得られない。そこで、イオン化傾向の大きい金属を電気分解で得たいときは、塩や酸化物を融解し、これを電気分解することで単体を得る。このような方法を、溶融塩電解(ようゆうえん でんかい)という。 酸化アルミニウムAl2O3の電気分解によって、アルミニウムが得られる。 酸化アルミニウムAl2O3は、鉱石のボーキサイト(Al2O3・nH2O)から、つくられる。そのボーキサイトからの酸化アルミニウムのつくりかたの説明は省略する(検定教科書でも、くわしい説明は省略)。Al2O3は、アルミナとも呼ばれる。 アルミニウムを得たい場合、アルミナAl2O3は融点 2072 °Cと非常に高いため、そのままでは融解させづらい。そこで融点を下げるため、氷晶石Na3 AlF6(融点 1012℃)を、割合が氷晶石9.5重量%ほど加えると、溶融温度が下がり、融点が約970℃になる。これを炭素電極によって電気分解によって、陰極で、アルミニウムができる。 陽極では、電極の炭素が空気中の酸素と反応して、COやCO2ができる。 この一連のアルミニウムの電解方法をホール・エルー法(Hall-Héroult process)という。 1A(アンペア)の電流が1秒間、流れこんで貯まったときの電気量を1クーロンという。記号はCである。 電気量をQ[C]とすると、電流i[A]で時間t秒の電流を流した場合は、Q[C]とi[A]とt[S]の関係は、 である。 1molの電子がもつ電荷は約96 500 Cである。そこで、この96 500 C/mol をファラデー定数(Faraday constant)という。 電子1個の電荷は である。 計算を実際にしてみると、電子1個の電荷に、1モルぶんの粒子の個数を掛け算したものは、下記のように、たしかにファラデー定数になる。 この法則を、電気分解におけるファラデーの法則という。 AgNO3の電気分解では、電流1Fで物質量1molのAgが析出する。なぜなら、Agは1価であり、反応式は のように反応するからである。 CuSO4の電気分解では、電流1Fで0.5molのCuが析出する。なぜなら、Cuは2価であり、反応式は のように反応するから、銅を1分子析出させるのに電子が2個必要だからである。 H2SO4の電気分解では、電流1Fで0.5molのH2が発生する。反応式は のように反応するから、水素H2を1分子発生させるのに電子が2個必要だからである。 これ等の例のように、発生物の物質量を求める場合の手順は、 というふうに計算する。
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化学反応の反応速度は、注目した物質の変化の速度で表す。反応速度で濃度に着目するときは、モル濃度の変化速度で考えるのが一般である。 化学反応する物質Aが Δ t {\displaystyle \Delta t} の間に濃度が Δ [ A ] {\displaystyle \Delta [\mathrm {A} ]} 変化したとすると、この反応速度 v A {\displaystyle v_{A}} は v A = | Δ [ A ] Δ t | {\displaystyle v_{A}=\left|{\frac {\Delta [\mathrm {A} ]}{\Delta t}}\right|} と表される。 ここで、絶対値がついているのは、反応速度を正の値にするためである。 Aが反応物で、Bが生成物の場合は、Aの濃度は減少するためため、 Δ [ A ] < 0 {\displaystyle \Delta [\mathrm {A} ]<0} なので、 v A = − Δ [ A ] Δ t {\displaystyle v_{A}=-{\frac {\Delta [\mathrm {A} ]}{\Delta t}}} である。反応物Bの濃度は増加するため、 Δ [ B ] > 0 {\displaystyle \Delta [\mathrm {B} ]>0} より、 v B = Δ [ B ] Δ t {\displaystyle v_{B}={\frac {\Delta [\mathrm {B} ]}{\Delta t}}} である。 具体的に、 H 2 + I 2 ⟶ 2 HI {\displaystyle {\ce {H2 + I2 -> 2HI}}} の反応速度について考えよう。 注目する物質が3種類あるので、濃度変化の速度の定義には、3通りの定義の仕方が生じる。物質によって、反応速度が違ってしまうと不便なので、そういうことが無くなるように、定義式で化学反応式の係数の逆数を濃度変化速度に掛けるのが一般である。 つまり、以上をまとめると、このHIの反応での3種類の物質の反応速度vの定義式は以下のようになる。 v = − Δ [ H 2 ] Δ t = − Δ [ I 2 ] Δ t = 1 2 Δ [ H I ] Δ t {\displaystyle v=-{\frac {\Delta [H_{2}]}{\Delta t}}=-{\frac {\Delta [I_{2}]}{\Delta t}}={\frac {1}{2}}{\frac {\Delta [HI]}{\Delta t}}} なお、反応速度の単位には[mol/(l・分)]を用いるのが一般である。 以上は反応速度の定義式であった。 つぎに、実際の化学反応で、反応速度を性質を考えよう。まず、ヨウ化水素HIの生成の例で考えよう。水素[H]とヨウ素[I]の濃度を色々変えて実験された結果、次の結果が、実際の測定でも確認されている。 反応速度vは、左辺の反応物 [ H 2 ] {\displaystyle [H_{2}]} と [ I 2 ] {\displaystyle [I_{2}]} の濃度に比例する。つまり、 v = k [ H 2 ] [ I 2 ] {\displaystyle v=k[H_{2}][I_{2}]} である。ただしkは、反応速度の比例定数。この式の意味を考えてみれば、反応が起こるには、反応に必要な物質どうしが接触または衝突することが必要なのであろうということが想像できる。 他の物質の化学反応の場合も考慮して、反応速度の一般の式を求めよう。 a[A]+b[B] +c[C]+ ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・ となるとき、ほとんどの物質で、反応速度は次の式で表される。(「ほとんど」というように例外もある。例外の場合は後述する。まずは一般の場合から学習してほしい。)反応速度は、 v = k [ A ] a ⋅ [ B ] b ⋅ [ C ] c {\displaystyle v=k[A]^{a}\cdot [B]^{b}\cdot [C]^{c}} となる。 反応速度の式で、係数のaを[A]に乗じたりしているのは、たとえばa=3のときには、反応式 3[A] + b[B] ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・ の式は、以下のように、 [A] + [A] + [A] + b[B] ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・ のように書けるからである。 上記のような例に従わない場合の、代表的な例として N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} がある。この物質の反応の仕組みも解明されているので、これを説明する。まず N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} の反応式は、 2 N 2 O 5 → 2 N 2 O 4 + O 2 {\displaystyle 2N_{2}O_{5}\rightarrow 2N_{2}O_{4}+O_{2}} である。式から推定した反応速度vは、 v = k [ N 2 O 5 ] 2 {\displaystyle v=k[N_{2}O_{5}]^{2}} である。しかし、実際の反応速度を測定した結果は、 v = [ N 2 O 5 ] {\displaystyle v=[N_{2}O_{5}]} である。 では、次にこの謎を解明しよう。 じつは、 N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} から N 2 O 4 {\displaystyle N_{2}O_{4}} が生成される反応は、ひとつの反応では無いのである。 以下に示すような順序で、4個の反応が行われているのである。 N 2 O 5 → N 2 O 3 + O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}\rightarrow N_{2}O_{3}+O_{2}} ・・・・(1) N 2 O 3 → N O + N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{3}\rightarrow NO+NO_{2}} ・・・・(2) N 2 O 5 + N O → 3 N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}+NO\rightarrow 3NO_{2}} ・・・・(3) 2 N O 2 → N 2 O 4 {\displaystyle 2NO_{2}\rightarrow N_{2}O_{4}} ・・・・(4) この一つ一つの反応を素反応(そはんのう)という。また、 N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} の反応のように、複数の素反応からなる反応を多段階反応という。 式(1)の左辺の反応物と式(4)の右辺の生成物を見ると、 N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} と N 2 O 4 {\displaystyle N_{2}O_{4}} がある。これが反応速度の謎の正体である。 式(1)から式(2)、式(3)、式(4)のそれぞれの反応速度を、反応式から推定すると、 N 2 O 5 → N 2 O 3 + O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}\rightarrow N_{2}O_{3}+O_{2}} ・・・・(1) v 1 = k 1 [ N 2 O 5 ] {\displaystyle v_{1}=k_{1}[N_{2}O5]} N 2 O 3 → N O + N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{3}\rightarrow NO+NO_{2}} ・・・・(2) v 2 = k 2 [ N 2 O 3 ] {\displaystyle v_{2}=k_{2}[N_{2}O_{3}]} N 2 O 5 + N O → 3 N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}+NO\rightarrow 3NO_{2}} ・・・・(3) v 3 = k 3 [ N 2 O 5 ] [ N O ] {\displaystyle v_{3}=k_{3}[N_{2}O_{5}][NO]} 2 N O 2 → N 2 O 4 {\displaystyle 2NO_{2}\rightarrow N_{2}O_{4}} ・・・・(4) v 4 = k 4 [ N O 2 ] 2 {\displaystyle v_{4}=k_{4}[NO_{2}]^{2}} となる。実験の結果では、4つの素反応の中で、もっとも反応速度が小さいのは式(1)の反応であることが知られている。このように、多段階反応では、もっとも反応速度が遅い反応によって、全体の反応速度が決まる。 全体の反応を決定する素反応を律速段階という。 温度が増えると、常温付近では、だいたい10℃あがるごとに、反応速度が2倍から3倍程度になる。 この理由は、温度が増えると、活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ分子が増えるからである。 触媒もまた、反応速度を変える。前の節で既に記述したので、必要ならば参照のこと。 化学者のアレニウスが、多くの物質の反応速度と温度との関係を調べた結果、実験法則として、以下の関係式が分かった。 反応速度定数kは、活性化エネルギーを E a {\displaystyle E_{a}} 絶対温度をTとすると、以下の式で表される。 k = A e − E a R T {\displaystyle k=Ae^{\frac {-E_{a}}{RT}}} ここで、Rは気体定数、eはネイピア数である。 この実験式をアレニウスの式という。 たとえば、ヨウ化水素HIの生成の反応、つまり、ヨウ素Iと水素Hを容器に入れて高温にして起こす反応では、 H 2 + I 2 → 2 H I {\displaystyle H_{2}+I_{2}\rightarrow 2HI} では、なにも熱を加えない常温のままだと、反応は起こらない。また結合エネルギーの和は、左辺の H 2 + I 2 {\displaystyle H_{2}+I_{2}} のほうが右辺の2HIの和より大きい。エネルギー的にはエネルギーの低いほうが安定なので、2HIのほうが安定なはずなのに、熱を加えないと、反応が始まらないのである。 この状態から察するに、化学反応をする原子は、もとの分子よりエネルギーの高い状態を経由する必要がある。 たとえば、ヨウ化水素の生成の反応 H 2 + I 2 → 2 H I {\displaystyle H_{2}+I_{2}\rightarrow 2HI} では、解離エネルギーにより推測される必要なエネルギーと、実際の反応に要するエネルギーが一致しない。解離エネルギーを考えると、 H 2 + 432 k J → H + H {\displaystyle H_{2}+432kJ\rightarrow H+H} I 2 + 149 k J → I + I {\displaystyle I_{2}+149kJ\rightarrow I+I} により、合計で432 + 149 = 581 kJ のエネルギーが必要だと推測できる。しかし、実際の反応でのエネルギーは、そうではない。 HIの2molの生成でも、必要なエネルギーは348 kJ が必要であり、これは、解離エネルギーの和の581 kJよりも小さい。なお、この場合のヨウ化水素の反応温度は、およそ400℃である。348kJを1molあたりに換算すると、174 kJ/molである。 以上のような実験結果から、実際の反応では、分子は解離状態を経由しないと考えられている。代わりに経由するのは、「活性化錯体」(かっせいか さくたい)という状態であり、高温などのエネルギーを与えた状態の間のみに生じる、反応分子どうしの複合体である活性化錯体という複合体を経由して、そこから結合相手を変えて反応式右辺の生成物(この場合はHI)を生じる反応が行われていると考えられる。 この反応物と生成物との中間の状態を活性化状態(かっせいか じょうたい)と言い、その活性化状態にするために必要なエネルギーを活性化エネルギー(かっせいかエネルギー)という。反応が起こるためには、活性化エネルギー以上のエネルギーが分子に加わる必要がある。 「活性化状態」のことを「遷移状態」ともいう。 過酸化水素水 H 2 O 2 {\displaystyle H_{2}O_{2}} は、そのままでは、常温では、ほとんど分解せず、ゆっくりと分解する。 H 2 O 2 → 2 H 2 O + O 2 {\displaystyle H_{2}O_{2}\rightarrow 2H_{2}O+O_{2}} しかし、少量の二酸化マンガンを加えると、分解は速まり、酸素の発生が激しくなる。そして、二酸化マンガンの量は、反応の前後では変化しない。この二酸化マンガンのように、自身は量が変化せず、反応の速度を変える働きのある物質を触媒(しょくばい)という。 触媒では、反応熱は変わらない。 この二酸化マンガンのように反応速度を上げるものを正触媒(せいしょくばい)という。また、反応速度を下げる触媒を負触媒(ふしょくばい)という。ふつう、「触媒」といったら、正触媒のことを指すことが多い。 正触媒で反応速度が増えるのは、一般に、触媒の表面では、触媒の吸着力により、もとの結合が弱められ、そのため、反応物の活性化錯体を作るエネルギーが減少し、したがって原子の組み換えをするためのエネルギーが減少したことから活性化エネルギーが減少するからである。 ヨウ化水素の場合、白金が触媒になる。白金があると、ヨウ化水素の反応での活性化エネルギーが小さくなる。また、活性化エネルギーが小さくなったため、反応も速くなる。触媒があっても、反応熱は変化しない。 一般に、(正触媒)触媒によって、活性化エネルギーが小さくなれば、反応速度は速くなる。一般に、触媒では、反応熱は変わらない。
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可逆反応において、順方向の反応と逆方向との反応速度がつりあって反応物と生成物の組成比がマクロ的に変化しなくなる状態を扱う分野である。 水素とヨウ素の混合気体を容器に入れ、一定温度に保っておくと、一部が反応してヨウ化水素を生じ、水素・ヨウ素・ヨウ化水素の混合気体になる。また、この容器にヨウ化水素だけを入れて同じ温度に保っておくと、一部が分解して水素とヨウ素が生じ、やはり水素・ヨウ素・ヨウ化水素の混合気体になる。 このように、「水素とヨウ素の化合」と「ヨウ化水素の分解」のように、ある反応に対してその逆の反応も起こるとき、一方を正反応、他方を逆反応といい、このどちらも進むような反応を可逆反応とよぶ。また、一方向にしか進まない反応を不可逆反応という。 可逆反応が平衡状態にあるとき、温度や圧力の条件を変化させると、正反応または逆反応のどちらかが進んで、新たな平衡状態になる。この現象を平衡移動という。 可逆反応が平衡状態にあるとき、濃度・温度・圧力といった条件を変化させると、条件の変化を和らげる向きに反応が進んで、平衡が移動する。これは、ルシャトリエの原理(平衡移動の原理)とよばれる。 条件変化を和らげる向きとは、条件変化の効果を打ち消す向きに反応が進むことを示している。つまり、圧力を上げれば、総気体分子数が少なくなる圧力が下がる向きに反応が進み、温度を上げれば吸熱する向きに反応が進むことになる。 例えば、 N 2 + 3 H 2 ↽ − − ⇀ 2 NH 3 {\displaystyle {\ce {N2 + 3H2 <=> 2NH3}}} Δ H = − 92.2 k J {\displaystyle \quad \Delta H=-92.2\,\mathrm {kJ} } について考える。 ここで、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の濃度を増加させると、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の増加をやわらげる方向、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} が減少する右へ平衡が移動する。 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の濃度を減少させると、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の減少をやわらげる方向、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} が増加する左へ平衡が移動する。 圧力を大きくすると、圧力の増大をやわらげる、つまり、気体分子の数が減少する右に平衡が移動する。圧力を小さくすると、圧力の減少をやわらげる、つまり、気体分子の数が増加する左に平衡が移動する[1]。 温度を上げるると、温度の増加をやわらげる方向、つまり、吸熱反応の左に平衡が移動する。温度を下げると、温度の減少をやわらげる方向、つまり、発熱反応の右に平衡が移動する。 のような可逆反応が起こるとき、この反応系が化学平衡に達すると、化学平衡のときの各物質の濃度の間には、Kを定数として、次の関係が成り立つ。 この関係を化学平衡の法則といい、そのときの定数Kを平衡定数という。1つの反応系では、温度が決まれば平衡定数は一定値をとる。あるいは、上で定義された平衡定数の定義が、濃度の平衡によることから濃度平衡定数ともいい、その意味で表す際には、記号Kcを用いる。 上で定義された濃度平衡定数とは異なる平衡定数として、各々の反応物・生成物の分圧pをもとに定義する平衡定数がある。 平衡時の分圧を考えると、次のように圧平衡定数Kpが定義される。 濃度平衡定数と圧平衡定数には、反応式が a A + b B ↔ x C + y D {\displaystyle a{\mathrm {A} }+b{\mathrm {B} }\leftrightarrow x{\mathrm {C} }+y{\mathrm {D} }} で表わされる場合に、分圧がモル濃度と比例することから、次の関係式がある。 この関係式を導出する。理想気体の状態方程式の は、圧力Vを右辺に移動すれば、 と、圧力Pとモル濃度cの関係式となり、圧力と温度とが比例する。この p=cRT を状態方程式を、圧平衡定数の式に代入すれば、 以上の計算例は、2個の反応物から2個の生成物が生じる反応式の場合だったが、他の反応式でも同様に、圧平衡定数と濃度平衡定数の関係式がある。 酢酸を水に溶かすと、次のように電離し平衡状態になる[2]。 CH 3 COOH ↽ − − ⇀ CH 3 COO − + H + {\displaystyle {\ce {CH3COOH <=> CH3COO- + H+}}} このような化学平衡を電離平衡という。 酢酸の電離平衡についても、化学平衡の法則を当てはめると、 [ C H 3 C O O − ] [ H + ] [ C H 3 C O O H ] = K a {\displaystyle {\frac {[\mathrm {CH_{3}COO^{-}} ][\mathrm {H^{+}} ]}{[\mathrm {CH_{3}COOH} ]}}=K_{a}} となる。この平衡係数を電離定数という。 弱塩基についても同様に考える。 アンモニアの電離では、 NH 3 + H 2 O ↽ − − ⇀ NH 4 + + OH − {\displaystyle {\ce {NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-}}} より、 [ N H 4 + ] [ O H − ] [ N H 3 ] [ H 2 O ] = K {\displaystyle {\frac {[\mathrm {{NH_{4}}^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]}{[\mathrm {NH_{3}} ][\mathrm {H_{2}O} ]}}=K} ここで、 [ H 2 O ] {\displaystyle [\mathrm {H_{2}O} ]} はほぼ一定と考えて、電離定数 K b {\displaystyle K_{b}} を K b = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{b}=K[\mathrm {H_{2}O} ]} として、 [ N H 4 + ] [ O H − ] [ N H 3 ] = K b {\displaystyle {\frac {[\mathrm {{NH_{4}}^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]}{[\mathrm {NH_{3}} ]}}=K_{b}} である。 濃度c[mol/L]の弱酸HAの水溶液では、電離度をαとすると、[H+]と[A-]はcα[mol/L]となる。 従って、電離定数Kaは、次のように表される。 ここで、電離度 α {\displaystyle \alpha } が1より十分に小さい場合、 1 − α ≈ 1 {\displaystyle 1-\alpha \approx 1} と近似して、 K a = c α 2 1 − α ≈ c α 2 {\displaystyle K_{a}={\frac {c\alpha ^{2}}{1-\alpha }}\approx c\alpha ^{2}} である。これより、 α = K a c {\displaystyle \alpha ={\sqrt {\frac {K_{a}}{c}}}} を得る。 (無限等比級数を知っている場合、この近似は次のように理解することが出来る。 0 ≤ α < 1 {\displaystyle 0\leq \alpha <1} のとき、無限等比級数の和より、 1 + α + α 2 + α 3 + ⋯ = 1 1 − α {\displaystyle 1+\alpha +\alpha ^{2}+\alpha ^{3}+\cdots ={\frac {1}{1-\alpha }}} である。つまり、 c α 2 1 − α = c α 2 ( 1 + α + α 2 + ⋯ ) = c α 2 + c α 3 + c α 4 + ⋯ ≈ c α 2 . {\displaystyle {\frac {c\alpha ^{2}}{1-\alpha }}=c\alpha ^{2}(1+\alpha +\alpha ^{2}+\cdots)=c\alpha ^{2}+c\alpha ^{3}+c\alpha ^{4}+\cdots \approx c\alpha ^{2}.} ) この水溶液の水素イオン濃度は [ H + ] = c α = c K a {\displaystyle [\mathrm {H^{+}} ]=c\alpha ={\sqrt {cK_{a}}}} である。 次に、電離度 α {\displaystyle \alpha } が1より十分に小さくない場合は、 1 − α ≈ 1 {\displaystyle 1-\alpha \approx 1} と近似することはできない。 K a = c α 2 1 − α {\displaystyle K_{a}={\frac {c\alpha ^{2}}{1-\alpha }}} より、 二次方程式 c α 2 + K a α − K a = 0 {\displaystyle c\alpha ^{2}+K_{a}\alpha -K_{a}=0} を α {\displaystyle \alpha } について解いて、 α = − K a + K a 2 + 4 c K a 2 c {\displaystyle \alpha ={\frac {-K_{a}+{\sqrt {K_{a}^{2}+4cK_{a}}}}{2c}}} である。 水素イオン濃度は [ H + ] = c α = − K a + K a 2 + 4 c K a 2 {\displaystyle [\mathrm {H^{+}} ]=c\alpha ={\frac {-K_{a}+{\sqrt {K_{a}^{2}+4cK_{a}}}}{2}}} である。 電離度がだいたい α < 0.05 {\displaystyle \alpha <0.05} の場合、 1 − α ≈ 1 {\displaystyle 1-\alpha \approx 1} の近似を行うことが出来るが。 α ≥ 0.05 {\displaystyle \alpha \geq 0.05} のときは近似は行わない。 水はわずかに電離して、電離平衡の状態になっている。 水はわずかにしか電離しないので、濃度[H2O]の値はほぼ一定とみなせる。そこで、 K w = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K\mathrm {[H_{2}O]} } とすると、 K w = K [ H 2 O ] = [ H + ] [ O H − ] {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K\mathrm {[H_{2}O]=[H^{+}][OH^{-}]} } これより、[H+]と[OH-]の積の値も温度一定のときに一定値となる。この K w {\displaystyle K_{\mathrm {w} }} を水のイオン積という。 25℃におけるKwの値は このイオン積の値は酸や塩基中など常に成り立つ。 また、温度がかわると水のイオン積の値は変化する。 水のイオン積と常温付近の温度の関係は、下記のとおり。 また、水の電離は吸熱反応であり(※ 上の表と関連づけて覚えよう。)、熱化学方程式は である。 水素イオン指数 pH は p H = − log 10 ⁡ [ H + ] {\displaystyle \mathrm {pH} =-\log _{10}[\mathrm {H^{+}} ]} で定義されるものであった。 水酸化イオンについても、 p O H = − log 10 ⁡ [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {pOH} =-\log _{10}[\mathrm {OH^{-}} ]} を定義する。(「ピー オーエイチ」と読む) pHとpOHについて、イオン積から次の公式が成り立つ。 [ H + ] [ O H − ] = 1.0 × 10 − 14 {\displaystyle [\mathrm {H^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]=1.0\times 10^{-14}} より両辺の対数をとって、 log 10 ⁡ [ H + ] + log 10 ⁡ [ O H − ] = − 14 {\displaystyle \log _{10}[\mathrm {H^{+}} ]+\log _{10}[\mathrm {OH^{-}} ]=-14} から p H + p O H = 14 {\displaystyle \mathrm {pH} +\mathrm {pOH} =14} あるいは 弱酸と強塩基の塩、または弱塩基と強酸の塩は水に溶けると、ほとんど完全に電離し次のように加水分解する。 弱酸と強塩基の塩(酢酸ナトリウムの場合) CH 3 COONa ⟶ CH 3 COO − + Na + {\displaystyle {\ce {CH3COONa -> CH3COO^- + Na^+}}} CH 3 COO − + H 2 O ↽ − − ⇀ CH 3 COOH + OH − {\displaystyle {\ce {CH3COO^- + H2O <=> CH3COOH + OH^-}}} 弱塩基と強酸の塩(塩化アンモニウムの場合) NH 4 Cl ⟶ NH 4 + + Cl − {\displaystyle {\ce {NH4Cl -> NH4^+ + Cl^-}}} NH 4 + + H 2 O ↽ − − ⇀ NH 3 + H 3 O + {\displaystyle {\ce {NH4^+ + H2O <=> NH3 + H3O^+}}} ここで、酢酸イオンの加水分解の平衡定数 K {\displaystyle K} は K = [ C H 3 C O O H ] [ O H − ] [ C H 3 C O O − ] [ H 2 O ] {\displaystyle K={\frac {\mathrm {[CH_{3}COOH]} \mathrm {[OH^{-}]} }{\mathrm {[CH_{3}COO^{-}]} \mathrm {[H_{2}O]} }}} である。 [ H 2 O ] {\displaystyle {\ce {\mathrm {[H_{2}O]} }}} は一定と考え、 K h = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }=K\mathrm {[H_{2}O]} } と置くと K h = [ C H 3 C O O H ] [ O H − ] [ C H 3 C O O − ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[CH_{3}COOH]} \mathrm {[OH^{-}]} }{\mathrm {[CH_{3}COO^{-}]} }}} が成り立つ。この K h {\displaystyle K_{\mathrm {h} }} を加水分解定数という。 アンモニウムイオンについても同様に考える。平衡定数 K {\displaystyle K} は K = [ N H 3 ] [ H 3 O + ] [ N H 4 + ] [ H 2 O ] {\displaystyle K={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H_{3}O^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} \mathrm {[H_{2}O]} }}} 加水分解定数 K h = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }=K\mathrm {[H_{2}O]} } を定義すると K h = [ N H 3 ] [ H 3 O + ] [ N H 4 + ] = [ N H 3 ] [ H + ] [ N H 4 + ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H_{3}O^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} }}={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} }}} 加水分解定数 K h {\displaystyle {\ce {K_{\mathrm {h} }}}} と、弱酸または弱塩基の電離定数 K a {\displaystyle K_{\mathrm {a} }} または K b {\displaystyle K_{\mathrm {b} }} について K w = K a K h {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K_{\mathrm {a} }K_{\mathrm {h} }} K w = K b K h {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K_{\mathrm {b} }K_{\mathrm {h} }} が成り立つ。 実際、酢酸ナトリウムの場合、 K a = [ C H 3 C O O − ] [ H + ] [ C H 3 C O O H ] , K h = [ C H 3 C O O H ] [ O H − ] [ C H 3 C O O − ] {\displaystyle K_{\mathrm {a} }={\frac {[\mathrm {CH_{3}COO^{-}} ][\mathrm {H^{+}} ]}{[\mathrm {CH_{3}COOH} ]}},\quad K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[CH_{3}COOH]} \mathrm {[OH^{-}]} }{\mathrm {[CH_{3}COO^{-}]} }}} より K a K h = [ H + ] [ O H − ] = K w {\displaystyle K_{\mathrm {a} }K_{\mathrm {h} }=\mathrm {[H^{+}]} \mathrm {[OH^{-}]} =K_{\mathrm {w} }} また、塩化アンモニウムの場合、 K b = [ N H 4 + ] [ O H − ] [ N H 3 ] , K h = [ N H 3 ] [ H + ] [ N H 4 + ] {\displaystyle K_{\mathrm {b} }={\frac {[\mathrm {{NH_{4}}^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]}{[\mathrm {NH_{3}} ]}},\quad K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} }}} より K b K h = [ H + ] [ O H − ] = K w {\displaystyle K_{\mathrm {b} }K_{\mathrm {h} }=\mathrm {[H^{+}]} \mathrm {[OH^{-}]} =K_{\mathrm {w} }} である。 弱酸と強塩基の塩を水に溶かすと、塩は完全に電離し、一部が加水分解し水酸化物イオンが生じるため液性は塩基性を示す。 弱酸と強塩基の塩(酢酸ナトリウムの場合) CH 3 COONa ⟶ CH 3 COO − + Na + {\displaystyle {\ce {CH3COONa -> CH3COO^- + Na^+}}} CH 3 COO − + H 2 O ↽ − − ⇀ CH 3 COOH + OH − {\displaystyle {\ce {CH3COO^- + H2O <=> CH3COOH + OH^-}}} 同様に、弱塩基と強酸の塩の水溶液は酸性を示す。 弱塩基と強酸の塩(塩化アンモニウムの場合) NH 4 Cl ⟶ NH 4 + + Cl − {\displaystyle {\ce {NH4Cl -> NH4^+ + Cl^-}}} NH 4 + + H 2 O ↽ − − ⇀ NH 3 + H 3 O + {\displaystyle {\ce {NH4^+ + H2O <=> NH3 + H3O^+}}} ここで、弱塩基と強酸の塩である c [ m o l / L ] {\displaystyle c\mathrm {[mol/L]} } 塩化アンモニウム水溶液の水素イオン濃度を求める。 塩化アンモニウムは完全に電離するため、電離後のアンモニウムイオンの濃度は c [ m o l / L ] {\displaystyle c\mathrm {[mol/L]} } である。 NH 4 Cl ⟶ NH 4 + + Cl − {\displaystyle {\ce {NH4Cl -> NH4^+ + Cl^-}}} 電離したアンモニウムイオンの内、加水分解するアンモニウムイオンの物質量の割合 β = {\displaystyle \beta =} 加水分解した NH 4 + {\displaystyle {\ce {NH4^+}}} /電離した NH 4 + {\displaystyle {\ce {NH4^+}}} を定義し、 β {\displaystyle \beta } を加水分解度呼ぶ。 アンモニウムイオンの加水分解の量的関係は次の表のとおりである。 加水分解度 β {\displaystyle \beta } が1より十分に小さい場合 より、 β = K h c {\displaystyle \beta ={\sqrt {\frac {K_{\mathrm {h} }}{c}}}} である。 水素イオン濃度は [ H + ] = c β = c K h = c K w K b {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} =c\beta ={\sqrt {cK_{\mathrm {h} }}}={\sqrt {c{\frac {K_{\mathrm {w} }}{K_{\mathrm {b} }}}}}} である。( K b {\displaystyle K_{\mathrm {b} }} はアンモニアの電離定数、 K w {\displaystyle K_{\mathrm {w} }} は水のイオン積) 演習問題 c [ m o l / L ] {\displaystyle c\mathrm {[mol/L]} } 酢酸ナトリウム水溶液のpHを、酢酸の電離定数 K a {\displaystyle K_{\mathrm {a} }} 、水のイオン積 K w {\displaystyle K_{\mathrm {w} }} で表せ。 少量の酸や塩基を加えたり、薄めたりしてもpHがほとんど変化しない溶液を、緩衝液あるいは緩衝溶液という。弱酸とその塩、または弱塩基とその塩の混合水溶液などが緩衝液として使われる。また、このようにpHを一定に保つような作用を緩衝作用という。 代表的な緩衝液として、酢酸 CH3COOH と酢酸ナトリウム CH3COONa との混合水溶液を考えてみよう。この溶液中の酢酸ナトリウムは、電離してCH3COO-とNa+とを生じる。一方、酢酸も電離するが、酢酸ナトリウムの電離により生じるCH3COO-の影響で、ルシャトリエの原理により、電離平衡は大きく酢酸の側に偏る。従って、実際には酢酸はほとんど電離せず、酢酸分子として水中に存在している。 まず、この混合溶液に酸を加えると、生じたH+は酢酸イオンと反応して、酢酸を生じる。これにより、[H+] はほとんど増加しない。また、この混合溶液に塩基を加えると、生じたOH-は酢酸分子と反応して中和される。従って、[OH-] もほとんど増加しない。 例えば、塩化ナトリウムを水に加えていくと、やがて溶けきれなくなり、飽和溶液になる。このような状態を溶解平衡といい、 N a C l ↔ N a + + C l − {\displaystyle \mathrm {NaCl\leftrightarrow Na^{+}+Cl^{-}} } の電離平衡が成立する。ここで、この飽和溶液に濃塩酸を加えると、新たに塩化ナトリウムが沈殿してくる。これは、濃塩酸を加えることにより[Cl-] が増加し、ルシャトリエの原理により上式の平衡が左に移動するからである。濃塩酸の代わりに塩化水素ガスを吹き込んでも同様の結果が得られる。 このように、ある電解質の飽和溶液に、その電解質を構成するイオンと同じ種類のイオン(共通イオン)を生じる別の電解質を加えることで、もとの電解質の溶解度が減少して沈殿を生じる現象を、共通イオン効果という。 塩化銀AgClのような難溶性の塩でも、水に加えれば、わずかながら電離をする。 この難溶性の塩の場合も、以下のように平衡定数が定義できる。 [AgCl]の濃度の値は、一定値と見なせるから、これを右辺に移項して、 として、式が得られる。この式の、 を塩化銀の溶解度積(solubility product)といい、記号KSPで表す。 平衡定数Kが温度のみの関数であり、[AgCl]は一定と見なせることから、溶解度積KSPもまた温度のみの関数で濃度に無関係である。 塩化銀以外の他の難溶性の塩に対しても、同様に溶解度積が定義できる。一般の塩 A m B n {\displaystyle {\ce {A_{m}B_{n}}}} に対しては、溶解度積の定義KSPは、反応式が次の式の場合、 A m B n ⇌ m A n + + n B m − {\displaystyle \mathrm {A} _{m}\mathrm {B} _{n}\rightleftharpoons m\mathrm {A^{n+}} +n\mathrm {B^{m-}} } 化学平衡の法則より [ A n + ] m [ B m − ] n [ A m B n ] = K {\displaystyle {\frac {[\mathrm {A^{n+}} ]^{m}[\mathrm {B^{m-}} ]^{n}}{[\mathrm {A} _{m}\mathrm {B} _{n}]}}=K} 溶解度積 KSP は、 で定義される。 塩化銀の水溶液に、塩化ナトリウムNaClを加えると、塩化ナトリウムは容易に電離することから、溶液中の塩素イオン濃度 [Cl]- が増える。すると、平衡定数を一定に保つには、 銀イオン濃度 [Ag]+ を減らさなければならなくなる。従って、塩化銀の電離が減少し、塩化銀銀の沈殿が生じる。これは共通イオン効果の一種である。 塩化ナトリウムの代わりに、塩酸HClや塩化カリウムKClなどを加えても塩化銀の沈殿現象は起こる。 この場合、銀イオンと塩素イオンのイオン積[Ag]+ [Cl]-が溶解度積 KSP よりも大きくなると沈殿を生じる。
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3~12族までの元素を遷移元素、1,2族、13~18族の元素を典型元素という[1]。 典型元素は、1族から順に18族まで価電子数が規則的に変化する。価電子の数は18族は0であり、その他は族番号の1の位と等しい。価電子の数が周期的に変化するため、それに伴って性質も周期的に変化する。したがって、同じ族に属している元素(同族元素)は互いに似た化学的性質を持つ。 典型元素はさらに、それぞれの性質から次のような分類がされる。 一方、遷移元素は価電子数はほとんど変化せず、周期性も見られないが、周期表の隣り合う元素と互いに似た化学的性質を持つことが多い。 典型・遷移元素という分類の他、次のような分類のしかたもある。 金属とは、金属光沢があって、展性・延性をもち、電気や熱を伝えやすい性質をもった物質のことであり(→物質と原子)、単体がこの性質をもつ元素を金属元素と呼んでいる。遷移元素はすべて金属元素である。金属元素の原子は陽イオンになることが多い。また、単体が 金属でない元素を非金属元素と呼び、17・18族はすべて非金属元素である。18族はイオンになりにくく、また1族の水素は陽イオンになることが多いが、その他の非金属元素は陰イオンになることが多い。 物質と原子の章で学んだように、元素を原子番号の順に並べた表を周期表と呼ぶ。 周期表の中で、左上の水素と、右上にある典型元素は非金属元素であり、その他中央~左下にかけては金属元素が分布している。ただし、ホウ素やケイ素など、金属元素と非金属元素の境目にあるような物質は、金属と非金属との中間的な性質をもつものが多い。 ある原子から、電子を1個取り去って陽イオンとするために必要なエネルギーを、第1イオン化エネルギーと呼ぶ。これを単にイオン化エネルギーとも呼ぶ。これが小さければ小さいほど陽イオンになりやすく、そのような性質をもった元素を陽性が強いという。また、ある原子の最外殻電子に電子を1つ加えて陰イオンとする時に原子が放出するエネルギーを電子親和力と呼ぶ。これが小さければ小さいほど陽イオンになりやすく、そのような性質をもった元素を陽性が強いという。電子親和力が大きいということは陰イオンの状態の方が安定だから陰イオンになりやすく陰性が強い。 同じ周期の中では、族番号が小さいほどイオン化エネルギーが小さくなる。また、電子親和力は族番号が大きいほど大きくなる。同じ族の中で比較すると、周期が次になるほどイオン化エネルギーは小さくなり、電子親和力は小さくなる。したがって、周期表の中では、右上の元素ほど陰性が強く、左下の元素ほど陽性が強いということがいえる。
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水素は、単体として宇宙で最も多く存在する元素である。地球上では水 H2O として最も多く存在する。単体 H2 は常温常圧で無色無臭の気体である。 工業的には、石油や天然ガスを高温水蒸気と反応させて、得られる。他には、純粋な水素を作る場合は、水を電気分解する。 実験室では、塩酸や希硫酸などの強酸に、亜鉛などの金属を加える。水素は水に溶けにくいため、水上置換で捕集する。 水素は、アンモニア、塩化水素、メタノールなどの原料である。 貴ガス(noble gas)[1]は、18族元素のヘリウム He, ネオン Ne, アルゴン Ar, クリプトン Kr, キセノン Xe, ラドン Rn の総称である[2]。 18族元素は価電子をもたないため、他の原子と結合したり、イオンになることがほとんどない。したがって、化学反応を起こして化合物となることがほとんどない。また、単体の気体として、原子1個で1つの分子を形成している。このような分子を単原子分子と呼ぶ。 貴ガスには次のような物質がある。これらはいずれも無色無臭で、常温常圧で気体である。また、いずれも融点および沸点が低い。 貴ガスは原子単体で安定なため、普通は化合物にならない。貴ガスに圧力を低くしてガラス管に封入し電圧をかけることで、それぞれ異なった色の光を放つ。そのため、電球やネオンサインとして用いられるものが多い。 アルゴン気体とフッ素気体をつめた放電管に放電をすると、不安定なアルゴンフッ素 ArF (エキシマ)が一時的に生成し、それが分解する際に波長197nmの紫外線を放出する。 この光は、半導体製造の際の光化学反応の光源に使われている。また、キセノンでもハロゲンとのエキシマによってレーザー光が放出されることが知られている。 貴ガスは、反応性が低く化合物を作らないと考えられていたが、1960年代に、 XePtF 6 {\displaystyle {\ce {XePtF6}}} や XeF 4 {\displaystyle {\ce {XeF4}}} などキセノンの化合物の合成に成功した。その後も貴ガスの化合物は合成されたが、ネオンの化合物は未だ合成に成功していない。 キセノンとフッ素ガスを混合した気体に放電または熱を加えてできた、二フッ化キセノン XeF2 や四フッ化キセノン XeF4 や六フッ化キセノン XeF6 の固体は無色である。
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周期表の17族に属する、フッ素 F、塩素 Cl、臭素 Br、ヨウ素 I、アスタチン At をハロゲンという。 ハロゲンの原子は最外殻に価電子を7つ持っている。ハロゲンは1価の陰イオンになりやすい。 このためハロゲンは化合物をつくりやすい。そのため、天然では、ハロゲンは鉱物(ホタル石 CaF2 、岩塩 NaCl)として存在している場合も多い。または、海水中に陰イオンとしてハロゲンが存在している場合が多い。 ハロゲンの単体はいずれも二原子分子で有色、毒性である。 沸点(bp)・融点(mp)は、原子番号の大きいものほど高い。 ハロゲンの単体は酸化力が強い。酸化力の強さは原子番号が小さいほど大きくなる。つまり酸化力の強さは、 F 2 > Cl 2 > Br 2 > I 2 {\displaystyle {\ce {F2 > Cl2 > Br2 > I2}}} である。 たとえば、ヨウ化カリウム水溶液に塩素を加えると、ヨウ素は酸化されて単体となる。 2 KI + Cl 2 ⟶ 2 KCl + I 2 {\displaystyle {\ce {2KI + Cl2 -> 2KCl + I2}}} 逆に、塩化カリウム水溶液にヨウ素を加えても、ヨウ素よりも塩素のほうが酸化力が強いため、反応は起こらない。 また、ハロゲンの各元素ごとの酸化力の違いは、水や水素との反応にも関わる。 最も酸化力のつよいフッ素は、水と激しく反応し、酸素を発生する。 常温常圧下では淡黄緑色の気体である。 酸化力が非常に強く、様々な物質と激しく反応する。ガラスでさえフッ素を吹き付けると燃えるように反応するため扱いが難しい。 水や水素との反応物であるフッ化水素(HF)が水に溶けたフッ化水素酸(HFaq)はガラスを侵すため、ポリエチレン容器に入れ保管する。 塩素 Cl2 は常温常圧で黄緑色の有毒な気体である。 工業的:塩化ナトリウム水溶液の電気分解でつくる。 実験室的:酸化マンガン(IV)に濃塩酸を加え、加熱する。 塩化ナトリウム、酸化マンガン(IV)に濃硫酸を加えて加熱する。 2 NaCl + 3 H 2 SO 4 + MnO 2 ⟶ MnSO 4 + 2 NaHSO 4 + 2 H 2 O + Cl 2 ↑ {\displaystyle {\ce {2NaCl + 3H2SO4 + MnO2 -> MnSO4 + 2NaHSO4 + 2H2O + Cl2 ^}}} さらし粉に塩酸を加える。 CaCl ( ClO ) ⋅ H 2 O + 2 HCl ⟶ CaCl 2 + 2 H 2 O + Cl 2 ↑ {\displaystyle {\ce {CaCl(ClO).H2O + 2HCl -> CaCl2 + 2H2O + Cl2 ^}}} 塩素は、水に少し溶けて、その一部が次亜塩素酸 HClO {\displaystyle {\ce {HClO}}} になる。 次亜塩素酸は、強い酸化作用がある。塩素 Cl2 の水溶液を塩素水(chlorine water)という。 塩素水および次亜塩素酸は、漂白剤や殺菌剤として水道やプールの水の殺菌などに広く用いられている。 水酸化カルシウムと塩素を反応させると、さらし粉(主成分:CaCl(ClO)・H2O)ができる。 さらし粉または高度さらし粉(主成分:Ca(ClO)2・2H2O)に塩酸を加えることによっても塩素の単体を得ることができる。 工業的には塩化ナトリウム水溶液の電気分解を用いた、イオン交換膜法により製造される。 高度さらし粉は、漂白剤や殺菌剤として利用される。 塩素はさまざまな金属と反応して塩化物となる。たとえば、単体の塩素の中に加熱した銅線を入れると、煙状の塩化銅(II) CuCl2 を生成する。 ヨウ素(I2)は常温常圧で黒紫色の固体である。昇華性があり、加熱すると固体から液体にならず直接気体となる。これを利用して、固体のヨウ素の純度を上げることができる。1リットルビーカーに不純物を含むヨウ素の固体を入れ、ガスバーナーで加熱する。ビーカーの上部には冷水を入れた丸底フラスコを置いておく。加熱によりヨウ素のみが気体となり、上昇してフラスコの底部付近で冷やされて固体に戻る。そのため、フラスコ底部に純度の高いヨウ素の針状結晶が析出する。 ヨウ素は水に溶けにくいが、エーテルなどの有機溶媒にはよく溶ける。また、ヨウ化カリウム水溶液にもよく溶けて褐色の溶液となる。 デンプン水溶液にヨウ素を溶かしたヨウ化カリウム水溶液を加えると、青紫色を呈する。このようにデンプンにヨウ素を作用させて青紫色となる反応をヨウ素デンプン反応と呼ぶ。これにより、ヨウ素やデンプンの検出ができる。 ヨウ素デンプン反応を用いた試薬に、ヨウ化カリウムデンプン紙がある。これは、ろ紙にデンプンとヨウ化カリウムを含ませたものであり、酸化力の強い物質の検出に用いられる。酸化力の強い物質がある場合、ヨウ化カリウムは酸化されてヨウ素の単体となる。 このヨウ素がデンプンに作用して紫色から青紫色に変化する。 ハロゲンは水素と化合してハロゲン化水素となる。いずれも無色刺激臭の気体である。 また、ハロゲン化水素の水溶液は酸性を示す。 ハロゲン水溶液の酸性は、フッ化水素酸だけが弱酸である。それ以外は強酸である。 フッ化水素は、ホタル石(主成分 CaF2)に濃硫酸をくわえて加熱することで、得られる。 フッ化水素は水によく溶け、弱酸のフッ化水素酸(hydrofluoric acid)となる。 フッ化水素酸は、ガラスの主成分である二酸化ケイ素 SiO2)を溶かすため、保存するときはポリエチレン容器に保存する。 工業の用途として、ガラスの表面処理や、くもりガラスの製造に、フッ化水素酸が用いられる。 フッ化水素だけ沸点が他のハロゲン化水素よりも高いが、この原因は、フッ化水素では水素結合が生じるからである。(← ※ 実教出版、数研出版、第一学習社の教科書で紹介。) フッ化水素酸だけ弱酸である理由も、同様に水素結合によって電離度が低くなっているためである。(← ※ 実教出版、第一学習社の教科書の見解。) 塩化水素の、実験室での製法は、塩化ナトリウムに濃い硫酸を加え加熱することで得られる。 塩化水素は水によく溶け、その水溶液は塩酸(hydrochloric acid)である。濃度の濃いものは濃塩酸、薄いものは希塩酸と呼ばれる。塩酸は強酸性を示し、多くの金属と反応して水素を発生する。 また、強酸性であることから、弱酸の塩と反応して塩を生じ、弱酸を遊離させる。 塩酸には揮発性があり、常温で一部が気体となる。そのため、アンモニアのついたガラス棒を近づけると、塩酸の気体とアンモニアとが触れて反応し、塩化アンモニウム NH4Cl が生じる。この反応は、塩化水素やアンモニアの検出に用いられる。 ハロゲン化銀は、フッ化銀を除いて、一般に水に溶けにくい。このため、ハロゲンの化合物の水溶液に、硝酸銀をくわえると、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀などのハロゲン化銀が沈殿する。 塩化水素(HCl) 塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀には感光性があり、生じた沈澱に光を当てると銀が遊離する。また、これらはいずれもチオ硫酸ナトリウム水溶液によく溶ける。アンモニア水への溶けやすさは異なり、塩化銀はよく溶け、臭化銀も一部溶けるが、ヨウ化銀は溶けない。 塩素のオキソ酸には、酸化数の異なる次の4つがある。 さらし粉(化学式: CaCl(ClO)・H2O または Ca(ClO)2)は、次亜塩素酸イオンを含むため、その酸化作用により漂白剤や殺菌剤として広く用いられている。水酸化カルシウムと塩素を反応させることで得られる。 塩素酸HClO3は不安定な物質だが、カリウムやナトリウムの塩は安定で、強い酸化剤である。塩素酸カリウムKClO3は酸化マンガン(IV)を触媒として用いて加熱すると酸素を発生するため、花火やマッチの火薬中に燃焼を助けるため含まれる。 ハロゲンの化合物のなかには、日用品の中に広く用いられている物もある。たとえば、フッ素化合物の一つ、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)はフライパンの表面に薄く塗られ、焦げ付きを防ぐ役割を果たしている。また、臭化銀はその感光性を利用して、写真のフィルムに用いられている。塩素は多くのビニル・プラスチック製品に含まれている。また、ヨウ素は消毒剤や うがい薬 に用いられている。 洗剤の「まぜるな危険」の化学反応については、啓林館の教科書を除いて、検定教科書では書かれてない。
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16族に属する酸素(O)、硫黄(S)はともに価電子を6つ持ち、2価の陰イオンになる。ともに単体は同素体を持つ。 酸素の単体には、原子2個で1つの分子を作っている酸素(O2)と、原子3個で1つの分子を作っているオゾン(O3)がある。いずれも常温では気体であるが、大きく異なった性質を示す。 酸素は空気中で約21%ふくまれる。また、酸素は地殻を構成する主な元素でもあり、およそ半分は酸素である。 酸素(O2)は常温で無色無臭の気体である。 工業的な製法は、液体空気の分留によって酸素を得る。 実験室で酸素を得るには、過酸化水素水に酸化マンガン(IV)を加えればよい。この反応で酸化マンガン(IV)は触媒として働き、過酸化水素が分解して酸素を発生する。 また、塩素酸カリウムと酸化マンガン(IV)を混合して加熱してもよい。この反応でもやはり酸化マンガン(IV)は触媒として働く。 オゾン(O3)は、酸素中で無声放電を行うか、強い紫外線を当てることで生成する。 オゾン O3 は分解しやすく、分解のさいに強い酸化作用を示す。オゾンは淡青色・特異臭の気体で、人体には有害である。オゾンの分子は、酸素原子が3つ結合して1つの分子を作っている。 また、オゾンの酸化作用は、ヨウ化カリウムデンプン紙を青変する。 このためオゾンの検出法は、水で湿らせたヨウ化カリウムデンプン紙でオゾンを検出できる。 大気中には上空25000mほどにオゾンが豊富に含まれる層があり、オゾン層と呼ばれる。オゾン層は人体に有害な紫外線を吸収する働きがあるが、近年このオゾン層が南極付近で局所的に薄くなっており(オゾンホール)、環境問題として取り上げられることが多くなっている。 酸素の化合物は一般に酸化物と呼ばれる。酸素はあらゆる物質と化合することができ、一般に金属元素とはイオン結合、非金属元素とは共有結合による酸化物を作る。 酸化物は、酸や塩基との反応のしかたから3通りに分類される。 一般に、非金属元素の酸化物は酸性酸化物であり、金属元素の酸化物は塩基性酸化物である。 二酸化炭素や二酸化硫黄など、非金属元素の酸化物の多くは、酸性酸化物である。 酸性酸化物の定義により、酸性酸化物は水に溶けると、酸性を示す。 また、酸性酸化物は塩基と反応すると、塩をつくる。 二酸化炭素(CO2)は塩基と反応して塩を生じる。 二酸化窒素(NO2)は水に溶けて硝酸(HNO3)となる。 水に溶けて塩基性を示したり、酸と反応して塩を生じる酸化物を、塩基性酸化物という。 金属元素の酸化物の多くは、塩基性酸化物である。酸化カルシウムや酸化ナトリウムなどが、塩基性酸化物である。 酸化カルシウム(CaO)は水に溶けて水酸化カルシウム(Ca(OH)2)となる。 また、これは酸と反応して塩を生じる。 酸・塩基のどちらとも反応して塩を生じる酸化物を、両性酸化物という。 酸化アルミニウム(Al2O3)や酸化亜鉛は、酸とも塩基とも反応して塩を生じる。 塩素の酸性酸化物を水に溶かすと、水と反応して酸を生じる。 塩素の酸化物には、いくつかの種類があるが、一例として酸を生じる反応として、下記の化学反応がある。 リンの酸性酸化物も、水と反応し、酸を生じる。 また、このように酸性酸化物を水と反応させて得られた酸は、分子中に酸素原子と水素原子を含む場合が多い。 塩素の場合は、過塩素酸 HClO4 などが得られるし、窒素の場合は、亜硝酸(HNO2)と硝酸(HNO3)などが得られるし、分子式を見ればわかるように酸素原子と原子が分子中に含まれてる。 一般に、分子中に酸素分子のある構造の酸のことをオキソ酸(oxoacid)という。(「オキソ酸」といった場合、水素原子は、なくても構わない。 ※ 東京書籍と実教出版の見解。 いっぽう、啓林館などが、「オキソ酸」の定義に水素原子を含ませる定義である。) オキソ酸の分子構造についての議論のさいには、塩素原子や窒素原子など、由来となった酸性酸化物の元素を「中心原子」と設定して議論するのが一般的である。(つまり、酸素原子や水素原子は、中心ではない。) 中心元素が同じであれば、結合している酸素の数が多いほど、オキソ酸の酸性は強くなる。 たとえば窒素のオキソ酸として亜硝酸(HNO2)と硝酸(HNO3)があるが、硝酸の方が強い酸である。 また、中心元素が第3周期のリン、硫黄、塩素であるようなオキソ酸は、この順に酸性が強くなる。リン酸(H3PO4)は弱酸であるが、硫酸(H2SO4)は強酸であり、過塩素酸(HClO4)はさらに強い酸性を示す。 塩素のオキソ酸の酸性の順は、 名称は である。 硫黄(S)の単体には、斜方硫黄、単斜硫黄、ゴム状硫黄などの同素体がある。単体は火山地帯から多く産出され、また重油の精製過程のひとつである脱硫(だつりゅう)の工程において多く得られる。 斜方硫黄は常温で安定な黄色・塊状の結晶である。硫黄原子が8つ環状に結合して1つの分子を形成している。 単斜硫黄は高温で安定な黄色・針状の結晶である。硫黄原子が8つ環状に結合して1つの分子を形成している。斜方硫黄を加熱することで得られる。 ゴム状硫黄は褐色の無定形固体である。ただし、純粋なものは黄色を示すものがある。数十万の硫黄原子がジグザグに結合しているため、引っ張ると結合角が変わり弾力性がある。 斜方硫黄を加熱するとコハク色の液体となる。これを加熱し続けると次第に暗褐色となり、粘性が増してくる。さらに加熱すると濃青色の液体となり、これを水中に入れ急冷するとゴム状硫黄となる。 硫黄は、高温で反応性が高い。 硫黄は高温では多くの元素と化合して硫化物となる。たとえば鉄粉と硫黄の粉末を混合して加熱すると、硫化鉄(II) FeS が生じる。 また、空気中で青白い炎をあげて燃焼し、二酸化硫黄となる。 硫化水素(H2S)は無色腐卵臭の気体である。人体に有毒であるため、使用時には十分な換気に注意しなければならない。硫化水素は水に溶け、弱酸性を示す。 火山ガスや温泉に豊富に含まれるが、実験室では硫化鉄(II)に強酸を加えることで得られる。 硫化水素は、おおくの場合に還元剤として働き、二酸化硫黄を還元して硫黄の単体を生じる。 多くの金属イオンと反応して硫化物の沈殿を作るため、金属イオンの分離や検出に多く用いられる。 二酸化硫黄(SO2)は腐卵臭をもつ無色の有毒な気体で、刺激臭がある。また、火山ガスや温泉などに含まれる。 酸性酸化物であり、水に溶けて弱酸性を示す。 実験室では、銅を濃硫酸に加えて加熱するか、亜硫酸塩を希硫酸と反応させることにより得られ、下方置換で得る。 工業的には、硫黄の燃焼により製造される。 二酸化硫黄は還元性があり、漂白作用がある。ただし、硫化水素のような強い還元剤がある場合は、酸化剤として作用する。 硫黄を含む物質は燃焼により二酸化硫黄を生じる。二酸化硫黄の水溶液は、弱い酸性を示す。 硫黄は石油や石炭に多く含まれているため、このような化石燃料を大量に燃焼させると、大気中に多量の二酸化硫黄が放出され、雨水に溶け込み、酸性雨の原因となる。 硫酸(H2SO4)は工業的に接触法(contact process)により、酸化バナジウムを主成分として触媒をもちいて、次のような工程で製造されている。 硫酸は、硫黄のオキソ酸である。通常はH2SO4の水溶液を硫酸と呼ぶ。硫酸は無色透明で粘性があり、密度の大きい重い液体である。濃度により性質が異なり、濃度の90%以上程度の濃いものを濃硫酸(concentrated sulfuric acid)といい、薄いものを希硫酸(diluted sulfuric acid)と呼ぶ。 濃硫酸を水で希釈することで希硫酸が得られる。希釈する際は水を入れたビーカーを水を張った水槽中に入れ、冷却しながら濃硫酸を静かに加えるようにする。これは、硫酸の水への溶解熱が非常に大きいためである。けっして、これを逆にしてはならない。もし、濃硫酸に水を加えるようにすると、溶解熱によって水が蒸発し濃硫酸が跳ねることがあり、たいへん危険である。 硫酸は沸点が高い、不揮発性の酸である。したがって、塩酸や硝酸のような揮発性の酸の塩と反応して塩を作り、揮発性酸が遊離する。 濃硫酸には次のような性質がある。 希硫酸は強酸であり、多くの金属と反応して水素を発生する。一方濃硫酸は水をほとんど含まないため電離度が小さく、ほとんど酸性を示さない。 硫酸イオン(SO42-)はBa2+やCa2+と反応して白色沈殿を生じる。そのため、これらのイオンの検出・分離に用いられる。また日常生活においても、硫酸はカーバッテリーや非常用電源などとして使われる鉛蓄電池の電解液として用いられている。
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水素を除く1族元素のリチウム Li, ナトリウム Na, カリウム K, ルビジウム Rb, セシウム Cs, フランシウム Fr のことをアルカリ金属という。 アルカリ金属の単体は、いずれも銀白色の固体である。融点が低くやわらかい金属で、カッターで簡単に切断することができる。 アルカリ金属の原子は価電子を1個もち、1価の陽イオンになりやすい。 このため、アルカリ金属の原子は酸化されやすいので、天然には単体の状態では存在せず、塩として存在する。 単体を得るには、化合物の融解塩電解を行う。加熱して融解させた化合物に電極を入れ、電気分解を行うと、陰極側に金属の単体が析出する。 アルカリ金属は反応性が高く、還元性も高い。アルカリ金属は常温で空気中の酸素や水と簡単に反応する。特に水とは、アルカリ金属は常温で水と反応して水素を発生しながら激しく反応し、反応後の溶液は強塩基性の水溶液になる。 そのため、アルカリ金属の単体を保存する際には、空気中の酸素や水との反応をふせぐために石油中(灯油)に保存する。リチウムは石油よりも軽いため、石油に浮く。また、単体は素手で触れず、必ずピンセットなどを用いて扱う。 イオンは炎色反応を示し、白金線にイオン水溶液をつけガスバーナーの炎に入れると、リチウムイオンでは赤色に、ナトリウムイオンでは黄色に、カリウムでは赤紫色にそれぞれ炎が色づく。 アルカリ金属は様々な化合物を作る。この章ではアルカリ金属の中でも、特にナトリウムの化合物について学ぶ。 アルカリ金属の単体が水と反応すると水酸化物となる。たとえばリチウムは水酸化リチウム(LiOH)に、ナトリウムは水酸化ナトリウム(NaOH)に、カリウムは水酸化カリウム(KOH)になる。 水酸化ナトリウムの工業的な製法については、塩化ナトリウム NaCl 水溶液の電気分解によって製造される。 常温では白色の固体であり、水によく溶けて、いずれの水溶液も強塩基性を示す。このため皮膚を冒す性質があり、取り扱いに注意する。 水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの固体は吸湿性があり、空気中に放置すると水蒸気を吸収してその水に溶けてしまう。この現象を潮解(ちょうかい、deliquescenece)という。 水溶液も吸湿性があるため、長時間放置すると溶液の濃度が変化する。したがって精密さを要する実験では、直前に水溶液を調整するようにするとともに、中和滴定などにより正確な濃度を測る必要がある。 また水酸化ナトリウムは水分を吸収するだけでなく、空気中の二酸化炭素も吸収して、炭酸塩の炭酸ナトリウム(Na2CO3)を生じる。 この性質から、二酸化炭素の吸収剤として用いられることがある。 水酸化ナトリウムの産業上の用途は、製紙業でのパルプの製造、石油の精製、繊維の製造、セッケンの製造、などで用いられている。 水酸化ナトリウムは苛性ソーダとも呼ばれる。 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)と炭酸ナトリウム(Na2CO3)は共に白色の粉末である。工業的にはアンモニアソーダ法により製造される。 アンモニアソーダ法は炭酸ナトリウムの工業的製法である。 反応で生じた生成物は次のように再利用できる。 アンモニアソーダ法は全体としては、 2 NaCl + CaCO 3 ⟶ Na 2 CO 3 + CaCl 2 {\displaystyle {\ce {2NaCl + CaCO3 -> Na2CO3 + CaCl2}}} という反応式で表される。 炭酸水素ナトリウムは、熱分解して炭酸ナトリウム(sodium carbonate)となる。炭酸ナトリウムは白色の粉末で、水に溶け、水溶液は塩基性を示す。 炭酸ナトリウムは加熱しても、分解しない。 炭酸ナトリウムは弱酸と強塩基の塩であり、水に溶けると加水分解して塩基性を示す。 炭酸ナトリウム水溶液を冷却すると十水和物 Na2CO3・10H2O の無色透明の結晶が得られる。この Na2CO3・10H2O の結晶は空気中に放置すると水和水の大部分を失って、白色粉末の一水和物 Na2CO3・H2O となる。この現象は風解(ふうかい、efflorescence)と呼ばれる。 炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムは、ともに強酸と反応して二酸化炭素を生じる。 炭酸ナトリウムは、ガラスの製造などに用いられる。 炭酸水素ナトリウム NaHCO3 は白色粉末で、水に少し溶け、水溶液は加水分解により弱塩基性を示す。炭酸水素ナトリウムは重曹(じゅうそう)ともいう。 炭酸水素ナトリウムを熱すると、分解して二酸化炭素を発生する。 (上記の反応は、ソルベー法での炭酸水素ナトリウムの分解反応と同じ。) 炭酸水素ナトリウムの用途は、発泡剤やベーキングパウダー(ふくらし粉)、入浴剤の発泡剤成分、などとして用いられている。 また、強酸で、二酸化炭素を発生する。 水酸化ナトリウムに塩酸を加えると、中和反応を起こし塩化ナトリウム(NaCl)を生じる。 塩化ナトリウムは天然では岩塩に豊富に含まれており、食塩の主成分としても有名である。工業的には海水を濃縮することにより得られる。 塩化ナトリウムを融解塩電解すると単体のナトリウムが得られる。 塩化ナトリウム水溶液を電気分解すると、陽極から塩素が発生し、陰極から水素が発生する。このとき陰極側では水の電気分解反応が起こっており、水酸化物イオンが生じている。 溶液中にはナトリウムイオンが残るため、陰極付近では水酸化ナトリウムの水溶液が得られる。この原理は工業的な水酸化ナトリウムおよび塩素・水素の製造法として応用されており、陽イオン交換膜を用いることからイオン交換膜法と呼ばれる。
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周期表の2族の元素は、すべて金属元素である。2価の価電子をもち、2価の陽イオンになりやすい。天然には塩として存在している。 2族元素のことをアルカリ土類金属という[1]。 2族元素の単体は、いずれも、空気中で激しく燃焼して酸化物を生じる。たとえばマグネシウムは白い強い光を出しながら燃焼して白色の酸化マグネシウム(MgO)を生じる。 マグネシウムは二酸化炭素とも熱や光を出しながら激しく反応する。 2族元素の酸化物はいずれも塩基性酸化物であり、酸と反応する。たとえば酸化マグネシウムは塩酸と反応して塩化マグネシウムを生じる。 塩化マグネシウムは白色の固体であり、潮解性がある。 ベリリウム・マグネシウムとアルカリ土類金属とでは、次のような違いがある。 水酸化バリウムの水溶液などに希硫酸を加えると、硫酸バリウム BaSO4 の白色沈殿が得られる。 硫酸バリウム BaSO4 は白色の粉末で、水に溶けず、酸にも反応しない。 硫酸バリウムの実社会の用途として、医療では、この性質(水に溶けにくい、酸に反応しない、など)を利用して、人体のX線撮影の造影剤として、胃や腸など消化器官のようすを撮影するための造影剤として、硫酸バリウムは用いられる。 なおバリウムおよび硫酸バリウムは、X線を透過させにくい。そのため、X線撮影の際、人体内のバリウムのある場所でX線が遮断され、撮影装置にX線が届かなくなるので、胃や腸でのバリウムのようすが見える、という仕組みである。 カルシウム(Ca)はアルカリ土類金属のひとつである。単体は塩化カルシウムの融解塩電解により得られる。 単体を空気中で燃焼させると酸化カルシウム(CaO)を生じる。酸化カルシウムは生石灰(せいせっかい)とも呼ばれる。 酸化カルシウムに水を加えると熱を出しながら水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生じる。水酸化カルシウムは消石灰とも呼ばれる。 酸化カルシウムは水を吸収し、そのさい発熱することから、乾燥剤や発熱材として用いられる。 酸化カルシウムに水を加えると熱を出しながら水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生じる。 逆に、水酸化カルシウムを加熱すると酸化カルシウムが得られる。 水酸化カルシウムはカルシウムを水と反応させることによっても得られる。 水酸化カルシウムは白色の粉末であり、水酸化カルシウムは消石灰(しょうせっかい)とも呼ばれる。水酸化カルシウムの水溶液は塩基性を示し、一般に石灰水(せっかいすい、lime water)と呼ばれる。石灰水に二酸化炭素を通じると、炭酸カルシウムの白色沈殿を生じて白濁する。この反応は二酸化炭素の検出に用いられる。 しかし、白濁した石灰水にさらに二酸化炭素を通じ続けると、炭酸水素カルシウムとなって沈殿は溶解し、無色の水溶液になる。 この炭酸水素カルシウム水溶液を加熱すると、ふたたび炭酸カルシウムの沈殿が生じる。 水酸化カルシウム水溶液に塩酸を加えると、塩化カルシウムを生じる。塩化カルシウムは吸湿性があり、乾燥剤としてしばしば用いられる。 水酸化カルシウム水溶液に塩素を通じると、さらし粉を生じる。 炭酸カルシウム CaCO3 の固体は、天然には石灰岩や大理石として存在する。 鍾乳洞(しょうにゅうどう)や鍾乳石(しょうにゅうせき)は、炭酸カルシウムが地下水にいったん溶けて、水中で炭酸水素ナトリウムとなり、その後、炭酸カルシウムに戻り、再度、固まったものでる。 炭酸カルシウムは塩酸などの強酸と反応して、二酸化炭素を発生する。 炭酸カルシウムは、セメントの原料や、チョークの原料、ガラスの原料、歯みがき粉の原料などとして、使われている。 水酸化カルシウム水溶液に硫酸を加えると、硫酸カルシウム CaSO4 の白色沈殿を生じる。硫酸カルシウムは天然には二水和物がセッコウ(石膏)として存在する。セッコウを約130℃で焼くことにより、二分の一水和物である焼きセッコウの白色粉末となる。 焼きセッコウの粉末に水を少量まぜると、硬化して、体積が少し増え、セッコウになる。セッコウ像や医療用ギプスは、この性質を利用している。 カルシウムやバリウムの硫酸塩は水に溶けにくく、この性質は陽イオンの系統分離において重要である。また日常生活においても重要で、硫酸カルシウムは建築材や医療用ギプスに、硫酸バリウムBaSO4はX線撮影の造影剤として用いられる。 Ca2+やMg2+を多く含む水を硬水という。それらが少量しか含まれていない水のことを軟水という。 日本では一般に、地下水には硬水が多い。日本では河川水には軟水が多い。 また、硬水を飲むと、下痢を起こしてしまう。なので、食用には硬水は不適切である。 しかし、農業用水に硬水を使う分には問題がない。 もしボイラーで硬水を使うと、沈殿が残るので、配管の詰まりを起こしやすく、危険であり不適切である。 工業用水や生活用水には、硬水は不適切である。 大陸の河川水では、硬水が多い。その理由は、大陸の河川水は緩流なので、鉱物質が溶けこんでいるので、硬水が多い。 いっぽう、日本では急流が多いことが、日本の河川水に軟水が多い。 基本的に水の硬度の数値が低いほど軟水である。いっぽう、水の硬度の数値が高いと硬水である。 ベリリウムとマグネシウムは、金属に分類されている(高校教科書でも、ベリリウムなどは金属に分類されている。)。しかし、上述のように特殊な性質を示すこともあり、一説には、ベリリウムはやや共有結合よりの金属結合をしている中間的な結合であるかもしれないと解釈する理論も存在する。(※ 参考文献: 東京化学同人『無機化学 - その現代的アプローチ -』、第二版、94ページ ) ベリリウムに他の金属が衝撃的にぶつかっても火花が飛び散りづらい性質があるので、そのため特殊なカナヅチの材料としてベリリウム系の合金(ベリリウムと銅の合金)が使われていることも多い。 またベリリウムはX線および電磁波を透過するので、X線管の材料のうち、X線を透過させたい部分の材料に使われる。 天然では、宝石のエメラルドにベリリウムが含まれる。 なお、化学的には、ベリリウムはアルミニウムに近い反応をすることも多い。(※ 参考文献: 東京化学同人『無機化学 - その現代的アプローチ -』、第二版、94ページ ) エメラルドにも、アルミニウムは含まれる。(エメラルドの主成分は、シリコンとアルミニウムとベリリウムである。) 酸化マグネシウム MgO は融点が高く(約2800℃)、耐火レンガやるつぼの材料などに用いられている。(※ 数研出版のチャート式にこのように書かれている。) (チャート式などでは範囲外(普通科高校の範囲外)なので触られてないが)、耐火レンガの材料などに酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなどが用いられる理由のひとつとして、融点の高さのほかにも、熱の伝わりやすさという、重大な理由がある。(※ 工業高校などの一部の学科で習う。)(※参考文献: 文部科学省著作教科書『セラミック工業』平成15年3月25日 初版発行、平成18年1月25日、実教出版 発行、188ページや203ページなど。)転炉や電気炉で近年、マグネシアカーボンれんが が用いられているという。なお、高炉はアルミナ質れんが や 炭化ケイ素れんが が用いられているという。また、製鉄の溶融スラグは塩基性であると考えられており、酸化マグネシウムは耐塩基性としての耐腐食性が高い(つまり、腐食しにくい)と考えられていることも、各所で酸化マグネシウムが使われる一因である。 もし るつぼ等の使用中に高熱が一箇所に蓄積すると、るつぼ等が溶融してしまい破壊されてしまうので、熱を伝えやすい材料を適切な場所に用いることで、るつぼ等の寿命をのばしているのである。 酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなど、いちぶの金属の酸化物は(金属酸化物を含まない単なる粘土レンガと比べれば)比較的に熱を伝えやすい。 名前こそ「耐火」レンガであるが、酸化マグネシウムを含まないからといって、耐熱性が低いわけでもないし、燃えやすいわけでもない。 酸化マグネシウム系レンガなどが必要とされる本当の理由は、熱を分散・拡散しやすいことである。 耐火レンガを作る際、そもそもレンガの母材として粘土が必要であるが、それに酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなどを適量に混ぜることで、熱の伝わりやすさを調節して、耐火レンガは設計される。
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アルミニウム Al は13族の金属元素で、価電子を3個もち、3価の陽イオンになりやすい。 銀白色の軽い金属である。展性や延性が大きく、薄く伸ばしたものはアルミニウム箔(いわゆるアルミホイル)として一般家庭でも用いられている。また、電気伝導性も良く、熱伝導性も良い。熱伝導性が良いことから、鍋などにも用いられる。 アルミニウムの単体を空気中に放置すると、表面に緻密な酸化膜(酸化アルミニウム Al2O3 )の被膜ができ、内部を保護する。 アルミニウムやマグネシウムを主成分とする合金であるジュラルミンは軽量かつ強度が高く、航空機に用いられている。アルミニウム自体も、アルミ缶や1円硬貨に用いられている。 アルミニウムの製法は、工業的には、鉱石のボーキサイト(bauxite、主成分: 酸化アルミニウム Al2O3)を処理して酸化アルミニウム(Al2O3)にかえたあと、氷晶石(Na3AlF6)とともに溶融塩電解して製造される。 アルミニウムの電解には、大量の電力が必要となる。 製造の過程で得られる酸化アルミニウム(Al2O3)は水に溶けにくい白色の固体である。酸化アルミニウムはアルミナとも呼ばれ、融点が非常に高い(アルミナの融点は2054℃)ことから耐熱材の原材料としても用いられるほどである。氷晶石は、このアルミナの融点を降下させるために加えられる。 アルミニウムの粉末は、空気中または酸素中で熱すると、激しく燃える。 濃い水酸化ナトリウム水溶液でボーキサイト中の酸化アルミニウムが溶け、ほかの不純物はあまり溶けない。まず、この水酸化ナトリウム水溶液で酸化アルミニウムを溶かして アルミン酸ナトリウム Na[Al(OH)4]を得る。 (ここまでは、どの文献でも、ほぼ同じ。) まず、ろ過をして、溶液から、不溶性の Fe2O3 などの余計な不純物を取り除く。 あとは、このアルミン酸ナトリウム水溶液をうまく処理し、アルミナに変えていく方法が必要なのである。 まず、アルミン酸ナトリウム Na[Al(OH)4]水溶液から、なんらかの方法で、加水分解を起こし、水酸化アルミニウム Al(OH)3 を沈殿させる。 あとは、この水酸化アルミニウムを高温で焼成すると、純度の高い酸化アルミニウムが得られる。 また、アルミニウム単体の粉末と、酸化鉄 Fe2O3 など他の金属酸化物の粉末を混合して、加熱すると、アルミニウムが激しく酸化され、ほかの金属酸化物が還元され、金属単体が得られる。たとえば酸化鉄(Ⅲ)とアルミニウムを混合して加熱すると、鉄が得られる。 これをテルミット法といい、レールの溶接などに用いられる。 アルミニウムは両性元素であり、酸とも塩基とも反応して水素を生じる。たとえば、塩酸と反応して水素を発生しながら塩化アルミニウムを生じる。 また、水酸化ナトリウム水溶液と反応して、水素を発生しながらテトラヒドロキソアルミン酸イオンを生じる。 しかし、アルミニウムは濃硝酸に溶けない。これは、反応開始直後に金属表面に緻密な酸化被膜を形成し、反応が金属内部まで進行しなくなるためである。このように、緻密な酸化皮膜により保護されて、それ以上は反応が進行しない状態を不動態(ふどうたい)という。 アルマイトという材料は、アルミニウムの表面を人工的に酸化させることで厚い不動態の膜で保護させ、そのアルミニウムの耐久性を上げた材料であり、日本で開発された。 アルミニウムイオン(Al3+)の水溶液は無色透明である。これに水酸化ナトリウム水溶液を少量加えると、水酸化アルミニウムの白色ゼリー状沈殿を生じる。 しかし、水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えると、沈殿は溶解して無色の水溶液となり、テトラヒドロキソアルミン酸イオンを生じる。 テトラヒドロキソアルミン酸イオン水溶液に塩酸を加えると、逆に水酸化アルミニウムの白色沈殿を生じ、過剰に加えれば塩化アルミニウムを生じる。塩化アルミニウムは潮解性のある白色の固体であるが、水に溶けやすく、電離してアルミニウムイオンを生じる。 アルミニウムイオンを含んだ水溶液に、塩基を加えると、水酸化アルミニウム Al(OH)3 の白色ゲル状の沈殿が生じる。 水酸化アルミニウムを熱すると、酸化アルミニウム Al2O3が生じる。 水酸化アルミニウム Al(OH)3 は酸とも塩基とも反応して溶けることのできる、両性水酸化物である。 酸化アルミニウム Al2O3 は、アルミナ(alumina)とも呼ばれ、白色の粉末で、水に溶けない。また、融点が高い(融点:2054℃)。 酸化アルミニウム Al2O3 は、酸にも強塩基にも溶ける両性酸化物であるが、アンモニア水には溶けない。 また、たとえば宝石のルビーやサファイアは、酸化アルミニウムが主成分の結晶である。酸化アルミニウムの結晶のうち、ごく微量のクロムやチタンなどの金属が混入したものが、赤いルビーや青いサファイアであり、ともに、かなり硬い。また、酸にも塩基にも、ルビーやサファイアは溶けない。 なお、ルビーにはクロム Cr が、サファイアには鉄 Fe やチタン Ti が含まれている。 ルビーやサファイアなどは組成がわかっているので、人工的に作ることもできる。 材料であるアルミナやクロムまたは鉄などに高温や高圧などを加えて熱することで、人工的にルビーやサファイアなどを作ることができる。 このように、人工的につくった宝石のことを人工宝石といい、さまざまな分野に応用されている。 また、アルミナ化合物ではないが、ダイヤモンドや水晶などアルミナ以外の宝石でも、人工的につくることができる。 人工ダイヤや人工水晶も、人工宝石に含める。 なお、人工ダイヤモンドは、その硬さを活用して、工場などの大型の回転カッターなどの切れ味を増すための材料などとして、刃先に人工ダイヤのある刃物が応用されている(いわゆるダイヤモンドカッター)。 硫酸カリウム水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを混合して濃縮して得られる結晶は、硫酸カリウムアルミニウム十二水和物 AlK(SO4)2・12H2O の結晶であり、この硫酸カリウムアルミニウム十二水和物をミョウバン(明礬)という。 ミョウバンの結晶は無色透明で正八面体形をしている。 ミョウバンを水に溶かすと、Al3+ 、K+ 、SO42- の各イオンに電離する。 ミョウバンのように、2種類以上の塩が結合して物質を複塩(ふくえん、double salt)という。 ミョウバンを焼くと、無水物である焼きミョウバンが得られる。ミョウバンは温度による溶解度の変化が激しく、低温の水には少量しか溶けないが、温度を上げるとよく溶けるようになる。
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亜鉛 Zn は周期表12族の元素であり、原子は価電子を2個もち、2価の陽イオンになりやすい。 亜鉛の単体は、銀白色の金属である。 亜鉛は両性元素であり、酸とも塩基とも反応して水素を発生する。たとえば塩酸と水素を発生しながら反応して塩化亜鉛になる。 また、強塩基の水酸化ナトリウムと反応し、水素を発生してテトラヒドロキソ亜鉛(Ⅱ)酸イオンを生じる。 たとえば、一般的な乾電池の負極は亜鉛板でできている。 また、鉄板に亜鉛をメッキした板はトタンと呼ばれ、屋根やバケツなどに用いられる。 亜鉛に塩酸を加えると先にみたように、水素を発生しながら溶け、塩化亜鉛(ZnCl2)を生じる。塩化亜鉛は水に溶ける物質で、水溶液中では亜鉛イオン(Zn2+)として存在している。 この亜鉛イオン水溶液に水酸化ナトリウム水溶液またはアンモニア水を少量加えると、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)の白色ゼリー状沈殿を生じる。 しかし、これに水酸化ナトリウム水溶液またはアンモニア水を過剰量加えると、沈殿は溶けて無色透明の水溶液となる。水酸化ナトリウム水溶液ではテトラヒドロキソ亜鉛(Ⅱ)酸イオン([Zn(OH)4]2-)を生じ、アンモニア水ではテトラアンミン亜鉛(Ⅱ)イオン([Zn(NH3)4]2+)を生じる。 アンモニア水を過剰に加えて弱塩基性とした亜鉛イオン水溶液に硫化水素を通じると、硫化亜鉛(ZnS)の白色沈殿を生じる。 また、酸化亜鉛 ZnO は白色の粉末で、水に溶けにくく、白色絵の具の顔料として用いられる。 ZnOは両性酸化物であり、塩酸にも水酸化ナトリウムにも溶ける。 酸化亜鉛は亜鉛華(あえんか)とも呼ばれる。酸化亜鉛は、白色顔料などに用いられる。 亜鉛イオン Zn2+ を含む水溶液を中性または塩基性にして、硫化水素を通ずると、硫化亜鉛 ZnS の白色沈殿を生じる。 硫化亜鉛は、夜光塗料などに用いられる。
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スズ Sn と鉛 Pb は、ともに周期表14族であり、原子は価電子を4個もち、ともに酸化数が+2または+4の化合物をつくり、ともに両性元素であり、ともにイオン化傾向は水より大きい。 スズ(Sn)は銀白色の固体である。展性や延性に富み、また比較的さびにくい金属である。酸とも塩基とも反応して、水素を発生する。 スズは、青銅やハンダなど合金の材料でもある。 また、スズはメッキに多用される。鉄にスズをメッキしたものは「ブリキ」と呼ばれ、缶詰や金属玩具などに用いられる。 化合物中でのスズの酸化数には +2 と +4 があるが、スズの場合は 酸化数=+4 のほうが安定である。 スズを塩酸に溶かした溶液から、塩化スズ SnCl2 が得られる。 塩化スズ(II)二水和物 SnCl2・2H2O は無色の結晶。また、水溶液は還元作用がある。
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鉛 Pb は青白色のやわらかい金属である。鉛とその化合物は有毒である。 鉛は、両性元素であり、硝酸、強塩基の水溶液と反応して溶ける。しかし、塩酸と希薄硫酸には、鉛の表面に難溶性の皮膜(塩化鉛 PbCl2 や、硫酸鉛 PbSO4 の皮膜は、水に難溶)が発生するため、溶けない。 Pb + 2 HNO 3 ⟶ Pb ( NO 3 ) 2 + H 2 {\displaystyle {\ce {Pb + 2HNO3 -> Pb(NO3)2 + H2}}} Pb + 2 NaOH + 2 H 2 O ⟶ [ Pb ( OH ) 4 ] 2 − + 2 Na + + H 2 {\displaystyle {\ce {Pb + 2NaOH + 2H2O -> [Pb(OH)4]^2- + 2Na^+ + H2}}} ただし、塩酸と希硫酸には溶けない。また、アンモニア水のような弱塩基にも溶けない。 酸化鉛PbOは黄色く、古くは、黄色の顔料として用いられた。 鉛は放射線の遮蔽材や鉛蓄電池に使われている。 鉛の化合物は水に溶けにくいものが多いが、硝酸鉛 Pb(NO3)2 や酢酸鉛 (CH3COO)2Pb は水によく溶ける。 鉛(II)イオン(Pb2+)は様々な沈殿を作る。アンモニア水や少量の水酸化ナトリウム水溶液を加えると、水酸化鉛(II)の白色沈殿を生じる。 ただし、水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えると、テトラヒドロキソ鉛(II)酸イオンを生じて溶ける。 鉛(II)イオン水溶液に塩酸を加えると、塩化鉛(II)の白色沈殿を生じる。 これを加熱すると、鉛(II)イオンを生じて溶ける。 鉛(II)イオン水溶液に希硫酸を加えると、硫酸鉛(II)の白色沈殿を生じる。 鉛(II)イオン水溶液に硫化水素を加えると、硫化鉛(II)の黒色沈殿を生じる。 鉛(II)イオン水溶液にクロム酸カリウム水溶液を加えると、クロム酸鉛(II)の黄色沈殿を生じる。 鉛(II)イオン水溶液にヨウ化カリウム水溶液を加えると、ヨウ化鉛(II)の黄色沈殿を生じる。
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鉄(Fe)の単体は灰白色で比較的やわらかい。また、合金にして、鉄道のレール、流し台や窓枠のステンレス鋼、建築材の鉄骨など、さまざまなものに鉄が用いられている。 なお、鉄は、磁石に引き寄せられる。 鉄は鉄鉱石(てっこうせき)から製造される。鉄鉱石には、酸化鉄(Ⅲ)などの鉄の酸化物とその他不純物が含まれている。鉄を取り出すために、溶鉱炉に鉄鉱石とコークス(C)、石灰石(CaCO3)を加え、加熱する。コークスは酸化され一酸化炭素(CO)となり、酸化鉄を還元して最終的に鉄の単体となる。 ここで溶鉱炉から得られる鉄は銑鉄(せんてつ)と呼ばれ、炭素を多く含んでいる。これは鋳物に用いられるが、もろいため、実用的な材料には向かない。銑鉄とともに溶鉱炉からは「スラグ」というものが得られる。鉄鉱石中にはケイ酸塩が含まれており、これと石灰石とが反応したものがスラグである。 銑鉄を転炉に移し、加熱して溶解しながら酸素を吹き込むと鋼(こう、steel)が得られる。鋼は、炭素の含有量が銑鉄より少なく、硬くて、弾性があることから、建築材や構造材などに用いられる。 鉄は、湿った空気中では酸化されて赤さびを生じる。また、鉄の塊は空気中で燃焼しないが、スチールウールは酸素中で激しく燃焼し、酸化鉄となる。(酸化鉄には何種類かあり、ここでは覚えなくてよい。) 鉄は、酸に溶けて、水素を生じる。 ただし、濃硝酸では、表面に皮膜ができる不動態となり、それ以上は反応が進行しない。 鉄イオンは陽イオンであるが2価と3価のものがある。価数により異なる性質をもつ。 鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)は淡緑色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅱ)の緑白色沈殿を生じる。 この沈殿は空気中で酸化されて水酸化鉄(Ⅲ)になる。 硫化水素とは塩基性条件下で反応して、硫化鉄(Ⅱ)の黒色沈殿を生じる。酸性条件下では反応しない。 酸化剤である過酸化水素水を加えると、イオンが酸化されてFe3+となり、黄褐色の水溶液となる。 このヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液の反応は、鉄イオンの検出に用いられる。 一方、鉄(Ⅲ)イオン(Fe3+)は黄褐色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅲ)の赤褐色沈殿を生じる。 硫化水素とは塩基性条件下で反応して、一度イオンを還元してFe2+とした後、硫化鉄(Ⅱ)の黒色沈殿を生じる。酸性条件下ではイオンを還元してFe2+とするのみで、沈殿を生じない。 鉄(Ⅲ)イオンの塩として、塩化鉄(Ⅲ)六水和物(FeCl3・6H2O)がある。黄褐色の固体であるが、潮解性がある。 鉄イオンは上記の他にも次のような反応をする。これらは、鉄イオンの検出・分離に有用である。 これらのチオシアン酸カリウム水溶液(KSCN)やヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液の反応は、鉄イオンの検出に用いられる。 なお、ベルリン青とターンブル青は、色調は異なるが、同一の化合物である。
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銅(Cu)は赤色の金属光沢をもつ金属である。展性・延性に富み、電気伝導性・熱伝導性が大きいことから、電線、調理器具、装飾品等、幅広く用いられている。 銅は空気中で風雨にさらされると緑青(ろくしょう)と呼ばれる青緑色のさびを生じる。たとえば名古屋城の屋根や、アメリカの自由の女神などは緑色をしているが、これは緑青によるものである。 (※ 範囲外? )緑青について、第二次大戦前のかつては、緑青は毒性が強いと考えられていた。しかし、戦後、動物実験などによる検証の結果、緑青に毒性はほとんど無いことが分かった。 銅の鉱産資源は、化合してない単体が産出することもあるが、ほとんどは黄銅鉱(CuFeS2)などの鉱石として産出する。 銅の鉱石を加熱してニッケルや金などの不純物を含む粗銅(そどう)を作り、これを電解精錬することにより純度の高い銅が得られる。電気精錬では、硫酸銅(Ⅱ)水溶液を電解液として、陽極には粗銅板を、陰極は純銅版として電気分解をすると、陽極の粗銅が溶解して銅(Ⅱ)イオンを生じ、陰極には銅が析出する。 陽極の下には溶液に解けなかった不純物がたまる。これを陽極泥といい、金や銀などを回収することができる。 銅は塩素と激しく反応して、塩化銅(Ⅱ)を生じる。 銅はイオン化傾向が小さく、希硫酸や塩酸には溶けない。しかし、硝酸や熱濃硫酸(濃硫酸に加え加熱したもの)といった酸化力の強い酸には溶けて、銅(Ⅱ)イオンを生じる。 銅(Ⅱ)イオン(Cu2+)水溶液は青色をしている。これに水酸化ナトリウム水溶液、またはアンモニア水を少量加えると、水酸化銅(Ⅱ)(Cu(OH)2)の青白色沈殿を生じる。 これに、さらにアンモニア水を過剰に加えると、テトラアンミン銅(Ⅱ)イオン [Cu(NH3)4]2+ を生じて溶け、深青色の水溶液となる。 水酸化銅(Ⅱ)を加熱すると、黒色の酸化銅(Ⅱ)(CuO)を生じる。 酸化銅(Ⅱ)は黒色であるが、高温で加熱すると赤色の酸化銅(Ⅰ)(Cu2O)となる。 銅(Ⅱ)イオン水溶液に硫化水素 H2S を通じると、硫化銅(Ⅱ) Cu2+ の黒色沈殿を生じる。 銅と硫酸の化合物である硫酸銅(Ⅱ)五水和物(CuSO4・5H2O)は青色の結晶である。水に溶かすと青色の水溶液となる。これを加熱すると白色の硫酸銅(Ⅱ)無水物 CuSO4 の粉末となるが、水を加えると再び青色となる。この反応は水の検出に用いられる。 銅は、さまざまな合金の原料である。
