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第二場 夏の夜の街(引返)
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>二<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>夏<rt>なつ</rt></ruby>の<ruby>夜<rt>よ</rt></ruby>の<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>(<ruby>引返<rt>ひきかえし</rt></ruby>)
だい2ば なつの よの まち (ひきかえし
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第三場 冬の夜の街
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>三<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>冬<rt>ふゆ</rt></ruby>の<ruby>夜<rt>よ</rt></ruby>の<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>
) だい3ば ふゆの よの まち
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
〔大詰〕第一場 柳橋水熊横丁
〔<ruby>大詰<rt>おおづめ</rt></ruby>〕<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>一<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>柳橋<rt>やなぎばし</rt></ruby><ruby>水熊<rt>みずくま</rt></ruby><ruby>横丁<rt>よこちょう</rt></ruby>
」おおづめ「」 だい1ば やなぎばし みずくま よこちょー
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第二場 おはまの居間
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>二<ruby>場<rt>ば</rt></ruby>おはまの<ruby>居間<rt>いま</rt></ruby>
だい2ば おはまの いま
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第三場 荒川堤(引返)
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>三<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>荒川堤<rt>あらかわづつみ</rt></ruby>(<ruby>引返<rt>ひきかえし</rt></ruby>)
だい3ば あらかわづつみ (ひきかえし)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
芸者三吉・およつ・魚熊・魚北・帳場与兵衛・通行の男女・唄好きの酔漢・母を迎える男・寄席帰りの母・渡し舟のもの・出入りの頭・駕丁・そのほか。
<ruby>芸者<rt>げいしゃ</rt></ruby><ruby>三吉<rt>さんきち</rt></ruby>・およつ・<ruby>魚熊<rt>うおくま</rt></ruby>・<ruby>魚北<rt>うおきた</rt></ruby>・<ruby>帳場<rt>ちょうば</rt></ruby><ruby>与兵衛<rt>よへえ</rt></ruby>・<ruby>通行<rt>つうこう</rt></ruby>の<ruby>男女<rt>だんじょ</rt></ruby>・<ruby>唄好<rt>うたず</rt></ruby>きの<ruby>酔漢<rt>すいかん</rt></ruby>・<ruby>母<rt>はは</rt></ruby>を<ruby>迎<rt>むか</rt></ruby>える<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>・<ruby>寄席帰<rt>よせがえ</rt></ruby>りの<ruby>母<rt>はは</rt></ruby>・<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>し<ruby>舟<rt>ぶね</rt></ruby>のもの・<ruby>出入<rt>でい</rt></ruby>りの<ruby>頭<rt>かしら</rt></ruby>・<ruby>駕丁<rt>かごや</rt></ruby>・そのほか。
げいしゃ さんきち・およつ・うおくま・うおきた・ ちょーば よへえ・つーこーの だんじょ・うたずきの すいかん・ははを むかえる おとこ・よせがえりの はは・ わたしぶねの もの・でいりの かしら・かごや・その ほか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
〔序幕〕
〔<ruby>序幕<rt>じょまく</rt></ruby>〕
「じょまく」
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第一場 金町瓦焼の家(春)
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>一<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby><ruby>瓦焼<rt>かわらやき</rt></ruby>の<ruby>家<rt>いえ</rt></ruby>(<ruby>春<rt>はる</rt></ruby>)
だい1ば かなまち かわらやきの いえ (はる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
江戸川沿岸、南寄りの武州南葛飾郡金町の瓦焼惣兵衛の家。
<ruby>江戸川<rt>えどがわ</rt></ruby><ruby>沿岸<rt>えんがん</rt></ruby>、<ruby>南寄<rt>みなみよ</rt></ruby>りの<ruby>武州<rt>ぶしゅう</rt></ruby><ruby>南<rt>みなみ</rt></ruby><ruby>葛飾郡<rt>かつしかぐん</rt></ruby><ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby>の<ruby>瓦焼<rt>かわらやき</rt></ruby><ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>の<ruby>家<rt>いえ</rt></ruby>。
≪ えどがわ えんがん、 みなみよりの ぶしゅー みなみ かつしかぐん かなまちの かわらやき そーべえの いえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
嘉永元年の春。
<ruby>嘉永<rt>かえい</rt></ruby><ruby>元年<rt>がんねん</rt></ruby>の<ruby>春<rt>はる</rt></ruby>。
かえい がんねんの はる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
夕暮れ近くより夜にかけて――。
<ruby>夕暮<rt>ゆうぐ</rt></ruby>れ<ruby>近<rt>ちか</rt></ruby>くより<ruby>夜<rt>よる</rt></ruby>にかけて――。
