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atsushi3110

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warning！ このお話は夢小説です。 主人公の設定が割と濃いので自己投影されたい方には不向きかと思われます。 ヒロインがドM ヒロインが気持ち悪い 上記の要素がありますのでご注意下さい。 [newpage] 「……徹夜続きで辛いだろうがもう一踏ん張りだ。今夜は降谷さんがいらっしゃるから少しは楽になる。ほら、お前達も加藤を見習って手を動かせ」 「は、はい……」 「……がんばります」 　げっそりとやつれた風見の言葉に部下達はそれぞれ限界を迎えた身体を酷使して息も絶え絶えに何とか返事をする。 　先日あった大捕物の事後処理でてんやわんやの公安部はデスマーチさながらの修羅場を迎えていた。 　途中途中で仮眠を挟んでいるとはいえ、別件の任務が入っていないほぼ全員が数日前から缶詰になっていて、目の下に大きなクマをこさえ無精髭は伸びたい放題。もし間違えてこの部屋に入ってきた別部署の人間がいたらこう言うだろう。この世の地獄はそこに有った、と。 　さて、この地獄の中で風見から手本にしろとまで言わしめた新人だが、壁際の末端の席に座してこの状況でも一人だけ肌ツヤよくバリバリと仕事をこなしている。 「うへへへ、頭も身体もふあふあすりゅぅ、腕も痛いし腰も痛いし目なんか焼き切れそう……でもまだまだイケるよぉ〜ふぁあ、しあわしぇぇ」 　いささか目の光がトンでしまっていて、彼女こそが異常犯罪者にすら見える容貌だが、あれでも公安警察の人間だ。 「……すみません風見さん、自分はアイツのようにはなれません」 「……俺が悪かった、さっきのは忘れてくれ」 　知りたくもなかった部下の性癖を知ってしまってから持病の胃痛が更に酷くなった気がしている風見は、目元を抑え唸るようにして怯える部下に謝罪した。 　新人である加藤真琴は、とても優秀なのだがその力量に比例する様に重度のマゾヒズムの気が有った。辛い事が身に降りかかるとやたら興奮する性分らしく、毎度徹夜が続く度にこのテンションで嬉々として働いている。 　 　このまま働かせても良いのだが、上司としては目を回してぶっ倒れるまで働かせる訳にはいかない。前に一度楽しそうだからまあ良いだろうと放置した結果、限界を超えてしまって電池が切れたオモチャの様に動かなくなった時は居合わせた全員が慌てふためいた。 「風見ひゃん、お仕事おかわりくらはいぃ」 「お前は馬鹿か！その前に仮眠室に行け！」 　資料を渡しながら頬を染め涎を拭う新人に青筋を立てた風見の怒鳴り声が響いた。 「ふああ、よく寝た……」 　軋む上体を起こしてコキコキと首を鳴らす。いやあ身体が軽いこと軽いこと！やっぱ流石に五徹は無茶だったかな。最後らへん感覚ふわふわしててすんごい気持ちよかったけどね！ 　風見さんに無理やり仮眠室に押し込まれてからの記憶がまったくないけど、今何時だろう？ 「十一時半……はて、コレは夜なのか昼なのか」 　ご丁寧に外して枕元に置かれていた腕時計を除いて首を傾げる。感覚狂っちゃうとアナログじゃ訳わかんなくなっちゃうよね？ 　 　戻って仕事しないと！と、いそいそと廊下に出た私は真剣な顔で何かを話している風見さんと降谷さんが話している場面に出くわした。 　あー！降谷さんが！き、厳しい顔をしている！ 　普段の甘いお顔はどこに行ったのか、萎縮する風見さんを更に威圧する様に眉間に皺を寄せてひんやりする言葉を浴びせている。 　あっ！壁ドン！壁ドンだよ！！叶うなら叩かれてる壁になりたい！ 　風見さんズルいです！私を隔離しておいて降谷さんにご褒美貰ってるなんて！私なんて視界にすら入れて貰えないのに！！はっ、そうか風見さんこれを狙って……？！これもプレイの一種ですね？嫉妬の炎に身を焦がせって事ですよね！？ 「……それで？お前は何をしているんだ」 　風見さん女王様説にハッと口元を手で覆って息を詰めていると、絶対零度の降谷さんの声が飛んで来た。いっけね、見つかっちゃった！ 　前髪の間からギロリと鋭い流し目を向けられてぎゅん！と気分が高まる。 　ちなみに風見さんはこちらを見て青褪めていた。ふふ、貴方の企みはばっちり見通しましたよ。ありがとうございます、愉しませて頂きました。 「血色が良いな。お前、仕事はどうした？他の連中は随分と窶れているが……」 「へ？はい。風間さんに寝ろって言われたので、あと仕事は楽しいですし」 　唸る様な降谷さんにこてんと首を傾げると忌々しげな舌打ちを頂いた。あれ？なんか本気で怒ってる？ 「……楽しいだと？」 「ふ、降谷さん！」 　慌てて間に入る風見さんを押し退けて私の目の前までやってきた降谷さんは私の胸倉を掴んで壁に押し付けた。気道を塞がれて息が吸えない。 「か、は……っ」 「……遊び気分なら今すぐに辞めろ。俺はお前とどうこうなるつもりは無いし、浮かれた人間が近くにいるだけで目障りだ」 　ギリギリと締め上げる腕を何とか掴んで目を合わせると、今まで何度も見た冷たい瞳の奥に怒りの火が灯っているのが見えた。憎々しげに燃えるそれは、今この瞬間私を排除する事しか頭に無い事を伝えてくる。　 　苦しい、息が吸えない。 　靄が掛かる頭で思考できるのはそこまでで、生理的に溢れてきた涙の膜が張った目で前を見れば、立ち竦んでいた風見さんがハッと我に返って降谷さんを止めてくれた。 　手を離され、重力に従ってずるずると床に座り込むと、一気に流れ込んできた酸素にえずきながら咳き込む。し、死ぬかと思った。 　冷たくなった指先がじんわり熱を取り戻す感覚にほうっと息を吐き出せば生きている実感から来る快感やら多幸感やらがせり上がってくる。 「加藤大丈夫か？」 　いつの間に行ってしまったのか、気がつけば降谷さんは居なくなっていて気遣わしげな顔の風見さんが背中をさすってくれていた。 「降谷さんには俺から話をしておく」 「げほ、うぇぇ……そうですね、お礼を、言っておいて下さ、げほげほ」 「……そうだな、任せてくれ」 　はて、なんで風見さんはそんな泥を噛み締めたみたいな渋い顔をしてるんだろう？ 　よく分からないけれどやっぱり降谷さんに関わると今までに経験した事無いようなイイ事があって幸せ！この仕事を選んで良かった！ ○ 「……すまなかった」 　翌日書類を作っていた私に降谷さんが神妙な顔で頭を下げてきた。え、一体何事なの？！ 　疑問符を撒き散らして固まる私に、降谷さんは眉を下げてゆっくりと口を開いた。 「あの後風見から叱られてしまった。お前、徹夜で仕事をこなして仮眠を取った後だったんだな。あの風見が普段の仕事への姿勢も悪くないと褒めていたよ。よく知らずにあんな真似をしてすまなかった」 　優しげな顔を向けられて息がつまる。降谷さんの背後に控える風見さんも満足そうに頷いていた。 「……そ、そんな降谷さん、私に謝罪とか必要ないですよ？」 「そうはいかない。誤ったことをしたら謝る、そこに上司も部下も無い」 　今までひんやりした人だと思ってたけど、どうやらそうではなかったらしい。いつもの蔑んだ目はどこに言っちゃったんですか？！ 　もうあの絶対零度の降谷さんには会えないかもしれない。きっともう殴ってなんて貰えないし、無視もして貰えないんだ。 　そう思った途端だばーっと涙が流れ出した。だって、そんなの耐えられない！ 「なっ！加藤どうした？！」 「そんなに思いつめていたのか。悪かった、お前を勘違いしていたんだ」 　突如泣き出した私にお二人はおろか遠巻きに見ていた先輩方もオロオロと戸惑っているのが見えた。だってだって……！ 「降谷さんが優しくなったら私のご主人様はどうなるんですか？！誰が私を虐げてくれるんですか？！」 「……は？」 「降谷さんに蹴られたいんです、踏まれたいんです、罵って欲しいんです！それが無理なら完全に存在を無視してくれるだけでいいんです！なのに、優しくするなんて。一体なんのお仕置きですか！」 　頭を抱える風見さんの前で目を点にして固まる降谷さんは、開いた口を塞ぐ事も出来ず唖然としている。うわぁん、こんなお仕置き楽しくないよう。 「……風見、これは」 「……すみません、加藤には少し特殊な性癖が有りまして、」 「性癖」 　その時の降谷さんの顔はまさに汚らわしい何かを見た時のそれだった。と後日風見さんが語っていた。 　ちなみに、暫くしてもわんわんと泣き喚く私に、ドン引きした顔の降谷さんは強烈なアイアンクローをお見舞いしてくれました！ 　何という飴と鞭！サイコーです！ 　はぁん、やっぱり降谷さんは最高の上司だね！ 　 マゾ子 苦しい辛い事を求めていたら公安に入っていた生粋のドM。新人教育でボコボコにされてから降谷さんにご執心。 この後マゾ子性質を知った降谷さんにいいように使われるが、本人は大満足。 降谷さん ドMの部下にドン引き。 使えるなら使っとこう精神で良いように使いながらも出来るだけ関わらないように逃げ回っている。 風見さん マゾ子の直属の上司。 やっと上司の誤解も解けマゾ子を評価して貰えると思った矢先の出来事に白目を剥いてしまった。 もはや止める事を諦めている。

<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9902416">novel/9902416</a></strong>←これの続きです。<br />降谷さんに虐められたいドM夢主のお話です。<br /><br />多分この後なんだかんだで降谷さんに信用されて大きな案件とか任されると思う。<br /><br />そんでもって夢主が敵に捕まって拷問かけられるかも！ってなった時に、情報漏洩よりもアイツその状況を愉しみ過ぎて死んでしまうのでは？！って焦る公安面子がいたりしたら楽しいな。<br /><br />■夢小説で、なおかつ夢主がとっても気持ち悪いので苦手な方はご注意下さい。

マゾヒズム極めたらいつのまにか公安で働いていました。2

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「ん、…んぅ、……ふぁああ………、」 ちゅんちゅん、カーテンから溶けでる朝日とスズメの声に意識を引っ張りあげられる。 盛大なあくびに涙を滲ませ 目を擦り、真っ先に目に映ったのは、濃紫の柔らかい髪をシーツに垂らして目を閉じる彼──志麻くんの姿。 「…ふふ、よお寝とるわ」 向かい合うように眠っていた僕らの右手と左手は、緩くもしっかりと絡められていて。昨日なかなか２人きりになれなかった寂しさを埋め合おうとするその幼さに、なんだか愛おしさを覚えた。 （はぁあ……昨日は あいつのせいで志麻くんとの休日が１日潰れた、） 昨日の気持ち悪い分身の顔が脳裏に浮かんだから、頭の中で あいつのことをしばいておいた。 （というか、全部夢であってほしいわ） じぶんが２人もおるなんて、考えるだけでも吐き気がするっちゅうねん。 そんな一抹もない期待をゴミ箱に投げ捨て、もうしばらくは起きないであろう彼のために、朝食を用意してあげようと身を起こそうとする、 が、そこで違和感。 「、え」 ──後ろから センラの腰に絡まる腕の感触と、 やけに 彼に似た体温。 「だ、抱きつかれてる…？」 （いやいや、この空間には確かにセンラと彼しかいない、はず、、？） 寝起きの状態でそこまでは考えることができたものの、それ以降 全く噛み合わなくなった脳の歯車に呆れてしまう。 どことなく、デジャブをかんじる、 いや、そんなわけ、が、 そんなゆめみたいなこと、まんがみたいなこと、 ギギギ、と年季の入った人形の如く首を後ろに回せば、 「っ、…は、なんやしまくんかいな、」 そこには、濃紫の柔らかい髪をシーツに垂らして目を閉じる彼──志麻く 「しししし、しまくんッッッ？！？！？！？！」 「うぉっ！、ど、どしたんセンラさん…」 「んん…、うるさいでセンラ…」 エマージェンシー。 神様どうか、嘘だと言ってください。 [newpage] いててっ、 夢であってくれと願うばかりに、自身のほっぺをつねり続けて約１０分。痛すぎる。 「だれや、あんた」 「志麻やってば」 ああ、全く不覚だ。目の前の志麻くん（本物）に気を取られて、後ろの志麻くん（分身）の存在に気づかないなんて、我ながら不覚すぎる。 分身の存在にいち早く気づいていれば、彼らが起きる前にしれっと口笛を吹いて部屋を抜けられたのに……このデジャブすぎる空間から逃れられたのに…… こんな修羅場にぶち込まれる事なんてなかったのに……！！！！！ ──なんて後悔も、時すでに遅し。 昨日とまったく同じこの状況を早くも飲み込んでしまった僕らは、志麻くんが２人いることに疑問すら持たないし、そんなことは もはや議論の外。 「志麻は俺や」 「志麻はおーれ！俺がセンラの彼氏なの」 「っはあ？！センラさんの彼氏は俺なんやけど！！」 カオスだ、あまりにもカオスすぎる。 まるで鏡のように 同じ顔が同じことを言い合っている。それも「センラの彼氏は俺だ」と。 あの、ごめん、ほんまにごめん、センラは今ここで 恋人として、彼らの喧嘩を止めなければいけないのだけれど、 あの、 あのな、 圧 倒 的 顔 が 良 い……………… ごめん、ちゃうの、大好きな顔が２人もいて、しかもセンラを取り合いしてるの、その名はジュリエッタ的な、いやアホか、ちゃうくて、カメラを構えてる場合じゃなくて、 「なあセンラ！」 「ぅわっ！な、なんですか、」 そんなセンラのピントの外れた思考回路を遮るように、ぼふっ、と音を立てて抱きついてきた志麻くん。の、分身。（彼はセンラのことを呼び捨てで呼ぶようだ。） 特有の大きな瞳で 下からセンラの顔を覗き込んで、そう思うやろ？って、挑発的に。 「あ…ご、っごめ、なんのはなし？」 「んも〜、やから！あっちの志麻なんかじゃなくて、こっちの志麻のほうがかっこええやろ、って！」 「ぅぇ、いや、そんなこときゅうに、」 「おまっ、なにちゃっかりセンラさんに抱きついてんねんっ！」 「わわわっ！」 志麻くん（分身）にぎゅうぎゅうと抱きつかれ、しどろもどろになっていたセンラの身体を ぐっと引き寄せたのは、志麻くん（本物）。 「センラさんは俺の恋人やの！偽物になんか渡さへんし」 「はあ？お前みたいなヘタレがなに言うとんの？」 「うるせえチャラ男。お前にセンラさんなんか任せられるか」 「お前なんかよりずっと守れる自信あるけど？」 「こっちは何年もセンラさんのそばにおるの。お前とはちゃうの。」 ああ、これを、両手に花と言うんやな………？ って、そうじゃないやろセンラ……… 「な、なあ、いったん落ち着こうや」 「落ち着いてられるか！センラさんはこんなやつと付き合いたいん？」 「そ、そうじゃな、」 「センラおいで？あんなやつやめて俺にしようや」 「っちょちょ、」 「やーかーらー、センラさんに気安く触るな言うとるやろ」 「いたいいたいっ！」 平然を装った中身のないセンラの声は、彼らの勢いにまるで飲み込まれてしまった。右手を引かれ左手を引かれ、センラの体はまっぷたつになってしまいそう。 ああいえばこういう、こういえばああいう、ぐるぐる進まない口ゲンカに挟まれるこちらの身にもなってほしい。 「嫉妬心丸出し。醜いなあ？」 「おまんのその独占欲も相当かっこ悪いで？」 「お、おふたりさん、」 「ほんまそのうるさい口 縫ったろか？」 「そんな物騒な目つきで睨まんといてくれる？」 「も、やめぇやっ」 ぐつぐつ、茹だった泡が引きも切らず破裂していくように、彼らのケンカはヒートアップしていく。 ほんま、２人の頭に今すぐ水をぶっかけてやりたい。なんせケンカの内容がバカバカしすぎる。 たすけて、ぐすん… 堂々巡りのケンカに目が回ったセンラの頭上には、きっとヒヨコがぴよぴよ鳴いていることであろう。 分かりたくもない昨日の志麻くんの気持ちが 嫌でも分かってしまう。 「もう、やめてってばあ、っ」 そんなセンラの涙声に脇目も振らず、バチバチ火花を散らして、ギャイギャイ喚き散らして、両手にサバゲーの銃やらフライパンを構えて、 ほんま、 …ほんまに、 「あ？やんのかコラ」 「は？上等だオラ」 ───ぶちん 「お前ら そろそろええ加減にせえや！！！！！！」 スパコーーーンッ！！！ 頭の中の何かがはち切れる音とともに、センラは ２人の脳天めがけてスリッパを振り下ろしたのであった。 なんやねんこのコント！！！！！！！！！！！！！！ . . . 「お前らそこに正座せえ！！」 ビシーッ！と ２人のアホを指差し、地獄の説教タイム。もれなく２時間コース。 「………………はぁあああ、、」 視界がぼやけていると錯覚してしまいそうなほど瓜２つの人間を見下ろして、改めて頭を抱えた。強く目を擦っても しつこく瞬きをしても、目の前の紫が１人に戻ることはなくて、一瞬でも気を抜けば 今にも家を飛び出してしまいそうだった。 今なら余裕で１００ｍ走の自己ベストをスパイクなしで更新できるくらいのスピードで飛び出せる。こう見えて 元陸上部なんで。 …ま、そんなあながち冗談とも言えない冗談を抜かしている暇などセンラにはなくて。 「ええか！！？お前らは今の状況を恥じて反省するんやな！！！」 ゴゴゴゴゴ、と背後から炎を燃やしながら怒号をあげるセンラに、きっとこの２人も頭を冷や 「センラさんの………正座でお説教………ピンヒールで………踏まれたい………」 「センラはこういうプレイが好きなんか〜？」 ───抜刀。 センラの腰から抜かれたスリッパが、再び ２人の頭を刎ね落とすかの如く振り下ろされたのは、言うまでもない。 なんやねんこのコント！！！！！！！！！！！！（２回目） [newpage] 「なんっっっで、お前がセンラさんを抱きしめてんねん……っっっっっ！！！！」 「あ、あはは、」 早くもケンカに疲れたのか、はたまた飽きたのか、分身くんは センラを膝に乗せて抱きしめたまま、ソファにポスンと座り込んでしまった。 センラの胸に顔を預けている分身くんは、ゆらゆらと心地よさそうに揺れている。 （んんんん、なんだか憎めないいいいぃ………） 人の恨みを買ってしまうようなオラオラな性格でも、こうやってセンラに甘えてくるかわいい仕草は、本物そのもので。 「なんっっで、センラさんも受け入れてんねん……っっっ！！」 僕らの５歩向こうでプンスコしてる志麻くんの機嫌をこれ以上損ねないように、優しく分身くんを諭してあげようとは思ってるんだけど、 「姿かたちは志麻くんやから、なんか、いじわるできんのよね、…なんて。」 ───どうしても、愛おしい 「なんでセンラさんは そんなにかわええこと言うん……」 「くく、やっぱりセンラは俺の方がええんやって」 「お前は黙っとれ……！！！！！！！」 「ふふ、もうケンカせんとって？」 「「聖母や……」」 「「わかる……（天下無双）」」 「なにを言うてんのよ」 もはや２人のケンカも可愛く見えてくる。なんや兄弟ゲンカみたい。よちよちと頭を撫でたくなってしまうくらい、ほんとにこの人は母性をくすぐるスペシャリストだと思う。 「センラは俺にメロメロやね」 「……可愛く見えてきた」 「おーーーいなに言うてんのセンラさん！！！！！」 センラと分身くんを切り裂くように声を張り上げた志麻くん。今度こそセンラが 脳天スリッパを食らってしまいそう。 でもね、今のセンラは２人のお母さん気分やから、そんなことでさえかわいく見えるんやけど。まあ そんなこと言ったら志麻くんは 今度こそきっとブチギレるんやろうけど。 なんて、調子に乗りすぎていたせいか、───分身くんがニヤリと口角を上げていたことにも気づきやしないセンラは。 「そんなこと言ってくれるセンラには、ごほうびやね」 「ん？」 ふ、と分身くんに視線を合わせる。 すると、立体的なグラデーションを放つその紫の瞳、その奥の、その奥がぐらりと歪んだ気がして、 「センラ、」 「な、っなに」 その歪みが、ぐわんと、 センラの脳を揺さぶって、 「おいで」 「し、しまく、んぅ…っ？！」 掴んで、 雁字搦めにして。 「ん、っん、ちょ…っ、」 「んー、っ」 「ま…、ってぇ、…は、っ」 「ん、ふふ、かわえぇっ」 あまりにも突然だった。 後頭部をがっしりと掴まれた瞬間、いとも簡単に唇を食べられてしまった。 ハイスピードで、強引で、侵略的で、センラの息をひとつすら漏らさずに奪っていく。 「しま、ぁぅ、んっ…ゃ！」 「センラ、っ」 まって、 くるしい、 センラの動きをも封じてしまうほどの激しい動きに、まるで四面楚歌にされているようで。 舌を掬われ、唾液を吸われ、壁を擽られ、主導権を握られたまま ずるずると引きずられていく。 こんなの、しらない、 「っは、…ぅん、んーーっ、！…ぁ」 「はぁ、」 くるくるぱーになったセンラの頭は、彼の唇を振り解く能なんてとっくに溶かされていて、 センラってほんとうに単純というか、ばかっていうか、素直っていうか、 「ほんまっ、かわい、」 「っ！、ぁ、ん、ん」 頼りない理性は ついに残り１枚までに剥がされて、キスをしている相手の姿が志麻くんっていうだけで、うれしくなってしまって。 「っぷは、ぁ…！」 「……ふふ、センラ、かぁわいい」 離された唇が悔しくも名残惜しくて。 きっとばかみたいにハレンチな顔で彼を見つめているのだと思う。 でも、今のセンラの思考では、だからなに？って感じで、それ以上が、もうなにも、 「ッおわぁっ、！」 「───センラさんっ」 突然、ぎゅっと手首を掴まれ、後ろに引っ張られる。覚束ない足で分身くんの膝から飛び降りて、おっとっと、後ろ向きのまま手を引かれて、 ぽすん、 背中に感じる体温。 「志麻くんっ…」 センラの名を呼んだのは、センラの背中にしがみついたのは、紛れもない本物の志麻くん。 「ほんま、妬ける…っ、」 センラの腰に巻きつけられるその腕は、ふるふると震えている。ギリギリと こもっていく彼の力に息苦しさを感じると同時に押し寄せる、罪悪感。 （せ、センラ、にせものの、しまくんに…、） 昨日、あれだけ、 志麻くんとセンラの分身とのキスを阻止したのに、正体も分からないやつに恋人を取られる恐怖を思い知らされたのに、 センラは─────、 無理やりキスをされて、あろうことか────、 （っ、まじで、センラ、最低か…） 「ご、ごめんなさ、」 「……センラさんこっち、向いて」 「えっ、わ…！」 彼の低い声に センラの小さな謝罪は遮られ、くるりと身体が１８０度ターン。そして目の前には、目の中を嫉妬や怒りに染めた本物の彼。 「んんっ！…ぃたい、」 ぐいっと彼の手が センラの唇を拭う。ビリビリとする摩擦が、まるで彼の憤りを顕著に伝えてきている。 「センラさん、目、覚まして ───“志麻”は俺だよ」 逸らせなくなる瞳同士。分身と同じようで全く違う瞳。怒りの奥を覗けば見える、センラをゆっくりと引き込んで包んでくれる瞳。 あったかい、やさしい、 だいすきな、むらさき その瞳が解毒剤となって、毒に侵されたセンラを目覚めさせていく。 「ぁ、あ、しま、くん、」 「センラさん」 うなじに手を添えられて、顔が近づく。瞼が落ちる。息が触れる。熱が伝わる。 「んんぅっ、」 「っん」 唇が重なる。 「ぁふ、んん、…っん、」 「は、」 舌が溶け合う。 ───彼を感じる。 さっきとは、違う。まるで湯煎されていくチョコレートのように。じわじわと、溶かされて。 「しまく、ぅん、ぁ、ふっ」 「っせんら、さん」 手を重ねてエスコートされてるみたい。まるでドレスを着たお姫様扱い。 「はぁっ、んん、ぁう…ん」 「…えろいかお、」 「〜〜っ、…や、めて、ぇっ」 たまらず首に腕を巻きつければ、「ええ子やな」って囁いて、背中から腰をその細い指先でなぞってくれる。 やがて、ゆっくりと唇が離れていって。 それから、いつも、いつもいつも思うの。 あー、すき、 「っは、ぁ」 「…ふふ」 “あなた”のキスが、 「あなたのきすが、いちばん、すき…」 「…っは、」 そりゃあもちろん 足元はふらっふらで、腰も落下しそうで、焦点も定まらなくて。彼の表情がうまくキャッチできないけど、とりあえず笑ってみる。 （伝わってたら、いいなあ、） だいすきだよって、 [newpage] あいつがセンラさんにキスをしたとき、センラさんがあいつのことを一瞬でも享受したとき、嫉妬で頭が茹だってしまった。 息ひとつでも乱せばセンラさんごと壊してしまいそうで、俺は遠くで拳を握って耐えるので精一杯だった。 まあ結局、我慢しきれなかったのだけれど。 あーやっちまった、なんて、戻ってきた理性と一緒に反省会をしていたとき、 「あなたのきすが、いちばん、すき…」 「…っは、」 小声で、拙い滑舌で、俺の目を見て、確かにそう零したセンラさん。しかも笑顔のオプション付き。追加料金は俺のキャッシュカードから全部持っていってほしい。 （ま、まじか、） やっとの事で発することができた「っは」の中に、何文字分の「かわいい」が詰まってたか、お前ら知らんやろ。知らんでええねん。俺にも分からんから。 涙をうるうる溜めて、浅い息を繰り返していた彼はやがて、こしこしと涙を拭って深呼吸。 すーはー、すーはー、 「おーい、俺の存在忘れてなーい？」 と、そこで俺の分身のカギカッコ。 なんやねんコピーロボットめ。なかなかイケメンな顔しやがって。 まあ？俺の？コピー？やから？当たり前？なんやけど？ 「なんやの、今ええとこやのに。」 「俺のキスに あんな欲情した目 向けてたんやから、センラは俺のキスの方がええやろ？」 「なっ、」 俺の分身の言葉に 声を失う隣のセンラさん。 その顔は湯気が出そうなほどに真っ赤だし、ぼぼぼっ、なんてＳＥまで聞こえてきたぞ。 それじゃあ あいつの言葉に肯定しているも同然じゃないか。 へえ、 「セーンラサーン？」 「いやっ、違くて、」 「なにがちゃうん？」 「まっ、て」 「あいつが可愛く見えたうえに？」 「し、まくんっ…」 「あいつのキスに欲情した？」 「ねぇっ、しまく」 「そうやっていろんな男をたぶらかしてきたん？」 「その顔で そそのかしてきたん？」 怒りだけを乗せた声で、彼に詰め寄る。一歩一歩と足を下げる彼が、やがて壁に背中を付けて 逃げ場を無くしたとき、 ダンッ、と俺の拳が壁に沈んで、 「そうやって俺のこと怒らせてさ、」 「なに、……酷くされたいん？」 「ぁうぅ、っ」 彼の目に涙がたまって長い睫毛が濡れていく。湖の如くいっぱいの水で潤って、眩しい金色が揺れて 光に反射して、──ああ、溺れちゃいそう。 じゃねぇよなに泣かせてんだよばかやろうおいおい本格的に泣いてるよセンラさん！！！！！！！ 「っわあああああごめんごめん泣かないでごめん意地悪しすぎたごめんっっ」 「うぅっ、やぁ、いじわるせんでよ、ぉ…っ」 やばいやばい待てよ誰だよ滅多に泣かないセンラさんのこと泣かせたの誰だよいやいや俺だよ何してんだよセンラさんのことになると余裕ゼロになるのほんとやめろよ節操なしかよいい加減にしろ！！！！！！！！ 「あーあーセンラのこと泣かせた〜〜〜〜」 うるせえお前は問答無用で黙ってろ！！！！！！！！ 「ん、ごめんごめん…、」 「ぁう、っ、ひっ、く…」 慌てて彼を引き寄せて腕の中に閉じ込めて、涙も一緒に閉じ込めて。お願い、これ以上泣かないで。 ごめんね、 君のことになるとどうしても自分を保てそうにない、 自分に自信を持てそうにない、 「せんら、言った、ぁ」 「…ん？」 「あんたのきすが、いちばんすき、って、言うたぁ…！」 「んんんんんそやったなごめんなほんまごめん………」 俺の肩口に顔を埋めて、拗ねた声をぼそぼそ。小さく小さく俺だけに聞こえるように囁かれて、俺もだよって意味を込めて抱きしめる力を強くした。 「センラは、世界でいちばん、あんたがすきやの、」 「えっ」 「ほかの“志麻くん”でもだめで、」 「っ…うん」 「あんたじゃなきゃ、やなの…、」 「やべ、鼻血…」 きっとそれは小学生よりも拙い言葉で、誰にも聞き取れないくらい小さな声で、 けど、その言葉に篭っている愛の質量は計り知れないくらい大きくて、 確かにホンモノで。 「……やから、」 「やから、？」 「志麻くんが２人おるとか、めんどくさい極まりないから、」 「センラが今からすること、怒らんと許してな」 「ふぇっ？」 すると、さっきまでの甘えた態度が演技だったみたいに 涙をひゅっと引っ込めた彼は、意味深な言葉を言い残して、ふらっと俺の身体からすり抜けた。 （……え、まさか、ぜんぶ俺の機嫌取り？嵌められた？あの男 罪深すぎん……？） なんて うろたえながら、彼の言う「今からすること」に疑問を持っていれば─── 「なあぁっ、志麻くんが泣かせてくるぅ…、」 「せ、センラさんっ？」 「っおうおうどうしたのセンラ」 涙声で分身の元へと向かったセンラさんは、ソファに座っていたそいつの膝の上に座った。 ソイツノヒザノウエニスワッタ？ 「ま、待ってセンラさ」 「志麻くんがいじわる言ってくるんよ…酷いやろ…？せんら、本物より分身の志麻くんの方が好きかも知れん…っ」 「っはぁぁああぁああ？！」 「ふふ、言うたやろ？あんなヘタレより俺の方が絶対ええって」 「うんっ、ねえ、センラのこと慰めて…？」 「ええよ〜？よしよし、あんな奴に捕まって大変やったなあ、これからは俺にしときや」 「んふふ、ありがとぉ」 …やめろ俺。サバゲーの銃を持つな。またセンラさんが抜刀するから。こらやめろ。フライパンを持つな。お説教で吹っ飛ばされるから。 …おいやめろ。それも本望って思うのやめろ。 「ねえ、せんらね…、すっごく泣き疲れたんよ…」 「そやなあ、目ぇ真っ赤や。」 「ねむたくて仕方あらへんの…」 「さよかぁ」 「やから、センラと一緒に寝てほしぃ、な…、って、」 「ン」 「…あかんかなぁ…？」 「エエニキマットルヤロガイ」 やめろ分身。本物の俺と同じ萌え方するのやめろ。鼻血垂らすのやめろ。ああ同族嫌悪同族嫌悪。 よし、とりあえず一発フライパ 「志麻くん？フライパン持った右手を下ろそうな？」 「………ハイ」 敵意を剥き出しにしていても お構い無しに、寝室で一緒に寝ることが決定したらしい２人は、手を繋いで寝室へ向かってしまう。 俺は、センラさんの背中に抱き着きたい衝動を、歯を食いしばり抑えつける。理性の手づなを離してしまわないように、堪えて、我慢して。 「志麻くん、」 「っ、なに？」 すると、分身に手を引かれていたセンラさんが不意に立ち止まる。 その繋がれている手を意識しないよう 彼の瞳を見つめる。今信じていられるのは、彼の無垢な瞳しかない。 「この子が消えて ふたりっきりになれたら、昨日みたいに、もういっかい、」 「───センラのこと めいっぱい甘やかして、」 ぐっと俺の耳元に近づいて、息を吐くように優しく囁いた彼。それには不安やら恐怖やら仄暗い感情がたくさん乗せられていて、今にも押し潰されそうなほど脆弱なひとことだった。 「…もちろん。満足させたるよ」 「ふふ、顔、ニヤけてるで」 「……センラ？こんなやつ放って置いて早く行こ？」 「うん！早く一緒におねんねしよっ」 「ほんまかわええな」 「…………志麻くん、フライパン」 「ハイ」 . . . ぱたん、 寝室の向こうへと消えて行った２人。無慈悲に閉じられた扉によって、俺とセンラさんを繋ぐ糸が切られてしまったようだった。 「はああぁ〜〜〜…………っ…、」 長い溜息をつく。彼の「今からすること」を察してしまった以上、なにも手出しができない。 ───昨日、分身のセンラさんが睡眠によって消えてくれたように、分身の志麻もきっと眠りに落とせば消えてくれる。 彼はきっとそう考えた上で、分身を誘い込み 一緒に眠ろうとしてる。 そんな作戦を思いついた時点で、彼はポーカーフェイスを使いこなす小悪魔の確信犯であることが ここで確定したのだけれど。完全に分身を手のひらで転がそうとしてるのだけれど。それによって俺も転がされることになっているのだけれど。彼の性格的に 絶対ノリノリなんだろうけど。 （作戦、あくまでこれは作戦、分かってる、分かっている、） （危険を冒してまで自らを犠牲にしてくれたセンラさんの思いを踏みにじることはできない、） っできない、 （けどぉぉおおおおぉ………！！） 「んんんんんん………、心配すぎる…………」 奴のあの性格だ。センラさんに何をしでかすか分かったもんじゃない。ゴムだのローションだのが転がるあの寝室に閉じ込められて、大人しく寝ていられる方がおかしい。 は？そんなものが転がってる状況の方がおかしい？ハ？ 最悪の事態が起きないことを祈りながら、ソファの端で１人、身体を丸めてうずくまる。 ───お前みたいなヘタレ 静かになった部屋の中、あいつに言われた言葉がリフレインする。 鏡越しに写る“志麻”が、俺を見て嘲笑っている。鏡の前で突っ立っている俺を、見下している。 …俺にとって、いつだってセンラさんは「壊れ物」だった。死ぬほど大切だった。触れるのが怖いと思うときだってあった。もちろん今だって不意に怖くなる。 だって、あんなに綺麗な鮮黄色が 俺の紫によって濁ってしまうと思ったら、合わせた瞳も逸らしてしまう。 だって、あんなに華奢な身体が 俺の指先によって歪んでしまうと思ったら、伸ばした手も引っ込めてしまう。 か弱いから？お姫様だから？ 違う、 俺が、ただヘタレなだけ。 彼のためだと思っていた「優しすぎる優しさ」を変換したら、それはただの「ヘタレ」でしかなくて、それはもしかしたら彼の心に隙間を与えてしまっていたかもしれない。 その隙間を埋められるのなんて、 （今は、あいつしか、─────） 「……っ、やめよやめよ……っ」 はい終了 はい解散 俺の思考よ これ以上考えることを禁止する お前は黙ってセンラさんの写真フォルダでも眺めてろ！！！！！！！ 「センラ？もっとこっちおいで？」 「っしまく、…はずかし、っから、」 「ええから〜。ぎゅってしよ？」 「ん、…する」 「はは、センラ顔真っ赤やん。かわええ」 「うるさいですっ、早く寝よ…？」 「わかったわかった。じゃあ、手繋いでいい？」 「……今日だけ特別ですよっ」 「ありがと」 …おうおう考えることをやめたら急に仕事し始めやがったな俺の聴覚。 思考をシャットアウトした瞬間 聴こえてきたのは、扉の向こうにいる２人の声。しかも紫の声は、本物の俺じゃない。 （…拷問や） センラさんのことになると、人間としての機能が全く器用に作動しなくなるから厄介だ。 つまり、たった今 聴覚が機能し始めたということは、他の機能がほとんど鈍ってしまったということにイコールなので、 結論。俺はこの２人の声をＢＧＭにして ただ耐えるしかない。 「志麻くん、頭撫でるのじょうずやね、」 「ふふ、やろ？ずっと撫でてたいわ」 「だめです、今は２人でおねんねの時間やの」 「そやったなぁ」 「んもっ！そう言って撫で続けんといて！」 「あと少しやから、な？」 「んむぅ…あと少しですよ？」 ………クソみたいな結論を叩き出してしまった。 というかセンラさん、俺にあんな甘ったれた態度とったことないやろうが。この淫乱痴女め。 分身よ 俺に隣を譲れ。俺も 痴女センラさんに振り回されたい。 …とにかく、 こんな声たちを我慢して聞いているだなんて、俺には到底出来っこない。 「部屋を出て行くのもありだが、それではセンラさんが心配である」 「しまくん、もうセンラにちょっかい出さんで！」 「ええやん〜センラがかわええから」 「っはぁ？意味わからんこと言わんでください」 「顔赤いで？」 「ほんまムカつくひと…」 ズキ、 「…寝てしまうのもありだが、目は冴え切っている」 「センラこっち向いて？」 「しまくんがいじわるするから、いや」 「もうせんから、ね？」 「…ほんまに？」 「ほんまに」 「なら、…向く」 「素直やね」 ズキズキ、 「……ゲームをするのもありだが、」 「寝えへんの？」 「しまくんが見つめてくるから寝られんの」 「かわええ寝顔見せて欲しいもん」 「そんなこと言われたらなおさら寝られんわ…！」 「じゃあイチャイチャする？」 「しーまーせんっ！……あ、っちょ、やぁ…！」 ズキズキズキ、 「………音楽を聴くのもあ」 「寝かせてくれないんやったら、ほんまに追い出すで」 「分かった分かった、ごめんね？」 「……許します」 「ごめんなさいのちゅう！」 「なっ、！だめですっ…！」 「照れ屋さんやなぁほんまに」 「ほんま意地悪するのもいい加減にしてっ」 「やってセンラがかわえ」 ギャラクシー星空すり抜けて〜〜 この夜のもっと先へ〜〜〜 高く〜君と〜君と〜ふたり〜 風に吹かれて〜〜〜〜 イヤホンをズッポリ耳にさして目を閉じた俺は、無理やり意識を夢の世界へと飛ばしたのであった。 「おやすみセンラ」 「おやすみ志麻くん」 そう囁き合う２人の声に気づかなければ、 胸をしぼませ続ける針の音にも気づかない。 ───気づかないふり？ [newpage] 「志麻くん、起きて」 センラが起きたのは、分身の彼と寝てから３時間後のことであった。隣を見れば、先ほどまでの温もりが嘘のように感じられなかった。周りを見渡しても、寝室を出ても、分身は忽然と姿を消していて。 リビングにはただ、ソファでぽつんと寂しそうに眠っている本物の彼がいるだけであった。 「…つか、うるさ、」 身体を揺さぶっても起きない彼は 相当深い眠りについてしまっているのだろうけど、 「なんでこんなにでかい音量で音楽聴いてんの？」 イヤホンからの音漏れがハンパないんやけど。 とりあえずイヤホンを耳から抜き取って、それが繋がれていた彼のスマホを手に取る。待ち受けに設定されているセンラの寝顔に若干引きながら、音楽の停止ボタンをタップした。 「志麻くん、起きて？」 「ん、ん…」 「…ましりーん」 「ぁ、い」 「まちち、」 「ん〜…せ、ら、」 「センラやで？」 「っぉわあ！！！！！」 ぎゅううううぅ、 ぱちぱちと瞬きを繰り返した彼は、センラにピントを合わせた瞬間、勢いよくセンラを抱きしめた。 あまりの力強さに、言わずもがなセンラは彼の上に倒れこむ形になってしまったけど。 「センラさんっ…、センラさん…！」 「おっ、おはよ、しまくん」 「センラさんやぁあ、っ」 （ほんま今までぐっすり寝てたやつの力かよっ…） そんなことを考えながら、彼の頭を優しく撫でる。 「はぁぁあ、ほんま、あいつのこと好きになったらどうしようかと、、」 「…まあ、あの子も悪くなかったけど」 「ちょっ、せんらさん…！」 「んふ、冗談やて」 彼のその自信の無さに、らしくないなぁ、なんて。 それは彼の謙虚な性格ゆえのことだろうけど、その原因は、センラにも少なからずあるはずで。 昨日、分身のせいで めんどくさい性格を発動してしまったセンラのことを、志麻くんが 優しくなだめて愛してくれた。おかげで、センラはすぐに、不安もなにもかも追い払うことができたのに。 センラは、なにもできんかったなあ、って。 「おれ、センラさんのことになると、まるで余裕なくなんの……かっこ悪いやろ…」 抱きしめたまま、センラの肩に顔を埋めたまま、弱々しく、 「センラさんのこと好きすぎて、なにもかっこよくこなせんの……」 「ヘタレって言われても仕方ないよなあ……」 あはは、なんて空笑いでセンラの肩を震わせるから。そんな消え入りそうな薄命な声を零すから。センラは まるで内臓から凍らされているような思いだった。 「…何にそこまで不安になってはるのか、センラには分かりません」 「っえ」 「もうあんたしか見えてへんのに」 「せ、せん」 「……もうあんたしか愛せへんのに」 「ほんま、…バカしま」 だから、このどうしようもないヘタレに、文句を丸めて投げつけてやった。愛情と甘えと罵倒をぐっちゃぐちゃに丸めて、えいっ。 「弱っちくて、不安にさせて、なにもできなくて、……ごめんなさい、」 それから、ごめんねの気持ちも丸めて。 「………ううん、センラが頑張ってくれたから、今こうやって２人きりになれたんやん」 「…うん、」 「俺のところに戻って来てくれたし、謝ることなんてあらへんよ」 「、っうん」 「むしろ、…ありがとう、やで」 それをしっかりキャッチしてくれた彼は、センラと身体の場所をぐるんと入れ替えた。 表情も声音も、いつもの彼に戻っていて 幾分か安心。 「…んふ、さっきと全然目がちゃう」 「センラさんがかわええこと言うから」 センラをソファに組み敷いて、センラを見下ろす彼。会話に集中したいところだけど、その顔がどうしてもかっこよくて見惚れちゃう。死んでも言わんけど。 「ははっ、自分の分身に嫉妬してたってなんかおもろい」 「…センラさんもそうやったやんか」 彼は子どものように拗ねて、センラに顔を近づけた。 低い声と鋭い紫が、センラの黄色を差して侵食していく。 「その目の感じ、偽物と一緒や、ふふふっ」 「いつもの俺じゃなきゃ、いや？」 「んーん、どんな志麻くんでもすき」 「…それはあいつでもいいってこと？」 「あはは！ほんまめんどくさいひと〜」 「…そこも好きなんやろ、」 「…んふ、すき」 「はっ…ほんまかわええことばっか言う」 やっとのふたりきり。 酷く長く感じたこの１日が、ようやく終わろうとしている。昨日今日と怒涛の２日間を過ごして、いろんな意味で疲れた身体を休めたい気持ちもあるけど、 でも、それ以上に、 「しまくん」 「なあに？」 「さっき言ったこと、覚えてる？」 ───この子が消えて ふたりっきりになれたら、昨日みたいに、もういっかい、センラのこと めいっぱい甘やかして、 「……覚えとるに決まっとるやろ」 「んふ、よかった」 彼の目の色が変わる。彼の紫にセンラの黄色が映って、ぐるぐると混ざり合って、酔いしれていく。 「…………しまくん…」 「…センラさん」 あ、まって、やば、 「っぷ、」 「、なっ？！？」 「すまん、なんか、偽物とギャイギャイケンカしてた志麻くんと大違いで笑ってもうた」 この人まさか偽物？そう疑ってしまうほど 顔がさっきと違うもんだから、つい。 「…今笑わんでもええやん」 「だって、かわええんやもん」 「……それ、偽物の志麻にも言うてた」 「っあ〜…、まあそれは気の迷いってことで」 「むかつく、」 「ご、ごめんね…？」 結果、志麻くんがまた拗ねてしまったけど。 「………ビシッ」 「？」 ちょっとやりすぎたかな、って 控えめに謝ってみたら、ゆっくり頭の上に彼の手が降ってきた。それは撫でられたとか、そんなんじゃなくて、 （あ、チョップされた） 「……おしおき、」 「…っふふ、やっぱかわいい」 「っ、もう…年上をばかにするのも大概にしいや…」 「あは、あははっ、」 チョップだなんてかわいいお仕置き。しかも激弱。それに加えて、年下にいじられて真っ赤になる顔を見たら、笑いも止まらない。 「…………センラ、」 「っ、ゎ」 突然、 そんなセンラの笑いの線をブツンと切ったのは、彼の声。 その声ひとつで、首輪を嵌められて服従を強いられたみたいに、少しも彼に逆らえなくなってしまうから タチが悪い。 魔法なんてそんなかわいいもんじゃなくて、 「…まだお仕置き、終わってへんから」 「っぁ、う、」 もはや、呪いみたいなもの。 しぶとくてタチの悪いその呪いに、簡単にかけられてしまうほど センラは、彼に従順で正直。 頭の横にあっただけの彼の手が、頭の下に滑り込んできて、そのまま抱き寄せられる。 一気に溶け合う体温のせいで、彼の身体から離れられない。 「………早く消毒させろ」 「しまくん…っ」 その真っ直ぐな紫に、 簡単に言えば、欲情した。 彼の腰に足を巻きつけて。 もっと溶けてしまえ。 彼の首に腕を巻きつけて。 もっと酔ってしまえ。 「あーあ、明日起きて、また２人になってたらどうしよう」 「……じゃあ、今日は寝かせないでください」 「……煽るのがお上手な姫やね」 ガシガシと頭を掻いて 髪をかきあげた彼は、センラを軽々と横抱きにして 寝室へと歩き始める。 「２日連続やで」 「もう若くないのにな」 なんて笑いながら。 センラは彼の首にぎゅうっと、しがみつく。 この距離が離れないように。 「……偽物に志麻くん取られるのは もうこりごり」 「はは、おれも」 これ以上 誰にも邪魔されないように。 「……すきすきすき、しまくんだいすき」 「ハハ、オレモ」 誰にも愛が垂れ流れないように。 「……絶対結婚して一生センラに縛り付けてやる」 「haha、oremo」 「……仏みたいな顔で鼻血垂らすな」 多分そんな心配は、必要ないんだろうけど。 この２日間で起こった不思議な魔法。呪文も正体も 未だに分からない。でも、そんな面倒くさいことは後回しでいいから。 明日こそは２人きりでいられますように と、ただそれだけを願った。 神様、 抱えた花の棘がどんなに鋭くても、 唇を寄せた花の蜜がどれほど苦くても、 俺は、 その花を大切に抱きしめるよ 神様、 触れた花の花弁がどんなに枯れそうになっても、 見つめた花の姿にどれだけ呪いが籠っていても、 僕は、 その花を大切に愛するよ end...

<br /><br />神様、少なくとも僕は<br />この状況を楽しんでいます<br /><br />コラボ作品<br /><br />こちら【後編】となります<br /><br />前編：<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10100204">novel/10100204</a></strong><br /><br />by なるみや（<strong><a href="https://www.pixiv.net/users/17908826">user/17908826</a></strong>）<br />Twitter <strong><a href="https://twitter.com/narumiya_0904" target="_blank">twitter/narumiya_0904</a></strong><br /><br />後編：当作品<br /><br />by 服部<br />Twitter <strong><a href="https://twitter.com/hattori_ss" target="_blank">twitter/hattori_ss</a></strong><br /><br />▷実在する方の名前が出ていますが、ご本人とは何の関係もございません。<br />▷当作品は、nmmn・腐向け となっております。読む際は 自己責任でお願い致します。<br />▷無断でのSNS共有は、ご遠慮ください。<br /><br />▷久しぶりの投稿ということで、過去の作品の一部を全体公開にさせていただきました。<br /><br />─────────────────<br /><br />おはこんばんにちは。服部です。<br /><br />活動復帰って言ってもいいのかな。た、ただいま。<br /><br />お久しぶりです。<br /><br />ありえないくらい緊張してます。 <br /><br />しばらくこちらでの投稿を休止していて、その中でもフォローをし続けてくれる方、マイピク申請をしてくださる方、たくさんいらっしゃいました。たくさんの作品の中から私の作品を見つけ出してくれて、ほんとうにほんとうにありがとうございます。こっっんな拙い作品を好きになってくださって、待っていてくださって、本当に泣きそうな想いです。<br />今回は、皆さまへのその感謝の気持ちを伝えたく、支部投稿をしようという考えに至りました。<br /><br />今回、支部投稿するキッカケを与えてくれたのは、コラボ相手様である なるみや先生でした。<br /><br />最近 うまく余裕を作れるようになってからは、プライベッターやツイッターでぼちぼち活動していました。その間、支部に一切顔を出していなかったのに、フォローやマイピク申請をしてくださる方がいて。この先ずっと何もしないままで良いのかな、と悩んでいた矢先のお誘いでした。<br />私を知って興味を持ってくださる方へのお礼をするキッカケを与えてくださったなるみや先生には、心から感謝しています。ありがとうございます。<br /><br />「ねえ 一緒に書こうよ」「しません書こうよ」「支部で一緒にやろうよ」あの日の通話で、すごくさらっと言われました。エッワタシ？って感じで もう本当に信じられませんでした。ずっとずっと背中を見て 追いかけ続けていた憧れの方から、そんなお誘いを頂けるとは夢にも思っていなくて、彼女と同じレベルにも立っていないのに、もはや同じ土俵にも立てないくらいなのに、二つ返事で「やる！」と言ってしまいました。ですが、「勇気出して誘ってよかった」と喜んでもらえた時は 彼女がかわいすぎて、変な不安も飛んでいきました。夏休みをこのコラボに捧げようとそう思えました。大嫌いな推敲もがんばりました。<br /><br />服部「何書く？」<br />なるみや「増えるやつが書きたい」<br /><br />大好きな彼女とのコラボです。前編後編共々、是非よろしくお願いします。

神様、これが両手に花ってやつですか【後編】

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この顔、推せる。それがこの姿を初めて見た時に抱いた感想だった。 [chapter:推しと似たような死に方したら推しのいる世界に転生した] 俺の名前は[[rb:赤井>あかい]][[rb:秀識>しゅうしき]]。あの赤井家の次男で前世の記憶を持つ転生者だ。前世は至って普通のＯＬ。某青い鳥でフォロワーさんがブラック企業云々話してるのとは全く関係の無いホワイトな会社で働いていた。死因？それは目の前でけん銃を持った男が暴れて俺の心臓を撃ち抜いた、これが死因。最期に思ったのはあれ？けん銃で撃たれて死ぬとかどこぞの捜査官みたいやんけうける、などというふざけたことで我ながらあれはなかったと反省した。パソコンのデータは消されているだろうか？ちょっと消してほしいものが大量に入ってたんだけど･･････話がそれた。それで俺はそう、コナンの世界に転生したのだ。コナンの世界だとわかったのは家族の顔を見たから。目の前に縮んだ赤井秀一がいてみろ、破壊力がやばいから。だが俺の最推しは赤井秀一絶許マンのトリプルフェイス。とりあえず俺の手に届きそうな範囲の原作キャラは救っていきたい。赤井家の血を引いてたらなんでもできる気がする。だってあの赤井家だから！生まれてきた弟はものすごく可愛かったことをここに報告しておこう。 ✣ 油断も何もしてないけど父親にべったりしていたら胸を銃弾で撃たれた俺だ。防弾チョッキを来ていたから貫通してはいなかったものの骨がイカれた。２回目の死因も銃殺とか笑えない。でも身体を張った甲斐があった。父親である赤井務武さんの救済に成功したのである。父さんと共に世界中を旅して截拳道や銃の使い方、射撃のイロハなどを教わって俺は着々と赤井秀一に近づいていた。やばくない？赤井家ってやっぱり鬼才の集まりだ。なんで叩き込まれただけで７００yd撃てるようになるの？父さんの教え方凄すぎでは？俺感動した。前世で運動は人並みにしか出来なかったのに今多分モブ相手だったらマウント取れる自信ある。流石に最推しとか兄相手には無理だ。だってあの人たち人外なんだもの。観覧車の上で殴り合いとか本当に人間のすることじゃない。え、普通の人間は７００ydの狙撃とかそもそもライフルとか触らないって？･･････嘘だろ？ ✣ 高校入学を期に赤井から春日に苗字が代わった俺だ。なんと同じクラスに最推しを見つけたのである。え、じゃあ横にいるのスコッチ？可愛い。え、２人並んでたらめっちゃショタなんだけど。合法ショタとか凄い。あ、俺は整ってるとはいえ綺麗系だからショタ顔ではない。赤井家のショタ顔枠は未だに会ったことの無い真純ちゃんだろ。八重歯可愛い。初日から生徒指導の先生に捕まり染めたのなんだの言われたけど生憎目も翡翠色だしむしろ何故引っかかったのかという感じだった。保護者に連絡が行ったらしいから春日夫妻には申し訳ない。ちなみに生徒指導室には先客がいてなんと最推しだった。お互い大変だなみたいな感じで話してもう俺の心の中は荒ぶった。推しと話してるだなんてすごくテンション上がるし緊張するしなんせ本当に顔がいいのだ。同性でよかった。前世のように女だったらお前も顔狙いだなとかで嫌われそうだもの。今世の性別に感謝。おかげで彼と友人になれた。やばい。これは本気で血筋を隠さないと行けないかもしれない。兄さん、兄さんよりも最推しを選ぼうとしている弟をお許しください。 ✣ ゼロ、ヒロ、そして俺。高校時代は３人でよくつるんでいた。はっきり言わせてもらうがすごく居心地がいいのだ。あと推しが尊すぎてもうSAN値が回復される。俺は推しと話すためだけにこの高校に通ってるも同然だ。そんな俺が選んだ進路は彼らと同じ警察官。截拳道以外にも武術は嗜んで起きたかったしあとこの見た目で警察官の格好とか見てみたかったし最推しよ警察官の制服姿が見れるのはここだけかもしれないと思ったからというのが理由だ。不純な動機ではない。断じて違う。で、ゼロの同期で警察学校といえば彼らと会うのは必然的だったのだと思う。彼らもまた顔がいい。この前爆処組が宿舎裏でシガレットキスをしているところを見たとき見てはいけないものを見てしまったような背徳感を味わってしまい頭を抱えた。こんなんで無事に俺はここを卒業できるのだろうか？でも教官達は義父を知ってるしもはや開き直るしかない訳だが警察学校組と肩を並べて歩いた俺を誰か褒めてくれてもいいんじゃないかと思う。 ✣ 結局卒業は第３席での卒業となった。ヒロに勝てて嬉しいが伊達とゼロに負けたのでなんとも言えない。原作補正か？原作補正なのか？配属先は警視庁警備部銃器対策部隊。首席様はもちろん異例の公安スタート。次席の伊達も捜査一課へ行った。第３席の俺はライフルがそろそろ恋しかったからっていう理由だけど同じ機動隊に爆処組がいるからモーマンタイ。眼福眼福。そう言えばヒロは最初どこだったのだろうか。聞きそびれてしまった。まぁ、生命さえ救えればこっちのもんだし深く考える必要はない、か。 [newpage] すんなり希望部署に配属されたのはこの為だったのかと頭を抱えた。とりあえずもう任務期間が終わったら公安に引き抜かれる覚悟をしとかないと。 [chapter:赤井家の血筋を持つモノとして] 希望した銃器対策部隊にいたのはごく僅かな短い期間で気づいたら警視庁警備部警備第一課、ＳＡＴに所属することになっていた。おかげで体力お化けという嬉しくもなんともない称号を手にしてしまった。体力お化けは最推しの首席様にふさわしいんだけど同期じゃない限りその情報は知らないはずだ。今頃何してるんだろやっぱりもう潜ってるのだろうか。 ｢萩原、俺は言いましたよね。防護服を着用してくださいって。聞いてなかったんですか？｣ ｢お前なんでここいんの！？｣ ｢いやぁ、爆睡してて放送聞いてなかったんです。｣ ｢馬鹿だろ！！｣ ｢馬鹿は萩原ですよね？言わせてもらいますけどそれ遠隔操作できますからね？死因が爆死とか笑えないんで早く解体して貰えません？なんなら代わりましょうか？｣ ｢遠隔、操作だぁ！？くそっ、！｣ 萩原は物凄いスピードで解体を進めていきタイマーが動き出したその時、最後の一本を切った。救済成功。ようやく警察学校組を１人救えた。最推しのために頑張るって決めたけど緊張した。今日は訓練から解放されて久しぶりの帰宅で死んだように眠っていたのだ。それで目が覚めて適当にテレビをつけたら自分の住むマンションに爆弾が置かれてるし日付は１１月７日だしもう俺の焦りようは凄かった。 ｢これからは防護服を着てくださいよ。心中なんてごめんですから。｣ ｢悪かったって！！だからその右手を引っ込めろ怖い！｣ ✣ SATの任務期間が終わった。長くも短い５年間で毎日がとても充実していた。でも流石におかわりはいらないからどこの部署に行こうかとか考えていたら義父から一本の電話が入ったのだ。いやなんでさ。配属先はお察しの通り公安。 ｢お義父さん、あとはお願いします。｣ ｢任せてくれ。離脱のタイミングは一任する。君は今日から非公式の潜入捜査官だ。表向きは辞職したことにしている。健闘を祈っているよ。｣ 赤井秀識、改め春日秀識。本日付けで警察官を辞職し黒く染まります。任務は潜入捜査官達の補佐という名目だが言ってしまえば公安からの支援が一切ない潜入捜査。スコッチの為、赤井秀一との接触の為、俺は表舞台から消えた。赤井家たるもの危険を恐れては行けない。そうだろう、父さん＿＿＿＿。 [newpage] 彼と連絡が取れなくなったとき、気にしていなかった自分を殺したくなった。 [chapter:シキという男について] シキ。それは俺が高校時代に出会った友人の渾名である。本名は春日秀識。俺が最後に知る情報は確か警備部警備第一課所属で少なくともまだ表の人間だった。だが、今俺の前にいるこいつは？名前は[[rb:森川>もりかわ]][[rb:志季>しき]]。[[rb:記憶喪失>・・・・]]の青年で傭兵まがいなことをしていたところをこの組織が目をつけスカウトしたらしい。コードネームはハイハット。どう見てもシキなんだが困ったことに記憶喪失だ。しかもスカウトときた。シキに連絡を入れるが繋がらず[[rb:ハイハットが本人>本当に記憶喪失になった]]説が濃厚。彼は俺とスコッチ、それからライの３人に自身の記憶のカケラを見出したらしく気に入られる始末だ。ライの奴は知らないけど俺とスコッチは高校からの付き合いでそれなりに親交もあったからどこか引っかかったのだろう。だが親交があったのは降谷零としての俺だ。ヒロだってバレるわけには行かないから苦渋の決断で知らないていで行くことに決めた。俺の知るシキは俺の知らないところで消えてしまっていたのだ。 ✣ ｢あれ？スコッチじゃないですか！｣ ｢･･････ハイハット？今日はオフなのか？｣ それは任務の帰り。ライの妹？にギターを教えている時だった。なんでここにいたのかは知らないが奴はフラリと現れた。俺は親友かもしれないこいつが苦手だ。あいつと同じ声！あいつと同じ顔！あいつと同じ服の趣味！あぁ、こいつなんで記憶喪失なんだよ！？早く記憶を取り戻して俺はシキじゃないって言ってくれ頼むから！ ｢その少女は？｣ ｢ライの妹らしい。｣ ギターに夢中になっていた少女は顔を上げてハイハットと目を合わせた。今日も相変わらずハイハットの目には双眼鏡いらずの機械のようなカラコンが入っているから不気味だがハイハットはこの少女に何か感じ取ったのか頭を抑えて苦しみ出した。……この少女もシキの知り合いなのか？俺やゼロが知らなかったということはライ関連。そういやシキとライっていつ知り合ったんだろうか。シキは記憶を失ってるから聞きようがないけどライはたまにハイハットを苦しそうな目で見ている。 ｢･･････シキ兄？｣ 少女はポツリと言葉を呟いた。シキ兄？やっぱり[[rb:秀識>シキ]]の知り合いだったのか？でも少女の知り合いが[[rb:志季>ハイハット]]の可能性も捨てきれない。ハイハットは被っていた帽子を少女の頭へ深く被せると少女に優しく話しかけた。 ｢“俺”のことを覚えていてくれてありがとうございます。母さんから聞いたんですか？｣ ｢本当にシキ兄なの！？｣ ハイハットは笑った。そう、それはシキが警察学校時代に俺らを見つめていたときによく浮かべていた笑顔だった。くそ、またひとつこいつがシキかもしれない可能性が広がった。 ｢その帽子は貴方に差し上げます。母さんによろしく伝えといてください。会えてよかった。話には聞いてたんですよ、[[rb:可愛い妹>新しい家族]]が出来たと＿＿＿＿秀兄さんから。｣ ｢ありがとう！｣ ｢･･････ハイハット？｣ ｢演技はここまで！[[rb:秀兄さん>ライ]]、仕事終わったら連絡してください。大丈夫ですよ、スコッチも彼も俺の仲間ですから。｣ [newpage] 元々この姿は俺にとっては未だに見慣れない姿なんだ。だから仮面を被ることは得意だった。 [chapter:ハイハットとシキとそれから俺] 潜入捜査をするにあたって俺の協力者に変装の手ほどきをしてもらうか悩んだ。だが素面で潜入したほうが赤井秀一が俺のことに気づいてくれると判断して素面で記憶喪失という設定にした。まずは裏社会で戸籍云々を扱っている人物に接触し戸籍を入手。名前は森川志季となった。ここでもシキか。森川志季は記憶喪失の青年だ。何でも屋で自身に関する情報を探すため裏社会に足を突っ込んだ。妥当な設定だろう。これなら公安組と接触しても問題は無い。記憶喪失だから。だけど孤軍奮闘は嫌だから秀兄さん、赤井秀一は味方につける。ウィスキートリオだけでの行動の時に運良く接触できれば公安組にネタばらししてもいいんだけど多分そう簡単になさそうだからなぁそもそも俺は組織に潜入できるのか？フリーなのに？ 結論、できた。何でも屋って重宝されるのね。俺びっくり。流石にその、お巡りさんだし？そもそも俺は善良な市民だし？殺しはしたくなかったから仕事中は別人格？を作ることにした。それがシキ。[[rb:彼>シキ]]は仕事に妥協を許さない完璧主義者。人が死ぬことには何も思わず森川志季の記憶のカケラを持つ人間以外には興味を持たない。ちなみに余談だが森川志季の記憶のカケラというのは[[rb:春日秀識>本来の俺]]を知る人間のことを指す。要するに身内だな！身内！そんな感じで依頼された仕事をちゃくちゃくとこなしてたらなんと組織から直々にスカウトされたのだ。でも俺は組織に忠誠なんて誓うつもりなかったからそれはそれはテイネイにお断りした。え？詳しく？截拳道で詰め寄って０距離で眉間に拳銃バーンとか待ち伏せされてたから７００ydぐらい離れたところからバーンって撃ったりとか？言い訳させてもらうと黒の組織だなんて思わなかったんだ！で何回目かの撃退の後になんか直接来た。幹部クラスでの歓迎と任務を依頼方式でしか受けないっていう条件付きで承諾した。なんか契約社員みたいだな。でもこれならそしかいとかの時に裏切ってもなにも言われないし自分の有能さに乾杯。赤井家の血筋って素晴らしい！ コードネームはハイハット。シンバルかな？でも気にしない。コードネームを貰えることが大事なんだ。仕事内容は暗殺がメイン。遠距離でも近距離でも戦えるからだな。シキと入れ替わったら目の前が血の海だったときは思わず吐き気がした。自分が作った人格とはいえすごいなシキ。敵に回したくない。ある任務のことだ。今回はなんか下っ端だっけもうすぐネームドになるらしいスナイパーの力量を見たいから俺はターゲットの誘導を頼まれていた。しくじった場合に即ターゲットを殺せるようにだろう。元じゃなかった、警察官を舐めないでいただきたい。狙撃だけだったらあの降谷零に勝った男だぞ俺は。任務は成功。えげつない程の正確性で誰だったか知りたくなった俺はそのスナイパーに接触した。すると赤井秀一がいた。お前かよ。 ｢今回の報酬はコードネームです。おめでとうございます。今日から君はこの組織の幹部“ライ”です！ちなみに僕は森川志季。ハイハットって呼ばれてます。｣ ｢────秀識？」 ｢･･････おや？“俺”の知り合いですか？ますます興味が湧きました。この後お時間ありますか？｣ ✣ セキュリティがしっかりとした森川志季の本邸に呼び込みソファに座るように指示する。赤井秀一スタイルいいな。俺も１８０超えてるし悪くは無いと思ってたんだけど赤井秀一の横に立ったら自信なくす。父さん同様スパダリ臭がハンパない。 ｢秀識。｣ ｢今は森川志季です。春日秀識は記憶喪失なんですよ。｣ ｢春日？養子になったのか。｣ ｢キチだって養子に入ってますしそもそも春日の家に行く気はありませんでした。父さんの罠にハマってしまいそれを受け入れただけです。｣ ｢生きてたのか。｣ ｢かろうじて。｣ 淡々とそれでも穏やかに時間は過ぎていった。幸せってこのことをいうんだろうか。いや、なんか生の赤井さんに会ったら[[rb:赤井秀一>原作キャラ]]っていう認識から[[rb:赤井秀一>お兄ちゃん]]っていう認識にスライドして久しぶりに家族に会えて嬉しいっていう感情がだな。その、大人にもなって情けないが涙腺がやばい。 ｢秀、兄さん。｣ ｢･･････俺も親不孝者な自覚があるがてめぇの方がタチが悪い。外では他人のフリをしなきゃならんのなら今だけはただの秀識でもいいんじゃないのか？｣ ｢･･････｣ まぢ無理･･････イケメンかよ･･････知ってた･･････ ✣ [[rb:森川志季>ハイハット]]として潜入捜査すること数年。公安組とか兄さんから時折もどかしい視線を送られる俺だ。特に公安組。味方同士なのに話せないの悲しい。俺だってお前らと同じ公安警察なんだけど上司が違うから指示が違う。俺、[[rb:警察庁>古巣]]に顔出ししなくていい代わりに周りには本格的にあいつ警察官辞めて行方不明なんだぜって言いふらされてんの知ってるからな！？そこまで用意周到にしなくてよかったんじゃないかなって思うよ義父さん！！でも記憶喪失設定が活きるからなんとも言えない俺！！ ｢あれ？スコッチじゃないですか！｣ 出会ったのは偶然だ。義父への定期報告のため春日秀識名義で借りているセキュリティのレベルがものすごく高いマンションからの帰りのことだった。知り合いのエンジニアが作った双眼鏡いらずの機械のようなカラコンで遠くにいる彼らを見つけたのである。これ、凄く便利。外に出る時は付けてる。モニターになってるからっていうのもあるけど。スコッチは誰かにギターを教えていたようで俺はその少女を見て驚いた。あ、これスコッチ初登場回？あ、じゃあ今日ここに居るのウィスキートリオだけ！？バーボンはあそこで他人のフリしてるしそうだよね！秀兄さんは切符を買いに行ってるみたいだし。え、これようやく回ってきたチャンス？俺が[[rb:春日秀識>俺]]だって伝える最初で最後のチャンス来たんじゃね？ 真純ちゃんにシキ兄と呼ばれて母さんが俺がまだ生きてるって信じていてくれていることに泣きそうになった。あまりの嬉しさに父さんから譲ってもらった数少ない品の帽子を父さんに会ったことのない真純ちゃんに譲った。背後から秀兄さんの気配を感じたから真純ちゃんともウィスキートリオともそろそろお別れ。 ｢演技はここまで！[[rb:秀兄さん>ライ]]、仕事終わったら連絡してください。大丈夫ですよ、スコッチも彼も俺の仲間ですから。｣ ウィスキートリオならぬ[[rb:ウィスキー>ＮＯＣ]]カルテットを結成しようじゃないか！ [newpage] 春日。それはよくある日本の苗字の一つだが俺たち公安警察ではある一人の人間を示す苗字となる。それは──── [chapter:公安たるもの如何なる時も慌てることなかれ] ｢というわけで、まぁ、その今まで騙すような真似をしてすみません！義父さんからの指示でして逆らうわけにもいかなくてですね……あ、ゼロなら分かってくれますよね？ヒロは違いますけど義父さんはゼロの上司の上司ですし！｣ ────春日隆一警視長。シキが本物で彼の直属の部下だというのならシキはいつの間にかＳＡＴから俺の同僚になっていたということか。じゃあ記憶喪失は置いといて伊達とかから送られてきたあいつが行方不明らしいとか警察官辞めたとかいうメールは春日警視長による情報操作か。 ｢改めて、俺は春日秀識。ゼロと同じ警察庁警備部警備企画課所属でそこに座ってるライの実の弟です。ライの本名は赤井秀一。国は違えどＦＢＩの潜入捜査官で今の俺とは協力関係にあります。｣ ｢待て聞き流せないことがあったんだが、｣ ｢お前ら兄弟なのか！？！？｣ ｢……疑っているのか？秀識は確かに俺の大切な弟の一人だ。疑いたいのなら血液検査でもDNA検査でもするといい。｣ ライの、弟だと！？！？まてこいつら似てるところといえば目の色ぐらいしかない気がするんだが。というかこいつもＮＯＣだったとか･･････俺らはなんでＮＯＣ３人で行動してたんだ？大丈夫かこの組織。 ｢シキの言葉を……嫌だけど信じる。お前は俺に嘘をついたことがないからな。安室透改めて降谷零。シキと同じ所属だ。日本でＦＢＩとして捜査する時は声をかけろ許可を取れ。無断で捜査した場合しょっぴいてやる。｣ ｢手厳しいな。その日が来たら秀識に連絡するとしよう。｣ その後はヒロが自己紹介をして今後のことを話し合った。だがハイハットが組織の正式な人間じゃないのには驚いた。雇われってなんだよ。お前異質すぎるぞシキ。ライ相手に俺らにも見せたことがないような緩みきった笑顔を見せたことはちょっとムカついたがライもライで楽しそうに笑っていた。なるほどこれが家族に対する表情なのか。珍しいものを見れた。 ✣ ｢────すみませんスコッチ。｣ ｢シ、キ？｣ 早朝に入った組織からの依頼メール。内容はスコッチの始末依頼。俺はスコッチに銃を突きつけ引き金を引いた。 埠頭にﾎﾟｼｭｯとサイレンサーの静かな音がなる。俺は電話を掛けるべく携帯を開いた。 ｢────仕事です。えぇ、念入りに。｣ ✣ ────ハイハットがスコッチを始末した。 組織から送られてきたのは短い文章のメールとスコッチと思われる生首の写真。ハイハットは記憶のカケラだと認識した人間には情を持つと認識されていたから組織がきちんと殺したという証拠として写真を要求したのだろう。俺は写真を見た瞬間吐き気がしてハイハットに即電話を掛けた。本当にお前がヒロを殺したのか、と。嘘だと言って欲しかった。だってお前はシキなんだ。ヒロを殺すなんて真似をするわけがないのに。どうして。３コールの後繋がった電話で告げられたのは残酷な現実で。あぁ、シキは、俺の知る[[rb:秀識>シキ]]は、闇に呑まれて消えてしまったのだ。あの日、俺達３人が同じＮＯＣだと教えてくれたのは[[rb:志季>シキ]]の中で消えかかっていた[[rb:秀識>シキ]]本人で、あぁ、なんでお前が。なんでお前が！俺は[[rb:志季>シキ]]を許さない。俺の、俺の、[[rb:大切な親友>シキとスコッチ]]を[[rb:殺した>奪った]]お前を許さない。許してなるものか。 しばらくしてライもＮＯＣとバレた。原因は部下のミスらしい。これで組織に残ったシキの記憶のカケラは俺一人となった。俺だけが秀識を覚えている唯一の組織の人間となってしまった。 [newpage] ｢その時間は担当さんと打ち合わせをしてました。と言っても確認だけだったのですぐ終わりましたけど。｣ [chapter:All the truth in the world adds up to one big lie.] その人と出会ったのはとある出版社で起きた殺人事件の時だった。犯人は彼を狙って毒を彼がいつもよく使うコップの淵に付着させたのだがそれを彼が使う前に今回の事件の被害者の人が使用してしまい死亡したという事件で犯人の動機は突如現れた彼が気に食わなかったのだという。森川志季。彗星の如く現れた鬼才の小説家。ジャンルはホラー作品。デビュー作以来発表した作品は全てロングセラーを記録している。 ｢いやぁ、眠りの小五郎さんにお会い出来るなんて光栄でした！もしよろしければサインを頂いてもよろしいでしょうか？｣ 人懐っこい笑みを浮かべておっちゃんに話しかける様子はどこか安室さんに似ている。安室さん、彼は俺をこんな姿にした黒の組織の幹部でありおっちゃんの家の下の喫茶ポアロのアルバイターであり実際は組織に潜入中の公安警察の人間だ。俺は今日の事件のことを安室さんに話すと安室さんは磨いていたコップを落としてしまう。 ｢安室さん？｣ ｢･･････森川志季、彼に会ったのかい？｣ ｢･･････安室さんの知ってる人、なの？｣ ｢森川志季は、僕の、僕の“元”同僚だ……！僕より先に潜ってそして呑み込まれた！僕はあいつが許せない。シキはあいつに、ヒロも、あいつに！！｣ ｢安室さん！？｣ 元同僚。そして潜った。この言葉から導き出されるのは元公安の潜入捜査官。 ｢取り乱してすまなかった。だが君も彼については知っておいた方がいい。春日秀識、これが彼の本名だ。彼は潜入中に解離性同一性障害を発症。別人格が仕事を行っていた。そして彼はその別人格に主人格を呑み込まれ＿＿＿＿今の森川志季となった。コードネームはハイハット。｣ 地面に散らばったガラスをかき集めながら安室さんは淡々と説明する。 ｢ハイハットは主人格のシキを殺すと彼の親友であった男を殺した。彼は完璧主義者だから殺した証拠として生首の写真まで撮っていたっけ。」 ｢生首の、写真？｣ ｢本当は話しちゃ行けないんだけど……最悪なことにシキは元SATのエースと呼ばれていた存在でね、厄介な存在なんだ。近距離の肉弾戦では僕と互角、遠距離の射撃は赤井と互角。あぁ、そういえば彼は赤井の弟なんだ。赤井だったら彼を、シキを取り戻せるかもしれないな。｣ 少なくとも僕じゃ無理だ、そう安室さんは言外に言っていて俺は悲しくなった。相当親しい仲だったんだろう。にしても赤井さんの弟ってあの人とんだ規格外の弟を持ってたんだ？ ｢ハイハットと関わることは推奨しない。彼はもう裏の人間なんだから＿＿＿＿。｣ 店の外で烏が飛び立った。まるでそれは何か良くないことが起こりそうな──── ✣ ｢烏丸さーん、生きてます？｣ 男は笑顔でその部屋に入ってきた。外は爆発音や銃声がこれでもかと鳴り響いている。 ｢あ、生きてますか。良かったです。｣ ｢ハイハット！お前は戻ってきてくれたのか！｣ 元々中にいた男は入ってきた安心した表情で男の方を向き、そして、 ｶﾁｬﾘ 翡翠の目をそれはそれは嬉しそうに歪め男は引き金を引く。陶器のような白い肌にピシャリと赤い液体が付着した。 ｢バーン。アハ、死んじゃいましたね……☆｣ 事切れた遺体を背に男は携帯を取り出し電話を掛けた。 ｢────お疲れ様です。任務を遂行しました。｣ ✣ ｢あれぇ？毛利先生のところの子どもさんじゃないですか！なんでこんなところにいるんです？｣ ｢────ハイハットっ！！｣ ジンを後一歩まで追い詰めた俺たちの前に白いTシャツを朱に染めたハイハットが現れる。誰かを殺してきた後だと思われるその姿に横にいた赤井さんと安室さんの眉間に皺がよる。 ｢っち、ハイハットてめぇ今までどこにいやがった！｣ ｢そう怒らないでくださいよジーン、元々僕はここの人間じゃありませんしどこにいようと勝手じゃないですか。｣ ケラケラと笑う様子はどこか狂っているようで不気味だ。なるほどこれが安室さんが言っていた彼の別人格なのか。 ｢あれ？バーボンにライもいますね。もしかしてジン追い詰められてる最中だったんです？この二人相手に勝てるとか思ってる辺り凄いですね！｣ ｢────っ貴様ぁ！！｣ ｢……安室くん、もう少し右にズレてくれ。奴が来る。｣ ｢……右に？｣ 赤井さんが安室さんに右にズレるように指示した瞬間ハイハットが何かを取り出しそして、 ｢────眠らせてください。｣ ジンの胸元に何かが撃ち込まれた。 ｢ジーン、貴方も本当は烏丸さんみたいに殺したかったんです。けどどうしてもダメだって義父さんに言われたので麻酔銃で手を打ちました。｣ ハイハット、彼はどっちの味方だったんだ？ ✣ ｢祝そしかい！ヒロ、最後の狙撃流石でした！｣ ｢おー！シキもお疲れ様！お前よくゼロ相手にあんな演技できたな！俳優なれるんじゃないのか！｣ ｢安室くん、騙していたわけじゃないんだ。ただ秀識が君には話すなって頼まれてしまってね。弟の頼みを無下にする訳には行かないだろう？｣ [newpage] 【春日秀識】（ハイハット／森川志季） 二重人格というのはただ自分の中で仕事モードとオフモードを割り切っていただけなのだがいい感じで勘違いしてくれて助かった。同期はみんな救済してる。スコッチのときは協力者に偽造工作を手伝ってもらった。赤井家の血故にハイスペックスパダリ。そしかいしたから推しの降谷さんに多分べったりになる。口調はべぇべぇちゃんを意識して意図的に話してた。今までは一度もないが多分追い詰められたら前世の口調が出てくると思われる。 【降谷零】（安室透／バーボン） 一番の被害者。親友だと思っていた奴がなんか潜入先にいるし記憶喪失っていうから軽く警戒してたらそれも嘘で自分と同じかと思っていたら幼馴染みの親友を殺されてSAN値がゴリゴリ削られた。志季殺すマン。そしかい後秀識から離れなくなる……おや？零の様子がおかしいぞ？ 【スコッチ】 目覚めたら渡米してた。撃たれたのは麻酔銃。シキのお父さんの指示でそのままＦＢＩのお手伝いしてた。親友同士の距離感が最近おかしい。お前ら出来てるんじゃねぇの？ 【赤井秀一】 組織に潜入したら死んだと思っていた弟がいて驚いた。スコッチの渡米はこの人が手配した。 [newpage] ｢組織は壊滅しました。上からも許可が出ましたし＿＿＿＿Ｎｏ.１４１２。今日をもってあなたを解放します。｣ ｢そうか、お疲れ様、秀識くん。｣ ｢はい。早く帰って快斗くんに種明かししてください。なんたって海斗くんは俺の可愛い弟分ですから────｣

スランプ。作者の地雷にしか配慮してません。<br /><br />男主の義父は実は転生者で原作の記憶持ってるんだけど本編では一切触れてないし公安の鼠狩りはこの人が実質1人でした。私の中でＭＶPは義父。<br /><br />番外編は……書くかもしれない。降谷零×男主とか赤井さんに弟さんくださいする降谷零とか義父が男主に転生者ってバレて2人でぶっちゃけトークする話とか。<br /><br />【追記】<br />2018年09月09日付の[小説] デイリーランキング 55 位<br />2018年09月09日付の[小説] 女子に人気ランキング 49 位<br />2018年09月10日付の[小説] デイリーランキング 19 位<br />2018年09月10日付の[小説] 女子に人気ランキング 33 位<br /><br />ありがとうございます！書くかもしれないと言っていた続きらしきものも出来たのでよければ→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10137960">novel/10137960</a></strong><br /><br />〜2019.1.4ネットプリントの為全体公開中

安室推しの転生者は赤井の弟でかなりの演技派である。

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設定に不備があったため再投稿しました。 次はこのようなことがないようにします。 [newpage] 八幡side はあ、めんどくさい。 「八幡、今面倒くさいとか思ったわね？」 心読まれてるんですが… 「顔に出てるわ」 また読まれた…… 「だってそうだろ？ 　あのシスコン魔王の頼みとはいえ 　『リーアたんの眷属の特訓をお願い』 　なんて面倒なことしたくない」 さっきから話しているのは俺の《女王》の シノン。 神器を持っていてはぐれ悪魔に殺されそうな ところを助けたが、死にかけてたから駒を 使って悪魔に転生させた。 「仕方ないさ。僕たちはサーゼクス様に 　頼られるほど信頼されてるだ」 今のは夜神月。 《超頭脳所持神器保有者強化計画》の 唯一の生き残り。 俺の兵士で　 眷属内のブレイン担当だ。 怠いけど、そう言われるとなぁ…… 「ま、いいや。駒王学園のどこだっけ？」 「オカルト研究部の部室よ」 「あいよ、神滅器展開《絶霧》」 そして、俺らは転移した。 ―――――――――――――――― イッセーside よお、みんな！イッセーだ！ さっき、いきなりライザ―とかいう自称 部長の婚約者が来やがった。 帰ったと思ったらグレイフィアさんから みんなに話があるそうだ。 「今回のレーティングゲームはこちらに 　10日の特訓期間があります。 　そのため、こちらで人を呼びました。」 「？グレイフィアさんは部長をあの人と 　結婚させるんじゃないんですか？」 「いえ、私はむしろ反対なんです」 ｺﾝｺﾝ 「っと、来ましたね」 「「失礼します」」 聞こえたのは男と女の子の声。 「え……？」 突然、声を漏らしたのは由比ヶ浜。 由比ヶ浜は、雪ノ下雪乃と葉山隼人と 同じ時に悪魔に転生して眷属になった。 「なんだ、お前らか…」 「ご紹介します。こちらが今回 　特訓してもらう比企谷八幡様です」 「比企谷八幡だ、よろしく。 　こいつは俺の女王のシノン。 　そして、兵士の夜神月」 [newpage] 設定 比企谷八幡 神滅器《[[rb:偽りの心> フェイク・ハート]]》 能力：文献や実際に見た神器，神滅器を 　　　高性能コピーする。 　　　(複数の同時展開は不可) 禁手化：神器，神滅器の複数同時展開が 　　　　可能になる。 修学旅行で拒絶されたときに神滅器が顕現。 その後、家族に旅に出るとだけ言って姿を消した。 元は人間で親からもらった駒で転生した。 八幡から4代位前の祖父が居酒屋でなぜか 人間界にいたサーゼクスと意気投合し 祖父が死ぬ間際に彼の息子に悪魔の駒を 渡した。 それは代々家宝のように扱われていた。 今のところ使える神滅器は 《赤龍帝の籠手》《白龍皇の光翼》 《絶霧》《煌天雷獄》《魔獣創造》。 神器は数えきれない。 眷属 シノン《女王》 神器を持っていた人間だったため 悪魔に拐われそうになった。 八幡に助けられ眷属になった。 神器《銃器生成》 能力：自分の知る銃器を作り出せる。 夜神月《兵士》 《超頭脳所持神器保有者強化計画》の生き残り。 八幡とシノンが助けたときにはすでに 虫の息で駒を使って助けた。 圧倒的思考能力と独学で学んだ武術で戦う。 神器《告死帳》 能力：デス◯ートです。 　　　一日に三人までしか殺せません。 　　　無制限だったらチートです………

俺ガイル×ハイスクールD×D

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　こんにちはまーやんです！コメントにあった男鹿のヒロインですが…全く考えてませんでした！すいません！その辺のコメントもくれるとうれしいです！書き方はコメントのアドバイス通りに書きたいと思います。また僕が修羅場好きという事もありそっちに偏る事があるかもしれませんがその辺はどうかご勘弁を…ちなみに皆さんは修羅場多いほうがよいのでしょうか？それもコメントくれるとうれしいです！ではお楽しみください！ [newpage] 　男鹿「おい、お前らそんなことよりはやくいこうぜ」　　 　八幡「あ、ああ、すまん今行く、ほらお前らもいくぞ」 　ラミア「はい！あんたも八幡様にめんじて許してあげるわ」 　邦枝「何で上からなのよ！はぁもういいわよ」 　寧々「姉さんも大変ですね、いろいろと」 　千秋「確かにでもそれは私達もなのでは」 　花澤「それもそうっすよねー」 　邦枝「ちょ、何いってんのよ！あんた達！」 　八幡「そういえば男鹿、お前べる坊の力使わずに戦うんだろ？べる坊預かるよ」 　男鹿「あ？ああ悪いな、ほらべる坊」 　べる坊「あい」 　八幡「よっと、じゃあいくかお前らもいくぞ」 　ラミア「はい！」 　邦枝「八幡、私達はまた来るかもしれないからここにいるわ」 　八幡「そうか？悪いな、じゃあ頼む」　『バーン』 　　 　ラミア「わぁー何ですかあれ？」 　八幡「東条のやつ何でもう始めてんだよ、ラミア、あれが花火だ綺麗だろ、ほら、どうだべる坊」 　べる坊「だぁ～あいだぶ」 　八幡「そうかそうか、それはよかった、じゃあ歩きながら見るか」 　ラミア「八幡様一緒に見ましょうよ！」 　八幡「ああいいぞ」 　東条「おっ、来たかハチ、おせぇから始めてんぞ、赤ん坊も元気になった見てぇでよかったぜ、それに男鹿よく来たな俺はお前とまたやりたくてうずうずしてんだ」 　男鹿「へっ、そんなこといってられんのも今のうちだ、今度はお前をぶっ飛ばしてやるぜ」 　東条「そうか、じゃあとっとと喧嘩はじめようぜ」 　男鹿「ああ、べる坊！そこで俺が勝つとこしっかり見てな」 　男鹿、東条「いくぞっ！」 東条「また力くらべか？お前じゃかてないぜ、っ！」(裏拳だと！) 男鹿「オラァァ！何？！」 八幡「ほう、男鹿の奴東条相手になかなかやるな」 古市「男鹿の蹴りを止めた！しかも頭で？！」 八幡「…古市いつからそこに？てか何？その格好？アイドルオタクかよ」 古市「違うわ！いきなりアランドロンに起こされたあげくこの格好にさせられて訳もわからずここに連れてこられたんっすよ！」 アランドロン「いやいや、古市殿、とてもお似合いですぞ」 古市「やかましいわ！てか誰も俺に気づいてなかったの？！」 ヒルダ「何をいっている古市、貴様の存在感の無さなどとうにしれているではないか」 古市「ヒルダさん！ってひどっ、俺そんなに存在感ないっすか」 ラミア「うるさいわねぇ、べるぜ様の家来のくせにうるさいのよ！」 古市「見た目に反してひどい！てか俺いつの間にそんな立場になってんの！」 ヒルダ「ラミア、それは違うぞ、奴隷だ」 ラミア「ああ、なるほど」 古市(おいぃぃ！ヒルダさぁぁん) 八幡「おいおいそんなひどいこといってやんなよ、せめて部下とかにしてやれ」 古市「比企谷先輩…って違うわ！根本的に！」 八幡「まあ、落ち着け古市、今はそれより男鹿だろ？」 古市「確かに、そうっすね」 男鹿「マジかよ」 東条「お前、やっぱ最高だわ、はははははっ、ふんっ、はははははっ」 男鹿(なんだこいつ強いなんてもんじゃねぇまるで猛獣じゃねぇか！)「くっ、調子に乗んなボケッ」 東条「っ！」ｸﾞﾗｯ 古市「効いた？」 ラミア「あっ、これは確かさっきの花火とかいう、八幡様！また一緒に見ましょうよ！って、やば」ｺﾄｯ ﾋｭｰ 八幡「あ？って何やってるラミア！」(いや、まてよ、このままいけば男鹿がどれくらいべる坊の力を使えんのかわかるな…) 古市「男鹿ぁぁ」 男鹿「…」ﾄﾞｶﾞｧｱ 古市(…なんじゃそりゃぁ！) 八幡(ほう、こっちもなかなかやるな) 東条「すげぇな、何者だお前」 男鹿「…べる坊！」 べる坊「あいっ」ﾋﾞｸｯ 男鹿「てめぇ、ふざけんな、邪魔すんじゃねぇよ、こいつを消せっていってんだ、それとも俺が負けるとでも思ってんのか、負けねぇよ、絶対」 ラミア「ちょっとあんた！何いってんのよ！なんで私達が来たか忘れたの！それにあんた今までボコボコにやられてたじゃない！」 八幡(いうねぇ、ラミアも、これからどうなるのかは見ものだな) 男鹿「それにな、こんなもん無くても俺はどこにもいかねぇよ」 べる坊「だ、あいだぶ」 八幡(ゼブルスペルが消えていくか、これ予想以上にこいつらの信頼は深いようだな) ヒルダ「馬鹿な、こんな事がありえるのか」 八幡「ああ、俺も驚いたよ、これはべる坊にとってリスクしかないからな、こいつらの間ではもう契約を通り越した信頼関係があるんだろうよ」 ヒルダ「坊っちゃま…」 東条「その紋様、お前が強い理由がわかったぜ」 男鹿「あ？なんか言ったか」 東条「いや、なんでもねぇ、それより決着をつけようぜ、男鹿」 男鹿「ああ」 男鹿、東条「いくぞっ！」 　東条（こいつ、ここへきて一段と強くなりやがった、どこにこんな力が…だがな）「勝つのは俺だっ！」 　男鹿「おおおおっ」ﾒｷｯ 　東条「勝った…、何！」 　男鹿「うおおおっ」ﾄﾞﾝ 　古市「や、やった？やりやがった、ついに石矢魔の頂点をやりやがったぁっ！」 　東条「ハァハァ、なぜだ、なぜあの紋様が消えてから強くなりやがった、あれは最強の証だ！消えてから強くなるなんてありえねぇ」 　男鹿「別に、俺はただ負けねぇって約束した、それだけだ」 　べる坊「あい…」 　男鹿「勝ったぜ…」 　べる坊「だ！」 　八幡（こいつは俺の想像以上だったな、これなら本当に少し教えるだけでものすごい成長するかもしれない、俺もうかうかしてたら追い抜かれるかもな…）「終わったな」 　ヒルダ「はい、これでようやく一段落というところでしょう、なぁラミア」 　ラミア「うっ、ごめんなさい」 　邦枝「八幡！ちょっとこれどうゆう状況！」 　八幡「ん？男鹿が東条を倒したんだよ」 　邦枝「えっ、本当に！」 　八幡「ああ、それより葵、頼みがあるんだが」 　邦枝「それよりって…まあいいけど、頼みって何よ？」 　八幡「俺、帰って来てから家ないから、葵の家でかいし住まわせてくれない？」 　邦枝「……え～～ははは八幡が私の家に？！」 　八幡「頼む！じゃなきゃすごいめんどうなんだよ」（いちいち魔界に帰るのめんどいしな） 　邦枝「べべべ別に、いいわよ！」（八幡がうちに来るってこれってすごいチャンスなんじゃ、いやいや、違うわ！これは将来の練習よ練習！） 　八幡「マジか！いやー本当助かるわ」 　千秋「うらやましい」ﾎﾞｿｯ 　寧々「姉さん！いくらなんでもやばいですって！八幡とはいえ男ですよ！」 　花澤「寧々さん焦りすぎしょ、てかマジパネェ」 　邦枝「べ、別に大丈夫だから！それじゃ私達は帰るわね！」 　八幡「おっ、そうか、じゃあ明日からいくからよろしく頼む」 　邦枝「えっええ、ほらいくわよあんた達！」 　ヒルダ「八幡様のいうあてがあるとは邦枝のことだったのですか」 　ラミア「え～、八幡様、あいつの家いくんですか！ずるいですよ！」 　ヒルダ「ラミア、それは私も思うがしょうがないのだ、男鹿の家はもう人が多いからな」 　ラミア「ぶぅ～、わかりましたよ」 　古市「えっ何この展開？クイーンの家いくだけでなくヒルダさんとロリッ子にこの反応をさせ、しかもほかの烈怒帝瑠メンバーも何か悔しそうだったし、まさかハーレムなのか！ずるいっすよ！比企谷先輩！俺も連れてってください、ハーレムつくる方法教えてください！マジで！」 　全員「きもいな」 　古市「…もういいよ…俺はどうせきもいっすよ」 　男鹿「うん、古市がきもいのはいいんだけど、ちょっと助けてくれない」 　古市「はっ、そうだ男鹿大丈、ってきもっ何だその手！近寄んな！」 　男鹿「もう腕がもげそうなんですけど…」 　ヒルダ「まずい！坊っちゃまが興奮しておられる！はやく発散させるのだ！」 　男鹿「発散っつったてどうすんだよ！」 　八幡「何か殴れば戻んじゃない？」 　男鹿「クッソぉぉ！」ﾄﾞｶﾞｧｰﾝ 　古市「……マジで？が、学校が壊れたぁぁぁ！男鹿お前何してんだぁぁぁ」 　八幡「ぷっ、何か面白いわ」 　古市「何を笑ってんだぁぁ、まだ一年の夏休みなんすよ、マジでこのあとどうすんだよ！」 　八幡「どうせ、誰も人がやったなんてわからないだろーが、だから別の学校いかされんじゃね？」 　古市「…確かに、ということは」（この学校の不良どもともおさらばできる上に今時女子高生に囲まれて青春ライフを過ごせるということか？） 　男鹿「はぁ？別の学校？マジかよ、超めんどくせぇ」 　古市「男鹿てめぇ！お前が！この学校を！壊したんだろうが！だから一緒にいくぞ！」 　男鹿「ちっ、しょうがねぇな、それよりいったん帰ろうぜ」 　八幡「確かにそろそろ人が集まるから帰った方がいいかもな」 　男鹿「だろ？ほらさっさと帰んぞ古市」 　古市「わかったよ、だが忘れんなよ男鹿！」 　男鹿「はいはい忘れませんよ、いくぞべる坊」 　べる坊「だ」 　ヒルダ「我々も帰りましょうか、そうだ坊っちゃまの全快祝いと八幡様がこられたお祝いでもしましょうか」 　ラミア「本当ですか！やった！八幡様も一緒にしますよね？」 　八幡「ああ、いいぞ、今日は特に用事ないし昼前に葵のとこに荷物移すだけだからな」 　ラミア「じゃあ決まりですね！」 　ヒルダ「では行きましょうか」 　ラミア「帰りは歩いて行きましょうよ！ほら八幡と手でも繋いで」 　ヒルダ「ふむそれはよい提案だ、そうしよう」 　八幡「俺の意志はまた無視なのね…」　 　続く [newpage] 　今回は男鹿視点が多いので原作っぽいのが多いですがお許しを…ではまた次回お会いしましょう！ 　 　

石矢魔の頂点

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時計を確認して、舌打ちを零す。 今朝卸したばかりの革靴を汚い血で汚されたことよりも、頭の中で組み立てていた１日のスケジュールをずらされたことに苛立つ。本来ならとっくに車に乗り込み目的地付近を走っている予定だった。 「お前等のせいでスケジュールが狂いまくりだ」 「うう………」 何のためにビジネスを早く切り上げたのか分からない。 舌打ちを零し、呻り声をあげて転がっている馬鹿の１人の服で靴の血を拭う。 一滴でも痕が残っていると、意外と目が良いアイツに見つかっていらない心配をかける。上等なブラックオニキスのような瞳に影を落とすのは許さない。 もっと正確に血を拭取るのならハンカチを取り出せばいいが、スーツの内ポケットに納まっているハンカチは照れ臭そうに差し出された、俺の誕生日にプレゼントしてくれた特別な物。 「たんじょうび、おめでと、――――アッシュ」 記憶の中で響く、舌足らずな声。 はにかんだ笑みは頭を抱えたくなるぐらい可愛かった。 ノーブランドのハンカチはアイツが家の手伝いをして貯めた金によって購入されたもので、どれだけ積まれようと他人の手には触れさせない。勿体なくて仕舞っておきたいのが本心だが、使っているところを見せないと大きな瞳から光が弱まり、次第に狭い肩を落としてしょんぼりとするのは可哀想で、使っていると教えれば嬉しそうに笑ってくれるから、その笑顔が見たくてただ入れているだけのくせに使っているアピールをする。 （――――英二、） 脳裏にその顔を想像するだけで心が穏やかになる―――――が、急いで向かわないと間に合わない事実に苛立ちが戻る。 「お前等のせいでアイツの帰りに間に合わなかったらどうしてくれるんだよ」 「うぐ…っ」 「うう……」 英二の何億分の一も価値のない連中を見下ろす。どうして同じ人間なのにこうも違うのか。 「英二の足がプライマリースクールから出るタイミングに一分一秒でも間に合わなかったら、―――どうしてやろうか――――なぁ？」 「ぐふっ！！」 天に持ち上げた足を振り落す。一直線に腹に突き刺せば、唸り声が止む。 「こんなもんで落ちちまったのかよ、根性ねぇな」 スーツの内ポケットに入っていたスマホを人数分取り出す。 仕事終わりに後を付けてきていると思い、車に乗り込む前にわざと囲まれてやったのに、この様だ。 （ショーターへの土産が出来たな） 恐らく俺のビジネスを邪魔したい連中に雇われたのだろう。 個人情報が詰まっているスマートフォンを簡単に手に入れられる場所に仕舞っておくところを見ると、大した相手ではない。フリーの情報屋として重宝しているショーターに渡せばすぐにでも身分は割れる。 腕時計を３回軽く叩いてワンコール鳴らし、すぐにスーツに戻す。伸びているこいつ等の後始末をしている時間は無い。俺のエリアを侵しておいて遊びでしたでは済まされない。 何かの偶然が重なって英二が危ない目に合うことになったら、“偶然”では済まされない。 万が一、億が一、起こり得る英二への危険の種は全て摘み取る。 （――――ようやく英二の迎えに行ける） 駐車場に停めておいた車のエンジンをかけ、ボタンを操作すればスピーカーからノイズが響き出す。 徐々に音声へと変わっていき、最初にはっきりと聞き取れたのは英二の教師の声。 （ホームルーム中か、裏道を使えば間に合うな） 教室と英二のデスクに取り付けてある盗聴器は最新式で些細な音でも掬い上げる。 教師の問いかけに、元気よく返事をする英二の声が聞こえてきて、口元に薄い笑みが浮かぶ。 さっきまでの苛立ちがゆっくりとやわらいでいく。 英二がカッコいいと褒めてくれる“アッシュ”の表情に戻さないと、英二が不安がる。 （アイツの前に行けば自然に顔が戻っちまう） 『英二、今日のテストはクラスで１人だけパーフェクトでしたね』 『あ、ありがとうっ』 上擦った声で英二が礼を言えば、拍手の音が聞こえてくる。 （頑張って勉強したかいがあったな） 数字のミニテストがあるからといつも以上に張り切って勉強をしていた。 分からないところを教えてほしいと上目遣いで頼ってきた英二に、勿論断るはずもないが、満点を取れたら褒美が欲しいとわざと強請れば、英二は触れたら柔らかいと知っている黒髪を揺らして小さな頭を傾げる。 「ぼくがアッシュにプレゼントするの？」 「勿論俺も英二にプレゼントをする。英二から俺には、ティーチャーをしたご褒美ってやつだな」 「わかった。まんてんとれるようにがんばるね」 あっさりと大人の口車に乗せられる英二に若干の不安を覚えつつも、純粋無垢な英二を騙せるような奴は俺以外近寄らせなければすむ話だ。 （さて、ご褒美は何にしようか） ハンドルを握りアクセルを踏み込みながら、楽しい想像で脳内を満たす。ビジネスのことを考えている時とは全く違う感覚は、恐らく幸福と呼ぶものだろう。 車が通行できる路地裏も使い、英二の通うインターナショナルのプライマリースクールまで一番の近道を走る。 一際大きな時計塔が見えてくれば、スクールのすぐ傍になり、送迎の車が増えてくる。 教師がホームルーム終了を告げると、バタバタと駆け回る音が大きくなり、音声を切る。 英二もすぐに校舎から出てくるだろう。 ふう、と呼吸を吐いて、英二が出て来るだろうゲートの一番傍に車を寄せる。 エンジンを切り、ゲートへと真っ直ぐに視線を送る。 （早く帰ってこい、―――――俺のエンジェル） ＊＊＊＊＊ ビジネスの手腕に長けた父親の能力と政府高官の娘でトップモデルまで上り詰めあっさりと専業主婦になった母親の美貌、両者の良い所を上手に受け継いだと言い続けられてきた。 負け犬の言葉だと取り合うことはない―――――才能も、生まれる場所や環境も全ては運だ。人間は生まれ落ちた時点から優劣や勝敗がすでに決められているのだと、幼い頃からずっと思い続けてきた。ただ俺は“今回”はウィナーに選ばれただけだ――――――何故“今回”と思うのかは分からなかった。 外から見れば恵まれているらしい環境にも、満たされない感覚が常に付き纏う。 飛び級制度を使いトップの成績で高校に入学した時も、全米一優秀と謳われるハーバードで最優秀生徒として表彰を受けた時も、嬉しいと感じたことも、満足感を得たことはなかった。 周囲を取り囲む友人という名前をぶら下げた連中にどれだけ褒め称えられても、ただ張り付けた笑みを返すだけだった。 唯一の救いは、両親がそんな俺に無理強いをさせることなく、好きなことをやればいいと全てにおいて自由を許してくれることだった。 「アッシュはきっとまだ出会っていないのね」 「母さん？」 「いつか貴方の中の足りないピースを見つける瞬間がやってくるわ」 誰もが羨む地位を得て、まだまだそこに君臨し続けられたはずなのに何の躊躇いもなく捨てた母さんは、透き通るプラチナヘアー、宝石と呼ばれるグリーンアイ、汚れのない白磁の肌、二十歳を過ぎる息子がいるようには思えない美貌で微笑んだ。母さんもずっと自分の中に足りなかった何かを抱えながら生きてきて、その足りなかったものが、父さんだったのだろう。 ハーバードを卒業前に、大学院に進学するかビジネスを起業するか考え始めた時、父さんから会社へ呼び出しを受けた。父さんが実業家として幾つもの会社経営に携わる中で最もメインに動かしている会社だった。 ヘッドオフィスのソファに顔を突き合わせるように座ると、父さんは選択肢の中に自分の会社を継ぐことも入れなさいと告げた。まだ現役で働き続けると思っていたから、かなり驚いた。 「今すぐにというわけにはいかないがお前が引き受けてくれるのなら徐々に経営譲渡を進めていきたい」 「随分と唐突だな。早過ぎると思うが」 「はは、そうでもないさ。……それに、母さんとゆっくり過ごす時間が欲しくてな」 「そっちが本音じゃねぇか」 母さんに親子よく似ていると言われる笑い声で父さんが笑う。すぐにその笑みを抑えて、瞳の奥を鋭く光らせた。 （息子に向ける目線かよ） ビジネスの対等な相手として扱ってくれているのだと伝わってくる。 「但し、わたしの事業を継ぐということは、もう１つの顔も継いでもらうことになる。分かっているな、アッシュ」 「……武器商人。知っているさ、とっくにな」 「さすがだな」 表向きは実業家として名を馳せていた父さんがもつ裏の顔は政府にも通じる武器商人だった。普通に調べただけだと情報として全く出てこない。幾つものダミー会社を隠れ蓑にしている。 グランパの時代から事業は始まっているらしい。 「ＮＯと言ってもいいのか」 「勿論。無理強いでやるほど安い物ではない。欲しがる相手は山ほどいる」 「そうだろうな」 息子だからと、優秀だからと、自分が築き上げてきた物を無条件に譲る人ではない。 （まぁ、それでも面白みはあまり感じられない） 「アッシュ。お前に紹介したい人がいる。このままわたしに付き合いなさい」 「……分かった」 引き受けるか断るか、父さんに付き合ってから答えを出せばいい。会社の前から乗り込んだ車はしばらく走ると見慣れた景色を窓の外に映し出す。 ニューヨークの一等地と呼ばれるハイグレードの住宅街。 高台に広がる広大な土地に建つ住宅自体は少ない。 家の大きさもあるが、どの家も警備のためにゲートからハウスまでの距離を広くとっている。父さんと俺を乗せた車はガードマンが両脇に数人立つゲートの中を入っていく。 もう少し先に行けば、うちのメインハウスがある。ゲートから入って５分ほど走ったところで、ゆっくりと停車する。 開けられたドアから降りれば、目の前に飛び込んできたのは、ジャパン式の建築物だった。 （うちの近くにこんなハウスが建っていたのか） 「ミスター、お待ちしておりました」 にこやかな表情を張り付けた男が俺達を出迎えた。 （随分物騒だな） 上手く隠しているつもりらしいか、体躯の良いダークスーツの内側にリボルバーが収まっているのが分かる。こいつもガードマンか、だが下っ端には見えない――――下っ端ではない人間がリボルバーを携帯している、どんな人間が住んでいるハウスなのか。案内される家の中は、本でしか見たことのないジャパン装飾に満ち溢れていた。 「ニューヨークでも珍しい日本家屋だろう。ボスの奥方がジャパニーズで、暮らしやすいように建て直したらしい」 「ボス？」 「お前も知っているだろう。ニューヨークを取り仕切る男の名前を」 「……マフィア、か」 武器商人がマフィアとつるんでいても不思議なことじゃない。 ニューヨークは華やかな観光地の面と、裏で暗躍する人間たちの取引場所としての面を持つ。 ホワイトハウスにも権力が及び裏を取り仕切る人物が、このドアの奥にいるらしい。 「ボス、お客様をお連れしました」 リボルバーを携帯する男が引き戸を開ければ、タタミが敷き詰められた部屋の中央に置かれたソファに白髪の男が腰かけている。その奥にも誰か座っているらしく、タタミにつかない細い足をぶらぶらと揺らしていた。 （子供、か） 男の陰に隠れるようにいる子供の顔を見る前に、穏やかに笑う男がソファから立ち上がる。 「よく来たな」 「元気そうだ」 「お互いにな」 ビジネスの関係としては親しそうに父さんと握手を交わしながら、男のダークブラウンの瞳が俺を捉える。 全てを見透かされそうな感覚は久しぶりだが、恐ろしさは感じない。 この手の目線には昔から恐怖を抱かなかった。 頭を下げると、父さんが俺の肩を軽く叩く。 「アッシュ。こちらがニューヨークを仕切る、―――――ああ、エイジもいるのかい」 「ちょうどさっき帰ってきたんだ。おいで、エイジ」 男の声が柔らかくなって呼ばれた子供が、ソファからぴょこりと降りて、男の隣に恥ずかしそうに立つ。 「…こんにちは、はじめまして」 母親の血を色濃く継いでいるのか、見た目はジャパニーズだ。 男の膝の高さしかない小柄な子供を見て、心臓がどくりと大きく跳ねる。 （なんだ――――） 柔らかそうな黒髪、零れ落ちそうな大きな目の奥は宝石が散りばめられているように輝く。俺に向けて真っ直ぐに向けられた、緊張していそうな表情がゆっくりとやわらいで、小さく微笑む。 『その銃…ホンモノだよね？』 脳内で映像が色濃く浮かぶ―――――これは、こいつは、幼く見えるジャパニーズの男と目の前の子供が被る。 「っぁ……―――――――」 頭が、割れそうに痛み出す。 いや、違う――――脳内の奥深い場所が暴かれていく感覚。 俺の知らないはずの景色や人物がぐるぐると浮かび上がってくる。その中で一番現れるのは、ジャパニーズの男だった。 （誰だ、誰だ――――お前は……） 「アッシュ？」 「っっ…く…っ、ううぁ…っ……！」 「どうしたんだ、アッシュ…！」 「おい、どうした」 父さんの慌てた声と、男の警戒する声。 頭の痛みに耐えきれず、崩れ落ち、畳に両手と膝を付く。 「はぁ…、はぁ、はぁ…ッ、」 『アッシュ、アッシュ…、』 塗り潰されていた一番大事な“何か”が俺を呼ぶ。 『―――――アッシュ、』 そんな悲しそうな声で、呼ぶな。 （……じ、英二、英二……―――――！） そうだ――――俺の一番大事なもの。 出会ってから一緒にいられる時間は少なかったが、英二は俺の全てだった。最期に見たのは、泣き顔だった。本当は、笑っていてほしかった。 俺が揶揄って拗ねるように笑う顔も、失敗して恥ずかしそうに笑う顔も、会話の中で見せる笑顔も、俺の名前を呼んで笑う顔も全てがいとおしくてたまらなかった。 ――――――愛していた、英二を、最期の一時まで。 「エイジ…！」 ぱたぱたと子供が駆け寄る音が響く。 「だいじょうぶ…？あたま、いたいの？」 「っ……」 男から離れた子供――――英二は、小さな掌を躊躇いがちに俺の頭に押し当てる。心配そうに覗き込む表情は一緒だ。 俺をずっと心配し続けていた、オニイチャンと。 （全部、思い出した……という言い方が正しいのか） 今までの人生の記憶の何倍も濃い記憶がもう１つ増えた。 これは、所謂前世の記憶というやつだ。 ずっと抱え続けてきた喪失感と満たされなかった充実感がやわらいでいる。 （こんなに濃すぎる人生があったと分かれば満足するだろう） 俺の前の生は、アッシュ・リンクス――――アスランというのが本当の名前だった。 ニューヨークの裏で生きるストリートギャング。 親に捨てられ、体を売らされ、笑いが出るほど屑な人生の中で、唯一得た光が、英二だった。 痛みとほど遠い平凡な生活を送っていたアイツがたまたまニューヨークにやってきて俺に出会っちまったのが英二にとって不幸だった―――――そう言うと、記憶の中の英二がぷりぷりと怒り出す。 僕は不幸なんかじゃないと言いたそうに――――。 「いたいの、いたいの、とんでいけ！……まほうのことばだよ」 だいじょうぶだいじょうぶと、英二の大きな目が訴えてくる。 （ああ、英二だ。英二と同じだ） エイジは、“英二”の生まれ変わりで間違いない。 （どれだけコイツを失いたくねぇんだ、俺は） “アッシュ”の“英二”への執着心は、生まれ変わっても、英二の魂の傍を選んだ。そっと、その手の甲に触れると柔らかすぎる感覚に、改めて子供なのだと感じる。 目の前にいる英二は、どんな顔をして怒るのだろうか。 「……大丈夫だ、ありがとう。驚かせてすまない、英二」 「うん。……えっと、」 「アッシュだ、英二」 「アッシュ、」 俺の名前を甘く響く声にのせる。可愛い。 “英二”の時は時折しか感じなかった可愛らしさを、目の前の英二にはずっと思っている。 「ボス、取り乱して失礼しました」 「アッシュ、大丈夫なのか」 「父さん、悪かった。もう大丈夫だ」 英二に出会って前世の記憶を思い出した衝撃で倒れた――なんて言えば病院に連れて行かれるだろう。俺も、前世の話を他人が言い出したら、相手にしないで鼻で笑う。これは、誰にも言うことのないシークレット。唯一伝える相手がいるとしたら、記憶を取り戻すかもしれない、成長した英二だ。 「わたしの跡を継ぐ前に、ボスの元で学ばせてもらいなさい」 「優秀な男だと聞いている。うちの事業の手伝いをしてもらいたい」 ソファに座り直して、父さんが話を切り出す。 ニューヨークの裏の頂点に立つ男の隣に座る英二に視線を送れば、ブラックオニキスの瞳が嬉しそうに笑う。 「是非。ボスのところで働かせてください」 「アッシュ…？」 「勿論、父さんの事業も継ぐよ」 俺の態度に戸惑いを隠せない声音で父さんが呼ぶ。 今まで何にも興味を持たなかった息子が、突然やる気を見せ始めたのだから当然だろう。 「３か月でＡ地区の事業を立て直します」 「……どうしてＡ地区を任せると分かった」 ボスの声が、静かに響く。 瞳の奥に僅かな警戒心が見えるが、構わない。 Ａ地区は栄えているように見えるが、事業自体は滞っている。 アメリカ全体に言えることだが、チャイニーズマネーが流動してきてビジネスの邪魔をしている。 「情報は全部この中に入っていますから」 とんとん、と頭を指先で叩けば、ボスはゆるりと笑う。 「本当に恐ろしいほど優秀な男だな」 「我が息子ながらそう思うよ」 「―――――その代わり、」 満足そうに会話を交わすボスと父さんの会話を遮る。 「その代わり？」 ソファから立ち上がり、ちょこんと座っている英二の足元に膝を落とす。 「え…」 「英二、」 大きな瞳が驚きを隠さずに俺を映す。 英二の髪を撫でれば、擽ったそうに笑う英二がキュートすぎる。 「おい――――」 ニューヨークを取り仕切る男は、これまでで最も鋭い表情を張り付けている。 「英二の傍に置いてください」 ボスの身に纏う気配に怒りが滲む。 「アッシュ…お前…一体どうしたんだ…」 撤回しろと言わんばかりに父さんは慌ててソファから腰を浮かす。父さんには悪いが、英二の傍にいるためなら手段は択ばない。 「どういうことだ、アッシュ」 「ただ英二の傍に。それだけです」 「………」 男の視線から逸らさずに対峙する。 どうして英二を求めるのか、説明しても理解出来ないだろう。 事実を説明するつもりもない。ふうとボスが息を零す。 ダークブラウンの瞳は僅かに緩んだ。 「エイジ。少しここで待っていなさい」 「う、うん」 「アッシュ、来い」 「わたしも行こう」 部屋に１人残される英二が不安そうに俺を見つめる。 小さな手をぎゅっと握る。 「英二。すぐに戻ってくる。戻ってきたら、ずっと一緒にいる」 突然現れた男だというのに、英二は俺の手に脅えることも振り払うこともなく、寧ろ子供の力で握り返してくる。 英二に受け入れてもらうのは、２度目だ。 「うん。…アッシュ、ちゃんともどってきてね」 「……ああ」 英二から戻ってきてと言われる喜びが体中に満ち溢れる。 生まれ変わっても、記憶が無くても、幼い姿でも、英二は変わらないと改めて思い知る。 ボスに連れられてジャパニーズハウスの中央にあるガーデンに出ると、父さんと俺を案内したダークスーツの男の後ろに、俺の倍以上体の厚みがある男たちが５人並んでいた。 「この者たちが英二のガードをしている。全員と組み手をして倒したら英二の傍にいるのを認める。どうだ？」 ボスの提案にすぐに内容を理解したのだろう、連中に緊張が走る。俺に負ければ、コイツ等は職を失う。 「是非」 俺が頷くと、感情が無かった連中の表情に微かな怒りと殺気が生まれる。自分より細く小柄でいかにも軟に見える男女に負けるはずがないと言いたいのだろう。 スーツのジャケットを脱ぎ落とし、シャツのカフスを外して袖を捲る。 「本気でやって構いませんね」 「ああ。……止めないのか」 「止めてもやめる息子じゃないからな」 ボスの言葉に肩を竦める父さんを確認し、やる気になっている連中に向かい合う。 「――――早く終わらせようぜ」 中指の関節くいくいと揺らせば、連中が一斉に襲い掛かってくる。実力差は明らかなのに頭の弱い奴らだ―――――冷静さを失っているなら尚更やり易い。 （悪いな、本気でやらせてもらうぜ） 自分の身を守るためと習わされていたあらゆる格闘技は、少し習うだけで教えていた人間と倒す力を身に付けた。 数分後、唸り声をあげて地面に沈む連中を見下ろしジャケットを羽織り直し、関心するボスと父さんを残して部屋へと戻る。 「アッシュ…！おかえり！」 「英二、」 ソファから飛び降りて抱き着いてくる小さな体を受け留めて、誓う。 （もう二度と離さない、離れない） 壊さないように幼い英二を壊さない力加減で抱き締めれば、小さな掌が俺の背中にまわる。抱き締め返される温もりの力の強さが、記憶の中の英二と変わらずに感じて、目尻が震えた。 ＊＊＊＊＊ ボスが愛息の英二のために用意した送迎用のＢＭＷ。ボディを強固にし、窓ガラスは大抵のミサイルでも跳ね返す防弾仕様、車体の左右には迎撃用ミサイルも装備されている、運転席から降りると、学校と外を区切るゲートがガードマンの手によって開かれて、アフタースクールにはしゃぐ子供が飛び出てくる。着ているのは指定のユニフォーム、セーラー風のシャツにサスペンダー、膝が見え隠れする丈のショートパンツ――――中身が違うだけで印象は全く違う。 （英二が一番可愛い） 送迎の度に毎度思うことを今日も思って、助手席のドアを開けて英二を待つ。このスクールのゲートは出るのは簡単だが、入る時にはバッグに埋め込まれているチップと学校から持たされているタブレットのＩＤで確認される。 様々な国の外交官や政府要人の子供が通うナショナルスクールは敷地内で国ごとにクラスが分かれていて、英二は去年からプライマリーのジャパンクラスに通っている。 英二と初めて出会った日から１カ月後にはボスが満足する結果を出し、英二のボディガードとして送迎や身の回りの世話をしながら、父さんの事業の引継ぎも行っている。 英二を、ナショナルスクールに通わせると決めたのはボスだった。 日本語も話せるように、家の中で日本語を話せるのがボスの奥方であり英二の母親しかいない環境を変えたいとボスの要望で、ニューヨーク、アメリカ中のナショナルスクールから俺がここを選んだ。 ジャパンクラスの人数は十数人しかいないのも利点だった。 本来ならば身分のしっかりとした人間の子供しか通うことの出来ないスクールだが、入学金に学校への援助の金を加えればすぐに入学は認められた。 英二がボスの息子というのもあっただろう。 「……――――」 小さなローファーが地面を蹴る音が聞こえてきた。 聞き慣れたそれは、間違いなく英二のものだ。 ――――英二が俺のもとへ帰ってくる。 「さようならっ」 ゲートに立つガードマンに挨拶をする声。 ダークオニキスの大きな瞳が零れ落ちそうになるぐらい大きくなって俺を捉える。 真っ直ぐに俺を見つけた英二は心底嬉しそうに笑う。 世界一の笑顔を浮かべて走り出す。 「アッシュっ」 俺には一歩の歩幅でも、子供の英二の走りは中々前に進まない。 ふうふうと、チェリーのように色付く唇で呼吸を吐き出す。 「英二、急ぐな！」 小石や地面に足を捕られて転ぶのではと心配でたまらない。 “英二”は運動能力が高かったが、幼い英二は今のところ正反対だった。 「わ…っ！」 迎えるために長いスライドで近付き始めると、俺の予感が的中する。 ローファーの爪先をコンクリートの穴に引っかけ、英二の小さな体が前に傾く。 「英二……っ――――」 更に深く足を踏み込んで英二の目の前に体を滑り込ませる。 腕を広げ、落ちてくる英二の小さな体を受け止める。 俺の腕の中に英二はすっぽりと収まった。 「大丈夫か、英二」 「……ぁ…」 そろりと俺の腕から顔を上げる英二はぎゅっと閉じていた瞳を持ち上げる。 すぐに慌てるように頭をぺこぺこ下げ始めた。 「ご、ごめん…っ、アッシュっ、」 「謝らなくていい。痛いところはねぇか」 柔らかな黒髪を整えながら撫でつける。 「な、ない」 「なら、いい。気を付けろよ」 俺がいる時なら助けられるが、そうでない時のことを考えると、学校に通わせてやれなくなる。 「きをつける。……あ、」 力強く頷いた英二の目が悲しそうに目尻を落とす。 「アッシュのようふくが、よごれちゃった…」 英二を抱き留める際に地面を擦ったジャケットに汚れが見える。 小さな体に傷を付けずに済んだのだからスーツの１着や２着安いものだ。 「ごめんなさい、」 「英二」 こつりと幼い額に、額を押し当てて重ねる。 「服は洗えばいい。すぐに綺麗になる」 零れ落ちそうなほど大きい瞳に浮かんでいた緊張と恐縮が薄くなっていく。 英二は細い腕を俺の首にまわしてぎゅっと抱き付いてくる。 「アッシュ、あのね……だいすきだよ」 「…ん」 甘い声で響く感情をそのままにのせた言葉を送られて、心臓が熱くなる。 躊躇いも無く好きと言われるのがたまらない。 ありがとうと呟いて、俺から離れようとする英二を掬い上げるように片腕に抱いてそのまま立ち上がる。 「アッシュ、ぼく、じぶんであるくよ」 俺の腕の中で小さく抵抗する英二の後頭部にキスを落とす。 「今日だけだ。また転んだりしたら大変だろう」 「う、うん」 英二を抱きかかえ、反対側で学校指定の黒紺のバッグを英二の背中から降ろす。 クラスメイトも通る場所で英二は気恥ずかしいのか俺の肩に隠す様に顔を擦り付けている。 可愛さが空を突き抜ける英二の、柔らかい後頭部にキスの雨を降らせたい気持ちを抑える。 「………」 気分が悪くなる視線をあらゆる方向から感じ出す。 自分の子供を、主人の子供を迎えに来ているくせに欲を隠せない連中だ。 金持ちほど悪趣味な人間が多いのは思い知らされている。 アメリカ人の血が混ざっていると思えない純粋すぎるジャパニーズの英二が珍しいのか、不快感しか覚えない視線にたいして、鋭く睨み付ければすぐに逃げるように逸らされる。 （怯えるぐらいなら最初から見るんじゃねぇよ） 汚い欲が混ざる眼差しに英二が晒されるだけで、反吐が出そうになる。 前世の記憶にこびり付いている感覚だ。 自分に向けられるならまだしも、英二になんて絶対に許さねぇ。 柔らかく甘い香りがする英二の髪に顔を寄せ、苛立ちを落ち着かせる。 抱き上げた大切な体を、開けたままの助手席に座らせる。 「ドア閉めるぞ」 「うん」 シートベルトを着用させて英二が満足する場所に座ったのを確認してからドアを閉める。 俺の目の届く場所に英二がいる。 英二と出会って２年以上経つ今も、失うことへの恐怖が常に纏わりつく。 （先に失ったのは、―――英二のはずなのに、な） 運転席に戻り、エンジンをかけると英二が可愛い声で話し出す。 学校から出たら英二は日本語を使う。俺との会話は基本的には日本語になる。 英二と話をするために日本語をマスターした。 英語にはないニュアンスや言葉遣い、英二が響かせる言葉は可愛い。 「すうじのテスト、まんてんだったよ！」 嬉しそうに報告する内容は既に知っているが、今初めて知ったふうに取り繕う。 「そうか。頑張ったじゃねぇか」 「うん。でも、アッシュがおしえてくれたからだよ」 「英二が一生懸命頑張ったからだ」 信号で止まり、腕を伸ばして英二の頭を撫でれば、幼い表情が幸せそうに笑う。 それからも、英二は日本語で今日学校であった出来事を教えてくれる。 プライマリースクールに入学してから２年、英二は楽しく通っているらしい。 本心から言えば、学校なんて通う必要はないと思っている。 勉強なら俺が教える。 だけど、こうやって楽しそうに話す英二を見ると、学校に通うのは正解なのだろう。 鳥籠に仕舞いたいと訴える心の内を抑えながら、英二の楽しいスクールライフが続けばいいと思うのもまた本心だった。 （続く）

原作最終話のネタバレ有、ねつ造もいっぱい入っておりますので嫌いな方はご注意ください<br /><br />２人を幸せにしたいお話シリーズ第二弾<br />どのジャンルでもやっちゃう攻めボディガードと受けショタのお話<br />アッシュ視点で進んでいきます<br />英二がプライマリースクール（小学校）に通う２年生（７歳児）になっています<br />合わせて嫌いな方はご注意ください<br /><br />幸福の在り処でこの続きを発行します<br />Ａ５ Ｐ３０ 全年齢 ４００円<br />スペースは、い１９ａ『ＫＡＥＤＥ』になります<br />よろしくお願いします<br /><br />とらのあなで予約が始まりました<br />告知が遅くなり申し訳ございません<br /><a href="/jump.php?https%3A%2F%2Fec.toranoana.shop%2Fjoshi%2Fec%2Fitem%2F040030667702%2F" target="_blank">https://ec.toranoana.shop/joshi/ec/item/040030667702/</a>

DEAR SWEET ANGEL（A英）

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前回のあらすじ 新一君が新一君でした。 宮野志保ちゃんゲットだぜ。 季節は廻り―…嘘です。とりあえず、残暑も和らぎ徐々に木々も秋めいて来たとある日。 そしかい前に解毒薬が出来ました。 元々の毒が手元にある状態で、幼児化してない志保に、快斗の頭脳と阿笠の技術、ついでにノアズ・アークまで加われば当然の結果だろう。 そもそも公安警察の公式の記録では高校生の工藤新一を保護しており、小学生の江戸川コナンは保護されていない。 幼児化した云々の記録は最初の数日こそ記録があったそうだが、ヒロキ並びにノアズ・アークの手でそれらの記録は完全に削除されており、以後追記されていないことも確認済みである。 組織壊滅作戦の現場に参加しろとは言われていないが、降谷を通してアレコレ資料等を纏めており、作戦によっては新一が考えた…というか、過去の作戦で失敗ないし不利に働いた部分に手を加えた物が採用されていたりもする。 世間的には一般人でも警察内ではブレーンとして扱われることもある新一に、作戦本部に居て欲しいという希望もあるらしい。 というか、やばい事件＝今回の組織がらみと上層部に伝わってしまっているので、ぶっちゃけてしまえば連絡先を交わしている面々から、いい加減安否確認させろという圧力のようだ。 『という訳で、覚悟は決まりましたか新一君』 『い・や・だ！！』 『嫌かー』 目の前に置いてある1錠のカプセルと水が入ったコップ。 これを飲めば元の高校生の体に戻れるのだが、コナンはぐっと自分の左手で右手を押さえたまま動かない。 『左手の主導権をとられるとは、恐るべし新一君の執念』 『執念って何だよ！オメーが簡単に死ぬとか言うから悪いんだろうが！』 『いやいやいや。誰も死ぬなんて物騒なこと言ってないよ。元に戻るだけじゃん』 『でも、お前が消えるんだろ！お前を殺すことと何が違うんだよっ』 『違うよ全然。全く違う。元に戻るんだよ。[[rb:オレという一部を含めて > ・・・・・・・・・・・]]、工藤新一に戻るんだ』 『………っ』 『大丈夫だって。この世界は前とは違う。なんたって明美さんや景光さんが生きてる。それだけじゃないよ。新一君が事件を未然に防いだおかげで生きてる人や殺人犯にならなくて済んだ人だって居る。だから、元に戻ろう』 『オレは…！』 「降谷さーん。そのカプセルオレの口に放り込んでくれませんか？」 『は？！』 ぱっと離れた左手を、今度は右手がぐっと掴む。 「これから薬を飲むって態々僕に宣言して、リビングに薬を用意したのはこのためかい？」 「解毒薬だって分かってても体が伸び縮みするの漫画だとすっげー苦しそうだったんで、なかなか踏ん切りがつかないんですよね。なので一思いにぐっと！」 服を破らないよう、大人用のぶかぶかな検査衣を身にまとった状態で、雛鳥のようにあっと口を開けるコナンに、降谷は何ともいえない顔をして薬を手に取った。 薬を持っていない方の手でぐしゃぐしゃとコナンの頭を撫でた降谷は、頭に手を添えたままコナンの口に薬を放り、すぐコップの水を飲ませてやる。 ゆっくりと喉が動き薬を飲み込んだのを確認すると、降谷は静かにコナンから離れた。 『コナンッ！！』 新一の声と重なるようにドクリと心臓が大きく鼓動する。 千切れるような体の痛みと、荒くなる呼吸に、コナンと新一は刈り取られるように意識を失った。 日本警察が主導となった黒の組織壊滅作戦は、恐ろしいほどの情報で警察組織側は負傷者こそ出た物の死者という快挙で成功を収めた。 その作戦成功の鍵は多くの幹部を事前に確保していた事もあるのだが、そんな作戦の中心人物が実は1人の高校生だと知っている者は少ない。 「降谷さん、オレはいつになったらこの部屋から出られるんですか？」 「僕としてはそろそろ良いと思うんだけど、上がね」 「快斗が黙認されて、なんでオレだけ……」 「怨むなら、君のその恐ろしい人脈をってところかな」 クッションを抱き込むようにソファーに座ってむくれる新一の前に、コトリと音を立てて置かれたマグカップ。 中身はたっぷりの牛乳が入ったカフェオレで、きゅっと新一の眉間に皺が寄る。 「さっきからブラックばかり飲んでるからね。これ以上は胃にも良くないよ」 「だからってカフェオレにしたくても…」 くつくつと笑う降谷に、新一は何とも言えない顔をしてカップに入ったカフェオレを口に含む。 先ほどまでのブラックと違い、まろやかになった苦みとミルクの甘さが口の中に広がり、新一の眉間に皺が増えた。 『コナン、交代』 『カフェオレが嫌だか交代とかあり？！』 『違う。降谷さんからご指名だぜ』 『は？！ちょ、うおぁ？！』 改めて口の中に広がった味に、ふぅとため息をついて降谷を伺う。 まるで安室透よろしくにこにこと笑っているが、この笑顔が曲者なのだと何度味わったことか…。 「降谷さん…」 「なんだい？[[rb:コナン君 > ・・・・]]」 「何か事件で行き詰ってるなら、オレはあんまり力に成れないと思うんですが」 「[[rb:君 > ・]]が纏めてる資料の件で確認したいことがあってね。新一君と話すのは二度手間だろ？」 「前も言いましたけど、オレだけで纏めてる分については、記憶が曖昧な部分も多いから話しても混乱も招くだけかもしれないですよ？」 「分かってるさ。新一君が絡んでる資料とそうでない資料の情報量の差は凄いからね」 『どうせオレの記憶力は曖昧だよ！』 『まーまー。その辺り分かった上で情報寄こせって言ってんだから良いんじゃないか』 『君はどっちの味方なのかな？！』 『この件に関しては降谷さんだな。オメーの情報、差が激しすぎるし』 『20年以上続いてる漫画の内容詳細に覚えてるほど、ガチ勢じゃなくてわるかったですねぇぇ！』 高校生の姿に戻っても人格が戻らなかったことに喜びの涙を流してくれた新一はどこへ行ったのか。 しかも、降谷だけでなく快斗や景光にもコナンと新一は別人格と気付かれていたと聞かされ、頭を抱えたくなった。 快斗曰く、幼いころからその兆候はあったのだとか。二重人格形成おめでとうって、どんな賛辞だ。 「さぁ、時系列はどうでもいいから、とりあえず覚えてることを洗いざらい話そうか」 「事情聴取？！」 ずらりと並べられた資料を前に降谷が浮かべる笑みは、警察官のそれではない。 『新一君っ！バーボン、バーボンが顔を出してるんですが？！』 『オメーが何か重要そうな情報を中途半端にだしてんだろ。頑張れ』 完全に他人事として手を貸してくれる様子もない新一に、ひくりと頬が引きつる。 黒の組織は壊滅したが、平穏が訪れるのはもう少し先になるらしい。 The End [newpage] ここからは、簡単なキャラ紹介 ■成り代わり主 高校生に戻っても消えなかった。 一応新一の振りをしていたのだが、幼児化した後で顔を合わせてる面々には全員別人格と認識されていた。 コナンの頃と違って人格のスイッチが可能になったが、そしかいの作戦現場では一切表に出てこなかったので、他の人々にはバレてない。 元に戻って第一声「あれ、オレ消えなかったね？」と言って新一をガチ泣きさせた。 ■逆行してた工藤新一 コナンが消える＝人を殺す。といった認識。 元の世界で誰かの犠牲ありきで作られた作戦を実行したことから、大分トラウマを刺激されてた。 そしかい時の作戦で警察内に信者を増やし、そのため残党処理が終わるまで外出できなくなったと言う事実を知らない。 なんだかんだで人たらし。 ■降谷零 元々の新一については報告を受けてたのでコナンと会って？ってなってた。 受け取る情報の落差に何かあるなと思っていたが、まさか二重人格とか思ってなかった。 受け取った情報から新一側にも何かるなとは気付いているが、特に触れる予定はない。 新一と親しくなった関係で、直属の上司すっとばしてだいぶ上の方からの覚えがめでたくなった。 コナンから報告されているまだ起こってない事件については、可能な範囲で未然に防ぐ所存。おまわりさんですから。 ■景光 元々新一とも親しかったのでコナンと対峙してあれ？って思ったけど、幼児化するんだし何でもありかと納得した、とっても思考回路が柔軟な人。 降谷とともに上からの覚えがめでたくなった。 警察内では一応、降谷の部下。今後どこで拾ってきた？！って情報に翻弄されることになる。 ■黒羽快斗 コナンに驚かれて、何年幼馴染してると思ってるんだと怒った人。 しかし、別人だと確定した理由がコナンの鼻歌が音程外さなかったからと聞かされて、新一に本気で殴り掛かられた。 だって確定情報じゃないか。 そしかい時になんやかんやあって怪盗キッドは卒業できました。 ■あとがき的ななにか こんな未熟な話を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。 ネタとして考えたまでは良かったんですが、上手く文章に纏められずに話が飛び飛びで申し訳ないです。 長編が書ける方を本気で尊敬します。 つたないですが、本編これにて終了となります。 後半失速する中、沢山の方に呼んでいただき本当に励みになりました。 旬ジャンルすごい…。 成り代わり主がちっともシリアスにしてくれない残念な話でしたが、少しでも楽しんで貰えたら幸いです。 元々が降新で考えてたネタを進めながらCPなしでも良いなと修正していったので、番外編はちょっと勘弁してください。 （どうあがいても腐ネタを入れたくなるので…） もしかしたら、その内同じネタで腐向けに焼き直しするかもしれません。 その時はコイツ懲りずに…と笑ってやってください。 次回作（？）は、一応腐向けになります。（成り代わりではないです） 今度こそ降新を！と意気込んでるのですが、はたしてどうなることやら…。 女の子を沢山書きたい← 本当にありがとうございました！ 良ければ次もよろしくお願いします。

工藤新一の逆行＆成り代わり。<br />これにて本編終了となります。<br />最初考えていた物と着地点が変わってしまいましたが、完結できた事に満足です。<br />沢山のブクマ、コメント本当に励みになりました。<br />着地点の関係もあって、多分番外編は書けません。ご了承ください。<br /><br />コナン知識は初期原作＆アニメと映画だけなので、最近の情報ぶれぶれです。<br />なお、その原作も手元にない＆記憶あやふや＆そもそもトリックを考えるだけの頭がない(致命的)ので、ふわっふわの緊張感()な作品となります。<br /><br />誤字脱字、なるべく確認してますが見つけたら教えてやってください。

そうだ、警察に行こう１１（終）

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昔の話をしよう 5歳の頃私は軽い虐めに遭っていた。 イギリスに住んでいた私という日本人はどうも異端に見えてそれを取り除くための暴力を振るわれていた。 訳もわからず虐められれば5歳の幼女は泣くと思う。けど私は泣かなかった。何故か。私が前世の記憶というアドバンテージを持っていたからである。 前世では日本の極一般の家庭で極一般の生活をしていた。少し変わった事といえば持病持ちだった事。20歳を迎える前に病死した女だった。 生まれた時に理解した前世の記憶は忘れる事はなく5年生きてきた。親は私がこの歳で達観していることに不審がっていたが「女の子は成長が早いから」という理由で普通に育ててくれた。そんなんで大丈夫か。 おっと話が逸れたね。まぁとりあえず前世の記憶があると言うことを言いたかったのだ。 あれはいつものように怪我を負わされて大好きなテニスラケットを握り締めコートで蹲っている所。私の運命を変える人がそこに立っていた。 「大丈夫？」 心配気にかけられた声に恐る恐る顔を上げれば天使がいた。 「…大丈夫？」 透き通るようなきめ細かな白い肌に、私と同じ黒い髪なのにどこか違う雰囲気を出している少し長い髪、翡翠のくりくりとした大きな瞳は吸い込まれそうな程綺麗で、心地よいアルトボイスで幼い手を私に伸ばしてくる。天使だと思った。 しばらく放心していた私に天使様はそっと私の頰を撫でて来た。ピリッと痛い刺激にやっと思考が動き出す。 「ご、ごめんなさい。だいじょーぶです」 よろよろと立ち上がって、天使様の手を見れば私の血で汚している。サーっと血の気が引いてしまう。さっきほっぺ触れた時付いてしまったんだと思えば天使様はまた私の頰に触れる、今度は逃さないよう確実に触れてくる。 「っ…」 「見るからにテニス出来た怪我じゃないね、その様子だと口も切れているかな？とりあえず手当したいからあそこのベンチに座っててよ、ボクちょっと道具持ってくるから、逃げちゃダメだよ」 天使様はまくしたてるように言えばダッシュで私の元を去っていく。走る姿も可愛い。羽根が生えてておかしくない。 天使様の言う事はぜったーいなので、天使様が差したベンチに向かい座るか悩む。ここのベンチ高くてジャンプしなきゃ座れないのだ。いつもは軽々とジャンプするのだが、さっきまで殴られた足や腕が痛いから、ラケットだけベンチに起き立って天使様を待つことにした。 しばらくすると天使様は私の元へ戻ってきた。字面がやべぇ、天使様の名前聞いてもいいのかな？天使だけど天使様じゃないし、私の事を手当てしてくれようとする男の子にもし天使様と呼べば病院を勧められる。私ならそうする。 「どうして座って待ってなかったの？」 「…しんちょーがとどかなくて、すわれなかったの」 「嗚呼、そうかごめんね。よっ…と、キミ軽いね？ちゃんと食べているかい？」 ふわりと私の体が宙に浮いた。 え？？いや？？？は？？？？えっ天使様なにしてんの？？？？見ればわかるだろ？持ち上げてる？？？？うん？？？？持ち上げる必要あったかな！？！あ、足見るため？？にしても断りをいれて？？お願いだから。こんなふわっと持ち上げられた事あんまり記憶してないし同年代の子にされる羞恥心とか天使様の手を煩わせた申し訳なさがごちゃごちゃになるから、やめて欲しい。キャパオーバーですわほんまに、っとエセ関西弁を披露したところで手当が終わったのか手が止まる。 ベンチに座る私の前に跪いて両膝の手当をしてくれた天使様。絵面がおかしい。なんで！！！天使様が！！！！跪いてるの！？！ 手を止めた天使様は私が凝視していたことに気付いたのか、綺麗に整った眉をへにゃりと寄せ「痛かった？」と聞いてくる。あっという間に手当に痛くなんてなかったし呆気に取られていたと言えば、プルプルとした柔らかそうな唇を弧に描き「よかった」と安堵の声を漏らす。跪いている分私より目線が下。つまりは上目遣いがプライスレス。 ンン"ッ可愛い、やっぱり天使様だ。 「ボクは赤井秀一、キミは？」 思考が停止した。 えっ、ここ名探偵コナンの世界っすか？？？ ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ あれから7年経った。虐めは天使様が止めてくれたし、何かあればすぐに呼べと言われた。何もなくてもテニスに付き合ってくれたりと面倒を見てくれた天使様は本当の天使で間違いはなかった。うっかり天使様と呼べば唖然とし爆笑された。そんな姿も天使だった。 まぁただ年々可愛かった容姿はカッコいいと形容される容姿になっていったのは見ていて面白かった。仕方ない、この成長結果があのニット帽の目つき悪いお兄さんなんだから。 ここは名探偵コナンの世界で間違いがない。7年もあれば東京とかの情報は調べられるもんね、日本の東京に米花町という町があった。ついでに隣が杯戸町だったのでお察しである。 私の前世はオタクだった。持病持ちの体で外に遊びに行かせる事を嫌がった両親は私を退屈させないように漫画やアニメを与えてくれた。それはもう物の見事にインドアなオタクが完成するよね。私悪くない。名探偵コナンは両親がくれた娯楽の一つで大好きなものだった。みんな安室さん推しだったが、私は断然風見さん推しだった。出来る上司を一生懸命支える部下って最高でしょ？？ゼロシコのおかげで某イラストサイトや某青い鳥のSNSは大変潤った、ありがとうございます。 そして私がもう一つ愛読していたものがある。 暮らしてわかったことがある。それは私の弟の「景吾」君の事だ。察しの悪い方もいるかもしれないのでヒント！私の苗字は「跡部」。節子それはヒントやない答えや…なんでや工藤… 跡部景吾なんて知らない人はいないとまで言われるテニスの王子様のキャラクターの一人だ。自分の苗字が跡部だと発覚したとき「うわー跡部様やんwww」と草生やしてた昔の自分！！その通りになったぞ！！！名探偵コナンの世界に転生したと思ってたらテニスの王子様の世界でもある？？？とんでもねぇクロスオーバーである。 私が名探偵コナンと同じくらい愛読していたものがテニスの王子様だった。 景吾君は私の6つ下の弟。前世では一人っ子だった私に初めて出来た弟に年相応に興奮し、母に名前を尋ねると景吾よと優しく言われた。けいご、けいごと母の腕の中で眠る景吾君の名前を呼び続けていると、はたと気付いたのだ。「跡部けいご」という名前の語呂の違和感のなさを。聞いたことある名前を頭で繰り返し読めば、あの「跡部景吾」と繋がった。 それから早かったここが本当にテニスの王子様の世界なのか。慣れた手つきでPCを開いてサムライ南次郎を調べる。検索ワードにサムライ南次郎と打てば出るわ出るわ色々な情報。“突然現れた日本のテニスプレイヤーは圧倒的な力を持ちサムライ南次郎と一世を風靡している”と。サムライ南次郎の試合写真は沢山出てきた。かっこよかった、親に頼んで試合を見に言ったファンになるよね。 6つ下の弟は跡部という名を背負う事になる。そのための英才教育は凄まじいものだった。私達の父は一族から毛嫌いされている。けど自分の意思を曲げる事なく突き進む父や私達家族を大切にしてくれる父の姿を見れば、この人に付いて行こうと思うのだ。それは景吾君も同じなようで、自ら英才教育を受けに行った。テニスは彼の息抜き程度に私が打ち合っていた。楽しそうボールを打つ彼は天衣無縫だった。 お姉ちゃん、お姉ちゃんと私の後をついてくる弟は天使様基秀君と違う天使だと思った。 色素の薄い髪はキラキラと靡いて魅入られるような蒼い瞳は強い意志を持って、整った顔立ちの中、右目の下にある泣き黒子がアクセントとなって可愛い。二人目の天使。私に懐く天使のような弟に、それはもちろん猫可愛がりした。景吾君が勉強の休憩として一緒に買い物に行きたいと言えば二つ返事で一緒に出かけたりした。そこで秀君とばったり会い二人の天使に囲まれ脳内パニックを起こしたのは言うまでもない。あれは私の弟で天使が4歳で私が10歳の頃。私を助けてくれた天使様は16歳だったかな？ 「ホー…弟か」 「うん。景吾君、この人は前話した時に言ってた赤井秀一君」 人見知りな景吾君はぎゅうっと私の手を握り秀君を睨みつけている。なんで！？景吾君人見知りだけど初対面の人を睨みつけるとかしなかったでしょ！？なんで！？ 「随分と嫌われているようだ」 景吾君に睨まれて飄々と言ってのける秀君。それは火に油で景吾君の眉の皺が一本増えた。ギリギリと睨む事に比例して私の手を握る手に力が篭っていく。正直痛い。この頃からテニスをしていたし握力は強いだろう。そんな子にめいいっぱい手を握られれば6つ下なんて関係なしに痛いのだ。 「弟君、彼女の手、離してやったらどうだ。痛がっているようだが？」 「えっ、あ…ご、ごめん！」 秀君に言われ力を込めて握っていた手が解放される。解放されれば止まっていた血が流れ出すかのようにゆっくりと熱を帯びてくる。私より身長が低い弟はごめんねと上目遣いで謝ってくる。うぐっ！なんだそのコードなテクニックは！？お姉ちゃんそんな事教えてないぞ！！！天使か！？！天使だよ！！！私の弟マジ天使。 「大丈夫だよ。そんなに落ち込まないで？けど次からは気をつけようね。紳士たるもの家族でも女性を傷付けたら駄目だよ」 弟には女性は優しくと教育している。家族例外なく女性には優しくと。そのお陰かもしくは彼が元々優しいからか、弟は母や姉の私に蝶よ花よと愛でてくれた。そんな景吾君の姿に嫉妬した父が景吾君含め家族を蝶よ花よと愛でているのもいい思い出だ。 そんな景吾君が私の存在を忘れるほど秀君を睨んでいたのだ。つまりそれほど景吾君は秀君が苦手、もしくは嫌いなのだろう。景吾君バージョンの赤井ィィィ！！という事だろうか。オリジナルはもっと恨み篭ってるけどね。 景吾君が嫌なら早々に立ち去った方がいい。秀君には悪いけど次会う時お詫びのものを持って行こうと決めて、景吾君の手を繋ぎ直し秀君を後にする。 と、まぁそんな景吾君と秀君は会うたびに景吾君が睨んで秀君が油を注ぐということを起こした。私の天使様達が喧嘩している。が、会う回数を重ねるごとに距離が縮まったのか飽きたのか景吾君は秀君を睨む事は無くなった。悪態は付くが。そんな様子を見てたらこうやって人は成長するのかとしみじみ感じるね。 私の運命はこの二人の存在で変わった。日本人だったが日本に帰るつもりは無かった私は、スクールを卒業後日本に住む事を決意した。 私の力でどこまでやれるかわからないけど、助けたいんだ。安室さんの周りはいろんな人が死にすぎている。 イギリスを立つとき景吾君に泣かれ、秀君には悲しい顔をさせたのは心に来た。天使様達を悲しませた事、罪悪感を抱きながら私はイギリスを旅たった。 そして数ヶ月後 私はなぜか諸伏景光と合コンをしていた。 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 跡部姉 転生者 天使1(赤井)に助けて貰い名探偵コナンの世界と知る 天使2(跡部)に出会いテニスの王子様の世界と知る 推しは風見裕也、手塚国光 中学は氷帝学園 えっ合コン？行かないいk...タダ飯？行くかー...えっ景光！？スコッチ！？！安室さんはいないのね！？ 天使様1 怪我をしていたので治療した 姉といれば弟が突っかかってくるのが面白い 日本に行くと聞いた時流石に悲しかった 天使様2 自他共に認めるシスコン 姉に近づく男は敵 日本に行くと聞いた時泣いてしまった まだお酒の名前じゃない人 合コンに連れてこられた、帰りたい 中学は青春学園 ゼロ？ここにはいないが？

跡部の姉に転生してしまった人の奮闘<br /><br />【注意】<br />コナンとテニプリのクロスオーバーです<br />夢要素多数あり<br />捏造あり<br />DCの知識はうる覚え<br />作者がバカなので矛盾点が出てくるかもしれませんが雰囲気で<br /><br />居ても立っても居られなくなって書いちゃった系、行き当たりばったり<br />続けられたらいいね

転生したら名探偵コナンの世界で跡部という姓でした

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【大倶利伽羅】 （駄目だ、……あの目は、駄目だ） 　半分強引に手を引き万市へと国永を連れ出して。ゲートまでの道での問答の結果今は渋々といった体で俺に手を引かれているが。その目には未だに陰りが見える。普通の『大倶利伽羅』と『鶴丸国永』だと立場が逆だからだろう、周囲のすれ違う人間や刀剣男士の視線がチラチラと俺と国永に向いているが、知った事じゃないなとそこそこある人集りをすり抜けながら進んでいたら、いきなり国永が俺の手から手を離した。何かと振り返れば手を引かれていた国永とぶつかったらしいどこかの審神者が転けかけた為に、咄嗟に手を伸ばして支えているのが視界に入る。 「っ……と、大丈夫か？」 「え、あ、はい……」 「気をつけろよ」 　淡く微笑んだ国永に、イラッとしたものを感じて離された手をパッと取り目的の場所へと急いだ。 　『こいつは、本当に鶴丸国永か』。――これが、少なからず国永と関わった俺達の総意見だ。決めつけるのは駄目だと言っていた主も、国永が居ない場所では国永の言動に思わず真顔になるか頭を抱えるかだ。あまりにも鶴丸国永から[[rb:悪い意味で>・・・・・]]かけ離れた国永に、俺達は本当にブラック本丸に居た刀剣男士なのではないかという疑念を深めざるを得なかった。 　まず、騒がない。……この時点でおかしい。『鶴丸国永』は総じて騒がしい方で、どちらかというと場の盛り上げ役に回る事の方が多い。にも関わらず、国永は怪我が治って安静にする必要がなくなっても必要以上に客間から出ようとしないし、放っておいたら丸一日部屋でじっと動かなかった事があって本丸のほぼ全員が驚愕していた。国永が主に危害を加えたら、と警戒していた面々でさえもだ。食事後に国永が客間にいつの間にか戻ってしまい、用があったものの手が離せず手のあいていた鶴丸が呼びに行った後、国永が居ない場所で「俺には無理だ」と真顔で言っていたのもその印象に更に拍車をかけた。 　更に国永は、普通――真っ当な本丸で生活していれば、いくら刃数が多いとはいえど生存と偵察を上げるために一度は組まれるだろう畑当番含む内番のどれもが、初めてと言って差し支えない程にできなかった。当刃は余所の、しかもまだ警戒対象であろう俺が兵糧や兵力に関わる馬当番や畑当番に関わって良いのか（手合せはこんな状態だからか刀を振り回せない事でフラストレーションが溜まっていたらしく特に文句は出なかった）と終始口にしていたが、同じ内番に組み込まれていた俺（馬当番時）や五虎退（どうやらいつの間にか国永に近づいていたらしく畑当番時に組み込むよう主に進言していたらしい）からすればそんな事など棚上げせざるを得なかったし、妙に汚れないように動こうとする国永にどれだけ疑問をぶつけないようにするのに耐えなければならなかったか。一度もした事が無かったのか、汚れないようにすると言う事は汚すと叱責や罰でも食らうような本丸だったのか、それを危うく口にしかける度に主の言葉を思い出して思いとどまる。その所為か、内番終了後は国永も赤疲労になっていたが、俺も隠したものの赤疲労になりかけていてその日の晩鶴丸達に問い詰められて答えた所苦い顔をされた。 　そして驚かす、と言う行為――『鶴丸国永』の代名詞とも言えるその単語を一度も口にしていないどころか、自分の意思……自分がこうしたい、という自らの感情を口にしていないと気づいたのは、誰だっただろうか。動こうとしない国永を見かねて誰かが声をかけるようになって、そこから感情の表現しなさに主から許可さえ出て本丸ごと国永を巻き込み始めて、しかしそれでも国永の表情があまり動かず無表情ばかりだと言う事が判明して……恐ろしく感じたのはほぼ全員だったと思う。勿論絡んでくる相手に対してはキチンと対応するし感情もあるのだろうが、それでも表情が殆ど動かないまま無表情だ。そんな国永に躍起になったのは鶴丸と光忠で、どうにか表情を動かしてやろうとよく絡みにいくものの、「驚いた」なんて言葉は勿論困ったように苦笑いされているのが一番動いていた時だろうか。その所為か俺が近づくと逆にホッとされるようになったのはどうなのか……その絡まれが面倒になったのか嫌になったのか、最近じゃ気づかれないように居なくなっていて世話役にならされた俺が走り回る羽目になったのは確実に悪い影響だろうが。大抵人気の無い鍛刀部屋でぼんやりしている事の方が多いから、そこで動かないなら放っておいても良いかと用がない限りそこに行かないようにしていたのが、仇だったと気づいたのは、つい先ほどだったが。 　と言うのも、国永の行動言動に一番近い場所に居る故に一喜一憂する俺が苛立っているのを感じ取った鶴丸と光忠に、万屋街にでも行ってこいと主の前に放り出されたのが今朝の事なのである。いつの間に把握されていたのかあるいは主だからか、同じ国所属の本丸しか行けない万屋街ではなく懇意にしている甘味処のある万市の方に行ける許可を渡してきた主に思わず待ったをかけたのは無意識で、少し躊躇したもののそのまま国永も連れ出す許可をもぎ取り、誰か（というか国永をまだ[[rb:一応>・・]]警戒している面々）にとやかく言われる前に連れ出してしまおうと鍛刀部屋に居るであろう国永の元へ行ったら、国永がドロリと濁った瞳で炎を見つめている事に気づいてしまったのである。 「……君、意外と強引だよなぁ……それに、俺がついてくる必要性無かっただろうあの買い物の内容的に……」 　そう呟いて溜め息を吐く国永が口にしているのは、ノンシュガーのブラックコーヒー。対して俺はと言えばガッツリ糖分過多なパフェ（しかも大盛り）だ。届いた時国永が若干引いていたが俺としては砂糖もミルクも入っていないコーヒーなど飲める気がしないのでお互い様だと思う。何故あんな苦いものを飲めるんだ……。 　今は国永を連れ出す許可を上げる代わりにと頼まれた買い物を済ませた上で、当初の目的だった甘味処に入った所である。その買い物中終始「俺が」「国永を」引っ張っているという状況だった上に買い物はあまりした事がなくて俺が場所を（余所の光忠に）聞きまくる所為で視線がずっと俺達の方を向いていたので、仕方ないとはいえ集中されている事に居心地が悪くなり、買い物を終えてすぐさまここに逃げ込んだとも言う。そうしてそれぞれに一息ついたところだったのだが……ブラックコーヒーを静かに傾ける国永が穏やかな雰囲気なのを確認した俺は、数秒言い回しに迷って、しかしそのまま直球で、こう、ぽつりと口にした。 「何故、あんたは、俺の名を呼ばない」 「……、は？」 　窓の外に向いていた国永の目が、パッとこちらに向く。……どころか周囲の視線さえギョッとしたようにこちらを向いているが、俺はそちらに目を向けなかった。パフェに視線を落とし、一口掬い取って口に入れて嚥下してから、ぼそりと続きを問う。 「……あんた、本丸に来てから一度も――鶴丸のように、俺や光忠をあの渾名で呼ばないだろう」 　気づいていないとでも思っていたのか、とそこで視線を上げてカップを中途半端な位置で止めた国永の目に視線を合わせる。そう、俺も光忠も、国永にはあの「光坊」「伽羅坊」という渾名で呼ばれた事がないのだ。精々「燭台切光忠」「大倶利伽羅」とフルネームか、名前さえ呼ばれないかだ。他の奴は鶴丸と同様に呼ぶくせに、俺と光忠だけは距離がある。上手く誤魔化されていたが、その事がずっと気になっていた。周囲の音が何故か無くなっているが気にせず国永にずっと視線を合わせていれば、一瞬だけ逸れた瞳が細まった。 「……俺は、君と同じ本丸の刀じゃあない。……なのに、同じように名を呼ぶのは、同位体に迷惑だし、筋違いだろう。君と同じ主に仕える仲間から呼ばれるから、その呼び名は大切になるし、特別扱いになるんだ。違うか」 「だが」 「なぁ大倶利伽羅。呼び名ってのは大事だろう。同じ仲間の同位体だからといって、そこは許容するところじゃないだろう。少なくともこの俺はそう思うし、それに、そう呼びたいのは……俺の本丸に来るであろう伽羅坊だからなぁ」 　まぁ、とその後更に何かを口だけで呟き、また口をカップにつける国永に言い返せなくなり口ごもる。そう思っていたのか、と思いつつ、初めて国永が自分から自分の本丸の事に言及した事に追求したい気持ちが湧くが、主の「踏み込まれたくないかもしれないから、自分から話してくれるまではこちらから踏み込まないようにしてくれ」という言葉がチラつく。互いに黙ってしまった俺達に周囲がざわめきだすが、それに一瞬目を向けた国永がカップから口を離しまた溜め息を吐いた事にまた静まった。 「……君の事だ、万屋街じゃなくて万市に連れてきたのも俺の本丸の連中の耳に俺の噂が入らないかと思っての事だろう」 「……」 「そこで視線を逸らすのは肯定と一緒だぞ君。……まぁ、[[rb:君>大倶利伽羅]]が先導しているというのは目を引くだろうからな。だが、それで俺の本丸の奴らにまで伝わるかは分からんし、それで君の本丸に迷惑がかかったらどうするんだ……まったく……」 「……否定はしない」 　目を逸らしたままそう答えれば、視界の端で国永が溜め息を吐いているのと、……何故かほっこりとしているどこぞの光忠の顔が目に入って視線を反対に逸らす。が、反対にも同じような表情をしているどこぞの審神者が居る事に――というか店中の客の殆どが似たような表情をしていて今更ながらに気恥ずかしくなって残りのパフェを口に書き込む事で誤魔化した。その事に国永の「……そりゃこんな場所であんな切り出し方をすればこうなる事ぐらい予想できただろう……どうせ許可も強引にもぎ取ったんだろう」という若干呆れ混じりの声まで聞こえて、居てもたっても居られなくなり残りを口に流し込んでガタリと席を立った。「帰るぞ……！」と伝票を引っ掴んで会計に向かえば、また国永の溜め息は聞こえたものの残りは飲み干したらしくちゃんとついてきたので会計を済ませて店の外へ出た。 　俺と同じ時刻ぐらいに来た奴らが自分の本丸に帰るのだろう、同様に本丸へと繋がるゲートのある方角へ向かう人が店に入る前より増えている事に顔を顰め、国永の手を引っ掴めば仕方ないなと言う顔をされた。が、そちらに目を向けられなかったのでそのまま人混みの中に飛び込んだ。手を掴んでいても引き剥がされそうになるほどの人混みをどうにかくぐり抜け帰還するまで、俺は国永の顔を見れなかったのだった。

昨日は……すみませんでした……腹痛が痛い（ｷﾘｷﾘ<br />思いついていたネタを書きだしていたと言うのと土日だからと買い物に外出していたというのと腹痛が……痛くてですね……お待たせしました、理解亡き世界【４】となります……_(´ཀ`」 ∠)_<br />そして投稿しようとしてたらパソコン画面が白くなってこんな時間になりました、３０分後ってpixivSketchの方で言ったのにすみませんm(_ _)m<br /><br />というかね、腹痛だけで済めば良いところを元々貧血気味というのもあってずっと座って打ち込んで急に立ち上がったりすると目の前すぐ暗くなるのが本当に邪魔で……背伸びしただけで視界暗くなるのどうにかできないのかなと調べてたりしてたのもあるというか…皆さん視界暗くなりません？　自分だけ？　腹痛が痛い所為か疲れでも溜まってるのか頭若干ぼんやりしてたりしてたから伏線が抜けてそうで怖い。ちゃんと『○○亡き世界（３つ目）』に繋げるための伏線張れてるかな……。<br /><br />あと今回ちょっと微笑ま――じゃない、キャラ崩壊？　と言うより腐向け？　っぽく？　見えるような所があるかもしれませんがぶっちゃけ前回の【３】に付けられたタグ見てそういうのをちょっと意識しちゃった所為というか頭回ってなかった所為というかコメントでこの本丸で安らいでほしいとか見たからじゃあそういう感じにするかとしたらこうなったんです分かって、伏線仕込もうとしたらこうした方が早かったんや……あと大倶利伽羅って馴れ合わないとか言ってるけどどっちかと言うと自分のペースでやりたいだけで懐に入ってる奴ならそこそこ何かされても結局許すし伊達組メンツ相手には結構よく見てるし思いやりだってある、という考えの下書いてます。馴れ合わないって言うのは別れが怖いからとかもあるだろうけど自分のペースを乱されるのが嫌なだけで、過干渉せずに放置しておけば近づいてきてくれるんじゃないか、という……まぁぶっちゃけ警戒心の高い野良猫みたいな感じを想像してるので今回こうなったんだけど。微笑ましく（）見守っていただければ。<br />……というかお姫様抱っこしたまま正座待機したら足絶対痺れるよねそれ。<br /><br />（あとぶっちゃけ『○○亡き世界（３つ目）』の事考えるとこうしといた方が温度差が丁度良いかなってのもあって……）<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />　<br /><br />『泡沫ノ世ニ　揺蕩ウ人ゾ』、さぁ、騒げ。<br /><br />　<br /><br />【追記】<br />あなたの作品が2018年09月10日付の[小説] デイリーランキング 65 位に入りました！<br />あなたの作品が2018年09月10日付の[小説] 女子に人気ランキング 17 位に入りました！<br /><br />書き加えるの忘れてたｽﾏｿ

理解亡き世界【４】

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warning！ このお話は夢小説です。 主人公の設定が割と濃いので自己投影されたい方には不向きかと思われます。 警察学校組と同期ヒロイン 生まれ変わり（憑依） 上記の要素がありますのでご注意下さい。 [newpage] 　〝私〟として最期に見たのは、必死な顔でこちらに手を伸ばす同期の姿。垂れ目のくせして意志の強さが分かる大きな瞳を見開いて何かを泣きそうな声で叫んでいた。 　細かい事は思い出せないけれど、うん、死ぬ前にああやって呼んでくれる人がいたのならきっと悪くない人生だったんだと思う。 「ね、ね、今からみんなで買い物行くんだけど、ひなたも一緒にいかない？」 「あー、ごめん。今日は行くところあるんだ」 「えーそうなの？残念……じゃあまた誘うね」 　バイバイと手を振って廊下にいる女子達の元へ走って行く友達から視線を外してそっと脳内を整理する。 　〝わたし〟は橘ひなた。東都の公立高校に通う女子高生だ。 　大きな丸い眼鏡をかけた文学少女で得意科目は現代文と日本史、苦手な科目は体育と物理。友達はちゃんといるがあまり付き合いは良くなく、本を読んでいる事が多い落ち着いた女の子のようだ。 　え？自分の事を話してる様に聞こえない？ 　そりゃあそうよ、私だってついひと月前にひなたになった訳だもの。 　刑事だった〝私〟は確かにあの時殉職した筈なのに、気が付いたら橘ひなたとして生活していた。意識を失った次の瞬間に見知らぬ家族と鍋をつついていたのだ。 　死んだ時から数年経過していたので、いつこの身体になったのか解らない。もしかすると時間が経って記憶が戻った可能性もあるから。 　何はともあれその翌日、仲の良かった同期連中を頼ろうと学校をサボって警視庁に行ってみてまた愕然とする事になった。 　仲間内五人のうち二人は音信不通で行方不明、そして残りの三人は既にこの世を去っていた。何この確率、私を含め仲良かった面子がほぼ壊滅ってどういう事なの。 　思わず頭を抱えてしまった私は悪くない。私は付き合う友達を間違えてしまったんじゃないか？ 　その日からなんとか現実を受け入れて〝わたし〟として生き始めた。 　最初はコスプレみたいで気恥ずかしかった制服にも慣れ、見慣れない両親や兄とも普通に会話できる様になったし、なんとか脳内の情報をかき集めて友達付き合いも努力した。 　そんな涙ぐましい毎日を繰り返し一年、今日は〝私〟の何回目かの命日である。 「まさか自分で自分の墓参りをする事になるなんてね」 　がしゃんがしゃんと桶に入れた柄杓が音を立てる中古ぼけた石でできた階段を登る。 　もし前の両親がいたら素知らぬふりして通り過ぎよう。見た事のない高校生がお墓の掃除してたら気味悪いもんね。 　あ、もう掃除されてる。お母さん達来てくれたんだ。 　もわもわと煙を立てる線香を見たところまだ帰ったばかりだろう。タイミングばっちりだった様だ。 　既に置かれていたマグカップの横に生前愛用していたエナジードリンクを置いてしっかりと刻まれた自分の名前を指でなぞる。 「……ホントに死んだんだな」 　昔みたドラマで主人公が幽霊になって自分のお墓を見ながら涙するシーンがあったけど、実際は受け止めきれないせいなのかなんなのか、感情はそこまで動かなかった。もしかすると既に身体が有るからかもしれないし、仲の良かった同期達も死んでいるからかもしれないけれど。あいつらもどっかで高校生やってたりしないかな。私だけこんな事になっててあいつらは成仏してるなんてズルい。 　内心むくれながらそっとポケットから赤マルを取り出す。 　今朝兄の煙草を失敬してきたのだ。生前愛用していた銘柄だし、今日くらいは墓に供えたって良いでしょう？お線香の代わりだよ。 　火を付けるためには少し吸いながら炙らなくてはいけない。もし本当のひなたに身体を返す事になったら申し訳ないからほんの少しだけ吸うに止めよう。ごめんね。 　心の中で謝罪しながら煙草を咥えるとしっくりくる感覚にどこかホッとした。 　さて、火もついたしこんなものかなと、煙草を既に置かれている線香と一緒にしようとした時だった。 「君、高校生ですよね？」 　嫌という程聞き馴染んだ甘い声が諌める様な色を付けて背後から飛んできて、びくりと肩が跳ねる。慌てた拍子に手にあった火のついた煙草が地面に落ちた。 「あーあ、」 　落ちてしまったじゃないかとため息混じりに振り返れば想像通りの姿がそこにあって思わず無表情になってしまった。 「ダメですよ。煙草は大人になってからと法律で決まっています」 　相変わらず敬語似合わないな、降谷は。 　くどくどとお説教をかましてくる友人の姿にじとっとした半目になる。コイツいつもこんな感じなの？ 「私が吸うんじゃないんです、供えるために持ってきたの」 「供える？」 　落ちた煙草を拾って墓前に置けば、降谷は動きを止めて懐かしそうに目を細めながら頷いた。 「……赤のマルボロですか。確かに彼女がよく吸っていましたね」 「そういう事」 　しゃがんだまま、もくもくと煙を吐き出す少し土のついた煙草を見つめ口をつぐむ。行方不明の筈の男が何故こんな所にいるのか分からないが折角会えたのだ、私の置かれた状況を相談したい。 　しかしオカルト染みたこの状況をどう話したものかと頭を悩ませる私に、背後の降谷は朗らかに声を掛けてきた。ていうかお前そんなキャラだったっけ？それともみんな死んだから心機一転爽やかお兄さんキャラにジョブチェンジしたの？言っておくけど似合ってないぞ。 「彼女にはとてもお世話になったんですよ。あ、まず自己紹介だね。僕は安室透です、私立探偵をやってます」 「は？」 　……いや、誰だよ安室透。お前は私の同期の降谷零だろう？ 　勢い良く振り向いてまじまじと整った顔を見つめてみるが、やっぱりどこからどうみても降谷だ。 　第一私は生前安室透なんて奴に会っていない。もし会っていたら降谷のドッペルだ！といって腹を抱えて笑っていた自信がある。きっと松田や萩原も一緒に笑ってくれただろう。 　ともあれ、よく分からん人物に自分の事を話すほど私は甘くない。 「ふうん、安室さん、ね。わたしは橘ひなたです。お姉さんには前に不審者に追いかけられた時に助けて貰ったの」 「そうだったんですか」 　にこりと笑う安室と名乗った男はしゃがむ私の横に立って手を合わせた。 　目を瞑る顔はどう見たって降谷なのに、一度も見た事がない程悲しい横顔だった。 「すごく悲しそうですね」 「なんの感情も無ければ墓参りなんてしませんよ」 「……そりゃそうですけど」 　あまりに苦しい声を出す物だから思わず力が入って手の中の煙草の箱をくしゃりと潰してしまった。 「あ、そうでした。その煙草は没収です」 「え」 　先程までの顔はどこにいったのか、にこにこと笑う安室は私から赤マルを奪うと流れる様に自分のポケットに突っ込んだ。おいおい手癖の悪さよ。 「お供えの為に持っていたのならもう不要ですよね？」 「……まあ」 　見慣れたしたり顔に少しイラつくが、仕方がないから諦める。兄よ、すまない。一本のつもりが一箱無くなってしまった。 　立ち上がりスカートの皺を伸ばして桶を持ち上げる。だいぶ暗くなってきたし、早く帰らないと親が心配する。なんたって〝わたし〟は高校生なのだから。 「送りましょうか？」 「いえ、知らない人に家を教えたくありませんので」 　気遣いからきた提案をにべもなく叩き落とすと、安室は驚いた様に目を丸くした。大方顔が良いからそんな風に断られると思っていなかったのだろう。イケメンは人生イージーモードだなんて誰が決めたんだ？私は認めないぞ。 　行きと同じ様にガチャガチャ音を立てながら階段を降る。途中で一度振り返ったら安室が私の墓に手を添えて俯いているのが見えた。 　これで確信した。まず間違いなくあれは私の知る降谷零だ。 　きっと今は潜入捜査でもしているんだろう。嘘のつき方も堂々としていて普通ならきっとバレないレベルだった。たまたま墓参りに行ったらその本人に出くわすなんてあり得ないし、今回は運がなかったと思うんだね。 　きっともう話す事もないだろうと寂しい気持ちで帰路に着く。 　だってわたしはただの女子高生で向こうは警察だ。ただ一度墓参りで出会っただけの子供を覚えているとも思えないし、まず活動の場も違うのだから会うわけがない。 「……がんばれよ、降谷」 　願わくば、私が死んだ事は気にせずにいて欲しい。生きて生きて、幸せになって欲しい。 　 ○ 「いらっしゃいませ！あれ？君は一昨日の」 「……まじかよ」 　もう会う事は無いと思っていたのに、舌の根も乾かない内に再開してしまった。 　 　雰囲気のいい喫茶店だなあ、と買った本片手に入ってみたのが運の尽きだった。 　いやいや、何やってんの？お前。え、バイト？潜入捜査中じゃ無いの？ 　うーん、これが腐れ縁の力か、やだコワイ。 「ご注文は？」 「……アイスミルクティー。ミルク多めで」 　これから何度もこの男に会う事になると、謎の縁に怯える私はまだ知らない。 　 私 とある事件で殉職した元刑事。 気がつけば女子高生として生活していた。 男っぽい気性のせいか女子よりも降谷たちといる事が多かった。 降谷 目の前で同期を喪った可哀想な人。 助けられなかった事を今でも悔やんでいる。

警察学校組の同期夢主が殉職したら高校生になってたお話。<br /><br />この後あまりに大人びてるから安室さんに疑いの目を向けられたり、結局また刑事を目指すのを親心で止められたりするんじゃないかな。<br /><br />生前のこの二人に恋愛感情があったかは分からないけど、やっぱり29歳と女子高生って事案すぎる。<br /><br />■夢小説です、苦手な方はご注意下さい。

殉職したら女子高生にinしてました

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　途方に暮れていた。立ち泳ぎも限界だった。 　砂浜から遠く離れて、どうにか肩まで浸かれてかつ足が付く深さの海中で、他の海水浴客が近づいてくるたび必死に距離を取っている。不審極まりない。 　深い所は波も強く、顔にかかってくる海水が口に入って塩辛い。どうにか奇跡が起きてあの忌々しいビキニが波に揺られて帰って来ないかなどと願ってみるが、影も形も見当たらない。 　風見と、ちょっとした捜査で海沿いの現場まで車を飛ばした帰りだった。サービスエリアに立ち寄り珈琲を飲んでいたら、あら、降谷じゃない！と突然肩を叩かれたのだ。 「ジョディ……？　どうしてこんなところにいるんですか」 「やぁね、それはこっちの台詞よ。降谷こそどうして？」 「仕事の帰りですよ」 　いつ見ても明るい彼女につられて微笑んでしまう。過去、同じ事件を違う立場で追っていた頃は陰険にいがみ合うこともあったが、あれから随分時間が経ち、今では打ち解けて軽口を叩き合う仲になっていた。 「仕事？　相変わらず真面目ね、夏休みないの？」 「ありますけど、僕には無いですね」 「たまには羽伸ばしたら？　そうだ、今から一緒に行かない？　私達、海水浴へ行くところなの」 「へぇ、楽しそうですね」 　確かに、さっき風見と走っていた県道から穏やかな海が見えた。見れば、ジョディとその後ろでにこにこしているキャメルやジェイムズもどこか軽装だった。……というか、このメンツならあいつが一緒にいるんじゃないか？ 　ちら、と喫煙所の方に視線を向ける。すると、こちらを見ていたらしい長身の男と目が合った。と、思ったらふいっと視線を逸らされた。なんだその態度。 「もちろん、シュウも一緒よ」 「嬉しいお誘いですが、まだ仕事が残ってまして」 「たまには良いんじゃないですか」 　こちらに背を向ける赤井に苛立ち、海水浴なんか行ってられるか、と社交辞令に社交辞令で返したら、思わぬところから横槍を入れられる。トイレに行っていたはずの風見だった。 「降谷さんがあんまり休まないと、部下が遠慮してしまいますからね」 「何を言い出すかと思ったら……」 「今日の報告書なら私が出しておきます」 「降谷！　彼、いい部下じゃない。たまには甘えたら？」 「いや、そういう訳には」 　行きませんから。本当に行きませんから。と本気で拒否の態度を示していたのに風見は車から僕の鞄を取ってきてしまう。なぜかそれを赤井が受け取り、ド派手なマスタングに詰め込んでしまった。 　じゃあ私はキャメルの車に移るわね、と二台の車に分乗していたらしいジョディが移動して、お気をつけて、半休は申請しておきます、と風見が僕ら二人で乗って来た車に一人で乗り込んでしまったら、助手席のドアを開けて待っているマスタングに乗り込むしか道は無かった。 　どうしてこいつと二人にするんだよ……と内心頭を抱えながら、僕にできるのは「紛れもなく不本意です」という表情を浮かべ続けることだけだった。 　楽しい沈黙のドライブから、さんさんと日射が降り注ぐ海水浴場に辿り着き、いけない、降谷が水着持ってるはず無いわよね。私達おごるから好きなの選んで、と売店の水着を選ばされた。 　いや、海には入りませんので。と言う暇も無く、あれこれハンガーにかかったセットアップの水着を勝手に顔にあててくるジョディは本当に人の話を聞いていなかった。 　車から降りるなり即、喫煙所へ向かった赤井はこちらを眺めるだけで僕の水着選びに参戦しようとしない。ジョディは、ここロクなのが無いわね、と溜め息をついている。当たり前だろう、海の家の品揃えに何を期待しているというのか。 　ジョディ言う所のロクでもない水着は本当にしょうもなかった。中学生でも着ないようなでかい水玉のビキニの紐をげんなりしながら首の後ろで結ぶ。 　降谷、素敵なくびれね、と言ってくれたジョディはセクシーな黒の水着で、フリルが上品にあしらわれた完璧なビキニだった。 　それと、口にするのが憚られたので黙っていたが、豊かなバストがビキニスタイルをより輝かせていて、間違いなくこの彼女、ジョディ・スターリングがこのビーチで一番輝いていると言えた。 　それに比べて僕は、こんなクソビキニを着ているところを赤井に見られたら死んでしまう。どうせ見せるならもっと、いやいや何を考えているんだと鬱屈した気持ちを抱えて更衣室を出た。 「シュウ、水着ギャルのお出ましよ。どうかしら？」 「ああ」 「お二人とも似合ってますね」 　ああ、って何だ。にこやかに褒めてくれるキャメルの方がよほど気が利いている。案の定、ちょっとキャメルを見習いなさいよとジョディは赤井を肘でつっついていた。 　赤井もキャメルも海パンに履き替えていた。赤井は何か被っていないと落ち着かないのか、つばの広いキャップを被って明後日の方向を見ている。じゃれつくジョディをいなして、キャメルがにこにことそれに茶々を入れていた。 「……降谷君、これを」 「え？」 　身の置き所を無くしていたら、突然ＦＢＩの輪から離れた赤井が話しかけてきて、手の平に半ば押し付けるように何かを手渡された。何だと思ったらサングラスだ。これも売店で買ったのだろうか。 「……どうして」 「かけておいた方が良い」 　見ると、赤井も今さっき買ったようなサングラスをかけていた。確かに今日はきつい日差しだった。お揃いなのが気に食わないが、捨てるのも感じが悪いので大人しくかけることにした。 　赤井は僕がサングラスをかけるのを見届けると、すたすた歩いて喫煙所にまっすぐ向かって行った。あいつあそこから動かない気だな。 　ジョディに誘われたがビーチバレーの気分にはなれず、一人で砂浜をぶらつくことにした。 　ほとんど無理矢理連れて来られたわりには、海風が頬を擽る気持ちの良さに、自分でも意外なほど心が癒されている。砂浜なんて何年ぶりだろうか。 　ゆっくりと、砂浜を濡らしてはまた引き返していく白い波に、爪先ぐらいなら浸しても良いだろう。一歩ずつ、爪先だけ、足首だけ、海水に触れて行く。 　足首から伝わる心地いい冷たさに、来て良かったかも。と思い始めたのも束の間。 　びゃぁびゃぁと泣く声が、海水浴客のはしゃぐ声の隙間を縫って耳に届いた。 　はっとして声のする方を見ると、ボールに捕まった幼児が波に流されている。近くに大人の影は無い。 　瞬間、海に向かって走り出し、深いところからクロールに切り替え、泣きわめいて暴れる子供に辿り着く。 　大丈夫だよ、と声をかけながらめちゃくちゃに手を動かしている子供の首根っこを捕まえ、不在に気づいて慌てる親の元へと送り届けた。 　結局、全身海に入ってしまった。濡れて額に張り付いた前髪をどけると、そこにさっきまでかけていたサングラスは無かった。 「……落とした！？」 　咄嗟に周りを見渡すが、海の透明度はかなり低い。これは、見つからないかも。諦め半分、さっき泳いで行った辺りに目をやると、きらりと光るものが見えた。もしやと思い、本日二度目の本気クロールで近づくとやはり、赤井に買ってもらったサングラスだった。 「良かった……」 　ほっとしたところで、浜辺に比べてずいぶん深い所に来ていたことに気付く。沖からちょうど大きめの波が来るところだった。 　泳いで逃げても間に合わない。仕方なく、目をつぶってざぷんと降りかかる波をやり過ごした。頭から水の塊を浴びた後、手で顔の水を拭ったとき、ふと、あることに気付く。 「……ない？」 　首の後ろで結んでいたはずの紐の感触が、無い。ついでに言えば胸を支えていたあのクソビキニの感触も、無い。怖々自分の胸を見下ろすと、ものの見事に、隠すものひとつ無く、放り出されていた。 「…………嘘だろ」 　さぁっと蒼褪め、去っていく波を見つめたが目的の物は何も見当たらない。確かに、ホックを後ろで留めた時やたらと留めにくいな、とは思った。まさかちゃんと留まってなかったのか？　さっき暴れる子供を確保したとき、そういえば紐を引っ張られたような気がする。あのときに紐が解けて、二度目のクロールで金具が外れ、波がクソビキニを浚って行ったとでも言うのか。 　とにかく、今ここにあるのはファミリー向けの海水浴場でトップレスになっている状態が、非常にまずいと言う事実だけだった。 　パニックから抜け出し、状況を整理する。一人ではどうにもできない。こうなったら、他の海水浴客に事情を話して助けを借りるしかない。 　しかし、胸を隠すために深いところで立ち泳ぎをしているため、近くまで来るのは大柄な男性ばかりだった。さすがにトップレスの状態で男性に話しかける勇気はない。 　ジョディ、彼女はどうしているのだと砂浜へ目を向けるも、ビーチバレーに熱中する楽しそうな様子が伺えるだけだった。いつの間にかギャラリーが出来ている。 　きっと赤井もあそこで彼女のビーチバレーを見ているんだろう。いや、赤井はどうでもいい。誰か女性、都合よくＴシャツでも着こんでいる女性客が近くに寄ってこないだろうか。 　そうこうしているうちに、どんどん波に体力が奪われて行く。海には当然波があり、ただ浮いているだけでもプールで泳ぐのとは段違いの体力が要る。 　奇跡が起きて、あの忌々しいビキニが戻ってきてはくれないだろうか？　しかしさっきのサングラスで運を使ってしまったらしい。僕は絶体絶命の気持ちで、肩まで海に浸かる位置を必死にキープしていた。 　全身疲労で体が重い。最悪、トップレスの状態で溺れる羽目になる。そんなところをＦＢＩの連中に見られたら首をくくりたくなるだろう。 　……本当にやばくなったら、手ブラで砂浜に上がるしかないのか？　疲労から、一番したくない選択肢に思考が飛んでいく。絶望がひしひしと、疲れと共に立ち昇る。限界が近かった。 「……足でもつったのか？」 　急に声をかけられぎくりとした。疲れから気配を探る集中力が切れていたらしい。いつの間にここまで泳いできたのか、赤井秀一がすぐ側まで迫ってきていた。 　僕が必死に立ち泳ぎをしている位置で、悠然と立っている。下に足がついているのだ。じっと不審な目で見られ、思わず目を逸らす。僕が一向に海から上がってこないのを見ていたのだろうか。 「……いや、別に……」 　はは、と適当な愛想笑いを浮かべた。そのとき、ざぷんと波が引いて、一瞬、僕の首元が海水面から出てしまう。さっと体を沈み込ませたが、赤井の目は誤魔化せなかったらしい。 「…………君、まさか」 　うわ、赤井もこんな顔するんだ、と言うぐらい引きつった顔を見せられ、僕は怖気づいて距離を取ろうとした。が、伸びて来た手に腕を掴まれ引き寄せられる。 「わっ、ちょっと、やめて下さい」 「そんな格好でどこへ行くんだ」 「いえもう……自分で何とかします、ほっといてください」 　ぶんぶんとかぶりを振る僕を見て、赤井は呆れたように溜め息を吐いた。 「……俺の背中に張り付け。少しだけ歩く。海の中から出ないから安心しろ」 「せ、背中ですか」 「腹がいいのか」 　ああもう、どうにでもなれ、と僕は大人しく赤井の背中にぴったり張り付いた。もう足が限界だったので、腕を赤井の首に回してしがみつくと、歩き出そうとしていた赤井がぴたりと固まった。 「……誰がおぶされと言った」 　地獄の底から響いてくるような唸り声だった。そんなに機嫌悪くなることないだろう、相変わらずむかつく男だ。 「ずっと立ち泳ぎしてたから、疲れてるんですよ」 　ぎゅむ、と僕の胸部が何の障害物もなく赤井の背中に押し当てられる。確かに、これはさすがにどうなんだと思いはしたが、まぁ背中ならそんなに気にはならないだろう。 　何かに体重を預けてみると、海水にかなりの体力を奪われていたことを実感する。力を抜いてぐったりしていると赤井は諦めたのか、僕の両足を海の中で担ぎ上げると、慎重に姿勢をかがめながら歩き出した。 　海から身体が出そうになると、赤井は中腰になって海水面の下にかがんだ。水の浮力があるとは言え、さすがに重いだろうに。 　会話も無くゆっくりと歩き続け、まだ砂浜まで８０ｍはあろうかというところで赤井は立ち止まった。 「……大きい声を出すが、驚くなよ」 　え、今何か言った？　と思うほど小さい声でそんなことを言われた。こいつとの付き合いは案外長いが、大きい声で何か喋っているところなんてほとんど見たことが無い。いつも落ち着いた発声で、低く艶やかな音を正確に耳へと届けてくる、そういう喋り方をする男のはずだ。 　大きい声なんか出せるのか？　そう訝しんでいると、赤井がすぅっと息を吸う音が聞こえて来た。 「キャメル！！！！」 　周囲の人全員がこちらを振り向いた。僕はびりびりと大気が震えるほどの音量にびっくりしてしまった。赤井のこんな大きい声聞いたの、初めてだ。すぐ近くでまともに聞いてしまったせいで、頭がくらんくらんと揺れる。まだ耳の中に赤井の声が響いているような錯覚すら覚えた。 　すると、浜辺からまだもっと先にあるビーチバレーのコートでジョディを応援していたキャメルが、だだだっとこっちに走って来るのが見えた。 　まずい、いくら海の中に身体が隠れているとは言え、赤井におんぶしてもらっているところを見られたくない。 　僕は赤井の首から手を離し、ぐっと赤井の胸板に腕を回して強くしがみつく。赤井の身体は肉厚的で腕をきつく回してぎりぎり両手の指先が届く程度だった。 　ずるり、と指先が海水で滑り、一瞬身体が離れそうになるのを、赤井の手が迎えに来てくれる。強い力で引っ張ってくれたおかげでどうにか身体を固定することができたので、赤井の肩甲骨の間にぺたっと頬をくっつけて、顔を赤井の背中で隠した。 　ばしゃばしゃ、としぶきを上げながらキャメルが裸足で海に入って来る。 「赤井さん！　どうしたんですか」 「それ以上近付くな」 「えぇっ！？」 　赤井は親切にも大急ぎで走って来た彼に冷たく言い放った。いくら何でもひどい言いようだと思ったが、キャメルにまで僕が今トップレスなのがバレたら堪らない。浜辺でキャメルを止めてくれたのには正直、助かった。 「俺の車に積んでいるジャケットを取って、ここに持ってきてくれ。キーはジェイムズに預けた。今すぐ行って、全速力で戻って来い」 「は、は、はい！」 　赤井の背中に隠れているので表情が読めないのだが、キャメルはまるで赤井の剣幕に圧されたかのように怯えた声をしていた。 「……ずいぶん偉そうに命令するじゃないですか。彼、怯えてましたよ可哀想に。いくら懐かれてるからって気安く顎で使うのは感心しませんね。あれが人にものを頼む態度ですか、全く…………ちょっと、返事ぐらいしたらどうなんですか」 　この状態での沈黙がきつく、立て板に水の如く喋り散らしていたら、赤井がギギ、と音がしそうなくらいぎこちなく首をこちらに回してきた。 「……降谷君」 「な、なんですか」 「今、俺は、何も、考えないようにしているんだ」 「……はぁ、そうですか」 　再びの沈黙だった。 　果たして、大急ぎでジャケットを持ってきたキャメルは気の毒にもまた、５０ｍ程離れた場所で静止させられ、ジャケットをこちらに投げて寄越すよう命令されていた。寄越したらあとは砂浜に戻り、決してこちらを振り返るなと。 　赤井はまるで人質を抱えた立てこもり犯のような振る舞いだった。流れて来たジャケットを広げた赤井の手元を見て僕は顔をしかめる。どうしてそんなもの車に積んでるんだ？ 「……まぁ、無いよりマシですね」 　Ｆ・Ｂ・Ｉ。とでっかいロゴが入ったジャケットを羽織ったのは渋々だったが、胸を隠せた安心感にほうっと息を吐いた。赤井の背中から降りて、たっぷり海水を吸って重くなったジャケットと共に、地に足がつく喜びを噛みしめる。 「どこへ行く」 「もう着替えます。空きが無かったので、ロッカーはジョディと二人で使ってるんですよ、鍵は彼女が持ってますから、もらってこようかと」 「……ジョディのところへ？」 　赤井がちらっとビーチバレーのコートを見た。突如砂浜に現れた米国金髪美人のプレイはかなり目立ったらしく、ギャラリーがなおも増え続けている。大半は男性客だった。 「ええまぁ、もう服も着てますし」 　そう言うと、赤井に眇めた目で上から下まで眺められる。なぜそんな微妙な顔をされなければならないのか。……確かに、海から上がってから、ちらちらと視線を向けられている気がする。たぶん日本の海水浴場でＦＢＩのジャケットなんか着ているからじゃないだろうか。コスプレだと思われているのだろう。 「……とにかく、その格好で独りで歩くのはよせ」 　はぁ、と溜め息を吐く赤井をよそに、僕はジャケットの裾をつまんでじゅうっと海水を絞った。赤井のジャケットは当然サイズが大きく、太ももの辺りまでダボッとしており、重かった。 「裾をまくるな」 「いや、何なんですかさっきから」 　いちいち命令口調の男が気に障る。ぎっと下から睨んだが、裾を掴んでいた手をさっと握られたことに驚いて、文句を言おうとした口がぱくぱく開くだけになる。 「……俺の車で待っていてくれ。ロッカーの鍵は俺がもらってくる」 　そう言って手を引かれ、駐車場まで連行される。途中、キャメルからキーを回収した時、さすがに僕がずぶぬれのＦＢＩジャケットを着ているのを見て彼はハテナマークを浮かべていた。 「待って下さい、さすがに海水まみれで乗れませんよ。シートが悲惨なことになります」 　来る時間にも、帰る時間にも中途半端なためか、駐車場は人の気配が無かった。赤井が助手席のドアを開けようとするのを静止すると、僕はぐっしょり濡れた裾を胸の下ギリギリまでまくり上げると、ぎゅうぅっと固く絞った。 　赤井は、今度は諦めたのか何も言わず、ご自慢のマスタングに寄っかかって僕がぎゅうぎゅう裾を絞りまくるのをぼんやり眺めていた。手伝えと言いたいが、手伝われても困る。 「気にするな。別に座って待ってていい」 「塩が浮いて来ますよ、あとで」 「構うことはない」 　僕を助手席に押し込め、初めて赤井はふっと笑った。僕の肩に手を置いて、宥めるような笑みだった。 「俺以外、誰が来ても開けるなよ」 　子供じゃないんだぞ。つられてくすりと笑ってしまう。 　すぐに戻って来た赤井から、ロッカーの鍵を手渡され、更衣室の入り口ぎりぎりまで僕についてきた。もういいですから、と押し返して、着替えて出てきたら、同じく着替えたところの赤井がまだそこで待っていた。女子更衣室の入り口に立つのは良くないと思う。 「……そもそも、君は乗り気じゃ無かったな。もう帰るなら送っていこう」 　更衣室の前で見つめ合い、いやここにいるわけにも行かないし、と海の家でこっちはスーツ姿、赤井はいつもの黒いシャツという場違いな格好でとりあえず座って、手持ち無沙汰にサイダーを啜っていたら赤井がぽつりとそう言った。 「え、いや……そんなことは」 「ジョディが強引に連れて来たようなものだ、疲れただろう」 　確かに、疲れた。仕事終わりに海へ連れて来られただけでなくあのハプニングだ。予定外に泳いだせいで全身に重い疲れが纏わりついている。 　しかし、不思議と気分は軽かった。 「その……楽しかったですよ。海なんて久しぶりでしたし」 　ふ、と手元に視線を落とす。そこには、着替えたあとかけるかかけないか迷っているうちに、結局ここまで連れてきてしまったサングラスがあった。日陰では不要なため、ただ手の中にしまい込んでいるだけのそれと同じものを、赤井もシャツの胸ポケットに差し込んでいる。 「……そうか、それなら良かった」 「あ……」 　赤井が僕の手元を見て、目の端を細めて薄く笑う。それを見てかっと頬に朱が走った気配がする。なんだこれ、今の、僕がサングラスもらえて喜んでるみたいに見えたんじゃないのか。違うんだ、ただ手持ち無沙汰でサングラスを触っていただけで、こんな売店の９８０円とかで買えるサングラスに何をそんな。 「あ、赤井の方こそ、どうだったんですか、海は。ずっと喫煙所でぼんやりしてたみたいですけどっ……」 　話題を捻じ曲げたくて無理矢理話を振り返す。赤井はふむ、と口に手を当てて考え込む素振りをした。 「海か、そうだな。汚くて良かった」 「は？」 　海が汚い？確かに、砂浜から見ると青いのだが入ってみると海水浴客が大勢いるせいで、底の砂が舞い上がり海藻もそこらに浮いてるわで、きれいとは言い難かった。 「何も見えなかった」 「は……？」 　一瞬、考えて。かあぁっと血が巡り、顔に血の気が集まってくる。赤くなっても目立たないタイプだが、さすがに今は駄目かもしれない。どうしてこの期に及んでさっきのことを蒸し返すのか？ 　更衣室から出て私服で再開したときの空気から、何となくお互いさっきのことは忘れようみたいなムードになったと思っていた。 「お、お前なぁ、お前なぁ……！！」 　僕の怒った顔を見て、赤井がげっとした表情を浮かべる。はは、と苦笑するように緩んだ頬が憎らしく、僕は何でもかんでも言ってやりたい気分になった。 「だいたい、海が汚いって何ですか、ＦＢＩがちゃんと調べて来ないからでしょう、都心から日帰りで来れる海じゃそりゃ、あんまり、きれいじゃ無いかもしれませんが、最近は天気だって悪かったし、今は夏休みの後半で人も多いし、ＦＢＩの来る時期が悪いんですよ。そもそもこっち方面に来るのが間違いなんです。日本の海は十分きれいですよ、ていうか車で行くより空港からさっさと沖縄でも行けばそれこそ綺麗な海がより取り見取りですよ。もうそこらじゅうコバルトブルーです。……僕も長いこと行ってないですけど」 「ほぉ、それは行ってみたいものだな」 　食いついた。にやっと笑って僕はまだまだ喋り終えるつもりは無い。 「ふん、よく言いましたね。僕は確かに長いこと行ってないですけど学生時代はそりゃもうレンタカーで沖縄全土を走りまくったもんですよ。沖縄には人一倍詳しいんです。穴場のビーチだって知ってます。ガイドブックなんかにはもちろん載ってません。あと沖縄は料理がすっごく美味しいんですよ。そうだ、学生時代何度もお世話になった民宿があって……ああ、女将さん元気かな……」 「来週以降なら都合がつくが」 　来週以降。僕もその辺りなら二泊分くらい休める気がする。沖縄か、長いこと行ってないな。楽しみになってきた。次こそレースがぴらぴら付いてるめちゃくちゃに可愛い水着でビーチを練り歩いてやるのだ。このいけ好かない男も僕を見て感嘆の息を漏らすだろう。……ん？　もしかして一緒に行くことになっていないか？　赤井は携帯で航空券のページを確認しているようだった。二人分取っていいか？　と聞いてくる。もちろん構いませんよ、いや、やっぱりちょっと待て。

女体化・砂浜・ポロリのお話です。赤安です。<br /><br />組織のことに触れていない謎時空＆降谷さんは普通に女体化しています。<br />ムッツリスケベな赤井が好きなんですよね……。<br /><br />何かあればこちらまで<br /><a href="/jump.php?http%3A%2F%2Fclap.webclap.com%2Fclap.php%3Fid%3Draibou" target="_blank">http://clap.webclap.com/clap.php?id=raibou</a><br /><br />表紙絵のロゴですが、何とあたまがさんに当サークル「リラの妹」のロゴを作って頂けました……！<br />かわいくてかわいくて嬉しいです。これからたくさん使わせて頂きます！！ありがとうございます！！<br /><br />８月のインテでは新刊もありませんでしたが、スペース来てくださった方本当にありがとうございました！<br />たくさんの方とお会いできてかなり忘れられない一日となりました。楽しかったです。<br /><br />２月に出した本　<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9180583">novel/9180583</a></strong><br />の、通販ですが、完売していたので少しだけ追納しました。<br />手元にも無いのでおそらくこれが最後の頒布になると思います。<br /><br />Ｋ－ＢＯＯＫＳ専売：<a href="/jump.php?https%3A%2F%2Fwww.c-queen.net%2Fi%2F1905600011" target="_blank">https://www.c-queen.net/i/1905600011</a><br /><br />次回のイベント参加は１１月２４日の大観覧車を予定しています。よろしくお願いします！

赤井って大きい声も出せたんだな

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※バサカさんの真名、過去バレ注意！ ※聖杯戦争の経過、結末捏造注意！ 　貴方が、私を 　――憎んでくれたら、よかったのに 　 　決して揺らぐ筈のなかったものが、音を立てて崩れ落ちてしまった時。 　人はどうすれば良いのだろう。 　深夜。誰もが眠りについた真夜中。 　間桐邸の門は堅く閉ざされ、すべての部屋の明かりが消えていた。それは、雁夜の部屋とて例外ではなかった。 　煌々と輝く月の光が、窓から差し込む。電気の消えた部屋を、月光だけが照らしている。だだっ広い部屋の中心、ベッドに横たわる雁夜は、先ほどから荒い息を繰り返している。寝巻きに着替える余裕もなかったのか、格好は普段身につけているパーカーのままだ。今、部屋には雁夜一人しかいない。 　――そう、表向きは。 「………」 　正確に言うと、部屋には二人の人物がいた。部屋の主たる雁夜と、もう一人。 　雁夜の召喚したサーヴァント、バーサーカー。常ならば現界して雁夜の傍にいる彼だが、ここ最近は霊体化している事が多かった。以前のバーサーカーならば、事あるごとに現界しては、雁夜から強制的に魔力を補給するのが常であった。苦痛を与えられるように、わざと首筋に噛み付き、血を啜っていた。けれども、ある出来事をきっかけに、バーサーカーが雁夜の首筋に噛み付く事はなくなった。 　 　――正気などとうに無くしたと思っていた雁夜が、理性を保った上でバーサーカーに従っていた。 　 　――その事実は、バーサーカーの心を大きく揺さぶっていた。 　 　不意に、夜空に浮かんだ大きな月が、雲間に隠れて見えなくなった。 部屋が暗闇に包まれる。それを見計らったかのように、バーサーカーは音もなく現界した。 「う……っ、ぅ……」 　バーサーカーの現界により、体内の刻印虫が活動的になったのか、雁夜が苦しげに呻く。 「……」 　そんな雁夜を、バーサーカーは黙って見下ろし、雁夜を起こさないように、ベッドに腰掛ける。体を捻り、眉間に皺を寄せたまま眠り続ける雁夜を見下ろす。熟睡しているという訳ではなさそうだが、それでも起きる気配はない。 「……カリヤ」 　小さく、蚊の鳴くような声で名前を呼んでみる。口に出した後で、しまったと思ったが、幸いな事に雁夜は目を覚まさなかった。 　だが、 「…バーサーカー……」 「っ！」 　雁夜の口から漏れた声を、バーサーカーは聞き逃さなかった。やはり起きていたのかと青くなったが、雁夜は依然目を閉じたままだ。どうやら、寝言だったらしい。 　しかし、寝言だとわかってなお、バーサーカーの表情は険しいままだった。 　大きく息を吐き出し、唇を噛む。そしてバーサーカーは、そのまま己の両手に顔を埋めた。 　 ■　■ 　 　――こんな筈じゃなかった。 　ああ、本当にこんな筈じゃなかった。 　マトウカリヤは、単なる道具。自分が聖杯戦争を勝ち抜くために、魔力を与えてくれる都合の良い人間。 　ただそれだけだ。 　……いや、それだけだった筈だ。 　けれど、現実はどうだろう？ 　カリヤは、確かに従順になった。暴力とその後に与えられる快楽による調教のおかげだろう。 　だが、理性を失いはしなかった。 　正気を失わせ、ただ言う事を聞く傀儡にする筈だったのに、カリヤは正気を有した上で私に従っていた。 　 　――私の吐く愛の言葉が、すべて偽りだと知りながら。 　 　信じられなかった。とても、正気の沙汰とは思えない。 　…いや、実はカリヤも既に正気を失っているのかもしれない。 　でも、この現状は私の望んだものでは断じてない。 　どうして。 　私は、セイバーさえ倒せれば。 　狂ってしまえれば、それでよかったのに。 　聖杯など要らない。ただ、狂気に身を委ねて、苦しみから解放されたかっただけなのに。 　それなのに、どうしてこうなる？ 　どうしてこんなに、胸が痛む？ 　カリヤの事を考える度に、この痛みは増していく。 　何故？ 　カリヤは単なる道具に過ぎなかった筈だ。今もそう思っている。 　――そう、思っていたいのに。 　胸を刺す痛みは、消えるどころかひどくなる一方だ。 　カリヤの本音を知って以来、吸血による魔力供給はしていない。そもそも、戦闘時には否応なしにカリヤから魔力を奪うのだ。普段から魔力を補給しておく必要性はない。戦闘以外の時は霊体化しておけば、いざという時に魔力に困ることもないのだ。 　急に魔力供給をやめ、霊体化する事が多くなった為、当然カリヤには不審がられた。 　上手く説明できそうになかったから、だんまりを決め込んだ。カリヤも、苦しみが軽減したのだから、これで満足だろう。 　そう思っていたが、現実は違った。 　私がカリヤを避けるようになってから、カリヤは終始沈鬱な面持ちで、口数もめっきり減った。たまに口を開いたかと思うと出る言葉はこれだ。 　「バーサーカー」 　私に与えられたクラス名。 　何もかも中途半端な私が「狂戦士」の英霊だなんて、聞いて呆れる。馬鹿馬鹿しい。実に滑稽だ。 　それでも、カリヤはそう呼び続ける。真名を教えていないのだから、そう呼ぶしかないのだけれど。 「バーサーカー、バーサーカー」と。 　はぐれた親を探し求める子供のように、カリヤは私の名前を呼び続けるのだ。 　正直、カリヤのそんな姿は見たくなかった。 　カリヤに名前を呼ばれる度に、胸が締め付けられたかのように痛んだ。 　 　 　やめてくれ。 　 　なんで――なんで、そんな声で名前を呼ぶんだ。 　 　いっそのこと、恨んでくれた方がまだよかったのに。 　正気を保っているなら、令呪を使って私に言う事を聞かせる事くらいできるだろうに。 　それから、今度こそ本気でカリヤの心を壊す事も考えた。 　カリヤが、何をされても私に従うのなら、もう甘い言葉等一切かけず、ただ暴力で屈服させればいい。飴と鞭などやめて、ただただ暴力を振るい言うことを聞かせればいい。 　そう考えているのに、なかなか実行できない。 　自分でも何故かはわからない。 　ただ、カリヤの苦しむ姿を――見たくなかったのだ。 　あれだけ傷つけておきながら、どの口がいうのだろう。 　それでも、私は―― [newpage] 　その日も、バーサーカーは一日中霊体化していた。霊体化していても、会話はできるので、雁夜に市内を探索するよう言いつけていた。だが、これといった収穫もなく、雁夜は自室に戻った。日はすっかり暮れ、外は闇に包まれている。 　荒い息を繰り返しながら、ベッドに腰掛けた雁夜を見ていると、突如雁夜が言葉を発した。 「……バーサーカー」 (……！？) 　てっきり、そのまま休むものと油断していたバーサーカーは、霊体化したまま狼狽する。雁夜はというと、視線を宙空に彷徨わせ、バーサーカーに呼びかける。 「バーサーカー、お願いだ。一目でいい。現界してくれないか」 　雁夜の言葉に、バーサーカーは答えない。応える気がないというより、どう反応してよいか困っているのだ。 「…バーサーカー。ちゃんと話がしたいんだ。……姿を、見せてくれないか……？」 (………) 　そう言って、痛みに耐えつつも必死に笑おうとする雁夜をみた瞬間―― 「…！」 　バーサーカーは、音もなく現界していた。狂化は外れているため、鎧は身に纏っていない。紫の長髪が、サラサラと揺れ動いている。 「……カリヤ」 　表情を見せないように、名前を呼ぶ。バーサーカーが姿を現したのをみた雁夜は、とてもとても嬉しそうに、笑った。 「バーサーカー！」 　勿論、顔に色濃く表れた疲労の色はそのままだ。それでも雁夜は、バーサーカーを呼び出す際の苦痛など、意にも介していないかのように、笑っていた。 「……っ」 　嬉しそうな雁夜を見て、バーサーカーの表情が曇る。 「……用件は手短に」 　雁夜の顔を見ないように、バーサーカーはボソボソと呟く。すると、雁夜は笑みを消して真顔になる。 「バーサーカー……どうして急に魔力供給をやめたんだ？」 　雁夜の質問は、想定の範囲内だった。とは言っても、答えを用意していた訳ではなかったが。 　黙り込むバーサーカーをみて、雁夜は俯く。 「…ごめん。俺、何か気に触るような事したかな……？」 「っ……そんな…事……」 「ごめん。気に触ったなら……。でも、魔力供給しなくても、傍にいて欲しいんだ。姿を……見せて欲しいんだ……」 　雁夜の言葉に、バーサーカーは絶句する。 　 　――貴方は、それがどういう意味か、わかっているのか？ 　 　――サーヴァントである私を現界させておくという事は、それだけ貴方に負担をかけるという事だろうに――！ 「…っ！？バーサーカー…？」 　そう思った瞬間、バーサーカーは雁夜を抱きしめていた。ベッドの上で、二人の体が一つに重なる。 「……そんなに、魔力供給して欲しいなら」 　バーサーカーは、腕の力を緩め、いまだ呆けている雁夜に視線を向けた。 「……その望みに応えましょう」 　言うが早いか、バーサーカーは雁夜の唇を強引に塞いだ。 「ん、っ！？」 　また首筋に噛み付かれるものと身構えていた雁夜は、予想外の行動に目を見開いた。最初は、どう反応していいかわからず、体を強ばらせていた。だが、時間が経つにつれ、雁夜は拒絶するでもなく、いつものように、バーサーカーを受け入れ始めた。 「ん……っ、っ……っ」 　雁夜の唇を無理矢理こじ開け、バーサーカーの舌が口内に入ってくる。長い舌で雁夜のそれを絡めとり、より一層深くまで貪る。息もままならず、必死に呼吸をしようともがくが、バーサーカーは一向に雁夜を離そうとしなかった。酸素が不足し、快楽と酸欠で頭がクラクラする。 「バー……っ、苦し……ふぁ…ん……っ」 　バーサーカーの拘束が緩んだ隙を見計らって、息を吸うが、間髪おかず唇を塞がれるため、あまり意味がなかった。苦しいやら気持ちいいやらで思考がまとまらない。そうして、何分絡み合っただろうか。バーサーカーが雁夜を解放した時には、雁夜は窒息寸前だった。 「はあっ、はあっ……バー…サーカー…？」 　口の端から糸を垂らしながら、ぜえぜえと荒い息を繰り返す。呼吸を整えながら、この行動の真意を聞こうと、バーサーカーを見る。バーサーカーは、息こそ乱れていないものの、なにやら様子がおかしかった。口元を押さえ、きつく目を閉じている。 　まるで、何かの痛みを耐えているかのように。 　 　激しい後悔に苛まれているかのように。 　 　バーサーカーが口を開いたのは、雁夜の呼吸がようやく落ち着いた頃だった。 「……魔力供給は」 　どこを見ているのかわからないような、虚ろな目で淡々と話し始める。 「魔力供給は、マスターの体液を摂取する事で行えます。……体液であれば、何でも良い。血液だろうが……唾液だろうが。私は、この方法が一番貴方にとってもみても良いと判断しました」 　バーサーカーの返事は、模範解答ではあったが、雁夜の望む答えではなかった。肝心の、どうして急に魔力供給をやめたのかという問いには答えていない。でも、雁夜はそれをあらためて問い質す気にはなれなかった。 　見ているこちらも苦しくなるような、痛ましい表情を見てしまっては。何を問う気にもなれない。 「バーサーカー……」 　それでも、声はかけてしまう。以前のように暴力をふるわれる可能性もあったが、そんな事はどうでもよかった。 　雁夜の呼び掛けに、バーサーカーは自嘲の笑みを浮かべる。 　 　――バーサーカー……か。 　――いい加減、その呼称も聞き飽きた。 「……ランスロット」 「え？」 　バーサーカーの口から、聞きなれぬ単語が飛び出してきて、雁夜は思わず聞き返した。 「ランスロット。それが私の真名です」 　最初、何を言われているのか理解できなかった。バーサーカーの言葉を頭の中で何度も反芻し、やっとバーサーカーの言葉の意味を理解する。 「……ランスロット？」 　恐る恐る呼びかけてみると、バーサーカーは静かに頷いた。それを見た雁夜の表情が、次第に明るさを取り戻していく。 「ランスロット、ランスロット」 　聖遺物を用いて召喚したのだから、真名くらいは知っていただろうに。雁夜は、新しい言葉を覚えた子供のように、何度も何度もバーサーカーの名を口に出す。 　真名を明かすという事は、その者に、真名で呼ぶ事を許したも同然の事だ。きっと、それが嬉しいのだろう。 　 　自分を虐げた相手の名を知って、どうしてそんなに喜ぶのか。 　 　どうしてこんな私に――好意を向けてくれるのか。 　 　 　バーサーカー――もといランスロットは、再び痛み始めた胸を押さえ、そっと目を伏せた。 ■　■ 　 　私は、どうしてあんな事をしてしまったのだろう。 　カリヤを傷つけたくなくて。自分でもよくわからない衝動にかられて、唇を奪った。 　カリヤから流れ込んでくる魔力はとても甘く、優しい味がした。その甘美なものがもっと欲しくて、欲望のままに魔力を貪った。 　自分でも何がしたかったのかわからない。 　キスの最中は、気分が高揚していて、まともな思考などできていなかった。それこそ、理性をなくしたケダモノのように、ただただカリヤから魔力を奪っていた。 　それに、真名まで教えて…私は何がしたかったのだろうか。 　カリヤの事を考えるたび、心に去来するこの感情。なんと形容したらいいのかわからない、この想いの名前を、私はまだ知らない。 　いや、気づいてはいけないのだ―― [newpage] 　キスによる魔力供給、その後雁夜に真名を教えた日から、再びランスロットは姿を現さなくなった。これ以上、雁夜の前で妙な行動をとり、墓穴を掘りたくはなかったからだ。 　――そう、考えていたのに。 「ランスロット、お願いがあるんだ」 　真名を教えてから三日も経たないうちに、その決意はあっけなく破られる事となった。 　夜。着替えてベッドに入った雁夜は、何を思ったのか突然そんな事を言った。無視しようとも考えたが、考えるより早く、ランスロットは現界していた。おそらく真名のせいだろうと自分に言い聞かせ、ベッドに横たわる雁夜の前に立つ。 「何ですか」 　冷淡を装った声で言うと、雁夜はおもむろに布団をめくりあげ、手招きをした。 「あのさ……添い寝してくれないかな？」 「……は？」 　思いがけない言葉に、口から変な言葉が出る。冗談だろうと思って雁夜を見るが、雁夜の目はいたって真剣だった。 「……ダメかな？」 「………」 　首を捻りつつ、そう訊かれて、ランスロットは小さく息を吐き出す。真意が読めないが、別段拒絶するほどの事でもない。そう判断し、黙ってベッドに入る。 　元がシングルベッドな上、一般的な成人男性よりも背も体格も大きいランスロットが入ると、ベッドは一気に狭くなる。二人一緒にベッドに入るには、体をかなり近づける必要があった。 　結果として、ランスロットが雁夜を抱きすくめる形で落ち着いた。でも、これだけ密着しても寝返りはうてそうになかった。 　どうして、こんなにも窮屈な状況をわざわざ作ったのか。 　ランスロットは訝しみ、腕の中の雁夜をまじまじと見つめた。 　ランスロットとは対照的に、雁夜は満足そうな顔をしている。 「……急にどうしたのです」 　思い切って訊いてみるが、返ってきたのは訊いたこちらが拍子抜けするような返事だった。 「いや、ちょっとやってみたかっただけ」 「…窮屈でしょう。不便ではないのですか」 「ううん、全然。……ランスロットは、不便？嫌？」 　不便だとか、そういう問題ではないだろうに。 　ランスロットは嘆息し、首を振った。 「いえ、別に平気です」 「なら、よかった」 　そう言って笑う雁夜の顔色は、悪い。息も切れ切れで、呼吸も苦しそうだ。 　 　――サーヴァントを現界させているからか。 　 　ランスロットの胸がチリチリと痛む。 「私が現界していたら……辛いでしょう」 　そう言うと、雁夜は苦笑する。 「大丈夫。痛いのには慣れてるから」 「……は。嫌味ですか」 　今度は、ランスロットが苦笑する番だった。ランスロットの返答に、雁夜の表情が曇る。 「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ」 　申し訳なさそうに、目を伏せ謝罪する。その姿が、より一層ランスロットを苛立たせた。 「別に構いませんよ。そう思われて当然の事を私はしてきたのだから」 　その言葉に、雁夜は、顔を上げた。それでも口に出してしまったら、もう止まらない。口元に歪んだ笑みを貼り付け、侮蔑と自嘲を込めた口調で続ける。 「ただの傀儡のくせに、いきがるのも大概にして下さい。貴方は私の言う事を聞いていればいいんです。それなのに、ちょっと真名を教えてやったくらいで、調子に乗って。不愉快なんですよ」 　言葉を紡ぐ度に、刃物で切り裂かれたかのように心が痛んだ。 　ああ、そんな事を言いたい訳ではないのに。口は、ランスロットの意志など無視して、心にもない事を吐き出していく。 「私の言葉を間に受けたのですか？馬鹿馬鹿しい。愛しているだなんて、嘘に決まっているじゃないですか。信じる方が馬鹿らしい。滑稽だ。愚かだ！ 　貴方なんか、大嫌いです。好きな訳ないじゃないですか。嫌いですよ、貴方なんて。私は――っ」 　その時だった。まくし立てていたランスロットの頭を、雁夜が片腕で引き寄せた。油断していたランスロットは、咄嗟の事態に対処しきれなかった。体勢が逆転し、雁夜がランスロットを抱きすくめる形となる。と言っても、体格差のせいで、抱き寄せると言ってもランスロットの頭だけを腕で包み込んでいるだけなのだが。驚きのあまり、口から出かかっていた言葉が、引っ込む。動揺するランスロットの耳元で、雁夜は囁いた。 「ランスロット、そんなに自分を傷つけないで」 　――自分？何を言う。私は、貴方を傷つけて、傷つけて。傷ついているのは、貴方の方で……。 　 「な、にを……私は……貴方を傷つけて……」 「でも、ランスロット、すごく苦しそう。俺は、お前のそんな顔……見たくないよ」 　その言葉を聞いた途端、ランスロットは反射的に叫んでいた。 「やめてください！！」 「！」 　ランスロットの剣幕に、雁夜は二の句が告げなくなる。雁夜が黙り込んだのを見計らい、ランスロットは再びまくし立てる。 「どうして……どうしてそんな事を言うのです？どうして、あんな事をした私に、そんな言葉がかけられるのですか？いっそ、恨んでくれた方がまだマシだった！どうして…どうして……」 「ランスロット……」 「あなたは……狂ってる。まともじゃない！私を恨んで下さい。憎んで下さい。私の事なんか、許さなくていい。私は……私は」 　感情が高ぶったせいか、頭がガンガンと痛み、体の震えが止まらなくなる。雁夜は、それをわかっているかのように、ランスロットの頭を優しく撫でた。 「狂っている……そうかもしれないな」 　とても静かな口調で、雁夜は言う。 「お前にどんな事をされても、お前を受け止め、愛したいと願う俺は……とうに正気じゃないのかもしれない」 　雁夜の言葉を聞いて、ランスロットは皮肉まじりに言った。 「そんな事を言って、どうせ心の中では私を嘲り笑っているのでしょう？」 「ううん。そんな事ない」 　ランスロットの暴言にも皮肉にも、雁夜は終ぞ怒らなかった。無言のまま、ランスロットの吐く言葉を聞いていただけだった。 「ランスロット。最初はな、本当にただの恐怖心からお前に従っていただけだったんだ」 　ぽつぽつと、雁夜が語り始める。 「首を噛まれるのも殴られるのも痛かったし、怖かった。殺されるんじゃないかとも思った」 　雁夜の言葉を、ランスロットは黙って聞いている。 「でも、お前は俺の事が必要だ、と言ってくれた」 　ランスロットの肩が、ビクッと震える。 「……だから、それは」 「嘘だったとしても、今まで俺にそんな事を言ってくれる人は、一人もいなかったんだ」 　――ずっと、独りだったから。 　その言葉の意味する内容に気づいた時、ランスロットの胸中に、またもやあの感覚が発露した。痛いような、苦しいような、でもそれでいてどこか温かい、謎の感情。雁夜の事を考える度に、顕現するこの感情の正体は、一体……。 「こんな俺でも、必要としてくれる。それがたまらなく嬉しかったんだ」 　ランスロットは、終始無言のまま雁夜の話を聞いている。なんと言えばいいのかもわからなかったし、逆に何も言わない方がいいのではとも思っていた。 　何も言わないランスロットを、雁夜は力なく抱きしめる。 「ランスロットの願いは、セイバーを倒す事だったよな？セイバーを倒して、何がしたいんだ？」 「……私は……」 　ランスロットは、考える。 　私は、セイバーを……いや、アーサーを何故倒したいのか。 　私は、愛した女を救いたかった。 　彼女の涙など見たくなかった。彼女を悲しませたくなかった。 　けれど、私は、彼女を苦しませた元凶である王を恨むことなどできなかった。どうして、かくも高潔で正しき王を憎めようか。 　王は、最後まで私を責めなかった。 　私は、それが苦痛だった。 　貴方が私を責めてくれたなら、私が王を憎めたなら、まだ救いはあったかもしれないのに。 　だから、私は願ったのだ。 　騎士ではなく、狂った獣になりたい……と。 「……は」 　ランスロットは、力なく嘲笑った。 　なんだ……結局は、ただの“逃避”ではないか。 　狂いたかったのも、すべてアーサーのせいにしたかったのも、全部自分の為だ。 　彼女を救いたいなどとほざきながら、私は結局自分が救われたかっただけなのだ。 「私は……狂いたかった。この苦しみから解放されたかっただけ……」 　私は、そんなものの為に、こんなにも優しい人を傷つけていたのか。 　またしても。 　ランスロットは、自嘲する。 　それならば、この苦しみも痛みも、すべて自業自得なのだろう。 　こんな私に、救われる資格など―― 「…そっか。お前も、そうなのか」 「……え？」 　雁夜の口から飛び出したのは、意外な言葉だった。一瞬、意味がわからず、ランスロットは顔をあげた。雁夜と視線が交差する。 「俺もさ、桜ちゃんを救いたいなんて言って、結局は自分が救われたかっただけなのかもしれないな……」 「な、そんな事……」 「俺は昔、この家が、魔術師が嫌で逃げ出した。……それが、回り回って一人の女の子を傷つけた……。逃げても、いつかきっと逃げた報いがやってくる。…今がきっとそうなんだろうな」 　でも、と雁夜は続ける。 「俺はまだ、自分の願いを諦めてない。これだけは、諦めちゃダメなんだ。 それにな、ランスロット。俺はお前のマスターだから、お前の力になれる。お前の願いを叶えてやれる。……俺、どうせ長くないから。俺の事は、ただの傀儡だとでも思ってくれればいいから。……俺の事なんて使い捨てて構わないから。だから、自分を責めないで」 　そう言って笑う雁夜の言葉は、どこまでも優しくて。その笑顔を直視できず、ランスロットは無言のまま、雁夜の胸に顔を埋めた。 　トクン、トクンと弱々しい心音が聞こえ、目頭が熱くなる。この心音も、そのうち聞こえなくなるのだろう。そう思うと、視界がぼやけた。 　雁夜の細い腰に手を回しながら、ランスロットは気付く。 　これまで、度々自分を苦しめてきた感情の正体に。 　気づきたくなどなかった。気づいてしまったら、戻れなくなるとわかっていたから。 　でも、もう限界だ。 　これ以上、自分の気持ちを偽る事はできなかった。 　――嗚呼、私は…… [newpage] 　ランスロットが、自分の想いを自覚した次の日。 　予想外の出来事が起きた。 「聖杯戦争が……停止した……！？」 　朝、教会から緊急招集がかかり、何事かと思っていたら、監督役の神父が聖杯戦争の停止を宣言したのだ。 　いや、正確に言うならば、聖杯戦争がというより聖杯そのものの機能が停止したという事らしい。詳しい事はまだ調査中だが、聖杯がどうなるかわからない以上、無益な戦争を続ける理由もない。その為、残るマスターとサーヴァントは、戦闘行為を中断するようにと教会直々のお達しが出たのだ。 　現在残っているのは、討伐されたキャスター陣営とアサシン以外のマスターとサーヴァントだ。その中には、雁夜とバーサーカーも入っている。 　しかし、予想外の出来事はこれだけではなかった。 　キャスター、アサシン以外の残る５体のサーヴァントすべてが、受肉したのだ。 　聖杯の異変のせいなのか、原因はわからなかった。なにより、受肉した５体の英霊達が、一番驚いていた。ただのサーヴァントだった頃より、魔力や能力こそ劣るものの、元々有していたスキルは問題なく使えた。 　聖杯戦争停止に異議を唱えていたマスター達も、サーヴァントの受肉という事態を前にしては、閉口するほかなかった。 　対城宝具や対軍宝具を有するサーヴァントを、受肉した状態で戦わせようものなら、冬木市そのものがなくなり兼ねない。おまけに、奇妙奇天烈な格好をしたサーヴァントを連れ歩いては、人目に付く上、リスクも大きい。それは、秘匿を原則とする聖杯戦争そのものの意味を根底から覆す事だ。 　アインツベルンのマスターだけは、最後まで異議を申し立てていたが、最後にはアインツベルンの当主からの進言で、渋々折れた。 　こうして、聖杯戦争は実に呆気ない幕切れを飾る事となった。 　全員がこの終焉に納得した訳ではなかったが、誰よりも現実を受け入れなかったのは、ランスロットだった。 　受肉したという事は、霊体化するという逃げ道がなくなったと言う事なのだ。想いを自覚してからは、以前にも増して霊体化する時間が長くなっていた。それも、受肉してしまっては不可能だ。 　どんな顔をして雁夜と向き合えばいいのか。 　混乱を窮めたランスロットは、間桐邸の一室。誰も使っていない空部屋に閉じこもり、出てこなくなった。受肉したとはいえ、元がサーヴァントだからか、数日食事を抜いても、特に問題はなかった。 　何度か、部屋の外から雁夜の声が聞こえたが、すべて無視した。でも、言葉すべてを遮断する事などできるはずもない。雁夜の言葉の９割が、ランスロットを心配するものだったが、残り１割は現状報告だった。 　雁夜の話から察するに、聖杯戦争が停止した際、遠坂時臣と話したそうだ。どういう話をしたのかはわからないが、遠坂桜の現状を知った時臣は、桜を奪還したそうだ。その際、間桐臓硯とひと悶着あり、時臣は臓硯に引導を渡したという。 　間桐臓硯は死に、桜は無事遠坂家に戻された。その後も、たびたび間桐邸に遊びにくるという。 　臓硯の死と桜の解放により、間桐の家督は雁夜に受け継がれた。雁夜本人に間桐の魔術を継承する気がないため、魔術師としての間桐は、雁夜の代で終焉を迎える事となるだろう。 　結果として、すべて雁夜の望み通りとなった。 　 ――それでも、雁夜の寿命が、残り僅かな事にかわりはないのだが。 　 　部屋に閉じこもってから、何日経った事だろう。こうして閉じこもっている間にも、雁夜の命は削られていくのに。雁夜の声が聞こえる度、安堵する自分がいる。 それと同時に、このままではいけないとも、思っていた。 「雁夜おじさん！」 　聞きなれた声がして、雁夜は振り返る。 「桜ちゃん。また、遊びにきてくれたの？」 　そこに立っていたのは、桜だった。遠坂の家に戻されたおかげか、以前よりもよく笑うようになった。 　桜は、雁夜に駆け寄り、こくんと頷いた。 「うん。おじさん。体大丈夫？」 「…うん。大丈夫だよ。体の中の蟲も大分取り除いたし。前よりは調子いいよ」 　言葉の初めに若干の間があった事を、桜は見逃さなかった。顔こそ笑っているものの、その色は病的なまでに白い。 「……おじさん、おじさんがそんなに苦しんでるのも、全部バーサーカーのせいなんでしょう？」 「え？」 　桜の瞳が、昏く淀む。声のトーンも低くなり、口調も次第に荒くなっていく。 「私知ってるよ。おじさんが苦しんでるのは、蟲のせいだけじゃない。あの、バーサーカーが暴れるからなんでしょう？」 「桜ちゃん…」 「それに、バーサーカーって、暴れるだけじゃなくて、おじさんをたくさん傷つけたんでしょう？蟲のせいで痛い思いをしてるおじさんに、いっぱい酷い事をしたんでしょう？」 「桜ちゃん」 「バーサーカーって、受肉して、今この家にいるんでしょう？どうして、そんな酷い事をした人を置いておくの？バーサーカーが憎くないの？私は、許せない。絶対許せないよ。バーサーカーなんて、死んじゃえば…」 「桜ちゃん！」 　雁夜の大声に、桜は黙り込む。雁夜は、床に片膝をつけてしゃがみこんだ。そして、桜の肩に手を置いて、言った。 「もう、自分を傷つけないでって言ったはずだけど？」 「……え？」 　怒られるのだろうと身構えていた桜は、雁夜の言葉に耳を疑った。顔をあげると、目に飛び込んできたのは、どこか悲しそうに笑う雁夜の顔だった。 「……全然出てこないから心配したよ。…ランスロット」 「！！」 　雁夜の言葉に、“桜”は目を見開き、逃げようと体を捻った。けれど、小さな女の子が成人男性の力に叶うはずがなかった。逃げようと身をよじる“桜”の体を引き寄せ、抱きしめる。 「ど、どうして……」 　動揺を隠しきれない“桜”に、雁夜は囁く。 「まず、今日は桜ちゃん、用事があってこれないって言ってたから、おかしいなとは思ったんだ。それと、目の色が違ったから」 「……」 　“桜”は、思わず自分の目を覆った。 　――そう、か。 「……逃げないから、離してください」 　言われるがまま、雁夜は“桜”を離す。 　雁夜から一歩離れ、“桜”は両目を閉じた。その瞬間、“桜”の体を黒い霧が包み込む。霧が晴れるとそこには、ランスロットが立っていた。勿論、どこにも桜の姿はない。 「……話には聞いてたけど、すごいな。“擬態”だっけ？色んな人に変身できるんだ」 　雁夜が、感慨深げに言う。 「雁夜……」 　ランスロットはじっと雁夜を見つめる。最後に会った時より、顔色は良くなっている。苦しんでいる顔ばかり見ていた時とは、比べ物にならないくらい生き生きとしている。 　ああ、よかった。 　あんな風に笑えるようになって、本当に、よかった。 「…ランスロット？」 　雁夜が、怪訝な表情でランスロットをみる。雁夜の顔が次第にぼやけていく中、ランスロットは決意を固める。 　今、この場で言わなければ。 　ずっとずっと、言わなければと思っていた言葉。 　ずっとずっと、言いたかった言葉。 「雁夜……本当に……すみませんでした……」 　その言葉に、雁夜が息を呑む。けれど、涙で滲む目では、雁夜の顔をまともに見る事もできなかった。嗚咽まじりの声で、ランスロットは続ける。 「ずっとずっと、謝りたかったんです……。貴方を、傷つけた事。苦しめた事、すべてに。 傷つけてごめんなさい。苦しめて、ごめんなさい…。 謝って、許される事ではないのは、わかっています。でも、どうしても、言いたかったんです…」 「ランスロット……」 　雁夜が、ランスロットへと手を伸ばす。雁夜の手が体に触れるより先に、ランスロットはその手を掴んだ。 「何も言わないで。貴方が、私を許しても、私は自分を許せない……許しては、いけないんです……」 　そう言って、雁夜の手を強く握る。雁夜は、痛がる素振りなど見せず、口を開いた。 「……わかった。じゃあ、俺はお前を許さない。…許さないでおくかわりに、俺のお願いを聞いてくれないかな？」 　ランスロットの目を真っ直ぐ見つめ、雁夜は言った。 「ずっと、傍にいてくれないか？優しくしてくれとは言わない。愛してくれとも言わない。ただ、俺が、死ぬその瞬間まで、ずっと俺の傍にいてくれないか？」 「……っ。わ、私なんかでいいのですか……？」 　ランスロットの手が震えている。それを感じ取った雁夜は、苦笑し、安心させるようにランスロットの手を優しく握り返した。 「お前がいいんだよ。お前じゃないとダメなんだ」 　雁夜が言い終えるや否や、ランスロットは雁夜の体を強く抱きしめた。涙がとめどなく流れ落ち、雁夜の肩を濡らす。雁夜は、特に驚くでもなく、ランスロットの背中に手を回した。 「雁夜……もう、一つだけ……」 「ん？何？」 　もう一つ、言いたくてたまらなかった事があった。 　自分の想いを自覚した時から、いつか言わねばと思っていた事。 「貴方を苦しませ、傷つけた私に……こんな事を言う資格はないのかもしれない……でも…雁夜、私は貴方を……愛しています…」 　雁夜が、大きく目を見開く。 「私に、貴方を愛する資格なんてない事くらいわかっています。でも、私は……貴方を愛したい……だから」 　大きく深呼吸してから、ランスロットは万感の思いを込めて、言った。 「だから、雁夜……貴方を愛してもいいですか……？」 　許さなくていい。許されなくていい。 　それでも私は、貴方を愛したい。 　それが、ランスロットの本心だった。 「……馬鹿だな」 　しばしの沈黙の後、雁夜が口を開いた。その声が少し湿っぽいのは、気のせいなのだろうか。 「許可をとる事でも、ないだろ……本当に、馬鹿だよ。ランスロット。俺はとっくに、お前の事…愛してるのに……」 「雁夜……」　 雁夜は、泣きながら嬉しそうに笑う。そして、ランスロットの耳元でそっと囁いた。 「…ありがとう」 　ずっとずっと、貴方の傍にいよう。 　 　ずっとずっと、貴方を愛し続けよう。 　 　そして、最期の時は、共に―― 　 　

トークセッションより、雁おじの事を燃料タンクとしかみていないDV夫バサカさんと、そんなバサカさんに健気に従う雁おじの話。完結編です。前編(<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=883230">novel/883230</a></strong>)をお読み頂けると、より一層内容がよくわかるのではないかと。ちなみにその際、前編の投稿日を見てはいけません。……まあ……遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっ！(土下座)■前回DV夫だったバサカさん、今回は情緒不安定亭主になりました。苦悩するバサカさん、書いてて楽しかっry。雁おじは、優しいというより重度のヤンデレこじらせてる気がしないでもありませんでしたが……まあいいよね。ほら、あれだ。人から無償の好意向けられると、酷い事なんてできなくなるよねという話。悪役に徹することの出来ないバサカさんが好きです。でも雁おじはもっと好き！■今回、書きたかったラストまでたどり着けてほんとによかった。これが書きたかった！前回よりは甘いはず！でもシリアス！