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銀 Ag は白色の金属光沢をもつ金属である。すべての金属の中で、熱伝導性と電気伝導性が最も高い。 銀イオンの水溶液は無色であるが、水酸化ナトリウム水溶液、または少量のアンモニア水を加えると、酸化銀(I) Ag2O の褐色沈殿を生じる。 この沈殿に、さらに過剰のアンモニア水を加えると、沈殿が溶けてジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+ を生じ、無色の水溶液となる。 銀イオン水溶液にクロム酸水溶液を加えると、クロム酸銀の赤褐色沈殿を生じる。 銀イオン水溶液に硫化水素を通じると、硫化銀の黒色沈殿を生じる。 銀イオン水溶液に塩酸HClを加えると、塩化銀の白色沈殿を生じる。塩酸に限らず、ハロゲン化水素の水溶液を加えると、ハロゲン化銀の沈殿を生じる。 フッ化銀 AgF 以外は、水に溶けにくい。塩化銀、臭化銀は、アンモニア水、チオ硫酸ナトリウム水溶液、シアン化カリウム水溶液全てに、錯イオンを形成して溶ける。水溶液はいずれも無色。ヨウ化銀はそもそも溶解度が非常に小さく、いずれにも溶けない。(水に対する溶解度は10^-8mol/L、アンモニア水に対する溶解度も10^-5mol/L程度と、非常に小さい。) (Wikipediaの「ハロゲン化銀」のページも参照のこと) また、ハロゲン化銀は、光を当てると、分解して、銀が遊離する。この性質を感光性(かんこうせい)という。カメラ(アナログカメラ)の写真は、この性質を利用している。カメラのフィルムには臭化銀などが感光剤として含まれており、その感光性から写真を撮影することができる。 塩化銀の沈殿にチオ硫酸ナトリウム Na2S2O3 水溶液を加えると、ビス(チオスルファト)銀(I)酸イオンを生じ、無色の水溶液となる。 銀はイオン化傾向の小さい金属であり、塩酸や希硫酸には溶けない。しかし、熱濃硫酸や硝酸といった酸化力の強い酸には溶けて気体を発生する。
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金 Au は金属光沢のある黄橙色の金属である。イオン化傾向が低く、反応性が低いことから単体として天然に存在する。純粋な金は柔らかく、展性・延性は全金属中最大である。 金は通常の酸とは反応しないが、濃塩酸と濃硝酸を3:1の割合で混合した王水には溶ける。 白金 Pt は金属光沢のある白色の金属である。金と同様イオン化傾向が低く、反応性が低い。 金や白金は多く産出しないため、貴金属(レアメタル)と呼ばれ、古くから硬貨や装飾品などに用いられてきた。しかしこれらは近年工業的に重要な物質となってきている。たとえば金は精密電子部品の配線に用いられ、また白金は化学反応を速める触媒として用いられる。
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カドミウム(Cd)はニッケルとともにニッケル-カドミウム電池として用いられる。 カドミウムイオンは硫化物イオンと結合して黄色の沈殿である硫化カドミウムを生じる。 硫化カドミウムは黄色絵の具の顔料として用いられる。 水銀(Hg)は常温常圧で液体として存在する唯一の金属である。水銀は他の金属と合金をつくりやすく、水銀の合金をアマルガムという。 水銀イオンは硫化物イオンと結合して黒色の沈殿を生じる。 水銀の原料は、天然には辰砂(しんしゃ、主成分:HgS)などとして産出する。 水銀は、蛍光灯にも用いられる(いわゆる「水銀灯」)。 また、水銀は密度が、他の液体と比べて高く、そのため水銀は圧力計にも用いられた。 カドミウムや水銀などの重金属類は、工業でよく用いられるが、しばしば公害を引き起こした。たとえば水銀の化合物は水俣病の原因物質であり、カドミウムはイタイイタイ病の原因物質である。
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クロム(Cr)は空気中でも水中でも常温で安定な金属である。クロムは、銀白色の光沢を持つ。 化合物中での酸化数は、おもに+6または+3を取る。 クロムは、空気中では表面に酸化物の緻密な皮膜ができるので(不動態)、それ以上は酸化されず、安定である。 鉄の表面に施す クロムめっき は、この不動態の性質を利用して、さびを防ぐものである。 クロムは、ステンレス鋼の材料でもある。 酸化数が+6のクロムの多原子イオンの主なものに、水溶液の黄色いクロム酸イオン(CrO42-)がある。この水溶液は黄色であるが、酸を加えて液を酸性にすると、同じく酸化数が+6の二クロム酸イオン(Cr2O72-)となり、橙色の水溶液となる。 逆に、橙色の二クロム酸イオン水溶液に塩基を加えると、クロム酸イオンの黄色水溶液となる。 クロム酸イオンは、さまざまな金属イオンと反応して沈殿となる。たとえば、クロム酸イオン水溶液に銀イオンを加えると、クロム酸銀の赤褐色沈殿が生成する。 また、クロム酸イオン水溶液に鉛(Ⅱ)イオンやバリウムイオンを加えると、ともに黄色の沈殿を生じる。 希硫酸を加えて酸性とした赤橙色の二クロム酸イオン水溶液は強い酸化剤であり、自身は還元されてクロム(Ⅲ)イオン(Cr3+)の緑色水溶液となる。 マンガン(Mn)は銀白色の金属である。空気中で簡単に酸化されるので、単体では用いない。合金の材料として、マンガンは利用されることがある。 イオン化傾向が鉄より大きく、また、酸にマンガンは溶ける。 過マンガン酸カリウム(KMnO4)は酸化剤として有名で、過マンガン酸カリウム水溶液は赤紫色であるが、自身は還元されてマンガン(Ⅱ)イオン(Mn2+)の淡桃色水溶液となる。 このMn2+水溶液にアンモニア水を加えて塩基性とした後、硫化水素を通じると、硫化マンガン(Ⅱ)の淡桃色沈殿を生じる。 二酸化マンガンから過マンガン酸イオン水溶液を得ることができる。二酸化マンガンに水酸化カリウム水溶液を加えて加熱すると、緑色のマンガン酸イオン水溶液(MnO42-)となる。これに希硫酸を加えると過マンガン酸イオンの赤紫色水溶液となる。 二酸化マンガン MnO2 は、黒色の粉末をしている。 過酸化水素水の分解を早める触媒として作用する。 また、酸化剤でもあり、たとえば塩酸を酸化して塩素とする。 二酸化マンガンは、日常的にもマンガン乾電池で原料の一つとして用いられている。
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ガラス、セメント、陶磁器などのように、無機物質に加熱処理などしたものを、セラミックスという。 また、このようなセラミック製品を製造する産業を、セラミック産業または窯業(ようぎょう)という。 窯は「かま」の事である。 原材料にケイ酸塩化合物を用いることが多いことから、ケイ酸塩工業ともいう。 セラミックスには下記のように多くの種類があるが、ほとんどのセラミックス材料に共通する性質として、 材料によっては、例外もある。 また、後述する「ニューセラミックス」「ファインセラミックス」では、セラミックに他の材料などを混ぜるなどをして、特性を改良ているため、上記の特性の例外となる場合もある。 なお、「硬い」という長所は、加工のさいには「展性が無い」ので加工が難しいという短所でもある。 建築用のセメント(cement)は、原料に、石灰石、砂、砂利、酸化鉄、粘土、セッコウなどを含んでいる。製造のとき、石灰石が高熱で処理され、酸化カルシウム CaO になる。 セメントは、水をくわえると、発熱しながら、やがて硬化する。 また、コンクリート(concrete)は、セメントに、砂利、砂、水をくわえて、固めた物である。 セメントおよびコンクリートの、水により固まる反応の化学式については、多くの反応が関わっており、複雑なので省略する(高校化学の検定教科書でも、説明を省略している)。 なお、セメントに砂を混ぜたものは、「モルタル」(mortar)という。 セメントおよびコンクリートには、カルシウム Ca が含まれている。 なお、セッコウは、硬化を遅らせて調節するために添加されている。 コンクリートは圧縮の力には強いが、引っ張りの力には弱いので、引っ張りにつよい鉄筋を入れた鉄筋コンクリート(reinforced concrete 、RC)として用いる。 コンクリートは、材料中の水酸化カルシウム Ca(OH)2 により、塩基性を示す。また、この塩基性により、内部の鉄筋が酸から保護される。空気中の酸性物質などにより、コンクリートはしだいに中性に中和されていき、そのため強度がしだいに低下していく。また、鉄筋を保護していたコンクリートが劣化すると、内部の鉄筋も酸に腐食されやすくなっていく。 ガラスはケイ酸塩を主成分として、Na、K、などを含んでいる。 ガラスの結晶構造は不規則であり、また、一定の融点を持たない。高温にすると、やわらかくなり、水あめ のように軟らかくなる。冷えると、固まる。 ガラスの結晶のように、不規則なまま硬化している結晶構造を、アモルファス(非晶質)という。 ガラスは無色透明であるが、金属酸化物をくわえると、その種類に応じて着色する。 ほぼ二酸化ケイ素だけで出来ている高純度のガラスを、石英ガラスといい、紫外線の透過性が高く、また耐熱性も高いので、光学機器や耐熱ガラスや光ファイバーなどに利用されている。 しかし、石英ガラスは耐熱性が高すぎるため融点が高く、製造時の溶融加工が容易でないので、一般のガラス製品には添加物をくわえて融点を下げたソーダ石灰ガラスなどが用いられている。 窓ガラスなどに用いられる一般のガラスは、ソーダ石灰ガラスであり、SiO2のほか、Na2OとCaOを主成分としている。 このソーダ石灰ガラスの製法は、けい砂(主成分 SiO2)に、炭酸ナトリウム(Na2CO3)や石灰石を添加して作る。 ガラスを高温に熱していったとき、ガラスが軟らかくなり始める「軟化点」(なんかてん)または「軟化温度」という。ソーダ石灰ガラスの軟化点は630℃だが、石英ガラスの軟化点は1650℃と、かなり高い。 なお、理科実験などで用いるビーカーやフラスコなど、理科学器具に用いられるガラスの材質には、ホウケイ酸ガラスが用いられている。 ホウケイ酸ガラスは、ホウ砂(主成分 B2O3)とケイ砂からなるガラスである。ホウケイ酸ガラスは熱膨張率が低く、そのため耐熱性も高く、耐食性も高いことから、理科実験器具用のガラスとして用いられている。 鉛ガラスは密度が大きく、また、X線など放射線の吸収能も大きいため、放射線遮蔽窓として用いられる。 また、鉛ガラスは屈折率も大きいため、光学レンズとしても用いられる。 粘土や砂、岩石の粉などを焼き固めて、陶磁器がつくられる。 陶器は約1000℃で焼き固めてて作られ、磁器は約1400℃で焼き固めて作られる。 焼き固めとは、高温にすることで、粒子の表面が部分的に融け、そのあと冷ましていくことで、粒子どうしが接着する。 これらの焼き物の表面には、焼く前に、石英などの粉末からなる上薬(うわぐすり)が表面に用いられている。上薬のことを、釉薬(ゆうやく)ともいう。 焼く時に、上薬が融けて、ガラスになる。また、表面がガラスで保護されることで、吸水性がなくなる。 Al2O3は硬くて丈夫なので、さまざまな材料に用いられる。 研磨剤にも、アルミナは用いられている。 アルミナは絶縁性も高く、そのためICチップなどの絶縁材にも用いられる。(参考文献、『セラミック材料』、工業高校教科書、文部科学省) おまけにアルミナは熱伝導性も比較的よく、そのため電気回路で生じたジュール熱を外部に放散しやすいので、温度上昇による誤動作を防ぎやすくて好都合である。 また、医療用の人工骨などにアルミナ材料の人工骨を用いてても、拒否反応などを起こさず、生体適合性が良い。なお、自然には人体にアルミナは接着しないので、ボルトなどで人工的に人工骨を既存の骨に固定する必要がる。 ケイ素 Si は、シリコンともいい、半導体の材料として、かなり高純度のシリコン(Si)に、導電性を適度に高めるための添加物を加えたものが用いられている。 酸化ジルコニウム ZrO2 およびそれに添加物を加えた材料では、結晶中に自然に生じた欠陥が、まるでシリコン半導体でいう導電性を高めるための添加物と似た役割を生じて、酸化ジルコニウム中の欠陥が酸化ジルコニウムの導電性に影響を与える。その結果、酸化ジルコニウムは、空気中の酸素濃度により導電性が変わる。このため、酸化ジルコニウムは酸素センサとして用いられる。 酸化チタン TiO2 は、光が当たると、有機物を分解する。この有機物の分解作用のため、光の当たった酸化チタンは、殺菌や消臭などの効果をもつ。酸化チタンそのものは減らずに残り続けるので、触媒的に働くことから、このような光のあたった酸化チタンによる分解作用が、光触媒(ひかりしょくばい)と呼ばれる。 この分解のエネルギー源は、酸化チタンが紫外線を吸収し、そのエネルギーによって酸化チタンの酸化力が高まり、そして有機物を分解する。 さて太陽電池としても、酸化チタンは利用されている。酸化チタンそのものは紫外線しか吸収しないため効率が低いため、色素を添加して、色素に可視光を吸収をさせて、そのエネルギーを酸化チタンが利用できるように工夫した太陽電池が開発されており、色素増感型(しきそぞうかんがた)太陽電池と言われている。(「色素」そのものはセラミックではない。混同しないように。色素は一般に有機高分子である。) また、色素と光によってエネルギーを得る仕組みが、植物の光合成の仕組みに似ていることから、生物学的にも興味を持たれている。 この他、酸化チタンは白色であり、人体に無害なので、化粧などの白色顔料としても用いられている。 このほか、超親水性(ちょうしんすいせい)という性質があり、水に濡れても水滴にならず、水が全体に広がるので、自動車のフロントガラスなどの添加剤に応用されている。 酸化スズ SnO2 では、表面に酸素を吸着する性質がある。そして、プロパンガスや一酸化炭素などにさらされると、吸着された酸素が燃焼して、もとの酸化スズに戻る。この吸着と酸素の離脱のさい、導電性が変わるため、プロパンガスなど可燃性ガス濃度を測るセンサーとして用いられる。 そもそもコンデンサーには、電気を通さない性質が求められる。つまりコンデンサーの材料は、絶縁物質であるべきである。そもそも、コンデンサーは、誘電分極(ゆうでん ぶんきょく)を利用した素子だから。もし、金属のように電気を通してしまうと、そもそもコンデンサーとしての役割を持たない。 セラミックは電気を通さないため、コンデンサーとして適切であり、じっさいにコンデンサーとしてセラミック材料は利用されている。 なお、セラミックは、絶縁材料としても、活用される。 コンデンサー材料としては、チタン酸バリウム BaTiO3 などがある。 チタン酸ジルコン酸鉛 PbTiO3 や チタン酸バリウム BaTiO3 などに圧力をくわえると、電圧が発生する。これを利用して、圧力センサーなどに用いる。なお、チタン酸バリウムは、コンデンサー材料としても用いられている。このように、圧電の仕組みと、コンデンサーの誘電分極の仕組みとは、関連性がある。 なお、このような圧電性の材料に交流電圧をくわえると、振動をすることから、音波や振動の発生源としても用いられる。さらに、振動の共振周波数(その物体が振動しやすい周波数)が、その振動体に加えられた圧力や荷重などの外部の力によって変化することから、圧力センサーなどにも圧電材料が応用されている。 ハイドロキシ アパタイトは、骨の主成分でもある。そのため、ハイドロキシアパタイトでつくった人工骨は、もともとの骨に接着しやすく、拒否反応なども起こりにくいので、医療用の人工骨などに利用される。なお、拒否反応などが無くて、生体に接着しやすい性質を、生体親和性という。 炭化物のセラミックスの中には、硬度がかなり高く、また適度に靭性もあり、丈夫なものがある。このため、炭化チタン TiC などは切削工具などに用いられる。炭化ケイ素や窒化ケイ素なども、耐熱性が高い。 自動車エンジンやガスタービンなどに、これらの耐熱セラミックスが用いられる。 半導体や、いくつかのセラミックスには、温度の上昇にともなって、電気抵抗が下がるものがある。 なお、金属では、温度が上がると、電気抵抗が上がる。 半導体やセラミックスの、このような、温度上昇にともなって電気抵抗が下がる特性が実用化されており、電子機器での温度変化時の電圧など出力の安定化のための部品に利用したり、あるいは温度センサなどに利用されたりしている。
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純度の高い鉄の単体は、灰白色であり、比較的やわらかい。 鉄鉱石からの鉄の精錬では、赤鉄鉱 Fe 2 O 3 {\displaystyle {\ce {Fe2O3}}} や磁鉄鉱 Fe 3 O 4 {\displaystyle {\ce {Fe3O4}}} などの鉄鉱石を溶鉱炉で溶かし、コークス C {\displaystyle {\ce {C}}} 、石灰石 CaCO 3 {\displaystyle {\ce {CaCO3}}} を加えて発生する一酸化炭素 CO {\displaystyle {\ce {CO}}} で還元して、鉄をつくる。 鉄鉱石は段階的に次のように還元される。 F e 2 O 3 → F e 3 O 4 → F e O → F e {\displaystyle \mathrm {Fe_{2}O_{3}\rightarrow Fe_{3}O_{4}\rightarrow FeO\rightarrow Fe} } それぞれの反応式は [450℃]  3 Fe 2 O 3 + CO ⟶ 2 Fe 3 O 4 + CO 2 {\displaystyle {\ce {3Fe2O3 + CO -> 2Fe3O4 + CO2}}} [800℃]  Fe 3 O 4 + CO ⟶ 3 FeO + CO 2 {\displaystyle {\ce {Fe3O4 + CO -> 3FeO + CO2}}} [1200℃]  FeO + CO ⟶ Fe + CO 2 {\displaystyle {\ce {FeO + CO -> Fe + CO2}}} 全体での反応は次の反応式で表される。 Fe 2 O 3 + 3 CO ⟶ 2 Fe + 3 CO 2 {\displaystyle {\ce {Fe2O3 + 3CO -> 2Fe + 3CO2}}} また、不純物を取り除くため石灰石 CaCO3 を加える。石灰石によりシリカSiO2やアルミナAl2O3などの脈石(岩石を構成する成分のこと。)が分離される。 このようにして高炉で得られた鉄を銑鉄(せんてつ、pig iron)という。 なお、高炉の内側の耐火性のレンガにより、高炉は高温に耐えられるようになっている。 石灰石は、鉱石中のケイ酸塩と反応しスラグ CaSiO3 を形成する。スラグは比重が銑鉄より軽いため、スラグは銑鉄に浮かぶ。スラグはセメントの原料になるため、スラグは廃棄せず分離して回収する。 また、炭素や石灰石の添加は、融点を下げる役割も有る。凝固点降下と同じ原理である。一般に混合物は融点が下がる。 銑鉄は炭素を質量比4%ほど含む。鉄中の炭素が多いと、粘りが無くなり、衝撃などに対して脆く、硬いが割れやすくなる。 このような鉄は、割れやすいが混合物のため融点が低く、また流動性も良いため鋳造(ちゅうぞう)に用いられる。そのため、このように炭素含有量の多い鉄は 鋳鉄(ちゅうてつ) と呼ばれる。 しかし鋳鉄は割れやすいため、建築材などには不便である。 丈夫な鉄を得るには銑鉄の炭素量を適量に減らす必要があり、転炉で酸素を加えて燃焼させて取り除く。転炉には、酸素吹き込み転炉などを用いる。この酸素吹き込みの酸化熱が、鉄を溶かし続ける熱源に使える。 炭素を0.02%~2%ほど含む鉄を鋼(こう、steel)という。 建築材などの構造材に用いられるのは、十分な硬さと強さをもたせた鋼である。 添加物のため融点は下がり、およそ1400℃で融解し、溶鉱炉の底に溶けた鉄がたまる。 なお、1200℃での反応の式について、温度が高くなりすぎると、逆方向に反応が進んでしまいCO2によるFeの酸化が起きるので、1200℃程度を保つ必要がある。 鉄の化学的性質として、鉄の単体および銑鉄や鋳鉄は、湿った空気中で酸化されやすく、さびやすい。 さびを防ぐため、合金として、鋼にクロム Cr やニッケル Ni などを混ぜた合金がステンレス鋼(ステンレスこう)である。このステンレス鋼は化学的な耐食性が高く、さびにくいため、建築材や台所部材として用いられる。 純度の高い鉄(てつ)の単体は、灰白色であり、比較的やわらかい。 鉄には酸化数+2または酸化数+3の化合物がある。 鉄の酸化物には、黒色の酸化鉄(II) FeO 、赤褐色の酸化鉄(III)Fe2O3 、黒色の四酸化三鉄 Fe3O4 などがある。 鉄は、湿った空気中で酸化されやすい、よって鉄は、さびやすい。 鉄の赤さびは、 酸化鉄(III)Fe2O3 である。 鉄は希硫酸に加えると、水素を発生して溶け、淡緑色の溶液になる。この水溶液から水を蒸発させて濃縮すると、硫酸鉄(II)七水和物FeSO4・7H2Oが得られる。 いっぽう、濃硝酸では、不動態となり、鉄の表面に皮膜ができて、それ以上は反応が進行しない。 鉄 Fe 、ニッケル Ni 、コバルト Co は、単体で磁性を帯びることができる金属である。 一方、銅やアルミニウムは、磁化されない。 鉄、ニッケル、コバルトのように、磁石になることができる物質を強磁性体という。 銅の特徴として、銅は電気の伝導性が良く、また熱の伝導性も良い。なお、一般に純金属の熱伝導性と電気伝導性は比例する。このため、自由電子が、その金属内で熱を伝える作用があるという説が、定説である。 銅は天然にも単体として鉱石が産出されることがあるが、多くの場合は黄銅鉱CuFeS2などのように化合物として産出する。 銅の単体の外観は、赤色の光沢をもつ。 また、銅は電気伝導性が大きい。このため、電線などの電気材料にも銅が用いられる。 銅はイオン化傾向が水より小さいため、酸には侵されにくいが、硝酸など酸化力の強い酸には侵される。酸化作用の強い酸には、硝酸のほか、熱濃硫酸がある。 銅は、湿った空気中で、緑色の さび である緑青(ろくしょう)を生じる。 銅の精錬には、まず、黄銅鉱など銅鉱石を溶鉱炉で溶かす。溶鉱炉にはコークスCおよびケイ砂SiO2を加える。 硫化銅Cu2Sは「かわ」とよばれる。この硫化銅は炉の下層に沈む。FeSiO3 は上層に分離する。溶鉱で発生したFeSiO33は「からみ」という。なおFeSiO3 の式をFeOSiO2と書く場合もある。 この硫化銅を転炉で空気を吹き込むと、銅が遊離する。 こうして転炉で作った銅を粗銅(そどう)という。粗銅の純度は98.5%程度である。 粗銅の純度を上げる目的で金属のイオン化傾向を利用した電気精錬が行われる。粗銅を陽極にして、純銅板を陰極にして硫酸銅CuSO4水溶液中で電気分解すると、陰極に純度が高い銅(99.97%程度)が析出する。一般に、こうして電気精錬で得られた純度99.99%程度の銅を、「純銅」(じゅんどう)と見なしており、検定教科書でも、そう見なしている。 なお、このように電気精錬で得た銅を、電気銅ともいう。 この電気銅が、現在(西暦2013年に記事を執筆)、用いられている銅材料の原料である。 なお、電気精錬の際に、銅中に銀Agや金Auなどの不純物が混ざっていると、電気精錬の際に、銀や金はイオン化傾向が銅よりも低いのでイオン化せず、金や銀が陽極の下に沈殿する。この沈殿を陽極泥(ようきょくでい)という。 電気銅には、まだ水素や硫黄などの不純物が含まれており、それらの不純物を取り除くため電気銅のあとにも精錬は続く。 特に、銅への水素の混入は、水素脆性(すいそぜいせい)という金属材料が脆くなる原因になるので、取り除かなければならない。 銅を空気中で加熱すると、1000℃以下では黒色の酸化銅(II) CuO を生じ、1000℃以上では赤色の酸化銅(I) Cu2O を生じる。 銅が熱濃硫酸に溶解した溶液から、硫酸銅の溶液が得られる。 この溶液から、結晶を析出させると、青色の硫酸銅の結晶が得られる。 硫酸銅の結晶の硫酸銅(II)五水和物 CuSO4・5H2O は、青色の結晶である。 硫酸銅(II)五水和物を熱すると、水和水を失って、無水物の硫酸銅 CuSO4 になり、白色の粉末になる。 この硫酸銅の粉末は、水を吸収すると、青色の水和物に戻る。なので、水の検出のさい、硫酸銅が活用されることがある。 アルミニウムの精錬は、鉱石のボーキサイトからアルミナAl2O3を抽出する工程と、アルミナAl2O3から電解してアルミニウムを得る工程からなる。 アルミニウムの天然の鉱石はボーキサイト(bauxite)といい、ボーキサイトの化学式はAl2O3・nH2Oである。ボーキサイトに濃い水酸化ナトリウム溶液NaOHを加えてアルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)4]が得られる。正確にはテトラヒドロキソアルミン酸ナトリウムという。 アルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)_4]の溶液を冷却し、加水分解がおこると水酸化アルミニウムAl(OH)3 の沈殿が析出する。 生じたAl(OH)3 を分離して、このAl(OH)3を1200℃に加熱して酸化アルミニウムAl2O3にする。 これらのボーキサイトからアルミナまでの工程をバイヤー法という。 Al2O3 はアルミナという。アルミナは融点が高く、約2000℃の融点なので、融点を次の融解塩電解という処理で下げる。 まず、氷晶石を加える。すると融点が下がる。これを電解してアルミニウムにする。 この氷晶石を用いたアルミナの融解の方法をホール・エルー法という。 ※ 化学1でも電気分解を紹介してるので、読者は必要に応じ参照されたい。 工程は以下のとおり。 アルミナAl2O3(融点 2072 °C)に氷晶石Na3 AlF6(融点 1012℃)を、割合が氷晶石9.5重量%ほどになるまで少しずつ加える。氷晶石はアルミナにとって不純物であり、不純物との混合によって溶融温度が下がり、融点が約970℃になる。 溶融したアルミナを電気分解によって、精錬する。 また、このように添加物を加えて融点を下げ、溶融させて電解する方法を融解塩電解または溶融塩電解という。 溶融塩電解による精錬は、アルミニウムの他に、酸化マグネシウムMgOからマグネシウムMgを精錬する場合や、酸化チタンTiO2からチタンTiを精錬する場合に用いられる。 ちなみにアルミナAl2O3 はセラミック材料として様々な優れた性質を持っている。 酸化マグネシウム(マグネシアという)や酸化チタンもセラミックス材料として優れた性質を持っている。 アルミニウムやマグネシウムなどのように酸化物からの精錬に手間が掛かる材料は、裏を返せば、アルミナやマグネシアのように酸化物はセラミックスとして安定した性質を持っているということでもある。 2種類以上の金属を溶融して混合したあとに凝固させたものを合金(alloy)という。 一般に合金では、元の金属単体よりも硬さが増す。ここでいう「硬い」とは「やわらかくない」「変形しづらい」というような意味であり、必ずしも割れにくいとは限らないので注意。また一般に合金の電気抵抗は、もとの金属よりも合金の電気抵抗が上がる。その仕組みの説明として、合金元素によって結晶配列が乱れるから、というのが定説である。 主要な合金の例を示す。 酸素や水と接触した金属は表面で酸化還元反応を起こし、金属がイオン化し脱落する。この反応を腐食という。イオン化した金属が酸化物や水酸化物となって表面に堆積したものを錆という。 鋼板にスズをメッキしたものをブリキ、亜鉛をメッキしたものをトタンという。イオン化傾向が Zn > Fe > Sn {\displaystyle {\ce {Zn > Fe > Sn}}} のため、ブリキはスズが鉄の腐食を防いでいる。しかし、メッキが傷つき鉄が露出した箇所に水がつくと、イオン傾向の大きい鉄がスズよりもイオン化しやすいため、鉄が腐食しやすい。トタンは、亜鉛が鉄より腐食しやすいが、鉄が露出した箇所があってもイオン化傾向の大きい亜鉛が鉄よりイオン化しやすいため、内部の鉄の腐食が防がれる。 つまり、傷がなく鉄が露出していない場合はブリキの方が錆びにくいが、傷がついた場合はトタンの方が錆びにくい。このため、ブリキは缶詰や金属玩具などに用いられ、トタンは屋根やバケツなどに用いられる。 ランタン-ニッケル合金やチタン-鉄合金などは、常温で合金結晶間に水素を吸蔵する性質をもち、加熱などによって水素を掃き出す性質が知られている。 自己の体積の1000倍以上もの水素を吸蔵できる合金もある。 ランタン-ニッケル合金を母材にした、ニッケル水素電池が実用化されており、ハイブリッド自動車で実用化されている。今後の水素自動車や燃料電池自動車などの燃料タンクとしても期待され、開発が進められている。 このほか、チタン鉄合金系もある。 チタンとニッケルの合金では、高温で成形したときの形状の記憶を保ち、常温で変形させても、加熱することで元の形に戻るものがある。 このような合金を形状記憶合金(けいじょうきおく ごうきん、shape memory alloy)という。 眼鏡フレームなどに利用されている。 ある種類の物質は、きわめて低温(たとえば絶対零度のちかく)で、電気抵抗がゼロになる。実用化されてる超伝導合金の代表例として、スズとニオブの合金がある。 応用としては、強い電磁石を作る際に、よく超伝導合金が利用されることがある。医療用MRI(磁力を応用して、人体の断層写真を撮影できる装置)などに、超伝導合金が利用されているという。また、研究開発中だがリニアモーターカーにも、すでに超伝導合金が応用されているという。 スズ-ニオブ系のほかにも、いくつもの超伝導合金が知られている。 アモルファス合金とは、結晶構造を持たずに非晶質(ひしょうしつ)の合金である おおまかな製法は、高温状態で柔くなった金属を急冷すると、原子が通常の結晶構造での位置に配置される前に、冷却によって金属全体が固化してしまい、通常の位置に原子が配置されない。 そのため、急冷した金属・合金のいくつかは結晶構造をもたず、通常の金属とは違った特性をもつ。 磁力的な性質が、異なっている場合が多い。このように、結晶をもたない金属を、アモルファス金属(amorphous metal)といい、そのような、結晶を持たない合金をアモルファス合金という。 応用は、すでに磁気記録用ヘッドとして、(コバルトなどを含む)アモルファス合金が応用されている。 また、鉄系のアモルファス合金が、耐腐食性の必要な環境で用いられる場合もあるという。 高温での加工をしようとすると結晶化してしまうので、原理的に高温での加工ができないという、短所がある。 耐腐食性が高まっている場合もあり、そのような性質の必要な環境にも応用されているという。 タングステン W は融点がきわめて高く(融点3400℃)、耐熱性が大きいので、電球のフィラメントなどに用いられる。 金属では、タングステンが、もっとも融点が高い。 また、炭化タングステン WC は、かなり硬い。 白金 Pt は、銀白色の固体で、化学的な安定性が高い。 かつて、メートル原器の材質として用いられていた。 触媒としても、用いられている。
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高校化学で扱われる沈殿反応、イオン、化合物の色、気体の発生などについてまとめた。 水酸化ナトリウムの水溶液を過剰に加え、沈殿が錯イオンを形成し溶解するもの。両性金属 + Cr 3 + {\displaystyle {\ce {Cr^3+}}} 。 Al ( OH ) 3 → N a O H [ Al ( OH ) 4 ] − {\displaystyle {\ce {Al(OH)3 ->[NaOH] [Al(OH)4]^-}}} Zn ( OH ) 2 → N a O H [ Zn ( OH ) 4 ] 2 − {\displaystyle {\ce {Zn(OH)2 ->[NaOH] [Zn(OH)4]^2-}}} Sn ( OH ) 2 → N a O H [ Zn ( OH ) 4 ] 2 − {\displaystyle {\ce {Sn(OH)2 ->[NaOH] [Zn(OH)4]^2-}}} Pb ( OH ) 2 → N a O H [ Pb ( OH ) 4 ] 2 − {\displaystyle {\ce {Pb(OH)2 ->[NaOH] [Pb(OH)4]^2-}}} Cr ( OH ) 3 → N a O H [ Cr ( OH ) 4 ] − {\displaystyle {\ce {Cr(OH)3 ->[NaOH] [Cr(OH)4]^-}}} アンモニアの水溶液を過剰に加え、沈殿が錯イオンを形成し溶解するもの。 Cu 2 + , Cd 2 + , Ag + , Ni 2 + , Zn 2 + {\displaystyle {\ce {Cu^2+,Cd^2+,Ag^+,Ni^2+,Zn^2+}}} 。どうか銀に会えんか。 Cu ( OH ) 2 → N H 3 [ Cu ( NH 3 ) 4 ] 2 + {\displaystyle {\ce {Cu(OH)2 ->[NH3] [Cu(NH3)4]^2+}}} Ag 2 O → N H 3 [ Ag ( NH 3 ) 2 ] + {\displaystyle {\ce {Ag2O ->[NH3] [Ag(NH3)2]^+}}} Ni ( OH ) 2 → N H 3 [ Ni ( NH 3 ) 6 ] 2 + {\displaystyle {\ce {Ni(OH)2 ->[NH3] [Ni(NH3)6]^2+}}} Zn ( OH ) 2 → N H 3 [ Zn ( NH 3 ) 4 ] 2 + {\displaystyle {\ce {Zn(OH)2 ->[NH3] [Zn(NH3)4]^2+}}} Cd ( OH ) 2 → N H 3 [ Cd ( NH 3 ) 4 ] 2 + {\displaystyle {\ce {Cd(OH)2 ->[NH3] [Cd(NH3)4]^2+}}} これらの錯イオンは、ジアンミン銀(I)イオン、ヘキサアンミンニッケル(II)イオンを除いて配位数4である。 Fe 2 + {\displaystyle {\ce {Fe^2+}}} または Fe 3 + {\displaystyle {\ce {Fe^3+}}} を含む水溶液に、ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム K 4 [ Fe ( CN ) 6 ] {\displaystyle {\ce {K4[Fe(CN)6]}}} 水溶液、ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム K 3 [ Fe ( CN ) 6 ] {\displaystyle {\ce {K3[Fe(CN)6]}}} 水溶液、チアシオン酸カリウム KSCN {\displaystyle {\ce {KSCN}}} 水溶液を加える。 この内、青白色沈殿と褐色溶液になるものについては問われにくい。 高校化学で扱われる化合物の色について扱う。 塩化物、硫酸塩、炭酸塩はすべて白。 Fe 2 + {\displaystyle {\ce {Fe^2+}}} :淡緑   Fe 3 + {\displaystyle {\ce {Fe^3+}}} :黄褐   Cu 2 + {\displaystyle {\ce {Cu^2+}}} :青   Ni 2 + {\displaystyle {\ce {Ni^2+}}} :緑   Cr 3 + {\displaystyle {\ce {Cr^3+}}} :緑   Mn 2 + {\displaystyle {\ce {Mn^2+}}} :淡桃   MnO 4 − {\displaystyle {\ce {MnO4^-}}} :赤紫   CrO 4 2 − {\displaystyle {\ce {CrO4^2-}}} :黄   Cr 2 O 7 2 − {\displaystyle {\ce {Cr2O7^2-}}} :赤橙   [ Cu ( NH 3 ) 4 ] 2 + {\displaystyle {\ce {[Cu(NH3)4]^2+}}} :深青   [ Cr ( OH ) 4 ] − {\displaystyle {\ce {[Cr(OH)4]^-}}} :濃緑   [ Ni ( NH 3 ) 6 ] 2 + {\displaystyle {\ce {[Ni(NH3)6]^2+}}} :青紫 CuO {\displaystyle {\ce {CuO}}} :黒   Cu 2 O {\displaystyle {\ce {Cu2O}}} :赤   Fe 2 O 3 {\displaystyle {\ce {Fe2O3}}} :赤褐   Fe 3 O 4 {\displaystyle {\ce {Fe3O4}}} :黒   FeO {\displaystyle {\ce {FeO}}} :黒   Al 2 O 3 {\displaystyle {\ce {Al2O3}}} :白   Ag 2 O {\displaystyle {\ce {Ag2O}}} :褐色   ZnO {\displaystyle {\ce {ZnO}}} :白   MnO 2 {\displaystyle {\ce {MnO2}}} :黒   HgO {\displaystyle {\ce {HgO}}} :黄 Fe ( OH ) 2 {\displaystyle {\ce {Fe(OH)2}}} :緑白   Fe ( OH ) 3 {\displaystyle {\ce {Fe(OH)3}}} :赤褐   Cu ( OH ) 2 {\displaystyle {\ce {Cu(OH)2}}} :青白   Cr ( OH ) 3 {\displaystyle {\ce {Cr(OH)3}}} :灰緑   Ni ( OH ) 2 {\displaystyle {\ce {Ni(OH)2}}} :緑  その他:白 BaCrO 4 {\displaystyle {\ce {BaCrO4}}} :黄   PbCrO 4 {\displaystyle {\ce {PbCrO4}}} :黄   Ag 2 CrO 4 {\displaystyle {\ce {Ag2CrO4}}} :赤褐 ZnS {\displaystyle {\ce {ZnS}}} :白   CdS {\displaystyle {\ce {CdS}}} :黄   MnS {\displaystyle {\ce {MnS}}} :淡赤   SnS {\displaystyle {\ce {SnS}}} :褐  その他:黒 リアカーなきK村動力借るとうするもくれない馬力 両性金属: Al , Zn , Sn , Pb {\displaystyle {\ce {Al,Zn,Sn,Pb}}} ああすんなり両性に愛される。 潮解性: NaOH , KOH , H 3 PO 4 , P 4 O 10 , CaCl 2 {\displaystyle {\ce {NaOH,KOH,H3PO4,P4O10,CaCl2}}} 風解性: Na 2 CO 3 ⋅ 10 H 2 O , CuSO 4 ⋅ 5 H 2 O {\displaystyle {\ce {Na2CO3.10H2O,CuSO4.5H2O}}}
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炭素を含む化合物を有機化合物(organic compound)という。しかし、一酸化炭素 CO {\displaystyle {\ce {CO}}} や二酸化炭素 CO 2 {\displaystyle {\ce {CO_2}}} などは例外的に有機化合物ではなく無機物質として扱われる。デンプンや糖類、エタノール、酢酸、脂肪などは有機化合物である。 もともと生物に関係する物質を有機物、鉱物から得られる物質を無機物質と分類していた。 かつて有機化合物は生物だけが作れると考えられていた時代もあったが、1828年にドイツのウェーラーが、無機物質のシアン酸アンモニウム NOH4CN から尿素 CO(NH2)2 を合成したことにより、無機物質から人工的に有機物質が合成できる事が分かった。 有機化合物は無機化合物とは、大きく異なる特徴をもつ。 炭素 C と水素 H のみからなる化合物を炭化水素(hydrocarbon)という。炭化水素の構造が、さまざまな有機化合物の構造では、基本的な構造になる。 有機化合物の分子は、炭素原子のつながった構造を骨格として持つ。この炭素原子の結合のしかたにより、有機化合物は2種類に分かれる。 さらに、炭素原子の骨格の形によっても2種類の分類がある。 したがって、有機化合物は大まかに、鎖式飽和化合物、鎖式不飽和化合物、環式飽和化合物、環式不飽和化合物の4つに分類することができる。 さらに環式化合物はベンゼンを含むものを芳香族化合物と分類する。 芳香族化合物でない有機化合物を脂肪族化合物という。 脂肪族炭化水素のうち、特に、鎖式で飽和の炭化水素をアルカン(alkane)と言い、環式で飽和の炭化水素をシクロアルカン(cycloalkane)という。また、炭素原子間の二重結合を1つもつ鎖式不飽和炭化水素をアルケン(alkene)と言い、三重結合を1つ持つ鎖式不飽和炭化水素をアルキン(alkyne)という。 線形表記とは、炭素を線分で表し、炭素に結合する水素を省略した記法である。この記法は有機化合物の構造が見えやすくなり、また、構造式を書くときの煩雑さが少なくなるという利点がある。この線形表記は高校ではあまり教えられず、大学入試でも構造式を記述する際は炭素と水素を省略しない記法で記述することを求められるが、Wikibooksでは炭素骨格が見えやすくなることから、有機化合物に対する理解が深まることや、インターネットでも線形表記を用いた構造式が多数存在することから、学習者にとって利益があると考えて、線形表記を教えることにする。 太字で書いた結合は画面(紙面)の表に、点線で書いた結合は画面(紙面)の裏に飛び出るものとする。こうすることで、化合物の三次元構造を二次元で表現できる。 ある原子の構造を持つ化合物は特徴的な性質を示すことがある。この原子の集まりを官能基という。官能基によって化合物の性質を推測することができる。 以下では重要な官能基を紹介する。 フェノール類[2] エタナール IUPAC命名法では炭素の数を次の数詞で表すのでまずはこれを覚えてほしい。 直線状のアルカンは上の接頭辞のあとに接尾辞 "ane" をつけることで命名する。 例 枝分かれのある場合は、まず一番長い炭素鎖を選ぶ。そして側鎖をアルキル基とみて結合している炭素を番号で表す。 アルケンは上の接頭辞のあとに接尾辞 "ene" をつけ、二重結合している炭素を番号で表すことで命名する。 例 CH 3 − CH = CH − CH 3 {\displaystyle {\ce {CH3-CH=CH-CH3}}} but-2-ene (2-ブテン) アルキンは上の接頭辞のあとに接尾辞 "yne" をつけ、三重結合している炭素を番号で表すことで命名する。 例 CH ≡ C − CH 3 {\displaystyle {\ce {CH#C-CH3}}} prop-1-yne (1-プロピン) 有機化合物の構造を直接調べることは容易ではないが、その組成式を実験により推定することは比較的簡単である。組成と分子量が分かれば分子式を求めることができ、そこから化合物の構造を絞り込むことができる。 はじめに、ある化合物に含まれている元素の種類を推定する方法を紹介する。基本的に有機化合物は炭素と水素を主成分としてできているが、わずかに塩素原子や窒素原子などを含んでいるものもある。ある化合物にこのような特定の元素が含まれているかを実験で調べることができる。 酸化剤とともに熱して、酸化させる。 方法2: 完全燃焼させる。 CO2 H2O NH3 近づけると、白煙を生じる。 まぜて加熱したあと、水に溶かす。 Na2S さらに酢酸鉛(II)水溶液をくわえると、 硫化鉛(II)の黒色沈殿ができる。 CuCl2 銅の炎色反応(青緑色)が見られる。 もしこの化合物が炭素と水素のみ、あるいはこれらと酸素の3種類で構成されていることが分かっていれば、次の実験により化合物の組成式を推定することができる。実験方法 計算 炭素、水素、酸素の化合物である試料w [mg]の燃焼により水a [mg]と二酸化炭素b [mg]が生じたとする。このとき、発生した水の水素原子と二酸化炭素の炭素原子は、ともに試料に由来するものである。したがって、水に含まれる水素原子の質量と、二酸化炭素に含まれる炭素原子の質量は、試料に含まれていた水素原子と炭素原子の質量に等しい。原子量をH=1.0、C=12、O=16とすると、分子量がH2O=18、CO2=44であるから、 となる。すると、試料の残りは酸素原子でできているので、 となる。なお、水分子と二酸化炭素分子に含まれている酸素原子はすべて試料由来ではなく、吹き込んだ酸素が結合している分も含まれているので、水と二酸化炭素の質量から求めることはできない。 以上より、試料中の水素、炭素、酸素の質量を求めることができたため、元素の個数の比を求めることができる。元素1個あたりの質量の比は、原子量の比と等しく であるから、試料に含まれている各原子の個数の比は、 で求められる。組成式は化合物中の原子の個数の比を表すものであるから、この比により組成式が求められる。 ある分子の分子式は、その分子の組成式を自然数倍したものであるから、分子量が求められれば、組成式の式量から現実の原子の個数を計算し、分子式を求めることができる。 分子式が同じでも、構造が異なる化合物を異性体という。特に、構造式が異なるものを構造異性体という。異性体には構造異性体の他にも原子の立体的な配置が異なる立体異性体も存在する。 分子式 C 4 H 10 {\displaystyle {\ce {C4H10}}} で表される有機化合物には次の2つがある。 このとき、ブタンと2-メチルプロパンは構造異性体の関係にあるという。
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脂肪族炭化水素の内、鎖式炭化水素ですべて単結合な化合物をアルカン、二重結合が一個だけある化合物をアルケン、三重結合が一個だけある化合物をアルキンという。 環式炭化水素ですべて単結合な化合物をシクロアルカンという。 アルカンは分子式がCnH2n+2と書け、不飽和度0である。右におもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。 天然ガスには、メタン CH4 が含まれる。メタンは天然ガスの主成分である。都市ガスの成分として、メタンは利用されている。 また、ガソリンには、さまざまなアルカンなどの有機化合物が含まれている。 メタンは分子式CH4であり、四面体構造をしている。 炭素原子間の単結合と三重結合は自由に回転できるが、二重結合は回転することができない。 したがって、アルカンの炭素間は自由に回転できる。 プロパンの炭素は、折れ線状に、並んでいる。 直鎖のアルカンは、炭素数が増えるにつれて沸点・融点が次第に高くなる。たとえば常温では、炭素数1のメタンから炭素数4のブタンまでは気体であるが、炭素数5のペンタンや炭素数6のヘキサンは液体である。 また、アルカンの炭素数が4以上になると、そのアルカンには構造異性体が存在する。炭素原子数が多くなると異性体の数は爆発的に増加し、たとえば炭素数4のブタンは他に1種類のみ異性体を持つが、炭素数10のデカンは他に74種の異性体を持つ。さらに、炭素数20のエイコサンになると、他に36万種を超える異性体が存在する。 常温でアルカンは安定であり、薬品と化学反応を起こしにくい。しかし、光を当てると(おもに紫外線による作用で)、アルカンがハロゲン元素と反応して、アルカンの水素原子がハロゲン原子と置き換わってハロゲン化水素を生じる反応が起こる。これを置換反応(substitution reaction)という。 メタンは分子式CH4の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルカンである。常温では無色の気体である。実験室では、酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを混合して加熱することで得られる。なお、この実験では水上置換法で捕集する。 メタンは光を当てるとハロゲンと置換反応を起こす。たとえば、メタンに光を当てながら塩素と反応させると、次のように1つずつ水素が塩素に置き換わる。 近年、日本近海の海底など、世界のいくつかの海底の多くの場所の地層中で、氷の結晶中にメタンが存在している事が明らかになった。この海底のメタンの含まれた氷をメタンハイドレートという。採掘されたメタンハイドレートの外見はドライアイスに似ている。採掘されたメタンハイドレートに点火すると、メタンだけが燃え、また、最終的に氷が熱で解けて水になる(氷が燃えてるのではない。燃えてるのはメタンである。)。 将来のエネルギー資源として、メタンハイドレートが注目されている(しかし2016年の現状では、まだ資源として実用的な段階には、メタンハイドレートの利用技術は達してない。)。 なお、メタンは温室効果ガスであるので(メタンの化学式には炭素が含まれているので、燃やすと二酸化炭素が発生するから)、メタンハイドレートを燃やすことでも温室効果があるので、気をつけるべきである。 (エテン) (プロペン) アルケンは分子式がCnH2nと書け、不飽和度1である。アルケンは不飽和炭化水素である。右におもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。 エチレンの水素原子1個をメチル基 CH3- に置き換えると、プロピレン(プロペン)になる。 エチレン(ethylene)はエテン(ethene)の慣用名である。IUPAC命名法ではエテンであるが、慣用名のエチレンの使用も認められている。 アルケンは二重結合が含まれているが、二重結合の部分は回転ができないため、そのため、いくつかのアルケンでは、異性体が存在する。このような異性体を、シス-トランス異性体(cis-trans isomers)[1]という。 たとえば 2-ブテン では、シス形(cis form)とトランス形(trans form)という2種類の異性体が存在する。 cis-2-ブテン 融点:ー139℃ 沸点:4℃ trans-2-ブテン 融点:ー106℃ 沸点:1℃ アルケンには二重結合が含まれているため、ハロゲンなどと反応して二重結合の1つを切って、そこと単結合をつくる。このような反応を付加反応(additional reaction)という。(反応例を下図に示す。)  たとえばエチレンは、臭素と反応すると、付加反応により、1,2-ジブロモエタンになる。 また、エチレンは、触媒として白金PtまたはニッケルNiの条件下で、エチレンは水素と付加反応をして、エタンになる。 なお、付加反応はアルケンに限らず不飽和化合物で見られ、炭素間の二重結合や三重結合に対しておこる反応である。いっぽう、アルカンのような単結合のみの飽和炭化水素では起こらない反応である。 アルケンの二重結合に、HX[2]が付加するとき、二種類の生成物が考えられるが、このとき、二重結合している炭素原子に結合しているHが多いほうに、HXのHが付加し、少ない方にXが付加した化合物が多く生成する。これをマルコフニコフ則(Markovnikov rule)という。 また、不飽和炭化水素は酸化剤と反応して酸化される。赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液にたとえばエチレンを通じると、エチレンは酸化され、二酸化マンガンの黒色沈殿を生じるとともに赤紫色が消える。このような反応は、メタンをはじめアルカンでは起こらない。 その他、アルケンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。 エチレン(ehtylene)は分子式C2H4の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルケンである。常温では無色の気体である。二重結合で結びついている炭素原子と、それに直接結合した原子はすべて同一平面上にあるため、右図のようにエチレン分子は全ての原子が同一平面上にある。 エチレンは、実験室ではエタノールの分子内脱水により得られる。エタノールに濃硫酸を加え、160℃程度で加熱するすると、エタノールの分子内で脱水反応がおこり、エチレンが生成する。(下図に例を示す。) また、エチレンは二重結合を含むため、赤褐色の臭素水に通じると、付加反応により臭素の色が消え無色になる。(下図に例を示す。) さらに、赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液に通じると、エチレンは酸化され、黒色の二酸化マンガンの沈殿が生じる。 工業的には、ナフサの熱分解でエチレンが得られる。エチレンは様々な薬品の合成原料であり、工業的に重要な物質である。 エチレンは、植物ホルモンでもある。 右図のアセチレンのように、一般に、炭素間の結合に三重結合を1つ含むため分子式が CnH2n-2 と書ける炭化水素をアルキン(alkyne)という。右に、おもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。 なお、アセチレン分子の立体構造は、すべての原子が直線上にならぶ配置になっている。この理由は、三重結合の部分は、回転をできないから、である。 アルキンは三重結合のため、付加反応を起こしやすく、酸化剤と反応して酸化される。 また、アルキンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。 燃焼時のススの多さは不飽和度が高いほど多くなり、その時の炎も明るくなる。 アセチレンは分子式C2H2の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルキンである。アセチレンの構造式は、右図のように HC≡CH と書く。常温ではアセチレンは無色の気体である。三重結合で結びついている炭素原子と、それに直接結合した原子はすべて同一直線上にあるため、右図のようにエチレン分子は全ての原子が一直線上にある。 アセチレンは、実験室では炭化カルシウムCaC2を水と反応させることにより得られる。炭化カルシウムを細かな穴をあけたアルミ箔で包み、水を入れた水槽に入れると、アセチレンが発生する。アセチレンは水に溶けないため、水上置換法により捕集する。 なお、アセチレンの工業的な製法では、石油などに含まれるアルカンを熱分解(「クラッキング」という)して、アセチレンをつくる。 アセチレンは、溶接用のバーナーの炎に用いられる。アセチレンに酸素を混ぜて点火すると、3000℃を超える高温の炎が得られる。そのため、金属の溶接や切断の際に酸素アセチレン炎が用いられる。 三重結合は付加反応を受けやすく、白金やニッケルなどを触媒として水素と反応させると、エチレンやエタンを生じる。 塩基性の過マンガン酸カリウム水溶液(赤紫色の状態)に通じると、MnO2の沈殿が生じる。 また、アセチレンは三重結合を含むため、赤褐色の臭素水に通じると、付加反応により1-1-2-2-テトラブロモエタンが生じるため臭素の色が消え、無色になる。 硫酸水銀 HgSO4 を触媒として、アセチレンに水が付加することにより、不安定な中間生成物を経て、最終的にアセトアルデヒドを生じる。アセチレンは、まずはじめにビニルアルコール(CH2CH(OH))になるが、これは非常に不安定であり、アセトアルデヒド(CH3CHO)になる。 アセチレンが、赤熱した鉄にふれると、鉄が触媒として作用し、アセチレンの3分子が重合して、ベンゼンが生じる。 炭素が環状(かんじょう)に結合している炭化水素のことを 環式炭化水素(かんしき たんかすいそ) という。 一般式CnH2nで表される環式炭化水素をシクロアルカンという。炭素間の結合がすべて単結合である。右におもなシクロアルカンの分子式と名称および構造式を示す。 シクロアルカンの「シクロ(cyclo-)」とは環式であることを表す接頭辞であり、「シクロアルカン」とは環式のアルカンであることを示している。 シクロアルカンは飽和炭化水素であり、アルカンに似た性質をもつ。 シクロヘキサンは分子式C6H12のシクロアルカンである。分子の構造として次の2種類が存在する。 舟型は不安定な構造であり、通常はいす型の構造をとる。 環状構造で炭素原子間に二重結合を1個もつ炭化水素を シクロアルケン(cycloalken)という。 一般式はCnH2n-2で表される。 シクロアルケンの化学的性質は、鎖式構造のアルケンに似た性質があり、付加反応を起こしやすい。 シクロアルケンには、シクロペンテンC5H8やシクロヘキセンC6H10などがある。
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炭化水素の水素をヒドロキシ基 -OHで置換した構造の化合物をアルコール(alcohol)という。 アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。 アルコール分子中のヒドロキシ基の個数を価数という。分子中のヒドロキシ基が1個のものを1価アルコール、2個のものを2価アルコールなどという。2価以上のものを多価アルコールという。 ヒドロキシ基に結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数が、1または0個ものを第一級アルコール、2個のものを第二級アルコール、3個のものを第三級アルコールという。 二クロム酸カリウムなどで、第一級アルコールと第二級アルコールを酸化すると、それぞれアルデヒド、ケトンを生じ、アルデヒドをさらに酸化するとカルボン酸になる。第三級アルコールは酸化されにくい。 アルコールは親水性のヒドロキシ基と疎水性の炭化水素基をもつ。そのため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。 また、アルコールは水に溶けても電離しないため中性である。 アルコールのOH基によって、水素結合が形成されるため、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。 アルコールに金属ナトリウムNaを加えると、水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa を生じる。 炭素数が多いほどナトリウムと穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。 ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。 第一級アルコール ⟶ {\displaystyle {\ce {->}}} アルデヒド ⟶ {\displaystyle {\ce {->}}} カルボン酸 第二級アルコール ⟶ {\displaystyle {\ce {->}}} ケトン 濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。 具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。 なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(condensation)という。 メタノール(CH3OH)はメチルアルコールとも呼ばれる、無色透明の液体である。 人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水と混和する。 メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO と Cr 2 O 3 {\displaystyle {\ce {Cr2O3}}} を用いて、一酸化炭素 CO と水素 H2 とを反応させる。 メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている. 二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。 エタノール(C2H5OH)は無色透明の液体である。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。 工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。 濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。 一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。 エチレングリコール(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水と混和する。 自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。 エチレングリコールには甘味があるが、毒性がある。 エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。) そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。) つまり、 という反応である。 ※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。 1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。 動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。 酸素原子に2個の炭化水素基が結合した構造 R − O − R ′ {\displaystyle {\ce {R-O-R'}}} をもつ化合物をエーテル(ether)という。エーテル中での-O-の結合を、エーテル結合という。 エーテルは1価アルコールと構造異性体の関係にある。たとえばジメチルエーテルとエタノールは互いに異性体である。 エーテルはヒドロキシ基 -OH を持たないため、水に溶けにくく、水素結合をしないため、エーテルの沸点・融点はアルコールよりも低い。 たとえば、沸点はジメチルエーテル CH3-O-CH3 の融点は-145℃であり沸点は -25℃ であり、分子量が同程度のエタノール(沸点78℃)とくらべて、かなり低い。 また、エーテルは、ナトリウムとも反応しない。 アルコールを濃硫酸と混合して脱水縮合させることでエーテルが生成する。 ジエチルエーテル(diethyl ether)は無色で揮発性の液体であり、引火しやすいため取り扱いに注意が必要である。麻酔性がある。 ジエチルエーテルは水には溶けにくく、有機物をよく溶かすので、有機溶媒としても用いられる。油脂などの有機化合物を抽出するさいの溶媒として、ジエチルエーテルが用いられる。 エタノールに濃硫酸を加えて130~140°Cで加熱するとジエチルエーテルが生成する。 単にエーテルというと、ジエチルエーテルを指す。 ナトリウムアルコキシド R − ONa {\displaystyle {\ce {R-ONa}}} とハロゲン化炭化水素 R ′ X {\displaystyle {\ce {R'X}}} の縮合によってエーテルが生成する。 R − ONa + R ′ X ⟶ R − O − R ′ + NaX {\displaystyle {\ce {R-ONa + R'X -> R-O-R' + NaX}}} 原子団をカルボニル基(carbonyl group)といい、カルボニル基をもつ化合物のことをカルボニル化合物(carbonyl compound)という。 ホルミル基 -CHO をもつ化合物をアルデヒド(aldehyde)という。 ホルミル基はカルボニル基の一方が水素である構造をしている。 また、カルボニル基に2個の炭化水素基が結合した化合物 R -CO- R’ のことをケトンという。 カルボニル化合物には、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などがある。 アルコールで学んだように、第一級アルコールを酸化するとアルデヒドが得られ、アルデヒドを酸化するとカルボン酸になる。 アルデヒド基には還元性があり、他の物質を還元して自らは酸化されやすい。つまりアルデヒドはカルボン酸になりやすい。 そのため、アルデヒドは銀鏡反応やフェーリング反応といった還元性の有無を調べる反応により検出することができる。 分子量の小さいアルデヒドやケトンは、水に溶けやすい。 アンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドをくわえて加熱すると、銀イオン Ag+ が還元されて、銀 Ag が析出する。これを銀鏡反応(silver mirror test)といい、アルデヒドのような還元性のある物質を検出することに利用される。 試験管に銀が付着して鏡のようになることから、銀鏡という名前が付いている。 銀鏡反応は、以下のような反応である。 このアンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドなどの還元性のある物質を加え、湯浴で加熱すると、ジアンミン銀(I)イオンが還元されて単体の銀が析出し、試験管の壁に付着する。アルデヒド自身は酸化されてカルボン酸となる。 フェーリング液(Fehling′s solution)と呼ばれる液体にアルデヒドを加えて加熱すると、フェーリング液中の銅(II)イオンCu2+が還元されて、酸化銅(I) Cu2Oの赤色沈殿が生成することから、アルデヒドが還元性をもつことを確認することができる。この反応をフェーリング反応という。なお、アルデヒド自身はこのフェーリング反応で酸化されてカルボン酸となる。 ホルムアルデヒド(HCHO)はもっとも単純な構造のアルデヒドであり、水に溶けやすい無色刺激臭の気体である。ホルマリン(formalin)はホルムアルデヒドの約37%水溶液であり、動物標本の保存溶液や、消毒剤として用いられる。 (※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。) ホルムアルデヒドはメタノールを酸化することで得られる。銅線を加熱して酸化銅(Ⅱ)とし、これを試験管に入れたメタノールに近づけると、メタノールが酸化されてホルムアルデヒドを生じる。 なお、銅線を加熱して酸化銅にする方程式は なので、これとまとめて、反応式を と書く場合もある。 なお、ホルムアルデヒドがさらに酸化されると、ギ酸になる。ギ酸も条件によってはさらに酸化されて二酸化炭素と水を生じる。 アセトアルデヒド(CH3CHO)は分子中に炭素が2つあるアルデヒドであり、水や有機溶媒によく溶ける。 (※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。) 実験室ではアセトアルデヒドは、エタノールを酸化することで得られる。エタノールに酸化剤として硫酸酸性の二クロム酸カリウムK2Cr2O7 水溶液を加え加熱すると、アセトアルデヒドが生じる。 また、工業的にはアセトアルデヒドの製法は、塩化パラジウム PdCl2 と塩化銅 CuCl2 を触媒に用いて、酸素によってエチレンを酸化することでも得られる。 アセトアルデヒドは、酢酸の原料や防腐剤として用いられる。 アセトアルデヒドがさらに酸化されると、酢酸になる。 (※ 高校化学の範囲内。第一学習社の検定教科書に記述あり。) 日本酒や洋酒など、市販のアルコール飲料は、エタノールの水溶液である。 ヒトが酒(エタノール水溶液)を飲むと、おもに腸でエタノールが吸収され、血管を通って肝臓に運ばれ、そして肝臓で酵素によってアセトアルデヒド CH3CHO に分解される。さらに別の酵素によって、酢酸 CH3COOH に変化する。そして最終的に、二酸化炭素と水に分解される。 (※ 範囲外:) 検定教科書には書かれてないが、カルボニル基には極性があり、Cがδ+の電荷を帯びており、Oがδーの電荷をおびている。 二重結合を介して、 のように分極している。 また、カルボニル基をもつ簡単な分子は水に溶けやすい理由として、おそらく、カルボニル基の酸素原子が、溶液の水素分子と水素結合をするためであろう、と考えられている。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学 新訂版』、新井貞夫、185ページ) つまり、C=Oは親水基であろうと考えられている。(※ 参考文献: 『チャート式シリーズ 新化学I』平成19年第5刷) ケトン基(-CO-)を分子中に含む物質を一般にケトンと呼ぶ。右には主なケトンを示す。 第二級アルコールを酸化するとケトンが得られる。逆に、ケトンを還元すると、第二級アルコールになる。 ケトンはアルデヒドと同様にC=Oの二重結合を持つ。このアルデヒド基・ケトン基のC=Oの二重結合をまとめてカルボニル基と呼ぶことがあるが、ケトンはアルデヒドと異なり、ケトンは還元性を持たない。そのため、ケトンは、銀鏡反応やフェーリング反応を起こさない。 また、アルデヒドはさらに酸化されてカルボン酸となるが、ケトンは酸化されにくい。 アセトン(CH3COCH3)はもっとも単純な構造のケトンである。アセトンは無色の芳香のある液体(沸点56℃)であり、アセトンは水に混ざりやすい。また、アセトンは、有機溶媒としても用いられる場合がある。 実験室でのアセトンの製法は、第二級アルコールである2-プロパノール(CH3CH(OH)CH3)を酸化することで得られる。2-プロパノールに酸化剤の硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液を加え加熱すると、アセトンを生じる。 また、アセトンは酢酸カルシウムの乾留によっても、実験室でアセトンを得ることができる。酢酸カルシウムの固体を試験管に入れ、加熱すると、アセトンを生じる。 工業的には、クメン法によって作られる。 水酸化ナトリウム水溶液のような塩基性溶液中、アセトンにヨウ素を反応させると、特有の臭気をもつヨードホルム CHI3 の黄色沈殿が生成する。この反応をヨードホルム反応(iodoform reaction)という。 このヨードホルム反応は、アセチル基 CH3CO- を持つケトンやアルデヒド、または部分構造 CH3CH(OH)-(1-ヒドロキシエチル基)を持つアルコールが起こす。 酢酸はCH3CO-構造を含むが、酢酸はカルボン酸であり、ケトンやアルデヒドではないのでヨードホルム反応は起こさない。酢酸エチルも、ヨードホルム反応を起こさない。 ヨードホルム反応の起きる代表的な化合物は、アセトン、アセトアルデヒド、エタノール、2-プロパノールなどである。 カルボキシ基 -COOH を含む化合物をカルボン酸という。 アルデヒドの部分で学んだように、アルデヒドを酸化するとカルボン酸が得られる。 カルボン酸の酸性の原因は、COOHの部分の水素Hが水溶液中で電離するからである。 脂肪族の1価カルボン酸を脂肪酸という。 分子中の炭素数が少ない脂肪酸を低級脂肪酸、炭素の多い脂肪酸を高級脂肪酸という。また、炭素間結合が単結合のみの脂肪酸を飽和脂肪酸、二重結合または三重結合を含む脂肪酸を不飽和脂肪酸という[1]。 分子中にカルボキシ基を1つ持つカルボン酸を1価カルボン酸(モノカルボン酸: mono-carboxylic acid)といい、カルボキシ基を2つ持つカルボン酸を2価カルボン酸(ジカルボン酸: di-carboxylic acid)という。 ギ酸 HCOOH は常温常圧では刺激臭のある無色の液体で、水溶液は酸性を示す。ギ酸は人体に有害で皮膚や粘膜を侵す。 ギ酸はホルミル基を持つため、還元性があり、酸化剤と反応させるとギ酸自身は酸化されて二酸化炭素となる。 ギ酸は濃硫酸を加えて加熱すると一酸化炭素を生じる。 HCOOH ⟶ H 2 O + CO ↑ {\displaystyle {\ce {HCOOH -> H2O + CO ^}}} 酢酸 CH3COOH は常温常圧では刺激臭のある無色の液体で、水溶液は酸性を示す。 亜鉛などの金属と反応して水素を発生する。 また、酢酸は弱酸だが炭酸よりは強い酸であるため、炭酸塩と反応して二酸化炭素を生じる。 また、酢酸は融点が17℃であり、純度の高い酢酸は冬場になると氷結してしまう。そのような酢酸を氷酢酸と呼ぶ。 酢酸は次のように2分子が水素結合で結合した二量体として存在する。 このため、酢酸の気体から分子量を測定する実験をすると、実験方法によっては、酢酸の分子量の約60の2倍の値である分子量120ほどの実験値が得られる場合もある。 これはその他のカルボン酸にも見られる。 カルボン酸が同程度の分子量のアルコールやアルカンよりも沸点や融点が高いのは、カルボン酸がこのように二量体を形成するからである。 マレイン酸とフマル酸(COOHCH=CHCOOH)はどちらも不飽和ジカルボン酸であり、シス-トランス異性体の関係にある。 マレイン酸とフマル酸の化学的性質は大きく異なる。 マレイン酸は160℃で加熱すると脱水反応を起こし無水マレイン酸になる。これは、2つのカルボキシ基の位置関係の違いによるものである。カルボキシ基の位置が遠いトランス形のフマル酸ではこの反応は起こらない。 カルボン酸は果物に多く含まれている。たとえばブドウに含まれる酒石酸や、柑橘類に含まれるクエン酸、リンゴに含まれるリンゴ酸はいずれもカルボン酸である。 分子中にCOOH基とOH基をもつカルボン酸をヒドロキシ酸(Hydroxy acid)という。 乳酸は、糖類の発酵によって生じる。 乳酸(lactic acid)は、ヨーグルトなどの乳製品に含まれているヒドロキシ酸である。乳酸は炭素原子に結合している4つの原子や原子団が、4つとも異なる。このように、4本のうでにそれぞれ異なる置換基が結合した炭素原子を、不斉炭素原子(asymmetric carbon atom)という。たとえば、乳酸(CH3CH(OH)COOH)には不斉炭素原子が1個存在する。 上図を見ると分かるように、*印をつけた炭素原子の周りに、それぞれ色分けされた4つの異なる置換基が結合しているのが分かる。この*印がついた炭素原子が不斉炭素原子である。 ここで上の構造式は平面上に書かれているが、現実にはこの分子は立体として存在する。不斉炭素原子を中心とした正四面体の各頂点に、結合軸が配置しているのである。すると、構造式が上のように同一であっても、立体的にはどう動かしても重ね合わせることのできないものが存在する。これらは、たがいに鏡に写した関係にある。 このように、鏡写しの関係になった異性体を鏡像異性体(enantiomer)[3]という。 鏡像異性体の一方をL体といい、もう一方をD体という。 鏡像異性体のたとえとして、右手と左手との関係にたとえられる。 鏡像異性体は、融点や密度などの物理的性質や、化学反応に対する化学的性質はほとんど同じである。しかし、旋光性や、味、匂いなどの生理作用が異なる。 カルボン酸が比較的に水に溶けやすいものが多いのは、水素結合によると考えられている。 また、カルボン酸と同程度の分子量のアルコールよりも、カルボン酸は水溶性が高い。(※ 参考文献: 新井貞夫、『工学のための有機化学』、サイエンス社、2014年新版、P212) とはいえ、酢酸こそ水に溶けやすいものの、無水酢酸は水に溶けにくい。 答えのヒントをいうと、カルボン酸の二重結合がヒントである。 もちろん化学は実験にもとづく学問であるから、実験結果は最終的に覚えてもらわないといけないわけで、「酢酸の水素が電離する際に、カルボキシ基の側の水素だけが電離する。けっしてメチル基の側の水素は電離しない。」という事も、覚えてもらう必要がある。 いくつかの理由が考えられているが、有力説のひとつとして、「共鳴」構造という理論がある。 図のように、電離した結果、二重結合の結合手は1本ぶん余るが、その結合手はけして、どちらか片方の酸素原子Oに局在してるのではなくて、両方の酸素原子に共有されている、と考えられている。 -COO- で表される構造をエステル結合(ester bond)という。エステル結合をもつ化合物をエステル(ester)といい、エステルを生成する脱水反応をエステル化(esterification)という。 カルボン酸とアルコールを酸触媒で加熱するとエステルが生成する。 比較的小さな分子量のエステルは果物に似た香りを持つため、香料に使用されるものもある。また、自然界にも、果実の香り成分として、小さな分子量のエステルが存在している。 エステルは水には溶けにくく、有機溶媒に溶ける。 エステルは加水分解してカルボン酸とアルコールが生成する。 エステル化反応は可逆反応であり、エステル化と同時に加水分解も起こっている。そのため、エステルを多く生成するためにしばしば脱水剤や触媒として濃硫酸が用いられる。 エステルは、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液をくわえて加熱すると、カルボン酸の塩とアルコールに加水分解される。このような、強塩基によるエステルの分解反応をけん化(saponification)という。 酢酸とエタノールの混合物に触媒として濃硫酸をくわえて加熱すると、酢酸エチル(ethyl acetate)CH3-COO-C2H5 が得られる。 酢酸エチルは、果実のような香りをもつため、香料として用いられる。 酢酸エチルは、沸点77℃であり、揮発性の液体であり、水より軽い。 カルボン酸とアルコールの反応だけではなく、オキソ酸とアルコールとの間の脱水反応もエステル化と呼ぶ。例えば、アルコールであるグリセリンと、オキソ酸である硝酸が脱水・エステル化すると、ニトログリセリンを生じる。ニトログリセリンは爆発性のある物質で、ダイナマイトなどに用いられる。 脂肪酸とグリセリン C 3 H 5 ( OH ) 3 {\displaystyle {\ce {C3H5(OH)3}}} がエステル結合した化合物を油脂という。 油脂のうち、常温で固体の油脂を脂肪(fat)、液体の油脂を脂肪油(fatty oil)という。 脂肪は飽和脂肪酸により構成されているものが多く、脂肪油は不飽和脂肪酸により構成されているものが多い。 これは、飽和脂肪酸は直線状であるのに対して、不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がった形をしているため、この立体構造により分子同士が近づきにくくなり、分子間力が働きにくくなるため、不飽和脂肪酸の融点が低くなることによる。 天然の油脂を構成する脂肪酸には炭素数が16か18のものが多い。 以下に、油脂を構成する主な脂肪酸の例を示す。 不飽和脂肪酸の炭素間二重結合では、アルケンと同様に付加反応が起こる。油脂を構成する不飽和脂肪酸に、ニッケル Ni を触媒として用いて水素を付加させると、融点が高くなるため、常温で固体の油脂へと変化する。このようにして脂肪油から生じた固体の油脂を硬化油(hardened oil)という。植物油をもととする硬化油はマーガリンなどに用いられる。硬化により飽和脂肪酸とすることには、長期間の保存の間に空気中の酸素が不飽和結合に付加して酸化されることを防ぐ役割もある。 油脂に水酸化ナトリウムを加えて加熱すると、油脂はけん化されて、高級脂肪酸のナトリウム塩(セッケン)とグリセリンになる。 洗い物などでもちいる石鹸(せっけん)とは、このような高級脂肪酸のナトリウム塩である。 さて、油脂1分子に、エステル結合が3つある。よって油脂1molのけん化には、水酸化ナトリウム3molが必要になる。 セッケンは弱酸と強塩基の塩であるが、水中ではセッケンは一部が加水分解し、弱塩基性を示す。 セッケンの炭化水素基部分(図中 R- の部分)は疎水性である。セッケンのカルボキシル基COONaの部分は親水性である。 水中では、多数のセッケンの疎水基の部分どうしが集まり、親水基を外側にして集まる構造のコロイド粒子のミセル(micelle)になる。 セッケン分子のように、分子中に親水基と疎水基を合わせ持つ物質を界面活性剤という。 セッケン水に油を加えると、セッケンの疎水部分が油を向いて、多数のセッケン分子が油を取り囲むので、油の小滴が水中に分散する。このような現象を乳化(にゅうか、emulsification)という。そして、セッケンのように、乳化をおこさせる物質を乳化剤という。 セッケンの洗浄作用の理由は、主に、この乳化作用によって、油を落とすことによる。 セッケンは水の表面張力を低下させる。 油脂に水酸化ナトリウム水溶液を加え加熱するとけん化して、高級脂肪酸のナトリウム塩とグリセリンを生じる。この高級脂肪酸の塩をセッケンという。脂肪酸は弱酸であり、水酸化ナトリウムは強塩基であるから、これらの塩であるセッケンの水溶液は弱塩基性を示す。 セッケン分子は、疎水性の炭化水素基と、親水性のイオン基からなる。このように、親水基と疎水基を両方持つ物質を界面活性剤あるいは乳化剤という。 このセッケン分子は疎水部を内側に、親水部を外側に向けて寄り集まった状態で集まって粒子(ミセル)を形成し、水に溶けている。水溶液中に油が存在すると、セッケン分子が油の周囲を取り囲み、疎水部は油となじみ、親水部は外側へ向いて、微粒子を形成し水溶液中へ分散し、水溶液は白濁する。この現象を乳化という。 この乳化作用により、油汚れを洗浄することができる。 マヨネーズの油と水をくっつける、卵黄のレシチンも乳化剤である。 なお、一般に、水と油の界面に配列する物質が、食べられない物質の場合に界面活性剤という場合が多い。いっぽう、食品などからつくった場合などで、食べられる場合には乳化剤という場合が多い。明確には決まっていない(検定教科書でも、とくに決められてはいない)。 セッケンがカルシウムイオンCa+やマグネシウムイオンMg+などの溶けた硬水と混じると、水に溶けにくい塩 (R-COO)2Ca などが生じるので、セッケンの泡立ちが悪くなる。 陽イオン界面活性剤には、洗浄力は無く、柔軟剤などとして使われる。陽イオン界面活性剤による洗剤は、逆性セッケンとも言われる。 セッケンは、陰イオン性界面活性剤である。 両性界面活性剤は、酸性溶液中では陽イオンになり、塩基性溶液中では陰イオンになる。 しかし、セッケン分子は Ca 2 + {\displaystyle {\ce {Ca^2+}}} や Mg 2 + {\displaystyle {\ce {Mg^2+}}} と反応して水に溶けにくい塩を生じる。そのため、イオンを多く含む硬水や海水中では洗浄力が落ちる。 このようなセッケンの短所を改良したアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム R-C6H4-SO3-Na+(略称:ABS)やアルキル酸ナトリウム R-SO3-Na+ (略称:AS)は、高級アルコールや石油などから人工的に合成される。 これらアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムやアルキル酸ナトリウムを合成洗剤(synthetic detergent)という。 ASの製法は、高級アルコールの1-ドデカノール C12H25-OH に濃硫酸 H2SO4 を作用させるとエステル化されることで硫酸水素ドデシル C12H25-SO3H ができ、この硫酸水素ドデシルを水酸化ナトリウムで中和することで硫酸ドデシルナトリウム C12H25-SO3Na が得られる。 炭化水素基が結合したベンゼン(アルキルベンゼン)を濃硫酸とスルホン化すると、アルキルベンゼンスルホン酸が得られる。このアルキルベンゼンスルホン酸を水酸化ナトリウムで中和することでアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが得られる。 セッケン水溶液は弱塩基性である。いっぽう、合成洗剤は強酸と強塩基の塩であるため、加水分解せず、よってアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの水溶液は中性である。また、合成洗剤は、硬水中でも持ち手も、不溶性の沈殿を作りにくい。 合成洗剤の分子は、疎水部と親水部からなり、乳化作用により油汚れを洗浄することができる。 合成洗剤には、その洗剤としての働きを助けるため、界面活性剤以外にも、さまざまな成分が入っている。 ひとくちの合成洗剤といっても、台所用洗剤や洗濯用洗剤など、いろいろとあり、その種類によって、組成などの違う。 洗濯用洗剤では、合成洗剤の添加剤をビルダー(builder)という。 たとえば、洗浄力を落とすカルシウムイオンやマグネシウムイオンを取り除くため(合成洗剤はセッケンとは違い、これらのイオンがある硬水でも洗浄力を持つが、それでも、これらのイオンが無い軟水のほうが良い洗浄効果をもつ)、ゼオライト(アルミノケイ酸ナトリウム)などが入ってる。 なお、かつてリン酸塩がこれらのイオンを除くための添加剤として用いられていたが、排水が河川などの富栄養化をまねき水質汚染の原因となるため、現在はあまり用いられてない。日本では、1980年ごろから、合成洗剤での水の軟水化のための添加剤がリン酸塩からゼオライトに切り換えられた。 そのほか、タンパク質汚れを落とすための分解酵素プロテアーぜや、油汚れを落とすための脂肪分解酵素リパーぜなど、酵素が添加されていたりする。 また、一般にアルカリ性のほうが汚れが落ちやすいので、炭酸ナトリウムが添加剤として加えられる。なお、台所洗剤やシャンプーでは、アルカリが身体を痛めるため、このようなアルカリ性の物質は加えられない。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6_%E9%85%B8%E7%B4%A0%E3%82%92%E5%90%AB%E3%82%80%E8%84%82%E8%82%AA%E6%97%8F%E5%8C%96%E5%90%88%E7%89%A9
ベンゼンC6H6は6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した環状構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。 構造式は、炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように書かれるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。 この特徴的な環構造をベンゼン環(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。 ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンより付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。 ベンゼンスルホン酸は強酸である。 ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm3)。 ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。 ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素が付加しシクロヘキサン C6H12 を生じる。 また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン C6H6Cl6 を生じる。 C14H10 ベンゼン環をもつ炭化水素を芳香族炭化水素(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換したトルエン(toluene、化学式:C6H5CH3)やキシレン、ベンゼンが2個結合したナフタレン(naphthalene、化学式:C10H8)、などがある。 これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すすを多く出して燃える。 キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。 o-,m-,p- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む[1]。 2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置をオルト位、1つ空いて離れた位置をメタ位、ベンゼン環を挟んで正反対の位置をパラ位と呼び、それぞれ記号o-,m-,p-をつけて異性体を区別する。 混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C6H4(CH3)NO2 が生じる。 さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。 ベンゼン環にヒドロキシ基 -OH が直接結合したものをフェノール類(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。 構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。 フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。 フェノール類は水にほとんど溶けないが、塩基水溶液と反応して塩となり水に溶ける。 ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。 また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。 フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ) FeCl3 水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。 フェノールはベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造である。 特有の匂いを持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。 フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的にはクメン法(Cummene process)が重要である。 他にも、ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解や、クロロベンゼンからフェノールを合成する方法も存在する。 なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、アルカリ融解とも言われる。 また、フェノールはコールタール(石炭の乾留から生じる液体)の分留によっても得ることが出来る。 フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。 また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。 ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した化合物を芳香族カルボン酸(aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。 また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶ける。 芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。 安息香酸(benzoic acid) C6H5COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。 安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH3 が酸化されて安息香酸が得られる。 トルエンから安息香酸までの反応の際、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH3 が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C6H5CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。 フタル酸 C6H4(COOH)2 はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。 フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。 なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。 テレフタル酸はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。 サリチル酸は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。 サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、フェノール類としての性質も持つ。 また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH3での置換反応)すると、アセチルサリチル酸となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。 サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、サリチル酸メチルとなる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。 アンモニア NH3 の水素基を炭化水素基で置換した化合物をアミン(amine)といい、炭化水素基がベンゼン環の場合は芳香族アミン(aliphateic amine)という。 芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。 アニリンはベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶ける。 アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。 アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。 また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これはアニリンブラック(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。 アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。 アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、アセトアニリド C6H5NHCOCH3 を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。 この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合はアミド結合と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。 アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを5℃以下に冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液を少しずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C6H5N2+Clー を生じる。 このように、-N+≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応をジアゾ化(diazotization)と呼ぶ。 塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。 塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、p-ヒドロキシアゾベンゼン(p-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応をジアゾカップリング(diazo coupling)と呼ぶ。 分子中にアゾ基 -N=N- を持つ物質をアゾ化合物(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。 芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料(アゾ染料)や顔料として用いられる。 またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。 芳香族カルボン酸・・・炭酸水素ナトリウム と反応して水層にうつる 芳香族アミン・・・塩酸と反応して水層にうつる フェノール類・・・水酸化ナトリウムと反応して水層にうつる(中和反応) オルト・パラ配向性の置換基のベンゼン1置換体はオルト位とパラ位での置換反応を起こしやすい。 これは、オルト・パラ配向性の置換基はベンゼン環に電子を供与するため、置換反応が起きやすくなることによる。 メチル基はオルトーパラ配向性なのでトルエンをニトロ化すると、o-ニトロトルエンまたはp-ニトロトルエンが生成する。 メタ配向性の置換基のベンゼン1置換体はオルト位とパラ位での置換反応を起こしにくいため、メタ位での置換反応を起こしやすい。 メタ配向性の置換基はベンゼン環の電子を吸引するため、置換反応が起きにくくなる。 ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。 なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を共鳴という。 ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の非局在化という。この性質によりベンゼン環は安定性が高い。 ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、 でベンゼン環を表記する場合もある。 共鳴してる構造式は下図のように両矢印でつないで書き、 [ ] で囲って表す。