ゆーぐれ ちかくより よるに かけて --。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
右手寄りに母屋(土間への入口と障子の嵌った縁側付きの座敷)。
<ruby>右手寄<rt>みぎてよ</rt></ruby>りに<ruby>母屋<rt>おもや</rt></ruby>(<ruby>土間<rt>どま</rt></ruby>への<ruby>入口<rt>いりぐち</rt></ruby>と<ruby>障子<rt>しょうじ</rt></ruby>の<ruby>嵌<rt>はま</rt></ruby>った<ruby>縁側付<rt>えんがわつ</rt></ruby>きの<ruby>座敷<rt>ざしき</rt></ruby>)。
みぎてよりに おもや (どまえの いりぐちと しょーじの はまった えんがわつきの ざしき(。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
草葺のがッしりとした建築、中央から左手へかけ瓦焼場、竈が幾つかある。
<ruby>草葺<rt>くさぶき</rt></ruby>のがッしりとした<ruby>建築<rt>けんちく</rt></ruby>、<ruby>中央<rt>ちゅうおう</rt></ruby>から<ruby>左手<rt>ひだりて</rt></ruby>へかけ<ruby>瓦<rt>かわら</rt></ruby><ruby>焼場<rt>やきば</rt></ruby>、<ruby>竈<rt>かまど</rt></ruby>が<ruby>幾<rt>いく</rt></ruby>つかある。
くさぶきの がっしりと した けんちく、 ちゅーおーから ひだりてえ かけ かわら やきば、 かまどが いくつか ある。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
その奥は低き垣、外は立木のある往来。
その<ruby>奥<rt>おく</rt></ruby>は<ruby>低<rt>ひく</rt></ruby>き<ruby>垣<rt>かき</rt></ruby>、<ruby>外<rt>そと</rt></ruby>は<ruby>立木<rt>たちき</rt></ruby>のある<ruby>往来<rt>おうらい</rt></ruby>。
その おくわ ひくき かき、 そとわ たちきの ある おーらい ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい (惣兵衛の妹。
おぬい(<ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>の<ruby>妹<rt>いもうと</rt></ruby>。
おぬい (そーべえの いもーと。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
餌を拾う鶏を小舎へ追い込む振りをして、それとなく外を見張っている)
<ruby>餌<rt>えさ</rt></ruby>を<ruby>拾<rt>ひろ</rt></ruby>う<ruby>鶏<rt>にわとり</rt></ruby>を<ruby>小舎<rt>こや</rt></ruby>へ<ruby>追<rt>お</rt></ruby>い<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>む<ruby>振<rt>ふ</rt></ruby>りをして、それとなく<ruby>外<rt>そと</rt></ruby>を<ruby>見張<rt>みは</rt></ruby>っている)
えさを ひろう にわとりを こやえ おいこむ ふりを して、 それとなく そとを みはって いる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供 (数人、隠れん坊をして、往きつ来つして遊んでいる)
<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>(<ruby>数人<rt>すうにん</rt></ruby>、<ruby>隠<rt>かく</rt></ruby>れん<ruby>坊<rt>ぼう</rt></ruby>をして、<ruby>往<rt>ゆ</rt></ruby>きつ<ruby>来<rt>き</rt></ruby>つして<ruby>遊<rt>あそ</rt></ruby>んでいる)
こども (すーにん、 かくれんぼーを して、 ゆきつ きつ して あそんで いる) ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
旅姿の下総の博徒突き膝の喜八と宮の七五郎、往来へきて立ちどまる。
<ruby>旅姿<rt>たびすがた</rt></ruby>の<ruby>下総<rt>しもうさ</rt></ruby>の<ruby>博徒<rt>ばくと</rt></ruby><ruby>突<rt>つ</rt></ruby>き<ruby>膝<rt>ひざ</rt></ruby>の<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>と<ruby>宮<rt>みや</rt></ruby>の<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>、<ruby>往来<rt>おうらい</rt></ruby>へきて<ruby>立<rt>た</rt></ruby>ちどまる。
たびすがたの しもーさの ばくと つきひざの きはちと みやの しちごろー、 おーらいえ きて たちどまる ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 (子供の一人を手招ぎして、何か訊く)
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>(<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>の<ruby>一人<rt>ひとり</rt></ruby>を<ruby>手招<rt>てまね</rt></ruby>ぎして、<ruby>何<rt>なに</rt></ruby>か<ruby>訊<rt>き</rt></ruby>く)
きはち (こどもの ひとりを てまねぎ して、 なにか きく)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供 (知らないと頭を振る。
<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>(<ruby>知<rt>し</rt></ruby>らないと<ruby>頭<rt>あたま</rt></ruby>を<ruby>振<rt>ふ</rt></ruby>る。
こども (しらないと あたまを ふる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
他の子供は喜八、七五郎を不思議そうに、たかッて見ている)
<ruby>他<rt>ほか</rt></ruby>の<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>は<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>、<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>を<ruby>不思議<rt>ふしぎ</rt></ruby>そうに、たかッて<ruby>見<rt>み</rt></ruby>ている)