【F/Z(腐)】　マリオネット症候群・後編　【バサ雁】

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ブブー、ブブー、ブブー、ブブー、ブブー 事務所の机の上に置いたスマホがまた振動を始めた。さっきから数分間隔でかかってくる着信を知らせるためだ。もう２０回目くらいにはなるだろうか。 ブブー、ブブー、ブブー、ブブー、ブブー 「ああぁもうっ！ 申し訳ないっすけど爆心地さん！ さっきからうるさくて報告書書くの集中できないんすよっ！ 早く電話出るか電源切るかして下さいっ！」 オレの隣の机でさっきから苦手な報告書に悪戦苦闘している後輩が、もう我慢ならんといった様子でボールペンをダンッと机の上に置いた。 「あ？ ちゃんとマナーモードにしてんだろーが」 「それでもブーブーうるさいんすよ！ なんなんすかもぉ、彼女さんとケンカでもしたんすかぁ？」 「そんないいもんじゃねぇわ。もっと厄介なヤツだ」 「ええ〜、厄介なヤツって？ そんな出たくない相手って誰なんすか？ ……まさか借金取りとか？」 そう言いながら机の上のスマホ画面を覗き込もうとする後輩の目の前からオレはサッとスマホを取り上げて立ち上がった。流石にこれ以上ほっといても周りに迷惑だろう。 「ンなわけねぇだろ、アホか！ 女子高生だっ！」 オレの言葉に一瞬シンと静まり返った事務所から廊下に出たとたん「えぇぇ〜〜〜 ！？ 女子高生だぁ！！？」という後輩や同僚たちの声が聞こえてきたが、無視してそのままロッカールームに入った。オレだって心底残念だが、女子高生と言っても生憎驚かれたり羨まれたりするような相手ではない。 オレはため息をつきながらスマホの履歴を確認すると、この数時間でLINEが２５件、着信が１８件入っており、それらは全て世奈からのものだった。 世奈と会った日。そしてデクをオレん家に泊めて醜態を晒してしまった日から、約１ヶ月が経とうとしていた。 《 今日出久兄ちゃんと会ったんだけど、全 然元気なかった。 勝己兄ちゃんなんか知ってる？ 》 《 あんな出久兄ちゃん初めてで心配。》 《 出久兄ちゃんから何か聞いてない？》 《 もしかしてあれから何かあった？ 》 《 てゆーか原因勝己兄ちゃんとか？ 》 《 出久兄ちゃんになんかしたの？ 》 《 おーい！ 》 《 ねえってば？ 》 《 無視とか！？》 《 あり得ないし！！ 》 《 もしもーし 》 《 お風呂入ってくる 》 《 まだ未読って！》 《 いつまで無視する気？》 《 身に覚えがあるんだ？ 》 《 だからスルーしてんだ？ 》 《 出久兄ちゃんに何したの？ 》 《 おーい！！》 《 おいってば！！》 《 コラ爆心地！！》 《 シカトすんな！！》 《 なんとか言え！！》 《 バカ！！》 《 アホ！！》 《 変態！！》 あのクソガキ、黙ってりゃ好き勝手言いやがって！ なんだっ！？ 最後の変態って！？ そしてそのあとは怒涛の電話攻撃ときた。オレだってパトロールしとったんだわ！ 報告書書いとったんだわっ！ 勤務中にプライベートの電話に出られるか！！ つっても、勤務中でなくても電話に出たかどうかは分かんねぇけどなっ！！ ムカつきながらも、留守電も２件入っていたので仕方がないので聞いておく。 １件目。 『んっもうっっ！！ 出てよ電話っ！！』 音量！！ 耳が痛ぇっ！！ ２件目。 『……ねえ、私の大切な人が傷ついてるみたいなの…。お願い、助けてよヒーロー……』 その留守電メッセージを最後に世奈からのLINEと電話攻撃は終わった。 ずりぃだろ、最後にこれは。 助けてもらいてぇのはこっちの方だっつーのに……。 オレはフーッと大きなため息をつきながらロッカールームの長椅子に腰を下ろした。 あれからもちろんデクとは一度も会っていないし連絡すら取っていない。一生誰にも言うつもりはなかった傷を、よりにもよってデク本人にさらけ出してしまった。８年間も閉じ込めてきたものをいざ解き放ってみたら、それはまた新しい傷を作ってオレに返ってきた。 手話じゃなくて口で話せなんて、我ながらよくもそんな酷なことが言えたと思う。オマエを助けたと思わせろなんてヒーローの吐く言葉じゃない。誰にも悟られないよう何ともないふりをしてきたのはオレの方なのに、オマエだけはオレの気持ちを分かってろだなんて身勝手にも程がある。 アイツはどう思っただろう？ 弱いオレを知って幻滅しただろうか？ それともオレも傷ついてるんだと分かって自分を責めているんだろうか？ どちらにせよアイツのことだからオレを責めるという選択肢はないんだろう。 あの日から何度も同じ自問自答の繰り返しでまったく出口が見つからない。別にこのままでいいじゃねえかとも思うしこのままでいいわけねぇだろうとも思う。じゃあどうすりゃいいんだと考えたところで一向に正解なんて出てこない。 デクのこととなると何でこんなにうまくいかない？ 昔からそうだ、思い通りにならなくて喚きながら拳打ち込んでくのはオレの方なのに、結局カウンター食らってＫ.O.寸前にされる。 「ハァァ〜〜〜〜ぁぁあああ！！」 あああぁぁぁっ！！ どうっっすりゃいいんだよっっ！？ 若手実力派No. １爆心地が聞いて呆れる。無個性の木偶の坊相手にこんなにもなす術なくダウンを奪われるなんて…… オレはもう一度ため息をついてから仕方なく世奈に返信することにした。世奈のことだから放っておいたらまたしつこく電話が来るに違いない。 《 専門外 》 「送信」をタップしてからまたため息をつく。オレってヤツは自他共に認める才能マンのくせにことデクに関してはポンコツなのだと思い知る。そして秒で送られてきた世奈からの返信に、オレはダメ押しのパンチを食らうことになった。 《 このポンコツヒーロー！！！ 》 ……マジで誰か優秀なセコンドが欲しい。 [newpage] 家のリフォームをするのでいろいろ相談したいから近いうちに帰ってこれないか、とババァから電話があったのは、オレがこんな具合に自身のポンコツさ加減をウダウダと悩んでいた時だった。なんでもクソ親父の方の爺ちゃんと婆ちゃんを引き取ることにしたらしい。この前婆ちゃんが散歩中に転んで骨折して入院した時に、ババァが爺ちゃんのメシを作りに２つ隣の市まで毎日通っていたが、手間もかかるし面倒だし、またいつこういうことが起こるとも限らないから、もういっそ一緒に住もうとババァが提案したということだった。 「オレがいなくったって建築事務所やら工務店やら呼んで相談すりゃいいだろうが」 『あんたの部屋がなくなることになるけどいいのね？』 「ンでそうなるんだよ！？」 『お義母さんのお琴の部屋だって要るでしょ？ こっちでも生徒さんとるんならそれなりに大きな部屋が要るし、お義父さんの趣味の部屋だって…』 「なんで将棋指すのに専用の部屋が要るんだよっ！？」 『とにかくっ！ 家族会議に参加しないなら棄権したと見なすからね！』 ーーー行くしかねぇだろ、もう。あのババァのことだ、マジでオレの部屋ぐれぇ潰しかねねぇ。年に一度も帰らねえが帰った時に自分の部屋が無ぇのはどうにも具合が悪い。 そんなわけで、たまたまその週の土曜日がオフだったオレは、仕方なく実家へ赴くことになったのだった。 久し振りに帰った実家の玄関に入ると懐かしい匂いに出迎えられた。住んでる時には分からなかった芳香剤や料理の匂いが混ざってできた、その家特有の生活の匂い。そして次にキレイに揃えられた黒のパンプスが目に入った。ババァのにしてはサイズが小さいので客のようだが、もしかしたら婆ちゃんでも来てんのか？ 転んで足の骨折ったっつーんだからもっとぺったんこの靴履けや、などと思いながら家に上がりリビングの扉を開けた。 「あ、帰ってきたわ」 久し振りの息子との再会だというのになんの感慨もありません、といったババァの声でオレの方を振り向いた人物に、オレは一瞬息が止まった。 「わぁ、久し振りねぇ、勝己くん！ ほんと立派になっちゃってぇ！」 「おば、さん……？」 昔と変わらない優しい曲線を描いた頬を緩ませ、その人は息子と同じ緑色の目でオレに微笑んだ。 「もうすっかり一流のヒーローだものねぇ、私もいつもニュースや新聞見て応援してるのよ。良かったわぁ、お暇する前に会えて」 何でここにデクのおばさんが？ オレの顔にそう書いてあったのだろう、ババァが横から口を挟んで来た。 「今日こっちのシティホテルで高校ン時の同窓会があるんだって。それでそのついでにうちにも寄ってくれたのよ。Ｎ県のお土産もいっぱいもらっちゃった。引子さんいるうちにアンタ帰ってきてくれて良かったわ、これから引子さんシティホテルまで乗せてったげてよ」 「あ？ 何でオレが…」 「あら、そんな！ いいわよ、私そんなつもりじゃ…」 「いいの、いいのぉ！ これぐらいしか役に立たないんだからぁ。乱暴な運転だろうけど我慢してね」 「ンだと、コラッ！」 「あの、ホントに……」 「何よ？ 彼女もいないくせに」 「関係ねぇだろーが！！」 「普段人乗せることなんてないから自信ないんでしょ？ 違うってんなら完璧に運転手やってみせなさいよ」 「こっのっ！ 安全運転し殺したるわクソがっ！！」 「ヨシッ！ 頼んだよっ！」 ババァはそう言ってオレの背中を威勢よくドンッと叩いた。 ………クソッ、まんまとノせられちまった。 ホントにごめんなさいねぇ、とずっと申し訳なさそうにしてるオバさんに、やっぱり親子だな、と思う。 「私スポーツカーなんて初めてよ、すごい音ねぇ。それにこんなに座席が低いなんて、地面に座ってるのとあまり変わらないみたい」 こういう素直な反応も、ああデクの母親だな、と感じさせる。 「乗り心地は国産のファミリーカーのがいいかもな」 「フフッ、あの爆心地の助手席に座ってるなんて、なんかドキドキしちゃうわぁ」 「何言ってんだよ」 「高校の同級生たちに自慢しちゃおうかしら」 「やめてくれよ、爆心地は実は熟女趣味だった、ってすぐにＳＮＳであらぬ噂が広まっちまうだろ」 「あら熟女はダメ？ ざーんねん」 今回で気づいたが、オレはデクと関連のある女性に対してはどうやら防戦一方になるようだ。 「じゃあ出久にでも自慢しとくわ。きっと凄く羨ましがるわねぇ、勝己くんに会えたなんて言ったら」 「……………」 やっぱりそう来るわな……。避けては通れない名前が出て来たことに、覚悟はしていたが身構えてしまう自分がいる。ハンドルを握る手が汗ばんでくるのが分かった。 「あの子ね、いまＫ市に住んでるのよ。就職先もそっちでね」 「へぇ……」 「もう何ヶ月も連絡もよこさないけど、きっと好き勝手やってるんでしょ」 「まあ、そんなもんだろ、男なんて」 気のないように聞こえるだろう返事も、実はそれ以上どんなリアクションをしていいのか分からないからだ。それに実は知ってます、うちにも泊まりました、とは何故か言えない。 「大学も東京の大学だったんだけど、やっぱり東京も広いのねぇ、勝己くんとは一度も会えなかったみたいね」 「……まあ、人が腐るほどいるからな」 オレはアイツが東京にいるなんて知らなかったし、逆にアイツはオレに遭わないように気をつけてたって可能性もある。アイツならオレの所属事務所の管轄区域は分かってるだろうから、そこを避けていたのかもしれない。 「勝己くんもすっかり立派になったけど、あの子も変わったのよ。なんて言うか、明るくなったって言うか、自信がついたって言うか。あっちの高校行って本当に良かったって思ってるの。無個性だからって卑屈になることも落ち込むこともなくなったし、友達もできて良く笑うようになったのよ」 「……ふーん。良かったんじゃね？」 思ってた通りだ。デクはＮ県の高校で無個性を蔑まれることもなく、居場所を見つけ、仲間を見つけ、自信を持てるようになった。分かってたはずなのに、こうやって他人の口から念押しされると「残念だったな」と言われてる気分になる。「せっかくオマエが全部奪ってきたのに」と。 「ええ、ほんとに。寮生活だったから夏休みや冬休みにしか帰ってこなかったんだけど、休み中もお友達と出かけたりしてね。初めてだったんじゃないかしら？ あんな風に夏休みにお友達と過ごすなんてこと」 おばさんはその時のデクの様子を思い出したのか、幸せそうに笑った。 「そんなお友達ができて私も本当に嬉しかったわ、それまでは勝己くんだけだったからね。出久のこと気にかけてくれるのは、勝己くんだけだったから」 「……は？」 オレは驚いておばさんの方を見た。 「いつもいじめっ子たちからあの子のこと庇ってくれてたでしょ？ あの事件の後からは特に、出久の周りに目を光らせてくれてた」 「なっ…、別にオレは…、そんなことした覚えはねぇし、なんか勘違いしてんじゃねーの？」 「そう？ 勘違いでもいいわ、私感謝してるのよ、勝己くんに」 ニッコリ笑うおばさんに、オレは内心狼狽えているのを隠そうと必死になった。デクを虐めてきた自覚はある。無個性を蔑んで、居場所も自信も友達も奪ってきたのはオレだ。デクを一人にして、その実デクにはオレしかいないようにした。 「だからあの子がＮ県の高校に行きたいって言い出した時はそれは驚いたわ。私の知らないうちに自分で調べたみたいでね、何とかそこを受験できないかって相談されて。それで私、Ｎ県の高校に行ったらもう勝己くんとは会えなくなるのよ、いいの？ って聞いたら、これ以上勝己くんに嫌われたくないから決めたんだって……。どういうことなのかしらって思ったんだけど、あの子ああ見えて頑固だし、言い出したらきかないところあるから。それにちょうどＮ市に伯母がいたしね、あの子のためにもその高校の方がいいかもしれないって思って、それで私も決めたのよ」 ………なんだ、それ？ オレに嫌われたくないから？ だからＮ県の高校を選んだって？ ッザッケンナッ！ オレは思わずアクセルを踏み込みそうになり、隣におばさんを乗せてるんだからと寸でのところで冷静になった。 「だけど、あの子本当は勝己くんのそばに居たかったんだと思うのよ。小さい頃から勝己くんのこと大好きだったんだもの。今日かっちゃんがね、かっちゃん凄いんだよ、かっちゃんカッコ良かったんだよ、って、いつも私に話してくれてた。休み中家にいる時も暇さえあれば録画観たりしてね、ほら、雄英の体育祭の。何十回も何百回も勝己くんの場面リプレイして応援してノートにとって、優勝したら自分のことのように喜んで。もう結果は分かってるって言うのにね。そして最後にはポロポロ泣き始めるのよ。本人は勝己くんの勇姿が嬉しいからだ、なんて言ってたけど」 「……バッカじゃねえの、そんな…。おんなじもの何回も観るとか……」 「そうね、ほんとに……」 ほんと、バカだろ？ テレビん中のオレなんか観て喜んで、泣いて。なんでだよ……？ Ｎ県なんて行かなきゃ、本物が、オレが、すぐそばにいたじゃねぇかよ……。 交差点を曲がるとシティホテルはすぐだった。正直このタイミングで目的地に着いたのはありがたかった。あと少しでもおばさんの話を聞いていたら、いくら奥歯を食いしばっても鼻の奥がツンとして目頭が熱くなるのを抑えられそうになかったからだ。 車高が低いせいか、車から降りるのも大変そうなおばさんの手を取ってやる。 「まあ、ありがと。たまにはこうやってイケメンにエスコートされるのもいいわねぇ」 「もう勘弁してくれって」 「……あ、そうそう、今私が話したこと、出久には内緒にしてね、余計なこと言うなって怒られちゃう。もしも偶然に、出久に会うことがあったら、だけど」 オレから荷物を受け取りながら、おばさんはそう言ってふんわりと笑った。 この人は、分かっているのかもしれない。 オレのことも。 オレたちのことも。 オレたちがガキの頃から抱えてしまっているものを、全部。分かってくれているのかもしれない。 なんて。オレの願望だろうか…… 「おばさん」 「ん？」 「もしも。もしも偶然アイツに会うことがあったとしたら……。オレ、アイツのこと殴っちまうかもしんねぇわ」 もし本当にオレが好きなら。 そんなにもオレが好きなんだったら。 なんでオレから離れてったんだと。 一発ぐらい、殴っとかねぇと。 気がすまねぇ。 オレの言葉におばさんはデクとそっくりの緑色の目をまん丸くしてしばらく固まっていたが、やがて何かを察したように、フワッと優しく笑った。 「プロヒーローのパンチって凄そうねぇ。あの子全然身体鍛えてないし、できれば壊れない程度にしてやってね」 そう言っておばさんは少女のように手を振って、ホテルのロビーへと入って行った。 オレはしばらくその姿を目で追い、おばさんが高校の同級生らしき女性に声をかけられ弾けるような笑顔になったのを見届けてから、再び車に乗り込んだ。 家に戻ると、ババァが「ちゃんと無事に送り届けたんでしょうね？」と早速絡んできやがった。ったく、鬱陶しいことこの上ない。 「ったりめーだろーが。ババァ乗せてんじゃねぇんだからよ」 オレがイラッとして答えると、ババァはフーンと何かを見透かすような顔をして言った。 「次は好きな子乗せれるといいわねぇ、母親の方じゃなくて」 「……………はっ！？」 ババァの口から出た言葉を分析できずにいるオレを尻目に、ババァは何か箱を持ってキッチンへと向かった。 「引子さんからもらったアップルパイ切るけどアンタも食べる？」 「ちょっ、ちょっと待てやババァッ！ 今なんつったコラァッ！？」 「アップルパイ、アンタも食べるかって」 「違ぇっ！ その前だよっ！」 オレがそう言うとババァはハァッと強いため息を吐いて、目をキッとつり上げ今まで溜めてたもんを吐き出すように言った。 「いい加減腹をくくれって言ってんのっ！！ いつまでもウジウジウジウジとっ！ 後悔してんならこれからはずっとそばにいて守り抜いて見せるぜっ！ ぐらいの気概を見せなさいよっ！！ なぁに逃げられたまま何年もほっといてんのよ、情けないっ！！ ウジウジウジウジとっ！！ ホントにもうっ！ ウジウジウジウ…」 「だぁぁぁっ！！！ ウジウジ多いわっ！！ そんなの言われんでも分ぁっとるわっ！！」 売り言葉に買い言葉で口から飛び出したセリフに、自分でもひっかかる。オレはいったい何を分かってるっつってんだ？ 自分がいつまでもウジウジと情けないっつーことか？ 逃げられたままほっといてるっつーことか？ それとも…… 「フーン、分かってるのね！？」 「お、おう、分かっとるわっ！」 「ホントねっ！？」 「くどいわっ！！」 「じゃあいいけどっ！」 そう言ってキッチンへと消えて行くババァを見ながら、オレはババァの言葉を一人ゆっくりと反芻した。 『後悔してんならこれからはずっとそばにいて守り抜いてみせなさいよ』 ………上等だ、クソがっ……！ そーだよ、分かってんだよ。 後悔してんだよ。 どうしようもなく後悔してんだよ！ 悔しいが今回ばかりはババァの言う通りだ。 いつまでもウジウジと全くオレらしくなかったわ。どうすりゃいいんだなんて悩んだふりして、どうすべきかはとっくに分かってた。なのにオレはあの場所から動くのが怖くて自分の傷に浸って、その上オレを理解しないオマエが悪いんだとデクを傷つけた。 何やってんだ、オレは。八つ当たりもいいとこだろう。 『なに逃げられたまま追いかけもせず何年もほっといてんのよ』 全くだ。待つだけなんてオレのスタイルじゃなかったわ。戻ってこねぇつもりならこっちから捕まえに行くまでだ。 『あの子本当は勝己くんのそばに居たかったんだと思うのよ』 だったら尚更だろ。オマエの定位置はそこじゃねぇ。オマエの居場所はいつだってオレの３歩後ろなんだよ。 何でオレから離れてったかなんて、どうせクソ程くだらない理由に決まってる。 デクが何考えてるか分かんねぇなんて今に始まったことじゃねぇ。 デクがオレの気持ちに鈍感なんて今更過ぎてムカついたところでクソの役にもたたねぇ。オレの気持ちが分からねぇっつんなら分からすまでだ。 ちょうどおばさんからはデクを殴ってもいいと了承を得た。場合によっちゃ殴って、分からせて、二度とオレから離れないように言い聞かせて、それから……、それからどうするかなんて、そん時になってみなきゃ分かんねえけど。 とにかく。 この先何があってもオマエを守り殺したるわっ！ 首洗って待ってろや、デクッ！！ [newpage] その後、仕事から帰ってきたクソ親父も交えた家族会議でオレは自分の部屋を死守し、久しぶりなんだから夕食を一緒にと言うクソ親父の誘いを明日も早いからと断り、オレは早々に実家を後にした。残念がるクソ親父とは対照的に早よ帰れと言わんばかりのババァにムカつきはしたが、オレが早く帰りたい本当の理由をババァは気付いてるはずで、クソ親父にいらんこと吹き込まれても面倒だと思い突っかかるのは止めにした。 デクに連絡を取ろうと高速に入る手前のコンビニで車を停めた。取り敢えず適当な所に呼び出して話をつけてやるとLINEを開いた時だった。プロヒーローに支給されている携帯端末が鳴り、こんな時に緊急招集かよ、いったい誰からの着信だと液晶画面を見ると、なんとそれは半分野郎からのものだった。 「は？」 なんでアイツから？ 今までかかって来たことのない相手に驚きつつも、逆にそれが緊急性を物語っているようで、何か胸騒ぎと共に不本意ながらも電話に出た。 「……なんだ？」 『お、出たか。オレからの電話なんて出ねぇんじゃねぇかと思ったが』 「仕事用の端末が鳴ったんだ、出たくなくても出るわ」 『オマエならそう割り切ると思った』 「ンなこといいから、さっさと要件言えや」 オレは半分野郎の飄々とした話し方にイラッとしつつ先を促した。何故か心臓が早鐘を打つ。 『今さっき事務所に戻って親父から聞いたんだがな、昨日の深夜に例の研究所でちょっとした事件があったらしい。何者かによる不法侵入と器物損壊、あと偶々居合わせた男性職員一人が犯人と鉢合わせて、犯人はその職員に怪我を負わせて逃走したらしい』 半分野郎の話の途中からオレの心臓は耳にあるんじゃないかと思えるほどドクンドクンとうるさく鳴っていた。野郎の話を聞きながら自分のスマホからデクに電話をかける。 頼む。出てくれ……！ 『箝口令が敷かれてるらしく事件は公にされてねぇからその職員の名前と怪我の詳細までは分からねぇが、ちょっと気になってな。緑谷でなければいいんだが。オマエ何か聞いてねぇか？』 スマホからは「おかけになった電話番号は現在電波の届かないところにあるか…」という馴染みのある音声案内が聞こえて来た。 「オイ半分野郎、オメェ、デクの住所知ってるよな？ 一度タクシーで送ってったろ。教えろ、忘れたとは言わせねぇ」 流石の半分野郎も番地までは定かでなかったが、町名と何丁目までかとアパート名は覚えていたので、あとはナビで検索すればデクの住所はすぐに特定できた。 東名を飛ばしながら、はやる気持ちを無理やり押さえつける。電話が通じないので《 今どこにいる？ 至急連絡寄越せ 》とLINEを入れておいたが一向に既読にならない。おばさんも何も知らないようだったし怪我をした職員ってのがデクだと決まったわけじゃない。なのに湧き上がる焦燥感に喉が渇いて張り付きそうだった。 やっぱダメだ、アイツを野放しにしといたら。オレの手の届かないところでどんな危ない目に合ってるか分かったもんじゃない。いつもこんな思いするぐらいなら、そばに置いといて監視するしかねぇだろ。 腹を括っちまえばなんてことはない。ただそれだけのことだった。 高速をぶっ飛ばしたおかげでデクのアパートには１時間半程で着いた。着いたものの２階建て全１２室の単身者用のアパートのいったいどこがデクの部屋なのか分からない。それに相変わらず電話も繋がらないしLINEも既読にならない。こうなったら取り敢えず電気の付いている部屋を端から訪ねて行くしかねぇかと、近くに路駐できそうなところを探して車を停めた。最後にもう一度ダメもとでLINEを送る。 《 今アパートの近くにいる。何号室か教 えろ 》 案の定既読にならず、車から降りようとした時だった。 向こうから歩いてくる見覚えのあるシルエット。外灯に照らされたソイツはモサモサの頭をして、背負ってるでかいリュックは肩からはみ出してる。車内のオレには全く気付かず「わあ、凄い車〜！」とでもいうような顔でこちらを見ている様は、オレの心配など余所に呑気なもんだ。ただ、頭に包帯が巻かれているのを見たオレとしては平常心でいられるわけねぇし、「久しぶりだな、相変わらずダセぇリュック背負ってんじゃねぇよ」などと穏やかな再会はとてもじゃないが果たせそうになかった。 「くぉらぁぁっ！ デクゥゥァアッ！！」 思わず運転席から飛び出したオレを見て、「ヒッ！」と短く叫んで鬼が出たとばかりに顔を青ざめさせたデクは、一歩二歩後ずさったかと思うと、踵を返して来た道を走って逃げ出した。 「……っ！ このっ！ 待ちやがれっ！！」 もともとデクは足は遅くはないが、でかいリュックがハンデとなったんだろう、オレはすぐにデクに追いつき、その首根っこを取っ捕まえた。 「テメェ！ 逃げてんじゃねぇっ！」 グイッとデクの身体を引き寄せ、顔を覗き込んで睨みつけた。そんなオレに対しデクはギュッと目を瞑り顔を背け、分かりやすくオレと話す気は無いという態度を露わにした。 「テッメッ…！ 何で電話に出ねぇっ！？ もう少しで警察に乗り込むかＫ市中の病院を探しまわるところだったじゃねえかっ！ この頭の怪我ぁどうした！？ まさか昨日の夜中に侵入者と争ったからってんじゃねぇよなぁ！？」 オレがそう言うと、デクは「何で知ってるの？」とばかりに驚いた顔でオレを見たが、またハッとしたようにオレから顔を背けた。 バカかよ？ それじゃあ「正解です」と言ってるようなもんじゃねえか。そういやぁコイツ昔っからウソは苦手だったわ。……聞かれねぇこと黙ってるのは得意なのによ。 「オマエまたムチャしやがったのか、あぁ！？ どうせ犯人捕まえようとオマエから飛びかかってったんだろうが！？ マジでいい加減にしろよ！？ 弱ぇくせに！ 何も出来ねぇ木偶の坊のくせに！ 余計なことすんじゃねぇっ！！」 デクは顔をこちらに向けて涙を溜めた目で何か言いたそうにオレを見たが、オレはそんなんでやめてやるつもりは無かった。 「オマエが怪我ぁすることで周りの人間だって傷ついてんだ！ おばさんだって！ 世奈だって！ オマエまた泣かせてぇのかっ！？ 」 オレの言葉にデクがぐっと息を詰めたのが分かった。流石にこの二人に対しては思うところがあるんだろう。 「オマエは自分の正義を貫きゃ満足かもしんねぇが、オマエが怪我してたんじゃ意味ねぇんだよ！ なのにいつもオマエは平気な顔しやがって！！」 オレがどんだけっ！！ 「周りがどんだけっ！！」 後悔したとっ……！！ 「傷ついてるか分かってんのかっ！！？」 今にも泣き崩れそうなデクは、奥歯を噛み締めているのか何とか涙を眼球に貼り付けていた。そして必死で何かに耐えるように両の拳を握っていた。 「オマエの身体はオマエのもんだがオマエはオマエだけのために存在してんじゃねぇんだよ！ いい加減分かれやっ！！」 「………………」 「ンとか伝えや、コラァッ！！」 コイツあくまでもオレと話さねぇつもりかと怒鳴ると、デクはビクッと肩を震わせて、瞬きしたためにとうとう溢れた涙を拭いもせずにそっと口を動かした。 ーーーごめんなさい…… 息づかいが、音のない声に聞こえた。 ーーー無茶してごめんなさい 「デ……」 ーーー心配かけてごめんなさい 読唇術なんて心得てない。 ーーー声が出なくてごめんなさい でも、 ーーーかっちゃんを傷つけてごめんなさい オレには確かにそう聞こえた。 「………デク！」 気がついたらデクを抱きしめていた。 ホント、バカだコイツは。 身の程わきまえず飛び出して行くとこも。 それで自分が怪我して犯人を逃すとこも。 オレの言ったこと真に受けて、手話を使わないように必死で拳を握りしめてたとこも。 なのに声が出せない自分を責めて泣いているとこも。 この不粋な、邪魔くさいリュックも。 全部、全部デクで。 丸ごと全部、クソデクで。 だけど、こんなバカを今まで放っておいたオレは、もっとバカで。 そんなデクに謝らせてるオレは、もっと大バカで……。 「もう充分だわアホが。別にオマエに謝らせたくてあの時あんなこと言っちまったわけじゃねぇ」 酷ぇこと言っておきながら、我ながら随分と勝手な言い草だと思う。なのにデクはポロポロと涙を流しながらオレを見上げて、 ーーーごめん、かっちゃん、ごめん と口を動かしてエグエグと泣き始めた。 「だぁから。謝んなって言ってんだろうが」 ったく…。ブサイクな泣き顔しやがって。こんな顔他の奴らにはとても見せらんねぇなと思いながら、オレはデクの額を自分の肩口に押し付けた。８年前より身長差が開いたために、オレの腕の中にすっぽりとデクが収まった。シャツがデクの涙で温かく湿っていくが、それすらもデクを吸い取っているようで満たされる。 「もう二度と無茶すんな」 腕の中で、デクが小さく頷いた。 「無茶して怪我して、周りを傷つけんな」 コクッ、コクッとまた頷いた。 「オレの見てねぇ所で好き勝手すんな。いつもオレの手の届く所にいろ」 ーーーコクッとは、デクの頭は動かなかった。オレが何を言ってるのか分からないのか、それとも分かった上で首を縦に振らないのか…… 「オマエに何かあっても、いつでもオレが守れる距離にいろ。オレから離れんな」 オレは前者だと信じて、鈍いデクにも分かるように自分の中ではかなり譲歩して歯の浮くようなセリフを吐いた。するとデクは、充血して真っ赤になった目でオレを見上げ、おずおずと口を開いた。 ーーーなんで？ 「オマエの居場所はいつもオレの後ろってガキの頃から決まってンだろうが」 オレが当たり前のようにそう言うと、デクは信じられないという顔をして、オレの胸をそっと押してオレから離れた。そして、さっきまで頑なに使わなかった手を動かした。 『なんで？』 オレに向けられたデクの目は、非難でもなく、怒りでもなく、ただ、悲しそうだった。 『なんでそんなこと言うの？ じゃあなんであんなこと言ったの？』 「デク？」 『かっちゃんが言ったんだよ？ 僕の声が出なくたってかっちゃんの周りにいるだけでうるさいって。目障りだって』 「っ……！ それはっ、オマエが……！」 デクの言葉に、中２の秋の校舎裏でのやり取りが鮮明に蘇った。デクの声がもう出ないのだと、オレはデクを守れなかったのだと突きつけられたあの日、オレがデクに投げつけた言葉。あの時はああ言うしか自分のプライドを保てなくて、ただ自分だけを必死で守った。 『だから僕離れたのに！ かっちゃんの邪魔にならないように離れたのに！ これ以上かっちゃんに嫌われたくなくて遠くの高校選んだのに！ なのになんで今度はそんなこと言うの！？』 「デク……」 それが、理由なのか？ オマエが、オレから離れてった理由？ オレが、あの時そう言ったから……？ 『僕がかっちゃんの経歴に傷をつけちゃったから！ かっちゃんが無事に救えなかった人間だから！ かっちゃんにとって唯一の汚点だから！ だから僕のこと遠ざけたかったんでしょ！？ それなのに今度は側にいろだなんて……！』 「な、に、伝ってんだ、オマエ……」 『かっちゃんが過去を上書きしたいって言うなら、かっちゃんのために僕は側にいるべきなんだと思う。その方が何かあった時助けやすいよね……。それにその汚点は僕のせいなんだから、償わなきゃいけないって分かってる。分かってるけど、僕は……、だけど、ごめん。僕には、できそうにないよ……』 「オマエ……、マジでそれ伝ってんのか？」 『……そうだよ。自分本位なこといってるのは分かってる。みんな僕のせいなのに……。だけど、無理なんだ、僕はまだ割り切れてなくて……。もう８年も経ってるのに、僕はまだ君のこと……。かっちゃんだって僕の気持ち分かってるくせに……。なのに酷いよ……』 ポロポロと地面に落ちるデクの涙を見て、ああもったいねぇな、なんてまるで場違いなことを思いながら、自分の愚かさを呪った。 オレがデクに投げつけてきた言葉は、オレが思ってる以上に棘を持っていて、デクを傷だらけにしてきたんだろう。そしてその報いなのか、やっとの事で絞り出した己の弱さや本音も、捻じ曲がった意味でしかデクには届かなくなってしまっていた。 簡単に伝えられるんだと思っていた。 オレの側にいろと言えば、デクは戻ってくるんだと思っていた。 オレのこと好きなんだったらすぐに戻ってくるに違いないと、高を括っていた。 だけどそんなの、ただのオレの幻想でしかなかった……。 「違ぇデク。そうじゃねぇ、ちゃんと聞け……」 『ごめん、かっちゃん。怖いんだ。かっちゃんの側にいたら、僕はきっとまたかっちゃんをイラつかせちゃう。きっとまた怒らせちゃう。きっと、もっと嫌われちゃう。また、かっちゃんの汚点になっちゃうかもしれない。そうなったらまたかっちゃんから離れなきゃ……』 「だからそうじゃねぇっつってんだろうが！ ちゃんと聞けやっ！！」 デクが何考えてんのか分かんねぇってずっと思ってた。デクはオレの気持ちにどこまでも鈍感で、イラつかせるヤツなんだと。 だけど、今やっと分かった。 デクの中には「オレはデクが大嫌い」という大前提があって、それがデクの思考の基点となっていて、そしてオレに対する全ての言動につながっていた。 マジでクソみたいな理由だった。 デクがオレから離れていったのも。 デクがオレの所に戻ってこないのも。 全てオレ自身が仕向けてきたことで、自業自得という言葉はオレのために用意されていたのかと思うくらい、救いようのない理由。 デクが傷つけたと思ってるのは、オレの経歴であって、オレの内側じゃない。そもそもデクは、自分の言動がオレを怒らせることはあっても、簡単にオレの内側を抉ることができる刃物になるなんて気づいてない。傷ついてるのはオレの内側なんだと気づかせてはいけない。気づいてしまったら、デクは今以上に自分を責めるに決まってる。そんなこと絶対にさせたくはない。 だけどもう、デクを手放すこともできない。 「オマエごときがオレの汚点になれるわきゃねぇだろ、自惚れんなっ！ そんなんで傷つく程オレの経歴は薄っぺらくねぇわ！ それにこれ以上オマエを嫌いになるなんて無理な話なんだよ、もう針なんてとっくに振り切れてんだよっ！ オマエが遠くにいようとすぐ側にいようと嫌いなもんは嫌いなんだから、いっそ側にいて守られてろやっ！ 勘違いすんなよ、オマエのためでももちろんオレのためでもねぇ、おばさんと世奈のためだっ！」 『でも、かっちゃん、ずっと夢に見るって……』 「あんなん冗談に決まってんだろーが！ あん時ゃ久し振りに事件のこと思い出して夢見が悪かっただけだ。オマエの夢なんか何度も見てたまるかよ気色悪りぃ」 もうちょっとマシなごまかし方あんだろ、と自分でも思ったが、デクはそんなオレの言葉に納得がいったのか、徐々にデクの目から不安の色が薄らいで行くのが分かった。 「だからそんなくだんねぇこと気にしてんじゃねぇ。今も昔もオレはきっちりオマエのことなんて嫌いだし、それ以上にもそれ以下にもならねぇ。今更オマエが戻ってきたところでオレもオレの人生もブレたりしねぇ」 『……ホントに？ 僕は、かっちゃんの邪魔にならない？』 「ああ」 『これ以上嫌われることはない？』 「しつけぇ」 『かっちゃんの側にいてもいいの？』 「それ以上伝ったら殴る」 つくづく厄介だと思う。不器用にも程があンだろ。デクを連れ戻すためにこんな言い方しかできないオレも、こんな言われ方してんのに安心した顔で小さく笑うデクも。 厄介で不器用な上に、オレにそれ以上を望まないデクが、オレに嫌悪以外の感情があるなんて思いもしないだろうデクが、心底ムカついて、どうしようもなくイライラして、やりきれない。 『……殴ってみて』 「あ？」 『痛いといいなぁ、なんて。夢じゃないって分かるから』 「テッメェッ……！」 その上、オレに何も望まないくせにこうやって自分は容赦なくオレに弾丸を撃ち込んでくるところが、相変わらず無神経で、無自覚で、 「クソムカつくんだよっ！！」 オレは目の前にあったデクの頬っぺたを両手で捻り上げた。デクはせっかく拭った目をまた涙でうるわせて、腕をバタつかせて「うー、うー！」と喉を鳴らした。 「ケッ！」 オレが乱暴に頬を離すと、デクは両手で頬をさすりながら上目遣いでオレを見た。 「夢じゃねぇって分かっただろーが！」 『うん……、痛かった』 「分かったんだったらとっとと話せや！ 夕べの事件のこと、出来るだけ詳しくなっ！」 デクの顔がヒクッと緊張した。箝口令に背く上に話せば自分の無茶をオレに怒鳴られるのが分かってるからだろう。 だが全部正直に吐いてもらう。 デクの周りの危険因子は全て把握し排除する。 今からオマエは徹底的にオレに守られてろ。 さっきまで路上で男同士で抱き合ったり(不可抗力、口パクしたデクが悪い)じゃれ合ったり(頬っぺたつねってただけでそんなつもりは毛頭ない)して流石に人目についたのか通行人にあからさまにジロジロ見られていたので、オレだとバレても面倒だと思い仕方なく近くに路駐しておいた車の助手席にデクを押し込めた。 『電話に出れなかったのは充電が切れてたせいだよ、病院で検査したあとは警察や厚労省の人にずっと事情聴取されてて。やっと解放されて、カツ丼食べて帰ってきたところだったんだ』 デクはなるべく全てを思い出そうしているのか、ゆっくりと手を動かし始めた。 『僕、昨日の午後の検査で薬剤を間違えたのか検査結果がうまく出なくて、一人で検査室に残ってやり直してたんだ。それで熱中してたら１２時過ぎちゃって、１２時過ぎると強制的に消灯になるから、あと検査結果をまとめるだけだったし隣の備品室に移ってデスクライト点けて続きをやってた。やっと終わった時は夜中の１時をまわってて、夕飯も食べてなかったことに気づいて。そしたら急にお腹空いてきて家に帰る前にカップ麺でも食べようと思って給湯室に行こうとしたんだ。廊下も非常灯の灯りだけで暗かったけど間取りは分かってるからちゃんと歩けた。でもその途中でカタカタッていう物音が聞こえて。僕以外みんな帰ったはずなのに、誰か忘れ物でも取りに来たのかな？ って思ったけど、物音は室長室から聞こえてるみたいで、それで僕、もし室長だったら電気を付けるはずだって思ったら、誰が何をしてるのか確かめずにはいられなくなって』 「そんで室長室に行ったんか？」 オレがギロッと睨むと、デクは「ウッ」とバツの悪そうに首をすぼめた。 『そしたら室長室の鍵が空いてて、そっとドアを開けると真っ暗な中でゴソゴソ動いてる人影がいて、僕誰だろうと思って思わずスマホの懐中電灯でその人を照らしちゃったんだ』 「オマエ、アホだろっ！？」 『警察にも何でそんな危険な真似をって言われた。君無個性みたいだしまず安全な場所に身を隠してから通報しなさいって。でもその時はそんな風に考えられなくて。そしたらその人見たことのない男の人で、僕に驚いたみたいで僕を押しのけて急いで部屋を出て行こうとしたから、逃しちゃいけないと思って咄嗟にその人の腕を掴んだんだ。そしたら持っていた棒みたいなもので頭を殴られて、そのまま気を失っちゃった』 「そんで気が付いた時は病院のベッドの上だった、と」 『後から聞いた話だと、僕のスマホから同僚のスマホに発信があったらしくて、だけと僕が電話なんておかしいって不審に思った同僚が、僕が残業してたこと思い出して駆けつけてくれたんだって。それでその時のことは監視カメラシステムも壊されてて映ってなくて、警備員さんたちもみんな眠らされてたみたいで、警察は犯人の個性の可能性もあるって』 「オマエのスマホから電話かけたのも犯人か？」 『多分そうなんだと思う。気絶した僕をほっとけなかったんだよ、優しいよね？』 「テメェそのおめでたい思考回路を今日限り焼き切れ。なんなら今すぐオレがショートさせてやろうか、ああ？」 手の平の上でバチッと火花を散らせたオレをデクが怯えた目で見た。 「まあだいたい見えてきたわ。室長室に入ったってことは、犯人の狙いはオレたちのDNAデータだと思っていいだろう。箝口令が敷かれて事件が公にされないのは上の奴らが内部犯行だと気づいてるからだ、警察にも圧力がかかってんな。あの胸クソ悪いプロジェクトは極秘扱いだから下手に目立ちたくはないはずだ。それにオマエら研究員がいる研究棟に続く扉の出入りには虹彩認証システムが使われてるんだろ、関係者以外が入り込むのは困難だ。研究棟は他に出入り口がねぇから必ずそこを通らなきゃ入れねぇ。入り込めるとすれば内部に協力者がいるヤツか、虹彩をコピーしたコンタクトレンズをつけるか、虹彩をコピーできる個性の持ち主だけだ」 『僕が見た犯人は一人だったし、知らない顔だった。じゃあ、犯人はコンタクトレンズを使ってたか虹彩をコピーできる個性の持ち主ってこと？ だったら外部犯行ってことに』 「そうとも限らねぇだろ。内部の人間で顔を変えられる個性のヤツかもしんねぇし、協力者説も捨てきれねぇ。何より室長室を漁ってたってのが怪しいじゃねえか。オレらのＤＮＡデータが室長室にあるって知ってるからだろ」 内部犯行説が有力になったせいで、デクの顔がにわかに曇ってきた。同僚に犯人がいるかもしれない可能性が濃厚になってショックを受けているようだった。 「どちらにしても認証システムをチェックすれば一発で誰の虹彩で出入りしたのか分かっちまうしな。時間の問題だろ」 『……８時半に先輩が帰って、僕一人になってから後の入退記録は分かってるんだ。１２時４５分と１時２０分。主任のだった。でも主任は一昨日から九州に出張しててアリバイもある』 「犯人はその主任の虹彩をコピーしたってことか」 デクは自分の膝に視線を落とし、膝の上で両の拳をギュッと握った。 「ショックなのは分かるがオマエが落ち込んでたってなんの役にもたたねぇわ。オマエに出来ることは危険だと思ったことには近づかねぇことと怪しいと思うヤツがいたらオレに知らせることぐらいだわ。間違っても研究所のヤツに報告とか相談とかすんな、どこで誰が繋がってっか分かんねぇからな。いいな？」 『…………』 「返事」 『分かった……』 目を伏せたままのデクにどうせまたくだらないこと考えてるんだろうと、そのモサモサの頭に手を置いた。見た目よりもずっと柔らかい髪が指の股を撫でてくすぐったい。 「人を傷つけるのには必ず理由がある。オマエを傷つけた犯人にも必ず何か理由がある。それをちゃんと聞いてやろうじゃねぇか」 デクは顔を上げてオレを見ると、無理に笑顔を作ってコクンと頷いた。 「痛ぇか？ 頭の傷」 『少し。左の生え際を２針縫っただけだし大したことないよ』 「そうか……」 デクの髪から耳の横を通って頬に手を当てる。何をされてるんだと目を丸くしてビクつくデクの頬を今度は軽くつねった。 「おばさんと世奈には黙っといてやる」 『ありがとう』 デクはヘラっと笑って、オレにつねられた頬をさすった。 多分コイツはオレが頬に触る理由なんて分かんねぇんだろうなと軽くため息が出る。オマエの体温を確かめるためだなんて、きっと、思いもしないんだろう。 アパートまで送ってやると言うオレに、本当にすぐそこだし歩いた方が早いからとデクはそそくさと助手席から降りていった。仕方ないのでアパートに着いたらメールを入れることと、何かあったらもちろんのこと、何もなくても一時間おきに必ずオレにメールを入れるようにと言いつけた。何事もなく無事なら無事でそう報告しろと。 『女の子じゃあるまいし』 「危機管理意識の問題だわ。今だって夜道を一人でポコポコ歩いて来やがって」 『この前はかっちゃんメールは緊急用だって』 「アホッ！ 今がその緊急事態だろーが！ オマエ犯人の顔見てんだぞ！」 『あ、そうか』 トボけた顔のデクに、やっぱりコイツにはオレがついてねぇと、と認識を新たにした。 バックミラーでデクの後ろ姿が角を曲がったことを見届けて、不本意ながら半分野郎に電話をかけた。デクを守るためだ、背に腹は代えられない。 ２コールで半分野郎は電話に出た。 『……緑谷だったのか？』 「事件のことで何か分かったらまた知らせろ。テメェの親父なら情報入ってくんだろ」 『容体は？』 「頭２針縫っただけだ、心配ねぇ。ただ犯人の顔を見てる」 『そうか。何か分かったら必ず知らせる』 「忘れんなよ」 『爆豪』 電話を切ろうとするオレを半分野郎の声が追いかけて来た。 「なんだよ？」 『いや、こんな必死なオマエ初めてだと思ってな。オレに頼みごとするなんて』 「何が言いてぇ」 『別に、そのまんまの意味だ』 「チッ！」 相変わらずイヤな野郎だと電話を切ると、ポロンとラインが１件入った。 白い歯を見せた笑顔のオールマイトのアイコンにmidoriyaと表記されている。 《 無事アパートに着きました。 》 ちゃんとオレに言われた通りに連絡を寄越したことに満足してフッと思わず口元が緩んでいると、立て続けにまたメッセージが入った。 《 ２０５号室です。》 なんのことだと一瞬思ったが、すぐにデクの部屋のことだと分かってカッと耳が熱くなった。デクの部屋まで押しかけようとしてたことに今更ながら自分の余裕の無さを思い知る。 しょうがねぇだろ、アイツが電話に出なかったんだから。出たところで話が出来ねぇんだから。急を要する時にメールなんてまどろっこしいことやってらんねぇだろ。本人捕まえて直に聞いた方が早ぇだろ、などなど…。自分自身への言い訳をできる限りした後、オレはようやく車のエンジンをかけた。 [newpage] それから１週間程は何事も無く過ぎた。デクがオレの側に戻って来たとはいえ物理的距離が近くなったわけではない。それでもデクはオレの言いつけをきちんと守り、時々遅れることはあっても起きてる間は１時間ごとに《 無事です。 》とLINEを送ってきた。余りの素っ気なさに《 何か変わったことはねぇんか、もっと周りをよく見ろや。》と一度だけ送り返したことがあったが、《 一ノ瀬さんが昨日髪を切ったみたい。 》と死ぬ程どうでもいいことが返ってきた。誰だよ、 一ノ瀬って！？ とまあこんな感じなのでデクからの情報収集はそれきり諦めることにした。 切島の事務所の管轄区域がＫ市の隣なので何か研究所での動きが分かるようなら知らせるように頼み、上鳴にはヒーロー仲間にも警察にも知り合いが多いため情報収集をするように頼んだ。半分野郎からは２、３回連絡があったが、分かったことは厚労省の役人(あくまでも自称)が研究所に頻繁に出入りして職員一人一人に事情聴取しているらしいことや、虹彩をコピーされた主任の周辺からも今のところ怪しい人物は浮かび上がっておらず、事件当夜眠らされていた警備員たちからも睡眠薬等は検出されていない、ということだった。 オレとしては定期連絡だけでは心許ないので毎日デクの安全を確かめにアパートまで行きたかったが、遅番勤務が続いたのと、気候も暖かくなったせいかここへ来てヴィラン供の動きが活発になり残業が続いたせいで、あれ以来一度もデクに会っていなかった。 庇護対象だから、というだけでは説明のつかない飢餓感と喉の渇きがいつもオレにつきまとっていた。 デクの顔が見たい。 ちゃんと笑ってるか確かめたい。 どこか怪我はないか確認したい。 頬に触れて、体温を感じて安心したい。 小さな液晶画面での素っ気ないやり取りだけでは明らかに不足していた。 デクが足りねぇ。 やっぱりアイツはオレのすぐ側に置いとかなきゃ気が気ではない。あのバカのことだから危険な目に遭っている最中でもケガさえしてなければ《 無事です 》とメールしてくる可能性もある。 よし、決まりだ。 今日は何があっても仕事を早くあがって、デクのアパートまで行ってデクを連れ出し、事件が落ち着くまではオレのマンションに住まわせてやる。部屋なら一部屋空いてるしアイツだって一応男なんだから４、５日くらい床で寝たって壊れねぇだろう。不満ならこの前みたいにソファーで寝りゃあいい。次の土曜か日曜に休み取ってベッド買いに行くか。カーペットもいるか？ デスクは？ クローゼットは備え付けがあるからいいとして、 「……さん！ 爆心地さん！」 って待てよ、もういっそ仕事も休ませりゃいいんじゃねえか？ 外に出ずに家ん中にいりゃ安心……. 「爆心地さんって！」 「……あ？」 「口の片端上げてなに悪巧みしてんすか？ つーか瞳孔開き切ってる感じがマジ怖いんすけど。それよりヴィラン縛り上げながらメールチェックすんのやめてもらっていいっすか？ 何なんすか、また女子高生っすか？ なんの定期連絡なんすか、もぉ」 「女子高生じゃねぇ、ただのヒーローオタクのクソ野郎だわ」 「はっ！？ 何すかそれ！？ ストーカーっすか！？ 番号バレたんすか！？」 「あー……、違ぇ。どっちかっつーと今はオレの方がストーカーっぽいな」 「はぁっ！？」 全く訳が分からないといった顔の後輩に縛り上げたヴィランを押し付け、要請のあった次の現場へと向かう。グズグズしてる暇はねぇ。今日はとっとと仕事を片付けてデクを捕獲しに行かなければならない。 オレの思惑とは裏腹に、その日の夕方から日の入りにかけてヴィラン供がまるで申し合わせたように暴れ出し、オレたちヒーローはヴィランの捕獲と一般人の救助に大忙しだった。ほんの数時間前に予定していた、残業せずに定時にあがる、なんてことはとてもじゃないができそうになかった。 クソッ、なんだってんだ今日は！？ ザコばっかりチョロチョロとしやがって！ イライラしながらヴィラン３、４人まとめて縛り上げてると、空気を伝ってくるピリピリとした刺激に皮膚が反応した。 「もぉー！！ 何なのオマエらっ！？ 何オレの大事な予定台無しにしてくれちゃってんだよっ！ ぜぇってぇ許さねぇっ！！」 声のする方に目をやると、周りのヒーロー達へは無配慮と思えるややいき過ぎな放電をしてヴィラン供を片っ端から感電させている上鳴の姿があった。上鳴の事務所とは管轄が同じなので現場ではこうして良くかぶる。 「コラァ！ アホ面ァッ！！」 「おぉ！？ 爆豪！！」 オレが上鳴の方へ近づきながら呼ぶと、ヤツには珍しく目を釣り上げた様子でこちらを振り向いた。 「ちったぁ加減しろやアホがっ！ 一般人に電撃の余波が及んだらどうすんだクソがっ！」 「だぁってよぉ！ ムカつくじゃん！？ 今日はやっとこぎつけたＣＡとの合コンだったってぇのにコイツらのせいで行けなくなって…！ ああクソッ！ またムカついてきたっ！！」 上鳴はそう言いながら今度はポインターをヴィランの後方に投げ空中で停止させ、それに向かってシューターで電撃をかました。これなら周囲を放電に巻き込むことなくヴィランだけ狙い撃ちできる。 「最初っからそれ使えやアホっ！」 「これだと一度に倒せないから効率悪いんだよ」 「一般人巻き込むよりずっとマシだろーが！」 「いや、そー言うけどさぁ、ここら辺の一般人の避難はとっくに警察がやって……」 「キャァッ！！」 「ねぇみてぇだな！」 オレは叫び声を聞くや否や走り出した。セレクトショップ前の路上パーキングに停めた車の中から飛び出した女と、それを捕まえようと手を伸ばす３メートルはあろうかと思われる大男。オレは爆速ターボで二人の間に割りこんで、女を庇うようにしてから半身を捻り大男に爆破をお見舞いした。ズドンと派手な音を立てて倒れる大男を確認してから女に向き直った。 「怪我はねぇか？」 「は、い……」 震えながら答える女を、息を切らしてやっと追いついてきた後輩に預けた。 「ヒュー！ 相変わらずスゲェスピード」 倒れた大男を捕縛しているオレに、同じく悠長にテケテケ走ってきた上鳴が感心したように言った。 「モタモタしてっと助けられるモンも助けらんねぇ。たったの１秒が命取りになることだってあんだろ」 あの時１秒でも早かったらと、何度自分を責めたか分からない……。 デクの顔が浮かび、そう言えばデクからの定期連絡を確認してなかったな、とヒーロースーツのポケットからスマホを取り出した。 「なに？ 緑谷？ また無事ですだけか？ いや、そりゃそうなるだろ、１時間おきってオマエどんだけ束縛系だよ」 茶化しながら覗き込もうとする上鳴を睨み言い返す。 「ルセェ、そんなんじゃねぇわ。テメェこそ情報収集どうなった？ 一向に情報あがってこねぇじゃねぇか」 「あのなぁ、向こうはＫ県警、こっちは警視庁、犬猿の仲で情報入ってくるわけねぇだろ。ただでさえ今回下っ端には情報降りてこねぇみてぇだし」 「チッ、使えねぇ」 「うわっ、ヒッデェ」 ブーたれる上鳴を無視して画面に目をやり、デクからの定期連絡が来てないことが分かって何故かいつも以上に不安が走った。一つ前の連絡から１時間１４分が経っている。嫌な予感がしてすかさずデクに電話をかけた。無事ならオレからの電話には出るはずだ。が、無情にもまた「電源が入ってないか……」の機械音声が流れた。 「クソッ」 落ち着け、ちょっと連絡が遅れてるだけだ、アイツのことだ、どうせまた「充電切れちゃってぇ」とかヘラヘラ笑って言い訳するのを聞くことになる。それにそういう時のためにプロヒーローに支給されている携帯端末の予備をあの夜アイツに渡してあったはずだ。多分そっちに連絡が……。 願いにも似た思いを抱き、ベルトに装着していた携帯端末を手に取った時だった。 液晶画面に「デク」の文字が表示され、乾いた着信音が鳴った。 メールじゃなくて電話……。 背中に冷たいものが流れ落ちるのが分かった。心臓がバクバクとうるさい。 「デク……？」 『………………………』 電話の向こうから伝わるザワザワとした空気感。瞬間、ブワッと音がするかと思うくらい全身が総毛立った。自然とデクのいる研究所の方向に爪先が向き足が動き出す。オレは受話音量を最大にして端末を耳に押し当てた。 『…………で…………が………』 クソッ、音が小さくて良く聞き取れねぇ。焦りと苛立ちでギリっと奥歯を鳴らしていると、ザザッザザッという雑音に混じってズキューンという銃声のような音が聞こえた。 オイ、ウソだろっ！？ 「デクッ！ オイデクッ！ 無事かっ！？」 端末に向かって叫んでいると、俄かに向こう側の音が大きくクリアになった。 『バカなことはやめるんだ、一ノ瀬君！』 次の瞬間、オレは爆風と共にデクの元へと走り出していた。 [newpage] ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 国立個性医薬品衛生研究所の職員で出久の３年先輩にあたる福原は、白衣の下に着ていたベストの内ポケットに忍ばせておいた拳銃を取り出し、ほんの数十秒前まで検査道具を洗浄殺菌しながら一緒に談笑していた同僚にその銃口を向けた。 たった今ケータイに入ったメールによると、あの男が無事この研究所に侵入できたようだ。時刻は午後５時５８分。まずまず予定通りと言っていいだろう。そしてそのメールこそがこの凶行開始の合図だった。 突然目の前に銃口を向けられても、見慣れないもの過ぎてか同僚達はポカンとしておりこれがいったい何なのか認識できていないようだ。それならばと、福原は銃口を床に向けて一発ぶっ放して見せた。 「ヒィッッ！！」 「キャァッ！！」 やっと状況を理解したのか悲鳴をあげて一斉に縮み上がる同僚達に、福原は薄っすらと笑みを浮かべながら言った。 「全員手を挙げて後ろの壁まで下がれ。下がったら持ってるスマホとピッチの電源を切って前に投げろ」 福原は同僚らを壁際に追いやり、スマホと所内連絡用のピッチを彼らから取り上げた。 福原の言葉に従いながらも皆ひきつった顔で、いったい何故こんなことを？ と目で訴えている。 何故って。研究者なら分かるだろう？ 「壁を向いて手を後ろに回せ」 福原は己の個性を使い計１２人の同僚を後ろ手に縛り上げた。手首から紐のようなものを出すのだが、それは蜘蛛の糸が何本も束ねられたようなものでそこら辺のロープよりも丈夫である。ただ某アメリカンヒーローのようにシュバっと飛び出したり自由自在に操れるわけではないので、シュルシュルと出してヨイショと手で絞らなければならない。それでも皆大人しく縛られているのは、皆大した個性も無く、拳銃を持っている福原が圧倒的な強者であることが明白だったからだろう。縛った者の中には口のきけない緑谷もおり、コミュニケーション手段である手話を操る手の自由を奪ってしまうのはいささか気が引けたが、この場合仕方がない。 「このまま大人しくしていてくれればケガはさせません。あなた方を傷つけるのが目的ではないので」 同僚達の自由を奪い床に座らせ己に余裕ができたのか、福原の口調はいつものような穏やかなものに戻っていた。 「福原、お前、始めからこれが目的で……」 「スミマセン主任、僕ホントはノーマルなんです。でも主任のこと嫌いじゃないですよ」 申し訳なさそうに笑い、福原は主任である梶の虹彩をコピーするために梶の性癖を利用したことをアッサリと認めた。酒に酔わせてホテルへなだれ込み、情事の後気絶したように眠る梶の瞼をこじ開け瞳の写真を撮った。そんな福原に梶は確かな憎しみを覚える。梶が警察から事情聴取を受けた時、最近怪しい人物との接触はなかったかと聞かれたことに対し特に思い当たらないと答えたのも、福原を疑いながらもどこかで信じたいという気持ちがあったからだ。縛られ銃口を向けられながらも、「え？ そういうアレだったの？」という目で見てくる同僚や部下達のことはこの際気にしないでおく。 そんな時、突然ドアが開き、室長が憮然とした表情で検査室に入ってきた。 「室長……！！」 警察を呼んでください！ という梶の言葉は飲み込まれた。室長の後ろから同じく拳銃を構えた一ノ瀬が入ってきたからだ。どういうことだ？ あいつは今朝体調が悪いと電話をかけてきて有給を取ったはずだ。そしてその一ノ瀬の後ろから入ってきたもう一人の男に目が行く。 見たことのないヤツだった。 梶と同じく３０歳前後だろうか？ 中肉中背の特にこれと言った特徴もないような男だ。だが、目を血走らせ、額に脂汗を滲ませ、歯をむき出し、ハアハアと荒い息を吐き出している様はまるで獲物を前にして長い間「待て」をさせられているドーベルマンのようだ。そしてその男の登場に、梶の隣に座って縛られた腕をずっとモゾモゾと動かしていた緑谷の動きが止まった。 「緑谷、もしかしてあの男か？」 忍び込んでお前にケガをさせた奴は？ 全てを言葉にはしなかったが、緑谷は男を見据えたままコクッと頷いた。 一ノ瀬が室長の背中を拳銃で押し福原の方へやると、福原は室長の腕も背中で一つに束ねた。 「何故室長まで？ パスワードは分かったんですか？」 「分かったけど、やっぱり室長のだけじゃダメだったわ」 福原の質問に一ノ瀬は忌々しそうに答えた。 「所長のパスワードも必要だった」 「所長の？ そうですか……、じゃあ聞いてもらいましょうよ」 福原はそう言って室長のこめかみに銃口を押し付けた。 「今すぐ所長に電話してもらえますよね？ でなきゃその人いつ暴れ出すか分かりませんよ？」 福原は一ノ瀬の後ろでガルルと唸り声をあげている男を一瞥し、先ほど取り上げた室長のスマホを手に取った。 「………君達こんなことをしてタダで済むとは思っていないだろ？ すぐに他の職員もこの研究棟の異変に気付くはずだ。それにその男が防犯カメラに映っているはずだろ、すぐに警備会社か警察が…」 「防犯システムにはちょっと細工をしてありますのでご心配なく。警備会社のモニターにはちょうど昨日の今頃の画像が写ってますよ。それに今日は新入職員の歓迎会で僕たち研究員以外はもうとっくにこの研究所を出てるはずです。それに今日は警察もヒーローも忙しいんじゃないかな？ 今あちこちでヴィラン達が暴れてるから」 だから無駄な抵抗はやめて下さい、とでも言うように福原はクツクツと笑った。そんな福原とは対照的に、一ノ瀬は悲痛な面持ちで室長に訴えた。 「室長、先ほども説明した通りもう時間がないんです。もう兄は限界です。いつ理性を失ってもおかしくないんです。そしたらここにいる全員が無事ではいられない」 「……何度も言ってるが一ノ瀬君、それはできない。事情は分かったが、ここの責任者としてそれを許すことは……」 Ｂａａａａｎｇ！！ 突然鳴り響いた銃声に悲鳴があがった。と同時に「ぅああぁっ！！」という呻き声にまさかと思いその方向を見やると、太股から血を流している職員の姿が目に入った。 「…っ！！ なんてことをっ！！」 「室長、時間がないんです。新薬の保管場所を教えてください」 一ノ瀬は人を撃ったことに何の動揺の色を浮かべることなく、今度は今撃った職員の隣に座っている者に銃口を向けた。 「教えてくれるまで順番に一人ずつ撃ちます」 「バカなことはやめるんだ、一ノ瀬君！！」 「ええ。やめさせて下さい、室長。だからお願いします、教えて！ 薬はどこにあるんですか！？」 一ノ瀬の叫びにも似た要求に、一瞬室長の顔が歪んた。これ以上部下を危険にさらすことはできない。幸い先程撃たれた部下は弾が掠っただけのようだが、次もそうとは限らない。かといって新薬の保管場所を教えることもできない。だがこの強暴性誘発遺伝子に今にも操られようとしている男を抑える方法が他にあるだろうか？ 「新薬？ …って、なんのことですか？ 僕たちが奪おうとしてるのはヒーローのＤＮＡデータですよね？」 福原がまだよく飲み込めないと言った顔で一ノ瀬に質問した。 「そんなもの最初からここにはないわ。採取したその日にあの厚労省の役人達がどこか別の施設に運んでいった」 「は？ ちょっと待って、それどういうことですか？」 「ここではヒーローのＤＮＡ解析は行われてない。この研究所はただのダミーよ。私たちみたいな輩からＤＮＡデータを守るための」 一ノ瀬の言葉に福原だけでなく、その場にいた研究員全員がざわついた。下っ端の研究員には解析は任されなかったが、室長やそれに準ずる者が解析を行ったと誰ともなく噂が流れ、皆それを信じていたからだ。今思えばその噂も上部の人間がわざと流したものなのだと分かる。 「それにあの時採取したヒーローのＤＮＡ、誰のＤＮＡからも強暴性誘発遺伝子も抑制遺伝子も検出されなかった。そうですよね、室長？」 皆の視線が室長に集まる。室長は黙り込んだままだが、その沈黙こそが肯定を表していた。 「知ってました？ 研究棟のカフェスペースから所長室が見えるんです。そこで所長と二人で話してましたよね、残念な結果だったって。私、手話だけじゃなく読唇もできるんです」 観念したように目をつぶる室長に、皆がそれが真実なのだと悟った。そしてこんな状況下にも関わらず、「そんな……」などと落胆の声が漏れてしまうのは、研究者の性なのだろうか。 しかし福原だけは納得できない様子で憤りを隠そうとせず、今まで纏っていた穏やかさを脱ぎ去り一ノ瀬に詰め寄った。 「クソッ！ それを知っててオレを騙したのか！？ 犯罪に加担させるためにっ！？」 今にも掴みかからんとする福原を、一ノ瀬は冷淡にあしらった。 「あなたが隙を見て何度も室長のパソコンにアクセスしようとしてるのを知ってたのよ。あなたなら簡単に仲間に引き入れられると思った」 「……っ！！」 ぐっと言葉に詰まった福原に、皆の冷たい視線が突き刺さった。まんまと騙されて利用された無様な自分の姿が晒されていると思うと居た堪れない。しかし福原は再び銃口を皆に向け、ヒールに徹することで未だ自分の方が床に座っている者より優位であることを示した。 「…フン、まあいいさ。ＤＮＡがダメでもその新薬のデータがあるってんなら十分に金になるだろうしな」 福原を上手く黙らせた一ノ瀬は、再び室長に向き直った。 「室長、お願いします、早く薬を！ 兄にこれ以上人を傷つけさせたくないんです！ 本当は優しい人なんです！ 優しすぎる人なんです！ 兄の理性が飛ぶ前に！ お願いします！！」 一ノ瀬の懇願にもまだ黙り込む室長に、主任の梶は痺れを切らしたように口を開いた。 「室長！ 薬って何のことです！？ もうここまできたらみんなが納得できるように説明して下さい！ 一ノ瀬！ 説明してくれ、何のことなんだ！？」 「強暴性抑制遺伝子に代わる新薬です。実はもう私を含めた一部の者で開発を進めていたんです。だけどそのデータも開発した新薬も全て室長が管理していて私達には触ることができません」 その言葉にまた一同がざわめき出す。 「本当ですか、室長！？」 室長はもう隠しきれないと観念したのか、長いため息をついた後ようやく重い口を開いた。 「………まだ臨床試験の段階にもないモノを試すわけにはいかない」 「マウスでは良い結果が出ました！」 「ヒトはマウスなどではないっ！！ 君のお兄さんを実験台にするわけにはいかんだろっ！！」 「分かってます！ そんなの分かってます！ でももう私達にはこれしか望みがないんです！ 室長っ……！！」 一ノ瀬の懇願と同時に、うぉぉぉっっ！！という雄叫びをあげながら今まで一ノ瀬の後ろで本能と戦っていた男が右腕を振り上げ一気に実験台の上に叩きつけた。 硬い天板がメリメリと音を立て、実験台は見るも無残に真っ二つに割れた。 「兄さん！ ダメよ、もう少しだから耐えて！」 一ノ瀬は兄の首元に抱きつき、彼を落ち着かせようと背中を撫でた。そして涙を流しながら祈るように室長を見た。 「兄の個性は、両腕が鉛のように硬く重くなるものです。理性を失うと腕を振り回して誰彼構わず殴り飛ばすんです。私たちの両親は、兄が８才、私が６才の時に兄に頭蓋骨を割られて死にました」 実験台を粉々にした男に対する恐怖で浮き足立っていた研究員達が水を打ったように静かになった。 「その後私たちは国営の施設で育ちましたが、私が里親に引き取られた後も兄は成人するまで施設から出ることは許されず、その間ずっと自傷行為を繰り返して来ました。凶暴性を他人に向けまいと必死に本能に抗った結果、その凶暴性が自分に向かったんです」 男の目からも、涙が一筋流れた。 「個人輸入してる未認可の薬ももう効かなくなりました。お願いします……。兄を、救って下さい……」 今にも崩れ落ちそうな兄妹を目の前にして、これは人体実験などではない、人道的な判断なのだ、と心から思っていることに研究者として何一つ恥じることはないと、室長は覚悟を決めた。 「………金庫は二重になっている。外側のロックは私が解除できるが、内側のロックの暗証番号は毎朝所長が変えているんだ。開けたい時は所長に暗証番号を聞かなければならない。……所長に電話をかけさせてくれないか？」 所長からの折り返しの電話を待つ約２０分間を、こんなに長く感じたことはないとその場にいる誰もが思っていた。所長が室長からの電話に出なかったため、折り返し電話が欲しい旨を留守電に入れておいたのだが、その間、男の顔はますます引きつり青ざめ、歯の根はガチガチと合わなくなっていた。フー、フーと獣のような息が余裕がなくなっているのを物語っている。 緊迫した空気を切り裂くように着信音が鳴り響いた。それに呼応するように男が「うぉぉぉっ！！」と再び雄叫びを上げた。 折り返しの電話に室長が飛びつくように出たのと、男が白目を向いて腕を振り上げたのは、ほぼ同時のことだった。 その鉛の腕に兄を止めようと一ノ瀬が飛びつく。 そして。 そんな一ノ瀬に出久が体当たりを食らわせたのと同時に、検査室のドアを蹴破って、２人のヒーローが飛び込んで来た。 [newpage] 研究所に向かう途中でも街中でヴィランは暴れており、多くのヒーローが駆り出されてその鎮圧にあたっていた。 「っとに何だってんだ今日はっ！？」 オレは、オレの進路妨害をしてくるヴィランを爆破で吹き飛ばしながら爆速ターボで前進していた。 端末に繋げたイヤホン越しに、研究所ではもう一刻の猶予も許されないことが分かる。銃声が聞こえたのは一回だけ、それ程騒いでないから重傷者が出ているわけではないだろう。今の状況では人質が何人いるのか分からないが、この前見た限りでは研究員は１4、５名ってところだ。 銃を持っているのは一ノ瀬という研究員の女、仲間の男も一人いるようだがそいつも銃を持っているのだろうか？ そして。凶暴性遺伝子に今にも操られようとしている一ノ瀬の兄。 そいつが新薬を手に入れるのが先か、オレが現場に着くのが先か。 それとも、そいつの理性が飛ぶのが先か……。 そんなこと絶対にさせねぇ。 オレが必ず阻止してやる。 デクはオレとの約束を守り、 オレを信じて危険を知らせて来た。 だったらオレはそれに全力で応えてやる。 絶対にデクを無事に救い出す……！ そうして爆風で飛び上がり目の前の邪魔なザコ共に爆破を食らわした時だった。 「爆豪っ！！」 後方を見下ろすと、バイクに跨った上鳴が道路に転がってるヴィランを避けながらオレを追いかけて来ているのが見えた。 「乗れ、爆豪っ！！」 そう言って上鳴は加速し、オレは爆破で体勢を整えながらタンデムシートにドスンと着地した。 「遅ぇ！ もっと早く来いやっ！」 「オマエ振り落とすぞっ！」 「よくこっちだって分かったなっ！？」 「無線キャッチしたんだよっ！ 爆心地がスゲェ勢いでヴィランブッ飛ばしながら１５地区方面に向かってるってっ！ あの研究所だろっ！？ 取り敢えず警察には通報しといたけどよっ！ この状況じゃあどうなるかっ…！」 「ハッ！ たまには役に立つことすんじゃねえかっ！」 「オマエなぁっ！！」 「うおっ！！」 グンッと上鳴がアクセルを踏み込んだために、不意を突かれたオレは後ろに振り落とされそうになるのをなんとか耐えた。 「ホォラ爆豪っ！ 前から来たぜぇっ！」 「言われんでも分ぁっとるわっ！！」 オレは前方からバイクに向かって飛びかかって来るヴィランを爆破しながら、どうかオレが着くまで無事でいてくれと、デクの元へと身も心も馳せた。 研究所に着くと、上鳴の通報を受けて数名の警察官が既に到着していた。たったこれだけかよ？ と思ったが、ヴィランがそこら中で暴れてるので警察も人手が足りないんだろう。建物の外でウロウロしてるのは、研究所の入り口の自動ドアが既に閉まっており建物内に入れないからのようだ。 バイクから降り、オレは有無を言わさず自動ドアを爆破で壊し建物内に入った。エントランスホールには２名の警備員が倒れていたが、脈を診る限り正常だったのでただ単に眠らされているだけのようだった。警備室にも一人眠らされている警備員を確認した。一週間前と同じだ。オレと上鳴は警察官にその３名の救護を頼み、建物の最奥の研究棟へと急いだ。イヤホン越しの情報からだと、犯人達も人質達もこの研究所の所長からの電話を待っているようだ。１５分以上これといった動きはないようだが、緊張感に耐えきれずパニックを起こす人質が居てもおかしくない。それに男の自制心もいつまでも続かないだろう。何より、デクが無茶をせずいつまで大人しくしていられるか……。 研究棟に続く自動扉は見るからに堅牢で、ちょっとやそっとの爆破ではビクともしそうになかった。 「クソッ！ やっぱりこれが一番の障壁か！ 下がってろ、アホ面！」 オレが扉に向かいＡＰショットを構えると、上鳴りが慌ててオレを止めた。 「待て待て待て待てっ！ そんなんブッ放したら爆音で中にいる犯人に気づかれちまうだろうが！」 上鳴はそう言ってオレの前に出て、壁に設置された虹彩認識のカメラに手を当てバリバリっと電流を流して壊した。その後扉に手を当て再度電流を流すと、シューッと煙が上がり焦げた匂いが充満した。それを見てオレはすかさず扉に体当たりをすると扉と扉の間に少し隙間が空いた。 「良かったろ？ オレがいて」 さっきの「使えねぇ」発言を撤回しろと言わんばかりの上鳴の得意げな表情にフンッと鼻を鳴らす。アホ面とハサミは使い用だな、などと思いながらオレは扉の隙間から手を強引に差し入れ左右に思いっきり開いた。扉の向こうに続く研究棟は異様なくらいしんと静まり返っており、オレ達は目配せをし、緊張しながら扉を抜け研究棟の中へと入った。 足音を忍ばせ、１階の部屋から一つずつ見て回るが誰もいない。階段を使って２階へ行くと、Laboratoryとドアに書かれた大きな部屋が４つあり、そのうちのLaboratoryーⅣに犯人も人質達もいるようだった。 まずは中の状況が知りたいと思っていると、上鳴がポインターを取り出し、それを何やら操作してから宙に浮かべた。 「何やっとんだ？」 オレが声を抑えて聞くと、上鳴はもう一つ同じように操作してそれを高窓の位置まで浮かべた。 「鏡にもなんのよ、コレ。発目にこの機能説明された時は正直いらねぇって思ったけど案外役に立つんだよなぁ」 そう言い上鳴は腕に装着しているシューターのボタンで２つのポインターの角度と位置を操作した。ポインターに検査室の様子が映り、廊下にいるオレ達にも状況を把握できるようになった。アホ面にしては上出来だ。いや、発明女か。 人質は後ろ手に縛られ検査室の後方の壁際に座らされている。デクを入れて全部で１２人、イヤ、もう１人別の場所に銃を向けられてる男がいる。スマホを握っているところを見ると多分あれが室長だ。犯人はその室長に銃を向けている男と、ほかの人質達に銃を向けている女(アイツが一ノ瀬か)、そして一ノ瀬の隣で肩で息をして体を震わせている一ノ瀬の兄。思った通り犯人は３人で間違いない。 「あっ、あの女、緑谷と親しげに話してた人じゃん。こんな事するような人には見えなかったけどなぁ」 上鳴にはまだ詳細を話してないので、何故あの真面目で思慮深そうな一ノ瀬がこんな事をしでかしたのか分からなくても不思議はない。 「みんな人知れず抱え込んでるもんがあるってことだろ」 「え？ なんて？」 「さあな。さて、どうするか……」 オレは宙に浮いてるポインターを見上げ、何かいい策はと考えを巡らした。 「強行突入？ 犯人３人ならオマエとオレで何とかなるっしょ」 「何とかなるが犯人は拳銃を持ってっからな、人質の安全を考えたら得策じゃねぇ。それに犯人っつってもヤツらはヴィランじゃねぇ、できるだけ無傷で捕らえたい」 「じゃあどうすんの？」 オレに一つの策が浮かんだが、それにはもう一人協力者が必要だった。 「オイ、ちょっと角度変えられるか？」 オレはポインターを顎で指して上鳴に聞いた。 「お？ あ、ああ」 「デクにオレが見えるようにしてくれ」 「……オーケー」 上鳴は何かを察したのかニッと笑い、ポインターの角度を変え、廊下側から２番目に座っているデクとオレがお互いに見えるようにした。 ポインターの鏡に映ったデクは一ノ瀬兄妹の方を見ていて、案の定泣いてる。それが恐怖から来る涙ではないことはオレには分かっている。だからオレの出す指示に冷静に従えるはずだ。それにはまず、オレがここにいることを気づかせねぇと。 オレは手の平で軽くバチバチッと火花を起こし、デクの目にチカチカと映るようにした。気づくはずだ。デクがあったかくて優しいと言ったオレの個性。オマエなら気づいてくれるはずだ。 願いにも似た思いでデクの顔を見つめていると、視線を感じたのかデクはすぐにオレの火花に気づいた。そして驚いたように目を丸くして、オレを見た安堵からかまた別の涙が頬を伝った。だがオレが人差し指を唇に当てると、ギュッと唇をひき結んで不自然にならないように視線だけをこちらに寄越した。 大丈夫だ、デクは冷静に対処できる、と判断したオレは、手話でデクに語りかけた。 『ハイなら瞬き一つ、イイエなら瞬き二つで答えろ』 デクは瞬きを一つした。 『ケガはないか？』 また瞬きを一つした。 「オ、オイッ、爆豪オマエッ……！」 手話使えんのか？ と続けるはずの上鳴を睨んで黙らせ、オレはデクとの会話を続けた。 『これから突入するが、オマエにやってもらいたいことがある。動けそうか？』 デクは一回瞬きをした。 『オレの３、２、１、GOの合図で一ノ瀬に体当たりしろ。兄貴からできるだけ遠くまで吹っ飛ばせ。できるか？』 やや間があって、デクは躊躇いがちに瞬きを一つした。 怖いのかもしれない。当たり前だ、いくら女だと言っても相手は銃を持っている。もしかしたら他の人質を危険に晒すのではと危惧してるのかもしれない。戦闘なんて初めてのヤツには荷が重いのか…。 だけど、オレがいる。 オレがオマエのすぐ側にいるだろ。 『オレを信じろ』 デク…… 『必ず全員助ける』 これからはずっと、 『大丈夫だ、オレが側にいる』 デクは瞬きを忘れてしまったかのようにしばらく固まっていたが、やがてゆっくりと瞼を閉じて頬に涙の筋を作ると、またゆっくりと瞼を開けた。 デクにオレの熱が伝わったかどうかは分からない。だが、初めてデクと何かを共有できた気がした。 「オイ、爆豪…」 「オレの合図で突入すんぞ。アホ面、オマエは銃を持ってる男を押さえろ。オレはもう一人のキレる寸前の男を押さえる」 「分かったけど、もう一人、あの女はどうすんだよ？」 「デクに体当たりさせる」 「はあっ！？ 大丈夫なのかよ！？」 「大丈夫だ。その後オマエにはあの女の銃も奪ってもらいたい」 「それはいいけどよ、……まあ、オマエが大丈夫っつーなら……。了解」 オレは両腕のコテを外し、静かに床に置いた。 「んじゃ、……行くぞ！」 ーーー ３ 鏡越しにデクにサインを送る。 ーーー ２ 検査室でケータイの着信音が鳴り響く。 ーーー １ そして男の雄叫び。 「GO！！」 デクにGOのサインを出すと共に検査室のドアを蹴破り、オレは目を血走らせヨダレを垂らしながら腕を振り上げる男目掛けて突き進み右の大振りを一発かました。窓際に吹っ飛んだ後なおも唸りながらオレに襲いかかって来る男の腕を取り、背負い投げで床に叩きつけ、胸に一発拳を叩き込んで床に沈めた。 その間、デクが一ノ瀬に体当たりし、手から離れた銃を上鳴に向かって蹴飛ばしている姿が目の端に映った。生意気にもオレの指示以上のことをやりやがって、後で説教だな。部屋の後方では、秒でもう一人の男を捕縛した上鳴が銃で足を撃たれた人質の手当てをしていた。 オレは白目を剥いて気絶している男を捕縛した後、茫然自失で床に四つん這いになっている一ノ瀬の腕を取り立たせた。 「他に方法は無かったんか」 一ノ瀬は焦点の合わない目をオレに向けた。 「国の専門機関に頼る事も出来たろ」 オレの言葉に一ノ瀬の目に生気が戻った。 「……モルモットにされるだけよ」 「アンタももう少しで兄貴をモルモットにするところだったんじゃねぇのかよ」 「違うっ！ 分かったような事言わないでよっ！ 兄さんがどれだけ苦しんできたかアンタなんかに分かるわけないっ！！ 自分の意思とは関係なく人を傷つけて殺してしまう気持ちなんかっ！！ 殺したくないのに殺してしまった兄さんがどれだけ絶望したかっ！ 遺伝子に操られたことのないアンタなんかにっ！ 自分の意思で凶器を操れるアンタなんかにっ！ 分かるわけっ……！！」 うわぁぁぁぁっ、と号泣する一ノ瀬をオレは捕縛することが出来ず、やっと現場に着いた警官たちに彼女を預けた。福原も連行され、一ノ瀬の兄も数人の警官によって担架に乗せられて運ばれて行った。 いつの間にかデクがオレの隣に立っていた。上鳴が順に人質のロープを解いていたらしい。デクは悲しげな表情で、警官に手錠をかけられている一ノ瀬に語りかけた。 『あの日、気絶した僕のスマホから助けを呼んでくれたのは一ノ瀬さん？』 一ノ瀬はオレに向けた目とは打って変わって優しい目をデクに向けた。 「そうよ。だけど、そうしろと言ったのは兄よ。倒れたあなたを放っておけないって」 『そうなんですね。お兄さんに伝えてください、ありがとうって』 すると一ノ瀬は少しだけ笑みを浮かべて言った。 「出来れば兄に直接伝ってあげて。そんなチャンスがあるかどうか分からないけど……」 『でも……』 「兄も手話ができるのよ。兄は聴覚障害者なの。両親を殺した後自分を責めて自分の頭を殴って、その時鼓膜が破れて……。それで兄と一緒に私も手話を覚えたの。大学のボランティアサークルでって言うのはウソ」 一ノ瀬の話を聞いたデクの瞳にまた涙の膜が張ったが、歯を食いしばって泣くのをこらえているようだった。 『必ずお兄さんに直接伝えます』 「ありがとう」 そう言って一ノ瀬は嬉しそうに笑った。 さあ、と言って警官に連行される一ノ瀬の背に、今度は室長の声がかかった。 「一ノ瀬君！ 必ず新薬は完成させる！ 特例で短期間で認可が下りるよう厚労省にも掛け合おう！ 私達も君のお兄さんを救いたい！」 「室長……。ありがとうございます……」 静かな涙を流した一ノ瀬を、警官たちは検査室の外へと連れて行った。 一ノ瀬の出て行ったドアをずっと見つめたままのデクの頭にポンッと手を置くと、デクはやっとオレの方を向いた。 「良くやった」 デクはコクッと頷いた。 「ケガさせちまったな」 体当たりして床に転がった時に出来たであろう右頬の擦り傷が痛々しい。その傷に触らないように、オレは手の平でデクの頬をそっと覆った。デクの体温を感じて、酷く安堵する自分がいる。 『助けてくれてありがとう、かっちゃん。一ノ瀬さんも、一ノ瀬さんのお兄さんも、傷つけないでくれてありがとう』 「アイツらはヴィランじゃねえからな。それに、聞いちまったからな、オマエを傷つけなくちゃならなかった理由を」 『うん……。ちゃんと聞けて良かった』 へへッと泣くように笑うデクをそのまま抱きしめるのが自然な気がして、デクの頬から肩まで手を滑らせた。それに呼応するように、デクはオレを真っ直ぐ見て、まるで何か言いたげに唇を薄っすらと開いた。 「爆心地！ チャージズマ！ これから人質になっていた方全員を念のため病院へ搬送します。その後皆さんには事情聴取にご協力を願います！」 警察官の声がデクの背中に回しかけたオレの手を跳ね除けた。 「よっしゃあ、無事解決したしオレたちも管轄戻ろうぜ、勝手に来ちまったし上から怒らんねぇうちにさ。まだヴィラン暴れてんのかな？」 「……だろうな」 上鳴にも促され、オレは仕方なくデクを警察に委ねた。 側にいなければ、側に置いておかなければと、何故かさっきよりもずっと強く胸がざわついたが、オレにもプロヒーローとしての責任がある。 「後で迎えに行く」 デクはオレの言葉に小首を傾げた。何でだろう？と不思議そうな顔をしながらもコクンと頷いたデクの頬を、手の甲でもう一度撫でた。するとデクがオレの手に一瞬頬擦りをした気がして、ドキリとして手を離し、後ろ髪を引かれる思いで検査室を出た。 「結局どういう事件だったわけ？」 上鳴に聞かれ、検査室を出てから今更ながら事件の顛末を説明する。 「はぁぁぁ、人を傷つけたいって衝動が自分でコントロールできないって、そんなに辛いもんなんだな。いたんかな、同じようなヤツ。今までオレらが倒したヴィランの中にも」 「いたかもしれなぇな」 「でもオレは人を傷つけたい、殺したいって思って、しっかり自分の意思で個性使うヤツの方が恐ぇと思うけど」 「…………………」 『自分の意思で凶器を操れるアンタなんかに』 一ノ瀬の言葉がリフレインする。 オレは９年前のあの日、確かに世奈の父親を殺そうと思って個性を使った。明確な意思を持って。 オレの中にもそんな狂気があるなんて信じたくなくて、ずっと目をつぶっていた。ガキの頃からヒーロー目指してたくせに、自分の中にそんなドロドロとしたドス黒い感情があるなんて認めたくなかった。 オレは人を殺せる。 守りたいものを壊された時、 大事なものを奪われた時、 オレは。感情にまかせて、人を殺せる。 上鳴の言う通り、そんなヤツが正義漢ヅラしてヒーローやってる方がよっぽど怖いのかもしれない。 「……なあ。……オマエが助けることにこだわるのって、緑谷が関係してるんだろ？」 「ぁあ？」 茶化すでもなくからかうでもない上鳴の視線に、思わず目を逸らした。 「オレバカだけどそーゆーとこは敏感なのよ。オマエのそのヒーロースタイルって緑谷の声が出ないことと何か関係があんだろ？」 バカのくせにそういうところだけ敏感な上鳴は、それプラス、意外にも直球勝負のヤツだ。つーか変化球を投げられないだけか。 「テメェなんかに話す筋合いはねぇ」 「イヤイヤイヤ爆豪、あんだけ緑谷に対して余裕のないとこ見せといて何があったのか聞くなって方がそりゃオマエ無理ってもんだろー」 「無理でも聞くな」 「なんだよ、今更だろ？ オレもここまで巻き込まれたからにはキチンと聞かせてもらうぞ。緑谷のヤツ交通事故が原因って言ってたけど、本当のところはどうなんだよ？」 「テメェには関係ねぇだろ」 オレがいつもの調子で 話を切り上げようとすると、上鳴が珍しく声を荒げた。 「関係なくねぇだろ！？ 放っとけねぇだろ、ダチがそんな辛そうなのによぉ！ 言っとくけどオマエ最初っから様子おかしかったからな！？ 緑谷があの会議室に入ってきた時からずーっと！！」 ………正直、驚いた。隠しきれていると思っていたオレの傷が表面に出てしまっていたことにも、そして、そんなオレを見て辛そうだと心配するヤツがいることにも。普段なら誰かから心配されるなんてオレのプライドが許さない。フザケンナと吠えているはずだ。なのに、今は何故か、オレの内側で何か硬い殻がパラパラと剥けていく音がした。気がつくと、自然と口から声が漏れ出ていた。 「アイツは……、デクは、オレの目の前で半狂乱の男に喉を切り裂かれて、声を無くした。オレのたった数メートル先で。オレはすぐ側にいたのに、デクを助けられなかった。目の前でデクが倒れて、オレの腕ん中でデクがどんどん青ざめて冷たくなってって……。そん時初めて、怖いと思った。無くすのを怖いと思った。……あんな思いをするのは、もう、たくさんなんだよ」 「それでオマエはヴィランとっ捕まえるより助けることを優先するようになった、ってことか……」 「そんだけじゃねぇ。アイツはオールマイトに死ぬほど憧れてた。どんな不利な状況でも、最後には必ず勝って笑って助ける。助けて勝つ。アイツがなりたくてなりたくて仕方なかったヒーロー像だ」 オレがそう言うと上鳴は目を丸くした。 「へ？ だから緑谷の代わりにオマエがそのヒーロー像を体現してるってわけ？ オイ、マジかよ爆豪」 「チッ。笑いたきゃ笑え」 いったいそれの何が悪い？ と、オレはフンッと顔を背けた。っとに腹の立つ…… 「笑う？ 冗談だろ？ むしろ健気過ぎて泣けてくるわ。あの泣く子も黙るヴィラン顔の爆心地が純愛路線まっしぐらだなんてよ」 今度はオレが目を丸くする番だった。 「はあっ！？ 純愛！？ 何バカなこと言っとんだ、今日こそ殺すぞアホ面コラァッ！！」 「オイオイオイ、ほんとマジか爆豪！？ まさかの無自覚って！！」 「ああっ！？」 まるで幽霊でも見たみたいに自分の両腕を抱いて戦慄する上鳴にオレは掴みかかった。 「え！？ じゃあっ！ じゃあさ、オマエが前に言ってた、殺意を抱いたことがある相手って……、もしかして、緑谷の声を奪った犯人、とか……？」 「………ああ、その通りだ」 オレは投げるように上鳴の胸ぐらを離し、フーっとため息をついた。 「デクを傷つけられて、デクが死ぬかもしれないと思ったら、身体中が震えて、怒りとか、恐怖とか、そういうもんがごちゃ混ぜになって、そいつを殺してやりたいって思った。それでそいつを殺すつもりで爆破した。……殺せなかったけどな」 「爆豪……」 「そんなマイナスな感情も持ってるくせにそれを押し隠して、オレは正義っつー大義名分のもとでヒーローなんてやってる。人なんて簡単に殺せる凶器を振りかざしてな」 「オマエ……」 上鳴は神妙な顔をしてオレの話を聞いていたが、急にいつもの明るい表情に戻ったかと思うと、オレの両肩にバンッと手を乗せていつもの調子で言った。 「バッカだなぁ爆豪！ そんなことで今までずっと悩んでたのかよ？」 「はぁぁっ！？ ンだとテメェ！？ 今度という今度は…」 オレは手の平でBOMB！と小爆発を起こしたが、そんなもんで怯むような上鳴ではない。 「あのな爆豪。それは殺意ってんじゃなくてぇ」 上鳴は悪戯っぽくニッと笑い、 「世間ではそれをぉ」 オレの耳に口を寄せて言った。 「 愛。って言うんだぜ 」 バカなりの理論なんだと思う。 こういう所がバカたる所以なんだと思う。 だけど上鳴のその言葉が、剥がれ落ちた硬い殻の代わりに、オレの内側を柔らかく覆っていくのが分かった。 「自分の愛する人を目の前で殺されかけて激昂しないヤツがいるわけねぇじゃん。逆に相手を殺してやりたいって思ったって当然だろ？ 正義感とか、倫理観とか、フツーそんなの一瞬で吹っ飛んじまうだろ。オレだってそうなるわ。愛ゆえの行動、愛ゆえの復讐」 上鳴は人差し指でオレの胸を突ついて言った。 「それが、その感情の正体だよ」 癪だった。よりにもよって上鳴に気づかされることになるなんて、腹の底から癪だった。だけど、ああそうか、と。ガキの頃のあの時も、中学ん時のあの瞬間も、再会した時の胸の動悸も、今すぐ引き返してデクを連れて帰りたいこの衝動も、全て。全てそれが理由だったんだと、何年もかけて、やっと辿り着いた。 そして同時に分かった気がした。なんでオレが上鳴みたいなヤツと友人なんて関係を築いているのか。まるきり違う人種のコイツと、なんで雄英時代からずっとつるんでいるのか。 「アホ面……」 「あん？ 」 「……テメェにだけはバカ呼ばわりされたくねぇわクソがぁっ！！」 「ぇええっ！？ そこは違うだろ、爆豪〜！！？」 BOOOMB！！ と一発上鳴の顔目掛けてお見舞いする。オレからの最大限の感謝の気持ちだ、受け取りやがれ。 少し焦げ臭い上鳴から「このクソ下水煮込み野郎！！」と悪態を吐かれながらも、本当に何年振りかに、まるで心臓にぶら下げてた重りが取れたように、オレは胸を張って前を向ける気がした。 自分の管轄に戻りまだ暴れてるヴィランを速攻で捕獲した後事務所へ戻った。適当に報告書を作成してからオレはＫ市へと急いだ。病院で検査を受けているからなのか、それとも警察署で事情聴取に応じてるからなのか、またしてもデクと連絡が取れなかった。もう夜の８時半を回っている。流石に病院での検査は済んでいるだろうと、警察署に赴いた。 警察署に入り受付で爆心地だと告げると、しばらく待たされた後オレと同い年くらいの刑事らしき男がやってきて、ご苦労様です、と警察手帳を見せた。 「お待ちしてましたよ、爆心地。それで……、緑谷出久さんは？」 「……………は？」 「連れてきて頂いたのでは？」 「待て、どういうとだ？」 ピリッと全身に電気が走ったようだった。 刑事の顔つきもサッとキツくなった。 「現場にいた者から聞いたんです、まだ研究所の検査室で人質の名前と人数を確認している時に、警備員が緑谷出久さんを呼びに来たと。爆心地が呼んでいる、緊急らしいから急ぐように、と言って」 オレはこの時、生まれて初めて立ちくらみを感じた。 「……警備員は、みんな眠らされてたろ」 「……ッ！ すぐに手配をっ！」 オレの言葉に刑事が踵を返して走り出した。 そしてオレは警察署を飛び出し停めてあった車に飛び乗った。 猛烈な後悔がオレを襲った。 あの時側に置いとかなければと胸がざわついたはずだ。引き返してデクを連れ帰りたいと思ったはずだ。 なのに何でオレはそうしなかった！？ 「クソッ！！ クソッ！！」 デクのスマホに電話をかけるが電源が切られている。オレが渡した端末は！？ こっちは……繋がった！ が、出る気配がない。チクショウッ！ イヤ、でも電源は入ってる！ オレは急いでＧＰＳ機能でデクの居場所を割り出した。 その場所を確認して全身が震える。 「フッザケやがって、クソ野郎！！」 オレは車にエンジンをかけ、警察署の駐車場だということも忘れてアクセル全開で車を発車させた。 「デクッ……！！」 無事でいてくれ……！！ [newpage] ＧＰＳが示したデクの居場所は、オレたちの母校、折寺中学のわりと近くにある廃工場だった。ガキの頃にはそこから甘く香ばしい匂いがして、クソババァからあそこではオレもよくおやつに出されているたまご煎餅を作ってるんだと教えられ、じゃああの工場で働いてる大人達は毎日たまご煎餅食い放題なんだな、なんて羨ましく思っていた。しかし時代の流れなのかそういった昔ながらの素朴な味わいの菓子は近所のスーパーからも次第に姿を消していき、オレが雄英を卒業した頃にはもう工場も閉鎖されたのだと聞いた。 『なかなかそっちから連絡来ないからこっちから電話しちまったじゃないか』 オレのスマホに着信があったのは、廃工場に向かうため高速に乗ってからすぐだった。慌てて画面を見るとそこには『デク』と表示されており、柄にもなく震える手で電話に出ると、中年の男の声がオレの神経を逆撫でしてきたのだった。 「……電源切ってたのはそっちだろ」 『……ああ！ そうだった、そりゃ連絡がないわけだ』 ハハハと楽しそうに笑う男にフツフツと怒りがこみ上げる。 『ハハハッ、ハァ、あぁ……、………オレが誰だか分かるか？』 ひとしきり笑った後に一層低い声で問うてきた男に答える。 「……世奈の父親だろ」 『ほぉ…、やっぱりバレてたか。流石爆心地。いや、爆豪勝己君』 本名を呼ばれたことで、自分から『ヒーロー』という肩書きが剥ぎ取られ、素のオレを引き出された気がした。 「……デクは無事なのか？」 『デク？ …ああ。……無事じゃないって言ったらどうする？ またオレを爆破するのか？ あの時みたいに』 「………！！」 あの時の、手の平の熱さと爆音と焦げた匂いが脳裏に蘇った。挑発に乗るなと、自分を諌める。 『まだ時々古傷が痛むんだよ。雨の日なんて特にな。よくもあそこまで人の顔台無しにしてくれたもんだ』 「ッ……！ テメェもデクを傷つけただろうが！ アイツの声を奪った！！」 『あれは不可抗力だ。オレはただ世奈を取り返そうとしただけだ。アイツはオレの大事な娘を攫いやがった。だけどオマエは違うだろ？』 オレは違う…… 『正当防衛なんてウソだ。まったく、警察もガキには甘いよなぁ』 オレは、違う……？ 『ありゃあもう、過剰防衛、いや、過剰防衛すら成立しない』 そうじゃない、オレも違わない。オレも同じだ、オレも…… 『あん時オマエは、明らかにオレを…』 「オレも同じだ。大事なモンを奪われそうになった。オレも、アンタと同じだ」 電話の向こう側で、男が一瞬固まったように思えた。 『ハッ！ 同じってか！ そりゃあ良かった！じゃあその同じ思いをまた味あわせてやるよ！ 大事な存在に二度と会えなくなる気持ちってのがどんなものかな！！』 「テメェッ！ デクに何しやがった！？ 何で今更……！」 『今更！？ 今更だと！？ ふざけるなっ！！ オマエにオレの気持ちが分かるか！？ 娘を掻っ攫われて、半死半生にされたんだぞ！？ ムショから出てみりゃ親権剥奪されて個性由来の催眠で半径３０メートルは世奈に近づけなくされた！ それ以上近づくと頭が割れるように痛くなるんだよ！ だからずっと３０メートル離れた所から世奈を見るしかなかった！ 何でだよ！？ オレは世奈の父親だぞっ！？ 父親はオレなんだよっ！ なのに何であの男が父親面してるんだよ！？ 何で緑谷出久は毎月世奈と会ってんだよ！？ 何でオマエまで世奈と会えるんだよ！？ オレをこんな目に合わせといてなんでオマエが平気な顔して世奈に会えるっ！？ オマエがオレたち親子を引き裂いたんだっ！！』 電話の向こう側から、世奈の父親の怒りと、憤りと、執着と、身勝手さが矢のようにオレに突き刺さってきた。 『……オマエからも奪ってやる』 「ンだと？」 『オマエから緑谷出久を奪ってやる』 「テメェッ！！ デクに何する気だっ！？」 『また喉を掻っ切るのもいいか』 「ザケンナッ！！ デクに傷一つでもつけてみやがれ！！ ぶっ殺してやるっ！！」 『ハハァッ！！ やっぱりな！ それがオマエの本性なんだよっ！！ ザマァ見ろ、このエセヒーローがっ！！ ……ああ、それから。どこにいるか聞かないってことはもう此処がどこだか分かってるんだろうが、せいぜい急ぐんだな。サツに知らせるなんて野暮なことはするな、サツが動いたのが分かったら緑谷出久の寿命が縮むだけだ』 そう言って一方的に切れた通話に当然掛け直すが、既にデクのスマホの電源は切られていた。 「クソッ！！」 デクッ！ デクッ！ 「クソッ！ クソッ！！」 デクッ！！ デクッ！！ デクッ！！ 落ち着け、落ち着け、と頭の中で繰り返す。あっちからコンタクトを取ってきたってことはデクはまだ無事なはずだ。明らかにオレへの精神的ダメージと復讐が目的で、デクを今すぐどうこうしようとしてるわけではないだろう。ああクソッ！ 考えてる暇はねぇ、今は一刻も早くデクの所へ！ 必ず助ける！！ オレが必ず……！！ オレは更にアクセルを踏み込んで、世奈の父親の元勤務先である廃工場へと車を飛ばした。 夜の廃工場はしんと静まり返っており生あるものは受け入れないといった雰囲気を醸し出してはいるものの、作り自体はそれほど頑丈ではなく、入り口のドアを２、３度蹴れば鍵はすんなりと壊れた。もう電気は通っていないため、建物内は真っ暗闇だ。オレは手の平からごく光度の低い閃光弾を天井に向けて放った。入り口から入ってすぐのそこは机と椅子が並ぶ事務所らしきスペースで、案の定こんな場所にはデクの姿は見つからなかった。事務所を抜け建物の奥の方へ入っていくと、ロッカー室や休憩室だのがあった。 「デクッ！」 閃光弾で照らしながらロッカー一つ一つを開けてデクを探したが、やはりここにもいなかった。 さらに奥に進み重い扉を開けると、そこは製造工場のようで、作業台やコンベア、焼煎機などが置かれていた。 「デクッ！ デクッ！！」 呼びかけてはみるものの、オレ以外に動くものの気配は無い。広いスペースを隈なく探したがやはりここにもデクの姿は無かった。 さらに奥へ進み入ってきたのとは別のドアを開けると、そこは搬入口と繋がっているスペースで、食料庫や備品庫、冷蔵室といったものが並んでいた。そして、その冷蔵室の扉に付いている小窓からもれる灯りが、暗闇の中で唯一辺りを照らしていた。冷蔵室だけは自家発電機を使っていてそれがまだ生きていたのかもしれない。 「デクッ！！」 オレは冷蔵室に駆け寄り金属製の扉の小窓から中を覗くと、そこには空の食品棚の脚に鎖で縛り付けられ、力無く床に座り俯いているデクの姿があった。寒さにやられたのか瞼は閉じられ唇が青い。 一気にあの時の記憶がフラッシュバックする。デクを失うかもしれないという恐怖に叫び出しそうになった。 「デクッ！ デクッ！！」 オレは冷蔵室の扉を叩き、ノブに手をかけようとして、唖然とした。 「ノブが無ぇ……」 よく見るとノブは外されていて、扉は上枠、縦枠と溶接されていた。 「クソッ、フザケやがってっ…！」 オレは扉を爆破しようとして構えたが、その瞬間ピクッとデクの肩が震えたように見えて動きを止めると、フと何か鼻をかすめる臭いに気づいた。 「……ガソリン？」 小窓に張り付くように中を見ると、扉のほど近くに予想通り小型の時限装置が置かれており、その横にはガソリンタンクが置かれ、ご丁寧にその周辺にもガソリンか振り巻かれていた。扉の下の隙間からわずかに臭いが漏れてきたらしい。 「クソがぁっ！！」 まんまと嵌められるところだった。冷静さを失ったオレに扉を爆破させ、ガソリンに引火させてオレにデクを殺させる気だったんだろう。そのカラクリに気づいたところで扉を開けることは出来ず、時限装置で指定した時間になれば爆発は免れない。 時限装置を見ると、残りの時間はあと９分２６秒だった。扉に触れた時点で起動する仕組みだったのかもしれない。 考えてる余裕は無い。個性が使えないのなら、使えるのはこの身体だけだ。オレは２、３歩後ろに下がり扉に体当たりした。ムカつくことにビクともしない。それでも体当たりを繰り返し、そして何十回目かの体当たりでとうとうミシッという音が聞こえた。扉の下の部分は床に接していたため溶接されておらず、そのおかげで左右の溶接部分に少し亀裂が入ったようだ。今度は扉の下の部分に蹴りを何発も入れると、金属製の扉が凹み溶接部分の亀裂がミシミシと大きくなり、谷折りに曲がり始めた扉と縦枠の間に隙間ができた。もう一押しだと再度体当たりを繰り返し、上枠の溶接部分にも亀裂が入ったところで少し後ろに下がり、助走をつけて飛び蹴りした。扉はバコンと外れ、内側に傾いたのでそのまま押し開いた。 「デクッ！！」 目や鼻や喉の粘膜を刺激するガソリンの臭いの中デクに駆け寄り、冷え切った頬を両手で包んだ。 「デクッ！！ デクッ！！ しっかりしろ！！ デクッ！！」 頬をペチペチと叩くと、ゆっくりと目を開けたデクが、虚ろな目でオレを見た。 良かった、生きてる……！！ そう分かった瞬間目頭が熱くなるが、まだ気を抜くなと自分を叱咤する。 「デクッ！ オレが分かるか！？ デクッ！」 オレの呼びかけにデクの目の焦点が合ってきて、やがて目の前にいるのがオレだと分かると今にも泣き出しそうな顔になった。 「こっから出るぞ！ もう少し頑張れ！」 オレはデクの繋がれた鎖に手をかけたが、何重にも体に巻きつけられて南京錠のかかったそれは、ちょっとやそっとじゃ外せそうになかった。ならばと当たり前のように爆破で鎖をちぎろうとしてハッとして止どまった。この期に及んでもオレに個性を使わせようとする悪意を感じてゾッとした。 「クソッ！」 どうする……！？ 時限装置を見ると残り２分を切っていた。下手に時限装置を動かすわけにはいかない。衝撃でタイマーが進んだり爆発する仕組みの可能性だってある。だったらもう最初から最後まで体を張るしかない。 「少し痛ぇかもしんねぇが我慢しろ」 オレはデクにそう言って、デクが縛り付けられている商品棚を持ち上げた。スチール製の三畳くらいの大きさのそれは思った以上に重たい。ギシギシ軋む音を立てながら、棚の脚をデクの背中と鎖の間から抜いていく。デクも脚が背中を擦る痛みに顔をしかめながらも、脚が抜けやすいよう体を真っ直ぐに保って耐えていた。棚の脚が鎖から抜け切ったのを見てオレはガシャンと棚を下ろすと、デクを立ち上がらせて棚の脚が抜けた分余裕のできた鎖の束を脱がすように足元まで下げた。ジャラッと鎖から解放されたデクを横抱きにして急いで冷蔵室から出る。そのまま搬入口の扉を蹴破り外へと飛び出し、出来るだけ建物から離れるために走った。そして、数秒後オレたちを追いかけてきた爆音からデクを守るために、デクに覆いかぶさって地面に伏した。 「デクッ！」 デクの頭を抱え込むようにして爆熱と爆風をやり過ごした。背後で轟々と燃え盛る工場を振り返り、これ以上爆発のないことを確認してから、炎でオレンジ色に照らされたデクをそっと抱き起こした。 「デク、大丈夫か！？ 怪我は！？ 動けるか！？ 」 オレは上着を脱いでデクの肩に羽織らせた。それからデクの頭の先から顔、首、肩、腕、背中、腹、腰、脚と順に手で触りながら一つずつ怪我のないことを確かめていった。 大丈夫だ。大した怪我もないし意識もしっかりしている。間違いなくデクは無事な姿でオレの目の前で息をしていた。オレはやっと安堵のため息をつきながらも、何度も何度も頭から足先までデクの体温を確かめずにはいられなかった。その間ずっとデクは泣きながら半ば狼狽えつつ大丈夫だと訴えた。 「まだこんなに冷えてんじゃねえか」 デクの首筋に手の平を当てて温める。頸動脈の脈拍が手の平をくすぐって心地いい。 『僕は大丈夫、大丈夫だから。僕のことよりかっちゃんの方こそそんな怪我して…』 「…怪我？」 何のことかと思いタンクトップ一枚になった自分の体を見てみると、両方の肩から上腕にかけて見事に赤紫に変色しており、右肩は皮膚が切れて出血があった。冷蔵室の扉に体当たりした時にできたものだろうが、アドレナリンが分泌されてるせいか、痛みなど全く感じていなかった。 「……ああ、こんなもん…」 『ごめんなさい、僕のせいで。僕が騙されて攫われちゃったから、かっちゃんこんな…』 「こんなん屁でもねぇわ。それにオマエのせいじゃねえ。オレのせいだ。オレがオマエを巻き込んじまった」 デクはブンブンと頭を横に振った。 『かっちゃんのせいじゃない！ それに、……それに、誰のせいでもない……』 誰のせいでもない……。世奈の父親のことを伝っているんだろう。こんな目に合わされても、コイツは世奈の父親を責めることも恨むこともしない。 ……それでいい、と思う。これがデクなんだから仕方がない。何故世奈の父親がこんな事をしなければならなかったのかと、ヤツの気持ちになって同じように胸を痛めるのがデクだ。だったら、オレが覚えていればいい。怒りも、恨みも、憎しみも、デクの分まで全部オレが噛み砕いて飲み込んでやればいい。 『でも、怖かった……』 デクは泣きながら顔を上げ、初めてオレに何かを求める目をした。 『……もう会えないかと思った。かっちゃんにこのまま会えずに死ぬんじゃないかと思って怖かった。そしたら、ものすごく後悔して……。もっと一生懸命練習してればって、もっと早くに勇気を出してればって』 「デク？」 『……だけど怖かったんだ、またウザいって言われたらどうしようって。だって凄く変だし。おかしいよね、もう一生会うこともないと思ってたのに。でも、かっちゃんにまた会うことができて、いろんな話が出来て、手話じゃなくて声で話せって言われて、側に居てもいいって言われて、これ以上嫌われないって、喋っても喋らなくてもどっちにしたって僕はうるさいんならって……』 「デク、オマエなに伝って……」 『そしたら、かっちゃんの経歴がどうのとか、汚点がどうのとかもうそんなの関係なくて、とにかくもう一度呼びたいって思った。あの頃みたいにまた呼びたいって思ったんだ……』 そう伝ってデクは、自分の首に当てられたオレの手の甲に、自分の手を重ねた。 「……が、ぢゃ……」 何が起こったのか分からなかった。 唯一理解できたのは、オレの目の前にいるデクの唇が動いたことと、それと同時にデクしか呼ばないオレの愛称らしき音がオレの耳に響いたことだった。 「がっ、ぢゃ……、がっちゃ……」 脳が指令を出すより早く、オレはデクの唇を塞いでいた。 もっと聞きたいのに。 デクがオレの名前を呼んだのは夢ではないと確かめたいのに、身体が言うことを聞かずデクを離さない。 ひとしきり口づけてやっと唇を解放してやると、案の定デクはまったく状況が理解できませんといった表情でオレを見ている。ああ、クソ、でも理解させてやる余裕が今のオレにはない。 「デク、もっかい、もっかい呼べ」 「ぁ"…、がっ、ぢゃん……？」 確かに聞こえたその声に、これは現実なのだと噛み締めてまた口づける。 「もっかいだ、デク。もっかい……」 「……がっぢゃん……」 言い終わるのを待ってまたキスをする。 「もっかい」 まるで子供みたいにせがむオレに、デクは戸惑いながらも応えてくれる。 「がっちゃん、……かっ、ちゃん」 その声は、低くて、掠れている。オレの記憶にあるコロコロと転がるような甘ったるい声じゃない。なのに、ああ、これなんだと。これが聞きたくて聞きたくてたまらなかったデクの声なんだと、焦がれて焦がれてやまなかった瞬間なんだと、身体の芯が熱くなった。 デクはそっと手を伸ばし、細い指でオレの目の下を撫でた。そのデクの手を取り、デクの濡れた指に触れて初めて、自分も泣いていたのだと気づいた。 「デク……」 「かっちゃん……」 泣きながら器用に微笑むデクにオレもつられて笑い、頭の後ろに手を回しグッと引き寄せてまた唇を塞いだ。 もう一回もう一回と何度もオレの名前を呼ばせ、その度にキスをして……。いつしかデクの腕もオレの首の後ろに回り、キスは次第に深くなっていった。 今までこれ無しでどうやって生きてこられたのだろうと不思議なくらい、ただただデクが必要で、大切で、愛おしい。デクがオレの名前を呼ぶ、たったそれだけのことで胸が張り裂けそうなほど満たされる。オレの中にこんな単純な仕組みが存在するなんて、オレ自身今の今まで知らなかった。 流石に伝わったよな、デク？ この前伝わらなかった分も、どんなに鈍いオマエにも、嫌というほど伝わったよな？ オレはデクをきつく抱きしめて、額にもそっとキスを落とした。 もう二度と離さない。 何があっても離さない。 オレのそんな誓いを知ってか知らずか、デクはオレの腕の中で囁いた。 「ただい、ま、かっちゃん……」 近づいてくるパトカーのサイレンと消防車の警鐘が、長い一日の終わりを告げていた。 [newpage] その夜のうちに、世奈の父親はあっけなく警察に逮捕された。 デクのスマホの電源が入った時点でその場所をＧＰＳで割り出していた警察は折寺やその付近一帯を捜査していたが、そのうち工場の爆発火災が起こり、それを野次馬の群より少し離れたところから見つめている不審な男に声をかけたところ手配中の警備員だった、ということだ。 刑務所を出た時、世奈の父親はその足ですぐに世奈が引き取られたという施設に会いに行こうとしたが、施設まで後３０メートルという所まで来ると頭が割れるように痛くなりそれ以上近づくことができなかった。電話で問い合わせたところで既に親権を剥奪された身では取り合ってもらえず、世奈の声を聞くことすら出来なかった。仕方がないので施設の門を出て学校に通う世奈の姿を毎朝３０メートル離れた場所から見送り、それから仕事に出かけた。しかし３年程経ったある日、朝いくら待っても世奈が施設の門から出てくることはなく、そしてその日を境に、世奈の姿を見ることはなくなった。 それからも毎日なんとか日銭を稼いで生計を立てていたが、ある日職を求めて流れ着いた東京で、はるか３０メートル先ではあるが、偶然にも成長した世奈の姿を見つけた。そしてその世奈の横には、自分が瀕死の重傷を負わせ服役する原因の一つになったデクが笑って寄り添っていた。アイツが世奈を攫っていったせいで自分は世奈に会えなくなったのだと憎しみが湧いたが、同時にデクは自分と世奈との唯一の接点だと思い直し、デクの後をつけ、デクの住所や職場を突き止めた。 幸か不幸か世奈の父親は刑務所を出た後何度か整形手術を受けており、以前とは別人になっていた。オレの爆破で受けた顔の火傷のせいでなかなか定職に就けなかったせいらしい。そして服役中に知り合った男のツテを頼って新しい戸籍も買った。その新しい顔と戸籍で警備会社に就職し、必要な根回しをしてデクの働いている研究所の配属に収まった。 デクと挨拶を交わすことから始め、とりとめのない会話をするようになり、やがて妹みたいに思っている女子高校生の知り合いがいるということも、その子と毎月一回会っているということもデクの口から聞き出した。 月に一回デクの後をつけ二人が会っているところを遠くから見た。そこに時々今の父親らしい男が混ざることもあった。悔しくて寂しくて情けなかったが、世奈が幸せならこれでいいかとも思っていた。 だが３ヶ月ほど前、オレが現れた。オレが初めて研究所を訪れた時だ。自分をこんな目に合わせた張本人を目の前にして憤ったが、その時は何とか平然とやり過ごした。だが、その後なんとオレまで世奈と会っているところを目撃した。なぜ自分たち親子を引き裂いたオレが平気な顔をして世奈に会っているのかと怒りが収まらなかった。許せないと思った。だからオレも同じ目に合わせてやると、オレからデクを奪う計画を練った。 デクと同じ職場の一ノ瀬のことは実は前から知っていた。向こうは気づいてないだろうが、以前、自分もよく利用している違法薬物の売人からクスリを買っているところをみかけたことがあった。こんな場所に不似合いな女だと思ったので何を買って行ったのかと売人に聞くと、日本では未認可の鎮静剤の一種で、日本では違法ドラッグとして扱われているものだということだった。 世奈の父親は一ノ瀬について調べ、法的には他人だが血の繋がった兄がいること、その兄が時々狂ったように暴れ出すのでそのためにクスリが必要だったということも分かった。そこで世奈の父親は一ノ瀬に近づき、計画を持ちかけた。この研究所でどんな御大層な研究が行われてるか知らないが、個性に関する研究がされているのは確かなんだろう。だったらあんたの欲しいクスリも、あんなヤバい場所まで行かなくたってすぐここで手に入るんじゃないか。オレが夜警備員を眠らせて、防犯システムを壊してやる。侵入方法はアンタが考えてくれ、アンタの方が頭がいいんだから何とかなるだろ。成功したら自分に少しクスリを分けてくれればいい、自分も個性を持て余して人を傷つけてしまうんだ、と。世奈の父親に不信感を抱きながらも既存のクスリでは兄の衝動が抑えきれなくなっていた一ノ瀬は、一日考えさせて欲しいと一旦持ち帰ったが、その一時間後にはその計画に乗ると電話をかけてきた。 世奈の父親はデクが一人で残業している日をわざと狙い一ノ瀬に今日がチャンスだと連絡をした。他の警備員はヤクの売人から買った個性由来の睡眠薬をコーヒーに混ぜて眠らせ、防犯システムに細工をし、その後自分も睡眠薬を飲んだ。 そして思惑どおりデクが傷ついたが、こんなもんじゃ全然足りない。やはり自分がやらなければダメらしい。でもただでは殺さない。これは復讐なのだからオレをトコトン苦しめないと意味がない。オレに個性を使ってデクを殺させてやる。世奈の父親は準備を始め、そしてそのチャンスは存外すぐにやってきた。もう兄が限界まできている、明日強硬手段に出るから協力して欲しいと一ノ瀬から連絡が来た。明日の夕方、ヤクの売人にヴィランや街のチンピラに興奮剤をばら撒いてくれるように金を渡してあるという。これでもし通報されることがあっても少しは警察やヒーローを足止めできるだろうと。 そして当日の夕方、世奈の父親はまた同僚を眠らせ、防犯システムに細工を施し、その後は建物内にずっと身を潜めていた。思った通りオレがすっ飛んできて、そして事件解決後どこか晴々とした表情で帰って行くのを見届けてから、オレが呼んでいるとデクに嘘をつき連れ出し、計画を実行に移した。 これが今回の事件のあらましだった。 [newpage] 病室に入るとデクはベッドを起こして座って新聞を読んでいた。顔色も良く、オレを見て笑えるくらいには元気なようだ。 「寝てなくていいんか」 『うん、どこも悪くないのに寝てられないよ。それよりほら見て！ ヒーロー爆心地、火災現場から男性一名を無事救出！って』 デクは心なしか誇らしげにそう伝って新聞をオレに見せてから、少し悲しそうに笑った。 「午後には退院していいってよ。オレはいっぺんウチに寄ってからまた迎えに来る。ババァにオマエの服洗濯するよう頼んどいたから取りに行ってくるわ」 『え？ おばさんに？ おばさんにまで迷惑かけちゃったなんて申し訳ない…』 「あ？ 別に構わんわ。デクの服だっつったらなんか嬉しそうに洗濯機回しとったし」 デクは昨日あのまま事件現場から救急車で病院に搬送され、怪我などがないか念のため検査を受けた。小さい傷や打ち身があったが大したことはなく、心配された低体温症も極軽度のもので一日安静にしていれば大丈夫だろうということだった。 『かっちゃんのケガはどうなの？ それに、かっちゃんあの後も警察に行ったりして寝れてないんじゃないの？』 「オレは大丈夫だ、２時間ばかし仮眠もとったし問題ねぇ」 『ホントに？』 「誰に聞いてやがる」 『スミマセン』 本当は両肩から両腕にかけて腫れ上がっていて痛みも結構あったが、そこはプロヒーローとしても男としても多少カッコつけさせてもらいたい。 『ねぇ、かっちゃん仕事は？』 「ちゃんと休み取った。オレのことは心配すんな」 『でも……』 「そんなことより、オレらにはもっと心配しなきゃなんねぇことがあんだろーが」 オレの言葉に、デクの顔が一瞬で曇った。だがこれだけは、決して避けて通れないことで、それはデクも分かってるはずだ。 「取り敢えずおばさんにはオレから説明しといたがオマエからもちゃんと連絡入れとけ。おばさん、めちゃくちゃ泣いてたぞ」 オレは警察から返ってきたデクのスマホをデクの前に差し出した。デクはそれを黙って受取ると、何かを我慢するようにギュッと口を結んだ。 『また、お母さん泣かせちゃったな』 デクのおばさんもデク同様涙腺が壊れてるので、オレの話に電話口の向こうでそれはそれは泣いていた。だが、これからはデクが危険な目に合わないようにオレが監視するから、と言うと、なんだか昔に戻ったみたいね、とグズグズ鼻を鳴らしながら嬉しそうに言っていた。 「それから…、世奈にもオレから上手く説明しといた。世奈のせいじゃないってことも、頭では分かったはずだ」 世奈の名前を出すとデクは唇をさらにきつく結んで、やはり目も潤み始めた。 「だけど頭で分かってても、気持ちまではそう簡単にはいかねぇ。実の父親がまたオマエを傷つけたんだ、自分を責めるなって方が無理だろ。だから、」 オレはデクの傍に座り、デクの頭にそっと手を乗せた。 「オマエもちゃんと世奈に向き合ってやれ。無事だったから気にすんな、じゃなくて、世奈の思いを全部聞いてやって、一つ一つ受け止めてやって、オマエもどんな気持ちだったのか、今何を思ってるのか、ちゃんと世奈に伝えて、それから……。それから、世奈を許してやれ」 『許す……？』 「ああ。許して、世奈を罪の意識から解放してやれ」 オレの言葉に、デクは何かハッとしたように大きな目をさらに大きく見開いた。そして何か言いたげに口を小さく震わせ、それからこれ以上ないくらい顔をクシャクシャにして大粒の涙をポロポロと零した。そしてデクの頭に乗せたオレの手を取り、その手を自分の左胸に当てさせると、まっすぐオレを見ながらデクの精一杯の気持ちを伝えてきた。 『かっちゃん、僕は生きてるよ。僕はかっちゃんに助けられてこうやって生きてる。声は失ってしまったけど、でもまた取り戻せる。絶対取り戻してみせるよ、かっちゃんのためにも、僕のためにも。かっちゃん、僕は君を許すよ。ううん、ずっと許してるんだよ。あの事件の時からずっと、かっちゃんが僕を思って泣いてくれたあの時から、ずっとずっと、許してるよ』 「……かっ、ちゃん」 ああ、オレは。許されていたのか…… 「かっちゃん 」 デクを守れなかったオレを、デクはずっと許してくれていたのか…… たまらずデクを抱きしめた。 カラカラだった喉に急に水を流し込まれたように、胸の辺りがいっぱいで痛いくらいだった。 デクがオレを責めないのは知っていた。オレのせいじゃないと思ってるのも知っていた。だからこの傷は一生抱えていくのだと思っていた。それでいいと思っていた。デクが戻ってきたんだから、それで充分だと。だけど今、デクのその一言でジクジクとした痛みが消え、その傷が塞がっていくのが分かる…… 「ごべん、ね、かっちゃ…、いばばで、ごべんね……」 オレの腕の中で謝るデクの顔を上げさせ、もう謝るなとその口を塞いだ。 「分かってる、デク、もう分かってるから」 「かっちゃ…」 「ごめんの代わりに、聞きてぇことがいっぱいあんだよ。全部聞きてぇ、オレの知らないオマエのこと。高校のこと、大学のこと、職場のこと、全部。オマエの声で、ちゃんと。無理しねぇで少しずつでいいから。全部、オレに教えてくれ」 「かっちゃん……」 「全部知りてぇんだ、オマエのこと」 「あ"ぅ…、かっちゃ……」 まだ「かっちゃん」しかまともに言えないデクにまたくちづけて、溢れる想いを口移しに注ぎ込んだ。 デクが練習中の食道発声法は、口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを声帯の代わりに振動させて発生する方法だ。 習得までには訓練が必要で、３〜６ヶ月とその期間には個人差がある。 「オレもできるだけ訓練に付き合う。二人で、ゆっくり、取り戻そうや」 「あ''りが、どう、かっちゃん」 嬉しそうに笑うデクを見てオレの口元も思わず緩んでしまう。 あの時二人で失ったものを、今度は二人で取り戻していく。 会えなかった８年間の年月を、きっとオレたちは埋めていける。 分かり合えた今なら、この先何があっても乗り越えていけると、オレはもう一度デクを強く抱きしめた。 離れがたい気持ちを叱咤して病室を後にし病院の駐車場まで出た。車に乗り込む前に病棟を見上げると、３階にある病室の窓からデクが手を振っているのが分かった。オレも手を上げかけて、そう言えばまだ一番大事なことを伝えていなかったことに気づいた。 ずっと抱えていたのに気づかなかった想い。 いや、気づいていたのに、プライドや後悔が邪魔をして名前をつけてやれなかった想い。 今は堰を切ったように溢れて、デクに向かって流れて行く想い。 オレはデクに向けて、手と指を動かした。 左手で拳を作り、甲を上にして胸の下辺りに置く。そしてその拳の上で右の手の平を２回まわす。 『 愛してる 』 愛してる。 中学を卒業した日、別れの直前にデクがオレに伝えた言葉。 あの時は意味を理解できず、みすみすデクを逃してしまった。 だけど今度はオレが伝えて、もう逃がさないと縄をかける。 両手で胸の前から外側に向かって丸を描く 『 世界で 』 右手の人差し指を立てその手を水平にする 『 一番 』 そして、左手の拳の上で、右の手の平を旋回させる。 『 愛してる 』 それを見て、デクは両手で顔を覆った。 ちゃんと伝わったか？ 覚悟はできてるかよ？ 多分オレは上鳴の言う通り、過保護で、束縛系の、口煩い恋人になる。その自覚はある。それでもいいなら、応えてくれ。 デクは手の甲でゴシゴシと目元を拭き、ゆっくりと手と指を動かした。 『 僕も愛してる。誰よりも愛してる 』 ８年前よりも熱量を増した告白に、身体がカァッと熱くなる。あんにゃろ、言うようになったじゃねぇかと、ニヤけそうになる口元を誤魔化すように周囲を気にしてるふりをして咳払いした。 車に乗り込み手を振るデクにそっと手を振り返し、オレは静かにアクセルを踏み込んだ。 [newpage] あれから春を越え、記録的な猛暑も過ぎ去り、朝晩も気温が下がり過ごしやすい季節になったある日の午後、オレは刑務所の面会室にいた。 アクリル板の向こうには無表情でオレを見据える世奈の父親がいる。何故オマエなんかがここに来たのだと、内心穏やかではないはずだ。 「……どのツラ下げて来やがった。こっちにゃ話すことなんて無い。ああ、それとも礼を言うべきなのか？ オマエのおかげで一回目は傷害罪、二回目は殺人未遂、どっちも殺人罪を免れた。皮肉なことにな」 「……………」 正直オレもまだ世奈の父親を許せない。世奈を傷つけ、デクを傷つけ、オレにデクを殺させようとした。それにオレの面会なんか歓迎されないのは百も承知だったが、オレにはどうしても伝えなければいけないことがあった。 「なんだよ？ わざわざこんなとこまで来たのにだんまりか？ だったらとっとと帰れクソ野郎！」 ガタッと席を立とうとする世奈の父親に、オレは努めて冷静に話しかけた。 「アンタとオレは、似てると思う」 「……ハッ！ 何を言いだすかと思えば…」 「大事なのにそれを上手く伝えられず、伝える方法が分からなくて暴力で繋ぎとめようとした」 オレの言葉に世奈の父親は一瞬固まった。 「そしてアンタとオレの違いは、その間違いに気づいて、ちゃんと言葉で伝えられたかどうかだ」 「テメェ！ 何が言いたい……！？」 「ちゃんと、大事なものを大事にできるかどうかだ」 世奈の父親はオレを睨みつけ、アクリル板の向こうから今にもオレに襲いかかって来そうな怒気を発していた。 「………面会は終わりだ。帰れ」 背を向け面会室から出て行こうとする世奈の父親に、オレは最後の言葉をかけた。 「世奈から伝言を預かって来た。『大嫌いなんて言ってごめんなさい。本当は優しいお父さんが大好きだった』」 世奈の父親の足が止まり、背中が震える。それから低く「ああ…、ああ…」と嗚咽を漏らして膝から崩れ落ちるのを目の端に映しながら、オレは面会室を出た。 その日は夕方からデクと世奈と待ち合わせをしていた。 あの事件の後、オレが口説き落として数週間後にはデクとは一緒に暮らし始めた。今はオレの職場とデクの職場のほぼ中間地点のマンションに引っ越している。 今日は午後休を取っていたが、今朝家を出るときに、午後ちょっとした野暮用があるからそれを済ませてから待ち合わせ場所に行くとデクには言ってあった。 待ち合わせ場所には既にデクがいて、オレを見つけると年甲斐もなく大きく手を振った。 「どんな子なんだろうねぇ、世奈ちゃんの彼氏。話は聞いてたけど会うのは初めてだし緊張しちゃうなー」 必要以上にソワソワしているデクに少し呆れる。 「オマエが緊張してどーする。品定めするのはこっちだわ。いい加減そうなヤツだったらオレは認めねぇ」 「わぁ…、かっちゃんの小舅っぷりがもう想像できてコワイよ」 「なんだ、小舅って！ じゃあオマエは大事な妹に変な虫がついてもいいってのか、ああ！？」 「変な虫って。世奈ちゃんが選んだ子なんだから、間違いないよ」 なんだかんだ言ってオレよりも落ち着いているデクに、何を呑気に構えてるんだとイラ立ちを感じる。 そうこうしているうちに、世奈が何メートルも先から大きな声でオレ達を呼ぶ声が聞こえた。 「出久兄ちゃん、勝己兄ちゃーん！！」 声のする方を見やると、さっきのデクと同じように無邪気に手を振る世奈と、その隣にはド緊張で少々顔色が悪く見える好青年(ということにしといてやる)の姿が見えた。 「わ、イケメン君！」 「どこが！ オレのがイケメンだわ！」 「ハイハイ」 「テメェ、今夜覚えとけよ」 「ハイハ………ぅえっ！？」 少し前までは想像もできなかったキラキラとした日常。 愛する者と居て、愛する者を守れる幸せを噛みしめる。 １０年前の今日、オレ達は何かを失い、それをずっと取り戻そうと足掻いてきた。 今は失った以上のものを手に入れて、こうしてお互いを想い合い、大事に育んでいる。 溢れそうな想いを与えて、泣きそうな程の想いを受け取る。 いつかオレ達が形を無くし、宙を漂う存在になったとしても、それはきっと変わらない。 その想いに名前がついた時から、それはオレの中で永遠に変わらないものになった。 それを愛と呼ぶのだと、 知ったあの時から。

後編です。アクセル全開編です。かっちゃんにやっとエンジンがかかります。文字通りずっとベタ踏み状態です。自分史上最高に甘めのかっちゃんがいます。<br /> 毎度更新遅くてすみません。<br /><br /> また事件が起こりますが、Ｃ級Ｄ級の犯罪小説もいいところ(汗)、そんなバカな、んなわけあるかい！ と自分で何回もツッコミ入れました。なにぶん素人文章のため、何卒ご容赦ください。<br /> ５ページ目に至っては「あれ？ 私勝デク書いてるんだよな？」と迷子状態。もし後編を待っていて下さった方がいらっしゃいましたら、こんな仕上がりになってしまいまして、本当に申し訳ありません（汗）<br /><br /> それでも、書き始めた当初からずっと書きたかったシーンがやっと書けて良かったです。私は上鳴くんが好きなんだと思います。<br /> <br /><br />＜ATTENTION！！＞<br />・オリキャラ多数、ご注意下さい。<br /><br /> <br /> そもそもこのお話は、back numberの「ハッピーエンド」を聴いてふんわりと思いついたお話で、その後DREAMS COME TRUE feat. FＵZZY CONTROL の「その先へ」を聴いてイメージを固めたものでした。なので、この半年間くらい、ずーっとそれを聴いてました。どちらも他のドラマや映画の主題歌だったんですが、なんかすっごくデク君とイメージが被っちゃって……。<br /><br /> ちなみに、かっちゃんが乗ってる車は、ランボルギーニ ウラカン クーペ、色はオレンジのつもりで書きました。かっちゃんは赤よりオレンジのスポーツカーに乗ってるイメージがあります。私もかっちゃんの助手席に乗ってみたい。そしたらもうそのまま死んでもいいくらい幸せだろうなぁ。

それを愛と呼ぶとは知らなくて【後編】

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名探偵○ナン題材とした非公式夢小説です。原作者、出版社、企業団体との関係は一切ありません。 夢小説、二次創作等の意味がわからない方はお読みにならないでください。 [newpage] 『 ねえ、twitterの皆。ちょっと聞いてくれる？私の上司の話。その上司に困ってる話。 ものすっごくかっこいいの。まずはもうべらぼうに顔がいい。 たぶんハーフ、金髪碧眼で高身長、褐色の肌、肩幅や背中を見る限りめっちゃ逞しい、かつ声までもいい。 そして仕事ができる。めっちゃできる。厳しい人だけどたまに優しい。飴と鞭がお上手。 非の打ち所がないくらいかっこよ過ぎて…話しかけるのも恐れ多くなってしまうのが最近の悩み…。 話しかけないことには業務的に支障がでるから勇気をだして話しかけるけどさ…側に近寄るとイケメンオーラが出てて、意味もなく『申し訳ございません！』って謝りたくなるくらいに輝かんばかりの美貌の上司で…(男性だよ！) ほんと自分の目が潰れてしまえばいっそのこと楽なのにってまで思ってしまう…。あんなにかっこよくて…近寄るのがほんと恐れ多い…。 どうしたらイケメンオーラを浴びても平常心でいられると思う？ 私そろそろ限界…この仕事すごく好きなのに…上司がイケメン過ぎて…耐え切れるか不安…。 不細工が上司よりいいじゃない！ってご意見もあるかもだけど、不細工なら心を無にして仕事に徹して接しれるんだけどさ…。イケメンは視界の暴力がすごくて心を無にできないの…。無にしてこようって頑張ってきたんだけど…そろそろ誤魔化しきれない…。 はぁ…上司がイケメン過ぎて…辛い… 』 ああ…思わずtwitterに愚痴ってしまった…。料理アカウントなのに…連投で仕事の悩みを吐いた…。 今日は降谷さんの公安業務日…しかも風見先輩が別件で留守だから私が補佐官になっている日…。 側に居るだけでドキドキして心臓が飛び出そうなのに…たくさん報告することもあるから…ミスをしないように気をつけなきゃいけなくて気が休まらない…。お昼休みが恋しかった…。 ブブブ あ…twitterのリプのバイブ…。 あ！ゼロさんだ！ いつも絡んでくれるゼロさん！ 『こんにちわ！お仕事お疲れ様です！ 上司さんイケメンなんですね。そんなに気になってしまうのは、もしかしてお好きなんじゃないですか？ 習うより慣れろということで、お付き合いしてより親密になればイケメンなのも気にならなくなると思いますよ！』 おおおぅ…！ゼロさん…なんてことを…！ こんなモブっぷりの激しい私があんなイケメン降谷零様とお付き合いなんて夢のまた夢、幻の彼方ですよ…！ 『いやいやいや、無理です、無理です、私ものすごくモブなんで…！あんなイケメン上司とお付き合いなんて身分違いすぎてＭＵ☆ＲＩですー！釣り合うわけがない！話すだけで恐れ多いのに恋愛感情をもつなんてさらにハードル高いです！ 上司は例えるなら褐色肌の山姥切国広です…！私はこんのすけです…！(刀剣乱舞ネタわかります！？わからなかったらすみません！)生き物としての成り立ちが違う…！』 あ、ゼロさんリプ早い。 彼女もお昼休み中なのかな…。 『お住まいは都内でしたよね。突然なお誘いですみませんが、よかったら飲み会でもしませんか？会ってお話してみたいです！ あとモブなんて言いつつ絶対にそうじゃないと思うので確かめます！ そのイケメン上司のお悩みをたっぷり聞きますよ！ 今週くらいいかがでしょうか？何なら今日は早く仕事を終える予定なので今日だって大丈夫です』 わ！わわ！わわわー！！！ゼロさん！！ゼロさん優しい！！！ゼロさんと会える！！！ 私がtwitterし始めたときから飯テロ写真や食べ歩き写真にイイネくれて、美味しいご飯屋さんを教えてくれたりして！ 教えてくれるご飯屋さんが都内だからきっとそう遠くない所にお住いと思ってたけど、会いましょうなんてゼロさんから言ってくれるなんて！ 嬉しい！憧れのフォロワーさんに！会えるなんて！ よくとてもとても美味しそうな手作り料理写真をアップしてるゼロさんは、その度にものすごくバズる。私みたいに写真加工をしてなさそうなのに、料理自体が美味しそうでほんとこれぞ飯テロって感じ…！ たまに余ると部下にお弁当としてあげてるらしい！羨ましいぞ！部下！ フォローよりフォロワーさんのほうが格段に多いのもなんかかっこいい！フォロワーさんが一万人以上いるのに、フォローはたった５０人程。しかもそのうちのほとんどがご飯屋さんの公式アカウント。個人アカウントはパッと見少なさそう。 そして何故だかわからないけど！光栄ながらも！ものすごく私に絡んでくれる…！ twitterで呟けばほぼ必ずリプかイイネをくれる。お仕事が忙しいらしいのに、時間差になってもくれる。 私みたいなささやかな食べ歩きと料理好きのどこが彼女の琴線に触れたのかわからないけど、とにかくこんなスーパーお方に絡んでもらえて、かつ会おうなんて言っていただけるなんて…！！幸せ以外の何物でもない！！ 私だってなんだったら今日でも大丈夫！！！ 『ゼロさん！ゼロさん！ゼロさんー！すごく嬉しいです！私もお会いしたいですー！私の今日の仕事の予定を上司に確認してきます！！少し待っててくださいーー！！終業予定わかったらすぐDMしますー！！！』 喜びのリプを入力しながら歩き出して降谷さんを探した。彼はお昼を食べた後、よく休憩室の自販機でコーヒーを買って飲んでいる。 いた！ 思ってた通りの場所でスマホを見ながらコーヒーを手にしている。 ゼロさんに早くお返事をしたくて、降谷さんの姿に目がけて駆け出していた。 「降谷さん！休憩中すみません！本日の予定を確認させてください」 「どうした、何か用事か？」 スマホから目を離さない降谷さん。どうかそのままスマホ見ててください！こっちを見られると心臓が跳ねるので…！ チラリと降谷さんのスマホ画面が見えてしまった。twitterだったことが以外だった…。降谷さんもtwitterとかするんだ…。イメージ的に鍵垢っぽいな…！ 「…はい！私用で申し訳ありませんが、今日とても会いたい友人と予定が合いそうなんです！もし泊まり込みになってしまいそうな仕事があっても夕食時に2時間ほど抜けさせていただけたらありがたいです…！あ！その場合は飲んできませんので！食事だけでもしたいんです！」 「今日は僕もそう仕事がない。大半は片付いてるから夕方には終わるだろう。１８時には出れる」 「ほんとですか！私もその頃にあがってもよろしいでしょうか！？」 「ああ、かまわない」 やった！やった！やったー！！ 降谷さんに「ありがとうございます！」と告げてから、彼に背を向けてtwitterを開いた。 そしたらもうゼロさんからDMが来てた！ 『今日なら１８時頃には職場を出れます。よかったら車を出しますよ』 うわ、も、ゼロさんほんと優しい…！！ うーん！足のない私としては迎えに来てくれたらありがたいけど、職場に来てもらったら警察官だってバレちゃうからなぁ…。職業に対して遠慮して欲しくないもんなぁ…。 あ！それにダメじゃん！ゼロさん車で来たら飲めないじゃん！ 『 私も今日１８時頃に仕事終われますー！是非とも！今日！飲みましょう！(*≧∀≦)ゞ ゼロさん車でいらしてくださったら飲めないじゃないですかー！駄目ですよー！一緒に飲んでくださーい！ご飯屋さんを決めて最寄り駅で待ち合わせしましょ！ 何か召し上がりたい物のご希望はありますか！？私は何でもいいですー！ ゼロさんとお会いできるの本当に楽しみです…！お誘いいただいて本当にありがとうございます…！イメージ的にゼロさんはとても上品なお姉さまって感じです♡いつも口調が丁寧だし、お料理が素敵だし♡ 私は地味スーツの公務員っぽい感じなちんちんくりんなので全くもって期待せずにいてくださいね！ほんとモブです！ 群衆に紛れてしまうので待ち合わせときは何か目印持ってきますー！』 とDMをした瞬間、バイブレーションの音がした。一瞬自分のDM音かと思ってびっくりしたが、降谷さんのスマホからだった。 「…何でもいいと言うよりも、和食か洋食かくらいは決めてくれるとありがたいな。女性が食べたい料理で旨い店へ連れていくのが楽しいんだから」 「はい…？」 「イケメンな上司の悩みをとことん聞いてやろう。朝までな」 青い瞳は優しく細まるのに、口元はいやらしく歪んで笑っていて…。 上司としての厳しい顔と部下を褒める時の笑顔しか知らなかったから、こんな男の顔をした降谷さんは知らなかったから。 今までで一番、心臓が飛び跳ねた。 イケメン過ぎて。 さすがの私でも、鈍感な私でも、さすがにわかった。ゼロさんなんて名前も…考えてみればなんて安直なんだ…！ 「…降谷さん…ネカマだったんですか…？」 「僕はtwitterで一度も女性だと言った覚えはないぞ。口調は穏やかだったかもしれないが、一人称は僕とも私とも言っていないしな。君みたいに安易に身バレするようなヘマはしてないさ」 「あの…私のことは…いつから…ご存知で？」 「君がtwitterを初めて間もない頃だな。『社食のラーメンが美味しー！』と箸をかまえて撮った写真で確信した。ネイルも個人特定に繋がるから気をつけた方がいいぞ」 「……いや！待ってください！私そんなにフォロワーさん多くないし繋がりたいタグ使ったことないしバズったこともないし！その社食ラーメンのツイートどこから見つけたんですか！？というか私、ゼロさんといつから繋がったのか全く覚えてないんですけど！？いつの間にかフォローしてくれてましたよね！？」 「それも今夜飲みながら教えてやる。あと僕がどのくらい君を好きかもな」 え…？いま何て…おっしゃった…？好きとかどうとか…？気のせいだよね…？ 降谷さん、どうしてそんなに笑顔なんですか？どうしてそんなに楽しそうなんですか？ 私は大混乱なんですけど降谷さん実はものすごく計画的だったりしてます？？ 「さっきのツイートは傷ついたぞ。まさかそんなに僕に対して苦手意識があったとはな。さあ、１８時までに仕事を終わらすぞ。それまでに何が食べたいか考えておけ。特に希望がなければ和食にする」 …………呟きたい。 今の衝撃と衝動と激動な自分の心を呟きたい……！！！！ けれど……！！！ 呟いた瞬間にその原因たるお方にバレてしまう……！！ ブロックする！？でもそれはあからさますぎて失礼！？ これはもう別垢を…！！作るしか…！！ 「君のtwitterは把握してるから別アカウント作っても無駄だからな。僕からは逃げられないので覚悟するように。なに、大丈夫だ。今夜一晩あれば僕の顔にも慣れるよ。というか慣れるまで側にいるから今後の仕事に対しても安心してくれ」 ああああぁぁぁ降谷さんの顔がいい笑顔が、ほんとにこの顔の良さが、笑顔になるとさらに強烈です、慣れる気なんてしませんし、慣れるまで側いにいるってどういうことですか、あと今夜一晩って言いましたよね、その前には朝までって言ってましたよね、え、何ですか？これ何ですか？私は今夜いったいどうなってしまうんですか？ …誰か！！誰か私の悩みを…！！！！ 聞いてくださいぃいいい！！！！！

息抜きで短編を書こうキャンペーン！！！<br /><br />続いたけれど！<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10140636">novel/10140636</a></strong><br /><br />降谷さんの部下のお話です！！<br /><br />短編も楽しいね！！<br />でもそろそろエロティックを書きたいから頑張るよ！！<br /><br />書きかけのR-18は<br />☆ウイスキートリオ(巨根スコッチ)<br />☆ウイスキートリオ(バックバージン狙いのライ)<br />☆降谷零＆赤井秀一(凄腕上司との3P)<br />☆降谷零(中身が9歳の降谷さんと無知ックス)<br />☆降谷零(ＡＶ監督になった降谷さんの激烈ご指導)<br /><br />こんなとこですね！<br />おらワクワクしてきたぞ！！

上司の話を迂闊にtwitterでしちゃいけない

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カラン、カランとドアベルが鳴る。 顔を上げた私は、入ってきたのが常連客の一人だと言う事に気づいて笑みを浮かべる。 「おや、本日はお一人で？」 「えぇ、マスターさん。イヴはちょっと用事があってね。今日はアタシ一人よ」 返ってきた返事は女性口調だが、ギャリーは見た目はかなりカッコいい部類に入る男性だ。 妻に声をかければ、彼女はすぐにマカロンを作り出す。 カウンターの一番端、そこがこのカフェに一人出来た時にギャリーが座る場所だ。 席に着くのを見て、私はコーヒーを入れたカップを置く。 今この時間、お客さんはギャリーしかいなかった。 「あら、マスター直々のコーヒーなんて久しぶりね」 「そこまで旨くは無いですよ。妻の方が何倍も上手だ」 「でもアタシ、マスターのコーヒーも好きよ。惚れ惚れしちゃう」 「恐縮してしまいますね」 ははは、と笑い合っていると、妻が皿に色とりどりのマカロンをのせてやってきた。 このカフェの唯一のパティシエの妻は、最近マカロンが得意料理となっていた。 特にここ数か月は、ほぼ毎日の様に焼いているため、雑誌で絶品と紹介されたほどだ（かなり小さな記事だったが） 「どうぞ、召し上がってください」 「本当、いつ見ても綺麗で食べるのがもったいないわぁ……」 うっとりと見惚れながら、少しずつマカロンを口にするギャリー。 妻はコーヒーを新しく入れなおしながら、世間話をするように話を続ける。 「ここ最近はギャリーさんが良く見えるから、マカロンを焼くのが得意になっちゃったわ」 「あら、そうだったの？確かに日に日に美味しくなっているかも」 「やーね。最初からあたしのマカロンは美味しいに決まっているじゃない！」 「そうよねー。でなきゃあんなに綺麗な砂糖菓子の薔薇も作れなかったわね」 ……年が近いせいだろう、二人の会話は妙に盛り上がる。 僅かばかり（五つぐらいだっただろうか）妻が年上らしいが。 この場合、この状況をガールズトークと言うべきなのだろうか……。 違うのかもしれないな、二重の意味で。 なんて事をぼんやりと考えていたからか、私は妻がさらりと言った言葉をうっかり聞き逃しかけた。 「それで」 「うん？」 「あなた、いつイヴちゃんと結婚するの？ギャリーさん」 ちょうどギャリーが、コーヒーを一口含んだ瞬間にその言葉だった。 聞いた瞬間、ギャリーはアニメ映画のワンシーンの様にむせた。 むせてその場につっぷしそうになっていた。 「だ、大丈夫ですか！？」 「がはっ、げほっげほっ！！……だ、大丈夫……」 あ、むせ方は男っぽい。 と、どうでも良い事を考えてしまったが、私はギャリーの背をさする。 妻はニコニコと笑いながら、汚れてしまったカウンターを拭いている。 「……あの」 「何かしら、ギャリーさん」 「なんでそれを、あなたに言われなきゃならないのかしら」 それはほんのちょっぴり、私も思った事だった。 ＊＊＊ ギャリーとイヴ。 この二人に私達はとても特殊な出会い方をした。 話をすれば長くなるが、妻の作った青い薔薇のマカロンが、全ての始まりだった。 イブが常連となったのは八年前にもなる。 彼女は行方不明になった、自分を助けてくれた人を助けたいと願った少女だ。 私と妻は、イヴの話し相手になりながらも彼女を応援し続けていた。 そして、彼女はついにその人を助け出したのだ。 それがギャリー。彼は常連になって半年しか経っていない。 でも二人が揃ってからは、一緒にお店に来る事も多くなった。 けれども時々、片方だけが遊びに来ると言う事もある。 イヴもよく一人でこの店に訪れて、妻と長々とおしゃべりをする。 客の対応をしているから、私は詳しく聞いた事が無いが。 二人はたぶん両想い……なのだろう。 見ていて恥ずかしくなるほど二人の距離は近い、近いのだがそれ以上と言う事は無い様だ。 とは言え、そこはあくまでも「お客様のプライベート」 私達個人が首を突っ込んではいけない領域だ。 なのに、妻はその領域を、いともあっさり侵入してしまったのだ。 [newpage] 「……いけなかったかしら？」 「いけなかったとかじゃなくて！不意打ち過ぎてびっくりしただけよ！」 首を傾げる妻に、ギャリーは立ち上がらんばかりの勢いで叫ぶ。 確かにいきなりあぁ言われたら、誰だってむせるだろう。 「だって……いつも一緒に居るのに、貴方達『居るだけで良い』って感じがするのよね」 「それで良いの！アタシもイヴもその関係で良いのよ！」 「……本当にぃ？」 あぁ、妻が何を考えているのか解らない。 なぜそんなにギャリーをあおっているんだ？ そう言いたいが、傍で見ている私は口出ししにくい。 この女性二人（？）の放つ、ややピリピリしたムードに。 「本当よ。アタシとイヴじゃ釣り合わないわ」 「でも、貴方達もうお似合いな年齢じゃない。イヴちゃんは19歳だし、あなただって20代後半でしょう？ 結婚しても世間的には不思議じゃないわよ」 それは妻の言う通りだ。 言われたギャリーは「そうだけど……」と口ごもる。 前々から不思議に思っていたのだが、どうも彼はイヴと自分の年齢差がかなりあると思っているようだ。 傍から見ても釣り合っている様に見えるのだが、ギャリーはかたくなに「あの子はアタシにとっては子供よ」と繰り返すばかりだ。 その横でイヴが「子供じゃない」と頬を膨らませるのも、同じ回数見たものだ。 「あんなに一緒に居て、結婚しないなんてそっちの方がおかしいわよ」 「……お二人には、解らないわよ」 冷静になったのか、ギャリーは再び椅子に腰かけ、やや冷めたコーヒーを口にする。 空になったカップに、妻がポッドから温かいコーヒーを注ぎこんだ。 「えぇ。解らないわね。あなたとイヴちゃんがとても強い絆で結ばれている事しか」 「いろいろあるのよ、アタシが今までどこに居たとか……あの子の事、とか」 「あの子？イヴちゃんじゃなくて？」 「……アタシ達があの事件に巻き込まれた原因でもあったけど……とても可哀想な子が居たのよ」 「え？」 その言葉に、私と妻は顔を見合わせる。 イヴからはそんな話を聞いた事が無かった。 私達の動揺に構わず、ギャリーは話を続ける。 「初めのうち、あの子がどうしてこんな事をしたのかって思ったわ。 でも同じ状況に陥って、アタシはあの子の気持ちが痛いほど解った。 痛いほど解ったら……幸せになりにくくなっちゃのよ。 あの子はイヴが好きだった、好きだったからアタシを閉じ込めようとした。 でも、あの子はもうどこにも居ない。どこにも居ないけど……」 知らなかった、そんな事があったのか。 もしかするとその子との関係で、イヴとの年齢差に違和感を持つのだろうか。 妻はポッドを置くと、ギャリーの方を見て口を開く。 「……イヴちゃんは、なんて？」 「あの子の分も幸せになろうよって言っていたわ。でも……そんなのであの子は許してくれるかしら」 「それは……本人の匙加減ね」 妻も納得したのだろうか、初めの勢いは無くなっている。 静かになったが、微妙な雰囲気が残る。 とにかく話題を変えようとする前に、再び妻が口を開く。 「でもねー、イヴちゃんねー、この前この店でナンパされたのよねー」 軽い、実に軽い口調で妻は言った。 しかし、コーヒーを飲もうとしていたギャリーの手が止まる。 再び店の空気が変わっていく様な気がする。 さっきよりも、さらに悪い方向に。 「……なにそれ」 「ほら、イヴちゃんって可愛いでしょう？一人でもよく来るんだけど、そのたびに男の子にナンパされるのよ。 今月でもう１，２、３……１０回かしら。とにかくたくさんよ」 「へぇ……」 冷静さを必死にギャリーは演じている。 だけど、レジで立っている私からはしっかり見えている。 彼の妙に大きな貧乏ゆすりが。 「もちろんあなたが来てから減ったけど……。来る前は凄かったのよ。 イヴちゃんが来る日は、男の人でごった返しだったんだから」 「へぇ……」 妻の言葉に嘘は無い。全部本当の話だ。 だがなぜ今それを言うのだろう。 あとギャリー、動揺しすぎてカップを持つ手まで震えているよ。 落としそうではらはらするよ、いろいろな意味で。 「そりゃあ本当にカッコいい人も、イヴちゃんに求婚したわよ」 「きゅっ！？……へぇ、そ、そうなの」 「でもイヴちゃんは、全て断ってきたの。何人も、何人もね」 「……何が、言いたいんですか？」 カップをカウンターに置き、静かにギャリーは言う。 妻は、ふっと顔から笑みを消して、ギャリーの正面に立った。 「イヴちゃんが、別の人と一緒になって良いの？」 「なっ……」 「だけど、イヴちゃんは全て断り続けているの。 この意味、解るでしょう？」 「それは……」 目を伏せる様にギャリーは妻から目をそらす。 だけど妻は、言葉を続ける。 「あなたが幸せにならないなら、ならないで良いと思うわ。 でもね、イヴちゃんがこのまま誰かと一緒になったら、あなたの言うその子はどう思うのかしら。 イヴちゃんが大好きな子なら、その子もイヴちゃんの幸せを願うわよね。 イヴちゃんが幸せになれなかったら、それはその子も不幸になるんじゃないかしら。 だから……」 妻が言葉を続ける前に、ダン！とギャリーがカウンターを叩く。 妻の手が止まる、私も止まる。 ギャリーは今まで見た事が無いくらい、真剣な表情をしていた。 真剣に、何かを考え込んでいた。 何かを言おうとして、口を開いたり閉じたりしようとしていたが、結局口を開く事は無かった。 またしばらく、しんと静かな空間になった。 私は思わず、ギャリーに声をかけようとした。 「……あの、」 「マスター、ごめんなさい。これ、勘定」 何枚かのコインを私に手渡し、ギャリーは店から飛び出す様に出て行った。 カウンターの上には、まだ中身のあるコーヒーと、いくつかのマカロンが残っていた。 [newpage] そしてその日の晩。 「アンナ、少し言い過ぎたんじゃないかな？」 アンナとは、私の妻の名前だ。 デザートにカップケーキを作っていた妻は首を傾げている。 「そうかしら、そうでもしないと行動に起こさないかなーって」 「だからって……私達に首を突っ込む権利は無いだろう」 やや怒る様な口調で言うと、妻は首をすくめた。 「そうだけど……。でもねー、あれは仕方なかったのよ」 「仕方ないって？」 カップケーキを皿によそっている妻は、私の問いにさらりと答えた。 「イヴちゃんがね」 「イヴちゃんが？」 「『ギャリーがなかなか私に告白してくれない』って、愚痴るのよ」 ……なんだって？ その言葉の意味が解らず呆然としていると、私の前にカップケーキを置きながら妻は続ける。 「もちろんイヴちゃんが私に頼んできた訳じゃないわよ。 でもね、ずっと言うのよ。『ギャリーの告白を待っているの』 『私からの告白も良いけど、やっぱり彼から直接聞きたい』 『私はギャリーと一緒に、幸せになりたい』 『彼に「結婚してくれ」って言ってほしい』……って毎回よ？ 十年越しの片思いも、此処まで来るとかなり重症ね。 そうも考えたら、後押ししたくもなるでしょう？ねぇ？」 そりゃあ……後押ししたくなる、かもしれない。 と言うか、私が居ない時にそんな話で盛り上がっていたのか。 そう考えていると、妻はプレーンのカップケーキに齧りつく。 「でも直接あの子の王子様に全部を言う事は無いでしょう？ だからほんのちょっと、彼に『危機感』を感じて欲しかったのよ。 スプーン一杯分の後押しさえあれば、彼だって前に進まざる得ないでしょう？ 元々離れ離れだった二人よ、もう二度と離れたくないならってね。 ……まさかあんな話が出てくるとは思わなかったけど」 苦笑する妻に、私は頷く。 妻の心理は解った、そう言った状況も。 しかしスプーンはスプーンでも大匙だったな、あの後押しは。 変な方向に状況が悪化していないと良いが。 明日二人が来てくれる事を祈って、私もカップケーキに齧りつこうとした。 と、その瞬間に電話が鳴った。 妻が出ようとしたが、私の方が近い。 立ち上がって、リンリン鳴り続ける電話の受話器を取った。 「もしもし」 『もしもし、イヴです』 「イヴちゃん？どうしたんだい？」 『あのですね、アンナさん達にお願いが……』 [newpage] 「それにしても、まさかこんなに早くなるとはねー」 車を運転しながら、あたしは呟く。 隣で地図を見ている夫が、苦笑している。 「誰だって予測は出来ないものさ。あ、そこの角を右だよ」 「はーい」 曲がった先には、女の子が一度は夢見る美しい白い建物。 ステンドグラスが淡く日光を受けて輝いている。 今日は本当に良い天気。結婚式にはちょうど良い。 もちろんあたし達が来たのは……。 「イヴちゃん達の式場はどこかな？」 「受付に聞いてみれば良いんじゃないかしら」 そう、あの二人の結婚式！ まさか突っついたその日にプロポーズするとは思わなかったわ……。 本当にぎりぎりの均衡状態だったのね。 車の中にはこの日のために腕によりをかけて作ったウエディングケーキ。 もちろん、赤と青の薔薇の砂糖菓子は忘れていない。 「……ちょっと聞いてくるから、ここで待っててくれないかい？」 「良いわ、駐車場に車を停めてくる」 夫は車から降りて、受付の入口に走っていく。 あたしは車を駐車場に停めると、ケーキを入れた箱を台車に乗せて受付へと向かう。 受付の周りは人が程々多い。少し離れた所で夫が受付の人と話している。 「あ、あそこね……。あら？」 台車を押そうとして、ふとあたしは傍の壁にかかっているあるモノに気付いた。 それは一見すると、ごく普通の夜の景色を描いた絵。 でもこの独特の作風は……。間違い無い。 「これ、ゲルテナの作品……。えーっと『ミドリのよる』じゃなかったかしら」 なんでこんな所にあるのかしら。確かに一部の作品は美術館以外でも展示されているらしいけど……。 穏やかな作品だけど、イヴちゃん達の話を思い出してちょっと震える。 一番怖いのは、誰もこの絵を気にしていない様な雰囲気かしら……。 「……見てるの、あたしだけ？」 「ねぇ」 急に声がして、あたしは「ひやっ！」と飛び上がる。 けど後ろを振り向いたら、ごく普通の少女が立っていたのであたしはほっとする。 まるでお人形みたいな女の子。金色の長い髪、硝子の様な青い瞳、上品な緑色のドレス。 どこかの結婚式に向かう途中なのかしら。 「……なぁに？お嬢ちゃん」 「あなた、イヴとギャリーの所に行くの？」 あら？イヴちゃん達の知り合いだったのね？ でも見た所10歳くらい……よね。二人のどちらかの、親戚の娘さんとか……なのかしら。 「そうよ。もしかして迷子？一緒に行きましょうか？」 「……お願いがあるの」 そう言うと、女の子はすっと何かを差し出した。 それはとても、とてもとても綺麗な黄色い薔薇。 本物みたいに精巧に作られていたけど、間近で見ればわかる、これは造花だ。 「これを、イヴに渡してきて」 「……え？お嬢ちゃん、あなたが渡せば良いじゃない？」 一緒に言ってあげるわよ、ともう一回言ってみたけど、女の子は首を振るばかり。 寂しそうな顔なのに……二人と喧嘩でもしたのかしら……。 あたしはとりあえず、頷いて薔薇を受け取った。 「解ったわ。イヴちゃんに渡せばいいのね」 「……それから、二人に伝えてほしい事があるの」 「それは……あなたの口から言った方が……」 「私は……あの二人にもう会えない……。でも」 女の子は顔をあげて、そしてふっと笑った。 「『あの時はごめんね。でも、今は二人の幸せが私の幸せになるから』って伝えてください」 「え？どう言う意味なの、それ……」 「お待たせ！式場の場所解ったよ！」 「あ、あなた！あのね、この子が……。あれっ？」 夫の声につられて振り向いて。 もう一度女の子の方を見ようとしたら……そこに誰も居なかった。 気付くと、『ミドリのよる』も飾られていない。 夢？でもあたしの手には黄色い薔薇が……。 今のは一体、何だったのかしら……。 「どうしたんだい？」 「……ううん、何でも無いわ。はやく運んじゃいましょう！」 あたしは笑って、台車を押す。夫は首を傾げながらも押すのを手伝ってくれる。 あの女の子は何だったのだろう、イヴちゃん達に聞けば解るのかしら。 これは皆が幸せになれる、そんなエンディングだったのかしら。 それは二人に会わなきゃ解らないわね。あたしは台車を押す力を少し強めた。 ＊＊＊ 華やかな結婚式。 誰もが笑顔で二人を祝福した。 新郎の胸に赤い薔薇、新婦の胸には青い薔薇。 ケーキにも使われたその美しいモチーフに、人々は感嘆のため息を吐く。 だけどこれだけは、誰も知らない。 新婦の持っているブーケの中にある、黄色い薔薇の存在を。

「縁結びのマカロン」の後日談です。オリキャラ夫婦が出てきます。「忘れられた肖像」END前提で話が進んでいます。ネタバレもちょっぴりあります。前作に目を通しておきますと意味は解るかなーって部分もあるかと。ある意味前作でオチはついているんですけど、個人的にこの話で『本当に』皆が幸せになれるルートを考えたらこうなりました。これで一区切りです。すっきりしました。あと考えすぎて一歩踏み出せないギャリーさんと、押しは強いのにギャリーの方から来て欲しいイヴも好きです。でもオチは二番煎じかもしれませんね。あと「Ib」をとうとうダウンロードしてプレイしてみました。まだEDまで進んでいませんが、実況動画を見るのと臨場感が違いますね……。あの迷路でマネキンに挟まれた時の絶望は忘れない……。[追記]　「どうも、マスターです。みなさん、閲覧、評価、ブクマ、ありがとうございます。おかげでルーキーランキング11位に入る事が出来ました。本当にありがとうございました。妻からのマカロンの差し入れです。どうぞ、召し上がってください」　本当に……二作ランクインすると思いませんでした……。ありがとうございます……。[再追記]「おや、どうやらまた久々にあの二人が来るようですね。ルーキーランキング1位のお知らせと一緒に、黄色い薔薇のマカロンを御馳走してあげましょうか」　二作も1位になるとは……！「Ib」人気恐るべし！みなさんにも感謝感激ありがとうござます！

後押しはスプーン一杯分

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・多少の捏造有り。 ・ベルモット成り代わり。 [newpage] ガラス越しに東都の街並みを眺める。光があちこちに行きかい、暗闇を明るく彩っている。その様子を眺めながら、今日一日頑張った自分へのご褒美にと少し値段の張るウイスキーをこくりと飲み干す。日頃の忙しさを思うと、私はよく頑張っている。美味しいデザートもご褒美に付け足せば良かった。前世の私はチューハイ片手によくつまみやケーキを貪ったものだ。しかし、今世の私は仮にも女優。例え前世の私が冴えない一般市民であったとしても、今はテレビの中で活躍するあの女優なのだ。女優たるもの食生活を杜撰にする訳にはいかない。プロポーションの維持も大変である。だから、前の私のような食生活を送れる訳もなく、贅沢な晩餐はこの身体になってからは一度もない。が、今だけ贅沢晩餐を開催している。今だけだ。ちょっと疲れた時だけ、許して欲しい。あれだけ悪の組織でやりたくもないことをやってあげているのだ。むしろ任務が終わる度に私においしいお酒と菓子でも献上して欲しいものである。怖いからそんなこと言わないけど。 　さて、NOC達が懐いてきて想像以上に入れ込んでしまった件についてだが…彼らがこちら側の世界に居座る限りは距離を取るのは無理だ。実際に彼らを避けに避けまくったことがあるが、大変なことになったためもうやらないと決めている。何が大変だったかというと、彼らがそれはもう盛大に私に泣きついたのだ。赤子を世話する親の気持ちを擬似的に体感した。バーボンとスコッチに両サイド固められてその日一日は満足に動けなかった。その一日が終わった後も、彼らは私を監視するかのように視線を向けてきていたし、どこかに行こうものならついて行こうとするかどこに行くのか尋ねられていた。ある程度行動を把握できるようになって監視は緩んだが、少し距離を取ろうとするだけで不安そうに顔を歪ませるものだから私は諦めた。 　そもそも…彼らと出会うきっかけになったのはこの黒の組織が原因である。この組織がある限り、彼らは嫌でもここでの潜入を続けるだろう。ならば、彼らがここにいる理由を消してしまえばいい。ベルモット自身はどう思っているか知らないが、私にとってこの組織などどうでもいい。生きるためにここに居る必要があっただけだ。そろそろNOCをこっそり助けるのにも限界を感じていたのだ。元社畜の私もビックリなこの黒の組織は充分暴れた。もう鳴りを潜めてもらってもいいだろう。そして潜入しているものには古巣に帰って頂く。 　今はその下準備を進めている。あちこちに情報を匿名で流して少しづつ組織の全貌を浮き彫りにしてもらおうと日々せっせと集めた情報を黒の組織に目を向けている情報機関などに流しているのだ。これがなかなか手間と時間のかかる作業で、組織に攻め入るきっかけになるまでにはまだまだ到達しそうにない。情報を流すこと自体は簡単だ。大体のNOCは把握しているし、私が逃がしたNOC達のツテを使えばいとも簡単に情報は広まる。ただ、その情報の裏付けに時間がかかるのと、私自身の自由が少ないことが問題だ。それなりに核心のついている情報はその分裏付けが難しいだろうと予想がつく。私の優秀な変装術は組織でも重宝されているし忙しいのも仕方がない。だが、このままだと手遅れになってしまいそうで焦りを感じている。何かいいきっかけがあればいいんだけど。組織を崩す足がかりが、現状打破に拍車をかける何かが。 ＊ 「おい、ベルモット。」 　組織内を歩いていると、聞き飽きた低音が耳に響いた。ため息をついて声の聞こえた方向に顔を向ける。 「何かしら。ジン。」 　彼はくつくつと喉を奥を震わせるように笑う。 「出会い頭にため息を吐くなんざ、いいご挨拶じゃねえか。」 「貴方のお話は大抵仕事の追加だもの。ため息を吐きたくもなるわよ。」 「安心しろよ、今回はお前に聞きたいことがあるだけだ。……お前、ここ最近頭角を現してきたウイスキートリオについて、どう思う。」 「……どうも思わないけど。彼らがどうかしたの？」 　一瞬身を固くしたが、それを悟られないようにジンに質問で返す。ジンはそれににやりと笑って、懐からタバコを取り出す。それに倣って私は鞄からライターを出して彼のタバコに火をつける。火のついたタバコの煙を吸って吐き出すと、楽しそうに表情を歪める。 「あいつらの中に鼠が潜んでるとは思わねえか？」 「…前から貴方は彼らが怪しいとは言っていたわね。鼠だったの？」 「いや？…だがあいつらはなんとなく気に食わねぇ。」 「呆れた。鼠だったら気に食わない奴を始末できるのにって？仕事なんだから仕方ないじゃない。」 　無駄に緊張してした気分だ。まあジンは気に食わない＝死というなんとも物騒な脳内思考をしているからまだ生きているだけ儲け物か。彼は先程までのニヤついた顔から一転して苦虫を噛み潰したような顔で舌を打つ。彼らのことは優秀故にさっくり殺せないからイラついているのだろう。私がNOCだって言ったら殺せたのにと残念そうだ。 「随分と私の言葉を信用してくれるじゃない？」 「お前はあいつらにやたら懐かれているから情報は入ってくるだろ。それに、お前の目は確かだ。」 「あらそう。」 「暗がりで生活してきた奴にとって、あっち側の人間は眩しくて仕方がないんだろうな。いくら黒く染まろうとしても、染まりきれなかった白は目立つ。」 「……貴方だってそう変わらないでしょう。」 　彼は自分のことについて多くは語らないが、かなり古くからこの組織にいるのだ。それなりの過去があるはずだろう。 「俺は暗闇の中でもずっと深くまで入り込んでいるんだ。光なんざ見えねぇよ。」 「……。」 「…まあ、お前の気まぐれで黙っている時もあるようだがなァ？」 　帽子で影になった暗闇の奥から鋭い視線が向けられる。殺気の乗ったその視線は空気を一気に張り詰めさせる。私はその視線を笑顔で躱す。 「ふふ、本当に気づいてなかっただけよ？買いかぶり過ぎじゃないかしら。」 「ハッ、そういうことにしておいてやる。だが、秘密主義も大概にしておくことだな。」 「忠告かしら。ありがたく受け取っておくわ。」 　そう答えた私を鼻で笑い、彼はタバコを深く吸い込んで吐き出すとそれを捨てる。話は終わりだということだ。その場を去ろうとしたその時、彼のポケットにあるであろう携帯が震えた。すぐさまそれを取り確認している様子を横目で見ていると、彼と目が合う。嫌な予感がする。確認していた画面をこちらに向けられる。ああ、嫌な予感は的中してしまったみたいだ。 「お前に仕事だ。」 「もう、やっぱり貴方のお話はビジネスに繋がるじゃない！」 「俺に言うな。ボスがこのタイミングでやれって言ったんだ。」 「はいはい。ボスの仰せの通りにってね。」 　今度こそこの煙臭い空間から離れようとすると背を向けると、小さくおいと呼びかけられる。 「あいつらが鼠だと感づいたら言え。」 　あいつらというのは先程話題に出たウイスキートリオのことだろう。随分と彼らも警戒されているものだ。 「わかっているわよ。」 「…まあ、あいつらもここに入ってそれなりに経つ。鼠だとしても表の世界には居づらくて仕方がないだろうがな。」 　ジンはまた楽しそうに笑みを浮かべている。笑ったり殺気を飛ばしたり、感情が豊かな彼は自分の感情をそのまま曝け出すためとてもわかりやすい。 「暗闇に慣れすぎた目は光の輝かしさに目を眩ませる。その事実を知って苦しい思いをするより、俺が引導を下したほうがずっとマシだろうさ。」 「……優しいのね。」 「フン、さっさと潰したいだけだ。ボスの邪魔だてを目論む鼠共をな…。」 　コツコツと音を響かせて去るジンの背を見つめる。彼はボスに心酔しきっている。間違いなく悪人であり罪人だ。彼の先ほどの言葉には随分と感情がのっていたように思う。彼も表の世界に出ようとして、その光に目を眩ませたことがあるのだろうか。……私のように。そしてこう思ったのだろうか。こちらは私の住む場所じゃない、陰の世界こそが自分の生きる場所だと。こちら側でしか深く息を吸うことができないのだと。全ては私の想像に過ぎない。そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。彼は根っからの悪だが、光を眩しいと思える心はあるのかもしれない。悪人にもいろいろいる。仕方なく裏の道を選んだ者もいれば、自ら選ぶ者もいる。まあ、彼がどちらだったかなんて興味はないけれど。 「Oh my Godness……。」 　彼らがNOCだということは知っているが、古巣自体は知らない。いざという時に助けられるよう少し探っておこうと情報をかつて助けたNOC伝いに入手したのだが…どうやら古巣の中に潜り込んだ膿が存在しているようだ。組織の息がかかった者がいる。この状態ではいずれNOCは古巣から切り捨てられる形で情報が流され、組織によって存在を消される。これは早く対処しなくては。とりあえず目をつけられているウイスキートリオ達の内訳はFBIと日本警察のようだ。その中でも、きな臭いのは日本警察の方だ。膿を放っておけば日本警察が古巣であるスコッチとバーボンが危うい。しかし、日本警察の内部にまで手を出すとなると私自身も危険に晒される。……致し方がない。本人から探るしかないか。幸い彼らは定期的に私のセーフハウスにやってくる。その時に睡眠薬を盛って携帯から情報を抜き取ろう。 ＊ 「ベル～！」 　数日後、私の目論見を知らないNOC達は私の家に都合よくやってきてくれた。それもバーボンとスコッチ二人も。これは好都合である。二人の携帯をいじって事実との正誤性を確かめることもできる。もしこれが違っているのであれば彼らと情報のやり取りをしている連絡員たちが怪しいと絞れるし、違えば違うで潜入捜査を知る者は多くないはずだ。候補を減らすことが出来る。 　泣きついてきたバーボンをよしよしと撫でながら中へと迎え入れる。バーボンがこんな状態になっている事情を知っているであろうスコッチは苦笑いでお邪魔しますと呟いた。 「今回はどうしたの？嫌味ったらしいオジさん？べたべた触りたくるあの子？それともこの前言っていた変な目で見てくるあの資産家かしら。」 「どれも違います～！」 　ぐりぐりと首を振って私の胸に顔を押し付けるバーボン。力が強くて些か痛いのだが、落ち着くまで好きにさせておこう。興奮しているバーボンからスコッチに目を向けると、彼は事情を簡単に説明してくれた。 「今日行ったバーで成人に見えねえって客に絡まれたんだよ。それで、ちょっとやり合ってな。」 「あー……。」 　バーボンには大変申し訳なく思うが、彼はとても童顔である。客の言い分を一概に否定ができない。次いでに言うと。スコッチも髭がある分マシではあるが童顔だ。彼も含めてこのふたりが揃っていたらティーンに見間違えられても仕方がない。 「あいつ、僕のことあろうことか中学生って！子供は帰れなんて言うんですよ！ひどくないですか！」 「そうねぇ、中学生はいいすぎよねぇ。」 「うう……あいつらの素行不良身内に言いふらしてやる…あいつらこそが学生だってことはもうわれてるんだからな……。」 「あー熱心に端末いじってんなって思ったらそんなこと調べてたのか…。」 　苦笑いするスコッチ同意の念を込めて頷く。なかなか根に持つタイプのようだ。バーにいたであろう学生たちが説教される未来が見える。 「まあ、ベルにそうやって甘える姿は子供みたいだけどな？」 　にやりと笑ってバーボンに話しかけるスコッチを、バーボンはむすりとした顔で睨む。 「うるさい。……ベルにだけです。それに、スコッチだって甘えてる時あるの知ってるんですからね。」 「うっ、別にいいだろ！たまーに甘えるくらい！」 　その言葉に、スコッチはわかりやすく顔を赤くする。こうやって言い合いをしている様子を見ていると、友達がじゃれあっているのを見ているようで微笑ましい。 「今日は泊まっていくでしょう？紅茶でも淹れましょうか。」 「…はい。お願いします。ベルの紅茶好きです。」 「俺もー。手伝うぜ、いつものカップだよな？」 「ええ、お願いするわ。」 　彼らは私の作った料理を口にはするが必ず手伝いを申し出るか目に見える場所で料理されるものしか食べない。その中で彼らに一服盛らなければいけない。……私も飲まなければならなくなるが、ポットの方に入れよう。ポットへの警戒はそれほど強くはないだろう。薬も私は耐性があるものだし、それなりに強力な薬だから彼らには効くはずだ。二人の目を盗んでこっそりと投入に成功した。職業柄、視線の誘導だって得意なのだ。ポットから視線を一瞬逸らすくらいはお手の物である。 　完成した紅茶をいつもの通りの笑顔を浮かべて提供する。ポットからカップに紅茶を移して、真っ先に私が紅茶を口にする。流石無味無臭のお薬。唯の紅茶の味しかしない。それを見た二人も紅茶を口にする。それぞれ美味しいと感想を述べてくれて、それから味わうようにゆっくり、着実にその液体を体内に取り込んでいった。 「……。」 　警戒はされているがそれは他の組織の人間に比べれば明らかに緩い。それは私への信頼の証だ。その信頼を裏切って薬を入れていることに少しだけ心がつきりと痛む。 　そこで、バーボンの頭が揺らぎ始めた。スコッチの目も閉じようとして、またぱちりと開いてを繰り返している。 「…なんか、眠くなってきた。」 「俺も。」 「あら、お疲れだったのね。シャワーは後にしましょうか。少しだけ休んでおいで。」 「ううん……ダメだ、眠い…お言葉に甘えて寝ます。」 「…俺も寝る。」 　うとうとしたまま二人はベッドルームに吸い込まれていった。私が紅茶を飲み終わる頃には深い眠りについているだろう。 　しばらくしてベッドルームに近づくと、小さく寝息が聞こえてきた。音をたてないようにして部屋に入る。毛布に包までもなく、ベッドの上に大きく寝そべっている。いつもはもう少しお行儀よく寝ているのだが、今はその影も見えない。時々寝相悪い時もあるけど、本当に時々だ。 「…ごめんなさいね。」 　小さい声で聞こえないはずの謝罪をしてから、まずはスコッチの端末を操作する。情報操作をしているうちに身につけたハッキング能力を活かして情報を抜き取っていく。そして次にバーボンの方に移る。それぞれの端末の情報と、私の知っている情報を照らし合わせると、小さな矛盾が生じているところがあった。それはスコッチの方の連絡員から始まり、次々とほころびが見つかっていく。彼らが危険なのは変わりないが、より危険が差し迫っているのはスコッチの方だ。放ってはおけない。端末をそっと元の場所に戻して部屋を出る。 　リビングで彼らから抜き取った情報を自分の持っているPCに入れて整理しておく。ぱちぱちと入力していると、パソコン画面に影がかかった。瞬間、PCを抱えて身体も横にずらす。パンッと軽い音がしたかと思うと、先程までPCが置いてあった場所に小さな穴が空いていた。思わず冷や汗が出る。 「何かいいものでもありましたか？ベル。」 　横目で音の発生源を確認すると、机に向けていた拳銃を私の背中に向けて、バーボンがにこりと笑う。私はPCについたUSBをバーボンからは見えないように体で隠しつつ抜いて、服の中に隠す。そしてPCを机に置き直して両手を挙げる。 「早いお目覚めね、バーボン。」 「ええ、おかげさまで良く眠れたようで。目覚めもスッキリですよ。」 「そう、それは良かったわ。私の紅茶が良く効いたみたいね。」 「…やはり、紅茶に何か盛ったんですね。」 　眉を寄せて告げられる言葉に私は笑みで返した。それを見てより眉間のしわが増えた。 「ねぇ、やりたいことができたの。その物騒なものをどけてくれないかしら？」 「そうしてあげたいのは山々なんですが……貴方が抜いた情報について吐いてもらってからにしましょうか。」 　ぐり、と背中の拳銃を押し付けられてその存在をありありと主張される。彼はいつ起きたのだろうか。私がリビングでPCを打ち込んでいるだけなら仕事をしていると思うだけのはず。おそらく私が寝室に侵入していたいつかのタイムングで起きていたのだろう。そして、私が油断する時を待っていた。 「あら、脅しかしら。」 「いいから答えてください。僕やスコッチが眠りについた後に寝室をうろうろするなんて、貴方らしくない。何かしていたんでしょう。」 「あら、起きていたのね。それなのに私の事を止めずに見ていたなんて…ずるい子ね。」 「ええ、まあね。結構強い薬みたいですね。僕結構薬の耐性はあるはずなんですが…。目は覚めても身体が動かず貴方のやりたいようにやられたようで。」 　肩を強い力で掴まれて、そのままソファに倒される。その上にバーボンがのしかかって、両腕を片手で封じられ、もう片方の手にある拳銃で心臓を狙われている。足も彼自身の足で押さえつけられて簡単には動けない。 「さあ、お喋りはここまでです。貴方の盗った情報を返せ。何が目的だ。」 　口調が鋭く、突き刺すような殺気が膨れ上がる。そこにバーボンらしさはない。バーボンはもっと柔らかく、危険な甘さがある雰囲気を持つ人だ。今目の前の彼こそが、日本警察である本来の彼なのだろう。全くキャラが違うじゃないか、これでは演じ続けるのも大変だろう。甘いマスクの裏で何を考えていたんだろうと考えると、なんだか面白くて笑いがこみ上げてきた。 「…何笑ってるんですか。今の状況分かってます？」 「っええ、わかってる。わかってるわよ……。それで、目的がなにか、だったわよね。」 「……。」 　笑われたことが不服なのだろう。不満だと顔に書いてある。現状わかっているのかと。それを見てまた笑いそうになるが、我慢する。しかし、それが伝わってしまったのだろう。彼は余計にしかめっ面になってしまった。 「……"A secret makes a woman woman." 貴方にはまだ教えてあげない。」 　私はつけ爪の裏に隠していた小さな麻痺針を無理やり爪を引き剥がすことで取り出し、押さえつけられていた腕に刺した。それに驚いたのか、力の緩んだ腕から抜け出して逆に彼を押し倒す。 「なっ！くそ、ベル！」 　足のホルスターから銃を取り出してバーボンに向けて構える。 「Good　night…バーボン。良い夢を……。」 　パシュッと小さな音と共に彼がぐったりとソファに倒れこむ。麻酔銃の効きは抜群だ。彼の腕に刺した針と引き剥がした爪を回収して、彼の体制もソファから落ちないように直してやる。拳銃も彼の物は机の上に、私の物はホルスターに戻して見えないようにする。最後に、仁に向けて一通のメールを届けて完了だ。 　全ての準備が終わったところで、かたんと寝室から音がした。 「身体が思うように動かなくてすぐ来れなかったけど、発砲音が聞こえたんだが……、……？」 「良いタイミングね、スコッチ。」 「…これは、どういう状況だ？」 　机に空いた拳銃で撃ったであろう跡、机上のバーボンの拳銃。くたりとソファで目を閉じるバーボン、今にもその場を後にしようとしている私。これはどういう状況に見えるのだろうか。しかし、そんなことを考えている時間はない。思い立ったら吉日だ。 「悪いけど、説明は後よ。バーボンなら心配しないで頂戴。それより危険なのは貴方の方よ。私の言う通りにしてもらえるかしら？」 　そう言って私は先程ジンに送ったメールをスコッチに見せる。それを見たスコッチはみるみる顔色を悪くした。 ”スコッチは鼠よ。気に食わない奴を１人消せるわね？” 「安心して、この時間なら彼は仕事にまっしぐらでメールなんか見ちゃいないわ。でもそれも時間の問題、早くここから出るわよ。あと貴方の携帯のGPSで追われちゃ敵わないから壊すわよ、いいわね？」 「えっ、待ってくれ。どういうことだ。ベル、お前は何がしたいんだ？俺を、始末しないのか…？」 　銃に手を伸ばそうとする彼の腕を取って、お願いだから、と懇願する。そんな私を見て彼は動きを止め、真剣な表情で私を見つめ返す。 「貴方の悪いようにはしないわ。…私を信じて。」 「……ベル、お前は”俺たち”の敵か？…それとも、」 「敵でもあり、味方でもある…。でも、私個人としては…シャロン・ヴィンヤードとしては貴方たちの味方になれる。」 「……。」 「直にこのエリアにも組織の人間が来るわ。その前に貴方はスコッチとしての貴方を消す必要がある。」 　スコッチは私の言葉の真意を図ろうと目を細める。それに答えられるよう、私も真剣に言葉を返す。長くも思える数秒。やがてスコッチは大きくため息をついて肩をすくめる。 「…元々俺は疑うのは向いてないんだよな。シャロン、君を信じる。俺を助けてくれるんだよな？」 　その言葉に安堵の行きは吐いて、不安そうな表情を見せる彼を落ち着かせるように笑顔を向ける。 「もちろんよ。二人で逃避行の旅をしましょう。」 「じゃあまずはその注射器いっぱいに貴方の血を抜いてくれるかしら。」 　移動の車の中で彼に注射器を放る。彼は苦笑いでそれに従ってくれた。今は車で移動し、安全な場所まで移動しているところだ。彼は外からは見えない仕様になっている後部座席に座ってもらっている。一応別人に変装済みだ。緊張しているのか、居心地が悪そうだ。 「…本当に助けてくれるんだよな？俺、間違ってないよな？」 「組織に狙われて生きて帰れる可能性なんてそれこそゼロに近いわよ。だから、貴方には一度死んでもらうわ。」 「本当に俺を助けてくれるんだよな！？」 　焦った様子で叫ぶ彼に淡々と言葉を返していく。焦る気持ちもわかるが、私も大変焦っているのだ。 「スコッチに死人になってもらうだけよ。本来警察官である貴方はちゃんと助けるわ。」 「…はぁ～、所属もバレてるのか……。」 「知っているのは私だけよ。携帯も壊したし、情報が漏れることは今のところないわ…今のところは。」 　緊張を紛らわせるように息を吐くスコッチ。 「今のところは、ねぇ。」 「……警察内部に裏の人間が混じっていたわ。遅かれ早かれ、貴方は彼によって情報を漏らされていたでしょうね。」 「嘘だろ！？…っバーボンは！あいつも危ない、戻らないとっ！」 「…甘いわねぇ、私はバーボンが貴方の仲間だなんて一言も言っていないのに。」 　はっとスコッチは自身の口を塞ぐが全て後の祭りである。まあ、バーボンも警察官だということは知っているんだけど。それでもスコッチはどこか抜けている。このままでこの先大丈夫なのか心配である。思わず彼を心配してしまうほど彼が大切だということなんだろう。 「バーボンについては心配しないでって言ったでしょう。安心して、彼は大丈夫よ。裏の人間が紛れ込んでいるのは貴方についている連絡員よ。一度内部を洗ったほうがいいわね。」 「……ただでさえ緊張で身体が震えてるんだ。これ以上寒くなることを言わないでくれよ頼むから…。」 「…悪かったわよ、もうしないから泣かないで頂戴。」 　そうしてたどり着いたのは誰にも知られていないセーフハウス。普通のマンションの一室だ。 「ここは私のハウスの一つよ。貴方には別人に成りすましてほとぼりが冷めるまでここに住んでもらうわ。但し、誰にも連絡しちゃダメよ。貴方は死んだことになっている。いい？誰にもよ。」 「…バーボンもダメ？」 「……心配しなくてもしばらくしたら会わせてあげるから。組織が貴方が確実に死んだと認識するまでは待って。」 「……そうか。」 「貴方には無理をさせるわ。ごめんなさいね。」 「いや、シャロンは俺にとっては命の恩人だ。少しの間くらい大人しくしておくさ。」 　小さく微笑むスコッチは明らかに無理に笑顔を作っている。不安で仕方がないだろう。組織から命を狙われて、仲間だと思っていた人物が敵だと判明して、さらに敵であるはずの私の行動も。不安要素しかない。バーボンも心配だろうし、精神がこの数時間でかなりすり減っているはずだ。 「貴方の不安要素は全部取り除いてあげる。だから今だけは、気を楽にして。」 　無理やり笑顔を作る彼の頭を抱え込んで抱きしめる。軽く抵抗されるが力が弱く抵抗は無駄に終わった。 「潜入捜査、辛かったでしょう？やりたくないことをやらされて、苦しかったでしょう？」 「……。」 「貴方はよく頑張ったわ。お疲れ様。」 「……ずるいぞ、それ。」 　震える声が耳に届いた。抵抗しようと力がこもっていた身体から、すっと脱力するように力を抜いて私にもたれかかってくる。 「俺がそう言われるの弱いって、知ってるくせに。」 「本当のことだもの。だから、ねぇ。心配しないで…私に任せて。」 　彼はあ゛～～～とひとしきり声を出した後、すっと顔を上げる。 「もう落ち着いた。ありがとなシャロン。でも一人で抱え込むなよ、俺もできることは協力する。」 「ありがとう。……じゃあ、まずは貴方の死亡工作から手伝ってもらいましょうか。」 「自分の死体つくるのか…フクザツ…。」 　私が血の入った注射器と割れたスマホを出すと、彼は乾いた笑いを漏らして苦笑した。 ＊ 　小さく空気が振動する音で目が覚める。振動は携帯がブブブと音を鳴らすものが原因だったようだ。周囲に人の気配はなく、軽く見渡しても誰かが居た痕跡もなく綺麗な一室だった。通知を知らせる携帯の画面を開くと、それは組織からのメールと、スコッチからのメールだった。 　一つはスコッチが鼠であったという内容。そしてもう一つがスコッチの遺言めいたメールだった。 「嘘だ……スコッチっ！」 　スコッチがいたはずの寝室の扉を開けても誰もいない。むしろ入ってきた当初のように綺麗に整えられている。そこには誰もいなかったかのように。荷物も探しても僕の物以外は何もない。 　ブブ、とまた携帯が鳴った。苛々している自覚はあるが、それを隠さずに乱暴に携帯を取って内容を見る。その内容を見て、僕は周りの時間が止まったかのように、何も聞こえなくなった。聴覚がまるで機能していない。目は画面の文章を何度も繰り返して読み取るが、その内容は一切変わることがない。はっ、はっと焦りか、困惑からか呼吸が荒くなる。息ができない。 「どう、して……。」 　どうして、ベルモット。 ”鼠はベルモットが制裁を下した。各々自分の任務に戻れ。” 　身体に力が入らない。手から携帯がこぼれ落ちた。自分が今ちゃんと立てているのかも自信がない。ぐるぐると頭の中でどうしてと疑問が浮かんでは消える。彼女は悪の組織の幹部だ。冷酷非道で、魔女のような女だと。僕は知っていたはずだ。どうしても何もないんだ。……では今まで僕に優しくしていた彼女はなんだったのか。その疑問もすぐに消える。今日痛感したはずだ。彼女は僕とスコッチから何らかの情報を抜き取っていた。それが答えだ。このために彼女は近づいたのだと。 　あの優しい手は、ぬくもりは、偽りだったのだ。 ・ベルモット（成り代わり） 　対策とはズバリ組織壊滅である。組織が全ての元凶であるならばそれを消しさればいいという安直な考え。スコッチは警察内部の裏切り者が裏切る前にちゃちゃっと保護。ジンに連絡したタイミングで裏切り者からも情報のリークがあったようでベルモットの信用度爆上がり。おかげでスコッチの死亡も結構すんなり信じてもらえた。ちょろ組織。 　スコッチの死亡がすんなり信じてもらえたので後は警察内部を洗うだけ。これが終わればバーボンとスコッチをあわせてあげる予定である。 ・バーボン 　今回SAN値が大幅に減っている模様。実はベルに銃を向けられた時点で少し削られてもいた。そしてとどめのあのメールである。薬には耐性があるので比較的早く目が覚めた。そして人が寝室を動いている気配を感じて警戒心MAX。そしたらベルが怪しい動きをしているし銃向けてくるしとても悲しい。スコッチの死亡は後々確認したけどジンが言うから結構信憑性高くて辛い。SAN値は直葬されたまま。その自覚はないままいつもと同じような日常を送る。 　ベルにもらったあの暖かさを忘れようとしても忘れられない。 ・スコッチ 　こちらもSAN値が若干削れているけどベルのおかげで回復した。今回知らない間になんかやばい状況になっていた。そしたらなんかベルが助けてくれた。ベルの信頼度は元から高かったため今回もあまり葛藤なく信じた。一応警戒はしている。公安警察だからね。でも睡眠薬飲まされたことに関しては警戒心が足りていなかった模様。 　今回別人として生きていくことになった。ベルの変装術は流石の腕で、スコッチの影もない顔になっている。

　忘れようとしても、忘れられない。忘れたくない。あの時間は、確かに宝物にもなり得るものだった。<br /><br />　ベルモットとバーボンの絡みを見たくて自給自足をした結果生まれた作品です。<br /><br />　最近忙しくて投稿が遅くなりました。皆様の反応を見て書きたいなと思いながらも書けなくてもどかしい思いをしてまいりましたが、暇ができた際に書いていきます。<br /><br />追記（2018/09/18）<br />　見直していたら誤字が見つかる見つかる。軽く訂正しました。他にも誤字脱字訂正等ありましたらそっとご一報くださいませ。<br />再び読み直したらさらに見つかったので再度訂正。深夜帯に書くものじゃないなと実感しました。<br /><br />皆様の反応いつも大変嬉しく思っております！ありがとうございます！暇が出来た時に執筆を進めていきます！！<br /><br />2018年09月10日付の[小説] デイリーランキング 62 位<br /><br />2018年09月10日付の[小説] 女子に人気ランキング 22 位<br /><br />2018年09月11日付の[小説] デイリーランキング 23 位に入りました！<br /><br />2018年09月11日付の[小説] 女子に人気ランキング 51 位

元社畜、現大女優４

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！！はじめに！！ ■私は2ちゃん未経験者です ■ものすごいグダグダ故に未完です ■キャラ崩壊というか、タイトル通りです ■クダリが天使じゃない 以上が大丈夫な方はどうぞ！ [newpage] 1：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします ちょっとどうしたらいいのか分からなくなった 話を聞いてほしい 2：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 面白そうだからいいよ天使ちゃん 4 ：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 白衣の天使の頼みなら仕方ないな 6 ：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 天使ちゃんを悩ませる兄なんてけしからんな 近親相姦はやめて俺にしないか？ 兄はホモだろうから、きっと妹なんか眼中にないさ 10 ：以下、名無しにかわりまして白衣の天がお送りします 皆食いつくとこそこじゃないよ！！ 僕、仕事着が白いだけで可愛い看護師さんじゃないよ！！ あと僕は男だよ 妹じゃないよ弟だよ 11 ：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします なん…だと… ただの近親相姦ホモ野郎じゃねぇか 俺のトキメキを返せ 13：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 男のくせに天使とかヤメロ てか双子の兄弟なのに兄が好きなのか？ 14：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>13 僕、なんでか女の子や同僚からよく天使って言われるからつい でも兄の方が天使、可愛い うん、そう、双子の兄が好きなの 因みに一卵性双生児 15 ：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 同じ顔なのに好きとかナルシストかお前 気色悪いな 16 ：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>15 違う 僕と兄、似てるけど似てない 初めて見た人でも見分けつくレベル 17：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします それでもなぁ… というか、話ずれてるぞ まぁ俺としてはホモ作家兄ちゃんよりもホモ天使の話の方が気になるがな 18：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします そうだったな ホモの兄がホモ作家だった、っていう話だったな 20 ：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします そうだ危ない危ない 何のためにスレたてたの僕 っていうか僕ホモじゃないよ 好きになったのが兄だっただけ 普通に女の子が好きだよ 女の子可愛いもん でも兄の方が可愛い！ 21：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 分かった分かった 分かったから早くスペック晒せ 話はそれからだ 22：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>21 りょーかい 僕 20代の男 双子の兄がいる よく笑うって言われる 小さい頃から兄が好き 兄 20代の男 僕の双子の兄 普段無表情だけど優しい ホモ作家という事が発覚 これでいいかな？ ホモ作家、っていっても同人だけど 普段は真面目に働いてるよ 23：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>22 乙 しかし冷静になると、兄はホモ好きなんだろ？ よかったじゃねぇか、偏見はないだろうよ 何を狼狽えてんだ 25：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>23 違うの、ナマモノは無理って言ってた 二次元限定だって 兄がホモ作家だって知ってショックだったけど、それ以上に僕の気持ちを受け取ってもらえるんじゃって喜んだだけにダメージは大きかったよ 告白なんて出来そうにない 27：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします で、なんで兄がホモ作家だったらショックなの？ お前ホモなんだろ？ 似たようなもんじゃねぇか 28：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>29 言葉が足りなかったね なんでショック受けてるのか その辺りについては、おいおい説明してくから今は待ってて 今言うと話が飛躍しちゃうから あと、ナマモノ無理だって言ったけど 実在する人間をキャラクター化すれば問題ないらしい そして、言うまでもなく兄は腐男子ね でも兄自体はホモじゃない けど女の子にも興味ないみたい 彼女作った試しがないから 二次元にしか興味ないのかなぁ… やだなぁ 29：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします ん？ 結局ナマモノいけるのか？ なんか分かったような分からないような… 取り敢えず、順を追って説明してくれ 32：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 分かった、最初から話す ちょっと長くなるかも 事の始まりは半年前 僕が久々の休暇を満喫しているときだった 33：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>32 ちょwwwwwwww 半年前ってwwwwwww おまwwwwwwwww 35：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします だいぶ前の話じゃねぇかwwwwwww 38：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>32 半年経ったんだったらいい加減吹っ切れろよwwww 39：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 仕方ないでしょ、僕はすぐにスレたてて相談したかった でも知り合いに勧められて見たとあるスレで、半年ROMれって書いてたんだもん(ROMの意味はすぐ調べた 当時、僕まだ半年もイッちゃんに来てなかったんだよ？ 勧められて一回きりだったんだもん 40：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 変なとこで真面目だなwwww 42：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします チキショー、1が可愛く見えてきたwwww 流石天使wwwwww 44：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>42 可愛くないよ、それに僕は自分が天使とは全然思えないから だって僕実の兄に欲情するし 取り敢えず、続き書くね？ 兄がいないから、今のうちに家を綺麗にお掃除して、褒めてもらおうとした僕 兄は僕に甘いから、ちょっと頑張ればすぐに「お利口ですね」って頭を撫でてくれる 兄の撫で撫でが僕すっごい好き だから張り切ってた 45：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします これ本当に20代双子男子のやり取りかよwwwww 46：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします なんか和んだ まさか成人したホモと腐男子の野郎どもに和むとは… 47：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします というか、誰も触れねぇが1は兄と一緒に住んでるのか？ 実家？ 51：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>47 ううん職場近くに家を借りてる 兄と二人暮らし 因みに職場も一緒 らぶらぶ！ まず、僕は自分の部屋を先に片付けた お気に入りのバチュルクッションとバチュルのぬいぐるみをもふりながらお片づけ でも片付かない あんまり荷物ないのに片付かない 僕、整理整頓苦手だから 53：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします らぶらぶてwwww てかクッションもふってたらそりゃ片付かねぇだろwwww そして1はバチュル好きなのか 俺はバチュルよりもイトマル派 54：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 俺は虫ポケ苦手だがバチュルたんだけは例外だ 1とは気が合いそうだな 56：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします わぁバチュル人気！ バチュル可愛いよね！！ あんまり片付かないから、兄はどうやってたっけ、って気になって、僕は兄の部屋に侵入した 元々兄の部屋には頻繁に入ってるから、その日は整頓術を盗む以外に特に深い意味はなかった 兄も僕が兄のベッドで寝こけてても、怒ったりはしなかった だから侵入はいつもの事で普通だった 他意はなかった 57：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 兄のベッドで寝るなwwwwwwww てか侵入を正当化しようと必死すぎワロタwwwwww 59：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします それは怒ってもいいレベルだぞ兄 61：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 兄のベッドでナニしてんだおま 64：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 皆ストップ、僕やましい事何もしてない ただ単に兄が恋しくて匂いに包まれて寝たかっただけ お陰で快眠だった お肌つやつや！ 65：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします もう何も言うまい 67：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします そういえば、兄は1が自分のこと好きだって知らないんだよな？ だとしたら相当鈍いな 68：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>67 多分気づいてない 兄は変なとこで勘いいのに、何故か気づいてない 僕の些細な嘘は、すぐに見抜くクセに！ 続き 兄の部屋はやっぱり綺麗に片付いていた 僕はどうやればこんなに綺麗になるのかなーって部屋を見回ってた そして僕は見つけた 薄くて高い本を 普通に本棚の中にあった 何でそれに気づいたのかと言うと、兄は真面目で勤勉だから、参考書や辞典に混じったその本だけが薄くて妙に浮いてたんだ 71：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします おおぅ… 73：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 当然、その内容はホモだよな？ 76：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>73 うん しかも、兄が描いた本だった 78：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>76 何故分かったし 80：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>78 表紙見ただけでは分かんなかった 兄の漫画絵なんて見た事ないし でも中開いたら、あるコマに手書きのセリフがあって、それが完全に兄の字だった 兄は綺麗だけど独特のクセのある字を書くからすぐ分かった 一応兄の名誉の為に言っとくけど、健全なゆるふわホモでした エロくもガチムチでもなかった まだセーフラインでほっとした あと合同誌っていうの？ それでした 兄はゲストみたいだった ページにして3ページでした 大丈夫、まだ引き返せる 本描いたのもこれっきりだと信じたいお願いそうであって頼むからねぇ 81：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします ゆwwwwwるwwwwwふwwwwwわwwwww そして必死な1wwwwwwwwww 82：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします ゆるふわホモか、これは流行るな 84：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします セーフラインかどうかは知らん だが内容すっげぇ気になるじゃねぇか 86：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>84 ただ幼馴染の少年二人がほわほわしたホモダチしてるだけの四コマだよ 可愛い感じ 続き書いていいよね？ 早く本題にいきたい 87：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします すまん続けろ 89：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします じゃあ書くね 僕は別にホモに嫌悪感はない だって、僕も一応兄限定とはいえ同性愛者だし でも流石に兄の性癖を知って動揺してた 兄や同性愛を軽蔑する気持ちは皆無だよ でもどうしたらいいのか分からなかった 取り敢えず本は元に戻しておいた 僕が部屋に入った痕跡を消して、なかった事にしようかとも思ったけど、下手に細工するのもマズイ気がして兄のベッドに派手にダイブした 兄の残り香がしたから肺一杯に吸い込んどいた 91：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 貴様wwwwww 91：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします そのうち流石にバレるぞwwww 92：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>91 バレてもいいかなって思ってる その方が楽かな、なんて… でも多分兄は甘えたな弟、としか見てないよ 悲しいけど その後、結構時間が経ってから兄が帰って来た 僕はというと、兄のベッドでガチ寝してた 93：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 寝たのかよwwwwwwww 95：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします おいこの天使神経図太いぞ 97：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>95 えっ僕攻撃ダウンしちゃうの？ やだなぁ僕はタチだから防御上がっても… だって寝不足になりがちな仕事なんだもん すっごい眠たかったからつい その事を分かってるから、兄は「こんなところで寝て。ほら自分のベッドにいきなさい」って笑って僕をあしらうの あーもう気づいてよ！ 98：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 兄は何故わざわざ弟が自分のベッドで寝ているのか、疑問に思わないのか 101：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします つか兄普段からこんな喋り方するの？ 103：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>101 うん 僕とは大違い 常に丁寧 それからは特に何事もなく月日は流れた 僕はあの本について問いただしたかったけど、出来なかった だって、まだイッちゃんにスレたてる資格はなかったから 半年イッちゃんに通って、勝手が分かるまで我慢した 105：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 本当律儀だよなぁ1wwww 107：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 今時珍しいなwww 流石天使 あと兄の教育もいいのかもな 凄くマナーとかルールに厳しそうなイメージ 108：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>107 確かに厳しいね 優しいけど細かく注意してくる でもそれだけ僕を見てくれてるんだよね幸せ でも、いつまでも進展なしとはいかない 事件は二週間ほど前に起こった 111：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします ついに本題入るか 長い前置きだったな 112：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 状況説明でもう100超えてんぞwww 114：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>112 わっ本当だ でもあと少しだから 多分だけど 僕達、実は地元ではそこそこ有名人で、ファンレターみたいなのも割ともらえるんだよね そのファンレターを、一応全部目を通してるんだ 子供と女の子からのファンレターが多いから見るのは毎回楽しみ その日も兄と二人で手紙を開封してた 僕が適当に取った便箋を見ていると、唐突に兄が噴き出した びっくりした 兄が噴き出すなんて殆どないから 116：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 何かと思って兄が見ていた手紙を覗き込もうとした(僕は兄の隣に座っていた でも兄はさっと便箋を僕から避けると「ダメです」と焦ったように言った 当然、すっごい中身が気になった 僕が「お願い、◯◯(兄の名前)見せて？」と首を傾けて上目遣いで兄を見上げたら、少しの間考えたみたいだったけど兄は 「…後悔しても、知りませんよ？」 と差し出してきた 兄はちょろい 僕の上目遣いに弱い 118：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします おい誰だこいつを天使と言った奴は 201：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします ひでぇwwwww 202：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 僕酷くない！ 手紙を受け取った僕も文面を見て思わず噴きかけた 手紙はとっても痛いものだった こんなもの送りつけるなんて…と思わずにいられなかった 信じられなかった 要約するとこうなる 『兄×僕 ハァハァ』  何  で  僕  が  右  な  の 204：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 怒るとこそこかwwwww 206：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 腐女子ェ… てかお前そういう用語に詳しいのか 210：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>206 兄と話題を共有出来るように調べた 初めは凄く苦痛だったけど、僕と兄に置き換えたら平気になった どんな顔して兄を見ればよかったのか分からなかった だから僕は得意の笑顔を見せた 「困ったね」 って言ったら兄も笑って 「そうですね」 って言った 何か、このふいんきに乗せて色々聞き出してやろうと思った 212：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 因みにふいんきじゃなくて、ふんいきな 215：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>212 あっ本当だ どうりで変換出来ないと思った 今しかチャンスはないと思ったから 「ね、◯◯はこれ見てどう思った？」 って聞いてやった 兄は「私達が周りからこう思われていたのかと思うと、恥ずかしくなりますね」 って苦笑した ここまで来たら、後は勢いに任せる 「◯◯は、男同士気持ち悪いと思う？」 平静を装ったけど心臓バクバクだった このときは作り笑いが得意なのに感謝した もし気持ち悪いと言われたらって思うと… 緊張した 218：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 「いえ、個人の自由だと思います」 悩むかなーと思ったけど凄くあっさりと返された 僕は拍子抜けして「僕もそう思うよ」って棒読みで言った でもやっぱり誰かの妄想とはいえ、僕が兄にあんあん言わされるのは納得いかなかった だから冗談じみた風に言ってやった 「けど、僕◯◯にされる側はやだなぁ。逆ならまだしも」 告白ギリギリじゃん、って言った後に気づいて恥ずかしくなった けど兄はそこまで頭が回っていないみたいだった 僕の言葉にビクリと体を弾ませていた 220：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします おいまさか 221：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします ざわ…ざわ… 222：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 「どうかしたの？」 声をかけると兄はまた体を跳ねさせた なんか可愛かった 詳しく追求したかったけど、生憎直後に仕事が入ったのもありそれは出来なかった まぁ仕事がなくても何て言えばいいのか分からなかったから(墓穴を掘りそうで)どうせ聞けなかったかも 225：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします これまだ続くのか？ もう深夜の3時だぞwww 226：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 俺は1×兄のアッーを見るまでは寝ない 仕事なんてもう知らない 227：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>226 寝ろよwww つか働いてんのか裏山 228：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 僕は明日は遅番だからまだ平気 それに昨日3時間も寝たから でもまぁ語り終わったら一旦寝るね というか、もう少し語り続くけど、皆は大丈夫？ 次からはもっとスピードあげてくね 230：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 3時間「も」って… お前そんなにハードな仕事なのか 231：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>230 酷いときは三徹するよ でも好きでやってる あの手紙の後、兄がよそよそしくなった いよいよ怪しい 僕は、多分兄はあの手紙に萌え？てたんだとか勝手に思いこんでた それで僕がああ言ったから焦ったんだって だから自宅に帰宅して、暫くしたら兄が自室に篭ったので凸した いつも「入るときにはノックを」っていう兄との約束を守っていたけど、そんなのお構いなしにドアを開けた 兄はその音に驚いて振り返った 手には薄くて高い本と思しき何かが掴まれていた 234：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします しかし本当に長いwwwww なんかもう物語読んでる気分だわ 236：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>234 オチはなんだろwwwwって思ってたけどそういやこれ相談だったんだな 趣旨忘れてたwwwww 237：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 皆冷たい バイバニラより冷たい オチも何も、まだ完結してない！ 「えっと、いきなりごめん」 謝る僕 「い、いえ、構いませんよ」 狼狽える兄 「ねぇ、その手に持ってるの何」 問い詰める僕 「これは、その…っ」 狼狽える兄 「これ、僕と◯◯だよね？」 問い詰める僕 「…はぃ…(小声」 かなり狼狽える兄 兄が持っていたのは兄と僕が描かれた薄くて高い本 表紙を見るに、幸いほのぼのギャグ系みたいだった 兄×僕じゃなかったから一先ず許した 239：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします 時間かかってぐだってきたけどもう少し付き合ってくれたら嬉しい 「ねぇ何これ」 「…同人誌、というそうです」 「僕と◯◯の絵が描いてるよね」 「はい」 「いつ、どこで買ったの」 「さ、三ヶ月ほど前、職場の落し物の中に…処分が決まったので、つい気になりまして…」 僕の職場には結構落し物多いのね あまりに多いから引き取り手が三ヶ月現れないと処分する事になってる 真面目な兄がそれを持ってきちゃうなんて考えられなかったけど、まぁ事実だと思う 嘘ついてるようには見えなかったから 確かに内容は僕も気になるし、これを堂々と処分するのもキツイ 「…実は、僕、◯◯が腐男子って知ってたんだよね」 「！？」 兄は凄い顔してた 「半年くらい前に、◯◯が描いたゆるふわホモの本も見つけたし」 「！？」 何かもう兄の顔はぐちゃぐちゃだった 青ざめたり赤らめたり でも泣きそうだったのは確か 240：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 別に焦らなくていいぞ 落ち着いて書け 俺はまだ寝ないからさ 242：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>240 ありがと 「でも僕はそんな◯◯も好きだよ！」 「1…」 兄が嬉しそうにしてた まさか告白なんて思ってないんだろうね 僕、結構本気だったのになー 「僕、ホモ平気だし」 そう言って兄に抱きついたら、兄は僕の背中を優しく撫でて安心したように笑った 僕が感動してると 「まったく、腐男子なんて言葉どこで覚えてきたのか…」 って言ってきた 台無しだけど許す 243：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 抱きつくとかリア充か貴様ら 俺も抱きつく相手ほしいわ 勿論女で 244：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>243 いつかは本当に恋人になりたい そして君も相手が見つかるといいね！ ここからは飛ばしてくよ 僕も眠たくなってきたしね ・兄曰く、腐男子に目覚めたのは二年ほど前 ・きっかけはやはり落し物 ・半年前、僕が見つけた本は確かに兄が製作 ・きっかけとなった落し物の本の持ち主と意気投合して作った模様 ・二次元限定で腐男子 ・ホモではない ・僕と兄の同人を見たのはこれが初めて ・というか自分達のホモ本の存在は知らなかった 以上を半泣きで顔を真っ赤にして語ってくれた 途中泣かせて申し訳なく思ったけど、泣き顔に興奮した っていうか、まさか僕達のホモがあるなんてね… ネットで調べたら確かにヒットした 結構エロもあった 僕×兄も沢山あったから許す これで暫くはオカズに困らない けど兄を性的な目で見るとはけしからん！！ 246：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>244 オカズwwwwww つか泣き顔に興奮すんなwwwwwwwww 一応これで語りは終わりか？ 248：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>246 大体はね この時まで、兄はナマモノが本当に無理だったらしい 例えそれモチーフに書いた二次創作でも 本を持ち帰ったのは欲求からではないと言っていた でも… 目 覚 め る パ ワ ー し て し ま っ た 249：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします どういう意味だってばよ？ 250：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>249 持ち帰った本を見て、ナマモノおk！！になった でもまだ生々しいナマモノの絡みはダメらしい ハグ至高主義みたい でも二次元キャラ化すれば、キス至高主義らしい 僕は兄さんとセックスしたいと思ってるのになぁ 兄さん犯したい 252：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>250 こらwwwwwwww そしていきなり兄さん呼びやめれ 253：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします これで最後の説明 これはつい昨日の話 兄さんはここ数日の間に急激に腐男子としてランクアップしてた 軽いけどナマモノいけちゃうようになったのが大きいのかな 急に僕をモデルにホモ本出すとか言い出した これは皆に力を借りるっきゃないと思った それでスレたてた 半年たったしね 256：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>253 長かったが大体把握 で、俺たちはどうすればいい？ つか凄い事になってんなぁwwww 259：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします >>253 1は兄に何て言ったんだ？ 262：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>256 ホモ本の許可を出すか否か相談したい 出来れば告白するかどうかも >>259 「えっ、考えさせて…」 って言っておいた 因みに 同僚I→僕←同僚E の三角関係 「まさかえっちな本じゃないよね？」 って聞いたらもだもだしながら兄が「はっ、破廉恥な！！」 って顔真っ赤にしてたから多分ホモエロではない あ、あと、一昨日発覚したんだけど 兄が持ってた僕達がモデルの本 あれ、ゆるふわホモはゆるふわホモだったけど 兄×僕だった それでか 僕の言葉に反応してたのは 持ち帰って、読む前から分かってたんだ兄は… 泣きたい 263：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします お兄さんまさかの純情wwwwwww そしてどんまい1wwwwwww これもしかして、成就して1がネコになるフラグかwwwwww 264：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 破廉恥wwwwwwwwwwww いつの時代の人だよwwwwwwwwww 265：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします ごめん、遅番とはいえそろそろ寝なきゃまずい 次は、多分来れても12時回るよ… 268：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 保守は任せとけ 270：以下、名無しにかわりまして廃人がお送りします 保守は任せて1はゆっくり寝ろ そして明日こそ安価やろうぜ！！ 272：以下、名無しにかわりまして白衣の天使がお送りします >>270 かの有名な安価…やりたい！！ 皆ありがとう！！ 聞いてもらっただけでも気分が楽だよ！ おやすみ！ 【続くかもね？】

■昼に思い立ち、初めて一からイッシュちゃんねる作成しました ■にちゃんねるにカキコした事ないのに勢いで書いたのでグダグダ、それ故に未完の四時間クオリティ ■色々すみませんでした ■矛盾や誤字はこっそり教えてくださいませ… □ルーキーランキング５９位！ありがとうございます＾＾ □小説ルーキーランキング 5 位！？うあああああありがとうございますぅううううう！！観覧数とブクマ数にびっくり！！！ □誤字見つけたので修正＆多少の加筆しました。　□今読み返したら矛盾っぽい何かがありますが目を瞑ってやってくださいな･･･

ずっと片想いしてた双子の兄がホモ作家だった

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　鳴上悠は、幼い頃から独りでいることに慣れていた。父は自称夢とロマンの狩人で世界中フラフラとフィールドワークに明け暮れていたし、そんな父に代わり家計を支える大黒柱の母はバリバリと働き、キャリアウーマン最前線に立っていた。 　よって、鳴上は物心がつくかつかないか曖昧な頃から一人でお留守番・一人でご飯・お風呂などといった大抵のことはそれなりに出来るようになっていた。良くも悪くも彼は手のかからない子供だったのだ。 　別にそうあるように両親が強制したわけではないが、鳴上は転校ばかりの生活を苦だと感じてはいなかった。無意識のうちに鳴上は、自身に人付き合いが苦手だと言い聞かせていたからもしれないし、そうではない他の要因があるのかもしれない。しかし全てはもう過ぎたことだった。 　急な両親の海外出張、それに伴い母の弟である堂島遼太郎の住む八十稲羽市での1年間の居候生活。そこでの日々は、幾度も繰り返されてきた引越しと転校のばかりの中でも最も充実した1年だったと鳴上は、八十稲羽での生活を振り返る。たぶん、あの日々以上の「毎日」はもうこないだろうと。 　八十稲羽から元々住んでいたマンションに帰宅した鳴上を待っていたのは、あいも変わらず独りの生活だった。海外から帰ってきた両親は、とんぼ返りとは言わないが忙しそうにあっちこっち仕事に出かけていて鳴上は実質独りだった。しかし、彼としては慣れたことであったので、特に寂しいと思うことはなく時折携帯電話に入ってくる八十稲羽での仲間からの近状報告だけが、頬を緩ませるに過ぎなかった。 　寂しいとか、八十稲羽に帰りたいとか、そんなものは未練でしかないのだ。 　繰り返される不毛とも言える単調な日々に飽き飽きした自身を、持て余しながらも鳴上は、独りの生活に順応し始めた6月の事だった。 　朝からそんな事ばかり考える自分になんとも言えない気持ちになって、毎朝の習慣であるコーヒーの濃さを間違えてしまった。今朝のはだいぶ薄いようだ。 　鳴上がこんなに感傷的になったのは、一月前のゴールデンウイークに八十稲羽に帰った所為だった。この一年間を濃くさせた「マヨナカテレビ」に再び動きがあり、ひと騒動あったからだ。100人中100人に話しても信じてもらえなさそうな出来事は、だからこそというべきか、共有した友人たちの絆を一層強固にさせた。 その絆が常にあるネットワークから外れる淋しさを、鳴上は今現在、身をもって感じていた。 (…感傷的、だな) 　堂々巡りの思考に苦笑して、薄いコーヒーを飲み干す。これ以上は不毛だ。マグを軽くゆすぎ、参考書で重たくなった鞄に手をかける。 　鳴上が再び通う事になった高校は、都内でも有数の進学校だ。八十神高校では塾に通わずとも授業について行けたが、こちらではどうなるかと四月の頭に不安になったりもした。しかし、元来頭は悪くなかったらしく授業についていけないという事もなく、五月末の中間テストは難なく学年トップであった。 　まぁこんなものかと一人納得する鳴上をよそにクラスの人間は、一年間田舎で遊び呆けていた奴があっさりと学年トップをとったことに複雑なようだ。現在鳴上はクラスの中で浮きつつあった。 　電車に揺られて始業20分前についたクラスに入っても、だれも鳴上に声をかける者は居ない。そういうものかと受け入れている鳴上自身も、誰かに声をかけることもなく自身の席に座った。 　鳴上のよく言えば包容力があり悪く言えばすぐに諦めてしまう性質は、彼の母親による幼い頃の教育の結果であった。 　女性ながらにバリバリ働く彼女は、同僚や上司からの嫉妬・女の癖にという侮蔑も言いたい奴には言わせておけばいいというスタイルで相手にせず受けいれる生き方をしてきた。息子である鳴上は、それに加えて度重なる引越しと転校から自分がどう思おうがどうにもならないものは受け入れるしかないと考えるようになった。好きも嫌いも相手には関係ないからだ。それは結果として鳴上自身の感情の起伏を少なくさせていたのだが、それに彼自身は気が付いていない。 　その日の授業はテスト後の気怠さとやる気のない空気の中、だれもがイマイチ集中することなく終わった。部活や委員会に入っていない鳴上は今日の夕飯は何にしようか考えていた。 　元々、鳴上は器用な方だったが料理に関しては従姉妹である菜々子の為に作っているうちに上達したのだった。菜々子の喜ぶ顔が見たくて、和食洋食から中華にお菓子まで一通りの献立は作れるようになっていた。 　昨日は残った卵でオムライスを作った、そのチキンライスがまだ余っていたはずだ。 (ホワイトソースがあれば、ドリアになるな…) 　頭の中でメニューを考え、帰りに寄るスーパーを決める。 　八十稲羽に住んで居た頃であったら相棒である花村陽介に笑われてしまうかもしれないが、この食事の献立を考えることはいまの鳴上の楽しみであった。 　それは現実逃避でもあるし、時折電話をくれる菜々子に今日は何を作っただの報告した時の彼女の反応が面白いからだった。 　相変わらず堂島家の食事は惣菜弁当ばかりの様だが。 　駅前のスーパーで卵と牛乳を購入し帰ろうとしたところで鳴上は、背中に硬い金属が押し付けられていることに気付く。 　その硬さは一度目にし、体験したことがあった。叔父である堂島遼太郎も持っていたし、その部下である足立が鳴上のこめかみに突きつけた銃の感覚だった。 　思わず息を止める。今がこんな人が多い時間帯であることに加え背後を取られたことに気付かない自身に舌打ちする。 　すると銃を突き付けているであろう人物が、くすくすと笑い出す。その笑い声に聞き覚えがあって思わず無防備に振り替える。そこに居たのは、一つ歳下の久慈川りせと白鐘直斗だった。 　二人の少女は鳴上に軽く頭を下げると主人を見つけた犬の様にじゃれついてくる。およそひと月ぶりだった。 「やーん、こんなとこで先輩にあえるなんて！悠先輩、お久しぶりです～」 　語尾にハートマークがつきそうな黄色い声をあげるりせの隣りで背中に押し付けていたであろう銃を手に持つ直斗がいった。 「本物だと思いました？」 　モデルガンですよとウインクがセットでついてきた。 「りせと直斗か、久しぶりだな」 　驚いたと鳴上が肩を竦めれば、2人はしてやったりと笑っている。なぜここに？と続けて問うとりせがペラペラと話し出した。 　曰く、全くの偶然再開し何処かでお茶でもしようかと話をしていたらスーパーに入る鳴上を見かけたらしい。 「凄い偶然だな」 　感心すると、りせは頬を少し膨らませて運命だよっ！と身を乗り出してくる。運命とは違うと思うけど…と小さく返した直斗にりせはまたなにやら言い返している。 　八十稲羽でもないのに揃った顔触れに鳴上は今ここにいない花村や里中達がいればいいのにと内心思った。きっと彼等がいればこちらも楽しいに違いない。 　どこかでお茶をしようとりせが提案したので、よくあるコーヒーショップに入った。近状を報告しながら、各々離れてしまった八十稲羽のことを気にかけている様だった。特に、りせはこの春から芸能界に復帰している。次のシーズンからのドラマの主演も決まっていて、本格的に会えなくなりそうだという自覚があった。だからこそ気になる事が多いらしく、同級生の完二に頻発にメールや電話をして怒られているらしい。 　直斗も事件が解決したため、元の学校に戻っている。りせには返事をしてない完二だが、直斗には定期的に八十稲羽の状況を報告しているらしかった。 　りせはその完二の対応にぷりぷりと腹を立て、こうなったら直接クレームつけてやるぅ！と本人に電話をかけ始める。 　鼻息荒く同級生を呼び出しているりせの隣りで鳴上は直斗に耳うちする。 「完二、取るとおもうか？」 　直斗は苦笑しながら 「たぶん、取らないと思いますよ…」 　と言った。同感だと鳴上も頷いた。 　きっとまた久慈川かよ！とか携帯相手に顔を顰めながら無視してしまうのではないだろうか。そんな様子がありありと想像出来て、ふたりは肩を竦めた。 　10分後留守電にすら繋がらず、りせの怒りはMAX状態だった。 「なんで完二の馬鹿は、あたしの電話とらないのよ！」 　もーもーもー！と牛でもないのに地団駄を踏むりせがかわいそうに見えたのか、今度は直斗が完二に電話をかけることにした。 　出るはずがないとりせが断言したが、以外というか想像通りワンコールで完二の携帯と繋がった。 『おおお、おう、直斗か？』 　あたふたと携帯電話の向こうで赤面している完二の姿が鳴上は容易に想像出来てくすりと笑う。 　簡単なあいさつの後、直斗は久慈川さんからの電話に気付かなかったのかと問う。その問いに対して呻き声の様ななんとも言い難い返事が返ってくる。 『だってよぉ、あいつから来るメールも着信も数が半端じゃねーんだよ』 　一々相手にしてられないと言うことらしい。やはりと思った2人は再度顔を見合わせるが、漏れ聞いた完二の答えにりせは直斗から携帯をひったくった。 「なによ！完二の癖に！馬鹿馬鹿馬鹿！」 　もう知らないんだから！とりせは瞳に涙を浮かべて怒る。いきなり直斗からりせに相手が代わって、完二が状況を把握するまえに通話を切ってしまうと今度はぴーぴー泣き出した。 　あたふたする直斗を横目に鳴上は、りせの手から携帯を拝借すると完二からのリダイヤルに出る。 「完二か？」 『その声は、先輩っすか？』 　ああ、と答えると電話先の完二はどうなってるんすかと困惑気味だ。 「おまえがりせの電話に出ないから、こうなった。全部に対応するのは無理だろうが時々は返信してやれ」 　彼女も寂しいのだと言えば無言のあと、ッスと一言。 「それでいい」 　出来る限り仲間内は仲良くして欲しかった。泣き止んだりせが、手を出して来るので代わる。悪かったと謝罪しているのか、それとも電話もメールも多すぎだと言っているのかわからないが2人についてはとりあえず一件落着だろう。 　よかったと小さく安堵した直斗に頷く。 　すると完二と話していたりせが、悠先輩と鳴上に携帯を差し出す。もとは直斗のだと答えるがそうではないと押し付けられる。 　何事かと電話口に尋ねれば懐かしい声がする。 『よお、相棒。生きてるか？』 　元・クラスメイトの花村陽介だ。どうやら完二も自分達同様に花村や里中達と共に居たらしい。 「ああ、陽介か。久しぶりだな。」 　おめー全然電話してこーんだもん、そりゃあ久しぶりになるよ。からからと花村は笑っている。確かにその通りだ。鳴上は、明日は電話しよう明日こそを繰り返している内に連絡をとること自体すっかり忘れて居たのだ。 「すまん」 　忘れて居たと素直に白状すると花村がブーイングをあげる。こちらでは困った顔をしている鳴上をりせと直斗が笑う。その懐かしい感覚に思わず言ってしまった。 「陽介、こっちに遊びに来ないか」 　なんて事はない、寂しかっただけなのだ。 [newpage] 　携帯電話の向こうの親友の突然の提案に花村は目を白黒させる。鳴上君どうしたって？と花村の制服の裾を引っ張る里中のおかげで、現実に意識を戻す。 「いつ？」 　行くのは多分構わない筈だ。受験生だけど。 『一学期の期末テスト後のテスト休みはどうだ？』 　お盆はそっちに帰るから、その前にでもと相棒は言う。そして寝床はうちにいくらでもあると付け足される。出来るなら、里中に天城や完二も声をかけて欲しいとも。 「俺は構わねーよ。つか、寧ろ行って見たかったから大歓迎だぜ」 　お前らは？と花村が、電話から顔を離してその場にいる一同に問う。 「私も全然おっけーだよ、雪子は？」 　里中が同意する。その隣りの天城は、スケジュール帳をめくりながら同じく頷く。旅館のかき入れ時期とギリギリ被るか否かなのだろう。 「多分、大丈夫なハズ…」 「じゃあ、おっけーって事にしとこうよ！」 　里中の言葉に天城は頭を一度縦に振って、鳴上君の実家も気になるもんねと言う。 　もしかすると鳴上の両親に会えるかもしれないのだ。それはそれで興味があった。 　二人の会話を尻目に花村は電話の向こうの鳴上に言う。 「こっちは大丈夫だせー。それより、おまえんちの親御さんの許可はいいのか？」 　見切り発車で事を進めているのではないかという思いを拭いきれない花村が尋ねる。 　しかし、そんな花村の予想に反して鳴上は軽い口調でその点ならば抜かりはないと答える。 『どうせ仕事で帰って来ない』 　まだ3月から1度くらいしか会ってないくらいだしなという付け足された言葉に、一瞬電話の向こうもこちらも沈黙する。 　花村は足りない脳味噌をフル回転させる。 　両親とも殆ど会わず、花村達にも連絡を怠って居た上に、遊びに来ないかと言う提案から想像できる事は…。 「なあ、悠」 『なんだ、陽介』 「お前、もしかしてそっちで友達いねーの？」 　ガタガタッと耳元で何かが崩れる音がして、りせの悠先輩と叫ぶ声が聞こえる。図星だ。 　八十稲羽で泣かした女の数は星の数であった鳴上悠からは想像がつかないが、元居た学校での鳴上悠は人付き合いが苦手らしい。 「マジかよ…」 『…マジだ』 　立て直した鳴上は恥ずかしそうに答える。 　そう言えばと里中も去年の四月を思い出す。あの時鳴上との縁が始まったのは、鳴上からではなく里中が声をかけたからだった。そこから花村、天城と知り合っていったのだ。 「…やっぱ変わってんのな、悠って」 　別に嫌いじゃないし、自分達だけが彼の友達であるという小さな優越感もあいまってしみじみ呟く花村に鳴上はいつも口癖か、そっとしておけと答える。 「ま、いいけどさ。とりあえずテスト休みにそっちに行っていいんだろ？クマきちとかにも声かけとくよ」 『ああ、頼む』 　それじゃあと鳴上との通話を終了すると、ジュネスのフードコートで何となく集まっていた面子はお互いの顔を見合わせて笑う。 「悠の奴、あんな仏頂面で寂しいとかあんだな」 「鳴上君も案外可愛いとこあるんだねぇ」 　花村の信じられないという言葉に里中はにやにや笑いながら続ける。 「まぁ、表面的に先輩は近寄り難いオーラありますっしね…」 　あの容姿で文武両道だからしょうがないと完二が納得する。それは彼自身が常に誤解され続けて来たのに似ている。 「って事は最近は、誰とも会話してないのかな？鳴上君って」 　それは寂しいねと天城が一人呟く。そうだねと里中が同意するが、花村は満更でもない表情で肩を震わせる。 「なに花村、どうしたの？」 　気持ち悪いよと付け足す。花村は、ひでーと答えながらも笑顔はそのままだ。 「俺だけが悠の特別って、なんかイイなぁと思ってさぁ」 「花村だけじゃないじゃん、私達皆が彼にとっての特別なんでしょ？」 　なに勘違いしてるんだとため息をつかれるが、このジュネスのガッカリ王子には効果がない様だ。 「そりゃあ、俺ら全員特別だろうけどさ。その中でもあいつの相棒ポジションは俺だぜ？」 　超特別なのさ、と鼻を高くする男に天城はボソリと返す。 「千枝、やっちゃって」 「がってん承知の助！」 　ゴットハンドまではいかないが、拳がひとつ花村の頭に落ちる。自分が殴られたわけではないのに、頭を抱える完二がため息を吐いた。 　鈍色の空をした梅雨の季節である。 【続】

ED後妄想。主人公=鳴上悠。鳴上両親とかオリキャラとかED後の頭の痛い捏造妄想注意。ED後の夏休み、鳴上の住むマンションでお泊り会をするメンバーの話。長いので、今回は導入編のみ。それとなく番長受っぽいです…。/*追記*4月23日〜29日の小説ルーキーランキング30位に入りました！想像以上にたくさんの方が読んでいただいた様で感無量です。ありがとうございます…！

Prismatic Melancholy【01】

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[chapter:第十話『雪ノ下雪乃との交際はどこかズレている』] 春休み。 俺にとってはまたとない家に引きこもるチャンスである。しかしそれを許さない者がいた。 世界一の妹・小町である。 そしてその小町は俺の前で仁王立ちをしている。一方の俺は小町の前で正座である。完全にお説教タイムのような状況である。 「お兄ちゃん…ちょーと質問するよー？」 あー背筋が…小町ちゃん怖いよぉ… 「春休みから何日が経ちましたかー？」 「えっと…一週間ちょっと？」 「うちから何回出たのかなー？」 「ふっふっふ知れたことを…0。」 この比企谷八幡。伊達に由比ヶ浜にヒッキーと呼ばれていないのである！…やっぱり由比ヶ浜のヒッキーって俺が引きこもりだからなのかな… 「雪乃お姉様に送ったメールの数は…？」 「おー0だな。あいつ送っても短文事務連絡しか来ないし。」 まぁ今となればさすがにLINEでお友達になってたりするしね。…あれ？友達じゃないよね？俺と雪ノ下… 「お兄ちゃんの…」 ん？なんか小町ちゃんの後ろの背景がグラグラしてきたぞ？ 「バッカモーン！！」 小町の声が家中に大音量で響き渡る。今確かに俺は小町の後ろで火山が大噴火したのが見えた気がします。 「お兄ちゃんのバカ！ボケナス！八幡！」 「だから八幡は悪口じゃねーだろ…」 ていうかそれもう雪ノ下の罵倒語彙ディクショナリーに登録されちゃったんですからね？それ。もう立派なユキペディア公用語なんですからね？ 「そーんなことはどうでもいいの！お兄ちゃんは小町の大事な任務を遂行しなければなりません！」 [newpage] とまぁそういうわけで俺は小町と千葉駅まで出張って来ている。もちろんと言えばもちろん雪ノ下も呼ばれている。そして三人で千葉駅近郊を歩こうというわけだ。 しかし俺の小町のお兄ちゃん歴は世界一なのである！…まぁ他に兄弟いないしね。ということで俺は確信している。小町は確実にどこかに消える。 そしてそれは千葉駅に着いた時点でもう既に発生していた。もう小町は俺の隣にはいなかった。…小町も成長したなぁ…とか感慨に浸っていることはできない。かと言って探しても無駄なことは俺には分かっているのだ。 ということで俺は待ち合わせ場所で大人しく雪ノ下を待つ。うーん…待ち合わせ時間を過ぎたようだ。あの厳格な雪ノ下が珍しいと思いながらぼんやりしているがふと大事なことを思い出す。 雪ノ下は方向音痴だった… 少しまずいだなんてものではない。だいぶまずい。あの方向音痴、待ち合わせ場所の正反対に向かって歩いて行った挙句電柱にぶつかって転倒して、運悪くスカートの中を見てしまった超不運な男が抹殺されるという最悪な展開まである。まずいぞ。不幸な犠牲者を出す前に雪ノ下を止めなければ！ 俺はスマホを取り出し雪ノ下に電話をかける。するとワンコールで出た。早過ぎないか？材木座かよ。 『比企谷君じゃない。おはよう。』 「おはようじゃねーよ…今どこだよ…」 何でこんなにこの子冷静なんですかね。この子絶対迷ってるはずなのに… 『…だからそれを今スマホで調べてたんじゃない…あなたのせいで見れなくなったわ…』 不快そうに言われてもあなたが迷ったんでしょうが…まぁそこはいい。とりあえずこういう迷子を探す時はどういう地形のところにいるかを知るのが先決だ。 「何が見える？」 『…線路…かしら？』 おい。線路ってどういうことだよ。どこまで行っちゃったんだよ…範囲広過ぎだろ。 「ちょっと待て。そんなこと言われたら俺は世界中飛び回らなきゃいけないじゃないか…」 『あら？それくらいお安い御用だって言ってほしいものね。』 そういう雪ノ下はくすくすと笑っている。何でこんな余裕なんだよ。一応言うが、雪ノ下が迷子なんだからな？ 「あっ…」 『あっ？』 俺がつい口にした言葉を雪ノ下が復唱する。お前あっじゃねーよ… 雪ノ下目の前にいるじゃねーか…雪ノ下の唇が『あっ』って動くのはっきり俺の目に見えたぞ… 待ち合わせ場所からほんの少し駅の改札に近づいただけの位置で雪ノ下は千葉駅の看板を見上げていた。何で線路って表現するんだよ…普通に看板の下って言えよ…とか思ったがそれを飲み込み俺は雪ノ下に声をかけた。 「迷子ノ下さん。ここはどこか分かりました？」 雪ノ下はこちらに気づき、一瞬むくれたような顔をするが、すぐにいつもの冷静な表情になる。 「おはよう。比企谷君。遅かったわね。」 さすが雪ノ下さん。自分が迷子だったのにいかにも俺が遅かったと言って華麗にスルーですか。まぁ気にしないからいっか。 「んーそういうことにしとくか。」 「そういうことよ。さて行きましょうか。」 そう颯爽とどこかに歩いていこうとする雪ノ下に疑問を抱く。 「雪ノ下。小町がいないことは気にならないのか？」 「ええ。小町さんから用事ができたと連絡がきているもの。」 何で雪ノ下だけには伝達してあるんだ…？まぁそれくらいするとは思ってたがな。でもお兄ちゃん悲しいよ！このままだと一家総出で雪ノ下を擁護して俺が完全に封殺されるまである。確かに未来の家族かもだけど血縁関係ってそんな軽視されていいのかなぁ… 「あの…私行きたいところがあるの。」 「ん…いいぞ。雪ノ下の行きたいところに行こう。」 一応デートコースを考えてなかったわけではない。一色と行った経験を少しは生かして色々考えてみはしたのだ。けれど雪ノ下が行きたいところがあるのだ。ここは大人しく譲ろう。 「ここに行きたいのよ。」 そう言って雪ノ下は四つ折りに綺麗に畳まれた一枚の紙を出す。見てみると… 「…千葉市中央図書館…？」 雪ノ下とのデートをどうやら舐めていたらしい。 [newpage] 千葉駅からしばらく歩いたところにその図書館はあった。 「で？なんで図書館に？」 素直に気になったから聞いてみる。確かに雪ノ下が本を読むのが好きなのは知っている。わざわざ図書館まで行って借りている雪ノ下を想像するとまぁありえるかとは思う。だが猫カフェとかそういうのを言われるかと思っていたので意外性は十分ある。 すると雪ノ下は真顔でこう答えた。 「こういう市の図書館には古い蔵書とかが多くあるのよね。そういったものから情報を仕入れるのもありと思ったのよ。」 「なるほど…」 大人しく雪ノ下について来たものの俺はふと気づく。図書館ってラノベあるのか？いやほぼない。なら文学作品でも読むか？と迷っていると雪ノ下が手招きしてくるので従うことにした。 着いたのは歴史書の多く置かれた場所である。あれ？雪ノ下こんなの興味あんの？とか思っていると俺が不思議そうにしているのに気づいたのか図書館であるという環境を気にしてか静かにこちらを見つめてくる。 「何事も過去から学ぶものだと思うわ。だから政治改革を行なった故人について学ぼうと思ったのよ。」 待て。そういうこと？雪ノ下の情報収集って世界を変えるっていう目標のための方法を蔵書から学ぶってこと？やだデートの雰囲気なんてかけらもない！ほんと雪ノ下のこと舐めてたわ。 すると雪ノ下が手に取ったのは普通に有名な織田信長である。それを持ったまま読書スペースを指差す。どうやら俺もとっとと本を選んで来いということらしい。 歴史書の山の中をぶらりとしながらふと思う。俺は日本史選択で材木座の話をある程度理解できるくらいには日本史の知識がないわけではない。 だから雪ノ下のイメージが少し織田信長にあっているんじゃないかと思った。 革新性や知略、容赦ない物言い。統率力だけは近いとは思えないが、もしかしたら雪ノ下は共感でも抱いたのかもしれない。 天才の孤独さというものに。 なら俺は何を読むかなと思えば目に留まったのはお近くにあった司馬遼太郎の『国盗り物語』である。 その中の後編を手に取ってみる。こちらは前編とは異なり、主役は織田信長で信長の多くの家臣達も登場する。その中でもし雪ノ下が織田信長なら俺は誰か。そんなどうでもいいことを考える。 しっくりきたのは織田信長の妻、濃姫である。 性別は逆転しているが俺には妙にしっくりきた。 史実では結婚時にしか名前が残らなかった影の薄さ。まさに俺である。 そしてもし史実がこの小説のようであれば濃姫は織田信長の精神的支柱となって彼の覇業を支え、そして彼を守って命を散らせた。 表舞台には出ないが、影で重要な役割を果たして、愛した相手に命を賭ける。勝手な話だが自分との共通点を見出してしまう。 こう親近感を抱いてしまうと読むしかない。俺はそれを手に雪ノ下の待つ読書スペースへ向かう。雪ノ下は俺が来たのを確認して微笑むと再び読書へ戻っていった。俺も向かい側の席に座り静かに読み始める。 こんな時間もいい。 読み始めてからいくらかして思った。 時間の経過を感じさせない。 聞こえるのは葉がそよぐ音。 時折俺と雪ノ下がページをめくる音。 それだけ。 まるで二人しかいない異空間に来たような感覚。 どこか心地よくて。 どこかで経験したことがあると思った。 それとチラッと本に隠れながらこちらを見てくる雪ノ下がなんとも可愛らしい。 気づいていると分かったら何を言われるか分からないから気づいていないことにして目が合わないようにする。 そんなこんなで過ごしていると雪ノ下がパタンと本を閉じて腕時計を見せてくる。 パンさんの柄の入った腕時計だ！可愛い！主にこれをつけている雪ノ下が！とかは置いておいて時間はもう12時を指している。昼食を食べたいということなのだろう。本を二人で返してきて図書館から出ることにする。 「お昼。何がいいかしら？」 …早速のファイナルジャッジメント！！ だが俺は一色との模擬デート的ものでこの質問は経験済みである。だが一色と雪ノ下ではタイプがかけ離れすぎていて分からない…うーん… 「比企谷君が食べたいものを私も食べたいわ。」 …要は俺に任せると。辛いぞ…これ…歩きながら迷いに迷っていると隣からクスクスと聞こえてくる。雪ノ下さん…俺も自分なりに頑張ってるんですよ。 「私に気を使いすぎよ。あなたならきっとラーメン。そう言うのかしら？あなたのオススメ。是非行ってみたいわね。」 挑戦的笑みを浮かべられて、引き下がる比企谷八幡ではない。雪ノ下！受けて立とう！ [newpage] ということですチョイスしたのは一色とも来たことがあるラーメン店である。ここは千葉有数の名店だ。ここ以外に雪ノ下の舌を唸らせる店はあるまい。 「ここなのね。地下にあるというのもなかなか粋なお店ね。あなたらしくないお店だわ。」 「それバカにしてるの？」 「いいえ。あなたなら本当に隠れたような名店を探してくると思ったから。」 「それって俺の存在の揶揄？」 「違うわよ。…あなたって本当にひねくれているわね。私なりの高評価だったのだけれど。」 そう言うと雪ノ下はムスッとしてしまう。本当に褒めてくれてたんだな。ごめんなさいね。俺の捻くれのせいで不機嫌にしてしまって。 「まっ俺的名店だ。試してみれば分かる。」 「そう。お手並み拝見ね。」 再び挑戦的笑みを見せてくるので俺も同じような笑みを返す。負けるかよ…まぁ作るのは店員さんなのだが。 「はい、らっせ！」 店に入ると威勢のある聞き慣れた声が聞こえてくる。今日もどうやらラッキーデーらしい。 「らっ…せ？落花生？」 雪ノ下が首をかしげる。いや、いくら千葉県民だからって挨拶に落花生は使わないからね。 「いらっしゃいませってことだよ。」 そう言うと雪ノ下は納得したようでふむふむとしている。 「メニューもあなたのと同じでいいわ。」 俺の隣に立った雪ノ下は俺が何を頼むのか興味津々のようだが、本当に背脂いっぱいのでいいのか迷う。迷っているのに気づいたのか雪ノ下は少しため息をつく。 「たく…どうしたの？私はあなたの好みが知りたいのよ。だからあなたが好きなものを頼んでくれなきゃ困るのよ。」 「そっそうか…」 そう言われてしまうとどうしようもないので俺のいつものやつを二人前頼むことにする。というか俺の好みを知りたいって、結婚した後に家庭で料理を振舞ってくれるとかそういうこと考えてくれてるとかそういう風に聞こえてかなり恥ずかしいんですけど… しばらくしてラーメンが二人前出てくる。雪ノ下は一瞬ギョッとしたかに見えたが、何かブツブツとつぶやき始める。ちょっと俺の頼んだラーメンを前にブツブツ言われるとなんか怖いです…やっぱり雪ノ下は嫌だったのか…？ 「…どうした？」 「具材はメンマやもやし、チャーシュー。なかなかオーソドックスね。問題はスープの味かしら…」 もはや思考モードに入っている雪ノ下に俺の言葉は通じなかったようだ。雪ノ下は回答にならない回答をして、ラーメンをすすり始めた。仕方ない。俺も食べるか。 食べ始めてからしばらく雪ノ下はレンゲでスープを飲んだり、麺をすすったりとブツブツ唱えながら食べ続ける。念仏かのようなそれを聞き流しながら俺も黙々といただく。 「比企谷君。これの隠し味って椎茸かしら？」 「おっおう…」 そう答えると雪ノ下は大きくガッツポーズ！隠し味当ててそんなに嬉しいんですかね…でも初来店で隠し味に気付けるのはなかなかかもしれない。雪ノ下には準ラーメン通の称号を送ってもいいんじゃないか。 「よく分かったわ。これなら似た味。私にも再現できるわ。」 「えっ…」 何言ってんの？この子… 「今度由比ヶ浜さんも呼んで食べさせてあげるわ。ラードとか背脂を多めっていうのが女性的にはあまりよろしくないのだけれど、なかなかの美味ね。あなたが気にいる理由もわかる気がするわ。」 雪ノ下すげーこと言ってる… 「そうか。それは良かった。ちなみにこういうのは平塚先生も大好きだぞ。」 「そういえば修学旅行の時も平塚先生のおごりでラーメン食べに行ったものね。先生がラーメン好きなのには納得だわ。なら平塚先生も呼ぶ、だなんてのはどうかしら？」 「すごい自信だな…」 相手は千葉有数の名店。そのラーメンを出来るだけ再現すると宣言しているのだ。この自信どこから出てくる… 「もうすこし研究しなければ、だけれど。近いスープなら作れなくもないわ。私はこのためにあなたと同じメニューを頼んでもらったのよ？」 やはり雪ノ下は一歩先を行く。同じのを頼んだのは単に好みを知りたかっただけでなく、その好みを知って作ると言う。その上何度も同じ店に足を運んで俺の好きなメニューを食べて研究までしてくれるのだ。もはや至れり尽くせりである。これは雪ノ下だからなのか他の人もみなそうなのかが全く分からない。 「…そのありがとな。俺の好きなものを作るために努力してくれて。」 「ふふ。そう言うのは私が作るのに成功してから言うものではないかしら？」 「素直に受け取れよ。」 「残念だったわね。私はどっかの誰かさんと一緒で捻くれているのよ。だから成功してからじゃないと受け取らないんだから。」 いつぞやかこんな会話を逆の立場でしたことがあった気がする。きっと雪ノ下も同じことを思い出しているであろう。 そんな話をしているうちに二人ともラーメンを食べ終わったので勘定を済ませて店を出た。 [newpage] 店を出て次はどこに行くのか聞こうと雪ノ下の方を見ると雪ノ下の足取りが何となく覚束ない。 「雪ノ下。大丈夫か？」 そう声をかけると雪ノ下は首を縦にふるが、心配なのには変わらない。 「疲れたか？なんなら帰ってもいいぞ？」 「気遣いは嬉しいのだけれど…その…」 雪ノ下が息詰まってしまうので言葉を待つ。どうやら疲れが目に見えるだけでなく顔まで赤くなっている。 「雪ノ下…まさか熱か？」 「違うわ…そんなことない…」 強がってるな。 そう瞬時に察した俺は雪ノ下に近づく。 「ちょっと悪い…」 そう断りを入れた上で雪ノ下の前髪に隠れた額に手を当てる。熱いな…そう思っているといつもより近い雪ノ下の顔が目に飛び込んできて目を見張ってしまう。 「…近い…わよ…」 そう雪ノ下は呟いたので少し悪い気がしてすぐに手を額から離すと同時に数歩下がって距離を取る。雪ノ下の体調は少なくとも万全とは言えなそうだ。 「何にせよ雪ノ下。あんまり体調が良くないんだ。今日のところは帰るぞ。」 「いや…よ。」 「何でだよ…らしくないんじゃないか？」 駄々をこねるような雪ノ下など見たことがない。小町じゃあるまいしこんな態度は意外だ。 「らしくない…のね。私があなたと少しでも長くいたいって言うのはらしくないことなのね…」 雪ノ下は悲しげに俯く。 俺はそれを見て胸が痛くなる。 そんなことにも気づけない自分を呪いたい。 雪ノ下は大きな夢を掲げて遠い先を見通そうとしている。 けれどいくら視野が広くてもまだ高校生だ。 こうやって誰かと一緒にいたいだとか考えることが当然ある。 そんなことも忘れるなんて。 俺もつくづく見通しの甘い男だ。 ここはなんとか雪ノ下の満足する回答を探し出さなければ。 「分かった。雪ノ下の家まで行く。そこで熱計ってもしあったら看病するから。それでどうだ？」 ひねり出した答えを聞いた雪ノ下はさらに頰を赤くさせた。…俺のせいで熱がさらに上がったかもしれないな…

第十話『お泊まりでも比企谷八幡は何も起こさない』<br />〈注意〉12巻の続きのifになりますので読む時はご注意ください。<br /><br />初デートです。ただしあまり甘くないです。<br /><br />前話ではわずか2日であれだけの閲覧数とブックマーク数はありがたいんですが…<br />原因って葉山ですよね？前話以外との違いって葉山が出てきたことくらいですよね？<br />やはりみんなの隼人君は大人気なんですね…(多分違う)<br />アンチ葉山が相当数いると言うことですよね…なんとなく分かります。<br />作者的には葉山のことは嫌いなわけじゃない(作者的重要回第8話番外編の結衣が決意した話よりも閲覧数が多くなった原因は葉山にあると断定されるので葉山のことは少し嫌いになりましたが。)です。<br />今後描くのが権力闘争的なものになるので原作から敵認定の人間を出したかったので葉山が必然的に敵になっただけです。(相模や葉山グループの人間では圧倒的に力不足。かといって雪ノ下両親だけが敵では敵に手駒がいない。それに奉仕部周辺のメンバーを分裂させたくない。ということで一定高スペック、雪ノ下家との癒着が深い葉山が選定されたわけです。)<br />葉山の行く末は今後のお楽しみということでお願いします！<br />ただ葉山ありきの閲覧数増加はいい気分になるものではないので葉山は当分の間消えてもらいますが♪

やはり雪ノ下の決断は正しい。第十話

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　修学旅行が終わり学校が始まると、葉山グループがなにやらギクシャクしていた。 　まあ理由は修学旅行での告白なのだろう。 　なんにしても俺には関係無いので放っておく事にする。…つもりだったんだけどな。 　昼休みにベストプレイスに向かおうとしたら葉山に捕まり屋上に連行された。 　後ろからは由比ヶ浜もついて来ている。 　そして屋上に着くと…。 葉「お前が手伝ってくれなかった所為でグループがギクシャクしてしまったじゃないか！」 八「おいおい、俺の所為じゃ無いだろ、お前が中途半端な事をしたのが悪いんだろ、大体最初は戸部の告白を成功させろとか言って、告白直前に告白を止めろなんて言いだしたのは何でだ？」 葉「そ、それは…」 八「まあ、お前が何をしようとしたかは知らないけどな。俺を巻き込むなよ」 葉「クラスメイトが困ってるのにそんな言い方無いだろ！」 結「雪ノ下って本当最低だよね。謝らないし、困ってる人を助けないし」 八「いや、謝って無いのは俺じゃなくてお前だろ？それにちゃんとした理由で困ってるなら助けるからな」 葉「嘘をつくな！俺達を助けてくれなかったじゃないか！」 八「お前達は自業自得だ。と言うかいいかげん昼飯を食いたいんだが？」 葉「な？俺達のことより御飯の方が大事だとでも言うのか！？」 八「ああ、お前達の事なんて俺には関係無いからな」 　そう言うと二人は睨んでくるが、なんで俺の所為にするのかね…。 　今回は関わってすら居ないというのに…。 　その後もしばらく文句を言っていたが、さすがにこれ以上は昼食を取る時間がなくなると思ったのか、二人は屋上から出て行った。 　俺はしょうがないのでベストプレイスには行かないで、ここで昼食でとる事にする。 　今日も姉さんの作ってくれるお弁当はとても美味しかった。 　そして家で姉さんに今日あった事を話して、録音した会話を聞かせる。 陽「ふ～ん」 　と、姉さんは怒って居るようだった。 　この時に録音データを姉さんに言われて渡した。 　その後は抱きしめあってキスをしたり、一緒にお風呂に入って背中を洗いあったりと、姉さんとイチャイチャして癒される。 [newpage] 次の日。 　学校に行くと葉山のグループはまだギクシャクしている。 　そして葉山と由比ヶ浜はやっぱり俺の事を睨んできた。 　昼休みになると、またこちらに来ようとしていたのだが、 め「雪ノ下君居ますか？」 　と、城廻先輩がやってきた。 　無視するわけにも行かないので、城廻先輩の元に向かう。 八「どうしました？」 め「実はね、相談があるんだけど、生徒会室まで来てもらっていいかな？」 八「分かりました」 　鞄から弁当を取りだして、城廻先輩と一緒に生徒会室に向かう。 　中に入ると一人の女生徒が居た。 め「待たせちゃってごめんね」 ？「いえ、大丈夫です」 め「それじゃあ自己紹介ね。この人は雪ノ下八幡君。私の尊敬する人の弟さんでね、雪ノ下君も信用できる人なんだ。それでこっちが一色いろはさん、今回の相談に関係がある娘なの」 い「一年の一色いろはです。よろしくお願いします」ｷｬﾊ 八「…二年の雪ノ下八幡だ」 　なんというかあざとい奴だな…。 め「話し合ってる途中に時間が無くなっても困るし、まずは御飯を食べようか」 　そう言われて、御飯を食べる事になった。 　 め「雪ノ下君はお弁当はお母さんが作ってくれてるの？」 八「いえ、姉さんが作ってくれてます」 　 め「やっぱり陽さんは料理も出来るんだね。それに凄く美味しそうだし」 八「食べてみます？」 め「いいの？じゃあおかず交換しようか」 　そして一色も加わり、三人でお弁当を交換しあう。 　昼食が食べ終わり、城廻先輩の話を聞く。 め「それで相談なんだけどね。実は一色さんが悪戯で生徒会長に立候補させられちゃったみたいなんだ」 八「なに？一色はいじめられてるの？」 い「いえいえ、多分ちょっとした悪戯と言うか、ノリのような物だと思うんですけどね～。どうにかなりませんかね？」 　と、上目遣いでお願いしてくる 八「…おまえさ、もしかしてそうやって男に媚を売りすぎて女子に嫌われてるんじゃ無いのか？」 い「うっ…。よく分かりますね…」 八「はぁ、で、本当はどうしたいんだ？」 い「…どうって何がですか？」 八「本当に生徒会長が嫌なのか、そいつらに馬鹿にされるのが嫌なのか、だ」 い「…後者です。でもサッカー部のマネージャーをやっているので生徒会長をやるのも出来れば遠慮したいんですけどね」 八「そうか…、考える時間を貰えますか？」 め「うん、ただあまり時間がなくてね。来週の月曜日が限界かな」 八「ちなみにその勝手に立候補させてきた連中は分かるんですか？」 め「うん、推薦者３０人が必要でその推薦名簿があるんだけどね。そこに自分達の名前をしっかり書いてるから」 　そんな事をしておきながら本名を書いたのか…、そいつらは自分のリスクは考えて無いのかね…。 八「とりあえず今日考えて明日思いついた案を出させて貰います。昼か放課後に時間は取れます？」 め「私は放課後なら大丈夫だよ」 い「私はどっちも大丈夫です。マネージャーも私一人では無いのである程度なら休んだりしても問題無いので」 八「それでは明日の放課後にまたこの生徒会室で」 め・い「「うん（はい）」」 　そして解散になり自販機でマッカンを飲んで昼休み終了までゆっくりしてから教室に戻った。 　教室に戻るとあの二人は睨んできたが、さすがにもう絡む時間は無い。 　放課後にはすぐに教室から出て家に帰る。 　家に帰ってから姉さんに今回の事を相談してみた。 陽「また随分幼稚と言うかなんというか…」 八「まあそうですよね」 陽「それで、八幡はどうするつもりなの？」 八「そうですね。一つは教師、最悪校長先生に直接相談ですね。二つ目は一色に生徒会長をやらせてそいつらを見返させたり、元々生徒会をやってみたかった等と嫌味を言う、それで三つ目は他に生徒会長をやってくれる人を探して一色には他の役職をやって貰うかな」 陽「まあそんなところよね。八幡は生徒会をやったりはしないの？」 八「やりたくない。とまでは言わないけど、進んでやりたいとは思わないかな」 陽「ふーん、比企谷君の時だったら間違い無くめんどくさいって言ってたよね」 八「まあそうかな。何だかんだとこっちでは家の仕事を手伝ったりもしてるからな。そう言う事に慣れたのかな」 陽「前は専業主夫になりたい。働きたく無い。って言ってたのにねｗ」 八「そうですね。でも姉さんと結婚するには働く必要があるだろうし、今はそんな風には考えて無いですから」 陽「うん。家庭の事も仕事も二人で頑張って行こうね」 八「はい」 　そして姉さんとキスをして、寝るまでの間姉さんと寄り添いながら話をし続けた。 [newpage] 翌日。 　学校に着くと学校中が騒がしかった。 　なんだろう？と思っていると戸塚が話しかけてきた。 彩「おはよう八幡」 八「おはよう、なんか学校中が騒がしいけど何かあったのか？」 彩「うん、実はね…」 　どうやらこの学校の裏サイトがあり、その掲示板に入学式の事故やその後の由比ヶ浜の態度、これまで葉山がやってきたことなんかが書かれていたらしい。 　この内容とサイトの両方を知っているとなると、書き込んだのは間違い無く姉さんだろう。 　戸塚が教えてくれたサイトの書き込みを見てみると、葉山と由比ヶ浜は実名で、その他の人物はイニシャル等で書かれていた。 　 　そしてまずは由比ヶ浜がやってきたのだが、元気が無かった。 　由比ヶ浜は三浦達の所に向かうが、三浦に何かを言われ困っているようだ。 　すると三浦がこちらにやってきた。 三「ねえ」 八「なんだ？」 三「このサイトの結衣の所に書いてる。車に乗っていたのって雪ノ下っしょ？ここにに書いてあるのって本当なん？」 八「…良く俺だって分かったな」 三「結衣が何故かテニスや林間学校の時にアンタを敵視してたからね」 八「なるほどな。ちなみに書いてあることは本当だな」 三「らしいけど、結衣どうなん？」 結「えっと、それは…」 八「なんなら由比ヶ浜の両親にでも聞けば言い。両親が一番の証人だろ」 結「っ！」 　すると由比ヶ浜が睨んでくるが、 三「…結衣の今の態度で分かったし、結衣これ以上雪ノ下に迷惑かけるのやめるし、書いてある通りなら結衣が悪いし、そもそも車が悪い事故でも乗っていただけの雪ノ下に当たるのはおかしいっしょ」 結「でもそいつが車で学校に来なければ…」 三「移動方法なんて人それぞれっしょ。偶々その時その車が来ただけっしょ？それとも車が危険運転でもしてたわけ？」 結「それは…」 八「ドライブレコーダーから車に危険運転は無いと認められたぞ」 結「っ！」 　だから本当の事を言われて睨むなよな。 三「はぁ、それでもまだ雪ノ下の事睨むんだ。それなら結衣もうあーしはアンタの友達をやめるし」 結「え、な、なんで…」 　そんな事を話して居ると葉山がやって来たのだが、坊主頭で顔は殴られたように腫れていた。 三「隼人それどうしたん？」 葉「ちょっと両親に怒られてね」 三「もしかしてこれの事？」 　と、三浦は葉山に携帯を見せる。 葉「な！？こ、こんなの出鱈目だ！」 三「そうなん？でもテニスや林間学校での事は本当だよね？それに小学校の時の事も雪ノ下のお姉さんが言ってたよね？」 葉「そ、それは」 戸「じゃ、じゃあ。やっぱりこの修学旅行の事も本当なん！？」 葉「ち、違う。それは本当に嘘だ」 戸「でも雪ノ下君に俺の告白の手伝いを頼んだのは本当だよね？」 葉「そ、それは…」 海「はぁ、もう無理だよね…。私が戸部っちの告白を止めて欲しいって言ったのも本当だよ」 三「じゃあこの二人のお願いを聞いて、他の人に丸投げしようとしたってのも本当って事？」 海「それは分からないけど…」 葉「そ、それは違う。俺はそんな事していない！」 　まあこんな書き込みをしたんだし姉さんももう葉山を潰すつもりだろうと考え、録音していたデータを再生する。 　すると葉山と戸部が告白の手伝いをしてくれと頼んだ時と、葉山が俺に告白を止めてくれと頼んだ時の会話が流れる。 葉「なっ！？」 八「お前が絡んできて良い結果になった事無かったからな。お前と関わる時には録音してたんだよ」 戸「どういう事だよ！なんで言ってくれなかったんだよ。海老名さんが嫌がってたって知ってたら告白しなかったのに…」 葉「…」 　そしてこの騒動により、このサイトに書かれている二人の事は本当だと学校中に広がった。 　これにより二人はグループから弾かれる事になる。 　他の葉山グループだが、戸部が海老名さんに謝り、海老名さんも戸部に謝った事でまた仲良くなっていた。 　今は三浦が中心となり五人でグループを組んでいる。 　弾かれた二人は、嫌われた者同士二人で居るようになった。 [newpage] 　放課後になり生徒会室に向かう。 　ノックをすると返事が帰ってきて、中に入るともう二人が居た。 め「待ってたよ。それで何か言い案は出たかな？」 八「そうですね、とりあえず三つ」 　そして三つの案を説明する。 八「それぞれメリットもデメリットもあるけどどうする？」 い「そうですね…。先輩はどれが一番メリットあると思います？」 八「個人的には生徒会長になるだな。その時に『いつの間にか立候補させられてたけど、興味もあったので頑張ってみようと思います』とでも言っておけばそいつらに罰も与えられるかもしれないし、一色の内申点も良くなる。それに生徒や教師の多くも一年で頑張ってるって事で優しくしてくれる人も増えるかもしれないしな」 い「なるほど…」 八「まあマネージャーもやってるようだからその辺りとの兼ね合いも付ける必要はあるだろうが、部活がめんどくさい時に生徒会の仕事があるとサボる口実にもなるぞ」 い「あー、マネージャーは辞めようかと思ってるので気にしないでもいいんですけどね」 八「そうなのか」 い「はい、それなので生徒会長になってみようと思います。それでなんですけど、もし良かったら先輩副会長をやってくれません？」 八「俺がか？」 い「はい、先輩なら頼りになりそうですしどうでしょうか？」 八「…まあ構わないぞ」 　こうして俺は副会長に立候補する事になった。 　推薦人に関してはクラスの大半や他クラスの文化祭実行委員の人達が名前を書いてくれた。 　そして選挙当日。 　立候補者は 生徒会長　一色いろは 副会長　雪ノ下八幡、本牧牧人 書記　藤沢沙和子 会計　比企谷雪乃　 　となった。 　それなので投票数で勝負するのは副会長だけなのだが、文化祭実行委員長で文化祭を成功させたと言うのが大きかったらしく、見事に俺が副会長に就任する事になり、本牧は庶務として生徒会に入る事になった。 　ちなみに一色を立候補させた連中だが、大事な選挙を使った悪質な嫌がらせと言う事で停学一週間になったらしい。 [newpage]　 あとがき 　こうして八幡は生徒会副会長になり、雪乃は会計として生徒会に参加することになりました。 　本当は会計にも原作キャラが居るんですが、名前が分からなかったんですよね…。

生徒会選挙と愚者

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[chapter:第1章:シンデレラプロジェクト編] [newpage] あの日から数日後… 俺は346プロダクションの会社に来ていた。…慣れないスーツ姿で… あ、でもこのスーツとネクタイは小町に選んで貰ったんだぞ！…キモイな俺… さて、そんなこんなで立ち尽くしていると、 ？「きゃっ」ﾄﾞﾝｯ 八幡「うおっ」 誰かがぶつかってきた。 ？「ごめんなさい。前をよく見てなくて…」 振り向くとそこには茶色っぽい髪の毛をポニーテールにした大人っぽい女性が立っていた。 とりあえず俺は大丈夫なので、 八幡「だ、大丈夫でしゅ。」 あ、やっぱ大丈夫じゃなかったわ。 目の前の女性もくすっと微笑んでいるし… くそ、綺麗な笑顔じゃないか」 ？「ふぇ？」/// すると、目の前の女性が顔赤くしていた。 熱でもあるのかな？ 八幡「だ、大丈夫ですか？なんか顔赤くしていますけど…」 ？「え？あ、だ、大丈夫よ。ありがとう」 … ？「ところで、こんな所でどうしましたか？」 八幡「あ、武内さんに呼ばれていまして…」 ？「あー。あなたが新しくスカウトされたプロデューサーさん？あなたのことはプロデューサーさんから聞いていますよ。」 八幡「あ、はいそうですか」 ？「あ、私、新田美波と言います。よろしくお願いしますね。」 八幡「ひきぎゃやはちみゃんでひゅ…比企谷八幡です…。」 自己紹介噛んだー。黒歴史確定ですね。 美波「ふふっ…では比企谷さん、丁度いいですので、プロデューサールーム(以後PR)までご案内しますね。」 八幡「あ、はい。お願いします。」 新田さんに連れられて、受付で入館許可証を得ると、建物内を歩きだしたので、俺はそれについていった。 美波「ところで、比企谷さんは随分若く見えますけど、年齢はいくつですか？」 八幡「あ、今年18歳になる高校三年生です。新田さんも若く見えますね。」 美波「あ、ありがとう…///。私は19歳の大学生よ。」 八幡「年そんなに変わりませんね。」 美波「そうね。敬語じゃ違和感あるし、タメでいいよ。」 八幡「年上の人には敬語を使えと妹に言われているので、それは少し難しいです。」 美波「そっか…なら、慣れた時に話してね。」 八幡「わかりました。」 そんな時が来るのかな？ [newpage] 美波「…っと、ここが私達、シンデレラプロジェクト(以後CP)の部屋よ。」 八幡「あ、はい。」 新田さんに続いて部屋に入る。 ｶﾞﾁｬｯ 美波「おはようございます。」 ？「おはよう美波ちゃん」 ？「ダー、ミナミ、おはよう、です。」 部屋の中には、緑色の制服を着た美人な女性と、銀髪で青い瞳をした美少女がいた。 …ん？なんか戸塚に似ているような… はっ！？まさか天使なのか！？ とか思っていたら、 美波「おはようございます。ちひろさん、アーニャちゃん。」 ？「あ、美波ちゃん、比企谷さんを連れて来てくれたの？」 美波「はい。入り口で立っていたので、 それに、ぶつかってしまったので、お詫びにここまで連れてきました。」 ？「ありがとうね美波ちゃん」 美波「いえいえ。」 ？「あ、はじめまして。私はここで事務員をしている千川ちひろです。」 え？この人事務員だったの？どんだけレベル高いんだよ346プロェ… ？「ダー、私は、アナスタシアと、いいます。よろしく、です。」 こっちの天使みたいな子はアナスタシアと言うのか。やっぱり天使な子は天使のような名前をしているのだな…何言ってんだろ俺は… 八幡「あ、ひきぎゃや…んんっ。比企谷八幡といいます…」 また噛んでしまった。今日何回噛めば気が済むの？ ちひろ「ふふっ。では比企谷さん、奥でプロデューサーさんが待っていますよ。」 八幡「あ、はい。わかりました。」 美波「あ、比企谷さん。私達はレッスンに行きますね。」 アーニャ「ダー。また、です。」 八幡「お、おう。またな。」 [newpage] 千川さんに連れられて奥に行くと、そこには武内さんがいた。 武内「比企谷さん。本日は346プロに来て頂きありがとうございます。それで、プロデューサーの話についてですが…受けて貰えますか？」 八幡「あの、ほんとに俺で大丈夫ですかね？俺より優秀な人なんていっぱいいますし、まして俺の目は腐っていますし…」 武内「大丈夫です。あなたなら。」 力強い言葉の後に続いて、 武内「あなたの目は人の本質を見抜くことが出来る素敵な目です。あなたならきっと私より良いプロデュースが出来ると思います。なんせ、私のこの目でもプロデュース出来ているのですから、大丈夫です。」 なんでだろう…まだ会って2回目なのに、どうしてこんなに力強く背中を押してくれるのだろうか…そんなことされたら、やるしかなくなるじゃないか。 八幡「は、はい。こんな俺でいいのなら、プロデューサーの話を受けたいと思います。」 武内「ありがとうございます。それでは、必要な書類を提示しますので、ご記入をお願いします。」 八幡「わかりました。」 … 八幡「書けました。これでいいですか？」 武内「確認します……はい、これで大丈夫です。後は、学校に報告はこちらでしておきますので、必要な書類だけ受け取って、明日またここに来てください。」 八幡「わかりました。」 武内「今日は、これで終わりです。」 八幡「わかりました。では俺はこれにて失礼します。」 武内「はい。お疲れ様でした。」 俺、プロデューサーになりました。 これからどうなるんだろう… ……To be continued あとがき→ [newpage] あとがき 前回の「プロローグ」にたくさんのいいねやブックマークありがとうございます。 正直に申しますと、自分の作品でこんなに評価されるとは予想もしてませんでしたw さて、今回も稚拙な文章になってしまいました。うまく口調が掴めなくて、所々変になってると思います。知識が足りないですね。 さて、今回も読んで頂きありがとうございました。

今回も稚拙な文章ですが、よろしくお願いします。

1話

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　楓ちゃんの机の引き出しの奥には、仮死状態の煙草がある。 　私はそれを知っているが、口を出すことはしない。お互いもうとうに成人している身だ。それに、日常的に吸っているわけではないようだし。 　彼女がそれを手にする姿を、私はまだほんの数回しか見たことがない。片手にも余るくらいだ。ベランダの室外機の横で手すりにもたれかかる彼女の姿を見ると、私はいつもゲームのレアなスチルを回収した時のような気持ちになる。 　楓ちゃんが煙草に命を吹き込むのは、決まって私が長期で家を空けたときだ。私はカメラマンとして少しずつ評価されるようになってきていて、そういうことが稀にある。 　最初カメラを手に取ったのは、楓ちゃんを撮りたい一心だった。何をやっても絵になる彼女の姿を、どうにか形に残しておきたかった。瞳に焼き付けるだけでは満足できなくなったのだ。 　スマートフォンで撮れる画質には限界があって、どうせならと趣味には十分すぎるカメラを購入した。そのためにしばらく腹を鳴らし続けたのも今ではいい思い出だ。 　当時戯れに撮った写真は、いつの間にか写真集にできるほど溜まっていた。友人の勧めでその中のいくつかをコンテストに応募した。それは思ったよりも大きな反響を呼び、私はいつしか写真にのめり込むようになった。 　それ以来コツコツと勉強と実績を積み上げ、今では二、三週間に及ぶ取材旅行に出ることがある。 　写真はシャッターを切るだけで撮れるが、いい写真はそれだけでは絶対に撮れない。カメラマンはお洒落なアーティストというより体力勝負の肉体労働者だ。旅先から帰ってくるときには、体は湿った布切れのようにくたくたになっている。 身長の半分近い大きさの重たいスーツケースを棒になった足で引きずりながら、なぜかエレベーターがついていないマンションの階段を上っていると、「ああ家に帰ってきたな」と思うのだ。 　ごそごそとバックパックのポケットをかき回し、部屋の鍵を引っ張り出す。兎のキーホルダーは、いつだったかめずらしく酔っぱらった楓ちゃんが買ってきたものだ。 　「お揃いやで」とにへらと笑い、おぼつかない手つきで鍵にそれをつけている姿は、今思い出しても笑ってしまう。バカップルみたい、と呟いた私に、「うん。バカんなるくらい好き」と言い切って彼女は電池が切れたおもちゃみたいに眠った。翌朝何も覚えていない楓ちゃんは「なんやこの兎」と怪訝そうだったが、外しはしなかった。 鍵と一緒にくしゃくしゃになったレシートがバラバラと飛び出した。ゴミはゴミ箱に入れて！と呆れる楓ちゃんの顔を想像しながら、それらを拾い集めポケットに押し込む。 　数週間ぶりに部屋の鍵を開ける。ホテルはずっとカードキーで、シリンダーを回す感覚が懐かしく心地よい。 肩に下げた商売道具のカメラだけは丁寧に、スーツケースはほとんど投げ込むように、玄関に足を踏み入れた。慣れ親しんだ家の匂いが鼻腔をくすぐって、筋肉の緊張がほどけるのを感じた。 　私はここに楓ちゃんと二人で暮らしている。角部屋の301号室。朝日だけがとんでもなくまぶしい東向き。リビングと寝室がひとつずつ。あまり広くはないけれど、二人が近くにいる分には十分だ。喧嘩した時は、どちらかが家を飛び出して、近所のミスドかドトールかガストで何時間か過ごす。 　楓ちゃんが家出した時は、ミスドだとお土産にドーナツを買って帰ってきてくれるので、なるべくミスドがいいなと私は思う。 　雨の中飛び出したかと思えば、三時間そこそこで帰宅して、 「カフェオレがおかわり自由なのがポイント高いんよね」 　と、オールドファッションをかじる楓ちゃんは、もう何で怒っていたのか忘れている。 　もちろんそれは嘘だ。楓ちゃんは記憶力がいい。私の言うことはどんな些細なことでも覚えている。私が忘れていても、構わず覚えている。 　例えば、初めての喧嘩でもこうやってドーナツを食べて仲直りをしたこととか。 　彼女の優しさを粉砂糖にしてふりかけた甘いドーナツを咀嚼して、私は少しいじわるを言う。 「ガストだってドリンクバーあるじゃないですか」 「……ドーナツが食べたかったから」 　ふいと楓ちゃんは顔を背ける。彼女の耳が赤いのが、私からは見えているが、何も言わなかった。雨はもう小降りになっている。虹がかかったら教えてよ、とだけ私は言った。 　玄関でスニーカーを脱ぐと、サイズの違うスニーカーの隣にきちんと並べて靴箱に仕舞った。 楓ちゃんと一緒に暮らすようになっていくつか癖がついた。脱いだ靴下を洗濯機に入れるとか、読んだ本を本棚に戻すとか。 生活を共にするということは、ただ同じ部屋にいるというだけではない。お互いのもっと深いところに影響を及ぼすということだ。 　引っ越してくるとき、楓ちゃんはほとんど荷物を持っていなかった。段ボール二つ分の存在は、あまりに刹那的で、私は彼女がここにずっといるつもりがないのだと本能的に悟った。 　いつでも捨てていける量の荷物しか持たない彼女を、私は買い物に連れまわした。 　お揃いのマグカップを買った。青と白の色違いで、取っ手が凝った作りをしている、どこか異国のデザイナーのハンドメイドだというそれを、私は迷いなく手に取った。 「可愛くないですか、これ？」 「なんか不思議な形やね」 「取っ手がリボンみたいになってるんですよ」 「へえ」 　けっこう高そう、と口ごもる楓ちゃんに「そんな高くないですよ」と言いながら、私は値札をちらりと見て、その額に目を丸くした。 　それでも私はそれを二つ手に取ると、まっすぐレジに持って行った。二つのマグカップがぶつかってカチリと音を立てる。それは二つの歯車を無理やりにでも噛み合わせる音だ。 　さっさと会計をして、彼女のもとへ戻った。丁寧に梱包されたマグカップは、もう柔らかい緩衝材に守られて、危うい音を立てることはない。「いくらやった？」と財布を取り出そうとする楓ちゃんに「これは私からのプレゼントです」と私は笑った。彼女はどこか申し訳なさそうに眉をひそめたが、結局は「ありがとう」とそれを受け取り、代わりにとご飯に連れて行ってくれた。 　私はずっとこの調子で、無理にでも部屋に彼女のものを増やしていった。出ていけなくなるまで、部屋を彼女のもので埋めてやろうと思っていた。全部置いて出ていこうとしたって、そうはさせないのだ。 　私の作戦は功を奏した。楓ちゃんは観念したように物を買ってくるようになり、楓ちゃんの存在が、部屋を徐々に満たしていった。いつの間にかどちらが欠けても生活は成り立たなくなっていた。 　 　スーツケースを汚れたキャスターの部分がフローリングに触れないように廊下に横たえる。そしてリビングの方に足を向けた。左腕につけたスマートウォッチに目をやる。今日は日曜日で、楓ちゃんの会社も今日は休みのはずだった。 　本来の予定より帰宅が一日早まった。あまりにも急な変更だったので、連絡をいれることができたのはついさっきで、メッセージは未読のままだった。 　私は慣れ親しんだ木製のドアを押し開ける。その瞬間ふわっと風が吹いて、少し伸びた前髪がなびいた。夏は終わりを告げる代わりに、涼しい風を残していく。どうやらベランダの窓が開いているようで、そこから風が入ってきているのだ。 　むくむくと悪戯心が沸いてきて、私は気配を消すように身をかがめる。驚かせてやろう、と思った。わっと声をかけて、びっくりした間抜け面を思いっきり笑ってやろう。 　ヒビの入ったガラスの上でも歩くように、私はベランダに向かった。こういうゲームも昔はしたけれど、ことごとく向いていなかったな、と思い出してつい笑いそうになってしまった。 そして、風の吹く方に、彼女の姿を見た。 その後ろ姿に、思わず頬が緩む。出会った頃より少し短くなった銀髪は、左だけ耳にかけられている。彼女の髪は太陽光の下で見ると、少し透けて見える。光の中に消えてしまいそうだなんて、こっぱずかしいことを考える。きらりと光る左耳のピアスのほかに、もう一つ何かが光った。 　目を凝らすと、どうやらそれはライターのようだった。楓ちゃんが煙草を吸っているのを見るのは久しぶりだった。 　私は反射的に肩からカメラをおろすと、構えた。ファインダーの中に楓ちゃんが住んでいる。それからシャッターを切るまでの、ほんの数瞬。星が流れるより短い時間。時と呼ぶには短すぎるほどの、その瞬間だけ、楓ちゃんの存在は私のものになる。 結局は独占欲の現れなのだ。私はいつも己の欲深さにため息をつく。現像してしまえば、写真はもう作品で、それは見る人のものになる。でも、あの一瞬だけは、楓ちゃんは、きっと、私の。 「美兎ちゃん？」 　声をかけられて、楓ちゃんとファインダー越しに目が合った。アメジストの瞳に射抜かれて、私はカメラを下す。すると、急に何を言えばいいのかわからなくなって、「ベランダって、何かいいよね。柵があるし」などと心にもないことを言った。 　楓ちゃんは少し笑うと、「ただいま、やないの」と口を尖らせた。早く帰ってくるなら言ってや、とも。 「そうでした。ただいま」 「はい。おかえり」 　私は彼女の煙草に触れないし、咎めることもしない。でも、黄緑色のパッケージは目に焼き付けて、コンビニや駅で見かけるたびに、私がいない間楓ちゃんを独占している悪いやつだと心の中でののしっている。 　楓ちゃんはベランダから、私のいるリビングに戻ってこようとガラス戸に手をかけた。ああ、生活が始まる、と思った。二人いて初めて成り立つこの部屋に、日常が戻ってくる。 　さらば、黄緑の君。しばらくまた、引き出しの奥へさよならだ。 　なぜならあの子は私のものなので。

カメラマンになった月ノさんと、社会人の樋口さんが同棲しています。

煙草とカメラ

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＊転生ネタですが、以前書いたきれいさっぱり生まれ変わったやつとはまた別です／(^o^)＼ ＊皆転生していて、大人になるにつれ前世を思い出しています ＊昨日診断メーカーで出た「50分以内に2RTされたら、他人の部屋で、目を閉じて手のひらにキスをするギル時をかきましょう。」が元ネタ ＊時臣師はショタで記憶無し ■ 時臣には、会ってはいけないよ、と言われている人が二人いた。 一人はこの町の教会にいる神父だ。だから時臣は教会にだって行けない。 クリスチャンだというわけではないが、クラスの子が教会が主催するバザーに行かないかと誘ってくれたのに、言いつけのために断らなくてはならないのが悲しかった。一応、行きたいのだと主張はしてみたけれど、大反対されたのだから仕方がない。時臣は引っ込み思案というほどではないけれど、大人の言いつけには逆らわない子供だった。もう一人は、近くの高校に通う、金の髪の高校生。 その二人に会ってはいけないと言われる理由が時臣にはさっぱり分からなかった。片や神に仕える神父で、片や未成年の少年だ。 そう害悪になるとも思えないのだが、特に母方の従姉妹である凛が絶対に会うなと言うのだから、時臣は素直に従っている。この春社会人になったばかりの凛は、年の離れた時臣をそれこそ生まれたときから可愛がってくれていて、一人っ子な時臣は彼女によく懐いているのだ。時臣は基本的に凛の言葉には従っている。 だから時臣は、彼女の言いつけを破ってしまうことにひどく動揺していた。 ようやく「ランドセルに背負われている」だなんて言われなくなる程度には背が伸びたはずの時臣を、彼はもっとずっと高い位置から見下ろしている。さらさらの金の髪が、太陽の光を反射して綺麗だった。 「貴様が、時臣か」 居丈高に問う相手に、時臣は頷くことしかできない。 ちゃんと返事をしなくては行儀が悪いと思ったが、口が上手く動かなかったのだ。時臣はしっかりしたお子さんねだなんてよく言われていたが、まだまだ小さな子供だった。小さな時臣に対し、こんな風に刺々しく接する人間なんて今までいなかったのだ。 どうしよう、怖い人なんだろうか。だから皆は会ってはいけないと言っていたのだろうか。 「雑種共が揃いも揃って我の邪魔をしおって…貴様の顔を見るのにこの我が苦労しなくてはならんとは、貴様は一体何様のつもりだ？マスターだとでも言うのか？」 相手が何を言っているのかさっぱり分からなくて、時臣は背中にしょったランドセルのストラップをぎゅっと握り締める。何か言わなくてはと思いながらも、何を言うべきか分からない。挨拶をするタイミングだって逃してしまった。 「…なんだ、怯えているのか時臣」 「あ……あの…」 「おい、我が誰か分からんとでも言うのか？」 「えっと……ギルガメッシュさん、ですか…？」 金の髪の、ギルガメッシュという高校生には会ってはいけないよ。 何度も何度も言われたことだから、会ったことはなくても、その名前はちゃんと覚えている。 「……ふむ、やはり雑種共は長じるまでは記憶が戻らないということか。おい時臣、貴様は我と会ったことはあるか？」 「ない…と、思い、ます、」 ギルガメッシュが持つ威圧感のようなものに圧倒され、口からは辿々しい声しか出ない。時臣君はちゃんと挨拶ができて偉いわね、と教師にも近所の人にも言われるのに、今はその、大人に褒められるような態度を取れないことが、どういうわけだか物凄く悔しかった。 「やはり貴様もその程度か、つまらん奴め」 ギルガメッシュは盛大なため息をついて、呆れたような顔で時臣を見下ろす。 間近に立つ大人が、腰を少しも屈めずに見下ろしてくるのはこんなにも怖いものなのだということを、時臣は初めて知った。ギルガメッシュは高校の制服を着ていたけれど、小さな時臣から見たら高校生は大人に等しかった。 「あの……ギルガメッシュさん、は、どうして僕を知ってるんですか…？」 先ほどのギルガメッシュの言葉を信じるなら、ギルガメッシュは自ら時臣に会いに来たようだった。時臣は放課後に友人の家に遊びに行っていて、今はその帰りだ。彼は、時臣の友人の家も知っていたのだろうか。 「知っているも何も、元々は貴様が我を呼び出したのだろうが」 「え…」 「そのくせ我を忘れるとは、良い度胸だな時臣ィ」 そう言って、不機嫌そうな顔を一転させたギルガメッシュは、愉快な物を見つけたとばかりににやりと笑う。 整った顔立ちをした彼に、その意地の悪い表情は妙に似合っていた。様になっていると言うべきか。 「あ、あの、ごめんなさい…？」 時臣にはギルガメッシュと会った記憶など無いし、ましてや呼び出した覚えなど全く無いのだが、時臣が忘れてしまっているだけなのかもしれない。 遠い親戚の人に会ったりすると、覚えていなくても久しぶりだねえと言われるのはよくあることだった。時臣が赤ん坊の頃に会ったことだって大人はちゃんと覚えているけれど、時臣がそれを覚えているはずもない。もしかしたらギルガメッシュとは、今よりも更に小さかった頃に会っていたのかもしれなかった。 「ふん、謝罪を口にできるだけ良しとしてやろう。ならば時臣、我を忘れたことへの贖罪として、これから我に付き合え」 「えっ？えっと、今から、ですか？」 「そうだ」 「で、でも…」 もう帰らないと、と言おうとした時臣の耳に、誰かが名前を呼ぶ声が届く。 「……雁夜？」 振り向くと、近所に住む大学生が血相を変えて駆け寄ってきていた。 年上だから雁夜さんと呼ばなくてはいけないのだが、お前にさん付けで呼ばれるのは気持ち悪いだなんて言われてしまったので、時臣は渋々彼を呼び捨てにしている。 少し口が悪くて、時臣には妙に冷たかったりするのだけど、本質は優しい人だから時臣は彼にそこそこ懐いていた。 「時臣ぃ！！そいつから離れろ！！」 「え、え…？」 「会っちゃ駄目だって言っただろーがこの馬鹿！！」 走ってきた雁夜が時臣の腕を掴む、それよりほんの少しだけ早く、時臣の体が宙に浮く。うわあっ！と思わず声を上げてしまって、それから、ギルガメッシュに抱き上げられたのだと気付いた。 「ちッ、もう嗅ぎ付けたか、」 「ま、待ってください…！？」 慌てる時臣の声になど耳を貸さず、ギルガメッシュはそのまま走り出す。時臣は片腕だけで抱きかかえられていて、その不安定さに思わずギルガメッシュの制服をぎゅっと握り締めてしまった。これではまるでギルガメッシュにしがみついているみたいだ。 「なっ！？待て金ぴか！！時臣返せ！！」 「ふん、貴様の足で追いつけるものなら追いついてみろ！」 自信に満ちた声の通り、時臣を抱えているというのに、ギルガメッシュはたいそう足が速かった。追いかけてくる雁夜との距離がぐんぐんと開いていく。 雁夜、と呼んだけれど、その声はもう届かないようだった。時臣を抱えて走るギルガメッシュは、それはそれは楽しそうだった。 ***** 小さなアパートのドアからのそりと出て来たのは山のように大きな男で、時臣は声を上げてしまいそうなのを必死に堪えた。外見に驚いてしまうなんて失礼過ぎることだ。 時臣は未だにギルガメッシュに抱えられたままだったから、大男との目線が近かった。もし時臣が自分の足で立った状態で見下ろされたのなら、声を上げてしまっていたかもしれない。 「何だあ？英雄王よ、その子供はどうした」 「こいつは時臣だ。我が不肖のマスター殿だよ」 ギルガメッシュは楽しそうに言ってくつくつと笑う。 はじめまして、と時臣は今度こそちゃんと挨拶をした。ギルガメッシュが離してくれないから、頭を下げるのは上手くできなかったけれど。 「おお、随分とちっこいのう！うちの坊主の半分ほどしか無いではないか」 大男もまた愉快そうに笑った。見た目は怖そうだが、どうやらいい人のようだ、と時臣は思う。やはり人を外見で判断するのは良くないことだ。 「時に征服王よ、我はこの小さなマスターとの交流をはかりたいのだが、雑種共が邪魔をするのだ」 「そりゃあお前さんたちの所業を考えれば、反対もされるだろうなあ」 「だが今は時臣の手には令呪も無く、我もまた英霊ではなく人間だ。せっかく再びまみえたマスターと、改めて絆を結びなおすというのは悪いことではなかろい？」 「ふうむ、確かに」 大男は顎に手をあてて、ギルガメッシュの言葉に頷く。 時臣には彼らの話している内容がさっぱり分からなかった。再び、ということは、やはりギルガメッシュとは昔に会ったことがあるらしい。 「こいつといるところを雑種に見られたからな、我の家ではすぐに見つかるだろうし、他の奴らの家に行っても同じだろう。征服王よ、しばし我と時臣のために話をする場を提供してもらえるか」 「余のところにも、お前達を知らんかと連絡が来るかもしれんぞ」 「なぁに、貴様は黙っていてくれるのだろう？」 ギルガメッシュがそう言うと、相変わらずな奴めと言って大男が豪快に笑った。体に見合った大きな笑い声で、時臣は思わずびくりと肩を跳ねさせてしまう。 「あいわかった、この部屋で良ければ好きに使うがいい。余はしばし席を外そう」 「感謝するぞ、征服王」 大男が外に出るのと入れ替わりに、ギルガメッシュは時臣を抱き上げたまま、アパートの中にするりと入っていった。 ばたん、と古びたドアが閉まる音がして、時臣は大男にお別れの挨拶ができなかったことと、そもそも名前を聞けなかったことを悔いた。 ***** 我が物顔でベッドに腰掛けるギルガメッシュの前で、時臣はぺらぺらの座布団の上に座っていた。 こんな小さな部屋にあの大男が住んでいるのかと思うと、狭くて仕方ないのではないかと余計な心配をしてしまう。ベッドだって時臣からしたら大きいけれど、彼には窮屈ではないのだろうか。 「さて……貴様は我を覚えていないのだったな？」 「…ごめんなさい、」 追求するような声に、時臣はしょんぼりとうなだれる。小さな時臣に冷たくあたる大人など今までいなかったさ、時臣は大人に褒められるような子供だったから、叱られることだってとても少なかった。 身に覚えが無いことではあるが、もし自分が誰かから忘れられてしまったらきっととても悲しいのだろう。思えば皆が時臣にギルガメッシュに会うなと言われていたのだって、ギルガメッシュとの間に何かしらの繋がりがあったからに違いない。昔に会っていて、それで何かがあったからもう会うなと言われたのではないだろうか。たとえば、記憶に無いほど幼かった時臣が、ギルガメッシュに泣かされたとか。ベッドに腰掛けて足を組むギルガメッシュを、そっと見上げる。 時臣を見下ろす赤い瞳はけして優しくはなくて、昔泣かされたのではという推測はあながち外れてはいないように思えた。 「まあ良いだろう、その小ささに免じて許してやらんでもない…おい、こっちへ来い、時臣」 ギルガメッシュが手招きするのに逆らわず、時臣は立ち上がってギルガメッシュのもとへ足を進める。 腰掛けるギルガメッシュと立っている時臣とは、時臣の方がほんの少しだけ目線が高かった。ギルガメッシュに見上げられるというのはひどく落ち着かなくて、時臣は目を逸らしてしまいたいのを必死に堪える。そっぽを向いたらきっと怒られてしまうだろう。 「ふむ……良いか、時臣」 「はい」 「我は貴様になど興味は無い」 「え…」 きっぱりと言われた言葉に、時臣はぱちぱちとまばたきをした。 ギルガメッシュは至近距離で時臣を見上げたまま、不愉快そうに目を細める。 「子供になってもつまらんとは、いっそ大した奴だと言ってやらんこともないがな…我にさらわれても怯えるでもなく怒るでもなく、かしこまって座っているとは。覚えていなくとも、魂は変わりようがないということか」 「え、さ、さらわれたんですか…？僕は…」 ギルガメッシュの思いも寄らない言葉に、時臣はあたふたと慌てた。知らない人について行ってはいけないと言われていたが、多分、ギルガメッシュは知らない人ではないから良いと思ったのだ。そもそも会ってはいけないと言い含めていた時臣の周囲こそがギルガメッシュのことをよく知っているようだし、雁夜に会ったから、時臣がギルガメッシュと一緒にいるということだって知られているはずだ。この部屋の持ち主らしい大男こそ知らない人ではあったが、悪い人には見えなかったし。 もしかして今自分はとんでもなく悪いことをしているのではないだろうか。 そう思うと、時臣は一気に不安になってくる。心臓がどきどきと跳ねた。そもそも、ギルガメッシュに会ってはいけないという言いつけを破っているのだ。帰ったら物凄く叱られてしまうのではないだろうか。 心臓がどきどきするだけ、指先が冷たくなっていくようだった。ほんの少しだけ泣きそうになる。 「雑種共があまりに邪魔をするからこそ、我は貴様に会ってやろうと思ったのだ。勘違いするなよ、時臣」 「…は、い」 よく分からなかったけれど、時臣は従うように頷いた。それなのにギルガメッシュはますます不機嫌そうな顔をするものだから、時臣はますます泣きたくなってしまう。 どうしよう。この人はやっぱり怖い人なのだ。きっと昔に会った時に自分は泣いたに違いない。だから皆会ってはいけないと言ったのだ。 「何だ、怯えているのか？時臣」 ギルガメッシュがにやりと笑った。 間近で見る赤い瞳は、まるで肉食獣か何かのようだ。動物園なら檻の向こうだけど、今は目の前でひたりと時臣を見ている。 「右手を寄越せ、時臣」 「……はい」逆らうということなど考えられず、時臣は右手を差し出した。ギルガメッシュはそれを遠慮なく掴む。 「この手にはもう令呪など無いしなァ？この我に怯えるのも当然のことよ、今の貴様には何の手立ても無い」 くっくっ、と、ギルガメッシュは喉で笑った。掴まれた右手を引っ込めてしまいたかったけれど、力でかなうはずもない。怖い、と時臣は思った。この人は、怖い人だ。 「ふむ、体温が高いな、子供体温というやつか…中身は可愛げの欠片も無いが、外見はまあ愛いと言ってやらんこともない」 「うい…？」 「可愛いと言ってやってるのだ、この我が」 感謝せんかと言われたので、はあ、と時臣は曖昧に頷く。時臣は男なので可愛いと言われるのは少々困るのだが、時臣のことを大抵の大人は可愛いと言うものだから言われ慣れてもいた。ただ、何となく、ギルガメッシュの口から「可愛い」という言葉が出るのが彼には似合わないような気もしている。この人でも何かを可愛いと思うことがあるのか、と思ったのだ。ギルガメッシュのことなんて少しも知らないのだけど。 「それにしても小さいな。時臣、貴様はいくつになった」 「三年生です、六月に九歳になります」 「ほう」 自分から聞いておきながら、さして興味も無いといった風に、ギルガメッシュは気のない返事だけをして時臣の右手をまじまじと見たり裏返してみたりしていた。自身の右手が玩具にされることに不満を抱くよりも、一体何をされるか分からないという恐怖が大きい。 時臣のことを子供体温だと言ったギルガメッシュの手は、大きくてひんやりとしていた。先ほどは肉食獣を連想していたが、今は大きなトカゲか、それか蛇を思い起こさせる。時臣は爬虫類が特別苦手というわけではなかったはずだが、ギルガメッシュのことは怖かった。 「今は何に興味がある？」 「え？」 「せっかく征服王が場所を提供してくれたのだから、奴に言った通り交流をはかってやろう。時臣、貴様は今何に興味を抱いておるのだ？」 「興味…ですか…、えっと、」 突然の問いかけに、時臣は懸命に思考を巡らせる。興味があることとは、好きなことといった意味だろうか。 「本を、読むのが好きです、」 「何だ貴様、子供になってもインドアなのか。子供らしく外では遊ばんのか？それかゲームだとか」 「外でも、遊びますけど、運動があまり得意じゃなくて…ゲームは、目が悪くなるから一日一時間だけで、あんまりソフトを持っていません」 「…本っ当につまらん子供だな、貴様は」 至近距離で睨まれて、掴まれたままの右手は小さく震えた。そのことにギルガメッシュが気付かないわけもないのに、彼が時臣の手を離す様子はかけらもない。心臓がどきどきと跳ねる。どうしよう、どうしよう、と時臣は思った。そんな焦りは何の解決にもならなかった。 「三年生だったか。運動が駄目なら、勉強が好きなのか？将来の夢は？」 「勉強は、好きです、将来は…まだよく、分からないです、」 クラスの友人達の中には、将来野球選手になりたいという者もいれば、飛行機のパイロットを夢見る者もいる。だけど時臣は、特別得意なものがあるわけでもなかったし、特別憧れている職業もなかった。何が好きかなんて、そういえば今までちゃんと考えたことだってない。 案の定、つまらんな、とギルガメッシュが言う。 この人にはそう言われるのだろうなと、何故だか時臣には分かっていた。どうしてだろう。そうしてギルガメッシュは、まるで他にすることなど無いのだとでも言うように時臣の右手を自身の手の中で弄んでいた。ぎゅうと力をこめてみたり、人差し指と中指の間をいたずらひ開いてみたり。時臣の話を聞くことよりも、時臣の手で遊ぶことの方がずっと楽しいらしかった。 「では時臣、貴様はどういった本を読むのが好きだ？」 「えっ？」 「何を呆けた顔をしている、本を読むのが好きだと言っただろう。どういう本を読むのだ」 まさかまだ質問が続くだなんて思わなかったから、時臣はひどく驚いてしまう。つまらないと言われて、それでもう終わりになると思ったのだ。会話も、こうして顔を合わせるのも。 「ええと…この間、第三のさらという話を読んで、それが面白かったです、」 「ほう、どんな話だ？」 「神様が、陸地を作るんです。世界には海しかなくて、それで神様は天使に、陸地を作る材料にするから海の底にある土を持ってくるよう言って、」 それは一週間前に買ってもらった本の中にある話だった。低学年用の本で、時臣には少しばかり子供っぽいような気もしたけど、読んでみるととても面白かったのだ。タイトルの通り三枚の皿が出てきてそれが太陽になったり月になったりする話だけど、それよりも時臣は神様が陸地を作る部分の方が印象に残っていた。 天使は海に入って両手で土をすくうのだけど、海の上に行く間に土は海の中にさらさらと流れ落ちてしまって、神様のもとへ運ぶことができない。天使は何度も海の底に行ったが、手の中の土は何度もなくなってしまった。とうとう自分には土を神様のもとへ運ぶことができないのだと悟った天使は、何も持たないまま泣く泣く神様のもとへ帰る。 だけど神様は、何も持って来ることができなかった天使を叱りはしなかった。天使が何度も頑張ったから、爪の中に、指の間に、うっすらと土がついていたのだ。それを使って神様は陸地を作った。この話を読んだ後、当番の日にクラスの花壇の世話をした時臣は、自分の手に薄くつまった土を見て何だか嬉しかったのだった。神様が褒めてくれたような気がして。 本の内容と、それから花壇の世話をして自分の手にも土がついて嬉しかったことまでを勢いで話してしまった時臣は、その間ギルガメッシュが無言だったことにようやく気付いた。 どうしよう、またつまらない話をしてしまった。心臓がどきどきと跳ねる。ギルガメッシュが怖かった。 「…成るほど、」 けれどギルガメッシュは、今度は「つまらん」とは言わなかった。 そうして時臣の手のひらをまじまじと見る。今は土なんてついてはいない。 「花壇の世話は、骨が折れたか」 「は、はい、暖かくなってきたから雑草がいっぱい生えてしまっていて、」 小さくともしっかりと根のはった雑草を引き抜くことは、力の弱い時臣にとってはそれなりの力仕事だった。ただ引っ張るだけではぶつりと切れてしまったりして、仕方なく根のある辺りの土を掘り起こしたりして駆除していったのだ。 当番がそれなりに世話をしているはずだが、時臣の前に当番だったクラスメイトはぶつりと切れたままで仕事を終えていたりもしたから、時臣はたくさん土を掘らなくてはならなかった。 「雑草の駆除など、楽しいことではないだろう。嫌ではなかったのか」 「嫌ではないです、やらなくちゃいけないことだし、」 時臣がそう答えると、やっぱりギルガメッシュは不機嫌そうな顔をしてしまう。ギルガメッシュが雑草を引き抜いているところを想像して、この人にはそういうものは似合わないな、と時臣は思った。 「それで？貴様が読んだ本の神様のように、土まみれになった貴様の手を誰かが褒めたのか？」 「いえ、そういうのは、別に…当番ですし、」 サボったら怒られるだろうけれど、当番をこなして偉いねとは、三年生ともなれば教師はいちいち褒めたりはしない。当たり前のことだ、と時臣だって思う。 それなのにギルガメッシュはますま眉を寄せて、それはそれは恐ろしい表情を浮かべた。つまらん奴だ、とまた言われる。つまらないと言われたときは、どう返事をするのが良いのだろう、と時臣は思った。ありがとうございますと言うのは変だ。はい、と肯定するのもおかしいような気がする。ごめんなさい、だろうか。だけどごめんなさいと言ったら、ギルガメッシュはますます怒りそうな気もしていた。 「大人に褒められれば、子供は喜ぶものだろうが」 「それは…褒められるのは、嬉しいとは思いますが、でも、」 褒められるからやる、というのはもっと小さな子供の思考だ。時臣はもうそういうのは卒業する年頃である。褒められるからやるとか、怒られないからやらないとかは、自分では何も判断がつかない幼児の行動だろう。 そう思ったのだけど、それを言ってはいけない気がして、時臣は結局黙った。それをギルガメッシュがどう思ったのかは分からない。 「何だ、褒めてやるような大人が周りにいないのか？寂しい奴だな、貴様がつまらん子供だからだろう。もっと可愛げがあれば褒めてやりたくもなるというものだ」 そう言って、ギルガメッシュは手にしたままの時臣の右手を更に自分の方へと引き寄せた。バランスが崩れてこけてしまいそうになるのを慌てて堪えると、手のひらにやわらかな熱を感じる。ギルガメッシュが、時臣の手のひらにキスをしたのだ。右手を口元に引き寄せた彼は自然と目を閉じていて、そこで初めて時臣は、ギルガメッシュの睫毛が髪の毛と同じように美しい金色をしていることを知った。 「今回だけは、貴様を哀れんでこの我が褒めてやろう。よくやったな、時臣」 それは茶化すような、馬鹿にするような口調だった。まるで嫌がらせをしているみたいに。 事実そうなのだろう。ギルガメッシュはふざけているのだ。ちょっとした遊びのような、暇つぶしのような。 「まあこのように小さな手では、雑草を抜くにも一苦労だろうしな。貴様の手にいくら土がついたところで陸地ができるわけではないが………時臣？」 ギルガメッシュがぎょっとしたような声を出して、それでようやく時臣は、自分が泣いていることに気付いた。 掴まれたままの手のひらには唇の感触。手を掴む他人の手。時臣はもう、親の体温を恋しがるほどの幼さではない。褒められるために何かをするような幼さは持ち合わせていない。褒められたかったわけではないはずだった。ギルガメッシュに褒められたいわけではないはずだった。それでも、涙はぽろぽろと零れていった。 「ご、ごめんなさ、」 慌てて左手で拭うのだけど、どうしてだか涙は止まってくれない。よくやったなとギルガメッシュが言った。ただそれだけのことなのに、心臓はそれまでよりも更にどきどきと速く動いたし、きりきりと締め付けられるようでもあった。そうして締め付けられた心臓から何かがこみ上げてきて、涙となって零れていく。ぽろぽろと、止まることなく。 何かがひどく悲しかった。それから何かがひどく嬉しかった。それが何なのか、時臣自身でさえ分からない。 「おい、一体どうしたというのだ！」 ごしごしと目元をする左手さえ取り上げて、ギルガメッシュが怒ったように言う。目の前で赤い瞳に、うっすらと自分がうつっているのが見えた。どうしてだかそのことがよりいっそう時臣の涙を誘う。 「ごめ、なさ…、」 ひっくひっくとしゃくり上げる時臣の口からは、ろくな言葉が出ない。自分でもよく分からない感情がぐらぐらと時臣を揺さぶっているようだった。 よくやったなとギルガメッシュが言った、時臣の手をとって、その瞳に時臣をうつして。時臣にはすっかり自分が分からなくなっていた。自分は本当は、誰かに褒めてもらいたかったのだろうか。頑張ったことを知って欲しかったのだろうか。 「ええい、泣くな！目が溶けるぞ！」 そう言って、ギルガメッシュが時臣の右手を力任せに引っ張る。小さな時臣の体はぽすんと当たり前みたいにギルガメッシュの胸元におさまった。背中に回された腕は、ひんやりしていた手とは違って温かい。この人は人間なんだと、何故だかそんな当たり前のことを思う。 肉食獣でもなければ爬虫類でもないギルガメッシュは人間で、ここにいて、小さな時臣を抱きしめていた。たくさん泣いたって目が溶けるわけないでしょうと思ったけれど、もう何も言えなくなって、ギルガメッシュの腕の中で時臣はしくしくと泣き続けた。泣くなとギルガメッシュは何度も怒ったように言ったけれど、時臣が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれたから、本当は怖い人ではないのかもしれなかった。 おしまい

「他人の部屋で、目を閉じて手のひらにキスをするギル時」というお題そしてショタ臣 ■もう出会いから改めてやるしか無いと思って…転生ネタですが以前とはまた別物ですすみません＞＜ていうかこれギル＋時だね… ■もしかして今日のアニメ…とか思いつつ私はBS組なので今夜は槍陣営がクライマックスです＼(^o^)／ ■ギル時しあわせになれえええええええええ ■作中に出てくる児童書に感化されて土がついたうふふとかやってた子供は幼少期の私ですがもう内容うろ覚えだわあー

天使の手のひら

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ーードゴォッ 「………え？」 思わずポアロのイケメン店員の足元を三度見してしまった私を誰か助けて。 ＊＊＊＊＊ 突然のぶっこみすまないが、私には中学生ぐらいの頃から、人の好意が形として見える。いきなりなんだコイツ、と思われても仕方がないがこれはリアルな話なのである。 人間関係にはお互いの性格上、合う合わないの個人差があるのはもちろん皆知っているだろう。だが、その中でも他人と好みが合い、人間的な面としてその人を好きになった場合、人は好意を落とすのだ。 好意を落とす、といってもよく分からないかもしれない。説明すると、私に好意を抱いてくれている人からは、薄いプラスチックのようなもので固められた固形物を落とすのだ。もちろん私以外の人はこの固形物は見えない。それを見ることができのは、私だけなのだ。これを私は、好意と呼ぶ。うん、そのまんまだね。 例をあげるとすれば、私に友情的な意味で好意を持ってくれる人はガーベラの形をした好意を落とす。それはもう簡単に。 ーコロンッと。 逆に私に嬉しくも恋愛的な意味で好意を持ってくれている人の場合、そのままの形のハートを落とすのだ。 ーコンッと。 それらは音によってどっちの意味でこの好意を落としてくれたのかと把握できるようになるが、把握できたからといって調子にのってはいけない。 あくまでその日だけの好意だったー、なんてことは、よくあることだ。 しかし。 そのどちらの音にも当てはまらない、先程の破壊音をさせたイレギュラーな方は一体どちら様でいらっしゃるでしょうか？ 一時間前。 その日は蘭ちゃんと、園子ちゃんにつれられてオススメの喫茶店へとやってきた。部活もたまたま休みだった為、二つ返事で了承をして今に至る。 ちなみにこの二人もよく友情の好意を落としてくれる友達である。基本的に、人が落とした好意は拾わなければいけない。その友達に対して失礼でもあるし、彼女達の好意は私のために落としてくれたのだから、私が拾わなければこの好意は意味を成さないのだ。その為、私の部屋はガラス瓶に詰められた友人たちからの好意で表れている。傍から見たらただガラス瓶が大好きな女子高生、という目で見られてしまうのだが。 まあ、そんなことはさておき。気が付いたら喫茶店の前。店内の中を見るに女子高生に人気の喫茶店らしい。園子ちゃんから聞くにどうやら、イケメン店員が作るハムサンドが人気らしい。 今後の期末テスト対策のために開かれる勉強会のお供に、この喫茶店ポアロが一番良い喫茶店なのだと。良いことを聞いた。 蘭ちゃん達は常連さんらしく、入店すると同時に優しそうな美人のお姉さん店員と軽く談笑していた。 いつも座っているという席に案内してもらい、腰かけるとお冷やとおしぼりを持ってきてくれた店員さん。さっきのお姉さんかな、とお礼を言おうと顔を上げたときだった。 「ありがとうございま、」 ードゴォッ！！！ 「…………は？」 お礼も口に出来ないまま、光のような早さで私の目の前を落ちていく何か。それこそ何か。え？ダンベルでも落ちましたか？ って心配されてもおかしくないレベルで大きな音をたてて落ちたそれに、私は開いた口が塞がらなかった。 いやだって、ドゴォて。そんな音させる人初めてなんですが。え、床大丈夫ですか？穴空いてませんか？思わず店員さんの足元を覗きこんでしまうが、その床は無傷だった。ただ、一つあり得ないものが。 凄い早さで落ちていった何かも凄いと思うが、それを受け止めた床も凄い。 私と店員さんは初めましての筈なんですが、凄いフレンドリーな方なのかな？？ 店員さんの足元にシュゥウウウと湯気のような謎の煙を発生させながら、存在するそ れは。 あろうことか。 恋愛的な意味を指し示した好意の塊で。 私の目に飛び込んだのは、会って三秒もたってない店員さんの好意（恋愛）だった。 「…え、………え？」 何度も店員さんの足元と店員さんの顔を確認する。この物音に蘭ちゃん達が反応しないってことは、私だけが見れる触れるの 好意に間違いなくて。どうやら今来てくれた店員さんはあの優しそうな美人店員さんでは無かったようだ。 その代わりに、目の前に立っていたのは、 私と同じように目を丸くさせたお兄さん店員だった。 ハーフなのか、それとも純日本人なのか。 随分と失礼な疑問が脳内を通過したが、問題はそこではない。なんだこのでかい好意の塊は。初めて見たぞ、こんなにでかでかと好意を伝えてくる人は。 いやだが私にはまず確認しなければならないことが。 「あの、お兄さんと私って…どこかで会ったことありますっけ？」 一瞬、静まり返る店内に、一番先に我を取り戻した園子ちゃんがケラケラと笑った。 思わずポロリとした私の言葉に、園子ちゃんが素早く突っ込む。 「え、やだアンタまでそんなこと言うのー？安室さんも罪な男ね！」 「いやいやいや、そうじゃなくて…」 いやだってそうじゃなければ、このハートの好意はどうなるんだ！？ただの女好きってことになるよこのおにーさん！ 私の過去にこんなお兄さん存在しないし！誰ですか貴方は！！ 「いえ、僕の記憶が正しければ初めて貴女とお会いしました」 にこり、と人の良い笑みを浮かべたお兄さん。普通なら、あ、すいません、間違えました。で済むところが、貴方のばかでかい好意のせいでそんな簡単な問題では無くなりました、どうしてくれるんですか！！ え？てことは、貴方は女の人だったら誰でも好きになるタイプなんですか、そーですか。そうじゃなければ、初対面でこんな 好意（恋愛）を落としませんもんね！ 確かによく見ればこのお兄さん、金髪碧眼だし、スタイルも良いし、女の子には困ってないイメージ。そっかー、女の子大好き人間か！それなら私に対するこの好意も何日か経てば無くなるね、嬉しいね！ それなら、と自己解決した私はお兄さんにすいません、人違いでしたと伝えると、蘭ちゃん達とメニューに目を通す。 未だに私の足元には、あの店員さんが置いていった爆弾がプスプスと音を立てているけれど、気づかないふりをしてカフェオレと餡蜜を美人お姉さんに頼んだ。 「えっと、じゃあ勉強しよっか！」 「そうだね、その為に来たもんね」 頼んだ物が来るまでの間、蘭ちゃんの一言で鞄からごそごそとノートやらペンケースやらを取り出す。 が、ペンケースが開いていたらしく、その中から一つシャーペンが転がりでた。 随分と勢いをつけて転がっていったペンを慌てて拾い上げようとすると、誰かの手とぶつかってしまった。 「あっ、すいません！」 「いえ、どうぞ。テスト勉強ですか？ 頑張ってくださいね」 「ｱｯﾊｲ」 あ、と悟るより先に先程の女好き店員さんが私のペンを拾い上げる。手と手がぶつかったがそんなこと全く気にならない。 それよりも足音を立てずに近づかないで下さい。 立ち上がった私にペンを拾い上げて握らせてくるが、はっきり言って初っぱなから 好意を落としてくる貴方は私にとって危険人物です。 「何か分からないことがあれば言ってください。僕でよければ、教えますよ？」 「今のところ…大丈夫です」 そうですか、と先程と同じように店員さんは笑うと、一つ会釈をして彼を呼ぶ客の方へと向かっていった。 なんなんだ、あの人は。何がしたいのか、 全く分からない。 席へと戻ろうと振り返ればそこにはまだ彼の好意がある。……まじでどうやって持って帰ればいいんだ？？試しにカツ…と靴の先で軽く叩いてみるが、動く気配はない。それどころか私の足に衝撃が跳ね返ってきた。 こ、これは大仕事なりまっせ〜！（汗） その後、頼んでいた餡蜜が届き勉強は一時休憩。蘭ちゃんも園子ちゃんもおいしそうにサンドイッチを頬張っている。 餡蜜ももちろん美味しくて、また来てもいいかな、とは思ったがあの謎の店員さんも居るので暫くは遠慮したいところである。 そう思いながら餡蜜を食べていると、目の前で園子ちゃんが「あ」と声を漏らす。 「そういえば、アンタさー安室さんのこと ぶっちゃけどうなのよ？」 「んぐっ！？……ど、どーゆーことかな」 「ちょ、ちょっと園子！すぐそんな話ばかりするんだから！！」 にしし、とヒトの悪い顔を浮かべた園子ちゃんはぐっと身体を乗り上げると、聞こえるか聞こえないくらいの声で囁いた。 「安室さんのこと！惚れた？？」 「そっ、んなわけないでしょ！やめてってば！ホントに人違い！」 「ま、直に分かるかしらね〜」 だって、言えるわけないじゃない！！人の好意が形として見えるなんて！頭のおかしい人だと思われて終わりだよ！ 園子ちゃんは興が削がれたとでも言うように、ドカッと椅子へと腰を下ろすとサンドイッチを豪快に口に放り込んだ。 本当に園子ちゃんは令嬢なのだろうか。 まあ、よくテレビでも見るし、本当にお嬢様なんだろう。たまに出るこうした行動は少しおじさんっぽいが。 「…じゃ！そろそろ解散しますか！私と蘭はもう少し此処に居るけど、アンタはここから遠いもんね」 「うん！じゃあ、今日はありがとね！ また明日、学校でね！！」 席を立ち、手を降る蘭ちゃん達にお礼を言い、会計へと向かう。あ、もちろんあの店員さんの好意は鞄に詰め込んだよ？まじで重労働過ぎた…。 重くなった鞄を持ち直し、会計を頼めば 出てきたのは金髪碧眼の店員さん。 個人的にはあの美人店員さんが良かったけど、まあ暫くは会わないだろうしまぁいっか。 「お会計660円になります」 「1000円でお願いします」 「はい、340円のお返しです」 差し出された小銭と共にレシートを取ろうとすると、すかさずぎゅっと手を目の前の店員さんに握られる。えっ、なになになになにこわいこわい。手を引こうとするがびくともしない。え、ホントに怖いんだけど。意外にこの人筋肉あるんですね、どうでもいい情報ありがとうございます。 …じゃなくてっ！！！ 「……あの、」 「あ、すいません。是非また、入らしてくださいね」 「は、はぁ…？」 店員さんの笑みにつられるように、私もへらり、と薄っぺらい笑みを浮かべると、 ーバキバキバキッ！！！！ 「いやなんでやねん」 「はい？」 「ｱｯ、何でもないです、忘れてください」 いや、今の音は確実に床を突き破った音がしたけど、もう君の好意は持ち帰れないよ？？ノーカンで良いよね、良いですよね 許してください。思わず突っ込んじゃったけど、しょうがないよね。だって、何で今のタイミングなの？ なにもしてませんよ、私。それに音がしたのはカウンターの向こう側。取りにも行けないし、そもそももう鞄には入らない。 そんなもの問答無用でノーカンだ。許せ。 そろーり…と店員さんの手から自分の手を抜き取ると、なるべくばれないように早足で店を出た。 忍者並みの早さで家へとついた私は、すぐに部屋に戻ってベットの上に学生鞄を放る。それなりに跳ねたが、無事に着陸した鞄の中を開けると、やはり夢なんかではない。いる。確実にいる。 ベットへと落とされた大きな装飾の施されたハートの好意は、どうみても先程の店員から落とされたものだった。 ついでに制服のポケットをまさぐって出てきたのは、蘭ちゃんと、園子ちゃんの可愛い友情を示すガーベラの形をした好意。 此方の方があの店員よりのも何倍も小さくて可愛い。 ガラス瓶に蘭ちゃんと園子ちゃんの好意をコロコロといれると、残るのは彼の重い愛だけ。 仕方なく、申し訳ないが部屋の隅に置かせてもらい、しばらくは彼に出会わないことを祈った。 ー数週間後。 ーベキョベキョベキョッ！！！ 「……え？」 音のした方を振り返れば、其処には久し振りの女好き店員さん。おかしいな、ここはコンクリートの筈なのにな……？なんで彼の愛でコンクリートが凹むんだろうな？？ しかし、彼と目が合ってしまった以上、今更Uターンして帰るのは余りにも失礼すぎる。しょうがない、またへらりと彼に向けて笑う。 「…ひ、久し振りですね。ポアロの店員さん」 しかし、その後彼がとった行動は私の予想を遥かに裏切った。 ぷるぷると身体を震わせたかと思うと、 鞄を持っていた私の両手をガッと掴むと、 目尻に涙を溜めていた。 え、なんか想像と違うんですけど。 え！？そんなに久し振りだったっけ？？！ 「久し振り、じゃないですよ！！！僕、 ずっと貴女が来るの待ってたんですけど！！！全然来てくれないじゃないですか！！」 「…え？え！？なに、なんの話、」 「とぼけないで下さい！！」 「ご、ごめんなさい……？」 おい、なんで私が謝らないといけないんだ。この店員さん人格変わりすぎじゃない？？一応、此処公衆の目があるんですけど。成人男性が女子高生に言い寄る図は相当ヤバイと思いますが。そこらへんはどうお思いでしょう？ キッ、と涙を溜めた目と目が合うが、私にどうしろと。 「あ、あー…じゃあ、これからは二週間に一回ぐらいの割合で行きます…？」 「だめです、週一にして下さい！！」 週一にすると言ってくれなきゃこの手は 放しませんから！！そう言う成人男性。 お願いだから一つ言わせてくれ。 どうしてこうなったんだ！？！？！？！？ 好意が形として見える女子高生 ガチで安室さんのことは、覚えてもないし会ったこともない人だと思っている。 これから週一で彼の重い愛を持ち帰らなきゃいけないとは思ってもなかった。 重労働過ぎて、たまにポアロに行くのをさぼろうとするが、何故かそう言うときに限って安室さんとばったり会ってしまう可哀想な女子高生。そろそろ部屋に穴が空きそうで怖い（安室さんの好意のせいで） 受け取り手募集してます。 これからも頑張ってくれ。 女子高生のことが好きすぎる安室さん 過去に（降谷零として）女子高生に助けてもらってから、顔も忘れず女子高生にあう今の今まで片想いをしていた。 またポアロに来てほしくて頑張ってアピールをするが、その後数週間も来てくれなくて、SAN値がピンチになる。 毎回毎回、自分の重い愛で道を壊してるとは思ってない。たまにへこんでんなー、くらいにしか認識しない。自分のせいだぞ、気づいて安室さん！ 女子高生とは普通にお付き合いしたい。 （意味深）

相手の好意が形として見えてしまう女子高生のお話。<br /><br />しかし、女子高生は彼の愛を飲み込むことが出来ない。<br /><br />何故なら、彼の愛は重すぎるから。<br /><br />だから誰か、彼の愛をもらってくれませんか？？（切実）<br /><br />ーーーーー<br /><br />完全なネタです。ご注意下さい。<br /><br />皆さんが思うような、かっこよくて素敵な安室さんは居ません。<br /><br />女子高生にぐいぐい攻めてます。<br /><br />ー追記ー<br /><br />デイリーランキング20位！<br />女子に人気ランキング19位！！<br /><br />ありがとうございます！！<br />これからもばんばん投稿していけたらなと思います！！！

彼から貰った愛をどこにやればいいか分からない

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絶望に青ざめる少女。たじろぐ多くの女性に囲まれる私、そしてマスター君。 「ふむ、どうやら上手くいった様だね」 悪党の啖呵を切った登場は、お約束として。ここからはヒーローの反撃の時間だ。 「無駄な抵抗は止めたまえよ。生身の人間ではサーヴァントに敵わない事などわかっているだろう？」 語気を鋭くした放った言葉に、取り囲む女性陣は青ざめて膝から崩れ落ちる。 「くっ・・・・」 目の前の少女も、苦虫を噛み潰すように顔を歪めて肩の力を抜く。抵抗を止めたその姿に、後ろにいたマスター君が一歩前に出た。 「先ずは男性職員達を救出しよう。マシュ、場所を教えてくれ」 「・・・・わかりました」 マスター君の問い掛けに素直に頷いた彼女。戦意は微塵も感じられないが、油断は出来ない。警戒をしながらも、案内をされるがままに私達は彼女の後ろを付いて歩いた。 ─────────────────── 彼女の案内で通された部屋。そこには、阿保面を下げた一人の男が立っていた。 「おお、マシュ！ようやく終わったの、か・・・・」 醜く歪めた顔が、絶望へと染まっていく。これほどの馬鹿でも、私の姿を見れば察することぐらいは出来るらしい。 「やあ、初めましてだよネ？」 極めて冷静に、私は挨拶をする。それだと言うのに、目の前の馬鹿は取り乱した。 「モリアーティ！？何故だ！お前は座に還った筈じゃあ！」 汚らわしくも唾を撒き散らしながら、醜くも叫んでいる。この馬鹿は品性にも欠けるのか。 「再召喚したんです。この触媒を使って」 目の前の馬鹿はマスター君の取り出した本を見て、今度は青ざめる。四面楚歌にも程があるが、悪い意味でも見ていて飽きはしないね。 「う、嘘だろ、そんな真似が・・・・はっ、な、何してるんだ、マシュ！早くそいつを倒すんだ！」 力なく項垂れている彼女に、馬鹿は怒号を飛ばす。当然だが、彼女は動こうともしない。 「デミサーヴァントとしての力を失ってるマシュに出来るわけないだろ」 少し怒気を込めた声音で、マスター君が答える。ダラダラと醜く汗を流す馬鹿は、懐から通信機を取り出した。 「な、ならダヴィンチちゃんを呼んで」 「残念、彼女ならこの通り拘束させて貰っているよ」 突如として割り込んできた声に視線を向けると、ダヴィンチを壁に押さえつけながら引きずって歩くホームズの姿があった。 「うぅ・・・・」 消滅してしまわない程度に傷を負わせ、抵抗が出来ないように押さえつけている。 「ホームズ、そんな物をマスター君に見せるな」 仮にも、共に特異点を駆け抜けてきた彼女のそんな様などマスター君に見せてどうする。 「モリアーティ、大丈夫だから」 力強い目を向けて、マスター君が呼び止める。それよりも、今は他にやるべき事があるだろと訴えてくる瞳に視線を馬鹿に戻す。 「クソッ！役立たず共が！！」 通信機を床に投げつけ、馬鹿が醜く叫ぶ。これが、追い詰められた悪党の最後かと思うと何故だか私が情けなくなってしまう。 「何だよ！俺を殺すつもりか！？人類を救った英雄様が、人殺しをするつもりなのか！？」 開き直ったように、目の前の馬鹿は叫んだ。ああ、やはり駄目だな。怒りを抑えられそうにない。 「勘違いをしている様だが、手を下すのは私だよ。そして、貴様が人間なんて高尚な物なわけないだろう」 「ひぃぃぃ！！」 銃口を額に添えるだけで、目の前の馬鹿は腰を抜かす。涙を溢れさせ、無様にも小便まで撒き散らしている。 「貴様が何と交尾しようが知ったことじゃあないが、マスター君を巻き込み、泣かせ、苦しませた事実を、私は許さない」 こんな計画性のない殺しなど、私らしくもないが。そんな事など関係がなくなるほどに、頭に血が昇っている。引き金を引くために指が疼く。 「ご、ごめんなさい！ごめんなさいぃ！！」 体液を撒き散らしながら、歯を鳴らしながら懇願してくる。 「遅すぎる。遅すぎたよ。戯れ言は冥府で好きなだけ吐いてくれたまえ」 今さら止める筈がない。引き金に力を込めようとした瞬間。 「モリアーティ！！」 制止するように、マスター君が声を上げた。 「・・・・何かな？」 目の前の馬鹿から視線を外さずに問いかけると、ゆっくりとマスター君は近付いてくる。 「そんな事しなくていいよ」 「まさか、許すつもりなのかい」 そんな事が出来るのかと、初めて視線を向ける。そこで、私の指は引き金から溢れた。 「違うよ・・・・」 目の前に立ったマスター君は、泣いていた。一筋の涙を流して、私を見上げている。 「こんな奴の血で、モリアーティの手を汚したくないんだ」 そう言って、手を握られる。汚れきっている私の手を、躊躇わずに握る。 「・・・・そう言われては、仕方がないネ」 振り払うことなど出来る筈もなく、泡を吹いている馬鹿から銃口を反らす。 「取りあえずは、拘束して先に男性職員達の救出をしよう」 そう言ったマスター君に頷いて、手近なコードで馬鹿を縛り付ける。そして虚ろな瞳で虚空を見ていたマシュ君に案内を再開させ、男性職員達の救出を行った。 「藤丸君！！無事だったんだな！」 「良かった！本当に、良かった！」 スタッフルームの一室に閉じ込められていた彼らは一斉にマスター君の元へ駆け寄り言葉を駆ける。 「ごめん、本当にごめんな！？俺達がしっかりしていれば、こんな事にならなかったのに・・・・」 「もう、終わった事です。気にしないでください」 涙を流して謝る彼らに、マスター君は苦笑混じりに答える。どこか感動的な雰囲気が流れる中で、一つの影が消えている事に気付く。 「マシュ君の姿がない！？」 戦意はとうに失せていた筈が、ここにきて彼女は姿を消していた。 「ふむ、騒ぎに紛れて逃げたか」 「言ってる場合か、ホームズ！」 「は、早く探さないと！！」 最後の悪足掻きに何をしでかすかわからない。急いで、捜索を開始した。 ─────────────────── 姿を消したマシュを探し始めて数分。意外にも、あっさりと見つけることが出来た。通路に置かれたベンチ。それに、マシュは腰かけていた。 「マシュ！」 少し離れた場所から声を掛ける。俯いていたマシュは、ゆらり、と顔を上げた。 「・・・・先輩」 力なく声を出したマシュ。その手には一本のナイフが握られていた。 「な、何を手に持っているの！？早くそれを離して！」 嫌な予感に叫ぶ。しかし、マシュは頭を振った。 「ダメです・・・・」 震える手で、ナイフを自身の首に向ける。 「ごめんなさい、先輩・・・・私、気付いてなかったです。先輩がどれだけ辛かったのか、悲しかったのか」 瞳から、止めどなく涙が溢れている。荒い呼吸が、廊下に響く。 「大好きだった筈なのに、先輩のこと何もわかってませんでした・・・・」 首にナイフが当てられる。後は、力を込めて引くだけ。それだけで、鮮血と共にマシュの命が散る。 「ごめんなさい、先輩・・・・さようなら」 目を閉じて、マシュはナイフを引いた。流れ出る真っ赤な血液。しかし、それは俺の血だった。 「な、なんで・・・・」 ナイフを掴んでいる俺に、マシュは困惑した瞳を向ける。力の抜けた手が、ナイフを離してしまい床に音を立てて落ちた。 「ダメだよ、マシュ。それだけはしちゃいけないんだ」 手の痛みを堪えて、笑い掛ける。脂汗が滲むなかで、必死に強がってみせる。 「ドクターが見たら何て言うんだよ、こんなの」 「先輩・・・・」 マシュがまた、涙を流す。そんなマシュの体を、俺は抱き締めた。 「ごめんね、マシュの気持ちに気付けなくて。俺だって、マシュの事は好きだったよ」 「え・・・・」 動揺する声が、耳元で聞こえた。気持ちに整理を付けるように、俺は言葉を続ける。 「ただ、死にもの狂いで戦ってきたから。この気持ちに気付けなかったんだ」 思えば、一目惚れって奴だと思う。マシュの手を握ったあの日から。それでも、そんな気持ちに気付く余裕はなかったけど。 「マシュ、俺は君が好きだよ」 今さらだけど、俺は気持ちを言葉にする。気付くのも、伝えるのも遅すぎて、何もかもが取り返しもつかなくなってしまったけど。 「先輩・・・・」 マシュが、俺の体を抱き締め返してきた。離さないで、と縋るように力を込めて。 「言うのが遅くなり過ぎてごめんね？」 「っ、ダメです！謝るのは、私なんです！ごめんなさい、先輩！ごめんなさい・・・・」 子供の様に声を上げて、マシュは泣き続ける。その体を、俺はそっと離した。 「・・・・ごめん、マシュ。いくら謝られても、俺はマシュを許せない」 どんな理由があっても、どれだけすれ違いがあったとしても。ドクターの想いを踏みにじって、一時の快楽に溺れて、全てを裏切ったマシュを、俺は許せない。 「え・・・・」 マシュの表情が青ざめる。涙を流す瞳で、捨てられた子犬のように、縋るように俺を見つめてくる。 「だけど、やっぱり俺はマシュが好きだから」 これだけの事をされても、それは変わらなかったから。今さら、マシュを罰することも、追放することも出来ない。俺は、マシュに対して冷酷には成りきれない。だから。 「だから、やり直そう。最初から、全て、何もかも」 俺がそう言い終えると、胸元が光輝く。 「そ、それは・・・・」 唖然とするマシュの目の前で、それを。光輝いている聖杯を、取り出す。 「願望機、なんて名前なんだからきっと叶えてくれるよね」 空中に浮かび上がる聖杯。段々と強くなっていく輝きが、願望の実現を秒読みしている。 「マシュ、今度は友達になろう。お互いを支え合うような、親友になろう」 聖杯に願うのは、やり直し。全てを始めから。出会ったあの日から。激動の一年の始まりの日から。 「ここまでしてくれたのに、こんな結末でごめんね？」 最後まで、こんな俺を助けてくれた二人に笑い掛ける。唖然と見ていた二人が、やがて微笑んだ。 「・・・・いいさ、この物語の主人公は君だからネ」 「流石の私でも推理しきれなかった。中々に楽しませて貰ったよ」 聖杯の輝きが、白く視界を塗り潰していく。上手く願いが叶えられるのか。神様にだってわからないだろうけど。まあ、きっと大丈夫。 「みんな、また会おう」 きっとまた、絶対に。そして、今度はみんなで、最後まで。俺なら、やれる。君なら、やれる。俺から、君へ。頼んだよ。 ─────────────────── 「────先輩！起きて下さい、先輩！」 長い微睡み。回らない頭。それでも瞳を開けると、覗き込む顔が一つ。 「・・・・マシュ？」 ぼんやりとした思考で、名前を呟く。 「はい！マシュ・キリエライトです！そろそろ起きて下さい！」 促されるままに上体を起こす。 「・・・・」 「どうかされたんですか？」 ぼんやりとしていた私に、マシュが心配そうに声をかけてきた。 「なんだろう・・・・すっごく長い夢を見てた気がするんだけど」 そして、何かを頼まれたような、そんな気がしたんだけど。 「どんな夢だったんですか？」 「・・・・覚えてないや」 何を頼まれたか、思い出せないけど。たぶん、大丈夫だよ。なんでかわからないけど、私はそう確信していた。 「・・・・では行きましょうか、先輩」 身だしなみを整え終えた私はマシュと一緒に廊下を歩く。今日は、初めてカルデアの召喚システムを使うことになっている。 「どんな英霊が来るかな？」 召喚ルーム。床に書かれた魔方陣を前に、私とマシュは立っている。 「過度な期待をしてはダメですよ、先輩。サーヴァントが召喚されるとは限らないんです」 ただの魔術礼装が出ることもあるとマシュは言う。 「だけど、最初の召喚なんだよ？きっと、私と縁がある人が来てくれるよ！」 そう言いながら、聖晶石を三つ投げる。三つの石が輝きながら円を描き、そして三つに別れた。 「こ、この光は！」 マシュが反応をしめす。何がなにやらわからない私も、期待に胸が膨らむ。輝く三つの輪が収束すると、視界が光で塗り潰された。 「何、眩しい・・・・」 堪らず目を瞑った私が、数秒して開けてみると、そこには一人の老紳士が立っていた。 「ははははは！！私を召喚するとは、また奇特なマスターもいたものだネ！我がクラスはアーチャー、真名は今のところ伏せさせてもらうとするか・・・・」 声高らかに笑った彼が、私の顔を見て止まる。視線が重なり合う中で感じる、強烈な既視感。初めて見る筈の彼が、とても初対面とは思えなかった。困惑している私の前で、彼はまた笑う。 「ふははははは！！面白い、実に面白いヨ！安心したまえマスター君！私は強いとも！それだけは保証してあげよう！」 どこまでも愉快そうに、彼は笑い続ける。これから、人類史を救う為に力を借りる英霊。それも記念すべき初めての英霊が真名も明かさない不審な老紳士だと言うのに。何故か私は、彼がとても頼もしく見えた。

最終回です。<br />ここまで駄文に付き合って下さってありがとうございました。<br />誤字脱字は報告して下さい。

彼から彼女へ。

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まえがき どうも、ナマケモノでございます。 いやぁ......100作目ですよ100作目！まさかこんなに生み出すことになろうとは......思ってもみませんでした！ はじめた頃は......ね？ ぶっちゃけ誰にも読まれずに1、2話出して終わるもんだと思ってました。いや、マジで。書いた事なんてなかったしね。 それでも......たくさんの読者様に励まされて、これまで続けてこれました。本当にいつもありがとうございます！ てなわけで、やります！ ご満足いただけるかわかりませんが......ご賞味ください。 参考までに、時系列としては奮闘記の√卯月の途中です。まあ、書き方は全く別物ですが（笑） ではナマケモノ劇場のはじまりはじまり〜♪ [newpage] episode1 橘ありすのとある日常 アイドル。 今では珍しくない単語です。地下アイドルやご当地アイドル。スクールアイドルなど......検索すればいくらでもヒットする単語。それほどまでに......アイドルの注目度は高いです。かくいう私、橘ありすもアイドルです。先に言った3種類ではなく、本物の......プロのアイドル。所属は346プロダクションのProject Krone。お兄さんがプロデューサーをしている部署です。 私以外は皆さん高校生以上。1人だけ中学生で子供です。ですが、お兄さんはそんな私の事を......1人の女性として、メンバーの1人として扱ってくれます。時々怖いですが......普段はとても優しくて、頼りになります。アホ毛がぴょこんと可愛くて、と、とても格好いいお兄さんです！ そんなお兄さんですから、当然恋人もいます。CPにいる、笑顔がとても素敵な島村卯月さん。私の......2人目のお姉さんです。1人目は文香さんです。それは譲れません。 お兄さんは、卯月さんとお付き合いをはじめてからも、私の事をよく撫でてくれます。本当に気持ちいいんですよ......稀に卯月さんが嫉妬して唸っていますが、すぐに気づいて一緒に撫でられています。あの時の卯月さん......とても幸せそうです。見ていてとても幸せな気分になりますが、同時に......なんと言えばいいのでしょう？ こう......キュッと、胸が締め付けられる様な感覚になります。......変な病気でなければいいのですが。 「......さん。橘さん！」 「え？ はい、なんでしょう？」 いけません。今はまだ学校で、お昼休みでした。学友との付き合いも大事にしろと、お兄さんに言われてますから......しっかりしないと！ 「これ......渡してくれって頼まれたんだ」 「......手紙......ですか？」 ......なんでしょう？ 人に頼んで渡すなんて......失礼な人ですね。 「うん！ 3年のサッカー部の部長さんからだよ！」 「......そうですか。わざわざありがとうございます」 とりあえず読んでみましょう。こう書かれています。『話したいことがある。放課後、校舎裏の大きな木の下で待っています』と。......ますます失礼です。話したいことがあるのなら、自分から来るべきでしょう。まったく......私を呼び出していいのは、お兄さんだけです！ 「......ね、ねえ。なんて書いてあったの？」 「放課後、校舎裏にある木の下に来てだそうです」 「「「「きゃーーーーーーー！！」」」」 う、うるさいです！ 「行くの！ 橘さん行くの⁉︎」 「......一応は行きます。行かずに待たせてしまっては申し訳ありませんから」 「アレだよ！ 絶対アレだよ！」 ......アレとはなんでしょう？ まあ......行けばわかりますね。あ、でも今日はお兄さんが迎えに来ると言っていました。......どうしましょう？ 仕方ありません。連絡して少し待ってもらいましょう。 「ね、橘さんて好きな人っているの？」 「好きな人......ですか？」 「うん！ 好きな人！」 「そうですね......お兄さんの事は大好きです」 「......え？」 ......なぜ引かれたのでしょう？ あ、そういう事ですか。 「実の兄ではないです。兄の様な存在ですよ。私たちのプロデューサーです」 「そ、そういう事かぁ......ビックリしたぁ......」 やはり勘違いしていた様です。 「ね、その人ってカッコいい？」 「えっ？ はい、その......かなり」 「先輩とどっちがカッコいい⁉︎」 す、すごい圧です！ 「......すみません。その先輩を知らないのでなんとも......」 「あー......そっか......じゃあさ、そのお兄さんの写真ある？」 「ありますが......」 「見せて！！」 す、少し離れてください！ それと落ち着いて下さい！ 「わ、わかりました............どうぞ」 タブレットに保存されているお兄さんとのツーショット写真。私の宝物です！ 「「「「きゃーーーーーーーーー！！！！」」」」 み、耳が...... 「うそっ！ すっごいイケメン！」 「メガネが似合ってる！」 当然です！ なにせ私たちの自慢のプロデューサーですから！ 「ね、橘さん！ この人何才？」 「......確か19歳です。今年大学2年生と言っていたので」 ......言ってよかったのでしょうか？ 「大学生と禁断の......」 「コレは先輩勝ち目ないね......」 禁断？ 何を言ってるのでしょう？ よくわかりません。まあ、それはともかく。 「......授業始まりますよ。席に戻ってください」 「はーい」と言いながら席に着く皆さん。はいは伸ばさずに言ってください！ 放課後になり、帰り支度を済ませて......あ、お兄さんに連絡しておかないとですね。 『すみません。少しだけ遅くなります』 これでよしです。......返信が来ません。むむむ......あ！ きました！ 内容は......『了解』の一言。お兄さんらしいです。さて、あまり待たせては悪いですね。すぐに終わらせて行きましょう。 校舎裏の大きな木......アレですね。誰か......います。あの人でしょうか？ 歩いて近づくと......こちらを振り向き、笑顔を向けてくれます。 「......橘さん、来てくれてありがとう」 「ご用件はなんでしょう？ プロデューサーが待っているので、手短にお願いします」 ......少し高圧的だったでしょうか？ 「......あ、うん。その......君が好きだ！ 俺と付き合ってくれ！」 え？ 付き合う？ も、もしかして......告白ですか⁉︎ ど、どうしましょう！ 初めてです！ ですが...... 「......すみません。あなたとお付き合いする事はできません」 無理です。お気持ちは嬉しいですが、私はお兄さんの様な男性でなければ、お付き合いできません！ 「......そうか......聞いていいかな？」 「なんでしょう？」 早くしてください！ お兄さんが待っているんです！ 「......どんな人がタイプなんだ？」 タイプですか......そうですね...... 「......7歳年上で、目付きが鋭くて......」 「......え？」 「学業も優秀で頭の回転も早く、普段はだらしないけど、いざという時は頼りになる。髪はアホ毛があって、頭を撫でるのが上手な方がタイプです」 「や、やけにピンポイントだね」 い、言われてみればそうですね。 「......実在しますから」 「......もしかして......彼氏？」 「いえ、おに......プロデューサーには素敵な彼女さんがいます」 危うくまた勘違いされるところでした...... 「......橘さんも......その人が好きなんだろ？」 「はい。大好きです」 当たり前です！ お兄さんの事が嫌いなメンバーはいません！ 「いや、俺が言ってるのは......likeじゃなくてloveって意味なんだけど......」 「......え？」 ......待ってください。私がお兄さんを......好き？ たしかに好きです。でもそれは......尊敬する人として？ それとも、1人の男性と......あうっ......き、気づいてしまいました......いつのまにか......お兄さんを1人の男性として......あ......あぁ......恥ずかしいです！ ど、どうしましょう！ こ、これでは顔が見られません......あぁぁぁぁ...... 「だ、大丈夫？」 「......ふぇ？」 なぜ顔を赤くしているのでしょう？ そ、そんなことよりです！ どうしたらいいんですかあああ！ こんな時は卯月さんに相談を......できるわけないじゃないですか！ では文香さんに......ダメです。こ、こうなったら......惚けましょう。いつも通り......いつも通り名前で呼ばれて......はうっ！ あうあう...... 「た、橘さん？」 「......だ、大丈夫れしゅ。しゅみません。お応えできにゃくて......で、では、お仕事がありゅのでしちゅれいしましゅ」 「......あ、うん」 は、早く行かないと！ かなり待てせてしまいました！ 走りましょう！ 「......た......橘さんマジかわいいいいいいいい！！」 門を出ると......あ、ありました。いつもの車です！ い、いつもは後ろに乗るのですが......ま、前に乗ってみましょう。 ......驚いていますね。それでも......すぐにいつもの優しい顔で『お疲れさん』と言って撫でてくれます。......気持ちいいです。 今回のことで......自分の気持ちに気付いてはしまいましたが、それでもお兄さんはお兄さんです。大好きな卯月さんの恋人で、私たちの自慢のプロデューサー。そして......大好きなお兄ちゃん。 ......お兄さん......いえ、八幡さん。いつか......あなたの様な王子様が......私にも見つかりますか？ それまで......私のお兄さんでいてくださいね？ おしまい [newpage] episodes2 小日向美穂の興味 今日は......PCSの3人で初めてのお泊り会！ 会場は卯月ちゃんのお家で、ご実家だから申し訳ない気持ちもあったけど......お母様は歓迎してくれました！ とっても優しいお母様で......少しだけ......わたしもお母さんに会いたくなっちゃた。優しくて、おしゃべり好きで、愉快なお母様。卯月ちゃんのお母様ってすぐに納得できちゃう！ お夕飯も美味しくて......美味しくて......お父様が食べてた辛子蓮根食べたかったなぁ......はっ！ ダメよ美穂！ そんな図々しい事考えちゃダメ！ あぁ......辛子蓮根......って！ ちがうのっ！ 違わないけど！ あぅぅ...... 「美穂ちゃん大丈夫ですか？」 「えっ？ あ、うん。大丈夫だよ！」 顔に出てたみたい......卯月ちゃんに心配させちゃった...... 「......そんなに辛子蓮根食べたかったんですか？」 「ふぇっ⁉︎ ち、違うよ？」 「そうだったんですね！ 私、ママに言ってもらってきます！」 ま、待ってええええ......行っちゃった......うぅ......声を出す間も無く行っちゃうなんて...... 「ずっと見てましたよ？」 「うぅ......恥ずかしい......」 「今度......作りましょうか？」 嬉しい！ でも......ここは先輩として、しっかり断らなきゃ！ 作ってもらうだけじゃ申し訳ないし！ 「うん！ お願い！」 ......あれ？ ま、間違えちゃったああああ！ つ、つい願望が...... 「任せてください！」 「何のおはなしですか？」 あ、卯月ちゃん......持っているトレーには3人分の紅茶とクッキーと......辛子蓮根！ あぁ......美味しそう...... 「あ、今度美穂ちゃんに辛子蓮根を作ってあげるんです！」 「わぁ！ 響子ちゃんすごいです！ わ、私もお料理のお勉強しないと......」 しょんぼりする卯月ちゃん。か......可愛い......「うぅ......」と言いながら紅茶を飲む卯月ちゃん。......本当に最近可愛くなったなぁ......あの人とお付き合いしてから本当に。卯月ちゃんの左手の薬指には輝く指輪。 「いいなぁ......」 「......え？」 「何がですか？」 え？ もしかして声に出てた⁉︎ 「......その指輪......憧れちゃうなぁ......」 「あのっ！ その......えへへぇ......」 左手の指輪を右手で大事そうにさすって......幸せそうな顔の卯月ちゃん。本当に羨ましい。 「その......」 「......はい？ なんでしょう？」 「......その......えっと......も、もうえっちはしたんですか？」 「......へ？」 ちょっと響子ちゃん！ なんて事聞いてるの！ 失礼でしょ！ そんな事聞いちゃいけません！ 「卯月ちゃんしたのっ⁉︎」 ......口が勝手にいいいい！ 待って......落ち着いて美穂。まだ挽回はできるはず！ 「その......しちゃいました......」 ......言われちゃったぁ！ あぅぅ......これじゃはしたない子みたい...... 「その......どう......だったんですか？ やっぱり初めては痛いんですか？」 響子ちゃん聞きすぎ！ もうちょっと控えて！ あうぅ......恥ずかしい...... 「......はい。とっても痛かったです」 「や、やっぱりそうなんですね......」 うぅぅ......なんでこんな会話に...... 「でも......とっても優しくしてくれて......痛みが引くまで待っててくれたんです」 「えっと......その間は？」 「......恥ずかしいですぅ」 そ、そんなに恥ずかしい事されたの⁉︎ 「い、一体何を......」 「ふぇっ⁉︎ 言うんですか⁉︎」 また願望がぁ......わたしのお口のチャック！ ちゃんとお仕事して！ 「お、教えてください！」 「......その......胸を......」 ゴクリ......む、胸を？ 「......揉まれて......す、吸われてました！」 も、もま......すわ......え？ ずっと？ 「......見られながら？」 「......はい。まだ明るかったので......」 昼間からしてたの⁉︎ 「......ど、どんな風に？」 わたしの口いいいいい！ 「え、えっと......その......あのぉ......」 き、緊張しちゃう！ 「......ど、どちらか手伝ってください！」 「「......ええええええええええええ⁉︎」」 「言葉じゃ言い表せないんですぅ......」 て、手伝うって......響子ちゃんは......見ないで！ お願いしますって視線を送らないで！ あぁ...... 「......う、うん。わたしでよければ......」 「うぅ......すみません......」 ......ゴクリ。どんな事されちゃうんだろ...... 「あの......寝転がってもらえますか？」 「う、うん」 卯月ちゃんの指示通り仰向けになって...... 「その......次は足を......開いてください」 「こ、こう？」 「いえ......その......失礼します！」 ガバッと広げられて......ええええええええ⁉︎ こ、こんな......恥ずかしい！ 見えちゃう！ 今は見えないけど！ って！ 何考えてるのわたしっ！ 「わぁ......」 「し、失礼しますね？」 もぞもぞと卯月ちゃんがわたしの足の間に来て......その......ぴったりと...... 「......触ってもいいですか？」 「......え？」 「その......胸です！」 ......えええええええええええ⁉︎ それしないといけないの⁉︎ でも......仕方ない。 「う、うん。いいよ」 「で、では......島村卯月っ！ 再現できるように頑張りますっ！」 卯月ちゃんの手が......手が！ 「んっ......」 やだ......人に触られるのって...... 「こう......優しく......」 あぁぁ......気持ちいい...... 「あっ......」 声が勝手に...... 「はわわわ......」 「優しく......急に！」 「ひゃうっ！」 待って！ 今のすごい！ 「はわ......わぁ......」 「......ずっと......美穂ちゃん可愛いです」 「え？ えええ⁉︎」 「脱がせちゃいますね？」 「ま、待って！」 え？ 手が動かない⁉︎ どうして⁉︎ 響子ちゃああああん！ 「なんで手抑えてるの⁉︎」 「その......つい？」 「......美穂ちゃん綺麗です」 いつのまにかパジャマのボタン全部外されてる⁉︎ 「......続けますね？」 「ま、待って！ だっ！ ひゃうっ！」 だ、ダメ......女の子同士でこんな事......ああっ！ 「......コレも......外しちゃいましょう」 「......そうですね」 待って！ 待ってえ！ あうっ！ 外されちゃったぁ...... 「......じゃあ......いきますね？」 「......え？......！！！！！！」 な、なにこれ！ すごい......やだ......こんなの......ダメえええええええええ！ 「はぁ...はぁ...はぁ......」 「......こんな感じですっ！」 「わぁぁ......」 ......お、終わったの？ あれ？ 途中から記憶が...... 「こ、このあと......最後までしたんですか？」 「えと......はい」 まだ続きがあるの⁉︎ 「......どうでした？」 「......飛んじゃいました」 「......え？」 飛んじゃった⁉︎ え？ どう言う事？ 「その......気持ち良すぎて......その......たくさんイっちゃいました......」 「ふぇぇぇ......」 いくって......さっきみたいなやつの事⁉︎ 「えっちなこともたくさん言っちゃって......」 「えええ⁉︎」 ど、どんなこと⁉︎ 「2、3日の間ずっと入ってる感覚があって......」 えええ⁉︎ 「......欲しくなっちゃって......」 今えっちな事言ってますっ！ 「はわわ......」 「......1人でしちゃって......」 「う、卯月ちゃん......ちょっと......待って......」 「......ふぇ？」 「......パジャマ......着させて？」 私まだ脱がされたままなんです...... 「......ご、ごめんなさい！ お手伝いします！」 「だ、大丈夫！ んっ！ だから......あっ......ね？」 「......はい」 やだよぉ......少し触られただけで...... これで大丈夫！ ......ちょっとショーツが気持ち悪いけど......さすがに言えないよぉ...... でも......すごく気持ちよかったなぁ......今度自分で......はっ！ ダメよ美穂！ えっちなのはダメ！ でも少しくらいなら......あれ？ 「......響子ちゃん.....どうかしたの？」 ずっと足を擦り合わせて......真っ赤な顔で...... 「ひえっ！ なんでもにゃいです！」 「本当に大丈夫ですか？ 顔真っ赤ですけど......」 「だ、大丈夫です！ 少し驚いただけですから......」 でも......本当に驚いたなぁ......わたしもいつかこういう時が来るのかな？ どうせだったらあの人に......でも、あの人は卯月ちゃんの未来の旦那様。......いいなぁ......わたしも......八幡さんみたいな人が見つかればいいなっ！ おしまい [newpage] おまけ あべななの驚愕 今日は......カフェで仕事をしよう。......つーかあいつらがうるさくて、仕事が手に付かん。 「あ、いらっしゃいませ！」 ......迎えてくれたのはウサミン。......ちゃんと呼んでるからね？ 勘弁してね？ ......心の中でだけだけど。 「......コーヒーください」 「かしこまりましたー！ 少々お待ちください！」 さて、くるまでに準備しちまいますかね。えっとまずは...... 気がつくとコーヒーが置かれている。湯気が......たってない。きたのは相当前なのだろう。ま、いいや。いただきます。......うむ。さすがウサミン。俺の好みをわかってらっしゃる。......と、ちょうどバックヤードから出てくるウサミン(28)。......俺は知ってるぜぇ...... 「あ、気づいたんですね！ よかったら新しいのと交換しますよ？」 「あ、大丈夫っす。俺猫舌なんで」 「そうですか」と言いながら俺の前に座るウサミン。......気持ち顔が沈んでいる。というか疲れている。 「......お疲れみたいっすね」 「ふぇ？ そ、そんなことないです！ ナナは元気ですよ！」 ......年の割にはな。 「まあ......ならいいんすけど。あ、そだ」 「何ですか？」 「アレやってください。自己紹介」 「......え？」 「気になる事があるんすよ」 「い、いいですけど......」 椅子から立ち......すぅ...っと息を吸って...... 「............安部菜々17歳ですっ！ キャハッ」 「ぶふーーーーーーーー！！」 「なっ！」 やべえ......面白すぎる......気づいたらダメだ......それにしか聞こえん！ 「何で笑うんですか！」 「ぶふっ......ちょ......ぷっ......待って......ぷふぅっ！！」 笑いが止まらねえ...... ......よし。 「えっと......今から紙にある文を書くんで、それを読み上げてください」 「......はい」 ......さて...... 「......お願いします」 「あ、はい。......あべななじゅうななさいです」 そう。渡したのはさっきの自己紹介の1フレーズ。......全て平仮名で。 「......では、次は......ここで切って呼んでください」 一文に/を加える。 「......はい。......あべ、ななじゅうななさいです」 「「「ぶふーーーーーーーーーーー！！」」」 「なぁっ！！」 ダメだ！ 周りの聞いてた人まで噴いてる！ 「ぶふっ......やべえ......面白すぎる......」 「な......な......あ......」 青ざめているウサミン。まあ......そらそうだ。『安部、77歳です』って言ってんだからな！ 「......ひ、比企谷さん！ なんて事言わせるんですか！」 「い、いつも自分で言ってるじゃないっすか」 「うぐっ......」 「まあ......これから気をつけた方がいいっすよ」 「......はい。......ナナのキャッチフレーズがぁ......」 頑張れ！ 安部77歳！ おしまい