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この章での色の定義については、まずは直感的に理解していれば良い。(正確に色覚を説明すると生物学など他分野が絡み、広範かつ専門的になる。) 読者には、まずは色素の分子構造と電磁波との関係について、理解をしてもらいたい。 色素の定義は明確ではないが、材料に添加した場合に色を加える物質を色素(coloring material)という。 繊維に染色できる色素を染料(dye stuff)という。 白色光で照らされた物体は、可視光の特定の波長を吸収して、残りの波長の光を反射する。したがって物質が吸収する色と、反射光は、反対の色になる。 たとえば、赤色の物体は、光源の白色光から、青色や緑色や紫色などの、赤色以外の色の波長を吸収して、赤色のみを反射したので、ヒトの目には赤色に見えるのである。 赤色に対する、青緑色のように、反対側の色を補色という。赤は青緑の補色である。同様に青緑は赤の補色である。 白色光に照らされた物質に色を感じる仕組みは、物質が吸収した色の補色を、色として感じるのである。 色素には炭素化合物などの有機化合物からなる有機系の色素と、無機化合物からなる無機系の色素がある。本節では有機色素について説明する。 化合物に色を付けるには、その構造中に可視光を吸収できる官能基が必要である。 可視光を吸収できて、物質に色を付けられる官能基を発色団(chromophore)という。 有機色素の発色団は、-C=Oや、-N=N- などのように共役ニ重結合を持った官能基である。 共役ニ重結合によりπ電子が動けるようになっているので、電磁波と電子が相互作用ができるようになり、外部からの光を吸収できるようになっている。(たとえば、金属などの自由電子を持つ物質は不透明だったのを思い出そう。) 発色団以外の官能基で、発色団の作用を強めたり、親水性を高め染色しやすくする官能基を助色団(じょしょくだん、auxochrome)という。助色団には、たとえば、-OHや-COOHや-NH2などがある。 アゾ基 -N=N- を発色団として持った染料をアゾ染料(azo dye)という。アゾ染料としてコンゴーレッド(congo red)やメチルオレンジ、メチルレッドなどが有る。コンゴレッドやメチルオレンジなどは染料の他の用途でも、pH指示薬として用いられることがある。 アニリンC6H5NH2などの芳香族アミンを希塩酸に溶かしたのち、亜硝酸ナトリウム水溶液を加える事で、ジアゾニウム塩を作ることができる。このジアゾニウム塩が、アゾ染料の原料となる。また、芳香族アミンをジアゾニウム塩にする処理をジアゾ化(diazotization)という。 アニリンC6H5NH2をジアゾ化する場合は、まずアニリンを希塩酸に溶かしてから、亜硝酸ナトリウムを加えることで、塩化ベンゼンジアゾニウム C6H5N2Clができる。 ジアゾニウム塩は水に溶け、陽イオンのベンゼンジアゾニウムイオン[C6H5-N≡N]+と、陰イオンの塩素イオンCl-とに電離する。 なお、-N≡N-の左側のNは4価である。これはイオン化のためである。 この4価を意識した構造式の書き方として、塩をC6H5N+≡N-Cl-と書いたり、陽イオンをC6H5-N+≡Nと書く場合もある。 この塩化ベンゼンジアゾニウムC6H5-N≡N-Clと、ナトリウムフェノキソドC6H5-ONaとから合成によってp-フェニルアゾフェノールC6H5-N≡N-C6H4-OHが作られる。 これは発色団-N≡N-と、助色団-OHを持つように、色素や染料として使えることから、一般に染料として p-フェニルアゾフェノールは用いられる。 これは共役二重結合が2個のベンゼン環と窒素部分とつながっていて、共役二重結合が長い。 フェノキシドとして用いたフェノールの代わりに、ナフトールやアニリンなどでもカップリング反応は可能である。 天然に作られた色素の染料を天然染料(natural dye)と言い、合成によって得られた色素を用いた染料を合成染料(synthetic dye)という。 一般に、ヒトや動物の病気を治すために使用する物質を、医薬品という。 医薬品が、それを使用した生物におよぼす変化を薬理作用という。 一般に、医薬品は体内でさまざまな作用を起こす。このうち、治療の目的に沿った作用を主作用といい、それ以外の作用を副作用という。 人類は、古代から天然の植物などから医薬品として機能するものを採取して使用してきた。このような天然由来の医薬品を生薬という。 ケシの実から取れる果汁を乾燥させたアヘンも古代から知られている生薬の一つである。アヘンは、紀元前1500年のエジプトでは鎮痛剤として利用されていた。 19世紀初頭、アヘンから、麻酔・鎮痛薬のモルヒネが抽出された。 19世紀後半に、いくつかの薬の化学構造が解明され、これらの成果をもとに、いくつかの薬品が合成された。 1910年ドイツのパウル・エールリヒと秦佐八郎によって梅毒の治療薬サルバルサンがつくられた。 現在では、人工的に化学合成された有機化合物が、医薬品として多く使用されている。 古くから、ヤナギの樹皮には解熱作用や鎮痛作用が存在することが知られていた。これは、ヤナギの樹皮にあるサリシンが体内で加水分解されてサリチル酸を生じるためである。 19世紀初頭に、化学分析によって、サリシンや、それから生じるサリチル酸の存在が知られ、解明されていった。サリチル酸は、サリシンが体内で加水分解されて生じる。 19世紀に、サリチル酸は解熱鎮痛薬として、さかんに使われていたが、胃に悪影響を与えることが、しだいに分かっていった。そのため、19世紀後半ごろには副作用の弱いアセチルサリチル酸が開発され使用されるようになった。 アセチルサリチル酸は1898年にドイツで「アスピリン」の商品名で医薬品として売り出され、現在でも解熱鎮痛薬としてアスピリンの名前で世界各地で売られている。(日本では、『バファリン』にも、アスピリンが含まれている。) 現在では、サリチル酸系の多くの医薬品が存在している。 また、サリチル酸にメタノールを反応させて作ることのできるサリチル酸メチルは、消炎鎮痛薬(筋肉痛などを抑える薬)として用いられている。たとえば、『サロンパス』などのように、サリチル酸メチルは湿布薬として用いられていたりする。 なお、これらサリチル酸系の解熱薬は、けっして細菌などを攻撃してるのではなく、熱や炎症などの症状をやわらげるだけである。このように、病原菌を攻撃せず、症状をやわらげる事が主な作用の医薬品を、対症療法薬という。 またなお、サリチル酸メチルは揮発性の液体である。 人体で、アセチルサリチル酸の薬が炎症や発熱などを抑える仕組みは、人体でケガなどの異常があったときに炎症などを起こして回復させようとする体内物質のプロスタグランジン(prostaglandin、略称:PG)という物質の合成を妨害するからである。(※ プロスタグランジンは検定教科書(高校理科の化学)の範囲外だが、文英堂シグマベストの高校化学参考書などに、プロスタグランジンとアセチルサリチル酸との関係の解説がある。) よって、アセチルサリチル酸は、けっして、おおもとのケガを治すわけではないし、けっして病原菌を退治するわけでもない。 このプロスタグランジンは、炎症以外にも、人体に必要なさまざまな現象で関わってくるので、よってプロスタグランジンの合成が阻害されると、さまざまな副作用が起こりうるのである。 プロスタグランジンは、脂肪酸を原料としていて、体内で合成される生理活性物質である。プロスタグランジンは、いわば、ホルモンのようなものである(詳しい説明は高校の範囲を超えるので省略)。 アニリンから得られるアセトアニリドにも解熱鎮痛作用があるが、副作用が重いため、現在は使用されていない。 かわりに、アセトアニリドの誘導体であるアセトアミノフェン(p-アセトアミドフェノール)が、風邪薬などに含まれてる。 1939年にドイツのドーマクが、アゾ染料の一種のプロントジルに、細菌の増殖を阻害する作用があることを見つけた。 のちに、プロントジルから生じるスルファニルアミド に、細菌の増殖をおさえる作用があることが分かった。これは、細菌が発育に必要な葉酸を合成するさいの酵素を阻害するからである。 細菌はp-アミノ安息香酸 から葉酸を合成しているが、スルファニルアミドはp-アミノ安息香酸に似た構造を持ってるため、酵素を阻害する。 現在では、一般に、スルファニルアミドの骨格をもつ抗菌剤を、硫黄を元素にもつことから、サルファ剤(salfa drug)という。 微生物がつくりあげる化学物質で、ほかの微生物や細菌を殺したり、ほかの微生物や細菌の増殖を阻害したりする作用(抗菌作用)のあるものを抗生物質(antibiotics)という。 1929年にイギリスのフレミングは、アオカビから取れる物質に、このような抗菌作用があることを見つけ、この物質にペニシリン(Penicillin)と名付けた。 のちに、ペニシリンは、細菌のもつ細胞壁の合成を阻害するため、抗菌作用を示すことが分かった。 細菌は突然変異により、抗生物質の効かない細菌が生まれることがある。このような細菌を耐性菌という。 抗生物質を無闇に使い続けると、このような抗生物質のきかない微生物だけを残して増やしてしまう。 ペニシリンの効かない耐性菌もすでに存在しており、そのような病原菌には抗生物質メチシリンや抗生物質バンコマイシンが使われることがあるが、そのメチシリンの効かない耐性菌MRSAや、バンコマイシンの効かない耐性菌VRSAなどの耐性菌も出現しており、医療現場では大きな問題になってる。 このため、抗生物質ばかりに頼らず、手洗いや消毒などをきちんと徹底したりすることが、求められてる。 なお、ストレプトマイシンは、結核にきく抗生物質である。土壌細菌のつくる物質からストレプトマイシンが発見された。 サルファ剤や抗生物質のように、病気をおこす細菌や微生物を、直接、細菌への破壊的な作用を起こすことで、病気を治療する医薬品を化学療法薬という。 ペニシリンG の構造のβラクタムという部分が、細菌の細胞壁の合成をする酵素を阻害する。
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多数のヒドロキシ基を持つ、分子式 C m ( H 2 O ) n {\displaystyle {\ce {C_{m}(H2O){}_{n}}}} で表される化合物を糖類(saccharides)または炭水化物(carbohydrate)という。 それ以上加水分解しない最小の糖類を単糖という。単糖2分子が脱水縮合した糖類を二糖(disaccharide)、単糖2~10分子程度が脱水縮合した糖類をオリゴ糖、多数の単糖が脱水縮合した糖類を多糖(polysaccharide)という。 水溶液中で鎖式構造がホルミル基をもつ糖をアルドース(aldose)、ケトン基をもつ糖をケトースという。 主な単糖として、グルコース、フルクトース、ガラクトース。 主な二糖として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース。 主な多糖として、デンプン、セルロースが挙げられる。 糖類の立体配置を表すためにハース投影式とフィッシャー投影式を用いる。まずはこれについて学ぼう。 ハース投影式では、上方向に出ている結合は環から上向きに、下方向に出ている結合は環から下向きに出る。 フィッシャー投影式では、十字の中心は不斉炭素原子とし、左右の結合は紙面(画面)の手前に、上下の結合は紙面(画面)の奥に出る。 グルコース glucose(ブドウ糖) C 6 H 12 O 6 {\displaystyle {\ce {C6H12O6}}} は、デンプンを加水分解することによって得られる。 グルコースは甘味をもち、また、水によく溶ける。水溶液中のグルコースは、一部のグルコースの環構造が開き鎖式構造に変わる。ホルミル基を持ち、還元性を示す。従って、銀鏡反応やフェーリング反応を示す。 グルコースはアルドースである。 グルコースは水溶液中でαグルコースと鎖式グルコースとβグルコースの3種類の構造がある。 αグルコースを水に溶かすと、上記のように一部が鎖式グルコースになり、さらにその一部が鎖式構造を経てβグルコースになる。最終的に3種類のグルコースのα形、鎖式、β型の混じりあった平衡状態になる。 フルクトースfructose(果糖, fruit sugar ) C 6 H 12 O 6 {\displaystyle {\ce {C6H12O6}}} は水溶液中で、一部が鎖式フルクトースを経て、五員環フルクトース、六員環フルクトースになる。五員環フルクトースと六員環フルクトースにはα型とβ型が存在するため、フルクトースは水溶液中では5種類の構造が存在する。 フルクトースはケトースである。 鎖状構造のフルクトースにはホルミル基は無いが、一部が異性化し、ホルミル基を持つので還元性を示す。 フルクトースは、天然に存在する糖類の中で最も甘く、果実などに含まれることが多い。 アルコール発酵 グルコースやフルクトースなどの6炭糖は酵素群チマーゼによってアルコール発酵を起こす。 C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2 ガラクトースはグルコースの4位の不斉炭素原子の立体配置が異なる単糖である。寒天の成分であるガラクタンを加水分解すると、ガラクトースが得られる。ヘミアセタール構造が存在するので、水溶液は還元性をしめす。 二糖類を構成する単糖類の縮合したエーテル結合をグリコシド結合という。 主な二糖類には、スクロース、マルトース、セロビオース、ラクトースがある。 有機化合物中の、ある一つのC原子に対して、そのC原子にヒドロキシル基 -OH とエーテル結合 -O- が隣り合ってる構造を、ヘミアセタール構造という。グルコースで、ヘミアセタール構造をもつのは、一箇所だけである。水溶液中のグルコースでは、このヘミアセタール構造が変形してアルデヒドを形成している。 このヘミアセタール構造の有無を、糖類の構造式を見て調べることで、糖類の水溶液中の還元性を予測できる。まず、構造式中のエーテル結合-O- を持つ部分を探してそのOに隣り合ったC原子が-OH を持つかどうかでヘミアセタール構造の有無を判別する。 スクロース(sucrose)は、αグルコースとβフルクトースがα-1,2-グリコシド結合した構造をもつ。 スクロースの水溶液は還元性を示さない。これは、グルコースとフルクトースの還元性をしめすヘミアセタール構造の部分で縮合が行われていることによる。 砂糖の主成分であり、サトウキビやテンサイに含まれる。 希酸または酵素インペルターゼでスクロースを加水分解すると、グルコースとフルクトースの等量混合物になる。 C12H22O11 (スクロース) + H2O → C6H12O6(グルコース) + C6H12O6 (フルクトース) グルコースとフルクトースの等量混合物を転化糖(invert sugar)という。スクロースを加水分解すると転化糖が得られる。 (麦芽糖) αグルコース2分子が縮合した構造。 還元性を示す。 希酸または酵素マルターゼで加水分解される。 デンプンを酵素アミラーゼで加水分解するとマルトースが生じる。 セロビオースはβ-グルコース2分子がβ-1,4-グリコシド結合した二糖である。 セルロースにセルラーゼを作用させると加水分解しセロビオースが生じる。 (乳糖) ラクトース(lactose)は、ガラクトースとαグルコースが縮合した構造。 ラクトースの水溶液は還元性を示す。 酵素ラクターゼによってラクトースは加水分解され、ガラクトースとグルコースになる。 牛乳など、哺乳類の乳汁にラクトースは含まれる。 トレハロースの構造は、αグルコースが2分子からなり、αグルコースの1位の還元基どうしが結合した構造となっている。このことからもわかるように、トレハロースの水溶液は還元性を示さない。 自然界では、昆虫の体液、キノコやカビ、海藻などに含まれる。 デンプン(starch)は、植物が光合成によって体内につくる多糖類である。二糖類とちがい、デンプンは甘味をしめさない。また、デンプンは、還元性を示さない。 デンプンは、多数のαグルコースが脱水縮合して出来た構造をもつ多糖類の高分子化合物である。 (C6H10O5)n の構造を持つ。nは数百から数十万である。 デンプンは冷水には溶けにくいが、約80℃の熱水には溶けてコロイド状のデンプンのりになる。 酵素アミラーゼによって、デンプンは加水分解される。このアミラーゼによるデンプンの加水分解の結果、デンプンの重合数が少なくなったデキストリン(C6H10O5)n を生じる。そしてデキストリンは、さらに二糖類のマルトースに分解される。 マルトースに対しては、酵素マルターゼによって、グルコースになる。 デンプンからグルコースまでの順序を化学式にまとめれば、 (C6H10O5)n デンプン→ (C6H10O5)m デキストリン → C12H22O11 マルトース→ C6H12O6 グルコース である。(デンプンとデキストリンの重合数について、n>mとした。) デンプンには還元性は無い。したがってデンプンは、フェーリング液を還元しない。 ヨウ化カリウム水溶液KIにより、デンプンは青紫色に呈色する。加熱すると、無色になる。この反応をヨウ素デンプン反応(iodine-starch reaction)という。 デンプンは水溶液中では、分子内の水素結合により、らせん構造をとる。このらせん構造の中にヨウ素が入りこむことで、呈色する。 加熱で無色になっても、冷却すると、再び、もとの青紫色の呈色を示すようになる。 デンプンの種類のうち、αグルコースが直鎖状に結合したものをアミロース(amylose)と言う。αグルコースが、ところどころ枝分かれした構造のデンプンをアミロペクチン(amylopectin)という。枝分かれの割合はαグルコース数十個につき、一個の枝分かれの程度である。 もち米のデンプンは、アミロペクチンが100%である。ふつうの植物のデンプンには、アミロースが20%程度でアミロペクチンが80%程度ほど含まれている。 グルコースの1位と4位が結合して重合した構造になっている。 ヨウ素デンプン反応では、アミロースは青色。多くのヒドロキシル基を持ち、極性を持つ部分が多いため、熱湯には、比較的、溶けやすい。冷水には溶けにくい。 グルコースの1位と4位が結合して重合したほかに、1位と6位が結合した重合構造になっている。 1位と6位の結合のため、構造に枝分かれ上の分岐が起こる。 ヨウ素デンプン反応では、アミロペクチンは赤紫色。アミロースとの色の違いは、直鎖状の長さの違いによって、ヨウ素との結合力に違いが生じたからある。ヨウ素と反応することから分かるように、アミロペクチンもらせん構造を取る。枝分かれをするものの、分かれた枝の先がそれぞれらせん構造をとる。 熱湯には、溶けにくい。冷水にも溶けにくい。 グリコーゲン(glycogen)は、動物の肝臓に多い多糖類で、その構造はアミロペクチンと似ているが、アミロペクチンよりも枝分かれが多い。分岐の頻度は、おおむね8~12基に一回の程度の分岐である。枝分かれが多いため放射したような網目構造をとり、らせん構造をとらない。このため、極性をもった部分が外側に出やすく、水溶性が高い。 ヨウ素デンプン反応では、グリコーゲンは赤褐色を示す。 セルロース(cellulose)[C6H7O2(OH)3]n は植物の細胞壁の主成分である。木綿、パルプ、ろ紙は、ほぼ純粋なセルロースである。セルロースの構造は、多数のβグルコースが、直線状に縮合した構造である。セルロースの構造では、各グルコースの向きが交互に表・裏・表・裏を繰り返すので、セルロース全体で見れば直線状になっている。 シュバイツアー試薬とは、水酸化銅Cu(OH)2を濃アンモニア水に溶かしたものである。水溶液中でイオンが、テトラ アンミン イオン [Cu(NH3)4]2+ になる。 セルロースの示性式は、[C6H7O2(OH)3]n である。グルコース1単位あたり3個のヒドロキシル基OHを持つ。したがって、酸と反応させるとエステルを作りやすく、酢酸や硝酸とエステルをつくる。 セルロースは、酸をくわえて長時間加熱すると、最終的にグルコースになる。 このほか、酵素セルラーゼによって、セルロースは分解される。 工業上は硝酸とのセルロースのエステルである「ニトロセルロース」(後述する。)が、特に重要である。 セルロース[C6H7O2(OH)3]nに、濃硝酸および濃硫酸の混合溶液(混酸)を作用させると、セルロースのOH基の一部または全部がエステル化される。セルロース中のグルコース1単位あたり、3個のOH基の一部または3個全部が硝酸エステル化されたものをニトロセルロース(nitrocellulose)という。特にセルロース中のグルコース1単位のうち、3個のOH基すべてが硝酸エステル化されたもの [C6H7O2(ONO2)3]n をトリニトロセルロースという。 [C6H7O2(OH)3]n + 3n HONO2 → [C6H7O2(ONO2)3]n + 3n H2O このトリニトロセルロースは火薬の原料である。 セルロース中の2個のOH基がエステル化したものはジニトロセルロースという。このジニトロセルロースは、有機溶媒に溶ける。 このジニトロセルロースを、エタノールとエーテルの混合液に溶かしたものをコロジオンという。混合液には水分などを含まないので「水溶液」では無いことに注意。 コロジオンの溶液を蒸発させると、薄い膜が残る。これは半透膜の材料に使われる。コロジオンから得られた半透膜のことをコロジオン膜ともいう。 ニトロセルロースをエタノールに溶かし、ショウノウを加えて得られる樹脂をセルロイドという。 セルロースを無水酢酸、氷酢酸および少量の濃硫酸との混合物を反応させる。すると、分子中のOH基中のHがCOOH基で置換されるアセチル化が起きて、トリアセチルセルロースが生成する。 [C6H7O2(OH)3]n + 3n (CH3CO)2 O → [C6H7O2(OCOCH3)3]n + 3n CH3COOH トリアセチルセルロースはヒドロキシル基OHを持たないため、通常の溶媒(メタノール等)には溶解しづらい。しかし、トリアセチルセルロースは常温の水または温水で、エステル結合の一部が加水分解してジアセチルセルロース [C6H7O2(OH)(OCOCH3)2]n になる。このジアセチルセルロースはヒドロキシル基をもつので、アセトン溶媒に溶解するようになる。このジアセチルセルロースの溶けたアセトン溶液を細孔から押し出してアセトンを蒸発・乾燥させて、紡糸したものをアセテート繊維という、あるいは単にアセテートという。 語「アセテート」の意味は、「酢酸エステルの」という意味である。 アセテート繊維のように、天然繊維を化学的に処理してから紡糸した繊維を半合成繊維(semisynthetic fiber)という。 天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを再生繊維(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨン(rayon)と呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。 水酸化銅(II)であるCu(OH)2を濃アンモニア溶液に溶かした溶液をシュバイツアー試薬という。このシュバイツアー試薬溶液にセルロース(具体的には脱脂綿など)を溶かすと、粘度のある液体が得られる。この粘い液体を細孔から希硫酸の中にゆっくり押し出すと、セルロースが再生する。こうして得られた繊維を銅アンモニアレーヨンまたはキュプラといい、光沢があり、滑らかであり、柔らかいので、衣服の裏地に利用される。 セルロース(具体的には脱脂綿など)を濃い水酸化ナトリウム溶液に浸す処理をしてアルカリセルロース(化学式は[C6H7O2(OH)2ONa]nである。)にしてから、紙などで挟んでから絞って水気を切って、つぎに二硫化炭素CS2と反応をさせると、セルロースキサントゲン酸ナトリウム(式は[C6H7O2(OH)2OCSSNa]nである。)という物質になる。これを水酸化ナトリウム水溶液に溶かすと、赤褐色のコロイド溶液が得られる。こうして、セルロースから得られた赤褐色のコロイド溶液をビスコース(viscose)という。このビスコースを、細孔から希硫酸の中に押し出して、セルロースを再生させて紡糸したものが、ビスコースレーヨン(viscose rayon)という繊維である。 そして、ビスコースを細孔からではなく、細長いすきまから膜上に押し出したものをセロハン(cellophane)といい、テープや包装材に利用される。 レーヨンのように、天然繊維を一度化学的に処理して溶液にした後、糸として、元の化学式を再生させた繊維を再生繊維という。 なお、アセテート繊維は化学式が変わっているので再生繊維でない。アセテート繊維は化学式が元のセルロースから変わっている繊維で、また人工物だけから得られた合成繊維でもないので、アセテート繊維などは半合成繊維という。 分子中にアミノ基( -NH2 )とカルボキシル基( -COOH )をもつ化合物をアミノ酸(amino acid)という。アミノ酸のうち、同一の炭素C原子に、-NH2と-COOHが結合しているアミノ酸をαアミノ酸という。 アミノ酸の一般式は で表される。(Rは炭化水素基あるいは水素など。) なお、R-の部分をアミノ酸の側鎖(そくさ)という。Rの違いによって、アミノ酸の種類が決まる。 グリシン以外のすべてのアミノ酸には光学異性体(optical isomer)が存在する(鏡像異性体 enantiomer ともいう)。 天然のアミノ酸のほとんどは、L型の配置である。D型の配置のアミノ酸は、天然にはほとんどない。 アミノ酸のカルボキシ基-COOH は、アルコール(CH3OH など)と反応しエステル化をしてエステルをつくる。また、アミノ酸のアミノ基-NH3は無水酢酸( (CH3CO)2O )と反応させるとアセチル化してアミドをつくる。 結晶中のアミノ酸分子中では、分子内で( -COOH )が水素Hを( -NH2 )に渡して、アミノ酸内にイオンの( -COO- )と( -NH3+ )を生じる。その結果、アミノ酸の構造は、 R-CH(NH3+)-COO- の構造になる。このように分子内に酸性と塩基性の両方のイオンを生じるので、双性イオン(zwitterion)とよばれる。 このようにイオンがあるため、アミノ酸は水に溶けやすく、また、有機溶媒には溶けにくい。双性イオンの陽イオンと陰イオンどうしがクーロン力で引き合うため、アミノ酸はイオン結晶に近い結晶構造を取り、また、ほかの有機化合物と比べるとアミノ酸は比較的に融点や沸点が高い。 アミノ酸の水溶液に外部から酸をくわえると、平衡がかたむき、-COO-がH+を受け取り -COOHになるので、アミノ酸分子中で-NH3+が余るので、酸性が強い溶液中ではアミノ酸は陽イオンになる。 いっぽう、アミノ酸の水溶液に外部から塩基をくわえると、平衡がかたむき、-NH3+がOH-にH+を放出することによって-NH2と変わることによって、-COO-が余るので、アミノ酸は陰イオンになる。 水溶液中でアミノ酸の陽イオンと陰イオンの個数が等しいときのpHを等電点(isoelectric point)という。 アミノ酸の水溶液を染み込ませた紙に、2本の電極で電圧を加え電気泳動をおこなうと、等電点よりpHが小さい水溶液中では、アミノ酸は陽イオンになっているため、陰極側に移動する。いっぽう、等電点よりpHが大きい水溶液では、アミノ酸は陰イオンとなり、陽極側に移動する。 そして、pHが等電点と同じくらいの水溶液中だと、アミノ酸は陽極にも陰極にも移動しないので、このときの水溶液のpHを測定することにより、等電点を測定できる。 アミノ酸の等電点は、グリシンでは pH6.0 、酸性アミノ酸のグルタミン酸ではpH3.2、塩基性アミノ酸のリシンでは9.7である。 水溶液が中性付近では、ふつうは双対イオン状態のアミノ酸が最も多く、陰イオン状態のアミノ酸や陽イオン状態のアミノ酸は少ししか存在しない。 アミノ酸水溶液に薄いニンヒドリン水溶液を加えて温めると、アミノ基 -NH2 と反応して、色が青紫~赤紫になる。この反応をニンヒドリン反応(ninhydrin reaction)といい、アミノ酸の検出などの目的に用いられる。この反応は、アミノ酸の検出やタンパク質の検出に利用される。なお。タンパク質も、構造の端部などにアミノ酸をふくむため、少しながらニンヒドリン反応をするので、色が青紫〜赤紫になる。 フェニルアラニンやリシン、メチオニンは必須アミノ酸の例である。 必須アミノ酸は、ヒトの体内で合成されないバリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシンの8種類に、合成されにくいヒスチジンを加えた9種類である。幼児では、さらにアルギニンを加える場合もある。 グルタミン酸は、昆布のうま味の成分である。グルタミン酸には光学異性体があり、L型のグルタミン酸のみが うま味 を示す。一方でD型はうま味を示さず、若干の苦味を伴う 2個のアミノ酸分子が結合し、いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基と、もう一方のアミノ酸のアミノ基が縮合して、脱水縮合して結合をペプチド結合(peptide bond)という。それぞれのアミノ酸は同一種でなくても良い。また、ペプチド結合によって生成する化合物をペプチド(peptide)という。 ペプチドのうち、2分子のアミノ酸がペプチド結合したものをジペプチド(dipeptide)という。3分子のアミノ酸がペプチド結合したものをトリペプチド(tripeptide)という。多数のアミノ酸が縮合重合したものをポリペプチド(polypeptide)という。 ジペプチドには、ペプチド結合が1つ存在する。トリペプチドには、ペプチド結合が2つ存在する。 タンパク質は、ポリペプチドである。 ペプチド化合物で縮合に使われなかったアミノ基が末端に残るが、このペプチド化合物の縮合に使われなかった末端のアミノ基をN末端という。同様に、カルボキシル基も末端に残るが、これをC末端という。ペプチドの構造式を書くときは、N末端を左側に、C末端を右に配置して書くのが慣行である。 ジペプチドには、構造異性体が存在する。たとえば、グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなるジペプチドについて、グリシンのCOOH基とアラニンのNH2基が結合したものを、グリシルアラニン(Gly-Ala) という。また、グリシンのNH2基とアラニンのCOOH基が結合したものを、アラニルグリシン(Ala-Gly )という。 グリシルアラシンもアラニルグリシンも、原子数は同じであるが、構造は異なる。 なお、ペプチドの名称は、このグリシルアラニンの例のように、N末端を持つグリシンが名称の先に来て、C末端をもつアラニンがあとに来る。 トリペプチドやポリペプチドの表記でも同様に、N末端からC末端のアミノ酸の名称で表記する。 トリペプチドでも、ジペプチドと同様に構造異性体が存在する。 なお、グルタミン酸は、カルボキシル基を2箇所もつので、グルタミン酸を含むペプチドでは、構造異性体の数が2倍に増える。 例として、いくつかのトリペプチドで構造異性体の数を求める。 GlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Glyが2分子。) 構造順はGly-Gly-Ala と Gly-Ala-GlyとAla-Gly-Glyの3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるので、光学異性体を考慮したGlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの異性体は3×2=6で6通りになる。 GlyとAlaとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Alaが2分子。) 構造順はGly-Ala-Ala とAla-Gly-Alaと Ala-Ala-Gly の3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるのであった。そして、光学異性体を持つAlaが2個あるから、2×2=4で4倍になる。最終的に光学異性体を考慮した異性体数は3×4=12で12通りになる。 タンパク質を構成するアミノ酸の配列順序のことを一次構造(いちじこうぞう、primary structure)という。たとえば表記「Gly-Gly-Ala」などは一次構造の表記である。 タンパク質のポリペプチドの多くの構造は、時計回り(右回り、Z撚り「ゼットより」)のらせん構造をもつ。 このポリペプチドのらせん構造をαヘリックスという。らせん1巻あたり、平均3.6個のアミノ酸が含まれる。 このらせん化は、水素結合による現象であり、 アミノ酸の分子中の-C=Oと-N-Hの間のOとHが水素結合し、 -C=O ・・・ H-N- のように水素結合した結果、ペプチド全体ではらせん構造を取る。 並行にならんだ2本のポリペプチドのあいだに水素結合が保たれ、ヒダ状に折れ曲る構造をとることがあり、これをβシートという。 これら、αヘリックスやβシートをまとめて、タンパク質の二次構造(secondary structure)という。 αヘリックスをとったポリペプチドや、βシートをとったポリペプチドなど、二次構造をとったポリペプチドが、さらに折りたたまれて三次構造(tertiary structure)になる。三次構造の形成には、側鎖どうしに働く引力や、システインによるジスルフィド結合(disulfide bond) -S-S- によるものが関わっている。 三次構造はサブユニットと呼ばれる。 三次構造の生体組織の例として、ミオグロビンがある。ミオグロビンは、1本のポリペプチド鎖からなり、ヘム色素を持っている。ヘム色素は、酸素と化合する性質がある。 三次構造のポリペプチド鎖(サブユニットという)が、複数個あつまって集合体をなした構造を四次構造(quaternary structure)という。 四次構造の生体組織の例として、ヘモグロビンがある。ヘモグロビンは、2種類のサブユニットが2個ずつ、合計4個のサブユニットが集まって、できている。ヘモグロビンは、2個のヘム色素をもつ。 タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸だけでなく色素、核酸、リン、脂質などアミノ酸以外の有機物を生じるものを複合タンパク質(conjugated protein)という。 たとえば、血液中にふくまれるヘモグロビンは色素をふくむ複合タンパク質であり、牛乳にふくまれるガゼインはリン酸をふくむ複合タンパク質であり、だ液にふくまれるムチンは糖をふくむ複合タンパク質である。 いっぽう、タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸のみを生じるものを単純タンパク質(simple protein)という。 タンパク質の形状にもとづいて、球状タンパク質(globular protein)と繊維状タンパク質(fibrous protein)に分類される。一般に繊維状タンパク質は、水には溶けにくい。一方、球場タンパク質は、水に溶けやすい。球状タンパク質は、親水基を外側に、疎水基を内側にして、まとまっている事が多いため、である。 アルブミン、グロブリン、グルテリンなどが、球状タンパク質である。 ケラチン、コラーゲン、フィブロインなどが、繊維状タンパク質である。 タンパク質に熱、酸・塩基、重金属イオン、有機溶媒などを加えると凝固し生理的機能を失う。これをタンパク質の変性(denaturation)という。加熱によって変性することを熱変性という場合もある。 タンパク質の変性は、二次構造〜4次構造が破壊されることによって、起きている。そのため、変性したタンパク質は、元には戻らないのが普通である。タンパク質の変性では一次構造の配列順序は変わっていないが、二次構造以上の構造が変わっている。 タンパク質は水に溶けると、親水コロイド溶液になる。タンパク質のコロイド溶液は、多量の電解質によって、水和している水分子が覗かれるため、沈殿する(塩析)。 タンパク質水溶液に水酸化ナトリウム溶液NaOHを加え、少量の硫酸銅(II)水溶液CuSO4を加えると、赤紫色になる。この反応をビウレット反応(biulet reaction)という。これはCuとペプチド結合とが錯イオンを形成することに基づき、トリペプチドやポリペプチドなどのようにペプチド結合を2個以上もつ場合に起こる。よって、ペプチド結合が1個だけであるジペプチドでは、ビウレット反応は起こらない。 タンパク質水溶液に濃硝酸をくわえて加熱すると、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸中にベンゼン環をもつ場合に、タンパク質水溶液が黄色になる。これは、ベンゼン環がニトロ化されるためである。この溶液を冷却し、NaOHやアンモニアなどで溶液を塩基性にすると、橙色になる。 これらの反応をキサントプロテイン反応(Xanthoprotein reaction)という。 橙色になった水溶液は中和すると、タンパク質の色は黄色に戻る。 フェニルアラニンはベンゼン環を持つが、あまり反応しない。 システインやメチオニンなどのようにタンパク質がイオウを含む場合は、タンパク質の水溶液に、固体の水酸化ナトリウムを加えて加熱して、それから酢酸などで中和し、さらにそれから酢酸鉛(II)水溶液 (CH3COO)2Pb を加えると、硫化鉛(II) PbS の沈殿を生じる。硫化鉛の沈殿の色は黒色である。 毛髪はケラチンという繊維状タンパク質からなるが、この分子はジスルフィド結合 -S-S- によって、ところどころ結ばれている。このジスルフィド結合のため、毛髪は一定の形を保っている。 毛髪のパーマ処理は、還元剤をもちいて、このジスルフィド結合を還元して -S-H にすることで、ジスルフィド結合を切断している。 つぎに、酸化剤で、ジスルフィド結合 -S-S- を再生させると、もととは違ったつながりかたで、部分的にジスルフィド結合が再生されるので、元の髪型とは違った髪型になる。 パーマの還元剤には、チオグリコール酸アンモニウムが用いられる。パーマの酸化剤には、臭素酸ナトリウム NaBrO3 や過酸化水素などが用いられる。 繊維(fiber)とは、細くて糸状のものをいうが、その繊維のうち天然にある糸状の繊維を天然繊維(natural fiber)という。石油などから合成した繊維は合成繊維(synthetic fiber)という。 天然繊維のうち、植物からとれるもの(たとえば綿や麻など。主成分はセルロースなど)を植物繊維(plant fiber)といい、動物から取れるもの(羊毛や絹など。主成分はタンパク質。絹とはカイコから取れる繊維。)を動物繊維(animal fiber)という。 木綿(もめん、cotton)は、植物のワタから取れる植物繊維であり、主成分はセルロースである。木綿は、繊維の内部に中空部分があり、吸湿性が高い。 絹は、カイコガのまゆから取り出される繊維である。絹の主成分と構造は、フィブロインというタンパク質を、セリンと呼ばれるタンパク質がくるんだ構造である。 羊毛の主成分はケラチンである。 羊毛は、動物繊維であり、主成分はケラチンである。羊毛の表皮が鱗(うろこ)状で、クチクラ(キューティクル)と呼ばれる構造である。 羊毛は、伸縮性が大きく、また、水をはじく撥水性(はっすいせい)がある。羊毛は保温性があるので、毛布やコートなどに使われる。 羊毛や絹はタンパク質であるので、キサントプロテイン反応を呈する。 合成繊維や、天然繊維を溶媒に溶かしたり化学反応させたりと化学的に処理させたものなど、素材の合成に化学的な処理を必要とする繊維を化学繊維という。 天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを再生繊維(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨンと呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。 いっぽう、天然繊維を化学的に処理して組成を変化させたものは半合成繊維という。半合成繊維としては、たとえばアセテート繊維がある。 ある種のタンパク質には触媒の働きを持つものがある。この触媒として機能するタンパク質を酵素(enzyme)という。酵素は、無機触媒や金属触媒とは、異なる性質をもつ。酵素は、ある特定の物質にしか作用しない。これを基質特異性(substrate specificity)という。そして酵素が作用する物質および分子構造を基質(substrate)という。 酵素には、基質と立体的にむすびつく活性部位(active site)があるため、このような反応が起こる。活性部位のことを、活性中心(active center)ともいう。 たとえば、だ液にふくまれるアミラーぜはデンプンを加水分解するが、タンパク質を加水分解できない。酵素インペルターゼはスクロースの加水分解にしか作用せず、マルトースやラクトースなどの他の二糖類にはインペルターゼは作用しない。また、マルターゼは、マルトースにしか作用しない。 また、酵素はタンパク質であるので、タンパク質が変性する状況では、酵素はその能力を失う。熱変性などで、タンパク質が修復不可能になると、酵素の触媒能力もまた修復不可能となり、酵素を冷却しても、もはや触媒として機能しなくなる。このように酵素が触媒としての能力を失って、もはや酵素ではなくなったことを失活(deactivation)という。 酵素の触媒作用が最も働く温度を最適温度という。酵素にもよるが、動物の体温に近い、35℃から40℃といった温度である。 50℃以上など、これらより高温では熱変性で酵素の構造が破壊される。最適温度より低温にした場合は、低温の間は酵素としての作用が弱まるが、適温に戻すと、再び酵素としての触媒能力を取り戻す。 低温で酵素としての能力を失うことは一般には失活とは呼ばない。 酵素には、その場所のpHによって、触媒の働きの反応速度が変わる。もっとも酵素が働くpHを最適pH(optimum pH)という。 最適pHの値の傾向は、酵素の種類にもよるが、おおむねpH6~8といった、中性付近か、弱酸性の付近で、もっともよく働く。たとえばアミラーゼはpH6~7の付近が最適pHである。すい臓の中で働く酵素のトリプシンはpH8の弱い塩基性が最適pHである。 なお、胃酸の中で働く酵素のペプシンは最適pHがpH2の付近の強い酸性である。このpH2は、胃液のpHに近い。このように、酵素は、その酵素が働く環境下に近いpHで、よく働く性質になっている場合が多い。 細胞には核酸という高分子化合物が存在し、これは遺伝情報を担っている。 リン酸、ペントース、有機塩基が結合した化合物をヌクレオチドという。 また、ペントースと有機塩基が結合した化合物をヌクレオシドという。 核酸はヌクレオチドのペントースの3位の -HO とリン酸の -OH の部分が縮合重合したポリヌクレオチドである。 核酸には、リボ核酸 RNA と デオキシリボ核酸 DNA の2種類が存在する。核酸を構成するペントースの部分が、RNAはリボース C 5 H 10 O 5 {\displaystyle {\ce {C5H10O5}}} 、DNAはデオキシリボース C 5 H 10 O 4 {\displaystyle {\ce {C5H10O4}}} である[1]。 RNAを構成する有機塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4種類である。DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類である。 DNAはアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が水素結合によって、2本のポリヌクレオチドが合わさった二重らせん構造をとっている。 DNAの働きは、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることである。 DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。 DNAは、細胞核の中で、RNAをつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、 RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
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物質は、原子(げんし、atom)という基本構造が組み合わさることによって構成されている。 この元素は、現在では110種類ほどであり、これらのうち約90種類は天然に存在している。元素をあらわす記号には、ラテン語名などの頭文字から1文字または2文字をとった元素記号(げんそきごう、symbol of element)で表される。元素記号の1文字目は必ず大文字であり、2文字目は必ず小文字である。代表的な元素の元素記号を右の表に記したので、参考にしてほしい。詳しい元素記号の表は、元素記号(周期表)に掲載しておいた。 元素の確認方法には、さまざまな方法があるが、炎色反応で確認することができる。たとえば塩化ナトリウム水溶液をつけた白金線、または水酸化ナトリウム水溶液をつけた白金線を、ガスバーナーの外炎に当てると、黄色い炎が出る。 これは、ナトリウム元素 Na による現象である。塩化ナトリウムも水酸化ナトリウムも、どちらの物質とも、Na を含んでいる。 このように、物質を炎の中に入れたとき、その物質に特有の色の炎が見られる現象を炎色反応(えんしょくはんのう、flame reaction)という。炎色反応の色は、元素の種類によって異なるので、元素の種類を調べたい時に炎色反応で元素の種類を確認する事ができる。 なお、花火の色は、炎色反応を利用したものである。 石灰水(水酸化カルシウム水溶液)は、二酸化炭素を吹き込まれることで、白く沈殿する。これは、水に不溶の CaCO3 が発生したためである。 この一連の現象を利用して、ある気体中での二酸化炭素の有無を確認できる。 また、ある物質を酸化させて燃やした時に発生する気体が、石灰水を白く濁らせれば、その物質には炭素が含まれることが判別できる。 大理石に希塩酸をそそぐと気体が発生する。この気体を、水酸化カルシウム水溶液にそそぐと、白く沈殿する。このことから、大理石には炭素Cが含まれてることが分かる。なお、生じた白色沈殿は炭酸カルシウムである。 食塩水(水酸化ナトリウム水溶液)に硝酸銀水溶液を加えると、白色沈殿(塩化銀)が生じる。 この沈殿反応を利用することで、ある水溶液中に銀 Ag または塩素 Cl が含まれているか否かを判別できる。 たとえば水を電気分解すると、水素と酸素の気体が2:1の比で分離する。水素だけからなる気体、酸素だけからなる気体など、一つの元素のみから構成されている物質を単体(たんたい、simple substance)という。 単体の例をあげると、たとえば、純粋な銅は、銅元素のみからなる単体である。純粋な水素の気体は、水素元素のみからなる単体である。 いっぽう、水は、水素と酸素が結合している。このように、2種類以上の元素から成り立つ物質を化合物(compound)という。 水(H2O)はH元素とO元素からなる分子から構成されている化合物である。他にも、酸化銅II(CuO)や、塩化アルミニウム(AlCl3)など、化合物には、いくつもの種類がある。 黒鉛とダイヤモンドは、ともに炭素 C からなるが、色・電気伝導性など、性質が異なる。このように、ある元素の単体どうしで、元素の結びつき方が違うために性質が違うもののことを、たがいに同素体(どうそたい、allotrope)という。 たとえば「黒鉛はダイヤモンドの同素体である」といった具合に、この言葉を使用する。当然、組み合わさり方が一種類しかないような元素には、同素体は無い。 硫黄 S の同素体には、斜方硫黄(しゃほう いおう)と単斜硫黄(たんしゃいおう)およびゴム状硫黄がある。斜方硫黄(しゃほう いおう)と単斜硫黄(たんしゃいおう)およびゴム状硫黄は、これらはいずれも単体であるが、化学的性質が異なる。 赤リン(せきリン)と黄リン(おうリン)は、リン P の同素体である。 ほかにも炭素の同素体として、フラーレンやカーボンナノチューブなどが知られている。しかしフラーレンなどの説明には高度な専門性を要するので、ここでは詳細は述べない。 純物質は、物理的操作(叩く、引っ張る、ろ過する、といった操作)によってそれよりも小さい構成パターンに分けることができないようなパターンの集まりだと考えられる。ここで言うパターンとは、元素の組み合わせのことである。単体や化合物は、物理的な操作だけではその構成を変えることができない。例えば、水は蒸発させても凍らせても叩いてもろ過しても、水のままである。しかし、電気分解を行うことで水素と酸素に分解できることは、中学校で学習した通りだ。具体的には、前者を物理的操作、後者を化学的操作と呼ぶ。 なお、(※ 教科書には書かれてないが、)塩化ナトリウムそのものは純物質である。 海水は混合物である。(※ 海水の組成は覚えなくてもいいが、まず海水には食塩(塩化ナトリウム)が含まれてるので、その時点ですでに塩化ナトリウムと水との混合物。さらに海水には塩化マグネシウムなども含まれているので、より混合物である。) 空気は混合物である。なぜなら、空気には窒素や酸素などが混ざっているからである。窒素そのものは純物質である。酸素そのものは純物質である、 牛乳は混合物。石油は混合物。 ドライアイスは純物質。氷(こおり)は普通、純物質。 純粋な銅(どう)は純物質である(合金などは除外する)。純粋な鉄そのものは純物質である(合金などは除外する)。硫黄(いおう)は純物質。エタノールは純物質。 (検定教科書には書かれてないが、)ほかにも、塩酸は塩化水素(HCl)と水(H2O)の混合物である(※ チャート式など参考書で紹介)。 (※ チャート式など参考書で紹介)花崗岩(かこうがん)も混合物である。 ※ 純物質と混合物の分類の定義に対しては、直観的な理解で、かまわない。しかし、ある物質が純物質か混合物かについては、しっかりと把握すべきである。 これまでに学習した単体、化合物、混合物についてまとめた。右側には具体例となる物質を挙げたので、参考にしてほしい。 原子(げんし)は、中心にある原子核(atomic nucleus)と、その周り(電子殻、electron shell)を飛び回るいくつかの電子(electron,図では黄色)からなる。原子の形状は、球状の構造である(円状ではなく、球状である)。(※ 電子殻(でんしかく)については後述する。) 右に示した図で言えば、真ん中の赤い粒が陽子(ようし、proton)、おなじく真ん中の黄緑色の粒が中性子(ちゅうせいし、neutron)。それから、周りにある黄色い粒が電子である。全ての原子は、このような「原子核の周りに電子」という構造をしていると考えられている。 原子核は、何個かの陽子(ようし、proton)と何個かの中性子(ちゅうせいし、neutron)からなる。 原子の大きさは、だいたい半径 10-8 cm である(= 100億分の1メートル 、つまり 10-10 m )。原子核はさらに小さく、原子核の大きさは半径 10-15 m である。 比喩(ひゆ)として、原子をドーム球場の大きさに例えると、原子核の大きさは1円玉やビー玉の大きさに相当することになる。 原子はあまりに小さいため、電子顕微鏡などを用いなければ形状を観察することができない。原子核は、正の電荷(charge)を持っている。基本的に原子核は壊れない(※ 高校化学の段階では、とくに断りのないかぎり、原子核は壊れない、として扱ってよい)。 陽子が持つ電荷は、電子が持つ電気と大きさが同じで、符号が反対である。化学式などでは一般に、電子の電荷の大きさを最小単位として表す。つまり、電子の電荷を -1 として表す。このため、陽子の電荷を +1 として表す。 中性子は電荷を持たない。中性子の電荷は 0 である。 原子に含まれる陽子の数を原子番号(げんしばんごう、atomic number)という。元素ごとに、陽子の数は決まっているので、つまり元素が決まれば、原子番号も決まる。たとえば水素は陽子を1個持つので、水素の原子番号は1である。 原子核中での、電子の数と陽子の数は、同じである。よって原子核は、全体としては電荷をもたない。よって原子核は電気的に中性である。 また、陽子の質量と中性子の質量は、ほぼ同じである。 電子の質量は、陽子の約 1 1840 {\displaystyle {\frac {1}{1840}}} 倍である。よって原子の質量は、ほぼ原子核の質量になる。そして、陽子1個の質量と中性子1個の質量はほぼ同じである。ある原子1個での、陽子数と中性子数との和を、質量数(しつりょうすう、mass number)という。 つまり、ある元素の原子1個あたりの質量は、原子核1個中の陽子と中性子の質量数の和に、比例する。 具体例として、通常の水素 H の質量数は1である。通常の水素の原子核は、陽子1個のみである。 通常のヘリウム He の質量数は4である。なぜなら通常のヘリウムの原子核は、陽子2個と中性子2個からなる。 ある元素記号の質量数を表す場合、 He 4 {\displaystyle {\ce {^4 He}}} のように、原子の左上に小さく書いて示す(例ではヘリウムを例にした)。 原子番号も書く場合は、 He 2 4 {\displaystyle {\ce {_2^4 He}}} のように、左下に原子番号を書き、左上に質量数を書く。 質量数はあくまで、陽子と中性子の個数の和であり、質量そのものではないことに注意が必要である。さらに言えば、これら質量数はあくまで指標であり、実際の質量は厳密には異なってくる。 天然に存在する水素原子の大部分は、原子核が陽子1個だけからなる H 1 1 {\displaystyle {\ce {^1_1 H}}} であるが、水素には、この他にも陽子1個と中性子1個からなる H 1 2 {\displaystyle {\ce {^2_1 H}}} も少量ながら存在する。 このように、原子番号が同じでも質量数が異なる原子のことを、たがいに同位体(どういたい、isotope)であるという。あるいは同位体のことをアイソトープ(isotope)ともいう。 水素の同位体には、さらに H 1 3 {\displaystyle {\ce {^3_1 H}}} も、ごくわずかにある。 なお、「同位体」という名前が「同素体」と似ているが、異なる概念なので、混同しないように読者は注意のこと。 H 1 2 {\displaystyle {\ce {^2_1 H}}} のことを重水素(じゅうすいそ)という。また H 1 3 {\displaystyle {\ce {^3_1 H}}} のことを三重水素という。 同位体どうしは質量が異なるが、化学反応などの化学的性質はほぼ同じである。なぜなら、原子核に含まれる陽子の数が同じだからである。 炭素Cの代表的な同位体には、12C と13C がある。 炭素Cの同位体には14Cも存在する場合もあるが、この14Cは不安定であり、すぐに崩壊(ほうかい)して質量数が変わってしまう。原子核が壊れるとき、一般に放射線をだすので、不安定な同位体が壊れたときも放射線を出す。14Cも崩壊するときに放射線を出す。 14Cのような、すぐに崩壊して放射線を出す同位体を放射性同位体(ほうしゃせいどういたい、ラジオアイソトープ,radioisotope)という。 これに対して安定して存在できる同位体を安定同位体(stable Isotope)という。 原子力発電所の原子炉内では、質量数3の水素3Hも存在する。この水素3Hを三重水素(さんじゅうすいそ、tritium トリチウム)という。3Hは放射性同位体である。 なお、すべての元素に、自然界で同位体が存在するわけではない。 Be,F,Na,Al,P,Sc,Mnなどには、天然には同位体は存在しない。 放射性同位体の活用としては、化学反応のしくみを追跡するときに利用される。ほかにも、年代測定などにも利用される。 なお、放射性に関する用語として、放射線を出す性質のことを「放射能」(radioactivity)という。放射線を出すなどして、原子が他の原子に変わることを「崩壊」という。 原子ごとに、原子核が変わるまでの、だいたいの時間が異なる。半分の量の原子核が変わるまでの時間を半減期(はんげんき、half life)という。 14Cの半減期は5830年である。例えば14Cの量が元の1/8になっているなら 1/8=(1/2)3なので5830×3=17490年経過している。 原子力工業などでいう「軽水」(けいすい)とは、重水素を含まない普通の水の事である。(※ 参考文献: 電気学会『電気学会大学講座 発電工学 〔改訂版〕』、2015年改訂版) 原子力工業の分野では、重水素を含んでいて普通でない水のことを「重水」(じゅうすい)と呼んでいる。原子力工業の用語では、「重水」に対して、普通の水素の化合によって出来た水のことを「軽水」と呼んで、原子力工業では区別している。 また、原子力の分野や、放射性同位体をつかった化学分析の分野では、一般の水素原子 1 H {\displaystyle _{1}^{}\mathrm {H} } を「重水素」と区別するために、一般の水素原子 1 H {\displaystyle _{1}^{}\mathrm {H} } のことを「軽水素」という場合もある。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための無機化学 新訂版』、橋本和明ほか著、2016年新訂第1版、118ページ) だが、けっして普通の水素 1 H {\displaystyle _{1}^{}\mathrm {H} } とは別に「軽水素」なんて元素があるわけではない。普通の水素原子 1 H {\displaystyle _{1}^{}\mathrm {H} } を重水との区別のために「軽水素」と呼んでいるだけである。 原子の構造のうち、電子が並んでいる原子核の周りの部分について、より詳しく見ていこう。 この電子殻は何重かにわかれており、内側からK殻(ケーかく、K shell)、L殻(エルかく、L shell)、M殻(M shell)、……と呼ぶ。それぞれの層に入ることのできる電子の数は決まっており、その数以上の電子が一つの層に入ることは無い。たとえば、K殻に入ることのできる電子の数は2つまでである。また、電子は原則的に内側の層から順に入っていく。M殻以降では例外もあるが、高等学校の化学ではこれについては扱わない。内側から数えてn番目の電子殻に入ることのできる電子の数は、最大2n2までである。 また、いちばん外側の電子殻にある電子を最外殻電子(さいがいかく でんし、outermost-shell electron)という。ある原子とある原子との接点が、実際には電子殻であるため、原子の結合の仕方などはこの最外殻電子の個数が重要になってくる。ある原子での最外殻電子の数を価電子(かでんし、valence electron)という。 各々の原子の電子の、電子殻への配列の仕方を電子配置 (でんしはいち、electron configuration)という。 ヘリウムやネオンは、安定しており、化合物をつくりづらい。ヘリウムガスは、化合してないヘリウム原子が気体そのものの成分であり、分子化合物ではない。同様にネオンガスも原子の気体であり、分子ではない。 ヘリウムの電子配置は、K殻に2個ぜんぶの電子が配置されていて、安定しているので、このような化学的安定をしている。 同様に、ネオンの電子配置は、L殻に8個ぜんぶの電子が配置されてるので、安定している。 このように、最外殻にそれ以上電子が入ることのできない状態を閉殻(へいかく)という。閉殻になっている原子の価電子の個数は0であると約束する。 なお、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの原子のことを希ガス(きガス、Noble gases)原子という。希ガス原子は、ほかの原子とは化合せず、希ガスどうしとも化合しておらす、希ガスそのものが分子と同様に安定してふるまうので、「単原子分子」(たんげんし ぶんし、monoatomic molecule)である。 原子の構造を理解する助けとして、これから先になって必要になってくる概念である電荷という言葉については、ここで簡単な説明を加えておく。 この電荷という概念は、高等学校物理などでも扱う。電荷を持った粒子がどのような振る舞いをするかについて興味を持ったなら、そちらを参考にすると良い。 電荷を持った粒子は基本的に次の性質を持っている。これらを知っていれば、高等学校の化学においては十分であろう。 ある原子核に陽子が3つ含まれているとき、原子核全体の電荷は と表される。さらに、この原子核の周りに電子が3つ回っているならば、原子全体の電荷は、 となる。これは、原子全体では電荷を持っていないということである。このことがらを利用すれば、原子全体の電荷や、原子の名称などから、それにいくつの陽子や電子が含まれているかを計算することができる。 高校の「物理」で習う電気の内容だけでは、化学での価電子のふるまいなどを理解することはできない。だから高校生は、物理とは別に、化学の理論も覚える必要がある。 たとえば、「なぜ、電子にはK殻、L殻などといった電子殻(でんしかく)があるのか?」などといった基本的な問いさえ、高校物理の電気・磁気の知識では説明不可能である。原子どうしの結合の起こる理由すら、高校物理では、説明不可能である。 電子殻については、量子力学の以前でも、周期表が19世紀にメンデレーエフによって発見されたことや、さまざまな実験結果によって、電子殻のような、現象が存在することは、19世紀ころ(1800年~1900年ごろ)から分かっていた。だが、ではなぜ、そのような電子殻といった仕組みがあるのか、量子力学の以前は、まだ分からなかったのである。 量子力学の以前でも、電気分解などの実験によって、化学反応には電子が関わることは分かっていたし、周期表などから、原子のもつ電子の数も分かっていた。原子核に陽子や中性子のような物があることも、原子の電子軌道上にもつ電子と、原子の質量の分析から、分かっていた。しかし、ではなぜ、原子核のもつ陽子や中性子の数が、そのような数に決まるのか、まったくもって理由が不明だったのである。 シュレーディンガー方程式とディラック方程式の解法は、とても難解であり、高校レベルを遥かに越える難度で、理系の大学学部の高学年~大学院レベルである。しかも、数学や物理や化学を専門にする学科の大学生の場合で、大学高学年~大学院で、やっと、解けるというレベルである。 たいていの大学生の受ける大学の授業では、大学1年~2年での化学の授業で、学生が理解するよりも先に、シュレーディンガー方程式・ディラック方程式によって20世紀の化学者が分かった結果を習い、学生は結果を鵜呑みすることになる。 とても、一般の高校生には、シュレーディンガー方程式などによる化学反応の証明は手が追えないので、シュレーディンガー方程式およびディラック方程式に深入りしてはならない。 科学技術の歴史的にも、物理学において、現代のような、原子や電子にもとづく化学反応の仕組みが分かったのは、だいぶ後の時代であり、1900年すぎごろから、量子力学や相対性理論などの学問が発達してからである。1800年代までは、そもそも「原子」や「分子」といったものが存在するということの証明すら、とても難しかったのである。 また、1800年代ころの昔は、原子と分子との区別すら、まだ、あまり区別されてなくて、混同されていた時代だったのである。 つぎの章の以降で話す、原子の仕組みについても、同様に、高校物理の電気の知識では、説明できない。量子力学よりも前の昔は、化学での原子の仕組みが「なぜ、そうなるのか?」が分からなかったのである。 だから、高校生は、先に結果を覚える必要がある。 原子の化学反応的な性質は、その原子の原子核に含まれる陽子の数で決まる。なぜなら、電子殻上の電子が、化学反応では媒介(ばいかい)になるのだが、電子殻上のその電子の数は、原子核中の陽子の数と、同じだからである。このため原子番号の定義を、陽子の数として定義することは、合理的である。 実は、元素の分類、つまり原子がどの元素に属するかという判断は、その原子の原子核に含まれる陽子の数によって行われている。例えば、水素(H)に属する原子の場合、それに含まれる陽子の数は必ず1個である。同じように、炭素(C)に属する原子の原子核には、必ず6個の陽子が含まれている。逆に、ある原子の原子核に陽子が6個含まれるなら、その原子は炭素である。 元素を原子番号の順に並べると、性質のよく似た元素が周期的に現れることがある(例:1価の陽イオン(→高等学校化学Ⅱ/化学結合)になりやすい物質……3Li、11Na、19K、など。ここまでは8個間隔で現れている)。このことを元素の周期律(periodic law)という。また、図のような表を、周期表(periodic table)という。 元素を原子番号の順に並べて、かつ周期律に併せて配列した表のことを周期表という。周期表の縦の列を族(group)といい、同族内では性質のよく似た元素が並ぶ。周期表の横の列を周期(period)と呼び、周期の番号は電子殻の数と一致する。 「族」は、1族から18族までの、合計18個がある。「周期」は、1族から7族までが、現在(2013年に本文を執筆。)では確認されている。 具体例をいくつか挙げると、族については、水素HとリチウムLiとナトリウムNaとカリウムKは、ともに1族の元素である。周期に関しては、水素Hは第一周期であり、リチウムLiは第二周期であり、Naは第三周期である。 他の族の元素でも、例を挙げる。酸素Oは、16族で第二周期の元素である。炭素Cは14族で第2周期である。塩素Clは17族元素で第3周期である。 族が同じ元素どうしを同族元素という。たとえば、HとLiとNaとKとルビジウムRbとセシウムCsとフランシウムFrとは、お互いに同族元素である。 他の族でも例を挙げれば、14族の炭素Cと,シリコンSi,ゲルマニウムGeと,すずSnと,鉛Pbとは、お互いに同族元素である。 ロシアのメンデレーエフによって、1869年に、周期表が作られはじめた。彼メンデレーエフの偉大な点は、当時知られていた63種類の元素だけを並べようとはせず、空欄がいくつもある表をつくったことであり、その空欄には未知の元素が入ると予言したことである。 メンデレーエフは、まず元素を原子量の順に並べると、化学反応などの性質の似た元素が表の縦の列にあらわれるような周期表を作成した。当時に、まだ知られていない元素があったが、それは、「未発見の元素があるのだろう」とメンデレーエフは考えた。のちに、メンデレーエフの予想したとおりの性質をもつガリウムやゲルマニウムが発見された。 発見されたゲルマニウムの性質は、メンデレーエフの予言したエカケイ素とよく一致した。エカケイ素は、彼の周期表で、ケイ素の一つ下にある元素である。(エカとはサンスクリット語で「1」の意味。) 1族の同族元素のうち、水素Hを除いた残りの元素の、LiとNaとKとルビジウムRbとセシウムCsとフランシウムFrを、アルカリ金属(alkali metals)という。Hはアルカリ金属には含めない。 2族元素のうち、ベリリウムBeとマグネシウムMgを除いた残りの元素の、カルシウムCa,ストロンチウムSr,バリウムBa,ラジウムRaをアルカリ土類金属(alkaline earth metal)という。ベリリウムBeとマグネシウムMgはアルカリ土類金属には含めない。 17族の元素のフッ素F,塩素Cl,臭素Br,ヨウ素I,アスタチンAtをハロゲン元素(halogen)という。 18族のヘリウムHe,ネオンNe,アルゴンAr,クリプトンKr,キセノンXe,ラドンRnを希ガス元素(rare gas)という。 3族から11族の元素を遷移金属(せんいきんぞく,transition metals)という。 遷移金属は、価電子の数が1個または2個であることが多く、族と価電子数が一致しない。 遷移金属以外の元素である元素はどうだろうか。1族と2族と12族~18族の元素を典型元素(main group element)という。典型元素では、族の番号の1の位の数が、最外殻電子の数と一致する。 1族の元素と2族の元素は陽イオンになりやすい。 17族の元素は陰イオンになりやすい。 18族の元素は化合物をつくりづらい。天然には単分子で存在するのが一般である。 なお書式について、原子番号の個数をaとして核子の個数をbとして元素記号(HやHeなど)をAすれば、その原子を a b {\displaystyle _{a}^{b}} A のように書く事がある。 カルシウムは、じつは金属である。カルシウムは金属なので、電気もよく通す。なのに、まったく骨が「電気を通す」という話を聞かない理由は、じつは動物の骨のおもな成分は、リン酸カルシウムという化合物であるので、電気を通しにくいのである。ちなみに骨は細胞である。
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塩化ナトリウムNaClを水に溶かして塩化ナトリウム水溶液をつくると、ナトリウムイオンNa+と塩素イオンCl-のような、正負の電荷をもった粒子に分かれる。このように、電荷を持った粒子をイオン(ion)という。 このときに生ずる、正の電荷を持つ粒子を陽イオン(cation)という。いっぽう、負の電荷を持つ粒子を陰イオン(anion)という。 塩化ナトリウム水溶液の場合、 Na+ が陽イオンであり、Cl- が陰イオンである。 塩化ナトリウム水溶液は、電気を通す。その仕組みは、陽イオンと陰イオンが、塩化ナトリウム水溶液中では、ほぼ自由に動けるからである。 また、このように、溶解の際に、物質がイオンに分かれる現象を電離(でんり, ionizasion)という。そして、水に解けて電離する物質を電解質(でんかいしつ, electrolyte)という。 いっぽう、アルコールやグルコース(砂糖)の溶液は、水に溶けても電解しない。このアルコールなどのように、水に溶けても電解しない物質を非電解質(ひでんかいしつ)という。グルコース水溶液は、電気を通さない。 ナトリウム原子 Na は、価電子を1個放出すると、電子配置が、希ガスのネオン Ne の電子配置と同じになり、安定する。(ナトリウムの原子番号は11であるため、K殻に2個、L殻に8個、M殻に1個の電子が含まれる。)なのでナトリウムイオン Na+ のように、1価の陽イオンになりやすいのである。 いっぽう、塩素原子 Cl は、価電子を1個、外部から受け取ると、電子配置が、希ガスの電子配置と同じになる。 同様に、マグネシウム Mg は、価電子2個を失いやすく、 Mg2+ になりやすい。同様に、アルミニウム Al は、価電子3個を失いやすく、 Al3+ になりやすい。 価電子が1〜3個など、価電子の少ない原子は、電子を失って陽イオンになりやすい。逆に、価電子が6〜7個など、価電子の多い原子は、電子を受け取って陰イオンになりやすい。 イオンができる際に、放出したり受け取ったりと、やりとりした電子の数を、そのイオンの価数(かすう、charge number)という。価数が1のときそのイオンは1価であるといい、同様に価数が2のときそのイオンは2価であり、価数が3なら3価、・・・と数える。電子の電荷は-eであるが、ここでは、電子一つを基準にしていることに注意。 原子記号では、価数は右上に書く。 例 このように、元素記号と、その右上に価数と正負の符号で表記する方法を、イオン式(ion fomula)という。 イオンの化学式をあらわすには、イオン式を用いる。 また、塩素Clの価数のように、1価の場合は、数字の1を省略する。 Na+ や Cl- や Mg2+のように、原子一粒が電子を受け取ったり渡したりしてイオンになったものを単原子イオン(たんげんしイオン、monoatomic ion )という。 アンモニウムイオン NH4+ や水酸化物イオンOH-のように、二個以上の原子が結合した原子団に、電子が結合したり取れたりしてできたイオンを多原子イオン(たげんしイオン、polyatomic ion)という。 なお一般的に、陽イオンは「~イオン」、陰イオンは「~化物イオン」と呼ばれる場合が多い。また、多原子イオンであれば、それがイオンになる前の分子の名前に「~イオン」や「~化物イオン」と付けて呼ばれることが多い。上述の例で言うなら、アンモニアのイオンはアンモニウムイオンである。 *ただし上の表にあるように鉄には価数が2個のものと3個のものがあり、それぞれ鉄(Ⅱ)イオン、鉄(Ⅲ)イオンともいう。 原子から最外殻電子1個を取り去って、1価の陽イオンにするのに必要なエネルギーのことをイオン化エネルギー(ionization energy)という。 一般に、イオン化エネルギーの小さい原子ほど、陽イオンになりやすい。 Li、Na、K などのアルカリ金属は、イオン化エネルギーが小さいからこそ陽イオンになりやすいのである。 いっぽう、陰性の強い元素は、イオン化エネルギーが大きい。 また、He、Ne、Ar などの希ガス元素はイオン化エネルギーが非常に大きいので、安定しているのである。 ※ 単位「mol」(モル)については、のちの単元で習う。もし読者が、高校2年の1学期に初めてここの単元を習ってる段階なら、まだモルについては、気にしなくて良い。 原子が電子1個を受け取って、1価の陰イオンになるときに放出されるエネルギーのことを電子親和力(でんし しんわりょく、electron affinity、でんし しんわりょく)という。 たとえば塩素Clが電子1を受け取って塩化物イオン Clー になるとき、エネルギーを放出する。 一般に、電子親和力の大きい元素ほど、陰イオンになりやすい。(※ 実教出版、啓林館、東京書籍の教科書などで紹介されている。)  このため、電子親和力の大きさは、その元素の陰イオンの安定さを表す・・・、と考えられている(※ 東京書籍の見解)。 F、Cl、Br などのハロゲン原子は電子親和力が非常に大きく、1価の陰イオンになりやすい。 (発展:) なお、電子親和力の測定方法は、直接の測定が困難なので、おもに光を放つ現象や、あるいは元素に光を照射して元素に吸収させる方法が、原子親和力の測定利用されている。つまり、おもに光の発生や吸収を利用して、電子親和力を測定することが多い。(※ 啓林館の化学基礎の教科書で紹介されている。) 塩化ナトリウムNaClでは、ナトリウム原子からは価電子の1個を出して陽イオンのナトリウムイオンNa+になっている。塩素原子Clは、ナトリウムから不出された価電子を受取り、陰イオンの塩素イオンCl-になっている。 そして、Na+とCl-が静電気的な引力(クーロン力)で結合している。 NaClの結晶の中では、Na原子の数とCl原子の数は同数であり、つまり1:1の割り合いである。 このように、陽イオンと陰イオンとが静電気的によって結びつく結合のことをイオン結合(ionic bond)という。 一般に、陽性の強い金属元素と(たとえばNaなど)、陰性の強い非金属元素(たとえばClなど)との間に、イオン結合が生じやすい。 一般に、イオン結合の強さは、両方のイオンの価数の積が大きいほど、結合も強い。(「価数」とは、たとえばCa2+ならば「2+」の部分が価数である。) また,塩化ナトリウムNaClのように、イオン結合でできている結晶のことをイオン結晶(ionic crystal)という。 NaCl結晶中の NaClの1単位と、同じ結晶中のべつの NaCl 1単位とは、けっしてイオン結合はしてない。棒などでつつくなどして結晶に外力を加えると、すぐに割れてしまったり壊れたりして、粉末状になってしまうことが多い。外力で割れやすいのは、原子配置が一個でもずれると、同種の電荷のイオンどうしが接近してしまい反発してしまうからである。 また、一般に、イオン結晶は水に溶けやすい。イオン結晶を溶かした水は電気を通す。 水に溶かしていない、固体状の結晶じたいは電気を通さない。ただしイオン結晶を高温にして液体にすると、液体の場合には電気を通す。 融点に関しては、イオン結合をしている物質の融点は高い。 イオンからなる物質を化学式であらわすには、陽イオンと陰イオンの数の比率をもっとも簡単な整数比で表した組成式(そせいしき、compositional formula)をもちいる。 たとえば「MgCl2」や「NaCl」のように、あらわす。 たとえば塩化マグネシウムの結晶は、Mg2+とClーが 1:2 の比率で存在しているので、組成式はMgCl2 で表される。 また、「NaCl」のように、個数比が1倍の場合は「1」を省略する。 一般に、イオン結晶は電気的に中性であるので、次の関係式がなりたつ。 なぜなら、電気的に中性なら、正電荷の総量と負電荷の総量とは等しいので、上式が成りたつのである。 構成している原子と価数 構成している原子と価数 構成している原子と価数 構成している原子と価数 H2やO2やH2O のように、いくつかの原子が結びついてできたものが分子(molecular)である。 一般に同種の非金属原子どうしが近づくと(たとえば水素原子どうしが近づくと)、各原子の電子軌道上にある電子を共有することができる。(ただし、共有できる原子数には限りがある。) このような結合を共有結合(covalent bond)という。 共有結合は、おおむね、以下のような仕組みである。 例として、水素分子での水素原子どうしの結合で説明する。 ここで注意すべきなのは、電子どうしには引力が生じない、ということである。原子核どうしにも引力は生じない。あくまでも電荷の異なる粒子どうしの、原子核と電子とが電気引力を及ぼしているのである。同種の電荷である原子核どうしには反発力が生じている。同様に、同種の電荷である電子どうしにも反発力が生じている。 このように価電子を仲立ちとして、電子を共有することによって生じる結合を共有結合(covalent bond)という。 対電子は、なにも結合だけではなく、1個の原子の電子殻上でも、価電子が多い場合は、対電子が生じる。 たとえば、L殻の原子では、5個の価電子を持つN原子は1組の電子対をもつ。6個の価電子を持つO原子は2組の電子対をもつ。7個の価電子を持つF原子は3組の電子対をもつ。比較のため、同じL殻のC原子を例に出すと、4個の価電子を持つC原子は0組の電子対をもつ。 上図のように、元素記号のまわりに、最外殻電子を・で表した図のような化学式を電子式という。 電子式では、電子をあらわす黒丸は、上下左右の4箇所に配置される。 そして、4個目までの原子は、その4箇所に均等に配分される。 5個目以降の電子が、すでに配置された電子と対(つい)を作り始める。 最外殻電子にて、電子の数が多くなると、2個以上の電子で、対(つい)をつくり、その電子は結合に安定な状態になる。この、2個の電子が1対となったものを電子対(でんしつい、electron pair)という。 いっぽう、最外殻電子にて、対を作らない電子のことを不対電子(ふついでんし、unpaired electron)という。 原子どうしの共有結合では、図のように、不対電子どうしが結合にかかわる。 共有結合にて構成される分子にて、原子間で共有されている電子のことを共有電子対という。いっぽう、はじめから電子対になっていて、原子間で共有されていない電子対を非共有電子という。 水素と水素の結合のように、1組の共有電子対による結合を単結合(たんけつごう)という。 構造式では、共有電子対の1組(つまり図中の「:」)は1本の棒線で表される。たとえば水素分子の構造式は となる。棒線の1本あたり、1組の共有電子対を表している。 なお、このような共有電子対を表す線を価標(かひょう,bond)という。 2対の共有電子対による共有結合を二重結合(double bond)という。3対の共有電子対による共有結合を三重結合(triple bond)という。 二重結合の価標は2本の棒線(つまり「=」)で表される。三重結合の価標は3本の棒線(「≡」)で表せる。 分子式、電子式、組成式、構造式などをまとめて化学式(かがくしき、chemical formula)という。 構造式において、1個の原子から出ている価標の数を原子価(げんしか、valency)という。 原子価は、その元素がもつ不対原子の数にも相当する。 3個の不対電子を持つ窒素原子Nは、水素原子Hと結合すれば、アンモニアNH3 を作ることができる。 構造式は、かならずしも、分子の実際の形とは一致するとは限らない。 (※ 編集者へ: 下の図表を完成させてください。) 実は、タングステンやクロム、レニウムでは、四重結合や五重結合、六重結合があることが、報告されている。 検定教科書に「四重結合が無い」と明言されないのは、タングステンなどの事情があるからだろう。 ただし、炭素や酸素、窒素などでは、四重結合は無い。高校で習う多くの元素で、四重結合以上の結合は無い。四重結合以上が無い理由について、いろいろな仮説が提案されているが、それらのどの仮説でも、よく使われる前提として、われわれの空間が三次元であることが、説明に使われることが多い。 (※ この話題は、高度に専門的すぎるため、絶対に入試には出ないだろう。なので高校生は、「化学の多重結合は、原則的に三重結合まで」と思っても良い。) ちなみに、タングステンやクロム、レニウムはすべて金属である。つまり、金属でしか、四重結合以上は見つかっていない。(少なくとも西暦2018年の時点では。) 上記3つ以外の、鉄や銅や金(きん)などの金属では、四重結合以上は見つかっていない。 アンモニアNH3を水や濃塩酸HClと反応させるとアンモニウムイオンNH4+が生じる。 これはアンモニアの非共有電子対に、水素イオンが吸引された結果である。水素イオンは価電子を放出して正電荷になっているので、電子に引きつけられる。 このように非共有電子対に、価電子が空のイオンが吸引されてできる結合を配位結合(はいい けつごう ,coordinate bond)という。 NH4+の結合について、アンモニウムイオンNH4+の持つ結合N-Hの4個の結合は、4個とも同等であり、配位結合したあとは区別できない。 このような理由から、配位結合は共有結合の一種と見なされる。 水H2Oや、希塩酸などの酸性溶液では、少しだけイオン化をしていて、H3O+とOH-とにイオン化をしている。このH3O+は、H2OにHが配意した配位結合である。このH3O+をオキソニウムイオン(oxonium ion)という。 金属イオンが中心となって、その金属の周囲に陰イオン(Clー や OHー など)や分子が配位結合をすることで錯イオン(さくイオン、complex ion)を生じる。 たとえば中心金属が銅で、周囲にアンモニア分子が配位すると、錯イオン [Cu(NH3)4]2+ になる。[Cu(NH3)4]2+ の名称は、「テトラアンミン銅(II)イオン」である。 金属イオンに配位結合した分子や陰イオンを配位子(はいいし、ligand)という。 錯イオンにて、中心の金属原子に配位している配位子の個数を配位数という、 水素分子H2や塩素分子Cl2のように同種の原子の共有結合で出来た結合において、電子対はどちらにも片寄らず、したがって電荷はかたよらない。 いっぽう、塩化水素分子 HCl では、共有電子対は塩素原子に引き寄せられている。その結果、H原子は、すこしばかりの正の電荷 δ+ を帯び、いっぽう、塩素原子は少しばかりの負の電荷 δ- を帯びる。このような電荷のかたよりを結合の極性という。 なおイオン結合は、電荷のかたよりが大きい結合の場合に、電子対が完全に一方の原子に移動したものと考えることができる。 元素の陰性を、数値的に決定することができる。元素の陰性の決定方法には、いくつかの方式が提案されているが、そのうち、有名なものを下記に解説する。(※ 入試には出ないので、高校生は暗記しなくてよい。) ある原子Aの結合からなる二原子分子 AA があったとする。 同様に別のある原子Bの結合からなる二原子分子 BB があったとする。 同種の原子どうし(AAおよびBB)の結合エネルギーは、共有結合のエネルギーみであり、イオン結合のエネルギーは無いはずである。 さて、AとBの結合した分子 AB の結合エネルギー EAB は一般に、AAとBBの平均の結合エネルギーよりも、さらに結合エネルギーが高い。 これは、原子Aと原子Bとの極性の差により、イオン結合のエネルギーが含まれているからである。(※ 上の式は高校範囲外なので覚えなくてよい。) なら、このイオン結合のエネルギーをもとに、各原子の極性の度合いを実験的に測定できるだろう、と化学者ポーリングなどは考えた。そして、その極性は、2原子のそれぞれの原子の電気陰性度 χ A {\displaystyle \chi _{A}} χ B {\displaystyle \chi _{B}} の差 χ A − χ B {\displaystyle \chi _{A}-\chi _{B}} によって生じると設定した。(※ 上の式は高校範囲外なので覚えなくてよい。) つまり、同じ原子どうしの結合なら電気陰性度に差は生じず、 となり、よって分極は生じない事になり、実験結果ともあう。 そしてポーリングなどは、フッ素 F の電気陰性度をとりあえず約4.0であると設定して、この設定にあうように比例定数kを掛けた式をつくって、 そして、この式をもとに、さまざまな原子どうしの結合エネルギーの差の実測値をもとに電気陰性度を計算した。(※ 上の式は高校範囲外なので覚えなくてよい。) このようにして、電気陰性度(でんきいんせいど、electronegativity)の相対値が算出された。電気陰性度はもともと、上記のように2種類の原子からなる二原子分子の分極を説明するために導入された量である。 現在では、電気陰性度は、共有電子対を引きつける力の強さに よく比例する事が 分かっている。(検定教科書では、こちらを定義にしている。つまり、「元素において、共有結合をしている電子対をひきつける力の大きさを、相対的に表したものを電気陰性度という。」のような定義をしている。) また、こうして電気陰性度を計算した結果、希ガスを除いて周期表の右上にある原子ほど、電気陰性度が高いことが分かった。(検定教科書にも書いてある。)フッ素 F が最大の電気陰性度である。 なおイオン結合は、電気陰性度の差が大きくて、電子対が完全に一方の原子に移動したものと考えることができる。 また、共有結合は、電気陰性度がある程度高くて、さらに電気陰性度が同じくらいの原子との結合で、共有結合が生じるのが一般的である。 「ポーリングの電気陰性度」の発見後、マリケンが次のことを発見した。 グラフで、縦軸にポーリングの電気陰性度をとり、横軸に原子番号を取るグラフを用意する。 同様に、縦軸にイオン化エネルギー、横軸に原子番号をとったグラフを用意する。 すると、原子番号10以降のほとんどの原子で、グラフでは、イオン化エネルギーの増減と、ポーリングの電気陰性度の増減のようすが、同じように増減することが分かった。 また、同様に、縦軸に電子親和力、横軸に原子番号をとったグラフを用意する。すると、原子番号10以降のほとんどの原子で、グラフでは電子親和力の増減と、ポーリングの電気陰性度の増減のようすが、同じように増減することが分かった。 そこで、化学者マリケンは、原子 A のイオン化エネルギーを IAとし、電子親和力を EAとした際に、縦軸に をとったグラフが(※ 横軸は原子番号とする)、 が「ポーリングの電気陰性度」と増減が似ていることに、こだわった。(※ 「電子親和力」の単位は(「力」という名に反して)エネルギーが単位である。なので、電子親和力とイオン化エネルギーとは足し算できる。) また、 を約270で割り算すると、ポーリングの電気陰性度とほぼ同じ値になる。 そして、マリケンなどによって「いっそ、電気陰性度を、イオン化エネルギーと電子親和力を足した値(を2で割った値)として、あらたに定義しよう」というような提案が、なされた。 そして、マリケンはさらに、上述の式にもとづいて、ポーリングとは異なる、あらたな電気陰性度の式を提案した。 つまり、式 で求まる χ M A {\displaystyle \chi _{\rm {M}}^{\rm {A}}} が、マリケンによる新しい電気陰性度の定義である。 このような式による定義を「マリケンの電気陰性度」といい、ポーリングの電気陰性度とは区別する。 ポーリングの電気陰性度とマリケンの電気陰性度は、増減の傾向がよく似た値になる。 ポーリングは1932年に電気陰性度の測定法などを発表しており、マリケンは1934年に上述の計算などを発表している。 水素分子H2や塩素分子Cl2のように同種の原子の共有結合で出来た結合において、電子対はどちらにも片寄らず、したがって電荷はかたよらない。 このような電荷の片寄りのない分子を無極性分子(むきょくせいぶんし,nonpolar molecule)という。 いっぽう、塩化水素分子HClでは、塩素に電子は片寄っている。その結果、H原子は、すこしばかりの正の電荷 δ+ を持ち、塩素原子は少しばかりの負の電荷 δ- を持つ。このように分子内に電荷の片寄りのある状態を極性(きょくせい,polarity)と言い、極性の有る分子を極性分子(polar molecule)という。 ニ酸化炭素CO2ではC=Oの結合には極性があるが、分子全体ではO=C=Oが直線上の形状のため、2個のC=O結合の極性同士が反対向きになり、極性が打ち消し合う。したがって、ニ酸化炭素は分子全体では極性をもたない無極性分子である。 水H2Oは極性分子である。分子全体では折れ線の形になっている。 メタンCH4は無極性分子であり、正四面体の構造をとる。正四面体の4個の頂点に対応する位置に水素原子Hがあり、正四面体の中心に対応する位置に炭素Cがある。 16族原子のOと結合したH2Oは、同じ16族原子との化合物のH2SやH2Seとくらべて、沸点が特に高い。 17族のFとの化合物のHFは同じ17族原子の HCl などとくらべて沸点が特に高い。 15族のNとの化合物のNH3も同様に、他の同属化合物より沸点が特に高い。 このような現象の仕組みを述べる。 O、F、Nとも電気陰性度の高い元素である。電気陰性度の高い元素(O、F、N)と、水素 H とが、引き合うのである。 例としてHFを解説する。フッ化水素HFはフッ素の電気陰性度が大きく、電子はフッ素Fに吸引される。この結果、水素原子Hは静電荷に帯電する。この分極した水素Hを仲立ちとして、周囲のHF原子のFを吸引する。 これを水素結合(hydrogen bond)という。水素結合は、相手の原子がO、F、Nなどの電気陰性度の高い場合に生じる。 水素結合は、共有結合やイオン結合と比べると、はるかに弱い結合である。しかし、水素結合がファンデルワールス力による結合と比べると、はるかに強い。 結局、水素結合をする物質は、 などである。 アンモニア分子どうしも水素結合をする。アンモニア分子のNと、となりのアンモニア分子のHとが、水素結合するからである。 なお、14族元素(CH4など)の水素化合物は無極性なので、他の族と比べても、特に沸点が低い。 水素H2やメタンCH4といった無極性の分子でも、冷却していけば液体や個体になる。 これは、無極性分子といえども、分子間に、弱いながらも引力が働いているからである。 極性の有無にかかわらず、分子間の引力のことをファンデルワールス力という。 そして、ファンデルワールス力と水素結合をまとめて分子間力という。 ハロゲンの単体の二原子分子は、分子量が大きくなるほど、沸点も高くなる。こうなる理由は(ハロゲンの単体の二原子分子で、分子量が大きくなるほど、沸点も高くなる理由は)、分子量が大きいほど、分子間力も強くなるからである。(ほぼ同じことだが、理由は「分子量が大きいほど、ファンデルワールス力が強くなるから」と書いてもいい。第一学習社の検定教科書では、ファンデルワールス力で沸点の高くなる理由を説明している。) 二酸化炭素を冷却するとドライアイスになるが、図のように二酸化炭素分子が整列した結晶になっている。 二酸化炭素どうしを引きつけてる力は分子間力である。 このように、分子間力によって配列してできた結晶のことを分子結晶(molecular crystal)という。 分子結晶は弱い力であるため、一般に分子結晶は融点・沸点が低く、やわらかい。 また、分子結晶には昇華しやすいものが多い。昇華しやすいものが多い理由も、分子間力が弱いことが理由であろうと一般に考えられている。(検定教科書にそう書いてある。) 二酸化炭素(CO2)、ヨウ素(I2)、ナフタレンが、昇華する物質である。 この昇華する物質である二酸化炭素(CO2)、ヨウ素(I2)、ナフタレンはどれも、無極性分子である。 氷(こおり)の結晶では、図のように、水1分子あたり水素結合によって4個の分子が引き合ってる。 氷(こおり)は、このように、すきまが大きいので、液体から個体になるときに密度が低下する。 このため、氷(こおり)の密度は水(みず)よりも大きいので、氷は水に浮く。 このように、液体よりも固体のほうが密度が小さいのは、H2O分子に特異的な現象である。H2O分子をのぞく他の多くの物質では、液体よりも固体のほうが密度が大きいのが普通である。 例として鉄で説明するとしよう。合金ではない鉄の結晶で説明する。鉄の結晶は、結晶全体で電子を共有している。だからこそ、外部から鉄に電流を流そうとすると、鉄には電気を流せる。鉄に限らず銅の結晶やアルミニウムの結晶でも、同様に、結晶全体で電子を共有している。 このように結晶が鉄や銅やアルミニウム等のような結晶を金属結晶)と言い、分子の単体がそのような性質をもつ元素を金属元素と言う。その金属元素の単体(ここでの「単体」とは、合金ではないという意味)の結合を、金属結合(metallic bondという。 また、このような結晶全体で共有された電子は結晶中を、ほぼ自由に移動できるので、金属中の電子のことを自由電子(free electron)という。つまり、金属内の電子は、その結晶全体を動け、けっして特定の原子には拘束されない。 電子殻の視点で見れば、金属結晶では個々の電子殻は、実際に電子殻を周辺の多くの原子と共有している事になる。金属結合は、けっして共有結合とは違う。金属結合は、けっして共有結合のように特定の原子間で電子を共有しているのでは無い。 また、金属は導電性が高い。また、熱も伝えやすい。この導電性や熱の伝えやすさも、自由電子の性質が理由である。根拠は下記のとおり。 Ag,Cu,Au,Al,・・・などの金属原子ごとに、熱伝導率と電気伝導率を比べると、電気伝導率が高い原子ほど熱伝導率も高い原子であるという相関関係をもつという実験的な事実がある。この事から、金属の熱伝導の高さの理由は、自由電子によるものである。 なお、金属を熱すると導電性は下がりる。(つまり、金属を熱すると、電気抵抗は上がる。) (※ 補足: 範囲外 )また、金属原子は、(共有結合する原子などと比べると、自由電子という性質のため)電子の広がらせやすさが大きい。 (※ 範囲外: )なお、一般に黒鉛は金属には分類しない。黒鉛は電気を通すが、しかし、この節で述べるような性質をあまりよく満たさない。黒鉛などを「半金属」という場合もある(※ 「半導体」とは異なる)。 金属を強く叩く加工をすると、箔状に広げることが可能だが、箔状に広げても、金属がつながったままで、割れたり切れたりしにくく、叩いても金属がつながったままで広げやすい性質を展性(てんせい,ductility)という。また、金属を伸ばして線状に引き伸ばしても、切れにくくつながったままの性質を延性(えんせい,malleability)という。 この展性や延性は、自由電子による。金属結合が自由電子による結合なので、加工によって変形をしても、原子の配列が変わっただけで、金属全体では自由電子を共有しつづけるので、金属結合を維持し続けるからである。 金属には光沢が有る。これは、金属表面で光の反射が起こるからである。より正確に言うと、光をいったん吸収して、その直後に再放出をするので、反射をする。金属によっては、全ての波長を反射せずに波長の一部の光を吸収するので、その結果、金属は色みを帯びて見えることになる。 銀では、ほぼすべての入射光を反射するので、銀白色に見える。(白色とは、可視光の波長が全て揃っている光の状態である。) 銅や金など、色づいて見える金属は、入射光の一部の波長の光を金属が吸収している事による。 金属結合では、原子は規則的に配列をして結晶を作る。金属の結晶の配列を結晶格子(けっしょうこうし, crystal lattice)といい、その結晶格子の最小となる単位を単位格子(たんいこうし, unit cell)という。 その結晶の種類には3種類が有ることが知られている。列記すると、 である。 結晶の配列を見た時に、ひとつの原子に最近接している原子が何個かを表した数を配位数(はいいすう, coordination number) という。結晶格子の種類によって配位数は決まる。配位数の計算では、単位格子の図では省略された隣の格子の近接原子の数も考慮しなければならない。 たとえば、面心立方格子では配位数は12である。 配位数の算出の数え方では、まず単位格子を見る。単位格子の図だけだと面心立法格子では、面の中心の原子には8個が近接しているが、この図はあくまでも単位格子だけの原子を表したものにすぎない。実際の結晶配列では、単位格子のとなりには同じ配列の格子が繰り返しているので、そのような単位格子の図では省略された近接原子の数も考慮しなければならない。図示で省略された分の近接原子数も数えると、省略された最近接原子は、4個である。 したがって、これらを足しあわせた数が配位数である。つまり、単位格子図上のある1個の原子に注目した場合に、 を計算する。面心立方格子では、配位数を計算すると、 (単位格子の図だけで見た最近接原子の数)=8 (単位格子の図では省略された、隣の格子にある最近接原子の数)=4 なので、最終的に配位数の合計は となるので、面心立方格子の配位数は12である。 つぎに体心立方格子の場合に配位数を考えよう。 「体心」という名の通り、単位格子の立体の中心にある原子に注目して配位数を計算すると、計算がラクである。 まず、他に格子の図上だけで見た、格子中央の原子の最近接原子数は8である。 つぎに、単位格子の図で省略された隣の格子の原子は、この単位格子の中央原子とは接触していない。つまり、「最近接」はしていない。なので、 である。 これより配位数は、 となり、体心立方格子の配位数は8である。 6角形の真ん中の原子に注目すると計算がラクである。 まず、単位格子図上では9個と接触している。(6角形の6個と、下の3個)。6角計の上の3個を足して、合計12個である。 よって六方最密構造の配位数は12である。 単位格子中の原子数密度を求めるには、まず、その単位格子1個につき幾つの原子が所属しているかを計算する必要がある。なお、間違えて配位数を計算しないこと。 立方体の隅の原子の、格子に属する部分の大きさは原子1個につき、球の 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} である。この大きさが 球の 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} の原子が、8箇所ある。格子中央の原子は球の大きさすべてが格子に含まれている。よって格子中央の原子の大きさは球の 1 1 = 1 {\displaystyle {\frac {1}{1}}=1} 合計すると、 よって、体心立方格子の所属原子数は、2個である。 面心立方格子では、立法体の隅の原子は、格子に属する部分の大きさが球の 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} である。この大きさが 1 8 {\displaystyle {\frac {1}{8}}} の原子が、8箇所ある。 よって、まず、 となり1個以上の原子が属することが分かった。続けて、他の原子も数える。 面の中央の原子は、大きさが、球の 1 2 {\displaystyle {\frac {1}{2}}} である。面は6面あるので、大きさ 1 2 {\displaystyle {\frac {1}{2}}} の原子が6箇所ある。 合計すると、 よって、単位格子中の所属原子数は4個である。 六方最密構造の所属原子数は、図から分かるように。2個である。 密度を求めるには、単位格子の1辺あたりの長さを知らなければならない。もし、原子半径 r と、単位格子の1辺あたりの長さ l には、図からわかるように、次の関係がある。 体心立方格子の場合、原子半径rと、単位格子の1辺あたりの長さ l との関係式は、図のように三平方の定理より、 よって である。 面心立方格子の、原子半径rと、単位格子の1辺あたりの長さ l との関係式は、三平方の定理より、 である。 単位格子中に原子の占める体積の割合を 充填率(じゅうてんりつ) という。充填率を計算で求めるには、定義どおりに、単位格子中の体積を、単位格子の体積で割れば、求まる。 まず、単位格子中の原子の体積は、以前の節で説明したように、原子2個ぶんの体積である。 つまり体積は、 である。 そして、 体心立方格子の場合の原子半径rと、単位格子の1辺あたりの長さ l との関係式は、前の節で計算したとおり、 なので、代入するなどして連立方程式を解けば、充填率が求まる。 よって体心立方格子の充填率は 68% である。 よって面心立方格子の充填率は 73% である。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6I/%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%B5%90%E5%90%88