ほかの こどもわ きはち、 しちごろーを ふしぎそーに、 たかって みて いる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 何ッ知らねえ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>何<rt>なに</rt></ruby>ッ<ruby>知<rt>し</rt></ruby>らねえ。
しちごろー なにっ しらねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
そんな事があるもんか。
そんな<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>があるもんか。
そんな ことが ある もんか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 七、またお株が始まった。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>七<rt>しち</rt></ruby>、またお<ruby>株<rt>かぶ</rt></ruby>が<ruby>始<rt>はじ</rt></ruby>まった。
きはち しち、 また おかぶが はじまった。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
ここは下総とは川一つ国が違うぜ。
ここは<ruby>下総<rt>しもうさ</rt></ruby>とは<ruby>川<rt>かわ</rt></ruby><ruby>一<rt>ひと</rt></ruby>つ<ruby>国<rt>くに</rt></ruby>が<ruby>違<rt>ちが</rt></ruby>うぜ。
ここわ しもーさとわ かわ ひとつ くにが ちがうぜ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
旅先だぜ。
<ruby>旅先<rt>たびさき</rt></ruby>だぜ。
たびさきだぜ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 だってお前。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>だってお<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>。
しちごろー だって おめえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
同じ村の餓鬼共のくせに知らねえ奴があるもんか。
<ruby>同<rt>おな</rt></ruby>じ<ruby>村<rt>むら</rt></ruby>の<ruby>餓鬼共<rt>がきども</rt></ruby>のくせに<ruby>知<rt>し</rt></ruby>らねえ<ruby>奴<rt>やつ</rt></ruby>があるもんか。
おなじ むらの がきどもの くせに しらねえ やつが ある もんか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供 (怖れて、一人逃げ二人逃げ、一緒にどッと逃げて行く)
<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>(<ruby>怖<rt>おそ</rt></ruby>れて、<ruby>一人<rt>ひとり</rt></ruby><ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げ<ruby>二人<rt>ふたり</rt></ruby><ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げ、<ruby>一緒<rt>いっしょ</rt></ruby>にどッと<ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>く)
こども (おそれて、 ひとり にげ ふたり にげ、 いっしょに どっと にげて いく)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 それ見ろい。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>それ<ruby>見<rt>み</rt></ruby>ろい。
きはち それ みろい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供達が怖がって、みんな逃げて行ってしまった。
<ruby>子供達<rt>こどもたち</rt></ruby>が<ruby>怖<rt>こわ</rt></ruby>がって、みんな<ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>ってしまった。
こどもたちが こわがって、 みんな にげて いって しまった。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 逃げて行ってもいいじゃねえか。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>ってもいいじゃねえか。
しちごろー にげて いっても いいじゃ ねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
尋ねる家はここなんだ。
<ruby>尋<rt>たず</rt></ruby>ねる<ruby>家<rt>うち</rt></ruby>はここなんだ。
たずねる うちわ ここなんだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい (そっと母屋の方へ行きかける)
おぬい(そっと<ruby>母屋<rt>おもや</rt></ruby>の<ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>へ<ruby>行<rt>い</rt></ruby>きかける)
おぬい (そっと おもやの ほーえ いきかける)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 おお、娘さん。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>おお、<ruby>娘<rt>むすめ</rt></ruby>さん。
しちごろー おお、 むすめさん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(仕方なしに立ちどまる)
(<ruby>仕方<rt>しかた</rt></ruby>なしに<ruby>立<rt>た</rt></ruby>ちどまる)
(しかた なしに たちどまる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 金町の瓦屋さんで、惣兵衛さんは此方だね。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby>の<ruby>瓦屋<rt>かわらや</rt></ruby>さんで、<ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>さんは<ruby>此方<rt>こちら</rt></ruby>だね。
きはち かなまちの かわらやさんで、 そーべえ さんわ こちらだね。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
惣兵衛さんにお目にかかりたい。
<ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>さんにお<ruby>目<rt>め</rt></ruby>にかかりたい。