100作目記念の読み切りでございます。<br /><br />赤い実はじけちゃうのと、ちょっとえっちなの。それと一発ネタの3本立てです。<br />宜しければご賞味ください。<br /><br />んでは、よろカレン〜♪

100作目記念

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[chapter:はたらく細胞と名探偵コナンのクロスオーバーです！！] ・血球たちがコナンの世界に転生したよ！ ・細胞が人間になったよ！　細かいことは気にするな！ ・前世（？）の記憶あるよ！ ・細胞たちに人間っぽい名前がついてるよ！ 　　赤血球→[[rb:三和 > みわ]] 　　白血球→[[rb:珀 > はく]]　　など ・なんかもう本当に細かいことは気にしないでくださいお願いします 　潔く整合性とか完全無視して「私がこんなの見たい！」という一心で書きあげました。 　雰囲気でお楽しみください。 [newpage] 「梢子・ガーナード誘拐未遂の被疑者ですが、“血小板”を狙ったものではありませんでした。瀬木三和と外出をしている姿が複数回見られたため、誘拐の容易さで選ばれたようです。既に、警視庁の方へ引渡しは終わっています」 「そうか……」 　情報漏洩をしていないとわかった安堵と、全く情報を得られなかった落胆。降谷は複雑な心境で、机の一点を見つめた。 「飯館珀の動向は？」 「５人体制で張らせていますが、依然として明らかになりません。どこへ消え、どこから現れるのか全く掴めない状態です」 「泳がせて報復まで待てば良かったな」 　血小板の誘拐未遂、赤血球の負傷、報復活動を行うには十分な理由だろう。もし報復活動の現場に立ち会うことができたら、傷害でも不法侵入でも公務執行妨害でもやりようはある。 　風見は目が据わった降谷にぎょっとして、少し上半身を乗り出した。 「……冗談ですよね？」 「当然だろ」 　先程から全く顔色が変わらない上司に、冗談なら冗談とわかるように言ってくださいと文句が飛び出そうになるのをぐっと堪えた。 「……それで、東都内で被疑者が検挙されていない殺人事件の方はどうなった」 「はい、概ね終わっています」 「早いな」 　東都は、莫大な犯罪発生件数を有する。多くの場合、その場に居合わせた探偵やらなんやらが解決していくため迷宮入りするものは極端に少ないが、それでも３時間程度で終わるとは思っていなかった。 「[[rb:都留 > とどめ]][[rb:有記 > ゆうき]]が登庁していましたので、問い合わせたらすぐ返答が来ました」 「[[rb:セルズ > Cells]]の捜査に[[rb:セルズ > Cells]]を頼ってどうする！？」 「すっ、すみません！　[[rb:セルズ > Cells]]関連とは知らず！」 「……まぁ、僕も言わなかったからな。この件は、改めて調査しろ」 　揃ってため息をついた。 「しかしなぜ、急に殺人の調査を？」 「キラーＴ細胞を盗聴した際、『俺たちは殺し屋だ』と発言していた」 「なっ」 「そのとき一緒にいた成湖静も[[rb:助定 > すけさだ]][[rb:頂 > てい]]も、その発言に驚いていないどころか、容認している気さえあった。組織ぐるみで殺人を行っていたのかもしれない」 「そんな……」 「口ぶりからするに、どうやらそれは昔のことで、今は殺人を犯すような真似はしていないようだが……それも、推測に過ぎない」 　今までろくな犯罪歴が見つからなかったところに、突如投げ入れられた殺人という重すぎる罪に、風見は息を呑む。 「わかりました。より慎重に調査させます」 「あぁ。それと、今思えばだが、マーシー・ガーナードがショッピングモールでの被疑者を『抗原』、飯館珀が僕を襲撃した者を『雑菌』と呼んでいたんだ。もしかしたら、[[rb:セルズ > Cells]]内での隠語があるのかもしれない」 「なるほど。敵と認識したものを、医学用語で表現すると」 「だとしたら、気になるのは『サイトカイン』だな……。この前、[[rb:セルズ > Cells]]が３人、ポアロに来たことは知っているな？」 「はい。赤血球と好酸球、制御性Ｔ細胞ですね」 「あぁ。サイトカインは、免疫細胞を活性化させる物質の総称だ。[[rb:成湖 > せいご]][[rb:静 > しずか]]は、黒いノートのようなものを持っていた。成長の記録だと言っていたが……」 「免疫細胞を活性化させるものが、成長の記録、ですか」 「だが、それにしては妙だな……」 　あのときの光景を思い出す。あれでは、活性化させるというより、萎縮させてしまっているようだ。 「ノートを見せようとした成湖静に、２人は『可哀想だからやめよう』と言ったんだ。特に、[[rb:高須 > こうす]]ももはかなり恐れていたな」 「活性化……つまり、戦闘行為を促すためのものを、恐れていた……？　降谷さん、まさか」 「戦闘行為を促す、人に見られたくないもの──脅迫材料、か」 「では、サイトカインと呼ばれる脅迫材料により、犯罪を強いられている構成員もいるかもしれないということですね」 「まだ確かではないが、可能性としては存在するな。問題は、誰がその情報を握っているかだが……。成湖静は確か、[[rb:森 > もり]]という人物に貸してもらったと言っていた」 「成湖静と交友関係にある森を漁ってみます」 「あぁ、頼んだ」 　──という会話をしたのが、昨日のことだった。 [newpage] 　──やりにくい。 　安室はカップを拭きながら、１人でコーヒーを楽しむ黒髪の男にちらりと視線をやった。 　[[rb:森 > もり]][[rb:正樹 > まさき]]。[[rb:脅迫材料 > サイトカイン]]を握っている可能性のある人物。今朝、風見からメールで送られてきた写真と同じ顔だ。 　──しかし、なぜ？　血小板誘拐未遂の翌日に急に現れたことが、無関係とは思えない。やはり、盗聴器について疑われているのだろうか。 　ふぅ、と溜息にならない息を吐く。まさか探知機の電源が入れっぱなしになっていたとは、運が悪かった。直前に接触した自分が、単純に考えて一番怪しいだろう。 　ただでさえ、赤血球である瀬木三和との遭遇率も高い。三和との遭遇は意図的ではないのだが、探っていると思われても仕方がないほどだ。 　だが、怪しまれているとして、この男が直々に探りにくることがあるだろうか。脅迫している側、つまりは[[rb:セルズ > Cells]]のトップとも言える存在だろう。上層部は安全なところで待機、というのは犯罪組織や警察、その他様々な組織において当然の事だ。 　緊張が表に出ないように、それだけに集中して、意識した穏やかな呼吸を繰り返す。 　そんな静けさを打ち破るように、カランと来客を告げるドアベルが鳴った。 「いらっしゃいませ」 「こんにちは、安室さん」 「どうも」 　[[rb:三和 > みわ]]の明るい声が響き、店内の気温までもが少し上がったようだ。しかし、足には痛々しい包帯が巻かれており、[[rb:珀 > はく]]に手を借りている姿に少し胸が痛む。 「三和さんに、珀さん。今日はお二人ですか？」 「はい」 　調理場から出て尋ねれば、三和が少し表情を曇らせた。 「私は１人で大丈夫だって言ったんですけど……」 「ただでさえ何も無いところで転けるのに、こんな状態だと何が起こるかわからないからな」 「なるほど」 　至って真面目な顔で淡々と、当然の事のように言った珀に、安室も神妙に頷いた。 「３日間はお仕事自体もお休みいただきましたし、家で大人しくしてるって言ったんですけど……」 「それでも、だ。今まで事件に巻き込まれてきても無事だったのは、その足があったからだろ。走れないお前を１人にするなど、見殺しにしているようなものだ」 「そ、そこまで言います……？」 「いえ、珀さんの言うこともわかります。この２週間くらいで、ショッピングモールの暴徒に出くわしたり、銃痕作った僕を拾ったり、爆弾騒ぎに誘拐未遂と、凶悪犯罪に遭ってばかりですからね」 　多少の対抗心が芽生えないわけではないが、この少女の事件遭遇率を考えれば青年の主張もこの上なく正論に思える。安室とて三和が事件に巻き込まれているところによく遭遇するが、いつも助けられるわけではないのだから。走れない以上、“好中球”である飯館珀が四六時中そばに居るのは良いことだろう。相手が自分が追う組織の戦闘員だという一点を除けば、だが。日本国民を守るのが犯罪組織の戦闘員なのはこの上なく遺憾ではあるが。 「でも、珀さんもお仕事があるでしょうし……」 「いや、俺の仕事は色々と融通が利く。心配するな」 「融通を効かせてしまうのが申し訳ないのですが……」 「そういえば、珀さんのお仕事って──」 「おーい、瀬木ちゃん、珀さん」 　そういえば、一瞬森の存在を忘れてしまっていた。 　その声を聞いた三和が体を傾け、安室の体の向こう側をのぞき込む。 「あ！　森さん！」 　意図したのか、それとも偶然か。珀の職業を聞くのを阻止され、舌打ちが出そうになった。 　それでも、鍛えられた表情筋を１ミリも動かすことなく、何も知らないフリをする。 「お知り合いですか？」 「はい。こんなところで会うなんて！」 「たまにはいいかな、と思って。あ、一緒にどうですか？」 「是非！　安室さん、テーブル席でもいいですか？」 「えぇ、もろちん。すぐご用意しますね」 　少しの違和感を覚えながら、テーブルを改めて拭いて２人を案内する。 　──そうだ。三和さんが森正樹と親しげなのが引っかかっていたんだ。 　あくまで確証のない憶測に過ぎないが、森正樹はサイトカイン──脅迫材料を握っている人物だ。本来ならば、恐怖の対象であるはずだ。しかし、三和は臆するどころか、親しげな様子だった。 　サイトカインは免疫細胞を活性化させるためのものだから、免疫細胞でない赤血球には存在しないという仮説もあった。が、そこまで忠実に再現する必要性がないことから除外する。脅迫材料を握っているのなら、コードネームでしかない赤血球に使わない理由が思い浮かばない。 　その上、珀の様子も妙だった。珀は好中球であり、免疫細胞だ。生物学的に当てはめても、サイトカインの対象となる。それなのに、森に誘われたとき反対しなかったどころか、こちらも信頼しているような様子すら見受けられた。 「ほら、気をつけろよ」 「はい」 　ゆっくり歩く三和を、少しハラハラした面持ちで後ろから珀が見守る。 「もう歩かれて大丈夫なんですか？」 「あ、はい。梢子ちゃんがあのあとテーピング？　とか色々してくれまして、ゆっくり歩くぶんには問題ありません！　あんまり動かないのも体に悪いですから」 「梢子のところに通い続ければ、１週間後には仕事に復帰できるそうです」 「ここに来たのも、リハビリの一環なんですよ。安室さんに改めてお礼を言いたかったですし、珀さんもここなら良いと仰るので」 　改めて、梢子・ガーナードの医療技術に舌を巻く。その技術を世界に広めて欲しいものだが、子供ということと天才肌ということが相成り、自分がしていることをそもそも言葉で説明できないらしい。 　過程を飛ばして結果を得て処置する姿は、まるで魔法のようだ。 「だが、無理は厳禁だからな」 「はーい」 「ふふ、相変わらずだね」 　２人を、親が子を見るような目で森が眺めている。おかしいといえば、森もおかしい。飴と鞭は交渉の鉄則ではあるが、なにか、それだけではないような気がする。 　足がとても速いのにいつもどこか危ない三和が３割増で覚束無い。それでもきちんと自分でテーブルにたどり着き、３人同時にため息をついた。 「な、なんですか？」 「いや……」 「いえ……」 「まぁほら、座って座って」 　子供扱いされたと思ったのか、若干ふくれながらも勧められるがまま椅子に座る。 「少しでも言われた以上のことすると、梢子ちゃんにすぐバレるんですよ。涙目で見上げられたり、真剣に怒られたりしたら、もう降参です」 「あぁ、そうだな。俺もよく怒られるよ」 「やっぱり皆、梢子ちゃんには頭が上がらないみたいだね」 「すごい子ですよね……」 　恐ろしいくらいに。もしあの頭脳が悪用されたらと思うとゾッとする。現に一度、黒ずくめの組織に誘拐されかかったことがあるのだ。もちろん、今所属している組織もまた犯罪組織である可能性が高い。しかしそれでも、あの組織に利用されるよりは梢子にとっては幸せだろうと、安室は思っていた。 「おっと、本業を忘れてはいけませんね。どうされますか？」 「私、アイスココアとハムサンドで」 「それだけでいいのか？」 「お仕事ある日はもっと食べますけど、体動かさないとお腹減らないですね」 「そういうものなのか……」 　珀と森の注文も取って、カウンターの向こうに一度引っ込む。 「そういえば、昨日梢子ちゃんが誘拐されかけたんだってね」 「あ、はい。よくご存知ですね」 「昨日、たまたまＴ細胞組に会ったんだよ」 　手を止めないまま会話に耳を傾け、考える。 　あのあと、キラーＴ細胞である[[rb:雲母 > きらら]][[rb:掟 > てい]]たちに会った森は、おそらく盗聴器のことを知ったのだろう。赤血球との接触が多い人間として元々知っていたのか、それとも昨日知ったのかはわからないが、とにかくその事がポアロに来るきっかけとなったことは間違いない。 「なるほど。あ、そういえば、ダメですよ、サイトカインをほいほい貸しちゃ！　可哀想です」 「なんの話だ赤血球！？」 「だ、大丈夫です！　キラーさんとヘルパーさんのですし、そもそも見てません！」 　やはり、珀も[[rb:脅迫材料 > サイトカイン]]を握られているのか。 「制御性さんが、何話していいかわからないって言うから貸してあげたんだけどなぁ」 「そんな茶会のネタみたいに扱われたら困ります！」 「そうですよ！　あと、[[rb:静 > しずか]]さんはサイトカインなくてもちゃんと女子会できました！」 「僕だって、キラーＴ君とかＢ細胞君相手だったら少し考えるけど」 「考えるだけにしてください」 「制御性さんなら、無くすことも悪用することもないだろうし、いいかなって」 「良くない！　なんも良くないぞ！？」 　あんなの人に見られたら死ぬ、と珀がぶつぶつ言う声がやけに鮮明に聞こえてきた。 「ふふ、好中球君は自分が死ぬって言うところが優しいですよね。ＮＫさん、見たやつ殺すっていつも言ってたよ」 　殺す、とは穏やかでない。ＮＫ細胞と呼ばれる[[rb:西方 > にしかた]][[rb:乃花 > のか]]は、確か自衛隊員だったはずだ。そのような立場の人間が、軽々と口にしていい言葉ではない。 「え、ＮＫさん……」 「僕にとっては大事な成長の記録なんだけどなぁ」 「なら大事に仕舞って一生出さないでください。というか、前はこんな脅迫じみたことはやりたくないって言ってたじゃないですか」 　これで確証を得たも当然だった。安室は、包丁を握る手に力が籠るのを止められない。 「樹状細胞さん、人の都合が悪いときに居合わせるスキル、どんどん上がってます……」 「違いますよ！　シャッターチャンスが、向こうから飛び込んでくるんです」 　──樹状細胞。 　おそらくそれが、森正樹のコードネームだ。 「まさか私のサイトカインも……」 「いや、赤血球はサイトカイン出されても意味ないだろ」 「そうですけど、そうですけど！」 「うーん、サイトカインはないけど……」 　森は、２人に問い詰められている状況下に全く似合わない、満面の怪しい笑みを浮かべる。 「成長の記録はちょっとね」 「今すぐ捨ててください！」 　聞こえていない、聞いていない[[rb:体 > てい]]でいるためつっこめないが、同意のない撮影はつまり盗撮だ。サイトカインと呼べる脅迫材料こそ握っていないようだが、それはそれで問題がある。 　“安室透”に何も権限がないことを惜しんだことは多々あるが、ここまで悔やむことはそうない。 　[[rb:セルズ > Cells]]を吊し上げたあかつきには、盗撮の分も刑を上乗せしてやる、と心に誓った。 「いや、いっそ焼いてください」 「大丈夫だよ。赤血球ちゃんの分は、成人式の日に皆で眺めて楽しめるくらいのものですから」 「それでもけっこう恥ずかしいです！」 「赤血球の分は、という部分に俺は不安を感じています」 　ほんの少しだけ、安室は安堵に胸をなでおろした。脅迫は、そもそも人に知られたら困るようなことをしないと成立しない。自分が目をかけている三和は、脅しの材料になるような罪を犯していない証拠でもあった。 「やっぱり、この人には一生勝てんな……」 「樹状細胞さん、貪食作用を持っていないのに、なぜか昔から強いですよね。Ｔ細胞さんたちに写真取られそうになっても、ひらひらー、って避けちゃいますし」 「前は細菌に飛び蹴りしてたな……」 「それは、年の功、ですかね」 　にっこりと穏やかに笑ってみせた森に、２人は揃って肩を落とした。 ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ 「じゃあ、僕はそろそろ仕事に戻らないと」 「あ、はい！　すみません、たくさん話してしまって」 「いや、色んな子の話が聞けて良かったよ」 「瀬木、俺たちももう出るか」 「そうですね」 　あの３人が集まってからかなりの時間が経つ。その間に３組の客が来て、そしてまたあの３人のみとなった。 　もうそろそろ、近くの中学高校の終業時刻になる。これからは忙しくなるだろう。 　三和と珀はどちらが支払いをするかで一悶着あったようだが、結局三和の方が押し負けたようだ。 「昨日は本当にありがとうございました。いつも助けてもらってばっかりで……また今度、ちゃんとしたお礼しますから！」 「いえ、僕も三和さんや梢子ちゃんに助けてもらいましたし、お互い様です。こうして、元気な顔を見せてくれるだけで十分ですよ」 「安室さん……！」 　びしびし伝わってくる尊敬と信頼の念に、少し──いや、かなり気分がいい。 「では、気をつけて帰ってくださいね」 「はい、大丈夫です！　昼間は珀さんもいてくださいますし、夜はマーシーさんのところにお世話になるので」 　そう言って笑う少女の目はやはり信頼で溢れていた。 「そうですか。それは安心ですね」 　──この子の信頼を裏切るような真似をしたらそれこそタダじゃおかないからな。 　少しだけ闘志のようなものが出てしまったのか、安室に背を向けて森と話していた珀がバッと首を押さえて周りをキョロキョロと見回した。 「では、失礼します」 「えぇ、またお越しください」 　先に三和と珀はポアロを出て、店内には安室と森の２人きりになった。 　いつも通りに会計をして、レジから顔を上げると、大きめの茶封筒が差し出される。 「……これは？」 「盗聴器です。すみません、昨日[[rb:雲母 > きらら]]君が壊しちゃって……。一応お返ししておこうかな、と」 　顔を凝視するが、心底申し訳なさそうで、その裏が読めない。 「あとは弁償のお金です。こちらで機種と相場を調べたんですけど、もし足りなかったら言ってくださいね」 　しらばっくれることもできるが、ここまではっきりとした態度に出るということは、確証を得ているということだ。下手に取り繕えば、別の墓穴を掘りかねない。 「どういうつもりですか？」 「ほら、雲母君ってちょっとガラが悪いでしょう？　あんな現場を見たら、瀬木ちゃんたちが心配になるのも当然です。それなのに、壊してしまって申し訳なくて」 　それだけであるはずがない。そんなヘマはしないとは思うが、わずかでも足がつく可能性のある盗聴器が手元に戻ってきたのは良いことだ。しかし、その返却方法が不気味すぎた。仕掛けられた側の人間が、わざわざ弁償金と共に返しに来るなど、当然ながら初めてのことだ。 「では、お返ししました」 　カウンターに茶封筒をおいて、まっすぐ安室を見て笑う。 「……わざわざ、ありがとうございます」 「いえいえ。あっ、そうだ、これは確認なんですけど……」 　スッと、何かに引かれたように森の目が細くなる。その瞬間、空気が一気に冷たくなった。 「まさか、瀬木ちゃんを酔わせてどうこうしようとか、考えていませんよね？」 「何を言って」 「僕、まだ瀬木ちゃんにお酒は早いと思うんです」 　森が言わんとすることを察し、表情が強ばる。 「……未成年に飲酒を勧めるのは、犯罪ですよ」 　しかし、圧されてばかりではいられない。いつも通りに、“安室透”の人好きのする笑顔を貼り付ける。 「なら良かった。これからも、瀬木ちゃんをよろしくお願いしますね、安室透さん」 　軽く会釈をして帰っていく森は、どこにでもいる普通の黒髪の男に見える。 「……森、正樹……」 　手にした茶封筒を、握りつぶした。 ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ 「で、この盗聴器に心当たりはないの？」 「ついさっきまで、例のアムロサンって奴といたな。血小板と赤血球持って逃げてたらそこにいたから、車出させた」 「なるほど……。把握しました」 「安室さんって、赤血球ちゃんがよく助けてもらうって人だよね？　うん、まぁこんな筋骨隆々なガラの悪い男が女の子２人抱えて走ってたら、そりゃ盗聴器の一つや二つ、仕掛けたくもなるさ」 「同意いたします」 「俺が悪いっつーのかよ！？」 「とにかく、これちゃんと弁償しなよ。安くないんだから」 「……チッ」 「あ、なら僕が行ってきましょうか？」 「じゅっ、樹状細胞さん！？」 「どどどどうしてここに」 「いやぁ、たまたまですよ。それより、それを返しに行くなら僕が行ってきましょうか？　ちょうど僕、安室さんに会ってみたいなぁと思っていたので」 「「どうぞ！」」 「なぜヘルパーＴ司令まで返事をしているのですか」 盗聴器返却＆弁償事件 　Ｔ細胞同期組は９割善意。 　樹状細胞さんは９割好奇心。 　それぞれ残りの１割が安室さんに対する不信感。 　樹状細胞さんは降谷零も知っているため、念押しには行ったけどそこまで心配はしていなかった。 　 [newpage] [[rb:瀬木 > せき]][[rb:三和 > みわ]] ・元AE3803 ・自炊はあまりしない。夕食はよくマーシーと食べるが、大抵は外食している ・どんな写真が撮られているのかわからないからちょっと怖い [[rb:飯館 > いいしろ]][[rb:珀 > はく]] ・元U-1146 ・職場復帰するまでの３日間、マーシーに三和を託された。多分頼まれなかったら陰ながら見守ってた ・[[rb:サイトカイン > あんなもの]]見られたら（社会的精神的に）死ぬ ・安室さんのことはいつも三和を助けてくれるいい人だと思っているので、感じた殺気の出処が安室透だとは微塵も思っていない [[rb:森 > もり]][[rb:正樹 > まさき]] ・元樹状細胞 ・名前は完全にイメージで付けました ・現在もサイトカインを量産中 ・ありとあらゆることを知っているが情報屋など職にしているわけではなく、その人の黒歴史（とそれに類する人に知られたくない秘密）に立ち会うという天賦の才のなせる技 ・バーボンも降谷零も知っている。工藤新一＝コナンには気づいていないが、眠りの小五郎＝コナンは知っている。多分、コナン世界の主要人物の秘密をたくさん持っているが、細胞たちに害がない限り黙っておくつもり ・でもやっぱり血小板攫われたことは根に持っているので、ちゃんと釘は刺した。 [[rb:助定 > すけさだ]][[rb:頂 > てい]] ・元ヘルパーＴ細胞 ・キラーＴにはいつか盗聴器が仕掛けられると思っていた [[rb:成湖 > せいご]][[rb:静 > しずか]] ・元制御性Ｔ細胞 ・キラーＴはいつか訴えられると思っていた [[rb:雲母 > きらら]][[rb:掟 > てい]] ・元キラーＴ細胞 ・俺が悪いのか……？ 安室透 ・言わずと知れたトリプルフェイス ・着々と事実を言い当てるのに、なぜか着々と真実から遠ざかっていく 風見裕也 ・最近、お気に入りの定食屋ができた 作者 ・樹状細胞さんはラスボスだと思っている [[rb:セルズ > Cells]] ・“雑菌”や“抗原”は敵を表す→◎ 　“サイトカイン”は戦闘行為を促す、人に見られたくないもの→◎ 　脅迫材料を握る人物がいる→◎ 　殺しを行っていたのは昔→〇 　全て間違っていないにも関わらず、何故か安室さんたちが真実から遠ざかっていく ・警察を警戒する理由がそもそもない [newpage] 「風見」 「はい」 「森正樹に、バーボンの姿を知られた」 「っ！」 　重々しい声で告げられた事実に、風見は息を呑む。 「瀬木三和に、バーボンとして近づくなと警告された。今はそれだけだが、もしかしたらこっちも知られているかもしれないな」 「なぜです？」 「黒ずくめの組織は、[[rb:セルズ > Cells]]にとっても因縁の相手だろ。現に、わざわざ警告しに来た。そんな組織のコードネーム持ちが瀬木三和に近づくのを、許すと思うか？」 「なるほど。警察官としての降谷さんを知っているから、安室さんの接触を許しているということですか」 「本来ならば警察関係者の接近は嫌がるものだが、[[rb:セルズ > Cells]]には既に警察官がいる。今更な話だ。……僕たち警察より、組織の方を警戒しているのは気に食わないがな」 　半ば諦めの含んだ声で言い捨てる。 「あと、サイトカインは脅迫材料で間違いなさそうだ」 「やはり、森正樹が」 「あぁ。それが……『サイトカインを見られたら殺すしかない』と西方乃花が日頃から言っているらしい」 「それは、まさか」 「もしかしたら、ターゲットにわざとサイトカインを見せ、口を封じるために抹殺させているのかもしれない。まだ、確証のある話ではないが」 「それに関してですが、被疑者が検挙されていない殺人事件のリストアップが終わりました。かなりの件数がありますが、ほとんど降谷さんの調査で黒ずくめの組織の犯行と判明しています」 「遺体を残していないのか、そもそも米花町外で活動していたのか……」 「被害者がいないのでは、さすがに捜査のしようがありません」 　目的のためなら違法捜査も辞さない公安だが、そもそもの目的が存在しないのならば手のつけようがなかった。 「それと、森正樹とその他の構成員の関係も妙だったな……」 「妙、ですか」 「まだ瀬木三和と飯館珀だけだか、少なくとも脅してくる相手への態度ではなかった。むしろ、親しい友人に対するようなものだったな」 「確かに、それは奇妙ですね」 「そういえば、森正樹個人の情報はどうなった」 「はい。概要ですが……。他の構成員同様、孤児です。現在は写真館を経営しています」 「今時珍しいな」 「学校からの依頼も多いようです。人当たりの良い性格と写真の腕で、かなり評価が高い、と」 「あれほどの情報を持つ男が、昼間は真面目にカメラマン、か」 　もうため息も出てこない。 　天井を仰いで数秒目を瞑ったあと、立ち上がる。 「仮眠ですか？」 「あぁ。風見はどうする」 「私は夕食に出てきます。近所に[[rb:美味 > うま]]い食堂見つけたんです」 「そうか。いい事だ」 「今度お教えします」

　『はたらく細胞』の血球たちが、『名探偵コナン』の世界に生まれ変わって大暴れ……することもなく、それぞれがわりと平穏な日常（一部を除く）を送っていたら、なぜか公安にマークされていた！？　セルズ（Cells）──細胞の名前をコードネームとする、存在も、活動も、構成員も何もかも不明な秘密結社。※元細胞たちに自覚はありません。<br /><br />　あっ、ごめんなさい細胞が転生とかほんとよくわからないですよね石を投げないで！　好きなことだけを書きました。<br /><br />　コナン夢ではない。多分。オリ主は出てきません。主人公は赤血球ちゃんです。注意事項は１ページ目に。

うっかり前世の名前で呼びあったら公安に睨まれていました～８～

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　巴形薙刀は審神者私室に戻った。障子を開け、布団の傍らに膝をつき「主、昼餉の刻だぞ」とそっと話しかける。起きない。巴形薙刀はやや躊躇ったが、審神者の肩に手を置き、そっと丁寧に揺さぶった。「主よ。起きてくれ」 　ぐぬぅ、と奇妙な呻き声を上げながら審神者は瞼をぎゅっと押し潰すように顔を顰めた。そしてもぞもぞと寝返りを打ち、目覚ましアラームを探して枕元をごそごそ漁る。右、左、右、ない。タブレットがそこにないことに気が付いてようやく覚醒した。 「…おはよう、巴ちゃん」 「目覚めたか。脳は休めたか」 「…あぁ、おかげでだいぶすっきりしてるよ」 とは思えない顔だ。 　もそもそと起き上り、審神者は替えの作業着を取りにクローゼットへよたよた歩いて行った。着替えを持って脱衣所へ行き、「あれぇ…脱いだ方がないぃ…」と言う。 「洗うつもりだったが、穴が開いていた。蜻蛉切と共にぷりけつで修復する。楽しみにしていてくれ」 「ぷりけつで修復か。さっぱりわからんけど、やりたいことがあるなら好きにやってご覧。楽しみにしとくから。…洗おうとしてくれたんだね、気が利くなぁ」 新しい作業着を脇に挟んで戻ってきた審神者は、寝ぼけ眼のままふにゃっと笑って、巴形薙刀の頭を両手でわしわしと撫で繰り回した。そしてよろけまた布団に尻餅をつく。巴形薙刀は慌てて両腕を突き出し審神者の上体を支えた。 「主よ…、体調が優れぬか」 「平気さ。眠たいだけ」 巴形薙刀は、そうか、とだけ言った。彼にはまだ…、血色の悪い人間の「平気さ」は信用すべきでない、という経験知はなかった。審神者の言うことが全てだ。彼はまだ、主を疑うことを知らない。 　それでも、主を労わりたい想いが込み上げて胸を騒がせてならない。巴形薙刀はおろおろと戸惑い、首を傾げ、そしてやおら審神者を自分の胸に抱き込んだ。 「眠りたければ眠れ。主が健やかであることが何よりだ」 「何とも魅力的な提案だけどね、…ここはまだ、上司がゴロゴロしてられるほど、安定軌道に乗っちゃいないからね…」 そう言って、両手を開いて巴形薙刀の前に示し、「起こしてくれよ、巴ちゃん」と言った。巴形薙刀は躊躇いながらも審神者の手を取り、引っ張り起こした。「本当に寝てばっかりもいられないんだ。お昼にありつきたい。何も食べずに寝続けると命が危ないし」 「そういうものなのか！？」 「そういうものなのよ」 年を経るごとに、一食抜くことがもたらすリスクが増してきたのだ。 　食品には様々な成分が含まれており、そのうち人体に有益なものを栄養分と呼んでいる。体内で熱エネルギーに変わる脂質、糖質、蛋白質、身体のあらゆる機能を補佐するビタミン、神経伝達を助け骨格を形成するカルシウム…挙げていけばキリがない。 　魄臓及び霊脈（総じて、霊系組織）の発見後、生物が体内で霊力を生産する仕組みも研究された。その結果、食事に含まれる成分の中には、体内で霊力に変わるものがあるとわかった。それまでの栄養学では全く認知されてこなかったそれらの成分を総じて「霊養成分」と呼ぶらしい。主に小腸から吸収された霊養成分は、血液を介し全身に送られ、全身各所の霊脈組織で霊力に変わる。 「生物っていうのは、生きている限り自分の外部環境よりも高圧の霊力を内部に維持しようとする。霊力を生産し続けて外界よりも高い霊圧を維持している、っていうのが、ある意味、生きていることの一つの定義だ」 霊脈だけで済んでおけば、おそらく人類の発展も危機もなかったのだろう。 バクテリアのような原始的生命体も、微弱ながらその細胞内で霊力を生産する。進化の過程で生物は更に高い霊力生産能力を持つようになった。脊椎動物のほとんどが、霊脈という全身組織を有している。そして鳥類と哺乳類は、そこに加えて魄臓を持つに至った。 魄臓は、もちろん霊養成分から霊力を産出する。肝臓の下にあるこの臓器に絶えず霊養成分を送るため、肝臓には脂質や糖質だけでなく霊養成分を貯蔵しておく機能がある。そして、霊養成分が尽きたときこそ魄臓は真価を発揮する。魄臓は、全身の霊系組織の中で唯一、糖質や脂質、蛋白質から霊力を生産する機能を有している。 これは別にここ百年二百年の人類の特徴ではない。長らく発見されておらず、認知されていないから存在していないのと同じだっただけなのだ。 　これまでの医学は、霊力を無視しても何の問題もなかった。何せ人類の魄臓は退化していたのだ。狩猟採集から農耕に転じ、穀物を得て安定した社会生活を送り始めた頃から、人類の魄臓は穏やかに縮小していった。偶然にも、穀物や果実の類は糖質だけでなく霊養成分が豊富である。古来、普遍的にあらゆる宗教において食は重要な教義の一部を成してきたが、特に農耕や穀物、酒が神聖視されるのは、人類が本能的に食と霊力との関わりを見出していたからに他ならない。人類は穀物を食する限り生存に必要な霊力の産出に困らなくなった。霊力を発見し、霊力を利用するようになり、霊力を過剰に生産する必要が生じるまではそれで良かった。 　霊力発見後、人類は総じて霊力を多量に生産し続けるようになった。特に霊力の利用量が多い者や、高霊圧環境に身を晒す者は容易に霊養成分を使い切る。そして霊養飢餓を察知した脳は速やかに魄臓に指令を発し、魄臓において糖質の分解が始まる。それは、人類に霊力を活用した新しい生活をもたらす一方で、想像だにしなかった事態をもたらした。慢性的な飢餓だ。 「私達は、お腹一杯にならないんだ。…いや、物理的にもう胃に入らない、っていう限界量はあるけど、脳が満腹感を感じてくれない。お腹一杯食べても、いつも足りない」 過剰に発達した霊脈と魄臓は常に膨大な量の霊養成分を消費し、足りなければ熱エネルギーに回るべきその他の栄養分を消費する。その結果、身体は慢性的に霊養成分に飢え、非霊養成分にまで飢えるようになった。 　どれだけ食べても、一度に食べられる量には限界がある。そして、食べた量から満足な霊養成分を摂取できなければ、脳は飢餓を訴え続ける。そして魄臓は実際に非霊養成分を消費して、身体は非霊系組織までも飢える。常に淡い空腹感に付きまとわれ、実際それに応えなければ魄臓は自分の肉体を構成する蛋白質までも消費し、加速度的に霊化が進んでしまうだろう。魄臓肥大者は、能力者であると同時に致命的な病人なのだ。 　審神者が最後に満腹感を味わったのは、高校生の頃だった。高校卒業を前に、離れ離れになることが決まっていた幼馴染と一緒に食べ歩いた思い出。それを最後に審神者は時を越え、そして審神者の体内で霊系組織は静かに発達し始めた。太らない代わりに満たされない身体へと変質していった。 「きちんと考えて献立作ったり…霊養成分の豊富な食材を選んだり、そうすることで私達も満腹感を得ることができて、霊養成分飢餓を避けて霊系組織の過活動を抑えることはできる。でもね、私は栄養学は基礎までしか知らないし、こうも多忙な中であれこれ自分の体で実験するわけにもいかないからね」 審神者は肩を竦めた。「命は惜しい…お腹は空く、それでもやれることには限りがある。仕事はきっちりやらないとな。ってわけでお腹空いたからお昼ご飯に行こう、巴ちゃん」 　審神者は笑顔なのに、巴形薙刀は微笑み返すことができなかった。彼の知性は、この数日で右肩上がりに伸びている。だから審神者の言ったことも、完全ではないが大まかに理解できている。 　主、卵焼きを食すことは幸福なのだと教えてくれただろう。朝餉、昼餉、夕餉の都度、主はよく食べよく笑う。夕餉前に一緒に頬張った大福は、文字通り大いなる幸福だった。食べるということは本来幸せな行為であるはずなのだ。我が身を作り我が身を動かす糧を得て、味わい、喜び、生きていることを噛み締める。 　それなのに、その身体は満たされないのか。まだ足りぬと感じても、もう食べられない。腹は満ちても魂は永遠に満ちぬ。肉体の底に炎を飼い、炎に糧を喰われて自らは永遠に飢え続ける。その炎は何のために燃やすのだ。誰を照らすための光だ。それを灯すために自らを捧げ続けるのか。 　…それは、とても悲しいことではないだろうか。 　巴形薙刀はぎゅっと自分の胸元を握り締めた。心ノ臓の辺りが痛んだのだ。審神者には気付かれなかった。審神者は燃料切れに耐えかね、備蓄してある羊羹を貪りに行った。それなりに緊急事態なのだからそのまま齧ればいいものを、ふらついて「低血糖か！これが低血糖なのか！フハッ！今度ブドウ糖箱で買おう」っと訳の分からないことを口走りながら律儀に羊羹を切り分けて皿に移す審神者を見つめて、巴形薙刀は悶々と唇を噛んだ。 　他の人間のことなど知らぬ。だが、この人間だけは何が何でも幸せでなくてはならぬのだ。この世の誰よりも満たされて、明るい光の中で笑っているべきなのだ。 　…それなのにどうして、幸福を得るのが難しい身体をしているのだ、俺の主よ…。 　静かに静かに押し寄せてくる感情がある。 　本来ならばそれは淡い絶望とでも呼ぶべきものだ。成したいことを成せない己の無力を噛み締める想いだ。この城では多くの刀剣男士が味わったものだ。 　だが巴形薙刀の胸中には、絶望感は根付かず長くも続かなかった。彼は己の主を見て育っている。 　為せぬことも為すすべを知りしかして励み為さば何をか成さざらんや。 　きっと巴形薙刀は顔を上げた。ずいずいと大股に審神者に近寄り、背後から思いきり抱き締める。「へーい巴ちゃんどうしたの、包丁持ってるときは気をつけような。なんだい、君も羊羹食べる？ここの羊羹とっても美味しいんだよ。抹茶のは御手杵にあげたけど、小倉と栗と紫芋はまだあるからね。よしもう小倉は全部食べちゃおう。要るかい？」 「いただこう」 巴形薙刀は、審神者の肩に顎を乗せ、傲慢な雛鳥のように浅葱色の唇を開いた。審神者は楊枝で刺した羊羹の一切れをその口元へ持っていく。羊羹を咥えた感触に、審神者はすっと楊枝を抜き取った。巴形薙刀は羊羹をもぐもぐ頬張った。美味だ。今の俺にはこれが美味なるものだときちんとわかる。主よ、そなたが教えてくれたことだ。物を食して幸福になる術を教えてくれたのはそなただ。 巴形薙刀は真剣な顔で咀嚼していたつもりだったが、花吹雪を散らしてその頬はふわふわにこにこと緩んだ。頬が落ちそうだ。巴形薙刀は審神者に回していた腕をそっと中途半端に解いて、自分の頬が落ちないよう両手でふにっと押さえた。中途半端に巴形薙刀の長い腕に絡まっていた審神者は、「なんということだ…観測史上最大級の可愛さだぞこれは、各界に衝撃をもたらす世紀の大発見じゃないか！大変だ世界が平伏し宇宙が惚れるよなんだこれは一体誰がこんなプリティーな薙刀作ったんだどこの技術者だどこの天才だアー！私かぁ！私じゃないか！私最高か！！」といつもの奇声を発していた。「その通りだ！主は最高なのだから！羊羹を好きなだけ食えば良いのだぞ！」巴形薙刀は審神者の肩越しに皿の上の羊羹に手を伸ばし、むんずと楊枝を摘んで審神者の口元に運んだ。「主よ！羊羹は！卵焼きと同じであるな？即ち、幸福であるな？」「その通りだ巴ちゃん！」「ならば食うと良い！主は！幸福にならねばならぬのだ！」「え？もう一切れ主が食べていいの？ありがとうでもちょっと待ってねぇ今ほっぺたに一個入ってるからねモゴッ」巴形薙刀は審神者の口にせっせとわんこ羊羹を食らわせながら決意した。 例えその身は満ちずとも。 例えその魂が飽かずとも。 為すすべ無しと嘆こうものか。 いつかそなたを救ってみせる。 　 　巴形薙刀は希望を知っている。無力感を乗り越えていく術を持っている。この世は広く、無限の未知に溢れている。今主を救う方法がわからなくとも、その手段はきっとこの世のどこかにあるはずだ、それを見つけ出せばきっと主を幸福にできる。己にはきっとできる。 「巴ちゃーん、ちょっと待ってくれ、しんどいしんどい。さすがにいっぺんには入んないぜ」 「だが主の幸福のためだ」 「おうそれなら主もがんばるか」 「そうしてくれ、主を幸福にしたいのだ。これを全て食らうが良い」 「入るかな。まぁ入らんことはないだろうな」 「主よ、入らぬだのなんだのと言ってやはり幸福そうではないか。これが好きか？」 「おう大好きよ」 「では全て飲み込むが良い。主よ、幸福になれ。俺がもっと幸福にしてやろう」 　…部屋の外では、蜻蛉切が神妙な顔を若干赤らめて、障子に手を掛けかねて凍り付いていた。昼餉の支度が整ったが巴形薙刀が戻るのが遅いので気を遣って呼びに来たのが不運であった。蜻蛉切さんなら主さんが歩けなくても楽々負ぶえますよね！という短刀からの厚い信頼が裏目に出た。この頃いつも絶妙に間の悪い目に遭うのだった。合掌。 　彼は困り果てて忙しなく周囲を見渡した。廊下をこちらに歩いてくる同田貫正国が見えた。蜻蛉切まで戻るのが遅いので、ちょっと呼んでこいと小間使いに走らされたのだ。 「んぁ？どうしたよ。あの女まだ寝てんのか？」 「寝ていると申しますか…寝ておられるというか…」 蜻蛉切がもじもじと視線を逸らすので、同田貫正国は首を傾げ、審神者私室の障子の方を見た。 「さすがに栗はやめとこうな。ほらほらいじらないでしまっとこうね」 「栗、好きではないのか？俺は主とずっとこうして内緒を貪っていたいくらいだが」 「好きだけどね、それでお昼を逃しちゃ元も子もないからね」 「あいわかった。手早く始末しよう」 「巴ちゃんも欲しいかい？」 「うむ。主のくれるものならなんでも欲しいぞ」 「きぇええええ雛鳥フェイスしおってからにこの欲しがりさんめが！いいよ、食べちゃいな！…ってべたべたじゃないか、ちょっと待ってな拭くものあげるから」 「幸福であるな、主よ」 　同田貫正国は手練れである。溜息をつき、頬を染めて慌てて止めようとした蜻蛉切の前で障子に手を掛けパァンと開け放った。 「おいこら親馬鹿子馬鹿ども！！また飯の前に間食か！！」 「お腹空いたので」 「なんだ、正国も羊羹が欲しいか。おや、蜻蛉切もいたのか」 「腹減ったって…お前なぁ！ぶっ倒れたあんたでも食えそうなもの、って燭台切があれこれ悩んで飯作ってる間に、何を元気いっぱい腹減らしてんだよ！」 「主が腹を空かすのは元気いっぱいだからではないぞ、正国」 「訳わからねぇこと言ってねぇでとっとと飯に来い！あんたが来るまで誰も食わねぇぞ！」 「そりゃ大変だ」 審神者は唇を拭って立ち上がった。「行こう、巴ちゃん。ご飯だ」「あいわかった」 　すたすたと歩きだした審神者と、そしてすぐ後を付き従っていく巴形薙刀を見送り、同田貫正国はもう一度盛大に溜息をついた。 「…申し訳ありません」 蜻蛉切が両手で顔を覆ってもごもごと呟いた。「…自分としたことが…あらぬ誤解を…主がそのような…」太い指の間で顔から火が出そうになっている。 「あー、気にすんな、村正の。あいつは確かにその気はない。ないが、ないからこそ無駄にヒヨコとの距離が近い。あんたが誤解するのも無理はねぇ。親馬鹿が悪い」 同田貫正国は頭を掻いた。「…でもな、多分あいつは、守ってやるヒヨコがいないと、馬鹿やってられねぇんだ…」低く呟く。その目はじっと審神者を見ている。歩き方がいつもと違うのを注視している。クソ、どういう不調をきたすと人間の歩く姿勢が崩れるのか俺にはよくわからねぇ。ただ、まだ全快してはいないその身体でも奴は待っている奴らがいると聞けば歩く。元気に笑って見せる。もしかしたら死と背中合わせの危うさの中でさえ。…そう言う奴なのだ。 　夜の光の朧げな中で本音を吐いたあいつを、俺しか知らない。 「慣れろ」 同田貫正国は蜻蛉切に声をかけた。「あぁいう奴らだ、慣れろ」そして、いつかお前も気付いてくれ。 　破天荒に見えて無敵ではないあいつの、人間として素顔。 「俺らも飯行くぞ。早く行かねぇと、あの女俺らの分まで食うかもしれねぇ」 「え、えぇ…」 気まずげな蜻蛉切を促し、同田貫正国は心なしか逸る胸を押さえつけた。 　頭が切れるくせに腹が立つほど馬鹿をやる女だ。 　あの女が末永く馬鹿でいられるようにするにはどうしたらいい。 ヒヨコを守るあいつを守りたい。 　軒下から見上げる空はどこまでも青く眩しい。目をぎゅっと細めて睨みつける。あの女が騒がしく暮らせる日常を脅かし得るものがあるとしたら一体なんだ？治してもらったこの手で俺は何を斬り伏せればいい？何を薙ぎ払えばこの日々は永遠となる？ 　…俺も、何も知らねぇんだな…。 　夏空から視線を一転、涼やかな日陰の廊下に戻すと一瞬目が慣れず何も見えなくなった。明るいものを見続けていればその陰の暗さが見づらくなる。どちらもきっちり見通せる賢い眼が欲しいものだ。ぎゅっと目を閉じ、開いてから、同田貫正国は大股に主の後を追った。 　この先何があるのかはわからねぇ。 　何が来ても、それが主の道を阻むのならばただ斬り捨ててやれる力が欲しい。 　今度こそ、剛の刃の真価をてめぇに捧げられる強さが欲しい。 　 　　炎天、同田貫正国の瞳はその刃に似て激情に光った。 [newpage] 　嬉しい誤算だったなぁ。燭台切光忠はきまり悪そうに笑って頬を掻いた。 今日はオムライス、大皿はゴーヤの炒め物。枡形広場に、何故か城下町から大量に差し入れが届いていたのだ。ゴーヤと同梱のレシピを見て、沖縄風に豚と豆腐と卵を加えて炒めた。ついでに酸味を利かせたトマトのサラダも並べよう。とにかく短時間で量を準備できるものを。今日は厨房手伝いに結構な人数が来てくれているので助かる。厨房のテーブルの周りにぐるりと短刀脇差が並んでせっせと野菜を刻んでくれる。火を使うところに自分と大倶利伽羅、それからへし切長谷部が立てば大丈夫だ。コツを伝えたところ、チキンライスの量産はへし切長谷部に任せて大丈夫そうだ。 　刀剣男士の方はそれでいいだろうと思っていた。物足りないと言われたらお代わりが出せるし、肉を寄越せと言われたら夕餉まで待ってもらえばいい。 ただ、問題は審神者だ。燭台切光忠は、体調を崩した女性が何なら食べられるのか結構真剣に悩んだのだ。彼は下界の厨房番としてかなり長い。しかし刀剣男士はほとんど体調不良というものを起こさなかった。少なくとも、人間のように食欲に直結する病に罹ることなどないのだし、重傷を負っても手入れ部屋から帰ってくればもりもり食べる。審神者とは体のつくりが違うのだ。 …確か、伊達家にいた時…体調の悪い人には、お粥が出されていたような…気がする。　でも死にかけてるほど酷いわけじゃないんだし、どちらかというと体力の回復に役立つような、もっと精のつくような…。粥にする気で米を研いだ後になってから、燭台切光忠は悩みだした。 「うどんでも作るか？」 悩む燭台切光忠の様子を察し、へし切長谷部が木べらの手を止めて言った。「麺がなくても、小麦粉があれば作れるが」 「今から作るとちょっと時間かかってしまうからね。主君だって、この後ずっと寝てるわけじゃないし」 「城下に買い出しに行くか」 「じょ、城下…」 へし切長谷部の言葉に、燭台切光忠は声を詰まらせた。 へし切長谷部は、…当然だろう、かつて殿上人だったのだ。初代の審神者に連れ出されて城下町へ行ったことだってあるに違いない。 でも自分にとっては門の外は未知の世界だ。門を開け放ち眺めた世界はとても広くて、憧れを誘うように鮮やかで眩しかった。…でも、この容姿で城下町を、人の間を歩くなんて耐えられない。僕は醜い。僕はあのきらきらと色鮮やかな世界には不似合いなのだ。買い出しになんてとても行ける気がしない。僕が城から出たりなんかして、彼女が、主が恥をかいたりしてそれで僕のことを疎ましく思ったりしたら…。ざわざわと胸の内から込み上げる不安に喉を絞め上げられて、燭台切光忠は無意識に前髪を押さえつけた。 燭台切光忠の横で、大倶利伽羅は卵を割り始めた。 「伽羅ちゃん？」 「トリ出汁。鶏肉。長ネギ。卵。あの女に食わせるならそれで十分だ」 手際よく長ネギを空いたフライパンに放り込んで焼き色まで付け始める。なるほど、卵粥。 「…伽羅ちゃんも考えてくれたんだね」 「馴れ合うつもりはない」 フンと鼻を鳴らしてそっぽを向くこの打刀、その性根はどこまでも優しい。土鍋まで出しておきながら「俺はこれ以上は何もしないからな」と宣言してゴーヤを炒める作業に戻った。彼は燭台切光忠から仕事を奪わない。役割がなければ自分の存在意義を見出せない同胞に、いつも程よく仕事を押し付ける。 　大倶利伽羅が職務放棄したことで、燭台切光忠は「もう、仕方ないなぁ」と言いながら嬉々として審神者の分の卵粥を作り始めた。ちょっと生姜も入れよう。トリ出汁によく合うし、元気が出ると思う。ねぇ、元気になってね。昨日は頑張りすぎて疲れちゃったよね。無理しないでいいから元気な顔見せて。僕、君がいてくれて嬉しいんだよ。君はきっと僕のこと好きになってはくれないだろうけど、それでもいいからお願い、健やかにここにいてね。 　愛情を込めたらカサ増ししてしまったのか、量を誤った。土鍋一杯の卵粥を見て、大倶利伽羅は無言で丼をひとつ余分に出した。余ったら自分も卵粥処理班に回ろう。 　大広間の方が賑やかになった。審神者が来たな、と察して大倶利伽羅は暖簾を上げてちらと覗いた。審神者の表情は明るい。だが血色は良くない気がする。「お加減はよろしいのですか？」「どうぞこちらへ。あ、そっちの机はまだ拭いてないんです」短刀が審神者と巴形薙刀の周りを囲んで案じる後ろから、同田貫正国と蜻蛉切がぬっと現れた。 　同田貫正国はそのまま人垣を掻き分け、厨房に入ってきた。 「…あいつは」 大倶利伽羅が最低限のことばで問いかけると、同田貫正国は「あぁ？」と首を傾げた。だが大倶利伽羅が問わんとするところは正確に察してくれたらしい。審神者を振り返り、皿を持って厨房と大広間を忙しなく行ったり来たりする短刀達に目をやり、声を潜めた。「…見ての通り気力は戻ってるが、万全にゃ見えねぇ。歩き方がおかしい」 「歩き方？」 「ふらついてるっつうか、足を庇うような歩き方してるっつうか…」 「負傷しているのか」 「今朝見た限りじゃそうは見えなかったんだがな。…まぁ、腹減ってるだけかもしれねぇ。昼飯前に羊羹食ってたし」 「羊羹…」 大倶利伽羅は内心で盛大に溜息をついた。心配して損した。体調を崩した程度で食欲がなくなるような可愛げがあの女にあると思った俺達が馬鹿だった。合掌。 　燭台切光忠はいそいそと卵粥を準備している。へし切長谷部が「あ、おい俺が持っていく」と言ったが若干遅かった。燭台切光忠は、丼に粥をよそって浅葱をぱらっと散らし、「お待たせ、主君」と言いながら大広間へ持っていった。 「あれ？お粥？」 乱藤四郎の声がする。「今日オムライスなんでしょ？主さん、燭台切さんのオムライスすっごく美味しいんだよ」乱藤四郎が審神者の右腕にがっしり抱きついているのは、今日こそは隣に座るためである。 「あ、…その、えっとね…」 燭台切光忠は気まずげだった。思ったより審神者が元気そうなので、料理を分けた自分の判断が無意味だったと気付いてしまったらしい。大倶利伽羅は溜息をつき、それは俺の分だ、と言いに出ていこうとした。同田貫正国がちょっと待て、と手を伸ばす。 「ありがとう」 審神者の声に、大倶利伽羅は足を止めた。 「…人数分用意するだけでも大変だろうに、わざわざ私の分、お粥にしてくれたんだな。優しいね」 補完された情報に、乱藤四郎があっと小さな声を上げて口元を押さえた。審神者は片手でぽんぽんとその頭を撫でた。自分で気づいたならあえて咎めるまでもない。 「あ、その…、僕…、でも、要らなかったら片付けるから…」 「それ食べたらうんと元気になれそうだ。ありがとう。…こういうの、最高のご馳走だね」 審神者は卵粥を受け取って、「で？どこ座ればいいって？」と短刀達に尋ねた。こちらですー、正座用の椅子もここに置きました、と返事がある。短刀に引っ張られて審神者は席に着いた。巴形薙刀もついていこうとして、ふと足を止め、「燭台切」と振り向いた。 「なんだい巴ちゃん君」 頬が緩むのに泣きそうで、ぐずぐずに温かく溶けてしまいそうな心臓を押さえていた燭台切光忠は、巴形薙刀に声を掛けられ、慌てて引き締まった表情を取り繕った。 「感謝する」 「えっと…？」 「主は食事を工夫せねば健康ではいられないのだ。そなたは主の身を案じて料理をしてくれたのだろう」 「…あ、あぁ、でも、…お節介だったみたい。僕、また気の使い方間違えて…」 「そなたは主の言葉を聞いていなかったのか。主は最高のご馳走だ、と言った。主の判断が間違っていると思うのか」 「いや、そうじゃなくて」 「そなたは今主にとって最も必要なものを作ってくれたのだ。だから感謝する」 ふんぞり返って上から目線で大真面目に礼を言い、巴形薙刀はささっと審神者の隣の席を確保した。燭台切光忠はそっと後ずさり、足早に駆け込むように厨房に戻ってきた。だから誰も見ていない。同田貫正国と大倶利伽羅とへし切長谷部以外は誰も、燭台切光忠が衆目から隠れた途端に蹲って顔を手で覆い、肩を震わせ始めたのを見ていない。大倶利伽羅は無関心を装って目を逸らしながら手拭を放り投げてやった。審神者に食事を運びそびれたへし切長谷部は多少悔し気に、しかし微笑んで片付け作業を続行した。 「顔洗えよ、飯食えねぇぞ」 同田貫正国は燭台切光忠に一言かけてから、皿運びにやってきた短刀に卵をかぶせ終えたオムライスの皿を手渡した。 「…僕、僕で良かった」 「あ？」 燭台切光忠は蹲ったまま呟いた。「ずっとご飯作りたい。ずっと。あの人に。それだけでいい。神様お願い。それだけ叶えてくれたら何も要らない…」 「おいそこでブツブツ言ってるとそれなりに邪魔だぞ。あと卵が乗ってねぇタマゴめしこれどうすりゃいいんだ」 「タマゴめしじゃない、オムライスだ」 へし切長谷部がエプロンで手を拭きながら口を挟んだ。「燭台切、しばらくそうしているのなら、俺が卵を焼いていいのか。ちょうど練習したいと思っていたんだが」 「だーめ」 燭台切光忠はくすっと笑って立ち上がった。赤い目元を擦った。「長谷部君は全部卵焼きにしちゃうから駄目。僕がやる。覚えたいなら見ててよ」泣きべそだが誇らかだ。 やがて人数分のオムライスが仕上がり、運び終えた。掃除組も広間にやってきて、厨房組も席に着いた。 審神者の隣は確保したものの、乱藤四郎は気まずげに俯いている。燭台切光忠に謝りたい気持ちだったが、事実乱藤四郎は悪くない。ただ勘が少し働かなかっただけ。このやるせない申し訳なさをどうしよう、と悶々としている乱藤四郎の手の甲をそっと指先で叩き、審神者は微笑みかけた。 「乱藤四郎。お腹空いた。号令」 その眼差しはあまりにも穏やかだった。 　誰も悪くないさ。そう言っているかのように。 　…もっといろんなこと、気付けるようになりたい。もっと賢くなりたい。成長したい、そのためにも今日のご飯をしっかり食べよう。 　乱藤四郎はパンと両手を合わせた。 「それじゃぁ、今日はボクが号令するね。…あのね、えっと、…今日もおいしいご飯を作ってくれた燭台切さんと大倶利伽羅さんにね、感謝して、…合掌！いっただきまーす！」 乱藤四郎の声に、一斉にいただきますの声が続いた。 　 「それにしても大所帯になったな」 土鍋からお代わりの卵粥をよそいながら、審神者が言った。 ぐるりと見渡す喧騒の中には、新しい顔も混じっている。昨晩からこちらについた義経弁慶の短刀と薙刀。持ち前の明るさですっかり馴染んでいる浦島虎徹。大太刀兄弟。その近くの席には黒田の槍と打刀が増えている。平野藤四郎は鶯丸を連れてきて隣に座り、お茶を注いだりケチャップを渡したりとあれこれ世話を焼いて楽しそうだ。 　平野藤四郎は先程審神者のところに鶯丸を引っ張ってきて挨拶させに来た。この太刀、最初はどこか気後れした様子だった。しかし、審神者があっさり頷いて卵粥を掬う匙を置いて「わかった。それじゃぁよろしく」と握手の手を差し出すと、肩の力が抜けたような笑顔でその手を握り、「今度、茶でも淹れに行こう」と言った。傍らの平野藤四郎が誰よりも一番嬉しそうな顔をしていた。良かったですね、と前田藤四郎に言われて、はにかんで頷いた。 「覚えられぬ」 巴形薙刀が眉間にしわを寄せた。 「ゆっくり覚えていけばいいさ。君は生まれたばかりなんだから」 生まれたばかりにしては激動の数日だが。 　…違う。じりじりと続いていた膠着状態が、この薙刀の顕現で一気に崩壊し全てが怒涛の如く進み始めたのだ。あたかも一閃の斬撃が視界不良の藪を全て薙ぎ払う様に。 「主。お食事中の失礼、お許しください」 不意に後ろから話しかけられ、審神者はまた振り返った。茄子紺のカソックを纏った打刀が、いつの間にか大太刀兄弟の横から移動してきてそこに恭しく平伏している。綺麗に揃えた白手袋の指先まで一部の隙もない。なお、その隣の日ノ本一の槍は気楽な表情で胡坐をかいていた。 「頭、上げてもらえるかい。土下座は嫌いなんだ。見るのも嫌だ」 「…えっ」 「嫌がらせじゃなくて臣下の礼儀とかそういう意図でやってるのはわかるんだけどね。武士ならともかく技師に土下座を見せるものじゃない。人によってはアナフィラキシーショック起こして死ぬぞ」 「穴開き指触…？」 「だとよ長谷部。顔上げとけ」 日本号がへし切長谷部を小突くと、彼はおずおずと頭を上げ、そして日本号の姿勢を見てぎょっとして「貴様っ、これからお仕えする主の御前でなんという態度を！」と叫んだ。 「相変わらずきぃきぃやかましいなぁ」 「そんな態度で黒田の槍は無作法者との誤解を受けたらどうするつもりだ！尻叩きでは済まさんぞ！」 「何してくれんだ？ン？」 たわけ、と耳まで赤くしたへし切長谷部に、博多藤四郎が「本題忘れとうよー！」と机の向こうから声をかける。はっとして、咳払いし、赤い頬を誤魔化し、へし切長谷部は再び頭を垂れた。 「…御前にて失礼いたしました。へし切長谷部、と言います。織田信長に銘を賜り、黒田家に代々重宝と受け継がれた刀です。こちらは同郷、福岡が名宝、日ノ本一の槍、日本号。この様ですが天下三名槍が一振り。これより主の家臣として誠心誠意圧倒的責任感をもってお仕えしていく所存、何卒よろしくお願いします」 「長いな。巴ちゃんがキョトーンってしてるだろうが」 「も、申し訳ありません！ただちに改めます！」 審神者は笑って噎せた。乱藤四郎がすかさず「主さん大丈夫？」と背中を擦りたくる。審神者は、「堅苦しいな、少し気楽にしてくれよ。隣の槍を見習え。そんな死にそうな顔されるとパワハラやってる気分だ。そんな職場は好きじゃない」と言った。匙を置いて身体の向きを変え、黒田の二振りに向かい合う。 「何をそんなに緊張してるんだか知らないが…、良好な関係を築きたくてわざわざ来たのなら、そんなにかしこまらなくていい。長年の習慣ならば、変えろと言ってすぐに変えられるものでもないのかもしれないが。…おいおい、ちゃんと息してるか？」 「…はい。つつがなく吸って吐いております」 「…日本号」 「おう」 「これからよろしくな。早速仕事頼むけど、なんかこのへし切長谷部いろいろ心配だ。目を離すな」 「俺の初仕事は姫さんのお守りか。得意だぜ、任せな」 「貴様にお守りをされるほど俺は落ちぶれておらんぞ！…あ、主、その、どうか心配なさらず俺をお使いください。俺はかつては近侍業務を務めておりましたし、戦闘経験も豊富です。下界仕事もきっちりできます。書類作成から軍議に内番、行軍指揮まで必ずお役に立てますから、何でもお申し付けください」 「２１世紀初頭の就活生かよ。ホント君大丈夫か？」 「シュウカツ…？」 「いや、なんでもない。とりあえずご飯食べてこい。食事をおろそかにする奴には仕事を命じられん。…主命」 「は、はい！行くぞ日本号！」 「へいへい。気は済みましたかね、お姫さん」 そそくさと自分の席に戻るへし切長谷部と、のそのそついていく日本号。二振りを見送り、審神者は無言で目を細めた。お藤ぃ、ちゃんとご挨拶できたのかい？と次郎太刀が笑顔で迎える。食べかけのオムライスに手をつけながら、これからだ、これからの働きでお示しする、ともごもご返している。 「…」 「どうした、主よ。へし切長谷部が気になるか」 巴形薙刀がオムライスのスプーンを差し出しながら問うた。 「おう偉いぞ巴ちゃん一発で覚えられたね。ありがと、美味い」 遠慮なく一匙貰いながら、審神者は巴形薙刀の頭を撫で繰り回す。 「いや、あの打刀の名を聞くのは二度目だ」 「そうだっけか」 「何か気にかかるのか」 「いや…あんなに緊張してて、オムライス飲み込めるのかなと」 周囲の耳を気にして軽くごまかしつつも、審神者は横目で黒田の新顔二つをそれとなく観察していた。目を細めると途端に鋭利な刃に似た印象になる。事の成り行きを見守っていた博多藤四郎がその視線を気づかわし気に見ていた。 　審神者が左手をそっと自分自身の腿に置く。その拳がぎゅっと握られる。 「主さん、どうしました？麦茶いります？」 水差しを持って歩いてきた堀川国広が審神者に話しかけた。「ありがとう。頂戴」グラスを差し出すと、堀川国広がすっとしゃがんでグラスを受け取った。「御手杵さんから伝言です。新顔について確認したいことがあったらこの後私室に行く、とのことです」麦茶を注ぐ音に紛れるように声を潜めて述べた。 　どこまでも有能だな。審神者は苦笑した。 「殿上大部屋、と伝えてほしい」 「承知しました」 歩いて戻っていく堀川国広を呼び止めてあちこちからグラスが伸びる。ウェイターか。だが人の好い給仕では終わらないだろう、彼も。 　それぞれが自分の真価に気付き始めているのだ。抜き身の刃がずらりと並ぶ。互いの光に触発されたように、閃きと鋭さを取り戻していく。 　審神者は空にした土鍋を片付けに立ち上がった。チキンライスの残りがあれば嬉しいんだがな。見回す大広間に居並ぶ顔、顔、顔。長曽祢虎徹と和泉守兼定が豪快に笑っている横で、陸奥守吉行が何らかの対抗心を見せて張り合っている。にっかり青江がその隣でくすくす笑っている。浦島虎徹が「何々？混ぜて？」と言って兄の脇から頭を突っ込んで胡坐の中に入り込んだ。五虎退が牛乳を零し、秋田藤四郎が咄嗟に手近な布で拭いて事なきを得たが、その布の正体が何であるか気付いた小夜左文字が慌てふためいている。山姥切国広がそっと「気にするな」と小夜主任を押しとどめている。当面卑屈になる余裕がないのでその布も用がない。愛染国俊が今剣相手に蛍丸の自慢をし、今剣は今剣で岩融の戦闘経験を自慢している。和やかで賑やかで、…だが、腹の底は見えない。 ここは安全圏と呼べるだろうか。信じるも疑うも判断材料が足りない。 「…ともあれ残るは二振り、か…」 　審神者は独り言を零した。この場には、歌仙兼定と鶴丸国永がいない。 [newpage] 　 　昼休憩。 巴形薙刀は「審神者の服をぷりけつで補修する」ため、蜻蛉切と一緒に一期一振のところへ行った。彼とは分かれて歩いているが、審神者も二の丸にいる。調査団の入った殿上大部屋跡地を確認しておくためだ。KEEP OUTのテープを潜る。いやはや何度見ても惨状。 　梁や柱は傷つけないように破壊活動を進めたので、倒壊はしないだろう。重傷を負った刀剣男士達は全員搬出されたため、血痕の類も全く残っていない。だがものの見事に廃墟同然だ。化粧板や畳、障子は入れ替えなくてはならない。経費でなんとかなるからいいんだが。 「調査団は城下町で昼食休憩中、午後からまた戻って作業を続行するとのことです」 「ってことは、まだここは片付けるわけにはいかないのかな。ガラス破片も？」 「どうもそのようです。修理資材・工賃等の請求は、改案委より送信される書式の通りに作成して期日までに」 足元に飛んできたクダギツネが報告する。 「調査したなら自分らで必要なものとその額を算出して帰るくらいのことできんのかね」 「していただけたら楽でしょうにね…」 クダギツネが足元の地面を引っ掻く。クダギツネもそれなりに悔しいのだ。調査団に対しあちらこちら見せて説明しながら案内して回ったのに、審神者の仕事がまるで減っていない。審神者はクダギツネを摘まみ上げて肩に乗せた。未だ片付けの許可の出ない床はガラス片等が散らばっている。 　仕事が遅れるのはあまり好きではなかった。特に部外者の都合で仕事の進行が遅くなる場合、それも作業効率の悪さ故に遅くなっているのなら猶更。 「せめて掃除だけでも手伝わせて帰さにゃ割に合わないな」 審神者がぼやく。城下町の居酒屋では、昼食をとっていた気の毒な官僚が思い切りくしゃみをした。 　目につく範囲だけでも、と修繕予算の目算を始めた。障子の取り換え、照明の設置、畳の入れ替え、天井と廊下の板の張替え、霊力・電力設備の修理、その他諸々。あっという間に膨らんでいく。あの人の好さそうな坊ちゃん官僚、不透明な予算を動かすほどの悪知恵は働かなそうだ。品目を明らかにしておかなくてはなるまい。 　幸い本丸時空の天候はデフォルトで晴れ。天候改変術式を弄ったり現世時空と気候接続でもしない限りは雨は降らない。部屋も余るほどある。だから修理を急ぐ必要はないが、戦の痕跡など長々残しておきたくはない。勝ったからとて勲章にはならない。戦の勃発を避けられなかった時点で統治者としては負けなのだ。 　天井にぶち抜いた大穴から天井裏の配線を覗いていたところ、庭からおーい、と声がした。三部隊総隊長、御手杵。 「俺、この結界入っていいの？」 「あぁ問題ない。ただのテープだ。入ってきてくれ」 長い脚でひょいとテープを跨ぎ、御手杵が殿上大部屋前庭に姿を現した。 「土足で上がれ。ガラスやら木くずやら銃弾やら転がってて危ないから」 「おう。…この部屋に近付くどころか、土足で堂々と踏み込んじまう日が来るとはなぁ」 障子を外されて開け放たれた入口に、長身の影が立つ。眩い夏日の中で、室内の埃が霞を作った。 「ここにあった権力はもうない。ここはもうただの広い部屋で、かつ部屋の残骸だ」 「そうだな。…そうなんだよなぁ」 御手杵は気の抜けたような声を出し、しかし、逆光の影の中で鳶色の目をすっと細め、「残る殿上メンツも続々こっちに来たわけだし」と本題に入る意思をほのめかした。 　審神者は座布団を二つ拾い、念入りに叩いてから一つを御手杵に寄越した。すっと入口を指さすと、意を組んだクダギツネが素早く走り出て人払いに立つ。ボロボロの部屋の中で向かい合って胡坐で座り、「単刀直入に聞く。新顔が増えた。君の意見を聞きたい」と述べた。 「意見」 「まず確認させてくれ。大太刀兄弟、へし切長谷部、鶯丸。皆、もと殿上人だと考えているが合っているか」 「うん、全員殿上経験者だ。でも少しだけややこしい」 「というと」 「殿上から追放されて下界に来た奴が含まれてる。へし切長谷部は初代の審神者の怒りを買って天守閣から追い出されて黒田部屋住みになった」 「追い出された？」 「詳しい事情は知らない。ただ、日本号は『あいつらしい成り行きだぜ』って機嫌よく言ってたし、何か悪いことをしたってわけではないと思う。必要なら調べとく」 「その後彼は下界に？」 「あぁ。下界の仕事も嫌がらずにあっちから手を出してやってくれたし、俺達のこと見下してる様子でもなかった。その後、長谷部を追いかけて太郎太刀と次郎太刀が来た」 「どういう繋がりなんだ。刀派も由来も全く縁がなさそうだが」 「これもよくわからないんだけど、殿上で次郎太刀が長谷部のこと可愛がってたらしい。長谷部は次郎太刀のこと育ての親って言ってたし、次郎太刀は次郎太刀で弟とかお藤とか呼んでる。…ここからは推測として聞いてほしいんだけど、長谷部と大太刀兄弟は殿上寄りじゃなかったんだと思う」 「根拠は」 「長谷部は殿上にいた頃からあれこれ理由をつけて下界に遊びに来てた。左文字は弟に会いに来てたけど、長谷部は黒田の仲間だけじゃなくて他の下界連中とも関わりたがってた。燭台切とか大倶利伽羅ともしょっちゅう話してたし。俺も話したことがあるんだけど、俺達の生活はつらくないか、って何度も聞いてくれた。結構下界寄りだったんだと思う。昨晩も、あんたの役に立ちたいって遠征に出てたんだぜ」 「ほう」 「太郎太刀と次郎太刀に至っちゃ、長谷部が天守閣を追い出されてからとっとと自分達で降りてきちまうくらいだし、そもそも殿上に思い入れなかったんじゃないかな。昨晩だって殿上人側についてなかったし」 「なるほどな」 審神者は頬杖をついた。考え込む。「下界寄り、その割には随分と余裕のない奴だ…」 「余裕？」 「昼食の時、へし切長谷部が挨拶回りに来た」 「おう、行ってたな」 「必死で自分と日本号の売り込みをしていた。何をそんなに慌てているのかと思うほどだ。…私に非礼を働くのを極端に恐れてがちがちに固まって。殿上が崩壊して立場を失くしたからこその慌てぶりかと思いきや。根が深そうだな。殿上から追い出された経緯と何か関係があるのかな」 「わからない。日本号にも聞いてみる」 「その日本号についてはどう思う」 審神者はタブレットを畳の上に置いて操作しながら問いを続けた。 「日本号？」 「君の見解でいい。彼は味方か敵か」 御手杵は注意深く考え込んだ。自分にとって親近感のある相手だからこそ、贔屓目の判断になっていないか慎重に考えた上で、「日本号は味方だろうな」と答えた。 「日本号は義理人情を重んじる奴だ。黒田への恩義を今でも大事にしてるし、黒田の連中が全員こっちについてる以上日本号が殿上側に味方する理由がない。あんた個人を嫌ってるわけでもない。この間飲んだ時は、見てて気分のいい女だけど長谷部があんたに惚れないかだけ心配だ、ってげらげら笑ってた。…あいつは仕える人間を無茶苦茶選り好みするけど、ひとたび臣従を決めたら絶対裏切らない」 「日本号の方は別に私に仕えるとかなんとかは言ってないからわからんな。へし切長谷部のお守りはしてくれるらしいが。まぁ嫌われてないなら急に大身槍にぶっすり刺される心配もないかな」 「日本号は絶対そんなことしないぜ、ちゃんと言葉を交わせる間柄で、気に食わないことがあったらまずことばできちんと言う奴だ」 「信頼しているんだな」 あんたは、少なくともまだ信頼していないんだな。へし切長谷部も日本号も、遠征に出た程度では審神者の信頼を獲得するに至らないか。そう思いつつも、御手杵は言わずにおいた。へし切長谷部に対し悪感情を持つほどではないが、審神者が彼より自分を信頼してくれるに越したことはない。審神者は「御手杵にしかできないことがある」と言ってはくれたが、能力や経験を考慮するに、この城に残る刀の中で自分の立場を脅かす者がいるとしたらへし切長谷部だと思っている。あいつの力は欲しい、でもあいつに席を譲りたくはない。恋させてくれとまでは言わないから、せめて今のこの胸躍る立場を誰にも奪わせたくない。多少醜い本音と共に、御手杵は言葉を胸中深くにしまい込んだ。 御手杵が物思いに耽る間も、審神者はタブレット画面をすいすい操作している。御手杵もなんとなく覗き込むと、画面には刀剣男士の名前がひしめいている。線で結ばれ囲まれしている様子を見るに、城に残る刀剣男士の関係を図示したものらしい。日本号の名前が自分の名前に関連付けられている。無意識に目で追って、御手杵はずきっと胸が痛む事実に気付いてしまった。 　そこに審神者の名前はないのだ。 「鶯丸は」 御手杵の様子に気付いてか気付かずか、審神者は問いを続けた。「平野藤四郎の縁刀ではあると思うが、下界との接点は？」 「平野以外にはほとんどない」 御手杵は返答した。「殿上時代、下界に来たことがあるわけでもなかったし、平野以外の知り合いが下界にいる様子でもなかったし…でも昨晩は殿上人側についていたわけでもなかったし、正直一番立場が読めない」 「そうか」 「あんたはどう見る？」 「静観だ。スロット３で高練度の太刀の合流はありがたいけど、内紛因子になりかねんうちはしばらく様子を見る。そう何回も戦はやってられん。迎え入れはするが、鶴丸国永の立ち位置もよくわからない状態で不確定因子を懐深く抱え込む余裕はない」 鶴丸国永。御手杵は、たった今までその名前を忘れていたことに気付いた。 　よりによってこの城にあいつが残った。殿上人の中の殿上人。 　表情を歪めた御手杵に、審神者が「知っていることがあったら教えてくれるか」と問う。 「もっとも、あまり元気な様子ではないし言葉を交わしたことがあるかどうかも微妙だが」 「…裏切者だ」 「裏切り？」 「燭台切と大倶利伽羅を切り捨てて殿上暮らしした奴だ」 「君らが切り捨てた、って言うと言葉のアヤなのか本当に刃傷沙汰やったのかちょっと判断しかねるんだ。具体的に何をやった？」 彼を下界に連れてきたのはへし切長谷部だった。 殿上人にしては明るくて気さくな奴で、俺はそこまで嫌な奴じゃないなぁ、くらいの印象を持っていた。下界ではよく伊達部屋か厨房に入り浸っていた。大倶利伽羅が鶴丸国永にカレーライスを食わせたがっていたのも覚えているし、燭台切光忠が「鶴さん元気かなぁ」とその身を案じていたのも知っている。 それなのに鶴丸国永は伊達の仲間を裏切った。ある日突然手のひらを返したように、初代審神者の前で伊達の二振りを下界の刀剣、と侮蔑した。それっきり下界には来なくなった。 「…あんなに陽気に笑ってたのに、心の中ではずっと、あの二人のこと、俺達のこと、見下してたんだ」 やがて初代審神者が戻らなくなり、殿上人が二の丸に降りてきたとき、鶴丸国永も一緒に降りては来た。だが伊達の二振りに謝罪することはついぞなく、というより部屋から出て来もしない。ずっと三日月宗近が彼の世話をしていた。殿上人の小間使いに行く短刀達越しに、三日月宗近が鶴丸国永に対して、いつか主が帰ってくるから、それまでの辛抱だから、と言い聞かせていたことくらいは知っている。 　鶴丸様、お人形のように動かないんです。 　あるとき粟田口の好奇心の強い短刀が言っていた。お部屋中に金魚のお鉢を置いて、その中で、ずっと動かれないので。僕、木の上からしばらく見ていたんですよ。びっくりしましたよ、木の影の形が変わるくらい時間が経っても、鶴丸様、ずっと座ったままで動かないんです。あれって、「死んでる」という状態なのではありませんか？ 　死んでたら多分腐るから、まぁ死んではいないと思うぜ、とその時は返事をした。 正直なところ自分達の骸が本当に腐るのかどうか御手杵は知らない。何せあまり戦に出たことがないし、誰かが折れるのも見たことがない。敵兵は屠れば霧散して消えていたが、自分達も腐らずあのように消えるのではないだろうかと思っている。いずれにせよ、物としての価値観から言わせてもらえば、原形を失わずその場に存在するならば、生きていると見なしてよいはずだ、そもそも刀は動かない。微動だにしないことを不審がる必要はない。 　…あれこれ理屈をつけたが、正直なところ、「心配してやりたくもない」のが本音だった。下界を走り回っていた鶴丸国永の笑顔の明るさを知っているからこそ、その裏切り様にはいっそ憎悪すら覚える。自分は当事者ではないが、放心状態の燭台切光忠がどんな思いだったか考えるとやり切れない。 　ある意味鶴丸国永は死んでいる。少なくとも、俺達が知っているあの鶴丸国永はとっくの昔に死んだのだ。この城にいるのは鶴丸国永の屍に宿った鬼、そしてそれすら死んだ後の骸だ。 「…今でも初代が帰ってくるの待ってるような奴だし、動かないでいてくれてむしろありがたいくらいっつーか…」 御手杵はガシガシと頭を掻いた。本当はそんなこと思いたくない。けれども、…この城に残る複雑な事情を思えば、殿上人の中の殿上人たる鶴丸国永が何の行動も起こさずにいてくれるにこしたことはない。 審神者は目を閉じ、片手を頭にやってから、「…まぁ、そんなもんか」と呟いた。審神者の手元で人物相関図がささやかに書き換わる。御手杵は首を傾げた。日本語ではない文字で書かれているようだ、読めない。 「それ、なんて書いてあるの？」 「ん？あぁ、わからなくていい。いや、わからない方がいい。…これは私の主観に過ぎない。むしろ私の見解に影響されずに、君は君の視点から全体を把握する目を残しておいてほしい」 「わかった。今後俺が気を付けるべきことは何？」 「そうだな…」 審神者は思案し、そして、「遠征部隊を編成するときとか、新顔がなるべく多くの刀剣と接触できるよう配慮してほしい。できれば間に入れそうな縁刀と一緒にいられる状況で、他の刀剣とも接点を」と言った。「孤立を作らないことだ」 「わかった。意識してみる。午前中の遠征ではひたすら周回効率だけ考えてたけど、午後からは部隊員の関係性にも気を配ってみるよ」 「午前中？おいおい総隊長。私は午前中いっぱい勤務禁止の指示を出したはずだが…、忘れちゃったか」 審神者が顔を上げて御手杵をまじまじ見つめた。「上司が寝てる間に働かせるとか鬼かよ」 　御手杵は背筋を伸ばした。怒られるとしても、責任を問われるとしても、自分はその時精一杯正しい判断をしたつもりだ。 「もし間違ったことだったなら、指示したのは俺だから俺の責任。遠征に行った奴のことは叱らないでほしい。昨晩、決戦にも遠征にも出てない刀剣がいる。巴形、骨喰、鯰尾、正国、今剣、岩融、浦島。こいつらは昨晩『時間外労働』したわけじゃないから、午前中の勤務禁止の対象外だと判断した。だから遠征に行かせた」 「ほっへぇ」 審神者は気の抜けた声を上げ、瞬きをして、そして笑い出した。「確かにな！うん、確かにそうだ！いいねぇ、指示をお利口に守るだけなら子犬でもできる」審神者の反応を見て安心した御手杵は、「って言っても、俺だけじゃ思いつかなくて、博多とかの提案があって初めて気づけたんだけど」と補足した。 「閃いたのは博多。責任を負う、って言ってそれを実行させたのは君。いいチームになってきてるな」 「そうか？なんか嬉しいな」 頭を撫でられた大型犬のような顔で御手杵は笑った。 「しかし、なんでまたそうも勤勉に遠征を？」 柔らかい表情のまま審神者は問うた。 「資材、あるにこしたことないだろう。それに、あんたは新しい太刀を迎えたがってるって巴形から聞いた。少しでも、足しにしたくて」 「なるほど。…実に仕事のできる集団だ。判断力、行動力があるし情報の共有が早い」 審神者は腕を組んで頷き、「では先に話しておこうか。太刀を三振り鍛刀する予定だ」と言った。「大典太光世、ソハヤノツルキ、それから大包平を考えている」 　だよなぁ、と御手杵は内心苦笑した。避けては通れないのだ。審神者が決めたことなのだから。 「あの…さ」 御手杵は躊躇しながらも口を開いた。「太刀じゃなきゃ、駄目なのか？」 「どうした、総隊長の目から見て戦略上の懸念があるなら話してくれ」 「いや…太刀だと、結構資材いるだろ。でもって、多分なんだけど、その太刀三振りとも…割と稀少なんじゃないのか？資材、どのくらい準備したらいいのかってのと…、あと、…資材なら俺達もがんばればいい話だけど、…なぁ、これはもしかしたら無礼にあたるかもしれないんだけど…」 「構わん。言ってくれ」 御手杵は言い淀んだ。 だが、伝えねばならないと思う。自分でなければ誰が言うのだ。皆の不安だ、代表して述べるならば自分がその立場だ。 「…鍛刀、しんどくても、諦めないでほしい」 「Bitte？」 「上手くいかないかもしれない、どれだけ鍛刀しても欲しいのなかなか来ないかもしれない。あんたが鍛刀するって聞いた時、資材の準備は覚悟を決めた。でも、…頼む。出ていかないでくれ」 気がついたら頭を下げていた。審神者がこの姿勢を嫌うのを知っているのに勝手に両手を床についていた。掌にちくりと痛みが走る。何かの破片の上に手をついてしまった。でもその痛みより遥かに惨いものが訪れるのだ、もしも自分達の想像する最悪の事態が起こったら。 「はぃい？デテイカ・ナイデクレ？」 審神者はあたかも覚えたての外国語を復唱するかのような、間の抜けた発音で御手杵の言葉を繰り返した。「とりあえず頭上げて聞かせてほしいんだが、君らの中では私が出ていく話になっているのか？」 「巴形が言ったわけじゃない。巴形はあんたが鍛刀を成功させると思って疑わない。…でも、俺達の知ってる限りで言えば、鍛刀ってそんなに簡単なことじゃない。昔この城で審神者をやってた男は数珠丸恒次が鍛刀できなくて気を病んで出ていった。あの人については別にどうでもいいんだけど」 御手杵の爪が畳に食い込んだ。 　どう交渉すればいい。 　何を言って引き留めればいい。 　もともと審神者に対する非礼が続き、昨晩とうとう謀反の起きた城。もともと戦力外とはいえ一夜にして刀の数も減った。未顕現の刀も多いまま、主戦力を欠き、…どう見ても、この女の才覚を引き留めるほどの価値もない。この女にとって、この城に留まることに一体何の得があるというのだ。 「…あのさ、本当に、本当にこの城はめちゃくちゃ面倒が多いし、あんたにとって嫌な思いばかりの城だと思う…。でも、捨ててほしくないんだよ。昨日乱が言ってくれたそのままなんだ。あんたが去っても他の誰かが来てくれればいい、なんてもう思えない。あんたにだけは捨てられたくない。…頼む。資材の遣り繰り、全力で手伝う。だから、頼むから出ていかないでくれ。鍛刀するのを止めたいとさえ思ったんだ」 口下手だ、と御手杵は思った。乱藤四郎のように激情をぶつけることも、博多藤四郎のように理路整然と思考を整理し、最も有利な物言いを選ぶこともできない。 　ただ真っ直ぐ突くことしかできない。飾らず本音を述べることしかできない。 　それだけが己の特技、それだけが己の武器だ。 「総隊長」 審神者が口を開いた。「つまるところ、この三振りをなかなか鍛刀できなかった場合、私がメンタル折れて職務放棄する可能性がある、と？」口調が笑っている。御手杵はそろりと顔を上げた。声音そのままに審神者は笑っている。悪戯を思いついたような顔だ。 「そいつは困ったなぁ」 にやにや笑いながら審神者は畳に指をついて身を乗り出した。「そうかそうか…あれだけの嫌がらせと時間外労働で処理した戦争に耐え抜いた精神でも堪えてしまうほど、鍛刀はしんどいものなのかぁ。まずいなぁ」 「あんた、なんか策でもあるの？」 御手杵は藁にもすがるような思いでそっと尋ねた。「なんか、絶対に鍛刀を成功させる秘策か何か」 「絶対なんてもんはないぞ御手杵」 技術者ゆえ、基本的に自分の作るものに対して「絶対」「百パーセント」などの言葉は使わない。ましてや試作段階の未承認技術に対して「絶対大丈夫」などとは口が裂けても言わない。技術の過信は慢心を呼び、過大広告はお客様対応窓口にクレームを呼ぶ。しかし無策でもないので審神者はぐふぐふと不気味な笑いを浮かべ続けていた。隠しもしない窃笑。合掌。 「不安がるくらいなら考え方変えてみたらどうだ。逆にその太刀が手に入るまで私はここを離れんかもしれんぞ」 「あ、むしろそっち？そうなの？」 御手杵は拍子抜けしたような声を上げた。 　審神者は一瞬迷った。御手杵は、この城の刀剣男士を統率する役割を担えるよう育てていくつもりだ。この槍にだけは伝えておくべきだろうか。 　鍛刀の成功率を上げる策はある。仮にうまくいかなくてもそれで心は折れない。失敗にも試行錯誤にも慣れている。でも、私は自分で自分の身を置く場所を選べない審神者だ。あくまで仮の審神者、厄介な本丸の建て直しを任されているに過ぎず、この本丸の再建が完了した暁には正規の審神者に城を譲ってここを去ることもありうるのだ…、と。 　そう、この槍は刀剣男士達の先頭に立てる頭として育てておくつもりだ。いつか自分が去っても、この城が集団として組織として戦力として機能できる状態で次の審神者に引き渡されるようにこそ。審神者を入れ替えてもこの城が機能するように整えるまでが自分の仕事だ。 　…だが、審神者は打ち明けようとしたその言葉を胸の底にしまった。これを口にするのはエゴでしかない。零したくなってしまう弱音でしかないのだ。 　たとえ乱藤四郎が泣いて叫んで愛してると言ってくれたとて、それでも改案委の異動指令が下れば去らねばならない。自分の立場は常に不安定だ。改案委にとって己は事故物件に送り込む便利な補修道具に過ぎない。 …それでいい。それでいいのだ。一城の刀剣男士に深く絆されればろくなことにはならない。身に沁みてわかっているじゃないか。わかっていながら、昨晩乱藤四郎の言葉に胸打たれてしまった。慕われれば応えたくなる。結局のところ非情になるのが下手くそなのだ。長く居ればきっとここの者達のことも大切に思ってしまうだろう。乱藤四郎の前で涙ぐんだ心の中には、そんな、学ばぬ自分の不甲斐なさを自覚しての反省もあったというのに。 …こんな未熟者のままでは、夢に、約束に追いつけない。 「…主？」 御手杵が怪訝気に声をかけた。にやけた微笑を透かして、腹の底の煩悶が顔に滲み出ていたらしい。「どうかした？まだ体調悪いの？」 「いや。平気だ。大天守から砲撃されたらどう応戦するか考えてただけ」 えぇ、何想定してんの…と言いつつも、御手杵はじっくり考え、「部隊への直撃を避けて散開、射程外で包囲の布陣、補給路を断つ？」と慎重に解答を述べた。22世紀以前の陸戦ならば正解だ。移送術式で時空間を捻じ曲げて物資輸送ができる時代にあっては、兵糧攻めはそう簡単ではない。かいつまんでそう説明すると、御手杵は顎に手をやり真剣に考え始めた。「兵糧攻めができないなら、城は基本的に籠城する側が有利なようにできてるよなぁ…」この戦術問答はたまにふっかけていくことにしよう。注意を逸らすのに良い話題だ。 「よし御手杵、この詰将棋は君への宿題だ。君のタブレットにも城の見取り図が入ってる。天守主砲の有効射程はCon-no-SKに尋ねてみるといい」 「えっ、天守の大砲って本当にあったのか？」 「今度見に行くかい？時代錯誤だがそれなりの浪漫は感じるぜ。…一応ここは要塞だ、見た目は壮麗なれども正しく使えば牙向く白亜の鉄壁よ。探せばあちこち物騒なものしまってあるんだわ」 「マジか」 審神者と行く・ぶらり城内危険箇所散策ツアー。浪漫と物騒、はちゃめちゃにうるさいガイド付き。 　…なんかそれ、「デート」みたいじゃねぇか。照れくさいときめきがこみ上げてきて、御手杵は火照りそうな頬をごまかそうと頭をぶんぶん振った。 「気が向いたら、Con-no-SKや君の部下を誘ってこの城の見取り図を囲んで、城攻めの戦略を立ててみろ。思考実験は頭を鍛えるのにも互いの腹を探るにもいい。見事落城させられたら褒めてつかわすから」 審神者は座布団から立ち上がった。差し込む夏日に埃はまるでたなびく金雲のように舞い上がる。まだもうしばらく話していたかった御手杵は、「あんたは？この後どうするの？」と尋ねた。 「お散歩だ。幸か不幸か刀剣男士が減って、曲がり角からいきなりぶすっと脇腹刺されるリスクが減ったので今のうちに二の丸をうろついてみる」 そう言って審神者は軒下に立った。「御手杵、誘っといてなんだがここはまだ調査中らしい。あまり場を乱さずに、それから他の刀剣達もまだ近づけないでくれ。…こんのすけ」 「はい！」 「行くぞ」 玉砂利を踏む審神者の足音が遠のいていった。御手杵は目を閉じ、会話の内容を整理した。 鍛刀開始については、懸念するほど怯えなくてもいいのかもしれない。…この審神者はならば何かしらの策を持っていてもおかしくない。よくわからないけど、とりあえずはあの背中に黙ってついていこう。ただ、資材はなんとかしなくては。さすがに無から刀を打つことはできないだろう。 それから主は新参と旧殿上メンツの腹を探りたがっている。鶯丸については、しばらく平野藤四郎を側から離さないようにして様子を見てみよう。もしかしたら、一期一振や獅子王、大太刀兄弟辺りは彼と口をきける関係にあるかもしれない。鶴丸国永については…、命じられてはいないが、監視をつけたい。歌仙兼定と同様、こちらに寝返ることなくこの城に残っている殿上人だ。この先どんな動きをするかわからない。黒田の二振りは、俺が思うに既に味方だ。日本号には早い段階で主と話すよう言っておかなくては。へし切長谷部も。…逆に、主は何故まだこの二振りへの警戒を解かないのだろう。主と俺とでは、物の見え方が違うのだろうが…。 　…異なる視点を残しておいてくれと言われた。主の見解に沿うだけでは十分ではないのだ。主が求める家臣とは、主の言うことに従順に頷き続けるだけではダメらしい。 　ならば、俺は俺の見方で考え、俺の考えで動いてみよう。わからなければ相談すればいい。主に。それから、俺の部下に。俺とは異なる視点と能力を持つ部下達に。 　御手杵はポケットから紙片を出した。受取箱の中に保管されている刀剣の目録である。午前中に博多藤四郎が調べ上げたものだ。彼は算術にも強いし情報処理にも強いし機転が利く。遠征や日課任務だけでなく、受取箱の中の刀剣も資材として数えうるのだと御手杵に気付かせてくれた。そして誠実だ。博多藤四郎の提出したリストにおいて、彼が隠し持つ短刀は資材の数に入れられておらず、別枠に記載されている。 　…あんた達だって同じ刀剣男士になれる存在だと思うとちょっと気が引けるけど、俺の主のために、力になってくれ。 「こんのすけ」 「はいっ」 彼は自分のタブレットに呼びかけた。簡潔に指示する。 「手伝ってくれ。各刀種を刀解した場合に得られる資材量を調べてほしい」 「承知いたしました！」 例によってしっぽを振り回したりぐるぐる回ったり雨乞いし始めたクダギツネを見ながら、御手杵も目まぐるしく頭の中で戦略を巡らせた。 ここからは、遠征と並行して拾得刀剣も資材として計算に入れていく。クダギツネにはたくさんの調べものをしてもらわなくてはならない。大阪城の各階で拾える刀剣についても知りたい。通常の戦場についても考慮すべきだろう。昼に非番になる者を作っておけば、日中の出陣が終わった後に俺の指揮で遠征と出陣を行って資材稼ぎができるはずだ。 直感的に、ただの足し算ではどうにもならない計算だということはわかる。どのように情報を集め、どんな計算をすべきか。博多藤四郎に相談すれば道筋が見えるだろうか。 出費も減らさねばならない。負傷を修復するには資材を使う。なるべく負傷を避けるには何に留意すべきか考えて今後の戦略を立てなくては。この辺は誰に助言を求めれば良いのだろう。 やってやる。主を小躍りさせるような資材の山を築いてみせてやる。 [newpage] 「…なんじゃこりゃ」 審神者は独り言を零した。 殿上大部屋は瓦礫だらけで足の踏み場もなかった。ここは二の丸、小部屋棟…戦場にならなかったこの棟もまた足の踏み場がない。ここで所狭しと場所を取っているのはガラスの破片や割れた材木ではない。本、本、本。夥しいほどの本の山。何があった。クダギツネの体高では視界が悪くなるほどで、首を一生懸命伸ばして視界を確保しようとする。見かねた審神者が屈んで手を差し伸べると、クダギツネはタタッと飛びつき審神者の肩まで駆け上がった。ほとんど無意識にこの小動物の頭を撫でながら、審神者は「何があった…」と呟いた。「こいつはやばいぞ…事によると大惨事だぞ終わりの始まりだぞ…」「審神者様？」クダギツネが首を傾げた。 「あっ、主さん！」 堀川国広が本の山の中から顔を上げた。三角巾を被ってハタキを手にしている。彼の声に、本の山のあちこちから刀剣男士が顔を覗かせた。足元どうぞお気を付けて、とか、むさくるしいところですがどうぞ、だとか、オイむさくるしいたぁどういうことだ俺の部屋だぞ、だとか。 　審神者は手近にあった本を一冊手に取った。老若男女に大人気のクダギツネ風評被害シリーズ、「クダギツネでもわかるお城鑑賞入門」。クダギツネの名誉棄損はさておき裏表紙を捲れば押印がある。この城の備品として支給された本だ。全て本丸と名のつくこの軍事施設には、開城の時点で支給される標準備品の一つに書庫一杯の書籍がある。 　…着任当初に確認した時点では、この城の書庫は空だったけれどもな。 　審神者は「クダギツネでもわかるお城鑑賞入門」をクダギツネシリーズの山の上に戻した。 「何事だ、これは」 「僕達、本の整理をしているところです」 前田藤四郎がよいしょと立ち上がって答えた。彼も内番着と三角巾のいでたちだ。心なしかあちこち埃っぽくなっている。「ただ、どう分類したらいいかわからない状態なのですけれども」 「随分と埃だらけだな。どこにどれだけ長くしまい込んでればこんなことに」 審神者はクダギツネを掴んで前田藤四郎の頬を拭いながら言った。クダギツネは「あーっご容赦を！審神者様困ります、困ります、あー！」と至極もっともな悲鳴を上げていたが、前田藤四郎の頬は綺麗になりクダギツネの尾は灰色になった。狐なのに鼠だ。合掌。 「西の丸の蔵です」 「西の丸？この城では本を西の丸に保管していたのかい」 「はい。えぇと…初代の命で移したのです。元は天守廓のどこかにあったようなのですけれども、全部、西の丸の蔵に移せと」 他の刀剣男士達も、本の山を避けて跨いで審神者と前田藤四郎の周りにぞろぞろ集まってきた。審神者がぱっと手を上げ、「待て、そこから動くな」と言った。「崩れる」それを聞いた短刀と脇差は「だるまさんが転んだ」で止められてかえって楽しくなってきたような顔になった。 　鯰尾藤四郎が「その後、西の丸の蔵は鍵がかけられちゃったから、本ってなかなか手に入らなかったんですよ」と言う。「薬研とかがたまに蔵に忍び込んで持ち出してくれるのを、手入れ部屋とかでみんなで読んでましたね」 「…そうか、この城の図書は西の丸にあったのか。規則違反だな」 審神者は目を細めて、「天守廓に本がなかった理由はわかった。で、それがどうして今ここにどっさりと」 「午前中にみんなで運んだんです」 「今、薬研兄さんが何故か書庫の鍵持ってるみたいんなんです。それで、書庫が開いてるうちに本を根こそぎ持ってきちまおうって和泉守さんが言ってくださったので」 五虎退の言葉に審神者は「そうか」と頷いた。「ここに本を運び込む指示をしたのは和泉守兼定だという理解で正しいか」 本の山ひしめく辺り一帯に審神者が視線をぐるりと流す。察した堀川国広が「兼さーん！兼さん！主さんがお探しだよ！」と部屋の奥に向かって呼びかけた。 「あん？何だ？」 和泉守兼定は顔を上げた。そして審神者を視界に捉え、まとめていた髪をさっと下ろした。艶やかな黒髪は彼の自負する「かっこよさ」の一部なので惚れた女には遠慮なく見せつけていきたい。長い脚でひょいひょいと本の山を跨ぎながら廊下まで出てきた。背筋を伸ばすと審神者の眼光が彼の顔を見上げる形になる。 「ここは確か君の部屋では」 「おう、俺と長曽祢さんが普段使ってる部屋だ」 「本をここに運ばせたのは君かい」 「あぁ、俺だ。悪いな事後報告にしちまってうごぁぁああ！！！！」 「ヘッドロォォオオオオオック！！！！」 和泉守兼定の自慢の黒髪がばさっと撥ねあげられる。周囲の刀剣男士も目を丸くした。あががが、と呻く和泉守兼定の頭は審神者の脇に抱え込んで締めあげられていた。えぇ！？と面食らった前田藤四郎が両手をうろうろ彷徨わせ、堀川国広は小箒を取り落とした。何かまずいことでも、と誰かが問おうとしたかもしれないが、皆さっと黙りこくった。 「何考えてるんだ和泉守兼定。…どう責任とるつもりだ？」 　審神者が怒っている。本をここに運んだのは、間違いだったのだ。 [newpage] 「驚かすなっての」 縁側に座った和泉守兼定が苦笑交じりに頭を掻いた。「何かよっぽどあんたの気に障ることしちまったのかと思ったじゃねぇか」 「冗談じゃないよ、驚いたのはこっちだ！」 和泉守兼定の隣に腰かけた審神者は憤然と言った。「あのなぁ、君ら私よりずっと長くこの城に住んでいるだろう、そしてここは君の部屋だろう？危機管理意識を持ってくれよ」 審神者は軽くご立腹であった。 　理由は単純。無計画に積まれた本の山、その重量で小部屋棟の床をぶち抜きかけていたためだ。現に縁側の床板は部分的に沈み込み、部屋の敷居が浮き出して色の違う木肌を見せている。特に高身長刀剣男士が「場所を取らないよう」天井近くまで積み上げた辺りでの被害が大きい。 地盤沈下被害は室内にまで至る。和泉守兼定の部屋の畳が部分的に「ここ踏むとへこみますよ、主君！」という状況であることを秋田藤四郎が報告した。ハラハラと見守る隊員の前で探検隊隊長がジャンプを試みる前に、鳴狐が素早く秋田藤四郎の脇に手を突っ込んで抱き上げて撤去した。一期一振不在時の粟田口の治安は、国吉が一振り鳴狐が守る。だが秋田藤四郎は以前にも増して好奇心のままに行動しがちになっている気がする、一期一振、早くぷりけつ補修を終えて合流してくれ。 とにもかくにも二の丸は運び込んだ書籍の重さであちこち床板が沈下した。発見が遅れたら、大量の本と今剣を抱えて闊歩する岩融か、「いいよー？任せな？アタシもアニキも図体はデカいからね、アッハッハ！」と笑いながら大盆にどっさり本を載せて抱え上げた次郎太刀とその兄辺りが床板をぶち抜いていたかもしれない。 和泉守兼定をヘッドロック制裁した審神者は、周囲で凍り付く刀剣男士に床板沈下を警告し重量軽減措置を指示した。まずは「ハイ審神者の便利道具の青い敷物わかる人手ぇ挙げろ」と募って、手製のポータブル移送術式陣（主要材料：ビニールシート、霊導線等）を取りに行かせた。そして他の刀剣男士には、作戦本部に置いてある工事道具の箱を取ってくるよう指示した。 今、本は壁際に浮いている。あたかも目に見えない本棚がそこにあるように。術工スパナで張った安全ネット術式を仮の置き場にしている。高さの基準は一薬研藤四郎だ。若干高さがズレているのはご愛敬。現段階では命の危険を伴う工事ではないのだし、スパナの使い方に慣れるきっかけになればそれでいい。 「なかなか手間だな…」 「あぁ、手間だ。効率は悪いが、今の君達に実行できる安全な手段は限られている」 ちなみに効率を重視するならどんな手段が、と尋ねようとしたが、和泉守兼定の第六感がやめておけと囁いた。賢明だ。その後二時間にわたるマシンガントーク「ご家庭でできる！楽しい術工学の悪用講座」を聞かされるところだった。 和泉守兼定は責任をもって術式本棚の設置を指揮した。各刀剣男士が部屋に持ち込んだ分についても、床の沈下を起こしていないか確認して回ってくれるよう鳴狐に依頼した。なお、クダギツネは鳴狐のお供に「わたくしだけでは、床を踏み踏み確認する肉球が足りのうございますゆえ！」と言われて引き摺って行かれた。打刀以上の刀剣男士を中心に一薬研藤四郎の高さに術式陣を張る。その下の空間がもったいないので、短刀・脇差を中心に二段・三段に術式陣を張ってもらった。高さの基準は肘薬研藤四郎と膝薬研藤四郎だ。具体的な高さはお察しください。獅子王が「おい、薬研こっちに借りてくぜ！」と言って薬研を引っ張っていった。 膨大な量の本を納めるためにせっせと術式陣を張っていったが、既に先端は廊下の角を曲がり棟の周りをぐるりと回って渡り廊下まで伸びて先が見えない。端の方にはビニールシートで本を送ればいいと審神者に助言された。「並べるのは後だ。ひとまず重力から切り離しておいてくれ」庭にもゴザを敷き、ひとまず屋内からはどんどん本を出していく。庭であれば沈下しないはずだ。 「和紙の綴じ本に比べれば一冊当たりも結構重い。こうもまとめて積めば本だって馬鹿にならんぞ。そのくらい考えてくれ」 「すまねぇ。ムキに、っつうか夢中になっちまった。今ぶんどっておかねぇと、次いつ蔵の鍵が開くかわからねぇから」 和泉守兼定は素直に頭を下げた。内心気恥ずかしい。思慮深さは自負するところだが、思慮よりも先に感情で行動が先走るところがあるのも自覚している。本の重さなどまるで意識していなかった。あまりにも心が浮き立っていたためだ。 「言えば蔵くらい開けるさ」 「あんた、蔵の鍵持ってるのか？歌仙兼定しか持ってないと思ってた」 「鍵がなくても鍵くらい開くだろ」日本語。 審神者が掌の中でくるりと返したスパナが陽光を受けて閃いた。そうだった。それが邪魔になるのならば定石も常識もぶち壊し蹴散らして、歩ける場所でなく自分の歩きたい場所に道を作るのがこの女のやり方だった。多分、この女には入れない場所も行けない場所もないのだ。 和泉守兼定はちらと横を見た。 「建築は専門外なんだよなぁ。経年劣化するほどの年数じゃなかろうし、さてはメンテの完全放棄か脅威の安普請だな？」 眼光のきつい、化粧っけのない女。右足を左膝の上に乗せて半胡坐をかいて座っている。腕組みをしたまま仰け反り、軒裏を見上げた。「床だけじゃないんじゃないかぁ…？あの垂木歪んでる気がするぞ」眉間に皺寄せ、定規代わりか、スパナを顔の上に翳して片目を閉じた。「うーん、気のせいかな…？」夏日の下で白く光るように描かれるその輪郭に、顎から首へ続く曲線に目を奪われる。「なぁ、あんた…」惚れた男とか、いるか。 床に手をついて審神者の方に身を乗り出しかけた和泉守兼定の頬をぐいと擦って押しやるようにして、お盆が突き出された。「あっるじさーん！お茶持ってきたよ！」割り込み。物理。乱藤四郎が満面の笑みで麦茶のグラスを載せた盆を手にしている。冷えて露を帯びた真夏の心遣い。微笑んで親切を装って横目は牽制。 「おん？あら乱藤四郎か。ありがとう。君もちゃんと水分摂ってるかい」 「うん！…主さん、ちゃんと休んでね？倒れちゃイヤだからね？」 「寝たから大丈夫。優しいね」 「んふふふっ」 乱藤四郎は嬉しそうにはにかんで、すとんとその場に腰を下ろした。そしてちらっと和泉守兼定を見てフンと得意げな顔をする。乱藤四郎が尻を落としたのは和泉守兼定の手の甲の上だ。しぶしぶ尻の下から手を抜く。痺れるまで尻で手を潰され続けるか、尻を触った疑惑で一期一振にお覚悟されるか。どちらもよろしくない。和泉守兼定、幕末刀剣の節度で女人を気遣って、審神者から程よく距離を空けて座ったのが仇となった。文字通り隙を突かれた。 「着物の本とかね、粟田口部屋の僕の壁のとこに棚作ってもらったんだ。これからもちょっとずつ集めるの。読みたくなったら主さんいつでも来てね」 「おっと。術式陣の棚に本をずっと置いておくことはできないぞ」 「えっなんで？…やっぱり本を持ってちゃダメ？」 「あのスパナで作れる工事用安全ネット術式は仮設用…えぇと、一時的に設置するものとして作ってある。スパナ振って出てくるボル…ねじの分しか霊力の蓄えがない。外部から霊力を取り込む機能もない。環境にもよるけど、まぁ本丸内なら七日もすれば術式陣自体が失効して本がボトボト床に落ちて立派な廃墟の出来上がりだ。落ちる前にもう一度術式陣を張るか、安全な保管場所確保しないとな」 「そっか！…本は、持っててもいい？」 「それは問題ない。でも、他に読みたがってる子がいたらちゃんと貸すんだよ。本丸にある本はみんなのものだから」 「うん！」 話を聞いていた和泉守兼定は、「…でも、なんつうか、安心したぜ」と言った。「あんたが俺を締め上げた時、俺はてっきり刀剣男士は本に触るなって怒られたのかと」 「安全上の問題がなけりゃ怒らんよ…というか、本に触ったくらいで怒るかな、普通」 「怒った人がいたんでしょ、殿上の守兼定さん」 「殿上って言うのやめろよ。…まぁ、そうだな」 「初代か」 「ああ」 和泉守兼定は溜息をついた。「初代さんは割と常日頃からカリカリしてたから別に本に触らなくても怒ってただろうし、書物で機嫌悪くしたのかどうか知らねぇけどよ…。まぁ、あるとき突然、初代さんが俺らに、書庫の本を全部西の丸の蔵に移せって命じられてな」 「移すまで、本は天守廓の本丸御殿辺りにあったんじゃないか」 「おう。あんたなんで知ってんだ？天守廓に書庫があってよ、そこから本を運び出して、橋のところで二の丸住まいの刀剣男士に引き渡して、西の丸に運ばせて…っつう感じで。…あん時ゃ奴さんが何考えてそんなことを命じたかさっぱりわからなかった。苛ついて気まぐれに言い出したことかと思ってたんだが」和泉守兼定は視線を落とした。日差しを照り返す庭の眩しさに顔を顰める。影を求めてその暗さに目を凝らす。「あんたを見てたらわかった。本を取り上げるのは、…多分、目的があってやったことだ」 「どういうこと？」 乱藤四郎がくるっと青い丸い瞳で尋ねる。和泉守兼定は言い淀んだ。教えていいものなのだろうか。この短刀はこんなに真っ直ぐで明るいのに、自分達はずっと侮られ貶められてきていたのだと感じさせる必要があるだろうか。 　…いや、「知らせない」ことの方が、侮辱にあたるだろうか。 迷う和泉守兼定の横顔を、乱藤四郎が、焦らさないで教えてよ、とでも言いたげな顔で見ている。 「…物のままでいてほしかったんだろう、さしずめ」 審神者の言葉に、乱藤四郎はそちらを向いた。「どういうこと、主さん」 　審神者は片膝を立てた。肘掛代わりにして、物思わし気に頬杖をつく。「クイズだ、乱藤四郎」 「この城以外にも、政府軍として設立された城…通称・本丸は幾つもある。ざっと数百万の城があると思ってくれていい。その全てに、大枚をはたいて書庫が設置されている。この城に限らず、全ての城にな…。何故だと思う。何故、戦争するための軍事施設に、戦争とは関係ない本…図鑑とか物語だとか…そういった書物が備え付けられているのだと思う？」 「えぇっ」 乱藤四郎は「わかんない…」と眉尻を下げた。審神者は口元だけふふっと緩めて微笑んだ。 「どっちがいい、乱藤四郎。今ここで答えを聞くのと、ちょっと自分達で考えてみるの」 「…んー、知りたぁい…でもまだ言っちゃダメ！クイズなんでしょ、考えてみる」 「そうしてみな」 審神者はそう言って庭の方を見やった。 山姥切国広が本の山を山伏国広に受け渡し、山伏国広がビニールシートの中に投入していく。ちなみに山姥切国広の布が見当たらないが、陸奥守吉行が本を大量に包んで持っていくのに使ったボロ布がそれだ。たくさんの本をひとまとめにして背負って歩く陸奥守吉行の大荷物を、にっかり青江が後ろから持ち上げるように支えて歩いていく。賑やかに笑いながらふざけながら歩いていく二振りが荷崩れを起こさないか、長曽祢虎徹が何度かハラハラと振り返って見守っていた。 ビニールシートを使うまでもない距離ならば手運びもしくは台車だ。蛍丸が重い本の山を持って歩いていく間に、愛染国俊は薄手の本を小脇に挟んで素早く何往復もしてくれる。鶯丸がのんびりと本をまとめて平野藤四郎に手渡し、平野藤四郎が台車に積んで大倶利伽羅に「お願いします」と頭を下げる。本は次々運ばれて、仮置き場へ分配されていく。秋田藤四郎は何とかして「テコトカッシャ」を利用したがっていたが、生憎今回の肉体労働の効率化においてはてこと滑車の応用方法は思いつかなかった。 「せっかくなのだから…これまで読めなかった分も、たくさん本を読んでみるといい。そうしてみると、本がもたらすものが一体何か、君達にとってそれがどういう意味を持つか、答えに自分でたどりつけるかもしれない。君は賢いのだし」 「賢い！？…ボク、ボク賢いの！？」 「あぁ。よくものを見て深くそして素早くものを考える力がある。そして何より考えることを恐れず、考えたことを口に出すことも恐れない。聡明で、勇敢だ」 柔らかな声で褒められて、乱藤四郎はぽっと頬を赤くした。赤くなった頬を両手で挟んではにかみ笑いを零す。「主さんに…賢いって言われちゃったぁ…」 　そこでどぎまぎして喜んで終わらないのが乱藤四郎だ。ぱっと明るい表情で顔を上げた。 「賢いボクのこと、好き？」 あ、ずりぃ。和泉守兼定は正直思ったが、彼のことなど気にも留めずに乱藤四郎は審神者の方に身を乗り出して問う。「まだまだいっぱいわからないことだらけだけど…これからもずっと、もっともっと、ボクは賢くて勇敢な乱藤四郎でいるつもりだよ。近侍にしたい？」 「内緒」 審神者は乱藤四郎の頭をぽんぽん撫でた。「立場上、君達に好きとか嫌いとか言えないんでな」それはもう、十分な答えなんじゃないだろうか。あんた、思ってたよりずっと表情豊かだな。そんな物寂しい目つきで言わないでくれ。 　それってどういう立場なのーっ、と審神者の腕を掴んできぃきぃ騒ぎ立てる乱藤四郎の背中に肩を伸ばし、和泉守兼定は「おい、賢い藤四郎」と声をかけた。「ぼちぼち片付けに行ってもらっていいか。主御指名の賢い藤四郎が仕事ほっぽってちゃ進まねぇだろ」 「あぁっイズミノカミサダさん、また主さんを独り占めする気だ！」 粟田口は和泉守兼定に愉快な渾名をつける習性でもあるのだろうか。 「あー、あのな、もう俺のこたぁ兼さんでいいぜ。…主を独り占めされたくなきゃ、手柄だ手柄！大手柄立てて、俺はこんなに役に立つんだって見せに来い！片付けだってこの量なら戦だ、チビども指揮してこの辺の床を守りな！」 「仕方ないなぁ！そうしてあげるよ」 乱藤四郎はすっくと立ちあがった。「それじゃ、主さん、麦茶なくなったら大声で『乱―！』って呼んでくれたら走ってくるからね！」 「根詰めるなよ、あくまでも休憩時間なんだから」 そう言って審神者がひらひら手を振ると、乱藤四郎はあざとくウインクをして、くるっとターンし走っていった。なんというか予想外の奴が俺の敵らしい、と和泉守兼定は内心で思った。 「君はある程度予想がついているのだろう」 乱藤四郎の足音がパタパタと廊下を走り抜けて角を曲がったあたりで、審神者は口を開いた。麦茶を一口飲んで、グラスを膝の上に持つ。「君達の主が、何故書物を取り上げたか」 「…最初に、一つ頼んでいいか」 和泉守兼定は言った。「初代のことを、主って呼ぶのはやめてほしい。あいつはもう俺達の主じゃない。もしかしたら一度も主じゃなかったかもしれねぇ」 「過激だな」 「殿上には殿上なりの不満も家出もあんだよ。俺はどっちかと言うと殿上の問題児だったしな」 「問題児」 審神者は朗らかに噴き出した。「それじゃぁ不良少年くんよ、承知した。その初代さんを君らの主と呼ぶのはよしておこう」 「そうしてくれ」 言霊はいつか言上げとなって未来を縛るかもしれない。「あんたが俺達の主だ。そうだろ」 「今はな」 審神者の答えは、肯定の中に若干の陰を孕んでいる。乱藤四郎への先程の言葉と言い、今の返事と言い、…まるで、いつかいなくなるつもりでいるかのような口振りでいる。 　…魄臓か。魄臓の限界が迫っているからなのか？ 　尋ねたかったが、今問うべきではないと思った。この問いは少なくとも今、話題を逸らしてまでするべきではないのだ。もっと己が医学に通じてから、的を絞って、はぐらかしようもないほど簡潔な問いの形に精錬してから口に出すべきなのだ。鈍い刃は命に届かない。 　和泉守兼定は唇を噛んでぐっと言葉を呑み込んでから、元の問いに戻った。「初代が本を取り上げた理由、な」そう、言われてみれば、「本を移動させられた」だけではなく、「読めないようしまいこまされた」のだ。 　和泉守兼定は注意深く思考を巡らせ、言葉を選んだ。 　秋田探検隊の三振りが頭の中を通っていった。どの子もいい子達なのだ。秋田藤四郎は俺のことをいずこの守兼さんとか言うが、好奇心旺盛で物怖じせずに他二振りを引っ張り、未知を求めて歩いていく。小夜左文字は抜群に頭が切れる。おそらく観察眼に優れているのだ。口下手でうまく表現できずにいるが、その頭の中には斬新な視点と整然とした思考を持っている。そんな二振りの間に立って、先走る秋田藤四郎と躊躇う小夜左文字双方と手を繋ぎ、優しく細やかな気配りで上手に三振りのバランスを取るのが五虎退だ。 　…あんなにいい子達なのに、字が読めないのだ。秋田藤四郎によれば、「テコトカッシャ（依然正体不明の何か）」について知るには書物を使えばよい気がするらしい。彼らは書物の価値を知り、書物に期待していながら、字が読めないがために書物を使えない。 　俺達はどうだ。歌仙兼定に字を習った俺は、きっと書庫のどこかにあるのだろうテコトカッシャの本を読むことができる。だが、書庫の本は俺達の手元から遠ざけられ、俺は生まれて何年にもなるのにテコトカッシャが何なのか未だに知らない。 　本が読めないというのはそういうことだ。ならば本が読めれば状況は逆だったのだ。俺も秋田藤四郎もテコトカッシャについての本を読み、テコトカッシャを便利に使いこなしていただろう。書物はきっと、俺達ができることを増やす作用があった。 　それを、あの男は禁じたということになる。 「…本を読んで、俺達があれこれできるようになるのを奴さんは嫌がった、ってことだろうな。あんたがさっき言った、『物のままでいてほしかったんだろう』ってのは、俺達があれこれできるようになってほしくなかったんだろう、って意味か？」 「四割正解と言っていい」 思いの外低い評価だ。六割を満たすのは一体なんだ。 「和泉守兼定。少しややこしい話をする。これは私の持論が多分に混ざる」 「おう」 「意味不明だったら途中でピンポーンって言って手ぇ挙げろ」 「え？」 「書庫の初期配備は、君達を人間として扱う、という政府の姿勢の表明だ。…何かを知りたい、知るための手段が欲しいと思うのは、極めて人間的な欲望なんだよ。人間は生きる限り何かを知り続け、欲し続ける。例え体の成長が終わっても内面は永遠に育ち深まり熟し続けていく」 パンドラの箱を開けて以来、知的欲求は恩寵として呪詛として人類を弄んだ。人類を繁栄せしめ、破滅をもたらし、希望を抱かせ、絶望を突き付けてきた。そうする中で人類は、知的欲求を満たし続ける飽くなき営みの中で、「ヒト」たる生物の肉体の器の中に、「人間」という精神的な自我の理想を発見した。人間はそして自分の外界に広く開け渡る世界を発見し、この世に未知が溢れ返っていることを知った。 　原初的欲求。 　知は人間の根源であり、宿業であり、理想であり、道しるべである。 　知的に飢えるその本質を許されることは、人であると認められることだ。知的に飢えるその精神を満たすことを許されるということは、人として生きていくことを認められるということだ。 「書庫の本は、城主のためだけにあるわけじゃない。もちろん、城主の発狂を防ぐ福祉インフラとしての側面も持ってるだろうさ。…だが、あの書庫は刀剣男士のためでもある。それはつまり、君達は人間同様、好奇心を抱き、それを満たし、内面を育んでいくことを許された存在であると…限りなく人間扱いされるべき存在であると…政府はそう、定義しているのだと思う」 「俺達が…人間…？」 「もちろん君達は、未来の人間が科学技術を結集して作り上げた道具だ。ヒトの遺伝子を受け継ぐ有機物の生命体として生まれたわけじゃない。だが、人間であるかどうかと、人間として扱われるべきかどうかは、私にとっては別の話だ」 そして審神者は和泉守兼定の方を向いた。 　斜めに差し込む夏日が、審神者の褐色の瞳に金色の閃光を描く。まるで誰も気づいていない宝玉を自分だけが見つけてしまったような気がして、和泉守兼定は息を呑んだ。自分の鼓動の音をはっきり聞いた。ときめきに悶えて甘く苦しみ、熱帯びて脈打つ血潮流れるこの身体は、思えばどうしてこうも人間に似ているのだろう。 「君達は人間か。物、道具、兵器、審神者の所有物なのか、それとも人としての権利を認められた存在なのかどうか。23世紀にもなって我が国は人文学系の学問が死んでいる。科学ばかりが先走り、憲法も法律も倫理も哲学も学会も世論も、君達の身分をどう捉えるか未だに定まった見解を出せちゃいない。人間として、君達にどう向き合うべきか答えを出せないまま、必要に迫られ君達を使い続けている。道具として使い潰していく審神者もいれば、それを非難する団体もある。君達と恋をして対等な立場での結婚さえ望む審神者もいれば、道具と人間との間に正当な婚姻は成立しえない、と婚姻届けを受理できず返す役人もいる。私達自身迷い続けている。君達は人間か、そうではないのか」 そろそろピンポーンと言いたくなってきたが、和泉守兼定はぎゅっと目を閉じ、頭の中で入り乱れる言葉の奔流をなんとか制した。 　なんだか俺達は実は未来人だとか猛烈に気になる箇所があったような気がするが、そこは本筋ではない。多分。わからん。合掌。 　俺達は、人間か、道具か。 「…つまり、政府は俺達が人間かどうかはともかく、『人間扱い』してるってことか？」 「要領のいい理解ができているな。書庫について言えばそう感じている」 「…あんたは、どうなんだ。あんたは俺達の存在をどう解釈してる？」 「私は技術者だ」 審神者の答えは、一件話題を逸らしているように聞こえた。だが審神者は言葉を続けた。 「生物学で答えるのならば、君達はヒトではない。私達ヒトとは全く異なる手段でこの世に生まれてきた。だが、私よりも遥かな未来の科学者が、君達をこうも人間に似せて作った。ならば、君達は人間として扱われるべき何かなのだと私は思う」 全ての道具には、作り手がいる。 　作り手が、その道具の使われ方に対して確固たる願いを込めることを、技術者であればこそ知っている。 　人に似せた。限りなく似せた。当世の技術の許す限り人間に近付けた。それは、ものづくりを業為す者達の間で取り交わす意味の上では、「人として作った」に等しい。であれば技術者たる己は、未来からの贈り物を、「人間として扱うべきもの」として受け取る。 「君達が何者と定義されるかどうかなど関係ない。君達は、私が人間を扱うように扱われるべき存在だ。だから、君達が非人道的に扱われるのを看過するのは人間を非人道的に扱う行いを是認するのに等しい。私は…、人間に対し許されないことは君達に対する振舞いとしても許されるべきではないと感じる類の人間だ。この社会が君達への非人道を許すなら、それはいつかやがて人間への非人道を許すだろう」 …と言っても、まぁ、心情と信条の問題だ。職務は理解しているので、心がけの上では君達をなるべく物として、刀として見なすよう努力はしているのだけれどもね。 審神者はそこまで言って、「十年くらい後になってからわかればいいよ」と言った。「君、実生活経験年数は私よりずっと若いんだし」 「ば、馬鹿にすんじゃねぇ！」 和泉守兼定は思わず食いついた。「そりゃ顕現してからは数年ぽっちだけど、お…俺ぁ、幕末で現役だぞ！」 「そうか。私がお子様ランチ食って許されていたのはたった二百年前のことだし、君の方が先輩だよな」 「ちょっと待て、二百年つったか？」 「あらかた本の山も移動したかな」 「なぁ二百年って」 「さて、お喋りはここらで」 審神者はよいこらしょと尻を上げた。グラスを左手に口元に右手を立て、庭を廊下を忙しなく行き交う刀剣男士達に「おーい、午後の業務に差し支えるほどには働くなよ」と声をかける。「雨は降らない。見苦しいが、ひとまずは庭でもいい」 「はーい！」 「ひとまず床の上の本を全て庭に出すか棚に納めたら休憩しましょう」 「この問題はテコかカッシャでなんとかなるはずなんです！！」 「どんな本があったかもう忘れちゃった」 「しっかし…半端ない量だよなぁ」 賑やかな声があちこちから返ってくる。 「西の丸に戻す必要はないんだよな？」 和泉守兼定は念のために尋ねた。報告連絡相談はきちんとすることにしよう、毎回ヘッドロックを食らっていたら身が持たない。締め上げられているときはそれどころではなかったが、あの時自分の頬に当たっていた「妙に弾力のある部位」はおそらく乳だ。横乳だ。惚れた女の横乳だよ。改めて考えるとぼっと顏が熱くなり、和泉守兼定は必死で幕末の主が詠んだ句を頭の中で諳んじて事なきを得た。梅の花、一輪咲いても梅は梅。わからん。 「戻さなくていい。蔵は頑丈だろうが毎回あそこまで取りに行くのは面倒だろう。書物の保管場所はなんとか探して準備してみよう」 「そいつは助かった。…自由に読ませていいんだよな？」 「君も好きに読むといい」 「…なぁ。俺、あいつらに字を教えたいんだが、…構わないか？」 「あいつら言いますとどちら様」 「秋田五虎退小夜とかだ。あいつら、本読みたがってるけど字が読めねぇ。…多分他にもたくさんいる。…殿上出の奴らは歌仙に字を習ったんだが、下界じゃほとんど読み書きを習ってないかもしれねぇんだ」 和泉守兼定は若干の緊張を覚えながら審神者の返事を待った。即座に快諾されるかと思いきや、審神者は顎に手をやり目を細め、「ふーむ」と唸った。何を悩んでいるのだろう、何が問題なのだろう。審神者はぼそりと、「小学生が使う鉛筆って何Bだったっけ…」と呟いた。 「ナンビー？」 「ん？もしかして筆使う？」 「筆以外の何使うんだ？」 「おう気にするなこっちの話だ。とりあえず、寺子屋をやるなら場所と道具と時間がいるだろう。和泉守兼定、企画をとりまとめて後で報告しに来てくれ。君の寺子は何人くらいで、城内のどの部屋を使い、道具は何が必要で、いつどのくらいの時間教えたいのか。経費と給料の算出せにゃならん」 桂皮と胡瓜の産出とはなんのことだろうと思ったが、和泉守兼定はとりあえず「おう、わかった。場所と道具と時間な」と頷いた。頷いた後で、堂々とこの女の部屋を訪ねる口実ができてしまったことに気が付いた。罠か。これは罠なのか。都合が良すぎるんじゃねぇか。…んだぁ何をうだうだしてやがんだ俺は土方歳三佩刀和泉守兼定だぞ！！かっこよくて強い永遠に最近流行りの名刀だ！！ここでバシッと冴えた見通し突き付けて、この女に感心の溜息の一つもつかせてやらぁ！ 　両頬をべちんと挟むように叩き、和泉守兼定は立ち上がって沓脱石を階段代わりに庭へと下りた。 「おーし、兼さんも仕事させてもらうとするかねぇ！」 「ちょうどいいところに来た。そこの表紙が厚くて重いのを全部運べ」 山姥切国広、相手が和泉守兼定だろうと容赦はない。同じ元殿上人、同じ問題児である。 審神者は腰に手を当てて様子を見ていたが、「…そうか、君達は自ら書物を欲したか」と感慨深げに零した。 やらねばならないことはたくさんある。でもこの多忙は、なんていうか、悪くないや。 審神者は、本の整理にどたばたと慌ただしい廊下を歩きながらニヤッと笑みを零した。　 派手にぶっ壊してしまった殿上大部屋だが、素敵なリフォーム案をひとつ思いついてしまったぞ。よし、夢を詰め込んで図案を書いてみるとするか。 [newpage] 「なぁ」 日本号はへし切長谷部に声をかけた。「どーしても、そのやり方じゃねぇとダメなのか？」 「他に思いつかん」 へし切長谷部は張り詰めた表情で短く答えた。「ただ誠意と熱意をお示しするのみだ」 　日本号は、ヤレヤレ、と苦笑いした。黒田の大事な御刀様のおつむが堅いのは今に始まったことではない。 　ここは北東廓、審神者私室前庭。へし切長谷部はもうここに四半時ばかり、正装で片膝をついて待っている。最寄りの池の縁石に腰かけて酒瓶を傾ける日本号も、同じだけ待っている。ちなみに日本号は内番着だ。つなぎの上半身を脱いで腰で括り、タンクトップで両腕晒す。涼しい。その格好で主の御前に出るのかふざけるな帰れ着替えてこいと御刀様に喚かれた。へいへい、とおざなりの返事をしてやり過ごす。槍だけに。いつ戻ってくるかわからないのにずっと日向でその姿勢でいるなんて間抜けにしか見えねぇぞ、と声をかけたが、主が戻られてから慌てて姿を取り繕うなど恥ずかしい、と断られた。 　天頂に昇る太陽がじりじりと庭を灼く。地べたに傅くへし切長谷部の鼻筋を汗が伝ってポトリと落ちた。 　…そうまでしてでも、なんとかして気に入られようと躍起になっているのだと思うと哀れは哀れだ。何がこいつをそうまでさせるかよくわかるだけに、いつまでもどうしようもなく馬鹿で健気でほっとけないのよなぁ。黒田の槍は、御刀様の様子を見ながら内心ごちた。 　そのまま戻って来なけりゃ、午後はのんびり国宝（天日干し）の鑑賞になるかねぇ、などと思っていたところに、角を曲がって審神者が戻ってきた。庭に闖入者二名を発見した瞬間跳ね上げるように両手を肩の高さに構える。格闘の構えではないのでおそらく「刀剣男士を吹っ飛ばす何某かの術」の型であろう。それは条件反射レベルにまで身に沁みついた動作らしかったが、二振りが何者か気付いたところで審神者は両手を下ろした。…下ろしきることなく、中途半端に構えた指が脇の辺りに浮いていた。 「日本号」 審神者が声を鋭くして呼んだのは、審神者を待ってじっと傅いていたへし切長谷部ではなく、後ろの池縁に大股かっぴらいて腰かけている日本号の方だった。 「君にはへし切長谷部の目付を命じたはずだが？」 「おう、承ってるぜ」 「君が目付についていながら、どうして私の庭でへし切長谷部が日干しになっているんだ？なんだこれは？新手の嫌がらせか？」 「嫌がらせだなど！！滅相もございません！！」 へし切長谷部は思わず面を上げた。「ああああ主！！俺は断じて主のお気を害そうなどと！」 　審神者は頭痛を堪えるような顔で額に手を当てていたが、「…何でもいいから、とりあえずその姿勢をなんとかしてくれないか。猛烈に不愉快なんだ」と言った。へし切長谷部はばっと振り返り、「そら日本号！貴様その見苦しいだらけきった姿勢を正せ！」と声低く叫んだ。 「いや、君だから…」 審神者は真顔で補足した。「あのな、うん、そうだな丁寧に説明するとしようか。…君の常識とは異なるのかもしれないが、へし切長谷部、この暑さの中その格好でその姿勢でその場所でじっと蹲ってるのって、私の感覚ではなかなか正気の沙汰ではないぞ。何か私に話したいことでもあってそこにいるのなら、後ろの正三位を見習って話しやすい態勢を取れ。今のその格好の君とは長話など到底する気になれん」 へし切長谷部は当惑しきった顔で審神者を見上げていたが、日本号を振り返り、審神者を振り仰ぎ、そして、落ち着かな気に自分の体を見下ろした。完璧に整えてきたつもりなので、どう直せばよいのか全く分からずにいる。 　審神者は溜息をつき、自室の障子の扉を開けた。見限られたかと焦るへし切長谷部の前で、審神者は再び「日本号」と槍を呼ぶ。「すまないがそこの打刀に肩の力を抜く指導を」「あいよ」そして自分は私室に入った。 　日本号が暴れるへし切長谷部のカソックを引っぺがし、木陰に引き摺っていって座らせた頃に、審神者は部屋から出てきた。盆にガラスの器を置いている。審神者は「日本号」と呼んで白っぽいものを放り投げた。日本号がひょいと腕を伸ばして一つ二つと掴んだのは、凍らせたおしぼりらしい。「ありがとよ」と言って自分の首筋を拭いへし切長谷部の顔面を擦りたくりし始める。「馬鹿っ主の御前で寛いで顔を拭う奴があるか！」「その主から賜ったんだが？」「そう言う問題じゃないだろう！」 　ぎゃぁぎゃぁと騒ぐ黒田の刀と槍の前で、審神者は庭に下りる板階段を中まで下りてその場に腰かけた。池の縁石に腰かけたへし切長谷部は咄嗟に背筋を伸ばした。 「…で？」 審神者は口を開いた。「へし切長谷部、何の用だ。覗きか」 「のぞっ！？」 「用がないなら私は部屋に戻るが」 「覗きではありません！！…主、その…俺は！俺は、使える刀です！！」 死せるか汝の語彙力は。 　審神者はフォローを求めて日本号の方を見たが、日本号は「まぁこういう奴なんでな」とでも言わんばかりの顔でいる。慣れというものは恐ろしい。 「そうか。使える刀か。良かったな。うん。言いたいことはそれで全部かい」 「つ…、使える刀なので、この俺を使っていただきたく存じます！」 話が進んだ。聞いてやる必要が発生した。審神者は盆に持ってきたガラスの急須を取って、同じく涼やかに澄む切子のグラスに冷えた緑茶を注ぎ始めた。カラン、と冴えた氷の音が鳴る。無言のままでいてはへし切長谷部が言葉を続けられないのを慮って、審神者は「働きたいという意味でいいか」と尋ねた。 「はい。何でも致します。汚れ仕事も御随意に」 「力仕事できる？」 「はい！」 「二の丸でな、無計画に搬入した書物が洪水起こしてんのよ。和泉守兼定が場を取り仕切って片付けやってるから、このお茶飲んだら行ってみればいいんじゃないかな。どこに何を運んでくれとか埃を叩いて掃き集めてくれとかスパナ使いこなして棚を作ってくれとか指示もらえると思うぞ。休憩時間の労働は推奨したくないけど」 「え…その…俺は…」 何が不満だったか、へし切長谷部は語尾を消え入らせて言い淀んだ。「あの…、片付けならば誰でもできるでしょうが…俺は…」 「世話の焼ける姫さんだな、もう面倒だから無礼の非礼の気にせず言いたいように言え」 日本号がへし切長谷部に励ましらしき言葉をかける。「お前の失言一つや二つでヘソ曲げるほど小せぇ器じゃねぇだろ、お前の主はよ」 「なんだ、今私は褒められたのかい」 「おうよ、正三位直々のお褒めの言葉だありがたく頂戴しな」 「やだぁ大身槍ってば態度もでかぁいカコさん扱いきれない。おいへし切長谷部、この器の緑茶全部飲めたらそこの槍持ってっていいぞ」 「おぉっと、俺ぁまた呑み取られるのかい」 「りょぉーーくちゃーーーのーめーのめーのーーむなーらーばーーー日ぃノ本一のーーーカテキンをーーー」 「呑み取――るほどにーーー呑むならばーーーーってか、ハハッ」 「これぞまーーこーーとーーーのーーー」 「あああ、主ぃっ！」 「おう話す気になったか」 軽口の叩き合いから宴会芸に発展しかけていた審神者と日本号の黒田節を遮りへし切長谷部が意を決したように叫んだ。審神者は大盃を模す扇子代わりの茶盆を傍らに置き、日本号は鼓代わりに打っていた酒瓶を地面に置いた。素面の酔っ払いどもに調子を狂わされながらも、息を整え、言葉を整え、へし切長谷部は「…俺は他の刀とは違います」と不遜に述べた。 「みんな他の刀とは違うぜ」 「えぇ。存じております」 「その上で君は、他の刀とは何が違うと言う」 「…主は既に天上天下のことをご存知でしょう。俺はかつて殿上におりました。近侍仕事を任されることも多かったのです。お側の内務を補佐することも、城内の整備に携わることも、軍議の場で戦略を練ることも、もちろん戦場で活躍することも…何をお任せいただいても期待以上の成果を挙げてご覧に入れましょう。主の命ならば勿論二の丸の片付けでも何でも果たしましょう。ですから…どうぞ直々の主命を俺にください。御手杵よりも、同田貫よりも、和泉守よりも、一期一振よりも…誰よりも主を満足させてみせます」 「それだけか？」 審神者はにべもなく言い放った。「君が誇る君の長所は、たったそれだけか？」 「え…」 審神者は冷えた緑茶を載せた茶盆を片手に、階段を下りてきた。日向に出ればその髪は強い赤みに照り燃える。ざり、ざり、と横切り歩いてやってきて、審神者は「のぼせるなよ」とへし切長谷部を見下ろした。木陰に入れば彫りの深いその顔に陰が落ちて双眸が光って見える。 「内務補佐、整備担当、軍師役、戦闘要員、…それがどうした。私はこの城に城主として在る限り、全ての刀剣男士をその程度こなせるよう育て上げる所存でいる。誰も己ほどには優秀にはならないとでも、あるいは私にはできない仕事だとでも言うか？」 「い、いえ…」 藤色の瞳が小刻みに揺れた。活路を探して視線が彷徨う。 「無論それだけでは！…主が命じるのならば、な、何をも拒むつもりはございません。…お望みならば寺社を僧兵ごと焼いてご覧に入れましょう。主に刃向かう家臣を討ち取り首級の髑髏を盃にして見せましょう。主が渇いて荒むと仰せになるなら、この身をよ、よと」 「バルス！！」 「ばるす！？」 「それ以上戯言続けるなら、後ろの池に蹴り込んでやろうか。頭を冷やしてやろう。いやぁ、君ら実に良い場所に座っているな。鯉のお家にオウンゴールだこのうつけ」 日本号は、あー、どうやら龍の逆鱗に爪をひっかけたな、と察した。気を惹こうと必死になってへし切長谷部が口にした諸々は、どうやらこの女には許し得ぬ何かだったようだ。 　審神者は盆を片手に長く息をついた。そして沈黙を裂いて静かに語りかけた。 「…驕りではあるまい。経験と実力から率直に出た自己評価だろう。自信を持つのは良いことだし健全な自己肯定感に満ちた奴は好きだ。だが、君は自分に自信など持っていそうにないな。どうするへし切長谷部。自分は優秀だから自分を寵愛してくれなぞ申し出たところで、君の目の前にいる審神者はものづくりの才長けたエンジニアだ。その場にいなけりゃ育てて作れ、申し分なく優れた家臣。もともと優秀、それだけが君の価値ならば君を特別扱いする必要はない。その程度の自負で私が育てている家臣らを見下げてくれるな。君が私の部下の名前を挙げたことも、挙げなかった名前があることもどちらも腹立たしい」 へし切長谷部は浅い息をは、は、と忙しなく唇から出入りさせていた。 　見下げたつもりなどなかったのに。 　…対等であるべき仲間を侮るなど、最も忌まわしい振舞いだと思い続けてきた。正しくなどない、道に悖る行いだと否定して生きてきた。それなのに、己の口はごく無意識に他の刀剣男士の名を並べてそれより己が優秀だと主張した…。 　…知ればなんたる業の深さよ、熱く純粋な真心のすぐ隣にすら自惚れの贅肉は巣食うか。かの人の倨傲を諫めることなどできようか…。 「挙句の果てには『何も拒まない』と。おいおい主にも臣を選ぶ権利があんだぞ、そんな家臣気持ち悪くて抱えてられるか。…へし切長谷部、忠義と滅私を履き違えるな。私は私のために身を滅ぼす者なぞこの身の側に置きたくない。私のために信念を折り捨て矜持を磨り減らし精神を朽ちさせ命を疎かにしていく姿など見たくはない。お前の気持ちいい自殺に私を使ってくれるな」 「口下手なだけだぜ、主」 日本号が助け舟を出した。「こいつは他の連中を侮って悦ぶような気質じゃねぇしそこまで安い誇りはしちゃいねぇ。自分に注目してほしい気持ちが突っ走って口滑らしただけだ」 「真夏の昼間に自主的に天日干しになって脳味噌沸騰させてりゃ思考回路も熱暴走してそうなるわな。…ほら、氷出しの緑茶様だ、のぼせた脳味噌冷やしてから話せ」 「あ…主のお茶を頂いてよいのですか？」 「何さ、緑茶は嫌いか？キリマンジャロしか飲まない手合いか？」 斬り万邪郎…と呟いて固まるへし切長谷部の傍らから、日本号は平然と「ありがとよ。いいねェ、酒にもよくよく合いそうな、氷みてぇな盃だ」と手を伸ばした。その様子を横目に見ていたへし切長谷部も、腹を括ったらしい。 「…頂戴いたします」 押し頂いて、大人しく俯いてグラスに口をつけるへし切長谷部の顔に、切子が散らす夏の木漏れ日がきらきらと細かな虹となって照り返る。如何なる光の中でも彼はへし切長谷部であった。昔も今も。 「割と普段から暴走するけど性根の悪い奴じゃないんだぜ」 「えぇー、熱暴走しなくても暴走するの？メンテに出しなさいメンテに。製造元に送り返しなさい修理しなさい」 「直そうって直るもんじゃねぇよ、馬鹿とうつけは治らねぇんだよ」 「馬鹿は」 「呑め呑め」 「のぉーむーなぁらばぁーーーーー」 「ィヨォッ！」 宴会芸、茶盆の茶番。酒瓶ポポンッ。審神者と日本号、あまり良い取り合わせではないのかもしれない。油断するとふざけだす。各々単体でならば熱き冷徹の才将と厳かなる位持ちの大身槍であるが、口を利くようになった途端これだ。21世紀風に言うならパリピだ。文句を言ってはいけない。あくまで休憩時間なのである。しかしこの二人放っておけば、そのうち肩組んで酒盛り部屋に繰り出すのではなかろうか。そこに次郎太刀、太郎太刀まで加わったらもう収集がつかんな。ちなみに太郎太刀はさっき「お藤ちゃん、審神者ちゃんはあなたの妹ですよ。大事になさい。今日からお兄ちゃんなのですからね」と意味不明なことを大真面目に言いに来た。大丈夫、太郎太刀の不思議言動は今に始まったことではない。 へし切長谷部は思わずくすっと破顔した。どんちゃん騒ぎを繰り広げる主と日本号のところに育ての親と慕う大太刀が割り込んでいくところを想像したら、緊張がほぐれてきた。 　…誰より抜きんでて優れていようといまいと、俺は愛されて育った刀だ。価値がないことなどあろうか。下げ渡す方が見る目がないのだ。見よ、黒田福岡に宝刀御刀へし切様と代々褒めそやされ幾重にも幾重にも丁重に扱われてきたこの俺を。下げ渡された側は諸手を挙げて俺を得たことを喜んだのだぞ。 　…主、人間は俺を得ると大喜びするのです。貴方も喜ばせてみせます。俺の主にしてあげましょう。 「主」 「今いいとこなんですけど！？」 宴会芸。 「黒田節などいつでもできます。なんなら俺が披露します。黒田の御宝自ら全身全霊圧倒的責任感をもって、夜通したけなわ朝まで楽しく歌い通して差し上げます」 パーリナイ。 「先程は無礼を申し上げました…そうですね、俺は黒田の宝ですので甘やかされて我儘育ちです。嫌な仕事はいたしません。百代に千代に称えられるこの皆焼刃が欠けては元も子もありませんからね。ただ自分がやりたい仕事を、やるべきと思えることだけを、誠心誠意成し遂げて主のお役に立つだけでしょう。主、俺は貴方のためになる何かをさせて頂ける身分になりたい」 「だいぶマシになったんじゃねェか？どうだい？」 「身内に甘い採点よしな。若干マシになっただけだよ」 日本号の評にケチをつけつつ審神者は笑った。「筋金入りのお馬鹿さんと来たか」 　自ら引き出した審神者の笑みに、へし切長谷部はぱぁっと喜色露わに瞳を輝かせた。そして咄嗟に縁石から尻を離してまた傅いた。 「馬鹿で結構です。愚直にお仕えいたします」 「またこのポーズだよ！本当に学ばないよこの人どうしよう！」 「気長に見てやってくれや、長年かけてこさえた剣ダコはそう簡単にゃ消えねぇんだよ。あれこれポンコツだがいろいろ大目に見て使ってやりゃぁ、そのうちあんたの手に馴染む」 「というわけで、主、最初の主命をください」 「なんだこの驚異のハイパーポジティブワーカホリック！知らんがな！午後に備えて休んでろ！」 「あっお待ちください！」 盆を日本号に押し付けるように預け、審神者はバッと身を翻して日向の方へと走り出た。その盆にグラスを置いて、へし切長谷部も走り出す。 　ガキの鬼ごっこかよ、と留守番の槍は笑った。 　…背筋が震えたのだ。空恐ろしいほどの眼光でへし切長谷部を叱りつけたかと思いきや茶盆を持って歌い出す。冷酷なようでいて確固たる徳を魂の骨に持っている。わけわからねぇがどれも偽りなくあの人間の本性であろう。面白いのを引き当てた。国を持つ武将達が鞘の内の刃の如くその身の底に光らせていたものをあの人間も持っている。あの、人を従える者達の魂に流れていた血は、まだこの時代まで継がれ生きていたのだ。 「今代の主、か。悪くねェ」 正三位様が面倒見てやるとするかね。日本号は、彼の御屋形様と御刀様が突っ走っていった方を見やった。へェ速い速い、あっという間に庭の端まで…っておいおい、あの女、松の幹蹴って壁に飛び上がったよ！猫か何かか！ 　日本号も思わず木陰から身を乗り出した。審神者の右手で鋼が閃き夏日に光る。スパナを振るった審神者の目の前、瓦屋根の棟の上に、バババッと花道のように術式陣が一直線に並び咲く。連続安全ネット術式陣。文字通り花道だ、審神者はその光の紋様を足場に走り出した。委細さっぱりわからぬがこの派手やかな見世物に日本号はおっほー、と感嘆の声を上げた。 塀の上を疾走する審神者を、地べたを走りへし切長谷部が追っていく。「主！危のうございます！下りてください！なんなら俺が受け止めますので！あ、『受け止めろ』が初の主命でいかがでしょうか！」「じゃぁかぁしいわ！主命主命うるさいな！ワーホリは穀潰しの始まりだよ適当に休んでろ！」「では主の休憩にお供させてください！」「私が休まらんわこのすっとこどっこい！！」 日本号がぐるりと見渡すその前で、四方の塀を審神者が駆け抜けへし切長谷部が玉砂利を踏み散らし追い縋る。思い切り踏んで屋根を蹴り、審神者は宙へ跳び出した。やべぇっ、と思わず駆け出しかけた日本号の見上げた視界の青空を背に、審神者はスパナを閃かせて術式の花を咲かせた。蓮台に聳える梵天よろしく術式の花の真ん中に飛び降り、蹴って審神者はまた空へ更に高く跳び上がる。花を踏んで、右手のスパナを閃かせ、高く高く夏空へ。 「…飛んだァッ！！」 高揚感がこみ上げてくる。全身を巡る血潮に乗って興奮がぐるぐる奔り出す。くらくらするほど目の前の光景に心が踊る。日本号は空を仰いで思わずうおお、と無意味な雄叫びを上げていた。今この瞬間、世界は俺が今まで全く知らなかった側面を現した。常識を一つ踏み潰して、限界を一つ蹴破って、この世はこんなに鮮やかだったと知らされた！ 「飛びやがった！！あの女！！鳥でもねぇのに…人間のくせして、空走ってやがる！！嘘だろぉ！！おいおい…！」 感嘆の余り言葉も尽きて、日本号は庭のど真ん中に立ち尽くした。 　どう、と風が吹いてくる。真夏の風は砂埃を連れて熱く灼けている。 　頬が熱い。心臓はもっと熱い。真夏の太陽に焼かれ沸き起こる衝動に焦がれ一瞬一瞬が炎のように今輝いている。 　翼もないのに人は空を走るのかよ。 　その身一つにどれだけの可能性を持っている。 できないことなんて何一つないじゃねぇか。 この世に生きてる限り、つまらねぇなんて言ってる暇なんざねぇじゃねぇか！ 　心臓が今や鐘のようだ。暁を告げて激しく打ち鳴らす鐘だ。夜は明けるのだ、今に白々夜闇は去りて、長谷部の上にも俺の上にもお天道様が眩しく昇る。その光の下で振るう刃の穂先はさぞかし誇らかに光るだろう！ 　ぐぅっ、と唇を噛み締めた。込み上げてくる熱い衝動は目頭に集まり始めていた。零れるのなら零れれば良いと思った。どうせへし切長谷部は今見ちゃいないのだ、やっとこさ手に入れた主に夢中だ。あいつの見てねぇ今くらい泣いたって構やしねぇだろ。 　 　俺だってやっと、今日までの忍耐の日々にやっと意味を見いだせたところだ。 　なぁ構わねぇだろ、なぁ許されるだろ。 　どうか希望と呼ばせてくれよ。 　涙の代わりに、日本号は審神者が残した茶盆を手に取った。盆の上の切子杯は太陽の下でいよいよ華やかな虹を辺り一面に燦然とばらまいて煌めいた。遂に手に入れた光だ、へし切長谷部を、俺を照らす光だ。日本号はその切子杯を丁寧に左手に取った。想像したこともないほどけたたましい日々がやってくるのだろうが、かくも煌めくものを割り砕かせてなるものか。 吹き抜ける風の中、日本号は遠く北東廓の南の方を見やった。空を駆け渡った審神者はいつのまにか棟の屋根に立っている。瓦屋根の破風に足をかけ、下から喚くへし切長谷部を見下ろしている。危険です主下りてください軍議でも按摩でも何でもしますからとか訳わからんことをのたまううちの姫さんも、あの女とガキみてぇな追いかけっこできるってんなら大したタマだ。 空を裂いて審神者は甲高く指笛を吹いた。微かな振動が四足の生き物の疾走を足裏に伝えるのを感じたか否か。黒光りする一頭の駿馬が主の召喚に応え高くいなないて塀を跳び越え現れた。審神者、遠隔解錠でお気に入りの望月を呼び出したらしい。なるほど黒田の御刀との鬼ごっこには馬が要ると戦況判断してか。正しい読みだぜ。ピィッと高い指笛を吹いて審神者は屋根を斜めに駆け下り、主を見上げて軒先に走り寄る望月の背へと飛び降りる。 　日本号は茶盆を胸の前に掲げた。目線の高さに。そうするとちょうどまるで、審神者が茶盆に飛び込んだような具合に見える。 　赤みの強い木地に透き漆を重ねた盆は、麗しい木目の上に水面の如く光を溜める。それを捧げ持つようにして、日本号は独りの庭に、「さぁけぇは、呑めぇ呑ぉめぇ、呑むぅなぁらぁばぁ…」としわがれて深い歌声を響かせた。 　日ノ本一の　この槍を 　呑み取るほどの　ぬしなれば 　これぞ真の 　 「我ぁがぁ、主ぃ、っと…」 茶盆を大盃に見立てて片手に持つ。大身槍日本号、位正三位。堂々蒼天を仰ぎ、空盆になみなみ注いだ想いの丈を呑み干した。 「んっだぁ！」 見立ての酒を呷った口元をぐいと手の甲で拭う。呑み取ったぜ、主。これであんたは過去の臣からも未来の臣からも分捕られて末永く俺らの主だ、どうだ、宴の余興はほどほどにしねぇといけねぇってわかんだろう？後悔しても遅ぇんだなぁこれが。 　望月に飛び乗った審神者へ、へし切長谷部が「遠乗りですか、俺が手綱をお引きします！」と叫んで走り寄る。 「発進！特急モチヅキwithカコ！！」 審神者もまた訳の分からんことを喚き、玉砂利を撥ね散らかして馬を駆り走り出す。あんた空走れるのに馬に乗るのかよ意味わからねぇ。あぁ誰にも見えない明日を乗せて走るよ特急モチヅキwithカコ。 「あぁぁぁあお待ちください！！あぁもう主ったらぁーーー！」 爆走する望月を己の足で追って走り出すへし切長谷部もどうかと思う。いつものえげつない疾走姿勢であっという間に視界から消えた。二の丸の方から「主さん？う、馬ぁ！？」「馬を…馬を走って追いかけてる人がいる！！」「なんで互角なんだよ！！」と叫び声が上がる。おうおうこれからの日々はそういう訳のわからんことが満ち溢れるだろう。合掌。 　その主にすら知られることもなく、青空の下、日本号は密かにそして一方的に、臣従を決めた。 [newpage] 　西の丸はこの城の外郭の一つである。刀剣男士達の生活圏からは離れているため、普段は人通りがあまりない。午前中は書物運びの列が行ったり来たりしたが、それとて書庫となっていた蔵に限った話だ。それより奥の方がどうなっているか、長く住んでも未だ知らずにいる刀剣男士も少なくなかろう。 　西の丸には林がある。その中にはせせらぎの清い小川すらある。それは単に散策に良く風光明媚だから城内に残されているのではない。いざ籠城するとなれば林は薪となり建材となり、小川は渇きに耐える清水の蓄えとなる。この城は…たとえその敵が時空の彼方からやってくる者達になろうとも…合戦の時代の築城の知恵を、そこかしこに残しているのであった。 　今は合戦中ではないため、小川も平和利用されるに留まっている。へし切長谷部と騒々しく二の丸を走り抜け天守廓を突き抜けてきた審神者は、望月に川辺の飲水を許した。思いやり深いこの馬は、背に乗せた主を落とさぬ絶妙な加減で姿勢を取り、きらきらと水晶のような水面に口をつけた。 　さて、この本丸随一の駿馬に己の足で追い縋ってきた化物はと言うと、河原に膝をついてぜぇぜぇと荒い息をしている。さすがのへし切長谷部も、爆走する馬を追って城郭を駆け抜けるともなれば疲労する。 　それでも掠れて裏返った声を呼吸に乗せて「…主、ここで、ご休息なさるのなら、お茶でも、お持ちしましょうか」と問うてくる。なお、お茶の道具がある二の丸はここからだいぶ離れている。馬鹿も貫き通せば天晴なのだ。 「…君は随分必死だな」 馬上で木漏れ日に彩られながら、審神者はへし切長谷部に言葉を返した。「何を焦っている」 「焦り…」 へし切長谷部は四つん這いになって呼吸を整えていたが、おもむろに姿勢を正し、川面の方を向いて正座した。「ええ。焦っております」 「肯定か」 「はい」 「語れ。または問え」 そう促すと、へし切長谷部は川面を見つめ、「…では、失礼を承知で申し上げます」と言った。 「主は、俺がお嫌いですか」 「それはまたいきなりだ」 「嫌われていると感じたのです。…主は、俺との間に壁をお作りになっている」 「どちらかと言えばこの城の連中が総力挙げて私を拒んでいたように感じていたが。まぁいい、君は私の言動の何に対し自分が嫌われていると判断する」 へし切長谷部は言い淀んだ。しかし、このわだかまりは口にせねば解けぬのだろう。 「主、巴形を顕現したその日に、俺が話しかけたことを覚えておられますか」 「あぁ。うっすらと」 「お話がございますと申し出ました。あの日、俺は主へお仕えしたい旨を申し上げるつもりでしたが、主は俺の話を聞いてはくださらなかった」 「敵だと思っていたのでな」 「他の刀と俺の違いは何ですか。次々に新しい刀が主に下りましたが、聞けば主は厳しくも温かくもそれを受け入れている様子だと博多に聞きました。門前払いを食らったのは俺だけではありませんか」 「否定はしない」 審神者が手の中で弄ぶスパナが陽光を跳ね返す。 「今も敵だと思ってはおられませんか」 「何故だ」 「二の丸を走り抜け、他の刀剣男士に俺が主を追う姿を見せました。仮に主の戻りが遅ければ二の丸の者達は俺を疑い探しに来るでしょう。あるいは、俺の察知できる範囲の外には、伏兵が追いついてきているのかもしれません」 「ほう」 審神者は目を細め、横目に視線を流し、何故か河原で正座するへし切長谷部を見やった。 　自負するだけのことはあるな、頭が切れる。戦略と言うものを知っている。 　そして、帯刀した審神者の配下に囲まれるリスクを承知で丸腰で走ってきたのなら、その度胸もまた大したものだ。敬意を表して、審神者ははぐらかさずに「半分正しく半分足りない」と答えた。 審神者は答えた。 「不審な男につけ回されたらとりあえず大声を上げるなどして注目を集めながら人通りの多い方に突進しろと、兄に教わったんでな」 「主には兄君がおられるのですか」 「君が食いつくの、『不審な男』の方じゃなくて『兄』の方なのか…あぁ。兄がいる。いた、…かな」 「…いた、ということは…」 「自慢していいか。血縁はないが世界一カッコイイ兄だ」 「主がカッコイイと仰るということは、相当カッコイイ兄君でいらしたのですね」 「あぁ。兄のようになりたいと思って生きてきた」 へし切長谷部は、礼を欠かぬよう、しかし注意深く審神者の横顔を見上げた。兄君が「いた」と言う割に、そこには悼むような干渉はない。亡き人を思い返すというよりも、ただ懐かしげで誇らしげだった。同時に、その表情は、へし切長谷部に対してそれ以上兄君の思い出話を分けてやろうという気はないようだった。 　へし切長谷部は話題を戻した。「二の丸を走り抜けたのは、走る俺を二の丸に目視確認させる以外に何か意図がおありだったのですか」 「広いところを馬で走ると楽しいぞ」 審神者は答えた。「変なところ筋肉痛になるがいい運動だ。乗り物と違って、生き物に跨っているからかな、まるで自分の半身が四つ足の獣になって地面を蹴っているような快感だ。まさか馬についてくるスプリンターがいるとは思わなんだが」馬上から見下ろすその眼光に、面白がるような試すような色を見取って、へし切長谷部は思案した。 　戦火を生き戦火に消えた彼のかつての主、信長は、若い頃はうつけを装って人を試したという。へし切長谷部はその当時の姿を見ていたわけではないが、その頃の信長はもしかしたらこのような眼光で人を見定めていたのかもしれない。 　うつけと渡り合う処世は知っている。 「御身が馬で駆けるのならば、俺は馬に並んで走れる家臣であり続けましょう」 「Oh, crazy」 「いいえ、主の馬を追いこして先触れし御前から障害を除けるほどに速く走ってご覧に入れます」 「やりかねん」 「主がただ馬乗りがお好きだと言うのならば、俺はただその手綱を取らせていただくまでひたすら脚を磨くのみです。主が俺に望まれるのがそれだけならば」 一差し、王将に駒を寄せる。審神者はふふんと笑い、「黒田の宝とはいえ君もその性は織田の刀よなぁ」と言った。 「黒田の槍がいてはできない話をするためだ。人払いもいらん場所まで君を連れてくるのが目的よ。二の丸を爆走して通り抜ければ、後から日本号が追ってきても二の丸荷運び部隊が関所となって、彼から根掘り葉掘り聞いて足止めしてくれるだろうから」 へし切長谷部は思わず腰を浮かせかけた。 　この審神者が、俺に話があって呼び出した、だと？今まで全く俺に注意を払ってくれなかったこの方が？ 　込み上げる期待の中で、へし切長谷部は表情が緩んでしまわぬか気が気ではなかった。見上げる審神者は馬上で頬杖をついて、「あー、うん、この川いいなぁ…水遊びしたいな…」と極めてどうでもいい独り言を漏らした。「水着買おう」一期一振あたりが聞いたらどうでもよくない発言だったかもしれない。 「あの、日本号がいてはできない話とは何ですか」 待ちきれずへし切長谷部は審神者をせっついた。 「大きく二つだ。まず一つめ。君が私に臣従すると言うなら先に知らせておかねばならんことがある。大変気に食わない話だろうがまぁ聞いてくれ」 「何なりと」 「君は、先程私が君を嫌っているのではないかと、壁を作っているように感じていると、そう言ったな」 「はい」 「申し訳ないが、それは君の勘違いではない。私は君を他の刀と同じようには易く受け入れられない事情がある。早まるな。それは君の落ち度や瑕疵ではない。私個人の問題だ。私は派遣の…貸し出しの審神者でな、ここに来る前にも幾つもの本丸を回ってきて、何振りものへし切長谷部の主となった。良い思い出もあれば苦い思い出もある。君、というよりへし切長谷部と言う刀との間に、未だ乗り越えられずにいる因縁がある。未熟さゆえに清算できていない過去がある。それゆえに私は、できれば君を遠ざけておきたかった」 「…へし切長谷部との…因縁…」 「偏見に過ぎん。へし切長谷部付喪神を十把からげに扱いなんの非もない君を先回りして避けるのは正当な判断ではない。だが臆病さゆえに私は君との主従が深まることを恐れた。未だ乗り越えられていない。君を差別したくはない。己のものに非ざる罪で責められ謗られ退けられるのは、いわれのない言いがかりだ。それは理性的な振舞いとは呼べん…だが、トラウマ、と言ってわかるか。人は脆い。…今でも魂の古傷が理性を脅かし、個を不当に扱う愚を犯してでもへし切長谷部の手など取るなと叫ぶのよ」 審神者は頬杖の手を滑らせ、額を預けた。その指で支える頭蓋の中にはいかなる記憶が渦巻いているのだろう、何が主の心にわだかまり呪縛しているのだろう。 「君は十分に誠意を示した。君を疑う正当な理由など今はない。だから私も曇りなき眼で正しく君を見定め向き合いたいと思ってはいる。だが恐れを克服しきれていない。…だからこそ。…へし切長谷部、汚れ仕事でも何でもすると言ったな、君にしか頼めない命がある」 へし切長谷部はそっと唇を噛み締めた。 　…他より有利どころか、同じ条件に立てはしないようだ。だが主もまた自分に誠意を示してくれた。怯えを押し隠すのではなく、このような怯えを抱いているからと、己が臆病だからと、俺に自分を責めるなと言ってくださっている…。 　ならば、この主に対し、最も良い形で家臣たるにはどう振る舞うべきか。 「承知しました」 声よ震えてくれるな。 「主が何を懸念されているのか、俺にはわかりません。ですが、主がへし切長谷部という刀に対し思うところがおありならば、俺は万事主の御心に従うよう振る舞います。姿を見せるなと仰せになるならそうします。近侍は諦めろと仰せになるなら従います。御随意に」 「違う」 審神者は短く否定した。必死で平静を装って言葉を連ねていたへし切長谷部はびくっと肩を震わせた。しかし彼は矜持の刀である。藤色の瞳を上げ、主の言葉を待った。 「私がもし君に不当な命を下したら、諫めろ」 一瞬理解できずに、へし切長谷部はぱちぱちと瞬いた。遅れて理解が追いついた。彼は思わず「何と仰いました！？」と叫んだ。 「うっわ。人の話聞いてなかったな貴様」 「拝聴しておりました！！しておりましたが理解できませんでした！」 「困ったな。私博多言葉はちょっとしか喋れんとよ。博多藤四郎を通訳に立てるか？」 「げげげ言語の問題ではございません！…主、…諫めろというのは、文字通りの意味ですか！？」 「あぁ？あぁ。私は私の道を踏み外したくない。私は私にできる努力をする。…だが私が道に悖る物言いをすることがあったら、私がこの臆病に屈することがあったら…へし切長谷部に対する偏見で君を蔑ろにするようなことがあったら、その時は正面切って指摘しろ。君に理がないと判断したら私は反論する。それも正しくないと思えば食い下がれ。その度胸があるならば」 王の王たるは其の王に足らざるを知ることに在る也。 　へし切長谷部は膝の上で両の拳を握り締めた。視界がじわりと滲むのを必死で堪えるためだ。 　…迷いながら暗い道を通り抜けてきたのは、ここにたどりつくためであったか。 　俯いて小さくこっそり鼻をすするその胸に込み上げるのは、控えい控えいこの方こそが俺の主だと世に触れ回りたいほどの歓喜であった。殿上の錦畳に平伏して述べた忠義は今、河原の地べたに座して遂に報われた。見ろ、正しいことはきっと正しい、俺は間違ってなどいなかった！！ 　へし切長谷部は地べたに白手袋の手を突いて、ぐるりと向き合い馬上の主に向かい座った。深々頭を下げる。主はこの姿を嫌うらしいが容赦願おう。黒田筑前守筋象嵌銘へし切長谷部、この身が貴方の家臣であると、どうかその目に焼き付けろ。 　俺にしかできないことがある。 「拝命いたします」 如何なる過去が貴方を呪っていようとも、貴方が克己を望むと言うなら俺が貴方を救ってみせる。触れれば斬れる圧切御刀、主に仇なす敵は斬る、主を鎖す業は断つ！ 　じゃり、と平伏した頭のすぐ先の地面が鳴った。審神者が馬から降りたらしい。 「よろしく頼む」 顔を上げたへし切長谷部の前で、審神者は膝つき深々と頭を下げた。それは一国一城の主にはふさわしからぬ謙譲であったが、それが彼の主であった。 　小川のせせらぎ、さやぐ木漏れ。きらきらと涼やかな木立の中で、へし切長谷部は遂に念願かなって臣従の宣りを果たした。 　 　木陰の茂みに潜む獣のように、金色の眼で一人と一振りの相互土下座を見守る者があった。見守って、思い切り欠伸した。同田貫正国である。 　筋トレ代わりに書物整理に参加していたところ、地鳴りが近付いてきて、なんだなんだと皆庭で立ち上がり軒先から身を乗り出しして見てみれば、審神者が望月で玉砂利を蹴散らして竹柵を撥ね飛ばして爆走していったのだ。衝突事故を起こさない程度の判断はできるようだが、乱藤四郎がキャッと言って裾を押さえ、陸奥守吉行が風呂敷代わりに使っていた山姥切国広の布がつむじ風に巻き上げられて屋根の上まで舞い上がり、薬研藤四郎の白衣の裾が鶯丸の茶に入った。 あの女がトチ狂っているのは今に始まったことでもないし、お急ぎのご様子なので巴形薙刀が腹でも壊したのかもしれない。そう納得しても良かったが、その馬から三歩遅れて全力疾走していくへし切長谷部に気付き仰天した。阿呆だ。阿呆が阿呆を追いかけている。いや馬だし馬鹿か。馬鹿なのか。馬鹿だろうな、うん。「主ぃいいいい！！お供いたします！！」「だが断る！！」「聞こえませんでしたので！！ついてまいります！！」騒々しい竜巻になって二の丸を走り抜けていった。 「旦那」 呆れ果てていた同田貫正国の脇腹を肘で突いたのは薬研藤四郎だ。「帯刀して追ってくれ」背後から声を低くして早口に言う。「俺っちの方が身が軽い。先に行く。旦那は部屋に戻って刀を取ってきてくれ」 　稀に見る険しい表情で薬研藤四郎が臨戦の気を見せている。 「…あれが殿上の残党の謀反、ってか？」 同田貫正国も声を押さえて尋ねると、薬研藤四郎は「いや、それなら大将が奴さんを走らせてるはずがない。馬に蹴らせるか霊力の学問で殴るか何かして、長谷部の旦那は今頃堀でメダカと仲良くしてるはずだ」とかぶりを振った。 「じゃぁなんだ」 「わからん。だが虫の知らせが行けってせっつく。大将は浅はかじゃぁない。人通りの多いところをわざわざ馬で走ってんなら何がしか意図があるはずだ」 「わかった。行け」 そう言うと、薬研藤四郎は周りの刀に「すまねぇ、俺っち白衣を洗濯場にやってくる」と言ってその場を走って抜けた。醤油のシミも生薬の汁もいつだってお構いなしの白衣を気にする薬研藤四郎の不審に気付く者はなく、はいはーい、とか、緑茶なら先に水洗いしとけば大丈夫ですよ、とか快く送り出す。 　同田貫正国も、運びかけの本をぞんざいに廊下の隅に押しやると、急ぐそぶりは隠してその場を離れた。部屋に駆け込み本体をひっ掴んで走り出る。文字通りのおっとり刀だ、坪庭から走り出て洗濯場へ回ると、屋根の上に立った薬研藤四郎が南西の方を指さした。続く合図は指二本、四本、そして腕で丸を作ってみせる。そして薬研藤四郎は同田貫正国とは反対側の屋根へと飛んだ。西の丸か。同田貫正国も駆け出した。 　馬の足跡は土の地面にくっきり残る。存外後を追うのは楽だった。 　索敵しながら先を走っていた薬研藤四郎は、同田貫正国が追いついたのを屋根の上から見つけたらしい。足元に小石が飛んできて、見上げると太陽を背にした薬研藤四郎が「林だ！」と吼えた。そして彼は身軽に屋根を走って軒先から塀を伝って地面に下りる。 　西の丸の林の中に分け入る。薬研藤四郎がぱっと左手を伸ばし同田貫正国の進路を遮り制した。標的発見。小川のほとりで、望月は水を飲んでいる。主は望月の背の上にあり、へし切長谷部は川縁に手をついてぜぇぜぇ言っている。引き離されずあのままここまでついて走ったのかと思うと驚きを越して呆れすらする。 「長谷部は本体持ってるか」 「いや、丸腰だ」 薬研藤四郎は短く言った。「だが股間にゃ一振り持ってるわけだし油断はなしだ」こんな場面で下ネタ言うな。「木立の小川に男と女、きな臭ぇぞ戦になるか？大将の操にゃ手出しはさせねぇ」案外大真面目だった。 　薬研藤四郎はその場を同田貫正国に任せ、手近な木をよじ登っていった。枝を伝って近寄っていく。高さを稼ぐのは索敵にも奇襲にも有効だ。短刀、薬研藤四郎、練度は依然低くとも戦場育ちの刃である。 　途切れ途切れにへし切長谷部と審神者の会話が聞こえてきた。 　己を厭うているのかとへし切長谷部が問う。審神者が答える。へし切長谷部との因縁。 　克己の覚悟と臣従の宣誓。 　あぁ心配して損した。木の根に座った同田貫正国は思い切り大欠伸した。 　いくらか気になる情報を耳にしてしまったように思う。あの図太いほどに強靭な精神を苛む何らかの懸念がある。へし切長谷部に対し何を危惧している。道を踏み外したくないとはどういうことだ。答えのない問いが幾つも幾つも浮かんできたが、同田貫正国は斜め上の枝に跨る薬研藤四郎に視線をやった。彼もこちらを振り返り頷く。大した事なさそうだな、と唇の動きだけで言う。彼は来た道を戻って同田貫正国の傍らへ戻ってきた。 「杞憂で良かった」 「あぁ」 「戻るか」 「あんた、先に戻りな。まごついてる奴がいたら連絡してくれ。審神者の遠乗りに付き添った馬鹿の正体はへし切長谷部、特に異常なしっつうかそもそも主が異常、出動の要はなし」 「おう」 「あと、へし切長谷部がきっちり臣従を決めたって伝えて回っておいてくれ」 「合点だ。…俺っち戻るが、旦那、大将が未婚の母になりかけたらとりあえず刺し違えてでも長谷部の旦那の魔羅は斬れ」 刺し違えてでも。…、うーん…、合掌。 　薬研藤四郎は静かに立ち去った。同田貫正国は残り、ありそうもないが万が一に備えて見張りを続けた。 　御手杵、テメェが散々怖い怖い立場取られそう怖いって言ってたへし切長谷部が主の家臣になったぜ。うかうかしてっと、臼と一緒に蔵にしまわれんぞ。打刀で刀種のかぶる俺も分が悪い。強くならねぇとな。へし切長谷部に「てめぇは戦にお呼びじゃねぇよヒヨコのお守りでもしてな」と主の真っ白でっかい雛鳥を押し付けられる程度に面をデカくしておかないと。あぁでもあの女が逆切れしかねないか、「貴様が巴ちゃんのお世話係に就職なんざ百年早いわ無資格無免許いい度胸だなァ畜生道からやり直せ！」下手すりゃ育児を理由に職務をぶん投げかねない。 　さて、一見水神召喚の儀でもおっぱじめたかという奇妙な相互土下座を終えて、審神者とへし切長谷部は顔を上げた。審神者は手を突いて立ち上がる。望月が控えめに体をぶつけ、早く乗れ、と急かしているのが見えた。審神者の手元に鋼が光る。物を斬らない、物を作る鋼が夏日に真白く光る。 　へし切長谷部が頷きながら主を度々振り仰ぐ。再び何事か話し始めたようだが、先程に比べると声が小さい。小川のせせらぎにかき消され聞こえなかった。 「…薬研藤四郎は行った」 審神者は言った。手元のスパナに視線を落とし、鏡面の鋼に背後を映して観察しているらしい。「同田貫正国…かな、短刀ではない、少々大柄なのが残っている。やれやれ、上司思いの良い職場だ」 「俺は他の連中にも信用がないのですか」 「昨晩謀反を鎮圧したばかりだ。信じる理由が足りなければ皆疑うだろう。…だがまぁ、薬研藤四郎が触れて回ると思うぞ、君も仲間であると」 そう言って審神者はスパナをしまいこんだ。なるほど、それもあって二の丸を走り抜けたのか。勘の良い武闘派の尾行を期待して。 　策士の女は、先程より声を押さえて「さて…私は、君に話したいことが二つあると言ったが」と言った。ここから先は尾行者に聞かせる必要はないらしい。「二つめを話そうか」 「拝聴いたします」 「ちゃんと聞いといてくれよ」 「き、聞きますとも！」 「私のために面倒を負う覚悟はあるか」 「もちろんです」 「鶴丸国永」 唐突に審神者の口から出た名前にへし切長谷部は虚をつかれた。構わず審神者はへし切長谷部に視線を投げる。「君、話す仲だったことはあるだろう」 「え、えぇ…はい…」 どもりながら答えた。いや確かに話す仲だったことはあるのだ、あったのだ、…あったのに。 「何か思うところがあるか」 「ないわけではありませんが、先に主命をください」 「また主命だよこの人もうやだァ、カコさんお家に帰ンぞ！おにーちゃーん」 「虚空に向かってお呼びにならないでください、ここに兄君はおられません」 「わかっとるわい」 審神者は爪先を地面について足首をぐるぐる回しながら、「主命だ」と言った。 「君、鶴丸国永の世話係な」 「はいぃ！？」 「委細は知らんが、鶴丸国永は重度の引きこもりをやっているだろう。彼の世話をしていたのは三日月宗近だが、昨日ちょっと繰り人形にして楽しくロンドしちゃったんでな、世話係が居なくなって鶴丸国永が陰干しになってしまう。食事を運んでくれ。そしてそれを口実に会話を試みろ」 「それ…俺よりも適任がいるように思うのですが…」 「あらできないのぉ、そぉ」 「できます！」 皆焼刃には煽り耐性がない。（※風評被害） 「ちなみに…、なぜ俺なのですか」 「理由はいろいろある。御手杵から聞いた話で、鶴丸国永を二の丸に連れ出していたのは君だと聞いた。だから少しの期待を込めている。消去法でも君に白羽の矢が立つ」 二の丸の古参はふさわしくない。鶴丸国永を畏怖して敬遠していては務まらない仕事だ。もと天守住まいの中でも、まず歌仙兼定は論外。獅子王は明るくて大変よろしいが人の心の機微に疎いのでこの仕事は少々荷が重い。一期一振は外す。新しい藤四郎の育成で相談役が欲しいので。次郎太刀太郎太刀も違う。慈愛で救える状況とは限らない。鶯丸はまだ何を考えているのかよくわからない。山姥切国広はほとんど下界と感性が変わらないので除外。効率重視で布を取って生活できる時点でこの城の山姥切国広はやや神経が図太いのだろう。 「鶴丸国永は…おそらく、俺のことなどもうとっくの昔に見下していますよ」 「構わん。最低限、鶴丸国永を飢えさせなければそれでいい。あわよくば現状打開の糸口を見つけられればと思う」 「食事を運ぶのが関の山ですね…」 「ふーん、へし切長谷部君は上司の期待に応えられないのぉ」 「応えてみせます」 磨り上げ刀には煽り耐性がない。（※風評被害） 「君と鶴丸国永のこともいつかゆっくり話して聞かせてくれ。伝聞ではなく当事者の物語が必要だ」 「いつでも呼びつけてください。走っていきます」音速で。 小川の水面がきらきらと光る。ゆく川の水の流れを目で追い、審神者は周囲に笹を探した。生憎笹船の材料はここにはない。生憎と言うか、幸いか。ここまで手入れを放棄された城に笹が生えようものならあっという間に笹の葉さらさら軒まで茂る。「ここじゃ笹船戦艦できないか…」小川で砲雷撃戦するのも慎むべきだ。 「いろいろあってな、二の丸が見た目よりも安普請だと発覚したよ。設計図だとそうでもないはずなんだがな。君らの住処は過度の重量には耐えられん。あそこで部屋の中に水槽を大量に並べて金魚飼ってる数奇者がいるので、できれば床の傷み具合なんかも見てほしい」 「かしこまりました」 「腹を探ってこい。ほとんど人形みたいに暮らしているようだ、あの太刀は。彼の中にまだ救済できる心が残っているのかどうか。まずはそれが問題だ」 「はい！」 「というわけで私は戻る」 審神者は望月の鞍を掴んだ。察した望月は主が跨りやすい体勢を取り、その重さを背に受けて立ち上がるとブルッ、ブルッと急かすような鼻息を立てた。次はどこまで走りましょうか、ご主人様。この壮健なる身体の疾駆を飽くまでご披露いたしましょう。 「えぇー…」 馬上から見下ろして審神者は絶句した。へし切長谷部、クラウチングスタートの姿勢を取っている。走る気だ。こいつまた走ってついてくる気だ。理解を超える。ダメだ21世紀生まれのエンジニアには23世紀の付喪神が何考えてるかなんてわからないよ。 　わからなくとも走り続ければ見えてくる光があるだろう。 　今度無断で望月の鞍を改造しようと心に決めた。今決めた。望月はまだ本領を発揮していない。今はまだ手加減させているのだ。ひとえに審神者自身の乗馬スキルが、初心者向け馬術研修レベル（ジパング術工株式会社の開発課御一行様、経費で牧場を訪れソフトクリームを貪りながら楽しく受講）で止まっているためである。千年を越えてその名を語り継がれる駿馬に素人ライダーが本気の走りをさせようものなら、望月どころかお星様になりかねない。人体と自己の限界は技術で超えていけ。鞍と騎手が離れないよう落馬防止の術式を組み込んで、酔い止め飲んで死に物狂いでしがみ付いてでも望月に最大限の走力を発揮させてやる。はっ、流体力学を応用して馬体の上を気流が走るよう流線形に防壁術式を使ってみるのはどうだろう？いやはや馬神霊とはいえ元は生物なのだからあまり不自然な走行を強いては居心地が悪いだろうか？いずれにせよ二足歩行に追いつかれるような馬ではないのだ、望月は。 「行くぞモッチー！」 審神者が吼える。駿馬は嘶く。へし切長谷部も土を蹴る。 　絶えぬ流れに煌めき続ける小川の水面を後にして、二者はそれぞれ駆け出した。 [newpage] 　ポシャン、と金魚が跳ねた水面に波紋が広がった。 　薄暗い室内。水を満たした硝子の器がそこかしこで水晶の如く光を膨らませ色を歪ませる。丸く、四角く浮かぶ光の中に、愛玩の魚影が倦怠のひれを赤く黒く翻し泳ぐ。一種の魔境のような様相を呈するその中に、一振りの太刀が微動だにせず座していた。 　陰の中に座りなおその姿は真白く映える。五条国永が傑作、鶴丸国永。 　半ば閉ざされ伏せられた金色の眼は、白皙の中にただ澄んで何も映さぬ。白練の生糸を切り揃えたような髪のかかるその耳は、今日誰の声も聞いていない。 　だがしかし、風は吹いている。 青空の下を渡り来て灼けた光と熱とを孕んだ夏風が…昨晩から開け放たれたままの彼の部屋の戸口からさえも吹き込んで、無数の水面に漣を起こすのだ。それに誘われた金魚がそわそわ泳ぎ出しては時折跳ねる。ポシャン、ポシャン、と水を打つ音が、薄暗い部屋にしみついた沈黙を破り響き出す。 　金魚、それは人が愛でるために美しく歪めた命だ。それなのにまるで自由に焦がれ始めたように水面に跳ねる。狭苦しい水槽の中で何かを探し求めるように愛でられるために無様に虚飾されたそのひれでやおら急き立てられて水を掻く。まるでその魂は青空の下で見上げる自由を思い出したとでも言うかのように、物言わぬ魚どもが騒ぎ出す。 　鶴丸国永は静かにその面を上げた。 [newpage] 　 「よぉ、旦那。何してんだ？」 薬研藤四郎はひょいと障子から顔を覗かせて声をかけた。ここは歌仙兼定私室。通りすがりに半開きの障子を見て、そういえば今朝から歌仙兼定の姿を見かけなかったな、と気付いたのだ。 「あぁ…薬研藤四郎かい」 振り返った歌仙兼定は、襷掛けして袖を纏め、前髪を上げて頭頂で結っている。雑巾を手にして拭き掃除の途中だったようだ。その表情を見るに、首尾は上々、というわけでもないようである。だがしかし、そのげんなりした表情は薬研藤四郎を見て和らいだ。「入ってくれ。お茶くらい出そう」歌仙兼定にとって、薬研藤四郎は数少ない「話ができる相手」である。もっとも、今代の審神者の服装のいみじくすさまじき様について熱弁を振るっても生暖かい半笑いで聞いてくれる、ということである。 薬研藤四郎は遠慮なく茶を頂いていくことにした。 初期刀の今後の動きは探っておきたい。殿上の仲間のほとんどは負傷して城外に搬出され、今や彼は文字通り孤立しているのだ。そもそも昨晩殿上人に斬りつけられているのだから、もともと孤立していたのかもしれないが。 薬研藤四郎は敷居を跨いだ。 「掃除かい？一兄に怒られるわけでもねぇのに感心だな」 「おそらく、これは早めに始末しないといけないからね…水を含ませて拭いてみたけど上手くいかない」 歌仙兼定は溜息をついて自分が必死に拭いていたその場所を振り向いた。畳の上には、薄黒い染みが広がっている。墨が飛び散ったのを無理に拭いた跡だ。黒ずんだ歌仙兼定の手と雑巾を見るになかなか奮闘したようだが、畳の目に詰まってしまった墨はどうにも取れない。 　薬研藤四郎は知る由もなかったが、それはまさしく昨晩歌仙兼定が味方に斬られたときに飛び散った墨であった。文机の前に座っていた歌仙兼定のもとへ、三日月宗近を筆頭に殿上人がやってきた。そして歌仙兼定の手足を斬った。血はその場で拭き取られたものの、そのとき転がった筆や硯が飛び散らせた墨はそのまま黒々と狼藉を証言する血飛沫のごとく部屋に残った。 　諸々あった挙句、彼の愛しい怨敵、憎き想い人は歌仙兼定を手入れ部屋に入れた。命を救われた屈辱に激昂し彼は審神者に刃を向けたが、結果として、霊力の尽きた千載一遇の好機にさえも審神者を殺せなかった。そして殺しかけたことを思い出しては総毛立ち、殺さなかったことを思い起こしては安堵している。腹立たしいことに、彼は己に対し笑顔など見せないあの女に恋していた。 朝、彼は完治してしまった身体に苦々しさを噛み締めた。目が覚めたということは、僕はまだ生きているのか。意識が明瞭になった途端、随分と激しさを欠いた屈辱感が押し寄せた。歌仙兼定は唇を噛み締め、眉間にぎゅっと皺を寄せて瞼を開けた。薄暗い室内、仰向けの視界に見えるのは手入れ部屋の天井だった。 両の手首足首の激痛は消えていた。恐る恐る右手を持ち上げ、顔の上で指を曲げ伸ばししてみる。「決して動けぬよう」ざっくりと斬られた痕は幻だったかのように治り、何の違和感もなく指が動く。 …僕は、また包丁を握って料理を作れるんだ…。 そんなことをぼんやりと思った。 　身支度を整えて部屋を出る頃にはもう日は高かった。厨房仕事をしに行くには遅いな、と思ったが、じきに、早かろうが遅かろうが厨房にはもう入りにくくなっているのだろうことに気付いた。 　殿上人がいない。正確に言うと、昨晩審神者と戦った殿上人達が一振りも見当たらない。誰の部屋の前を通ってもいないのだ。やたら本を持って走り回る刀剣達を見かけたが、誰も彼も下界者か下界落ちした者ばかりだ。 　…そうか。皆、討たれたか。普通に考えればそうだろうな…。 　歌仙兼定は静かに誤解して納得した。謀反を鎮圧したのだ、まずすべきは逆臣の斬首であろう。僅かにでもその身を流れる血の中に戦国の本能が残っていればそれが妥当だとわかるだろうし。三日月、僕はちゃんと説明してほしかった…何故君は僕を斬ったのか。…でも、僕が眠っている間に、皆、刑死か。斬首だろうか、磔だったのだろうか、今頃骸はどこに晒されているのだろう。 　…なんで僕は生きているんだ。手当されてまで…。 　念のため手入れ部屋の周辺を歩き回ったが、見張りを命じられていそうな刀剣男士はいない。あの女は僕を入牢させるつもりもないのか。 　理解できなかったが、一つ明らかなことがあった。もはや殿上の消滅したこの城に、彼は独り残されたに等しい。忙しく走り回る下界の刀剣達に交わっていけるはずもなく、彼はそそくさと自室に引っ込んだ。 　そこで見たのが、斬られた畳と拭き取った血の跡、そして飛び散って半ば乾いてしまった墨の黒。身を斬らば赤き血潮ぞ流れ出ん魂は如何墨ぞ流すか。想ふでもあらで墨跡この部屋に侘びすみぬるは歌人なりせば。 斬られて流すのが墨だなんて文人らしいかもしれないね…と思いつつも、歌仙兼定は荒らされてしまった部屋に肩を落とした。ここしかもう、僕の居場所らしい居場所はなさそうなのに。 とりあえず、先程浮かんだ歌を一筆箋に認めて指の動きに支障のないことを確かめると、彼は掃除に取りかかった。一刻も早く消し去りたかった。三日月宗近らが自分を邪魔なものとして斬り捨てた証など…。 　というわけで彼は一心不乱に畳を擦っていたのだ。込み上げてくる様々な不安や苛立ちや疑問から目を逸らすには良い手段だった。だがしかし畳に広がる薄黒い色は落ちない。彼の胸中の暗雲を模すようにそこに染みついている。 「まぁ細かいこたぁ気にすんなって、足袋につかない程度に拭けたならそれでいいじゃねぇか。粟田口部屋の畳なんざもっとひどいぜ」 「君らの部屋と一緒にしないでくれ。僕を誰だと…」 言いかけた言葉を噤んで、彼は「…良くないね…敗者の分際で言うことじゃない…」と自嘲した。 　薬研藤四郎は何事か言いかけたが、今言うべきことでもないと判断した。大人びた微笑に本音を押し隠し、首を傾げて「落ちねぇもんは落ちねぇさ。そもそもその畳、切れてるじゃねぇか。空き部屋の畳剥がしてかっぱらってきちまえばいいんじゃないか？」と提案した。 「こそ泥みたいだ。雅じゃないよ」 「大将に頼めばこそ泥じゃねぇだろ」 「あの女に頼むくらいなら墨の上にも住み伏さん」 「おうダジャレか旦那」 「掛詞って言ってくれるかい！？」 薬研藤四郎は適当なところに尻を下ろした。座布団を勧めそびれた歌仙兼定は気まずさに視線を伏せつつも、気にしていない振りを装って茶の用意をした。少し迷って、戸棚から出した茶菓子は瓦煎餅。 「ありがとよ。小腹が減ってたんだ」 遠慮なく瓦煎餅に手を伸ばす。この藤四郎には茶の心得なんてないだろうし、と思って略式にして正解だった。湯呑を茶托に乗せて、滑らすように薬研藤四郎の前に置いてやる。片手で受け取って、猪口でも持つような風情で「旦那も下界者みてぇな茶の出し方できるんだな」と笑う。「茶筅でカシカシやるような茶の出し方しか受け付けねぇ手合いかと思ってたぜ」 「茶道はもてなしの道だからね…、もてなしの受け方を知らない者に押し付けるのは無意味だろう」 「融通利くのはいいこった」 薬研藤四郎は湯呑を口元に持っていき、すっと双眸細めた。湯呑の縁に、鋼の色を湛えた銀藤ふたつの瞳が光る。腹の底まで刺し貫くような光に、歌仙兼定は一瞬息が詰まった。喉元に切先を突き付けられたような気分だった。「時代は変わるし世界は動く。風が荒べば柳は揺れるが揺れぬ欅はいつかは折れる。柔軟にならねぇとな、生きていくには」にやっと笑う。 「…そんなことを言いに来たのかい」 歌仙兼定は俯いたまま言った。どんな表情をすればいいのかわからなかった。「…そうだね、そうだよ。僕達は落ちぶれた。…僕達、ですらないのかもしれないね。僕以外の殿上人はもういないんだろう？」 「鶴丸国永、鶯丸の旦那は残ってるぜ。大太刀のでっけぇ兄弟とか長谷部とかは殿上人に数えるのかい？」 「…三日月達は」 歌仙兼定はぎゅっと膝の上で拳を握った。「…君は、何か聞いてないかい。あの女から。彼女は僕をどうしたいんだ？牢に入れておくべきじゃないのか。…三日月達を処罰したなら僕もそうされて然るべきじゃないのか」 「うーん」 薬研藤四郎は良い音を立てて瓦煎餅を齧り首を捻った。「すまんな旦那。旦那が何言ってるのか、俺っちにゃ徹頭徹尾さっぱりわからん。日ノ本言葉で頼む」 「そのままの意味だよ！…三日月達は処刑されたんだろう…？僕は？自室に戻っていい立場じゃないんじゃないのか？」 「あぁ、なるほど」 医学の心得のある短刀は合点が言ったと頷いた。「旦那、頭ぶつけて調子悪くしてるか早とちりが凄ぇかどっちかだな」 「三日月さんらは別に討たれちゃいねぇ。政府のお役人が来て担架に乗せてどっか行ったぜ。後のことは俺っちにはわからんが、少なくとも大将は奴さんらを始末しろとは一言も」 「…そうかい」 思い違いだったようだ。 「というか君、いつから三日月のことを『三日月さん』なんて言うようになったんだ…『様』だったろ」 「おう旦那、これは早めに覚えといてくれ。昨晩、大将直々の命が下ってな。この城では、今後、天上天下の区別を根拠に様付けだのなんだのへりくだるのは一切禁止になったぞ」 「つまらないところで細かいね…。女だからなのかあの女だからなのか、無意味なところにこだわるものだ」 なるほど、あんたにはこれが無意味に思えるか。薬研藤四郎は無言のまま歌仙兼定の溜息を見つめた。 　わからんだろうな。様付けで呼ばれていた側の身分には、様付けを取りやめた俺っち達の何が変わったか。まぁ、そのうちわかるだろう。 「別に旦那をどこかに軟禁しとけとも言われてない。旦那は難しい立場だろうけど、まぁ落ち着いたら仕事でも探すといいんじゃねぇか。幸い旦那はもともと料理ができるし」 「…厨房も、居心地が悪いよ」 歌仙兼定は目を閉じた。「ぱすた」を茹でる伊達の阿修羅を思い出すと嫌になる。阿修羅の住みついた厨に彼の居場所なんてない。 「ま、生き方変えるのは一朝一夕には難しいよな。好きなだけダラダラしてから、楽しくやってくにはどうするか考えりゃいいと思うぜ。せっかく生きてるんだしよ。まぁ旦那も大人だ、俺っちが口出すことじゃないけどな」 「…好意的な助言として受け取っておくよ」 歌仙兼定は虚しい苦笑を浮かべた。そして話題を逸らそうと「…二の丸が随分騒がしいけど、あれは何の騒ぎなんだい。みんな何してる」と尋ねた。 「大方の連中は書物の片付けだ。和泉守の旦那の指揮で西の丸から書物を移したところなんだが、危うく床をぶち抜くところだったんでな。積んだ書物を安全なように整理してるところだ。体制が変わりゃぁ俺ら刀剣男士だって書物くらい持ってていいみたいだぜ。これがホントの本の虫の変、ってな」 「…反応しにくい冗談はよしてくれよ」 「まぁ肩の力抜けや、旦那」 けらけら笑いながら薬研藤四郎は瓦煎餅をまた一枚取った。「天守の屋根はとっくに落ちたぜ」瓦はぱきりと割られて真っ二つになった。「頭の上には青天井…あんたも何も背負っちゃいない。身一つ丸腰、だが身軽。さながら足軽、どこでも行ける」 歌仙兼定は妙な動悸を覚えた。瓦煎餅を選んだのは薬研藤四郎が茶の嗜みなど身に着けていないと思ったからであった。…薬研藤四郎が、そこに天守の屋根を読み取り重ねたかのような遊び心の物言いをしたことに、内心驚かずにはいられなかった。偶然かな。 「みんな好き勝手やってるぜ。殿上さんらを恨んでる暇もねぇ。大方は本の片付けしながら気に入りを搔き集めて自分の部屋の前の棚に移してる。和泉守の旦那は寺子屋開くっつっていらねぇ紙集めてるし、一兄は蜻蛉巴の旦那方と一緒に大将の服縫ってるし」 「服？彼女の服を新調するのかい？やっとあの女もまともな格好をする気になったのか。それなら城下にいい店が」 「いや、新調じゃねぇな。俺っちにはよくわからんが、いつもの薄藍の服が破けちまったから、ぷりけつとかいう技で修復するんだとよ。楽しみだな、ぷりけつ」 乱藤四郎がいない場でどんどん広がる誤用の用語。ちなみに薬研藤四郎の白衣にも一期一振が夜なべして縫ってくれたアップリケ（鯛）があるのだが、自分が何を着ているのかとんと無頓着な薬研藤四郎の意識の中に鯛はない。他意もない。兄心弟知らず、ぷりけつ知らず。合掌。 「ぷりけつ…？」 「色布を使って、ヒヨコだの花だの作って破れたところを隠すんだとよ。もともとより丈夫になる」 「…早い話、つぎはぎじゃないのかい。みすぼらしい。新しいのを買えばいいじゃないか」 「新しいのを買える身分ならそうすりゃいい」 薬研藤四郎の言葉に歌仙兼定ははっとした。まただ、またやってしまった。だが、器の大きすぎるこの短刀は謝る機会もくれない。カラッとした表情で、「新しいのを簡単に買えなくても、それでも楽しみようはあるって話だ」と言った。 「大将の服をどんなぷりけつにするかで揉めてたぜ」 「…一期一振達がかい？」 「あぁ」 通りすがりに聞いた会話を思い出し、薬研藤四郎はおかしくてならん、とばかりに笑い零した。蜻蛉切が大真面目に「長命を願い、菊花にいたしましょう」と主張したところ、一期一振が「菊とて枯れます。私の刀紋でどうでしょう」と極めて図々しく提案した。そこからはもう、近くにいた刀剣男士も続々乱入しての騒ぎになった。自分の刀紋の方が簡単だの、自分の方が守護の逸話があるだの。再現の難易度で言えば同田貫正国の紋が一番簡単だったろうが、せっかくなので薬研藤四郎も自分の刀紋を推してきた。結論は出ていない。 「…暇だね…」 歌仙兼定は苦々しく言った。「たかだか破れた服につぎはぎをあてるだけのことに何を熱くなってるんだい…」僕もその場にいられたのなら。 「楽しいんだよ。主って呼べる人間のためにあれこれできるのがさ。…悩んでも楽しい、結論が出なくても、騒いでられるだけで楽しい。みんな同じ主を頂いてる仲間なんだなっていう…、そういうのがなんだか楽しいんだな」 「そうかい…理解できないな…」僕も、その場にいられたならきっと楽しかっただろう。 「さてさて、大将の服はどうなるんだろな。俺っちももう一押し薬研藤四郎刀紋を推してくるかな」 「…彼女自身の紋はないのかい」 歌仙兼定は押し留めるように言った。 「大将自身の？」 「…家臣の紋を主に着せるなんて道理にかなっていない。逆なら身に余る褒美にもなるだろうけど、家臣の身分から自分の紋のついた服を主に献上するなんて無礼だ」 「そうか？…まぁ、言われりゃそうかもな。要らん喧嘩のもとにもなるし…しっかし、大将の紋なんぞ見たことねぇな」 「…紋を持つほどの家柄の出には見えないしね」 「家紋じゃなくても大将らしい紋になりゃいいんだろ。大将が描く綺麗な光の紋を刺繍で作ってもらうかな」 一期一振は謹んで過労死するだろう。お覚悟。本望。合掌。 　歌仙兼定は思案し、「…薊」と呟くように言った。「薊でも縫い付けてやればいい」 「薊？あぁそういえば旦那の目には大将が薊に見えるんだっけか」 「あぁ。刺々しいのも、夏の盛りに嫌味なほど鮮やかに咲くのもよく似ているよ。…薊の花でも作って縫い付けておけばいいんじゃないか。誰の紋とも被らなくて変な諍いにならずに済むだろう。あの女の着ている例の救いようもないほど地味な服、僕は本当にあの服を平気で着ているあの女の神経が信じられないんだが、まぁ見ようによっては空の色だ。空はもっと鮮やかだから染め直してほしいくらいだけどね。どこが破れたか知らないけど薊は良いと思うよ、夏空の下で燃えるように赤く咲いている様を見てみるといい。雑草のくせになんともすがすがしく逞しい妙な美しさだから。どうせあの女のことだ、またどこか破くだろうしそのときには夏草でも増やしてやるといいよ。…本当に薊のようだよねぇあの女は！四方八方とげを突き出してまるで愛嬌ってものが」 「我が指を刺して貫け薊花添ひとげさせよあかく咲かばや」 「えっ」 片恋相手の女のことを語り出してまた騒がしくなり始めていた歌仙兼定は不意を突かれて目を丸くした。歌を詠んだか？目の前のこの、雅趣をまるで解さぬ風情の短刀が？ 　翡翠の両目を瞬かせる歌仙兼定の前で、薬研藤四郎は頬を染めて頭を掻いた。「慣れねぇことしちまった」 「…君、歌なんて詠めたのかい？」 「詠めやしねぇよ」 「…その歌は？」 「今の気持ちだ」 「思い切り詠んでるじゃないか！」 あなたが薊の花ならば、この指をどうか刺してくれ、その棘で。刺せよそして添い遂げさせてくれ。指から流す血で赤く、私も薊のように咲きたい。 　高鳴る鼓動に突き動かされるように歌仙兼定は身を乗り出して「君！薬研藤四郎…君が歌詠みだったなんて僕は全く知らなかったぞ！？」と早口に口走った。頬を紅潮させ、瞳を輝かせて、「雅がわからないなんて謙遜だったんだね！風雅を好むのならばそう言ってくれたら良かったのに！古今和歌集に興味はあるかい？貸そうか？今度歌会でもしないか！？」とまくしたてる。 「どうして！？戦場育ちだってずっと言ってたじゃないか！君、どこで歌を？織田育ちだろう？！…お小夜に習ったのかい？！」 「あのな…細川の殿さんに比べりゃ文より武の印象濃いんだろうけどよ、信長さんも歌は詠んだし敦盛も舞ったぜ。…道半ばで死んじまったけど立派な、人を従える格だったんだよ。そんな人間が本当に物知らずなわけないだろ…雅に傾倒しないのと教養がないのとは違うぜ、旦那」 言葉もなく、歌仙兼定は熱いままの頬で感嘆の息を漏らした。 　無粋な下界者…だと思っていたのだ。薬研通しの逸話で身を作る、魔王の得物の血の気の刀。情を語る作法も美を愛でる心も知るまいと…。その口から、かくも巧みな詞で激情を歌う、烈しくも美しい三十一文字が紡がれるか。 　そしてふと思い出したのは、彼の中で天下三大無風流の一つである女のことだ。情らしい情に流される可愛げなど一度も見せたことがない。それなのにあの女は、そういえば、僕の歌の意味を正しく読み取っていたっけ…。 　歌仙兼定は己の手を恥じた。もしかしたら薬研藤四郎だって、茶の作法に心得があったかもしれない。彼の主、信長は茶会や茶器を臣心掌握の手段に用いていた。趣味と言うよりはむしろ政略の手段であったとはいえ、彼の主は茶の教養を人並み以上に持っていたわけだし、精通していたといっても過言ではないだろう。 　一献の茶が、互いの腹を探り合う静かな戦ならば。そのつもりもなく試されたのはきっと僕の方だ。わかるまいと侮った己の方こそ、浅はかで滑稽な姿を晒しているのかもしれない…。 「…しかし、薊はいいな。大将に似合う」 薬研藤四郎が頬をほんのり染めて言う。先の歌に、その表情に、歌仙兼定はありありと恋慕の情を読み取った。彼はきっと、僕よりは障りなくその想いを口にできるのだろうな。歯痒いようなもどかしいような妬ましさがこみ上げて、歌仙兼定はむぅっと唇を真一文字に結んだ。それでも語らいたかった。同じ恋慕を抱いているのならなおのこと。 「…君は彼女のどの辺りに薊を見ているんだい？」 歌仙兼定は薬研藤四郎に尋ねた。「僕は、あの愛嬌のない刺々しさがよく似ていると思うけど」 「容易くは折られねぇところだな」 薬研藤四郎は答えた。「愛でられるために植えられる花じゃねぇ。生きるために夏日の下に自ら根を張り生う草だ。そんな生き様がまるで火みたいな色に映えて咲く。大将らしくていい」 「…惚れ込んでるね」 「おう、ぞっこんよ」 こともなげに肯定してみせる。「命くらいなら放り出してやれる程度にゃ惚れてるぜ」 　歌仙兼定はもやもやと胸中にわだかまる不愉快に眉を顰めた。僕にできないことを平気でやってのける。彼女が好きだと平然と言う…。 　この短刀はいつの日か彼女にその想いの丈を告げるのだろうか。美しい紙片に墨を走らせ花でも添えて？それともそんな奥ゆかしい真似はせず、正面切ってヤァヤァ我こそは、か？…彼女は、なんと答えるのだろうか。 「…彼女は巴形薙刀のことしか眼中にないさ」 言葉にしてみれば大層意地悪な物言いだと自覚しつつも、歌仙兼定は唇を尖らせて言った。「言うだけ虚しいし想うだけ無駄だよ」 「叶わねぇ恋は全て虚ろかい、旦那」 薬研藤四郎は口元に悪戯っぽく笑みを浮かべて歌仙兼定に問いかける。「それなら旦那、散る花は全て儚き徒桜愛づべきに非ず灰と燃やせよ、ってか？」 「…荒っぽいな」感嘆しつつ言う。 「似たようなもんだぜ、旦那。惚れた女も咲いた桜も俺っちのものにならなくたって見惚れて焦がれた春は嘘にならねぇ。…だが人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり。俺っち達の恋はよ、人間が相手ならばそれこそ短い春の花を喜ぶようなもんだ。悠長なことやってると讃える前に花が散るぜ。俺っちは大将が好きだ。前世からな。実のところ大将とどうなりてぇのかもさっぱりわからんが、今ある縁が切れなきゃそれだけでもありがたいくらいだ」 「熱烈だね…」 歌仙兼定は苦笑した。「…それにしても、君はいい歌詠めそうだね。短冊か懐紙か、良いのあげようか。筆は持ってるかい？」歌人仲間を見つけた気がして少し心が浮き立っている。もしかしたら自分よりも優れた歌詠みなのではと嫉みながらも薬研藤四郎の歌への興味が尽きない。 「もらえるものはなんでも貰っとくが、俺っちそれで薬包んだり鼻かんだりするかもしれんぜ」ただし、あくまでも薬研藤四郎である。「抜け駆けして大将への恋文認めちまうかもしれんしな」そしてどこまでも薬研藤四郎である。 不意に急所を突かれて歌仙兼定はわかりやすく動転して真っ赤になった。 「ぼ…、僕がどうして気にするんだい！まま、まるで僕も彼女に、恋歌を送りたがってるみたいに！…誤解だよ！酷い誤解だよ！」 「誤解かい？」 「そ…そうだよ！誰があんな、男だか女だかもよくわからない無骨者なんか…！」 「そりゃ俺っちにとっちゃ吉報だ。戦と恋敵は少ねぇに越したこたねぇからな」 からからと笑い、薬研藤四郎は酒でも呷るかのように茶をぐいと飲み干した。やはり正式な作法でなくて正解だったかもしれない。「旦那、熱い緑茶に梅干ぶち込むと疲れに効くぜ」「びっくりするほど雅じゃないね」「昆布も入れりゃぁ最高よ」「茶と薬は区別してほしいかな…」「だがまぁ恋の病にゃ効かないぜ」「要らないよ！」 歌仙兼定は茶釜のようにかっかと頬を熱くしながら、文箱を開けた。未使用の紙だけで一箱二箱ぎっしりある。…昔、城下に連れて行ってもらっていた頃、懐紙を見繕うのが好きだった。どんな歌を連ねようかと心躍らせながら、美しい色、繊細な手触り、漉きこまれた草花や雲英を愛でた。送るべき相手がいなくなった後、それらの華やかな紙を使う機会もなくしてしまっていた。それなのに折に触れて歌は心からぽろぽろと零れ落ちる。 「…また話したいよ、君とは」 歌仙兼定はぽつりと本音を呟いた。「ねぇ、また彼女の話をしに来くれないか。あるいは歌を詠んだら是非鑑賞させてほしい。君の歌は烈しいけれども好ましい」 「旦那から来てもいいんだぜ。歩み寄らなきゃ近づけねぇ」 「別に彼女に近付きたくなんか…」 「俺っち、別に大将とは一言も言ってねぇ」 ぽんと湯気を出しそうに赤くなった歌仙兼定を見てまた朗らかに笑いながら、薬研藤四郎は立ち上がった。 吾が恋はえ絶たでえにしのいとほしく玉の緒だにも捧げなましを 「懐紙の礼だ」 置き去りに一首詠み、薬研藤四郎は障子に手を掛けた。「器用に生きろや、旦那。刃生一度きりだ」鋼の眼差しと微かで強かな笑みを残して薬研藤四郎は去った。情けはかけるが遠慮もしないぜ、と言わんばかりに。 　歌仙兼定はまだ高鳴る胸をそっと押さえた。色々ありすぎて、この心臓にはなんとも忙しい四半時を過ごした。不安に慄いたり…薬研藤四郎の歌に驚いたり、彼女のことを思ってときめいたり。僕の心臓はまだ動く。生きている。 　歌仙兼定は墨の染みつく畳に視線を振り向けた。彼は雑巾を片付けることにした。今日これだけ苦心して拭いたのに落としきれなかったのだ、これ以上は無駄だ。落とし方を思いつくまではもう、多少大雑把でいよう。 　そして文箱を整理しようとして、あ、と気付いた。思いついたよしなしごとを書きつけるのに使っていた一筆箋、間違えて薬研藤四郎に渡してしまったらしい。今日詠んだ歌も書いてあったのだけど…。人に読ませるつもりもなく書き留めた、日記のような内心の吐露を手渡してしまったことに少々気恥ずかしさを覚えた。…まぁ、あの短刀がそれで僕をからかいはしないだろうけど…。 　開けた文箱には色とりどりの紙がしまわれている。改めて見るのも久しぶりだ。歌仙兼定はそっと手を伸ばし、一枚一枚を弄ぶように取っては眺めた。夏に似つかわしい紙ばかりを集めてきた。この本丸には夏しかなかったから。入道雲立つ青空のような便箋。穂波を渡る風のような若緑。水を含ませた顔料で朝顔を描いた清々しい短冊。…いや、あったはずだ。確か持っていた…。 　歌仙兼定は紙束を探り、もう一つの箱を開け、また探った。そして目当てのものを見つけた。それは一輪の薊の切り絵を漉き込んだ真っ白い紙。紅紫の花、濃緑の茎葉が映える。そして薊に降り注ぐ太陽の光を模すかのごとく金雲母を散らしてある。 　歌仙兼定は桃色の頬でひそかに微笑み、その紙を胸にぎゅっと押し当てた。 　…いつか、この短冊にふさわしい歌が詠めるといいなぁ。 　そして…願わくば、彼女があの手にこの短冊を受け取る日が来ると…。 　恋い侘び忍ぶ者の切ない微笑で、そっと瞼を伏せて微笑んだ。彼の腹立たしい思い人は今、何をしているのだろう。面と向かってはまともに話すこともできないのに、どうしてこうもあの女に歌を送ることを想うだけで心は華やぐのだろう。まるで夏空。 　薬研藤四郎が出ていった障子の隙間から見上げる空は、果てしない青に眩かった。彼にも平等に光は差しているらしい。 　 　…僕も、生き方を探してみようか。

引継ぎ審神者、着任先では再始動。崩れた石垣に己の立つ場所を探せよ。彼も我も皆生きねばならぬ。<br /><br />・乱藤四郎は主大好き過激派<br />・命燃やす者の業<br />・軍師御手杵<br />・図書館と戦争<br />・黒田節<br />・エナガと渡り合える長谷部<br />・飛べないバカはただのバカさ<br />・彼女の兄<br />・名前を言っても誰も覚えていないあの人<br />・敦盛<br /><br />　お久しぶりです。だいぶ間が空きました。<br />　この度は…というよりこの頃災害が立て続いてもうどの災害からお見舞いの気持ちを述べたものかわかりません。テレビのカメラが向く先が変わっても、今もなお暮らしを回復できずにご苦労されている方も多かろうと思うと切ないです。<br />　もしも被災地で読んでおられる方がいらっしゃいましたら、一刻も早く穏やかな日々が戻ることを祈っております。スマホの充電は大丈夫ですか。<br />　私と同じく安全圏の日常の中で読んでおられる方におかれましては、そのー、どうでしょう、もう少しして一段落したら、募金とか、少し奮発した贅沢で経済を回すとか、一緒に被災地に寄り添ってくださいませんか。<br />　天災は我々に寄り添ってはくれませんが、せめて人だけは人の味方であれたらなぁ、と思います。<br />　<br /><br />■いつもコメントありがとうございます。拝読して大変嬉しくなっております！<br />　またこの後コメント返ししていこうと思います。またコメントください！<br /><br />■歌が増えたので今度歌集に足しときます。<br /><br />■居場所スパナ　wikiができました！<br />　まだまだ建設中ですが、「あのエピソード何話だっけ？」とかいうときにご利用ください。<br />　<a href="/jump.php?http%3A%2F%2Fibasupa.memo.wiki%2F" target="_blank">http://ibasupa.memo.wiki/</a>

居場所がないならスパナで無理矢理作ればいいじゃない　18

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※attention ●夢小説です。苦手な方は避けてください。 ●コナン×CCさくらゆるっとクロスオーバー ●オリ主は松田妹。名前出ます。 ●警察学校組救済。原作と違い生存します。 ●CCさくらキャラはほとんど出ない。 ●年齢や警察学校の仕組みなど捏造あり。 ●スコッチの名前は『緑川景光(みどりかわひろみつ)』→『諸伏景光』に順次修正 救済後の偽名は『緋色唯(ひいろ ゆい)』 ●見切り発車 以上大丈夫な方のみお読みください。 誹謗中傷は受け付けません。 [newpage] 『クロウカード』 その封印が解かれる時、この世に災いが訪れるーー ーーーーーーーーーー 「配役は公正にあみだくじでいいな？ 結果に不都合があれば要相談にしよう」 担任の声に「はーい」と何人かの生徒が答える。 「ね、[[rb:栞奈 > かんな]]は何役がいい？」 『村人C』 目立ちたくないからね、と隣の席の友人に返す。黒板には拡大コピーされた大きなあみだくじが貼られていた。 学校生活というものには、年間を通していくつかの恒例行事が存在する。 体育祭しかり、修学旅行しかり。 生徒達は様々なイベントを通して友情を深め、時には甘酸っぱい恋に落ちてしまったりするのだ。 もちろんこの帝丹高校も例外ではない。 栞奈のクラスでは、一大イベントである学園祭の準備が行われていた。 ーーーーーーーーーー 私、[[rb:松田栞奈 > まつだかんな]]！ 帝丹高校に通う高校1年生！ 好きな科目は音楽、嫌いな科目は道徳。 前世はオタク、30代半ばで事故に合い転生した、元気控えめの女の子！ 警察官のお兄ちゃん達に助けられながら、バラバラになってしまったクロウカードを集めています！ n度目の学園祭ですが、私のクラスは演劇をやる事になりました！ 配役はあみだくじで決める事になったので村人C狙いで頑張ります！ 今回も、栞奈と一緒に、[[rb:封印解除 > レリーズ]]！ [newpage] ーーーーーーーー 爆弾魔による騒ぎから1週間。 あの日の翌日は松田にとって散々な1日だった。 朝一に強行犯係へ乗り込んで来た伊達から馬鹿野郎！と背中にキツイ一発を喰らう事から始まり。 昼にコンビニへ行けば、いつの間にか横にいた諸伏に大量の食料が入ったカゴを押し付けられ、「あんまヒヤヒヤさせんなよ」とその日あいつの部署に出勤しているらしい10数人分の昼飯を奢らされた。 極めつけに、帰宅中おもむろに目の前に立ち塞がった降谷、もとい安室透により強烈な一撃をかまされたのである。 「こんばんは、松田さん」 「どーも」 「お元気そうで何よりです。ーー腹に力を入れろ」 「ーーぐっ！！」 人の良さそうな笑みから一転、繰り出されたのはそれはそれは綺麗な腹パンだった。 こいつゴリラにも程がある。 「……無事でよかった」 ホッとした声でそう告げ、すぐに人混みへと紛れていった同期を腹をさすりながら見送る。どうやらかなり心配させたようなので、今回ばかりは甘んじて痛みを受けいれてやろうと恨み言を飲み込んだ。 ーー正直とてつもなく痛かったので二度と喰らいたくない。 翌日萩原に愚痴れば心底同情した顔でタバコを1本差し出された。いやアイツ等に拡散したのお前だろ。 そんなこんなで追われていた後処理もようやく終わり、今日は久々の休日だった。 (ーー諸伏が来るっつってたか？) 買出しに外に出ればどこのお店も混んでいて、今日は土曜日で世間一般的にも休日だった事を思い出す。 午前中だけ授業があるのだとせわしなく支度をする妹に夕飯は何がいいかと聞けば、景光さんが来るから卵多めに買っておいてほしい！と返って来たので答えになってねぇとデコピンをかましたのは今朝の事である。 自分用の買出しも終わり最後によったスーパーにてそのやりとりを思い出した松田は、眉間にシワを寄せながら卵を2パックかごにいれる。 どうせそのまま夕飯も食べていくつもりなのだろう。何だかんだ世話焼きな彼は3人分の食材を買い込み家へと帰った。 ーーガチャッ ドアを開ければ妹のローファーと自分のではない男物の靴が目に入る。 居候させていた頃を少し懐かしく感じていたその時、松田の耳が衝撃の言葉を拾いあげた。 「ーー君を愛してしまったんだ……！」 グシャッ 聞き間違えるはずのない同期の声に一瞬呼吸の方法を忘れる。 スーパーの袋が手から滑り落ちていった。 諸伏は誰に向けてその言葉を言ったのか。 家には彼と栞奈しかいない。 答えは1つしか存在しなかった。 『お兄ちゃん？おかえり……ってあああ！！卵！！卵割れてる！！！』 「‥‥‥めだ、」 リビングから飛び出して来た栞奈の腕を掴み自分の胸へ引き寄せる。 『お兄ちゃん？どうし、』 「ーー絶対駄目だからな！！！！」 『何が？！』 「おー。松田おかえ、あああ卵！！！俺のプリンが‥‥‥！！！」 ぎゅうぎゅうと妹を腕の中に閉じ込める松田、何が起こっているのか全くわかっていない栞奈、これから作る予定だったプリン用の卵の無残な姿に嘆く景光。 傍から見れば完全にカオスである。 栞奈が学園祭でやる劇のヒロイン役になった事、その台本の読み合わせを景光としていた事、帰ってきたタイミングが丁度山場のシーンだった事を理解した松田が景光への威嚇を解くまでには、そこから小1時間を要した。 [newpage] ーーーーーーーー 学園祭当日。 帝丹高校は溢れんばかりの人で賑わっていた。 「ちょっと栞奈！！見てあの2人！超格好良くない？」 『‥‥‥ソウダネ』 幕が下りた舞台の中で最終チェックをしていれば音響担当の友人に声をかけられる。 舞台の端に引っ張られ幕の間から見せられた人物は、間違いなく自分の兄とその相棒だった。来てくれるのはわかってたけど何で最前列のど真ん中にいるの？恥ずかしすぎるんだけど？！ 相変わらず多忙で来られなかった父に見せてあげる為だろう、兄の足元にビデオカメラがあるのをとらえた栞奈は、友人にすぐ戻ると伝え舞台袖から駆け出した。 『お兄ちゃん！研二さん！』 「おう」 「栞奈ちゃん！頑張ってね！」 『はい、ありがとうございます！ ……じゃなくて、最前列でビデオはやめてほしいな？！』 「あ？近い方がよく撮れるだろうが」 『恥ずかしすぎて無理だから！ほら真ん中の方とかまだ全然空いてるし、ね？』 お願い、と兄の腕を引っ張り真ん中の席へ誘導すれば渋々移動してくれたので安堵する。 「まだ衣装じゃないんだ？」 『ほつれている部分が見つかっちゃって、今手直し中なんです。そろそろ終わると思うんですけどーー』 「松田！」 突如、兄達と談笑していた栞奈の腕を男子生徒引っ張った。 『どうしたの？』 「ちょっと来てくれ。開演前に確認しときたいトコあるんや」 『わかった。ーーそれじゃあ、楽しんでいって下さいね』 2人への挨拶もそぞろに腕を引かれながら舞台袖へと戻る。 残された兄達が殺気にも似たオーラを出していた事には全く気付いていなかった。 「ーーどうする？“お兄ちゃん”」 「まずはあの野郎がどこの誰かを突き止める。萩原は劇が終わり次第栞奈を確保。奴が近づく隙を与えるなよ」 「りょーかい」 「【[[rb:真田貴大 > さなだたかひろ]]】ーー1-Bに在籍している栞奈ちゃんのクラスメイト。サッカー部所属で、今回の劇の主役らしい」 大人げない会話をする2人にもう1つの声が増える。 「おま、もっ、緋色？！何やってんだ？」 「何ってそりゃ、あの子の劇を見に？ あと来れなかったアイツからの依頼で録画をな」 諸伏景光ーー今は【緋色唯】と名乗り警察庁にて影から日本を支える彼は、さり気なく二人の隣に座りながら最新の超高解像度ビデオカメラを設置し始めた。なおこの公安御用達のカメラを彼に渡したのは仕事で来れなかった幼馴染である。「いいか。1秒たりとも見逃さないように撮ってこい」心底悔しそうだった。お勤めご苦労様です。 「お前こんな人混みの中に出てきていいの？」 多少変装はしているものの、彼は死んだ事になっていなかったか。心配する萩原をよそに諸伏は着々と三脚を組立てていく。 「松田、ビデオ撮るなら全体で撮ってもらってもいいか？俺の奴で栞奈ちゃんだけ抜いて撮るから、あとでそっちのデータと交換しようぜ」 「ノッた。あとその真田ってガキの情報詳しく」 「人の話聞いてもらえる？！」 ーーーーーーーーーーーーー 余程急を要しているのだろうか。 真田はしっかりと栞奈の腕を掴みながら足早に歩いていく。 『真田くん、ごめん、ちょっと痛いかな』 「……へっ？！あ、あぁすまん！！」 慌てて離された部分は少しだけ赤くなっていた。 「あかん、赤くなっとる……！」 『すぐ引くから大丈夫だよ。それより、確認したい事って？』 「え？！あぁえっと、何やったっけな……」 少し赤みがかった茶色の髪に大きな目。それに加えてサッカー部の期待の新人である。今でさえ人気なのだから、学年が上がったらもっと大変だろうなと目の前で狼狽える彼を見て思った。 『ふふ、忘れちゃったの？』 「ちゃうちゃう！今思い出したる……そっ、そうや、さっき一緒におった男は、その、」 『お兄ちゃんの事？』 「……はぁ？！松田の兄貴？！」 『そうだよ。お兄ちゃんとその友達』 「兄貴かいな……！なんや焦って損したわ……」 『……？』 「栞奈ー！！衣装の直し終わったよ！着てもらってもいい？」 『はーい！……えっと、』 「行ってき！俺の方は気にせんでええから！」 『うん、ありがとう。本番頑張ろうね！』 衣装係の友人のもとへいけば、真田とのやり取りを見ていたのか栞奈にもついに春が来たか？なんてからかわれたのでやんわりと否定して衣装へと袖を通した。 [newpage] 『あぁ…全知全能の神ゼウスよ！ どうしてあなたは私にこんな仕打ちをなさるのです？』 窓際でドレス姿の栞奈ーーハート姫は嘆く。 『それとも、望みもしないこの呪われた婚姻に身を委ねよと申されるのですか……！』 【シャッフルロマンス】 1-B組に所属する演劇部の新人脚本家により手がけられた演目は、ロミジュリを凌ぐ超ラブロマンスと銘打って宣伝された。 栞奈演じるブリッジ公国の姫であるハート姫は、幼き日に出会った少年と恋に落ちる。 姫はその恋心を抱えながら大人になるも、両親からくだされたのは望まぬ政略結婚だった。 王族特有の因縁に巻き込まれていく彼女を狙う輩は多く、姫は幾度となくピンチに陥る。 その度に助けてくれるのが、真田演じる黒衣の騎士ーー幼き日、同じように姫に恋をしたトランプ王国の王子だった。 『一度ならず二度までも、私をお助けになる貴方は一体誰なのです……？ あぁ、黒衣を纏った名も無き騎士殿。 私の願いを叶えていただけるのならどうか、その漆黒の仮面をお取りになって、素顔を私に……っ』 助けるなりその場を去ろうとする騎士に姫がすがったその時ーー 『ーーえ？』 会場が、漆黒の闇に包まれた。 目の前にいたはずの真田、舞台にあった装飾、観客席にいる兄達。その全てが闇に包まれ、栞奈一人が佇んでいる。 『[[rb:封印解除 > レリーズ]]！』 久しぶりの、クロウカードの気配だった。 [newpage] 「演劇中にカードを封印した？！」 劇終了後、ドレス姿のまま駆け寄ってきた栞奈にそう伝えられた兄達は目を見開いた。 曰く、公演中あたりが一面の闇に包まれ何も見えなくなり、クロウカードを使ってみてもその闇は晴れず出口もわからない。 唯一見えるのは自分の姿だけ……そんな状況から自分自身が光っているのだと導き出した事により、“[[rb:光 > ライト]]”と“[[rb:闇 > ダーク]]”のカードの名前を言い当て封印に至ったのだとか。 『ビデオ撮るって言ってたから、何か映っちゃってないかと思って……！』 「大丈夫。ずっと見てたけど、それらしいのは映ってないと思うよ」 何なら確認してみる？と提案する緋色に頷く。 イケメン3人に囲まれるハート姫という構図に、体育館に残っていた人々は遠巻きに誰が本命なのかと憶測をたてているのだが、本人はつゆ程も気付いていなかった。 “一度ならず二度までも、私をお助けになる貴方は一体誰なのです……？” 『ここです！このすぐあと、』 早送りを止め等速に切り替えてもらう。 黒衣の騎士に姫がすがった。 “それが姫のお望みとあらば、醜く傷を負いしこの顔、月夜のもとへと晒しましょう” 黒衣の騎士が兜をとり真田が顔を出す。劇は違和感なく続いていった。 「な？映ってないだろ？」 『はい。……良かった。もし映ってたらどうしようかと、』 “貴方はもしや、スペイド……？幼き日のあの約束をまだお忘れでなければ、どうか私の唇に、その証を……” “バキャッ！” バキャッ！！ 『？！』 再生が続いていたビデオと自分のすぐ横から、何かが潰れたような音が聞こえる。 顔をむければ心底機嫌の悪そうな兄とその手に握りつぶされた空き缶が目に入った。 「あんなシーンがあるなんて聞いてねぇ」 例えフリでもキスシーンは許せなかったらしい。 缶コーヒーは2度死んだ。 [newpage] 結果として、1-Bによるシャッフルロマンスの演劇は大成功に終わった。 カードにより真っ暗になった時はどうしたものかと思ったものの、魔力のない人達には何があったのかさっぱりわからなかったらしい。 カードを封印し闇が晴れた後、目の前に現れた真田は何事も無かったかのように次の台詞を言い放った。 とっさの機転により劇を再開させたのが功を奏し、最後は惜しみない拍手が送られたのである。 (ビデオにも魔法を使う所やカードは映っていなかったし、一安心かな) されるがままに兄達と写真を撮っていれば、萩原の腕が肩に回された。 「栞奈ちゃん、これから予定は？」 『特に決めていないので、適当に周ろうかなと』 「ふーん。それじゃ、」 そっと真白い手袋に包まれた栞奈の手を取り、萩原はその場にかがんだ。 「君の時間をくれませんか？お姫様」 ウインクと同時に指先へ落とされた唇に、遠巻きに見ていた女子生徒たちが色めきだつ。 『〜〜っ、き、着替えて来ます……！！』 集まる視線と熱に、思わずその場を逃げ出した。 ーーゴンッ！バシッ！ 「痛っって！！」 「手袋越しでも許さねぇぞ」 「萩原、アウト〜」 　 松田と景光に制裁された部分をさすりながら、少し離れた場所からこちらを見る黒衣の青年に視線を投げた。 ーーお前にあの子はあげないよ。 [newpage] ●米花町のカードキャプター 村人C狙いだったのにヒロイン役を引く。 景光とは一緒にプリンを作る予定だった。兄が卵を買ってくる間に読み合わせしたら大惨事に。このあと卵買い直してきてもらった。 学園祭は松田と萩原と3人で回ったので、イケメンを2人も侍らせている強者と認定される。 彼女が闇の中で“光”“闇”と交した会話は次回に持ち越し。 ●シスコン大魔王松田陣平 心配した同期に色々な意味でフルボッコ。 読み合わせしてたんだよと教えられてもしばらく妹を離さなかった。台本は妹が見せてくれなかった為、タイトルと役は知っていてもキスシーンがあるなんて知らなかった。缶コーヒー殺害事件の犯人。萩原の行動は真田を牽制する為にやったとわかっていた。分かってはいたけど制裁は欠かせない。それとこれとは話が別だ。 ●王子かな？研二さん え？！栞奈ちゃんお姫様役なの？！とすぐに有給取った人。フットワーク軽い。 普段は暴走するシスコン大魔王や忍べていない公安同期のツッコミ役だがやる時はやる男。真っ先に牽制する位にはモヤっとしてた。真っ赤になった栞奈にご満悦。おや‥‥‥？ ●忍べていない景光 定期的にプリン作りに松田家に来る。 松田が卵を買い直してきたおかげでプリンが作れた。良かったね。 台本を読み合わせた時にキスシーンがある事は知っていた。なお公演前に劇の宣伝チラシを見てこいつが相手かと真田の顔をインプットする。公安スキルの使いどころがおかしい。そして忍べていない。劇が終わった後は仕事がある為すぐ登庁した。お疲れ様です。 ●お勤めご苦労様です。降谷さん 姫役をやると知ってめちゃくちゃ見に行きたかった。でも忙しすぎて無理だった。悔しい。すべてを景光に託した。 この後庁舎内のAV室で劇の録画を見る。松田と同じようにキスシーンで缶を握りつぶした。缶コーヒー殺害事件第二の犯人。 ●伊達ニキ お仕事中。出番なくてごめん、待ってて‥！ ●牽制された黒衣の騎士 11人目のストライカーで女子のハートをさらったイケメンゲスト。 妹主が気になるけど大人の男に牽制されてムキーってなった。 ーーーー ※シャッフルロマンスについて 原作では『命がけの復活』編で園子が作った脚本ですが、今作では妹主のクラスメイトが脚本。 3年後、原作軸では“あの名作を再び”と銘打って2-B版シャッフルロマンスが上演される。これがとあるカードのフラグになる、かも、しれない ※なんで真田くん？ 私　が　好　き　だ　か　ら　！ あと妹ちゃんの相手役をモブにさせたらあまりにもモブが可哀想だと思った。 原作では18才なので、妹主と同学年で早生まれって事に。 元々大阪育ち→父の転勤で帝丹に→高校の途中か卒業後に大阪に行きビッグ大阪に所属という捏造設定 ※『光』と『闇』の補足 さくらちゃんの原作では眠れる森の美女の劇の際に登場したカード。 この二枚は鏡同様特殊カードなので、さくらちゃんがカードの正体を自分で当てないと封印できません。 暗闇のなかで自分だけが見えることから、自分自身が『光って』いることに気づき、封印に成功するので、今回のカードも栞奈ちゃんの気付きにより封印されました。 カードが封印された後は劇の真っ最中の空間に戻るので、終了後慌ててビデオを持つ兄と所に走っていった訳です。 次回はおそらく今回お仕事中だった降谷さんのターン。そして伊達ニキ救済編と続きます。 読んで頂きありがとう御座いました！

缶コーヒーは2度死んだ。<br />ゆるっとクロスオーバー第10話です。いつのまにこんなに…皆様のおかげです。ありがとうございます！今回はとあるキャラがゲスト出演です。<br />【追記】あなたの作品が2018年09月11日付の[小説] 女子に人気ランキング 32 位、09月12日付の[小説]デイリー35位にお邪魔してました！いつもありがとうございます！！コメント、スタンプ、メッセ、いいね、1つ1つが創作の糧で宝物です。

米/花町のカー/ドキャプ/ターと『光』と『闇』のカード【夢小説】

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私の名前は斉木。超能力者である。 今から17年前、生まれながらにして超能力が使えていた。 この設定何処かで聞いた事がある？それもそうだろう、前世は斉木楠雄という男であった。彼も超能力者で私よりも力は強く、3日で人類滅亡させる力を持っていた。私はそこまでの力は受け継いでいない。人類滅亡には1週間かかる。人類滅亡なんてするつもりないし、超能力のことは家族にも話していない。彼と私は別人格である。彼がどう生きていたことを記憶していても、それは私ではない。私は私の人生で、彼…楠雄君には関係がないんだ。 私は楠雄君よりも力が弱いせいか超能力をコントロール出来るようになった。くしゃみをすると力は暴走してしまうが、それがなかったら超能力はコントロールが出来てしまう。 テレパシー以外は。 テレパシーはダメだ、聞きたくないのに聞いてしまう。だからゲルマニウム製の指輪は常につけている。楠雄君は超能力を嫌がっていたのに超能力に頼りすぎていた。同じことにならないためゲルマニウム製の指輪を常にしている…はずなんだが。ゲルマニウム製の指輪が壊れてしまった。修復は出来るが指輪として形が戻りはしない。厄介である。 高級マンションに家族3人で住んでいてとてもいい所なのに。隣からの情事が聞こえてくる。やめてくれ！！！朝だよ！？！隣は若い美人奥さんでさっきから(気持ちいい、気持ちいい、もっとぉ)っと強請っている声が聞こえる。やめてくれ！！！！！！！！！！！知りたくないよお隣の性事情は！！！！！！！てか、お隣さん奥さんと旦那さんともう一人いるよね？？なんで？？？？ (妻が俺の親友にどろどろに犯されてる、混ざりたい、妻の口使ってシゴいても) あ、アウトーーーーーー！！！！！！！！お隣さんチェンジで！！！！！！！！！！！！ 旦那なにNTRプレイしてんの！？あんためっちゃ優しそうな方に見えたよ！？！もうやだ、人怖い。 超能力なんてない方がいいんだ。こうやって人のプライバシーを覗き見てしまうから、早急にゲルマニウム製の指輪を用意しなくてはいけない。けど学校がある。とりあえず今日一日乗り切って帰りに探そう。瞬間移動を使えばすぐだ。 朝の登校は無心で突き進む。が、障害物があった。 目の前に学年トップの首席様とその親友様が歩いている。二人だけだったらいいのだが、二人は顔がいい、つまり人目を引き女子が放って置かないのだ。 「降谷君！諸伏君！おはよう！！」 (朝からラッキー！二人と出会っちゃった！) 「降谷君おはよう！」 (降谷君の隣の女邪魔ねぇ、挨拶したならどっか行きなさいよ、降谷君迷惑してるのに) うるさい。 彼らの周りはいつもうるさい。テレパシー無くてもうるさいのに、さらにうるさくなる。鬱だ。いつもは朝会わないのに、今日に限ってなんで会ってしまうのだろうか。耳を塞いでも意味がないけど塞ぎたい気持ちを押し込み、早足で降谷達集団を抜ける。 私に気付かれませんように、と神に祈りながら通る。 (あ、) そんな声が聞こえた。見つかってしまった。あ、来てる来てる、ちょっと待って来ないで欲しい。 「おはよう斉木さん。通学で会うのは初めてだな、よかったら一緒に行こう」 (斉木さんこの時間通学なのか、ヒロにお願いしてこの時間に登校するように言うか…あ、寝坊したのか？寝癖付いて、可愛いなぁふはっぴょこぴょこしてる。あれ？化粧で隠してるけどよく見たら目にクマ出来てるし寝不足か？テスト勉強ってわけでもないだろうし、また本を読み耽っていた、って所だろうな。本に夢中で寝坊して寝癖付けているのか。可愛い。斉木さん普段真面目だし無口だけど、どこか抜けててめちゃくちゃ可愛いんだよなぁ。さっき女子といたこと斉木さん気にしてないか？少しでも気にしてくれたら嬉しいんだが…全然靡いてくれないし。あんな香水きつい女子とはあまり関わりたくないけど、無下には出来ないし、あ、斉木さんシャンプーの香りする。いい匂い) うるさい！！！！！！！！！！！この男いつもこんなこと思っていたのか！？！ドン引きだ…確かに降谷に好かれているとは思っていたが、ちょっと変態チックでは？？なんで私が昨夜本を読んで夜更かしをした事を知っているんだ。怖い怖い、あと寝癖直したい。口に出してくれ、寝癖がどこにあるかわかないだろ！！！！ 早足で歩いても付いてくるぞこいつ！！！！おい親友様！！！！この変態首席を私から剥がせ！！！！！ 私の横にくる降谷とその隣に親友様。この構図は駄目だ目立つ。学校のアイドルと呼べる二人と並んで歩くなんて目立つ行為したくないんだ、おい、親友様助けろください。 (ゼロのやつ相変わらず斉木の事好きだなぁ) 呑気か！！！！！！！！！今すぐ瞬間移動でこいつらの側離れたいのに…この二人鋭いから、いきなり消えたら追求される。私、知ってる。 どうする？学校着くまでこれ？？？え？？無理ですけど？？？？？？周りはキャーキャー言いながら私の存在を疑っている。チクチクと鋭い視線に負の感情が聞こえる。 嗚呼、嫌だ。聞きたくない。 (斉木さんさっきから顔色が悪い？寝不足…じゃないか、……視線か？女子の視線が僕より斉木さんに向けられている。彼女はこれを感じ取って顔色が悪くなって…僕のせいか、好きな子と気軽に話すのもままならないなんて。彼女はこっちに向いてくれないし、やっぱり嫌われている？) 本当ずるい男だよなぁ。口ではペラペラと喋っているのに心の中は不安げに私に問いかけている。なんでこんなに好かれるかわからない。私が特別、降谷に何かしたわけじゃないのに、降谷は私を好いてくれる。 はぁ…今日だけだ。明日は指輪をするからこんなトゲトゲしい目線や感情は今日だけの我慢。 早足で歩く足を通常のスピードに戻す。 (あれ？スピード緩めた？？それに顔色もちょっと直ってるし、…なんだ？) 「…降谷、見過ぎ。前向いたら？」 「！あ、嗚呼」 (喋ってくれた…！！！チラッて僕を見てくれた！！！ヒロ！！！！！！！) (おう！！聞いてたぜゼロ！よかったな！！！) (嗚呼！！なんかスピードも緩くなったし、もしかしたら気持ちが通じたのかも知れない) (長かったなぁ) 待て、なんで2人ナチュラルにテレパシーしてるんだ！？幼馴染で親友だから！？テレパシーの会話始めて聞いたよ！？てか、気持ちは通じてないから親友様しみじみ言わないでくれ、頼む。 気まぐれで今日だけだからァ！！！！ ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 超能力者 前世はピンク頭の超能力者 1週間で人類滅亡は出来るがする気もない 伊達眼鏡とゲルマニウム製の指輪は装備品 学校のアイドル首席様に好かれている理由がわからん 首席様 ピチピチの高校生 超能力者には“ほぼ”一目惚れ いつもしている指輪がないのには気付いた 嫌われてると思って距離置こうとしても向こうが寄り添ってくれるから、こいつ！もう！！ずるい！！！！ってなってる 親友様 首席様の恋の応援 頑張れよゼロ〜応援してっから 超能力者とは委員会が一緒、首席様がいないところで割と話してる 顔立ちがいい超能力者が微笑んでうっかりときめいた。ゼロには内緒な？ っていう、やつ読みたいね 眼鏡取れちゃって石化する降谷さんを家に連れ込んで石化解けてあわあわする話とか未来予知しちゃって降谷さんの周りの友人助ける話とか、読みたいね

前世はピンク色とアンテナの頭の彼<br /><br />私クロスオーバー大好きなんですよね<br /><br />【注意】<br />名探偵コナンと斉木楠雄のΨ難のクロスオーバー<br />夢要素多数あり<br />捏造あり<br />DCの知識はうる覚え<br /><br />私が楽しいだけで人を選ぶ作品になってます<br /><br />2021/06/04 追記<br />続いてしまった... →(<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15360268">novel/15360268</a></strong> )

前世は超能力者、今世も超能力者

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日本、東京。 この日、某テレビ局のスポーツキャスターである諸岡久志は某高級ホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいた。 休日を楽しんでいた訳ではない。仕事の合間に少し時間が出来たので、休憩を取りつつこの後の仕事についてしばし思案を巡らせていたのだ。 「一体何を発表するつもりなんだ…？ホームリンクを移すとか？怪我による休養？…まさか引退？」 ぶつぶつ呟いていると、ぽんと肩を叩かれた。 やばい聞かれたか、と慌てて振り向くと、長身で銀髪のやたら美しい男がいた。 「び、ヴィクトルさん！？」 「やあ、もろおかさん」 勝生勇利のコーチであるヴィクトル・ニキフォロフは、勇利のインタビュー時に常に横にいるので、インタビュアーの諸岡とも既に顔見知りになっている。 だが今はまずい、と判断した諸岡はヴィクトルを人目につかない柱の陰に誘導して小声で抗議した。 「ま、まずいですよ…！この後記者会見する当人が特定の記者に話しかけるのはルール違反です…！」 ヴィクトルは笑顔でけろっと答えた。 「えー？俺はただ知人と世間話したいだけなんだけど、それはいけない事なのかい？」 「世間話って…！僕は今この後の会見の内容が気になってしょうがないので勘弁してくださいよ…！」 「内容って？」 「しらばっくれて…勇利君のことですよ！」 ここ最近、チムピオーンスポーツクラブに勝生勇利の姿が見えない。 SNSを中心に、少しずつ話題になり始めていた。 リンクメイトのミラ・バビチェヴァやユーリ・プリセツキーのSNSにはリンク内での写真が頻繁に投稿されており、勇利の姿も写っていることで勇利自身のSNSがさっぱり更新されなくて寂しい思いを抱いている大量の勇利ファンからフォローされていた。 しかしある時からリンクの写真に勇利の姿が消えた。 ちなみにギオルギー・ポポーヴィッチは元からリンクの写真はほとんど上げていない。 ヴィクトル・ニキフォロフのSNSにも異変は出ていた。 今まではリンクでの勇利、移動中の勇利、家の中での勇利など、自身とのツーショットも含めて大半が勇利が映っている写真がアップされていたのに、ある時から更新される写真が変わった。 陽の光が透けて見える雲のみの写真や、愛犬のマッカチンのみを映した写真など、彼の自慢の弟子の姿が出てこなくなったのだ。 （ただし、先述した愛犬の写真には指輪をした手が見切れており、勝生勇利だと推測されている） また、サンクトペテルブルクの病院に勇利が入っていくのを見たという不確定情報が出た事から、次第に勝生勇利の怪我説や病気説が出始めた。 ロシアの記者がミラやユーリに突撃取材をしたものの、どちらにも知らぬ存ぜぬで突っぱねられてしまった。 そこでヴィクトルにも記者が突撃しようとしたが、ガードが固すぎて出来なかった。 焦れたパパラッチが勝生勇利も住んでいるヴィクトル邸に張り込むようになってしばらく経ったある日、突然の報せが報道陣に舞いこんだ。 それは、ヴィクトル・ニキフォロフが勝生勇利について日本で記者会見をするという発表だった。 「勇利のことは今は言えないなあ。それより最近の日本の景気はどうだい？」 「え…本当に世間話をするつもりですか？」 「そうだよ。んー、東京の事も気になるけど、今は九州…特に長谷津の景気とか地価とかが気になっててね」 「…？長谷津の地価とか気になるんですか？それってどういう…？」 「おっと、ちょっと余計なことを言っちゃったかな。やっぱり会見前には良くないよね。それじゃあ会見でね」 「えっヴィクトルさん？」 ヴィクトルは諸岡の肩をぽん、と叩いて去っていった。 「何だったんだ…？」 諸岡は呆然とヴィクトルの背中を見送った。 ホテルの中にある記者会見場では、既に世界中から集まった記者が揃っていた。 今やフィギュアスケート世界ランク2位の勝生勇利の動向は世界中で注目されているのだ。 「お待たせ致しました。これよりヴィクトル・ニキフォロフさんの会見を始めます。質問は挙手で受け付けます」 司会担当の女性がアナウンスすると、スーツ姿のヴィクトルが会見場に入ってきてカメラのフラッシュが一斉に焚かれた。 「今日は突然の会見にも関わらず集まってくれてありがとう。既に察しているかもしれないけど、俺の生徒である勝生勇利について発表したいことがあるんだ」 ヴィクトルは同時通訳の事を考え、ゆっくりとはっきりした発音の英語で話し始めた。 「周りくどいのは苦手なのでもう言うけど、…勝生勇利は今シーズン、休養することになった」 会場中がどよめいた。ヴィクトルは波が治まるのを待つように黙ってしまったので、ひとりの記者が手を挙げた。 「日本のＢ新聞です。…休養というのは、勝生選手に何かあったという事でしょうか」 「ああ。事情があって、勇利は今滑れない状態にある」 また会場中がどよめいた。複数の記者が手を挙げた。 「アメリカのD社です。勝生選手が滑れない事情というのは何でしょうか」 「…それは…」 [newpage] 一方その頃、ロシアのスケート連盟の会議室にヤコフコーチは居た。 「お待たせしました、ミスターヤコフ」 ヤコフの前に現れたのは上層部の人間の代理だという女性だった。 ヴィクトルより10歳ほど年上だと思われる。 「わざわざお越しくださったのはありがたいのですが、我々がお呼びしたのはヴィクトル・ニキフォロフなのですが？」 「あやつは今ロシアには居ないので代理で儂が来た。恐らくそちらの質問には答えられる筈だ」 「…そうですか。それでは早速本題に入りますが、最近ヴィクトル・ニキフォロフとその弟子のユーリカツキの動向に不審な点があるという報告が入りました。ヴィクトルはいくつもの仕事を突然キャンセルするし、ユーリカツキはリンクに姿を見せないとか。それについての説明をして頂いても？」 「…その事だが、もう少し事態が落ち着いてから、こちらから説明に伺うつもりだった…特にカツキの状態が安定するまでは」 「どういう事です？明確な説明を求めます」 「…かなり衝撃的な内容なのだが、心の準備はよろしいか」 女性は不敵な笑みを浮かべた。 「ずいぶん回りくどい言い方ですね。何かやましい事でも？」 「…やましいといえばやましい。だがあやつには責任を取らせるつもりだ」 「責任とは」 「…ヴィクトルがカツキを妊娠させた」 「…失礼。もう一度言って頂けますか」 「ヴィクトル・ニキフォロフが、ユーリカツキを妊娠させた。病院で確認済みだ」 女性はヤコフの苦み走った顔をまじまじと見て、深く溜息をついた。 「…そうですか。それが本当なら、大変な不祥事ですね。ヴィクトル・ニキフォロフには相応の処分をしなければ。もちろんあなたにも」 「わかっておる」 女性はしばし思案をした後、口を開いた。 「…妊娠と言いましたが、今何ヶ月なのですか？」 「…それを聞いてどうする」 「さきほどあなたは、カツキが安定するまでは、と仰いましたね。それは今はまだ安定期に入っていないということでは？…でしたら、今の内に処置する事も可能、という事ですね」 ヤコフの眉間の皺が深くなった。 「御自分が何を言っているのかわかっておいでか」 「もちろんです。私の仕事はスポーツを通してロシアの国力を上げること。その為ならどんな手段も選びません」 今度はヤコフがうつむいて深く溜息をついた。 「…あんた方はいつもこうだ。我々をまるで道具のように扱う。ヴィクトルが今までどれだけロシアに貢献してきたと思っとる」 ヤコフは顔を上げて女性を睨んだ。 「あやつがブランクを物ともせず世界ランク1位に返り咲いたのも、カツキのコーチを続けとるのも、すべてあやつが尋常ではない努力をして成し遂げたことだ」 女性は冷めた目で黙って聞いている。 「それに加えて、世界中飛び回ってのインタビュー取材、雑誌やCM撮影、世界各地のパーティーへの出席など、ロシアの広告塔としてどれだけ貢献しているか。誰にでも出来ることではあるまい？それに対して少しは感謝してもよろしいのではないか」 「充分な報酬は与えているつもりですが？」 「金の話をしておるのではない。…そんな事を言っているんじゃない。少しは人間として扱ってはどうか」 「何を仰っているのか私には分かりかねます。…さて、ユーリカツキは今どちらに？まあヴィクトル邸でしょうね。それとも病院？」 「待て。何をするつもりだ」 「もちろん、すぐに拘束して処置したあと日本に強制送還させます。…そうですね、怪我で引退せざるを得なくなったので帰国したというシナリオにしましょうか」 「やめろ！」 「ヴィクトルの経歴に傷を付ける訳にはいきません。…それに、ユーリカツキのコーチをする必要がなくなったらむしろヴィクトルにとって良い事なのでは？選手の方に集中できて、これまで以上にロシアに貢献できる筈です。あなたは引き続きヴィクトルのコーチとして、ユーリ・プリセツキーがランク1位になるまではその座を死守して頂きたい」 「お前達は…なぜいつもそうなんだ…」 ヤコフは苦しげに息を吐いた。 「ロシアを守るために最善を尽くしているだけです」 女性が冷たく言い放った所で、「失礼します」と言って若い男性職員が入室してきた。 「ちょうどいいわ。今すぐユーリカツキを拘束するように手配してちょうだい」 「あ、あの…」 男性職員は女性に耳打ちした。 「…テレビを付けなさい」 「は、はい」 会議室に設置されている大画面のテレビの電源が入った。 まず映ったのは、ヴィクトル・ニキフォロフの顔だ。 日本での記者会見を、ロシアのテレビ局が衛星で生中継しているようだ。 「…ヴィーチャ」 ヤコフが小声でつぶやいた。 『……ああ。事情があって、勇利は今滑れない状態にある』 『スイスのD社です。勝生選手が滑れない事情というのは何でしょうか』 『…それは…』 「まさか…やめなさい！」 女性が初めて声を荒げた。 『勇利が、俺の子を妊娠したからだ』 一瞬の沈黙の後、ひとりがフラッシュを焚いたのをきっかけにフラッシュの嵐となった。 後ろの記者達が一斉に質問し出したのをヴィクトルは片手を上げて制止した。 「なんてことを…！」 女性は逆上して立ち上がった。男性職員はおろおろしている。 「ああもう…！これで日本とロシア中に広まっちゃったじゃない！」 「い、いえあの…ネットでも生配信されてまして…世界中に…」 「…最悪！…もういい、ユーリカツキだけでも拘束して！どうするかは後で考えるわ。早く！」 「は、はい！」 男性職員が慌てて去っていった。 女性は再び席に着き片手で額を押さえた。 「…やってくれたわね、ヤコフコーチ」 「何の事だ。儂は何も知らん。ヴィクトルは海外で雑誌の撮影のしているのだと聞いておった。まさかこんな行動を起こすなんてまったく知らんかった。ああ、ヴィクトルにはいつも驚かされるわい」 「戯れ言を…！」 「しかしこうなってはカツキの怪我説はもう使えんのう。それに子供を無理やり処置でもしようもんなら世界中から非難されるぞ」 「うるさいわね。わかってるわよ。…大体この事が知られたら、ヴィクトルへの風当たりが強くなるのはあなただってわかってるでしょう！？なぜこんな事をさせたの」 「だから儂は何も聞いておらんと言うとおるのに。…ただ、ヴィクトルからしたらロシアに秘密裏に処理されてカツキと引き離されるよりは、世界中に非難されても一緒にいる方を選んだのかもしれんな」 「…馬鹿な男ね。ロシアを甘く見ないでほしいわ。今からだってまだ…」 ぶつぶつ呟き始めた女性をよそに、ヤコフは画面に意識を戻した。 そしてヴィーチャ、ここからが正念場だぞ、と念じた。 [newpage] 「…ヴィクトルさんはカツキさんのコーチですよね？妊娠させたって事は責任問題になると思うのですが、それに対してはどうお考えですか？」 「もちろん責任は取るつもりだ。…勇利のコーチを辞めることが妥当だと思う。俺自身も選手として謹慎することも覚悟してる。このまま引退になるかもしれない」 「そ、それでは妊娠された勝生選手とヴィクトル選手、ふたりとも引退という事ですか？」 世界ランク1位と2位が同時に引退…？とありえない事態に会場中がまた騒がしくなった。 「そうなる事も覚悟してる。…だが、もし希望を言う事を許されるなら聞いてほしい」 ヴィクトルはテレビカメラをしっかりと見据えて口を開いた。 「勝生勇利は出産後の現役復帰を希望している」 フラッシュが一斉に焚かれた。それが落ち着いてから、ヴィクトルは続けた。 「その際のコーチについては、引き続き俺に務めてほしいと言っている」 フラッシュが再び焚かれる。 「コーチを辞める事は責任の取り方のひとつではあるが、俺は勇利を再び表彰台に戻す事で責任を取りたいと思っている。…そして、俺はこのまま選手として今シーズンに臨みたい」 「そ…そんな事が許されるとお思いですか？」 記者の一人が声を上げた。 「もちろん、世界中の…特に日本とロシアの人達が了承してくれたらの話だ。可能性は低いと思う。あくまで俺の希望としての話だ」 ヴィクトルはふっと悲しげに目を伏せた。 「俺が今のランクを維持できているのは、勇利の存在が大きい。もし勇利に出会っていなかったら、俺のインスピレーションはとっくに枯渇して引退していたと思う」 会場が動揺する空気に包まれた。ヴィクトルは悲しげな表情のまま、顔を上げた。 「勇利のコーチになって俺は生まれ変わった。…勇利もまた、俺との出会いを糧にして高みへと昇ってきた。俺はたとえ自分が引退することになったとしても、勇利と共にいたい。…どうか、勇利が現役復帰した際にはコーチとして携わらせてほしい」 「御自分は引退されても構わないと…？」 「ああ。どっちみち、もしも勇利と引き離されてしまったらプレーヤーとしての俺は間違いなく死ぬ」 そ、そんな…という声が会場の中で上がるのが聞こえた。 「あ、あの…よろしいでしょうかヴィクトルさん」 諸岡が手を挙げた。ヴィクトルの瞳が一瞬光った。 「…どうぞ」 「勝生君は…勝生選手はヴィクトルさんの引退についてはどうお考えなのでしょうか？」 「…勇利は、俺の現役続行を望んでいる。自分のせいで俺が引退するのは耐えられないと。…勇利のせいじゃないのにね」 ヴィクトルは自嘲の笑みを浮かべた。 「…で、ですがロシアのお国柄、かなり厳しい処罰が課せられるのではないかと…」 「そうだね…俺も勇利ももうロシアから国外追放されるかもしれない」 ヴィクトルの視線を感じて諸岡は何かに気付いた。 「あ、あの…そもそもなぜ今回の記者会見を日本で開こうと思われたのですか？それとこれは未確認なのですが、勝生選手の地元である長谷津に、ヴィクトルさんが土地を探しているという情報があるのですが…？」 なんだと、という声が会場からいくつも聞こえてきた。 「よく掴んだね。…実はそうなんだ。長谷津に家を建てようと思っている」 いやいやそれを知らせたのヴィクトルさんですよね、と諸岡は思った。ヴィクトルは続けた。 「ただ家といっても別荘のつもりだった。現役中も引退してからもあくまでホームはサンクトで活動しようと思っていたんだ。…だが、こうなった以上、状況によってはすぐに長谷津に移住することも考えている」 「…日本にホームリンクを移すということですか？」 「日本の人達が許してくれるなら。幸い長谷津にはアイスキャッスルはせつという立派なスケートリンクがあるし、勇利の実家も子守は協力すると言ってくれている。スケートを続けるには良い条件が揃っている。…会見の前に日本のスケート連盟にも謝罪した際に今の話をしている」 勝生選手とヴィクトルが再び長谷津に…？ 諸岡はかつての温泉オンアイスを思い出した。 スケートリンクいっぱいに観客が詰めかけ、勇利とユーリ・プリセツキーの素晴らしい滑りに全員が酔いしれた。 そして桜吹雪が舞う季節の長谷津で、赤ん坊を抱いたヴィクトルと勇利が穏やかに笑いあいながら海岸沿いを歩いていく姿を思い浮かべた。それはとても幸せそうな光景だった。 「だがもし、日本の人達にも許してもらえないなら」 諸岡は再び話し出したヴィクトルに意識を戻した。 「最終手段として、別の道も考えている」 「日本に移住ですって…？そんな事をロシアが許すと思ってるのあの男は！？馬鹿ね」 ロシアのスケート連盟側の女性が吐き捨てるように言った。 「そうは言っても、お前さんらはどうせ不祥事が明るみになったヴィクトルを引退させるつもりだろう？」 「そんな勿体ない事しないわよ。世界ランク1位よ？彼にはまだまだロシアにとって利用価値がある。カツキを遠ざければいずれは目が覚めるわよ。…ランクを維持させつつ、これまで以上に広告塔として働いてもらうわ。出来なければヴィクトルもあなたもおしまいよ」 「…やれやれ。それがロシアの答えか」 「そうよ。これまで支援してやった恩がある筈よ。日本に移住なんて絶対にさせない。カツキを盾にすればヴィクトルだって折れるでしょうよ」 「…さあ、どうだろうな」 [newpage] 「別の道とは…？」 諸岡とは別の記者が質問した。 「…実は今日の記者会見には勇利も同席したいと言っていたんだけど、まだ安定期に入っていないから、飛行機に長時間乗せるわけにはいかなかった。…勇利は今、ロシアのある場所にいる。ネットでこの会見をリアルタイムで見てるよ。…ねえ勇利？」 その時、ヴィクトルの背後にあるスクリーンに映像が映し出された。 そこにはガチガチに緊張した勇利の姿があった。 「こ、こここんにちは、勝生勇利です…こっちはマッカチンです。マッカチン、ヴィクトルだよ」 「やあマッカチン。勇利を守ってくれてありがとう」 「うおん！」 おおお、という声とともにフラッシュの嵐がまた始まった。 マッカチンを撫でて落ち着いたのか、勇利の表情が少し和らいだ。 「えと…出来れば皆様の前できちんと報告したかったんですけど、そちらに伺えなくて申し訳ございません。…あと、今回の事で関係者の方々にこれから多大なご迷惑をかける事になります。本当にすみません。いずれ改めて謝罪に伺います」 勇利は深々と頭を下げた。 「…ですが僕は、今回の件で引退するつもりはありません。出産したらまた現役に戻りたいんです。…その為にはヴィクトルの力がどうしても必要なんです。コーチとしても、選手としても。もしも今後もヴィクトルとともに現役続行を許されるのなら、必ず表彰台に戻ってみせます。約束します」 勇利がここまではっきりと宣言をするのは非常に珍しく、特に日本の報道陣がどよめいた。 「勇利。体調はどうだい？」 「え、ヴィクトルこんな時に何…？大丈夫だって…」 「…か、勝生選手、少しお痩せになられましたか？」 諸岡が質問した。 「あ、諸岡さん…。ええまあ、ちょっとつわりがひどくて…でも大丈夫です」 弱々しく笑う姿を見て、諸岡は胸を痛めた。それは中継を見ていた勇利ファンにも同じ感情を抱かせた。 「…勇利。無事にモスクワに着いたみたいだね」 「うん…彼のおかげで。ありがとう、ピチット君」 え、と報道陣が固まった。 「どういたしましてー！親友の為だもの！」 そう言って勇利の隣に座ったのは、ピチット・チュラノンだった。 「僕と勇利は今、モスクワにあるタイの大使館の中にいるよ！ほら見てタイの国旗！特別に許可を貰って撮影させてもらってるんだ！いえーい！」 「はああ！？」 ロシアのスケート連盟側の女性が絶叫した。 「ちょっ…どういうこと？タイの大使館ですって？なんなの？」 ヤコフがにやりと笑みを浮かべた。 「もしも僕とヴィクトルがロシアでも日本でも一緒にスケートを続けられない場合は…二人でタイに亡命してスケートを続けようと思います」 勇利が決意を込めてはっきりと告げた。大騒ぎの報道陣をよそに、ピチットが続けて言った。 「それについてのタイ政府との交渉役は僕が務めたよ！元々政府側はアジア人の勇利には好意的だったし、世界ランク1位と2位がタイのリンクで練習してくれたらタイのスケート界が向上することは間違いないし、この先もしも2人がうちの国籍を取得したら、僕もいることだし一気にタイがスケート強豪国になるね！僕も親友とまた同じリンクで滑れるのは嬉しいし、良い事ずくめだよ！タイには男性の出産を扱った病院がいくつかあるから安心して。勇利、ヴィクトル、タイはあなた達が来るのを歓迎するよ！」 「ありがとう、ピチット君」 「…ありがとう、ピチット」 ざわざわと動揺が治まらない報道陣に向かってヴィクトルが言った。 「とりあえず安定期に入るまでは勇利を大使館内で保護するとタイ側が約束してくれている」 「び、ヴィクトルさんはどうなさるんですか…？」 そこまで言って諸岡は気付いた。このホテルの立地について。 「この会見が終わったら、すぐに行くよ。…この近くのタイ大使館に」 この会場があるホテルから歩いて数分の所には、日本の在タイ大使館があった。 「もしも亡命することになったら、勇利が安定期に入り次第タイで合流する予定だ」 「ちょっと…止めなさい！誰か会見にいないの！？」 「無駄だ。ロシアの連盟側の人間が会場にいないことは確認済みだ」 「ヤコフ！この馬鹿げたことは何なの？タイですって？正気じゃないわ」 「…二人の本気の決断に失礼だろう。…それにヴィクトルも言ってただろう、最終手段だと」 「…？」 「さっき言ったように、タイに亡命するのは最終手段だ。…タイは魅力的だが、俺も勇利も、ロシアと日本を心から愛している。出来ることなら離れたくない。これは苦渋の決断だ」 「ヴィクトルさん…」 「この先をどうするかは、皆の判断を仰ぎたいと思っている。ロシアか、日本か、タイか。ロシアと日本のそれぞれのスケート連盟の回答を、タイの大使館内で待ちたいと思う」 「…はい。美しいサンクトを離れるのはとても残念ですが、僕はヴィクトルと共に滑れたら、拠点がどこになろうとも構いません」 ヴィクトルは後ろを向いて画面に映る勇利の顔を愛おしげに見上げた。 その表情は回り込んだテレビカメラによって世界中が見ており、特にヴィクトルファンは悶絶した。 会見から程なくしてスイスのクリストフ・ジャコメッティのSNSが更新された。 『ヴィクトル…そんな大事な事を言ってくれなかったなんて、つれないね。確かにコーチとしてあるまじき行為だけど、君達2人の間には常識を超越した絆のようなものを感じる。今回の事もむしろとても自然なことのような気がして、僕は責める気にはならないよ。もし助けが必要ならいつでも言ってくれ。無事に二人の子供が生まれるように祈ってるよ』 するとそれに続くように、各国のスケーター達が２人に向けてメッセージを上げてきた。 ミラやユーリはもちろん、ギオルギー、サーラ、エミル、レオ、グァンホンなど。 ちなみに後に知られる事になるのだが、南健次郎は会見中に気絶して翌朝まで目覚めなかったのでメッセージは上げられなかった。 「何なのこの茶番は…」 わめきすぎて疲れ果てた女性が、床に座り込んで言った。 「あ、あの…」 先程とは別の男性職員が入ってきた。 「…何よ」 「つい先程から事務局に国内外から電話が殺到しておりまして…ほとんどがヴィクトル・ニキフォロフと勝生勇利の現役続行を認めてほしいという内容です…」 「何ですって」 「ど、どう返答すれば…」 「…ああもう！担当者が不在で答えられないとか適当に言っておきなさい」 「は、はい…」 一方、日本のスケート連盟にも電話やメールは殺到していた。 こちらは「ぜひお二人には日本に拠点を移してほしい！」という声と、「うちの県にもスケートリンクはある。長谷津じゃなくてもぜひうちで受け入れたい」という声が多かった。 「…さてどうする？世論は2人に味方しとるようだぞ」 「…」 「大体お前さんは初めから処置する事しか考えとらんようだが忘れておらんか？世界ランク1位と2位との子供が出来たんだぞ？将来有望だと思わんか？そこら辺の女性との子供よりよっぽど良いと思わんか」 「…何よそれ。さっきは道具扱いするなとか言ってたくせに」 「お前さんが上を説得しやすいようにわかりやすく言ってやっただけだ。どうだ？カツキに子供を産ませる方が国にとってよっぽど得だと思わんか？」 「……ふん。そうやって私に上と交渉させる気ね。…いいわ。乗ってやるわよ。この代償は高くつくわよ」 「おお、恐ろしい。年寄りをいじめんでくれ」 女性は思いきり顔をしかめて部屋から出て行った。 女性の足音が遠のいていくのを確認すると、ヤコフは脱力して椅子に深く座り込んだ。 「…やれやれ、寿命が縮まったわい。これから孫の成長を見届けていかにゃならんというのに。面倒ごとを押し付けおって、ヴィーチャのやつめ…」 本来は勇利が安定期に入ったら、勇利とヴィクトルが共に密かに日本に渡り、しかるべき所に報告を済ませてから記者会見をしてその足でタイの大使館に一時避難する予定だった。 だがパパラッチがヴィクトル邸に張りこみ始めたことで、勇利の妊娠が会見より前に知られてしまう可能性が出てきた上に、とうとうロシア連盟から呼び出しがかかってしまった。 もしもロシア側が記者発表前にこの事態を知れば、勇利を秘密裏に追放しようという行動に出るだろう。そうなる前に早急にこちらから動かなければならなくなり、ヴィクトルとヤコフは急ピッチで準備を進め、この記者会見となった。 会見が終了した数日後、ロシアと日本のそれぞれのスケート連盟からヴィクトルの元に回答が届いた。 どちらの国にも２人を擁護する声が殺到したことと、それぞれの国のトップスケーターがタイに亡命してしまうと国にとって大損失になるという危機感によって、２人の現役続行およびヴィクトルのコーチ続行を認めるという決定を知らせる内容だった。 その通知書をヴィクトルはすぐに動画で世界中に報告した。 「両国とファンの皆の寛大な対応に感謝する。この恩はスケートで返す」という言葉と共に。

４話目です。ヴィクトルが記者会見でぶちかまします。<br /><br />ヴィク勇で勇利君が妊娠しています。地雷の方はお避けください。<br />男性も妊娠する世界です。ただし女性に比べて確率は低いです。リスクもあります。ですがハピエンです。<br /><br />たぶん次か、次の次でこのシリーズは終わると思います。最後までお付き合い頂ければ幸いです…。<br /><br />ちなみにヴィクトルが会見したホテルのモデルは実在する某高級ホテルです。とある場所に歩いて数分の距離にあって、記者会見もできる会議室があります。勇利君がいる建物の場所についても実在します。

勇利君が妊娠した話４

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リサと彩加と別れ、家に帰る 八幡「ただいま〜」 小町「あ！おかえり！お兄ちゃん！小町にする？こまちにする？それともコ・マ・チ？」 八幡「一択じゃねぇか…小町で」 小町「ちゃんと選ぶあたりポイント高いよ！お兄ちゃん！」 比企谷小町、俺の愛妹だ。 八幡「相変わらずテンション高ぇなぁ…」 と呟くが、聞こえていなかったのか 小町「お兄ちゃん！今日の晩ご飯はハンバーグだよ！」 八幡「よし早く食べよう急げ小町のハンバーグが待っている」 小町「キモいよお兄ちゃん…」 小町ちゃんにキモイって言われた…くすん うん。確かにキモイな まあ、そんなやり取りをしつつ、ご飯を食べ終わり、あとは寝るだけだ。 八幡「おやすみ、小町」 小町「およ？早いね、お兄ちゃん」 八幡「米屋と100本やったから疲れてんだよ…」 小町「米屋さん…(遠い目)」 そんなこんなで次の日、俺は早めに登校することにした。なぜなら1年の時から彩加がテニス部に所属していて、朝練を行っているから、それを眺めるための準備をするためだ(変態) まあ、特に何も無く彩加の朝練を眺めているのだが、珍しくいつもは手を振るくらいしかしない彩加が、こっちによってきた 八幡「どうした？彩加」 彩加「うん、実はね…」 〜少年(？)説明中〜 八幡「なるほどわかったよ。手伝おう」 どうやら部員達と喋ってる時に俺が見ていることについて聞かれ、俺が少しテニスが上手いことをばらしてしまい、教えてくれと頼まれたらしい。親友の頼みだ。断るわけにはいかない。 彩加「ありがとう八幡！」 八幡「あぁ」 「ふっふっふ、私も手伝うよ、」 この声はリサだな。正直嬉しい 八幡「あぁ、よろしくな、リサ」 そんなこんなで昼休みに教えることになりました。 そして昼休み、 テニス部員達「よろしくお願いします！」 八幡「よ、よろしく…」 ｢とりあえず基礎の体力作りからだ。腹筋50回、腕立て伏せ50回、スクワット100回。やってみてくれ｣ 部員達は指示通りこなす。もちろん彩加もだ。彩加はどうなんだだって？彩加はボーダー隊員だし大丈夫だろう。むしろ大丈夫じゃないとまずい そして彩加達の練習に付き合い初めてから1週間が経った。 彩加「うわっ！」 八幡「っと、大丈夫か？」 彩加が転けた。血も出ているな。 八幡「リサ、保健室から救急箱持ってきてくれるか？｣ リサ「うん！いいよ！行ってくるね！」 リサが行ってしばらくして、 「あ、テニスやってんじゃん！」 八幡「あ？誰だお前ら」 三浦「は！？三浦優美子だし！クラスの人の名前も覚えらんないの！？」 八幡「あぁ？お前らなんかに微塵も興味ねぇからな」 三浦「もういいし！戸塚ぁ、テニスコート使わしてくんない？」 戸塚「嫌だよ、なんで貸さないといけないのさ。生徒会で許可もらってから来なよ。」 三浦「はぁ？」 「まぁまぁ、優美子も戸塚もヒキタニくんも落ち着いて、な？」 八幡「誰だお前、あと俺の名前は『ひきがや』だ。間違えるな」 葉山「あぁ、すまない。比企谷君、テニスコートを貸してくれないかい？優美子はこうなったらどうしようもなくて…」 八幡「断る。生徒会で許可もらって来い。戸塚もそう言ってただろ」 三浦「はやとー、あーしいい加減テニスしたいんだけど！」 葉山「じゃあ、こうしないかい？俺達がテニス勝負をして、勝った方がテニスコートを使える。その代わりに戸塚の練習も手伝う。どうだい？」 八幡「うん。こっちが勝ったらお前らはどうすんだ？」 葉山「え？だからテニスコートを使える…」 八幡「はぁ、もういい。受けてやるよ。その代わり俺が勝ったらこの事はサッカー部顧問と生徒会本部、学年主任に報告する。文句はないな？」 葉山「あ、あぁ」 三浦「あ！そうだ！いっそ混合ダブルスにしない？うそっあーし頭いいんだけど！」 八幡「別にいいがリサが来るまで俺は一人でやる。今ここにリサはいない。」 三浦「わーったし！｣ そして準備を始めるが、誰が広めたのかテニスコートの外には大量の生徒がいた。そして後ろの部員達からは 「どんぐらい上手いんだろうな？」 「つーかあの三浦先輩って県選抜選ばれてた人じゃね？」 とかが聞こえてくる へぇ、あいつ県選抜か。だからそんなに自信ありげだったのか。まあいい。 さて、やるか 八幡「サーブはそっちからでいいぞ。」 三浦「あーしたちのこと舐めてんの？」 八幡「いや〜別にぃ〜？」 三浦「あーし言っとくけど県選抜選ばれてるからね！手加減できないし！」 八幡「まぁ、せいぜい頑張ってくれ」 結果だけ言おう。圧勝。 テニス部員達含めギャラリーが唖然としている中、俺は三浦たちに歩み寄る。 八幡「お疲れ様。約束通り報告させてもらうぞ。」 三浦「どうせ練習しても弱いんだし意味ないじゃん…」ﾎﾞｿｯ 八幡「おい、今なんつった。」 自分でも驚くほど低い声が出る。 三浦「ﾋｯ！」 八幡「人の努力を馬鹿にするんじゃねえ。」 八幡「おい葉山、お前のグループだろ、メンバーぐらいしっかりと抑えつけろ。わかったか」 葉山「あ、あぁ。すまない。」 八幡「次こんなことが俺の目の前で起きてみろ。ユルサナイからな」 それだけ言い残し、俺はいつの間にか戻ってきていたリサに事情を説明し、教室に戻った。 制服に着替えることを忘れて ──────────────────── 後書き どうもハムスターっぽいハムです。 今回は戸塚の回です。 ちょっと運び方が雑だったような気がします。 ここでもちょっとしたアンケートを2つほど 1 奉仕部に入るか否か 2 少し先のことになるけど、文化祭で、有志でリサと戸塚とちょっとしたバンドを組んで出るかRoselia+八幡で出るかそもそも出ないか。 1と2の両方の回答がない場合無効票とさせていただきます。申し訳ないです。 そして過去の作品の分かりにくいところ、等ありましたら報告お願いします。自分でも見返して修正を入れていきますので良ければ変わったところを探してみてください。 追記、タイトルを下書き保存のために付けただけの状態で投稿してしまいました。すみませんでした

