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重く頑丈な木の扉を押して建物の中に足を踏み入れると、真っ先に耳に入るのは糸を打ち込む筬（おさ）の音。窓際に置かれた古く大きな織り機から聞こえてくるその音は、軽快にリズムを刻みながらもどっしりと力強く安定感があります。まるでこの村の女性たちの手から手へと受け継がれてきた手織り文化の厚みそのものを伝えるかのようです。ここは去年の夏休みに訪れたグラウビュンデン州にあるサンタマリア村（St. Maria）の手織り工房「テッサンダ（Tessanda）」です。
テッサンダとはロマンシュ語で「はた織り」という意味だそうです。１９２８年、ひとりの牧師がこの工房を立ち上げました。村の女性たちの生活を支えるだけでなく、この村のあるミュスタイア谷に伝わる手織り文化の保護と継承も目的としていました。谷の手織りの歴史は８３０年ごろにまで遡ります。サンタマリア村の隣の村ミュスタイア（Müstair）にはユネスコの世界遺産で有名な聖ヨハネ・ベネディクト修道院があり、そこには当時のフレスコ画家たちが身につけていた洋服の袖の模様が残っているといいます。また、昔は各農家に必ず１台は織り機があったというほど手織りが生活に密着していました。
かつてはテッサンダのような工房がスイス各地にいくつもあったそうです。しかし、大量生産の出来ない高価な手織りの布は機械で織られたものや外国からの安価な製品に取って代わられる運命にありました。こうして手織り工房は１軒ずつ姿を消していったのです。今でも手織り愛好者が集うサークル、手織り作家の工房やセラピーを目的にした障害者の工房は数多くありますが、商業活動を目的として後継者の育成にも努める工房はテッサンダのみになってしまったそうです。
テッサンダの店内は布巾からバッグやバス用品まで、日常のさまざまな場面で使えるもので溢れています。手織りをする人たちの間では色がきれいなことで定評があるスイスの糸。ここでも透明感のある鮮やかな色や、心にすっと馴染むやさしい色たちが目を楽しませてくれます。旅の思い出というだけでなく、使うたびに喜びがある「日用品の美」を求めるなら、きっと何か気に入ったものが見つかることでしょう。手織りが珍しくなったこの時代、手仕事の持つ温かいイメージや特別感がその魅力なのだと思います。
手工芸をテーマにスイスを歩いてみると、実にいろいろな個性的な工房やお店があり、クリエイティブな人たちが多いことに驚かされます。４年前にティチーノ州のヴェルザスカ谷を訪れた時も、谷奥の小さな村ソニョーニョ（Sonongo）で偶然にも谷の女性たちが経営する手工芸店を見つけました。かわいらしいフェルトの作品や草木染めの毛糸を前に時が経つのも忘れてしまいました。また、クリスマスマーケットや町のお祭りなどでも手工芸品はかなりの存在感を放ち、多くの人たちが手仕事に関心を寄せる姿を目にします。もっと身近な所では、スイスの民芸品を扱う「ハイマートヴェルク（Heimatwerk）」や近所のフェアトレードのお店でもスイスの手工芸作家の作品を取り扱っていたりします。ここでは作り手の顔は見えませんが、作品から作家の世界は伝わることでしょう。
新しい土地にやって来て生活環境がガラリと変わっても、それまでと同じように生活に潤いを与えるてくれるもの。おそらくそれは趣味ではないでしょうか。趣味を通して新しい人間関係が生まれ、新しい社会に入り込むきっかけもできます。私にとってのそんな「潤滑油」は手芸でした。これからもスイス人の手と真心から生まれた美しいものを探し続けたいと思います。
中村クネヒト友紀
プロフィール：中村クネヒト友紀
２００７年にスイスに移住。現在ドイツ人の夫と２歳の長女と共にチューリヒ州に暮らす。職業、翻訳者。趣味は染織、キャンプ、山歩き。近頃は子どもを通じてスイス人と知り合う機会が増えて嬉しいものの、スイスドイツ語には悪戦苦闘中。インフォボックス終わり