そーべえ さんに おめに かかりたい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 惣兵衛というおやじをここへ出せ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>というおやじをここへ<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>せ。
しちごろー そーべえと いう おやじを ここえ だせ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 兄さんは講中の方とご一緒に、お伊勢様へ参って居ります。
おぬい<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんは<ruby>講中<rt>こうじゅう</rt></ruby>の<ruby>方<rt>かた</rt></ruby>とご<ruby>一緒<rt>いっしょ</rt></ruby>に、お<ruby>伊勢様<rt>いせさま</rt></ruby>へ<ruby>参<rt>まい</rt></ruby>って<ruby>居<rt>お</rt></ruby>ります。
おぬい にいさんわ こーじゅーの かたと ごいっしょに、 おいせさまえ まいって おります。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 留守か。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>留守<rt>るす</rt></ruby>か。
きはち るすか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
して家にはだれがいる。
して<ruby>家<rt>うち</rt></ruby>にはだれがいる。
して うちにわ だれが いる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 お前の他に男はいねえか。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>お<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>の<ruby>他<rt>ほか</rt></ruby>に<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>はいねえか。
しちごろー おめえの ほかに おとこわ いねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 職人達はきょうは休み、年期の者は行徳へ使いに行きました。
おぬい<ruby>職人達<rt>しょくにんたち</rt></ruby>はきょうは<ruby>休<rt>やす</rt></ruby>み、<ruby>年期<rt>ねんき</rt></ruby>の<ruby>者<rt>もの</rt></ruby>は<ruby>行徳<rt>ぎょうとく</rt></ruby>へ<ruby>使<rt>つか</rt></ruby>いに<ruby>行<rt>い</rt></ruby>きました。
おぬい しょくにんたちわ きょーわ やすみ、 ねんきの ものわ ぎょーとくえ つかいに いきました。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 そんな人の事じゃねえ。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>そんな<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>の<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>じゃねえ。
きはち そんな ひとの ことじゃ ねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 半次が帰って来てるか、それを聞いているんだい。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>半次<rt>はんじ</rt></ruby>が<ruby>帰<rt>かえ</rt></ruby>って<ruby>来<rt>き</rt></ruby>てるか、それを<ruby>聞<rt>き</rt></ruby>いているんだい。
しちごろー はんじが かえって きてるか、 それを きいて いるんだい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 半次兄さんなら居りません。
おぬい<ruby>半次<rt>はんじ</rt></ruby><ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんなら<ruby>居<rt>お</rt></ruby>りません。
おぬい はんじ にいさんなら おりません。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 白ばッくれるな。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>白<rt>しら</rt></ruby>ばッくれるな。
しちごろー しらばっくれるな。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 七。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>七<rt>しち</rt></ruby>。
きはち しち。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
相手は綺麗な娘ッ子だ。
<ruby>相手<rt>あいて</rt></ruby>は<ruby>綺麗<rt>きれい</rt></ruby>な<ruby>娘<rt>むすめ</rt></ruby>ッ<ruby>子<rt>こ</rt></ruby>だ。
あいてわ きれいな むすめっこだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おとなしく云えよう。
おとなしく<ruby>云<rt>い</rt></ruby>えよう。
おとなしく いえよー。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 だって、お前、図々しく、居ねえなんて吐かすからよ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>だって、お<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>、<ruby>図々<rt>ずうずう</rt></ruby>しく、<ruby>居<rt>い</rt></ruby>ねえなんて<ruby>吐<rt>ぬ</rt></ruby>かすからよ。
しちごろー だって、 おめえ、 ずーずーしく、 いねえなんて ぬかすからよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 まあいいやな。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>まあいいやな。
きはち まあ いいやな。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
娘さん。
<ruby>娘<rt>むすめ</rt></ruby>さん。
むすめさん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