Twitterの本垢が謎の垢ロックを喰らいました。辛い

テニヌ対決

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待ち受け画面には、着信履歴も受信メッセージの通知もない。 21時半。 残業を終えて帰宅したばかりの白石は、取り出したスマートフォンに向かってため息をついた。 着替えもせず、バッグも提げたまま疲れた体をソファに沈めれば、指は無意識のうちにスマホを操作し、電話帳アプリを起動してひとつの連絡先を表示した。 『藍沢耕作』 画面に浮かび上がった名前をじっと見つめる。 発信ボタンに置きかけた指は、数秒さまよった後にホームボタンを押した。 やっぱり、かけられない。 暗転した液晶画面に映った自分の顔は、憂鬱に目を伏せていた。 昨日から、何十回この動作を繰り返したことだろう。 藍沢からの連絡がこないかと何度もスマホを確認し、自分から連絡してみようかと迷っては踏み切れない。 外は雨。 しとしとと窓を濡らす水音がする。 彼はいま、泣いているのではないか。 そんな気がしてならない。 「脳外の藍沢のおばあさんが亡くなった。」 カンファレンスの終わりに橘が告げたのは、昨日の朝のことだった。 脳外科の西条から連絡があったという。 藍沢の古巣であり同期も多い、コンサルでもよくお世話になっているこの救命にもその情報が共有されるのは、ごく自然なことだった。 「通夜や葬儀は身内だけでやるそうだ。 藍沢は忌引きで今日明日は休むらしいから、コンサルの場合は別の先生に当たってくれ。」 「………身内って。」 藤川がぼそりと呟いた。 その場にいる、藍沢の生い立ちを知る者は皆、同じことを思っていただろう。 「……ああ。」 橘も肩を落としたまま、神妙な顔をしていた。 藍沢の身内。 いるとすれば、ただひとり。離れて暮らす父親だけだった。 彼がその人を身内だと認めているならば。 だが、そうでないなら…、藍沢はたったひとりで祖母を送るのだろうか。 あまりにも悲しい想像に胸がしめつけられ、カンファレンスが終わるとすぐに、白石は私用のスマートフォンを確認した。 もしかしたら、藍沢から連絡がきているかもしれないと思ったから。 もう何年も前に脳外科に異動していった、特別プライベートで親しくしているわけでもない同期。 その藍沢がいま自分に連絡してくる可能性など、普通に考えたらないはずだった。 それなのに、予感のような、期待のようなものを抱いたのはなぜか。 思い当たる記憶があったからだった。 それは、たった二週間ほど前の奇妙な出来事だった。 救命センターのフロアの廊下、自販機コーナーのソファで白石が休憩していた時、不意に藍沢がやってきた。 「……あ、いざわ先生、」 ヘリ搬送が立て続いた後でぼんやりしていた白石は、藍沢が自販機の前に立ってはじめてその気配に気がついた。 普段、藍沢をこのフロアで見かけることは滅多にない。 救命の医局に用事でもあったのだろうか。 藍沢は落ちてきた缶コーヒーを取り出しながら「…おぅ」とぶっきらぼうに挨拶をして、こともなげに白石のひとつ隣りのソファに座った。 そのまま去っていくものと思っていた白石にとっては、すこし意外な行動だった。 「…久しぶり。」 「ああ。」 「いろいろ、順調？」 「まあな。」 「………。」 流れる空気はぎこちなく、抽象的な会話は続かない。 藍沢が脳外科に異動していってから、治療の現場以外でこうして話すのはいつぶりだろう。 フェロー時代には毎日一緒にいた気心知れた同期とはいえ、ただでさえ密かに想いを寄せていた相手が久々に、しかも急にあらわれたものだから、白石は必死で話題を探した。 「……そういえば、絹江さんは元気？お変わりない？」 「ああ。時々会いに行ってる。」 「藍沢先生が行けば、喜ぶでしょう。」 「そうだな。」 その時、ふと藍沢の目に物憂げな光が灯ったように見えた。 「行けば喜ぶけど、帰る時は寂しそうな顔をする。」 「…そうよね、きっと。」 「やっぱり一緒に暮らせないかって考える。」 「………そう。」 「脳外は救命よりは当直や不測の事態も少ないから、何とかなるんじゃないかと思ったりする。」 「でも…絹江さんは。」 「ああ。ばあちゃんは望んでない。」 藍沢は白い廊下を見つめたまま、指を擦り合わせていた。 ───一緒に暮らそうって言ったら叱られた。 翔北に入院していた絹江が自ら施設に入ることを選んで退院していった時、小さな子どもに戻ったみたいな言い方で、藍沢は打ち明けてくれた。 救命の若手、しかも誰より野心家で向上心のある彼が、働きながら祖母と一緒に暮らして孝行できる生活など不可能なことだったのだ。 ───会える時に会いに行けばいいんじゃない？ ───……そうだな。 ───……そうだよ。 ふたりきりのエレベーターで交わした会話のひとつひとつを、白石はよく憶えていた。 普段プライベートなど明かすことのない藍沢が、そのことを自分に話してくれたのが嬉しかったから。 「俺の、罪悪感だけの問題なんだと思う。」 ぽつりと藍沢は言った。 罪悪感。 藍沢らしくない言葉だと白石は思う。 「でも、無理やり一緒に暮らしたとしても、結局俺は仕事を最優先してしまうと思う。 ひとりで家で待たせて寂しい思いをさせるくらいなら、今のまま施設にいてもらって、時々会いに行く方がいいのはわかってる。」 「……。」 白石は頭をフル回転させて言葉を探した。 彼は、悩んでいるのだ。 普段から口数が少なく不言実行が服を着ているような藍沢が、自分からこれほど話を──突っ込んだ話を明かしてくるということは、よほど自分の中で消化できず、整理できないことなのだろう。 祖母ともう一度一緒に暮らして孝行したい。 何にもとらわれず、立ち止まることなく医師としてのキャリアを貫きたい。 彼にとっては、どちらも捨てきれるはずがないだろう。 そして白石には、迂闊に背中を押すことも、引きとめることもできそうになかった。 「……悪い。急に変な話して。」 「ううん……。」 「そろそろ行く。」 「……うん。」 何も答えられずにいた白石を置いて、藍沢は立ち上がり、空になったコーヒーの缶を静かにゴミ箱に落とした。 カコン、と軽やかな音が響いた。 「あ…藍沢先生！」 立ち去りかけた藍沢を、白石は必死に呼び止めた。 藍沢が突然ここに現れた理由など、最初は気に留めなかった。でも確信した。 おそらく彼は偶然を装ってここに来た。 自分にこの話をするつもりで、聞いてほしくて来たのだろう。 我ながら自惚れていると思いつつも、そうとしか思えなかった。 「あの……、ごめん、わたし、何も言えなくて……。」 「いや。こっちこそすまない。困らせたな。」 「違うの！そんなことない！ あのね…もしも、わたしに何かできることがあったら。 もしも困ったこととかあったら。 なんでも言って。お手伝いさせて。」 白石は必死に言葉を重ねた。 「藍沢先生を育ててくれた大切なひとだもの。 わたしにできることがあったら応援したい。力になりたいの。」 こんな形式的な言葉、社交辞令に聞こえるかもしれない。 でもそれは白石の偽りない本心だった。 話してくれて嬉しかった。 藍沢の力になりたかった。 それだけは、伝わってほしかった。 「………ありがとう。」 静かに言い、藍沢は去っていった。 いつも通りの無表情からは感情が読みとれず、でもその声には彼なりの感謝がこもっているのがわかった。 力になりたいと言ったのは、彼に淡く想いを寄せていた白石の、切実な願いだった。 けれど、そう言われて簡単に他人を頼るような藍沢ではないことは知っていた。 彼にとって自分はただの、他科の同期。 プライベートな領域に軽々しく足を踏み入れられるような関係ではないことも─── あの時もっと気の利いたことを言えていたら、何か変わっていたのだろうか。 たったひとりの家族を亡くした悲しみに寄り添うことを、望んでもらえたのだろうか。 雨の音を聞きながら、ソファの上で白石は考え続ける。 突然、手にしていたスマートフォンが震え、白石は驚いてそれを取り落としそうになった。 握り直した手の中の画面に表示された文字に、心臓がどくりと波打つ。 　『着信 藍沢耕作』 とたんに加速を始めた鼓動を落ち着けるように、深呼吸をひとつしてからおそるおそる通話ボタンを押した。 ◇◇◇ ───絹江さんが亡くなりました。 施設から藍沢のもとに連絡があったのは、目覚ましのアラームが鳴りベッドから起き出そうとしていた早朝のことだった。 西条の携帯に連絡を入れて２日間の休みをもらうと、藍沢はすぐに祖母のもとに向かった。 祖母は、眠っている間に静かに息を引き取ったようだった。 未明に施設の職員が見回りに来た時には、呼吸も脈も止まっていたらしい。 白い頬に触れると、やわらかくてとても冷たかった。 「ばあちゃん」と一度だけ呼んだ。 涙は出なかった。 いつかはこんな日が来ると、覚悟はできていた。 そのつもりだった。 でもそれは、もう少し先だと思っていた。 人の命は儚いと、明日の保証などないと誰よりも知っているはずなのに、自分の祖母に関しては何の根拠もなくそう思っていた。 いや、そう思いたかったのだ。 その日藍沢は葬儀場の安置室に泊まり、翌日の火葬まで蝋燭の番をしながら祖母のそばで過ごした。 病院には「通夜と葬儀は身内だけで」と伝えていたし、ほかに伝えるべき筋もなかったから、弔問客もない。 ただひとり。 自分の父である「あの人」以外は。 施設から連絡がいったのだろう。 父の誠次は翌日の朝訪れた。 「親族」と呼ぶにはまだ馴染まない、「弔問客」であるその人を安置室に通し、藍沢は部屋を出た。 今日じっくりと話す気力はなかったし、親子の別れに水をさしたくなかったからだった。 そうして、しばらくして部屋を出てきた誠次に「葬儀と火葬は自分だけでします。」と告げて、藍沢はひとりで祖母を見送った。 遺骨は初七日まで寺に預かってもらうことにした。 いや、そのまま四十九日までになるかもしれなかった。 日中誰もいない、時には一晩空けてしまう寂しい自分の部屋に、祖母の遺骨を置いておくのはしのびないと思ったから。 すべてを終えた２日目の夜。 するべきことがなくなると、藍沢は突然ひどい渇きを覚えた。 水ではない。アルコールが欲しい。 ふらりと外に出て、目についたバーに衝動的に入った。 本当は……今自分が本当に求めているものは、酒なんかじゃない。 それに気づきそうになっていたのに、気づかないふりをして、カウンターでひとり、ウイスキーのロックを何杯飲んだだろう。 少しずつ頭の中にもやがかって、重い足どりで店を出た時の記憶はおぼろげになっている。 夜の繁華街をひとり、藍沢は歩いていった。 きらびやかなネオン、酔って肩を組むサラリーマン、親密に身を寄せ合って歩く男女、道端にたむろする学生たち、しつこいキャッチセールス。 ありふれた夜の街の光景。 くらくらするような光と喧騒の中で、藍沢はなんともいえない奇妙な感覚に襲われた。 ただひとりの家族を失って、自分の生きる世界は変わってしまった。 何かが決定的に変わってしまったはずなのに、この目に映る風景は何ひとつ変わっていない。 ばあちゃん。 ばあちゃん。 ばあちゃん。 迷子になった子どものように心の中で繰り返しながら、どこに向かうともなく歩き続ける。 突然、肩に強い衝撃を感じた。 柄の悪い若い男がふたり、声を荒げて詰め寄ってきた。 すれ違いざまに藍沢の肩がぶつかったことが気に入らないらしかった。 相手をするのも億劫で、冷めた一瞥をくれて立ち去ろうとすると、乱暴に肩を掴まれる。 ──自分からぶつかっておいて、ごめんなさいもなしか？お兄さん。 ──綺麗な顔で馬鹿にしやがって。 相手もだいぶ酔っているようで、さらに食って掛かってくるその声を、藍沢はどこか遠くに聞いていた。 うるさい。どうでもいい。放っておいてくれ。 力まかせにその手を払いのけ、なおも追ってくる彼らを強引に振り切る。 胸倉を掴まれた瞬間も、頭の中は冷えきっていた。 防ごうと思えば防げたはずなのに、そうしなかった。 頬に鈍い衝撃が走り、揺らめいた視界が霞んで黄色く染まった。 いつのまにか雨が降っていた。 どうやってここまで歩いてきたのか、どうしてここに来てしまったのか、わからなかった。 冷たい水滴を含んで重くなった服と髪が不快に体にまとわりついている。 口の端が切れているのか、ひりつくような痛みと、かすかに血の味がした。 何年も前───救命にいた頃、飲み会の帰りに白石をタクシーで送ったことがあった。 その時一度だけ訪れた彼女の自宅の方角に、自然に足が向いていた。 道の向こう側に白石のマンションが見える。 灯りが点いている部屋と、点いていない部屋。 白石の部屋がどれなのかは知らない。 彼女は帰っているだろうか。 まだ残業しているのだろうか。 それとも今日は当直だろうか。 祖母の死を知っているだろうか。 心配しているだろうか。 祖母の死を真っ先に伝えなければと浮かんだ相手は、白石だった。 一緒に暮らせない罪悪感に悩んでいた時、心の底から湧き上がるように話を聞いてほしいと思った、あの時と同じくらい自然に彼女の顔が浮かんだ。 それでも連絡をしなかったのは、白石の声を聞いたら張りつめているものがすべて崩れてしまうような気がしたからだった。 祖母を送ることができるのは、この世に自分しかいない。 すべてが終わるまではしっかり気を保とうと必死だった。 でも。もう。 限界だった。 あの時、力になりたい、と心をこめて言ってくれた言葉が何よりも嬉しかった。 それに縋ってここに来てしまった。 白石。 白石。 白石。 いつのまにか心は彼女の名だけを呼んでいるのに、それでもなお、藍沢は迷っている。 連絡もなしに突然ずぶ濡れで目の前に現れて、どうしろというのか。 きっとまた困らせてしまう。 彼女にとって、自分はただの、他科の同期だ。 いくら彼女があの時申し出てくれたからといって、突然こんな夜遅くにプライベートな事情を持ち込んでいいような間柄ではない。 ひとりの中年女性が、訝しげにこちらを窺いながら足早に横を通り過ぎていった。 雨の中、傘もささずに道端に立ちすくんでいる男。 どう見ても不審者だろう。 このままここにいてはいけない。 踵を返し、雨の中に霞むマンションの窓の灯りに背を向けて、藍沢はまた当てもなく歩き出す。 数百メートルほど戻ったところに、薄暗い外灯がともった小さな公園があった。 内臓と脳に不快な酔いが残っている。そして、ひどく疲れていた。 小さな遊具の下に少しだけ雨を凌げそうな場所を見つけ、そこに入り込んで腰を下ろした。 ズボンの後ろのポケットに入れていたものが地面に当たり、こつりと硬い感触を伝えてくる。 取り出して、手のひらに乗せたスマートフォン。 やめておけ。見てはだめだ。 必死に自分に言い聞かせているのに、意志とは無関係に指は電話帳アプリの連絡先をひらき、迷わずにスクロールしていく。 『白石　恵』 なぜだか無性に懐かしいような、手を伸ばして縋りたくなるような、やさしいその三文字を目にした瞬間、藍沢は衝動的に発信ボタンに指をかけていた。 ◇◇◇ 『通話中』と表示されたスマートフォンを、白石はおそるおそる耳に近づけた。 「………もしもし。」 『…………』 電話の向こう、返事はない。 「………藍沢先生……？」 『…………』 「……藍沢先生？」 『…………』 返事がない代わりに、ザーーーと絶え間なく聞こえるノイズ。 雨音のようだった。 「藍沢先生？今どこにいるの？」 呼びかけながら受話音量を上げていくと、一瞬小さな息遣いが聞こえた気がした。 「藍沢先生！大丈夫？聞こえてるなら返事して？」 受話音量を最大まで上げて、必死に耳を澄ます。 ふと、雨音に混じって微かな音色が聞こえた。 この、音は。 咄嗟に壁の時計を見た。 21時57分。 きっとそうだ。いや間違いない。 勢いよく立ち上がった拍子に、ソファから落ちた鞄の中身が床に散らばったのを視界の端に見たけれど、そんなことには構わなかった。 シューズケースの中のレインブーツを出す間も惜しく、玄関に転がっていた白いサンダルだけ引っかけ、傘を掴んでマンションを飛び出す。 さっき電話の向こうの雨音に混じって遠くに聴こえたメロディに、心当たりがあった。 仕事帰りに時々立ち寄る近所のスーパーマーケットが、閉店５分前に流す「蛍の光」。 遅くまで残業して閉店ギリギリにお惣菜を買ったりすることもあったから、何度も聴いたことがあった。 彼はきっと近くに来ている。 ひとりで雨の中にいる。 サンダル履きの素足が水たまりを跳ね上げる感触に、苦しい記憶が白石の脳裏を過ぎった。 ───わたしが黒田先生の人生をめちゃめちゃにしたの！ あの時、雨の中を追ってきてくれた彼もこんな気持ちだったのだろうか。 雨に打たれてうずくまった自分に、同じように濡れながら、彼はただそばにいてくれた。 わたしはいま、彼に何をしてあげられるだろう…？ シャッターの降りかけたスーパーの前。 白石がたどり着いた時にはちょうど閉店の音楽が止み、照明が一段階落とされるところだった。 「藍沢先生、どこ…？」 口の中で呟いて辺りを見回しても、藍沢の姿はない。 あんまり慌てて飛び出してきたから、スマートフォンも家に置いてきてしまった。 ふと、数十メートル離れたところにある小さな公園が目に留まった。 吸い寄せられるように歩いていき、その入り口に立って、ぼんやりと淡い外灯の中、雨の向こう側に目を凝らす。 小さなアスレチックの下、少しだけ屋根のようになったところ。 そこに、俯いて座りこむ人影があった。 息継ぎをしすぎて苦しい喉に、湿った空気をいっぱいに吸い込み、放った。 「……藍沢先生！！」 ◇◇◇ 雨の帳の向こう側から自分の名を呼ぶ声がして、藍沢はゆっくりと目だけを向けた。 泥水を蹴散らして、白いサンダルが駆けてくる。 投げ捨てられる傘、目の前の水たまりに綺麗な水色のスカートがばしゃりと膝をついた。 「藍沢先生……」 うなだれた頭上に投げかけられる、求めていた声。 虚ろに顔を上げた、それと同時に頬に伝っていくのは、雨粒だけではない。 「……ばあちゃんが死んだ。」 「…うん、」と声を飲み込むように頷いた白石の悲痛な顔が、水の膜の向こう側にぼやけて見えた。 「ばあちゃんが、」 わなないた唇を噛みしめる。 白石は何も言わずに何度も何度も頷いて、膝立ちのまま、藍沢の頭を両腕の中に引き寄せた。 その先を言わせまいとするように。冷たい雨から庇うように。 藍沢の濡れて冷え切った頬に、白石の腕の内側の、やわらかくてなめらかな部分が触れる。 深く息をすると、雨と彼女の匂いが胸を満たす。 ただひたすらに目を閉じて、その細い腕のあたたかさに縋った。 ◇◇◇ 雨音とシャワーの音。 ふたつの水音が、白石の部屋に混ざり合って響いている。 憔悴した様子の藍沢を自宅に連れて帰り、とにかく温まってとバスルームに押し込んだ。 その間に白石も濡れた服を着替え、それからクローゼットの中を掘り起こす。 「…あった。」 目当てのものを見つけて、白石は胸を撫でおろした。 何年も前に、何かの景品として貰ったバスローブ。 一度も使うことなく、まだ箱に入ったままだ。 広げてみるとかなり大きいサイズで、これなら藍沢でも着られそうだと安堵する。 ずぶ濡れになってしまった彼の服は、しばらく乾きそうになかった。 ここにあるバスローブ着てね、と声をかけて脱衣所に置いておくと、しばらくして、素直にそれを身に着けて藍沢はバスルームから出てきた。 あたたかい湿気をまとって、少しだけ落ち着いた表情になった顔をみて、白石はほっとした。 「………すまない。」 叱られた子どものように目を伏せて、ぽつりと言ったまま藍沢はその場に立ち尽くす。 白石は静かに首を横に振り、その手をひいてソファに座らせた。 「どうしたの？ここ。」 唇の端に切れたような傷があるのが気になっていた。 「……殴られた。」 「…！？…誰に。」 「知らない男に。」 「どうして。」 「些細なことだ。」 藍沢はまた目を伏せる。 「……喧嘩、したの？」 「してない。」 「じゃあ、一方的に？」 「まあな。」 「……ひどい……。」 「きっかけを作ったのは俺だ。 防ぐことも、やり返すこともできたのかもしれないけど、しなかった。」 「………。」 「できないだろ。」 そう言って、藍沢は自分の両手をぼんやりと見つめる。 今日はもう、指を擦り合わせることさえ億劫なように見えた。 ああそうか。彼は手を守ったんだ。 大事な手を傷つけないために、自分に向けられた拳を防ぐことさえしなかった。 その手を無性にいたわりたくなって、白石がそっと指先を伸ばし触れようとすると、驚いたようにびくりと震えたから、すぐに引っ込めた。 「………ごめん。」 「………いや。」 「あの…、わたし、ここにいても平気？ もしひとりになりたければ、わたし、」 「いてほしい。」 遮って、藍沢は即答した。 「ここに、いてくれ。」 それは懇願だった。 置いてきぼりにされた子どもみたいな心許ない目が、白石を見ていた。 その顔が、会ったこともない幼い頃の藍沢にだぶって見えて。 白石はもう一度ゆっくりと手を差し伸べ、そっと藍沢の肩に触れた。 そのままやわらかく抱き寄せる。 ためらう間などなかった。 どうしても、そうしてあげたかった。 顔を伏せれば、藍沢の顔は見えない。 自分の表情も、見られることはない。 「同情なんかじゃないから。 わたしが、こうしたいだけだから……」 しばらくの沈黙ののち、緩慢な動作で藍沢の首が俯き、とん、と小さな振動ともに、白石の肩に彼の額が乗せられた。 疲れ果てた吐息が長く長く吐き出され、白石の部屋着のカットソーをぬくもらせる。 そのまま何も言わずに、長い間ふたりは身を寄せ合っていた。 白石は静かに藍沢の肩をさすり続けた。 ひとりじゃない。そばにいるよ。 声には出せない想いがすこしでも、伝わるようにと願いながら。 どのくらいたった頃か、触れている藍沢の体がほわりとあたたまってきたことに、白石は気がついた。 こんなかたちで人肌に触れることには慣れていないけれど、なんとなくわかる。 これは体が眠を求めている時特有のあたたかさだろう。 「眠い…？」 尋ねてみると、かすかに頷いたのがわかったので、白石はそのまま藍沢を導いてソファにその体を横たえた。 厚手のブランケットを持ってきて、肩からすっぽりと覆うように掛けてやる。 その端に顔を埋めた藍沢の、何を映しているのかもわからない、もう何も考えていないようなうつろな目。 「眠っていいよ。」 ソファの足元の床に腰を下ろし、白石はその傍に寄り添った。 「……ここにいるから。」 宥めるようにささやくと、藍沢はそのままゆっくりと目を閉じた。 表情のない無防備なその顔を、白石はただ静かに見つめ続けた。 翌朝。 スマートフォンのアラームが鳴り、リビングで白石は目をさました。 体のあちこちが凝って痛かった。 床に座ってソファに身を預けたまま、いつのまにか眠ってしまっていたようだった。 肩にしっかりとブランケットが掛けられており、部屋に藍沢の姿はもうなかった。 いつのまにか外の雨は止んでいる。 バスローブは綺麗に畳まれてソファの上に置かれ、玄関のドアは施錠されていた。 シューズケースの上に置いてあった鍵を使ったのだろう、それが郵便受けに落とされていた。 テーブルの上のメモ用紙に残された走り書き。 それは久々に目にする彼の筆跡だった。 悪かった。ありがとう。 藍沢 それきり、藍沢と特別なやりとりをしたことはない。 白石から連絡するのは憚られ、その後彼が何か言ってくるかとすこしだけ気にしていたが、とりたてて連絡はなかった。 病院で顔を合わせてもプライベートな話などしなかった。 だから白石は今まで通り、脳外科の同期としてコンサルを依頼し、藍沢もまた従来通りそれに応えてくれた。 彼は元来強いひとだ。 白石は思う。 一晩で弱い気持ちを出し切り、それから少しずつ気持ちに整理をつけて前を向いたのだろう。 あの日のことは、なかったことにしたいのかもしれない。 それでもあの夜、自分が寄り添えたことが少しでも役に立てたのなら、それでじゅうぶんだと思った。 二年ののちに藍沢が救命に戻り、過ごす距離が昔のように近くなってからも、それは変わらなかった。 出会った頃と変わらない野心は持ち合わせたまま、誰かのために医者でありたいと願うようになった彼は、今まで以上に白石の憧れであり、心底信頼できる自慢の同期だった。 トロントに行って、さらに腕を磨いて、確実に名医への道を歩んでいく。 それを心から応援したいと思って、つよく藍沢の背中を押した。 それでも。 白石は憶えている。 あの夜。 ソファで目を閉じた藍沢の呼吸が穏やかであたたかな寝息に変わってからも、白石は長い間、その寝顔を見つめていた。 閉ざされた瞼、そこに降りかかる前髪に少年の面影をやどし、綺麗な顔の唇の端に刻まれた小さな傷は、白石の胸にも鈍い痛みをもたらした。 「……ひとりじゃないよ。」 思わず、口をついて言葉がこぼれ落ちた。 涙が出そうだった。 「……家族になるよ。」 聞こえているはずのない寝顔に、そう言った。 「わたしが、家族になる。」 告白とか交際とかプロポーズとか、そんな段階をなにもかも飛び越えて。 藍沢にも選ぶ権利があるとか、そんなことお構いなしで。 同情でも気の迷いでもなく、そうなりたいとただ一心に、白石は願った。 胸にうずめておいた種が芽吹くような物狂おしさの中で、そっと手を伸ばして彼の頬に触れたあの夜を、忘れることはないだろう。 [newpage] 暗闇で、背後に火花が散ったのがわかった。 金属の衝撃音と、叩きつけるような水音。 白石が振り返った時、後ろを走っていたはずの藍沢の姿は消えていた。 無我夢中で水の中から引き上げた藍沢の、濡れた髪、濡れた身体。 倒錯と焦燥の中に既視感が過ぎり、息が上がって視界がぐらぐらと揺れる。 二年前、雨の中で抱き寄せた時の感触はそのままに、藍沢はぴくりとも動かない。 必死で名前を呼び、必死で処置を施した。 横たわる藍沢の寝顔を見たのは、二年前のあの日以来だった。 HCUで目をさまさない藍沢のベッドサイドに座り、白石はただじっと動けずにいた。 医師としてできることはすべてやり尽くしている。 それ以外にできることは、こうしてそばに寄り添うことだけだった。 それは、面会に来る家族もいない彼のためではない。 できる限り彼のそばを離れたくない、自分のためにほかならない。 藍沢に対して何かしてあげたいという気持ちはいつも、彼のため、を通り越して何よりも、自分のためだった。 彼以外の誰に対しても、こんな気持ちは抱いたことがない。 自分がそうしたいからする。 そう、あの夜もそうだった。 窓の外は、グラデーションが綺麗な夕焼けだった。 昨夜の当直を終えて勤務は朝までだったのに、どうしてもここを離れがたくて、なにかと理由を見つけてスタッフステーションとHCUを行き来しているうちに、夕方になってしまっていた。 この夕焼けの色を見せてあげることができたら。そう思う。 彼はいまどこにいるのだろう。 真っ暗な闇の中をひとりで彷徨って、どんなに心細いことだろう。 二年前、公園の暗闇に座り込んでいた藍沢の姿を思い出す。 ここにいてくれ、と絞り出すように懇願した彼の弱さも。 「……大丈夫。ここにいるよ。」 ちいさく、それでも力を込めて囁いた。 「わたしが、あなたの家族に……」 あの夜と同じ言葉を紡ぎかけて、唇を噛む。 あの時も、今も。 この何よりも素直で切実な気持ちを、なぜ寝顔にしか伝えられないのだろう。 藍沢の脱力しきった重い手をとりあげてみた。 あたたかかった。 じわりと目の奥にこみ上げてきたものを堰き止めようと、その手に眉間を押しつけた。 泣かない。泣いちゃだめ。 わたしはここで、彼を導く。 彼が戻ってくるための、道標になる。 必死に自分に言い聞かせ、涙を喉から飲み下す。 せめてぬくもりが届くようにと、藍沢の手を包み込んであたためながら、もう一度その顔を覗き込んだ。 眠っている彼の顔は、子どもに戻ったようだと白石は思う。 すなおで無防備で、どこかあどけない。守ってあげたくなる。 普段の彼を形容する言葉とは正反対のものばかり。 きっと藍沢の母も、祖母の絹江も、こうして幼い彼の寝顔を眺めていたことがあったのだろう。 どんなに愛おしく思ったことだろう。 ゆっくりと身体を窓に向け、藍沢の方に体を傾けてベッドの柵にもたれた。 ふと思い出した歌を、ぼんやりと口ずさんでみる。 　ゆうやーけこやけーの　あかとーんーぼ… 　おわれーてみたのーはー　いつのーひーか… 動揺を歌うなんて、子どもの頃以来だろうか。 胸の奥から染み出してくる想いのままに歌っていると、不思議と心は落ち着いてくる。 　じゅうごーでねえやーは　よめにーゆーきー… しかし３番の途中で、急に歌詞の続きがわからなくなった。 昔は知っていたはずのに、記憶にぽっかりと穴が開いたように思い出せない。 「……続き、なんだっけ。」 失うなどとは思いもよらなかったものが、するりと自分の手のなかから滑り落ちていくような不安と喪失感。 それは、いま目の前にある現実と重なるように思える。 ゆっくりと藍沢に向き直った。 「ねえ。意外と、藍沢先生は知ってるんじゃない？ 子どもの頃、絹江さんが歌ってくれたんじゃない……？」 願うように呼びかけた。 遠ざかっていきそうなものを、どうしても繋ぎとめたかった。 「知ってるでしょ。 目、さまして……、教えてよ……」 ────カシャン。 背後で物音がして振り返ると、雪村が立っていた。 「……雪村さん。」 「……あ、……ごめんなさい……」 狼狽えたように目を泳がせる雪村に、白石も気まずさをおぼえて目を伏せる。 「恥ずかしいところ見られちゃった。」 「……あの。『お里の便りも絶え果てた』です。」 「え？」 「歌の、続き。」 「……ああ。」 そうだ、そうだった。 不安に駆り立てていた要素がひとつ、胸のなかに解決したことは、白石をいくぶん安堵させた。 「よく知ってるわね。雪村さん。」 いつも通りの穏やかさで微笑むと、雪村もまた曖昧に微笑み返す。 そして、遠慮がちに尋ねてきた。 「まだ…帰らないんですか？少し、休まれた方が。」 「うん、そうね。ありがとう。」 暇さえあれば藍沢に付きっきりの自分を心配してくれているのだろう。 雪村の気遣いをありがたく思いながらも、白石は逆に気がかりだった。 「……雪村さん。こわかったでしょう。」 白石にとっては、雪村のことこそが心配だった。 自分のせいで藍沢がこんなことになったと、自身を責め続けているに違いない。 もしこのまま藍沢が目をさまさないようなことがあれば、雪村のフライトナース人生にかかわるのではないか、ということも。 「……………はい。今も。」 雪村は俯いたまま、藍沢の姿を直視することもできないようだった。 指導医の黒田に致命的な怪我を負わせた過去の自分を思い返せば、その気持ちは白石にも痛いほどわかる。 あの頃はただただ、突きつけられた現実が怖ろしくてどうしようもなかった。 でも、いまは違う。 いまは…… 「わたしもよ。今も怖くてしかたがないけど……」 白石は藍沢をまっすぐに見た。決して目を逸らさずに。 「わたしは、彼の命から逃げない。」 自分自身に、藍沢に、宣言するようにはっきりと言い切る。 言葉にしたとたん、決然とした誇りのようなものが胸の底から湧き上がってきた。 「藍沢先生が教えてくれた。…彼自身が、示してくれたの。 目の前の命から逃げないこと。 だからわたしは、藍沢先生の命から逃げない。」 藍沢はいつだって揺るぎなく強かった。 黒田の事故の時も、血に濡れた手を庇いながら泣いて立ち尽くす白石に代わってメスを握った。 そして、命を救うために指導医の腕を切断するという苦しみを自らの身に受けた。 彼は決して逃げなかった。 その藍沢がただ一度、無防備な弱さをみせた日のことも、白石は知っている。 喪失の悲しみと背負った孤独に揺れながら、それでもひとりで懸命に前を向いたのであろう藍沢の強さを、白石は何度も想い、そして愛した。 白石の言葉に圧倒されたように口をつぐんでしまった雪村に気がついて、白石はふふ、と力を抜いて笑う。 「……それはずっとそばに付き添うとか、そういう意味じゃないんだけどね。」 少しだけ自嘲気味に茶化して、ひとつ伸びをしてみせる。 「そうね、さすがにそろそろ帰ろうかな。」 そう言いつつも、白石は立ち上がらなかった。 雪村がそっと一礼して立ち去った後もそこから動けぬまま、あともう少しだけ、陽が沈んだら今度こそ帰ろうと心に決めて、もう一度ベッドの柵にもたれかかる。 静かな決意を胸に満たして、白石は暮れてゆく空を眺め続けた。 寄り添うふたりの影を映した窓の外、夕焼けの色彩はゆっくりと薄れ、空は仄暗く沈んでいった。 藍沢が目をさましたのは、その翌日のことだった。 「……うた、」 チューブがはずされて、まだ朦朧としている藍沢の、それが第一声だった。 「歌？」 「きいた、ような」 「うん？」 「ばあちゃん、なのか、それとも、」 「……うん。」 「あかとんぼ、の……」 「…………うん。」 まだ夢うつつなのだろう、気怠げに再び目を閉じた藍沢に、白石は泣き出しそうな顔で微笑んだ。 [newpage] 「心配かけたな。」 「……心配、どころじゃないわ。」 消灯まであと30分。 藍沢のベッドサイドの丸椅子に座り、白石はきりりと藍沢を睨んだ。 意識を取り戻した後の藍沢は驚くほどの回復力をみせ、数日前に個室に移されていた。 面会にくる家族はいなくても、彼の病室には救命や脳外科のスタッフが入れ替わり立ちかわり見舞いに訪れる。 あんなに不愛想で冷徹にもみえる彼が、どれほどみんなに慕われていたのか。 どれほど回復を望まれていたのか。 改めてそれを感じて微笑ましく思いつつ、白石にとってはすこしもどかしくもあった。 あれほど悲痛に彼を想い続け、目をさましたら今度こそちゃんと想いを伝えようと心に決めたのに、ゆっくり話をできるタイミングがない。 主治医として向き合う時には時間的な余裕もないし、周りに看護師もいたりする。 何よりプライベートな話を持ち出すのは不謹慎な気がしてしまう。 突っ込んだ話ができないまま、藍沢の退院が翌日に決まった夜。 もう今夜しか機会がないような気がして、白石はひとり藍沢の病室を訪れた。 今、ようやくふたりで向き合って話ができるのに、なぜだか優しく笑って彼の顔を見ることができない。 「心配どころじゃない？」 「そうよ。みんながどんな気持ちでいたと思ってるの。 わたしだけじゃない。緋山先生も藤川先生も冴島さんも、助けられた雪村さんも。みんな。」 「……ごめんな。」 藍沢らしくもない素直な謝罪に、白石は俯いて必死に首を振った。 けして彼が悪いわけではない。 謝ってほしいわけではないのに、向き合えば責めるような言葉が出てきてしまう。 本当に伝えたいことはもっと別の言葉なのに、喉が詰まったように切り出せないのがもどかしかった。 「………泣いたのか。」 「え？」 「俺が意識をなくしてから、目をさますまでの間。 おまえ、泣いたのか。」 低い声で、藍沢が実直な視線を投げかけてくる。 「………一度、だけ。」 「一度。」 「うん。」 一度だけ、白石は泣いた。 藍沢が運ばれた日の夜、医局で彼のネームプレートを手のひらに包んで静かに泣いた。 気を利かせてくれたのだろう、隣りでそっと席を立ってくれた藤川の優しさに、さらに涙があふれた。 藍沢はその返事をどう受け止めたのだろう。 表情からはわからなかった。 「わたし、強くなったのよ。」 すこし努力して、白石は微笑みをつくってみせる。 「一度だけ泣いたけど、あとは泣かないって決めた。 泣いたら逃げ出したくなるような気がして。 わたし、あなたの命から逃げたくなかった。」 それは願掛けのようなものでもあり、意地のようなものでもあった。 黒田先生の事故の時、泣いて自分を責めることしかできなかった。あの頃の自分とはもう違う。 示したかった。自分にも。藍沢にも。 「『命から逃げない』……か。」 「そうよ。あなたがわたしに教えてくれたの。」 ヘリポートで交わした会話、目の前に立つ同期を心から誇らしく思った気持ちを今も忘れない。 彼に憧れ、ひそかに慕い、何度も助けられながら、受け取ってきたものがたくさんあった。 「あのね。あなたが救命に戻ってくる前。 あの夏祭りの山車の現場で、藍沢先生言ってくれたでしょう。 『みんながいる、俺もいる、だから指揮官になれ。』って。」 「ああ。」 「地下鉄崩落事故の時も。 あの時あなたがわたしを引き留めて現場に行ってくれたから、わたしは最後まで自分の責任を果たせた。」 「……そうか。」 「わたしが強くなれる瞬間には、いつもあなたがいてくれた。 違う、もっともっと前から、そばにいない時だって、いつでも心の中に、……」 胸から喉に何かがこみ上げてくる苦しさに息を継いで、それでも白石は声を押し出す。 「あなたが、いてくれたから。」 まっすぐに藍沢を見た。 目に滲もうとするものを堪えると喉と鼻の奥が湿って、ぐす、と洟をすすった。 「……白石、」 「だから怖かった。今までで、いちばん。黒田先生の時よりもずっと。」 藍沢の声を遮って、白石は言い募る。 「歩いていけなくなると思った。あなたを失ったら、もう……」 とうとう言葉が続かなくなって、その代わりに目のふちから感情があふれそうになった。 泣かないって言ったばかりなのに。 とまれ。とまれ。 念じながらぎゅっと目をつむったその時、突然強く腕を引かれた。 ガタン！と衝撃音が白い壁にはね返り、白石の座っていた丸椅子が倒れて床に投げ出される。 ベッドの上に上半身を起こしたままの藍沢に攫うように引き寄せられて、白石は藍沢の腕の中にいた。 二年前の夜にそっと寄り添った体温が、今は決して離さないように、白石を抱きしめる。 白石の震える手がゆっくりと藍沢の肩にまわり、縋るように掴んだ。 「もう、泣け。」 言葉の意味とは正反対の、あやすようなやさしい声が白石の耳元に落ちてくる。 「よく頑張った。もう泣いていい。」 背中をしっかりと抱え込まれて、その強さとあたたかさが白石の最後の砦を崩した。 「………っふ、……～～～……」 必死に声を押さえつけるようにして、白石は藍沢の肩に顔を埋める。 熱い涙が布地に染み込んで、藍沢の肩を濡らしていった。 白石の背中をやさしくあたためる無骨な手。 いつか同じように彼の背を撫でた記憶が、いっそう白石の涙を溢れさせる。 しゃくりあげ、溜まっていた苦しみを吐き出すように零れてくる吐息を、藍沢はみずからの胸で受け止め続けた。 しばらくして、ひとしきり泣いた白石の呼吸が落ち着いてきた頃、藍沢は腕にゆるく彼女を囲ったまま静かに口を開いた。 「……考えてた。この数日間、ベッドの中でずっと。」 「なに、を？」 「おまえのことだ。俺にとっての。」 「わたし…？」 「黒田先生の事故の後、おまえが雨の中に飛び出した時。 介護のことで気持ちの整理がつかなかった時。 ばあちゃんが死んだ翌日のあの夜も。 夏祭りの現場から電話で呼ばれた時も。 目覚められない真っ暗な夢の中にいた時も…憶えてないが、きっと。 俺はただ、白石のそばに行きたいと思った。」 白石の、まだ涙を含んだままの瞼が瞬いて、しぱしぱとやわらかな音が立つ。 「ほかの誰にも抱いたことのない気持ちだった。 どうしておまえなのか、この気持ちをあらわす言葉はあるのか、ずっと考えてた。」 藍沢の肩に乗せた頭を少しだけ傾げるようにして、白石は藍沢の方に顔を向けた。 その答えを、続く言葉をじっと待っている。 「必死に探したけど、ひとつしか見つけられなかった。 ……こんな陳腐な言葉じゃとてもあらわしきれない。 それでも、ひとつしかなかった。」 息をつめて見つめてくる白石の、あまりにもひたむきすぎる視線に耐えかねて、藍沢は観念した。 「…………愛だった。」 吐息みたいに呟いた。 「全部、愛だった。白石。」 もう一度その言葉を噛みしめて、やはりそれ以外になかったと思った。 「ばあちゃん以外への愛情なんて知らないと思いこんでた。だから気づかなかった。 でも本当は、ずっと知ってたんだ。 おまえが教えてくれていた。 ……白石。おまえが。」 白石は答えない。身じろぎさえしない。 時を止めてしまったように反応をなくした彼女の肩に手を添え、藍沢は少し身体を離した。 頬がひどく濡れている。 「……泣くなよ。」 「さっきは泣けって言ったのに…？」 「……そうだったな。」 苦笑した藍沢を、涙が噴き出したまま、一心に見つめる瞳があった。 「藍沢先生。 わたし、あなたの家族になりたかった。ずっと。」 かぞく。 その言葉に、今度は藍沢が動けなくなる。 「あなたの生い立ちに同情したわけじゃない。 ただあなたを、幸せにしたかった。 当たり前にそばにいて、あなたを愛して幸せにできる権利を、わたしが、欲しかっただけなの。」 すん、と洟をすすって目を細めると、白石の頬にまた新しい涙の筋ができる。 透明な、その軌跡が美しかった。 「そんなもの、とっくにおまえのものだ。」 言っただろう、と藍沢は言う。 「俺が帰りたい場所は、おまえのところしかない。白石。」 「……ほんとに……？」 「ああ。」 「……じゃあ、早速その権利つかってもいい……？」 「ああ。」 「…あのね。明日、退院してからトロントに渡るまで。…わたしの家に帰ってきて。」 藍沢が目を見開く。そして、その意味を確かめるようにひとつ、ゆっくりと瞬いた。 「ささやかでいいの。 わたし、ただいまとお帰りを言い合って、あなたと一緒に同じごはんを食べて、同じポットのお湯で淹れたコーヒーを飲みたい。 誰より最後におやすみを伝えて、あなたのそばで眠って、誰より最初におはようを言いたいの。」 泣きながら笑う白石に、藍沢は瞠目したまま、それでもしっかりと頷いた。 白石もまた頷いて、ふたりで何度も頷き合って、微笑み合った。 家族になる。 自分には到底届かないと思い込んでいたものを、白石はふわりと掬い上げ目の前に差し出してくれた。 受け取ったそれは、藍沢の胸に隙間なくすとんと落ち着いた。 まっすぐに焦点を合わせると、彼女は急に気恥ずかしそうに眉を下げる。 「……そんなに見ないで。 泣きすぎてひどい顔なんだから。」 背けようとした顔の両側を、藍沢の両手が包んだ。 ひどい顔、と本人が言ったその顔を覗き込んで、目を合わせる。 いとおしい、真っ赤になった鼻のあたまに、ちょんと口づけた。 その小さな衝撃に目のふちから転がり落ちた最後の滴を親指の腹で丁寧に拭い、こつりと額を合わせる。 藍沢の手のなかで、ふわりとほころんだ頬を大切に引き寄せた。 そっと触れるだけの、つたないキスをした。 閉じた瞼をゆっくりと開けると、互いを映す瞳を覗き合いながら、もう一度引き合う。 数回ぎこちなく触れては離れ、それが深くなりかけた時。 白石の手が咄嗟に藍沢の肩を押し返した。 「…だめ。」 ふ、とひとつ息をついて、滲んだ瞳と染まった頬で咎めた白石に、藍沢は本気で眉間に皺を刻む。 「明日退院するまで、あなたは患者なの。そしてわたしは、あなたの主治医。」 照れ隠しなのか、諭すような口調で告げてくる。 職場であるこの場所で触れ合うことも、彼女にとっては不謹慎なのだろう。 なんてまじめな白石先生なのか。 藍沢は盛大に溜息をつき、白石の首筋を引き寄せていた手をゆるめた。 「じゃあ、明日からはなんだ。」 「明日からは……？そうね。何にでもなれるわ。」 「何にでも？」 「そう。」 藍沢先生は不思議なひとよね、微笑んで白石は言う。 「あなたは同僚だけど友人で、医者なのに今はわたしの患者で、兄みたいに頼れるのに弟みたいにほっとけなくて、お父さんみたいにあったかいのに我が子みたいにいとしくて、それから。」 「……それから？」 「それから……」 「明日からは恋人になって、夫にもなるんだろ。」 「……そうね。」 「全部だな。」 「そうよ。全部。」 とてもうつくしく誇らしげに、白石は言った。 わたしも全部、愛だったの。と。 長年かけてやっと腕のなかに閉じ込めた彼女。 それなのに、微笑んで愛を囁きながら、主治医だ患者だと拒む彼女。 こんな酷なことがあるだろうか。 いたたまれなくなって、藍沢は壁の時計を顎で示した。 「もうすぐ消灯時間だ。白石先生。」 「はい。失礼しました、藍沢さん。」 くすりと笑って藍沢から離れると、白石は立ち上がり、床に倒れていた丸椅子を丁寧にもとに戻してドアへと向かった。 そしてドアの前でふと立ち止まっておもむろに振り向き、もう一度だけ名残惜しそうに微笑んで主治医の顔を崩すと、たたた、と駆けもどってくる。 そのまま藍沢の降ろしていた前髪をするりと持ち上げ、額にそっと唇を押しつけた。 「おやすみ。ゆっくり寝てね。」 一瞬、とても満ち足りたようにも、到底足りていないようにも見えた瞳をすっと翻し、あっけにとられたままの藍沢を置き去りにする。 ぱたん、ドアの小さな響きを残して白石は去った。 「……………眠れるかよ。」 しんと静かになった病室の、閉じられたドアに向かって藍沢はぶっきらぼうに呟いてみる。 彼女のやわなぬくもりが残る額に手を当て、大きく息を吐き出した。 足りなかった。 それなのに、深く満たされていた。 彼女も同じ気持ちだったのだろう。 そうして思う。 こんなに何もすることなくゆっくり過ごせる夜は、これが最後かもしれないと。 退院して医師に戻ったら、また命の戦場で必死に闘い、さらには慣れない異国の地に身を置いて、疲れ切って眠る日々がやってくるのだ。 こんな風にひとり、甘くもどかしい気持ちに揺蕩いながら、眠れない夜を過ごしてみるのも悪くないと思う。 室内灯を消し、ベッドサイドの照明もすべて落とすと、病室は暗がりに沈んだ。 廊下のうす灯りが少しだけドアの隙間から差し込んで、それが床に細い道のように延びてきていた。 静かな夜だった。 もう二度と、底知れない暗闇のなかに彷徨うことはないだろう。 強い確信と、あたたかい腕に包み込まれたままのような安心感に身を委ね、藍沢はつい先ほど別れたばかりの白石を想う。 彼女はそろそろ帰り支度を始める頃だろうか。 去り際の不意打ちに何も言えないままだったが、おまえこそ早く帰って休めよ、と言ってやればよかったと思った。 どう頑張ってもまだ眠れそうにはないが、無理やり目を閉じてみれば、瞼の裏側に広がるのは、やわらかく穏やかに、心地よい闇。 明日には帰ることができる。 彼女の待つ場所に。 さっき伝えそびれた言葉を心のなかで呟きながら、深く深く息をした。 白石。 また、あした。 ありがとう。 おやすみ。

たくさんのあたたかい反応をいただきました前作「彼と彼女が帰る場所」<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9960936">novel/9960936</a></strong> と少しリンクしており、藍白のお話としてはこちらがメインストーリーです。<br />が、前作を読まれていなくても単品で読んでいただける内容です。<br /><br />時間軸は、二年前～劇場版の終わりまで。<br />前半は重い内容になっていますが、作者はハッピーエンドが大好きなので（笑）、その点は信じて読み進めていただければ嬉しく思います。<br />こんな風にふたりの心が通い合っていてほしい、という100％個人的な願望です。<br /><br />実はこの続きも少し書き進めてありますが、とりあえずここで区切って投稿は分けることにしました。<br />少し様子をみて、需要をいただけそうなら続編もそのうち上げてみたいと思います。<br />たぶんＲになります……（未満の方、ごめんなさい。）<br /><br />今回、今までと少し作風を変えてみました。<br />お気づきになる方は、なるかもしれませんが、慣れない手法で書きましたのでぎこちなさも多々あると思います。<br />あたたかい目で見ていただければ幸いです。<br /><br />******<br /><br />ブクマ、いいね、コメント、メッセージ等、いつもありがとうございます。<br />大変励みになっています。<br /><br />執筆優先にしており、タグ内すべての作品に目を通せておりません。<br />なにか不都合等ありましたら、教えていただけますと幸いです。

愛しい君が帰る場所

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10107311#1

　俺と優美子は付き合っている。 このことは誰にも言ってない。言えるわけがない。 優美子は容姿もよくカースト上位の人間。 それに比べて俺はカースト最下位の人間だ。 本来交わってはいけない二人なのだ。 もしも二人の交際を打ち明けてしまえば 優美子に何らかの悪影響が及ぶかも知れない。 それが怖い俺は絶対にこのことは誰にも言わない。 言えないのだ。と言っても小町にはバレている。 まぁ小町には口止めしてるから大丈夫だけどな 小町可愛いなぁ・・・と思いながら俺は 今の現状を見てどうしたもんかと考えている。 「ねぇ何でヒキオとあんたが一緒にいるん？」 「デートでs「買い出しだよ買い出し生徒会のな」 「むぅ〜」 　一色に生徒会に必要なものがあるから荷物持ちを 頼まれた俺はららぽーとに来てる。 優美子は今日は遊びに行くと言ってたが、 まさか偶然にも優美子たちに会うとは驚いた。 てか、一色さらっと嘘言うな。 優美子がものすごく不機嫌だ・・・。 「今日土曜日じゃん。休日に行く必要あるん？」 「私と先輩がどこで何してようが三浦先輩に 　関係あるんですか！」 「何？喧嘩売ってんの？？」 「優美子落ち着いて！！」 　ブチギレ寸前で由比ヶ浜が仲裁に入る。 ナイスだ！流石空気読める子！ お前が出来る子だとわかってた！！ 「ヒッキー先週も買い出し行ってなかった？？」 「はぁ？何それマジ？」 　由比ヶ浜何て事を言ってくれたんだ・・・ 空気読みなさいよ！！それが取り柄なんでしょ！？ 「いや、まぁ行った・・・。」 あ、優美子の目が赤くなってる、これは泣く！？ 「うぅ、も、もういいし！結衣と姫菜いこ！」 「う、うん。」 「は〜い。じゃあヒキタニくんまたねぇ〜」 「お、おう。」 優美子のやつ泣かなかったな・・・。 この場で関係がバレずに済んだのは良かったが、 由比ヶ浜たちは怪しんでただろうか・・・。 それにこの後の優美子は荒れるだろうな・・・。 すまないが由比ヶ浜と海老名さん頼んだ！！！ 「もう、何なんですかねー！急に突っかかって来て！ 　てか先輩、三浦さんとなんかあるんですか？？」 「なんかって何だよ。あるわけねーだろ。」 　一難去ってまた一難かよ。今日来なければ良かった。 「え〜何もなければわざわざ突っかかって 　来なくないですか〜？」 　くっこいつ無駄に鋭いな。まぁ今回、優美子の 行動は誰が見ても怪しいか。上手くやり過ごせるか？ 「無いもんは無いんだよ。そもそもボッチの俺は 　人と関わりを持たないまである。」 「んー確かにそうですね〜納得しました！」 「おい。」 　納得しちゃうのかよ。何だか八幡悲しい！ 「あ、でも〜私がいるのでぼっちじゃ無いですよ！ 　ふたりボッチですよ先輩！」 「・・・あざとい。」 「むぅ〜あざとく無いです〜！！」 「買い出し行こうぜ早く帰りたい。」 「雰囲気台無しです！！」 　早く帰って優美子に連絡取らなくては・・・ 　　＊　　＊　　＊　　＊ 　一色の買い出しが終わり家に帰宅した俺は 徐に携帯を取り出してLI○Eを開いた。 「きてないか。」 　優美子から連絡が入ってないか見たが 朝に返信のままの状態だった。 「やっぱ怒ってるよなぁ。」 　とりあえず『明日、会えるか？』と メッセージを送っといた。 しばらくたっても返信がこなかったが夜の22時に 返ってきた。俺はすぐさまLI○Eを開いた。 『バカ。知らない！』 　これはガチで怒ってるやつだ・・・ 余計な事を言わないようにしないとと思い、 なんて返信するか悩んでいる内に 俺は睡魔に負けて寝てしまった。

一応、続き書こうとは思ってます。<br />まぁ気分です笑<br />もっと書く力を身に付けたいですねぇ〜<br />文字数が圧倒的に少ない・・・。<br />八優増えろ〜

嫉妬

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10107398#1

注意書きですよ ・オリ主がメインです。 ・安定のキャラ崩壊！ ・というか、夢の定義とはいったい……。 ・なんでも許せる心が広い方のみお進みください。 [newpage] あの日以降、公安部からの接触はない。 接触はないが、しばらく監視はされていたようだ。 公安部の尾行能力は凄い。 しかし、私の愛犬バルトには通用しなかった。 散歩に行くたびに、周囲の人を気にする仕草をするバルトを不審に思い、私も注意して観察をしてみた。 すると、毎日見かける顔が数人いることがわかった。 ご近所さんでもなければ、犬仲間でもない。 しかも、印象がいつも違うとなれば、心当たりは公安部くらいしかない。 ここで私が気づいたとこがバレれば、またややこしくなると思って、見て見ぬふりをしたけれど、真っ先に気づいたバルトのことはちゃんと褒めておいた。 不審者に気づき、警戒をする。番犬として、実に優秀だ。 そもそも、バルトは私が訓練士の資格を取るために、警察犬と同等の訓練を受けているし、警察犬協会の試験にも合格している。 まぁ、私が警察官だから、嘱託の登録はしていないけどね。 ご近所のおじいちゃんが飼っている、ラブラドールレトリーバーのハナも合格させて、ようやく三等訓練士の資格を取ったところで、念願の警察犬係へ異動となったのだ。 先輩たちに扱かれながらも、自分自身の訓練もして２年。 二等訓練士への昇級の機会を得たというのに、あのときの怪我で流れたままだ。 あと、出動がかかるたびに、周囲をめっちゃくちゃ警戒するようになった。 いつ、どの現場であの人がいるかわからないからだ。 目暮班だと遭遇率がやたら高くて、見つかる前に高木を引き連れて捜査に出れればラッキーというくらい。 ダメだった場合はひたすら隠れていたりする。 アルフは遊びだと思っているのか、一緒にかくれんぼ状態だ。 それでも三回に一回割合で捕まるし、ポアロもいないと確認してからでないと行けなくなった。 あのカフェラテの前では、行かないという選択肢はない！ 「[[rb:朝陽 > あさひ]]さん、こんなところで何をやっているんですか？」 捜索をするふりをして隠れていたのを、あっさりと見つけられてしまった。 「いえ、ちょっと気になったので。でも、事件には関係ないようです」 貴方から隠れていましたと、素直に告げられたらどんなにいいか。 しかし、私の首が飛びかねないので黙っておく。 「そうでしたか。僕はてっきりかくれんぼでもしているのかと…」 あははと笑っているが、私が逃げ隠れしていたことをわかっていて言ってやがる。 「まさか。出動中ですよ？」 仕事中にそんなことするわけないだろうと言えば、そうですよねと爽やかな笑顔で返される。 「それより、この事件は[[rb:公安 > おたく]]の事案ではないのですが？」 なぜここにいるんだと遠回しに聞けば、毛利先生と一緒に事件に居合わせたと言う。 目暮警部が、また君かとぼやく気持ちがよくわかる。 本当に、またかって思うからだ。 「毛利先生と僕で、事件を解決してみせますから、あとで褒めてくださいね」 バチッとウインクまで飛ばされて、返す言葉もない。 あの呼び出し以降、明け透けに褒めて欲しいとか、撫でて欲しいと口にするようになった。 懐かれるのはやぶさかではないが、成人男性にこの対応は正しいのかと自問自答してしまう。 「ちゃんと事件が解決したらですよ？」 まぁ、幾度も難事件を解決している毛利探偵なら、すぐに解決してしまうかもしれないが…。 「はい」 そういえば、あれ以降、安室さんは始終笑顔だ。 たまたま二人っきりになったとしても、辛そうな顔はけしてしない。 公安の事案や潜入捜査で疲れているだろうに、顔色一つ変えない。 それが不安に感じるときがある。 野生の動物が弱っている姿を見せようとしないのは、外敵に狙われやすくなるからだ。 その一方で、家で飼われている犬も弱っている姿を見せようとしないときがある。 飼い主を、群れである家族を心配させまいと、弱っているにもかかわらず、普段通りに振る舞おうとする。 安室さんの姿が、そんな犬を思い出させた。 「無理、してないといいけど」 「ワンッ！」 結局、名探偵たちが事件を解決したらしい。 私たちは最後まで現場にいなかったので、あとから聞いた話だ。 この事件では、凶器が見つからないということで、警察犬係に出動要請が来た。 被害者は紐状のもので首を絞められ殺害された、絞殺だった。 刑事部の鑑識たちが見たことのない索条痕だと頭を抱えていたらしい。 索条痕にも、使用したものにより特徴があるため、ある程度予測はつけやすいのだが、今回は何が使われたのかがわからないと。 捜索の結果、自転車のワイヤーロックを凶器とみなした。 発見したのはもちろんアルフだ。 現場近くに放置されていた自転車につけられたワイヤーロックに反応したのだ。 軽く照合したところ、類似性が高いとして、ワイヤーロックは科捜研に送られた。 ワイヤーロックから被害者の皮膚など、なんらかの形跡が発見できれば凶器と断定できる。 これを発見できたので、あとは鑑識だけで事足りると、戻ることになったのだ。 その後、名探偵たちが証拠や状況から犯人を導き出したというわけだ。 そのため、安室さんとの約束は果たされていない。 まぁ、また今度、まとめて褒めてあげればいいかな。 [newpage] 「おーい、笹原。そろそろ出るぞ！」 今日も東都には犯罪が[[rb:蔓延 > はびこ]]っている。 先日から東都を賑わしているのが、連続児童誘拐事件だ。 すでに三人もの子供がさらわれている。 警察も厳戒態勢を敷き、あちらこちらで検問も実施されているが、今のところ有力な情報は得られていない。 我々警察犬係も、さらわれたと思しき現場に出て、追跡探査を行なっているが、成果が出ていない。 現場で長時間の活動は犬にはよくないので、３〜４時間程度で交代することになっている。 織部先輩と現場に向かうと、すでにルルとブラックは車で待機していた。 ２頭の訓練士たちと引き継ぎをするが、やはり捜査は難航しているようだ。 目撃情報がないため、犯行に使われた車の特定ができていない。 また、ルルとブラックは誘拐された子供の匂いを追うも、道路のところで動かなくなったらしい。 つまり、そこで匂いが途切れているのだ。 犯行手口は、公園内で子供に声をかけて、道路に止めていた車で連れ去ったという見立てだ。 誘拐された女の子の匂いを嗅がせて捜査に当たるが、アルフも同じく、道路に出たところで歩みを止めた。 「やっぱりダメか」 「他の現場も、全部公園付近で消息を絶っているんですよね？」 「あぁ。おそらく犯人は、公園で目星をつけてから犯行に及んでいる」 とりあえず、公園の周辺に何か痕跡が残っていないか調べることになった。 小学生低学年の児童が狙われているということもあり、登下校の時間は通常の倍以上の警察官が通学路を巡回している。 他にも、保護者が送り迎えしたり、集団で行動したりと、さまざまな対策が取られている。 いや、取られているはずなんだ。 「笹原、目暮警部に連絡するから、ちょっと待っててくれ」 「オーケー」 高木と組んで捜査に当たるも、アルフは一向に反応しなかった。 これはかなり困難が予想される。 おそらく、犯人は集団もしくは組織だって行っており、手慣れている様子も窺える。 道路の脇で今回の事件を考察していたら、聞き慣れた声がした。 「あ！犬のお巡りさん！」 はいはーい。犬のお巡りさんですよー。 って！？ 「歩美ちゃん！それにコナン君も！？」 おいおい。集団で下校させるんじゃなかったのか？ 「二人だけ？」 「うん。お姉さんたちとかえってたけど、遊びに行っちゃった」 あたー。 高学年からしたら、下の子の面倒なんて見てられないと、ほっぽり出して遊びにいったってこと？ …三件目の事件は、そこを狙われたのか！ 「今、誘拐事件が起きているのは知っているよね？」 「うん。となりのクラスの子がさらわれたって…」 あぁ。確か二件目の子が帝丹小学校の児童だったか。 「お巡りさんたちが一生懸命探しているけど、犯人も見つかっていないの。危ないから、私たちと一緒に帰ろうか」 さすがに、このまま帰すわけにはいかない。 顔見知りの、しかも何度か事件に遭遇したことのある子供なら、上も仕方ないと目こぼししてくれるさ。 「私たちって、お姉さん以外にも誰かいるの？」 「高木がいるよ。警察犬係もツーマンセルは厳守だから」 よっぽどのことがないかぎり、警察官は単独で行動したりしない。 「お仕事中なのにいいの？」 「お仕事は、危険な犯罪者に狙われている子供たちを守ること。つまり、歩美ちゃんやコナン君が危ない目に合わないよう、送っていくのもお仕事だよ」 そう言うと、歩美ちゃんは嬉しそうに笑った。 本当に、女の子は素直なのに、なんでコナン君は険しい顔をしているのかな？ ひとまず高木と合流しようとしたところで、不審な車が急接近してきた。 「危ないっ！」 子供たちの間に入ろうとするも、向こうの方が早かった。 スライドドアを開けたままで、近づいてきた車の中には、黒づくめの男たちがいた。 あっという間に、歩美ちゃんとコナン君を抱え、車に押し込んだ。 「止まれ！」 制止をかけるも、そんなことくらいでやめるような輩ではないだろう。 犯人の一人と目が合うと、腕がこちらにも伸びてきた。 反対側の手には拳銃があり、銃口はこちらに向いている。 …まさか、私までさらうつもり？ だが、逆にチャンスかもしれない。 バレないように、アルフのリードを離す。 アルフは警戒して唸り声を上げているが、私が犯人に引っ張られたタイミングで待てをかける。 「待て！待て！」 これで、アルフは飛びかかることもない。 ぐいぐいと強い力で車の中に押しやられると、走りながらドアが締まった。 犯人の一人に体をまさぐられ、無線機を取られた。 「持っているものはこれだけか？」 私はただ一度だけ頷く。 まぁ、他に持っているものと言えば、アルフのおもちゃのボールと[[rb:白手 > はくて]]、ビニールくらいだ。 犯人は三人。運転手と拳銃を持った男と、子供たちを取り押さえている男だ。 「ったく婦警なんてさらってどうすんだよ」 「こいつがあれば、警察の動きが丸わかりだろ」 狙いは私というより、警察無線の方だったか。 私が携帯している無線は警視庁のもの。 今の警察無線はデジタル暗号化されており、普通の無線機で傍受することはできない。 一部地方の所轄や交番では、従来の無線が使われていることもあるらしいが。 だが、私がさらわれたことがわかれば、重要な情報を無線で流す、なんてことはしないだろう。 どこに連れていかれ、さらわれた子供たちは無事なのか、そちらの方が重要だ。 「つーわけで、少し大人しくしといてくれよ」 拳銃を散らつかせながら、もう一人の男が私を縛り、目隠しをする。 手を後ろにして腕を縛られ、足も動かないようガッチガチだ。 …この手際のよさ、慣れているな。 そのあと、コナン君と歩美ちゃんも同様に縛られたようだ。 車に乗せられていた時間は長かった。 下道を通り、検問を避けて遠回りをしていると思われる。 ようやく車が止まると、ドアの開く音がし、二の腕を引っ張られた。 ふらつきながら外に出れば、微かに潮の匂いがした。 「抱き上げるぞ」 そう声をかけられると、お腹に圧迫感と浮遊感で、肩に担ぎ上げられたのだとわかった。 乱暴に下されて、目隠しを取られると、薄暗い鉄製の箱ような場所だった。 おそらく、コンテナだろう。 開口部から差し込む光が眩しく、眉をひそめる。 「大人しくしておけよ」 隔離する場所がないのか、私だけでなく子供たちも一緒に入れられる。 「歩美ちゃん、コナン君、大丈夫？」 見たところ怪我はしていないようだ。 「うん、だいじょうぶ…」 さて、潮の匂いとコンテナということは、貨物船が停泊できる港。 移動距離を考えると、首都圏近郊の埠頭はほぼ候補に入るか…。 コンテナが閉められると真っ暗になり、側にいる二人の姿もわからないくらいだ。 そんな中、カチリと金属音がして、明かり灯った。 その腕時計、そんな強力なライトがついているの？ 防災グッズなのか？ 「歩美、俺の探偵バッジを外せるか？」 「探偵バッジ？」 そういえば、歩美ちゃんもコナン君も、お揃いのバッジをしている。 「トランシーバーとＧＰＳになっているバッジなんだ」 ちょっと待て。 なんでそんな恐ろしく犯罪臭のするものを子供が持っているんだ？ 防犯？防犯の範囲越えてない？ しかし、コンテナの中では無線もＧＰＳも受信できない。 「コナン君、そのバッジのこと、誰か刑事が知っていたりする？」 「え？…うん、高木刑事や佐藤刑事は知っているはずだよ」 高木たちがバッジの存在を思い出していればワンチャンある。 だけど、そのチャンスは作りださなければならない。 「コナン君、足出して」 「足？」 「なんとか足のロープだけでも外すから、次に犯人が来たときに走って逃げて」 縛られている状態だが、わずかでも時間稼ぎはできる。 正直、歩美ちゃんよりも状況判断ができそうなコナン君の方が適任だと思っている。 「コンテナの中だと、無線もＧＰＳも無理なの。だから、建物の外に出る必要がある」 できれば二人とも逃してあげたいけど、コナン君が歩美ちゃんに構うと逃げ切れないおそれもある。 それに、目的である子供を分散させた方が、追っ手の数も減るだろう。 「それじゃっ…」 「歩美ちゃんは私が守りきるから。コナン君なら、できるよね？」 負けず嫌いな性格を利用して、コナン君を焚きつける。 「…わかった。僕が必ず助けを呼ぶからっ！」 [newpage] side：高木 目暮警部へ連絡を入れていたとき、笹原の大きな声が聞こえた。 「危ないっ！」 慌てて笹原の方へ向かうと、笹原が車の中に押し込まれているところだった。 とっさに駆け寄ろうとしたら、待てと制止がかかる。 そのおかげで、思考が戻ってきた。 笹原なら、自力でどうにかすることもできるし、警察犬を[[rb:嗾 > けし]]かけることもできるのに、それをやらない理由があるんだと。 車の特徴とナンバーを覚え、すぐに応援を呼んだ。 笹原が連れていた警察犬アルフ号は、笹原を連れ去った車をじっと見つめていた。 「笹原巡査部長が連れされたというのは本当か？」 目暮班の刑事たちも現場に合流して、あの場所から動こうとしないアルフ号を見て表情を陰らせた。 「はい。ちょうど目暮警部に連絡を入れていたときに、笹原巡査部長が大声を出したので異常に気づきました」 「で、高木君は彼女を助けようとは思わなんかったのか？」 「それなんですが、笹原巡査部長の方から待てと言われまして…。彼女の実力とアルフ号が側にいたことから、反撃も可能だったのにやらなかった理由があると思いまして…」 目暮警部の批難めいた視線の他に、殺気のようなものを感じた。 「ひょっとしたら、子供がいたのかもしれませんね。だから、笹原さんは抵抗せずに、あえてさらわれたとしたら…」 安室さんがそう言うと、目暮警部は現場周辺の聞き込みと防犯カメラのチェックを指示した。 「彼女の性格を考えると、その可能性が高いと思います」 すると、先ほどの殺気のようなものが再び襲ってきた。 すかさず周囲を見回しても何もない…。 「さすが同期ですね。笹原さんのことをよくご存じで」 「…えぇ。警察学校のときも、緊急時に無茶をするのが笹原でしたからね」 普段は口煩いというか、心配性なところがあるのに、緊急事態に真っ先に飛び込んでいくのは笹原だった。 仲のいい同期の間でも、所属部署によってはあいつが真っ先に殉職しそうだと話題に上がるほどだ。 結局、警察犬係になって胸を撫で下ろした同期は多い。 「しかし、誘拐されたとなると、無線は取り上げられているだろうな。なんとか、連絡手段があればいいのだが…」 「アルフに笹原さんを追わせることってできませんかね？」 「ふむ。どうだね、織部君。できそうかね？」 笹原と一緒に出動していた織部さんに聞くと、車で移動していたら難しいだろうということだった。 「ですが、やってみないとわからないですよね」 場を和ませようとしているのか、安室さんがニッコリと笑う。 そして、アルフ号に近づき言った。 「アルフ、君の相棒を探して欲しい」 するとアルフ号は言葉を理解しているかのようにワンッと一鳴きすると走り出した。 「行けるところまで、行きましょう！」 安室さんがアルフ号のあとを追う。 「ちょっ！待て！」 織部さんも慌ててアルフ号を追う。 「私がっ！！」 民間人と警察犬係だけではダメだと、俺も目暮警部に声をかけてからあとを追った。 アルフ号は迷うことなく道を走り続ける。 安室さんはそれに遅れることなくついていっているが、それを見て織部さんがぼやいた。 「犬の脚についていけるなんて、どんな体力してんだ、あいつ…」 そういう織部さんは、もう息が乱れていた。 「無理はしないでください」 「…後輩が頑張って、んのに…俺が頑張らなくて、どーする！」 あぁ。笹原の奴も、いい先輩にあたったんだな。 なんだか、伊達さんと一緒にやっていた頃を思い出した。 しかし、アルフ号はスピードを落とすことなく走り、安室さんとともに見失った。 「くそっ」 「…一旦、戻りましょう。何か情報が入っているかもしれません」 そして、捜査本部に戻って伝えられたのは、誘拐された子供がコナン君と歩美ちゃんではないかということだった。 聞き込みの結果、コナン君と歩美ちゃんと一緒に下校していた高学年の子たちは、途中で別れて遊びにいってしまったらしい。 いくつかの防犯カメラにコナン君と歩美ちゃんが二人で歩いている姿が確認された。 しかし、二人とも家には帰っていないし、連絡もないままだ。 「あ……」 少年探偵団を名乗る子供たちが心配しているだろうなと思ったところで、あることを思い出した。 「どうしたの？」 佐藤さんに声をかけられて、思い出したことを告げる。 「いえ。コナン君たち、トランシーバー型のバッジを持っていませんでしたっけ？」 「あっ！」 佐藤さんも思い出したのか、すぐに動き出した。 「阿笠博士に協力を依頼しましょう！」 「ちょっ…佐藤さん！その前に目暮警部に報告をっ！」 どうも、俺の周りの女性は行動力がありすぎる。 目暮警部に報告したあと、阿笠博士のお宅を訪ねて、協力をお願いした。 コナン君たちとも交流の深い博士だ、もちろんじゃともと快諾してくれた。 しかし、トランシーバーにも応答がなく、ＧＰＳも反応がないらしい。 「おそらく、地下など遮断された場所におるのじゃろう」 「そのまま監視をお願いできますか？もし、犯人が移動すれば…」 「あぁ。反応があったらすぐに連絡するぞい」 こうして阿笠博士から協力を取りつけたが、決定的な情報を掴めずに焦りが募る。 コナン君、歩美ちゃん、無事でいてくれ！ …笹原、死ぬなよ！ [newpage] side：安室 朝陽さんが、連続児童誘拐犯にさらわれたと聞いて、感情を押し殺すのに苦労した。 犯人はこの手で締め上げたいし、今すぐにでも助けに向かいたい。 しかし、情報がまったくないまま動くのも不利だと頭ではわかっている。 正直、なんのための二人行動だと言いたい。 お互いがお互いを監視し、危険を減らすためのツーマンセルだろう！ 同期ということで、行動をともにすることが多い高木刑事にも怒りが湧いてくる。 それに、朝陽さんのことを理解しているという態度も気にくわない。 たったそれくらいのこと、彼女と関わった者ならばすぐにわかる。 お前だけではない！ どうにか犯人たちの足取りを掴もうとしているが、彼らは大事なことを忘れている。 この中で、一番彼女の性格を把握しているもののことを。 彼女の相棒である警察犬のアルフ号だ。 アルフに朝陽さんを追わせられないかと問えば、彼女の先輩である訓練士が無理だと言う。 しかし、彼女からいつも、アルフの能力が他の警察犬よりも高いと聞いていた。 朝陽さんがアルフを襲わせずにいた理由は、アルフならどうにか追跡できると思ったからでは？ 「アルフ、君の相棒を探して欲しい」 アルフの目を見てそう言えば、彼はそれを待っていたと言わんばかりに走り出した。 やはり、朝陽さんは凄いな。 アルフを追って走る。 朝陽さんの先輩と高木刑事も追ってきているようだが、追いつけそうにないな。 悪いが、彼らに構っている場合ではない。 まもなく日が暮れる。 アルフは時折耳を傾けて、僕がついてこれているかを確認しながらも、スピードを落とすことなく走っている。 迷うことなく道を走る様子に、行き先がわかっているようだった。 相棒は自分が助けるのだと、アルフの気持ちがわかる気がした。 だから、おそらく犯行に使われた車の臭いを覚えたのだろう。 アルフならそれができる気がする。 車は高速を使わずに、ずっと下道を通っているようだ。 しかし、ある埠頭付近でアルフが止まってしまった。 「アルフ？」 「クゥーン…」 耳を倒し、尻尾もだらんと力がない。 顔も困った表情をしていることがありありとわかる。 臭いがたどれなくなったようだ。 人間の僕でも、埠頭独特の複雑な臭いを感じることができるのだから、犬の嗅覚ならなおさらだろう。 だが、ここまで絞れれば、あとはなんとか…。 暗くなった方が、僕としては動きやすい。 しばらく、周囲を捜索していると、アルフが何かに反応した。 「どうした？」 耳をピクピクと動かし、人間には聞こえない音を聴いているようだった。 僕を見つめたあとに、音がした方と思われる方向に歩き出す。 「ワンッ！」 何かを確信したのか、突然リードを引っ張るように走り出した。 この先に何があるのか。 コンテナを曲がったところで、小さな衝撃があった。 「っ！？」 とっさに身構えると、覚えのある声が…。 「安室さんっ！」 「コナン君！」 [newpage] あとがき的なもの 誘拐された訓練士 安室氏とのかくれんぼに気を取られていたら、原作主人公の事件ほいほいに絡め取られてしまった。 アルフ、あとは頼んだよ！ うっかり誘拐された原作主人公 まさか誘拐されるとは思ってもいなかった。 いざとなれば、俺のキック力増強シューズが唸るぜ！って思ってたが、そんな暇なかった。 なぜか湧いて出たトリプルフェイス たまたま現場に遭遇した。 そう、たまたまだ。 オリ主が誘拐に巻き込まれたと聞いて、じっとしていられない。 高木刑事がオリ主のことを語っているのに嫉妬でギリィしてた。 アルフ！お前なら朝陽さんを見つけられるよな！ 今回も頑張ったアルフ号 相棒、またかくれんぼか？ お、今度は遠くにかくれるんだな？ すぐに見つけるよ！ 長くなったのでわけました！ まだ最後まで書きあがっていませんが、数日中にはあげられると思います。 最後まで作者の妄想にお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

このシリーズにたくさんのいいね、ブクマ、スタンプ、タグなど、ありがとうございます。<br />今回はオリ主が大ピンチです！

訓練士は巻き込まれる 前編

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私は人に会うと必ず選択肢が三つ見える、その隣にはハートや×印が書いてある。 幼い私はハートで数字の多い選択肢を選ぶのが正解だと思い常にハートで数字の多いものをそう選択してきた。 修羅場になった。彼女を一番愛してるのは俺だ、私だ…etc. そこで私はようやく気づいた、このハートは恋愛フラグだと。 それからは極力恋愛フラグを避けた。 選択肢にない台詞を言うようにしなるべく好感度の低い言葉を選んだ。 その度にその選択肢はちっと舌打ちをするようになった。 まぁ世の中そう上手くいかないよね。 マンションに帰ったらずっと選択肢が出続けていた。 外に行くハート100、室内に残る髑髏…そこで私は初めて髑髏マークを見た。 怖くなって外に飛び出してマンションの下が騒がしいことに気づいた。 何があったの？ふらふらしながら歩いてたら開けた場所に防護服？を着た警察らしき人がいた。 「嘘だろ、避難してなかったのか!?」 怖くてボロボロ泣き出す私にロン毛のお兄さんが大丈夫ですよと背中を撫でながら指示を出しながら皆で下まで避難した。 私達が建物から出た瞬間、マンションが爆発した。 「すみませんでした!俺が慢心してたらたらしてたから貴女は死ぬところでした…」 真っ青な顔で深々頭を下げるロン毛さんに私は泣きながら笑った。 「そんなことありません！助けていただいてありがとうございました。貴方も私も他の方々も無事で良かった。」 泣いてる私は気づかなかった。凄まじい量のハートをゲットし更に計算通りと選択肢に笑われていることに…。 それから誰かに追われてるであろうお兄さんを選択肢の策略で囲ったり爆弾の仕掛けられた観覧車に乗せられたり交通事故を防がされたりした。 そして今、私は最大のピンチに直面している。 フラりと入った喫茶店にはイケメンと美人な店員さんがいた…やはり選択肢が出ており全て無視し注文を終えいざ、運ばれてきた料理を食べようとしたら…フォークの上に！マークがでていた。 これ、あれやろ？イベントが始まる前のあれやろ？落ち着く為に水を飲もうと手を伸ばすとそこにも！がでている。 このイベントを逃がすつもりがないと？いいだろう受けてたつ!!! 私は水を飲みパスタを頬張った。うまっこのパスタめっちゃうま！ そんな私を見ていたのかイケメン店員さんがニコニコと笑いながら話しかけてきた。 やっぱり選択肢が出ている。 ・どこかでお会いしましたか？ ハート1000 ・バーボン？ 髑髏 ・その他全て 髑髏 アイェェェェェ!?何でおかしくない？選択肢おかしくない？なにそれずるじゃない!? DEAD OR LOVEなの何で？ 「あれ？…ど、どこかでお会いしましたか？」 「っ…い、いえ初めて会いましたよ。」 ピロロロロロロロンとハートが増える…ん？1000じゃないの？明らかに多いよね？バグだろ桁が多いぞ！もうっ冗談きついぜ！ 「僕は安室透と言います！」 「安室透？…“ｾﾞﾛ”じゃないの？」 ふと思い出した幼い頃いつも一緒にいた少年二人を思いだしこぼれた言葉に何故か凄まじい量のハートが増える。 ヒィィィィヤバいヤバいハートが止まらないんだけど溢れてるんだけど!?ゲージ突き破ってるよね？天元突破!?グレンラガンなの？ 「あ、あの安室さ「透でいいですよ」え？はい」 グイグイくるぜこの店員…とりあえず透さんがどっか行ってる間にサクッと食べよ。 「お姉さん！安室さんの彼女さん？」 「んー？違うよ！」 「本当に？でも僕、安室さんがあんな風になるの初めてみたよ」 強いていうなら多分この恋愛脳な世界のせいでバグが起きてるんだと思うよ！ 男の子にまで選択肢が出てる…え？まじかよショタコンかよ!?私もびっくりだよ！しかも選択肢が意味わからん。 ・そうなの？なんでかね？ △ ・私にはわからないかな！ △ ・その他全て 髑髏 もう嫌じゃ！とりあえず選択肢通りに曖昧に笑いながらそうなの？なんでかな？と言えば男の子はじっと観察するように私を見つめるので無視して食事を続けた。 お会計の時に透さんの連絡先を渡された…因みに連絡しないって選択肢に髑髏がついていたのでちゃんと連絡させてもらった。 「もしもし？ヒロか？…彼女見つけた。」 電話をきった安室は彼女からのメールに嬉しそうに目を細めた。 設定 主人公 名前は[[rb:赤井澪 >あかいみお]]べつに赤井秀一との血縁はこれっぽっちもない。 安室とは幼い頃にあっており見事に初恋を奪い取った。 容姿は普通に美人だが貧乳で中身が残念だし恋愛は選択肢のせいで出来ないと諦めている。 選択肢をフル活用するとベルモットやジンすらも落とせる！もしもこれがほんとの乙女ゲームなら温すぎてぶちギレるレベル。ただし選択肢を間違えると死にます。 安室 初恋をずっと引きずる青年。ちょっと？病んでる。 赤井が嫌いなのは彼女と同じ名字だからだよ！ あとがき え？つまらんって？すまん、ネタの神様に言っておくれ！

乙女ゲームのように現れる選択肢に悩まされる女性の素晴らしき生きざまを書きました。

世界が私の人生を全力で乙女ゲームにしようとしてくる

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はろー。元人間の細胞・現人間。組織でのコードネーム・カミカゼです。 現在の私は休暇を楽しむために、自然溢れる孤島を目指して船に乗っています。 職場では、私が個人で長距離移動をするのはあまり好ましくはないという事で、同僚も同行しています。 メンバーは私・バーボン・元キラーT細胞さん。 …もう一度復唱。 メンバーは私・バーボン・元キラーT細胞さん。 …はい。間違いではありません。 元キラーT細胞さんも、私と同じ職場に就職しました。 [newpage] 時は私と元キラーT細胞さんが偶然再会した日まで遡る…。 元キラーT細胞さんに、私が強制的に就職させられた職場について、心配掛けないようにやんわりと説明をしたら逆に心配させてしまい、すぐに辞めるようにと迫られていた。 あー、うー、と煮え切らない態度を取る私に 、元キラーT細胞さんは私の両肩に手をやり、ぐいっと顔を近づけた。 「いいか！昔は何やかんやで役割をきちんとする奴らばかりだったから、多少の言動があれでも共に過ごすことが出来たがな…！人間っつーのは色々と理屈に合わん事はするし、騙して使い捨てにする奴らもいるんだ…！自分で出来る範囲の自衛は必ずしろ‼︎怪しい奴には関わり合いになるな‼︎」 もの凄く真剣に私の身を案じてくれているので、ありがた迷惑ならぬ、ありがた困る。 あの職場に退職届けを出したら、この世からも退職させられそうだし、ぶっちゃけあの職場で働く私は『怪しい奴』の括りに入ってしまいそうだ。 何を言っても説得は無理っぽいので、私は自分の出来る事を実行する事にした。 元キラーT細胞さんの手をそっと外し、くるりと回れ右をする。 「ばいなら‼︎」 そして予備動作なしに全速力で走る。 「はっ⁉︎」 元キラーT細胞さんの困惑する声が背後から聞こえるが、それは無視だ‼︎ さあ！見るのだ‼︎健康の為に毎日ジョギングしている成果を‼︎ 「ま、待てやゴラァァァァ‼︎」 しかし過去に数多の細菌を殺してきたハンターは、凄まじい速度で追いかけてきた。 「ちょ⁉︎な、何なんですか⁉︎その速度⁉︎そのあからさまな筋肉量に見合っていないですよね⁉︎ドーピング⁉︎」 「薬なんざ頼るか‼︎日々のトレーニングの成果‼︎自前だ‼︎」 「嘘でしょ⁉︎」 丸太の様な筋肉ムキムキな腕をしている癖に、その重たい筋肉を苦にしていない…だと…⁉︎ 元キラーT細胞さんは本当に人間になったのか⁉︎ 筋肉戦車となった元キラーT細胞さん（仮）のスピードなら、すぐに追いつかれてしまうと焦る私の前に、キキッー！となんかカッコいい…所謂スポーツカーと云われる白い車がタイヤを甲高い音を立てて停まった。 「乗れ‼︎」 運転席から見知った人が叫ぶ声に従い、助手席に飛び込んだ。 私が乗ったと同時に車は凄まじい速度で発車し、元キラーT細胞さんの姿はあっという間に見えなくなった。 元キラーT細胞さんを完全に撒いて、車の速度が落ちて安定した走りになった頃合いに、私はシートベルトを着用し、運転席に顔を向ける。 「助かりました…。バーボン、ありがとうございます」 「いえ…偶然見かけたものですから…。何なんですかあの男…？」 バーボンは前を見て運転しながら眉間に皺を寄せる。 バーボンは『組織』で主に情報収集を担当している。『組織』の利益・不利益になる情報を度々上層部に渡しているらしい。 『組織』の幹部（私）を追いかけていた筋肉ムキムキ男の事は捨て置けないのだろう。 「昔の友人なんですが…私の就職先について心配掛けてしまって…」 「あなたまさか、一般人に『組織』の事を話したんですか？」 「まさか！違います‼︎」 バーボンは横目でギロッと睨みつけてきた。 『組織』は秘密厳守をモットーにしている。『組織』の事は口にしない事も私の仕事だ。仕事は大事です。 「心配掛けない為にもやんわりと説明したんですが…」 「因みになんと？」 バーボンの言葉に思わずションボリしてしまった。 何がいけなかったのだろう…？ 「好塩基球さんみたいな人がいる職場と…」 「あなたの説明の仕方が悪いです」 バーボンはキッパリと言い切った。 バーボンからダメ出しをくらい、さらに元キラーT細胞さんと連絡先を交換する事を忘れていたと気がついて、流石に落ち込んだ。 [newpage] 落ち込んでいても、仕事は来るのできちんと働く。 元キラーT細胞さんと再会・逃亡してから数日後、バーボンから出動要請がはいる。 何でも組織の下っ端と地元ヤクザの下っ端がイザコザを起こしそう。下っ端には借りがあるので、いざという時の為にも待機して欲しいとの事。 了解〜と廃工場近くで待機していると、何故かジンとウォッカがやってきた。 何故？と首を傾げれば、何でもヤクザの下っ端が組織の情報端末を持ち出しているらしく、その回収だとウォッカが言った。ジンは始終無言。 2人が施設に入ってしばらくすると、組織の下っ端から連絡が入る。 医療道具を片手に中に入れば、真っ先に目に入るのは血だらけの患者と、止血している連絡してきた組織の下っ端。 すぐに処置を開始し、診療所まで運ぶように指示を出したところで、周囲を確認した。 なんか派手な柄シャツにジャラジャラとゴツいアクセサリーをつけた、何時もより数倍柄が悪そうな元キラーT細胞さんと目が合った。 元キラーT細胞さんはパクパクと口を数回開け閉めし、震える指先を真っ直ぐジンさんに突きつけた。 「好塩基球みたいな奴ってこいつらかーー⁉︎」 「おい、どう言う説明した⁉︎つーか知り合いか⁉︎」 元キラーT細胞さんの叫びにウォッカさんが反応した。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 何でも元キラーT細胞さんは家庭環境からグレてしまったらしく、ヤクザの下っ端みたいな形で住み込みで働いていたらしい。 寮って…ヤクザなやつだったんですね…？ そして何やかんやで『組織』とかち合ってしまったそうだ。 元キラーT細胞さんは、私がヤベー組織に就職している事に予想していたように辞めるように迫った。 しかし過激派なジンさんの前で退職宣言する訳にはいかず、学費とかだしてくれたので辞める訳にはいかないんです〜と言い続けた。 辞めないから、ジンさん！懐に手を入れないで‼︎ 私が辞めるつもりがないと分かると、元キラーT細胞さんはギッと何か決心したような顔付きになる。 「なら！俺がその組織に入る！」 なんでさ？ [newpage] その後にすったもんだがあるのだが、元キラーT細胞さんは『組織』に就職した。 現在はコードネームを持たない下っ端として活動中。 今回の旅行は、ある意味テストなのだろう。 私はちらりとバーボンを見る。 「どうかしましたか？」 視線に気がついたバーボンは、にっこりと優しく微笑む。 ぱっと見優男なバーボンは、ムキムキな元キラーT細胞さんにかかれば瞬殺できそうだが、それは間違いだ。 バーボンはマクロファージさんのように、その容姿とは裏腹に強い。 健康診断で何気なく握力測定してもらい、思わず機械の故障を疑った。 何故この戦闘能力で戦闘要員ではないのか、組織の恐ろしさを実感した。 元キラーT細胞さんが私を連れて逃げようとした瞬間、組織は私達を見限るのだろう。 しかしそんな事は言えないので、やんわりと誤魔化す。 「いえ…やはりバ…安室さんは目立つので、私が用意した服に着替えてもらった方がいいのかと…」 「絶対に嫌です」 にっこりと全力で拒絶された。 何がいけないのだろう？ 「普通のTシャツですよ？島に行くなら下手にオシャレをするよりは目立ちませんし…」 「文字が気に入りません」 黒Tに、正面は『危険な男』背中には『俺に惚れると火傷するぜ』と書かれたバーボンにぴったりな文字Tなのだが…。 「…やはり…正面の文字が『イケメン』のほうが良かったですか…？」 「どんな文字でも着ません」 キッパリと断るバーボンの横で、元キラーT細胞さんが口出しする。 「いちいち文句言ってんじゃねーよ‼︎変装みたいなもんだろ‼︎」 そんな彼は正面は『名無しの権兵衛』背中には『見習い中』の文字だ。 因みに私は正面は『人間』背中には『リフレッシュ休暇中』の文字。 バーボンは遠い目をした。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ その後に着いた人魚で有名な島にて、放火と殺人未遂事件に遭遇した。 犯人の女3人組は拘束された。 酒に酔っていたとは言え、犯行は悪質。有能な弁護士がついたとしても、狭いコミュニティな島で生活はできないだろう。 被害者側も詳しくは聞けなかったが、年金不正受給等があったようだ。 だが此方側は様々な事情があったらしく、弁護士の腕次第でかなり減刑されるそうだ。 そんな先の事は気にせずに、私は自分の仕事…重度の火傷を負った患者を救うために、島民たちに指示を出していた。 [newpage] カミカゼ 組織に関して、記憶細胞さんに例えるか迷うが、やはり好塩基球さんだろうと思った。 名無しの権兵衛 元キラーT細胞。 彼がヤクザの下っ端になっていたのは任務のため。警察のマル暴の潜入捜査です。 成り行きで組織に入る事になり、上司に密かに報告したら公安に異動（警察官リストから削除）させられる。 現在はとにかく怪しまれないように、馴染め！と言われている。 後にコードネームを貰う…筈！ バーボンが警察庁所属とは知らない。 バーボン どこから計画していたか分からない。 バレるリスクを減らす為にも、自身が公安だと明かしていない。 信頼出来るようになれば、明かす予定。 組織イコール好塩基球発言に対して、好塩基球は未だに研究されている謎の細胞としり、一応納得した。でも他に例えられなかったのか？ あとがき お遊びアンケート設置しました。 お題・バーボンは文字Tシャツを着るべきだったか？

はたらく人間‼︎②

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「よっちゃん」 「何よ。ちゃんと今日はゴミ出し忘れなかったでしょ？」 ジト目で私を睨むリリーに、同じくジト目で睨み返しながらそう言ってみる。 リリーが言いたいのはそんなことじゃないっていうのはわかってるけど、誤魔化しを試みる(先週ゴミ出しを忘れて叱られたのは本当だけど) もちろんそんな誤魔化しは通用する訳もなく、リリーはジト目をさらにじっとりとさせながら口を開いた。 「ゴミ出しの話じゃありません。前に吸血してから今日でまる一ヶ月経つのよ？そろそろちゃんとしたご飯を食べなさい」 「だ、から！今はもう生き血吸ってるからそんなに渇望に苦しんでないって何度も言ってるじゃない！」 「ダメです。鞠莉さんが言ってたよ。吸血鬼だって毎日お腹が空くって。ただ、人間の負担にならないように、三日おきとか、長い人で一週間おきに吸血してるって」 「私はもっと耐えられるって何度も言ったじゃない！」 「今、耐えられるって言ったよね？やっぱり我慢してるんじゃない」 「うぐっ……！ず、ずるいわよ！ゆーどー尋問よ！」 「ずるくありません。強情っぱりなよっちゃんが悪いんです。というか、耐えるってするっと出てきちゃうくらいなんだから、やっぱりかなり我慢してるんでしょ」 つり目をさらに吊り上げて、リリーがずいっとにじり寄ってくる。 思わず一歩たじろいでしまう自分がちょっと情けない。 リリーは人間で、私は吸血鬼。 腕力も体力も寿命も、特殊な力(錠開けとかコウモリに変身とか地味な力だけど)とか、吸血鬼のほうが人間よりも強いのに、なんで私がたじろいでるのよ。 そうは思うけど、でも、リリー怒ると怖いんだもん。 逃避気味にそんなことを考えていたら、リリーが鼻先が触れ合うくらいぐっと顔を寄せてきてじとっと私を睨んだ。 「ちゃんとご飯食べない人には、冷蔵庫で冷やしてあるイチゴはあげません」 「ず、ずるい！イチゴを人質にするなんて卑怯よ！」 「イチゴが食べたいなら、ちゃんと吸血しなさい！」 「う、うぐぐ……！わかったわよ……」 ああもう、なんで昨日の買い物でリリーにイチゴをオネダリしちゃったかなぁ。 まさかこういうことに使われるなんて思ってなかった。 あんな美味しそうなイチゴを取り上げられるなんて、流石につらい。 それに……リリーの瞳を見ていればわかる。 本当に私のことを心配して言ってくれてることくらい。 一ヶ月間、吸血しなさいってやんわりとしか言わずにいてくれたのも、私の気持ちを尊重してくれてるからだってことも。 わかるからこそ、ここまで言われたら突っぱねることなんて出来ないんだ。 「ちゃんと飲むから、だから、イチゴは食べさせて」 「うん。ほら、おいで、よっちゃん」 観念してそう言うと、リリーはふわっと優しく笑って手を広げてくれる。 その中にふらりと倒れ込むように飛び込んで、ギュッとリリーの身体を抱きしめた。 ……細い身体よね、リリーって。 少し力を込めれば折れちゃいそうなくらい。 そんなことを思いながら、リリーが髪の毛を片側の肩にまとめて流してくれたことで晒された首筋を見つめる。 白くて細い首筋、その下には脈動する血管が確かにあるのだと思うと、喉の乾きにも似た吸血衝動が込み上げてくる。 それを抑え込みながら、その首筋に唇を寄せて、ぺろりと舌を這わせる。 「ん、っ……」 舌の感触にぞくっとしたのか、リリーが小さく息を漏らす。 その吐息にドキドキする気持ちが込み上げてきて、同時に自分が今からすることを思って憂鬱になる。 せめて少しでも痛くないようにと、麻酔と治癒効果のある唾液をリリーの首筋に舌で塗り付けてから、唾液を塗った場所にかぷりと噛み付いた。 そして、今までしまっておいた牙をリリーの首筋に突き立てる。 ずぷりと牙が肉を貫く感覚。 同時に、その傷から滲み出てくる血の香りにクラクラしてくる。 「ぁ、……」 リリーが押し殺したような声を漏らす。 あぁ、痛いのに声が出ないように我慢しているんだろうな。 そんなことを思いながら、今しがた牙で傷付けた部分から溢れてくる血を吸い上げてこくこくと飲み下していく。 生き血なんてリリーのしか飲んだことがない。 比較するとしたら、数十年前まで飲んでいた死体の血か、最近まで飲んでいた輸血パックの血の味くらいしか知らない。 だけど、それでもわかる。 リリーの血はほかのどんな血液よりも美味しい。 それだけは間違いない。 けれど、同時に薄い味だった。 それが意味することを考える度、あぁ、どうしてリリーを契約者にしてしまったのかと後悔ばかりが頭を過ぎる。 すきなひと、なのに。 大切にしたい人なのに、私はそんな人を餌とすることでしか生きられない。 血への渇望がおさまったところで、そっとリリーの首筋から口を離して、傷口を舐める。 じわじわと血を滲ませていた傷口から血が止まるのを確認して、リリーの首筋から顔を上げた。 「もういいの？」 そう言ったリリーの顔は、少し青ざめている。 そのことに罪悪感を覚えながら、うん、と答えれば、リリーはほっとしたような顔で笑った。 その笑顔が綺麗だったから、なんだか意味もなく泣きたくなった。 リリーとの出会いは、とある個人医院の廃棄予定の輸血パックを保管している倉庫でだった。 その個人医院の院長は、私の数少ない吸血鬼の知り合いである果南と親しいって果南から聞いてた。 だから、廃棄予定のものであれば輸血パックを盗んでも目を瞑ってくれるだろうって、そう言われて。 そうして、実際にその院長であるマリーこと小原鞠莉は、私が何度盗みに入ってもずっと見逃してくれていた。 一回なんて思いっきり盗んでるところに出くわしたのに、ニコッと微笑んで「私は何も見てないわ」なんて言って去って行ったし。 まぁ、そんなわけで油断してた。 まさか、そのことを気にした看護師に咎められるとは思ってなかった。 けれど、その看護師、リリーこと桜内梨子は、一生懸命事情を話したら許してくれて。 それどころか、流浪の生活をしていた私に住む場所を与えてくれて、さらにわざわざ盗みに入らなくてもいいようにと、輸血パックをこっそり持ち帰ってくれるようになった。 おかげで私は盗みという危険を犯す必要もなくなって、さらに住む場所まで手に入れて、話し相手まで得ることが出来た。 本当に、リリーには感謝したってしきれないんだ。 ずっと数少ない吸血鬼の知り合い(三人しかいない)以外とは誰とも関わりを持たず、一人であちこちを放浪してた。 かつてはそこらに転がってることもあった死体も、現代では全くなくなってしまったし、病院はセキュリティが厳しくて血を盗みに入るのも大変だった。 とにかく生きにくくて仕方なかったのに、リリーに出会ってからは本当に穏やかに過ごせるようになったんだ。 だから、本当に本当に感謝してて、この恩は絶対にいつか返すんだって、そう思ってたのに。 なのに、どうして私は、リリーに恋をしてしまったんだろう。 吸血鬼は厄介な生き物で、恋をしたら恋した相手の血液以外が毒になる。 だからと言ってまさか恩人の血液を寄越せなんて、言えるわけなかった。 ……今まで一度だって、生きてる人間が私に吸血を許してくれたことなんて、ない。 どんなに丁寧にお願いしても、少しだけだと言っても、悪魔だ魔物だと罵られて殺されそうになってばかりだった。 リリーはそんなことしないのかもしれないけど、でも、人間にとって血を吸われることが「相手を殺したくなるくらい嫌なこと」だっていうことは今までの経験で知っている。 そんなことをすきなひとに強要するなんて、したくなかった。 恩人に、恩ではなくとびっきりの仇を返すなんてあまりに最低でしょ。 もう万事休すだった。 だから、私はその時に生きることを諦めた。 まさかなんの恩も返せずに死ぬことになるなんて思ってなかったし、それだけは悔恨の極みってやつだったけど。 ただ、恩返しもできてないけど、最後はせめてリリーのそばにいたいって思った。 ワガママだけど、死ぬならリリーの傍で、って残り少ない時間を大切に過ごしてきたのに。 まさか、リリーが無理矢理私の契約者になるなんて、思ってなかった。 飢餓で死にかけていた私に血を与えて噛み付かせるなんて、そんな滅茶苦茶なことするなんて考えてなかった。 けれど、リリーはそうした。 その結果、私はリリーを契約者とすることを代償に命を繋いだ。 そう、私はリリーに命まで救われたんだ。 だというのに、私はリリーを餌にしている。 恩をとんでもない仇で返している。 後ろめたくないわけがなかった。 まして、リリーは私と違って、別に私に恋をしているわけじゃない。 私を大事に思ってくれているのは本当だろうけど、それは友人としてであって恋人じゃない。 それなのに、私はリリーの人生を縛ってしまった。 契約者という楔につないでしまったんだ。 「後ろめたい……」 「まだ気にしてるの？」 「気にするに決まってるじゃない！当たり前でしょ！？」 「本当に善子ちゃんは気にしいだねぇ」 「善子じゃなくてヨハネよ！」 苦笑いを浮かべながら、果南が腕を組んだまま肩を竦める。 一時は人間どころか私みたいな吸血鬼とすら断絶しようとしていたくせに、今や契約者と良好な関係を築いて断絶もやめているからって先人ぶってる友人に少しイラッとする。 果南の契約者、マリー。 小原医院の院長であり、果南の恋人でもあるひと。 色々拗らせて孤独を選んで、人知れず消えようとしていた果南を救った人。 そんな人と想いあって、過去を乗り越えて今穏やかに過ごしている果南は、何かと私を子ども扱い(というか妹扱い？)してくる。 まあ、実際頼りになる人ではあるんだけど、でも、今私が後ろめたく思っていることの遠因でもあるのだから困る。 「そもそも果南がマリーと恋人だったなんて、聞いてないわよ」 「え、いや、ほら、だって……恥ずかしい、じゃん……？」 「何頬染めてんのよ。いきなりシャイ発揮しないでよ」 「うー、だって、善子ちゃんとは長い付き合いだから、なんかこう、さ？」 「その事知ってたら、今頃こんなことになってないってのよ」 そう、知らなかったから油断してたんだ。 果南は、マリーを親しい人としか言わなかった。 契約者だとも、恋人だとも言ってなかった。 マリーが果南の契約者だなんて思ってなかった。 だから、マリーからリリーに契約者のことや吸血鬼の厄介な性質が伝わることなんてないって、そう思ってた。 だけど、マリーは果南の契約者で、恋人だった。 おかげでリリーに全てが伝わってしまって、結果としてこんな状況が生まれたんだ。 ……いやまぁ、マリーが契約者かどうかなんて、私がちゃんと注意して匂いを感じていれば分かったことかもしれないんだけどさ。 それはそれ。 果南が教えてくれていれば、私だってリリーを契約者にするなんてことにならなかったはずなんだ。 そう思いながらじとりと果南を睨むと、果南はまだ少し赤い顔のまま肩を竦めて、へにゃりと笑った。 「確かに、私がちゃんと言ってたら、梨子ちゃんは契約者にならなかったかもしれないね」 「そうよ。果南のせいよ」 「でも、それって、私がちゃんと言ってたら善子ちゃんは死んでたってことだよね」 「ッ……」 「それがわかってて、私が善子ちゃんに本当のこと言うと思う？」 まるで手のかかる妹を見るような目で私を見ながら、果南がそう言う。 その言葉に返す言葉が見つからなくて、押し黙る。 そんな私を見て、果南はかしかしと頭を掻きながら苦笑いをした。 「後ろめたい気持ちがわからないわけじゃないよ。私だって、鞠莉とのことは散々悩んだもん。これでいいのか、ってさ」 「果南……」 「それでも、なんとかそれを乗り越えた今は、これでよかったって思う。散々悩んでダイヤやルビィちゃんを巻き込んでたけどさ。だから……善子ちゃんにも、乗り越えて欲しいんだ」 「……でも、それって私の都合でリリーを振り回すってことじゃない」 「そうだね。そうかもしれない。でも、恋人も友達も、そういうものじゃないの？」 「え？」 「梨子ちゃんが善子ちゃんと同じ気持ちかどうかなんてのは、私にはわからないけどさ。でも、梨子ちゃんは善子ちゃんを大切に思ってるんだろうなってことはわかるよ。それって、少なくとも友達だとは思ってるってことだよね」 「たぶん、だけど……」 「友達ってさ、お互いに振り回し合いながら、お互いを知っていって、関係を深めるものなんじゃないかなって思う。そうやって少しずつ知っていけば、きっと乗り越えられると思うよ」 「……適当なことばっかり言うんだから」 穏やかに果南がそんな風に語る言葉に、気のない返事を返す。 果南が言わんとしていることはわかってる。 吸血鬼と人間でも、種族が共存はできるんじゃなかいかって、そういうこと。 それは、マリーと果南を見ていれば、ダイヤとルビィとずら丸を見ていれば、そうかもしれないって気持ちにもなる。 確かにマリーやずら丸は吸血鬼を受け入れられた、そういう人間がいるのだという事実が確かにある。 だけど、それがそのままリリーに適用できるのかって話だ。 リリーが契約者になった時、私は瀕死だった。 優しいリリーは、瀕死の吸血鬼が目の前にいたから咄嗟に助けただけかもしれない。 自分が血を与えなければ死んでしまうってわかっている吸血鬼が目の前にいるから、吸血を許してくれているだけかもしれない。 本当は……本当は嫌だと思っても、放置すれば死ぬとわかっていて拒否できるような性格じゃないんだ、リリーは。 そんなリリーに対して私は、自分の命を盾にたかっているだけかもしれない。 そう考えると、どうしたって罪悪感が拭えない。 ……何より、そうだと突きつけられることが怖い。 すきなひとに、だいすきなひとに、命を盾にされてるから嫌々吸血を許しているなんて言われたら、本当に立ち直れない。 なんならその場で首を掻っ切って死にたいくらいには辛い。 だから、知りたくない。 卑怯な考えかもしれない、いや、どう考えたって卑怯な考えだ。 だけど、でも……私は、リリーのそばにいたい。 そばにいられるなら、この後暗い気持ちに悩まされながらも、表面上だけでも平穏な日々が続くようにしたい。 ……リリーの本心なんて、知りたくない。 「……あー、本当に自分が嫌になるわ」 「人のこと言えないけど、善子ちゃんって本当に後ろ向きだよね」 「本当に人のこと言えないわね……」 「だから、そう言ったじゃん。それにしても、だよ」 私の考えていることがわかったのか、果南が苦笑いを浮かべる。 それにべぇっと舌を出して見せてから、私は大きな溜息を吐いた。 鬱々とした気持ちを抱えてリリーの家に帰ると、リリーが居なかった。 どうしたんだろう、いつもならもう帰ってる時間なのにとリビングのテーブルを見ると、置き手紙が置いてあった。 『今日は飲み会なので遅くなります。冷蔵庫にフルーツサンドが入っているので食べてね』 彼女らしい華奢で綺麗な字をぼんやり眺めて、深くため息をつく。 そういえば、今日はマリーと飲みに行くとか言ってたっけ。 となると、今日は一人で夜を過ごすことになるのか。 そんなことを考えながら、言われた通り冷蔵庫に入っていたフルーツサンドを取り出してリビングのテーブルに着く。 フルーツと生クリームやチョコレートたっぷりのサンドイッチ。 私の好みに合わせたもの。 こういう気遣いに嬉しくなるのは、やっぱり私がリリーを好きだからだろう。 すきなひとがこうして私の為に私の好物を作ってくれるんだから、嬉しくならないわけがない。 だけど、それと同じくらい罪悪感で気持ちが沈む。 こんなことをしてくれる相手を餌にした事。 それなのに、自分の命を盾に一緒にいようとすること。 そして……血が薄い体質のリリーから血液を奪うことでしか生きられないこと。 それが一気にのしかかっきて、どんよりとした気持ちになる。 たぶんだけど、リリーはほかの人間よりも血液が薄い。 だから、私が血液を奪えば体調が悪くなるのだと思う。 血液を奪った後、リリーはいつも青ざめた顔をしているから。 なんでもないみたいに笑ってくれるけど、でもきっと本当は辛いはずだ。 「……なんで私って吸血鬼なのかなぁ」 せめて人間なら、こんなこと悩まなくて良かったのに。 今まで自分が吸血鬼であることを恨めしく思ったことなんてなかったけど、最近は少し恨めしかった。 もちろん、私が人間だったらリリーに出会うことは無かったのだろう。 吸血鬼だからこそ、出会えた。 それがわかっていたとしても、人間だったらリリーから血を奪わずとも一緒にいられたのにと思ってしまう。 「あー、やめやめ！ジメジメし過ぎ！」 じめっとした思考を頭を振って追い払う。 せっかくリリーが美味しいサンドイッチ作ってくれたのに、こんなこと考えながら食べてたんじゃ美味しくなくなる。 そんなのもったいないじゃない。 そう考え直して、薄暗い考えを振り払ってサンドイッチを平らげる。 使った食器は手早く洗って水を切って、布巾で拭いて食器棚に片付ける。 それから、お風呂を掃除してお湯を張って命の洗濯をして、リリーが帰ってきた時に少しでも暖かいようにと浴槽の蓋をして。 それから、ぼんやりとテレビを見て時間を過ごした。 リリーがいないと、この家も広く感じる。 とはいえ、リリーの匂いがするものばかりに包まれているから寂しくないけれど。 一人で放浪していた時は、寂しさが私の友達だった。 数年に一度、果南やダイヤ、ルビィと会う以外は一人であちこちを転々としていたから。 それが、今はこうしてひと所で明日のことを心配せずに過ごせる。 リリーが帰ってくるのを待っていられる。 「幸せ、なのよね」 きっとそうなんだ。 たぶん私は今、人生で一番幸せなんだ。 それがリリーの犠牲の上に立っているとしても。 そんなことを考えていたらウトウトしてきて。 私は、ソファでクッションを抱えたまま、ウトウトと眠りの淵に落ちていった。 ガタガタガタ！ バタン！ ドカッ！ そんな激しい音が聞こえて、私はひっ、と声を上げながら飛び起きた。 なになになになに！？ 泥棒！？ 聞き慣れない大きな音に心臓がバクバクと跳ねる。 けど、もし泥棒なら追い払わないと。 ここはリリーの家なんだ、泥棒なんてお呼びじゃない。 そう思って恐る恐る玄関に行ってみると、そこに居たのは泥棒なんかじゃなかった。 「リリー！？ちょっと、どうしたのよ？」 玄関にリリーが転がっていた。 うそ、何があったの！？ そう思って駆け寄ってリリーを抱き起こすと、途端にぶわりと強烈な酒の臭いがしてクラっときた。 えっと……これはアレね。 飲み過ぎ。 「もう……ビックリさせないでよ……」 途端に身体から一気に緊張感が抜けて脱力する。 飲みすぎて玄関ですっ転んだだけで、具合が悪くて倒れたわけじゃなかったようだ。 それに少し安心しながら、飲み過ぎて気持ち悪いのかうーうー唸ってるリリーを抱き上げる。 靴は脱げて転がっていたけれど、あとでいいやとそのままにして寝室までリリーを運んでベッドに下ろす。 お酒に弱いリリーがここまで飲むなんて珍しいわね、なんて呑気に考えながら水でも取ってこようと身体を起こしかけた時だった。 にゅっとリリーの腕が伸びてきて、私の腕を引いた。 「きゃあ！？」 予想してなかった動きと、思いのほか強い力で引かれて盛大にバランスを崩してベッドに倒れ込む。 何事かと目を白黒させているうちに、リリーは私をベッドに仰向けに転がしてのっしと私の上に跨っていた。 私を上から見下ろすリリーの目が、お酒のせいもあるのだろうけど不穏に据わっている。 あからさまに全身から不機嫌を撒き散らしているリリーに、わけも分からずゴクリと唾を飲み込んだ。 なに、なに、なんでこんなご機嫌傾斜45度なの！？ 「よっちゃん、さぁ……なんで、そうなのかなぁ……」 「は、はい？」 若干パニックになっていたら、リリーが据わった目で私を見下ろしたまま、呂律の怪しい口調でそんなことを言った。 訳が分からなくて思わず聞き返す。 けれど、リリーは私の声なんか聞こえていないのか、胡乱な目で私を見下ろしたまま言葉を続けた。 「そりゃあ、わたひだってわるかったかもしれないけどぉ……。しゅきかどうかわかんないって、そう言っちゃったしぃ……」 「え、えぇ……」 「きゅーけつだって、わたひが言わなきゃ、しないしぃ……。けいやくひゃになってから、なんかきょりおかれてるしぃ……。いっつももうしわけなさそうなかおしてるしぃ……」 「あ、の……リリー……？」 「うるひゃあい！」 「はいっすいませんなんでもないです」 口を挟もうとしたら顔の横をばんばん叩かれながら怒られて、慌てて口を噤む。 完全に酔っ払いと化したリリーは、そんな私をじとぉっと睨むように見下ろして、盛大に口を尖らせている。 呂律が回ってないけど、なんとか何を言ってるかはわかるし、とにかく好きに話させようと決めてじっと黙っていると、リリーははぁーっと酒臭いため息をついてまた口を開いた。 「そりゃあ、さいしょはこいとかそういうかんじょうなのか、わかんなかったよぉ？だけどぉ、よっちゃんがだいじだったからぁ、けいやくしゃになったんだよぉ？」 「は、はい……」 「それなのにさぁ、よっちゃんはちゃんときゅーけつしてくれないしぃ、それでげんきなくなってるのにさぁ、きゅーけつしないって言うしぃ。わたひはぁ、よっちゃんがまた死にそうになったらどうしようってさぁ、しんぱいなのにぃ……」 「リ、リー……？」 「しんぱい、なんだよぉ……ぐすっ、ひっく……よっちゃんが、しんじゃったら、やだよぅ……」 不機嫌全開で怒っているかと思ったら、急に泣き出すリリーになんとも言えない気持ちになる。 ポロポロと涙が降ってくるのを呆然と見つめている。 「よっちゃんとぉ、いっしょにいたいからぁ……けいやくひゃに、なったのにぃ……これじゃあ、いみ、ないよぉ……」 「リリー……」 「ちゃんと、しゅきに、なったのにぃ……。もう、よっちゃんなしの、せいかつ、考えられないのにぃ……！よっちゃんの、ばかぁ……！」 そう言って、リリーは私の胸に顔を埋めてグスグスと本格的に泣き出してしまった。 それを呆然と感じながら、思う。 好きって……今、リリー、好きって言った？ 聞き間違えじゃ、ないよね。 呂律回ってなかったし、舌足らずの発音だったけど、ちゃんとそう言ってくれた、よね？ そう自覚した瞬間、胸がいっぱいになった。 胸がいっぱいになって、苦しくなって、ぽろぽろ、涙が零れてきた。 「りりー、わたしのこと、すき、なの？」 涙でかすれる声でそう聞いてみる。 すると、リリーはのそりと身体を起こして、涙でぐちゃぐちゃの顔を私に向けて、それでも優しい顔をして笑った。 「しゅき、じゃ、なきゃ……すきじゃ、なきゃ……いっしょにいたい、なんて、言わないよお……」 堪らなくなって、リリーの身体を抱き締めた。 潰しちゃわないように気をつけながら、でも強く、強く。 幸せで幸せで、胸が苦しかった。 涙が溢れて止まらなかった。 リリーが、私の事、好きだって言ってくれた。 好きだから、一緒にいたいって言ってくれた。 それで何かが変わるわけじゃない。 私がリリーの血を奪わなければ生きていけないことも、リリーが私の契約者であることも、なにも変わらない。 だけど、だけと救われた気持ちになったんだ。 想い合う、想いが通じ合っただけなのに、救われた気持ちになったんだ。 きっと、リリーは明日になれば今そう言ってくれたことを忘れてしまうだろう。 それでも良かった。 リリーが私を思ってくれていることがしれたことが、嬉しかった。 リリーが、私を突き放したりなんかしないんだって分かったことが、なによりも、なによりも嬉しかったんだ。 「鞠莉って本当にお節介だよね」 「だって、可愛いウチのナースが悩んでたら、力になってあげたくなっちゃうじゃない？」 「まあ、私も善子ちゃんに同じように思ってたから、わかるけどさ。それにしたって、あんなに飲ませることないでしょ？」 「ああでもしないと、梨子は言えないわよ。言ってもらうのを待ってる、乙女な子だもの」 「そういうものかぁ」 「そういうもの。明日は非番にしてあげてるし、大丈夫でしょう」 「抜け目ないなぁ」 そんな会話が夜の小原医院で繰り広げられていたなんて、私達は知る由もなかった。

以前投稿した「臆病なヴァンプ」の続きみたいなお話です。<br />酔っ払い梨子ちゃんは強引に色々進めて欲しい(*´ω｀*)

不機嫌なヒューマン

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† 　友人の死の原因を知った。 　あのビルの屋上をリマインドしては、新しい事実を手に入れるたびに様々な原因を考えていた。立っていられなくなるような原因の可能性は実際には、赤井がＮＯＣだと露呈した時には捉えていた。それから彼に憎悪を向け続けたのは予測への否定に過ぎない。それほどに予測した仮定への動揺が、頭から離れなかった。 　案の定、それが事実だった。 　事実を知って、足に全く力が入らなかった。本当に立っていられなかった。ひとりになって蹲って腹の中身を吐き出して、それでも足りずに胃液も吐いて、喉は傷んだ。その日はいくら目を閉じても眠れなかった。ただでさえ、もうずっと浅い眠りしかできないのに。 　生き残った降谷には、原因を知ったところでいつも通りに精神を切り詰めて命を削る仕事がある。ただ、その中には唯一、心がゆるんでしまう仮面での仕事もあった。しばらくはそこに行けないことだけが、ましだった。降谷の地と、ひとつの仮面だけに奔走しなければならない間は、緊張感で研ぎ澄まし続けるので、取り返しのつかない罪悪で己を振り返る時間もないだろう。 　こんな、誰にもどうにもできない自分だけの問題は、時間が解決するしかないもので、ある程度年齢を重ねてきた降谷は、何かを、誰かを、永久に失っては今までも、そうして生きてきた。 　ただ、降谷はたくさんの罪を負ってそれを受け止めては前へと進んできたが、さすがに、生まれてきてここまでの罪悪は、ない。恐らく組織を崩したところでなくなるそれでもない。 　のし掛かってくる罪で立っていられなくとも、今すぐに死んで償うよりはこれまで通り善悪を呑み込んで、降谷の為すべきを成すために、命懸けで生きるしかないのだ。 [chapter:遂に近しく致命的] 　安室透の心がゆるむ要因は、多大にひとりの女のせいだった。 　梓はいつも安室のすぐ近くで、平穏に生きている。そしてごく平凡に年上の後輩に恋心を持っていて、ごく普通にひた隠して接している。周囲を囲む人間の感情にアンテナを張らなければできない仕事なので、降谷は己へ向けられる思慕には恐らく敏感な方だ。 　思いを寄せられていると認識する以前から梓は、安室を、分厚く被るふたつの仮面への負担もなく思いやり甘やかしていた。それが恋心から来るものなのか生来の気質から来るものなのか、本人の善良さが目眩ましになって判断できないが、すでにどちらでもいいくらいには、実は落とされている。 　仕事で確実に落とさなければならない女ではないのに、安室の行動を邪魔しないその思慕に、ゆるむ心を寄りかからせていた。 　安室に隠れているバーボンもさらに奥に潜む降谷も、梓の言葉を躊躇いなく信じるようになって久しい。事象の全てを疑うことが仕事の仮面たちと本性なのに。 　レシートを利用してコナンから救助を求められた事件ではすでに、安室は梓の記憶を全く疑っていない。梓の記憶力は、己を平凡だと思い込んでいるにしては驚嘆に値する。敏いコナンは、しかし、その記憶力が発揮されるところにあまり遭遇していないようで、これに気づいているのは安室と、メモを取る余裕のない時に次々に様々なテーブルで言われても、はいはいと間違えないでオーダーを受けているところを見ているマスターくらいだ。そのマスターもすごい特技だなと言っているだけで、正確過ぎるという特異さに気づいてはいない。無理もない。梓の完璧な記憶力は瞬間的なもので、彼女が興味さえ持たなければ時間を経れば雑多な記憶と共にきちんと忘却されていくからだ。 　もちろん、秀でた能力だからと信頼しているのではなく、彼女自身が信じるに値する、というより疑う労力の方が無駄だと、こんな短い付き合いながら確立されてしまったからだ。何より安室が大事にしたい全てが集まっているような女であり、守るべき平和の象徴だと勝手に思っている。彼女が起こすどんな行動も、一番奥に潜ませている降谷までをも憩わせる。潜入捜査中にあくびをしたなんて、演技以外では過去にはない。ポアロではそれだけでなく居眠りまでしてしまった。それほどまでに、梓のせいで常に維持していたはずの、極限の緊張状態がゆるまされていた。 　女に常に癒されて優しくされれば、大概の男は単純なもので、落ちる。それが嫌いではない女なら、ころりと崖から落ちるような勢いだ。厳命を携えて極限で立ち回っている降谷だって、例外にはならない。と、自覚した。 　そう思えばますます容姿も行動も可愛く思えてくる。ただし、それは、それだ。 　燻る衝動を実行したらどれだけの負担になるかの想像力は備わっているし、いずれ消える男が触っていい女ではない。 　冷静に、厳格に、降谷はそう判断していた。 　だから、唯、許されるだけの、憩いをと。 　非情な事実を知って以来に初めて、久しぶりにポアロのシフトに入った。怪我も負っていたし、ポアロの優先順位は低く警備も甘いので、バーボンが被る安室がバイトに入っても問題ないと、判断できるまでは顔を出せなかったのだ。 　その時はまだ、知った事実がとても、辛かった。 　昇華するには全く、時間も余裕も足りない。心をやわにされがちな安室透は他の仮面より正の方向に表情をよく動かすので、惨い辛苦を負の表情に乗せて逃がすこともできない。 　その夜、いつも通りに梓を自宅まで送った。 「何かありました？」 　きびすを返して車に戻ろうとした安室に、梓が言った。 「今日、ずっと辛そうでした。休憩って言ってるのにすぐ戻って来ちゃうし。何かできることがあればいつでも言ってください」 　ああ、負の感情に気づかれていた。 　予想は、していた。 　垂れた大きな眼差しを下げて、休憩してください、あとは私に任せて、と、今日だけで何度も言われた。優しく、安室のことが好きな女は、いつだって、不調を見抜いて、ごく平和な理由を見当付けて、癒してくれる。 『僕は友達を殺していたんです』 　平和な梓には想像もつかないだろう逃れられない明確な事実はもちろん、口に出ることはない。 　そこにあるのはただ、見返りを求めない健気な愛情だけだった。 　できること？ 　ある。 　彼女にしか、できないことが。 　あどけないのに明確な女が形作られている体が、安室を見上げている。 　からからに乾ききった心に梓がいる。 　厳格な判断が、流された。 † 　安室透の生活は、どの仮面にも隠されていないし一般人に対してもそうだった。常に携帯している銃はあるが、部屋の見えるところにあるものに隠すべきものは置いていない。キュラソーのような特異な精密さはないが、携帯できるメディアに入れられない情報は、全て脳内処理となる。部屋の守りが降谷の自宅ほどの鉄壁さではないのは、不在時に何を見られても困らないことと、在宅時に侵入があったところで誰が相手だろうと物理的に対処できる自信があるからだ。 　そんな理由で安室は、ポアロに提出した履歴書の住所に普通にハロと住んでいる。 　だから、手を出した梓をそこに連れ込むことにも抵抗はなかった。それより一度でも壊してしまった結界は、すでに修復できなかった。 　ねだるままに受け入れられるままに梓の肉を味わって、見返りのない愛情を注がれて、降谷はようやく、負の感情を外に出さないでいられるほどに落ち着いた。夜も梓がいれば、深い眠りに就くことができた。梓がいなければ、また、健康的な眠りは訪れなかった。 　精神的な疲労は肉体にも影響が出て、ますます年下の何も知らない女に頼りきった。 　取り返しが、つかなかったのだった。 「ハロに会いたくないですか？」 「わあ！会いたいです！」 　愛犬を匂わせば、梓は喜んでついてこようとするので、ちょろすぎると自分を棚に上げて心配になる。 「では、梓さんの下着の替えを用意してくださいね」 　堂々と伝えたのは、ある種の優しさかもしれない。 「うぇっ！」 　梓はそこでようやく安室の思惑に気づいて変な声を出した。 「たっ大尉君のお世話がしたいので！いったん！自宅に帰ります！」 　安室がにこにこ見下ろす中で、慌てふためいて言った。断られることはない関係に、奥の方で笑みをこぼした。 「了解です」 　その大尉を迎えることに関してだ。 　少年探偵団がかかわった元の飼い主に関する事件より前のある日に、大尉は怪我をしてポアロに現われた。驚いた梓は当然のように欠勤をマスターに申し出て獣医に連れていき、彼を労った。マスターは梓の欠勤を受け入れる代わりに治療費を多めにカンパして、安室にも車を出して同行するように頼んできた。表向きは言われるがままに動いた安室のことを勤務状態にしようとしていたので後日、終日になっていたその日のタイムカードは梓と同じ時間に書き換えておいた。ガソリン代も計上されていたので、消しておいた。呆れてしまうほど、ポアロはお人好しばかりだ。 　安室は怪我の治療を終えた大尉を抱き上げて、垂れた眼差しをさらに困ったように垂れさせた梓を見て、可愛いな、とまた率直に思っていた。梓と安室は大尉の飼い主を把握していない。大尉はこの怪我をして訪れたのがポアロであり、もしかしたら飼い主は大尉を飼える状況にないのかもしれないと薄々思っていた。梓は勢いで治療までの面倒を見てしまったが、すでに引き取る決意をしているのに、取り急ぎ何をしたらいいかわからないから困った顔をしているのだ。可愛らしさに漏れそうになる笑いをこらえて、安室はアドバイスと称して一緒に梓の自宅に受け入れるための様々な準備をした。だから、梓は安室が梓の自宅を知っていると思っている。もちろん、違う。 　一方で、梓は履歴書を勝手に読むなんてこともしないので、隠してもいない安室の住所を、はなから知ってはいなかった。最初に安室の自宅へと案内した時も、ポアロとの距離や自宅との距離について遠いとかわりと近いとか、ごく普通のことを言ったくらいだった。 　安室の状況は、梓に抱えられた大尉に重なる。傷ついてどこにも帰るところがない大尉は、梓の柔らかな両手に掬われた。 　安室と違うところは、大尉はその腕の中で、とこしえの安寧を手に入れたのだ。 　干からびた降谷の心を湿らせるほどに溢れさせているのに、愛情のカンストが起こらないらしい梓は、ハロともすぐに相思相愛になったようだった。 　梓の部屋にお邪魔する時だって、大尉と自然に触れ合っているのが反則すぎる光景だと思うくらいだったのに、愛犬と一緒にじゃれてるとか、はっきり言って降谷は安室の仮面を被るのを諦めて凝視しまくった気がする。梓の注意はハロに集中しているし、例え素の顔を見られたところで梓なら影響はない、と言えるくらいに深い信頼を預けている。 　安室透のメディアに人間の顔を残すのはご法度だったので、降谷は梓がすっぴんを恥ずかしがるのを言い訳に顔だけは避けて、ひとりと一匹が一緒にいるところを何度となく記録に残した。無防備な梓を前に一時は流された厳格な判断力でも、残せる画像であると処理したから。 　渇いていた心に、そんな穏やかさが容赦なく注がれている。即物的な欲求と無様な救いを求めて手を出すよりも、前から。 　そんな梓に身勝手な衝動をぶつけて、でも、受け入れられたらぐずぐずとのめり込むだけだった。 　梓の肌は心地よくて抜けられない。長期の潜入以来、仕事以外でセックスをしていないせいかもしれない。個人を切り取らなくても受け入れられる行為は、とてもよかった。 　短いだろう降谷の生涯において最後になる得難い安寧が、梓の隣には与えられていた。 † 　梓は、安室に体を開かれて、嬉しそうに、好き、と伝えてきた。 　言わせてしまった。 　ショックを露呈させずに安室は行為を続行し、最後の理性を振り絞って、応えなかった。隠し通さなければならない気持ちが、触る指先に出すぎたのだろう。わかっていても梓に触れるとにじみ出る。 　尊くて健気で平穏な愛情を受け取るには、降谷に先がなさすぎる。 　安室は命を、梓が平和に生きているこの国に捧げていて、揺るがない。この潜入捜査だっていつ失うかわからない命をさらして働いている。 　尊い愛情に応えては、いけない。 　この反応で体さえ繋げなくなっても、梓の平穏さえ保たれるなら、梓によってついに得られた降谷の安寧など、どうでもいい。 　だが、梓は安室が思いに応えなくても即物的な要望に付き合ってくれて、健気に、それでも、伝えてきた。 　三度目に言われたのは、疲れて動けない梓を抱き締めて、眠らせて自分も安眠を得ようとした時だ。 「安室さん、好き」 　声が細かった。 　下唇が震えていた。 　反応さえしなかった今までの二回に、怯えている。それでも伝えてくるくらい、彼女は愛して愛される、平和な世界で生きてきたのだとわかる。振り絞られた勇気を無視するほど、もう、降谷の心は空白ではなかった。他でもなく、梓のせいで。 　知ってる、と返して梓の体にまたのめり込んだ。有名なＳＦ映画のセリフだ。 　男は女に、我が身が危険だから好意を明確に残しては行けないと、愛してると告げられた別れの間際にそう言っていた。結局は、好きで好きで仕方がないのに。それはフィクションなので、言えない言葉に応えようとして成功した例だ。安室は、失敗した。今まで生きてきて失敗したなんてことはすぐに思い付く記憶にないのに、それははっきりと、告げた瞬間にわかった。 　有名なやりとりのトレースで梓に、安室の本心は知られて欲しくはなくて、どこかで知っていて欲しいとごねていた。きっと降谷は己を、彼女の唯一の男にしてもらいたかった。 　ただし、梓はその後、もう好意を伝えてくることはなかった。 　それでも乞えば、応えてくれたし梓からも欲しいと言ってくれた。 　気持ちは明確に預けるわけにはいかないが、それ以外のことは、さらした。さらすことで罪悪にまみれて進み続ける孤独な足を、支えてもらっていた。梓がその稀少さを知るすべはないのに、誰にもさらさないゆるみを唯一許すことで、思いに応えられない疚しさを己の中で有耶無耶にした。 　未来の約束もない。好意にも応えない。外でプライベートに会うこともない。部屋に行っても来られても痕跡を残さないし残させない。セックスはする。 　梓は悪い男に捕まえられてしまった。 　彼女は降谷が守り愛する平和に生きていて平穏で、警察に逮捕されるような悪いことなど何一つしていないのに。 　いつか解放すべきだとわかっているが、まだ、と、後回しにしてしまう。 　憩いの日々も安らげる眠りも、あまりに恩恵を受けてばかりだ。 　安室透の痕跡でなければと、甘やかされてばかりだから何かを返したくて欲しいものを聞いても、高価なものなど言われたことがない。贈り物だという意図を汲んでいないせいか、安室が少々自腹を切るような凝ったまかないが関の山だ。 　降谷は梓に、何も返せていない。 　そして、安室はポアロを辞めた。 　性懲りもなく、最後まで安室は梓にさらけ出して依存して、救われていた。 　安室透を被る最後の日の真っ最中に、どうしようもない考えが、体を覆った。 　ずん、とシーツを梓ごと擦り上げて性器に性器を叩きつけながらそれがいいと脳内が騒ぐ。たぶん下半身に脳ミソが移動した。 　すっかりと降谷の形に変わった中の、奥の子宮が下りてきている。短くはない関係でつかんでいた生理のタイミングからしても、そうだ。安室が今、抱いているのは恐らく、受精の準備のできている体。可能性が、ある。安室は今まで梓に何も、形に残るものを渡せていない。今宵、降谷で梓の肚を満たしたら。断ち切れない鎖が出来上がるかもしれない、という。 　原始的な雄としての欲求なのだった。すぐ先に命を失う可能性のある世界が待っている。その前にこの世に己を残したい。 　この、女の、肚の、中、だけに。 　何も返せていないという自覚と正反対の、相手の負担をまるで考えない、刹那的な思考だった。なおのこと、解放しなければならない、という考えが建前でしかないと叩きつけられた。 　堪らなく背徳な魅力に、動きを止めて鍛えていない柔らかな下腹を撫でると、降谷のいいように変えさせられた体はそれだけで絞るように中が締まる。これだけ降谷の体に合うように変わってくれた梓が可哀想で、可愛くて、どうしようもない。 　中に、出してしまおうか。 　その時だ。 　目が眩んだ欲求で肚ばかり見ていた安室に、梓が足と腕を使ってしがみついてきて持っていかれそうになった。快楽しか拾わない動作でどうしようもない思考はばらけていく。 　とんでもない妄想が梓によって流されて目をすがめていると、く、と肩に短い爪が立てられた。降谷が梓にねだって得られた一生残る傷には、程遠い、痛痒。 　痕に残るには、足りない。 　流れていた涙がもったいなくて舐め取った。 「もっと爪を、立てて」 　お願いだ。 　己の手を血に汚したことのない指はそれでも、 降谷の中に残すには、足りた。 　この柔らかさを、一時の欲求で壊してはならない。梓のために、残せない。 　ろくでなしの思考を払ってくれた梓に、降谷はねだった。 　思う存分に梓を味わってから、深い眠りにつける唯一の場所で、安室はぎりぎりまで健全な睡眠を貪っていた。朝日が降り注ぐ中、大尉を使って起こされたので、いつも通り梓と一緒に思う存分に撫で回して、安室は爽やかに起きた。 　辞めると告げてから一向に、梓は安室の部屋に来なくなっていた。もう、あの部屋に梓の匂いは残っていないから、跡腐れなくすぐに引き払える。 　そして、これからは堂々と日の本を歩けない身分のまま、また浅い眠りを繰り返すことになる。 　それだけの負担で、梓とその平穏を危険から遠ざけられるなら別に構わないのだった。 　この朝を最後に、梓を解放する。 　最後の深い眠りを梓の中で味わった朝に、平穏な世界から送られた。 　梓はその世界で当たり前のように、優しい安室が幸せを見つけていたと、言った。 　こんな平和な女をたぶらかした酷い男を、他でもなく梓が優しいと、言った。 　だって安室さん、優しいもの。 　新作スイーツをちゃんと作れて誉めてくれる時とか。 　休憩とってお菓子食べてる時にソファーで寝ちゃってた安室さんが起きてて眺めてた時とか。 　そのまま私のお菓子お裾分けしたり。 　探偵団のみんなの話聞いてる時とか。 　そのボールペン見てくれた時も。 　朝に安室さんを起こす時とか。 　起こしてくれる時とか。 　ハロちゃんや大尉くんと一緒の時も。 　とても優しい顔なの。 　今朝も、でしたよ。 　そんな幸せが優しい安室さんにいっぱいありますように。 　たくさんの幸せが優しい安室さんに降りかかりますように。 　元気でいてね。 　怪我しないでね。 　もししても、我慢しないでちゃんと治療してもらってね。 　睡眠も大事です。 　よく寝てね。 　恐らく。 　挙げ連ねられたそのひとつひとつが、きっと梓の前でさらしていた本心で、届いていなくてもいいと思いながら、届いていたらもう戻れないと思っていた、さらけ出していた降谷の欠片たちだった。 　優しいらしい。 　自分がそうであるはずはないと認識しているが、梓にとってそうならば、それでよかった。 　梓こそが優しいから、二度と触らないと決めて玄関に立ったのに、呆気なく降谷は手を伸ばしていた。 　もう二度と、触れないまま終わるかもしれない人に。 　梓から抱き締められたらきっと離れられなくなるので、動作を封じ込めるように抱き締めた。それをできるくらいにふたりの体には差があった。この小ささと細さで安室とバーボンを分厚く被る降谷を、甘やかし続けてくれた。 　梓がそばで守ってくれたから、安室は失うことを怖がらずに、降谷が守る象徴である彼女の世界の幸福を、拾うことができたのだ。 　その朝に、尊さを、手放した。 　扉を閉めて、梓の前から一生姿を消すその時だった。いつも通り内側のチェーンロックを待っていたら、密やかに囁かれた。 「その仮面、もういらないよね」 　梓は当たり前のように安室を被っていた降谷を拾っていて、それはきっと、降谷には過大な幸せだった。 「‥‥っ！」 　いっそまた、扉を開いて安寧にとどまりたくなるほどに、報われてしまっていた。 　たくさんのささやかな梓の願いは叶えられそうにもない。少なくとも。 　それは無声音でこぼした。 「あなたがいないと僕は眠れない」 　だから。 　きっと命を惜しんだ。 † 　組織の頭を潰して、事後処理に追われて、ハロの散歩だけのために、降谷は自宅に寄る生活を送っていた。 　眠りは未だに浅い。 　梓につけられた傷など、すぐに消えたのに、やけに肩を撫でてしまう。そのたびに最後の日を思い出した。 　体にずっと残らなかった痕跡とは別に、安室の旅立ちにと贈られた綺麗な深い水色のボディのボールペンは、用途通りに使用されたり、何も仕掛けられていないので通常時にも潜入時にも持つことができて、一時は唯一の武器になったりと、わりと激しく消耗している。精神的にも物理的にも守ってくれる媒体となっていて、血みどろになるたびに申し訳なくなりつつ、汚れるたびに洗浄してはまた、身に付けている。 　ろくに眠れないが仕事があるので時間は持つ。組織は頭を潰しただけで、まだバーボンを生かして幹部に座を連ねているままだ。末端を散らすより、バーボンを繋げたまま維持させて完全なる消滅をさせるためだった。少しでも粗を見せれば末端の構成員は瞬く間に姿を消す。組織の顔のまま、地道に末端までを潰していく作業は、時間を要し潜入捜査の緊張感が続く仕事だった。降谷は安室透が稼働していた時に構成した、善良なばかりの人間関係の中にある人たちを遠ざけて、これ以上誰かが犠牲にならないようにと、ひたすら仕事に埋没していた。 　その安室透のスマートフォンは、バイトを辞めてから梓の名前を表示しない。敏い彼女は、安室が戻ってくるつもりがないことも連絡をとるつもりがないことも、知っていたのだ。バーボンの仮面でずっと行動するのだから連絡が来たって困るだけだったのに、身勝手な切なさを感じた。そんな中で、撮り貯めたハロと大尉の画像の奥に潜む梓を見ることで、彼女の平和を想像すると、心は落ち着いた。 　たまに、降谷の属する公安の仕事のみに関わる際に、新一がしゃしゃり出てくる時がある。そんな時に降谷は敢えて、彼と対面するように動く。彼女により近い場所で生きている人間からその平和を聞けることは、いい機会だったから。全ての事情を把握している新一は、昔から降谷にはクリティカルな存在だ。 「安室さんは、もうポアロで働けないんですか？」 　その日も、会った新一が期待を込めて尋ねてきた。彼には若い純粋さがずっとあり続けていて、とてもよいことだと思っている。 「時間的に難しいな。そんなことより、梓さんは、元気かな？」 「ハハハ。毎度、堂々と来ますね。いつも通り元気です。梓さん、安室さんと違って体調崩したことないと思いますよ」 「僕のこと、なんて言ってた？」 「そっちもいつも通りですよ。ポアロに来てくれたらコーヒーご馳走するってのと、元気で生きてるならそれでいいって」 「ふうん」 　何の痕もない自分の肩を撫でながら聞いている安室に、新一が尋ねてくる。 「安室さんからの伝言は？」 「それもいつも通りだね。元気ですよって伝えておいてくれるかい」 「‥‥はい。オレに、何か出来ること、あります？」 　めげることなく再び期待を隠さずに聞いてくる新一に、簡潔に答えた。 「特に、ないな。ありがとう」 　一変して不満そうな大学生の頭を小学生だったころと同じように撫でて、邂逅するたびにそうしているようにすぐに降谷は新一の前から消えた。 　新一からの連絡のすべは未だに安室のスマートフォンのみで、ゼロには直接繋がらない。誰に対しても、降谷は選択権を譲れる立場にいないのだ。降谷にとってクリティカルで敏すぎる新一に対しても、そうだった。 　梓への特別視を隠さないくせに米花町に現われず、入れ込んでいる組織の瓦解の後始末にも関わらせない降谷に、きっと新一は不満しかないだろう。それでも降谷の望んでいる、梓が安室を忘れないようにと梓との話題に安室の名を出す、という行動を自発的に続けてくれている。降谷の不動を看過するくらいにはまだ、新一からすると梓の気持ちは安室に残っていると見ていい。 　会うたびに、その現実に安堵する。 　新一は、コナンであった時に、正体を知らないのに人の目がない限り、高校生としてのプライドを傷つけないような接客を梓にされていた。意識的にではないところが、梓のすごいところだ。 　コナンでありながら、ポアロにおいて探偵団だけの時やひとりでいる時に高校生の態度をしでかしてしまったことに、振り返って気づいていた。そのことに自覚したと同時に、不可解さを出さず違和感も持たず優しく受け入れられていたとも自覚した。だから止められずに梓に甘えて、新一が出るコナンの地を、単純に客のひとりとして尊重する梓だけの時はその態度で居続けてしまった、と新一は漏らした。 　梓は真実にたどり着いていなかったにも関わらず、周囲を偽り続けたコナンを癒してくれたから、新一が梓にとてつもなく感謝していることを、知っている。 　姿を偽っている状況で、本性が何の危険もなく許されるという事態は、四六時中気張っている身には、甘い。 　身に覚えしかない。 　ベクトルは違えど、コナンと安室は、梓に本人の意図することなく甘やかされていて、だから、特別視をするのだ。 　つまり新一は、明確に梓の味方だ。だから梓の気持ちが安室から離れたと見れば、何度も会話に名前を出して梓に思い出させて、安室との思い出にすがらせるような、こんな粗末な手口に乗っかるわけがない。 　もしも、組織の解体が頭を崩しただけで終わっていたのなら、降谷もすぐに梓のもとに向かっただろう。死の間際に自覚を、したから。 　降谷は、梓の部屋を出た瞬間には、命懸けで国を守ると決めていた。ずっと甘やかしてくれた梓をようやく解放したのだから、全ての能力をかけて、組織を追い詰めると。 　他でもなく彼女の平穏を守れるなら、何も救えなかった己など惜しくなかった。 　命の危機に、幸せを教えてくれた梓を思い出して初めて、己の命を惜しんだのだ。仮面に気づきながらそれを出さずに、安室の深くにいる降谷まで、全てを慈しんで、命を惜しまなかった降谷を踏ん張らせた女を。 　その女を一度でも解放しようとしたなど、生温い。 　日本の平和をこの手で維持し続けたい。それだけじゃない。 　彼女とその平穏さえも、降谷は手に入れなければ自分を許せないと、知った。 [newpage] † 　あなたがここを離れるとそう決めたのであれば、別れなければならないことを受け入れる。 　日本語は、美しい。 　『さようなら』の一言で、相手の決意も自身の妥協をも表現してしまう。 　そして、あの朝に梓とその言葉を交わしていたのであれば、そのような、決定的な別れをお互いに叩きつける意味で使っただろう。 　降谷は梓がそれを使ったのなら、腹を括って同じ言葉を返そうと思っていた。そして、彼女に対しても完全な決別を。 　なのに梓ときたら、安室を最後まで甘やかして労るばかりで、まるで、確かな別れを口にしなかった。だから、まだふたりの未来が繋がっていてもいいのではないかと、ダブルフェイスに戻ったのによほど身動きがとれない５年の間、思い続けていた。 　梓が途中、携帯電話ではなくスマートフォンだったのなら、容易く法に触れるアプリでも何でも仕掛けられたままで様々に現状の様子を知ることができたのにな、と疲れきったせいでろくでもない考えがよぎる。 　安室がいなくなった翌年の暮れに、２年更新に合わせていろいろ仕掛けたスマートフォンが解約されていた。機種変更の手続き時に電話帳等のハードの情報と共に自動的に引き継がれる仕掛けは、機種変更先がスマートフォンなら可能なことだった。何を思ったのか、梓は携帯電話に戻したのだ。確かに、携帯電話の方が使いやすいとは言ってはいたが、本当に戻す人間がいるとは考えもしなかった。相変わらず読めない。誉められない機能はＳＤカード側にも仕掛けられるが、メディアはそれ自体が変更される可能性があるし、満足できる機能まで仕掛けるとメモリをだいぶ食うので発露の可能性が高すぎるため避けていた。 　したがって、梓の現在使用しているスマートフォンは、組織の幹部が身近にいた上に未だ公安の監視がゆるく続いている状態にも関わらず、見事にクリアなままである。だから、本当にプライベートなことはわからない。 　今を含めて、携帯電話時代にもスマートフォンであれば、などとろくでもない考えをしたことは数えきれない。梓がどこにいるか、何をしゃべっているのか把握できていないし、ポアロの秘聴を止めた今では職場での声すら未知だ。ゆるい監視が続いている何日かおきの書面上での確認しかとれない。 　また、辛うじて手の届く範囲の事件に新一がしゃしゃり出てきたので、いつも通り、降谷は彼だけに姿を見せた。 　お決まりとなった邂逅に、新一はポアロのクッキーをくれた。妙に準備がいい。親身な新一には、頭が上がらない。梓を大切に思っている新一が、安室がバイトをしていた時には手をつけていたと知ったらもっと違う態度かもしれないので、その露呈だけは避けたいところだ。 「このクッキー、３日前にもらったばかりだから、大丈夫でしょう」 「‥‥ありがとう。工藤君。いただきます」 「あ、オレも一種類ずついただいてます。うまいですよ」 「当たり前だろう。これ、梓さんと僕が一緒に考えたんだから」 「‥‥それな」 　当然のように返すと、新一が半眼で平坦な合いの手を打つ。気を取り直した。 「あー、だから３日前に、また久しぶりに梓さんだけと話せたんですけど」 「うん、僕が元気ならいいって？」 　コナンが新一に戻ったこの４年間、梓はずっと、そうやって安室を思い続けてくれている。降谷は肩を撫でながら記憶から消えてしまいそうな声を手繰って、性懲りもなく脳内の梓に言わせた。が。 「‥‥いや、たぶん、安室さんと別れた日のこと、言ってました」 「‥‥僕と？」 　新一は、告げた。 　初めての、いなくなった安室に対する梓の違う言葉を。 「たぶん、ですけどね。まず、梓さんは、安室さんの仮面を外してって、オレに頼んできました。安室さんが梓さんに何も言ってないこと、充分に知ってたから本当に驚きました」 「‥‥だろうね」 「５年も経ってまだ胡散臭い笑顔だったら、とも言ってましたけどね。今のあなたはいつも笑顔じゃないから依頼が遂行できるか微妙だな。で、仮面を外すならどうすればって聞いたら、安室さんは疲れた顔して寝ていいそうです。元気って伝えてるんですけどね、バレてますね」 　新一はわりと明るく次々に言ってくるが、降谷は明るい顔などできそうもない。 「‥‥そうだな」 「あとは‥‥いや、これは言うの止めよっと。なんか悔しいし」 「‥‥ここまで教えてくれて、それかい？」 「だってボク、安室さんより梓姉ちゃんの味方だし」 「‥‥コナン君、‥‥成人すぎてそれは‥‥」 「ヘイヘイ。今回は多いですよ。まだあります」 「そうだよな。君はさっき、僕と別れた日のことって言ったから」 「はい。『あの時』ってのがオレにはどの時かは知らないんですが、安室さんならわかりますよね？」 　疑問をぶつけられた降谷は、リマインドし続けた最後の平穏な朝をまざまざと思い出して、だが、答えなかった。新一は頓着しないで続ける。 「梓さんは『あの時』に、怪我しないで絶対に梓さんのところに帰ってきてほしいって、言えばよかったって後悔してるようです。忘れたら許さないらしいですよ」 「それは、‥‥少し嬉しいな。梓さん、怒るようなこと言わないから」 「オレも蘭に怒られると少し嬉しいので、その気持ち、わかりますね。悔しいけど」 「悔しいと」 「だって梓さんにあんな顔させるなんて、」 「ちょっと待った。見れてない僕の方が確実に悔しいから言わないでくれ」 「‥‥ヘイヘイ。梓さん、カウンターでオレのパスタ作ってくれながら隣を見てたから、あなたがまだ一緒に働いているところでも思い出していたのでしょう。それとも、今でも一緒に働いてるところを、かな？」 「‥‥僕は５年も梓さんのパスタ、食べていないのに」 「そんなの、」 「僕が選んだから何も言えないけどな」 　何かをなだめてくれようとしたところを遮ってきっぱり言い切った降谷を、新一はまっすぐに見上げた。 「あなたは、正しかった」 「‥‥工藤君」 「『何か』って時にはオレは蘭を間違いなく選びますが、あなたの守り方では梓さんは恐らく選ばれない時もあるのでしょう？でも‥‥オレももう子供じゃない。あの時のあなたの選択が、正しいと思っています」 「‥‥どうかな。僕はいつも僕なりに正しくありたいだけだ。だけど、いくら自分が正しいと判断したところで、最適解は他にもあるだろう」 「あのころはバーボンがポアロに居続けたら、周囲に危険が及びました。消えるタイミングも最善でした。それを証拠に今現在だって、誰も傷ついていないし失われていません。結果論ですが、だからこそ、あの時の最適解だと思います」 　小学生の声の時から声が変わっても、相変わらず説得力のある発言だな、と思いながら眺めていたら、新一がころっと笑った。 「ねえ、降谷さん」 　降谷は軽く首をかしげる。 「今でも安室さんは梓さんから全く消えていませんし、もう、いいのでは？」 　組織の処理も、全て終わったのでしょう？ 　と、どこからか聞き出した新一が、堂々と聞いてくる。今回が妙に準備がいいのは、この邂逅自体を誘っていたせいか、とわかった。今回の邂逅の要因の事件も、わざわざ新一がしゃしゃり出れるような案件ではない。 　降谷の場所など知らないままなのに、相変わらずキレる男だ。 「子供がお節介すぎやしないかい？」 「あのねー、オレ、もう、酒解禁してだいぶ経ってますからね？」 「弱いんだから無理するなよ」 「何で知ってんですかバーロー。あんたと比べたらみんな弱いですよー。安室さんが底無しに強いっての、オレ梓さんから聞いてんですからね」 「そうかい。プライバシー駄々漏れだな」 「隠してないところでしょう？」 「でも、注意させないとな」 「やった！まじか！」 　ゆるい応酬に爆弾を投げ込んだ降谷は、ヒットしながら正確に意味を受け取った新一に、軽く笑って流しながらその場から消えた。 　久しぶりに、風見は後で説教だな。 [chapter:幸福を拾う人] 　５年だ。 　いくら年をとったと言っても、あっという間に過ぎた歳月ではない。 　毎日、いつ死んでもおかしくない場所から、ようやく足を洗えた。 　降谷は確かに新一が匂わせた通り、少し前にようやく長く被り続けたバーボンの仮面も剥がすことができた。誰かの生殺与奪の権利さえ与えられた最後の仕事であれと、降谷は残党の処理をした。そして末端の処理までをも、終えることができたのだ。 　だから、彼女のもとに早く行こうと思っていた。新一に言われたからではない。もちろん、心残りを探らせ続けて手応えがあるという確信があるからこそ、ある程度の自信を持って行動に移せるのだが、死を間近にした時から降谷の心は決まっている。 　解放などしない。 　日本を守り、梓も自分だけのものにする。 　そう、決めたから、泥臭くも生き残った。 　終わった！ 　と、最後まで残った組織の関係者を確保して思わず拳を突き上げた降谷など気にせずに、違う部署のテロ対策チームから応援要請があり、怒りを冷静に代えて出動した。そこでＲＸ７を擦って降谷自身も傷を負ったのは想定外ではあったが、今までに比べて大した怪我ではないので、まず車を修理に出して病院はさっさと出た。 　とうとう日の本を大腕を振って歩ける身分が戻り、桜が象られた手帳も戻り、今は降谷が目を通さないと処理が終わらない書類の束と格闘し続けているくらいだ。短い間にいた病院でも追われていた。 　考えることはひとつだ。すぐにでも梓に会いたかった。彼女に繋がる害悪は根元から消した。 　降谷はそれを実現するために、あの幸せを閉じ込めた朝からこの５年間、まともに寝ていない。 　彼女が、恐らく新一が辛うじて延命させてくれているように、ふたりが繋がったままだと少しでも考えてくれているのなら。 　捕まえて、離さない。 　身に付いた高効率で仕事をこなしていれば、すぐに連休が取れた。今までと違って他の仮面がないのだから、容易いことだった。 　入院しないのならばと連日の通院を命じられた病院で素直に処置を受けたのは、もしも肌を見せるようなことがあった時に傷痕があらわになっていたら、梓が悲しんで怖がって、先に進みにくいだろうと思ったからだ。梓は、安室の怪我に敏感だったから。バイトの最後の方はポアロに出勤すると全身の怪我のチェックから入っていたものだ。最後の朝には怪我をしたらちゃんと治療するようにとも言われたので、この５年間も重めの怪我を負った際には出来る限り迅速に医者による診察と治療を受けている。 　その病院から一旦顔を出したカイシャの後に梓に会おうと思ったのは、正規雇用となった梓が終日出勤しているポアロの定休日の前日だったことと、降谷の退庁がハロの世話をした後に向かっても閉店に間に合う時間だったという縁からだった。今朝、目を通してきたばかりのポアロと梓の情報から、それを判断できた。 　次に会う時は、健気に訴えてくれた言葉に必ず応えると、決めていた。言われてからの時間が経ちすぎたことは承知の上だ。 　まだ、彼女が、安室を少しでも好きでいて、甘やかして、くれるのなら。 　綺麗になって戻ってきたＲＸ７に乗り、現在の降谷零の戦闘服であるスーツで、会いに行く。今後はなるべく偽りを少なくしようとする、なけなしの誠意だ。 　疲れきってテンションが振り切れた頭は、そんな流れで行動を決めた。 　ポアロに到着したのは想定通り、閉店時間ギリギリだった。長居はきっとさせてもらえないのでＲＸ７はよりポアロに近い、通りの路駐スペースに停めた。まだ開いていてもいい時間だったが、ワンオペの采配で閉店したのだろう。ロールスクリーンは下ろされていてＣＬＯＳＥＤの看板にひっくり返されていた。カウンターにはだが、変わらない梓がいて、乾かしていた食器を次々に拭いては片付けている。 　変わっていないな、と一瞬だけ感慨に耽った。梓からは変わらない働き者の清潔感が伝わってきて、入るだけで安らげる場所がそこにある。 　５年前には安室がかたわらにいた作業だ。変わらない順番ならホールの掃除もレジ締めも終わっている。鍵をかけた状態で行う締め作業だが、降谷の懐にはとうの昔に作成済みの合鍵は普通にあって、報告書によるとポアロのセキュリティは相変わらずガバガバなままだ。そもそも、先にポアロの鍵を作っておいたのがバカらしくなるほどあっさりとスペアキーを渡されたのは、バイトを始めてそう間もないことだった。スペアキーの方はもちろん、辞める際に返却済みである。 　梓が締め作業時にかけている音楽で解錠の音を消して、さらりと入る。解錠の音は聞き逃した梓だが、カウベルの音は聞き逃さない。 　音楽が止められた。長い時を経て、初めて何のしがらみもない状態で、安室は梓と言葉を交わすことに成功した。 「お久しぶりです。梓さん」 「あ、安室さん」 　ああ、ちゃんと、梓の声だ。 　感動している間に、梓は安室を目の当たりにして顕著な反応を見せた。降谷はそれを、素直に喜んだ。５年前と同じように、意識されている。 　梓は相変わらず可愛らしくて、無防備だ。それにとても、綺麗になった。 　見上げてくる上目遣いもなだらかな体の線も腕を組む仕草まで、いちいち、可愛いし綺麗だ。５年前もそうだったけれど、もっと。 　その変化に誰かの影響があるのかないのか、あるとしたら誰なのか、資格のない嫉妬心が湧く。特定の誰かはいなくとも、長い時間が過ぎたのだから好きな男ができているのが、普通だ。そして梓は普通の中で生きている。 　理不尽さのままに食ってやりたい態度を隠さなければ、撫でただけで感じてしまっていた腹を押さえたので、今度は嬉しくて仕方がなかった。ひどく人としてダメなことを散々言った自覚はあるのに、頓着するどころか思ってもみないところに引っかかる。 「え、安室さん、電話繋がるの？」 　とぼけた反応に、内心でこれが彼女だよなと納得する。安室と電話さえ繋がらないと信じ込んでいたとは。連絡できなかった自分を棚に上げてしまうが、一度でも連絡を取ろうとしてくれていたら、今の状況は少し変わっていたのかもしれない。 「‥‥もしかして電話帳から消去しました？」 「そんなこと、しません」 「‥‥それは、良かった」 　じっと見ていると、証明して見せろという無言の要請を梓は感じ取った。あたふたとスマートフォンをポケットから取り出して、うぅん、と唸りながらディスプレイをなぞっている。 「見つかりました？」 　その間に近寄って尋ねると、びくっと後退りされてまた、意識されていることを確認する。 「はい！ほら！あります！」 「なら、かけて」 　うまくいってもいかなくてもいいと思いながら少しばかり目論見、それを口実に梓から安室に電話をかけさせて、目を盗んで通話状態にする。さらりとしまえば、安室が目の前にいることで恐らく通常よりもさらに注意力が散漫になった梓は、画面を見もせずに手帳型のカバーを閉じてポケットにスマートフォンをしまった。 　だから注意してとあれほど言い聞かせておいたのに。 「ハロちゃん元気ですか？大きくなったんでしょうねえ」 　安室のスマートフォンの電話帳の、梓の登録画像からお互いの犬猫の話になった。堂々と部屋へ呼ぶ理由にこじつける。 「はい。元気ですよ。とても大きくなりました。会いに来ます？」 　梓は変わらず安室に甘かった。 　ろくでなしで優しさの欠片もない所業を一心に身に受けたのは梓なのに、安室のことを優しいと言い張っていたあの時と変わらない。 　昔から安室がハロを理由に家に誘うのは、ご飯を食べてその後も一緒に過ごす、ということが大半だった。それを梓は知っている。それを把握していると、態度が言っている。こんな風に安室がごねなければ、穏便に拒否しようとしていただろうとわかる。 　なのに。 「‥‥‥‥車でいらっしゃいました？安室さん」 　聞いてきた声が、ここで一緒に働いていた時と同じ温度を持った。 「はい」 「いつものところに停めてあります？」 「いいえ、閉店後に長居は出来ないですし、前の通りの路駐スペースが空いていたので、そちらに」 「じゃあ、戸締まりしてから、私、そこに行きます。ＲＸ７ちゃんですか？変わってません？」 　整備士泣かせの使い方をしている愛車も、梓にかかればハロや大尉と同じようになる。昔の空気が嬉しくてまた笑いがこぼれた。つまり、ひどい言い方でセックスを思い出させた上での誘いだったのに、梓はそれを受けてくれたのだ。 「はい。僕、一途なので、ずっと一緒です。メンテから戻ってきたばかりなので、綺麗ですよ」 「ならわかります。待っててください」 　思いを愛車への言葉に重ねたが、梓は相変わらずだなあと顔に出しただけで、それを自分と重ねてはいないようだった。誘いは受けたのに安室の感情から、逃げているみたいだ。再会の瞬間に怪我の心配を変わらずしてくれたのに。 「戸締まり、ご一緒しますよ」 「安室さん、もうバイトじゃないんだからさせられません。バックヤードにも入れないんだからね。今、入っちゃってるけど、カウンター内もアウトです」 　顔の前で両手を交差させた梓はそのまままた後ずさる。踏み出て腕に閉じ込めることは容易だったが、梓から婉曲ではあるものの、ひどい要望への承諾を得たのだから、ここは引かなければならない。 「‥‥わかりました。クルマのそばでお待ちしています」 　一歩、また引くと、梓は小さく頷いた。 「はい。１０分‥‥１５分、くらい、かな。それくらいで」 「はい」 　梓は５年の空白が嘘のように、好きだと、あのころと同じように安室を見上げた眼差しで見つめてくる。 　浮かれた。 　今度こそ、応えることができる。梓の思うよりずっと重く。 　梓が変わらず応えてくれたから降谷は今夜、一日千秋の思いを達成できると、浮かれていた。 　だから、従順さに出し抜かれた。 † 　ポアロから出た降谷は、結局、通話中ということが露見しないでスマートフォンを車に持ち帰れたので、悪びれもなく梓のスマートフォンと繋がっている間にクリアなそれに追尾機能をしかけることにした。あれだけ色んなことに注意を怠らないようにと言い聞かせたのに、梓のガードはゆるい。ただし、安室にだけゆるいのなら、それはそれで満たされるな、と思いながら作業を続ける。 　通話を利用するのは、トラップを仕掛ける対象のスマートフォンの所持者と、直接コンタクトを取れない場合に行う手段だ。一定時間通話状態にすることが必要なので、梓が気づいて通話を切る前にインストールを終えねばならない。イヤホンからは服が擦れる音しか拾えていないまま、取り急ぎ、追尾機能だけを仕込み終わったところでようやく通話中ということに気づかれたらしい。 『わ！』 　耳に響く小さな驚きと共に切られた。音と画像についてはプログラムに持ち込めないまま、自分のスマートフォンに関連アプリを起動させる。 　ここまでをＲＸ７の傍らで梓を待ちながら作業をしていたら、探偵事務所からの視線に気づいた。 　ポアロに訪れることにはすでに何のしがらみもないので、気づかれたのなら会釈くらいするかと顔を上げれば、見るか見ないかのうちに蘭が引っ込んだ。 　スマートフォンにようやく展開された梓の現在地と蘭の反応で、逃げられたことを悟った。 　この辺りの道はポアロの裏口から出ても必ずこちらの通りに出なければならないつくりなのに、なぜか、梓に都合よく反対側から抜け出せる道が展開されていたようだ。さすがにポアロの報告書に裏の建物の状況までは記されない。恐らく、立て替えをしたのだろう。現在地から見ると、梓はそこを抜けたのだ。昨日までのポアロの情報は今朝届けられたばかりだから、もし裏の建物の近況が記されたとしても報告書への反映は、一週間後だ。それほどポアロは安全性が高くなっており、組織をすべからく始末した今では監視は終了の案も出ている。降谷を出し抜くタイミングが神がかっているな、といっそ感心する。 　同時に、梓に捨てられた気分になって、珍しくも一瞬、降谷は挫けた。 　どうしようもないことを言ったのだから、当然の報いだ。 　悲しさが容赦なく襲ってきたが、失ってばかりの今までとは違うと立て直す。 　相手は死んじゃいないのだ。 　選択権は、いつだって降谷が持っていた。 　あの平穏な日々に浸かっている時だって、安室が梓をいざなっていたし、今日の再会だって降谷が動かない限り叶わなかった。 　それが、どうだろう。与えられなかった選択権の隙をぬって、梓はとうとう選択権を手に入れていた。安室から逃げるという、一般人ならば一瞬で決着がつくはずの手で。 　すぐに捕まえられるだろうと、あらゆる能力の差異が大きいという事実に、降谷はとりあえず落ち着けた。だが、一筋縄でいかなさそうだ、という妙な予感がある。公安のエリートと一般人という、結果は火を見るよりも明らかな勝敗なのに。なぜか梓には振り回される予感がしている。一緒に働いていた時も、そうだったから。 　梓はほわんとしてお人好しだから、今でも意識されていることを鑑みれば、逃がさないようにして、安室が必死で望めば、またそばで眠らせてくれると、たかをくくっていた。 　とんだ屑の驕りだ。 　断崖を飛んだりしがみついたり走ったりするような人生の降谷とは対照的に、梓は普通に平らな地を踏みしめて歩む人生であるはずだ。 　なのに、傍らで見守っていても、唐突に一歩踏み出した先で見失う。見失ってから梓に安室は見つけてもらえて、その先の綺麗なものを教えてくれる。昔からそうだった。梓が当たり前に見えている先を、降谷は見えていないのだ。それでも一緒にいると同じものが見えた気になる。それが梓が当たり前に言っていた、幸せなのだと知ればとても嬉しい。 　これからは、降谷に見えなくて梓が見えていたものも一緒に見て、生きていきたいのだ。 　捨てられたく、ない。 　選択権を預けた梓に、選んでほしい。 　感情はひどく、子供じみていた。 † 　逃げられると、とたんに追いかけたくなるのは職種ならではの本能のようなものかもしれない。梓の進む道は車の進入不可のところばかり選ばれているので、ゆるく同じ方面に発進させながら動向を繙いていく。 　出ないと見当がつきつつ、ポアロを閉めるからと梓が安室を追い出した期限として口にした、１５分が経ったことを確認して梓に電話をかける。しばらくして、切れた。次は繋がらない。電源が落とされていた。音と画像は盗れないままのようだ。だがしかし、新しく仕込んだ追尾機能は、スマートフォンの電源が落とされようがロックオンし続ける。 　安室に住所がばれているから自宅に立て籠ることは諦めているだろう。けしからんことに女ひとりでふらふらと夜を明かすつもりだ。となると、彼女の愛する大尉を長時間放ることになる。大尉のために、まだ御用達の駅ビルが営業している間にストックの習慣がなかった高級缶を用意したりするかもしれない。まっすぐ帰宅するには向かわない方面の駅に進む現在地情報を確認しながら、降谷はそう判断して、先回りして車を駅ビルの駐車場に停めた。 　ここでまた違う場所に向かわれて追跡ができないのは困るので、乗車したまま少し待っていると、梓もまんまと歩行者専用通路を通って降谷が待ち受ける駅ビルに到達した。 　ＧＰＳを使用した位置情報で弱いのは、建物内に入った時だ。Ｚ軸が全くわからなくなり、ＸＹ方向も曖昧になる。スマートフォンに搭載されている受信機は精密なものではないが、もし１０ミリメートル単位の精密さだとしても、衛星を使う限り建物内では同じことだ。ここで梓を捕まえなければ、梓が満足できるまで駅ビルを堪能して空の下に出てきてから追うことになる。それは、時間がかかりすぎる。降谷は早く、この腕の中に閉じ込めてしまいたいのだから。 　それが梓の平穏な幸せに繋がらない、大切なものを取りこぼしてばかりの腕の中だと理解していながら。 　梓にようやく会えたこの夜を、ひとりで越えたくないから。 　５階にあるペット用品売り場に先回りしてしばらく待ったが、梓は現われなかった。やはり、予想通り、早速振り回された。位置情報は、梓がまだ駅ビルにいることを示している。 　違う場所から回ったのかもしれないと、追いかけられていることを全く想像していない梓が容易に使いそうな一番目立つエスカレーターを使ってゆっくり階を下っていく。可能性が高いのは食料品売り場かな、と見当をつける。梓は駅ビルに寄ることが珍しいから、そこならではの高価な惣菜を物色するのが好きだ。人の流れを見逃さないように観察しながら下っていく。 　す、と視線が固定される。 　３階から２階に降りていく間に、すっかり気を抜いた梓が広い吹き抜けを隔てた反対側のエスカレーターに乗ってくるのを見つけた。女性ものの服飾が並んでいる１階と２階をスルーしてきているようだから、自分のための何かを見ようとしてはいない。大尉のものが目的で５階を目指しているのだろう。降谷は全く気づいていない自分を演じて、エスカレーターに大人しく乗り続けた。見続けることで不意に目を合わせさせて、梓を脅かしたくはない。歩いて降りるのも駄目だ。彼女は逸脱する人生ではないので、ここで走って追いかける展開は、周囲の他人を巻き込むことになり、恐らく現状で地に落ちている印象がさらに泥にまみれることになる。梓と安室だけのやりとりで確保することは、最低条件だ。 　この後の動向としては、仮に梓が今、安室に気づいていたとして、やはり５階に上がるだろう。建物から出て逃げるために階下に向かうということは、『梓から見て気づいていない』安室との距離を自ら詰めていくことと同義だ。降谷はエスカレーターを降りる直前に振り向いて、遠目に現在の梓の体を目に焼き付けた。 　梓は、振り向かなかった。 　下りのエスカレーターから降りて、混んでいる上りのエスカレーターには向かわずに、階段に向かう。安室から逃げ出してここに来ているのだから、３階にも女性もののフロアが並んでいるが、梓の心情からして自分の服や宝飾品を見ることは避けるような気がする。やはり、向かうべきは５階のペット用品店だろう。階段の利用者がいないのをいいことに、常人には引かれそうな速度で２階から５階まで一気に駆け上がる。５階の階段の出入口は上りのエスカレーターとペット用品店がどちらも視野に収まった。階段を上ってくる音はしない。焼き付けた姿は、まだいない。 　次に降谷の視界に梓が現われたのは、エスカレーターと降谷の立つ階段の、そのどちらでもなかった。逃げ出されてから振り回されること、三度目だ。 　逃げ込まれた駅ビルはシンメトリーになっている建物で階段は２つあって、ふたりは違う階段の同じ場所にいる。一般人のはずの梓はとことん降谷に対して選択権を譲らないらしい。降谷は上がる時、どちらの階段を利用するか少しだけ迷った。もし梓が安室に気づいていた場合に階段を利用しようとするなら、上りのエスカレーターを降りたところから目に入る階段を見てその行き方を判断するだろうと考えた。だから、エスカレーターに近い方を選んだのだが、梓はペット用品店に近い方の階段を選んでいた。公安のエースを翻弄するなど、どんな強力な加護がついているのだろう。新一がこっそり指示しているのかと思うくらいに、ギリギリでかわされている。 　降谷が使用した階段とシンメトリーの位置にある階段は、到底すぐには手の届かないところにある。人混み、テナント、オブジェ。梓はそこをゆっくりと上ってきた。つまり、エスカレーターで梓も安室に気づいていた。だから、エスカレーターを継続して利用しなかったのだ。自力で進みにくいものは捕まりやすそうだと思ったのだろう。 　阻むものがあろうと、降谷にとって梓は特別だ。すぐにわかる。 　ポアロで対峙した以来に目が合って、梓は驚いて引いて、すぐに階下に消えていった。 「逃がすか」 　早足で人混みをすり抜けて、バタバタ駆け降りる音が響く階段に到達する。さらにスピードを上げて助走に代えて、人がいないことを確認して瞬時に軽く目測して、飛んだ。５階と４階の間の狭い踊り場まで一歩で降りる。膝を曲げて着地のクッションにした。キュ、と革靴を鳴らして手すりを掴んで方向転換しつつ、勢いが消されたので次のフロアまで１歩で降りるのを諦めてまた大雑把に目測して、１歩で３段降りると踏み込んで２歩目で４階に降りる。同様に方向転換して３階まで降りると、駆け降りる音が近接した。階段の構造上、階下も階上も隙間から覗けないので、音で判断するしかない。 　転ばないかな。 　期待と心配が半々に胸中によぎったが、いい早さの足音が聞こえる中で派手な音は聞こえない。ついでにすぐに駆け降りる音も消えたので、階段をそのまま駆け降りてくれていたらあと一歩で決着はついたのに、まだ、降谷に選択権が戻らない。振り回され続けている。 　再会してずっと、選択権は梓の手の内だ。 　２階は女性もののフロアだった。ここで時間を潰すわけがないと、馬鹿でもわかる。梓のこの先の行動は、駅ビルを出て逃げの一手だ。このまま逃がして、彼女が車道に出た瞬間に道路上で乗車したままドアを開けて抱えてかっさらうのは訳ないが、場所によっては目撃者の多さで、梓と安室だけで終わらせるという最低条件を達成できない。梓のために、逸脱を避けたい。駅ビル内での捕獲が優先だ。 　降谷は焼き付けた梓の後ろ姿をフロア内で確認して、きびすを返して階段を駆け降りた。梓の向かった方向には、下る方法としてエスカレーターと非常階段がある。一般人の梓はまず、非常階段の場所など知らないだろう。エスカレーターを使用すると見越した理由はまだある。降谷は最初にペット用品店に向かった際に、一応駅ビル内の全フロアの情報を脳内に入れておいたので、梓が逃げた方向にどんなテナントがあるのか、把握できている。梓がエスカレーターを選んだとしたら、その理由が、可愛らしいな、とゼロのエースが本気を出させられている事態なのに素直に思った。昔話にあやかったのだろう。ポアロで、申し訳なさそうに刑事を撒いたことを蘭たちとの雑談で話していたことを覚えている。 　１階は雑多に賑わっているが難なくすり抜けて、下りエスカレーターの降り口付近にたどり着いた。そこは、２階では同じビルではないが、くだんのランジェリーショップがあるスペースだった。 　ひゅっと首をのけぞらせる。 　予想通り、キョロキョロ見回す梓がエスカレーターに歩きながら乗っていた。この後の展開を軽く考えて、死角に入りながらクレジットカードを財布から抜いてポケットにしまっておく。梓から見て死角となる位置の目測は適当だった。見つかっても見つからなくても、この距離間では逃がさない。 　が、見つからなかった。肉薄してもすでに梓の視線が出入口に固定されていたからだ。 　手を伸ばす。 　５年前には、手放すことでしか最適解を見つけられなかった人へ。 　手のひらに収まった腕と体が勢いよくびくついた。 「はい、捕まえた」 　声は、恐らく普通に出せた。焦がれた音を乗せたかもしれないが。 　だが、握りしめた手にどう考えてもやけに力が入っていた。平凡な一般人を呼び止めるための力では、断じてなかった。 　体力的にはほとんど消耗していないのに、心臓がばくばくと鳴っている。 　だって、選択権は依然として、降谷の捕まえたこの細い手の中にある。 　自分を、選んでほしい。 　この柔らかな細い腕に、安室の腕の中に閉じ込めたまま抱き締められることで、どれだけ安寧を得ていたか。いくら伝えてもきっと伝えきれない。知ってほしい。 　この平穏を失わないために、これを手放した。 　ずっと彼女と同じ幸せを、拾えたらと、願っていた。 　自分が終わることを見越していたから何の約束も残せなかった男だ。 　こんな、今さら。 　それでも、どうしても、捨てられたくなかった。 　一緒にこの夜を、越えて欲しかった。 以上 前編からの説明を少々。 梓さんは新一と話した時、誰もいない隣を見ながら、 「会いたくて仕方がないの」 と、声に出してしまってます。相愛を知っている梓さんの味方の新一は、降谷さんはどうせすぐに会いに行くだろって思って、梓の片恋を見守っている心情から悔しいので言いませんでした。 あと、細かいですけど前編で梓さんが、安室さんと新一がポアロで会っていない、ということをきちんと覚えていたのは興味のある事柄（安室さんについて）だったから、特異な記憶力が発揮してるということでした。 本文中で明記しないので、一応。 最後は梓さん視点。

逃げることを決意した梓さんの安室さん視点です。<br />両片思いに見せかけて、微妙に安室さんにアドバンテージがあるみたいですがないような気もしてわりと愛が重たい。<br />タイトルで書いてましたが、梓さん視点の間にいれた方が読みやすいかな、と一本の話にしました。ので、たぶん、これだけで読めます。<br />梓さんに手を出してしまったところから、５年後に再会した後に逃げられた梓さんを捕まえるまで。<br />梓さんにガラケー（お魚メール時）→スマホ（執行映画時）→ガラケー→スマホという経過を自然にしてもらうために再会が５年後設定になりました。<br />妙にハードボイルドに引っ張られてるけど、わりと盲目的に梓さんを娶ろうとしてる降谷さんです。<br />コナンが梓姉ちゃんにゆるみを見せちゃってるってのは願望ですね。いいよね、甘やかしてくれる年上のお姉さん。<br /><br />前編<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10078890">novel/10078890</a></strong><br />後編<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10154674">novel/10154674</a></strong>

幸福を拾う人

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人は見かけじゃありません。 どんなに外見が美しくとも、心が汚ければ何れ人は離れていくのです。 …それは確かにそうかもしれません。 僕だってどんなに見た目が美しい人でも心が冷たい人は怖いし嫌です。 でもね？ 人は見ためで判断する事も確かなのです。 考えてみてください。 とても若くて美しい男がいたとします。 その隣に、とても醜いモブおじさんがいたとします。 どちらとお近づきになりたいと思いますか？ お腹はぽよぽよ出てるし、薄くなった頭はお情け程度に髪の毛がふんわふんわ風になびいて、いやなびく程もなくてそよそよ揺れて、いや揺れてる程も無かったかもしれませんが、皮膚が見えちゃっててうっすら汗がにじんでる、そんな何処からどう見ても『モブおじさん』の隣に、それはもう若くてお肌もつやつやな美しい男がいたら、男女問わずに美しい男の方にいくでしょう？ 少なくとも僕はそうだったのです。 美しい『刀剣の付喪神』を従える『審神者』が集う『演練』と言う場所は、その『美醜』がはっきりと浮き彫りになる場所でもありました。 僕は政府に通報される常連だったので、『人』と言うものがどれほど『外見』で他人を判断する生き物かと言う事を身にしみて知っています。 今回もいつもの事だと割りきって演練を済ませ、本丸に帰ろうとしたのですが、あら不思議。 ゲートをくぐった先は見覚えのある本丸でなく、そこはいつも刀剣達を送り出している『戦場』でした。 目の前に迫る鋭くも濁った刀は、僕のたっぷりとついた腹の肉を抉り取り、こんなダイエットは嫌だなぁ、と思ったのを最後に、僕は此の世とおさらばしたのです。 したのです。 した筈だったのです。 だと言うのに、なぜ僕はまた、遡行軍の皆さんに追われているのでしょうか？ グッサリと腹の肉を抉り取られた余りの痛さに確かに僕は意識を失ったのです。 ですが、気付けば目の前に迫るはやはり遡行軍の皆さんの刀。 ツンツン、と刀でつつかれ、身体のあちこちが傷まみれ。 思うままに足は動かず、もたつきながらもどうにか逃げてはいたのですが、石か何かにけつまづいて転んでしまいました。 このままでは、薄くなってしまった頭の毛よりも儚く散ってしまいます。 何がってなけなしの毛どころか、命がですよ。 「もはや…ここまでか」 あれ？ 疲労で掠れた声のせいでしょうか。 何だかイケボに聞こえました。 歩くだけで疲れてしまうせいで、いつもは口を開けば、ハアハア、と息が荒くなってしまうので発声も上手くいかないのですが。そのせいで、通報された数は両手の指の数を通り越したとこなのですが。 ああ、目の前に刀が。 だんだんとギラツク眼が獲物を狙う獣に見えて来ました。 こんなモブおじさんですが、お肉はたっぷりついてますので食べごたえがあるかもしれません。 潔く眼を閉じる事にしましょう。 ぎゅむ。 …。 …。 …。 …？？？ おかしいですね。 ちっとも痛くありません。 「大丈夫か！？」 ？？？ ますますもっておかしいですね。 何だか心配する声が聞こえます。 幻聴でしょうか。 通報され役人にドナドナされる僕を、誰もが冷めた眼で見てくるだけで、心配してくれる心優しき人などいた試しがないのですが。 あ、お役人さんはもう手慣れたもので、お茶菓子付きでお茶を出してくださいます。 見ためだけで通報されているので、それが毎回ともなれば手違いだと分かってくださっていますから。 「おい、眼を開けないか。意識はあるのだろう？」 何処と無く声が汗って、じゃなかった、焦ってる風にも聞こえますね。 チラリ。 と、そっと眼を開けて、バチリ、と急いで閉じました。 どうしましょう。 見間違いでなければ、とても『美しいお顔』が見えました。 演練でも、本丸でも、見かけるお顔です。 戦場に、ぽーい、とされる前にも見てたお顔でした。 『人成らざる美しさ』を持つ『付喪神』さまのお顔に見えた気がしたのですが、幻でしょうか。 「おい。なぜ、起きないんだ」 これは、声が怒っていらっしゃる？ そうですよね。 何せ見間違いでなければ相手は、付喪神さまであられるのだから、たかだか人間風情が逆らうなどと烏滸がましいにも程があるでしょう。 分かりました。 思いきって眼を開ける事にします。 パチリ。 「ああ、やはり意識はあったな。だが、その足ではさすがに動けないか」 ほっ、と一息ついたそのお顔は、やはり違う事なく『一期一振』さまでございました。 「ひっ」 近くで見ても崩れる事のないその美しさに、思わず悲鳴が出そうになり、いやでかかったのですが、喉が乾いていて出せなかっただけです。 「ん？ああ、私は『お前』の本丸の『一期一振』ではないよ。『お前』を虐げる為に寄越された訳でもない」 ナ、ナンダッテー。 いや、さっきから僕が驚いているのは、そこじゃないんです。 口調が『一期一振』さま特有の『敬語』じゃないのも吃驚だったのですが、『お前』と呼ばれたそこに驚いたのです。 他所の本丸の一期一振さまも、うちの本丸にいた一期一振さまも、こんな乱暴な口調では無かったのですが、とそこまで思って、はっ！？と気付きました。 一期一振さまには大勢の弟君がいらっしゃいます。 弟君相手には確かこんな口調だったかと、思わなくもないです。 いくら歳をとったおじさんでも『人』は弟君（付喪神）よりも『小童』です。 つまり、それでなのですね？と言う事にしておきましょう。 決して、僕が『モブおじさん』だから見くびられてるとか、そんな事は…。 そんな事なのでしょうか？ 虐げる、とか聞こえた気もしますし。 ちょっと悲しくなりました。 「ああ、そんな顔をするな。『主』から帰城許可も出た。直ぐに手入れをして頂こう」 壊れものでも触る手付きで、優しく頬に触れてくださる一期一振さまの手はとても優しく、やはり『付喪神』さまと言うものは、その美しい見ため通りにお優しいのでしょうか。 うちにいた一期一振さまも、お優しくていらっしゃったし。 こんなモブおじさんを、すんなりと抱えられる腕力も羨ましい限り…って、なんで姫抱きされているのでしょうか。 ああ、歩けないからですね。 わかりません。 モブおじさんを姫抱きする一期一振、なんてシュールすぎやしませんかね。 これが若くて美しい女子ならばともかく。 などと、思っていた時期が僕にもありました。 高くなった目線の先。 見える足先。 いつから僕の足は、こんなにスラリと長くなったのでしょうか。 そうして、連れられた先で更なる驚愕を味わう事になるのです。 「此度の『人の所業』。どうぞ御許しくださいませ。『一期一振』さま」 リア充間違いなしのイケメン審神者さんが、『僕に向かって』そう頭を下げました。 イケメンだったら人生勝ち組だろうと思ってましたが、まさかの。 モブおじさんは一期一振さまに成ってしまったみたいです。

<br />★キャプション必読でお願い致します。<br /><br />審神者やってたモブおじさんが、外見が典型的なモブおじさんだった為に、演練行く度に通報されそうになってて、とうとうレア刀持ってるモブおじさんを逆怨したヤツがゲート弄って本丸に帰ろうしてたモブおじさんをお山にポーンて放り出したら、所詮はモブおじさんだからあっさり遡行軍に殺られておだ仏しちゃったけど、モブおじさんの魂は綺麗だったから、モブおじさんのとこの一期の加護がモブおじさんの魂を護ってて一期に転生させた話。<br /><br />こんな話が読みたいなと思ったので、誰か書いてください。<br /><br />書きたいたこを書きたいだけ。<br /><br />★設定は捏造されております。<br />苦情苦言は受け付けておりません。

一期一振に成り代わったモブおじさんの話

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黒の組織壊滅後、宮野志保に与えられた罰は、「この国で人の教育に関わること」だった。初めは意味がわからず、刑罰を与えろとごねたが、薄暗い取調室で自分の向かいに座った男、降谷零は「独房に入るよりも重い刑罰だよ」と冷たく言い放った。 彼はドサリと大量の資料を渡してきた。それは某大学の資料のようだったが、募集要項ではなく、入学の手引だった。これは、あれだ。つまり、この大学に入学する以外の選択肢はないということだ。 「養護教諭…？」 カラーの表紙は、在学生であろう人々が笑顔で写っている。付箋がいくつか貼られているようなので、貼られているページをぱらぱらとめくると、どれも養護教諭資格についてのものだった。 「大学に入り、養護教諭資格を取得し、こちらが指定した学校に所属すること。人生をかけた償いだ。覚悟しろよ」 その灰青の瞳からは感情が何も読み取れなかった為、志保は何も言えなくなり、そのパンフレットを無言で受け取り部屋を出た。 取調室には窓がなかったが、廊下には窓が連なり、その向こうには木々が生い茂っている。クーラーのせいだろうか。志保は微かに震えていた。 夏が始まろうとしていた。 人を殺す薬を作った償いは 人を教え育むこと。 長い長い償いの始まりだった。 少し曲がってしまったな。 職員駐車場に停めた愛車の赤いドアを閉めると、地面に引かれたラインと車が並行ではない。しかし停め直すほどでもないかと判断し、鞄を肩にかけなおしたところで、「宮野先生」と声をかけられた。振り返ると、体育教師の芳賀がにこにこと立っている。朝から面倒な男に捕まってしまった。ずっと待っていたのだろうか。志保は業務用の笑顔を作り「おはようございます」と、とりあえず挨拶をする。この男、この四月に転勤してきたのだが、どうやら志保を気に入ったらしく、こうして時間があると寄ってくるのだ。 清潔感のある短髪に、涼し気な目元。一見冷たそうに見える容姿だが、目元の笑い皺と泣き黒子が上手く調和しているようで、一般的には人好きのする容姿の男だ。しかし志保の身の回りは妙に顔の良い人間が多い為、それだけでは志保にとっては魅力的な男性にはならない。性格も穏やかで少し自信過剰なところもあるが、豊かに育っているのだろう。こんな田舎でなければ、女が放っておかなかっただろう。現に女子生徒の人気は高い。が、志保は直感的にこの男を気に入らなかったし、その直感は本能なので大事にしている。本能が嫌がっている男を相手にする時間は持ち合わせていないのだ。 「宮野先生、今晩ってお時間ありませんか？」 小さい声でも伝わるように近づいてくるので、志保は距離を取り直し、「ごめんなさい、先約があるの」と答えると、芳賀は取り直した距離を更に縮めて「デートですか！？」と聞いてきた。 なんであんたなんかにそんなプライベートのことを話さなきゃいけないのよ、と心中で毒を吐く。会う相手は生物学上男なので、デートと言ってしまえば諦めてくれるだろうか。しかし、約束をしている男の顔を思い浮かべると、嘘でもデートとは言いたくなくて「親戚が来るのよ」と誤魔化した。職員玄関でスニーカーに履き替える。外ではヒールの高いものを好んで履いているのだが、校内でいつ急病人が出るか分からないため、仕事中はスニーカーを履くようにしていた。芳賀が先に行くように、スニーカーの紐を敢えて結びなおして時間を稼いだのだが、どうやら志保が履き終わるまで待つつもりらしい。その様子に小さなため息を吐き出して、とりあえず近場の女子トイレに逃げ込んだ。 鏡を見ると、明らかに疲れた顔をしている。家を出る時はこんな顔をしていなかった。好意を持たれることは初めてではないものの、やはり自分の容姿だけを目当てに近づかれると疲労する。そう、芳賀は志保の性格や趣味にはあまり興味がないようで、話が噛み合わないのだ。自分のあしらい方が上手くないことは分かっているが、単純にどうすればいいかわからない。ちょうど今晩降谷に会うし、慣れていそうだし、相談してみるか…と志保は自分のテンションを持ち直した。 ナビが指示する高速の出口を降りて、指定された店へと向かう。鹿でも出そうな山道を少しのぼると、小さな灯りのついた隠れ家的な洋食屋があった。レンガの門に蔦が巻き付いているのは演出だろうか。ゆっくりとタイヤで砂利を鳴らしながら敷地内に入ると、小さなパーキングがあり、待ち合わせの相手の車が停まっていたので、その隣に停めてからミラーを畳む。時計を見ると待ち合わせより十分遅刻している。小言を覚悟してふぅとため息をつきシートベルトを外した。 暗闇でわかりづらいが、相変わらずピカピカに磨かれているであろう彼の愛車に触れぬようするりと車の間をすり抜けて、店の扉を開けた。 カランカラン 軽快な音を鳴らし志保の入店を鈴が知らせる。店員が来る前に待ち合わせの相手を見つけたので、店員に目で合図をし、そちらに向かった。 「遅かったな」 「着替えてきたから。待たせたかしら、ごめんなさい」 「いや、大丈夫」 降谷はにこっと微笑んだ。 あの取調室から七年が経つ。降谷のイメージも随分と変わった。この男は穏やかなようで激しい。冷たいようで優しいが、その優しさも限定されるようだ。パーソナルスペースが広く、距離をある一定から縮ませてくれない。しかし志保のことは面倒臭いくらい気にかけて世話をしてくれるし、深入りしすぎない淡白な関係が志保には心地よかった。そして志保の過去を知っていて気兼ねなく話すことができる存在はあまりいないので、こうして降谷に会って食事をすることは、志保にとっていい気分転換になっていた。 「ここ来たかったんだよね」とわくわくした顔でメニューを眺める姿は、警視正とは思えない幼さで可愛い。可愛くて腹が立つ。事実、警視正にしては若すぎるのだが、会うたびに脳内でこの男いくつだっけと考える。 「車で来ただろ？飲み物どうする？」 「んー、ペリエある？」 「ん、あった」 タイミング良くおしぼりを持ってきた店員にとりあえずペリエを頼む。お酒は飲まないけれど、甘くない炭酸が欲しい。どうやら降谷も同じ考えのようで大きな瓶を頼みシェアするつもりらしい。 「食べ物どうする？適当に頼んでいい？」 「いいわよ。お腹すいてるから早くしてね」 「自分が遅刻したんだろ…」 少し不貞腐れた声だが、その顔はメニューで見えない。 店員が一人というよりは、夫婦で経営している小さなお店なのだろう。木で作られたテーブルに手作りのクロスがかけられている。店内はあまり広くないが、暖炉があり、その上に鹿の頭部のはく製がかけられているので、いかにも山の中の洋食屋といった感じだ。奥さんらしき人が黒板ボードに書かれた本日のおすすめを持ってきたので、その中から数品と、ネットで有名だというメインの肉料理を頼んだ。 「さてと、元気だった？定例なのに遅くなって悪かったね」 頬杖をつくと、その柔らかそうな金髪がふわりと揺れる。 あの取調室で己の罰を聞いてから、志保は黙って従っている。大学を卒業し、養護教諭資格を取得し、公安の定めた就職先である都外の高校に勤めている。定例で降谷に近況を報告することを義務付けられていて、七年経った今もそれは継続されている。今日がその定例日だ。定例と言っても開催日は定期的ではなく、降谷の都合で三ヶ月に一度のこともあれば、一週間に一度のこともあるし、一年に一度のこともあった。しかし、会わない間はメールも電話もするし、誕生日にはプレゼントが届く。「元気だった？」とこの男は聞くけれど、昨日声を聞いた気がするのは錯覚だっただろうか。 ペリエが運ばれてきたので、それぞれのグラスに注ぎ、軽く乾杯をした。一口飲むと、開封したての炭酸が喉に少し痛い。 「寝不足よ。あなたが私の本職以外の仕事を押し付けてくるから」 「脳がなまらなくていいだろう」 「養護教諭だって充分忙しいのよ。学会だってあるし。そもそもなんで養護教諭なのよ。化学教師とかの方が向いてると思うんだけど」 「その質問何度目？志保はお母さん似だから白衣似合うだろうなってそれだけ」 「最低。数学教師も化学教師も白衣着ます」 「え、そうなの？」 「潜入で編入してみる？あなたなら高校生まだいけるんじゃない？」 そう言うと、降谷の右頬がひきつった。 「僕、そろそろ四十台が見えてくるんだけど…」 「それ聞くたびに思うけど、APTX…」 「飲んでません」 そう言ってペリエを煽る。 そこに前菜の盛り合わせと生ハムが運ばれてくる。 降谷は機嫌を直し、「いただきます」と綺麗に手をあわせて言い、籠のようなカトラリーケースから志保の分のフォークもとって渡してくる。 それぞれが食べる量をそれぞれで皿にとる。 これが二人で食事をする時の約束だ。 初めの頃は、降谷が取り分けてくれたりもしたのだが、いかんせん量が多すぎて志保が苦しくなってしまう。不機嫌になられても困るし、気も使いたくないし、食事は楽しみたいと二人で決めたルールだ。 生ハムは志保が好きなので、あると必ず頼んでくれる。一口含むと、ちょうどいい脂身が舌に溶けて思わずにやける。 にやけた志保を見て降谷が「わかりやすい」と笑った。 「お酒飲みたい」 「車で来たんだろ。だめ」 「こんな遠いところ指定するから…」 「じゃぁ今度は飲めるところを探すよ」 「よろしく」 その後も割と楽しくおしゃべりが続いた。美味しい食事は緊張感をなくす。油を吸い込んだズッキーニを口に運びながら、降谷が「そう言えば」と呟いた。 「芳賀って体育教師」 「ぐふっ」 「わ」 不意打ちで芳賀の名前が出てきたので、ペリエが鼻にのぼった。炭酸は痛い。 しばらく咳をしながら俯いて落ち着くのを待ち、顔をあげるとにやにやした降谷の顔があり、無性に腹が立った。 「芳賀先生が何よ」 「いや、志保を気に入っているって噂を聞いて」 「誰から」 「秘密」 睨むと、両手をあげた。これもよくする「それ以上質問は受けません」のポーズだ。こちらを乱しておいて腹が立つ。 「イケメンじゃん。ダメなの？」 「イケメンねぇ…。顔だけならほら、工藤君も赤井さんもあなただっていいじゃない」 「そのメンバーに入ってるの喜べないし、顔だけとか心外だし…」 小さくぶつぶつ言い始めたが、無視をする。 「まぁ、端的に言うと好みじゃないわ」 ほう、と降谷が顎を手で支えて意地悪く微笑む。 「高望みしていると嫁に行き遅れるぞ」 「元々行くつもりないからご心配なく」 軽く睨んでから肉料理のソースをパンで攫って食べると、肉汁も染み込み癖になる美味しさだった。 「久々に食事で満たされた気がする」 「君は自分に無頓着だからな…」 そう言いつつ、降谷も同様にソースをパンで拭い、口に運ぶと、嬉しそうに頷く。彼と食事をしていて一番助かるのは、食の好みが似ているということだろう。 「でも、困っているのよ。どうすれば諦めてくれるかしら」 「うーん、まぁ手っ取り早いのは恋人を作ることだろうけど…選択肢にないだろ？」 「ない」 「じゃぁ断り続けるのが一番早いかな」 「それが苦痛なのに…」 降谷は「まあな」と苦笑する。 「でも気を付けなさい。イケメン公務員で自信のある男は、振られ慣れていないから」 「さすがイケメン公務員で自信のある男は言うこと違うわね」 「だろ？」 降谷はそう言ってまたパンを千切った。 こんこん 「はいどーぞ」 「失礼します」 放課後の保健室に入ってきたのは、二年生の奥山桜だった。 先月、この学校の男子生徒が交通事故で亡くなった。その事故の残虐さと突然の命の持っていかれ方、連日のマスコミ対応に多くの生徒がショックを受け、こうしてカウンセリングの時間を設けているのだ。基本は専門のカウンセラーを呼んで対応しているのだが、彼女はその男子生徒と付き合っていたとされている生徒で、他の生徒に比べてカウンセリング時間も長く設けられていた。去年の文化祭で開催されたベストカップルランキングのトップを飾ったカップルで、放課後手をつないで帰る姿を志保も見かけたことがあった。専門のカウンセリングの他に、彼女の希望時間に志保が話を聞くことでフォローする体制を作っていた。 「何か飲みながら話しましょうか」 「…いいの？」 「内緒ね。コーヒーと紅茶と…梅昆布茶…どれがいい？」 「梅昆布茶って先生のイメージじゃないね」 ふふふと桜が笑う。マシュマロのような子だなというのが初めに彼女に抱いた感想だった。白いふわふわの頬。笑うと片えくぼがでる。黒髪が白肌に合い、清純を身体で表現している。クラスで目立ちはしないが、地味に人気のあるタイプだ。 「ちょっとね、もらったの」 「彼氏？…にしては色気がないか」 「そうね、保護者のような人からもらったのよ」 「へぇ。じゃぁ梅昆布茶で」 「渋いわね…」 そう言いながら、志保は自分用のインスタントコーヒーと桜用の昆布茶を入れ、デスクに置き、パイプ椅子を出して座るように促した。 「少し顔色が悪いわね。寝てる？」 「うん…寝てるけど、最近ずっと眠くて…」 「梅昆布茶って睡眠前に摂取するのにいいらしいわよ。寝ていく？」 首を横に振りながら、梅昆布茶をふぅふぅと冷ましている。志保は体温計を桜に渡した。桜はマグカップを置いてそれを受け取る。しばらくすると、小さな電子音が鳴る。 「微熱ね」 体温計を消毒してケースに戻すと、調子の悪そうな桜が梅昆布茶をちろりと舐める。 志保がコーヒーを冷まそうと吹くと、桜が眉をしかめた。 「どうしたの？」 「なんか…コーヒーの匂いが…好きなはずなのになんか気持ち悪く…っ」 言葉の途中で青ざめた。 志保も、まさか、と思った。桜の体調を全部合わせても、風邪かなと思うくらいだが、もう一つ考えられるものがある。 「ねぇ桜さん…」 桜は顔を上げない。 「生理、最後にきたのいつ…？」 桜は下唇をぎゅっと噛んだ。 どう対応するのが正しいのか正直わからなかった。 俯いて何も言わなくなってしまった桜を抱きしめ「とりあえず病院行きましょう」と言うと、首を横にふる。「先生と行こう。一緒に行くから」と何度も繰り返した。ゆっくり首を縦にふった時は少しほっとした。 学校からは少し離れた、志保のかかりつけの病院に電話すると、診察時間があと五分で終わるが、来てもいいとのことだったので、連れて行くことにした。 白衣を椅子にかけて、桜の手をとりドアを開けると、そこに芳賀が立っていたので、志保も桜も小さく「ひっ」と驚きの声をあげた。 「あ、ごはんでもと思ったんですけど…」 「ごめんなさい、生徒を送るので…」 「付き添いましょうか？」 「いえ、結構です」 芳賀の横をすり抜け、桜と車へ向かう。 助手席に小さく収まった桜にブランケットをかけてやる。 道中ずっと無言な為、音楽をかけると、少ししてから「音楽、止めて…」と小声で言われて音楽を止めた。若者が聞きそうな曲をと思い、ラジオをつけたのだが、もしかしたらなにか思い出の曲だったのかもしれない。 普段、志保は車に乗るときに音楽をかけることはない。バイクが好きな理由も一緒なのだが、エンジン音に惚れて購入した車だ。購入時には降谷に付き添ってもらい、スバルのインプレッサWRXに決めた。赤を選ぶと「スバルと言えば青だろ」と心底嫌そうな顔をしたが、「似合うでしょ？」と言うと渋々頷いていたなと思い出す。 「産婦人科って行ったことある？」 小さく首を横に振る。それもそうかもしれない。志保だって初めて行ったのは成人してからだった。 「ちょっとびっくりするかもしれないけど」 今だって定期健診で行くが、どうも診察台に慣れない。婦人科健診が苦手じゃない人はいないだろう。 「先生、うちの家庭事情知ってる？」 「…簡単には聞いてるよ」 桜には、両親がいなかった。幼い頃に死別したらしい。兄弟もおらず、親戚の家に引き取られ、そこで暮らしている。そこの夫婦にも桜と同世代の子どもがいて、桜はあまり家に帰りたがらないので、補導歴もあるとのことだった。 「家に連絡はまだして欲しくない…」 それは、志保にはどうしようもないお願いだった。あくまで教職の立場で言うと、保護者に連絡しないわけにいかない案件だ。しかしそもそも、元が生理不順だったらしい彼女の身体が今どうなっているのか、まずそれからだった。 官庁街通りを途中で曲がり、一方通行の細い路地に入ったところにその産婦人科はあった。車社会の田舎らしく、病院の前以外に敷地の裏に大きな駐車場がある。人気の病院なので、日中は混雑しているのだが、診察時間外の為、幸運なことに他に車は見当たらない。桜は制服だった為、できれば好機の眼から避けさせたかった。車を停め、桜を連れて病院に入ろうとすると、表玄関はもう施錠されており、用がある者は裏玄関を使用するよう紙が貼られていた。裏玄関は基本入院患者の見舞客が使用する。裏玄関の正面には、新生児室がある為、正直今の桜には酷だと思った。受付に電話し、何とか表玄関を開けてもらい、中に入った。 問診票に必要事項を書いてもらい、体温を測る。尿をとって診察に呼ばれるのを待つと、当然だが他に患者はいない為、すぐに桜が呼ばれた。 とぼとぼと診察室に入る姿を見送り、そっとため息をついた。待合室には上の子用なのか、おもちゃや絵本がたくさん置かれている。また、ソファーの横には当然ながらマタニティ雑誌が陳列している。雑誌の表紙には妊娠中の人気モデルがとびっきりの笑顔でこちらを見ているので、憂鬱さに拍車がかかる。 立場的には彼女の保護者に連絡すべきなのだが、ここで彼女の家に連絡したら二度と彼女は心を開いてくれないだろう。それだけは避けたかった。 すぐに看護師が診察室から出てきて志保を呼んだ。診察室に入ると、座りうなだれた桜と、困ったように眉を下げる先生がいた。 「宮野さんの生徒さんなんですね」 「えぇ…どうでしたか？」 「正確ではないのですが、一二週くらいかなといったところです。心拍の確認はとれました」 「そう…ですか…」 そうであろうと予想はしていたが、はっきりと言われると、頭が真っ白になる。 一二週…所謂四ヶ月か。初期ではある。 「相手はいないって言うんですけど…」 それは、間違ってはいない話だ。多分。 「そうですね…今後のことを決める為にもちょっと本人と相談させてください。次回はいつ来ればいいですか？」 「最終生理日が不明なので週数を正確に出せないのが問題ですね…。二十週くらいになると大きさで大体の予定日はわかるんですけどね。妊娠を継続するなら、二週間後。それ以外ならできるだけ早く来てください」 明確な言葉を敢えて避けてくれたのだろうか。「わかりました」と医者と看護師に頭をさげると、二人とも複雑そうに微笑んだ。 桜は一度も顔をあげなかった。医者が寄越したエコー写真も受け取ることはしなかった。 再び桜を助手席に乗せたが、志保はエンジンをかけなかった。長い沈黙を経て、桜が聞き取れないような声で「先生…どうしたらいいと思う…？」と呟いた。力を感じない小さな小さな呟き。どんな話だって彼女にとって暴力になりかねないこの状況に、志保は簡単に答えをだすことはできない。 「今日は、先生の家に来る？」 「…いいの？」 「ダメなんだけどね。ちょっとお話ししよう。お家に連絡できる？」 そう言うと、桜の眼に一気に涙が浮かんだが、彼女はそれを流すことなく、ぐっとこらえて頷いた。 教職という立場である以上、生徒を特別扱いするのはご法度だ。 しかし志保はこの孤独な少女を今帰すのは良くないのでは、と直感的に感じていた。そして志保は自分の直感を信じるようにしていた。 マンションのオートロックを開き、桜に中に入るよう促す。オートロックを開いたまま、その横にあるポストに何もないことを確認してエレベーターに乗り、部屋へと案内した。 一人暮らしの志保の部屋は１LDKだ。キッチンは八畳のリビング内にあり、風呂とトイレは廊下に出てすぐにある。ユニットではないことが志保の拘りだった。リビングの他に寝室兼研究部屋がある。すぐに横になれるように一緒の部屋にしているのだが、PCデスクと様々な解析資料が散乱しているので、あまり人を入れたくはない。リビングダイニングのソファーはベットにもなるものなので、桜はそちらに寝てもらうことにした。キッチンは広めのものを選んだ。 「悪阻、ピークくらいだと思うけど、なんか食べれる？」 相変わらず何も話さず、首を横にだけ振る。部屋着を桜に渡し、志保も寝室で部屋着に着替える。 簡単に梅茶漬けを二人分つくり、ソファー前のローテーブルに置いた。 「無理はしない方がいいけど、梅昆布茶は飲めたみたいだから。米は食べなくても汁は塩分だしとった方がいいわ」 そう言うと、素直に汁だけすする。志保は木のスプーンで掬った米を、軽く吹いてから食べた。 言われた通り汁だけ飲まれたお茶漬けと志保の空の茶碗を台所に運ぶと、桜が追いかけてきて、スマホを渡してきた。 「電話みたい」 表示を見ると、降谷だった。急用だろうかとあわててタップし、耳にあてながら廊下に出る。 「もしもし？」 「あ、志保？今いい？」 「ちょっと良くないわね。来客中なの」 「珍しい……男？」 「男だったらあなたの電話でないわよ。何？」 「いや、新しいデータ送ったから明後日までに解析頼みたいと思って」 「明後日！？ばっかじゃないの！！？？」 降谷は「やっぱり？」と笑っているが、この様子だと納期をずらす気はなさそうだ。 「でも…終わりがわかっているだけマシね」 「……どうかしたか？」 一気に声のトーンが低くなる。 「また定例の時にでもゆっくり話すわ」 電話の向こうで降谷を呼ぶ声がする。 「わかった。無理するなよ」 「あなたが言う？」 「あは、よろしく」 最後の一音を聞き取るか聞き取れないかくらいの早さで、通話が切られた。 「先生？」 桜が不安げにドアから覗いていた。 「ごめんごめん、大丈夫よ。部屋に戻ろう」 促され、桜は再びソファーに座る。志保は白湯と自分用の緑茶を用意して桜の隣に腰かけた。 「…彼氏？」 「んー…保護者…かな」 「梅昆布茶の人？」 「あ、そうそう」 「綺麗な名前だね」 「そうね」 本名で登録したのは最近だ。その前は安室透で登録していたのだが、もういない人間で登録されているのは…と降谷が本名で登録するよう言ってきたのだ。 顔も綺麗だよ。と言うと、桜はふっと笑った。久々に見せる笑顔だ。 「いい人がいるんだったら芳賀先生がふられるのもよくわかる」 やはり、生徒からも芳賀の態度は伝わっているのだろうか。良くないことだ。 「そういうわけじゃないんだけどね…」 志保が苦笑いをすると、桜は不思議そうに首を傾げた。 形の良い頭を撫でると、上半身の体重を志保に預けてきた。 「せんせぇ…こっち見ないで聞いてくれる…？」 「…うん？」 「あのね、私ね…付き合ってるって周りから思われてたけど、ずっと脅されてたの…」 「え、関川君に？なにを？」 それから長い沈黙が流れた。 ゆっくり息を吸い、吐く音が何度か聞こえた。 「レイプ、されたの。あいつに。その時の写真を、SNSでばらまくって言われて…その後も何度も玩具にされた…。私、あいつがいなくなってほっとしたの。ほっとしたのに…なんでか……ここ一ヶ月ずっと、優しかったやり取りを思い出すの……」 その告白は、一息でされ、どんどんと声が小さくなっていった。その小さくなる声に胸が苦しくなり、言われたことを破って桜を見ると、桜の眼から涙がこぼれる瞬間だった。 少女を抱きしめた。自分も、彼女も震えていた。 桜は声を押し殺し、泣き続けた。 「どうして……」 少女の引き裂かれそうな声に、志保は暗闇に葬った自分の過去の蓋をゆっくりと開いた。 この子はかつての自分だ… 孤独の中で、乱暴さえも優しさに思えて、自分の価値を見失った、自分だ… 志保が組織でシェリーを名乗って間もない頃から、定期的にジンが部屋に訪れた。苦いキスに強めの愛撫。痛がっても泣いてもやめてくれることはなかった。それにもいつしか慣れた。ああいう形であっても求められることに安心する気持ちもどこかにあった。それほどまでに組織では孤独だった。しかし最愛の姉を殺され、自分が作った薬で殺人をしたと知ったことで、怒りと絶望でこの世から消えたくて仕方なくなり、その薬を飲んだ。結局死ぬことすらも許されなくて、今こうして生きている。組織時代のジンとの関係について誰にも言っていないが、潜入していた赤井や降谷は知っているのかもしれない。いや、二人とも志保にジンの話をふることはなかったから、きっと知っていたのだろう。 「先生もね、親が早くに死んじゃってね、お姉ちゃんも自分のせいでなくしちゃったんだよね」 桜は志保の腕の中でぱっと顔をあげる。 「誰にも大切にしてもらえない中にいると、乱暴なやり方でも人から必要とされているみたいで、どんどん錯覚しちゃうよね…」 桜は目を見開いた。 やはりか。と志保は自分の予想が正しいことを確信し、口に苦いものが広がる思いがした。この子は彼との思い出の微かな優しさに縛られている。彼女の環境と相手との関係性を思うと、産む気にはならないだろうに、病院でも彼女はその後について即決しなかった。それは産み育てる選択肢がゼロではないと言っているようなものだ。 志保は、ジンに対する自分の気持ちが長い間どういったものなのか分からないでいた。ジンの吸っていた煙草と同じ銘柄の煙を嗅ぐと足がすくんだ。夢にも何度も出てきて苦しめられた。しかし、時々、本当にわずかな優しさに触れた時のことを思い出し、どうしようもなく苦しくなった。ジンはシェリーを愛していたのか。シェリーはジンを愛していたのか。はっきりイエスと言えるほどの関係ではないことが、志保を苦しめた。 もう、ジンはこの世にいない。ジンに真意を聞くことはできない。打ち明けられる人なんていなくて、考えると全てが苦しくなってしまうから、このことには重い蓋をしたのだ。 「わかるよ。私もそうだったから」 志保の声は自分で思っている以上に震えていた。桜は涙に濡れた頬をごしごしと袖で拭って志保を見上げる。 「でも、自分を傷つける愛情に引っ張られちゃだめよ。愛情って本来人を救ってくれるものなのよ。どれだけ愛情が欲しくても、自分を傷つける愛情は受けてはいけないし、ましてや縋ってはいけない。」 それは、自分自身に対しての言葉でもあった。 桜を抱きしめることは、過去の自分を抱きしめるようなものだった。 志保が人を傷つけない愛情の温かさに気付けたのは、自分が大切にされているなと実感できる現在があるからだろう。灰原哀になって、友人ができた。宮野志保に戻って喜んでくれる人がいた。それらが志保に自己肯定の大切さを教えてくれた。 彼女にはそれがなくて、だからまだ誤った愛情に縋ってしまう。 「そのことを考えて、ちゃんとどうするか考えてみて。ご家族に言い辛かったら私も協力するから」 目尻に涙を残しているものの、その眼差しは先ほどよりも強さを取り戻していた。 「先生、ありがとう」 桜を寝かせて寝室に入り、PCの電源をつける。メールを開くと、降谷から「よろしく」という件名のメールが届いていた。内容を確認すると、大した量ではないことと、先日別件で作成したプログラムが活用できるものだった。降谷もそれがわかっていての締切にしたのだろう。プログラムを少し修正してデータを投入することで、その日の作業は終わることにした。 翌日は休日だ。早めに納品できそうで安心する。スマホの目覚ましを確認し、蒸気の出る使い捨てのアイマスクをつけると一瞬で夢へと落ちた。 翌朝、果物だったら食べられるかと桃を剥いて出すと、「美味しい」と微笑んだ。 「先生、久しぶりにすっきりしたよ。寝れた。ずっと誰かに言いたかったんだと思う…」 「そうだね、話すって大事だよね」 確かに桜の顔色は昨日よりもずっといいものになっていた。どういう結論を出すにしろ、本人が納得できるものになればいい。 ゆっくりと朝食の時間をすごした後、桜を駅まで送り、昼ご飯でも調達するかと駅前のコンビニに入ると、芳賀がいた。 「あ、宮野先生偶然ですね」 その笑顔に一瞬思考が止まる。偶然…？芳賀の駅は学校を挟んで反対だった記憶がある。 「芳賀先生…どうしたんですか？こんなところで」 「ちょっとランニングをしていて水分補給をしに寄ったんですよ。宮野先生、お近くなんですか？この後お時間ありませんか？よかったら昼食でも…」 芳賀はジャージではなかった。Tシャツにジーンズといったシンプルな恰好が似合ってはいるが、明らかにランニングをする恰好ではないだろう。 「申し訳ないけど、忙しいから」 「でも、どうせお昼は食べるでしょう？」 尚も食い下がる。家の近くまで来られるのはさすがに気分が良くない。正直困るというよりも怒りに近い感情が湧いてくる。 「約束している人がいるので」 「…彼氏ですか？」 芳賀の顔が強張る。 「好きな人ではあるわ」 言って志保は足早にコンビニを出て、駅へ向かった。このまま家に帰るのは何となく危険だと思ったからだ。 「もしもし、ちょっと匿って」 財布とスマホしか持っていないが、背に腹は代えられない。電話の相手は「は！？」と戸惑っていたが、自分の身の安全の為に電車に飛び乗った。 「ひさしぶり志保さん」 駅まで迎えに来てくれたのは、電話の相手だった新一ではなく、その妻の蘭だった。 「蘭さんごめんね。身体大変な時期なのに」 蘭のお腹は大きく、あと一ヶ月で産休に入るところだと笑った。桜のことを考えると、蘭の幸せそうな笑顔も少し苦しくなる。全ての妊婦が幸せであればいいのにと思う。 「新一、家で事件の調べものしてるの。食材買うの付き合ってくれる？」 「もちろん。荷物持ちくらいさせて」 そう言うと、蘭はその名の通り花のように微笑んだ。 「お前って本当ヤバい系の男に好かれるよな」 新一がケラケラと笑うので、蘭が肘でつついて咎める。 無理矢理おしかけたので、晩御飯は志保が作った。並んだ皿の料理を、蘭がひとつひとつ褒めてくれる。新一は、特に感想を言わないが、「完食が無言の感想」らしく、それを当然のように言うので蘭に少し同情する。 「勘弁してほしいわよ本当。すごく塩対応してるのよ？」 「お前の塩対応本当しょっぱそうだよな」 それには蘭もあははと笑う。 「お前のセコムさんはその相手を知ってるのか？」 「…存在は知ってる」 蘭の前で名前を出すわけにいかないとはいえ、その呼び方はどうなんだと思いつつ、妙に納得してしまう自分もいた。 「でも家に一人で帰るのこわいね」 蘭が心配そうにする。 「あ、大丈夫。セコムさんに連絡したら明日車で送るって言ってた」 「げ、連絡したの？」 「しないでうちにいることがバレたら怖いので自衛させて頂きました」 ジト目で睨むももの、過去にそういったことが数回あったので、新一の気持ちもわからなくもない。送ってくれるのは心底ありがたいが、仕事は大丈夫なのだろうか…。過保護もここまでくるとこちらが心配になってしまう。 突発的に頼ったにも関わらず、新一も蘭も本当に志保を歓迎してくれているようだった。自分に友人が少ないことは自覚しているが、こうしてピンチの時に招き入れてくれる人ができたのは、灰原哀という期間が自分にあったおかげなのだろう。 その夜は新一とチェスをして、そのまま雑魚寝して、朝起きてきた蘭に呆れられた。時間が遅いからと立派なブランチを蘭が作ってくれた。そこから迎えが来るまでぐだぐだと、赤井が絶賛していた工藤家の書庫で楽しく過ごすことができた。休日らしい休日を、友人と過ごすことができるなんて、過去の自分では考えられない。まぁ、あまり平和ではない理由でその休日を手に入れたのだが。 降谷から仕事が終わった旨の連絡があったのは日も暮れかけた午後六時前だった。新一と蘭に御礼を言って外に出ると、暦の上では秋だというのに、むわっと湿度が高く、志保は思わず眉間に皺を寄せた。 待ち合わせ場所は、良く知るスーパーの駐車場だった。休日なのもあってか、夕刻のその時間でも結構混んでいるようだ。既に停まっている降谷の愛車の助手席に潜り込むと、冷房が心地よく志保に当たる。降谷は「ちょっと待ってて」とメールを打ち続けているので、志保も自分のスマホを開くと、蘭から「また来てね」と可愛いメールが来ていた。本当に、あの悪魔のようなベルモットが「エンジェル」と呼ぶだけあり、蘭は根っからのお人よしで、悪意というものを持ち合わせておらず、こうして志保が突然新一を頼ったとしても、全力で受け入れてくれる。しかも、そこに気負いがない為、こちらの警戒心をたやすく解いてしまい、絆されてしまう。ラブコメ探偵の見る目は確かだったのだなと、蘭と仲良くなるまではだいぶもやもやしたものだ。 「お待たせ、行こうか」 降谷が顔をあげ、スマホを胸ポケットにしまい、イヤホンマイクを装着した。 「あなたこんな時間にあがって大丈夫なの？」 「君を送ることで仕事が遅れて評価が下がるような僕じゃない」 「あぁ、そう…」 見事なまでのドヤ顔に返す言葉はない。 「晩御飯どうする？」 「あー、それなんだけど、データの解析は終わってるんだけど、それをまとめる作業をしてなくて、早く帰りたいのよ」 「そうか、悪いな」 「全然思ってないでしょ。あ、できたデータはそのまま持って帰って。あとその間暇なら私の晩御飯作って」 「君は本当危機感が…」 「あなたに危機感持ったら何もできなくなるわ。あと、どこで見てるかわからないから、できれば部屋まで来てほしいし」 「なるほど、承知した。食材ある？」 「冷凍うどんなら」 「君は本当に…だからそんな細いんだぞ」 はいはいと流すと、まだブツブツ言っていたが、この駐車場がスーパーのものだと思い出したのか、「ちょっと待ってろ」と言って出て行ってしまった。 志保の自宅まで高速を使って一時間半くらいなので、逆算するとなんとか今日の納期には間に合いそうでほっとする。どれだけ無茶を言われても、頼られている以上期待を裏切りたくないと思ってしまうのだ。 二十分程度で降谷ががさごそと買い物袋を持って戻ってきた。それらを狭い後部座席に置き、ブランケットを取り志保にかける。 「いらないわよ」 「冷やすな」 「はいはい、お母さま」 志保の憎まれ口にさすがに降谷もジト目で睨んでくるが、知らんふりして膝にかける。着替えを持っていなかったので、蘭のワンピースを借りたのだが、座ると足が結構出るのが気になった。降谷もそうだったとすると、お母さんよりお父さんの方が正しいのかもしれない。 「あと、これ」 「ありがとう」 降谷が差し出してきたのは、志保もよく購入するカフェラテだ。ストローを挿して飲むと、存外疲れていたのか、甘さが心地良い。 「じゃ、飛ばすか」 「安全運転してよ、おまわりさん」 志保の言葉に返事はなく、降谷は口の端をくいっとあげてギアに手を添えた。 志保の家に着いたのは予想より十五分ほど早い時間だった。降谷にしては安全運転だったと思う。マンションの来客用パーキングに停めたタイミングでぽつぽつと雨が降ってきた。ブランケットを畳んで渡すと、降谷は身体をのばして後部座席に戻し、買い物袋を取り出した。「ちょっと待ってろ」と言い、助手席側にまわる。何をするかと思えば、ジャケットを脱いで「入れ」と言う。さすがに躊躇う志保に「時間の無駄だ。早く」と声を低くするので、オートロック玄関まで降谷の上着に潜り走った。 オートロックを開く間、降谷がきょろきょろと辺りを見回す。 「オートロックにカメラついてるからここにしたけど、引っ越したようが良さそうだな」 「えー、気に入ってるのに。ここより安全な場所探すとしたら交番に住むしかなくなるわ」 「いいなそれ」 「良くない」 部屋に入り、降谷のジャケットを受け取り、ハンガーにかけて浴室に干した。リビングに戻ると、ネクタイを外して腕まくりをした降谷が台所に立っていた。 「勝手に使うぞっていうか、本当に食材なくて吃驚した…」 「冷凍うどんはあったでしょ。お好きにどうぞ。私は籠って作業するから出来たら呼びに来てちょうだい」 そう返すと何かもの言いたげな顔をしていたが、正直疲れていたのでこれ以上小言を言われないうちにと、寝室に入った。 解析したデータをある程度まとめ、一覧化する。降谷から依頼されている抽出条件にあったものにサインを立てていく。この作業をしていくと、これがどういったことで公安案件になるのか見えてくるのだが、それに敢えて触れないし興味を持たないから自分に依頼しやすいのだろうと思う。 一通りエクセル資料の作成が完了したところで、降谷がノックした。 「できたぞ」 手を洗ってリビングに行くと、ローテーブルに並んでいるのはオムライスと野菜スープとサラダだった。彼が以前働いていた喫茶店の看板メニューでもある。 「あなた本当に生活力高いわよね」 「そりゃどうも」 いただきますと手を合わせ、志保が一口食べて「美味しい」と言うと、満足げに自分のオムライスの三分の一を一気に口に運んだので唖然とした。 「できたわよ」 エクセルは簡単にできたが、その補足資料に手間取ってしまい、深夜に片足入っているであろう時間になってしまった。降谷に声をかけると、読みかけの本を閉じて伸びをする。 「確認する？」 「いや、データくれればいいよ。信用してるし君の資料はいつもわかりやすい。あとそっち寝室だろ」 「気にしなくていいのに」 「頼むから気にしてくれ」 データを移した新しいUSBを渡すと、それに軽くキスをするのがキザったらしい。 「僕はもう出るけど大丈夫？」 「えぇ、ありがとう。雨強くなっちゃったわね」 浴室にジャケットを取りに行くと、乾いていたのでほっとする。降谷はもう靴を履いていたので、玄関でジャケットとビニール傘を渡すと、「新妻みたいだな」と意地悪く笑った。 「朝食作って冷蔵庫入れといたからちゃんと食べろよ」 「どっちが新妻よ」 ちゃんと食器も洗われていた。本当に生活力の高い男だ。 「降谷さん」 「ん？」 「忙しいのに私の為に時間を割いてくれてありがとう。気を付けて帰ってね」 一瞬驚いたような顔をした後、降谷は微笑んだ。正直、データ自体はメールで渡せばいいのだが、やはり怖かったのでいてくれて助かった。もう後は寝るだけだ。 「おやすみ」 そう交わして閉まったドアの鍵をかけ、チェーンをする。 部屋に戻ると、リビングにはかすかに降谷の匂いが残っていた。 翌朝冷蔵庫を開けると、びっちりラップがかけられたハムサンドが入っていた。コーヒーを淹れてハムサンドを食べると、懐かしの降谷特製の味がする。ご丁寧にフルーツヨーグルトも買っておいてくれたようで、本当に百点満点の新妻朝食だったので思わず笑ってしまう。行儀が悪いのは承知の上で、食べながら化粧をする為鏡を取り出すと、思ったよりもきちんと眠れたおかげか、顔色がいつもより良い。職場に行くのが憂鬱だったが、降谷のおかげでコンディションはばっちりだった。 「先生」 学校の駐車場で志保を待っていたのは、桜だった。眠れたのだろうか。顔色は悪くないものの、その頬には大きなガーゼが貼られている。 「ど、どうしたの…！？」 「あぁ、義父に殴られちゃって…でも、ちゃんと話したの」 「え、殴…」 「保健室行ってもいい？」 「あ、もちろん。このまま行きましょうか」 月曜なので職員会議があるはずだが、桜のケアは学校公認であるし、芳賀にも会いたくなかったので、志保はそのまま桜を連れて保健室へと向かった。 保健室の空気が籠っていたので窓を開くと、登校してくる生徒たちの声が聞こえてくる。椅子にかけている白衣を羽織り、桜にパイプ椅子を出した。頬が痛々しいが、桜自身からは欝々とした雰囲気は感じられない。内線で桜の担任に保健室にいる旨を伝えると、後で様子を見に行くということだった。 「で、どうしたの…それ」 「うん、話したの。義両親に。そしたら、義父にがつーんて」 まさかそんなことになるとは想像していなかったので、志保は責任を感じ、自分の考えが甘く取り返しのつかないことをしてしまったかと眩暈がした。 「でもね、義母がね、泣いて義父を殴ってくれたの。それで、話したこととかされたこととか、よく言ってくれたって…辛かっただろって…」 そこまで言って、桜は涙がこぼれそうになったのか、声を詰まらせた。 「今日、義母と病院に行くことにしたの。本当は学校に来ないで行こうかと思ったけど、先生に会いたくて」 桜はぐいっと手の甲で涙を拭き、志保の顔をまっすぐ見た。 「先生ありがとう。やっぱりはっきり答えは出ないし、これでいいのか凄く不安だし、たくさん後悔もすると思うんだ。でもね、先生が私を見捨てないでくれたこと、一生忘れないよ」 志保の頬も涙が伝った。 自分が思っていたよりもずっと桜は強かったことを知った。この少女を助けなければと思っていたのに、自分が救われてしまったことに、涙が出た。 桜はやはりあまり食べてはいないらしく、以前よりも少し顔が痩せたように見える。 「担任の先生には、この一連を話す必要があるんだけれど、私から話していい？」 「やっぱりそうだよね…。大事になるのかな」 「それは、事が事だから内々密に対応するけど、人の口に戸は立てられないからね」 桜は悲しそうに肩を落としたが、これからも桜はメンタルケアを受けなければならない。フラッシュバックがいつ起こるかわからない。身体だってケアが必要だ。その為にも大人の協力が必要なのだ。 不安げな頭を撫でると、桜は「先生、頭撫でるの上手だね」と笑う。笑ったかと思うと、「気持ち悪い」とこぼすので、保健室で休ませることにした。奥のベッドに寝かせ、カーテンをひく。眠り悪阻もあるのか、すぐに寝息が聞こえ始めた。 彼女の担任と、保護者と面談をしなければならない。彼女を含めたものと含めないものと。 まずは彼女の担任に話さなければならないなと、話す段取りを考える為に、志保は机に向かった。 静寂を突然破ったのは、ドアの鍵が閉まる音だった。志保はばっと振り返った。 「芳賀先生…」 ドアを背に、微笑んでいる芳賀がいた。 志保はゆっくりと立ち上がった。全身に鳥肌が立つ。芳賀は穏やかな顔つきをしていたが、それに対してどうしてこんなにも寒気を感じるのだろうか。 「昨日の男は誰ですか？」 芳賀は笑顔を崩さない。首の後ろが冷えた。やはり、近くで見ていたのか。 「あなたに関係ないわ」 志保の返答に、その笑顔が消える。 「あんなチャラチャラした男より僕が劣るって言うのか！！！」 突然声を荒げたので、志保の肩がびくりとはねあがる。 チャラチャラ…確かに金髪に褐色の肌だとそう思われても仕方ないが、昨晩降谷はスーツだったし、志保は降谷ほど硬派な男はいないだろうと思っているので、芳賀が見たのが降谷だったのか、疑いたくなる。無言でいることが気に食わなかったのか、芳賀は志保の両肩をつかみ、ベッドまでひきずった。こんな朝に嘘でしょ！？と思うが、芳賀の眼はすわっていて、話が通じそうにない。 「ちょ、芳賀先生！やめてください！！んぐぅ！！！」 志保の口にハンカチが詰め込まれる。暴れようにも両手を抑えられ、跨られているので身動きが取れない。 焦った。隣のベットには桜が寝ている。こんな光景、見せたら彼女にフラッシュバックが来てしまう。 ぶんぶん顔を振ると、頬に衝撃が走った。一瞬遅れて殴られたことを自覚した。殴られるとは思っていなかったので、口中を切ってしまい、うっすら血の味がする。 本当に最低な男だな…！！と睨むが、芳賀は志保の顔をまっすぐ見ることはない。芳賀の顔に色はなく、その手も震えていた。ぶつぶつ言っているので何を言っているのか耳をすませると、「渡さない」と小さく繰り返しているので、ゾッとする。白衣を乱暴に開かれ、シャツワンピースがたくしあげられる。白い肌が露わになったところで、隣のベットとの境のカーテンが開かれ、時間が止まった。芳賀の顔がひきつる。次の瞬間、地を割くかのような桜の叫び声が響いた。それと同時に保健室のドアが蹴破られた。ドアが吹っ飛び、そこには降谷が立っていた。凄まじい音だったので、遠くで教室のドアがいくつも開く音がする。人の集まる気配に芳賀が志保の拘束を緩めたその瞬間、降谷が芳賀を殴り飛ばした。決して小柄ではない芳賀が吹っ飛ぶが、吹っ飛んだ先で降谷が再び芳賀を蹴る。蹴られた身体が少し宙に浮き、転がる。 「ちょ、降谷さん！死んじゃう！！」 口のハンカチを取り、降谷を静止させる為に抱き付く。降谷の眼は背筋が凍るほど冷たかったが、抱き付いた志保の恰好に慌てて自身のジャケットを脱いでかぶせた。なるほど、たくし上げられただけだと思ったが破かれていたようだ。白衣のボタンも飛んでしまったようなので、大人しくジャケットを借りることにした。 「怪我は」 「大丈夫。それよりも…」 それよりも、桜だ。 桜は真っ青な顔で震えていた。志保は慌てて近づき抱きしめる。「大丈夫、大丈夫」と一定のリズムで言うが、その震えが落ち着くには少し時間がかかった。「せんせぇ」と震える声で抱き付いてきたので、抱きしめ返し、その頭を撫で続けた。 芳賀がうめき声をあげる。 「うぅ…お前…不法侵入で警察を呼ぶぞ…」 警察を呼ばれると一番困るのは芳賀だろうに、何を言っているのだろうか。やはりこの男の頭のねじは抜けているようだ。そんな芳賀に容赦なく降谷が手帳を出して 「警察だよ」 と言い放った。 「降谷さんって梅昆布茶の…？」 落ち着きを取り戻した桜がそう言うので、降谷は不思議そうに首を傾げた。 「先生が保護者っていうからもっと年上想像してた」 「保護者…。まぁ、君が思ってるよりは歳とってるよ」 ため息をつきながら髪をかきあげる姿は、気だるげで、保健室に集まる野次馬の女生徒がきゃあきゃあと騒ぐ。 続々と人が集まってきたが、志保と桜の為に、降谷が保健室を立ち入り禁止にして地元警察を呼んでくれた。ドアは降谷が蹴ったであろう場所から折れていた。さすが綺麗な顔をしたゴリラだと思う。おかげで保健室のドアを閉めることはできず、簡易的に突っ張り棒と布でカーテンが作られた。 「ところで、何でいるの？」 事情聴取前に更衣室に置いておいたジャージに着替え、降谷にジャケットを返す。桜が妊娠中なので、長時間警察に行くことはさせたくないと降谷に頼むと、降谷は一瞬驚きで目を見開いたが、すぐに事情聴取等を保健室でしてもらえるよう対応してくれた。ジャケットを受け取った降谷はさも当たり前のように 「今朝早くに芳賀の様子がおかしいとタレこみがあったから車飛ばしてきた」 と言い放つ。忘れそうになるが、この高校を就職先として選んだのは公安だ。誰かが志保の行動を報告していてもおかしくない。「転職したい…」と呟くと、「そのおかげで助かっただろ」と小突かれる。「痛いわね」と睨むと、降谷は志保の腫れた頬に触れ「やっぱ殺しておくべきだったか」と警察と思えない物騒なことを冷ややかに呟いた。 桜の事情聴取は簡易的に行われ、早くに終わったので、予定より早く保護者を呼び出すこととなった。実母の妹だと言う女性が現れたが、なるほど桜によく似ている。きっと桜は母似で、亡くなった姉に似ている桜を、この女性は大切に想っているのだろう。穏やかそうな女性が自分の夫を殴ったということは想像しがたかった。 今後面談を予定している旨を伝えると、彼女は全部自分に連絡が来るようにと、携帯電話の番号を渡してきた。大切にされることはとても大事なことだ。桜に味方がいることに、心底安心した。桜も今回のことで自分が自分で思っている以上に愛されていることを知っただろう。 頬を冷やし、大きな痣を隠すためにガーゼをあてると、桜がお揃いだと笑った。志保は頬が痛くて笑えなかった。 志保の事情聴取は当事者でもあることから、長時間行われ、週明けから随分と疲労した。学長から頭を下げられ、芳賀は懲戒免職になるだろうと告げられた。 それから二日後、降谷から「定例するぞ」という短文と店情報が添付されたメールがきた。担当外だろうに今回の現場のフォローをしてくれたから、しばらくは会えないだろうと思っていたが、志保のフォローは徹底するようだ。自分でも今回の一連は割としんどかったし、定例するぞと言ってくれたことで、思っていたよりもずっとほっとする自分がいた。 今回、降谷が指定したのは駅から割と近いスペイン料理屋だった。こじんまりとしているが、店内のテーブル席は全て埋まっており、繁盛しているようだ。ざわめきが志保たちの会話を消してくれて、都合がいい。 「最近洋食が多いのね」 「仕事の接待が懐石続きで、なんか反動で…。ワイン頼んでいい？」 「任せるわ」 そう言うと降谷はメニューをざっと眺め、店員に「チリのカベルネをフルボディで」と頼む。スペイン料理屋なのにチリ産を頼む辺りが彼らしい。重めの赤ワインを頼んだので、今日も肉料理をメインにするだろうと予想していると、予想通りにタパスをいくつかと生ハムとチーズの盛り合わせ、魚介のアヒージョとサラダの他に若鳥のアーモンドソース煮を頼んだ。 ワインが運ばれてきて、二人分のグラスに注がれる。乾杯をして一口飲むと、美味しさに頬が緩み、降谷が「お口に合ったようで」と笑った。 「本当、人を教え育むことの難しさを思うわ」 チーズをつまみながらそうこぼすと、降谷は苦笑した。 「何が正しいかわからないし、自分の傷をえぐられることもあるし」 「やめたくなった？」 「…うーんそうね。「教える」だけだとやめていたかも。「育む」がこの罰の最大の重要ポイントなんでしょう？」 降谷は灰青の眼を細めて、首を傾げて「続けて？」と言う。 「正しいことを「これが正しいのです」って教えることは簡単よ。いじめはダメ、みたいな。でも、育む為には、それが本当に正しいのか自分で理解する必要があるし、なんでダメなのか説明して相手に理解してもらわなければならない。今回、桜が妊娠したことで、私は「堕ろせ」とも「産め」とも言えなかった。それが桜の悩んでいる本質ではないと思ったし。その本質に迫る為には、自分の過去の傷に向き合う必要があったわ。向き合うことで自分の傷も整理できたし、相手のことを本気で思いやることができた。育みというのは、相手だけを指すのではないのね。あなたは人と関わることで私が育まれることを望んだんでしょ？」 降谷は「さぁどうかな」と笑ったが、違ったら否定をする人だと知っているので、この考えは「当たり」なのだろう。第一に志保の今後を大切にしようとした罰だということを実感する出来事だった。本当に降谷は志保に甘い。 「人を助けたくて自分の過去の蓋を開けたら、逆に自分が救われたわ。心の傷って時間を超えて影響し合うから不思議よね」 「そうだな。それは身に覚えがある」 降谷の呟きが、自分の母のことを指すのだと志保は理解していた。トラウマを持った人間だからこそ、人のトラウマを救う可能性を持っている。そして、人のトラウマを救うことは、自分のトラウマを薄くすることができる。降谷はそれを知っていて、志保にこの罰を与えたのだろう。 降谷のトラウマを薄くしたのは自分であると志保は自覚していた。だからこそ、降谷は自分にこんなにも構うのだと。 保健室で久々に見た降谷の焦りと怒りの表情を思い出し、何だか目の前で微笑む男と同一人物であることを不思議に思い、志保は笑った。 「何笑ってんの…」 「だってあなた、ドア蹴破って来るんだもん…ピッキングできるのに…」 「いやいや、至急案件だろあんなの…。てか、あの場面でピッキングしてたらそれこそ頭おかしいわ」 「確かに」 それを想像して、ますます笑いが止まらなくなった。 「君のツボはどうなってるんだ…」 降谷は呆れてつまみのチーズを口に放り込んだ。 「それにしても、降谷さんって本当に生活力高いわよね」 結構料理を頼んだと思ったが、お皿は見事に空になっていた。ワインは二本目に突入しているが、明日も平日なので、志保は水をはさみながらそれに付き合う。 「まぁ、僕はいつでもお嫁に行けるよな」 ワインのボトルを自身のグラスに傾け、降谷はうんうん頷く。 「なんで嫁かないの？いい人いないの？」 志保の言葉に、降谷はぴくりと方眉をあげ、ジト目で睨んできた。 「君には僕が暇に見えるのか？」 「貴方ほど多忙な人はそんなにいないわね」 「そんな多忙な人がこんなに気にかけてる理由なんて一つしかないだろ…」 「…え？」 「はー…」 がくっと頭を落とした降谷が可愛く思え、その頭を撫でたくなる衝動に駆られるが、思い直す。 「だってお母さんの面影追って娘に白衣着せたがる男ってどうなのよ」 「それはさー」 「あ、ようやく本当の理由教えてくれる気になった？」 「担任持ったら今以上に忙しくなってこっちの仕事頼めないじゃないか…」 「どっちにしろ最低じゃない！」 ハハッと笑って降谷はくしゃくしゃと志保の頭を撫でた。 長い長い償いの日々を私はこれからも過ごす。 それはあなたが私にくれたプレゼント。

そしかい後志保ちゃんに与えられた罰のお話。オリキャラが主張強めに出ていることと、ジンシェリ要素ありなこと、性的暴行シーンがある（性行為シーン自体はないです）ので、ご注意ください。<br /><br />2020年8月開催の、降志エアプチにて再販します。通販開始しましたので、こちらからご購入ください。<br /><br /><a href="/jump.php?https%3A%2F%2Fec.toranoana.jp%2Ftora_r%2Fec%2Fitem%2F040030814040%2F" target="_blank">https://ec.toranoana.jp/tora_r/ec/item/040030814040/</a><br /><br />感想頂けたら泣いて喜びます→<a href="/jump.php?https%3A%2F%2Fmarshmallow-qa.com%2F4ou9kxn33lhpr9u" target="_blank">https://marshmallow-qa.com/4ou9kxn33lhpr9u</a><br />-------------<br />2018.10.19追記<br />続編書いたのでシリーズ化しました。ブクマ・いいねありがとうございます。お陰様でルーキーランキング16位でした。嬉しかったです。

償いの君

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10108002#1

　作者のメンタルは豆腐なので誤字とかあれば優しくご指摘ください。 　鈴木園子成り代わりです。 　なので原作の鈴木園子はでてきません。 　救済あり。当然ながら捏造あり。 　カップリングは京園ではございません。 　落ちはスコッチ予定です。 　以上の説明で駄目だと思ったらそっと閉じてください。 　それでもよろしければどうぞ [newpage] ――「公安の風見です。」 [newpage] 　マスコミは連日各位の専門家、政治家、犯罪者の逮捕を報じるニュースを流している。 　『鈴木』は直接関係していないが、末端の末端な子会社に少々関わりがあったらしく、処理が面倒だったが、ほかの寝耳に水だったであろう財閥よりはましだろう。 　鈴木邸のなか、爺からの報告書とマスコミのニュースの差異がないかを確認しながら、耳と目を傾ける。 　安室透は、ポアロを辞めた。 　景光もあれから連絡はない。 「……生きているのかしら？」 　おそらく、組織は無事壊滅した。この連日の逮捕者の報道はその後処理のためというものだろう。 　あの二人が身を捨てる勢いで向かった場所は死と隣り合わせの現場。 　協力者に連絡して、約束の『薄い本』は完成している。 　少々登場人物が増えたせいで『薄い本』が厚くなってしまったが、それはご愛敬だろう。 　黒革のカバーで高級感があり、一見してそんな本だとは思えない見かけ。ビニール包装をされており、それを開かなければ　中身を覗くこともできない。 　滑らかなそれを手先でなぞりながら、天井に目を向け、憂う。 　黒田管理官の息子。19歳だというその息子が園子の婚約者候補として警察から提示された。 　表向き『見合い』としてこれから会わねばならない。 　だが、相手の詳しい身辺書や釣書もなし。 　色々知ってしまった『鈴木』への、『見合い』の皮を被ったけん制なのか否か。 　警察官の息子というならば、一般人と言ってもよい。 　園子と年ごろが近いからと巻き込まれただろう息子に同情の念を覚える。 　しかし、そんなものを伝えてくる余裕があるのならば、知り合ったあの二人の生死を先に知らせてくるのが筋というものだろう。 　園子の執務室にノックの音が響いた。 「どうぞ」 　深緑色のスーツ。焦げ茶色の短髪にスクエア眼鏡からは鋭い三白眼が覗く。 　警視庁公安部の風見裕也と名乗った男。 　知識のなかで降谷零の部下であり、景光の上司である人。 　警察上層部の思惑であろう『これ』に小間使いとして使われるほど、安い男ではないだろう 　ちょいちょいと景光の方から零れ落ちていた名である。 　園子を女子高校生と侮る様子もなく、真面目の典型と言ってもよい動作で一礼して簡易な自己紹介を終えた男は園子を探り通すような視線で見つめた。 「あの二人がどうなったか、私は聞かせてもらえるのかしら？」 　部外者となった園子がこの茶番に付き合う引き合いにした情報がそれ。 「降谷は……現在病院にいます。つい数日前に目覚め、怪我の回復をもってリハビリから開始する予定です。 「……そう。」 　組織戦の渦中に飛び込んだ降谷零は案の定、死ぬ寸前の大怪我を負ったらしい。 　通常の人間ならば、再起不能になるレベルらしいが、リハビリを始めれば、現場復帰できそうな回復力だというのだがら、人外じみている。 　もとからそういう性質があったと、協力者から話をきくことはあったが、実際にそれを部下であるこの人から聞かされるとなぜか嬉しさよりも呆れというか微妙な気持ちになるのはどうしてだろう。 「あの…」 「はい」 　何と言っていいのかとモゴモゴと口の中で転がすようにしていたが、風見は突然大きく頭を下げた。 　そのツンツンとした短髪を驚きをもって見下ろす。 「……生きて戻ってきたのは貴方の言葉があったと聞きました！」 　………『薄い本』を販売されてなるものかって意地で戻って来たとか？ 　まさかねーっと思いながら、風見から聞き出すとそれが原因っぽい感じだったのでしょっぱい顔になる。 　苦い顔をした園子を30歳でありながらキョトンとした無防備な表情で、不思議そうに風見は見つめる。 「まぁ……良いわ。」 　死ぬ間際の傷でやり切ったと諦められるよりは、しょっぱい理由でも這いずってでも戻ってこようと思えたならよかったと思う。 「それで、景光は？」 　風見は視線を右往左往と彷徨わせる。 　園子は外見的にも世間的にも年上だろうに、目上のものに相対するような風見を不可解そうに見ながら、答えを待つ。 「彼奴は――死にました。」 　園子は息を呑んだ。 [newpage] 　これ以上言えないとばかりに口を噤んだ風見から詳しい経過を聞き出すことができなかった。追及されても困った顔をするものの情報を吐くことはない。腐っても公安警察だからだろう。 　いやがらせとばかりに約束の『薄い本』を、風見に病院で休養に努めているだろう上司殿に送るように言いつけ、その新緑のスーツに押し付けた。 　戸惑うように風見はその立派な黒本革の本を受け取る。 　 　園子は唇を噛み切らんばかりに噛みしめた。 　数年間側に置いていた人。その人間性と優しさを園子は知っている。 　京極の別れも胸に痛かったが、その『死』は園子の胸をこれ以上ない程に抉った。 　生きて幸せになるように見守ることができる京極と違い、死に別れれば会うこともできない。 　薄く新緑に膜が張るが、そこから涙が零れ落ちることはない。 ――園子を泣かせることができた景光はもういない。 　幼馴染との『薄い本』を見せてやろうと思っていたのに。 　勘弁してくれと言いながらも、しょうがないなぁと園子の我儘に従って、目を通す景光が脳裏に浮かぶ。 　でも、その表情をもう見ることはできないのだろう。 [newpage] 「時間は大丈夫なの？」 「え？」 　風見も景光について詳細は知らされていない。『死んだ』とだけ知らされただけだ。 　組織に潜入して、身内のせいでに『死』に、組織の壊滅のために本当に『死』んだ。 　清涼な美貌に、灰色の切れ長な瞳が印象的だった部下。 　一般人である園子に拾われて生き永らえさせてくれた命を、そして警察組織が結果的にその救いを無碍にするように景光を死地に向かわせた。 　泣く寸前の顔をしながらも、涙を零すこともなく凛と背筋を伸ばして立つ立ち姿が美しい。 　年甲斐もなく、一回り年下の女の子を美しいと素直に思った。 　薄情とは違うのだろう。 　不器用で強い。気高い娘と宝物の話をするように園子に対して話していた部下。 　悲しんでいないわけじゃない。ただ、硬質な気高さは年頃に見合った感情を素直に示すことを許さない。 　これはあの部下が最後まで心配するはずだ、と風見は思う。 　弱みとなる感情を閉じ込め、振り払うように首を振ると、高貴で清らかな令嬢の表情に様変わりする。 　先ほどの悲しみの名残など感じさせないその姿。 　年下だからと侮ることなどできない。尊敬できる『強さ』をもった女性だと思った。 　これから『見合い』という上層部との話し合いに向かう。 　弱点や足元を見られないように切り替えは完璧。 　これを数年間側で見せられていたとすれば、これは惚れる。 　優秀な部下の審美眼に関心しながら、従者のように片手をだしてその白魚のような手を取る。 　上に立つ人間。それが如実にわかる。 　上下関係というものが叩きこまれる警察機関。 　当たり前の帰結とでもいうように、風見はいつの間にかエスコート役を務めていた。 [newpage] 「[[rb:はじめまして > ・・・・・・]]、黒田景光です。」 「は？」 　 　風見と別れ、入室した先にいたのは、白髪の隻眼。顔の火傷痕にやたらの貫禄がある腕組をした男。 　その横で朗らかに悪戯っぽそうに微笑む園子とそう年頃が変わらない青年。 　猫のような切れ長な目の虹彩は灰色。 　その青年は[[rb:ある男 > ・・・]]の面影をそのまま縮めたものと相違ない。 「なん、……は？」 　園子は何かを言おうとするが言葉にならない。 「まぁ、立ち話はなんだ。座りたまえ。」 「……はい。」 　父親を名乗る黒田兵衛に重々しく告げられ、指示された椅子に座り込む。 　腰が抜けた。だらしもなく椅子に縋りたい。 　そうするわけにもいかないのはわかっているのだが、それぐらい混乱している。 　状況がつかめない今。どうするのが正しいのかさっぱりわからない。 　何もかもどうでもよくなって、令嬢の皮も剥がれそうだ。 「驚かせたよな。――説明をさせて欲しい。」 「……そうしてちょうだい。」 　ニコニコと楽し気な景光に、園子は疲れたように先を促した。

　いいね、コメント、フォローありがとうございます。<br />　とりあえず、ラストスパートに向けて進んでいます。それでもよろしければどうぞ。

財閥令嬢の驚愕

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10108079#1

雪ノ下さんが乗った車が動き出したので、俺も家に入ることにした。 　八「ただいま」 小「おかえり？早いね？」 　八「小町、何か食い物あるか？」 小「カップラーメンぐらいじゃないかな？」 　八「それもらう、後、母ちゃんたちは？」 小「それがさ、二人で幕張イオンに行ったよ」 　八「なんでだ？」 小「さぁ？」 ひとまずは、部屋に行き普段着に着替えて下で、カップラーメンを食べる事にした。 食べ終えてのんびりしていると 小「おにいちゃん、雪乃さんの家でどうなったの？」 　八「実はな、部室に自転車置くことで色々と平塚先生が言われているようでな・・・」 小「は？なんで、平塚先生？」 　八「先生も呼ばれて居たんだよ、雪ノ下の実家に」 ここで、小町にこの一連の騒動の話をしたのだが・・・ 小「ねえ、おにいちゃん、それって奉仕部にきた依頼になるの？」 　八「奉仕部は、奉仕部で自転車部を別で作った方がいいよな？」 小「うちの学校って、部活の兼部っていいの？」 　八「それこそ、雪ノ下に聞いたらしってそうだよな」 小「そういえば、かおりさんから電話あったんだけど？」 　八「家に？」 小「そう」 　八「あー、ならこれから電話してみる」 俺は、自分の部屋に行き、折本に連絡してみた 　八『もしもし』 折『あ、比企谷、ようやく帰ってきたんだ・・・』 　八『おう、ちょい前に帰ってきた』 折『ならさ、外で話出来ない？』 　八『まだ、遅い時間じゃないし、いいけど、どうした？』 折『まぁ、なんとなくかな？』 　八『なら、いつもの公園辺りか？』 折『なら、自転車で来なよ、買い物自転車で』　 　八『偶に、あれ乗るかな』 折『そうそう』　 　八『じゃ、すぐ出るから』 折『はいよー』 ここで、通話が切られた 下におり、小町に出てくると伝えた、もちろん買い物自転車を使う事を伝えて乗って行った。 いつもの公園についたのだが、 まだ、折本も来ていないようだ。 一台、自転車が入ってきたが、クロスバイクのようだ。 え？なんで？ そう、クロスバイクに乗ってきたのが、折本だったからだ・・・ 　八「うっす」 折「おいっす」 　八「まず先に、ツッコミ入れたいが・・それは？」 折「ロードに乗る前に乗っていたクロスバイク、今はお母さんが乗っているけどね？」 　八「それ、どこのメーカーなんだよ？」 折「トレックだよ」 　八「そんな隠し玉あるなんて、知らなかったぞ」 折「まぁ、今はお母さんのだしね」 　八「はぁ、ビックリだらけの日だな、今日は・・・」 折「まぁ、座って話しようよ？」 　八「ベンチでいいのか？」 折「・・・・なら、前に行ったマック行く？」 　八「それも悪くないな」 折「じゃ、そうしようよ」 先日と同じく、折本の後をついて走っていく。 先日は、折本は買い物自転車だったが、今日はクロスバイクか・・ なんか、変な感じがするな まぁ、最初からロード乗らないで、ワンステップ入れていたんだな、折本のヤツ。 そうこうしていると、マックについてしまった。 折「ここに来るのも久しぶりだよね？」 　八「そうだな、あの時、男除けの為だったしな」 折「そうそう」 折「ところで、時間有る？」 　八「ああ、大丈夫だぞ」 折「そっか、ならさ、軽いものでも注文する？」 　八「いや、面倒だし、セットにする」 折「なら、あたしもそうするかな？」 二人で、店に入り、セットを注文した。 俺は飲み物を、アイスコーヒーにして、折本がオレンジ注文していた。 折「で、早速だけども、雪ノ下さんの家に行ってきて、どうなったの？」 　八「それなんだが、平塚先生もいてな」 折「先生まで呼び出して、どんな話だったのさー」 　八「今の部活がな、自転車部にしないとマズイ状況になったんだよ・・・」 折「あー、自転車を部室に持って上がってるから？」 　八「それと、秋に自転車の耐久レースに出るように、しなきゃならんのがな・・・」 折「なにそれ？面白そうー」 　八「それも、雪ノ下の母親まで出るからって・・・」 折「でも、耐久レースなんて、どこで？」 　八「もてぎサーキットであるんだよ」 折「・・・・いいなぁ～、いいなぁ～、サーキット走るんだー」 　八「でもな、それを部員に説得しなくちゃならんのが・・・」 折「ねぇ、比企谷、その耐久レースにあたし出れないかな？」 　八「は？」 折「普段走れないような所を走れるんでしょ？」 　八「まぁ、そうだよな・・・」 折「それをウリ文句にして、皆を説得すればいいんじゃない？」 八「まぁ、一つの方法だな」 折「ただ、受験前で走る人がいるかどうかだよね？」 折「でもさ、そうそうないよ？そんなチャンス？」 　八「そうなのか？」 折「そのレースってさ、クラスが色々あるし、結構多くの人が出たいとか言うヤツだもん。」 　八「そ、そ、そうなのか？」 折「たぶん、春と秋にやるイベントだよ、それ？」 　八「まぁ、部室に自転車置くのと先生に対する風当たりをどうにかするしかないから、やってはみるが・・・」 折「後は、どんな話をしてきたのさ？」 　八「雪ノ下の母親から、雪ノ下の事を聞かれて正直に話をしてきたところだな」 折「なにそれ？」 　八「いやな、雪ノ下が言う母親の印象と会ってみて思った印象のギャップにも驚かされたしな・・・」 折「もしかして？親バカとか？」 　八「なんで、わかるんだよ？」 折「ま、なんとなくかな？」 　八「そうだな、雪ノ下さんのタイレルと一緒に小町のフーリガンを借りてポタリングしようと言われたな」 折「いつやるの？」 　八「そりゃ、小町が貸してくれないとできないけどもな」 折「そんな感じだったんだ・・・」 　八「まぁ、家には帰ってこれたが、これからが大変だよ」 折「まぁ、週明けて、部活の場で相談すれば？」 　八「そうするわ」 折「後さ、さっきの話、キチンと聞いてくれると嬉しいかな？」 　八「耐久レースの話は聞いてみるわ」 折「ありがと、さて、明日から学校か・・」 　八「そりゃ、日曜日だしな」 折「一日一日が早いよ」 　八「それは、俺もおもうな」 折「さて、じゃぁ、帰りますかね？」 　八「だな」 二人で、食べ終えたゴミを持ちその席を後にした。 その後も、二人でライトを付けながら自転車を走らせ、いつもの公園まで戻ってきた。 折「あ、比企谷、ここでイイよ」 　八「わかった、じゃ、またな」 折「うん、また」 折本が走り出したので、俺も自分の家にむかって走り出した。 最近、バッドボーイばかりに乗っていたせいか、進むのが遅く感じた。 家に着いたので、自転車をしまい家に入ると、声がしてきた。 　八「ただいま」 小「おかえり、今ね・・・」 　八「何があったんだ？」 小「お父さんとお母さんが、自転車の事で・・・」 　八「なにやってるんだか・・・」 リビングで、二人が言い争いをしていた。 母「あたしも乗るから」 父「乗るのはかまわんけども、始めからロードバイクはどうかと思うぞ？」 母「そんなの買ってみなきゃわかんないでしょうに」 父「最初は、クロスバイクとかにしたらどうかって言ってるんだが？」 あー、乗る自転車でモメテいたのかよ・・・ なんか、これ言っておいた方がイイかな・・・母ちゃんに・・・ 親父の援護・・いや、擁護するようにみえるかもしれんよな・・・ ただなぁー・・・・ここに俺から言い出すのもなー もしかして、二人でイオンの自転車売り場見て来てこの争いになったような気がしてきた・・・ 小町も困ってるし、ここは言うしかないのかよ・・・ 　八「あ、二人の話してる所で悪いけども・・・」 母「何？」 　八「いや、今、中学の同級生とあってきたんだが、そいつ、始めはクロスバイクに乗ってから、乗れそうだからロードバイクにしたらしいんだが・・・」 母「それで？」 　八「そう言う事例もあるから、母ちゃんもどうだろう？最初はクロスバイクにしてみたら？」 母「長続きするなら、ロードバイクを最初から買った方が得でしょう？」 　八「普段使いできないから、最初はクロスバイクに乗って距離を走れそうなら、ロードバイクにしてもいいんじゃないのか？」 母「・・・・確かに、一理あるね、小町と走れないのも不便だしね」 小「そ、そうそう、小町と走る事考えたら、最初はクロスバイクに乗ってみようよ、ねぇ？お母さん」 母「・・・・もう少し、考えてみるわ」 俺はほっとしたが、親父と小町も同様だったみたいだ。 　八「悪いけど、俺、部屋に行ってるから」 そう言いのこし、この場を離れた。 あのまま、あの場所にいたら、母ちゃんにドレがイイか質問攻めにされるような気がしたから・・・ 部屋に戻り、スマホを見ると・・・意外な人物からメールが来ていた。 ・・・・・・・ 雪『こんばんは、比企谷くん、うちのお母さまに何を言ったのかしら？言われた事なのかどうか、わからないけれども、お母さまと自転車の事でかなり話ができました。どう書けばいいかわからないけれども・・・ありがとう』 ・・・・・・・ やっぱり、ただの親バカだったのかもな・・・雪ノ下の母親・・・ 娘を気にはしているが、どう、対応すれば良いのかと悩んでいたんだろうな・・ まぁ、これで、少しでもアイツがきちんと母親と話が出来るようになればいいもんだな。 明日の放課後・・・どうするかな？ いちおう、雪ノ下に返信だけでも送っておくか。 ・・・・・・・ 八『良かったな』 ・・・・・・・ そう、一言だけ、その一言に色々な意味を込めて送った。 暇つぶしに、本棚から小説をとりだした。 かなり、懐かしい本だが・・・ お気に入りの一冊だ。 ただ、この本を読み始めると、いつの間にか時間だけが過ぎて行くことが多いのが難点だ。 小町が夕飯できたよーとの声が聞こえたので下に降り、珍しく家族で夕飯を食べた。 それも、小町が作ったのではなく、母ちゃんが作ったようだ。 母「小町にばかり作らせてるのはさすがにマズイからねー」 と一言で返されてしまった。 夕飯も済んだので、部屋に行き、先ほどの本を読んでいると、しばらくして小町が 小「おにいちゃん、お風呂イイよー」 そう言われ、 　八「わかった、すぐ入る」 そう答え、風呂にはいることにした。 風呂に入るのはいいが、明日の事が全然浮かばない。 どう、説明したらいいかとあいつらにきちんと理解してもらえるのか、考えても中々いい案が出てこない。 いつもなら、長風呂などしないのに、今日は考え過ぎていたようで、のぼせてしまった。 風呂から上がり、冷蔵庫から水をコップに入れ、身体に流しこむ 急に冷えた水を入れたせいか、頭の中で考えていたことがきちんと順序立てて構築されていく。 本来なら、部室に自転車を置くのだからその時でもいいのだろうが、そんな時間は無いだろう やはり、明日になってみないとわからんな・・・ 部屋に戻り、一応スマホを確認してみると、メールがきていた 先程まで一緒にいた折本からだった ・・・・・・ 折「おいっす。比企谷、明日、学校帰りに会えない？」 ・・・・・・ メールが送られてきた時間は、ついさっきだった。 そう、一言だけだったのが、何があったのか気になったので、思い切って通話していた。 もしかけて出なければ、メールで時間を確認すればいいかと思ったが、折本は 通話に出た 　八『こんばんは』 折『メールしたから、メールで来ると思ってたんだけど・・・』 　八『いや、なんかあったかと、思ってな』 折『あ、その、明日なんだけど、どお？』 　八『部活終わってからでもいいか？』 折『今日の話をしないといけないもんね』 　八『それが重要案件だから、明日は行かないとマズイからな』 折『終わった後でもいいから・・・』 　八『わかった、終わったら連絡するわ』 折『そうしてくれると助かるかな・・・』 　八『じゃ、明日』 折『うん、連絡まってるからさ』 そう言い、通話を終わらせた。 折本らしくない感じもしたが、明日になればわかるだろうと寝る事にして、先程の本を本棚に戻し、布団に入り寝る事にした。

雪ノ下の実家から帰宅早々に、出掛けることになった比企谷・・・・

8話　もう一台かよ・・・

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10108080#1

＜注意＞ 没ネタ供養のための短いお話です。 今回は『まんばちゃんの成り代わり女体化』です。 　 ※駄文です。 ※女体化です。 ※成り代わりです。 ※百合要素があります。※ ※成り代わり主が監禁されています。※ ※グロ？注意です。※ ※捏造しまくってます。 ※キャラ崩壊です。 ※駄文です。 　 上のひとつでも嫌悪感を抱いた人は、直様回れ右をしてください。 読んだ後に誹謗中傷は受け付けません。 駄文ですけど、本当にいいですか？ [newpage] 「─────山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると？」 口が勝手にそう言葉を紡いだと同時に、幾つかの事実を理解した。 原因は分からないが[[rb:人 > ・]][[rb:間 > ・]][[rb:と > ・]][[rb:し > ・]][[rb:て > ・]][[rb:の > ・]][[rb:自 > ・]][[rb:分 > ・]]が死んだこと。 新たな生を与えられたものの、それが[[rb:人 > ・]][[rb:外 > ・]]だったこと。 新たな[[rb:刃 > ・]][[rb:生 > ・]]は『山姥切国広』という名の刀剣の付喪神の分霊の一つとして審神者なるものの元に降りたこと。 本来ならば男神であるはずなのに、[[rb:女 > ・]][[rb:神 > ・]]として顕現されたこと。 そして、 「─────《山姥切国広》、《顔を隠す襤褸布を取りなさい》」 「あなたの顔を私に見せてちょうだい」 「……ああ、何て綺麗なの。今までにも色んな付喪神を見てきたけれど、あなたはその中でも一番綺麗だわ」 「こんなにも美しんだから、あなたを見た全てのものがあなたを欲しがるに決まってる。だから誰にも傷付けられないように、奪われないように、大切にしまっておかないといけないわね」 「山姥切国広…私の、私だけのお人形さん……誰よりも、何よりもあなたを愛シテイルワ」 ─────目の前の人間によって私の『自由』は奪われたことを、嫌という程に理解した。 「─────あれ？もしかしてお師匠さんの髭切さんと膝丸さん？」 「やぁ、久し振りだね。暇だったから遊びに来たよ」 「事前の連絡もなしに来訪して本当にすまない…」 籠いっぱいに収穫した野菜を両腕に抱えた加州は、突然の来訪者達に目を丸くする。 微笑む髭切と申し訳なさそうな表情を浮かべる膝丸はあまりにも対照的で、加州は可笑しそうに笑った。 「あはは、そんなに申し訳なさそうにしなくていいよ。うちの連中はお師匠さんのところの刀剣達が大好きだからさ、すごく喜ぶよ」 「そう言ってもらえると助かる」 「それにしても本当に久し振りだね。今日は髭切さんも膝丸さんも引っ張りだこだと思うよ。今道場に行ったら数刻は確実に解放してもらえなくなるだろうから、やめておいた方がいいんじゃない？」 「ああ、同田貫や和泉守達がいるのか」 「そうそう。暫く会えていなかったのもあるし、今回が極になってから会うのは初めてでしょ？以前よりも強くなった自分を見て欲しいってすごい意気込んでたよ」 髭切と膝丸は、加州を顕現した主である女審神者が師事する男審神者の刀剣男士だ。 彼らの主は審神者歴が非常に長く、またトップランカーの一人であるために審神者界隈では結構な有名人であったりする。 面倒見がいい故に後続育成にも力を入れており、多くの弟子を持っている。 彼の刀剣男士達もまた弟子の刀剣男士の相手をすることが多く、気付けば刀剣男士同士でも師弟関係を築いていた。 今回髭切と膝丸が訪れた本丸は、男審神者の刀剣男士の中でも特にこの二振りを師として仰いでいる刀剣男士が多く存在している。 もちろん加州も例外ではなく、彼らを見つめる目には憧憬の念が込められており、それを目にした髭切達は表情を和らげた。 「僕もたぬきくん達の今の実力が気になるから、用事が済んだら道場に向かうよ」 「用事？」 「久し振りにここを訪れたからな。ゆっくり見て回ろうと思っている」 「そうだね、最近本丸の増改築を何回かしたから以前と違うところがたくさんあると思うし、自由に見て回ってくれていいよ。その時に新人と出会ってもいじめたりしないでね。新人の何振りかは髭切さん達と会うのは今回が初めてな上にまだ練度も低いから、髭切さん達のその濃密な神気に気後れしちゃうかもしれないし」 にこにこと笑って言った加州の言葉に膝丸は「気をつけよう」と一つ頷く。 ふ、と何かを思い出したように、髭切が声をあげる。 「あっ、そう言えば審神者は？一応挨拶はしておかなきゃね」 「ああ、主なら審神者会議に行ってるから不在だよ」 「兄者、俺達の主も初期刀殿と共に出席するから本丸を留守にすると朝餉の時に言っていたではないか…」 「ありゃ、そうだったっけ？」 忘れてたよ〜。と笑う髭切に、膝丸はがくりと肩を落とす。 そんな彼らのやり取りを楽しげに見ていた加州は野菜を厨に持っていくからと言って別れた。 その場に残った髭切達は母屋を見上げ、中に入ることなく、踵を返してぐるりと母屋の周りを歩く。 ゆったりとした足取りで庭を散策していた時、ふ、と違和感を覚えた髭切が足を止める。 その隣を歩いていた膝丸も倣うように足を止めて、不思議そうに髭切に目を向ける。 広い庭を見渡した髭切は静かに口を開いて問いかけた。 「前にここを訪れたのはいつだったかな？」 「少なくともここ一年は来ていないが…」 「……そう」 「兄者？」 口を閉ざしたまま誰もいない庭を眺めながら、自然な動作で腰にある本体へと手を添える。 それを目にした膝丸もスッと目を鋭くさせて警戒する。 「ねぇ」 「何だ、兄者」 「一年前までは晴れの日は短刀らが元気良く庭を駆け回っていたよね」 「……そうだな」 「まあ、母屋の中での楽しい遊びでも見つけたのかもしれないけど、」 ─────離れの周りに人除けの結界なんて、一年前まではなかったよね？ 静かな声音で紡がれた言葉に同意するように、膝丸も柄に手をかける。 母屋からは賑やかな声が聞こえてくるが、離れの周辺はまるでそこの空間が切り取られてしまったかのように異様な静けさに包まれていた。 「………これを張ったのは審神者か」 「そうだね。ここの刀剣達は審神者の霊力に馴染んでいるから、気付かなかったのかな？その点僕達は違うからこれに気付くことが出来た、と」 「何故離れの周りに人除けの結界が張られているんだ？それに離れ自体が頑丈な結界で覆われているな」 「ふふ、まるで何かを─────そう、とても大切な何かを、誰にも奪われないように隠しているみたいじゃないか」 人除けの結界を物ともせずに、髭切達は離れの方へと足を進める。 離れを覆う頑丈な結界の前で止まり、手を伸ばし指先が触れた瞬間、バチッと火花が散る。 弾かれた指先を見つめて髭切は、くつりと笑う。 「お前はどう思う？」 「どう、とは？」 「一体ここには何が隠されているんだろうね。結界に触れた時に術者の霊力の中に込められた思念が少しだけ流れ込んできたんだよ」 「それで何と？」 「─────『人形』だってさ」 「は？」 「『綺麗なお人形さん』『愛してる』『誰にも渡さない』『私だけの愛しいお人形さん』って、呪縛にも似た強い執着があの一瞬で流れ込んできたんだ」 髭切の言葉に膝丸は表情を険しくした。 そして結界の奥にある離れを探るようにじっと見つめ、嘆息する。 「何か[[rb:視 > ・]][[rb:え > ・]][[rb:た > ・]]かい？」 「……離れの地下に、何かを封印するかのような呪術が施されている」 「ありゃりゃ」 「結界の外からと言うのもあって詳細はわからないが、確かに兄者が言う通り《何か大切なもの》がしまわれているようだな」 それを耳にした髭切はにんまりと口元に笑みを浮かべる。 髭切と膝丸の今代の主たる男審神者は、数多くの術者を輩出している一族の生まれであり、彼自身もまた優秀な術者の一人だ。 特に《視る力》─── 例えば人ならざるモノの姿を見ること、結界等の呪術で隠されたものやその術式を見抜くこと等 ───と《読む力》─── 例えばその場所や物等に残った残留思念を読み取ること等 ───に長けている。 そんな男審神者に顕現された刀剣男士もまたその能力を確と引き継いだ。 その中でも髭切は《読む力》が、膝丸は《視る力》が優れている。 それでも男審神者が顕現する際の要領がうまく掴めていなかった頃、これでもかと大量に霊力を注がれて顕現した初期刀や初鍛刀の足元には及ばない。 特殊な力を引き継いだ上に男審神者から呪術に関する知識や技術を与えられたこともあり、その能力を買われて、髭切達が属する本丸は今から約十年ほど前に審神者や政府を取り締まる『監査部』の協力者となった。 そして今回の約一年振りの訪問は表向きには『時間ができたから主の弟子の本丸に遊びに来た』となっているが、実のところ抜き打ち監査が主目的だったりする。 「ここの刀剣達は人除けの結界に気付いている様子はないから、きっと離れの[[rb:異 > ・]][[rb:常 > ・]]にも気付いていないよね」 「……兄者、この本丸のこんのすけを呼び事情を説明して、離れの中に突入するか？」 「そうだね。冤罪だった場合、この本丸の刀剣男士ではない僕達が不法侵入で罰せられちゃうからね」 まあ、十中八九冤罪なわけがないんだけどね。 そう呟いて目を細めた髭切がこんのすけを呼ぼうと口を開いた時だった。 ─────ガシャガシャンッ、…ジャララ… 離れの中から聞こえた、鎖のようなものが何か固いものにぶつかり引きずったような小さな音を、二振りの優れた聴覚が拾う。 その音を合図に二振りは視線を交差させると、膝丸は抜刀し、こんのすけを呼ぶ髭切の声が静かに響き渡る。 ポンっという音と共に姿を現したこの本丸のこんのすけは、自分が担当している審神者の刀剣男士ではない二振りに目を丸くしたが、それに構うことなく髭切は左手首に着けられた細身のブレスレット─────監査部に所属している者の証を見せる。 「はい、御呼びでしょう、か…って、あれ？もしかして審神者様のお師匠様の髭切様と膝丸様…では？」 「突然で悪いけど、今からこの離れに突入するよ。はい、監査部である証のブレスレットね」 「あ、はい、本物ですね……って監査部！？えぇ？！何でですか！？しかも離れって、何故！？」 「正直に言うと俺達もまだ詳細はわかっていないが、離れの周りには人除けの結界が張られている上にこの中に何かを封印している呪術が見受けられた」 「それとここの審神者の霊力の中に込められた思念がちょっと厄介な感じがしてね、証拠不十分だけど時間がないから突入させてもらうよ」 スラリと鞘から刀を抜いた髭切が膝丸の隣に並ぶ。 「ちょっと固そうだから、少々本気を出させてもらうよ」 柔らかな声音とは裏腹に、二振りから放たれる神気は穏やかとは程遠い、他を圧倒するほどに濃密なものだった。 それに当てられたこんのすけはブワリと毛並みを逆立てる。 「きえああああああッ！」 「ッシャアアアア！」 一太刀ずつ受けた頑丈な結界は、音を立てて崩れ去る。 それを確認した髭切達は、片手に抜き身の本体を持ったまま離れの中へと足を踏み入れていく。 呆然としていたこんのすけも慌てて彼らの後を追った。 結界に触れたあの一瞬でも流れ込んできた思念が、まるで蛇のように纏わり付くそれの気持ち悪さに思わず顔を顰めてしまう。 しかしその思念が強く感じられる方へと向かっているため、目印となるものを聞こえないように遮断することも出来ずに離れの中を駆ける。 綺麗、愛してる、私のお人形さん、私だけのお人形さん、誰にもあげない、誰にも触れさせない、あなたに触れていいのは私だけ、あなたを見ていいのは私だけ、あなたが触れていいのも私だけ、あなたが見ていいのも私だけ。 あなたに必要なのは、私だけ。 そして出入り口から一番遠い場所にある部屋の中に踏み入れた瞬間、狂ったような[[rb:思念 > コ　エ]]が流れ込んできた。 愛してる愛シテル愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテルアイシテル愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛シテル愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル愛してる愛してる愛して─────、 「………ああ、もう、うるさいなぁ」 「兄者？」 顔から一切の表情を消した髭切は南京錠が掛けられた扉に向かって刀を振り上げ、躊躇することなく振り下ろす。 それは最も容易く真っ二つに破壊されて、音を立てて床に落ちた。 苛立ちをぶつけるかのように解錠された扉を壊す勢いで長い足で開き、その先にある地下へと続く階段を駆け下りていく。 背後から慌てたような声で呼びかける膝丸の声を無視して。 薄暗い階段を降りた先には木製の扉があり、結界や呪術、罠等がないかを確認してからガンッと思いっきり蹴り飛ばすと、その威力が強すぎたのか、鍵だけでなく蝶番も壊れて扉ごとバタンと床の上に倒れた。 「あ、兄者…」 「あー、本っっっ当にうるさかった。もういいよねあんな気持ち悪い声を延々と聞かされていたら気分が悪くなっちゃうし遮断していいよねまあダメって言われてもするけど」 「ひえッ…！」 「あんな不快なものを聞かせてくれたお礼に斬り殺してあげてもいいぐらいだよ」 「兄者、落ち着いてくれ…！」 「ひええええ！！お師匠様の髭切様は何でそんなに殺意が高いんですかぁ〜！」 「え？君にも聞かせてあげようか？あの狂った声をさ。大丈夫だよ、僕には聞こえない人にも聞こえるように出来るように極めたからさ」 「何でそんなことを極めたんですかあああ！？！？こんのすけはホラーがダメなんで勘弁してくださいいいいいいい！！」 「ホラー？あの声の主は君が担当している審神者のものなんだから怖いも何もないでしょ。君やここの刀剣達がさっさとこの事態に気付いていればここまで酷くなることはなかったかもしれないのに。そしたら僕もこんな不快なものを聞かされる羽目にならずに済んだんだよ？ねえ、これって職務怠慢なんじゃないの？え？狐鍋にされたかったって？仕方ないなぁ、そこまで言うなら僕が君で狐鍋を作ってあげるよ。ひと思いに始末しないでじっくりと丁寧に捌いてあげるから安心してね」 「兄者！頼むから、頼むから落ち着いてくれ…！そのこんのすけはもう失神しているから、これ以上相手にするのは時間の無駄、」 「─────誰だ？」 髭切の怒りをぶつけられたこんのすけは恐怖のあまり失神し、その首をわし掴んで刀を振り上げようとする髭切を膝丸が落ち着かせようとしていた時、透き通るような落ち着いた声が響き渡った。 その声に髭切はこんのすけを放り投げ、膝丸と共に聞こえてきた方へと警戒を露わにしたまま目を向けた時、目に飛び込んできた光景に思わず息を飲んだのは一体どちらだったか。 頑丈な鉄格子の奥には、豪奢な椅子が一つ。 その椅子に、美しい金糸のような髪とそれと同色の長い睫毛に縁取られた大きな翡翠の双眸が印象的な、純白のドレスを身に纏った女人が腰掛けていた。 本物の宝石のような翡翠が髭切と膝丸の姿を映す。 ぱちり、とその瞳が一つ瞬いた時、まるで金縛りにあっていたかのように動かなかった身体が自由を取り戻し、改めてその鉄格子の中の女人を見遣る。 どこか見覚えのあるその顔に膝丸は小さく呟いた。 「山姥切国広、か…？」 「ああ、それも女人の、ね…」 自信なさげな呟きを拾った髭切が同意して、鉄格子へと近付く。 鉄格子の中─────女人の山姥切国広がいる狭い空間に、彼女が外に出ることと自ら顕現を解くことを禁じるための術が施されているのを見つけ、目を眇める。 それから膝丸の方へと目を向ければ確と頷いたのを確認したので、これを解呪することができるのだろう。 また鉄格子の中から彼女を出すには暗証番号も必要らしい。 鉄格子を斬る、という考えが脳裏を過るが、これは特注品なのか練度が上限に達して久しい髭切や膝丸だけでなく、極になった刀剣男士すらも破壊できるか怪しい代物だと判断して斬って壊すという選択肢を消去する。 中にいる彼女をここから連れ出すには暗証番号が必要だが、どこかに保管してあるだろうか、と思考を巡らしていた時、豪奢な椅子に微動だにすることなく腰掛けていた彼女が、静かに立ち上がった。 その時にジャラジャラ、という音が耳に届き、その音が聞こえた方へと目を向ければ、細く頼り無げな左手首とドレスの長い裾から覗く右足首が鎖で拘束され、さらにそれが壁に繋がれていることに気付く。 思念から伝わってきていたが、こうして目にすることでより一層彼女への執着の強さを痛感する。 「あんた達はあの女の刀剣男士ではないんだな」 「……そうだよ。僕達は君の主である審神者が師事する人間の刀剣男士なんだ」 「君は一体いつからここに？」 「さぁな。顕現して名乗りを上げた瞬間に言霊で縛られ、気付いたらここに愛玩人形として閉じ込められていたからな。………ああ、そう言えば確か昨日あの女が言っていたな、『明日で私達が出会って一年の記念日だから、目一杯お洒落をしましょうね』と。だから今日で一年だな」 表情をピクリとも動かさずにそう言ってのけた彼女に、髭切達は絶句する。 彼女を檻の中に閉じ込めた女審神者にとって、彼女と出会った一年という今日は大切な記念日だったのだろう。 その目出度い日を祝うためにまるで結納でもするかのように花嫁を彷彿とさせる衣装を着させたのか、と気付きたくもなかった事実に気付いてしまい、内心落ち込む。 そんな彼らを気にすることなく、彼女は膝丸に声をかけた。 「そこの黒服の」 「…あ、あぁ、何だ？」 「あんたの足元にあるその石…そう、それだ。それを私の手が届く範囲に投げて寄越してほしい」 「この石で何をする気なんだい？」 「何って、この機会を無駄にするつもりは無い」 「機会？」 「それはずっとここで逃げ出す機会を待ち続けていたってことかい？」 「この鎖から自力で抜け出すことは出来ても、この牢屋に施された術の解呪も暗証番号の入力も出来ない。その上あの女に言霊で縛られることの無い第三者の介入が必要だった。その点、あんた達は解呪も出来そうだし、暗証番号を入力することも出来る。しかもあの女の刀剣では無いということは言霊で縛られることも無い。この機会を逃したら私はきっとこれから先もここから出ることは叶わずに、あの女の愛玩人形として過ごしていかなければならない」 「……………」 「別に愛でられることが嫌いなわけでは無い。愛されないよりも愛された方が喜ばしいだろう。だがあの女の愛は度が過ぎた。度が過ぎたそれは重荷でしか無い。それにあの女は私から[[rb:刀 > 矜持]]を、自由を取り上げた。その時点であの女に対する好意は失せたも同然」 ─────朽ちるのならば、こんな檻の中ではなく、戦場がいい。 鬱々とした狂った思念が渦巻く中でそれに感化されることなく、凜とした空気を纏って力強く言い放った彼女に髭切も膝丸も目を奪われた。 スッと右手を膝丸の方へと伸ばしたのを見て、我に返った膝丸が彼女の近くに石を投げる。 それを手にして数度ほど手の中で遊ばせてから、彼女から離れた場所に刀掛けに置かれている一振りの刀剣─────《山姥切国広》目掛けて石を放った。 コンッという音を立ててぶつかった刀は、刀掛けから落ちて地面に転がる。 それを拾うために歩き出したものの、それを阻むかの如く鎖がジャラジャラと音を立てる。 鎖が伸びる限界のところまで近付くと、ドレスの裾が汚れるのも構わずに地面に膝をつき、手を伸ばす。 それでも刀は彼女の指先をギリギリ掠らない場所に転がったまま。 すると彼女は何を思ったのか徐に右手で自分の左肩に触れると、 「「！？」」 ゴキン、と左肩の関節を外した。 激痛に苛まれているにも関わらず、相変わらず表情をピクリとも動かさないまま刀へと右手を伸ばす。 下げ緒を指先で掴み、そのまま引き寄せて久方ぶりに[[rb:刀 > 己]]に触れると、数度ほど撫でて顔を上げる。 そして再び自分で外した肩をはめ直して刀を手にして立ち上がった。 鯉口を切り、スラリと鞘から美しい刀身が現れた瞬間、ブワリと桜の花弁が舞い、彼女の華奢な身体を包み込む。 純白のドレスは襤褸布を纏った戦装束へと様変わりし、舞い散る花弁を払うように抜き身の刀を一振りすると、ふわりと頭部の布が落ちて美しい黄金色の髪が露わになる。 純白のドレスを身に纏う彼女も儚くも美しかったが、戦装束を纏う彼女は凛とした美しさを備えていた。 ああ、と髭切は声もなく呟く。 あんな風に着飾らなくとも彼女はこんなにも気高く美しい戦女神であるのに、それを彼女の美しさに魅了され執着していたはずの女審神者本人が奪っていたとは、なんて勿体ないことをしていたのだろうか、と。 こんなにも狭くて薄暗い場所に閉じ込められたまま、朽ちていくなど勿体なさすぎる。 彼女が望んだ戦場では、一体どのような輝きを放つのだろうか。 ひどく興味が唆られた。 《山姥切国広》は自分が属する本丸にもいて、共に戦ったことは幾度となくあった。 《[[rb:山姥切国広 > お　　　な　　　じ]]》なのに、全然違う。 それは彼女が女人だからか。 理由は分からずとも、ここで彼女を朽ちさせるのは惜しいと強く思った。 「膝丸」 「！」 「解呪は済んだかい？」 「あ、ああ！もちろんだとも、兄者！」 一刻も早く彼女をここから連れ出そう。 そう強く思った時、鮮血が舞った。 ごとん、という音の直後にガシャンッと鎖が音を立てて地面に落ちる。 一瞬、何が起こったのかを理解するのに時間がかかり固まっていたが、彼女が刀身を濡らす赤を振り払ったことでハッと我に返った膝丸が慌てたように声をかけた。 「な、何をしてるんだ！？」 「？何って、左手首を斬り落としただけだが？」 「いやいや、何でそんなことをしたんだと聞いているんだ！」 「あんた達ほどの刀であればこの程度の鎖は最も容易く斬れるのだろうが、練度が初期値のままの私では斬れるか、本体が負けるかが分からなかったから、利き手ではない左手首を落とした」 何か問題でも？とでも言うかのように首を傾げる彼女に、膝丸は返す言葉もない。 こんな狭苦しい空間に監禁され、監禁した張本人以外との接触は禁じられ、まるで呪詛のような愛の言葉を言われ続けていたのにも関わらず、正気でいると思った方が可笑しかったのだとようやく理解する。 左手首同様に鎖で繋がれている右足首へと視線を移した彼女に目敏く気付いた髭切が声をかける。 「待って。足首まで斬り落としたらここから逃げ出す時が大変だよ。その程度の鎖なら初期値の君は難しいかもしれないけど、僕なら斬れるから、あと少しだけ待って」 「わかった」 「解呪の方は既に、えっと…弟が済ませたから、」 「さっきはちゃんと『膝丸』と呼んでくれたではないか、兄者ぁ…！」 「ああ、そうだ、そんな名前だったね。……あとはこの檻の暗証番号なんだけど、審神者がここの番号をどこに保管してあるか心当たりとかはあるかい？」 膝丸の嘆きを流し、檻の暗証番号について問いかける髭切。 早くしないと審神者会議が終わった女審神者が本丸に帰還するだろう。 それまでに彼女をここから連れ出さなければ面倒なことになりそうだと眉を顰めると、ぱちぱちと目を瞬いた彼女が斬り落とした手首を持ってジャラジャラと右足首の鎖を鳴らしながら近寄ってきた。 「暗証番号なら知っているぞ」 「えっ、君、知ってるの？」 「ああ。あの女が嬉々として私に教えてきた。こうして私が自分以外の者と関わることはないと思っていたからだろうな。まあ、私としては助かったが」 「そうだね、考え無しの人間でよかったよ」 あっけらかんとした様子でそう言い放った髭切を、何とも言えないといった様子で見遣る（もちろん表情はピクリとも動いてはいないが）。 そんな彼女に気付いた髭切は不思議そうに首を傾げる。 「………あんた、思っていた以上に辛辣なんだな」 「えぇ〜、僕は事実を言っただけなのに」 「そうだぞ、兄者にしてはこれでも優しい方だ」 「……そうか」 スッと目を逸らした彼女に、「それで暗証番号は？」と問いかける。 「【〇九五一九一】」 「………解錠完了っと」 ピーっという音の後にガチャン、と鍵が開く音が響く。 出入り口となる部分の鉄格子を押して開けると、ゆっくりとした足取りで近付いてくる彼女を髭切も膝丸も黙って見守った。 そしてあと一歩で檻の外といったところで彼女が足を止めた時、髭切は一切の躊躇なく彼女と檻を繋ぐ鎖を断ち切る。 彼女はそれをぼうっと見つめたまま固まった。 檻の中に閉じ込められたあの日から、一度たりとて出ることが叶わなかった檻の外。 この一歩を踏み出せば、幾度となく夢想したことが叶う。 そう思うと急に心臓が激しく脈を打ち始めて、胸が締め付けられた。 込み上げてくる形容し難い感情に戸惑っていると、スッと手袋に包まれた手が差し出される。 それを目で辿っていき、ゆるりと顔を上げると柔らかく微笑む髭切と視線が交わった。 「君が外に出たいと、ここで朽ちていくのを待つのは嫌だと言ったんだよ」 「、」 「行こう。君のように気高く美しい[[rb:戦女神 > か　た　な]]には、こんな狭苦しい籠は似合わないよ」 ─────ほら、おいで。 ひどく優しい声音に乗って紡がれた言葉に誘われるように、彼女は差し出された手に自分のそれを重ね、檻の外へと飛び出した。 （´-`）.｡oO（続かない…) 最後らへんのこんのすけの空気感。。。 ごめんね、こんのすけ… ＜注意＞に※百合要素あり。※って書いたんですけど、これは百合に分類してもいいんですかね…？ どこからを百合と言っていいのかわからないんですけど、一応書かせてもらいました。 この後は『刀を一度も振らないまま還るのは御免こうむる。でも人間と関わるのは疲れたから、ちょっくらお山に登りに行ってくるね！』と練度初期値のまま厚樫山に単騎出陣しようとするにょたんばちゃんを源氏兄弟が止めたり。 女審神者は逮捕されて女審神者の本丸は解体になったり。 にょたんばちゃんを源氏兄弟がお持ち帰り()して師匠審神者の本丸で一悶着あったり。 そこの初期刀の山姥切(極)を筆頭に堀川派に妹認定されて可愛がられたり。 ピクリとも表情が変わらないにょたんばちゃんの笑顔を見たいがために師匠審神者の本丸全体で必死になったり。 と考えてみたけど、力尽きたのでここで終わりました。 この話だとにょたんばちゃんのお相手は高確率で兄者、次点で源氏サンド。 以下、簡単な登場人物紹介です。 【監禁されちゃった成り代わり主】 にょたんばちゃん（練度：1） ・見た目は山姥切国広を女性っぽくさせた美少女。 ・同位体と違う部分は、背中の半ばほどまである長い金髪と戦装束がプリーツスカート、そして黒タイツ。 ・極てないけど、布キャストオフ済み。 ・前世の死因はわからないと言っているけど過労死です。（ヒント：ブラック企業） ・とうらぶ知識はない社畜。 ・飲食せずとも生きていける身体に歓喜。（食事しなくても生きていけるって？その分働けるなんて最高じゃないですか！） ・でも寝ることは好きだから女審神者がいない時は椅子に腰掛けながら眠っていた。 ・元人間ではあるが、刀の付喪神としての本能の方が強いために戦場で敵をバッサバッサと斬り倒したい欲がMax。 ・それでも人間だったという意識がほんの僅かだけ残っているため、過去の自分との違いを追求したくて仕方がない（例えばどれだけの痛みを耐えられるのか、とか。どんな状況になったら動けなくなるのか、とか。）ので無茶しがち。 ・一見正気に見えるけど実はSAN値直葬しているヤバい奴と思われていて、今後保護者量産機になる予定。 ・表情がピクリとも動いていないことに本人は気付いていない。 【ドレスも似合ってたけどやっぱり戦装束の方が好きな兄者】 髭切（練度：99） ・にょたんばちゃんを監禁していた女審神者の師匠の刀剣男士。 ・《読む力》が優れており、今回はそれが仇になって虫の居所が（かなり）悪かった。（あの時女審神者と遭遇していた場合、問答無用で斬っていた程度には苛々していた。） ・足癖はかなり悪い。 ・にょたんばちゃんの凜とした姿に興味を唆られた。 ・ら、その直後に桜の花弁の中で立つ戦装束姿のにょたんばちゃんに落ちた。 ・が、躊躇することなく手首を斬り落としたにょたんばちゃんを見て「あ、この子、思っていたよりもヤバい」と確信。 ・この子は目を離しちゃけない子だ、まあ、離すつもりもないし、逃がすつもりもないけど ^ ^ ・女審神者？許すつもりはないよ？？？^ ^ 【名前を呼ばれたのにその後にまた忘れ去られて、上げて落とされた弟者】 膝丸（練度：99） ・にょたんばちゃんを監禁していた女審神者の師匠の刀剣男士。 ・《視る力》が優れており、時々見たくもないものまで見えたりもするけど今回はそうでもなかった分、兄者の機嫌が急降下していったのでかなり焦った。 ・安定のブラコン。 ・兄者ほどではないが足癖は悪い方。 ・にょたんばちゃんの美しさに魅了されそうになったが、手首を自分で斬り落としたのを目撃して考えを改める。（こいつはヤベェぞ。） ・兄者がにょたんばちゃんにロックオンしたのには気付いてる。 ・にょたんばちゃんはなかなかにヤバい奴で、そんなヤバい奴に惚れた兄者もなかなかにぶっ飛んでるのは理解していて、ぶっ飛んでいる奴に捕まらないようににょたんばちゃんを逃がすべきか、それともヤバい奴から大好きな兄者を引き離すか悩むが、結局は兄者の幸せが一番だし、ヤバい奴でもいい子だし、何ならヤバい奴同士でくっついた方が色々と周囲のためにもなるんじゃないか？と思い直す（かもしれない）。 ・そのヤバい奴に惚れるかもしれない未来がないなんて、誰も言っていない。 【成り代わり主の美しさに狂っちゃった女審神者】 女審神者 ・にょたんばちゃん大好き♡♡♡ずぅっと一緒だよ♡♡♡なヤベェ奴。 ・にょたんばちゃんに出会うまでは普通にいい審神者だったし、にょたんばちゃんが関わっていない時は今まで通りのいい審神者。 ・離れの地下ににょたんばちゃんを監禁して、毎日着せ替え人形させては写真撮影していた。 ・その写真は離れにある別室の全ての壁と天井いっぱいに貼られている。 ・お人形さんは食事も必要ないし排泄だってないし睡眠だって必要ないんだよ？ ・お人形さんは勝手に笑わないし喋ったり動いたりしないし、何なら自我も持たないよね？？（これが原因でにょたんばちゃんの表情は動かなかったりする。） ・言霊で縛ったのは監禁し始めて半年頃まで。（それ以降はにょたんばちゃんが女審神者が望むように振る舞って脱出する機会を虎視眈眈と狙っていた。） ・にょたんばちゃんにとっての不幸中の幸いは監禁した審神者の性別が女だったこと。（「私が男だったらもっとあなたを可愛がれたのになぁ」と言っていたり。男だったらにょたんばちゃんの純潔は散らされていた可能性大。） ・私だけの美しいお人形さん♡♡♡大好きよ♡♡♡私が死ぬ時は一緒にお墓に入ろうね♡♡♡（つまりは死んでも手放さない宣言である。） ・兄者の前に姿を現したら問答無用で斬り捨てられる。 最後まで読んでいただきありがとうございました！

たくさんの閲覧、ブクマ、評価、コメントをありがとうございます。<br />又、たくさんの方にフォローやマイピク申請をしていただけてとても嬉しいです。<br /><br />　<br />没ネタ供養の短編第五弾はまんばと源氏兄弟がメインです。<br />今回は『まんばちゃんの成り代わり女体化』のお話。<br /><br />　<br />素敵な表紙はこちらからお借りしました。【<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/48509575">illust/48509575</a></strong>】<br /><br />　<br />＜注意＞<br /><br />　<br />※駄文です。<br />※女体化です。<br />※成り代わりです。<br /><br />※百合要素があります。※<br /><br />※成り代わり主が監禁されています。※<br /><br />※グロ？注意です。※<br /><br />※捏造しまくってます。<br />※キャラ崩壊です。<br />※駄文です。<br /><br />　<br />上のひとつでも嫌悪感を抱いた人は、直様回れ右をしてください。<br />読んだ後に誹謗中傷は受け付けません。<br /><br />　<br /><br />[追記]<br />9/11 デイリーランキング 78 位&amp;女子に人気ランキング 52 位に入りました！ありがとうございます！<br />9/12 デイリーランキング 33 位&amp;女子に人気ランキング 41 位に入りました！ありがとうございます！

