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 そう。このタイツさえあれば――そして髪の毛さえあれば。
 智一は瞬間的に決めていた。 誰の髪の毛をこのタイツの中に入れるのかを。
 その日の夜、智一は部屋でインターネットを閲覧していた。検索サイトのキーワード欄に『化粧の仕方』という文字を入れて探して見ると、色々なサイトが見つかる。
 智一はじっとそれらのサイトを見て、化粧の仕方を覚えていた。
 その後――。
「智一。お風呂開いたよ。冷めないうちに入ってね」
「ああ」
 わざと政代を先に風呂へ入れた智一は、バスルームから政代の髪の毛を採取した。
 政代の、黒くてとても長い髪の毛をたくさん。
 そして次の日。 昨日、誰にも見つからないようにタンスの奥にしまっておいた全身タイツは、学校から帰ってくると智一の姿から元の黒い状態に戻っていた。絨毯の上に広げて、ファスナーの間から昨日採取した政代の髪の毛を一本入れ、ファスナーを閉じる。
「これで姉貴のタイツが出来るんだ……」
 自分でもすごく鼓動が早くなっているのを感じる。 智一は、心臓が張り裂けそうな思いをしながら、黒い全身タイツが徐々に変化してゆく姿をじっと眺めていた。
 徐々に黒かったタイツの色が変化し始め、肌色へと変わってゆく。それは智一の皮膚よりも白く、透き通った感じがする色だった。そして、スベスベしていたタイツの表面が人の皮膚のように変化し、まるで血が通っているように見え始める。
タイツの足の指には爪が出来て、股間には逆三角形のうっすらとした毛が生えてきた。鳩胸のようにのっぺりとしていたタイツには、女性らしい二つの胸が付いている。
 さらに、黒い手袋がほっそりとした指に変化し、綺麗な細長い爪が生えた。
 のっぺらぼうだったマスクも凹凸が出来て、まるで政代の顔そっくりに変化した。異様に長く伸びた黒い髪の毛。それはカツラではなく、本当にマスクの頭から生えているのだ。
 あの黒いタイツが今や智一の姉、政代が脱皮した抜け殻のようになっている。もちろん中身が入っていない『皮』状態なので顔も皺くちゃ。政代だと言われても実感が湧かないのだが、智一は確信していた。
「あ、姉貴のタイツだ。これを着たら……姉貴になれるんだ」
 鼓動を高鳴らせながら、政代のタイツを手に取る。そして、ぎゅっと抱きしめてみた。
 ペラペラのタイツを抱きしめているだけなのに、まるで政代を抱きしめている感じ。そんな風に思えてしまう。
「姉貴……」
 タイツの股間を見ると、柔らかそうな黒い毛が生えていた。タイツとはいえ、本物に限りなく近いのだろう。そのタイツの毛を両手の指で左右に掻き分けて中を見てみる。
「…………」
 ちょっと口には出せない。あまりにリアルすぎて、グロテスクだ。こうやって間近に女性の股間を見たことの無かった智一は、少しショックを受けながらも感動を覚えていた。
 まさかここまで忠実に再現しているとは――と言っても、詳しくは知らないのだが。
 息を荒くする智一は服を脱いで裸になった。いよいよ、この政代のタイツを着る瞬間がやってきたからだ。
「よ、よし。まずは足から……」
 政代の皮膚と化したタイツを持つ手が震えた。大きく深呼吸をしたあと、長ズボンを穿くような感じで、お腹の割けた部分から右足をゆっくりとタイツの中に入れてゆく。
 ヌルッとした着心地のよい感触が足先から伝わってくる。細くなっているタイツの足に自分の足を入れると、思ったより簡単に入れることが出来た。
 とても不思議だ。智一のふくらはぎの方が大きいはずなのに、足を入れたタイツは ほっそりとしたままなのだ。ギュッと足を奥まで入れて、それぞれの足の指をタイツの指の中に入れる。足のサイズも智一の方が遙に大きなはず。しかし、指先もかかとも、小さいタイツに完全にフィットした。
「すげぇ。これって姉貴の足にしか見えない」