原子1個あたりの質量はきわめて小さすぎるので、1個単位で扱うのは、とても不便である。そこで化学では、6.02×1023個をひとまとまりにして原子・分子などを数える。この6.02×1023個の量をモルといい、単位記号に mol(「モル」と発音)を用いる。 そして、molを単位として数えた粒子の個数を物質量(ぶっしつりょう、amount of substance)という。 つまり、 である。 この6.02×1023という数値が、この値に決められた理由については、のちの節で述べる。 ある原子Aについて、比較のため炭素12Cの1個の質量を基準として、12Cの1個の質量を12と定めた場合、その原子Aの相対的(そうたいてき)な質量を原子量(げんしりょう, atomic mass)という。 たとえば水素の相対質量(そうたい しつりょう)は 1.0078 になる。水素の相対質量がぴったり質量が1でない理由は、同位体が、水素および炭素にそれぞれ存在するためなどの理由による。 自然界にある炭素の原子量を求めるには、同位体の天然存在比(natural abundance)を考慮しなければいけない。 たとえば、天然の炭素Cには12Cと13C(相対原子質量は13.003)の2種類の安定同位体がある。 天然存在比は、12Cが98.90%に対し、13Cが1.10%であるから、炭素Cの原子量は、 よって炭素Cの原子量は12.01である。 なお、原子量は統一原子質量単位に対する比なので単位を付けない。 分子についても、質量の基準として12C=12を基準とした相対質量で表す。この分子の相対質量を分子量(ぶんしりょう, molecular weight)という。分子量の大きさは、その分子中の原子の、原子量の総和である。 ・例: 水 よって、H2O の分子量は 18.0 である。 分子量も相対値なので単位をつけない。 なお、元素の原子量を小数点1ケタまでの概数値とし、水素の原子量を1.0とし、酸素の原子量を16.0とした。 ※ この例のように、高校レベルで、実際に分子量を計算するときは、小数点1ケタか、せいぜい2ケタまでの概数値(がいすうち)を求めればよい。なお入試では、有効数字を何桁にするかは、問題文中に指示されている。 ・例: 二酸化炭素 CO2の分子量は 44.0 である。 (1) メタンCH4の分子量を求めよ。ただし、Cの原子量を12.0とし、Hの原子量を1.0とせよ。 解法および答え よってメタンCH4の分子量は16.0 (2) 硫酸H2SO4 の分子量を求めよ。ただし、Sの原子量を32.1とし、Hの原子量を1.0とし、酸素 O の原子量を16.0とせよ。 解法および答え H2SO4の分子量は 98.1である。 解法および答え 硫化水素の分子量は34.1。 なぜなら より。 酢酸の分子量は60。 エタノールの分子量は46.0。 塩化ナトリウムNaClのようにイオンでできた物質は結晶構造をとるため、化合物は1個の分子のような単位粒子の形を取らない。 また、金属結晶も同様に、結晶構造を取るため、単位粒子の形を取らない。 これらイオン結晶や金属の化学式は、分子式でなく、イオン式または組成式(そせいしき)である。 これらの化合物の質量の計算では、分子量のかわりに、式中の原子量の総和を用いる。そして、組成式中の原子量の総和を式量(しきりょう, formula weight)という。 塩化ナトリウムの式量は、 よって塩化ナトリウム(組成式 NaCl)の式量は58.5である。 アルミニウムの式量は、 金属の単体のように、元素記号がそのまま組成式になる場合は、原子量がそのまま式量になる。アルミニウムのほか、鉄 Fe や銅 Cu でも、同じように、原子量がそのまま式量になる。 炭酸イオンの式量は、 よって、炭酸イオンの式量は60である。 イオンの式量について、電子の質量は原子の質量に比べて非常に小さいので、式量の計算において電子の質量については無視してよく、イオンを構成する原子の原子量の総和によって式量を求める。 たとえば、硫酸イオンの式量は、 よって式量は 96 である。 解法および答え よって、炭酸カルシウムの式量は 100 である。 次の式の式量をそれぞれ求めよ。ただし元素の原子量については、さきほどの問題と同様の値を用いよ。 解法および答え (1)水酸化ナトリウム NaOH の式量 = 23+16+1 = 40 (2)硝酸イオン NO3- の式量 = 14 + 16×3 = 14+48 = 62 となる。 (3)アンモニウムイオンのイオン式は NH4+ (4)硫酸銅(II) の組成式はCuSO4 の式量 = 原子の質量は非常に小さく、1個単位で扱うのは非常に不便である。そこで化学では、6.02×1023個をひとまとまりにして原子・分子などを数える。この6.02×1023個の量をモルといい、単位記号に mol(「モル」と発音)を用いる。 そして、molを単位として数えた粒子の個数を物質量(ぶっしつりょう、amount of substance)という。 この6.02×1023という数値が決められた理由を、次の節で述べる。 1molの意味する6.02×1023という数値は、12gの炭素の中に含まれる炭素原子12Cの数にほぼ近い。しかし、厳密には、同位体13Cが存在するためCの6.0×1023個の質量が12gからは少し質量がずれるので、相対的に 12C だけが1molある場合の相対質量を12だと定義されている。 そもそも、12Cの相対質量がぴったりとにあうように、6.02×1023 個 という数が決められているのである。 なお、1molに相当する6.02×1023というこの数値はアボガドロ数(Avogadro's number)と呼ばれ、記号Nを用いて表す。 なお、単位つきの1molあたりの粒子数 6.02×1023 [/mol]のことをアボガドロ定数(Avogadro's constant)といい、 NAで表す。 たとえば塩化ナトリウム NaCl ではイオン結晶により結晶構造を取るため、粒子の数をかぞえる際に、なにが粒子1個なのかは不明確である。このような場合、組成式に相当する粒子を単位粒子とする。 たとえば塩化ナトリウムなら、Na+の1個とCl-の1個とが結合したNaClの1分子を1粒として数える。 答え 物質量は0.50molである。 ある粒子の1molあたりの質量のことをモル質量(molar mass)といい、単位[g/mol]を用いて表す。ある物質のモル質量は、その物質の原子量・分子量・式量にg/molをつけたものとなる。 例 イオン結晶や金属結晶など組成式で表される物質については、式量にあたる粒子が単位粒子だと決められている。 たとえば鉄Feの場合、原子量は56であるが、Feのモル質量も56g/molである。また、56g中の鉄には、Feが6.02×1023個含まれている。 塩化ナトリウムNaClの場合、NaClの式量は58.5であるが、NaClのモル質量は58.5g/molである。また、58.5g中の塩化ナトリウムには、Na+が6.02×1023個とCl-が6.02×1023個含まれている。 すべての気体は、物質の種類にかかわらず、1molの気体の体積は、0℃かつ1気圧の状態(これを標準状態という)のもとでは22.4Lになる。この法則をアボガドロの法則(Avogadro's law)という。なお、単位の L はリットルのことである。 標準状態で、気体1molが占める体積のことをモル体積(molar volume)という。 アボガドロ定数は、結晶構造を測定することによって得られる。現在の精密なアボガドロ定数の推奨値(2006年)は、高純度のケイ素の結晶構造の質量と体積を測定することによって密度をもとめ、またX線測定により結晶構造および単位格子の一辺の長さが求まり、それらの測定データをもとに NA=6.0221479 × 1023 が得られている。 あまり精密ではないが、ステアリン酸C17H35COOHを利用して実験的にアボガドロ定数を測定する方法もある。ステアリン酸とはカルボン酸の一種であるが、水面上にステアリン酸を置くと、すきまなく1層の単分子膜をつくり、その膜中の1分子づつは直立している。別の測定によって、ステアリン酸の断面積が 2.0×10-15cm であることが、すでに分かっているので、あとは測定で単分子膜全体の断面積を測定し、その単分子をつくるのに用いたステアリン酸の質量が分かってれば、計算によってアボガドロ定数が求められる。 (範囲外 :)科学史的には、ステアリン酸ではないが油をつかった似たような実験および計算を、「時は金なり」の格言でも有名なアメリカの政治家にして科学者のフランクリンが行ったことがある。フランクリンの時代の実験と計算でも、おおよそアボガドロ定数に当たる数値が 1023 の程度である事は分かるらしい[2]。 wikibooks高校物理の 高等学校物理/物理II/原子と原子核#原子核反応 に記述しておいた。 この測定方法の概要を示すと、放射線の一種であるアルファ線の正体はヘリウム原子であるので、つまり、霧箱(きりばこ)やガイガーカウンターなどのような放射線の測定器を使えば、密閉した実験装置中の放射線を数えることによって、実験装置中にあるヘリウム原子の個数を、とても精度よく数えることが出来る。 そして、ヘリウム原子の個数を精度よく数えることさえ出来れば、物理学の理論では、気体に関する方程式(「気体の状態方程式」)を使って、そこから逆算して、アボガドロ定数を調べることが出来る(「気体の状態方程式」については物理1、物理2の熱の分野で習う)。 このアイデアを使って、物理学者ガイガーらは、驚異的な精度でアボガドロ定数を算出した。現在、アボガドロ定数の推奨値とされている値にも、ガイガーらの算出値はかなり近い。 その他、19世紀後半~20世紀前半の理論物理学者プランクが、溶鉱炉の鉄の光のような、高温物体からの光をプリズム分光して得られた波長を、理論物理学の式を使って解析する事などによって、アボガドロ定数の値を精度よく求めている。 ただし、これを解説するには、高度な理論物理の知識が必要であるので、高校生には説明が難しいので、当wikiページでは説明は省略する。 ある物質がある液体に溶かし込まれて均一に混じりあったとき、このような現象を溶解と呼ぶ。このとき溶かし込んだ物質を溶質(solute)と呼び、溶かした物質を溶媒(solvent)と呼び、できた液体を溶液(solution)と呼ぶ。 ある溶液の濃度の表し方には2通りある。質量パーセント濃度は溶液の質量に対する溶質の質量を百分率で表したものである。また、モル濃度は、溶液1リットル中の溶質の物質量を表したものである。 イオン結晶が水へ溶解して、陽イオンと陰イオンに分かれることを電離(ionization)という。水溶液で電離する物質を電解質(electrolyte)という。これに対し、電離しない物質を非電解質ということもある。 水素と酸素が反応して水ができるなど、化学結合が変化してある物質が異なる物質に変化することを化学変化(chemical change)という。これに対して、水が蒸発して水蒸気になるなど、物質を構成する粒子そのものが変化しない状態変化を物理変化(physical change)という。この単元では主に化学変化を扱う。(物理変化については、のちに高等学校化学Ⅱ/物質の三態で扱う。) 化学変化を表した式を化学反応式(chemical equation)という。 化学反応式では左辺に変化前の物質の化学式を書く。 右辺に変化後の物質の化学式を書き、矢印「→」でつなぐ。 さらに、それぞれの化学式の前に係数をおいて全体の原子の比率があうようにする。 その反応前の物質を反応物(はんのうぶつ、reactant)という。反応後の物質のことを生成物(せいせいぶつ、product)という。 化学反応式では係数の比と物質量の比が等しい。 化学反応式における量的関係は、以下のような基礎法則がもととなっている。 たとえば、塩化水素を生成する場合、それを生成するための水素と塩素との関係では、 となる。 しかし当時は、元素と原子が混同されていたため、たとえば水素の気体の粒子1個は水素原子だろうと混同されており、よって分子の概念が未発達だったので、この法則では現象をあまり上手くは説明できなかった。
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【酸の性質】 塩酸HCl 、硫酸H2SO4 、硝酸HNO3 、酢酸CH3COOH などの水溶液は、次のような性質を示す。 このような性質を酸性(さんせい、acdic、acidity)といい、水溶液が酸性を示す物質を酸(さん、acid)という。 【塩基の性質】 水酸化ナトリウムNaOHのように、酸性の溶液に添加することで、その酸性の性質を打ち消す種類の物質がある。水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カリウムKOH、アンモニアNH3水溶液には、つぎのような共通の性質がある。 このような性質を塩基性(えんきせい、basic、basicity)という。また、水溶液が塩基性を示す物質を塩基(えんき、base)という。なお、水に溶ける塩基のことを「アルカリ」といい、その水溶液が示す塩基性のことをアルカリ性という。高校化学では一般的に「塩基性」の用語のほうを用いる。 【酸】 塩化水素HClや硫酸H2SO4は、つぎのようにイオンに電離(でんり)している。 なお、酸や塩基にかぎらず、物質が陰イオンと陽イオンに分かれる現象のことを電離(でんり)という。 塩酸も硫酸も、両方とも、水溶液中に電離したときに、H+が発生している。なので、このH+イオンが、酸性の原因であると推測できる。実際に、H+イオンは酸性の原因である。 【塩基】 水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムなどは、水溶液中では、つぎのように電離している。 このことから OH− イオンが、水溶液に塩基性を示させる原因であることが分かり、実際に OH− が塩基性の理由である。しかしアンモニアNH3は分子中にOHを持ってないのに、水溶液が塩基性を示す。アンモニア水溶液が塩基性を示す理由は、解けたアンモニアの一部が水分子と反応し、その際、水分子がもとになって OH が発生するからである。 つまり、アンモニアの場合、 と電離する。 1887年、スウェーデンの化学者アレニウスは、酸と塩基を次のように定義した。 「酸とは、水に溶けて水素イオンH+を生じる物質であり、塩基とは、水に溶けて水酸化物イオン OH− を生じる物質である。」 塩化水素HClや硫酸H2SO4や酢酸CH3COOH などは、水溶液中で次のように電離して、水素イオン H+ を生じる。 アレニウスの酸の定義の提唱よりも後の研究では、水素Hは単独で塩基と電荷のやりとりを生じているのではなく、オキソニウムイオン H3O+ として、電荷の授受をしていることが明らかになった。たとえば、塩化水素の場合は以下の様な式である。 しかし書式では、簡略化のため、特別にオキソニウムイオン(oxonium ion)を強調したい場合を除いて、酸の水素イオンは単にH+と書くことが多い。一般の検定教科書や参考書や学術書でも、特別にオキソニウムイオン(oxonium ion)を強調したい場合を除いて、酸の水素イオンは単にH+と書くのが普通だし、検定教科書でも、そのことを説明している。 アレニウスによる酸と塩基の定義の後、彼の定義では例外の物質があり、不都合なことが分かってきた。たとえば、アンモニアNH3は分子中には水酸基OHを含んではいないが、塩酸HClなどの酸を中和する能力をアンモニアは持ち、明らかにアンモニアは塩基性を持つと見なせることが分かってきた。このような例に基づき、そこでデンマークの化学者ブレンステッドは、アレニウスの酸・塩基を拡張して、1923年に、次のように酸と塩基を定義した。 「酸とは、水素イオンH+を与える分子・イオンである。塩基とは、水素イオンH+を受け取る分子・イオンである。」 なお、水素イオンのことをプロトン(proton)という場合がある。 今日における、酸と塩基の化学上の定義は、このブレンステッドの定義に近い定義である。 ブレンステッドの定義によると、塩酸HClが水H2Oに溶解して電離する反応 では、水H2Oは水素イオンを受け取りオキソニウムイオンになるので、水H2Oを塩基と見なせる。 いっぽう、アンモニアが水に溶解して電離する反応では、水H2Oは、アンモニアに水素イオンを提供し、水酸化イオンOH-になるので、水は酸と見なせる。 このような例から、ブレンステッドの定義では、水は反応する相手によって酸か塩基かが変わる両性物質になる。 酸では、化学式中に含まれる水素原子のうち、H+イオンになることのできる水素原子数を酸の価数(かすう、degree)という。たとえば塩化水素HClの価数は1である。硫酸H2SO4の価数は2価である。(※ なお、「1価」は「いっか」と読む。「2価」は「にか」と読む。) 酢酸CH3COOHの場合、CH3の基の部分のイオンにはならず、酢酸でイオンになるのはCOOHの部分に含まれる水素Hのみであるので、酢酸の価数は1価である。 塩化水素と酢酸は、酸の強さが異なるが、ともに1価の酸である。このことから分かるように、価数と、酸・塩基の強弱とは、別の概念である。 塩基では、化学式中に含まれる水酸化物イオンOH-の数を塩基の価数という。または塩基1化学式が受け取ることができるH+イオンの数ともいえる。例として、水酸化ナトリウムNaOHは1価の塩基である。水酸化カルシウムCa(OH)2は2価の塩基である。 アンモニアは水溶液中では のように電離して、アンモニア1分子につき OH- 1個を生じるため、アンモニアは1価の塩基に分類される。 酸や塩基において、価数が2価や3価など、価数が2以上の場合を「多価」という。 塩酸と酢酸は、ともに1価の酸であるが、同じモル濃度のこれらの酸に亜鉛を加えると、塩酸のほうが酢酸より激しく水素を発生する。この反応は、イオン反応式 で表されれるが、H+イオンの濃度は、塩酸のほうが非常に大きいためである。 水に溶けて陽イオンと陰イオンを生じる物質を「電解質」(でんかいしつ、electrolyte)という。電解質の水溶液で溶けている電解質全体の物質量に対して、そのうち電離している電解質の物質量の割合を電離度(でんりど、degree of ionization)という。 例として、塩化水素の電離度は、ほぼ1である。 酢酸の電離度は、その濃度や温度によっても変わるが、酢酸の電離度は、だいたい0.01くらいであり、このように、かなり電離度が小さい。 このように、その酸・塩基の強さが、電離度の大小から、だいたいは酸・塩基の強弱が分かる。 電離度αを式であらわせば、 電離度α= (電離した電解質の物質量)/(溶解した電解質の物質量) である。電離度αの値は 0<α≦1 である。 電離度は温度や濃度によって変わる。一般に、濃度が小さいほど電離度が大きくなる。また、温度が高いほど、電離度が大きくなる。 塩化水素や水酸化ナトリウムは、濃度が大きいときでも、電離度が1に近い。 このように、電離度が1に近い酸や塩基を、それぞれ強酸(きょうさん)あるいは強塩基(きょうえんき)という。 いっぽう、酢酸やアンモニアなどのように、溶質のほとんどが電離していない酸または塩基を、それぞれ弱酸または弱塩基という。 酸・塩基の価数は、酸・塩基の強弱には関係しない。 酸の強さの定量化は、電離度を用いて定量化ができる。塩酸HClや硫酸HNO3などは電離度が、塩酸の電離度は約0.9、硝酸の電離度は約0.9、などと電離度が1に近く、このように電離度の大きい酸を強酸(きょうさん、strong acid)という。 いっぽう、酢酸CH3COOHの電離度は0.01程度と非常に小さく、このように電離度の小さい酸を弱酸(じゃくさん、weak acid)という。 まとめると、 塩基の強さについても、電離度を用いて定量化される。水酸化ナトリウムNaOHの電離度は約0.9であり、水酸化カリウムKOHの電離度は約0.9である。これら水酸化ナトリウムのように、電離度の大きい塩基を強塩基(strong base)という。アンモニアは電離度の観点からは、アンモニアの電離度が約0.01と低い。アンモニアのように電離度が低い塩基を弱塩基(weak base)という。 なお、強酸や強塩基のように電離度の高い電解質のことを「強電解質」という。 また、弱酸や弱塩基のように電離度の低い電解質のことを「弱電解質」という。 純水は、わずかであるが電離をしていて、水素イオン H+ と水酸化物イオン OH- を生じている。 このとき、水素イオン濃度 [H+] と水酸化物イオン濃度 [OH-] は等しく、25℃では濃度はいずれも 1.0×10-7 mol/l となっている。 つまり、 が25℃での純水のイオン濃度の状態である。 酸性の溶液では、 [H+] のほうが多くなり、 である(温度は25℃とした)。 塩基性の溶液では、[OH- のほうが多くなり、 である(温度は25℃とした)。 水溶液の酸性は、水素イオン濃度[H+]が大きいほど強くなり、塩基性は水酸化物イオン濃度[OH-]が大きいほど強くなる。 [H+]の値は広い範囲で変化するため、扱いにくい。そこで、[H+]が1×10-nのときのnの値で表すのだが、このnを、その水溶液の pH という。pHの読みは「ピーエイチ」またはドイツ語読みで「ペーハー」と読む。日本語訳ではpHのことを「水素イオン指数」(hydrogen ion exponent)ともいう場合もあるが、日本でも実用的にはpHで表す場合が多い。 たとえばレモンは、おおよそpH=2からpH=3である。 胃液のうち、胃酸はだいたいpH=2である。 胃液には炭酸水素ナトリウム(重曹)、胃酸があるが、胃酸には塩酸が含まれている。 胃酸は通常、胃内部の食物に触れる事なく胃小窩へ落ち込み、排泄されることとなる。 (胃の主な分泌液は炭酸水素ナトリウムである。炭酸水素ナトリウムを造る時に発生する副産物が胃酸である) 雨水はじつは弱酸性であり、雨水はpH=6くらいである。 牛乳は、pH=7である、血液はpH=7である。 人の静脈血は、pH=7.365 同じく動脈血は、pH=7.4 また、血液量の4倍量あるとされる間質液、および小腸は、pH8.3~8.4である。 間質液により血液pHの維持が可能となる。 小腸内のpH環境を保つために胃内壁から炭酸水素ナトリウムが生成・分泌されている。 いっぽう、セッケン水はpH=9からpH=10である。 雨水が酸性の理由は、おもに、空気中の二酸化炭素CO2によるものである。このほか、石炭や石油などの排煙にふくまれる窒素や硫黄などにより、一酸化窒素NOや二酸化窒素NO2、硫黄酸化物SO2が発生するのだが、これらが雨水の酸性の原因になっている。 pHの値がpH=7ならば中性である。 pHの値は塩基性になるほどpHが高くなる。pHが7より高いpH>7の状態では塩基性である。pHがとりうる最大値は理論上では14である。pH=14のときは、 [H+]=10-14 である。 pHの値は酸性になるほどpHが低くなる。pHが7より低いpH<7の状態では酸性である。pHがとりうる最大値は理論上では0である。pH=0のときは、 [H+]=100=1 である。 なお、水酸化イオン[OH-]の対数をとったものをpOHという。(「ピー オーエイチ」と読む) 特別な理由がないかぎり、あまり[OH-]で酸性/塩基性のていどを表すことはせず、普通の場合はpHで酸性/塩基性のていどを表す。 pHとpOHについて、イオン積により、次の公式が成り立つ。 あるいは 水の電離のさい、[H+]と[OH-]の積の値は、温度一定なら、積 [H+][OH-] も一定値となる。この値を水のイオン積(ion product of water)といい、Kwで表す。イオン積Kwは以下の関係にある。 25℃では = 1.0 × 10 − 14 {\displaystyle =1.0\times 10^{-14}} (mol/l)2である。 したがって、これらをまとめれば、 である(25℃の場合)。 たとえば、ある水溶液で、[H+]が10倍になると、[OH-]は10分の1になる。 このイオン積の値が成り立つのは、水だけでなく、酸や塩基や他の中性の水溶液でも同様に、水素イオン [ H + ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} } と水酸化イオン [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[OH^{-}]} } とのイオン積 [ H + ] [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}][OH^{-}]} } は一定で、1.0×10-14 [mol2/l 2]が成り立つ。また、値の1.0×10-14 [mol2/l 2]は常温付近での値であり、温度がかわると少しだけ値が変わるが、常温付近ならば桁の10-14のところまでは変わらないので、実用上は一定値1.0×10-14 [mol2/l 2]と見なすことが多い。 この [ H + ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} } や [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[OH^{-}]} } といったイオン濃度の概念を用いると、水溶液における酸性の定義や塩基性の定義を以下のように数値的に定義できる。 水溶液における酸性とは、水素イオン濃度 [ H + ] {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} } が水酸化イオン [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {[OH^{-}]} } よりも大きい状態である。 同様に、水溶液の中性や塩基性も、イオン濃度で定義できる。 物質の中には、水溶液に接触させた時に、水溶液のpHの値によって色が変化するものがある。このような物質はpHを調べるのに用いることができるので、これらの物質のうちpHを調べる物質として実用化されている物質をpH指示薬(pH indicator)という。いわゆるリトマス試験紙もpH指示薬に含まれる。 pH指示薬は、その物質によって、色を変えるpHの範囲が限られている。たとえば、メチルオレンジはpH=3.1以下では赤色で、そこからpHが高くなると黄色味を増していき、pH=4.4では橙黄色である。pH=4.4より高いpHでは橙黄色のまま、ほとんど色が同じなので、このpHの範囲では指示薬として用いられない。 このように指示薬の色が変わるpHの範囲を変色域(へんしょくいき、transitional interval)という。 BTB溶液も、pH指示薬である。なお「BTB」とは「ブロモ チモール ブルー」の略である。BTB溶液の変色域は 6.0〜7.6である。(pH=6.0あたりからpH=7.6あたりまで、という意味。) ファノールフタレインの変色域は 8.0 〜 9.8 である。 メチルオレンジの変色域は、 3.1 〜 4.4 である。 なお、リトマス試験紙のように、pH指示薬を試験用の紙に染み込ませて用いる事が多い。このようなpH指示薬を染み込ませてある紙をpH試験紙(pH indicator paper)という。 pHを正確に測定するには、電位差を測定する方法が用いられる。そのための測定機器としてpHメータがある。 中学卒業までに習ったように、酸と塩基が反応して、たがいの性質を打ち消しあうことを中和(ちゅうわ、neutralization)という。 これは、イオンの観点からみれば、酸から生じる H+ と、塩基から生じる OH- が結びついて H2O となる変化である。 たとえば、塩酸HClと水酸化ナトリウムNaOH水溶液の中和反応は、次のように表される。 また中和後の反応液を蒸発させると、塩化ナトリウムNaClの結晶が得られる。 NaClのように、中和反応で生じる酸の陰イオンと塩基の陽イオンとからなる化合物を塩(えん、salt)という。 中和反応は、次のようにまとめられる。 濃度不明の酸の濃度を測りたいときは、濃度が分かっている塩基で、中和反応に要した溶液の体積をもとに、酸の濃度を測定できる。 つまり、ある酸と塩基が、過不足なく中和しあうとき、 の公式が成り立つ。 さて、酸の溶液が、酸の価数がa価で、モル濃度c[mol/l]で、体積v[mL]とする。塩基の溶液が、価数はb価でモル濃度c'[mol/l]で体積v'[mL]とする。 すると、本節冒頭の説明とまとめれば、 である。 この原理を用いて、濃度不明の酸の濃度を測るときは、濃度が分かっている塩基で、中和反応に要した溶液の体積をもとに、酸の濃度を測定できる。 同様に、濃度不明の塩基は、濃度が分かっている酸があれば、中和反応に要した溶液の体積をもとに、塩基の濃度を測定できる。 このように、中和反応に要した溶液の量をもとに、濃度が未知の酸または塩基の濃度を測定することを中和滴定(ちゅうわ てきてい)という。そして測定結果の、加えた溶液の体積と、pHとの関係を右図のようにグラフにしたものを滴定曲線(てきていきょくせん、titration cureve)という。 滴定曲線などで、ちょうどピッタリと中和するところを中和点(ちゅうわてん、neutrakization point)という。中和のさい、中和点の付近でpHが急激に変わる。 中和点のさいの加えた溶液の体積をなるべく正確に知るため、指示薬が必要である。その中和点のための指示薬として、フェノールフタレイン(略称:PP)とメチルオレンジ(略称:MO)の両方が、中和滴定では、よく用いられる。 メチルレッドやブロモチモールブルーを用いる場合もある。 なお、中和点のpHは、必ずしも7とは限らない。中和で生じた塩が水と反応して、酸性または塩基性を示す場合があるから、である。 たとえば弱酸である酢酸を、強塩基である水酸化ナトリウムで滴定すると、中和であらわれる塩が塩基性であるため、滴定曲線の中和点が pH=7〜11 と塩基性側に偏る(かたよる)。 また、メチルオレンジは、酢酸水溶液の滴定では、中和する前に色が大きく変わってしまうため、メチルオレンジは酢酸水溶液では指示薬として不適である。フェノールフタレインは変色域を塩基性側に持つため、酢酸水溶液の滴定でもフェノールフタレインは指示薬として使える。 いっぽう、弱塩基であるアンモニアを、塩酸のような強酸で滴定すると、中和点のpHが酸性側に偏る。中和点付記のpHの変化は3〜9である。この場合、フェノールフタレインは指示薬として不適当である。いっぽう、メチルオレンジは変色域を酸性側に持つため、指示薬として使える。 なお、使用する溶液で洗うことを共洗い(ともあらい)という。 もし水で洗うと、その水が測定中の溶液にまざってしまうので、測定結果が変わってしまうからである。 これらの道具は、測定値を確定したあとの液体を集めるための道具なので、水が混ざっても、測定値の確定には影響しない。 NaHSO4は、水酸化ナトリウム NaOH と硫酸 H2SO4 の中和反応からなる塩には、硫酸ナトリウム Na2SO4 と 硫酸水素ナトリウム NaHSO4 の2種類がある。 このうち、硫酸水素ナトリウム NaHSO4 のように、組成に酸のHが残っている塩を酸性塩(さんせいえん、acid salt)という。いっぽう、硫酸ナトリウム Na2SO4 のように、組成に酸のHも塩基のOH含まない塩を正塩(せいえん、normal salt)という。 なお、水溶液が酸性かどうかは、酸性塩の定義とは無関係である。たとえば炭酸水素ナトリウム NaHCO3は酸性塩だが、その水溶液は弱い塩基性である。なお、硫酸水素ナトリウム NaHSO4の水溶液は酸性である。 塩化水酸化マグネシウム MgCl(OH) は、水酸化マグネシウム Mg(OH)2 と塩化水素 HCl から生じた塩のうち、水酸化マグネシウムの OH が残っている塩である。 塩化ナトリウムは、水酸化ナトリウム NaOH と塩化水素 HCl との塩である。 例 NaCl、NH4Cl、CH3COONa '注意' この分類は、塩の水溶液の液性とは無関係なので要注意。 例  酢酸 CH3COOH と水酸化ナトリウム NaOH の中和で生じる酢酸ナトリウム CH3COONa の水溶液は、塩基性である。 このように、一般に、弱酸と強塩基からなる塩の水溶液は、塩基性を示す。 こうなる理由は、弱酸は電離度は小さく、強塩基は電離度が大きいからである。 CH3COONa が水に溶けると、いったん CH3COO- と Na+ に分解するが、弱酸は電離度が小さいため、ほとんどは水溶液中の H+ と反応して、酢酸分子CH3COOH に戻ってしまう。いっぽう、強塩基は電離度が大きいので、ほとんどは電離したままなので OH- は減らない。 このため、水溶液中の H+ が減り OH- が増えるので、水溶液が塩基性になる。 この現象を化学式でまとめると、いったん と分解してから という結合が起きたという現象になる。 このように、電離して生じたイオンが水溶液と反応して、水溶液が酸性または塩基性になる反応を、塩の加水分解(かすい ぶんかい、hydrolysis)という。なお、塩化ナトリウムが水溶液に溶けて中性になる時のような場合は、加水分解とは呼ばない。 塩化アンモニウム水溶液は、弱塩基のアンモニアと強酸の塩酸からなる塩である。塩化アンモニウムの水溶液は、酸性である。 こうなる理由は、弱塩基は電離度が小さく、強酸は電離度が大きいからである。 NH4Cl の多くは、水分子に H+ を与えて、自身はアンモニア NH3 分子になる。いっぽう、強酸のHClは電離したままである。 この結果、水溶液中に H+ が多くなるので、よって酸性の水溶液になる。 このように、弱塩基と強酸の塩による水溶液は、一般に、酸性である。 塩化アンモニウムの水溶液の反応を化学式にすると、 である 塩化ナトリウム NaCl のように、強酸と強塩基からなる正塩の水溶液は、中性である。よって、強酸と強塩基からなる塩は、加水分解しない。 正塩以外の場合は、つまり酸性塩または塩基性塩の場合なら、たとえ強酸と強塩基からなる塩でも、水溶液が酸性または塩基性の場合もある。たとえば硫酸水素ナトリウム NaHSO4 は強塩基 NaOH と強酸のH2SO4 からなる塩であり、硫酸のH が残ってるので酸性塩であるが、その水溶液は酸性である。 炭酸水素ナトリウム NaHCO3 は酸性塩だが、この塩 NaHCO3 は、弱酸の炭酸 H2CO3 と強塩基 NaOH からなる。さきほど説明した「弱酸と強酸との塩の水溶液は、塩基性」の原則どおりに、炭酸水素ナトリウム NaHCO3 の水溶液は塩基性である。 硫酸水素ナトリウム NaHSO4 の水溶液は、さきほど説明したように、酸性を示す。 CH3COONa のような弱酸と強塩基の塩に、 HClのような強酸を加えると、弱酸が遊離する。 塩化アンモニウム水溶液と水酸化ナトリウムでは、弱塩基が遊離するため、アンモニアが発生する。 溶液中で、多価の酸が水素イオンを電離するときは、段階的に1個ずつ水素イオンを電離をしている。 たとえば2価の酸である硫酸では、以下のように電離をする。 このように段階的に多段階に電離することを、多段階電離という。 一般に、多価の酸の電離度は、第2段階以降の段階の電離度と比べて、第1段階の電離度がもっとも大きい。 硫酸の場合も第一段階の電離度が、もっとも大きい。 いっぽう、多価の塩基が電離するときについては、事情が異なる。たとえばイオン結晶である水酸化カルシウムCa(OH)2の水に溶けて生じた電離では、1段階でまとめて電離をする。 炭酸ナトリウムNa2CO3は塩(えん)である。炭酸ナトリウムの水溶液は塩基性を示す。 炭酸ナトリウムに塩酸などの強酸をくわえていくと、2段階の中和反応を起こす。 (1)の反応が終了してからでないと、(2)の反応が起こらない。 この反応の滴定曲線は、図のように、pHが2か所で大きく変化する。その理由は(2か所でpHが急変する理由は)、反応が(1)と(2)の二段階で起きるからである。 第一中和点(pH=8.5付近)はフェノールフタレインの変色(赤色→無色)で判定できる。第二中和点の付近では溶液が、反応式(1)からも分るように、塩化ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合液になっている。 第二中和点(pH=3.5付近)はメチルオレンジの変色(黄色→赤色)で判定できる。第二中和点の付近では溶液が、反応式(2)からも分るように、塩化ナトリウムと炭酸(二酸化炭素)との混合液になっている。
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銅Cuの粉末を空気中で加熱すると、黒色の粉末が得られる。これは、銅が空気中の酸素と結合して、酸化銅(Ⅱ)CuOになったからである。このように物質に酸素が化合することを酸化(さんか、oxidation)という。 酸素が化合した物質については、その物質は酸化されたという。酸化による生成物を酸化物という。以上のような酸化する反応を酸化反応という。 なお、「酸」化といっても、酸性・塩基性とは意味が異なるので、混同しないように注意のこと。「酸化」の「酸」は、「酸素」の「酸」である。 電荷を考えると、銅の酸化では、 は、原子ごとの電荷は、それぞれ および となる。 酸化の際、銅は電子を放出している。 さて、一方、酸化銅の粉末を耐熱ガラスなどに入れ、水素を通じながら加熱をすると、粉末は赤褐色の銅に戻る。 これは酸化銅から水素が酸素を奪い、もとの銅に戻した現象である。 このように、ある物質が酸素を失うことを還元(かんげん、reductionあるいはReduction)という。このような還元する反応を還元反応という。この銅の還元反応では、水素は逆に酸化をして水になっている。このように酸化反応と還元反応は、同時に起こる。そこで、これら同時に起こる酸化反応と還元反応とをまとめて、酸化還元反応という。 電荷を考えると、酸化銅の還元では、原子ごとの電荷は、それぞれ および となる。 このように、銅は、還元の際、電子を獲得している。 このように還元されることによって、酸素に吸引されていた電子が銅に戻り、銅は電子を獲得している。 このような考えのもと、還元の定義を拡張して、原子が電子を受け取ることを還元という。また、原子が電子を放出することを酸化という。 高校では、電子の授受をもとに、酸化・還元を定義する。 この化合の際の、原子の電子の授受に基づく定義で酸化と還元とを定義すると、酸素と化合しない反応の場合にも、酸化の定義を拡張できる。同様に、原子の電子の授受に基づいた定義で、水素と化合しない反応にも、還元の定義を拡張できる。 このように、普遍的に物質の酸化と還元とを判別するには、電子の授受で考える。 他の物質の例で考えよう。 この反応は、硫化水素の酸化である。硫化水素の硫黄は酸素と化合してるし、水素を失っている。 酸化と還元とをまとめると、以下のようになる。 1.酸素を受け取る(化合する)こと 2.水素を失うこと 3.電子を失うこと 1.酸素を失うこと 2.水素を受け取ること 3.電子を受け取ること (マグネシウムが酸化(酸素が化合)して酸化マグネシウムになった) この化学反応式は以下の2つのイオン半反応式に分解することができる。 酸化還元反応の化学反応式は、まず半反応式をつくり、それを足し合わせることで作る。 イオン結合では、電子の授受の方向が判別しやすいが、いっぽう共有結合からなる化合物の化合反応では、電子の授受の方向が判別しづらい場合が多い。そこで、共有結合のような、電子の授受の方向が判別しづらい場合でも、酸化の度合いを定義できるように、次のような酸化数(さんかすう、oxidation number)という概念が考えられた。 酸化数の計算方法は、つぎ(1)〜(5)のように定められてる。 (1) 単体の原子の酸化数を0(ゼロ)と定義する。 (例) などなど・・・ (2) ほとんどの化合物中で、水素原子Hの酸化数は+1。ほとんどの化合物中で、酸素原子Oの酸化数はー2。 例 (ただし、過酸化水素H2O2では例外的に、Oの酸化数は ー1 である。過酸化物では、Oの酸化数はー1である。) (3) 単原子イオンの酸化数は、イオンの電荷に等しい。 例 (4) 電気的に中性の化合物では、構成する原子の酸化数の総和は 0 である。 NH3 では、 H2O では、 (5) 多原子イオンを構成する化合物の酸化数の総和は、そのイオンの符号を含めた電荷である。 例 SO42- では、 よって酸化数の総和は -2 である。 MnO4- では、 よって酸化数の総和は -1 である。 たとえば安定した一酸化炭素 CO 中での炭素 C の酸化数は (+2) だが、安定した二酸化炭素 CO2 中のCの酸化数は (+4) である。このように、たとえ同じ元素でも、化合物がイオン化してない場合でも化合物の種類によって、その元素の酸化数が変わる。 なので、あまり無闇に酸化数を覚える必要はない。ただし、問題練習などを通して自然に覚えられる場合は、覚えてしまったほうが早い。 また、 について、Cの酸化数の変化(+2から+4に変化)から、Cは酸化されたことが分かる。 解法 まず、 K+ と MnO4- の化合物だと見なす。 すると、あとは MnO4- 中のマンガンの酸化数を求めれば良く、 そのための方程式を立てれば、仮に代数 x を求めるMnの酸化数だとして、 を解けばよい。 あるいは、最初から、 Kの酸化数=(+1) 、および Oの酸化数=(-2) 、およびKMnO4全体の酸化数=0 、を仮定して、次のような式で解いてもよい。 どちらの解法の式にせよ、解けば、 よってMnの酸化数は (+7) である。 MnやCuやCrやFeなどの酸化数の問題は、このようにして、解く。Mnなどの酸化数の数値は、覚える必要はない。 いっぽう、Kの酸化数は、覚えなければならない。また、Oの酸化数も、覚えなければならない。 酸化還元反応で、相手の物質から電子を奪って酸化をする物質を酸化剤(さんかざい、oxidizing agent)という。酸化還元反応で、相手の物質に電子を与えて還元をする物質を還元剤(かんげんざい、reducing agent)という。 酸化剤は、酸化還元反応において、自身は還元される。 還元剤は、酸化還元反応において、自身は酸化される。 希硫酸で酸性にした水溶液の中で、過マンガン酸カリウムは、強い酸化作用を示す。 酸性でない水溶液では、過マンガン酸カリウムの水溶液の色は、赤紫色である。酸性の水溶液では、過マンガン酸カリウム水溶液の色は、ほぼ無色のうすい淡桃色である。教科書によっては、無色と紹介している本もあるので、「酸性水溶液での過マンガン酸カリウムは無色」と覚えても良い。 過酸化水素は、反応する相手によって、酸化作用を示す場合もあれば、還元作用を示す場合もある。一般的には、過酸化水素は、酸性水溶液中で、酸化作用を示す場合のほうが多い。 上記の反応式をみればわかるように、酸化に水素イオンが必要なので、酸性溶液である必要がある。 まず、ヨウ化カリウム KI は、代表的な還元剤の一つである。いっぽう、過酸化水素は、代表的な酸化剤の一つである。 代表的な酸化剤と代表的な還元剤とが硫酸水溶液で反応しあう場合、当然、代表的な酸化剤のほうが酸化するのが、一般的である。 ヨウ化カリウム KI と過酸化水素 H2O2 の反応でも、原則どおりにH2O2 は酸化作用を示す。 ヨウ化カリウムの希硫酸水溶液に過酸化水素水を加えると、反応の結果、ヨウ素 I2 を生じて、水溶液は褐色になる。 この反応では、ヨウ化物イオン I- は、H2O2 に電子をうばわれている。 では、反応全体の反応式を見て行こう。 なお、この式を導くには、最終的な生成物を覚える必要はあるが、 を連立して、左右両辺の電子e-の数を打ち消せばよい。 強い酸化剤が過酸化水素の反応する相手の場合に、過酸化水素による酸化作用が進まなかったり、むしろ過酸化水素が還元作用を示す場合もある。 このように、強い酸化剤が反応相手の場合には、弱いほうの酸化剤が作用できない場合もある。 たとえば、硫酸で酸性にした水溶液中で過マンガン酸カリウムと過酸化水素が反応する場合、過酸化水素は還元剤として働く。 なお、この式を導くには、最終的な生成物を覚える必要はあるが、 を連立して、左右両辺の電子e-の数を打ち消せばよい。 酸化剤溶液を塩酸で酸性にしようとすると、塩化物イオンが酸化されてしまい、塩酸が還元剤として働いてしまうからである。 また、硝酸では、硝酸じたいが酸化剤として働いてしまう。 よって、酸化剤溶液を酸性にする必要がある場合には、硫酸をもちいて酸化剤溶液を酸性にするのである。そのため、希硫酸をくわえる。 濃度不明のある酸化剤の濃度を測りたいときは、濃度が分かっている還元剤をくわえて、酸化還元反応に要した溶液の体積をもとに、酸化剤の濃度を測定できる。 つまり、ある酸化剤と還元剤が、過不足なく中和しあうとき、 の公式が成り立つ。 さて、酸化剤の溶液が、酸化剤の価数がa価で、もともとのモル濃度c[mol/l]として、くわえた体積をv[mL]とする。還元剤の溶液が、価数はb価で、モル濃度はc'[mol/l]で、くわえた体積をv'[mL]とする。 すると、式にまとめれば、 である。 具体例をあげると、濃度のわかっている過マンガン酸カリウム溶液(硫酸酸性)と、濃度不明の過酸化水素水では、 なので、 である。 よって、方程式 となる。 この問題の場合、求めたいのは濃度不明の還元剤の濃度 c' であり、方程式で移項して計算すれば求まる。 このような原理を用いて、濃度不明の酸化剤の濃度を測るときは、濃度が分かっている還元剤で、酸化還元反応に要した溶液の体積をもとに、酸化剤の濃度を測定できる。 同様に、濃度不明の還元剤は、濃度が分かっている酸化剤があれば、酸化還元反応に要した溶液の体積をもとに、還元剤の濃度を測定できる。 このように、酸化還元反応に要した溶液の量をもとに、濃度が未知の酸または塩基の濃度を測定することを酸化還元滴定(さんかかんげん てきてい、redox titration)という。 酸化還元にもちいる器具は、ボールピペット、ビュレットなど、中和滴定と同じである。 なお、過マンガン酸カリウムを用いる場合、酸性の過マンガン酸カリウムの色が酸性かどうかで変わるので、過マンガン酸カリウムじたいが指示薬の役割をはたす。なので、ほかの指示薬が不要な場合が多い。 酸性の場合、過マンガン酸カリウムは無色である。酸性でない、中性または塩基性の溶液のときの過マンガン酸カリウムは赤紫色である。 過マンガン酸カリウムは酸性にせず、中性のまま、滴定に用いる。つまり、赤紫色の状態で、滴定に用いる。 濃度のわかってる過マンガン酸カリウムをもちいて、濃度が未知の還元剤を滴定する場合、過マンガン酸カリウム溶液が滴下のために上方のビュレット側になり、濃度をしりたい溶液がフラスコやビーカーなどの滴下される側になる。そして、濃度をしりたい溶液の側に、硫酸をくわえて、酸性にしておく。つまり、フラスコやビーカーのほうに、硫酸が加えられる。 硫酸酸性の過マンガン酸カリウムが上側のビュレット内で、相手側の濃度未知が下側のフラスコ内になる。 例として、濃度不明の過酸化水素水の濃度をはかる場合を考える。 過酸化水素水は、上のビュレットから赤紫色の過マンガン酸カリウムをたらされても、最初のうちは過マンガン酸カリウムが過酸化水素水は着色せずに、すぐに無色になる。 なぜなら、下側の溶液内で、つぎの反応式が起きる。 過酸化水素水に過マンガン酸カリウムが滴下されると、上式の反応が起きるので、下側の溶液が過マンガン酸カリウムの混合液から硫酸マンガンの混合液に変わるので、そもそも過マンガン酸カリウムじたいが下側の溶液色から消失するので、よって下側の溶液が赤紫色でなくなる、というわけである。(硫酸マンガンの色は、ほぼ無色である。) しかし、滴定をつづけていき H2O2 が酸化されつくすと、この反応が起きなくなり、kMnO4 が滴下溶液内に残り続けるので、赤紫色が残り続けるわけである。 このように、滴下をつづけていくと、やがて下側の溶液に滴下された赤紫色が消えなくなるので、それを反応の終点とする。
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金属の水または水溶液中での、陽イオンへのなりやすさをイオン化傾向(ionization tendency)という。 硫酸銅 CuSO 4 {\displaystyle {\ce {CuSO4}}} 水溶液に亜鉛板Znを入れると、亜鉛の表面に銅が付着する。これは、亜鉛Znは銅Cuよりもイオン化傾向が大きいため、 Zn {\displaystyle {\ce {Zn}}} がイオン化し、 Cu {\displaystyle {\ce {Cu}}} の単体が析出したためである。 銅と銀のイオン化傾向を比べるために、硝酸銀AgNO3の溶液に銅板を入れる。すると、銅板の表面に銀が析出する。いっぽう、銅は陽イオンとなり溶ける。この銅イオンのため溶液はしだいに青くなる。以上の変化を反応式で書くと、 なお、この反応で生じた銀を、生じ方が樹木が伸びるように析出した銀が伸びることから銀樹(ぎんじゅ)という。 また、硫酸銅 CuSO4 の溶液に銀板Agをいれても、変化しない。 これらのことから、銅は銀よりもイオン化傾向が大きいことがわかる。 さまざまな溶液や金属の組み合わせで、イオン化傾向の比較の実験を行った結果、イオン化傾向の大きさが決定された。 イオン化傾向の大きい金属を並べた金属のイオン化列は、以下のようになる。 水素は金属では無いが比較のため、イオン化列に加えられる。金属原子は他にもあるが、高校化学ではこの金属のイオン化列がよく使われる。 語呂合わせとして、 「リッチにかそうかな、まあ、あてにすんな、ひどすぎるハク金」 がある。 二種類の金属単体を電解質水溶液に入れ、極間を導線でつなぐと電池ができる。これはイオン化傾向が大きい金属が電子を放出して陽イオンとなって溶け、電子が導線を伝って、水溶液中のイオン化傾向の小さい金属のイオンが電子を得て析出するためである。 電子の流れ出す側の電極の金属を負極(negative electrode)という。電子を受け取る側の金属の電極を正極(positive electrode)という。 正極と負極の電位差を起電力という。正極で還元される物質を正極活物質、負極で酸化される物質を負極活物質という。 亜鉛板Znを入れたZnSO4水溶液と、銅板Cuを入れたCuSO4水溶液を、両方の溶液が混ざらないように素焼き板(溶液は混合しないがイオンは通過できる)などで区切った電池をダニエル電池(Daniell cell)という。素焼き板の間をSO42-が亜鉛板側に移動する。CuSO4水溶液は濃く、ZnSO4水溶液は薄い方がよい(Znの溶出が進み、Cuの析出が進む方向)。 陽極(負極)での反応 陰極(正極)での反応 電池式:(-) Zn| ZnSO4aq | CuSO4aq |Cu (+) 起電力:1.1 V 電池の電解液は液体なので、そのままでは持ち運びに不便である。電解液を糊状にして携帯できるようにした電池を乾電池(dry cell)という。 代表的な乾電池にマンガン乾電池(zinc–carbon battery)がある。 電池式:(-) Zn | ZnCl2aq, NH4Claq | MnO2,C (+) 起電力:1.5 V 反応式は、負極では亜鉛が以下のように反応して溶け出る。 正極の炭素棒は電子を媒介するだけで、炭素は反応しない。電子を受け取るのはMnO2である。 ダニエル電池や乾電池は、使用していると、だんだん起電力が低下し、再び電池として使えるようにすることは出来ない。このような電池を一次電池(primary cell)という。充電によって、放電時との逆反応が起こし、繰り返して使用できる電池を蓄電池または二次電池(secondary cell)という。 電池から電流を取り出している状態を放電(discharge)という。 鉛蓄電池は代表的な二次電池で、自動車のバッテリーなどに利用される。 電池式:(-) Pb | H2SO4aq | PbO2 (+) 起電力:2.1 V 放電 放電時の反応は、 負極: Pb + SO 4 2 − ⟶ PbSO 4 + 2 e − {\displaystyle {\ce {Pb + SO4^2- -> PbSO4 + 2e^-}}} 正極: PbO 2 + 4 H + + SO 4 2 − + 2 e − ⟶ PbSO 4 + 2 H 2 O {\displaystyle {\ce {PbO2 + 4H^+ + SO4^2- + 2e^- -> PbSO4 + 2H2O}}} である。放電では、正極と負極の両方に、 PbSO 4 {\displaystyle {\ce {PbSO4}}} が付着する。電解液である硫酸は消費され、硫酸の濃度は低下していく。 充電時は放電の逆反応が起こる。 負極: PbSO 4 + 2 e − ⟶ Pb + SO 4 2 − {\displaystyle {\ce {PbSO4 + 2e^- -> Pb + SO4^2-}}} 正極: PbSO 4 + 2 H 2 O ⟶ PbO 2 + 4 H + + SO 4 2 − + 2 e − {\displaystyle {\ce {PbSO4 + 2H2O -> PbO2 + 4H^+ + SO4^2- + 2e^-}}} 鉛蓄電池の反応をまとめると次のようになる。 Pb + 2 H 2 SO 4 + PbO 2 ⇌ c h a r g e d i s c h a r g e 2 PbSO 4 + 2 H 2 O {\displaystyle {\ce {Pb + 2H2SO4 + PbO2 <=>[{discharge}][{charge}] 2PbSO4 + 2H2O}}} 放電時は、極板の質量が増加し、硫酸の濃度が減少する。 充電時は、極板の質量が減少し、硫酸の濃度が増加する。 水素などの陽極の燃料を、触媒を用いてイオン化させ、余った電子を取り出す電池。陽極の燃料が水素の場合は、陰極で酸素および回収した電子と反応し水になる。 様々な方式の燃料電池がある。 リン酸型燃料電池の場合、 電解質にリン酸水溶液を用いている。負極に水素を供給する必要があり、正極に酸素を供給する必要のある電池である。 負極で起きる反応は、 である。負極で生じた水素イオンが電解質を移動し、反対側の正極にまで達し、つぎの反応が起きる。 つまり、水素イオンが酸素によって酸化したわけである。つまり、水素イオンが燃焼したわけである。 この方式の燃料電池の反応式については、高校生はとりあえず、負極で水素が反応して水素イオンが発生することを、覚えておけばよい。そして、正極では酸素と反応して水が生じることを覚えておけばよい。 起電力は約1.2Vである。このリン酸型燃料電池は、酸素の酸化によって生じたエネルギーの一部を、電気エネルギーにしている装置として、解釈できる。 水の電気分解の、逆の原理であると、解釈してよい。 なお、正極と負極は多孔質になっており、水素や酸素を通過させられるようになっている。 この燃料電池の生成物が水なので、環境にやさしいと考えられおり、開発が進められていて、一部は実用化もしている。 また、反応源の水素を発生するためにも、電気分解などの電力エネルギーなど、なんらかのエネルギーが必要なことから、この電池は、水素のエネルギーを電気エネルギーに変換している装置として、解釈もできる。 アルカリ型燃料電池とは、電解質に水酸化カリウム KOH などを用いる方式である。 他に、固体高分子型や固体酸化物型などがある。 リチウムイオン電池は軽く、起電力が大きいので、携帯電話やノートパソコンなどに幅広く利用されている。 実用電池には上述した乾電池や鉛蓄電池の他にも、さまざまな電池があるが、イオン化傾向を利用しているということなどの基本的な仕組みは、あまり変わらない。 その他の実用されている化学電池には、 などがある。 銀電池は電圧が安定しているため、時計や電子体温計などに用いられる場合が多い。 リチウムは水と反応するので、電解質に水を使うことができない。このため、エチレンカーボネートなどの有機物を電解に用いる。 リチウム電池は長寿命のため、時計や電卓、心臓用ペースメーカなどに用いられている。 空気電池は軽量なので、よく補聴器に用いられている。購入時には、空気の侵入をふせぐシールが貼られている。使用し始める際には、シールをはがす。シールをはがすと放電が始まる。はがしたシールを貼り直しても、保存は効かない。 ニッケルカドミウム電池は電動工具などによく利用されている。カドミウムの有害性の問題があるので、生産量は減少しており、代替品としてニッケル水素電池に置き換えられていっている。 負極の水素吸蔵合金は、結晶格子の間に水素を取り込め、必要に応じて取り込んだ水素を放出できる。ニッケル水素電池は自動車のハイブリッドカーのバッテリーに用いられる。なお、水素記号のことを記号でMHと表す場合もある。 ボルタ電池 ボルタ電池は教科書では次のような説明がされるが、不正確な部分があるため、定期試験で出題されない限りは、覚える必要はない。 負極(亜鉛板)での反応 正極(銅板)での反応 ボルタの電池では、得られる両極間の電位差は、1.1Vである。起電力は、両電極の金属の組み合わせによって決まる物質固有の値である。 ボルタの電池の亜鉛板で起きている反応は、電子を放出することから酸化反応である。また銅板で起きている反応は、電子を受けとっているので還元反応である。 ボルタ電池の構造を以下のような文字列に表した場合、このような表示を電池図あるいは電池式という。 aqは水のことである。H2SO4aqと書いて、硫酸水溶液を表している。 ボルタ電池では、正極の銅板で発生する水素が銅板を包むので、銅板と溶媒とのあいだの電子の移動が妨げられる分極が起きる。このような分極を防ぐために酸化剤を溶液に加える。この分極を防ぐ目的で加える酸化剤を減極剤という。減極剤としては過酸化水素水 H2O2,またはMnO2,またはPbO2を使用する。 電解質の水溶液に、電極を2本入れて、それぞれの電極に、外部の直流電源から電気を通じると、各電極で水溶液中の物質に化学反応を起こせる。これを電気分解という。 電気分解で、直流電源の負極につないだ側の電極を陰極という。 電気分解で、直流電源の正極につないだ側の電極を陽極という。 陰極の電荷は、電源の負極から電子が送られてくるので、陰極は負電荷に帯電する。いっぽう、陽極の電荷は、正電荷に帯電する。 なお、電気分解の電極には、化学的に安定な白金 Pt や炭素 C などを用いる。 電気分解のさい、陽極では酸化反応が起こり、陰極では還元反応が起こる。 この電気分解の実用例として、金属の精錬に利用されている。 陰イオンのイオン化傾向は NO 3 − > SO 4 2 − > OH − > Cl − > Br − > I − {\displaystyle {\ce {NO3^- > SO4^2- > OH^- > Cl^- > Br^- > I^-}}} である。語呂合わせとして、昇龍の水は演習用がある。 水溶液の電気分解では、水溶液中で、もっとも還元されやすい物質が電子を受け取り、還元反応が起こる。 電極がPt,Au,炭素の場合、イオン化傾向が OH- より小さい Cl-,I- ,Br- があれば、酸化されてCl2、I2などが発生する。 イオン化傾向が OH- より大きい SO42-、NO3- は酸化されにくいため、かわりにH2Oが還元される酸素O2が発生する。 塩基性溶液では、OH-が酸化されてO2が発生する。 白金や炭素以外の物質を陽極(Cuの場合が多い)にした場合、陽極が酸化されて溶け出す。 電極には、炭素電極または白金 Pt を用いる。塩化銅CuCl2水溶液では、陰極付近の水溶液では、電源から電子が送られてくるので以下の還元反応が起こり、陰極からは銅が析出する。 陽極では、電源へ電子が奪われるので、以下の酸化反応が起こり、陽極からは塩素が発生する。 電極には、白金 Pt を用いるとする。硫酸銅 CuSO4 水溶液。 陰極での反応は還元反応である。 陽極での反応は酸化反応である。 この硫酸銅での電気分解の現象は、銅の電気精錬に応用されている。 純水な水は電気を通さないので、導電性を高めるために硫酸か水酸化ナトリウムを加える。 H2とNaのイオン化傾向を比べた場合、Na>H2なので、陰極で還元されるのは水素イオンH+である。 陰極では、水素H2が発生。 工業的な水酸化ナトリウムの製造にはイオン交換膜法が使われている。 図のように陽イオン交換膜による隔壁でへだてて片方に陽極、もう片方に陰極の電極を配置する。 そして、陽極側にNaCl水溶液を入れる。電圧をなにも加えて無い状体では、NaイオンとClイオンに分離している。 そして電圧を加えると、電気分解が起きる。 陰極では 陽極では という反応が起きる。 その結果、Cl-イオンが発生する。このCl-イオンは陽イオン交換膜を通れず、Cl-イオンはそのまま陽極側にとどまる。そしてCl-イオンは陽極のプラス電荷を受け取って塩素ガスになり気体となって排出される。 いっぽうで、Na+イオンはそのまま水溶液中にとどまり、また陽イオン交換膜を通過する。 いっぽう陰極側ではOH-は陽イオン交換膜を通過できないので、そのまま陰極側にとどまる。また、水素イオンH+は陰極で電荷を受け取り、水素ガスを発生して、排出される。 こうして、陰極側の溶液ではNa+イオンとOH-イオンばかりになる。 Naはイオン化傾向が水よりも大きいので、陰極ではNa+はイオンのままである。なので陰極では水H2Oだけが還元されてOH-ができる。 こうして、陰極ではNaOHの濃度の高い水溶液が得られる。この水溶液を濃縮することによって、水酸化ナトリウムNaOHが得られる。 以前は、アスベストなどをもちいた隔膜法(かくまくほう)が用いられていた。この隔膜法も、電気分解を用いる。濃い食塩水(塩化ナトリウム水溶液)を電気分解する方法で水酸化ナトリウムは生産できる。電気分解したときに、塩素の気体が発生するので、気体を排出することにより、溶液中にNa+イオンを多くさせている。 なお、陽イオン交換膜をもちいた方法とは違い、隔膜法の隔膜では塩素イオンも通過してしまうので、この方法では、得られる水溶液に不純物としてNaClが混ざる。 またなお、陽極は炭素Cである。陰極は鉄網Feである。隔膜の外部を鉄網で覆っている。 陽極では 陰極では という反応が起きる。Naはイオン化傾向が水よりも大きいので、水が還元されてOH-ができる。 陰極で発生したOH-によってNaOHができるが、そのままだと陽極のCl2と反応してしまいNaClになってしまうので、NaとClとを結合させず隔離するために、隔膜としてアスベスト(「石綿」ともいう。)などでつくった多孔質の膜を用いる。アスベストは人体に有害である。 なお、水酸化ナトリウムのことを苛性ソーダ(かせい)ともいう。 銅の鉱石を、コークスCなどとの加熱反応で還元したものは、純度が約99%で、粗銅とよばれる。粗銅には、亜鉛や銀などの不純物が含まれるので、純度をあげためには、不純物を分離する必要があり、そのために電解が利用されている。 硫酸銅(II)水溶液をもちいる。そのさいの電極(陽極)に、純度をあげたい銅を用いる。つまり、粗銅を陽極に用いる。純度の高い銅を陰極に用いる。電気分解により、次の反応が起こる。 陽極からは、銅だけが溶け出すのではなく、イオン化傾向の大きい鉄や亜鉛やニッケルなども溶け出す。しかし陰極で析出するのは、ほとんど銅だけなので、よって陰極にて高純度の銅が得られる、という仕組みである。 粗銅中に含まれている銀や金はイオン化傾向が銅よりも小さいため、陽極の下に沈殿する。これを陽極泥(ようきょくでい、anode slime)という。 陰極には純度の高い純度99.99%程度の銅が析出する。これを純銅という。 アルミニウムやマグネシウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属はイオン化傾向が大きいため、そのイオンをふくむ溶液を電気分解しても、アルミニウムなどの単体は得られない。そこで、イオン化傾向の大きい金属を電気分解で得たいときは、塩や酸化物を融解し、これを電気分解することで単体を得る。このような方法を、溶融塩電解(ようゆうえん でんかい)という。 酸化アルミニウムAl2O3の電気分解によって、アルミニウムが得られる。 酸化アルミニウムAl2O3は、鉱石のボーキサイト(Al2O3・nH2O)から、つくられる。そのボーキサイトからの酸化アルミニウムのつくりかたの説明は省略する(検定教科書でも、くわしい説明は省略)。Al2O3は、アルミナとも呼ばれる。 アルミニウムを得たい場合、アルミナAl2O3は融点 2072 °Cと非常に高いため、そのままでは融解させづらい。そこで融点を下げるため、氷晶石Na3 AlF6(融点 1012℃)を、割合が氷晶石9.5重量%ほど加えると、溶融温度が下がり、融点が約970℃になる。これを炭素電極によって電気分解によって、陰極で、アルミニウムができる。 陽極では、電極の炭素が空気中の酸素と反応して、COやCO2ができる。 この一連のアルミニウムの電解方法をホール・エルー法(Hall-Héroult process)という。 1A(アンペア)の電流が1秒間、流れこんで貯まったときの電気量を1クーロンという。記号はCである。 電気量をQ[C]とすると、電流i[A]で時間t秒の電流を流した場合は、Q[C]とi[A]とt[S]の関係は、 である。 1molの電子がもつ電荷は約96 500 Cである。そこで、この96 500 C/mol をファラデー定数(Faraday constant)という。 電子1個の電荷は である。 計算を実際にしてみると、電子1個の電荷に、1モルぶんの粒子の個数を掛け算したものは、下記のように、たしかにファラデー定数になる。 この法則を、電気分解におけるファラデーの法則という。 AgNO3の電気分解では、電流1Fで物質量1molのAgが析出する。なぜなら、Agは1価であり、反応式は のように反応するからである。 CuSO4の電気分解では、電流1Fで0.5molのCuが析出する。なぜなら、Cuは2価であり、反応式は のように反応するから、銅を1分子析出させるのに電子が2個必要だからである。 H2SO4の電気分解では、電流1Fで0.5molのH2が発生する。反応式は のように反応するから、水素H2を1分子発生させるのに電子が2個必要だからである。 これ等の例のように、発生物の物質量を求める場合の手順は、 というふうに計算する。
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化学反応や状態変化に伴って熱エネルギーの出入りが起こる時の熱のことを反応熱(heat of reaction)という。反応熱には燃焼熱、溶解熱(heat of dissolution)、中和熱(heat of neutralization)、生成熱、融解熱、蒸発熱(heat of evaporation)、昇華熱などがある。熱量の単位にはJ(ジュール)を使う。反応熱の表記は、1molあたりの熱量(単位はkJ/mol)で表すことが多い。 化学反応式の右辺に反応熱を記し、両辺を等号で結んだ式を熱化学方程式(thermochemical equation)または熱化学反応式という。 たとえば、炭素(黒鉛)の1molを燃焼させた場合の熱化学方程式は次のようになる。 水素を燃焼させた場合、次のようになる。 反応熱は、上の式のように右辺に表す。 反応熱を測定するには、外部からの熱の出入りのない断熱した容器が必要である。反応熱などの熱量を測定するための測定器を熱量計という。反応熱の熱量計には、燃焼熱測定用のボンベ熱量計や、溶解熱測定用熱量計などがある。 ボンベ熱量計の測定原理は、試料を燃焼させた後に、容器内の水の温度変化を測定することで燃焼熱を測定する方式である。 図のように、固体の水酸化ナトリウムから塩化ナトリウムを生成する反応には2つの経路があるが、どちらの経路で合成を行っても、出入りする熱量(反応熱)の総和は同じである。 化学反応の反応熱は、反応途中の経過には影響しない。反応の始めの状態と反応の終わりの状態によってのみ、反応熱が決定する。このことをヘスの法則という。 水素分子1molに432kJのエネルギーを与えると、結合を切り離すことができる。この結合を切り離すのに必要なエネルギーは、結合の強さを表すと考えて、この結合の切り離しに要したエネルギーを結合エネルギー(bond energy)と言う。結合エネルギーは1molあたりのエネルギーで示されるのが通常である。 たとえば水素の結合の切り離しを熱化学方程式で表すと、以下の様になる。 検定教科書では、よく練習問題で、COの生成熱を求めさせる問題が出題される。 解法は、図より よってCOの生成熱は 111 kJ/mol である。 気体や液体、固体などといった状態変化も同様に、経路によらず、発生する熱量の総和は一定である。 同じ結合でも、周辺の分子の配置や数によって、すこしだけ結合エネルギーが変わってくる。そのため、正確な結合エネルギーの値は、分子ごとに違ってくる。高校では、ふつう、これら周辺分子の影響は扱わないので、無視してよい。 以上の表での結合エネルギーは、おおよそのエネルギーであり、正確なエネルギーの値は分子ごとに違うので、学校のテスト問題などを解くときは問題文を参照のこと。 3個以上の分子は、結合の数が複数になる。この分子の全ての結合を切り離すのに必要なエネルギーを解離エネルギー(bond dissociation energy)という。通常は1molあたりの切り離しのエネルギー量で解離エネルギーを表す。 解離エネルギーは、その分子の持つ全ての結合の結合エネルギーの総和である。H2やO2などの結合を一個しか持たない分子では、結合エネルギーの値と解離エネルギーの値は一致する。 反応熱や生成熱は、反応の前後の物質の結合エネルギーが分かっている場合は、計算で求められる。その物質の、反応後の結合エネルギーの総和から、反応前の結合エネルギーの総和を引いた値で、反応熱を近似できる。 「近似」といったのは、分子間引力などの、結合の変化以外にもエネルギーが使われる場合があるからである。 である。 (※ 数研出版の教科書、第一学習社の教科書などで紹介されている。) 金属結合や、イオン結合の結晶、共有結晶(ダイヤモンド)などの、結晶を構成するために必要とされるエネルギーのことを「格子エネルギー」という。この格子エネルギーは直接には測定できないので、ヘスの法則で間接的に求める。 化学の用語で、「エンタルピー」というのがあるのだが、これは何かというと、エンタルピーとは、内部エネルギーUに、圧力Pと体積Vの掛け算 PV を足したもののことである。 物理学では、加えた熱エネルギーをQとすると、熱は物質内部に内部エネルギーUとして蓄えられて内部エネルギーの変化分ΔUに寄与するか、または体積変化による膨張の力学的仕事 PΔV を行うので、 のような公式が(物理学では)知られている。 さて、あまり学問的には深い意味が無いのだが、たいていの化学反応の実験では、普通、圧力が一定なので、 となる。 熱力学の別の理論で、もともとエンタルピーHという物理量があり、 と定義されている。これを差分形を下記のように式変形すると、 と式変形できるので、 もし圧力一定の環境なら、 とも表せる。 だが、あくまでも、圧力一定の環境でしか成り立たないので、あまり、この式に深い意味は無い。 なので、たとえば右に再掲したヘスの図の表などでは、縦軸の「エネルギー」のところを、「エンタルピー」と書いてもいい。
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水 H2O に、塩化ナトリウム NaCl を、混ぜると、塩化ナトリウムは水中に拡散していき、やがて肉眼では見えなくなる。そして、混ぜた食塩の量が少なければ、水中にも食塩は沈殿しない。このように、液体に混ぜた物質が、沈殿や凝集物を作らず、液中に拡散することを溶解(dissolution)という。そして、水のように他のものを溶解する物体を溶媒( solvent)という。塩化ナトリウムのように溶けた側の物質を溶質( solute)という。 溶媒が液体の場合に、溶解によって生じた均一な混合液体を溶液(solution)という。 この例の場合は、食塩の量をもっと増やすと、やがて、かき混ぜても、溶けきらずに、時間が経てば底に食塩の沈殿が貯まるようになる。 このように、一定量の溶媒に溶ける溶質の量には限度がある。この溶ける限度の限界まで、溶質が溶けている状態の溶液を飽和溶液(saturated solution)という。これに対して、溶質がまだ溶ける溶液を不飽和溶液という。 塩化ナトリウムNaClを水に溶かすと、ナトリウムイオンNa+と塩素イオンCl-のような、正負のイオンに分かれる。このように溶解の際に、イオンに分かれる現象を電離(でんり, ionizasion)という。そして、水に解けて電離する物質を電解質(でんかいしつ, electrolyte)という。 グルコースの溶液は、水に溶けても電解しない。このような水に溶けても電解しない物質を非電解質という。 電解現象と溶解とを混同しないように注意しよう。 電解質のうち、塩化ナトリウムの水溶液と、酢酸の水溶液との比較をすると、酢酸は溶解をするし電離もするが、塩化ナトリウムよりも電離しづらいことが分かっている。 電解質のうち、塩化ナトリウムのように電離をしやすい物質を強電解質という。酢酸のように、溶液中のイオンの電離が弱いが、電離をしている物質を弱電解質という。 水分子の酸素原子が分子中の電子を引き付けるため、酸素原子は負の電荷を帯び、水素原子は正の電荷を帯びる。このような分子を極性分子(polar molecule)という。 塩化ナトリウムを水に入れると、電離したそれぞれのイオン原子1個ずつについて、ナトリウムイオンNa+は水分子の陰性の酸素原子と引き合い、塩素イオンCl-は水分子の陽性の水素原子と引き合う。その結果、イオン原子は、周囲を水の分子によって囲まれる。 このように、溶質原子が水分子によって取り囲まれる現象を水和(すいわ, hydration)という。溶媒が水でない場合には、イオンが溶媒に取り囲まれるこのような現象は、溶媒和(solvation)と呼ばれる。 食塩の水和では、ナトリウムイオンでは隣に水分子の酸素原子の側が来る。塩素イオンでは、隣に水分子の水素原子の側が来る。 水和しているイオンを水和イオン(hydrated ion)という。 エタノールC2H5OHやグルコースC6 H12 O6 などは水に良く溶ける。このエタノールの分子は、分子中にヒドロキシ基 OH を持つ。エタノールでは、このヒドロキシ基の部分が、水分子と水素結合を生じて、エタノール分子が水和をする。グルコース分子も、実はヒドロキシル基を持っており、このヒドロキシ基の部分が、水分子と水素結合を生じて、グルコース分子が水和をする。 このエタノール分子中のヒドロキシ基のように、水和されやすい原子団の部分を親水基(しんすいき, hydrophilic group)という。水和されやすい性質を親水性(hydrophilicity)という。 これに対して、ベンゼンC6H6などは水に溶けない。このような分子は極性をもたない無極性分子である。一般に、親水基を持たない無極性分子は、水には溶けない。 また、エタノール分子中のエチル基C2H5の部分は、極性を持たず、この部分は水和には寄与していない。この分子の他にも、一般の炭化水素CmHnは無極性で、水和には寄与しない。このような、炭化水素のみからなりエタノールと違って親水基を持たない炭化水素分子は水和されにくい。このような親水性をもたない原子団を疎水基(そすいき, hydrophobic group)という。水和されにくい性質を疎水性(hydrophobicity)という。 無極性分子からなるヨウ素I2やナフタレンC10 H8 は、無極性分子の液体であるベンゼンC6 H6や、四塩化炭素CCl 4 (テトラクロロメタン)には、よく溶ける。 このように無極性分子の物質は、無極性分子の液体に溶けやすい。いっぽう、極性分子の物質は、極性分子からなる水に溶けやすいのであった。 これらのように、一般に極性の似ている分子は溶けあいやすい。 ある一定の温度で、ある一定の質量の溶媒に対して、溶質を溶かして、溶質が溶けきる最大限の飽和溶液を得た場合、その飽和溶液に溶けている溶質の量を溶解度(solubility)という。つまり、溶解度とは、未混合の溶媒に対して、「この溶媒は、これから、どれだけの溶質を溶かせるか」という能力のことである。溶解度と濃度とは、別の概念なので、混同しないように。 溶解度の数値の表し方は、2種類ある。 一般的なのは、溶媒の質量100gに対して、溶かせる溶質の質量の割合[g/100g]、またはその溶質の質量[g]で定義する方法である。 溶解度の単位は、無次元で表す場合もあるが、無次元だと状況が分かりづらいという考えのもと、[g/100g]や、[g]などと表す場合もある。 溶解度は、溶媒の温度によって変化する。溶媒が水の水溶液の場合、水の温度によって、溶解度は変化する。 水に溶かす溶質では、一般に水の温度が高まるほど、ほとんどの溶質で、溶解度は高まる。ただし、例外的に水酸化カルシウムCa(OH) 2など、いくつかの分子では、温度上昇によって溶解度が下がる物質もある。 溶解度の温度変化をグラフで表したものを溶解度曲線(solubility curve)という。 不純物の混ざった混合物の固体に対して、その各成分の溶解度が大きく異なる場合は、その混合質を、熱した溶媒に飽和するまで溶かし、飽和後に冷却をしていけば、溶解度の小さい物質の側から先に、結晶が析出をしていくので不純物を取り除ける。このように、何らかの方法で溶質の結晶を析出させて不純物を取り除き精製する方法を再結晶法(recrystallization)という。 「再結晶」という語について、この例では、水溶液を用いた再結晶を紹介したが、「再結晶」とは、なにも水溶液にかぎらず、何らかの方法で結晶をいったん溶解または溶融させて、そのあとに結晶を析出させてえられた結晶ならば、一般に再結晶という。 なお、溶媒を冷却していく時に、あらかじめ他の実験で得られた、その物質の、平均的な溶解度を超えるまで冷やしても、析出しない場合がある。このように通常の溶解度を超えて溶質を含んでいる状態を過飽和(かほうわ, supersaturation)という。溶質を溶解度よりも過飽和に含んでいる溶液のことを過飽和溶液という。過飽和の状態は不安定であるので、過飽和溶液の場合は、少量の撹拌や振動などが加わるだけで、結晶の析出を始める。 溶質の種類によっては、再結晶法で結晶分子中に水分子が化合した結晶が得られる場合がある。このように結晶分子と化合している水を結晶水あるいは水和水という。結晶水は、加熱などによって除去できる場合が多い。 結晶から水和水を除去することを無水化などという。無水化して得られた結晶水を含まない固体を無水物(むすいぶつ, anhydride)という。 結晶が水和水を含む物質に対する溶解度の定義は、無水物の質量を、溶質の質量とみなして、溶解度を定義する。 砂糖水や食塩水は、100℃にしても沸騰しない。 不揮発性の溶質を溶媒に溶解させると溶液の沸点が上昇する現象を沸点上昇(boiling-point elevation)という。 純溶媒の沸点t1 [K]と溶液の沸点t2[K]との沸点の差Δtb=t2- t1 [K] を沸点上昇度(boiling-point elevation constant)という。 水が蒸気になる時に、水に溶けていた溶質は蒸気からは追い出され、蒸気には溶質は混じらない。このときに、溶質を追い出すためには、蒸気にエネルギーを与えなければならない。その結果、溶質がなかった場合より、高い温度にしないと沸騰しないのである。 沸点上昇Δtb は質量モル濃度c[mol/kg]に比例するので、式で書けば、 である。 なお、「質量モル濃度」とは、その溶媒 1kgあたりに溶けている、溶質のモル数のことである。 なお、沸点上昇度Δtbの比例係数をKb とした。比例係数Kb の単位は、[K/(mol/kg)]つまり[K・kg/mol]で定義される。この比例係数Kb [K・kg/mol]をモル沸点上昇(molal boiling-point elevation constant)という。 真空ポンプなどで水が入った溶液の周囲の気体を減圧していくと、100℃にならなくても沸騰する。このときの気体圧を飽和蒸気圧(saturated vapor pressure)という。この飽和蒸気圧が、溶液では下がり、より減圧しないと沸騰しなくなる。このことを蒸気圧降下(vapor pressure depression)という。 砂糖水や食塩水を冷やしても0℃では凍らない。このように不揮発性の溶質を溶媒に溶かすと溶媒の凝固点が下がる。 水が氷になる時に、溶質を追い出す。このときに、溶質を追い出すためには、溶質の動きを押さえなければならない。その結果、溶質がなかった場合よりも低い温度にしないと氷にならないのである。 不揮発性の溶質を溶媒に溶解させると溶液の凝固点が下がる現象を凝固点降下(freezing-point depression)という。 純溶媒の凝固点t1 [K]と溶液の凝固点t2[K]との凝固点の差Δtf=t1- t2 [K] を凝固点降下度(freezing-point depression constant)という。 凝固点降下度は質量モル濃度 m [mol/kg] に比例するので、凝固点降下度 Δtf の比例係数を Kf としたとき、つまり の比例係数 Kf の単位は、 [K/(mol/kg)] つまり [K・kg/mol] で定義される。この比例係数 Kf [K・kg/mol] をモル凝固点降下(molal freezing point depression constant)という。 右図のように、冷却による温度変化と時間との関係をあらわしたグラフのことを冷却曲線という。 液体を冷却していって凝固点になっても、すぐには凝固しない。この状態を過冷却(かれいきゃく、supercooling)という。 冷却が進んで凝固点よりも少し温度が下がってから、凝固点まで温度が上がり、凝固が始まる。 凝固点降下と過冷却の関係は、右図のグラフのようになる。 セロハンは、水分子など小さな分子は通すが、スクロース分子などの大きな分子を通さない。このように、分子サイズの小さな分子を通し、分子サイズの大きな分子を通さない膜を半透膜(semipermeable membrane)という。 半透膜には、セロハン膜の他にも、動物の膀胱膜(ぼうこうまく)や、セルロースを硝酸でニトロ化した化合物の一種のコロジオン(collodion)という物質から作られるコロジオン膜や、生物の細胞膜がある。 ろ紙はセルロースなどの溶質を通してしまうため、ろ紙は半透膜ではない。 U字管の下部を半透膜で仕切って、片側に純水を入れ、もう片方にスクロース溶液を入れると、純水の一部がスクロース溶液の側に移動して、純水の液面が下がる。この現象を浸透という。このように両溶液に濃度差がある場合は、溶液を薄めて濃度差を無くそうとする力が働くので、この濃度差を無くそうとする力を浸透圧(osmotic pressure)という。 両液の水位を等しくするには、スクロース水溶液に圧力を加えないといけない。この圧力の大きさを浸透圧の大きさとする。 浸透圧を数値化する際や数式化する際に、純水を基準にして、純水と溶液との浸透圧を、単に浸透圧と言って用いる場合が多い。 絶対温度Tで、濃度c[mol/L]の溶液の浸透圧Π[Pa]は、気体定数をRとして、 Π = cRT であることが知られている。 モル濃度c[mol/L]は、溶液中のモル数をn[mol]として、その体積をV[m3]とすれば、 である。(1L=1000cm3なので、モル濃度を体積に換算できる。) これを浸透圧の公式に代入して、 という式が得られる。このように、気体の状態方程式 PV = nRT と似た形の式が得られる。この ΠV = nRT の式を浸透圧に関するファントホッフの式という。 直径がおよそ10-9mから、10-7mの粒子をコロイド粒子(colloid)という。デンプンはコロイド粒子である。 コロイド粒子はろ紙を通過できるが、半透膜を通過できない。 コロイド粒子が液体中に均一に分散している液をコロイド溶液という。 コロイド粒子を分散させている液体を分散媒( disperse medium)といい、コロイド溶液中のコロイド粒子を分散質( dispersoid)という。 セッケン分子は、親水性の水に水和しやすい部分と、疎水性の水とは水和しない部分とからなる。 疎水性の部分が、まるで疎水コロイドと同じように集まり、その結果としてセッケン分子は数百個ほど集まる。しかし、分子に親水性の部分があるので、まるで保護コロイドのように、セッケン分子は沈殿せず、コロイド溶液であり続ける。 このセッケン分子が凝集する際、親水性の部分を外側に向けて集まり、疎水性の部分は内側に向けて集まる。 セッケン分子の集合体のように、親水基と疎水基を持つ分子が、親水基を外側に向けて集合したものをミセルという。 このようなコロイドを会合コロイド(association colloid)という。会合コロイドは親水コロイドの一種に分類される。 デンプンやタンパク質の分子は大きく、分子1個でコロイド粒子として存在する。このようなコロイドを分子コロイド(molecular colloid)という。 溶媒には本来溶解しない不溶性物質が細かく分散される事によって構成されるコロイド。 炭素や水酸化鉄など疎水コロイドの多くを占める。 沸騰している水に、塩化鉄FeCl3 を少量ほど加えると、赤色の水酸化鉄Fe(OH)3 のコロイド溶液ができる。 Fe(OH)3 は水に不溶であり、これのコロイド溶液は不溶のFe(OH)3 が水に分散したものである。このような不溶の物質が分散したコロイド溶液を分散コロイド(dispersion colloid)という。 U字管にコロイド溶液を入れ、電極を用いて、直流電圧を掛けておくと、コロイド粒子はいっぽうの電極の側に移動する。 電気を用いて液体の中から特定の粒子を移動させる現象を電気泳動(electrophoresis)という。 このことから、コロイド粒子は電荷を帯びている事が分かる。コロイド粒子は溶液ごとに、正または負の電荷を帯びている事が分かる。 水酸化鉄 Fe(OH)3 は正に帯電している。コロイド粒子が正に帯電している場合を正コロイド (positive colloid)という。また水酸化アルミニウムAl(OH)3は正に帯電している。水酸化アルミニウムも正コロイドである。 一般に金属の水酸化物と液体との混合物がコロイド溶液になる場合は、正コロイドであることが多い。 負電荷び帯電するコロイドを負コロイド(negative colloid)という。負コロイドの具体例は、粘土、イオウS、CuS などの金属硫化物、デンプン,Au, Ag, Pt, などである。 コロイドが沈殿しないのは、この帯電によって、互いの粒子どうしを反発させているからである。 では、なぜコロイドが電荷を帯びるのか。水酸化鉄Fe(OH)3のコロイドが正に帯電するのは、化合物中のOH基の部分が、溶液中の陽イオンのH+あるいはFe+を吸引しやすいからだと考えられている。 セッケンのコロイドでは、コロイド粒子そのものがイオン化している。 セッケンは と電離する。 水酸化鉄Fe(OH)3 のコロイド溶液に、少量の電解質を加えるとコロイドが沈殿する。 粘土のコロイド溶液に電解質を加えても同様に沈殿をする。 水酸化鉄は正コロイドであり、粘土は負コロイドであることから、この沈殿現象はコロイドが正負どちらの電荷でも生じる。 少量の電解質で沈殿するのは、最初に加えた電解質によって、コロイド粒子に反対符号のイオンが吸着し、その結果、分子間力が増えた結果、凝集しあって沈殿するからである。 このように少量の電解質で沈殿するコロイドを疎水コロイド(hydrophobic colloid)という。疎水コロイドが少量の電解質で沈殿する現象を凝析(ぎょうせき, flocculation)という。 海水の陽イオンによって粘土のコロイドが凝集する。これは地理で習う三角州の形成の原因である。 いっぽう、デンプンやタンパク質のコロイドは、多量の電解質を加えないと沈殿しない。このデンプンやタンパク質の化学式を見ると、-OH基や-COOH基や-NH2基などの基がある。これらは水と吸着しやすい親水性の原子団の親水基である。 このため、沈殿させるには、水との吸着を無くすために多量の電解質を加えて、溶液全体のイオンにおける、水の影響を薄めて吸着を無くさなければならない。電解質を加えても溶液全体の電荷の合計自体は同じだが、水素結合は、他の結合よりも強いことを思いだそう。 デンプンやタンパク質などのように、水和しているコロイドを親水コロイドという。 親水コロイドに多量の電解質を加えて沈殿させることを塩析(えんせき, salting out)という。 電気泳動に関して、親水コロイドは水和のため、疎水コロイドと比べて、親水コロイドは移動速度が小さい。 疎水コロイドと親水コロイドとを混ぜたコロイド溶液は、どういった特性を持つだろうか。 疎水コロイドが、電解質を加えても沈殿しにくくなる。 親水コロイドは疎水コロイドと吸着しても、親水コロイドの親水性のため、少量の電解質を加えても親水コロイドは沈殿しない。その親水コロイドと吸着した疎水コロイドは、吸着している親水コロイドが少量の電解質では沈殿しないため、一緒の疎水コロイドも少量の電解質では沈殿しない。 このように親水性の高い親水コロイドとの吸着を仲立ちとして疎水コロイドが沈殿しづらくなる現象を、親水コロイドによる保護あるいは保護作用といい、この親水コロイドによる疎水コロイドの保護を目的として加える親水コロイドを加えた場合、その親水コロイドを保護コロイドという。 保護コロイドの例として、タンパク質の一種であるゼラチンや、墨汁に含まれるニカワなどがある。 ゼラチンもニカワも親水コロイドでもある。 インキに含まれるアラビアゴムも保護コロイドである。ゴムというと、つい連想で輪ゴムのような固体状のものを連想しがちかもしれないが、このアラビアゴムの純物質は、多糖類であり、水溶性が高い親水コロイドである。 ゼラチンのコロイド溶液を冷やすと固体状に固まる。寒天のコロイド溶液を冷やすと固体状に固まる。 このようにコロイド溶液が冷えて固まったものをゲル(ドイツ語:Gel)という。 ゲルを乾燥させたものをキセロゲル(xerogel)という。高野豆腐やシリカゲルは、キセロゲルである。 乾かした寒天やゼラチンなどもキセロゲルである。キセロゲルを水につけると水を吸って膨らむ。これを膨潤(ぼうじゅん)という。 コロイド溶液とも言う。 コロイド粒子が分散している流動性のある溶液のこと。 コロイド粒子が光を散乱させ、光の通路が輝いて見える現象。 コロイド粒子が、熱運動する分散媒粒子に衝突されて行う不規則な運動。 水50mLとエタノール50mLを混ぜると、合計の容積は97mLになり、単独の液体の体積の単純な和よりも小さくなる。 これは、エタノール分子の方が水分子より大きいため、エタノール分子の間に水分子が入り込んでいるためである。
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3~12族までの元素を遷移元素、1,2族、13~18族の元素を典型元素という[1]。 典型元素は、1族から順に18族まで価電子数が規則的に変化する。価電子の数は18族は0であり、その他は族番号の1の位と等しい。価電子の数が周期的に変化するため、それに伴って性質も周期的に変化する。したがって、同じ族に属している元素(同族元素)は互いに似た化学的性質を持つ。 典型元素はさらに、それぞれの性質から次のような分類がされる。 一方、遷移元素は価電子数はほとんど変化せず、周期性も見られないが、周期表の隣り合う元素と互いに似た化学的性質を持つことが多い。 典型・遷移元素という分類の他、次のような分類のしかたもある。 金属とは、金属光沢があって、展性・延性をもち、電気や熱を伝えやすい性質をもった物質のことであり(→物質と原子)、単体がこの性質をもつ元素を金属元素と呼んでいる。遷移元素はすべて金属元素である。金属元素の原子は陽イオンになることが多い。また、単体が 金属でない元素を非金属元素と呼び、17・18族はすべて非金属元素である。18族はイオンになりにくく、また1族の水素は陽イオンになることが多いが、その他の非金属元素は陰イオンになることが多い。 物質と原子の章で学んだように、元素を原子番号の順に並べた表を周期表と呼ぶ。 周期表の中で、左上の水素と、右上にある典型元素は非金属元素であり、その他中央~左下にかけては金属元素が分布している。ただし、ホウ素やケイ素など、金属元素と非金属元素の境目にあるような物質は、金属と非金属との中間的な性質をもつものが多い。 ある原子から、電子を1個取り去って陽イオンとするために必要なエネルギーを、第1イオン化エネルギーと呼ぶ。これを単にイオン化エネルギーとも呼ぶ。これが小さければ小さいほど陽イオンになりやすく、そのような性質をもった元素を陽性が強いという。また、ある原子の最外殻電子に電子を1つ加えて陰イオンとする時に原子が放出するエネルギーを電子親和力と呼ぶ。これが小さければ小さいほど陽イオンになりやすく、そのような性質をもった元素を陽性が強いという。電子親和力が大きいということは陰イオンの状態の方が安定だから陰イオンになりやすく陰性が強い。 同じ周期の中では、族番号が小さいほどイオン化エネルギーが小さくなる。また、電子親和力は族番号が大きいほど大きくなる。同じ族の中で比較すると、周期が次になるほどイオン化エネルギーは小さくなり、電子親和力は小さくなる。したがって、周期表の中では、右上の元素ほど陰性が強く、左下の元素ほど陽性が強いということがいえる。
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この記事では高校化学の解説をする。無機物質では無機物質の性質について学ぶが、暗記が大きな比重を占める。有機化合物では炭素が関わる化合物について学ぶ。高分子化合物では分子量の大きい化合物について学ぶ。人間の体や服などの繊維は高分子化合物によって出来ている。
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2つ目の操作は、「HCl酸性のまま~」ではないでしょうか?