何だその目は。写し♀だというのが気になると？

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キャラ崩壊！ 嫌な方は見ないでね！ 気分で更新！最初の方だけ地の文アリイ！あとは会話のみ。こーゆーのかきたかったのさ！ [newpage] 葉山｢ヒキタニ君？ちょっといいかな？｣ 屋上で飯食ってたら、リア充の王、みんなの葉山隼人が珍しく1人で話しかけてきた。 八幡｢今妹の作ってくれた愛妻弁当ならぬ愛妹弁当食ってんだ。面倒事なら勘弁｣ コイツが話しかけて来る時は大概面倒事だ。こう言えばこいつは何も言わんだろ。 葉山｢いやいや、今回は本当に少し話したいだけなんだ｣ 八幡｢んだよ、気持ちわりぃ。そうゆうのは海老名さんが喜ぶからやめろ｣ 葉山｢ﾊﾊﾊ･･･｣ 八幡｢その乾いた笑いやめろ。で？なんだよ？｣ 葉山｢いいのかい？｣ 八幡｢さっさと話せ｣ 葉山｢恩に着るよ｣ 葉山｢君はさ･･･誰が好きなんだ？｣ 八幡｢は？｣ 葉山｢君は誰が好きなんだ？｣ 八幡｢いや、聞こえてるから。意味わかんないだけだから｣ 葉山｢いやね、恋バナとやらをしたかったんだよ。君の周りには美女美少女が大勢いるだろ？｣ 八幡｢恋バナとか戸部とかとやればいいだろ｣ 葉山｢あいつ姫菜じゃん｣ 八幡｢ならやま、や、やヤムチャ？とか童貞風見鶏とやればいいだろ｣ 葉山｢大和と大岡な｣ 八幡｢それだ。そいつらとやればいいだろ｣ 葉山｢俺の好きな人は君にしか話せない｣ 八幡｢なんでだよ｣ 葉山｢だってさ…｣ 葉山｢[chapter:誰に言える！？実はロリコンなんてさ！]｣ 八幡｢ハァ！？マジかよ･･･｣ 葉山｢林間学校のボランティアも小学生目当てで行きました｣ｷﾘｯ 八幡｢キメ顔して何言ってんのお前!?｣ 葉山｢同級生や年上でも幼少期の写真でイけます｣ｷﾘｯ 八幡｢うるせえ！近寄んな！｣ 葉山｢幼い頃を妄想するだけでご飯丼で3杯はイケます！｣ｷﾘｯ 八幡｢みんなの葉山隼人がロリコンだとはな…｣ 葉山｢さぁ！君の性癖は！？じゃなかった好きな人は！？｣ 八幡｢誤魔化せてないからな！？｣ 葉山｢でも、実際君の周りには女子がいっぱいいるだろ？｣ 葉山｢雪乃ちゃん、結衣、川崎さん、いろは、鶴見留美ちゃん、陽乃さん、平塚先生、あとは･･･折本さん？｣ 八幡｢全員俺に好意がある訳じゃないだろ？特に折本｣ 葉山｢なぁ…比企谷･･･俺もぶっちゃけたし君も言おうよ｣ 八幡｢お前が勝手にぶちまけただけだろうが｣ 葉山｢頼むよ｣ 八幡｢はぁ、しゃあねぇな｣ 葉山｢本当かい！？｣ 八幡｢言わなくていいなら言わん｣ 葉山｢いやいやいや、頼むよ｣ 八幡｢･････････さん｣ 葉山｢え？｣ 八幡｢だから！仲町さん！｣ 葉山｢は、はぁぁぁぁ！？｣ 八幡｢うるさ！｣ 葉山｢なぜだ！？なぜそこ！？おかしくないか！？｣ 八幡｢あとは陽乃さん｣ 葉山｢なんで！？なぜそうなった！｣ 八幡｢一色もいいな｣ 葉山｢ぶっちゃけすぎだろ！じゃなくて！なんで仲町さんと陽乃さんにいろは？奉仕部の2人は！？｣ 八幡｢仲町さんは普通に可愛いし、陽乃さんは割と俺と話せるし、一色はあざといけどそこがいい｣ 葉山｢奉仕部は！？｣ 八幡｢毎日罵倒されて好きになるわけないだろ！｣ 葉山｢君はあれだけ奉仕部を守ろうとしてたじゃないか！｣ 八幡｢あれは陽乃さんへのポイント稼ぎだ！｣ 葉山｢君は最低か！？｣ 八幡｢最低で結構！奉仕部が無くなれば雪ノ下との関わりが無くなるだろ？そうする必然的に陽乃さんとの関わりも無くなる！そんなのは嫌だ！俺は陽乃さんと話したいんだ！｣ 葉山｢そ、そうか･･･仲町さんとかいろはは？｣ 八幡｢仲町さんは一目惚れに近いな。一色は妹みたいで可愛い｣ 葉山｢仲町さんの連絡先とか知らないのか？｣ 八幡｢そりゃこっちのセリフだ。くそイケメンリア充｣ 葉山｢俺は知ってるぞ？｣ 八幡｢今すぐ教えろ下さい！｣ 葉山｢構わないよ｣ 八幡｢いいのか！？俺お前のこと誤解してた。くそイケメンリア充クソ野郎だと思ってた！｣ 葉山｢くそとか2度も言うなよ･･･それに俺は高校生以上は興味無いからね｣ 八幡｢訂正するわ、ただのロリコンだったな｣ 葉山｢HAHAHA、そう褒めるなよ｣ 八幡｢褒めてないからな｣ 八幡｢それより、お前中学生は守備範囲なんだな｣ 葉山｢何も知らない無垢な小学生を汚すのもいいが、知識はあるが汚れを知らない中学生を汚すのも醍醐味だろ？｣ 八幡｢知らんがな｣ 葉山｢君の好きな人はわかった、でも性癖は知らない。と、言うわけで話そうze☆｣ 八幡｢うぜぇ･･･それに性癖だけは言わん｣ 葉山｢な、なぜた！？俺と君の仲じゃないか！｣ 八幡｢そんな仲になった覚えはない｣ 葉山｢たのむよ！あ、俺のを言ってないからか、なら言うよ｣ 八幡｢ちげえから。言いたくないだけだから｣ 葉山｢俺の性癖は｣ 八幡｢おい、待て言うな。聞いてないから｣ 葉山｢匂いと貧乳さ！｣ 八幡｢ハァー、言っちゃったよ｣ 葉山｢小学生から香る微かなミルクの香り！まな板のようなどこまでもなだらかな地平線！もう、最高だな！｣ 八幡｢貧乳で言えば雪ノ下もだろ？｣ 葉山｢あ、高校生以上に欲情しないんで｣ﾏｶﾞｵ 八幡｢こいつ真性だな｣ﾄﾞﾝﾋﾞｷ 葉山｢君はどうなんだい？｣ 八幡｢･････････鎖骨｣ 葉山｢普通じゃないか？･････････！他の性癖が言えないんだな？｣ 八幡｢お察しの通りで。まぁ、いい、もうひとつはくすぐりだ｣ 葉山｢くすぐり？｣ 八幡｢ああ、ただくすぐるだけじゃない。泣いてもやめない。すると、だんだんと体が痙攣しだす。息を荒らげ顔は紅潮し、瞳には涙を溜め、体を痙攣させながらこちらに許しを乞う。それが好きなんだ｣ 葉山｢君も相当だな｣ﾋｷｯ 八幡｢鎖骨もくすぐりも小町で目覚めた｣ 葉山｢実の妹にかい！？｣ 八幡｢しかたないだろ！？あいつ俺のシャツ着てウロウロするもんだから鎖骨がチラチラ見えるんだよ！｣ 葉山｢何そのご褒美羨ましい｣ 八幡｢黙ってろ！｣ 葉山｢んんっ、くすぐりは？｣ 八幡｢1度お仕置きでくすぐったんだよ。しかしやめ時が分からなくてな…さっき言った所まで行っちまった｣ 葉山｢そして妹に欲情したと？｣ 八幡｢まぁ、な｣ 葉山｢君も筋金入りのシスコンだな｣ 八幡｢今更だろ｣ 葉山｢それもそうか｣ キーンコーンカーンコーン 葉山｢予鈴だな｣ 八幡｢ああ｣ 葉山｢じつに有意義な時間だったよ、また話そう｣ｽﾀｽﾀｽﾀ ドア｢いい顔してんじゃねぇか｣ 八幡｢俺も行くか･･･｣ ドア｢本物、見つかるといいな｣ 八幡｢｣ 八幡(は？今ドア喋った？) ドア｢｣ 八幡｢気のせい･･･か｣ [newpage] おしまい！

葉山崩壊！？

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花は手折られ、そして枯れ、カラカラになって、それでも水分を求めて足掻く。 もうすでに吸い上げる事なんて出来ないのに、それでも生きようと、まだ綺麗なんだと自分に言い聞かせて、 溺れるように足掻く。 息苦しいだけのそれは言い聞かせる事なんて出来ない程に私を惨めにさせる。 だから私は探した。 探して、探して、探して けれど、それを潤す水分なんてどこにもなかった。 枯れ果てた先にはきっと何も残らない。 これから先、 こうやって足掻きながら、 疲れて枯れていくのかもしれない。 ふぅーっと憂鬱と共に吐き出した息さえも重たく姿を現した気がした。 卑しくもヘリポートに影を探して足を運ぶ自分さえも惨めだ。 「白石先生。」 その呼び方があの人と少しだけ似ていて無意識に肩が揺れた。 けど、違う。 「中川先生…」 少しだけ声が硬くなったのは私に声をかけた意味を悟ったから。 「返事…そろそろ聞かせて頂いてもいいですか。」 想いを伝えられてから早1年。 無理強いせずに何度断ってもずっとずっと私を待っている。 どうしてこの人はこんなにも優しいのだろうか。 「ごめんなさい…私、」 それでも変わらない返事にグッと言葉に詰まった。 「藍沢先生ですか？」 え…と漏れた声は聞こえてしまっただろうか。 「あの人の事まだ想ってるんですね。 彼は向こうに移住する事を決めたんですよね？」 「えぇ…。でも違うんです。 私が勝手に想い続けているだけなんです。」 この想いは足掻いても足掻いても、どうしても捨てられない。 「私が…私が想っていたいだけなんです。」 思うだけでこんなにも暖かく、そして苦しい。 「私にとってあの人は、」 あの人は… 「いえ…だけど…もういいんです。」 自笑するように息を吐き出し、無理やり笑みを浮かべて誤魔化した。 「白石先生？」 中川先生の眉間にキュッとシワが寄って、その仕草さえも彼を思い出してしまう。 「手紙を送りました。私なりのけじめです。」 一枚の写真とそれに添えたメッセージ。 あまりにも後回しなさようならは彼には伝わらないかもしれない。 「枯れた花が手に入らない水を求め続ける事はとても惨めです…」 今にも枯れそうな弱い自分をそっと自身の両手で抱き締めた。 崩れ落ちてしまいそうになる。 そんな私を中川先生は優しく見つめるだけだった。 「白石先生、僕はいつまでも待ってます。」 優しく紡がれたその言葉は、他人を想う今の私にはとても不釣り合いだ。 私に答えられる言葉なんて何もない。 何も声を掛けられないまま彼はそっと立ち去った。 あぁ、何故だろう。 人の優しさに触れたからか。 遠い彼への想いを思い出したからか。 潤む視界を誤魔化すように空を見上げて後悔した。 「今日も…広くて綺麗。」 私は今日もあの空を飛んでいた。 同じ空を彼もどこか遠くで見上げていたのかもしれない。 そんな繋がりさえも胸を締め付ける。 さようならを送ったくせに想いは捨てられない。 鼻の奥がツンと痛んだ。 「白石。」 風が運ぶ幻聴かと思った。 だからこそ怖くて振り返れなかった。 「白石。」 反芻するようにもう一度脳に響いて声が震えた。 「なん…で…」 そう呟くのが精一杯。 「久しぶりだな。」 「どうして…」 「会いたいって書いてただろ。」 息が止まるかと思った。 「あの写真の花、病院の中庭のか？」 「私…会いたいなんて書いて…」 見当違いの返事だなんて百も承知だ。 藍沢先生の表情は変わらない。 だけど私には困ったように少しだけ笑ったような気がした。 「筆圧で写真に写ってた。 かざして眺めてたら透けて見えた。」 "藍沢先生に会いたい" 一度だけ書いて消した。 最後の最後まで悩んで結局書けなかった。 それは誰にも知られないはずだった想い。 「大体手紙に書いていた"もう会う事はないかもしれない"ってなんだ。 俺がトロントに居る事を決めたからか？ 日本とトロントは別世界だとでも思ってんのか。 世界中どこでも飛行機で行けるだろ。」 「急に現れてなんなの…っ、大体あの写真は…っ」 「チューリップだろ、5本の。」 勢いに任せて自分の口から出そうになった本音は、彼の口によって代弁された。 この人は何故こういうところばかり察しがいいのだろうか。 「ただ…綺麗だったから送っただけよ。 向こうでも頑張ってって…ただそれだけ。」 「それでもいい。ほら。」 ガサッと色彩を包み込むビニールの音がやたらと響いた。 「チューリップの花束…？」 本数なんて数えるつもりなかったのに、私の目は無意識に数えていた。 私が送った写真に写る5本のチューリップはあなたに出会えた喜び 貴方がくれた9本のチューリップは… いや、意味なんてないのかもしれない。 たまたま包んでくれた本数が9本だったのかもしれない。 彼は…知っていたのだろうか。 誰かに教えられたのだろうか。 はたまた調べたのだろうか。 「白石、」 肩が震えて、息を飲んだ喉がひゅっと音を立てた。 「"いつも一緒にいよう"。」 あぁ、もう…ばか。 歳を重ねると涙もろくなって嫌になる。 抱えるように少しだけ力が入った両手によって、潤った花が喜びに歪んだ。 ここは貴方の香りばかりを残す。 胸を焦がす貴方の香り。 そよぐ風が、一緒にチューリップの香りも舞い上がらせた。 枯れた花が手に入らない水を求め続ける事はとても惨めだ。 そんな事は分かっていたのにそれでも探して、探して、探して、 けれど、それを潤す水分なんてどこにもなかった。 枯れ果てた先にはきっと何も残らない。 これから先、 こうやって足掻きながら、 疲れて枯れていくのかもしれない。 「白石、」 けれど、 そこに一つだけ希望があるとするならば、 「会いたかった。」 それは貴方だ。 END 「あら、コーサク。 5本のチューリップなんてロマンチックな彼女ね？」 「昔の仲間だ。綺麗だったから送ったらしい。」 「コーサク知らないの？ チューリップの本数には意味があるのよ。」 「意味？」 「確か…1本だと貴方が運命の人。 2本だとこの世界は二人だけ。 3本だと…」 「5本はなんだ？」 「5本は…そうそう、貴方に出会えた喜びね。 コーサクあなたは何本送るの？」 「…秘密だ。」 少し掲げて眺めた写真、そこにある遠い彼女の本音を俺はそっと指で撫でた。 "藍沢先生に会いたい" END

初こんばんは！<br />はじめましての方もお久しぶりな方もfumiです。<br /><br />今回は公開戻しではなく新作です。<br />冒頭は以前twitterにアップした小ネタになります。<br /><br />1作で長編を書く事は得意ではなく、いつも駆け足で展開が進んでしまい申し訳ないです。<br />綺麗に起承転結して読み応えがあるものが書きたいなとは想うのですが…<br /><br />暖かい感想お待ちしております。<br /><br />それではまた。

枯れ果てた先に

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[chapter:彼女を殺す方法] ゆっくりと絆が薄れる中で、最後まで一緒に居てくれたのは花村だけだった。 しかし、花村の目は決して悠を見ない。 携帯を弄りながら、毒にも薬にもならない話をして、 どうでもよさそうに、悠が帰った後の話をする。 おかしいな・・・・？ と、悠は心の中で呟いた。 なんで・・・何が起きたんだろう？？？何を間違えたんだろう？ どうして花村は私を見ないんだろう？ 心当たりは・・・無い、と思う。だって、喧嘩も何もした覚えがない。 しかし、無いともいい切れなかった。 なんせ、八十稲羽に来るまで、こんなにも親しくなった友達などいなかったから。 だから何が悪かったのかが分からない。 何もなかった事がいけなかったんだろうか？？？ ならば何かこちらから起こせばまた変わるだろうか？ でも、ＴＶに誘っても、面倒臭そうに言われるだけ。 かといって、最初に皆で交わした『一人では絶対にＴＶに入らない』と言う約束を破る勇気はなかった。 そんな事をしたら、それこそリーダー失格だと思ったので・・・。 考え事をしていたら、携帯から視線を上げた花村が「鳴上。」と声をかけた。 バイトの休憩時間も終りに近いのか、携帯はそのままポケットの中にしまう。 花村は明日の天気の話でもするような口調で言った。 「なぁ、俺らさ。つきあわね？」 「・・・・・え？」 一瞬、言葉の意味がわからなかった。 「お前と俺、結構あってるっつーかさ、お前料理うまいし。 ガッコでずっとつるんでるしさ。」 いつものように顔はにこにこ笑っているのに、 悠の好きな温かい茶色の瞳が、冷たく鈍く光っている。 ピンと来た。 花村は、ここで私が断ったら、そのままもうゆっくりと私の傍から消えるつもりだ。 そして、その手を取ったとしても、３月の別れでそのまま二度と会う気がない。と。 花村の口が動いている。 何かしゃべっているのだろうが、上手く音として聞こえなかった。 だが、愚かな事に目を閉じなかった。 折角耳が聞く事を拒否したのに、目は全ての情報を脳に送った。 なぁ、あと半年もない数カ月だけどさ。 どうする？ちょっとだけ楽しい事してみようぜ？ 俺はさ どっちでもいいけど。 笑おうと・・・した。 普段悠は菜々子以外の前ではあまり笑わない。 だからだろうか。 どうにも上手く表情筋が動かない。 笑う。簡単な事だ、目を細めて、口の端を上げればいい、だけ。 なのに・・・ 何と言って花村の前から姿を消したのか覚えていない。 ただ、少なくとも携帯にはメールも着信も何もなかった。 暗い、明かりの無い部屋で一人ソファにもたれる。 外は雨で、ただ雨音だけが鬱々と響いていた。 午前零時。 外は雨でも、マヨナカテレビは映らない。 もちろん・・・映らない方がいい。 映らない方がいいのに。 悠はおもむろに立ち上がるとテレビの画面に掌を重ねる。 コン と言う無機質な音。 「なんでっ！」 我ながら情けない声だと、頭の片隅で思った。 心臓のあたりが冷たい。 はぁはぁと息が荒くなるのに、脳に血が行っていないようで、いっそ目眩がした。 そして、脳に直接響くような。感情の無い音。 [　何も　無い　] 振り向くと、暗闇の中から産まれた見た事の無い赤子の化け物がいた。 「シャドウ・・・なのか？」 動揺してうまく言葉が出てこない。 [　全ては　無　だ　] 赤子の言葉が一つ一つ癇に障る。 「何でここに・・・」 [　仲間なんて幻　君も一人だ　空っぽだ　] 「ペルソナ！」 もう何も聞きたくなくて、言葉を遮るようにペルソナを呼ぶ。 ここが現実でも、シャドウが居るのならばペルソナだって呼べるかもしれない。 そう思ったのに・・・現れたカードは真っ白だった。 「・・・・・・アルカナが・・・・」 無い。 何度カードを呼んでも結果は同じ。 どこまでも真っ白なカードたち。 千枝、雪子、完二・・・一人ずつひっそりと消えていった仲間。 [　絆なんて　無い　] ワイルドの力は、絆の力。 アルカナがないと言う事は赤子の言うとおり・・・ [　君は何にもない　僕と　同じだ　] 「やめろ・・・違う！！」 違う？ 違う。違わない事を私は知っている。 赤子が狂いそうな甲高い鳴き声を上げる。 赤子の姿がそのまま膨張するように巨大化し、その嫌に柔らかい手が悠の首を絞めた。 ぶよぶよしていて、つかみどころのない、しかし明確な殺意。 たすけてっ！ と言う声が出なかった。 首を絞められていると言う事もある。 だが違う。 ただ言えなかっただけだ。 花村の冷たい笑みが脳裏から離れない。 助けを求めても、誰も助けてなんてくれない事を誰よりも自分が知っていた。 花村に拒絶された自分に価値なんて見出せなかった。 誰も助けてなんてくれない。 誰よりも自分が一番それをわかっていた。 普通だったら、人はきっとこう言う時にこそ涙を流すのだろう。 けれど、涙は出なかった。 理由はきっと簡単だ。 私が からっぽだから。 手に握り締めた、ペルソナカードだった白いそれがくしゃりと鳴った。 　　　　　　　　　　　ゆう 閉じた瞼に小さな光がさして、それが妙に眩しく感じた。 　　　　　　ゆう 瞼を開く。 その光の先から、 やさしく　あたたかな音が聞こえる。 　　　　ゆうっ！！ そうだ・・・ 　　『悠！！！手を伸ばせーーーー！！！』 わたしは・・・！！ 「悠ーーーーーーーーー！！」 声につられるように、手を・・・伸ばした。 腕を掴まれる。 大きくたくましい男の手が、離さんとばかりに力を込める。 掴まれた手首が痛かった。 引き上げようとしてくるそれに、腕と肩に自分の全体重がかかる。 痛い。 けれど、それ以上に。 その痛みが嬉しかった。 引き上げられた瞬間、 色の無いモノクロの世界から一気に色彩あふれる世界に出て、 ほんの一瞬だけめまいがした。 目を閉じて、再び開けると、ジライヤに二人とも抱えられながら宙を駆けている。 見れば真下にドット絵で作られた勇者の様な何かが居て、 戦闘が始まった瞬間に、自分はあれに囚われたのだなと言うことが分かった。 そして、目の前にいる花村は・・・ あの幻・・・そうだ、あれは幻だった。 あの時に見せられた、自分を見ない花村の幻。 全然違う。 目の前の花村は、悠が大好きな笑顔を浮かべて、しっかりと悠の瞳を見つめている。 視線が合う事が、どれだけ嬉しい事で、人間関係において大切なことだったか、 悠は身をもって知った。 「悠、大丈夫か？」 気遣うように声をかけられる。 ゆう、と。彼の口から、悠の名前が自然と出てくる。 自分を否定しかけた時に、何度も呼んでくれた優しい声。 「ありがとう・・・陽介！」 ようすけ・・・と。 悠もまた彼を名前で呼んだ。 少し面映ゆくて、くすぐったくて、 けれど陽介はそれを当然のようにして一つうなづいた。 だから、自信を持って言えた。 「私は・・・空っぽじゃない！」 あの赤子の言うように、ほんの少し前までの悠は確かに空っぽだったのだろう。 それは否定しない。 一人の時は、寂しいとすら思わなかったから。 でも、悠はもう知っている。 『ひとりぼっちはさみしい』 何よりも大切な人から教えてもらったことだ。 それを知っているから、絆がどれだけ大切か、もうわかっている。 マカミ キングフロスト ハイピクシー ジャックランタン ヤマタノオロチ リャナンシー ラクシャーサ アラミタマ みんなみんな、絆を深めて生み出したペルソナたち。 呼べば必ず答えてくれる。 最後に呼びだしたイザナギが、赤子のシャドウを真っ二つに切り裂いた。 久保が逮捕されて数日後、 再び皆と集まる機会があった。 「こんな風に集まるのも、もしかしてこれが最後？」 雪子のつぶやいた言葉にドクっと心臓が冷えた音を立てる。 前も、似たような事を言われて、悠は否定できなかった。 心のどこかで、事件が解決すれば自分は用済みになるかもしれないと思っていたからだ。 だが、今ならわかる。 雪子は単純に集まる事が最後であることをほのめかしたんじゃない。 否定して欲しかったのだ、と。 「いや、また集まろう。」 皆の目を見ながら言う。 少しだけ、この言葉を口に出すのに勇気がいった。 「ははっ、んなの当たり前だろ？」 でも、この勇気に何よりも最初に陽介が笑って答えてくれた。 うん、そうなんだ。 当たり前のことだった。 事件がなくても友達になれた・・・とは言わない。 事件がなくては自分の今の成長はなかったからだ。 でも・・・もう、自分は事件の為だけに必要とされているわけじゃない。 皆の事、大好きだから。もっと皆と一緒に居たいと思ってる。 それを隠さずちゃんと言えば、きっと皆だって答えてくれる。 その後に行われた打ち上げは、悪夢の時と違ってとてもとても楽しかった。 皆で騒いで、でもあまり遅くなると心配だからある程度の所で解散して・・・。 女性陣のあまりにも個性的なオムライスに対する、それぞれの反応。 面白かったなぁと、一人思い出しながら風呂に入った。 菜々子は皆に遊んでもらって疲れたのか、 いつもよりも早い時間に布団に入った。 堂島は夜勤なので今夜は帰ってこない。 風呂からあがって、一階の電気を消し、自分の部屋に戻る。 今日はとても楽しかったので、きっと良く眠れるだろう・・・と、 布団を敷いていたら、ぱたぱたっと布団の上に水滴が落ちた。 「え？」 驚いた。 目からコロコロとしずくが落ちている。 陽介のあのあったかい、おひさまのような笑顔。 それを思い出したら、目の奥が途端に痛くなって、 胸がぎゅうぎゅう苦しくなって、涙が止まらなくなった。 慌てて、首にかけたままだったタオルで目を抑える。 今やっと精神攻撃で受けた恐怖が脳味噌に伝わったのか涙があふれて止まらない。 いや・・・そうじゃない。 多分ほっとしたのだ。 陽介の笑顔を思い出して、一人になる事が出来て、今ようやく緊張が解けたのだ。 あの時雨のフードコートで、陽介が言った。 [　ナァ　オレラサ　ツキアワネ？　] 悪夢のセリフがフラッシュバックし、 腰から下の力が抜け、悠はそのまま崩れるように座り込んだ。 ひくっと、喉が鳴る。 「あ゛・・・・・・う、ぅあ゛ぁぁぁぁっ・・」 小さく微かな悲鳴が悠の喉の奥から漏れた。 目を覆っていたタオルで今度は口を抑える。 怖かった。怖かった。怖かったんだ。 りせやクマとの戦闘で、死に直面した時よりも。 あの陽介の言葉が一番怖かった。 離別を意味する言葉が・・・ではない。 あれは、悠の価値を何よりも貶める言葉だった。 今、陽介の恋心は小西早紀だけに注がれている。 告白することなく逝ってしまったがゆえに、心の行き場がないのだ。 早紀の弟の尚紀もそれは一緒で、まだ彼女の死を本当の意味で理解できていないのだ。 それなのに、陽介は彼女を心に抱いたままで悠を求めた。 これくらいの年頃の男子が、ぼんやりと彼女が欲しいなとぼやくのと同じ感覚で、 誰でもよいけれど、ある程度いい気分が出来るくらいの見た目と長所が欲しい。 上手くいけばもうけもの、高校生で彼女が居るって言うのはそれなりのステータスだし、 何よりも堂々とキモチイイ事が出来る。 だから鳴上悠はカノジョにするのにちょうどいい。 上手くいかなかったり、仲がこじれたって、どうせ三月までしか悠はいない。 「　オレハサ　ドッチデモイイケド　」 この仲が壊れたって、俺は痛くも痒くもないから。 あの後の記憶が悠にはない。 何も言わずに陽介のもとを去ったのだろうか？ それとも、申し出を断り、自分の手で絆に終止符を打ったのか。 だがもし・・・あの手を悠が取っていたら。 陽介にとって何の価値もなくなってしまった魔術師の絆。 それを悠だけが固執して、執着して、失われる事を恐れて、 形だけの仲を続けていくことをよしとしてしまったら。 陽介が全く自分を見ていない事を知りながら、悠の全てをなげうってしまっていたら。 きっと、今ここに悠はいなかっただろう。 価値も、尊厳も、それらを何よりもそれを自分自身が否定してしまったら。 もう、悠は悠でいられない。 あれは悠を精神的死へと追いやる一言だったのだ。 理解した。 この広い世界の中で、花村陽介だけが、鳴上悠の心を殺す。 たった一人の裏切りで、悠の全ての世界は崩壊するのだ。 ずっと口を押さえたままでいるのも苦しくて、 ぷはっと息をつく。 しかし、涙はまったく止まる気配がなく、 開けた口から泣き声が漏れ、何度もしゃくりあげる。 ひ、ひ、と短く息を吐いて、何とか声だけでも止めなかったが、 息が詰まってケホっと咳が出た。 だめだ、あまりうるさくしては菜々子が起きる。 だから、泣き声の代わりに名前をちいさくちいさく呼んだ。 「ようすけ」 ゆう・・・と。彼が呼んでくれたから、自分も名前で呼んだ。 菜々子がそれに気づいて声をかけてきて。 陽介は恥ずかしそうに、けれど誇らしげな笑顔を悠に向けた。 陽介　ようすけ　ヨウスケ まだ呼び慣れていない名前で、泣きながら何度も陽介の名を呼んだ。 あいたいと思った。 さっき別れたばかりなのにおかしい事を考えているなとも思った。 ぎゅうと抱きしめたらどうなるんだろうと思った。 だがそれは出来ないな、陽介は小西先輩をまだ思っているから、 きっとそんな事をしたら驚いてしまうだろう。 だけど、ようすけ、あいたい、こえがききたい。 多くは望まない、ただ私の目をちゃんと見て笑ってくれ。 結局涙はそれからもずっと止まらなくて、 諦めて布団の中にもぐりこんだが、それでも止まらず、 最後には疲れ果てて、気絶するようにして眠りに引きずり込まれた。 強くなろう。 眠りに引きずり込まれる寸前に、悠は決めた。 あの幻に引っかかったのは自分が弱かったせいだ。 心の弱さは絆を脆くさせる。 心が強ければ、例え真実ああなったとしても、 ここからまた絆を結びなおせばいい、と、諦めて目を伏せるような事にはならなかったはずだ。 もっと強く、もっと優しく、もっともっと魅力的な人間になれるように努力しよう。 そうすればきっと、あんな残酷な事を陽介は言わないだろうし・・・ 仮に言われても、次はその横っ面をぶん殴ってやる。と、心に固く誓った。 [newpage] [chapter:おまけの次の日] 「・・・・・不覚。」 悠は一人、洗面台の鏡の前で口惜しげに呟いた。 目がひどく腫れていて、指でそっと触れるとヒリヒリして痛い。 悠はいまだかつてあんなに大泣きした事が無く、 泣き続けると目が腫れると言う事を今日初めて知った。 ある意味心情的に成長したのだろうと、どこか誇らしい気持にもなったが、 これは困った。 誰に会おうとしても、これでは心配させるだけだし、 何よりもそろそろ帰ってくるだろう叔父にも何かあったのか聞かれてしまうかもしれない。 ちなみに、菜々子には「昨日泣ける本を読んでしまって、つい号泣してしまった。」 と誤魔化そうとしたものの、 いまだに心配そうな顔をしてちらちらとこちらをうかがっている所を見るに、 恐らく誤魔化しきれなかったのだ。 まずい、もっと伝達力を上げなくてはなるまい。 誰にも会えないが、かと言って家の中にこもるわけにもいかない。 そうだ、ならば釣りに出かけよう。と、悠は意気揚々と釣り具を持って出かける。 外はあいにくの雨だったが、ならばこそヌシ様ゲットのチャンスなのである。 そして、ある程度目の腫れが収まるまで一人で過ごし、帰ったら勉学に励めばよい。 なかなか悪くないスケジュールだ、と悠は自画自賛して、川面に釣り糸を垂らした。 だがしかし、昨日の一件で疲れが取れていなかったのだろうか？ ヌシ様どころか普通の魚にも、まるでからかわれているかのごとく逃げられる。 悠の背後にはバケツの中にこんもりと積まれたゴミばかり。 しかし、悠の性格上、上手くいかなければいかないほど熱くなる傾向があり、 だんだんテンションが上がってきて、「おのれ！」とか、「猪口才な!」とか声を上げ、 最終的にはメガネまでかけて「ペルソナ！」と叫びながら釣竿を振る。 多分こんな事を言われたイザナギもきっと戸惑っている事だろう。 雨の中、妙な気合いを入れながら川のヌシ様と格闘する女子高生とか、 一体誰得なんですか？と言わんばかりの代物が出来上がったわけだが、 その努力と根気によって、ついにヌシ様がその巨体を川面から現した。 「った！！！やったぞ！！」 びちびち跳ねまわるヌシ様の横ヒレについていた綺麗な櫛をそっと取る。 「ふ・・・良き戦いだった。 このまま鯉こくにしてしまうと言うのも手だが、お前は大きすぎる。」 鍋に入らん。と言う結論に達し、また戦おう！と言いながらリリースする。 ヌシ様との戦いでだいぶ気持ちが浮上し、 そろそろ帰ってもよい頃か？と、荷物にあった手鏡で、目の腫れを確認しようとした時。 「お、終わった？お疲れさん。」 と、声をかけられて悠の体全体がびく！っと反応した？ 「っっっ？！！よ、陽介？？！！」 なんでか、背後に傘を差した陽介が居た。 釣りに夢中になっていたとはいえ気づかないとは、不覚！ 痛恨の極み！！ 今日は本当にどうしたのだ私！と、悠は自分に突っ込みを入れた。 「途中で見かけて声かけても、お前釣りに夢中で全然きづかねぇンだもん。」 見ていた携帯を尻ポケットにしまい、口をとがらせる。 何と言うか・・・拗ねている気がした。 「つか、雨ん中で釣りとか、いくら夏とは言え風邪ひくぞ？！・・・・ん？」 あまり機嫌がよくなさそうに近づいてきたが、 むっと眉をひそめてじっと悠の顔を見る。 ぎくりと身をすくませた悠のメガネを、陽介がひょいと取ってしまう。 「あ！」 目が・・・っ、と思った瞬間、ばっと顔に触れられた。 「！！」 「顔赤ぇじゃん！！つか、ちっと熱あるんじゃねぇか？！！ あ、クソ、やっぱ見かけた瞬間待たないでとっととやめさせりゃよかった！！」 帰るぞ！と、傘を持っていた片手に荷物を持たれ、もう片方で手を取られる。 その手の熱さに、悪夢から救ってくれた時のことが思い出されて、更に頭に血が上る。 家に帰りつく頃、悠の顔はすっかり風邪でも引いたのではないかという顔つきになっていて、 幸い（？）な事に、目の周りの腫れには気づかれなかった。 とは言え、熱もないのに布団の中に叩き込まれ、 「女の子が体冷やすような事をするな！」と説教される始末。 でも、その怒り顔も、じっと悠の目を見つめている。 結局のところ、陽介と目を見て話す事が出来る事が嬉しかった。 「？　何笑ってんだよ。」 「笑ってないぞ？」 「雰囲気が笑ってんだよ。相棒なめんな！ お前、叱られてるって自覚ある？」 「大丈夫だ、判ってる。」 「これに懲りたら雨の日に釣りとかやめろよ？」 「むう、しかしヌシ様は雨の日にしか・・・」 「ぜんっぜん懲りてねぇじゃねーか！！！」 でも、なんだかんだ言って、それからその日はずっと一緒にいてくれた。 くどくどと陽介の説教は続いたが、悠の心は温かく満ち足りていた。 どうやら陽介には表情に出さなくてもなんとなくわかってしまうようなので、 顔を布団で隠しながらこっそり思う。 しあわせ・・・・・と。

先天的スケ（♀）番長。名前：鳴上　悠。性格や設定：月森（ゲーム）鳴上（アニメ）瀬多（コミック）を全部足して３で割ったイメージ。（ゲーム未プレイ）自分的においしい所だけつまみ喰い。◆漢の世界シリーズの小ネタその２。久保との戦闘の中で悠が見た悪夢。そして、アンケートを設置してみました。よ、よろしければご協力くださるとうれしいです。◆2012年04月28日付の小説デイリーランキング 73 位。そしてブクマコメ等ありがとうございます！！◆4/30ラストをほんの少し変えました

漢の閑話休題　２

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宝冠の宮殿《コロネット・パレス》のとある一室。 宮殿と言うわりにはいささか華やかさに欠ける建物内で、比較的まともなで一番日当たりの良い場所。急遽用意させたその部屋に向かう影が二つ。一つはロイヤルパラディンの指導者、騎士王アルフレッド。もう一つは導きの賢者ゼノンだ。 騎士王の後を歩くゼノンの両手にはウッドトレイが握られており、その上に乗せられた木製のスープ皿は湯気を立てている。言葉を交わすこともなく、閑散とした廊下を歩く彼らはどことなく沈んでいた。 彼らの表情が優れないのは、ある意味当然でもある。何故なら運んでいるのが数日前に保護された少年の食事だからだ。 保護された少年。名をアイチと言うのだけれど、彼はロイヤルパラディンのヴァンガード。正確には、ヴァンガードになるべき人物である。 長年待ち続けたヴァンガードの出現にユニット達は歓喜した。 が、それもつかの間。アイチが置かれていた環境は、彼らにとって耐え難い有り様であった。 強制使役されていたユニットと共に見世物となっていた少年の体は拷問による幾つもの痕が残されており、骨が浮き出た背中には一生消すことのできない刻印。色素の薄い皮膚は焼き爛れ、火傷した箇所が盛り上がって出来た焼印がくっきりと残されている。 拷問の傷跡は根気良く治療を。この場合ユニットのヒールトリガー（治癒能力）を言うのだが、それを続けていれば完治はせずともある程度まで薄くすることは可能だろう。 しかし背中に残された刻印は『罪』を表すものである。特別な術式が組み込まれた金具を用いられている為、どんな手を使っても消せない。 つまり、無実とは言え一度捺されてしまった以上、彼は死ぬまで罪の刻印を背負ったまま生きなければならず、その事実がアルフレッド達の足取りを重くさせているのだ。 彼らにとってアイチは待ちに待ったヴァンガード。しかもロイヤルパラディン軍の継承権を持っている、言わばこの国を救う救世主に近い。何が何でも護らなければならないし、また誠心誠意使える所存だ。 けれど肝心の主は自国の子供達以上に痩せ細っており、とてもじゃないが未来を託す状況ではない。 彼が今必要としているのは“期待”ではなく“静養”。国民達と同じ様にまずは“普通”の生活を取り戻すのが先なのだ。 アルフレッドの顔が曇るのも致し方なかった。 「・・・・・」 目的の部屋の前まで来るとアルフレッドは気持ちを切替え、中の人物を驚かさぬようノックした後ゆっくりとドアを開ける。一言断ってから中に入ると、続けてゼノンが部屋に足を踏み入れた。 宮殿の一室としてはさほど広くない部屋の左端中央。大きな窓から日光が差し込む中、硬そうなベッドに１人の少年が居た。 良く言えば趣のある、悪く言えば古臭いヘッドボードに背を預け、薄いブランケットの更にその上から黒地に赤の装飾が施された上着───。用意された椅子に座っているドラゴンエンパイアの特使・櫂トシキの物だろう。上質な布で作られた軍服を羽織っている。 確か年齢はさほど変わらない筈なのだけれど、大人と子供ほどの体格差があるように感じるのは、やはりアイチが通常よりも痩せているからか。無論個人差もあるのだろうが、それを差し引いてもアイチは痩せ過ぎていた。 入り口のアルフレッドから見て正面。ベッド挟んだ向かい側の椅子に腰掛けている櫂が一瞥をくれる。 救出時とは打って変わり平静さを保っているが、漸く訪れた再会の時を彼なりに実感しているかのようにも見えた。 櫂には感謝している。彼が居たからこそ、こうしてアイチを取り戻せたし、国も存続し続けられた。 まだ初代が存命していた時代、ユナイテッド・サンクチュアリは世界で最も強く気高き国であった。けれど先導者が倒れたのを切っ掛けに、ヴァンガードが次々と死亡。挙句の果てには神樹まで破壊されてしまい、同盟国も人の心も国から離れていった。 そんな絶望的な状況下の中、彼だけは。ドラゴンエンパイア帝国かげろうのヴァンガードであり、古くから世界に名を残す櫂家の嫡子である彼だけが、衰退するだけのユナイテッド・サンクチュアリ国と同盟を結び、尚且つ特使としてこの荒れ荒んだ地に住まい、積極的に協力してくれた。 幼き頃、此処で出会った少年との約束を守るために─────。 彼の協力なくしてここまで国は持たなかった。自国のヴァンガードにも気づけないまま、ただ無闇に破滅を待っていただけかも知れない。 考えただけでも恐ろしい事態にアルフレッドは心から安堵し、献身的に世話を続ける櫂を見た。 初めは信用ならない人物だと警戒していた。誰もが見放したと言うのに同盟を持ちかけ、大使としてこの国に常駐する彼を信用する勇気がなかった。長年続く不況に、騎士王も心が荒んでいたのである。 でも接していく内に本質が見えてきた。彼はかげろうのヴァンガードとしてではなく、本来在るべきヴァンガードとしてこの国の現状を案じ、同時に行方・生死共に不明の子供との約束を果たそうとする、尊き心の持ち主であるのが解ったのだ。 寡黙でクール。時に冷徹な一面も覗かせる人物だけれども、熱い気持ちを秘めた素晴らしいヴァンガードである。今では素直にそう思えた。 そんな彼の反対側。アルフレッドから見て手前、主の足元に出来たスペースにういんがるが丸まっている。伏せたままで反応がないところを見ると熟睡しているようだ。 主の前で・・・とは思うものの、起こす気にはならない。ユニットを強制使役する曲芸団から逃れ、その足で主を救いに向かった彼も櫂同様ずっとアイチに付き添っている。その過酷さ、活躍を知っているからこそ、咎められなかった。 アルフレッドは視線をういんがるから外し、青白い顔をした主へ仁愛の眼差しを向ける。 「アイチ様、お加減は如何ですか？」 「ぁ・・・、は、はい・・・。だい、丈夫・・・です」 緊張しているのか、それともまだ話す気力がないのか、問いに答える声はか細く元気がない。背の高い騎士王を見上げた顔に浮かんだ表情もぎこちなかった。 ゼノンは空いている席に腰掛け、ベッド脇に備え付けられたナイトテーブルにトレイを置く。そして大きめの枕をクッション代わりにして、ヘッドボードに体を預けているアイチを見た。 「粗末な物しかご用意出来ず申し訳ないのですが・・・」 「そ、そんな・・・、用意して、もらっただけでも、その・・嬉しい、です」 心苦しそうなゼノンに対してアイチが首を振る。 謙虚、と言うよりは弱々しい返答にゼノンは眉を落とすと手に取った皿を彼の前まで運び、用意していたスプーンで琥珀色のスープを掬う。それから「熱いのでお気をつけて下さい」と告げ、口元へ差し出した。 これに驚いたのは差し出された本人である。 「あ、あの・・・・・」 思わぬ事態にアイチは戸惑いを隠せない。自分で食べるつもりだったのだろう。視線をアルフレッドとゼノンの間でおろおろとさせ、消極的な拒否反応を返す。 そうしたくなる気持ちはアルフレッドも分かる。されど彼は怪我人であり病人だ。痩せこけた頬、浮き出た鎖骨、細すぎる首筋に巻かれた包帯にその他諸々上げだしたら切がない。 中でも目に付くのは、ういんがるを庇った際に折れて当て木が添えられた状態の左手と、枯れ木のような両腕を束縛したままの重厚な枷だ。ちなみにブランケットに隠れて見えない両足にも同じ物が付けられている。誰がどう見てもゼノンの判断は正しい。 それを指摘したのは当人でもアルフレッドでもなく、優秀な他国のヴァンガードだった。 「アイチ、無理をするな。今は傷を治すことだけを考えていろ」 「う・・、うん・・・」 相変わらず厳しい口調だったが、紛れもなく正論だった。 櫂に諭されてはアイチも従うしかない。おずおずと小声で謝罪され、逆にゼノンの方が申し訳なくなった。有能な賢者も幼い主の前では形無しである。 ゼノンは一言詫びてから、改めてスプーンのつぼを口先に運ぶ。 微かな湯気が見えるスープを前に、アイチがほんの僅か喜色を露わにする。 だが実際に彼が口につけるまでは、ある程度の時間を要した。やはり抵抗があるのか、口を開こうとしては閉ざす、を繰り返してまごついている。 しかし何も言わずに待っていると、沈黙に耐えきれなくなったのか意を決し、差し出されたスープをどこか恐々とした様子ですすった。 まるで毒薬を飲むかのようだ。目をぎゅっと閉じ、ごくりと呑み込む様に違和感を覚える。 けど、疑念はすぐに吹き飛んだ。 瞼がゆるゆると開いたかと思えば、湧き水が溢れ出たみたいに泣き出したのだ。 大きく見開かれた眼から涙が溢れ、透明な雫が青白い頬を伝って幾つも落ちていく。 「っ・・・ぅ・・・・・、ぅ・・・・」 抑えきれない激情を吐き出す方法が解らず、小さな体を小刻みに震わせながら声を押し殺して泣くアイチに、アルフレッドは絶句した。 「・・・・・・」 息を呑んで主を見下ろす。 ブランケットを握り締める手の細いこと。爪は割れ、ひび割れた指先はがさがさだ。 そこに彼が味わってきた苦境が見て取れ、掛ける言葉を探して─────・・・・・・・固まった。 何を言えばいいのか分からない。 何を言っても、意味を成さない気がしたのだ。 そうして黙然と立ち尽くしていると、椅子に座っていた櫂が徐に立ち上がり、ベッドサイドへと移動する。 声を殺し、大粒の涙を零す拙い泣き方に櫂は目を細め、そっとアイチの細い肩に手を回して体ごと自分の方に引き寄せた。 酷く、優しい手つきだった。 「もういい。もう────我慢しなくていい」 瑠璃色の髪に顔を埋め、引き寄せた手で薄い背中を抱く。 落涙するばかりのアイチを抱き寄せた櫂の表情は、流れ落ちた横髪に隠れて見えない。 けれども、纏う空気が全てを物語っていた。 「ここが、お前のいる場所だ」 普段の彼からは想像も出来ないような、穏やかな声が涙に沈むアイチを導く。 その声。その言葉に、櫂が抱えていた思いの丈を見た気がした。 「・・ふっ・・・、ぅ・・うっ・・ふぇ・・・」 忘れていた泣き方を思い出すかのように、やがて声を上げて泣き始めたアイチの涙を櫂は静かに受け止め、ただ一言、告げた。 「おかえり」 「っ・・・・───た、ただいっ、ま・・っ・・・」 感涙にむせぶ声が“心”の帰還を知らせ、アルフレッドは漸く気づいた。 長きに渡る衰弊に失われたのは、同盟国や民の心、誰かを信じる勇気だけではない。 至心をもって仕えたいと思った主を思いやることまで忘れていた己に、誇り高き騎士王の両手が拳を作った。

ブクマ・評価等々ありがとうございます。「いつか還るその日まで」の幕間（時間軸は保護した直後）から櫂カイ的なユニアイ？（ユニット×アイチってどう言うの・・・）のようなちょっと長めの短編。アイチ総愛され話です。薄暗い話ばかりですいません。甘いのが苦手でして・・・。次はもっと明るいのを書きたいです。そして今更。ほんと今更ですが、今回の話に限らず設定の関係上身体的・精神的暴力表現が多々使われておりますので、苦手な人は気をつけて下さいね。ご忠告が遅くなってしまい申し訳ありません。いつもこんな話を書くのでうっかり忘れていました。あ、例の如くイメージは全力でお願いします。初めましての方は設定（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=960156">novel/960156</a></strong>）からどうぞ。多分って言うか読まないと確実にさっぱりです。またお題はこちら（涸れる空：<a href="/jump.php?http%3A%2F%2Fsky.leere.biz%2F" target="_blank">http://sky.leere.biz/</a>）からお借りしています。

いつか還るその日まで－幕間：君のいる場所。－

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！ATTENTION！ ・刀剣乱舞とコナン君のクロスオーバー夢です ・刀剣乱舞の側面で見れば、完璧現パロものです ・夢小説が嫌いな人は、リターンして下さい ・読んだ後の苦情はどうか辞めて下さいませ…深夜テンションと勢いと、お花畑な夢豚脳で生み出された妄想の産物ですので、少しでも合わないと思ったら、気分を害す前にお逃げ下さい！ 世界観設定は、原作の２年後、つまり少年探偵団がサザエさん方式ではなくちゃんと小学３年生になっていて、蘭達も花の女子大学生になっています。 そして今回は前回に引き続き過去編で、降谷さんの不安定感が凄まじかったり、泣いてたりします。 こんな弱々しいトリプルフェイス、嫌っ！とうい方はお帰り下さい。 テーマはずばり、降谷零の弱さと、それを糧にした強さです！！ [newpage] ２年で終わるはずだった任務は、結果的に言うと終わらなかった。 俺が優秀すぎたからだ。 …この台詞だけ聞くと、なんだか自身過剰でナルシストな嫌な奴みたいに聞こえるが、事実なので仕方ない。 正確には、俺は上手く組織に入り込みすぎて、当初の目的以上の成果と情報を入手して、公安内のみでなく組織内での株まで上げてしまった。 結果、公安は欲をかいた。 俺の潜入は引き延ばされ、友人で別部署に所属していた景光まで投入された。 俺たちは組織で任務をこなし、評価を上げ、コードネームまで与えられ…ついには辞め時を失った。 こうなってしまえば、死を偽装するか、死ぬか…そういった方法でしか組織を抜けることは難しくなる。 公安は俺たちに更なる期待と、情報の提供を求めた。 帰りたいという気持ちは、日に日に俺を蝕んでいった。 危ういまでの手段で組織内で名をあげて良く俺を、傍らに立つ景光はいつも心配そうに見ていた。 止めるあいつすら鬱陶しくなってきた。 早く終わらせなければ、早く帰りたいんだよ俺は。 気付くと俺は、彼女の声を思い出せなくなっていた。 彼女のすべてを忘れてしまうんじゃないかと思うと、怖くて眠れなくなった。 精神的に少し、いやだいぶ不安定になった俺は、睡眠薬に頼ってかろうじて睡眠をとった。 夢の中でなら会えるだろうか。 そんな願い空しく、彼女は一度も夢に出てこなかった。 ある日、日本のとある駅で彼女を見た。 数年前に分かれた妻は、髪を短く切っていた。 子供の頃から長い髪の彼女しか見てこなかったから新鮮で、思わず見とれてしまった。 肩までのボブカットで揃えられた柔らかな髪は、風に時折揺れて凄く愛らしかった。 黒いレースのタートルネックに、緑のハイウエストスカートを履いた彼女は、椅子に座って電車を待っていた。 左手に光る指輪と、俺が贈った腕時計をちゃんとつけている。 安心した、彼女はちゃんと俺を待っている。 向かいのホームで携帯を見たり、文庫本を読んだりする彼女を10分ほど見ていた。 声を掛けたかった。 大声で名前を呼びたかった。 駆け付けて抱きしめたかった、キスもしたいし、そのまま連れ去りたいとすら思った。 彼女は向かいのホームで立ち尽くす俺に気づかず、来た電車に乗って行ってしまった。 「………」 「バーボン」 「…ああ」 「どうした？」 ライの問いかけに答えず、僕はその場を去った。 その日から僕の心は完全に修復され、睡眠薬も要らなくなった。 僕はバーボンとして任務をこなし、順調に組織の上部へと上り詰めていった。 [newpage] スコッチが死んだ。 [newpage] 俺は怖くなった。 気が付くと、俺は家の前に居た。 正確には、俺たちの家のあるアパートの前の公園に居た。 人っ子一人居ない夜中の公園で、俺は自分の家の窓を見つめる。 カーテンが閉まっていて中が見えなかった。 暫く眺めていると、彼女が窓を開いた。 ベランダに立つ彼女は、背伸びをして欠伸を零した。 息を飲むが、彼女は星空をぼんやり見上げていてこっちを見ない。 見上げていると、あの時駅で見た時より髪の伸びた彼女は、大きい欠伸をして 「あー、仕事行きたくないなあ」 と独り言を言った。 あの部屋は高層階じゃないので、かろうじてここからでも声が聞き取れた。 暗い公園に佇む俺のことは、彼女には見えないのだろうか…。 声を上げれば気づくかな。 でも、巻き込んだら…景光みたいに、彼女も殺されるかもしれない。 遺体と彼女が重なって、胸から血を流して倒れる彼女のイメージが浮かんで吐き気がした。 蹲って座っていると、窓が閉まる音がした。 その後もずっと、俺は公園のベンチで自分の家を見上げていた。 帰りたい。 ずっと、ずっと帰りたかった。 帰れなくてもいいから彼女に会いたかった。 彼女の柔らかい頬に触れたかった。 でもそれももう叶わない夢のような気がして、家への帰り方をすっかり忘れてしまった迷子のような気持ちで、どうしていいかわからなくて声を押し殺して泣いた。 少なくとももう、あの子供の頃に見た景色は見られない。 景光がいて、彼女の居る夏休みの向日葵畑…もう、あの場所には戻れないんだな。 その事実がどうしようもなく苦しかった。 もし今このまま帰ったら、彼女は俺を迎え入れるだろう。 怒るかもしれないけど、事情を聴いたら良く生きて帰ってきたねと許してくれるはずだ。 でも、そうしたら当然彼女の存在は組織にバレる。 バーボンの女として、僕の弱みとして、切り札にされる。 そして僕の潜入が…ノックであることがバレたら、殺される。 僕だけ死ぬなら良い、彼女も関与を疑われて始末されたら…そう考えると怖くて帰れなかった。 結局帰れずにいると、朝になって彼女が家から出てきて、僕は慌てて隠れた。 彼女は商店街方向へ向かい歩いていく。 恐らく、行きたくないという仕事に向かうんだろう。 すると、その出勤途中、彼女は友人らしき女性に声を掛けられた。 やたらでかい女だが、派手な化粧がよく映える綺麗な顔立ちをしていた。 長い黒髪を揺らしながら豪快にヒールで走ってくる。 彼女はその友人の姿を認めると、笑った。 笑顔を見るのは、本当に久しぶりだった。 「ちょっとアンタ、聞いておくれよ～。昨日来た客なんだけどね」 「なになに？」 「激しくカラオケ踊りながら歌ったら、カツラがぽーんと取れちゃってさ！」 「ひえ～！？」 「禿ならまだいいさ。河童だよ？てっぺんだけ綺麗に河童！」 「ぷっふ～！爆笑待ったなしだね」 「もう、笑うなっていう方が無理な話だろう？笑われたら大激怒してさ。てっぺん禿げが真っ赤に染まってそれがまた更におかしくてっ」 「なにそれ、見たかったなぁ～」 彼女の日常は平和だった。 そして、気付く。 もう俺は、帰れないところまで来てしまっていたんだ。 組織が壊滅して安全を確保できるまで、俺は帰れない。 そうしないと彼女の身に必ず危険が及ぶ。 そんな場所にまで上り詰めてしまっていたんだと。 もし、このまま僕がバーボンとして死んでも、彼女と僕の…安室透の偽造戸籍を繋ぐものは何もない。 彼女は降谷零の妻であり、安室透とは会ったこともない赤の他人だ。 公安がバラしでもしない限り、絶対バレない安全域だ。 だから、もし、最悪僕が殉死しても…彼女だけは、助かる。 ああ…もう…なんで…。 諦めきれない自分が駄々をこねるのを無理やり殺して、俺はその場を後にした。 さようなら、と呟いて。 「ん？」 「お、どうしたんだい？」 「今、視線を感じたような…」 「えっ、やだよぅ。ストーカーかい？あんた可愛いんだから気をつけな」 「…今、懐かしい声も聞こえた気がしたんだけど、気のせいかな？」 「気のせいじゃないかい？アタシは何も聞こえなかったよ」 「…そうだね」 雑踏に紛れ消えた降谷零の姿も、声も、彼女は見つけることが出来なかった。 降谷零はただ家に帰りたいだけだった。 [newpage] 帰り道がわからないトリプルフェイス 今回、一人称が終始安定しなかったのは、彼自身が本来の自分を失いかているから。 演じていくうちに、降谷零を少しずつ、削り落とされるように失っていく。 かろうじて飲み込まれないでいるのは、帰るという強靭な執念のおかげ。 ２年を過ぎても任務が延長され、焦りや恐怖から精神衰弱に陥り、睡眠薬依存気味になる。 スコッチが居なくなって、変な形で吹っ切れてしまい、危うさが増す。 次回、そんな彼を予想だにしない悲劇が襲う。 健気に待ち続ける降谷さんのお嫁さん この時点では、疑いもせず長引いてるなぁ、と思いながら待っていた。 小さい子が居るので、昼間は働けず夜の仕事を始める。 そこで築き上げた人脈が、後の彼女に凄い影響を与えるが… それはまた別の機会に！ ホストのみっちゃんとはこの頃に出会う。 でっかい綺麗な女(男) 勿論次郎太刀、現世の名前は舘次郎。通称次郎ちゃん。 元モデル、今は芸能界の闇に嫌気がさし、オカマバーに転職した。 オカマ会を束ねる女王として君臨する。 しかしビジネスオカマのため、休日は男の格好をするし、恋愛対象も女の子。 転生する際現世に、適応したサイズになって、185cm程度。 スコッチ 降谷夫妻は幼馴染のため、嫁はスコッチとも幼馴染。 どんどん精神的におかしくなっていくバーボンを心配し、彼の精神安定剤的、ストッパー的役割を担っていた。 彼の死は降谷にとって、あまりに絶望的なものだった。 今回いつにも増して、女々しい降谷さんでした！ でも、普通の人間であればどんな超人であれ、こんな危険な任務に何年も就かされていたら、精神的に参っていくと思うんです。 それを周りに気取られない様に、或いは自分自身すら騙しながらこなしてきた降谷さんは、何度心が折れたんでしょうね？ いっそ泣きながら家に帰った方が、彼のためにはなったと思います。 そして結果巻き込まれても嫁は、巻き込まれず降谷が苦しんでいるよりも、ずっと良いと思うでしょう。 一番の合理的解は、潜入の際に嫁を連れていき、バーボンの女、協力者として強引に母子ごと組織に認めさせることでした。 この嫁は転んでもただじゃ起きないどころか、わざと転んで慰謝料ふんだくる系の策士なので、案外コードネームまで貰えていたかもしれません(笑) 少なくとも、降谷の精神がぶっ壊れかけることや、拗れに拗らせることはないと思います。 さて、次回はいよいよ…降谷と嫁が(以下省略)お楽しみに！

「降谷零の愛は彼の中でのみ完結する。」<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10102308">novel/10102308</a></strong>の続きです！<br />今回結構気に入っているお話です。<br />前回に増して、危うい感じの降谷さんが書けたと思います。<br />空白の８年間、降谷さんが何を思い生きていたか。<br />お嫁さんがどんな風に過ごしていたか、感じてもらえたらと思います。<br />キャプションはいつもの通りに必読で！<br />嫌だと思ったら、早めの逃走を心がけて下さいね(*´▽｀*)<br /><br />追記<br />今回も沢山の方に読んで頂けて、とっても嬉しいです！<br />2018年09月12日　デイリーランキング 70 位<br />2018年09月12日　女子に人気ランキング 63 位 <br />頂きました…いつも拙い作品ですが、評価して下さる方が居るので頑張ろうと思えます！<br /><br />さて、今回結構な鬱展開で、降谷さんの回想話は読んでいてしんどくなるなぁ、と書いた本人が改めて反省しました。<br />この辺りで今まで書いていた、妄想していた続きのストーリーを変更するか。<br />そのまま突っ走るか、ちょっと考え直しててみました…。<br />でも、やっぱり書きたいように書こうと思いましたので、もう何話かは降谷さんに散々な目に遭ってもらう事になってしまうと思います…本当にすみません、降谷さんとそのファンの皆様。<br />でも、どんなに辛い目に遭っても、彼それを乗り越えて幸せに…家に帰る姿を書きたいので、方針はやはりこのままで。<br />決して作者は降谷や安室が嫌いなわけじゃないんです！！<br />寧ろ愛故にです…愛故なんです…( ；∀；)

降谷零はただ家に帰りたい。

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１．自己紹介をしてください。名前、国籍、年齢、性別などをどうぞ。 ２．あなたの所属を教えてください。またどういう立場にいるか説明も出来ればお願いします。（例：魔術師なら時計塔の魔術師、一般人なら高校二年生の一般人、など） ３．あなたはどういった理由で伏真の聖杯戦争に参戦したのですか？ ４．聖杯を手に入れた時、あなたはどのような願いを叶えたいですか？ ５．あなたが主に使用・得意とする魔術ってどんなものですか？ ６．おっと聞きそびれてました。この質問に答えている時点での最新時間軸を教えてください。（例：一周目／三日目・四日目ならばその状態での最新話のタイトルと朝・昼・夕・晩かどうかを答えてください） ７．どんなサーヴァントと契約したいですか？　理由も合わせてお答えください。契約している場合、お相手と契約した理由と経緯をお答えください。 ８．逆にこんなサーヴァントとだけは契約したくない、っていうのはありますか？　契約している場合でも、お答えください。 ９．これから一緒に戦っていくサーヴァントとは素敵な関係を積み上げていきたいですよね！ １０．これから先、聖杯戦争は凄まじいものとなるでしょう。マスターであるあなたはその中で、どうしたいですか？ １１．一気に話は変わりますけど、家族構成について教えてください。 １２．なるほどー、それがあなたの家族ですか。もしやと思いますが、家族内で物凄いドラマとかありました？ １３．伏真市名物にしてマグマの底から悪魔合体してやってきたような外道の一品、クリムゾン・レッド・ホットチキンに関するご感想をどうぞ！ １４．好きな食べ物と嫌いな食べ物はありますか？　クリムゾン・レッド・ホットチキン以外で。 １５．ところで飲酒っていけます？　もしかして酔うと暴走するタイプ？ １６．あなたは料理とか出来ますか？　また得意料理とかありますか？ １７．今まで料理した中で、大失敗したーっていうのあります？　無いならば羨ましいです。 １８．ところであなた……機械音痴ですか？　魔術師って機械駄目らしいんですけど。 １９．機械得意ならば伏真ちゃんねるにはアクセスしておりますか！　ま、まさかスレ立てしてます！？ ２０．まぁ、どんな立場であれ流石に……携帯電話ぐらいは持ってますよね……？ ２１．今更ですけど、自分の性格ってどんなもんだと思ってます？　英霊のように秩序・善とかで例えるのもありっすよ！ ２２．自分じゃそう思わないけど、他人からは良くこう言われる、こう思われてるっていうのはありますか？ ２３．ほうほう。あ、趣味って何かあります？ ２４．あなたが他人に自慢できるものはなんですか！ ２５．逆にコンプレックスとかってありますか？（肉体的・精神的、両方だけでも片方だけでもＯＫです） ２６．忘れられない思い出とかあったら教えてくださいな！　小さい事でも大きい事でもオッケーですよ！ ２７．そんなあなたの長所と短所はどんなところだと思います？ ２８．あなたの服装って普段どんな感じのものが多いですか？　アクセサリー可です。 ２９．やってみたいなーって思う格好とかあります？　コスプレでもオッケーでっせ。 ３０．あなたの誰にも譲れない考えってのがあったら教えてくださいな。 ３１．と、ところで……初恋とか恋愛とか経験、ありますか！　あるならば皆様の為に説明を、是非！ ３２．もしも恋人がいるならば、その人についてご説明を！　いないのならば、理想のタイプを教えてください！ ３３．愛に性別も年齢も主従も関係無いと思いますか！！？ ３４．この際なんで、好きな人いてもいなくても、プロポーズの言葉言ってみてください。 ３５．……あらあら、別に強制じゃなかったのに。（生暖かい笑顔） ３６．さて、話を切り替えましょう。自分の周囲で良くも悪くも交流が多い人物っています？　いくらでも答えてオッケーです！ ３７．その中でも最も交流しているって思う人を上げてください。出来れば契約しているサーヴァントさん以外で。 ３８．敵味方関係なく、インパクトが一番強かった人物を挙げてみてください。 ３９．これからも交流の輪は広がっていくでしょうけど、どんな人物と仲良くなってみたいですか？ ４０．そんなあなたは主に何処で出没するんですか？（例：サンシャイン・ロード、伏真学園内部、など） ４１．さて、ここまで愉しい質問が続きましたね。 ４２．だけど、この聖杯戦争の中でそれは続ける事ができるのでしょうか？ ４３．聖杯戦争について、どのような考えを持っていますか？ ４４．英霊について、どのような考えを持っていますか？ ４５．魔術について、どのような考えを持っていますか？ ４６．神秘の秘匿について、どのような考えを持っていますか？ ４７．正直に聞きましょう。あなたはこの先、生き残れると思いますか？ ４８．この聖杯戦争は魔術師達による殺し合いです。最期の一人の手に聖杯は訪れます。あなたはそれでも尚、聖杯を求めますか？ ４９．ただ聖杯戦争を乗り越えたい場合、あなたはどこまで頑張れますか？ ５０．今ここで答えられた思いを、聖杯戦争の最期まで貫けると自信をもって言えますか？ ５１．聖杯戦争では沢山の戦闘が行われていく事でしょう。あなたは戦闘しましたか？ ５２．あなた自身に戦う術はありますか？ ５３．今の段階で聖杯戦争中に戦闘した方は勝敗どうなりましたか？ ５４．聖杯戦争中に行われる戦闘や殺し合い、あなたはどんな意見を持ってますか？ ５５．まぁ、何にせよサーヴァントとの契約はとっても大事ですよ。それだけで生死が別れますからね。 ５６．マスターであるあなたには英霊を操れる令呪があります。それをどう活用していきたいですか？ ５７．あくまで仮定ですけど、あなたは契約しているサーヴァント含めて交流している方が死んだらどうしますか？ ５８．あなた自身が死んだ場合、周りにどんな影響を与えると思いますか？ ５９．そういえば令呪を剥ぎ取る方法もあるらしいですけど……？ ６０．なにはともあれ、伏真市で十日間行われる聖杯戦争を頑張ってくださいね。応援してますよ。 ６１．ところでもし、この聖杯戦争がループするものだったらどう思います？ ６２．伏真市の聖杯は一体どんなものだと思いますか？ ６３．一体どうして伏真市で聖杯戦争が起きたのでしょうかね？ ６４．さて、ここまでの質問を振り返ったご感想を宜しければ教えてください。 ６５．質問はこれでおしまいです、お疲れ様でした。

【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=935178">novel/935178</a></strong>】の企画に参加しているマスターの方々への質問でございます！　どうぞ気軽にこたえていってくださいませ。矛盾・おかしな点があったらコメント・ブクマコメで指摘お願いしますね！　サーヴァントへの質問はこちら【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1011024">novel/1011024</a></strong>】でございます。／４月２９日デイリーランキング５２位になりました、ありがとうございますっ！

【Fate/pixaria】聖杯戦争マスターへの質問

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【注意書き】 ・安室透 & へし切り長谷部 × 夢主(前世審神者) / 女主人公 / 名前無 ・下記成分有 　クロスオーバー/恋愛要素低/審神者独自設定/転生 ・キャラ改悪、ヘイトの意図は一切ありません。万が一そんな風に感じられましたら 　メッセージ等いただけると助かります。 ・コメントの感想には個別にお返事しておりませんので、ご了承ください。 [newpage] お気に入りの喫茶店がある。どこらへんがというと何よりまず店員さんであるあむぴがイケメン。前世で審神者なるものをしていて、絶世の神々に囲まれていた私でもうわっ顔がいい！と思う程度にイケメン。今世の推し(3次元)は君に決めた！ あと、ご飯が美味しい。 そんなわけで、職場からも家からもある程度近く絶妙配置にある喫茶ポアロは私のお気に入りだった。だった。いやまだ過去形にはしたくない。 そう、今日も私はいつものように喫茶店の扉をくくり、お気に入りの小説を読んでいた。どさり、と何かが落ちるような音がして、顔をあげればそこには、私の近侍がいた。 「は、せべ？」 煤灰色の手触りの良さそうな髪。宝石みたいな紫の瞳。キリッとした整った眉に涼やかな目元、スッキリとした高い鼻梁、薄紅色の唇。神というだけあって何一つ欠点のない黄金配置。織田信長に使われ黒田の家宝となる逸話を持った御刀こそ、私の前世の推し(3次元)、へし切長谷部。その長谷部そっくりの男が、グレースーツを着ている。と、冷静に観察できたのはそこまでだった。 「あっあっ主！！！！！！」 喫茶店中に響き渡る声でそう叫ばれたかと思うと、座る私にすがりつく形で泣き崩れる大の男。いつから現パロになった？！ 長谷部と一緒に入ってきた少年、(あっどう見ても不動くんです、こんにちは？)は、私の本丸の不動くんではなく、うわって顔で長谷部を見下ろしている。もう少し親身になって欲しかった。主呼び、人前で大号泣とか長谷部の行動がハードモードすぎる。そんだけすかれてたってことは素直に嬉しいから余計にタチが悪い。 「……大丈夫ですか？警察呼びます？」 と心配そうな可愛い顔で声をかけてきてくれた安室さんに、バチリ、と長谷部の視線が交わる。えっ？ 「主、なんですかこの軽薄そうな男は？」 「頭のおかしい男に付きまとわれているなら探偵である僕が力になりますよ？」 なんで火花散らしあってんの？前世の推しと今世の推しに挟まれてるという現実が意味がわからない。 …少し、前世と審神者について話をしよう。唐突？現実逃避？うるさいよ！ 私には前世の記憶がある。まぁそれが本当に前世なのか、私が頭で作り上げた妄想なのかは証明しようがなかったわけだがここにきて長谷部の存在が明らかになったので前世の記憶がある。前世でわたしは審神者だった。自分で決めてついた職業だったし、わたしが生きている間にその戦いは終わらなかったが、別にその敵に殺されたとかではなく、５０代ぐらいで老衰で死んだ。少し寿命が早いのは審神者として力を使っていたからだ。それを後悔はしていないけれど、今世では前世にできなかったことをしたいと思っていた。 ずばり、恋である。 ところが前世が邪魔をした。何分にもイケメンに囲まれすぎたわたしはそこいらの男が芋にしか見えなかったのである。モブ程度の容姿にしてとんでもない面食いとかおこがまし過ぎる。終わった。 結局、今世もやっぱりイケメンを鑑賞しつつ気ままに生きようと決意して、わたしは安室透という存在に目をつけて、ポアロへせっせと通っていたわけである。 「貴様は一体、主のなんだっ？！」 「初対面の方に貴様と呼ばれる筋合いはありませんが。貴方こそ誰ですか？彼女の知り合いに貴方みたいな人はいないはずですが」 「ストーカーか？」 「そっくりそのままお返ししますよ」 待って、今聞き捨てならないセリフがあった気がする。というか本当になんなんだこの状況。我に戻っても続く言い合いに思わず遠い目をしてしまう。 「かえりてぇ」と呟いた不動くんのセリフと、「カオス」って呟いたコナンくんのセリフには同意しかない。片方はわたしの膝にすがりついたままだから余計にね。 推しと推しに挟まれてるのに素直に喜べない。でもやっぱり二人とも顔はいい。 本当に警察を呼ばれそうになったので、知り合いなんで、と必死に安室さんを止めた。めちゃくちゃ疑われたんですけどなんでですか。とりあえず、これ以上店に迷惑をかけるわけにいかないので、長谷部と不動くんと店を出た。お昼を食べるところだった、というので別のお店へ入る。 「ええっと、長谷部、だよね」 「はい。長谷部国重です」 そう言って差し出された名刺にぎょっとする。部長…ていうかこれ大手車メーカーの営業マンってことじゃないです？？さすが主命大好き。社畜が過ぎる。 「こっちは俺の従兄弟で、ご存知の通り、不動行光」 「俺と仲良くしたって良いことなんかないと思うけど、よろしく、国重の主さん」 ちょっとだけネガティブな発言をする不動くんの手をぎゅっと握って、よろしくね、とブンブンと握手する。キョトンとする不動くんの横で、なぜか長谷部がドヤ顔をしている。 「いい主さんじゃん」 「そう言ってる」 「長谷部は相変わらず可愛いねぇ」 そういうとぶわりと桜が舞った。本当に舞うわけはないけど、イメージとして。思わず前世でよくそうしていたように頭を撫でてしまった。 ところでこの会話を、盗聴されているなんて、一般人のわたしは気付けるわけがなかったのは、仕方のないことだとおもう。 ------- 「いらっしゃいませ」 そう告げた安室さんがわたしの顔を見て、あっという顔をする。 「この間はすみません。これ、お店で騒いでしまったお詫びに」 「いえ、そんな、お気遣い頂いてしまってすみません」 困った顔で笑う安室さんは相変わらず顔が良い。お詫びを渡しに来ただけのつもりなのに、寄っていかれないんですか…？と聞かれて、思わずよっていきますとも！ってなってしまった。 「この間の方はお知り合いだったんですね…」 「ああ、はい。すっごく昔のですけど。久々にあったのでびっくりしちゃったみたいで」 「そうだったんですね。僕、すごく失礼な態度でしたよね」 そう言ってしゅんっと項垂れる安室さんは主命をもらえなかった時の長谷部みたいで思わず、その頭に手が伸びて、頭を撫でてしまった。はっと我に返って、ごめんなさいと謝る。こんなところで推しと推しの共通点に気づくとは。あと二人ともキューティクルすごいシャンプー何をお使いで？ 「ごっごめんなさい」 「いえ、あの、また撫でてください」 「んっ、あ、はいぜひ！」 是非ってなんだ。何を言っているんだ、わたしは。いやしかし推しが可愛かった。推しと推しが推しと推しで今日も推せる。と思っていたらポアロの扉が開いた。 「主」 むすっとした顔の長谷部がそこにいてあちゃーと天を仰ぐ。一瞬にして安室さんの空気感が変わった。なんで！？ 推しと推しの間に挟まれているのに、こんなの胃が痛いのか。

長谷部くんと安室さんの間できゃっきゃしたい願望しかない。<br /><br />前作ブクマとかコメントとかいいねとか本当にありがとうございます。見たことない数字でびっくりしました。。。ぬい可愛い。<br /><br />【注意書き】<br />・安室透 &amp; へし切り長谷部 × 夢主(前世審神者) / 女主人公 / 名前無<br />・下記成分有<br />　クロスオーバー/恋愛要素低/審神者独自設定/転生

推しと推しに挟まれている

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注意 ・捏造過多 ・幸せになりたい話 ・スコッチの本名は「諸伏景光」でいきます ・偽名は「緋色光(ひいろひかる)」です ・R-18ではないと言い切る 何でも許せる方はどうぞ。 無理なら戻るボタン連打推奨。 [newpage] 前世の記憶なんてなければ良かったのに。 二度目の人生を進みながら、この記憶も持って生きる息苦しさに喉が詰まる。 最初は良かった。一からじゃなくて続きから、なんて楽な人生なんだと思った。そう、思っていた。 東都という言葉を知るまでは。 恐ろしい土地、恐ろしい世界だ。 これが現実なのか。 学生時代は、同級生の女の子は誘拐されて、物言わぬ姿で帰ってきた。 ただ休日には銀行強盗に巻き込まれて、見せしめとして目の前の親子に風穴があいた。 また大学生のときは自宅のマンションが爆発した。 熱で動けなかった私はついに自分の番かと思った。だがそんな私を見つけ、背負って逃げてくれた警官がいなければきっと死んでいた。 そして、つい数日前まで一緒に温かい食事を囲んでいた家族は、小さな壺の中に納まる大きさになってしまった。 腕におさまるそれ、私の家族はこんなに軽かっただろうか。 犯罪が多いなんてものじゃない。本当になんて世界にきてしまったのだろう。 元の世界に戻りたい、平和な世界へ。 もう親族もいない、たった一人になってしまった私は自殺する勇気もなく、前世を思いながらもまだ生きていた。 「すみません！大丈夫ですか…？」 「……は、」 男性がぶつかってしまった拍子に、私のスーツにかかったアイスコーヒー。 その相手の顔を見たとき、私は夢でも見ているのではないかと思った。 この世界の人物、前世で好きになったあの人が、申し訳なさそうに眉を下げてこちらを見ていたのだ。 ふるり、震えた唇で何とか言葉を紡ぐ。 「…はい、だい、じょうぶです」　 「本当にすみません、弁償しますので…」 「いえ、お気になさらず…」 何で忘れていたのだろう。 あの時助けてくれた警官、萩原研二のことも。目の前の彼、いつか自殺をしてしまうスコッチのことも。 ここは東都、そしてここは現実、彼らはもう架空の登場人物ではないというのに。 濡れた部分を仕事鞄から取り出したハンカチで拭い、逃げるように去ろうとする私を彼は引き留める。 そのままでは風邪をひいてしまうと強引に手を引かれるまま、思考の纏まらない私はついて歩くしかなかった。 今、恐らく彼は潜入中のはずだ。そして私の勤める会社はお世辞にも真っ白とは言えないし、後ろ暗いものがある。 所属を考えて、彼ほどの人間が本当に「ぶつかってしまった」なんてことがあるのか。いや、それはありえない。 ここまでくれば、もう私には嫌な想像しかできない。 思い当たることはたった一つ、目的があって「わざと」私に接触したということだった。 「こんなときに、考え事か？」 唇の動きがわかるほど近くで、熱い吐息と不満げな低い声が耳に吹き込まれる。 ぞくりと背中が粟立つのを感じた。 少し目を泳がせると、彼の視線が探るようなものになった気がした。 「…光さんに、初めて会ったときのことを思い出してたんです」 「あー……あれは悪かった」 彼は気まずそうに頬を掻く。 あれでスーツが一着駄目になってしまったからだろう。 「別にいいですよ、その代わり素敵な方と出会えたので」 「……そういうこと言うなよ、優しくできなくなるだろ」 「なら、激しくしてくれますか…？」 顔の真横についた腕に擦り寄ると、彼が興奮を隠さずに自身の乾いた唇を潤すように舐める。 下腹部に置かれた大きな手のひらが、ゆるゆると胎内に押し込められたままの存在を知らしめるように擦ってくる。 「お望みのままに」 愛しむような、顔中に降ってくる柔らかい唇の感触。 じっと切れ長の瞳を見つめると、ふっと細めて貪るように唇を合わせてきた。 再び身体全体が激しく揺さ振られ始め、昇り詰める感覚に感じ入るように目を瞑り、喘ぎ声が漏れないよう自らの手で口を塞ぐ。 「こっち、見てくれ」 呼吸を乱しながら、懇願するように彼が呟く。 首を横に振って拒否しても、それを許さないとばかりに一番奥を強く突き上げられた。 嬌声が漏れ、思わず目を見開くと、彼が濡れた瞳をぎらぎらと輝かせて笑った。 「やっと俺を見たな」 口を塞いでいた手も頭上で縫い留められ、あとは彼の思うまま。 数か月、何度も何度もこの情事を繰り返してきたというのに、たったの一度も「私のことも見て」と、私を通して別のものを見ている彼に言えたことはない。 快感か、または別のものからか流れた涙は全て彼が舐め取って飲み下した。 目を覚ませば、見慣れてきたがっしりとしている胸板。 また朝まで気を失っていた、情事後起きていられたことなんてほぼないが。 身を捩ろうとしても強く抱き締められているせいで、抜け出すことも叶わない。 起きたことに気付いていた彼が奮闘する私を見て、喉でくつくつと笑っている。 「おはよう」 「おはよう、ございます」 「また無理させたな、悪い」 「いいえ、いつも通り…とてもよかったですよ」 「……誘ってるのか？」 「…どう思います？」 挑発的にそういえば、彼はにやりと口元を歪めた。 「君は、悪い子だな」 貴方ほどではないですよ、という言葉は飲み込んだ。 身体に回された腕が私の素肌を味わうように這い始めると同時に、腹部へ彼の腰が押し付けられる。 しかしこれ以上はダメ、と口付けようとする唇に人差し指を添えて止めた。 残念そうに彼が唇を尖らせ、その指先に口付けると、軽く噛み痕が残る程度に甘噛みをしてくる。 「腰が痛いので、しませんよ」 「酷いな、自分からその気にさせておいて」 「ごめんなさい。でも、まだ残ってる仕事もありますし、お昼から仕事なのでもう帰ります」 「それなら仕方ないか……送るよ」 「いえ、大丈夫です」 緩んだ拘束から抜け出し、ベッドの縁へと腰かけ、床へ落とされて散乱した衣服を身に着けていく。 ありがたいことにホテル代はいつも彼が負担してくれるので、後は髪を整えて荷物の仕事鞄を持てばすぐに出られる。 すぅっと彼の指先が背中をなぞるのが擽ったくて振り返れば、肘をついてうっとりと微笑んでいた。 「またな」 「…ええ、また」 そっと頬へ触れるだけの口付けをすると、後頭部を押さえられてもっと長い時間それのお返しをされた。 まるで恋人のような睦言、愛されているのだと錯覚させられる。 名残惜しそうに絡む彼の手を解いて、鞄を手にホテルを出る。 振り返ることなく、真っ直ぐに自宅へと足を向けた。 オートロックのそれなりの部屋。カーテンは閉め切られていて室内は暗い。 陽の光ではなく、人工的な明かりを点けたらデスクにあるパソコンへ、昨晩会社から持ち帰ったUSBメモリを挿入しファイルを展開する。 「……」 非常にわかりにくいが、データが複製された痕跡がある。この点に関して、彼は詰めが甘い。 苦手そうなハニートラップがそれなりに上手くいっているのだから、彼の友人がこれについては再度教えてくれるだろう。 私が指摘するということは、この関係の終わりを意味するのだから。 彼がどのデータを持っていったのかだけ確認して、パソコンを閉じる。 始めから残っている仕事なんてないのだ。ただ、彼にデータを横流しするためだけに態々持ち帰っているに過ぎない。 どうやら今回のデータは彼の満足のいくものだったらしい。あの微笑みがその証拠だ。 次は、そのあたりの詳しい資料をUSBメモリに入れておこう。そう決めて込み上げてくる欠伸をかみ殺した。 なんだか最近、身体がだるい。 [newpage] 「もしかして、体調悪いのか？」 「…よくわかりましたね。少しだけ身体がだるくて、でも大丈夫ですよ」 今晩空いてるか、と連絡がきたのでいつものホテルへ行ったら、真っ先にそう言われた。 言い当てられて心臓が跳ねたが、努めて冷静に返す。 「いや、無理せず休んだ方がいい。呼びつけて悪かった…とりあえず横になったらどうだ？」 「……そうですね。ではお言葉に甘えて」 食事はとった？水はいるか？と甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくれる彼に、「お水をください」と言えば少し待ってろとミネラルウォーターの蓋を軽く開けて渡してくれる。 先ほどまで未開封だったそれを飲んだら、やはり普通の水にはない微妙な味が少しだけした。なるほど、こうして予め仕込んでたのかと確信する。 睡眠薬か、何なのかはわからないけれど、たまに彼から渡されるものにこれが含まれている。 私が抱き潰される以外の理由で朝まで起きないのは、きっとこれのせいなのだろう。 何だかこれ以上飲みたくなくて、飲むのをやめてすぐ横になる。 自然と瞼が重くなった。一口か二口しか飲んでいないから、恐らくこれは薬のせいではない眠気だ。 「おやすみ」 優しい声と頭を撫でるその手に安心で胸があたたかくなると同時に、どこかで冷えていくものを感じて枕へ涙が滲んだ。 まだ朝じゃない、室内は薄暗いままだ。 薄らと目を開けば、彼が私に背を向け自身のノートパソコンに向き合っている。控えめなタイピング音が聞こえてきた。 ちら、と私の仕事鞄に視線をやれば、USBメモリを入れているところが開いていた。 ならば、今はデータを選別して移してるところか。それを見て見ぬふりして、彼に視線を戻す。 どのくらいたっただろうか、ただ彼の背中を眺め続けていた。国民を、国を背負っている広い背中。 きっとそこに私は、入れない。 「大丈夫か…？やっぱり一緒に病院へ」 「いえ、ドラッグストアに寄るので大丈夫です。ただの風邪でしょうし」 「そうか……。何かあったら、いや、なくても連絡してくれ」 いつでも待ってる。 心配そうに言う彼に薄らと笑って、きちんと整えられた鞄を片手にドラッグストアへ寄り道した。 風邪っぽいからと総合感冒薬をぼんやり眺める私に、迷っているのかと薬剤師の女性が声をかけてくる。 こういう状態だと軽く説明し、彼女があれやこれやと選びつつも合ったものを探し始めた。 「ところで、妊娠はされてないですよね？」 ただの確認として聞かれたのだとわかっているが、私を硬直させるには十分な一言。 前回いつ月のものがきたのか、思い出せなかった。 少なくともここ二か月はきていない、と思う。 勧められるがまま妊娠検査薬を購入し、気付いたら自宅の前にいた。 そんなはずない、有り得ないと思っているのに、身体は勝手に検査薬を片手にお手洗いへ駆け込んでいた。 …なんで、どうして。 目の前には『陽性』を表す検査薬。 私も彼も避妊だけは徹底していた、これはいつか終わる関係だから。 避妊具だって欠かさずしてた、絶対に避妊できるというわけではないが、まさか、そんな。 ふらふらと冷たい床に座り込み、項垂れる。 どうしよう。どうしよう。どうすればいいのだろう。 好きや愛してると甘い言葉を言い合うような恋人同士でもない。セックスフレンドと表すのも間違っている気がする、そんな曖昧な関係。 よくないことだと、絶対に報われることはないし、ただただ傷付くだけだと。そんなことはこの関係が始まる前に、とうの昔にわかっていた。私はそれでも良かったはずだった。 彼の言うことが全て嘘でもいいから、好きな人に抱かれたいと思ってしまう馬鹿な女だ。 渡せる情報量が減り、もうすぐこの関係が終わってしまうことに気付いて、それでも何とか貴方を繋ぎ止めたいと必死な女なのだ。 決して極上とは言えない平凡な身体で媚びを売り、情報をカタに縋り付くことしかできない。 ただ好きな人と、幸せになりたかっただけだったのに。 どうしてこうなってしまったのだろう。 彼の目的は情報、私はそれを得るための手段でしかない。 情報が抜き取られれば、最早私など用済みだ。彼は無理に私と肉体関係を持つ必要などなくなる。 どうせ情報源としか見られていないというのに、一体私は何を期待しているというのか。 いつから私は、こんな女になってしまったのか。 これを機にもう終わりにするべきだ。 心の奥底ではわかりきっていたはずだ。 必要な情報が集まれば、彼はもう私の前に現れることもないのだと。 例え、この胎に宿った存在を打ち解けても、それが覆ることはないのだと。 でも、それでも。 気付けば携帯電話を握り締め、彼に電話をかけていた。 これで最後にするから。 もう会えなくなるならせめて、もう一度だけ。 最後に幸せな夢を見させて欲しい。 貴方の温もりを忘れてしまいたくない。 「光さん、次の休みの前に…会えませんか？」 体調を心配する彼に、もう大丈夫そうだと話して電話を切る。 どくどくと激しく脈打つ心臓がうるさくて、胸元を握った。 次で最後。 そしたらもう彼を解放しなくてはいけない。 数回深呼吸をして、ゆっくり落ち着きを取り戻す。 会うまでにやらなければならないことを脳内でピックアップし、目の前のことに集中して気を紛らわせた。 どうせ抱かれたとしても、後で自分が虚しくて苦しくなるだけなのに。 …本当に、私と言う女は学習しない。 [newpage] いつものホテルに行けば、彼がもう部屋で待っていた。 体調は良さそうだな、と立ち上がって私へと笑いかける彼に、軽く駆け寄って抱き付く。そして腕を彼の首に回して顔を引き寄せ、少しくっつけるだけの口付けをした。 一瞬驚いた様子の彼は、次の瞬間には力強く抱き締め返してきて、より深く口付けてくれた。 「光さん」 「どうしたんだ？」 いつになく積極的だな、と彼が嬉しそうに唇を啄む。 彼のことを誘いはするが、こうして自分から彼に口付けるのは初めてだったか。 恥ずかしくていつもはできなかったけど、これが最後なら、羞恥心なんてもうどうでもいい。 「今夜はね、光さんに物凄く乱暴にしてほしい気分なんです」 二度と消えない傷が残るくらい、乱暴にしてほしかった。 情報じゃなくて、私自身を求めてくれていると、愛してくれていると勘違いさせてほしかった。 「私を滅茶苦茶にして」 彼の耳元に、緊張して掠れた声で囁く。 ぴくりと彼の腕が反応したのを感じた瞬間、傍のベッドへ倒れ込むように押し倒される。 手首を固定され、熱の籠ったような鋭い瞳が見下ろしてくるだけで、ぎゅうと胸が苦しくなった。 「撤回できないぞ」 返事もできずに唇は塞がれ、容赦なく衣服が剥がされていく。 首筋に彼が顔を埋めたのを感じて目を閉じる、あとは欲望のままに身を任せるだけ。 そう、これでいい。これでいいの。 もっと、私を見て。 目が覚めると、隣に彼はいなかった。 その代わりにメールが一件、その彼から届いていた。 『すまない、仕事が入った』 部屋は好きなときに出て構わない、と書かれている。 シーツが冷たいので、私が気を失ってからすぐだろう。 顔が見れなかったことを、残念だと思えばいいのか、好都合だと思えばいいのかわからなかった。 本当にこんな時間に仕事が入るだなんて、そんなわかりやすい言い訳したら他の女性に仕掛ける時疑われますよと言ってやりたい。 トラップをしかけるなら、相手に悟られないようにしなくては。 心の中で彼に忠告しながら、椅子へかけられた上着の裏地を漁り、隠していたUSBメモリを取り出す。 流石にこんなところに隠しているとは気付かなかっただろう。ダミーの方は今回特に重要なものは入れていない。 これこそ本命、これを渡せばもう私が持っている情報はなくなる。 忘れずに自分の荷物を確認し、彼が仕掛けたであろう発信機は取り外してテーブルへ。 顔を洗おうと鏡を見れば、これでもかと身体中に散らされた鬱血痕。私が彼のものだという、愛された証。 狂おしいほど嬉しいのに、泣いてしまいたくなる。これもやがて何もなかったように消えるのだ。 そんな自分を落ち着かせるため、すぐに蛇口を捻り、冷たい水を情けない顔へぶちまけた。 後処理のため、コップに目一杯水を入れてテーブルへ置く。 USBメモリ、それから今日までに一生懸命考えてしたためた手紙を並べ、携帯で写真を撮る。 何と打とうか指が迷って震える。余計な文を書いては消したが、結局はたった一言。 『忘れ物ですよ』 とだけ打ち、写真を添付したメールを彼へ送信する。伝えたいことはもう、手紙に全て残した。 送信が完了したのを見届け、用意したコップの中へ発信機と共に端末を沈めて足早にホテルから出る。 部屋に少しだけ残った彼の香りに、目頭が熱くなるのを感じながら。 自宅は既にもぬけの殻、仕事も渡した情報によって潰れされる前に退職届を提出済み。 貯金は事前に下ろし、持っていきたいほんの少しの荷物と一緒に駅のロッカーへ仕舞っておいた。 ロッカーから大きめのボストンバッグを回収し、ICカードは使用せず切符で改札を通る。 行き先は決めていない。とりあえず最低金額で切符を購入したので、着いた駅で乗り越し清算すればいい。 兎に角早くこの場を離れるため、丁度目の前に停車した電車の行き先を確認することなく乗り込んだ。 早朝だからか、この車両の乗客は私しかいない。 でも他に人がいなくて良かった。 こんな酷い顔を人に見られるのは憚られる。 ガタン、ゴトン 揺り籠のように揺れる車内で、下腹部を撫でながら泣いて腫れぼったくなった目を閉じた。 ああ……終わってしまった。 彼との繋がりを絶ってしまった、この子を残して。 きっと父親がいないことで、私が親だということで、寂しい思いも苦労もさせることがあるだろう。 でも、この子にはのびのびと元気に育ってほしい。 私の与えられる全てをもって愛情を注ごう。 前世への恋しさも、あの人へ向けての愛も、一人で生きる寂しさも、全て母としての愛情に変えて。 例えどんな犯罪に巻き込まれようと、何があったとしても、この子だけは守ってみせる。 私の子、あの人の血が流れる愛しい子。 あの人が望まなくても、私はこの子を望んで産もう。 …名前は、何にしようか。 「ひろみつ」 あなたがすき、あいしてます。 結局一度も呼ぶことの叶わなかった彼の本当の名と、伝えられなかった愛の言葉は、誰の耳に届くこともなく広い車内へ溶けて消える。 手紙、読んでくれるだろうか。「足音に気を付けて」なんて意味のわからない文章が、読み流されてしまわないだろうか。 せめて、彼に生きていてほしい。どんな形であろうとも。 もう彼の力になれない私が願うのは、それだけだ。 ああやっぱり、せめて最後の朝くらい、一目でいいから彼を見たかったな。 こんなことなら昨日のうちに、もっと彼の姿を目に焼き付けておけばよかった。 息がし辛くなるほど胸が苦しくて、熱いのに冷たい涙が止まらず滲んだ視界。 虚ろな目で見つめた窓の外、この電車は暗いトンネルへ突入しようとしていた。 [newpage] 「だから言っただろう、ターゲットに情を移すなと」 飛び出していった幼馴染の背に向けて、蜂蜜色の頭髪を掻き毟った男が独りごちた。

例えそれが甘く苦い罠で、結局自分が傷付くだけだとしても。<br />景光推しの転生女が推しにハニトラされてるとわかっていて肉体関係をもっていた話。<br />ｎ番煎じだが許してほしい。ハニトラされたいんだ。<br />R-18じゃないが許してほしい。今後(多分)書くから。<br /><br />前回までの評価ありがとうございます。<br />今後も気の向くままに書いていきたいと思います。<br />次の更新についてはまたツイッターにてお知らせ致します。<br /><br />2018年09月12日付の[小説] デイリーランキング 4 位<br />2018年09月12日付の[小説] 男子に人気ランキング 99 位<br />2018年09月12日付の[小説] 女子に人気ランキング 3 位<br />2018年09月13日付の[小説] デイリーランキング 1 位<br />2018年09月13日付の[小説] 男子に人気ランキング 54 位<br />2018年09月13日付の[小説] 女子に人気ランキング 1 位<br />ランキングにお邪魔してました、ありがとうございます。

嘘でも愛してほしかった

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「安室さんのハムサンド本当に美味しい〜！」 「ふふ、ありがとうございます」 安室さんからの感謝の言葉とその微笑みだけで私は今日一日幸せに過ごせると確信が持てた。 は〜〜〜本当にもうハムサンドも最高だけど安室さんという人物が最高すぎる。顔が良すぎる。 「毎日安室さんのハムサンドが食べたいくらいです」 「それならレシピを教えてあげましょうか？」 「そうじゃないんです！ 私は安室さんが作るハムサンドが食べたいわけであって、自分が作るハムサンドは食べたくないんです！」 「そういうものですか？」 「そういうものなんです！」 自分で作るくらいならポアロに来ます、と。思わずカウンターから身を乗り出してしまうほど勢いよく言ってしまった。 米花町にある喫茶ポアロという喫茶店で有名なハムサンドは美味しいという理由だけでなく、イケメン店員が作るからという理由で有名になっている。私もその理由でポアロに通いつめては安室さんにハムサンドを作ってもらっているのだ。 「紅茶も美味しい･･･」 「ありがとうございます」 紅茶に詳しくないからなんの茶葉を使っているとかはわからないけれど、ただ安室さんが淹れたというだけで美味しさが倍増している気がする。 美味しい紅茶と美味しいハムサンドにかっこいい店員。その三拍子でもう自分の中の幸福度が満たされているのだ。こんなに顔が良くて料理も出来て女性に優しいのに彼女がいないなんて信じられる？私は信じられない。過去に何かあったのではないかと疑っているほどにありえない。 「僕の顔に何か付いてますか？」 「えっ！ だ、大丈夫です！ 何もついてないです！ いつものように整っています！」 安室さんの顔が好きすぎてずっと見てしまっていた。だけど好きすぎるからこそずっと見ていたいという気持ちをどうか許して欲しい。 「安室さんってお休みの日はなにをされているんですか？」 「え？ 休みの日ですか？ 飼っている犬と遊んだり、ですかね？」 「えっ犬飼ってるんですか！？」 「はい」 顔が良くてスタイルも良くて料理の腕も良くて女性に優しい上にわんちゃんも飼っているなんて完璧すぎでは！？完璧すぎるのでは！？ 完璧すぎて作られている人格だと怪しんでしまうけど安室さんに限ってそんなことはない。安室さんはそんなことしない！と謎の強い結論を出した。 それにしても安室さんと犬という最高の組み合わせに萌えというものを隠せない。散歩中の安室さんとわんちゃんにさり気なく出会う方法はないかと考えるが、もし出会ったとして自分だったら気持ち悪いと思うからさすがにそれはやめようと思う。 「安室さん、いつものやつお願いします。紅茶もおかわりをください」 「はい。わかりました」 ハムサンドを食べて少し経ってからデザートのケーキを食べるのが習慣になっている。だから安室さんにはいつもので通じてしまうのだ。 「お待たせしました」 「わあ、ありがとうございます」 最初に見た時は「ケーキが溶けてる！？」なんて驚いたけどめちゃくちゃ美味しくて感動したのを覚えてる。だってその日に私はその溶けているケーキを3個も食べてしまったのだ。帰宅してから冷静になってやばいなこれ、と。久しぶりに体重計にまで乗ったほどだった。 「安室さんってどんな料理が得意なんですか？」 「え？」 「和洋中のどれを一番作っているのかなって」 「ああ、それなら和ですね。和食が一番作りますし食べますよ」 安室さんの和食！めちゃくちゃ食べたい！食べてみたい！ハムサンドとケーキしか食べたことないから安室さんが炊いたお米を噛み締めたい！ 「安室さんの、和食･･･！」 「ふふ、今度作りましょうか？」 「えっ！？！」 夢！？これは夢！？私はいつの間に夢の世界に入ったのだ！？ 「ここのポアロで簡単なものを作ることしか出来ないですけど」 「ほ、本当に言ってるんですか･･･？」 ごくり、と。生唾飲み込んでしまうほどに本気で信じてしまっている。 だって安室さんの作る和食を食べるなんてこと一生に一度の経験だ。 「あなたさえ良ければですけど」 「ぜ、ぜひ！食べたいです！」 「では作るもの考えておきますね」 「ありがとうございます！」 まだ夢の中にいて目が覚めるなんてことないよね。違うよね。実は数年病院のベッドで寝ていてポアロで安室さんと出会ったことまでも夢とかなりませんよね。嫌です。 「･･･ちなみに、あなたは料理しないんですか？」 「しますよ？ 兄にいつもお弁当を作っているんです。大したことないんですけど」 「それはお兄さんも喜んでいるんじゃないんですか？」 兄とは一緒に暮らしているわけではないが、私は自他共に認めているブラコンなので、兄のことが心配で勝手に家に上がり込んではお弁当を作っているのだ。 「そうだといいんですけど･･･兄に感想を聞いても目を泳がせて美味しかったとしか言ってくれないんです」 「･･･恥ずかしいんですよきっと」 「そ、そうなんですかね」 「それに、僕もあなたが作ったお弁当を食べてみたいです」 いや、本当に今日一日で一年分の幸せを味わったような感覚になった。安室さんにそう言われて喜ばない女なんてきっといないはずだ。安室さんって本当にモテる男の代表みたいな感じでめちゃめちゃ最高に好き。 ◇◇◇◇◇◇ 「ただい･･･」 「おかえり裕兄！」 ポアロから帰宅してからのんびりと夜ご飯の支度をして兄である裕兄のことを待っていた私は兄が帰ってきたことがわかるとすぐに玄関に出向いた。 「ただいま」 「裕兄今日のお弁当どうだった？」 「･･･美味しかったよ」 「本当に？」 「ああ、いつもありがとう」 裕兄が私の頭を撫でるものだから思わず顔がにやけてしまう。 やばい。それだけでまた今日も目を泳がせながらの美味しいか、なんてことがどうでも良くなる。本当に今日幸せすぎるのでは？安室さんといい裕兄といい大好きな人からの言葉が嬉しすぎる。 「裕兄ご飯は？」 「すまない、食べてきたんだ」 「そっか。疲れてるでしょ？ お風呂温めてあるよ」 まって、この会話夫婦みたいじゃない！？新婚ごっこしてるみたいじゃない！？安室さんとしたい。この会話をさり気なく安室としたい！ポアロでお風呂の会話ってどう考えても無理だけど。だけどこれはときめく。すごい。幸福感がすごい。 それから裕兄はお風呂に入ってしばらくして出るとすぐに眠りについてしまった。 「またすぐに寝ちゃった」 いつものことでもう慣れてしまったが、裕兄は日々疲れているようで帰って来るとすぐに寝てしまうのだ。私はもっといろんな会話がしたいのにと思うが、職業が警察だからきっと忙しい業務に追われているのだろう。 それに。 「っ、降谷さん危ない･･･！」 「･･･また降谷さんだ」 裕兄は眠りについてからたまに寝言で『降谷さん』という名前を口にする。どうやら『降谷さん』という人は裕兄の上司のようで。魘されているような苦しんでいるような感じだけどその上司である降谷さんにパワハラを受けている様子ではない。 前に裕兄にさりげなく「裕兄の上司の人ってどんな人？」と聞いたことがあるけど何故かしみじみと「･･･凄い人だよ」としか言われなかった。 裕兄は顔に出るからすぐわかるし嘘をついている様子もない。 だけどこうも降谷さんの名前を口にされると腹が立つのだ。私だって裕兄に寝言で呼ばれたことなんてないのに。 「誰だ降谷さんって！！！」 きっと私よりも裕兄と一緒にいるだろうし、会話もしているに違いない。ずるい、ずるいぞ降谷さん。 いつか降谷さんの正体を暴いてやるという強い意志を私はそろそろ持つことにした。 ◇◇◇◇◇◇ 「風見」 「降谷さん！」 「今日も持ってきたか」 「は、はい！」 風見裕也は自分の妹が自分の為に作ったお弁当の包みを降谷零に渡す。 そして降谷零は自分が作って持ってきたお弁当を代わりに風見裕也に渡す。 「･･･そんなに妹のお弁当が気に入ったんですか」 「･･････」 降谷零は風見裕也を一度見てからお弁当に箸をつけた。 「そういえば彼女ちゃんとポアロに来ているぞ」 「そ、そうですか」 風見裕也の妹である彼女は知らない。風見裕也が持っていた彼女の写真を降谷零が見て一目惚れしてしまったことを。それから降谷零経由で風見裕也が妹にポアロという存在を教えたことを。彼女が精一杯兄の為に作ったお弁当が降谷零によって食べられていることを。 彼女は何もしらないのだ。 「妹に随分と好かれているようだな」 「えっ」 「よくポアロで"兄"の話を聞くから」 「･･･昔から後ろをよく付いてきていたので」 「･･･そうか」 「い、いえ！ でも最近は家で安室さんの話をされていますよ！」 風見裕也は何を思ったのか弁解のように日頃の家での妹の様子を喋り出す。それに降谷零は彼女が笑う姿を想像する。 「･･･和食で何を作ろうか」 降谷零がポアロで、安室透として彼女に会えるのを楽しみにしていることも、彼女は知らないのである。 「ハムサンドとケーキしか食べてもらってないし、心を掴むにはまず胃からって言うしな」 降谷零の策略はまだ始まったばかり。

風見裕也の妹が安室さんのことは人として好きだけど降谷さんのことはまったく知らないお話です。<br /><br />捏造と妄想で作られたお話なので解釈違いなど、お読みになる際には十分にお気をつけください。<br /><br />返信出来ておりませんが、すべてのコメントに目を通して読ませていただいております。本当に嬉しく思います。ありがとうございます。<br /><br />追記 <br />タイトル変更いたしました。

降谷零の策略はまだ始まったばかり

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かりちゅま☆ ──────────── 前回のあらすじ〜 幻想郷の案内をしてもらうべく、アリスの元へ訪れた八幡。 アリスが最初に案内したのは、風見幽香が拠点とする太陽の畑だった。 以前にも会っていたため、すぐに仲良くなれた八幡。 太陽の畑を後にした2人。 アリスが次に案内したのは…真っ赤に聳え立つ紅い洋館。『紅魔館』だった。 ─☆─☆─☆─☆─────── 門の前に降りる2人、そこには… ｢…zzz｣ ｢…いつも通りね…｣ 頭に手を置き、やれやれと呆れたポーズをするアリス。 ｢ここのセキュリティ大丈夫か…？門番だよな？｣ とても大きな門の前。仁王立ちで器用に寝ているのは、紅美鈴。 武術なら幻想郷トップクラスだと言うのだが… 普段は門番として働いているらしいが、基本寝ている。 ｢だから魔理沙にスイスイ侵入されるのよ…｣ ｢起こしたほうがいいっすよね？｣ 流石に無断で入るのはね？ ｢あ、いえ。もうじき咲夜が──｣ すると、瞬間移動したように現れる銀髪のメイド。 ｢おや、こんにちは。今日は彼を案内しているのかしら？｣ うお、まじでいつの間にか来てたよ。 ｢ええ、宴会でも決めたとおりね。それよりも案内できるかしら？｣ ｢もちろんよ。お嬢様も楽しみに待っているわ。｣ この人は十六夜咲夜さん。 紅魔館のメイド長を務めている方だ。 案内してもらうんだからな…挨拶しねぇと。 ｢えっと、よ、よろしくお願いします…！十六夜さん。｣ か、噛まなかったぞ…！やった！これが俺の本気さっ！ ｢お任せ下さい。八幡様。それと私の事は咲夜とお呼びください。｣ ｢え。｣ ｢私の事はお嫌いですか？｣ ぐっ。そんなこんな顔されると弱い…主に師匠のせいで… 俺も俺で甘くなったな…ふっ。 ｢あ、あにょ…あの、いきなり名前呼びはハードル高いんで…その、そのうち呼びます…名前。すいません。｣ ｢あら？私は既に名前呼びじゃない。何をいまさら照れてんのよ…｣ ｢アリスは呼べて私は呼べないのですか？…｣ くそぉお。なんで幻想郷の人達は名前で呼ばせたがるんだ…！ええいままよ！ ｢えっと、よろしくお願いします……咲夜。｣ ｢ふふふ。こちらこそよろしくお願いします。｣ 綺麗にお辞儀をする咲夜。 アリスも咲夜も美少女だから照れるんだよ… あー恥ずかしい… ｢少し話しすぎたかしら。それじゃ案内するから着いてきて下さいね。｣ｽｯ うお、スカートの中からナイフ取り出した！ み、見えちまった。白くてスベスベしてそうな綺麗な太もも…！ ｢ふぅん。そういうのが好みなのかしら？…私はいつもロングスカートだから…たまにはミニスカート…｣ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ なにやら、ぶつぶつ独り言をするアリスをスルーした。 咲夜は居眠りする美玲にナイフを投合した。 あー御愁傷様。 ｢うぎゃぁあああああ！？｣ ──────── 案内しながら歩く事、数分。 ｢ここが大図書館よ。レミリアお嬢様のご友人のパチュリー様がいます。粗相のないようお願いしますね…では。｣ 扉を開けた向こうには… 巨大な本棚が幾つも並び立ち、無数の本が仕舞われている。 ｢すげぇ量の本だな…パチュリーって魔法使いなんだよな？ってことはほとんどが魔導書？｣ ｢そうね。それ以外は娯楽用とかもあるけど…八割は魔導書ね。私もたまに借りるわ。｣ ｢アリスは何を借りるんだ？｣ ｢んー、最近借りたのは召喚に関する魔導書ね。まぁやってないけど…｣ 歩きながら話しいると、大図書館の中心。 パチュリーがそこで作業しているであろう大きな机が見えてくる。 ｢あら…八幡じゃない。そしてアリスもいらっしゃい。｣ ｢宴会ではあまり話せてなかったな…えっと、比企谷八幡です。よろしく。｣ よっし、また噛まなかった。もしかしてコミュ障治っちゃっかなー？ ｢パチュリー・ノーレッジ。魔法使いよ。｣ ─────────────☆☆☆☆☆ 咲夜が用意してくれた紅茶を飲みながら雑談した。 小悪魔。こあ。とも知り合った。 意外にもパチュリーは俺に対する評価が高かったのが驚きだ。うん、なんかマジな顔で言うから否定する暇なかったわ… 仲良くなれたと思う…たぶんね？ そんで今回のメインである、紅魔館の主に挨拶だ。 宴会でも話したけど、やはりこちらもあまり話せていない…人多かったもんなぁ。 アリスはパチュリーの所に残っている。 終わったら来てくれと…仲良いなぁ。 ｺﾝｺﾝ 扉をノックする咲夜。 ｢八幡様をお連れしました、お嬢様。｣ 『入れ。』 …姿を知っているからなんかこう…怖くない。いや、本気で怒られたら多分めちゃ怖いと思うけど。 ｢失礼します。｣ ｢し、失礼します…｣ ｢いらっしゃい。八幡。宴会以来ね？｣ そこにはカリちゅま☆全開な少女がいた。 ｢ちょっと。何か失礼な事考えてない？｣ おっと貴方はエスパータイプか？ 俺はゴーストタイプをよく使ってたぜ？ゲンガーとか最高の相棒だわ。 ｢そんな事ないって…えっと招き入れてくれてありがとう、レミリア。｣ ｢ふふ、ちゃんと言えるじゃない名前。あの時恥ずかしがって言えなかったのに。｣ うるへー。 ｢まぁ、幻想郷だと当たり前みたいだしな…言うだろ？郷に入っては郷に従えって。｣ うへー俺も随分変わったなオイ…幻想郷の人達や師匠のおかげかな… あ、師匠今何してんだろ…？ ─☆☆☆─☆☆─☆─── テラスに出て、本日2度目のティータイム。 うん。咲夜の用意する紅茶と菓子は美味い…紅茶は別に詳しくないが…ブレンドとかしてそう…うまっ。 ｢どうやら咲夜の入れる紅茶を気に入ってくれたみたいね。｣ ｢そうッスね。以前にも飲んでましたが…咲夜のがダントツに美味しいッスね…｣ ｢そんなに褒められると主の私も照れるわね…だそうよ？咲夜。｣ うお、またいつの間に…てか聞かれてたか。 ｢はい。気に入って頂けたようで何よりです…私も褒められると嬉しいですよ。｣ ｢また飲みに来ても？｣ ｢｢大歓迎よ(です。)｣｣ ｵｰﾆｰｻｰﾏｰ! ん？どこからか叫声…これは。 ｢あら？フランも早起きさせたの？｣ ｢いえ、前日に"明日八幡様が来るかも"としかお教えしてませんが。｣ ｢あの子ったら…｣ そんな話をしてたら、大きな音を立てて扉が開かれた。 ﾊﾞｧﾝ！ ｢あ！お兄様来てたー！｣ﾋﾞｭｰﾝ え？！突っ込んでくるつもり？！ ｢おっと…！｣ な、なんとか受け止めた… ｢んふーお兄様っ！いらっしゃい！｣ 花が咲くような笑顔。眩し過ぎないとても素敵な笑顔だ…かわええ。 ｢こらフラン。もう少し淑女らしく振る舞いなさい？八幡に嫌われたくないでしょ？｣ ｢うっ。それは嫌だ…｣ｼｭﾝ ｢まぁまぁ…そんなことで嫌いになったりしねぇって、ほら席に座れよ。咲夜が用意した紅茶と菓子あるぜ？美味いぞ。｣ 席に座るように言う。フランはとても素直ないい子なので、すぐ座った。 ｢んー！美味しいっ！流石咲夜ぁ！｣ ｢恐縮です、妹様。｣ ｢師匠のとこだと紅茶は飲めねぇしな。たまには違った飲み物もいい…あの、良かったら入れ方教えてくれませんか？｣ ｢ええ、いいですが。どうしてです？｣ ｢師匠に飲ませたいので…｣ (ふふ、随分と好かれたのね…あの仙人。ライバルが多い中1歩リードってところかしら？) そう心の中で呟くレミリアだった。 ｢分かりました。こちらまでお伺いしてくれれば時間を空けますので教えられますよ。｣ ｢ありがとう、咲夜。｣ ｢私もお兄様の紅茶飲みたいよ！あっこいしちゃんやチルノちゃんも誘っていい？｣ ｢俺が咲夜から合格貰えたらな？もちろん、チルノ達も誘ってこい。｣ ｢やった！お兄様ー！｣ 浮遊して抱きついてくるフラン。おうふ、小ぶりだか中々いい… ｢こらこら八幡…｣ レミリアにジト目で睨まれたので大人しくフランを下ろす。 ｢抱きついてくるのは良いが、お姉様の前だぞ？｣ ｢えー…あっ、お姉様もハグしたいの？｣ ｢へっ？｣｢ん？｣｢…。｣ レミリア、俺、咲夜…これは面白いことが起こりそうだ。 ｢な、なんでそんな話になるのかしら？｣ ｢お姉様もお兄様の事好きだよね？(家族愛的な意味)｣ ｢好きっ！？べ、べべべ別に…まぁ、好きだけど…(恋愛的な意味)｣ ｢なら思い切って抱きついてみなよー！｣ ｢で…｣ あ、これやばい。 ｢お嬢様…？｣ ｢お姉様？？｣ 魔力が高まっている…っておいおい！ ｢できるかぁぁぁぁぁぁああ！！！！！｣ 向けられた魔力は… ｢ちょ、俺ええええっ！？！？｣ ﾋﾟﾁｭｰﾝ ｢はぁ…はぁ…｣ ｢おーお兄様すっごい飛んでいったよ？｣ ｢あの方角は…アリスに伝えておきますか…｣ ──────────── ｢え"っ！？レミリアに吹っ飛ばされたぁ！？何したのよ…｣ 八幡を追うべく、紅魔館を後にするアリス。 ｢全く人騒がせな人ね…｣ 八幡が行方は如何に… [newpage] [chapter:一方その頃…] ｢……何であんたここにいんのよ？青娥。｣ ｢あらやだ華扇ちゃん、お口が悪いわ！いいじゃない遊びに来るくらい……ところで彼は？｣ ｢やっぱ八幡目的ねっ！！！｣ｶﾞﾙﾙ ｢……華扇。｣ ｢っ…なによ。(急に真面目な顔して…)｣ まさか異変？それとも八幡に何か…いや仮に何かあったら、あのスキマ女が知らせてくるはず… ｢……。｣ ｢……。｣ ｢八雲紫から伝言よ。 八幡の敵が迷い込んだと…。｣ ！？ それって…まさか？ 私は思わず立ってしまった。 ｢っ！スキマ女はどこ。｣ ｢はい、これも預かってるわ。｣ 渡されたのは……八雲紫の札。 これでスキマが開き、八雲紫の拠点へ行ける。 ｢少し用事が出来たわ、アンタはどうするの？｣ ｢もちろん行くわよ？…私が言うのもなんだけど、八幡が心配だわ。｣ ｢そう…｣ コイツも八幡を狙ってるのね… ──────── とある森。 ｢あれ…さっきまで部室にいたのに…｣ ｢俺は…グラウンドに。｣ ｢あ、あなた達…｣ さぁ…歯車は狂い出すのか、正しく動くのか。けれど、間違いなく狂う事は容易に想像がつこう… ────────────── 妖怪の山 周辺の森にて ｢あやや？珍しい服装…外来人ですね？少しお伺いしますかっ｣ ｢あ…れ？なんで森に…大学の課題をやってたはず…ここは？｣ 救いの女神も迷いこもう。 [newpage] おまけ ルーミアだよー 私は今お腹を空かせながら森を浮遊してるのだー…うぅ。 ｢お腹空いたのだー…八幡に会えれば何か作ってくれるかなぁ？｣ (過去に八幡から料理を振る舞われている。餌づk) 仕方ないから、川でお魚獲るしかないかなー ってあれー？ ｢ん？あそこにいるのは人間かー？4人…もしかして…｣ ─── ふふふ。 ─── 食べてもいい人類かなぁ？ ───────☆☆☆──☆☆──☆─ その口は三日月の様であった… その目は獲物を見つけた獰猛な肉食動物… 一体誰が狙われたのか…？？？？？

お待たせしました。少し長めです…

幻想案内 紅魔館編

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春田さんの家を出て４ヶ月。 １１月に入って俺は１つ歳を重ねた。 その日仕事が立て込んで片付いたのが８時前。 帰る準備をしていたら武川さんに話しかけられた。 「牧、今日は何か予定があるのか？」 「え、いえ、特には」 「じゃあ、飲みに行こう。たまには付き合え」 「………はい」 武川さんは俺の誕生日を覚えててくれたようだ。 そして、武川さんの誕生日は昨日。 軽く食事をした後、武川さんが好きそうなバーで互いの誕生日を祝って乾杯した。 「もう誕生日が嬉しい歳でもないが、まあ今日は特別だな」 そう言ってグラスを傾ける武川さんは相変わらず大人で魅力的だ。 そう思うだけ……。 それ以外の想いはもうないことがハッキリとわかる。 その後、春田さんとのことを聞かれたけど俺に答えられることは何もない。 春田さんといえば、俺が出て行ってから３ヶ月くらいは、みるみるうちに仕事や見た目がレベルダウンしていくから気が気じゃなかった。 俺のせいなのかな？ と、少し自惚れたけど、元々生活レベルゼロの生活に戻ったんだから当たり前かと自分を自嘲した。 最初のうちは２人きりで話す機会を作ろうと廊下やビルの入り口で待ち伏せされることもあったけど、俺は徹底的に避けまくった。 その甲斐あって、それは次第に減って行き今ではまったくない。 マロくんに、合コンに出ててもテンションがイマイチで、創一らしさがないと聞いた。 でも逆にそれが落ち着いてるように見えるのか、以前よりモテてるらしい。 ちずさんと付き合うのかと思っていたのに、もう少ししたら別の彼女が出来たりするんだろうか……。 想像したら胸がモヤモヤする。 それを望んで春田さんの家を出たくせに。 その時が来たら受け入れるために俺は春田さんと離れたんだ。 自分が傷付かない準備をするために。 春田さんの家を出て４ヶ月半。 マロくんが春田さんに絡んでいる。 「創一、アスカちゃんて覚えてる？」 「んあ？ 誰それ？ てか、創一呼びやめろ」 「ひと月半くらい前の合コンに参加してた子。創一、アドレス交換したッしょ！」 「スルーかよ！ んんんん？ あ～～いたなっ！　そんな奇特な子が」 「その子に昨日飲み会で会った時、創一が連絡くれなかったって残念がってたッスよ」 「マジかっ??」 「今からでも連絡してみたらどッスか？」 春田さんの好みと言えばこの営業所の者なら誰でも承知の“ロリで巨乳”。 そんな子が春田さんからの連絡を待っているんだ……。 「……ん～～いっかなぁ～、今更だしさ」 「どしたッスか？ 創一らしくない。せっかくモテてんのに。結構好みのタイプだったっしょ？」 「ちょっとね。今それどころじゃないっていうか……。だからさ、俺、もう合コンいいや」 春田さんの返事にマロ君はもちろん、顔は自分のデスクガン見の俺も内心驚いた。 一体春田さんに何があったんだろう。 それどころじゃないってプライベートなこと？ ああ、また厄介な病気が始まりそうだ……。 その理由がわかったのは数日後のこと。 帰り道でバッタリちずさんに会った。 お互いの近況を当たり障りのない程度に話しながらしばらく肩を並べて歩く。 「そういえば、今日春田は？　もう帰った？」 「はい。定時で帰ったみたいです」 「そっか。頑張ってんだ、春田」 そう言って、ちずさんは嬉しそうに微笑んだ。 最近、春田さんが変わったと営業所内で評判になっている。 まず遅刻をしなくなった。 服装のセンスは置いといても、以前みたいにボサボサの髪だったり、ヨレヨレのスーツで出社ということもない。 仕事も傍から見ても一日のプランをとても効率よく立てているようで、滅多に残業をしなくなった。仕事の持ち帰りや、お客様の都合でたまに遅くなることはあるみたいだけど、出来るだけ早く退社しようとしているのがわかる。 飲み会にもあまり参加しなくなった。 僅かだけど仕事の成績もアップし始めてる。 一体何があったのかと武川さんも気にしていた。 「小春のおかげだな」 「こはる？」 こはる………。 以前、満面の笑みを浮かべた春田さんもそう言った。 その笑みに思わず自分から声をかけてしまったほど大好きな笑顔。 「こはるって？」 「うん。今ね、春田、小春のために頑張ってんの。アイツまたダメダメ生活に戻っちゃったじゃん？」 「…………」 「そんとき小春に出会って、春田、生活変えようって奮起したみたい。ほんと小春のおかげ」 こはるって女性の名前なのか……。 「………こはる……さん？」 「プッ」 思わず「さん」付で呟くと、ちずさんが吹いた。 「あ、ごめんごめん。牧君にじゃないの。じゃあアタシこっちだから。たまには牧君も兄貴のお店に来てね」 「………はい」 ちずさんは楽し気にわんだほうがある方向に歩いて行く。 俺は弾むように歩くちずさんの背中をしばらく見つめた。 ………こはるさん………。 なんだよ。全部合点がいくじゃないか。 連絡を待っていた女の子を振るのも、合コンやめるのも、身だしなみがまともになったのも、定時で帰ろうとするのも、仕事にやる気が出たのも、時々携帯の画面見て“ふにゃ～”っとしてるのも、俺が大好きなあの笑顔も……こはるって名前の彼女が出来たからなんだ……。 遂に……あの人の横に並ぶ女性が現れた……。 それがちずさんじゃなかったのは意外だったけど、やっぱりあの家を出て正解だったんだ……。 あの人のあの笑顔がその答えだ……。 俺はちずさんと別れた場所から一歩も動けない。 俯いて顔を上げることが出来ない。 だって、涙が流れて仕方がないんだ……自分が望んだことなのに。 なんとか自宅にたどり着き、上着をソファの背もたれに放り投げ、俺はベッドに倒れ込んだ。 “これでやっと解放されるかもしれない……” 両手で顔を覆い深い溜息をつく。 春田さんと別れてから、思い知った事がある。 春田さんの傍から離れても、いつも春田さんのことを考える。 春田さんにわざと冷たくした日の夜は、その時の春田さんの顔が浮かんで罪悪感に苛まれ眠れなくなる。 別れの日にどうしても「嫌いだ」と言えなかった俺は、いまだに春田さんのことが好きで好きでたまらないんだ。 それはもう病だと思った。 一度、どうしても春田さんのことばかり考えてしまうのが辛くて、誰かと過ごせばそんなことはなくなるのかもしれないと、昔何度か行ったバーの扉を開いたことがある。 そこで声をかけて来た男がいた。 多少アルコールが入ったのと男の背格好が春田さんに似てたから、つい横に座るのを許してしまった。 男が俺の身体に触れてくる。 それはたとえスーツ越しでも強烈な不快感に襲われた。 男が“どこか二人になれる場所に行こう”と耳元で囁いたとき背筋に悪寒が走り、思わず自分の分のお金をテーブルに置いて店を飛び出した。 “俺が触れて欲しいのは春田さんだけだ!!”　 その帰り道、俺は心で何度もそう叫んだ。 浅はかな自分に猛烈に腹が立って仕方がなかった。 以来、そのタイプの店には行ってないし、行く気もない。 春田さんにパートナーが出来たのなら、あとは俺の未練だけ。 未練を断ち切ればきっと先に進めるに違いない。絶対に……。 [newpage] 春田さんの家を出て５ヶ月半。 わんだほうで営業所の忘年会をやることになった。 年末で忙しいようで、ちずさんだけでなく、お客様のはずの舞香さんもせっせと料理を各テーブルに運んでいる。 春田さんは久々に腰を据えて飲んでいるようだ。 俺の席は春田さんの真ん前で、時々目が合うと“ふにゃ～”っとした笑顔を向けてくれる。 ふふ、可愛いな。 でももう、この笑顔はもう“こはるさん”のものなんだな……。 途中ビールの追加を注文したら、鉄平さんが、 「お～い、ちず～、冷蔵庫のビールの在庫が切れそうだから裏から補充してくれ～」 と、叫んだ。 ところがちずさんは料理を運ぶのにそれどころじゃないようで、「春田～お願い～」と中継するが春田さんはトイレに行っていない。 「俺、行きます！」 と声をかけ、厨房の裏手に回った時だ。 「ギャンギャンギャンギャンギャンギャン」 と、物凄い剣幕で犬が吠え出した。 「うわっ!!　なに？　なんで犬？」 後退りして鳴き声の方を見ると、そこにはリードでつながれたまだ仔犬の面影を残した小型犬より大きめの白っぽい犬がいて、俺に向かって吠えまくっている。 「あーっ、どうした～、どうした小春ぅ～」 そこに現れたのは春田さんだった。 「えっ？　こはる？　こはる？」 俺はきょどりながら春田さんと“こはるさん”を交互に何度も見てしまった。 春田さんが犬の頭をクシャクシャっとやると、それまで物凄い勢いで俺に吠えてたのが嘘のようにおとなしくなって、尻尾をブンブン振り「きゅーきゅー」鳴き始めた。 抱き上げると春田さんの顔をペロペロなめ出す。 春田さんは嬉しそうな顔してされるがままだ。 なんだ？ この萌える絵面は……。 この人、今、自分がスーツ着てるなんて忘れてるな。 「春田小春ってんだ。可愛いだろ～、な～、小春ぅ～」 「いや…可愛いって……」 とても可愛いとは思えない。 だって、時々、抱き上げられ俺に近い目線から座った目で「ウ～～」とか唸ってるし。 「春田さんが飼ってるんですか？」 「うん。今日は飲み会だからここに預かってもらってんだ」 「ウ～～～～～～」 犬は相変わらず俺に向かって静かに唸っている。 「だ、だから、ここんとこ早く帰ってたんですか？」 「ひとりで留守番させてるから心配じゃん？　時々こことか知り合いのとこに預かってもらってっけどね」 「はあ……」 俺はなんだか気が抜けてしまった。 まいった。完全に“こはるさん”は人間の女性だと思い込んでいた。 「しかしあれだわ。小春がこんなにウーウー言うの珍しいわ。牧って犬嫌いなタイプ？」 「いえ、そんなことないですけど……。なにが気に入らないんだろ」 俺には「ウ～ウ～」威嚇しまくるくせに、春田さんに「小春ぅ～どうしたぁ、機嫌直せよぉ～」と声をかけられると途端に甘えまくる小春。 そして、いかにも小春にメロメロな春田さん。 なんだよ、こいつら!!　相思相愛かよッ!! てかアンタ、人間に恋しろよッ！！！！！ 「春田～ビールは……あ、もうネタバレしちゃった」 そこにやって来たちずさんが、俺を見て「えへへへ」と笑った。 「ちず、なんだよ、ネタバレって」 春田さんが問う。 「うん。こないだね、牧君と偶然会った時に小春の話になって、小春が犬だって黙ってたの」 「はあ～～犬か……」 あの時の俺の涙は一体なんなんだ!!　 俺は本気で断ち切ろうとしているんだぞ!! ただ、今は怒りより脱力の方が勝ってた。 そうしてるうち店の中から春田さんが呼ばれ、小春をちずさんに渡して場を離れる。 ２人と１匹になったところで、ちずさんが俺を見て笑った。 「牧君、小春のこと女の子だって思ってたでしょ。ちょっと意地悪しちゃった。ごめんね」 「は？」 俺は「意地悪しちゃった」と臆面もなく言い放つちずさんに苦笑いで返すしかなかった。 たぶん、俺の顔は少し赤くなってると思う。 場所が薄暗くて良かった。 でも、意地悪って……なんで俺にちずさんが意地悪するんだ？ 「ウ～～～～～～」 「あれ、小春ぅ、なに？ 牧君を威嚇してんの？　いつも人懐っこいのに珍しいね」 「……………」 俺と小春の初顔合わせは最悪だった――。 座席に戻り、丁度空いていたので春田さんと隣り合わせで座る。 俺が家を出てから初めてだ。 春田さんがとても落ち着いているから、俺も意識してるのがバレないよう気をつけないと。 ビールを新しいコップにつぎながら訊いてみる。 「どうしたんですか、あの子」 「ん？　小春？　拾っちゃってさ。一度は里親探したんだけど自分で飼うことにした」 「散歩とかしてんですか？」 「してるよ～朝と晩な」 「え？　春田さん朝起きれるんですか?」 「おう！　小春が待ってっからさ。起きれるようになった。春田さんもやれば出来るんだぜぇ～」 朱い唇をアヒルみたいにニマッと横に広げドヤ顔の春田さんがあまりに自然に話すので、なんとなくモヤモヤしたものが胸に広がるのを感じる。 それに占領されないようにして、 「なに言ってんですか…………」 とだけ返す。 本当はその後に“もっと早くやって欲しかったですけどね”と続けそうになったのを飲み込んだ。 春田さんは続けた。 「小春って名前可愛いだろ～。春田小春。ちずが付けたんだ」 「へぇ………」 相変わらず二人は特別仲がいいんだな。 なのにどうして付き合ってないんだろう。 あの時、貴方はちずさんを抱きしめたじゃないですか。 たぶん春田さんが好きだと告白したちずさんを……。 なぜ？　なんて訊けるはずもないけど……。 俺は「明日本社で会議」を理由にして早めに切り上げた。 「そっか…“こはる”って犬かぁ」 と呟きながら冬の冷たい風に吹かれ家路を急ぐ。 その晩は不思議といつもより深く眠れた。 [newpage] 春田さんの家を出て半年――。 年が明け、不動産業界は繁忙期に突入していく。 そんな時事件が起こった。 朝礼時の部長の話によると、春田さんが小春の夜の散歩中、数日前に降った雪が凍ったところに足を捕られド派手に転んだ結果、右足を捻挫してしまったのだ。 幸いヒビが入ったり骨折はしていなかったようだが、パンパンに腫れた足首は散歩どころか通勤も困難な状態らしく、今は松葉杖にお世話になっているということだ。 本人は、この時期に迷惑をかけてしまうことを申し訳ないと謝りまくっていたらしい。 ホワイトボードには、３日後まで休みと記されている。 大丈夫だろうか。 小春の面倒もみれなくて落ち込んでるんじゃないだろうか。 こんな時にちずさんが行ってくれるといいな……なんて自分の席で考えていたら。 「牧くん！　春田君、心配？」 「うわっ！　背後からやめてくださいよ舞香さん」 ほんとこの人はいつもいつも～～～。 「春田君のこと心配でしょ？」 「そ、そりゃ同僚ですから……」 「そうよね、心配よね。そんな牧君にお願いがあるの」 なんだ？ こんな時の舞香さんにはものすごく嫌な予感しかしない。 「あのね、牧君。春田君のお世話してもらえないかしら？」 「はあああぁ？」 俺があげた素っ頓狂な声に所内全員の視線が集まる。 今お客様がいなくて本当に良かった。 「どうしたんだ、牧」 武川さんから声がかかる。 「い、いえ、なんでも。すみま…」 「牧君にね、春田君のお世話をお願いしたとこなの」 「はあああああぁ？」 今度は武川さんが素っ頓狂な声をあげた。 「夕べ鉄平さんとちずちゃんと話したんだけど、春田君の足かなり酷くて日常生活に支障が出てるらしいのね。ワンちゃんにご飯あげるのも困難みたい。春田君のお母さんにちずちゃんが連絡したら今海外みたいだし」 「え、そんなに酷いんですか？」 「ちずちゃんが様子見に行ったら、動けなくてソファでずーっとワンちゃんになめらっぱなしだったみたいよ」 浮かぶわ、その様子……。 しかし、ここはキッパリとお断りするところだ。 そう思って言い出そうとした時だ。 「俺が行こう！」 突然現れたその人に全員の視線が移動する。 「え？ 部長が？？」 舞香さんがさらに高い声で驚く。 「俺は子供の頃犬を飼ってた事もあるしな。うん、楽しみだ」 いやいやいやいや、部長、貴方楽しみなのは犬じゃないでしょ！ と、秘かにツッコミ入れたら誰かに背中を“ドン！”と押され、俺は大きく前に踏み出して皆さんの輪の中心に立ってしまった。 そしたらすかさず舞香さんが声高に言った。 「あら！ 牧君行ってくれるの？ そうよね！ 部長が行くのは申し訳ないし春田君も恐縮しちゃうかもしれないものね‼︎」 「そうかな～春田恐縮しちゃう？ 大丈夫じゃない？」 部長が喰いさがる。 まったく、このおっさんは～～！ 武川さんが俺に向かって言う。 「牧、無理することはない。嫌ならハッキリ断れ」 部長が続く。 「うん。無理はよくないからな」 「いえ、俺が行きます」 ―――というわけで俺は今、春田さん家の玄関前に立っている。 自分からこの家を出て以来、半年ぶりだ。 ただ、緊張しすぎて呼び鈴を押せないまま早５分経過中。 少し前から扉の奥で犬がキャンキャン鳴き始めた。小春に気づかれた？ 犬が泣き止んだ？ と思ったら“ガチャ”と音がして静かにドアが開く。 「牧？」 「あ、あのっ、こんばんわ……」 ビックリしている春田さん。 ヤバイ、俺、心の準備がまだ出来ていない。 そうだ足の具合はどうなんだろう。 見ると右腕で松葉杖をつき片足を浮かしている。 玄関にいたのが俺で驚いていた春田さんは、不意に視線をずらした。 「どうしたの？ キャリーケースとか持って……」 「あ、足の具合はどうなんですか？」 「あ～夕方くらいから少し動けるようになった。で、牧はなんで？」 「あっあのっ、舞香さんに頼まれてっ。鉄平さんたちと相談したらしくて」 「……………」 春田さんは黙っている。 「俺に春田さんのお世話を頼むって」 「ダメだろ、それ」 間髪入れず春田さんが言い放ち、俺は春田さんの顔を見た。 少し怒気を帯びた瞳が俺に向けられている。 「断れなくて来ることになっちゃったんだろ？　ハッキリ断れよ。俺は大丈夫だから帰ってくれ」 「いや、でも……」 「帰れ！！！！」 激しさに思わず肩をすくめた。 なぜ俺は春田さんに怒鳴られているんだ。 来たくて来たんじゃない。 実際、一度出た玄関に入ることを躊躇ってずっと立ち尽くしていた。 でも、断ろうと思えば断れたはず……なのに俺は来てしまったんだ。 「……怒鳴ってごめん。でも、お願いだから帰ってくれよ、牧……」 「……はい。わかりました……」 俯きながらどこかでホッとしている俺がいる。 キャリーケースに手をかけた時だった。 「キャ――――――ン！！！」 キッチンの方から小春の鳴き声がした。 「小春？　どうした⁉」 春田さんが声の方に身体ごと振り向く。そのとき体制を崩した―――。 「春田さん！！！！」 よろめいた春田さんを支えるため俺は咄嗟に玄関の中に入ってしまった。 春田さんの腰を支え崩れ落ちるのを防ぐことが出来たことに安堵した瞬間“ギョッ”とした。 春田さんの顔がすぐ間近にあるんだ。 目を見開いて俺を凝視している春田さんが……。 春田さんの顔がどんどん朱に染まっていく。それはたぶん俺も同じだと思う。 「わりぃ。助かった」 「気を付けてくださいね」 「牧、もう大丈夫だから離して」 そう言われ、ハッと春田さんから離れる。 「あ、小春。小春どうした～」 歩き難そうに春田さんはキッチンの方に行ってしまった。 残された俺は玄関の中を見渡す。 あの日の悲痛な気持ちを思い出して唇を噛む。 辛い思いをして、さらに辛くなるのを恐れて出たはずなのに、待っていたのはまったく別の辛い思いだった。 だから俺は決めた――。 自分自身を試してみることにする。 「何だったんだろ、小春ケロッとしてるし……」 小春を片手で抱いた春田さんが戻って来た。 小春が俺を見ている。 俺は決めた――。 これは頼まれたからじゃない。俺自身が決めたんだ。 だから流されて、春田さん―――。 「春田さん！　お願いです。３日間、俺に春田さんのお世話をさせてください」 「……はい……」 「ウ～～～～～～」 俺と春田さんと小春の３日間が始まった―――。

皆さんのOＬ小説を楽しんでいるうち自分でも書いてみたくなり、せっかく出来たからと投稿してみた第一作をたくさんの方に読んでいただいて本当に驚いています。ありがとうございました。続編のリクエスト感激でした。<br /><br />今回は牧視点に挑戦しました。前作に比べどうしてこんなに重くなるのかと思ったけど、牧だから仕方がないですね。<br />タイトルにもある「小春」はワンコの名前です。<br />一作目から読んでいただけるとありがたいです。<br /><strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10103257">novel/10103257</a></strong><br />部長との一年間はなかったことになっています。<br />あまり文章が得意ではないので、表現がおかしかったり誤字があったらごめんなさい。

牧と小春と春田の話

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第１層が突破されてから、もう４ヶ月が過ぎた。俺は武器の強化素材が必要なため、最前線よりも１０層以上も離れている下の階層に来ている。 そして、現在アインクラッドである名前が轟いている。それは、【ビーター】、それが今の俺の周りからの名前だ。つまり、ベータテスターとしての知識を活かしたスタートダッシュとリスクを考えない、パーティーを組んで安全マージンを確保する奴より、ソロで戦い。リスキーな分、高経験値効率で既に最前線のモンスターと単独でやりあえるほどのレベルまでに達している。これはキリトも同じだ。 ハチマン「腹減ったし、街に戻るか」 第一層での、俺の迫真の演技で、ＳＡＯのトッププレイヤーたち、今は攻略組と呼ばれてるが、その攻略組に共通の敵。つまり、俺が居ることで、 誰しもが俺よりも我先にと強く成ろうとしたお陰でボス攻略が一気に効率が良くなったのだ。 ハチマン「ん？なんだ、ありゃ。ダメダメじゃねぇか」 街に戻ろうと足を進めていると、モンスターの群れに襲われていながら徹底している。なんともバランスが悪いがパーティーが居た。 ハチマン「はぁ～。小町が居たら、助けてあげなよ、とか言うんだろうな」 そのバランスが悪いパーティーに加勢するために声を掛ける。 ハチマン「ちょっと前を支えましょうか？」 俺はパーティーのリーダーらしき、棍棒使いに目を合わせると、その棍棒使いもこちらに目を合わせる。 棍棒使い「すみません、お願いします。ヤバそうだったら直ぐに逃げていいですから」 ハチマン「うっす」 俺は短く返事をして、背中から剣を引き抜くと、メイン使いに背後からとスイッチと叫ぶと同時に無理矢理モンスターの前に割り込んだ。 ハチマン「スイッチ！」 メイン使い「スイッチ！」 ハチマン「ハアアッ！」 ハチマン「ッ！」ﾋﾞｸｯ この時、俺は一瞬だがソードスキルの発動に躊躇した。それは後ろにいるパーティーの視線だ。 一般的に、ハイレベルのプレイヤーが下層で狩場を荒らすのは御法度なのだ。 長時間、その下層の狩場を荒らしていると上層のギルドに排除依頼が飛んで。そのプレイヤーを散々吊し上げた挙句に情報屋や新聞になんかに自分のことを非マナープレイヤーとして、その手のブラックリストに載ってしまうのだ。 ハチマン「セラアアッ！」 なので、俺は極力初期のソードスキルを使い、時間をかけて、パーティーメンバーのサポートした。また、ハイレベルプレイヤーの常識を緊急事態だと自分に言い聞かせてサポートを続けた。 しかし、この行動が取り返しの使いない。過ちだと、この時の俺は知る由もなかった。 そして、時間をかけてモンスターたちを倒した後、俺は偶然助けたパーティーに『是非お礼を！』と言われてしまい。その勢いに俺は折れってしまった。 街に戻り、店に入り、偶然助けたパーティーのムードメイカー的な奴が音頭を取る ???「我ら、【月夜の黒猫団】に、乾杯！」 「「「乾杯！」」」 ???「でもって、命の恩人ハチマンさんに、乾杯！」 「「「乾杯！」」」 ハチマン「か、乾杯？」 ???「何で、疑問系？」 ハチマン「いや、俺はずっとボッチだったから。こういうのは慣れてないんだ……」 俺がそういうと、先ほど音頭を取った奴が俺のことを哀れむような目で見てきた。それを黒猫団のリーダーのケイタが注意する ケイタ「おい、ダッカー。その目は、ハチマンさんに失礼だぞ」 ダッカー「わ、悪い」 それからは改めてギルド【月夜の黒猫団】からお礼の言葉をかけられた。そして、最後に黒猫団で唯一の女性プレイヤーに話しかけられる。 女性「ありがとう。本当にありがとう」 ハチマン「たまたま、通りかかっただけだし、それに目の前で人が死なれるのは夢見が悪いからな。お礼を言われるほどのことをじゃねぇよ」 女性「すごく、怖かったから。助けに来てくれた時、本当に嬉しかった」 ハチマン「お、おう…………」 ケイタ「えっと、ハチマンさん。大変失礼だとは思うんですが、レベルっていくつくらいなんですか？」 ケイタは俺のレベルに聞いてきたので、自分の視界な中にある左上のステータスを見る。現在、俺のレベルは４３。 そこで俺はとっさに…………。 ハチマン「３５くらい」 ケイタ「３５！」 ハチマン「ああ。元々、今日は上の層で手に入らなかった武器の強化素材を手に入れるために、ここに降りたきたんだ」 ケイタ「ソロで３５まであげるなんて凄いなー」 ハチマン「ケイタ、俺たち、そんな歳も変わらんだろうし、タメで話したければタメで構わない。それとソロって言っても、寝る時間を最低限まで潰してレベル上げをしてるから、あまり効率は良くないぞ？」 ケイタ「そ……そうか。じゃあさ、ハチマン。急にこんなことを言ってなんだけど、俺たちのギルドに入ってくれないか？」 ハチマン「はあ？」 ケイタ「前衛ができるのはメイス使いのテツオだけでさ。こいつ、サチって言うんだけどさ。前衛ができる、盾持ち片手剣士に転向させようと思ってるんだ」 ケイタはサチという、女性プレイヤーの頭を何回か【トン、トン、トン】と叩きながら俺にギルドに入ってほしい理由を述べた。 ケイタ「でも勝手がよく分からないみたいでさ。ちょっと、コーチしてやってくれないかな？」 サチ「何よ、人をみそっかすみたいに」 ハチマン「えっと、サチさん。まだ、みそっかすならまだ良い方だ。俺なんて、リアルの中学校だと菌扱いだぞ、菌！」 サチ「な、何かごめんなさい」 ハチマン「いい。自分で言ってて自分が惨めに感じたから」ｼｮﾎﾞﾝ サチ「それにして、ケイタ」 ケイタ「なんだ？」 サチ「いきなり前に出て接近戦やれって言われても、おっかないよ」 テツオ「盾の陰に隠れてれば良いんだって」 ケイタ「まったく、お前は昔から怖がり過ぎるんだよ」 サチ「ぶぅ～」ﾌﾟｸｰ 黒猫団「「「アハハハハ！」」」 ハチマン「…………」 なんか、暖かいギルドだな。最前線みたいにギスギスしてないし。あの時、違う選択を選んでいれば、俺もアイツらとこんな風になってたのかな…………？ ハチマン「…………」 その時、ハチマンが思い浮かべたアイツらとは、キリトとアスナにクラインが率いるギルド【風林火山】にエギルだった。 ケイタ「いや～、うちのギルド、リアルではみんな同じ高校のパソコン研究会のメンバーなんだよね」 ハチマン「へぇ～、ケイタたちも高校生なのか」 ケイタ「って、ことはハチマンも？」 ハチマン「ああ」 ケイタ「そっかなら、歳が近いから直ぐに仲良くなれるよ」 ケイタ「なっ、みんな？」 「「「ああ(おお(うん」」」 ハチマン「こんな、腐った目を持った俺なんかで良ければ、その、なんだ、よろしく？」 ケイタ「何で疑問系なんだよ」 サチ「ハチマンって、おもしろいね」ｸｽｸｽ それからは黒猫団のみんなと改めて自己紹介をしたり、どんなスキルが得意など、いろいろと話した。 [newpage] 黒猫団の仲間になって、早くも一ヶ月が過ぎた。 黒猫団の前衛か増えたことにより、パーティーバランスが大幅に改善され、イレギュラーがなければ安定した戦闘ができるほどだ。 ハチマン「ダッカー、スイッチ！」 ダッカー「おう、スイッチ！」 また、黒猫団のみんなは人が良いのか、俺のＨＰがみんなより減らないことを気付いているのにも関わら、何にも言ってこない。 また、装備のことを聞かれてが、上の階層で偶々、ドロップした装備だと答えた。これも俺を 信じてくれているのか何にも言ってこない。 マンティス「キシャアアア！」 ササマル「ヤッ！」ｻﾞｼｭｯ! マンティス「キシャアアア！！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ キラーマンティスはササマルの攻撃で怒ったのかサチに向かって、両手鎌を振り下ろす。 サチ「きゃあっ！？」ｶﾞﾝ! ハチマン「サチ、一度下がれ！」 サチ「う、うん」 サチを一度下がられせて、俺はキラーマンティスの主な攻撃をする手の鎌を両方とも切り落とす。 ハチマン「テツオ、スイッチ！溶解液には気をつけろよ」 テツオ「おう、スイッチ！」 テツオ「デリャアアアｯ!」 マンティス「キシャアアア！？」ｶﾞｼｬﾝ! キラーマンティスを倒したことにより、俺たちの目の前に戦闘リザルトが現れ、そして…………。 テツオ「おっ、レベルアップ。ヨッシャア！」 ダッカー「マジか！」 ササマル「やったな！」 ケイタ「おめでとう」 サチ「すごい！」 ハチマン「おめっとさん」 テツオがレベルアップしたあとは、何度か戦闘として、ダンジョンの安全エリアでサチの手作り弁当を食べながら、ケイタがweekly argoを読んで声をもらす ケイタ「攻略組、第２８層突破か…………。それも血盟騎士団のヒースクリフとアスナ、それにソロのキリトの三名による奮闘で此度も犠牲者がゼロ。スゲエーな」 ハチマン「…………。」ﾓｸﾞﾓｸﾞ アイツらは、俺が居なくても頑張ってるんだな。 なんか一安心だ。 ケイタ「ねぇ、ハチマン」 ハチマン「なんだ？」 ケイタ「攻略組と僕たち…………最前線にいる人たちとレベル以外で何が違うんだろうな？」 ハチマン「さぁな？俺にはわからない」 ケイタ「…………」 ハチマン「でも、一般的に見たら、情報力なんじゃないか？」 ケイタ「情報力？」 ハチマン「奴等はどこの狩場が効率がいいとか、どうすれば強い武器が手に入るなんて情報を独占してるからな」 ケイタ「あー、そりゃそういうのも有るだろけどさ…………。僕は意思力だと思うんだ」 ハチマン「意識力？」 ケイタ「仲間を……いや、全プレイヤーを守ろうっていう、意思の強さっていうかな……。僕らはまだ、今は守ってもらう側だけど、気持ちでは負けてないつもりだよ」 ケイタ「もちろん、仲間の安全が第一だ。でも、僕らもいつかは攻略組の仲間入りをしたいと思ってるんだ」 ハチマン「そうか……だといいな」 ケイタ「なんちゃって……」 ケイタがリーダーらしく、俺たちの未来の目標を話していると、ダッカーが上の段差から飛び降りてケイタとジャレ合う。 ダッカー「よっ、リーダー。カッコいい」 ケイタ「おいおい！？」 テツオ「俺たちが聖竜連合や血盟騎士団の仲間入りってか？」 ケイタ「なんだよ？目標は高く持とうぜ。まず、全員レベル３０な」 サチ「無理だよー！」 テツオ「それは、ちょっと……」 ササマル「きつくね？」 ハチマン「…………」 コイツらとなら、本当に攻略組の仲間入りをして、その時は今の仮初めの繋がりじゃなくて、本物の関係に成れたらいいな。できれば、そうありたい。 しかし、俺は自分の左上のＨＰバーを見た。そこには俺のＨＰ９６００とレベルが５０と表示されていた。 あいつらに本当のことを話しても、拒絶されないだろうか…………。その懸念だけが、いつまでも拭えないでいた。 そして、その夜にケイタから、ある発表があった。それはなんと…………。 ケイタ「みんなに報告がある。えー、今回の狩りで、なんと、２０万コル貯まりました」 「「「オオオオオ！！」」」 テツオ「そろそろ、俺たちの家を持つことも夢じゃないな」 ササマル「ねぇねぇ、サチの装備を整えたら？」 ケイタ「そうだな」 サチ「ううん、今のままでいいよ」 ダッカー「遠慮するなよ。いつまでもハチマンにばかり前衛をやらせるは悪いしさ」 サチ「ごめんね、ハチマン」 ハチマン「謝らなくていい。人に適材適所があるし、逃げることは悪くない。俺なんか、いつもいやなことから逃げてるまであるし。このゲームがクリアされて、いつか将来は必ず専業主婦になってやる」 ササマル「ハチマン、専業主婦って…………」 サチ「それはどうかと私は思うな……」苦笑 ケイタ「ま、まあ、専業主婦は置いておいて。ハチマン、悪いな無理させて」 ハチマン「平気だ」 ケイタ「サチ、転向が難しいのは分かる。でも、もうちょいだ。みんなで頑張ろうぜわ！」 サチ「うん……」 サチは少し暗い顔をしながら頷いた。夜は更けり、黒猫団のみんなが寝静まった頃に俺は自分の部屋を出て、ある場所に向かった。 [newpage] その場所は先日まで最前線であった。第２８層のフィールド、狼ヶ原。ここは名前の通り、オオカミ型のモンスターが出現し、そのモンスターは仲間を呼ぶので少し危険だ。 ハチマン「…………」ﾃｸﾃｸ ハチマン「キリトにクライン………」 狼ヶ原にたどり着くとそこには第１層からの知り合いが二人がオオカミ型モンスターの【Blood Wolf Leader】を追いかけていた。 クライン「…………」 キリト「クライン、スイッチ！」 クライン「おう！」ｶﾞｷﾝ! キリト「セヤアアアッ！」ｶﾞｼｬﾝ クライン「ナイススイッチ、キリト」 キリト「サンキュー」 キリトとクラインは拳を合わせて互いに労っているの、ふとした拍子でクラインがこちらを見た。 クライン「おっ、ハチマンじゃねえか！おい、雑魚は任せたぞ」 キリト「ハチマン！？」 そして二人はこちらに走ってやってくる。 クライン「最近、見かけないと思ったら、こんな夜更けにレベル上げかよ？」 キリト「よっ、ハチマン。それとそのマーク」 ハチマン「ああ、俺もギルドに入ったんだ。ちょっとした、成り行きだが、いいギルドだ」 キリト「そうか……」 ハチマン「じゃあな、二人とも」 俺はそう言い残し、フィールドの奥に進んでいく。 キリト「…………」 クライン「まだ、気にしてのか？キリト」 キリト「だって、あの時、俺が何とかしていれば今頃、ハチマンは……」 クライン「だったら、アイツが辛い時には支えになって、恩返しをしてやろよ」 キリト「ああ、そうだな」 キリトたち別れた俺は、二時間ほどレベリングをしてから、ギルドのホームに帰るために転移門から転移すると、ケイタからメッセージが届いていた。 ハチマン「ケイタ？」 ～～～～～～～【Massage】～～～～～～～ 『ケイタです。 サチが出ていったきり帰ってこいんだ。 僕らは迷宮区に行ってみる。 ハチマンも何かわかったら知らせてほしい 』 ～～～～～～～～～～～～～～～～～～～ ケイタからのメッセージを見て、これまでのサチの表示や仕草などを思い出した。その思い出し記憶には時々、サチが暗い顔をしているのがわかった。サチは自分が恐怖しているのにギルドのみんなの足手まといになると思い、その恐怖の感情を今まで胸の奥底に隠し我慢していたが、その我慢が今、限界を迎えたのだ。 ハチマン「まさか、サチ………お前は……」 何故、気が付かなかった。周りの人間の仕草や動作を常に確認するのはボッチの専売特許だろうが！なのに、俺は…………。 ハチマン「クソッ！今は考えたって仕方がない、サチを探すことが先決だ」 すぐに索敵スキルから派生する《追跡》スキルを仕様してサチを探す。そして、そのまま俺たちが泊まっている宿屋まで行き、サチの足跡を探すと一つの足跡が薄緑色に光って残っていた。 俺はそれを辿っていくと、迷宮区とは逆の主街区の外れにある水路の中に消えていた。 ハチマン「…………サチ？」 サチ「ハチマン。どうしてこんな所が判ったの？」 ハチマン「ボッチを舐めるなよ？サチは今まで時々、辛そうな顔をしていたろう？だから、そんな辛い顔をしているのをみんなには見せたくなかったんだろ？」 サチ「そっか……ハチマンは凄いなね」ｸｽ サチは俺にかすかに笑ったあと、膝を抱えて上に顔を伏せてしまう。 ハチマン「ケイタたちが心配してる、戻ろう」 サチ「ねぇ、ハチマン。一緒にどっか逃げよ」 ハチマン「逃げるって……何から？」 サチ「この街から。黒猫団のみんなから。モンスターから。…………ＳＡＯから」 ハチマン「逃げれたらいいよな」 サチ「え？」 俺はサチの場所を月明かりが分けているギリギリのラインに座りサチの話す ハチマン「仮に逃げてれても、サチは後悔しないか？友達を見捨てて、逃げて。もしかした俺たちが逃げたことでケイタにササマル、テツオにダッカー、この中の誰が攻略中に死んでしまうかもしれない」 サチ「…………」 ハチマン「もし、そんなことになってゲームがクリアされても、俺たちはアイツら、顔向けができるのか？」 サチ「それは…………」 ハチマン「俺はできないと思うし、それは欺瞞だ。本物じゃない」 サチ「本物の？」 ハチマン「ああ。それが何なのかは俺、自身でも分からないけど、俺が追い求めるものかな？」 サチ「…………私。死ぬのが怖いの。怖くて、この頃あんまり眠れないの」 ハチマン「そうか……」 サチ「ねぇ、何でこんなことになっちゃったの？なんでゲームから出られないの？なんでゲームなのに、本当に死ななきゃならないの？あの茅場って人はこんなことして、何の得があるの？こんなことに、何の意味があるの……」 その５つの質問はサチの胸の中に隠し我慢してきた物だと俺は思った。誰もが、この世界に対して、恐怖、怒り、悲しい、憎しみ、といった人のいろんな感情が充満している。 サチはその中でも悲しいと恐怖がデカイのだろう。 ハチマン「俺にはわからない。アイツが茅場晶彦が本当は何のために、このＳＡＯを作ったかのかは、この世界を創造した。茅場晶彦、本人にしかわからない。」 サチ「…………」 ハチマン「でもな、一つだけ言えることがある。それは、お前は死なないってことだ」 サチ「なんでそんなことが言えるの？」 ハチマン「……黒猫団は今ままでも十二分に安全マージンを確保している。それに俺から見ても、強いギルドだと思う。それに別に無理に剣士に転向することはない。モンスターが怖いなら、戦闘職以外にもギルドに貢献できることがあるだろう？」 サチは顔を上げて、すがるように俺の方を見てくる。 サチ「……本当に？本当に私は死なずに済むの？いつか現実に戻れるの？」 ハチマン「ああ…………サチは死なないさ。いつかきっと、このゲームがクリアされる時まで」 しばらくしてからケイタにメッセージを飛ばし、俺とサチは宿屋日戻った。 [newpage] 宿屋に戻った、俺はサチを部屋で休ませ、ケイタたちが帰ってくるのを一階の酒場で待っていた。 ケイタ「ハチマン！サチは、サチは見つかったのか！？」 ハチマン「取り敢えず、落ち着け。話しはそれからだ」 ケイタ「わ、わかった」 ケイタたちが一息入れて、落ち着いたのを確認してからサチが我慢していたことについて話した。 ハチマン「まず、サチは無事に見つかって今は部屋で休ませてる」 ケイタ「そ、そうか……。はぁ、良かった」 ハチマン「良かっただと？」 ケイタ「え？」 ハチマン「ことの発端は俺たちにあるんだぞ！」 ダッカー「どいうことだよ？ハチマン」 ハチマン「サチはずっとモンスターと戦うことに恐怖していんだ」 「「「「！？」」」」 ハチマン「でも、アイツは…………サチは、俺たちの足手まといになりたくないから、恐怖を胸の奥に圧し殺して、俺たちと一緒にモンスターと戦ってくれてたんだ」 ササマル「そんな…………サチは一度も、そんなことは」 ダッカー「そんなの言ってくれりゃ！」 ケイタ「サチは言ってたよ、ササマル、ダッカー。サチは『おっかない』と言ってたのに、それを俺たちは無理矢理、片手剣に転向させようとしたんだぞ？」 ダッカー「それは…………」 ササマル「……」 ケイタ「俺、リーダー……失格だ。サチがそんなことをずっと思っていたなんて、気付いてやることすらできなかった」 テツオ「ケイタ……」 ハチマン「そこで俺は、サチを前衛に上げるのは反対する。もしくは、サチを戦闘職から生産職に転向させることを提案する」 ケイタ「それは……」 ハチマン「無理にやらせて、死んだら元も子もないんだぞ！？だから、俺がサチの分まで前衛をやる」 テツオ「それじゃ、ハチマンの負担が！？」 ハチマン「いい。仲間が死ぬよりはましだ」 ケイタ「すまないが頼むな、ハチマン」 ハチマン「任せろ。それと、このことはサチに黙っていてほしい。もし、サチから言う時が来たら、戦闘職から生産職に転向させてほしい」 ケイタ「わかった、その方針でいこう。三人もいいなあ？」 「「「ああ！」」」 こうして、最悪のケースを考えて黒猫団のみんなにサチの思いを伝えた。 あとは、サチ。お前、次第だ。俺ができるのはここまでだ。 そのあとはみんな、それぞれの部屋に戻って床に着くことにした。 その日の夜、サチが俺の部屋に枕を持ってやって来た 。 【コンコンコン】 ハチマン「どうぞ？」 サチ「……」ｶﾞﾁｬ ハチマン「サチ？」 サチ「ごめんね、やっぱり眠れなくて」 ハチマン「…………」 サチと俺は背中合わせでベッドを半分こして寝ることにした。 ハチマン「このギルドにいれば安全だ。いつかは現実世界に帰れる日がくる。だから、サチは死なないし、俺が死なせない」 サチ「うん……。ねぇ、ハチマン」 俺はハチマンの方に寝返りをうつ ハチマン「なんだ？」 サチ「一つだけお願いしていい？」 ハチマン「俺ができることならば」 サチ「それじゃ、私が寝付けるまで頭を撫でてほしいの」 ハチマン「は？」 サチ「だめ、かな？」涙目+上目遣い ハチマン「うぐっ！？わ、わかった」 サチ「ありがとう！」ｷﾞｭｯ ハチマン「お、おい」 サチはこちらに寝返りをうち、俺に抱きつ胸元に自分の頭を俺の胸元に擦り付る。 サチ「ハチマンの体って大きいんだね」 ハチマン「聞いてねし、はぁ～」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ サチの頭を小町と同じように撫でていると、ほどなくしてサチから基礎正しい寝息が聞こえてきた。 サチ「すぅ～、すぅ～」ZZZZ ハチマン「お前らは俺が必ず守る」 [newpage] 誤字、脱字があったら その箇所とページと巻数を教えてください。

仮想と混ざりあったリアル１３

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【シャイニング・デイズ　7】 　降谷が特別だと気付いてからの毎日は、それに気づく前よりも楽しくて嬉しくて、少しだけ苦しい日々だった。 　彼は大切なものを作らない。失い続けてきた人だから、大切な人たちの意志を抱えて生きている人だから、それについて新一がどうこう言える立場ではないことはよくわかっている。 　ただ、それはそれとして、やっぱり降谷のことを特別に想う気持ちは止められないし、できることなら彼にも新一のことを特別に想ってほしい。大切にしてもらいたい。それ以上に、彼のことを大切にしたいのだと強く思うようになってしまった。 (でも、降谷さん相手じゃなー……) 　そういう感情に疎く筋金入りのポンコツだと自覚はあれど、相手が降谷という時点で望みは薄い。公安と協力者という関係から、少しずつその距離感は変化しているとはいえ、彼にとって工藤新一という存在がどういうものなのかまったくわからないのだから。 　保護対象としても、自惚れでなければ協力者としても、降谷は新一のことを大切にしてくれている。でなければ、一緒に暮らしてまで彼の協力者で在るわけがない。使えないと思えば切り捨てる、時に冷酷とさえ感じるほどの適切な判断を降谷が間違うはずがないのだ。 　ここにいることを許されているということは、新一はまだ彼にとっては使える協力者と考えていいだろう。――できれば、それ以上に想ってくれていたらいいのだけれど。 　彼のことが好きだから大切にしたいしされたい。特別に想っているから、新一に見せる顔を他の誰かに向けないでほしい。恋とはそういうものだと頭では理解していても、感情は止められなくて毎日複雑な気持ちだった。 　二人でいる時間が長いから余計に独占欲が顔を出す。彼が帰ってきた時、ふわりと甘い砂糖菓子のようで、それでいてどこか匂いたつ薔薇の芳醇な香りに気付いて、仕事だとわかっているのに内心面白くなくてその日は降谷に冷たく当たってしまった。 　それが女々しくて惨めで堪らなくて、恋というのはこんなにも苦しいものだったかとため息を吐いた。けれど翌朝不貞寝していた新一を起こしに来た彼の顔を見て、そんなこと一瞬で忘れてしまうのだから、恋とは苦しくもあり甘くもあり、そして現金なものなのだ。 　新一に料理を教えてくれた日から、彼の仕事は少しだけ落ち着いたらしい。時々夜更けに帰ってくることもあったけれど、週の半分程度は新一と一緒にキッチンに立つことができるようになった。それに伴って、新一の料理の腕もぐんぐんと上がっていった。 　降谷の教え方が上手いのか、包丁を扱うこともできるようになり、指先の傷が癒えた後に再び絆創膏を貼ることもなかった。それだけでも進歩だったけれど、日中降谷が作り置いてくれていたものがなくても、それなりのものを作って食べられるようになった。レパートリーはまだまだ少ないけれど、バランスの良い食事には近づいているはずだ。 　新一が料理を作れるようになってきてからは生活に変化も出てきて、一番顕著なのが朝食だった。 　朝食を作るのは降谷ばかりだったのが、新一も手伝うようになり、店の定食のような朝食には一品だけ見た目が歪なものが混ざるようになった。二週間も毎日キッチンに立てば、簡単なものならば作ることができるようになったので。 「降谷さーん、お皿出して」 「はい、これでいい？」 「ん、サンキュ」 　降谷が出してくれた皿にぽい、とチーズオムレツをフライパンから移動させる。 　やっぱり形は歪だし、端の方は焦げているしチーズははみ出しているし、見た目はよろしくないけれど、味は降谷のお墨付きなので大丈夫なはずだ。 　新一の料理を見ている片手間に蒸し鶏のサラダを作っていた降谷が、白い皿に乗ったチーズオムレツを見て苦笑する。 「弱火でじっくりやってもよかったのに」 「だって早くしないと降谷さん遅刻するだろ。強火にしたらちょっと焦げただけだし」 　時間をかければ歪な形ももう少しまともなものになったかもしれないが、生憎今日の朝は慌ただしい。新一は未だ休業中ではあるものの、依頼人からの連絡を返して、近々復帰する旨を伝えなければならないし、降谷は朝一番に会議があるのだと言っていた。 　資料の読み込みなどしなくとも既に頭に入ってはいるのだろうが、昨日の夕食時にまた大きな案件が動きを見せるらしいと言っていたので、それが絡んでいるのだろう。情報開示をすべて禁止すると言った手前、それ以上のことはなにも教えてくれなかったけれど、少なくともこれから彼が忙しくなるということがわかっただけでも良しとするべきか。 「心配しなくても、飛ばすから時間は気にしないで」 　降谷はにこりと朝から良い笑顔で言うけれど、まったく安心できないのは彼の愛車の助手席に乗ったことがあるからだろうか。 「……頼むから法定速度は守ってくれよな」 「信用がないな。ちゃんと安全運転なのに」 　普段はね、と小さく付け加えられた言葉に、まあ確かにその通りかとため息を吐いた。違法行為も辞さない彼の姿勢は公安だからと理解もできるが、流石にそんな些細なことで違法行為はしないでほしい。 「アンタの腕は信用してるけど、またあの車で事故ったら風見さんが泣くぞ」 　いつぞや大破した際にはその修理費に悲鳴を上げたという風見の話を聞いたことを思い出してしまった。降谷の部下であるということは有能であると同時に、要らぬストレスまで請け負う大変な地位である。風見は人が良いから余計にそうなのだろうけれど。 「風見は泣かせておけばいい。そのくらいで使い物にならないような教育はしてないからな」 「可哀想な風見さん……ていうか頼むから事故だけは勘弁しろよ。アンタが怪我したらどうすんだ」 　風見の胃にまた穴が空く日も近いな、と思いつつ、彼が事故を起こすとは思えないけれど、ついそんな言葉が零れた。 「こんな仕事してたら、いつ怪我してもおかしくないけどね」 「それはそうかもしれないけどさあ」 　公安、ゼロのエースである降谷はデスクワークが主になったと言っても、未だに現場に出るし必要があれば潜入捜査にだって赴くのだろう。降谷程の実力があれば、それを庁舎で腐らせておくのは勿体ない。降谷も現場の方が性に合っているのか顔を出しているようだし、そういった意味では怪我をする可能性はいつだってある。 　心配してもどうしようもない。この国を守る彼の意志は固く、守るためならば命を投げ打つ覚悟があることを新一は知っている。共に守りたいもののために命をかけたことがあるのだ、その意志は誰よりも強く気高い。 　だから、それ以上のことは言えなかった。これは降谷にとって余計な心配という奴なのだろう。それなら、これ以上言ったところで意味はない。 「心配してくれるのは嬉しいけど、大袈裟だよ。俺からすれば、一般人のはずの君の方が銃創なんて作ってるんだから」 「そ、それについては不可抗力！　過去のことを持ち出すのは卑怯だろ！」 「何度だって言うに決まってるだろ。君が生きてるのは奇跡みたいなものなんだから、もう少し自分のことを大切にしなさい」 　降谷が真面目な顔をして言ってきたので、このままではお説教が始まってしまう、と生返事をしつつフライパンと菜箸をシンクに放って逃げるようにダイニングテーブルへチーズオムレツの乗った皿を運ぶ。 　そんなお説教を朝から聞いていられない。時間もそうあるわけではないのだから、耳に痛い話を聞きながらの朝食なんて一日のはじまりとしては最低だ。 「その話はもういいから、早く食べて仕事行けって」 「そうやってすぐ誤魔化す……」 「ハイハイ、サラダ早く持ってきて。トーストはオレが用意するから」 　これ以上この話を長引かせるのは得策ではないと判断し、てきぱきと朝食の準備をすすめていく。 　トースターから取り出した厚切りのトーストにバターをたっぷりと塗って、じゅわりと蕩けて甘い匂いが広がった。それを二人分乗せて用意して、ジャムと蜂蜜も冷蔵庫から取り出して持っていく。降谷はジャムも蜂蜜も使わないけれど、新一はなんとなく甘いものが食べたい気分だったので。 　準備ができて時計を見れば、そろそろ本気で急がなければならない時間だった。すべて用意を終えてから二人揃って食べ始める。 「……ん、焦げてるけど味はいい」 「焦げてるは余計！　素直に美味いって言えよな」 「冗談だって。美味しいから怒らないで」 「いーや、怒るね。今日の降谷さんの夕食は、オレが作ったことがないものにします」 「えっ」 　新一が初めて作る料理の成功率は七割程度。食べられないもの、という程酷いものが出来上がることはなくなった。 　これでも料理をし始めた頃の目も当てられない腕前に比べれば、随分と良くなった方だろう。しかし降谷がいないと美味しいと言えるものが出来上がるかは微妙なところである。 「外で飯食ってきたらぶっ飛ばす」 　食べる手を止めることなく会話の応酬をしつつ、今日の夕食の献立は決定した。新一が作ったことがないものを一人で作る。レシピは宮野から借りた本がまだ手元にあるので、それを参考にすればいい。 　いくら腕が上がったとはいえ、まだまだ初心者の新一の料理は、少し降谷が目を離した隙にとんでもないものになっていることがある。食べられなくはないけれど微妙な味だったり、やっぱり電子レンジで加熱している最中に爆発させてみたり。それを降谷も懸念しているのだろう、心配半分不安半分といった様子でこちらを見てくるので、外で食べてこないようにと牽制の意味を込めて睨みつければ、諦めたように両手を挙げた。 「……わかった、わかったよ。君が作った物なら炭でも食べるさ」 「よーし言ったな覚悟しとけよ」 　さすがの新一だって炭を作るようなことにはならないはずだ。 　今日のチーズオムレツだって、確かに焦げてはいたけれど、中はとろとろの半熟でチーズも溶けていて味は良い。新一だってやればできるのだ。 　売り言葉に買い言葉のようになってしまったが、できることなら彼には美味しいものを食べてもらいたい。精一杯作ったものをこうして食べてくれて、美味しいと言ってもらえることが嬉しくて堪らないのだ。彼に恋をしてからずっと、そんな些細なことが幸せだった。 (この調子なら、一緒に暮らせるのもあと少しかな) 　体調はもう随分前から良くなって全快しているし、新一が一人でも料理を作れるようになったなら、この生活を続けている意味もない。微温湯のように心地良いこの関係もこの時間も、いつか終わるものなのだ。彼が一言言い出せばすぐにでも解消されてしまう。 　それを怖いと思っていたけれど――でも、最近は、少しでも早くそうなれば良いと思っている。 　いつまでもそんなことに怯えていては、降谷の特別になどなれやしない。公安と協力者である以上、その協力者さえままならない状態では、彼の隣に立つことなんてできるわけがないのだ。 　だから、いつまでも縋るようにしてこの時間を惜しむのはやめにする。いつか来る終わりに怯えるのではなく、覚悟を決めたなら、こちらからこの生活を終わらせてしまえばいい。 　この生活は楽しい。好きな人と一緒にいることができて、自分にしか見せてくれない顔を見ることができて、夢のような時間だった。できることならずっと続けばいいと、そんな馬鹿なことを考えてしまうくらいには。 「楽しみにしてるよ」 　くしゃりと頭を撫でてくれるこの手が差し伸べられるのも、最初は子ども扱いをされているような気がしていたのに、いつの間にか心地が良くて撫でられるのが嫌じゃなくなった。 (でも、このままじゃダメだ) 　彼が特別なら、彼の特別になりたいのなら。それを望むのならば、どんなに望みが薄くとも、最低でも彼の協力者として認めてもらわなければ。 　降谷零という人間の傍にいるために、自分で自分のことを守れないような人間は足手纏いだ。だからこそ協力者として新一の力が振るわれるのは現場ではなく後方支援だったし、それさえままならないと判断されたからこのような状況になっている。この状態で新一が何を言ったって戯言にしかならない。 　江戸川コナンから工藤新一に戻るまで、死に物狂いだったことを思えば、料理ができないくらいどうということはない。すぐに降谷が納得するくらいに上達して、この暮らしを解消するのだ。 　――そうしてはじめて、彼の隣に自分の力で立つことができる。 　協力者として不甲斐ない姿はもうみせたくない。守られるのは仕方ないにしても、せめて名実ともに公安の、ゼロの協力者として堂々と彼の隣に立つことができるようになったなら。 　生憎、諦めは人一倍悪いのだ。 「工藤くん、手が止まってるよ。どうかした？」 「ああ、いや、なんでもねえ。オレのことより早く食えって」 　もうゆっくりと喋りながら食べていて良い時間ではないだろう。ぱくりとジャムを塗ったトーストに齧りつけば、降谷も時計をちらりと見て手を早めた。 　最後は新一も降谷につられて流し込むようにして食べてしまった。付き合わなくてもよかったのに、と彼は少しだけ申し訳なさそうに眉尻を下げて言ったけれど、新一がそうしたかったのだから気にすることはない。 「片付けはオレがやっとくから」 　降谷がキッチンに皿を持っていこうとしていたので、そんなことをしている暇はないとぐいぐい玄関へと押し出した。ついでに鞄を持たせてやれば、彼は困ったように笑う。 「ごめん、片付けもできなくて」 「いいよ。それよりこのスーツちょっと皺になってる。帰ってきたら出しとけよ、クリーニング頼むから」 　いつもしっかりとしているのに珍しい、と皺になっている裾を摘まんで言う。 「君にそうやって言われるのはなんだか複雑な気分だ」 　シャツのアイロンがけもネクタイの結び方も隙がないくせに、スーツに気が回らないのは珍しい。それとも、気付かなかっただけでやはり仕事が忙しいのだろうか。 　新一に気付かれたことが意外だったのか、彼ははあ、とため息を吐いた。 「言われたくなきゃしっかりしろよな」 　むっとした表情で言い返す。けれど、彼はそれに気分を害した様子はなく、革靴を履いてこちらへと向き直った。 「そういう意味じゃなくて……君が一人になっても、ちゃんとした生活ができるんだろうなって思っただけ」 　蒼い双眸が寂しそうに細められ、新一のことを射抜く。 　一人になっても、ちゃんとした生活ができる。新一がそうなった時のことを思って、そんな目をしているのだろうか。彼も少しは一緒に暮らしたこの時間を惜しんでくれているのだろうか。 　そうだったらいいな、と思う。惜しむくらいに、彼の傍に在ることができたなら。 「当たり前だろ。ここに来る前は一人で暮らしてたんだから。降谷さんはオレのこと心配しすぎ！」 「そんなことない。俺がいなくても、ちゃんとご飯食べて、寝て、頼むから事件に首を突っ込むのも怪我しない程度にしてくれよ」 「わかってるって。何回言えば気が済むんだよ」 「君がわかってくれるまで」 　どこか切なそうな瞳で言われて、どき、と心臓が跳ねた。 　何度も何度も言われてきた言葉はいい加減聞き飽きたのに、いつか彼と離れて一人になったとしても、きっと彼はこうやって新一の心配をしてくれるのだろうな、と思う。何度言われても最後の事件に首を突っ込むのはやめられないし、絶対に怪我をしないなんて嘘を吐くことはできない。それなら、きっとまたこうやって降谷は新一の前に現れて、いい加減聞き飽きた台詞を同じように言ってくれるのだ。 　それを面倒だと思う反面嬉しくもある。まるで子どもに言い聞かせる母親や保護者のような言い方だけれど、恋を自覚した脳はそれさえ彼が気にかけてくれたからだと勘違いしてしまいそうでどうしようもない。彼にとって新一は、公安の協力者、それ以上でもそれ以下でもないくせに、こうして新一のことを酷く心配する様は大切にされているような気になってしまう。 　彼の一言でこんなにも一喜一憂してしまうのが悔しい。それを誤魔化すようにして玄関のトレイに置いてある車のキーを押し付け、早く行けと背中を押す。 「いいから早く行かないとマジで遅刻だってば」 「……いってきます」 「おう、いってらっしゃい。ちゃんと飯食わないで帰って来いよ！」 　外へ出ていく背中を眺めて、ドアが閉まるまで彼のことを見送った。 　こうしてあと何回彼のことを見送ることができるのかはわからない。それを寂しいと思うし惜しいとも思う。 　でも、新一が望むのはこの微温湯のような心地良い環境ではなくて、彼の信用と信頼を勝ち得てなお揺るぎのない、彼の特別なのだ。 ◆　◆　◆ 「なあ宮野、どうだ？　初めてにしてはうまくできたと思うんだけど」 「……硬さがまちまちね。不味くはないけど、味が濃いわ。醤油を入れ過ぎたんじゃない？」 「だってあんまり味がしなかったから」 「煮物は冷めるときに味が染みるから分量通りにしないとダメよ」 　五十点くらいかしらね、と箸を置いた宮野が呟いた。 　阿笠博士の家のテーブルには新一が持ってきたタッパーが置かれ、中には大きさがまちまちの煮物が入っている。宮野が食べたのはそのタッパーの中身で、その中身は新一が一生懸命作ったものだった。 　朝、降谷を送り出してから、急いで洗濯と掃除、布団を干して家事をすべて終わらせた。その後依頼人からの連絡をひとつひとつ返して、ようやく自由の身になってから、新一は宮野から借りた本を片手にキッチンに立ったのだ。 　煮物を作るのは初めてだったし、彼女が初心者でも作れるもの、と付箋を貼ってくれたものではなかったけれど、朝降谷にあんなことを言ってしまった手前、ただ普通に作るのは面白くないだろう、と欲が出た。少し前の新一なら、間違いなく初めてキッチンに立ったあの日と同じ惨状を作り上げていただろうが、包丁を握る姿も様になり、レンジを爆発させることもなくなったのだから本の通りにやれば大丈夫だろうと作ってみたのだ。 　――結果は宮野の評価の通り。自分でも味見はしてみたが、若干味が濃くなってしまったし、野菜の大きさが揃っていないから火の通りがまちまちで硬かったり柔らかかったりと食感がばらばらだった。 「野菜の大きさはな……頑張ったけどそれが限界だった」 　包丁を持って野菜と格闘して数十分、皮を剥くのはピーラーがあるからなんとかなったけれど、乱切りやいちょう切りは難しかった。同じ大きさにしようとしてみても、指を切らないように慎重になっていたらいつの間にか大きさがばらばらになってしまったのだ。 　絆創膏だらけの指になる方が問題なので、大きさには目を瞑って調理をすすめたけれど、やはり野菜の大きさも味に影響するものなのか。綺麗な見た目にはそれなりの理由があるのだなあ、と思うが、そこまでできるようになるのはまだまだ時間がかかりそうだ。 「不器用なのに無理するからよ。なんで煮物なんて挑戦したの？」 「いやー、それが……」 　朝食で降谷に啖呵を切った、とは大袈裟かもしれないが、とにかく初めて作る料理を食べさせると言ってしまったことをかいつまんで宮野に話した。 　彼女は呆れた様子で新一の話を聞いてくれたが、その話が終わった後に若干気まずそうな顔をして口を開いた。 「……ちょっと、あの人が食べてないのに私が先に食べちゃったの？」 「ああ、そうだぜ」 「ポンコツにもほどがあるわ。お願いだから、今日のことは絶対にあの人には言わないで」 「いや、言わなくてもここに来たのは監視がついてるからばれるんだけど」 「ここに来るのはいいのよ。そうじゃなくて、貴方が初めて作ったものを私が食べたことを喋るなって言ってるの」 　若干鬼気迫る勢いで詰め寄られ、彼女の美しい瞳が吊り上がる。 「別にそんなの話したって降谷さんはなんとも思わねえだろ」 　宮野が怒る理由がわからないが、少なくともそんなことで降谷が気分を害することはないだろう。そう思ってのことだったが、彼女の眉間に寄った皺は取れず、それどころかますます深く刻まれていく。 「……もういいわ。貴方がポンコツなの、今に始まったことじゃないし」 「ポンコツって言い過ぎじゃね？」 「うるさいわね、貴方が江戸川コナンだったこと、あの人にバラすわよ」 　それが嫌なら大人しくしてなさい、と言われてしまえば、新一は口を噤むしかない。 　別に彼女がそれを本気で言っているわけがないのはわかっているけれど、つまり冗談でもそういう厳しいことが出てくるくらい、新一は宮野の琴線に触れることを言ってしまったらしい。それがわからないからポンコツと呼ばれているのだが、しかしいくら探偵だとしても、彼女の考えは新一の想像の遥か上を行くのだから考えるだけ無駄なのだ。特にそういう方面のことについて、新一が敵うはずもない。 「それで、これをあの人に出すから味見させに来たんじゃないでしょう？　相談事があるなら早く言いなさい」 　女の勘というものはこれだから怖い。新一がどんなに取り繕おうとしたって無駄なのだ。 「相談っていうほどのことじゃねえよ。そろそろ、降谷さんと一緒に暮らすの、潮時だと思うからさ」 　向かい側のソファに座っていた宮野が微かに目を瞠った。 「――だから、そろそろ自分の家に戻ろうと思う」 　相談というほどのことではない。ただ、自分の中で決意が揺らぎそうだったから、相棒である彼女に聞いてほしかっただけだ。 　別にそれに対して何か言ってほしい訳じゃない。こういうことは誰かに口出しをされて決めることではないのだと新一もわかっているし、彼女だってそうだ。結局決めるのは己自身でなければ意味がないと知っている。 　だから、答えを求めるでもなく、一人で抱えるには少しだけ重かった気持ちを吐露させてくれただけで良い。 　宮野は暫し沈黙したまま、テーブルのティーカップを手に取って一口紅茶を含む。そうして一呼吸置いてからそうっと薄い唇を開いた。 「貴方が、そう思うなら。そう、決めたのなら。それでいいんじゃないかしら」 　酷く静かに、言葉を選ぶようにゆっくりと彼女は言った。 　料理をするようになってからも宮野のところには時々足を運んで、他愛もない話をして、少しだけ、ほんの少しだけ彼女にだけは降谷への気持ちを吐露した。 　それを彼女は特別驚いた様子もなく聞いてくれた。良いとも悪いとも言わずに、そうなの、とただ相槌を打って、肯定も否定もしないで。 　だから、とても穏やかな顔で新一の話を聞いてくれた彼女は、きっと今日も肯定も否定もしないと思っていたのだけれど。 「あの人のことを特別に想っての答えがそれなら、後悔のないようにすればいいわ。恋愛に疎い貴方が自分の気持ちに気付いただけでも奇跡なんだから」 「……うん。そうだな。気付かなかったら、後悔してたかもしれない」 　もしも降谷への想いに気付かないまま過ごしていたら、きっと気付いた時に新一は後悔していただろう。 　一緒に暮らして、彼のことを知って。気付けたからこそ、新一はこの決断ができる。心地良い微温湯のようなここから抜け出して、自分の足で立って彼の協力者として隣に立つことができるのだ。 　気付くのがずっと後だったら、もしかしたら降谷は新一以外の誰かを隣に置いていたかもしれない。それが彼の境界線の内側に入れる人間かどうかはわからないけれど、新一以上に彼の隣に相応しい誰かが。 　そんなことになったら、気付かなかったことを悔やんでも悔やみきれない。 　だから、大切なものは自らの手で引き寄せる。そのための努力は惜しまない。彼の隣に立つのに恥ずかしくないように、いつか江戸川コナンとして隣に在った時よりも、協力者としての工藤新一よりも、ずっと近い彼の傍に立つために。 「気付いたんだからいいじゃない。脳筋ゴリラとポンコツ謎探偵、お似合いよ」 「その呼び方でお似合いって言われても……ま、降谷さんは恋人とか作らなそうだし。オレなんて眼中になさそうだから、フラれた時は慰めてくれよ」 　努めて明るく言ったつもりが、自分の言葉にダメージを受けた。 　彼はもう大切な人を作らないだろう。いつか彼に恋人はいるのかと問うたとき、この国と答えた男だ。そんな人間が色恋に興味はなさそうだし、たとえあったとしても仕事ばっかりのストイックな男だから、やっぱり彼に恋人がいるという想像がうまくできない。したくないだけかもしれないけれど。 　だからこそ、新一なんて年下の面倒な子どもだとしか思われていない自信がある。協力者としてさえまともな働きができなくて、結果彼の手を煩わせて一緒に住むに至った。――冷静に考えてみたら本当に眼中になさそうで、少しだけ心が折れそうになった。 　しかも宮野はそんな新一に冷たく言い放つのだ。 「いやよ」 「即答か！」 「ええ。だって必要ないもの」 　つん、と素っ気なく言い放たれて流石の新一も少々傷ついた。信頼している相棒からのこの仕打ち、今なら泣いても許されるだろう。 　確かに彼女はこうして話を聞いてくれるし、それだけでもありがたい。仮定の話とはいえフラれて傷心の相棒相手に慰める必要がないと言い切る潔さは彼女らしいけれど。 　そこまで言われては仕方がない。慰めを期待するのは諦めよう、と小さくため息を吐いたら、宮野は微かに口端を上げて微笑んだ。 「――どうせ、諦めないんでしょう？　一度や二度フラれたくらいで諦めるような恋を貴方はしているの？」 　美しい微笑みを浮かべた彼女に問われたら、確かにその通りだった。 (そうだ。諦めるような気持ちなら、最初からこんなことしてない) 　そもそも難攻不落と言っても過言ではない男を相手に新一は恋をしているのだ。一度や二度フラれたくらいで諦めるような気持ちであるはずがない。 　彼にそのつもりが全くないというのなら考えるけれど、考えたところで新一が彼の隣に立つために努力をする事実は変わらない。彼の特別になれるように、どれだけ時間がかかったとしても、この気持ちが消えてなくならない以上追いかけ続けるだけなのだ。 「……確かに、諦めないな」 　――諦めないのなら、やることは一つしかない。 　これでようやく踏ん切りがつきそうだ。最後の後押しをしてくれたのが宮野でよかったと心から思う。 「聞いてくれて助かった。おかげで決心がついたよ」 「お礼は新作バッグと財布で良いわよ」 　さらりと要求されたものには苦笑しかないけれど、これが彼女なりの照れ隠しということを理解しているので頷くに留める。その証拠に彼女は目を伏せてこちらを見ようとしないし、少しだけ耳が赤く染まっている。 　けれどそれを指摘しようものなら静かに、まるで深々と降り積もる雪のような冷たさで怒り狂った彼女になにをされるかわかったものではない。大人しく彼女の言葉を胸に刻んでおくことにする。 　降谷には近いうちにあのマンションを出ていきたいと告げなければ。探偵業も再開するし、時期としては適切なものだろう。 　そうしてようやく新一は彼に告げることができるのだ。協力者だけでなく、降谷の特別になりたいのだと。 「ああ、でも。あの人に泣かされたときはここに来なさい。貴方の意に沿わないことを無理矢理するような時も。必ずよ。いいわね？」 「なかされ……？」 　宮野の言うことはやっぱりよくわからない。それでも、真剣な顔をして言うのだから余程大切なことなのだろう。 　そう思ってこくりと頷けば、彼女は満足そうに微笑んだ。 ◆　◆　◆ 「遅いな……」 　ダイニングテーブルの椅子に座って頬杖をつき、ちらりと時計に視線をやれば、もうすぐ日付が変わる時間だった。 　テーブルにはサラダ、少し失敗した煮物、珍しく焦がすことなく焼けた豚肉の生姜焼きが並んでいる。若布と卵のスープは鍋の中で、白米も炊けており、箸も取り皿もすべて用意が済んでいたけれど、その料理を食べてくれる人が帰ってくる気配はない。作って一時間ほどでラップをかけてから、ずっとテーブルに鎮座している。 　携帯に連絡もないし、ここに住む上でのルールに従って、新一は先に夕食を済ませ風呂に入り、このまま彼が帰って来なければ寝室のベッドに横にならなければならない。 　けれど、今日くらいはそのルールを破っても良いのではないだろうか。 「飯食わねーで帰って来いって言ったのに……」 　この時間では流石に腹も減るだろう。携帯の画面を見つめても真っ暗で、いくら待っても降谷からの連絡は来なかった。 　新一の方から連絡をして、彼の仕事の邪魔になってしまったらと思うと連絡一つできやしない。それに今日の朝のことを思えば、こちらからわざわざ連絡するのも躊躇う。 　結果として新一ができるのは、時計と睨めっこしながら降谷の帰りを待つだけだ。 　出来立てだった料理はすっかり冷めきってしまったけれど、それも見越して作ったものなので、それについての落胆は少ない。ここ最近一緒に夕食を食べることができて、キッチンで料理を教えてもらえたことが奇跡だったのだ。彼の所属する公安、ゼロに休みなどないくらい忙しいのだから。 (……そうだよ、なんであの人、あんなに早く帰ってきてたんだ？) 　忙しいのも落ち着いてきたのだと言っていたけれど、果たして本当にそうだろうか。庁舎に泊まり込みは当たり前、仮眠をとることができれば御の字、毎日が繁忙期のような場所に所属をしていてどうして。 　確かに降谷はデスクワークが主になっているが、それにしたって引っ掛かる。こういう違和感に気付けないとは、休業して探偵としての勘が鈍ってしまったかもしれない。 　――それとも、恋は盲目とはよく言ったものだけれど、周りがまったく見えていなかったのか。 　胸がざわついて嫌な予感に背筋がふるりと震えた。ただの思い過ごしならそれでいい。でも、もしも新一の嫌な予感が当たってしまったら。 「風見さんなら、連絡しても大丈夫かな……」 　降谷が帰って来ない。新一に連絡もなしに。ただ庁舎で未だに残業をしているだけならそれでいい。 　でも、もしもそうではないのだとしたら。 　どきどきと嫌な心音を聞きながら、風見の番号を呼び出してコールする。風見も降谷の右腕として多忙な人間だ、新一からの連絡を取ることができない状況であるかもしれないことを考慮して、数度鳴らして出なければ切ってしまおう。最近彼とは連絡をとっていないし、ここで生活するようになってからは一度も顔を見ていない。 　だからあまり期待はせずにコール音を数えようと思っていたのに、それはすぐに途切れた。 『――工藤くん、案外かけてくるのが早かったな』 「その口ぶりだと、オレから連絡があるってわかってたんですね？」 　風見の第一声に、ああ、嫌な予感は当たってしまったのだと一瞬で理解する。 『あの人のことだろう？　伝言を預かっているよ。君から連絡があったら伝えてほしい、と』 「伝言？」 『帰れなくてすまない、と』 　――その言葉の意味を、新一は正確に理解した。 　たった一言に込められた意味は額面通りのことではない。今日帰れないから、というだけなら、風見にわざわざ伝言を残すことはないだろう。彼が風見に伝言を残し、新一が遅かれ早かれ降谷の不在に気付いて風見に連絡をすることを見越していたのなら。 (もう、ここには帰ってこない) 　朝、彼がどうして新一が一人になったなら、と玄関先で言ったのか不思議だった。心配をしてくれているのだと嬉しくもなったが、しかしあのタイミングで話すようなことでもなかったはずだ。それに降谷のあの表情。思い出してみれば違和感はあったはずなのに、それさえ見落としてしまっていた。 　降谷は、あの時点で既に、もうここには帰って来られないとわかっていたのだ。 　元々ここは降谷の家でも新一の家でもない。監視とは名ばかりの、新一という協力者を閉じ込めておくための鍵のない檻のような場所。そこは酷く心地が良くて、今日までずっと微温湯に揺蕩うように住んでいた。 　でも、彼のたった一言で。あるいは新一の一言で。一瞬でなくなってしまう砂上の楼閣のような場所でもあった。 　その証拠に、彼の一言、それも風見からの伝言で、この日常は脆くも崩れ去るのだ。 「……それだけ、ですか？」 『ああ。それ以上詳しいことは私からは何も言えない』 　優秀な部下は口を割るつもりはないらしい。何も言えない、と先手を打たれてしまっては、いくら新一でもこれ以上を聞き出すことは不可能だろう。そういう意味では新一も風見のことを信用している。彼が上司からの命令を忠実に遂行する、優秀な部下である、と。 「それなら、俺がここにいる意味はもうないってことですね」 『察しが良くて助かる。君が望むなら、今日から晴れて自由の身だ』 　公安の監視からも、この生活からも自由になれるのだと、風見は言った。 (晴れて自由の身？　――ふざけんな！) 　しかしその言葉にはい、と素直に頷くほど、新一は素直で物分かりの良い人間ではなかった。 　勝手に新一のことをこのマンションに繋ぎ止め、じわりじわりとその距離を縮めたかと思えばこちらから近付くことは許さない。そのくせ新一の感情を揺さぶって良いように振り回して、いざ腹を括って彼への感情を認めて間もなくこれだ。 　そうだ、降谷零という男はこういう男だった。大切な人間を作らない、孤独を一人歩いていく可哀想な人。隣を歩き、時に背中を合わせ、寄り添って隣に在りたいと願った人。 　――だからこうやって、たった一人で突っ走って、彼を想う人間のことを振り回すのだ。 　すう、と深呼吸をひとつして感情の波を落ち着かせる。そうやって冷静になろうと努めなければ、新一はきっとこの手の中にある端末を床に叩きつけて大破させていたことだろう。 　ミシ、と音をさせた端末に力が入りすぎているのだと理解しているのに、力が入るのを止められない。せめて風見との通話が終わるまでは壊さないようにしなければ。 『工藤くん？』 「……風見さん、オレ、まだここにいますから」 『えっ？』 「探偵業ならどこでもできますし、しばらくここに住むつもりなのでよろしくお願いします。ああ、でも、もう監視もGPSも要りませんね？　GPSはこちらで処理しておきますので、後は公安の方々に引き上げていただければそれで充分です」 『いやいや、そこに住むって、君は自宅に事務所があるんじゃ』 「それがなにか？　ここの契約について不都合があれば、すべてオレが再契約するので手続きをお願いしますね」 　風見に見えるはずもないが、満面の笑みを浮かべて言った。 　新一の自宅も事務所も知ったことか。仕事などパソコンと携帯さえあれば依頼者と連絡を取り合うのに事足りるし、必要な資料があれば事務所へ行けばいいだけの話だ。どうせそろそろ探偵業もそうやって再開するつもりだったのだから、これで予定通りに探偵業に復帰できる。 　ただ、ひとつだけ予定外だったのは、降谷がここに帰ってこないことだけだ。 「……風見さん、オレ、人のことを振り回すのは結構好きなんですけど、振り回されるのは大嫌いなんですよ」 　まあ、わざと振り回しているつもりはないのだけれど。結果としてそうなってしまっているのは否定できない。 　しかし振り回されることとなれば話は別だ。特に降谷に振り回されるのは面白くない。過去、彼の思惑通りに動かされて知らないうちに協力者に仕立て上げられてしまった江戸川コナンの過去を持つ新一だからこそ、なおさら。 『――流石にあの人も、君がそんなことを言い出すとは予想していなかったよ。ただ、あの人がそこに帰るかどうかは私にもわからない』 「いいんです。これはオレの自己満足ですから」 　彼が帰ってくるまでここにいる。新一が作ったことのないものを食べるまで、この暮らしを強制的に終わらせてなどやるものか。 「だから、オレからもあの人に伝言を。……伝えていただけますか？」 　どうせ降谷がまた潜入捜査で潜ったか、それとも事情があって表に顔を出せなくなったか、それとも秘密裏に行われる捜査に加わったのか。いくつか考えられるものがあるけれど、風見の様子だと怪我をしただとか命に別状がないことは明白だ。それならそこまで心配をする必要はない。 　ただ、一言だけを彼に伝えてもらればそれでいい。それを聞いてどうするかは彼の自由だ。 『……約束はできないが』 　こんな時にまで真面目な風見に、ふ、と小さく笑みが零れた。これだから彼のことは憎めないのだ。 「ええ。でも、オレは貴方がちゃんと伝えてくれるって信じてますよ――『待ってるから、帰ってきたら覚悟しとけよ』って」 　伝言の部分はドスをきかせた地を這うような声音になってしまったが、その声に風見がごくりと喉を鳴らしたのがわかった。 　そのくらい、新一は怒っているのだ。なにに怒っているのか冷静になりきれないくらいには、降谷の行動もなにもかもが言葉も気に入らない。 　頭に血がのぼった状態ではまともな判断などできないので、余計なことは言う必要はなかった。 『確かに、預かった』 「よろしくお願いします」 　詳細はまた後日に、と言い残して電源を落とした。どうせ今日は新一に電話をしてくる人間はいないのだ。 　ふう、と息を吐いてダイニングテーブルに並べた料理を眺めて、ぺりり、とラップを剥がす。すべて冷めてしまっているけれど、温め直して食べてくれる人はいない。 　新一が作った物なら炭でも食べるなんて馬鹿なことを言った男は、帰ってこないのだ。 「――嘘吐き」 　彼が偽りだらけの嘘吐き野郎だということは、最初から知っていたはずだったのに。 　まさかここで裏切られるとは思いもよらなかった。 　だから、むしゃくしゃした気持ちのまま、並んだ料理を端から胃の中に納めていく。煮物は冷めたら余計に味がしみ込んでしょっぱいし、生姜焼きは調度良い焼き加減なのに冷めてしまった所為で脂身が固まって、あまり美味しいとはいえない。サラダはレタスがしんなりとしてシャキシャキの食感が失われて、スープは取りにいくのが億劫だったのでそのままだ。 　全部、全部降谷を想って作ったものだったのに。 　彼が悪いわけではないことくらいわかっている。それでもぐるぐると渦巻くこの感情の行き場が見つからなくて、馬鹿みたいに黙々と自分で作った降谷への想いを食べていく。 　腹立たしい。何も言わずに消えたのは仕事のためと理解していている。それに、彼は多分、今朝のあの会話で精一杯のヒントを与えてくれた。 (一人になっても、なんて。そんなこと一度だって話したことはなかった) 　一緒に暮らすようになってから、新一が一人になっても、なんて彼と話すことはなかったのだ。それも出ていく間際のいつもの小言。あれは、あの言葉は、もうここに帰ってくることは――一緒に暮らすことはないからこその、彼からの最後の言葉だったのだ。 　だから、これはそれに気付くことのできなかった不甲斐なさや無力さ、新一自身に対するものだ。勿論降谷に対しても怒っているし、もしも今目の前に彼が姿を現したとしたら間違いなく殴るし蹴るし罵詈雑言を叩きつけるけれど。 　この生活もいつか終わることと理解していた。でも、まさかこんな風に一方的に、何の前触れもなく終わるものとは思っていなかった。 　――だから、終わりになどしてやるものか。 　風見にも言った通り、振り回すのは好きでも振り回されるのは嫌いなのだ。ここまで新一のことを良いように振り回しておいて、それで終わりにできると思っているのなら大間違いだ。 ◆　◆　◆ 　いつ帰ってくるかもわからない人を待ち続ける日々は、思ったよりも普通の日常として過ぎていった。 　最初こそ降谷の帰ってこない生活は違和感があったけれど、どちらかといえば彼が居る生活の方が非日常だったのだから、一週間も経つ頃には一人マンションで暮らす日々が日常となった。 　ある程度長期戦になる覚悟はしていた。彼がなんの前触れもなく風見に伝言を託していったのだから、最初からこの時期には任務を与えられて動くことになっていたのだろう。潜入捜査や秘密裏に行われる捜査なら降谷の得意分野だ。まさか再び彼が現場に入るとは思わなかったが、他に適任がいなかった可能性は大いにある。 　降谷からの連絡は当たり前だけれどひとつもない。そのかわり、時々風見から新一の体調を心配するようなメッセージや、今までのような公安の案件に関する捜査協力を求められることもあった。 　つまりそれが降谷が無事であるという知らせだと新一は勝手に思っている。流石に彼の身になにかあったなら、風見がそれとなく教えてくれるはずだ。まだ、新一は彼の協力者なのだから。 　探偵業も再開して事務所とマンションの行き来をしつつ、時々依頼者の都合で遠出をすることもある。そういう時は必ず冷蔵庫に新一が作ったものを一つだけ入れておいて、冷蔵庫に帰ってきたなら食え、と大きく書置きを残した。 　新一が出かけている時にもしも彼が帰ってきたらと考えてのことだったけれど、その書置きが剥がされ、冷蔵庫の中身が減ったことは一度もない。遠出から帰ってきてそれにため息を吐くのも慣れてしまった。 　季節が巡って日々が過ぎていく日常はいつも通りなのに、心臓にはぽかりと穴が空いたようで落ち着かない。時々、彼に教えてもらった料理を作って一人で食べては、あの時彼が美味しいと笑ってくれた顔を思い出してその穴がじくりと痛む。それと同時に、姿を消したままの彼のことを探しに行きたい衝動にも駆られるから困ったものだ。 　しかし、今回ばかりは新一は首を突っ込まずに彼の帰りを待つと決めた。 　元々公安の案件に首を突っ込むことがどれだけ危険か理解しているつもりだし、協力者として彼の隣に立つのなら、身勝手な行動が潜入捜査を台無しにする可能性を考慮して、迂闊に彼に話しかけることも連絡をとることもしてはいけない。彼が公安の降谷零という人間だと悟られるような真似をすることこそ仕事の邪魔になる。それどころか彼の命さえ危険に晒してしまうかもしれないのだ。 　だから、新一にできるのは、ここで彼の帰りを待つことだけだった。 　毎日朝起きて朝食を作り、食べてから仕事をする。依頼は人探しや浮気調査、時に警視庁や風見からの捜査協力を受け、難解な謎があればそれを解くために奔走した。夕食も余程疲れてどうしようもない時以外は栄養バランスを考えて作ったし、今ではレシピを見なくてもある程度のものならばサッと作れるようになった。事件についての資料や楽しみにしていた本の新刊を読み耽って朝日を拝むことはあったけれど、概ね彼が望んだように、新一は一人でもきちんと生活できている。 　それが当たり前なのよ、なんて宮野は言うけれど、これまでそこそこ不規則な生活を送り、料理ひとつまともにできなかった身としては、大いなる進歩である。 　その動機が自分のためではなく、降谷のためであったのだから、随分と新一は彼のことを特別に想っていたらしい。いつからこの想いが生まれて、いつ彼に恋に落ちたのか明確な時期はわからない。しかし少なくとも工藤新一と降谷零として出会った当初は恋ではなかったはずだ。 　でも、彼が見せたことの無い、新一にだけ見せてくれる顔が特別なのだと気付いてから。いつかこの暮らしが終わってしまうことを惜しむようになってから。多分、その頃にはもう彼に恋をしていたのだと思う。 　初恋以外にまともな恋などしたことはない。そういう感情に疎く、そこまで興味がなかったというのもある。まさか降谷に恋をするとは、人生何があるかわからないものだ。 　彼のことを特別だと、大切だと思う。協力者なんて関係では足りない、彼の傍に常に在る理由がほしい。他の誰も踏み込めない彼の境界線を越えて、柔らかな彼の心に触れたいと願ってしまう。 　そのためならいつまでも彼のことを待っていることができる。こうして一人彼を待つことができなければ、この想いを告げることはおろか、協力者としても失格だ。 　――だから、早く帰ってきてほしい。 　新一の中で、あの日を境に彼との暮らしは時間を止めてしまった。いつか彼が帰ってくることを願って待ち続けている。本当に帰ってくるかどうかもわからない人だけれど、なんとなく、根拠もなにもないのに、彼はいつものように帰ってくるような気がしているのだ。 　これが諦めの悪い恋だという自覚はある。新一は歳も一回り離れた年下の男で、彼のためにできることなど精々協力者として力になれることがあれば協力することだけ。ハニートラップなら大成功だというのに、彼にはきっとそんなつもりは微塵もないのだろう。それが余計に悔しいけれど、好きになってしまったものはどうすることもできない。なかったことにできるような想いなら、振り回されるのが苦手な新一はとっくに彼から離れている。 「いつまで待ってるの」 　一年が過ぎた頃、阿笠邸でいつものように宮野とお茶をしていた時、彼女は酷く小さな声で新一に問うた。誰を、とは言われなくとも、新一が待っている人なんて一人しかいない。 　彼が姿を消したことについては詳細を省いて伝えた時でさえ、彼女はそう、と一言呟いてそれ以上探りを入れてくることはなかった。降谷が公安である以上、そして過去バーボンとして組織に潜入していたことを考えれば、何も言わずにあの家を出ていった理由がわからないはずがない。明言することがないだけで、降谷が潜入捜査か何かで姿を消したことは彼女もわかっているのだ。 　一人であのマンションでしばらく暮らすと彼女に伝えてから、この話題には一度も触れなかったのに、一年が過ぎた今になって訊いてくるとは思わなかった。 　でも、問われた言葉に返す答えは、新一の中で一度だって変わったことはない。 「……あの人が、帰ってくるまで」 　潜入捜査だとして、数年がかりの案件にかかわれば、それこそいつまで待てば良いかなんてわからないけれど。 　それでも待つと決めたからには、彼から待つなと言われるまでは待つつもりだった。風見から彼への伝言は確かに伝わっているのだろう。律儀な人だから、彼にそれが伝わっていないという心配はしていない。 　待ってるから、と確かに新一は伝えたのだ。いつ帰ってくるとも知れない人を待つ。その覚悟は、きっと降谷相手でなければできなかった。 「待つつもりなのね」 「ああ」 「そう。意外だわ。貴方は待つなんて性に合わないって、誰に教えられなくてもあの人のところへ辿りつきそうなのに」 　一年も待つなんて、と苦笑した彼女の言葉は、流石相棒といったところか。新一のことをよく理解している。 　彼に出会う前の新一ならばそうしていた。彼の助けになるならと飛び出して一人で証拠を集めて、彼の元へ辿りつく自信もあった。潜入捜査中であっても、それを見越して行動することができる自負もある。そうして一刻も早く解決するように尽力したことだろう。 　今でもその考えは脳裏を掠める。実際、やろうと思えばできるのだから。 「宮野の言う通り、オレは待たせるのは得意でも待つのは苦手だよ」 　未だにあの日、帰ってくるつもりがないのにあんなことを言った彼に対しての怒りはある。突然一人にされて裏切られたような気持ちも。 　協力者として認められなければ、そうでなければこの想いを伝えることさえできないと思っていたのも確かで、そのために彼が無事帰ってくるまで待ち続けているのも事実だ。 　本来の工藤新一の性分なら、待つなんて選択肢はない。どんな危険が伴おうと自分にできることならと飛び込んでいった。降谷に会いたいと思えば会いに行っただろうし、彼にこの想いをぶつけることだって選んでいたかもしれない。 「でも――降谷さんのことは、待っていたいんだ」 　今は、彼が帰ってきた時に、お帰りと言える存在で在りたい。 　たった一人で信念を持って歩き続ける人だから、こういう時に一人くらい彼のことを待つ人間がいても良いだろう。命をかけてこの国を守ろうとする彼が、一緒に暮らしたあの家に帰ってきた時に見せた、新一だけが見ることのできる特別な表情に惹かれたのだ。新一のことを大切に想ってほしい気持ちに嘘はないけれど、それを見ることができれば新一は幸せだった。 　彼の傍に居たいとこれから先も願うなら、彼のことを待ち続ける覚悟を背負う。それができないのなら、きっとこの気持ちを彼に伝える資格はないのだ。 　帰ってきたら、彼にはあの日食べられなかったものを嫌がっても口に突っ込んでやらねば新一の気が済まない。炭でも食べると、楽しみだと言ったのだから、その言葉には責任を持ってもらわなければ。 「ほんと、貴方たちお似合いだわ。振り回して振り回されて、ちょうどいいんじゃない。お互い様よ」 「はあ？　絶対にオレの方が振り回されてる……でなきゃ一年も待てねえよ」 　おかしい。決して降谷のことを悪く言うつもりもないけれど、今回の件で振り回されたのは新一の方だ。それもこんなに長く彼を待つなんて、過去の自分が知ったら驚くに違いない。 　だというのに、宮野はそうかしら、と口端を吊り上げて笑った。 「あら。よく言うじゃない？――先に惚れた方が負け、ってね」 　まったくその通りでぐうの音も出なかったので、新一は大人しく白旗をあげた。 ◆　◆　◆ 　――その日は突然やってきた。 　夜も遅い時間、新一がリビングのソファで調査資料を読み耽っていた時のことだ。 　カチャ、と金属音が聞こえて、その音が何か一瞬わからなくて音のする方に視線をやった。廊下の方からどうして、と思ったところで、手にしていた調査資料を放り投げて玄関へ向かう。バサバサと書類が宙を舞う音が背後に聞こえたけれど、そんなものは後から片付ければいい。 　階下の人間には申し訳ないが、ドタバタと慌ただしい足取りで玄関へと躍り出た。 　彼が姿を消してから、新一が家にいるときは一度だって内鍵はかけていない。オートロック完備の厳重なマンションで内鍵などなくても大丈夫だろうと思っていたし、なにより、この部屋の鍵を持っているのは新一と彼だけだ。 　玄関のドアが開くのがやけにゆっくりと見える。どくん、どくん、と全身の血が巡っている音が鼓膜を直接震わせる感覚は、脳を直接揺さぶられているような心地だった。ドアが開くなんて一瞬のはずなのに、期待と不安で心臓が痛くてどうにかなってしまいそうだ。 　ずっと待っていたのだ。探しに行きたい気持ちを抑えて、風見と連絡を取る度に、会う度に探りを入れたくなるのを押しとどめて――もしかしたら、帰って来ないかもしれない一抹の不安を抱きながら。 　キィ、と小さな音を立ててドアが開いたのを、呼吸を止めて真っ直ぐに見つめる。一瞬さえ逃さないようにブルーサファイアの瞳を見開いて。 「…………ただいま」 　そこに立っていた人は、新一が想像していた人と寸分違わぬ姿形をしている。時に冷酷に、時に柔らかく美しく煌めく蒼い双眸も、褐色の肌も、色素の薄い金の髪もすべて。もっと言うのなら、あの日玄関先で見送ったスーツさえ身に纏って。 　けれど、どうしてか新一を見て絶望さえ滲む表情を浮かべている。まるで幽霊にでも会ったようなそれ。所在無さそうに立ち尽くした彼のそんな顔は初めて見た。 　でも、今はそんなことはどうでもいい。 　――帰ってきた。 　降谷が、この場所に。新一のところに。 　彼の姿を見てフリーズしていた思考が動き出し、一気に感情の波が押し寄せる。ふるりと身体が震えて、はくはくと空気を食むのに言葉が出てこない。名前を呼びたいのに呼べなくて、たくさん言いたいことだってあるのに何一つ言葉にならなかった。すべての言葉が喉に閊えて出てこないし、感情の針が振れて壊れてしまったのか、嬉しいのか悲しいのかさえよくわからない。 (ああ、でも、帰ってきたんだ) 　降谷が目の前にいる。こうして彼が帰ってくることを夢に見て、眠りから覚めて彼がいないことに落胆する日々はもう来ないのだ。 　じわりと胸が温かくなった。いてもたってもいられなくて、どん、と勢いよく彼に抱き着く。その衝撃で降谷が小さく悲鳴を上げたけれど、流石に鍛えているのかその身体が揺らぐことはなかった。 「あの、工藤くん……？」 　珍しく降谷のポーカーフェイスが崩れているような焦り混じりの声が降ってくる。でも、生憎とそんなことに構っている余裕が新一にはなかった。きっと彼と出会った当初なら、それさえも彼を揶揄う材料にしていただろうに、そんなことは彼がここにいてくれるだけでどうでもいい。 　それよりも、体当たり同然で抱き着いた彼の左胸に耳を当て、そうっと目を閉じる。小さく血液が全身を巡る音が響いて、彼は生きているのだと、これが夢ではなく現実だと認めることができた途端、知らずほう、と安堵の息が零れ落ちた。 　ぎゅう、と抱きしめる腕に力を込めても、その心臓の音は変わらない。否、少しだけ早くなった気がする。これが降谷の生きている音だ。 　着痩せするから背中まで回した腕が届く範囲は思ったよりも狭いけれど、スーツ越しでもなんとなくその体温を感じることができて、意味もなく泣きそうになった。 「――……おかえり」 　くしゃりと歪んだ顔は、彼の胸に顔を埋めているから見られていないだろう。掠れた声は顔を埋めている所為で、決してひくりと震えた喉の所為ではない。 　ようやく彼がここにいるのだと実感して、言いたかった言葉を言うことができた。それが酷く嬉しくて堪らない。 「うん」 　降谷の声が頭上から降ってくる。そうして恐る恐るといった手つきで、新一の頭に彼の大きな手が乗せられた。 　柔らかく髪を撫ぜるその手が優しくて、やっぱりまた泣きそうになる。けれど涙は出なくて、かわりにきゅうう、と心臓が鷲掴みにされて身体が痺れるような感覚に陥った。 　――ずっと心の片隅で、もう二度と会えないのではないかという不安があった。たとえ新一が待っていたって、彼にここに来る意志がなければ、いつまで経っても会えるはずがない。会えないのなら会えないと新一に伝える手段を彼が残していないはずがない、そう信じてはいても、不安は常に付き纏った。 　それが一気に霧散していく。降谷がここに帰ってきてくれただけで、諦めずに待ち続けてよかったと心の底から思えた。待たせることは得意でも、待つことは苦手な新一をここまで待たせたのだ。もう二度とこの腕を離したくないとさえ思ってしまう。 「待ってて、くれたのか」 　しかし、再び落ちた彼の呟きに、ぴくりと身体が震えた。 (待っててくれたのか、だあ……？) 　まるで新一が待っていないとでも思っていたような口振りではないか。 　確かに風見に伝言を頼んだのだから、降谷に新一が待っていることは伝わっていたはずだ。けれど彼からそれについては返事もなにもあったものではなくて、それでも待つと決めたから新一はここにいる。 　ただ、一言だけでもいい。待っていていいのだと言ってくれたなら、いつまで待てば良いのかという漠然とした不安も、彼を待ち続けてみる夢も、すべてなかったかもしれないのに。 　言うに事欠いて新一が待っていなかったような言い方はない。本当にない。生きていてよかったと、帰ってきてくれてよかったと涙さえ込み上げた万感の想いがどこかに消えてしまうくらいには、彼のその言葉はデリカシーがなかった。 　それも、降谷が姿を現した時の仕草、表情から、自分がどれだけ新一に対し悪いことをしたという自覚があるらしい。そうでなければ、彼はこんなにも歯切れの悪い会話をするはずがない。 　より一層、なお悪い。そもそもそんなことは承知の上でここを出て行って姿を消して、風見にあんな伝言を託したのではなかったのか。新一が待っていると言ったのだから、彼が帰ってくることを信じて待っていた新一を彼も信じるべきではなかったのか。公安と協力者、強い絆で結ばれているはずなのに彼のこの態度はいただけない。 　そもそもまだ新一は許していないのだ。彼があの日帰ってくることなく、彼を想って作った料理を食べなかったことを。 　彼を抱きしめていた腕を外し、ゆるゆると埋めていた顔を上げる。今、とても良い笑顔を浮かべている自信があった。滅多に見ることのできない新一の満面の笑みだ。 「降谷さん」 　彼の名前を呼べば、蒼い瞳をまあるく見開いて、ひゅ、と息を呑んだのがわかった。 　至近距離で覗き込んだ彼の顔はとても整っていて、きらきら輝く美しい瞳は新一が好きになった時から変わらない。少しだけ痩せたかもしれないが、頬の肉が若干落ちていても、その輪郭は滑らかで、蒼い瞳を彩る睫毛は陽の光に透かしてみたら綺麗な色をしているのだろうな、と思う。 　整った綺麗な顔は面食いの新一好みで、だからこそその顔に傷をつけるのは誰であっても許さないけれど。 　今は無性に、その顔を思い切り殴りたい。 　にっこりと、これ以上ないくらいに笑みを深くして、すう、と思い切り息を吸い込んで。ぐっと手のひらに爪が食い込むくらいに手を握りしめて力をこめる。 　そうしてそのまま思い切り拳を振り上げて。 「――歯ァ食いしばれ！」 「えっ！？」 　流石に満面の笑みを浮かべた新一がそんな暴挙に出ることなど彼も予想していなかったのだろう。降谷の左頬に向かって拳を突き出せば、至近距離での右ストレートがノーガードで綺麗に入った。その所為で彼は玄関のドアに背中を強かに打ち付け、どん、と大きな音が響く。 　殴りつけた彼の頬は赤くなって、唇の端が少し切れて血が出ていた。 　人をこんなにも本気で殴ったことなんてなかったような気がする。思い切り殴ったからか右手の甲がじんわりと痛んだし、おそらく降谷はそれ以上に頬に痛みがあるだろうけれど、ずっと彼を待ち続けた新一の心の痛みはこんなものではない。全然殴り足りないくらいだ。気持ち的にはあと百回くらい殴ってやりたい。 　人の気持ちをなんだと思っているのか。本当に、彼には振り回されてばっかりで、きっとこんなにも彼の帰りを待ち望んでいたのも、彼の安否を心配していたのも、新一以上の人間なんてこの世界にどこにもいないのに。 　彼にとって新一の言葉は信用も信頼もなくて、帰りを待つと言ったのにここにいないと思われていたことに腹が立つ。 「降谷さんのばか！　ばーか！！　オレが、オレがどんな気持ちで待ってたか知らないくせに……ッなんでそんな、オレがいないと思ったって顔すんだよ！　待ってるって言ったんだから待ってるに決まってんだろ！」 「ご、めん」 「ごめんじゃねえよ脳筋ゴリラ！　なんでオレが怒ってるかわかってねえくせに謝んな！」 　頬を殴った拳で玄関を背に呆然としている彼の胸を叩く。殴りたい気持ちはあるのに、どうしようもないくらいに腹が立つのに、振り下ろす拳はどんどん弱まっていくばかりだった。 　ヒステリックに喚き散らして癇癪を起こすなどまるで子どもだ。客観的に自分のことがわかるのに、まったく止められる気配がない。ぽかぽかと拳を振り下ろしているのを降谷は何も言わずにそのままにさせてくれて、はあ、はあ、と息が切れても殴り続けていたら、結局手首を掴まれてしまった。 　弱々しい新一の拳など、彼にとっては子猫がじゃれる程度のものでしかないのだろう。それさえ新一の癇に障って面白くない。 「……手、痛めるから」 　そっと柔らかく握られた手首が熱い。彼は怒るでもなく嘆くでもなく、ただ、新一のことを心配なのだという声音でそんな台詞を吐いた。 　どの面下げてそんな言葉を、と思ったのに、凪いだ美しい瞳が新一のことをじっと見つめている。感情の見えないのは彼がそれを隠したいと意図的にしているからなのか、どこか無機質で温度の感じられないそれにふい、と視線を逸らした。沈黙が落ちて静寂が満ちた。 　――ずっと待っていた。待っていたのだ。 　彼が帰ってきて、おかえりと言える場所で在りたかった。事実新一は彼を迎えることができ、ずっと待ち続けた甲斐あって念願が叶ったというのに、降谷は全然嬉しそうではなかった。 　まるで幽霊でも見たような顔をして立っていて、新一とは正反対だった。 　それを目の当たりにした上に、新一が待っているなんて想像もしていなかったような言葉まで吐かれて傷つかない程、新一の神経は太くない。心だって強くはなかった。一年以上待っていたのだからなおさら。 　癇癪を起こして殴り飛ばしたって仕方ない。だって、待っていたのに、彼はきっと新一が待っているなんて思っていなかった。信じていなかった。それが悔しくて悲しくて、ずっと待ち続けた自分が馬鹿みたいじゃないか。 (……わかってたけど) 　彼に望まれてここにいたわけじゃない。全部新一が彼を待ちたくてここにいたのだ。彼を特別に想っていたから、好きだと告げられるだけの自信が欲しかったから、決して彼のためではなく自分のために。 　自己満足だと理解しているとはいえ、待つことに慣れていない新一にとって、彼がここに来てくれたこととあんな顔で名前を呼ばれたことに感情が追いつかない。ごめんと謝ったことに対してだって、新一の気持ちなんて微塵もわからないくせに、と感情的になってしまった。 　俯いたまま思考が沈んでいく。別に降谷は待っていてほしかったわけではないのだと思うと悔しい。心臓がじくじくと痛んで、やっぱり彼の特別になるなんて無理なんだな、と思った。 　いくら新一が頑張って追いかけて彼の隣に並ぼうとも、きっと彼の境界線を越えることはできない。その内側に入ることも、彼に想ってもらうこともできないのだ。 (オレが、もっとはやく降谷さんに出会っていたら) 　江戸川コナンではなく、工藤新一として出会っていたら。もう少し違った感情を向けてくれていたのだろうか。過保護な保護者のように新一を協力者にするのではなく、江戸川コナンの時のように、無理やりにでも力を借りたいと巻き込んでくれるような信頼をしてくれたのだろうか。 　仮定の話に意味はないのに、どうしたって考えてしまう。 「……離せよ」 　掴まれてた手首を払おうとしたら、ぐ、と強く握られる。その強さに顔を顰めても、その力は一切緩むことはなかった。 　そうしてそのまま、再び彼の胸に顔を埋める破目になる。今度は降谷に、新一が痛いくらいに抱きしめられた。 「なにも言わずに、出て行ってごめん。君が待っているのを知っていたのに、こんなに遅くなったのも」 「…………」 「帰ってこられないってわかってたのに、君が料理を作って待っててくれたのに……ごめんね」 　――そうだ。わかっていたくせに、そんな風に消えた降谷が悪いのだ。今更懺悔をしたところで遅い。遅すぎる。 　ぐ、と唇を噛みしめて、批難したい気持ちを抑えつけた。一方的に責めるのはあまりにも身勝手だとわかっていたからだ。 　だから冷静に、と心を落ち着かせたいのに、彼に抱きしめられている所為で全然冷静になんてなれない。勢い余って自分から抱きしめたのとは違い、彼の意志でこうやって新一のことを腕に囲っているのだという事実は、こんな時まで心臓を甘くときめかせる。これだからこの男は本当に性質が悪い。 「オレ、あの日、アンタのこと待ってたんだぜ。料理作ってアンタが帰ってくるのはいつかって、馬鹿みたいに時計と睨めっこして」 「うん、ごめん」 「それなのにアンタは帰ってこないし、風見さんに伝言残して一方的に一緒に暮らすのやめようとするし、なんなんだって腹が立った」 「それもごめん……」 　彼が謝る度に抱きしめられた腕に力がこめられる。骨が軋むんじゃないかと思うくらいに強く。 　でも、それが彼の後悔の証だとしたら、少しだけ胸がすっとしたような気がした。 「待ってたのはオレの勝手だけど、アンタも充分勝手だった。待ってるって言ったんだから、玄関開けてなんでオレがいるのにそんな顔すんだよ」 　新一がいないことを前提にこの部屋に帰ってきたというのなら、いったい何を期待していたというのだろう。期待をしていなかったなら、あんな顔をするはずがない。 　幽霊を見た、なんて絶望さえ滲むようなあんな表情は、決してこの部屋に帰ってきて何かを望む人間の顔ではなかった。 「……オレ、アンタのこと、待ってない方がよかった……？」 　望まれていないのなら、いっそここで待つことをせず自由になっていたならば、彼はこんな顔をしなかったのだろうか。 　庁舎に戻れば公安の部下も、右腕の風見も、降谷を待っている人間は新一でなくともいることはわかっていた。でも、彼が大切な人を失ってから、降谷をそういう意味で待つ人はいないだろうと、新一以上に彼の帰りを待つ人間などこの世界に誰一人いないのだと思っていた。彼を想う気持ちなら誰にも負けやしないのに、それが彼にとってただの迷惑だったなら、今ここではっきりと言ってほしい。 　そうでなければ、いつまでも新一は期待したままだ。彼が公安と協力者の距離を少しずつ壊して近付いてきて、けれどこちらからは近寄らせない。いつか彼のその境界線を越えて内側へと入ることができるのではないかと、そんな淡い期待を胸に抱いたまま、想いが止められなくなってしまうのだ。 　風船から空気が抜けて萎んでしまうようにして、新一の言葉の覇気もなくなってしまう。 　問いかけるには勇気が要った。推理をして謎を解き、真実を暴く時だって、自分の推理が外れていないか最後まで心臓が痛いくらいに緊張するのに、そんなものは比べようもないくらいに。 　きゅう、と無意識に彼のスーツを握りしめる。縋るようなその手を見て、降谷の唇がはくりと空気を食んだ。 「――君が俺のこと待っててくれるなんて、夢かと思ったんだ」 「それって、オレがアンタのことを、ここで待ってるって信じてなかったってことだろ」 「違う。……いや、違わないか。俺が大切に想う人はみんないなくなって、こうしておかえりって言ってくれるのが君なんて、夢みたいで」 　その言葉に微かに目を見開いた。 　新一の耳がおかしくなったわけではないのなら、彼は確かに言った。大切に想う人がいなくなったと。おかえりと言ってくれるのが新一なんて夢みたいだと。 　――その言葉が意味することを、新一は勘違いしても良いのだろうか。自惚れても良いのだろうか。 　じわじわと甘く痺れる感覚に、心臓が早鐘を打つ。どうか、どうかその言葉の意味が期待したものであってほしい。 　それは言いかえれば、新一が彼にとって大切な人だということだ。どういう感情でも良い、ただ、彼が二度と作らないと思っていた大切な人に、彼の特別に新一がなれるのだとしたら。 　抱きしめられたままそうっと降谷の顔を見上げてみれば、彼は酷く眩しいものを見るように――愛おしいものをみるような柔らかな光を湛えた蒼い瞳で、新一のことを覗き込んでくる。 「ねえ、なんで待っててくれたの？」 　甘い蜜を溶かしたような声が新一の思考を蕩けさせていく。 　酷い。こんな声で、こんな表情で、こんな瞳で見つめられて、彼を特別に想う人間にとってそれは毒でしかないのに。 「君、待たせるのは得意でも、待つのは苦手だろ」 　新一の頬に優しく触れて撫でながら、彼は小さく笑った。 　やっぱりその手つきは優しくて、壊れ物を扱うように繊細だったものだから、ますますそれを勘違いして自惚れてしまう。 　やめてほしいのにやめてほしくない。そんな矛盾を抱えたまま、けれどこんな機会もしかしたらもう二度とないかもしれないと、頬に寄せられた手にすり、と少しだけ頬をすり寄せて目を閉じた。 　待たせるのが得意で待つのが苦手とは、新一の気持ちなんてきっとこれっぽっちも理解していないくせに、そんなことばかり彼はよく気が付く。 　――そこまでわかっているのなら、新一が待っていた理由の欠片くらい、汲み取ってくれたらいいのに。 「……苦手でも、アンタが帰ってくるのを待ちたかったから」 「どうして」 「すぐにでも追いかけようと思ったけど、それじゃアンタの隣で胸張って協力者なんて言えないだろ」 　公安の協力者として、正しい選択をしてみせた。彼が望むように現場には首を突っ込まず、潜入捜査やそれに準ずる任務に就いていただろう彼を危険に晒すことなく、待ち続けることを選んだのだ。 　誰かに新一が彼の協力者であることを告げることはない。ただ、新一が彼の隣に立ちたかったから。いつか孤独を歩く彼の隣で、同じように歩くことができたなら。寄り添い歩いて、時に彼の支えになれたならと願った。 　だからもういいだろう。どんな答えをもらっても、少なくとも新一は彼の大切なもののなかに入っているらしい。それなら、この想いを伝えるだけならば許されてもいいはずだ。 　そうっと瞼を持ち上げて、ゆるりと目を開く。彼は静かに新一の言葉の続きを待っていたから、内緒話をするみたいに小さな声で囁いた。 「オレ、一人で料理できるようになったんだ」 「全部俺が教えてあげたかった」 　間髪入れずに降谷が言うものだから、思わずふは、と笑みが零れた。 「いなかったんだから無理だろ」 「……わかってる」 「わかってんならそんな顔すんなよ。アンタは心配してたけど、ちゃんと一人でも飯作れるし、事件に首は……突っ込まない約束はできないけどさ。大きな怪我もしてない。ちゃんと一人でも生きていける」 「そうだね。君はもう、一人で生きていける」 　酷く寂しそうに微笑んだ大人に認めてもらえたという達成感と、本当にこれで彼と一緒に暮らすことはなくなるのだという切なさで複雑な心地がする。 　けれどこれを乗り越えなければ、新一が望む未来は得られない。 　降谷に恋をしている。彼の特別になりたいし大切な人で在りたい。好きだとこの想いを告げて、どうか隣に立つことを許してほしい。たとえこの想いと同じものを返してくれなくても、いつまでだって新一は待つことができるから。 　どうか一人孤独を歩むときは隣を歩き、時に帰りを待っておかえりと言う権利が欲しい。恋じゃなくていい。愛じゃなくていい。彼が一等大切に想う存在になりたい。 　だから、どうか。 「――それでも、オレはアンタと一緒にいたい」 　ブルーサファイアの瞳で彼を見つめて、嘘偽りのない想いを告げた。 　一人で生きていけるとしても、生きていくなら降谷の隣がいい。一緒にいたい。協力者として隣に在って降谷を助け、新一の手が届かない場所に行くのなら、いつまでだって帰りを待つ。おかえりと言って腕を広げて、一人この国を守ろうとする降谷零という人間を抱きしめたい。 「降谷さんのことが好きだから、ずっと待ってたんだ」 　ずっとずっと待っていた。時に弱気になって心が折れそうになった日もあったけれど、それでも、降谷が帰ってくると待ち続けることができたのは、彼のことが好きだったからだ。恋をしていたからだ。 　この想いが少しでも彼に届けばいい、そう思って微笑めば、彼はぽかんと口を開けて蒼い瞳が転がり落ちてしまいそうなくらいに目を見開いている。 「……やっぱりこれ、夢かな」 「え？」 「世界で一番大切な人に好きって言われたら、夢って思わない？」 　彼の口から零れた言葉があまりにも予想外のことだったので、新一の方が夢かと思った。 　夢かと聞かれたって、そんなの。そんなのわかるわけない。 　嘘だ、と思った。彼はもう二度と大切な人を作らない。だから、そうなれるように努力を惜しむつもりはなかった。この想いを否定されて拒絶されない限り何度だって、彼の隣に立つために。 　なのに、新一が望む場所に、彼が大切にしてくれるその中に、既に囲われていたなんて信じられない。 　でも、だけど、その言葉の意味を理解して、一瞬で全身の血が沸騰したように熱くなった。夢だと思う。だって降谷が新一のことを世界で一番大切だと想ってくれているなんて、新一だって現実だと受け止めきれない。 　ああ、でも、勘違いでも自惚れでもなければ――この想いと、それは、同じものではないだろうか。 　だって彼が新一に触れる手つきはとても優しくて、見つめる瞳は愛しいものを見るそれで、声はとろりと蕩けるように甘い。それが恋でないなら、いっそ恋じゃなくてもいいと思わせるほどに。 「思う、かも」 「ハハ、だよね」 　お互いに震えてしまうような小さな声で囁き合う。 　夢かもしれない。でも、これを夢になんてしたくない。新一は降谷のことが好きで、大切で、彼の特別になりたい。それと同じ想いを彼も抱いているのなら、それを夢になんてさせたくない。 　心臓がどきどきとうるさいくらいに鳴り響いて、このままいったらいつか心臓が止まってしまうかもしれない、そんな心配をするくらいに、抱きしめられた身体は全身が脈打っている。 　頬に当てられた彼の手のひらが、そうっと輪郭を撫でていく。その手の指先が柔らかな唇をなぞり、触れられた部分がじわりと熱を持った。 「じゃあ、夢じゃないって、確かめさせて」 　唇を寄せて乞われたら、それを拒むことなんてできやしない。 　そっと目を閉じて彼のことを受け入れる。軽く触れた唇が火傷をしそうな程熱くて、その熱だけが現実だった。触れては離れて、また触れての繰り返し。何度も何度も、これが夢じゃないというように、彼は口付けを繰り返した。 　ふわふわと足が地につかないような、くらりと眩暈がしそうな感覚に酩酊する。 　――大切な人の特別になることができる。それがこんなにも幸福に満ちたものだなんて知らなかった。 　ずっと彼は孤独だと思っていた。それを選んで、もう二度と大切なものを作らないと思っていた。けれどそれが酷く寂しい孤独だと気付いていたから、彼の傍にも新一がいるのだと知ってほしかった。大切だった。一緒に暮らしてみて彼が見せてくれた特別な表情を新一だけのものにしたくて、離れたくなかった。 　けれど、ずっと思い違いをしていたのかもしれない。 　彼が最初から新一を大切に想ってくれていたから特別な顔を見せてくれて、一緒に暮らして心配をしてくれていたのだとしたら。ずっと、ずっと待っていたのは彼だったのかもしれない。 　そう思ったら、ますますこの想いがあふれて止まらなかった。降谷の本心は彼にしかわからない。でも、今この瞬間が夢ではなくて現実で、新一が大切に想うように降谷も新一のことを大切に想ってくれている。その真実だけがあればいい。 　軽く触れ合わせるだけのキスなのに、唇を重ねる度に幸福に溺れて死んでしまいそうだった。離れるのが惜しくて、抱きしめられたままもっと、と強請るように彼の背中に腕を回す。 　呼吸が上がって苦しくなった頃に、ぺろりと唇を嘗められたところで、夢心地のキスは終わりを告げた。 「っふるやさん！」 「キスだけで真っ赤になって、可愛い」 　ばっと唇を離して名前を呼べば、きらきら、きらきらと蒼い瞳が嬉しそうに細められる。 　世界で一番大切だといわんばかりのその瞳が新一のことを映しだして、ああ、愛おしいなあ、と心から思う。真っ赤になっているのは彼も同じなのに、嬉しそうなその表情に何も言えなくなった。 　そういう顔をさせられるのは、きっと新一だけなのだ。そうしてたぶん、幸福に溺れて幸せに頬を緩めた表情を見せるのも、彼だけで。それがお互いだけなのだと思ったら、想いがあふれて眦からきらりと輝く幸福の滴が零れ落ちた。 　極彩色に彩られた美しい世界で愛された宝石が放つ輝きは、きらきらと光に満ちている。 　――これからもずっと続いていく輝く日々が、幸福であふれるように。

◆降新の恋物語。<br />◆公安と協力者の二人が一緒に暮らして距離を縮めていく話その七。終わり。<br />◆いろいろ捏造なのでさらっと読んでいただけると幸いです。<br /><br />◆ここまで読んでくださってありがとうございました！　シリーズを通してブクマ、いいねやコメント、スタンプ等本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。<br /><br />◆これでお話は一応区切りとなりますが、このお話をまとめた再録を9/17に発行します。誤字脱字等の修正を入れたものになります。紙媒体で保存したい方向け。書きおろしも入りますが本当に少しだけですので、おまけ程度に考えていただければ。多分ツイッターが一番情報早いです。<br /><br />◆新刊サンプルページはこちら【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10115201">novel/10115201</a></strong>】

【降新】シャイニング・デイズ　7【完結】

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「おめでとうございま〜す！2等の四つ葉水族館のチケット8人分でーす！」 い、いらねぇ…… 店長に言われて材料を買い出しに行ったらどうやらくじ引きをやってあり、5等の醤油でも狙おうと思ったらものすごくいらないものに当たった 「よかったですね！是非お友達と一緒に！」 俺に友達がいるとでも思ってんのか？とは言えずに黙ってチケットをもらう これどうしよう……とりあえず換金でもしてくるか……って、あいつらは…… 「がー！せっかくのチケットがー！？」 「これは運ですし仕方ありませんよ。場合となったら僕が……」 「馬鹿！そんなのじゃ意味ないだろうが！くじ引きで取ったチケットじゃなきゃ意味ないんだよ！」 「騒ぎすぎだろお前ら、通報されるぞ……」 「「「八幡さん！」」」 くじ引き近くで吠えている3人組は俺が働いているドーナツカフェの常連、桃園と同じ中学の知念大輔、沢裕喜、御子柴健人だった 「なにしてんだよお前ら……いや、やっぱり話すな、なんとなくわかるからいいわ」 「ちょっとそれはあんまりですよ八幡さん！？」 そう言ったのは大輔だった。本当は知念と呼ぶつもりだったが呼びにくいし、本人から名前でお願いされた 「どうせいつもの桃園たちのことだろ？」 そして俺は嫌そうに答える 大輔は桃園、裕喜は蒼乃、健人は山吹のことが好きなのだ。だが桃園たちの中では蒼乃くらいしか気づいてない 「いい加減諦めろ。特に裕喜はもう100回振られたって店長から聞いたぞ。新しい恋でも探せ。多分それも振られるが」 「八幡さんがそういうのはやめてくださいよ！冗談に聞こえないじゃないですか！？」 冗談じゃなくて事実を言ったつもりだが…… 「でも新しい恋か……キュアベリーさんとかいいかも……」 うん、それ蒼乃だからな。ダメだこいつ 「それより八幡さんもくじ引きに来たんですか？」 裕喜を哀れむと健人が話題を変えた 「まあそうだな。と言ってもほしいのじゃなかったがな」 そう言って水族館のチケットを見せた 「「「ああああああああ！？」」」 それを見せたら3人が絶叫した。何事だ 「八幡さん俺たちのたのm「嫌だ」……せめて聞いてくださいよ！」 えー、どうせこの後の展開がわかるし…… 「大方このチケットで桃園たちと水族館へ行ってあわよくば二人っきりになってそのまま告白……だからチケットをくださいだろ？」 「さすが八幡さん！話がわかる！」 おい裕喜、俺は一言も渡すとは言ってないからな？ 「悪いが俺はこのチケットを換金するんでな。その話は断らせ……っておい！？」 帰ろうとすると大輔たちが足にしがみついた 「そこを頼みます八幡さん！」 ええい鬱陶しい！本気を出せばこいつら吹っ飛ばせるがそれだと俺の正体バレるし……なにより周りの視線が痛い…… 「ああわかったわかった。チケットやるからくっつくな」 「「「ありがとうございます！」」」 「だが……お前らが誘っても勘違いすると思うぞ、特に桃園が」 大方桃園と蒼乃と山吹以外の友達を呼ぶつもりだろう 「た、たしかに……ラブならありえる……」 今までの経験上を知ってる大輔が同意する。というか名前呼びですか、けっ 「では八幡さんが誘うのはいかがでしょう？」 「は？」 健人がそんな提案したがなんで俺が？一応知らないけどあいつらと敵同士なんだよ？ 「そうか！すいませんが八幡さん何卒お願いします！」 「「お願いします！」」 これは断ったらさっきと同じ目に遭いますね…… 「……わかった、でも効果があると思うなよ」 俺が渡してもなにかあると思うだろ、だって相手女子中学生だぞ？ 「ありがとうございます比企谷さん！」 結果、簡単に釣れた。というか山吹に見せたら即刻でオーケーされた そういえば山吹って動物好きだよね 「やったー！水族館だよ美希たん！」 「そうね。でも比企谷さんがアタシたちに渡すなんて意外よね。てっきり換金しそうなイメージだったし」 鋭いな蒼乃。ほんとはそうするつもりだったわ 「まだ何枚かあったから大輔たちに渡したから案外会うかもな」 「えー、大輔にもあげたの！？」 えー、と叫ぶ桃園。これは脈はあるのか？ 「ペアチケットだが残り1人はどうする？」 「んー……あっ、せつなはどうかな？」 「せつな？」 誰だそれ？ 「最近できた友達なんだ！」 「でもせつなちゃんがどこにいるかわからないよラブちゃん？」 誰ともわからない子と友達になってるの桃園？ちょっと将来が心配 「どうしたのみんな？」 そんな時誰かがやってきた 「ミユキさん！」 たしかこいつはダンスメンバーのトリニティのリーダーじゃん…… なんでこんな人がいるかというと以前桃園に助けてもらい、それからダンスを教えているようだ。そして大輔の姉らしい。世間って狭いな 「比企谷八幡くんですよね？大輔の姉のミユキです。いつも弟がお世話になっています」 「別にこちらこそ。こちらこそよろしく知念」 「ミユキで構わないわ」 「そうだ！ミユキさんも一緒に水族館へ行きませんか？」 桃園はミユキを誘ってきた。おい、こいつ有名なダンスグループだから行けるわけ…… 「えっいいの！？行きたい行きたい！いいかしら八幡くん？」 いいんかい。仕事ないのかよ…… 「別にいいが……それと期限が短いがいつ行く？」 「明日です！」 決断早いな……まあ明日か…… 後で大輔に送って終了だ 「これで明日の幸せゲットだよ！」 桃園のそんな声が聞こえた 幸せで思い出したが……ここ最近俺って不幸のエナジー集めしてないな…… やっておかないとイースやサウラー、特にウエスターに馬鹿にされるのは勘弁だし……やるか フィーです 意外とコミュ力がある八幡 次回は甘酸っぱいところに八幡による魔の手が……！？ それでは次回もよろしくお願いします

ラビリンス編❸

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10112054#1

・こちらはちゃんねる風小説となっております。 ・作者はプレイ動画、アニメで世界観を把握しています。未プレイです。 ・口調の違い、キャラ崩壊の可能性があります。 ・一部扱いの悪い刀剣男士がいます。ヘイトの意図はありません。 ・誹謗中傷はお控えください。 ・誤字・脱字は優しく報告してくださると助かります。 ・原作には存在しない設定や世界観の捏造が含まれています。 ・ブラック本丸、ブラック男士要素が含まれています。 ・方言に関し、変換サイトを使用してはいますが、台詞内におかしい箇所があるかもしれません。 ・[[jumpuri:○○ちゃんねるジェネレータ > http://www41.atpages.jp/eroriha/gen01.php]]を使用させていただきました。[newpage] 1 審神者さん@緊急事態 これ以上俺の江雪さんが罪を重ねる前に 【http://waboku_is_power.jpg】 2 刀剣男士さん@緊急事態 何やねんその状況 3 審神者さん@緊急事態 いち兄が大変なことになってる 4 刀剣男士さん@緊急事態 あなた兄上に何を教えているんですか？プロレス技ですか？ 5 審神者さん@緊急事態 失礼だけど、なんかこの毛利くんちょっと薄汚れてない？ いや、キラキラした目で包丁にまとわりついてるあたりメンタルは大丈夫そうだけど 6 審神者さん@緊急事態 ブラック本丸に飛ばされたんだよね…？ 7 刀剣男士さん@緊急事態 レフェリーやってるのが堀川か？写真撮ってるのは>>1？ 8 >>1◆hEIkEdorI101 写真撮ってるのは山姥切 江雪さんがいち兄にかけてるのはテキサスクローバーホールド このままでは江雪さんによる和撲が始まってしまう 俺たちを見るなり斬りかかってきたブラック男士に慈悲を与えたいんだ 9 役人さん@緊急事態 飛ばされたときと今の状況、その場にいる味方を教えてください 安全な場所を見つけたら結界を張って籠城してくださいね 10 刀剣男士さん@緊急事態 役人さんｷﾀ━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━!! 11 審神者さん@緊急事態 役人さん来たけど油断はできんぞ！じゃんじゃん通報しろ！ 通報量が多ければ動かざるを得なくなるからブラックが介入しづらい！ 12 >>1◆hEIkEdorI101 ・飛ばされたときの状況 知らん役人がやってきて俺を「ブラック本丸を作った審神者として処罰をする」って言ってゲートに突き飛ばした 一緒にいる刀剣はたまたま近くにいたので一緒に飛び込んだ ・現在の状況 見ての通り ・味方 俺と一緒に来た刀剣：江雪左文字（カンスト）、堀川国広極（練度82）、山姥切国広（練度88）、包丁藤四郎（カンスト） 友好的なブラックの刀剣：毛利藤四郎 13 刀剣男士さん@緊急事態 もうちょっとkwsk とりあえず飛ばされたときのことといち兄に技をかけるまでを頼む 14 審神者さん@緊急事態 頼りになりそうな味方たちだな 15 刀剣男士さん@緊急事態 極めた上に練度八十代とか>>1の国広ゴリラかよ 16 審神者さん@緊急事態 でも絶対的な味方が４振りしかいないのはやっぱりなあ… 毛利君の練度はどうだかわからないし 17 刀剣男士さん@緊急事態 見ての通りっていち兄がかわいそうな目に遭ってるのはわかったから 18 >>1◆hEIkEdorI101 ・飛ばされるまで 江雪さんとゲートの前を掃除してたら知らんハゲ親父と取り巻きがやってきて 「お前をブラック本丸を作った審神者として処罰する」（要約）って言って 反応する間もなく取り巻きによってゲートに突き飛ばされた 近くにいた4振りは咄嗟に飛び込んできてくれたらしい ゲート弄ってる様子も見えなかったから事前に仕込んでたのかも ・一期に技をかけるまで 見つからないように物陰に移動したらたまたま毛利と鉢合わせた 敵対的ではなかったので包丁に飴玉やらせて懐柔したんだけど 長兄に見つかって抜刀されたので江雪の腹パン→ホールド技のコンボで終了 19 >>1◆hEIkEdorI101 >>16 毛利の練度は30くらい ちなみに現在の様子がこちら 【http://waboku_is_power2.jpg】 20 刀剣男士さん@緊急事態 いち兄が何したっていうんだよォ！ 21 審神者さん@緊急事態 見事なキャメルクラッチですね 22 刀剣男士さん@緊急事態 同位体ですが背骨がみしみし言ってる気がします。 23 審神者さん@緊急事態 適当に縛り上げて話聞けないの？ロープある？ 24 審神者さん@緊急事態 惜しいね、亀甲ちゃんがいれば縄が手に入ったのに 25 >>1◆hEIkEdorI101 亀甲は遠征中のはずだな… 【http:// torture.jpg】 26 刀剣男士さん@緊急事態 包丁―――――！！！ 27 審神者さん@緊急事態 ちょっとまってあのカバンの中ってお菓子以外も入ってるの？ 28 刀剣男士さん@緊急事態 あれは神域に繋がってるから入れておけば何でも出せるんだぞ 付喪神ならだいたいみんなできるぞ。すごいだろ 29 審神者さん@緊急事態 おじいちゃんがどこからともなく茶菓子を出すのと同じ仕組みらしいね。 ポケット的なものが少ない戦装束が多いからあまり使わないらしいけど。 30 審神者さん@緊急事態 だからってなんでこの子は銃火器を兄に突き付けてるんだよ 31 刀剣男士さん@緊急事態 口の中に銃口を突っ込んでいて殺意マックスですな！ 32 >>1◆hEIkEdorI101 尋問なう 【http:// torture2.jpg】 33 刀剣男士さん@緊急事態 だからいち兄が何したっていうんですか！！ 34 審神者さん@緊急事態 ×尋問 〇拷問 35 審神者さん@緊急事態 まんばが兄弟にめっちゃ引いてる 36 審神者さん@緊急事態 レア4のキャメルクラッチ×極脇差の鼻フック×弟の脅迫＝大ダメージ 37 刀剣男士さん@緊急事態 毛利助けてやれよｗｗｗ 38 >>1◆hEIkEdorI101 一期一振から聞き出したこと ・ここは相模 ・この本丸は過剰出陣系＋暴力系ブラックだった ・前任♂は刀剣男士にコロコロされた ・人間が憎い過激派とそこまでではない穏健派で刀剣は分裂してる（毛利は後者） ・呪具まみれの後任を斬って追い出したことがある（殺してはいない） 有力な情報はこんなものかな 誰かツテのある人調べてくださいなー いち兄はとりあえず気絶させてから手首をネクタイで縛っておいた もしうちのおでんが来たら今度こそ折られるかもしれないので軒下に隠しておいたよ 39 審神者さん@緊急事態 相模のブラック本丸か… 40 役人さん@緊急事態 >>・呪具まみれの後任を斬って追い出したことがある ここが気になりますね。正規の手段をとった審神者ではないのでは？ もしかすると監査部が把握していない本丸かもしれません 41 刀剣男士さん@緊急事態 >>もしうちのおでんが来たら今度こそ折られるかもしれないので軒下に隠しておいたよ ここも激しく気になる 42 審神者さん@緊急事態 後任って>>1をここに放り込んだやつの身内とかじゃないよな？ 43 審神者さん@緊急事態 >>40 ブラック役人の中にはブラック本丸（たいてい身内が作った）を隠し持ってて 邪魔者を排除するときに使うって噂があるけどそれ？ 44 刀剣男士さん@緊急事態 >>43 なくはない。見つかったら死罪じゃすまないレベル 45 >>1◆hEIkEdorI101 >>41 うちのおでんと一期はめっちゃ仲が悪い 基本おでんはつっかかる一期を適当にあしらうが機嫌が悪いと打撃76が唸る 証拠写真がこちら 【http://oden_vs_ichigo.jpg】 46 刀剣男士さん@緊急事態 いちにいいいいいいい！！ 47 刀剣男士さん@緊急事態 死んじゃう！いち兄が死んじゃう！ あと止めてよ>>1のボク！なんで普通に雑誌読んでるの！ 48 審神者さん@緊急事態 首を掴むのはやめてさしあげろ 49 審神者さん@緊急事態 そはやん以外止めてねえwww 50 刀剣男士さん@緊急事態 これ私の足が地面についていませんよね？ やめてくださいしんでしまいます[newpage] 51 刀剣男士さん@緊急事態 そういえば>>1たちは今どこにいるの？見つからない場所に隠れた？ 52 >>1◆hEIkEdorI101 >>51 とりあえず今は執務室について結界張ったよ 色々と探索してみる ちなみに執務室の画像がこちら 【http:// office.jpg】 53 審神者さん@緊急事態 うっわ 54 審神者さん@緊急事態 なにこの淀み… 55 刀剣男士さん@緊急事態 祓いたまえ…清めたまえ… 56 刀剣男士さん@緊急事態 タンスとか天井裏に何かあるかもしれないから見てみて もしかしたらこんのすけとか封印されてる可能性もあるし 57 審神者さん@緊急事態 >>写真 なんていうか、一言で言えば空気が汚い 58 役人さん@緊急事態 >>1 執務室なら結界を張る機能がありますが、念のため二重に結界を張っておいてください ただいま本丸を特定して急行します 59 審神者さん@緊急事態 役人さん頑張れ～！呼んでくれれば第一部隊でカチコミに行くから！ 60 刀剣男士さん@緊急事態 こんのすけがいるといいんですが。 壊されている可能性もありえますので… 61 審神者さん@緊急事態 穏健派に接触できればまだ大丈夫かな… 過激派に会ったら即刻斬られるよね 62 審神者さん@緊急事態 >>61 過激派は江雪が和撲するんじゃね？ 63 刀剣男士さん@緊急事態 戦いは嫌いですが、この状況で過激派が襲ってきたらどの私でも暴力に訴えると思います 64 刀剣男士さん@緊急事態 わたしもためらわずなずきをきるかな 65 審神者さん@緊急事態 そういえば>>1の本丸はどうなってるんだろう 変に強い呪具とか使われて操られたりしてないといいけど 66 刀剣男士さん@緊急事態 そうじゃのうても人質取られてるようなもんやきな。えずい状況ぜよ 67 審神者さん@緊急事態 >>1が来たら本丸コード晒してもらおうか？ 68 審神者さん@緊急事態 >>67 掲示板でそういうことして大丈夫なの？ 69 刀剣男士さん@緊急事態 >>68 緊急事態だから仕方ないんじゃない？ そうなったら後で削除申請出しておこうよ 70 審神者さん@緊急事態 とりあえず>>1か役人くるまで保守しとこう 71 審神者さん@緊急事態 ほしゅ 72 刀剣男士さん@緊急事態 保守 73 審神者さん@緊急事態 保守 74 ◆g0t0heLLbLack テスト 75 ◆hEIkEdorI101 こっちですか 76 審神者さん@緊急事態 >>1、酉バレしてるぞ 77 籠の鳥◆hEIkEdorI101 酉バレして問題ありませんよ。>>1は僕の主です 一応無事なようですね 78 刀剣男士さん@緊急事態 えっ 79 刀剣男士さん@緊急事態 傾国ｷﾀ━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━!! 80 審神者さん@緊急事態 マジで宗三？>>1の宗三なの？つーかなんで酉わかったの？ 81 籠の鳥◆hEIkEdorI101 >>80 身内ならだいたいわかるような酉なんですよ とりあえず証拠として主が見ればわかる写真を挙げておきます ちなみにこれは昨日の出来事です 【http:// fox.jpg】 82 刀剣男士さん@緊急事態 まってくださいなにがあったんですか 83 審神者さん@緊急事態 な、鳴狐センパイ…？ 84 審神者さん@緊急事態 何があったら俺らのナッキーが小狐をブリッジさせて椅子にするんだよ 85 刀剣男士さん@緊急事態 怒っているのではなく冷静なのが逆に恐怖 86 籠の鳥◆hEIkEdorI101 主に冤罪をかけやがったうつけ者はこちらで捕縛しましたので僕らは無事です そこそこ地位のある役人らしく、監査がなかなか手を出せないようです だから人質にして上層部との交渉材料にしています 今は拷問中ですね 【http://uchigatana_torture.jpg】 87 審神者さん@緊急事態 【画像が見れない人のために解説】 パンツ一丁のおっさん三人が椅子に縛り付けられ低周波治療器をつけられている 左のおっさんの口にバッタかイナゴを入れようとする鳴狐に加州が引いている 右奥で兼さんとむっちゃんがギャングダンス 88 刀剣男士さん@緊急事態 ギャングダンスクッソワロタwwwww 89 審神者さん@緊急事態 >>87 説明thx 虫嫌いだから開くのやめたわ 90 審神者さん@緊急事態 さすがに強制食虫はやめてあげて… 91 刀剣男士さん@緊急事態 バッタかイナゴか知らないがせめて佃煮にでもしてやれよ 92 刀剣男士さん@緊急事態 >>91 論点そこなが？ 93 籠の鳥◆hEIkEdorI101 外部から妨害を受けているようでゲートが開かず遠征部隊や買い出し部隊が戻れません 管狐が通信できるのは不届き者の関係者と思わしき役人のみです 端末も電波が妨害されていて、通信にかなり時間がかかります 古備前が監査部に、無用組が師匠の本丸にそれぞれ遊びに行っているので そこから連絡を取ることになりました そちらの本丸に繋がったら第一部隊で迎えに行きますので、それまで耐えてください 一度落ちます 94 審神者さん@緊急事態 籠の鳥おつ 95 刀剣男士さん@緊急事態 うえー…ゲートと電波を制限してきやがったか 典型的だけどめんどくさいやつだ 96 審神者さん@緊急事態 出陣中の部隊いなかったのか。それならまだ安心だけど 97 刀剣男士さん@緊急事態 時間がかかっても連絡が取れるなら、出陣・遠征以外で本丸外に刀がいたのはラッキーだね。 98 刀剣男士さん@緊急事態 >>1戻ってこないな。まだ探索中か？ 99 >>1◆hEIkEdorI101 噂をすれば何とやら 宗三と入れ違いになったか… 100 刀剣男士さん@緊急事態 >>1お帰り！何かあった？ 101 審神者さん@緊急事態 >>1おかえり～[newpage] 102 刀剣男士さん@緊急事態 お帰りなさい>>1 スレにいたのって>>1の宗三なの？ 103 >>1◆hEIkEdorI101 >>102 端末を誰かに奪われてないならうちの宗三 >>81にあった写真は小狐丸に油揚げ食われた鳴狐の制裁 探索中に見つけたもの ・ブラック審神者の日記 ・某刀剣男士のメモ書き ・折れた刀の破片 ・注射器 104 刀剣男士さん@緊急事態 >>・折れた刀の破片 おい おい 105 審神者さん@緊急事態 日記とメモ書きについてｋｗｓｋ 106 刀剣男士さん@緊急事態 メモ系があったらチェックするのがCoCのお約束 107 審神者さん@緊急事態 注射器も気になるけどSAN値下がりそうでこわい 108 >>1◆hEIkEdorI101 とりあえず上から順番に行く ・ブラック審神者の日記 まずここの審神者♂だが、最初は少し怠惰なだけで普通の審神者だったらしい 途中でおかしくなって過重出陣・暴力系ブラックになったそうだ 日記の中身の最初は愚痴くらいだけど途中から理想の刀剣を作る儀式の話になってくる 詳しい内容は伏せるけど、山姥切の感想は「干将莫邪の魔改造」だ 暴力行為もその過程で行われたらしい 109 審神者さん@緊急事態 >>干将莫邪 かんしょうばくやって読むんだね 110 刀剣男士さん@緊急事態 ぐぐってきた。嫁が炉に身投げしなかったとしても嫌な作り方だな 111 審神者さん@緊急事態 干将莫邪の魔改造って…あっ（察し） 112 >>1◆hEIkEdorI101 ・某刀剣男士のメモ書き 審神者がおかしくなってから顕現した刀が書いたもの 審神者を諫めていたのを疎まれて儀式の生贄みたいな扱いにされたようだ でも一部からは気に入られていると思われて嫌がらせされてる 「誰かここを見つけたときのため」いつ何があったか丁寧に書かれてる ・折れた刀の破片 メモ書きした刀剣と同一人物と思われる 主を殺して自分も折れるというメモがあったし審神者をころころしたのは彼だと思われ 某刀剣は毛利くんと関わりの深い相手で これを見つけた時に号泣しちゃったから慰めてた 113 審神者さん@緊急事態 もう…もうマジ… 114 審神者さん@緊急事態 某刀剣って兄弟？それとも池田家の面々とか…？ 115 刀剣男士さん@緊急事態 >>114 特定することに何の意味があるというのです(；ω；) 116 >>1◆hEIkEdorI101 某刀剣はちょっと手に入りにくい刀とだけ ・注射器 これで儀式に使うための刀剣の血を抜いていたと思われる 117 審神者さん@緊急事態 >>干将莫邪の魔改造 >>儀式に使うための刀剣の血を抜いていたと思われる もしや、その本丸って刀剣の血を炉に突っ込んでたんじゃ… 118 審神者さん@緊急事態 ﾋｪｯ怖い 119 >>1◆hEIkEdorI101 >>117 君のような勘のいいガキは嫌いだよ 120 >>117さん@緊急事態 俺以外にも思いついた奴いると思うけど当てたくなかった 121 審神者さん@緊急事態 ＼(・ω・＼)SAN値!(/・ω・)/ピンチ! 122 刀剣男士さん@緊急事態 つーかそういうことして大丈夫なの？炉に審神者以外の霊力が入るんでしょ？ 123 刀剣男士さん@緊急事態 >>122 鍛刀機能が使い物にならなくなることは確定。たぶん鉄屑しかできなくなる。 ブラ本なら穢れた神気が入るから鉄屑も穢れる。 124 審神者さん@緊急事態 >>123 ﾃﾞｽﾖﾈｰ 125 籠の鳥◆hEIkEdorI101 干将莫邪も妻の血を炉に注いではいませんよね 126 審神者さん@緊急事態 あっ>>1の宗三いらっしゃーい 127 刀剣男士さん@緊急事態 >>1の宗三殿がスレへと帰還なされた！皆の者、集合せよ！ 128 >>1◆hEIkEdorI101 宗三、本丸はどう？ 129 籠の鳥◆hEIkEdorI101 まだうつけ者共の関係者しか連絡が繋がりませんね ですが、黒幕については吐かせました 古備前に連絡しましたので、彼らが監査と向かう予定です 黒幕を捕縛した場合は古備前のどちらかがスレに顔を出す予定です 一部隊を除いて遠征部隊は師匠の本丸にいます 買い出し部隊は一部の役人との接触を避けるため店にいます ベーコンポテトフランスをお土産にするつもりだそうです 130 >>1◆hEIkEdorI101 よっしゃ絶対無傷で帰る 131 刀剣男士さん@緊急事態 ベーコンポテトフランスが好物なのか>>1 132 審神者さん@緊急事態 >>買い出し部隊は一部の役人との接触を避けるため店にいます 何かあったの？ 133 審神者さん@緊急事態 黒幕わかったか。これで勝つる 134 刀剣男士さん@緊急事態 >>345 お前はまだマシだ うちの長谷部なんてルイズコピペの主改変版を加州に誤送信して殴り合いになったぞ 135 刀剣男士さん@緊急事態 すまん誤爆だ 136 審神者さん@緊急事態 ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 137 刀剣男士さん@緊急事態 俺の茶を返せwww平野に淹れてもらったんだぞwwwwww 138 刀剣男士さん@緊急事態 全く関係のないへし切が大ダメージ 139 >>1◆hEIkEdorI101 おいこらふざけんなどこに書き込むつもりだったんだそれwwwww 140 刀剣男士さん@緊急事態 笑った奴、演練で会ったら覚悟しておけ 141 籠の鳥◆hEIkEdorI101 ちょっとやめてください ﾃﾞｭｯﾌとか気持ち悪い声が出てしまったじゃないですか 142 審神者さん@緊急事態 そんなキモオタみたいな声出す傾国ヤダwww 143 籠の鳥◆hEIkEdorI101 >>131 主はじゃが芋が好物なんです >>132 うつけ者共の息のかかった役人の顔写真が大包平から送られてきたので 本丸中に転送してきたんですが、その中の一人が万屋街にいるようなんです 買い出し部隊は手に入りづらかった刀なので見つかると少し厄介です 何かあっても撃退は容易ですが、念のため 144 刀剣男士さん@緊急事態 なるほど。部署によっては刀剣の主を探すことができるもんな 145 審神者さん@緊急事態 何かあったら店員さんに頼んで監査部呼んでもらいなよ～ 146 >>1◆hEIkEdorI101 買い出し部隊がいるのって虎徹が経営してるところだよね？ まんばがダブルクリームコルネを所望してるのでよろしく あと江雪さんが執務室の汚れにイライラしてるから機嫌が良くなりそうなの買ってきて ここを襲撃する場合は手筈通りに頼むよ 織田か貞ちゃんかむっちゃん入れてくれ 147 籠の鳥◆hEIkEdorI101 わかりました。生クリームあんパン買ってこさせます 一度落ちますね 148 審神者さん@緊急事態 ﾉｼ 149 刀剣男士さん@緊急事態 宗三ﾉｼ 150 審神者さん@緊急事態 お店あそこか…パン屋だけど何気にコーヒー美味しいよね[newpage] 151 >>1◆hEIkEdorI101 新たに分かったこと ・この本丸は7年程度運営されていた ・刀帳が埋まっているのは62振 ・今残っているのは毛利含めて22振。短刀は毛利以外全滅 ・22振のうち、3分の1程度が穏健派 ・後任の傷は死ぬようなものではない ・霊力から判断するに後任は前任の身内 152 刀剣男士さん@緊急事態 ７年の間に４０口が折れるってやばいだろ 153 審神者さん@緊急事態 もうまじ…まじつらい… 154 刀剣男士さん@緊急事態 >>152 一年につき五振りか六振りの折れとる計算になるちゃ 155 審神者さん@緊急事態 前任の身内が後任ってことは一族郎党で何か企んでるのか？ 156 審神者さん@緊急事態 そういえばこんのすけはまだ見つかってないの？ 157 刀剣男士さん@緊急事態 >>155 何も考えず身内の不祥事を隠蔽しようとした可能性も… 158 刀剣男士さん@緊急事態 短刀が身内にいる俺としては、毛利以外全滅というところが辛いな 159 審神者さん@緊急事態 後任が死んでないってことはちょっと斬って（刀剣判断）脅して追い返したのか？ 160 >>1◆hEIkEdorI101 >>156 まだ見つかってない 過激派の味方になってないといいんだけど それと過激派が俺たちの存在に気付いたようだ 二重に貼ってある結界の1つ目だけど大丈夫かな… 【http:// kekkai.avi】 161 刀剣男士さん@緊急事態 うわびっくりした 162 審神者さん@緊急事態 普通に怖い 163 刀剣男士さん@緊急事態 無言でひたすら斬りつけてるのが逆に怖いわ 164 刀剣男士さん@緊急事態 体型的に打刀か脇差かな？脇差にしては大きいから打刀かな 165 審神者さん@緊急事態 軋むような音がし始めたら注意しろ そのときは結界に霊力を多めに注いで強化するんだ 166 >>1◆hEIkEdorI101 俺の結界はそこそこ強いけど高練度槍なら破れるかも それ以外ならぼよんぼよん跳ね返されるだけだからまあいいけど 167 審神者さん@緊急事態 ちょっと待って？ 168 刀剣男士さん@緊急事態 結界ってぼよんぼよんするものだったっけ 169 刀剣男士さん@緊急事態 攻撃反射機能ですか？ 170 >>1◆hEIkEdorI101 俺が結界張るとゴムみたいな弾力なんだよ 執務室のは俺の本丸じゃないから普通に硬そうだけど ちなみにこちらが実験動画 【http:// kekkaijikken.avi】 171 刀剣男士さん@緊急事態 くっそｗｗｗ 172 刀剣男士さん@緊急事態 剣筋がスーパーボールみたいになってるぞwwww 173 刀剣男士さん@緊急事態 >>1の結界に斬りかかった瞬間に合わせて体当たりすることで相手にダメージを与えられるいうのはわかった 174 審神者さん@緊急事態 >>173 斬りかかったのが安定で体当たりが秋田くんだから尻餅つくぐらいで済んでるけど 例えば斬りかかる短刀と体当たりする長物ってパターンだと確実に吹っ飛ぶと思うよ 175 審神者さん@緊急事態 映像の２振りが楽しそうだしケガもなさそうだからほっこりするけど 歴修側の立場になって考えるとなかなか面倒だな 176 刀剣男士さん@緊急事態 本丸の結界がこれだったら襲撃率下がりそう 177 >>1◆hEIkEdorI101 結界斬りかかる刀が増えたっぽい？ シルエット的に槍みたいだからちょっと罠仕掛けるわ 178 審神者さん@緊急事態 槍はまずい！最悪貫通される！ 179 刀剣男士さん@緊急事態 罠ってなんだ…？ 180 刀剣男士さん@緊急事態 気を付けろ。危険だと思ったらすぐ下がれ 181 審神者さん@緊急事態 ブラックの刀って基本ぼろぼろだろ？練度が高くてもいつもの力は出せないんじゃない？ 穢れた本丸ならまともな刀装も作れないだろうし 182 刀剣男士さん@緊急事態 そいつがお気に入りだったりして傷が浅いなら動けるかも… しまい込まれてたら練度低いだろうからいいけど 183 刀剣男士さん@緊急事態 >>182 問題は贔屓されて出陣を任されてる場合だよな。 184 >>1◆hEIkEdorI101 【http:// kekkai2.avi】 185 刀剣男士さん@緊急事態 ちょwwwこれwwwww 186 審神者さん@緊急事態 執務室の結界を解除 →勢い余ってもう一つの結界にぶつかる無用組 →跳ね返されて遠くまで吹っ飛ぶ コントかよ 187 刀剣男士さん@緊急事態 いいぞもっと俺を楽しませろｗｗｗ 188 刀剣男士さん@緊急事態 うちの無用組が腹抱えて笑ってるんだけどいいのかい？同位体だぜ？ 189 >>1◆hEIkEdorI101 俺の結界、与えた衝撃と同じくらいの衝撃を返すらしいんだよね ただこれは霊力を込めて反発力上げたので与えた衝撃の3倍は返ったな 190 審神者さん@緊急事態 最後までよく見るとﾄﾞｯｺﾞｫって鈍い音がするから無用組はどこかに激突したな 191 刀剣男士さん@緊急事態 >>190 もう一回再生してみたけど、たぶん地面に落ちた時の音じゃなかったね 192 審神者さん@緊急事態 見ればやばいってことはよくわかる だって無用組がマジで吹っ飛んでるもん。足が宙に浮いてた 193 籠の鳥◆hEIkEdorI101 自分の主のことながら、相変わらず規格外な結界ですよね 194 刀剣男士さん@緊急事態 >>1の兄様、お帰りなさい 195 審神者さん@緊急事態 宗三来た！ 196 審神者さん@緊急事態 宗三、何か進展あった？ 197 籠の鳥◆hEIkEdorI101 良い知らせと悪い知らせ×２、どちらを先にしますか？ 198 刀剣男士さん@緊急事態 悪い知らせが二つあるの？ 199 審神者さん@緊急事態 良い知らせからお願いします 200 刀剣男士さん@緊急事態 悪い知らせから頼む 201 >>1◆hEIkEdorI101 とりあえず良い知らせから

ぶっ飛び審神者は「ためらいなく人の頭を金属バットで殴れるか」といったらNOですが、「ためらいなく等身大リアル人形の頭を金属バットで殴れるか」といったらYESです。「ためらいなく人を金属バットで殴れるか。ただしその場ですぐ元通りに治癒できるものとする」だと頭と股間以外はYESです。銃だと手に感触がないのでよりやりやすい。<br /><br />【9/13追記】コメント・ブクマありがとうございます。物騒でおかしな審神者の活躍はまた次回。

ブラック本丸に飛ばされた助けて【前】

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松田と萩原とは学生時代からの付き合いだった。 高校が同じで、クラスも同じになった私たちはウマが合い、何かと行動を共にするようになった。顔のつくりが良かった二人にはファンが大勢いて、羨望のまなざしだったり、やっかみを受けることも少なくはなかったが、それでも私たちは仲が良かった。変に恋愛感情を持ち込まないから彼らにとって居心地が良かったのだと思う。まあこの狭いコミュニティーの外では好き勝手していたけど。 交流は高校を卒業してからも続いた。進学先は違ったが、近くの大学に通っていたため時間が合えばそれまでと変わらず一緒に時間を過ごしていた。 彼らが警察学校に入学してからは、頻度は格段に減ったが、それでも遊ぶことはやめなかった。お互い気を使わなかったし、長い間過ごしてきたことで培ってきた空気感は何だかんだ居心地が良かった。 そして驚くことに、彼らとの付き合いは大人になっても変わらなかった。就職をして一人暮らしを始めた私の家に、松田が何かと入り浸るようになったのだ。この頃になると萩原はあまりうちには訪れなくなった。きっと彼女でもいるのだろう。 何となく今までずっと一緒に居たから今も一緒に居るのだ。松田はうちに寝にくるだけのときもあれば、ご飯を食べたらそのまますぐ出かけて行ったりということが多かった。 最初は二週間に一回くらいだった来訪のスパンが、いつの間にか一週間に一度くらいになっていて、今では二、三日に一回は顔を見るようになっていた。ある日は仕事から帰ったら家に居た、なんてこともあった。自分の家の家賃、無駄になってないのかな。 なんとなく、付き合ってるのかな？と思うことも多々あったけど、彼と一度も寝たことがない、という事実が決定打だった。同じ布団に入ったこともある。でも、少しもそういうことにはならなかった。 外で他の女性と歩いてるところを見たことがある。遠目だったが、とても可愛らしい人だった。もしかしたらあの人が彼女なのかもしれない。 高校からの友人、親友？それ以外の肩書は、何？ 今までずっと一緒だった。今も。じゃあこれからは？ 絶対なんてどこにもない。私たちの今までの数年は、何の確約もない脆いものなのかもしれない。 ある週末、私は久しぶりに萩原に連絡を取り、一緒に飲むことになった。松田抜きで。最初に誘ったとき、彼は渋っていたけど、長い間そんなこともなかったのだし、と強気で押し切って何とか約束をこぎつけたのだ。 うちからもほど近いお店に到着すると、約束の時間より早いのにも関わらず、既に萩原は店先で待っていた。姿が見えたところで早足で駆けよれば、萩原も私に気付いた。 「よー」 「お待たせ。久しぶりだね」 「だな。とりあえず入ろう」 とても素っ気ないようなやりとりだけど、何年もずっと一緒に居ればたとえ久しぶりに会ったとしても、さっぱりしたものなのだ。席に案内され、取り敢えず生ビール、と店員に注文する。安い居酒屋だけど、これくらい喧騒に包まれているほうが気が楽だし、何よりご飯が美味しい。運ばれてきたジョッキを掴み、萩原のと合わせ音を鳴らした。 「いや～本当に久しぶりだよね」 「萩原がうち来ないからじゃん」 「嫌だよ俺松田に殴られたくねーよ」 近況報告を終え、間髪入れないいつもの応酬が落ち着いたころに、しみじみと萩原がそう切り出すから、原因はそっちだと言わんばかりに口をとがらせると、萩原は斜め上の発言をした。昔は毎日のようにお互いの家を行き来していたというのに。少しだけ、私の声のトーンが下がる。 「何でよ。そんなことにはならないでしょ」 松田が萩原のこと殴るなんてそんなこと、…まあ、ちょくちょくあったけど。大体の原因は萩原が余計なことを口にしてのことだったけど。でも今までのそれは全部叩いてるって感じのじゃれあいだったから、ノーカウントかな。そう思い、枝豆を口にすると、同じく枝豆を手に取ろうとしていた目の前の彼は意外そうな表情をした。 「は？お前ら付き合ってんでしょ？」 「え？私たち付き合ってたの？」 「は！？何どういうこと？」 「そうなんだ…」 そうか、付き合ってたのか。私と松田。一度も寝てないけど。それ以前に好きとも言われてないけど。いや、萩原の都合のいい思い込みだとは思うけど、付き合っていると言われたらそうなのだと素直に受け入れられるだけの実績と経験があった。 松田にとって程のいい居場所でしかないと思ってた。いや、本当に付き合ってるとしても都合のいい存在だということに変わりはないのだろうけど。 あっけらかんとした私の態度に萩原は何を思ったのか、とうとう口を閉ざした。 「松田、何か言ってた？」 「いや…あー、うん。そっかあ…」 「何も伝わってこないんだけど」 唸ったような声しか発さなくなった萩原の眉間には、見たこともないような深いしわが寄っていて、こめかみをほぐすように指で押さえていた。最後の一つとなった枝豆に見向きもしないので、これは私がいただくとしよう。つるりとした舌触りが口の中に飛び込んでくるのを楽しむ。 そうか、萩原は、私と松田が付き合っていると思って気を使ってくれていたのか。遠慮させてしまって、とても申し訳ないことをした。交際しているかどうかの事実がどうであれ、萩原も松田も大切な人だということには変わりないのだから、これまで通りでいいのにと思った。 休日、家の外に出ることもなく、お昼過ぎまで睡眠を貪り、ごろごろと堕落した時間を過ごしていた時だ。そろそろ夕飯の準備にでも取り掛かろうと重い腰を上げ、冷蔵庫の中身を確認し、軽いものでも、と材料を洗い始めたそのとき、来訪を告げる音が鳴った。宅急便を頼んだ覚えもないし、家に訪ねて来るような約束も取り付けていない。大家さんかな？と疑問に思いながら玄関を開けると、そこに立っていたのは松田だった。 何故かうちの合鍵を持っている松田は、うちに来るときは大体その鍵を使って知らないうちに部屋にいるから、こうしてわざわざ知らせるのは滅多にないことだ。 「あれ、松田どうしたの。鍵、忘れた？」 「……いや」 「今日ご飯大したのないんだよ～…何か買ってくる？」 「別にいい」 サンダルに足をつっかける私の横をすり抜けるようにして、慣れたようにキッチンの奥へ進んでいく松田は、少し機嫌が悪そうに見えた。仕事が忙しいのだろうか。そういえば、この間萩原と飲んでから松田がうちに来るのは初めてだ。 鬱陶しいものを払うかのように真っ黒のジャケットを脱いだ彼は乱雑にそれをソファーに投げる。やっぱり、どこか虫の居所が悪そうだ。触らぬ神に祟りなし、彼の方から口にするまで放っておくことにする。 ソファーに浅く腰掛ける松田に背を向け先ほどの作業の続きに取り掛かる。松田も、私が自分から触れてこないということに気付いたのだろう、仕方ないという空気を隠すことなく口を開いた。 「お前、この間萩原と飲んだのかよ」 「うん、萩原に聞いたの？」 「なんで」 「仲間はずれにされたから拗ねてるの？」 耳に届いた声は思いのほか地を這うような低さだったから、思わず包丁を置いて振り返る。最早不機嫌を隠そうともしていない二つの視線が私の顔を射抜くように見つめていた。しかしこれで怯むような私ではない。松田の機嫌が悪いことなんて今までごまんとあった。流石にもう慣れた。 「てめえは付き合ってもねえ男と寝るのかよ」 急な話の転換に驚いたが、先日の萩原との会話の内容も奴から聞いたのだろう。身に覚えのある話だったので、すぐに飲み込めた。 「寝たけど、寝てないじゃん」 寧ろこっちのセリフなんだけど。好きとも言っていない相手の家に来てベッドに一緒に寝るって、付き合っててもそうじゃなくても割とアウトだと思うけど。 自信を棚に上げたような物言いに、少しムッとする。落ち着かなくては。このままではお互いに臨戦態勢に入ってしまう。止めてくれる第三者がいないときは出来る限り冷静でいなければ。昔馴染みのデメリットは、いつまでも当時の感覚が抜けきらないところかもしれない。 「口の減らねえやつ」 「そういう大事なことはふつう、きちんと口にするものなの」 言わずとも伝わると思っているのなら、それは大きな勘違いだ。そういう絆がものをいうのは時と場合によるのだから。 意識して怒りを抑え、淡々と言い返す。言い返している時点で完璧に抑えられていないのだけど、まあいい。今の私では及第点だ。 ふう、と深く吐きたくなるため息を最小限に抑え、再び食材に向き直る。野菜を細かく刻み、水を張った鍋に投入する。とりあえずのコンソメスープだ。 「そういうことだから」 「どういうこと」 「だから、付き合うって」 尚も言葉足らずな松田だけど、これは言いたいことは何となくわかった。『付き合っているという認識でいいから、しっかりそう自覚しろ』だ。 これで伝わっちゃうんだから、すごい。他の人じゃこうはいかないんだから感謝してほしい。もしかして、職場の人にもこんな態度じゃないでしょうね。有り得そうだから恐ろしい。 はあい、と間延びした返事を上げながらも、料理をする手は止めない。すると、松田は言いたいことは全部言い終わったのか、さっき脱いだばかりのジャケットを手に取りそのまま玄関までズンズンと突き進んでいく。キッチンからはその姿は見えないから、壁から顔をひょこっと覗かせるようにすると、靴を履いている姿が見えた。 「どこ行くの？」 「仕事だよ」 ドアが閉まる直前、鍵閉めろよ、と残すのはいつも通りだったが、口調はやっぱり怒っていた。何で？…って原因は私か。わざわざこの話のためにうちに来たのかな。電話くれればよかったのに。っていうか、少しくらい食べていくと思って多めに野菜切ってしまった。すぐ出るなら先に言ってほしかった。 行き場のなくなった野菜たちは、炒めて冷蔵することにしよう。 それより、これからは松田の彼女ってこと？もしかしたら、松田の中では今までも彼女という位置づけだったのかもしれないけど。私からしたら、ようやく名前のもらえた自分のポジションだ。 『彼女』 松田の言う通りしっかり意識持たないといけない。彼女の。 いや…彼女って、何だろう？今までしてきたこととあんまり変わらないんじゃないかな。家に来て、ゆっくりして、ご飯一緒に食べて、夜は一緒に眠る。やっぱり今まで通りな気がするけど。でも意識が変われば流れる空気も自然と変わるはず、多分。 ふむ、と部屋をぐるりと見回した。 …やっぱり、居心地のいい空間を作って待ってなきゃダメだよね。大変な職業に就いているわけだし。 とりあえず、心も体も休まる居場所作り、これが目下の私の目標となった。 まずは、生活の大改革だ。今までは、来た時にその場でできる限りのおもてなしをしてきていたけど、これからは常に最上級の準備をしておいて、くつろいでもらうようにするのだ。食材もそうだ。私の好きなものしか入っていなかった冷蔵庫だけど、これからは松田の大好物も入れておくようにした。 お酒も常備するようになった。煙草だって、私は吸わないけどライターを家に置いといたし、灰皿だって可愛いものを買った。 ネットで色々と検索もした。検索履歴は、とてもお花畑みたいな内容で埋め尽くされている。萩原に見られでもしたら間違いなく海に沈む。 最初こそ松田は、急に変わった私に驚いていたけど、私はその反応が見たかったのだ、と満足した。松田に言われた通り、彼女として出来る限りのことをしているはずだ。なんだかんだ言って、私も松田のことは好きだったから喜んでほしかったのだ。 「ご飯食べ終わった？コーヒーあるけど、甘いのにする？」 「…お前、そのコーヒーメーカーどうしたんだよ」 「美味しいコーヒー飲めるってレビューにあったもので、つい」 普段、最低限の服を買ったりお酒を飲むくらいしかお金を使う機会がなかった私の貯金は、同年代の女性よりは少しばかり多くあったので、幸い色々なものを買いそろえるのに躊躇することは無かった。少し早いけれど未来投資だと思えば、逆に気分も上がる。こんなこと考えているなんてことは流石に松田本人には言えないけど。 何か言いたげにコーヒーを飲む松田を見ないふりしてシンクに溜まった洗い物を消化していく。ちなみに、松田が飲んでいるコーヒーのマグカップも新しく買った。何となく松田をイメージして、夜空のような濃藍色のものだ。…ここだけの話、私の趣味で買ったラブリーな猫ちゃんのマグカップを使っている松田も面白くて好きだったから、ちょっとだけ寂しい気持ちもある。 「お風呂ももう沸いてるから、入るなら好きなタイミングでどうぞ」 松田は無言でこちらを見ている、気がする。背中に刺さりそうなほどの視線を感じるのだ。お皿がぶつかる音と水が流れる音で定かではないけど。 何、なんか変なこと言った？いつも通りのはずなんだけど。むしろ、いつもよりも尽くせてない？自分で言うのもなんだけど、今日は調子がいい。 手を拭いて振り向くと、くつろいでいると思っていた松田は帰る支度を始めていた。てっきり泊まっていくと思ったんだけど。急なお仕事の呼び出しだったりするのかな。様子を窺うように見つめれば、松田は呆れたようにため息を吐いた。 「お前なんか勘違いしてねえ？」 「え？」 それ以上何も言わない松田に、私も二の句が継げず沈黙が訪れる。数秒のあいだ膠着状態が続いたが、それを打破したのは松田の方だ。固まって立ちすくんでいる私の横を、触れるか触れないかの距離で通り過ぎて行った。 ああ、そうだ。よく考えたら、あんな話をしたのにもかかわらず松田は私に触れてくることは一度もなかったのだ。意識していれば変わると思っていたけど、変わったのは私だけで、松田は今まで通りで、そういう欲を滲ませることすらなかった。勘違いって、そういうこと。意識していなくても私から零れ落ちてしまっていたそういうものを感じ取ったのかもしれない。それで、嫌になったのかも。 出しゃばらないで頑張ってきたけど、それでもだめだったのかな。私は楽しかったけど、松田は違ったのかもと思うとやるせなかった。 もしかして、そもそも最初から彼女ですらなかったっていうこともある？私が解釈を間違えてただけなのかな。ひとりで張り切って勘違いしてただけってこと？でもそれはさすがにないかな。彼女というものの認識の違い？それはあり得るかも。 世話焼きすぎてうざかったのかもしれない。でも、今までと一線を引こうと思ったらこうなってしまったんだ。それでも松田は干渉してこない彼女を求めていたってこと。だとしたら勘違いって、そりゃ勘違いしまくりじゃん私。今まで通りで良かったものを無理に動かそうとしちゃったってことでしょ？ ソファーに寝転び、足を投げ出す。天井の照明がいやに眩しくて、目を閉じた。まぶたの裏に浮かんだのは、帰って行く松田の後ろ姿だ。 あんな捨て台詞を残されたってことは、もう終わりってことかもしれない。何をどこで間違えたのやら、いくら思い返してみても、原因は思い当たらなかった。 [newpage] あの日を最後に、松田はぱったりと来なくなった。気まずいだとか、今さらそういうのが邪魔するような関係でもないので、仕事が立て込んでいるのだろうか、それともただ単に来る気がないのか。恐らく後者だと思っている。だって、今までどれだけ忙しそうにしていたってうちに来ることだけはやめなかったのだから。だからきっともう、ここにはこないのだろうと予測している。 萩原はこのことを知っているのかな。松田からわざわざ報告するとは思えないけど、聞かれたら答えているはずだ。私が松田や萩原のこと手に取るようにわかるのと同じで、萩原も私たちのことを分かっているのだ。何も言わずとも察するくらいはしてそう。特に松田の機嫌なんて、ジェットコースターみたいに上下するから、一目見ただけでわかりそうなものだ。 指をスライドさせて、表示された名前は今考えていた、萩原だ。タップしてコールを鳴らすと、数回の後に電子機器を通した声が聞こえた。 『どうした？』 「今平気？」 『おー。煙草吸ってっから大丈夫。なに、大事な話？』 「…そんな感じ」 私が言い淀んだことに気付いたのだろう。柔らかい口調で問いかけて来る萩原はやっぱり、私のことなんてお見通しだ。電話越しだから、香りなんてしないはずなのに、萩原の吸うたばこと、愛飲しているコーヒーが近くにあるように錯覚した。 「松田、何か言ってた？」 『いや～…何かあったんだろうなとは思ったけど、特には。どうした？』 「しばらく来ないから、どうしたかなって…」 『本人に聞いてみる？』 「えっ」 本人に聞く、って何。もしかしてすぐ近くにいるの？聞くって、うちにこない理由を？萩原が聞くの不自然すぎないか、それは。 いいよ、という私のお断りの言葉に被せて、静かにするかミュートにしててね、と勝手なことを言っている。この男…、と一度耳から離して画面を睨むが、そんなことをしても何十キロも遠くにいる萩原には届かない。 『おー松田』 『んだよ』 ああ、そうこうしているうちにあちらはもう場面が展開されているみたいだ。今から止めても無駄だし、そもそも言葉も届かないだろう。ここはおとなしくしておこう。 『最近どうよ。あいつと』 『あー…』 『なに、うまくいってねえの？』 うまくいくもなにも、そもそも付き合っていたのかも怪しいから。 心の中で二人の会話に合いの手を挟む。 『あいつと俺は違う』 何が。 『相手に求める欲』 カチ、という音が聞こえたので、きっと松田も煙草を吸い始めたのだろう。どこかの喫煙所でこんな話してるの、他の人に聞かれたら私が恥ずかしいんだけど。周りに人いたりしないよね。 『違うって、何が』 『俺とあいつはそもそも気持ちのベクトルが違ったって話』 『は？良く分かんねー俺』 萩原、奇遇だね。私も良く分かんない。ベクトルが違ったって、やっぱり松田はそういう付き合いがしたかったわけじゃないってことだよね。私はやっぱり、都合がいいときに、気が向いたときに訪れる場所だってこと。だから一度も私を抱こうとはしなかったんだよね。 それなら、何で付き合うだとか付き合わないだとか、そういう話を持ち出したの。あの話をする以前のままだったら、松田の望んだとおりの状況だったのに。 あんたの方こそ、好きでもない女と一緒に寝てんなっつーの。