ここに手紙を書いてきた、これを半次に渡してくれ。
ここに<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>書<rt>か</rt></ruby>いてきた、これを<ruby>半次<rt>はんじ</rt></ruby>に<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>してくれ。
ここに てがみを かいて きた、 これを はんじに わたして くれ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい でも、全く参って居りませんもの。
おぬいでも、<ruby>全<rt>まった</rt></ruby>く<ruby>参<rt>まい</rt></ruby>って<ruby>居<rt>お</rt></ruby>りませんもの。
おぬい でも、 まったく まいって おりませんもの。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 まだあんな事をいってやがる。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>まだあんな<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>をいってやがる。
しちごろー まだ あんな ことを いってやがる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 今は居ねえか知れねえが、今にもここへくる筈だ。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>今<rt>いま</rt></ruby>は<ruby>居<rt>い</rt></ruby>ねえか<ruby>知<rt>し</rt></ruby>れねえが、<ruby>今<rt>いま</rt></ruby>にもここへくる<ruby>筈<rt>はず</rt></ruby>だ。
きはち いまわ いねえか しれねえが、 いまにも ここえ くる はずだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
来たら必ず渡してくれ。
<ruby>来<rt>き</rt></ruby>たら<ruby>必<rt>かなら</rt></ruby>ず<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>してくれ。
きたら かならず わたして くれ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(手紙をおぬいが受取らぬので垣の中へ抛り込み)七。
(<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>をおぬいが<ruby>受取<rt>うけと</rt></ruby>らぬので<ruby>垣<rt>かき</rt></ruby>の<ruby>中<rt>なか</rt></ruby>へ<ruby>抛<rt>ほう</rt></ruby>り<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>み)<ruby>七<rt>しち</rt></ruby>。
(てがみを おぬいが うけとらぬので かきの なかえ ほーりこみ) しち。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
さあ行こう。
さあ<ruby>行<rt>い</rt></ruby>こう。
さあ いこー。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 (不服らしく)そんな事より踏み込んだ方が、埒が早くあくじゃねえか。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>(<ruby>不服<rt>ふふく</rt></ruby>らしく)そんな<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>より<ruby>踏<rt>ふ</rt></ruby>み<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んだ<ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>が、<ruby>埒<rt>らち</rt></ruby>が<ruby>早<rt>はや</rt></ruby>くあくじゃねえか。
しちごろー (ふふくらしく) そんな ことより ふみこんだ ほーが、 らちが はやく あくじゃ ねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 べら棒め。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>べら<ruby>棒<rt>ぼう</rt></ruby>め。
きはち べらぼーめ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
俺達も名うての人間。
<ruby>俺達<rt>おれたち</rt></ruby>も<ruby>名<rt>な</rt></ruby>うての<ruby>人間<rt>にんげん</rt></ruby>。
おれたちも なうての にんげん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
やるなら尋常にやる方が立派でいい。
やるなら<ruby>尋常<rt>じんじょう</rt></ruby>にやる<ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>が<ruby>立派<rt>りっぱ</rt></ruby>でいい。
やるなら じんじょーに やる ほーが りっぱで いい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 そりゃ立派にやりていが、手間を食うから俺あ嫌いさ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>そりゃ<ruby>立派<rt>りっぱ</rt></ruby>にやりていが、<ruby>手間<rt>てま</rt></ruby>を<ruby>食<rt>く</rt></ruby>うから<ruby>俺<rt>おれ</rt></ruby>あ<ruby>嫌<rt>きら</rt></ruby>いさ。
しちごろー そりゃ りっぱに やりていが、 てまを くうから おれあ きらいさ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 来いよ。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>来<rt>こ</rt></ruby>いよ。
きはち こいよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
急ぐ事があるかい、袋の中の鼠じゃねえか。
<ruby>急<rt>いそ</rt></ruby>ぐ<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>があるかい、<ruby>袋<rt>ふくろ</rt></ruby>の<ruby>中<rt>なか</rt></ruby>の<ruby>鼠<rt>ねずみ</rt></ruby>じゃねえか。
いそぐ ことが あるかい、 ふくろの なかの ねずみじゃ ねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(七五郎と共に去る)