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ガラス、セメント、陶磁器などのように、無機物質に加熱処理などしたものを、セラミックスという。 また、このようなセラミック製品を製造する産業を、セラミック産業または窯業(ようぎょう)という。 窯は「かま」の事である。 原材料にケイ酸塩化合物を用いることが多いことから、ケイ酸塩工業ともいう。 セラミックスには下記のように多くの種類があるが、ほとんどのセラミックス材料に共通する性質として、 材料によっては、例外もある。 また、後述する「ニューセラミックス」「ファインセラミックス」では、セラミックに他の材料などを混ぜるなどをして、特性を改良ているため、上記の特性の例外となる場合もある。 なお、「硬い」という長所は、加工のさいには「展性が無い」ので加工が難しいという短所でもある。 建築用のセメント(cement)は、原料に、石灰石、砂、砂利、酸化鉄、粘土、セッコウなどを含んでいる。製造のとき、石灰石が高熱で処理され、酸化カルシウム CaO になる。 セメントは、水をくわえると、発熱しながら、やがて硬化する。 また、コンクリート(concrete)は、セメントに、砂利、砂、水をくわえて、固めた物である。 セメントおよびコンクリートの、水により固まる反応の化学式については、多くの反応が関わっており、複雑なので省略する(高校化学の検定教科書でも、説明を省略している)。 なお、セメントに砂を混ぜたものは、「モルタル」(mortar)という。 セメントおよびコンクリートには、カルシウム Ca が含まれている。 なお、セッコウは、硬化を遅らせて調節するために添加されている。 コンクリートは圧縮の力には強いが、引っ張りの力には弱いので、引っ張りにつよい鉄筋を入れた鉄筋コンクリート(reinforced concrete 、RC)として用いる。 コンクリートは、材料中の水酸化カルシウム Ca(OH)2 により、塩基性を示す。また、この塩基性により、内部の鉄筋が酸から保護される。空気中の酸性物質などにより、コンクリートはしだいに中性に中和されていき、そのため強度がしだいに低下していく。また、鉄筋を保護していたコンクリートが劣化すると、内部の鉄筋も酸に腐食されやすくなっていく。 ガラスはケイ酸塩を主成分として、Na、K、などを含んでいる。 ガラスの結晶構造は不規則であり、また、一定の融点を持たない。高温にすると、やわらかくなり、水あめ のように軟らかくなる。冷えると、固まる。 ガラスの結晶のように、不規則なまま硬化している結晶構造を、アモルファス(非晶質)という。 ガラスは無色透明であるが、金属酸化物をくわえると、その種類に応じて着色する。 ほぼ二酸化ケイ素だけで出来ている高純度のガラスを、石英ガラスといい、紫外線の透過性が高く、また耐熱性も高いので、光学機器や耐熱ガラスや光ファイバーなどに利用されている。 しかし、石英ガラスは耐熱性が高すぎるため融点が高く、製造時の溶融加工が容易でないので、一般のガラス製品には添加物をくわえて融点を下げたソーダ石灰ガラスなどが用いられている。 窓ガラスなどに用いられる一般のガラスは、ソーダ石灰ガラスであり、SiO2のほか、Na2OとCaOを主成分としている。 このソーダ石灰ガラスの製法は、けい砂(主成分 SiO2)に、炭酸ナトリウム(Na2CO3)や石灰石を添加して作る。 ガラスを高温に熱していったとき、ガラスが軟らかくなり始める「軟化点」(なんかてん)または「軟化温度」という。ソーダ石灰ガラスの軟化点は630℃だが、石英ガラスの軟化点は1650℃と、かなり高い。 なお、理科実験などで用いるビーカーやフラスコなど、理科学器具に用いられるガラスの材質には、ホウケイ酸ガラスが用いられている。 ホウケイ酸ガラスは、ホウ砂(主成分 B2O3)とケイ砂からなるガラスである。ホウケイ酸ガラスは熱膨張率が低く、そのため耐熱性も高く、耐食性も高いことから、理科実験器具用のガラスとして用いられている。 鉛ガラスは密度が大きく、また、X線など放射線の吸収能も大きいため、放射線遮蔽窓として用いられる。 また、鉛ガラスは屈折率も大きいため、光学レンズとしても用いられる。 粘土や砂、岩石の粉などを焼き固めて、陶磁器がつくられる。 陶器は約1000℃で焼き固めてて作られ、磁器は約1400℃で焼き固めて作られる。 焼き固めとは、高温にすることで、粒子の表面が部分的に融け、そのあと冷ましていくことで、粒子どうしが接着する。 これらの焼き物の表面には、焼く前に、石英などの粉末からなる上薬(うわぐすり)が表面に用いられている。上薬のことを、釉薬(ゆうやく)ともいう。 焼く時に、上薬が融けて、ガラスになる。また、表面がガラスで保護されることで、吸水性がなくなる。 Al2O3は硬くて丈夫なので、さまざまな材料に用いられる。 研磨剤にも、アルミナは用いられている。 アルミナは絶縁性も高く、そのためICチップなどの絶縁材にも用いられる。(参考文献、『セラミック材料』、工業高校教科書、文部科学省) おまけにアルミナは熱伝導性も比較的よく、そのため電気回路で生じたジュール熱を外部に放散しやすいので、温度上昇による誤動作を防ぎやすくて好都合である。 また、医療用の人工骨などにアルミナ材料の人工骨を用いてても、拒否反応などを起こさず、生体適合性が良い。なお、自然には人体にアルミナは接着しないので、ボルトなどで人工的に人工骨を既存の骨に固定する必要がる。 ケイ素 Si は、シリコンともいい、半導体の材料として、かなり高純度のシリコン(Si)に、導電性を適度に高めるための添加物を加えたものが用いられている。 酸化ジルコニウム ZrO2 およびそれに添加物を加えた材料では、結晶中に自然に生じた欠陥が、まるでシリコン半導体でいう導電性を高めるための添加物と似た役割を生じて、酸化ジルコニウム中の欠陥が酸化ジルコニウムの導電性に影響を与える。その結果、酸化ジルコニウムは、空気中の酸素濃度により導電性が変わる。このため、酸化ジルコニウムは酸素センサとして用いられる。 酸化チタン TiO2 は、光が当たると、有機物を分解する。この有機物の分解作用のため、光の当たった酸化チタンは、殺菌や消臭などの効果をもつ。酸化チタンそのものは減らずに残り続けるので、触媒的に働くことから、このような光のあたった酸化チタンによる分解作用が、光触媒(ひかりしょくばい)と呼ばれる。 この分解のエネルギー源は、酸化チタンが紫外線を吸収し、そのエネルギーによって酸化チタンの酸化力が高まり、そして有機物を分解する。 さて太陽電池としても、酸化チタンは利用されている。酸化チタンそのものは紫外線しか吸収しないため効率が低いため、色素を添加して、色素に可視光を吸収をさせて、そのエネルギーを酸化チタンが利用できるように工夫した太陽電池が開発されており、色素増感型(しきそぞうかんがた)太陽電池と言われている。(「色素」そのものはセラミックではない。混同しないように。色素は一般に有機高分子である。) また、色素と光によってエネルギーを得る仕組みが、植物の光合成の仕組みに似ていることから、生物学的にも興味を持たれている。 この他、酸化チタンは白色であり、人体に無害なので、化粧などの白色顔料としても用いられている。 このほか、超親水性(ちょうしんすいせい)という性質があり、水に濡れても水滴にならず、水が全体に広がるので、自動車のフロントガラスなどの添加剤に応用されている。 酸化スズ SnO2 では、表面に酸素を吸着する性質がある。そして、プロパンガスや一酸化炭素などにさらされると、吸着された酸素が燃焼して、もとの酸化スズに戻る。この吸着と酸素の離脱のさい、導電性が変わるため、プロパンガスなど可燃性ガス濃度を測るセンサーとして用いられる。 そもそもコンデンサーには、電気を通さない性質が求められる。つまりコンデンサーの材料は、絶縁物質であるべきである。そもそも、コンデンサーは、誘電分極(ゆうでん ぶんきょく)を利用した素子だから。もし、金属のように電気を通してしまうと、そもそもコンデンサーとしての役割を持たない。 セラミックは電気を通さないため、コンデンサーとして適切であり、じっさいにコンデンサーとしてセラミック材料は利用されている。 なお、セラミックは、絶縁材料としても、活用される。 コンデンサー材料としては、チタン酸バリウム BaTiO3 などがある。 チタン酸ジルコン酸鉛 PbTiO3 や チタン酸バリウム BaTiO3 などに圧力をくわえると、電圧が発生する。これを利用して、圧力センサーなどに用いる。なお、チタン酸バリウムは、コンデンサー材料としても用いられている。このように、圧電の仕組みと、コンデンサーの誘電分極の仕組みとは、関連性がある。 なお、このような圧電性の材料に交流電圧をくわえると、振動をすることから、音波や振動の発生源としても用いられる。さらに、振動の共振周波数(その物体が振動しやすい周波数)が、その振動体に加えられた圧力や荷重などの外部の力によって変化することから、圧力センサーなどにも圧電材料が応用されている。 ハイドロキシ アパタイトは、骨の主成分でもある。そのため、ハイドロキシアパタイトでつくった人工骨は、もともとの骨に接着しやすく、拒否反応なども起こりにくいので、医療用の人工骨などに利用される。なお、拒否反応などが無くて、生体に接着しやすい性質を、生体親和性という。 炭化物のセラミックスの中には、硬度がかなり高く、また適度に靭性もあり、丈夫なものがある。このため、炭化チタン TiC などは切削工具などに用いられる。炭化ケイ素や窒化ケイ素なども、耐熱性が高い。 自動車エンジンやガスタービンなどに、これらの耐熱セラミックスが用いられる。 半導体や、いくつかのセラミックスには、温度の上昇にともなって、電気抵抗が下がるものがある。 なお、金属では、温度が上がると、電気抵抗が上がる。 半導体やセラミックスの、このような、温度上昇にともなって電気抵抗が下がる特性が実用化されており、電子機器での温度変化時の電圧など出力の安定化のための部品に利用したり、あるいは温度センサなどに利用されたりしている。
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炭素を含む化合物を有機化合物(organic compound)という。しかし、一酸化炭素 CO {\displaystyle {\ce {CO}}} や二酸化炭素 CO 2 {\displaystyle {\ce {CO_2}}} 、炭素 C {\displaystyle {\ce {C}}} 自身は は例外的に有機化合物ではなく無機物質として扱われる。デンプンや糖類、エタノール、酢酸、脂肪などは有機化合物である。 もともと生物に関係する物質を有機物、鉱物から得られる物質を無機物質と分類していた。 かつて有機化合物は生物だけが作れると考えられていた時代もあったが、1828年にドイツのウェーラーが、無機物質のシアン酸アンモニウム NOH4CN から尿素 CO(NH2)2 を合成したことにより、無機物質から人工的に有機物質が合成できる事が分かった。 有機化合物は前章までに学習した無機化合物とは、大きく異なる特徴をもつ。 炭素 C と水素 H のみからなる化合物を炭化水素(hydrocarbon)という。炭化水素の構造が、さまざまな有機化合物の構造では、基本的な構造になる。 有機化合物の分子は、炭素原子のつながった構造を骨格として持つ。この炭素原子の結合のしかたにより、有機化合物は2種類に分かれる。 さらに、炭素原子の骨格の形によっても2種類の分類がある。 したがって、有機化合物は大まかに、鎖式飽和化合物、鎖式不飽和化合物、環式飽和化合物、環式不飽和化合物の4つに分類することができる。特に、鎖式で飽和の炭化水素を総称してアルカン(alkane)と言い、環式で飽和の炭化水素をシクロアルカン(cycloalkane)という。また、炭素原子間の二重結合を1つもつ鎖式不飽和炭化水素をアルケン(alkene)と言い、三重結合を1つ持つ鎖式不飽和炭化水素をアルキン(alkyne)という。これらについては後ほど学ぶ。
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炭素を含む化合物を有機化合物(organic compound)という。しかし、一酸化炭素 CO {\displaystyle {\ce {CO}}} や二酸化炭素 CO 2 {\displaystyle {\ce {CO_2}}} などは例外的に有機化合物ではなく無機物質として扱われる。デンプンや糖類、エタノール、酢酸、脂肪などは有機化合物である。 もともと生物に関係する物質を有機物、鉱物から得られる物質を無機物質と分類していた。 かつて有機化合物は生物だけが作れると考えられていた時代もあったが、1828年にドイツのウェーラーが、無機物質のシアン酸アンモニウム NOH4CN から尿素 CO(NH2)2 を合成したことにより、無機物質から人工的に有機物質が合成できる事が分かった。 有機化合物は無機化合物とは、大きく異なる特徴をもつ。 炭素 C と水素 H のみからなる化合物を炭化水素(hydrocarbon)という。炭化水素の構造が、さまざまな有機化合物の構造では、基本的な構造になる。 有機化合物の分子は、炭素原子のつながった構造を骨格として持つ。この炭素原子の結合のしかたにより、有機化合物は2種類に分かれる。 さらに、炭素原子の骨格の形によっても2種類の分類がある。 したがって、有機化合物は大まかに、鎖式飽和化合物、鎖式不飽和化合物、環式飽和化合物、環式不飽和化合物の4つに分類することができる。 さらに環式化合物はベンゼンを含むものを芳香族化合物と分類する。 芳香族化合物でない有機化合物を脂肪族化合物という。 脂肪族炭化水素のうち、特に、鎖式で飽和の炭化水素をアルカン(alkane)と言い、環式で飽和の炭化水素をシクロアルカン(cycloalkane)という。また、炭素原子間の二重結合を1つもつ鎖式不飽和炭化水素をアルケン(alkene)と言い、三重結合を1つ持つ鎖式不飽和炭化水素をアルキン(alkyne)という。 線形表記とは、炭素を線分で表し、炭素に結合する水素を省略した記法である。この記法は有機化合物の構造が見えやすくなり、また、構造式を書くときの煩雑さが少なくなるという利点がある。この線形表記は高校ではあまり教えられず、大学入試でも構造式を記述する際は炭素と水素を省略しない記法で記述することを求められるが、Wikibooksでは炭素骨格が見えやすくなることから、有機化合物に対する理解が深まることや、インターネットでも線形表記を用いた構造式が多数存在することから、学習者にとって利益があると考えて、線形表記を教えることにする。 太字で書いた結合は画面(紙面)の表に、点線で書いた結合は画面(紙面)の裏に飛び出るものとする。こうすることで、化合物の三次元構造を二次元で表現できる。 ある原子の構造を持つ化合物は特徴的な性質を示すことがある。この原子の集まりを官能基という。官能基によって化合物の性質を推測することができる。 以下では重要な官能基を紹介する。 フェノール類[2] エタナール IUPAC命名法では炭素の数を次の数詞で表すのでまずはこれを覚えてほしい。 直線状のアルカンは上の接頭辞のあとに接尾辞 "ane" をつけることで命名する。 例 枝分かれのある場合は、まず一番長い炭素鎖を選ぶ。そして側鎖をアルキル基とみて結合している炭素を番号で表す。 アルケンは上の接頭辞のあとに接尾辞 "ene" をつけ、二重結合している炭素を番号で表すことで命名する。 例 CH 3 − CH = CH − CH 3 {\displaystyle {\ce {CH3-CH=CH-CH3}}} but-2-ene (2-ブテン) アルキンは上の接頭辞のあとに接尾辞 "yne" をつけ、三重結合している炭素を番号で表すことで命名する。 例 CH ≡ C − CH 3 {\displaystyle {\ce {CH#C-CH3}}} prop-1-yne (1-プロピン) 有機化合物の構造を直接調べることは容易ではないが、その組成式を実験により推定することは比較的簡単である。組成と分子量が分かれば分子式を求めることができ、そこから化合物の構造を絞り込むことができる。 はじめに、ある化合物に含まれている元素の種類を推定する方法を紹介する。基本的に有機化合物は炭素と水素を主成分としてできているが、わずかに塩素原子や窒素原子などを含んでいるものもある。ある化合物にこのような特定の元素が含まれているかを実験で調べることができる。 酸化剤とともに熱して、酸化させる。 方法2: 完全燃焼させる。 CO2 H2O NH3 近づけると、白煙を生じる。 まぜて加熱したあと、水に溶かす。 Na2S さらに酢酸鉛(II)水溶液をくわえると、 硫化鉛(II)の黒色沈殿ができる。 CuCl2 銅の炎色反応(青緑色)が見られる。 もしこの化合物が炭素と水素のみ、あるいはこれらと酸素の3種類で構成されていることが分かっていれば、次の実験により化合物の組成式を推定することができる。実験方法 計算 炭素、水素、酸素の化合物である試料w [mg]の燃焼により水a [mg]と二酸化炭素b [mg]が生じたとする。このとき、発生した水の水素原子と二酸化炭素の炭素原子は、ともに試料に由来するものである。したがって、水に含まれる水素原子の質量と、二酸化炭素に含まれる炭素原子の質量は、試料に含まれていた水素原子と炭素原子の質量に等しい。原子量をH=1.0、C=12、O=16とすると、分子量がH2O=18、CO2=44であるから、 となる。すると、試料の残りは酸素原子でできているので、 となる。なお、水分子と二酸化炭素分子に含まれている酸素原子はすべて試料由来ではなく、吹き込んだ酸素が結合している分も含まれているので、水と二酸化炭素の質量から求めることはできない。 以上より、試料中の水素、炭素、酸素の質量を求めることができたため、元素の個数の比を求めることができる。元素1個あたりの質量の比は、原子量の比と等しく であるから、試料に含まれている各原子の個数の比は、 で求められる。組成式は化合物中の原子の個数の比を表すものであるから、この比により組成式が求められる。 ある分子の分子式は、その分子の組成式を自然数倍したものであるから、分子量が求められれば、組成式の式量から現実の原子の個数を計算し、分子式を求めることができる。 分子式が同じでも、構造が異なる化合物を異性体という。特に、構造式が異なるものを構造異性体という。異性体には構造異性体の他にも原子の立体的な配置が異なる立体異性体も存在する。 分子式 C 4 H 10 {\displaystyle {\ce {C4H10}}} で表される有機化合物には次の2つがある。 このとき、ブタンと2-メチルプロパンは構造異性体の関係にあるという。
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ベンゼンC6H6は6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した環状構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。 構造式は、炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように書かれるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。 この特徴的な環構造をベンゼン環(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。 ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンより付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。 ベンゼンスルホン酸は強酸である。 ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm3)。 ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。 ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素が付加しシクロヘキサン C6H12 を生じる。 また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン C6H6Cl6 を生じる。 C14H10 ベンゼン環をもつ炭化水素を芳香族炭化水素(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換したトルエン(toluene、化学式:C6H5CH3)やキシレン、ベンゼンが2個結合したナフタレン(naphthalene、化学式:C10H8)、などがある。 これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すすを多く出して燃える。 キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。 o-,m-,p- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む[1]。 2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置をオルト位、1つ空いて離れた位置をメタ位、ベンゼン環を挟んで正反対の位置をパラ位と呼び、それぞれ記号o-,m-,p-をつけて異性体を区別する。 混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C6H4(CH3)NO2 が生じる。 さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。 ベンゼン環にヒドロキシ基 -OH が直接結合したものをフェノール類(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。 構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。 フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。 フェノール類は水にほとんど溶けないが、塩基水溶液と反応して塩となり水に溶ける。 ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。 また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。 フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ) FeCl3 水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。 フェノールはベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造である。 特有の匂いを持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。 フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的にはクメン法(Cummene process)が重要である。 他にも、ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解や、クロロベンゼンからフェノールを合成する方法も存在する。 なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、アルカリ融解とも言われる。 また、フェノールはコールタール(石炭の乾留から生じる液体)の分留によっても得ることが出来る。 フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。 また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。 ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した化合物を芳香族カルボン酸(aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。 また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶ける。 芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。 安息香酸(benzoic acid) C6H5COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。 安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH3 が酸化されて安息香酸が得られる。 トルエンから安息香酸までの反応の際、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH3 が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C6H5CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。 フタル酸 C6H4(COOH)2 はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。 フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。 なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。 テレフタル酸はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。 サリチル酸は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。 サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、フェノール類としての性質も持つ。 また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH3での置換反応)すると、アセチルサリチル酸となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。 サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、サリチル酸メチルとなる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。 アンモニア NH3 の水素基を炭化水素基で置換した化合物をアミン(amine)といい、炭化水素基がベンゼン環の場合は芳香族アミン(aliphateic amine)という。 芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。 アニリンはベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶ける。 アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。 アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。 また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これはアニリンブラック(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。 アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。 アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、アセトアニリド C6H5NHCOCH3 を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。 この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合はアミド結合と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。 アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを5℃以下に冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液を少しずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C6H5N2+Clー を生じる。 このように、-N+≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応をジアゾ化(diazotization)と呼ぶ。 塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。 塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、p-ヒドロキシアゾベンゼン(p-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応をジアゾカップリング(diazo coupling)と呼ぶ。 分子中にアゾ基 -N=N- を持つ物質をアゾ化合物(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。 芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料(アゾ染料)や顔料として用いられる。 またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。 芳香族カルボン酸・・・炭酸水素ナトリウム と反応して水層にうつる 芳香族アミン・・・塩酸と反応して水層にうつる フェノール類・・・水酸化ナトリウムと反応して水層にうつる(中和反応) オルト・パラ配向性の置換基のベンゼン1置換体はオルト位とパラ位での置換反応を起こしやすい。 これは、オルト・パラ配向性の置換基はベンゼン環に電子を供与するため、置換反応が起きやすくなることによる。 メチル基はオルトーパラ配向性なのでトルエンをニトロ化すると、o-ニトロトルエンまたはp-ニトロトルエンが生成する。 メタ配向性の置換基のベンゼン1置換体はオルト位とパラ位での置換反応を起こしにくいため、メタ位での置換反応を起こしやすい。 メタ配向性の置換基はベンゼン環の電子を吸引するため、置換反応が起きにくくなる。 ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。 なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を共鳴という。 ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の非局在化という。この性質によりベンゼン環は安定性が高い。 ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、 でベンゼン環を表記する場合もある。 共鳴してる構造式は下図のように両矢印でつないで書き、 [ ] で囲って表す。
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ベンゼンの1置換体(たとえばトルエンなど)に、さらに置換反応を行わせた場合、2つめの置換基の位置は、すでに結合している置換基によって決まる。 トルエンをニトロ化させた場合、オルトーパラ配向性である。 よって、o-ニトロトルエンまたはp-ニトロトルエンが出来る。 このような実験事実にもとづき、「CH3はオルトパラ配向性である」という。 このように、もとから存在した側の置換基が配向性の基準になる。 なので、もとから存在した側の置換基を配向性の基準にする。 ニトロベンゼンのニトロ化物をつくる反応の結果は、通常の反応では、メタの位置に結合した生成物である m-ジニトロベンゼン がほとんどである。このことから、(ベンゼンにもとからついていた最初のニトロ基のほうの)ニトロ基を「メタ配向性である」のように言う。
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液体に溶けた物質が、シリカゲルなどの吸着材のあいだを移動するとき、物質ごとに移動速度に差が出る。この現象を利用して混合物を分離することをクロマトグラフィーという。 つぎのような種類がある。
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鉄鉱石からの鉄の精錬では、赤鉄鉱 Fe2O3 などの鉄鉱石を溶鉱炉でとかし、炭素などを加えて還元し、また不純物をとりのぞくため石灰石 CaCO3 を加える。石灰石によりシリカSiO2やアルミナAl2O3などの脈石(岩石を構成する成分のこと。)が分離される。 このようにして得た鉄を銑鉄(せんてつ)という。 石灰石は、鉱石中のケイ酸塩と反応しスラグ CaSiO3 を形成し、スラグは比重が銑鉄より軽いため、スラグは銑鉄に浮かぶので、これを溶鉱炉から分離する。スラグはセメントの原料になるので、スラグは廃棄せず分離して回収する。 また、炭素や石灰石などの添加は、融点を下げる役割も有る。凝固点降下と同じ原理である。一般に混合物は融点が下がる。 銑鉄は還元に用いた炭素Cを多く含む。 炭素を4%以上より多く含む鉄など、鉄中の炭素が多いと、粘りが無くなり、衝撃などに対して脆く、硬いが割れやすくなる。 このような鉄は、割れやすいが混合物のため融点が低く、また流動性も良いため鋳造(ちゅうぞう)に用いられる。そのため、このように炭素含有量の多い鉄は鋳鉄(ちゅうてつ)と呼ばれる。 しかし鋳鉄は割れやすいため、鋳造以外の他の用途には不便である。 丈夫な鉄を得るには銑鉄の炭素量を適量に減らす必要があり、転炉で酸素を加えて燃焼させて取り除く。転炉には、酸素吹き込み転炉などを用いる。この酸素吹き込みの酸化熱が、鉄を溶かし続ける熱源に使える。 炭素含有量を減らして炭素Cを0.02%~2%ほど含む鉄を鋼(こう)という。 鋼の中の炭素および他の合金成分の量が少ないと、鋼は柔らかくなり、比較的に軟らかい鋼を軟鋼(なんこう)という。 炭素量および他の合金成分が多いと、鋼は固くなるので、このような、固い鋼を硬鋼(こうこう)という。 鉄鉱石の還元反応は以下の反応である。 溶鉱炉内では段階的に還元し、 と還元していく。 添加物のため融点は下がり、およそ1400℃で融解し、溶鉱炉の底に溶けた鉄がたまる。 なお、1200℃での反応の式について、温度が高くなりすぎると、逆方向に反応が進んでしまいCO2によるFeの酸化が起きるので、1200℃程度を保つ必要がある。 鋼にCrやNiを混ぜた合金がステンレス鋼である。このステンレス鋼は化学的な耐食性が高い。 銅の鉱石には黄銅鉱CuFeS2がある。精錬にはまず、黄銅鉱を溶鉱炉で溶かす。溶鉱炉にはコークスCおよびケイ砂SiO2を加える。 硫化銅Cu2Sは「かわ」とよばれる。この硫化銅は炉の下層に沈む。FeSiO3 は上層に分離する。溶鉱で発生したFeSiO33は「からみ」という。なおFeSiO3 の式をFeOSiO2と書く場合もある。 この硫化銅を転炉で空気を吹き込むと、銅が遊離する。 転炉で作った銅を粗銅(そどう)という。粗銅の純度は98.5%程度である。 粗銅の純度を上げる目的で金属のイオン化傾向を利用した電気精錬が行われる。粗銅を陽極にして、純銅板を陰極にして硫酸銅CuSO4水溶液中で電気分解すると、陰極に純度が高い銅(99.97%程度)が析出する。 このように電気精錬で得た銅を電気銅という。 この電気銅が、現在(西暦2013年に記事を執筆)、用いられている銅材料の原料である。 なお、電気精錬の際に、銅中に銀Agや金Auなどの不純物が混ざっていると、電気精錬の際に、銀や金はイオン化傾向が銅よりも低いのでイオン化せず、金や銀が陽極の下に沈殿する。この沈殿を陽極泥という。 電気銅は、まだ水素や硫黄などの不純物が含まれており、それらの不純物を取り除くため電気銅のあとにも精錬は続く。 特に、銅への水素の混入は、水素脆性(すいそぜいせい)という金属材料が脆くなる原因になるので、取り除かなければならない。 銅の特徴として、銅は電気の伝導性がよく、また熱の伝導性も良い。なお、一般に純金属の熱伝導性と電気伝導性は比例する。 アルミニウムの精錬は、鉱石のボーキサイトからアルミナAl2O3を抽出する工程と、アルミナAl2O3から電解してアルミニウムを得る工程からなる。 アルミニウムの天然の鉱石はボーキサイト(bauxite)といい、ボーキサイトの化学式はAl2O3・nH2Oである。ボーキサイトに濃い水酸化ナトリウム溶液NaOHを加えてアルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)4]が得られる。正確にはテトラヒドロキドアルミン酸ナトリウムという。 アルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)_4]の溶液を冷却し、加水分解がおこると水酸化アルミニウムAl(OH)3 の沈殿が析出する。 生じたAl(OH)3 を分離して、このAl(OH)3を1200℃に加熱して酸化アルミニウムAl2O3にする。 これらのボーキサイトからアルミナまでの工程をバイヤー法という。 Al2O3 はアルミナという。アルミナは融点が高く、約2000℃の融点なので、融点を次の融解塩電解という処理で下げる。 まず、氷晶石を加える。すると融点が下がる。これを電解してアルミニウムにする。 この氷晶石を用いたアルミナの融解の方法をホール・エルー法という。 ※ 化学1でも電気分解を紹介してるので、読者は必要に応じ参照されたい。 工程は以下のとおり。 アルミナAl2O3(融点 2072 °C)に氷晶石Na3 AlF6(融点 1012℃)を、割合が氷晶石9.5重量%ほどになるまで少しずつ加える。氷晶石はアルミナにとって不純物であり、不純物との混合によって溶融温度が下がり、融点が約970℃になる。 溶融したアルミナを電気分解によって、精錬する。 また、このように添加物を加えて融点を下げ、溶融させて電解する方法を融解塩電解または溶融塩電解という。 溶融塩電解による精錬は、アルミニウムの他に、酸化マグネシウムMgOからマグネシウムMgを精錬する場合や、酸化チタンTiO2からチタンTiを精錬する場合に用いられる。 ちなみにアルミナAl2O3 はセラミック材料として様々な優れた性質を持っている。 酸化マグネシウム(マグネシアという)や酸化チタンもセラミックス材料として優れた性質を持っている。 アルミニウムやマグネシウムなどのように酸化物からの精錬に手間が掛かる材料は、裏を返せば、アルミナやマグネシアのように酸化物はセラミックスとして安定した性質を持っているということでもある。
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センター試験などの大学入試などから、教科書では習わなくても、下記のような知識を知ってることが前提になっている。 いちおう、日常生活であつかうことの多い物質を検定教科書で教えることになっているが、ページ数の事情などがあり、検定教科書では会社ごとに説明してなかったりする。 なお、資料集や参考書にも書いてあるので、いちいちセンター過去問を教科書代わりに読む必要は無い。 (家庭用のガスで「プロパンガス」とか言われるように、)そもそもプロパンは燃焼する。(プロパンの燃焼熱の計算が、2017年のセンター『化学』追試験で出た。) メタンやエタンやプロパンの燃焼熱の計算とか、よく入試に出やすい。 エチレン C2H4 も燃焼する。(※ 2013年センター試験の化学Iの本試験で、エチレンの燃焼熱の計算が出題。) 炭素や黒鉛は火をつけるなどすれば燃えるが、ダイヤモンドやフラーレンも燃焼する。(※ 2009年センター化学Iの本試験で燃焼熱の計算が出題。) ビタミンC(アスコルビン酸)は、還元性が高いので、飲料品などで酸化防止剤として使われる。 緑茶飲料などに、よくビタミンCが酸化防止剤として加えられている。 なお、菓子などの食品にある「食べられません」とか書いてある酸化防止剤の中身は、主に鉄粉である。(※ 参考文献: 中学2年の理科の検定教科書で、大日本図書(教科書会社)の検定教科書に書いてある) 鉄のほうが酸化しやすいので、身代わりとして鉄を酸化させることにより、食品本体の酸化をふせいでいる。なお、鉄なので、けっして電子レンジに入れないように、器をつける必要がある。 塩化カルシウム CaCl2は、空気中などの水分を吸収するので、除湿財や乾燥剤としても(塩化カルシウムは)用いられる。 乾燥剤は、このほかにもシリカゲル、塩化カルシウムなどがある。(2010年センター試験で、乾燥剤に用いられる物質を問う出題あり。) シリカゲルとは、ケイ酸 H2SiO3 を加熱乾燥したもの。 塩化カルシウムは中性の乾燥剤である。 また、塩基性の乾燥剤として、酸化カルシウム、ソーダ石灰、がある。 ソーダ石灰とは酸化カルシウム CaO と水酸化ナトリウム NaOH の混合物のこと。ソーダ石灰を得るには、酸化カルシウムを濃い水酸化ナトリウム溶液にしみこませて、これを焼いて加熱乾燥させる。塩基性なので、酸性物質の乾燥には、用いられない。 アンモニアの発生の実験で、よくソーダ石灰が用いられる。 なお、アンモニアの実験では、塩化カルシウムは反応してしまうので用いることができない。 このほか、酸性の乾燥剤として、十酸化四リン、濃硫酸、などの乾燥剤がある。塩基性の材料の乾燥では、これら酸性の乾燥剤は用いられない。 ナトリウム Na の炎色反応は黄色である。(※ なので、ときどき台所のガスレンジで塩に引火したとき、黄色の炎がでるわけだ。) アンモニアは肥料の原料としても用いられる。(※ 世間では、よく「窒素肥料」などとも言いますね。) 「ケイ酸塩工業」という語彙。
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この記事では高校化学の解説をする。無機物質では無機物質の性質について学ぶが、暗記が大きな比重を占める。有機化合物では炭素が関わる化合物について学ぶ。高分子化合物では分子量の大きい化合物について学ぶ。人間の体や服などの繊維は高分子化合物によって出来ている。
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物質は温度・圧力によって物質の状態が変化する。物質自体は同じであり、状態だけ変わるので物理変化である。化学変化とは違うので注意すること。 どの物質にも、固体・液体・気体の3つの状態がある。これを 物質の三態(さんたい、three states) という。 一般に、物質の温度や圧力を変化させていくと、物質の状態が変わる。 物質の三態は、物質を構成する粒子の集合する状態によって決まり、粒子の熱運動の激しさと、分子に働く引力との関係によって決まっている。 ・固体から液体になる変化を融解、液体から気体になる変化を蒸発(気化)と呼ぶ。気体から液体になる変化を凝縮(液化)、液体から固体になる変化を凝固と呼ぶ。固体から気体になる変化を昇華、気体から固体になる変化を凝華という。 状態が変わっても物質の名前は変わらない。ただし例外として水(H2O)がある。水は固体を特別に氷、液体を水、気体を水蒸気と呼ぶ。また、液体窒素など慣用的に呼ばれるものもある。ただしどのような状態でも化学式は変わらない。 また、純物質において固体が液体になる温度は物質ごとに決まっており、その温度をその物質の融点と呼ぶ。同様に液体が気体になる温度をその物質の沸点と呼ぶ。大気圧での水の融点は0度、沸点は100度である。 ふつうの純物質は、温度と圧力が決まると、その状態が決まる。 温度と圧力によって、その物質がどういう状態をとるかを表した図を状態図(phase diagram)という。 図に、水の状態図と、二酸化炭素の状態図を表す。 図の中央付近にある3本の曲線が交わったところは三重点(triple point)といい、気体・液体・固体の状態が共存する。 なお、図中にある 1.013×105Pa は、大気圧である。図より、大気圧で水の融点は0℃、沸点は100℃であることが分かり、たしかに実験事実とも一致してる。 また、物質の温度と圧力を高めていき、温度と圧力がそれぞれの臨界点(critical point)を超える高温・高圧になると、その物質は超臨界状態(supercritical state)という状態になり、粘性が気体とも液体ともいえず(検定教科書の出版社によって「気体のような粘性」「液体のような粘性」とか、教科書会社ごとに記述が異なる)、超臨界状態は、気体か液体かは区別できない。 二酸化炭素の超臨界状態ではカフェインをよく溶かすため、コーヒー豆のカフェインの抽出に利用されている。 物質はどんなに冷却しても、-273.15℃(0K)までしか冷却しない。この温度のことを絶対零度(ぜったい れいど)という。(※ 詳しくは『高等学校物理/物理I/熱』で習う。)
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実際の気体はボイル・シャルルの法則は、高温・低圧の場合はよく当てはまるが、低温・高圧の場合には、ずれが大きくなってくる。ボイル・シャルルの法則が、厳密に成り立つ気体を考えると、計算の都合がいい。このような、ボイル・シャルルの法則が厳密に成り立つ想像上の気体のことを理想気体(ideal gas)という。現実の気体を実在気体という。 分子の大きさと分子間力を考慮して、理想気体の状態方程式を改良したファンデルワールスの状態方程式がある。 ファンデルワールスの状態方程式は、 である。a,bは定数であり、aが分子間力、bが分子の大きさを反映したものである。 まず式中のaの係数について考えよう。 係数の + n 2 v 2 {\displaystyle +{\frac {n^{2}}{v^{2}}}} が分かりづらいかもしれないが、プラス符号がついているのは、分子間力によって圧力が減少するからであり、そのためには、符号をプラスにする必要がある。 では、 + n 2 v 2 {\displaystyle +{\frac {n^{2}}{v^{2}}}} をどう解釈するかを述べる。 先に結論を述べるが、 である。 では、この結論を導く。 まず、このような気体中の、ある1つの分子に作用する分子間力の大きさは、その分子の近くにあるまわりの分子の数に比例するので、よって、ある1つの分子に作用する分子間力の大きさは、気体の濃度 c = n v {\displaystyle c={\frac {n}{v}}} に比例する。 そして、すべての分子が、このような分子間力を作用しあっている事を考慮する必要があるが、しかし分子間力の性質として、近くどうしの分子のみを考えれば充分なので、現実的には、単位体積中の分子数で計算する事になる。 単位体積中の分子数とは、つまり、その気体のモル濃度 c = n v {\displaystyle c={\frac {n}{v}}} である。 (なお、理想気体の式 pv=nRT は、 P = c R T {\displaystyle P=cRT} と変形できたことも、思い出そう。) 結局、 + n 2 v 2 {\displaystyle +{\frac {n^{2}}{v^{2}}}} は、単に、 という計算である。 さて、bの係数について考えよう。 ボイル・シャルルの法則 P V = n R T {\displaystyle PV=nRT} での体積Vとは、何かというと、これは気体分子が動ける空間である。だったら、それぞれの分子が動ける空間の体積は、その分子以外の他分子の体積を減算する必要がある。一般の気体の分子数は膨大なので他分子の数はn[mol]に比例すると見て良い。こうして、他分子の体積を減算した、気体分子が動ける分だけの体積 ( V − n b ) {\displaystyle (V-nb)} を考慮すればよい。 このような気体における、上述のようなファンデルワールス方程式のような実験結果をひきおこす分子間力の原因は何だろう? 読者の高校生は、化学Iで「ファンデルワールス力」を習ったと思う。 このファンデルワールス力こそが、このような実在気体での、分子間力の原因だと考えられてる。 分子や原子では瞬間的な分極が頻繁に起きていて、つまり、瞬間的に、プラス電荷とマイナス電荷が分子の両端に発生していて、ほかの分子と電気的な引力をおよぼしあっている、・・・というような説が、定説である。(量子力学などによるエネルギーの「ゆらぎ」が、その瞬間的な分極の起きる根拠とされている。) 分極の影響は、たとえば磁石なら遠くにいくほど、測定位置から両極の距離がほぼ同じになり、そして反対符号のN極とS極の磁力が打ち消しあうので、磁石全体の影響は逆2乗よりも急激に減少していく。このような原理で、分極では、遠くの物体の影響は無視できるのである。 反応しあわない分子式の異なる気体を混合させた複数種の気体を、一つの密閉した容器に混ぜた気体を、混合気体という。 混合して生じた混合気体の圧力を、その混合気体の全圧という。 例として、2種の気体Aと気体Bを混ぜた混合気体を考える。混合気体の各成分AとBをそれぞれ別に、Aだけにして同じ容器に同じ温度で入れた時の圧力を気体Aの分圧(ぶんあつ)という。同様に、気体Bを気体Bだけにしておなじ容器に同じ温度で入れたときの圧力を気体Bの分圧という。 気体Aの分圧を p A {\displaystyle p_{A}} として、気体Bの分圧を p B {\displaystyle p_{B}} とすると、全圧pと分圧の間に次の関係が成り立つことが知られている。 p = p A + p B {\displaystyle p=p_{A}+p_{B}} このような、「全圧は分圧の和に等しい。」という関係式をドルトンの分圧の法則という。 気体成分が3個以上の場合でも、同様の結果が成り立つ。3種の場合は、気体A,B,Cについて、全圧と分圧の関係は、 p = p A + p B + p C {\displaystyle p=p_{A}+p_{B}+p_{C}} である。気体成分の種類の数に関わらず、これらの「全圧は分圧の和に等しい。」という関係式をドルトンの分圧の法則という。 分圧の法則は、「混合気体でも、状態方程式が各成分単独の場合と同様に成り立つ」と仮定すれば、状態方程式から分圧の法則を導出できる。この法則は、気体成分の種類が何種類でも成り立つが、説明のため、気体成分は3種類と仮定しよう。混合気体の物質量について、以下のような関係が導出できる。 n = n A + n B + n C {\displaystyle n=n_{A}+n_{B}+n_{C}} これを示そう。まず、状態方程式より、全圧の状態方程式を表すと、 p v = n R T {\displaystyle pv=nRT} である。 このとき、分圧と物質量は、分圧の定義より、次の式になる。 p A v = n A R T {\displaystyle p_{A}v=n_{A}RT} p B v = n B R T {\displaystyle p_{B}v=n_{B}RT} p C v = n C R T {\displaystyle p_{C}v=n_{C}RT} これ等の3個の式を足し合わせると ( p A + p B + p C ) v = ( n A + n B + n C ) R T {\displaystyle (p_{A}+p_{B}+p_{C})v=(n_{A}+n_{B}+n_{C})RT} これを、pv=nRTで割ると、 p A + p B + p C p = n A + n B + n C n {\displaystyle {\frac {p_{A}+p_{B}+p_{C}}{p}}={\frac {n_{A}+n_{B}+n_{C}}{n}}} また、物質量の n {\displaystyle n} と、 n A + n B + n C {\displaystyle n_{A}+n_{B}+n_{C}} との関係は、質量保存の法則より、以下の関係が成り立つ。 n = n A + n B + n C {\displaystyle n=n_{A}+n_{B}+n_{C}} これより、 p A + p B + p C p = n A + n B + n C n = 1 {\displaystyle {\frac {p_{A}+p_{B}+p_{C}}{p}}={\frac {n_{A}+n_{B}+n_{C}}{n}}=1} つまり、 p A + p B + p C p = 1 {\displaystyle {\frac {p_{A}+p_{B}+p_{C}}{p}}=1} 両辺に分母を掛けて p A + p B + p C = p {\displaystyle p_{A}+p_{B}+p_{C}=p} これは、分圧の法則に他ならない。 かくして、ドルトンの分圧の法則は導出された。 混合気体の物質量の総和に対する、各成分の物質量の比をモル分率という。 たとえば、3種類の混合気体A,B,CにおけるAのモル分率は n A n {\displaystyle {\frac {n_{A}}{n}}} である。 同様に、Bのモル分率は、 n B n {\displaystyle {\frac {n_{B}}{n}}} である。 モル分率と全圧について、次の関係式が成り立つ。 各成分の分圧は、全圧にその成分のモル分率を掛けたものに等しい。 p A v = n A R T {\displaystyle p_{A}v=n_{A}RT} ・・・(1) p v = n R T {\displaystyle pv=nRT} ・・・(2) これより、(1)を (2)で割って、 p A p = n A n {\displaystyle {\frac {p_{A}}{p}}={\frac {n_{A}}{n}}} 分母の全圧pを両辺に掛ければ、 p A = p n A n {\displaystyle p_{A}=p{\frac {n_{A}}{n}}} となり、命題「各成分の分圧は、全圧にその成分のモル分率を掛けたものに等しい。」を状態方程式から導出できた。以上。 水素H2などを水上置換法で集める場合を考える。水上置換法で集められる気体は、水蒸気の混じった混合気体である。捕集した気体の圧力には、水蒸気の分圧が含まれている。 この例の水素の場合、水素のみの分圧を求めたい場合は、捕集した気体の全圧から、水蒸気の分圧を差し引く必要がある。 つまり水素の分圧 p H 2 {\displaystyle p_{H_{2}}} は、全圧 P {\displaystyle P} から水蒸気の分圧 p H 2 O {\displaystyle p_{H_{2}O}} を差し引いた値になる。 p H 2 = P − p H 2 O {\displaystyle p_{H_{2}}=P-p_{H_{2}O}} 大気圧下での水蒸気圧については表などで与えられるので、それを利用する。なお、参考値を言うと、温度t=27℃で、水蒸気圧は、およそ3.6kPa、あるいは単位を変えれば27mmHgである。 酸素と窒素のまじった大気中の空気などのように、2種類以上の気体が混在してる時、この混合気体を、仮に1種類の気体からなると仮定して、その気体の分子量[mol]を算出したものを平均分子量という。たとえば、空気は混合気体であり、主成分の窒素と酸素の物質量[mol]の割合が、 窒素:酸素=4:1 であるが、モル質量が窒素28g/molであり、酸素は32g/molなので、空気の平均分子量は 28.0[g/mol] × 4 5 {\displaystyle {\frac {4}{5}}} + 32.0[g/mol]× 1 5 {\displaystyle {\frac {1}{5}}} = 28.8[g/mol] となる。 実際にはアルゴンやニ酸化炭素なども含まれているので、これより少し式や値は変わるが、ほとんど同じ値になる。 以上の例では、大気中の空気を例に平均分子量を解説したが、なにも空気で何くても平均分子量は必要に応じて定義される。
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エタノールC2H5OHやグルコース(ブドウ糖)C6 H12 O6 などは水に良く溶ける。このエタノールの分子は、分子中にヒドロキシ基 OH を持つ。エタノールでは、このヒドロキシ基の部分が、水分子と水素結合を生じて、エタノール分子が水和をする。グルコース分子も、実はヒドロキシ基を持っており、このヒドロキシ基の部分が、水分子と水素結合を生じて、グルコース分子が水和をする。 このエタノール分子中のヒドロキシ基のように、水和されやすい原子団の部分を親水基(しんすいき)という。水和されやすい性質を親水性という。 これに対して、ベンゼンC6H6などは水に溶けない。このような原子は極性をもたない無極性分子である。一般に、親水基を持たない無極性分子は、水には溶けない。 また、エタノール分子中のエチル基C2H5の部分は、極性を持たず、この部分は水和には寄与していない。この分子の他にも、一般の炭化水素CmHnは無極性であり、水和には寄与しない。このような炭化水素のみからなり、エタノールと違って親水基を持たない、炭化水素分子は水和されにくい。このような親水性をもたない原子団を疎水基(そすいき)という。水和されにくい性質を疎水性という。 無極性分子からなるヨウ素I2やナフタレンC10 H8 は、無極性分子の液体であるベンゼンC6 H6や、四塩化炭素CCl(テトラクロロメタン)には、よく溶ける。 このように無極性分子の物質は、無極性分子の液体に溶けやすい。いっぽう、極性分子の物質は、極性分子からなる水に溶けやすいのであった。 これらのように、一般に極性の似ている分子は溶けあいやすい。 ある一定の温度で、ある一定の質量の溶媒に対して、溶質を溶かして、溶質が溶けきる最大限の飽和溶液を得た場合、その飽和溶液に溶けている溶質の量を溶解度という。つまり、溶解度とは、未混合の溶媒に対して、「この溶媒は、これから、どれだけの溶質を溶かせるか」という能力のことである。溶解度と濃度とは、別の概念なので、混同しないように。 溶解度の数値の表し方は、2種類ある。 一般的なのは、溶媒の質量100gに対して、溶かせる溶質の質量の割合[g/100g]、またはその溶質の質量[g]で定義する方法である。 溶解度の単位は、無次元で表す場合もあるが、無次元だと状況が分かりづらいという考えのもと、[g/100g]や、[g]などと表す場合もある。 溶解度は、溶媒の温度によって変化する。溶媒が水の水溶液の場合、水の温度によって、溶解度は変化する。 水に溶かす溶質では、一般に水の温度が高まるほど、ほとんどの溶質で、溶解度は高まる。ただし、例外的に水酸化カルシウムCa(OH)など、いくつかの分子では、温度上昇によって溶解度が下がる物質もある。 溶解度の温度変化をグラフで表したものを溶解度曲線という。 不純物の混ざった混合物の固体に対して、その各成分の溶解度が大きく異なる場合は、その混合質を、熱した溶媒に飽和するまで溶かし、飽和後に冷却をしていけば、溶解度の小さい物質の側から先に、結晶が析出をしていくので不純物を取り除ける。このように、何らかの方法で溶質の結晶を析出させて不純物を取り除き精製する方法を再結晶法という。 「再結晶」という語について、この例では、水溶液を用いた再結晶を紹介したが、「再結晶」とは、なにも水溶液にかぎらず、何らかの方法で結晶をいったん溶解または溶融させて、そのあとに結晶を析出させてえられた結晶ならば、一般に再結晶という。 なお、溶媒を冷却していく時に、あらかじめ他の実験で得られた、その物質の、平均的な溶解度を超えるまで冷やしても、析出しない場合がある。このように通常の溶解度を超えて溶質を含んでいる状態を過飽和(かほうわ)という。溶質を溶解度よりも過飽和に含んでいる溶液のことを過飽和溶液という。過飽和の状態は不安定であるので、過飽和溶液の場合は、少量の撹拌や振動などが加わるだけで、結晶の析出を始める。 溶質の種類によっては、再結晶法で結晶分子中に水分子が化合した結晶が得られる場合がある。このように結晶分子と化合している水を結晶水あるいは水和水という。結晶水は、加熱などによって除去できる場合が多い。 結晶から水和水を除去することを無水化などという。無水化して得られた結晶水を含まない固体を無水物という。 結晶が水和水を含む物質に対する溶解度の定義は、無水物の質量を、溶質の質量とみなして、溶解度を定義する。
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この記事では高校化学の解説をする。無機物質では無機物質の性質について学ぶが、暗記が大きな比重を占める。有機化合物では炭素が関わる化合物について学ぶ。高分子化合物では分子量の大きい化合物について学ぶ。人間の体や服などの繊維は高分子化合物によって出来ている。
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化学反応の反応速度は、注目した物質の変化の速度で表す。反応速度で濃度に着目するときは、モル濃度の変化速度で考えるのが一般である。 化学反応する物質Aが Δ t {\displaystyle \Delta t} の間に濃度が Δ [ A ] {\displaystyle \Delta [\mathrm {A} ]} 変化したとすると、この反応速度 v A {\displaystyle v_{A}} は v A = | Δ [ A ] Δ t | {\displaystyle v_{A}=\left|{\frac {\Delta [\mathrm {A} ]}{\Delta t}}\right|} と表される。 ここで、絶対値がついているのは、反応速度を正の値にするためである。 Aが反応物で、Bが生成物の場合は、Aの濃度は減少するためため、 Δ [ A ] < 0 {\displaystyle \Delta [\mathrm {A} ]<0} なので、 v A = − Δ [ A ] Δ t {\displaystyle v_{A}=-{\frac {\Delta [\mathrm {A} ]}{\Delta t}}} である。反応物Bの濃度は増加するため、 Δ [ B ] > 0 {\displaystyle \Delta [\mathrm {B} ]>0} より、 v B = Δ [ B ] Δ t {\displaystyle v_{B}={\frac {\Delta [\mathrm {B} ]}{\Delta t}}} である。 具体的に、 H 2 + I 2 ⟶ 2 HI {\displaystyle {\ce {H2 + I2 -> 2HI}}} の反応速度について考えよう。 注目する物質が3種類あるので、濃度変化の速度の定義には、3通りの定義の仕方が生じる。物質によって、反応速度が違ってしまうと不便なので、そういうことが無くなるように、定義式で化学反応式の係数の逆数を濃度変化速度に掛けるのが一般である。 つまり、以上をまとめると、このHIの反応での3種類の物質の反応速度vの定義式は以下のようになる。 v = − Δ [ H 2 ] Δ t = − Δ [ I 2 ] Δ t = 1 2 Δ [ H I ] Δ t {\displaystyle v=-{\frac {\Delta [H_{2}]}{\Delta t}}=-{\frac {\Delta [I_{2}]}{\Delta t}}={\frac {1}{2}}{\frac {\Delta [HI]}{\Delta t}}} なお、反応速度の単位には[mol/(l・分)]を用いるのが一般である。 以上は反応速度の定義式であった。 つぎに、実際の化学反応で、反応速度を性質を考えよう。まず、ヨウ化水素HIの生成の例で考えよう。水素[H]とヨウ素[I]の濃度を色々変えて実験された結果、次の結果が、実際の測定でも確認されている。 反応速度vは、左辺の反応物 [ H 2 ] {\displaystyle [H_{2}]} と [ I 2 ] {\displaystyle [I_{2}]} の濃度に比例する。つまり、 v = k [ H 2 ] [ I 2 ] {\displaystyle v=k[H_{2}][I_{2}]} である。ただしkは、反応速度の比例定数。この式の意味を考えてみれば、反応が起こるには、反応に必要な物質どうしが接触または衝突することが必要なのであろうということが想像できる。 他の物質の化学反応の場合も考慮して、反応速度の一般の式を求めよう。 a[A]+b[B] +c[C]+ ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・ となるとき、ほとんどの物質で、反応速度は次の式で表される。(「ほとんど」というように例外もある。例外の場合は後述する。まずは一般の場合から学習してほしい。)反応速度は、 v = k [ A ] a ⋅ [ B ] b ⋅ [ C ] c {\displaystyle v=k[A]^{a}\cdot [B]^{b}\cdot [C]^{c}} となる。 反応速度の式で、係数のaを[A]に乗じたりしているのは、たとえばa=3のときには、反応式 3[A] + b[B] ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・ の式は、以下のように、 [A] + [A] + [A] + b[B] ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・ のように書けるからである。 上記のような例に従わない場合の、代表的な例として N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} がある。この物質の反応の仕組みも解明されているので、これを説明する。まず N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} の反応式は、 2 N 2 O 5 → 2 N 2 O 4 + O 2 {\displaystyle 2N_{2}O_{5}\rightarrow 2N_{2}O_{4}+O_{2}} である。式から推定した反応速度vは、 v = k [ N 2 O 5 ] 2 {\displaystyle v=k[N_{2}O_{5}]^{2}} である。しかし、実際の反応速度を測定した結果は、 v = [ N 2 O 5 ] {\displaystyle v=[N_{2}O_{5}]} である。 では、次にこの謎を解明しよう。 じつは、 N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} から N 2 O 4 {\displaystyle N_{2}O_{4}} が生成される反応は、ひとつの反応では無いのである。 以下に示すような順序で、4個の反応が行われているのである。 N 2 O 5 → N 2 O 3 + O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}\rightarrow N_{2}O_{3}+O_{2}} ・・・・(1) N 2 O 3 → N O + N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{3}\rightarrow NO+NO_{2}} ・・・・(2) N 2 O 5 + N O → 3 N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}+NO\rightarrow 3NO_{2}} ・・・・(3) 2 N O 2 → N 2 O 4 {\displaystyle 2NO_{2}\rightarrow N_{2}O_{4}} ・・・・(4) この一つ一つの反応を素反応(そはんのう)という。また、 N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} の反応のように、複数の素反応からなる反応を多段階反応という。 式(1)の左辺の反応物と式(4)の右辺の生成物を見ると、 N 2 O 5 {\displaystyle N_{2}O_{5}} と N 2 O 4 {\displaystyle N_{2}O_{4}} がある。これが反応速度の謎の正体である。 式(1)から式(2)、式(3)、式(4)のそれぞれの反応速度を、反応式から推定すると、 N 2 O 5 → N 2 O 3 + O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}\rightarrow N_{2}O_{3}+O_{2}} ・・・・(1) v 1 = k 1 [ N 2 O 5 ] {\displaystyle v_{1}=k_{1}[N_{2}O5]} N 2 O 3 → N O + N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{3}\rightarrow NO+NO_{2}} ・・・・(2) v 2 = k 2 [ N 2 O 3 ] {\displaystyle v_{2}=k_{2}[N_{2}O_{3}]} N 2 O 5 + N O → 3 N O 2 {\displaystyle N_{2}O_{5}+NO\rightarrow 3NO_{2}} ・・・・(3) v 3 = k 3 [ N 2 O 5 ] [ N O ] {\displaystyle v_{3}=k_{3}[N_{2}O_{5}][NO]} 2 N O 2 → N 2 O 4 {\displaystyle 2NO_{2}\rightarrow N_{2}O_{4}} ・・・・(4) v 4 = k 4 [ N O 2 ] 2 {\displaystyle v_{4}=k_{4}[NO_{2}]^{2}} となる。実験の結果では、4つの素反応の中で、もっとも反応速度が小さいのは式(1)の反応であることが知られている。このように、多段階反応では、もっとも反応速度が遅い反応によって、全体の反応速度が決まる。 全体の反応を決定する素反応を律速段階という。 温度が増えると、常温付近では、だいたい10℃あがるごとに、反応速度が2倍から3倍程度になる。 この理由は、温度が増えると、活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ分子が増えるからである。 触媒もまた、反応速度を変える。前の節で既に記述したので、必要ならば参照のこと。 化学者のアレニウスが、多くの物質の反応速度と温度との関係を調べた結果、実験法則として、以下の関係式が分かった。 反応速度定数kは、活性化エネルギーを E a {\displaystyle E_{a}} 絶対温度をTとすると、以下の式で表される。 k = A e − E a R T {\displaystyle k=Ae^{\frac {-E_{a}}{RT}}} ここで、Rは気体定数、eはネイピア数である。 この実験式をアレニウスの式という。 たとえば、ヨウ化水素HIの生成の反応、つまり、ヨウ素Iと水素Hを容器に入れて高温にして起こす反応では、 H 2 + I 2 → 2 H I {\displaystyle H_{2}+I_{2}\rightarrow 2HI} では、なにも熱を加えない常温のままだと、反応は起こらない。また結合エネルギーの和は、左辺の H 2 + I 2 {\displaystyle H_{2}+I_{2}} のほうが右辺の2HIの和より大きい。エネルギー的にはエネルギーの低いほうが安定なので、2HIのほうが安定なはずなのに、熱を加えないと、反応が始まらないのである。 この状態から察するに、化学反応をする原子は、もとの分子よりエネルギーの高い状態を経由する必要がある。 たとえば、ヨウ化水素の生成の反応 H 2 + I 2 → 2 H I {\displaystyle H_{2}+I_{2}\rightarrow 2HI} では、解離エネルギーにより推測される必要なエネルギーと、実際の反応に要するエネルギーが一致しない。解離エネルギーを考えると、 H 2 + 432 k J → H + H {\displaystyle H_{2}+432kJ\rightarrow H+H} I 2 + 149 k J → I + I {\displaystyle I_{2}+149kJ\rightarrow I+I} により、合計で432 + 149 = 581 kJ のエネルギーが必要だと推測できる。しかし、実際の反応でのエネルギーは、そうではない。 HIの2molの生成でも、必要なエネルギーは348 kJ が必要であり、これは、解離エネルギーの和の581 kJよりも小さい。なお、この場合のヨウ化水素の反応温度は、およそ400℃である。348kJを1molあたりに換算すると、174 kJ/molである。 以上のような実験結果から、実際の反応では、分子は解離状態を経由しないと考えられている。代わりに経由するのは、「活性化錯体」(かっせいか さくたい)という状態であり、高温などのエネルギーを与えた状態の間のみに生じる、反応分子どうしの複合体である活性化錯体という複合体を経由して、そこから結合相手を変えて反応式右辺の生成物(この場合はHI)を生じる反応が行われていると考えられる。 この反応物と生成物との中間の状態を活性化状態(かっせいか じょうたい)と言い、その活性化状態にするために必要なエネルギーを活性化エネルギー(かっせいかエネルギー)という。反応が起こるためには、活性化エネルギー以上のエネルギーが分子に加わる必要がある。 「活性化状態」のことを「遷移状態」ともいう。 過酸化水素水 H 2 O 2 {\displaystyle H_{2}O_{2}} は、そのままでは、常温では、ほとんど分解せず、ゆっくりと分解する。 H 2 O 2 → 2 H 2 O + O 2 {\displaystyle H_{2}O_{2}\rightarrow 2H_{2}O+O_{2}} しかし、少量の二酸化マンガンを加えると、分解は速まり、酸素の発生が激しくなる。そして、二酸化マンガンの量は、反応の前後では変化しない。この二酸化マンガンのように、自身は量が変化せず、反応の速度を変える働きのある物質を触媒(しょくばい)という。 触媒では、反応熱は変わらない。 この二酸化マンガンのように反応速度を上げるものを正触媒(せいしょくばい)という。また、反応速度を下げる触媒を負触媒(ふしょくばい)という。ふつう、「触媒」といったら、正触媒のことを指すことが多い。 正触媒で反応速度が増えるのは、一般に、触媒の表面では、触媒の吸着力により、もとの結合が弱められ、そのため、反応物の活性化錯体を作るエネルギーが減少し、したがって原子の組み換えをするためのエネルギーが減少したことから活性化エネルギーが減少するからである。 ヨウ化水素の場合、白金が触媒になる。白金があると、ヨウ化水素の反応での活性化エネルギーが小さくなる。また、活性化エネルギーが小さくなったため、反応も速くなる。触媒があっても、反応熱は変化しない。 一般に、(正触媒)触媒によって、活性化エネルギーが小さくなれば、反応速度は速くなる。一般に、触媒では、反応熱は変わらない。
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可逆反応において、順方向の反応と逆方向との反応速度がつりあって反応物と生成物の組成比がマクロ的に変化しなくなる状態を扱う分野である。 水素とヨウ素の混合気体を容器に入れ、一定温度に保っておくと、一部が反応してヨウ化水素を生じ、水素・ヨウ素・ヨウ化水素の混合気体になる。また、この容器にヨウ化水素だけを入れて同じ温度に保っておくと、一部が分解して水素とヨウ素が生じ、やはり水素・ヨウ素・ヨウ化水素の混合気体になる。 このように、「水素とヨウ素の化合」と「ヨウ化水素の分解」のように、ある反応に対してその逆の反応も起こるとき、一方を正反応、他方を逆反応といい、このどちらも進むような反応を可逆反応とよぶ。また、一方向にしか進まない反応を不可逆反応という。 可逆反応が平衡状態にあるとき、温度や圧力の条件を変化させると、正反応または逆反応のどちらかが進んで、新たな平衡状態になる。この現象を平衡移動という。 可逆反応が平衡状態にあるとき、濃度・温度・圧力といった条件を変化させると、条件の変化を和らげる向きに反応が進んで、平衡が移動する。これは、ルシャトリエの原理(平衡移動の原理)とよばれる。 条件変化を和らげる向きとは、条件変化の効果を打ち消す向きに反応が進むことを示している。つまり、圧力を上げれば、総気体分子数が少なくなる圧力が下がる向きに反応が進み、温度を上げれば吸熱する向きに反応が進むことになる。 例えば、 N 2 + 3 H 2 ↽ − − ⇀ 2 NH 3 {\displaystyle {\ce {N2 + 3H2 <=> 2NH3}}} Δ H = − 92.2 k J {\displaystyle \quad \Delta H=-92.2\,\mathrm {kJ} } について考える。 ここで、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の濃度を増加させると、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の増加をやわらげる方向、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} が減少する右へ平衡が移動する。 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の濃度を減少させると、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} の減少をやわらげる方向、 N 2 {\displaystyle {\ce {N2}}} が増加する左へ平衡が移動する。 圧力を大きくすると、圧力の増大をやわらげる、つまり、気体分子の数が減少する右に平衡が移動する。圧力を小さくすると、圧力の減少をやわらげる、つまり、気体分子の数が増加する左に平衡が移動する[1]。 温度を上げるると、温度の増加をやわらげる方向、つまり、吸熱反応の左に平衡が移動する。温度を下げると、温度の減少をやわらげる方向、つまり、発熱反応の右に平衡が移動する。 のような可逆反応が起こるとき、この反応系が化学平衡に達すると、化学平衡のときの各物質の濃度の間には、Kを定数として、次の関係が成り立つ。 この関係を化学平衡の法則といい、そのときの定数Kを平衡定数という。1つの反応系では、温度が決まれば平衡定数は一定値をとる。あるいは、上で定義された平衡定数の定義が、濃度の平衡によることから濃度平衡定数ともいい、その意味で表す際には、記号Kcを用いる。 上で定義された濃度平衡定数とは異なる平衡定数として、各々の反応物・生成物の分圧pをもとに定義する平衡定数がある。 平衡時の分圧を考えると、次のように圧平衡定数Kpが定義される。 濃度平衡定数と圧平衡定数には、反応式が a A + b B ↔ x C + y D {\displaystyle a{\mathrm {A} }+b{\mathrm {B} }\leftrightarrow x{\mathrm {C} }+y{\mathrm {D} }} で表わされる場合に、分圧がモル濃度と比例することから、次の関係式がある。 この関係式を導出する。理想気体の状態方程式の は、圧力Vを右辺に移動すれば、 と、圧力Pとモル濃度cの関係式となり、圧力と温度とが比例する。この p=cRT を状態方程式を、圧平衡定数の式に代入すれば、 以上の計算例は、2個の反応物から2個の生成物が生じる反応式の場合だったが、他の反応式でも同様に、圧平衡定数と濃度平衡定数の関係式がある。 酢酸を水に溶かすと、次のように電離し平衡状態になる[2]。 CH 3 COOH ↽ − − ⇀ CH 3 COO − + H + {\displaystyle {\ce {CH3COOH <=> CH3COO- + H+}}} このような化学平衡を電離平衡という。 酢酸の電離平衡についても、化学平衡の法則を当てはめると、 [ C H 3 C O O − ] [ H + ] [ C H 3 C O O H ] = K a {\displaystyle {\frac {[\mathrm {CH_{3}COO^{-}} ][\mathrm {H^{+}} ]}{[\mathrm {CH_{3}COOH} ]}}=K_{a}} となる。この平衡係数を電離定数という。 弱塩基についても同様に考える。 アンモニアの電離では、 NH 3 + H 2 O ↽ − − ⇀ NH 4 + + OH − {\displaystyle {\ce {NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-}}} より、 [ N H 4 + ] [ O H − ] [ N H 3 ] [ H 2 O ] = K {\displaystyle {\frac {[\mathrm {{NH_{4}}^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]}{[\mathrm {NH_{3}} ][\mathrm {H_{2}O} ]}}=K} ここで、 [ H 2 O ] {\displaystyle [\mathrm {H_{2}O} ]} はほぼ一定と考えて、電離定数 K b {\displaystyle K_{b}} を K b = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{b}=K[\mathrm {H_{2}O} ]} として、 [ N H 4 + ] [ O H − ] [ N H 3 ] = K b {\displaystyle {\frac {[\mathrm {{NH_{4}}^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]}{[\mathrm {NH_{3}} ]}}=K_{b}} である。 濃度c[mol/L]の弱酸HAの水溶液では、電離度をαとすると、[H+]と[A-]はcα[mol/L]となる。 従って、電離定数Kaは、次のように表される。 ここで、電離度 α {\displaystyle \alpha } が1より十分に小さい場合、 1 − α ≈ 1 {\displaystyle 1-\alpha \approx 1} と近似して、 K a = c α 2 1 − α ≈ c α 2 {\displaystyle K_{a}={\frac {c\alpha ^{2}}{1-\alpha }}\approx c\alpha ^{2}} である。これより、 α = K a c {\displaystyle \alpha ={\sqrt {\frac {K_{a}}{c}}}} を得る。 (無限等比級数を知っている場合、この近似は次のように理解することが出来る。 0 ≤ α < 1 {\displaystyle 0\leq \alpha <1} のとき、無限等比級数の和より、 1 + α + α 2 + α 3 + ⋯ = 1 1 − α {\displaystyle 1+\alpha +\alpha ^{2}+\alpha ^{3}+\cdots ={\frac {1}{1-\alpha }}} である。つまり、 c α 2 1 − α = c α 2 ( 1 + α + α 2 + ⋯ ) = c α 2 + c α 3 + c α 4 + ⋯ ≈ c α 2 . {\displaystyle {\frac {c\alpha ^{2}}{1-\alpha }}=c\alpha ^{2}(1+\alpha +\alpha ^{2}+\cdots)=c\alpha ^{2}+c\alpha ^{3}+c\alpha ^{4}+\cdots \approx c\alpha ^{2}.} ) この水溶液の水素イオン濃度は [ H + ] = c α = c K a {\displaystyle [\mathrm {H^{+}} ]=c\alpha ={\sqrt {cK_{a}}}} である。 次に、電離度 α {\displaystyle \alpha } が1より十分に小さくない場合は、 1 − α ≈ 1 {\displaystyle 1-\alpha \approx 1} と近似することはできない。 K a = c α 2 1 − α {\displaystyle K_{a}={\frac {c\alpha ^{2}}{1-\alpha }}} より、 二次方程式 c α 2 + K a α − K a = 0 {\displaystyle c\alpha ^{2}+K_{a}\alpha -K_{a}=0} を α {\displaystyle \alpha } について解いて、 α = − K a + K a 2 + 4 c K a 2 c {\displaystyle \alpha ={\frac {-K_{a}+{\sqrt {K_{a}^{2}+4cK_{a}}}}{2c}}} である。 水素イオン濃度は [ H + ] = c α = − K a + K a 2 + 4 c K a 2 {\displaystyle [\mathrm {H^{+}} ]=c\alpha ={\frac {-K_{a}+{\sqrt {K_{a}^{2}+4cK_{a}}}}{2}}} である。 電離度がだいたい α < 0.05 {\displaystyle \alpha <0.05} の場合、 1 − α ≈ 1 {\displaystyle 1-\alpha \approx 1} の近似を行うことが出来るが。 α ≥ 0.05 {\displaystyle \alpha \geq 0.05} のときは近似は行わない。 水はわずかに電離して、電離平衡の状態になっている。 水はわずかにしか電離しないので、濃度[H2O]の値はほぼ一定とみなせる。そこで、 K w = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K\mathrm {[H_{2}O]} } とすると、 K w = K [ H 2 O ] = [ H + ] [ O H − ] {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K\mathrm {[H_{2}O]=[H^{+}][OH^{-}]} } これより、[H+]と[OH-]の積の値も温度一定のときに一定値となる。この K w {\displaystyle K_{\mathrm {w} }} を水のイオン積という。 25℃におけるKwの値は このイオン積の値は酸や塩基中など常に成り立つ。 また、温度がかわると水のイオン積の値は変化する。 水のイオン積と常温付近の温度の関係は、下記のとおり。 また、水の電離は吸熱反応であり(※ 上の表と関連づけて覚えよう。)、熱化学方程式は である。 水素イオン指数 pH は p H = − log 10 ⁡ [ H + ] {\displaystyle \mathrm {pH} =-\log _{10}[\mathrm {H^{+}} ]} で定義されるものであった。 水酸化イオンについても、 p O H = − log 10 ⁡ [ O H − ] {\displaystyle \mathrm {pOH} =-\log _{10}[\mathrm {OH^{-}} ]} を定義する。(「ピー オーエイチ」と読む) pHとpOHについて、イオン積から次の公式が成り立つ。 [ H + ] [ O H − ] = 1.0 × 10 − 14 {\displaystyle [\mathrm {H^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]=1.0\times 10^{-14}} より両辺の対数をとって、 log 10 ⁡ [ H + ] + log 10 ⁡ [ O H − ] = − 14 {\displaystyle \log _{10}[\mathrm {H^{+}} ]+\log _{10}[\mathrm {OH^{-}} ]=-14} から p H + p O H = 14 {\displaystyle \mathrm {pH} +\mathrm {pOH} =14} あるいは 弱酸と強塩基の塩、または弱塩基と強酸の塩は水に溶けると、ほとんど完全に電離し次のように加水分解する。 弱酸と強塩基の塩(酢酸ナトリウムの場合) CH 3 COONa ⟶ CH 3 COO − + Na + {\displaystyle {\ce {CH3COONa -> CH3COO^- + Na^+}}} CH 3 COO − + H 2 O ↽ − − ⇀ CH 3 COOH + OH − {\displaystyle {\ce {CH3COO^- + H2O <=> CH3COOH + OH^-}}} 弱塩基と強酸の塩(塩化アンモニウムの場合) NH 4 Cl ⟶ NH 4 + + Cl − {\displaystyle {\ce {NH4Cl -> NH4^+ + Cl^-}}} NH 4 + + H 2 O ↽ − − ⇀ NH 3 + H 3 O + {\displaystyle {\ce {NH4^+ + H2O <=> NH3 + H3O^+}}} ここで、酢酸イオンの加水分解の平衡定数 K {\displaystyle K} は K = [ C H 3 C O O H ] [ O H − ] [ C H 3 C O O − ] [ H 2 O ] {\displaystyle K={\frac {\mathrm {[CH_{3}COOH]} \mathrm {[OH^{-}]} }{\mathrm {[CH_{3}COO^{-}]} \mathrm {[H_{2}O]} }}} である。 [ H 2 O ] {\displaystyle {\ce {\mathrm {[H_{2}O]} }}} は一定と考え、 K h = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }=K\mathrm {[H_{2}O]} } と置くと K h = [ C H 3 C O O H ] [ O H − ] [ C H 3 C O O − ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[CH_{3}COOH]} \mathrm {[OH^{-}]} }{\mathrm {[CH_{3}COO^{-}]} }}} が成り立つ。この K h {\displaystyle K_{\mathrm {h} }} を加水分解定数という。 アンモニウムイオンについても同様に考える。平衡定数 K {\displaystyle K} は K = [ N H 3 ] [ H 3 O + ] [ N H 4 + ] [ H 2 O ] {\displaystyle K={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H_{3}O^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} \mathrm {[H_{2}O]} }}} 加水分解定数 K h = K [ H 2 O ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }=K\mathrm {[H_{2}O]} } を定義すると K h = [ N H 3 ] [ H 3 O + ] [ N H 4 + ] = [ N H 3 ] [ H + ] [ N H 4 + ] {\displaystyle K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H_{3}O^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} }}={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} }}} 加水分解定数 K h {\displaystyle {\ce {K_{\mathrm {h} }}}} と、弱酸または弱塩基の電離定数 K a {\displaystyle K_{\mathrm {a} }} または K b {\displaystyle K_{\mathrm {b} }} について K w = K a K h {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K_{\mathrm {a} }K_{\mathrm {h} }} K w = K b K h {\displaystyle K_{\mathrm {w} }=K_{\mathrm {b} }K_{\mathrm {h} }} が成り立つ。 実際、酢酸ナトリウムの場合、 K a = [ C H 3 C O O − ] [ H + ] [ C H 3 C O O H ] , K h = [ C H 3 C O O H ] [ O H − ] [ C H 3 C O O − ] {\displaystyle K_{\mathrm {a} }={\frac {[\mathrm {CH_{3}COO^{-}} ][\mathrm {H^{+}} ]}{[\mathrm {CH_{3}COOH} ]}},\quad K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[CH_{3}COOH]} \mathrm {[OH^{-}]} }{\mathrm {[CH_{3}COO^{-}]} }}} より K a K h = [ H + ] [ O H − ] = K w {\displaystyle K_{\mathrm {a} }K_{\mathrm {h} }=\mathrm {[H^{+}]} \mathrm {[OH^{-}]} =K_{\mathrm {w} }} また、塩化アンモニウムの場合、 K b = [ N H 4 + ] [ O H − ] [ N H 3 ] , K h = [ N H 3 ] [ H + ] [ N H 4 + ] {\displaystyle K_{\mathrm {b} }={\frac {[\mathrm {{NH_{4}}^{+}} ][\mathrm {OH^{-}} ]}{[\mathrm {NH_{3}} ]}},\quad K_{\mathrm {h} }={\frac {\mathrm {[NH_{3}]} \mathrm {[H^{+}]} }{\mathrm {[NH_{4}^{+}]} }}} より K b K h = [ H + ] [ O H − ] = K w {\displaystyle K_{\mathrm {b} }K_{\mathrm {h} }=\mathrm {[H^{+}]} \mathrm {[OH^{-}]} =K_{\mathrm {w} }} である。 弱酸と強塩基の塩を水に溶かすと、塩は完全に電離し、一部が加水分解し水酸化物イオンが生じるため液性は塩基性を示す。 弱酸と強塩基の塩(酢酸ナトリウムの場合) CH 3 COONa ⟶ CH 3 COO − + Na + {\displaystyle {\ce {CH3COONa -> CH3COO^- + Na^+}}} CH 3 COO − + H 2 O ↽ − − ⇀ CH 3 COOH + OH − {\displaystyle {\ce {CH3COO^- + H2O <=> CH3COOH + OH^-}}} 同様に、弱塩基と強酸の塩の水溶液は酸性を示す。 弱塩基と強酸の塩(塩化アンモニウムの場合) NH 4 Cl ⟶ NH 4 + + Cl − {\displaystyle {\ce {NH4Cl -> NH4^+ + Cl^-}}} NH 4 + + H 2 O ↽ − − ⇀ NH 3 + H 3 O + {\displaystyle {\ce {NH4^+ + H2O <=> NH3 + H3O^+}}} ここで、弱塩基と強酸の塩である c [ m o l / L ] {\displaystyle c\mathrm {[mol/L]} } 塩化アンモニウム水溶液の水素イオン濃度を求める。 塩化アンモニウムは完全に電離するため、電離後のアンモニウムイオンの濃度は c [ m o l / L ] {\displaystyle c\mathrm {[mol/L]} } である。 NH 4 Cl ⟶ NH 4 + + Cl − {\displaystyle {\ce {NH4Cl -> NH4^+ + Cl^-}}} 電離したアンモニウムイオンの内、加水分解するアンモニウムイオンの物質量の割合 β = {\displaystyle \beta =} 加水分解した NH 4 + {\displaystyle {\ce {NH4^+}}} /電離した NH 4 + {\displaystyle {\ce {NH4^+}}} を定義し、 β {\displaystyle \beta } を加水分解度呼ぶ。 アンモニウムイオンの加水分解の量的関係は次の表のとおりである。 加水分解度 β {\displaystyle \beta } が1より十分に小さい場合 より、 β = K h c {\displaystyle \beta ={\sqrt {\frac {K_{\mathrm {h} }}{c}}}} である。 水素イオン濃度は [ H + ] = c β = c K h = c K w K b {\displaystyle \mathrm {[H^{+}]} =c\beta ={\sqrt {cK_{\mathrm {h} }}}={\sqrt {c{\frac {K_{\mathrm {w} }}{K_{\mathrm {b} }}}}}} である。( K b {\displaystyle K_{\mathrm {b} }} はアンモニアの電離定数、 K w {\displaystyle K_{\mathrm {w} }} は水のイオン積) 演習問題 c [ m o l / L ] {\displaystyle c\mathrm {[mol/L]} } 酢酸ナトリウム水溶液のpHを、酢酸の電離定数 K a {\displaystyle K_{\mathrm {a} }} 、水のイオン積 K w {\displaystyle K_{\mathrm {w} }} で表せ。 少量の酸や塩基を加えたり、薄めたりしてもpHがほとんど変化しない溶液を、緩衝液あるいは緩衝溶液という。弱酸とその塩、または弱塩基とその塩の混合水溶液などが緩衝液として使われる。また、このようにpHを一定に保つような作用を緩衝作用という。 代表的な緩衝液として、酢酸 CH3COOH と酢酸ナトリウム CH3COONa との混合水溶液を考えてみよう。この溶液中の酢酸ナトリウムは、電離してCH3COO-とNa+とを生じる。一方、酢酸も電離するが、酢酸ナトリウムの電離により生じるCH3COO-の影響で、ルシャトリエの原理により、電離平衡は大きく酢酸の側に偏る。従って、実際には酢酸はほとんど電離せず、酢酸分子として水中に存在している。 まず、この混合溶液に酸を加えると、生じたH+は酢酸イオンと反応して、酢酸を生じる。これにより、[H+] はほとんど増加しない。また、この混合溶液に塩基を加えると、生じたOH-は酢酸分子と反応して中和される。従って、[OH-] もほとんど増加しない。 例えば、塩化ナトリウムを水に加えていくと、やがて溶けきれなくなり、飽和溶液になる。このような状態を溶解平衡といい、 N a C l ↔ N a + + C l − {\displaystyle \mathrm {NaCl\leftrightarrow Na^{+}+Cl^{-}} } の電離平衡が成立する。ここで、この飽和溶液に濃塩酸を加えると、新たに塩化ナトリウムが沈殿してくる。これは、濃塩酸を加えることにより[Cl-] が増加し、ルシャトリエの原理により上式の平衡が左に移動するからである。濃塩酸の代わりに塩化水素ガスを吹き込んでも同様の結果が得られる。 このように、ある電解質の飽和溶液に、その電解質を構成するイオンと同じ種類のイオン(共通イオン)を生じる別の電解質を加えることで、もとの電解質の溶解度が減少して沈殿を生じる現象を、共通イオン効果という。 塩化銀AgClのような難溶性の塩でも、水に加えれば、わずかながら電離をする。 この難溶性の塩の場合も、以下のように平衡定数が定義できる。 [AgCl]の濃度の値は、一定値と見なせるから、これを右辺に移項して、 として、式が得られる。この式の、 を塩化銀の溶解度積(solubility product)といい、記号KSPで表す。 平衡定数Kが温度のみの関数であり、[AgCl]は一定と見なせることから、溶解度積KSPもまた温度のみの関数で濃度に無関係である。 塩化銀以外の他の難溶性の塩に対しても、同様に溶解度積が定義できる。一般の塩 A m B n {\displaystyle {\ce {A_{m}B_{n}}}} に対しては、溶解度積の定義KSPは、反応式が次の式の場合、 A m B n ⇌ m A n + + n B m − {\displaystyle \mathrm {A} _{m}\mathrm {B} _{n}\rightleftharpoons m\mathrm {A^{n+}} +n\mathrm {B^{m-}} } 化学平衡の法則より [ A n + ] m [ B m − ] n [ A m B n ] = K {\displaystyle {\frac {[\mathrm {A^{n+}} ]^{m}[\mathrm {B^{m-}} ]^{n}}{[\mathrm {A} _{m}\mathrm {B} _{n}]}}=K} 溶解度積 KSP は、 で定義される。 塩化銀の水溶液に、塩化ナトリウムNaClを加えると、塩化ナトリウムは容易に電離することから、溶液中の塩素イオン濃度 [Cl]- が増える。すると、平衡定数を一定に保つには、 銀イオン濃度 [Ag]+ を減らさなければならなくなる。従って、塩化銀の電離が減少し、塩化銀銀の沈殿が生じる。これは共通イオン効果の一種である。 塩化ナトリウムの代わりに、塩酸HClや塩化カリウムKClなどを加えても塩化銀の沈殿現象は起こる。 この場合、銀イオンと塩素イオンのイオン積[Ag]+ [Cl]-が溶解度積 KSP よりも大きくなると沈殿を生じる。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6II/%E5%8C%96%E5%AD%A6%E5%B9%B3%E8%A1%A1