けどやっぱり付き合ってない話

松田くんと付き合ってないと思ってたら付き合った

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クリスマスが終わり早一か月経っていた。 そんな日の学校では 戸部「最近チョコにはまってさ。八幡もどう？」 八幡「いきなりどうしたんだよ？戸部今までチョコ食ってるところ見たことないが……」 三浦「ッチ！！戸部あんた狙いすぎ」 八幡「何のことだ？何かあるのか？」 海老名「ほら、そろそろバレタインデーでしょ。それで今のうちに催促してるんだよ」 戸部「ばれたかぁーーーってか八幡はそこんとこどうなん？」 八幡「俺には関係のないイベントだからな。今までもらったのは小町ぐらいだし。それにそんなに欲しいもんか？もらえる奴はもらえるし。もらえない奴はもらえないで良いだろ」 三浦「ハチって狙いすぎてないからなんか好感持てる」 由比ヶ浜「理由は悲しいけどね」 川崎「確かに。でも今年はもらえると良いね。比企谷」 八幡「そうだな。それより戸塚はどうなんだ？結構人気あるだろ？」 戸塚「そうだね。もらえることはもらえるよ。部活の後輩の子とかに」 八幡「なんか納得できるわ」 三浦「それはあーしもそうかな」 そんな感じで放課後 八幡「うぃーす」 由比ヶ浜「ゆきのんやっはろー」 海老名「雪ノ下さんハロハロ」 三浦「雪ノ下さんども」 戸部「今日も頑張るっしょ」 雪ノ下「皆今日も元気ね。それより比企谷君はいつになったら挨拶できるのかしら？」 八幡「じゃあまともに挨拶してやろうか？」 雪ノ下「是非とも見てみたいわね」 八幡「雪ノ下さんこんにちは元気かい？」 雪ノ下「やめて頂戴。葉山君みたいだから」 八幡「理不尽だろ」 三浦「ハチ違和感ありすぎ」 海老名「そうだね」 戸部「みんな辛辣っしょ」 由比ヶ浜「ハハハハハ……」 いつもの仲のいい奉仕部だった。 それからだらだら過ごしながら部活をしていた。 その時…… 一色「失礼します」 八幡「一色か。どうした？相談か？」 由比ヶ浜「いろはちゃんヤッハロー」 三浦「いろはじゃん今日はどうしたん？」 海老名「いろはちゃんハロハロ」 戸部「いろはす久しぶりっしょ」 一色「相談ではないんですが。バレンタインに海浜高校とイベントをしようとしててそれに皆さんを招待したくて」 八幡「なるほどな。でも、何でだ？」 一色「いつもお世話になってますし。来年には皆さんが卒業してしまうので一緒に思い出を作りたくてですね。ダメですか？」 八幡「確かに四月から俺らは忙しくなるかもしれんな。どうする？雪ノ下」 雪ノ下「良いんじゃないかしら。たまには楽しみましょう。それにどれだけ一色さんが成長できたか見れるしね」 八幡「確かにな。それはそうと講師とか誰かに頼んでるのか？」 一色「はい。雪ノ下先輩のお姉さんに頼んでますし。それにめぐり先輩にも頼んでますので大丈夫です」 八幡「そっか。嫌な予感がするが楽しませてもらうな」 一色「はい！！楽しみにしててください。ではでは失礼しました」 そういって一色は出て行った。 八幡「なんやかんやあいつも成長したのかな」 三浦「なんかうれしそうだね？」 八幡「そうだな。俺にとっては初めての後輩だからな」 雪ノ下「私も考えてみれば初めてだわ」 八幡「だから余計にあいつが成長してることがうれしくてな」 三浦「そっか」 由比ヶ浜「でもバレンタインイベント楽しみだね」 海老名「確かにみんなで作るなんて初めてだしね」 戸部「でも八幡俺らもチョコ作るんかな？」 八幡「いやそれはないだろ。何かすることでもあるだろ。あじみとかさ」 戸部「それがあったわ。テンション上がってきたわぁー」 八幡「翔はテンション低いときないだろ」 三浦「確かに言えてる。いつもうっさいしね」 雪ノ下「同感だわ。比企谷君がテンション上がってるとき見たことないのだけど」 八幡「普通にテンション上がってるときあるぞ」 三浦「でもいつもがテンション低いから気づいてないかもしれないよ」 海老名「でもそれが良いって言ってる女の子が多いのが現状なんだよね」 八幡「何でだ？」 三浦「それはさハチってクール系イケメンになって普段静かなのに不敵に見せる笑顔が女の子を惹きつけてんの」 八幡「そうなのか。まぁだからと言って翔も翔でそれは武器だと思うぞ」 戸部「何で？」 八幡「うるさいけど元気がないやつとかだったら翔を見て元気になるんじゃないか？知らんけど」 そのあとがやがやして部活は終わった。 それからバレンタインイベント当日 俺たちは会場に着きいつもどうりわいわい騒いでいた。 それからイベントが始まり俺たちは邪魔にならないように周りを見て歩いた。 川崎が居たり相模が居たりで何か不思議だった。 陽乃「ひーきーがーや君久しぶり」 八幡「久しぶりですね。陽乃さん」 陽乃「そうだね。どうかな今のこの状況とかこの一年間振り返った感想聞かしてもらっても良い？」 八幡「そうですね。でも一度悪い方向に向かいましたが良い方向に変わったと思ってますし。それにこれもこれで良いと思ってます。なんだかんだあいつらといるのは飽きませんので」 陽乃「そっか。でも比企谷君も変わったね。良い意味だけどさ」 八幡「そうですね。本質は変わってないと思いますけど」 陽乃「そっかそっか。また後で声かけるね。その時にあじみしてね」 八幡「わかりました」 それからみんなのところに戻るとき 一色「先輩少し良いですか？」 八幡「どうした？一色」 一色「あじみしてほしくて」 八幡「わかった」 そして一色はスプーンでチョコをすくって俺の口に入れられた。 一色「どうですか？」 八幡「うまいけどもう少し甘い方が俺は好きかな？」 一色「そうですか。じゃあ甘くしないと」ボソ 八幡「何か言ったか？」 一色「言ってません」 八幡「そっか。じゃあがんばれよ」 一色「はい。頑張ります」 それからみんなに味の感想なり聞かれた。 そうしてバレンタインイベントが終わった。俺自身も楽しめた。 そしてバレンタインデー当日 学校に行くと下駄箱に数個チョコが入ってた。 教室に行き席に座った。 そしたら相模が俺のところに来て 相模「比企谷これ」 八幡「何これ？」 相模「チョコ去年迷惑かけたからそのお詫び」 八幡「そっか。気にしなくてもよかったのにありがとうな。ありがたくいただくよ」 相模「うん」 そんな時川崎が来た…… 川崎「これ」 八幡「チョコか？」 川崎「うん。けいちゃんと私の分も含まれてるから」 八幡「そっか。ありがとな」 それから放課後になり部活で一色、雪ノ下、海老名さん、由比ヶ浜にチョコをもらった。戸部は海老名さんにもらってすごく喜んでた。 三浦がくれなかったのは何でかは知らないが 部活も終わり帰ろうとしたとき 三浦「ハチ一緒に帰ろ？」 八幡「いつものメンバーはどうしたんだよ？」 三浦「用事があるって言ってきたから大丈夫」 八幡「なら良いが。珍しいな優美子が一緒に帰りたいなんて言うなんて」 三浦「別にいっしょ？帰りたいんだから」 八幡「そうだな。じゃあ帰るか？」 三浦「うん」 それから帰り道はほとんど無言だった。 それで三浦の家の近くの公園で三浦が公園で少し話したいって言われた。 話すことにした。 八幡「ほれ。寒いだろ？ミルクティー」 三浦「ありがとう」 八幡「それでどうしたんだ？話って」 三浦「今日はバレンタインじゃん」 八幡「そうだな」 三浦「ハチの分も用意してるんだけど聞いてほしいことがあってさ。それと一緒に渡したかったんだ」 八幡「話したいこと？」 三浦「うん。あーしさハチの事が好きなんです。付き合ってください」 八幡「え？どいうこと？勘違いとかではなくてか？」 三浦「うん。修学旅行がきっかけでさ。ハチは優しいのに葉山のせいでいつも嫌な事をしないといけなかった。でさ、あの時の告白の後も見てたんだよね」 八幡「え！！見てたのか？」 三浦「うん。葉山とのやり取りや戸部に向かって謝った時の凄く辛そうな顔を見てた。そのあとも葉山が仕組んだことなのにさ色々されてたじゃん？でもハチはむかついたからって暴力もしなかった」 八幡「それこそ。俺が全面的に悪くなるからな」 三浦「あとさ。それに言い訳の一つもしなかった。それから気になりだしたんだけどいつの間にか好きになってたんだし！わるい？」 八幡「悪くないが……正直嬉しい……こんな俺を好きになってくれて……でも気持ちには答えれそうにないかもしれない」 三浦「やっぱりまだ怖い？」 八幡「確かに怖い……優美子がそんなことしないって思ってるけどでもな」 三浦「一度でいいから信じてほしい。あーしが必ず幸せにしてみせるから」 三浦は泣きながらそう言っていた…… 何でそこまで俺なんかのことを…… 八幡「返事今日じゃないとダメか……？」 三浦「そんなことはないけど……」 八幡「悪いがしっかり考えて返事する……それまで待っててくれないか？」 三浦「うん。全然いいよ。少しでも考えてくれることがうれしいから」 八幡「そっか。ありがとな」ナデナデ 三浦「ハチは反則だし……」 八幡「そんなこと言うならやめるが」 三浦「もっとなでろし」 それからしばらく撫でて三浦からチョコをもらい家に帰った。 八幡「たでーま……」 小町「およ？お兄ちゃんどうかした？」 隠せないか。 服を着替えてリビングに行き小町に今日の事を全て話した。 俺の怖いことも話した。 小町「ごみぃちゃんは何やってんのさ！！優美子さんがそんなことするとでも思ってんの？」 八幡「思わないけどな」 小町「じゃあ何で気持ちに答えれないかもしれないなんて言うの！！お兄ちゃんは優美子さんの事どう思ってんの？」 八幡「大切な人って思ってる」 小町「そっか。ならちゃんと考えて答えを聞かせてあげて小町はもう何も言わないからさ」 八幡「わかった」 それから飯を食べて風呂に入り自分の部屋で考えた。 優美子の事を色々考えていた。 あいつにはすごく助けられたしそれにあいつのことは俺は嫌いではない。 どちらかというと好きな方だ。 それに俺の事とかを色々考えてくれてたりと何かと良い奴だ。 俺なんかにはもったいないって思うほどにな。 俺にはもったいない？ 何でそんなことを真剣に思ってんだ？ いつもは心なく言ってるが今は真剣に思ってる。 何でなんだ？ でも他の奴が優美子とくっつくのは考えたくない。 見るのも嫌だ。 何でこんなことを思ってんだ。 そっか。 俺はあいつの事を好きだったのか。 なのに俺はあんなことを言ったのか。 それに優美子を泣かせてしまった。 何やってんだよ俺……とりあえず三浦にメール入れとくか。 明日放課後に屋上に来てくれ。 話したいことがあるって。 これでいいか。 明日ちゃんと話そう。 三浦サイド 今日あーしはハチに告白したけど返事は保留にされた。 理由は知ってるからしょうがないとは思ってたけど悲しかった。 ハチが辛そうな顔で気持ちに答えれないかもしれないって言ってきた…… 困らしたくはなかったのにあんな辛そうな顔をさせたくて言ったわけではない。 でも、ハチはちゃんと考えて答えを出してくれるらしい。 ハチは辛そうにしてたけどあーしの頭をなでてくれた。 ハチは本当に優しすぎる。 本当に幸せを知ってほしいし幸せを共に感じたいと思う。 少しの望みをかけて待っておこう。 そんなことを考えてるとメールが来た。差出人はハチだった。 内容は明日の放課後屋上で話したいってことだった。 明日答えを聞かせてくれるらしい。 正直怖いけどちゃんと聞かないといけない。 明日に備えてもう今日は寝よう。 三浦優美子サイド終了 それから次の日の放課後俺は緊張しながら屋上に向かった。 そして着いたらもう三浦は居た。 八幡「優美子悪い。待たせたな」 三浦「そんなことないよ……あーしも今来たところだから」 八幡「そっか。昨日は悪かったな」 三浦「別に気にしてないよ。それより話があるんっしょ？」 八幡「昨日の事でな。昨日家に帰ってから色々考えたんだ」 三浦「うん。それで答えを聞かせてもらっても良い？」 八幡「三浦優美子俺は……俺は……優美子の事が好きだ。付き合ってください」 俺がそういった瞬間三浦はうれし泣きをしながら俺に抱き着いてきた。 三浦「はい！！喜んで！！ハチもよく頑張ったね！！告白するの怖かったんっしょ？」 八幡「確かにな。怖かったけど俺から言いたかった」 三浦「そっか」 八幡「おう、これからよろしくな。優美子」 三浦「こちらこそよろしくだし」 それから二人は優しくキスをし二人とも顔を赤くしていた。 そして、八幡と優美子は仲良く末永く幸せに暮らした。 あとがき ということで三浦優美子ルートでした。 ヒロイン候補に三浦優美子が決まった時に終わらせ方はこれにしたいと思って書いた次第です。 ところどころおかしな点もあるかもしれませんが許してください 次回から雪ノ下陽乃ルートに入ります。 話の流れでは葉山に鉄槌を下した後からになるので時間が戻ります。 ご了承ください

今回でみゆら優美子ルートは完結です

三浦優美子ルート完結「バレンタインイベントと告白と返される答え」

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※スコッチがコスプレしてイベントに参加した日のお話です。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 潜入している組織からスコッチというコードネームを得た警視庁公安部の刑事は、捜査指令の出た要注意人物との接触に成功した。 調査の結果で完全にシロだと判明し、後は自然と別れるだけだった。 しかしそれには接触するきっかけとなった人物の当初の約束を守らなくてはいけない。約束を無視してしまい、余計な禍根を残すぐらいなら、大人しく1日付き合う方が余程いい。 そう。これは仕事なのだとスコッチは自分に言い聞かせている。 知り合いにバレたら憤死しかねない盛り盛りメイクにアニメキャラの格好で。 彼は今までの人生で考えたこともない行為……。 生まれて初めて同人イベントにコスプレで参加していた。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 「ちょっとロイド〜！設置するからハサミ取って〜！」 「はいよ…」 スコッチがコスプレするキャラ名（ロイド）で呼ぶのは、スコッチが調査対象と接触出来たきっかけを与えてくれた女だ。 彼女はコスプレが趣味で、調査対象によく依頼をしているお得意様らしい。 今回はスコッチもコスプレをし、彼女の友人が出す同人誌の売り子を手伝うということで調査対象と接触出来た。 「もー！シャキッとしなさい！初参加だからって少し考慮して、売るのは全年齢対象なんだからね！」 「…これが？」 スコッチも成人男性だ。学生時代には密かに成人向けエロ本を回し読みしてきた事もある。 しかし今スコッチが手にしているものが、全年齢対象とは思えなかった。 「エロはなしで、ほのぼのラブコメ。あるのはちゅーぐらいよ」 「ちゅーはしちゃうんだ…」 スコッチが手にした本の表紙は、男の子2人が恋人つなぎをして笑いあっている絵だった。 男の子2人が、である。 ちゅーしちゃうのも男の子2人が、だ。 「今時の少女漫画の方が過激よ」 「…そうかい…」 キッパリと言い切ったお得意様に、スコッチは項垂れながらハサミを渡すしか出来なかった。 言われるがまま、机に布を敷き本を並べていく。 そして値札を立てようとして、そこに書かれている金額にギョッと目を剥いた。 「高っ！えっ⁉︎この薄さでこの値段⁉︎」 スコッチの目に入ったのは、漫画単行本よりも値段が高いのに、本のページ数は半分程だった。 スコッチの言葉に、お得意様は何を今更というような顔をする。 「そりゃあ、印刷にはお金がかかるもの。単価を安くするには、部数を増やすべきだけど、在庫を大量にもつ羽目になったら意味がないでしょ？ あくまでも趣味だから儲けは考えなくとも、それで破産までしたら活動出来ないし…色々加味したら大体それぐらいの値段よ」 スコッチはスマホで印刷代の相場を調べてみて納得した。 あくまでも趣味というのは分かる。二次創作物というのはグレーゾーンだからあまり儲けても問題になる。 「けどよ…イベント参加費や交通費、その他諸々の小道具を考えたら…すごい出費じゃねえか？」 スコッチの疑問にお得意様は真顔になった。 「甘い。ノベルティを出す事もあるし、何より、他の作者が描いた神本を入手するためにもゴールドは必要よ」 背筋がゾッとした。マジか。 顔を引攣らせたスコッチをよそに、お得意様は準備をし終えた。 「さて…ロイドに少し謝罪するわ…。今いるいるこの場所は、我々の界隈では『壁』と言われているの…。 ロイドにわかりやすく言えば、『大手サークル』かしら？」 淡々と話し出して、スコッチは首を傾げた。 「そして今回のイベントは今流行のアニメオンリーイベント…。 灼熱の夏や、極寒の冬を乗り越えた猛者達が押し寄せるのは間違いないわ」 「あー…？よく分からないが…客が沢山来て、本が売れるのはいい事じゃねえの？」 お得意様は優しく微笑んだ。 「そうね…。ごめんなさい…」 その謝罪の意味が分かったのは、数分後…。 イベント開始と共に歴戦の猛者達とクレームモンスターの群れが押し寄せてからだ。 スコッチは女の怖さをまた一つ学んだ。 [newpage] 【あとがき】 イベントに行った事がないので、想像です。 スコッチの感想は私がしたものです。 私は長年夢女で、赤安に嵌って腐女子に覚醒したクチです。 同人誌を買ったのもここ1年くらいから。 初めて買ったときは、コミックスより薄いのに高い⁉︎と驚愕し、でも個人印刷だからしょうがないかぁと納得していました。 しかしその後、夢本オンリーイベントという存在を知り、ちょっと出してみようかなぁ〜？と軽い気持ちで印刷代などを調べて驚愕しました…。 500円ぐらいなら売れると思いましたが、利益を考えずにプラマイゼロにする為にはかなりの部数を刷らないといけない…⁉︎ 絶対にこんなにも売れない！逆にこれぐらいなら売れるだろうという部数にすれば、単価が高くなり、自分なら絶対に買わん‼︎と思いました。 えっ？同人誌出している人凄くない⁉︎学生さんもいるよね⁉︎ 交通費やイベント参加費合わせたら絶対に赤字だよね⁉︎ それなのに我々に素晴らしいものを提供して下さるんだよね⁉︎ ……神か⁉︎マジで神か⁉︎もう購入した同人誌を拝むしかない…！ そう思いながら、書いてみました。 今週のサンデー感想↓ うっばはぁいあああああああ⁉︎ 情報過多の為、語彙力がゼロになりました。

潜入捜査中の組織で、スコッチというコードネームを得た警視庁公安部の刑事。<br />あの日あの時、彼に何があったかーーー。

番外編・知らない世界の常識

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・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ ２４１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ほっしゅーと ２４２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ほっしゅん ２４３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ほしゅっと ２４４：水銀(ry)おねえさん ［速報］Ｄ終了のお知らせ ２４５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします １！？ 皆！１が帰ってきたぞ！！ ２４６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ちょｗｗなにがイケメンに起こったのｗｗｗ ２４７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします お帰り１！ ２４８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 早く報告してくれ１！靴下くらいは穿きたいんだ！！ ２４９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 先生がけふぃあの意味を知ってたのか！？ 俺にも服を着させてくれっ！ ２５０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします お帰り！ 報告報告！！ ２５１：水銀(ry)おねえさん 楽しみやがって…みんなばか… あー…始まってまだ間もない人生で一番辛かった… 報告 Ｋ様がほとんど食べ終わった頃 私、実体化してＫ様の真横へ Ｋ「……なんだ、Ｌ(クラス名)」 私「…」 Ｋ「…言いたいことがあるならさっさと言え。私は忙しいんだ」 私「…ほ、本日の隠し味には俺のけふぃあを入れてみたのですがどうでしたか？」 Ｋ「…けふぃあ？」←ここで一番緊張してた Ｋ「別に酸味は何も感じなかった。いつも通りだったぞ」 Ｋ様は、けふぃあ知らなかったよ丿▽｀)･ﾟ･｡･ ２５２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ちぇっつまらん ２５３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 期待させてそれかよ もっと面白い反応はなかったのか！ ２５４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします なんでそこでどもるんだよ！ ２５５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします もっと「俺の」を強調しろよ！ 先生が不審に思うくらいに！！ ２５６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 先生が赤面しながら叱ってくるのﾏﾀﾞ――？ ２５７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします まあまあ皆 先生はってことはこの後何かあったんだろ？聞いてやろうぜ？ ちっ使えない奴め ２５８：水銀(ry)おねえさん ううう水銀ちゃんーっ スレ民が私を苛めるよお助けてっ 安心した私がほう、とため息をつく その後方から人の気配。振り向く私 私はＳ様が夕飯を食べに来たのかと思った ら、 …Ｓ様用のクリーム煮を（；゜□゜）って顔で見つめる、ホテルの女性従業員が… 恐らくＫ様に呼ばれて来たはずの彼女がその腕に抱えていた包みの一つを落とす 私が拾おうと一歩近づいたらΣ（； ゜□゜）って俊敏Ａなんて目じゃない早さで荷物拾って後ずされて… 私「だ、大丈夫ですか？」 彼女「だだだ大丈夫です平気ですご心配かけて申し訳ありませんでしたお食事中失礼いたしました」(ここノンブレス) Ｋ「いや、呼んだのは私だ。ご苦労」 彼女「いえお客様に快適に過ごしていただくのが私共の役目でございますので！」 私「…ですがその荷物の量は女性にはきついでしょう。お持ちs」 彼女「結構です！！！」 脂汗を流して視線が泳ぎまくっていた女性を見て私は確信した この人は、けふぃあの意味を理解している！！ ２５９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします その安価実行を意味のわかる他人に見られるとか まさに幸運Ｅ ２６０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします いやむしろそんな場面に居合わせてしまった従業員の方が幸運Ｅなんじゃないだろうか… ２６１：水銀(ry)おねえさん どちらにしたって幸運Ｅだよ！！ 結局Ｋ様の手前あれは安価だなんて言えないから廊下に出たところで呼び止めたら 私「あの！勘違いしているでしょうがあの先程のは…」 彼女「ひいっ！近寄らないでください変態！！」 私「（ ；ω；）」 私の顔見てくれないからチャームにかかってくれないし誤解解けなかったし… あれを広められたらどうするの！ これからどんな顔してラウンジに行けばいいんだよ！皆のせいだよ！ ２６２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします イケメンザマァｗｗｗｗｗ ２６３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ごめんちゃい（＞ω・）☆ ２６４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします てへぺろ（＞ω・）☆ ２６５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします どんまい（＞ω・）☆ ２６６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 皆謝る気ないｗｗｗｗ ２６７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします つまりは Ｄ(肉体的に)終了のお知らせ ではなく Ｄ(体面的に)終了のお知らせ ってことでＦＡ？ ２６８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします そう言うことだな 予想より面白くなかったなあ ２６９：水銀(ry)おねえさん >>２６８ 面白くなかったなあじゃないよ！こっちは完璧変態に見られちゃってるんだぞ人間性の危機なんだぞ！ …それに、話はまだこれで終わりじゃない… ２７０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ちょｗｗまだ何かあるのかよｗｗｗ ２７１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 早く！もう一気に話ちまえよ！ ２７２：水銀(ry)おねえさん 誤解も解けず変態呼ばわりに深く傷ついた私 片付けのために部屋に戻ると待っていたＫ様に呼ばれた Ｋ「おいＬ、さっきの料理に使ったけふぃあが残ってるだろう。あれでデザートを作れ」 私「（ 　д　）゜ ゜」 もちろんけふぃあの貯蔵なんてないよ！！！ ２７３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします せ、せんせええええええｗｗｗｗｗ！！ ２７４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします アッーｗｗｗｗｗ ２７５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 自らアッーーフラグを立てに来るとかさすが先生ｗｗｗｗ ２７６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします そこに痺れる憧れるぅっ！ ２７７：水銀(ry)おねえさん あの時はもはや冷や汗しか出なかった 私「………り…りゆうをおききしてもよろしいですか」 Ｋ「理由だと？異なことを…。仕方がない、戦うばかりで学のない貴様にもわかるように私自ら教えてやろう！いいか！先に言っておくがこれはあくまで魔術の向上のためであって貴様の料理を食べたいわけではないのだぞ！」 ああ、Ｋ様の感情に連動してもにもに動く水銀ちゃんがかわいいなあ。Ｋ様にお願いしたら私用のを一匹作ってくれないかなあ Ｋ「人間は５つの味覚の中でも酸味を一番に感じ、脳への刺激も著しい。これは忌々しい科学の研究によるものだが、近年この味覚による脳への刺激が魔術回路にも影響を及ぼすことがわかってきたのだ！現にある魔術師は同じコンディションで日本の有名な食物であるumeboshiを食べたときに使った魔術の威力の差を論文として発表しており………………………………………………」 デレ隠しに持ってくる話が壮大すぎませんかＫ様 ２７８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 誰だよそんな論文書いたまぢゅつしわｗｗｗｗ ただのバカだろ！ｗｗｗ ２７９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 先生のツンデレありがとうございますって思ったら内容ｗｗｗｗｗｗ umeboshiって梅干しかｗｗｗｗ 最初なにかと思ったｗｗｗｗ ２８０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします なぜそこだけローマ字ｗｗｗ ２８１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 水銀は先生の感情に反応して動くのか 可愛いなｗｗｗｗ ２８２：水銀(ry)おねえさん かわいいだろうさすが私の嫁 だがやらん 水銀ちゃんｐｒｐｒｐｒｐｒ ２８３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします >>２８０ ほらだって先生公用語は英語だからｗｗｗ >>２８２ ってなんで即レスなんだｗｗｗｗｗｗ １以外誰も欲しがらねえよ！ｗｗｗｗｗ ２８４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ローマ字読み片言で「ウメボシ」っていう先生可愛いｗｗｗｗ ２８５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします やばい萌える ２８６：水銀(ry)おねえさん >>２８４ 思い返せば確かに可愛かったｗｗｗ その時はどう切り抜けるか必死で気にもしなかったけど… Ｋ様の長い長い演説が終わり、「さあ早く作ったらどうだ」と言わんばかりの目で私を見る 見られても困るよ！そんなに私の第三の槍をくわえたいんですかＫ様！？いやこれはチャンスか？リアルＤＫを見るチャンスか？Ｋ様が煽ってきたんですよっていって押し倒せばいいのか？Ｋ様を手に入れれば使い魔みたいな水銀ちゃんも私のもの？一石二鳥？馬を射んとすればまず将から？でも第四次始まる前に自害フラグじゃないか？ 冷や汗が背中を伝う。心臓の音が耳元で聞こえる 私はぐっと、拳を握った 「Ｋ様。聖杯の知識によればけふぃあは朝に食すのが一番効果的なようです」 私、大 混 乱＼(^ｑ^)／ ２８７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ ２８８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 聖杯のｗｗｗ知識ｗｗｗｗｗｗｗｗ ２８９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 押し倒せばよかったのにｗｗｗｗｗｗｗ ２９０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 必要最低限の知識の中にけふぃあとかｗｗｗｗｗ ないわｗｗｗｗｗｗｗ ２９１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 聖杯は言っている…けふぃあは朝に食べるものだと！！ ２９２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ ２９３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ ２９４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ アンリのｗｗｗ願望ですかｗｗｗｗｗ ２９５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗアンリたんはけふぃあをご所望のようでｗｗｗｗｗｗ ２９６：水銀(ry)おねえさん んな知識あるかｗｗｗｗｗ Ｋ様を説き伏せるためのただの方便だからｗｗｗｗｗ なあでもさ…これでＫ様、納得してくれたんだぜ…？ ２９７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします …！？ ２９８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします …！？ なんだ、と…！？ ２９９：水銀(ry)おねえさん Ｋ「何？………ふむだが、全知を司り奇跡をも成し遂げる聖杯からの知識か。無視できんな。ならばＬ、明日の朝にはけふぃあをだせ。いいな」 私「はい！」 で霊体化して全速力でスーパー行ってけふぃあ買ってきた←ｲﾏｺｺ ３００：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 先生ってもしかして…天然？ ３００げと ３０１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 聖杯って言えばなんでも信じちゃうって…もしかしてふぇありー？ ３０２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします うっかりと同じ属性、だと…！？ ３０３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 先生 ・スナイパーのかませ ・婚約者とられかけちゃうかわいそうな人 ・ツンデレ ・趣味が絵画 ・ふぇありー←NEW! 先生はこれ以上どこまで萌えスペックを増やすつもりなんだ…！ ３０４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ちょっと待てｗｗｗｗ ５つの内の２つは萌えスペックじゃないｗｗｗｗｗ ３０５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします いやいやそこが先生の可愛いところじゃないか！ ３０６：水銀(ry)おねえさん そこに・水銀ちゃんの主と付け加えてくれないか ３０７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗｗｗｗｗｗｗ もうｗｗｗ１は黙っててｗｗｗｗｗ ３０８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 忘れた頃に水銀好き発動させないでｗｗｗｗｗｗｗ ３０９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ・スナイパーのかませ ・婚約者とられかけちゃうかわいそうな人 ・ツンデレ ・趣味が絵画 ・ふぇありー←NEW! ・水銀ちゃんの主←NEW! もうｗｗこれでいいんだろｗｗｗｗｗ ３１０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします >>３０９の優しさに全おれが泣いた ３１１：水銀（ry）おねえさん GJ！！（＞ω・）ｂ ３１２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします …というか結構ずっと気になってたんだけど １って記憶喪失の割りには知識豊富だし >>２９６でそんなのないって言えるってことは英霊と同じで聖杯からの恩恵受けてるってことか？ ３１３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします お、なんかまともな質問が ３１４：水銀(ry)おねえさん >>３１２ そうだよ。と言うか多分Ｄに与えられた知識を共有してる感じ 主にＫ様の夕食に活用されてます(ｷﾘｯ ３１５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします >>３１２ お前この流れでマジレスすんなよ 空気嫁 ３１６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします >>３１５ だってこのままほっといたら話が全然進まないじゃないかｗｗｗｗｗ なんのためにスレ立てしたのかもうそろそろ思い出せよｗｗｗｗｗｗｗ ３１７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ！ ３１８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ！ ３１９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします …！ ３２０：水銀(ry)おねえさん >>３１６ え？Ｋ様のふぇありーっぷりと水銀ちゃんへの愛を語るスレだろ？ ３２１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ！ ……………！？ ３２２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします １ｗｗｗｗｗｗｗお前ｗｗｗｗ ３２３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします お前がスレ立て主だろうがああああｗｗｗｗｗｗｗ ３２４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします １ｗｗｗｗバカすｗｗｗｗｗ ３２５：水銀(ry)おねえさん だってｗｗｗｗｗ説明してｗｗｗ安価やってｗｗｗｗｗ報告してｗｗｗｗもうこんな時間じゃないかｗｗｗｗｗ もうＤと交代のお時間だもんｗｗｗｗｗ 今日はこれで落ちなきゃいけないんだから間違ってないｗｗｗｗ ３２６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします え、マジで？ ３２７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ほんっとになんにも解決してないのにｗｗｗｗ ３２８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 聖杯のせの字もないｗｗｗｗｗｗ ３２９：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします １はまた来れるのか？なんなら保守しとくぞ？ ３３０：水銀(ry)おねえさん 来れるよ。と言うか来る！絶対！！ 明日の同じくらいの時間に来るから、新たなスレ立ててでも保守ってくれてると嬉しい その間に四次救済案を検討してくれてるとなお嬉しい ３３１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします おう、了解したぜ！ ３３２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 蟲おじとブロッサムちゃんは絶対にどうにかしたい ３３３：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします おけ まってる ３３４：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 一気に空気変わったな 愛人と人妻だって助けたいぞ！ ３３５：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします １含めた昼ドラ陣営だって！ ３３６：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします (　ﾟ∀ﾟ)ｏ彡°優雅！優雅！！ ３３７：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 殺人鬼たちは…『救え』はしないけど落ち着かせたいよな ３３８：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ちっぱい王もスナイパーもブラウニーもみんなみんな幸せになーれ！！ ３３９：水銀(ry)おねえさん そこら辺含めてあとは頼む じゃあ落ちるよ ＜俺達の戦いは これからだ！＞ ３４０：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします ｗｗｗｗｗｗｗてっめｗｗｗｗｗｗ ３４１：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 打ち切り漫画のｗｗ最終回ｗｗｗｗｗ ３４２：名無しに変わりまして冬木諸君がお送りします 最後にまたｗｗｗｗ爆弾をおおｗｗｗｗｗ [newpage] [chapter:ケイネス先生のぼやき] 私は基本あの男が気に入らない 召喚して早々人の婚約者を虜にし、それを呪いのせいだと棚にあげる。 本当に呪いを憂い厭うのならば、私に頼むなり隠すなりその黒子を自らの黄薔薇で抉り取るなりすればいいものを！今のあいつはそれもせずただ周りに責を押し付けているだけではないか！！ 忠誠の件だってそうだ。 あいつは忠義を捧げる「主」という形を私に求めているだけで、その実「私」自身に興味等微塵も持っていない。その全ての態度に私が苛立ち、不和を生んでいることにすら気づかぬとんだ愚鈍だ！ ああ全く忌々しい！！ だが・・・・・・唯一、嫌々だが！仕方なく！！ 私の夕食を作る時のあいつだけは、認めてもいいと思っている。 冬木に来る前、大体の仕事を片付けてしまおうと一昼夜休みなく仕事をしていた時。 ずっと黙っていたあいつが現界し、私に食事はいいのかと問うてきた。煮詰まっていた私は当然気に障り、あいつに「構わん。お前は黙って霊体化していろ」と命じた。 途端肩を掴まれ真正面から叫ばれた。 「黙って霊体化しているなんてそのようなこと、できるわけないでしょう！」 いつものあいつならこれだけで退いた。 何か言いたげな目をして、でも口を噤んで。まるで短い間しか傍にいないのだからこれくらいは我慢しようとしているように私は感じていた。それがなお私は気に食わなかった。 だがその時のあいつは違った。 無理やり合わされた目はただ私への憂慮を湛え、その口も私の意思を無視した私の体を慮ることばかりを発していた。 ・・・途中「そんな事だからケイネス様軽いんでしょうその腰の細さ何なんですかエロすぎですうらやまけしからんもっとやれ！」とかおかしな呪文が聞こえた気がしたがそこは気のせいだったんだろう・・・だよな？ ともかくあいつは散々まくしたてると「お食事を作ってまいりますので少々お待ち下さい！」と言って霊体化した。私はあいつの初めての反抗に驚き最後まで口を出せなかった。私の言うことを聞かないあいつなど、初めてだった。 30分足らずで今度は扉を開けて帰ってきた。その手に湯気の立つリゾットを持って。 「本当は梅干しがあると良かったのですが・・・丸一日食べていないと多少ですが胃腸も弱りますが、栄養も摂っていただきたかったので鶏肉といっしょに米を柔らかくなるまで煮込んでみました。ケイネス様好みの薄味にしたつもりです。お口に合えばよろしいのですが」 差し出された食事を口に含めばそれは確かに私の好みに合っていた。 それが無性に悔しくて「まあまあだな」と言えば、あいつは眉尻を下げて「申し訳ありませんケイネス様。もう少し濃くした方が良かったでしょうか？」と聞いてきて更に私は驚いてしまった。 こいつが私の好みを知ろうとしたことに驚いた。 こいつが私のことを理解しようとしていたことに、驚いた。 それからあいつは私に夕食を無理矢理作って食べさせるようになった。朝も昼も何も言わないくせに、夜だけはしつこく言って、勝手に作って持ってくる。私は仕方なくそれを食べた。ほとんどが、私の食指にあっていた。 ソラウも贔屓目ではなくあいつの料理を気に入ったようで、私達は二人で机と共にすることが増えた。ほんの少しだが何気ない会話もできるようになった。 あいつのことは憎いし気に障る。 それは未だに変わらず私の中で燻ぶる事実だ。変わる気がしない。 だが、だが私達の食事を作り、私達の事を知ろうとし、忠義を口にせずただ私達を柔らかく見るときのあいつにだけは、嫌悪感を抱かなくていいかと思っている。 ああ、でもその時のあいつも、 「おいしくなーれ☆おいしくなあれ☆」 誰も見てないと思ってそう言いながら鍋を掻き混ぜるのだけはやめてほしいと思う。 普通に気持ち悪かった。

前回＝<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=986914">novel/986914</a></strong>の続きです。ともかくけふぃあにネタが偏ったらそれだけで終わってしまいました。うっかりや！あと前回後半上げたら消すって書いたけど雁おじ救出のところまでネタがちょっと出来ちゃったので続けてもいいですか？自分じゃ踏ん切りつかないのでアンケート答えてくれると嬉しいです／おまけの先生はデレ注意！／今日セイバーとウェイバーと三人でケイネス先生の課外授業受けてる夢見ました。先生が注意事項話してるとき私は隣のウェイバーに「先生の顔の方がよっぽど怖いよね！」って耳打ちしてました。自分なんて命知らずな・・・。／追記１頁目に注意を忘れました／(^o^)＼兎に角何でも許せる人はどうぞ！／追記:遅れましたが4/28のDR90位入りました！ブクマ、タグ、評価もありがとうございます！アンケートも皆の優しさに応えるため一通り書くことにしました！・・・さてプロット立てるか・・・／オフじゃ察しが悪いことで有名なこるりなんですがごめんなさい、「恒例夢バレ」と「混線」って何ですか？教えてエロい人！このままじゃ皆の期待に応えてるのか裏切ってるのかわからないよ！

【先生と】愛とけふぃあだけが友達さ【いっしょ】

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※人形劇より少し時間が戻ります。 　細かい仕事の消化やちょっとした報告などの為に水曜日はとりあえず生徒会室に集まっている。 　今日もそんな日で集まったのだが、やる事も無いので話をしていた。 　 い「次の土曜日なんですけど、皆でお花見でもしませんか」 　と言ってきた。 藤「私は賛成です」 小「小町もです」 里「私も大丈夫です」 　と、三人が答えて視線が俺に集まる。 八「あー、まあ予定は無いから構わないぞ」 い「あ、お弁当はどうしましょうか？」 小「小町作りますよ」 い「んーでも一人だと大変出し悪いから、皆で作って持ちよらない？」 藤「あまり自信無いですがそれでも良いのなら」 里「私も自信は無いけど…」 八「俺も作るのか？」 い「いえ、先輩は小町ちゃんが居ますから作らなくても良いと思います。二人で別々に作るのも大変でしょうし」 八「ふむ…、それなら俺はお菓子とかでも持って行くか」 藤「いいんですか？」 八「まあそれくらいは問題無い」 小「あ、そうだ陽乃さんも呼びません？」 い「あ、そうだね」 小「じゃあ小町が連絡してみますね」 　そして小町が電話をしてみた所、雪ノ下さんも参加することになった。 [newpage] 　金曜日にお菓子とジュースを買い込んで、当日の早朝まだ暗いうちに場所取りに向かう。 　携帯ゲームやラノベで時間を潰して待つ事数時間。 　１０時前ぐらいに皆がやってきた。 小「お兄ちゃんお待たせ」 八「うす」 い「場所取りありがとうございます」 　と、皆がやってきたのだが、周りで場所取りをしている男連中の視線が痛い…。 　俺は一度ここを離れ、能力で家に帰って飲み物を冷蔵庫から出してまた合流する。 　その後みんなでお菓子を適当に食べながらお喋りをしたり桜を見たりする。 　この時に陽乃さんのことも名前で呼ぶ事になった。 　そしてそろそろお昼になるので、お弁当の準備をしようかと話しになった時に聞き覚えのある声が聞こえた。 結「ゆきの～ん。全然空いて無いよ～」 雪「だからこんな時間では無理だといったでしょう。良い場所でお花見をするならもっと早くから場所取りをしないと難しいわよ。端の方なら空いているでしょうしそっちに行きましょう」 結「うぅ～」 　諦めきれ無いのか、キョロキョロと辺りを見ていた由比ヶ浜がこちらに気付いた。 　するとこちらの方に近づいてくる。 結「ヒッキー何してるし！」 八「何ってお花見だが？」 結「なんで私達を誘わないの！？」 八「現生徒会と来てるしな、陽乃さんはこのメンバーとは普通に交友があるから誘ったんだ」 雪「姉さんがこのメンバーと…、どういう繋がりかは良く分からないわね」 陽「んー、なんて言えば良いかな。八幡君を信じたメンバーかな」 雪「っ、なるほど…」 結「ねえ、私達もここでお花見して良いでしょ？」 八「どうする？」 陽「私はうるさくしないなら良いよ」 小「小町も同じですかね」 い「私も騒がないなら」 藤「同じく」 里「私も静にしてくれるなら」 八「と言うことみたいだ」 雪「そう、お邪魔します」 結「おじゃましま～す」 八「そう言えば昼を食べようとしていた所何だが、二人はどうするんだ？」 結「ゆきのんが作ってくれたよ」 雪「ええ、ここにあるわ」 陽「じゃあみんな用意してきた物を出そうか」 『はい』 　そして皆がそれぞれ作ってきたお弁当を出していき、それぞれ各自の物を食べあう。 い「先輩、皆のお弁当どうでしたか？」 八「ん？そうだな。それぞれ美味かったぞ。沙和子と里奈は自信無いって言ってたけど十分だと思うぞ」 藤「そ、そうですか？」 里「えへへ、ありがとうございます」 結「なんで名前で呼んでるし！？」 八「何でって、ここに来ていたメンバーとは名前で呼び合おうと約束したしな」 結「じゃあ私も呼んで」 八「え、やだ」 結「なんでだし！」 八「信頼できる人しか呼びたく無いからだが？」 　 　その後も由比ヶ浜は名前で呼べとギャーギャー言ってくるが、 陽「ガハマちゃん。ここに居る条件は静かにする事だって言ったよね？」 　との威圧感のある一言で静かになった。 　そしてお菓子を食べながら話をしたり桜を見たりを再開する。 雪「このお菓子。地域限定物なんかもいくつかあるけど、場所はバラバラよね。どうやって手に入れたのかしら？」 陽「んー、まあちょっとした伝手でね」 　どうやら陽乃さんが手に入れたことにして、能力のことを秘密にしてくれるようだ。 　それからしばらく話して居たが、朝が早かったからか眠くなってきた。 小「お兄ちゃん眠いの？」 八「ああ、場所取りで朝早かったからな」 い「何時から起きてたんですか？」 八「４時半に起きて５時に家を出た」 里「あ、あの。眠いのでしたら私の膝を使ってください」 八「いや、それはさすがに悪いだろ」 里「いえ、全然大丈夫です」 八「んー、それなら少しお願いするな」 　もうかなり眠かったのもあり、里奈の提案を受けて膝枕してもらうことにした。 　俺の寝れる位置を取ってもらいそこに寝転がり、里奈の膝に頭を乗せさせて貰う。 　すると、すぐに眠気がやってきて寝てしまった。 [newpage] いろは　Ｓｉｄｅ 　先輩が寝てしまうと里奈ちゃんは嬉しそうに先輩の頭を撫で始めた。 い「里奈ちゃん嬉しそうだね」 里「え、そ、そうかな」 藤「うん、凄くニコニコしてたよ」 里「うぅ///」 い「でもこうやって見ると先輩って目を閉じてるとイケメンですね」 陽「確かにね。八幡君って見た目も悪く無いし、優しくて仕事も出来るし、むしろこれまでモテ無かったのが不思議なぐらいな有望株よね」 小「お兄ちゃんはコミュ能力の低さと目で馬鹿にされてましたから」 陽「確かに見た目とかコミュ能力って一番最初に評価される場所だけどね、でもそういう人は隼人みたいな男に気をつけないとね」 い「うぅ…、耳に痛いです」 　この後また結衣先輩が騒いだりしたが、また陽さん先輩に注意されて大人しくなっていた。 　それから約二時間、私達生徒会メンバーと陽さん先輩で３０分づつ交代で膝枕して、結衣先輩が私もやるといい出した所で先輩が目を覚ました。 いろは　Ｓｉｄｅ　Ｏｕｔ [newpage] 　昼寝から目を覚ますと何故か陽乃さんに膝枕されていた。 八「なんで陽乃さんが？たしか里奈に膝枕して貰ってたと思ったんですけど」 陽「一人でずっとも大変だからね。三十分交代で膝枕してて私は四番目なんだ。それまでは生徒会の子達が順番にやってたんだよ」 八「そうですか、陽乃さんもみんなもありがとうな」 　と、お礼を言うが、何故か由比ヶ浜に睨まれている。 　俺何かしたか？ 　とりあえず起き上がり体を伸ばすことにする。 八「ん、くぁーー」 　そして飲み物を飲んで適当にお菓子を摘みながら桜を見る。 　そう言えば幻想郷でも花見をしたりはするのだろうか、向こうでイベントをやりそうな物があれば聞いておこうかな。 　そしてまたみんなとおしゃべりをしたりしながら過ごしたが、由比ヶ浜は俺が元居たメンバーと何かしたりする度にうるさかった。 [newpage] あとがき 　外の世界でのお花見でした。 　生徒会メンバーや陽乃の事を八幡はかなり打ち解けて居ると言うか信頼して居ます。

外の世界のお花見

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前書き(本編読みたい方は次へどうぞ) そういえば、プロローグから2話に至るまでの八幡達の時間軸は書いていたと思いますが、CPの皆の方の時間軸を書くの忘れていました。とりあえず、CPの方は基本アニメ沿いで、ラブライカとニュージェネのＣＤデビューが決まった辺りですね。 それでは、本編は次のページからです。 どうぞ。 [newpage] CPのプロデューサーになった俺は、早速PRに来ていた。 八幡「プロデューサーになったのはいいんですが、初めに誰を担当すれば？」 武内「比企谷さんには、今回CDデビューする2つのユニットのうちの片方を担当して頂きます。」 八幡「そのユニットとは？」 武内「島村さん、本田さん、渋谷さんの3人のユニットと、新田さん、アナスタシアさんの2人のユニットの2つです。」 八幡「わかりました。では、どちらを担当すれば？」 武内「私が島村さん、本田さん、渋谷さんのユニットを担当しますので、比企谷さんには、新田さんとアナスタシアさんのユニットの担当をお願いします。」 八幡「わかりました。」 武内「では、皆さんに連絡しましょう。」 [newpage] ーCPのルームー 武内「担当が決まりました。」 卯月「本当ですか！？」 未央「未央ちゃん達の担当が！？」 凛「で、誰がどの担当に？」 武内「島村さん、本田さん、渋谷さんのユニットは私が、新田さんとアナスタシアさんのユニットは比企谷さんに担当して頂きます。」 美波「わかりました。よろしくね。比企谷君。」 アーニャ「ダー、わかり、ました。ハチマンさん、一緒に、がんばりましょう…！」 八幡「お、おう、よろしくな。」 アナスタシアの笑顔眩しい…ほんとにハチマンジョウカサレチャウ。 八幡「でだ、まず初めにやることだが…」 美波「ユニットの名前ですか？」 八幡「そうだな。」 アーニャ「うーん…難しい、です。」 美波「これからの仕事に繋がる大事なもの だからね。しっかり考えて決めたいな。」 うーん…助けてやりたいけど、奉仕部の理念に反することは出来ないからな…ここは見守って、相談されたらヒントくらい出そう。 アーニャ「あの、ハチマンさんも、一緒に、考えて、くれますか…？」 うぐっ…アナスタシアさんの上目遣い… 八幡「ま、まぁ、ヒントを出すくりゃいなら、いいじょ。」 天使の上目遣いに勝てる男なんてこの世にいるだろうか。いやいたとしてもそいつはホモかゲイのどっちかだな…なんか寒気がしてきたからこれ以上考えやんとこ。 アーニャ「ズトラーストヴィーチェ…！ありがとう、です。」 美波「それで、ヒントって？」 八幡「2人はどんなアイドルになりたいんだ？その思いをユニット名に込めるんだ。」 美波「どんなアイドルに…ですか？」 アーニャ「ダー…私は、輝く星のようなアイドルに、なりたいです」 八幡「それで？どうされたいんだ？」 アーニャ「ファンやみんなに、愛されたいです。」 美波「じゃあ、名前にラブを入れましょう。」 アーニャ「はい…！あと、星のようになりたい、ので、星に関連する名前、入れたいです…！」 美波「そうだね。うーん…何かあるかな？」 アーニャ「ダー…！ライカはどうでしょう？」 ライカか…確か旧ソ連時代に宇宙へ行った犬のことか…いかにもアナスタシアらしいな。 美波「じゃあ、その2つをあわせて、ラブライカ…なんてどうかな？」 アーニャ「それが、いいです…！」ｷﾗｷﾗ アナスタシアの目が凄い輝いてる…眩しい！眩しすぎる！ 八幡「お、決まったみたいだな。」 美波「はい！ラブライカにします！」 八幡「よし、決まったから、武内さんに報告するぞ。」 美波、アーニャ「はい！」 プロデューサールームー 八幡「失礼します。」 武内「あ、比企谷さん。ユニット名は、決まりましたか？」 八幡「はい。ラブライカに決まりました。」 武内「良い名前ですね。」 八幡「島村達はどうですか？」 武内「ああ…それが…」 困ったように首に手を当てる武内さん。ちらりと向いた視線の先には 卯月「うぅーん…わかんないよー。」 未央「結構案は出したねー。」 凛「あれを案と呼んでいいの…？」 名前考える為に使ったであろう、ホワイトボードにはたくさんの候補が書かれていた。なんだよ、食べ物ばっかりじゃねーか。フライドチキンとか…絶対本田だろ… 渋谷よ、お前の意見は正しいぞ。 八幡「あー…武内さん…どんまいです。」 武内「ええ…」 八幡「武内さんはなんか名前考えているんですか？」 武内「仮の名前ですけど、こちらに…」 書類には、new generations(仮)と書かれていた。 八幡「new generations…新しい世代…ですか？」 武内「はい。島村さん達の新たな世代の始まりの願いを込めて付けてみましたが…決めるのは島村さん達なので、仮の名前としてあります。」 未央「え？何なにー？何の話してんのー？」 こちらを見て、気づいたのか、本田が駆け寄ってきて、武内さんの持ってる書類を覗き込んだ。 未央「new generations…この(仮)は？」 武内「まだ決まっていないので、仮の名前と…」 未央「…！しまむー！しぶりん！」 卯月「どうしたんですか未央ちゃん？」 凛「どうしたの未央？」 未央「二人とも見てこれ！」 卯月「これは…new generations…新しい、世代？」 凛「プロデューサー…これはどういう意味で？」 武内「島村さん達の新たな時代の始まりを願ってつけてみたのですが…」 未央「ねぇ！これでいいと思わない！？」 卯月「うん！私もいいと思います！」 凛「うん、私もそう思う。」 武内「では、ユニット名はnew generationsでよろしいですか？」 卯月、未央、凛「はい！」 武内「わかりました。これで、2つのユニット名が決まりましたね。」 八幡「そうですね。」 未央「ねぇ！みなみん達のユニット名はどうなったの？」 八幡「ラブライカだ。」 卯月「ラブはわかりますが、ライカとは…？」 八幡「旧ソ連時代に宇宙へ行った犬の名称だよ。」 凛「ふーん…何でも知ってるんだね。」 八幡「…まぁ、気になって調べてたからな。」 凛「そうなんだ。」 これで2つのユニット名が決まった。 これからは本格的に始動だな。 ……To be continued あとがき→ [newpage] あとがき こんにちは。今回はユニット名を決める回ですね。なんかニュージェネは英語で、ラブライカはそのままカタカナで書いてしまいました。申し訳ないです。 そういえば、2話が2018年9月5日～9月11日付けのルーキーランキング61位に入りました。本当にこのようなただの1人の高校生にすぎない自分の妄想の塊+駄文の作品を評価していただいて本当に感謝の限りです。 さて、今回も読んで頂きありがとうございました。

今回も稚拙な文章ですが、よろしくお願いします。

3話

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10113262#1

　あんたはあたしの親友だから。 　そう言って、一つ席を空けて座る緋山が微笑む。それだけで心の底がくすぐったいような温かさに包まれて――、白石は目を和ませて小さく頷いた。緋山の言葉を大切に刻みこむように、幾度も胸の内で反芻する。 　二人の関係は、ちょうど今、自分たちが座っているカウンター席の位置関係によく表れていると白石は思った。べったり寄り添うわけじゃない。でも手を伸ばせば届く位置。辛くて苦しくて逃げだしたい時、励ますわけでも、慰めるわけでもなく、ただ、そばにいてくれた。それがどれほど自分の支えになってくれていたのか、別れの時が目前に迫った今、痛いほどに分かる。――と、すっかり感傷的な気分にひたっていたら、緋山がニヤリと不敵に口角を上げてこちらを見た。 「――で？　あたしには素直に『寂しい』って言えるのに、藍沢には言えないわけ？」 「ええっ！？」 「ちょっとブス、何、大声出してるのよ？」 　白石が上げた頓狂な声を聞きつけ、奥から恒夫が出てきた。この後、ここ、バー・めぐり愛で藤川と冴島の結婚式の二次会が開かれるのだ。緋山が笑いを噛み殺しながら、恒夫に向かってひらひらと手を振る。 「あー、何でもないから気にしないで。みんな揃ったら声かけるから。――あんた、動揺しすぎ。ま、あたしに素直に言えたんだから、藍沢にだって言えるでしょ？」 　恒夫を追い払った緋山が白石に愉しげな笑みを向ける。 「そんな、なんで、藍沢先生に・・・」 　ごにょごにょと言葉尻を濁して緋山の視線から逃れる。――確かに、少し前なら伝えられたと思う。寂しくなるけど、藍沢先生もトロントで頑張って。そんな風にさらりと笑顔で見送れただろう。けれど―― 「あんたってさ、前からそっち方面疎いなーって思ってたけど、藍沢が死にかけてようやく気づいたんでしょ？　自分の気持ちに」 　視界の端で緋山がニヤニヤ笑っているのが分かる。図星すぎてとっさに切り返せない。白石は痛恨の面持ちで、ギュッと目と唇を引き結んだ。 「――あたしもさ、怖かったよ」 　つと、緋山の声からからかう気配が消えていた。つられて思わず緋山を見る。緋山は一瞬、白石を見返すと、目線を目の前のビアグラスに向けた。 「藍沢の意識が戻らなくて、呼吸状態も悪くて・・・あいつを失うかと思ったら、怖かった。悔しいけど、いつもどこかであいつを頼みにしてたんだなって、思い知らされた。きっと藤川も冴島もそうだったと思う。――でも、あんたはそれだけじゃないでしょ？」 　白石は答えなかった。緋山が構わず続ける。 「気持ちを伝えたい相手がいて、伝えられるチャンスがあることがどれだけ幸福なことか、あんただってよく分かってるはずよ」 　穏やかな助言が耳に痛い。一寸先は闇。言葉通りの現実を何度も目の当たりにしてきた。フェリー現場で雪村を庇い、感電して階段の途中から数メートル落下した藍沢。常に助ける側でいた彼が一瞬で助けられる側に回った。あの時の圧倒的な不安を思い出すと、今でも呼吸が苦しくなる。誰しも今日笑って別れた相手と、明日も笑顔で会える保証などないのだ。 「・・・うん。そうだね」 　うまく伝えられるか分からない。けれど、伝えようと努め、言葉を重ねることでしか、気持ちを伝える術はない。 「通話料、定額制のにしておくから。あとでしーっかり報告しなさいよ」 　緋山が偉そうに顎をツンとしゃくってみせる。白石は苦笑しながら、うんうんと頷いた。 　　　　　　　　　　＊ 　二次会からの帰り、白石は緋山と藍沢とともにそのまま病院へ向かった。朝焼けが世界を光で満たし、空は雲一つなくどこまでも青く広がる。 「あれー？　おまえら、――ったく、ホント、病院好きだな」 　ヘリポート前で偶然、藤川・冴島夫妻と行き会った。特に約束したわけでもなく、藍沢が旅立つ今日、こうしてドクターヘリの前で五人が揃うなんて、奇跡といっていい。藤川の呼びかけでヘリの前に並んで記念写真を撮った。 「なにげに、全員で写真撮るなんて、はじめてじゃない？」 　緋山の言葉に白石は微笑んだ。視線を巡らせると、藍沢も、藤川も、冴島も、穏やかに目を和ませている。 　今、この時が、永遠に続けばいいのに―― 　泣き出したいような切なさに胸が締めつけられた。藍沢はトロントへ、緋山は周産期医療センターへ行ってしまう。藤川と冴島は変わらず救命に残ってくれるが、二人は昨日、晴れて結婚式を挙げた。人生を二人並んで歩いていくのだ。彼らの門出を心から祝福しているし、応援もしている。それでも、やはり自分ひとりが「見送る側」に立っていることが、たまらなく寂しい。 　唇をキュッと引き結び、隣に立つ藍沢に顔を向ける。すると、まるで合わせ鏡のように全く同じタイミングで藍沢もこちらを見た。 「藍沢先生――」 「白石――」 　互いを呼ぶ声がシンクロした。目を瞠ったまま数秒見つめ合い、急激におかしみが込み上げて白石は吹き出した。藍沢も微苦笑する。 「おいおい、なんだよなんだよ～。おまえら、息ぴったりじゃないの～？」 「余計なこと言わない！」 「あたし、カンファレンス前に仮眠すっから、白石、あとで起こしに来て～」 　藤川が余計なツッコミを入れ、それを冴島がたしなめ、緋山は構ってられないとばかりにマイペースを貫く。それを藍沢は無言で受け流し、白石はやれやれとため息をついて――、明日も五人でこんなやりとりを繰り広げているんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。三人が大きく手を振って歩き出すのを見送ってから、二人はどちらともなく、ヘリポートのガードパイプに並んだ腰かけた。 「――いよいよだね」 「ああ」 「藍沢先生と、よくここで話したね」 　藍沢が頷き、わずかに口角を上げた。 「備品庫でもな。――おまえ、もうストレッチャーの上で仮眠するなよ」 「どうだろ？　しちゃうかも」 　肩を竦めて笑ってみせると、呆れたような渋面の藍沢と目が合った。ふふふと笑みを深めてから、白石は少しだけ表情を改める。 「さっき、何を言おうとしたの？　――あっ、『おまえは？』って聞き返すのはナシね」 　機先を制するように慌てて言い足すと、藍沢はふっと息で笑った。それからまっすぐにこちらを見る。静かで、それでいて焦れたような熱を感じさせる眼差し。白石は思わず息を呑んだ。 「――おまえと、もう少しいたかった。会えなくなる分、もう少しだけ、おまえを見ていたかった」 　鼻の奥がツンとした。視界がぼやけ、涙の衝動を堪えきれない。それでも白石は精一杯の笑顔を藍沢に向けた。 「私も、藍沢先生と、もっといたい。ずっと、ずっといたい」 　切なげに藍沢の目が眇められる。次の瞬間、視界が真っ黒に染まった。 「ムリに笑わなくていい」 　耳元に藍沢の声が低く落ち、彼に抱き締められたのだという認識が追いつく。藍沢の肩に顔をうずめ、その背に縋りついた。応えるようにさらにきつく抱きしめられる。こみ上げるときめきがやるせなくて、また涙が溢れた。 「――必ずここに帰ってくる。だから白石、俺を、待っていてくれ」 　らしくなく祈るような藍沢の声音。不安なのは、寂しいと思っているのは、自分だけじゃない。 「うん。待ってる」 　かみしめるように答えると、両肩をつかまれた。視界いっぱいに藍沢が広がり――、唇が重なる。 　十年の月日に裏打ちされた二人の想いは止めどない。 　果てのないキスに溺れる二人に朝焼けの眩い光が降りそそいだ。 　 （fin)

先週、やーっと、劇場版コードブルーを観に行くことができました。はい。本当にやっとです。（苦笑）<br />で、それを踏まえて久々に書いてみたのですが、なんだか劇場版をベースにした「気づかされた想い（恋情）」みたいな話になってしまいました。（汗）<br />なんかコレ、前に読んだ話みたいだなーと思われるかと思いますが、お付き合い下さると嬉しいです。

first kiss

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　現役を引退して僕たちの関係が変わったのは、引退パーティーをした夜からだった。 　二人ほろ酔いで帰宅して、ヴィクトルと一緒に過ごしていたピーテルのマンションで僕は三日三晩抱かれ続け、ほとんどの時間をベッド中で過ごした。 　以前からヴィクトルとは恋人同士でありセックスする仲ではあったけどお互いに現役アスリートだったしきちんと自制していた。 　だからだろうか。 　あの三日間、まるで気にでも触れたかのような情熱的な愛の言葉とキスの嵐を受けて散々可愛がられたのだ。 「ゆうり、好きだよ。愛してる」 「ずっと時間にとらわれず触っていたかった」 「もっと抱き合いたかったんだ」 　エトセトラ、エトセトラ………。 　その三日後の夜に色香漂う蒼い瞳を輝かせたヴィクトルは、僕を抱きしめながら告白した。 「俺ね、こうみえて性欲強いほうじゃないんだよ」その言葉にポカンとした表情を浮かべた僕を宥めるように、頭をワシャワシャ撫でられた。 「………ゆうり、だけなんだ。こんなにも、何度抱いても、君が欲しくて、欲しくて。身体が熱くなって際限なく求めてしまう。ティーンに戻ったみたいなんだ」 　はぁ………、と熱を帯びた吐息で囁かれてこっちまでおかしくなりそうだった。 「何度キスを重ねても足りなくて、なんならドロドロに溶け合ってひとつになれたらいいのにとすら思ってる」 　僕を抱きしめる腕が震えていた。 「どうしたの？」と、問いかけたら泣きそうな顔したヴィクトルとぶつかった。 「俺のこと嫌いにならないで」 「なるわけないでしょ」 「だってゆうりのことしばらく家から出してないし。こんな閉じ込めるようなことしちゃったし」 「別に監禁されてるわけじゃないんだからね。僕は僕の意志でここにいるんだよ。それに僕だって………ヴィクトルとこうして居られるのすごく嬉しい」 　ぼわっと顔に熱が溜まるのがわかる。きっと真っ赤になってるだろう。 「ゆうり、可愛い。好き」 　また深いキスをされた。そのまま押し倒されて　次の朝になってヴィクトルはやっと落ち着いた様子をみせた。 　それからの生活は、一見普通だけれど毎日セックスをしている。一日で何度かすることもあるし一度の日もある。 　新婚さんみたいだ。 　よく飽きないなと、自分のことながら思うけど、ヴィクトルのキラキラした僕が大好きなグラビア顔で迫ってくるので、長年のヴィクトルオタクとしては断れる案件ではなくなっている。 　まぁ、自分もまんざらではないし、そのうちヴィクトルの衝動も治まって落ち着いてくれるかなと思っていた矢先だった。 ☆ 「えー………と、これは？」 「うん。たまにはこういうのも、いいかなぁって思って」 　ご機嫌な時は口の形が可愛くハートになるヴィクトルは、まさしく今その状態で僕からの反応を待っていた。 　帰宅して早々、「プレゼントがあるんだよ！」と手渡されたのはゴールドに赤いリボンのラッピング。中にはレースで覆われたブルーのエッチな下着とガーターベルトにレースの靴下。 「ゆうりが着るんだよ」 「あ、はい」 　現役時代にもたまにこういうコスプレまがいな衣装を用意してすることはあった。 　当時、ヴィクトルジュニア時代の衣装を着て迫られた時には自然と涙が流れて感動すらしてしまったのだから。 「今週は下着フェアです」 「した、ぎ、フェア………」 　なにアパレルブランドのイベントみたいに言っちゃってるの。 「で、良かったら来週は制服フェアしようね！　俺、ゆうりの学ラン実家で見つけちゃったんだよ」 　満面の笑みを浮かべて告げられ驚いた。そんなとこまで手を回しているのか、と。 「ゆうりからオッケー貰ったし、さっそく今夜からしようね」 「え、僕………」 　オッケーなんて言ってませんけど？　 　という心の声が浮かんだが、こっちが蕩けそうなレベルの物凄くカッコいい顔して「楽しみにしてるよ、マイハニー」と耳元で色気たっぷりのバリトンボイスで囁かれた日には、頷く以外の答えは見つからなかった。 　ヴィクトルが僕と毎日セックスするのには、もう一つ理由があるからだと思っている。 　僕たちは現役時代に『師弟』『恋人』という枠以外にも『センチネルの専属パートナー』という関係を築いていた。 　センチネルとは、人間の特異体質の一種で五感の異常発達のことだ。 　人によって症状は様々で、地球の裏側の様子が視えたり声が聴こえたり。暗闇でも昼間と同じレベルで視界が広がったりする。センチネルの力が強力にある人などは、意識をシステムロックされたコンピュータの中に入り込ませることが出来るのだという………。 　ここまでくると超能力の一種だよね。 　だけど、このセンチネルにも欠点があって、生まれつき五感が鋭くあらゆる神経の過度な使いすぎにより気が狂ったり死亡してしまうんだ。 　それを救ってくれるのが『ガイド』と呼ばれるこれまた特異体質の人たち。 　ガイドはセンチネルとセンチネルと直に触れることによって、感覚の暴走をとめて制御してくれる………。 　色々ややこしいけど、僕たちはこのセンチネルとガイドという体質。 　もともと、僕はセンチネルの力を生まれつき持っていたのにも関わらず冬眠状態が続いており、ヴィクトルに出会ってからセンチネル体質が開花してしまったんだ。 　最初は気づかなかった。 　センチネルなんて夢絵空事だと思っていたし一部の特別な人間だけだという認識があったから。 　だけどヴィクトルに触れられるたび、春の花のようないい匂いと疲労が吹き飛ぶ感覚を幾度も味わうようになった。 　気持ちいい。 　ヴィクトルに触られると落ち着くし疲れが取れていく。 　意識し始めた頃、彼に「ゆうりはセンチネルだよ。俺のガイディング気持ちいいよね？」と言われて気づいた。 　そうか、僕はセンチネルだったのか、と。　　　身体から奏でるように踊ると称賛されたスケートはセンチネルの力を使っていたのだと後に判明もした。 「ゆうりのセンチネルは軽いレベルだから、そのままでも気に触れたりはしないだろうけど、俺はゆうりに触れて気持ちいい。ねぇ、もっと触っていい？」 　言われて初めて知ったこと。 　ガイドも特別に相性が良いセンチネルといると快感を得るのだということ。 「俺、ゆうりの専属ガイドになるっ。ゆうり良いよね？　それと前から気づいてただろうけど、………君のことが好きだよ。恋人にもなって欲しい」 　実家の温泉あがりに、上気した頬で抱きしめられて告白を受けた。その時は、ただただ喜びしかなくて僕は大きく頷いた。 　初めて過ごしたシーズンの途中、僕たちは恋人同士になったんだ。 　通常、男性同士のセックスはコンドームを使うのがマナーだし性感染症を防ぐ為にも必要だ。だけどセンチネル体質の僕はその正反対だった。センチネルにとって、ガイドの体液は身体の異常を正常値に戻してくれる貴重なもの。いわゆる薬に近い。 　ガイドの汗も涙も精液も体液のほぼすべてがセンチネルにとっては大切な生きる資源となっている。よってセックスは最初から何もつけないし、受け取った身体から体液が出てこないように出来るだけ奥に射精して貰っている。 　もちろんお腹を壊すなんて皆無だ。センチネル体質としては、あさましくも、もっと体液が欲しいと思ってしまう。と、まぁそんな関係。 ☆ 「うー………、ん」 　僕の体液で汚れまくりあちこち破れた下着が散乱しているベッドの上。 　散々しまくり疲れたので寝落ちしてしまったけれど、そろそろシャワーを浴びたいと身を起こした。隣には月明かりに照らされた美丈夫が寝息をたてて夢の中にいる。 　ああ、ヴィクトルカッコいいよね。何しててもどんな表情でもカッコいいってどうなの。 そんなことを思いながらベッドから抜け出した。 　立ち上がり数歩足を踏み出したその直後。 「うっ！！」 　突然襲ってきた吐き気に僕は慌てて口を抑える。 　駄目だ。このままだと汚しちゃう。 　トイレに駆け込んで思いっきりリバースする。胃からせり上がってくる苦味と酸っぱい液体が充満している。 　………ど、どうしたの、僕？　昨日変なもの食べたかな。 　吐いたら途端にスッキリした。　 　自分でも思い当たるフシがない為に戸惑ってしまう。そのままシャワーを浴びて口をゆすぎ全身を洗った。なんだか急に温まりたくなって浴槽にお湯をためて浸かった。 　気持ちいい。特に身体内部がじんじんとお湯の熱が伝わってきてこのまま眠ってしまいそうだと思う。 　だがこれだけでは済まなかった。 　この日をキッカケに僕の体調は下降を辿る一方となったのだ。 　それもヴィクトルとセックスした後に吐いてしまう。最中はいつもと変わらず気持ちいいのに、その数時間後には、必ずといって良いくらいトイレに駆け込む日が続いていた。 　さすがにヴィクトルも気づくかなと、思っていたが彼はいつもと変わらないままだった。 　僕が吐くようになってから、三週間が経過した。 　ここまで来るとヴィクトルもいい加減、僕がよく吐くことに気がつくようになった。 　なんせベッドイン後だけではなく、日常生活の食事の後からも吐くことが増えたからだ。 　最初は普段通り優しく気かってくれていたヴィクトルも、次第に僕を病院に連れて行こうとしてくる。 「ゆうり、今日こそ病院へいこう」 「嫌だ」 　吐き気がおさまらず、ベッドの中で包まっている僕に呆れた声をあげる。 「近頃、何してもずっと吐いてるじゃないか。何か大きな病気の前兆だっらどうするんだ？」 　声音が苛立ちを含んでいる。 　ヴィクトルに気づかれてから一週間経過していた。毎日のように病院で検査を受けようと言ってくるのをかわしながら生活している状態だった。 「なぜ、そんなに拒絶する？　以前病院で嫌なことあった？」 　ヴィクトルが言う病院とは、僕たちセンチネルが通う検査機関だ。 　センチネルとガイドという特異体質の僕たちは、ここで健康診断を行ったり体調を記録されて資料として保管される。 　僕にはこの吐き気に思い当たることがあった。 センチネルとその専属ガイドという関係性についてだ。 　これには相性が重要視される。 　素晴らしいと称されているガイドが、どのセンチネルとも合うわけではない。すべてが解明されているワケではないが、生まれ持った遺伝子の配列やその他諸々。加えて感情に左右される。 　つまりパートナーや恋人同士であったり愛し合っている者同士であればある程、抜群のガイディング効果を発揮するのだ。 　ヴィクトルと僕の遺伝子相性はピッタリだった。さらに付け加えるならば、僕たちはとても愛し合っていた。体液摂取から精製される相性の結合率は基準値を遥かに超えたレベルで専門機関の研究員たちが色めき立ったのを思い出す。 　だが今はどうだろう。 　僕はヴィクトルが好きだ。その気持ちは昔から変わらない。むしろ引退して彼のプライベートに触れる機会が増えるごとに惹かれていった。 　だけどヴィクトルは？ 　彼は引退してから僕と沢山セックスするようになった。ヴィクトルの言葉を疑ってるわけじゃない。彼自身の中で少しずつ僕に対して『飽きた』『つまらない』というマイナス感情が生まれて来ているのではないだろうか。 　実際に今週は『バニーウィーク』と称して色々なタイプのバニーガールの格好をさせられた。シルバーの網タイツで尻尾のついた下着に、ヴィクトルは大変興奮してスマホで動画まで撮っていた程だ。こっそり削除して事なきを得たけれど、気づいた彼に泣かれたのを思い出す。 　普通の僕との生活には刺激を感じなくなっているのではなかろうか。 　ヴィクトルの気持ちが離れるにつれて僕たちの結合率はおのずと下がる。 　もしも………そう………。 　ヴィクトルが僕のことを愛していないことが、ガイディングの不具合をもたらし、僕の体調を悪くしているのだとすれば？ 　頑としてベッドの中から動こうとしない僕にヴィクトルは、深く溜息をついた。 　病院に行きたくないと足掻いても、いつかは原因は判明する。時間の問題だ。その時、ヴィクトルはどんな反応をするのだろう。僕たちは別れることになるかもしれない。 　………嫌だ。そんなの耐えられない。 　ヴィクトルが隣に居ない生活なんて今の僕には、………息ができなくなりそうだ。 ☆ 　度重なる嘔吐。そして食事もマトモに取れなくなり、精神的にも肉体的にも疲労困ぱいした僕は、とうとう気を失ってしまった。 　そうして目が覚めたらそこは病院のベッドの上だった。 　さっと血の気が引いていく。ここは専門機関の病院だ。一度検査入院したことがあるから知っている。 　もう駄目だ。 　………決めなければいけない。 　ヴィクトルと別れる覚悟だ。 　身を起こしてみる。誰も居ない個室。外は夕刻を告げる色をしていた。 　ガラガラと扉の開く音がして驚いた顔のヴィクトルが入ってきた。 「ゆうり！　気分はどうっ？」 　駆け寄って手を握られる。その温かさに胸が痛くなった。こんなにも思ってくれてるんだと錯覚しそうになる。寝てる間に検査されて結果が出ているかもしれない。そしてヴィクトルはすでにその事実を知ってるかもしれないのだ。 「心配かけてごめんね。気分は普通だよ。ねぇ、ヴィクトル。僕の身体検査したの？」　　 「そうだね。ゆうり倒れてたから俺、必死になって。検査したけど命に別状はないし、おそらく重要な病気にもかかってないって言われて、俺、ホッとして泣けてきて………っ」 　よく見ると目元が赤く腫れている。 　そっか、ヴィクトルを泣かしてしまったのか。ごめんね。 「センチネル体質だから、詳細わかるまで時間がかかるって言ってた。ゆうりが目を覚める頃には原因が判明するかもって」 　近づいて髪を撫で頬ずりされる。ヴィクトルのいい匂いがする。大好きな匂い。ぎゅっと抱きしめられ切なくて苦しくなった。 「目が覚めたのね。おはよう勇利くん」 　女性の声が響いた。 　穏やかな瞳を向けて扉から入ってきたのは、僕とヴィクトルの担当医だった。 「詳細な検査結果出たわよ」 　栗色の長い髪を束ねた彼女は「起き上がれるなら診察室までいらっしゃい」と、僕を促す。 「大丈夫です」 　ベッドから降りてしっかりと返事をした。 　もう逃げられない。僕はギュッと瞳を閉じた。 　 　☆ 「まぁまぁ、そこ座って。お茶は………そうねぇ。ルイボスティーかな」 　診察室に入ると彼女は僕たちをソファーに促した。そうして自らの手でポットにお湯を入れて、お茶を用意してくれた。 　ふわりと紅茶に似た香りが室内に漂う。丁寧に入れられたそれらをソーサーで受け取ってひとくち飲んだ。 　ヴィクトルは「美味しいね。これ家のお茶セレクトに追加しようよ」なんて言っている。 「リラックスして聞いてくれたら嬉しいなって思ってね」 　椅子に腰掛けた担当医は、穏やかな笑みのまま僕たちを交互に見やった。 　ああ、こんな焦らされても結果は同じなんだから、ズバッと言い切って欲しい。これじゃあ、まな板の上の鯉だ。 「先生、回り道しなくていいです。ハッキリ結論を教えてください。僕は逃げたりしません。……僕なりに覚悟してきました」 　僕は顔を上げると強い口調で言った。 　驚きの色を乗せた蒼い瞳からの視線を感じる。そりゃそうだろう。本人が原因を知っている口ぶりなんだから。 　すると彼女はフッと瞳を細めて「なら遠慮なく、結論から言うわね」と言葉を続けた。 「おめでとう。ゆうりくん妊娠四ヶ月目よ」 　思考停止。 　………、え。 　い、ま、今なんて言った、の？ 　僕は驚愕のあまり身震いがした。信じられない、そんな言葉。 　妊娠？！　にんしんだってぇっ？！　僕が？！　だって僕男だよっ。 　ありえない。嘘でしょう。これドッキリとかじゃない？！ 　あまりの恐ろしさにバクバクと心臓が鳴っている。うるさくて堪らない。 「………妊娠？　ゆうりが？　……ああ、なんてファンタスティックなんだ！」 　隣でヴィクトルが声をあげている。 　いやちょっと待って。そんな簡単に信じないでよヴィクトル。 　声が出せない僕に、担当医は口を開く。 「ゆうりくん、現実を受け止めて」 「あのっ、僕………男なんですけど」 　もしかして、僕は女性だったんだろうか。ヴィクトルとセックスしてたけど気づかなかった。 「うーん、性別は男性。間違いないわ。だけど妊娠してるの。これみて、超音波の画像」 　ピッと目の前の液晶画面には、よくわからない白黒画像が写っている。 「相手はヴィクトルよね」 「えっ！」 　確認するように言われたことに過剰に反応してしまう。いやその前に僕が妊娠するなんて、そんな。 「ちょっと待って。ゆうり何その反応。俺以外の可能性があるのかっ？！」 　急激に青ざめて噛みついてきたヴィクトルに、圧倒される。 「ないないないよっ！　ヴィクトル以外とするわけないっ」 「だったら、俺との子だろ？」 　優しい瞳で見つめられて、胸が苦しくなって息が止まりそう。 　うう、ヴィクトルこんな時にですら、カッコ良すぎる。 「センチネル体質の世界中の症例を検索したのだけど、同じ症例が数件ヒットしたのよね。とても珍しいけど、ゆうりくんが妊娠してるのは確実よ」 「そんな、」 　信じられなくて呆然としてしまう。なにをどう言えばいいのかわからない。 「ゆうり嬉しくないの？　俺との子なんだよ」 　神妙な表情を浮かべたヴィクトルが僕の手を握ってくる。 「いや、、そこじゃなくて。僕、ずっと体調が悪くて。吐いてたし、それってセンチネルとガイドの相性がズレたのかと思ってて………っ」 　違うの？　だったら何故こんなにも苦しいの？ 「つわり」 　彼女はことも何気に言い切った。 「つ、つ、つわり………」 　なにそれ。つわり？！ 「まぁすぐに発想わかないわよねぇ。男性で初妊娠だし？　あと一ヶ月もすればマシになるわよ。吐き気が続くと思うけど水分補給だけはしっかりしてればなんとかなるから。無理になったらいつでも入院してきなさい、ね」 「そうなんだ。僕、ぼく………僕が、に、にん、妊娠………」 　ああ、やっぱり現実が受け止めきれないよっ！！ 「ヴィクトル、どうしよう」 　瞳を泳がせ思わず呟いたら、ヴィクトルは満面の笑みで手を握ってきた。 　その手のひらが熱い。ものすごく。 「俺は嬉しいよ。すごく。……ああ、天にも昇る気持ちだ。俺とゆうりの子供なんだよ。世界一可愛いに決まってるだろうっ！」 「え、と。それは喜んでくれてるってこと？」 　おどおどして尋ねたら、「当たり前だろう。何言ってるの？　ここ病院じゃなかったら嬉しくて叫んでるよ」と言われた。 「そ、そうなんだ…………」 「ゆうりは嬉しくないの？」　 　再び尋ねられてハッとした。 　正直そこまで頭が回らない。ただ驚きのが勝ってて。だけど、ああ、………ヴィクトル、喜んでくれてるんだ。僕との子供。 　妊娠だと言われてもリアルに感じられない。それでも隣でヴィクトルが喜んでくれてる。それを噛み締めたら沸々と嬉しさが込上がってくる。 「ううん。びっくりして、相性バランスが崩れたのかって心配してたから」 　素直に応えたら、ヴィクトルは蕩けそうな瞳にになった。 「もしも遺伝子が変化して俺たちの相性が変わっても、俺はゆうりを愛してる。ゆうりを世界で一番愛してる自信あるからね。ガイディングは常に最高に決まってるだろう」 「その結合率なんだけど………」 　僕たちの会話に弾んだ声の担当医が入ってくる。 「相変わらず凄いわよ。最高値キープ。あと面白いもの見せてあげる」 　彼女はビーカーに入った透明の液体の中にスポイドでポタリと一滴雫を落とした。 「さて、スポイドに入った二人の唾液を特別な科学液体に落として混ぜます」 　スティックを使ってサラサラと混ぜていく。 「しばらく放置して出来る結晶がね、あなたたちのは、いつもハート型なのよ！」 「え、ハート………」 　何が言いたいのかわからずポカンとしてしまう。 「相性が悪いと結晶は出来ない。相性が良いと丸くなる。そして最高値の場合は、どうやらハート型らしいの」 「すごいっ、すごいね。ゆうり」 何故かヴィクトルは瞳をキラキラ輝かせてビーカーを覗き込んでる。 　え、そこ食いつくとこっ？！ 　僕わかんないんだけど。 「ゆうりくんの唾液にヴィクトルが変形してハート型に纏わりついてくっついちゃうの。うふふふふ、おもしろーい。こんなの初めてなのよ。データで見てはいたけど本物みて、私は感動してるわぁ」 「ハート型」　 　頭がクラクラする。もうついていけないや。 「自然界にもハート型の葉っぱあるでしょう。理由はどうあれロマンチックよね」 「そうですかね」 「俺たち、最高の相性なんだね。ゆうり俺、感動してる」 　ぎゅうぎゅう抱きつかれて僕はもう、なんだか考えるのを放棄した。 　だってやっぱり信じられなくて胸が苦しい。 　しばらくヴィクトルと担当医が話し込んでいたけれど、僕は疲れ切ってこれ以上聞く気力がわかなかった。 ☆ 「ゆうり、ゆうり、こっちに来て。ああマッカチンも来てくれるんだね」 　帰宅してすぐヴィクトルは、ソファーに僕を座らせた。脚元にはマッカチンが何ごとかと、僕たちの様子をじっと伺っている。 　ヴィクトルはブランケットを僕のお腹へかけると幸せそうな顔をして隣に寄り添った。 「今日は突然のことで、とても驚いたけど、俺はすごく嬉しいよ」 　うっとりと優しい眼差しがこちらを見ている。そっと手のひらが伸ばされて、お腹をいたわるように置かれた。 「僕、あのまだ混乱してて。ヴィクトルはどうしてそんなに冷静でいられるの？」 　正直、まだ頭の中はめちゃくちゃだった。 　僕はどうしたいのだろう。沢山の感情が押し寄せてきて涙が溢れてくる。 　ポタリポタリと音もなく泣き出した僕に、ヴィクトルは慌ててティシュを差し出してくれた。 「そうだね。冷静なのは、妊娠した当事者じゃないからかもしれない。これでも俺、相当びっくりしたんだよ。けど、ゆうりとの子供が出来たんだと思ったら嬉しくて胸が壊れそうなくらい興奮してる」 「う、うん。ありがとう」 　嬉しい。じぃんと染み渡る言葉と横からそっと腕を回されて、その温かさにまた涙が溢れた。 　ヴィクトルの愛情が無くなってきたのだと思ってた。近いうちに別れなきゃって覚悟を決めていたその緊張の糸が切れたみたいだ。 　ホッとして、僕はこの人がパートナーで良かったと改めて思う。 「ゆうり、愛してるよ。俺の子を宿してくれてありがとう」 　泣きじゃくってる僕の頬に優しく何度もキスを落としてくれる。 　僕だけの唯一無二の存在。 「うっ、えぐっ、………僕ね、ヴィクトルが僕のこと飽きたんだと思ってた。いつか捨てられると思ったら不安で病院に行けなくて………」 　ぽつりぽつり吐露すると、ヴィクトルは真剣な目をして声を上げた。 「そんなこと！　ありえない。俺がゆうりに捨てられるならともかく」 「ヴィクトルのこと捨てたりしないよ」 「前科持ちに言われたくない」 　ヴィクトルはヤレヤレと行った風に息をついた。 「ねぇ、ゆうり。いい機会だから、俺たち籍を入れないか」 「え、………」 　実は僕たちはまだ婚姻届を出していなった。 　四年前にヴィクトルから『金メダルで結婚だよ』と言われてから、いくつか金メダルを取ったけど、ナンダカンダあって僕が結婚まで踏み切れなかったのだ。 「日本では今年、同性婚が認められたよね。この子たちの為にも、俺はゆうりと家族になりたい」 　ヴィクトルはしっかりと両手を握って僕の瞳を覗き込んだ。 「………ヴィクトル」 　ずくんと胸が痛くなった。嬉しくて愛しくて、こんな優しい人と一緒にいることが、奇跡みたいで………。 　神様は僕に有り余る程の幸せを与えてくれている。それを実感して、涙が止まらなかった。 「婚姻届をすぐに取り寄せよう。ゆうりの家族にも伝えないとね」 　ヴィクトルは、僕の涙を掬い取るように沢山キスをしてくれた。 ☆ 　夜は久しぶりにスウェットを着込んで眠った。ヴィクトルはどこからか腹巻きを持ってきて僕に被せてくれる。 　彼は相変わらず裸だったけど、ただ抱き寄せて眠ってくれた。まだまだ聴こえる筈ないのに、お腹の心音を確かめるように時折、僕の腹部に耳を寄せていた。 「ゆうりと正式な家族になれる上、二人も新しい家族が増えるなんて、ね」 　声を弾ませて呟いているが、………ちょっと待って。今の聞き捨てならない。 「二人って？」 　おそるおそる尋ねたら、ヴィクトルは僕を抱き寄せていた腕を緩めた。 「双子ちゃんだからだよ」 「ふ、ふ、双子っ？！」 　思わず声が裏返った。 　いやそれ、そんな重要なとこ聞いてないっ、聞いてないよっ。 　目を丸くする僕と対照的に彼は穏やかに息を吐くと髪を撫でてくる。　 「昼間、担当医が話してくれただろう。ゆうり、途中からぼうっとしてたから聞いてなかったんだね」 「ねぇ、それ本当っ？」 「超音波が間違ってなけばね」 「そっか、そうなんだ………双子」 　びっくりだ。妊娠だけでも受け止めきるのがやっとだったのに双子とは………。 「愛してるよゆうり。今夜はもうおやすみ。俺たちの子供たちもおやすみ」 　ヴィクトルはそう言ってまぶたにキスをしてくれた。 　優しいキスに、またじんわりと涙が伝った。 　 ☆ 　目が覚めるとすでに隣には人がいなかった。どうやらヴィクトルは先に起きているらしい。 　のそのそと起き上がった。昨日のことは夢だったのかもしれない、なんて思ってしまう。そのくらい非現実的な話だった。 　リビングへ続く扉を開けると、甘いパンケーキの匂いがした。ダイニングテーブルに視線を向けるとそこにはハート型のパンケーキがお皿に鎮座している。その傍らには、柄の連なったサクランボ。 　………あれ、これってもしかして。 　ヴィクトルがパンケーキをハート型にするなんて初めてのことだ。 　ねぇ、ハート型って僕たちのこと？　じゃあこのサクランボは……その、あれだね。きっと、生まれてくる子どもたちだよね。 　じわっと、目頭が熱くなった。昨日あれだけ泣いたのに再び涙が零れた。ああ、なんだか涙もろくなっている。 　嬉しくて心が温かくてしょっぱい涙が頬を落ちた。キッチンではヴィクトルが用事をしている音がする。 　朝一番、彼になんて声をかけようかな。 『おはよう』『愛してる』『ありがとう』『嬉しい』『ずっと一緒だよ』『これからもよろしくお願いします』 　色んな言葉がグルグルと駆け巡る。 　………ああ、そうだ。これにしよう。僕はキッチンからやってきた彼に声をかけた。 　「ヴィクトル。これからも離れずに傍にいて」

ヴィク勇。恋人設定。勇利視点で一人称。<br />ピーテル同棲中。<br />時間軸→公式より四年先の引退後。<br />センチネルバース（独自設定あり）。男性妊娠。<br />勇利→センチネル、ヴィクトル→ガイド<br />☆☆☆☆☆<br />引退後のある日、勇利は体調不良におちいる。思い当たることがあり、病院に行きたくなくて拒否してしまうが………。<br />☆☆☆☆☆<br />男性妊娠かオメガバース妊娠を書いてみたかった結果です。<br />勇利はナチュラルに妊娠しそうだなって思っています。もちろんヴィクトルの子供です(*^^*)

僕たちの相性はハートのカタチ

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10113733#1

図書館の男の場合 　僕はＮＹにある私立中央図書館で司書をしている。昔から本を読むことが好きで、将来は本関係の仕事に就きたくて司書というお堅い仕事を選んだ。 　勉強ばかりしてきたせいで恋愛とは程遠い学生生活を送り、就職しても人ではなく本と向き合う生活。気がつけば三十路半ばを過ぎていた。 　独身で、彼女もいない。一度も女性と付き合ったことはないが、べつに恥ずかしいなんて思ったことなどない。なぜなら、今まで生きてきた中で、彼女にしたいと思える相手に出会っていないからだ。 　周りの人間は僕のことを捻くれ者と呼ぶ。 　恋愛なんてしなくても好きな本に囲まれて生きていければそれでいい。愛だの恋だのにうつつを抜かす奴らは馬鹿だとさえ思っていた。 　そんなある日、僕に運命の出会いが訪れた。運命の相手は僕より一回り以上年下の男の子で、名前を奥村英二くんという。なぜ名前を知っているかというと、以前「絶品ヘルシー料理の作り方」という本を貸し出したとき、貸出カードに記入されている個人名をこっそり盗み見たからだ。 　奥村くんは、日本人で黒髪と大きな真っ黒な眼が可愛らしい男の子だ。初めて彼を見た瞬間に、僕は雷にうたれたような衝撃を受けた。そう、ビビビと感じたのだ。奥村くんは僕の理想通りの人だった。やっと運命の人に出会えたのだと僕は喜んだ。 　奥村くんは突如ＮＹに現れた天使。僕は心の中では天使ちゃんと呼んでいる。 　僕と天使ちゃんは運命の悪戯によって引き合わされた。出会いは偶然、僕が何百冊も積み上げて荷台で運んでいた本を全て床に落としてしまった。本の山は大きな音をたてながら雪崩のように崩れ落ちた。ＮＹで一番大きな図書館には大勢の人がいるが、誰も僕には目を向けない。それどころか、「煩い」「迷惑」とばかりに僕に目を向ける人々。中には舌打ちをする奴らもいた。 　どいつもこいつも、優しさのカケラもないクズどもめ。 　妄想の中で僕は奴らに銃を向け、一人一人撃ち殺す。そして、奴らに言うのだ。 　俺に刃向かったから悪いんだ、と。 　誰にも聞こえないような小さな声でブツブツと文句を言いながら、一つ一つ荷台に本を積み上げていると、突然、視界に手が映り込んだ。顔を上げると、そこには黒髪の青年がいた。 「手伝いますよ」 　彼は本を荷台に全て乗せ終えるまで手伝ってくれた。作業が終わると青年は「お仕事頑張って下さいね」と言い、大きな眼を僕に向け、にこりと微笑んだ。 　そのとき、僕は彼が運命の相手なのだと直感した。 　あの日から、奥村くんを目で追うようになった。 　彼が図書館に来る日は決まっていない。図書館に来ると必ず手に取るのが料理本だ。奥村くんは料理が趣味らしい。 　料理本をある程度見終わると、適当に本を持ってきて暇そうにペラペラと捲る。 　今日もまた暇そうに本を読んでは、小さな口を大きく開けて欠伸をする。 （ああ、可愛いな） 　仕草の一つ一つが可愛い。奥村くんを知るたびに僕はどんどん彼に惹かれていく。 　妄想の中で、僕と奥村くんはこの図書館で本を読んでいる。奥村くんは「飽きた」と言いながら、僕の肩に頭を乗せる。本を読みたい僕は奥村くんに構ってあげられない。だから、他の人にバレないように、机の下では手を繋ぎ二人だけの秘密を共有するのだ。 　妄想に浸っていると、「でっかい欠伸」と奥村くんの隣にいる男が言った。 　奥村くんの隣にいるのは柄が悪いことで有名なアッシュ・リンクス。僕の最大のライバルでもある。いつも天使ちゃんの隣を独占しているいけ好かない男だ。 　見た目は派手で、口は悪い。いい噂すらないのに、奥村くんはいつも彼とつるんでいる。 　僕ではなく、なぜ彼といるのだ。僕といるほうが楽しいに決まってるのに。 　奥村くんは「もー飽きた」と言って不貞腐れたように小さく唇を突き出す。 「アッシュ、お腹すかない？」 　自分よりも座高の高いアッシュ・リンクスを見上げながら、小首を傾げる。 　可愛い。あざと過ぎるよ、奥村くん。そんなことしたら、その男が勘違いしてしまうじゃないか。君は僕の運命の相手なのに、他の男に愛嬌をふりまくなんて、いけない子だ。 　あとでたっぷりお仕置きをしてやろう。 　どんな恥ずかしいお仕置きをしてやろうか、と再び妄想する。 「ホットドッグ食いに行くか？」 「うん」 　二人は席を立つと、施設外にあるホットドッグ売り場に向かう。時間を確認すると僕もお昼休憩の時間だった。同僚に休憩に入ることを伝えると、二人のあとを追いホットドッグ売り場に向かう。 　二人はホットドッグと飲み物を買い、テーブル席に座っていた。僕もホットドッグを注文し、彼らから少し離れたところに座る。この位置は勿論、奥村くんをよく観察できる位置だ。 　奥村くんは小さな口を大きく開き、ホットドッグにかぶりつく。もぐもぐと咀嚼し、唇の端に付いていたケチャップを赤い舌がペロっと舐めとる。 　ああ、なんて卑猥な光景なんだ。奥村くんに食べてもらえるなんて、なんて幸せなホットドッグなのだろう。僕もあのホットドッグになりたい。ホットドッグになって、奥村くんの体の一部になりたい。 　心も体も君と一体になりたいよ、奥村くん。 　そのときだった。物凄い殺気を感じた。 　周りを見渡すと、一人だけ僕を睨みつける人物がいた。その人物とは奥村くんの隣に座っているアッシュ・リンクスだ。 　くそ、アッシュ・リンクスめ。邪魔ばかりしやがって。 　僕は目を逸らし、ただ普通にホットドッグを食べている人を演じる。 　アッシュ・リンクスには、ある噂があった。アッシュ・リンクスと目が合えば殺される。 　なんておっかない男だ。あんな凶暴な男の隣にいる奥村くんが心配で仕方がない。 　きっと、あの男のことだ。奥村くんを騙しているに違いない。 　奥村くんを助けなければ。 　彼だって、アッシュ・リンクスに脅されて仕方なく隣にいるのだろう。 　待っててね、奥村くん。僕がそこから助け出してあげるから。 　アッシュ・リンクスはいつも数冊の本を借りる。手続きを行なっている間、奥村くんは一人で入り口で待っていることを僕は知っていた。 　今日もアッシュ・リンクスは本を借りにいき、いつもの定位置に奥村くんはいた。 　妄想の中では僕と奥村くんは、たくさん話をしているが、実際の奥村くんとは、本の貸し出しのときくらいしか話をしたことがない。話しかけようとしても、いつも隣にはアッシュ・リンクスがいるのだ。 　いつも奴は俺たちの邪魔ばかりする。あの男のせいで僕は奥村くんと結ばれないのだ。あの男がいるせいだ。 　あの男は今いない。やっと、君と話ができるね。 「奥村くん」 　名前を呼ぶと、携帯電話に向けられていた大きな眼が僕に向けられた。数回瞬きし、小首を傾げた。その姿が何回もしていた妄想よりも遥かに可愛い。 　本物の奥村くん。 「あの、どうして、僕の名前を？」 「知ってるよ。だって、君と僕は運命の赤い糸で結ばれてるんだから」 「……は？」 　奥村くんは奇妙なものを見るような眼で僕を見る。どうしてそんな眼を向けるんだ。 　歩み寄ると奥村くんは警戒するかのように僕から一歩ずつ離れていく。 「どうして離れるんだい？」 「あなたが近づいてくるから……」 「どうして、僕がわからないの？　君と僕は運命的な出会いをしたじゃないか」 　あの日のことは忘れたことはないよ。君と出会った瞬間の記憶を僕は何回も頭の中でリピートしてるんだから。 「……あの、勘違いだと思います。僕、あなたのこと知りませんし」 「知らないはずないだろ。僕だよ。ほら、思い出して」 　あの日、君は僕を助けてくれた。運命の出会いを果たしたじゃないか。 　手を伸ばし、奥村くんの腕を掴む。 「あの、離してください」 　必死に手を振り払おうとする奥村くんの手を離さないように力強く握る。すると、奥村くんが痛みに表情を歪める。 「あの男、アッシュ・リンクスが悪いんだ」 「……なんで、アッシュが……？」 「あの男は悪い奴だ。奥村くんは騙されてる。一緒にいても、ろくなことにはならないよ。奥村くんは僕といたほうがいいんだ」 　僕と一緒に本でも読もうよ、奥村くん。 　そのときだった。突然、肩を掴まれ後ろを振り向かされる。現れたギラつく翡翠の眼と合い、次の瞬間、右頬に今まで味わったことがない激痛が走った。 　殴られた衝撃で後ろによろめき、壁にぶつかる。殴られた頬に手を当てる。ズキッとした痛みとともに鉄の味がした。口の中が切れているようだ。 　視界にスニーカーが映り、見上げるとアッシュ・リンクスが僕を見下ろしていた。 　いつも涼しげな翡翠の眼は、殺気立ち、眼だけで人を殺されるのではないかという恐怖を感じ、両足がガタガタと震えだした。 「お前、よく英二のこと見てる変態野郎だな」 「ち、違う！　僕は変態なんかじゃない！」 「変態だろ。今日だってホットドッグ食べる英二をやらしい眼つきで見てたよな？」 「あれは、その……」 「責任者に言いつけるぞ、コラ」 　責任者に言いつけられれば僕は確実にクビだ。人が下手に出ればいい気になりやがって。 「君が悪いんだ！」 「は？」 「君が、僕と奥村くんの邪魔をするから」 　そうだろ、奥村くん。目線を向けると奥村くんは怯えたようにアッシュ・リンクスの後ろに隠れていた。 　なぜなんだい、奥村くん。 「奥村くんと僕は運命なんだ。君さえいなければ、今頃恋人になっていたはずなのに！」 「何が運命だ。気色悪りぃ」 　気色悪い、という彼の言葉に逆上した僕は、持っていたボールペンを取り出した。 　この男を殺してやる。 　そう思い、アッシュ・リンクスにペン先を向けた。 　しかし、僕はそのボールペンを刺すことが出来なかった。なぜなら、アッシュ・リンクスを庇うように奥村くんが僕の前に立っていたからだ。 「そこを退いてくれ、奥村くん」 「イヤだ」 　なぜなんだ、奥村くん。なぜ、僕よりその男を庇うんだい？ 「僕のしたことで、あなたに好意があると勘違いさせてしまったなら、謝ります。でも、そのせいで僕の大切な人を傷つけるのなら許さない」 　いつも笑っている奥村くんが僕を睨みつけた。 「……冗談だよね？　奥村くん」 　嘘だと言ってほしくて、縋るように奥村くんに眼を向ける。 「彼が好きなんです。だから、あなたの気持ちには応えられません」 　完全なる拒絶に息すらまともにできない。 　アッシュ・リンクスは奥村くんに歩み寄ると、あろうことか奴は奥村くんの肩に腕を回し見せつけるように抱き寄せた。 「こいつ、俺のだから。あんたには申し訳ないけど、諦めてくれよな」 　奴の言葉に奥村くんは照れ臭そうな表情を見せる。普段冷めた眼をしているくせに、奥村くんの前では愛しいものを見る眼に変わる。お互い見つめ合い、今すぐにキスでもしてしまいそうなほど甘い雰囲気が漂う。 　本当は奥村くんが奴に惚れてるのくらい分かっていた。奴と話しているとき、奥村くんはいつも幸せそうに笑うのだ。 　僕がアッシュ・リンクスを憎んでいたのは、羨ましかったからだ。奥村くんに愛されている奴が羨ましくてたまらなかった。 　二人は僕に背を向ける。どんどん遠くなる愛しい人に手を伸ばすも届くはずがない。 　本気で君が好きだった。僕の天使ちゃん。 [newpage] スーパーマーケットの店員の場合 　ここはNY中心部に建つ、高級アパート構内にあるスーパーマーケット。俺は最近ここでアルバイトを始めた。時給はそこそこ高く、それなりに満足している。 　ここで働けることを俺は幸運に思う。なぜなら、ある人物に出会えたからだ。 　マダム達に紛れて談笑している青年。 　名前はオクムラエイジ。週に数回このスーパーに買い物に来るお客さんの一人だ。 　 　エイジとの出会いは、俺がアルバイトを始めてすぐの頃だった。 　大都会ＮＹに憧れてアメリカのど田舎から出てきたばかりの俺は、生活費を稼ぐためにアルバイトをさがしていた。 　NYの家賃は馬鹿高く、田舎の金銭感覚のままの俺は、さっそく心が折れそうになった。 　ふっと、ある求人募集に目に留まった。それは、高級マンション構内にあるスーパーマーケットの求人だった。時給がどの求人よりも高く、俺は迷わず応募した。 　素晴らしい志望動機などない。将来、スーパーマーケットの正社員として働きたいなど思ってもいない。ただ、時給の高さに惹かれてこの仕事を選んだ。その甘さが招いたのだろう。レジ打ちなんて簡単だ、と甘く考えいたのが運の尽き。予想以上に難しく、戸惑うばかり。俺のレジだけ行列が並び、時折舌打ちや暴言を吐かれる。 　慣れない仕事で焦っていた俺は、初歩的なミスをしてしまった。レジに通した後、客が買った卵を誤って落としてしまったのだ。 　床に落としてしまった卵は割れてしまい、黄身と白身が飛び散っていた。謝罪した後、教育係の先輩は客の前で俺を怒った。大きな声で怒鳴るものだから、店中の客や従業員たちの視線が集まる。恥ずかしさと虚しさで、縮こまっている俺を助けてくれた人がエイジだった。 　エイジは怒る先輩を宥め、「新しい卵と交換してもらったし、僕は気にしてないので、そんなに怒らないであげて下さい」と言った。 　あのとき、エイジの一言で救われた。大都会にもこんなに優しい人がいるんだと思った。 　あの出来事があった日から、エイジは俺のことを気にかけてくれたらしく、顔を合わせるたびに「仕事慣れた？」と話しかけてくれるようになった。 　歳が近いこともあり、エイジとはすぐに打ち解けた。エイジはカメラマンの助手をしていて、一年程前からこのアパートで友達と二人で暮らしているらしい。 　年齢を聞いて驚いた。１０代後半だと思っていたのに、２０歳らしい。日本人はただでさえ幼く見えるのに、彼は日本人の中でもとくに童顔らしい。 　エイジは、たまにふらっとスーパーに立ち寄っては、カゴを片手に買い物をしている。知り合いが多く、とくにマダム達は彼のベビーフェイスがお気に入りらしく、彼を見つけると「エイジくーん」と上品に手を振り歩み寄る。 　知り合いのマダムいわく、彼には癒し効果があるそうだ。 　確かに、エイジは普通の人よりもほんわかしている。なにより日本語訛りの英語の発音が可愛い。 　そんなエイジに惹かれる人は少なくない。 　エイジは話をしているときに人の顔をじっと見つめる癖がある。あんな可愛い容姿で見つめられたら、どんな男だって彼に落とされてしまう。しかも、可愛いだけではなく性格も天然で明るい。 　そりゃ、好きになってしまっても仕方がない。 　実を言うと、俺も好きになってしまった男の中の一人である。一方的な片想いで俺は充分満足している、というのは嘘だが、告白して今の関係を壊したくなくて、友達として側にいることを選んだ。 　 　その日は深夜勤務だった。仕事に慣れてきたため、今日から深夜勤務が入れられることになった。夜はあまり人が来ないため、基本は一人業務。人が来たらレジをして、空いた時間に次の日の商品を並べる。 　一通り仕事を終え、時計を見ると夜２時を過ぎていた。深夜ということもあり、スーパーには誰も来ない。 　暇すぎて欠伸をしていると、自動ドアが開く音がして、慌てて口を閉じた。 「あれ？　こんな時間に働いてるの珍しいね」 　スーパーに入ってきたのは、エイジだった。部屋着のまま来たのだろう、少しゆったりとしたＴシャツを着て、靴はクロックスというラフな格好だった。 「今夜から深夜勤務に入ることになったんだ」 「そうなんだ。お疲れ」 　こんな時間にもエイジはスーパーに来るのか。 （最近会えてなかったし、初日からラッキー） 　やはり好きな人の顔を見れるのは嬉しいことだ。 　幸せに浸っているときだった。後から入ってきた人物に俺は心の中で、げっと呟く。このアパートに住む住人の中で、俺が最も苦手とする人物、アッシュ・リンクスがいたからだ。 　美しい容姿とモデルのようなスタイルをもつ美男子。無愛想で目つきが悪く、口も悪いため、俺は苦手だが、どういうわけか、エイジとアッシュは同じ部屋に住んでいる。 　二人の性格は真逆なのに仲がいい。二人でいるところを見たことが何回かあるが、アッシュの刺々しい雰囲気がエイジのふんわりした雰囲気で中和されている。人には無表情か不機嫌な顔しか見せないあのアッシュが、エイジの前では笑うのだから不思議でならない。 　前々からマダムたちは二人の関係を怪しんでいるらしく、付き合っているのではないかと噂している。恋人のような二人の様子をマダムたちは度々目撃しているようだ。 　不確かな情報しかなく、エイジに気がある俺にとっては気が気じゃないわけで、こんな夜中にふらりとスーパーに訪れるのだから、余計に気になって仕方がない。 　詮索するようで嫌だが、真実を知りたくて、商品棚を整理するふりをしながら、二人の様子をこっそりと盗み見ることにした。 　商品を眺めながら、ふらふらと歩く二人は酒類コーナーの前で立ち止まった。 「なに飲む？」 「ビール」 「じゃあ、僕も」 「お前はカクテルがいいんじゃね？　いつもビール飲みきれないだろ」 「ちゃんと飲めるよ」 「ダメだ。お前の飲みかけのビールを誰がいつも飲んでやってると思ってんだ」 　アッシュは棚からビールを数本、カクテルを数本を買い物カゴに入れる。 「いつも、カクテルはジュースだって馬鹿にするくせに」 　エイジは拗ねるように言った。 「馬鹿にしてねぇよ。俺はジュースみたいで甘くて飲めないって言っただけだぜ」 「同じだろ」 「違えよ。ほら、次行くぞ」 　ふてくされるエイジをアッシュは適当にあしらうが、移動のとき、アッシュはさりげなくエイジの手を繋いだのを俺は見逃さなかった。 　エイジも小言を言いながらも繋いだ手を離そうとしない。 　隣の通路に移動し、アイスクリームコーナーでも彼らは小さな喧嘩をしていた。 「アイス食べたい」 「却下。何時だと思ってんだ。カロリー考えろ」 「君こそカロリー気にせずに食べてみたら？」 「太るだろ」 「少しくらい太っても気にするなよ。男だろ？」 「オニイチャンは少し気にした方がいいんじゃないか？」 　アッシュは繋いでいる手を解くと尻に手を回し、片方の双丘を掴む。エイジは「ひゃっ！」と声を上げた。 「最初に触ったときより、肉厚になってるぜ」 「外ではするなって前も言っただろ！」 　口喧嘩してるくせにアッシュの声色は優しく、エイジに至っては文句を言うくせに手はアッシュの服を握っている。 　なんだ、この甘ったるい喧嘩は。まるで恋人同士の痴話喧嘩じゃないか。 　いや、まだ恋人だと決まったわけじゃない。エイジは誰にだって距離が近いし、これが普通なのかもしれない。 　結局、買い物カゴの中にはアイスが入れられ、さらにスナック菓子コーナーでもエイジの好きなお菓子が買い物カゴの中にたくさん入れられていた。あのアッシュでさえ、エイジのお強請りには財布の紐が緩んでしまうらしい。 　それから彼らは日用雑貨用品が置かれた棚へ立ち寄り、歯ブラシや洗剤などをカゴの中に入れていく。 　一通り観察していたが、恋人らしい雰囲気は醸し出すものの、決定的な証拠は見つからなかった。 　レジを済ませた後、アッシュは何かを思い出したかのように出口の前で立ち止まった。 「悪い。買い忘れたものがあるから先に帰ってろ」 「待つよ」 「いいから、アイスが溶けるだろ。先帰ってろって」 「わかった」 　エイジは言われた通り、荷物を持ち先にスーパーを出た。アッシュはスーパーの奥の方へ進み、なにかを手に持ちながらすぐにレジに戻ってきた。 「これ頼むぜ」 　ぽんっと置かれた小さな箱。会計しようとその箱に手を伸ばす。箱の表面を見て俺の手は止まった。 「手間かけて悪いな。あいつの目の前でこれを買うと怒るんだ。こういうの恥ずかしいから買いたくないんだってさ。ないと困るの自分なのにな」 　＂SKYN＂と表記された小さな箱。 　0.02mmと書かれた箱の中のものを使って、することなんて一つしかない。 　恋人だという決定的な証拠を目の前にして、俺の手は微かに震える。ゆっくりと箱を掴み、バーコードをスキャナーで読み取る。 　アッシュは料金を支払うと、小さな箱を隠すように尻のポケットに入れ、スーパーを出て行った。 　アッシュが出ていったドアを眺めながら、デカすぎるショックな出来事に心を痛め、大きなため息を吐いた。 　この後、二人は映画でも観ながら酒を飲み、いい感じにほろ酔いになったころ、あのスキンを使うのだろう。 　自らの手でライバルにスキンを売ってしまった。 　片想いでいいと思っていたのに、喧嘩をしながらも幸せそうにアッシュに寄り添う姿は正直羨ましい光景だった。 [newpage] 近所の男の場合 　上の命令で東京からＮＹに飛ばされて、早三ヶ月。知り合いもいない土地にやっと慣れてきたところだ。英語はもともと得意でコミュニケーションに困ることはなかった。問題なのが食事で、いつもは外食や弁当を買って簡単に食事を済ませるが、アメリカの高カロリーで味の濃い食べ物ばかり食べていると、たまに日本食が恋しくてたまらないときがある。そんなときは、住んでいるアパートの中にある２４時間営業しているスーパーに立ち寄る。このスーパーは日本の食材も豊富に揃って重宝している。 　この日もスーパーに立ち寄り食材を吟味していると、「こんにちわ」と日本語で声をかけられた。声をかけてきた人物に眼を向けるのと俺は優しく微笑む。 「こんにちは。英二くん」 　彼は奥村英二くん、２０歳だ。俺と同じ日本人で、７歳年下の男の子。一年前からＮＹに住んでいて、現在は大学を休学し、知り合いのカメラマンの助手をしているらしい。 　童顔のせいで、ＮＹではいつも中学生に間違われることが悩みらしい。 　大きな眼がチャームポイントで、笑顔が可愛い男の子。笑うと彼の周りだけ花が咲いたように明るくなるのだから不思議だ。 　英二くんと出会ったのは、このスーパーだった。日本食コーナーで、彼は木綿豆腐を買うか絹ごし豆腐を買うか迷っていた。あまりにも必死に悩んでいるものだから、声をかけると、彼は揚げ出し豆腐を作るのだが、どちらの豆腐を使えばいいのか分からないと言った。絹ごし豆腐の方が食感が滑らかで美味しく作れることを教えると、彼は迷わず絹ごし豆腐を籠の中に入れた。 　礼儀正しく、「ありがとうございます」と頭を下げられた。まだ２０歳なのにとても礼儀正しくて、いい子だと思った。 　後日、またスーパーで英二くんとばったり出くわした。彼は俺のことを覚えててくれたようで、俺を見るなり表情を明るくさせ「この間はありがとうございました」と言った。 「揚げ出し豆腐どうだった？」 「美味しかったです。アッシュも美味しいって喜んでました！」 「アッシュ？」 「あ、ごめんなさい。アッシュは、僕と一緒に住んでいる友達です」 　英二くんはアメリカ人の友達と、このアパートでルームシェアしているらしい。 「僕、嬉しかったんです。あなたにみたいな人に出会えて」 　大きな眼を俺に向ける。 「ＮＹで日本人の知り合いがあまりいなくて、あの日、話しかけてくれたとき、すごく嬉しかったんです。それで、僕、思ったんです。この人と仲良くなりたいなって」 　吸い込まれそうなほど大きな眼から純粋な好意を感じる。 「僕と友達になってくれませんか？」 　面と向かって友達になってくれと言われたのは初めてで、俺は思わず笑ってしまった。 「いいよ」 「嬉しいな」 　英二くんは花が咲いたように笑う。 　とくんっと胸が高鳴る。なんて綺麗な笑い方をする子なんだろうか。 「アッシュにさっそく報告しなきゃ。日本人の友達ができたって」 　こうして俺にＮＹで初めての友達ができた。 　英二くんとは話が合う。お互い陸上競技をしていたからか、話の内容はほとんどがスポーツ関連の話で、ときどきルームシェアしているアッシュくんの話をされる。 　アッシュくんは朝寝起きが悪いらしく、英二くんはどうやって彼を起こそうかと毎朝頭を悩ませているらしい。 　話をしながら英二くんの表情はコロコロと代わり、見ているだけで飽きない。むしろ、もっと見ていたいと思うようになった。仕事で疲れた心を癒してくれる人。 　いつのまにか俺の中で英二くんは特別な存在になっていた。 　でも、告白することは出来ない。なぜなら、英二くんの右手薬指にはシルバーリングがはまっているからだ。恋人とお揃いのペアリングなのだと照れ臭そうに言っていたのを覚えている。 　こんなに可愛らしいのだから、恋人がいないはずがない。きっと素敵な恋人なのだろう。想うだけなら自由だろうか、そう思いながら気持ちをひた隠しにする。 　気持ちが大きくなるたび、思うのが英二くんがどんな人と付き合っているのかだ。 　以前、英二くんに尋ねてみたことがある。すると彼は「優しい人」だと答えた。 　恋人のことを話している表情からして、彼はとても愛されているのだと分かった。 　そんなある日だった。いつも元気な英二くんが悲しそうな表情をしていた。目蓋は腫れ、泣いたのだと直ぐに分かった。 　どうしたのかと尋ねると、英二くんは答えた。 「僕の料理は食べたくないって言われたんです。それで、喧嘩になって、言い争いしてたら、ちゃんとした英語を喋れって言われて……」 　大きな眼からポロリと涙が落ち、俺は慌ててハンカチを手渡した。 「僕、日本語訛りの英語しか喋れないから、よく馬鹿にされるんですけど、流石に傷ついたっていうか……」 　卑怯かもしれないが、好きな人が目の前で泣いていたら、慰めてポイントを稼ぎたいと思うのが男というもの。俺もその一人で、泣いている英二くんの髪を優しく撫でる。 「話、聞いてあげるから、こっちにおいで」 　俺は彼の肩を抱き寄せ、玄関のドアを開け家の中に招き入れた。 　気持ちを落ち着かせる効果があるといわれるホットココアを英二くんの目の前に置く。英二くんは「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言うと小さな口をマグカップに付けてココアを飲む。 　好きな人が部屋の中にいるだけで、こんなに気持ちが落ち着かなくなるものなのだろうか。以前付き合っていた彼女にも、その前に付き合っていた彼女にもこんなに緊張はしなかったはずなのにーー。 　マグカップに向けられた視線。伏せられた目蓋から綺麗に生えるまつ毛が長いな、と新たな発見をする。 　もっと彼を知りたい。彼と親しくなりたい。できれば、恋人という特別な関係になりたい。 　奪えばいいじゃないかと、邪な気持ちが顔を出す。略奪することに多少抵抗はあるが、結婚してるわけではないから罪になることはない。 「少しは落ち着いたかな？」 「はい」 　俺がこの子を幸せにしてやりたい。 　手を伸ばし彼の髪に触れる。見た目通り、触り心地がふわふわしている。もっと触っていみくて、髪から頬へと指を滑らせ、触り心地のよい頬を夢中で撫でていると英二くんが「あの……」と気まずそうに声をかけた。慌てて手を引っ込めると誤魔化すように言い訳をする。 「まつ毛がついてたんだ」 　こんな言い訳なんて直ぐバレるだろう。気持ち悪がられたらどうしよう。彼に嫌われてしまったら、俺は死んでしまう、とまで思った。 「そうだったんですね。僕、気づかなくて。ありがとうございます」 　彼は俺を疑うことをしなかった。それどころか感謝をしてくれた。 　なんていい子なのだろう。 　ますます彼を好きになった。 　数日後、この間のお礼がしたいと英二くんから食事に誘われた。 　日本料理を作ってくれるらしく、英二くんの手料理が食べられることに俺の気持ちは高ぶる。なにか手土産を渡したくて、会社から家に帰る途中にある花屋で赤い薔薇の花束を購入した。花束といっても薔薇は三本しかない。薔薇には本数により意味が違い、三本の薔薇意味は「愛しています」という告白の意味だ。英二くんには俺の気持ちに気づいてほしい。恋人ではなく、俺の気持ちを受け入れてほしい、そういう願いを込めて薔薇を用意した。 　英二くんの家の玄関の前で大きく深呼吸をする。心を落ち着かせ、震える指でチャイムの押しボタンを押した。すぐにこちらへ近づいてくる足音がした。 　ーードキ、ドキ、ドキ、ドキ。 　心臓の音がうるさいほど鳴る。ドアが開いたと同時に、とっておきの笑顔を浮かべた。 「今日は、誘ってくれてありがと、う……」 　ドアが開いてすぐに笑顔が引きつった。なぜなら家の中から出てきた人物が英二くんではなかったからだ。 「いらっしゃい。英二から聞いてるぜ。上がんなよ」 　部屋の中から出てきた男は、俺が今まで見たことがないほどの美しい男だった。プラチナブロンドの髪に、翡翠色の瞳。全てのパーツが整っていて、絶妙なバランスで小さい顔にはめ込まれている。 　それだけではない。身長が高く、手足が長い。スラリとした体型はモデルのようだ。 　彼は誰だろう。そのとき、思い出した。彼にはルームシェアしている友達がいた。 「もしかして、アッシュくん？」 「そうだけど」 　目の前の彼は英二くんの自慢の友人、アッシュ・リンクスだ。彼の自慢話は毎日のように英二くんから聞かされている。カッコイイと言っていたが、まさかこんなに美男子だとは思ってもみなかった。 　部屋の中に案内されると、ちょうどリビングのテーブルに料理を並べている英二くんが視界に映る。 「いらっしゃい。待ってました」 　英二くんは俺に気づくと、花の咲いたような笑顔を向けた。おまけに着ているエプロンも可愛らしいネコのイラストがプリントされていて、ほんわかした気持ちになる。 　英二くんと暮らしたら、毎日こんな日常が見られるのか。 　アッシュくん、君が羨ましいよ。 「英二くん、これ君にあげる」 　用意していた３本の薔薇の花束を英二くんに手渡した。英二くんは目を輝かせ「見て、アッシュ！　花もらった！」と自慢するように見せつけた。 「……へぇー。よかったじゃん」 　気のせいだろうか、アッシュくんの声がワントーンほど下がった気がした。 　二人で住んでいる部屋はお揃いの物が多い。お揃いのマグカップ、お揃いの食器類、洗面台には色違いの歯ブラシが置かれている。まるで同棲しているカップルの部屋を見ているようだ。 　テーブルに並べられている料理は全て日本料理だ。金平ごぼう、味噌汁、煮物、サラダ、そして揚げ出し豆腐が食卓に並んでいる。 「揚げ出し豆腐だ」 「せっかく教えてもらったから、食べてもらいたくて」 「いいのかい？　じゃあ、いただきます」 　両手を合わせ、いただきますをする。箸で食べやすいように分け、口に運ぶと絹ごし豆腐ならではの滑らかな舌触りがした。 「凄く美味しいよ」 「ありがとうございます」 　料理も上手だし、可愛いし、俺のところにお嫁にきてくれたらいいのに。 　そんなことを考えていると、目の前に缶ビールを置かれた。 「ありがとう。アッシュくん」 「ほら、お前も飲め」 　アッシュくんは、英二くんにも缶ビールを渡す。 「僕も飲んでいいの？」 「俺らだけ飲んだらお前が可哀想だろ。今日は特別に許可してやる。その代わり飲み過ぎるなよ」 「やったー！」 　二人の会話を聞いて俺は疑問に思った。その会話の意味が分かったのは一時間後だった。 　一時間後、英二くんは完全に酔っ払っていた。大きな眼は、とろりと蕩け、頬は赤く染まり、小さな唇は濃い赤に色づいている。幼い容姿なのに醸し出される色気に思わず喉を鳴らす。 「英二くん、もしかしてお酒弱いの？」 「………」 　彼はなにも答えない。それどころか、俺の顔すら見ていない。今、英二くんが熱い視線を向けているのは台所で洗い物をしているアッシュくんだ。 　英二くんは立ち上がると、千鳥足になりながらも台所に立ち皿洗いをしているアッシュくんのもとへ行き、背中からぎゅっと抱きつく。 「あっしゅぅ」 　甘えるようにアッシュくんの名前を呼ぶ。 「缶ビール一本しか飲んでないくせに、なんでいつもそうなるんだよ。相変わらず酒弱いな」 「はやく」 「もう少しだから待ってろ」 「んー」 　新婚夫婦みたいな雰囲気の二人。なんだろう、この疎外感。 　皿洗いが終わったようで、アッシュくんは台所からリビングのソファーに移動するだけなのに、後ろから抱きついて離れない英二くんのせいでうまく歩けないらしい。 　やっとの思いでソファーにたどり着くと、英二くんはアッシュの膝の上に乗り、甘えるように、胸元にぐりぐりと頭を擦りつける。 「わりぃ。こいつ、酒入るといつもこうなんだ」 　英二くんは、ちゅっ、ちゅっ、と可愛らしい音を立て、アッシュくんの頬にキスをする。 　蕩けるような甘い声で「こら、やめろ」と言うが、言葉とは裏腹、全然嫌がってるようには見えない。 　いくら友達だからといって、あまりにも近すぎないか？ 　正直、いい気持ちはしない。 「あっしゅぅ」 　英二くんは、なにかを強請るような視線をアッシュくんに向ける。 「お客さんが来てるんだから我慢しろよ」 　今日はダメ、と犬を躾けるようにお預けをする。幼い顔をむっとさせ、英二くんはアッシュくんの両頬を手で包み込むとアッシュくんの唇に自分の唇を重ねた。 　思わず、眼を見開く。 　目の前で好きな人がキスをしている。ぐりぐりとナイフで抉られるような痛みを胸に感じる。 　はむはむとお互いの唇を挟む合うキスから、徐々に深いものに変わり、キスの合間から英二くんの声が漏れる。 「……んっ、んぅ……んー…」 　その声はとても艶かしく、普段のほんわかしている彼とのギャップに驚かされる。 　重なる唇の僅かな隙間から見え隠れする絡まる舌。 　さらに驚かされたのは、優しく英二くんの頬を撫でるアッシュくんの右手薬指にシルバーリングがはまっていたことだ。 　そのリングには見覚えがある。なぜなら、英二くんの右手薬指にはまっている指輪と同じだからだ。 　アッシュくんにより唇を離され、英二くんは物足りなさそうに「もっと」とキスを強請る。 「こら、これ以上はダメだって」 　ステイ、と犬の躾でもしれていかように英二くんの口元を手で塞ぐ。 「ごめんな。こいつ、酔うとキス魔になるんだ」 「……そう、なんだ」 　もう、それどころではない。好きな人が目の前でキスして、しかも恋人とのラブシーンを見せられたのだから、ショックは相当でかい。 「この間は悪かったな。こいつが世話になったんだろ？」 　この間と言われ、思い出した。きっと、英二くんが泣いていた日のことを言っているのだろう。 「俺らの喧嘩に、あんたを巻き込んじまった」 「そんな、謝らなくても……でも、どうしてあんな酷いこと言ったんだい？」 　今日見る限り、アッシュくんは英二くんをとても大切にしている。なのに、なぜあんな喧嘩をしたのだろうか。 「俺が納豆嫌いなの知ってるくせに、料理に入れて食わせようとするんだぜ。体にいいのは分かるけど、嫌いな物を強引に食わせようとしたら、誰だって怒るだろ」 「確かにそうだね」 「しかも、こいつ怒ると日本語で怒鳴りつけてくるから、ちゃんと英語で喋れって言ったら出て行った。あんたのところで世話になってたって聞いたから。悪かったな」 　アッシュくんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。 　いい青年じゃないか。 「これからも、英二の友達でいてくれよ。あんたのこと、結構信頼してるみたいだからさ」 「うん。わかったよ」 　英二くん。君の恋人はとてもいい人だよ。 　俺はこんな素敵な人から、君を奪い取ろうとしてたんだね。 　残念だけど、君のこと諦めることにするよ。 　幸せになりなよ、英二くん。 [newpage] アッシュ・リンクスの場合 　日本人の男が帰ったあと、アッシュは思惑通りに事が進んだことに喜んだ。あの男は目障りで仕方がなかった。同じ日本人という共通点があるからなのか、英二はあの男をかなり慕っていて、家でも奴の話ばかりしていた。 　あの男が英二に気があると悟ったのは、数週間前。スーパーで男と英二が話しているところをたまたま見かけたとき、英二に向ける奴の視線が異様に熱っぽかったから要注意人物としてマークしていた。勝手に好意を向けていただけの他の男たちと違い、奴の場合は俺から英二を奪い取ろうとしていた。 　三本の赤い薔薇を持ってきたときは、さすがに軽く殺意が湧いた。 　男を諦めさせるために、わざと英二に酒を飲ませた。コップ一杯でも酔っ払ってしまうことを知っていながら、缶ビール一本飲ませて酔わせた。案の定、英二は酔っ払い、酔うとキス魔になる酒癖を利用し、相思相愛であることをわざと見せつけた。 　あの男は知らないだろう。すべてアッシュ・リンクスの企みだったことを。 　やっと目障りな男たちを蹴散らすことができた。しかし、油断すると、すぐに英二に惹かれる男は現れる。 　人見知りなどせず、少しぬけていて天然な性格。誰からも好かれる英二に惹かれる男たちは大勢いる。そんな奴らを蹴散らすのはもちろん、恋人の俺の仕事だが、俺のいないところでも守れるように牽制の意味を込めて指輪をプレゼントした。男除けのために指輪をプレゼントしたというのに、その指輪の効果は薄い。今度は左手薬指に結婚指輪でもはめてやろうか。 　突然、くいっと服を引っ張られた。見ると英二が「もう待てない」と言わんばかりに俺を潤んだ瞳で見上げている。酒が入るとキス魔になるだけではなく、エロのスイッチも入る。普段はキスをするだけでも恥ずかしがるというのに、こういうスイッチが入ったときには自ら強請ってくる。 「……あっしゅ」 　舌足らずな日本語訛りの英語で名前を呼ばれる。お預けを食らったままの英二は、構ってくれと言わんばかりにアッシュの首に腕を回し、頬と頬をくっつけてすりすりさせる。 　こういうところが、可愛くてたまらないのだ。 「いいぜ。来いよ、英二」 　お預けを解かれた英二は、アッシュの首から手を離し、自らのシャツに手をかける。 　ゆっくりとシャツを脱ぎ、そのまま床に落とす。 　アッシュの眼の前に、ほどよく引き締まった裸体が露わになった。

天然人タラシ奥村英二に惚れる男たち話。<br />モブ視点のＡ英です。<br /><br />目次<br />・図書館の男の場合<br />・スーパーマーケットの男の場合<br />・近所の男の場合<br />・アッシュ・リンクスの場合<br /><br />直接的な性的要素はないのですが、言葉や雰囲気に性的な表現が含まれているのでR-15と表記させてもらいます。<br /><br />シリアスでダークなシリーズの話ばかり書いているので、気分転換のために別な話を書いてみました。<br />近いうちにオメガシリーズの続きを投稿しますm(_ _)m<br /><br />素敵な表紙はこちらからお借りしました。<br /><strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/66706291">illust/66706291</a></strong>

【Ａ英】奥村英二に惚れた男たちの結末

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本丸に安室さんが来たよ。 ご注意 ・特殊趣向二次創作作品・設定捏造有 ・みんなでわちゃわちゃ。 ・両方の設定あり、時期については適当。 ・細かい事は置いておきましょう。 キャラ改悪、ヘイト、disの意図はありませんが、読む方によってはそう受取る方がいらっしゃると思います。 もしそのように受取られた方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。 それでも構わない、という方のみ、お読みください。 作品傾向について問題がある場合は、タグ・コメントよりもメッセージで教えてください。 私の配慮が足りない部分は、メッセージを読ませていただき、作品公開仕様方法変更に役立たせて頂きます。 感想や誤字脱字のご連絡はコメント欄に書いて頂けると嬉しいです。 ポジティブな一言タグの追加はどうぞご自由に。いつもありがとうございます。 [newpage] [chapter:本丸にようこそ] 　突然の事で僕も何が何だかわからないが、安全の為にここ本丸というところに半分拉致監禁されることになった。　 　同意は無いも同然だが、政府にある歴史保全委員会というところの通達らしい。……聞いたことがないぞ？　 　落ち着け、落ち着くんだ。まず渡された……歴史を変えてはなぜいけないの？　と書かれているテキストを……これ見たことあるぞ？　以前宗教勧誘染みたヤク中が出してきたものと同じタイトルだ。 　ということはここは奴らの本拠地……？　 　暇なので読んでみることにする。 　……………全く、理解できない。 　僕が門前に佇んでいると、迎えが来た。 「あっ、ごめんねー！　待たせちゃったー？」 「清光君？　なんでここに？　君も拉致されたのか？」 「あ、ううん。拉致されたっていうより、拉致した側かな？　っていうか、安室さん何も聞かされてないでここに来た感じ？」 「ああ……僕の身と周囲が危ないから身を隠せと言われて……ここを用意したと……」 「まじかー酷いね。こんな所じゃなんだしさ、中に入ろう。詳しい話をするよ」 　鳥居を潜り、石畳を歩いて行く。緑が多く木の間から見える建物は全て和風の作りだ。 　現実感のない所で現実と縁遠い話を清光君から聞く。僕は歴史修正主義者と遡行軍に狙われていたらしい。そいつらは歴史修正の名の通り史実にあるべき事実を覆すことが目的らしい。 　主張は「この世界が間違っている」 　なるほど、僕の友が死んだのも彼らにとっては間違っている事実なのか。そうか、個人的にありがとう。でも余計なお世話だ。 　彼等を敵とみなし、歴史修正主義者と戦う者が審神者、遡行軍と戦う者が刀剣男士。刀剣男士とは審神者に顕現された刀の付喪神、清光君のことらしい。 　そんな彼らの管理をしているのが政府の歴史保全委員会。彼等は審神者となるべく特別な人間を集めて教育と支援を行っているらしい。……法にめっちゃ触れている気が……上には上がいたんだな。 「……ホォー……」 「理解できた？」 「ファンタジー要素満載でなんていっていいのか…つまり、清光君は人間じゃないと」 「そこからかぁ～」 　清光君は新撰組の沖田総司の刀、幕末時代……うん？　ええと、二十歳どころじゃないね？　 「っても、現世、ああ、安室さんたちがいる世界の人間とほぼ同じ構造だからね。喜怒哀楽も感覚も同じでちょっと頑丈なレベルで大けがしたら治療より手入れするくらいかな。っても俺、爆弾解体しろって言われても無理だけど！」 「……付喪神って…物に宿る妖怪の一種だよね？」 「それ」 「日本由来の」 「純日本製なのは間違いないね」 　付喪神っていえば、やんごとなき妖怪というイメージで……清光君みたいな若い子が付喪神、と言われてもソーナンダ、とはいえない。清光君から説明を受けていなければ「頭おかしいんじゃないか」でシャットアウトしていた。 　いや、そうじゃなくて。 「……清光君は僕の事を知っていた？」 　ポアロで働く安室透。 　人当たり良く優しくて物知りで共感能力が高く運動神経が高い老若男女に愛される男……という設定。 「俺の警護担当は安室さんだけど、それのついでに降谷さん、バーボンが同一人物だってことは知ってる。けどあんまり関係ないかな」 「僕の本来は降谷零なんだけれどね」 「うん、どれでもいいよ。正直、ここにいる奴も名前違うのやら、刀種を変えたのもいるし、でも本質はあんまり変わんないよ。本人がどう思ってもね」 「君は安室しか直接会っていないだろう？」 　本来の僕を知らない清光君は安室のことを嘘つきとは呼ばないのだろうか。 「会ってないけど？　ここじゃ安室でも降谷でもバーボンでもみーんな一緒。俺達の本丸で審神者代理をしてくれる人間だよ。あ、安室さんが降谷さんって呼ばれたいとかバーボンって呼ばれたいなら希望をきくよ」 「あはは……安室を知ってる清光君に幻滅されそうだな」 　本来の俺は目的の為ならなんでもやる冷酷な人間だ。 　清光君が好んで付き合ってくれていた安室とは違う。 「しないって！　あのねー人間なんていろんな顔があって当たり前なんだよ。そんなの俺だってよく知ってるし、ここにいる奴らなんて俺よりも人に詳しいし」 「ここにいる奴ら……？」 「そうそう、ここにいる刀剣男士五十名以上」 　……そんなにいるのか？　 　え？　と聞き返す前に竹林から見知った顔が突然出てきた。 　ダンダラ羽織と袴を穿いて長い癖髪を一つにまとめた男の子。 「ねぇねぇー清光、安室さんが来たってホントー？　あのさー昼餉にハムサンド作ってもらえないかなー？」 「突然出てきて何言ってんの！」 「大和守君……君も？」 　そうだ、大和守君は清光君の幼馴染……。 「こんにちは安室さん！　元気だった？　僕さぁ、あれからハムサンド作ろうとしたんだけど、どーしてもあの味にならないんだよね。教えてもらった通りに作ってんだけど、パンがダメなのかなバター？　味噌かなァやっぱり。他のヤツに聞いたら分量じゃない？　って言われたけど、目分量でいいっていってたよね？　それでさ、他のヤツなんてパンの代わりにクロワッサンで食べたらすごい美味しいとか言うんだけど！　僕はあのハムサンドが食べたいのに！　どーしてもあの味にならないんだよ。ねぇねぇなんでかな？　安室さんは簡単に作っていたけど、やっぱあれ難しくない？」 　先ほどまでのシリアスがどこかに行って清光君が大和守君の頭をひっぱたいた。 「今、話し中なんだけど！　割り込んでくるなよ安定！」 「えー？　いいじゃん、どうせたいした話なんてしてないでしょ？」 　結構、大切な話をしていたけれど…あ…それよりも、もしかして。 「……ここは清光君の言っていた…実家？」 「うん」 「ということは……お米くれたりお酒送ってくれたり…梅干しと沢庵…」 「お酒以外本丸産だね」 「……ちょっと戻って手土産の一つか二つか…足りないな。五十くらい用意しないといけない気がするんだけど」 　あまりにも想像外の話をされて理解が追い付かないけれど、これだけは分かる。 　美味しいご飯をくださった方々へお礼品の一つも持ってきていない。 「戻れないし、安室さんがもってるお金はここじゃ使えないし、こっちが勝手に渡したものだから気にしなくていいよ」 「気にするなら安室さん、ご飯作ってよー」 　それがお礼になるなら喜んで…？　 　僕達は説明がてら厨と呼ばれる台所へ向かった。 　入口に「この先、不浄者一切の入室を禁ずる」と書かれていて、覗けば台所と呼ぶより食堂の厨房以上に広い。 　窯の横に業務用炊飯器五升炊が並べられていて、でっかいステンレス製の冷蔵庫が壁一面にはめ込まれている。 　そこから少し離れた出窓に置かれていたコーヒー豆とプレス機はポアロで使っているものと同じ。 　ちぐはぐな空間に戸惑いを覚えるのは僕だけで、二人は中にいた人に声をかけた。 「安室さんを連れてきたよ」 「ああ」 　青年が水仕事を止めて僕に向き合う。 　この人、いや刀の付喪神？　刀剣男士？　も清光君や大和守君と同じように整った顔立ちだ。ここにいる者は全てが見目麗しい若者ばかりなんだろうか…。 「君が審神者代理の……なんて呼べば良かったかな？」 「安室とよんでください」 「安室君、噂はかねがね。僕は歌仙兼定、短い間だけれどゆるりと過ごしてくれ」 「歌仙……さん？」 　何処かで聞き覚えが……あ。 「おや、どうかしたのかい？」 「あーごめん。安定がねこまんま食べて歌仙に吹っ飛ばされた話をポアロでしたみたいでさー」 「はぁ？　清光だって僕より先に似たような事を話してなかった？」 「つまり、君達は僕の品性を疑われる噂話を彼に吹き込んだんだね……？」 　朗らかな雰囲気から一変、ドス黒い空気が辺りを包む。 　噂通り、いや、噂以上に怖い。 「安室君、気にしないでくれ。僕は客人に手を上げるような野蛮な刀じゃない」 「あ、ああ、はい」 「君が雅を解さない不束者なら話は別だが」 「みやび………いやぁ、それは…難しいですね…」 　半解凍の肉を出すことはしない。コーヒー豆を直接コップに入れて飲んだりもしない。 　百人一首を読み現代語に訳せと言われたらできるけれど、歌を詠めと言われたら悩む。知識はあっても独創性は別ものだ。 　この刀が求める雅とは一体どれほどのものだろうか…歌を詠み、舞う……難しいな。三味線……ならギターの要領でなんとか…？　 「君も貝の味噌汁にご飯を入れるのか……？」 「僕がやったのはなめこの味噌汁！　ご飯にかけたんだよ！」 「貝はまんば！　しかもアイツ、ご飯に味噌汁じゃなくて味噌汁にご飯ぶっこんだんだよね。安室さんはそんなことしないよ。似てるからって一緒にしたら可哀想だよ！」 「……僕は別々に飲んで食べますね」 「それじゃあ、雑煮は仙台味噌でハゼがのってないといけないというこだわりもないのかな？」 「それ大倶利伽羅！　色味が似てるからって一緒にしないで！」 「……雑煮に拘りはないですね。色んな地方の特色があるのでどれも食べたいと思いますが…」 　雅というより、一般的な礼儀作法の話だった。 　え、ご飯に味噌汁をかけるのは分かるけれど、味噌汁にご飯を入れるのはどうだろう。斬新なねこまんまだな…。 「宜しい、君は主よりも礼節や品性を弁えた御仁のようだ」 「どうもありがとうございます」 　主より、とは一体。 　いや、主と呼ぶ人間がいるのなら、最初に挨拶をするべきなんじゃないだろうか…。どこにいるんだろう？　 「ねぇねぇ歌仙、昼餉は安室さんに作ってもらおーよ。ハムサンド食べたい」 「生憎と昼餉はもう決まっているし、彼はこれから挨拶回りで忙しいだろう。よければ明日の昼にお願いできないかな」 「はぁ……僕にできることなら、なんでもしますよ」 　今は安室透の喫茶店の店員作業も、探偵業もなく、バーボンとしての情報収集もできず、降谷零の公安業務もない。 　ここで役に立てることなんて限られている。できることはなんでもするさ。 　清光君に連れられて色んな所を案内された。 　純和風建築で表記も古めかしく作られているのに厠と書かれたトイレは汲み取り式かと思っていたらウォシュレット付全自動だったり、手をかざせばレーザーパネルが出てきたりする。 　長屋と呼ばれる刀剣男士の住まいは薄い壁一枚に区切られているワンルームみたいなものだったけれど、障子を閉めれば完全防音。 　カルチャーショックを受けつつも、唯一見知った物がある。 「ここが畑」 「すごい……これを家庭菜園と呼んでいいのかな…？」 「いーんじゃない？　本丸菜園かもしんないけど」 　一面の畑。 　季節感を無視したように、苺と茄子とトマトとネギがわんさか実っている。遠くに見える木々に柿や梨、林檎。 　「俺、定年後は農家になるんだ……」と呟く徹夜続きの奴らの気持ちがよく分かる。植物は喧しく騒がないし騙さないし貶さない。手をかければかけるだけぐんぐん育つ。 　はぁ…癒される。 「加州殿、御帰還か。お疲れ様です」 「よー。おかえりー。あっれぇ…？　誰だぁ？」 　艶の良い茄子をさすっていると後ろから声が聞こえたので振り返る。 　多分、彼らも刀剣男士だ。背丈は僕より高い。 「こっちは安室さん。俺の護衛対象の人で審神者代理。こっちの着物きてるのが蜻蛉切で緑のジャージが御手杵。どっちも槍」 「宜しくお願いします……槍？　米を作っている…？　ああ！　とても美味しいお米でした。ありがとうございます」 　槍、と言われて思い出すのが米袋に大きく書かれていた槍作。 　肉も美味かったけれど米は別格だった。日本に米処は数多あることから日本イコール米。米の番付からありとあらゆる炊飯器がピンからキリまである。最低価格の米と一番安い炊飯器でも米は米。レンジで二分お手頃米もコンビニ弁当の油べたべたな米だって米だ。安くて手軽で腹にたまる。 　だがしかし、食べられればそれでいい派の意識を覆すのもまた米である。どの米を食べるかは好みとして、米を傷つけない研ぎ方、水の選び方、炊き方は炊飯器から土鍋など、そして盛り方は米を潰さずそっと掬って置くようになど、こだわる日本人。美味しいモノを美味しく食べたい精神が半端ない日本人、僕もその一人である。 　清光君の家で食べた白米は水道水で研いで安くて小さい炊飯器で炊いて適当に盛られたご飯だった。けれどとんでもなく美味しかった。 「我らが作っている米を食べて頂けたようですな。お口にあったようでなにより」 「あんだけじゃーうまいもなにもないだろ？　一俵くらい送った方がいいっていったんだけどさー」 「マジ、いらないってば。一振暮らしナメんなよ」 　清光君はそう言うけれど、あのお米ならどれだけあっても食べる人がいるよ？　 　米作りの二人はそれではまた、と去って行った。刀剣男士というのは姿形が様々だけれど、人好きする性格が多いようだ。 　畝の間をずんずんと歩き「あっちが大根」「こっちが人参」と畑散策。 「広い……」 「まあねー。でも霊力が高い審神者の場合は本丸ガンガン拡張させてるみたいよ？」 「他の審神者…？」 「そ」 　審神者、というのはオンリーワンの存在じゃないのか？　 　ええと…たしか、刀剣男士を顕現する能力があるのが審神者だよな…？　つまり役職。 　主というのは本丸を仕切る審神者の名称だよな…？　 　主はオンリーワンだけど、審神者は複数いるということで…？　 「審神者は沢山いるってこと？」 「そりゃあそーだよ。警察組織みたいなものだもの。一人の警察官が審神者で協力者が俺達みたいな？　あ、燭台切！」 「燭台切…ッ？」 　何故アイツがここに？　 「やぁ、君が審神者代理の安室君かな？」 「なんで貴方が…！？」 　姿形、髪型や眼帯の細かいところも全て黒の組織にいた燭台切光忠、本人だ。 　誰かが変装しているかもしれない、という疑念もあるけれど、このタイミングで変装する意味がない。 　警戒する僕に対して燭台切はえ？　え？　と半分笑いながら戸惑い、清光君は腹を抱えて笑った。 「あはは、違うよ安室さん。あそこに来た燭台切とうちの燭台切は別の刀！　同位体だよ」 「同位体？」 　同位体とは？　と聞き返せば、なんでも刀剣男士というのは姿形の同じ者が各本丸に存在するらしい。 　クローンみたいなものだろうか、と聞けば「そんな感じ」と返され、ファンタジー要素が強くなる。 「僕の同位体も現世任務を承ったんだね。君と懇意にしていたのかな？」 「懇意……ええ、まぁ…」 　正直に言えば、目障りでした。 「悪の組織担当だったらしいよ」 「ええー？　僕が？　やだなぁ、お天道様に顔向けできないようなことしてないといいなぁ、同じ燭台切として恥ずかしい事はして欲しくないんだけど」 「どうだったの安室さん？」 「とても…人当たりの良い青年でしたね」 　お天道様に顔向けできないような仕事でしたが、真夏の太陽の下でも汗一つかかずに闊歩するような人でしたね。 　今のあなたのように、腹の底が見えない感じです。 　人当たりがよく笑顔。距離感を考えて話す様が安室透に似ている。 「そうなんだ！　ふふっ、バイキンマンみたいなのじゃなきゃいいや。じゃあね」 「ば、ばいきんまん…？」 　アイツはそんな事を言わない。 　軽く笑って「そうなんだ」と済ますだろう。コナン君の友達のような可愛らしい事を体格の良い男性から聞くとは……何狙いだ？　 「……同位体ってもみんながみんな同じじゃないんだよ。姿形はそっくりでも審神者の霊力だったり資質だったりいろんなことで違いがでるんだよね」 「……さっきの彼は…随分…可愛いというか幼いと言うか……」 「うちの特色っていったらいいのかな…ウチ、主がノータリンな人でね」 「脳足りん」 「一部を除いてみんなアホなの。好奇心四歳児みたいな後先考えないアホばっかっていうか、いい意味で純粋」 「清光君はそんなことないよね」 「……俺もあっち側だったらどんなに良かったことか……」 　ふぃー……と肩を落とす清光君。相当苦労しているらしい。 　そうか、清光君の接客業スキルというより人当たりの良さはここから培ったモノか。 　コナン君の詮索をさらりと躱し、小学生たちの無遠慮な質問に冗談半分で返し、高校生達の有象無象なネタもテンポよく返答。梓さんにカラむクレーマーモドキ小娘達へ撫でるような注意、毛利探偵の親父ギャグも御年寄りに対するちょっとした気遣いも、僕のことを詮索せずあるがままを受け入れる心の広さ。 　苦労しているだろうけれど、僕はここの加州清光君が傍にいてくれて良かったな、と思うよ。 　畑の真ん中でおしゃべりを続けていると、畝の遠く向こう側に白いおばけがいた。 　……こんな真昼間からおばけ。いや、ここにいる人間は僕だけといっていたから、おばけがいてもおかしくないんだけれど……。 「あ、まんばだ」 「まんば？　ああ、彼が大和守君の言ってた僕に似てる……」 　どこが似ているんだろう……白い布をかぶったおばけがこちらに突進してきた。すごい勢いだ、早すぎる。は？　ウサイン・ボルトより速い？　 「あんたが客人か」 「ええ、よろしく」 「そうか、よく来たな。よく来てくれた、歓迎するぞ！」 　目深に布を被った彼は僕の両手を握ってぶんぶんと振った。 　あ、布が翻って顔が見える。ああ確かに……髪型と髪の色は似ているかもしれない。肌と目の色は違うけれど……。綺麗な……と言いかけて止めた。確か、大和守君がキレイって言葉にアレルギー反応を起こす、といってた。不用意な事は口にしないでおこう。 「……？　彼、随分？　喜んでるような？」 「まんばさぁー主がいなくて極修行が延期になったからって、戻って来たらすぐ出されるんだから諦めなよ」 「何を言ってるんだ、加州。俺はっ、修行なんていかないぞ！」 「お前、いくって主にいっただろー！」 「気の迷いだ、主も保留にした」 「それは主が政府に出かけたから仕方なく！　お前の修行セットは用意されてんだから」 　まんば君がアッアアアアアアアアアアァアアアアアアァアアと悲壮に叫んで膝をついた。 　修行ってなんだろう。そんなに過酷なんだろうか。僕の知識にある修業とは短期間でスキルアップというよりバージョンアップするドラゴンボール知識くらいしかないけれど…。 「同位体情報を聞いた！　布が無くなるんだ！　絶対嫌だ！」 「内番服についてるっていってたじゃん」 「襤褸じゃない、新品同様綺麗な白い布だ！　あんなの俺の布じゃない」 「どこからどうみてもお前の布だよ！」 　話が見えないけれど、まんば君は相当嫌がっている様子。 　あと、彼が布に対してとてもこだわっているのがよく分かった。きっと安心毛布的な役割なんだろな。ライナスだっていつまでたっても手放せない。 「嫌だ、俺が布をとるなんて、極修行とはどんな洗脳を受けるんだ。きっと悪い奴らに捕まってメットみたいなのを被らされて、脳みそを変な機械でぐぉぉぉってされて、溶き卵のようにぎちゃぐちゃにされるんだ…」 「頭の悪いオノマトペを使わないでよ、安室さんドン引きしてるじゃん！」 「ここのひと……いや、かみさま…？　えっと刀達がアニメと戦隊モノが好きなんだなぁ、っていうのは良く分かったよ」 　夕方アニメとニチアサをこよなく愛している勢が多いんだろうな。 「俺は修行に行ったけど！　洗脳されてねーから！」 「加州は元々ちゃんとしてたから手を加えられなかっただけだろう！」 「いきなり褒めないで恥ずかしい！」 「事実を言って何が悪い！」 「助けて安室さん！」 　いや、清光君も修行に行ったんだ!?　という驚きが強くて何も言えないよ。 　いつ？　え？　ポアロを休んで大和守君が臨時で来てくれた時？　あの期間？　何も変わった風に見えなかったけれど…？　 「加州は変わらなかったけれど俺は変わるんだ！　鉢巻で何が守れるっていうんだ！　でこくらいしか守れないじゃないか！　顔を隠したい！　身体を隠したいんだ！」 「俺の事を変わらない変わらないって言わないで！　変わったから！　めっちゃ変わったから！　自信がついてめっちゃ可愛くなって強くなったから！」 「加州は元々可愛かったし強かったし自信満々だった！」 「こっ恥ずかしい事いうのマジで止めろ！　自信が無いとこの本丸で生きていけないからだよ！　安室さんも頷かないで！」 「清光君……こんなに布を手放したくない彼が数日出かけるだけで布を手放す事ができるの？」 「できるんだよ！　甘酒ジャンキーも甘酒手放したくらいだし！」 「更生施設？」 「そうだ！」 「違うから！」 　修行内容は行った者と、報告書が送られてくる主しか知らないらしい。 　報告書も刀剣男士によってまちまち。詳細な内容から250文字以下もある……どんな報告書だ。 「ごめんねぇ、ホント。アホで」 「いや、気にしないで……」 　僕の中で修行という更生施設が変わらないままだけれどね。 [newpage] [chapter:源氏兄弟と安室] 　出陣風景を見て気持ちが高まりすぎた僕に「畑仕事してみる？」と勧めてくれた清光君のお礼を言いたい。 　あんな化け物と刀で渡り合っている彼等が見目のいい青年たちからやっぱり人間じゃないんだな、と思った。夜になるとコナン君くらいの少年たちが戦いに出るらしい。嘘だろ…？　 　取りあえず、雲一つない青空の下でトマトの収穫をしてみる。清光君は誰かに呼び出されてどこかへ行った。 「あれ？　知らない人間がいるよ」 「兄者、あの人間は客人だ。たしか、安室といったか、降谷といったか、ばーぼんといったか、とおる、れいもあったな、あとぜろ」 「わぁ、名を覚えるのが大変だね。どれだけ持ち主を変えたのかな？　それとも何か斬ったから名前が変わったのかな？　鬼かな？　悪霊かな？」 「兄者、彼は人間だ。人間が名前をかえるのは…」 「元服？　それとも敵に媚を売る為？」 「そうだな」 　近づいてくる２人の青年。白いジャージがのほほんと手を振って黒いジャージが僕を値踏みしている。 　清光君のアドバイス「一部がまともで大体はアホだから気にしないでね」が頭に響いた。 　彼等は一部の方かそれとも大体の方か…。 「安室と呼んでください、ええと貴方達は……」 　兄者と呼んでいたから兄弟だろう。ここは兄弟が多いと聞く。 「源氏の重宝髭切だよ、こっちは弟の………満腹丸だね」 「膝丸だ。安室とやら、こんなところでどうした？　迷ったのか」 　迷っていません。 　ちょっと出陣を見て気分が悪くなった……というより脳内処理が追いつかないだけです。 　燭台切と宗三が戦う様子をみたことはあるけれど、あれは対人間だ。 　けれど彼らの敵は人間とは違う。異形の者と刀一本でやりあう。至近距離すれすれ、敵の刃が貫通しても彼等は立ち上がり戦っていた。 　まるで映画の様な現実に僕の脳はオーバーヒートした。心の隅に燻っている高揚感に気付かないふりをしたい。 「ふぅん、出陣をみて気持ち悪くなったのかい、そりゃあ大変だねぇ」 「飲め」 「頂きます…」 　水筒を受け取り、冷えた梅ジュースをたっぷりコップに入れて飲んだ、おいしい。 　……なんで梅ジュース…。 「あのしっかり君は君も僕達とおなじような仕事をしてると言っていたけれど、やっぱり時代が違うからびっくりしちゃったかな？」 「俺達も銃を見た時は驚いたからな、分かるぞ」 「はあ……僕のいたところは刀で戦う事はありませんからね。どちらかというと銃の方がなじみがあるかもしれません」 「しかし、剣術は剣道というものに変わってそちらでもなじみ深いと聞いたが……？」 「僕は柔道を選択したので剣道はあまり…」 　馴染み深いといえばＹＥＳだけれど、僕は長物を得意としないんだよ、と他の誰かにも言ったなぁ。 　あ、気を抜きすぎて軽率な事を言ってしまったな、と思ったけれど「これもって振り回してみて？」と言われたので長い刀を素人丸出しで素振り。彼が扱うと一度に三体破壊可能。ただし室内戦に向かないらしい。 　それからおずおずと背の高い…太郎さんが「こちらも扱って頂けませんか」と刀を渡された。振り回した。歓声が沸き太郎さんは「ありがとうございます」と頬を染めている。背筋力がアホみたいにあって背の高いヒトじゃないと扱えない。戦国の世ってすごい人間がいたんだな…。 「でも君、剣の扱いが上手そうだよね。ほら、竜の子とか布の子みたいに」 「兄者、見た目が似ていても彼は刀剣男士ではない」 「そうだねぇ、似てるのにおかしいねぇ。主だったらきっと君の事を新しい刀剣男士だーって喜ぶよ」 「ああ、勘違いして転げまわる姿が目に浮かぶな」 「ちょっと刀もって戦場に出てみようか。……ほら、主も車の助手席に乗ると酔うけれど、自分が運転すると平気といっていたから実際戦えば寿限無君も平気なんじゃないかな」 「生死を賭けてまでやることじゃないと思うぞ兄者。あと彼は安室だ」 「みんなで渡ればこわくないというし、函館くらいなら平気だよ。ねぇ那由多君」 「遠慮しますね」 　日本は平和な国です、ただし米花町以外。 　そして米花町に身を置く警察官としての嗜み。悪党を殴り、爆弾を解体し、拳銃を打ち、多勢に無勢もなんのその。対人間相手において。 　化け物退治は刀剣男士のおしごと、清光君がいってた。 　だからこそ、疑問に思う事がある。 「貴方達は現状に疑問を持ったりしないんですか？」 「んんー？　どういう意味かなぁ？」 「いえ、戦う事に躊躇しないのは分かるんです、刀の付喪神様ですから」 「様なぞいらんぞ」 「そうそう」 「ええと、けれど、清光君みたいに戦い以外のこともやるのがちょっと目的と外れている気がしまして…」 　ここの生活は自給自足と炊事洗濯家事全般、仕事が出陣と変換。刀剣男士は戦士。 　けれど兄弟が多く家族愛に満ちている。そのアンバランスさが気持ち悪い原因。 　もっと、殺伐としているものじゃないだろうか。 　……いや、違う、 　悔しいんだ。 　表向きの理由は見慣れないモノを見て脳内処理が追いつかなかった。 　心の中で僕が本当に欲しかったものがここにあることの嫉妬。 　家族愛に似た仲間。 　理由のない信頼。 　同じ場所に立ち、背中を預け、兄弟の様に寄り添い、友のように親しく同じ敵を討とうとする様は僕が亡くしたものたち。 　ここは僕の理想が詰まった場所。 　僕がこうだったらいいと夢に描いていた関係。 　昔の僕がこうなることを望んでいた未来。 　いいな、僕だってね、いたんだよ。 　背中を預けられた親友が。 　寝食を共にして馬鹿騒ぎした友達が。 　笑って、怒って、泣いて、悔しい思いを共有していたんだ。 　羨ましくて、狡い。 「お前を匿うのも護るのも歴史を守ることだと言われ主が是と言えば俺達は納得するだけだ」 「そうそう。でも主は在宅仕事だと思ってこの仕事をえらんだら審神者だったんだけどねぇ」 「住まいどころか、戸籍まで替えられていた時は驚いた、と言ってたな」 「貴方達の主さん、危機管理能力が欠如しているんですか？」 　ノスタルジックに浸っている場合じゃない。 　刀剣男士の３６協定よりも管理責任者が問題だった。 　公安の協力者の方がマシな扱いしているぞ！　やむを得ない事情により死んだことにした案件はあったけれど、就職スタートで戸籍変更はない。しかも、在宅イコール仕事場ってどういうことだ。 　社長がオフィスビルのワンフロアを家にしていると同義なのか。違うだろ。色んな意味で。 「うん、主はポンコツだよ。いい人なんだけどねぇ」 「おっちょこちょいなんだ。それでも審神者としての仕事はできているから問題ないぞ」 　清光君から「うちのあるじ」を一日10回は聞いている。他刀剣男士からも「うちの主君は」「うちの主さんは」「うちの主様は」「うちのアイツは」など。 　聞けば聞くほど五十もいる刀剣男士を分け隔てなく扱い、親身で優しくボキャブラリーに富んでいて周囲から愛されている人だけど、ヤバイ。主に常識観念が。 「阿僧祇君は主の事を心配してくれているんだねぇ。いいこ、いいこ」 「いえ、そんな」 「お前が気遣う必要はないぞ。俺達は目的の為に手段を選ばんだけだ。お前を善意で守っているわけじゃない、目的の為にお前を匿っているだけだ」 「おやおや、お前はとってもいじわるな言い方をするんだねぇ。でもねぇ恒河沙君。僕達は新撰組のツリ目君から君の話を聞いていてとっても気に入っているよ。彼に美味しいご飯を食べさせてあげたりお話をしてくれたり買い物に付き合ってくれたんだろう？　たれ目君もお世話になったみたいだねぇ」 「いえ……」 　ポアロのバイトで必要なのは恙なく溶け込むこと。人間関係の円満は第一。その中でやってはいけない遅刻、早退、欠勤。なるべく避けたい事態だけれど、そうもいってられない。 　いい加減目に余る回数だよなぁ……マスターは上司だし梓さんは先輩だ。いくら人の良いといっても限度があるだろう。そこに来てくれた清光君。同じく一人暮らし独身。掛け持ちしているバイトはなく、だらだらと就活中。 　暇だからいいよー予定ないからいいよーと何度バイトを代ってもらったことだろう。あがたい、そのお礼をしたけれど、結局お礼返しは終わっていない。 　なんでここまでしたくれるんだろうか？　という疑問は本丸に来て解けた。 　安室透の警護担当、加州清光。 　清光君は降谷とバーボンの警護しなくていい。だから僕が安室じゃない時は暇で他の警護ヘルプにいっていたとか。 　……え？　それじゃあ僕と一緒にシフトが入っていない時は？　と聞けば、身近な所で待機していると……お勤めご苦労様です…。 　うん、安室透の方がお世話になってるね。大和守君の面倒を見たのも梓さんと半分…以下だったし。 「それにねぇ、いくら政府や主の命だといっても僕達は人じゃないからねぇ。気に入らない者を匿うならお喋りなんてしないよ？」 「ああ、牢一つあれば事足りるからな」 　突然の物騒な話になんて顔をすればいいのか…。 「色んな名前があって色んな側面があっても君がいいこなのは変わらないからね、細かい事は気にしないで沢山遊びなよ。まだ若いんだし」 「そうだ、ええと、お前は主と同じ位の歳だが主よりしっかりしているぞ。加州から聞いたが、歴史修正主義者を倒したらしいな、よくやった」 「ん……？」 　歴史修正主義者を僕が倒した？　 　勘違いじゃないかな？　ええと、そんなことしたのは…………もしかしてあのヤク中？　 「ありゃ？　知らなかった？　それとも心当たりがない？」 「俺が間違えたのか？」 「いえ……心当たりは……ありますけど。あれが歴史修正主義者？」 　弱かった、どこからどうみてもおかしなモノにハマったヤク中。 　すごくしつこかったから根性だけはあるけれど、それ以外は並みの人間以下。米花町あるある「第二の死体になりそうなタイプ」だ。 　そういえば、風見の部下の長谷部と違ってここの長谷部さんは眉間に皺がなくほわんとしている。清光君曰く「うちの長谷部は末弟属性」 　確かに、両手両足の骨を砕くタイプには見えない。アイツはやったけれど。 「君の世のように悪党が分かりやすかったらいいんだけどねぇ」 「遡行軍は分かりやすいがな」 　後で清光君に「源氏兄弟と話をしたよ」と言えば「ああ、あの二振、マトモな部類だから話やすかったでしょ」と返された。エッ…？　 [newpage] [chapter:読んで頂いてありがとうございました。] 清光の本丸は過去に書いたどこぞの本丸。 ｉｆ話は「警護するにも面倒になったから一掃するべ」と政府が警護対象を本丸に匿うという強制執行でございます。別名次元を超えた拉致軟禁といいます。 匿った時間は戻ればあら不思議、なかったことに。記憶もサヨナラバイバイという、とんでもねぇことですよ。 警護対象への説明は雑。基本ベースがとうらぶとコナンだからね。仕方ないね。 シリーズと一緒にかきたいときにかいてアップする予定なので、表紙の色違いで米花か本丸か察してください。 安室：本丸にお邪魔した。清光君の実家？　ごはんおいしい。刀剣男士の戦いに度胆をぬかれた。刀って！　しゅごい背筋力で大太刀持てる。 清光：隠すことなく喋れるって楽だわーって思ってる。 大和守：安室さんがきたー！　ハムサンドつくってもらおーう！　 まんば：安室がきてくれたおかげで修行が保留になって万歳。夕餉のアジを一匹あげた。 刀剣男士達：清光が現世情報安室ご飯を任期中に話していたため、身近な存在に感じている。数振は新規刀剣男士と間違えて手合せやろうぜ！　と連れて行く。 審神者：ノータリン。安室がいる間は政府に出払い中。 ちなみに安室さんは景光君の名前と本人を見て「……似てる」とポソリ。 ｉＦシリーズは他のキャラ達も本丸いらっしゃいする気です。 IN米花は次は長曽祢さんかな～陸奥守もでて～と思っていたけれど、相変らず土佐弁わからぬし勉強する時間もなくﾝｯｱｰと悶えていたらこっちができました。趣味なのでかきたいときにかきたいものをかく。 安室さんは本丸生活かなり似合うと思うの…。ほら、どこみても純和風ニッポン。一部を除きワーカーホリック(戦い大好き)大歓迎な奴らよ。あと警察学校組みたいな関係が多い。ドリーム。 私を苦しめた細菌野郎の駆逐に成功しました。 最後は先生がコロンビアポーズをキメて看護師さんの拍手で終了。 痛みに鈍いタイプで良かった……。これであの痛みとオサラバだぜ！　通院するけど！　

本丸に安室さんが来たよ。<br /><br /><span style="color:#bf2d96;"><strong>ご注意</strong><br />・特殊趣向二次創作作品・設定捏造有<br />・みんなでわちゃわちゃ。<br />・両方の設定あり、時期については適当。<br />・細かい事は置いておきましょう。<br /></span><br /><span style="color:#bf2d96;">キャラ改悪、ヘイト、disの意図はありませんが、読む方によってはそう受取る方がいらっしゃると思います。<br />もしそのように受取られた方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。<br />それでも構わない、という方のみ、お読みください。</span><br />作品傾向について問題がある場合は、タグ・コメントよりもメッセージで教えてください。<br />私の配慮が足りない部分は、メッセージを読ませていただき、作品公開仕様方法変更に役立たせて頂きます。<br />感想や誤字脱字のご連絡はコメント欄に書いて頂けると嬉しいです。<br />ポジティブな一言タグの追加はどうぞご自由に。いつもありがとうございます。<br /><br /><span style="color:#f97ff8;">前作のコメント、イイネ、ブクマ、スタンプ、読んで頂いてありがとうございました。<br />今回ちょっと趣向が変わりました～。<br /></span><br />《小説表紙》小説表紙用素材 28 | このはな様 [pixiv] <strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/68954510">illust/68954510</a></strong>　表紙はこちらからお借りしました。

【クロスオーバー】本丸にようこそ1【コナン＆刀剣乱舞】12

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　軽快なポップス。色とりどりのバルーン。コットンキャンディの甘ったるい匂い。今やこのサンダース大学付属高校を、王として支配しているのは学園祭という名のイベントだった。 　寄港日であっても[[rb:陸 > オカ]]に降りる生徒などはいるはずもなく、それどころか甲板はひっきりなしにゲストを迎え入れている。その様子はまるで世界中の人間が微力な自重の力を結集し、この艦を珊瑚の住処にでもしてやろうと決起したみたい。 　陽気な音楽と中道に設置されたライトに導かれていくように、人々の喧騒が隅々まで行き渡り、血液の循環にも似た速度で空気の温度を上げていく。実際のところ、サンダースの学園祭は校内外で大人気のイベントであり、世界でいちばん有名なネズミたちに対抗しているわけでもないけど、老若男女が楽しめる場所であるのはたしかだ。いたるところで子どもの歓声が響き渡っている。空気ではなくヘリウムが内蔵された風船で迎えられ、小さなディーゼル機関車に乗ったり、サーカスを楽しんだり、でかいアイスクリームにかぶりついたりできる一日があるのなら、そうなるものでしょ？　若者たちは出店でなんでも──キャラメル・ポップコーンやエスキモーパイやファネルケーキやジンジャーブレッドや凍らせたスニッカーズなどだ──食べていいし、映画のキャラクターに扮した人間と写真を撮ることもできれば、そのキャラクターに変身することだってできる。仮にも学園内なので厳しい年齢チェックはあるが冷えたビールすら提供しているので、普段は芝刈り機に振り回されてそうな腹の出ている冴えないオヤジも、赤ら顔でショーやスポーツを観戦すればいい。ではカップルは？　ダンスフロアに足を運んだり夜の花火を楽しむのもいいが、オススメはワイルド・マウス・コースターというアトラクションだ。それほどスリリングでもなければファンタジックでもないが、遠心力の力を借りて身体を密着させるくらいのことはできるというわけ。 　ハッ。 　私が悪態をついたのは、ハイテンションのまま公衆の面前でいちゃつくカップルがうざったいからでなく──まあ、それもあるかもしれないが──そもそもこの学園祭を楽しんでいないからだ。理由は、この誰もが人生を無邪気に楽しめる日において、ある仕事を……いや、仕事じゃない、義務というべきか……それも違う……ハッキリさせておこう、罰だ。罰をうけているからだ。 　罪人である私に降りかかった背筋も凍る恐ろしき所業は、両手で持ったダンボール製のメッセージボード、そこに書かれた文面にこそ現れている。 『FREE HUGS』 　まあ、なんて素晴らしい響きなのかしら。 　そこの道行くあなた、いい笑顔ね。さぁハグしましょ。 　あらそこのあなたも。ハーイ、いい天気よね。さぁ腕を広げて。 　おっと、はじめましてね。この出会いを祝いましょう。さぁ私の熱を感じてちょうだい。 　さあみんな、世界を愛で満たしましょう。 　オエッ。朝食を吐きそう。 　どうしてこうなったのか？　話の経緯は単純なものだ。 「私、一晩考えたの。そうしたらいいアイデアが浮かんだわ」 　学園祭を一週間前に控えてどこかそわそわしたある一日の昼休みに、我らがマム、キャプテン・ケイのこの言葉と、星が出てきそうなウインクに、嫌な予感以外のなにかを感じられるのなら誰か教えてほしい。 「なんのことでしょうか」 　口に運ぼうとしたチーズバーガーを止めて、私はすっとぼけた。 「わかってるはずよ。こないだの反省会で、罰を考えるって言ったでしょ」 　今回は駄目だったか、と顔をしかめそうになったけど、なんとか我慢した。この人はなんだかんだで私に良くしてくれているので、見逃してくれることも多いのだが、決算書に細工してホワイトルーム──除菌室のことではなく、ここの生徒会のこと──に提出したのは流石にまずかったみたい。後悔してしまう。次はもっとうまくやらないと。 　ちなみに、罰を“考える”のは私にだけ与えられた呪いみたいな特権だ。副隊長になって間もなく、同じように何らかの罰で──たしかグロリアーナのメールサーバーにハッキングしたのがバレた件だっけ？──通常の慣例的なものとして二週間ほど[[rb:炊事当番 > ＫＰ]]を任ぜられ、ぶつぶつと文句を言いながらバーベキューの鉄板をひたすら磨いていたことがあったが、そのときは一週間もたたないうちにケイさんが先に音をあげ取りやめになった。その理由は、この大所帯のサンダース戦車道チームにおいて事務仕事や実務的な運営を一手に担う私が不在だと普段の活動もままならなくなったからだった。もうひとりの副隊長？　あいつは撃つことしか興味がないので、内勤ではまったくの戦力外。 　そうして、私への罰は条件が設定された。①短期間で終わるもの。②どうにも懲りない性分なので方向性を変える。というものだ。②については、ケイさんいわく『芽キャベツが嫌いなこどものお尻を叩いたってしょうがない。美味しい芽キャベツ料理を食べて価値観を変える方が良い』とのことだけど、私としてはあの蒸れた足みたいな臭いの野菜を美味しく食べる方法があるとは思ってない。 「それでね」ケイさんが言った。「アリサには学園祭でこれを持ってもらうわ」 　笑顔で取り出されたものを見て、私は固まった。それはどこぞのオーストラリア人が始めて、今では世界的に有名となった活動に使うメッセージボードだった。誰であろうと来る者拒まず抱擁するという、社交的で、活動的で、開放的で、人の善性に疑いも持っていないような、つまりケイさんのような、文字通りの“抱擁力”ある人種だけが掲げるべきメッセージ。 　一瞬、私の中の戦術家としての脳が作動し、トイレに立つと言ってガレージに向かい、そのまま戦車に乗って演習場の辺鄙な森にでも逃げてしまおうかと考えた。車内には寝袋も食料もある。だけど同時に、そんなことをしても無駄だとも悟った。面白半分にチームメイトから五十倍の戦力差で追い立てられ、すぐにとっ捕まり、翌日の校内新聞で全校生徒から笑いものにされるのがオチだ。ここは現実の問題点で反論すべきだろう。 「でも、私にも戦車の仕事があるんじゃ……？」 　これまで毎年していたように、今年も戦車道チームもイベントに参加する。シャーマンの後部に取り付けたでかいカゴに子どもたちを乗せてあちこち巡ったり、火力と物量にものを言わせて撃ちまくったり──これがグロリアーナだと一糸乱れぬ隊列を組んだショーになるが私たちの校風だとこうなる──といった具合だ。 「ノー・プロブレム」 　ケイさんは[[rb:親指を立てた > サムズアップ]]。この動作は古代ローマでは剣闘士の助命として使われていたらしいが、私にも適用してもらえないかな。 「アリサの下準備はいつも完璧だし、当日はたいしてすることもないでしょう？　私たちに任せておいて」 　不満はあるが、仕事ぶりを肯定されては反論できない。この人の性格は案外と厄介なものなのだ。 「そもそもなぜそんなことを？　どういった意味が？　私としては、趣味じゃないんですが」 「この活動に目的はないの。というより、人それぞれ違う、と言ってもいいわね。ただ、私もやったことあるけど、けっこういいものよ。きっとアリサも楽しんでもらえると思うわ」 　さっき罰と言っていたのでは？　とツッコもうとしたが、やめた。開き直られるだけだ。どうも私にやらせてみたいだけみたい。 「それと、安心して」ケイさんは続けた「やるのは昼間の三時間だけで、学園祭を楽しむ時間はちゃんとあるから」 「そりゃどうも」 　家のパソコンを開けてCPUクーラーのファンが回っているのを半年ほど見ている方がよっぽどマシだと思いながら、私は答えた。 　ケイさんに指定された広場は出店が連なる大通りに面していて、中央には噴水があった。その噴水のそばに立つと、向かいに三十二種類ものフレーヴァーを売りにするアイスクリーム屋台が見える。噴水を挟んで反対側にはダンスパフォーマーやジャグリングするピエロが路上で拍手喝采を浴びていて、当然ながら人通りは賑やかだった。これから三時間、ここで愛の伝道師めいた真似をしなければいけないのだ。私が今日ここにいることは戦車道チームの多くが知っているので、サボることもできない。 　なるべく不特定多数との接触を減らしたい私にとって重要なことは、目立たないこと。そういう意味では、私は平均点以上だ。人を惹きつける明るさを持つ美人のケイさん、颯爽としていて他校の女子から大人気のナオミ、彼女たちの傍らにもう一人いることに、気づいてもいない人間は少なくない。どうせ私は地味なナードなのだ。愉快なことではないが、今日はこの利点を活用してやる。さいわい、服装はこの場にいるティーン・エイジャーが身につけるにはもっともありふれた格好である、ここの制服を着ることを許された。タンクジャケットのように特定のグループであることを示すものを着用すると、宣伝のようになってしまい活動としては好ましくないらしい。悪ノリで、いつかハロウィーンパーティーで着てしまった際どい衣装を指定されたらどうしようかと思っていたのでほっとした。 　ここに立ってすぐに、熱に浮かされたようにはしゃいでいたここの生徒たちの何人かと抱き合ってわかったことだが、目を合わせないというのは重要なことだ。世の中には、目が合うとそれがなにかの合図だったみたいに笑みを浮かべて両腕を広げるタイプの人間がいるというのは、これまでの私の人生にはなされなかった発見だった。なので、目はなるべく焦点を作らずに茫洋とした様子で、表情はかすかな微笑みを選択したところ、私に反応する人が相当減った。笑顔なのは、誰もが口を緩ませている今日この場所で、感情そのままなしかめっつらをしていればかえって目立ってしまうからだ。ヘイ彼女、ハグしてあげるから笑顔を見せてよ、なんてことを言われかねないのがこの学校。 　もちろん場所取りも重要で、ナオミには遠く及ばないにせよ私だって戦車乗りの端くれなので、地形を読むくらいのことはできる。噴水近くを選んだのも、立ち上る水がいくらか姿を遮ってくれるからだ。それと、“終末のときは近い”とだけ書かれた看板を持って突っ立っている変人がいた──サンダースの名物のひとつだ──ので彼女の隣に陣取ったのだが、二十分もしないうちに巡回の[[rb:風紀委員 > ＭＰ]]がどこかに追い払ってしまった。彼女のおかげ周囲の空間にはちょっとした空白が生じていたのに、残念。 　始めて一時間くらいして、ケイさんが様子を見にきた。 「ハイ、調子はどう？」 「レバノンの武器商人とミャンマーのアヘン業者とイスラエルの自警団員がきたので、世界平和の意思を込めて抱擁しましたよ」 「もう」 　苦笑したケイさんが腕を広げるので、私も応じた。短く互いの体温を交換する。実際のところ、私は他のサンダース生徒と同様にハグそのものにかんしては嫌いなわけでもない。このように、仲のいい相手ならノリノリで応じることもする。ただ、このような活動には面食らうというか、素直に楽しむにはひねくれすぎているのだ。特別なにかを感じるということもない。あるいは、ケイさんなら、私のようなひねくれ者も簡単に信じてくれるようなこの人なら、互いを尊重する感情や暖かな幸福感といったものを感じ取っているのかもしれないが、私にはわからない。それじゃ頑張ってね、と言って移動する私たち自慢のキャプテンを見ながら、そんなことをぼんやりと思った。私にとってよくわかる種類の事柄というものは、弾道とその速度、予想される着弾範囲、戦車ごとの路面走行性能、伏兵が想定されるエリア、装甲圧と傾斜装甲による耐久性、適切な潜伏地点といったものなのだ。 　ナオミが来たのは残り一時間を切ったころだった。 「やっ、楽しんでる？　ケイから、ここでやってるって聞いたんだ」 　私は無言でじろりとねめつけた。 「その社会活動に参加している人間の顔じゃないな」 「うっさい、冷やかしならどっか行きなさい」 「冷やかしじゃないさ、ほら」 　そう言いながら腕を伸ばして近づいてくるので、ボードを立ててナオミの頭に落とした。 「痛いって。なにするのよ」 「ハグはいい」 「フリーって書いてる」 　懲りずに今度は私の腰に腕を伸ばすので、今度は面でバシバシと叩いた。なんか往来でセクハラされている気分だ。 「なんでよ」 　頭をさすりながらナオミが言った。少し予想外なことに、本当にちょっと不満そうだ。 「今さらハグって仲でもないでしょ」 「ケイとはしたって聞いた」 「あの人は無邪気だから」 「私だって他意はない」 「どうだか、なんかやらしかった」 「私はそう軽い女じゃないよ」 「ねぇ、そろそろやめない？　傍で聞いている人がいるとしたら、別の意味でとりそうだから」 　事実、私の周りではナオミの登場のせいで視線が集まってきていた。男も多いが、それ以上に女子が見ている。チラチラと見る小さな娘もいれば、恋の落雷に打たれ心あらずみたいになってる、他校の生徒も一人いた。なにも珍しいことじゃない。たとえば練習試合かなにかで他校に行った際、いつもナオミと共に行動している私は、毎回似たような光景を見ている。そんな人間とのハグを拒むのは、おそらく地球上で私だけだろう。 　道行く人たちの視線の動きは、まずナオミを見て、次にその隣にいる私と、手にしたメッセージに気がつき、またナオミへと戻る。そのときに、ああ何だ、この人はやっていないのか、と思っているのが表情でわかる。私で悪かったわね。どうあれ、目立つのは好ましくない。ナオミを早いとこ追い出さないと……いや待てよ。 「ねえ、あんたもやってみない、これ」 「アリサがそう言っても応じるなってケイに釘を刺されている」 　心の中で舌打ち。ナオミがやれば、この場でちょっとした混乱のようなものが引き起こせるだろうと期待した。早く切り上げるチャンスだったのに。手の内を読まれている。 「ねえ」 　私の隣に並んで、賑わう私たちの学校を見ながらナオミが言った。 「フリーハグって楽しい？」 「楽しそうに見える？　こういうのは、私じゃなくて、もっと素直ないい子にやらせればいいのよ。そもそも、“やらせる”ものじゃないらしいけど」 「ケイもそれはよくわかってると思う」 　あの人の目的というか、真意というか、それは私も引っかかっていたことであり、同時に考えないようにしていたことでもある。ナオミは続けた。 「ケイは、来年はアリサに隊長させるって言ってたでしょ」 「ええ、驚いたわ」 「私も含め、チームのみんなの多くは驚かなかった。そうなるかもと思ってたんだ」 「てっきりあんたがやるものだと」 「私じゃ無理だよ。というか、ガラじゃない」 「私だってそうよ」 「お互いそう思ってるわけね。でも、違うのは、他の人からはどうかってこと。事実、ケイはアリサを選んだ」 　私は無言。ガラじゃない。いいえ、アリサならできる。ほら、やってみて。それって、まるで私がここに立っている経緯みたいだと思ったからだ。ね、できたでしょう？　これが終わったら、あの人はそう言って笑うのだろうか。 「あるいは、もしかすると、アリサがこの活動を通じて、人と人との信頼とか、世界は愛で満ちているとか、そういうことを感じ取って、フェアプレーに徹する模範的な隊長として生まれ変わるかもしれないと期待してるとか」 　少しおどけてナオミは言った。私も笑った。そんなことはありえないからだ。 　でも、まあ、あの人が私を思ってしてくれているのであれば。 　参謀は、隊長の期待に応えるものだ。 「ほら、あんた邪魔よ」 　腕時計を見ると時間はまだ残っていたので、ボードを振ってナオミを下がらせる。 　私は少し移動し、通りに直接面する噴水の正面に立つと、作り笑顔をやめた。ほら、さっさと来なさいと、不敵な笑みに切り替える。そしてダンボールとそこに書かれた言葉を高く掲げた。そうしないと、身長の低い私は目立たないからだ。 　やはり最初に反応するのはここの生徒だ。知った顔も知らない顔も、いとも簡単に抱き合う。 　その様子を見て、周囲もうっすら“やってみようかな”という空気になっていくのがわかった。 　次にBCの制服を来た一団から少し色黒の女子生徒が寄ってきたので、彼女ともハグ。あそこの受験組は庶民的な料理に飢えていてよく遊びに来る。加えて、サンダースとは戦車の貸し借りなどでも友好関係を築いているので、気持ち少し長めに。 　私を目にとめる人たちがぐっと増え、次々に近寄ってくる。ひとりひとりに応対していると、ふと視界の端に、なあ、おいどうする？　などと言いたげな視線を交わしている中学生くらいの男子たちがいたので、手招きしてあげた。彼らもまた、やや緊張しながらも、ハグに応じた。可愛い[[rb:坊や > ・・]]たちめ。 　そうしていると、やや離れたところで通りがかりの背の高いおじさんが、人々の頭上越しから物珍しげに見ていたので、私も見返す。さあどうぞ、という私の意図を察したようで、おずおず近づいてハグ。私はパパ大好きな父子家庭育ちだ。おじさんという生き物に対してはなんの抵抗もない。彼からは、私たち戦車乗りがどこか安心する類の匂いがした。アブラやススの匂いというか。この人は整備士かなにかかもしれない。ハグ自体はかなり遠慮気味だった。女子高生と抱き合うのに倫理的抵抗があるのかもと思ったけど、どうやら連れの女性を気にしてるみたい。奥さんは興味がないみたいで、こっちに目を向けない。その長い黒髪と、少しキツイ顔つき、なによりベテラン戦車乗りにも共通する佇まいはどこかで見たことあるような気がするけど、まあいいや。 　私の意識は次のハグに向かう。次のターゲットを探ると、青師団の戦車道チームのグループが見えた。相変わらず胸元を大胆に開いた、すごい格好をしている。「[[rb:やあ、きょうだい > オラ・アミーゴ]]！」と声をかけると、彼女たちは反応して明るい笑顔を向ける。そして迷わず、半ば寄りかかるように体重の乗ったハグ。噂には聞いていたけど、なんとも情熱的だ。 　次に見つけたのは、私の二年上で、去年卒業したここのOBで、戦車道チームの元先輩たちだった。 　彼女たちには一年間たっぷりと可愛がられもしたし、シゴかれもした。どうしよう、スルーしたいけど……ええい、ままよ。 「ヘイ、先輩たち！」 「ワオ、アリサ！　久しぶりね、なにやってるの？」 「見てのとおりですよ」 「信じられない。ずいぶん社交的になったのね」 「そういうわけでもないですが──」 「さすが次期隊長！　お姉さんは嬉しいわ！」 　言葉を待たずにそんなことを言いながら、競うように私へと殺到する。久しぶりに会ったということでテンションが高いのもあって、身体の接触が必要以上に長い。幸せを分かち合うというよりは、ぬいぐるみで遊ぶような感じだ。すでに抱き合っているのに、待てないといった様子で二人目や三人目が横や後ろから私の身体をがっつり固める。少し苦しい。こうなるのは半ば予想してけど、思ったよりも恥ずかしい。すると一人がふざけてお尻を揉んできたので、思わずやめろと騒いだ。こんな人混みで、ほとんど集団痴漢みたいな有様だった。見知った女性同士じゃなかったら間違いなく国家権力が動く事態だろう。私は手足を振り回して、かつて仲間だった人たちをなんとか追い散らすことに成功した。まったく、ひどい目にあった。 　じゃーねー、と手を振って去っていく先輩方にぞんざいに対応すると、もう終了の時間。終わってみると、正直なところ気分はそう悪くなかった。振り返るとナオミはまだそこにいたので、このあとどこかで今日のことを話し合おうと近づくと── 　う゛っ……。 　思わず変な声が出そうになった。なぜなら、ナオミは一年に一度見せるか見せないかの、不機嫌な顔をしていたからだ。眉はいかめしく、目が細められ、全身から攻撃的な雰囲気が横溢している。“ムスーッ”といった心の声が聞こえてきそう。この表情にはウラにもう一つ意味があって、ナオミはその気になればどんな感情でも押し殺しクールに振る舞うことのできる、自己抑制に長けた──私とは違い──人間であるのに、今回は自らの感情を隠そうともしていない。つまり、彼女の怒りの示す先は私であり、不機嫌の砲弾はすでに装填が済んでいて、それどころかとっくに発射もされているということだ。一度こうなると厄介なのは経験で知っている。 　いったいどうして？　どこで間違った？　考えるのよ、アリサ。あなたは参謀でしょ。 　しかし、私は今回、自分でも珍しいと思うほど模範的な振る舞いを示した。ケイさんも褒めてくれるだろう。落ち度などなかったはずだ。なにせ、誰隔てることなく積極的な抱擁を── 　あっ。 「お、おまたせ、ナオミ」 「……おつかれ」 「待っててくれたのよね？　ありがとう。でも、あんたとはまだだったわね。ちょっと遅れたけど──」 「いいよ。[[rb:嫌なら > ・・・]]無理しないで」 　うわー。やっぱりだ。自分だけがハグさせてもらえなかったから、こいつ拗ねてる。 「あー、ごめんね？　あのときは私も慣れないことさせられて少し不機嫌だったし──」 「謝ることはないよ。実際、思い立ってからアリサは楽しそうだった。私も、知らないことを知ることができたし」 「なにを？」 「フリーハグのフリーは、“私の[[rb:自由 > フリー]]”って意味だったってこと」 　思わず言葉に窮した。私と違い、ナオミが皮肉めいた嫌味まで口にするのは本当に珍しい。駄目だ、これはフライドチキンおごって片がつく問題じゃない。 　私はハラを決めた。 「あのねナオミ、たしかに私は拒んだけど、それはナオミが嫌なわけじゃなければ、ハグが嫌だったわけでもなく、問題は私の状況にあったの」 「問題があるようには見えなかったけど」 「そう、私は誰とでもハグしてた。あんた以外は全員。もちろん人を選んじゃダメだし、私もそんなつもりはさらさらなかったんだけど、でも、ナオミと他の人は、私にとってやっぱり違うでしょ？」 　ナオミの眉間から険しさが消え、私を探るように見ている。この調子だ。 「だって、あんたとのハグはもう少し大事にしたいっていうか」人の多い校内で何を言っているんだということは考えないようにしながら続けた。「やっぱり、特別だし」 「その理屈だと、活動を終えた今のアリサなら、私とハグできるってこと？」 「ええ、そのとおりよ。ほら」 　私はこの日初めて、心から愛を、平和を、互いを尊重する気持ちを受け入れようと、腕を広げた。フリーではない、特別なハグだ。 　しかしナオミは応じない。どうしたのだろうと思ったが、ナオミは先ほどまでの不機嫌がウソみたいな笑顔で言った。 「ここじゃできない、移動しないと。私の部屋でいい？」 　人前でできないハグってなんだろう。もっともな疑問があっても、私の答えは一つしかない。 「いいわよ、それじゃ行きましょうか」 　そうして、私はナオミと肩を並べてこの場をあとにした。ハグだけで済むだろうかといったことを考えながら。

アリサちゃんがフリーハグする話です。<br /><br />ハイセンスなタイトルはつくしさん（<strong><a href="https://www.pixiv.net/users/352703">user/352703</a></strong>）が考えてくれました。敬礼！<br /><br />「・」をルビに置くことで傍点の代わりにしてますが、環境によってズレるみたいです。ご了承ください。<br />誤字脱字あれば、どんな細かいものでも指摘していただけると非常に助かります。

ケース・オブ・チェリーピック

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10113969#1

今日も太陽は昇る。 米花駅に近いこの物件は家賃も程よく、見た目は古風ながら中はリフォームしてありとてもきれい。バストイレ別、最低限の料理しかしないもののキッチンも使いやすい。 ここが仕事以外の時間を過ごす、いわば私のお城という訳なのだ。 ぴ、ぴぴ、ぴぴと控えめにアラームが鳴る。起床時間である。 手を伸ばしスマホのアラームを止めると目をパチリ、とあける。今日は晴れ。窓の外はそれはもうキラキラとした朝だった。 着替えてメイクをして。昨日コンビニで買っておいたパンをかじりつつ、インスタントコーヒーを飲む。あれだけホテルでうんちくを垂れているものの、実は食べ物にそこまでのこだわりはない。おいしくて栄養が取れればOK！早いなら尚OK！である。 歯磨きをしたなら通勤用バッグを手に黒いシックなパンプスに足を通す。 「行ってきます」 今日も一人暮らしの質素な部屋は静かに仕事人間を送り出すのだった。 ** 「棚井さんご指名です。電話代われますか？」 「ハイ。どなたでしょう」 「安室様です」 ワケアリなお客様のためのコンシェルジュ、シークレットコンシェルジュ用のスタッフルームにて先輩の斎藤さんは私ににっこりとそう告げた。 彼は何も知らないので全く悪くないし、悪気もないはずである。だからその笑顔が怖かったのは……私の心情のせいだろうと思う。 一瞬の躊躇ののち、内線で回されたデスクの受話器を取る。大丈夫、これは仕事である。 「もしもし、お待たせいたしました。お電話代わりました棚井でございます」 『こんにちは、久しぶりですね花さん』 それはとても愉快です、とでも言いたげな声だった。 最後に会ってから1週間。そこまで久しぶりでもないような気がする、が……。 「お久しぶりです安室さま。本日はどのような御用でしょうか」 『今夜22時にバー予約できます？ふたり』 各フロアの予約状況をPCで確認しつつ「大丈夫です、お二人ですね。お取りしておきます」と言うと電話の向こうでクス、と笑う気配がした。 『ええよろしく。今日も相変わらず丁寧ですね』 「ありがとうございます。光栄です」 『……期待しています、花さん』 「ええ、ご期待に添えますよう務めさせていただきますね。いつもご利用ありがとうございます」 あの日。車で送っていくと言われ道端で話した1週間前のあの日。 「花さんは仕事が好きなんですね」と彼は冷たい眼をしたまま言ったのだ。 確かにその通り。 私はこの仕事が好きで続けている。 だから私は安室さんが私に何を聞きたくてそんな態度をとっているのかも知りたくはない。 知ってしまったらきっと私はそれを無視することができなくなるような気がする。 そうサービス精神と守るべきルールの狭間。 いくらお客様である安室様が知りたいことでも、それをして私の立場を危うくしてしまうのであれば本末転倒ともいえる。この仕事の意味をはき違えてはいけないのだ。 失礼しますと一言添え、向こうが電話を切ったのを確認してからそっと受話器を置いた。 しかし私は期待には応えたい。 おもてなしには最善を尽くすと誓おう。なんていったって私はホテルコンシェルジュなのだから。 ** Sコンシェルジュには専用の部屋がある。 大事にしなくてはいけない個人情報はその部屋のPCのみで一般のお客様と分けて管理されているし、大っぴらに話すことのできないSコンシェルジュ同士の情報共有の場でもあった。 隔てるのはたった1枚の扉なのだが、それはとても大切なことなのだ。 「棚井さん、安室様って新しいお客様？」 電話が終わり、私にあてがわれているデスクで本日についてのメモを取っているところで斎藤さんがそう話かけてきた。 ホテルのフロントの奥の奥、そのまた奥に位置するこの部屋には光はあまり届かない。8畳ほどの広さに中央部分に固まって置いてある4つのデスク。 私と斎藤さん以外は今不在なので2つは空席だ。窓も小さいものしかなく常に明かりをつけているこの部屋はまさに秘密の部屋。 「あ、そうなんです。先日ヴィンヤード様のお連れ様としてご利用いただきまして」 「へえヴィンヤード様と」 斎藤さんはそう言ってちらりと私に目線を向け、すぐに書類に落とす。 確かに情報共有も仕事のうちなのである。私がホテルに不在の時の連絡や、飛び込みでいらっしゃった際に他のスタッフが対応しても失礼のないようにしなくてはならない。 それはほんの少しの違和感だった。 安室様について何か気になることでもあるのかと、どうかしましたか？と声をかけようとした時である。常時身に着けているインカムから「棚井さーん！」と呼ばれた。 「はーい！」 そしてそれが合図であったかのように各方面から仕事が舞い込む。さあ忙しい時間の始まりである。 労働！勤労！今日も頑張って働きましょうとも。 ** そして時刻は22時前である。 気分はもはや戦士。身だしなみを再度確認し、きちんと整えたなら鏡の中の自分をキリと睨む。 ご予約はお2人とのことだったのでバーの個室は小さめのものを用意した。 少し暗めで暖色系の照明、窓際のカウンターにゆったりと並ぶ2つの椅子。最後の確認である。ここなら女性と来られても男性とでも大丈夫。もちろんホコリもゴミもない、手入れは行き届いている。 下に降りているところで5分ほど早く安室様が到着されたとインカムで呼ばれた。決戦の開始である。 * 「お待ちしておりました、安室様」 「ああ花さん。こんばんは」 「こんばんは。今夜はご利用ありがとうございます」 頭をぴしりと下げつつ、笑顔。 細身のパンツに革の靴。シャツにタイ、ベスト。フォーマルでありながらカジュアルさも感じるような絶妙なライン。あとやっぱりきれいな顔。顔でドレスコード全部パスできそう。 私を視界に入れると彼もニコ、と笑った……が、やはりポアロで見たときとはなにもかもが違うなと感じる。もはや首の後ろに切り替えスイッチが付いているんだよ、と言われても信じてしまいそう。 「お連れ様をお待ちになりますか？」 「いや、先に入るよ」 それでは、とエレベーターへ案内する。 数歩後ろをついて歩く彼はポケットに手を入れている。先日ヴィンヤード様と来られた時のような冷たさはないものの、妙な重圧を感じた。 「ねえ花さん」 「はいなんでしょう」 エレベーターが来た。扉を抑えつつ「どうぞ」と促すと「ありがとう」と乗り込む。私も滑り込ませるようにエレベーターへと乗り、階のボタンを押す。 ……2人きりの空間が少し恐怖である。 「花さんはお酒の名前には詳しいですか？」 「お酒ですか？そうですね、当ホテルでご用意しているものでしたら」 かなり稀だがバーにヘルプとして入ることもあるし、今回のようにSコンシェルジュの仕事としてバーを案内することもある。私自身、お酒はあまり飲まないが知識としてなら少し。 「へえそうなんですね。……例えば、ベルモットとか」 ドキリ。あ、お酒って、そっち……。と真意が知りたくて安室様の顔を見上げる。端正な顔は口端の片方だけで笑い、あの蒼い瞳がこちらを見ていた。 誰に聞いたわけではないが知っている。 ヴィンヤード様がベルモット。そして以前来た銀髪がジン、その横にいた大きい人がウォッカ。どれもお酒の名前である。 そこから推測されることは「呼び名がお酒の名前であること」。もちろんあだ名だなんて可愛いものでもないことは知っている。さしずめ、コードネーム。 「ご用意させていただいております」 「ジン、ウォッカ、キャンティ……」 「……各種ございます。安室様はお酒にお詳しいのですね」 にっこり笑ってそう言うと彼のキリ、と吊り上げた眉が緩む。 「なるほど」 笑顔のまま何がでしょう？という顔を作る。ここは知らぬ存ぜぬを突き通す作戦が最良と見た。 私は何も知らない一般人。ヤクザもカタギには手を出さないと聞いたことがある。それが外国の方も含まれる組織に適応されるかは知らないけれども。 腕を組み、右手で自分の顎あたりをさする彼は今日も顔がとても整っている。 チン、と音がなり静かに扉が開く。 絨毯の敷かれた廊下を「こちらです」と個室専用のルートに案内する。 個室では時間帯も良くきれいな夜景が窓から見える。ス、と椅子を引くとすとんと安室さんは座った。メニュー表をテーブルにそっと置く。 「お先に何か飲まれますか？」 「……花さんのおすすめってなんですか？」 ここが居酒屋であればとりあえず生。なのだけど……。先程お酒についてああ言ったものの、仕事中心の生活を送る私をバーに誘ってくれる人などいる訳もなく当然のように範疇外である。 「ウイスキーなどいかがでしょうか」 しかしテンプレートのように出てくるのがホテルコンシェルジュ。男性の場合にまず頼まれやすいウイスキー。ハイボールにしても良し、ロックも、水割りも。 その端正な見た目に琥珀色のグラスがきっと似合うだろうな、と思った。彼は「ふむ」と長い足を組んで頭をこてん、とかしげる。絶対似合うな。 「ウイスキー。いくつか種類があると思うんですが、花さんはなにを飲まれます？」 「ええと、私、ですか？……実はウイスキーを飲んだのは1度だけで」 「その時は何を飲んだんです？」 ニコニコと何故かお酒の話題が楽しそうな安室様である。 正直に話せばお酒に明るくない、と解放してくれるかと思ったがそうでもないようだ。仕方なく思い出す。ええと、少し前に友人と飲んだときに「おいしいよ」と言われ、ハイボールにしてもらって飲んだウイスキーの種類は。 「バーボン。たしかアメリカのウイスキーをいただきました」 一瞬きょとんとしたあと、彼は目を細め一層圧の強くなった笑顔を向けられた。 「じゃあそれをロックでお願いします」 「……かしこまりました」 部屋から出るとちょうどインカムで斎藤さんから「安室様のお連れ様が到着いたしましたのでご案内します」と連絡が入る。 「わかりました、お願いします」 そう返しながら、もう何事もありませんようにと願うのだった。 あの笑顔。あの笑顔である。もうげっそりとしてしまう。私は知らずに地雷でも踏み抜いたのだろうか。お酒の名前はデリケート。私覚えた。今後要注意だ……と、反省しつつ、バーテンダーが作ってくれたバーボンのロックを手に部屋に戻る。 ちょうどお連れ様がいらっしゃるところだった。 「待たせたな。バーボン」 それは50代くらいの白髪まじりの男性。オールバックに撫でつけたヘアスタイルにスーツ姿だった。いや、それより何と言ったか。この人は、安室様を見て、何と呼んだか。 安室様を見る。手元のグラスを見る。ぱちぱちと瞬きをしたのち、事態を飲み込む。 「ああ、ありがとう」 「お待たせ、しました」 安室様はお連れ様を一瞥したのちに後ろで固まっている私を見て愛想よく笑う。 会釈をしつつ通り抜け、コースターを敷きその上にグラスを置くと嫌が応でも顔が目に入る。間違えた、と思ったが何が正解だったのかはもはやわからない。もう運が悪かったとしか思えない。 「彼にも同じものもらえるかな」 「かしこまりました」 そうして私はもう一度バーボンのロックをあの部屋へ持っていくことになるのだった。 つまり「バーボン」は安室様のコードネームであった、と。そういうことである。 ということは先ほどの圧の強まった笑顔はある種の威嚇だったのだろうか。……まさか私が知っているぞ、と牽制をしたという風にとらえられたのだろうか。待って、待ってほしい。本当に知らなかった、知らなかったんです。軽い絶望を覚える。 しかし今ここで一人心の中で言い訳をしていたってなにも変わらないのだ……。 何食わぬ顔で部屋をノックして入り、先ほどと同じようにバーボンを置く。「御用がございましたらベルでお呼びください」と付け足し伏し目がちに部屋を出る。何も聞かないようできるだけ早く。 パタリと扉を閉じて軽く息をついた。 もうなんか疲労度がすごい。早く帰ってお風呂に入りたいと心の底から願う……。 ** ベルが鳴ったのはそれから1時間後のことだった。 部屋に入ると嫌にご機嫌そうな笑顔の安室様が目に入る。お辞儀をしつつ、 「失礼します、御用でしょうか」 「彼がお帰りのようです。見送り頼めます？」 「かしこまりました」 「お願いしますね、花さん」 わざわざ名前を呼ばなくていいじゃないか、と思いながらもそれは見ために出さぬよう笑顔を貼り付け、顔を上げる。 するともう椅子から立ち上がっているお連れ様が目に入った。信じられない、という顔で私を見ている。 額にじっとりと汗をかき、顔は青白い。先ほど見た時よりもどこか具合が悪そうだ。それに対して笑顔で機嫌が良さそうにテーブルに肘をつき、組んだ手に顎を乗せている安室様。 一体何があったのですか……。 「こちらへどうぞ」 そう手を差し出し、出口へ誘導。そのまま廊下を通り、先ほどの案内と同じようにエレベーターへと向かう。 お連れ様のふらふらとした足取りが気になる。エレベーターを待つ間に向き直り口を開いた。 「大丈夫ですか？具合がよろしくないようでしたら少し休憩されますか？」 お部屋をご用意いたしますが……と付け足しながら少しでも支えよう、と右手を出した瞬間。 バン、と勢いよく手を叩かれる。 「うるさい！触るな！……どうせお前もあいつの飼い猫なんだろう！」 男の人の全力はちょっと堪える。叩かれてしまった右手の手の甲を咄嗟に胸元にかばい、左手で押さえてびっくりしていると、そこへタイミング見てました！とばかりにエレベーターが来て扉が開いた。 「もうお前はいい。ついてくるな！」 そう怒鳴り、彼は1人で乗っていってしまった。 本来ならば追いかけるべきだと思う。 しかしこれ以上刺激してしまうのはまずい。不本意とはいえ私が原因（多分）である以上、私以外の者が適任だろうと判断し、フロントに「申し訳ない、お客様を怒らせてしまいました。あとは頼んだ……」とお願いする。 フロントには後ほどお礼を言いに行くとして……。 私は私のやるべきことを。 くるりと踵を返し安室様の待つ部屋へと向かう。 「失礼します」 「ああ、お見送りありがとうございます。ずいぶん早かったですね」 口元はにっこり。でも目が笑ってない。歪む瞳は全て知っている、分かっている、なんて語っているようだった。 すべてがこの人の手の内なのかも、とそう感じる。 「彼、不機嫌だったでしょう。交渉決裂というやつでして」 「そうでしたか」 「もう少し頭の良い人と取引がしたいものです」 「……」 返答に困っていると、こちらへ、と手招きをされる。部屋の入口に立っていたのを歩を進める。 私がほぼ横に立つと彼はとても自然な動作で私の右手を取った。 「何か、言われました？」 そう言って薄暗い照明の中でも赤くなってしまったのが分かる私の右手を撫でる。その手はまるでぬいぐるみを撫でる時のように、質感を確かめるようにゆったりと動く。目線はつつつ、と体を滑り、最後に私の瞳をとらえる。 あやしくてつやっぽい。 ついひゅ、と息を飲み込んだ。 「い、いえ」 「手が赤い。腫れるかもしれません。手当をしないと」 そう言ってうっそり笑うこの人が怖い、と思った。 わざと私の名前を言ったくせに。親密な関係だと、そう思わせたくせに。 心の底から怖い。安室様の後ろにはなにか黒くて大きな影。 そして今私がいるのはこの人の掌の上。 私は何も知らないのにこのまま巻き込まれていくのか。ただ好きな仕事をしているだけなのに、知らない大きなものに巻き込まれてしまうのか。 心臓は聞いたことがないくらいにバクバクと鳴る。 「大丈夫です、ご心配には及びません」 精一杯の虚勢であった。 声は震えている。 しかし安室様に弱みを見せてはいけない。手を叩かれてショックだったことを悟られてはいけない。もはや本能に近いところでそう感じた。 彼は「そうですか」と言って手を離し、立ち上がり私を見下ろす。 相変わらず冷たいその目は少し細められた。 「じゃあまた来ますね、花さん。……ああ、僕も見送りは結構です」 「あ、お、お待ち下さ」 横をすっと抜けられ、その背中を追いかけるように咄嗟に声をかける。 「バーボン、美味しかったですよ」 振り向きざまにそう言って部屋を出て行ってしまった。 私はと言えばあわてて扉の方を振り返ったまま扉が閉じるのを見ていた。ぽつん。衝撃と混乱そして恐怖、感情はないまぜになって私を支配する。 唇を噛み、ただ耐える。泣くな。 何も言えなかった私はコンシェルジュ失格だろうか。 私が用意したこの部屋はなにもかもが完璧なはずだ。掃除だって行き届いているし、空調も快適な温度を保っているはずである。 ……じゃあこの嫌な汗はなんなのだろう。 その翌日。私は仕事を休んだ。 ** ベッドの中でぼんやりしている。 心の調子が悪いのも体調不良としてカウントしてもいい気がするんだ。いいと思う。 幸いにして私指名のご予約はなかったし、私が居なくても大丈夫。……それはそれでさみしいけれども。 昨日の出来事はどうしても消化できなかった。 揺さぶりをかけられている、という自覚がある。 安室さんがそうまでして私に何をしたいのか、私をどうしたいのか、が分からずとも今が良くない状況なことだけは分かっている。 「腫れてる……」 昨日叩かれた右手の甲。 昨夜ベッドへ入る前に熱を冷ますシートを貼ったのだが……今の所意味があったのかどうかも怪しいところだ。 剥したシートをポイとテーブルの方へ投げる。 そしてこの何度かの遭遇で判明した事実はいくつかあるが、最も問題なのが彼が「頭の良い悪い人」であることだ。そして恐らくは手段をいくつも持ち、ただのホテルコンシェルジュの私よりも一枚も二枚も上手。 つまり私に持てる抵抗手段は皆無、と言っていいだろう。 もうこれは私個人の問題ではないかもしれない。 早々にホテル上層部、もしくは他のSコンシェルジュに相談するべきだろう。 ……気が重い。 彼がイケメンである点や、私が若い女である点。さらにホテルの外で偶然会ってしまったこと。きっと色々言われるのだろう。普段の勤務態度や成績が良くてもこればかりは避けられないだろうな。 はちゃめちゃに気が重たくなったところで、よっこいしょ。と起き上がる。 「気分転換しよう」 今日は心の健康を取り戻すため、気分転換をすることに決めた。軽くなれ、私の心。 ** ワンピースはラクである。 制服はホテル管理のため着て出勤することはない。出勤して着替える際にワンピースがとてもラクなのだ。さらにコーディネートを考えなくても良い点。素晴らしい。時短。ある程度きちんとして見えるというのも気に入っている。 ということで私は大体ワンピース。 パンプスを履いたなら玄関の扉をあけ、部屋を振り返る。色味の少ない家具に深い緑のラグ。少し可愛げがないかも。インテリアショップにでもいこうかな。 バタン、と鉄の扉が重く閉まった。 ** インテリアショップや雑貨屋、そして本屋。 久しぶりに1人でのショッピングはとてもとても楽しかった。 仕事もそりゃ楽しい。でもそれとはまた違うのだなーと実感できたところである。 気分転換もできた。そう多くはないが買い物をしてスッキリした気もする。さてそうなってくると人間、ほかの欲求もでてくるもので。 お腹がすいた。 チラ、とスマホで時間を確認すればすでに13時を30分ほどすぎたところ。 どうしようかな、と思ったところで悪手では？とも言えるアイディアを思いつくのだった。 ポアロに行くのはどうだろうか。 イケメンにガツガツ情報を漁られそうになったり、揺さぶりを掛けられるのは確かに苦手。怖かった。 しかし、しかしだ。 私は元来、自他ともに認めるキツイ性格である。 つまりやられっぱなしは気に食わない。 流石に今日いきなり行けば彼も驚くのでは？予想外なのでは？いつも予想通りの動きをするなんて思われたくないよね？ ……そんなことを思いながら店を出て歩いていた。 ここからポアロまでは徒歩数分といったところ。いける。いけるが……あとは私の心の問題。やっぱりパン屋さんでパン買ってお家で食べる？でもきっと昨日の今日で行ったら驚くだろうな……いや、そもそも今日は心を健康にするためのショッピングなのだから「花さん」自ら敵地に赴く必要は「花さん」……ん？「花さん」 バッと顔を上げると……いつの間にか並んで歩く……金髪……褐色の……イケメン……もとい、安室透がいた……。 「やっとこっち向いてくれましたね。こんにちは」 「こんにちは……」 つかつかつか、と歩いていた足を止め、目を真ん丸にしたままペコリ、と挨拶。 挨拶はされたら返さないといけない。 「今日はお休みなんですね。お急ぎですか？」 「あ、いえ、考え事を……」 安室さんを見るとカジュアルな洋服に買い物袋を2つ下げていた。中は食料品のよう。ポアロのだろうか。 昨日みたいなことはなさそうで少しほっとする。 しかし心の準備ができないまま遭遇してしまったためにちょっと脳内がまるで混線しているようだが……そうあれは昨日の話なのだ。 「考えごとですか……危ないですよ、昼間とはいえ女性が外でそんな」 「ただお昼ご飯のことを考えてただけなんですけどね……」 咎められるのでちょっと言い訳じみてしまったが、本当のことである。声かけられても気が付けないほどに集中していたつもりはないんだけど……と苦笑いをした。 「お昼、まだなんですか？ならポアロとかどうですか」 「え」 「その、手のお詫びもしたいと思っていましたし」 彼はそう言ってチラリと私の右手を見た。申し訳なさそうに眉を下げて。 それを見てスッと心に冷たいものが降りた。いくら二面性があるといったってこれは違いすぎやしないか。 もはや違うひとなのでは。 なんて思った瞬間、買い物したものたちが入っている紙袋をひょいと取られる。 「ほら、行きましょう」 にっこり笑って強引。紙袋は人質である。 私は引きつる笑顔のまま、ついていくしかなかった。 ** 「はい、ハムサンドとアイスコーヒーです」 どうしてこうなったんだろうな、とぼんやり考えている。 「ありがとうございます……」 昨日の今日であるためにまるで給仕をしあいっこしているしているような、妙な気分である。 平日のお昼すぎのポアロには数名のお客さんと先日は居なかった女性の店員さんがいた。 安室さんと一緒に店内に入ったところを目撃したその女性店員さんは、ワクワクした顔で私をカウンター席へと案内してくれた。なんとなくだが、勘違いをされている気がするが申し訳無い、違うのだ。彼女はすごく分かりやすい人なのかもしれない。 いつの間にかエプロンを装着した安室さんが目の前で作ってくれたハムサンドが目の前のお皿の上にある。 ……毒とか入っていないだろうか、大丈夫だろうか。 まずアイスコーヒーを口に運び、一抹の不安と一緒にごくんと飲み込む。アイスコーヒーは歩き疲れて程よく乾いた体にスッとしみこんでいくようだった。 「もしかして、警戒してます？」 「ブッ」 ……もしかして私も分かりやすかったりするのだろうか。 少し噴き出してしまったコーヒーをハンドタオルで拭いつつ、目の前、カウンターの中に立つ安室さんを見ると穏やかな笑顔をしていた。 「大丈夫です。ポアロ自慢のコーヒーとハムサンドですから、安心して召し上がってください」 何も言えなかった。 いつもの通りのきれいな顔は優し気で、昨日と同じ人だというのがとても信じられない。 私はこの人に何を言いたかったんだったんだろう。 ほんのり腫れたままの右手と、この人がどうしても結びつかない。 私はこの人に文句が言いたかったはずだった。 口を閉じたまま、安室さんを見つめると彼は眉を下げる。 「……その、右手。すみませんでした。そうなるかもしれない、と分かっていたのですが僕も余裕がなくて」 その様子は本当に申し訳ないと思っているようで、余計に混乱する。 「いえ、私のミスです。お客様との間のことですから」 その痛みに付け込まれるのはごめんである。 安室さんには関係ないことだ、と暗に伝えると苦笑いを返される。 「僕には関係ない…ですか」 イケメンが寂しそうにしている。 別人説を希望したい、と思ったが分かっている。こんなイケメンはそうそういない。この人は安室透。そしてバーボンと呼ばれる男。悪い人。 「でも今日はお詫びさせてくださいね」 カウンターをはさんで安室さんは私に顔を近づけ小声でそう言った。 その様子はさながら映画のワンシーンのようで、まるで口説かれているのでは、と勘違いもしてしまいそうだ。 「……慣れてるんですね」 しかしどこか冷静になる頭。口は勝手にそう言った。 嫌味のつもりだったのだが、彼は眉一つ動かさなかった。穏やかな顔のままこちらを見ている。 店内は数名の話声が聞こえる。向こうでは常連と思しきおばあちゃんと女性の店員さんが楽しそうに歓談していた。その中に溶け込むように静かに口を開く。 「そういえば私安室様に謝りたいことがあったんです」 「なんでしょう」 彼は顔を上げた私と目線を合わせるとにっこりと笑った。 「私、お酒に詳しくないのは本当なんです。ウイスキーにも詳しくないです」 ただそう言った。 私は本当にただのホテルコンシェルジュであり、昨日バーボンをオススメしたことに他意はなかったのだ。なにも知らない、ただのホテルコンシェルジュ。そう、伝えられたらと……。 安室さんは一瞬きょとんとしたあと間をおいて、 「っふ、ははは」 笑った。 「……なんでしょうか」 「いや、分かっていますよそんなこと。ちょっとからかいすぎましたか」 “分かっていますよ、そんなこと”だと？ははは、と笑う安室さんに顔をしかめる。 私が誤解を生んでしまったのだと悩んだ時間を返してほしい……。 ムッとしたまま再びアイスコーヒーを飲み、ハムサンドに口をつける。口を動かして咀嚼していると安室さんはお皿を洗い始めた。 「花さんは、僕のこと信じてくれます？」 「どういうことですか」 「……人を信じる、というのはほぼ無意識ですよね。経過した時間や、上下関係。その人との関係が深ければ深いほど、無意識に疑うことをしなくなってしまう。 …例えば職場の先輩、とか」 安室さんが私の職場に関心を持っているのは知っている。しかしそのことと、私が安室さんを信じることが結びつかない。 本当は悪い人じゃないんだ！信じてくれ！とか？……まさか。 「何が言いたいんですか？」 「なんでしょうね」 「へ」 「花さんが僕を信じてくれたらいいなあ、とそう思ったんですよ」 そう言って私を見つめるその眼には鋭く陰った蒼も、優し気な青もなく、ただ真っ直ぐに透けるスカイブルーがあった。 彼が言いたいことがさっぱり分からない。 信じるも何もお客様のことは基本的には疑わないと思う。私個人はできてもホテルコンシェルジュの私にお客様を疑うことはできないのだ。 ふむ、と考えたのち。 「またからかってます？」 そう言って残りのハムサンドを口に放ると彼もまたお皿洗いを終えたようだった。 手を拭きながら「いいえ？」と言ったところで彼の目線がドアの方へと向く。 ちりん、とドアベルが鳴った。 「やぁコナンくん。いらっしゃい」 そこに居たのは小さな子供だった。ランドセルを背負い、小学生だということが分かる。 「こんにちは、安室さん。……カウンター、座ってもいい？」 「どうぞ」 咀嚼する私をちらりと確認すると1つ間をあけて、隣の隣の席へと座った。 最近の小学生は学校帰りにカフェに寄ったりするのか……。すごいジェネレーションギャップを感じる。私が小学生の頃なんてコンビニがせいぜいだったな……。 「ごちそうさまでした」 小さく手を合わせたあと席を立ち、レジへと向かう。先程の少年へジュースを出した安室さんはそのままこちらへ来た。 「お詫びです。お代は結構ですよ」 「いえ、お支払いします」 にこやかにそういう彼と財布を手にした私。 しばらくのあいだ、払う払わないの応酬が繰り広げられたのは言うまでもない。 冷ややかな少年の目が痛かった。 ** ここのところは晴れ続きである。 特に何もない平凡な日々が続き、安室さんに翻弄されたあの日が色濃い記憶として刻まれた私としては「あれは夢だったのだろうか」と思うくらいには何事もない。右手もすっかり治った。 結局誰にも相談はしていない。 悩みはしたのだが、あの日のポアロでの一件は思いのほか、警戒心でがちがちだった私の心をほぐしたらしい。 あれからヴィンヤード様も安室様もいらしていないし、またご予約があるときには二人きりになってしまうことのないように気を付けることにして。今はそれで良い気がしていた。 でもふと今日業務中に思ったのだ。 これ、嵐の前の静けさってやつじゃないよね、と。 ほどなくして業務が終わる。 早上りのため時刻は午後21時。 いつものように裏口から出ようとしたところでその嵐、いや、台風の目のような金髪が見えた。 停車している白い車にもたれかかる褐色の肌に綺麗なブルーの瞳。異国の血を感じる見た目、しかし意志の強さは日本男児のそれーーーー、いや、まて、私は安室様の何を知ってんの？ 「お疲れ様です、花さん」 一瞬の思考により出遅れ、先手を取られてしまった。 「……お久しぶりです、安室様」 「今は客じゃないので畏まらないでください」 いつものようにニコニコして近づいてくる。 肩に引っ掛けたバッグの持ち手を持ち直す。 「どうされたんですか？こんなところで」 我がホテルの裏口は、裏口と言えどスタッフのみならずワケアリなお客様が出入りすることもあり、安室様がここに居たとしても別に不自然なことではない。 しかし今日のお客様リストには安室様の名前はなかったし、なにより担当は私である。知らないはずないのだ。 「少し用事がありまして」 こんなところに？なんて口には出さない。そう言われたらそう。余計な詮索は無用である。 「そうでしたか。それはお邪魔してはいけませんね、私はこれで」 失礼します、と言いかけたところで裏口が再び開く。目の前の彼がスッと目線を上げたのにつられるようにして私もそちらを見る。出てきたのは同じくSコンシェルジュ、先輩の斎藤さんである。 「お疲れ様です」 そう声を掛けるのと、斎藤さんがこちらに気付いたのはほぼ同時だった。その眼はどうにも不自然に一瞬泳ぐ。その視線の先は安室様だった。 しかし間を開けず平常に戻るのは流石、というべきか。 確かにこの時間の裏口に人がいることは稀であるし、驚いて然るべきだとも思う。 「おつかれ、棚井。そちらは？」 「私の担当のお客様で、」 「安室と申します」 ずい、と私との距離を縮め安室様はそう言った。 「ああ、そうでしたか。これは失礼しました。しかしこのような所で？」 「ええ僕に用事がありまして。花さんに会ったのはたまたまですよ」 距離が近い。 ポアロの時もそうだったのだが、どうもパーソナルスペースが狭いようだ。あまり異性に近づく機会もとんとないためにどぎまぎしてしまう。ただでさえイケメンである。 でもこの場合、離れるのが正解なのか、このままが正解なのか。離れてしまったら不自然なのだろうか……。圧倒的経験不足によりこういった場合の対処法がさっぱりわからないのだった。 それから無難な世間話を少ししたあと、「それでは」と斎藤さんは街頭に照らされながら去っていった。 私もいつまでもここにいるわけにもいかない。そう思い安室様を見上げる。彼は斎藤さんの背中を追うように目線を動かしていたが、視線に気づいたのか私を見下ろす。 「さて用事も終わりましたし、行きましょうか」 「え、用事終わったんですか？」 「ええ終わりました」 それはもう清々しい笑顔だった。用事？まさか今のが用事…？と訝しむことも許されない。 「行きましょう」と腰あたりに手を添えられエスコート。その動作があまりにも自然で1歩、2歩、と足が出てしまう。 ……待て、行きましょうかってどこにだ。 「お送りしますよ」 「……遠慮させてください……」 「それは残念です、が。さすがに男としてはこの時間に花さんを1人徒歩で帰宅させるわけにも行かないかなと思うんですが」 両手を前に出し遠慮します、と伝えてみるもあまり効果はないようだ。 イケメンは女性の扱いが自然と上手くなるものなのだろうか。それとも何かが知りたい、という下心あってのことだろうか。 ……それにしてもこうも身を案じられると近いうちに何かあるのではと思ってしまうのは私だけかな。 「大丈夫ですよ。近いですし、ほ、ほら、いつも徒歩で帰宅していますし」 そういうと渋々「うーん」と頷いたあと、 「じゃあ帰宅したら連絡ください。心配なので」 そう言って見覚えのある名刺を差し出されたのだった。黙って受け取る。そしてその裏に鎮座するのは11桁の番号。 分かりました、と言えば「絶対ですよ」と念を押される。 徒歩での帰宅途中、以前捨てた名刺のことを少し思い出した。 なんとなく忘れていたけれども、もしかして斎藤さんは彼と知り合いだったりするのだろうか。だとしたら客を取るような真似をしてしまったのかもしれない。 次に会ったら聞いておこう。謝らなくては。 そう思いながら少しばかり可愛くなった私の城へと続く重たいドアを開けるのだった。

*27歳のホテルコンシェルジュがトリプルフェイスに翻弄されています（満足）<br />*名前がでます。<br /><br />ホテルコンシェルジュのお仕事などは想像で書いております……。<br />誤字や間違い等ありましたらそっと教えてくださいませ……！<br /><br />ゆるい気持ちでお願いします。<br /><br />1話にたくさんのコメントありがとうございました。<br />もう少し続きます。<br />お付き合い頂けたら嬉しいです…！

#2　ホテルコンシェルジュは守秘義務を守りたい

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「裕也君、なんか身の危険を感じるんだけど」 「は？」 　突如告げられた台詞に対して反射的に声を上げれば、何かを思い出すように斜め上方向を見つめながら彼女が首を傾げる。 「どういう意味だ？」 「言葉のままなんだけど……妙に悪意のある視線を感じるんだよね」 　一定のペースで朝食を食べ進めながら喋り出した彼女のせいで、風見は自身の背に冷たい汗が流れるのを感じた。 　とうとうあの上司が彼女を見つけ出したのだろうか。 　だとしたら、彼女を匿っていた自分も何らかの責を問われることになるだろう。 　過去に何度も言われている、これでよく公安が……と続く一文を思い出しながら、風見は急に味の無くなった朝食を義務的に飲み込んだ。 「面倒事に発展する前に、降谷さんに謝ったらどうだ」 「それ、前も言ったけど私は悪くないからね。だから裕也君も私のことを匿ってくれたんでしょう？」 「それは……まぁ、そうなんだが」 　降谷に勝てる未来が見えないという絶望感を抱いた風見とは裏腹に、彼女は眉間に刻んだ皺を自分で伸ばしながら「多分零さんに見つかったわけじゃないと思う」と、根拠のない台詞を口にした。 「女の人の声だったし」 「女性？」 「うん。三日前のことなんだけど、お醤油が切れているのに気付いて二十四時間営業のスーパーに行ったのね」 「お前、何をしているんだ……。普通に考えて夜中に出かけるだなんて」 「人の話は最後まで聞いて」 　普段よりもきつめな口調から彼女の精神状態を読み取り、風見は箸を置いて話を聞く体勢をとった。 　降谷零という人間から逃げている彼女ではあるが、戸籍上は一応夫婦のままなので、彼女は上司の妻ということになる。 　その妻が不安を風見に打ち明けているのだ、これは誠意を持って対応すべきだろう。 「買い物をしている時から変だなとは思っていたんだけど、店を出て少し経ったら尾行されてるような気がしてね。もしかして零さんの手先かなと思って手近な場所に隠れたんだけど」 　隠れる。彼女が当然のように口にしたこの単語が、己の上司を苦しめる最大の要因であることを彼女は知らない。 　生来持って生まれた運の良さを自覚して度々引き合いに出す彼女ではあるが、風見からしたら何故か街中に配置されている防犯カメラに一度も映らないその才能は驚異と言わざるを得ない。 　可能ならば、その能力を分けて欲しいとすら思ってしまう。 「私を見失ったと思ったのか、走ってきた人が舌打ちした後に何か言ってね。それが女の人っぽい声だったんだよね」 「本人は確認していないのか？」 「見つかりたくなかったし」 　ふむ、と声を出して顎に手を当てながら、風見は彼女の思い込みが危険だと判断を下す。 　女のような声ではあっても、男であった可能性はゼロにならない。最近は男よりも頼りになる女や、女よりも女らしい男が増えてきているのだ。彼女に何かがあってからでは遅い。 「当分の間、独り歩きは控えるように」 「買い物は？」 「俺が買ってくるよ」 「でも裕也君毎日は帰ってこないじゃない」 「そ……そこは、なるべく……まぁ、なんとか」 　仕事量と立場上部下よりも早く帰るのが難しいのだと風見が語れば、彼女は珍しく困ったような表情で「上が帰らないと下はもっと帰りづらいんだよ」と風見を諭した。 「裕也君は昔から真面目だもんね。似合ってるよ、警察官」 「ッ……ありがとう」 　春の陽射しを連想させるような彼女の笑みに、心臓が不規則な音を立ててしまったことに気付き、風見は必死に数秒前の光景を脳裏から追い出した。 　自分と彼女は幼なじみであり、それ以上でも以下でもない。 　奇妙な縁に導かれて再会をはたし、こうして朝食を共にしていても、すべては偶然で片付けるべき事実なのだ。 「頼むから、早く元の鞘に収まってくれ」 「またそれぇ？　あっ、もしかして私のこと追い出そうとしてるんでしょ！　そうはいかないからね！」 「いや……」 　ふとした瞬間の表情や、彼女という人間が保有する裏表のなさに、降谷が安堵感を得ていたのだと風見は思っている。 　かくいう自分も彼女が待つこの家に帰ってくると、積もりに積もった疲労度が少しずつ抜けていくのを感じるのだ。 　付き合った期間は三ヶ月という短い間だったらしいが、降谷が癒やしを得るのには充分すぎる時間だったのだろう。 「裕也君はどっちの味方なの？　私？　それとも零さん？」 「俺は中立だ」 「ふぅん……」 　批難の色を宿した彼女の視線を受け流しながら、風見はテーブルの上に置いていた箸を持ち食事を再開させる。 　こうして彼女と時間を共有しているのも良いが、今日は午後から部下に尾行のイロハを教えてやらねばならないし、いつ降谷から連絡が入るとも限らない。 「今日の朝食も美味かったよ、ご馳走様」 　先程までとは比べものにならないペースで残りを完食した風見が言えば、彼女は嬉しそうに頬を染めながら「お粗末様」と口元を緩める。 　本来であれば彼女と降谷の間で行われていたであろう行為を、自分がしているという事実は風見に罪悪感をもたらすが、それもこれも二人が悪いのだと華麗なる責任転嫁を胸中ですませ、風見は今日という日をやり遂げるために席を立った。 「さてと」 　裕也君を見送ってから部屋の掃除にとりかかる。 　居候をさせてもらっている身としては、家事全般をこなすのは当然のことだ。 「新婚ってこんな感じだったのかな？」 　同じ職業に就いているのだから、零さんとの生活も裕也君と過ごす日々に似通っていることだろう。 　結婚する前に何度か仕事を辞めてくれないかと言われたけれど、夫という存在の世話になるのは嫌だったので、そこだけは断固として拒否し続けた。 　結果、零さんも仕事をすることは渋々認めてくれたので、一ヶ月間の長期休暇という妥協案に落ち着いたのだ。 「後に引けないってこういう事だよねぇ」 　自分でも何故あんなに怒ったのか分からないけれど、とにかくあの時は腹が立ったのだ。 　離婚したい率が百パーセントを軽くオーバーするくらいには頭にきた。いま思えば、セックスに失敗しただけだったのに。 　零さんから逃げ初めてはや十日。少しばかり冷えた頭で自分の感情を整理していくと、馬鹿なことをしたなと呆れかえっている自分がいることに気付く。 　零さんは美形というカテゴリに所属している男性だ。 　公安警察という危険な仕事に就いてはいるけれど、妻となった人間を養うことくらい容易いと以前本人も言っていたことから、収入は充分であると推測出来る。 　顔も良ければ収入も良い。常日頃から結婚相手と共にいたい、という思考の人には物足りないかもしれないけれど、適度に自分の時間が欲しいと思っている私のような人間にとって、仕事人間な零さんというのは良物件以外のなにものでもなかったのに。 「でも別れたいって思ったんだよね」 　掃除機をかけながら首を傾げ、おそらく自分の中にある自尊心のようなものが傷つけられたのだろうと結論を出した。 　短い間の中でも分かったが、零さんは束縛したがりだ。 　自分の目が届かない所にいることに不安を感じる気質というか、必要以上にこちらの行動を把握したがる。 　それだけならまだ良いのだが、厄介なのは権力と行動力があるせいで、私が意識的に口を閉ざしていても、零さんはこちらの情報を完璧に把握しているということ。 　警察官だからって、やって良いことと悪いことがあると憤った私を前にしても、あろうことか零さんは心配だったんだ。とあの顔の良さを顔面に押し出して攻撃してきたのだから、本人には言えない鬱憤だってたまる。 　それでも零さんと結婚しようと思ったのは私なので、怒る筋合いがないといえばないのだけれど。 「感情が付いてこない、って多分ああいうことだったんだろうなぁ」 　もっと恋人同士の期間が長ければ、初夜を失敗しても離婚というカードをきらなかったのかもしれない。 　実際問題としてまだ離婚は出来ていないのだけれど。 　そもそも、零さんとの結婚は分からないことばかりだったのだ。 　彼が私という存在を見初めた理由も不明ならば、私を伴侶にと求めた理由もいまいち納得出来ない。 　だってそうだろう、零さんのようなパーフェクトヒューマンが、特にこれといって取り柄もない一般人な私に一目惚れをする意味が分からないのだ。 　恋愛は理屈じゃないなんて単語も存在はしているけれど、それは見目麗しい選ばれた人間のためにある単語であり、平々凡々な私のような人間とは縁遠いものである。 　裕也君は、私と零さんの結婚は仕事の一環ではないと言ってくれたけれど、私から言わせてもらえば仕事上仕方なくと説明された方がまだ納得出来る。 「こんなにぐるぐる考えるなら、離婚なんて決めなきゃ良かったのにね」 　苦笑しながら過去の自分に語りかけ、床掃除を終わらせてしまおうと行動を再開した。 　何だかんだで、家に居るとやるべきことは沢山ある。 　世の中の専業主婦はすごいなぁと感心しつつ今度はお風呂場の掃除を開始し、気付けばもうお昼だ。 　仕事をしている時とは違う時間の流れに一息吐いてから、昼食を作るために冷蔵庫をあければ、飛び込んできたのはミネラルウォーターと納豆の入ったパックだけ、という悲しい有様だった。 　そういえば一度冷蔵庫の中を綺麗にしようと思って、昨日の夜にほとんど使い切ってしまったのだ。 「裕也君、今日は帰ってくるのかな？」 　この家に世話になり始めた時から毎日聞いていた事柄を忘れてしまったのは、ここ数日頭の片隅を占領しているあの視線のせいだろう。 　誰が私を付け狙っているのかは知らないし、知りたくもないけれど、尾行されて良い気分になる人がいたらお目に掛かってみたいと思う。 　耳の奥に残っている苛立ちを伴った女の声から推測するに、異性関係で一方的な恨みを買ってしまった、と考えるのが妥当だ。 　その仮説に現状を当てはめていくと、零さんという名前が必然的に浮かんでくるのだけれど、零さん曰く、身近の限られた人間にしか私達の関係性は教えていないと言っていたので、解けそうになった謎が深まってしまう。 　零さんという人がどんな仕事をしてきたのかは分からないけれど、裕也君は零さんのことを尊敬すべき上司だと毎日のように言っている。 　だから私に早く考え直せとも。 「零さんがハイスペックなのは分かってるけど……うーん、過去の女性関係とか聞いておけば良かったなぁ」 　本人に聞けないなら、直属の部下である裕也君にでも。 　答えのない袋小路ほど、迷い込んで面倒だと思うことはないけれど、こんな未来があると知っていればもう少し慎重に行動したのに……と考えてしまうのは許して欲しい。 　だって、二十年以上生きてきたけれど、一度だって他人につけ回されたことなんてなかったのだ。防犯意識が下がってしまうのも仕方ないだろう。 「ダメ元で裕也君が帰ってきたら聞いてみよう」 　他人にプライバシーを漏らすような人ではないと思う反面、裕也君相手になら口を滑らしている可能性もあるのではないかと一縷の望みを持ちながら、夕飯の献立を決めるべく裕也君が好きそうなレシピを検索する。 　見た目からして日本男児ですといった感じの裕也君だ。おそらく洋食よりは和食派だろう。 　あっ、でもチョコが好きらしいから、甘めの味付けの方が良いのかもしれない。 　仕事柄食生活まで気が回らないという話も聞いたし、栄養士とまではいかずとも、完璧な献立と共に出迎えてあげようじゃありませんか。 「野菜炒めとか……西京焼きもいいなぁ。うん、買い出ししに行こ」 　独り歩きはするなと言われたけれど、日中に出かける分には大丈夫だろうと判断し、ついでに自分の昼食も買ってきてしまおうと財布の中身を確認する。 「人に作る分には良いけれど、自分のために料理するのってなんか面倒なんだよね」 　誰に告げるまでもなく呟きながら思うのは、料理上手だと噂の零さんのことだ。 　結局私が彼の手料理を口にすることはなかったけれど、もし……もし、万が一。復縁する未来があるのなら。 「未練がましい女は嫌われるぞー、私」 　ゆらぐ精神に活を入れ、まずは一ヶ月間逃げ切るのが先決だと薄弱な意思を補強する。 　いまの状態で再会したところで同じ未来を辿るのは目に見えているし、一度決めたことはやり通したい。 　頑固だと言われようが、彼と離れようと思ったあの瞬間の気持ちは嘘じゃない。 　自分の在り方を見つめ直すためにも、まずは一つの答えを手にするところからだと改めて自身に言い聞かせ、今度こそ買い出しに行こうと玄関へ向かった。 [newpage] 　日増しに降下していく上司の機嫌を肌で感じながら、風見は咥内に溜まった唾を飲み込んだ。 　新婚旅行に出かけたその日に失踪した降谷の妻は、どんな手段を用いてか未だに降谷からの逃亡に成功している。 「降谷さん、例の件ですが」 「進展はあったか」 「ハッ。それが……関東地区では空振りに終わりました」 「そうか……引き続き調査を頼む」 「はい」 　疲れが隠しきれない上司の背を見送りながら、風見は自部署へ向かうために踵を返し、気付かれない程度の細い息を吐き出した。 　ホテルや旅館に宿泊した形跡がないのは当然だ。彼女は自分の家で寝泊まりしているのだから。 　ただ……そう、ただ。 　自分は降谷に問わねばならぬ疑問があったのだ、という事実を思い出し、風見はドアノブにかけた手を外し背後でモニターを見つめていた降谷の方へと向き直った。 「降谷さん、一つ聞きたいんですが」 「なんだ？」 　風見の言葉に振り返った降谷の青い瞳が自らを捉えるのを認識しながら、風見は最悪の未来を回避するのに必要不可欠な疑問を形にする。 「降谷さんが結婚したのを知っているのは、管理官と自分だけ……なんですよね？」 「それがどうした？」 「いえ、少々気になったもので」 「……君がわざわざ聞いてくるくらいだ。気になった以外の理由があるんだろう」 　さすがに鋭いと内心狼狽えつつも、鉄面皮で全てを覆い隠して風見は否定の単語を口にする。 　ここでボロをだせば、自分も彼女も終わりだ。 「僕に隠し事とは良い身分じゃないか、風見」 「降谷さん」 「まぁいい……今回は不問にする」 　浅黒い肌なので目立ちづらいが、降谷の目の下にはくっきりとした隈が浮かんでいる。 　トリプルフェイスとして働いていた時同様……いや、下手をするとあの時以上の酷い隈に、風見は降谷の中で彼女という存在が占める割合の大きさを垣間見た気がした。 　この状態の降谷を見たならば、彼女も考えを改めてくれるのではないだろうか。 　事の発端はセックスに失敗したせいらしいが、彼女という人間を降谷以上に知っている身としては、初夜の失敗という要素はたんなる引き金だったのだろうと思ってしまう。 　女には不自由していませんという容姿を持つ降谷ではあるが、彼という人間が保有する執着心の強さは、赤井秀一の一件をとっても明かだ。 　赤井であれほどの執着度だったのだから、妻にと望んだ女性に対して、降谷が何らかの執着をみせたことは想像に容易い。 　そうして、彼女は昔から束縛されることを嫌う女であった。 　以上の事実から導き出されるのは、双方の間にはおそらく言葉が足りなかったということ。 　互いに心ゆくまで話し合っていたら、おそらく今回の一件は起こらなかっただろう。それが分かってしまうからこそ、風見は悔しくて仕方ない。 　様々なものを切り捨てて生きてきた降谷には幸せになって欲しいのに、他ならぬ本人がその幸せを投げ捨てるような真似をしているのが、見ていて悔しいのだ。 　まるで、幸せになることを恐れているかのようにすらみえてしまって。 「あの、降谷さ……」 「待て」 　風見の言葉を片手で遮り、ジャケットの内ポケットから降谷が一台の端末を取り出す。 　仕事で使っている物とは異なるそれがプライベートのものだと理解出来るのだが、どうしてか降谷はすぐに電話をとろうとしない。 「どうなされました？」 「見知らぬ番号だ」 「逆探知しますか？」 「いや……この番号を知っている人間は限られている」 　一向に切れる気配のない端末を訝しんだのか、十五コールを過ぎるかどうかというタイミングで、ようやく降谷は通話のボタンを押した。 「はい……はい？　ええ、降谷零は僕ですが」 　何度か瞬きを繰り返しながら意識を端末に向けた降谷から察するに、どうやら予想外の電話相手であることが推測出来る。 　通話を終了させないことから、降谷にとって捨て置けない内容なのだろう。神経を尖らせている降谷の気を引くだなんて、電話の相手は誰なのだろうか。 「もう一度おっしゃって頂けますか？」 　突如変わった気配に風見が息を呑むのと、降谷が勢いよく立ち上がったのは同時だった。 　どうやらただ事ではないと理解した風見が、口を開こうとした瞬間。 「彼女なら僕の妻ですが……本当ですか!?　人違いではなく!?　そんな……まさか。え、ええ……はい、すぐに行きます」 「降谷さん……？」 　片手を口元に当てて真っ黒い画面になった端末を見下ろした後、降谷がゆっくりとした動作で顔を風見の方へと向ける。 「交通事故、だそうだ……意識がなくて……」 「そっ、それは、彼女が!?」 「あぁ……悪いが、僕はこれから病院へ向かう」 「早く行って下さい！」 　悪いな、ともう一度同じ言葉を繰り返し、脱兎のごとく駆けていった降谷の背を見送りながら、風見は自分の心臓が不可思議な鼓動を刻んでいることに気付かされた。 　彼女は誰かの悪意を感じると言っていた。だからこそ風見は独り歩きを注意するよう促したのだ。 「クソッ！」 　まさか白昼堂々襲ってくる輩がいるなんて誤算だったと、側に合った壁を殴りながら風見は奥歯を噛みしめる。 　自分がついていれば大丈夫だという高慢さがこの結果を引き寄せてしまったのだとしたら、後悔してもしたりないが悔いている暇はない。 　降谷が戻り次第事故現場の防犯カメラを確認し、誰が彼女に怪我を負わせたのか確認せねばならないだろう。 　同時に、必要以上の復讐心を燃やすであろう降谷のメンタルケアも、重要な課題となってくる。 「……だが」 　降谷が座っていた場所に視線を向けながら、風見は降谷に連絡がきた事実に安堵していた。 　おそらく病院の関係者は彼女が持っていた端末を確認し、降谷に連絡を入れてきたのだろう。もし、すでに降谷のアドレスが消されていたら、自分達は彼女が事故に遭ったことを知らなかったかもしれないのだ。 「頼むから、無事でいてくれ」 　降谷のためにも、自分のためにも。と内心で言葉を続け、風見は細心の注意を払いながら行動せねばと自らを戒める。 　降谷に妻がいることを知っているのは限られたごく一部の人間だけであり、風見の部下はこの限られた枠組みに名を連ねていない。 　部下に悟られることなく事件を調べ、必要な情報をまとめて降谷へと報告する。 　それがゼロの右腕である自分の仕事であると自らに言い聞かせ、まずは部下を動かすための方便を用意することにした。 　どうやら彼女と降谷の仲を修復させる前に、解決しなければならない問題がありそうだ。

タイトルまんまなラブコメで、ちょっぴり風見さんが出張ってます。<br />このシリーズの降谷さんは束縛したがりなので、そういった要素が苦手な方はご注意下さい。<br /><br />1話目→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10019661">novel/10019661</a></strong><br />3話目→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10175690">novel/10175690</a></strong>

新婚初夜に失敗したので別れようと思います【2】

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この作品は、最近見かけるようになった政略結婚ネタです。 トリプルフェイスが酷い人です。 もう一度言います。 トリプルフェイスが酷い人です。 奥さんと子供に酷いです。 寧ろ子供がトリプルフェイスに酷いです。 それでもいい方、次ページから始まりますのでどうぞ。 覚悟は出来ましたか？ [newpage] それは、少し寂れたような公園に子供が一人ポツンと居たのが気になり声を掛けたのが始まりだった。 「おかあさんがこわれちゃうまえにきえたいの。」 小さな小さな女の子がそう言った。 「お母さんが壊れちまうって……どういう事だ？」 俺の見た目は子供にとって怖く映るらしく、よく泣かれたり怯えられたりしていた。 だが、小さい割にはハッキリと受け答えをし、泣く事もなく淡々としている子供があまりにも異常に見えて話し掛けたあの日。 それからも何となく気になって公園を覗いたら居た子供とズルズルとした付き合いだった今日、口にした事。 それが子供の異常さの原因かと思い、問い掛ける。 「あのね、うちのおとうさんとおかあさんはせいりゃくけっこんしたんだって。」 「政略結婚……」 「それで、おかあさんさいしょはおとうさんのことをささえようとがんばってたみたいなんだけど……おとうさんはしごとにんげんでおかあさんのことなんてほったらかしてたんだって。」 「あー……そういう家もあるって聞くな。」 子供の話を聞いていると確かにそういう家も少なくないと聞く。 「うん。 でもね、それだけじゃなかったの。おとうさんけいさつのえらいひと？でなんかじぶんのしごとにたいしてくちだしもしちゃいけないし、そとでじぶんにあってもはなしかけるなとかほかのおんなだいててもくちをだしてくるなとかいってたんだって。」 「」 ちょっと待って欲しい。 この子供の父親が上層部またはそれに近い所に居るのは分かったが、なぜ子供がそれを知っている？ 誰か喋ったのか？ 「そんなかんじだからふうふかんってのはさめきってたらしいんだけど、おじいちゃんとおばあちゃんにこどもはまだかってせっつかれたおとうさんがおかあさんにむりやりうませたのがわたしだっておとうさんがおかあさんにいっぽうてきにいってるのきいた。」 「」 まさかの父親ァァァァ！！！？？ お前娘に聞かれてるぞ、オイぃぃぃ！！？？ 部署的にそういう系の所だったりするとしたらそれで良くその部署に所属してられるな、オイィィィ！！！？ 「で、おかあさんがなきながら『おまえをうみたくなかった。』とか『おまえなんかうまれてこなければわたしはまだじゆうだった。』とかいってきてるの。 それがひにひにふえてきてるし、テレビでそれはうつびょうとかのぜんちょうってやっててこのままだったらせいしんびょうにおかあさんなっちゃうかもっていうかなるとおもうの。」 「」 思ってた以上に重かったァァァ！！！？？ この子の家、警察なのに闇が深いな！？ それで良いのか警察官んんんん！！！？？？ 「だからね……おかあさんがこわれちゃうまえに『わたし』がきえればおかあさんはおとうさんからかいほうされるとおもうんだ。」 子供がする覚悟じゃねぇだろそれ！？ 「いや、ちょっと落ち着け。」 「おちついてるよ。 わたしはもうじき、にさいになるから… はやめにいなくなればおかあさんのきずもそこまでじゃなくなるし、こどもがしんだってことでいっかいはおいしゃさんのカウンセリングうけてそこではっかくするとおもうし、おじいちゃんとおばあちゃんもそんなおかあさんにおとうさんとのこどもをすぐにのぞまないはずだし、のぞんだとしてもおいしゃさんのところにつれてかれるとおもうからおかあさんのせいしんじょうきょうをみてとめられるとおもうの。」 「…………お前、本当に一歳ちょっとか？」 おいおい……この子供どう考えてもその歳の子供の思考から越えてるだろ。 今までずっと合った違和感はコレか。 この子供、『ギフテッド』か。 「そうだよ。 いっさいときゅうかげつ。 だからはやめにわたしがしぬなりなんなりしておかあさんのところからきえないとだめなの。」 「！？お前、死ぬ事まで考えてんのか！？」 「うん。」 なんの迷いもない目で俺を見つめる子供。 いくら『ギフテッド』と言ってもここまでの存在を俺は知らない。 いや、世界には居るかもしれないがそれでもほんの一握りだろう。 コイツの親は勿体ない事をしてる。 そんな事を考えながら俺が口を開こうとした時だった。 「面白ぇ餓鬼が居るじゃねぇか。」 「あ・兄貴！？なんで此処に！！？？」 「あ？ お前コソコソとここ暫く此処に入り浸って居ただろうが。」 「あっ。」 「まあ、俺ぐらいしか分からねぇだろうが迂闊過ぎるぞ。」 痛恨のミスだったが今の所兄貴しか知らない様でホッとした。 確かに、俺の所属している組織には知られると厄介な相手が多い。 「？おじさんだれ？」 「……警戒心のねぇ餓鬼だな。」 「えー？うおつかさんのおにいさん？ ならだいじょーぶとおもったから。」 「くくっ……本当に面白ぇ餓鬼だな。」 そう言って笑った兄貴に俺は何となく嫌な予感を覚えた。 「おもしろいの？」 「あぁ。 ……おいお前消えたいんだよな？」 「うん。」 「俺がお前を消してやろうか？」 「兄貴っ！？」 嫌な予感は的中した。 「但し、やり方は俺が決める。 どうだ？」 「……それでおにーさんのメリットってあるの？」 「くくく……あぁ、大有りだ。」 「んー……なら、おねがいします。」 「交渉成立だな。 餓鬼、名前は？」 「ふるやのぞみっていいます。」 「次に会う時までにどうやってお前を消すか決めといてやる。」 「おねがいします。ぎんのおにーさん。」 「……兄貴、どういうつもりですかい？」 「なぁに……うるせぇサツに少しばかりの嫌がらせさ。」 「それであの子供を使う気ですかい？」 「あぁ……ありゃ育てれば化ける……とんでもねぇ金の卵が自分からコッチに飛び込んで来るってんなら拾う以外ねぇだろ？」 「……『ギフテッド』ですかい、でもこれまでのとは毛色が違う気がしやすが。」 「だからこそ、その卵から何が生まれるか…鷹が生まれるかそれともジャバウォックの様な化け物が生まれるか……楽しみじゃねぇか。」 そんな邂逅から３ヶ月後、東都で一つの凄惨な事件が起こった。 事件の被害者、『降谷 [[rb:臨也 > のぞみ]]』ちゃんは事件当日、２歳の誕生日の御祝いに出掛けていた所を後ろからやって来た男に拐われた。 男は臨也ちゃんを担いだまま逃走。 その数時間後に男が見つかるも男の息は既に無く、遺書と思われる手紙には『無能な警察官共よ、貴様等の無能さを嘆け。』と記されていただけで臨也ちゃんの姿は無かった。 それから四時間後、臨也ちゃんは見つかった。 だが、見つかった臨也ちゃんは見る影もなくなっていた。 部位事にバラバラに解体された上、本人確認も難しい程に燃やされていた。 遺体の損傷が激しく、辛うじて２歳の女児だと判別が出来た。 この事件は警察だけでなく、周辺地域に住まう人達にも大きな打撃を与えた。 「……なんであの子だったんだよ。」 「おい萩原、行くぞ。」 「……分かってるよ松田。」 「……先に行ってるからな。」 「………君は……君達母娘は命の恩人なのになんで……なんで君だったんだ……臨也ちゃん。」 子供がまだ乳飲み子だった時に体調を崩した母親と二人が部屋に取り残されていたのを知り、救助に向かわされたのが萩原だった。 そして、二人を下に運び救急車に乗せていた時に爆弾が爆発。 軽装だった萩原は結果的に母娘に救われたのだった。 「ーーー尚この男は裏でも有名な警察嫌いの組織に所属していた事が判明しました。それもあって、今回の犯行に及んだと思われます。」 「……それは『民間人すらまともに守れない連中が』という、その組織から我々への挑戦状と言った所かね？」 「……恐らくは。」 「成程…………にしても、まさかこの様な偶然が起きるとはね。」 「………………」 「君の娘さんの事、お悔やみ申し上げるよ。 降谷くん。」 「……ありがとうございます。」 「本来なら君を休ませたいが……そうも言ってられないのでね。引き続き捜査の方を頼むよ。」 「はい。それでは失礼します。」 「……なぁ、ゼロ。」 「なんだ景光。」 「お前、一度でいいから家に戻ってやれよ。 子供が死んでから一回も戻ってないだろ？」 「そんな事をしてる暇があるなら、その死に関わった組織を潰す方が先さ。」 「だけど、奥さん一人で家にって……」 「これ以上、犠牲者を増やす事は出来ない。 だから一刻も早く、その組織を潰さなきゃいけない。 それに、今俺達が潜ってる組織の事だってあるんだ。」 「…………いくら政略結婚で出来た子供でも、もう少しあるだろ。」 「何が言いたい？ 俺には立ち止まってる暇はないんだ……全ては国の為だ。」 「ゼロ……」 「話しはそれだけか？ なら、仕事に戻るぞ。」 「…………なあ、お前本当にそれでいいのか？ あの時、同期連中巻き込んで結婚を止めてれば違ったのか？ ……俺には分からねぇよ……ゼロ。」 『ーーー臨也ちゃんが遺体となって発見されました。』 とある一室でニュースがテレビから流れている。 それをソファに座って見ている小さな影と大きな影×２。 「…………ほんとうにやっちゃうとかぎんのおにーさんすごい。」 そこには死んだとされる【降谷臨也】が居た。 「どうだ？お気に召したか、【egg】。」 「ぎんのおにーさんがすごいのはわかった。 でもなんでわたしたまごなの。」 「くく……お前が金の卵だからさ。」 「え？わたしうられるの？」 「……どうしてその発想になったんだよ。」 「うおつかさん、ジャックとまめのきしらないの？ めんどりさんがうむきんのたまごはおかねになるんだよ。 うられちゃうんだよ。」 「ふっ……売らねぇよ。 お前は今日からこの部屋で暮らしてもらう。」 「え？ここにわたしすむの？」 「あぁ、必要なもんがあれば連絡しろ。 連絡手段はウォッカが後で教える。」 「んー……わかった！ よろしくおねがいしますうおつかさん。」 「お、おう。 ……物分り良すぎなくねぇかお前。」 「あのね、うおつかさん。 わたしいちどはじぶんからしぬこともけいかくしてたのよ？ ぎんのおにーさんのおかげでこうやっていきてるけどね。 だからまあ、てつだってくれたぎんのおにーさんにおんがえしするとしてなにができるかってかんがえたらなにもないからとりあえずおにーさんがここですめっていうならすんどけばいいのかなっておもっただけだもん。」 「……成程？」 「くくく……物分りの良い奴だお前は。」 「ん。 ……でね、うおつかさん。 おなかへったんだけどどーすればいいですか。」 きゅるるる…… 部屋に可愛らしい音が響く。 「…………」 「…………ウォッカ、作れ。」 「へい。」 「うぅ……おなかなっちゃった。」 「……餓鬼なら仕方ねぇだろ。」 「そうなの？」 「あぁ、そういうもんだろ。」 「ふーん。」 「……兎に角、お前は此処に住んで勉強して貰うぜ？」 「べんきょう？」 「あぁ、教材はまた後から持って来る。 今日は飯食ったら寝ろ。」 「はーい。」 そうして、【金の卵】は黒の手中に収められた。 [newpage] 二年後ーーーーーー 「……あ、もしもしウォッカさん？ あのね、ボロボロにゃんこ拾ったから迎えに来て。」 『はァ！？お前今何処だ！？』 「杯戸ショッピングモールの大観覧車から大分離れた茂みの中。 にゃんこ死にそうだから早めに来てね。」 『なんでんな所にーーブチッ！』 「よし、取り敢えず止血頑張ろう！」 「[[rb:望 > のぞみ]]！お前何してーー」 「にゃんこ欲しくて見に来たら大っきいボロボロ黒にゃんこ落ちて来たとかビックリ。」 「……おい、これ猫って言うか人じゃねぇか！？」 「もじゃもじゃしてるし、黒いからにゃんこで大丈夫。」 「何が！？何処も大丈夫じゃないよな！？」 「取り敢えず、運んで〜。 このままだと死んじゃうから！」 「だあァァ！！わかったからちょっと待ってろ！！」 「……で、コイツぁどういう事だ？egg。」 「にゃんこ飼いたいって言ってたのにジンさんとウォッカさんにダメって言われてたから二人が納得するにゃんこ探しにデパート行ったらなんか観覧車爆発して、ビックリしながら茂み歩いてたら大っきいボロボロ黒にゃんこ落ちて来たからコレなら飼っても反対されなくて良いかなって思った。」 「確かに俺も兄貴もダメって言ったけど！！ だからって人を拾うとかっっ！！！」 「にゃんこだもん。 もじゃもじゃしてる黒にゃんこだもん。」 「……元いた所に返してこい。」 「やだ！！飼う！！」 「返してこい。」 「やだァー！！飼うのぉぉ！！ ウォッカさんもジンさんもお仕事忙しくて寂しいんだもん！！ だからにゃんこ飼いたいって言ったのにダメって言われたから言われないにゃんこ探してたら落ちて来たんだもん！！！」 「うっ……どうしやす兄貴……」 「………………怪我が治るまでだ。」 「え？」 「怪我が治るまでなら置いてやる。 そいつだって帰る場所あるだろ。」 「……………」 「だから、怪我が治るまでだ。 それが聞けないなら今すぐ戻すぞ。」 「……わかった。」 二週間後ーーーー 「ーーーーっ……ぁ……」 ベットの上で包帯を全身に巻かれた男が目覚めた。 「ジンさん、にゃんこ起きたよ。」 「そうか。」 「うん。 でね、お医者さんが完治まで結構な日数かかるって言ってた。 あと、にゃんこ記憶ないんだって。」 「そうか…………あ？」 余りにもあっさりと言われスルーしかけたジン。 「完治まで結構な日数かかるってお医者さん言ってた。」 「そこじゃねぇ。」 「にゃんこ記憶ないんだって。」 「それだ。記憶がねぇだと？」 「うん。 お医者さんが言うには爆弾で吹っ飛んだ衝撃と落ちた衝撃で飛んじゃったんじゃないかって言ってた。」 「…………厄介な事になってんな。」 「だからジンさん。 にゃんこ飼っていいですか？」 「………………完治するまでに記憶戻らなかったらな。」 「ん！ありがとう、ジンさん！！」 一年後ーーーー 「お嬢、何してんだ。」 「あ、クロ。」 「ったく、ジンとウォッカに怒られるぞ。」 「えー、それはやだ！」 「なら、大人しくしてろって。」 「ぶー。」 「ほら、今日のおやつはホットケーキだぞ。」 「！！メープルシロップたっぷり？？」 「あぁ。ちゃんとたっぷり掛けてある。」 「食べる！！」 「よぉ、松田。望はどうだ？」 「ウォッカか……今昼寝してるとこだ。」 「そうか。」 「それより、クロって呼べ。」 「……いや、お前記憶なくても一応『松田陣平』って名なんだから。」 「それでも、俺はアイツがクロって呼んだ時からクロなんだよ。」 「……そうか。 お前本当に戻らなくていいのか？」 「記憶ねぇし、リハビリ途中だし、何よりお嬢を一人にしとけねぇよ。 俺が居なくなったらお嬢は一人でこの家に居る事になんだろ？ だったら、出てけねぇよ。」 「そうか……俺等も頻繁には来れねぇから望を頼むぞ。」 「言われなくても分かってる。」 [newpage] その数週間後ーーーーー 「あ、もしもしクロ？ ワンコ拾ったから迎えに来てー。」 『はっ？』 「〇〇通り近くの路地裏だから、よろしくー。」 『いや、ちょっと待ておじょーーブチッ！』 「ワンコゲットだぜ！」 「………………egg？」 「ワンコ拾った。 飼いたい！」 「確かに……確かに犬は散歩が大変だからって禁止したけど何でまた人拾ってんだ望！？ しかもそいつ、俺達の仕事の方で関係ある奴だぞ！？」 「あ、いつもの先生に見てもらったらワンコも記憶喪失だって言われたー。」 「まさかの！？」 「なんか衝撃とか一回死んだ？ 死にかけた？ ってのが原因らしいよ。」 「……どれ位の記憶喪失だ。」 「なんか、モノとかの名称も怪しい感じ。 使う事や持つ事は触って初めてこんなだったかなーって分かるような分からないようなってやつだって。」 「…………持ち物は？」 「なんか、心臓辺りに穴の空いた血塗れの服とかしかないよ？ お財布もなかった。」 「あー……だからクロが今居ねぇのか。」 「ワンコの服とか諸々買いに行って貰ってるの。」 「…………飼う気か。」 「飼いたい！！」 「………………記憶戻ったら言え。 元いた所に返すからな。」 「えー……」 「じゃなきゃ今すぐに……」 「わかった！記憶戻るまでね！」 「あぁ。」 「……いいんですかい兄貴。」 「奴が死ぬ前に飲んだ薬の副作用がキツかったせいか…… それとも記憶が無いせいか…… 喋る事すらままならねぇ状態から記憶が戻るまでかなりの日数を要する筈だ。 記憶が戻ったら戻ったで吐かせれば良いだけだ。」 「それまでは望の犬にって事ですかい？」 「あぁ……期限付きとは言え寿命が伸びたなスコッチ。」 更に一年後ーーーーー 「グレー！」 「はいはい。 よっと、本当にお嬢は元気だなぁ。」 「クロやグレーが居るからだよ！ あと、クロが今日の晩御飯はすき焼きだって言ってたからお肉買って帰ろー。」 「じゃあ、スーパーに寄らないとだな。」 「うん！」 「クロ、グレーの記憶戻った様子あるか？」 「ねぇな。」 「……お前のは？」 「ねぇな。」 「だよなぁ……お前本っ当にこのままで良いのか？」 「答えは前と変わんねぇよ。 あと、グレーが居るからっつってもアイツの記憶が戻ったらお嬢は一人だろ？ なら、俺はこのままでいーんだよ。」 「……お前もたいがい頑固だな。」 「そういう性分みたいでね……ま、諦めた方がいいぜウォッカ。」 「ってな感じです兄貴。」 「…………戻った時にeggに危害が及ばなきゃいいがな。」 「あ、それはクロが今全力で体鍛え直してるんで大丈夫かと思いやす。」 「………………あ？」 「なんでも、スコッチ……ああ、グレーに望を片手で抱き抱えた上にそのまま散歩されたのが悔しかったらしく。」 「……そうか。」 「へい。」 [newpage] 工藤新一→江戸川コナン化＆シェリー→灰原哀化時ーーーーー 望「ジンさんから貰ったお薬のデータを元に作って飲んだらこうなった件について。」 クロ「お嬢ぉぉぉぉ！！？？」 グレ「お嬢ーーーーー！！？？？！」 「クロもグレーも落ち着いて。」 クロ「落ち着けるかァァァ！！！ なんでお嬢が見た目的に高校生くらいになってんのかとか、そもそも服が布切れになってるってか、なんかで隠せ！！！」 グレ「それ以前にお嬢の髪と目がアルビノみたいになってる所をつっこめクロぉぉぉぉぉぉ！！ そして、お嬢はなんか羽織れってかこれを着ろぉぉー！！！」 ジン「………………………………egg……か？」 望「ピンポーン大正解ー！！」 魚「なんで急成長してるんだ望ぃぃ！！？」 望「ジンさんがくれたお薬のデータを元に作ってみて危険性なかったから飲んだらおっきくなって色変わった。」 魚「軽っ！？ それ軽く言うことじゃねぇだろお前！！」 ジン「……クロとグレーがああなってるのは？」 望「飲んだ時いつものサイズだったから服破けた。」 ジン「…………そうか。」 望「で、ボロボロの布切れになっちゃったからどうしようか考えてたら二人が来てめちゃくちゃ騒いだから疲れたのかも？」 魚「…………クロ、グレー、お前ら頑張ったな。」 クロ「ジン……変なもんをお嬢に与えるのはやめてくれ。」 グレ「俺からも頼む……ここ女の人居ないから対応と対処に困る。」 ジン「………………悪かった。」 望「ねーねー、戻らないって言うか戻れないけどどーすればいいのーコレ？」 クロ・グレ「「はあァァァァ！？」」 ジン「」 魚「兄貴ィィ！！息してくだせぇ！！！」 望「いやー、ジンさんに戸籍新しくしてもらわないといけなくなるなんて思わなかったわー。」 グレ「俺等はお嬢がここまで育つとは思わなかった。」 クロ「一日で育ちましたってのも大概なのに、目を離した二時間ちょいでこうなるなんて誰が思うよ。」 魚「誰も思わねぇよ。 兄貴だって思わねぇよ。」 ジン「……まだ変なもんはねぇだろな？」 望「えーと、ケモ耳生える薬は出来てるよ。」 クロ・グレ「「なんでそんなもん作ったんだよ、お嬢ぉぉぉぉ！！！？？」」 魚「なんでケモ耳なんだ望ぃぃ！！？」 ジン「いつ作った。」 望「このお薬作る時に要らない分ポイしたら変質してできちゃったー。」 グレ「そっかー……出来ちゃったかー……」 クロ「ここまで出来ちゃったって言葉で胃に来たのは初めてなんだが？ どうすんだよジン。」 ジン「……取り敢えず、クロとグレーはこいつ見張ってろ。 俺とウォッカで処分する。」 魚「ですね兄貴。 お前等、望を見張ってろよ？フリじゃねぇからな？」 グレ「分かってるって。」 クロ「これ以上、妙なもん作らせてたまるか。」 クロ「だから、薄着で歩くなって言ってんだろお嬢ぉぉぉぉ！！！」 グレ「お嬢ォォ！！！ だから、そんな格好で男にくっつくなって言ってんじゃんんん！！！」 クロ「下着着けて風呂から出て来いって言ってるだろ！？」 グレ「一緒には風呂に入れないって何度も言ってるよねぇぇぇ！！？」 望「いやー……うっかりうっかり。」 クロ「うっかりで、すぎねぇからな！！！」 グレ「クロ！ またお嬢が俺達のと一緒に洗濯しようとしてたぞ！！」 クロ「だから、洗濯物は分けてするって言ってるだろお嬢！！！」 望「えー？ 水道代と洗剤代の節約になるよ？」 クロ「ぐっ……だ、だとしてもだな。」 望「お金は大事だってクロもグレーもよく言ってるじゃん。」 クロ「うっ……」 グレ「クロォォォー！？押し負けるな！！」 クロ「はっ！ ともかく、お嬢は今は高校生の見た目してるんだから自重してくれ！」 望「……ダメなの？」 クロ・グレ「「うっ……」」 望「洗濯物ダメなの？」 クロ「いや、その、下着とかがだな。」 望「布切れだよね？」 グレ「確かに！！！ 確かに布切れって言えばそうだけど！！！」 望「クロとグレーは水着見てどう思うの？」 クロ「あ？水着だろ。」 グレ「水着だな。」 望「だよね？ でも、水着も下着も防御力は同じだよ？ 下手すると水着の方が防御力無いよ？ 布面積もないよ？？」 グレ「……そう言われれば。」 クロ「確かに同じ理屈だな。」 望「だから、問題なくない？」 クロ「……ない……のか？」 グレ「ない……気もしてきた？」 望「だから、洗濯は一緒にします！」 クロ「おっ……おう？」 グレ「あ……あぁ？」 ジン「……で、押し負けたのかテメェら。」 グレ「いや、だって下着と水着の差ってなんだって考え始めたらさぁ……」 クロ「もう俺達は何を定義にすればいいのか分からなくなったんだよ…… 『水着見られて悲鳴上げる女は居ないが下着見られて悲鳴上げる女は居る、その違いって何？』とか『そもそも水着も下着もそう変わらないし、水着は泳ぐ事を想定した生地で作られた下着なのでは？』とか言われて俺達は思考のループに嵌ったんだよ。」 魚「……それは……俺でも分からねぇ……兄貴は分かりやすか？」 ジン「……考えるだけ時間の無駄だ。」 クロ(ありゃ考えるの放棄したな。) グレ(だな。) ジン「なんか言いたい事でもあんのかクロ、グレー。」 クロ「なんも。」 グレ「全然。」 ジン「ふん。」 ジン「……最近きなくせぇ事が、良く起きてる。」 望「どしたのジンさん。」 ジン「雲隠れする準備しとけって事だ。」 望「あ、ならケンブリッジ大学かユニバーシティ・カレッジ・ロンドンかマンチェスター大学かエジンバラ大学かミュンヘン大学かチューリッヒ大学かバーゼル大学に行きたいです。」 ジン「……雲隠れっつったよなegg？」 魚「なんで全部イギリスかドイツかスイスの大学しか選んでないんだよ！？」 望「だって、予定では大学行かせるってジンさん言ったもん。 大学行きたいもん。 勉強したいのー。 工学も良いけど心理学とか色々な学部が揃ってる大学なら空いた時間に違う講義とか聞けそーじゃん。 それに、クロやグレーに講義だけ録音してもらったら一枠で三つの講義の内容知れるんだよ？ お得じゃん！」 クロ「俺等も使う気か！？」 グレ「え？マジ？」 望「可能ならクロもグレーも学ぼうよー。 人間死ぬまで学びだって言うし、なんかあった時に便利だと思うよ？ 一緒に行こー。」 ジン「………………確かに便利か。」 魚「兄貴！？」 望「因みに学部の多さで言うならエジンバラが一番多いよ。 理学から始まり、法学・社会学 ・経済学・体育学・医学・環境科学・国際関係学・ビジネス学・保健学・人文科学・マネジメント学・人間学・医療学・生命工学・歴史学・工学・文学・獣医学・心理学・神学・健康科学・医療科学・保健科学と言う学部の多さ！ この中から三つ選ぶにしても悩むよね！！ まあ、心理学は決定事項だけど！」 魚「って、ちょっと待て望！ お前今上げたの全部心理学がある学校じゃねぇか！！」 望「心理学って大事だと思うんだ！！ 主に計画立てたり、罠考えたり、計画立てたり、逃げ回ったり、計画立てたり、撒いたり、逃げ回ったり、計画立てたりするのに必要でしょ！？」 ジン「おい、お前なんの計画立てるつもりだegg。」 魚「なんで、計画立てる度合いが高いんだお前は！？」 グレ「絶対に、お嬢はなんか企んでるなコレ。」 クロ「まさかケモ耳の薬まだ持ってるとか言わないよな？」 望「兎も角！！ ジンさん達が言う雲隠れの相手を鬼とするならば逃げる側のコッチが受け身なのはダメだと思うんだ！！ 攻める時も必要だと思うから相手を如何に貶めたり、叩きのめしたりする為に心理学はとても有効活用出来るとみた！！ なので私は心理学を学んで決戦に挑みたいと思う！！！」 魚「お前は、何処ぞの戦国武将か望ぃぃぃぃぃ！！？」 グレ「というか、決戦ってお嬢は何と戦うつもりだ！？」 クロ「つーか、相手方に誰が出て来るか分かってんのかお嬢。」 望「元父親が出て来る予感。」 ジン「あ゛？」 望「だからね…… 政略結婚で元母親と結婚した癖に外で見かけても話し掛けるなとか、他の女抱いてても口出すなとか、その他色々と条件付けてたくせに元祖父と元祖母に子供はまだかとせっつかれて嫌がる母を無理矢理抱いて私を作った。 母を精神的に追い詰めた警察官の父親(モドキ)が出張って来る感じがするので早急に対策を打ちたい所存。 なのでジンさん行かせて。」 クロ「…………お嬢の親の話聞かなかったけどそりゃどういう事だ。」 望「母を追い詰めて『お前なんか産まなきゃよかった。』とか、『お前が居なければ自由だったのに。』とか、鬱病一歩手前？位に精神を病んでたからー。 下手にそのまま私が居るとお母さん壊れるなーって思って、家から抜け出して近場のちょっと寂れた公園で黄昏ながら計画練ってたらウォッカさんに会ってー。 そこから何回か会って今の説明と親の元から私が消えなきゃお母さんヤバいってのと最終手段で私を殺そうという事言ってたらー。 ジンさんが来て『私』の殺害計画立てて表向きは惨殺された被害者になって、現在に至る的な？」 グレ「うわぁ……もう何処からつっこめばいいか分かんねぇ。」 望「因みに計画実行されて、ニュースになった当時は満２歳でしたー。」 クロ「そんな小さい餓鬼が考える事じゃねぇだろソレ！？」 グレ「お嬢って…………ギフテッドって思ってたけど思ってた以上に枠超えてた？」 魚「望はなぁ……天才ってより鬼才って言った方がいいかも知れないんだよなぁ……」 ジン「…………そんな、お前の父親が出て来る……か。」 望「うん。 なので、ジンさんお願い。 大学に行かせてください。 特に、正攻法で相手を叩きのめす手段を下さい！！！」 魚「お前それが一番の目的だな！？」 望「当たり前じゃん！！！」 グレ「即答した！！？ あの、お嬢が即答した！！？」 クロ「どんだけ嫌なんだよお嬢！！？」 望「だって、元父親がそういう部署…例えば公安に所属とかだったら違法捜査とかお手の物でしょ！？ ない事ない事捏造してこっちを手玉に取ろうとする位しそうだもん！！ 元母親と政略結婚したのだって、元母親の家の権力欲しかったからとかだって分かるもん！！！ そんなのとアーマードスーツは愚か、対爆服や防弾チョッキ無しでやり合おうなんて愚の骨頂、飛んで火に入る夏の虫でしょ！？」 グレ「すげぇ説得力？！」 クロ「俺、元警察官らしいけどそれでも言わせてくれ…… どんだけやべぇ父親だよソイツ！？」 望「２歳に満たない子供が自死すら厭わんとしたってとこを念頭に置いてみてよ！！」 グレ「よし！分かった！！ 俺も大学行くわ！！」 クロ「俺も行く！！ つーか、行かねぇと相手に手玉に取られそうな気がして来た！！！」 望「って、事だからジンさん、ウォッカさん宜しくお願いします！！！」 魚「兄貴ィ……」 ジン「………………egg、クロ、グレー。準備が出来次第行け。」 望「ジンさんありがとう！！」 クロ「ありがとな、ジン。」 グレ「頑張るからな、ジン！」 「いいんですかい、兄貴ィ……」 「良いも悪いも……eggが何か掴んで危機感を覚えたんだろ。 まあ、元父親もまさか自分の娘が敵意丸出しとは思わねぇだろ。 しかも、アイツに付いてる一人は部署は違えど元警察官…… それに加えてスコッチの野郎も何処ぞかからの鼠…… そんな二人がヤル気になってんだ……eggを守る為には良い布陣だ。」 「成程、アイツらを利用するんですね？」 「ああ、これ以上にない活用法だろう？」 「ですね。」 「兎に角、eggとお供を方舟に早めに乗せるぞ。」 「分かりやした。早急に手配しやす。」 [newpage] 組織壊滅後ーーーーー 安室「此処がジンとウォッカの最後のセーフハウスか……」 赤井「安室くん、慎重に行けよ。」 安室「誰に言っている赤井！！」 赤井「ふっ、そうだな。 君程の男なら要らん心配だったな。」 安室「っ…………相変わらず、いちいち癪に障る男だな！！」 赤井「ジンとウォッカが秘匿した場所だ。 それ相応の『何か』があると見る。」 安室「……えぇ、あの二人が何を此処に隠したかソレを見つけ出すのが僕達の仕事ですからね。」 安室「此処は……子供部屋？ あの二人……いや、どちらかに子供が居たのか？」 赤井「ホー……ジンとは違うタバコの臭いが染み付いてるカーテンか……」 安室「音楽機材……ジンとウォッカとは違う身長で固定されてる。」 赤井「……どうやら此処には、子供の他に最低でも大人が二人居たようだな。」 安室「えぇ……あの二人のどちらかの子供とその護衛とみていいでしょう。」 赤井「……そして、その子供と護衛は跡形も無く消えている……か。」 安室「何処に行ったかが問題ですね。」 赤井「……二人に聞くしかないか。」 ジン「ハッ。教える訳ねぇだろ。」 赤井「ホー……俺はお前が自分の子供を育てるような男じゃないと思ってる。」 ジン「……何が言いてぇ。」 赤井「お前達が囲っていた子供は…… そうだな、何らかの易になる存在だった。」 ジン「……」 赤井「幼い内から、その片鱗を見せた子供を手元で育てていた……違うか？」 ジン「くく……」 赤井「……何が可笑しい？」 ジン「そうだとしても、その餓鬼を何処から連れて来たかまでは分からねぇだろ？」 赤井「……」 ジン「その時点でお前等は、【egg】に辿り着けやしねぇ……」 赤井「【egg】だと？」 ジン「アイツは化けるぜ？ なんせ自身の身を守る為に【Stray cat】と【Stray dog】を自らの手で手に入れた筋金入りの【egg】なんだからな。」 安室「どうでしたか？」 赤井「子供が『egg』と呼ばれている事は分かったが『Stray cat』と『Stray dog』と言う単語が出た。」 コナン「『Stray cat』と『Stray dog』……『迷い猫と迷い犬』？ って言うのは赤井さん達が調べた時に分かった子供の護衛の数にぴったり合うね。」 赤井「あぁ、しかも子供が自ら拾って来た存在らしい。」 コナン「って、事は裏の人間？」 安室「可能性は高いでしょう。」 赤井「だが、それ以上は引き出せなかった。 安室くんの方はどうだった？」 安室「僕の方も同じですよ。 ウォッカは沈黙を貫いたままです。 ただ……【金の卵】と【迷い猫と捨て犬】とは零しましたがね。」 赤井「あの二人が【金の卵】と称する存在か……これは少し厄介かもしれないな。」 コナン「……ねぇ、安室さん。 ウォッカは【迷い猫と捨て犬】って言ってたの？」 安室「あぁ。」 コナン「…………もしかしたらその二人ってさ……表の人間だった……とか？」 赤井・安室「「！？」」 コナン「じゃなきゃあの二人がそんな表現するかな？ 特に【捨て犬】って、どっかの裏組織から捨てられた人を【金の卵】って言う位に大事にしてた存在の側に置かないんじゃ？」 安室「成程……表の捨てられた人間か。」 赤井「なら、【迷い猫】も表の人間の可能性が出て来るな。」 コナン「【迷い猫】って自分の家が分からなくなるのが多いんだよね。 って事はその人は自分の家が分からない様な人……もっと言うと記憶喪失の可能性も出て来る。」 赤井「そして、両者共に【金の卵】を守れる位の実力を持ってる……となるとその人間達の職業は限られて来る。」 安室「……自衛官や軍人、防衛官及び警察官のどれか……ですか。」 赤井「そうなるな。」 コナン「その中で行方不明になってる人達。 ……それと、クビにされた人って事？」 赤井「……後者の【捨て犬】は最悪、裏切られた人間も当て嵌るだろうな。」 安室「クソッ！幅が広すぎる！！」 赤井「……やはり、ジンとウォッカからもう少し聞き出す必要があるな。」 ジン「今度はお前か……裏切り者、バーボン。」 安室「えぇ……あなた方が言う【金の卵】と【迷い猫と捨て犬】について知りたいんですよ。」 ジン「ハッ！組織御用達の探り屋を自称してたテメェでも分からねぇか？」 安室「何せ、ノーヒントも良い所ですからねぇ。」 ジン「なら、そのままで居な。」 安室「そういう訳にも行かないんですよ。 貴方がそれ程にまで好評する存在を野放しにして置けないんです。」 ジン「フン……テメェらがどれだけ探ろうと出て来ねぇよ。 出て来たとしてもそれはテメェらにとって絶望でしかねぇだろうがな？」 安室「それはどう言う……」 コンコン 部下「失礼します。 少々宜しいでしょうか降谷さん。」 ぴくッ。 ジン(ふるや……だと？) 安室「……なんだ。」 ヒソヒソ。 安室「……分かった。終わり次第向かう。」 部下「失礼しました。」 ジン「……おい、テメェの名は。」 安室「はっ？」 ジン「今、テメェの部下が呼んでただろ。」 安室「……そうですね…貴方が三人に冠する情報をくれるならー」 ジン「【ソレ】次第では喋ってやるってんだよ。」 安室「ーー何？」 ジン「さっさと言え。」 降谷「…………降谷零だ。」 ジン「字は？」 降谷「雨が降る谷に零と書いて降谷零ーー」 ジン「っ……くくく……」 降谷「ーーー何がおかしい。」 ジン「いや？ テメェが【そう】だとはなぁ……」 降谷「……何を言っている？」 ジン「前言撤回だーー【egg】の存在はテメェにとって絶望でしかねぇ……むしろ…… 『テメェ自身の手で生み出した』存在だ。」 降谷「っは？」 ジン「くくく……最高じゃねぇか。 『あの日の拾い物』がまさかここまでの【喜劇】を巻き起こす存在だとはなぁ？」 降谷「何を言っている！ いや、何を知っているんだジン！！！」 ジン「ハッ！ 俺は機嫌が良いからもう一つだけ教えてやる。お前等が追ってる【dog】はテメェもよーく知ってる相手だ。 【cat】の方もまあ、『警察組織』なら知ってる相手だろうよ。」 降谷「なんだと……？」 ジン「くっくっくっ……最高だ【egg】…… テメェの『予測通り』にテメェの因縁が出て来るとはなぁ？」 降谷「どういう事だ……僕が【金の卵】の因縁だと？ おい！ジン！！！」 ジン「もうテメェと話す事はねぇ。 精々、『調べて上がって来た結果』に絶望しな。」 コナン「【金の卵】は安室さんとの因縁で【迷い猫】は警察関係者…… 【捨て犬】は安室さんの知ってる人……子供と護衛の一人は安室さんの関係者って……」 赤井「……詳しい事は鑑識結果が出次第になるだろうな。」 安室「……その件で警視庁の方も動かす事が決まったそうです。」 コナン「安室さん！」 赤井「……安室くん、心当たりは？」 安室「正直に言って見当がつきません。」 赤井「だろうな。」 安室「バーボンとして活動してきた中で、因縁と成るであろう子供を上げてもキリがなく…… そして、僕が知ってるであろう【捨て犬】を片っ端から漁ってもキリがなく…… 【迷い猫】に関しても……該当者が何名か居る為、捜査が難航してる所ですよ。」 コナン「……そっか。」 安室「その為、【金の卵】を組織に巻き込まれた『被害者』として、【迷い猫】と【捨て犬】を同じく『被害者』として警視庁の方も動かすそうです。」 赤井「成程……で、それは何時から？」 安室「鑑識結果がで次第、緊急会議を開くそうです。」 [newpage] そして、会議が開かれるーーーー 黒田『これより、【犯罪組織に巻き込まれた被害者捜索会議】を始める。』 コナン「始まったね、赤井さん、安室さん。」 会議にマジックミラー越しに参加する三人。 黒田『昨日、壊滅した巨大な犯罪組織……… 通称【黒の組織】の幹部が一般人と思われる子供……通称【金の卵】を監禁していた事が発覚した。 並びに、子供の護衛に二人の人物…… その内の片方の人間が警察組織に居た事が幹部の証言で分かっている。』 ザワザワ…… 「発言失礼します。 それは我々の中で裏切り者が居たという事ですか？」 『現在分かっている事はその人物は記憶喪失になっている可能性が高い。』 ザワっ！？ 「再び発言失礼します。 もう片方の人物はどんな人物でしょうか？」 風見「失礼します。 公安の風見と言います。 それについて、つい先程分かった事があります。 もう一人の人物も、記憶喪失との事です。」 「記憶喪失が二人！？」 目暮『それは本当かね？』 風見「はい。 幹部の証言で通称【迷い猫と捨て犬】は両者共に死に至る程の怪我をし、その衝撃で記憶を失っていたそうです。 尚、【捨て犬】の方が重度の記憶喪失だったらしく…モノとかの名称も使う事や持つ事は触って初めてこうだった様なという感覚でしか分からない程だったそうです。」 ザワザワ…… コナン「そんなに酷かったんだ……【捨て犬】って人。」 赤井「安室くん、あの情報は誰が？」 安室「ウォッカが……会議が始まるギリギリに……」 コナン「ウォッカが？！……なんの為に？」 バン！ 「失礼します！鑑識結果が出ました！」 ！！ コナン「いったい、どんな人が……」 黒田『データベースにあったのか？』 「ありました！ですが……その……」 黒田『どうした？』 「結果を見て頂けば分かります！！」 「先ず、一人目ですが…………此方になります。」 佐藤「嘘……」 高木「え……」 萩原「嘘だろ……」 安室「な……んだと……？」 コナン「え？あの人って……」 画面に写された人物…… 「元警視庁警備部機動隊爆発物処理班から警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係に転属し二階級特進した……松田陣平警部。 彼とDNAが完全に一致しました。」 ザワっ！！！ 黒田『生きて居たのか……なら、彼が【迷い猫】となる訳か。』 コナン「……確かに、記憶が無いなら元の場所に戻れない。 戻ったとしても既に死亡したものとして処理されていたから……帰れなかった……？」 安室「っ……松田……生きていたのか……」 「そして、更に同じくデータベースに乗っていた人物と完全一致しました。」 黒田『その人物は？』 「こちらです。」 次の人物が出てきた時……安室の息が止まった。 「元警視庁公安部所属、諸伏景光警部。 件の組織に潜入中に正体がバレ、死んだとされた人物です。」 ザワザワ……ヒソヒソ…… 黒田『……【捨て犬】とは彼の事か。』 赤井「……まさか、生きていたのかスコッチ。」 安室「生きて……た？アイツが？」 コナン「そうか！ ジンの言ってた『安室さんの良く知ってる人物』ってこの事かっ！！」 「そして……非常に言い難いのですが……」 黒田『【金の卵】と呼ばれた子供もデータベースにあったのか。』 「はい。此方になります。」 最後に画面に上がった人物に……その場の時が止まった。 萩原「はっ……うそ……だろ……臨也……ちゃん？」 安室「」←息してない コナン「え？あの子って……」 赤井「知ってるのか坊や。」 「今から５年前にあった【幼児誘拐バラバラ殺人事件】の被害者である【降谷臨也】ちゃん……… 当時２歳のDNAと完全一致しました。」 目暮『…………あの事件の被害者だと？』 「はい。 父親が警察官だった為データベースにDNAがあったのでそちらでも照合しましたが……親子関係にあると出ました。」 安室「」←息してない コナン「そうだ…当時凄い騒ぎになってた事件……って、【降谷】ってまさか……」 赤井「…………安室くん、君の子か。」 安室「……っ……あの子は……死んだ筈じゃ……」 萩原「松田が……諸伏が…………臨也ちゃんが…………生きてた……？」 ザワザワザワザワ！！！ 目暮『静粛に！！！ これより、【降谷臨也】・【松田陣平】・【諸伏景光】の捜索を直ちに開始ーーー』 【ザザザ……あー……あー…………これ入ってるかな？】 【あー……入ってんじゃねぇの？】 【多分入ってるかなぁ？】 唐突に画面にノイズが走った後……ボイスチェンジャーを使われたと分かる三人の声が入る。 【えー？本当にー？】 【一応、やったらどうだアレ。】 【OK！ あーあー、ただいまマイクのテスト中ぅぅぅぅーーーー！！】 【ちょっ！！！叫ぶ必要あったのか！？】 【え？気分。】 【気分かよ！！】 【気分なのだよ！！】 【諦めろワンコ。 飼い主様は何時もこうだ。】 ワン【その悟った目やめろよにゃんこ！！】 にゃ【飼い主様との付き合いの長さだ。】 ワン【今、全力で納得した！！】 何故か始まるコント。 コナン「まさかコレ……」 主【にゃんこもワンコも、失礼な事言ってない？ ねぇ？】 にゃ【あー……気のせいだ。】 主【にゃんこ、にゃんこ。 誤魔化し方雑だって毎回私は勿論、ぎんのおにーさんとかに言われてたの忘れてない？】 にゃ【別にいいだろ。 ジンもウォッカもそこまでうるせぇ訳じゃねぇし。】 ワン【いや、そこ問題じゃないよな？にゃんこ。】 にゃ【うっせぇよワンコ。】 主【にゃんこもワンコも仲良しだねー。】 気が抜けるやり取りが流れる。 にゃ【おら、それより言うことあんだろご主人様？】 主【あ、そうだったー。】 ワン【……何でこう緩いのかなぁ。】 主【いざって時は煌めくからいいのだよ。 ギフテッド舐めんな。】 ワン【いや、それってギフテッドって問題じゃなくね？】 にゃ【そういや、俺が拾われた時東都大学の全学部の入試試験全問正解させてたよな？】 主【ふふーん。 あれ位朝飯前だもんねーだ！】 にゃ【おーおー…うちのご主人様は簡単に言うけどなぁ…… 普通４歳であれ解けねぇぞ？】 ザワっ…… 赤井「成程……正しく【金の卵】か……」 ワン【……ギフテッドって何だろな。】 主【ふふん！ 私にとってはかるーいもんねーだ！！】 にゃ【へーへー、すげぇすげぇ。】 ワン【あー、凄いなー頑張ったなー。】 主【……にゃんこもワンコも投げやり過ぎる気がする。】 にゃ【んな事より、さっさと本題に移ろうぜ？】 ワン【確かこれ、時が来たら警視庁だか警察庁だかに流す用の録音だったよな？】 コナン「計画的？なんの為に……」 主【うん。 ……って言うか、にゃんことワンコ良かったの？】 にゃ【あ？】 ワン【うん？】 主【にゃんこ、警察官だったのに良いの？ ワンコもジンさんとウォッカさんの態度からいってさー……警察とかからのNOCだったんじゃないの？】 にゃ【んな事言ったって、記憶ねぇからイマイチピンと来ねぇんだよ。】 ワン【俺もなー……なーんかこう……ピンと来ないって言うか……】 黒田『記憶喪失は本当の様だな。』 萩原「松田……諸伏……」 主【……爆発したり、遺伝子の記憶遡る様なモノ飲んだら記憶戻るかな？】 にゃ【おい待てご主人様。 その手にあるのはなんだ。】 ワン【待って、ご主人様、待って、それ片方爆弾だし、片方すっごいどどめ色？って感じの液体が入った試験管なんだけど！？】 主【いや、記憶戻そうと思って。】 ワン【まさかの実力行使！？】 にゃ【それは洒落にならねぇから、ちょっと待て！！】 ピッ。 主【あっ、スイッチ入っちゃった。】 スイッチ入っちゃったって何。 何が起こってるのこの向こう側。 音声を聞いてる全員の心が一つになった。 ワン【あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁ！？】 にゃ【ワンコォ！！直ぐにそれ寄越せ！！】 ワン【にゃんこパスっ！！！】 主【えー？解体しちゃうのー？】 にゃ【するに決まってんだろぉ！！！】 ワン【何言ってんの！？ 何言っちゃってんのこのご主人様！？】 主【え？『爆発ドッキリ記憶復活作戦』しようかと。】 ワン【いくらにゃんこが元爆発物処理班に居たから記憶戻るかもってんで、爆弾解体をひたすらさせてたからってこれは無いだろご主人様！？】 主【何を言う、他にも機械弄りとか料理とかして貰ってたもん。】 何やらさせられてたの？？！ ワン【そこ問題じゃないよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！？】 主【んう？】 にゃ【ワンコうっせぇぞ！！】 ワン【俺だけ！？】 にゃ【ご主人様はいつもの事だろうが！！】 ワン【確かにそうだけど！！！】 これ何時もの事なんですか。 にゃ【焦りは最大のトラップ……焦りは最大のトラップ……】 主【……にゃんこ大丈夫？】 ワン【ご主人様が原因だよな？！ ……ってか、にゃんこが自己暗示の様に呟き続けるって、どんだけエグいのにしたんだよご主人様！？】 主【え？トラップ増し増し。】 ワン【…………ご主人様のトラップ増し増しってさぁ……切る順番一本間違えたらドカンのアレ？】 主【に、高感度センサー付き。】 これ、探す前に当人達死んでんじゃないか？ 会議場が沈黙した。 ワン【何してんのォォォ！？】 主【何時ものはにゃんこだったら簡単に解体できるかなーって思ってやっちゃった、てへ☆】 ワン【まじか……】 主【マジだよ。】 ワン【にゃんこ頑張れ、超頑張れ。 俺達の命はにゃんこに託された。】 本当に何やってんの向こう！？ 萩原「ちょ、松田ァァ！！頑張れ！！ マジで頑張れ！！！」 佐藤「萩原くん落ち着いて！！ 此処で騒いでも向こうに届かないから！！」 高木「…と言うか、そもそもこれ録音ですから！」 にゃ【……しゃっ！解体終わったぞ！！】 ワン【にゃんこぉぉぉ！！！ お前ならやるって思ってた！！】 主【記憶取り戻すにはこれ位の試練が必要かなーって思ったんだけど……駄目だったねぇー……残念。】 ワン【どんな試練だよ！？】 にゃ【こんなん迄して、記憶戻したいとは思わねぇよ！！】 ワン【だよな！！！】 主【じゃ、コッチは？】 にゃ・ワン【【飲まないからな！？】】 主【ちぇ……イケると思ったのに。】 にゃ【何をもってして、イケると思ったんだよ……それこそ一番アウトだろ！？】 ワン【にゃんこに同意。】 主【えー？遺伝子の記憶すら遡る様な味と思われるドリンクだからかな。】 にゃ【その時点で劇物だよな？】 ワン【確実に死にかけるよな？】 主【そんな事ないよー……多分。】 ワン【今ボソッと多分って言ったよな！？】 にゃ【言ったな。】 主【さて、話が脱線したから戻そっか。】 にゃ・ワン【【無理矢理変えたぞ、このご主人様。】】 主【えーと…………なんだっけ？】 ワン【そして忘れてる。】 にゃ【おら、アレだろ？ 元父親に対しての宣戦布告だろ？】 主【あ、それだ。】 元父親に対する宣戦布告？ コナン「元父親って……」 赤井「安室くんだな……」 安室「っ……僕に対して？ ……いったい何を……」 主【えー、現在も警察官であるだろう夫失格並びに父親失格の顔も覚えてないって言うかー、記憶から消された遺伝子元へ。】 ワン【すげぇ言われよう。】 にゃ【仕方ねぇだろ……言われてもしょうがねぇ事仕出かしてんだから。 寧ろ、生温いだろコレ。】 初っ端からこの言われようって、何したんだよ父親！？ 主【アレは遡ります事、私が１歳と３ヶ月の事でした……】 ワン【ご主人様、語り出したよ。】 にゃ【黙って聞いてろワンコ。】 それ以前になんでそんな時の事、細かく覚えてるの？ 主【その日、夜中に約１年ぶりに家に帰ってきた貴方は帰って来て早々に元母親……お母さんに対して文句を言い始めました。】 ワン【嫁さんの元に、１年ぶりに帰るってどうよ？】 にゃ【それ以前に、帰って早々に文句言うって旦那としてどうなんだろうな。】 主【お母さんが貴方に反論と言うか、正論を述べた際に貴方は 『元々、政略結婚だったし結婚した時に俺の仕事に口出す事を禁止したし、外で俺に会っても他人のフリをしろと言ってあった筈だ。それに、他の女を抱いたとしても口を出すなとも言っておいた筈だが？』 と、とても冷たい声で言ってましたね。】 にゃ【これ、完璧に嫁の家の権力目当てだよな？】 ワン【いくら権力目当てでも……コレは酷い。】 主【お母さんが何も言えなくなっていた所に畳み掛ける様に 『それに子供の事は君に任せていた筈だが？ そもそも、子供だって君の御両親から催促されたから作っただけだ。その教育に関しては君がする事だろう？』 と言った後に 『話しはそれだけか？ 下らない事で時間を取らせるな。』 と言って自室に戻って行きましたよね？】 ワン【うっわぁ……ないわー。】 にゃ【……詳細聞くと、その男の酷さが明確に分かるな。】 コナン「安室さん……」 赤井「安室くん……」 安室「」←まさか子供に聞かれてると思わなかった男 主【そして、一人残されたお母さんは泣いていました。 ……そんな事があった翌日、私が起きた時には既に貴方は居ませんでした。】 ワン【子供に……会ってく事すらしてないって……】 にゃ【寝顔すら見てねぇだろ、コレ。】 主【その日からです。 お母さんがおかしくなったのは。 ……元々、お母さんは少し何処かがおかしかった人でした。 ですが、それが表に出始めたのはこの一件が起きてからでした。】 ワン【……等々か。】 にゃ【あぁ……等々だな。】 もう既に聞いてるこっちが辛いのにまだあるのか…… と言うか、等々って何？！ 主【お母さんが錯乱し始め、独り言が多くなりました。 『なんで、こんな生活をしなきゃいけないの。』 『なんで、こんな目に合わなきゃいけないの。』 『なんで、あんな男の子供を産まなきゃいけなかったの。』 『気持ち悪い、気持ち悪い。』 『あの男が気持ち悪い。』 『あの男と結婚なんてしたくなかった。』 『あの男の血を引く子供が気持ち悪い。』 『あの子を産まなきゃ、私は自由だったのに。』 そして、その矛先は私へと向かいました。 『お前なんて産みたくなかった！！』 『お前さえ……お前さえ産まれて来なければ私は自由だったのに！！』 そう言って恨めしそうな目で見るお母さんは私から見ても限界なんだと分かりました。】 ワン【完全に精神的に来てる。】 にゃ【これ旦那が完璧に追い詰めてるぞ。】 「「「『』」」」 全員が固まった。 主【テレビで鬱病の特集や精神病の特集等をしていてそれを見ていた私はお母さんとの共通点が多数ある事を知り、このままではお母さんが重度の精神病患者になり、精神病棟から出られなくなる事を知りました。】 ワン【もう既に、２歳になる前の子供が理解出来る事じゃない。】 にゃ【ご主人様だからな。】 それで納得していいんですか。 主【そんなお母さんの心を少しでも守る為に私はこっそりと家から抜け出し、近所にあった良い感じにそこそこ廃れた公園でどうすればいいのかと頭を捻らしていました。】 ワン【ご主人様の行動力って、この頃からかー。】 にゃ【家庭環境で鍛えられた行動力か。】 主【そんな私をウォッカさんが見つけて話し掛けてくれてから度々お話をしました。 ただ、ウォッカさん曰く、 『お前さん位の子供は、普通は俺を見て泣くか、怯えるかのどっちかなんだが。』 と微妙な顔をされました。】 にゃ【するだろうな。】 ワン【厳つい顔してるからなー…… それに普通に対応出来てたご主人様ってマジご主人様。】 主【そして、１歳９ヶ月の時でした。 その日ウォッカさんに問い掛けられ、前述の事をマイルドにして説明をして、自分が消えないとお母さんが壊れちゃう事を言いました。】 ワン【あ、ご主人様の覚悟の回。】 にゃ【餓鬼がする覚悟じゃねぇのにな。】 覚悟の回ってなんですか？ とっても不穏なんですが。 主【ウォッカさんに消えるって事を説明し、場合によっては『死ぬ覚悟も出来てる』事を言いました。 そして、私が消える事……死ぬ事によって発生するメリットも伝えました。 先ず、普通に考えて子供が居なくなった母親が精神的に来てると考えられてお医者さんに連れて行かれてそこでお母さんの精神状態が解明される事、子供が居なくなったばかりで傷心してると思われる母親に祖父と祖母が子供を産めとせっつかない事、望んだとしても連れて行かれた先の病院の先生が母親の精神状態に気づく筈という事を。】 にゃ【なぁ、知ってるか？ この思慮深さの癖して、この時点でまだ２年も生きてねぇんだぜ？】 ワン【大の大人でも戸惑う事を、アッサリと実行しようとしてるご主人様の発想力と行動力怖い。】 それ普通子供が考える事じゃないから。 って言うか、子供がしていい覚悟じゃねぇぇぇ！！！ おい、父親ァァァ！！奥さんのヤバさに子供が自分の身を投げ売ってるぞ！？ 安室「」←息してない 赤井「………………oh......」 コナン「…………安室さん。」←冷たい目 主【それをウォッカさんの行動を怪しんで、つけてたジンさんに聞かれ、ジンさんが計画を立ててくれるとの事でそれでお母さんが壊れないならと乗りました。】 ワン【ご主人様潔いいよ、潔良過ぎだよ。】 にゃ【何を今更言ってんだワンコ。 ご主人様はこの決断力で、俺等を拾ったんだろ。】 潔良過ぎるよ！！！ 萩原「臨也ぢゃ゛ん゛……そこまで……そこまでお母さん追い詰められてたんだね……」 主【そして、次にジンさんから会った時に計画を聞きました。 ジンさん曰く、 『父親が警察関係者ならそっち方面でも打撃を与えてやれ。 まぁ、話に聞く限りお前の父親はお前が死んでも葬式に出る所か家にすら帰りそうにないけどな。』 と言われた時、全くもってその通りだなと思いました。 お腹を痛めて産んでくれた大恩あるお母さんがあの人から解放されるならそれで良かったので、種元たるあの人に恩とか情とか全くないどころかマイナスを大きく振り切っていたので『ハゲ・デブ・水虫の３コンボで苦しまないかなー。』と呪っておきました。】 ワン【待って、ご主人様。 元父親を呪ってたの？！】 にゃ【……まさか時々買ってた藁って。】 まさか藁人形自作してる！？ 主【人を呪わば穴二つと言いますが自分の身にもそれが降りかかる覚悟の元、今も頑張って呪ってます。 今の呪いは『ハゲ・メタボ・加齢臭・ワキガ』にしてあります。 自分の身に返って来たとしても自業自得だと思ってるし、それで少しでもあの野郎が職場で肩身の狭い思いをすればいいと捨て身で呪ってます。 幸いな事に私こと、『降谷臨也』は戸籍上既に死んでる身なので問題はありません。 なので気にせず、全力で呪います。】 ワン【ご主人様の覚悟、めちゃくちゃ固かった！？】 にゃ【本当に捨て身だぞ、コレ。】 主【尚、私の名前が男っぽい漢字なのは産まれて来る子供を勝手に男だと思った糞野郎が勝手に提出したモノで、それを知ったお母さんが大慌てで撤回しようも漢字の方が既に受理されてしまっていてせめてものの事として読みを『りんや』から『のぞみ』に変えた為のモノです。】 ワン【ここでもあった元父親最低話。】 にゃ【この男何処まで、俺等の評価下げれば気が済むんだ？】 こちらでも下がってます。 主【なので、そんな屑の糞野郎が居る警察がジンさんやウォッカさんの話しや私達が住んでた家を探索して存在を知ったとしても、私達は屑の糞野郎に利用される気は無いので徹底抗戦する事を宣言します！！】 ワン【いや、家の探索で発覚する事に関しては寧ろワザと分かる様にしとくって言ってたよなご主人様。】 にゃ【察しろよワンコ。 そんな屑に自分含む俺等を良いようにされない為と、気づいて他の警官達からの株を大暴落させる為にこうしてご主人様が音声撮ってんだから。】 ワン【成程、って事は警視庁と警察庁にハッキングするのか？】 にゃ【ご主人様にとっちゃ簡単だろ。 こないだだって、NAZUに侵入したのにバレる事なく撤退してたんだぞ？】 ワン【え？嘘？いつ？？】 にゃ【あー？ ワンコがご主人様がパソコンゲームしてて、一緒に散歩行くの振られたって言った時だよ。】 ワン【え！？ アレ、ハッキングだったの！？】 にゃ【おー。 なんでも、暇潰しとセキュリティが何処まで上がったかの確認だって言ってたぞ。】 ワン【……もしかしてご主人様って。】 にゃ【もう何度も侵入してバレてねぇよ。】 ワン【……７歳児ってなんだっけ？】 にゃ【ギフテッドだからだろ。】 ワン【コレって、その一言で済ませていいのか？】 にゃ【ご主人様だからな。】 それで済ませて良い事態じゃないと思う。 ワン【……ご主人様との出会いの１年の差がすっげぇ実感出来る。】 にゃ【まあ、俺は完治するまで結構時間かかった分もあるしな。】 ワン【というか、 『ペット飼いたいって言って反対されたから反対されないペットを探す』 って、言う不屈の心持ってるご主人様何なの？】 にゃ【そもそも、爆発と墜落でボロボロになってる俺を見て 『ボロボロになってる黒にゃんこ拾ったから迎えに来て。』 って言って、ウォッカ呼びながら止血してたご主人様だぞ？】 ワン【俺の時も 『ワンコ拾ったから迎えに来て。』 って、お前に電話したんだっけ？】 にゃ【そして、目出度くご主人様のペット枠に収まった俺等。】 ワン【ほんと、ジンもウォッカも良く許したよなー。】 にゃ【ボロボロだったのと記憶喪失だったのが決め手だったらしいぞ。】 だから『迷い猫と捨て犬』だったのか。 ワン【ボロボロでも記憶あったらどうなってたの俺等。】 にゃ【記憶戻り次第元いた場所にリリースと…… お前の場合はなんかの情報吐かされてたんじゃね？】 ワン【アレ？これ俺ヤバかった？】 にゃ【だな。】 ワン【記憶戻らなくて良かった！！】 にゃ【普通は戻す事に、必死になるらしいがな。】 ワン【そんな事言ったら、お前だって普通じゃないだろ。】 にゃ【なんかの拍子でお前の記憶が戻った時俺が居なかったら、ご主人様は一人になるだろうが……だからだよ。】 ワン【成程……アレ？ その流れで行くと俺死んでない？】 にゃ【死んでんじゃねぇの？】 ワン【めちゃくちゃ危なかった！？ 生きてて良かった！！】 本当に良かったな『捨て犬』…… 主【おーい、二人共〜話し終わったー？】 にゃ【おう。終わったぜご主人様。】 ワン【俺も終わったよご主人様。】 主【OKー！じゃー、そういう事でばいばーい！】 ブツン。 音声が切れ、会議場が静まり返る。 赤井「…………『【金の卵】は安室くんにとって絶望でしかないし、安室くん自身が生み出した存在』……か。 確かにこれは……」 コナン「こんな事……誰も予想が出来ないよ……母親の為に自分を殺した子供が居るなんて。」 安室「……っ…………」 赤井「そして、その子供が手を取った相手がジンとウォッカ……奇しくも犯罪組織の人間だったとはな……」 コナン「でも……なんで、ジンとウォッカはなんで上にあの子の事を上げなかったんだろ。」 赤井「恐らくは自分達の手駒にしたかったか、彼女が育つまで秘匿しておきたかったんだろう。 それに、いざという時の切り札にもなるしな。」 コナン「……警察官の父親が見捨てた子供としてって事？」 グサッ！！ 赤井「それもあるし、何より上層部に大打撃を与えられると思ったのだろう。 現に今、警察官達に打撃を与える事に成功してる。」 マジックミラー越しの会議場で多くの人達が動揺している。 安室「……僕は…………俺は………………」 赤井「聡明な子だ…… いや、聡明過ぎる子だ。」 コナン「今、７歳なら７歳の子供と一緒に居る二人の男の人を探せば見つかる可能性が有るよね？」 赤井「ああ……彼女の才能は悪用されると危ない。 早急な保護が必要だ。」 コナン「僕も手伝うよ、赤井さん。 それに……安室さんの言い分も一応、その子に聞かせてあげた方がいい気がするし……」 チラリと横目で安室を見る。 赤井「……拗れないといいがな。」 [newpage] ーーーーーそんな騒ぎが日本で起きてる頃。 望「心理学超楽しい！」 クロ「生命工学も中々良いぞ。」 グレ「マネジメント学も面白いもんだぞー？」 当人達はエジンバラ大学に居た。 望「次、国際関係学の講義見てくるー！」 クロ「俺は環境科学行ってくるわ。」 グレ「じゃあ、俺ビジネス学行ってくるな！」 容姿が整っている三人はある種の注目の的だった。 片や癖っ毛にサングラスを掛けた美丈夫。 片や猫目に爽やかな笑顔が似合う美丈夫。 そしてその間にいる白い髪に白い肌と赤い瞳の高校生位の女性。 彼等は目立っていた。 望「ボイスレコーダーは、ちゃんと持ったー？」 クロ「持ってる持ってる。」 グレ「俺もクロもちゃんと持ってるよ、お嬢は持ってる？」 望「もっちろん！じゃ、また後でねー！」 クロ「おー、遅くなる前に帰るぞー。」 グレ「今日の夕飯当番は俺だけど、何食うー？」 望「パスター。」 クロ「カルボナーラで良いんじゃねぇか？」 グレ「了解！ じゃ、帰りにマーケット寄って帰るぞー。」 望「あーい！」 クロ「おー。」 グレ「じゃ、また後でなー！」 そんな風にエンジョイして居る三人は日本での騒ぎなど何処吹く風で、今日も自分達の選択した学部以外の講義も受講する。 この三人にこの先どんな事が起こるかは……神のみぞ知る。

