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昨年1年間で、難民としてスイスに認定を求める人たちが前年比5割以上増加した。難民の急増は一般市民の生活に何を意味するのか。難民のスイスでの生活についてじかに知りたいと1月24日、チューリヒ市内にある難民収容所のオープンハウスには多くの人が集まった。
見学者が集まったのは、改築許可が下るのを待つ高級ホテル。チューリヒ市がここを暫定的な難民収容所として設備を整え、現在約151人の難民申請者および難民を受け入れている。
エレベーターの動かないホテル
2007年にスイス政府が受けた難民申請件数は、1万6606件だった。主にエリトリア、ソマリアなどアフリカ諸国の人々がイタリアを経由して、スイスに入国した。このため、収容所は満員。ベルンでは、軍隊の防空壕が難民の生活の場としてあてがわれた。
州ごとに人口比で難民が割り当てられることから、17%と最も多くの人数を受け入れる義務のあるチューリヒ州でも、これまでの収容施設では収容しきれない。このため、現在空き家となっているホテルを借り上げ、1月初旬から難民を収容することになった。この暫定的収容所は、チューリヒ市内にある小高い山のすそ野にあり、市民の憩いの場や、家庭菜園が近くにある。全ての部屋からチューリヒ市を見下ろすことができ展望が良いこともあり、市内でも有名な高級ホテルだった。
15人ごとのグループに分かれて施設を見学して回る。エレベーターを横目に、階段を上がる市民たちに案内人の女性が言った。
「当然のことながら、エレベーターは動いていません」
案内された部屋はおよそ20平方メートルの広さ。青い模様のカバーで覆われた3台のベッドの上には、白熊のぬいぐるみが置いてある。見学者は、気恥ずかしそうに立つ2人の少女に申し訳なさそうに部屋に入って行く。
「土足でもよいと住人たちには了解を取っていますから、さあ、どんどん入ってください。さて、家具もホテルの高級品は使っていません。あてがわれるのは、ベッドと椅子とテーブルだけです。家族には冷蔵庫が部屋に備え付けてあります」
かつての高級ホテルの面影はすっかり取り払われている。窓からの展望が唯一の贅沢だろう。言葉少なく見学者は部屋を去っていった。
キッチンが問題
17歳のアドラさんを筆頭に、ヌールさん ( 15歳 ) 、トリさん ( 13歳 ) の姉妹は父親のアラムさんとイラクから、大型車でトルコを通ってスイスに逃げてきた。家電や車を販売していたアラムさんは「サダム･フセインのために働いたため」イラクにはとどまれなかったのだという。現在、この親子の難民申請は審査中で、シリアにいる妻と生後6カ月の子どもはスイスに呼び寄せることはできない。
アラムさんはイスラム教徒。娘を施設の男性の目にさらしたくないため、料理をするのは彼の役目だ。娘たちにとってはそれが問題。「わたしたちはお母さんと同じキリスト教徒なのに」と父親の厳しいしつけに不満そうなアドラさんは、たどたどしい英語とドイツ語を交え、父親を台所から呼んで来られないことを謝った。姉妹はイエス・キリストと同じ言葉を話す種族、アラメア人の血を引くのだ。
アラムさんが台所から、姉妹たちが待つ部屋へ戻ってきた。娘たちのために料理をしていたのだという。3分ほどかかる別館にある台所は遠いと言いながら、筆者を案内してくれた。
「早く、何でもいいから仕事をしたい。月に1200フラン ( 約9万6000円 ) の支給ではやっていけない。食糧も洋服もすべてこれで賄うのですよ」
小さな鍋には、くつくつとよく煮込まれた豆があった。もう一方のなべにはトリの水煮。「大手スーパーより4フラン ( 約300円 ) 安いところで買った」
と言う。
難民との向き合いが目的
「期待以上に多くの人が見学してくれた。オープンハウスという機会を利用し、難民のスイスでの生活を知ってもらい、市民には広く難民について話し合ってほしいと思う」
とチューリヒ市難民局 ( AOZ ) のトマス・クンツ局長は言う。クンツ局長の話には、市民に難民を受け入れてほしいという言葉は一度も出てこない。難民をチューリヒ市民の1つのテーマとして広く認識してもらいたいというのがAOZの主旨だ。AOZでは市民のホットラインも設け、市民と難民の対立があれば即刻感知し、解決に努める体制にあると強調する。
この施設を開設するに当たりオブザーバーを募ったところ、その日のうちに15人以上の人が名乗りを上げた。この日の見学者は難民問題を特に意識している人が多く集まったのかもしれない。
「子どもにもこの施設を見せたかった。ベルンの防空壕より人間的で良いと思います。難民がこの施設に不満を抱いている、ですって？不満をいう権利も彼らにはあると思うけれど」
とファビアン・ボッシュさんは言う。横に立つアンディ・チャネンさんは、
「難民を否定的に見る人たちはいるが、スイス人が彼らより立派だと思うのは間違い。外国人の労働があったからこそ、今のスイスがあるということを忘れてはならない」
2人とも、スイスに来た難民は、受け入れられなかったらどこへ行けばいいのか。行く所がないだろうと、全面的な受け入れを主張する。市民を案内した、AOZのトマス・シュムッツさんによると、見学者の反応は肯定的なものがほとんどだったという。唯一、この施設が恒久的に難民施設として認められてしまうのは困るという苦情を聞いただけだという。
ここに住む人たちには、ドイツ語学習のほか「職業活動プログラム」が提供される。「早いうちから、何かを学んだり働いたりすることが肝心」と言う担当のハンス・ネフ氏は、難民の能力発掘の天才だ。祖国で携わっていた職業をスイスで生かし、病院の食堂、路面電車の掃除、リサイクル業務などチューリヒ市が用意した200カ所の職場で、スイス人と共に働く場を斡旋する。ここで身に付けた能力や資格が、難民を早期に独立させることを助けるという。
「職場で難民とスイス人が一緒に働くことは非常に有意義だ。働く人を高く評価するのがスイス人。難民に職場で接することで、お互い興味がわけば、われわれのプログラムも成果が上がったといえるのではないか」
と、お互いが批判しあうことも含めて良いことだと言う。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
スイス難民事情
2007年難民認定を求める申請件数は前年比53.1%増加し、総数1万6606件だった。
一回目の審査で認定された人は2261人。最終的に認定される率は約45%だ。国別で見ると、申請が多い順に、エリトリア、ソマリア、イラク、セルビア、コソボ、スリランカ、ナイジェリア、トルコ、グルジア、アフガニスタン、イランと続く。
難民申請数の急増を受け連邦政府は、難民・外国人法をさらに強化する方針を1月中旬明らかにした。難民認可の手続きにかかる時間はこれまでより短縮され、悪用は徹底的に阻止するという。例えば、兵役を拒否した人や脱走兵は今後、スイスでは難民として認められなくなると見られる。また、各国のスイス大使館における難民申請もできなくなるもようだ。