ベンゼンの1置換体(たとえばトルエンなど)に、さらに置換反応を行わせた場合、2つめの置換基の位置は、すでに結合している置換基によって決まる。 トルエンをニトロ化させた場合、オルトーパラ配向性である。 よって、o-ニトロトルエンまたはp-ニトロトルエンが出来る。 このような実験事実にもとづき、「CH3はオルトパラ配向性である」という。 このように、もとから存在した側の置換基が配向性の基準になる。 なので、もとから存在した側の置換基を配向性の基準にする。 ニトロベンゼンのニトロ化物をつくる反応の結果は、通常の反応では、メタの位置に結合した生成物である m-ジニトロベンゼン がほとんどである。このことから、(ベンゼンにもとからついていた最初のニトロ基のほうの)ニトロ基を「メタ配向性である」のように言う。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6II/%E6%9C%89%E6%A9%9F%E5%8C%96%E5%AD%A6
多数のヒドロキシ基を持つ、分子式 C m ( H 2 O ) n {\displaystyle {\ce {C_{m}(H2O){}_{n}}}} で表される化合物を糖類(saccharides)または炭水化物(carbohydrate)という。 それ以上加水分解しない最小の糖類を単糖という。単糖2分子が脱水縮合した糖類を二糖(disaccharide)、単糖2~10分子程度が脱水縮合した糖類をオリゴ糖、多数の単糖が脱水縮合した糖類を多糖(polysaccharide)という。 水溶液中で鎖式構造がホルミル基をもつ糖をアルドース(aldose)、ケトン基をもつ糖をケトースという。 主な単糖として、グルコース、フルクトース、ガラクトース。 主な二糖として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース。 主な多糖として、デンプン、セルロースが挙げられる。 糖類の立体配置を表すためにハース投影式とフィッシャー投影式を用いる。まずはこれについて学ぼう。 ハース投影式では、上方向に出ている結合は環から上向きに、下方向に出ている結合は環から下向きに出る。 フィッシャー投影式では、十字の中心は不斉炭素原子とし、左右の結合は紙面(画面)の手前に、上下の結合は紙面(画面)の奥に出る。 グルコース glucose(ブドウ糖) C 6 H 12 O 6 {\displaystyle {\ce {C6H12O6}}} は、デンプンを加水分解することによって得られる。 グルコースは甘味をもち、また、水によく溶ける。水溶液中のグルコースは、一部のグルコースの環構造が開き鎖式構造に変わる。ホルミル基を持ち、還元性を示す。従って、銀鏡反応やフェーリング反応を示す。 グルコースはアルドースである。 グルコースは水溶液中でαグルコースと鎖式グルコースとβグルコースの3種類の構造がある。 αグルコースを水に溶かすと、上記のように一部が鎖式グルコースになり、さらにその一部が鎖式構造を経てβグルコースになる。最終的に3種類のグルコースのα形、鎖式、β型の混じりあった平衡状態になる。 フルクトースfructose(果糖, fruit sugar ) C 6 H 12 O 6 {\displaystyle {\ce {C6H12O6}}} は水溶液中で、一部が鎖式フルクトースを経て、五員環フルクトース、六員環フルクトースになる。五員環フルクトースと六員環フルクトースにはα型とβ型が存在するため、フルクトースは水溶液中では5種類の構造が存在する。 フルクトースはケトースである。 鎖状構造のフルクトースにはホルミル基は無いが、一部が異性化し、ホルミル基を持つので還元性を示す。 フルクトースは、天然に存在する糖類の中で最も甘く、果実などに含まれることが多い。 アルコール発酵 グルコースやフルクトースなどの6炭糖は酵素群チマーゼによってアルコール発酵を起こす。 C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2 ガラクトースはグルコースの4位の不斉炭素原子の立体配置が異なる単糖である。寒天の成分であるガラクタンを加水分解すると、ガラクトースが得られる。ヘミアセタール構造が存在するので、水溶液は還元性をしめす。 二糖類を構成する単糖類の縮合したエーテル結合をグリコシド結合という。 主な二糖類には、スクロース、マルトース、セロビオース、ラクトースがある。 有機化合物中の、ある一つのC原子に対して、そのC原子にヒドロキシル基 -OH とエーテル結合 -O- が隣り合ってる構造を、ヘミアセタール構造という。グルコースで、ヘミアセタール構造をもつのは、一箇所だけである。水溶液中のグルコースでは、このヘミアセタール構造が変形してアルデヒドを形成している。 このヘミアセタール構造の有無を、糖類の構造式を見て調べることで、糖類の水溶液中の還元性を予測できる。まず、構造式中のエーテル結合-O- を持つ部分を探してそのOに隣り合ったC原子が-OH を持つかどうかでヘミアセタール構造の有無を判別する。 スクロース(sucrose)は、αグルコースとβフルクトースがα-1,2-グリコシド結合した構造をもつ。 スクロースの水溶液は還元性を示さない。これは、グルコースとフルクトースの還元性をしめすヘミアセタール構造の部分で縮合が行われていることによる。 砂糖の主成分であり、サトウキビやテンサイに含まれる。 希酸または酵素インペルターゼでスクロースを加水分解すると、グルコースとフルクトースの等量混合物になる。 C12H22O11 (スクロース) + H2O → C6H12O6(グルコース) + C6H12O6 (フルクトース) グルコースとフルクトースの等量混合物を転化糖(invert sugar)という。スクロースを加水分解すると転化糖が得られる。 (麦芽糖) αグルコース2分子が縮合した構造。 還元性を示す。 希酸または酵素マルターゼで加水分解される。 デンプンを酵素アミラーゼで加水分解するとマルトースが生じる。 セロビオースはβ-グルコース2分子がβ-1,4-グリコシド結合した二糖である。 セルロースにセルラーゼを作用させると加水分解しセロビオースが生じる。 (乳糖) ラクトース(lactose)は、ガラクトースとαグルコースが縮合した構造。 ラクトースの水溶液は還元性を示す。 酵素ラクターゼによってラクトースは加水分解され、ガラクトースとグルコースになる。 牛乳など、哺乳類の乳汁にラクトースは含まれる。 トレハロースの構造は、αグルコースが2分子からなり、αグルコースの1位の還元基どうしが結合した構造となっている。このことからもわかるように、トレハロースの水溶液は還元性を示さない。 自然界では、昆虫の体液、キノコやカビ、海藻などに含まれる。 デンプン(starch)は、植物が光合成によって体内につくる多糖類である。二糖類とちがい、デンプンは甘味をしめさない。また、デンプンは、還元性を示さない。 デンプンは、多数のαグルコースが脱水縮合して出来た構造をもつ多糖類の高分子化合物である。 (C6H10O5)n の構造を持つ。nは数百から数十万である。 デンプンは冷水には溶けにくいが、約80℃の熱水には溶けてコロイド状のデンプンのりになる。 酵素アミラーゼによって、デンプンは加水分解される。このアミラーゼによるデンプンの加水分解の結果、デンプンの重合数が少なくなったデキストリン(C6H10O5)n を生じる。そしてデキストリンは、さらに二糖類のマルトースに分解される。 マルトースに対しては、酵素マルターゼによって、グルコースになる。 デンプンからグルコースまでの順序を化学式にまとめれば、 (C6H10O5)n デンプン→ (C6H10O5)m デキストリン → C12H22O11 マルトース→ C6H12O6 グルコース である。(デンプンとデキストリンの重合数について、n>mとした。) デンプンには還元性は無い。したがってデンプンは、フェーリング液を還元しない。 ヨウ化カリウム水溶液KIにより、デンプンは青紫色に呈色する。加熱すると、無色になる。この反応をヨウ素デンプン反応(iodine-starch reaction)という。 デンプンは水溶液中では、分子内の水素結合により、らせん構造をとる。このらせん構造の中にヨウ素が入りこむことで、呈色する。 加熱で無色になっても、冷却すると、再び、もとの青紫色の呈色を示すようになる。 デンプンの種類のうち、αグルコースが直鎖状に結合したものをアミロース(amylose)と言う。αグルコースが、ところどころ枝分かれした構造のデンプンをアミロペクチン(amylopectin)という。枝分かれの割合はαグルコース数十個につき、一個の枝分かれの程度である。 もち米のデンプンは、アミロペクチンが100%である。ふつうの植物のデンプンには、アミロースが20%程度でアミロペクチンが80%程度ほど含まれている。 グルコースの1位と4位が結合して重合した構造になっている。 ヨウ素デンプン反応では、アミロースは青色。多くのヒドロキシル基を持ち、極性を持つ部分が多いため、熱湯には、比較的、溶けやすい。冷水には溶けにくい。 グルコースの1位と4位が結合して重合したほかに、1位と6位が結合した重合構造になっている。 1位と6位の結合のため、構造に枝分かれ上の分岐が起こる。 ヨウ素デンプン反応では、アミロペクチンは赤紫色。アミロースとの色の違いは、直鎖状の長さの違いによって、ヨウ素との結合力に違いが生じたからある。ヨウ素と反応することから分かるように、アミロペクチンもらせん構造を取る。枝分かれをするものの、分かれた枝の先がそれぞれらせん構造をとる。 熱湯には、溶けにくい。冷水にも溶けにくい。 グリコーゲン(glycogen)は、動物の肝臓に多い多糖類で、その構造はアミロペクチンと似ているが、アミロペクチンよりも枝分かれが多い。分岐の頻度は、おおむね8~12基に一回の程度の分岐である。枝分かれが多いため放射したような網目構造をとり、らせん構造をとらない。このため、極性をもった部分が外側に出やすく、水溶性が高い。 ヨウ素デンプン反応では、グリコーゲンは赤褐色を示す。 セルロース(cellulose)[C6H7O2(OH)3]n は植物の細胞壁の主成分である。木綿、パルプ、ろ紙は、ほぼ純粋なセルロースである。セルロースの構造は、多数のβグルコースが、直線状に縮合した構造である。セルロースの構造では、各グルコースの向きが交互に表・裏・表・裏を繰り返すので、セルロース全体で見れば直線状になっている。 シュバイツアー試薬とは、水酸化銅Cu(OH)2を濃アンモニア水に溶かしたものである。水溶液中でイオンが、テトラ アンミン イオン [Cu(NH3)4]2+ になる。 セルロースの示性式は、[C6H7O2(OH)3]n である。グルコース1単位あたり3個のヒドロキシル基OHを持つ。したがって、酸と反応させるとエステルを作りやすく、酢酸や硝酸とエステルをつくる。 セルロースは、酸をくわえて長時間加熱すると、最終的にグルコースになる。 このほか、酵素セルラーゼによって、セルロースは分解される。 工業上は硝酸とのセルロースのエステルである「ニトロセルロース」(後述する。)が、特に重要である。 セルロース[C6H7O2(OH)3]nに、濃硝酸および濃硫酸の混合溶液(混酸)を作用させると、セルロースのOH基の一部または全部がエステル化される。セルロース中のグルコース1単位あたり、3個のOH基の一部または3個全部が硝酸エステル化されたものをニトロセルロース(nitrocellulose)という。特にセルロース中のグルコース1単位のうち、3個のOH基すべてが硝酸エステル化されたもの [C6H7O2(ONO2)3]n をトリニトロセルロースという。 [C6H7O2(OH)3]n + 3n HONO2 → [C6H7O2(ONO2)3]n + 3n H2O このトリニトロセルロースは火薬の原料である。 セルロース中の2個のOH基がエステル化したものはジニトロセルロースという。このジニトロセルロースは、有機溶媒に溶ける。 このジニトロセルロースを、エタノールとエーテルの混合液に溶かしたものをコロジオンという。混合液には水分などを含まないので「水溶液」では無いことに注意。 コロジオンの溶液を蒸発させると、薄い膜が残る。これは半透膜の材料に使われる。コロジオンから得られた半透膜のことをコロジオン膜ともいう。 ニトロセルロースをエタノールに溶かし、ショウノウを加えて得られる樹脂をセルロイドという。 セルロースを無水酢酸、氷酢酸および少量の濃硫酸との混合物を反応させる。すると、分子中のOH基中のHがCOOH基で置換されるアセチル化が起きて、トリアセチルセルロースが生成する。 [C6H7O2(OH)3]n + 3n (CH3CO)2 O → [C6H7O2(OCOCH3)3]n + 3n CH3COOH トリアセチルセルロースはヒドロキシル基OHを持たないため、通常の溶媒(メタノール等)には溶解しづらい。しかし、トリアセチルセルロースは常温の水または温水で、エステル結合の一部が加水分解してジアセチルセルロース [C6H7O2(OH)(OCOCH3)2]n になる。このジアセチルセルロースはヒドロキシル基をもつので、アセトン溶媒に溶解するようになる。このジアセチルセルロースの溶けたアセトン溶液を細孔から押し出してアセトンを蒸発・乾燥させて、紡糸したものをアセテート繊維という、あるいは単にアセテートという。 語「アセテート」の意味は、「酢酸エステルの」という意味である。 アセテート繊維のように、天然繊維を化学的に処理してから紡糸した繊維を半合成繊維(semisynthetic fiber)という。 天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを再生繊維(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨン(rayon)と呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。 水酸化銅(II)であるCu(OH)2を濃アンモニア溶液に溶かした溶液をシュバイツアー試薬という。このシュバイツアー試薬溶液にセルロース(具体的には脱脂綿など)を溶かすと、粘度のある液体が得られる。この粘い液体を細孔から希硫酸の中にゆっくり押し出すと、セルロースが再生する。こうして得られた繊維を銅アンモニアレーヨンまたはキュプラといい、光沢があり、滑らかであり、柔らかいので、衣服の裏地に利用される。 セルロース(具体的には脱脂綿など)を濃い水酸化ナトリウム溶液に浸す処理をしてアルカリセルロース(化学式は[C6H7O2(OH)2ONa]nである。)にしてから、紙などで挟んでから絞って水気を切って、つぎに二硫化炭素CS2と反応をさせると、セルロースキサントゲン酸ナトリウム(式は[C6H7O2(OH)2OCSSNa]nである。)という物質になる。これを水酸化ナトリウム水溶液に溶かすと、赤褐色のコロイド溶液が得られる。こうして、セルロースから得られた赤褐色のコロイド溶液をビスコース(viscose)という。このビスコースを、細孔から希硫酸の中に押し出して、セルロースを再生させて紡糸したものが、ビスコースレーヨン(viscose rayon)という繊維である。 そして、ビスコースを細孔からではなく、細長いすきまから膜上に押し出したものをセロハン(cellophane)といい、テープや包装材に利用される。 レーヨンのように、天然繊維を一度化学的に処理して溶液にした後、糸として、元の化学式を再生させた繊維を再生繊維という。 なお、アセテート繊維は化学式が変わっているので再生繊維でない。アセテート繊維は化学式が元のセルロースから変わっている繊維で、また人工物だけから得られた合成繊維でもないので、アセテート繊維などは半合成繊維という。 分子中にアミノ基( -NH2 )とカルボキシル基( -COOH )をもつ化合物をアミノ酸(amino acid)という。アミノ酸のうち、同一の炭素C原子に、-NH2と-COOHが結合しているアミノ酸をαアミノ酸という。 アミノ酸の一般式は で表される。(Rは炭化水素基あるいは水素など。) なお、R-の部分をアミノ酸の側鎖(そくさ)という。Rの違いによって、アミノ酸の種類が決まる。 グリシン以外のすべてのアミノ酸には光学異性体(optical isomer)が存在する(鏡像異性体 enantiomer ともいう)。 天然のアミノ酸のほとんどは、L型の配置である。D型の配置のアミノ酸は、天然にはほとんどない。 アミノ酸のカルボキシ基-COOH は、アルコール(CH3OH など)と反応しエステル化をしてエステルをつくる。また、アミノ酸のアミノ基-NH3は無水酢酸( (CH3CO)2O )と反応させるとアセチル化してアミドをつくる。 結晶中のアミノ酸分子中では、分子内で( -COOH )が水素Hを( -NH2 )に渡して、アミノ酸内にイオンの( -COO- )と( -NH3+ )を生じる。その結果、アミノ酸の構造は、 R-CH(NH3+)-COO- の構造になる。このように分子内に酸性と塩基性の両方のイオンを生じるので、双性イオン(zwitterion)とよばれる。 このようにイオンがあるため、アミノ酸は水に溶けやすく、また、有機溶媒には溶けにくい。双性イオンの陽イオンと陰イオンどうしがクーロン力で引き合うため、アミノ酸はイオン結晶に近い結晶構造を取り、また、ほかの有機化合物と比べるとアミノ酸は比較的に融点や沸点が高い。 アミノ酸の水溶液に外部から酸をくわえると、平衡がかたむき、-COO-がH+を受け取り -COOHになるので、アミノ酸分子中で-NH3+が余るので、酸性が強い溶液中ではアミノ酸は陽イオンになる。 いっぽう、アミノ酸の水溶液に外部から塩基をくわえると、平衡がかたむき、-NH3+がOH-にH+を放出することによって-NH2と変わることによって、-COO-が余るので、アミノ酸は陰イオンになる。 水溶液中でアミノ酸の陽イオンと陰イオンの個数が等しいときのpHを等電点(isoelectric point)という。 アミノ酸の水溶液を染み込ませた紙に、2本の電極で電圧を加え電気泳動をおこなうと、等電点よりpHが小さい水溶液中では、アミノ酸は陽イオンになっているため、陰極側に移動する。いっぽう、等電点よりpHが大きい水溶液では、アミノ酸は陰イオンとなり、陽極側に移動する。 そして、pHが等電点と同じくらいの水溶液中だと、アミノ酸は陽極にも陰極にも移動しないので、このときの水溶液のpHを測定することにより、等電点を測定できる。 アミノ酸の等電点は、グリシンでは pH6.0 、酸性アミノ酸のグルタミン酸ではpH3.2、塩基性アミノ酸のリシンでは9.7である。 水溶液が中性付近では、ふつうは双対イオン状態のアミノ酸が最も多く、陰イオン状態のアミノ酸や陽イオン状態のアミノ酸は少ししか存在しない。 アミノ酸水溶液に薄いニンヒドリン水溶液を加えて温めると、アミノ基 -NH2 と反応して、色が青紫~赤紫になる。この反応をニンヒドリン反応(ninhydrin reaction)といい、アミノ酸の検出などの目的に用いられる。この反応は、アミノ酸の検出やタンパク質の検出に利用される。なお。タンパク質も、構造の端部などにアミノ酸をふくむため、少しながらニンヒドリン反応をするので、色が青紫〜赤紫になる。 フェニルアラニンやリシン、メチオニンは必須アミノ酸の例である。 必須アミノ酸は、ヒトの体内で合成されないバリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシンの8種類に、合成されにくいヒスチジンを加えた9種類である。幼児では、さらにアルギニンを加える場合もある。 グルタミン酸は、昆布のうま味の成分である。グルタミン酸には光学異性体があり、L型のグルタミン酸のみが うま味 を示す。一方でD型はうま味を示さず、若干の苦味を伴う 2個のアミノ酸分子が結合し、いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基と、もう一方のアミノ酸のアミノ基が縮合して、脱水縮合して結合をペプチド結合(peptide bond)という。それぞれのアミノ酸は同一種でなくても良い。また、ペプチド結合によって生成する化合物をペプチド(peptide)という。 ペプチドのうち、2分子のアミノ酸がペプチド結合したものをジペプチド(dipeptide)という。3分子のアミノ酸がペプチド結合したものをトリペプチド(tripeptide)という。多数のアミノ酸が縮合重合したものをポリペプチド(polypeptide)という。 ジペプチドには、ペプチド結合が1つ存在する。トリペプチドには、ペプチド結合が2つ存在する。 タンパク質は、ポリペプチドである。 ペプチド化合物で縮合に使われなかったアミノ基が末端に残るが、このペプチド化合物の縮合に使われなかった末端のアミノ基をN末端という。同様に、カルボキシル基も末端に残るが、これをC末端という。ペプチドの構造式を書くときは、N末端を左側に、C末端を右に配置して書くのが慣行である。 ジペプチドには、構造異性体が存在する。たとえば、グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなるジペプチドについて、グリシンのCOOH基とアラニンのNH2基が結合したものを、グリシルアラニン(Gly-Ala) という。また、グリシンのNH2基とアラニンのCOOH基が結合したものを、アラニルグリシン(Ala-Gly )という。 グリシルアラシンもアラニルグリシンも、原子数は同じであるが、構造は異なる。 なお、ペプチドの名称は、このグリシルアラニンの例のように、N末端を持つグリシンが名称の先に来て、C末端をもつアラニンがあとに来る。 トリペプチドやポリペプチドの表記でも同様に、N末端からC末端のアミノ酸の名称で表記する。 トリペプチドでも、ジペプチドと同様に構造異性体が存在する。 なお、グルタミン酸は、カルボキシル基を2箇所もつので、グルタミン酸を含むペプチドでは、構造異性体の数が2倍に増える。 例として、いくつかのトリペプチドで構造異性体の数を求める。 GlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Glyが2分子。) 構造順はGly-Gly-Ala と Gly-Ala-GlyとAla-Gly-Glyの3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるので、光学異性体を考慮したGlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの異性体は3×2=6で6通りになる。 GlyとAlaとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Alaが2分子。) 構造順はGly-Ala-Ala とAla-Gly-Alaと Ala-Ala-Gly の3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるのであった。そして、光学異性体を持つAlaが2個あるから、2×2=4で4倍になる。最終的に光学異性体を考慮した異性体数は3×4=12で12通りになる。 タンパク質を構成するアミノ酸の配列順序のことを一次構造(いちじこうぞう、primary structure)という。たとえば表記「Gly-Gly-Ala」などは一次構造の表記である。 タンパク質のポリペプチドの多くの構造は、時計回り(右回り、Z撚り「ゼットより」)のらせん構造をもつ。 このポリペプチドのらせん構造をαヘリックスという。らせん1巻あたり、平均3.6個のアミノ酸が含まれる。 このらせん化は、水素結合による現象であり、 アミノ酸の分子中の-C=Oと-N-Hの間のOとHが水素結合し、 -C=O ・・・ H-N- のように水素結合した結果、ペプチド全体ではらせん構造を取る。 並行にならんだ2本のポリペプチドのあいだに水素結合が保たれ、ヒダ状に折れ曲る構造をとることがあり、これをβシートという。 これら、αヘリックスやβシートをまとめて、タンパク質の二次構造(secondary structure)という。 αヘリックスをとったポリペプチドや、βシートをとったポリペプチドなど、二次構造をとったポリペプチドが、さらに折りたたまれて三次構造(tertiary structure)になる。三次構造の形成には、側鎖どうしに働く引力や、システインによるジスルフィド結合(disulfide bond) -S-S- によるものが関わっている。 三次構造はサブユニットと呼ばれる。 三次構造の生体組織の例として、ミオグロビンがある。ミオグロビンは、1本のポリペプチド鎖からなり、ヘム色素を持っている。ヘム色素は、酸素と化合する性質がある。 三次構造のポリペプチド鎖(サブユニットという)が、複数個あつまって集合体をなした構造を四次構造(quaternary structure)という。 四次構造の生体組織の例として、ヘモグロビンがある。ヘモグロビンは、2種類のサブユニットが2個ずつ、合計4個のサブユニットが集まって、できている。ヘモグロビンは、2個のヘム色素をもつ。 タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸だけでなく色素、核酸、リン、脂質などアミノ酸以外の有機物を生じるものを複合タンパク質(conjugated protein)という。 たとえば、血液中にふくまれるヘモグロビンは色素をふくむ複合タンパク質であり、牛乳にふくまれるガゼインはリン酸をふくむ複合タンパク質であり、だ液にふくまれるムチンは糖をふくむ複合タンパク質である。 いっぽう、タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸のみを生じるものを単純タンパク質(simple protein)という。 タンパク質の形状にもとづいて、球状タンパク質(globular protein)と繊維状タンパク質(fibrous protein)に分類される。一般に繊維状タンパク質は、水には溶けにくい。一方、球場タンパク質は、水に溶けやすい。球状タンパク質は、親水基を外側に、疎水基を内側にして、まとまっている事が多いため、である。 アルブミン、グロブリン、グルテリンなどが、球状タンパク質である。 ケラチン、コラーゲン、フィブロインなどが、繊維状タンパク質である。 タンパク質に熱、酸・塩基、重金属イオン、有機溶媒などを加えると凝固し生理的機能を失う。これをタンパク質の変性(denaturation)という。加熱によって変性することを熱変性という場合もある。 タンパク質の変性は、二次構造〜4次構造が破壊されることによって、起きている。そのため、変性したタンパク質は、元には戻らないのが普通である。タンパク質の変性では一次構造の配列順序は変わっていないが、二次構造以上の構造が変わっている。 タンパク質は水に溶けると、親水コロイド溶液になる。タンパク質のコロイド溶液は、多量の電解質によって、水和している水分子が覗かれるため、沈殿する(塩析)。 タンパク質水溶液に水酸化ナトリウム溶液NaOHを加え、少量の硫酸銅(II)水溶液CuSO4を加えると、赤紫色になる。この反応をビウレット反応(biulet reaction)という。これはCuとペプチド結合とが錯イオンを形成することに基づき、トリペプチドやポリペプチドなどのようにペプチド結合を2個以上もつ場合に起こる。よって、ペプチド結合が1個だけであるジペプチドでは、ビウレット反応は起こらない。 タンパク質水溶液に濃硝酸をくわえて加熱すると、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸中にベンゼン環をもつ場合に、タンパク質水溶液が黄色になる。これは、ベンゼン環がニトロ化されるためである。この溶液を冷却し、NaOHやアンモニアなどで溶液を塩基性にすると、橙色になる。 これらの反応をキサントプロテイン反応(Xanthoprotein reaction)という。 橙色になった水溶液は中和すると、タンパク質の色は黄色に戻る。 フェニルアラニンはベンゼン環を持つが、あまり反応しない。 システインやメチオニンなどのようにタンパク質がイオウを含む場合は、タンパク質の水溶液に、固体の水酸化ナトリウムを加えて加熱して、それから酢酸などで中和し、さらにそれから酢酸鉛(II)水溶液 (CH3COO)2Pb を加えると、硫化鉛(II) PbS の沈殿を生じる。硫化鉛の沈殿の色は黒色である。 毛髪はケラチンという繊維状タンパク質からなるが、この分子はジスルフィド結合 -S-S- によって、ところどころ結ばれている。このジスルフィド結合のため、毛髪は一定の形を保っている。 毛髪のパーマ処理は、還元剤をもちいて、このジスルフィド結合を還元して -S-H にすることで、ジスルフィド結合を切断している。 つぎに、酸化剤で、ジスルフィド結合 -S-S- を再生させると、もととは違ったつながりかたで、部分的にジスルフィド結合が再生されるので、元の髪型とは違った髪型になる。 パーマの還元剤には、チオグリコール酸アンモニウムが用いられる。パーマの酸化剤には、臭素酸ナトリウム NaBrO3 や過酸化水素などが用いられる。 繊維(fiber)とは、細くて糸状のものをいうが、その繊維のうち天然にある糸状の繊維を天然繊維(natural fiber)という。石油などから合成した繊維は合成繊維(synthetic fiber)という。 天然繊維のうち、植物からとれるもの(たとえば綿や麻など。主成分はセルロースなど)を植物繊維(plant fiber)といい、動物から取れるもの(羊毛や絹など。主成分はタンパク質。絹とはカイコから取れる繊維。)を動物繊維(animal fiber)という。 木綿(もめん、cotton)は、植物のワタから取れる植物繊維であり、主成分はセルロースである。木綿は、繊維の内部に中空部分があり、吸湿性が高い。 絹は、カイコガのまゆから取り出される繊維である。絹の主成分と構造は、フィブロインというタンパク質を、セリンと呼ばれるタンパク質がくるんだ構造である。 羊毛の主成分はケラチンである。 羊毛は、動物繊維であり、主成分はケラチンである。羊毛の表皮が鱗(うろこ)状で、クチクラ(キューティクル)と呼ばれる構造である。 羊毛は、伸縮性が大きく、また、水をはじく撥水性(はっすいせい)がある。羊毛は保温性があるので、毛布やコートなどに使われる。 羊毛や絹はタンパク質であるので、キサントプロテイン反応を呈する。 合成繊維や、天然繊維を溶媒に溶かしたり化学反応させたりと化学的に処理させたものなど、素材の合成に化学的な処理を必要とする繊維を化学繊維という。 天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを再生繊維(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨンと呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。 いっぽう、天然繊維を化学的に処理して組成を変化させたものは半合成繊維という。半合成繊維としては、たとえばアセテート繊維がある。 ある種のタンパク質には触媒の働きを持つものがある。この触媒として機能するタンパク質を酵素(enzyme)という。酵素は、無機触媒や金属触媒とは、異なる性質をもつ。酵素は、ある特定の物質にしか作用しない。これを基質特異性(substrate specificity)という。そして酵素が作用する物質および分子構造を基質(substrate)という。 酵素には、基質と立体的にむすびつく活性部位(active site)があるため、このような反応が起こる。活性部位のことを、活性中心(active center)ともいう。 たとえば、だ液にふくまれるアミラーぜはデンプンを加水分解するが、タンパク質を加水分解できない。酵素インペルターゼはスクロースの加水分解にしか作用せず、マルトースやラクトースなどの他の二糖類にはインペルターゼは作用しない。また、マルターゼは、マルトースにしか作用しない。 また、酵素はタンパク質であるので、タンパク質が変性する状況では、酵素はその能力を失う。熱変性などで、タンパク質が修復不可能になると、酵素の触媒能力もまた修復不可能となり、酵素を冷却しても、もはや触媒として機能しなくなる。このように酵素が触媒としての能力を失って、もはや酵素ではなくなったことを失活(deactivation)という。 酵素の触媒作用が最も働く温度を最適温度という。酵素にもよるが、動物の体温に近い、35℃から40℃といった温度である。 50℃以上など、これらより高温では熱変性で酵素の構造が破壊される。最適温度より低温にした場合は、低温の間は酵素としての作用が弱まるが、適温に戻すと、再び酵素としての触媒能力を取り戻す。 低温で酵素としての能力を失うことは一般には失活とは呼ばない。 酵素には、その場所のpHによって、触媒の働きの反応速度が変わる。もっとも酵素が働くpHを最適pH(optimum pH)という。 最適pHの値の傾向は、酵素の種類にもよるが、おおむねpH6~8といった、中性付近か、弱酸性の付近で、もっともよく働く。たとえばアミラーゼはpH6~7の付近が最適pHである。すい臓の中で働く酵素のトリプシンはpH8の弱い塩基性が最適pHである。 なお、胃酸の中で働く酵素のペプシンは最適pHがpH2の付近の強い酸性である。このpH2は、胃液のpHに近い。このように、酵素は、その酵素が働く環境下に近いpHで、よく働く性質になっている場合が多い。 細胞には核酸という高分子化合物が存在し、これは遺伝情報を担っている。 リン酸、ペントース、有機塩基が結合した化合物をヌクレオチドという。 また、ペントースと有機塩基が結合した化合物をヌクレオシドという。 核酸はヌクレオチドのペントースの3位の -HO とリン酸の -OH の部分が縮合重合したポリヌクレオチドである。 核酸には、リボ核酸 RNA と デオキシリボ核酸 DNA の2種類が存在する。核酸を構成するペントースの部分が、RNAはリボース C 5 H 10 O 5 {\displaystyle {\ce {C5H10O5}}} 、DNAはデオキシリボース C 5 H 10 O 4 {\displaystyle {\ce {C5H10O4}}} である[1]。 RNAを構成する有機塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4種類である。DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類である。 DNAはアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が水素結合によって、2本のポリヌクレオチドが合わさった二重らせん構造をとっている。 DNAの働きは、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることである。 DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。 DNAは、細胞核の中で、RNAをつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、 RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
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分子量が 10 000 以上の化合物を高分子化合物あるいは高分子という。 常温では固体で、成形が容易な合成高分子を合成樹脂(synthetic resin)あるいはプラスチック(plastic)という。 高分子化合物を作る際、たとえばポリエチレンはエチレンを合成させて作られるが、 このエチレンのように合成の単位になった分子1個のことを単量体(monomer)といい、いっぽうポリエチレンなどのように単量体のエチレンが連結したものを多量体(polymer)という。 単量体はモノマー、多量体はポリマーと呼ばれることもある。 単量体どうしが、結合することを重合(polymerization)という。 重合の際、たとえば二重結合のあるエチレンから、二重結合が単結合となることで重合するポリエチレンのように、二重結合が単結合となることで重合する結合を付加重合という。 重合の際に、化合物によっては、たとえば単量体に結合していた水素などが欠落し、副生成物として水分子が出来る場合がある。副生成物を生じて重合することを縮合という。特に、重合で水分子が、単量体由来の分子を原料として、水が副生成物として生じる場合の重合反応を脱水縮合という。 分子中の単量体の個数を重合度という。 いっぱんに多量体といった場合、特に重合度に決まりはないが、重合度が数百程度以上の物を指すことが多い。 高分子化合物を人工的に合成した場合、反応の重合度にばらつきが生じるので、分子量のグラフは右図のようになる。 ある高分子化合物について、その高分子化合物の分子量を平均したものを平均分子量(mean molcular weight)という。 高分子の分子量は、浸透圧を測定することで分子量を求められる。凝固点降下や沸点上昇を利用する方法では、うまく分子量を求められない。 高分子化合物の固体には、結晶構造の部分と非結晶構造の部分とが混ざっているが、大部分は非結晶部分である。 結晶構造の部分が多いと強度が高く、硬く、透明度が増す。 非結晶の部分が多いと、やわらかくなり、不透明になる。 高分子化合物は、一定の融点をもたない。 高分子化合物を熱していくと、明確な融点が分からないまま、だんだん軟化していき、しだいに液体になっていく。このように、高分子化合物において、軟化しはじめる温度を軟化点(softening point)という。 高分子化合物が一定の融点をもたない理由として、非結晶の部分が多かったり、あるいは、一定の分子量をもたず分子量が分布している事などがある 付加重合によって合成される樹脂について、その単量体はエチレン C=C やビニル基 CH2=CH のように二重結合を持ってる。 付加重合で合成せれた分子の構造には直鎖状の構造を持つものが多い。 アミド結合によって重合した化合物をポリアミド(polyamide)という。 エステル結合によって重合した化合物をポリエステル(polyester)という。 アジピン酸 HOOC − ( CH 2 ) 4 − COOH {\displaystyle {\ce {HOOC-(CH2)4-COOH}}} とヘキサメチレンジアミン H 2 N − ( CH 2 ) 6 − NH 2 {\displaystyle {\ce {H2N-(CH2)6-NH2}}} との縮合重合によって、ナイロン66が得られる[1]。 この、ポリアミドを繊維にしたものをナイロン(nylon)という。 環状のアミド結合を持つ、ε-カプロラクタム(caprolactam)に少量の水を加えて加熱すると、開環重合してナイロン6が生成する。 このように、環状分子が開環して鎖状のポリマーに重合することを開環重合(ring-opening polymerization)という。アミド結合を持つ環状化合物をラクタムという。 単量体が芳香族化合物であるポリアミドをアラミド(aramid)という。それを繊維にしたものをアラミド繊維という。 アラミド繊維の一例として、原材料にテレフタル酸ジクロリド Cl − CO − Ph − CO − Cl {\displaystyle {\ce {Cl-CO-Ph-CO-Cl}}} と、p-フェニレンジアミン H 2 N − Ph − NN 2 {\displaystyle {\ce {H2N-Ph-NN2}}} とを重合させると、p-フェニレンテレフタルアミドという化合物になる。 非常に丈夫であり、引っ張り強度も高く、耐熱性・難燃性もすぐれるので、防弾チョッキや消防服などに使用される。 エステル結合 -COO- によって連なった高分子化合物をポリエステルという。 ポリエステルは、合成繊維のほかにも、合成樹脂としても使われる。 テレフタル酸 HOOC-C6H4-COOH と、エチレングリコール HO-(CH2)2-OH を縮合重合するとポリエチレンテレフタラートが得られる。 略称はPETである。 PETは水を吸いにくい。 飲料用の容器のペットボトルに用いられる。 また、ポリエステル繊維はしわになりにくいので、衣服にも用いられる。 アクリロニトリル CH2=CH-CN を付加重合させたものをポリアクリロニトリルという。ポリアクリロニトリルを主成分とした繊維をアクリル繊維という。 ポリアクリロニトリルは疎水性であり、そのままでは染色しづらいので、ポリアクリロニトリル繊維に添加物として酢酸ビニル CH2=CH-OCOCH3 などの原子団を混ぜて、染色性を高める。 アクリル繊維の肌触りは羊毛に似ていて、やわらかい。 また、アクリロニトリルと塩化ビニルを共重合させた繊維は燃えにくく、カーテンなどに用いられている。 アクリロニトリルを窒素などの不活性気体中で、温度200℃ から段階的に温度を上げ 温度3000℃程度の高温で熱分解すると、炭素を主成分とする炭素繊維(カーボンファイバー)が得られる。炭素繊維は強度が優れている。 カーボンファイバーは、テニスラケットなどのスポーツ用品や釣竿、航空機の翼の材料の一つにも用いられる。 酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 を付加重合させて、ポリ酢酸ビニル[-CH2-CH(OCOCH3)-]n を作り、これを水酸化ナトリウムNaOHでけん化するとポリビニルアルコール -[CH2-CH(OH)]- n になる。 ポリビニルアルコールは、ヒドロキシ基を多く持ち、水溶性が高いので、そのままでは繊維には使えない。洗濯のりとして、ポリビニルアルコールは用いられる。 ポリビニルアルコールは、硫酸ナトリウム水溶液へ入れると凝固する。なので、繊維にするために、ポリビニルアルコールを細孔から硫酸ナトリウム水溶液へ送り出す。これは、単に塩析をしただけなので、凝固しても親水性は変わらない。 硫酸ナトリウム水溶液で凝固させたポリビニルアルコールを、ホルムアルデヒド水溶液HCHOで処理すると、ポリビニルアセタールになり(アセタール化)、 これをビニロン(vinylon)という。 このアルデヒドで環にする反応をアセタール化という。アセタール化によって親水基のOH基が減ったので、ビニロンは水に溶けなくなり、繊維として使える。ビニロンには親水基が残っているため、ビニロンの繊維は吸湿性を持つ。 ビニロンは、防護ネットや漁網などに用いられる。 酢酸ビニルそのものの作り方は、エチレンCH2=CH2 に適当な触媒を用いて、酢酸CH3COOH と反応させると、酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 が得られる。 高温に熱すると柔らかくなり、冷やすと固くなる樹脂を熱可塑性樹脂(ねつかそせい じゅし、thermoplastic resin)という。 合成繊維に用いられる高分子は、ほとんどが熱可塑性である。 いっぽう、熱可塑性樹脂に対して、別の種類の樹脂として、熱硬化性樹脂という樹脂がある。熱硬化性樹脂は、加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂である。 フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂が、熱硬化性樹脂である。 一般に、熱可塑性樹脂は付加反応で合成される場合が多く、いっぽうで熱硬化性樹脂は縮合反応で合成される場合が多いが、例外もある。 たとえばPET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)は縮合反応で合成されるが、熱可塑性である。 エチレンを付加重合するとポリエチレン(polyetylene)ができる。 ポリエチレンは熱可塑性樹脂である。 ポリエチレンには、重合反応の条件により、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)がある。 低密度ポリエチレン(Low Denscty PE)は高圧を掛けて重合させたものである。重合の開始剤として過酸化水素または酸素O2を用いる。温度100~350℃で、およそ気圧100atm ~ 200atm (およそ10MPa ~ 20MPa)程度で重合させると、ポリエチレンが得られる。 この低密度ポリエチレンの製法を高圧法という。 高圧法で作ったポリエチレンは枝分かれが多く、そのため、密度が低く、また軟らかい。 低密度ポリエチレンは軟らかいので、袋などによく用いられる。また、透明である。極性が無いので、吸水性がない。耐薬品性は良い。気体を透過しやすい。 触媒として、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3からなる触媒(この触媒をチーグラー・ナッタ触媒という)を用いて、5atm程度の数気圧でエチレンを付加重合させると、ポリエチレンができる。枝分かれの少ないポリエチレンができる。これは高密度のポリエチレンである。この低圧法で作ったポリエチレンを高密度ポリエチレンという。 製法には、高圧法と低圧法がある。 熱可塑性樹脂である。ポリエチレンより硬い。耐薬品性は高い。 スチレンの付加重合。 熱可塑性樹脂。透明。電気絶縁材料として使われる。イオン交換樹脂の母材に使われる。 いわゆる「発泡スチロール」とは、このポリスチレン樹脂に気泡を含ませた材料。 ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの付加重合により得られる。 他の樹脂と比べて、非常に硬い。この硬さの理由は、塩素の極性の強さによるものである。燃やすと有害な塩化水素ガスが発生するので注意が必要である。耐薬品性が高い。 純粋なものは、光によって化学変化をしてしまい塩素が除かれてしまうので、遮光のため顔料を加えてある。 水道管などに用いられる。 ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの付加重合で得られる。略称はPVAc 。(polyvinyl acetate) アルコールなどの溶媒に溶ける。水には溶けない。 軟化点が低く40℃~50℃程度で軟化するので成形品には用いられない。 用途は接着剤や、チューインガムのベースなど。ビニロンの原料である。 接着力のもとは、CO基による水素結合が接着力の理由である。 テトラフルオロエチレンCF2=CF2 の付加重合。 フッ素樹脂をポリテトラフロロエチレン(polytetrafluoetylene)ともいう。略称はPTFE。 耐薬品性が極めて高い。耐熱性が高く、融点は327℃である。 摩擦係数が低い。 メタクリル酸メチルの付加重合。ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)ともいう。略称は PMMA である。「メタクリル樹脂」と略される場合も多い。 透明度が高い。光学レンズに用いられる。 溶媒に溶ける。耐薬品性は良くない。 有機ガラスと呼ばれる。プラスチック製のガラス材料として用いられる。 以上の樹脂は熱可塑性樹脂である。以上の樹脂は付加重合によって作られる。付加重合とは重合する際に二重結合や三重結合の結合手の一本が開かれる重合である。一般に付加重合で作られる樹脂は熱可塑性樹脂である。 いわゆる「アクリル樹脂」とは、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。 水族館の水槽に使われるプラスチック製の透明板は、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。 加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂を熱硬化性樹脂(thermosetting resin)という。 構造は立体網目状の構造を持つものが多い。 フェノールにホルムアルデヒドを、酸または塩基触媒で加熱反応させると、酸の場合はノボラック(novolac)、塩基の場合はレゾール(resol)という、重合度のひくい中間生成物ができる。これに硬化剤を入れて加熱すると、熱硬化性のフェノール樹脂(ベークライト)ができる。 このフェノール樹脂の合成反応は、付加反応(フェノールとホルムアルデヒドの反応が付加反応)と縮合反応(さきほどの付加反応で生じた2種類の物質がそれぞれ単量体となって縮合していく)が、くりかえし行われて合成される反応なので、付加縮合(addition condensation)という。 フェノール樹脂の合成で、フェノールとホルムアルデヒドを反応させるさい、触媒に酸を用いると、ノボラック(novolac)という鎖式構造の重合分子が得られる。ノボラックは軟らかい固体物質である。このノボラックから重合によってフェノール樹脂ができる。 重合の際、ノボラックに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(CH2)6N4を加える。 フェノール樹脂の合成で、フェノールにホルムアルデヒドを反応させる際に、塩基を触媒としてフェノールにホルムアルデヒドを反応させるとレゾール(resol)という鎖式構造の重合分子が得られる。レゾールは液体であり、また、分子構造がノボラックとは異なる。 レゾールを加熱すると重合反応が進みフェノール樹脂になる。 フェノール樹脂は電気絶縁材料に用いられている。熱硬化性樹脂である。 アルカリには、やや弱い。 フェノール樹脂は、分子構造が、網目の立体構造になっている。 商品名でベークライトという名称がある。 アミノ基とホルムアルデヒドの付加縮合によってできる樹脂をアミノ樹脂(amino resin)という。 アミノ樹脂には、尿素樹脂や、メラミン樹脂がある。 尿素樹脂とは、尿素とホルムアルデヒドを縮合重合させたアミノ樹脂である。透明で、また着色性が良い。酸およびアルカリに弱い。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。 メラミンとホルムアルデヒドを縮合縮合。 硬い。無色透明。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。 アルキド樹脂(alkyd resin)とは、無水フタル酸とグリセリンなどの、多価アルコールと多価カルボン酸の縮合重合。耐候性にすぐれる。この樹脂の用途は、おもに塗料や接着剤などであり、成形品には用いないことが多い。 シリコーン樹脂は無機高分子の樹脂である。 塩化メチルとケイ素の反応によって、クロロトリメチルシランまたはジクロロトリメチルシラン、またはトリクロロメチルシランなどのメチルクロロシランのアルキルシラン類が作られる。このアルキルシラン類の付加重合によってシリコーン樹脂が作られる。 塩化メチルはメタノールと塩酸から作られる。 構造の骨格は、ケイ素Siと酸素Oが結合したシロキサン結合(-O-Si-O-) で形成されている。 耐熱性や耐薬品性が良い。 ビスフェノールとエピクロロヒドリンが架橋(かきょう)して重合。 架橋にはポリアミン化合物などが必要。 エピクロロヒドリンの末端にもつ3員環の基がエポキシ基である。 用途は、よく接着剤に用いられる。接着剤としての利用は、架橋のために加えるポリアミン化合物などを硬化剤として用いる。 フマル酸やマレイン酸などの、二重結合を持つ不飽和酸と、エチレングリコールを重合させた分子を、スチレンで架橋した分子。 繊維強化プラスチックFRP(Fiber reinforced plastic)の母材として、この不飽和ポリエステルは用いられることが多い。 ゴムノキの幹に傷をつけると、その木から白い樹液が取れるが、このゴムノキの白い樹液をラテックス(latex)という。このラテックスは白くて粘性がある。 ラテックスは疎水コロイド溶液であり、炭素にタンパク質が保護作用をした保護コロイドによるコロイド溶液である。 ラテックスに酢酸などの酸を加えて凝固させたものが天然ゴム(natural rubber)あるいは生ゴム(raw rubber)である。生ゴムの主成分はポリイソプレンであり、これはイソプレン C5H8(示性式はCH2=C(CH3)CH=CH2である。)が付加重合したものである。 生ゴムには、弾性はあるものの、生ゴムの弾性は弱い。ゴム材料に弾性を持たせるには、加硫(= 硫黄を添加して加熱する処理)という処理が必要である。 イソプレンの構造式を見ると、2箇所の二重結合の間に単結合がある部位がある。二重結合があるため、シス形とトランス形の二通りがあろうが、一般の生ゴムの場合はシス形ポリイソプレンである。 いっぽう、マレー半島などのアカテツ科の樹液からとれるグッタペルカは、トランス型のポリイソプレンである。グッタペルカは常温ではプラスチック結晶状の硬い固体である。50度以上の温度で柔らかくなる。 生ゴムに硫黄Sを数%加えて加熱すると、弾性が増す。このゴムを弾性ゴム(elastic rubber)や加硫ゴムと言い、この操作を加硫(かりゅう、vulcanization、cure)という。 ポリイソプレンの2重結合の部分に硫黄原子Sが結合し、S原子は2個の原子と結合できるから、S原子が他の二重結合とも結びつき、S原子がポリイソプレンを橋架けして、(-S-S-)といった結合が生じるをする。このような高分子鎖などを橋架けをする反応を架橋結合(かきょう けつごう)または架橋(cross linkage)という。 加硫ゴムは、2重結合が減った結果、化学反応性が低下するので、耐薬品性が増す。 生ゴムに30%~40%の硫黄を加硫して加熱した得られる黒色のかたいプラスチック状の物質をエボナイト(ebonite)という。 天然以外に製造したイソプレンを架橋したゴムや、ブタジエンなどを架橋させたゴムなどを、合成ゴム(synthetic rubber)という。 合成ゴムには、イソプレンゴムやブタジエンゴムの他に、クロロプレンゴムやスチレン・ブタジエンゴムやブチルゴムなどがある。 ブタジエンゴムとクロロプレンゴムは付加重合によりゴム化する。 ブタジエンゴムでは、ブタジエンCH2=CH-CH=CH2から、ブタジエンゴム[-CH2-CH=CH-CH2-]n へとなる。シス型とトランス型があり、弾性に富むのはシス型のほうである。シス型を多く得るにはチーグラー触媒 TiCl4-Al(C2H5)3 を用いる。 摩耗性に優れているので靴底や、スチレンブタジエンゴムと配合させてタイヤなどに用いられる。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである(※ 参考文献: 数研出版の教科書より)。 クロロプレンゴムにもシス型とトランス型が有る。 クロロブレンの単量体(重合前のこと)の示性式は CH2=CCl-CH=CH2 である。 以上のブタジエンゴムは1種類のブタジエンから合成する合成ゴムであった。重合の単位となる分子を単量体というが、このように1種類の単量体しか用いない場合とは違い、複数種の単量体を用いるゴムを共重合ゴム(きょうじゅうごうゴム)という。 たとえばスチレン・ブタジエンゴムはスチレンとブタジエンを単量体とした共重合ゴムである。 また、ゴムにかぎらず、単量体(monomer)が複数ある重合結合を共重合(copolymerlization)という。 共重合で生成した高分子化合物を共重合体(copolymer)という。 略称はSBR。 ブタジエン (CH2=CH−CH=CH2) とスチレン(C6H5−CH=CH2) が共重合したもの。 耐磨耗性が良いので、タイヤなどに用いられることが多い。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである。 略称はNBR。アクリロニトリル・ブタジエンゴムも共重合ゴムである。 耐油性が高く、このため石油ホースなどにも用いられてる。 シアノ基(ニトリル基) R-C≡N の極性のため、耐油性が高い。 ジクロロジメチルシランを加水分解すると、ケイ素を含む重合体のポリメチルシロキサンが得られる。 これの架橋に、架橋剤として過酸化ベンゾイルなどの過酸化物の架橋剤を用いて架橋をすると、(-C-C-)といった架橋結合をもったシリコーンゴムが得られる。 シリコーンゴムの架橋には硫黄は用いない。 付加重合による重合とは違い、シリコーンゴムは二重結合を持たないので、大気中の酸素による二重結合の酸化による劣化が少ないので、酸化しづらく耐久性などの性質が優れる。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6II/%E5%90%88%E6%88%90%E7%B9%8A%E7%B6%AD
分子量が 10 000 以上の化合物を高分子化合物あるいは高分子という。 常温では固体で、成形が容易な合成高分子を合成樹脂(synthetic resin)あるいはプラスチック(plastic)という。 高分子化合物を作る際、たとえばポリエチレンはエチレンを合成させて作られるが、 このエチレンのように合成の単位になった分子1個のことを単量体(monomer)といい、いっぽうポリエチレンなどのように単量体のエチレンが連結したものを多量体(polymer)という。 単量体はモノマー、多量体はポリマーと呼ばれることもある。 単量体どうしが、結合することを重合(polymerization)という。 重合の際、たとえば二重結合のあるエチレンから、二重結合が単結合となることで重合するポリエチレンのように、二重結合が単結合となることで重合する結合を付加重合という。 重合の際に、化合物によっては、たとえば単量体に結合していた水素などが欠落し、副生成物として水分子が出来る場合がある。副生成物を生じて重合することを縮合という。特に、重合で水分子が、単量体由来の分子を原料として、水が副生成物として生じる場合の重合反応を脱水縮合という。 分子中の単量体の個数を重合度という。 いっぱんに多量体といった場合、特に重合度に決まりはないが、重合度が数百程度以上の物を指すことが多い。 高分子化合物を人工的に合成した場合、反応の重合度にばらつきが生じるので、分子量のグラフは右図のようになる。 ある高分子化合物について、その高分子化合物の分子量を平均したものを平均分子量(mean molcular weight)という。 高分子の分子量は、浸透圧を測定することで分子量を求められる。凝固点降下や沸点上昇を利用する方法では、うまく分子量を求められない。 高分子化合物の固体には、結晶構造の部分と非結晶構造の部分とが混ざっているが、大部分は非結晶部分である。 結晶構造の部分が多いと強度が高く、硬く、透明度が増す。 非結晶の部分が多いと、やわらかくなり、不透明になる。 高分子化合物は、一定の融点をもたない。 高分子化合物を熱していくと、明確な融点が分からないまま、だんだん軟化していき、しだいに液体になっていく。このように、高分子化合物において、軟化しはじめる温度を軟化点(softening point)という。 高分子化合物が一定の融点をもたない理由として、非結晶の部分が多かったり、あるいは、一定の分子量をもたず分子量が分布している事などがある 付加重合によって合成される樹脂について、その単量体はエチレン C=C やビニル基 CH2=CH のように二重結合を持ってる。 付加重合で合成せれた分子の構造には直鎖状の構造を持つものが多い。 アミド結合によって重合した化合物をポリアミド(polyamide)という。 エステル結合によって重合した化合物をポリエステル(polyester)という。 アジピン酸 HOOC − ( CH 2 ) 4 − COOH {\displaystyle {\ce {HOOC-(CH2)4-COOH}}} とヘキサメチレンジアミン H 2 N − ( CH 2 ) 6 − NH 2 {\displaystyle {\ce {H2N-(CH2)6-NH2}}} との縮合重合によって、ナイロン66が得られる[1]。 この、ポリアミドを繊維にしたものをナイロン(nylon)という。 環状のアミド結合を持つ、ε-カプロラクタム(caprolactam)に少量の水を加えて加熱すると、開環重合してナイロン6が生成する。 このように、環状分子が開環して鎖状のポリマーに重合することを開環重合(ring-opening polymerization)という。アミド結合を持つ環状化合物をラクタムという。 単量体が芳香族化合物であるポリアミドをアラミド(aramid)という。それを繊維にしたものをアラミド繊維という。 アラミド繊維の一例として、原材料にテレフタル酸ジクロリド Cl − CO − Ph − CO − Cl {\displaystyle {\ce {Cl-CO-Ph-CO-Cl}}} と、p-フェニレンジアミン H 2 N − Ph − NN 2 {\displaystyle {\ce {H2N-Ph-NN2}}} とを重合させると、p-フェニレンテレフタルアミドという化合物になる。 非常に丈夫であり、引っ張り強度も高く、耐熱性・難燃性もすぐれるので、防弾チョッキや消防服などに使用される。 エステル結合 -COO- によって連なった高分子化合物をポリエステルという。 ポリエステルは、合成繊維のほかにも、合成樹脂としても使われる。 テレフタル酸 HOOC-C6H4-COOH と、エチレングリコール HO-(CH2)2-OH を縮合重合するとポリエチレンテレフタラートが得られる。 略称はPETである。 PETは水を吸いにくい。 飲料用の容器のペットボトルに用いられる。 また、ポリエステル繊維はしわになりにくいので、衣服にも用いられる。 アクリロニトリル CH2=CH-CN を付加重合させたものをポリアクリロニトリルという。ポリアクリロニトリルを主成分とした繊維をアクリル繊維という。 ポリアクリロニトリルは疎水性であり、そのままでは染色しづらいので、ポリアクリロニトリル繊維に添加物として酢酸ビニル CH2=CH-OCOCH3 などの原子団を混ぜて、染色性を高める。 アクリル繊維の肌触りは羊毛に似ていて、やわらかい。 また、アクリロニトリルと塩化ビニルを共重合させた繊維は燃えにくく、カーテンなどに用いられている。 アクリロニトリルを窒素などの不活性気体中で、温度200℃ から段階的に温度を上げ 温度3000℃程度の高温で熱分解すると、炭素を主成分とする炭素繊維(カーボンファイバー)が得られる。炭素繊維は強度が優れている。 カーボンファイバーは、テニスラケットなどのスポーツ用品や釣竿、航空機の翼の材料の一つにも用いられる。 酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 を付加重合させて、ポリ酢酸ビニル[-CH2-CH(OCOCH3)-]n を作り、これを水酸化ナトリウムNaOHでけん化するとポリビニルアルコール -[CH2-CH(OH)]- n になる。 ポリビニルアルコールは、ヒドロキシ基を多く持ち、水溶性が高いので、そのままでは繊維には使えない。洗濯のりとして、ポリビニルアルコールは用いられる。 ポリビニルアルコールは、硫酸ナトリウム水溶液へ入れると凝固する。なので、繊維にするために、ポリビニルアルコールを細孔から硫酸ナトリウム水溶液へ送り出す。これは、単に塩析をしただけなので、凝固しても親水性は変わらない。 硫酸ナトリウム水溶液で凝固させたポリビニルアルコールを、ホルムアルデヒド水溶液HCHOで処理すると、ポリビニルアセタールになり(アセタール化)、 これをビニロン(vinylon)という。 このアルデヒドで環にする反応をアセタール化という。アセタール化によって親水基のOH基が減ったので、ビニロンは水に溶けなくなり、繊維として使える。ビニロンには親水基が残っているため、ビニロンの繊維は吸湿性を持つ。 ビニロンは、防護ネットや漁網などに用いられる。 酢酸ビニルそのものの作り方は、エチレンCH2=CH2 に適当な触媒を用いて、酢酸CH3COOH と反応させると、酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 が得られる。 高温に熱すると柔らかくなり、冷やすと固くなる樹脂を熱可塑性樹脂(ねつかそせい じゅし、thermoplastic resin)という。 合成繊維に用いられる高分子は、ほとんどが熱可塑性である。 いっぽう、熱可塑性樹脂に対して、別の種類の樹脂として、熱硬化性樹脂という樹脂がある。熱硬化性樹脂は、加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂である。 フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂が、熱硬化性樹脂である。 一般に、熱可塑性樹脂は付加反応で合成される場合が多く、いっぽうで熱硬化性樹脂は縮合反応で合成される場合が多いが、例外もある。 たとえばPET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)は縮合反応で合成されるが、熱可塑性である。 エチレンを付加重合するとポリエチレン(polyetylene)ができる。 ポリエチレンは熱可塑性樹脂である。 ポリエチレンには、重合反応の条件により、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)がある。 低密度ポリエチレン(Low Denscty PE)は高圧を掛けて重合させたものである。重合の開始剤として過酸化水素または酸素O2を用いる。温度100~350℃で、およそ気圧100atm ~ 200atm (およそ10MPa ~ 20MPa)程度で重合させると、ポリエチレンが得られる。 この低密度ポリエチレンの製法を高圧法という。 高圧法で作ったポリエチレンは枝分かれが多く、そのため、密度が低く、また軟らかい。 低密度ポリエチレンは軟らかいので、袋などによく用いられる。また、透明である。極性が無いので、吸水性がない。耐薬品性は良い。気体を透過しやすい。 触媒として、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3からなる触媒(この触媒をチーグラー・ナッタ触媒という)を用いて、5atm程度の数気圧でエチレンを付加重合させると、ポリエチレンができる。枝分かれの少ないポリエチレンができる。これは高密度のポリエチレンである。この低圧法で作ったポリエチレンを高密度ポリエチレンという。 製法には、高圧法と低圧法がある。 熱可塑性樹脂である。ポリエチレンより硬い。耐薬品性は高い。 スチレンの付加重合。 熱可塑性樹脂。透明。電気絶縁材料として使われる。イオン交換樹脂の母材に使われる。 いわゆる「発泡スチロール」とは、このポリスチレン樹脂に気泡を含ませた材料。 ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの付加重合により得られる。 他の樹脂と比べて、非常に硬い。この硬さの理由は、塩素の極性の強さによるものである。燃やすと有害な塩化水素ガスが発生するので注意が必要である。耐薬品性が高い。 純粋なものは、光によって化学変化をしてしまい塩素が除かれてしまうので、遮光のため顔料を加えてある。 水道管などに用いられる。 ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの付加重合で得られる。略称はPVAc 。(polyvinyl acetate) アルコールなどの溶媒に溶ける。水には溶けない。 軟化点が低く40℃~50℃程度で軟化するので成形品には用いられない。 用途は接着剤や、チューインガムのベースなど。ビニロンの原料である。 接着力のもとは、CO基による水素結合が接着力の理由である。 テトラフルオロエチレンCF2=CF2 の付加重合。 フッ素樹脂をポリテトラフロロエチレン(polytetrafluoetylene)ともいう。略称はPTFE。 耐薬品性が極めて高い。耐熱性が高く、融点は327℃である。 摩擦係数が低い。 メタクリル酸メチルの付加重合。ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)ともいう。略称は PMMA である。「メタクリル樹脂」と略される場合も多い。 透明度が高い。光学レンズに用いられる。 溶媒に溶ける。耐薬品性は良くない。 有機ガラスと呼ばれる。プラスチック製のガラス材料として用いられる。 以上の樹脂は熱可塑性樹脂である。以上の樹脂は付加重合によって作られる。付加重合とは重合する際に二重結合や三重結合の結合手の一本が開かれる重合である。一般に付加重合で作られる樹脂は熱可塑性樹脂である。 いわゆる「アクリル樹脂」とは、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。 水族館の水槽に使われるプラスチック製の透明板は、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。 加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂を熱硬化性樹脂(thermosetting resin)という。 構造は立体網目状の構造を持つものが多い。 フェノールにホルムアルデヒドを、酸または塩基触媒で加熱反応させると、酸の場合はノボラック(novolac)、塩基の場合はレゾール(resol)という、重合度のひくい中間生成物ができる。これに硬化剤を入れて加熱すると、熱硬化性のフェノール樹脂(ベークライト)ができる。 このフェノール樹脂の合成反応は、付加反応(フェノールとホルムアルデヒドの反応が付加反応)と縮合反応(さきほどの付加反応で生じた2種類の物質がそれぞれ単量体となって縮合していく)が、くりかえし行われて合成される反応なので、付加縮合(addition condensation)という。 フェノール樹脂の合成で、フェノールとホルムアルデヒドを反応させるさい、触媒に酸を用いると、ノボラック(novolac)という鎖式構造の重合分子が得られる。ノボラックは軟らかい固体物質である。このノボラックから重合によってフェノール樹脂ができる。 重合の際、ノボラックに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(CH2)6N4を加える。 フェノール樹脂の合成で、フェノールにホルムアルデヒドを反応させる際に、塩基を触媒としてフェノールにホルムアルデヒドを反応させるとレゾール(resol)という鎖式構造の重合分子が得られる。レゾールは液体であり、また、分子構造がノボラックとは異なる。 レゾールを加熱すると重合反応が進みフェノール樹脂になる。 フェノール樹脂は電気絶縁材料に用いられている。熱硬化性樹脂である。 アルカリには、やや弱い。 フェノール樹脂は、分子構造が、網目の立体構造になっている。 商品名でベークライトという名称がある。 アミノ基とホルムアルデヒドの付加縮合によってできる樹脂をアミノ樹脂(amino resin)という。 アミノ樹脂には、尿素樹脂や、メラミン樹脂がある。 尿素樹脂とは、尿素とホルムアルデヒドを縮合重合させたアミノ樹脂である。透明で、また着色性が良い。酸およびアルカリに弱い。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。 メラミンとホルムアルデヒドを縮合縮合。 硬い。無色透明。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。 アルキド樹脂(alkyd resin)とは、無水フタル酸とグリセリンなどの、多価アルコールと多価カルボン酸の縮合重合。耐候性にすぐれる。この樹脂の用途は、おもに塗料や接着剤などであり、成形品には用いないことが多い。 シリコーン樹脂は無機高分子の樹脂である。 塩化メチルとケイ素の反応によって、クロロトリメチルシランまたはジクロロトリメチルシラン、またはトリクロロメチルシランなどのメチルクロロシランのアルキルシラン類が作られる。このアルキルシラン類の付加重合によってシリコーン樹脂が作られる。 塩化メチルはメタノールと塩酸から作られる。 構造の骨格は、ケイ素Siと酸素Oが結合したシロキサン結合(-O-Si-O-) で形成されている。 耐熱性や耐薬品性が良い。 ビスフェノールとエピクロロヒドリンが架橋(かきょう)して重合。 架橋にはポリアミン化合物などが必要。 エピクロロヒドリンの末端にもつ3員環の基がエポキシ基である。 用途は、よく接着剤に用いられる。接着剤としての利用は、架橋のために加えるポリアミン化合物などを硬化剤として用いる。 フマル酸やマレイン酸などの、二重結合を持つ不飽和酸と、エチレングリコールを重合させた分子を、スチレンで架橋した分子。 繊維強化プラスチックFRP(Fiber reinforced plastic)の母材として、この不飽和ポリエステルは用いられることが多い。 ゴムノキの幹に傷をつけると、その木から白い樹液が取れるが、このゴムノキの白い樹液をラテックス(latex)という。このラテックスは白くて粘性がある。 ラテックスは疎水コロイド溶液であり、炭素にタンパク質が保護作用をした保護コロイドによるコロイド溶液である。 ラテックスに酢酸などの酸を加えて凝固させたものが天然ゴム(natural rubber)あるいは生ゴム(raw rubber)である。生ゴムの主成分はポリイソプレンであり、これはイソプレン C5H8(示性式はCH2=C(CH3)CH=CH2である。)が付加重合したものである。 生ゴムには、弾性はあるものの、生ゴムの弾性は弱い。ゴム材料に弾性を持たせるには、加硫(= 硫黄を添加して加熱する処理)という処理が必要である。 イソプレンの構造式を見ると、2箇所の二重結合の間に単結合がある部位がある。二重結合があるため、シス形とトランス形の二通りがあろうが、一般の生ゴムの場合はシス形ポリイソプレンである。 いっぽう、マレー半島などのアカテツ科の樹液からとれるグッタペルカは、トランス型のポリイソプレンである。グッタペルカは常温ではプラスチック結晶状の硬い固体である。50度以上の温度で柔らかくなる。 生ゴムに硫黄Sを数%加えて加熱すると、弾性が増す。このゴムを弾性ゴム(elastic rubber)や加硫ゴムと言い、この操作を加硫(かりゅう、vulcanization、cure)という。 ポリイソプレンの2重結合の部分に硫黄原子Sが結合し、S原子は2個の原子と結合できるから、S原子が他の二重結合とも結びつき、S原子がポリイソプレンを橋架けして、(-S-S-)といった結合が生じるをする。このような高分子鎖などを橋架けをする反応を架橋結合(かきょう けつごう)または架橋(cross linkage)という。 加硫ゴムは、2重結合が減った結果、化学反応性が低下するので、耐薬品性が増す。 生ゴムに30%~40%の硫黄を加硫して加熱した得られる黒色のかたいプラスチック状の物質をエボナイト(ebonite)という。 天然以外に製造したイソプレンを架橋したゴムや、ブタジエンなどを架橋させたゴムなどを、合成ゴム(synthetic rubber)という。 合成ゴムには、イソプレンゴムやブタジエンゴムの他に、クロロプレンゴムやスチレン・ブタジエンゴムやブチルゴムなどがある。 ブタジエンゴムとクロロプレンゴムは付加重合によりゴム化する。 ブタジエンゴムでは、ブタジエンCH2=CH-CH=CH2から、ブタジエンゴム[-CH2-CH=CH-CH2-]n へとなる。シス型とトランス型があり、弾性に富むのはシス型のほうである。シス型を多く得るにはチーグラー触媒 TiCl4-Al(C2H5)3 を用いる。 摩耗性に優れているので靴底や、スチレンブタジエンゴムと配合させてタイヤなどに用いられる。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである(※ 参考文献: 数研出版の教科書より)。 クロロプレンゴムにもシス型とトランス型が有る。 クロロブレンの単量体(重合前のこと)の示性式は CH2=CCl-CH=CH2 である。 以上のブタジエンゴムは1種類のブタジエンから合成する合成ゴムであった。重合の単位となる分子を単量体というが、このように1種類の単量体しか用いない場合とは違い、複数種の単量体を用いるゴムを共重合ゴム(きょうじゅうごうゴム)という。 たとえばスチレン・ブタジエンゴムはスチレンとブタジエンを単量体とした共重合ゴムである。 また、ゴムにかぎらず、単量体(monomer)が複数ある重合結合を共重合(copolymerlization)という。 共重合で生成した高分子化合物を共重合体(copolymer)という。 略称はSBR。 ブタジエン (CH2=CH−CH=CH2) とスチレン(C6H5−CH=CH2) が共重合したもの。 耐磨耗性が良いので、タイヤなどに用いられることが多い。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである。 略称はNBR。アクリロニトリル・ブタジエンゴムも共重合ゴムである。 耐油性が高く、このため石油ホースなどにも用いられてる。 シアノ基(ニトリル基) R-C≡N の極性のため、耐油性が高い。 ジクロロジメチルシランを加水分解すると、ケイ素を含む重合体のポリメチルシロキサンが得られる。 これの架橋に、架橋剤として過酸化ベンゾイルなどの過酸化物の架橋剤を用いて架橋をすると、(-C-C-)といった架橋結合をもったシリコーンゴムが得られる。 シリコーンゴムの架橋には硫黄は用いない。 付加重合による重合とは違い、シリコーンゴムは二重結合を持たないので、大気中の酸素による二重結合の酸化による劣化が少ないので、酸化しづらく耐久性などの性質が優れる。
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純水の製造や、溶液中の成分の濃縮に、イオン交換樹脂(ion-exchange resin)が用いられている。イオン交換樹脂とは、溶液中のイオンを、べつのイオンに交換する樹脂である。 純水の製造には、海水の淡水化(塩水から、真水にすること。)や、他には工業用の純水化がある(※ 範囲外: たとえばボイラーに使う水からカルシウムなど硬水成分を除去するのに、イオン交換樹脂が使われている。 参考文献: 工業高校用の教科書『工業材料』平成16年発行版)。 スチレンC6H5-CH=CH2 とp-ジビニルベンゼン CH2=CH-C6H5-CH=CH2 を共重合化させると、立体網目状で、水には不溶の高分子が得られる。これを濃硫酸でスルホン化すると、スチレンのベンゼン環にスルホ基-SO3Hが導入される。 この樹脂は、水溶液中では水素イオンを放出し、代わりに溶液中の他の陽イオンと結合する事ができる。このような、水溶液中では水素イオンを放出し、代わりに溶液中の他の陽イオンと結合する事ができる 樹脂を陽イオン交換樹脂という。 このスチレンとp-ジビニルベンゼンを共重合化させたものを濃硫酸でスルホ化させた樹脂は、陽イオン交換樹脂の代表的なものとして、よく用いられる。 使用して、陽イオンが水素以外と交換したものは、そのままでは交換能力を失っているが、この樹脂に希塩酸や希硫酸などの酸性の溶液を通すと、ふたたびスルホ基-SO3 に水素分子Hが結合した状態-SO3Hに戻り、陽イオンの交換能力を取り戻す。 使用済みの陽イオン交換樹脂が、陽イオンの交換能力を取り戻すことを、イオン交換樹脂の再生という。 ポリスチレン分子中に、トリメチルアンモニウム基-N+(CH3)3などの塩基性の基を導入し、さらに強塩基でアルカリ化して基を-N+(CH3)3OH- にしておく。 この基は、溶液中の陰イオンとOH- を交換する能力を持つ。このような樹脂を、陰イオン交換樹脂と呼ばれる。 使用済みの陰イオン交換樹脂は、水酸化ナトリウム溶液などの強塩基を通すことで、イオン交換が再生する。 医療でもちいる人工透析でも、イオン交換膜が用いられている。(啓林館の検定教科書で確認。) なお、半導体の製造に使う「超純水」は、じつは純粋な水ではなく、半導体製造用に成分のコントロールされた水である。この超純水の製造も、水道水をもとにイオン交換樹脂で純度を上げた水が、使われているらしい。
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分子量が 10 000 以上の化合物を高分子化合物あるいは高分子という。 常温では固体で、成形が容易な合成高分子を合成樹脂(synthetic resin)あるいはプラスチック(plastic)という。 高分子化合物を作る際、たとえばポリエチレンはエチレンを合成させて作られるが、 このエチレンのように合成の単位になった分子1個のことを単量体(monomer)といい、いっぽうポリエチレンなどのように単量体のエチレンが連結したものを多量体(polymer)という。 単量体はモノマー、多量体はポリマーと呼ばれることもある。 単量体どうしが、結合することを重合(polymerization)という。 重合の際、たとえば二重結合のあるエチレンから、二重結合が単結合となることで重合するポリエチレンのように、二重結合が単結合となることで重合する結合を付加重合という。 重合の際に、化合物によっては、たとえば単量体に結合していた水素などが欠落し、副生成物として水分子が出来る場合がある。副生成物を生じて重合することを縮合という。特に、重合で水分子が、単量体由来の分子を原料として、水が副生成物として生じる場合の重合反応を脱水縮合という。 分子中の単量体の個数を重合度という。 いっぱんに多量体といった場合、特に重合度に決まりはないが、重合度が数百程度以上の物を指すことが多い。 高分子化合物を人工的に合成した場合、反応の重合度にばらつきが生じるので、分子量のグラフは右図のようになる。 ある高分子化合物について、その高分子化合物の分子量を平均したものを平均分子量(mean molcular weight)という。 高分子の分子量は、浸透圧を測定することで分子量を求められる。凝固点降下や沸点上昇を利用する方法では、うまく分子量を求められない。 高分子化合物の固体には、結晶構造の部分と非結晶構造の部分とが混ざっているが、大部分は非結晶部分である。 結晶構造の部分が多いと強度が高く、硬く、透明度が増す。 非結晶の部分が多いと、やわらかくなり、不透明になる。 高分子化合物は、一定の融点をもたない。 高分子化合物を熱していくと、明確な融点が分からないまま、だんだん軟化していき、しだいに液体になっていく。このように、高分子化合物において、軟化しはじめる温度を軟化点(softening point)という。 高分子化合物が一定の融点をもたない理由として、非結晶の部分が多かったり、あるいは、一定の分子量をもたず分子量が分布している事などがある 付加重合によって合成される樹脂について、その単量体はエチレン C=C やビニル基 CH2=CH のように二重結合を持ってる。 付加重合で合成せれた分子の構造には直鎖状の構造を持つものが多い。 アミド結合によって重合した化合物をポリアミド(polyamide)という。 エステル結合によって重合した化合物をポリエステル(polyester)という。 アジピン酸 HOOC − ( CH 2 ) 4 − COOH {\displaystyle {\ce {HOOC-(CH2)4-COOH}}} とヘキサメチレンジアミン H 2 N − ( CH 2 ) 6 − NH 2 {\displaystyle {\ce {H2N-(CH2)6-NH2}}} との縮合重合によって、ナイロン66が得られる[1]。 この、ポリアミドを繊維にしたものをナイロン(nylon)という。 環状のアミド結合を持つ、ε-カプロラクタム(caprolactam)に少量の水を加えて加熱すると、開環重合してナイロン6が生成する。 このように、環状分子が開環して鎖状のポリマーに重合することを開環重合(ring-opening polymerization)という。アミド結合を持つ環状化合物をラクタムという。 単量体が芳香族化合物であるポリアミドをアラミド(aramid)という。それを繊維にしたものをアラミド繊維という。 アラミド繊維の一例として、原材料にテレフタル酸ジクロリド Cl − CO − Ph − CO − Cl {\displaystyle {\ce {Cl-CO-Ph-CO-Cl}}} と、p-フェニレンジアミン H 2 N − Ph − NN 2 {\displaystyle {\ce {H2N-Ph-NN2}}} とを重合させると、p-フェニレンテレフタルアミドという化合物になる。 非常に丈夫であり、引っ張り強度も高く、耐熱性・難燃性もすぐれるので、防弾チョッキや消防服などに使用される。 エステル結合 -COO- によって連なった高分子化合物をポリエステルという。 ポリエステルは、合成繊維のほかにも、合成樹脂としても使われる。 テレフタル酸 HOOC-C6H4-COOH と、エチレングリコール HO-(CH2)2-OH を縮合重合するとポリエチレンテレフタラートが得られる。 略称はPETである。 PETは水を吸いにくい。 飲料用の容器のペットボトルに用いられる。 また、ポリエステル繊維はしわになりにくいので、衣服にも用いられる。 アクリロニトリル CH2=CH-CN を付加重合させたものをポリアクリロニトリルという。ポリアクリロニトリルを主成分とした繊維をアクリル繊維という。 ポリアクリロニトリルは疎水性であり、そのままでは染色しづらいので、ポリアクリロニトリル繊維に添加物として酢酸ビニル CH2=CH-OCOCH3 などの原子団を混ぜて、染色性を高める。 アクリル繊維の肌触りは羊毛に似ていて、やわらかい。 また、アクリロニトリルと塩化ビニルを共重合させた繊維は燃えにくく、カーテンなどに用いられている。 アクリロニトリルを窒素などの不活性気体中で、温度200℃ から段階的に温度を上げ 温度3000℃程度の高温で熱分解すると、炭素を主成分とする炭素繊維(カーボンファイバー)が得られる。炭素繊維は強度が優れている。 カーボンファイバーは、テニスラケットなどのスポーツ用品や釣竿、航空機の翼の材料の一つにも用いられる。 酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 を付加重合させて、ポリ酢酸ビニル[-CH2-CH(OCOCH3)-]n を作り、これを水酸化ナトリウムNaOHでけん化するとポリビニルアルコール -[CH2-CH(OH)]- n になる。 ポリビニルアルコールは、ヒドロキシ基を多く持ち、水溶性が高いので、そのままでは繊維には使えない。洗濯のりとして、ポリビニルアルコールは用いられる。 ポリビニルアルコールは、硫酸ナトリウム水溶液へ入れると凝固する。なので、繊維にするために、ポリビニルアルコールを細孔から硫酸ナトリウム水溶液へ送り出す。これは、単に塩析をしただけなので、凝固しても親水性は変わらない。 硫酸ナトリウム水溶液で凝固させたポリビニルアルコールを、ホルムアルデヒド水溶液HCHOで処理すると、ポリビニルアセタールになり(アセタール化)、 これをビニロン(vinylon)という。 このアルデヒドで環にする反応をアセタール化という。アセタール化によって親水基のOH基が減ったので、ビニロンは水に溶けなくなり、繊維として使える。ビニロンには親水基が残っているため、ビニロンの繊維は吸湿性を持つ。 ビニロンは、防護ネットや漁網などに用いられる。 酢酸ビニルそのものの作り方は、エチレンCH2=CH2 に適当な触媒を用いて、酢酸CH3COOH と反応させると、酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 が得られる。 高温に熱すると柔らかくなり、冷やすと固くなる樹脂を熱可塑性樹脂(ねつかそせい じゅし、thermoplastic resin)という。 合成繊維に用いられる高分子は、ほとんどが熱可塑性である。 いっぽう、熱可塑性樹脂に対して、別の種類の樹脂として、熱硬化性樹脂という樹脂がある。熱硬化性樹脂は、加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂である。 フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂が、熱硬化性樹脂である。 一般に、熱可塑性樹脂は付加反応で合成される場合が多く、いっぽうで熱硬化性樹脂は縮合反応で合成される場合が多いが、例外もある。 たとえばPET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)は縮合反応で合成されるが、熱可塑性である。 エチレンを付加重合するとポリエチレン(polyetylene)ができる。 ポリエチレンは熱可塑性樹脂である。 ポリエチレンには、重合反応の条件により、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)がある。 低密度ポリエチレン(Low Denscty PE)は高圧を掛けて重合させたものである。重合の開始剤として過酸化水素または酸素O2を用いる。温度100~350℃で、およそ気圧100atm ~ 200atm (およそ10MPa ~ 20MPa)程度で重合させると、ポリエチレンが得られる。 この低密度ポリエチレンの製法を高圧法という。 高圧法で作ったポリエチレンは枝分かれが多く、そのため、密度が低く、また軟らかい。 低密度ポリエチレンは軟らかいので、袋などによく用いられる。また、透明である。極性が無いので、吸水性がない。耐薬品性は良い。気体を透過しやすい。 触媒として、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3からなる触媒(この触媒をチーグラー・ナッタ触媒という)を用いて、5atm程度の数気圧でエチレンを付加重合させると、ポリエチレンができる。枝分かれの少ないポリエチレンができる。これは高密度のポリエチレンである。この低圧法で作ったポリエチレンを高密度ポリエチレンという。 製法には、高圧法と低圧法がある。 熱可塑性樹脂である。ポリエチレンより硬い。耐薬品性は高い。 スチレンの付加重合。 熱可塑性樹脂。透明。電気絶縁材料として使われる。イオン交換樹脂の母材に使われる。 いわゆる「発泡スチロール」とは、このポリスチレン樹脂に気泡を含ませた材料。 ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの付加重合により得られる。 他の樹脂と比べて、非常に硬い。この硬さの理由は、塩素の極性の強さによるものである。燃やすと有害な塩化水素ガスが発生するので注意が必要である。耐薬品性が高い。 純粋なものは、光によって化学変化をしてしまい塩素が除かれてしまうので、遮光のため顔料を加えてある。 水道管などに用いられる。 ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの付加重合で得られる。略称はPVAc 。(polyvinyl acetate) アルコールなどの溶媒に溶ける。水には溶けない。 軟化点が低く40℃~50℃程度で軟化するので成形品には用いられない。 用途は接着剤や、チューインガムのベースなど。ビニロンの原料である。 接着力のもとは、CO基による水素結合が接着力の理由である。 テトラフルオロエチレンCF2=CF2 の付加重合。 フッ素樹脂をポリテトラフロロエチレン(polytetrafluoetylene)ともいう。略称はPTFE。 耐薬品性が極めて高い。耐熱性が高く、融点は327℃である。 摩擦係数が低い。 メタクリル酸メチルの付加重合。ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)ともいう。略称は PMMA である。「メタクリル樹脂」と略される場合も多い。 透明度が高い。光学レンズに用いられる。 溶媒に溶ける。耐薬品性は良くない。 有機ガラスと呼ばれる。プラスチック製のガラス材料として用いられる。 以上の樹脂は熱可塑性樹脂である。以上の樹脂は付加重合によって作られる。付加重合とは重合する際に二重結合や三重結合の結合手の一本が開かれる重合である。一般に付加重合で作られる樹脂は熱可塑性樹脂である。 いわゆる「アクリル樹脂」とは、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。 水族館の水槽に使われるプラスチック製の透明板は、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。 加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂を熱硬化性樹脂(thermosetting resin)という。 構造は立体網目状の構造を持つものが多い。 フェノールにホルムアルデヒドを、酸または塩基触媒で加熱反応させると、酸の場合はノボラック(novolac)、塩基の場合はレゾール(resol)という、重合度のひくい中間生成物ができる。これに硬化剤を入れて加熱すると、熱硬化性のフェノール樹脂(ベークライト)ができる。 このフェノール樹脂の合成反応は、付加反応(フェノールとホルムアルデヒドの反応が付加反応)と縮合反応(さきほどの付加反応で生じた2種類の物質がそれぞれ単量体となって縮合していく)が、くりかえし行われて合成される反応なので、付加縮合(addition condensation)という。 フェノール樹脂の合成で、フェノールとホルムアルデヒドを反応させるさい、触媒に酸を用いると、ノボラック(novolac)という鎖式構造の重合分子が得られる。ノボラックは軟らかい固体物質である。このノボラックから重合によってフェノール樹脂ができる。 重合の際、ノボラックに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(CH2)6N4を加える。 フェノール樹脂の合成で、フェノールにホルムアルデヒドを反応させる際に、塩基を触媒としてフェノールにホルムアルデヒドを反応させるとレゾール(resol)という鎖式構造の重合分子が得られる。レゾールは液体であり、また、分子構造がノボラックとは異なる。 レゾールを加熱すると重合反応が進みフェノール樹脂になる。 フェノール樹脂は電気絶縁材料に用いられている。熱硬化性樹脂である。 アルカリには、やや弱い。 フェノール樹脂は、分子構造が、網目の立体構造になっている。 商品名でベークライトという名称がある。 アミノ基とホルムアルデヒドの付加縮合によってできる樹脂をアミノ樹脂(amino resin)という。 アミノ樹脂には、尿素樹脂や、メラミン樹脂がある。 尿素樹脂とは、尿素とホルムアルデヒドを縮合重合させたアミノ樹脂である。透明で、また着色性が良い。酸およびアルカリに弱い。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。 メラミンとホルムアルデヒドを縮合縮合。 硬い。無色透明。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。 アルキド樹脂(alkyd resin)とは、無水フタル酸とグリセリンなどの、多価アルコールと多価カルボン酸の縮合重合。耐候性にすぐれる。この樹脂の用途は、おもに塗料や接着剤などであり、成形品には用いないことが多い。 シリコーン樹脂は無機高分子の樹脂である。 塩化メチルとケイ素の反応によって、クロロトリメチルシランまたはジクロロトリメチルシラン、またはトリクロロメチルシランなどのメチルクロロシランのアルキルシラン類が作られる。このアルキルシラン類の付加重合によってシリコーン樹脂が作られる。 塩化メチルはメタノールと塩酸から作られる。 構造の骨格は、ケイ素Siと酸素Oが結合したシロキサン結合(-O-Si-O-) で形成されている。 耐熱性や耐薬品性が良い。 ビスフェノールとエピクロロヒドリンが架橋(かきょう)して重合。 架橋にはポリアミン化合物などが必要。 エピクロロヒドリンの末端にもつ3員環の基がエポキシ基である。 用途は、よく接着剤に用いられる。接着剤としての利用は、架橋のために加えるポリアミン化合物などを硬化剤として用いる。 フマル酸やマレイン酸などの、二重結合を持つ不飽和酸と、エチレングリコールを重合させた分子を、スチレンで架橋した分子。 繊維強化プラスチックFRP(Fiber reinforced plastic)の母材として、この不飽和ポリエステルは用いられることが多い。 ゴムノキの幹に傷をつけると、その木から白い樹液が取れるが、このゴムノキの白い樹液をラテックス(latex)という。このラテックスは白くて粘性がある。 ラテックスは疎水コロイド溶液であり、炭素にタンパク質が保護作用をした保護コロイドによるコロイド溶液である。 ラテックスに酢酸などの酸を加えて凝固させたものが天然ゴム(natural rubber)あるいは生ゴム(raw rubber)である。生ゴムの主成分はポリイソプレンであり、これはイソプレン C5H8(示性式はCH2=C(CH3)CH=CH2である。)が付加重合したものである。 生ゴムには、弾性はあるものの、生ゴムの弾性は弱い。ゴム材料に弾性を持たせるには、加硫(= 硫黄を添加して加熱する処理)という処理が必要である。 イソプレンの構造式を見ると、2箇所の二重結合の間に単結合がある部位がある。二重結合があるため、シス形とトランス形の二通りがあろうが、一般の生ゴムの場合はシス形ポリイソプレンである。 いっぽう、マレー半島などのアカテツ科の樹液からとれるグッタペルカは、トランス型のポリイソプレンである。グッタペルカは常温ではプラスチック結晶状の硬い固体である。50度以上の温度で柔らかくなる。 生ゴムに硫黄Sを数%加えて加熱すると、弾性が増す。このゴムを弾性ゴム(elastic rubber)や加硫ゴムと言い、この操作を加硫(かりゅう、vulcanization、cure)という。 ポリイソプレンの2重結合の部分に硫黄原子Sが結合し、S原子は2個の原子と結合できるから、S原子が他の二重結合とも結びつき、S原子がポリイソプレンを橋架けして、(-S-S-)といった結合が生じるをする。このような高分子鎖などを橋架けをする反応を架橋結合(かきょう けつごう)または架橋(cross linkage)という。 加硫ゴムは、2重結合が減った結果、化学反応性が低下するので、耐薬品性が増す。 生ゴムに30%~40%の硫黄を加硫して加熱した得られる黒色のかたいプラスチック状の物質をエボナイト(ebonite)という。 天然以外に製造したイソプレンを架橋したゴムや、ブタジエンなどを架橋させたゴムなどを、合成ゴム(synthetic rubber)という。 合成ゴムには、イソプレンゴムやブタジエンゴムの他に、クロロプレンゴムやスチレン・ブタジエンゴムやブチルゴムなどがある。 ブタジエンゴムとクロロプレンゴムは付加重合によりゴム化する。 ブタジエンゴムでは、ブタジエンCH2=CH-CH=CH2から、ブタジエンゴム[-CH2-CH=CH-CH2-]n へとなる。シス型とトランス型があり、弾性に富むのはシス型のほうである。シス型を多く得るにはチーグラー触媒 TiCl4-Al(C2H5)3 を用いる。 摩耗性に優れているので靴底や、スチレンブタジエンゴムと配合させてタイヤなどに用いられる。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである(※ 参考文献: 数研出版の教科書より)。 クロロプレンゴムにもシス型とトランス型が有る。 クロロブレンの単量体(重合前のこと)の示性式は CH2=CCl-CH=CH2 である。 以上のブタジエンゴムは1種類のブタジエンから合成する合成ゴムであった。重合の単位となる分子を単量体というが、このように1種類の単量体しか用いない場合とは違い、複数種の単量体を用いるゴムを共重合ゴム(きょうじゅうごうゴム)という。 たとえばスチレン・ブタジエンゴムはスチレンとブタジエンを単量体とした共重合ゴムである。 また、ゴムにかぎらず、単量体(monomer)が複数ある重合結合を共重合(copolymerlization)という。 共重合で生成した高分子化合物を共重合体(copolymer)という。 略称はSBR。 ブタジエン (CH2=CH−CH=CH2) とスチレン(C6H5−CH=CH2) が共重合したもの。 耐磨耗性が良いので、タイヤなどに用いられることが多い。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである。 略称はNBR。アクリロニトリル・ブタジエンゴムも共重合ゴムである。 耐油性が高く、このため石油ホースなどにも用いられてる。 シアノ基(ニトリル基) R-C≡N の極性のため、耐油性が高い。 ジクロロジメチルシランを加水分解すると、ケイ素を含む重合体のポリメチルシロキサンが得られる。 これの架橋に、架橋剤として過酸化ベンゾイルなどの過酸化物の架橋剤を用いて架橋をすると、(-C-C-)といった架橋結合をもったシリコーンゴムが得られる。 シリコーンゴムの架橋には硫黄は用いない。 付加重合による重合とは違い、シリコーンゴムは二重結合を持たないので、大気中の酸素による二重結合の酸化による劣化が少ないので、酸化しづらく耐久性などの性質が優れる。