最近、政略結婚モノを多々目にし、勢いだけで二日で書き上げたのがコチラの作品です。<br /><br />尚、コチラに出て来るトリプルフェイスさんの性格はアレです。<br /><br />恐らく、厳しめ作品に分類されると思います。<br /><br />覚悟の上でお読み下さい。<br /><br />ノリと勢いだけで、『もしも降谷零に政略結婚で出来た子供が居て、その子供がギフテッドだった場合。』を考えた結果がコレです。<br /><br />大丈夫な方だけお進み下さい。<br /><br />尚、続きを書くかは未定です。ほぼほぼ勢いだけで書いちゃったので。<br /><br />【2018年09月13日付の[小説] デイリーランキング 3 位<br />2018年09月13日付の[小説] 男子に人気ランキング 45 位<br />2018年09月13日付の[小説] 女子に人気ランキング 3 位】<br />ひいいぃぃぃぃ！？まさかの！？<br />え？！これ勢いだけの作品っすよ！？<br />いいの！？この順位でいいの！？<br />と、とりあえずありがとうございます！！<br /><br />【2018年09月14日付の[小説] デイリーランキング 1 位<br />2018年09月14日付の[小説] 男子に人気ランキング 39 位<br />2018年09月14日付の[小説] 女子に人気ランキング 1 位】<br />わーなにこれー<br />………………ひょっ！？<br />なにがあってこうなったのこれこわい<br />きのうもいってるけどこれ……勢いだけで書き上げた物なんですが！？<br />いいんすかこの結果！？<br /><br />令和元年5月11日、スコッチの名前を緑川から諸伏に変更しました。

『例えば降谷零が政略結婚して出来た子供がギフテッドだった場合』

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10114079#1

「立花さん、新人の指導を任されたんですって？」 　年度初めの四月。さっき向かいの席の立花さんが所長と話しているのを聞いて、さっそく本人に確かめる。 「ああ桐島、聞いてたのか。年齢的にちょうどいいだろ、って言われてさ」 　桐島、と僕の名前を呼んだ立花さんは、入社十年目の三十一歳。新入社員の指導はもう少し若手が任されるんじゃないだろうか、と思ったら、 「博士なんだってさ、その新人」 　博士を出たのなら、年齢は二十七歳あたり。入社三年目の僕より年上だ。なるほど、だから若手より中堅にさしかかった立花さんが指導を任されたのか。 「博士が来るのは珍しいですね」 　うちみたいに小さくもないけど大手とも言えない、中堅の設計事務所に博士はまずいない。そもそも建築に博士がそんなにいないし、いても研究職に就いている。 「そうだな。何か珍しい経験がある奴だったら面白そうだけどな」 　そうですね、と答えて、 「名前とか、わかりますか？」 「ああ、さっき聞いた」 　立花さんは所長が置いていった書類を手に取った。 「……宮水四葉さんだってさ」 「女の人ですか」 「そうなのかな」 　立花さんの手元の書類を、横からのぞき込む。新入社員の名前と学歴と、教育担当者くらいしか書いていないメモだった。性別は書いてない。 「……立花さんと大学同じですね」 　最終学歴に、ある有名大学の名前が書いている。 「俺は学部卒だけどな。……だからかな」 「何がです？」 「宮水さんの名前、どこかで見たことある気がするんだよ」 「そうなんですか」 　年齢的には在籍時期は重なっていなさそうだけど、あの大学なら同窓会組織なんかもあるだろうし、そういうので見たのかな。 　その日の午後、現場から事務所の入ってるビルに帰ってきてすぐのエレベーターフロアで、今度は僕が所長につかまった。 「桐島」 「なんですか」 　うちの所長は僕のような若手にも割と簡単に声をかけてくる。なんせ相手は事務所の最高責任者、入社当初はびびってたけど、今ではもう慣れた。 「聞いたかも知れんが、立花に新入社員任せたからな。お前も手伝ってやれよ」 　うちの規模だとチームを固定するわけにもいかず、仕事に応じて人を回していくしかない。それでも、比較的僕は立花さんと仕事をすることが多い。そういうわけで僕にも頼んでいるのだろう。 「それはいいですけど、女性なんですよね」 「そうだな。だから立花でちょうどいいだろ」 　確かに、それはそうかもしれない。 　立花さんは入社十年目、つまり勤務九年で既に一級建築士。有名大学卒のイケメンで、絵も描けてスポーツもできる。そして声を荒げたのを誰も聞いたことがないという落ち着いた大人の男で、 「昔はけんかっ早いってよく叱られたよ」 という本人の言葉がまったく信じられない。“俺も昔は悪かった”なんて自慢をするような人でもないんだけど。 　この非の打ち所のない男の敵は、一方でまるで女っ気がない人でもある。男だけの酒席だと女性の話題が出ることなんかもあるけど、愛想程度に薄く笑っているだけで、全然興味がないのが隠せていない。僕も先輩たちにあおられて、何度も大学時代から付き合ってる彼女の話をしたけれど、立花さんは一度もそんな話をしたことがない。そして他の人がした話もたぶん覚えていないに違いない。かといって男性に興味があるというわけでもなさそうで、とにかくそういうこと全般どうでもいいと思っているみたいだ。 　いくらなんでも三十一歳は枯れるような年齢ではないと思うけど、立花さんは枯れるという言葉ですら生やさしいんじゃないか、と思うくらい完璧に恋愛の匂いがしない。 　所長もそれを知っているものだから、 「彼女、すごい美人だからな、立花に付けとけば虫除けくらいにはなるだろ」 　いろんな意味で失礼な台詞を言った。すごい美人という言葉に惹かれなくはないけれど、でも所長、女子社員の容姿の話とかしちゃダメですよ。 　新入社員は、大手町で外注のビジネスマナー研修を一週間受けた後、事務所に出勤してくる。 　今日はその初日。 　新人研修は社内でしたほうがいいんじゃないかという話もあるけど、うちの規模でそれは無理なので、一般的なビジネスマナーを一週間学ぶ程度ですぐに業務に入る。 　今年の新入社員は三人。近年では大体平均的な人数。 　うちの事務所では、所員のほぼ全員がビルのワンフロアで働いている。役職付きの人と、一部の事務職の人は別だけど。その所員全員の前で挨拶をするために、新人三人が所長に連れられてやってきた。 　女性は一人なので、あれが宮水さんなのだろう。 　確かに、所長の言った通りだ。 　肩にギリギリかかるくらいのミディアムヘアの宮水さんは、誰もが一瞬目を奪われるような美人だった。 　わずかに釣り目気味の大きな瞳、すっと通った鼻筋、意志の強そうな口元。単に容姿が整っているというだけでなく、生気に満ちた印象を受ける。 　緊張している男二人と比べて堂々と立っているように見えるのは、博士としての経験がある分だろうか。 　ふと横を見てみると、すぐそこで先輩二人が何かヒソヒソしゃべっていた。やれやれ。 　まさか立花さんまで浮ついてないだろうな、と思って立花さんのほうを見てみると。 　思いっきり眉を寄せて、難しい顔で宮水さんを凝視していた。他の二人には目もくれず。 　美人を見てデレデレしていないのは良かったけど、なんでこんな険しい顔で新人をにらんでいるのだろう。 　「なんだこいつ」みたいな顔。 　――いや、違うな。 　この前の話を思い出した。「こいつどこかで見たぞ」って顔だ、これ。 　世代は違うけど同窓ということだし、やっぱり会ったことがあるのだろうか。 「宮水四葉と申します。よろしくお願いします」 　所員全員の前でそう挨拶した宮水さんは、きれいに背筋を伸ばしたままお辞儀をする。視線の取り方から動くタイミングまで、お辞儀の所作も美しい。 　これは所長が虫除けの心配をしたのも無理はないかも。 　新人三人の挨拶が終わって、所長がそれぞれのデスクの位置を指示する。他の二人の場所と指導員を告げた後、 「で、宮水さんはあそこに。そこにいる立花の指導を受けてくれ」 と指さした。立花さんは軽く手を挙げて答える。宮水さんは「よろしくお願いします」と、もう一度美しいお辞儀をした。 　――のは、いいのだが。 　さっきヒソヒソしゃべっていた先輩とか、立花さんと同期の女性社員とかが、すごい顔で宮水さんとこちらを交互に見ているのが気になってしょうがない。 　怖いです。 　しかしまあ、そんな先輩方が心配するようなことは起こらなかった。 　立花さんもいい大人なので、宮水さんに「俺、君をどこかで」とかナンパみたいなことは言わなかったし、宮水さんのほうは立花さんの顔を見たことがある様子ではなかった。 　指導も順調で、大学院で途上国での建築プロジェクトにかかわってたというすごい経歴を持つ宮水さんは、立花さんの指示を的確にこなしていく。三年目の僕より明らかに優秀だ。入社早々構造計算までスムーズにできるってどういうことだよ。 　見る限り仲良くやっているようだけど、まるで男女っぽくもなっていない。しいて言えば兄妹という雰囲気で、立花さんは先輩たちから「立花上人」とか言われていた。立花さん、ついに出家しましたか。 　兄妹と言えば、この前、指示によくわからないところがあったのか、宮水さんがうっかり「お姉ちゃん、これなんやけど」と立花さんに話しかけたことがあった。あ、これは先生のことを「お母さん」とか呼んじゃうアレだ、と思う間もなく、立花さんも「なに？」と普通に返事してて、周りを爆笑させてた。 　隣のグループの先輩からの、 「せめてお兄ちゃんだろ」 というツッコミに、 「すみません、姉がいるので……」 と宮水さんが赤面していたのが実によかった。立花さんと話してると姉を思い出すんですよね、という妙な言い訳に、立花さんも 「いや、俺も違和感なかったよ」 と答えていた。 　いやいや、なんで違和感ないんですか。あなた人生で一度も「お姉ちゃん」なんて呼ばれたことないでしょう。 [newpage] 「そういえば私、立花さんに確認したかったことがあるんですよ」 　ゴールデンウィーク明けの、若手の親睦会という名目の飲み会にて。 　「俺は若手なのか？」と言っていた立花さんもどうにか参加させることに成功したようだ。なかなかやり手の幹事だが、結局立花さんがしゃべっているのは僕と宮水さん。立花さんは覇気がないというわけではないんだけど、人と関わることをどうでもいいと思っているんじゃないか、と思われるフシがある。 「え、なに？」 　宮水さんに突然勢い込んで言われて、眉を動かす立花さん。仕事の話ならこんなところで言わないだろうし、プライベートなことをきかれるんじゃないだろうな、と警戒しているようにも見える。 　清楚なお嬢様にしか見えない宮水さんが意外とズケズケと物を言うことは、僕も立花さんも既に気付いている。 「立花さん、卒業制作で擬洋風建築を扱ってませんでした？」 「え？」 　予想外の質問だったらしく立花さんも驚いていたが、同窓だったことを思い出したようで、 「ああ、卒業制作の資料が大学に残ってたか。あれを見たんだ」 「はい」 「あまり出来が良くなかったから、恥ずかしいけどな」 　ちなみにその「出来が良くない」卒業制作で、立花さんが賞をとったことを他の先輩から聞いている。いろいろ感じ悪い。 「そんなことないですよ。私、すっごい感動しました」 　感動とはまたすごいな。どんな卒業制作だったんだろう。 　声を潜めて、宮水さんが続けて言う。 「……あまり言わないようにしてるんですけど、実は私、糸守の出身なんです」 「え、ほんとに？！」 　立花さんが不自然なほどに驚いて、宮水さんのほうに身を乗り出す。体がテーブルに当たって、食器が大きな音を立てたのも気にならないみたいだ。 　確かに、宮水さんがあの彗星災害で有名な糸守町の出身だと知って僕も驚いたけど、それにしても立花さんの驚き方はおかしい。こんなテンションの立花さんを見たのは初めてかもしれない。 　周りの人も――親睦会の参加者だけでなく、一般のお客さんまで――驚いて、こっちを見ている。 「立花さん、ちょっと」 　立花さんの剣幕に宮水さんもびっくりしているのを見て、服の裾を引く。立花さんも我に返って、 「あ、ああ、ごめん」 と腰を下ろした。 　立花さんのその様子を見て、宮水さんがきく。 「もしかして、立花さんも糸守と何かご関係がおありですか？」 　即答できそうな簡単な質問に、なぜか立花さんはしばらく考え込んで、 「……いや、たぶんないと思う」 　やけに歯切れの悪い答えを返す。 「たぶん？」 「……一時期、やたらと糸守を気にしていたことはあるんだ。でも、その理由がわからない」 「それは災害後に？」 「災害から三年くらいしてから、かな。実際に行ったこともあるんだ」 　災害直後ならわかるけど、三年後というのはどういうことなのだろう。東京から岐阜まで足を運ぶほど強い興味。宮水さんも僕も、立花さんの返答の意味を考えて、黙り込む。 　それを見て、立花さんはことさらに明るい口調で、 「ごめんごめん、故郷のことをそんな風に言われたら気味悪いよな」 「いえ……それで、卒業制作でも擬洋風建築を？」 「まあ、そうだね」 　聞けば、糸守には擬洋風建築の建物が多く残っていたらしい。糸守になぜか心惹かれていた立花さんは、擬洋風建築をテーマに卒業制作を作った、ということのようだ。 「立花さんの卒業制作、本当にすごかったです。あのころの糸守が、そのまま残ってるみたいで」 「住んでた人にそう言われるのはうれしいね」 「お世辞じゃないですよ。実物を見てない、って発表資料に書いてたのが信じられないくらい」 「俺が糸守に行ったのは彗星災害の三年後だからね。建物を実際に見ることはできなかったよ」 「私が審査してたら、立花さんがＴ――賞でしたよ」 　宮水さんが、偉大な建築家の名を冠した賞の名前を挙げた。立花さんは苦笑で返す。 「私、あのとき小学生だったんですよね」 　そこから話が、あの彗星災害の日のことになった。立花さんも僕も気を遣って話題に出さなかったのだけど、宮水さんが自ら話し始めた。 　立花さんが糸守町に強く惹かれていたと聞いて、何か思うところがあったのかもしれない。 「だから夜なんて、家にいるか、神社にいるか、それともあの日、境内でやってたお祭りに行くか。どれかしかなかったんですよ」 　神社って何だろう、と思ったら、宮水さんの実家は神社だったらしい。立花さんは、宮水さんが糸守出身と聞いてすぐに気付いたそうだ。 　そんなに有名な神社なんだろうか、と思っていたら、 「それで、隕石はうちの神社に落ちましたから――」 　なるほど、隕石の落下地点として有名なのか。 「どこにいたとしても、私は死んでいたはずなんです。本当は」 　いきなり、衝撃的なことを言った。 　糸守町の人たちが助かった理由は、当時小学生だった僕でも――宮水さんよりさらに下の学年だったけど――聞いたことがある。 　その日たまたま避難訓練があって、みんな被害範囲の外にいた、と。 　宮水さんはその“奇跡”の真っ只中にいたのか。 「あまり表立って言うことじゃないんですけど」 と前置きをして、宮水さんが言う。他の人に聞こえないように、声を落として。 「あの日、誰かが『町から逃げて！』って言ってたような気がするんですよね。でも、それが誰だったのかは誰も覚えていないんです」 「……そういえば、そんな話もあったね」 　僕にとっては初耳だけど、立花さんはそんな噂を聞いたことがあったらしい。「信憑性の薄い、週刊誌の記事だったけど」と付け足す。 「高校生とか、私たち小学生の間でだけ流行ってた都市伝説みたいなものでした」 　誰かが災害を予言して、そのまま消えた。そんなファンタジーのような噂があった、と言う。 　あまりにも非日常な出来事があって、精神的に不安定になった子供たちの生んだ幻なんじゃないだろうか。宮水さん本人を前にそれを言うのは失礼かと思って黙っていたら、やっぱり当時もそう言われたらしい。 「確かに、そう言われるとそうだったような気もするんですよね。予言なんてあるわけないですしね」 　もし本当にそんな予言者がいたのなら、お礼を言わないといけませんね。宮水さんは半ば冗談のつもりだろう、そう言って笑った。子供のころのことで、案外気持ちに整理がついているのかもしれない。 　むしろ、立花さんがそれを聞きながら、自分の手のひらを見るともなく見つめていることのほうが気になった。 [newpage] 　四年前、三十歳になったのを機に、私は東京での仕事を辞めて糸守に帰ってきた。 　その前年に宮水神社は再建されて、町長を三期で辞めたお父さんが宮司をしていた。「神社のことは私がやるから、お前たちは気にしなくていい」とお父さんは言っていたけど、九十を越えた――今年ついに大台になる――おばあちゃんに仕事をさせるわけにもいかないし、私も故郷のために何かやりたくて、糸守に帰ることを選んだ。 　テッシーとサヤちんも飛騨に帰ってるし、という気持ちもないではなかった。 　そして今。 　糸守に帰っても住民は少ないし、そんなに忙しくもないだろう。 　そう思っていた四年前の自分に説教したい。 　そんな気分。 　何よりも、観光客が多い。考えてみればそれはそうだ。隕石が二度落ちた町。それも、どちらも同じ彗星から落ちてきた隕石。半径数キロ以内がすべて壊滅する状況で犠牲者ゼロ。他の町のことなら、私だって一度行ってみたいと思いそう。 　一方で、これだけ観光客が訪れながら、糸守には一般の人が入れる場所がまだ少ない。地盤や地質は定期的に調べてくれてるみたいだけど、世界遺産登録を目指そうなんて言っている以上、どこでもやみくもに修復するわけにはいかない。産業が壊滅した今、糸守の復興は観光にかかってるし。 　そうなると、お客さんが来るのは旧糸守高校跡地にできた記念館か、糸守湖を巡る不完全な散策路か、うちの神社ということになってしまう。だから、神社に来る観光客がずいぶん増えた。有名な観光神社に比べれば大したことないんだろうけど、災害前と比べると文字通り桁が違う。 　宮水神社は糸守湖の西側、坂上と門入の境目あたりの山裾に再建された。御神体の山を背後に、視界の開けた場所に建っているので、新旧糸守湖が望めるスポットとして広く知られるようになった。お守りやお札や組紐を授けて、ご朱印を受け付けて、拝殿を開放して、毎日境内をきれいに整備して。繁忙期には境内にいくつか出店してもらうこともある。もちろん七五三や結婚式なんかの人生儀礼やご祈祷もある――というか、有名になったせいでそれも増えた。さすがに[[rb:助勤 > バイト]]の若い子を何人か入れて対応してるけど、隕石が落ちる前とは全然違う仕事量に、最初はへとへとになった。 　宮水神社は隕石が直撃した神社としても知られているせいで、「自らと引き換えに住民全員を守った」とパワースポット扱いされることもある。お守りやお札をお客さんに授けてる私がいうのもなんやけど、それは過大評価やよ。たぶん。 　「宮水神社の不思議な力が住民を救った」なんて、そんなことあるわけないでしょ。 　宮水神社では、私は巫女として働いている。巫女は二十代で辞めることが多くて、私も本当は神職として働きたいんだけど、神楽舞を他の人に教えられるのが私しかいないから仕方ない。 　そういえば、お母さんも病気になるまでずっと巫女だった。私が舞えるようになったのは、お母さんが倒れた後だったから。 　四葉がいてくれたら、四葉に巫女を任せるんだけどな。 　妹の四葉は、東京の大学に行って、大学院まで出て、設計事務所に勤めている。 　本人は何も言わないけれど、やっぱり四葉も糸守の復興にかかわりたいと思っているのかな。妹が建築という道を選んだ理由を、なんとなくそんな風に想像している。 　就職先も、大手ではないけど公共事業に強い事務所を選んだらしくて、私の想像はそんなに大きく外れていないんじゃないかと思う。 　それはいいんだけど、この前ゴールデンウィークに帰ってきたとき、「指導してくれてる先輩がイケメンなんやよ」とか言ってたなあ。あの子、外では澄ました顔しとるけど、中身はガサツなままなんよなあ。ちゃんとやれてるのかな。 　「年齢的にもお姉ちゃんとぴったりかも」とも言ってた。余計なお世話です。 　お守りや組紐を授ける授与所で、そんなことを考えてぼーっと座っていると。 「三葉、今日はヒマそうやね」 　いつの間にか来ていたサヤちんが言う。お子さんの学校の都合もあって古川に住んでるけど、テッシーは糸守で仕事をしていることも多いので、神社にもときどき顔を出してくれる。 　せっかくなので、授与所にくっついた社務所の事務室に入ってもらって、お茶を出す。 「どうぞ」 「ありがと。今日はお客さん少ないの？」 「六月の平日やからねえ。土日なら結婚式があることもあるんやけど」 　[[rb:大祓 > おおはらえ]]まではこんな感じかな。[[rb:夏越 > なごし]]の大祓は月末で、あれも準備が大変。 「それに、夏休みになったらまたお客さんも増えるんやないかな」 「増えてくれないと困るよねえ」 　サヤちんもそんな相づちを打つ。神社の収入は氏子さんに左右される部分が大きくて、実は観光のお客さんの影響は少ないのだけど、うちの場合は糸守全体の集客にも関わってるからなあ。 「まあ、うちは正社員がお父さんと私しかいないから、あんまり増えても困るんやけどね」 　今はご朱印の授与もできてるけど、これ以上増えると書き置きで対応するしかないかも。そんな話をした。 「かといってうちの規模では人数を増やせるわけでもないしなあ」 「世知辛い話やね」 「ねえ」 　お客さんが見事に一人もいないのをいいことに、そんな生臭い話をする。 　六月の平日の昼下がり。雨こそ降ってはいないものの、空はどんよりしている。護岸の問題で、糸守湖周辺が“天候によっては立ち入りが禁止されることがあります”とされているせいもあって、梅雨の時期には観光客があまり来ない。 　バイトの巫女さんは二人、わざわざ古川と神岡から来てもらってるけど、今日はやることがない。境内の掃除とか片付けとかをのんびりやってもらっている。かといって、繁忙期に人手が確保できないと困るので、今みたいな時期にも来てもらわないといけない。 「四葉が学生だったときは、いざというときは帰ってきてもらってたんやけどねえ」 「あの子はしっかりしとったからなあ。今や『宮水四葉博士』やもんねえ」 　確かにそうなんだけど、そう言われると違和感しかない。 「それで、就職先は設計事務所やったっけ？」 「そうやよ」 「もう二級建築士は取っとるんよね」 「大学院生のときに取ったって言っとった」 「はー、すごいねえ」 　建設会社の次期社長夫人が、うちの妹に感心している。なんだかんだ言っても四葉が褒められるのはうれしくて、思わず笑みがこぼれる。 　すると、サヤちんも笑顔になって、言った。 「三葉、最近明るいね」 「え、そうかな」 　自分では別に何も変わってない気がするんだけどな。 「よく笑うようになったと思うよ。あんた、子供の頃からそんなに笑う子やなかったやろ」 「えー、そう？」 　確かに、あまり笑わない子供だったとお父さんにも言われたことはある。でも自分では、そうかなあと思うんよね。 　誰かと言い争いをして、怒ったり笑ったりしてたような気もするんやけど。 「特に彗星災害からあと、本当につらそうにしてたやろ。心配しとったんよ」 　……知ってる。いろいろ気にかけてくれてたことを。私は、ずっとずっとサヤちんには感謝してる。 　だから、黙ってうなずいた。 「それが、こっちに帰ってきてからは明るくなったな、って」 　それをうれしそうに言ってくれているのが、うれしい。 　ただ、そこで一度言葉を切って、こちらを伺うように続けた。 「でも――」 　彼女の躊躇が見える。何の話かな、と思っていると、 「――まだ、何か探しとるんよね？」 　そうだった。彼女は、私が何かを――あるいは誰かを――探していることを知っている。 「……そうやね。まだ見つかっとらんからね」 　そうとしか、答えられない。だって、それが事実だから。 「そのわりには、明るいね」 「そうかな」 　自分ではわからない。 「この話だって、前だったら、はぐらかしてたよね」 「あぁ……そうやったかも」 　サヤちんに言われて、思い当たる。そういえば、自分が何かを探しているなんて、サヤちんにすら言わなかったような気がする。普段の態度でバレてるのはわかってても。 「普通にそうやって話してくれるようになっただけでも、前とはずいぶん違うと思うよ」 「そっか」 　確かに、もう前みたいには、焦る気持ちはないかもしれない。でも、見つけることをあきらめてしまったわけじゃなくて。 「……そうやね、探してるのが“誰か”なのか“何か”なのかもわからないし、ぜんぜん見つかる気配がないのも変わらんのやけど」 　昔から、何も変わらないし、何も思い出せない。それでも。 「でも、いいや、って思ったの。もう何があっても私は絶対あきらめないって、覚悟を決めたから」 　――たぶん、今ではもうこれが私の「普通」なんだ。この気持ちを抱えたまま生きていくのが、私の人生なんだと思う。 「だからもし見つけられなくても、ずっとそうやって生きていこう、って。そう思えるから」 「無理して言ってるわけやなさそうやね」 　少し心配そうではあるものの、私の言っていることに納得したようにも聞こえる、サヤちんの言葉。 「そうやよ。本心やもん」 　私がそう言い切ると、サヤちんはちょっと笑った。 　サヤちんに笑ってもらえると、私も安心する。 「――あのさ」 　そして、サヤちんが穏やかにきく。 「三葉の様子を見てて思ってたんやけど、探してるのってたぶん……“何か”じゃなくて“誰か”よね？」 「……そうやね、私もそう思う」 　探しているものを「見つけた」と感じるのは、決まって人混みの中。だからたぶん探しているのは、人なのだろう。 「それも……男の人、よね？」 「……そう、かも」 　私の男性に対する態度を見ていて、自然に気付かれたのだろう。これほど長い時間探し続けていれば、自分でも気付く。私が誰のことも好きになれないのは、既にそう想っている相手がいるからなんじゃないか、って。 　ぜんぜん、思い当たる人はいない。サヤちんだって、私の周りに該当する男性が一人もいないことを知っている。なのに、“その人”は私にとって大切な人だ、と、私もサヤちんも確信に近い気持ちでいる。 「どんな人なんだろうね。早く見てみたいよ」 　サヤちんが言うその言葉は、私にとっての切実な願い。 「本当にね」 [newpage] 　七月。 　最初にその記事に気付いたのは、僕だった。 　僕は朝早くに来て、事務所の新聞を一通り眺めるのを日課にしている。 　自分で新聞をとるとお金がかかる、というみみっちい理由もあるけど、何より新米の建築士は仕事が多い。遅くまで残業するくらいなら早くから仕事しているほうがマシだ、という僕の主張を所長が聞き入れてくれたおかげでもある。 　まあ、結局は朝早くから夜遅くまで働いているのが実情ではあるんだけど。 　ともあれその記事を見つけた僕は、通常の始業時刻の三十分くらい前に来た宮水さんに、その記事を見せる。 「宮水さん、これ知ってた？」 「どうしました？」 　宮水さんは、“年下の先輩”である僕も、先輩として扱ってくれている。うちの事務所は中途の人も多いのでややこしかったりするけど、宮水さんは自然な態度でそう振る舞う。 「糸守町の建築プロジェクトなんだけど」 　そう告げると、虚を突かれたように一瞬僕の顔を見て、すぐ記事に目を移した。それはあくまでも計画段階のものだったけど、糸守町の建物を再現するプロジェクトの記事だった。 「……糸守小学校！」 　記事を目に通した宮水さんが、小さく驚きの声を上げる。そう、糸守町にあった擬洋風建築、糸守小学校校舎の再建計画の記事だった。 「……こんな話、聞いたことなかったですよ」 「まだ正式には何も決まってないみたいだからじゃない？」 「……そうですね」 　故郷の、しかも自分が通っていた小学校の再建となれば、特別な気持ちになるのも無理はないだろう。 「これ、うちの事務所が関わったりしませんか」 　できることなら自分も手がけたい。そう思っていそうだな。 「どうだろう。記事だとまだ何も動いてないみたいだよね」 　実際に計画が確定したとしても、たぶん入札があって落札しないと関与はできない。基本設計にせよ実施設計にせよ。 　岐阜のプロジェクトにうちが入るのは無さそうな話で、公共事業に強いとか再現建築の経験があるとかその他いろいろ考えて、最大限頑張ってようやく“ないとは言えない”にたどり着くくらいじゃないかな。 　そのあたりを適当に説明すると、宮水さんは、 「そうですか……」 と言って、何か考え込んでいた。 　そこに、立花さんが出勤してきた。 「おはよう。どうした？」 「あ、立花さん、これなんですけど」 　立花さんにも新聞記事を見せる。糸守町の建築に惹かれていたという話だったので、この記事にも興味があるんじゃないかなと思っていたら、 「え、これって」 　記事を一瞥してすぐに、すごい勢いで僕のほうを見た。 「あ、えーと、そうですね、糸守小学校の」 　その剣幕に押されて、ちょっと身を引きながら答えた。立花さんはそんな僕は気にも留めず、真剣に記事を読んでいる。 　読み終わっても、そのまま何かを考えている様子だったが、通勤してきたそのまま、荷物も置かずに所長室のほうに向かった。新聞を手に。 　僕は唖然として見送る。 　――どうしたんだろう。 「……立花さん、本当に糸守と関係ないんでしょうか」 　その様子を見て、宮水さんが僕にきいてくる。 「東京生まれの東京育ち、って聞いてるけどね。……確かにあれはおかしいよね」 　優秀だけど、いつも温度が低い人。感情をあらわにしなくて、淡々と日々の仕事をこなす人。 　それが僕から見た立花さんだったし、おそらく会社の人はみんなそう思っていると思う。なのに糸守町が絡んだだけで、今まで見たこともない、追い詰められたような表情になる。 「でも、嘘をついてるようでもありませんでしたよね」 　そもそもそんな嘘をつく理由がない。 　立花さん自身、自分が糸守町にこだわる理由をわかっていないようだったし。 　さして時間もかからず、立花さんが帰ってきた。 「ごめん桐島、新聞は事務に返しておいたから」 「あ、はい、ありがとうございます」 　僕がそう返事をしている間に、立花さんは自分の席について仕事の準備を始めている。始業時間まではまだあるけど、さっきの行動の説明をするつもりはないようだ。 　と、宮水さんが口を開いた。 「立花さん、所長と何を話したんですか？」 　ききにくいことを直球できいた。 「ああ……」 　立花さんは逡巡していたが、宮水さんと僕には糸守町への執着について話したことがあるのを思い出したのだろう、教えてくれた。 「糸守小学校のプロジェクトがどうなってるか、きいてみたんだ。もし話が来てるのなら、やらせてくれ、って」 　ただ、まだ所長のところにも何も来ていないようだ。噂くらいは聞いているかもしれないけど、それは教えてくれないだろう。 「だから、もし話が来たらお願いします、って言っといた」 　約束はできない、って一蹴されたけどな。そう言って苦笑した。 　やっぱり、立花さんは糸守町に不思議なこだわりがあるようだ。さっきの会話を思い出して、宮水さんと僕が顔を見合わせる。 　そんな僕たちの反応を見て、立花さんはしばらく困ったように無言で何かを考えていたが、 「宮水さん」 　静かに、宮水さんに問いかけた。 「今、糸守の復興はどんな感じになってる？」 　宮水さんは少し考えて、答える。 「そうですね、町の南側の復興は進んでいますね」 　隕石が落ちたのは町の北側で、南側はインフラの復旧とともに復興が進められたそうだ。今ではもう南側は町として成立しているとのこと。 「……ただ、立入禁止が解除されるまでにずいぶんかかりましたから。それに北側は人が住めませんし……」 　町の北側、宮守地区――二人の影響で、僕も糸守町の地理の知識がついた――に住んでいたという宮水さんが、そう言う。そもそも宮守はもう湖の底だそう。 「糸守小学校は北側だったよね」 「そうですね、北西になりますね。あのあたりも湖に沈んでしまったので」 「とすると、どこに再建するんだろう」 　立花さんはやっぱり気になるようだ。 「門入か平場あたりかとは思いますが……」 　そこで宮水さんは思いついたように、言った。 「もし気になるようでしたら、夏休みにでも糸守に来ますか？」 「えっ？」 　僕と立花さんが声をそろえて驚く。今、話が飛躍したのでは。 「あ、えーと、気になるのでしたら実際に見ていただいたほうがいいかと思って。昔いらっしゃってから、一度も糸守には来てないんですよね？」 「まあ、そうだけど……」 「……それに、なぜか立花さんは糸守に来たほうがいいような気がするんですよね」 　戸惑っている立花さんに、何か予言めいたことをつぶやく宮水さん。 「いや、でもそういうわけにもいかないだろ」 　まあ、それはそうだろうな。新入社員の女性の実家に、先輩の男性社員が一人で行くなんて普通ではない。ガードが尋常ではなく堅い立花さんが、そんなことをするとは思えない。 　――ああ、そうか。一人じゃなければいいんだ。 「あ、じゃあ僕も行きますよ。宮水さん、いいよね？」 「もちろんいいですよ」 　宮水さんも僕の考えを察知してくれて、即答する。そうすると立花さんがこちらを見て、 「いや、それは桐島にも申し訳ないよ」 　立花さんらしい、後輩にも気遣う態度。でも、 「いいですよ。帰省のついでだし」 「……お前の実家、どこだっけ？」 「札幌です」 「全然ついでじゃねえじゃねえか」 　立花さんにしてはちょっと乱暴なツッコミを入れたあと、プッと吹き出して、 「わかった、二人に甘えさせてもらう」 と観念してくれた。そして、 「……ありがとう。本当は、ずっと気になってたんだ。糸守のこと」 　そう言って、小さく頭を下げた。

「出逢わない二人」（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9888982">novel/9888982</a></strong>）のコメントに書いた、8/5年ではなく18/15年出逢えなかった設定の話です。ひどい設定ですが、「出逢えない状態」のまま平衡に達した二人を書きたかったんです。書けてなかったら私の技量の問題です。<br />まあ、スパークルMVみたいに早く逢うifがあるんだから、遅く逢うifがあってもいいじゃん、と怒られそうなことを思っています。<br />「出逢わない二人」はリドルストーリーみたいになってしまいましたが、今度はちゃんと結末を付けよう、という決意がタイトルです。<br /><br />また、瀧くんパートを暗くしないために、無関係な語り手としてオリキャラ（瀧くんの後輩）が必要でした。嫌いな方はご注意ください。<br /><br />分量が多くなりそうなので、前後編に分割します。

出逢う二人　前編

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10114096#1

この度晴れて警察官になりました。とはいってもいきなり現場に出れるはずもなく。最初の1年間は研修期間で、色んな課にお世話になり仕事内容を覚えるという感じだ。 「おう、新人共！これからバディを決めるくじ引きをするぞ〜同じ色の札を引いたやつと組ませるからな」 1年間ずっと一緒に行動するんだ、心して引けよという先輩に急かされて、みんながくじを引いていく。緊張するな、女の子か男の子だったら優しい人がいいなと思いながら私が手に取ったのは黒色の札だった。まあ圧倒的に男の人が多いこの業界、女の子同士で組めるなんて確率はまずないよね。それはいいとして。でもどうして、よりにもよって 「おい、あんたも黒？俺も。1年間よろしく」 松田くんとペアになってしまうんだろうか。 「なぁ、聞いてる？」 「あ、ごめんね。こちらこそよろしくお願いします」 差し出された手を慌てて握り返す。お互いに簡単な自己紹介をして連絡先を交換した。 警視庁の警察学校を上位の成績で卒業したという松田くんは、仲良しの萩原くんと揃って同期の憧れの的であった。かっこよくて成績優秀、人当たりが良くて女の子の扱いが上手な萩原くんと、クールであまり笑わない松田くんという組み合わせがいいんだって友達も言ってたっけ。対して私は地方の警察学校を中くらいの成績で卒業した平々凡々な人間で。座学はまだ良かったけど実技の方はてんでダメだった。友達も多くないし、同級生にも何年かしたら忘れられてしまうような地味な女だ。でも私は今の自分に満足していた。目立たないというのは平和だ。褒められもしないが怒られもしないし、面倒臭くないから。ここでも平穏な日々を送るはずだったのに、あの松田くんとバディだなんてどうなっちゃうんだろう。もちろん悪い人じゃないんだろうけどちょっと怖い人だったな。1年間上手くやっていけるだろうか。 バディが決まったその夜に松田くんから"飯いこ"というメールが来た。特に予定もないし、"了解です"と返事をして駅前で待ち合わせた。食べたいものを聞かれたが特になかったので、適当に近くの居酒屋に入った。 カンパイと言ってくれた松田くんのグラスに運ばれてきたビールを軽くぶつける。ビールは苦くてあまり好きじゃないけど、別に飲めないわけじゃない。先輩にも警官になるならビールは飲めなきゃだめだぞと言われていた。 「なあ、それやめねぇ？」 「え、それって何をですか？」 「その喋り方。俺ら同期だし1年間バディ組むんだぞ。やりずれぇ」 「あ、そうだよね。ごめんね」 「別にいいけど。あとビールも苦手なら別に合わせてくれなくてもいい」 松田くんは私からビールのグラスをひょいっと奪って飲みたいの頼めばいいだろといってくれた。近くの店員を呼び止めてカルピスサワーを頼む。怖い人なのかと思ってたけど人のことよく見てるな。その実気遣い屋さんらしい。優しい人だ。 「ずいぶん可愛い酒頼むじゃん」 「そうやってからかわれると思ったからビール頼んだの。まだ練習中だけどすぐに飲めるようになるもん」 「ん、悪ぃ」 そっかと目元を緩める松田くんに釘付けになってしまった。笑うとこんな感じなんだ。噂とか最初の印象とだいぶ違うな。 「今日飯食おって言ったのは、色々決めときてぇなって思ったからなんだよ」 松田くんはこれから私たちが1年間バディを組む上でルールを決めておこうと言った。 研修とはいえお互いに命を預け合うわけなので、今住んでいる所と実家の住所はお互いに把握しておこうということ、言いたいことや気になったことは遠慮せずに言い合おうということ、無理に業務外で仲良くなる必要は無いけれど、たまにはこうやって飲みに行こうということ。ルールなんて言われたから構えてしまったけれど、どれも当たり前のことで、そして松田くんは私に気を使ってくれているんだろうなということがわかった。 「ふふっ、うん、それでお願いします」 「なんで笑ってんだよ」 「いや、だって俺に不用意に近づくなよとか言われるのかと思ったから」 「どういうイメージなんだよ俺は」 「あー、それから。今日悪かったな」 「え、なにが？」 「あの早乙女とかいうやつになんか言われたんだろ。萩原から聞いた」 そう。実はくじ引きが終わってすぐに同期で1番の美人と評判の早乙女さんから呼び出されて、なんであんたなんかが松田くんのバディなのよと言われたのだ。怒っても美人だなと思いながら聞いていたのでそれ自体は大して気にしていないのだが、この先1年のことを憂鬱に感じたのは事実だった。 「別に気にしてないよ。第一松田くんが謝ることじゃないじゃない。あれは運なんだからどうしようも出来ないし」 「…そうだよな。でも、悪かった」 「ほんとに気にしてないって。にしてもさすが松田くんだよね、あの早乙女さんが夢中だなんて。せっかくなら変わってあげれば良かったかな？」 1年間私なんかでごめんねと冗談半分本気半分で松田くんに謝る。能力順だとか自分たちで組んでバディを決めたとしたら、彼と組むことはまずなかった。優しいから言葉や態度には出さないけど、きっとハズレを引いたなと思っているだろう。 「んだよ、卑屈になることねぇじゃん。あいつよりお前の方が真面目そうだし。それに派手な女よりお前みたいな方が好きだけどな、俺は」 顔が熱くなるのが分かる。彼は思ったことをそのままぶつけてくるタイプのようだ。 「噂では萩原くんが女たらしって聞いてたけどあれだね、松田くんも天然タラシだよね」 「んだよそれ、はじめて言われた」 バディを組んで1ヶ月も経てば、私は松田くんのことを大好きになっていた。もちろん同僚として、友達として。彼は何でも出来て、鈍臭い私のことをフォローしてくれたし、他の同僚達にも頼られているようだった。松田くんは私の憧れだ。 その日は雨が降っていて予定されていた野外訓練がなくなってしまったので、代わりの仕事を回すから少し待っててくれと言われた。 「予報じゃ晴れるって言ってたのにな…代わりの仕事ってなんだろうね？」 「どーせまた書類整理とかさせられんだろ」 「えー、面倒くさい」 暇だなあと持っていたサイコロキャラメルをコロコロと机に転がす。子供っぽいとは分かっていても、美味しいからついつい買ってしまうのだ。 「なぁ、暇だし賭けでもしようぜ」 「警察官なんだから賭け事なんてやっちゃダメです〜」 「真面目だなお前。じゃあ勝った方が負けた方の言うこと聞くってことにしようぜ」 「それならいいよ！じゃあ私が勝ったらケーキバイキングに付き合って！」 ずっとずっと行きたいと思っている高級ホテルのケーキバイキング。田舎者の私の憧れ。お値段が高いのと忙しいのとで中々足が向かないのだ。 「ん、じゃあ俺が買ったらコーヒー奢って」 松田くんが休憩室の自販機を指さしながらいう。そのくらいなら問題なしだ。 「っていうかそれくらいならいつでも奢ってあげるのに。いつもご飯代出してくれてるんだし」 「それじゃ賭けの意味がねぇだろ。どうせ俺が勝つんだからいいんだよ」 賭けのやり方はサイコロキャラメルを転がして、奇数が出るか偶数が出るかというシンプルなもの。私が奇数！というと松田くんはじゃあ俺が偶数なといってサイコロを転がした。出た数字は2だった。 「やっぱな。はい、コーヒー買ってきて」 「ちぇ。ブラックでいいんだよね」 「高い方のやつな」 「はいはい」 買ったコーヒーを彼に渡すととても嬉しそうな顔をしていた。次は私が勝つからねと言うとかかってこいよと笑った。 それから私と松田くんの間でこのゲームが流行になった。なぜか松田くんはいつもサイコロキャラメルを持っていた。それどうしてるのって聞くと、近所のスーパーに置いてあんだよと教えてくれた。彼がこれを買っているところを想像したら何だか可愛くて笑ってしまった。 「えー、また負けちゃった」 「ほんと弱ぇな。じゃあ昼飯奢って」 「次こそは勝つ。絶対に勝つ」 「まあ頑張って。これやる」 松田くんは賭けが終わるとそのままキャラメルをくれた。私はこれが好きなのでいつもありがたく頂く。松田くんには貰ってばっかりだ。 今日も賭けに負けてしまった。またご飯奢れって言われるのかなと思っていたら、週末は空いてるのか聞かれて、暇だと答えるとじゃあ時間をくれと言われた。今まで仕事終わりにご飯に行くことはあったけど、昼間に、それもお休みの日に会うなんてことはなかった。動きやすい服と着替えとタオルを用意しておけと言われたけどハイキングにでも行くのだろうか？じゃあお化粧は薄くてもいいかな。服も白い半袖のTシャツにデニムのパンツ、スニーカーとシンプルにまとめた。女の子らしくはないけど動きやすい服と言われたのだからこれでいいのだ。 当日、自分の家の前で待っていると、松田くんが車で迎えに来てくれた。後ろの席に座ろうとしたけど、助手席のドアを開けられたのでそこに座った。なんかちょっと恥ずかしいな。 「それで松田くん、今日はどこにいくの？」 「んー？まだ秘密」 「えー、荷物もこれでいいか不安だし教えてくれてもいいじゃない」 何回聞いてもイイとこだよとしか教えてくれない。着いてからのお楽しみというやつか。仕方がないので諦めて大人しく車に揺られていた。ちらっと右側を盗み見る。運転する姿も本当にかっこいいなあ。手先が器用な松田くんは運転もとても上手だった。しばらく外の景色を眺めてると車がゆっくりと停止した。どうやらここは海沿いの大きな公園のようだ。 「お待たせ、着いたぜ」 「もお～～～～～！！！松田くんのバカ！！！こんなの聞いてない！！！」 「悪かったって。でもそれめちゃくちゃ似合ってる、可愛いぜ」 激怒する私の隣で松田くんがお腹を抱えて笑っている。私は本気で怒っているのだが彼にはそれが伝わっていないようだ。それもそのはず、今の私は愛くるしいくまちゃんの着ぐるみを纏っているのだから。 よくよく話を聞いてみると、松田くんは休日出勤で交通安全のイベントに駆り出されたが、どうしても着ぐるみを着たくないのでそれを私に押し付けた、ということだった。 「言ったら絶対来てくれないと思ったからさ」 「当たり前でしょ！暑い！頼まれたんだから自分でやればよかったじゃない！」 「大の大人がこんなの着れるわけねぇだろ」 「私だって大人ですけど！」 「お前はちっさいし似合ってるからいいんだよ」 遠くからくまさん出番ですよという声が聞こえる。松田くんめ。覚えておけよ。どうせ着ぐるみで中身は見えないんだからずっと変顔しててやる。 子供たちに交通安全の指導をしたり風船を配ったりしてやっとの思いで裏のテントに戻ってこれた。着ぐるみってこんなに暑いんだ。これにいつも入ってる人はほんとに大変だな、お疲れ様です。周りを見回して子供たちがいないことを確認して顔の部分を外す。首から上に風が当たって涼しい。今日の出番はこれでおしまい。全身汗だくだ、早くシャワーを浴びたいな。机にぐったりと突っ伏していると耳の近くにトンっという音が聞こえて顔を上げる。すぐ横に松田くんが立っていた。どうやらお水を持ってきてくれたようだ。 「…ありがと。でもこんなことで許さないんだからね」 「わぁってるよ。とりあえず倒れたらまずいから飲んどけ」 「ほんとに暑かった。松田くんも1度は経験した方がいいよ、全身汗だくだもん。痩せたかも」 「ふーん。じゃあ…」 そん中、下着透けてっかもな 松田くんが着ぐるみの上から私の胸元を指さした。お前今日確か白T着てたろ、と意地悪な顔で笑う。 「なっ…」 見なくても分かる、私いま絶対顔真っ赤だ。こんなことならまだ着ぐるみ被ってればよかった。照れてんの？って楽しそうにからかってくる松田くんを見てたら頭に血が上るのがわかった。悔しかった。デートだとは思ってなかったけれど、お休みの日に松田くんと出かけられるって楽しみにしてたのに。いっつもからかってきて、私だけ恥ずかしい思いをして。いつも私ばっかり。 「松田くんのあほ！すけべ！」 "松田くんなんて嫌い" 口から出た言葉にはっとした。これは嘘だ、違う。私は松田くんのことが大好きで、彼は私の憧れの人だ。慌てて松田くんの顔を見ると、彼もびっくりした顔でこちらを見ていた。 「ま、松田くん…ごめ」 「今日は勝手に連れ出して悪かったよ、ごめん。でもそういうのは冗談だとしても普通に傷つく」 あんま体冷やすなよって言いながらテントから出ていった。なんで、あんな悲しそうな顔するの。 松田くんに酷いこと言っちゃった。どうやって謝ったらいいの。でも私だって怒る権利あると思う。そんなことをぐるぐると考えているといつの間にか30分程経ってしまっていたようだ。そろそろ着替えなきゃと立ち上がったところで、松田くんの親友の萩原くんがテントに入ってきた。 「やっほー！今平気？」 「萩原くん、お疲れ様です。うん、平気だよ」 椅子に座り直すと萩原くんが向かいに座った。 「松田と喧嘩でもしたの？」 「…別に。どうして？」 「あいつ、君に嫌いって言われたって死にそうな顔してたよ」 思わず俯くと彼が言葉を続けた。 「話はだいたい聞いたから。今回は松田が全部悪いよな。でもあんま怒んないでやってよ、あいつは君のことが可愛くて仕方ないんだからさ」 不器用だけど悪いやつじゃないでしょ？と下から目を合わせてくる。松田くんがいい人なのはもちろん知ってる。無言で頷いた。 「んじゃ、それだけ。時間取らせて悪かったね。風邪ひくと大変だから早く着替えてきな」 萩原くんはそこまでいうと、そういえばこれを渡しに来たんだったと手に持っていたものを私にくれた。 「それ、松田が君に渡してこいって」 背中にSTAFFと書かれた青色のジャンパー。裏方の人達はみんなこれを着ていた。 「これ、なんで私に？」 もうイベントは終わったはずだ。着なくてもいいと思うけど。 「ここから海水浴場のシャワー室まで5分位歩くらしいよ。汗かいたから風邪ひかないようにってのと…色々見られたら大変だからって。じゃあ確かに渡したから！またね！」 「あっ、萩原くん！その、ありがとう！」 「うん、松田にも伝えとく」 着ぐるみを脱ぐとTシャツが濡れてて肌に張り付いていた。たぶん萩原くんはこのことを言いたかったんだろう。さっき松田くんにからかわれたことを思い出した。上から青色のジャンパーを羽織る。松田くんの匂いがして酷く安心して涙が出てきた。 あれから1週間以上、松田くんと会っていない。なんだか気まずくて1人でこなせる仕事を貰って会わないようにしていた。2日前からは松田くんが先輩達について県外に研修に出ている。優秀な人だけが連れて行ってもらえるみたいだったけど、私は呼ばれなかった。バディを組んでからこんなに顔を見ないのは初めてだった。今までは毎日会っていたけど、私が彼にくっついて回ってたからなんだなって実感した。 1人の帰り道をとぼとぼと歩く。最近は松田くんのことばかり考えている。長引くとどんどん会いづらくなっちゃうから、彼が研修から帰ってきたらちゃんと謝ろう。このままは嫌だ、仲直りしたい。松田くんから教わりたいことがまだたくさんある。松田くんに話したいことがたくさんある。サイコロの賭けだってまだ勝ったことがない。ケーキバイキングに付き合ってもらうんだから。考えていると少し体が軽くなった気がした。家に着いたら松田くんにメールを入れよう。 家の鍵を開けたタイミングで携帯が光った。ディスプレイを見ると松田くんの名前。届いたメールには"話したいことがあるから家に寄っていいか"と書かれていた。私も話があるのでちょうどよかった。"待ってます"と返信すると"あと10分くらいで着く"とすぐに返ってきた。相変わらずメールを打つのが早いなあ。 メールからきっかり10分後、松田くんは私の家にやってきた。彼は疲れた顔をしていた。あとは、なんかいつもと違う、顔を。 「…おう、久しぶり」 「久しぶりだね、お疲れ様」 「ちょっと上がってもいいか？」 「うん、狭いけどどうぞ」 彼をリビングに通して暖かいコーヒーを入れる。自分の分は牛乳を入れて、松田くんの分はブラックのまま。 「どうぞ、インスタントだけど」 「ん、さんきゅ」 彼の座るソファの隣に座ると、松田くんは両手に持っていたものを順番に渡してきた。 「これ、長野行ってたから土産。やる」 「え、これクッキー？ありがとう、美味しそうだね。どうせなら今一緒に食べようよ、開けてくるか…」 キッチンに行こうとすると腕を掴まれた。松田くんは空いてる方の手にサイコロキャラメルを持っていた。 「な、俺と賭けをしよう」 なんでこのタイミングで。先に話したいことがある。私はこの人にちゃんと謝らなくてはいけない。そんなの後でと言いたかったけれど、松田くんの目があまりに真剣で思わず頷いてしまった。 「う、うん。わかった」 「先選べよ」 「じゃあ偶数で」 松田くんがサイコロを転がす。出た数字は3だった。 「俺の勝ちだな。じゃあ」 アーモンド型の綺麗な目が私を射抜く。 "今から10分間、俺のこと拒まないで" 彼の紡いだ言葉の意味を咀嚼する前に両手を掴まれてしまう。彼の顔が近づいてきて、咄嗟にキスをされると思った。怖くなって目を閉じる。が、しばらく経っても何も起きない。あれ？と思っていると肩が重くなった。目を開けて横を見ると、松田くんが私の肩に顔を埋めていた。彼のくせっ毛がほっぺたに触ってくすぐったい。 「…ただいま」 「へ？あ、うん。長野に行ってたんだもんね。おかえりなさい、お疲れ様」 「寂しかったか？」 「ん？」 「俺は、寂しかったよ、この一週間」 「それは私も。バディ組んでからこんなに会わないことなかったよね」 「俺が研修行ってたのは2日だけだろ。あとはお前が避けてた」 「うん、ごめんね。あの、松田くん、そろそろ手離して。この体制ちょっと辛いから」 「まだ10分経ってないからだめ」 拒否されると思ってるんだろうか。強引なくせに怖がりさんだなあ。 「突き飛ばしたりしないから大丈夫だよ」 松田くんの手の力が弱まる。私は彼の背中に腕を回した。 「…向こうで」 「うん」 「研修先で、ガキを怪我させちまったんだ」 「うん」 「俺が一番近くにいたのに守ってやれなかった。何が警察官だって感じだよな」 ああ、これか、松田くんがいつもと違う顔をしていた理由は。彼は弱っているんだ。いつも自信たっぷりでなんでもそつなくこなす彼がこんな風になってるのを初めて見た。なぜだか胸が苦しくなってたまらなくなった。私がなんとかしてあげなくちゃってなった。彼の頭に手を置いてゆっくり撫でてあげる。 「松田くんのせいじゃないよ」 だから自分のこと責めないで。これが本当に彼の欲しい言葉なのかはわからない。私がしてあげたくなっただけだ。 「お前、わかってんのか」 「俺が。男が。弱ってる時にお前んとこに縋りに来たんだよ。この意味ちゃんとわかってるか」 松田くんの手が私の背中に回って私を抱きしめた。 「俺は好きだよ、お前のこと。すっげえ大事なんだよ」 肩に置かれてる彼の頭がごそごそと動く。顔をぐりぐりと押し付けてるみたいだ。今度は私が話す番かな。 「私も松田くんのこと好きだよ」 「…マジ？」 「嘘つくわけないじゃん。いつもこんな鈍臭い私なんかに優しくしてくれてフォローしてくれて、感謝してるし尊敬してる。松田くんは私の憧れなの」 「え」 「この間は嫌いなんていっちゃってごめんね。でもほんとは松田くんのこと大好きなの。最高のバディって思ってる。今日ここに来た理由だってちゃんと分かってるよ。私たち相棒だもんね。言いたいことは遠慮せずに言い合おうって最初に約束したもんね」 「おい」 「だからね、サイコロ使って命令しなくたって肩ぐらいいつでも貸してあげるし拒絶もしないよ。こんなことくらいでしか返せないけど、いつでも頼って欲しいの」 「…んだよ、それ」 松田くんの腕の力が強くなる。彼に触れてるところが熱い。心臓の音聞こえちゃいそう。 「えっと…間違えたかな？」 「わかんね…すげぇ嬉しいのに複雑」 「ちょ、苦しいって！ギブギブ！死んじゃう！」 「うるせぇ。俺のこと弄んだから仕返し」 やっぱり松田くんの欲しい言葉はあげられなかったみたい。 「ん、わりぃ。もうとっくに10分過ぎてるよな」 「それはいいんだけどほんとに息できないからそろそろ離して…」 「じゃああと30秒だけ…ちょっと寄るだけっつったけどやっぱ泊まってこうかな」 「ええ？別に構わないけど松田くんをおもてなし出来るようなものが揃ってないよ。男の人の服なんて持ってないし…」 「研修からそのまま来たから車ん中に着替えある」 「ベッドもひとつでお布団も持ってないし…う、苦しい…力強いってば！あと夜ご飯も作り置きのものしか出してあげられないよ」 「…手作り？」 「うん…味の保証は出来ないけど」 「食いたい。食わせて」 松田くんは着替えを取ってくると一度外に出ていった。先にお風呂に入ってもらってその間に作り置きの料理を温める。準備が終わったところで松田くんがお風呂から出てきた。 「風呂先にもらったわ、ありがとな」 「いえいえ、ご飯できてるよ〜」 明日の朝と夜に食べようと思って多めに作ってあったのに、彼は全部残さず食べた。やっぱ男の人ってたくさん食べるんだな〜うまいよって言いながら食べてくれる人がいるっていいものだな。 キッチンで洗い物をしていると、松田くんが頬杖をついてこちらを眺めているのが見えた。 「お前、こうやっていつも誰彼構わず家に入れてんのか」 「え？この部屋に人が来たのなんて家族を抜いたら松田くんが初めてだよ。彼氏もいたことないし友達もほとんどいないもん」 突然ガタッって大きい音が鳴ったので慌ててそちらを見ると、松田くんがマグカップを倒したみたいだった。 「え、ちょっと大丈夫！？タオル取ってくるから！」 洗面所にタオルを取りに行ってリビングに戻ると、松田くんがとても変な顔をして突っ立っていた。 「はいこれ。…ねぇ、ほんと大丈夫？」 「…なあ、お前マジで誰とも付き合ったことねぇの？」 「うん…ないけど…ちょっとなんでそんな変な顔するの！また私のこと馬鹿にしてるでしょ！」 「わかったからちょっと待って」 「もう！松田くんだから恥をしのんで打ち明けたのに！酷い！」 「色々とキャパオーバーだからちょっと黙ってくれ…こっち見んな…」 ついには頭を抱えてしゃがみこんでしまった。そこまで大げさにしなくたっていいじゃない！ 私がシャワーを浴びてリビングに戻ると、松田くんは私のベッドで気持ちよさそうに寝ていた。掛け布団の上に倒れていたから上からタオルケットをかけてあげる。髪を乾かしたかったけどドライヤーの音で目が覚めたら可哀想だから今日はいいや。松田くんの可愛い寝顔を少し眺めて、自分はソファーで眠った。 次の日、目が覚めると目の前に不機嫌そうな顔をした松田くんがいた。 「ん…まつ…だくん！？もう起きてたの」 「はよ。お前の寝顔見てた。つかなんでお前がソファで寝てんだよ」 「だってすごく気持ちよさそうに寝てるから起こせなかったんだもん」 「お前が住んでんだから起こして追い出せばよかっただろ。それか一緒に寝ればよかったじゃん。俺寝相悪くねーし」 「そんなことするわけないでしょ！朝からからかわないでよ！」 「…体、痛くねぇのかよ。髪も乾かしてねぇんだろ」 「うん。でも平気。髪濡れたままテレビ見ながらソファで寝ちゃうとかよくあるんだよね〜」 はははと笑っているとおでこに鋭い痛みが走った。 「あいたっ！も〜なにするの！痛いなあ！」 「さっさと起きろよ、早めに出るぞ」 経験がないからよく分からないけど、なんだかカップルみたいだな、とちょっと思った。松田くん本人にはもちろん言ってないけど。 今日は同期会の日。みんな楽しそうに飲んでるけど、私は輪に入れず端の方でちびちびとお酒を舐めていた。研修のあとくらいから松田くんは、他の人より仕事をたくさん割り振られるようになった。優秀な人は大変だなあ。私も手伝うよと言ったけど"今日は同期会だろ、俺のことはいいから楽しんでこいよ"と言ってくれて追い出されてしまった。でも松田くんがいないとあんまり楽しくないな。早く帰りたい。 ぼーっとしていると視界に入ってくるのは男の子達に囲まれて楽しそうにしている早乙女さん。お酒を飲んで赤くなったほっぺたと目元が色っぽい。ほんとに美人さんだよな〜、私が男でも彼女とお近づきになりたいと思う。いや、恐れ多くて無理かな。なんて考えていると、しまった、目が合ってしまった。むっとした顔をした早乙女さんがこちらに近づいてくる。左手にはワイングラスを持っている。赤ワインを飲んでるのか。 「ねえあんた、ほんと何様のつもり？いつもいつも松田くんに付きまとって。迷惑だからやめた方がいいわよ」 そういって手に持っていたグラスをこちらの方に傾ける。あ、これはかけられるパターンかな。シャツは汚れるけど帰るだけだしまあいいや。顔だけ逸らして冷たい感触を待つ。 「こーら、早乙女ちゃん飲みすぎだよ。それやめて水にしときな」 どうやら萩原くんが直前で早乙女さんを止めてくれたようだ。正直ほっとした。 「やっほー！楽しんでる？」 「あ、萩原くん。うん、ぼちぼちかな。さっきは助けてくれてありがとう」 「いいっていいって！さっきの、酔っぱらいの言葉だから真に受けないでね」 「うん。でも早乙女さんの言ってることは正しいよ。早く松田くんから卒業しなきゃね」 松田くんは爆処に配属されたいんだって言ってた。私は地方の警察署とか交番に勤務になると思うしそれでいいと思っている。いつまでも一緒にいられる訳では無いのだ。 「んー、確かにこれは手強そうだね」 「うん、そうだね。卒業はなかなか難しいかも。頑張らなくちゃ」 「そうじゃなくって…君が松田のこと大好きなのは伝わってくるけどさ、それはどういう感情なの？同僚として？バディとして？それともまた別？」 「松田くんのことは人として好きだし尊敬してるよ」 「でもあいつは同じじゃないかもしれないでしょ。君が神格化してる松田くんは神様じゃなくてただの男の子なんだよ」 ちょっとはあいつのこと男って意識してやってね、なんて。松田くんが男の子ってことくらいちゃんとわかってるもん。 「ねえねえ、タバコ吸ってもいい？」 「あ、うん。どうぞどうぞ」 正直言うと煙草は苦手だ。内心うっと思うけど、ここは居酒屋だし勧める。 「あら、もしかして苦手だった？ごめんね」 「苦手っていうより慣れてないんだよね、家族にも吸ってる人がいないし」 「え、じゃあ松田はどうしてんの？」 「松田くん？最初の方に何回か吸ってるところは見た事あるけど、それからは見てないかな」 萩原くんはびっくりした顔をしたあとに、へぇ〜とかふ〜んとか言いながらニヤニヤとこちらを見てきた。 「な、なに」 「いや？愛されてるな〜って。あいつは元々ヘビースモーカーだよ。1日に1箱は吸ってるからね」 「え、そうなの？煙草の匂いも気になったことないけど」 「はは、いいこと聞いちゃったな。次会った時にからかってやろっと」 「どういうこと？」 「いいからいいから。あっ、ついでにもう1つ教えてよ！君の好きなタイプ！」 「ええ…好きなタイプとかはよくわからないけど。私ね、眼鏡フェチなの…黒縁眼鏡をかけてる人がすごくかっこよく見えちゃって」 「ふぅん、じゃあ俺は？似合う？」 向かいにいた男の子から眼鏡を奪った萩原くんがこちらを見つめてくる。とってもかっこいい。似合っている。 「うん！完璧！120点だよ萩原くん！」 「あはは、ありがとう」 帰りたいなって思ってた同期会だったけど、萩原くんのおかげで楽しくなった。松田くんのお友達はいい人だなあ。 「今日飲みに行こうぜ、俺は昨日の同期会行けなかったし」 次の日。松田くんからお誘いがあって、いつもの居酒屋に集合になった。先に仕事を終わらせた彼が席取っとくからと言ってくれたので少し遅れて到着。遅れてごめんねと声をかけようとした所で足が動かなくなってしまった。 「よっ、思ったより早かったじゃん」 「ま、ま、松田くん、それ…」 「ああ、これか？萩原から聞いた。お前こういうのが好きなんだろ？」 眼鏡をかけた松田くんが座っていた。色気ダダ漏れでかっこよすぎる…これは反則だよ… 「あ、あんまりこっち見ないで…」 「んでだよ、お前のために掛けてやってんのに。萩原のは目ぇキラキラさせて見てたんだろ。俺のも採点してみて」 「んてん…」 「んー？」 「せんてん…」 「何点満点中？」 「100点満点中…」 「やり、萩原より全然高ぇじゃん」 松田くんはもっと見てもいーよって言ってくれたけど、恥ずかしくてとても見られなかった。 それから松田くんは職場でも時々眼鏡をかけるようになった。女の子のファンがまた増えてた。私はただでさえ遅い仕事がもっと捗らなくなった。 金曜の夜、1週間分の疲れを癒すべく松田くんといつもの居酒屋に来ていた。 「なぁ、明日か明後日空いてる？」 「うん、特に予定ないよ」 「じゃあ2人で出かけよ。俺車出すから」 「う、また着ぐるみ着せる気！？」 「…ちげーよ。前に話したガキの見舞いに行きてぇんだ。だからついてきて欲しい」 「なあんだ、そういうことならお安い御用だよ！」 お供致します、と続けると松田くんは急に真面目な顔になった。 「デートだぞ、これは」 「へ？」 「休みに2人で出かけんだからデートだろ。お前におしゃれしてきて欲しいし、助手席で甲斐甲斐しく世話焼いて欲しいんだよ。両手がふさがってるからあーんとかして欲しいんだよ。そういう意味で誘ってる」 また、これだ。最近松田くんは、すごく甘い。元々優しかったけど、かけられる視線や声が前にも増して優しくなった。髪や肩に触れられることが多くなった。現に今も私の左手は松田くんの右手に捕まっている。恋人繋ぎみたいに指を絡めて、親指で手の甲をすりすりと撫でられてくすぐったい。甘くて、苦しい。顔が熱い。 「なぁ、俺とデート、してくれよ」 「う、うん…」 「じゃあこれ」 松田くんが唐揚げを指さした。 「え、唐揚げ？」 「明日の練習。これ俺に食べさせてみて」 「ええ…恥ずかしいよ…」 「口開けて待ってんのも恥じぃんだよ、早くしろって」 「わ、わかったよ…はい」 「ちゃんと声出して」 「あ、あーん…」 「ん、さんきゅ、なんかいつもよりうめぇな」 明日もよろしくなんて言ってくる。周りの視線が生暖かい気がする…もう、ほんと恥ずかしいよ… 次の日、約束の時間10分前に家を出ると、既に松田くんの車が停まっていた。 「お待たせしちゃってごめんね。来てたなら教えてくれればよかったのに」 「こっちが早く来ただけだからいーんだよ。髪、巻いてきたのな」 昨日の別れ際に、明日はおしゃれしてきてと念を押されてしまったのだ。パンツスタイルが多いから、ワンピースなんて本当に久々に着た。 「髪も服も似合ってる、すっげぇ可愛いよ」 「あ、ありがとう…松田くんもかっこいいよ。サングラスなんてかけてるとこ初めて見た」 「お、グラサンでもいーんだ。眼鏡が好きなんだろお前」 「うん。でも松田くんにはサングラスの方が似合うね。これからは眼鏡とサングラスフェチになっちゃうかも」 「ふーん」 サングラスを少しずらした彼と目が合う。 「悪い気はしねぇな」 デパートでお見舞い用のお菓子を買ってから高速に入ること数時間。お昼過ぎに長野に入った。てっきり病院に行くのかと思っていたけど、男の子はもう退院したんだそう。今日は研修所の近くの公園で待ち合わせらしい。 「まつだ！」 公園につくと可愛らしい男の子とお母さんが遠くの方に見えた。男の子がこちらに駆け寄ってくる。どうやら怪我は治っているみたいだ。 「よぉ、治ったばっかなんだからあんまはしゃぐなよ。あと兄ちゃんくらいつけろや」 男の子は松田くんにじゃれついていた。懐かれてるなんてちょっと意外だなと思ってしまう。後ろから小走りで追いかけてきたお母さんにご挨拶とお菓子を渡した。初めまして松田の同僚です、あらあらはるばるどうもなんて世間話をしていると、いつの間にか男の子が私の服を引っ張って 「なあなあ、ねーちゃんはまつだのかのじょ？」 と聞いてきた。ああ、子供らしい率直な質問ねと思いながら返事に言葉を詰まらせる。松田くんと私は同僚で、バディで、でもデートをする仲、なんだよね。デートする同僚ってなんだろう。 「んー、ちょっと違う」 私が返事をしないので松田くんが代わりに答えた。ちょっと違うってなんだ。 「ふーん。じゃあおくさんってこと？」 おくさんって！奥さんって！なんでそういう発想になるのよ！なぜか無性に恥ずかしくなって下を向く。と、男の子と目が合ってしまう。 「ねーちゃんどうしたの？かおまっかだよ？」 「おい、お前がこの顔みてんじゃねえ」 後ろからお腹に腕が回ってくる。背中の松田くんが男の子と言い合いをする。 「なんでだよ！なんでおれはみたらいけないんだ！」 「ガキにははえーんだよ！」 「ちょっと松田くん！子供相手に意地はらないでよ！あと離して！」 「んだよ、あいつの味方すんの？」 「いいから離して！」 「はいはい、わーったよ」 "でも、いいな、奥さん。なって欲しいかも" 松田くんは私だけに聞こえる声で囁いた。 松田くんと男の子は遠くの方でキャッチボールをしている。頬の火照りがおさまらない私は、木陰のベンチにお母さんと一緒に座ってお話していた。 「今日は遠くから来てくれて本当にありがとうございました」 「とんでもない！あの…松田くん、今回の件で落ち込んでたし本当に気にしてました。なので今すごく安心してると思います」 「そうですか。彼ってとても真面目な子よね。そもそもうちの子の不注意のせいだったんですよ。でも頻繁に連絡をくれて。うちの子も今日松田さんにお会い出来るの楽しみにしてたんです」 「それにしても。随分と仲がいいのね、あなた達。本当は恋人なんでしょう？」 「本当に違うんですよ！ただの、同僚なんです」 「あら、本当に？でもそれじゃあとても焦れったいわね」 「焦れったい、ですか…」 「ええ。だって二人とも顔にお互いのこと大好きですって書いてあるんですもの。それに、」 "今のあなた、恋する女の子の顔をしているわ" こい、恋か。え、やだ私って松田くんに恋してるの！？急に今までの記憶が駆け巡ってきた。ずっとこの気持ちは憧れなんだって思ってた。 でもこれが恋だったとしたら、もう随分と前から松田くんのこと好きだったんだ…自覚したら恥ずかしくなってきた。こんなの小学生だってわかることじゃない。 「わ、わ、私、松田くんに恋してるみたいです…」 キャッチボールをしている松田くんをもう一度眺める。彼の言った"奥さん"って言葉が頭に残っていて、松田くんがお父さんになったらあんな感じなのかな、と想像してしまった。 あのあと4人で食事をした。松田くんがそろそろ帰るかと言ったので名残惜しいけど2人にお別れを言う。 「最後に話したいから先に車で待っといて」 鍵を受け取って助手席に座ると急に緊張してきた。さっきまでは4人でいたからよかったけど、2人で何話したらいいの。自覚がなかった数時間前までとは違うのだ。好きな男の人の車の助手席だなんてそわそわしてしまう。 「わりぃ、待たせた」 「ううん、むしろもういいの？」 「ちゃんと挨拶してきたからへーき。…なぁ、この近くに景色いいとこがあんだって。行ってみねぇ？」 「うん、そうだね。行ってみたいかも」 目的地に着くまでは、あの子可愛かったねとか元気そうでよかったねとか話をした。 「松田くんって子供好きだったんだね」 「ん？別に嫌いじゃねえよ。あいつはうるせーし生意気だけどな」 「ふふ。でもちょっと意外だったかも。今日は松田くんの新しい一面を知っちゃったな〜」 「…お前こそ子供得意なんだな。あいつだいぶ懐いてたぞ。また連れてこいって言われた」 「そうなんだ、また来れるといいね」 「おう、また2人で来ようぜ」 「わぁ、綺麗！松田くん！景色すっごい綺麗だよ！」 松田くんが連れてきてくれた丘は見晴らしが良くてとても綺麗だった。近くのベンチに2人で座る。周りには誰もいない。ふたりきりだ。 「なぁ、久々にこれやるか」 松田くんはサイコロキャラメルを持っていた。 「う、うん。いいよ。何賭けるの？」 「お前は？」 「え、私はケーキバイキングだよ、相変わらず」 「他にしたいことねぇのかよ」 「だってまだ一回も勝ったことないもん！これが叶ってから次のお願いにするの！」 「そうかよ。…じゃあ俺が勝ったら付き合って」 「え、つ、つ、つ…！？」 「あー、お前のことだから何処に？とか言うんだろ。言い方変えるわ。俺の彼女になって」 どうやってるのかは分からないけど、松田くんがズルをしてるのは確実だ。だって半分の確率で勝てるはずの勝負に今まで1度も勝ったことがないのだから。この勝負を受けるってことは松田くんの告白を受けるってことと一緒で… 考えていると松田くんが私の手を握る。 「なぁ、聞いてんの？」 "「俺に負けてよ」" 私は偶数で松田くんは奇数にかけた。サイコロを転がすと出た数字は5。今回も彼の勝ちだ。 「結果わかってて勝負受けたんだろ？」 「うん、今まで勝てたことないからね。いつもどうやってるの？」 「んなことより、今からお前は俺の彼女で俺はお前の彼氏だよ。俺はお前のもんでお前は俺のもん。わかってるか？」 「…うん、うん。ちゃんとわかってるよ」 「好きだ、お前のこと。愛してる。いつからかとかはわかんねぇんだ、いつの間にか好きになってた。お前のこと守りたいし、弱った時は助けて欲しい」 「うん、私も松田くんのこと好き。ちゃんと男の人として大好きだよ。ずっと前から好きだったよ。きっと私の方が好きって気持ち大きいよ」 「たぶんお前のこともう二度と離してやれないと思う。逃げるなら今だぞ。ほんとにいいのか？後悔しない？」 「うん、うん、絶対後悔しないよ」 二人でぎゅって抱き合って話をした。こんな幸せ初めてで泣いてしまった。彼の綺麗な指が涙を拭ってくれた。この日、私は松田くんの彼女になった。 「…落ち着いたか？」 「うん、ごめんね。ありがとう」 「ん」 松田くんと離れると手持ち無沙汰になってしまった。なんだか気恥ずかしくてサイコロキャラメルを手に取って中身を口の中に入れる。よく知った甘い味に安心した。 「あ、ずりぃじゃん。俺にも食わせて」 松田くんが私の手を引いた。目の前に大好きな彼のかっこいい顔。思わず目を閉じると唇に柔らかいものがあたった。息を吸おうと口を開けると、中に舌を入れてキャラメルを奪われる。 「んっ…やっぱ甘ぇな、これ」 初めてのキスは甘い、甘い味がした。 [newpage] 「1年間の研修とかほんとだりいよな〜、すぐ現場出たいのに」 萩原と話しながら研修部屋に向かう。警察学校を卒業してこの警察署に配属が決まった。俺と萩原以外はそれぞれ別々の場所に散り散りになってしまったからどうしてんのか知らねぇけど。まああいつらのことだし上手くやってんだろ。 研修部屋に入るともうほとんどのやつが集まっているようだった。 「なあなあ、あの子めちゃくちゃ可愛くない？お近づきになりたいな〜」 「あっそ」 「んだよ松田、どうせなら美人とバディ組みたくないのかよ」 「別になんでもいいわ。つか男がいい。気使わなくていいし」 「まあそれもそうだけどさ」 萩原が指さした先を見ると女がこちらを向いて手を振ってきた。 「あ、こっちみた。笑った顔もすっごい可愛いな〜」 嬉しそうに手を振り返している萩原。なるほど、こいつが好きそうな女だ。軽く会釈を返して前に向き直る。ぼーっとしてるといつの間にか話が始まっていて、くじ引きやるぞ〜と周りがざわついていた。適当に引いた札は青色だった。他の奴らはお互いに何色だった〜？と浮き足立って話していたが、特に興味もないので部屋の端まで行き壁に寄り掛かってその様子を眺める。すると「ねえねえ、その札、私と交換して欲しいなあ。ペアになりたい人がいるの」と頼んでいるあの女が見えた。頼んでいる相手は俺と同じ色の札を持っていた。 なんだ、あの女。ここを合コンかなんかと間違えてんのか。もしかしたら萩原だったら喜ぶかもしれないが、俺は正直うぜぇなと思った。つか仮にも警察官になるならくだらねえ事でインチキしてんなよ、とも。 「な、札交換してくんね？」 「え？別にいいけどなんでだよ」 「これ、あそこの美人と同じ色の札。俺興味ねえからお前にやるわ」 「え！？いいのかよ！心の友よ！ありがとう！」 「ん、別にいいって」 その辺にいたやつに適当に話しかけて札を交換してもらった。受け取ったのは黒色の札。あの女と一緒じゃなきゃ別に誰でもいい。 しばらくすると、バディ同士固まって部屋の中がだいぶ落ち着いてきた。そろそろ俺も行くかと部屋を見回すと、同じ色の札を持ってキョロキョロと相方を探している小さい女が目に入る。 「おい、あんたも黒？俺も。1年間よろしく」 イベントの売り子を終えてテントに戻ると、松田が机に突っ伏していた。今日はめちゃくちゃ機嫌よかったのにどうした。 「お疲れ〜って何やってんだよ松田」 「……………」 「なんだよあの子と喧嘩でもした？」 「…ほっとけ」 「きゃー！松田くんつれない！」 「…気色悪ぃ声出してんじゃねぇ」 ありゃりゃ。これは相当弱ってるみたいだ。 「悪かったって〜。で？何があった？」 松田から話を聞いて呆れた。それじゃ… 「お前ただの誘拐セクハラ野郎じゃん。しかも労働法にも引っかかってるぞたぶん。俺だったらぶん殴ってるね」 「あいつが俺のこと嫌いだって」 「それで落ち込んでんの？ガキかよお前」 「…うるせー」 話し終わると松田が自分の着ていたジャンパーを脱いで俺に渡して来た。 「これ、あいつに届けてやって」 「は？なんで？今日暑いし別にいらないじゃん」 「…あいつ今日白T着てんだよ。絶対中透けてる」 「あ〜…はいはい。渡してくればいいわけね。でも別にお前が脱がなくたって予備いっぱいあるけど」 「…洗いもんが増えるだけだろ。いいから早くいけよ！ほら！」 「はいはい、松田くんは人使い荒いね〜」 研修中に事故に巻き込まれて近くにいたガキを怪我させた。守ってやれなかったことが悔しくて、無性に彼女に会いたくなった。あのイベントの日から1週間以上会えていない。避けられてるのは明白だった。あの時は冗談かと思ったけど、俺のこと嫌いってのも案外本気だったのかもな。 帰り道、車であいつの家の近くを通る。会いてぇな。気づいたらメールを送ってた。すぐに待ってますと返ってきて、3分後にはアパートの前に着いたけど10分経つまで待つ。何を話そう。聞いて欲しいことと謝らなければいけないことが色々ある。さっき来たメールは絵文字も顔文字も無かった。あいつ、まだ怒ってんのか。 10分経ってので車から降りて部屋のインターホンを押す。すぐに出てきてくれた彼女に上がっていいかと聞くとすんなりリビングに通される。物はあまりなく片付いている。部屋の匂いとかインテリアの色合いが女の部屋って感じだ。 2人分のコーヒーを入れた彼女が俺の隣に座る。夜に男が家に押しかけてるってのに何にも警戒しないで同じソファに座るか、普通。こんなの襲ってくださいって言ってるようなもんだろ。俺のことを男として見ていないのか、それとも頼まれれば誰でも家にあげるのか。どっちにしろ気に食わねぇ。サイコロの勝負を持ちかけて彼女を従わせる。彼女は気づいてるのか知らねぇが、サイコロはいつも俺が投げてるから狙った数字で止めるなんてのは簡単な話だった。 "今から10分間、俺のこと拒まないで" そう言って両手を掴んだ。これじゃ拒絶したくても出来ないよな。こいつの細腕で俺に抵抗できるはずがない。言葉で従わせて、自由を奪って。自分でも女々しいとわかっていても、目の前の女に否定されたくない。全てを受け入れてほしい。さっき感じた彼女に対するほの暗い感情だとか、久々に顔を見れた嬉しさだとか、彼女の部屋で彼女を好きにできるという事実に対する興奮だとか。色んなもんが入り交じってぐちゃぐちゃしてる。本当はすぐに唇を奪って服を剥ぎ取って、目の前の女の全てを暴いてしまおうと思っていた。でも唇を近づけた時に怯えた表情をしている彼女が目に入って、それ以上出来なくなってしまった。肩にもたれかかって話をする。ただいまというとおかえりと返ってきた。寂しかったといえば私もと言ってくれた。弱い自分をさらけ出したら頭を撫でてくれた。胸が苦しくなった。こんなこと初めてだった。彼女のことを愛しいと思った。大事にしたいしされたいと思った。 思わず出た告白の言葉。言うつもりなんてなかったのに。突然こんなこと言われて彼女は困るだろう。分かっているのに何か返して欲しくて肩に埋めた顔を押し付けて催促する。 "好き、大好き、尊敬してる" 今まで受けた中で一番熱烈な告白だった。でも俺とは違う。この女は俺のことを男として見ていない。それがわかったのにどうしよもなく満たされた。抱き寄せた体が熱い。心臓の音がうるさい。なんだこれは。抱き合って欲をぶつけてもいないのにこんなに満たされるものなのか。帰りたくなくて無理を言う。風呂に入って彼女と同じ匂いになる。手作りの飯を食べる。彼女の初めての男になれる可能性を知る。なんだ、なんなんだ。心臓が壊れてそのまま死んじまうかと思った。立っていられなくてその場にしゃがみこむ。こんな幸せ、俺は知らない。彼女が風呂に入る間に頭を冷やそうと思ってベットに突っ伏した。彼女の匂いがして酷く安心した。 気づいたら朝になっていた。あのまま寝ちまったのか。本当は風呂上がりの姿を見たかったし、髪も俺が乾かしてやろうと思っていた。寝落ちるなんて俺はアホか。初めての場所だったのに信じられないくらい眠れた。彼女に会えなかった一週間は不安でろくに寝ることが出来なかった。久々にすっきりとした目覚めだ。リビングに行くと彼女がソファで寝ていた。んとに無防備な女だな。口を開けてよだれを垂らしながら寝ている顔は不細工なのに可愛いと思った。さて。まずはこの無防備女に男を意識させるところからだな。 「なあ、お前最近煙草吸ってねえの？」 「おー、まあな。あんま興味ねぇ」 「ほぉ〜、あの松田くんが禁煙ね〜愛の力って偉大だな〜」 「萩原も禁煙してみれば」 「俺は絶対無理！だって口寂しいじゃん。代わりになんか食ったりしてんの？」 「サイコロキャラメル」 「は？」 「知らねのかよ、結構うまいぞ」 「いや、知ってるけどさ。キャラじゃ無さすぎでしょ。笑えばいいの？突っ込めばいいの？」 「いつも持ってなきゃなんねぇんだよ」 「なんで？」 「なんでも」 「あの子のため？」 「……………」 「なあ松田くん乙女過ぎない？」 「うるせー」 「あ、そういえばあの子の好みのタイプ聞いたわ」 「はあ？なんでそんな話してんだよ」 「昨日ずっと隣陣取ってたから」 「……………」 「んな怒んなって〜嫉妬深い男はモテないぞ？で、好みだけど。黒縁眼鏡が好きなんだってよ」 「はあ？んだよそれ」 「よくわかんないけど掛けてるとかっこよく見えちゃうらしい。ちなみに俺は120点だって！」 「だからなんでお前の方が俺より先に見せてんだよ！」 「今日は時間作ってもらってありがとうございました」 「こちらこそ来てくれてありがとうね。彼女とのデートのついでだったんでしょうけど」 「…あんま意地悪言わんでくださいよ」 「うそうそ冗談よ。あの子もとっても喜んでたわ、ありがとうね」 「…今回のこと、本当にすみませんでした。あいつが元気そうで安心しました」 「もう、あの子の不注意だったって言ってるでしょ。本当に気にしないで。…それにしても、随分と初心な女の子を好きになっちゃったのね」 「…そうっすね」 「この近くにね、綺麗な景色が見える丘があるのよ。この辺じゃ恋人の聖地って言われてるの。告白が必ず成功するって噂なのよ。帰りに寄ってみたら？」 「へー、そんなとこあんだ」 「ねえ、あなた達ってなんだか見てて焦れったいわ。でも彼女を見てて確信した。告白、絶対上手くいくわよ」 「……………」 「松田さん、あなたってとても優しい人よ。きっと立派な警察官なるわね。あと素敵な彼氏にも。頑張ってね！」 「…ありがとうございます」 [newpage] 松田くんと恋人同士になったその日。家に帰ってくる頃には外は暗くなっていた。車の外の景色が見慣れたものになって帰ってきたんだなと安心する。 「まだ8時前か。明日も休みだしまだいれんだろ。…俺んち寄ってくか？」 「松田くんの家！？え、えーっと…」 「別に無理にとは言ってねーけど」 「無理じゃない！お、お邪魔します！」 「おう。じゃあ向かうわ」 男の人の部屋なんて初めて入った。松田くんの部屋はモノクロのシンプルな家具で纏められたおしゃれな部屋だった。なんか松田くんらしいな。あとモテそうな部屋。 「突っ立ってないで適当に座れよ。何飲む？酒でも飲むか？」 緊張してるしお酒もいいかも。ちょっと酔ってるくらいじゃないと話も出来ないもん。 「うん、貰おうかな。ありがとう」 「ん。じゃあ待ってて」 待っている間に部屋を見渡すと、モノクロな部屋に似合わない赤色が目に入った。あれ、サイコロキャラメルだ。結構な数置いてある。前に近くのスーパーに置いてあるんだって言ってたっけ。 「お待たせ…あー、見つかっちまったか」 「ずいぶん買い貯めてあるんだね」 「癖になって見かける度買っちまうんだよな。これからはお前も一緒に消費してよ」 「カンパイ」 松田くんは缶ビール、私は彼が作ってくれたカクテル。甘くてとっても飲みやすい。美味しいお酒にほくほくとしていると、正面から尖った視線を感じた。 「いいんだな」 「うん？このカクテル飲みやすくて美味しいよ？」 はぁ、とため息をついてビールを煽る松田くん。どうしたんだろう。 「あーあ。酒飲んじまったからもうお前のこと送ってやれないよ。どうすんの、今日？」 「なっ！？」 「あとそれ。そういうのは男が女を酔わせようとして飲ませる酒だぞ。知ってたか？」 「…タクシーで帰るから平気だもん」 「えー、帰っちゃうのかよ。泊まってけば？」 「え！？だ、ダメだよ！だって着替えもな」 「服なんて俺の着ればいいじゃん。明日も予定ないんだろ。酒が抜けたら家まで送ってやるからさ」 「う、うん。え、じゃあ泊まってもいいのかな…？」 「…お前、そういう無防備なとこ直せよ、マジで。俺じゃなかったら今頃押し倒されてんぞ」 「…松田くんが意地悪ばっかいう」 「意地悪とかじゃなくて心配してんだろ。もう俺のもんなんだから他のやつに気ぃ許すなよ。なんかあったらお前のこと閉じ込めて外に出れなくすっかも」 「うー…」 「んだよ拗ねてんのか。…なあ、嫌なこと絶対しないから今日泊まってってよ。朝までお前といたい」 「………」 「お願い」 そんな可愛い顔するのずるい。いやって言えないもん。うんって頷くと松田くんが嬉しそうに笑った。 「ということで、松田くんとお付き合いさせて頂くことになりました…」 「はは、結婚の挨拶みたい。うん、おめでと」 「こいつが萩原にはちゃんと報告しときたいって聞かなかったんだよ」 「律儀だね〜。というか、今更って感じだから驚きもしないけどさ。むしろ時間かかりすぎてびっくりしてる(笑)」 「うるせー」 「萩原くんには色々助けてもらったから、ありがとう。あとこれからも仲良くして欲しいなって思ってます」 「うんっ、しよしよっ！今度松田に内緒で二人で飲みにいこーよ、高校の時の話とか聞かせてあげる」 「ま、松田くんの高校時代！？…興味あります…」 「おい、俺の女誘ってんじゃねーよ。あとお前もひょいひょいついて行こうとしてんじゃねー」 「松田くんの…高校時代…」 「松田くん！ケーキが！光ってるよ！キラキラしてるよ！」 「わーったからちょっと落ち着け」 ずっと行きたかったホテルのケーキバイキングに連れてきてもらった。ちなみに賭けには勝ってない。 「これも美味しい！幸せ…」 もう3回もおかわりに立ってしまった。どうせなら全種類制覇したいな。 「よくこんな甘ぇもん食い続けてられんな」 松田くんは最初にちょこっとケーキを食べて、そのあとはコーヒーだけ飲んでいる。 「松田くんはもういいの？せっかくなんだからいっぱい食べないともったいないじゃん」 「俺はもういいわ、あんま食べるとこのあとキツいかもしれねぇし」 そう言って胸元のポケットからカードを取り出した。カード。カード、キー？ 「上に部屋取ってある」 「なっ！？」 私はフォークを床に落とした。ウェイターさんが直ぐに新しいものを持ってきてくれた。松田くんの爆弾発言のせいでケーキの味が分からなくなってしまった。

たいして賭けてません。タイトル詐欺かもしれません。あと色々詰め込みすぎてあざとくなってしまいました。<br /><br />降谷さんはすぐ病ませられるのに、松田くんだと少女漫画みたいな展開になっちゃうのなんでだろ。甘酸っぱすぎて書いてていたたまれなくなってしまいました。<br /><br />コナンには特に推しはいなくて、みんなかっこよくて可愛くて大好きだなって感じなんですが、彼氏にするなら松田くんがいいのではないかなと思います。というより、松田くんの「ん？」とか「んー？」とかの彼氏みがとても推せます。きっと皆様も同じ考えですよね。<br /><br />サイコロキャラメル、最近見かけないなと思い調べてみたら生産中止して今は北海道でだけ販売してるそうです。久々に食べたいです。あとサイコロの数字に意味はありません。意味を持たせたかったのですが出来ませんでした。<br /><br />作中に出てくるのはガラケーのつもりで書いていますが、久々すぎてガラケーの描写が難しかったです。唐突にスマホ感が出てたらすみません。教えてください。<br /><br />末永く爆発しろという感じのお話です。長めに書けて満足しています。というわけで松田くん夢です。お納めください。

松田くんと賭けをする話

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村雨「提督…私のこと、エッチな目で見てくれてるんだ…」ﾌﾌﾌﾌ 時雨「おかしいな…提督は僕に恋してるはずなのに…」ﾊｲﾗｲﾄｵﾌ 加賀「バカ言わないで。提督が一目惚れしたのは私です」ﾊｲﾗｲﾄｵﾌ 蒼龍「提督は私とイチャイチャしたいんだもん…」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ 翔鶴「……でも、最後に正妻になるのは私よ………」ﾊｲﾗｲﾄｵﾌ 鳳翔「ふふふ…夢を見るのは自由ですから…」ﾌﾌﾌﾌﾌﾌﾌﾌﾌﾌﾌ 弥生「司令官は弥生との将来を真剣に考えてくれるから…」＜〇＞＜〇＞ 朧「提督、露天風呂で私と裸のお付き合い、してくれますよね…？」ﾊﾅﾁﾞ 雷「ねえ司令官…ダメになっちゃった私を、見捨てないわよね…？」ﾊｲﾗｲﾄｵﾌ 天城「提督…早く私をメチャクチャに犯して下さい…」ﾊｱﾊｱﾊｱﾊｱ 鬼怒「提督は友達だから…鬼怒の身体、好きなだけ触っても良いよ…」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ 能代「私の胸を揉みしだきたいんですよね…？嫌がる演技もしてあげます…」 吹雪「誰よりも頑張ります…司令官を１番気持ちよくできるように…」 満潮「好き好き好き好き愛してる愛してる愛してる抱いて抱いて抱いて抱いて」 夕立「我慢は毒っぽい…溜まってるモノ、私が全部受け止めてあげる…」ﾍﾟﾛﾘ 山城「でゅふふ、私と姉さまで提督を、ぶひゅる、ふひ、いひひひひ！」ｼﾞｭﾙﾘ 【一番強くオーラを感じた艦娘は？】 提督「どういう意味だ？スピリチュアル的な？」 友「違います…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「じゃあアレか？生で芸能人に遭った時に感じるっていうアレか？」 友「そうですね…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「まあよく分からんけど…もう一番気迫を感じる娘でいいか？」 友「はい…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 天龍「オーラ…ふふ…カッコいい…」 清霜「武蔵さんみたいな人のことかな…私も早く戦艦のオーラを…」ﾑﾑﾑ 雪風「私はきっと幸運のオーラが出てると思います！だから結婚して下さい！」ﾊｲ! 荒潮「あらぁ～～、じゃあ、私は勝利のオーラねぇ～～！早く捕まえてぇ～～～！」ｳﾌﾌ 天津風「今日も良い風ね…私は風のオーラを持ってるのかしら？って何言ってるの私…」 ジャービス「じゃあ私は！もうゼッタイ！darling好き好きオーラね！」happy! 文月「むむむ！文月だって司令官大好きオーラ持ってるよ～！」ﾌﾐﾌﾐ! 初霜「私…今まで我慢してきたけど…提督ラブチュッチュオーラを持ってるんです…」ﾓﾌ… 高雄「私は提督だっこオッパイぱふぱふオーラ、と言って差し上げますわ！」ﾌﾞﾙﾝ 木曾「ふっ…………」ｳﾃﾞｸﾐ 白雪「私は司令官お慕い純真清楚オーラを持っています。じゅるり」 リットリオ「」ｸﾀｧ……… 妙高（あああ！！私にマゾ豚調教人権蹂躙オーラを流し込んで下さいい！！）ﾋﾞｸﾝﾋﾞｸﾝ 提督「これは少し悩むが…不知火かな…」 不知火「ッッッッッッッッッッッッ！！！！やったッッ！やったわッッッッ！！！」ｸﾞｯ! 陽炎「やるじゃない…まあ納得よね…」 不知火「ッッッし！！！ッッッッしゃ！！！ッッッッッッしゃオラ！！！！！！！」ｸﾞｯ!ｸﾞｯ! 水無月「テンション高…！」 不知火「～～～～～～～～～～～～～～～ッッッッッッッッッ！！！！！！！！！」ｽﾞｻﾞｰｰ!! アイオワ「あれはPlatoonのポーズじゃない。完成度高いわね」 不知火「ッッッ！！！ッッッッ！！！ッッッッ！！！ッッッッ！！！ッッッ！！！」ﾊﾟﾝ!ﾊﾟﾝ! 長良「あ、あれは引っ越しおばさんのとっとと引っ越しムーブ！！」 不知火「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ！！！！！！！！！！！！！」ﾋﾞｼｰｰ!! リシュリュー「あら、RodinのLe Penseurじゃない。そっくりだわ」ﾌﾑ 不知火「ッ…………………………………ッ……………………………………………」ｼｭﾊﾞ!ｼｭﾊﾞ! 熊野「う、ウシュトラーサナからのエカ・パダ・カウンディニャーサナ１ですの！？」 不知火「……………………………………………………………………………………」ｸﾘｯｸﾘｯｸﾘｯ 龍驤「ちょ、乳首ドリルすな！ドリルすな！すな！すな！すな！…って誰かとめてぇ！！」 不知火「ッッッッッッッ！！！！！！ッッッッッッッッッッッ！！！！！！！」ﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁ 夕張「う、嘘！！レッドアリーマーを初見で瞬殺するなんて！！！！！？？？？」 不知火「ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！ッ！」ﾎﾞｯ!ﾎﾞｯ!ﾎﾞｯ! 長門「ふむ…感謝の正拳突きか…！胸が熱いな…！！」 友「理由は何でしょうか…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「まずは、眼光かな」 友「と、おっしゃいますと…？」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「そのまんまだ。目力がスゴイんだよ。気迫がギンギン伝わってくる」 友「それはどういった気迫でしょうか…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「一言でいうと、忠誠かな。何でもしまっせ、誰でも殺りまっせ、みたいな」 友「慕われているという事ですね…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「やっぱそうなんかな…。とにかく気合入ってるから…」 不知火「はいッッッッッ！！！気付いて下さり光栄ですッッッッッッ！！！！！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ 朝潮「ぐうっ！そんなっっ！！私だって身も心も司令官に捧げているのにっっっ！！！」ｸﾞﾗﾘ あきつ丸「心中お察しするであります…」ﾎﾟﾝ 択捉「………っっ！！う…………っっ！！えう………っっ！！しれい………っっ！！」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ 松風「大丈夫さ…君の想いだってちゃんと分かってくれているさ…」ﾎﾟﾝ 比叡「私も！気合！！入れて！！！…………るんだけど、あれ…？あれれ………？？？」 五月雨「比叡さん……。元気出してください！今お茶淹れてきますね！！」 友「それはもうアレですよ…完全にホの字ですよ…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「そ、そうなんかな…？」 不知火「はいッッッ！！お望みとあらばッどのような性癖にもお答えいたしますッッッ！！」 朝潮「わ、私だって！司令官のいかなる欲望も受け止め満たす覚悟ですっっ！！！」ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ！ 択捉「うう………っ！しれい………っ！私も………っ！私も………っ！！！！」 比叡「あれ……………？あれ………………？？」 友「ケツ触らせろって命令して下さい…自分から押し付ける勢いで従いますよ…」ﾍｯｸｼｸｼｸ… 提督「んなアホな！！！そんなことあらへんやろ！！！！っていうかセクハラやんけ！！！」 友「じゃあ今日も可愛いな、お前みたいな嫁が欲しいよって言ってみて下さい…」ﾍｯｸｼｸｼ 提督「う、う～～～～ん……。まあケツ触らせろよりはマシかなあ…」 不知火「ッしゃッッッ！結婚確実ッッッ！調査終了ッッッ！！妊娠秒読みッッッ！！」 朝潮「あがががががが！！！！グギギギギギギ！！！！うぐぐぐぐぐ！！！！」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀﾊﾞﾀﾊﾞﾀ 択捉「もうダメ………取られる前に……盗らないと……………」ﾊｲﾗｲﾄｵﾌ 比叡「…………………………」 続きます

続きです<br />ヒトミちゃんとニムちんに逢えました！やったぜ！

提督「一番強くオーラを感じた艦娘？」

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<比企谷side> 朝の6時。少し早く起きてしまっただろうか。 俺は意識がおぼろげになりながらも布団から出て起き始める。 いつもはなかなか起きられないことが多いが今日は早めに起きてしまった。 昨日、川崎に会ったからだろうか。 バイトの仕事が手につかず帰って寝てもあいつの顔が浮かんでしまう。 俺は顔を洗い冷蔵庫の中からMAXコーヒーのプルタブを開けて口に流し込む。 高校を卒業して1年が経った。 試験勉強は大変だったが俺は東京の大学に行くことができた。愛しの千葉を離れて。 大学に入学にすると同時に俺は一人暮らしを始めた。本当はしたくもなかったのだが両親が何事も経験だと言って半強制的にすることになった。 小町と離れたくなかったのだがその本人、小町には笑顔で「いってらっしゃい」と言われた時は本当に心が折れかけた。それでも「また帰ってきてね」と言われただけよかったのだろうか。 一人暮らしをしたのはいいが仕送りは少なく仕方なくバイトをすることになった。 いくら専業主夫の夢を追いかけている俺でもお金は必要で本当にしぶしぶと・・・ だがバイト先には恵まれていて人数は少ないがきっちり仕事が回り、特にしんどい思いをすることはないのでいい所で働けたと思う。 恵まれていたといえば高校3年間の中でものすごく濃い時間を過ごした奉仕部。あの場所で。あの二人と。 雪ノ下は同じ東京でものすごく頭のいい大学に進学した。本人は合格通知が届いて見せてきたがあの時のどや顔は今でも思い出せる。 由比ヶ浜はなんとか地元の大学に入ることが出来た。高校３年になってから本格的に受験モードに入るみんなを見てか慌てて雪ノ下に泣きついて勉強をしてギリギリ入ることが出来た。 あの二人は本物だ・・・ 親友として。 雪ノ下や由比ヶ浜から好意を持たれている事は分かったがどちらかと付き合うとこの三人の関係が壊れてしまうのが怖かった。 だから俺は二人の告白を断った。 それでもあいつらは分かってくれた。この関係を壊さないために。 だが告白を断っても俺といつも通り接してくれる。とても嬉しかった。 そんな二人とも今でも少しは会ったりしている。由比ヶ浜が計画を立てて俺達がついていくという形で。こんな時間も悪くないと思うことも増えていた。 俺は朝ごはんを作りながら昨日、たまたま川崎と出会った事を思い出す。 久しぶりに会ったが前よりも綺麗で見惚れてしまった。 川崎が帰ってからもあいつの笑顔が浮かんできて心がドキドキしていた。 周りに聞こえてるんじゃないかというくらい心臓がうるさかった。 これが「恋」というものなのか。 中学の時に折本に告白したことがあったがあの時は女子から優しくしてもらったり仲良くなったら好きだと思ってしまう事があったのだがこれが本当の「恋」なのか。 いや、これも俺の勘違いなのか。いつか言った言葉を思い出す。 非モテ三原則。 『（希望を）持たず、（心の隙を）作らず、（甘い話を）持ち込ませず』 確かにそう心に刻んだつもりだったがどうなんだろう。 そんな感じで色んな事を思い出しながら朝ごはんを簡単に済ませていつもより早めに部屋を出て大学に向かう。 いつもよりだいぶ早めについた俺は一番後ろの端に座って講師が来るのを待つ。 時間が少し経つと同じ講義を受けに来た生徒がちらほらと座っていく。 そして俺の横にも一人座って「よっ！」と手を挙げて挨拶してくる。 「珍しいな！お前がこんなにも早く来ているなんて。明日は雨か。」 「たまたま早く起きてしまったから来ただけだ。佐野は少し遅かったな。」 「まぁな。彼女に借りてた本を返してほしくて会ってから来たんだ。」 「チッ！爆発しろリア充が。」 「・・・お前は相変わらずだな。」 そう言って喋ってくるのが佐野和樹。 大学に入学してすぐに喋りかけてきた少し体が大きいやつ。いわゆる由比ヶ浜と同じコミュ力が高いのだろう。 最初は向こうが一方的に喋りかけてきたのだがだんだん自然にこちらからも話すようになった。 「朝から彼女とイチャイチャしてるとか楽しそうだな。」 「なんでだよ。本を返してもらっただけって言ったろ。それよりもさ、今日バイトはないのか？」 「あぁ。昨日はあったが今日は講義が終わったら速攻で帰る予定がある。」 「・・・お前大学生活１年過ぎてもう少しなんか遊んだり恋したりしてもいいと思うぜ」 「・・・俺に死ねと言うのか？俺がそんなことすると思うか？」 「・・・すまん悪かった。」 「思わないのかよ・・・。」 「けどさ、もう少し大学生らしく過ごしてもいいと思うぜ。俺の彼女の友達がさ、気になってる男と会って連絡先交換してにやにやしてるって言ってたけど、お前もその子のようなことはないのかよ。」 「・・・ねぇよ。」 「・・・なんだよその間。」 そんな感じで喋ってると講師の先生が来て鞄からノートやら用意をして授業を受け始める。 俺が受けている講師は要点をしっかり教えてくれて少し空いた時間に余談を喋ってくれることがある。俺はこの講師の講義が好きで必ず来ている。 丁度、講師の先生が余談を喋っているときに佐野がLINEをしてることに気づく。 顔をにまにましているから相手は彼女だろう。 「なぁ、少し聞いてもいいか？」 「ん？なんだよ。今は授業中だぞ。」 「その授業中に彼女とLINEをしてるやつに言われたくはないな。」 「ちっ、なんだよ。」 「恋ってなんだと思う？」 「え～っと、特定の相手のことを好きだと感じ、大切に思ったり一緒にいたいと思う感情。」 「Wikipediaで調べるなよ。」 「いや、お前がそんなこと聞いてくるなんてな。ちょっとびっくりしたわ。好きな人でも見つかったの？」 「そんなんじゃねーよ。お前は彼女とはどんな感じて付き合ったんだよ。」 「どんな感じって・・・元々友達同士だったけど一緒にいるとドキドキしたり目が合わせられなかったりするんだよ。LINEとかしてもドキドキしたりするし。なによりもっと一緒にいたいと思ったから告白して付き合った～みたいな感じ。」 「・・・」 「・・・なんだよ。」 「いや・・・思った以上に真剣に答えてくれたからびっくりしただけだ。」 「お前から聞いてきたんだろ！」 そんな感じで喋っているとスマホからピコーンと音が鳴った。 俺のスマホが鳴るときはだいたいAmazonからのメールなんだが・・・ そう思ってスマホを覗いてみると昨日、新しく連絡先に載った名前が映っていて ―――――――― 差出人　川崎　沙希 宛先　比企谷　八幡　 件名　時間が空いていれば。 お昼から時間ある？ もしよかったら花見とかしない？ 無理なら仕方ないし諦めるよ。 ―――――――― 花見か・・・。 今は四月で大学に来る時にも桜など咲いていたのを思い出す。 桜を見ながらMAXコーヒーを飲むのもいいかと思ったがこの文面を見る限り多分二人で見に行くのだろう。そんなことしたら会った時にまたドキドキしてしまう。 現に今も心臓がドクドクとうるさくて隣にいる佐野に聞かれてないだろうか。 だが俺からしたら難易度が高い。しかしメールをよく見ると断りづらい文面だ。 どうしようかと迷っていると隣から肩を叩かれる。 「・・・なんだよ。」 「いや・・・お前気づいてないのかよ。」 「・・・なにがだよ。」 「携帯見たと思ったらニヤニヤしてさ・・・。正直、気持ち悪い。」 「は？そんなにニヤニヤしてたか？」 「まぁそこに警察がいたら捕まってるレベル。」 「まじかよ・・・。」 俺は少し考えながらも携帯を見てすぐに俺はメールの返信を打つ。 行くか行かないかの結論は出たが俺の心の気持ちが追い付いていない。 メールを打って返信を送ると同時に講義の鐘が鳴る。 急いでノートやらを鞄に詰め込んで立ち上がる。 「おい、そんなに急いでどこに行くんだよ。今日はバイト休みだろ。」 「・・・用事が出来たんだよ。悪いが先に帰るわ。」 「そっか。それじゃ仕方ないな。けど・・・」 「あ？」 「先にその真っ赤な顔をなんとかしてからにしろよ。」 「赤くなってねぇよ///じゃあな///。」 そう答えながらも俺は走りながら川崎との待ち合わせに急ぐ。 けど行く前にやることがある。 「とりあえずこの顔、なんとかしないとな///。」 ＜佐野side＞ 「行っちまったか・・・」 そう思いながら俺はノートやらを鞄に入れて教室を出て比企谷の事を少し考える。 この一年あいつと関わっていたがあんな顔は見たことなかった。顔を赤くしたりニヤニヤしたり・・・ 「あいつの青春が始まったか・・・」 そう感じて次に会った時にどう弄るか考えるのであった。 おまけ 比企谷と会ったその日の夜 ＜川崎side＞ 全ての予定が終わった頃はもう夜で家に帰ってご飯を食べ歯磨きしてお風呂に入る。 お風呂に入りながら今日の事を思い出す。 たまたま小島さんからもらった割り引きチケット。 お店は、とても落ち着いた雰囲気で紅茶を飲みながら本を読んだり、集中したい時は最高の環境かもしれない。 そしてそこでバイトで働いていた比企谷。 高校を卒業してからは会えなかったけど久しぶりに会ったあいつは少し見ないうちに背が伸びていて猫背で目は相変わらず濁っていたけど・・・それでもあいつと喋っている時間は嘘のように早く過ぎていた。けどそんな時間が心地よく感じられた。 お風呂から上がり少し体がぽかぽかした状態でベットに寝ながら携帯で連絡先を開く。 そこには今日、交換したあいつの名前。 交換した後、何度も夢じゃないかと思い連絡先を見直した。 「・・・夢じゃないだよね。なんてメールを送ろう・・・」 初めてあいつに送るメールを考えていると画面が急に切り替わり電話の着信音が鳴る。 急に鳴ったせいか反射的に画面を押してしまい「もしもし」と声をかけてみる。 「もしもし沙希ちゃん？今、大丈夫？」 「うん。大丈夫。どうしたの？」 「いや～今日はほんまにごめんな～。なんか無理やり割り引きチケット渡して。」 「そ、そんなことないよ！ありがたく使わしてもらったよ。」 「本当に！よかった～。どうだった？」 「うん・・・お店の雰囲気もよかったし味も美味しかったよ。」 「ヘぇ～絶賛やないの！なら今度二人でいこっか～。」 「あ～うん。そうだね。また予定があれば・・・」 「ありゃ、あんまり気が進まへん？」 「そうじゃないんだけどさ・・・高校の時の知り合いがさ・・・そこで働いていたから。」 「へ？それだけ？それなら別に行っても大丈夫なんじゃ・・・。」 「そうなんだけどさ・・・。」 「・・・もしかして苛められたりとか。」 「全然！そんなことないよ！むしろ色々助けてくれたりしてさ。いつも自分よりも他の人を助けてくれるいいやつだよ・・・。」 「ふ～ん。そんなにその子の事が好きなんやね」 「うん。私、あいつの事が好きで・・・って違うよ///好きとかじゃなくて気になってるというか///。」 「フフフ。そっか～。とうとう沙希ちゃんの青春が始まったんやね～。お姉さん嬉しいよ。」ﾆﾔﾆﾔ 「・・・////」 「それで連絡先とか交換したの？」 「う、うん。帰るときに交換したよ///。」 「それでその子の連絡先を眺めてニヤニヤしてたから電話が繋がるの早かったんやね～。いつもはもう少し遅いのに」ﾆﾔﾆﾔ 「え？私、そんなにニヤニヤしてた？///」 「・・・分かるわけないじゃない。本当にニヤニヤしながら眺めてたんだね。」 「/////」 「まぁそろそろ弄るのはやめてその想い人とは次はいつ会うの？」 「・・・まだ決めてないけど。」 「駄目だよ！今すぐ誘わなきゃ。」 「え・・・でも誘う用事もないし。」 「なら丁度、四月やから花見なんてどう？今なら綺麗に咲いてるんやよ。確か、明日講義なかったよね。」 「うん・・・じゃ誘ってみるよ。」 「ならまたどうだったか教えてね。」 「うん。ありがとう小島さん。」 そう言って電話を切り布団の中に顔をうずめる。 今から誘うのは遅すぎるから明日、あいつが暇だったら誘おう。 午前中は早すぎるし午後からなら大丈夫かな。 お弁当とか作ったら迷惑かな・・・ けど私の料理食べて欲しいし何より喜んで欲しいし・・・ 「明日は早く起きて準備しないといけないし早く寝なきゃね。」 そう言って寝ようとするがまるで小学生のようでドキドキして寝れなかった。 「あ、服も何着ていこうかな・・・」 私・・・寝れるかな。

2作品目です。<br />久々の休みなのでゆっくり休もうと思ったのですが投稿の事を思い出し執筆しました。前の作品のコメント、スキのマークを付けて頂いてありがとうございます。あまりにもスキのマークが多くてびっくりし正直、ここまで多くの方に読んでいただけるとは正直、恐れ多いですが今後も頑張りたいです。<br />あるYouTuberのグループはこういうキャプションでも丁寧に楽しく真剣に書いてありすごく尊敬できる部分ですので自分も長めに書いてみたいと思いました。<br />話は変わりますが、私はスポーツを得意としていて特に球技を得意として学生の時は球技の部活に入ってました。<br />そしてここ最近、大坂なおみ選手が全米オープン優勝されました。テレビで生中継されてるのを見てとても興奮し自分もなにか挑戦できたらと思いました。なので今度のスパルタンレースに出てみたいと思っています。体はしっかり鍛えてるので大丈夫だと思いますがなにかこうしたほうがいいよと思った方、教えてください。<br />さて今回は比企谷メインの話です。いつも執筆するときにどんな話にしようか迷います。もちろん妄想でこんな事をしたいなと思うこともあります。それはいつかの作品で書きたいものです。では作品をお楽しみください。誤字脱字、変な言葉遣いがあると思いますがご了承ください。<br />PS.名前を変えました。

青春が動き始める。

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注意⚠ ハマりたての人間が書いてます。勉強中なので色々とおかしいと思いますが、お手柔らかにお願いします。 [newpage] むしゃくしゃしてたのでやった (Aさん・仮名) 反省はしてない [newpage] むしゃくしゃする日だった。 私が監査委員会会長の娘だと色目で見ているのはそっちじゃないか。謂れのないことまで言われてしんどい。悲しい。辛い。あることないこと吹聴されて、まるでそれがあたかも本当だと思ってる。 私の母親はこの中王区においてなかなか強い力を持つ人間だ。 世はだんだんと様変わりし、今ではラップで渡り歩くのが当たり前とかしている。時代によって環境は変わるというが、ここまで様変わりするものなのかと私は社会の教科書を読んで思ったものだ。 閑話休題。 私の母親は、ヒプノシスマイクによる領地争いの立会人だ。 職業は公務員。国の監査委員会なるものに属し、そこの委員長をやっている。まあ、監査委員会の会長なんてやってたら寄るわ寄るわ金と欲に目が眩んだヤツらが。監査委員会という職でさえ羨み、羨望の目を集める職だというのに、その委員長とは。国の大事な一柱を担う責任重大な役と言っても過言ではない。男性たちの領地争いであるラップ争いは定期的に行われる。 その采配を行っているのがまさにその母であり、ヒプノシスマイクを持つ彼らを呼び出すのもまた私の母である。 小さい頃はよかった。お母さん、監査委員会会長なんてすごいね。きっとあなたも将来大物になるね。なんて純粋な本音と少しばかり載せたお世辞でよく私を喜ばせてくれた。幼い私はそれに喜び、ありがとうと笑って返した。幼い頃はよかったのだ。そう。悪意なんてものとは無関係の年頃の私は純粋な好意のみを知り育ち、そして中学高校へと進み、衝撃を受けた。 中学、高校は私立に行った。ちょっとお高めの、優等生しか通わないような場所だ。きっとここなら静かに学生生活を送れるだろうという過保護なまでの母の選考の末に選び抜かれた学校であり、そして過保護なまでの母の制服可愛さ選考を通過した奇跡の中学である。ここの学校良くない！？ヤンキーなんかいなさそうだしきっと気に入るよ！まま学校説明会五回いって授業見学六回行ったけど悪い気はしなかった！！！というのは母談である。まじかよそんないったの？？？待ってなにそれ娘聞いてない。知らない間に私の中学選びはスタートしていた。母の熱心すぎる学校選びに少し引き気味になっていれば母の制服どれが可愛いかないや私の娘に似合うかな談義も盛り上がっていたようで、知らない間に中学の私の制服はセーラー服と決定していた。これまた知らないうちに私の制服選びも始まっていた。 いや流石に変な制服だったら嫌だわと母の持つ資料を見たがあっ可愛いとなったので私も納得してその中学へと進んだわけである。青いタイかわいい。今も持ってます。 そして進んだ中学、高校で私は嫌という程知った。自分の肩書きが、嫌でもついてきてしまうということを。私の母が監査委員会会長、そして祖母もまたそれなりに地位の高い家柄ということで目を引いたのだろう。一言で言うとめんどくせえ。お家柄が〜血筋が〜流石あの家の娘〜だのうんたらかんたらうるっせえ！！！！！の一言で終わりである。私が芋だの山だのどこの家の娘だろうが私は私であってそれ以上でもそれ以下でもなくない！？！？！？(キレ気味)馬鹿みたいに私を褒めて媚びてくるやつもいれば、影であの家の娘の割には大したことないよねうけるみたいな陰口叩いてるやつもいた。うけるって何がうけんだてめえの顔のことか？？？？と思ったのはご愛嬌。ではなく見逃してほしい。それくらいにはムカついた。 学生時代波乱とは言わないものの、表面上には見えない人間関係にめちゃめちゃ疲れた私は学んだ。よし。旅に出よう。そうじゃない。等身大の私を認められるよう頑張ろうOK！！！ そう、私はめげないしょげないドラゲナイ精神で私に出来ることを大学で頑張った。結論、中学高校より人に揉まれひねくれた人間達のあいだでそんなの通用するわけなかったよね！！あいつらみんな敵！！！ なぁにが調子に乗ってるだよ乗ってねえよﾀﾋね！！！！むしろそう思うお前の自意識過剰で被害妄想激しすぎでは！？病院いけ病院！そしてそのまま帰ってくんな永遠に隔離病棟の中でおねんねしてな！！！それくらいキレ散らかすことが一日に二回はあった。ストレスやばかった。割と死ぬかと思った。母にクソめちゃくちゃウルトラスーパー心配され、私を心配したあまり大学潰そうか？？とかとち狂ったこと言った母親は無視しておいた。確かにパピーの力あったらそれくらい出来るかもしれんが流石にそこまですることではないんでな…あと個人の感情で大学潰すってどうなんだ。いやダメだろ。常識がいすぎてスルーしておいた。ままちょっと泣いてた。ごめん。反抗期じゃないです。あとでパピコ差し入れしておいた。喜んでた。ままと半分こしてたみたいなのでよかった。 さて、そんな人の荒波に揉まれ飲まれ吸われ流されてきた私であるが、こんなんでもお付き合いする彼氏がいた。そう。いたのだ。過去形だが。過去形だが！！！！本っとう許せん。何回思い出しても許せん。一億回思い出して許せないからまじであいつは一旦土に還るべき。まじでその場でドロップキックからのエルボー決めて地球から追い出してやりたくなったが我慢して黙ってわかれてやった。圧倒的私の勝利。私の優しさに感謝しろよ元カレ。もし私が我慢できてなかったらお前今頃大気圏でチリと化してるぞ。 流れはこうだ。浮気発見！→てめえ何してんじゃオラ。あ？納得いく答え聞かせろやと彼氏に詰め寄る。→ご、ごめんな！でもお前、正直飽きてきて…,でもお前の母親怖ぇじゃん？俺、まだ自分の地区で過ごしたいんだわ。追い出されたりなんてしたくな…→はいOKさよならバイバイお前は死ね！！！って流れである。OK？理解してくれたなら嬉しい。理解出来なかったのなら私の説明力の問題だから本当申し訳ない。パッションで感じ取ってほしい。つまりあれだ、彼氏、浮気の原因私にしてきた挙句慰謝料とか言ってきやがった。はいﾀﾋね。まじでドロップキックからのエルボーからの自然宇宙エレベーター登らせてやろうかと思ったけど我慢した。我慢して家でてった。「悪いけど今月の家賃払わないから。高いラブホ料と思って今月のは全部出しといて。で、今月のうちにこの家解約するなりなんなりして」と告げて家を出た。元彼クソ何か言ってたけど無視した。金がねえとか知らねえわ！！！！！女連れ込んで自宅をラブホ代わりにしておまけに私のせい呪文唱えるならこれくらいしてほしい。 貴重品だけ持って家を出た私はずっと住み慣れた中王区から出た。←イマココ 久しぶりにきた池袋はなんだか前と風景が違うように見える。あと圧倒的に男。男しかいねえのか？レベルには男しかいない。時間も時間だからだろうか。遊びに来てた女性達はみんな中王区に帰っているのだろう。いつもなら私も中王区に帰らなければならないのだが、いかんせん家がない。急に家なき子になってしまった。実家に帰れば住むところだけは確保できるものの、事態を母&祖母のコンビが知ったら何をするかわからない。元カレの家燃やされそう。物理的にも社会的にも。別に可哀想だとは思わないしむしろもっとやれくらいには思うが、だからといって彼のご家族まで巻き込むのは忍びない。クズでバカでどうしようもないクソ野郎であったが、だけどそのご家族は関係の無いことだ。元カレは一億回死んで一億回土になればいいと思う。自然界で心洗ってこい。話はそれからだ。 さて、では今日の寝床はどうしようかと足を進める。満喫か、ネカフェか。寝る場所と言ったらそこら辺しかない。もちろん中王区にもそれらはあるが、今は中王区に帰りたくない。思い出すだけでイラァッとする。精神衛生上を思い出さないことにした。 あ〜まじで寝床どうしよう。ネカフェ、ネカフェ。つーかここどこだよと心赴くままに歩いていたことに気づきスマホを取り出す。地図アプリを開こうとした、まさにその時。 「んだよノリ悪ぃなぁ！ほら！行くぞ！」 「そーだよ、まだ始まったばっかだろ〜！？ただでさえお前、いても死にそうな顔してんだから！たまには酒飲んで元気出せよアハハハ！！！」 下卑た笑い声が聞こえてきて思わず嫌そうな顔をしてしまう。酔っぱらいの集団だ。間違いねえ。そしてこういうのには関わるとろくなことがない。私は知ってる。面倒くせえのに絡まれる前にさっさと退散した方が身のためだと思った私はそのまま場所を移動しようとして、足を止めた。咄嗟に振り返れば、明かに嫌がってそうな、場ノリしてなさそうな男性が困ったように笑っていた。いや、無理やり笑みを形作っていた。うわぁ…。見ただけで思う。あの人めっちゃ可愛そう。絶対無理やり連れてこられた口だ。遠目からでもわかるあからさまなその様子に、口元がひきつった。ご愁傷様ですとしかいいようがない。 そこで、いつもの私なら同情するだけてして去っていただろう。だけど今日は違った。さっき超嫌なことがあったばかりだ。この苛立ちを向かわせる場所がなくむしゃくしゃしていたところだったため思わず足が止まった。全くの、全くの無関係ではあるが……いつもならうわぁで済むところが今は最高に機嫌が悪い。つまり何が言いたいかというと、ぶっ殺してやりたかった。間違えた。ざまぁ案件にさせてやりたかった。…どっちにしろ言葉選び良くないね！！もっとお上品に生まれたかった！！！ 「あ、もしかしてこの前の！」 私は大股で歩くとその困惑しきっている男性の元に歩いていった。周りの男の人を邪魔だと言わんばかりにかきわければ、びっくりしたように周りの人間が私を見る。それもそうだろう。飲み会の集まりなのにいきなり知らん女割り込んできたらそりゃびっくりもするわな。すまん。だけど無理矢理飲みに誘うのは良くないぞ君たち。パワハラって知ってる？？ 私に声をかけられた男性がこちらを見る。おっ美形。これは思わぬ報酬。助けるつもりで声をかけたが思ったよりもめっちゃイケメンで得した気分。つーかこいつらこんなイケメン困らせてんの？は？？？？何それもう生きてるだけで害じゃん……？？？周りの奴らみんなのっぺらぼうみたいな顔しやがって…！！寄ってたかってイケメン困らせてたのはあれか！？みんなホモでイケメン狙ってるからどうしても二次会に連れ込みたかったんだな！？！？なるほどな！？！？ここの会社やべえな！！どんな人間関係してんだよ！ 「あ、あの…」 「なんだね君は！いきなり失礼じゃないか！」 イケメンが困っていると、すかさず禿げた頭のおっさんが割り込んでくる。ウッワKYあと臭い。絵に書いたようなクソ親母で常日頃なら一億歩距離を取りたいタイプのクソ親母だ。マジで家から出てこないでほしい。こういう人はみんな性格死んでるってばっちゃんがいってた。言ってないけど。 私はちらりと禿げたおっさんを眺めて、少し背伸びしてその奥を見た。おっ、良かった。見間違いじゃなかった。先ほど遠目から見たこの飲み会連中の中で、見知った顔があったのを私は知っていた。それもおじ繋がりで。おじは、とある会社の取締役兼社長をしていて、よく親睦会という名の会合を開いている。絶対それお前が飲みたいだけやろとは口に出したことはないが、いやあったかもしれん。とにかく私の家族は親戚問わず私に甘い。恐らく一人娘でしかも親戚の中で女は私だけと状況が効いているのだろう。とにかくまあ、そんな状態なので私はある日興味が湧いておじの集まりに参加したことがあった。おじさーん！私もいきたーい！といえばおじは快く、いいよいいよ行こう！きて！食べよう！！何食べる！？何飲みたい！？どこがいい！？と酷く乗り気だった。何も考えず回転寿司と答えてすまんかった。おじめっちゃ困ってたわ。いや本当すまんかった。 結局行ったのはどこぞの個室店で、まだ中学生の私は未成年だったのでオレンジジュースを注文した。おじ達は早速アルコールを注文し、私だけ1人ちびちびオレンジジュースを飲んだ。開始五分で既に飽きたのは今でも覚えている。耳に飛び交うのは業績やら営業やら顧客やらの話で中学生の私にはつまらなすぎる内容だった。開始十分でちょっと寝た気がする。 そんな記憶を思い出しながら、禿げたおっさんの後ろでほかの人と談笑するおっさんその2を見る。あの人は、間違いない。おじの集まりにいたなんかそこら辺の人だ。めっちゃニコニコして飽きた私にUNOする？って聞いてきたのを覚えている。ねえ知ってるおじさん。UNOってひとりじゃできねーんだぜ……とUNO片手に1人で途方に暮れたのも覚えている。悲しい過去である。 「やだー！佐藤さんじゃないですか！久しぶりですね！」 声をかければ、おっさんその2ならぬ佐藤さんがこっちを向いた。よかった！人違いじゃなかった！私は心の中でちいさくガッツポーズをした。 確か佐藤さんのポジションは本部長だ。滅多なことがない限り今ここにいるメンツの中では一番位が高い人だろう。それを見越しての声掛けなのだが、佐藤さんは私を見るとびっくりしたように私の名前を呼んだ。おっ。名前覚えててくれたんか！最後にあったのなんて5年前くらい前なのに！よく覚えてたな！ 「おお、久しぶりじゃないか！すっかり見ないうちにこんなに可愛くなったんだねえ」 ニコニコと、相変わらず人すきする笑みを浮かべながら佐藤さんが近づいてくる。禿げたおっさんはびっくりしたようで固まっている。さっきまでガヤガヤしていた周りもかなり静かだ。みんなかなり飲んでいたはずなのに、水を打ったように喧騒は止んでいる。 「もー！またそんなこと言って。佐藤さんこそ、お元気そうで」 「はは、嘘じゃないよぉ。きみの伯母さんから話はよく聞いている。仕事頑張ってるみたいだね」 「人並にですよ〜！あ、あの、それより佐藤さん」 「うん？」 佐藤さんが首を傾げる。さて、ここからが本題である。そもそものことの発端は私の隣にいる彼、名前がわからんのでイケメンくんと呼ばせてもらうがこのイケメンくんを場から離脱させてあげたいというお節介心からだ。私はちらりとイケメンを見ると、彼は訳が分からないというように頭上にクエスチョンマークをめちゃめちゃ散らしていた。ごめんな。そうだよな。いきなり声掛けたと思いきや職場の人間と親しげに話されたらそりゃ困惑するよね。本当すまん。 「私この人に恩があるんですよ！」 「へぇ……えっ！観音坂くんにかい！？」 佐藤さんがめちゃめちゃ驚いたような顔をする。そしてその両手はご丁寧に胸の高さまで挙げられていてちょっと笑いそうになる。リアクションがいちいち大袈裟というかアメリカンというか。地味にじわじわくるからやめてほしい。笑う。 そしてイケメンの名前は観音坂というのか。OKこれから君の名前は観音坂くんだ！多分あっているであろう名前を脳にインプットする。隣のお兄さ、観音坂さんはますます意味がわからないという顔をして顔面を白くしていた。元から白い肌がさらに白くなって少し心配になる。貧血大丈夫か？ 「そうなんです！この前私痴漢にあって…」 「なぁにぃ！？痴漢！？それご両親に言った！？伯母さんとお祖母様とお爺様には！？！？犯人は！？捕まえたのか！？相手は誰だ！？」 「え、い、いや落ち着いて佐藤さん」 「警察に連絡して、ああいやもう終わったことなのか、とりあえず相手の刑期を」 「それでね佐藤さん、その時観音坂さんに助けてもらったの。それで偶然今再開したからそのお礼がしたいんだけど連れてってもいいかな？」 ダメだ。話に付き合ってたら一生たっても話が進まねえ。気づいた私は申し訳ないが思い切りスルーをキメこまさせてもらってそのまま話を決行した。ちなみに痴漢なんてものは嘘である。そしてもちろん助けてもらったというのも嘘。こうでもしないとこの観音坂さんという人をここから連れされないので場を凌ぐ嘘である。でもセレクト間違った感あるな。後でさりげなくフォロー入れとこう。知らないうちにSPでも雇われてたら面倒である。ちなみに佐藤さんは私の親戚でも何でもないが、伯母と随分親身にしているうちに伯母のくせが映ってしまったひとりだ。何かと私の心配をするし超過保護。いいおじさんではあるが人の話を聞かないとこほんと良くないと思うぞ。 「観音坂くんが……！ありがとう！彼女を助けてくれてありがとう！見直したよ！あとで礼をしなければならないね、ああそうだ、明日の…」 「え、あの、いや俺」 「と、いうわけで！観音坂さん借りるね！！またね佐藤さん！」 このままここにいればいつまで経っても帰れないので半ば無理やり私は観音坂さんの手を取って早歩きで歩き出した。はわわわイケメンの手握っちゃったーー！！なんて思いながら歩く私に、観音坂さんはめちゃめちゃ困惑しながらも一緒について来てくれる。後ろから「気をつけろよ！」という声が聞こえてきたのだが、それは私に言ってるのか観音坂さんに言ってるのか。 私はある程度観音坂さんの手を引いて繁華街を出ると、その場で立ち止まった。街灯しかない住宅街で、彼に向きあう。かなり無理やり、彼の意見を聞かずに連れ出してしまった形ではあるが、怒ってないだろうか。いや、怒ってなくても気分を害しているかもしれない。ていうか絶対いい気しない。むしろなんだこいつ怖…くらい思われてるに違いない。えっめっちゃどうしよう申し訳な……。思い返せば完全に私の行動は度を越したお節介だし、いらん事しぃだ。ため息つかれて罵倒されても文句言えない。いや本当に勝手な行動したと思う。初対面なのに。今更ながら勢いが萎えて代わりに焦りが顔を出す。だから！！！あれだけ！！後先考えて行動しろって！！言ってるのに！！！※言ってない 「……あの、」 どうしよう謝るべきか…！？でもいきなり謝られても怒るに怒れないし余計申し訳ないよな…！？えっどうしよう。困惑していれば、観音坂さんが口を開いた。恐る恐る顔をあげれば、戸惑い気味の観音坂さんとめがあう。はわ〜〜〜……イケメンがおる……。 「あの、俺、あなたのこと……知らないんですけど、人違いじゃ、ないです、か……」 小さな声で呟くように言われたそれに、虚をつかれた。てっきりなんだお前不審者かよ通報したわくらい言われるかと思っていたのだが、そうだ。よく考えればこの人無理矢理誘われた飲み会の誘いを断れそうになかった人だった。そりよめっちゃ優しいに決まってる。多分。てかここまで来て人違いの線を考えてくれる観音坂さん超優しくない？？？私なら通報してる。通報しましたピッで終わり。話す余地もねえ。 それに比べて観音坂さんの優しさというか懐の広さというか優しさがやばい。なにこれ天然？？わざとではなく？？？えっ。大丈夫変な人に騙されない？？？初対面で何言ってんだって感じだろうがおばさんはすごく心配……。

独自設定があります なんでも許せる方向け！

権力ってこういう時のために使うんだと思う

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二度目の雄英高校前……いや、これから三年間何度も通ることになる高校前にて立香は珍しく胸を高鳴らせていた。 受験結果は想像していた通り、難なく合格。実技に関してはトップでの入学と相成った。立香の合格に、ロマニもダヴィンチも喜んでくれた。そして、高校合格と共に記念としてある許可をもらったそれはーー 『ここが、これからリツカが通うことになった学校なんだね』 『そうだよ。ここが、俺がヒーローになるための原点……』 白銀の鎧をまとった金髪の、一目見れば誰もが見ほれるだろう青年、アーサー・ペンドラゴンが興味深げに学校をまじまじと見つめている。 アーサーがここにいることからわかるだろう。そう、立香は2人からサーヴァントの召喚許可をもらったのだ。別に許可は必要ないのでは、と当時召喚は待ってくれと言われた際に思った立香だったが、2人にどうしても、と押し切られたのだ。 何か理由でもあるのだろうか、と思っていたがその予想は見事に当たった。というのも、合格が決まったのにあわせるようにして2人があるものを渡してきたのだ。 小型の円卓の盾。 ネックレス使用になったそれは前世でも見慣れた彼女の持っていたそれであった。何故これはここに。 立香はこの世界では居ないはずの彼女の盾があることに関して2人に詰め寄ると、イギリスで発見された円卓の破片を内緒で持ち帰ってきたのだという回答が返ってきた。 勝手に持って帰ったのかと一瞬思ったが、それよりも嬉しさが上回り、立香はそれを大切に、割れ物を扱うかのごとく優しく受け取った。 円卓の盾はダヴィンチとロマニが手を加えたことにより、前世のかの盾と同じ召喚をアシストする能力を帯びているらしい。ただ、前世のように何度も連続的に召喚をすることは敵わないようで、三つの条件をクリアすることで召喚が可能になるという。 一つ、魔力の蓄積に一ヶ月を要する。一つ、令呪を二角使用する。一つ、盾に貯蓄させた魔力とは他に大量の魔力を消費する。 何度も連発して召喚を出来ないのは痛いが、一度召喚をしてしまえばこっちのものなので地道に召喚していく。霊基の維持に関してはカルデア同様の電気で賄えるらしいので良心的だ。 さて、ここで何故立香がアーサーを召喚したか気になるところだろう。その理由端的に言えば、ただの事故であった。 立香は最初の召喚の時に前世でずっと共に戦ってくれた彼女を呼ぼうとした。しかしここではたと気づいたのだ。 彼女はギャラハッドの力を借りたただの1人の少女であったことに。それに本人も言っいた。 ―私は先輩以外の方のサーヴァントになるつもりはありません。ですから、座にも行きません。 いつの日か忘れたが彼女は確かにそう言っていた。彼女の発言から彼女を英霊として呼び出すのはほぼ不可能だろう。その事実を知ったときには既に召喚を行われていた。そして、召喚されたのがアーサーであったのだ。 おそらく円卓の盾とマシュのことを考えていたから引っ張られてきてしまったのだろうとはアーサーが苦笑しながら語っていた。 さてその件のアーサーであるが、彼は小さい子どもの様に学校を見て回っている。余談だが、彼は今立香の魔術により、彼以外には見えない状態になっている。見えない状態ではあるが、声は聞こえるため2人は念話により会話をしていた。 アーサーが一通り見終わり、恥ずかしそうにしながら戻ってきた後、２人は自身のクラスへと向かった。 1-A組。これから三年間学生生活を共にする仲間が居る教室だ。立香は大きな扉の前で一度深呼吸をした。アーサーの頑張れ、という何に頑張るのかよくわからない応援を背に受けながら、扉に手をかけると不意に声をかけられた。 「りっくん！おはよう！」 「あ、あぁおはよう、出久」 一瞬どもったものの知った声に振り向き、挨拶を返すと緑のもさもさとした髪とそばかすが特徴的な幼なじみ、緑谷出久が頬を紅潮させて駆けてきていた。 思ったよりも長い時間深呼吸をしていたらしい。立香はそのことに内心苦笑いをしながら、先ほどの緊張により扉をなかなか開けなかったのは嘘のようにがらりと扉を開き、緑谷と共に教室に入った。 「僕一人かと思ってたから安心したよ！」 「俺も出久が一緒で安心し「思わねーよてめーどこ中だよ端役が！」……あー」 お互いの緊張をほぐし合うように話をしていると、もう一人の幼なじみである敵顔負けのイケメン爆豪が目に入り、一気に己の運の悪さを悟った。 これは爆豪による緑谷への諸々のぶつかり合いのクッションにされてしまう。 だいたいの学校は席替えをしない限り名前の順で席は固定だ。なので、自然と爆豪→藤丸→緑谷という席順になってしまう。誰か、俺たちの間の名前の人は居ないか。なんて願ってみても確実に居ないだろう。 せめて席替えがあることを一人祈っていると、爆豪と言い争っていたメガネをかけた少年、飯田が話しかけてきた。 「俺は私立聡明中学の……」 「聞いてたよ！あ…っと僕緑谷。よろしく飯田くん…」 「俺は藤丸、よろしく」 よろしくと返してきた飯田は、急に悔しそうに顔をゆがめながら、緑谷に試験について話し出した。2人の様子から、彼らは同じ受験会場だったのだろうと察し、立香はそっと2人から離れて自身の席を探す。 探す、といってもほとんどの席が埋まっており、あいていると言ったら、廊下側の席が二席と、爆豪の後ろの席の二席だけだ。飯田、というから廊下側の席のどちらかは彼のだろう。そして廊下側にあるもう一つの席が立香のものであるはずはない。 やはり爆豪と緑谷に挟まれてしまうのか。立香はつきたくなる重いため息を何とか飲み込み、自身の席に歩を向けた。 もちろん、爆豪の隣を通って……ということはなく、後ろの方から回っていく。通りすがりに何人かに視線をもらったが、今は話したい気分ではないため、黙って席に向かった。 自分の席にまで着くと肩からかけていた白いトートショルダーバック自身の机の上にドサリと置いた。そして、ゆっくりと椅子を引き、腰をかけると前に座っていた爆豪が机から脚をどけ、こちらに振り向いてきた。 覚悟はしていたものの、かの敵顔負けの鋭いにらみをされるのはどうにもこうにも居心地が悪い。彼のこのにらみつけてくる顔が怖いと思わないのは見慣れているからか、それとも前世での殺気に比べたら可愛いものだからか。 何はともあれ、何か声をかけなくてはと思い、咄嗟に出た言葉はなんとも間抜けなものだった。 「おはよう勝己。出久もあわせて3人とも同じクラスなんて奇跡的だね」 「奇跡的じゃないわボケェ！！お前はいつになったらそのめでたい頭を治すんだ？！ああん？！！」 怒鳴る爆豪に立香は苦笑いを浮かべる。予想通りに反応だ。どうやら報連相をしなかったことにかなりご立腹だ。試験開場以来避け続けたのが痣となったらしい。ちなみに緑谷とは普通に会って話しをしていたりする。この事実を爆豪が知った瞬間、火山が噴火したがごとく爆豪がキレるのだが立香は気づいていない。 今にも暴れだしそうな幼なじみをどうしようか、と考えているとアーサーが念話を送ってきた。 『誰かが扉の付近に居るよ。おそらく、先生なんじゃないかな？』 アーサーの言葉に立香は爆豪から目を離して、扉の方を見た。前の席から爆発音が聞こえる気がするが気づかなかったことにする。 立香がまじまじとそちらを見ると、黄色い寝袋にくるまった控えめに言っても身だしなみが終わっている男が教室内を見渡していた。 「お友達ごっこしたいなら他所に行け」 小汚い男こと相澤消太はやはりこのクラスの担任であった。 三年間お世話になるであろう先生だが、上手くやっていけるだろうか。登校初日早々に心配になる立香なのであった。 □■□■□■□■ 入学式やガイダンスなんてものはなかった。なかった代わりに体力テストもとい個性把握テストというものが行われることになった。なお、このテストで最下位の者は除籍処分になるとのことで、流石の立香も聞いた瞬間には驚いた。 前世でも普通科に所属していた立香は、こういう何かの資格を取る専門的な科はこういったことがまかり通るのかと一種の誤解をしている中、クラスメイトたちが第一種目の50メートル走を個性が使用可能なものは使用し、使用しても意味のないものは普通に走っていた。 「藤丸！ぼさっとするな。お前の番だ」 「すみません」 ぼうっとしていると相澤に軽く注意をされ、慌てて位置についた。隣のレーンでは爆豪が走るらしい。ならば、彼の前に出なくては。個性を使って、ということは爆豪が個性の爆破を使うことは簡単に想像できる。 爆発。もろに巻き込まれたら、タイムロスは免れない。 立香は急いで自身の両足に強化を施す。そして、相澤のかけ声と共に地面を思い切り蹴った。普通に走っているより、かなり早い。50メートル走なんてあっという間の距離で、すぐにゴールした。 「4秒01」 身体強化するとこんなにも変わるものなのか。中学の時分よりも早くなったタイムに感心していると、後からゴールした爆豪に睨まれた。 何でお前の方が早いんだよ。 そう言いたげな彼に立香はわざと気づいていないふりをして、次の走者が走るのを見守る体制に入った。 次の走者は葡萄を彷彿とさせる峰田という少年。それから緑谷。 自身の幼なじみで無個性の彼。ヒーローになると言っていた彼が、爆豪にいじめられながらもその夢を見続けていたのを立香は知っている。無個性でヒーローなんて無理。周りの人々はそう言っていたが、立香はそうは思わなかった。凡庸であっても、才能がなくても人は努力と強い思いがあれば成し遂げられる。前世で学んだ教訓だ。それに彼が陰ながら努力をしていたのを立香は知っていた。だから、立香は彼がヒーロー科の教室の前で会っても急に声をかけられたことに驚きはしたものの、それっきりだった。むしろ彼と共に学校生活を送れるかと思うと嬉しささえわき上がってきた。 そんな緑谷が個性把握テストでどんな成績を出すか。親の様な気持ちで彼の様子を伺った。なお、何故か隣に居る金髪の青年にはあえて触れなかった。 このままでは不味いのでは。 立香は未だにたいした成績を残していない緑谷に自分のことではないが焦りを感じていた。いや、別に成績自体は悪くない。むしろ、中学生の時より良くなっていると思う。ただ、中学の頃よりは、というだけだ。個性を使用した自分たちにはほど遠い。種目ももうあと二つだけなのにこのままでは、除籍。 『先生、個性を他人に使用したらダメって言ってなかったよな？』 『言ってなかったよ。なるほど、そういうことか』 立香は緑谷がボールを投げる瞬間に投げる方の腕に強化の魔術をかけた。一瞬覚悟を決めたような顔をしたから、もしかしたら何かしようとしていたのかもしれないが、強化をかけておいて損はないだろう。 黙って成り行きを見守っていれば、ボールはぽーんと綺麗な円を描いて跳んでいった。 「206メートル」 咄嗟にかけたから大して強化されていなかったらしい。緑谷が首を傾げていると、我らがクラス担任の相澤が目を見開いて、緑谷をにらみつけるように見ていた。 「“個性”を消した。つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学できてしまう」 緑谷が相澤の正体に気づいて、そのことで生徒たちが騒いでいる。そして、なにやら2人の間で話し合いをし出した。耳を強化して盗み聞きしても良いのだが、やめておこう。人間聞かれたくないこともあるはずだ。 相澤が緑谷を解放すると、緑谷は一瞬苦々しい表情を浮かべて円の中に再度立った。ボールを片手にぶつぶつと言っている。あれは、あの極度に集中している状態なら何かを見せてくれるかもしれない。 立香は、今度は魔術を使用することなく、緑谷の行く末を見守る体制に入った。 そして、彼は思いきりボールを投げた。それは先ほどよりも華麗に大きな円を描き空を飛んでいく。 出久の奥の手って、これだったんだ。 立香は感心するように右手人差し指を怪我しながら、まだ動けると相澤に言う緑谷を見た。そこには無個性といじめられていた緑谷出久はどこにも居なかった。 安心のため、ほっと息をついたのもつかの間、近くで殺気が放たれるのを感じた。爆豪だ。 彼は緑谷が何故個性といわれるほどの力を持っているか気になっているのだろう。そして、それを黙っていたことに憤っているのだ。このまま放っておいても現役ヒーローをしている教師なら止めるだろう。止める、そうわかっていても立香はいつもの癖で緑谷を守れるように飛び出していた。 「どーいうことだこら！ワケを言え！デクてめぇ！！」 「うわああ！！！」 「勝己、やめろ！！」 緑谷と爆豪の間に身体を滑り込ませて、緑谷を守るように両腕を広げる立香。しかし、爆豪の腕が彼の元まで届くことはなかった。 「んぐぇ！！ぐっ…んだこの布、固っ…！！」 「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ“捕縛武器”だ。ったく何度も“個性”を使わすなよ…俺はドライアイなんだ」 すごい個性なのにもったいない。爆豪が捕縛されてほっとした立香は相澤のドライアイに苦笑いを浮かべた。 「時間がもったいない。次の準備をしろ……その前に藤丸。お前言うことがあるんじゃないか？」 「……なんのことでしょう？」 しらばっくれてみるが、相澤の視線がきつくなるだけで意味をなさない。このまま黙秘権を行使してもいいのだが、今は乗り切れてもこれからの高校生活に支障をきたしそうだ。 立香はアーサーの方をちらりと見たが、彼も首を横に振っている。諦めろということらしい。 立香は頼みの綱であるアーサーに諦めろとジェスチャーされたため、観念して先ほどの魔術の使用のことを口にした。 「出久……緑谷に最初のボール投げの時に強化を使用しました」 「え！！？」 「やっぱりな……」 驚く緑谷に、呆れた様子の相澤。周りの生徒も驚いたり、そんなことしてもいいのかと口々に言っている。 「別に他人に個性を使ってはいけないって言ってなかったので」 「そんな屁理屈通ると思っているのか？それにそんな手助けをして緑谷が喜ぶとでも……？」 「屁理屈じゃありません。それにこれは手助けでもありません。俺が今使うべきだと思ったから使ったんです。これは単なる俺のエゴです」 頑として自分は悪くないという立香。無理言っているなとわかってはいるものの謝る気はない。 相澤と立香の間で静かに睨み合いが続いていたが、相澤の方が先に折れた。大きなため息と共に次はない、という相澤に勝ったと謎の達成感を噛みしめていた。 立香を注意した後、次に行くぞと言う相澤の後ろをついていく。それと同時に立香は彼の後ろに居た緑谷の手を掴んだ。 「別に出久のことを信じてないわけじゃないよ。ただ、出久が除籍になるのがイヤで勝手に個性使っちゃた。……それに最初の1回以外出久に個性を使ってないよ」 はい、おしまい。と言葉を言い終わると共に緑谷が怪我をしていた指の治療を行った。一瞬何が起ったのかわからない緑谷はえ、やら、痛くない、やら、困惑した声を上げている。 そんな緑谷を置いて、立香は次の種目の場に向かう。 立香のさりげない気遣いを見た緑谷本人と緑谷と立香の近くに居た生徒は、こんなん惚れてまうやろ、と思っていたのだった。 [newpage]○おまけ○ 「そういえば、君も一緒のクラスだったんだね？受験会場で一緒になった……」 「覚えてくれたのか！俺、上鳴電気だ！」 「俺は藤丸立香。これからよろしく」 「あぁよろしく！」 嬉しそうに笑う上鳴に、立香もにこりと笑う。 高校に入って初めての友達に心を躍らせる立香だったのだ。 藤丸立香 ・無自覚たらし←new

おはよう、岬です！<br />すっかり不眠症も治って元気にアルバイトをしてました。心配かけて申し訳ないです。<br />そういえば、皆さんに聞きたいんですが自分って何か冷たい人間だなって思う瞬間ありますか？私は時々友達以外には冷めた態度取ってるかもって思うときあります。よかったら皆さんの話も聞いてみたい、かも。<br /><br />さて、今回の話は前回の続きとなっております。FGO×ヒロアカ。前回同様にキャラ崩壊や原作乖離などあります。それが大丈夫な方はどうぞお読みください。<br />なお、話あんまり進んでないです。申し訳ない。<br />ちなみに実はちょっとした良いことがあったのですが、それは次の投稿の時にお話ししようと思います。<br />あ、後、このFGO×ヒロアカの小説とは別の設定を考えていたりするので、またそのうち投稿するかもです。<br /><br />朝早くに寝ずに投稿したので、誤字とかいろいろ多いかもだけど、気にしないでください。ごめんなさい。

前世、隠された英雄がヒーローを目指す話２

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青葉城西はいきゅーぶＬＩＮＥ 松川：おーい。1年と2年いるかー？ 金田一：はい！います！ 花巻：今どこ？ 金田一：まだ学校です！これから国見と下校するとこなんですけどどうしました？ 花巻：あのさ！この後もし暇だったら、今日からシュークリームフェアやってるファミレスにご飯食いにいかね？！帰り道だから寄りたい！ 松川：こんな感じで花巻が行きたがってるんだよね。今日は部活休みだしもし暇だったら一緒に行かない？ 金田一：どうする？国見 国見：このまま帰って家で寝たい 金田一：国見ｗｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：ちなみに、季節限定マロンとキャラメルのパフェってのもあっ 国見：行きます。 金田一：国見ｗｗｗｗｗｗ 松川：即答ｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：1年捕まえたしあとは2年・・・ やはば：花巻さんどうしましたか？！ 花巻：お！矢巾！今日暇？ やはば：今日はひｍdyajkiadoi 松川：？！！ 金田一：？！！ 京谷：歩きながらＬＩＮＥすんなバカが。お前すぐこけんだからそれやめろ。 渡：すみません。矢巾無事です。何もないところで転んだだけなんで。 花巻：それは大丈夫なのかｗｗｗｗｗｗ 渡：で、どうしましたか？ 花巻：お前らこれから暇？一緒にファミレスいかね？ 渡：あ！すみません！これから用事があって！ 花巻：そっか。矢巾と京谷は？ やはば：俺は暇でｓ 京谷：この後こいつと映画見に行くんで。 やはば： 京谷：そのまま家に泊まりにｋ やはば：きょうたに。余計なことまで言うのやめよう 国見：軽率にばれていく本日の矢巾さんたちのデートプランｗｗｗ 金田一：通常運転です 花巻：そっかー。なら仕方ねーな。気を付けて帰れよー！ やはば：はーibdmslfjsiuhajl 松川：矢巾ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗまたこけたんだろｗｗｗｗｗｗ 花巻：お前もうスマホしまえｗｗｗｗｗｗ 花巻：じゃあこの４人で行きますかね 金田一：あれ？岩泉さんと及川さんは？ 松川：あいつら今日どっか出かけるらしい。どうせデートだろ（付き合ってない） 国見：・・・あの二人放置して大丈夫です？あの二人が出かけると毎回牛島さんと天童さんに遭遇して修羅場ってるじゃないですか。・・・なんか心配になってきたから影山に聞いてみよ。 国見さんが影さんを招待しました。 花巻：心配し過ぎだろｗｗｗそんな毎回遭遇するなんてことあるわけがな 影さんが参加しました。 影：阿吽ＶＳマブダチ、シュークリームフェアやってるファミレスで修羅場なう。 花巻：今日は日が悪い（きっと仏滅！）みたいだから解散！！！！！ 松川：花巻ｗｗｗｗｗｗ 国見：俺たちが行こうとしてたファミレスじゃん絶対ｗｗｗｗｗｗｗｗ 影：あ、国見。ちゃお☆ 国見：ちゃお☆ 花巻：ちゃおｗｗｗｗｗｗｗ 松川：男子高校生のあいさつがｗｗｗちゃおｗｗｗｗｗ 金田一：何してんだ影山ｗｗｗｗｗ 影：きんだいちゃお☆ 金田一：？！！ 松川：ｗｗｗｗｗｗｗｗ 影：というかあれ・・・？おかしいな？白布さんと連絡取りあってたはずなのに・・・ずいぶんと遠くまで来てしまったものだ・・・ 金田一：なに黄昏てんだｗｗｗｗｗｗｗ 影：まぁいいや 国見：適当かよｗｗｗ 松川：で、どうなってるの？うちの主将と副主将様は 影：今から少し前、岩泉さんと及川さんはファミレスに入っていった（俺は尾行中） 国見：尾行すんなｗｗｗｗｗｗ 影：まぁ細かいこと気にすんなよ。でさ、二人が入った直後になんと 天童さんと牛島さんが入っていった。 松川：あいつらなんなのｗｗｗｗｗｗなんで毎回遭遇すんのｗｗｗｗｗｗｗ 影：そして、前にいる及川さんたちに気付いた天童さん。もちろん空気なんて読まず声をかけた。 天童さん『あれ？岩泉くんと及川くん？』 牛島さん『こんなところで奇遇だな？岩及』 及川さん『』←なんで声かけてくるんだよって思ってそうな不機嫌ゴリラ顔 岩泉『』←こいつら消えてくんねーかなって思ってそうな不機嫌ゴリラ顔 松川：不機嫌ゴリラ顔ｗｗｗｗｗｗｗ 影：その直後、及川さんたちの入店に気付いてしまった店員さんが声をかけてきた。 店員さん『次にお待ちの・・・4名様でよろしいでしょうか？』 及川さん『いえ、違いま』 天童さん『はい！4人です！折角だし4人でお茶しよ！』 及川さん『・・・！・・・！！！』鬼の形相 花巻：及川ｗｗｗｗｗｗ 影：仕方なく４人で席に移動する及川さんだったが・・・ 店員さん『こちらの席でよろしいでしょうか？』 天童さん『はい！岩泉くん奥つめて！』 岩泉さん『お、おう？』 天童さん『岩泉くん何頼むのー？』←何故か岩泉さんの隣に座る天童さん（前回の一件で岩泉さんに懐いたらしい） 及川さん『ちょっと何でゲスモンちゃんが岩ちゃんの隣なわけ？！！』 天童さん『？なんとなく？』 及川さん『』鬼の形相 牛島さん『』鬼の形相 松川：もうやめてｗｗｗｗｗｗ 影：牛島さんと及川さんの不機嫌さなんて全く気にせずメニュー表とにらめっこ始める天童さん。 天童さん『んー。どうしよ』 岩泉さん『どうした？』 天童さん『これ食べたいんだけど、結構大きいみたいなんだよね・・・。俺そんなに食べれないし・・・あ・・・！岩泉くん！はんぶんこしよ』 及川さん『・・・ギリィ！！！』ハンカチ噛み千切る及川さん 松川：嫉妬激しい女子みたいになってんぞｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影：及川さんが恨めしそうに見つめる中、岩泉さんは天童さんへ申し訳なさそうに誤った。 岩泉さん『あーわりぃな天童。天童は牛島とはんぶんこしてもらえ。俺は こっちの手のかかる幼馴染のワガママ聞いてやんなきゃなんねーからな』 及川さん『え？』 岩泉さん『ほら。どうせどっちにしようか迷ってるやつ２つくらいあんだろ？それ２つとも頼め。俺が半分食うから』 及川さん『いわちゃ・・・///』 影：さっきまでの般若顔どこいった乙女川徹。 国見：及川さんｗｗｗｗｗｗｗｗ 影： 天童さん『若利くん』 牛島さん『どうした？』 天童さん『この、3段重ねのホットケーキ頼みたいんだけど、 はんぶんこしよ？』首こてん 牛島さん『』 影：牛島さん、意識を飛ばす(天童さんの仕草があざとすぎて) 金田一：牛島さんしっかりｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 国見：ちょろいｗｗｗｗｗｗｗ 影：ひとまず修羅場は去ったので、及川さんはドリンクバーのジュースを取に行くために席を立った。 及川さん『ちょっと飲み物取ってくるね！岩ちゃんいつものでいい？』 岩泉さん『おう』 牛島さん『“いつもの”で通じる以心伝心阿吽推せる・・・』合掌 天童さん『若利くん拝まない！！』 天童さん『俺も取りに行ってこよー！若利くん、お茶でいい？』 牛島さん『しゅわしゅわするやつ以外ならなんでも大丈夫だ』 影：【速報】牛島さん、しゅわしゅわするやつダメ！！ 松川：どうでもいい情報を入手したｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：しゅわしゅわって炭酸のことかなｗｗｗｗｗｗｗｗ 国見：要らない情報が増えていくwwwwww 影：そしてドリンクバーへ行った及川さんと天童さん 修羅場。 金田一：まじかよｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影： 及川さん『ちょっとゲスモンちゃん？』 天童さん『なぁに？』 及川さん『俺を差し置いて岩ちゃんの隣に座るってどういうことかなぁ？？？？？』 天童さん『ひっ・・・！』涙目 松川：脅すな及川ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影： 天童さん『だ、だって、 若利くんの隣だと、ドキドキし過ぎてご飯の味わかんなくなっちゃうんだもん///』 及川さん『（こいつマジで牛島好きなのか・・・趣味が悪い）』 花巻：酷い言い様だなｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 松川：どんだけウシワカ嫌いなのｗｗｗｗｗｗｗ 影： 及川さん『でもさ、牛島とはんぶんこするんでしょ？隣同士じゃないと取り分けにくくない？』 天童さん『う・・・たしかに』 及川さん『今度はちゃんと牛島の隣いきな？』 天童さん『が、がんばりゅ///』 及川さん『落ち着いてｗｗｗｗｗｗｗ言えてないからｗｗｗがんばるって言えてないからｗｗｗりゅになってるｗｗｗ』 天童さん『・・・及川くんは、岩泉くんが隣にいてドキドキしないの？』 及川さん『？なんで？』 天童さん『だって及川くん、 岩泉くんのこと好きじゃん』 及川さん『・・・は？』 天童さん『え？』 及川さん『いやいやいや何言ってんの？！俺が岩ちゃんを？！！は？！！』 天童さん『だって及川くん、俺が岩泉くんに近付くと不機嫌になるじゃん。だからやきもち妬いたのかなって』 及川さん『それは！なんかこう！幼なじみ取られてムカッとしたっていうか！なんかイヤだなって思っただけで！！』 天童さん『俺、幼なじみいないから何が普通なのか分かんないけどさ。でも、俺と仲がいい英太くんとか隼人くん、獅音が他の人と話しててもイヤだって思わないよ？』 及川さん『それは・・・』 天童さん『及川くんはさ、友達の花巻くんとか松川くんが他の人と話してても、楽しそうだなぁとか、何の話してんのかなぁとか、そのくらいにしか思わないでしょ？えも、岩泉くんに対しては違う』 及川さん『だって・・・岩ちゃんは俺のだもん』 俺『いつから岩泉さんは及川さんのになったんだくわしくおねしゃす』 及川さん『？！！！』 天童さん『？！！！』 国見：乱入しやがったｗｗｗｗｗｗｗ 金田一：影山ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影： 及川さん『飛雄？！！なんでここに？！』 俺『いわおい尾行してたらこうなった』 及川さん『お前また付いてきたの？こわ！！！ストーカーかよ！！』 俺『ストーカーだなんて人聞きの悪い！！ただ好きなものを追い掛けてきただけです！』 及川さん『世のストーカーはみんなそう言うんだよ！！！』 俺『というか及川さん。そろそろ気づきましょう？及川さんにとって、岩泉さんがどういう存在なのか』 及川さん『どういうって・・・昔からずっと一緒にいる幼馴染で、バレーでは信頼できる相棒で・・・』 俺『及川さん。俺は、そんな客観的に見た二人の関係について聞きたいんじゃないです。 岩泉さんに対する、あんたの気持ちが聞きたい』 及川さん『俺のきもち？』 俺『ねぇ、及川さんは岩泉さんのことどう思ってますか？ 及川さんにとって、一番好きな人、なんじゃないですか？』 及川さん『す・・・き・・・？』 天童さん『及川くん。俺さ、好きとかよくわかんなかったんだよね。高校入るまで友達いなかったから！若利くんに向ける感情がなんなのかよくわかんなくて。でも最近になってようやくわかってきたんだぁ。 ただ目が合うだけで、ただ側にいてくれるだけで、幸せだって思うのは誰といるとき？ ついさっき会ったばかりなのに、またすぐに会いたいと思ってしまう人は誰？ 及川くんが、一番大切だって、そう思える人は？ ねぇ及川くん。 今、及川くんが思い浮かべてる人が、 及川くんの一番好きな人だよ？』 及川さん『俺の、すきなひと・・・？ いわちゃん？』 天童さん『それが正解なのか、俺からは判断できない。けどね？ 岩泉くんといるときの及川くんすっごく幸せそうだなぁって、俺の目にはそう写ったよ』 及川さん『・・・うん・・・俺、岩ちゃんと一緒にいる時が一番幸せ///』 天童さん『そっか』 及川さん『岩ちゃんが隣にいてくれるだけで心がね、暖かくなるの。 逆にね、岩ちゃんに会えないときは、心臓がぎゅってする。 岩ちゃんは おれの、いちばんすきなひと。』 俺『及川さん・・・』 天童さん『いつもそばに居るとそれが当たり前すぎて、大事なことに気づきにくいもんなんだよなって英太くんが言ってた。 そのまま気付けず終わっちゃったら寂しいからさ。 気づけてよかったね？及川くん』 及川さん『うん///』 花巻：及川が・・・自覚した・・・だと？！！ 松川：明日は・・・槍が降ってくるかもしれん・・・ 金田一：そんなに驚くことなんですかｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：俺たちが何を言おうと全く自覚の兆しすら見せなかったあの及川だぞ？！！ 松川：岩泉から婚約指輪まがいのものを貰っても自分の気持ちを自覚すらしてくれなかったあのOIKAWAだぞ？！！ 国見：3年生お疲れさまですｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影：自覚したばかりの及川さん、まだ顔が赤いので席に戻れずドリンクバーコーナーでひたすらジュース入れてる。 俺の分も入れてくれたけどさすがに８杯飲まないといけないのしんどい・・・・・・・ 国見：がんばれｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影：及川さんがジュース入れ終わるまで暇なので岩泉さんのほう見てくる！ 影： 岩泉さん『おい牛島』 牛島さん『なんだ岩泉』 岩泉さん『お前、前に及川のことは好きじゃないって、好意は持ってないって言ってたよな？なのになんで及川の隣に座った？（※天童さんが岩泉さんの隣に座ったから及川さんの隣しか空いてなかっただけ）まさか本当はやっぱり及川に気があるとかそんなんじゃねーだろーな？！もしそうなら容赦なくぶっ潰すからな？！！』 牛島さん『そういうお前こそ何故あんなに天童と密着する必要がある？（※180近い、もしくはそれ以上のデカさを誇る男子高校生4人が狭いテーブルに座ったらそりゃ肩くらい当たるわ）お前が及川以外くっつこうものなら人生リセットボタン連打するからな？ましてや天童となにかあった際は人生強制終了させるからそのつもりでいろ』 こわいよぅ・・・戻ってくるんじゃなかったよぅ・・・ 金田一：影山ｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 国見：こっちは穏やかじゃないｗｗｗｗｗｗｗｗ 影： 岩泉さん『・・・お前天童のこと本気で好きなのか？及川ではなく？この認識であってるか？』 牛島さん『ああ』 岩泉さん『ならなんで天童俺の隣に来るんだよ。天童が俺の横座ったせいで及川機嫌悪かったじゃねーか。あいつ、幼馴染取られたと思ってすぐむくれるんだよ。』 牛島さん『ふつう幼馴染が別の誰かと仲良くしてもあんなに嫉妬しないんだとそろそろ気づいてくれ岩泉・・・及川のお前に向ける感情は明らかに幼馴染の度を越してるんだ・・・』 岩泉さん『？そんなことよりお前の話だ。天童に好きって伝えたのか？』 牛島さん『伝えた！何度も！だが、伝えたいことの３分の１も伝わらない』 岩泉さん『100分の1も伝わってるか怪しいけどな』 牛島さん『世知辛い！！』 岩泉さん『天童はなんつーか。及川と似ててごちゃごちゃ考えるタイプなんだろーな。だから気長に待ってやれよ。大事にしてやれ。あせらず、な。』 牛島さん『お、 お義母さん・・・！！！』 岩泉さん『俺天童のかーちゃんじゃねーし、どさくさに紛れて”義母さん”呼びしてんじゃねーよ！お前それだから伝えたいことの1000分の1も伝わんねーんだよ』 牛島さん『ものの数分で確率悪化した！ゼロ一桁増えた！』 松川：なんでコントしてんだああいつらｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：そして及川はまだ帰ってこないのかｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影：あ。来た。 及川さん『た、ただいま///』 岩泉さん『おう、時間かかってたみたいだけどどうし・・・？！！！』 及川さんがトレーで持ってきたファンタ〇レープの量に絶句する岩泉さん。 及川さん『あの、岩ちゃんがこれ好きだからいっぱいもってきたの・・・///』 岩泉さん『好きだがこの量はやべぇ』 影：岩泉さん。がんばって飲み干してください。 俺も頑張る。 国見：俺も頑張るｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 影： 岩泉さん『というか及川、お前顔赤くねぇ？』及川さんのおでこに手を当てる 及川さん『ふぇ？！！///』 岩泉さん『体調悪いなら言えよ』 及川さん『だ、だいじょぶ！体調わるいとかそんなんじゃなくて！///岩ちゃんが近くにいるから発症する病といいますか！なんかそんな感じのなので！！///』 岩泉さん『何わけわかんねーこと言ってんだ？やっぱ熱で頭やられてんのか？？というか大丈夫な奴がそんな顔真っ赤にしてるわけねーだろ。ほら。帰るぞ』 及川さん『で、でも今日は久々の岩ちゃんとのお出かけの日だから・・・もうちょっと岩ちゃんと一緒に・・・居たいです・・・』 岩泉さん『あほ。お前が出かけたいっつーならいつでも一緒に行ってやる。だから今日はこのまま帰んぞ』 及川さん『・・・いわちゃ』 岩泉さん『俺と一緒に居たいってんなら今日お前ん家泊まるから。』 及川さん『岩ちゃ・・・！』 岩泉さん『ほんと世話の焼ける幼馴染だよなぁお前』 及川さん『うう・・・そんなことないもん・・・』 岩泉さん『そんなことあるんだよ。ほんと目ぇ離せねーんだよな昔から。まぁ 他の誰かにお前が世話焼かれてんの見んのはなんかしゃくだからよ お前はこうやって、ずっと俺に世話焼かれてろ。いいな？』 及川さん『・・・うん///』 岩泉さん『ほら、行くぞ、徹。』 及川さん『はーい！///』 影：そして残されたマブダチ・・・ 牛島さ『・・・しゅわしゅわいっぱいあるんだが・・・』 天童さん『英太くんたち呼ぼっか・・・』 松川：ウシワカｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：俺たちが手伝いに行ってやるかｗｗｗ 松川：花巻お前シュークリームフェア行きたいだけでしょ 花巻：ばれた！ 国見：行きましょう今すぐ（マロンキャラメルパフェじゅるり・・・） 金田一：国見ｗｗｗｗｗｗｗ 影：俺のジュース（及川さんが入れたやつ）も手伝てくれると嬉しいな・・・ 国見：影山ｗｗｗ 金田一：行くから待ってろｗｗｗｗｗｗｗ [newpage] おまけ： 花巻『やべぇたすけて』 国見『部室に来て早々なんでそんなにげっそりしてるんですかｗｗｗｗｗｗｗｗ』 花巻『及川・・・あいつ岩泉への気持ちを自覚したせいでこれまでに輪をかけてうざくなった無理・・・』 金田一『何があったんですかｗｗｗｗｗｗ』 花巻『 岩泉「及川―。音楽の教科書忘れたから貸してくんね？」 及川「いわちゃ///いいよー！」 岩泉「さんきゅー！後で返しにくるわ」 及川「え・・・？ もういっちゃうの・・？」 岩泉「？おう。次、移動教室だからな」 及川「・・・どうしてもいく？世界が滅びることになっても？」 俺「怖ぇぇよ！！！！！」 岩泉「？よくわかんねーけどもう行くな？授業遅れるし！」 及川「い、 いわちゃああああああああん！！いかないでえええええええ！！！」 俺「うるせええええええええええええええええ！！！耳元で叫ぶなあああああ！！！！」（何故か俺の背後でおんぶお化けになる及川） 岩泉欠乏症悪化しやがった・・・』 ＊岩泉欠乏症：岩泉さんと1日以上離れると発症する。初期症状→鳴き声が”岩ちゃん”になる　　　末期→狂暴化 特効薬→岩ちゃん 国見『岩泉欠乏症って・・・あの二人、1日も離れてないじゃないですか』 花巻『おう。1時間離れただけで発症するようになった最悪だ』 金田一『ほんと最悪じゃないですか』 花巻『昼休みとかもな、何かあればいわちゃんいわちゃん！！今までの比じゃないくらい話題がいわちゃんで俺そのうち岩泉マスターになるんじゃないかなってくらい岩泉情報に詳しくなってるそんなのいらない・・・』 国見『花巻さんｗｗｗｗｗｗｗｗ』 花巻『で、だ。これからここに及川も来るわけだが、ぶっちゃけ俺も松川も疲れ果てているので 後は頼んだ！☆彡』ダッシュ！ 国見『え？』 金田一『ま、まさか・・・』 及川『ねぇマッキー聞いてよ！いわちゃんが・・・あれ？国見ちゃんと金田一だけ？まぁいいや！ねぇ二人とも聞いてよ！！あのね！岩ちゃんがね///あの』 国見『花巻さんゆるすまじ』 金田一『かえりたい』 end [newpage] ここからはRTSサンプルになります！ RTSサンプルその１！ 山川山合同誌！ 金平糖さんの担当：川山 題名:川西太一くんのれんあいじじょう！ 副題：～勘違い男の思い込みほど気持ち悪いものはない～  題名から色々察してください！   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 川西『天童さん聞いてください。山形さんのことなんですけど・・・あの人絶対俺のこと好きだと思うんです』   天童『・・・は？』     天童『いやいやいや何言ってんの？あ、後輩としてってこと？うんうん、隼人くん後輩大好きだから太一のことも好きだよ！』   川西『いえ、LOVEのほうで。エルオーブイイー！LOVEのほうで！』   天童『ウッセーヨ！ないないないない！それお前の勘違いだから！』 川西『山形さん、偶にジュースおごってくれるし夕飯も時間が重なれば一緒に食べてくれるし。あとブロック成功すると頭わしゃわしゃ撫でてくれますもん！』   天童『それ普通だよね？！隼人くん、基本誰にでもそんな対応だよね？！』 川西『違いますって！よく見てくださいよ！山形さんが俺を見るとき、       目にハート入ってますもん！！』   天童『入ってネーヨ！！勘違い野郎マジコエーな？！！』 川西『これが勘違いなら俺は全人類を信じられなくなる』 天童『重い！！考えが重い！！』 川西『あの人俺に対してスキンシップ激しいんですよ？もう俺のこと大好きじゃん』 天童『ねぇ待って？？隼人くん誰にでもスキンシップ激しいよ？英太くんとよく肩組んでるし、若利くんの背中にどーんって抱きつきに行ったり・・・』   川西『は・・・？まさか・・・瀬見さんと牛島さんは山形さんを・・・狙っている・・・？ゆるすまじ・・・』   天童『どんな思考回路してんのお前？！！ちょ、若利くん英太くん逃げてー！！この子危ない！！めっちゃ危ない！！』   川西『ははっ！冗談ですって。別に何もしません。あの人たちに勝ち目はない。なぜなら あの人が好きなのは俺だからだ』   天童『全然大丈夫じゃネーヨ！！ねぇ！その思い込みどっからきたの？！！』 川西『思い込みじゃないです。この前だって   山形さん「なー！太一！それ、新しく発売されたスポーツ飲料だよな？ひとくちくれ！」 俺「あ、ハイ（え、・・・まじか・・・それは・・・間接キス・・・！）」   山形さん「おいしー！！」 俺「（か、かんわいぃぃぃぃぃぃ！！！！！！なんでこんな無防備な笑顔向けてくんの？！俺に対して無防備すぎじゃない？！！）」』   天童『そりゃ、後輩に狙われてるだなんて思ってないからね！！！というかお前ビョーキだよ！一回見てもらってきなよ！』 川西『え？誰に？山形さんに？俺のピー（自主規制）を？』   天童『下ネタに走んのやめてくんない？！！』       川西『俺、考えたんですけど、なんで山形さんは俺に告白してこないんだ・・・？』 天童『その気がないからダヨ』 川西『は？！！まさか俺から告白するのを待ってくれてるのか・・・？   そうだよな。山形隼人の“隼（ハヤ）”は“早く俺を奪ってね？”のハヤだもんな！』   天童『ちげーよ！！！！！隼はハヤブサのハヤだよ！！一回辞典調べてきな！！！』 天童『太一。一回落ち着いて俺の話聞こう？お前傍から見たらただの変態だよ！ストーカー一歩手前だよ！！』   川西『俺、考えたんっすよ。山形さんと付き合った場合、受け身になるの山形さんですよね？あ、セッ〇スの時の話です。』 天童『お前話聞く気ねーな？！！ってかお前付き合ってすらいないのにそんなことまで考えてんの？！！ほんっっと気持ち悪いんだけど！！』 川西『そんで思ったんすけど、俺のビッグマグナム入んのかな・・・どこにとは言わないけど』 天童『誰かー！！！警察呼んできてー！！これ全年齢対象なのわかってる？？！！ちゃんとわかってる？！！あとね！！その程度でマグナムとかおこがましいんだよ！！このポッキー野郎が！！マグナムなんて名乗っていいの若利くんくらいだよ！！あとはみんなポッキー（極細）だよ！！あ、やべぇ。言ってて虚しくなってきた・・・』   瀬見『どうしたお前らこんなとこで。ポッキーがなんだって？』 川西『あ、ちわっすポッキー（極細）』 瀬見『何か知らんがすっげー貶された気がする！！！』 山形『？何してんだ？』 天童『隼人くん逃げて！超逃げて！』 山形『？』 瀬見『それで？ポッキーがどうかしたのか？』   山形『え？ポッキー持ってんの？たーいち！俺にもくれ！』 川西『え・・・？え・・・？！（二度見）』 天童『おいｗｗｗｗｗ二度見すんなｗｗｗそういうイミじゃねーよ！！普通のポッキーの話だよ！！！』 川西『は・・・！今、目の前に山形さんがいる・・・おれは、今すぐ告白しろという神様のお達しなのか・・・？』 天童『え？！！まさかお前この下ネタからの最低な流れで告白する気なの？！！！』   川西『あの、山形さん！俺・・・すっと言いたかったことがあって・・・』 山形『？おう！なんだ？』   川西『俺、俺・・・！山形さんが好きです！』 山形『？おう！俺も好き！』   天童『ちょ、隼人くぅぅぅん？！！！』 川西『付き合ってください！』 山形『？いいぞ？』 川西『っしゃぁぁぁ！！！！！』     瀬見『ここまで喜びを露にする川西を試合でもみたことないわ』 川西『あ、あの、めちゃくちゃだいじにします・・・！！』 山形『？？おう？』 川西『では！俺は失礼します！ちょ、白布！聞いてくれ俺の喜びの叫びを！！白布――！！！』   瀬見『行ってしまった・・・』     山形『・・・で？俺はどこに付き合えばいいんだ？』 天童『そんなことだろうと思ってたよ・・・隼人くん・・・隼人くん・・・』 ―数日後―   天童『こんにちは。白鳥沢のＭＢ（ＨＥＮＴＡＩ☆じゃないほう）天童覚です。 今日は太一と隼人くんがデート（隼人くんは後輩と遊びに行くって言ってたからデートだと思ってるの太一だけ・・・）ということで、心配になった俺たちは彼らのデートを尾行することにした。え？俺たちって誰のことかって？それは・・・』   牛島『天童。どこに向かって話してるんだ？』 白布『あ！太一が集合場所に到着しましたよ！』 天童『この二人でゲス』  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 山形さんとデートに行くことになった川西さん。 果たして川西さんの運命はいかに？！ちゃんとデートを遂行できるのか？！！ というお話ですたぶん！ [newpage] RTS!!21サンプル２！！ 影山飛雄による華麗なる誤爆シリーズ ー青葉城西総集編ー！ 全34話296ページ！ 今回の書き下ろし "この年の瀬に何してんだあの人達は！！(ﾟДﾟ#) by影山"の青葉城西ver. をちょこっと紹介します。   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 青葉城西はいきゅーぶLINE     国見：大変です聞いてくださいｗｗｗｗｗｗｗｗ 花巻：どうした国見？ 松川：国見、今日は金田一と影山くんと一緒に買い物行くって言ってなかったか？ 国見：はい。それで買い物に来たわけなんですが・・・     国見さんが影さんを招待しました。 影さんが参加しました。   影：劇場版！青城&沢の泥沼ほもの四画関係～勘違いが勘違いを呼ぶ奇跡のドキュメンタリー～   大絶賛放映中でオラわくわくすっぞ！     矢巾：わくわくすんなよｗｗｗ 金田一：買い物のために俺たちは駅ビルの洋服屋に来たんです。そしたらちょうど映画館から出てきた及川さんと岩泉さんを目撃しまして・・・   影： 及川さん『いわちゃーん！映画楽しかったねぇ！』 岩泉さん『おう。やっぱゴ〇ラかっけーな』 及川さん『いわちゃんせっかく買ったジュースに手も付けずに熱中してたもんね』 岩泉さん『・・・お前、最近話題の映画見なくてよかったのか？気になってる映画だったんだろ？』 及川さん『んー？俺は岩ちゃんと一緒に見れるならなんでもいいんだぁ。』 岩泉さん『及川・・・』 及川さん『岩ちゃんこそ、俺でよかったの？マッキーも見たいって言ってたじゃん。誘わなくてもよかったの？』 岩泉さん『映画館行くときは昔から必ずお前が隣にいただろ？そのせいか、映画見るときにお前が隣に居ないと落ち着かねーんだわ。だから       映画はお前以外と見に来れねぇかな』 及川さん『いわちゃ・・・///』   花巻：どこのカップルだ。 松川：これで付き合ってないとか意味が分からない。  影：続き 及川さん『いわちゃん、次どこいこっk・・・』 牛島さん『及川？』           及川さん『あ゛あ゛？！』 矢巾：やくざだｗｗｗやくざ川さんが降臨したｗｗｗｗｗｗ 松川：今までの乙女川どこ行ったｗｗｗ   影： 牛島さん『奇遇だな？岩泉も一緒なのか。デートか？もしくはデートか？』 及川さん『お前に関係ないだろ？！！』 岩泉さん『お前こそなんでいるんだ？』 牛島さん『天童が洋服を見たいと言ってな。今この中で可憐な天使天童覚がお着換え中だ』 及川さん『天使？』 牛島さん『天童の“天”は天使の天だといっただろう？！！』 岩泉さん『知らねーよｗｗｗ』 牛島さん『というかだな。岩及デートなら連絡しろといっただろう？！！鑑賞料とってもいいからと！！俺の電話番号はそのためにお前たちに教えたんだぞ？！』 岩泉さん『嘘だろ？！！』 牛島さん『俺の番号忘れたのか？では俺に続いてリピートしろ。0120』 及川さん『お前の電話番号0120から始まるの？！！！』   シャッ(カーテンを引く音) 天童さん『若利くん？誰と話して・・・あ・・・』   国見：天童さんはこの時思った。”若利くん、俺と岩泉くんがいなければ及川くんとデートできるよね・・・俺たちがいないほうが・・・”       松川：何でだよｗｗｗｗｗｗ 金田一：ヒント；天童さん、牛島さんが及川さんのこと好きだって思いこんでる 花巻：あいつまだそんなあっぱらぱーな勘違いしてんのかよｗｗｗｗｗｗｗ 矢巾：あっぱらぱーwwwwwww   影：そして・・・ 天童さん『岩泉くん！いっしょに行こ！』ぐぃっ 天童さんは岩泉さんの手を引っ張り逃亡した。 花巻：何やってんだばかwwwwwww 影：そして逃亡中の天童さんと岩泉さんの会話 天童さん『岩泉くんごめんねぇ・・・無理矢理連れて来ちゃって・・・』 岩泉さん『いや、別にいいけど。お前、何で急にこんなことしたんだ？牛島が今頃心配してんじゃねーか？』 天童さん『・・・してないもん。』 岩泉さん『してるだろ。』 天童さん『若利くん、今頃及川くんと２人でデート出来て喜んでるもん・・・』       岩泉さん『あ゛あ゛？！』 天童さん『ひっ・・・！あの、岩泉く、』 岩泉さん『天童。大至急事情を説明しろ。ちょっとでも隠し事したら・・・     わかってるよなぁ？？？？？』 天童さん『ぐすっ。こわい・・・ヤクザがいる・・・俺の隣にヤクザがいる・・・ 』 花巻：天童wwwwwwwww 松川：かわいそうにｗｗｗやくざ岩が降臨してしまったｗｗｗｗｗｗｗｗｗ  花巻：もうやくざしかいねーじゃんｗｗｗｗｗｗｗｗ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 果たして及川さんは無事岩泉さんを取り戻せるのか？！ 続きはご本でご確認ください！ この他、小話２本 やはばさんの寝言はいつから？・・・やはばさんが寝言を言う理由が明らかに！ 及川さんの好きなタイプ・・・これだから岩及はという感じのお話。 を書き下ろしています。どうぞよしなに？ それでは9/17のRTSにてお会いしましょう！

影山くん誤爆シリーズ。岩及編！<br /><br />及川さんが、ついに自分の気持ちに気付く？！！<br /><br />あてんしょん！<br />かっこいい影山くんはおりません！<br />かっこいい阿吽とマブダチもおりません！<br />毎度のごとく修羅場！<br />下ネタ注意！<br />歩きスマホはだめだよ！（特にやはばさん！）<br /><br />大丈夫そうな方は本編へどうぞ！！<br /><br />追記：３ページ目、４ページ目は9/17RTS!!21にて頒布させていただくサンプルになります！続きは是非ご本で確認ください！

阿吽VSマブダチの修羅場が怖いよぉぉ!!L(゜□゜o)by影山

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今日は梨子ちゃんのおうちにお泊まり！ なんでも、梨子ちゃんのお父さんとお母さんが二人で温泉旅行に行っているらしく、梨子ちゃんの方から泊まりに来ないかと誘われたのであります！ ちなみに、私と梨子ちゃんはお付き合いをしています。今晩は…その…えへへ、楽しみであります！ さてさて、梨子ちゃんのおうちに到着！ 梨子ちゃんがご飯を作って待ってくれているらしい。梨子ちゃんの作るお料理はどれも美味しい。今日は何を作ってくれるのか楽しみ！ ピンポンを押すと、中から「はーい！」との声が。 「いらっしゃい、曜ちゃん」 「こんにちは、梨子ちゃん！」 「どうぞ、上がって？お昼ごはんは曜ちゃんが好きなハンバーグ作っているの」 「え？ハンバーグ？やったー！！」 「んじゃあ、早く上がって、荷物置いて、手を洗ってきてくれるかな？」 あっ…ここまだ玄関前だったの忘れてた… 「梨子ちゃんごめんね！おじゃまします！」 勝手知ったる梨子ちゃんのおうち。何回かお邪魔してるので、洗面所の場所や梨子ちゃんのお部屋は聞かなくてもスルスルっと行けるんだー。 階段を上がった先にある梨子ちゃんのお部屋に、私の荷物を邪魔にならないよう端っこに置いて、下に降りて洗面所で手洗いうがいをしてから、キッチンに立つ梨子ちゃんの元へ。 そっと梨子ちゃんの後ろから近づき、包丁など危ないものを使っていないのを確認すると、梨子ちゃんへ抱きついた。 「きゃっ、曜ちゃん！ビックリしたじゃない」 「ごめんね梨子ちゃん、無性に抱きつきたくて…」 「もうすぐ出来るから大人しく待ってて欲しいなぁ」 そう言うと梨子ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれる。まるでプレリュードを撫でている時のような手つきで。 ………あれ？そういえばプレリュードの姿が見えないな。いつも走ってやって来るのに。 「ねぇ、梨子ちゃん。プレリュードは？」 「あぁ…お父さんとお母さんが連れてっちゃったの。ペット可の温泉旅館だからーって言って…」 「そうだったんだね、寂しいんじゃない？」 「うーん…寂しいんだけど、それ以上に曜ちゃんと2人っきりで過ごせるから、その方が嬉しかったり…」 耳まで真っ赤にした梨子ちゃん。可愛すぎる！！！ 「梨子ちゃん…可愛い…好き」 後ろから抱き締めてる今、梨子ちゃんの首筋に顔を埋めて首筋に軽く口づけをする。 「ん…曜ちゃん、ダーメ。イタズラするならハンバーグ作らないよ？大人しく待っててください」 「はーい、分かりました…何か手伝うことある？」 「ううん、大丈夫だよ。曜ちゃんはお客さんなんだからゆっくりしてて？」 これ以上、付きまとってるとキッチン出禁やハンバーグ中止になりかねないので(以前やらかした)、大人しくリビングで待つことにした。 出来たよーという声が聞こえたので、配膳のお手伝いに向かう。 ハンバーグにサラダ、コーンスープを配膳していたら梨子ちゃんがご飯をよそって持って来てくれた。 「「いただきます」」 普通のハンバーグだと思ったら、中にチーズが入っているチーズインハンバーグだったり、いつの間にか付いていた口元のデミグラスソースを梨子ちゃんがティッシュで拭ってくれたり、楽しい食事が終わった。 お昼ご飯を作ってくれた代わりに私が食器を洗う。 梨子ちゃんには座って待っててと言ったものの、隣で洗った食器を拭いてくれている。 「もう、座って待っててって言ったのに…」 「こうした方が一緒に過ごす時間が増えるもの…」 「えっ！？」 危なっ！手に持っていたお皿を落としかけた！え、何、梨子ちゃん、可愛すぎるんですが。 梨子ちゃんの方を向くと、耳が赤くなっている。 いやいや、梨子ちゃん。自分で言って照れちゃってる。500Guiltyですよ？ 「え、えっと、梨子ちゃん？早く終わらせよっか」 「う、うん…」 ちょっと変な雰囲気になっちゃった食器洗いも終わり、リビングのソファーに並んで座った。 テレビをつけたものの、隣の梨子ちゃんの方が気になる。 チラッと梨子ちゃんの方を見ると、梨子ちゃんもこっちを見てて慌てて目を逸らす。 すると、梨子ちゃんがこちらにもたれかかってきた。え、肩にすりすりしてくるよ？可愛すぎない？ 心の中でプチパニック起こすも、よくよく考えると、なんだか梨子ちゃん今日はいつもよりも甘えてきてくれてる。梨子ちゃん曰く、私は犬っぽいらしいけど、そう言う梨子ちゃんは猫っぽい。それを言うと違うって怒られるんだよね。そういうところも可愛い。 梨子ちゃんの左手を握り、指を絡める。 梨子ちゃんの方に若干もたれ返してみる。 お腹いっぱいだし、梨子ちゃんとくっついてるから温かいし、眠くなるのは仕方がない。そのままゆっくり目を閉じた。 [newpage]目を覚ますと、寝る前と同じ体勢だった。 横の梨子ちゃんを見ると、眠っていた。 座ったままの体勢は寝にくいので、繋いでいた手を離して、ゆっくりソファーに横たわらせた。脚も上げた方が楽な体勢で寝れるかな？と考え、持ち上げたところで気づいてしまった。 梨子ちゃんワンピース着てるし、おうちだから裸足…脚が無防備に晒されてる…！ 特に注目してしまったのが引き締まった真っ白なふくらはぎ。 普段はハイソックスやジャージなどで隠されていて、あまり見ることのないところ。 私たちは付き合ってるし、まぁ、そういうこともしたことあるけど、電気消して言われるからいつも真っ暗な中でするし…ってそんなことは良くって！ 正直に言うね………めっちゃ触りたい。なんなら噛みつきたい。 こんなに白くて美味しそうな脚を目の前に我慢出来るでしょうか？いや、無理です。 気がついたら体が動いてた。床に座り、起こさないように目の前のふくらはぎにそっと触る。 固すぎず柔らかすぎず、適度な柔らかさ。 あぁ、これはやみつきになりそう。 我慢できず、カプッと噛みついてしまった。 そのまま甘噛みしていると、もう自分では止められなくて、噛みながら太ももに触れようとしたその時。 「曜ちゃん？何してるの？」 あ、終わった。 「え、っと…梨子ちゃんおはヨーソロー…」 「曜ちゃん、何してるの？」 ダメだ。完全に怒ってる…！怖くて見れない…！！ 「曜ちゃん、目を合わせて話してくれないと今日のお泊まりなしにする」 え！？それはやだ！せっかく2人っきりでのお泊まりなのに！ 恐る恐る梨子ちゃんの目を見ると、すごい笑顔。でも、目は笑っていない。 「り、梨子ちゃんのふ、ふくらはぎを寝てる間に触って噛んじゃいました…ごめんなさい…」 腹を括って素直に話し、謝ると梨子ちゃんは頭を撫でてくれた。そのまま頬っぺたの方に降りてきて、頬っぺたを思いっきりつねられた。 「いひゃい！りひょひゃんいひゃいひょ！(痛い！梨子ちゃん痛いよ！)」 「寝てる間にイタズラしちゃうなんて、プレリュードより悪いワンちゃんね！1週間触るの禁止！」 お触り禁止令が出されてしまい、イタズラして怒られたワンちゃんのようにシュンとしていて(梨子ちゃん談)、可哀想なことをしたと思い禁止令がなくなった。 あまりの嬉しさに、めちゃくちゃ…その、しちゃって、結局お触り禁止令が出されてしまったのはまた別のお話。

などと供述しており…はい、ということでようりこちゃんです。<br />こないだ友人のおうちにお邪魔した時にですね、やってしまいそうになったんで、代わりにようりこちゃんにしてもらいました。<br /><br />何でも読んでやんよ！って方のみお読みくださいませー！<br />追記:2018年09月13日付の[小説] 男子に人気ランキング 50 位らしいです！<br />読んでくださったみなさま、ありがとうございます！

だって美味しそうに見えたんだもん

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いろは「せんぱーい。栗剥けましたよー」 八幡「うむ、秋は栗が旨い、おまけに好物だ」 いろは「せんぱいのクリ好きにはドン引きです」 八幡「マッ缶のクリ味が出たら即買いだな」 いろは「い、いや、そ、それは・・・」 八幡「ん？なんかいい香りがするんだが」 いろは「剥いてたらクリまみれになりました」 八幡「それって・・・新味か？」 いろは「味わってみますか？」 八幡「ああ」ガバッ いろは「いやーん☆」 いろは「せんぱい、責任とってくださいね☆」 おわり －－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

小生のyoutubeチャンネルである「チャンネル40」に掲載しているのを転載しますね！

いろはす クリ味

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　もう来る頃だな・・・。 　時計を見ると、約束の時間の15分前。 　職場の玄関に一台のタクシーが到着し、眼鏡をかけた・・・。 　海「ひきがやーくーん！久しぶりー！てか、スーツ姿！ご馳走様でーすｗｗｗｗ」ﾌﾞﾋｨ！ 　ハイテンションの変態人妻が降りてきた。 　八「・・・お、おう。久しぶり、海老名さん」 　三「久しぶり、ヒキオ」 　八「三浦も久しぶり」 　三浦は黒のパンツスーツにワインレッドのシャツを着ている。 　そのシャツ、海老名さんの鼻血で染めてんの？ 　海「いやぁ、本当に驚いたよー。まさか、比企谷くんが担当者に代わるとはーｗてか、いいね！いいね！そのスーツ！ 比企谷くん、身長高いし、細身だから似合ってるよー」ﾊｽ 八「そ、そうか？」ﾃﾚﾃﾚ/// 　そんなに褒められたことがないからすごく嬉しいんだけど。 　海「もう！何ていうの？こーぉ・・・すごくセクシーだし！すごく攻めれて、脱がされたときのドキドキ感があるし！はだけたときのエローッス！を感じるよー！やべ！よだれが止まらない！！！！それに！その腰！いいね！いいね！エロいよー！！！あぁ！！早く！脱いで！そして！お尻を！！「タクシーの運転士さーーーん！待って！！この人！連れて帰って！」はうぅぅぅう！！」ﾌﾞｼｬｱｧｧ! 　三「姫菜？ここはお外だからね？お家でしようね？お願いだからね？変態」ﾌｷﾌｷ 　お家に帰ったら、俺は脱がされて、ぶっこまれる運命なんだ・・・。 　てか、さりげなく、変態って・・・。 　八「本当にこの人子供居んの？」 　三「あぁ、うん・・・。ちゃんとお母さんしてるし」 　空ちゃんも海老名さんに似ているのだろうか？ 　将来が心配だ。 　海「いやー、ついついｗてか、本当にスーツが似合ってるよー。男の人って感じがする！」 　三「そうだね、ヒキオは、そういうピッシっとしてるの似合ってるし・・・。清潔感もあるじゃん」 　八「褒めても、脱がんぞ」 　海三「・・・ッチ」 　八「おい、コラ」 　海「まぁ、今日はよろしくお願いします！」ﾋﾞｼｯ! 　三「よろしく、ヒキオ」ﾍﾟｺ 　俺を脱がしたくてたまらない二人を館内を順に案内をする。 　三浦は写真撮影や細かく質問してくる。 　海老名さんは目に焼き付けようと、立ち止まったり、キョロキョロと周りを見渡していた。 　漫画家や小説家というのは実際に目で見て、頭の中で物語を作り上げるのが大切だと、好きな小説家のインタビュー記事を読んだことがあるが、彼女らもそれを感じる。本当にいいものを作りたいんだな、コイツらもプロなんだ。 　次の場所に向かう途中、向こう側から明るい茶髪で、いかにも東京のOL！って感じのお姉さんがこちらにやってきた。 　向こうも俺に気づいて、笑顔で駆けてくる。 　A子「あ、比企谷じゃんｗどうしたのー？ここまでやって来て・・・。もしかして、私に会いに来た？ｗ」ﾊﾞｼﾊﾞｼ！ 　八「そうですよー。まぁ、仕事で見学者を案内中です」ｲﾀｲ 　A子「ども！いらっしゃいませ！・・・つれないなー。ねぇ、今度、飲みに行こうよ」 　海三「・・・」ﾍﾟｺ 　八「まぁ、その内、皆さんで」 　A子「えぇー、二人って意味だよー。可愛いなぁｗそれじゃ、私、課長に呼ばれているから」ﾊﾞｲﾊﾞｲ 　八「お疲れ様です」ﾍﾟｺ 　海三「・・・へぇえええー」 　八「なんだよ」 　海三「なんでも？」 　八「だから！なんだよ！その顔！」 　海「さぁ、行こう、行こう」 　・・・ったく・・・。 　最後に食堂まで来た。 　時計を見るとお昼を過ぎている。 　八「丁度、今の時間は空いているし、どうだ？食堂のメニュー、食べてみないか？金はこちらで出す」 　海「あ、そこまでしてくれるのー？」 　三「いやいや、こっちで出すし」 　八「大丈夫だ、課長に頼んである」 　海「優美子、ここは比企谷くんに甘えよう」 　三「そう？それじゃ、ご馳走になるし」 　食券の券売機でメニューを選び、発券を調理担当のおばちゃんに渡す。 　受け取り口でそれぞれのメニューをもらい、席に案内する。 　八「・・・三浦はAランチか」 　今日のAランチは煮魚となすの煮びたし。 　三「煮魚好きだし」 　八「海老名さんは・・・」 　海「海老天そばー！」ﾊﾟｧ 　八「それネタなの？共食いなの？」 　海「いただきまーす！！」 　しばらく三浦から戸部夫妻の話を聞く。 　結婚して一年で子供ができて、パパが大好きなアニメ好きの女の子らしい。 　スマホで家族写真を見せてもらったけど、空ちゃんは海老名さんの眼鏡なしバージョンだな・・・そっくりだ。 　可愛い子だった。 　八「しかし、お前ら、あんま変わらないなぁー」 　三「あ？子どもっぽいって？」ﾊﾟｸﾊﾟｸ 　八「いや、今も、昔も美人ってこと」 　三浦は大人の仕事ができるキャリアウーマンという感じで、きれいな女性になったし、海老名さんは・・・。 　海「海老天おいちぃーーー！」ﾊﾟｸﾊﾟｸ！ 　テンション高い系のお姉さん(変態)になった。 　三「ヒキオが似合わないこと言ってるし・・・。姫菜？海老天の尻尾をピクピクさせない」ﾔﾒﾅｻｲ　 　八「まぁ、本音を言ったまでだ」 　三「ふーん、ありがと」 　八「どうだ？メニューの味は？」 　三「うーん、まぁまぁ？」 　そう、うちの食堂のメニューはまぁまぁだ。美味くもなく、不味くもない。甲乙つけがたい味なのだ。 　八「ハハ、そうだな、俺もそう思う。家で料理とかすんの？」 　三「そりゃするし・・・。大体、あーしがするんだ。姫菜は忙しいときが多いから」 　海「優美子は料理上手なんだよ。本当に、戸部家一同、助かっています」 　八「大変だな。戸部も大変だろうな」 　海「まぁね、子育てとうちの事務やらなんやらってくれるしね。翔くんには感謝してるよ。私は皆を食べさせるために頑張らないとね！それに、うちの子、可愛いし。優美子も空が大好きだからお世話してくれるしねー。てか、どっちがママなんだよ！ってツッコミを入れたいくらいお世話してくれるし・・・。まぁ、そこまで大変じゃないし、皆、幸せそうだよ」 　八「ほーう」 　やっぱり、戸部家でも母ちゃんやってんだな、三浦は。。。 　三浦を見るとそっぽを向いていた。 　海「それで・・・比企谷くんはどうなのかな？結婚とか」 　八「・・・」ﾋﾟｯｸ! 　三「彼女とかいないの？」 　八「・・・まぁ・・・一応」 　海「見せて！見せて！」 　八「・・・」ｺﾞｿｺﾞｿ 　ポッケトからスマホを取り出し、二人の前に出す。まぁ、その質問はくると思っていた。隠しても仕方がないが、どんな反応をするやら・・・。 　海三「・・・」ｼﾞｨｰ 　八「・・・」 　海三「・ん？・・・え？・・・は？」 　八「俺達、そういう関係なんだ」 　海三「はああああああああああああああ！！？？？？」ﾊﾞｱｧﾝ! [newpage] 　三「・・・そんな漫画みたいな再会って実際にあるんだ」ｽﾊﾟｰ 　八「・・・俺も当時は同じことを思った」ｽﾊﾟｰ 　三浦が心を休めるためにタバコを吸いたいと言い出したので、喫煙室に連れてきた。 　俺も丁度、タバコを吸いたいと思っていたからその言い出しに乗っかった。 　海老名さんも喫煙室を見てみたいとついてきた。 　てか、三浦もタバコを吸うんだな。 　海「ふぉおおおおおおおおおおおおおお！！！スーツにタバコ！！！！きたーーーーーー！！！これ！！！私のタイプだよーーー！！ハァハァハァハァ、あーーん！！！私の下がぬれ！「姫菜？お家でしようね」くふぅううう！」ﾌﾞｼｬｱｧｧ! 　慣れてきた。 　どうやら、俺はお家でおかずにされるらしい。 　八「まぁ、そんな訳だ」 　三「そっかー・・・。でも、あの相模がベタベタの甘えん坊の彼女とは・・・」 　海「可愛いじゃなーいｗ」 　三「・・・てか、面白い話じゃん。姫菜？今の話使えない？」 　海「え？まぁ、すごく面白いし、キュンキュンする話だったけど、比企谷くんに悪いよ」💦 　八「海老名さんの作品に使えないか？ってことか？・・・うーん、丸ごと使うのは恥ずかしいから参考までにってことなら」 　海「え！ありがとう！！」 　三「ありがと、ヒキオ」 　八「こんな話でよければ」 　三「・・・結衣とは終わったんだね」 　八「・・・あぁ・・・」 　海「そっか、結衣ちゃんとは・・・。それは仕方がないことだよ。私たちは結衣を見てきたんだもん。それは・・・仕方ない」 　三「あーしは上手くいくと思っていた。でも、別れたと聞いたときはヒキオをぶん殴りに行こうとしたけど・・・」 　八「お前らの親友を・・・すまない」 　三「別に怒ってる訳じゃないし・・・。だって、お互いに初めての恋人だったんだし・・・。いろいろあったんだろうし・・・そうやってあーしらは大人になったんだよ」 　八「・・・」 　三「あーしだって、あんたに助けられたことがあるけど、結局、ダメだった。翔と姫菜は上手くいった。いや、二人とも、ちゃんと相手の心を見て、口に出して、努力したじゃん？あんただって、そーゆーの分かんないやつじゃないじゃん？結衣だってそうじゃん・・・。だけど、やっぱり、心が通じ合ってもさ、人は人・・・自分は自分・・・。合わないこともあるんだなって思ってるし。比企谷と結衣はそうだった。合わなかったし、その時のタイミングってのもあるだろうし・・・。今はそう思うし・・・仕方がないことなんだし・・・。誰も悪くない、あんたも、結衣も・・・あーしも・・・。皆、いつも努力して、何かが重なって、離れてさ・・・。傷ついて、悲しんで、強くなるんだし・・・」ｽﾊﾟｰ 　三浦は窓の外を見ながら話した。 　それは景色を見ているのか、自分の過去を見ているのか、分からないけれど、遠くを見ていた。 　海「・・・そうだね。さがみんだって、そういう人間関係というか・・・。人と人との濃い部分ていうのかな？敏感で、苦しんだと思うんだ。比企谷くんに今は支えられて、本当に嬉しいと思うよ。大切にされてるんだってさ」 　八「・・・そうだな。大切にしている。すごく好きなんだ、相模のことが・・・。嫌いで、赤の他人だったけど、今はそうじゃない」 　海「・・・じゃぁ、これからだよ。比企谷くん」 　八「あぁ、男として頑張るよ」 　三「・・・っぷｗヒキオが男としてだって」 　海「今のぐっときたぁー！さがみんが羨ましす！」 　八「お前らｗ」 　窓の外に入道雲が高くできていた。 　俺達もそうやって高く成長しているのかもしれない。 [newpage] 　おまけ 　三「てかさぁ、あんたら、イチャイチャし過ぎじゃない？」ｶﾞｩｰ 　引き続きスマホの写真を見ている虎さん。 　八「・・・そ、そう？」 　三「何これ？あい、らぶ、ちば？ダセェTシャツだし・・・。ﾁｯ!くっつき過ぎじゃね？どの写真も・・・。何？もう毎日イチャラブセックスしてんの？」ｽﾊﾟｰ 　海「ね！すごく仲良しさんだねぇ！てか、さがみんが比企谷くんのこと好き過ぎでしょ！何があった！？」 　八「・・・まぁ、いろいろ？」 　三海「いろいろねぇー・・・」 　海「あんなに嫌っていた相手にここまでとは・・・。あれか？調教したのか？」ｸﾞﾍﾍ 　三「あぁ、催眠系とか？相手を呼び出して、催眠かけて、比企谷がピー！して、ピー！出しして、ピー！を無理矢理ピー！ピー！ピー！ピー！ピー！ピー！ピー！うんで、いつの間にか、相模が比企谷のピー！がお気に入りになって、四六時中、ピー！ピー！ピー！をヤりまくる同人CG ね、分かる。あ、何か、売れそう」 　海「だよね！だよね！」ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ 　八「おい、分かるじゃねぇ！・・・売り物にしないでくださいお願い。てか、三浦の口からすげぇ卑猥な言葉が・・・。」 　三「あんたぁ、バカァ？」 　八海「・・・アスカ」ﾎﾞｿ 　三「いやいや！・・・あーしもこの業界長いし。いちいち隠していたら仕事にならんし・・・。姫菜はBLや純愛がメインだけど、それだけじゃ稼ぎが少ないから男性向けのエロ同人もやってんの。ほら、たまーにさ、ネットの広告でエロい二次元のキャラが出てくんじゃん？あーゆーだし」 　八「あぁー・・・そーゆーのもやってんだ」 　海「そうそう、世の中の男共は私のエロエロ妄想作品で鋭気を養ってるんだよ！」ﾊﾟｧｧ 　八「マジかよ、神かよ。・・・ぶっちゃけ、どんだけ儲けてるのん？」 　三「・・・」ｺｼｮｺｼｮ 　八「・・・マジ！！」ｶﾞﾀﾝ 　三「ね？すごいでしょ？姫菜って」 　海「デュへへへへ/// 」ｼﾞｭﾙ 　八「・・・こんなに口からよだれ出している人妻が・・・」ｱﾍｶﾞｵﾔﾒﾛ 　三「日本だけじゃなく、世界中にダウンロード販売してるし、大手の販売企業にも卸してるからさ」 　海「世界征服も夢じゃない！！」ｷﾗﾝ 　三「まぁ・・・おかげで、レイピー！、スカピー！、触手プレピー！、オモチャプレピー！とか、手マピー！、潮ピー！、高速ピスピー！、アナピー！とか・・・エロいことを覚えたし・・・。エログロは姫菜も、あーしも無理だからやってないけど・・・」ﾊｧ 　八「・・・oh」　 　三「・・・でも・・・」 　八「・・・でも？」 　三「・・・こんな歳になっても！あーし！まだ！処女だし！エロい知識ばっか！増えて！プレイは未経験だし！！あーしも恋したいし！」ｸﾞｽﾝ！！ 　ええぇ・・・。 　マジかよ・・・。 　海「ほ、ほら！優美子！泣かないで！！ほーら！よしよし！あ、ほら、○○mの営業さんの江口さんとか！カッコいいよー！？ほ、ほら！優美子の美貌ならイチコロだよ！落としてみなよ！」ﾜﾀﾜﾀ！ 　三「・・・アイツ・・・」ｸﾞｽﾝ 　海「・・・え？江口さん？」 　八「・・・」ｺﾞｸﾝｯ 　三「・・・この前、営業で会った時！僕、ロリが好きなんですよねー！！この作品なんか、小さなピー！にぶちこんで、ありったけ！ぶち撒けるシーンが最高で！この妊娠したシーンなんか！最高って言っていたしっ！！どんだけ！孕ましたいんだよ！クソ！ロリコン！」ﾀﾞﾝﾀﾞﾝ! 　八「・・・oh」 　海「・・・ろ、ロリは世界を救うよ！！きっと！優美子だって！救ってくれるよ！」←フォローのつもり。 　三「そ、そんな世界嫌だしいいぃぃ！！貴様らがうらやましいぃぃい！！ちくしょーーぉおお！！いいしっ！！仕事が恋人だしっ！仕事とセックスするしっ！！」ｳﾜｰﾝ！！←何を言ってるんだ。 　海「アゥアゥ・・・。あっ！そうだ！」ﾊﾟｧ 　三「ﾍｸﾞｩ・・・。何だし？」ｸﾞｽﾝｸﾞｽﾝ 　八「・・・」 　海「ママ友の旦那さん！を紹介してあげるよぉ！！カッコいい人！いたよー！」💦💦←落ち着けw 　八「・・・おい、それはまずいんじゃないのか？」 　三「・・・ただのネトラレじゃんそれ！！あーしがあんたの作品のモデルになれってぇの！？ｳｰﾜｰﾝ!このエロ脳みそがあぁぁぁん！」ｴｰﾝ！ 　み、三浦・・・(泣) 　こうして・・・喫煙室で雄叫びをあげる猛獣を見ながら世の中の厳しさを知った俺だった・・・。

　皆、いつも、ご支援などなど、ありがとうございます。この物語も50話になりました。これも皆様の励ましのおかげです。<br />　たくさんフォローやいいね！などを付けてくださり、嬉しいです！重ね重ね、ありがとうございます。<br /><br />　さて、三浦さん、海老名さんが登場します。原作、アニメの雰囲気を壊さずに書いてみましたが、どうかな・・・。ちょっと自信がありません。ですが、皆様が楽しんで読んでくれたら幸いです。

森の赤ずきんとひねくれ狼　50

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10114982#1

　狩屋が高校に入学して三日になる。 　クラスでは打ち解けてきた者達の輪がちらほら出てきた。 「ねえねえ、雷門から来たんだよね」 　HRの後、今日もサッカー部のぞくなら連絡しろって先輩言ってたなあと思い出し、簡単にメールを入れた。すぐに返信がきて開こうとした時、数人の女子が声をかけてきた。狩屋は霧野からのメールを見ずに携帯を閉じた。 「狩屋さんて、サッカー部に知り合いいた？」 「主に、神童先輩とか神童先輩とか！」 「霧野先輩とか霧野先輩とか！」 　はしゃぐ彼女達の目的は単純明快で、だからこそ面倒だ。 　雷門でもこの手の輩は少なからずいた。真面目に取り合うのは馬鹿馬鹿しい。 　本当はげんなりとため息をついてやりたい所だが、赤の他人には徹底お愛想面を身上としている狩屋はにっこりと笑い返す。 「サッカー好きなの？」 「サッカーっていうか、サッカー男子が好きなの」 「神童先輩ってサッカーすごい上にピアノまですごいんでしょ？　ハイスペックだよね～」 「初めてホーリーロードで霧野先輩見た時びっくりしちゃって、女子！？　って。こんな綺麗な女顔のくせにサッカーなんて惚れてまうやろーって！」 「この高校に入ったら先輩達応援しまくって顔覚えてもらうって決めてたんだ」 　先輩達には絶対聞かせたくないラブコールだ。 　にしても、他校の先輩の進学先情報など一体どこから仕入れてくるのだろう。そういう方面の女子力を持たない狩屋には検討もつかない。 　そして彼女達はアイドルの情報収集に熱を入れても、アイドル付マネージャー情報には全く興味がない。雷門中サッカー部マネージャーであった狩屋マサキの面は割れていない。心得た上で狩屋はうすっぺらな笑顔を気取る。 「そうなんだ。先輩達は中学でも人気あったからわかるよ」 　当たり障りのない言葉だけを返す。ありきたりな女子力はないが、歳頃女子に似合わぬ処世術には長けている。 「どうしたら直接の知り合いになれるかな？」 「チア部入ろうかなあ。サッカー部とバスケ部とアメフト部は、チアの彼女率高いんだって」 「野球部は？」 「髪短いからやだ、下手したら坊主だし。霧野先輩のツインテが好きなんだもん」 「野球って汗くさそうだしね～」 　こういうのに限ってサイドーユーキは例外などとほざいたりするのだ。 　うっかり顔をしかめそうになった。 　が―― 「やっぱり雷門サッカー部の女マネは先輩達と仲良かった？」 「え――」 　不意打ちの質問に、改めた笑顔が一瞬強張った。 「マネージャーってずっと一緒にいられるからいいよねえ。マネージャーやってみようかなあ」 「やるなら一緒にやろうよ！」 「やろうやろう！」 　女子二名が手を取り合って笑う。 　や、待て、ふざけんな？　そんな理由でマネージャー務まるとか思うな！？ 　ドラマやマンガでは部のマドンナ的に可愛らしく描かれがちな女子マネだが、現実はそんないいものではない。男子だけの集団などサッカー部も野球部も大差ない。汚いし、汗くさいし、うるさい。それの面倒をみるのがマネージャーなのだから、可愛さを優先していられない。過酷な肉体労働者が実態だ。本当にサッカーが好きで、プレイヤーと一緒に戦うくらいの気構えと体力がないと、やっていられない。おっかけ気分でやれると思ったら大間違いだ。 　神童のお宝画像を手に入れるのが第一目的でマネージャーやっていた先輩もいたにはいた。んが、気愛が違う。神童を拝む気合いにかけては誰にも負けていなかった。マネージャー業務もやってないように見えてきちんとこなす要領のよさもあった。今思えば恐ろしい人だ。 　それに、どうしてか、どうしても、霧野をそういう目で見る女子と一緒にマネージャーをしたくない。この子達が常に霧野の近くにいて、その近くに自分もいなければならないと思うと、胸のあたりにドス黒い霧が充満して苦しくなってくる。 [newpage] 「え～、マネージャーはやめようよ。そんなんやるのは、チアになれない地味な子だよ」 　えらい馬鹿にした物言いだったが、今だけは助かったと思った。 　地味で悪かったな、可愛いあんたらはチアへどーぞ。内心で毒づきながら、狩屋は正直ほっとしていた。 　地味発言した女子は、狩屋を地味な女子とは見ていないから言えたのだが。どちらかといえば可愛い自信のある自分達と一緒にいて差し支えないだろうと狩屋の容姿を値踏みしたから、こうして馴れ馴れしく近づいてきたのだ。 　それも束の間。続いた暴言に、今度こそ本当に笑いが凍った。 「先輩から聞いたことあるけど、男子運動部の女子マネって仕事きつくてほとんどがやめちゃうんだって。だからウワサだと、やめられないように地味な子に当たりつけて男子部員が彼女にしちゃうんだって、卒業までの期間限定で」 「なにそれー、ひどーい」 「この学校ならではの特典付くから、わかってても断らないらしいよ、地味っ子は」 「なに、特典て？」 「マネージャーも内申上がるの？」 「違うよ、ネクタイだよ」 「ネクタイ？」 「知らないの？」 　含み笑いは得意気に続ける。 「この学校の伝統で、つきあってる男子と女子はネクタイを交換するんだって。先輩が言ってた」 　……うそ――。 　表情と共に思考も凍る。 「やーん、いい～！　めっちゃいい～！」 「けど、交換したからってカレシ持ちなんてネクタイ見ただけじゃわかんないし、それじゃ意味ないし」 「わかるし！　男子タイと女子タイ、よく見比べてみなよ」 　彼女達はきょろきょろと近くの男子生徒の胸元を観察した後、自分の胸元をじっと見下ろし、 「ちがう！」 「絶妙にちがう！」 　興奮で目をきらきらさせた。 「ね？　男子タイはシルバーがちょっと太くて、女子タイはエンジがちょっと太いんだってば。わかると結構目に付くよ～、ネクタイ交換してる人。」 　うそ……うそ――。 　制服のネクタイはシルバーとエンジのストライプ。男子用と女子用で違うなんて知らなかった。 　わずかなストライプ幅の違いだが、その小さな差にそんな大きな意味があったなんて知らなかった。 「だからあ、きっと、チアの可愛い子で男子タイしてたら本命カノジョ、運動部マネの地味な子が男子タイしてたらうそっこカノジョ」 「うそのカノジョ看板ぶらさげて歩くなんてやだ～！」 「私はうそでもいいかもしれない、神童先輩のネクタイもらえるなら！」 「霧野先輩がネクタイ交換してくれるなら、卒業までカノジョでもいい！」 「安い女だよ、この子ら！」 　大きな笑いが弾けた。 　けれども狩屋は全く笑えなった。 　うそだ、そんなの、せんぱい……――知らずネクタイを強く握りしめていた。 　ふと、それに目を留めた一人が首を傾げた。 「狩屋さんのネクタイって、ひょっとして男子の？」 　ぎくりと心臓がすくんだ。 「ほんとだあ！」 「まさか、入学三日目にして、もう！？」 「ち、ちがう！　これは、うそ！」 　他人にこんなに焦った顔をさらすなんて、天邪鬼狩屋では考えられない事態だ。 「これ、これは、四月一日にもらったから、間違い、きっと……。知らなかったし、ネクタイの違いなんか……」 「お店の担当さんのエイプリルフールだったのかな、ひどっ」 　エイプリルフール――だまされる方が悪い日。 　動揺するままの言い訳が否定されず、自分で自分を傷つける事実に今更気づいた。 「店側が間違えただけじゃないの」 「持っていけば交換してくれるよ」 「そ……だね、また交換してもらった方がいい……」 　制服店の手違いだと勝手に勘違いしてくれた。 　当然といえば当然だ。彼女達は、アイドル視している先輩と地味な同級生のつながりなんて、これっぽちも知らないのだから。 「いくら四月一日だったからって、うそでこんなネクタイ渡されたら、いい迷惑……っ」 　うそみたいだ、人前で泣きそうになっている、狩屋マサキともあろう者が。 　何が悲しくてこんな子達に涙を見せなければいけない。泣く必要なんてないはずなのに。 　本当に、なんでこんなに泣きそうなほどショックを受けているのだ。 [newpage] 「ふーん、うそついたんだあ、その担当さん」 　先ほどの比ではないくらい瞬間的に心臓がよじれて跳ねた。 　込み上げそうだった涙が一瞬で引っ込んだ。 　狩屋を囲んでいる女子達が一斉にその声のした方を振り返る。狩屋だけが完全に固まって動けない。 「ひどい男がいたもんだ」 　廊下側の窓枠にひじをついて薄く笑っているめちゃめちゃイケメンの先輩をまばたき三つ分くらい観察した後、ぎゃー！　と彼女達は悲鳴を上げた。 「ききき霧野先輩！？」 「本物！？　本物ー！」 「髪！　髪が！　髪がない～！」 「いやーっ、カッコイイ！！」 　一体いつからいたのか。全く気づかず大声のおしゃべりに夢中になっていた。 　気づいたら気づいたでツインテールがトレードマークだった先輩が誰だかしばしわからず、わかったらわかったで髪を短くした男前な実物に驚愕しまくっている。 　霧野はつかつかと遠慮なく教室に入ってくると、興奮してどつきあう彼女達には目もくれず、狩屋の前に回りこんだ。 「四月一日だからって、うそつく男ばかりじゃないけどな」 　この一年で10センチも伸びた背を屈め、動かせないままの顔をのぞきこむ。 「本当にそのネクタイは交換が必要か、自分で確かめてみないか」 　声が出ない。 　無理やり絞り出したら、涙が今度こそあふれる。 　狩屋は、ぐっとくちびるを噛みしめ、きつい眼をさらにきつくして霧野を睨んだ。 　この素直じゃない気丈さが霧野には愛しい。 　くしゃくしゃといつもより少し乱暴にクセっ毛の頭を撫でて、やわらかい目で笑いかけた。 「ほら、部活いくぞ」 　腕をつかんで席から立たせ、ぐいと自分の背の後ろに引っぱった、隠した。下世話な噂という刃で宝物を傷つける奴の前には、これ以上一秒だってさらしておけない。 　まさかの伏兵がこんな所にいたとは想定外だった。守るべきは野郎からよりも同性女子だったとは。しかも防御のつもりのネクタイが仇になるとは。大切に囲うつもりが結果的に狩屋を傷つける原因となってしまった。自分の読みの甘さに歯噛みしたい心地だった。 　目を丸くする女生徒達に、霧野は試合中と同じ目を向けた。 「サッカー部の男が女子マネの尊厳をネクタイでしばりつけるようなひとでなしだとしたら、俺もその一人だから。それと、うちのマネージャーは美人だから、めちゃくちゃ可愛いから。そこは間違えないで正しく噂してくれよな」 　身も蓋もない会話のほぼ全てを聞かれていたようだ。 　アイドルみたいな女顔だと疑ってもなかった先輩の、これ以上ないほど男らしい顔つきに、自称霧野先輩好きの彼女達は色を失った。 　狩屋のネクタイが誰のものか、これでバレただろう。 　かばうように狩屋の背を押して立ち去る霧野のネクタイが新品であろう女子タイであるのも、確かめるまでもなかった。 [newpage] 　教室を出て人目のない所まで来ると、狩屋は大きく体をよじって背に置かれた霧野の手を振り払った。 　振り返りもせず走り出した。 「狩屋！」 　が、すぐに追いつかれ捕まる。 「離してください……！」 「離したら逃げるだろう」 「決まってるでしょう、先輩の飼い犬とかじゃないんだから！」 「じゃあ離さない、逃がさない」 　つかまれた腕が痛い。本気で逃がすものかという霧野の想いが伝わってきて、胸も痛くてたまらない。 「なんなんですか先輩は、盗み聞きとかサイテー！」 「あんな大声で話してたら聞きたくなくたって聞こえるわ」 「聞きたくなかったらさっさといっちゃえばよかったじゃないですか！　なんでこんなちょっかい出すんですか！　ほっといてください……！」 「いつものお前なら、ほっといたってあんな女子には勝つよな。それがあんな顔してれば、ほっとけるか」 　伸ばされたもう片方の手に、思わずびくっと狩屋は首をすくめた。 　それを切なく見下ろして、ぽんぽんと、霧野はいつものようにハネっ毛頭を撫でてやる。 「あんな噂、信じてないよな」 　狩屋が大きく頭を振る。霧野の手を払う。 「四月一日だからって、俺がお前をだましたと思うのか」 「だって、でなきゃ、こんなネクタイ、意味わかんない……！」 　声に涙が混じる。 「霧野先輩みたいにモテる人が、こんな地味で性格悪い女子とネクタイ交換するとか、他に理由ないでしょ！　なんで、こんなネクタイくれたんですか……っ」 　霧野を信じない理由のために卑屈になって自分を卑下する狩屋に苛立つ。 「狩屋を逃がないために決まってるだろう」 　霧野の低い声。本気で怒った時にしか聞けない。 「やっぱりそうなんですね、だましてマネージャーに……」 「そうじゃない、わからないか」 　強い語気を重ねられて、 「お前を、俺だけに、つなぎとめたいんだ」 　真剣な目に射すくめられてしまったら――――わかってしまった。 　霧野が、好き、だ。 　頼りになる先輩としてだけでなく、男の人として、恋愛感情で、好き、だ。 　たかが制服のネクタイで泣きそうになるくらい、好きになっている。 　どうしよう、どうしよう、うそみたいに霧野が好きだ。 　髪まで切ってくれた笑顔、いつも髪を撫でてくれる手、本気で怒ってくれる声、真っ直ぐ見つめてくれる凛としたまなざし――好きでたまらない。 　交換してくれたネクタイがうそだなんて、本当は信じたくない。 　でも、もし、信じた後にうそでしたとなったら、怖い。 　もしあの子達のうわさ話が本当だったり、四月一日という日の意味を持たせていたりしたら、勝手にさらっていった女子タイで霧野の首を絞めてしまうかもしれない。 　わかりたくなかった、こんな醜くて苦しい想い。 　顔も性格も綺麗なこの人につりあうと勘違いするほど、あの子達みたいに厚かましくなりたくない。 　霧野に醜悪な本性を知られて裏切られるて終わるくらいなら、最初からうそだと諦めて信じない方がいい。こんなネクタイ、はなから信じない方がいい。 　大切な存在だからこそ信じたくない――狩屋の内には幼い日の絶望が巣食っている。おひさま園という家庭でヒロトや瞳子達と過ごす日々で癒されたが、決して消えるものではない。大切な人に裏切られるのは二度と御免だ。 「そんなの、やだ……」 　拒絶と勘違いしてしまうくらいには、霧野は余裕を失っていた。 　もう待ってなんていられない。思い知れ。 「まだ逃げるつもりなら」　 　腕をつかんでいた手がすると離れ腰に回し直された。もう片手には顎を捉えられて上向かされる。 「俺がわからせてやっても文句言うなよ」 　見上げるくらい高くなった所から、長いまつげに縁取られたまなざしが、降りてくる。 　少女マンガにありがちなこのシチュエーションは、どうせうそ……――ではなかった。 　そっと、壊れ物に触れるように、霧野のくちびるが狩屋の同じものをかすめた。 「あんな風に傷つけてしまうのがわかっていたら、ネクタイなんかあげなかった……」 　愕然と見開いた目の前から離れない霧野のくちびるがささやく。 　その息遣いが、狩屋のくちびるを熱くする。 　これまでの奇襲攻撃の中でも最たるものだ。胸を直撃されて、もう二度と元に戻れない。 　なのに今更このネクタイをあげなきゃよかったなんて、そんなの、あんまりだ。 　こんなの、うそじゃないなんていやだ、信じたくない……！ 　げし！ 「い――っ！」 　突如足を踏みつけられ、霧野は奇声を上げた。 「先輩の馬鹿！　うそつき！」 　涙目の狩屋は乱暴にネクタイをほどくと、霧野に叩きつけた。 　そして脱兎の如く逃げ去った。クセっ毛はねる後姿はまさに兎のように。 「逃げ足速すぎだ、狩屋のやつ……」 　情けなさと足の痛みで、霧野は追いかけられなかった。 [newpage] 　神童が部室に着くと、霧野もまだ制服のままでそこにいた。 　救急箱を開いている。 「どうしたんだ？」 「踏まれた」 　見れば、足の甲が鮮やかに赤くなっている。練習中に踏まれたのではないのだろう。 「馬鹿って言われた」 「――ああ、なるほど」 　容赦なく踏んだのであろう相手に思い至る。 「うそつきだってさ、俺」 「あちらからしたらそうだろうな」 　騙まし討ちみたいだと懸念は忠告した。 「全力で走って逃げられた」 　ぶっと吹きだしてしまった。 　小さい頃みたいに情けない上目遣いで睨まれた。 「すまない、悪気はない」 「神童じゃなかったらしめてる」 　ふてくされたような口。これは相当へこんでいる。 「今日は部活休め。念のために病院いってちゃんと診てもらえ、足は大事にしろよ」 「足よりもハートが痛い」 「自業自得だ」 　霧野の手から絆創膏を取り上げて足に貼ってやる。 「病院から真っ直ぐ狩屋に会いに行ってこいよ」 「とんだ荒療治だな」 「信じてもらいたければ行動で真心を示すといい」 　ぺちっと絆創膏の上を軽くはたかれて、霧野は顔をしかめた。 「どっかで聞いたようなセリフだ」 「円堂監督が言ってただろう、信じる心には行動で応えるんだって」 「ああ、そうか……」 　霧野は短い襟足を手のひらで抱え、 「そうだな」 　一つしっかりと頷いた。

ベタな展開は酸っぱいものです。年齢操作の上に女体化です、モブのオリキャラが出しゃばってます、御注意下さい。

四月と馬鹿　その酸

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[chapter:【諸注意】(2015.9/27追加修正)] ・これは、マジカルバケーション、セブンスドラゴン2020、Fate/Zeroのクロスオーバー小説です。他にも、その他作品が背景的に登場する可能性があります。 ・これを執筆した当時、作者はFateの原作未プレイでした。Pixivの二次創作やFate関連のデータベースを参照にしました。 ・セブンスドラゴン2020とマジカルバケーションの圧倒的なネタバレがあります。 ・Fate側のキャラクターが大幅に改変されています。人によっては、改悪されていると認識されるかもしれません。 ・Fate側のキャラクターが酷い目に合う描写がありますが、最終的には大団円になります。 ・クロスオーバー側のコンセプトがFate世界観にとっての鬼門に位置しているため、Fate世界観に対して厳しい発言をしたり、世界観そのものと対立する要素があります。 ・CPは弓士、虫の魔術師×女主人公←刃・美・闇の魔術師、モブ×モブが中心となっています。腐向けのCPがあるので、読むときは注意してください。 ・オリキャラが無双する系の作品です。そう言うのが苦手な方は、読まずにブラウザを閉じることをお勧めします。 ・キャラクターを侮辱する意図は一切ありません。 ・大事なことなのでもう一度言います。キャラクターを侮辱する意図は一切ありません。 上記が大丈夫と言う方は、次のページから本編へとお進みください。 [newpage] 479 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします えっ 480 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おい、今誰かいたぞ 481 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします こいやーщ(ﾟдﾟщ)ｶﾓｰﾝ 482 カシス カリを返すぜ。ここでケリを付けさせてもらう。 ……こんなんでわかるかな? 前世では刃の魔術師やってた身だ。 483 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ああああああああああああああああああああああああああ!! 484 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします きゃあああああああああああああああああああああああ!!! 485 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします お前ら、マジバケ御三家のひとりがご光臨だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 486 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします カシスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!! ＝＝＝＝＝＝＝＝ 以下大フィーバー ＝＝＝＝＝＝＝＝ 504 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします カシス！カシス！カシス！カシスぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん！！！ あぁああああ…ああ…あっあっー！あぁああああああ！！！カシスカシスカシスぅううぁわぁああああ！！！あぁクンカクンカ！クンカクンカ！スーハースーハー！スーハースーハー！いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ！カシス・ランバーヤードたんの銀色の髪をクンカクンカしたいお！クンカクンカ！あぁあ！！ 間違えた！モフモフしたいお！モフモフ！モフモフ！髪髪モフモフ！カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい！！ ショコラを助けるためにドワーフと対峙するカシスかっこよかったよぅ！！あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ！！ふぁぁあああんんっ！！ 闇のプレーンで皆と合流できてよかったねカシスたん！あぁあああああ！かわいい！カシスたん！かわいい！あっああぁああ！ 気づいたらパーティの主戦力…いやぁああああああ！！！にゃああああああああん！！ぎゃああああああああ！！ぐあああああああああああ！！！ゲームなんて現実じゃない！！！！あ…よく考えたら…カ シ ス ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い？にゃあああああああああああああん！！うぁああああああああああ！！ そんなぁああああああ！！いやぁぁぁあああああああああ！！はぁああああああん！！ブラウニィィブラウンンンンンンンン！！ この！ちきしょー！やめてやる！！現実なんかやめ…て…え！？見…てる？立ち絵のカシスちゃんが僕を見てる？ 表紙絵のカシスちゃんが僕を見てるぞ！カシスちゃんが僕を見てるぞ！投稿絵のカシスちゃんが僕を見てるぞ！！ ドラマボイス企画のカシスちゃんが僕に話しかけてくるぞ！！！よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ！いやっほぉおおおおおおお！！！僕にはカシスちゃんがいる！！やったよ先生！！ひとりでできるもん！！！あ、デスクトップのカシスちゃああああああああああああああん！！いやぁあああああああああああああああ！！！！ あっあんああっああんあシードルぅぅ！！ガ、ガナシュぅぅぅ！！ヴァニラぁぁぁぁ！！カベルネェェェェェ！！！ ううっうぅうう！！俺の想いよカシスへ届け！！画面の向こうのカシスへ届け！ 505 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ちょwwwwwwwww そのコピペはダメだろwwwwwwwwwwwwwwww 506 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 絶対カシスたんドン引きだって!! (;ﾟДﾟ)ｱﾜﾜ 507 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします カシスたんprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprpr hshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshshsh ちゅっちゅprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprpr ……うっ 508 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします だwwwwwwwwwwwwwwかwwwwwwwwwwwwwwwwwらwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 509 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おまいら落ち着けって! さっきからカシス黙ってるよ!!(;ﾟДﾟ) 510 心が折れる寸前のカシス もうスレ閉じていいかな 511 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ちょ、帰らないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! おまいのクラスメートの危機なんだよォォォォォォォォォォォ!!!!! ＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 以下、カシスの説得 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 530 カフェオレ 話ガ逸レニ逸レタナ。 編集サン、ソロソロ本題ニ戻ッテホシイ。 先程カラ貧乏ユスリガ止マラナインダ。 531 カシス ってなわけで、よろしく頼むぜ担当さん!(｀・ω・´)ｂ 532 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ちょwww 逸らす原因になった奴らが何を言うwwwwww 533 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします まったくだ 534 担当さん >>530-531 了解しました。ばっちり報告させてもらいます!(｀・ω・´)ゝｷﾘｯ 家のリビングで真面目にダブルEMIYAに向かい合う先生と同級生。 あそこまで真剣な表情を浮かべてるの、仕事の締め切り前とかネタが思いついたときの表情だった。 そこからは、歴戦の勇者っぽい貫禄がにじみ出ていたんだ。……マジバケの話を聞いて納得したことだけど。 で、一通り運命零・第4回ホーリーカップの仕組みやら顛末やらを説明し終わった後で。 長い長い沈黙を経た後、先生は訝しむように眉を顰め、口を開いた。 　先生「なんでそんな事(＝ホーリーカップ)始めちゃったの(´・ω・｀)?」 　赤&白EMIYA「……( ﾟдﾟ)ｴｯ?」 「根源に行くためだ」と言おうとしたけど、喉につっかえて出てこなかったよ。 ……本当になんでなんだろうね。 535 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 根底を問われたwwww 536 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 赤&白EMIYAが「ﾎﾟｶ( ﾟдﾟ)(ﾟдﾟ )‐ﾝ」としている図が浮かんだんだが 537 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>536 おま俺 マジバケ世界出身者だったら、 きっと「根源ってそもそも何?」とか言いそう。 538 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>536-537 よう俺 マジバケ世界出身者だったら、 きっと「仮にたどり着いたとして、根源で何をするの?」とか言いそう。 539 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>536-538 おかしいな、俺はいつの間に書き込んでいたんだろう? マジバケ世界出身者だったら、 きっと「そこに行けば、“その人がなりたいと願うその人”になれるの?」とか言いそう。 540 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>536-539 すげぇや、俺がいっぱいいる。 マジバケ出身者だったら、 「どうして根源にたどり着くためにホーリーカップが必要なの? 　てか、なんでホーリーカップが無いとたどり着けないの? 自力ではできないの? 　というより、なんで皆“たった一人で”たどり着こうとするの? ついでに、どうして無理なら子孫に押し付けるの?」とか言いそう。 まぢゅつしは「根源にたどり着く事」をメインにしているけど、「たどり着いた根源で何を成すのか」って考えてなさそうだよな。 某御三家・宝石担当の親子も「根源にたどり着く＝T家の悲願」って言ってるけど、殆ど“一族からの刷り込み”みたいなものだし。 彼らが自分の意志＝意思でそれを望んだのならマジバケ的には「まだマシ」なんだと思うんだけど、実際は……なぁ。 あっちのメンツは「自分の意志と意思で、“こうありたいと望む自分自身”に近づくため行動する」ってのが理念にある。 何かの力に頼るんじゃなく、あくまでも「ヒト」として、手を取り合う事によって困難を切り拓いてきたメンバーたちだ。 夏の冒険で、ブラック企業と同条件を提示してくる闇の生き物の誘いに屈しなかったっていうのもあると思うけどね。 541 担当さん >>536-540 おまいらはエスパーか何かですか!? 　お母さん「根源ってそもそも～(´・ω・｀)?」 　お父さん「仮にたどり着いたとして～(´・ω・｀)?」 　お母さん「そこに行けば～」→「どうして～(´・ω・｀)?」 　お母さん・お父さん・巡査・教授「云々云々(｀･ω･)(｀･ω･)【議論開始】(･ω･´)(･ω･´)」 　赤白EMIYA・俺「( ﾟдﾟ)ﾟдﾟ)ﾟдﾟ)」 怒涛の「まぢゅつしの根底を揺るがしかねない質問」に2人ともﾎﾟｶ( ﾟдﾟ)(ﾟдﾟ )‐ﾝ。 それに2人とも、そもそもまぢゅつしじゃなくて魔法使いだから、根源とか殆ど執着してないしね。 おまけに鯖も「上司の願いはあまり気にしない」ってスタンスの奴らが多いから、まぢゅつし云々に関して疑問に思わないんだろうなぁ。 終いには教授と巡査も加わって、この世界のまぢゅつしに喧嘩を売りかねない暴言寸前の発言まで漏らしてた。 最初はそれを「ﾎﾟｶ( ﾟдﾟ)(ﾟдﾟ )‐ﾝ」と見つめてたダブルEMIYA。 けど、何を思ったか顔を見合わせた後、面白いものを見つけたみたいな感じで吹き出したんだ。 先生たちは議論を白熱させてて気づいてなかったみたいだけど、こんな会話してたよ。 　赤EMIYA「やれやれ。“我々《E・S》”は、どうやら一風変わった人間たちと組まされることが多いようだ」 　白EMIYA「そう言うなって。そりゃあ生前も色々振り回されたりしたけどさ、悪いものじゃなかっただろ? 　　　　　 今回はかなりラッキーな方じゃないかな。魔力も充分……いや、それ以上のバックアップ受けてるしさ。 　　　　　 この調子でいけば、あの2人はホーリーカップに託す願いなんてなさそうだ」 　赤EMIYA「むしろ、ホーリーカップそのものをどうにかしたいと言い出しそうだよ。あの勢いなら言いかねん」 　白EMIYA「それこそ望むところさ。あの悲劇を回避できるなら、それに越したことはない」 　赤EMIYA「…………そう、だな。それがいい。……救えるなら救いたい。養父(スナイパー)や義姉(しろいあくま)も。 　　　　　 そして――ここにいる■■S郎の肉親や、それを取り巻く人々もだ。……あれを見ているとそう思うよ」 　白EMIYA「俺も、ここにいる皆を守りたいよ。俺一人だったら無理だったと思う。だけど、お前も一緒に戦ってくれるんだろ? 俺たちならきっとできるさ」 　赤EMIYA「当たり前だろうが。……それに、それはこっちの台詞だ。お前と背を合わせて戦えるというのは――嬉しい誤算だったのだから」 542 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 2人とも……(´；ω；｀)ｳｯ 会話内容の一部が気になるけど、おいしいからいいです(・∀・)<ｳﾏｰ 543 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 凄く優しい目で議論を見守ってるダブルEMIYAの姿が見えた俺は勝ち組 ダブルEMIYAおいしいですprpr 544 カシス まさかこいつら…………いや、何も言うまい。 仲がいいことは悪い事じゃないんだから。 545 カフェオレ >>544 激シク同意。 世界ガ違ウト、同ジ「マヂュツシ」デモコンナニ差ガアルノカ……。 見テイルト、奴ラガエニグマト対峙シタトキドンナ判断ヲ下スカガ気ニナルナ。 能力ヲ上ゲル事ニ執着シテル場合、誘イヲ受ケタラ喜ンデツイテイキソウダ。 546 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします でも、光・闇・死のプレーンに放り込んだらハッキョーする危険性もあるよ。 547 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 特に死のプレーンは凄まじいだろうなぁ。 究極の生命体＝星の至る場所・ラキューオ、名前の割には幻想的な花畑が広がる死の回廊、そして転生を司る場所・モギナス魔窟……。 あまりの光景に天元突破したのち覚醒し、揚句には悟りを開いてしまいそうだ。それがいいか悪いかは別としてな。 548 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします そりゃあなぁ。わずか13歳で「世界のすべてが見える。魔法なんていらない」という境地にたどり着いた猛者もいるんだから。 549 カフェオレ >>548 キャンディノ事ダナ 550 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>548 なんというこった…… 551 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>548 マジバケわかんないけど、これだけは言える。 ……13歳でこれって、いくらなんでも悟りすぎだぞ……!!! 552 担当さん >>548　>>550-551 魔法学校生徒、スペック高すギル……(;ﾟДﾟ) 若干後ろ向き＋鬱発言かましかけた赤EMIYAに両親が満面の笑みを浮かべて「赤EMIYAも白EMIYAもよく頑張ったね」って頭をなでたり、 「俺、20歳になったS郎と酒を飲みかわすのが夢だったんだ」と言った同級生の言葉にダブルEMIYAがうるっときたり、 『両親とE・Sのどこが似ているか』や『今のS郎が正義の味方として歩んできたことに対する労い』等の話をした後、 　お母さん「世界が違かろうが、私たちの存在がなくなろうが、その世界に私たちが“最初から”存在すらしてなかろうが、 　　　　　　貴方たちが私たちのかわいい息子――S郎であることは何も変わらないわ。赤EMIYAも白EMIYAも、私たちの自慢の息子よ」 　お父さん「ああ、ダメだな俺。父親として失格だ。お前と一緒に生き残る努力をするべきだったのに、お前を一人ぼっちにしてしまった。 　　　　　　『生き残ってしまった』っていう罪悪感にお前らを縛り付けた責任は俺にもある。……ごめんな、2人とも。 　　　　　　……でも、よかった。お前らは生き残ってくれたんだな。頑張って、生きてくれたんだな……ああもう、本当によかったぁぁ……!!」 先生は白EMIYA・同級生は赤EMIYAを抱きしめて、いつもショタウニーにしている感じであやすように背中をぽんぽん撫でてた。 両方とも思う所があったんだろうね。目を潤ませながら、2人ともおずおずと――でも力強く抱きしめ返して、それに答えてたよ。 553 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 2人とも……(´；ω；｀)ｳｯ 554 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします お父さん、お母さん……!!　｡･ﾟ･(ﾉД`)･ﾟ･｡ 555 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ……俺、親孝行したくなってきた 556 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 実は俺、こっちの世界の両親の事、本当の両親だと思ってなかったんだ。 だから今回の件は、ひとりで旅行へ行って自分だけ生き残ろうと思ってた。 ……でも、先生や同級生の発言を聞いて思ったよ。 俺は冬木に残る。最期の瞬間までずっと、こっちの世界の両親のそばにいる。 それが、今まで本当の両親だと思わないでふたりを蔑にしてきた俺にできる、最初で最後の罪滅ぼしだから。 557 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 私も冬木に残る。恋人や友人・そして家族をほっといて、自分だけ生き残ることなんてできない。 たとえこの世界が作り物のうろぶっちー時空だったとしても、ここで生きてきた事は事実で変わらないもの。 この世界の今この瞬間こそ、大切にすべきだったんだ――って、ショタウニーの両親から気づかされたよ。 ……今からでも間に合うかな。 558 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします <<556-557 バカ野郎。その事実に気づけたなら、手遅れなんてことはないんだ……! 家族や友人・恋人たちとそろって生き残ることこそ、最高の罪滅ぼしじゃないか! ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 以下、親・友人孝行についての雑談 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ [newpage] 590 担当さん で、互いの議論や会話が一区切りついた後で方向性を協議した結果、 「第4回ホーリーカップで起きる災害の回避」と「鬱フラグをへし折る」という事が決まった。 ダブルEMIYAは「前線に出るのは危険だから」って2人にアドバイスしたんだけど、 　お母さん「大丈夫よ。こう見えても私たち、前世ではまぢゅつしだったもの」 　お父さん「さっきも言ったろ? 『昔取った杵柄』だって」 　赤&白EMIYA＋俺「( ﾟ д ﾟ )」 そして追い打ちのように、 　教授「懐かしいなぁ。お母さんが黄金の右足でゲウグレンドゥを屠った瞬間は、今でも鮮明に記憶しているよ」 　巡査「何度ガラムマサラに潜ってボス狩りに精を出したことか……」 　お父さん「アニキだって凄かったじゃないっスか」 　お母さん「ケルレンドゥに『光の精霊7体呼んでスペースライト』はやりすぎたかしらねー」 って言ってた。 専門単語が多すぎるけど、なんとなくすっげぇ事をやらかしたんだってのだけは理解できたよ。 ダブルEMIYAは「何をしたんですかアンタら(；ﾟДﾟ)」とでも言いたげな視線で4人を見てたな。 ……神竜(笑)や人類戦士相手にドンパチやってた俺が言えることではないんだけどね。 591 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします へーそうなん………… ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!? 592 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします (；ﾟДﾟ） !? (；ﾟДﾟ） …… (ﾟДﾟ;）ﾄﾞｳｲｳｺﾄﾅﾉ… 593 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ガラムマサラてwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww あの隠しダンジョン、何回もクリアしたんか!? 594 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 精霊7体って……128倍コンボ!? 本編ボスにそれはやりすぎでしょう!!! 595 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします しかも光系の最強魔法てwwwwwwwwwwwwwwwwww どんだけケルレンドゥ嫌いなんだよwwwwwwwwwwwwww えげつねぇな…… 596 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おまけにゲウグレンドゥってwwwwwwwwwwwwwwwwwww 思い切り隠しボスやないかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww しかも、闇主専用ダンジョンの奥地にいる超強敵wwwwwwwwwwwwwwwwwwww 597 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします マドレーヌクラスの皆パネェ。 おまいら、あの冒険で何をしてきたんだ…… 598 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします これはほぼ虐殺レベル 599 カフェオレ 2回目以降、シバサレイニ足ヲ踏ミ入レル度ニ、 　ゲウグレンドゥ「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 　　　　　　　　　お願いします今すぐ帰って、帰ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 　　　　　　　　　ｳﾜｧｧ-----｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡-----ﾝ!!!!」 ト、盛大ニ泣キ叫バレタノハイイ思イ出。 600 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>599 何してはるんですかwwwwwwwwwwwww 601 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします もろ「妹様に迫られたろっさま」じゃねーかwwwwww 602 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 一体何をどうすればそんな事になるんだよ…… 603 担当さん >>593-599 …………俺、一生先生に逆らえないや。 巡査・教授も先生や同級生と同じ世界のまぢゅつしだった。 更に、他にも同郷出身の転生者＝まぢゅつ学校卒業生がいるらしい。 今この世界にいるであろう面々に連絡をとってみる、ってことでこの日は終了。 ホーリーカップという大決戦に備えて準備をするため、一端解散することにした。 それが数日前の出来事だ。 そして、俺がこのスレを立てるに至った経緯の全て、ってこと。 今のところ、この世界にいる協力者(先生たちの同郷で魔法学校卒業者)は ・巡査(♂)＝前世：火のまぢゅつし・冒険者から母校の教師に転身 ・教授(♂)＝前世：木のまぢゅつし・落ちこぼれから教授に転身 ・巡査の妻(♀)＝前世：音のまぢゅつし・現世と同じく2児の母 ・教授の妻(♀)＝前世：愛のまぢゅつし・しょっちゅう乱獲される鳥の保護区を作った ・先生の専属イラストレーター(♂)＝前世：美のまぢゅつし・冒険の出来事を絵に残し後世に伝えた芸術家 ・喫茶店の店員(♀)＝前世：風のまぢゅつし・魔法を封印して母校の歴史講師になった らしい。後のメンツとはまだ会えてないorこの世界には転生してないらしいよ。 おそらく技術者仲間＝カフェオレさんにも連絡が行くと思われます。 604 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 報告サンクス 605 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします キルシュ、ピスタチオ、アランシア、ペシュ、シードル、キャンディ、カフェオレ……。 そうそうたるメンバーだな……。 606 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ピス太の成長力に全俺が泣いた。 レベル40以降のアレは衝撃的だったよ。 まさしく「芽吹きを迎えた木の芽が、一気に大樹へ変貌する」みたいな。 607 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします アランシアのオーケストラは使いやすかったなぁ。 ボス戦の要所要所で大活躍してくれました。 608 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします キルシュをメインにしてた俺は、エキウロクリュ戦で酷い目を見ました。 おまけにオリーブもチームに入れてたから……うん。 4人だけであの土蜘蛛野郎を倒すのは大変だったなぁ……。 609 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 「頼りにならない救助隊だなぁ。そんなんじゃ誰も助からないよ」 「今なら助けられるのに…………もう、ママはどこにもいないんだなぁ………………」 ……私がシードルに惚れた瞬間だった 610 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします キャンディイベントは神。 異論は絶対に認めない 611 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>610 おま俺 あれでボロ泣きしたのは俺だけじゃないはずだ。 612 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>611 よう俺。 613 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします カエルグミ捕獲禁止プレイをしていた俺には、ペシュの愛魔法は重宝したなぁ。 ミミズグミの消費が激しくなったのと、パーティ全体の攻撃力が低くなるのがネックだったけど。 614 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ……あれ? 何か忘れてる気が……。 615 カフェオレ 今、ピンポイントデ相棒カラ連絡ガ届イタ。 チョット抜ケル 616 担当さん 俺も、先生たちと作戦会議しなきゃいけないから抜けるわ。 617 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 行ってらっしゃい!(｀・ω・´)ゝ 618 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ばっちり保守しときます! ＝＝＝＝ 以下雑談 ＝＝＝＝ 662 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ところで、さっきからカシスを見ないんだけど。 彼、どうしたのかな? 忙しくなって落ちたのかな(´・ω・｀)?? 663 カシス おう、悪いな。ちょっと知り合いにこのスレの事報告してたんだ。 それでちょっと外してた。今ひと段落したから書き込んでる。 664 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おかえりー。 ……えっ 665 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします えっ 666 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします えっ 667 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします し、知り合いってまさか…… 668 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 新しい参戦者、もといマジバケ関係者がッ!? 669 だだちゃ豆党のカシス おう、その通りだ。(｀・ω・´) ……ったく、現世がやーさんだからって理由ですっげぇ敵意丸出し＋ぞんざいな扱いしてくるんだ。 俺が俺だってわかってもらうために説得するの大変だったんだよ。すぐに泰山麻婆投げつけてくるし。 わかったらわかったで泰山麻婆投げつけてくるし、ついでにだだちゃ豆も投げてきやがったんだ。俺の好物投げんなコラヽ(｀Д´#)ﾉ 同僚の神父からは「麻婆(私の好物)を粗末にするな」・上司でそいつの親父からは「扉を叩く者を拒むな」って怒られてたけどなwww 670 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします まず何から突っ込めばいいかわからない件について 671 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします よりにもよって結婚式場陣営かよ! しかも麻婆神父って、ピンポイントでアイツじゃねーかwww 672 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします てかコテハンwwwwwwwwwwwwww だだちゃ豆好きなんだwwwwwwwwwwwwwwww 673 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします そういえば、カシスの現世に関するスペックまだ晒されてなかったな。 スペックはよ(ﾊﾞｯ 674 だだちゃ豆党のカシス 俺のスペックはこんな感じだ。 ・冬木市にある某組の組長。先代＝親父は隠居。 ・既婚者だが妻には先立たれる。 ・高校生の娘がひとり。あだ名が「冬木の虎」で剣道有段者。 ・だだちゃ豆は最高。異論は認めない。 675 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ㌧クス …………えっ 676 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします えっ 677 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします えっ 678 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ……おい。 …………おい!!! 679 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 冬木の虎って……まさか……!! 680 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします カシスさん。 貴方の娘さん、「タイガー」って呼ぶと怒りますか? 681 だだちゃ豆党のカシス うん。すっげぇ怒るよ。怒り狂って竹刀振り回す。 名前は大きい河って書くヤツだから、虎は関係ないはずなんだけど。 音から連想されたあだ名っぽいらしくてな、いつもご飯の席で愚痴ってる。 682 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします やっぱりだ。未来の冬木の虎だ。 683 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 俺、このまえ彼女が竹刀で暴漢ボコボコにしてたの見たよ。 684 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 私が痴漢にあった時、彼女に助けてもらいました。 685 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 冬木市内で、彼女の通り名を知らない転生者はいないと思う。 タイガー道場で何度お世話になったことか……。 686 だだちゃ豆党のカシス 俺の娘の知名度が凄まじい件について 687 エビフライ派の神父 冬木の虎……!? あの子はお前の娘だったのか。 彼女に痴漢と間違えられかけて酷い目にあったぞ! 688 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ん? 誰か来たぞ? 689 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おや、関係者かい? スペックと名言をさらしてもらえないか? 　　ﾊﾞﾝ　　　　はよ ﾊﾞﾝ（∩`･д･）　ﾊﾞﾝ　　はよ 　　/ ﾐつ/￣￣￣/ 　　 　￣￣＼/＿＿＿/ 690 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ　　　　　　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ ﾊﾞﾝ　 （∩ ･ω･）　　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ　/ ﾐつ/￣￣￣/ 　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ　 　　　￣￣＼/＿＿＿/ [newpage] 691 エビフライ派のガナッシュ 何もかもなくしちゃったよ。でも、満足してる。 ……これでいいか? 掲示板に書き込むのは初めてなんだ。 前世では闇の魔術師やってた者だ。 現世では、ホーリーカップの監督者補助をやってる。 692 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 693 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 694 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ガナッシュゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!!!! ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 色々大絶叫＋某コピペや「……うっ」「……ふぅ」な書き込み多数 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 725 もう泣きそうなガナッシュ 何このスレこわい もう帰っていいか?(´；ω；｀) 726 遠い目をしているカシス 安心しろガナッシュ、俺もやられた。 ＝＝＝＝＝ しばし雑談 ＝＝＝＝＝ 744 カシス ところで、状況整理はできたか? 745 ガナッシュ ああ。いつの間にこんな事態になってたんだって感じだな……(;´Д｀) ホーリーカップ云々の話は上司や同僚から聞かされてたけど、まさか彼女たちが参戦することになるなんて。 おまけに、今回はイレギュラーが多すぎる。8体目と9体目の鯖なんて前代未聞の極みだろう。 その事を「怪しい」と何度も進言しているんだが……主催者側の連中は、皆こぞって黙殺している。 終いには、上司から青汁を口に突っ込まれた。 気管に入ったせいで盛大にむせたぞ! しかも不味いし!! 746 カシス 相変わらず短気なオッサンだなぁ 747 ガナッシュ オッサンだと!? オレの方が一回り半下だぞ!ヽ(｀Д´#)ﾉ 748 カシス 前世では1コ差だったじゃねーか 749 ガナッシュ それでもオレの方が下だった!!ヽ(｀Д´#)ﾉ 750 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 秒単位レス、だと……!? ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ ガナッシュ・カシスの秒単位レス返し対戦勃発につき、 一部彼らの書き込みを除外してお送りいたします。 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 773 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>744－749　<<751-772 リアルでやれ ・ 809 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします <<744-749　<<751-772　<<774-808 チャットでやれ ・ 831 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします <<744-749　<<751-772　<<774-808　<<809-830 いい加減にしろよ ・ 868 ┌(┌^o^)┐な店長(♀) ああ、やっとレスに追いついた。 そんなにやってると、薄い本をたくさん作っちゃうぞ?♪ 今年の祭典は熱くなりそうだ……┌(┌^q^)┐ 869 カシス やめてください 870 ガナッシュ 勘弁してください 871 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします <<869-870 すげーや。2つとも投稿時間一緒だ。 872 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします <<868 GJ しかし、┌(┌^o^)┐ﾎﾓｫ…　だ。 873 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 腐女子はお帰りください 874 ┌(┌^o^)┐な店長(♀) わかった。そう言うなら帰るよ。 ……今、このスレに名前が出てた殆どの人がうちの店にいるんだよね。 そして生で見る弓士おいしいですﾓｸﾞﾓｸﾞ ┌(┌^q^)┐　┌(┌^q^)┐　┌(┌^q^)┐ 875 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします やけに素直な奴だな…… って、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ(；ﾟДﾟ)!!!? 876 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ちょ、待って! 待ってってばぁぁぁぁぁぁぁ!! 877 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします お願い帰らないでぇぇぇぇぇぇぇぇ! 説明お願いしますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! 878 ┌(┌^o^)┐な店長(♀) 了解した。 まず最初に言っておくことがある。 私は某2020年からの転生者で、担当と同じ13班所属・俊敏性Sランク能力者だったんだ。 重火器とナイフの扱いは今でも得意だよ! 平和な世の中じゃ利用価値ないけどな(｀・ω・´) 現世では小さな喫茶店でマスターやってる。先生や担当はうちの常連さ! よく打ち合わせしてるよ! で、「<<603」で名前だけ出てきた従業員(♀)の雇い主も私。 でも、ついさっきまで前世の記憶戻ってなかったんだよね(≧ω・)ミ☆ﾃﾍﾍﾟﾛ 従業員の子が何か言いにくそうに「この店を貸切にしてほしい」って言った時、突然ティンと来たというワケ。 この店でホリカプ大作戦会議をするためにやって来た皆の前で、担当に暴露したんだ。 　私「担当、お前ハッカー(前世の本名)でしょ?」 　担当「!!!?」 　私「私、前世ではトリックスター(前世の本名)なんだ。久しぶりー☆(∩´∀｀)∩」 　担当「(　 Д )　ﾟ　ﾟ」 担当、椅子からひっくり返ってた。 879 カシス なんと 880 ガナッシュ もろ、オレとカシスのやりとりだな 881 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします いきなりそんな事カミングアウトされたら、誰だってびびるわwwww 882 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします でも、よかったな担当さん。 同じ世界のメンツがいるってだけで、精神的に楽になるだろうし。 883 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 思い出したタイミングが絶妙すぎる件について 884 ┌(┌^o^)┐な店長(♀) 今は全員が集合するまで時間つぶし＋久々の同窓会に花を咲かせているよ。 巡査とその奥さんは子どもたちも同伴してた。先生一家はショタウニーも同席してる。 まだ来てないのはイラストレーターさんだけだね。 885 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ふーん、そうなんだ…………って、えっ? 886 ガナッシュ えっ 887 カシス えっ 888 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします あれ? なんか変だぞ? 889 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします そうだ。「来ていないのがイラストレーター＝シードルだけ」って…… やのつく職業のカシスと神父なガナッシュがハブられてる! 890 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おい、「<<603」を読み返してみろ。 ……先生、この2人にエンカウントしてないんじゃないのか? だから2人が転生して冬木市にいることを知らないんだと思う。 891 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします あっ 892 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします あっ 893 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ＼(^o^)／ﾅﾝﾃｺｯﾀｲ 894 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします これはヤバイ。どんぐらいヤバイかっていうとマジヤバイ。 895 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします え、ちょ、 どうするのこれ? 896 カシス シードルの元へ凸るか 897 ガナッシュ だな。善は急げだ 898 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします >>896－897 また秒単位レスか。 おまいら本当に仲良しだなwww ……凸るって、えっ? [newpage] 899 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします なんだろう、ものすごく嫌な予感しかしないんだが。 900 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ふたりとも、早まるなぁぁ!!(;｀･Д･) あ、900げっと!! 901 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ぬかりねぇwwww 902 ┌(┌^o^)┐な店長(♀) あ、今先生の所に電話来た。 どうやら件のイラストレーターさんからみたいだ。 　お母さん「イラストレーター、『ヤクザと神父に追い回されてるからちょっと遅れる』って」 　お父さん「どんな状況だよwwww」 　巡査「組み合わせおかしいだろソレwwwwww なんでそうなったんだよwwwwwwww」 その話を聞いてた赤白EMIYAが表情ひきつらせてた。 おそらく、「神父」って単語から某コトミネーターを連想したっぽい。 903 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします おい おいwwwwwwwwwwwwwwwwwww!!! 904 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします まwwwwwwwwwwwwwwwwwじwwwwwwwwwwwwwwwwwwかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 905 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします やりおったwwwwwwwwwwwwwwww 2人揃ってやりおったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 906 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 知ってるか? こいつら、マジバケでは御三家って呼ばれてるイケメン集団なんだぜ……? 907 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ただの近所の悪ガキじゃねーかwwww 908 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 私、今公園付近にいるんだけどさ…… ヤクザと神父が画家風の人とリアルスマブラしてるんだけど。 公園が焦土になりつつある。しかも罵倒合戦っぽくなってるし。 909 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします (；ﾟДﾟ)ｴｴｰ 910 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします なんでだよォォォォ!!? 911 担当さん 俺が席を外してた間に、何かとんでもない事になってる件について。 なんでこうなってるのwwwwwwwwwwwww 912 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします そんなの俺が知りたいよ ＝＝＝＝ 以下雑談 ＝＝＝＝ 931 ┌(┌^o^)┐な店長 ところでみんな、リアル弓士の報告いらんかね? イラストレーター＋αさんたちもまだ来てないから、暇で暇でwww 皆、私と担当がケータイいじりまくってるの気づいてないしね♪ 932 担当さん おま、生まれ変わっても相変わらずだなwwwww 933 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします <<931-932 すげぇ、こっちも秒単位即レスwww ……なん……だと……!? 934 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 既に全裸待機していた俺に隙はなかった。 へーっくしょ!! 935 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします お願いします! お願いします!! 936 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 生弓士と聞いて(ﾊﾞｯ 937 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 報告はよ!! 938 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ　　　　　　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ ﾊﾞﾝ　 （∩ ･ω･）　　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ　/ ﾐつ/￣￣￣/ 　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ　 　　　￣￣＼/＿＿＿/ 939 ┌(┌^o^)┐な店長 今、うちの店の台所が赤白EMIYAの愛の巣になってる。 「せっかくのダブラウニーなんだから」って事で料理頼んだらこうなった。 あんりみてっどくっきんぐわーくすなんて初めて見たよ。しかも超息ぴったりwww お互いにお互いが作ったもの味見させ合いっこしてたり、 「あれ」「それ」「これ」という単語だけで相手が何を欲してるかわかってたり、 テーブルに並べる皿の準備とかの手際のよさとかマジ熟年夫婦ですhshshshshshshs 　赤EMIYA「白EMIYA、あれを頼む」 　白EMIYA「わかった。ほい」 　赤EMIYA「うむ」 とか、 　白EMIYA「……ん、こんなもんでいいかな。赤EMIYA、味見頼めるか?」 　赤EMIYA「……ふむ、悪くはないな」 　白EMIYA「じゃ、盛り付け手伝ってくれ」 　赤EMIYA「了解した」 とか。 お父さんとお母さんは何かを察してるみたいで、優しいまなざしを向けてたなぁ そして私はメモ帳にそれをメモる(＿・　・ф) 祭典でこのネタの同人誌作るんだ!!(｀・ω・´) 940 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 脳内にその光景が再生された俺は勝ち組 941 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 禿げ萌えた 942 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 悶える! すっげぇ悶えるぅぅぅぅうううううううううううう!!! 943 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします くっそう、俺も生でそれを拝みたかったぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 944 担当さん すげぇなぁ。 ここは┌(┌^o^)┐ﾎﾓｫの巣窟だったのか 945 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ┌(┌^o^)┐ 946 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ┌(┌^o^)┐ 947 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ┌(┌^o^)┐ 948 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします くそ、囲まれた! 949 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 誰か! 援軍、援軍をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 950 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ┌(┌^o^)┐ 951 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ┌(┌^o^)┐ 952 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ┌(┌^o^)┐ 953 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 時すでに遅し、か…… ＝＝＝＝ 以下雑談 ＝＝＝＝ 989 担当さん 新スレ立てといたぞ。 　つ『【布石を】嵐を呼ぶ、運命零大決戦【打たせてもらおう!】』 やっと御三家3人組がやって来た。 これから作戦会議に入るから、しばらく抜けるわ。(･ω･)ﾉｼ 990 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 乙 991 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします じゃ、あとは適当に埋めるか。 1000ならホーリーカップが停止になる 992 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000なら俺達皆が生き残る 993 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000ならオフ会で皆に会える 994 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000なら生の弓士が拝める 995 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします ちょwwww 1000なら■■一家と友人無双になる 996 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000なら最高のハッピーエンド 997 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000なら原作のみんなが救われる 998 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000なら店長が描いた弓士の同人誌が読める 999 名無しに代わって冬木市民がお送りいたします 1000ならみんな笑顔でEND!! 1000 名無しに代わってどこかの誰かがお送りいたします この物語が最高の結末になるよう、祈っておる。 そしてその笑顔が、これからも続くようにな。 1001 このスレッドは1000を超えました。 新しいスレッドを立ててください。

【どうして】【こうなった】――これは、とあるモブ達が運命零に参戦するに至るまでの物語。<br />　///冬木ちゃんねる・モブメイン・俺得クロスオーバー・俺得設定という超カオスな話。<br />主な原料は「原作知識Zero・最低限の重要ネタバレ知識＋弓士への斜めかっ飛んだ愛＋クロスオーバー先の思い出補正＋勢い」で出来ています。<br />Fate知識を知らないファンタジー世界のモブ＋Fate知識はあるけどファンタジー世界の知識が無いモブがタッグを組む話が書いてみたくてやりました。<br />ついでに、そんな彼らに振り回されたりしんみりしたりする弓士が書きたくてやりました。<br />これで導入部は終了・運命零のホーリーカップに、積極的に関わっていくことになります。……続き考えてないけどな!(ぇ/　<br />今回はホリカプ参戦を決意したモブ達のてんやわんやと弓士がしんみりする話がメイン。でも、安定の「モブ＞弓士」要素というオチ。/　<br />「ｶﾞｸ((((；ﾟДﾟ))))ﾌﾞﾙ」しながらUPしたら、予想外に好評だったのでほっとしました。むしろ温かく迎えられた上に好評だったことに「(　 Д )　ﾟ　ﾟ」状態。<br />前作に沢山のブクマ・コメ等々ありがとうございました。拙く未熟なモノカキですが、これからもどうかよろしくお願いします(_--_)　/<br />アンケート設置しました。続きとなるルートとその他もろもろ(ショタウニーのお相手とか)に関わりますので、どうかよろしくお願いします。　　//追記……04月29日付のデイリーランキング60位!? ああもう、本当にありがとうございます!! これからもよろしくお願いします(_--_) /　5/1…アンケート終了しました。蟲おじさん陣営に協力することになります。ご協力ありがとうございました。　番外編できました つ【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1019176">novel/1019176</a></strong>】<br />/ 更に追記……続きできました【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1034291">novel/1034291</a></strong>】

【どうして】嵐を呼ぶ、運命零大決戦【こうなった】その2

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　けたたましく鳴るサイレン。沢山の人の声。規制を張るための笛の音。私の近くには小さな呻き声が所々から聞こえていた。腕の中には自分とは異なる体温の身体が小さく浅く呼吸をしている。 　それを絶やすことのないように。途切れることのないように。 　きつく、きつく、抱きしめる。 　塞ぐ手のひらからは、私の願いを聞くこともなく今もなお温かなものが零れ落ちていく。 　それがまるで、命のような。 「姉ちゃん！！」 　聞き馴染みのある声に顔を上げた。霞む視界の中に弟と降谷さんがこちらに駆けてくるのが分かる。弟の名前を呼ぶ自分の声は酷く情けないものだった。私の前にしゃがみ込む弟の服の裾を咄嗟に掴む。 「この子をっ、助けてっ…！」 　そう懇願すると、弟と降谷さんの視線が私の腕の中へと移った。 　今日はただ、本の出版について編集部へと顔を出していたのだ。なかなか日本に帰ってこない私に対して嫌な顔もせずに請け負ってくれている昔からの付き合いのところ。次回の内容や少しだけの世間話。私の担当者さんは来年結婚するそうだ。とても幸せそうに、照れながら左手の薬指のリングをひどく大切そうに触れていた。 　その光景はあまりにも綺麗すぎて、目を、逸らした。帰りはタクシーではなくバスで帰っていた。そこで事件は起きる。バスがとある停留所で停車した途端だ。地面が揺れるような振動を感じた時には、バスは横倒しになっていた。幸いにもバスから何とか這い出ることが出来た私に待っていたのは、血だらけの3人家族だった。 　見た瞬間、頭から冷水を浴びたように全身が冷たくなった。なのに心臓はうるさくて、口の中はとても渇いた。駆け寄った私にどこにそんな力があるのか、女性つまりは母親の方が私の手を掴んで懇願したのだ。 　この子を助けて、と。 　その託された子供は今も私の腕の中に居る。両親はきっと助かるだろう。まだ息はあった。なら子供は？さっきから段々と呼吸が弱まっている。血も止まらない。 　どうして。 　どうしてどうしてどうして。 　私の手のひらからはいつも命が零れ落ちるんだ。 「新一くん、近くに両親と思わしき人達は今運ばれたよ。だからお姉さんも早く。」 「あ、ああ、はい。姉ちゃん、ほら、行こ–––」 「ねえ新一、やだ、やだよ。なんで、なんでまた、こんなこと、やだ、どうして。」 　弟が息を呑む音が聞こえた。 　腕の中の子供は小学校入りたてくらいの子供だ。きっと6歳くらいだろう。それが私の心の中に渦巻く。 　なんで、どうして、何度私は。 　言葉として機能してない単語を吐き出す私に、降谷さんに名前を呼ばれた。 　違う、違う、違う。あなたじゃない。私が謝りたいのはあなたじゃなくて、私が許されてはいけないのは–––- 「ちょっと！！モタモタしてないで早く救急車に……あなたっ。」 　誰か、女性の声が聞こえた。新一がジョディさん、と呼んでいる。待って、その名前はどこかで。 　離したいのに、腕がキツく抱き込んでいて、自分でもどうしていいのか分からなくて、涙がこぼれる。今まで世界を旅してきて、沢山の人に出会った。そして別れも必ず。 　なのに、どうして、どうして、あまりにも、この光景があの時を。 「春奈っ！」 　鋭くも耳に響くような声に、周りの音が一瞬消えたような錯覚に陥る。ゆるりとした緩慢な動きで顔を上げると彼が居て、そう、彼が、許されてはいけない、彼が。 「ぁ…」 「怪我をしているのか？とりあえず君も救急車に乗って行こう。」 　伸ばされる手が私に触れようとする。それがあまりにもあの時を思い出す。 　あの時にどれだけ懇願して、どれだけ落胆して、どれだけ自業自得だと刻み込んだか。それが今になって固く閉ざしたものが壊れる。 　触れる寸のところでそれが溢れ出た。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…！」 「…どうした。」 「あの時、私は逃げたのに…！最後の最後であなたに縋った…！ごめんなさいごめんなさい！許してなんて言わないから、ごめんなさい…！」 　あの時に抱きしめていたものは何もなかった。あの時は酷く頭も痛くて、声も枯れていて、お腹も痛くて、動かなくて。どんなに叫んでも、どんなに名前を呼んでも、手を伸ばしても届くことはなくて。あの時に私は自分を呪った。 　なんて無力なんだろう。そう何度も心の中で思った。 　そしてこうも思った。 　彼が居たら、違う結果もあったのではないか、と。 　我ながら卑怯だと思う。自分で捨てて、自分で逃げてきたのに、最後は彼のことを思い出していた。 　彼が居たら。私は両親に怒られなかった？私は大喧嘩をすることもなかった？私達は事故に遭うこともなかった？何も失うことはなかった？自分を呪うなんてことはなかった？彼を思い出しては泣くことはなかった？ 　どれも、叶うことのない事ばかりで、今もなお時折夢に見る。 　どこにも幸せのない、呪いにも近いもの。 　私に触れようとした手が中途半端に止まっていたが、ゆっくりと動き出す。 　パンッと乾いた音が私の耳に響き、目の前の手が叩き落される。 「え…」 　驚く声をあげたのも私。 　そして私に伸ばされた手を叩いたのも私。 　自分の手をまじまじと見つめる。自分でも理解出来ないものにただだ困惑するだけだった。 　私は今、何をした…？なんでよ、どうして、彼は私のことを思ってくれたのに。どうして私は–––- 「もう！ちょっと退きなさい！！こういう時に男は！」 　こぼれ落ちる涙が今しがた彼の手を叩いた手のひらに落ちていく。その私の両頬を包みこむようにして彼女の手のひらが温める。 　彼女が私の名前を呼んだ。 「その子はまだ助かる。」 「たす、かる。」 「ええ。でも今のままじゃ危険なの。だからあなたも協力してほしい。」 「、ほんとう…？ほんとうに、たすかる…？」 「ええ。もちろん。」 　自信に溢れた顔で勝気な笑みを浮かべる彼女の言葉。今までどんなに外そうとしても外れなかった手から、腕から、力が抜ける。抜けきる前にジョディさんは子供を抱き上げて降谷さんに預けた。遠くなる背中を見つめて頬は緩やかな弧を描いた。 　よかった、よかった、よかった、よかった。 　あの子は助かる。ああ、よかった。 「よかった…。」 　言葉として出た声は心の底からの安堵であり、張り詰めいて緊張の糸がプツンと切れる音がした。ふらりと傾く身体に弟が私の名前を呼んだ。倒れそうだった身体を支えてくれたのは、ジョディさんだった。 「ありがとうございます。」 「いいのよ。よく頑張ったわ。それよりシュウ。あなたねぇ…。」 「彼女は今気が動転しているだろう。俺は触れない方がいい。」 　やんわりとした拒絶。その言葉が心を鋭く重く突き立てる。自分が原因なのだと分かっているのに。自分がいけないのに。また私は自分の言動で傷付いている。 　彼のこととなるといつもそうだ。 　この間の喫茶店は自分ではなくて人に何とかしてもらった。 　デートの時は、自分に言い聞かせた言葉で自分を傷つけた。 　彼と再会した夜は彼から出された提案に何も言えなかった。 　彼から逃げた時に何も彼に言えなかった。 　彼との1年間で私は彼に本音を伝えられなかった。 　 　彼のこととなると私は途端に臆病になる。 　考えるより先に行動するよね、ってよく言われた私がこれだ。彼とのこととなると、考えずにはいられない。足がすくむ。前に進めない。進んだ先に何が待っているのか分からないから。 　今のままが私は良いに決まってるのに。そう決めたのに、心の中の奥底で囁いているものが次第に大きくなっていることに耳を塞ぎたくなる。 「ああもう！！彼女、怪我してるのよ！私や新一くんじゃ、彼女の怪我に響くかもしれないんだからグズグズしないで！」 「怪我…？どこをだ。」 「腕と脇腹！ほら早く！」 　少し離れたところに居た彼が急ぎ足で私の元に来てしゃがみ目線が合う。鋭くて綺麗な目。その瞳の輝きは昔と変わるどころか、前よりも一層見惚れるものになっている気がする。 　やっぱり彼は綺麗だ。 　何度でも思うだろう。何度も思って何度も恋に落ちる。馬鹿な話だ。頭で分かっていても、心はどうにも儘ならない。 　優しく労わるように膝裏と背中に腕を回されて抱き上げられる。 　これが今彼の胸に飛び込めたならどんなに幸せだったんだろう。それは叶うことはないと分かっていても、心の中で渇望している自分がいる。 　自分で決めたことすらどうにも出来ない。 　彼に近付けば近付くほどに、私は我儘になっていく。 　我儘になった分だけ自分を傷付けると分かっていても、それは止めることを知らない。 「痛むか？」 「…いえ。あの、歩けます」 「いいから大人しくしておくといい。少しでも違和感を感じたら言ってくれ。」 「…はい。」 　こんなにも近くで彼の声を聞いたのは久しぶりだ。彼の体温が触れるところから感じる。彼がまた、私に触れてくれている。それがどんなに嬉しくて、悲しいことなのか、心の中の整理が追いつかない。溢れそうになる涙を下唇を噛んで我慢をする。 「君が––」 「え？」 「君が無事でよかった。」 　安堵と優しさを含めた声に表情で私を見る。心がざわつく。なんで、やめて、どうして。私は彼に許されてはいけないのに。 　どうして彼はここまで私に優しくしてくるの。 　私だってここまで馬鹿じゃない。 　複数考えられる仮説のなかで、また心の奥にしまった何かが耳元で囁いてくる。そんなわけがない。そんなはずがない。違う。違う。だってそんな。 　彼が私を好きなわけがない。 　自惚れるのも大概にしろ。いい加減都合の良いように考えるな。もし、万が一、地球がひっくり返るようなくらいだけど、その仮説が正しかったとしよう。 　そしたら私はどうするの？ 　どうもしない。どうも出来ない。 　彼に私の全てを話したら、彼は煙のように消えて居なくなるかもしれない。ならば隠し通す？無理だ。 　私がそんなに強くない。私はまだ自分を許すことは出来ない。 　救急隊員の方にジョディさんは何か話している。きっと私のことだ。何から何まで申し訳ない。 　降谷さんが戻ってきて弟に何か話していたと思ったら、私と赤井さんを呼んだ。 「赤井さん、姉ちゃんをお願いできますか。俺と降谷さんで犯人を追いかけます」 「ああ、無理はするなよ」 「出来るだけ。」 「あ、あの！私は大丈夫だ–––」 「姉ちゃん」 　深い青の瞳がこちらを見つめる。怒ってるわけではないのに、どこか気まずくて目を逸らすのは何を言いたいのか分かってるから。弟は私のことを思って言ってくれてる。でも相手が悪い。さっき拒絶した人だよ？普通嫌がるでしょ。それに今は彼と離れていたい。 　もう少し色々と考えさせてほしい。今の私には到底処理しきれないことばかりで、彼の優しさは毒となる。 　でもそれを弟は見抜いているように、目を少し細めて私の名前を呼ぶ。 「大丈夫だから」 「な、にを……」 「もう姉ちゃんは1人にしないから」 　真剣な声色が耳に入ってくる。ああ、この子は分かってるんだ。私が何に怯えているのか。何から逃げているのか。 　弟はどこまでも優しい。その優しさは小さな頃から変わらない。昔は分かりづらくて、いつもつっけんどんで威張った態度をしていた子だったのに、今はもう違う。いつのまにこの子はここまで大きくなったんだろう。 　しっかりと頷く私を見て、弟は満足そうに笑った後に降谷さんと何処かへ駆けて行ってしまった。今回の事は何かの事件なんだろう。まだ高校生なのに。大人の事に首を突っ込むクセはもうどうにもならないだろう。 「傷の状態はどうだ？」 「そこまで痛くないです」 「ホォー」 　何を思ったのか、地面に降ろしてもらった私の手首を少し強めに赤井さんは握った。途端に鈍い痛みが走って、小さく声を上げればため息を吐いた後にジョディさんに呼び掛けた。 「彼女、右手首を怪我している。骨折かもしれない」 「え！？だってそんな素振りしなかったじゃない！あなたもなんで言わなかったの！」 「い、言われてから痛いな、と思って。たぶん興奮してて気付きませんでした」 「ええ？ああ、もう！今から車取ってくるから病院行くわよ！現場は日本警察に任せましょう」 　まくし立てるように言い残して駆けていくジョディさんに話しかけることもできずに、呆然としていると赤井さんは反対の腕も確認し始めた。言われてから気付く痛みはなかなか痛くて、脂汗のようなものがじんわりと額に浮き上がってきた。 「痛むか？」 「大丈夫です。」 「……昔から君は大丈夫じゃない時に限ってその言葉を呟いていたな。まるで自分に言い聞かせるように」 　咄嗟に彼の顔を見てしまった。その表情は私を見つめている。知ってる、その表情。私が大丈夫だよ、と言うと決まってそんな表情をしていた。それはあの水族館の時も一緒で、どこか悲しそうなのに怒ってるようにも見えて。 　大丈夫です。 　そう言いたいのに、口は中途半端に開くだけでそこからは掠れた言葉にならないものが漏れる。 　大丈夫。一体何が大丈夫なの？大丈夫、私はまだ大丈夫。だって今までだってやってこれたじゃないか。だからこれからも大丈夫。 　1人で、大丈夫。 それは本当？ 　嘘だ。嘘に決まってる。そうじゃなきゃ、こんなにも心はしめつけられない。言葉が出てこないわけがない。今にも震えそうになんてならない。涙だって我慢する理由なんてない。 　彼に本音なんて、言えた試しがない。 　いつもいつも、彼に伝える言葉は嫌われないように塗り固められた言葉ばかり。 　いい子に笑っているのは、彼を不愉快にさせたくないから。 　物分かりのいい子を演じているのは、彼を困らせたくないから。 　いつでも大丈夫だと言うのは、彼から嫌われないためだから。 　その隠された感情なんて薄い張りぼてを剥がしてしまえば、醜悪なものだ。 　お願い捨てないで、嫌いにならないで、いい子にするから私を呼んで、私をあの子たちと一緒にしないで、私を1番にして。 　私を好きになって。 　忘れていた感情がブクブクとあぶくを立てて姿を現そうとする。お願い、やめて、やめて。これ以上私を彼から遠ざけないで。 「そんな顔をするな」 「あ、かいさ––」 「俺はいつも君を悲しませているばかりだな。泣かせたくないのに、君はいつも泣きそうな表情をする」 「それは––」 　それはいつの事を言ってるの。待って。今、彼はいつの事を思い出していたの？つい最近の再会した時からの事？私はその中でいつも彼を困らせるような表情をしていたの？ 　違う。彼はここ最近のことを言ってるわけではない。 　彼は昔から私が隠し事をしていたことに気付いていた？ 　私が情事以外に彼を好きだと言ったことはない。他の時は物分かりのいいセフレでいたはずだ。でもそれすら出来ていなかった？ 　なら彼はどうして猿芝居なんてしている私と会ってくれた？言ってたじゃん。全て捨てて行く、って。 私じゃない人に愛している、って。 　ジョディさんっていう人を––– 「ぁ…。」 「シュウ！ほら、早く彼女と一緒に乗って」 　ふと思い出される内容に、ヒヤリしたものが背中をかける。 　それと同時くらいに少し乱暴な運転で車が停められた。赤井さんは私の左手を掴んで、ドアを開けてくれてエスコートしてくれる。 　後部座席に私と赤井さん。 「それでどこの病院に行けばいいの？」 「その辺りで大丈夫だろう？」 「馬鹿ね。今はこの事故で近くの病院は難しいわよ」 「救急だと言って駈け込めばいいだろう」 「あのねぇ……」 　軽口を言い合う2人はどう見てもここ数年の付き合いという関係ではない。そりゃそうだ。だって私はあの時、聞いてしまっている。 　愛しているぜ、ジョディ 　今も鮮明に思い出す言葉。神様は私のことを嫌いなんだろうか。少しでも期待した途端にこれた。 　もし付き合ってないとしても、私は言われたかった言葉を彼女は冗談めいてでも言ってもらえる立場。どう考えても私は彼女よりも1番になることなんて、出来やしないんだ。 　2人は冗談を言いながら目星の病院を話し合っている。私の事なのに、私だけ置き去りで、そこには2人の世界が広がっていて。 　見たくない、聞きたくない、ここから逃げたい。 　ギュッと目を瞑り、俯いていると、おでこを触られる感触に目を見開く。彼は気難しそうに眉を潜めてこちらを見つめる。 「夏でもあるのか？それともこいつの運転に酔ったか？」 「ちょっと！アンタだけ引きずり落とすわよ。」 「そしたらその車のタイヤ撃ち抜くだけだ。」 　彼に触れられているのに、どこか遠い。この手を掴めば近くなるんだろうか。擦り寄れば違うんだろうか。彼の名前を呼べば、私を見てくれるんだろうか。 　それらを行う勇気なんてないのに、仮定だけはいくつも湧いては萎んでいく。 　臆病なのに何も行動に起こせない自分を、何度嘘をつけばこの巣食う気持ちは剥がれるんだろう。 「大丈夫ですよ。問題ないです」 　やんわりとおでこに触れている手を取って自ら離す。その掴んでいた手を離すのも寂しい。ギュッ強く握りしめたい。大丈夫じゃない、少し痛いどころか結構痛いって弱音を吐きたい。 　何も大丈夫じゃない、私を見て。 　それを全て飲み込んで、私はまた笑うのだ。 「君はやはり嘘が下手くそだな」 　どうやら今回は流してくれる気はないようだ。どうして彼はそんなに怒っているんだろう。分からない。分からないことだらけだ。だってあなたが愛しているのは私じゃない。ジョディさんだ。私はただのセフレで、ただの弟の姉で、彼と私の関係なんて。 「シュウ。女は嘘を着飾って綺麗になるのよ。」 「今はそういうことじゃないんだがな」 「なんでも暴きたがるのはあなた達の悪いクセよ。ね？そうでしょう？」 　ミラー越しに合う目に私はゆっくりと小さく頷く。満足げに笑う彼女はとても綺麗な人だ。それを見て、私は思ってしまった。 　敵わないな、と。 　赤井さんは小さく溜め息をこぼし「今回はそういうことにしておくことにしよう。車から引きずり落ろされるのはごめんだ。」と、運転席に座っているジョディさんに向かって少し嫌味らしく伝えた。 　彼女になれたら、私はどんなに幸せなんだろう。 　叶うことはない内容は、まるで水の中にゆっくりと沈んでいくような重りのようだ。