(<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>と<ruby>共<rt>とも</rt></ruby>に<ruby>去<rt>さ</rt></ruby>る)
(しちごろーと ともに さる)
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おぬい (二人のうしろ姿を見送り、怖々手紙を拾う)
おぬい(<ruby>二人<rt>ふたり</rt></ruby>のうしろ<ruby>姿<rt>すがた</rt></ruby>を<ruby>見送<rt>みおく</rt></ruby>り、<ruby>怖々<rt>こわごわ</rt></ruby><ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>拾<rt>ひろ</rt></ruby>う)
おぬい (ふたりの うしろ すがたを みおくり、 こわごわ てがみを ひろう) ≪
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若き博徒、金町の半次郎、人を害して逃亡し、実家へゆうべから来ている。
<ruby>若<rt>わか</rt></ruby>き<ruby>博徒<rt>ばくと</rt></ruby>、<ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby>の<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>、<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>を<ruby>害<rt>がい</rt></ruby>して<ruby>逃亡<rt>とうぼう</rt></ruby>し、<ruby>実家<rt>じっか</rt></ruby>へゆうべから<ruby>来<rt>き</rt></ruby>ている。
わかき ばくと、 かなまちの はんじろー、 ひとを がいして とーぼー し、 じっかえ ゆーべから きて いる
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい お、兄さん、出ちゃいけないよ。
おぬいお、<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん、<ruby>出<rt>で</rt></ruby>ちゃいけないよ。
おぬい お、 にいさん、 でちゃ いけないよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 今の声はだれだ。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby><ruby>今<rt>いま</rt></ruby>の<ruby>声<rt>こえ</rt></ruby>はだれだ。
はんじろー いまの こえわ だれだ。
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この辺の人らしくなかったが、――その手紙は俺にきたのか。
この<ruby>辺<rt>へん</rt></ruby>の<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>らしくなかったが、――その<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>は<ruby>俺<rt>おれ</rt></ruby>にきたのか。
このへんの ひとらしく なかったが、 -- その てがみわ おれに きたのか。
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おぬい 見たことのない男がきて、これを抛り出して行ったのだよ。
おぬい<ruby>見<rt>み</rt></ruby>たことのない<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>がきて、これを<ruby>抛<rt>ほう</rt></ruby>り<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>して<ruby>行<rt>い</rt></ruby>ったのだよ。
おぬい みた ことの ない おとこが きて、 これを ほーりだして いったのだよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 三十過ぎた小粋な男か。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>三十<ruby>過<rt>す</rt></ruby>ぎた<ruby>小粋<rt>こいき</rt></ruby>な<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>か。
はんじろー 30 すぎた こいきな おとこか。
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そんならゆうべ話をした兄弟分の番場の哥児だ。
そんならゆうべ<ruby>話<rt>はなし</rt></ruby>をした<ruby>兄弟分<rt>きょうだいぶん</rt></ruby>の<ruby>番場<rt>ばんば</rt></ruby>の<ruby>哥児<rt>あにい</rt></ruby>だ。
そんなら ゆーべ はなしを した きょーだいぶんの ばんばの あにいだ。
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どれ、それを見せてくれ。
どれ、それを<ruby>見<rt>み</rt></ruby>せてくれ。
どれ、 それを みせて くれ。
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おぬい そんな人ではなかったよ。
おぬいそんな<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>ではなかったよ。
おぬい そんな ひとでわ なかったよ。
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二人連れの厭な奴なの。
<ruby>二人連<rt>ふたりづ</rt></ruby>れの<ruby>厭<rt>いや</rt></ruby>な<ruby>奴<rt>やつ</rt></ruby>なの。
ふたりづれの いやな やつなの。
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(手紙を渡す)
(<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>す)
(てがみを わたす)
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半次郎 (左り封じの手紙なので、はッとなる)
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>(<ruby>左<rt>ひだ</rt></ruby>り<ruby>封<rt>ふう</rt></ruby>じの<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>なので、はッとなる)
はんじろー (ひだり ふーじの てがみなので、 はっと なる)
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おぬい どうしたの兄さん。