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アクリル酸ナトリウムCH2=CH-COONaを架橋させたポリアクリル酸ナトリウムは、多量の水を吸収する。 吸水の仕組みは、水が加わると、電離によってCOONa部分が、COO-とNa+に電離するが、このときイオンの増加により浸透圧が発生するので、水を吸収する。 また、COO-どうしは同種の電荷なので反発しあい、樹脂が膨張するので、膨張した隙間に水が入り込めるようになり、水を吸収する。 吸水性樹脂の用途としては、紙おむつや土壌保水剤などがある。 光(おもに紫外線)を当てることで急激に重合して硬化し溶媒に溶けにくくなる樹脂がある。 ポリビニルアルコールの樹脂にケイ皮酸 C6H5CHCHCO2Hを結合させた高分子は、紫外線を当てると、架橋反応が起きる。(数研出版チャート式化学でケイ皮酸が紹介されている。) また、他の樹脂では、光を当てることによって化学変化をして溶媒に溶けるようになる樹脂もある。 このように、光を当てることによって性質が大幅に変化する樹脂のことを感光性樹脂(かんこうせいじゅし、photosenstive polymer)という。 感光性樹脂は、プリント配線や集積回路の製造、印刷、金属の精密加工、歯科の充填剤などに利用されている。 自然界で、微生物などにより分解される樹脂を生分解性樹脂(せいぶんかいせい じゅし、biodegradable polymer)という。 また生分解性樹脂などが、自然界で分解されることを生分解という。 分子構造の種類は、おもに、タンパク質のものと、乳酸を重合させて得られるポリ乳酸や、ポリグリコール酸のものや、デンプンやセルロース、キトサンなどからつくられるものがある。微生物などの作用によって、これらの生分解性樹脂は、しぜんに分解される。 外科手術用の縫合糸に、抜糸の必要がないため、ポリ乳酸やポリグリコール酸の糸が使われている(啓林館、東京書籍の検定教科書に記述あり)。 一般に、生分解性樹脂は親水性が高まるほど、生分解されやすくなる。なお、ポリ乳酸の原料の乳酸は、デンプンなどから得られるため、石油系のプラスチックの代替としても期待されている。 アセチレンの重合体であるポリアセチレンの導電率は、ポリアセチレンそのものは、電気をさして通さない。 しかし、ヨウ素I2を加えると、電気を通すようになり、なお、その場合の導電率は銅に近い。 しかし、ヨウ素などの添加によって、ポリアセチレンは金属並みの導電性を持つ(銅くらいの導電性とされる)。 このため、ポリアセチレンのような、導電性をもった高分子のことを導電性高分子(どうでんせい こうぶんし、conducting polymer)という。 導電性高分子の産業の応用として、コンデンサー、ポリマー電池などの応用・研究などが進んでいる。 日本の白川英樹(しらかわひでき)は、この導電性ポリアセチレンの発見と研究で、ノーベル賞を2000年に受賞した。 ところで、ポリアセチレンの構造は、長い共役二重結合(きょうやく にじゅう けつごう)をもった化合物である。単結合と二重結合が繰り返している構造を、共役二重結合という。 ポリアセチレンのほか、ベンゼンも、共役二重結合をもっている(なお、このベンゼンの共役二重結合こそが、ベンゼンの安定性の理由の一つである)。 一般に、化合物の価電子は、共役二重結合の内部を動き回れる性質がある。(この共役二重結合を動き回れる価電子をπ電子(「パイでんし」)という。) この共役二重結合とπ電子が、ヨウ素の加わったポリアセチレンの導電性の理由でもある。 ポリオレフィンビニレンの高分子は導電性高分子であり、さらに電気を通すと発光することから、有機ELなどのディスプレイ発光素子としての研究が進められている。 半導体産業の用語にならってだろうか、この、導電率をあげるためにポリアセチレンにヨウ素などを加える操作のことを「ドーピング」という。(シリコン半導などの半導体体産業にも「ドーピング」という用語がある。) このように、類似点があるが、しかし相違点もある。 相違点のひとつは、下記のとおり。 (ここまで相違点。) ※ このように相違点もあるので、検定教科書では半導体との類似点を記述していないことにも、教育的な合理性がある。 導電性樹脂のハロゲン添加において、単体では導電性を持たないヨウ素を添加して導電性が向上するのは、ヨウ素に電子が吸収されるからであるとされている。ヨウ素の他に、ハロゲンであるBr2やFeCl2なども、電子を吸収する。これらの性質を電子求引性(でんし きゅういんせい)という(※ 「吸引」ではなく「求引」)。また電子求引性をもった化合物を「アクセプター」という。(半導体産業にも「アクセプター」という用語がある。) いっぽう、NaやLiなどは電子を供与する物質であり、これらを添加することでも、ポリアセチレンの導電性を向上できる。ただし、ナトリウムやリチウムの場合、それ自体が金属であるので、果たして共役二重結合的なメカニズムによって導電率が向上したのか、それとも、単に金属が添加されたことで導電率が向上したのか、不明確である。 この電子を供与する性質を電子供与性と言い、また電子供与性のある化合物を「ドナー」という。(半導体産業にも「ドナー」という用語がある。) この原理は、シリコン半導体などのドーピングの原理と似た原理である。 なので共役π電子系の導電性高分子でも、ドナーやアクセプターの添加を「化学ドーピング」あるいは「ドーピング」という。 なお、ポリアセチレンそのものの合成は、チーグラー触媒を用いてアセチレンガスと有機金属化合物から合成できる。 ポリアセチレンの他の高分子でも導電性樹脂の開発が進められている。 たとえばポリチオフェンやポリアニリンが有る。 それらも同様に、共役二重結合をもった導電性樹脂の場合は、導電の仕組みは共役二重結合によるものである。 「イオン伝導性樹脂」と言われるものには、いくつかの種類がある。 この節では、そのうち、いくつかを取り上げる。 ポリエチレンオキシド (-CH2-CH2-O-)n やポリプロピレンオキシド (CH2-CHCH3-O-)n は、金属塩LiClO4などのアルカリ金属塩と複合体をなす。ポリエチレンオキシドなどとアルカリ金属塩との複合体は、高い導電性を持つ。この導電性の高さの理由は、樹脂内でアルカリ金属塩がイオンに電解していると考えられている。なお、このように固体内で化合した塩をイオンに電解している物質を「固体電解質」という。 ポリエチレンオキシド(PEO)は、PEO系のリチウムイオン電池に利用されている・・・と言われている。 なお、生物実験などで用いられるポリエチレングリコールは、ポリエチレンオキシドの一種である。(※ ポリエチレングリコールについては『高等学校生物/生物II/遺伝情報の発現』) なお、エチレンオキシドとエチレングリコールは、異なる分子である。(※ エチレングリコールについては『高等学校化学I/脂肪族化合物/アルコール』にて説明してある。) ポリエチレンオキシドは水に溶ける。また、ベンゼンにも、ポリエチレンオキシドは溶ける。 水の中では、ポリエチレンオキシドの分子中にたくさんある酸素原子が、水素結合のような結合によって水分子のH+イオンにまとわりつく、考えられている(このような溶液中での結合を「溶媒和」(ようばいわ)という)。 このように水に水ける性質を利用して、ポリエチレンオキシドをほかの疎水性分子と結合させることにより、界面活性剤としても利用されている。 ポリエチレンオキシドは、いくつかのタンパク質の分解や反応を阻害する作用があり、毒性が小さいので、食品添加物や医薬品などにおいてタンパク質の安定剤などとしても用いられている。 なお、ポリエチレンオキシドを用いた方式のリチウムイオン電池では、 ポリエチレンオキシドのたくさんの酸素原子が Li+ に溶媒和している、考えられている。 なお、アルコールがアルカリ金属と化合するように(いわゆるアルコキシド)、アルカリ金属と有機化合物が複合する事自体は、べつに珍しい事ではない。(※ 『高等学校化学I/脂肪族化合物/アルコール』) セッケンや多くの合成洗剤がナトリウム化合物であるように、固形の有機化合物でもアルカリ金属と化合している物質も、多く存在する。(※ 『高等学校化学I/脂肪族化合物/セッケン』) また、吸水性高分子で、アクリル酸ナトリウムCH2=CH-COONaを架橋させた「ポリアクリル酸ナトリウム」という吸水性高分子があるように、高分子にアルカリ金属が化合している物質がある事自体は、べつに珍しい事ではない。 右図の分子「ナフィオン」は、イオンを通す。(※ 参考文献: 培風館『step-up 基礎化学』、梶本興亜 編、2015年初版、183ページ) そのため、この構造の分子は燃料電池(固体高分子型の燃料電池)に用いられる事がある。 分子中のスルホン酸-SO3Hの部分が、イオン導電性に関わってると考えられている。
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純度の高い鉄の単体は、灰白色であり、比較的やわらかい。 鉄鉱石からの鉄の精錬では、赤鉄鉱 Fe 2 O 3 {\displaystyle {\ce {Fe2O3}}} や磁鉄鉱 Fe 3 O 4 {\displaystyle {\ce {Fe3O4}}} などの鉄鉱石を溶鉱炉で溶かし、コークス C {\displaystyle {\ce {C}}} 、石灰石 CaCO 3 {\displaystyle {\ce {CaCO3}}} を加えて発生する一酸化炭素 CO {\displaystyle {\ce {CO}}} で還元して、鉄をつくる。 鉄鉱石は段階的に次のように還元される。 F e 2 O 3 → F e 3 O 4 → F e O → F e {\displaystyle \mathrm {Fe_{2}O_{3}\rightarrow Fe_{3}O_{4}\rightarrow FeO\rightarrow Fe} } それぞれの反応式は [450℃]  3 Fe 2 O 3 + CO ⟶ 2 Fe 3 O 4 + CO 2 {\displaystyle {\ce {3Fe2O3 + CO -> 2Fe3O4 + CO2}}} [800℃]  Fe 3 O 4 + CO ⟶ 3 FeO + CO 2 {\displaystyle {\ce {Fe3O4 + CO -> 3FeO + CO2}}} [1200℃]  FeO + CO ⟶ Fe + CO 2 {\displaystyle {\ce {FeO + CO -> Fe + CO2}}} 全体での反応は次の反応式で表される。 Fe 2 O 3 + 3 CO ⟶ 2 Fe + 3 CO 2 {\displaystyle {\ce {Fe2O3 + 3CO -> 2Fe + 3CO2}}} また、不純物を取り除くため石灰石 CaCO3 を加える。石灰石によりシリカSiO2やアルミナAl2O3などの脈石(岩石を構成する成分のこと。)が分離される。 このようにして高炉で得られた鉄を銑鉄(せんてつ、pig iron)という。 なお、高炉の内側の耐火性のレンガにより、高炉は高温に耐えられるようになっている。 石灰石は、鉱石中のケイ酸塩と反応しスラグ CaSiO3 を形成する。スラグは比重が銑鉄より軽いため、スラグは銑鉄に浮かぶ。スラグはセメントの原料になるため、スラグは廃棄せず分離して回収する。 また、炭素や石灰石の添加は、融点を下げる役割も有る。凝固点降下と同じ原理である。一般に混合物は融点が下がる。 銑鉄は炭素を質量比4%ほど含む。鉄中の炭素が多いと、粘りが無くなり、衝撃などに対して脆く、硬いが割れやすくなる。 このような鉄は、割れやすいが混合物のため融点が低く、また流動性も良いため鋳造(ちゅうぞう)に用いられる。そのため、このように炭素含有量の多い鉄は 鋳鉄(ちゅうてつ) と呼ばれる。 しかし鋳鉄は割れやすいため、建築材などには不便である。 丈夫な鉄を得るには銑鉄の炭素量を適量に減らす必要があり、転炉で酸素を加えて燃焼させて取り除く。転炉には、酸素吹き込み転炉などを用いる。この酸素吹き込みの酸化熱が、鉄を溶かし続ける熱源に使える。 炭素を0.02%~2%ほど含む鉄を鋼(こう、steel)という。 建築材などの構造材に用いられるのは、十分な硬さと強さをもたせた鋼である。 添加物のため融点は下がり、およそ1400℃で融解し、溶鉱炉の底に溶けた鉄がたまる。 なお、1200℃での反応の式について、温度が高くなりすぎると、逆方向に反応が進んでしまいCO2によるFeの酸化が起きるので、1200℃程度を保つ必要がある。 鉄の化学的性質として、鉄の単体および銑鉄や鋳鉄は、湿った空気中で酸化されやすく、さびやすい。 さびを防ぐため、合金として、鋼にクロム Cr やニッケル Ni などを混ぜた合金がステンレス鋼(ステンレスこう)である。このステンレス鋼は化学的な耐食性が高く、さびにくいため、建築材や台所部材として用いられる。 純度の高い鉄(てつ)の単体は、灰白色であり、比較的やわらかい。 鉄には酸化数+2または酸化数+3の化合物がある。 鉄の酸化物には、黒色の酸化鉄(II) FeO 、赤褐色の酸化鉄(III)Fe2O3 、黒色の四酸化三鉄 Fe3O4 などがある。 鉄は、湿った空気中で酸化されやすい、よって鉄は、さびやすい。 鉄の赤さびは、 酸化鉄(III)Fe2O3 である。 鉄は希硫酸に加えると、水素を発生して溶け、淡緑色の溶液になる。この水溶液から水を蒸発させて濃縮すると、硫酸鉄(II)七水和物FeSO4・7H2Oが得られる。 いっぽう、濃硝酸では、不動態となり、鉄の表面に皮膜ができて、それ以上は反応が進行しない。 鉄 Fe 、ニッケル Ni 、コバルト Co は、単体で磁性を帯びることができる金属である。 一方、銅やアルミニウムは、磁化されない。 鉄、ニッケル、コバルトのように、磁石になることができる物質を強磁性体という。 銅の特徴として、銅は電気の伝導性が良く、また熱の伝導性も良い。なお、一般に純金属の熱伝導性と電気伝導性は比例する。このため、自由電子が、その金属内で熱を伝える作用があるという説が、定説である。 銅は天然にも単体として鉱石が産出されることがあるが、多くの場合は黄銅鉱CuFeS2などのように化合物として産出する。 銅の単体の外観は、赤色の光沢をもつ。 また、銅は電気伝導性が大きい。このため、電線などの電気材料にも銅が用いられる。 銅はイオン化傾向が水より小さいため、酸には侵されにくいが、硝酸など酸化力の強い酸には侵される。酸化作用の強い酸には、硝酸のほか、熱濃硫酸がある。 銅は、湿った空気中で、緑色の さび である緑青(ろくしょう)を生じる。 銅の精錬には、まず、黄銅鉱など銅鉱石を溶鉱炉で溶かす。溶鉱炉にはコークスCおよびケイ砂SiO2を加える。 硫化銅Cu2Sは「かわ」とよばれる。この硫化銅は炉の下層に沈む。FeSiO3 は上層に分離する。溶鉱で発生したFeSiO33は「からみ」という。なおFeSiO3 の式をFeOSiO2と書く場合もある。 この硫化銅を転炉で空気を吹き込むと、銅が遊離する。 こうして転炉で作った銅を粗銅(そどう)という。粗銅の純度は98.5%程度である。 粗銅の純度を上げる目的で金属のイオン化傾向を利用した電気精錬が行われる。粗銅を陽極にして、純銅板を陰極にして硫酸銅CuSO4水溶液中で電気分解すると、陰極に純度が高い銅(99.97%程度)が析出する。一般に、こうして電気精錬で得られた純度99.99%程度の銅を、「純銅」(じゅんどう)と見なしており、検定教科書でも、そう見なしている。 なお、このように電気精錬で得た銅を、電気銅ともいう。 この電気銅が、現在(西暦2013年に記事を執筆)、用いられている銅材料の原料である。 なお、電気精錬の際に、銅中に銀Agや金Auなどの不純物が混ざっていると、電気精錬の際に、銀や金はイオン化傾向が銅よりも低いのでイオン化せず、金や銀が陽極の下に沈殿する。この沈殿を陽極泥(ようきょくでい)という。 電気銅には、まだ水素や硫黄などの不純物が含まれており、それらの不純物を取り除くため電気銅のあとにも精錬は続く。 特に、銅への水素の混入は、水素脆性(すいそぜいせい)という金属材料が脆くなる原因になるので、取り除かなければならない。 銅を空気中で加熱すると、1000℃以下では黒色の酸化銅(II) CuO を生じ、1000℃以上では赤色の酸化銅(I) Cu2O を生じる。 銅が熱濃硫酸に溶解した溶液から、硫酸銅の溶液が得られる。 この溶液から、結晶を析出させると、青色の硫酸銅の結晶が得られる。 硫酸銅の結晶の硫酸銅(II)五水和物 CuSO4・5H2O は、青色の結晶である。 硫酸銅(II)五水和物を熱すると、水和水を失って、無水物の硫酸銅 CuSO4 になり、白色の粉末になる。 この硫酸銅の粉末は、水を吸収すると、青色の水和物に戻る。なので、水の検出のさい、硫酸銅が活用されることがある。 アルミニウムの精錬は、鉱石のボーキサイトからアルミナAl2O3を抽出する工程と、アルミナAl2O3から電解してアルミニウムを得る工程からなる。 アルミニウムの天然の鉱石はボーキサイト(bauxite)といい、ボーキサイトの化学式はAl2O3・nH2Oである。ボーキサイトに濃い水酸化ナトリウム溶液NaOHを加えてアルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)4]が得られる。正確にはテトラヒドロキソアルミン酸ナトリウムという。 アルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)_4]の溶液を冷却し、加水分解がおこると水酸化アルミニウムAl(OH)3 の沈殿が析出する。 生じたAl(OH)3 を分離して、このAl(OH)3を1200℃に加熱して酸化アルミニウムAl2O3にする。 これらのボーキサイトからアルミナまでの工程をバイヤー法という。 Al2O3 はアルミナという。アルミナは融点が高く、約2000℃の融点なので、融点を次の融解塩電解という処理で下げる。 まず、氷晶石を加える。すると融点が下がる。これを電解してアルミニウムにする。 この氷晶石を用いたアルミナの融解の方法をホール・エルー法という。 ※ 化学1でも電気分解を紹介してるので、読者は必要に応じ参照されたい。 工程は以下のとおり。 アルミナAl2O3(融点 2072 °C)に氷晶石Na3 AlF6(融点 1012℃)を、割合が氷晶石9.5重量%ほどになるまで少しずつ加える。氷晶石はアルミナにとって不純物であり、不純物との混合によって溶融温度が下がり、融点が約970℃になる。 溶融したアルミナを電気分解によって、精錬する。 また、このように添加物を加えて融点を下げ、溶融させて電解する方法を融解塩電解または溶融塩電解という。 溶融塩電解による精錬は、アルミニウムの他に、酸化マグネシウムMgOからマグネシウムMgを精錬する場合や、酸化チタンTiO2からチタンTiを精錬する場合に用いられる。 ちなみにアルミナAl2O3 はセラミック材料として様々な優れた性質を持っている。 酸化マグネシウム(マグネシアという)や酸化チタンもセラミックス材料として優れた性質を持っている。 アルミニウムやマグネシウムなどのように酸化物からの精錬に手間が掛かる材料は、裏を返せば、アルミナやマグネシアのように酸化物はセラミックスとして安定した性質を持っているということでもある。 2種類以上の金属を溶融して混合したあとに凝固させたものを合金(alloy)という。 一般に合金では、元の金属単体よりも硬さが増す。ここでいう「硬い」とは「やわらかくない」「変形しづらい」というような意味であり、必ずしも割れにくいとは限らないので注意。また一般に合金の電気抵抗は、もとの金属よりも合金の電気抵抗が上がる。その仕組みの説明として、合金元素によって結晶配列が乱れるから、というのが定説である。 主要な合金の例を示す。 酸素や水と接触した金属は表面で酸化還元反応を起こし、金属がイオン化し脱落する。この反応を腐食という。イオン化した金属が酸化物や水酸化物となって表面に堆積したものを錆という。 鋼板にスズをメッキしたものをブリキ、亜鉛をメッキしたものをトタンという。イオン化傾向が Zn > Fe > Sn {\displaystyle {\ce {Zn > Fe > Sn}}} のため、ブリキはスズが鉄の腐食を防いでいる。しかし、メッキが傷つき鉄が露出した箇所に水がつくと、イオン傾向の大きい鉄がスズよりもイオン化しやすいため、鉄が腐食しやすい。トタンは、亜鉛が鉄より腐食しやすいが、鉄が露出した箇所があってもイオン化傾向の大きい亜鉛が鉄よりイオン化しやすいため、内部の鉄の腐食が防がれる。 つまり、傷がなく鉄が露出していない場合はブリキの方が錆びにくいが、傷がついた場合はトタンの方が錆びにくい。このため、ブリキは缶詰や金属玩具などに用いられ、トタンは屋根やバケツなどに用いられる。 ランタン-ニッケル合金やチタン-鉄合金などは、常温で合金結晶間に水素を吸蔵する性質をもち、加熱などによって水素を掃き出す性質が知られている。 自己の体積の1000倍以上もの水素を吸蔵できる合金もある。 ランタン-ニッケル合金を母材にした、ニッケル水素電池が実用化されており、ハイブリッド自動車で実用化されている。今後の水素自動車や燃料電池自動車などの燃料タンクとしても期待され、開発が進められている。 このほか、チタン鉄合金系もある。 チタンとニッケルの合金では、高温で成形したときの形状の記憶を保ち、常温で変形させても、加熱することで元の形に戻るものがある。 このような合金を形状記憶合金(けいじょうきおく ごうきん、shape memory alloy)という。 眼鏡フレームなどに利用されている。 ある種類の物質は、きわめて低温(たとえば絶対零度のちかく)で、電気抵抗がゼロになる。実用化されてる超伝導合金の代表例として、スズとニオブの合金がある。 応用としては、強い電磁石を作る際に、よく超伝導合金が利用されることがある。医療用MRI(磁力を応用して、人体の断層写真を撮影できる装置)などに、超伝導合金が利用されているという。また、研究開発中だがリニアモーターカーにも、すでに超伝導合金が応用されているという。 スズ-ニオブ系のほかにも、いくつもの超伝導合金が知られている。 アモルファス合金とは、結晶構造を持たずに非晶質(ひしょうしつ)の合金である おおまかな製法は、高温状態で柔くなった金属を急冷すると、原子が通常の結晶構造での位置に配置される前に、冷却によって金属全体が固化してしまい、通常の位置に原子が配置されない。 そのため、急冷した金属・合金のいくつかは結晶構造をもたず、通常の金属とは違った特性をもつ。 磁力的な性質が、異なっている場合が多い。このように、結晶をもたない金属を、アモルファス金属(amorphous metal)といい、そのような、結晶を持たない合金をアモルファス合金という。 応用は、すでに磁気記録用ヘッドとして、(コバルトなどを含む)アモルファス合金が応用されている。 また、鉄系のアモルファス合金が、耐腐食性の必要な環境で用いられる場合もあるという。 高温での加工をしようとすると結晶化してしまうので、原理的に高温での加工ができないという、短所がある。 耐腐食性が高まっている場合もあり、そのような性質の必要な環境にも応用されているという。 タングステン W は融点がきわめて高く(融点3400℃)、耐熱性が大きいので、電球のフィラメントなどに用いられる。 金属では、タングステンが、もっとも融点が高い。 また、炭化タングステン WC は、かなり硬い。 白金 Pt は、銀白色の固体で、化学的な安定性が高い。 かつて、メートル原器の材質として用いられていた。 触媒としても、用いられている。
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ガラス、セメント、陶磁器などのように、無機物質に加熱処理などしたものを、セラミックスという。 また、このようなセラミック製品を製造する産業を、セラミック産業または窯業(ようぎょう)という。 窯は「かま」の事である。 原材料にケイ酸塩化合物を用いることが多いことから、ケイ酸塩工業ともいう。 セラミックスには下記のように多くの種類があるが、ほとんどのセラミックス材料に共通する性質として、 材料によっては、例外もある。 また、後述する「ニューセラミックス」「ファインセラミックス」では、セラミックに他の材料などを混ぜるなどをして、特性を改良ているため、上記の特性の例外となる場合もある。 なお、「硬い」という長所は、加工のさいには「展性が無い」ので加工が難しいという短所でもある。 建築用のセメント(cement)は、原料に、石灰石、砂、砂利、酸化鉄、粘土、セッコウなどを含んでいる。製造のとき、石灰石が高熱で処理され、酸化カルシウム CaO になる。 セメントは、水をくわえると、発熱しながら、やがて硬化する。 また、コンクリート(concrete)は、セメントに、砂利、砂、水をくわえて、固めた物である。 セメントおよびコンクリートの、水により固まる反応の化学式については、多くの反応が関わっており、複雑なので省略する(高校化学の検定教科書でも、説明を省略している)。 なお、セメントに砂を混ぜたものは、「モルタル」(mortar)という。 セメントおよびコンクリートには、カルシウム Ca が含まれている。 なお、セッコウは、硬化を遅らせて調節するために添加されている。 コンクリートは圧縮の力には強いが、引っ張りの力には弱いので、引っ張りにつよい鉄筋を入れた鉄筋コンクリート(reinforced concrete 、RC)として用いる。 コンクリートは、材料中の水酸化カルシウム Ca(OH)2 により、塩基性を示す。また、この塩基性により、内部の鉄筋が酸から保護される。空気中の酸性物質などにより、コンクリートはしだいに中性に中和されていき、そのため強度がしだいに低下していく。また、鉄筋を保護していたコンクリートが劣化すると、内部の鉄筋も酸に腐食されやすくなっていく。 ガラスはケイ酸塩を主成分として、Na、K、などを含んでいる。 ガラスの結晶構造は不規則であり、また、一定の融点を持たない。高温にすると、やわらかくなり、水あめ のように軟らかくなる。冷えると、固まる。 ガラスの結晶のように、不規則なまま硬化している結晶構造を、アモルファス(非晶質)という。 ガラスは無色透明であるが、金属酸化物をくわえると、その種類に応じて着色する。 ほぼ二酸化ケイ素だけで出来ている高純度のガラスを、石英ガラスといい、紫外線の透過性が高く、また耐熱性も高いので、光学機器や耐熱ガラスや光ファイバーなどに利用されている。 しかし、石英ガラスは耐熱性が高すぎるため融点が高く、製造時の溶融加工が容易でないので、一般のガラス製品には添加物をくわえて融点を下げたソーダ石灰ガラスなどが用いられている。 窓ガラスなどに用いられる一般のガラスは、ソーダ石灰ガラスであり、SiO2のほか、Na2OとCaOを主成分としている。 このソーダ石灰ガラスの製法は、けい砂(主成分 SiO2)に、炭酸ナトリウム(Na2CO3)や石灰石を添加して作る。 ガラスを高温に熱していったとき、ガラスが軟らかくなり始める「軟化点」(なんかてん)または「軟化温度」という。ソーダ石灰ガラスの軟化点は630℃だが、石英ガラスの軟化点は1650℃と、かなり高い。 なお、理科実験などで用いるビーカーやフラスコなど、理科学器具に用いられるガラスの材質には、ホウケイ酸ガラスが用いられている。 ホウケイ酸ガラスは、ホウ砂(主成分 B2O3)とケイ砂からなるガラスである。ホウケイ酸ガラスは熱膨張率が低く、そのため耐熱性も高く、耐食性も高いことから、理科実験器具用のガラスとして用いられている。 鉛ガラスは密度が大きく、また、X線など放射線の吸収能も大きいため、放射線遮蔽窓として用いられる。 また、鉛ガラスは屈折率も大きいため、光学レンズとしても用いられる。 粘土や砂、岩石の粉などを焼き固めて、陶磁器がつくられる。 陶器は約1000℃で焼き固めてて作られ、磁器は約1400℃で焼き固めて作られる。 焼き固めとは、高温にすることで、粒子の表面が部分的に融け、そのあと冷ましていくことで、粒子どうしが接着する。 これらの焼き物の表面には、焼く前に、石英などの粉末からなる上薬(うわぐすり)が表面に用いられている。上薬のことを、釉薬(ゆうやく)ともいう。 焼く時に、上薬が融けて、ガラスになる。また、表面がガラスで保護されることで、吸水性がなくなる。 Al2O3は硬くて丈夫なので、さまざまな材料に用いられる。 研磨剤にも、アルミナは用いられている。 アルミナは絶縁性も高く、そのためICチップなどの絶縁材にも用いられる。(参考文献、『セラミック材料』、工業高校教科書、文部科学省) おまけにアルミナは熱伝導性も比較的よく、そのため電気回路で生じたジュール熱を外部に放散しやすいので、温度上昇による誤動作を防ぎやすくて好都合である。 また、医療用の人工骨などにアルミナ材料の人工骨を用いてても、拒否反応などを起こさず、生体適合性が良い。なお、自然には人体にアルミナは接着しないので、ボルトなどで人工的に人工骨を既存の骨に固定する必要がる。 ケイ素 Si は、シリコンともいい、半導体の材料として、かなり高純度のシリコン(Si)に、導電性を適度に高めるための添加物を加えたものが用いられている。 酸化ジルコニウム ZrO2 およびそれに添加物を加えた材料では、結晶中に自然に生じた欠陥が、まるでシリコン半導体でいう導電性を高めるための添加物と似た役割を生じて、酸化ジルコニウム中の欠陥が酸化ジルコニウムの導電性に影響を与える。その結果、酸化ジルコニウムは、空気中の酸素濃度により導電性が変わる。このため、酸化ジルコニウムは酸素センサとして用いられる。 酸化チタン TiO2 は、光が当たると、有機物を分解する。この有機物の分解作用のため、光の当たった酸化チタンは、殺菌や消臭などの効果をもつ。酸化チタンそのものは減らずに残り続けるので、触媒的に働くことから、このような光のあたった酸化チタンによる分解作用が、光触媒(ひかりしょくばい)と呼ばれる。 この分解のエネルギー源は、酸化チタンが紫外線を吸収し、そのエネルギーによって酸化チタンの酸化力が高まり、そして有機物を分解する。 さて太陽電池としても、酸化チタンは利用されている。酸化チタンそのものは紫外線しか吸収しないため効率が低いため、色素を添加して、色素に可視光を吸収をさせて、そのエネルギーを酸化チタンが利用できるように工夫した太陽電池が開発されており、色素増感型(しきそぞうかんがた)太陽電池と言われている。(「色素」そのものはセラミックではない。混同しないように。色素は一般に有機高分子である。) また、色素と光によってエネルギーを得る仕組みが、植物の光合成の仕組みに似ていることから、生物学的にも興味を持たれている。 この他、酸化チタンは白色であり、人体に無害なので、化粧などの白色顔料としても用いられている。 このほか、超親水性(ちょうしんすいせい)という性質があり、水に濡れても水滴にならず、水が全体に広がるので、自動車のフロントガラスなどの添加剤に応用されている。 酸化スズ SnO2 では、表面に酸素を吸着する性質がある。そして、プロパンガスや一酸化炭素などにさらされると、吸着された酸素が燃焼して、もとの酸化スズに戻る。この吸着と酸素の離脱のさい、導電性が変わるため、プロパンガスなど可燃性ガス濃度を測るセンサーとして用いられる。 そもそもコンデンサーには、電気を通さない性質が求められる。つまりコンデンサーの材料は、絶縁物質であるべきである。そもそも、コンデンサーは、誘電分極(ゆうでん ぶんきょく)を利用した素子だから。もし、金属のように電気を通してしまうと、そもそもコンデンサーとしての役割を持たない。 セラミックは電気を通さないため、コンデンサーとして適切であり、じっさいにコンデンサーとしてセラミック材料は利用されている。 なお、セラミックは、絶縁材料としても、活用される。 コンデンサー材料としては、チタン酸バリウム BaTiO3 などがある。 チタン酸ジルコン酸鉛 PbTiO3 や チタン酸バリウム BaTiO3 などに圧力をくわえると、電圧が発生する。これを利用して、圧力センサーなどに用いる。なお、チタン酸バリウムは、コンデンサー材料としても用いられている。このように、圧電の仕組みと、コンデンサーの誘電分極の仕組みとは、関連性がある。 なお、このような圧電性の材料に交流電圧をくわえると、振動をすることから、音波や振動の発生源としても用いられる。さらに、振動の共振周波数(その物体が振動しやすい周波数)が、その振動体に加えられた圧力や荷重などの外部の力によって変化することから、圧力センサーなどにも圧電材料が応用されている。 ハイドロキシ アパタイトは、骨の主成分でもある。そのため、ハイドロキシアパタイトでつくった人工骨は、もともとの骨に接着しやすく、拒否反応なども起こりにくいので、医療用の人工骨などに利用される。なお、拒否反応などが無くて、生体に接着しやすい性質を、生体親和性という。 炭化物のセラミックスの中には、硬度がかなり高く、また適度に靭性もあり、丈夫なものがある。このため、炭化チタン TiC などは切削工具などに用いられる。炭化ケイ素や窒化ケイ素なども、耐熱性が高い。 自動車エンジンやガスタービンなどに、これらの耐熱セラミックスが用いられる。 半導体や、いくつかのセラミックスには、温度の上昇にともなって、電気抵抗が下がるものがある。 なお、金属では、温度が上がると、電気抵抗が上がる。 半導体やセラミックスの、このような、温度上昇にともなって電気抵抗が下がる特性が実用化されており、電子機器での温度変化時の電圧など出力の安定化のための部品に利用したり、あるいは温度センサなどに利用されたりしている。
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一般に、ヒトや動物の病気を治すために使用する物質を、医薬品という。 医薬品が、それを使用した生物におよぼす変化を薬理作用という。 一般に、医薬品は体内でさまざまな作用を起こす。このうち、治療の目的に沿った作用を主作用といい、それ以外の作用を副作用という。 人類は、古代から天然の植物などから医薬品として機能するものを採取して使用してきた。このような天然由来の医薬品を生薬という。 ケシの実から取れる果汁を乾燥させたアヘンも古代から知られている生薬の一つである。アヘンは、紀元前1500年のエジプトでは鎮痛剤として利用されていた。 19世紀初頭、アヘンから、麻酔・鎮痛薬のモルヒネが抽出された。 19世紀後半に、いくつかの薬の化学構造が解明され、これらの成果をもとに、いくつかの薬品が合成された。 1910年ドイツのパウル・エールリヒと秦佐八郎によって梅毒の治療薬サルバルサンがつくられた。 現在では、人工的に化学合成された有機化合物が、医薬品として多く使用されている。 古くから、ヤナギの樹皮には解熱作用や鎮痛作用が存在することが知られていた。これは、ヤナギの樹皮にあるサリシンが体内で加水分解されてサリチル酸を生じるためである。 19世紀初頭に、化学分析によって、サリシンや、それから生じるサリチル酸の存在が知られ、解明されていった。サリチル酸は、サリシンが体内で加水分解されて生じる。 19世紀に、サリチル酸は解熱鎮痛薬として、さかんに使われていたが、胃に悪影響を与えることが、しだいに分かっていった。そのため、19世紀後半ごろには副作用の弱いアセチルサリチル酸が開発され使用されるようになった。 アセチルサリチル酸は1898年にドイツで「アスピリン」の商品名で医薬品として売り出され、現在でも解熱鎮痛薬としてアスピリンの名前で世界各地で売られている。(日本では、『バファリン』にも、アスピリンが含まれている。) 現在では、サリチル酸系の多くの医薬品が存在している。 また、サリチル酸にメタノールを反応させて作ることのできるサリチル酸メチルは、消炎鎮痛薬(筋肉痛などを抑える薬)として用いられている。たとえば、『サロンパス』などのように、サリチル酸メチルは湿布薬として用いられていたりする。 なお、これらサリチル酸系の解熱薬は、けっして細菌などを攻撃してるのではなく、熱や炎症などの症状をやわらげるだけである。このように、病原菌を攻撃せず、症状をやわらげる事が主な作用の医薬品を、対症療法薬という。 またなお、サリチル酸メチルは揮発性の液体である。 人体で、アセチルサリチル酸の薬が炎症や発熱などを抑える仕組みは、人体でケガなどの異常があったときに炎症などを起こして回復させようとする体内物質のプロスタグランジン(prostaglandin、略称:PG)という物質の合成を妨害するからである。(※ プロスタグランジンは検定教科書(高校理科の化学)の範囲外だが、文英堂シグマベストの高校化学参考書などに、プロスタグランジンとアセチルサリチル酸との関係の解説がある。) よって、アセチルサリチル酸は、けっして、おおもとのケガを治すわけではないし、けっして病原菌を退治するわけでもない。 このプロスタグランジンは、炎症以外にも、人体に必要なさまざまな現象で関わってくるので、よってプロスタグランジンの合成が阻害されると、さまざまな副作用が起こりうるのである。 プロスタグランジンは、脂肪酸を原料としていて、体内で合成される生理活性物質である。プロスタグランジンは、いわば、ホルモンのようなものである(詳しい説明は高校の範囲を超えるので省略)。 アニリンから得られるアセトアニリドにも解熱鎮痛作用があるが、副作用が重いため、現在は使用されていない。 かわりに、アセトアニリドの誘導体であるアセトアミノフェン(p-アセトアミドフェノール)が、風邪薬などに含まれてる。 1939年にドイツのドーマクが、アゾ染料の一種のプロントジルに、細菌の増殖を阻害する作用があることを見つけた。 のちに、プロントジルから生じるスルファニルアミド に、細菌の増殖をおさえる作用があることが分かった。これは、細菌が発育に必要な葉酸を合成するさいの酵素を阻害するからである。 細菌はp-アミノ安息香酸 から葉酸を合成しているが、スルファニルアミドはp-アミノ安息香酸に似た構造を持ってるため、酵素を阻害する。 現在では、一般に、スルファニルアミドの骨格をもつ抗菌剤を、硫黄を元素にもつことから、サルファ剤(salfa drug)という。 微生物がつくりあげる化学物質で、ほかの微生物や細菌を殺したり、ほかの微生物や細菌の増殖を阻害したりする作用(抗菌作用)のあるものを抗生物質(antibiotics [1])という。 1929年にイギリスのフレミングは、アオカビから取れる物質に、このような抗菌作用があることを見つけ、この物質にペニシリン(Penicillin)と名付けた。 のちに、ペニシリンは、細菌のもつ細胞壁の合成を阻害するため、抗菌作用を示すことが分かった。 細菌は突然変異により、抗生物質の効かない細菌が生まれて、生き残ることがある。そのような、抗生物質につよい細菌を耐性菌という。 抗生物質を無闇に使い続けると、このような抗生物質のきかない微生物だけを残して増やしてしまう。 ペニシリンの効かない耐性菌もすでに存在しており、そのような病原菌には抗生物質メチシリンや抗生物質バンコマイシンが使われることがあるが、そのメチシリンの効かない耐性菌MRSAや、バンコマイシンの効かない耐性菌VRSAなどの耐性菌も出現しており、医療現場では大きな問題になってる。 このため、抗生物質ばかりに頼らず、手洗いや消毒などをきちんと徹底したりすることが、求められてる。 なお、ストレプトマイシンは、結核にきく抗生物質である。土壌細菌のつくる物質からストレプトマイシンが発見された。 サルファ剤や抗生物質のように、病気をおこす細菌や微生物を、直接、細菌への破壊的な作用を起こすことで、病気を治療する医薬品を化学療法薬という。 ペニシリンG の構造のβラクタムという部分が、細菌の細胞壁の合成をする酵素を阻害するという仕組み。
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この章での色の定義については、まずは直感的に理解していれば良い。(正確に色覚を説明すると生物学など他分野が絡み、広範かつ専門的になる。) 読者には、まずは色素の分子構造と電磁波との関係について、理解をしてもらいたい。 色素の定義は明確ではないが、材料に添加した場合に色を加える物質を色素(coloring material)という。 繊維に染色できる色素を染料(dye stuff)という。 白色光で照らされた物体は、可視光の特定の波長を吸収して、残りの波長の光を反射する。したがって物質が吸収する色と、反射光は、反対の色になる。 たとえば、赤色の物体は、光源の白色光から、青色や緑色や紫色などの、赤色以外の色の波長を吸収して、赤色のみを反射したので、ヒトの目には赤色に見えるのである。 赤色に対する、青緑色のように、反対側の色を補色という。赤は青緑の補色である。同様に青緑は赤の補色である。 白色光に照らされた物質に色を感じる仕組みは、物質が吸収した色の補色を、色として感じるのである。 色素には炭素化合物などの有機化合物からなる有機系の色素と、無機化合物からなる無機系の色素がある。本節では有機色素について説明する。 化合物に色を付けるには、その構造中に可視光を吸収できる官能基が必要である。 可視光を吸収できて、物質に色を付けられる官能基を発色団(chromophore)という。 有機色素の発色団は、-C=Oや、-N=N- などのように共役ニ重結合を持った官能基である。 共役ニ重結合によりπ電子が動けるようになっているので、電磁波と電子が相互作用ができるようになり、外部からの光を吸収できるようになっている。(たとえば、金属などの自由電子を持つ物質は不透明だったのを思い出そう。) 発色団以外の官能基で、発色団の作用を強めたり、親水性を高め染色しやすくする官能基を助色団(じょしょくだん、auxochrome)という。助色団には、たとえば、-OHや-COOHや-NH2などがある。 アゾ基 -N=N- を発色団として持った染料をアゾ染料(azo dye)という。アゾ染料としてコンゴーレッド(congo red)やメチルオレンジ、メチルレッドなどが有る。コンゴレッドやメチルオレンジなどは染料の他の用途でも、pH指示薬として用いられることがある。 アニリンC6H5NH2などの芳香族アミンを希塩酸に溶かしたのち、亜硝酸ナトリウム水溶液を加える事で、ジアゾニウム塩を作ることができる。このジアゾニウム塩が、アゾ染料の原料となる。また、芳香族アミンをジアゾニウム塩にする処理をジアゾ化(diazotization)という。 アニリンC6H5NH2をジアゾ化する場合は、まずアニリンを希塩酸に溶かしてから、亜硝酸ナトリウムを加えることで、塩化ベンゼンジアゾニウム C6H5N2Clができる。 ジアゾニウム塩は水に溶け、陽イオンのベンゼンジアゾニウムイオン[C6H5-N≡N]+と、陰イオンの塩素イオンCl-とに電離する。 なお、-N≡N-の左側のNは4価である。これはイオン化のためである。 この4価を意識した構造式の書き方として、塩をC6H5N+≡N-Cl-と書いたり、陽イオンをC6H5-N+≡Nと書く場合もある。 この塩化ベンゼンジアゾニウムC6H5-N≡N-Clと、ナトリウムフェノキソドC6H5-ONaとから合成によってp-フェニルアゾフェノールC6H5-N≡N-C6H4-OHが作られる。 これは発色団-N≡N-と、助色団-OHを持つように、色素や染料として使えることから、一般に染料として p-フェニルアゾフェノールは用いられる。 これは共役二重結合が2個のベンゼン環と窒素部分とつながっていて、共役二重結合が長い。 フェノキシドとして用いたフェノールの代わりに、ナフトールやアニリンなどでもカップリング反応は可能である。 天然に作られた色素の染料を天然染料(natural dye)と言い、合成によって得られた色素を用いた染料を合成染料(synthetic dye)という。 一般に、ヒトや動物の病気を治すために使用する物質を、医薬品という。 医薬品が、それを使用した生物におよぼす変化を薬理作用という。 一般に、医薬品は体内でさまざまな作用を起こす。このうち、治療の目的に沿った作用を主作用といい、それ以外の作用を副作用という。 人類は、古代から天然の植物などから医薬品として機能するものを採取して使用してきた。このような天然由来の医薬品を生薬という。 ケシの実から取れる果汁を乾燥させたアヘンも古代から知られている生薬の一つである。アヘンは、紀元前1500年のエジプトでは鎮痛剤として利用されていた。 19世紀初頭、アヘンから、麻酔・鎮痛薬のモルヒネが抽出された。 19世紀後半に、いくつかの薬の化学構造が解明され、これらの成果をもとに、いくつかの薬品が合成された。 1910年ドイツのパウル・エールリヒと秦佐八郎によって梅毒の治療薬サルバルサンがつくられた。 現在では、人工的に化学合成された有機化合物が、医薬品として多く使用されている。 古くから、ヤナギの樹皮には解熱作用や鎮痛作用が存在することが知られていた。これは、ヤナギの樹皮にあるサリシンが体内で加水分解されてサリチル酸を生じるためである。 19世紀初頭に、化学分析によって、サリシンや、それから生じるサリチル酸の存在が知られ、解明されていった。サリチル酸は、サリシンが体内で加水分解されて生じる。 19世紀に、サリチル酸は解熱鎮痛薬として、さかんに使われていたが、胃に悪影響を与えることが、しだいに分かっていった。そのため、19世紀後半ごろには副作用の弱いアセチルサリチル酸が開発され使用されるようになった。 アセチルサリチル酸は1898年にドイツで「アスピリン」の商品名で医薬品として売り出され、現在でも解熱鎮痛薬としてアスピリンの名前で世界各地で売られている。(日本では、『バファリン』にも、アスピリンが含まれている。) 現在では、サリチル酸系の多くの医薬品が存在している。 また、サリチル酸にメタノールを反応させて作ることのできるサリチル酸メチルは、消炎鎮痛薬(筋肉痛などを抑える薬)として用いられている。たとえば、『サロンパス』などのように、サリチル酸メチルは湿布薬として用いられていたりする。 なお、これらサリチル酸系の解熱薬は、けっして細菌などを攻撃してるのではなく、熱や炎症などの症状をやわらげるだけである。このように、病原菌を攻撃せず、症状をやわらげる事が主な作用の医薬品を、対症療法薬という。 またなお、サリチル酸メチルは揮発性の液体である。 人体で、アセチルサリチル酸の薬が炎症や発熱などを抑える仕組みは、人体でケガなどの異常があったときに炎症などを起こして回復させようとする体内物質のプロスタグランジン(prostaglandin、略称:PG)という物質の合成を妨害するからである。(※ プロスタグランジンは検定教科書(高校理科の化学)の範囲外だが、文英堂シグマベストの高校化学参考書などに、プロスタグランジンとアセチルサリチル酸との関係の解説がある。) よって、アセチルサリチル酸は、けっして、おおもとのケガを治すわけではないし、けっして病原菌を退治するわけでもない。 このプロスタグランジンは、炎症以外にも、人体に必要なさまざまな現象で関わってくるので、よってプロスタグランジンの合成が阻害されると、さまざまな副作用が起こりうるのである。 プロスタグランジンは、脂肪酸を原料としていて、体内で合成される生理活性物質である。プロスタグランジンは、いわば、ホルモンのようなものである(詳しい説明は高校の範囲を超えるので省略)。 アニリンから得られるアセトアニリドにも解熱鎮痛作用があるが、副作用が重いため、現在は使用されていない。 かわりに、アセトアニリドの誘導体であるアセトアミノフェン(p-アセトアミドフェノール)が、風邪薬などに含まれてる。 1939年にドイツのドーマクが、アゾ染料の一種のプロントジルに、細菌の増殖を阻害する作用があることを見つけた。 のちに、プロントジルから生じるスルファニルアミド に、細菌の増殖をおさえる作用があることが分かった。これは、細菌が発育に必要な葉酸を合成するさいの酵素を阻害するからである。 細菌はp-アミノ安息香酸 から葉酸を合成しているが、スルファニルアミドはp-アミノ安息香酸に似た構造を持ってるため、酵素を阻害する。 現在では、一般に、スルファニルアミドの骨格をもつ抗菌剤を、硫黄を元素にもつことから、サルファ剤(salfa drug)という。 微生物がつくりあげる化学物質で、ほかの微生物や細菌を殺したり、ほかの微生物や細菌の増殖を阻害したりする作用(抗菌作用)のあるものを抗生物質(antibiotics)という。 1929年にイギリスのフレミングは、アオカビから取れる物質に、このような抗菌作用があることを見つけ、この物質にペニシリン(Penicillin)と名付けた。 のちに、ペニシリンは、細菌のもつ細胞壁の合成を阻害するため、抗菌作用を示すことが分かった。 細菌は突然変異により、抗生物質の効かない細菌が生まれることがある。このような細菌を耐性菌という。 抗生物質を無闇に使い続けると、このような抗生物質のきかない微生物だけを残して増やしてしまう。 ペニシリンの効かない耐性菌もすでに存在しており、そのような病原菌には抗生物質メチシリンや抗生物質バンコマイシンが使われることがあるが、そのメチシリンの効かない耐性菌MRSAや、バンコマイシンの効かない耐性菌VRSAなどの耐性菌も出現しており、医療現場では大きな問題になってる。 このため、抗生物質ばかりに頼らず、手洗いや消毒などをきちんと徹底したりすることが、求められてる。 なお、ストレプトマイシンは、結核にきく抗生物質である。土壌細菌のつくる物質からストレプトマイシンが発見された。 サルファ剤や抗生物質のように、病気をおこす細菌や微生物を、直接、細菌への破壊的な作用を起こすことで、病気を治療する医薬品を化学療法薬という。 ペニシリンG の構造のβラクタムという部分が、細菌の細胞壁の合成をする酵素を阻害する。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6II/%E6%9F%93%E6%96%99
炭化水素の水素をヒドロキシ基 -OHで置換した構造の化合物をアルコール(alcohol)という。 アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。 アルコール分子中のヒドロキシ基の個数を価数という。分子中のヒドロキシ基が1個のものを1価アルコール、2個のものを2価アルコールなどという。2価以上のものを多価アルコールという。 ヒドロキシ基に結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数が、1または0個ものを第一級アルコール、2個のものを第二級アルコール、3個のものを第三級アルコールという。 二クロム酸カリウムなどで、第一級アルコールと第二級アルコールを酸化すると、それぞれアルデヒド、ケトンを生じ、アルデヒドをさらに酸化するとカルボン酸になる。第三級アルコールは酸化されにくい。 アルコールは親水性のヒドロキシ基と疎水性の炭化水素基をもつ。そのため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。 また、アルコールは水に溶けても電離しないため中性である。 アルコールのOH基によって、水素結合が形成されるため、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。 アルコールに金属ナトリウムNaを加えると、水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa を生じる。 炭素数が多いほどナトリウムと穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。 ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。 第一級アルコール ⟶ {\displaystyle {\ce {->}}} アルデヒド ⟶ {\displaystyle {\ce {->}}} カルボン酸 第二級アルコール ⟶ {\displaystyle {\ce {->}}} ケトン 濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。 具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。 なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(condensation)という。 メタノール(CH3OH)はメチルアルコールとも呼ばれる、無色透明の液体である。 人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水と混和する。 メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO と Cr 2 O 3 {\displaystyle {\ce {Cr2O3}}} を用いて、一酸化炭素 CO と水素 H2 とを反応させる。 メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている. 二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。 エタノール(C2H5OH)は無色透明の液体である。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。 工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。 濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。 一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。 エチレングリコール(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水と混和する。 自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。 エチレングリコールには甘味があるが、毒性がある。 エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。) そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。) つまり、 という反応である。 ※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。 1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。 動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。 酸素原子に2個の炭化水素基が結合した構造 R − O − R ′ {\displaystyle {\ce {R-O-R'}}} をもつ化合物をエーテル(ether)という。エーテル中での-O-の結合を、エーテル結合という。 エーテルは1価アルコールと構造異性体の関係にある。たとえばジメチルエーテルとエタノールは互いに異性体である。 エーテルはヒドロキシ基 -OH を持たないため、水に溶けにくく、水素結合をしないため、エーテルの沸点・融点はアルコールよりも低い。 たとえば、沸点はジメチルエーテル CH3-O-CH3 の融点は-145℃であり沸点は -25℃ であり、分子量が同程度のエタノール(沸点78℃)とくらべて、かなり低い。 また、エーテルは、ナトリウムとも反応しない。 アルコールを濃硫酸と混合して脱水縮合させることでエーテルが生成する。 ジエチルエーテル(diethyl ether)は無色で揮発性の液体であり、引火しやすいため取り扱いに注意が必要である。麻酔性がある。 ジエチルエーテルは水には溶けにくく、有機物をよく溶かすので、有機溶媒としても用いられる。油脂などの有機化合物を抽出するさいの溶媒として、ジエチルエーテルが用いられる。 エタノールに濃硫酸を加えて130~140°Cで加熱するとジエチルエーテルが生成する。 単にエーテルというと、ジエチルエーテルを指す。 ナトリウムアルコキシド R − ONa {\displaystyle {\ce {R-ONa}}} とハロゲン化炭化水素 R ′ X {\displaystyle {\ce {R'X}}} の縮合によってエーテルが生成する。 R − ONa + R ′ X ⟶ R − O − R ′ + NaX {\displaystyle {\ce {R-ONa + R'X -> R-O-R' + NaX}}} 原子団をカルボニル基(carbonyl group)といい、カルボニル基をもつ化合物のことをカルボニル化合物(carbonyl compound)という。 ホルミル基 -CHO をもつ化合物をアルデヒド(aldehyde)という。 ホルミル基はカルボニル基の一方が水素である構造をしている。 また、カルボニル基に2個の炭化水素基が結合した化合物 R -CO- R’ のことをケトンという。 カルボニル化合物には、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などがある。 アルコールで学んだように、第一級アルコールを酸化するとアルデヒドが得られ、アルデヒドを酸化するとカルボン酸になる。 アルデヒド基には還元性があり、他の物質を還元して自らは酸化されやすい。つまりアルデヒドはカルボン酸になりやすい。 そのため、アルデヒドは銀鏡反応やフェーリング反応といった還元性の有無を調べる反応により検出することができる。 分子量の小さいアルデヒドやケトンは、水に溶けやすい。 アンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドをくわえて加熱すると、銀イオン Ag+ が還元されて、銀 Ag が析出する。これを銀鏡反応(silver mirror test)といい、アルデヒドのような還元性のある物質を検出することに利用される。 試験管に銀が付着して鏡のようになることから、銀鏡という名前が付いている。 銀鏡反応は、以下のような反応である。 このアンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドなどの還元性のある物質を加え、湯浴で加熱すると、ジアンミン銀(I)イオンが還元されて単体の銀が析出し、試験管の壁に付着する。アルデヒド自身は酸化されてカルボン酸となる。 フェーリング液(Fehling′s solution)と呼ばれる液体にアルデヒドを加えて加熱すると、フェーリング液中の銅(II)イオンCu2+が還元されて、酸化銅(I) Cu2Oの赤色沈殿が生成することから、アルデヒドが還元性をもつことを確認することができる。この反応をフェーリング反応という。なお、アルデヒド自身はこのフェーリング反応で酸化されてカルボン酸となる。 ホルムアルデヒド(HCHO)はもっとも単純な構造のアルデヒドであり、水に溶けやすい無色刺激臭の気体である。ホルマリン(formalin)はホルムアルデヒドの約37%水溶液であり、動物標本の保存溶液や、消毒剤として用いられる。 (※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。) ホルムアルデヒドはメタノールを酸化することで得られる。銅線を加熱して酸化銅(Ⅱ)とし、これを試験管に入れたメタノールに近づけると、メタノールが酸化されてホルムアルデヒドを生じる。 なお、銅線を加熱して酸化銅にする方程式は なので、これとまとめて、反応式を と書く場合もある。 なお、ホルムアルデヒドがさらに酸化されると、ギ酸になる。ギ酸も条件によってはさらに酸化されて二酸化炭素と水を生じる。 アセトアルデヒド(CH3CHO)は分子中に炭素が2つあるアルデヒドであり、水や有機溶媒によく溶ける。 (※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。) 実験室ではアセトアルデヒドは、エタノールを酸化することで得られる。エタノールに酸化剤として硫酸酸性の二クロム酸カリウムK2Cr2O7 水溶液を加え加熱すると、アセトアルデヒドが生じる。 また、工業的にはアセトアルデヒドの製法は、塩化パラジウム PdCl2 と塩化銅 CuCl2 を触媒に用いて、酸素によってエチレンを酸化することでも得られる。 アセトアルデヒドは、酢酸の原料や防腐剤として用いられる。 アセトアルデヒドがさらに酸化されると、酢酸になる。 (※ 高校化学の範囲内。第一学習社の検定教科書に記述あり。) 日本酒や洋酒など、市販のアルコール飲料は、エタノールの水溶液である。 ヒトが酒(エタノール水溶液)を飲むと、おもに腸でエタノールが吸収され、血管を通って肝臓に運ばれ、そして肝臓で酵素によってアセトアルデヒド CH3CHO に分解される。さらに別の酵素によって、酢酸 CH3COOH に変化する。そして最終的に、二酸化炭素と水に分解される。 (※ 範囲外:) 検定教科書には書かれてないが、カルボニル基には極性があり、Cがδ+の電荷を帯びており、Oがδーの電荷をおびている。 二重結合を介して、 のように分極している。 また、カルボニル基をもつ簡単な分子は水に溶けやすい理由として、おそらく、カルボニル基の酸素原子が、溶液の水素分子と水素結合をするためであろう、と考えられている。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学 新訂版』、新井貞夫、185ページ) つまり、C=Oは親水基であろうと考えられている。(※ 参考文献: 『チャート式シリーズ 新化学I』平成19年第5刷) ケトン基(-CO-)を分子中に含む物質を一般にケトンと呼ぶ。右には主なケトンを示す。 第二級アルコールを酸化するとケトンが得られる。逆に、ケトンを還元すると、第二級アルコールになる。 ケトンはアルデヒドと同様にC=Oの二重結合を持つ。このアルデヒド基・ケトン基のC=Oの二重結合をまとめてカルボニル基と呼ぶことがあるが、ケトンはアルデヒドと異なり、ケトンは還元性を持たない。そのため、ケトンは、銀鏡反応やフェーリング反応を起こさない。 また、アルデヒドはさらに酸化されてカルボン酸となるが、ケトンは酸化されにくい。 アセトン(CH3COCH3)はもっとも単純な構造のケトンである。アセトンは無色の芳香のある液体(沸点56℃)であり、アセトンは水に混ざりやすい。また、アセトンは、有機溶媒としても用いられる場合がある。 実験室でのアセトンの製法は、第二級アルコールである2-プロパノール(CH3CH(OH)CH3)を酸化することで得られる。2-プロパノールに酸化剤の硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液を加え加熱すると、アセトンを生じる。 また、アセトンは酢酸カルシウムの乾留によっても、実験室でアセトンを得ることができる。酢酸カルシウムの固体を試験管に入れ、加熱すると、アセトンを生じる。 工業的には、クメン法によって作られる。 水酸化ナトリウム水溶液のような塩基性溶液中、アセトンにヨウ素を反応させると、特有の臭気をもつヨードホルム CHI3 の黄色沈殿が生成する。この反応をヨードホルム反応(iodoform reaction)という。 このヨードホルム反応は、アセチル基 CH3CO- を持つケトンやアルデヒド、または部分構造 CH3CH(OH)-(1-ヒドロキシエチル基)を持つアルコールが起こす。 酢酸はCH3CO-構造を含むが、酢酸はカルボン酸であり、ケトンやアルデヒドではないのでヨードホルム反応は起こさない。酢酸エチルも、ヨードホルム反応を起こさない。 ヨードホルム反応の起きる代表的な化合物は、アセトン、アセトアルデヒド、エタノール、2-プロパノールなどである。 カルボキシ基 -COOH を含む化合物をカルボン酸という。 アルデヒドの部分で学んだように、アルデヒドを酸化するとカルボン酸が得られる。 カルボン酸の酸性の原因は、COOHの部分の水素Hが水溶液中で電離するからである。 脂肪族の1価カルボン酸を脂肪酸という。 分子中の炭素数が少ない脂肪酸を低級脂肪酸、炭素の多い脂肪酸を高級脂肪酸という。また、炭素間結合が単結合のみの脂肪酸を飽和脂肪酸、二重結合または三重結合を含む脂肪酸を不飽和脂肪酸という[1]。 分子中にカルボキシ基を1つ持つカルボン酸を1価カルボン酸(モノカルボン酸: mono-carboxylic acid)といい、カルボキシ基を2つ持つカルボン酸を2価カルボン酸(ジカルボン酸: di-carboxylic acid)という。 ギ酸 HCOOH は常温常圧では刺激臭のある無色の液体で、水溶液は酸性を示す。ギ酸は人体に有害で皮膚や粘膜を侵す。 ギ酸はホルミル基を持つため、還元性があり、酸化剤と反応させるとギ酸自身は酸化されて二酸化炭素となる。 ギ酸は濃硫酸を加えて加熱すると一酸化炭素を生じる。 HCOOH ⟶ H 2 O + CO ↑ {\displaystyle {\ce {HCOOH -> H2O + CO ^}}} 酢酸 CH3COOH は常温常圧では刺激臭のある無色の液体で、水溶液は酸性を示す。 亜鉛などの金属と反応して水素を発生する。 また、酢酸は弱酸だが炭酸よりは強い酸であるため、炭酸塩と反応して二酸化炭素を生じる。 また、酢酸は融点が17℃であり、純度の高い酢酸は冬場になると氷結してしまう。そのような酢酸を氷酢酸と呼ぶ。 酢酸は次のように2分子が水素結合で結合した二量体として存在する。 このため、酢酸の気体から分子量を測定する実験をすると、実験方法によっては、酢酸の分子量の約60の2倍の値である分子量120ほどの実験値が得られる場合もある。 これはその他のカルボン酸にも見られる。 カルボン酸が同程度の分子量のアルコールやアルカンよりも沸点や融点が高いのは、カルボン酸がこのように二量体を形成するからである。 マレイン酸とフマル酸(COOHCH=CHCOOH)はどちらも不飽和ジカルボン酸であり、シス-トランス異性体の関係にある。 マレイン酸とフマル酸の化学的性質は大きく異なる。 マレイン酸は160℃で加熱すると脱水反応を起こし無水マレイン酸になる。これは、2つのカルボキシ基の位置関係の違いによるものである。カルボキシ基の位置が遠いトランス形のフマル酸ではこの反応は起こらない。 カルボン酸は果物に多く含まれている。たとえばブドウに含まれる酒石酸や、柑橘類に含まれるクエン酸、リンゴに含まれるリンゴ酸はいずれもカルボン酸である。 分子中にCOOH基とOH基をもつカルボン酸をヒドロキシ酸(Hydroxy acid)という。 乳酸は、糖類の発酵によって生じる。 乳酸(lactic acid)は、ヨーグルトなどの乳製品に含まれているヒドロキシ酸である。乳酸は炭素原子に結合している4つの原子や原子団が、4つとも異なる。このように、4本のうでにそれぞれ異なる置換基が結合した炭素原子を、不斉炭素原子(asymmetric carbon atom)という。たとえば、乳酸(CH3CH(OH)COOH)には不斉炭素原子が1個存在する。 上図を見ると分かるように、*印をつけた炭素原子の周りに、それぞれ色分けされた4つの異なる置換基が結合しているのが分かる。この*印がついた炭素原子が不斉炭素原子である。 ここで上の構造式は平面上に書かれているが、現実にはこの分子は立体として存在する。不斉炭素原子を中心とした正四面体の各頂点に、結合軸が配置しているのである。すると、構造式が上のように同一であっても、立体的にはどう動かしても重ね合わせることのできないものが存在する。これらは、たがいに鏡に写した関係にある。 このように、鏡写しの関係になった異性体を鏡像異性体(enantiomer)[3]という。 鏡像異性体の一方をL体といい、もう一方をD体という。 鏡像異性体のたとえとして、右手と左手との関係にたとえられる。 鏡像異性体は、融点や密度などの物理的性質や、化学反応に対する化学的性質はほとんど同じである。しかし、旋光性や、味、匂いなどの生理作用が異なる。 カルボン酸が比較的に水に溶けやすいものが多いのは、水素結合によると考えられている。 また、カルボン酸と同程度の分子量のアルコールよりも、カルボン酸は水溶性が高い。(※ 参考文献: 新井貞夫、『工学のための有機化学』、サイエンス社、2014年新版、P212) とはいえ、酢酸こそ水に溶けやすいものの、無水酢酸は水に溶けにくい。 答えのヒントをいうと、カルボン酸の二重結合がヒントである。 もちろん化学は実験にもとづく学問であるから、実験結果は最終的に覚えてもらわないといけないわけで、「酢酸の水素が電離する際に、カルボキシ基の側の水素だけが電離する。けっしてメチル基の側の水素は電離しない。」という事も、覚えてもらう必要がある。 いくつかの理由が考えられているが、有力説のひとつとして、「共鳴」構造という理論がある。 図のように、電離した結果、二重結合の結合手は1本ぶん余るが、その結合手はけして、どちらか片方の酸素原子Oに局在してるのではなくて、両方の酸素原子に共有されている、と考えられている。 -COO- で表される構造をエステル結合(ester bond)という。エステル結合をもつ化合物をエステル(ester)といい、エステルを生成する脱水反応をエステル化(esterification)という。 カルボン酸とアルコールを酸触媒で加熱するとエステルが生成する。 比較的小さな分子量のエステルは果物に似た香りを持つため、香料に使用されるものもある。また、自然界にも、果実の香り成分として、小さな分子量のエステルが存在している。 エステルは水には溶けにくく、有機溶媒に溶ける。 エステルは加水分解してカルボン酸とアルコールが生成する。 エステル化反応は可逆反応であり、エステル化と同時に加水分解も起こっている。そのため、エステルを多く生成するためにしばしば脱水剤や触媒として濃硫酸が用いられる。 エステルは、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液をくわえて加熱すると、カルボン酸の塩とアルコールに加水分解される。このような、強塩基によるエステルの分解反応をけん化(saponification)という。 酢酸とエタノールの混合物に触媒として濃硫酸をくわえて加熱すると、酢酸エチル(ethyl acetate)CH3-COO-C2H5 が得られる。 酢酸エチルは、果実のような香りをもつため、香料として用いられる。 酢酸エチルは、沸点77℃であり、揮発性の液体であり、水より軽い。 カルボン酸とアルコールの反応だけではなく、オキソ酸とアルコールとの間の脱水反応もエステル化と呼ぶ。例えば、アルコールであるグリセリンと、オキソ酸である硝酸が脱水・エステル化すると、ニトログリセリンを生じる。ニトログリセリンは爆発性のある物質で、ダイナマイトなどに用いられる。 脂肪酸とグリセリン C 3 H 5 ( OH ) 3 {\displaystyle {\ce {C3H5(OH)3}}} がエステル結合した化合物を油脂という。 油脂のうち、常温で固体の油脂を脂肪(fat)、液体の油脂を脂肪油(fatty oil)という。 脂肪は飽和脂肪酸により構成されているものが多く、脂肪油は不飽和脂肪酸により構成されているものが多い。 これは、飽和脂肪酸は直線状であるのに対して、不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がった形をしているため、この立体構造により分子同士が近づきにくくなり、分子間力が働きにくくなるため、不飽和脂肪酸の融点が低くなることによる。 天然の油脂を構成する脂肪酸には炭素数が16か18のものが多い。 以下に、油脂を構成する主な脂肪酸の例を示す。 不飽和脂肪酸の炭素間二重結合では、アルケンと同様に付加反応が起こる。油脂を構成する不飽和脂肪酸に、ニッケル Ni を触媒として用いて水素を付加させると、融点が高くなるため、常温で固体の油脂へと変化する。このようにして脂肪油から生じた固体の油脂を硬化油(hardened oil)という。植物油をもととする硬化油はマーガリンなどに用いられる。硬化により飽和脂肪酸とすることには、長期間の保存の間に空気中の酸素が不飽和結合に付加して酸化されることを防ぐ役割もある。 油脂に水酸化ナトリウムを加えて加熱すると、油脂はけん化されて、高級脂肪酸のナトリウム塩(セッケン)とグリセリンになる。 洗い物などでもちいる石鹸(せっけん)とは、このような高級脂肪酸のナトリウム塩である。 さて、油脂1分子に、エステル結合が3つある。よって油脂1molのけん化には、水酸化ナトリウム3molが必要になる。 セッケンは弱酸と強塩基の塩であるが、水中ではセッケンは一部が加水分解し、弱塩基性を示す。 セッケンの炭化水素基部分(図中 R- の部分)は疎水性である。セッケンのカルボキシル基COONaの部分は親水性である。 水中では、多数のセッケンの疎水基の部分どうしが集まり、親水基を外側にして集まる構造のコロイド粒子のミセル(micelle)になる。 セッケン分子のように、分子中に親水基と疎水基を合わせ持つ物質を界面活性剤という。 セッケン水に油を加えると、セッケンの疎水部分が油を向いて、多数のセッケン分子が油を取り囲むので、油の小滴が水中に分散する。このような現象を乳化(にゅうか、emulsification)という。そして、セッケンのように、乳化をおこさせる物質を乳化剤という。 セッケンの洗浄作用の理由は、主に、この乳化作用によって、油を落とすことによる。 セッケンは水の表面張力を低下させる。 油脂に水酸化ナトリウム水溶液を加え加熱するとけん化して、高級脂肪酸のナトリウム塩とグリセリンを生じる。この高級脂肪酸の塩をセッケンという。脂肪酸は弱酸であり、水酸化ナトリウムは強塩基であるから、これらの塩であるセッケンの水溶液は弱塩基性を示す。 セッケン分子は、疎水性の炭化水素基と、親水性のイオン基からなる。このように、親水基と疎水基を両方持つ物質を界面活性剤あるいは乳化剤という。 このセッケン分子は疎水部を内側に、親水部を外側に向けて寄り集まった状態で集まって粒子(ミセル)を形成し、水に溶けている。水溶液中に油が存在すると、セッケン分子が油の周囲を取り囲み、疎水部は油となじみ、親水部は外側へ向いて、微粒子を形成し水溶液中へ分散し、水溶液は白濁する。この現象を乳化という。 この乳化作用により、油汚れを洗浄することができる。 マヨネーズの油と水をくっつける、卵黄のレシチンも乳化剤である。 なお、一般に、水と油の界面に配列する物質が、食べられない物質の場合に界面活性剤という場合が多い。いっぽう、食品などからつくった場合などで、食べられる場合には乳化剤という場合が多い。明確には決まっていない(検定教科書でも、とくに決められてはいない)。 セッケンがカルシウムイオンCa+やマグネシウムイオンMg+などの溶けた硬水と混じると、水に溶けにくい塩 (R-COO)2Ca などが生じるので、セッケンの泡立ちが悪くなる。 陽イオン界面活性剤には、洗浄力は無く、柔軟剤などとして使われる。陽イオン界面活性剤による洗剤は、逆性セッケンとも言われる。 セッケンは、陰イオン性界面活性剤である。 両性界面活性剤は、酸性溶液中では陽イオンになり、塩基性溶液中では陰イオンになる。 しかし、セッケン分子は Ca 2 + {\displaystyle {\ce {Ca^2+}}} や Mg 2 + {\displaystyle {\ce {Mg^2+}}} と反応して水に溶けにくい塩を生じる。そのため、イオンを多く含む硬水や海水中では洗浄力が落ちる。 このようなセッケンの短所を改良したアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム R-C6H4-SO3-Na+(略称:ABS)やアルキル酸ナトリウム R-SO3-Na+ (略称:AS)は、高級アルコールや石油などから人工的に合成される。 これらアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムやアルキル酸ナトリウムを合成洗剤(synthetic detergent)という。 ASの製法は、高級アルコールの1-ドデカノール C12H25-OH に濃硫酸 H2SO4 を作用させるとエステル化されることで硫酸水素ドデシル C12H25-SO3H ができ、この硫酸水素ドデシルを水酸化ナトリウムで中和することで硫酸ドデシルナトリウム C12H25-SO3Na が得られる。 炭化水素基が結合したベンゼン(アルキルベンゼン)を濃硫酸とスルホン化すると、アルキルベンゼンスルホン酸が得られる。このアルキルベンゼンスルホン酸を水酸化ナトリウムで中和することでアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが得られる。 セッケン水溶液は弱塩基性である。いっぽう、合成洗剤は強酸と強塩基の塩であるため、加水分解せず、よってアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの水溶液は中性である。また、合成洗剤は、硬水中でも持ち手も、不溶性の沈殿を作りにくい。 合成洗剤の分子は、疎水部と親水部からなり、乳化作用により油汚れを洗浄することができる。 合成洗剤には、その洗剤としての働きを助けるため、界面活性剤以外にも、さまざまな成分が入っている。 ひとくちの合成洗剤といっても、台所用洗剤や洗濯用洗剤など、いろいろとあり、その種類によって、組成などの違う。 洗濯用洗剤では、合成洗剤の添加剤をビルダー(builder)という。 たとえば、洗浄力を落とすカルシウムイオンやマグネシウムイオンを取り除くため(合成洗剤はセッケンとは違い、これらのイオンがある硬水でも洗浄力を持つが、それでも、これらのイオンが無い軟水のほうが良い洗浄効果をもつ)、ゼオライト(アルミノケイ酸ナトリウム)などが入ってる。 なお、かつてリン酸塩がこれらのイオンを除くための添加剤として用いられていたが、排水が河川などの富栄養化をまねき水質汚染の原因となるため、現在はあまり用いられてない。日本では、1980年ごろから、合成洗剤での水の軟水化のための添加剤がリン酸塩からゼオライトに切り換えられた。 そのほか、タンパク質汚れを落とすための分解酵素プロテアーぜや、油汚れを落とすための脂肪分解酵素リパーぜなど、酵素が添加されていたりする。 また、一般にアルカリ性のほうが汚れが落ちやすいので、炭酸ナトリウムが添加剤として加えられる。なお、台所洗剤やシャンプーでは、アルカリが身体を痛めるため、このようなアルカリ性の物質は加えられない。
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ベンゼンの1置換体(たとえばトルエンなど)に、さらに置換反応を行わせた場合、2つめの置換基の位置は、すでに結合している置換基によって決まる。 トルエンをニトロ化させた場合、オルトーパラ配向性である。 よって、o-ニトロトルエンまたはp-ニトロトルエンが出来る。 このような実験事実にもとづき、「CH3はオルトパラ配向性である」という。 このように、もとから存在した側の置換基が配向性の基準になる。 なので、もとから存在した側の置換基を配向性の基準にする。 ニトロベンゼンのニトロ化物をつくる反応の結果は、通常の反応では、メタの位置に結合した生成物である m-ジニトロベンゼン がほとんどである。このことから、(ベンゼンにもとからついていた最初のニトロ基のほうの)ニトロ基を「メタ配向性である」のように言う。 上記の表の配向性の基準は、ベンゼン環にもとから着いていたほうの置換基である事に、気をつけよう。 メタ配向性の分子(たとえばニトロベンゼンなど)は、反応性が悪いことが、実験的に確かめられている。(← この実験事実が、ふつうの高校教科書には書かれてない。)(※ この実験事実についての参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、114ページ。)(※ 参考文献: 化学同人『ベーシック有機化学』、山口良平・山本行男・田村類、第2版6刷、2015年3月1日発行,90ページ) メタ配向性の置換基だと反応活性が悪くなる理由は(高校レベルの説明では)、ニトロ基が、ベンゼン環のπ電子を求引してしまってるため、ベンゼン環全体の電子密度が低下してしまっているからである、・・・と考えられている。(※ 参考文献: 数研出版『視覚でとらえる フォトサイエンス 化学図鑑』、183ページ) このため、ニトロ基(ーNO2)などのメタ配向性置換基のように、反応性を低下させる置換基のことを「不活性化基」ともいう。 逆に、オルト・パラ配向性の分子(たとえばトルエンなど)は、反応性は悪くない分子である場合の多いことが、実験的に確かめられている。トルエンが、通常のベンゼン環よりも反応性が高いことが、実験的に確かめられている。ベンゼンとニトロトルエンとの1:1混合物をニトロ化すると、ニトロベンゼンはあまり生じず、おもにニトロトルエンの異性体が生じる。(※ この実験事実についての参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、114ページ。)これは、メチル基がベンゼン環に電子を供与しているからである、と考えられている。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、118ページ。) なお、 トルエンにおけるメチル基(ーCH3)などのように、反応を活性化する置換基を「活性化基」ともいう。 メチル基など、ベンゼン環など接合している分子構造に対して電子を供与する性質のことを電子供与性(でんしきょうよせい)という。 オルト・パラ配向性置換基が、かならずしも活性化基とは限らない。しかし、メタ配向性置換基はすべて不活性基である。(※ 参考文献: 実教出版の検定教科書、平成24年検定済、382ページ) そして上表にも挙げられてるオルト・パラ置換基で活性化基である -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 は、電子供与性である。 トルエンの反応性がベンゼンよりも高いのは、トルエンのメチル基が電子供与性であるため、反応中間体が安定化するからである。 いっぽう、ニトロ基などのメタ配向性置換基のように、ベンゼン環の電子を引きよせる性質を電子求引性であるという。そして、ニトロ基などは電子求引性であるため、ベンゼン環のπ電子を引きよせるため、ベンゼン環全体の電子密度が低下してしまい、そのためベンゼン環を不活性化するのである。(※ というのが高校レベルの説明。) なお、ハロゲンがオルト・パラ置換基なのに不活性化基である。 ハロゲンは電気陰性度が高いことが、電子求引性に寄与している。いっぽうでハロゲンは非共有電子対が多いため、それが電子供与性に寄与している、と考えられている。(参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、120ページ) 活性化基は、反応途中に生成する中間体を安定化させるために、活性化エネルギーが下がっている、・・・と考えられている。(※ 実教出版の検定教科書でも、この事を解説している。) 逆に、不活性化基は、中間体が不安定なため、活性化エネルギーが高い、・・・と考えられている。 ハロゲン原子は電気陰性度が高いことを、高校で習う。 そして、不活性化基には、「電子求引性」という用語のように、電気的な性質が関係している。 よって、電気陰性度と電子吸引性には、あきらかに関係がある。また、電気陰性度から計算できる「分極」も、関係ありそうである。なお化学では、電気陰性度と分極のをまとめて「誘起効果」という。 実際、大学の教科書でも、電気陰性度や分極を、電子吸引性や電子供与性に関連づけて、考察している。 参考文献では明言されてないが、化学式の構造と、電子求引/供与のちがいとの関連には、下記のような傾向がある。 「ベンゼン環に直接くっつく C=O 二重結合は、共鳴によってメタ配向性に寄与する傾向がある」 メタ配向性の -COOHや-COCH3 のように、ベンゼン環に直接 -CO がつくと、メタ配向性になる傾向がある。 また、おなじくメタ配向性の -CHO も、構造式をみると、C=O という二重結合がある。もちろん、 -COOHや-COCH3 の構造式にも C=O 二重結合がある。 このことから、どうやら「ベンゼン環に直接くっつく C=O 二重結合は、メタ配向性に寄与する傾向がある」ようである。 いっぽう、オルトパラ配向性にある -NHCOCH3 は、構造中に二重結合をもつが、しかしベンゼン環には直接はC=Oはくっついてない。 さてカルボン酸には、共鳴という現象が知られている。この共鳴が、メタ配向性に寄与する傾向があるようだ。 上記をまとめて、どうやら、「ベンゼン環に直接くっつく C=O 二重結合は、共鳴によってメタ配向性に寄与する傾向がある」ようだ。そして、共鳴は電子のふるまいによって起きることから、電子求引基であることが原因だろう、と推測されるだろう。 つまり、これらの(置換基のうち、ベンゼン環に直接つく原子が共鳴している)置換基が電子求引基(かつ不活性化基)であることから、「ベンゼン環に直接つく原子が共鳴している場合は、原則的に電子求引に寄与する傾向がある」ようだ。 しかも、-NO2 にも、ベンゼンに直接ついている元素(N)のとなりの原子として酸素がある。NO2も、共鳴をしている、と考えられている。 さて、 このことから、大学教科書では C=O 二重結合の分極による寄与も考察したりする。しかし、高校では、そこまで深入りする必要も無いだろう。(本書では、これ以上の説明は、もはや専門的に高度になりすぎるので、説明を省略する。) この表で、右下のメタ配向性の不活性基のうち、炭素Cのあるのをみると、どれも、Cの隣りに、酸素Oや窒素Nなど、電気陰性度がCよりも高い元素がある。(アルデヒド基 -CHOも、構造式でみれば、CのとなりにOが結合している。) このことから、置換基の最初のCのとなりに結合している原子の電気陰性度が高いと、電子求引性に寄与することが、すでに解明されている。(ただし、C≡N や -COOHのように、多重結合があるので、それらの影響も加わるので、実際の個々の原子では そう単純ではない。) じっさい、逆に電子供与性の側を調べれば分かる。 電子供与性である -CH3 は、Cのとなりに結合している水素 H は、(Cと比べれば)電気陰性度の低い原子である。 このように、置換基の最初のCのとなりに結合している原子の電気陰性度が、電子求引/供与 性に、影響を与える。 このような事から、たとえば、もし -CF3 を置換基としてベンゼンに結合させたら(なお「F」はフッ素原子)、C6H5-CF3 は電子求引性としての性質が強い生成物になる事も予想がつく(※ サイエンス社の例の教科書では、CF3 を電子求引性として考えている。)。 ついつい読者は、表右下の「-COOH」とか「-SO3H」とか見ると、「もしかして置換基が酸性だと、電子求引性になるのでは?」と予想するだろう。 しかし、表左上の-OH基を、見落とさないようにしよう。フェノールは弱酸性である。 よって、酸性基は必ずしも電子求引性とは、かぎらない。 しかし、その一方で、電子供与性の-NH2基をみると、読者によっては アンモニア NH4を思い浮かべるかもしれない。 また、表右下の -NO2 を見ると、読者によっては 硝酸 HNO3 を思い浮かべるかもしれない。 なお、シアン化水素 HCN は弱酸性である。また、テレビの刑事ドラマなどで毒物そちえ「青酸カリ」とも呼ばれるシアン化カリウムが紹介されるが、シアン化カリウムは強塩基性である。しかし「青酸」というように、シアンそのものは酸性である。青酸カリが塩基性なのは、カリウム部分の影響である。 このように、酸と電子供与は、どうも関係性はありそうである。 実際に大学教科書でも、個々の置換基ごとに、酸性/塩基性と電子供与/求引性との関係を考察している。 つまり、大学教科書では「-COOH基では、酸性としての作用が電子求引性を強めているようだ」のような、置換基ごとに個別に言及をしている。 しかし読者は高校生なので、記憶さえできれば充分なので(※ そもそも範囲外なので、高校生には記憶の必要すら無いが・・・)、「傾向として酸性基なら、たぶん、電子求引性。例外は、高校でならう範囲では、水酸基 -OH くらい。」ていどの大胆な覚え方で、充分だろう。 大学の有機化学の教科書を読むと、ベンゼン化合物をさきに考察して、あとからアルカンやアルコールやアルデヒドなど個別の原子を考察する。高校とは順序が逆である。 有機化合物は膨大にあるので、まず先に基準として、あたかもベンゼンを共通語のように、勉強するのである。 ベンゼン化合物は上述したように、共鳴や電子供与/求引などのような、体系的な解明がされている。なので、大学の有機化学ではベンゼンを土台に勉強していく。 そして、ベンゼンに水酸基をつけたでのフェノール C6H5-OH が弱酸性であることに注目すれば、酸性/塩基性と、電子供与/求引 との関係も考察していける。 そして芳香族アルコールであるフェノールを考察できれば、それをもとに、脂肪族アルコールであるエタノールやメタノールも考察していける。大学教科書は、このような順序になっている。 そして脂肪族アルコールを手掛かりに、アルデヒドやエーテルなどほかの脂肪族も考察できる。大学での脂肪族の考察では、後述するマルコフニコフ則などとも関連づけて、考察していく。 このように、大学での有機化学の教育順序は、高校とは教育順序が逆である。大学では、電子供与/吸引性などの探求をするために、あえて、このような順序にしている。しかし高校生は、まずは高校レベルの基礎学力を習得するのが先なので、高校の教科書の順序で、勉強していこう。 アルケンの炭素ー炭素二重結合に、HX型のハロゲン水素(HClなど)が付加するとき、二種類の生成物があるが、Hがどちらの炭素に付加したものが主生成物になるかには法則性がある。もともと結合しているHが多いほうに、さらにHX分子のHが付加することで出来た反応物が主生成物になる、という経験則があり、この経験則をマルコフニコフ則(Markovnikov rule)といい、ロシアのマルコフニコフが多くの実験結果により確かめた。 第二級または第三級アルコールの分子内脱水反応で、アルケンが生成するとき、OH基のついているC原子の両隣のC原子のうち、水素原子の少ないほうのHが脱水に使われた分子が主生成物になる。この法則をザイツェフ則(Saytzeff rule)という。 結果的に付加してるHの少ないCは、ますます付加しているHが少なくなる。 (※ 範囲外:) また、この反応の結果、主生成物と副生成物のそれぞれの二重結合のとなりをみると、主生成物のほうが置換基(CH3やCH2など)が多い。2ーブテンでは二重結合のとなりは置換基(CH3)が2つだが、1ーブテンでは二重結合のとなりの置換基(CH2)が1つである。 (※ 範囲外:) ようするに、一般的に炭素の高分子化合物では、置換基が多いほうが安定である。 (※ 範囲外:)つまり、(2ーブテンのような)内部アルケンのほうが、(1ーブテンのような)末端アルケンよりも化学的に安定である。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、151ページ。 本記事では、紹介物質は、高校用に別物質に置き換えたため、参考文献での紹介物質とは異なる。) ザイツェフ則のなりたつ理由として考えられてる一説として、超共役(ちょうきょうやく)という説がある。 で、ザイツェフ則では、主生成物(2ーブテン)の二重結合のとなりが単結合であるが、これがあたかも、共役二重結合(二重結合と単結合の繰り返しの構造)と同じように安定的なため、主生成物になるのだろう、・・・という説がある。 では、なぜ共役二重結合が安定かというと、それは、共鳴してるからである。(『高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族炭化水素』) 共鳴とは何かを思い出すには、ベンゼン環(またはベンゼン環をふくむ化合物)を思い出してほしい。図のoーキシレン中のベンゼンでは便宜上、二重結合をつかって書きあらわされるが、実際にはベンゼン環全体にわたって電子が均一に分布しているのであった。(『高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族炭化水素』) それと似た現象がポリアセチレンのような共役二重結合でも起きていると考えられていて、共役二重結合の物質では、電子が二重結合の外側の単結合にまでハミ出して分布しているのだろう、・・・と考えられている。そして、そのハミ出した結果、より安定度が増すのだろう、と考えられている。(一般に、電子は、狭い場所に閉じ込められるよりも、広い場所に分布するほうが、安定する。(いわゆる「不確定性原理」。電子は、狭い場所に局在化するよりも、電子はなるべく広い場所に「非局在化」するほうが安定である。) さて、ザイツェフ則の例の2ーブテンや1ーブテンのハナシに戻る。 内部アルケン(2-ブテン)は、二重結合の電子が両側にハミ出せるが、しかし末端アルケン(1-ブテン)だと片側にしかハミ出せない。副生成物の1-ブテンは、二重結合が、末端のCについているので、安定度がやや劣るがため、そもそも生成率が低いのだろう、・・・と考えられている。 二重結合のとなりの結合に電子がハミ出すための前提として、二重結合のとなりにメチル基(CH3やCH2やCH)が必要である。(※ 参考文献: 化学同人『ベーシック有機化学』、山口良平・山本行男・田村類、第2版6刷、2015年3月1日発行,61ページ)(参考文献の該当ページはマルコフニコフ則の起きる原因としてCH結合との超共役を述べている。 大学の教科書では、よく有機化学の専門化学の『有機反応論』で、有機化合物の化学反応の説明において、電子を黒丸で表現あるいは「(-)」のようにマイナスを丸で囲った記号で電子を表現して、それが構造式中でどう反応して・・・、みたいな図が矢印などと共に描かれるが、実はこれは便宜的な仮説であり、必ずしも電子がそれらの教科書の図のように流れている保証は無い[1]。 なぜなら、根本的な理由として、量子力学によれば「電子は波」でありそれを現代化学の基礎に置いているのに、一方で有機電子論では粒子として電子を黒丸や丸マイナスで描くモデルを提示するので、矛盾的な状況であり、だから根本的に量子論と矛盾するので信憑性には問題がある[2]。 世界中の大学の教科書などの専門書に書いてある図や表は、あたかも普遍の真実かのように思いがちかもしれないが、実は有機化学の理論とは、そういうものではないのである。