絶対に自分のものにしたかった赤井さんと、セフレだけど妊娠しちゃったから逃げ出した彼女とのお話です。<br /><br />※主人公の名前が出てきます。<br /><br />組織潜入前のお話と組織壊滅後のお話です。

彼には彼女がいる事を忘れてはいけない

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10115822#1

ずっとずっと死ぬまで、おばあちゃんとおじいちゃんになるまで一緒にいたいと思える運命の人に出会えた。それが私の人生の中で最も幸せなことだと思う。 「この先、何があっても、俺はお前を守り続ける。お前を一番に守るのが俺でありたい。だから、お前のこれからの人生を俺の傍で過ごしてくれないか？・・俺と、結婚して欲しい」 目の前に耀くダイヤモンドの指輪。 大好きな彼、降谷零との付き合いは幸せばかりな時間じゃなかった。 それでも、この瞬間、今までのことが全部美しい思い出になってしまうくらい、幸せでたまらなかった。 「この先っ・・何があっても、傍にいてくれるっ？」 「ああ。・・・寂しい思いをさせるかもしれない。それでも、必ずお前のところに帰ってくる。これだけは絶対に守る」 「本当にっ？」 「ああ。約束する。俺のこの信念に誓って」 日本を愛する零の信念に誓ってくれるのなら、この先絶対に揺らぐことはない。 そう思えるほど、零の愛国心は強い。 「俺と結婚、してくれるか？」 「はいっ・・喜んでっ・・」 そうして笑うと、零がとても優しく微笑み、私に甘いキスをくれる。 「幸せにする。俺のすべてを賭けて。お前を生涯大事にするからな」 「大好きっ、零っ」 幸せな涙で滲んだ思い出。 愛おしい、優しい眼差し。 ずっとそれを向けられてきた・・・それなのに・・・。 「誰だお前は」 零の、嘘つき。 「えっ・・・？れ、い？」 零が大規模な爆発テロは防いだけれど、各々で起こっていた爆発事故に巻き込まれた。 外傷はほとんどないといわれてほっとした。 けれど・・・目覚めた零は、記憶を失っていた 「風見、誰だこの女は。気安く僕の名を呼んで・・それに、この女は公安じゃないだろう？一般人を勝手に入れるな」 「い、いえ・・降谷さん・・この方は、降谷さんの・・奥様です」 ぎゅうと拳を握り、目の前の零を見つめる。 すると零が目を丸くして私を見つめる。 そしていつもなら、優しく微笑んでくれる。 でも、違った。 「・・・はっ、そんなわけないだろう？僕は結婚なんてしていない。僕を担ごうとしてるのか？風見、こんな女まで用意して・・エイプリルフールかなにかか？」 鼻で笑い一蹴されると、私の目が涙で溜まる。 「なんだ・・演技まで仕込んだのか？」 「ち、ちがっ・・降谷さんっ、忘れてしまったんですかっ？？」 「忘れたもなにも、僕が結婚なんてするわけがないだろう。何のメリットがあるんだ？こんな仕事をしていて、重荷や足枷にしかならないだろう？」 「っ・・〇〇さん」 風見さんが、心配そうに私の顔を覗き込む。 「私はっ・・紛れもなく、零と結婚したっ！！戸籍でもなんでも調べてっ！！」 「・・・」 そういうと零の視線が冷たく私に突き刺さる。 こんな目で、見られたことなんて、なかった。一度だって。 「・・・もし、それが真実だったとしても、・・・今の僕には必要ない」 「っ！！」 「言っただろう？気安く僕の名前を呼ぶな。不愉快だ」 「だ、ってっ・・・」 つうと涙が頬を流れると、零がため息をつく。 「女はすぐに泣けばいいと思ってる。そういうところが面倒なんだ。」 「降谷さん、そんな言い方「お前が女の肩を持つなんて珍しいな？だが、どうでもいい。僕の着替えはどこだ？」 そうして、ベッドから立ち上がろうとする零に、風見さんが慌てる。 「ど、どこに「怪我はしていない。少し気を失っただけだ。傷もかすり傷程度だからすぐにテロの後始末に合流する。」 「そ、そんなのっ、零「何度も言わせるな！！」 零に触れようとすると、その腕を振り払われる。 「僕の名前を呼ぶな」 突き刺さる冷たい視線に、私の胸が痛む。 「風見、この女と一緒に役所へ行け」 「な、なぜでしょうか？」 「本当にもし結婚しているとしたら厄介だ。離婚届をとりに行け。今すぐにだ」 「！！」 「で、ですがっ「僕の指示が聞けないのか？」 「ふ、降谷さんっ、今は記憶が混在して単に忘れてしまっているだけですっ！もし、離婚なんてしたら貴方は後悔して「後悔？・・・そんなもの、何の意味がある？」 「！」 「もし・・後悔したとしても、僕は後ろは振り返らない。・・・それに、記憶もないんだ。この女と過ごした記憶もなにもない。だったら、後悔することなんてないだろう？そんなわかりきったこと言わせるな。僕の記憶の中に残らないってことは、それほど大して好きでもなかったんだろう」 そうして零は簡単に着替えを済ませると、私の傍を通り過ぎる。 「っ・・待ってっ・・！」 「なんだ。僕は忙しいんだ」 「おね、がいっ・・」 どうして、今なんだろう？ 一昨日まで笑いあって、一緒に過ごしていたのに。 これから・・・新しい家族を迎えることができるって、２人で、喜んでいたのにっ。 「お腹にっ、零との赤ちゃんがいるのっ・・・」 「・・・」 零は表情を変えずに、私のお腹を見る。 「だからっ「そんなことで僕が留まると思ってるのか？」 「っ！」 「・・・もし、万が一でも僕の子だったとしても、認知はするつもりはない。・・・堕ろすなら手切れ金と一緒に出してやる。風見に伝えろ、いくら欲しいか。・・漸く分かった、僕がどうしてお前と結婚するハメになったのか」 「えっ・・？」 「・・・その子が誰の子かわからないが、僕に一度か二度抱かれて孕ませたんだろう？まあ、僕はそんなヘマをやらかしたりしないがな。・・・もう二度と僕の前に現れるな」 そうして、零は振り返ることなく、去っていった。 「あ・・・」 「〇〇さんっ！」 その場に崩れ落ちると、風見さんに体を支えられる。 「お体に障ります」 「・・・風見、さん・・これ、夢っ・・ですかっ・・？」 「っ・・〇〇、さん・・・」 「わ、たしっ・・・零に、捨てられた、んだっ・・・」 「〇〇さん、しっかりしてくださいっ！！」 「うっ・・わっ・・ああああっ！！」 私はベッドに腕をついて、泣き喚いた。 嘘つき。嘘つき。零の、嘘つき。 ずっと、傍にいるなんて・・・嘘つき。 (その日は、今までの人生の中で、最悪の日だった。すべて、壊れた日)

一般夢主×降谷さん<br />視点混在で話が進みます。<br />子供あり。

さよならをいう準備をしてくれ1

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俺と友希那は辻のお見舞いのために保健室に来ていた。 「んじゃ友希那。俺が合図したら入ってくれ」 「分かったわ」 俺は保健室に入る。 「辻ー？」 「比企谷さん」 お、起きてたか。 「よ、体調はどうだ？」 「はい。大分楽になりました。すみませんでした迷惑を掛けて」 「気にすんな。俺達は仲間なんだから」 むしろ辻はどんどん迷惑をかけて欲しい。ほら、俺と二宮さん、辻と犬飼先輩に救われたことあったし。 「それよりも・・・扉の前に女の人がいるんですが・・・」 「・・・・・・」 こいつ、女の気配だけは人一倍敏感だよな。 「あぁ。俺が少しでもお前に女性恐怖症を克服してもらうために呼んだ」 「比企谷さん・・・」 「大丈夫だ。俺でも信頼はしている人だ」 「そこまで言うなら・・・」 辻も俺が女性に対し、強い警戒心を持っていることは知っている。そんなやつが信頼してるっていう言葉が出たんだ。悪いやつじゃない。辻もそう思ったんだろう 「さんきゅ辻。よし、友希那ー？入っていいぞ」 「失礼します」 ガララとドアを入ってくるのは友希那。辻が女性恐怖症ということを教えたため、必要以上近づいてこない。 「・・・・あなたは」 「はい。三門市ではありがとうございました」 ぺこりと頭を下げる。辻は・・・よし、限界だな。 「辻、深呼吸だ。大丈夫だ。悪いやつじゃない」 「・・・はい」 目を閉じて深呼吸する。俺は友希那に近づいて。 「すまんな。辻は今日は限界のようだ。お昼は？」 「あの・・・八幡さんと一緒にたべたいなー・・・と」 もじ・・・っと顔を背けて顔を赤らめさせる。何この子可愛い」 「えっ！」ｶｧｧｧｧｧ 「ん？」 「いえ！なんでもないわ」 「ん、そうか。俺は辻に何を食べるか聞いてくるか聞いてくるから、先にどこかで待っていてくれないか？着いたら連絡してくれ」 「分かったわ」 と、友希那は保健室から出ていく。 「よし、辻。今からお前の昼飯買ってくるから・・・パンでいいか？」 「はい。なんでもいいですよ」 「分かった」 俺はステルスヒッキーを発動させて、大勢女生徒の目を欺いて購買へ行く。着いたら着いたで購買のおばちゃんにも気づかれなかったからお代だけ置いてパンを買った。 保健室に戻っている途中に友希那から屋上にいますとの連絡を受け、辻にパンを届けた後に、ステルスヒッキーを使って屋上まで移動する。 「・・・待ったか？」 「いいえ、大丈夫よ」 屋上にはそんなに人がいない。いるのは楽しそうに談笑している5人組だけだ。 友希那の隣に腰掛け、弁当を開く。 「・・・・そう言えば、どうして八幡さんは伊達メガネを？」 「ん？あぁ、妹がな、『お兄ちゃん顔だけはイケメンだから目を隠せばもう完璧イケメンじゃん！』という謎理論の元、こうなった」 「そうなの。でも私はメガネをかけてないあの目、好きだわ」 と、少し笑う。そういうのやめて貰えませんかね。うっかり告白する所だったじゃん。 『門発生。門発生。警戒エリアに門が発生しました。近隣にいる人は避難してください』 ・・・仕事は突然やってくる・・・っと 「・・・・はぁ、めんどくせぇ。トリガー、起動」 トリガーを起動していつもの隊服へと切り替わる。 「先生に説明、よろしく友希那」 「えぇ。分かったわ。行ってらっしゃい」 「・・・あぁ。グラスホッパー！」 俺は警戒エリアに向けて駆け出す。もう現場では二宮さんがいるだろうが、少しでも早く向かわなければ・・・！ そして、俺はスピードをもう一段階上げるのだった。 次の日、俺達の戦闘映像が学校中に出回り、視線が半端なかった。俺がぼっちスキルによる情報によると 「きゃー！比企谷くん超カッコイイ！」 「すごい！あんな攻撃を綺麗によけた！」 「メガネ掛けてない比企谷くんもイケる！なんかゾクゾクしてきた！」 「「「それすごいわかる！」」」 いや、何がイケるし何が分かるんですかね？ ちなみにこの映像は近くの花咲川女子学園という所にも広まっており、話題になっている。と氷川さんからメールが来た。

結月アオバ、今日の格言<br /><br />『俺ほどキモイが似合ってる男とかぜってーいねぇよ』

きっと辻の女性恐怖症を克服するには多大な時間が必要だろつ

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朝の電車。なんの余韻もない不粋なその空間で、私は今日もとりとめのない思考を揺らしていた。 大抵は、今日の一限目の授業が面倒だとか、お弁当の中身はなんだろうとか、そういう取るに足らないことなのだけれど、ある駅が近付いてくるとその思考はピタリと止まる。 ────あの子が乗ってくるからだ。 長い黒髪を携えて、小柄な体を窮屈な電車内に滑り込ませてくる。私の左斜め前に立つ。 名前も知らない、学年も知らない、ただ、制服は見たことがあるからどこの学校かは知っている、女の子。 少し前から同じ車両に乗ってくるようになったその子に、自然と視線が引き寄せられた。整った顔立ちなのはもちろんだけれど、それだけではない、なにか人を惹き付けるようなオーラのある子だった。 こうして同じ車両に乗るようになって、もう１ヶ月は経つ。たまたまいつもより一本早い電車に乗れて、学校に着いたらどうやって時間をつぶそうなどと考えていたのが最初だった。その時初めて彼女を見て、目が離せなくなった。 それから今まで、彼女と会話を交わしたわけじゃない。目が合ったわけでもない。ただ、私はいつも彼女を斜め後ろから見ていて、彼女は背筋を伸ばしてただ窓外の景色を眺めていた。 話しかけてみたい気持ちもある。けれど、そんな取っ掛かりもないし、彼女が乗ってきてから私が降りるまでたった二駅しかない。そのわずかな間に初対面の相手と話を弾ませる自信など、私にはなかった。 だから、今日もただ彼女を見た。少し後ろめたい気持ちにもなりながら、ただ、見ていた。 [newpage] その日もいつも通りだった。とりとめのないことを考えながら、彼女が乗ってくる駅が近付いてくるのにじわじわと鼓動を速めていた。 当たり前に彼女は乗ってきて、私の斜め前に立った。今日はいつもより少し距離が近くて、かすかにシャンプーの香りがする。 私は、鼻先を掠めるこじんまりとした甘い香りに気付かないふりをしながら、もはやバクバクと激しく主張してくる心臓を棚に上げてスマホをいじった。 二駅の邂逅はあっという間に終わりを告げて、私は何食わぬ顔で電車を降りる。彼女の横を通り過ぎて、心の中で、またあした、と告げて。 「あのっ」 ホームへ降り立って少しもしないうちに、後ろから声をかけられた。羽根のように軽くて、ほんの少し艶っぽい、耳に心地よく響く声だった。 「は、い…」 振り向いたのは、ただの反射だった。声をかけられたから。ただそれだけの理由で、なんの期待も、なんの準備もない。誰もが同じように振り向くであろうシチュエーションだった。 けれど、それにしてはあまりに意味を持ちすぎる人物が、私を見上げながらそこに立っていた。 「…落としましたよ。」 彼女だった。艶やかな黒髪を携えた、白い肌の、小柄な彼女。 こんな声なんだ、と咄嗟にそう思ってから、じわじわと現実が脳内を満たしていく。彼女は、見覚えのある定期入れを私に向かって差し出していた。ポケットに入れていたもので、降りざまにスマホをしまった時にでも落ちたのだろう。 「あっ、ありが」 私がお礼を言い終わらないうちに、彼女の背後で無情にも電車のドアが閉まった。思わず、あっと声が出る。 「…あー…」 「ご、ごめん！電車行ってもうた！」 できることなら電車を追いかけて引き止めたい気分だった。しかし、彼女は私の定期入れを拾っていたせいで、いつもの電車を一本見送るはめになってしまった、それが現実だ。 なんと言って謝ったらいいかわからず、途方に暮れて彼女のリボンを見つめた。彼女はぼーっと電車を見送ってから、くるりとこちらへ振り向くと、それはもう見事なほどに可愛らしい笑顔を浮かべた。可憐という言葉はこういう笑顔から生まれたのではないかと思うほどだった。 「大丈夫です。次のでも間に合うから。」 その笑顔の前に、私はなにも言えなくなって、そっか、と素っ気も色気もない受け答えをしてしまった。定期入れを受け取ると、彼女は軽く会釈をしてホームに並び直す。 その後ろ姿をみて、今しかない、と思った。今こそが彼女と話すきっかけで、明日からの朝の時間を変える絶好の機会だと。そのために定期入れは私のポケットからこぼれ落ちて、そのために彼女はそれに気が付いて、そのために電車は彼女を残して出発したのだ。 そうとでも思わなければ、自分を奮い立たせることができなかった。私は、彼女の隣へと一歩踏み出した。 「…電車、乗り過ごしたの私のせいやし、次の来るまで…その、話でもしよか。」 彼女は、私の申し出を不思議そうな表情を浮かべて聞いていた。隣に並んでみると思った以上に身長差があって、上目遣いの視線がかわいくてクラクラする。 彼女は少し考えるような間をおいて、また綺麗な笑顔を浮かべた。 「いいですよ。ところで」 「どうしてわたくしがここの駅で降りないって、知ってたんですか？」 ────ここにきて、私は自分の気持ちを認めざるを得なくなった。 私は、彼女に一目惚れしたのだ。 [newpage] 朝の電車。いつもと変わらない車内で、私は確かに緊張していた。 とりとめのない思考すら許さないほどの緊張で、喉は渇き、手はじっとりと汗ばみ、この車内でただ一人暑さで半袖になっていた。 例の駅に差し掛かる。 彼女が乗ってくる。 窮屈そうに小さな体を滑り込ませて────私の隣に立った。 「…おはよう、楓ちゃん。」 「おはよ…みとちゃん。」 月ノ美兎、と彼女は名乗った。通っている高校と、学年と、部活。あの時、ホームで色々な話をした。 嘘みたいに楽しかった。初対面の人と話しているとは思えないほど、気安くてテンポの良い会話だった。２人ともよく笑って、電車が来てしまったのを残念に思ったほどだった。 やって来た電車に乗り込みながら、みとちゃんは、また明日ね、と言って手を振った。朝に聞くには似つかわしくないセリフだったけれど、私は大きく頷いてみせた。 たった二駅電車が往く間、私たちはたどたどしく話をした。昨日ホームで話したのが本当に現実に起きたことなのか確かめるように、ひとつひとつ轍をなぞるように言葉を交わした。 みとちゃんは相変わらず綺麗に笑った。そして、その笑顔に私の胸は飽きることなく高鳴った。揺れる電車が、これが恋の始まりに鳴る音だと言わんばかりに、ガタンゴトンと声をあげる。 二駅はあっという間に過ぎた。私が降りて、みとちゃんは降りない駅にたどり着く。 「今日は定期落とさないでくださいね。」 「あ…うん。大丈夫。ほら！」 わざとらしいほど注意深くポケットを確認してみせると、みとちゃんは声をあげて笑った。 ドアが開いて、人波が動き始めると、名残を惜しむ間もなくみとちゃんが遠ざかっていく。ホームに降りて振り返ると、窓際に追いやられたみとちゃんがこちらに手を振っていた。 「またあした！」 声は届かないだろうけれど、私はそう言って手を振り返した。みとちゃんは、少し目をこらすように私を見た後、にっこりと笑って "またあした" と口ずさんだ。 電車のドアが閉じて、曲がりくねった線路の先にその姿が見えなくなるまで、私はホームに立ち尽くして、じっとそれを見送った。

おはよう。またあした。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10116583#1

日が暮れてしまった。夜は、音もなく忍び寄りひどく足が速い。夜に姿があるのなら、地球上で最も俊敏なのはきっと夜であっただろう。 マジでヤバい、とハロルドは思った。ナビはさっきから見当違いの場所ばかりを示し、似たような風景の場所をぐるぐると回っている。夕方、迷い込んでからもう数時間。深夜。ハロルドは今日中の街への脱出を諦め、車で一夜を明かした。 ハロルドは１９歳だ。父親の車を借りて、田舎をドライブして回っていた。大学は休学中。人生に迷っているんだ、自分探しってやつ。そういうのは若いうちにしておいたほうが、カッコイイと思ってさ。 好奇心で山道に入ったのが失敗だった。だって今時ナビが効かなくなる山があるなんて思わないだろ？iPhoneも充電が切れた。本当に困ったな、死ぬのか？ 「ハァ～～マジでやべぇな～～朝じゃんウケる」 ハロルドがトイレのために車外に出ると、明らかに草が人の通った後に倒れている道があった。道と呼ぶには貧相だが、明らかにそうだ。 「………」 ハロルドは護身用に持ち歩いていたナイフを取り出し、事件に巻き込まれたら笑えん、と思った。恐る恐る、その道を行く。こんな陰気な山に、人が住んでいるとはとても思えない。じゃあ誰がいるんだ？ 歩みを進める。茂みのそばに、何かが置いてあった。 「………」 それは住所が刻印された、宅配ボックスだった。ハロルドはその刻印をまじまじと見つめた。こんな山の中にもアドレスがあるのか。山、しか呼びようがないと思っていた。じゃあ本当に家が？ いや、待てよ。殺人鬼が住んでいるのかもしれない。ハロルドは、レザーでできたマスクを被った大男を想像した。ありえる。ホラー・ムービーではお決まりの展開だ。 「S.Akai　R.Furuya」 ハロルドは宅配ボックスの名前を読み上げた。アメリカ人じゃなさそうだ。 少し悩むが、もうここを頼るより他に、街に戻る手段が見つからない。昨日から、どれだけ彷徨ったと思っているんだ。せめて充電だけでもさせてくれ。 それにしても、ここに住んでいるなんて。どんな変人だ？いきなり撃たれるかもしれん。 ハロルドは、茂みに守られるように隠されていた小径に入り、坂を上った。季節は初夏。門が見えてきた。ハロルドは思わず口笛を吹いた。見事な白薔薇が、満開に咲き乱れていた。よく手入れされた薔薇園になっていたのだ。 「うわ～、すげぇ」 何でもすぐに枯らすおれのママに見せてやりたいよ。ハロルドが薔薇に鼻先を近付けて匂いを嗅いでいると、すぐ後ろ、耳元で、「ボウヤ、どこの子？」という静かな声が、聞こえた。 「！！？？！？！？？」 ハロルドが驚いて飛び上がると、背後に立っていたプラチナ・ブロンドの男は、「すごいジャンプ力。若いだけあるな」と感心したように言った。 「だ、誰！？！？」 「こっちのセリフだ、ここはぼくと、ぼくのパートナーの家」 ハロルドは驚いたせいで飛び出しそうになった心臓を抑えて、「ああ、すみません、あの、おれはハロルドです、ハリーって呼んで、あやしい者じゃないんだ、道に迷って、」と言った。彼はハロルドをじっ、と見て、「ハロ？」と笑った。ハロルドだけど。まぁ何でもいい。 彼は若々しく見えるが、恐らく４０歳くらいだろうと推測した。ママと同じくらい。こんな山奥で暮らしているのが信じられないくらい、いや、別に他意があるわけじゃあないけれど、何て言うか、きれいでセクシーな男だった。褐色の肌と、青い瞳。ハロルドは思わず、赤くなった頬を擦る。 「迷子？車？」 「はい」 「ここから街まで、１時間半かかるよ。最短の道を知っていればの話だけど」 「あの、道を教えて欲しくて……あと、厚かましいとは思うんですが、」 スマホの充電、と切り出そうとして、ハロルドの胃は盛大な悲鳴をあげた。思わず頭を抱える。昨日の昼、ハンバーガーを食べたきり、飲まず食わずなのだから仕方ない。 「道案内はいいけど、これから大雨だよ。今日はずっと。道が悪い時、ぼくたちは絶対に車出さないんだ」 彼は少し考えて、おいで、と手招きした。 「しょうがない。見捨てられないし、１日面倒を見てあげる。お腹も空いてるみたいだし……おいで」 ハロルドは、彼の手に、切った薔薇の花束と、自分のポケットに入っていたはずの護身用ナイフが握られているのを見た。 「！！？？」 「ああ、これ？きみが帰るまで預かります、うちは他人が銃やナイフの持ち込むことを禁止している」 「ど、どうやって！？」 「ぼくはレイって呼んで、そうだ、ハロ」 「はい」 「ぼくのパートナーは仔犬のきみと違って、ぼく以外には心を開かないんだ……怒らせずに、お利口にしているんだよ」 「………」 ハロルドはお利口に頷いて、レイの後ろをついて薔薇の美しく咲き誇った門をくぐり、よく手入れされた庭や家庭菜園の間を抜けて、プールのある家の前に辿り着いた。古い家だが、よく整備されていた。まるで映画に出てくるみたいだ。まさに隠れ家。 「ちょっと、ここで待ってて。ねぇ、赤井―――！！！」 ハロルドは木の陰で様子を窺いながら、レイの呼ぶ「アカイ」とやらを待った。 どんな男だ？話から想像するのは、不愛想で偏屈な変わり者。レイみたいなセクシーできれいな男をこんな山奥に閉じ込めておける男なんて、想像できないな。 出てきた男は、ハロルドの想像の５００倍恐ろしかった。 （うわ、強そう。むり。殺されるかもしれない） 絶対に堅気じゃない、と思った。レイよりもだいぶ年上に見えたが、まずあそこまでガタイのいい、鍛えられた年寄りは十中八九ギリギリまで現役で前線に出た戦闘マニアでクレイジーな退役軍人か、犯罪組織の戦闘員だ。あの目付きの鋭さと身体つきは、どう考えても会員制ジムで優雅に鍛えたIT企業のCEOには見えない。 ふたりは英語ではない言葉で話していた。ハロルドにはよくわからない。中国語じゃなさそうだ。日本語？ 「これ、飾りましょうね」 「うん、きれいだな、きみほどじゃないが」 「ふふふ、ちゃんとお鍋見てました？サボってないだろうな」 「ちゃんと見てたよ」 ハロルドはその理解不能な外国語を聞きながら、やべぇ、おれを殺す相談かもしれん、と思って、息を殺して神に祈っていた。神さま、無事に家に帰れたら大学に戻ってマジメに勉強するし、パパとママに心配かけるのはやめる、だからどうか命だけは、 「そう、赤井、ぼくさっき迷子の犬、拾っちゃったの。これから雨が降るから、街に帰すのは明日になるけど放っておけないから、一晩面倒を見てもいいでしょう？」 「迷子の犬？こんな山奥に？」 「ハローー！！カモン！！」 ハロルドはガチガチにビビりながら、そっと姿を見せた。ハロルドだって小柄なほうではないけれど、アカイに比べたら赤ちゃん。まさに仔犬だ。 「……あの、ハロー、ミスター、おれ………」 「何だこのガキは」 「ヒィ、顔こわっ！！」 レイは赤井の頬をぺちぺち叩いて、「めっ、こんな赤ちゃん、怖がらせちゃかわいそうでしょ」と言った。 レイの言う通り、大粒の雨が降り出した。静かな家に、古いラジオ。昔の曲を流している。 ハロルドはiPhoneを充電させてもらって、大人しくソファの隅っこに座っていた。と、いうか、アカイが怖くて大人しくせざるを得なかったのだ。ものすごく怖い。睨まれている。歓迎されていない。いや、招待されたわけじゃないんだから歓迎されるはずがないのはわかるが、マジで殺されたらどうしよう。埋められて証拠隠滅になる。 「ビーフシチューを仕込んでいたんです。夕食用でしたけど、子どもがお腹を空かせているんだからもう食べちゃいましょうか」 「いえ、あの、そんな、おかまいなく、おれもう１日食べなくても生きていけますから」 レイは笑って、「赤井が怖がらせるから遠慮しちゃってるじゃないですか」と言った。 白薔薇が活けられたテーブルは、飴色に輝いてこの部屋にぴったりだった。大きさも、色も、何もかもが完璧だ。 ハロルドは出されたビーフシチューを、びくびくしながら食べた。食器は蚤の市で高値が付きそうなアンティーク。 「うわ！！！おいしい！！！」 レイは笑って、いい食べっぷりのハロルドを見ていた。 「かわいい。おかわりをあげましょうかね」 「きみは優しすぎる」 「なんです、拗ねちゃって」 「きみがおれ以外に優しくするのがおもしろくないんだ、あんな若い男に」 「あはははは！いつもぼくを独り占めのくせに」 「死ぬまで独り占めのつもりだ」 「ふふふ」 なに話してんのか、全然わかんねーな。ハロルドはシチューに顔を突っ込みながら、アカイとレイの姿を観察した。殺人鬼みたいに見えたアカイも、レイと話している時はただのハンサムに見える。いや、ただのハンサムではないか。少しは人間らしい、ハンサムな特殊戦闘員くらいには見える。うん。 「ふふふふ」 「何笑ってるんだ、零」 「ううん、おかしい……この子が迷い込んできたのが昨日だったら大変でしたね、ぼくたち、」 「プールでセックスしてたから？」 「あっはははは、うん、良かった、今日は服着てて」 「そうだな、きみのそんな姿を見られたら、こいつを殺して埋めておくところだった」 「もう、やきもちやきなんだからなぁ、こんな子どもに何を悋気を起こすことがあるって言うの？」 ふたりはハロルドのことを本当に犬か何かだと思っているのかもしれない。仲睦まじく顔を近付けて何度もキスする仕草はセクシーで、見ていると照れてしまう。 雨の音がよく聞こえた。雨の日に山道を運転するのは危ないと言う。レイに拾われて命拾いしたな、クソガキ、と言ったアカイの目は、きれいなグリーンだった。ふたりは、何者なんだろう？好奇心をそそられる。ラジオを消して、レコードをかける。しばらく使われていなさそうな灰皿が置かれている。 夕方、レイがコーヒーを淹れて手作りのケーキを出してくれた。アカイはバスルームの掃除をしているという。おいしいケーキだった。ふたりとも、ホテル経営でもしたら儲かるんじゃないかな、すごく。 「おいしい？」 「おいひい」 「そりゃ良かった……ふふ、きみ、ぼくが若い頃に飼っていた犬にソックリ」 「何て名前の犬？」 「ハロ」 ハロ。 ハロルドは、若き日のレイがハロという名前の犬と楽しそうに暮らす姿を想像した。 「レイ」 「ん？」 「レイとアカイは、どこで出会ったの？何者？」 「出会ったのはうんと昔。きみが生まれる前だ」 「うんと昔？」 「そうだよ、ぼくたちは警察官だった……ぼくは日本の、赤井はアメリカのね」 「アカイ、軍人じゃないの？」 「ううん、FBIだった」 「FBI！！！」 「昔ね。昔の赤井は本当にハンサムだったな、今もだけど」 「ふたり、けっこう年が離れているみたいだけど」 レイは笑って、「ぼくと赤井は３歳しか違わないけど。ぼく、もう６５だし」と言った。 「…………」 「コーヒーもっと飲む？」 「６５？」 「うん」 「６５って何歳？？？」 「何歳？って……６５歳じゃない？」 ハロルドは充電が満タンになったiPhoneに触る暇がないほどに、レイの話に夢中だった。 掃除を終えて戻って来たアカイもハロルドに慣れたのか、だいぶ雰囲気が柔らかくなった。雨の日に迷い込んできた、かつての飼い犬に似た少年。ハロルドの護身用ナイフは、林檎を剥くのに使われてしまった。 「ハロ、ぼくのことママと同じ４０歳だと思ったんですって」 「きみは世界一かわいいからそうだろうな」 「またまた。４０はないでしょ」 「３５くらいに見える」 「あなたと親子じゃないですか」 言葉はわからないけれど、ハロルドはふたりの会話を聞いていた。古いレコードの穏やかな音と同じくらい、優しく安らいだ響きだった。薔薇の匂い。ハロルドがビーフシチューの殆どを食べてしまったので、夕食はレイがオムレツを焼いて、スープを作ってくれた。そして、昔の話をしてくれた。ふたりは潜入先で出会った潜入捜査官同士、昔は仲が悪くて、色々なことがあった……それを乗り越えて恋人同士になって、長い間アメリカと日本、遠距離恋愛だった。ふたりとも仕事をリタイアして、これからは残りの時間、ふたりきりで、お互いのためだけに生きようと決めて、ここに住んでいる。ハロルドは、ふたりの世界を丸１日邪魔することに、引け目を感じた。この完璧な、ふたりきりの世界。 シャワーを借りて、ソファで眠る。雨は夜中にいくにつれて、弱くなっているのがわかった。 「明日は晴れるから街まで送ってあげる……朝ごはんはハムサンドを作ってあげますからね。おやすみハロ、良い夢を」 「おやすみなさい」 柔らかい、上等なソファだった。かすかな雨の音を聞きながら、目を閉じる。 よく眠れそうだと思っていた。ふたりの寝室から、声が聞こえるまでは。 「……ん、あ、赤井、ん、だめ」 「ん？」 「……あの子に、聞こえるでしょ、あ、」 赤井は笑って、うん、聞かせればいい、と囁いた。 「あのガキ、きみをいやらしい目で見ていたぞ。おれのものなのにな」 「もう、そんなわけないでしょ、あんな若い子……あ、だめ、あんっ、ほんとに、出ちゃうから、大きな声……」 「……零、愛してる」 「あっ……」 聞こえる。 ハロルドはタオルケットに包まったまま、じっと息を殺してその声を聞いていた。 ベッドが軋む音も、レイの甘えた喘ぎ声と、何度もアカイを呼ぶ切なげな声。 （……セックスの声、というものは、） こんなに愛おしげな、そんなものなのか。ハロルドがガールフレンドと過ごす夜も、インターネットで見るポルノ・ビデオも、こんな愛ではなかったように思う。こんな風に。お互い以外は、何も必要としない暮らしと、セックス。自分もいつかは、ふたりのように愛し合える誰かが見つかるのだろうか。わからない。世界中で、アカイとレイだけが特別なようにさえ、思えた。雨の音がどんどんと細くなり、やがて止んでも、ベッドの軋みと、ふたりの声は長く聞こえた。ハロルドはタオルケットに包まれて、息を潜めてそれを聞いている……。 「おい、クソガキ。起きろ、メシだぞ」 「ふぁ？」 「寝相が悪いな」 ソファから落ちていた。アカイが眉を顰めて、ハロルドを軽く蹴った。 「うう、おはようございます……」 コーヒーのいい匂い。 「レイ、おはよう」 「……うん、おはよう」 キッチンでコーヒーを淹れているレイの後姿。白いTシャツから覗いた首や耳が、少し赤くなっているように見えた。 「………」 昨夜の声を思い出す。ハロルドもつられて赤くなった。 「ほら、さっさと食え。おれのレイをいやらしい目で見るな」 「えっっっっ」 レイが振り返って、「何言ってるんですか、バカ！！」と言った。その顔が本当にセクシーに見えた。 「……ねぇ、アカイ」 「何だ」 「セックス、何歳くらいまでできそう？」 ハロルドが好奇心から、こそこそとそんなことを聞いた。 アカイは鼻で笑って、「死ぬまでだから、１００歳くらいじゃないか」と言って、レイに思いっ切り殴られていた。 ふたりの運転するトラックに先導されて、ハロルドは山を下った。 レイはサンドイッチをお土産に持たせてくれた。昨夜の雨が嘘のようによく晴れて、山の木々はきらきらと輝いているように見えた。 街に着いたら、ガソリンを入れて家に帰ろうと思った。何故か無性に、パパやママや、最近ぎこちなかったガールフレンドに会いたいと思ったのだ。 街までは１時間半。ふたりはきっと車の中でも、ふたりきりの世界の会話をしている。あの家に、ほんの１日、ハロルドがいたなんて嘘みたいだ。あの世界では、本当にふたりしかいられないのに。おれがハロじゃなかったら、あの家には辿り着けなかったかもしれない。そう思った。レイが見せてくれた写真に写ったハロは、白い、ピンク色の舌を持つかわいい犬だった。 「気を付けて帰るんだよ！！」 大きく手を振るレイと、腕を組んだままのアカイに見送られて、ハロルドはその街を去った。どれだけ大人になっても思い出す、不思議な時間だった。ハロルドが人生で初めて触れた、愛の姿について。 せっかく街に降りたので、食料や消耗品をまとめ買いして家に帰る。 「ふふふふ」 「ご機嫌だな、零くん」 「子どもにやきもち妬いちゃうあなたがかわいくて」 赤井は不貞腐れた声で、おれがいなかったらきみは襲われていたかもしれないぞ、と言った。 「あっははははは！！ぼくが、あんな赤ちゃんにどうこうされるって！？」 「油断できないな、きみはかわいいから」 「あーおかしい、引退したからってそうそう負けませんよ……あっいけない、ハロにナイフ、返し忘れちゃった」 「もらっておけ、宿賃だ」 「そうですね、赤井、夕食何がいい？」 「ビーフシチュー」 「ふふふ、そうですね、あの子が全部食べちゃったから……あなたのためだけに作るから、ご機嫌直して」 ハロルドのナイフには、名前が入っていた。 いつかずっと時が経って、ぼくたちが死んでしまって、あの子がぼくたちの年を追い越したときに、何かの巡り合わせであの子の手元に戻るかもしれない。そんな気がした。あの家に辿り着いた子だ、何か運を持っている。 降谷はいたずら心で、そのナイフに自分と赤井の名前を彫り足しておいた。そしてずっと、引き出しの中に大事にしまっていた。 ずっと時が経って、そのナイフは本当に不思議な縁に導かれてハロルドの手元に戻ることになる。ハロルドはあの家で過ごした不思議な１日のことを死ぬまで忘れられずにいて、あれほどの愛は終ぞお目にかかれないままであった。色々な愛があった。ハロルドも素敵なロマンス、結婚、子どもや孫、様々な愛を手に入れて、それでも１９歳のあの日にあの家で見た愛は、やはり特別で、いつまでも美しく色褪せない。 自分の名前の横に彫られたふたりの名前を、ゆびさきで撫でた。目を閉じると、満開の白薔薇が見える。レイはあの日と変わらぬ姿で、ハロに手を振ってくれるのだ。濃い緑の山道。プール。柔らかいソファ。コーヒー。ビーフシチューとオムレツ。ハムサンド。手作りのケーキ。生涯忘れられないふたりの愛と、よく手入れされた白い薔薇園。いつまでも長い間、色褪せることはなかった。 （秘密の花園）

<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10048134">novel/10048134</a></strong>の続編です。<br />山奥でふたりきりの幸せな老後を過ごす赤井と零くんのおうちで、ハロルドくんというモブ迷子が１日過ごす話です。

秘密の花園

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　額に落ちる薄光に目を開いた。 　ただ今の時刻、二時を回る頃だそうだ。壁掛け時計がそう言うなら信じるほかない。　 　片腕がやけに冷たい。床に向かって無気力に投げ出されていた。反っていた肘がぎしぎしと痛む。ソファからはみ出す腕。ソファ。あの人の匂いがするソファ。 　思考がまとまらない。生あくびにもならない曖昧に深い呼吸を二回。 　短針の位置を見つめ、その意味するところを考える。日が差しているから午後の二時過ぎ。 　 「ミサカ、寝ちゃってたのねってミサカはミサカはおはようございますってちゃんと挨拶してみたり」 　返事はない。 　テレビのリモコン、読みかけの雑誌。 　細々としたものが少しずつ乱れて置かれ、そこに誰かがいたことを教える。けれど気配だけ残して居間は無人。 「あなた？」 　それでも、一人は一緒にいるはずだったと思うけれど。 　一方通行。たしかに眠る前まで二人でいた。 　起き上がる。エプロンを掛けたままであることを知る。 「ああ、そうだ」 　台所へ行く。炊飯器の群れを通り過ぎ、冷蔵庫の扉に手を掛けた。 　流しの横にはまな板が立てられている。それを洗ったのは二時間前の打ち止め。 　扉に掛ける手も床を踏む足も、ふわふわとして頼りない。 「うん、あった」 　林檎にキウイに苺。 　冷蔵庫の中段。平皿にラップを盛り上がらせて、カットされた果物が種類別に陳列されている。 　切ったのは自分。大きさは均等で、なかなか見目良く出来たと思う。一方通行は怪しむが決して不器用ではない。こと刃物の扱いに関しては。 「そうだよね。夢じゃないよねってミサカはミサカは眠っちゃう前のことを思い出してみる」 ＊＊＊ 　時は少しだけ遡る。 　ファミリーサイドのリビング。かつては黄泉川愛穂の一人暮らしであったとは思いがたい広さ。 　その空間において、打倒番外個体を掲げて憚らない打ち止めは今日もNPCへ弾を打ち込むのに忙しい。 　突如奇声を発する以外は大人しくピコピコしていたのだが、 「ホットケーキが食べたいでーす！ってミサカはミサカはお昼ご飯をリクエスト！」 　急にそんなことを叫びだした。同時に聞こえた雑音は、コントローラが床に挨拶したのだろう。 　雑誌をめくっていた一方通行が見てみれば、テレビの画面に『YOU LOSE』の文字。番外個体を越える日はまだ遠い。 「それはメシの類じゃねェ」 　一方通行は何から言おうか少し迷って、とりあえず口から出た音に反応してやる。 　ファミリーサイドのお昼時。賑やかな女所帯も、今は打ち止めと一方通行しかいなかった。 「だぁって食べたくなったんだもん。食べたい時が食べ時でしょってミサカはミサカはホットケーキを所望するなり！」 「だっては禁止」 「あなたは何が食べたい？」 「肉」 「それは材料でしょ」 　黄泉川が用意するのは朝食だけ。昼は残った人間が好きに用意し、夜は当番制のような、作る気になった者が作るような、曖昧な規則。 　 「ホットケーキはホットケーキでも豪華にしてみたいなってミサカはミサカは夢を膨らませてみる」 　冷蔵庫見てくる！ 　そう言って打ち止めが床を蹴る。 　朝の食器が流しにあるのを見て冷や汗。放っておくと黄泉川に叱られる。 「生クリームがあるよ。あ、果物もある！ってミサカはミサカは夢が現実になる予感にときめき爆発してみたり！」 　扉に手を掛けてみれば、なかなかに豊作だった。バターをのせて蜂蜜を滝のようにするのも捨てがたいが、今は具沢山に盛りたい気分なのだ。決してNPCに負けたのが悔しいからではない。 　 「ねえあなた。いいでしょホットケーキ」 　返事がないので、ねえねえと何度も呼びかける。ねえねえねえねえ。そのうち床が軋む気配がして、白い彼が顔を出す。 「うっせェ」 「あいた」 　軽いチョップをひとつ。呼び出しの対価としてはこんなもの。 　冷蔵庫から発掘した品々を取り出して台に並べる。近頃はすばやく扉を閉める癖がついた。これも黄泉川の教育である。 「どうかな。これだけあればなかなかのものができると思うのですってミサカはミサカはわくわくを共有したかったり」 　ゆんゆんと髪を揺らす打ち止めを見下ろして、一方通行が嘆息する。 「俺は作り方なンざ知らねェぞ」 　打ち止めの顔が輝く。ごめんね、お肉はお夕飯に頼んでみるからね。 「じゃあミサカ、果物切るね。あなたは生地を混ぜてほしいなってミサカはミサカはお願いしてみる！」 　切る、という動詞に、打ち止めは一方通行の疑心が広がるのを探知した。出来るのか？出来るとも。そう不細工ではない。刃物のような物騒な用途に転用可能な品の扱いにおいてはとくに。これでもいっぱしの軍用クローンであるぞ、なんてもちろん言ったりしないけれど。 　隅に引っ掛けてあるエプロンをまとう。腰のポケットにはゲコ太のワッペン。お手伝いを頑張るからとねだって買ってもらったのだ。 　端に寄せていた踏み台を持ってきて、乗る。出した果物を蛇口の下へ差し出す。そうだ、その前に手を洗わなければ。 　次は踏み台を横へずらす。踏み台がなくても作業は出来るけれど、少し肩が辛い。かと言って乗るとそれはそれで少し高すぎる気もする。この手間を省けるほど背が伸びるのはいつになるのか。芳川はすぐすぐよ、女の子は成長が早いから、などと言うけれど。 　まな板を流しの横に出して、下に収められた刃物を取り出す。打ち止めはまだ文化包丁を使わせてもらえない。小さな掌になじむのは果物ナイフ。不満はない。背伸びしたい気持ちもあるけれど、こういう物については対象外。遊び道具ではない。 「切るよ」 　背中に感じる視線に宣言する。こういう場面場面で信用を積んでいくのだ。間違っても、指など切ったりしないように。 　シンクに並べた果物はどれも酸化が早そうだ。少し迷って、苺から。林檎は最後、塩水を用意しておかなければ。 　つやつやした赤い実。へたを丁寧に取ってから、縦半分にすることにする。実を潰さぬよう一息に。　 　苺が半分になった。それだけのことなのに、どうしてこんなに楽しいのだろう。自分で食事を用意するのは面白い。与えられるだけではない食事は面白い。 　パックの半分も使っただろうか。とりあえずこのくらいにして、足りなかったらまた切ろう。平皿に盛り、ひとまずラップ。冷蔵庫にしまおうと振り返る。 　 「あなた、ミサカもナイフ使えるんだよってミサカはミサカは、あれ？」 　一方通行には生地を作ってくれるよう頼んだつもりだった。 「どうしたの？」 　けれど頼んだ後から動いた気配もなく、ただこちらを見ているだけなのだった。 「粉がねェ」 　早く言ってよ。 　　 [newpage] 「そう、それで、どっちかが買いに行こうって話になったんだよねってミサカはミサカは寂しくひとりごと」 　打ち止めの集中を妨げぬよう、一区切りを待っていたらしい一方通行。 「じゃんけんであの人が負けたから、ミサカは他の用意をして待つことになったのよね」 　意外と後出しが下手な彼だった。 　これはこれで信用されてきているのかもしれない。目の届かないところで刃物を持たせてくれることなど、今までなかったから。苺、上手く切れて良かった。 　それにしても遅い。 　独り言を収めてみれば、しんと静か。 　不意に内臓が粟立つような不安。 「あなた？」 「あなた？」 　部屋を一つ一つ尋ねて回る。足の裏からふくらはぎへ、冷えが登ってこようとしていた。 　モノクロの部屋。無人。 　色とぬいぐるみの多い部屋。無人。 　オフィスのような色気のない部屋。無人。 「いない。帰ってないんだ……」 　ついでにと無駄な買い物をする彼ではない。 　迷子？まさか。 　彼が連絡なく不在になるのは、いつも無茶をしているとき。 　足はソファに戻らず流しへ向かう。叫び出しそうな頭に浮かんだのは、ほうっておいたままの洗われ待ちの食器類。 　内心とはまるで裏腹に、スポンジを濡らし、丁寧に食器をこする。 　持ち上げ、泡で包み、置き、次を持ち上げ、すすぎ、 「あなた！」 　駆け出した。踏み台を蹴り転がしたが振り向かない。手についた泡をエプロンで乱暴にぬぐう。 　玄関の靴を蹴散らしながら外へ。適当にあったものを履く。光のどけき春の一日。それは胸騒ぎを静めるに何らの役も果たさない。 　 『学園都市の全個体にお願い。今日、あの人を見なかった？』 　ってミサカはミサカはお願い、あの人を探して。 [newpage] [chapter:【報告1:午後1時15分にエコバッグを手にさげた一方通行が赤いハート型の風船と空中で追いかけっこしているのを目撃しました、とミサカ10032号は報告します】] 　一方通行はマンションを出、一人歩を進めている。目的地は一番近くのデパート。探してみたこともないので定かではないが、おそらくコンビニにホットケーキミックスはない。 　右手に杖。エコバックは小さくまとめられてポケットを膨らませている。 　かつん。 　かつん。 　杖突きながらもその歩みに淀みはない。そのことに本人が怪訝な顔をする。歩むに何ら障害がないというのが何か、欠けているような感覚。 　忘れ物を思い出せないような落ち着かなさをしばし転がし、一人息を吐く。 　打ち止めだ。いつも嬉しそうにまとわりつく打ち止めがいないのだ。欠けの正体を悟って一人うなずく。 　ふと、何かが視界を見切れて行った。 　点、赤、空。 　学生寮が切り取る青い天蓋、赤い風船が紐をつけたままふらふらと。 　目で追ううちに首も引かれて、足が止まった。 　イベントの開会式で豪快に飛ばされるのは見たことがあるが、一つぽつんと見ることはあまりない。どこかで配りでもしていたのだろう。 　薄青に赤が消えていく。そのうち鳥にでも突かれて落ちるのだろう。 　 「待って！」 　持ち主らしかった。 　小学生、低学年程度。打ち止めよりは幼く見える。 　風船はもうそこらの学生寮を抜いて飛ぶ。あの高さまで昇っては、木に引っかかることも望めないだろう。なのに空を見上げたままで駆けてくる。そのままでは、 　転んだ。 　立ち上がる。膝が煤けている。涙を堪えて走る少女は、一方通行に気づかず通り過ぎていく。 　だから聞かなかっただろう。何かを切り替えるような無機質な音。 「え？」 　少女の仰ぐ空、風船が不可解な軌道を描く。 　見えない手が掴もうとしたかのように、それから逃げるかのように、ぬるりと曲がる。　 「チッ」 　少女が振り向けば、白い白い、属性を当てはめられない人物が首に手をやりしかめ面。 「あの、風使いさんなの？」 　小さくてもこの街の学生だった。持てる知識から適当と思われる発語。同時に瞳に混ざる期待。 　方や一方通行は返さない。 　風。カオスの権化。制御はそれなりに面倒くさい。距離が開くほど演算が複雑になる。 　できないことはないが、バッテリーの消耗が格段に進むこと請け合い。まだマンションを出て間もないというのに、手間のかかる演算を行うのは控えたかった。 　かさりと、人工物のこすれる音。 　少女が見れば、ばさりと広がるエコバック。一方通行はそれを再度手に握り込む。手にした杖は、一振りで手甲へと姿を変えた。 「オマエ、口塞いどけ」 　それが彼から少女へ向けた、唯一の言葉。 「！」 　反射的に少女が口にやった手が、吸い込まれるように張り付いた。 　消えた。一瞬前との風景の差分に彼がいない。 　しばし呆然、彼の睨んでいた空を仰ぐ。 　そこにいたのは、一の飛翔で赤に届いた白い人影。 　風船の口を摘んだ一方通行が体をひねる。空を蹴るような動作を見せて、頭を逆さに落ちてくる。 　思わず一歩下がった少女の前、突撃の直前に不自然に反転、音なく着地。 「すごい……」 　頭を一振り、スイッチを通常モードへ。 　風の制御よりよほど派手なパフォーマンス。しかし一方通行からすれば大気の操作の方がよほど面倒であり、地味な手段を選んだつもりである。なので少女が口に手をやったまま目を見開いて固まっているのは本意ではない。 　ずい、と風船を差し出す。少女が目だけで怪人物を伺う。彼女の中で今、一方通行は何の能力者になっているのだろう。 　風船を見、一方通行を見、また風船を見る。じれったくなって、一方通行が更に押し付ける。 　しばしして、口を塞いだままでは受け取れないと気づいた少女が両手を彼へと差し出した。 　口がかすかに動く。ぉう、と聞こえた。礼を言おうとしたのだろう。けれどその両手は震えている。理解が現実に追いつかない。あるいは能力者としての震え。遥かに上位の者への畏怖。 　気づいた一方通行がわずかに下がる。その不機嫌そうな顔が、余計に少女の震えを強くする。 「○○ちゃん！」 　呼びかけと破裂音が同時。 　母親なのだろう、少女と似た顔の女が小股に駆けてくる。 　振り向いた少女は泣き始めていた。 　風船は割れてしまった。震えた爪が、立ってしまって。 「何してるんですか！？」 　娘を守るという意思に燃え、母親が怪人物に寄ってくる。その目的は簡単に達せられた。 「……どこ？」 　涙目の少女に答える者はいない。 　白い彼はそこにいたことが嘘のように、消えていた。 　呆然と佇む親子の横。涼しげな顔の少女が、何もなかったように通り過ぎた。 [newpage] [chapter:【報告2: 午後1時38分に池の水を真っ二つに割いている一方通行を横目に見ました、とミサカ19090号はゲコ太を眺めながら呟きます】] 　似合わないことなどするのではなかった。 　道を変えた一方通行にのしかかるのは、先ほどからその一念。 　放っておいたところで、少女はいずれ諦めていただろう。あんなに高く飛んでいたのだから。走っていたのは、踏ん切りをつけるための儀式のようなもの。 　何もしなければ、怯えさせることもなかった。泣かせることもなかった。母親だって、あんな険しい顔をせずに済んだだろう。 　気まぐれだったのだ。風船が飛んでいて、追いかける者がいて、それを何とかできる能力があった。 　だからやった。怖がらせた。 　いつかの自分であれば、迷わず無為を貫いただろうに。 　バランスが掴めない。 　何とかできる力があっても、いつだって手を出して良い結果が得られるわけではない。分かっている。けれどどうにも極端に揺れてしまう。 　全てに首を突っ込むか、全てを無為に去るか。あの無能力者は前者を選び、かつてのこちらは後者を貫き。そして今の己はどうにか出来る度に舞い上がり、こうして泣かせては後悔が底を這い。 　子どもが転びながら走り方を覚えるようなものだろう。理解しながらしかし胸は重く、それがまた鬱陶しい。 「だっせェ」 　首を振ってみる。何も飛んでいってはくれないが、視野は広がる。 　道を変えて、少し遠回りになったはず。いつもは使わない細い路地。付近の学生の生活道路なのだろう。 　道端にもこもことある植え込みがふと途切れる。変わりに見えるのは薄緑色のフェンス。 　放り出された上着。歓声。 　緑を確保するため、年少者の運動する場を確保するため、あちこちに設けられた名もない公園。 　何も用事はない。通り過ぎる。 　 「あ、大人だ」 　いかにもガキ大将、という恰幅のいい男児。 「あァ？」 　公園の入り口近くにいた少年が、何やら嬉しげに手を振ってくる。大人とは自分のことか。小学生から見れば、それは随分上に見えるのだろうが。 　駆け寄ってくる様子が見えて、歩みを早くする。子どもに関わるとろくなことがないのだ。 「その杖貸して！」 　去ることは叶わなかった。少年は無遠慮に近づいたかと思うと、 「オイ！」 　一方通行の杖をむしりとってまた公園へ。 　倒れこむ前に電極のスイッチを切り替える。あの杖は飾りではない。 「ふざっけンなよクソガキ！」 　公園の中央、噴水を据えた池があった。子供等はそこに集まっている。憤然と近づいてみれば、彼らは口々に、「あ、杖なくても歩けるじゃん」「怒んないでよ」などと言う。 　馬鹿を言うなと掻き分けて見れば、先ほどの少年が一方通行の杖で池の底を引っかいているのだった。 「ねえなぁ」 　池に何か落とし、引っ掛けるための棒切れを探していたらしい。 　オマエの手にしてるソレはそこらの木の枝じゃねェ。そう言って取り上げようとした。 「どうしよう、お姉ちゃんに借りたのに」 「大丈夫、帰ってくるまでに見つかるって」 　落し物は借り物らしい。落とした本人と思われる気弱そうな女児がぐすぐすと泣く。 　 「退け」 　底をさらう少年の頭をどかし、ついでに杖も取り上げる。 　杖は調整を重ねに重ねたほとんど精密機器だ。壊れたらどうしてくれる。 　少年の苦情を無視し、水面に掌をつける。能力使用モードのついでだ。要は底が見えればいいのだろう。 　身を乗り出した一方通行の頭が一つ飛び出す。 　水は不思議に揺らぎ、底を開帳しようとし、 　 「アンタ、ここで何やってんの」 　爆発した。 　能力使用モードだったのは、一方通行本人にとっては間違いなく幸運なことだった。 「オリジナルか」 　一方通行と池を挟んで向こう側。 「何やってるのって聞いてんのよ！」 　御坂美琴が立っていた。 　怒号に遅れて、跳ね上げられた水がばらばらと音を立てて地面を濡らす。 　放たれたのは冠する名、超電磁砲であったらしい。半分以下に水を減らした池に、溶けかかった金属片が沈むのが見える。 　彼の反射が展開されていることは様子から見て取れたのだろう。そうでなければ容赦のない一撃を叩き込めるような人間ではないはずだった。反射に傷ついた様子はない。電気は彼女を傷つけない。 　一方通行は知らない。御坂美琴がここで人気のお姉さんであること、落し物とは彼女が貸したゲコ太のぬいぐるみであること。 「ガキ共に当たりゃァ死ンでたぞ」 「そんなヘマはしない」 　能力制御への絶対の自負。超能力者の矜持。理解は出来る。けれど今はひたすらに鬱陶しい。 　その場で濡れていないのは、一方通行だけだった。 　子供達は水をかぶったまま立ち尽くし、優しいお兄さんと遊んでくれるお姉さんのやりとりを聴くしか出来ない。 「で、今アンタはそこで何をしていたのかって聞いてんの」 　気が気ではないのだろう。己のクローンをぷちぷちと殺した存在の手が、仲のいい子供等にかかっていれば。 「別に」 　ここは一方通行が引く場面だった。 「ちょっと！」 　説明してもらうわよ。そう言って追いつこうとする御坂の足が、何かを蹴った。 「あ、ゲコ太！」 　水の飛散と同時、跳ね上げられていたらしい。緑色の、今は水を吸ってじっとり重いぬいぐるみ。 　少女が嬉しげに取りに行く。御坂は近くの子どもに事を尋ねる。 「何か怖いことされなかった？」 　子供達が顔を見合わせる。 「お姉ちゃん、違うよ？」 　目じりに涙の残る少女がおずおずと言う。 「私がぬいぐるみを池に落としたの。お兄ちゃんは、それを取ろうとしてくれたんだよ」 　何か言い訳しなさいよ。怒鳴る相手も謝る相手ももういない。 　立ち尽くす超能力者と子供等の横。涼しげな顔の少女が、何もなかったように通り過ぎた。 [newpage] [chapter:【報告3: 午後1時51分 小さな公園が近くにある広い道路で小さい女の子とそのお母さんと思われる人物からお礼を言われて戸惑っている一方通行を思わず二度見しました、とミサカ10039号は今日一番の驚きを暴露します】] 　今考えているのは、無為に去ろうとしたにもかかわらず巻き込まれてしまった場合の対処法について。 　いつもの道も駄目、知らない裏道も駄目、ならばいっその大通り。流れ続けるバス、時折混じる自家用車。雑音の中を彼が行く。 　能力に一切の制限がなかった頃を思い出す。煩わしければ無音の世界を歩めたあの頃。 　半端は零よりよほど悪い。 　どこかの無能力者を思い出す。無なのに。零なのに。それなのに、救い続けるあの男。零ではないはずの自分は、なのにこの体たらく。 　立ち止まりそうになって、ポケットの膨らみを思い出す。ホットケーキミックスを買って帰れば、少なくともあの少女は笑う。 「あの！」 　 　やはり今だけは、あの自分しかいない世界が恋しいのかもしれなかった。 「そこのあなた！」 　聞こえてしまえば、反応しないでいるのはとても難しい。 　せめてと歩みを速めるも、速くなったのは杖が地面を齧る拍子のみだった。踵がアスファルトを打ちながら、確かに迫る。 「先ほどはすみません」 　回り込んで歩を止めるのは、若いとは言えずしかし老いているとも言えない女。 「誤解だとこの子に叱られてしまいました」 　 　女が自分を追って息を切らせる少女の肩に手を置いた。どちらも見覚えがある。最初の道、風船を追いかけた少女とその母親。 　女のパンプスと皮膚の境は赤くにじんでいた。その靴は走るには向かないだろう。 「あなたがこの子に風船を取ってくれたと知らなくて」 　女が子どもの頭に手をやり、膝裏を伸ばすように頭を下げた。 　少女が母の手から頭を逃がす。手には破れた赤いゴム。 「とってくれてありがとう」 　割っちゃったの、私だから。そう言って、また崩れそうになる顔を必死で律しようとする。知らない人間に声を張る。この年頃の少女にとっては泣き出すに足る行為。 　女は頭を下げたまま動かない。周りは無関心を装いつつ、しっかりと目線は残して通り過ぎていく。 「……勝手にやっただけだ」 　その言葉から二、三拍。 　間違いは大抵、気づいたときには謝罪の機会など逸している。 　だから親子はつっかえが取れたように笑う。気が晴れるのは良いことだ。一方通行は素直に思う。 　だからこそ残念だ。 「え？」 　また、その顔を強張らせることになるのは。 　少年の体が、右に大きく傾いだ。 　親子は一瞬の瞠目。倒れてしまうのかと思ったから。細い細い人だから。 　けれどすぐに違うと知る。 　傾いだのは、杖に思い切り体重を掛けたから。 　体重を掛けたのは、左足を前に蹴り出すためだから。 　左足を蹴り出した先、縁石の向こう。 　きゃああ、とか。そういう悲鳴は起こらなかった。あまりに無音だったために。 　少年の、胴に比べて少し長めの脚。それが親子の後ろ、縁石を乗り越える寸前のワンボックスに突き刺さっていた。 ＊＊＊ 　余所見運転だったらしい。 「怪我人はなし―――― 「交通整理、人員派遣を要請―――― 　スクラップとも、オブジェとも。 　大破していることには違いがなかったが、美しい破壊であった。 　車体、正面の一点が崩壊の原点であることは誰の目にも明らかだった。水を写したようにその身に波紋を浮かべている。 　己の運動エネルギーをそのまま身に受けたかのようにひしゃげ。しかし運転手には怪我は一切なく、それどころか何の衝撃も感じなかったと警備員に語る。 　『全身を強く打ち死亡』と夕方のニュースを飾ったはずの親子は、黙して口を開かない。 　鉄屑と人混みの横。涼しげな顔の少女が、何もなかったように通り過ぎた。 [newpage] 【午後1時15分にエコバッグを手にさげた一方通行が赤いハート型の風船と空中で追いかけっこしているのを目撃しました、とミサカ10032号は報告します】 【午後1時38分に池の水を真っ二つに割いている一方通行を横目に見ました、とミサカ19090号はゲコ太を眺めながら呟きます】 【午後1時51分 小さな公園が近くにある広い道路で小さい女の子とそのお母さんと思われる人物からお礼を言われて戸惑っている一方通行を思わず二度見しました、とミサカ10039号は今日一番の驚きを暴露します】 　上がってくる報告。それらは全て、一時台。今はもう三時を回る。 　何か手がかりはと、全ての場所を駆けて回る。 　赤いゴムの破片があった。 　生乾きのまま走り回る子どもがいた。 　レッカー車に牽引される、不思議に壊れた車を見た。 「あなた、今見つけるからねってミサカはミサカは、止まらないんだから！」 　大通り、止まりそうになる腿を平手で叩く打ち止めに、下位個体からアクセス。 「本当？すぐに行く！」 　地面を蹴る。もうすぐだ。もうすぐ会える。 　 ＊＊＊ 　率直に言って、疲れた。 　一方通行は既に目的地に着いている。一番マンションから近い店舗を目指したはずが、何故こんな時間になっているのか。一方通行にも分からない。近いはずのデパートが今日ほど遠かったこともない。 　店の裏、時折従業員が出入りする程度の薄暗い路地。それが今の彼の居場所だった。壁を背に、膝を曲げてしゃがみこむ。 　手のエコバックには確かな重み、ホットケーキミックスが一袋。これだけのために割に合わない疲労を得た気がする。いっそ投げ出して帰って寝てしまいたかった。誰にもすれ違わないよう能力を開放し、一足に飛んで帰ろうかと。けれど、あの少女がホットケーキを食べたいと言ったのは、それを食べたら笑うだろうということは。それだけはこの半日のうち、一つ確かなことであったので。 　少し休んで帰ろうと思ったのだ。 　今日はきっとそういう日なのだ。いつもの道も駄目、知らない裏道も駄目、ならばいっその大通りも駄目。 「上位個体があなたを捜索中です、とミサカは通達します」 　隠れても、駄目。　 　 「ミサカが報告すればすぐに駆けつけることでしょう、とミサカは上位個体が近くまで来ていることを示唆します」 　一万回は見たと断言できる、常盤台のその制服。検体番号は名乗らない、聞かない。それはこの場に要らない情報。 　薄闇に緑光、いかついゴーグル。路地に逆光、妹達。 「だったらすりゃァイイ」 「それを望みますか？」 　と、ミサカはお骨折りのあなたを見下ろします。言葉通り、彼女の頭は一方通行より高いところにある。 　あァ？と凄んで見せるが、力が入りきらないことは自覚していた。そう、疲れているのだ。 「お望みならそっとしておきましょうかというこのミサカの優しさですよ、とミサカは見逃してやってもいいぜと上から言います」 「だったら話しかけてきてンじゃねェよ」 　ミサカ達のヒエラルキーはなかなかシビアなのですよ。ミサカ何号かが言う。上下関係の都合上、探したというアピールはしないといけませんしねぇ。 　上位個体、つまり打ち止めが自分を探している。当然のように下位個体達を働かせているだろう。この何号かもそのうちの一人。 　彼女等はこれほどふてぶてしかっただろうか。眠っていた性質なのか、目の前の少女に限った変化なのか。少女の目に一切の怯えはない。 「本日学園都市のミサカ達は揃ってフリーだったのですよ、とミサカは説明します。更には同じ第七学区の住人同士、行動範囲は被りがちです」 「何が言いてェ」 「あなたの行動の要所要所をミサカ達は目撃しているのですよ。上位個体からの呼びかけに伴い、一斉に報告した次第です」 　なのでこのミサカもあなたのここ数刻の行動は大体押さえています、とミサカはログが全個体に共有されたことをお知らせします。 　そっとしておこうかなどと言いつつ、そんな気はまるでないらしかった。 　打ち止めは今、報告に上がった足跡を確かめながら移動している。この時間になって動き出したのは、きっと寝こけてでもいたのだろう。 　漏れた舌打ちに敵意はない。目撃に咎はない。不快を感じるとすれば、己の手際の悪さに対してのこと。 「お疲れ様です、とミサカは以上を説明した上で再度言います。お疲れ様です、一方通行」 「わざわざそれを言いに来たンですかァ？ご苦労なこった」 「皮肉と取られても結構です。今日あなたが関わった人物達が、あなたの行動をどう解釈するかが自由なように」 　二人の距離は縮まらない。一方通行は暗がりに座り込み、かつての検体は入り口に立ち。 「助けたかったのでしょう？」 　ずけずけと。 「誰かにとっての困難があり、何とかできる力があり、何とかしようとしたのでしょう？その意思をミサカは蔑みません」 　称賛もしませんけれど。別段どうでもよさそうに言い、 「つまりさほどの興味がないということです、とミサカはぶっちゃけます」 　実際口に出して言う。 　意思に結果が伴わない日などいくらでもある。あの少年にしたって同様でしょう、と。 「おや、どうしましたか。移動ですか」 「オマエがべらべら喋って動かねェなら俺が動く。ガキには戻れっつっとけ」 　言って聞くなら上位個体ではありません、と少女が言う。それと、と言葉を続ける。 「言い忘れていましたが実はこのミサカ、既に上位個体への報告は済ませていますよ、とミサカは言い忘れていた事実をお伝えします」 「最初にこっちの意思を尋ねてきたのは誰だァ？」 「ここでまた移動されてはミサカ達も休まりませんから、とミサカはさっさと自由時間に戻りたいことを白状します」 「足止めかよ」 　ええそうです。何号かは悪びれた様子もなく言い、瞳を遠くへやる。 「近くまで来ているようです。この辺りにいればすぐに会えますよ」 　ではまたいずれ。 　幅の小さな路地の入り口、一歩を横へやればいい。影を落としていたのが幻だったように、検体番号も告げない彼女は姿を消した。　 ＊＊＊ 　路地を後にした彼女は、上位個体の位置を再度探る。デパートへ近づきつつも、その足取りには迷いが見える。 「やれやれ」 　それはそうだ、この少女はまだ報告していないのだから。 「どちらも動けば迷子になるに決まっているでしょう」 　アクセス。 [chapter:【午後3時12分、デパートの裏の小さな路地、階段に頭を垂れて座っている一方通行を遠目に発見しました、とミサカ13577号はリアルタイムに報告します】] 　涼しげな顔の少女が、何もなかったように通り過ぎる。 [newpage] 　打ち止めはデパートの周辺を駆ける。報告にあった路地の入り口を見つけ、 「あなた！」 　何かを探すように首を振る彼を見つけ、 「タックルはやめろ」 　チョップをくらい。 「こんなに遅くなって何してたのってミサカはミサカは迷子さんを叱ってみる！」 　腰に手を回して離さない。急に立ち止まったものだから、心臓が肋骨を叩いて煩い。 　一方通行はその仏頂面を含め、いつもと変わらないように見えた。きっと自分のほうがひどい顔をしているだろう。 「風船追いかけてた」 「知ってる」 「ガキの落し物を取ろォとした」 「知ってる」 「馬鹿な車を一つ壊した」 「知ってる」 　上手くいかねェもンだな。溜め息のように漏らす彼に、 「でも、ホットケーキの粉は買えたんでしょ？」 　一方通行がエコバックを揺らしてみせる。 「じゃあ、いいよ」 　帰ろう。ミサカ、お腹すいた。 　 「昼メシまだだったなァ」 「帰ったらホイップクリームはあなたに作ってもらおうかな」 「能力使えば一瞬だ」 「ひっくり返すのはミサカがやるからね」 「駄目にすンじゃねェぞ」 「任せてよってミサカはミサカはあなたに家事スキルを見せつけちゃうんだから」 　二人は帰る。 　彼のおつかいはこれにて成功。ホットケーキの出来については、また別のお話。 -了-

あるいは彼の苦労の道中について。素敵なお話を読ませてくださった（割り込んだとも言う）お米さんに感謝を。　■5/19追記：閲覧評価ブクマ等ありがとうございます。ブクマコメお返事が遅れて申し訳ないです！元のお話がとても素敵だったのです。

ある少年に関する四つの報告

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1011692#1

　駅前に設置されている背の高い、時計台。その長い針がちょうど天辺へと差しかかる。 　時刻は、午後六時だ。 　男は既に、一時間ほど前から何千回と確認しているそれに目をやり、深く息を吐くと目を瞑った。 　瞬間だ。 「だーれだ？」 「あひゃぁ！？」 　ふいに暖かなものに目を覆われ、男、セトは、体をビクリと跳ねあがらせる。 　慌てて後ろを振り向けば、この場で待ち合わせていた相手、＊＊がそこには立っていた。 「うわわわ、お、驚かすんじゃねぇよ、＊＊！」 「ごめんごめん。なんかソワソワしてる様子のセトが見えたから、つい、からかいたくなってさ」 　笑顔のまま、両手を合わせる、＊＊。 　実のところ、十分前には既にこの場所に到着していた人間は、セトが貧乏揺すりをしたり、時計を見つめたり、そこら中を歩き回っている様をニヤニヤと眺めていたのだ。 「は、はぁ！？　そ、ソワソワなんてしてねぇよ！　別に＊＊と会うのが楽しみすぎたとか、緊張しまくってたとかじゃねぇからな！」 　セトが叫ぶように言う台詞に、＊＊は思わず頬を緩めてしまう。 　セトと＊＊、とある事件をきっかけに仲良くなった二人である。一度は別れを経験したものの、すぐにまた再会し、この閉鎖された東京でもこうして会うようになったのだ。 「それで？　今日はデートでいいんだよね」 　＊＊は口角を持ち上げたまま、セトの顔を覗き込む。 　すると男は頭を掻き、照れたように頷いた。 「おう」 「え、本当に？」 「な、なんだよ、その顔」 「いや、違うって怒られるかと思ったから」 「……＊＊は嫌か。その、オレとデート、とか」 「嫌なわけないよ」 「そ、そっか！　ならいいじゃねぇかデートでさ！」 　心底安心したというように、セトは明るい笑顔を見せる。 　ウキウキと心なしか踊るように踏み出した足。 　＊＊もそれと一緒に道を歩き出す。 「それで今日はどこへ、」 「ああ、待ってくれ、今日は＊＊のことをオレがリードする！　エスコートってやつだ」 「本当？　じゃあお任せしようかな」 「ああ、確かこっちの方だ」 　セトはすでにリサーチしていた、とある場所へと＊＊を連れていく。 　歩いている際も、＊＊に歩幅を合わせ、きっちりと車道側を歩く男。さりげなくそういうことが出来るものだから、豚の風貌を持つ転光生は、『これだからモテ男は！』と悪態をつきそうなものである。 　そして辿り着いた、場所。 　そこは、落ち着いた音楽のかかったお洒落なカフェであった。 　駅から数十分と歩くが、隠れ家的な雰囲気であるにも関わらず、グルメランキングでも常に上位にいるような、人気の高い場所である。 「うわ、セト、よくこんなお洒落な場所知ってるね！」 「まぁな……って、東京に来て、オレも日は浅いからよ、ネットで探しただけなんだけどさ」 　ネタばらしというように、セトは気さくに微笑む。 「いらっしゃいませ、セト様ですね」 　明るい笑みで、二人を迎え入れた店員。 　セトが予約まで取っていた様子で、二人はテラス席へと通された。 「うわ、ハンモックの椅子だ！」 　見れば、丸いテーブルを囲むように、二つのハンモックがぶら下がっている。 　どうやら、これが椅子の代わりになるらしい。 「すげぇだろ！　その、＊＊もこういうの好きかと思ってさ」 「うん、ありがとうセト」 　最初の言葉通りに、自分に対して完璧なエスコートをしてくれるセト。 　急にこんなことをしてくれるとは、いったいどういう風の吹き回しなのかと勘繰ってしまうが、しかし、＊＊は気にせず、セトの持て成しに甘えることにした。 「うわ、料理もお洒落だし、おいしそう！」 　運ばれてきたのは、ローストビーフやパスタ。皿の端に花まで添えられた、お洒落な料理たちだ。 　それに手をつけようとしたとき、ふと、その豪勢さが気になり、＊＊は今更ながら冷や汗を流す。 「こ、これ、お金大丈夫かな？」 　何せ自分たちと言えば、まだ年齢も若く、お金もそんなには持っていないのだ。 　とんでもない大金を請求されてしまえば、皿洗いで許してもらえるかも分からないと、＊＊は今にも泣き出しそうな顔になる。 「おいおい、何言ってんだよ！　なんのためにオレがバイト三昧の日々を送ったと思ってんだ！　今日はオレが奢ってやるって」 「ええ！　悪いよ！」 「悪くねぇて。今日はオレがエスコートするって言っただろ」 　トンっと自分の胸を叩いて、そう言うセト。 　そこまで言うならと、＊＊は言葉に甘え、食事を堪能する。 　いつものように互いに笑顔を浮かべながら、交わしていく会話。 　料理が減るにつれ、時刻もゆっくりと経過していく。 　辺りはますます暗くなり、テーブルの上のランプの明かりだけでは、相手の顔を見るにしても、心もとなくなってきた。 「ねぇセト、そっちに行ってもいい？」 「へ！？　あ、お、おう」 　＊＊の問いにセトは、瞬間的に体を揺らすが、静かに頷いて見せた。 　男が座る広めのハンモックに、＊＊は腰掛ける。 　すると、重さに耐え切れないのかグラリと揺れる二人の体。 「うわ、あ、案外揺れるなこれっ！　って……ち、近いっっ！」 　大きな揺れに驚き、ふとセトが、隣の＊＊の方を向いた時だ。 　その体重がちょうどこちらへと傾いていたせいか、すぐ目と鼻の先に＊＊の顔があることに、セトは飛び上がった。 「セト、動くとまた揺れるから」 「あ、ああ、そ、そうだな」 　＊＊の冷静な指摘に、セトは身を縮めてなんとか体を固定する。 　すると、突如として二人の間に流れる沈黙。 　しかし、それは嫌な沈黙ではない。 「……セト、暗いね」 「そ、そうだな」 「……二人きりだね」 「あ、ああ」 　＊＊の甘い声色を横に聞きながら、セトはモジモジと体を動かし、静かに頷く。 「いつかさ、セトが言ってたよね。二人きりで遅い時間ならキスしてもいいって」 「ああ、って、へっ！？」 　急な＊＊の言葉に、セトは体を再び跳ねさせた。 　それはいつか、セトと＊＊が再会した時に交わした会話である。 「今してもいい？」 「な、ななななっ！」 　真っ赤な頬で驚いた表情のまま、セトが＊＊の顔を見れば、その真っ直ぐな瞳に、自身が映っていることに気付く。 　――＊＊は真剣なんだ、 　そう気付いてしまえば、ぐっと熱くなってしまう体。 「えと、そ、そのい、言った！　け、けど、」 「いやかな？」 「嫌なわけあるか！！　あ、いやその、でも、ほら、そういうのって、好きなもん同士、じゃないとダメなんだろ？　だからその、オレだけ好きでも意味がないっていうか、あ、いや、今のは違うからな！　『今』のは告白じゃないからな！」 　思わず、自ら暴露してしまった言葉を撤回するように、セトは両手を振る。 　すると、＊＊はその手を優しく掴んだ。 「セト、」 「っ、＊＊、」 「……好きだよ」 「なっ！」 　＊＊のすんなりとした告白。 　それに、セトは瞬間的に頬を染める。 　そして、驚いた表情から一変、だらりと下がる口角。「っ＊＊に告白され、た！」と小声で言葉を発すると、尻尾を上下に振っては目をキョロキョロと動かしてしまう。 　しかし、ふと我に返るようにブルブルと顔を振り、叫ぶように声を上げた。 「ば、バカ！　な、なんでお前が先に言っちゃうんだよ！　お、オレが今から、めちゃくちゃロマンチックな告白をしてやろうと思ってたのに！」 　そう、ここまで＊＊に完璧なエスコートをしてみせたセト。 　その目的は一つ。今日というこの日に、セトは＊＊に愛の告白をするつもりであったのだ。 　それなのに、先を越されてしまった悔しさが今更ながら襲ってくる。 「あ、そうだったんだ？　どうぞ」 　すでにセトの気持ちなど手に取るように分かっている＊＊は、ニヤニヤと口角を上げ、男へと近づいていく。 「うっ、な、なんでそんな近づくんだよ」 「すぐにキスできるように、準備してる」 「は、は？！」 　セトは、＊＊の言葉に再び大声を上げ、動揺を見せる。毛の先まで真っ赤に染まってしまうほどだ。 「え、えと！　そ、そそそれって、つまり、＊＊はその、オレが好きだって言ったら、すぐにキスしてくれるって、こと？」 「そうだよ」 「ッ、嘘だろ！　っ、そ、そんなこと言われて、すんなり告白なんて、」 　＊＊の言葉、それに期待し、フルフルと震える、豊かな尻尾。 　しかし、元来ビビリな性格である彼は、そんなことを言われてしまえば、逆に緊張してしまい、言葉が出てこなくなってしまう。 「セト、」 　それを催促するように、＊＊はさらにセトとの距離を縮める＊＊。 　その鼻先を指先でつついた。 　すると、すぐさまトロリ、と蕩けてしまうセトの瞳。 「ッ、＊＊、好きぃ……」 　セトの準備していた、酷く長くそして硬派でロマンチックな告白の台詞。そんなものはすべて脳みそから追い出され、まるで欲に溺れるように、セトはそんな言葉を発してしまう。 　＊＊はそれに微笑むと、男の頬へと手を添えた。 　ちゅっと短く音立て、その唇を当てる。 「はぁ……」 　それは、一瞬のキスだった。 　だが、セトはまるで夢を見ているかのように、目の奥にハートを浮かべ、ブンブンと尻尾が揺らしてしまう。 「セト、可愛い」 　そんな姿が愛らしく、＊＊もうっとりとした声を上げる。 　優しくセトの頭を撫で上げた。 「あ、っ、……んっ」 　するとそれだけで、鼻にかかった甘い声を上げるセト。 　激しく揺れる尻尾が、ハンモックにぶつかり音を鳴らす。 　両想いになれた喜びと、撫でられている心地よさから、セトが全身の力を緩めた時、だ。 「セト、待って」 「っ……＊＊、なんでやめるんだよ、も、っと」 　ふいに、止まってしまった＊＊の手。 　その上、自分から離れるように距離をあけるものだから、セトは慌ててそれを追う。 　だが、ふいに横に聞こえた声。 「こちら、食後のスイーツでございます」 「ッ、！」 　店員の声が聞こえ、テーブルに並べられた華やかなデザート。炙ったカラメルがまるで宝石のような、プディングである。 　それに目を向けることも出来ずに、セトは店員が消えるその時まで、ブルブルと小刻みに震えてしまっていた。 「な、なんで早く言わないんだよ、＊＊のバカ！」 　店員が離れたのを確認した、セト。 　さきほどのデレデレしていた自分を見られていたのだと思うと、男は恥ずかしくて仕方ない。 　怒鳴りつけるように、＊＊へ叫ぶ。 「え～、バカは酷いなぁ、恋人に向かって」　 「あ、え、こ、恋人！？　あ、そっか、オレたち好き合ってるからつまり、」 　セトはそこで再び、あのふわふわとした夢見心地な表情へと変わってしまう。 　そんな素直な態度の男を見て、＊＊はニヤニヤと口角を上げた。 「そう、だから、これから毎日キスが出来るね」 「なっななななっ！　そ、そういうことを堂々と言うなよな！　そ、その嫌とかそういうんじゃねぇし、＊＊が望むなら、し、してやらなくもないけどな！！」 　顔を真っ赤にさせて、勢いよく目の前のデザートを掻きこむ、セト。 　舌を刺激するその甘さに、『これは夢じゃないんだ！』と喜びを噛み締めるのだった。 ｅｎｄ

放サモ<br />主×セト<br />主は性別無、名前＝＊＊、夢としても。<br />若干特殊クエストのネタバレ有。<br />ジャーニー最高すぎた、、セトくんの性格が性癖、、、いつかすけべを書きたい、、

セトのエスコート

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10116975#1

「違う衣装ですか？」 　「そうだよ！ルフレさん綺麗なんだから 　たまには綺麗な格好しなくちゃ！」 城のある一室。 戦がない間暇なルフレは政務を手伝っている。 とはいえ、政務が本業ではないので軽い手伝いしかできていないのだが。 フレデリク曰く、呑み込みが早く頼もしい方だと。 笑顔でそんなことを言っていたので彼女のすっきりとした机が 書類の山を作り始めるのも時間の問題だろう。 身を乗り出してルフレに詰め寄るリズ。 その目は真剣でいつもの茶目っ気は姿をひそめている。 　「えと…いきなりどうしたんですか？」 首をかしげ読んでいた書類を隅に置く。 倒されないようにインク壺や羽ペンなども移動させるのは流石軍師と言ったところか。 　「だって聞いてよ！ルフレさん！この軍の人達ったらね！」 だんと机を叩いてリズはさらに身を乗り出す。 　「ルフレさんのこと女として見てないっていうんだよ！！」 　「…はい？」 何をこの可愛い王女様は仰っているのでしょう？ ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返してルフレはリズを見る。 呆け顔のルフレを見ていないのか見ているのか、ぷりぷりとリズは腰に手を当てて頬を膨らませる。 　「女として意識してなかったとか、軍師だろうとか 　挙句の果てにあれは変な奴だから女として見ていないだよ！？」 　本当信じらんない！ 　「そ、そうですか」 前二つはともかく最後の人に関しては意図的にそうさせたため、 なんとも言い難い。 　「でも、いいですよ。戦場で変に女扱いされても困りますから。 　ちゃんと女性として扱ってくださる方もいらっしゃいますし。 　それに、軍師扱いされた方が嬉しいです」 　「むー…」 ふわりと微笑むルフレ。 こうして笑っているとただのきれいな人にしか見えないのに。 誰があの戦場を指揮して勝利に導かせた軍師だと思うのだろう。 ルフレは魅力的な女性だ。気配りもできて頭もよくて、 料理の腕も…別に悪いわけじゃない。 なんで、皆気付かないのかなぁ？ リズは少しだけ落ち着いた頭で首をかしげる。 軍の友人たちはみんな賛成してくれるのにそれが男性陣になると 途端に数が減ってしまう。 これは、おかしい、おかしすぎる。みんな目が節穴なんだ。 ルフレさんは全然気にしてないし…。ここは私が何とかしないと！ 　「よし！ルフレさん！私頑張るね！」 　「あ、は、はい」 戸惑いを隠せないルフレをしり目にリズは部屋から飛び出る。 マリアベルやスミアさん。あとティアモさんにも協力してもらおう！ ふふっ、皆の驚く顔が目に浮かぶなぁ 周りが驚く前にルフレが一番驚くであろうことにリズはこの時まだ 気付いていなかった。[newpage] 朝、起きてみると服がありませんでした。 …正確にはいつもの軍師衣装が忽然とクローゼットの中から姿を消していました。 代わりに置いてありましたのは、一枚のドレスと一枚のメッセージカード。 　‘ルフレさんへ　勝手に服を隠してごめんね？ 　でもどうしてもこのドレスを着てほしくて。サイズはばっちりだよ！ 　服に合うように靴も揃えたから大丈夫。髪はいつものでいいからね。 　服を返してほしければ、そのドレスを着てお兄ちゃんの執務室まで来てね’ ちらとクローゼットの下を見ると靴らしき箱がある。 これは…新手の悪戯でしょうか？ ふと思い出したのは昨日の会話。 …昨日の今日でここまで仕上げたのですか…すごいですね。 チェンジプルフを使われなかっただけよしとすべきなんでしょうか… 変な所で関心しているとコンコンとノックの音が耳に入った。 　「は、はい！」「ルフレ様、朝食をお持ちしました。それと…」 慣れない靴を履きひらひらとドレスの裾を翻しながら歩く。 腕にはなぜか白いリボンが巻きつけてあり歩くたびにたなびいていた。 どうか、誰にも会いませんように。 淡い青色のドレスをまとってルフレはただひたすらにクロムの執務室を目指していた。 朝食を持ってきたメイドさんに手伝ってもらいなんとかドレスを着て朝食を食べ、今に至る。 思いのほか着付け…メイドの提案を断るのに時間がかかってしまったために、城内は着実に活気づいてきていた。 ‘これはいかがでしょうか？’‘いえそんな高価そうなアクセサリーは…’ ‘なら髪型を’‘い、急いでますから！’ ルフレは頭を戦場と同じかそれ以上に頭をフル回転させているためか、今のところ遭遇者はいない。 ふと顔を上げるとガラスにルフレの姿が映っていた。 いつもの黒い服とは違う鮮やかなドレス。 似合ってるとは、言われましたが… すいっと視線を外してまた足を進める。正直柄ではない気がします。 それにこの格好ではお手伝いもできませんし、 早く返してもらわないといけませんね。 俯き、転ばないようにゆっくりと歩く。 こういう格好に憧れないわけではありませんが… ふうと息を吐き頭を振った。やはり、慣れませんね。 早く返してもらいましょう。 一方その頃のクロムと言えば、朝の鍛錬の汗を流し今日一番の政務を行っていた。 いつもよりも机の上の書類が多いのは気のせいではないだろう。 リズ曰く、今日一日ルフレは休みを取るらしい。 だからぜーったい仕事を手伝わせたら駄目だからね！ フレデリクも！ルフレさんがいくら有能だからって押し付けたらだめなんだから！ ルフレが休みをとるならどうして俺に直接言わないのだろう、 何か俺に言いにくいことでもあるのだろうか、 それに一日も休みをとるだなんていったい何を… 　「クロム様」 はっと我に返ると大きなインク溜りができていた。 　「っすまん、フレデリク」 　「いえ、構いませんよ。幸いなことに‘それは’ただのメモ用紙ですから」 　「…すまん」 これ以上フレデリクを怒らせるとまずい。 長年の勘が警告を発しクロムは笑顔を浮かべたままのフレデリクから目をそらすようにペンを置いた。 はぁ、と息をついて椅子に背を預ける。 そんな主君の様子を見てフレデリクは笑顔の質を変えた。 全く、この方にも困ったものだ。 　「お茶をいれて参りますね」「あぁ、頼んだ」 顔に手を当て天井を仰ぐクロムに苦笑を浮かべつつ扉へと向かう。 しかし、扉の目の前まで来てぴたりと歩みを止めた。 どなたかいらっしゃいますね。 気配の消し方からして曲者ではないにしろ警戒することに越したことはない。 後ろの主君に悟られないようにしかし、万が一にもないようにと慎重に扉を開けた。 しかし、フレデリクの予想に反して目に入ったのは縹色のドレスに白いリボン。 不安げに目を伏せ手を組ませている女性、つまりルフレだった。 　「…え？」 　「っあ、フレデリクさん。ちょうどいいところに。 　こちらに何かリズさんからのお届け物とかありませんか？」 フレデリクを見るや否やこわばらせていた表情は解け、いつもと同じ様子で見上げる。 しかしその声は控えめでフレデリクも思わず声を潜めた。 　「あ、いえ…そのようなものは…届いてはおりませんが…」 　「そう、ですか。」 そのまま口元に指を当て考え込む。 リズさんの思いとしては私のこの姿をいろんな人に見せたい…というものでしょう。 ということはなるべく長く歩き回らせたいはず。だとすれば 　「ありがとうございます」 ぺこりと頭を下げてそのまま踵を返した。多分私の服はリズさんの元にあるか、私の部屋に隠されているはず。 　「お、お待ちください！」 珍しくフレデリクが声を荒げた。 手をどけて扉を見ると誰かるらしいがフレデリクに隠れて誰だかは分からない。ただ見えるのは淡い青色の裾。 あいつにも春が来たのか？ 椅子から立ち上がりすたすたと扉に向かう。 もし、フレデリクを訪ねてきたのなら今日は休ませよう。 いつも世話になっているからな。こういう時ぐらいは 　「どうしたんだフレデリク。客人か？」 　「クロム様」 さっとフレデリクが扉から身を引いた瞬間飛び込んできた姿。 青色のドレスを着たルフレの姿があった。 いつもの格好とは違い惜しげもなくその白い肌をさらしている。 ぽかーんと目を丸くしてルフレを見ているクロム。 ルフレもまさかクロムが出てくるとは思ってはおらず、固まってしまっている。 しばらくの間固まる二人。そんな二人を見て笑みを浮かべるフレデリク。 成程、これをルフレさんは避けたかったのですね。いいことをしました。 そんないい笑顔を浮かべるフレデリクの心境を知ってか知らずか、我に返るのが早かったのは ルフレだった。 　「し、失礼します！」 顔を真っ赤に染め上げ駆け出す。 走りにくいだとか転ぶかもしれないだとか、そんなことに構っている暇はなかった。 今ならオリヴィエさんと一昼夜語り合える気がします。 　「な、お、おい！ルフレ！？」 逃げ出されてから状況がやっと呑み込めたのかクロムは追いかけるべく足を踏み出す。 だが、すぐに止まりフレデリクを見た。 　「すまん、後は頼んだ」 そう言うや否やフレデリクの応えも聞かずクロムは全力で走り出した。 後に残されたフレデリクはただただ微笑みを浮かべて主のいなくなった 執務室へと足を向ける。 　「ごゆっくり、お二方」 カッカッカッカ　タタタタッ 　「なんで逃げるんだ？！」「貴方が追いかけてくるからです！」 　「止まっても逃げるだろう？！」「当たり前です！」 　「いいから止まれ！」 方や着慣れないドレスと靴を履いたルフレ。方やいつもの格好のクロム。 勝敗は目に見えている。 ここで ‘恥ずかしいのですが、似合ってないですよね’ ‘いや、そんなことはない。綺麗だ、ルフレ’ ‘クロムさん…’‘ルフレ…’ などという展開にはなりはしないのがこの二人クオリティー。 　「っ」「やっと、捕まえたぞ」 ルフレの腕をつかみそのまま別方向へと歩き出す。 　「っク、クロムさん？どこへ？」「いいから」 クロムはルフレを見ることなく歩みを進める。 その顔はどこか強張っているようにも見えてルフレは顔を俯ける。 無言のルフレを連れてクロムが入ったのは客室の一室。 まずはルフレを中に入れてからクロムも中に入る。 後ろ手で音が立たないようにクロムが鍵をかけたがそれにルフレが気付くことはなかった。 ルフレをソファーに座らせてクロムもその隣に腰を下ろす。 俯きがちに両手を膝の上に置いて座る姿はただの綺麗な女性にしか見えない。 　「…誰から、贈られたんだ」「はい？」 　「誰からその服を贈られたんだ」 いつもとは違う咎めるような口調に身をすくませる。 しかし、ここで黙っていたらなんだかまずいことになりそうだ、と軍師の勘が告げている。 なんだかわからないが、怒気を顕わにしているクロムに対してできる限り冷静に口を開いた 　「リズさんからです」「…リズ？」 ふっとクロムの雰囲気が和らいだ。これ幸いとルフレは事情を説明する。 　「そう、だったのか」「はい」 ほうと息をつくクロム。 なら良かったという呟きがきこえたがルフレは首をかしげるだけであった。　 「その、ルフレ」「はい、なんですかクロムさん」 クロムは明後日の方向を向いて頬を掻きながらえーっとと顔を赤らめている。　 　「そういう格好はだな…今後は俺の前だけにしてくれないか？」 ぱちぱちと瞬きを繰り返しクロムを見上げるルフレ。 　「えと」「だ、だからだな！その…」 ルフレの腰に手を回し引き寄せ抱きしめる。 　「どうせ、結婚式でお前の綺麗な姿は皆に見られるんだから 　こういう時ぐらい独り占めさせてくれ。 　ただでさえお前と過ごす時間が減っているんだ。 　他の奴なんかには見せたくない」 　「…は、はい」 今回のことは不可抗力なんですが、という言葉は呑み込んでそっとクロムの背中に手を回す。 あまり我儘を言わないクロムさんの言葉。下手な言葉よりも好かれているということを実感できる。 それが故にものすごく恥ずかしい。 　「それと、だな」「な、なんですか？」 まだ言い足りないのですか？！ 常日頃は恥ずかしがってそういう類のことはあまり言わないのに、 一度箍が外れると落ち着くまで止まらないのがクロムだ。誰か止めてください。 　「その服、よく似合っている。見違えた」 そう耳元で囁くものだからルフレの頭は沸騰寸前だ。 あぁ、もうこの人は！ 背に回していた手を上に伸ばしてクロムの首に腕を回し抱き着く。 　「っ？！ル、ルフレ？！」 　「ありがとう、ございます」 お世辞なんか言えないクロムの言葉だからこそ胸に真っ直ぐに届く。 また、着てもいいのかもしれませんね。 クロムさんが褒めてくれるのは嬉しいですし。 一方その頃クロムと言えば、ひっじょーに困っていた。 あまりスキンシップを取らないため、こういう接触も少ない。 婚約者でありながら、だ。 しかし今はルフレ自身がクロムに抱き着いてくれていて、しかも邪魔者もいない。二人きりの状態。 さらに加えてルフレはドレスを着ていていつも以上に魅力的だ。 クロムが朴念仁とはいえ人並みに思うところはある。 だが、タイミングやら仕事やら邪魔者やらで中々機会がなかったのだ。 さて、クロムがどう動いたかはナーガ様のみ知る。 [newpage] あとがき えー、クロムが鍵をかけたのはですね、 ルフレの返答次第ではそういう展開もあったかもしれないんですわ。 ちなみに、私の中のクロム像は基本ヘタレ、時々ゴリ押しです。 支援Ｓの会話では私「ちょ、おま、止まれｗ」と言ってました。 同士いませんかね？ この次には雑ｒｙ短いガイア編が続きます。興味がある方どうぞ。 おまけ ‘服はこの城のどこかにあるから頑張って探してね！’ 　「へぇ、あんたそういう格好も似合うんだな」 廊下をただひたすらに歩いていると背後から声がした。 はっと振り返ると案の上、甘党の盗賊の姿。 　「ガイアさん」「よっ、そんな急いで何処へ行くんだ？」 　「…私の服を探しているんです。リズさんにどこかに隠されてしまって」 　「ふーん？」 すっと目を細めてルフレを見る。 小さく「青ねぇ」と呟きがしがしと頭を掻いた。 　「俺が取りに行ってやろうか？」「え？いいんですか？」 ぱぁとルフレの顔が明るくなる。 できればあまりこの姿で歩き回りたくないと考えていたルフレにとってこの提案は渡りに船であった。 断る理由などない。　 　「あぁ、部屋で待ってな、すぐ取ってきてやるよ」 　「あ、はい。よろしくお願いします。ガイアさん」 　「おう」 ぱたぱたと来た道を戻っていくルフレ。 その後ろ姿にぽつりと呟く。 　「報酬はあんただからな」 あとがき2 ありがちネタでしたー！！ この人ああいう場所も行きますし多分かなり大人な部類に入りますよね？ すみません、リクエスト頂いたのにこんな形で… 精進します。ガイアさんの書き方。

追記：続きできましたー相変わらずのくおれてーです。<br />ばっちこいな素敵なお方だけどうぞ<br />；えー、この状態のまま出すこと許されるのでしょうか…<br />いえ、出します。それでご要望をお聞かせください…<br />かなり中途半端な所で切れます。ちゃんとできたらつなげます。<br />それが許せないという方はブラウザバックお願いします

事の始まりはそんなもの

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「……ふーん、結構色んな企画用意してるんだね」 テーブルに広げた書類に目を落としながら、渋谷凛が呟く。 その隣で、ソファに体を預けたままプロデューサーがコーヒーを片手に気の抜けた返事を返す。 凛曰く、プロデューサーは根を詰めすぎらしい。 デスクでパソコンに齧り付いているプロデューサーを事務椅子から引き剥がしては、こうして事務所のソファで強制的に休憩させるようになったのも、今に始まったことではない。 せめて目を通そうと、テーブルに書類を撒き散らした張本人は、自分の思っていた以上に蓄積した疲労感により、天を仰いだまま動かずにいる。 ぐったりとソファと同化するプロデューサーの50センチ隣、そこが休憩時間の凛の定位置だった。 無気力に視線を向けると、しげしげと企画書の案を読んでいる。 かき上げた髪から華やかなジャスミンの香りが漂う。レッスン後の汗を流した彼女は、再び制服に身を包み、いつもこの休憩の後に帰路に着く。 ふと、凛が無造作に紙をめくっていた手を止め、チラリとプロデューサーを一瞥し、再び企画書に目を落とした。 今をときめく売れっ子アイドルである凛の目に留まるようなものがあっただろうか、と、最近の企画を思い返しながらプロデューサーが横目で見ると、僅かに眉根にシワを寄せた凛が怪訝そうに呟いた。 「……『くすぐりガマン大会』……ねぇ……？……ふーん、こんな変なことも考えてたんだ、プロデューサー」 よりにもよって案の中でも特にイロモノに目をつけてしまったらしい。 プロデューサーは身を起こし、凛の仕事では無いことを説明する。こういうちょっとアレな体を張った仕事はもっと適役がいる。幸子とか幸子とか、他にも幸子とか。 「ふふっ、急に焦ってどうしたの？こんなの言われなくてもおことわりだよ」 慌てて釈明したプロデューサーを宥めるように、凛が微笑みながら答える。 納得して頂いて何より。プロデューサーは再び大きなため息と共にソファへ沈み込んだ。 暫しの沈黙。隣からは微かな息遣いと、企画書のページを捲る音だけが聞こえる。 「……でも、私、くすぐり効かないから大丈夫かも」 [newpage] 「……プロデューサー、私……くすぐり、効かないんだよ？」 顔を伏せたまま呟いた一言を聞き流されたと思ったのか、僅かな沈黙の後、凛は再度プロデューサーに顔を向けて呟く。 聞こえていない訳ではない。ただ、何と返せばいいのか、プロデューサーには分からなかった。半ば途方にくれたような目を向けるプロデューサーに、凛が首を傾げる。 「……何、その顔？意外だった？」 プロデューサーは意外とは思わなかった。現に、あのクールの代名詞のような凛が、くすぐられて笑い転げている様を想像できないでいる。 「……昔からくすぐられるの強くって、小学生の頃とかにふざけて友達にくすぐられたりしても何も感じなかったんだ。みんなにロボットみたい、なんて言われたりしてさ」 いつもより僅かに饒舌に見える凛が、企画書のページを弄びながら言葉を続ける。俯いて企画書を見るその表情は窺い知れないが、何故か僅かに耳が赤い。 「……前に加蓮にくすぐられた時も全然くすぐったくなかったんだ。奈緒はゲラゲラ笑ってたから加蓮がくすぐるのヘタって訳じゃないみたいだけど」 話しながら、時折チラリとこちらを上目遣いで窺うが、目が合いそうになる前に、素早く視線を下に戻している。挙動不審な姿は中々珍しいと思いながらプロデューサーは観察を続ける。 「だから、私、すごく、その、くすぐられるのに強いんだ……ちょっとくすぐったがりの人の気持ちはわからないかな、うん」 ……再び沈黙が訪れた。凛の鉄人エピソードも打ち止めだろうか。いつの間にか、徒にページをめくる手も止まっている。 珍しいものも見られたし休憩を切り上げようとプロデューサーが身を起こしかけたその時、凛が口を開いた。 「……と、特に……、足の裏……が、スッゴく強いんだよね、私」 言い淀んだように告げられた一言に、プロデューサーは困惑する。 効かないのに特に強いとかあるのか？ 謎の発言をした真意は、俯いたままの凛の姿からは推察できない。だが、先ほどよりも耳が赤い気がする。というか、全体的に紅潮しているように見える。 「どんな触られ方されても、私絶対笑わない自信あるよ」 へえーそうなんだー、と、ひとしきり感嘆の相槌を打ったプロデューサーの声を最後に、二人の間に居心地の悪い沈黙が訪れた。 困惑したプロデューサーが途方に暮れる。明らかに何か言いたげだが、本当にどうすればいいのかわからない。 静けさに耐えかねた凛が、自分自身に助け舟を出すように、再び口を開く。 「……ね、ねぇ…だからさ」 「試してみる？ほら、私の足の裏、くすぐってみてよ」 [newpage] 目を丸くして呆気に取られるプロデューサーを尻目に、凛は足に手を伸ばし、ソックスに指を掛ける。 「じゃあ、ルールを決めるね。裸足の私の足の裏を3分間くすぐらせてあげる。その間に笑わなかったら私の勝ち。ないとは思うけど、もしも私が少しでも笑ったらプロデューサーの勝ち、ね。負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く。いいね？」 いつの間にか勝負に発展している。プロデューサーの理解を置いてけぼりにしたまま、凛は妙に周到に考えられたルールを説明しながらソックスをゆっくりとずり下ろす。 瑞々しい張りのあるふくらはぎから、細く括れた足首から、滑らかな足の甲から、するすると紺色のソックスが凛の華奢な指によって剥ぎ取られていく。 まぶしいほどの白い肌がゆっくりと露になり、プロデューサーは何かいけないものを見てしまっているような気になり、思わず目を背けそうになる。 その視線を捕らえるかのように、凛が呟く。 「……プロデューサー、足……好きでしょ？」 「……知ってるんだよ、いつも衣装で素足になる度に私達の足ばっかり見てるの」 思わず凛の顔を見たプロデューサーの視線が、凛の瞳に囚われる。 僅かに呆れの浮かんだ、じっとりとした視線。それとは対象的に、口元はイタズラっぽい笑みが微かに浮かんでいる。 「……意外と、女の子って目線に気付くものなんだよ？まだまだだね、プロデューサー」 小悪魔のような表情を浮かべたまま、ずり下がったソックスの爪先を摘まみ、引き抜く。 艶やかな桜色の爪に彩られた華奢な足指が、再びプロデューサーの視線を釘付けにした。 「……ふふっ、見過ぎだよ」 蠱惑的な笑みを湛えた凛の手玉に取られっぱなしのプロデューサーは、蛇に睨まれた蛙のように、なす統べなくその一連の動作を見届けるしかなかった。 「……んしょっ、と」 おもむろに、細い凛の脚がプロデューサーの膝の上に投げ出された。 すらりと延びた引き締まった両脚の先、白い肌の延長線上に、仄かに色付いたように赤みの差す両足の踵が、プロデューサーの太腿に僅かに沈み込む。 「……じゃあ、始めよっか」 血管が透けて見えるほどに白く滑らかな足の甲の皮膚。おずおずとプロデューサーが手を置いた瞬間、華奢な足指が縮こまり、桜色の整った爪が艶やかな輝きを放つ。 未だ困惑の続くプロデューサーが凛を窺うと、普段通りのクールな表情でプロデューサーの手を凝視していた。 「……？どうしたの？早く試してみなよ、時間なくなっちゃうよ？」 軽く侮るような余裕の視線を受け、プロデューサーの心に沸々と一泡吹かせてやりたいという気持ちが沸き上がってくる。 意を決したプロデューサーの人差し指が恐る恐る、凛の足裏をなぞり上げた。 [newpage] 「……ぅひっ！？」 ……？ 凛の足を注視していたプロデューサーには、凛の足指が勢いよく縮こまる様子しか見えなかったが、随分とカワイイ悲鳴のような声が聴こえた気がする。 声の聴こえた方へ顔を向けると、相変わらず涼やかな面持ちの凛と目が合う。 「……いや、何も言ってないよ。うん、気のせい。私くすぐり効かないし。さ、続けて？」 釈然としない気持ちを押さえつつ、プロデューサーは再び膝上の足へ目を落とした。 改めて見ると、大人びてはいるが、年相応の少女らしい華奢で小さな足だった。指の腹で触れてみると、仄かな肌の温かさが伝わってくる。 足の裏の皮膚は日々のレッスンの負担を感じさせないほどに柔らかく、プロデューサーは思わずプニプニと指を沈み込ませる。 「……っ！……ぅっ、……くっ……ふぅっ……！？」 反り返った土踏まずはその名の通り一度も地に触れたことがないように肌目細やかだった。肌の質感を確かめるように指先でなぞり上げると、ビクリと凛の足が強張り、足指に力が籠る。 その強張りを解きほぐすように、今度は足の側面に指を這わせる。染め上げたように白い足の甲の皮膚と、僅かに赤く色づいた足裏の境界を探るように、ゆっくりと爪でなぞり上げる。 「～～～っ！んぅ……っ！……ぅくっ、っふぅぅうっ！？んんんぅ～～……っ！」 情けない表情をした凛が悩ましい声を上げる。足指が戸惑うようにピクピクと震え、身体がもじもじと捩れる。 どうみても決壊寸前なのだが、なかなか凛のこんな姿はみられるものではない。プロデューサーは手加減をしながら意地悪な刺激を送り続ける。 「……っくふっ、ぅくぅふふっ！？……ふーっ、ふーっ、っ！？くひっ……！んぅふふ……っ！」 殊勝な凛の耐える姿を観察しながら、足裏のこそばゆさが我慢強さを上回らない絶妙な力加減で、焦らすように何度もゆっくりと土踏まずを指先を往復させる。 度を越した我慢のためか、凛の顔が次第に紅潮して汗ばんでいく。 余りイジメるのも気の毒になったプロデューサーは、情けのトドメを差すべく、五本の指の爪を柔らかな踵に沈み込ませた。 「……あっ、ちょ、ソレ待っ……」 先ほどとは異なる感覚に気付いた凛が、固く瞑っていた目を開き、プロデューサーを焦りと怖れの浮かんだ瞳で見る。 その凛の表情を見届けながら、プロデューサーは突き立てた指先をゆっくりと、指の付け根までなぞり上げた。 [newpage] 「～～～っ！？ぅくっ、ぅはぁははっ！？もっ、もう無理っ！」 電気が走ったように一際大きく凛の体が跳ね、プロデューサーの膝上の両足が勢いよく引っ込む。右足が勢い余ってテーブルに触れ、テーブルを揺らす。 空のコーヒー缶がコトリと倒れ、書類に小さな茶色の斑点を作る。 「……っはぁっ、はぁ……っ、……あ……」 目を瞑り荒くなった呼吸を整えていた凛が、机の上の惨状に気付き、慌てて傍らに置いていたハンカチでコーヒーを拭う。 「ご、ごめんプロデューサー……！……え？没企画だったから大丈夫？……よかった……」 水滴を拭い終えた凛は少し安心した様子でソファにもたれ掛かる。差し出されていた両足は、混乱の最中いつの間にか下ろされ、揃えて置かれたローファーの上に乗せられていた。 深くため息をついた凛は、僅かに乱れた襟元を直し、髪を手櫛で整え、仕切り直すかのように小さな声で、ヨシ、と呟いた。その顔にはいつもの颯然とした表情が戻っていた。 ―――いや、笑ってましたよね？ 「え？いや、笑ってなかったよ？いや、あれはちょっとビックリしただけっていうか」 わたわたと弁解する凛の声に同調するように、凛のスマートフォンがアラーム音を響かせた。 「ほ、ほら、もう3分経ってるし、私の勝ちだと思うな」 競技者が審判を兼ねた勝負に勝ち目はあったのだろうか。若干早口で取り繕う凛の物珍しさに目を奪われつつ、公平さには疑問が残るものの、プロデューサーは凛の判定を承服した。 「まあまあ、その、ちょっぴり、くすぐったかった……かな。惜しかったと思うよ」 何とも言えない表情を浮かべたプロデューサーに、凛が慰めの言葉を掛ける。そもそも効かないんじゃなかったのか、と言いたい気持ちをぐっと堪えながら、プロデューサーは気のない相づちを返した。 根拠不明の優越感を浮かべた表情で、凛が靴下に手を伸ばす。つい先ほどまで膝の上で蠢いていた爪先が、再び紺色の生地に包まれていく。 いつの間にか、目を奪われていたプロデューサーに、意味ありげな視線で一瞥した後、凛が勢いよくソファから立ち上がった。 「とにかく、勝ちは勝ち、だからね。ふふ、命令権は、また今度にとっておこうかな」 スカートを翻しながら、凛が悪戯っぽい笑顔を浮かべてプロデューサーを振り返る。僅かに赤みの残った耳朶に触れながら、凛は上機嫌で去って行く。 ソファに取り残されたプロデューサーは暫し途方に暮れた後、やおら立ち上がり、首を傾げながら自分のデスクに向かっていった。 [newpage] ―――――――――――― ―――――――― ―――― 「プロデューサー、私やっぱりくすぐり効かないみたい」 いつもの強制休憩時間。ソファに腰掛けたそばから、藪から棒に、凛が切り出した。 レッスン後にシャワーは浴びたようだが、今日は随分とラフな格好をしている。 Tシャツにハーフパンツ。白い踝が覗くスリッパをみる限り、靴下も履いていないようだ。 結構な時間まで掛かってしまったので来客の心配はないが、無防備過ぎてドキリとするような格好だ。無意識に辺りを見回すが、残っているのは幸か不幸か二人だけらしい。 「この前のはちょっとプロデューサーが不器用過ぎて可哀想だったから演技してあげただけだよ」 こちらの理解を置いてけぼりに、今日も凛は独白を始めた。 「……それでね、私、脇腹とかお腹とか、わ、腋の下とか、全然効かなかったんだ。未央がすごく悔しがってたけど、やっぱり効かないものは効かないんだね」 ……今度未央に訊いてみるのも面白いかもしれない。そんなことを考えていると、凛が身をよじり、僅かに此方に距離を詰めた。嗅神経に刷り込まれたジャスミンの香りが、この前の凛の姿をプロデューサーの脳裏に呼び起こした。 「ほら、また試してみようよ。なんなら、また勝負してみる？ルールは前と一緒でね」 ―――くすぐられるの好きなの？ 「全然。うん、全然好きじゃないし。そもそも効かないから苦手とかそういうのじゃないけど別にくすぐられたいとかじゃないから。ただ私の冷静さとかを証明したいだけで全然そういうのじゃないからね」 真顔で捲し立てられ、戸惑うプロデューサーを尻目に、凛はおもむろにソファに身体を横たえる。 「とにかく、そういうことだから。勘違いしないでね。……じゃあ始めよっか」 どういうことか分からないままに、勝負は始まったらしい。 ソファにうつ伏せに寝転がる凛の身体。なだらかな曲線を描く背筋。括れたウェスト。形よく主張するヒップ。その全てが、もじもじと落ち着きなく動きながら、プロデューサーの指を待ち受けている。 「今回も私の勝ちで終わるだろうね。きっと私の声はおろか、にやけた顔すら見れないと思うよ」 そもそもこちらからでは顔が見えない。指摘したくなる気持ちを押さえてプロデューサーは身体を凛の方へ向ける。 一番間近に無防備に伸ばされた足裏に目が止まる。土踏まずに人差し指を這わせると、すっとんきょうな声を挙げながら凛の身体がビクリと震えた。 不意討ちだの卑怯だの今のは油断しただけ、だのとブツブツと抗議する凛に若干呆れながら、プロデューサーはゆっくりと凛の括れたウェストに手を伸ばしていった。

キョドりながら誘い受けに持ち込むりんちゃん すこ<br /><br />本番は短めです

誘い受けやらしぶや

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[chapter:【6】] 勇利がさらわれた。 職場でクリスからそう連絡を受けたヴィクトルは愕然とした。 『すまない、僕のせいだ』 「……いや、クリスのせいじゃないよ」 電話口で悔恨の声を出すクリスに、ヴィクトルは掠れた声でどうにか否定を返す。 ヴィクトルだって、正直なところまさか往来の多い公園内で犯行が行われるとは思っていなかった。もっときちんとした対策を講じておくべきだったのに、それを怠ったのだ。 「……俺のせいだ」 ヴィクトルは呻くように言った。 勇利は何も悪くないのに、あんなことを言って彼を悩ませて。もう苦しい思いをさせないと誓ってこの世界に留めたのに、結局彼の身を危険に曝してしまっている。 俺は、勇利のために何も……。 ヴィクトルが胸を掻き毟りたくなったとき、クリスが鋭い声を出した。 『僕が言うのもなんだけど、後悔するのは後だよ、ヴィクトル。まずは勇利を助けなくちゃ。彼のことが大切なんでしょ』 その言葉で我に返る。ああそうだ、何よりも大切だ。 俺だけの勇利。失うことなんてできない。 ヴィクトルはそっと目を閉じて気持ちを落ち着かせる。勇利を取り戻すためには冷静にならなければ。 「……ありがとう、クリス。後は任せて」 友人に感謝を伝えて電話を切る。 丁度そこへ、連絡を受けたのだろうユーリとヤコフがやってきた。 「おいヴィクトル、あいつが……！」 「大丈夫だよ、ユリオ」 慌てふためく後輩に微笑んで見せて、ヴィクトルはヤコフの方を向く。 「ヤコフ、警察の人と打ち合わせがしたいんだけど」 警察への通報はとうにクリスが済ませてくれている。 ヤコフは強く諭すように言った。 「平常心でなければ、カツキの救出作戦に参加はさせられんぞ」 「分かってる」 本当に落ち着いているのだと示すように、ヴィクトルはしっかりと頷いてみせる。 ヤコフは数秒間じっとヴィクトルを観察してから、奥の部屋の扉を開けた。 「……捜査員は既にこちらに待機しておる」 ヴクトルは安心させるようにユーリの頭をかき混ぜて、ヤコフの後ろについて行った。 　＊＊＊ 勇利は後ろ手に縛られて床に座らされていた。 ここはおそらく、建設途中のビルか何かだと思う。壁や床はコンクリートが剥き出しで、広々とした空間に柱が等間隔に並んでいた。壁には窓のためだろう、大きな四角い穴が開いている。そこから差し込む月明かりで、辛うじて周囲の状況を視認することができた。 勇利の周囲には三人の男が立っている。この暗さでは容貌はよく分からないが、全員が拳銃を持っていた。そのうち一人は勇利のそばに立ってこちらに銃口を向けている。残りの二人は窓の脇で外を警戒しているようだった。 「……僕は異世界の情報なんて持ってないよ」 勇利は自分に銃口を向けている男を見上げ、恐怖を押し殺しながら告げた。クリスの言っていたことが正しいなら、自分がさらわれた理由はそれのはずだ。 だが男はバカにしたように鼻を鳴らす。 「何言ってんだ。ビジターが異世界の情報を持ってないはずがねえだろ」 「……は……？」 当然のことのように言われた内容に、勇利はぽかんとする。そっちが何を言っているんだと言いたくなった。 「ビジターって……」 「とぼけなくてもいいんだぜ。あんた、ビジターなんだろ」 「何、言って……」 話について行けない勇利を無視し、男は勝ち誇った顔で語る。 「巧妙に偽装されていたが、あんたの戸籍は数ヶ月前に作られたものだ。この世界の人間ならどんな奴でも、生まれた時からデータベースに保存されてる、そうじゃないのはビジターだけだ」 「……そんな……」 勇利は男を見上げたまま唖然とする。まさかそんな、とは思うが、その言葉を否定できる材料は何も持っていなかった。 だって勇利には、過去の記憶がない。 「さあ、異世界の情報を話してもらおうか」 困惑する勇利を置き去りにして状況は進む。 ごり、と額に銃口が押し当てられた。 「――――っ！？」 その瞬間、勇利の脳裏にフラッシュバックするものがあった。 まるで痛めつけるのを楽しむような、おぞましい悪意。それを向けられる恐怖。 頭の中で、それらが鮮明に呼び起こされた。 刹那、勇利はほとんど反射的に、頭を思い切り横に振って銃口を振り払う。そして足の力だけで立ち上がった。 「何！？」 勇利に銃を向けていた男は、突然のことに驚いたのだろう、咄嗟に反応できず立ち尽くした。その隙に勇利は走り出す。 「何をしている！」 窓の外を警戒していた男達がこちらを向いた。一発の銃声が響く。銃弾は勇利の近くの柱に当たった。勇利は「ひっ」と引き攣った息を吐く。けれど足を止めることはなかった。 背後から男達の喚き声が響く。 「くそっ、ナメやがって！」 「待て、撃つな！　まだ殺すわけにはいかない」 まだ、という単語に勇利はぞくりと背筋を震わせる。殺される、思った。 縛られたままでは上手く走れない。このままではすぐに捕まってしまうだろう。 そうしたら、もうヴィクトルに会えない。 その恐怖に背中を押されて、自然と勇利の足が速くなる。しかしそのせいでバランスを崩しつまずいてしまった。腕を縛られていてはバランスも取れず、床に叩きつけられそうになって反射的に目を閉じる。 しかし、予想していた衝撃は来なかった。何か温かいものにぽすりと受け止められる。 「勇利、大丈夫？」 聞こえた声に、息を呑む。まさか、こんなところに彼がいるはずが……。 恐る恐る瞼を上げると、ヴィクトルが勇利を抱き止めていた。 「ヴィク、トル……？　何で……」 目の前の光景が信じられず、勇利はそれ以上言葉が出てこない。そんな勇利に、ヴィクトルは優しく微笑んだ。 「お前が危険な目に遭っているのに、放っておけるわけがないだろう」 ヴィクトルは、自分を助けるために来てくれた。申し訳なさと、それを上回る安堵に、勇利は細く息を吐く。 そのときだった。 「まさか担当官まで来るとはな」 聞こえた声に、勇利はハッとして振り返る。銃を持った男達がこちらに追いついてきていた。 「丁度いい、知ってることを洗い浚い話してもらおうか」 三つの銃口が一斉にこちらへ向けられた。 自分のせいでヴィクトルが危険に曝されてしまっている。その事実に青褪めた勇利の肩を、ヴィクトルはそっと抱き寄せた。 「勇利、俺を信じてくれる？」 男達には聞こえないよう、耳元で囁かれる。この状況で問われたことに戸惑ったものの、勇利の答えは決まっていた。 小さく、だがしっかりと首を縦に振る。 「……ありがとう」 ヴィクトルはふわりとした声で呟いて。 次の瞬間、勢いよく勇利を床に引き倒した。 「え……！？」 「動かないで」 驚き動揺した勇利に強い口調で指示し、ヴィクトルは覆いかぶさってくる。勇利には何も見えなかった。 間髪入れず、何発もの銃声が折り重なって響き渡る。 「なっ……」 男達の声は爆音に掻き消された。 次いで、ざざざっという統制の取れた靴の音と、激しく争うような声が響く。全身が硬直した勇利を、ヴィクトルは強く抱き締めた。彼の腕が、勇利の不安を拭い去っていく。 それはほんの僅かな時間だったが、何時間もあったように感じられた。 「終わりましたよ」 落ち着いた声を掛けられる。ヴィクトルは体を起こし、勇利の上からどいた。 勇利が辺りを見れば、POLICEと書かれた防弾チョッキを纏いヘルメットを被った人達が、その場にたくさん集まっている。勇利をさらった犯人たちの姿は見当たらなかった。 終わった、とはどういうことだろうかと疑問に思ったが、深く考えるのはやめておいた方が良さそうな気もする。 勇利はヴィクトルの袖を軽く引いた。 「この人達は、警察、だよね……？」 「うん。クリスがすぐに通報してくれたから、こうして迅速に対処ができたんだ」 後でお礼を言わないとね、と言うヴィクトルに、勇利は頷く。 そして、ヴィクトルは経緯を説明してくれた。 彼が警察とこの建物を遠くから監視していると、窓のそばに張り付いていた犯人の一味がそこを離れるのが見えたらしい。この好機を逃すわけにはいかないと、即座に動くことにした。まずヴィクトルが囮として一人で潜入し、犯人たちの気を引きつけて勇利の身を確保、その隙に警察が一気に突入するという計画だったという。それは無事に成功し、こうして勇利は救出されたのだ。 話を聞き終えて、勇利は眉をひそめた。 「囮なんて、そんな危ないこと……」 「お前を助けるためだからね」 ヴィクトルはそっと、勇利の頬に手を沿わせる。そしてピアスをした左耳を優しく撫でた。 「本当に、無事で良かった」 心底安堵したように言ったヴィクトルは、少し眉根を寄せた。 「すまない。俺のせいで、危ない目に遭わせてしまって」 「そんな、ヴィクトルのせいじゃ…」 そこで勇利は犯人に告げられたことを思い出し、言葉を切る。 勇利がさらわれたのは担当官のパートナーとして狙われたからだと、ヴィクトルは考えているようだ。しかし実際はそうではなかった。 「ねえ、ヴィクトル……」 犯人たちが言っていた事の真偽を確かめなければ。勇利はそう思って、決意を固めるようにヴィクトルの服をぎゅっと握る。 そのとき、勇利の目にあるものが飛び込んできた。 「！？　ヴィクトル、怪我を……！」 「え？」 悲鳴のような勇利の声に、ヴィクトルはきょとんとした。勇利はおろおろと、彼の肩のあたりに手を伸ばす。服の生地が切れ、僅かに血が滲んでいた。 「申し訳ありません、流れ弾が当たったんですね」 近くにいた警察の人が慌てたように飛んできた。 「いや、問題ない。かすり傷だよ」 ヴィクトルは軽やかに笑い飛ばす。その姿に勇利は唇を噛み締めた。 確かにこれはかすり傷だ。けれど一歩間違えれば、もっと大きな怪我に繋がっていたかもしれない。 ヴィクトルは身を呈して、命がけで勇利を守ってくれたのだ。 ――――もう、いいじゃないか。 勇利はそう思った。 過去に何があったとしても、今、ヴィクトルは何より勇利を大事にしてくれている。そして、勇利も。 その事実があれば、充分だ。 「それより勇利、今何か言いかけなかった？」 ヴィクトルに問われ、勇利は自然と微笑んだ。 「助けてくれて本当にありがとう、ヴィクトル。……愛してるよ」 少し照れながらも、よく通る声ではっきりと、初めての愛の言葉を告げる。 それにぽかんとしたヴィクトルは、感極まったようにくしゃりと顔を歪めて、次の瞬間に勇利を思い切り抱き締めた。 「ああ……俺も、お前を愛している。ずっと、俺から離れないで、そばにいてね」 「……うん」 勇利は頷いて、ヴィクトルの背に手を回す。 もう彼らの頭に、周囲の人間の存在はなかった。二人は当然の流れのように顔を寄せ合って、口付けを交わす。 「帰ろう、勇利。ユリオやヤコフも心配してるよ」 「そうだね」 ヴィクトルの他にも、勇利を案じてくれている人達がいる。 自分の過去に何があったのかなど、もうどうでもいいか。勇利は本心からそう思った。 今ここにいる自分が大切に思っているのは、これからもずっといたいと思う場所は、ヴィクトルのそばなのだから。 「帰ろう、僕達の家に」 勇利は強く、ヴィクトルの手を握った。 　[newpage][chapter:【0】] 「僕は、僕の世界に帰るよ」 勇利にそう言われたとき、ヴィクトルは愕然とした。けれど同時に、頭のどこかで「やっぱり」とも思った。 だってヴィクトルは、彼が愛するヴィクトルではないのだから。 それでも、「はい分かりました」と答えることなど到底できなかった。 手放したくない。やっと見つけたのだ、こんなにも強く心を揺さぶる存在を。 けれど勇利は、既に意思を固めてしまったらしかった。元の世界でのことを、あんなに辛そうに語っていたのに。 日が落ちた暗い部屋の中、ヴィクトルはゆっくりと勇利に歩み寄る。窺うようにこちらを見ている彼に手を伸ばし、その左耳にそっと触れた。 当然ながらそこにピアスはないし、ピアスを付ける穴もない。まっさらな耳だ。 「……ねえ、どうすればここに残ってくれる？」 問いかけると、勇利は困ったような顔をした。それでも、瞳の奥の決意は揺るがない。それを見て、分かってしまった。 自分では、勇利をここに結び付けることができない。 ――――彼は、帰ってしまう。 ああ、悲しい。嫌だ。 覆せない事実を認められない。まるで駄々をこねる幼子のようだ。 「キスでもすれば、帰らないでいてくれる？」 必死になるあまり妙なことを口走ってしまう。 その言葉に勇利はパチリと目を瞬いたあと、我慢できないというように吹き出した。 「何でここで笑うの！？」 「あ、いや、ごめん、本当にあなたもヴィクトルなんだと思って……」 勇利は「ふふっ」と抑え切れない笑みを零しながら言う。 どうやら、彼の世界のヴィクトルが似たようなことを口に出したことがあるらしい。性格がほぼ一緒なのだからあり得ないことではないが、ヴィクトルは何となく憮然とした気持ちになった。 暫くの後、勇利は真剣な眼差しに戻る。 「……でも、あなたは僕のヴィクトルじゃない」 きっぱりと断定する勇利に、ヴィクトルは一瞬、心臓が止まったような気がした。勇利は言葉を続ける。 「そして僕も、あなたの勇利じゃないよ」 殊の外優しく告げられたそれに、ヴィクトルは怪訝そうに眉根を寄せた。 「何を……」 「あなただって、本当は分かっているでしょう？」 「……分からないよ」 ヴィクトルの返答に、勇利は仕方ないなあと言うように微笑む。 「じゃあヴィクトル、あなたは僕にキスしたいと思う？」 「そんなの……」 当たり前じゃないか。 そう言おうとしたヴィクトルは、そのまま言葉を詰まらせた。目を見開いて呆然とする。 気付いてしまったのだ。勇利にキスしたいと全く思わないことに。 例えば、勇利からキスをしてくれと頼まれたら、ヴィクトルは何の迷いもなく喜んでするだろう。あるいは、勇利が落ち込んでいたり悩んでいたりしたら、優しく抱え込んで慰めてあげたくなるだろう。 しかしそういった理由がなく、ただ勇利に触れたいかと問われたら。そういう欲が自分の中にあるかと問われたら。 答えは、否だ。 「俺、は……」 動揺するヴィクトルの髪を、勇利は宥めるように優しく撫でた。 「あなたが僕を見る目は、向こうのヴィクトルと似ているけど、やっぱり違う。あなたが僕に抱いているのは恋じゃないよ」 勇利の口調は優しいが、言っている内容に容赦はなかった。 「ねえ、人の物を欲しがるなんて、あなたらしくないんじゃない？」 人の物。その言葉に、ヴィクトルは胸を刺されたような痛みを覚える。でもそれは真実だった。 ヴィクトルは唇を噛み締めて目を伏せる。 「でも、それじゃあ俺はずっと一人だ」 「……そんなことないよ」 勇利はヴィクトルの両頬に手を添えて、そっと囁いた。 「きっと、あなただけの勝生勇利がどこかにいる」 ヴィクトルは、ゆっくりと顔を上げて勇利を見た。すると、強い力を持った黒い瞳に射抜かれる。その場しのぎの言葉というわけではないようだった。 「……俺だけの、勇利」 それはほとんど天啓だった。 勇利は励ますように、ヴィクトルの背中に腕を回す。 「僕はあなたを愛することはできないけど、あなたの幸せを祈っている。だから、あなただけの僕を探して。その子と幸せになって」 「……うん」 ヴィクトルも、勇利をそっと抱き寄せる。 それが、二人の最後の抱擁だった。 　＊＊＊ 覚悟を決めて勇利を元の世界に返したけれど、それでもヴィクトルはどうしようもない喪失感に苛まれた。それを振り切るため、文字通り死に物狂いで様々な世界を飛び回った。一応は調査という名目だったが、目的はもちろん自分だけの勇利を探すことだ。 公私混同ではあったが、それを責められないくらいの成果は持ち帰ったつもりだ。その甲斐あって、上層部から何かを言われることはなかった。あるいは、事情を知るヤコフが何か手を回していたのかもしれない。 そうして多くの並行時空を巡って、一つの事実が判明した。驚いたことに、どの世界でも勇利のそばにはヴィクトルがいたのだ。 いや、驚いたことにという表現は間違いかもしれない。複数の世界で人間関係が全く同じになることはまずないが、どの世界でも必ず特定の人物が近くにいるということはままあるのだ。 要は運命の導きということなのだろう。ヴィクトルの世界ではそう考えられている。 だから多分、運命であるはずの勇利を持たない自分の方がイレギュラーなのだ。そう気付いたときは、さすがに膝を折りそうになった。けれどヴィクトルは持ち直した。 だって、自分に勇利がいないのならば。どこかに、ヴィクトルを持たない勇利もいるはずなのだ。 ……そう考えければ、崩れてしまいそうだった。 そして。 ――――その世界の勇利は、随分と不幸な人生を送っていた。 家族三人でやっていた定食屋の経営が厳しくなり、借金をした途端に両親が共に事故で他界。金を貸したのはかなり悪徳な業者であり、借金は瞬く間に利子で膨れ上がった。何よりも大切だった店は結局手放さざるを得なくなり、残ったのは多額の負債だけだ。友人には恵まれていたようだが、借金取りの手が彼らにも伸びかけたので、自ら遠ざけるしかなかった。 大切な人をみんな失い、一人ぼっちで暴力的な取り立てに耐え。どんなに働いても、給与は根こそぎ借金取りに持っていかれる。 その勇利は人生に絶望していた。 そして、その勇利のそばにヴィクトルはいなかった。 その日、勇利はビルの屋上でぼんやりと晴れ渡った青空を見上げていた。 何時間もずっとそうやって突っ立っていた勇利は、不意にフェンスの方に近付き、ガチャンと大きな音を立てて金網に指をかけた。 そのままフェンスによじ登ろうとした勇利に、ヴィクトルは声をかける。 「やあ、こんにちは」 勇利は肩を跳ねさせて、勢いよくこちらを振り向いた。 「今日はいい天気だね」 ヴィクトルはにこやかに話す。しかし勇利は、いつの間にか背後にいた男に不信感を露わにしていた。 「……借金取りの人、ですか」 「違うよ」 ヴィクトルは勇利の方に歩み寄り、フェンスに背中を預けた。勇利は体を強張らせて、警戒する猫のようにじっとヴィクトルを見ている。 「本当に綺麗な青空だ。飛びたくなる気持ちも少し分かるよ」 ヴィクトルの言葉に、勇利は傷付いたように顔を歪めた。 「……そんなんじゃない」 呻くように呟く。 「僕は飛べない、どこにも行けない。居場所も何も……」 声が上擦る。勇利は金網にしがみついて叫んだ。 「ただ、どこか遠くへ消えてしまいたい……！」 「……なら」 ヴィクトルはうっそりと微笑んで、僅かに首を傾げ、彼自身の望みを叶えてあげるかのように、告げた。 「こことは別の世界に行く方法を、教えてあげようか」 これではまるで、悪魔の囁きだな。どこか他人事のようにヴィクトルは思う。 勇利は眉根を寄せた。 「……馬鹿にしてるの？」 「まさか、大真面目だよ」 勇利の眉間の皺が深くなる。ヴィクトルは構わず続けた。 「いくつかあるけど、特別な力や道具がなくてもできる方法でいちばん成功する確率が高いのは、やっぱりエレベーターを使うやつかな。これは途中で誰かに見られたら失敗するから、人の少ない早朝か深夜にやるといい」 「……悪いけど、僕、もう」 勇利は立ち去ろうとする。ヴィクトルはすかさず、その手首をがちりと掴んだ。 「ちょっと……」 「まず、十二階建てのビルのエレベーターに乗るんだ。十一階でも十三階でもなく、十二階建てだよ」 優しい口調を装いながらも、勇利の手首を掴んだ拳に力を込める。勇利は気圧された足だけで後ずさったが、せいぜい二人の腕の長さの分しか離れられない。 怯えた様子の彼に、ヴィクトルは少し申し訳ない気持ちになる。けれど逃がすつもりはなかった。 「一階から乗り込んだら、まず十階に行く。そのあと四階に戻ったら、次は七階へ。そうしたらもう一度、一階に戻る。それで、一階から十二階まで、全部のボタンを押すんだ。上手く行けば、エレベーターはどの階にも止まらず、十三階まで上がる」 「十三階……？」 「そうだよ、十二階建てのビルなのに、十三階まで行くんだ」 勇利の顔はまだ強張っていたが、具体的なやり方を話すうち、彼の瞳には恐怖以外の色が宿っていた。ヴィクトルが手首を解放しても、彼はそこから動こうとしない。 ヴィクトルはあくまで、単なる親切心から言っているかのような声を紡いた。 「十三階についたら、扉の向こうは君の知らない世界だよ。別世界に行きたければ試してみるといい」 いくら担当官でも、その手で別の世界の人間を連れてきてしまったら問題になる。勇利には自力で、ビジターとしてこちらの世界に来てもらう必要があった。 だからヴィクトルは、最後の駄目押しをする。 「君に、君の世界を捨てる覚悟があるのならね」 その言葉に、勇利は突然暗闇の中から引きずり出されたみたいに瞠目した。 暫くの沈黙の後、彼はおずおずと尋ねてくる。 「あなたは、誰？」 「俺は……」 ヴィクトルは答える。できればこれが、真実であればいいと思いながら。 「君の、運命の人だよ」 　[newpage][chapter:epilogue] 夢を見ていた。自分が今見ているものが夢だとはっきり分かるあの感覚、いわゆる明晰夢というやつだ。 その中で、勇利は定食屋のような場所で働いていた。今雇ってもらっている店と雰囲気が似ているが、違う場所だ。 店の主は、優しそうな顔をした年配の夫婦のようだ。左手の薬指に揃いの指輪をしている。二人とも見覚えのない顔だが、どこか懐かしかった。 狭苦しく古びているが暖かみを感じる店内。そこで働く自分の頭上にふわふわと浮かびながら、勇利は彼らを見下ろしている。まるで幽体離脱しているような感覚だ。 よく見れば、あちらの勇利と自分は透明な糸で繋がれている。それは蜘蛛の糸のように細く、ちょっとした衝撃ですぐに切れてしまいそうだった。 店内にいる勇利は、お盆に載せたカツ丼を運んでいる。それを持って行った先に座っていたのはユーリだった。テーブルに置かれたカツ丼に、彼はぱあっと顔を綻ばせる。 「お前は本当にカツ丼だけは絶品だよな」 そんな憎まれ口を叩きながらカツ丼を頬張るその姿は、勇利が知るユーリにとてもよく似ていた。 店で働いている勇利は得意げに胸を張る。 「そりゃあ、お母さんの直伝だもの。僕がこの店を継いだとき味が落ちたって言われないように、今から練習しておかないとね」 「カツ丼以外はまだまだだけどな」 「分かってるよ！」 ユーリから頂いた手心のない一言に、勇利はムキになったように叫んだ。店の奥の方では、店主の夫婦が微笑ましそうに二人を見ている。 和やかなその光景に、何故か勇利は泣きたくなった。 突然、その場面が何かに引っ張られるように遠ざかっていった。勇利は驚いて手を伸ばしたが、店内の景色はどんどん小さくなっていく。 咄嗟に店の中の勇利と繋がった透明な糸を手繰り寄せようとしたが、この頼りない糸はそんなことをしたらすぐに切れてしまうだろう。 勇利は強く目を閉じて、伸ばしていた手を下ろした。 きっともう、この光景を思い出すことはないだろう。けれど、辛うじて糸は繋がっている。なら、それでいいと思った。 手に取ることはできなくても、大切に、心の奥底に仕舞っておこう。 たぶんこの過去があったから、ヴィクトル会うことができたのだから。 　＊＊＊ 眠りの淵から意識が浮上する。何か幸せなような、それでいて悲しい夢を見ていた気がするのだが、内容が思い出せない。 そのままぼんやりしていると、自分が誰かに抱き締められていることに気付いた。勇利はその人を極力動かさないようにゆっくりと上体を起こす。まだ朝の早い時間らしく、部屋の中は薄暗い。それでも、隣で寝ている人くらいは判別できる。 そこにいたのは裸のヴィクトルだった。勇利は驚きのあまり悲鳴を上げそうになって、どうにか押し止まる。昨日の記憶がじわじわ蘇ってきた。 昨晩、ようやくヴィクトルと結ばれたのだ。 それを完全に思い出し、今度は恥ずかしさに叫びそうになった。しかし心地よさそうに眠っているヴィクトルを目覚めさせるわけにはいかない。両手で口を塞いで何とか耐えた。 火照った顔を手で扇ぎながらヴィクトルを見る。すやすやと寝入っている彼が起きる気配はない。勇利はその銀髪にさらりと触れた。彼への愛しさが込み上げてきて、それが勇利の胸を暖かくする。 これから、何度だって彼と一緒に朝を迎えるのだろう。そんな確信を抱いた。だって彼は、自分の運命の人だから。 勇利はベッドサイドの時計を見る。やはり、まだもう一眠りできそうなくらいの時間だった。 それならもう少し寝ていよう。勇利は再び体を横たえ、ヴィクトルの腕の中に潜り込む。 今日は、ヴィクトルと右耳に付けるピアスを買いに行く約束をしていた。結婚の証である大事なピアスを選ぶのに、寝ぼけ眼で行くわけにはいかない。 ヴィクトルの鼓動を聞きながら目を閉じれば、すぐに眠気はやってきた。 結婚のピアスも、赤い糸をモチーフにしたものがいいな。そんなことを思いながらウトウトしていたら、ふとヴィクトルが身動ぎした。 「……勇利、起きてる？」 小さな声に問われる。 起きてるよ、と答えようとしたが、勇利の意識は薄れていくばかりで瞼を上げることすらできなかった。 微睡みの中、ヴィクトルに優しく髪を梳かれるのを感じる。 「……ごめんね」 耳元で囁かれた。 どうして謝るの、と思ったが、睡魔は勇利を放してくれない。 「あの子を手放すことはできたけど、お前を帰してあげることはできなかった。だって、お前は俺だけの勇利だったから。ごめんね、でも俺は後悔してない」 ヴィクトルが言っていることの意味がよく分からない。ただ、頭を撫でてくれる彼の手が気持ちいいと思った。 「これからも、ずっと、離れずにそばにいてね」 もちろん、当たり前でしょ、と心の中で返事をして。 勇利は完全に眠りに落ちた。 【勝生勇利が居ない世界のヴィクトルと、ヴィクトル・ニキフォロフが居ない世界の勇利の話】 -End.

勇利が居ないパラレルワールドのヴィクトルと、その世界に迷い込んだ勇利の話、完結編です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました！<br /><br />■　第一話→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9920127">novel/9920127</a></strong><br />■　注意書きは第一話の冒頭を参照してください<br />■　このシリーズを本にしようと考えています。書き下ろしのおまけとして、元の世界のヴィクトルと勇利の話を書く予定です。詳細が決まったらまたお知らせします<br />■　表紙は<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/46237633">illust/46237633</a></strong>よりお借りしました<br /><br />追記<br />■　コメントありがとうございます！<br />■　女子に人気ランキング33位に入ったそうです、ありがとうございました！<br /><br />Twitterヴィク勇アカ→（<strong><a href="https://twitter.com/ryokugetu8oi" target="_blank">twitter/ryokugetu8oi</a></strong>）

【ヴィク勇】糸切り、結んで、帰さない（下）

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俺こと萩原研二は困惑していた。俺は爆弾処理班のエースだ、そんな俺はタイマーの止まった爆弾を前に、目にめいっぱい涙を零さないようふるふると震わせながら己にしがみつく少女を見下ろしていた。タバコは消した。 ｢あー、お嬢ちゃん。ここは危ないから、すぐ降りるんだ｣ タイマーは止まっているものの、危ないことに変わりはない。俺は小さくため息をつくと、自分の足にしがみつく少女の頭をくしゃりと撫でた。だが、少女は萩原から離れない。俺は困り切って他の隊員に目を向けたが―――… ｢こ、しが抜けて…歩けない、です…!!｣ （あぁ〜…） 片手で顔を覆う。 仕方がない、タイマーは止まっているし少しくらい場を離れても問題は無いだろう。そう考えて俺は周りに｢この子を安全な場所に連れていく｣と口にした。防護服を着ていなかったからこそさっさと動けたのだが、まぁ後で松田にどやされるだろう。そんな事を思いながら少女を抱き上げる。 ｢わ、ぁ！｣ ｢お嬢ちゃん、どうしてこんな所に来たんだ？お巡りさんがここ入っちゃダメって言わなかったか？｣ 萩原の言葉に、少女はショボンとしながら言いにくそうに口を開く。少女曰く、少女はそもそも最近この街に来た上に、相当な方向音痴らしく目的の場所が解らなかったらしい。だから高い所から下を見下ろせば…と思い屋上にいたとな。まぁ反省してるだろうし、怖がっているから強く言うのは避けるか。そう思い、少女と一緒に階段付近まで来た、その時だった。 ｢―――!!逃げろ!!!!｣ ｢タイマーが…!!｣ 遠くから聞こえる喧騒。 ｢な、ッ｣ そこからはもう条件反射だった。ぴすぴす泣きながらしがみつく少女を強く抱きしめる。 ｢しっかり俺にしがみついてろ!!!!｣ ｢え、ぁっ?!｣ ｢口を開いて頭丸めて、耳を塞げ!!!!｣ 絶対に守ってやるから そう口にして階段を駆け下りた。何秒かは解らなかったが出来る限り遠くへ行かなければならない。あの爆弾は恐らく本命だ、大きな爆発音と爆風が来ることは間違いないだろう。飛び降りるように駆け下りる。後ろから聞こえる怒声が、より緊張感を高めていた。階段を急いで駆け下りる、どこまで行けば良いのか解らないが、一番下まで辿り着けるのが理想だ。恐らくは、無理だが!!! 刹那、轟音と共にマンションが揺れる。固まったまま動かない少女を強く抱きしめるようにして、その場に蹲った。揺れが響くだけで流石に瓦礫が飛んできたり上の階層が潰れたりはなかったが、あの大きさならワンフロア吹っ飛んでいたのかもしれない。この子がいなければ、恐らく吹き飛んでいたのは―――… 「ふ、ぅ…ッ、」 そう思えば、ぞくりと身体が震えた。頭の中で松田が「防護服着ろって言ってただろ!!」と口にしていたのが何度もリフレインする。暫くの間、轟音と揺れが収まるまで少女を抱きしめていたがそれが収まるのを確認して…もう一度立ち上がる。少女はぴったりと俺の身体にしがみついていて、大丈夫そうなのを確認すると俺はもう一度駆け出した。 ―――…今度は、問題なく下まで辿り着いた。下まで辿り着くと、松田が駆け寄ってくる。もの凄い怒声を浴びせながら駆け寄ってくる松田に、腕の中にいる少女がびくりと震えた。 「萩原ァ!!テメェって奴は…!!」 「ま、松田待て!!一般人が…」 「あ゛ぁ？!…ぁ…？？」 腕の中にしがみついていた少女が、顔を上げる。怯えきったその顔を見て松田が固まったその瞬間―――… 「ぅ、あ」 「え？」 「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん！！！！！！！！！！」 「「うわっ!!?!」」 まるで火がついた様だった。とりあえず松田はあわあわするし、俺も俺でどうしたら良いか解らなくて高い高いしたら余計泣かれた。どうしよう、どうしよう!!慌てた俺が松田を見るが、よく考えれば松田だって子供の扱いに慣れているわけが無い。 「は、萩原ぁ!!」 「ままま松田どうしよう!!!」 「うぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」 いやほんとどうやったら泣き止むんだ?!!松田と二人でどたばたしながら少女を抱えてぐるぐる回る。あわあわしながら、俺たちも泣きそうになっていて…そうやっていたらふと、肩を叩かれた。 「捜査一課の佐藤と言います。署にご同行願えますか」 「え、ちょ」 「ザマァ萩原」 「そこのグラサンの爆発物処理班の君もよ!!」 「マジかよ」 「ザマァ松田」 結局その後、少女もそうだが事情聴取という事で連行された。防護服に関しては謹慎処分を受けたが、何よりも大変だったのがギャン泣きを止めない少女の方だった。俺や松田がナニカをしたのかと思われたらしいが、俺から少女を離そうとすると余計にギャン泣きする。良かった、冤罪をかけられる所だった。 少女があまりにも泣くから、と子持ちの人間が何とか泣き止ませようとしてくれていたのだが結局は俺にしがみついてギャンギャン泣き続ける。やはり爆弾が怖かったんだろうか…そう思って背中を撫でてやれば、少しだけ泣くのが収まった気がした。 「…なあ、もう怖いもんねーから泣き止まねえか…？」 できる限り、優しい声色でそう口にすれば少女は俺の服の色を思いっきり涙で変えた場所から顔を上げる。まん丸の、飴玉の様な瞳が潤んだまま俺を見上げて思わずドキリと―――… 待て、相手は調書を見る限り13才だ、落ち着け俺。両親は忙しいのか中々迎えに来れないという、溜息をつかない様に、 少女をひょいと抱き上げる。自分のあぐらの上に座らせて目線をしっかり合わせて俺は少女の頭を優しく撫でた。 「怖がらせちまって、ごめんな。でももう大丈夫だからさ」 「…ぅ、ん」 「泣かないでよ、君の可愛い顔が台無しになっちまうぜ？」 「…可愛くなんて、ないよ…」 やっと、言葉を返した！ 内心思いっきりほっとして、少女の背中を優しく撫でる。舞雪、と名乗った少女はまだ時折嗚咽を漏らしたりもするが少しずつ落ち着いた様で俺の服をしっかり握ったまま俺の話に頷いたりと反応を返していた。少し落ち着いてきたのを理解できた俺は、そっと背中を撫でながら瞳を合わせた。 「俺の名前は萩原研二って言うんだ。」 「研二、くん？」 「ん゛ん゛ッ、そうそう…研二君…。」 は、犯罪じゃない…大丈夫…。 舞雪と名乗った少女は元々人懐っこいのか、次第に落ち着きを取り戻すと色々自分から話を振ってくれた。元々コッチに住んでいるわけではなく、両親の引っ越し関係で来て…自分には夢があってソレを叶える為に田舎からこっちに来たのだと教えてくれた。 子供なのに夢を叶える為に…すげぇ、見習わないと。そんな事を思いながら俺と少女は少女の両親が迎えに来るまでずっと一緒にいた。色々後処理はあるが、少女の爆弾事件に居合わせたという心理的外傷を軽減させる為にも…と、俺の処理はきっと後でだ。少し胃が痛い。 それでも、少女はもう泣かなかった。 両親が迎えに来たとき、少女は少しだけ泣いて母親の足下にしがみついた。それを見て少しだけホッとしたのと同時に…何だか、モヤっとした。まあ仕方ないよな、母親が相手だし…って待て、俺の思考をどうにかしてくれ。 調書を終えて帰ろうとしている少女とその両親を見送っていると、ふと少女が俺の所に駆け寄ってくる。そして、涙を流しすぎたせいで真っ赤になった目をキッ！と力を込めて俺に向かって携帯を向けた。 「あ！の！連絡先を教えてくださいッ!!」 「…へ?!」 顔まで真っ赤に染めた少女は、母親であろう女性の困った様な苦笑いを背中に俺に向かって携帯を突き出していた。一部始終を見ていた松田は「良かったな、モテ期だぜ」と言った。どうしたら良いんだよ…そう思い少女の母親の方を見れば、「問題なければしてやってくれませんか？」と笑っていた。少女のなけなしの勇気を尊重したかったらしい。 「…俺、忙しいからあんまり連絡できないよ？」 「私も忙しいです！」 「…ふ、あはは！まぁいっか！…萩原はこの漢字で、研二は…」 「あ…ありがとうごじゃいます…!!」 あぁもうまた泣いちゃった。ぽろ、と零れる涙を、俺は膝をついて親指で拭う。頭を優しく撫でて、「君が連絡してくるのを待ってるね」と声をかければ、真っ赤になった少女はコクコクと頷いた。 「ロリコン」 「うるせぇタッチしてねぇし」 「だっこしてた癖に」 「不可抗力!!」 そうして少女…舞雪との出会いはこれが始まり。それから舞雪は存外真面目で、一週間に一回必ず連絡を取る。『クラスの男子にスカート捲りされる』『酷すぎたら蹴れ』『お仕事忙しいですか？』『いーよ、今日は非番』―――…なんて。存外、彼女とのやり取りは楽しかった。恋愛感情のない、まるで兄になった気分だった。可愛い子だったし、懐かれるのは悪い気がしない。気付けば数年経ち、俺たちが出逢って四年の歳月が経ったある日―――…。 ―――　　――― その日は例の事件が起こるだろうと予想された日だった。普段よりも緊張して事を構えていた、その時。いつもはメールしかしてこない少女…いやもう彼女か、彼女から電話が掛かってくる。暗号文を解読し、一足早く爆弾を解体しに向かった相方は爆弾と心中を決め込もうとしている。どうにかしないといけない…そう思ってる最中、掛かってきた電話。取るべきか、取らないか…一瞬思案し、電話を取った。 「もしもし、悪いが今―――…」 『研二ざああああああああああああああああああああああああああああああああああうわあああああああああああああああああああああああああああああああああああん！！！！！！！！』 「ぐぉ?!」 久しぶりに聞いたギャン泣きに、鼓膜が吹き飛びそうになる。何とか頭を振って、携帯を耳に当てるがギャン泣きが酷くて何を言ってるのか解らない。ただ、非常事態というのは理解できた俺は、直ぐに落ち着かせようと声をかけた。 「落ち着け!!何があった、今忙しいから…端的に言うんだ」 『ば、くだん…見つけて、死んじゃう…!!』 「―――は、」 息が、止まる。松田がヒントを出す為に心中しようとしていたのに、まさかこんな所で…そう思ったのと同時に、彼女がまた危ない目に遭ってることに心臓が凍り付きそうだった。身体が震える、武者震いに近い…これは、怒りか。 「今から向かう、どこにいる!!」 『べ、いか…中央病院…!!』 「通話を切るな、良いな!!」 他の隊員に、「一般人が爆弾を見つけた、直ぐに向かう!!」と声をかけ俺たちは直ぐに米花中央病院に向かった。爆弾の…松田のタイムリミットまで時間が無い、直ぐに向かい、解体しないと…!! 数十分して、俺たちは現場に着いた。通話が繋がっていた為に直ぐに場所を見つけることが出来た。俺は彼女に 「必ず解体する、守るから」 と、口にした。防護服を身に纏い、携帯を彼女に渡す。そして、俺からじゃきっと意固地になって言う事を聞かないだろうあの頑固野郎に電話をかけてくれないか、と伝えた。彼女は涙で濡れた頬を片手で服と、しっかり頷いて「ちゃんと帰ってきてください…！」と口にする。 信じられている、その言葉が俺を奮い立たせた。 「帰ってくる。だから良い子で…笑ってくれよ」 防具を全て身に纏い、俺は解体に挑んだ。松田がどうするかは…障子機運でもある、だから出来るなら松田のタイムリミットまでに解体しないといけなかった。爆薬の量が多い、コッチが本命なのは確実だ。あの時の爆弾と基本はほぼ同じ構造、それを理解した瞬間にマンションを爆破されたあの日を思い出す。 あの日、一歩間違えれば死んでいたことを思い出した。あの日彼女がいなければ吹き飛んでいたのは俺だっただろう、今度も彼女は…いや、今度は松田を救ってくれる筈だ。そしてそれを成し遂げるに必要なのは―――…俺の解体技術だ!! できる限りのスピードでトラップをかいくぐってコードを切断する。一本一本、確認しながら焦らずに解体していく。これを解体できなけりゃ爆弾処理班なんざ名乗れない、そして松田をあの観覧車から出してやらないといけない。焦るな、焦るな、大丈夫―――…俺なら、出来る。必ずアイツを助けてみせる！ ―――…三本、二本、一本…最後のコードを切った瞬間、周りの人間も息を吐いたのが解った。我ながらここまで鬼気迫る勢いとスピードで解体したのは、生まれて初めてだった。…遠隔操作の通じないようにした、もうこの爆弾は爆弾ではない…完全に沈黙したそれを前に、俺は大きく息を吐いて防具を外す。 （松田…は…） くる、と後ろを向く。するとそこには携帯を握りしめたまま、泣くのを我慢している彼女の姿があった。まさか―――…目を見開いて、防具を外して彼女の所へ向かうと、彼女は涙をポロポロ零しながら俺に携帯を渡した。 「松田、は…」 「あの、松田さんが…」 一瞬、嫌な予感がする。通話中になっている携帯を耳に当て、俺は「松田…？」と声をかける。すると、 『萩原ァ!!テメェ話はちゃんと聞かせて貰うからな!!!』 「は？」 『お前、ふざけ…畜生!!いつの前に…くっそぉ…コッチも解体は終わった!!直ぐにそっちに行くから首を洗って待ってろよあ゛ぁん?!』 ピ、と電話を切る。 「元気じゃん…？」 ぽかん、と俺が携帯を見つめていると、俺の前に立っていた彼女が急に飛びついてきた。昔の様に…いや、まあ電話越しではギャン泣きされたがあの時の様に泣き喚くことはせずに…静かにその肩が震えている。そうだな、怖かったに違いない…そう思って背中に手を回した、その時だ。 「お帰りなさい…」 自分も怖かっただろうに、俺が言ったように涙を零しながらも一生懸命笑顔で笑いかけてくれる彼女に…胸が、少しだけドキリと疼いた。あの時から四年経っている少女は、高校の制服を身に纏っていた。背も伸びて…存外普通の子より大きいかもしれない、俺よりは小さいけど。……随分と、綺麗になったなあ。 撫でようとした手を引っ込めるか悩んだが…まぁいいか、と両腕を回して一生懸命笑いかけてくれた彼女をぎゅっと抱きしめる。汗臭いだろうなとか、色々考えたけれど抱きしめれば震えていた彼女の身体がじわりと緊張が解けたのか、小さく息を吐いたと同時に固さが取れてくるのが解った。 「ありがとう、ただいま」 そう口にすると、彼女はまた鼻をずず、と慣らしながらも笑った。涙を流した後が僅かに見られたけれど、綺麗な笑顔だった。第一発見者だった彼女はまた調書を受けるだろう…なんなら途中まで一緒に…そう思って手を握った、その時だった。 「萩原ァアアアア!!」 地の底を這う様な松田の声が聞こえる。つーか、松田は何で怒ってるんだよ訳わかんねえ。そう思って松田の方を見れば…松田は俺と彼女を視界に納めると、ポケットから取り出したハンカチで汗を拭い……ポケットに入れていたんだろうメモ帳を取り出し、ペンと一緒に彼女に向かって渡した。 「悪い…落ち着いた時でいいからサイン、くれ…!!」 まつだぁ？！ ―――　　――― ―――　　――― そして俺は知る。目の前にいる彼女が実は…4年前出逢った後デビューし、アイドルとして第一線を走っている子だったと言う事を。そして実は松田がドルオタで最近仲良くなったHN漆黒の烏という銀髪の男性と舞雪のライブに行っていたと言う事を… 「アイドルになぁ!!恋愛は御法度なんだよ気をつけろ!!」 「いや俺と舞雪は付き合ってるわけじゃ…」 「これが烏さんにバレてみろ、お前脳天ブチ抜かれるからな」 「誰だよ烏さんって!!」 「HN漆黒の烏だが銀髪の気が合う野郎だよ!!」 「松田正気に返って!!」 とりあえず、付き合ってないなら距離感考えろと怒られた。現場からは以上…って、そうじゃない。つーか漆黒の烏って中二病かよまぁいいけど。 舞雪と俺の恋愛感情のない関係は未だに続いている。あの爆弾事件からまた3年、俺も29才になった。そんなある日、彼女から内々に姿を隠してこの場所に来て欲しい…と呼ばれた俺が辿り着いたのはとある一軒の家で…インターフォンを押す、女性の声がした。 「萩原と申しますが…」 そう口にすれば勝手に扉が開き、玄関口からは懐かしい彼女の母親が顔を出してくれていた。と言うことはまさかここは―――…そう思ったが、来てしまったモノに変わりは無い。あれよあれよという間にリビングに通された俺が見たのは、大泣き寸前の彼女が可愛く化粧をして可愛い服を着て…必死な顔をして、ソファーから立ち上がった所だった。 彼女はそのまま今にも涙が零れそうな瞳のまま俺の前にツカツカと近づくと…周りに誰もいない事を見回して確認すると、遂に決壊したのか大粒の涙を零しながら口を開いた。 「け、げんじざあああああああああああああああああああ！！！！」 何で泣いた―――?!! とりあえず泣き止まそうハンカチを取り出すが、彼女は自分で持っていたのかそれでなんとか目元を抑える。だが止まらないのかポロポロと涙を零しながら俺の上着をぎゅっと握っていた。 「ど、どうした？」 「あの、ううううう、うわああああああああああああああああん！！！！」 やっぱり駄目だったーーー!! 苦笑しながら、ポンポンと背中を叩けば少しずつ落ち着いてきたのか彼女はグスグス泣きながらもう一度ちゃんと言おうと思ったのか大きく深呼吸をした。そして… 「わ、たし、ずっと…子供って、思われ…」 「うん、ゆっくりな」 「うううやっぱり子供扱いされてる…!!」 それでも言わなければならないと思ったんだろう。彼女はぴすぴす泣きながらあの人同じ、綺麗な飴玉の様な瞳を俺に向けてその言葉を口にした。 「ずっと…ずっと好きだったんです…!!私と、付き合っ―――…あああああやっぱり駄目だもう無理だああああああうわあああああああああああん！！！！！」 その言葉に、目を見開く。そんな気は…まぁちょっとはしていた。出逢ってから7年は経っているんだ、ずっと小まめに連絡をしてきた相手が気にならないわけがない。時には愚痴を互いに聞いて、時には励まし合って…デートなんてした事も無いし、もしこれから一緒になったとしても告知は出来ないだろう。…一緒になったら、なんて仮定をしている時点で答えは決まっている様なモノだったけれど。 「泣き止んでくれたらお返事するぞー」 少し笑いながらそう口にすれば、ぴぃぴぃ泣いていた目の前の彼女はぴたっと泣き止んだ。そして、涙できらきら光って見える瞳に、俺はそっと口づけを落とす。 「―――…これから、二人の秘密をいっぱい増やしていこうぜ」 「ぇ…」 「年が結構離れちまってるけど、お前がいいなら…俺も、お前の事が好きだ。沢山泣いて、沢山笑うお前が大好きだよ。…俺からも聞きたい。…俺の恋人に、なってくれないか？」 何とか俺がそう口にすれば、彼女はブンブンと頭を縦に振った。 そしてまた、融けるんじゃないのかってくらいに瞳が潤み出す。その瞳にキスをして、俺はぎゅっとその身体を抱きしめた。…松田には、黙っておこう。きっと暫く背後に気をつけないといけない生活を送る羽目になるはずだ。 アイドルと警察官、しかも9つも年が離れてる。今が旬のアイドルなら、気をつけなければいけない。そんな中でも、俺に声をかけてくれて嬉しかった。ぎゅうぎゅうとしがみついてくる彼女の身体を優しく抱きしめ、幸せを噛みしめながら…俺はこれからの事に思いを馳せるのだった―――…。 ―――　　――― ―――　　――― 萩原、研二さん。 私の命を、助けてくれた人。 今日のことを思い返しながら私は微笑む。ずっとずーっと、子供の時から好きだった人と私は遂に今日結ばれたのだ。嬉しくて嬉しくて堪らない、嬉し過ぎてジャンプしてしまいそうだった。 昔から夢を叶える、その為の努力なら惜しむ事なんて無かった。 ずっと昔から、欲しいものは必ず手に入れていた。 手に入らないなら何故手に入らないのかちゃんと考えて一番近しい形を模索する。でも私は彼だけは妥協したくなんてなかった。手に入れても、きっと私は努力を惜しまない。だって、彼の事が大好きなのだから。 これから彼の好みを知って、近づける様にしよう。だって私はアイドル、きらきら輝かなきゃ。大勢の人を笑顔にするのが私の夢だった。それはずっとずっと叶えたい、でも私は自分の恋心も叶えたかった。昔から治らなかった泣き虫は相変わらずだったけれど、研二君は引くこともなくぎゅっと抱きしめてくれる。大好き、この恋心はきっと私をもっと輝かせてくれるだろう。 いつもは皆の私だけど、 彼がいる時は、彼だけの私でありたい。 もっと可愛くなりたい、貴方に愛される私でありたい。 貴方の前では、ずっと私は恋する女の子でありたいのだ。 時には背伸びだってするし、空回りだってする。 それでもきっと、彼とだったら―――…。 「…よぉし！明日も頑張るぞー!!」 部屋の真ん中でえいえいおー！としている私の動画をパパとママが写真に収めて研二君にそのデータを送っていたことに気付くのは、これから数ヶ月先の話になるのだった。 ―――TO BE NEXT (次回、ドルオタ松田とドルオタ漆黒の烏の邂逅―――…)

心楽さんに頂いたネタで書きましたアイドルと萩原さんの秘密の恋…が始まるまでのお話。<br />次の話でストーカー事件の話をしようと思ってますのでのんびりお待ちください～!!<br /><br />表紙はkotokoto様よりお借りしました。

その少女、アイドルにつき

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　教室でいつものように寝たふりをきめていると突然教室が騒がしくなった。どうしたのだろうと思ったがきっと俺には関係が無いはずだそう思ってそのまま寝たふりをしていると頭上から声が。 「八幡先輩、お久しぶりです」 　…って俺？俺に声をかけるような物好きが居るのか、そう少しの驚きを滲ませながら顔をあげると。 「あれっ…？まさか祐奈ちゃん？」 「そうです」 　そう素っ気なく話すのは俺の知り合いでそして後輩である平井祐奈である。そしてどうしてこの教室が沸き立ったのか合点がついた。その理由は彼女が現役のアイドルだからである、それも今をときめくアイドルグループのセンターをやるほどの実力派。歌もダンスも上手い、そしてルックスも勿論申し分のない。少しだけ愛想が悪いところもあるがそこもファンにとっては魅力らしい。 　どうしてそんな俺とは別世界の住人のような彼女と俺が知り合いかと言えば俺の母親と彼女の母親が親友の関係にあり、お互いに近くに住んでいるという事もあって小さい頃からよく二人で遊んでいたのだ。しかし彼女が中２の時にアイドルになり始めたのを境に中々会えなくなっていたのだ。 「久しぶりだな祐奈ちゃん。また可愛くなったな」 「…////」 　そう言うと彼女は俯き頬を紅くした。彼女が可愛くなったのは本当だ。いや元々抜群に可愛かったのだけれども芸能界に入って垢抜けたというか、より可愛さに磨きがかかっていた。 「それにしても祐奈ちゃん総武に入ってたんだな」 　てっきり違う学校に行っているのだと思っていた。なにせ総武高校は進学校であり入るのも勿論難しい、アイドルとしての活動をしながら受験勉強をするのは嘸かし大変だっただろう、そんな意味を込めてこの言葉を発した。聡明な彼女はその意図を汲み取ったようで。 「凄く大変でしたよ勉強は、でも…」 「でも？」　 「必ず達成したい目標があるんで、その為にはこの学校に行かなぎゃいけなかったんです」 　そういう彼女の目は力強く真剣だった。やはり彼女は真面目だ、おおよそアイドルをやめた後の事を考えているのだろう。しかし彼女の身も少し心配だ。彼女は少しだけ無理をし過ぎてしまい、そして一人で抱え込んでしまう傾向がある。事実、彼女は小さい頃から無理をし過ぎて倒れてしまうという事も少なからずあった。だからあんまり一人で抱え込むな、そういう意図を持って。 「俺も祐奈ちゃんに協力するから」 「えっ…いいんですか？」　 「勿論」 「本当ですか？」 「本当だ」 「うれ…しいです」 　そう言う彼女の顔はクールな何時もとは違って柔らかい笑みを浮かべていて、そのギャップに心臓が激しく高鳴っていた。 「じゃあですね…先輩」 　彼女は拳をギュッと握りしめじっと此方の方を見ると。 「お昼休み私と一緒にお弁当食べてくれませんか？」 「…へ？」 「やっぱり嫌…ですか？」 「いやいや全然嫌じゃないよ」 「やたっ！」 　彼女は俺の見えない所でガッツポーズをしたつもりなのだろうが…バッチシ見えていた。そんな彼女らしからぬ無邪気な様子に心が暖かくなった。 　授業を終えて屋上で彼女を待っていると少しも経たないうちに彼女がきた。 「すいません授業が長引いちゃって」 「いいよいいよ俺も来たばっかりだから」 「はいどうぞ…先輩の分です」 　そうやって渡されたのは可愛らしい小袋。その中に入っていたのはなんと彼女の手作り弁当だった。わざわざ早起きして作ってくれたらしい。 「開けていい？」 「勿論」 　開けて目の前に広がったのは色とりどりの世界。一目見て美味しいと分かり食欲がそそられるそんな弁当だ。しかも俺の好物が盛りだくさん。 「祐奈ちゃんどうして俺の好きな食べ物知っているの？」 「小町さんに…聞きました」 　そう少し目線を外し照れたように言う彼女。俺の為を想ってそこまでしてくれる彼女の献身的な振る舞いに感激すら覚える。箸を付けると見た目通り口の中全体に旨味が広がっていった。 「美味しい！」 「そう…ですか」　　 　そう言う彼女は素っ気なく振る舞うが嬉しさを隠せないようで口の端が上がっている。 「祐奈ちゃんこんなに料理美味かったんだな」 「はい…頑張って練習しました」 「そうなんだ」 「これも目標の為です」 　彼女は料理人でも目指しているのだろうか、それともまた別の何かか。でもそんなことよりも俺はこの弁当の美味しさに心奪われていた。彼女はそんな美味しそうに無心で食べる俺の事を柔らかな微笑みで見つめていた。 「あ〜美味しかった」 「美味しく食べてくれて嬉しかったです」 「祐奈ちゃん絶対にいいお嫁さんになれるな」 「……えっ///」 「祐奈ちゃんの料理これからずっと食べていきたいな」 「ふぇっ……///　そ、それってプロポ…」 「どうした？」 　気がつけば彼女の真っ白な雪原のような顔は見事なほどに濃朽葉に染まっていた。 「い、いや何でもないです」 　彼女は取り乱した自分を落ち着けるように深呼吸すると。 「先輩に…なら」 「えっ？」 「先輩にならこれからずっと作ってあげますよ」 「いいのか？」 「ええ私もアイドルとしての活動があるので作れない日もあると思いますが出来るだけ先輩に作ってきてあげます」 「無理しなくていいんだぞ」 「無理なんかしてません…自分がやりたいからやっているんです」 「そうか」 「だから先輩が大学生になっても、社会人になっても私が作ってあげます」 「そこまでっ？」 「ええそこまでです」 　随分彼女と俺との関係は長く続きそうだなと思った。まあ全然嫌じゃないし寧ろ嬉しいのだが。その後俺たちは他愛もない話をしていると。 「ふわぁ…」　 　俺が欠伸を漏らした。 「疲れているんですか？」 「まあ今日はちょっと寝不足で」 　彼女はそれを聞くと膝を擦り合わせモジモジとし始める。トイレでも我慢しているのかとデリカシーの無いことを考えていると。 「もし良かったらここで寝ます？」 　そう言って自分の膝を指し示す彼女。ってもしかしてだけど…もしかしてだけど…これって所謂膝枕じゃないの？そんな風に同様していると。 「嫌…ですか？」 　だからその不安そうな顔はズルいって。そんな顔されたら断れないだろ。まあ役得であるから彼女が嫌でなければいいのだが。 「じゃあお願いします」 　そうやって彼女の太腿に俺の頭を乗せる。彼女の太腿は上質なクッションのように柔らかくそして彼女の温もりを感じられで落ち着かなくなるが…。彼女に頭を優しく撫でられているうちに俺は心地よくなって俺は直ぐに眠りに落ちてしまった。 「先輩お休みなさい…」 　俺の頬に柔らかく瑞々しい感触が乗った気もするが多分気のせいだろう。 　そして放課後、俺は自分の家に祐奈ちゃんを招き入れていた。今日は予定が無かったらしく久しぶりに俺の家に行きたいという事であったので無論了承した。 「お、お邪魔します…」 　誰も居ない家にもわざわざそう言う彼女はやはり礼儀正しい。前もって両親は勿論、小町も塾の合宿で居ないので家には誰にも居ない事をを祐奈ちゃんには言ってある。それを言ったとき彼女の頬が本日最高の赤さになっていたのは謎だが。 　そのまま俺の部屋に迎え入れると彼女は感慨深そうに。 「ああ久しぶりです…あんまり変わってないですね」 「そうか」 「この部屋の匂い懐かしいです」 「そ、そうか…」 　この部屋の匂いってなんだろう、そんなに匂うか？一応匂いには気をつけているつもりなんだが。まさか…イカ臭い匂いとかしない…よな？そんな風にちょっとした恐怖に怯えていると。 「あれ…これって私の…」 「ああ祐奈ちゃんのグループのＣＤだ」 「買ってくれてたんですか…それも全部」 「後は祐奈ちゃんが出ているテレビ番組も全部録画してる」 「そこまで…。先輩ってあんまりアイドルとかには…」 「ああそこまで興味は無いな、ＣＤだって祐奈ちゃんのグループのしか持ってないし」 「何で…？」 「可愛い妹みたいな幼馴染が頑張っているんだからそれは全力で応援する」 「………ありがとうございます」 「どういたしまして」 「でも…」 「でも？」 「妹みたいに見られるのは嫌です」 「な、何で？」 　やっぱり俺みたいなやつの妹なんか嫌なのか…、そうやって悲しみに打ちひしがれていると。彼女は俺の唇に人差し指をあてて 「それが女心だからです」 　イマイチ意味は分からなかったがそう言う彼女はなんだか蠱惑的で随分と大人びて見えた。 　その後二人でゲームをしたりして楽しんだ。その時間は自然と昔を思い出させてそのせいか不思議と時間が経つのがとても早く感じられた。 　ふと窓を見れば空は鉛丹色に染まっていた。烏は高らかに歌を唄って一日の終わりを告げている。そろそろ彼女も帰る時間だ、そう思って。 「祐奈ちゃんそろそろ帰った方が…送っていくよ」 「えっ…」 　彼女は呆気に取られたようにそう言う。おおよそ彼女も時間を忘れていて思わぬ時間の経過に驚いているのだろう。彼女は俯いて小さな声で。 「まだ帰りたくない…」 「え？」 　声が小さくて彼女の言っている事が聞こえなくてもう一度聞き直す。 「まだ帰りたくないですっ！」 「そう言われてもな…あまり遅くなるとお母さんが心配するぞ」 「大丈夫です…」 「なんて言ったんだ？」 　彼女の声が小さくて彼女の言った事が聞こえなくて聞き直す。 「両親の許可はもう貰っているので大丈夫です！」 「ふあっ！？」 「それに帰る途中に家に寄って泊まる準備してきたので大丈夫です」 「さっき家に寄ったのってそういう目的だったのかよ…」 　突然の出来事に理解が追いつかない。 「お母さんなんて言ってた？」　 「八幡君と仲良くねって、後はまだ孫は早いかなって言ってました」 「マジかよ…」 　お母さん何言ってるんだよ。もうちょっと娘の色々を心配した方がいいと思うんですが。まあそれほど俺が信用されているってことなのかもしれないが。 「だから先輩の家に泊まっていてもいいですよね？」 「いや…でも彼氏彼女の関係でもない二人が一緒に泊まるなんて駄目だろ」 「なるほど…なら彼氏彼女の関係だったら泊まっていていいんですね」 「え…？」 「先輩さっき言ってましたよね私の達成したい目標に協力するって」 「あ、ああ言ったな」 「私の達成したい目標は…先輩の彼女になることです」 「ふあっ？」 「ずっと前から先輩の事が好きでした付き合って下さい」 「………」 「な、なんか言って下さいよ」 「嬉しい…がグループの方は大丈夫なのか、恋愛禁止とかじゃないのか？」 「ああそれは大丈夫ですよ」 「へ…？」 「うちのグループは放任主義なので恋愛とかもメンバーの自由なんです」 「そうか」 「なら大丈夫ですね」 　彼女は息を吸い込み真っ赤に白磁のような頬を染め、黒真珠のような瞳を潤ませながら俺の手を握ってこう言った。 「私を先輩だけの[[rb:アイドル > 恋人]]にして下さい！」 　[newpage] 　ベットの上ですやすやと一緒に眠る彼の寝顔を見ながら彼女は今日の事を思い出す。 「へへへ…八幡先輩に可愛くなったって言ってもらえた」 　そうやって小さく独り言を呟く。思い出すのは教室での一件。ああいう事を無意識に言えるところが彼のズルいところだが、でもやっぱりああやって素直に褒めて貰えると嬉しい。 「…お料理も褒めて貰えたし」 　実は元々あんまり料理は得意では無かった。でも八幡先輩に喜んで欲しいなと思って頑張って練習した、アイドルとの活動をしながらそれをするのは大変だったけど、でも先輩が喜ぶ顔を想像したら頑張れる気になれた。 　こんな風に彼への恋心が私を強くしてくれている。アイドルで頑張っているのも先輩に出来るだけ私の事を見てほしかったから、総武に合格したのも先輩と同じ学校に行きたかったから。　　 　私が先輩に恋した理由は実を言うとあんまり分からない。でも私が泣いてるときは優しく慰めてくれて、不安がある時は話を聞いてくれて、嬉しいときはその嬉しさを共有してくれて、そんな優しくて格好いい先輩にいつの間にか恋をしていた。 「キスもしちゃったし…///」 　あの時の事を思い出し恥ずかしくなって軽く悶える。キスをしたのは口じゃなくて頬にだけど。多分私が先輩の唇にキスしていたら…。 「恥ずかし過ぎて死んじゃう…」 　でも私と先輩は彼氏彼女の関係なんだから勿論キス以上のことがあるわけで…。 「………//////」 　正直言えば泊まる前にそういう事を想定しなかったわけではない。お気に入りで自信のある下着を着けてきたし。でもそういう事を想像すると。 「駄目だ////私にはまだ早い」 　まあそういうのは追々慣れていくとしよう。 　ふと思いついて私は先輩に抱きついた、さながら抱き枕のように。先輩の身体は暖かくて凄く心地よかった。 「これくらい彼氏彼女の関係だったら普通ですよね」 　正直言うと心臓はものすごくバクバク言ってるし、頬は粉紅に染まっているけどそれはまあないしょ。 「先輩起きたら絶対驚くだろうな」 　そんな明日への期待を込めて、私はこの世界で一番愛している彼氏に抱きつきながら眠りに落ちたのでした。 　 　

３作目。めっちゃ書くのに時間かかった。新しいオリキャラのリクエストあったらご自由にお願いします。先輩、同級生、後輩、何でもいいです。若しくは総武高校生で無くてもいいです。<br />次はリクエストにあったクーデレ義姉を書こうと思います。ではまた会う日まで。

比企谷君と後輩のアイドル

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桐原が依頼を寄越したその日の晩、メールで部に来ていなかった面々に通知された。 何か知っていれば情報提供とのこと、だそうだ。 そういや、帰り際カフェで達也がデートしてたな。いや、喧嘩してたのか？あれは。ま、関係ないか。 後日あれが壬生だと知る俺である。 [newpage] 「今日の、お昼の放送ですが、マシントラブルにより放課後となります。ご理解のほどよろしくお願いします。」 内心ガッツポーズをしても、死刑は確定なのだから変わんねーと絶望に打ちひしがれ、俺は屋上への廊下を歩く。 「今日も美味そうだな。」 大の男が好きそうな、がっつりメニューとはやはり川崎は最高だな！ と、ぐふふと声に出してしまうような笑い声を上げ、出し巻き卵を頬張る奇妙な男がいたそうだ。 というか、俺だ。 そして放課後 ある人は部活の準備を行い、それ以外は帰るというのに今日はうろちょろしてるのが多く見つかった。 （なんでこんなに放送を待ち遠しく思ってる奴がいるんだ！？葉山か！？葉山のせいなのか！？） 今回の放送は、奉仕部が考案した作戦である。おそらく三浦の広い人脈？下僕？による放送スケジュール、三浦が土台を作って、葉山が舞台に立つ。そして、俺が危機に陥る。 いや、待てよ八幡。なぜ俺が全校生徒に知られているという前提で話しているのだ？俺のことなんて知らないのが当然のはずだ。俺は全校生徒の一部なのだから突出していない俺は認知されているはずがない。 何せ、未だに名前間違えられるからな（つまり戸部は許さん） よし、こう思えばなんの被害はないはずだ。 心に傷は残ったけどな。 ぴーんぽーんぱーんぽーん さて、この放送、俺にとって害しかないといえば嘘である。 ［放送を静かに聞いて、成功したかどうかを検証していた］と言えば部活に遅れていくことの説明ができるからだ。 しかし雪ノ下辺りは［つまり部室で聞けばいい話なのが分からないのかしら難聴谷くん？］と返答するだろうが、俺はお前の罵倒を聞いてしまうと放送を静かに聞けないんだよ、それにこれは俺の耳で聞いておきたいんだ。、ともすればあの雪ノ下であろうと口をつぐむであろうなぁ！ん？ ［黙れし］ フッ…… 理論で通る雪の女王を下しても、獄炎の女王が待機しているとは思いもしないよ… 結局俺は負ける運命を辿るしかないってのか… でも、一つ問おう。 「放送まだ？」 [newpage] 「皆さん！我々は二科生の差別撤廃をなくす、有志………」 なんか途切れたぞ、おい。 いきなりの展開すぎてみんななんやこれ的な騒ぎ方をしてるな。 さて、状況を考えると 有志○○が放送室に押しかけ、占領。 しかし、放送部員の最後の抵抗でマイクの電源を落としたようだ。 てか、放送部員は何人かいるんだから抵抗できるが、それがあんまし結果に導いていないことを見るに、放送部員の中にも同調者がいるだろう。 だが、それでも戦力は放送部員側に傾いているはずだ。 ブゥゥブゥゥ メールだぁ。 メール内容確認中…確認中… 「…はぁ…現場に向かうか」 今回のゲストである、葉山はなぜ動かなかったか理由を聞きに行くとするか。 教室から出ると、由比ヶ浜が待っていた。 「ヒッキー！」 「…そっちは頼むぞ」 「うん！」 まったく、こんな笑顔を見て動じないの俺ぐらいじゃね？ と、自分の理性を賞賛し、俺は放送室へ向かい由比ヶ浜は奉仕部へ向かった。 [newpage] （そろそろか？） 校舎内を疾走したら後で何されるか分からないが、ファーストブリットが飛んでくるか分からないが、保険のために小走り状態の俺である。 （あーあー、ヒッキー聞こえる？） 由比ヶ浜の声を聞いて、俺は辺りを見回し、そこらにいる生徒を確認する。 （ああ聞こえるぞ、由比ヶ浜が心配することはない。扱いが上手になったんじゃないか？） （えへへ〜、そうでもないよ〜） （由比ヶ浜さん、そのサボリ魔はあとで話してもらえるかしら。比企谷くん、とりあえず現場に向かい、あなたの判断で動きなさい。） （雪ノ下が指示くれるんじゃないのか？） （私は私で動くことがあるのよ。だからよろしくね） （そうか、それじゃ由比ヶ浜、葉山と繋いでくれ） 由比ヶ浜が得意とするのはいわば交信である。 ①相手の座標を入力、 ②指定の範囲を作る、 ③自分の意識のデータを反映、 が基本で ②の過程で細かく区切れば特定者のみに絞れる。 ③では、ここに②'の工程をもう一度行うことで②の範囲に②'の意識を反映できる、 という仕組みだ。 見てわかるようにこれはとても高度な技術なので、俺が由比ヶ浜と組んで久しい時は教室にいる俺だけのつもりが教室全体に由比ヶ浜の声が筒抜けで、被害の矛先が俺にまで向き酷い迷惑だった。というのが幕間の物語。 今では、問題なく使いこなしている。 ので、技量ではトップクラスだ。 ………学業のほうはさっぱりだけどな。 ん？てか由比ヶ浜の声がしないな。 どした？） （…ヒッキー、私褒められてるの？バカにされてるの？） …そーいや、頭に思ったことは向こうに伝わるんだったな） その後、俺の脳内に由比ヶ浜の馬鹿でかい声なき声が響いたことで脳震盪を疑った俺である。 [newpage] 放送部ジャック事件は展開を超え、終わりを迎えようとしていた。 司波達也の電話一本で。 「体制を整える必要がありますね。」 「もちろん、拘束するためにですよ」 「俺は風化委員を代表して交渉に立ったとは言っていないので」 と、俺が放送室まえの廊下に入るとそう聞こえた。 てか、なかなかひでぇもんだな。 「ちょぉいと待った！」 でも、もっといい方法があるんだよなあ。 「お前、比企谷！」 「服部！そこどけぇ！」 なんだ、なんだと野次馬どもが首をウロウロしてやがる。一歩前へ出たのは我が校の風紀委員会会長様の渡辺摩利先輩だ。特徴としてはたまーに奉仕部に遊びにくる。 「比企谷か？何をするつもり…」 「渡辺先輩、交渉は終わったんですよねぇ！？」 「ああ、そうだが…」 十文字会頭から確認取れたし、やるか。 「葉山、準備しろよ」 俺は声を張る、 ことはなく、 いつものローテーションボイスでも、 由比ヶ浜を伝ってからだと、 葉山に届くのだ。 俺は勢いそのままに一、二の三で、 左足で放送室の扉を蹴った。 耳を大きく振動させるが、俺はいちいち反応せず、走り逃げた。 「えぇ！？」 「いったい彼は何を…？」 ま、そこんとこは劣等生とは到底思えない後輩が解説してくれるだろう。 「僅かですが、振動系の魔法が発動されていました。」 「振動系だと？」 「ええ、表現するなら、『自然に発生した振動を操作した』ということでしょうか」 司波達也の見解は当たっていた。 八幡が扉を蹴ったことによって、放送室側に振動が伝わり、八幡はそれを操作することによって、 「被害者側の抵抗ってことなら、罰則ないですよね？」 扉から、現れたのは一科生の葉山隼人だった。 手順はこうだ。 由比ヶ浜によって葉山と交信し、状況を把握する。葉山は自身のCADが取り上げられている、取り上げさせた。何せ、依頼内容にあった壬生紗耶香がいたからだ。実力行使でジャックを取り押さえれることは、保留し様子見をしたわけだ。 すると、壬生は達也と交渉を行い、一通りの目処はついたようなので、比企谷にCADの位置を教え、葉山の手に返ってくるようにする。 あとは［風の王子さま］にお任せってこと。 [newpage] 葉山から話を聞くと、取り押さえられた身柄は解放され、後日に生徒総会なるものが行われるようだ。 学校側は生徒会に一任させたのだが、その裏では雪ノ下の姿があった。 いち早く、平塚先生に依頼の件などを伝え、目に見えることは生徒に任せ、目に見えないことは学校に任せればいいと進言した。 平塚先生はこれを受け入れると、学校側に対して圧倒的な発言力を使い、事態を持っていった。生徒の信頼度No.1の先生の発言にはどうしても重きを置いてしまうものだろうか。 比企谷「それで、っと、おい、車こっち来たぞ」 葉山「後ろからも来てるね。それに狙撃の音が鳴り響いている。警戒しないと」 達也「恐らく、マップから見て南の方のビルに3人ほどいるようです」 比企谷「っと、よし1キル、じゃなくて、なんで司波がいるの？」 事件の後、葉山は遅れてやって来て「見学者ってことで連れて来たよ」 司波達也 司波深雪 西城レオンハルト 千葉エリカ 柴田美月 光井ほのか 北山雫 が奉仕部に体験入部にやって来た。 女子率高すぎだろ、が、俺はクールに決める。 「ゲームやるか？」 閑話休題 女性陣はえぇと困惑顔をして、同じ先輩に助け舟を求めると、民間船どころか航空母艦が来たんですけど… 乗ってくれた男子生徒、西城と司波には感謝だ。なんか面白そうだと葉山も参加したのだが、それは知らん。 「でも、なんでP○BGなんですか？」 北山が少し興味ありげに質問を飛ばすが、 お艦によって気にしなくていい、あのアホ毛だけがおかしいだけだからと。ま、それであってるのが悲しいところだが… 比企谷「で、なんで、司波を呼んだんだよ？」 葉山「だいたい分かっているだろ？」 あの後、壬生は生徒会に連れていかれた。後日についての段取りってわけで。だが、奉仕部としても何か話を聞かなければいけないのだが、さすがに生徒会の方が強いわけで、ならそれを知ってそうなやつから聞けばいい。 そして、葉山の目にはこの人しかいないというのが達也だったのだ。 葉山は交渉の席において、君の友達も連れて来てもいいよと、見学者がいないから助かると思って来てくれないかと頼み込んだ。すると、了承してくれたわけだ。 あいつ……いつの間に友達作ったんだ… なんか負けた気がしてならない…。 大和「あー、疲れた……！新人か！？」 雪ノ下「大和くん、そんなに扉で表現できるなんて凄いわね。まるで時代劇で真っ先に駆け出して行くようだわ」 これが奉仕部名物の雪ノ下の絶対零度毒舌である。俺たちでは普通の光景だが、ここを知らない奴らからすればゲンナリさせるのだろう。既に千葉や柴田なんかは肩を見ていまにも何か言いたげな目をしている。 大和「いやー、いつも通りの毒舌…ありがとうございます！」 絶句。 絶句。 絶句。 絶…いや長すぎだろ。ここはだれか声をかけてもらいたいところだが、俺はいま天下分け目の舞台に入ってるだわ。由比ヶ浜頼む… 由比ヶ浜「…………スゥ……ヤァ…」 寝る子は育つってことだな！何がとは言わない。 まずい、普段は俺が言うところだが、あ？ 西城「あーっ！？？」 相手の神グレが炸裂しました。 比企谷「……とりあえず、こんな部活だ」 [newpage] 「じゃあ任せたよ」と葉山はそう言い残し、何故か俺のおごりという約定でドリンクしてくるようだ、解せぬ。 達也「それで、何故俺を？」 部室に残ったのは雪ノ下、由比ヶ浜、俺、達也の4人のみ。 由比ヶ浜「私たちは今、さえりんのことについて調べてるの！だから、たっつーにも少し協力してほしいの！」 達也「た、たっつー？それは俺のことですか？」 由比ヶ浜「そうだけど…だめ？」 うるうる涙目で聞いてくるメロ…いやいかんいかん。こいつ基本だれにでもやってくるからタチが悪い。将来こいつに振り回される男は一体何人なのだろうか。 雪ノ下「司波くん、由比ヶ浜さんのあだ名付けは回避できないことよ。申し訳ないのだけれど我慢してくれないかしら」 困り果てた達也に極細で辛うじて耳に入る音量で雪ノ下が呟きかける。 達也「…分かりました。どちらも承ります」 その頃 千葉「あのー、一つ聞いていいですか？」 葉山「？いいよ。なんでもは無理かもしれないけど、俺に答えれるのであれば」 千葉「あ、私じゃなくて、ほのかが、ですけど」 光井「え！？」 深雪「顔に出てたわよ、ほのか」 北山「ほのか、バレバレ」 大和「まぁ、たしかに顔に出てたてきなー？」 光井「………！？」 葉山「大和、嘘は良くないぞ？」 大和「げっ！？なんで分かったの！？」 西城「大和先輩も顔に出てましたよ、な！」 一同『うん』 大和「そりゃないわー」 閑話休題 葉山「それで聞きたいことって？」 光井「どうして、おに…達也さんとあの3人の先輩方は残ったんですか？」 葉山「……これはそうだね…特別なんだ。あの3人は。」 北山「とくべつ？」 大和「俺らは後から入った人間なんだ。最初からいたのはあの3人。じゃ、詳しい話よろしクゥ！」 葉山「大和…奉仕部は平塚先生が去年作って雪ノ下さん、比企谷、由比ヶ浜の3人だった。『空を飛びたい人に浮遊魔法をかけるのではなく、浮遊魔法のコツを教える』みたいな方針でさまざまな依頼を受けてきたんだ。中には危険性の伴う依頼もあったと聞くね。その中で俺たちはある依頼をきっかけに奉仕部に助けられ、その縁で奉仕部に籍を置くようになったんだ。」 柴田「じゃあ、あの3人はいわば一期生で葉山先輩たちは二期生みたいなものと？」 葉山「そうだね。だから、依頼に詳しい話を聞くときはあの3人で、ということにしているのさ。あの3人の絆は特別、ということを表したいという俺たちの勝手な思い込みの勝手極まりないお節介さ」 [newpage] 比企谷「ま、葉山からある程度聞いてはいるが、お前ほど壬生について知っている人はいないだろう、てな訳でカフェで話してたこと話せれるだけ話してもらっていいか？」 達也「ああ、構わないよ。八兄さん」 由比ヶ浜「…？八兄さんってヒッキーのこと？」 雪ノ下「達也くん、ヒッキーという個体は比企谷くんのことよ。」 比企谷「俺はターミネーターか！？」 そんなこんなで俺と達也が知り合いであることが暴露された。 由比ヶ浜「ねぇねぇ、たっつー。ヒッキーってこんなだった？」 こんなって…さすがにちょいと失礼では？ 雪ノ下「司波くん、よければあの男の経歴を聞かせてもらっていいかしら。証拠は多い方が勝算はあがるから」 証拠って…異議あり！とでもいうつもりか？まあ、あれはものすごい面白いけどな。 司波「…いいですね。こういうの…嫌味を言っているようでも、暖かい気分になれるなんて。聞いているこちらもなぜか、居心地がいい場所のように思えるのは、先輩方が信頼しあっている証拠なんでしょうね」 こうして、達也に事情聴取を行うのに数分の遅れが生じたのは言うまでもないことだった。 別に照れてねーし！ほんとだし！ [newpage] 市原「というわけで受けていただけるでしょうか？」 雪ノ下「…それは本人の意思によりますが、私個人としては受けるべきかと」 およそ30分前 達也からの聞くこと聞いて、体験入部は早めに切り上げることになり、残ったのは二年生のみ。 ちなみに、柴田は帰ってきたとき部屋の中を注意深く安全を確保する動きをしていた。まるで、ここにはいない女王（ある意味）と遭遇しないように。 由比ヶ浜「そーいや、姫菜来なかったね」 確か、メールで今日は急な取材が入っちゃったから休むね。と報告があったそうな。 葉山「そうだね。…残念だろうね」 何がとは言わないでおこう。 そして、犯人はお前だな。 今日はもう終わりかなというころ、新たな依頼人が扉を叩いた。 現生徒会の会計、市原先輩であります。 何より参謀として活躍しているのが俺らの印象。生徒会は奉仕部によく遊びにくるのだ。もう隠すことはないだろうが、生徒会はあくまで視察という大義を使っている。でも、視察回数はもう両手で数えなれない。 とにかく市原会計も御一行の中にいるのだが、生徒会が奉仕部に依頼する際は市原会計ただ1人で登場する。1人で細かく早く依頼内容を説明するので都合がこちらとしてもあちらとしてもいい。尊敬に値する先輩だろう。 市原「まず、今日の夕方の一件のことで感謝を述べます。葉山くん、比企谷くんありがとうございました。」 葉山「いえ、こちらこそありがとうございます。無断で魔法を使ったことを問題にないことにしてくれたのは生徒会あってのことです」 比企谷「むしろ、扉壊れたから弁償しろと言われるかと思いました」 雪ノ下「そうね。事実から見ると、比企谷くんは廊下走って、扉を蹴った不良としか言いようがないわね。」 由比ヶ浜「まぁまぁ、ゆきのん。たしかに不良ぽいけど、結果的に良い方にくずれたんだから」 由比ヶ浜、崩れちゃだめだぞ。傾くんだよ。良い方向に行きすぎて悪影響及ぼす例えか？良い表現じゃねぇか！ 閑話休題 市原「ともかく、2人にはその後の事情をと思いまして、」 葉山と達也から聞いた通り、明日の放課後に生徒会と有志連合で討論の場を設けたとのこと。 市原「ですが、有志連合の言い分は脆いところがありまして向こうの意思を尊重できないのではと指摘が上がりまして」 ？ 市原「そこで、会長が『良い機会だから、より良くしたいと思うのよ！』などいうことを公言しまして、『無差別のオアシス』と呼び声高い奉仕部にも参加していただきたいのです。特に、二科生の比企谷くんに登壇してほしいのです」 こうして、俺に選択の時が来たのであるが、 比企谷「どうせ、俺に拒否権ないでしょう？」 大正解だったわ。 [newpage] 「明らか様に一科生は二科生を差別しています！これは追及に値する問題です！」 七草「では、その差別の具体的な例を挙げてもらいたいのですが」 「一科生の所属する部活動と二科生の部活動の予算の割り振りには明らかに優遇が見られますが！」 七草「これは、部活動の結果、成績を考慮した結果のことです」 比企谷八幡は今、めんどくさい立ち回りを義務付けられていた。もちろん抵抗しろよ、拳でもなんでも使えばよかったと思うが後の祭り。 ま、正直おまけポジションだからな。 七草「ちなみに比企谷くんはどう思いますか？」 やめてくれよ…会長…このまま無言貫くつもりだったのに…」 七草「…比企谷くん…声に出てるわよ。」 やっと、やっと、、治ったと思ったんだよ、、、〔思ったこと口に出す病〕 比企谷「…もうヤケクソだ。俺は二科生だから馬鹿にされていいから言うわ。俺なりの考え方」 会場騒然、無言の俺がついに動くと新たな場面へ変わったことを会場にいる生徒が俺に注目する。 比企谷「俺がここにいるのは、二科生だからだ。俺が今注目されるのは二科生だからだ。俺は今から二科生なりの使い道を説明するとともに、『実例』を元に紹介する」 戸部「ん？」 大和「ん？」 大岡「ん？」 比企谷「ある時、俺はサッカー部の姿を見た。そこには一年の一科生と二科生のストライカーがいた。一科生の方はチームメイト全員からパスを受けて練習の輪にいた。だが、二科生には滅多にパスは通らないというのだ。もちろん、二科生は不満タラタラだ。俺はそいつと話すときがあってこう言った。 『なら、お前はその下手くそなパス全て取れ。』そして、そいつは見事な立ち位置に動き続けることができた。 決まりゼリフをやつはこう言った。」 『すんません、俺二科生のくせに先輩のフォローしちゃって！だけど、先輩が変な方向にパスしても俺取りに行きますから！例え下手くそでも、俺はあなたを上手く見せてあげますから！』 と、挑発じみたことで自分は二科生だが、下手くそな先輩、一科生のために上手い自分がそいつのために動いてやると全員休憩中のときに大声出したことで部から一目置かれたわけです」 戸部「それ、俺のことだべぇぇぇ！」 「ぇぇぇぇ」「ぇぇぇぇ」 比企谷「はい、そこの男子生徒ちゃくせーき。風紀委員の方、お願いしまーす」 出てきた2年のイケメン風紀委員の人がどうどうと肩に手を置いて、沈めた。 比企谷「はい、まだありますよ。次はラグビー部の方ですけど」 大和「絶対それ俺だろ！？おい！やめろ！やめて！お願い！やめて下さい！」 比企谷「そいつは鈍いってことでサンドバック状態になってたんですね。タックルされたりと。俺は、タックル返しするために体を作れと進言し、そいつは一科生のタックルに平然と耐え、 『先輩、お手本見せますよ！オラァ！これがタックルですよ！俺二科生の馬鹿ですけど、実戦は自信があるっす！』 と言って、その背中を強く現した」 大和「おい！そいつを降ろせ！比企谷！絶対殴るぞ！オォイ！」 「ちょっ！静かにして下さい！落ち着いてください！」 比企谷「はい、もう少しで終わるんでお付き合い下さい。最後は野球部の大岡くんです」 大岡「せめて！せめて！俺だと思ったけど！名前は隠してくれぇぇ！」 比企谷「あー、彼はなかなかボールすら握られせてもらえず、ようやく投げあえると思えば相手してくれないというのです。すると、彼はフリーな先輩たちに向かって「せんぱーい」と声をかけてボールを投げたのです。拒絶した一科生の先輩は取りましたが、尻餅をついてしまったのです。 『すいません。俺二科生だから下手くそなんで…だけど、一科生の先輩なら俺のボール程度なら目を閉じても取れると思ったんすけど…期待しすぎたっすね』」 大岡「…………はぁ……」 頭を抱え、終わった…とブツブツ呟き悲惨な状態に。ま、まだマシだな（他人事） 比企谷「このように、二科生は一科生に劣る。これは事実として受け止めているからこその行動だ。俺は差別的発言は仕方ないことだと思う。だが、それが許されるのは完璧な実力を備えるものだけだ。二科生が一科生に劣るということを認めればそれに準ずる利点が見えるというわけだ。例えばテロが起きたとしても、一科生は上に立つ責務として二科生の前に出なければいけないと俺は考えるけどな。ま、そんなことないだろうけどな」 その後、生徒会長のありがたい演説によって暴走者3名を出し、見事俺は役目を果たした。というか、俺いなくて良くね？とも思いつつ、拍手を送っていた その時であった。 突如響く銃声、爆発音。 比企谷「フラグ立てたの誰だよ！」 [newpage] 広場騒然、投げ込まれるフラグではなくガス弾。 怪しい動きをする二科生。あいつ、隣の隣の隣のやつじゃん。多分。 そいつらを拘束する風紀委員。 入場口には司波兄妹が決意を秘めた様子で走り去った姿を見た。勇気ある行動だな、よほどの自信があるのか。 葉山「みんな行くぞ！」 さすがは2年の代表生。が、続く声は小さい。 戸部「やるべ！」 大和「この怒り！」 大岡「ぶつけてやろうじゃねぇか！」 三馬鹿はいつも以上に闘志に溢れた殺気をもろに出していた。 葉山「…やっぱり、お前たちだな」 葉山は満足気に愚痴をこぼし、文字通り飛んで乱戦地に向かった。 雪ノ下「お疲れ様、比企谷くん。」 比企谷「なんだ、雪ノ下か。出動か？」 横にひょこっと現れた我らが部長さまに驚いている様子を作り、左を向くと、雪だるまがいた。雪だるまがいた。のだ。もう一度言う。雪だるまがいたのだ。 雪ノ下の魔法を簡単にあらわすと『雪』『氷』である。 気温調節を使うことで真夏の太陽の中でも雪だるまが存在できる。 より詳しく言うと、25m×25mのプールがあるとする。 その中心にブリザードを生じさせる魔法により、氷となり、ブリザードを調節することで巨大雪だるまが出来るのだ。 この雪だるまの心臓はブリザードである、のでブリザードが無くなれば雪だるまは崩れる。 ブリザードを心臓とするなら肋骨や胸骨は水、氷がその代わりとして機能している。 比企谷「そういや、この雪だるまは自動で動くようになったって言ってたな。」 雪ノ下「え、そうだけれど…覚えていたの？」 比企谷「そりゃあな。あんなに自慢めいていたこと何回も聞かされたら…って、ん？」 俺の二つの目には若干顔を赤く染め、俯いている雪ノ下が映っている。 比企谷「（これは別の話題にしたほうがいい）…ところで、これは誰の命令を聞くんだ？ゆきのしたさーん？」 雪ノ下「……んんっ！…命令権は私だけれど、私が例えば比企谷くんの指示に従えといえばあなたが動かされるわよ。だから、これを「雪ノ下さーん！出来たー！？」今から前線に行く三浦さんに渡すところよ」 雪ノ下は遠距離から攻撃を出す。というのは大半がそうだが、雪ノ下は近接戦に持ち込まれるとある程度動かれるが、持ち前のスタミナ不足であっさり負ける。俺と初めて会って、その日のうちに手合わせしたときは俺が粘り切ったことで距離を詰められ敗北し、その一件から雪ノ下は雪だるま、雪のゴーレム。すなわち、 比企谷（雪乃ゴーレムだな」 …まーただよ。口に出しちゃった。流石にゴーレムはアウトだな！うん！ここは逃げるか！ 比企谷「すまん、雪ノ下。俺も様子見てくるわ。しかし、雪ノ下はやっぱすげえな」 と、申し訳程度の褒め言葉を置いて俺は走り逃げた。 雪ノ下（…な、名前でよばれた！？…それに何よ…なんで今日はあんなに褒めるの！？） と、下手人の姿を見えなくなると蹲り、うーうー零す紅い少女がいた。 三浦「結衣、雪ノ下さん起こして」 由比ヶ浜「…そうだね」 このあと、由比ヶ浜からの情報で三浦は雪乃ゴーレムにのり見事な連携を見せたそうだ。 [newpage] 比企谷「まぁそんなもんだよな。」 逃げてきた生徒から（こっそり）話を聞くと、大乱戦と聞いたが、 平塚「防御魔法を使えるものは前へ！決して突出するな！四方向は味方であると確認してから攻撃を行え！」 遅れてやってきた平塚先生が自慢の拳で銃弾を弾き飛ばしながら、敵を殴り飛ばしていた。 グローブ型のCADは身体能力を底上げし、そして、 平塚「衝撃のォ！ファーストブリッドォォォォ！」 拳の波動がとんでもない迫力で相手を喰らい尽くす。 実は、よくふざけたことを言うと平塚先生から拳骨をもらうが、素の状態で激痛だってのに…あれ骨折れてんじゃね？ 駆けつけた教師によって纏まりつつあるが、何よりも戦局を変えたのがあいつらだろう。 葉山「大和！フォローする！」 大和「行くぜぇ！オラオラオラァ！」 大岡「最近肩の調子がいいんだよなぁ！」 戸部「足で魔法を跳ね返す俺ってば、○NEPIECEのサ○ジだべ！」 三（馬鹿脳筋）騎士と王子はやはりそこにいた。 三馬鹿は成績が悪く、技能もすごいわけはないだが、実戦は2年の中でダントツだ。 大和は体の前身のみ、のみに硬化を施し、恐怖心というものがまるでない突撃を行う。さすがはラグビー部だ。怖気付いていては話にならないのは二つの戦場において当てはまるのも手伝っているだろう。 しかし、体の後ろ側は強化が届いていないので絶対防御とはいかない。現に、後ろから魔法を打たれようとしているが、その前に頭に何かが当たって倒れた。 大岡の投球による援護射撃である。 大岡は左右の腕力を強化し、繰り出される拳は凄まじい。その威力は平塚先生と互角であるが、しかし腕力が同じなだけなので体がついていけない時があるそうだ。 その前に倒せばいいとのことだ。野球部の肩は侮れないのだ。 突撃した大岡に遅れて、参戦したのは戸部である。 戸部は自慢の脚を用いた攻撃を行う。この強化は『軟化』である。ありえない位置からの攻撃は奇襲となり、相手を惑わすのが特徴である。やはり相手に悟られないのがストライカーの仕事なのだろうか（適当） 彼らはただの強化だけでなく、耐魔法の術式も組み込んでいるのでほぼ無敵なのだ。 西城「すげぇ…俺もやってやる！」 優秀な後輩のためになっている…だと！？ 西城、その先はただの馬鹿になりかねないから参考にしてもいいが、より賢い選択をしろよ？ 少ししてから、司波兄妹と千葉が負傷した壬生を連れて一高の機密情報防衛を完遂し、一高始まって以来の大騒動は終わったのだ。 [newpage] 比企谷「すまなかったな、依頼は1年の司波に横取りされちまって」 桐原「いや、構わねえよ。あんたらが動いていたのは分かってた。」 ここで、俺のアンテナ〔アホ毛）が疑問を検知した。桐原にいつ、報告した？ 桐原「お前は目立つことをしない、避けると聞いてたがここんとこ目立ちまくりだからな。何かしらの目的がもとになってるのは分かるさ」 ものすごい不本意だが、こちらとしては納得してもらえれば何よりなのでグッと堪えるのが俺の役目でもある。 桐原「だけどな、俺は十分だと思うんだ。お前は二科生だけど、その存在は俺のクラスでも大きくてな。中にはすごいというやつもいる。お前の考え方は必要だ。壬生もお前と早く出会ってれば違ってたのかもしれないな」 比企谷「手っ取り早いのは、お前が素直になることだな」 桐原「……は？」 比企谷「一途なのはいいことだな？桐原」 おいおい、無自覚とはいいもんだね。なにこれ、少女漫画か？どこの鈍感ラブコメだ？ そろそろ壬生が目覚めるだろう。部外者の俺は退散するかなと。 後ろでギャーギャー騒いでる純粋な男がそこにはいた。 メール内容:奉仕部 今日の部活は休みにします。もし負傷者がいるのなら病院に行った後、私に連絡してください。 というわけで、内密な1日を比企谷八幡は夕日の坂を下りながら、暗くなりつつある道を 進んでいくのであった。 一高襲撃収束から数時間後 とある廃工場にて ここまでの経緯を説明すると、 司波兄（桐原版）は一連の騒動の黒幕であるブランシュのアジトを突き止め、 司波兄妹 千葉エリカ 西城レオンハルト 十文字克人 桐原武明 らとともにカチコミ入れた状況。 千葉「…暇」 西城「おい、気を抜きすぎだろ？仮にも敵のアジトの真ん中だぜ？」 この2人は逃走した犯人たちを取り押さえるために待機している。とは言っても突入した面々なので、どうせ逃げれるやつはいないだろうと考えているわけである。 西城「ま、といっても今回はお預けだろうな…ぅくァ〜」 と、背を伸ばしきっている2人である。 ここで重要なのはいかに視野を広げているかということ。自分の周囲をまず記憶し、そこに何か変化、不純物が紛れてしまい景色が変わってしまったときに反応すれば良い。この2人も中々の観察眼を持っているが、抜きん出ているのはどちらか？ もちろん千葉エリカの方である。 千葉（…！？何？） 剣道の道のエリートは数々の猛者と剣を交えてきた。その中で様々な種類を知った。隠すことない闘志、溢れるばかりの情熱、 冷たい殺気を。 千葉（これは…どこだ？） 目を閉じて感覚を研ぎ澄まし、先ほど感じた気迫を探すが、なんと見つからない。 千葉（だけど、方向はなんとなく分かる。確か…！？） 夕日が落ち、西の端くれに篝火のように伸びた雲が照明となってはいるがそこは暗い森の木々であったが、 太い幹から伸びた一部分だけ何も見えないのだ。 その横の枝の後ろ側にはまた別の木の枝が見えるのに、そこは、千葉が見ているそこは何も見えない『闇』であった。 千葉「レオ！あそこ！」 西城「え？」 千葉が指したそれは西城が視認するとともに闇は遠ざかっていく。 千葉「逃がすか！」 加速魔法発動 脚力による速さを加速 西城「っと！おい！待てって！」 急発進した千葉に西城は置いていかれる形に。 千葉（…あいつも加速魔法を使ってるようね） 木と木を飛び移る速さとその判断力によって千葉から逃がれる最優ルートを編み出している。 その距離は少しずつ離されていき、50メートルほどになった時、闇は縦横に広がった。 それは木の枝を切り落とし、千葉の追撃を止めるためのものであった。 千葉「…っ！くそ！」 飛んでくる枝の先端は綺麗に尖っており、流石に危険度は高い。千葉は立ち止まって打ちはらうことをしなくてはならず、終わった頃にはもう闇はいなくなった。 千葉（…今のは…） この後、千葉は道すがら削っていた木の幹を辿り西城と合流を果たした。 達也（……気のせい…なのか？） 千葉が感じ取ったあの一瞬、達也も気づいており、その存在は彼の考えるパターンのどれも当てはまらない不気味なものと印象付けた。 達也（ともかく…これで終わったな） 拘束したものたちを然るべき場所に送るために十文字克人が手配を呼び、ようやく全てが終わった。 [newpage] とある国道の中、 「うん？ありゃあ人か？」 一車線の道であり、運転手は対向車線に立つ影を見つけた。 夜中ということもあって車の通りは少ないので、気にすることはないが、先頭車両の運転手は不気味な影から逃げるためにスピードを上げた。 そして、2車両目、３車両、4車両、と同じことを繰り返すが、車道に立つ男は動かない。 「ゆうれいじゃないよなあ？ってあ？」 最後尾の車両は爆発音とともに炎の中に消えた。 「な、なんだ！？」 静寂な夜の中の衝撃音は先頭の車にまで伝わり、一度停止した。 最後尾から2番目の運転手は一度降りて、 低姿勢でこちらに走り来る男の目を 見てしまった。 「うわぁぁぁ！」 再び闇に囲まれたなかで悲鳴と爆発が聞こえた。 「に、逃げろォ！」 この護送車には重傷者が乗っていた。 それも1車両につき10名ほど。 なのでかなり大型車両なのだ。立ち上がりよスピードが遅く、すぐに後続車両は爆破されてしまう。 かろうじて時速100キロていどで走行できるのは残り2車両となった。 100キロなのに、運転手には恐怖が消えない。2車両目はカーブ地帯に入ってしまったからだ。どうしても減速をせざるを得ない状況で、高速のテンポでふみ鳴らす音が聞こえる。 「あ、ああああああああああああ」 パンクさせられた車両はカーブの谷に落ちていく。その谷の上空には光陣が展開され、またここに光と音の衝撃がたった１つとなった車両に届けさせられる。 既に先頭車両はカーブを超えて、直進の道に入った。ここなら限界のスピードを出して逃げれるかもしれない。逃げれるのだ。 背後から仕向けられた暗器を遮ればの話だが。 タイヤに違和感を感じ、思わず運転手は窓から首を出してしまった。間髪入れずに運転手は窓にもたれかかり動かなくなってしまう。その眉間には黒のナイフが突き刺さっていた。 運転手はハンドルを左手で抑えていたが制御が不可能になったのでハンドルが横に回り、猛スピードで横向きに倒れてしまう。 その衝撃ですでに、命を落としてしまった数は多いが、光陣には関係ない。 確実な死をもたらすのが役目だ。 「ま、まて！」 ふと、声がバスから聞こえた。 「た、頼む！た、た、助けてくれ！殺さないでくれ！そ、そうだ！取引しよう！僕を生かしてくれたら君のためになんでもする！だから！助け」 俺は手をかざし、太刀を生み出す。 その太刀はまさしく地獄の炎。 全てを焼き尽くす炎を生み出し、全ての炎を飲み込む一太刀、 「では、死ね」 焰は揺らぎ、至高の試し切りの素材を喰らう。 ２つになったバスは爆発することなく炎となる。焰は包み込み、中にあるものを全て亡き者にしていく。 「…助かるわけないだろ。お前らは殺せと言われてる。国家の安全を脅かすものは殺す。」 「…しかし、俺にしかできない仕事だな。一般人も殺せなんて…ま、『ただの』ではないな。」 彼らは『十文字克人』が手配した運転手である。救護隊員もまた然り。この失態はどうあれメディアに映り、十文字家は後手に回る羽目になり最悪の場合、国が大きく動く。 「十師族か…」 こうして、『2nd』は闇の中へ進んでいく。 「依頼完了」 [newpage] あとがき 比企谷八幡の設定細かく詳しく Fat○の慢心王をイメージしていただければ早いと思いますので基準点をそこにしていただきたいと思います。 比企谷八幡は『仕事』になると両掌に切り込みを入れます（この傷はもちろん修復可能） 左は入力機能、右は出力機能として働き、 左の傷による紋章で石ころ、小枝、などなどを入力し、光陣へ移動しセットする。 右のパッチンで形を操作、そして、［付加］魔法により、爆発、衝撃、炎などをエンチャントできる。 しかし、［付加］できるのが１つなら量産できるが２つ以上となると五本までしか付加できない。 ＊黒塗りの暗器は比企谷家特製なのです。 ちなみに今回の太刀は 〈煉獄ヲ裁断ス切ッ先〉であります。 エンチャント ［常時発火］ならぬ［常時炎上］ ［常時発熱］ならぬ［常時灼熱］ ［炎吸収］ より成り立っている。 実はまだ設定があるのだが… また今度なのだ！ 次回は九校戦編です。 タイトルキーワード 休校せん？

なんかどこで止めたらいいのか分からず、やめられなかった…俺は！悪くない！<br /><br />というわけで少し長めですがどうぞヨロシクです。

依頼完了

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読んで下さっている方々、ありがとうございます！応援のコメントとても嬉しいです！ さて、今回から九校戦編ですが、少しゆっくり投稿しようと思います。 自分、受験生なもんで・・・・ ・・・テストとか・・・勉強とか・・・ スピード投稿を評価していただいた方々、申し訳ありません。 今後とも応援してくれれば幸いです。 [newpage] 期末試験を終え、現在一高は九校戦に向けて、慌ただしい空気に包まれている。 ちなみに期末試験の結果は、 一位 司波達也(実技 一位、筆記 一位) 二位 アンジェリーナ=クドウ=シールズ (実技 二位、筆記 四位) 三位 司波深雪(実技 三位、筆記 二位) 今回達也は、入試の時に手を抜いたのを怒られたのもあって本気で受けていた。また、今試験の実技が発動速度を重視するものだったので、リーナが二位につけている。 「・・・うーん。優秀な子が多いのは喜ばしいんだけど、逆に決まらないわねぇ」 「ああ。司波とシールズを同じ競技に出すのはもったいないしな・・・」 今、真由美と摩利は深雪とリーナをどの競技にするかで悩んでいる。ちなみに達也は抵抗むなしく、本戦スピードシューティングと新人戦のエンジニアが内定している。流石の達也も三巨頭＋身内(両親含む)の圧には折れざるをえなかった。 「それでしたら、シールズさんには本戦のピラーズブレイクに出て貰ったらどうでしょうか？今のところ千代田さんだけですし、シールズさんの発動速度は有利にはたらくでしょう」 鈴音がリーナの長所を考慮し提案する。 「やっぱりそれが良いわよね。達也君、リーナちゃんの調整もできそう？」 「自分の競技は初日で終わりますので大丈夫だと思います。深雪の方はどうされるのですか？」 「深雪ちゃんは新人戦ピラーズブレイクとミラージバットの二種目出場よ」 深雪の実力からして二種目は当然だろう。リーナは一年での本戦出場を考慮して一種目なのかと納得する。 「それより、放課後には代表選定会議があるから忘れないでね」 「了解です。しかし、反対がでるのは確実でしょうね・・・」 一年でのエンジニア入りは前例がない。無駄にプライドが高く、選民意識にとらわれた生徒が黙っている訳がないだろう。 「まあ、達也君なら大丈夫よ。実力を見せることになると思うから頑張って！」 ハートが飛んできそうなウインクを真由美が送ってくる。面倒なことこの上ないと、達也はもう一度ため息をこぼすのだった。 [newpage] 放課後 九校戦代表選定会議 「どうして一年がエンジニアの内定席にいるのですか！」 案の定反対の声があがる。反対しているのは達也が活躍するのが面白くない生徒たちだ。男子が多いのは気のせいではないだろう。むしろ達也は、思いの外好意的な意見が多いことに驚いていた。 「彼は私と十文字君で推薦しました」 「一年には荷が重いでしょう。代表に相応しいとは思えません」 反対している生徒たちは「一年だから」など、自身の感情を優先する反論ばかり並べている。ここで、克人が口をひらく。 「九校戦は実力のあるものが選ばれるべきだ。なら、達也の力を見せるのが一番はやい。ちょうどいい。俺のを調整してくれ」 「なっ！司波の実力が分からないのに危険です！」 「問題ない。俺や七草のＣＡＤは定期的に達也が調整している」 「っ！」 克人の発言に反対している生徒たちは絶句する。十師族の克人や真由美の調整をしているという事実に、達也の能力の高さを理解させられたのだ。 今、達也は服部のＣＡＤを調整している。あの後、真由美が「十文字君ズルい！」とかいい始めたので、鈴音が服部を指名したのだ。 達也は服部のデータを取り終えると、しばらくの間、怖いほどに真剣に画面を見ていた。興味にそそられたあずさは、後ろからそっと覗きこむ。 「ほえ？」 あずさは乙女らしからぬ声を出す。つられて覗きこんだ生徒たちは言葉を失った。画面にはグラフや図ではなく、高速で流れていくアルファベットと数字の羅列。調整の知識がない生徒たちも、何か凄いこと行われていることは理解できた。 ほどなくして画面が切り替わり、達也が高速でキーボードを叩いていく。それから五分とたたないうちに調整が完了した。 「服部、感触はどうだ？」 「凄いですね・・・。自分のＣＡＤよりも使いやすいです。効率もあがっています」 克人は満足そうに頷く。達也の調整を受けている身として共感できるのだろう。 「達也は代表に相応しい技量を示した。異論のあるものはいるか？」 反対できるものはいない。この時をもって達也のエンジニア入りが決定した。 [newpage] 司波家 夕食を終えた達也に一本の電話が入った。 『こんばんは。選手兼エンジニア決定おめでとう』 「つい三時間前のことなのですが・・・」 相手は真夜だ。達也のツッコミには答えず、真夜は本題にはいる。 『達也、今年の九校戦は気をつけなさい』 「何かあったのですか？」 『軍から不審者が確認されていると連絡があったわ。香港系犯罪シンジケートだと推測されています』 「了解しました。注意します」 達也は軍の施設に侵入とは無謀だなと思いながら了解の意を示す。すると、真夜は真面目な話はもう終わりと、年齢を疑いたくなる笑顔にかわる。 『そんな事より、当日は姉さんと一緒に応援に行くからね！お母さんにカッコいいところを見せてちょうだい』 「母さん、落ち着いてくれ。応援してくれるのは嬉しいが、母さんが来たら四葉の関係者がいるとバレるんじゃないのか？」 『そこは大丈夫よ。うちと七草家が親交があるのは公然の事実。真由美さんの応援と考えてくれるはずよ』 不仲だった四葉家と七草家が関係を修復したのは誰もが知る常識であり、それから親交があるのは多くの人が知っている。 それでも不安は残るが真夜の意思を変えるのは無理だろう。それに達也も応援に来てくれるのは素直に嬉しい。結局、身内に甘いのだ。 「分かった。母さんの期待に応えられるよう頑張るよ」 『ふふ。お母さん頑張って応援するわね』 達也と真夜はしばらくの間、和やかに会話を楽しんでいた。 翌日 体育の授業 魔法科高校とはいえ普通の体育の授業も存在する。今回は１ーＢと１ーＥの合同で行っている。Ｂ組はエリート意識の低い生徒が集まっているので、互いに楽しくスポーツにいそしんでいた。 「ナイスシュート。吉田」 「いい動きだったね」 「幹比古だ。名字で呼ばれるのは好きじゃない」 達也と鋼はＥ組の生徒 吉田幹比古に話かけていた。 (吉田家の神童か。レオやエリカといい、Ｅ組はなかなかの逸材揃いだな) 達也はそう評価し、自己紹介をする。 「司波達也だ。俺も達也と呼んでくれ」 「僕は十三束鋼。鋼でいいよ」 「オーケー、達也、鋼。実は二人とは話してみたかったんだ」 司波達也。風紀委員として、ほとんど魔法を使わず体術でしずめ続け、学校中から評価されている(恐れられている)人物。 十三束鋼。自分と同じような立場にいながら、努力を重ね百家最強と言われるようになった人物。 幹比古は二人の力の根元はどこにあるのかずっと気になっていた。 「実は俺も幹比古とは話してみたかったんだ」 「え？達也の関心をひくようなことはしてないと思うけど？」 「何を言っているんだ？筆記試験で三位に入っていたヤツを気にするのは普通だと思うんだが」 「いや・・・、一科の人は筆記はあまり気にしないと思っていたよ」 「自分で言うのもあれだが、俺は頭脳派だからな」 「ホントに自分で言うことじゃないよ？」 幹比古はこの二人とは上手くやっていけそうだと思った。そして、何か手掛かりが掴めるかもしれないと感じていた。 [newpage] 司波家 地下研究室 「タツヤ、入るわよ」 「従兄様、失礼します」 達也は頼みたいことがあると地下研究室にリーナと深雪を呼んでいた。 「それで、頼みたいこととはなんでしょうか？」 「ああ。このデバイスの実験を手伝ってほしいんだ」 そう言って達也は二人の目線まで浮き上がり、水平に移動する。それを見て、二人の顔は驚愕にそまる。 「飛行術式！ついにやったのねタツヤ！」 「さすがは従兄様です！また魔法界の歴史を塗りかえられましたね！」 リーナと深雪は手放しに達也をほめたたえる。達也は柔和な笑みを浮かべ、 「ありがとう二人とも。飛行デバイスのテスト手伝ってくれるかい？」 「「もちろん(です)！！」」 リーナと深雪は、快挙に立ちあえたことに感謝しながら、初めての「飛行」に幼い子供のようにはしゃいでいた。 翌日 ＦＬＴ 達也は深雪とリーナをつれＦＬＴに訪れていた。 [[rb:ＦＬＴ>フォア・リーブス・テクノロジー]]、達也が天才魔工技師トーラス・シルバーとして所属している世界有数の企業だ。達也が発明したループキャストシステムを搭載したＣＡＤは全国シェアを一手に握っている。ちなみに社長は深夜だ。 ＣＡＤ開発第三課。そう書かれた部屋に達也たちは入っていく。 「あっ、御曹司！」 達也たちに気が付いた研究者が声をかけてくる。ここの研究者たちは達也を尊敬の意を込めて「御曹司」と呼んでいる。ちなみに深雪は「お嬢様」、リーナは「姫」である。 「こんにちは。牛山さんはいますか？」 「お呼びですかい、ミスター」 灰色のツナギを着た男性が出てくる。 ＣＡＤ開発第三課主任 牛山欣治 ハード面に特化した職人肌の人物でトーラス・シルバーの片割れＭr．トーラスだ。 「牛山さん、お邪魔しています」 「よしてくださいよミスター。ここにいるのはアンタの部下。もっと堂々としてください」 「皆さんは叔母上に雇われているはずですが・・・」 「社長には感謝してますぜぃ？だがここにいるヤツらはシルバーであるアンタと働きたくてここにいるんでさぁ」 「それを言うならＭr．トーラスあなたもでしょう？」 「俺は単なる技術屋で・・・、やめだ、やめ。御曹司には口では勝てねぇ。ところで御曹司、今日はどういったご用で？」 「オーケー。今回はこれです」 そう言って達也はデバイスを渡す。それを見た牛山の顔が緊張で固まる。 「・・・これは飛行デバイスですかい？」 「えぇ、今は十機しかありませんが」 「・・・テストは？」 「俺とリーナと深雪が。しかし、俺たちは普通の魔法師とは言えないので」 牛山は近くにいた研究者に声をかける。 「おいテツ。コピー機何台ある？テスターは何人だ？」 「七機です。テスターは今日は休みです」 「バカ野郎！何でもっと用意していない！ありったけ持ってこい！テスターどもも引きずってでも連れてこい！わかってるのか！？飛行術式だぞ！？魔法の歴史がまたひとつ変わるんだ！」 聞いていた研究者たちは慌てて動き出す。 「テスター１。デバイスを起動」 テスターがスイッチをいれる。するとゆっくりと上昇していく。 「テスター１。水平に移動」 「と、飛んでいる・・・。僕は飛行しているんだ・・・。僕は自由だ！！」 歓声があがる。そんな中、達也は真剣な表情で分析していた。 「牛山さん、どうですか？」 「サイオンの吸引効率が悪いですね・・・・ハードでなんとかしましょう」 「ふっ。実は同じ事を考えていました」 「それは光栄ですな」 達也と牛山は研究者としての顔で互いに笑みを浮かべた。 二日後、飛行術式が発表されトーラス・シルバーは魔法界からさらに注目をあびる存在になる。 [newpage] 今日は九校戦の懇親会があるためバスで会場まで移動する。真由美が家の都合で遅れたりしたが、無事出発することができた。達也はリーナの隣の席に座り、後ろの席の深雪や前の席の雫、ほのかを交え雑談をかわしている。 そこから離れた席で一人憂鬱そうな女子生徒がいた。千代田花音だ。婚約者の五十里と一緒にいられなかったのが不満らしい。ふてくされて外を見ていた千代田が声をあげる。 「危ない！」 一台の車が車線を乗り越えてバスに突っ込んでくる。 生徒たちは混乱し、魔法を発動する。しかし、冷静さを欠いた生徒たちは相克が起きることを失念し、魔法を発動することができない。ここで達也が動く。 「魔法式は俺が吹き飛ばします。深雪は火を。克人さんは障壁をお願いします」 「分かりました！」 「了解した！」 達也は、分解魔法『[[rb:術式解散>グラムディスパージョン]]』を発動する。それに合わせ深雪と克人がそれぞれ魔法を発動して、車は何とか止まった。 (これも香港系犯罪シンジケートが絡んでいるのか？とすれば狙いは一高。これだけでは終わらないだろうな) 事故の現場検証を終えた達也はそう分析し、今回の九校戦に一抹の不安を覚えていた。 懇親会 会場 「お飲み物はいかがですか？」 見知った人物が飲み物をすすめてくる。 「あらエリカ可愛い格好してるじゃない」 「ふふーん。そうでしょ、そうでしょ。達也君はどう思う？」 「よく似合っている。大人びて見えるな」 「はぁー。さすが達也君、ミキとは違うわね。ミキなんてコスプレとか言ってきたから制裁してやったわ」 「ミキ？それって誰なの？」 深雪とリーナは首をかしげる。達也は幹比古のことかなと予測をたてる。エリカは幹比古とは親しいのだろう。 「吉田幹比古よ。達也君は知ってるみたいね。幼馴染みたいなもんで、幹比古だからミキ。本人は嫌がってるけど」 嫌がってるならやめてやれと三人は思う。エリカは仕事があると戻っていった。 すると、雫とほのかが近づいてくる。 「達也さんたちここにいたんだ。見あたらないから少し探した」 「それは悪かった。他の一高生は？」 「あっち」 達也は雫が指差した方を見る。すると、目線をそらされてしまった。 「皆達也さんがいるから、深雪やリーナに話かけられないでいるんだよ」 「俺は番犬か何かか・・・」 「タツヤに張り合うだけ無駄なのにね。プライドが高いのも考えものね」 達也は苦笑し、リーナは呆れたとため息をはく。 「深雪、リーナ。皆のところに行っておいで。チームワークは大切だからね」 「それなら従兄様もご一緒に・・・」 「俺が行くのは逆効果だろう。俺は壁際にいるから後でね」 そう言って達也は壁際へと移動する。リーナと深雪も渋々といった様子で一高生のいる一角へと移動した。 三高生の一角 「おい、あの子たちめちゃくちゃ可愛くないか？」 「俺は金髪の子だなー」 「おいおい黒髪こそ[[rb:正義>ジャスティス]]だろ」 深雪とリーナを見て、騒がしくなる三高男子たち。 「へぇー。綺麗な人たちだね将輝。・・・ちょっと将輝？」 返事のない将輝こと一条将輝に吉祥寺真紅郎が顔をむける。将輝はじっと二人、正確には深雪を見ていた。 「なあジョージ。彼女のこと知ってるか？ほら黒髪の方の」 「将輝が誰かに夢中になるなんて珍しいね。彼女は司波深雪さん。隣にいるアンジェリーナ=クドウ=シールズさんと並んで一高のエースをはっているらしいよ」 「司波深雪さんか・・・」 将輝はしばらくの間、深雪のことを見続けていた。 将輝たちとは別の一角。ここに将輝とは違う意味で深雪たちに目を奪われているものがいた。 一色愛梨は潜在的な畏怖を覚える。 (あんな子たちが存在するの・・・！) 愛梨も自身の容姿にはそれなりに自信があったが二人と比べると劣ってしまう。愛梨は意を決して話しかける。 「初めまして。第三高校一年一色愛梨です。さぞかし名家の方とお見受けするわ。よろしければ名前を伺っても？」 「第一高校一年司波深雪です」 「アンジェリーナ=クドウ=シールズよ」 愛梨は二人の名前を聞き驚愕する。一つは「九島」の名前。もうひとつは「司波」の名前。 「あら、そちらは一般の方でしたの。失礼しました。それで、あなたは九島烈閣下の親族の方かしら」 どうやら愛梨は家の名前を気にするお嬢様のようだ。この手の人はたくさん関わってきたので深雪は微笑みをくずさない。リーナは不機嫌そうな顔を隠せていないが。 「あなたの思っている通り九島家に連なるものよ。けど家の名前だけで判断するあなたとは仲良く出来そうにないわ」 「あら九島家に連なるものとしてどうなのかしら。私たちは一般の方とは下地が違うのよ」 愛梨とリーナの間に火花が散る。 「まあいいわ。私は[[rb:本戦>・・]]ミラージバットと新人戦クラウドボールに出場します。あなたは？」 「私は本戦ピラーズブレイクよ」 「あら、残念ね。それではお互い頑張りましょう。優勝は三高がもらいますわ」 そう言って愛梨は去っていった。 「何あれ！ムカつく！」 「落ち着いてリーナ。油断してくれているのだから、むしろありがたいわ」 「・・・ミユキ、あなたやっぱりタツヤの従妹ね・・・」 「褒め言葉として受け取っておくわ。それより従兄様のところにいきましょう？」 [newpage] 『ご静粛に』 流れてきたアナウンスに今まで談笑していた選手たちは黙る。 『九島烈様よりお言葉を頂きます』 ステージにスポットがあたる。しかし、そこにいたのは烈ではなく美女。選手たちは手違いかと騒がしくなる。そんな中、達也、リーナ、深雪は何が起きているか理解していた。 「精神干渉系魔法か。先生は相変わらずのようだな」 「私たちも何回も騙されたものね。お祖父様には困ったものよ」 「あら、ずっと騙されたていたのはリーナだけよ？」 「うっ！///」 達也たちは烈の相変わらずの様子に笑みをこぼしながら美女の後ろに視線をやる。すると烈はニヤッと笑うとステージに姿を現す。 「まずは私の悪ふざけに付き合わせたことを詫びよう。今のは初歩的な精神系魔法だが気が付いたのは六人だけだった。つまり何かと言うと・・・」 烈は一度会場全体を見渡す。 「私がテロリストだった場合、対処できたのは六人だけということだ」 息をのむ選手たち。 「使い方を誤った大魔法は、工夫を凝らした小魔法に劣る。魔法は道具だ。使い方しだいで無限の可能性を秘めている。諸君、私は君たちの工夫を期待している」 魔法界の頂点にいる人物が魔法を「道具」だと言い切ったのだ。言葉の重みが違う。遅れて拍手が鳴り響く。 「やはり先生には敵わないな」 「老師というのは伊達ではありませんね」 達也たちは、改めて自分たちに魔法を教えてくれた恩師へ尊敬の念を抱いた。 宿泊施設 大浴場 懇親会を終え、一高一年女子たちは大浴場に来ていた。女三人集まればなんとやら。彼女たちは懇親会で見かけた男子たちがどうのだとかで盛り上がっていた。 「三高の一条君見た？かっこよかったね」 「一条君と言えば深雪のことじっと見てたけど、一目惚れかな？」 「深雪ならありえる！ねぇ、ねぇ、深雪的にはどうなの？」 「一条さんはどういう方なの？全然気づかなかったのだけれど」 「うわー。やっぱり深雪は司波君みたいなのがタイプなの？従兄妹ならセーフよ？」 「うーん。従兄様は素敵な方だとは思うけど恋愛対象でみたことはないわ。幼い頃から兄妹同然に過ごしてきたもの」 「えー、面白くないなぁ。あっ、やっぱり司波君はリーナのものなのかな？」 深雪が弄れないと分かるやいなや、リーナへとターゲットをかえる。当然リーナは平静を保つことなどできない。 「へっ！///い、いや、タツヤは私のものとかじゃなくて・・・///」 「ふっふっふ。隠せていると思っているのかな？リーナが司波君のこと好きなのは皆知ってるわよ」 「えっ！？///な、なんで！？///」 「さあ何ででしょう？それより色々聞かせてもらうわよ！」 この後、リーナは散々弄られ続け、風呂に入る前より疲れがたまったのは言うまでもない。 [newpage] リーナが友人たちに弄られている頃、達也は作業車でＣＡＤの調整をしていた。 「司波君。そろそろ上がった方がいいよ。明日は早速競技があるんだから」 五十里に声をかけられ時計を見ると十時をまわっていた。 「ありがとうございます。では、先に上がらせてもらいます」 達也は作業車を出たあと、散歩をして帰ることにした。しばらく歩いていると敵意、正確には殺気を感じた。 (侵入者！おそらく例の犯罪シンジケートだろう。場所は・・・あっちか) 達也は『[[rb:精霊の眼>エレメンタルサイト]]』で侵入者を捕捉する。そうすると、侵入者の他に存在を感知する。 (これは幹比古？・・・だめだ！それでは間に合わない！) 達也は幹比古が交戦している敵の武器を分解する。直後、敵を雷がうがつ。 「誰だ！」 「俺だ、幹比古」 「達也か・・・」 達也の姿を確認して安堵する幹比古。 「的確に意識だけを刈り取る出力調整。いい腕だな」 「達也がサポートしてくれたからだよ。本当なら僕は間に合ってなかった・・・」 「アホか」 端的な罵倒の言葉に、幹比古は自嘲の言葉を続けられない。 「本当なら？お前は何を本来の自分だと思っているんだ？よもや、全て自分が片付けることなどとは言わないだろうな」 「達也には分からないよ。これはどうにもならないことなんだ・・・」 「どうにかなるかもしれんぞ」 驚いて達也の方を見る幹比古。 「お前が悩んでいるのは魔法の発動速度ではないのか？」 「・・・エリカに聞いたのかい？」 「いや。単刀直入に言うぞ。お前に問題はない。むしろ魔法力は十師族にも劣らないほどだ」 「なっ！？なら何で・・・」 「術式に無駄が多い」 「っ！？」 幹比古は達也の指摘に一気に怒りが沸き上がる。それもそうだ。吉田家が長年かけて組み上げてきた術式を欠陥品と言ったのも同然なのだ。 「何でそんなことが分かるんだ！君はたった一度見ただけだろ！」 「ああ。俺は一度見るだけで術式を理解することができる」 「っ！・・・君はいったい何者なんだ？」 達也は幹比古の問いには答えず、話題をかえる。 「それはいずれ話す。まずはこの賊を引き渡そう。幹比古、警備員を呼んできてくれないか？」 「う、うん。分かったよ」 正直幹比古にはありがたいことだった。いろんなことがありすぎて、情報を整理する時間がほしい。幹比古は達也の指示通り警備員を呼びにいった。 幹比古を見送ったあと達也は隠れている存在に声をかける。 「いつまで隠れているつもりですか？」 すると木から軍服を着た男性が出てくる。 風間玄信少佐。達也が所属する部隊の隊長だ。 「随分、優しいアドバイスだな」 「大事な友人ですから」 「相変わらずのお人好しだな。その賊はこちらで預かろう」 「よろしくお願いします」 達也は風間に賊を引き渡す。 「達也は明日が競技だったな。負けるとは思わんが頑張れよ」 「大袈裟ですよ」 「謙遜だな。それと競技が終わったらでいいから顔を出してくれ。皆、達也に会いたがっている」 「分かりました」 風間は一瞬で姿を消す。達也は波乱に満ちるだろう明日からの日々を思い、静かに夜空を見上げていた。 [newpage] あとがき 九校戦編Ⅰ終わりです！いかがでしたか？ なんかやりきった感がありますねぇ～ 次回からは競技に入っていきます。さて、どうしようか・・・ とりあえず今は、ピラーズブレイクのリーナの衣装をどうするかで悩んでいます。 何かいい案があればコメントください！ それではまた！

九校戦編入ります！いろいろ思案中です/リーナの衣装とか、達也の魔法とか/いい案あったらコメントください！お待ちしています！

九校戦編Ⅰ

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※アテンション ・オリ主。 ・キャラの設定捏造。 ・ご都合主義展開。 ・拙い文章。 ・ジンニキは2周目です。1周目の知識有。 問題ない方はどうぞ→ [newpage] 深く沈んでいた意識が音により浮上した。 心地いい微睡に身を委ね、再び睡魔に流されようとしたが、音のせいで意識は逆らうように浮上していく。しかたなく、やけに重い瞼を持ち上げた。 視界には見慣れた自分の寝室が映る。未だぼんやりとする思考のまま、手探りで音の源を掴んだ。枕元で鳴っていたスマホを顔に近づけ、ぼやける視界を瞬きをすることによりクリアにする。 そして文字列を目で追い、思考に繋げ認識する。 【着信　江戸川コナン】 (あ？） 痙攣したようにビクリと体が跳ねた。ありえない文字が表示されているのを見て、ぞわっと寒気が這い上がる。寝ぼけたままのから回る思考で状況把握をしている間に、着信はピタリと止まった。ホッと胸をなでおろすと、急に冷静になる。 （そういえば連絡先交換したんだっけ…自分のスマホにコナン君の連絡先が入ってるなんて不思議だわー） ぐったりと力を抜いてベッドへ沈む。 時刻は朝の8時を過ぎたところだった。非常識の時間帯でもないが、約束もないのに連絡を取るには早すぎるだろと突っ込む。電話は後でかけ直そう。もう一度寝たい、と睡魔を呼び戻すために目を閉じた。 だが、違和感を感じて目を開ける。 お腹に若干の圧迫感、背中には温もり。これは、前にも体験したことがあったな…？ そっと後ろを振り返り、予想通りの光景に息を飲んだ。さすがに2度目ともなると悲鳴は避けられたが、跳ねる心音までは制御できない。 無防備な姿でスヤスヤと眠るジンの顔をチラリとみて向き直る。うるさい心音を服の上から押さえつけてまた違和感。 （なんでシャツ着て寝てるの私…） 昨日の記憶を早急に手繰り寄せる。 帰ってきたらジンがいて、まさかの出迎えに感情が振り切って玄関でわんわん泣いて…………寝落ちた。そう、泣き疲れて寝たな…？どおりで瞼が重くて喉も痛いわけだ。 サァーと血の気を引いていく。ベッドで寝てると言うことは運んでくれたのだろう。そしてジンも一緒に寝たということか。 シャツの上に羽織っていたカーディガンがないから脱がせてくれたのかと思うとちょっと信じられない。そんな気遣いできたのジン。ほんわりとむず痒い気持ちになった。 案の定、視線を部屋へ巡らすとカーディガンが落ちている。しかし、私はその隣を凝視した。カーディガンと一緒に私が昨日履いていたスカートが無造作に落ちている。勿論脱いだ記憶はない。 あれ、じゃあ私今何履いてるの…？確かめるのが怖い。だが、気になる。 そっと掛け布団をめくった。外気に脚がされされ、それだけで察した。 （なななな！？え？ドユコト？？なんで、え…下着！？） あまりの驚きに声も出ずにヒュッと息を吸い込む。下着にシャツ一枚という格好でジンと寝ている状況に顔を覆う。 なんだこれ…本当になんだこれ！！誰かわかりやすく説明してくれ。確実に寝落ちたことは覚えてるから間違いなんてなかったことは確か。いや、あったら大問題だし。 でも、だからって、なんで！？ もちろん答えは返ってこない。ひたすら自問自答を脳内で繰り返していると、再び着信音が鳴り響いた。 「ヒッ！」 やましいことはないはずなのに思いっきりびくびくしてしまう。 慌ててスマホを手にすると画面には先ほど見た江戸川コナンの文字。こんな朝早くに短時間で２回もかけてくるということはよっぽど急用なんだろうか。いっぱいいっぱいの頭で電話に出るかどうか逡巡していると、後ろから伸びてきた手にあっと思う間もなくスマホを取られた。 素早く振り返るといつのまにか起きていたジンがスマホを握り締めている。睡眠を邪魔された寝起きの顔は凶悪だ。機嫌が良くない事が一発でわかる。 やばい。直観でそれだけ思った。何がやばいなんて考える間もなくただやばい。冷水を浴びたように体が硬直したがそれも一瞬。回避せねばという信号が脳に送られてスマホに手を伸ばした。が、一足遅かった。 ピッという音と主に通話状態になった画面に目を剥く。なんで切らずに通話！？コナン君の名前を見られただけでも大失態なのにこれ以上の失態が降りかかるのかとぞっとする。 しかしそんな私をお構いなしにジンは口を開いた。それはもう底冷えするような冷たい声で一言 「…うるせぇ」 （ふぁ！？） 再びピッという音と電源が落ちる音がし、無造作にぽいっとスマホが放られる。一連の動作を私は唖然と眺めた。 何も考えたくないと思考を意識的に停止し、遮断する。コナン君の反応や確実に追及されることなんて想像もしたくない。 茫然とする私を再び抱きかかえたジンが目を閉じる。完全に二度寝体勢だ。 もうキャパオーバーな私も全て放棄して目を閉じた。今の格好のこともコナン君のことも全部起きた私に丸投げしよ。 ・ ・ ・ 次に目を覚ました時、隣にジンはいなかった。 仕事に行ったのかとぐるりと首をめぐらすと意外なことにベランダでタバコを吸っていた。こちらに背を向け、手すりに身を預けている。しっかりスエットを身にまとっているのを半目で眺めた。自分だけちゃんと着替えている。 どことなくゆったりとした雰囲気に今日はフリーなのかと察する。 今の内にと寝すぎてふらふらする頭を叱咤し、短パンとロンTに着替えた。さすがにあの格好でジンと対面する勇気はない。時刻はお昼少し前。話したいことはたくさんあるが、まずは腹ごしらえだ。ぐぅとなる腹を押さえてジンに近寄る。 カラカラとベランダに繋がるサッシを開けた。風に乗ってふわりとゴロワーズ・カポラルの独特な匂いが香る。あぁ、ジンがまた傍にいてくれる。それを実感して口元が緩んだ。 「お昼ご飯は？」 「食う」 「リクエストは？」 「ねェ」 「話す時間はある？」 「あぁ…夕方には出る」 こちらを振り向かず、簡潔に答えるジンに頷く。どうやら話し合いに応じてくれるようだ。 それならば気が変わる前にご飯を済ませてしまおう。献立を頭で組み立てながらキッチンに向かおうとしてくんと手を引かれた。 振り返ると私の手首を握ったジンが、もう片方の手でタバコを灰皿へと押し付けてもみ消していた。そしてゆるりと視線を私に固定する。何か言いたいことがあるのかと私も視線を合わせたが、ジンが言葉を発しないまま十数秒が経過した。さすがにおかしいと首を傾ける。 ジンの眉間にかすかに皺が寄る。どこか苦しそうに見える表情に更に首を傾げた。僅かに動いた唇はそれでも何も言わない。何か言い淀んでいる気配に少し驚く。迷いを見せるジンなんて初めて見た。いつもすっぱり簡潔にしか話さないため珍しい。 それならば何か言ってくれるのを待とうと見つめていると、ふいにジンが俯いた。伏せられた長い睫が顔に影をつくる。それをみるともなしに綺麗だなとぼんやりと眺めた。 「……………悪かった」 ん゛？？？？ たっぷりの沈黙のあとの小さな声は私の耳に確かに届いた。届いたのだが自分の耳がおかしくなったのかと疑う。ギシリと体が硬直し、脳が言葉の意味をゆっくり飲み込んでいく。 今、悪かったって言った…？ジンが？あのジンが謝った！？豹降るの！！？？違う、雹だ。いや、脳内コントしてる場合じゃない！ そんな馬鹿なことを考えるくらい青天の霹靂だった。あのジンが非を認めた。衝撃でとっさに反応ができない。 不器用にも程がある。だが、不器用だからこそこのストレートさがジンらしいと思った。 何より、以前なら絶対になかった変化。歩み寄ってくれようとしてることが何より嬉しい。ベル姉との電話で家族と言い切ってくれた言葉は嘘ではなかった。めんどくせぇと流さず、放り出さず、ちゃんと認識し、認めて、受け入れてくれた。 もう、その事実だけで胸いっぱいで。話し合いなんて必要なかったじゃないか。いっぱいいっぱいの感情にふるりと身体が震える。 無反応な私に痺れを切らしたのかジンが俯き加減のままチラリとこちらを一瞥した。 その様子がなんとも…捨てられた子犬のようで…………なんだ、この可愛い生き物は。新たなギャップを発揮されてくらりとめまいに似たようなものを感じる。 傲慢で俺様で自己中なジン（けっして貶しているわけではない）はどこ行った。瞳に不安の色が見え、こんな気弱で私の顔色伺うようなジン知らない。萌え狂いそうなんですけど…。 握られていた手を返して私からも握り返す。ピクリとジンが反応した。いつもはかさついている掌がかすかに汗ばんでいるのは緊張しているからだろうか。 それさえも今は愛しい。 「ジン」 「………」 「ジン、大好きだよ」 「………あぁ」 一瞬だけ、見間違いかと思うほどの本当に一瞬だけ。ジンの顔が泣きそうに歪んだ。 瞬きの間にいつもの無表情に戻ってしまい、安堵したように肩が下がった。親愛を込めて伝えた言葉はしっかりとジンの心に届いたらしい。喜びのままふんわりと笑う。眩しそうに目を細めたジンと見つめ合って幸せを共有した。これ以上の言葉は不要だ。 繋いだ手が離され、するりと指先が絡まる。完全には離さないままジンが一歩私に近づいた。 近くなった距離の分、ジンを見上げようとして止まる。その代りジンが屈んで内緒話をするように私の耳に顔を近づけた。 ーーーーーーー俺もだ。 ポツリと呟かれた言葉に今度こそ頭が真っ白になった。衝撃は先ほどの比ではない。 何事もなかったように私の脇を通って部屋に入っていくジンを目で追ってとっさに振り向く。長い髪の間から見えた耳がほんの少しだけ赤い気がした。 それが嘘でも幻聴でもないことを証明しているようで。熱が伝染したように一気に体が熱くなる。 …なんだこれ。本当になんだこれ！！ もう十分だったのに。満たされたのに。それ以上を受け取ってしまった。溢れる感情に収集がつかない。 「俺も」って言った。勘違いじゃなければ大好きって言葉に対しての返答だろう。 つまり…つまり、ジンも私のことが好きってことで。ちょっとは気にかけてくれてると自惚れていたけど、言葉にされたらそりゃ嬉しい。嬉しくてどうしたらいいのかわからない。暴れたいような泣きたいような不思議な高揚感。 居ても立ってもいられなくなってリビングに繋がるドアを開けたジンの背中に衝動のまま飛びつく。 「っ！…あぶねぇだろ」 そういいつつも揺るがずしっかりと受け止めてくれた。さすがジン。 嬉しい気持ちを伝えるようにぎゅうぎゅうと腰に抱き付き、ぐりぐり頭を押し付ける。それに応えるようにわしゃわしゃと頭を撫でられた。 めちゃくちゃ幸せだーと緩む顔のまま見上げると、ピタリ動きを止めたジンと目があった。ついっと顔を逸らされうなじを擦る。あ、これもしかして照れてる？表情も何も変わってないけど照れてますね？心のシャッターに収めておこ。 「………めし」 「はーい！とびっきりおいしい物作るからまってて！」 私は上機嫌でキッチンに入った。 「ところでつかぬ事をお聞きしますが」 「……」 「なんで私シャツ一枚で寝てたの？」 「……」 「ジンー？」 「抱き心地悪ィ上に邪魔だった」 「サイデスカ」 [newpage] あぁ…胃が痛い。 日中まったりとした時間をジンと過ごしたから余計に陰鬱になる。宣言通り夕方に近くになるとジンは外出し、それを見送った後、私は現実と向き合っていた。 ソファに座り、目の前の机にある電源を切ったままだったスマホを睨みつける。 江戸川コナン様からは確実に追及を受けるだろうと思うと、このまま一生電源入れなくてもいいかなという気持ちになってくる。いや、だめだ。この街はエンカウント率が高い。何より大学に来られたら終わる。 意を決してスマホの電源を入れた。ポーンという軽快な音と共に立ち上がる画面。 そして電波が繋がったとたん怒涛の通知ラッシュで白目になった。江戸川コナン様怖すぎるだろ…！ と思ったらどうやらコナンくんだけではないようだ。ごめん、擦り付けて。 ただ、やっぱりコナン君が一番通知が多い。 「不在着信が12件…あ、沖矢さんから2件来てる。あとはメーｒうえええええええい！」 メールが尋常じゃなかった。 【送信者：江戸川コナン　件名：大丈夫？　本文：蘭姉ちゃんたちが体調心配してるよ】 【送信者：江戸川コナン　件名：なし　本文：さっき電話にでたの誰？】 【送信者：江戸川コナン　件名：なし　本文：なんで電源切ってるの？】 【送信者：江戸川コナン　件名：なし　本文：電話返してね】 【送信者：江戸川コナン　件名：なし　本文：ぜってー逃がさねぇからな】 素でこえーよ。思わず真顔になってしまった。最後なんてもうストーカーのセリフやん。心臓ばっくんばっくんいってるぞ。冷や汗やばいぞ。涙もちょちょ切れる。 とりあえず、メールを全部みてしまおう。スクロールしていると沖矢さんの名前を見つけた。タップして開き、なになに～？と内容を目で追うと 【送信者：沖矢昴　件名：こんにちは　本文：コナン君に話しましたね？今度ゆっくりお会いしましょう。】 ソファに突っ伏す。2人ともなんでこんなに煽ってくるの！？普通に接しろよ！お姉さんもうメンタル死んだよ…電話とメールだけでもうお腹いっぱいデス。そもそも変な風にコナン君に吹き込んだの沖矢さんじゃん！私に接触させたならペロることも予想してくれよ頭良いんだし。と責任転換を試みる。 残りのメール履歴を見ていると大学の友人からだった。こちらはいつも通り返信していると新たな通知が届いた。 キリキリと痛む胃を無視して再び受信フォルダを開く。 【送信者：灰原哀　件名：なし　本文：みんな心配してたわよ。連絡してあげて。私も1度あなたとお茶したいわ】 め、女神かよ～～～～～～～～！私のエンジェルだわ哀ちゃん。好きです。現金なことに気分が上昇した。哀ちゃんが背中を押してくれたし、この勢いで電話しよう。 ふんふんと意気込み履歴から江戸川コナンを指定する。震える手で通話ボタンを押した。 １コーｒ 『もしもし』 「………」 電話出るの早くね？ワンコールもなかったね？もしかして構えられてたの？本気で怖いよ。 『言っておくけど、ちょうどアプリ弄ってただけだからね』 「はぁ…」 曖昧な返事をしてしまった。イマイチ信じられない。 『とりあえず、元気みたいだね』 「あ、うん。体調は平気だよ。蘭ちゃんたちにも伝えてくれると嬉しいな」 『うん、わかった。それでさ、朝電話に出たのはだーれ？』 「あーハハ、ごめんね。機嫌悪かったみたいで」 『誰か聞いてんだけど』 なんか私に対しての風当り強くね？心なしか子供を取り繕う様子も遠慮もないんだけど。追及してやるぞという意気込みが半端なく伝わってくる。 しかし、どうにか誤魔化さなければ。もう少年のことだから薄々勘付いているだろうけど私の口から確信を言うべきではない。 「えーっと、知り合いの人」 『昨日の今日で朝早くから知り合い程度の人と一緒にいたの？』 「そうだけど？」 『ふーん、家族とかじゃないんだね』 「ま、まぁ…一人暮らしだからね」 すごい誘導尋問されている気がする…なるほど、みんなこうやって情報を奪取されていくのか。一人暮らしなことがバレてしまった。 『ボクてっきりお兄さんかと思っちゃった！』 「はは、残念はずれだったね」 『本当に？お兄さんいないの？ボクすっごく似てる男の人知ってるんだけど。………声まで電話の人とそっくりだったよ』 胃がああああいたぁいいい！とっさに胃がある辺りを押さえる。 先ほどまで普通のトーンだったのに最後の一言だけべらぼうに声が低くなったんですけど！？今絶対コナン君の眼鏡反射してるだろ。口元ニヤリって笑ってるだろ。容易に想像出来てしまった。 冷や汗を掻きながら必死に言葉を探す。だが、語彙力のない私のポンコツ頭は良い返しが思いつかない、もうここは黙秘権を使わせてもらおう。 「ノーコメントで」 『えー……それくらい教えてくれてもいいんじゃない？』 「ノーコメントで」 『もうそれいるって言ってるようなものだと思うよ』 「ぐぅ…」 だめだ、私にこの名探偵は欺けない。というか、欺ける人はいるんだろうか。あのトリプルフェイスでさえ暴かれていたというのに無謀だったと悟る。 『お兄さんの名前はなんていうの？』 「個人情報なので黙秘します」 『はぁ…じゃあさ、今度サラさんの家に遊びにいってもいい？』 は？いやいやいや、ダメです。ゴリ押し油断ならない。こうやって人の家に上がって無邪気な顔で家探しするんでしょ！？お姉さん知ってるんだからね！テレビで何回も見てるんだからね！その度に怒られて放り出されてたよね！ 断固お断りしよう。これは本気でやばい。拒否だ。絶対にだ！そう決意を固めて口を開いた時だった。 コナン君の背後が俄かに騒がしくなる。 『え、コナン君サラお姉さんの家いくの？歩美も行きたい！』 『コナンだけ抜け駆けずりぃーぞ！』 『そうですよー！行くなら僕たち少年探偵団も一緒です！』 『ちょ、お前ら勝手に乗ってくるなよ！』 『いーえ、今言わないとすぐ一人で行っちゃうんですから』 『ちょっとガキンチョ！サラさんと電話してるの？いつの間にそんなに仲良くなったのよ。本当に抜け目ないわね』 『コナン君、サラさん体調大丈夫そう？』 『え、う、うん。元気だって！蘭ねーちゃんたちに伝えて欲しいって今話してたんだ』 めちゃくちゃ賑やかだなぁおい。オールスター勢揃いみたいになってんぞ。さすがの名探偵もタジタジですね？ 「あー何やら賑やかだね」 『はは、さっき名古屋から帰ってきてポアロで休憩中なんだ』 「なるほどね。みんな元気だなぁ」 『サラさん、聞こえますか？お土産買ってきたので今度渡しますね！』 「え、いいの？わざわざありがと～！」 蘭ちゃんの気遣いに反応するが、「いや、本人に届かねーから」とコナン君に冷たいツッコミをもらう。なら伝えておくれよ。 『コナン君だけずるーい！』 『いつも抜け駆けすっからな！』 『僕も連絡先教えてください！』 ワーイ、メインキャラクター達と一気にお近づきになったぞー（棒）自分から首を突っ込むと決めてから待ってましたと言わんばかりに次々と知り合いになっていく。喜ぶべきだろうか。 「コナン君、悪いんだけど私の連絡先みんなに伝えてくれる？」 『しゃーねーな…』 どこか疲れ切ったような少年の声に苦笑いする。伝達役を頼んで申し訳ないけど話が逸れたので良しとしよう。 『そういえば、灰原にも連絡してやってくれ」 「ん、連絡きてたから返しておくね」 その後は少年探偵団にせがまれたコナン君がすんなりと電話を切ってくれた。 暫くして光彦君から連絡が入ってくる。歩美ちゃんと元太君はスマホを持ってないようで、光彦君からのメールに3人分のメッセージが載っていた。クッションを抱えたまま寝転がり、1人ずつに返信をする。知り合いが増えることは純粋に嬉しい。未だに慣れないが、この世界の一員であることを受け入れられてるように感じる。 原作とは少しずつ状況が変わってきているのは確実に私の存在のせいだろう。もはや私が知っているあの少年の物語ではないことはどこかで認めていた。というより、そもそも私がいる時点で違う物語だよなぁと気付いた。モブならジンの妹なんて位置にいないだろうしね。そしてジンも明らかに原作とは違う。 赤井さんに言われたことも影響してないとは言わないけれど、私の目からジンという人間を改めてみて考えたことだ。いっそぶっちゃけて腹割って話そうかとは思ったけど確実に祖国へ強制送還の未来が待っている。 「うーーーーーん…ままならない。もやもやする」 ジンを助けるために原作に関わると覚悟を決め実行した。結果、見事に巻き込まれ……いや、首を突っ込むことはできていると思う。さて、ここからどうしたらいいのか。全くと言っていいほどノープランだ。せめて結末を知っていれば動きようもあったのに。 クッションを抱えたままゴロゴロと転がっていると、メッセージを受信した通知音がスマホから鳴った。 手に取って確認すると哀ちゃんからお茶会の詳細が来ていた。これも原作から大きく変わったことの一つだろう。嬉しさにニンマリと笑って承諾の返信をする。 とりあえず今はみんなと仲良くなることが先決かな。 味方は多いことに越したことはない。 [newpage] 「お待たせいたしました。こちら季節のフルーツとクリームチーズのパンケーキでございます」 目の前に置かれた皿に目が釘付けになる。キラキラと光りを反射して輝くフルーツたち。その下でクッションになっているクリームチーズ。そして更にその下には幸せになれるであろう、ふわふわのパンケーキが眠っている。ゴクリと喉を鳴らした。 目の前からくすくすと笑い声が聞こえ、顔を上げると哀ちゃんがおかしそうに笑っている。とたんに恥ずかしくなって目を逸らした。どちらが子供なのかわからない。 「あなた、すごくわかりやすいのね」 「よく言われマス…写真撮っても？」 「えぇ、どうぞ」 許可をもらって一番おいしそうな角度を狙って２・３枚撮る。そうして小皿に取り分けて哀ちゃんと自分に分けた。 「いただきます」と2人で声を揃え、パンケーキを大口で口に運ぶ。クリームチーズなのかパンケーキなのかわからなくらいとろとろふわふわな食感が舌を包んだ。言うまでもなく味は絶品である。整理券をゲットするために朝から並んでよかった～！ あまりにも幸せ全開の顔をしていたからか哀ちゃんがまたくすりと笑った。ごめんよ、甘い物の前ではただの子供になるんだ。あのジンでさえそうなるんだ。あ、そうだ。ジンに自慢しよ。 ベルツリーから1週間後。哀ちゃんに誘われて噂に名高いパンケーキを食べに来ていた。ここは個室完備で時間制限もないためゆっくり過ごすのにちょうどいい。 実はベルツリー急行があんなことになってしまったお詫びにと園子ちゃんからテニスのお誘いを受けたのだが、丁重にお断りさせていただいた。確実に事件の匂いがする。そしてたぶん原作回だった気がする。何より哀ちゃんとの約束が先だった。 というわけで今至福の時を堪能しています。 「なんだか、お姉ちゃんといた時を思い出すわ」 「明美と？」 「えぇ。頻繁にとまではいかなかったけれど、会うとこうしてお茶をしていたの」 「そういえば妹とお出かけと言っていた日はすごく嬉しそうにしてたな～」 ふんわりと嬉しそうに哀ちゃんが笑う。守りたいこの笑顔。この笑顔が失われなくて本当に良かった…。私もつられてにこりと笑う。 「ところで、どこまで話していいのかしら？」 「ごふぉ」 口に含んだパンケーキが零れそうになって慌てて手のひらで押さえる。コナン君もだけど哀ちゃんもなかなかの直球だね！？答えられない代わりにちょっと非難がましく見てしまう。 「江戸川君は判断に迷っていたけど、私からしたらあなたは白よ…お姉ちゃんを助けてくれた時点でね」 口の中が修羅場になっている私をお構いなしに哀ちゃんが面白そうに一瞥してくる。お姉さんタジタジです。え、哀ちゃんにも気を張らないといけないの？無理…天使の前では無理だよ。敗北を認めます。 「今後のためにもお互いの状況を確認しておいた方がいいと思うの。あぁ、安心して。今日は発信機だけだから盗聴の心配はないわ」 「なんていうか…哀ちゃんも苦労してるんだね」 発信機やら盗聴器やらが日常的に傍にあったら私なら絶対落ち着かない。「もう慣れたわ」という哀ちゃんはそれだけ長い間監視され続けてきたということだろう。複雑だ。 そんな哀ちゃんにとって気心知れる立場になれたらいいなと思う。隠したり、警戒したりしなくていいように。それは私にとっても言えること。1人では限界があるから。そのためにはちゃんと話をしなくちゃね。 「えーっと、バレてるとは思うけどジンとは兄妹でね。ジンの、その…まぁ裏の顔も知ってる。ぶっちゃけると哀ちゃんとコナン君の事情も」 個室とはいえ、一応小声で言葉を濁しながら伝える。 私の言葉に哀ちゃんは目を見開いて驚き、止めていた息を大きく吐いて「そう」と相槌を打った。続けてと言わんばかりに話を促される。 「私が知ってると言うことをジンは知らない。知っているのは哀ちゃんと…もう1人、かな。白か黒かは本当になんともいえないの。状況によって私の立場は変わるから。…私の一番はジンだから。そこはごめんね」 「何故あなたが謝るの？みんなそれぞれ大切なものがあって優先事項がある。私にとってそれはお姉ちゃん。お姉ちゃんを助けるためなら私だってきっと立場を変えるわ…」 憂いを帯びた目が伏せられる。きっと組織での時間を思い出しているのだろう。明美が哀ちゃんを組織から離そうと動いたように、哀ちゃんも明美を守るために組織の駒となっていた。悪と括ってしまえばそれまでだけど、この姉妹はその中で必死にもがいていた。 哀ちゃんの手をそっと握る。はっとしたように顔を上げた哀ちゃんの目には薄らと膜が貼っていた。 「ありがとう、哀ちゃん。こうやって話せてよかった」 「私もよ。あなたに出会えてよかったわ。けれど、どこから情報を得ているの？」 「うっ、えっとそれは…」 「そこは言えないのね。もう1人が関係しているのかしら？」 「んーん、もう1人も知らないし言ってない。これは…墓場まで持っていくつもり」 哀ちゃんがびっくりしたように私を見る。「墓場までなんて言葉よく知ってるわね」と言われてギクリとする。たまに自分の国籍を忘れるわーはは、と笑って誤魔化す。 「あ、でも安心してね。哀ちゃんたちの秘密は漏れることはないと保障します。絶対守るから」 「えぇ、そこは心配してないわ。信じてるから」 お互い顔を見合わせてふふと笑う。あー久しぶりだ。この感じ。最近ずっと殺伐とした中にいたからすごく癒される。気を張らずに会話できるって素晴らしい。そう思いながらまたパンケーキを口に運ぶ。 「次は私の番ね。事情を知っているということは個人のことは省いていいのかしら？」 「うん、大丈夫だよ。あ、でも好きな食べ物とかコスメとか服とかそう言った話はしたいな」 「同じく。でもまた今度ね」 次があることに嬉しくなる。 「あのあと…事情を知ってそうな江戸川君にお姉ちゃんのことを聞いたんだけど、結局答えてくれなかったわ」 「え、そうなの？」 「なんとなくわかってはいるんだけど、確証が欲しいじゃない。生きてるって…」 「…私が知っているのはジンが明美を留学させて逃がしたということ。そこから先は連絡が取れなくてわからない。あと…ビュロウが関わってる」 「やっぱり…あの男ね」 哀ちゃんの目が一瞬剣呑に光った気がして「ヒェ」と声が出てしまった。赤井さん、安室さんといい哀ちゃんといいどれだけ恨み買ってるの…。 ふ、と一息ついた哀ちゃんが私の顔をじっとみる。 「ジンは…どうしてお姉ちゃんを助けてくれたのかしら」 「んー私から直接助けてって言ったわけじゃないけど、なんだかんだ優しいんだよね」 「私が知っているジンは人を助けるような人間じゃなかったわ…あ、その、組織でのあの人は非道で通っているから…」 「うん、組織でのジンが冷酷なのはわかってる。でも私が知ってる中で助けた人間は2人目だよ」 「えっ」 「たぶんね。2年？３年前だったかな。2人でドライブしてたら真っ青な顔をしたお兄さんを拾ってね。日比谷公園で降ろしたんだ。今思えばあそこ警視庁の近くだよね…」 「まさか…」 「うん、たぶんNOC。だね」 「………」 絶句する哀ちゃんに苦笑する。そりゃ信じられないよね…哀ちゃんからしたら組織のジンしか知らないだろうし。ここで私が知っているジンを伝えてもきっと納得できないだろう。ちらりと哀ちゃんを伺うと何かを考え込み、眉間に皺を寄せて黙ってしまった。きっと心情は複雑だろう。自分が知っているジンと私が話すジンの差に戸惑っているのかもしれない。 少し話し疲れたため紅茶を飲んでほっと一息つく。まだ思考の海に沈む哀ちゃんをそっとしておき、スマホを手に取った。先ほど撮ったパンケーキの写真を加工してジンに送る。反応を想像してふ、と笑ったところで哀ちゃんがポツリと呟いた。 「もしかしたら…」 「ん？」 「組織にいた頃、ちょっとだけ噂になったことがあったの。ジンはNOC潰しで有名で、裏切り者は絶対許さない。NOCを心底憎んでいると言うのがみんなの認識だった。けれど、あまりにも手際が良すぎてジンが……逃がしてるんじゃないかって…」 今度は私が絶句する番だった。裏切り者は許さない。それは私が知ってる原作のジンそのもの。だけどこの世界のジンは別人と言っていいほど行動が伴ってない。まさか組織で噂になるほどとは…完全に予想外で頭が真っ白になる。 明美も、NOCのお兄さんも多少私が関わったから見逃されたと思っていた。けれど、それだけじゃなかったとしたら…？ 哀ちゃんが言うことが本当ならジンは一体何者なんだろう。 「あと、お姉ちゃんが…ジンに怯える私に言ったの。組織にいるジンは本当のジンじゃないかもしれないって。その時は私を慰めるにしては曖昧な言葉だなって流してしまったのだけど。もし、ジンがその時すでにお姉ちゃんを助けるために動いていたとしたら…」 ぽつりぽつりと哀ちゃんが零す言葉にひゅっと息を吸い込む。 赤井さんの言葉が現実味を帯びた。ジンが、NOCなら…裏切り者なら…そんな考えが頭から離れない。だめだ、これ以上考えたら。また過呼吸になってしまう。 そっと息を吐いて吸ってを繰り返して落ち着く。私の様子を心配するように見つめてくる哀ちゃんと目があった。 「話してくれてありがとう」 「話すべきじゃななかったかもしれないわね…」 「ううん、聞けて良かった。ジンが何者なのか、確かめるすべはないけど少なくともグレーの可能性があるとわかったから」 困ったように眉を下げて小さく笑った哀ちゃんに私も笑みを返した。上手く、笑えているだろうか。 微妙な空気になってしまったところで私のスマホから通知音が響く。2人してびくっと反応してしまい、それにおかしくなってまた笑った。今度はちゃんと笑えた気がする。 返信は後にするとして内容だけでも確認しようとメッセージを開いて…机につっぷした。ゴンッと言う痛々しい音付きで。哀ちゃんが慌てた様子で「どうしたの！？」と声をかけてくれる。 メッセージの送り主はまさかのジンだった。とても珍しいことに。普段は私が一方的にメールを送り、返信はない。ジンからは要件があるとき、最低限の電話連絡しか来ない。なのに、このタイミングで返信を寄越すか兄よ…。 【送信者：ジン　件名：なし　本文：抜け駆け許さねぇ　どこの店だ】 ちょっと食い意地張りすぎじゃない？？返信が来るということは結構ご立腹じゃね？とりあえずメール保存。 なんとか顔だけ上げて心配そうな哀ちゃんを見上げる。ヘラリと笑ってスマホの画面を哀ちゃんに見せた。 「パンケーキの画像をね、送ったんだ。…これが私が知ってる兄です」 哀ちゃんが画面を注視し、メールの内容を目で追う様子を見守る。推察するに4回くらい見直した辺りでピシリと固まって動かなくなった。 「私以上に甘党なんだ。さっきの今で気が抜けたわー」 「……………これ、本当にジンからなの？」 「うん、普段全く反応ないのに今日に限って返信きた。これはきっと拗ねてるなー」 「拗ねて…え、ジンが…？」 混乱を極めた哀ちゃんが頭を抱える。わかるーわかるよーギャップってもんじゃないよねきっと。妹の私でさえ未だに戸惑うからね。 混乱から立ち直った哀ちゃんがまた考え込み始める。 「信じられないけど本当にそう、なのね…双子の別人って言われた方がまだ信じたかもしれないわ」 「はは、ジンが2人いたら大変なことになりそう…」 「ねぇ、確かめる方法が１つだけあるわ」 「え？」 一瞬何の話かわからずに首を傾げる。何かを決意したような目で私を見つめる哀ちゃんを見返した。そして先ほどの話の続きということに気づく。 「いやいやいや、それだけは絶対だめ！！」 「だって、それが一番手っ取り早いじゃない？」 「危険すぎる！場合によっては文字通り命がけになるんだよ！？そうなったらコナン君たちの努力が水の泡になる。絶対だめ」 「わかってるわよ。でもあなたなら私を助けてくれるでしょ…？お姉ちゃんの時みたいに」 アッーーーーーなんでこの姉妹はこう自己犠牲が強いんだ！！！！！ 私の存在過信しすぎてない！？あれだけ組織に怯えてた哀ちゃんはどこいったの？危機感は！？ 「それに、私も知りたいのよ。ジンが何者で何を考えているのか」 「……」 「お姉ちゃんを助けてくれたならそのお礼も言いたいしね」 幼い顔に覚悟を決めた、凛とした姿勢でにこりと哀ちゃんは笑った。 あぁ…ダメだこれは。明美は1度決めたら頑固だった。そしてそれは哀ちゃんもらしい。でも危険にさらすことはできない。赤井さんとコナン君に私が殺されかねない…困った。心底困った。 「そんなに深刻に考えないでちょうだい。これは少なくとも半分は私のためでもあるのよ」 「いやだって命大事に！って言うじゃん…」 「いざとなれば最強のセコムが始動するから大丈夫よ」 えっ、それ言っちゃう？確実にお隣さんのことだよね？あれ、哀ちゃんにバレてるんだっけ？沖矢さん大丈夫なの。なんて人の心配をしつつ、深い、ふかーーーーーいため息を吐きだした。 「言っておくけど、電話にでるかもわからないからね」 「あら、それなら賭けに丁度いいんじゃない？出たら話すしかないもの」 このお姫様は腹括ったら最強なんじゃないだろうか。ちょっと各方面が気の毒になり、眉間を押さえる。そして私も腹を括ろう。よし。 連絡先からジンを探し、勢いで通話ボタンを押す。短い沈黙のあと、コール音が鳴る。今すぐ切りたい衝動を堪えるように耳にぴったりスマホをくっつけていると、いつの間にか私の隣に立っていた哀ちゃんもスマホの裏側に耳をくっつける。 ひえええ何この可愛い行動。変な声が漏れそうになり、慌てて口を閉じる。 1コール 出るなよ兄よ　2コール よしよし、気づくなー　3コール そろそろ切っていいかな　4コール よし、切ろう　5コーｒ 『どうした』 まじかよ。出っちゃったよ！哀ちゃんと同時に息を飲む。あわあわとしていると先に落ち着きを取り戻した哀ちゃんに落ち着きなさいと口パクで諭される。 『おい、返事しろ』 「あ、うん、ごめん。まさか出てくれるとは思わなくてびっくりした」 『かけたのはお前だろ』 「たいてい出ないじゃん？」 『…タイミングの問題だ』 ちょっと責めるように言えば、バツの悪そうな回答が返ってくる。いつも通りのやり取りにいつの間にか絆されて変な緊張はなくなっていた。 「へへ、まさか返信くれるとは思わなかったから嬉しかった」 『…食ってたんじゃないのか？』 「うん、今食べてる。ものすごくおいしい」 『てめぇ…嫌味か。あとで店の詳細寄越せ』 「はいはい。ついでにメニューも写真撮っておく？」 『頼んだ。来週行くぞ』 「えっ、私今食べてるのに来週も？」 『俺は食ってねぇ』 「…太る」 『はっ、』 「ちょっと、何今の鼻笑い！むかつく～ジンは細いから気にしなくていいよね！」 『食わなきゃいいだろ。目の前で俺だけ食う』 「鬼畜！」 あまりにいつも通りすぎて緩い会話を続けてしまい、はっと哀ちゃんを伺う。そこには目を見開いてぽかーんと口を開けた女の子がいた。何その反応可愛い。写真に収めたいがスマホは今通話中だ。心のシャッターにおさめる。 「あ、そうだ。まだ電話してる時間ある？」 『あ？なんだ、1人なのか』 「ううん、友達と一緒にいるよ。あのね…ちょっと、待ってて…」 そういって哀ちゃんと最後の確認をする。言葉には出さずとも目が大丈夫と伝えてくれた。そっとスマホを渡す。受け取った哀ちゃんはゆっくりと耳にスマホを当てて口を開いた。 「…久しぶりね、ジン」 『……………シェリー…いや、志保か。何故お前がそこにいる』 「あら、ご挨拶ね。サラさんと友達になったの」 『…何が目的だ』 ジンの声が低くなる。声に温度はなく、空気が変わったように感じた。目に見えて哀ちゃんが震えだす。瞳が畏怖に染まっていく。それを少しでも阻止したくて、スマホを持っていない方の手を握った。 びくりと大きく震えた哀ちゃんが私を見る。一つ頷くと見開かれた瞳に力強さが戻っていた。 「あなたと、話がしたかったと言ったら信じる？」 『話しだと？クク、どういう風の吹き回しだァ？お前は俺を嫌っていたと思ったんだがな』 「事情が変わったのよ。あなたのせいで。それより、私がここにいることに驚かないのね」 『あぁ、生きてることは知っていた』 「！？…どういうこと？」 『そのままの意味だが？』 「………ジン、あなた何者なの」 『あ？』 「聞いたわ。お姉ちゃん留学したって。それに、私の存在を容認してる。てっきりあなたは私を…」 哀ちゃんはその先の言葉を詰まらせた。私が横にいることにより言葉を選んいるため、下手なことが言えない。なかなか確信に踏み切れずにいる。席を外そうにもジンに不信感は与えたくない。もやもやとした気持ちで2人の会話を見守る。 『…お前が良く知ってるだろう』 「私が知ってるあなたと一致しないから聞いてるのよ！」 苛立った声を荒げる。びっくりして「哀ちゃん？」と声をかけてしまい、はっとした哀ちゃんが気を静めるようにため息を吐いた。 『…志保』 「なによ」 『生きろ』 「なっ…！？」 『それが答えだ』 「……っ」 息を飲んだ哀ちゃんが俯いた。ポタリ、ポタリと雫が床を濡らしていく。そっと背中を擦るとビクリと震えた。目元をぬぐった哀ちゃんが私に笑いかける。 「ジン、ありがと…っ」 『……』 「それからサラさん悲しませたら、…許さないから」 『はっ、言うじゃねーか』 「早く貴方もこちら側にくることね」 『………そりゃ死ぬときだな』 「怒るわよ。サラさん筋金入りのブラコンみたいだから後を追いかねないわ」 「ファ！？」と叫んでしまった私は悪くないと思う。哀ちゃんが少し意地悪そうに目を細めてこちらを一瞥している。もはや余裕すら感じる様子に唖然としてしまった。 いや、確かにブラコンなのは認めるけどさ。それを本人に知られるとかこの上なく恥ずかしいよね。ね？ジンの反応が気になってそわそわする。 『あいつがブラコン…？』 「………お互い自覚なしって面倒くさいわね」 ごもっともです。哀ちゃんが可愛い顔を器用に顰めた。 何故か更に猛烈な恥ずかしさに襲われて顔を覆う。本当に頭から湯気が出そうだわ。 「とにかく、バックがいないなら尚更早めに動いて」 『随分と俺に構うんだな」 「ちゃかさないで。…………あなたに生きてほしいと思うなんて自分でも信じられないくらいなんだから」 『………テメェの番犬に伝えておけ。首輪のせいで鈍ってやがったら容赦なくぶち抜くとな。じゃあな』 プツッという音とともに電話が切れる。 え、切ったよ。普通最後は私に変わらない？通話が切れた画面を見て哀ちゃんが呆れたようにため息をついた。私もガックリする。気を張りすぎて疲れたー。 というか、最後の捨て台詞って沖矢さんのことだよね？赤井さんって知ってるっぽかったけど本当にどこまで知ってるんだろ。 「最後の、どういうことかしら…？心当たりはあるけど…」 哀ちゃんが考えをまとめるかのようにポツリポツリと言葉を零す。それに比例するように徐々に眉間に皺が寄っていく。 あーそっか。まだ哀ちゃんは沖矢さん＝赤井さんって気づいてないんだった。気づいちゃまずいんだっけ？明美生きてるから大丈夫な気がするけど。でも下手すると拗れそうだからここは名探偵に任せよう、うん。けっして面倒くさいから丸投げするわけじゃあないぞぉ。ジンの伝言もひとまず置いておこー。 「とりあえず、よかったわね。ジンは確実にグレーだわ。私を見逃している時点で組織からしたら完全に裏切り者ね」 「うん、ありがとう。哀ちゃん」 「いいえ。これは私のためでもあったから…」 どこかスッキリしたようにはにかむ顔がめちゃくちゃ可愛い。ジンがグレーだとはっきりした喜びもあって勢いで抱き着こうとしたら素早く距離を取られ、席に戻ってしまった。地味に傷つく…。 しょんぼりとしていると「ところで」と声を掛けられる。 「私たちの関係、ものすごく複雑になったわね…。どうするの？」 どうするとは？と首を傾げる。 「あなたはジンとお姉ちゃんが繋がってることを知らないことになってるのよね？あなたとお姉ちゃんは親友。あなたから見て私は親友の妹で最近知り合ったばかり。そして今、私とジンが顔見知りだったことをあなたは知った。そしてさっきの電話。私の言葉しか聞いてなかったとしても、【何も知らないあなた】からしたら相当不可解でしょ？」 じわじわと嫌な汗が出る。あれ、これひょっとしてまずい？ 「普通ならジンを問い詰めるでしょうね」 「……あ、哀ちゃん」 助けを求めるようにじっと見つめると、哀ちゃんは紅茶が入ったカップを両手で持ちそろっと目をそらした。

連投すみません。<br /><br />今回のジンはちょっと素直になりました。どこか吹っ切れた感じ。<br />そして哀ちゃんとの絡みがやっとかけた～これからどんどん出張ってほしいです。もしかしたらコナン君よりも前に出てきそうな予感（笑）<br /><br />本編書いていたらものすごく長文になってしまったので一旦切りました。尻切れトンボっぽい感じですみません。<br />次回今月中に更新したいところです…緋色コンビと絡ませるの楽しい( ˘ω˘ )<br /><br />そして今週の本編でヒェ！と叫んだので俄然あの人を動かしてみたくなりました。無理やりでも絡ませたい。

過保護の兄は素直になる

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