おぬいどうしたの<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん。
おぬい どー したの にいさん。
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半次郎 何。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby><ruby>何<rt>なに</rt></ruby>。
はんじろー なに。
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(手紙を披かずにいる)
(<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>披<rt>ひら</rt></ruby>かずにいる)
(てがみを ひらかずに いる)
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兄さんは字が読めなかったねえ。
<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんは<ruby>字<rt>じ</rt></ruby>が<ruby>読<rt>よ</rt></ruby>めなかったねえ。
にいさんわ じが よめなかったねえ。
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それでそんな顔したのかい。
それでそんな<ruby>顔<rt>かお</rt></ruby>したのかい。
それで そんな かお したのかい。
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あたしが読んであげようか。
あたしが<ruby>読<rt>よ</rt></ruby>んであげようか。
あたしが よんで あげよーか。
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半次郎 なあに、それには及ばねえ。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>なあに、それには<ruby>及<rt>およ</rt></ruby>ばねえ。
はんじろー なあに、 それにわ およばねえ。
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用は大抵知れている。
<ruby>用<rt>よう</rt></ruby>は<ruby>大抵<rt>たいてい</rt></ruby><ruby>知<rt>し</rt></ruby>れている。
よーわ たいてい しれて いる。
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おぬい でも、変な人が置いて行った手紙だもの、気になるから見せておくれ。
おぬいでも、<ruby>変<rt>へん</rt></ruby>な<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>が<ruby>置<rt>お</rt></ruby>いて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>った<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>だもの、<ruby>気<rt>き</rt></ruby>になるから<ruby>見<rt>み</rt></ruby>せておくれ。
おぬい でも、 へんな ひとが おいて いった てがみだもの、 きに なるから みせて おくれ。
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兄さんが持っていたって、何と書いてあるか判りやしまい。
<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんが<ruby>持<rt>も</rt></ruby>っていたって、<ruby>何<rt>なん</rt></ruby>と<ruby>書<rt>か</rt></ruby>いてあるか<ruby>判<rt>わか</rt></ruby>りやしまい。
にいさんが もって いたって、 なんと かいて あるか わかりや しまい。
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半次郎 お袋はどこへ行った。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>お<ruby>袋<rt>ふくろ</rt></ruby>はどこへ<ruby>行<rt>い</rt></ruby>った。
はんじろー おふくろわ どこえ いった。
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おぬい おッかさんは帝釈様へ。
おぬいおッかさんは<ruby>帝釈様<rt>たいしゃくさま</rt></ruby>へ。
おぬい おっかさんわ たいしゃくさまえ。
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もう帰ってくる時分だよ。
もう<ruby>帰<rt>かえ</rt></ruby>ってくる<ruby>時分<rt>じぶん</rt></ruby>だよ。
もー かえって くる じぶんだよ。
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兄さん今の手紙をお出しよ。
<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん<ruby>今<rt>いま</rt></ruby>の<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>をお<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>しよ。
にいさん いまの てがみを おだしよ。
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半次郎 お前なんか見るものじゃねえ。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>お<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>なんか<ruby>見<rt>み</rt></ruby>るものじゃねえ。
はんじろー おめえなんか みる ものじゃ ねえ。
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おぬい お出しというのに兄さん。
おぬいお<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>しというのに<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん。
おぬい おだしと いうのに にいさん。
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半次郎 何。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby><ruby>何<rt>なに</rt></ruby>。
はんじろー なに。
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何をするんだ。
<ruby>何<rt>なに</rt></ruby>をするんだ。
なにを するんだ。
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