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自然界の様々な現象は、人間にとって良い面もあります。しかし、自然災害で生活を危うくしてしまいます。日本は地震や火山噴火などの自然災害が他国と比べても非常に多くなっています。これまでどのような災害を火山や地震からもたらしましたか? 大きな地震があると、強い地震動で建物の倒壊や土砂災害などをもたらします。また、土地の隆起や沈降、水平方向のずれから被害が出るかもしれません。さらに、火災・停電・断水などの複雑的な災害に見舞われるかもしれません。大きな地震があると、砂地の地盤(河川沿いや埋め立て地など)も動きます。この時、地下水が砂層と混じり合い、砂層が一時的に液体のようになります(液状化現象)。2024年の能登半島地震は、建物の倒壊や火災で大きな被害を出しました。[1]2011年の東北地方太平洋沖地震は、強い地震動や津波で大きな被害を出しました。福島第一原子力発電所も東北地方太平洋沖地震で電源を全て失い、水素爆発や火災を招きました。その後、大量の放射性物質が空気中に運んでしまいました(福島第一原子力発電所事故)。 地震で海底の断層が動いたり、海底地滑りがあったりすると、大きな波(津波)が出来ます。津波の波長(波の山から山の長さ・谷から谷の長さ)は数キロから数百キロメートルと非常に長く、津波の周期(波の山から次の山・谷から次の谷がくるまでの時間)も数10分と非常に長くなっています[2]。なお、波浪の波長は最大で数m~数十m程度と非常に短く、波浪の周期も数10秒と非常に短くなっています。津波は、地震の震源が海域で、あまり深くなく、マグニチュードも大きい時によく発生します。海底から海面までの水が全て動くので、津波は通常の波よりもはるかに大きなエネルギーを持ちます。2011年の東北地方太平洋沖地震後、約20mの津波が宮城県女川町を襲いました。また、宮城県女川町笠貝島で最大約43mの標高まで津波が来ました。 ★津波が出来るまで[3] 津波は、一度海面が下がってから押し寄せてきます。また、津波は第2波と第3波と繰り返すうちに大きくなります。このように、地震の数時間後でも津波が押し寄せるかもしれないので、津波が完全に収まるまで海岸付近に近づかないでください。津波の高さは、海岸の地形で変わります。岬の先端やリアス式海岸の奥に集まると、津波の波高も高くなってしまいます。 火山弾や溶岩流などが、近くの建物を壊したり燃やしたりします。火山灰はとても小さな粒子で作られているので、上空に送られて遠くの場所に飛んでいきます。大量の火山灰は、人々の健康や農作物に悪いかもしれません。また、雨と混ざると、家屋の倒壊も起こりやすくなります(泥流)。溶岩ドームの崩落なども火砕流の原因になります。火山ガスは火口とその周辺から出ており、人体に有害な成分を含まれています。 1991年、長崎県の雲仙岳で火砕流が起こり、43名が亡くなりました。2000年、東京都の三宅島で火山が噴火すると、高濃度の火山ガスが流れ込み、全島民が島外に逃げ出しました。2014年、長野県の御嶽山で水蒸気爆発があり、58名が亡くなりました。気象庁の説明から、火山が噴火すると風に乗って火山礫を遠くまで運ばれます(小さな噴石)。また、火山が噴火すると火口から放物線を描くように火山岩を運びます。この時、火山岩はおよそ2~4kmの間に落ちます(大きな噴石)。大きな噴石は建物を丸ごと壊してしまうような力もあります。さらに、昔は大きな火山活動もありました。例えば、約9万年前に熊本県の阿蘇山で大きな火砕流が半径180km(鹿児島県以外の九州全域と山口県)まで流れています。この研究は火山周辺の地層から分かっています。 火山性地震や火山性微動は、噴火や地下のマグマ活動からよく起こります。マグマの上昇で地盤が変わると、断層も出来ます。また、地震動や火山体内部のマグマの圧力上昇から火山体が崩れ、岩塊も砕けながら高速で斜面から流れるかもしれません(岩屑流・岩雪崩・岩屑雪崩)。岩屑流や火山砕屑物などの堆積物が河川をせき止めます。そして、河川が決壊すると土砂と水が一緒に動きます(土石流・泥流)。1985年、コロンビアのネバド・デル・ルイス山で、大きな泥流が発生しました。その結果、山麓で大勢の人が亡くなりました。2018年、インドネシアのクラカタウ山が噴火すると海に土砂が流れ込みました。そして、その土砂が津波を発生させ、沿岸地域に被害をもたらしました。
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これらの突風は、大気の状態がはっきりしない時に起こりやすくなります。毎年7月から10月は、前線や台風が頻繁に通るので、大気の状態もはっきりしません。年間発生数の約60%がこの4か月間に発生しています。 東アジア大陸内部の砂漠地域や黄土高原から、大量の砂塵(黄砂)が強風で大気中に舞い上がります。その後、大量の砂塵(黄砂)は上空の偏西風で流されて地面に落ちます(黄砂現象)。3月から5月にかけて、日本の上空に移動性高気圧がよく見られます。この時、空全体が黄褐色に煙ります。 冬になると、日本海側は大雪の被害を受けやすくなります。また、冬の終わりから春の初め頃(1月~3月)になると、大陸の寒気も弱まります。この時、温帯低気圧が日本の南岸沿いを進みます(南岸低気圧)。その結果、関東から西日本までの太平洋側に大雪を降らせます。さらに、低気圧は急速に発達しながら北海道の東の海上に抜けるので、暴風雪と高波の被害が北日本で大きくなります。大雪が降ると、交通機関にも影響を与えます。加えて、山地に大雪が降ると、雪崩の被害をもたらします。
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(※ 未記述) 地球はいつから球形であると考えられていたのだろうか。ギリシアのアリストテレスは、月食のときの地球の影の形から地球が球形であると考えていた。紀元前230年ごろにアレキサンドリアの南のシエネ(現在のアスワン)では、夏至の日の正午に深い井戸の底まで太陽の光が届くのをエラトステネスが知り、同じ時刻の夏至の日のアレキサンドリアでは鉛直に立てた棒に影ができて太陽が頭上より約7.2°傾いている(つまり太陽高度 82.8°)のを知り、アレキサンドリアとシエネの距離は5000スタジア(925km)であるので、このことから、 として、解の x=250000スタジア から、地球の半径を7361kmと算出した。実際の半径は、6371kmであり、当時とすれば妥当な結果であろう。 地球の形は、赤道付近がやや膨らんだ回転楕円体(かいてん だえんたい)である。これを 地球楕円体(ちきゅう だえんたい) という。楕円の「楕」の字が難しいので、教科書によっては「地球だ円体」と書いている場合もある。 1671年〜1672年、フランスの天文学者リシェは、ギアナでは、フランスで調整した振り子時計が1日に約2分30秒おくれることに気付いた。振り子は重力によって振動している事が分かっていて、重力が小さいほど振り子が遅くなることが分かっていたので、ニュートンは振り子の遅れの原因として、地球の形は遠心力によって赤道方向がふくらんだ形になっていると考えられた。(オレンジ型) これに対し、パリ天文台のカッシーニなどのフランスの学者などが、地球は極方向(つまり南北方向)にふくらんでいると考えていた。(レモン型) そこでフランス学士院は、スカンジナビア半島とペルーに調査団を派遣し、緯度差1度に対する子午線の長さを測定した結果、極付近の方が緯度1度に対する弧が長いことが証明され、ニュートンの説が正しいことが証明された。 緯度と緯度1°あたりの弧長は であった。 これより、ニュートンの仮説(オレンジ型)が正しいことになり、 地球の大きさは、 となり、よって 扁平率(へんぺいりつ) は (赤道半径 ー 極半径)/(赤道半径) =(a-b)/a= 1/298となる。 扁平率は非常に小さく、実用上は地球を球形とみなして問題ない。 すべての物体どうしには、おたがいに引きよせ合う力があり、これを万有引力(ばんゆう いんりょく)という。 で表される。(※ 物理IIの範囲なので、低学年の生徒は、まだ、この式を覚えなくて良い。) Mとmは2つの物体の質量。距離をrとしている。Gは万有引力定数であり、G=6.67×10^-11 m3/(kg・s2) である。 単に引力という場合も多い。 物体が大きいほど、引き寄せあう力が大きくなる。私たちが地上で感じる下方向への引力は、地球によって引き寄せられる引力である。 地震波の観測によって、地球内部での地震波の伝わる速度が分かる。地震波の速度の解析から、地下の深さ30km〜60kmあたりで、地震波の速度が急激に変化する深さがあることが発見された。これは、地殻とマントルとの境界である。この境界面をモホロビチッチ不連続面(モホ面)(英:Mohorovičić discontinuity)という。モホ面より上が地殻(ちかく、crust)である。モホ面より下をマントル(mantle)としている。 地震波が観測地点に到達するまでの時間を走時(そうじ)という。 横軸に震央からの距離を取り、縦軸に走時を取ってグラフにしたものを走時曲線(そうじきょくせん)という。 地殻の厚さは、大陸の地殻と海洋下の地殻とでは、厚さが大きく違う。 一般に大陸地殻は厚さ 30km〜60km であり、海洋地殻は厚さ 5km〜10km である。 地球の半径は 約6400km であるので、地球半径と比べると、地殻は、とてもうすい。 大陸下の地殻を大陸地殻(たいりく ちかく、continental crust)という。海洋下の地殻を海洋地殻(かいよう ちかく、oceanic crust)という。 大陸地殻の上部は花こう岩質であり、大陸地殻の下部は、玄武岩(げんぶがん)質である。この上部地殻と下部地殻の境界をコンラッド不連続面という。 海洋地殻は、ほとんど玄武岩質である。 地殻より下に、地殻よりも密度の大きい固体のマントルがあり、深さ2900kmほどまでマントルが続いている。 2900kmより深いあたりが核(かく)である。核は2層に分けられ、外側が液体であり外核(がいかく)といい、内側が固体であり内核(ないかく)という。 水には、木などの密度の低い物質が浮かぶ。さて、マントルの密度と比べて、地殻の密度は小さい。よって地殻はマントルの上に浮かぶような浮力を受けていると見なせる。たとえば、海中に氷山が浮かぶようなものである。 さてマントルに浮かぶ地殻について、ある地点の付近での、地殻が安定するためには、力学的に直感的に考えれば、標高の高い地殻は、そのぶん浮力も多く必要なので、地下深くにまで地殻が続いている必要がある。 このような地殻とマントルの、浮力と重力の釣り合いを、アイソスタシー(isostacy)という。 ある一定深さでは、その地点付近では、ある面にかかる圧力は同じである。 このように地殻が地下まで続いているため、ブーゲー異常については、山などの高い地形がある場所では、アイソスタシーによって地下に密度の低い地殻があるため、山の付近ではブーゲー異常が負になるのが一般である。 ヨーロッパにあるスカンジナビア半島では、少しづつ、土地が上昇している。これは、氷期の、氷河が地殻に乗っていた時代に、アイソスタシーが成立していたため、氷期が終わり、アイソスタシーのつりあいが無くなったため、地面が上昇して、釣り合おうとしている最中だと考えられている。 走時曲線を分析してみると、震央距離を地球中心からの角度で表した場合(これを角距離(かくきょり)という)、角103°から 先の領域にはS波が伝わらない。この領域を「S波のシャドーゾーン」と言う。また震央距離の角103°から角143°にあたる地域はP波が直接伝わらない。これを「P波のシャドーゾーン」という。結局、角距離103°〜143°にあたる地域ではP波もS波も伝わらない。このような、地震波の伝わらない地域をシャドーゾーンという。シャドーゾーンのできる理由は、深さ2900kmのあたりで地下の構成物質が変わるため、P波の速度が急に遅くなり、よって物理でいう「波の屈折の法則」により、地震波が地表の方向へと屈折するためである。 この深さ2900kmあたりから、地球内部に向けて存在している物質を核(かく、英:core コア)という。核の存在は、グーテンベルクによって、1926年に発見された。 復習として、モホロビッチ不連続面は地殻とマントルとの不連続面であることを指摘しておく。 核は、さらに内核と外核に分けられる。これは、P波の速さが5100kmに相当する場所で不連続になるからである。 また、外核はS波が伝わらないことから、外核は液体であると考えられている。内核は、P波が速くなることから、固体であると考えられている。 S波は横波であるので、固体にしか伝わることができない。(水面などの表面波は、横波ではなく、べつの機構の波である。) P波は、固体・液体・気体中を伝わる。固い物質ほど、地震波が速く伝わる。 マグマオーシャンから分離した鉄が地球中心部に核を形成したが,時代を経るにつれて冷え,鉄が固体となって中心部に沈み,内核を形成した。 (※ この節であつかう地球の中心部の温度の調べ方については、おもに地学II(専門地学)の範囲。低学年は、まだ深入りしなくて良い。まだ、物理で熱力学も習ってないだろうし、ここよりも物理を優先してもらいたい。) 地球に火山活動があることからも分かるように、地中の内部には、高温・高エネルギーの物体がある。 地中の温度は、深くなるほど、温度が上昇する。地表から約 30km までの地殻内では、 100m の深さにつき、約 2℃〜3℃ 、温度が上昇する。 なお、この温度上昇の割合を地下増温率(ちか ぞうおんりつ)という。 地球の中心部の温度は、さまざまな理論から推定される結果によると、 4000℃〜5000℃ の高温であるが、推定値であり、直接の観測は出来ていない。 この熱源のひとつは、ウランやトリウムなどの放射性同位体の原子が壊れるときに発生する熱である。 もう一つの熱源は、地球の原始の時代に、地球ができるときに小惑星などとの衝突で発生した熱であり、まだ地中にその熱が、たまっている。
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示準化石によって、地層の新旧は分かるが、具体的に何年前のものかは分からない。具体的な年代は、放射性年代測定によって測定される。放射性同位体は、一定の速さで壊変して最終的に安定な原子に変わっていく。(と考えられている。実際に古代から現在までの放射同位体の壊変速度を測定した人はいない。) 放射性同位体のもとの原子の総数が、もとの半分になるまでの間にかかる時間のことを、半減期(はんげんき、half-life)といい、放射性同位体の種類によって異なる。 半減期は、その原子ごとに一定であり、変わらない。この法則を利用して、化石の年代を測定する。 元素の種類によって、測定方法は細かくちがう。 生物の化石の場合、つぎに述べる炭素の放射性同位体がよく利用される。 地上の大気にふくまれる炭素Cは、太陽光線などの影響により、いくらかの割合で一部の炭素が放射性同位体の炭素 14C に変わる。生きている植物体は光合成などにより、放射性炭素ごと、炭素を取り込む。このため、生きている植物体は、一定の割合で放射性炭素をふくむ。放射性炭素の半減期は、約5700年である。 植物体が死ぬと、大気との循環が止まるので、新たな放射性炭素が増えなくなるので、これを利用して化石の年代を測定できる。 炭素の半減期は、約5700年と、地球の歴史の中では短いほうなので、数万年以内という新しい時代の年代を測定するときに用いる。 古い地質時代の年代測定は、ウラン(238U)などの半減期の長い元素の放射性同位体による。ウラン238Uの半減期は4.5×109 年。 化石や地層の古さを数値で具体的に、たとえば「約200万年前」「約2500万年前」のように表した年代を、絶対年代(ぜったい ねんだい)とか数値年代(すうち ねんだい)という。 放射性同位体による測定を利用して数値年代を測定する場合が多いので、放射性年代(ほうしゃせい ねんだい)ともいう。 一方、示準化石などを利用して、「この地層は、あの地層よりも古い」などというように地層の新旧関係のみを考えた場合の年代を相対年代(そうたい ねんだい、reklative age)という。 地球は約46億年前に誕生した。誕生したばかりの原始の地球(ancient earth)は、熱いマグマで覆われていたと考えられている。この状態をマグマオーシャンという。そのころは、まだ生命は存在していなかったと考えられている。 しだいに表面が冷えていき、水蒸気が冷えて雨になって海が形成されていった。 海ができる前までの、地球の誕生からマグマオーシャンの時代を冥王代という。 マグマオーシャンが固まっていく時、重い鉄は重力によってマグマオーシャンの下にしずみ、地球の中心部に鉄が集まり、こうして地球は中心部に主に鉄からなる核(かく)を形成したと考えられる。 この原始の海の中または、その付近で、最初の生命が誕生したという可能性が考えられている。 この説とは別に、隕石に有機物が含まれてる場合があることから、有機物の起源を宇宙に求める説もある。 地球で最古の岩石(the oldest rock)は、カナダ北部のほうにある40億年前の変成岩である。変成岩とは、熱や圧力によって、既存の岩石が変成してできた岩石のことである。 また、最古の地層は、グリーンランド南西部にある約38億年前の変成岩からなる地層であり、れき岩や玄武岩の変成したものである。 浸食作用や堆積作用で出来る れき岩 があることから、この約38億年前の時代には海洋がすでにあった事が分かる。 27億年前の地層から、ストロマトライトとよばれる岩石状の層状構造が見つかっており、この構造は原核生物のシアノバクテリアが作る構造として知られている。この時代以降の地層で、世界各地からストロマトライトの地層が見つかっている。よって、この時代にシアノバクテリアが大繁殖していたと考えられている。 光合成をシアノバクテリアは行う。光合成で酸素が放出される。そのため、シアノバクテリアが繁栄していれば、海洋や大気で酸素が増加する。はじめは海洋中に解けていた鉄イオンと酸素が結びつき、酸化鉄として海底に沈殿していったと考えられている。(なお、今日、海底や地中にある鉄鉱床は、この時代に作られたと考えられている。) 海水中の鉄イオンが酸化して沈殿していくので、しだいに海洋中の鉄イオン濃度が低下していき、こんどは大気中で酸素濃度が増大することになった。この大気中での酸素の増加によって、酸素を好む好気性細菌が増加したと考えられている。 地球上で最古の岩石ができてから現在までを地質時代(ちしつ じだい)という。 地質時代の区分は、先カンブリア時代・古生代(こせいだい)・中生代(ちゅうせいだい)・新生代(しんせいだい)に分けられる。 最古の生物が現れてから真核生物が現れるまでの時期は、先カンブリア時代にふくまれる。 各代は、さらに、いくつかの紀に分けられる。たとえば古生代は、カンブリア紀・オルドビス紀・シルル紀・デボン紀・石炭紀・ベルム紀に分けられる。 なおカンブリア紀は、古生代であり、先カンブリア時代ではない。 三葉虫(さんようちゅう)は古生代の生物であり、アンモナイトは中生代の生物である。三葉虫は古生代末に絶滅してしまう。よって、三葉虫の化石がある地層から出土すれば、その地層が形成された年代は古生代であることが分かる。このような、時代を知れる化石を示準化石という。三葉虫の化石は、示準化石である。いっぽう、サンゴは暖かくて浅い海に生息するので、サンゴの化石があれば、その化石ができた時代に、その場所は暖かくて浅い海底だったことが分かる。このサンゴの化石のように、場所の特徴を知れる化石を示相化石(しそう かせき)という。 先カンブリア時代の後半である約7億年前、地球が寒冷化して、地球の大半が氷河で覆われた。これを全球凍結(ぜんきゅう とうけつ、Snowball Earth スノーボール・アース)という。全球凍結によって、多くの生物が絶滅した。一部の生物は絶滅をまぬがれて、生き残った。 最初の多細胞生物が出現した時期は不明だが、おそらく約10億年前の先カンブリア時代だと考えられている。最古の多細胞生物の化石が、約6.5億年前とされる地層から見つかっている。世界各地で、同時期の地層から、この時代の生物の化石が見つかっている。オーストラリアのエディアカラという地域が、そのような化石の産出地として代表的であるので、この6.5億年前ごろの時代の生物群をエディアカラ生物群(エディアカラせいぶつぐん)という。エディアカラ生物群のほとんどは、体がやわらかく、殻を持たず、扁平な形をしている。 体が扁平なことから、移動能力は低いと考えられ、また、海中から酸素を直接に取り入れていたと考えられる。 クラゲのような生物の化石も見つかっている。 このエディアカラ生物群は、気候の変動などにより、ほとんどの種が絶滅した。先カンブリア時代の後半である約7億年前、地球が寒冷化して、地球の大半が氷河で覆われた。これを全球凍結(ぜんきゅう とうけつ、Snowball Earth スノーボール・アース)という。全球凍結によって、多くの生物が絶滅した。一部の生物は絶滅をまぬがれて、生き残った。 そして、約5億4000年前に先カンブリア時代が終わる。 軟体動物や節足動物、環形動物など、多くの種類の動物が誕生した。このような、カンブリア時代での生物の多様化を「カンブリア大爆発」という。 カナダのロッキー山脈のバージェスで化石が発見されたことから、この時代の生物群をバージェス動物群という。 三葉虫、アノマロカリスなどが、バージェス動物群である。 殻の成分としてカルシウムを持つ生物が多くいることから、海水中にカルシウムが豊富だったと考えらている。また、硬い殻は、捕食者に対抗するためのものだと考えられており、つまり、捕食者-被食者の関係が、この時代の生物群で既に存在していたと考えられている。 カンブリア紀の末までに多くが絶滅した。 カンブリア紀末~オルドビス紀(古生代)の魚には、顎(あご)が無く、ヤツメウナギの仲間である無顎類(むがくるい)だった。 古生代シルル紀~デボン紀に、顎のある魚が出現し、シーラカンスなどが出現した。 中生代の動物では、ハ虫類の大型化した恐竜類が出現して繁栄した。また、三畳紀(さんじょうき、別名:トリアス紀)には哺乳類(ほにゅうるい)が出現した。 ジュラ紀には、恐竜から進化した鳥類が出現した。始祖鳥(しそちょう)が、中生代ジュラ紀には出現していた。ジュラ紀の地層から始祖鳥の化石が見つかっている。中生代の海中ではアンモナイトが繁栄した。 中生代の最後の白亜紀(はくあき)には、現在でいうカンガルーにあたる、有袋類(ゆうたいるい)が出現していた。白亜紀には、草本の被子植物が出現した。 中生代の末期、大量絶滅が起きた。中生代末期である約6600万年前に、大型の隕石が地球に衝突したことが分かっているので、この隕石衝突による気候変動が原因だろうという説が有力である。 新生代末期の白亜紀の地層と、新生代の初めの地層から、高濃度のイリジウムが多く見つかっているが、このイリジウムは小惑星に多いことが知られている。また、メキシコのユカタン半島に巨大なクレーターがあり(クレーター直径は100km以上)、この時代の隕石衝突によるものだろうと考えられている。ここに衝突した隕石の直径は10kmだろうと計算されている。 大きな隕石の衝突により、粉塵などが舞い上がり、太陽光がさえぎられて、植物の光合成が低下し、 そのため、植物の衰退および、食物連鎖で繋がっている動物が死亡し、動植物が大量絶滅した、などという説が考えられている。 中生代の末期ごろ、恐竜類は絶滅し、アンモナイトも絶滅した。なお、恐竜の色素は化石としては残りづらく、そのため恐竜の表皮などの色は不明である。 新生代に入り、哺乳類が繁栄し始め、また哺乳類は多様化していった。 ヒトは哺乳類の一種の霊長類(れいちょうるい、別名:サル類)である。霊長類が出現したのは、新生代に入ってからである。 霊長類でヒトに、遺伝子が、もっとも近いヒト以外の動物は、チンパンジーであり、DNAの塩基配列の違いが1.2%程度である。 霊長類に含まれる動物はゴリラやチンパンジーだけでなく、キツネザルやテナガザルなども霊長類である。 霊長類の祖先は、現在でいうツバイに似た食虫類だと考えられている。 このような食虫類が進化して、現在でいうキツネザルに似た霊長類が出現した。 霊長類は、樹上で生活するように進化していった。霊長類は目が顔面の前のほうに集中しており、そのため立体視ができる。この立体視は樹上での素早い移動のために獲得された特徴だと考えられている。また、手は、親指が他の指と向かい合っており(ぼ指対向性、「ぼしたいこうせい」)、指の爪は鉤爪(かぎづめ)ではなく平爪(ひらづめ)になっているので、枝をつかみやすい。 新生代の第三期に、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル、ボノボなどの類人猿(るいじんえん)の祖先が出現した。 人類はアフリカ大陸で誕生した。人類と類人猿の違いとして、人類は直立二足歩行(ちょくりつにそくほこう)が可能である。 最初の人類は 猿人(えんじん) である。アフリカで440万年以上前の地層(ちそう)からラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)の化石が発見されている。猿人は二本足で立って歩ける直立二足歩行(ちょくりつにそくほこう)が可能だった。 二足歩行ができるようになった結果、手で使う道具が発達していき、それにともなって知能も発達していったと考えられている。 また、東アフリカの300万年ほど前の地層からアウストラロピテクス類 の足跡化石が見つかっており、直立二足歩行をしていたことが分かっている。アウストラロピテクスの脳容積は500mLであり、現生人類の半分以下である。なお、現生人類の脳容積は約1500mLである。 ラミダス猿人やアウストラロピテクス類をまとめて、猿人といい、初期の人類と見なしている。また、これら猿人の化石がアフリカからのみ見つかっていることから、人類はアフリカで誕生したと考えられている。 なお、猿人は石を打ち砕いてつくった打製石器(だせいせっき)を使っていた。打製石器は旧石器(きゅうせっき)とも呼ばれる。このような打製石器までしか使っていない時代を旧石器時代(きゅうせっき じだい)という。 その後の100万年〜200万年後の時代の間に、人類はアフリカから出て、各地に散らばっていった。 今から200万年ほど前に 原人(げんじん、hominid) があらわれた。 中国大陸の中国の北京(ペキン)の近くの周口店(しゅうこうてん)からは、 北京原人(ペキンげんじん、シナントロプス=ペキネンシス) のあとが発見されている。 原人の脳容積は約1000mLであり、猿人と現生人類の中間である。 北京原人は火を使用していたことが分かっている。 インドネシアのジャワ島からはジャワ原人のあとが発見されている。 ドイツからはハイデルベルグ人が発見されている。 原人は、言葉を話せた。 石器は、打製石器を使っている。旧石器時代にふくまれる。 旧人のうちの一種の ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス) の化石が、ドイツのネアンデルタールから発見されている。ネアンデルタール人は、約3万年前に絶滅した。ネアンデルタール人の脳容積は、現生人類とほぼ同じである。(ネアンデルタール人の脳容積は約1500mL) 私達、現在の人間の直接の祖先である 新人(しんじん) が、4万年前には、あらわれていた。 新人を、現生人類(げんせいじんるい)とも言い、また、 ホモ=サピエンス(Homo sapiens) とも言う。ホモ・サピエンスの最古の化石がアフリカのエチオピアで見つかっていることから、現生人類はアフリカで誕生したと考えられている。また、ミトコンドリアのDNAの解析も、アフリカで現生人類が誕生したことと一致している。 人類は約10万年前にアフリカ大陸を出て、世界中に散らばった。
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大気圏の構造について、大気圏は地表から順に、対流圏、成層圏、中間圏、熱圏の4つに分けられる。 地表から約10kmの高度までを対流圏(たいりゅうけん)という。 対流圏では、高度が100m高くなるごとに気温が約 0.65 ℃ 下がる。なお、対流圏での この気温低下の度合いの事を気温減率(きおん げんりつ)という。 対流圏と成層圏の境界のことを対流圏界面(けんかいめん)という。対流圏界面のことを単に「圏界面」と省略する場合もよくある。対流圏界面の高度は、場所や地方によって異なる。 一般の雲は対流圏までしか上昇せず、対流圏界面のあたりで上限になり、それ以上の高度には、ほとんど上昇しない。(※ 参考文献: 東京書籍などの教科書) 積乱雲(いわゆる入道雲)が上空で横に広がる場合があるのも、圏界面に達したので横に広がると考えられている(第一学習社の見解, 雲の写真のページ)。 また、降雨などの天気の現象は、ほとんどが、この対流圏にある雲の影響である。 また、ほかの圏と比較して対流圏は水分が多く、大気中のほとんどの水分は対流圏であると言われている。 対流圏では、その名のとおり、対流が起きていると考えられており、太陽光で熱せられた地面や海面の熱が対流の原因であるとされている。 対流圏界面から高度 約50km までを成層圏(せいそうけん)という。 成層圏にはオゾン層が存在する。 なお、オゾン層の化学式は O3 である。オゾン層は酸素(元素記号: O )がもとになっている。 右図のグラフを見ると高度20km以上の上空では高度が上がるにつれて温度が上がるが、これはオゾン層の影響であると考えられている。 オゾン層は紫外線のエネルギーを吸収し、大気をあたためている。 なお、高度 約50km で気温は約0℃になる。 さて、いまさっき説明したようにオゾン層は紫外線を吸収するので、地上の生命はオゾン層によって紫外線の害から守られている。 紫外線には、生物のDNAを損傷する作用がある。 なお、ラジオゾンデが飛ぶ高度は一般的に、成層圏である。 高度 約50km 〜 80km が中間圏である。 中間圏の気温については対流圏と同様に、高度が高くなるにつれて気温が下がる。 しかし、中間圏の気温減率は、対流圏ほど大きくはない。 中間圏では、夜光雲(やこううん)という特殊なうすい雲が観測される場合もある。 高度 約80km以上から数百kmが熱圏である。 オーロラは熱圏の高度100kmのあたりで観測される。なお、一般にオーロラは北極または南極に近い高緯度地方で観測され、また、両極でほぼ同時にオーロラは発生する(※ 時発生についての参考文献: 実教出版の教科書)。 オーロラは、太陽風などによって地球に流れ込んできた 電荷(でんか)を帯びた微粒子が、極地方の磁力線にとらえれれて、その微粒子が地球大気の酸素分子や窒素分子などに衝突する事により発光現象が起きていると考えられている。 流星が見られる高度も熱圏である。 高度が上がるにつれて熱圏は温度が上昇していくが、この理由としては、太陽からのX線や紫外線を吸収しているためだと考えられている。 地表からの電波をよく反射する電離層(でんりそう)は、熱圏にある。 電離層として複数の層があり、下から順にD層、E層、F1層、F2層 である。 これらすべての電離層をまとめて電離圏(でんりけん)という。それぞれの層は、反射しやすい電波の波長が異なる。 無線による遠距離通信(漁業無線など)では、電離層・電離圏の影響が強く表れるとされている。 熱圏よりも上空は外気圏といい、宇宙空間に通じている。 地学「地球のエネルギー収支」を見てください。 海水の主成分は塩化ナトリウム(NaCl)であり、そのほか塩化マグネシウム(MgCL2)などの塩類が溶けている。海水1kgあたりの、すべての塩類の量を塩分(えんぶん)という。塩分の単位はgや%(パーセント)、‰(パーミル)で表す。 海水の塩分は、3.3%〜3.8%であり(つまり33g〜38g)、およそ平均で3.5%(つまり35g)である。 地域によって、海面付近での塩分の濃度は異なる。赤道付近では降雨が多いので、雨で海水がうすめられ、塩分が低くなる。いっぽう、緯度30°付近の亜熱帯では、蒸発が多いので、塩分が高くなる。 海水温は、季節や地域によって異なるが、地域によって温度が違うのは表面付近の数百メートルの範囲だけである。海水の深さ数千メートルの深部では、世界のどの地域でも、水温は約2℃である。なお、表層の温度と、地域についての関係は、一般に、赤道付近の低緯度ほど、表層の水温は高温である。 海水の表面付近は風や波で混ぜられるので、鉛直方向の温度差が少ない層が数十mほどあり、これを混合層(こんごうそう)あるいは表層混合層(ひょうそう こんごうそう)という。 表層混合層のことを単に「表層」(ひょうそう)という場合もある。 混合層よりも下には、水温が急激に下がる層があり、これを水温躍層(すいおんやくそう)といい、深さ500mあたりまで続く。 深さが2000mほどになると、世界中のどの地域でも(緯度によらない、という意味)、それ以降の深さでは温度はあまり急変せず約2℃で一様になり、ゆるやかに温度が低下していく。 なお、水温躍層では、温度のほかにも、塩分も深くなるにつれて急激に濃くなっていく。また、海水の密度は、海水の塩分と温度によって決まるので、よって水温躍層では海水の密度も急激に上昇していく。 深層の塩分濃度は、緯度によらず、ほぼ一定である。 海洋は水平方向と鉛直方向に運動するが、海洋の水平方向の運動のことを海流という。 日本近海にある 黒潮(くろしお) や 親潮(おやしお) も、それぞれ海流である。日本近海にある 対馬海流(つしま かいりゅう) や リマン海流 も、その名の通り当然に海流である。 海流の生じる原因としては、地球の自転と、貿易風や偏西風などの地上を吹く大規模な風の影響が原因だろうと考えられている。 海水の密度は、温度が低いほど密度が大きく、また、塩分濃度が高いほど海水の密度が大きい。北大西洋のグリーンランド付近では、寒さのため海水の表面が凍るので、そのため海水の塩分が増加するので、海水の密度が大きくなる。この密度の高い海水が、海底に向かって沈み込み、図(「海水の大循環。」)のような海の表層と深層との大循環の一部を形成する。このような深層もふくむ海底の大循環を深層循環(しんそう じゅんかん)などという。深層循環のことをコンベアーベルトともいう。 循環の速度はきわめて遅く、約2000年程も掛かって、北大西洋で沈んだ海水が、北太平洋で上昇する。(一部、インド洋でも北大西洋で沈んだ海水が上昇している。)
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太平洋の赤道付近の南アメリカのペルー沖あたりで2〜5年に一度、海面の水温が上昇する現象があり、この現象をエルニーニョという。 なお、エルニーニョはクリスマスの頃に発生し、またエルニーニョとはスペイン語で「神の子」という意味である。 エルニーニョが起きると、影響はペルー周辺だけではなく東南アジアまでの広い太平洋全体に気象の変化を及ぼし、また赤道周辺だけでなく(日本やオーストラリアといった)中緯度の地域にまで影響を及ぼす。つまりエルニーニョは太平洋地域の気象に広く影響を及ぼす。 日本ではエルニーニョの年は、夏は冷夏になり、冬は暖冬になる場合が多いとされている。 エルニーニョの発生していない平年は、この地域には貿易風が強く存在していると言われている。エルニーニョの発生原因として考えられている説は、何らかの原因で貿易風(東風)が弱まり、冷水の上昇も止まるのが原因だろうとされている。 いっぽう、エルニーニョとは逆に、ペルー沖の海面水温が低くなる年もあり、この現象をラニーニャという。なお、ラニーニャとはスペイン語で「女の子」という意味である。ラニーニャが発生すると、太平洋地域の気象に広く影響を及ぼす。 日本ではラニーニャの年は、夏はかなり暑く、冬はかなり寒くなる場合が多いとされている。ラニーニャの年は、貿易風が強いと言われている。 観測事実として、大地震の時などに、埋立地の地面が、水分の多い泥のような液体状になるという現象が発生する場合のある事実があり、このような地震などで地盤が液体のように軟弱になる現象のことを液状化(えきじょうか)という。「液状化現象」という場合もある。 単に泥水が出現するだけでなく、さらに地盤が軟弱になった事により建物が倒れたりするので、被害が拡大する場合もある。 図のように、地震のない時には砂どうしが結合している地盤に、地震によって砂が浮き上がりスキマが生じて、そのスキマに水が入ることで砂どうしの結合が破壊されるという仕組みが、液状化の仕組みとして提唱されていて定説として普及している。
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プリズムを通った光は、赤から紫までの波長の光に分かれる。このような光の帯をスペクトルという。 光は、電磁波という波の一つである。光の色の違いは、波長の違いである。電磁波のうち、私たちが色や明るさとして見ることができる電磁波を、可視光(かしこう)または可視光線という。私たちヒトが見ている光は、可視光である。 可視光の波長は、おおむね380nm〜770nmである。( nm は長さの単位 ナノメートル のこと。) また、光の速度は常に一定であることが物理学によって分かっている。 光には、私たちヒトの目に見えない光もある。赤外線や紫外線なども電磁波であるが、赤外線や紫外線は、私たちヒトの目には見えない。 水素を発光させたものやナトリウム灯のスペクトルを調べると、特定の波長だけが線上に表れる輝線スペクトル(きせんスペクトル)になる。どの波長が表れれるかは元素の種類によって異なる。ちなみにナトリウム灯のスペクトルは、オレンジ色の線が2本ほど表れる。(※ ウィキに図が無いので、参考書などで各自、調べてください。) 逆に、太陽光のスペクトルを調べると、特定の波長が、いくつか抜けていて、その波長の部分だけ黒い線になっているスペクトルが表れる。これは、太陽大気などの物質に、その波長の光が吸収されたためである。よって、この抜けているスペクトルの波長と、知られている元素のスペクトルの波長とを、比べることで、太陽大気の元素の組成を調べることができる。 なおスペクトルで、物質に吸収されたため、暗くなって抜けていて黒い線の部分を、吸収線(きゅうしゅうせん)あるいは暗線(あんせん)という。 こうして太陽の元素の組成を調べたところ、太陽の元素のほとんどは水素であり、水素が92%ちかくある。残りのほとんどはヘリウムで、ヘリウムが約7%ある。 なお、太陽の吸収線のことをフラウンホーファー線という。 また、恒星のスペクトルでの各色の光の強さを調べることで、その恒星の温度が分かる。その理由は、つぎのような理由である。 まず、近代のヨーロッパの科学者たちの調査で、製鉄所などで加熱されて造られている金属などのように、とても高温の物から出てくる光に含まれる色を調べたところ、温度が1000度や2000度くらいの時は、赤い光が多いが、もっと温度を上げていくと、だんだん白い光が多くなってくることが分かってきた。 さらに、もっともっと、温度を上げていくと、物体から出る光は、青白い光が多くなってくることが分かってきた。 近代の科学者は考えた。「地上の物体では、温度が高いほど、赤い光から青白い光になるという法則があるんだから、夜空にうかぶ星の色も、地上と同じように、青い星は、きっと温度が高いにちがいない」と、近代の科学者は考えた。 実際に、この考えが正しいことが、さまざまな研究から、確かめられている。 このようにして、太陽のスペクトルから求めた太陽表面の温度は、およそ6000℃である。温度の数値の根拠は、以降の「シュテファン=ボルツマンの法則」の章の解説を参照せよ。 ウィーンの変位法則は、黒体の温度が高いほど、放射エネルギーが最大になる波長が短くなっていることを表し、その波長をλ(μm)・温度をT (K)としたとき以下の式で示せる。 ウィーンは、ウィーンの法則を確かめる測定実験をする際、熱エネルギーの測定器にはボロメーターという装置を用いた。 [1] (※ ボロメーターについて、くわしくは、発展の節で説明する。) シュテファン=ボルツマンの法則は、恒星の放射するエネルギーE は絶対温度T の4乗に比例するというもので、次の式で表される。 1900年ごろ、すでに天文学者のラングレーによって、熱エネルギーの測定器としてボロメータという測定器が実用化していた。ボロメータとは、金属が温度変化した際の電気抵抗の変化を利用して、電気抵抗の変化から温度変化を読みとり、その温度変化から熱エネルギーなどのエネルギーを測定する装置である。 このボロメータを用いて、光の放射エネルギーも測定できた。 ウィーンは、ウィーンの法則を確かめる測定実験をする際、光のエネルギー測定のために、ボロメーターを用いた。この当時のボロメーターの精度の例として、温度が10-5上昇すると、抵抗値の変化率の3×10-8を読み取れるという高精度であったと言う。 ラングレーやヴィーンが用いていた頃のボロメーターでの測温用の金属には、白金が用いられていた。 そして、ボロメーターの精度の向上のため、ホイートストン・ブリッジ回路の中に、この電気抵抗を組み込むことで、精度を得ていた。 なお、21世紀の現在でも、白金は、電気抵抗式の測温素子として、よく用いられている。また、ホイートストン・ブリッジも、アナログ電気式の測定器で精度を得るための手法として、よく用いられている。さらに、ホイットストーン・ブリッジと測温素子の組み合わせによる温度測定器や放射エネルギー測定器などすらも、現在でもよく用いられている。 この1900年ごろのウィーンの時代、光の波長測定の方法では、回折格子が用いられた。すでにローランドなどによって光の波長測定の手段として実用化していたローランド式などの回折格子が、よく用いられた。 そもそも、光の波長は、どうやって測定されたのだろうか。 1821年にドイツのレンズの研磨工だったフラウンホーファーが、回折格子を作るために細い針金を用いた加工装置を製作し、その加工機で製作された回折格子を用いて、光の波長の測定をし始めたのが、研究の始まりである。フラウンホーファーは、1cmあたり格子を130本も並べた回折格子を製作した。[2] また、1870年にはアメリカのラザフォードがスペキュラムという合金を用いた反射型の回折格子を製作し(このスペキュラム合金は光の反射性が高い)、これによって1mmあたり700本もの格子のある回折格子を製作した。 より高精度な波長測定が、のちの時代の物理学者マイケルソンによって、干渉計(かんしょうけい)というものを用いて(相対性理論の入門書によく出てくる装置である。高校生は、まだ相対性理論を習ってないので、気にしなくてよい。)、干渉計の反射鏡を精密ネジで細かく動かすことにより、高精度な波長測定器をつくり、この測定器によってカドミウムの赤色スペクトル線を測定し、結果の波長は643.84696nmだった。マイケルソンの測定方法は、赤色スペクトル光の波長を、当時のメートル原器と比較することで測定した。[3] なお、現代でも、研究用として干渉計を用いた波長測定器が用いられている。メートル原器は、マイケルソンの実験の当時は長さのおおもとの標準だったが、1983年以降はメートル原器は長さの標準には用いられていない。現在のメートル定義は以下の通り。 宇宙は膨張している。1929年、天文学者のハッブルは、つぎのような観測事実をもとに、銀河が遠ざかっていることを発見した。 ハッブルは観測によって、恒星から地球にとどく光のスペクトルが、地球から遠い星ほど、ドップラー効果によって、赤くなっていることを発見した。 地上で測定された各元素の輝線スペクトルよりも、星の光から観測したスペクトルのほうが距離に比例して赤く偏位しているのである。 この、遠い星ほど光が赤いという事実を、赤方偏移(せきほう へんい)という。 サイレンを鳴らした車が自分の近くを通りすぎるとき、通りすぎる前と通り過ぎたあとで、音の高さが違って聴こえるのもドップラー効果である。 光にもドップラー効果はあり、私たちが作ったような自動車などが運動するような速度では速度が低すぎて光のドップラー効果は観測できないが、宇宙の規模での速度だと、もっと高い速度なので、光のドップラー効果も観測できる。 ドップラー効果では、波の発生源が遠ざかるほど、波長は長くなり、つまり振動数が低くなる。 青い光と比べて、赤い光は、波長が長く、振動数が低い。つまり、赤くなるほど、波長が長くなっている。 そして、地球から遠い恒星ほど、赤い光になっているのだから、遠い星ほど、より速く遠ざかっていることになる。 つまり、遠ざかる速度 v が、観測地点である地球からの距離 r に比例している。比例定数を H とすれば、式は で表される。 この比例定数Hを、発見者のハッブルの名前にちなんで、ハッブル定数という。 そして、このような事実から、宇宙は膨張している事がわかる。 このような宇宙の膨張の法則をハッブルの法則という。 さて、このように、宇宙にある星どうしは、おたがいに、どんどん遠ざかっている。つまり、宇宙は、膨張している。 裏をかえせば、過去にさかのぼると、昔は今よりも、星どうしの距離が近かったのである。ならば、宇宙が誕生した瞬間は、すべての星が、一点に集まっているはずである。 膨張の速度から逆算すると、宇宙が誕生した時期が分かる。宇宙は約137億年前に誕生した。 宇宙の始まりの瞬間は、以上の論理から、物質の密度がとても高かったことが考えられている。現在の宇宙にある物質すべてが、一点に集まっていたからである。 また、宇宙の始まりのときの温度については、宇宙での元素の種類や割合などの理由から、宇宙の始まりの温度は、とても高温であったと考えられている。 宇宙の始まりの瞬間は、きわめて高温・高密度であったと考えられている。そして、それが急激に膨張していったと考えられている。このような説をビッグバンといい、1948年に物理学者のガモフによって提唱された。 皆既日食のときに光球の外側にピンク色っぽい大気の層が見え、この層を彩層(さいそう)という。このピンク色の光の原因は、水素のスペクトル光であるHα線(エイチ・アルファーせん)の赤色である。また、彩層の外側にうすく広がる気体の部分をコロナという。彩層の一部が突然明くなることがあり、この現象をフレアという。 フレアのときに、強いX線や紫外線が放出されることで、地球では通信障害を起こすことがあり、この通信障害の現象をデリンジャー現象という。 太陽からは、水素や電子などの粒子が、数百km/s の速さで、大量に流れだしてる。これを太陽風(たいようふう、solar wind)という。太陽風は電離しており、電気を帯びている。これは、太陽の内部はとても高温のため、水素やヘリウムなどの原子核から電子が電離してしまうためである。 太陽風が地球に打ちつけられた時、北極・南極の極付近では、発光現象を起こすことが知られており、この極付近での発光現象をオーロラという。 太陽の光かがやく原動力は、水素の核融合であると考えられている。そして太陽での水素の核融合の結果、ヘリウムが生成していると考えられている。 太陽にかぎらず、このように天体の中心部で水素の核融合が起き続けている状態の恒星のことを主系列星(しゅけいれつ せい)という。 現在の太陽は主系列星である。 いっぽう、宇宙には観測事実として、赤くて巨大(と考えられている)な恒星が存在する。おうし座のアルデバラン、さそり座のアンタレスなどが、そのような赤くて巨大な星である。 これらの赤くて巨大な星は、主系列星が中心部の水素を核融合で使い果たした状態だろうと考えられている。 太陽も、中心部の水素を核融合で使い果たすと、主系列星ではなくなり、赤くて巨大な星になると考えられている。 主系列星は星の一生のうちの比較的に前半であり、赤くて巨大な星は星の一生うちの比較的に後半である。 (※ 範囲外 :)赤くて巨大な星がなぜ星の一生の後半であるかが分かったかというと、参考文献 『星の進化論とHR図表』、小暮智一(元 京都大学教授) 著 、天文教育 2011年5月号によると、(20世紀前半の科学者が?)地球から観測できる数万光年は離れた複数の赤くて巨大な星どうしを比べたところ、性質がどれも似ており、そのことから、数万光年ぶんの時間よりも遥かに長い時代(つまり数億年)を過ごした星の寿命の後半であると20世紀当時の人は判断したようである。 現在は主系列星の太陽の水素は核融合で消耗しつづけており、その水素が尽きるであろう約50億年後に、太陽はヘリウムを中心核にもつ星へと変化するだろうと考えられている。 そして、ヘリウムを中心核にもつ結果、重力によってヘリウムは中心に集まり収縮していく。 いっぽう、その頃には太陽を囲む外側で水素による核融合が起き、その結果、太陽は膨張し、太陽は赤く見える星になると考えられている。 太陽にかぎらず、このような状態(中心部の水素が尽きて、周辺部の水素で核融合している状態)の恒星のことを赤色巨星(せきしょく きょせい)という。 おうし座のアルデバラン、さそり座のアンタレスなどが赤色巨星である。 赤色巨星になったあとの星では、ヘリウムは当初は核融合しないで、核融合しないので重力によって中心部に ヘリウム が収縮していく。 しかし、収縮によって温度も上昇するので、約1億℃になり、ヘリウムが核融合するようになる。 このヘリウムの核融合により、酸素と炭素が作られる。 そして、太陽は巨星になる。 太陽はどうだか知らないが、歴史上、実際に上空で消滅した星があり、平安時代の『明月紀』などの古文書などにも記載されている(同時期に中国や中東などの文献にも同類の天文学の記録があり、史実だろうと思われている)。 このように、恒星は寿命を迎える。 太陽の場合、水素もヘリウムも使い果たして巨星になったあと、ガスが散逸していき、小さくなり(とはいっても、地球よりかは遥かに大きいが)中心部の密度の高い白色矮星(はくしょくわいせい)という状態になると考えられ、ガスを放出して、しだいに冷却していく。残った酸素や炭素は、核融合を起こさないと考えられている。 太陽よりも質量が8~10倍以上はある恒星の場合、水素を中心部も周辺部もすべて水素を使い果たすと爆発を起こすと考えられており、この現象を超新星(ちょうしんせい)または超新星爆発という。 (※ 範囲外 :)近年にも、2006年にペルセウス座の超新星が観測されている。歴史的にも、1604年にケプラーがヘビ使い座で超新星を観測しており、1885年にアンドロメダ銀河で超新星爆発が観測されている。また、平安時代の『明月紀』にある記述もおうし座の超新星だろうと考えられている。 宇宙には、どんな波長の電磁波も吸収してしまうブラックホールという場所がいくつもある事が分かっている。 ブラックホールは、ある天体の密度が大きすぎて重力が大きくなりすぎた結果、光すらも外に出ない結果、ブラックホールが発生すると考えられている。(※ 高校の範囲外だが、物理学におけるアインシュタインなどの相対性理論によると、重力によって光は曲がる。なので、重力が強すぎると、光は外に出ていないと考えられている。) ブラックホールの種類にもよるが、一般にブラックホールの密度は、太陽の数百万倍ほどであると考えらている。 ブラックホールは、寿命の尽きた恒星のうち、密度が比較的に大きめだった天体が超新星爆発を経ての変化の結果だという説もある。(※ 啓林館や第一学習社の検定教科書が紹介している。) 地球から見ると、天の川 の いて座 の方向にブラックホールだと思われている場所がある。 曲線運動をしている銀河は、その曲線運動の中心あたりに、円運動の中心になるような重力の発生源があると考えられている。 このように、運動の形状や速度などを分析することにより、銀河での重力の分布を算出することができる。 そのようにして算出した重力分布をみると、電磁波では何も観測されていない場所にも強い重力をもつものが分布している場所も多くある。なので宇宙には、電磁波では観測できないが重力を発生させる事のできる物質のような何かが存在すると考えられており、そのような重力発生を引き起こしているのに見えない宇宙の物質のことを暗黒物質あるいは英語でダークマターという。 ダークマターの正体は、まだ不明である。
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地球は、大きく分けて次の2つです。 固体地球は、地殻、マントル、外核、内核の4つの区分に分かれています。これらを作るのに、地震波の伝わり方の変化が利用されています。大気は、地表から上空に向かって、対流圏、成層圏、中間圏、熱圏の順に構成されています。これらは、高度によって大気の温度がどのように変化するかに基づいています。 気球や人工衛星、ロケットなどを使って様々な高さから大気圏を観測すると、その構造や成り立ちが明らかになります。しかし、地表の岩石や地層の調査だけだと、地下の構造や成分は断片的にしか分かりません。そこで、以下のような方法で、地球の内部の構造を探ってみます。 地球の重力は、地球の内部構造や地形を示しています。地下に密度の大きい物質があれば、その部分の重力は他の場所より強まります。地球の重さを見れば、地下を構成している物質の密度がどれくらいあるかが分かります。 地震は特定の場所でしか起こりませんが、地震が出す波はどこでも感じられます。地震波は、通過する物質や形の良し悪しによって、動く速度が異なります。そこで、地球上の様々な場所から送られてくる地震波を見ると、地下の深さによって波がどこに行くのか、どのくらいの速さで動いているのかが分かります。その結果、地球内部の物質や構造を推測出来ます。 地球内部を知るもう一つの重要な手段は、地球が発する熱を見れば分かります。火山の噴火や高温のマグマの存在などから、地球の内部には熱いものがあると推測出来ます。火山が噴火している場所では、マグマが上昇し、地球内部の熱がその場所に伝わります。日本列島やアイスランドのように火山が多い地域では、地球内部の熱が地表にたくさん出てきています。一方、北欧やユーラシア大陸北部、アメリカのグレートプレーンズ中央部など、火山がない地域では、地球の中心からあまり熱が出てきません。かつて、地球内部から地表に出る熱量(地殻熱流量)は、大陸より海の底の方が少ないように思われていました。しかし、地球内部が海底でどれだけ熱を発しているかを注意深く測定した結果、海底の方が大陸よりも多くの熱を出していました。地球内部を知る1つの方法は、地球の熱を調べれば分かります。 方位磁針のN極は、一般的な北の方角を指しています。これは、方位磁針のN極が、北極に近い地球内部の磁石のS極に引き寄せられるからです。地殻やマントルよりも深い部分にある外核液の流れが電流を作り、この磁力を生み出していると考えられています。地球の磁場の強さや方向(地磁気)を見れば、外核の状態や運動を知る手掛かりになります。
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水には、木などの密度の低い物質が浮かびます。地殻は、マントルよりも小さな密度なので、地殻はマントルの上に浮かぶような浮力を受けていると見なせます。例えば、海中に氷山が浮かぶようなものです。 さてマントルに浮かぶ地殻について、ある地点の付近での、地殻が安定するためには、力学的に直感的に考えれば、標高の高い地殻は、そのぶん浮力も多く必要なので、地下深くにまで地殻が続いている必要があります。 このような地殻とマントルの、浮力と重力の釣り合いを、アイソスタシー(isostacy)といいます。 ある一定深さでは、その地点付近では、ある面にかかる圧力は同じです。 このように地殻が地下まで続いているため、ブーゲー異常については、山などの高い地形がある場所では、アイソスタシーによって地下に密度の低い地殻があるため、山の付近ではブーゲー異常が負になるのが一般です。
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火山の噴火は、地球の中に高温の物質が含まれています。その熱はどこから来ているのでしょうか?地球表面の熱の出入りを見ると、地球の熱収支だけでなく、マントル対流など、マントルや核の様子も読み取れます。 地球内部から熱を出す場所の1つとして、高温の核があると考えられています。これは、小さな惑星が衝突して地球が出来た時に、地球の中心部に残された熱です。地殻やマントルを作る岩石には、カリウム・ウラン・トリウムなどの放射性同位体が含まれているので、自然崩壊する時にも熱を出します。火成岩(花崗岩・玄武岩・橄欖岩)に含まれる放射性同位元素が1年間にどれだけの熱を出すのかを調べます。その結果、大陸地殻上部の花崗岩が一番高い発熱量を持っています。
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1960年代の終わり頃までに、ほとんどの人がプレートテクトニクスの考え方に納得しました。現在、プレートテクトニクスは、マントルがどのように動いていて、地球全体がどのように動いているかという視点から理解されています。 プレートテクトニクスは、造山帯がどこから来て、どのように大陸が組み合わされるのかを改めて考えるきっかけとなりました。その結果、次の内容が明らかになりました。 多くの観測結果から、プレートが移動したため、大陸が移動して海溝や尾根、山脈などの大きな地形が出来たと考えられるようになりました。アルフレッド・ウェゲナーの大陸移動説は、プレートテクトニクスに変わり、その事実が証明されました。 クエーサーと呼ばれる遠方の天体からの電波を利用して、地表の2点間の距離を精密に測定するVLBI(超長基線干渉法)という方法を使います。その結果、2000年から2010年にかけて太平洋プレート上の日本列島とハワイ諸島の距離が約61cm(1年あたり約6.1cm)縮んでいる様子が明らかになりました。 現在、最も速く動いているのは太平洋プレートです。日本列島周辺では、1年に10cmも動いており、これは回転運動と考えても構いません。一方、ユーラシアプレートはゆっくり動いています。
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地殻変動や火山活動、風化、侵食、運搬、堆積などによって、地形が変化しています。地表が急に変わってしまうと、しばしば災害が発生します。 地殻変動や火山活動などによって、むき出しになった岩石や地層は破壊されて、化学変化を起こしたりします。それを風化といいます。風化によって、岩石は細かく砕かれた粒子(砕屑物)となり、成分の一部も溶け出します。 物理的風化(機械的風化)とは、地層や岩盤が物理的な作用によって破壊される現象です。温度が変化すると、岩石を構成する鉱物が伸びたり縮んだりします。膨張の速度は鉱物によって違うので、岩石には小さな罅割れが出来ます。その罅割れに入り込んだ水が凍ると、さらに罅割れが大きくなります。その結果、罅割れが大きくなり、岩石はさらに破壊されます。海水に溶けている塩類(硫酸ナトリウム、炭酸カルシウムなど)が結晶化して成長する場合があり、これを塩類風化と呼びます。また、生物的風化では、植物の根によって罅割れを広げます。 化学的風化とは、岩石が雨水や地下水と反応して、一部の鉱物が流出したり、他の鉱物に変化したりする現象をいいます。 石灰岩や花崗岩に含まれるカリ長石は、二酸化炭素の溶けた水と反応して化学的風化が進みます。熱帯地方では、カリ長石が化学的に分解してカオリンとなり、これが水と反応して水酸化アルミニウムになります。アルミニウムの原料となるボーキサイトの主成分は水酸化アルミニウムです。 以上から、化学的風化は温暖湿潤な熱帯・亜熱帯に多く、物理的風化は乾燥・寒冷で温度変化の激しい場所によく見られます。 水は、大気、海洋、陸を循環しながらその状態を変化させています。太陽放射エネルギーを吸収して海面から蒸発した水の一部は、雨や雪として地上に降り、海面より高い位置にあるため再び海へ流れます。この時、流水による侵食作用・運搬作用・堆積作用がはたらき、地表は多様な姿に変化しています。陸上で作られ、運搬した砕屑物の多くは海底にたどり着き、地層を作ります。 川底を削る下方侵食と川幅を広げる側方侵食は、どちらも河川侵食の1つです。侵食の強さは流速の2乗に関係するため、川が運ぶ最大の岩石の破片の大きさは流速の6乗にほぼ比例します。流水作用は、流水の速さと粒子の大きさの関係で決まります。流水によって運ばれた小さな岩片は、時間とともに砕かれたり、すり減ったりして、小さな砕屑物へと変化します。流速が遅くなると、河川の運搬能力は急速に下がり、堆積作用がはたらきます。 河川の縦断面図は、源流部から河口までの様子を示しています。縦断面図のうち、横軸は河口からの水平距離、縦軸は川底の高さです。一般に、河川の縦断面は下に凸の形をしており、中流域付近で河床の傾斜が大きく変化する地点があります。河川が流れる地域の地形や地質によって、下に凸になる度合いは変わります。 地形の傾斜が大きい上流部では、下方浸食が強く働き、川底も低くなっています。傾斜の変化が大きい中流部付近では、流速が大きく下がり、運搬力も弱まり、砂利や砂などの大粒の砕屑物が堆積します。一方、傾斜が緩やかな下流部では堆積が進み、平坦化が進みます。このように、流域ごとに水の流れも変わるため、河川の断面図は緩やかな曲線を描くように変化していきます。 大陸の河川と比べると、地殻変動の激しい日本の河川では、上流の山岳地帯から下流の平野部や河口部までの距離が短くなっています。また、これらの河川の縦断面は非常に急な勾配となっています。 険しい山地や斜面では、河川は速く流れ、土砂を浸食して運搬します。その結果、谷底が深くなると、V字谷になり、谷底に土砂が堆積すると谷底平野になります。 河川が山地から平野のような平坦な土地へ出てくる地域では、地形の傾斜が急に小さくなります。そのため、流れが悪くなり、運搬も遅くなり、礫や砂のような大きな砕屑物が集まって扇状地を作ります。 平野部の河川は、側面の侵食によって曲がりくねっています。洪水時には、砂や泥が堆積して氾濫原になります。河口では流れが緩やかになり、土砂が堆積して三角州になります。 河川の中流から下流の比較的平坦な地域では、川底にある土砂を削って運搬するよりも川を広げ、土砂が堆積しやすくなります。しかし、海面が上がったり、地盤が嵩上げしたりすると、海面との標高差が拡大します。しばらくの間、川の流速が大きくなります。川底にある土砂を削って、運びやすくなり、川底が階段状に削られると、河岸段丘が出来ます。 日本列島のように地殻変動が激しい地域では、河川が土砂を侵食して、運んで、堆積させるので、地形の変化に大きな影響を与えています。 潮の流れによって河口から運ばれてきた土砂の一部が海岸近くに堆積すると、砂嘴(嘴状の陸地)が出来上がります。砂嘴が成長した地形は砂州とよばれ、砂州と海岸の間には潟(ラグーン)が出来ます。 岩石海岸に波が当たると、岩が砕けて崖(海食崖)になります。海岸近くの土地が高くなると、海底に沈んでいた部分が再び地表に上がってきます。この浮き出た部分を、再び波によって削り取ります。これを海食台(波食台)といいます。以上のような流れが繰り返されると、海岸段丘が出来ます[1]。 大陸棚とは、海岸から沖に向けて小さな傾斜で平らな場所をいいます。大陸棚は、海岸から水深200mくらいまで傾き0.06度( 1 1000 {\displaystyle {\tfrac {1}{1000}}} の勾配)以下の起伏の少ない平坦面から出来ています。南極海では水深約400mの深さまであります。大陸棚の幅は平均で約80kmですが、北極海では400km以上ある場所もあります。大陸棚は、約1万8000年前の最終氷期で海面が現在より約120m低下した時に出来た海岸近くの広い平地と考えられています。大陸棚の端から水深数千メートルの海底まで、大陸斜面と呼ばれる急斜面があります。大陸棚の傾斜より3〜6度( 5 100 {\displaystyle {\tfrac {5}{100}}} 〜 10 100 {\displaystyle {\tfrac {10}{100}}} の傾斜)ほど急な斜面になっています。大陸斜面下部の深海底には、陸源砕屑物が非常に厚く堆積して出来た海底扇状地があります。 海岸付近の海底に沈殿した細かい砂や泥は、大陸棚に移動して再堆積します。大陸棚末端や大陸斜面上部にしか堆積しない土砂は、不安定な状態にあり、地震などで海底地すべりや海底土石流が発生するきっかけとなります。また、この時、水と混じった砂が高密度に流れ、時速100kmで大陸斜面を移動する場合もあります。これを混濁流(乱泥流)といいます。タービダイトとは、混濁流によって形成された岩石層をいいます。タービダイトでは、級化構造、クロスラミナ(斜方葉理)など、様々な種類の堆積構造が見られます。級化構造とは、堆積物が粒径の大きいものから小さいものへと積み重なった構造をいいます。 堆積物重力流とは、海底地滑りや海底土石流、濁流など、重力の作用で下へ下へと移動する流れをいいます。堆積物重力流は、大陸の斜面を侵食して、深い海底谷を作り出します。また、陸上から大陸斜面下の深海底に大量の瓦礫を運んでしまいます。 水深数千メートル以上の深海底には、陸上の砕屑物がほとんどありません。深海底によく堆積するのは、放散虫の殻や珪質軟泥です。堆積速度は非常に遅く、1000年に数ミリ程度しか堆積しません。珪質軟泥が固まってチャートになります。深海底には、風に運ばれてきた非常に細かい火山灰や風化生成物もあります。 深海底のほとんどは平らですが、海嶺という巨大山脈や海底火山列などの起伏があります。多くの海山はホットスポットとして始まり、その上に石灰岩を載せています。 海嶺で新しく出来た玄武岩質岩石の海洋底(海洋地殻)の表面に、珪質軟泥がゆっくりと堆積し、チャートとなります。大陸に近づくにつれて、陸上の火山灰や粘土が風に運ばれて堆積するようになり、珪質泥岩となります。海溝に近づくにつれて、陸からの砕屑物が重なります。これを海洋プレート層序といいます。 太陽光が届かない深海では、海水中の酸素が有機物の分解に役立っています。有機物が分解されると、二酸化炭素が発生します。すると、海水中の二酸化炭素の量が増え、炭酸カルシウムが溶けやすくなります。また、炭酸カルシウムは温度が低いほど溶けやすくなります。つまり、水が冷たいほど炭酸カルシウムは溶けやすくなります。そのため、ある水深以上では、炭酸カルシウムは深海底に沈まなくなります。代わりに、代表的な堆積物(珪質軟泥)が沈殿します。 炭酸塩補償深度は、時代と場所によって3000mから4500mの深さまであります。日本では約4000mです。 これまで学習した一般的な地形以外にも、地球上には様々な種類の地形が見られます。特殊な地形は、高緯度地域、山岳地帯、乾燥地帯、海面下に沈む島などで作られています。 沿岸流と波によって、海底の砂が海岸に押し寄せます。その砂は、北西からの強い風によって内陸に移動します。これを長期間にわたって繰り返すと、砂丘になります。砂丘の砂はよく磨かれ、粒の大きさも全て同じになります。また、圧倒的に硬くて壊れにくい石英粒も増えます[2]。 一方、砂漠は乾燥していて、水分も蒸発しやすい土地に出来ます。 緯度が高く、山が多い場所では、夏でも気温が低いため、雪が積もって氷になります。長い年月をかけて氷は厚くなり、ゆっくりと移動して氷河となります。南極やグリーンランドには、氷床(大陸氷河)という厚い氷河があります。ヒマラヤやアルプスなどの山岳地帯の氷河は山岳氷河(谷氷河)といいます。氷河は固体ですが、1年に数十〜数百メートルの速さで下に向かって流れます。 氷河の侵食作用や運搬作用は、水よりもはるかに強力です。氷河は、カール(圏谷)やスプーンで削ったようなU字谷をつくります。氷河は岩盤を削り、直線状の引っかき傷(擦痕)を残します。氷河の両側や末端には、様々な形や大きさの礫が堆積して、モレーン(氷堆石)とよばれる小丘をつくります。 造礁性珊瑚は、熱帯・亜熱帯の浅瀬で成長し、珊瑚礁を作ります。裾礁とは、海岸からまっすぐ伸びている珊瑚礁をいいます。地殻変動や海面変動で島が沈むと、珊瑚礁は陸から離れ、島を取り囲むように成長します。これを堡礁といいます。島がどんどん沈み、陸地が海中に沈むと、珊瑚礁は水面近くにドーナツ状に残ります。これを環礁といいます。礁湖とは、湾の中で珊瑚礁によって海から隔てられている部分をいいます。 地質や地質現象に由来する地表の変化は、災害を引き起こします。これを地質災害といいます。地質災害には、開発によって起こる地質関連の災害も含まれます。地質災害には、地震や火山などのほか、斜面崩壊や地盤沈下など、地盤に起因する災害(地盤災害)があります。 地震が起きると、斜面が崩れたり、たくさんの土砂が移動したり、流れ出したりして、人々の生活に被害をもたらします。地盤の液状化は、沖積層やかつて農耕に使われていた土地など、水を多く含んだ柔らかい地盤が地震で揺れた時に起こります。沖積層とは、河床、氾濫原、低湿地、扇状地、河口などの河川堆積物の名称です。これらの堆積物は、現在の河川の作用によって作られました。また、砂のような土砂を多く含んだ水が地表の割れ目から上がってくる噴砂も起こります。 火山が噴火すると、火山砕屑物が降り積もり、その周辺地域に被害をもたらします。斜面などに大量に堆積した火山砕屑物は、大雨や雪解け水と混ざり合って土石流や火山泥流となって、下流の地域に大きな被害をもたらします。 日本列島は、火山灰や花崗岩の層が崩れ、真砂や真砂土と呼ばれる柔らかい堆積物で出来ている地域が各地に見られます。このような場所で、地震で地面が揺れたり、大雨が降ったりすると、土砂災害が起こります。斜面災害は、山の崖のような斜面で岩や土が動いて発生します。日本の国土の 3 4 {\displaystyle {\tfrac {3}{4}}} は山で、山の斜面の近くには多くの人が住んでいます。毎年、斜面災害は多くの被害をもたらしています。 斜面災害の多くは、崖崩れ(急傾斜地崩壊)、土石流、地滑りの3つに分類されます。崖崩れは30度以上の急斜面で起こり、大量の雨や地震による揺れで地盤がゆるみ、一瞬にして崩れ落ちます。地盤の動きが急激で、あっという間に起こるので、避難の目安がつかめません。土石流は、崖や谷の底に溜まった土砂が、長時間続く大雨や集中的に降る雨によって水と混ざり合い、一気に下流に流されて発生します。動きが早く、破壊力も大きいため、大きな災害をもたらします。また、地滑りは、粘土層や帯水層によって地盤が滑りやすくなり、緩やかな斜面を土砂が滑り落ちる現象です。動きはゆっくりですが、広い範囲が一度に動くため、災害が大きくなり、その影響が長く続きます。 平野部に広がる沖積層には、土砂の粒子と粒子の間に多くの水を蓄えた層があります。この層から、ボーリングして地面の重さ(圧力)を利用すると、地下水を取り出せます。工業地帯で地下水の必要性が高まり、地下水を汲み上げ過ぎると、水を保持していた土砂粒子の間が小さくなり、地層が締まって、地面が沈み、周囲より低くなってしまいます。これを地盤沈下といいます。地盤沈下すると、建物が傾き、水害が起こりやすくなります。 岩石が時間の経過とともに細かく砕けた砕屑物(砂利、砂、泥)、火山の噴火によって噴出した火山砕屑物(火山岩塊、火山礫、火山灰)、生物の遺骸(貝殻、殻など)、化学的に堆積した堆積物などが含まれます。堆積岩とは、堆積物が固まって岩石になった状態を指します。緩い堆積物が圧密作用・膠結作用(セメンテーション)を経て、硬い堆積岩に変化します。この過程を続成作用といいます。 下の表は、堆積岩を堆積物の種類とその成因によってグループ分けした表です。堆積岩の種類は、それがどのような場所でつくられたかを示しています。 岩石を砕いた状態を砕屑物、砕屑物から作られた岩石を砕屑岩といいます。岩石を構成する破片の大きさによって、礫岩、砂岩、泥岩などと呼ばれます。一般に、粒径が細かく均一なものほど、岩屑が供給源から遠くへ、長く移動する傾向があります。地層に含まれる砕屑物の多くは、海洋大陸棚、大陸斜面、その底にある深海底に堆積しました。陸上では、侵食と移動が最も重要なプロセスなので、河道や湖のような場所で堆積が起こり、砕屑岩が作られます。 火山砕屑岩は、火山が噴火した後に残ったマグマの破片から作られる岩石です。火山砕屑岩は、砕屑岩と同じように、出来た粒子の大きさによって、凝灰角礫岩、火山礫凝灰岩、凝灰岩の3種類に分類されます。火山砕屑岩は、火山がどのようなマグマで出来ていて、どのように噴火しているのかを知るために役立ちます。 生物岩とは、主に生物の死骸で出来た堆積岩をいいます。石灰岩を支えているのは、フズリナ(紡錘虫)などの有孔虫や貝殻、珊瑚などで、炭酸カルシウムを主成分としています。熱帯から亜熱帯の温かく浅い海では、珊瑚礁の石灰岩が出来ました。 チャートの多くは、深海の堆積物の底に残された二酸化珪素からなる放散虫の殻で出来ています。珪藻土では、植物プランクトンの一種(珪藻類)が集まっています。 地殻変動によって、海が内陸に取り残されてしまう場合もあります。海水が蒸発する時、海水の一部が化学的に結合し、化学岩とよばれる岩石をつくります。塩化ナトリウムが主成分の岩塩や石膏(主成分は硫酸カルシウムと水)がその代表的な例です。また、石灰岩やチャートの一部もこのようにして出来たと考えられています。 啓林館教科書の記述がかなり大人向けで、読みやすい文章に直しにくかったので、以下のホームページも参照しています。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1_%E5%9C%B0%E5%AD%A6/%E5%9C%B0%E8%A1%A8%E3%81%AE%E5%A4%89%E5%8C%96%E3%81%A8%E5%A0%86%E7%A9%8D%E7%89%A9
地層や堆積岩は、過去の地球表層の環境(古環境)をよく知るために使われます。地層がどのように移動し、重なり合っているかを調べると、過去の環境がどのように変化したかを実感出来ます。 地層は、水によって運ばれた砂や泥の堆積物です。水の流れなどによって、粒子の大きさ、形、種類、並び方などから、地層にいろいろな模様が作られます。地層に含まれる化石や堆積構造から、地層が出来た当時の環境を解明出来ます。 地層は、一般に、ほぼ水平に敷き詰められた板と考えられています。ある地点での地層の方向を見れば、他の場所の地層や地下の地層の大きさや厚さを推測出来ます。 層理面(地層面)が水平面に接する方向を地層の走向といい、それらが接する線を走向線といいます。地層の傾斜は、層理面(地層面)と水平面が作る角度とその角度の方向です。地盤がどのように傾いているか、どの方向に走っているかを測定するためにクリノメーターが使われます。走向と角度の2方向から、地層がどの程度離れているかを計算出来ます。水平な地表では、地上の瓦礫の層理面(地層面)は走向方向に一直線に見えます。 地形図には、地層や岩石の特徴、化石、走向・傾斜など、野外調査で入手したデータを記号や模様で記録しています。このようにして作られた作業用の地図がルートマップです。ルートマップの情報は、その地域の地質がどのような仕組みで、どこから来たのかを知るために使われます。 地質図には、その地域の岩石、地層、地質構造が示されています。ただし、表土・植生・建物などは示されていません。地表の層理面は、ほとんどが地表の形に合わせて折れ曲がっています。 地質図は、地層や岩石の種類とその境界(地層境界線)、走向・傾斜、断層・褶曲などの地質構造を記号や模様・色で表現しています。 調査地域の地層を見やすく整理して表すために、地質柱状図が使われています。地質柱状図には、地層の上下関係や厚さ、特徴、産出化石などが示されています。継続的な調査データがなくても、複数の地質柱状図を比較すると、その地域の地質の全体像をつかめます。 地層の切り口や曲がり方、割れ方などの構造は、 その地層やその地域が過去に受けてきた変化を表しています。 地層や岩盤に引張っている力や圧縮している力が働き、破断面で地層や岩盤が移動してずれた地層が断層です。断層は、力に応じて素早く起こる地層や岩盤の形状の変化です。 これに対して、大きな圧縮の力が地層や岩盤にゆっくりと長い時間加えられると、地層や岩盤は壊れずにゆっくりと折れ曲がっていきます。この変形を褶曲といいます。 断層や褶曲のような構造は、2枚のプレートが合わさった場所に作られます。 地層累重の法則に従うと、地層は海底に堆積するような形で作られます。大きな地殻変動や気候変動の影響を受けず、堆積環境が同じなら、連続した地層が次々と作られます。このような地層の関係を整合といいます。一方、堆積が長期間中断したり、侵食作用によって地層の一部が削られたりすると、地層同士が合わない部分が見られます。このような地層同士の関係を不整合といいます。 地殻変動や気候変動によって海底が陸地に移動すると、堆積作用は停止して風化や侵食が進みます。その後、地殻変動で陸地が海面よりも下に沈むと、堆積作用が再開され、新しい地層が加わると、古い地層と新しい地層の間に区切りが出来ます。これを不整合面といいます。不整合の真上には、基底礫岩と呼ばれる岩石層が出来る場合があります。この地層には、下層の岩石が風化・侵食されて出来た礫がよく見られます。 断層や褶曲などの不整合は、地層の変形、堆積の中断・浸食などを表し、過去に地殻や気候がどのように変化したかを表しています。
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地球の天気は常に変化しています。過去にどのように気候が変化したかを知るために、地質学的な記録が利用されてきました。 地質時代、地球の気候は大きく変化し、寒冷化と温暖化のサイクルを繰り返してきました。約23億年前と7億年前のように、世界中が凍りついた時代もありました。一方、白亜紀のように温暖で、極地でも氷河がほとんどない時代もありました。これらの過去の気候変動は、それぞれの時代に堆積した土砂の層や作られた化石、その層の厚さの変化から推測される海水面の変化などから復元されています。 過去の正確な気温を把握するのは非常に困難です。しかし、地層や氷に含まれる安定した酸素同位体の比率から、第四紀にどれくらいの氷があり、どれくらいの気温であったかを突き止めました。 有孔虫の殻には、有孔虫が生息していた海水の酸素同位体比が記録されています。この事実は、過去に水温や気候がどのように変化したかを知る上で重要です。有孔虫の殻に含まれる酸素同位体比から、約300万年前に気候が寒冷化し、第四紀の氷河期が終わるまでその状態が続いていました。 太陽の熱は、地球表面の天候を支配する大きな要素となっています。太陽の働きや、太陽の周りを回る地球の動きが変わると、地球が受ける熱の量に影響が出ます。そのため、地球の気候に大きな影響を与えます。ケプラーの法則によると、地球は太陽の周りを10万年ごとに円や長い楕円に近づく楕円の軌道で回っています。地球の自転軸は公転面に対して傾いている。この傾きの角度は時間とともに約22度〜25度変化するため、太陽に対して傾きが変化します(歳差運動)。ミランコビッチサイクルは、このような変化に最初に気づき、数学的に記述する方法を考え出したセルビアの気象学者の名前にちなんで名づけられました。その後、有孔虫化石に含まれる酸素同位体比の研究から、この温暖化と寒冷化の周期は、極域に当たる太陽光の量が変化した結果、発生した現象だと確認されています。
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大気圏とは、地球を取り囲む大気の層を指します。地球の上空や宇宙に行くにつれて、地球の大気はどんどん薄くなっていきます。 地球の大気の大部分は、窒素と酸素で出来ています。100kmくらいまでは、大気が何で出来ているかはほとんど変わりません。これは、この辺りの空気は対流があるため、よく混ざり合っているからです。100km以上の高度になると、軽くなる分子や原子の量が増えていきます。170km以上では酸素原子の割合が増え、1000km以上ではヘリウム原子の割合が増えます。 空気中には少量の水蒸気、二酸化炭素、オゾンが存在しますが、上から下への温度変化に大きな影響を与えます。水蒸気のほとんどは対流圏にあり、その体積のうち地表に近い部分は3%ほどしかありません。 大気中の二酸化炭素の濃度は、年々高くなる傾向にあります。これに、夏には小さくなり、冬には大きくなるという変化が重なります。これは、植物が光合成によって作る酸素が夏に多く、冬に少なくなるのが主な理由です。二酸化炭素の濃度は、植物が多く、陸地が多い北半球では、夏に減少し始め、秋に最も下がります。 対流圏は、高度が高く、緯度が高いほど単位質量あたりの水蒸気量が少なくなります。これは、温度が上がると、より多くの水蒸気を保持出来るためです。水蒸気は、次のような働きをしているので、地球のエネルギー収支に重要な役割を果たしています。 対流圏、成層圏、中間圏、熱圏は、高度による温度の変化をもとに、地球の大気を下から上に向かって4層に分けたものです。このような複雑な温度構造は、地球の大気圏にしかありません。火星や金星にはありません。地球の大気圏では、成層圏のオゾン層が太陽の紫外線を吸収して空気を温めています。この現象は、空気が最も暖かい高度50km付近で起こります。 熱圏の窒素や酸素の分子は、太陽の紫外線やX線を吸収し、熱圏の温度を高くしています。 大気を構成する原子や分子は、あちこちに散らばっています。これを熱運動といいます。温度とは、この熱運動の強さを示す数値です。熱圏の上の空気は高温ですが、熱運動が激しいといっても、大気の密度があまり高くないので、単位体積あたりのエネルギーはそれほど多くありません。 その高さより上の大気の単位面積あたりの重さが気圧です。高度が上がるにつれて、大気中の圧力は16kmごとに約 1 10 {\displaystyle {\frac {1}{10}}} ずつ下がっていきます。例えば、高度50kmでは海面気圧(海抜0m)の約 1 1000 {\displaystyle {\frac {1}{1000}}} 、高度100kmでは約100万分の1になります。 水蒸気や二酸化炭素などの温室効果ガスは、それぞれの惑星の暑さや寒さを考える上で大きな役割を担っています。金星と火星は、高度が低いほど大気の温度が上昇します。これは、大気が温室効果を持っているのが主な理由です。 オゾン層があるため、地球の気温は地表から50km付近でピークを迎えます。一方、火星や金星にはオゾン層がないため、地球のようなホットスポットは存在しません。 大気中の水蒸気のほとんどは対流圏に存在します。大気が動くと、この水蒸気から雲や雨が発生し、毎日の天候を変化させています。対流圏と成層圏の境界である対流圏界面(圏界面)は、高緯度では約9km、中緯度では約12km、低緯度では約17kmの高さになっています。日本付近では、低緯度の球面界面は夏に多く見られ、低緯度と中緯度の球面界面(二重圏界面)は夏以外でもよく見られるようになりました。 対流圏では、高度が上がるにつれて空気が冷たくなります。高度が高くなるにつれて気温が下がる割合を気温減率といいます。平均すると、高度100mあたり約0.65℃の低下となります。 大気境界層は、対流圏のうち、地表の影響を受ける最も低い部分です。大気境界層では、地表に接する空気が日中の太陽によって暖められるため、気温は日々変化しています。上昇気流も起こり、地上から1〜1.5kmくらいまでの空気は非常によく混ざっています。 空が澄んでいる夜、上空は暖かくなります。逆転層とは、このような層をいいます。夜、放射冷却によって地球の表面温度が下がると、地表に近い大気も冷やされます。これが地盤逆転の原因となります。逆転層の中では、空気はとても安定しています。上空に逆転層があると、煙や埃などの汚染物質が逆転層の下に集まりやすくなります。逆転層では対流が起こりにくいからです。 対流圏界面の上では、宇宙空間の温度が上昇し、50〜60km上空で最も高くなります。この領域を成層圏といい、成層圏界面は成層圏の最上部を表す名称です。成層圏下部の約15〜30kmの高さには、大気中に多くのオゾンが存在します。この部分をオゾン層といいます。オゾン層は太陽の紫外線を吸収して大気を暖めるので、成層圏の気温が高くなる仕組みになっています。オゾン層の上部は紫外線を多く吸収しますが、上に行くほど大気の密度が低くなり、熱を保持出来なくなるので、最高気温は50kmくらいになります。オゾン層は、生物に悪い紫外線のほとんどを吸収してしまいます。 オゾンの多くは、熱帯地方の上部成層圏で、紫外線が酸素の分子にぶつかって作られます。しかし、オゾンの量は、低緯度よりも高緯度の方が多く見られます。これは、低緯度の成層圏で作られたオゾンが、大気の大規模な循環によって高緯度へ移動するためです。この循環は遅く、熱帯対流圏のオゾンが極域に到達するのに4〜5年かかるといわれています。 1980年代には、実験室で作られるフロンがオゾン層を薄くしている事実が明らかになりました。フロンの製造や使用には規制があるのに、まだ多くのフロンが大気中で残っています。オゾンホールとは、毎年春先(9〜10月頃)、主に南極に現れるオゾンが非常に少ない領域をいいます。 オゾンホールは、秋から春にかけて、強いジェット気流(成層圏の極渦)が南極大陸の周りを時計回りに流れるため、同じような状態になります。そのため、中緯度ではオゾンを多く含んだ空気が混ざらないようになっています。極渦の内側には大きな低気圧があり、これが冷たいので極成層圏雲が形成されます。この雲の表面で、オゾンホールを作るものの一つであるフロンから出る物質が、激しいオゾン層破壊反応を起こします。夏になると、極域の気温が上がり、極成層圏の雲や極渦が消えます。その結果、オゾンを多く含む低緯度の空気がオゾンホールに流れ込み、オゾンホールが閉じてしまいます。 成層圏は、夏には極域を中心とした安定した高気圧に覆われます。しかし、冬になると、対流圏で作られた大規模な大気の波が成層圏に伝わり、一時的に極渦が乱されます。この時、成層圏の温度は一気に数十度上昇します。これを成層圏突然昇温といいます。成層圏突然昇温は、陸と海が複雑に広がっている北極では起こりやすく、南極では起こりにくいといわれています。 一方、赤道成層圏で起こる大規模な振動として、準2年周期振動があります。これは、26カ月ごとに東風と西風が入れ替わるものです。これは、対流圏で大小様々な波が作られ、伝わっていくためだと考えられています。また、対流圏の気候は、成層圏の急激な温暖化や、ほぼ2年ごとに起こる変化にも影響されます。 成層圏と対流圏の境界である約50〜60km上空は、空気が冷たくなっています。この範囲は中間圏といわれています。高度80〜90kmでは、最も気温が下がります。中間圏界面は、中間圏の上端です。 中間圏の上空で、高度が上がるにつれて気温が上昇するのが熱圏です。ここでは、酸素と窒素が太陽の紫外線やX線を吸収するため、大気が暖かくなります。波長の短い紫外線は熱圏で、波長の長い紫外線はオゾン層で吸収されます。オーロラは、熱圏のある高緯度地方で発生します。太陽からの荷電粒子が大気中の原子や分子にぶつかると、エネルギー状態が高まります。その結果、大気は光を放つようになります。太陽の動きに左右されますが、熱圏の上縁は地表から約500〜700kmの高さにあります。外気圏は、熱圏の上部にある宇宙空間です。 高度約80〜500kmで、太陽からの紫外線が原子や分子を電離し、イオンや電子が多く存在する場所となります。電離圏とは、この領域の名称です。電離圏には、電子密度が非常に高い層(電離層)が数種類存在します。短波の電波は電離層でよく反射されるので、地球の裏側にいる人と話すのに使えます。 一方、極中間圏雲は、夏に南極や北極の中間圏上部(上空約85km)に発生する雲です。夏場、ここの空気の温度は-140度程度まで下がり、少量の水蒸気が凝縮して氷雲となります。これは、地球の大気圏で見られる最も低い温度です。極域中間圏の雲を構成する水蒸気は、対流圏からやってくるのではありません。メタンが酸化され、近く(中間圏上部)で作られています。日没後や日の出前に太陽の光が当たると青白く見えるため、「夜光雲」とも呼ばれます。 今では毎年のように見られる夜光雲も、産業革命以前にはなかったとされています。オゾンホールと同様、人間活動が原因ではないかと考えられています。最近では、極域だけでなく中緯度でもこの雲が見られるようになりました。2007年に打ち上げられたNASAの中間圏観測衛星AIMは、極中間圏の雲を確認出来ました。南極では、日本が大きな気象レーダーを設置し、極域中層雲の研究が始まっています。大気レーダーは、地上から空に向かって電波を送り、空気の乱れによって戻ってくる散乱波を拾うので、どんな天気でも風の速さや方向が必ず分かります。一方、気象レーダーは、雨粒で散乱した電波を拾うので、雨が降っている時しか使えません。 新聞などでよく目にする地上天気図は、大気圏の底である地表の様子を示しています。しかし、地表の天気を調べるには、より広い範囲、地球の上空で大気がどのように動いているかを知る必要があります。 気圧、気温、湿度、風向、風速、降水量、雲、地表の日照時間などは、船や露場(気象観測所)で計測出来る範囲です。アメダス(地域気象観測システム)や海洋気象ブイロボットによる自動観測も行われています。雨粒が散乱する電波は、気象レーダーで雨や風の強さを測定するのに使われています。気象レーダーとアメダスのデータを合わせて、30分ごとに1km四方の雨の降っている場所を地図上に表示出来ます。この地図には日本近海も含まれています。 また、地球大気環境の実態や長期変化を知るために、世界中で次の内容について研究が行われています。 ラジオゾンデは、気球に取り付けて、高度約30kmまでの気圧、気温、湿度、風向、風速を測定する装置です。 ウィンドプロファイラとは、上空の風速と風向きを常時測定する装置です。また、約5kmまでの大気の流れを3次元的に測定出来ます。ウィンドプロファイラでは、高度約5kmまでの大気の流れを立体的に測定できます。そのため、特定地域の大雨や竜巻の予測に役立っています。日本では、全国33カ所にウインドプロファイラを設置しています。 気象衛星は、陸上から見えにくい海上の天候を観測出来ます。また、世界中の気象情報をリアルタイムで宇宙から伝えてくれます。地上からの観測と衛星からの観測は、それぞれ異なる高度で様々な気象要素を拾えるので、この2つの観測を組み合わせると、地球全体の気象情報をつかむのに有効です。気象衛星には、赤道上空を周回する静止気象衛星と極域を周回する極軌道気象衛星の2種類があります。 静止気象衛星は、赤道から約3万5800kmの上空にあります。地球の自転と同じ長さで公転しているため、常に同じ経度帯を観測出来ます。2022年現在、日本のひまわり9号のほか、静止気象衛星は世界に11機あります。静止気象衛星は、1時間ごとに可視画像、赤外画像、水蒸気画像を撮影しています。これらの写真は、雲や水蒸気がどこにあり、どのように動いているかを調べるために使われます。また、小さな雲の動きから風速や風向きを測定したり、海面の温度を測定したりするのにも使われます。 極軌道気象衛星は、高度850kmの地球を約100分で一周し、静止衛星では見えない極域を観測します。また、地球は自転しているので、1機の衛星で地球全体を観測出来ます。極軌道にある気象衛星は、約30km上空までの気温や水蒸気量などを測定します。さらに、エーロゾルの量や、オゾン、メタン、一酸化二窒素などの微量大気成分の濃度も測定しています。 気象衛星以外にも、GPS衛星の信号も利用されています。大気中では、温度構造や水蒸気の影響により、真空に比べて電波の速度が遅くなります。この性質を利用して、各地点の水蒸気の量や気温を把握し、大雨の予想などに役立っています。また、レーダーで雨を測るGPM衛星や、温室効果ガス観測技術衛星いぶきの情報も天気予報に利用されています。 正確な天気予報を行うためには、その時々の天候を正確に知る必要があります。そのため、世界中で目を光らせており、その情報は国ごとにまとめて送られています。また、衛星観測やレーダーなどの観測データもより多く集められるようになりました。これらの観測データはスーパーコンピュータにかけられ、天気図や予想天気図が作られます。この地図には、風、等圧面高度、水蒸気量、気温などの情報が含まれています。このように、観測データを一つ一つコンピュータに取り込み、大気の状態を予測するのが数値予報です。数値予報では、数日前までの天気を予測でき、地球の大気の動きも水平方向で数十km、日本付近で数kmの精度で計算出来ます。 各地域の気象観測は、数値予報とともに、各地域の天気予報に利用されています。現在、3日先までの短期予報、1週間先までの週間天気予報、数カ月先までの季節予報など、様々な種類の予報が行われています。 中緯度地方でいつ低気圧が発生するかを知るには、上空を調べなければなりません。そこで、天気を予測するためには、上空の天気図も必要です。上空の天気図には、ある気圧面の高度分布(等圧面)や気温などが示されています。つまり、気圧の分布を示す等圧線の代わりに、等圧面の高度分布を示す等圧面等高線が表示されます。気圧は下層ほど高いので、低気圧部分は低圧部、高気圧部分は高圧部となります。等圧面が上に行くのが気圧の尾根、下に行くのが気圧の谷です。このような上空天気図を等圧面天気図といい、毎日0時と12時(日本時間では9時と21時)に作成されます。 ※図についてはこちら:高層天気図の見方・ポイント解説
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1_%E5%9C%B0%E5%AD%A6/%E5%A4%A7%E6%B0%97%E5%9C%8F
地球は常に太陽からエネルギーを取り込んでいますが、取り込んだ量と同じだけのエネルギーを宇宙へ送り出しています。その結果、地球全体のエネルギー収支は0に保たれています。 物体は、その表面の温度によって、エネルギーレベルや波長の長さが異なる電磁波を出しています。高温の太陽からは、主に紫外線や可視光線、波長が4μmより短い赤外線が放射されています(短波放射や太陽放射)。一方、冷たい地球からは、4μmより波長の長い赤外線が放射されています。長波放射や地球放射は、地球の表面や大気から出る放射線です。4μmでは、長波放射と短波放射の波長はあまり近づきません。 太陽定数とは、太陽からの放射が地球の大気圏上部に到達する量です。この量は約1370ワット平方メートルです。地球に降り注ぐ太陽放射のうち、大気は約30%反射し、大気と雲は約20%、地表は約50%取り込むと考えられています。アルベドとは、地表に当たる光の量と反射する光の量の比(反射率)で表します。地球全体の平均的なアルベドは0.30ですが、地表によって差があります。海や森林はアルベドが低く、雪原や雲はアルベドが高くなっています。 右の図は、外気、大気、地表にどれだけのエネルギーがあるのかを示しています。外気と大気のエネルギー収支が取れているだけでなく、大気と地表のエネルギー収支も平均して取れています。そのため、安定した環境が保たれています。熱伝導は、地表から空気中へと熱エネルギーを移動させます(顕熱)。また、水が蒸発する時、空気中に水蒸気を送り込みます。この水蒸気が蒸発熱(潜熱)を奪うので、地面から空気中への熱移動と考えられます。 波長0.3マイクロメートル以下の紫外線は、熱圏では酸素に、成層圏ではオゾンにほとんど吸収されます。対流圏下部では、水蒸気と二酸化炭素が主に赤外光の一部を取り込んでいます。一方、可視光線の一部は大気や雲で反射・散乱して大気圏外に送り返されますが、残りの大部分は大気に吸収されずに地表へ届きます。 地表から届く波長8〜13マイクロメートルの赤外線は、大気圏下層に含まれるガスに吸収されます。このガスには、水蒸気、二酸化炭素、メタンなどが含まれます。また、赤外線は大気からも放出され、大気は赤外線を吸収するため地表を暖めます。この放射の約3分の2は地表に戻り、地表を温めます。つまり、大気は可視光線を中心とした波長の短い太陽放射は通し、赤外線を中心とした波長の長い地球放射は吸収しています。これを大気の温室効果といい、その原因となる気体を温室効果ガスと呼びます。 地球の赤外線のうち、波長8〜13マイクロメートルの部分は、大気が吸収せず、ほぼ全部が宇宙へ抜けるため大気の窓と呼ばれています。大気の影響を受けにくい大気の窓の波長帯の赤外線は、人工衛星で地表を見るために利用されています。 1平方メートルあたり平均0.35キロワット平方メートルの太陽放射が地球全体に届いています。しかし、入射量は低緯度では多く、高緯度では減っています。これは、太陽の南中高度が低緯度では高く、高緯度では低いからです。 一日中太陽が沈まない夏の極域(白夜)では、1日平均の入射量が最も高くなります。一日中太陽が昇らない冬の極域では、1日平均の入射量は0です(極夜)。しかし、平均すると赤道では入射量が多く、高緯度では入射量が少なめです。地球の海はすぐに熱くなったり冷たくなったりしないので、季節による入射放射量の変化で地表付近の温度変化がかなり緩やかになります。そのため、一年を通して低緯度の地表付近の温度は高く、極域の温度は低く保たれています。 地球のエネルギー収支が均衡しているといっても、ある場所が受ける日射量と、その場所が出す地球放射量が均衡しているわけではありません。地球が太陽から取り入れる放射量の変化に比べて、地球が送り出す放射量の変化は僅かです。これは、太陽からの熱量が多い低緯度の方が、少ない高緯度よりも高温なので、高温の低緯度から低温の高緯度へ熱が流れるからです。 低緯度から高緯度への熱の移動は、大きく分けて、大気中、大気中の水蒸気、海水の3つの経路で行われます。大気による移動、大気に含まれる水蒸気による移動、海水に含まれる水蒸気による移動です。大気中の水蒸気は、蒸発する時に潜熱を取り込み、凝縮する時に潜熱を出します。熱を移動させるものの一つです。全体として、北半球では北に、南半球では南に熱が移動し、緯度380付近で最も北に熱が移動します。そこでは、太陽の光を取り込むと同時に、地球の光を送り出しています。この3つの熱の動き方が、天気や気候にも大きな影響を与えています。気温の変化は大気中の熱の移動によって起こり、雨や雪は水蒸気中の潜熱の移動によって起こります。海の中では、海流が熱を動かしています。イギリスやノルウェーなどヨーロッパ北部の冬の気候が、サハリンやシベリアなど同じ緯度の他の地域よりもずっと穏やかなのは、ヨーロッパの北西海岸に沿って流れる暖流の影響もあります。
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