 そう思いながら、同じようにもう片方の足もタイツに入れる。丁度太ももの中間辺りまで両足が入っているのだが、そのタイツに包まれている膝から下は何処から見ても女性の足にしか見えなかった。
 手で触ってみると、タイツの上から触られているのではなく、直接自分の皮膚を触られているような感じ。昨日、自分の姿をしたタイツを着たときと同じ感触だ。
「このまま腰まで上げたら……」
 震える声で呟いた智一は、もう嬉しくて嬉しくて仕方ない。すでに結果は見えているのだ。
「はぁ、はぁ。よいしょっと!」
 タイツを伸ばしながら太ももを包み込み、股間やお尻まで着込んでしまう。すると、股間の膨らみがのっぺりとしたタイツで見えなくなってしまった。
 美しい女性特有の曲線を描いている下半身。それは姉の政代の下半身であり、今は智一の下半身なのだ。 そっと股間を触ってみると、陰毛を触られたと言う感触が伝わってくる。引っ張ってみると当たり前の様に痛い。そして、今までついていた肉棒の感覚が全く感じられなかった。鼓動を高ぶらせながら陰毛を掻き分け、陰唇の中に指を入れる。
「うっ……何か今、体に電気が走ったような……」
 ビクンと体を震わせた智一。女性の体で最も感じる部分の一つ、クリトリスに触れたからだ。肉棒の感覚よりも、はるかにすごい刺激が伝わってくる。
「な、何だよこれ……。あっ、姉貴のココ……すげぇ」
 その尋常ではない刺激に驚いた智一。しかし、それ以上指が動く事は無かった。
「ふぅ~。あ、後からいつでも触れるじゃないか……」
 余裕の言葉が漏れる。政代の全てを手に入れたと思っているようだ。股間を触っていた手をペラペラのタイツの腕に通し、指先までしっかりと入れ込む。
 本当に人の皮膚を着るような感じだ。しっかりと肩まで入れると、お腹から胸にかけて付いているファスナーを引き上げた。
 政代より背が高いのだが、タイツが伸びるというよりは背が低くなったように思える。しかし、無理に押し込んでいるという感覚は全く無い。 そして、智一のタイツの時と同じようにファスナーは皮膚の中に見えなくなってしまい、そこには政代のふくよかな形の良い二つの胸がしっかりとついていた。
「あ、姉貴の胸だ……」
 智一の物となった綺麗な政代の手で、その胸を揉んでみる。
「あっ。胸の感触だ。こんな風に感じるんだ。女性の……姉貴の胸って」
 柔らかい胸の感触を楽しむ。身体を見下ろしてみると、そこには智一の身体では無く、政代の身体があった。ほっそりとしたウェストに、のっぺりとした股間。
 すらっとした二本の足に、きゅっと引き締まったお尻。 政代の全てが智一の物なのだ。
 ずっと鼓動は高鳴りっぱなしだが、智一は更に激しく打ち付ける行動を取り始めた。
 両手を首の後ろに回し、長い髪のついたマスクをゆっくりと被る。ギュッとマスクの首元を広げながら頭に被った智一は、しっかりと首の下まで引っ張った。
 マスクの目に自分の目を合わせ、鼻や口が合うように調整すると、マスクが顔に吸い付くような感じがした。首元を触るとマスクの継ぎ目がなくなっている。
「よ、よし……あっ! こ、声が……」
 自分の出した声に驚く。それは自分の声よりもはるかに高い音域。しかし、いつも耳にしている女性の声。
 そう、政代の声なのだ。
「す、すげぇ……声まで姉貴になってるっ!」
 興奮した政代の声でしゃべった智一は、机に置いている小さな手鏡に顔を映してみた。そこに映っているのは、化粧こそしていないが、紛れも無く政代の顔だった。
 驚いた表情が徐々にニヤけると、「やったぁ。俺、姉貴になったんだぁ!」と大声で叫んだのだった。
 嬉しそうにペタペタと頬を触る。しっかりと頬を触られた感触が伝わってくる。政代が持つ感覚を全て手に入れた智一。ガッツポーズをしながら、込み上げてくる喜びを表現した。
「すげぇよ、このタイツ。ここまで姉貴とそっくりになれるなんて思ってなかったのに」