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がんの治療法開発、ウクライナ戦争で暗礁に
ウクライナ戦争の影響で、ウクライナとロシアで行われている何百件もの臨床試験が中断を強いられている。患者は治療を受けられない上、新薬の開発も脅かされている。その火の粉は、スイスの製薬会社にも降りかかる。
- Deutsch Ukraine-Krieg ist verheerend für Krebs-Patient:innen und Forschung
- Español Cáncer: La guerra en Ucrania amenaza el desarrollo de nuevos tratamientos
- Português Guerra ameaça inviabilizar desenvolvimento de novos tratamentos contra o câncer
- 中文 乌克兰战争恐将阻挠癌症新疗法的开发
- Français La guerre en Ukraine menace le développement de nouveaux traitements contre le cancer
- عربي الحرب في أوكرانيا تهدد بعرقلة تطوير علاجات جديدة للسرطان
- English Ukraine war threatens to derail development of new cancer treatments (原文)
- Pусский Война в Украине может сорвать тестирование новых лекарств и видов терапии
- Italiano La guerra in Ucraina minaccia lo sviluppo di nuovi trattamenti contro il cancro
米国のグローバルバイオ医薬品企業、インサイトの最高医学責任者スティーブン・スタイン氏は、ウクライナ侵攻を聞いて、すぐに同社の臨床試験に携わる人々のことを思ったという。スイスに欧州本部を置く同社は、現場運営と治験データ管理をウクライナ業者10社に委託する。3月下旬の時点で、治療中の被験者はまだ78人いた。
「戦争が勃発したとき、企業として治療の続行を決定した」と同氏はswissinfo.chに語る。「患者は既に大きな勇気を示している。がんを患いながら、この研究への参加を申し出てくれた。私たちはそのため、被験者が引き続き治療を受けられるよう、最善の努力をすると伝えた」
だが何百万人もの人々が国外に脱出し、病院が爆撃を受け、患者らが地下壕に避難する中、治療を続行し、臨床試験のデータを厳密にチェックし続けるのは不可能に近い。幸い、ウクライナや近隣諸国でインサイトの委託業者の無事が確認されている。治験は中断されたが、同社は現地の保健スタッフと協力し、患者のケアの継続と治験の完全性の維持に努めているという。
戦争が長引けば、ウクライナの被験者には壊滅的な影響が出る。この治療法に最後の望みを託している患者も多い。また、有望ながん治療の開発が妨げられる恐れもある。開発にはスイス製薬会社も数多く携わっている。
何故、ウクライナなのか？
インサイトを始め、過去10年間にウクライナで臨床試験を始めた製薬会社やバイオテクノロジー企業は多い。スイスの人権NGO「パブリック・アイ」が2013年に発表した調査報告書他のサイトへによると、1996年以降、ウクライナは国際的な共同治験を行う魅力的な拠点として企業から注目され始めた。低コストに加え、法改正で国際基準に沿った臨床試験ができるようになり、ウクライナでの臨床試験が急増した。
医療制度も充実している。スタイン氏は「非常に優れた病院や画像処理施設、そして優秀な医師がいる」と言う。同国はまた、被験者の募集がスムーズで、集計データに信頼が置けるという定評がある。
スイスの臨床研究機関CEBISインターナショナル他のサイトへ（スイス・ルガーノ拠点）の最高経営責任者（CEO）ミハイ・マノラケ氏は、ウクライナは未治療の人口、つまりある病気に対して一度も治療を受けたことがない人が多く、被験者に適しているとswissinfo.chに語る。同社は製薬会社が指定する臨床試験を手配し、モニタリングを代行する。
ウクライナはまた、企業にとってますます魅力的な市場となっている。CEBISも「EU加盟国ではないが、人口は4千万人と欧州最大」（マノラケ氏）のウクライナでも臨床試験を行った経験を持つ。スイスのウクライナとロシアへの最大の輸出品は医薬品だ。そのため「臨床試験は市場参入の足掛かりになる」と説明する。
約2400人の従業員を抱えるインサイトは、全世界で約140件の臨床試験を平行して進める。現在、ウクライナでの臨床試験は3件。少ないように思われるが、同社の主要な治験の1つである肺がん治療用の抗PD-1モノクローナル抗体他のサイトへに関する臨床試験は、被験者の約3割（530人中160人）がウクライナの患者だ。
米食品医薬品局（FDA）の臨床試験登録によると、ウクライナでの臨床試験の比率が最も多いのはスイスの製薬大手ロシュ（本社バーゼル）。業界平均の4％に対し、同社が出資する治験の約2割はウクライナで実施されている。
これには、がんや神経疾患の治療薬として有望な薬剤の治験も含まれる。最近登場した薬剤（多発性硬化症治療薬、抗体医薬「オクレバス」など）の半数以上（国際共同治験16件のうち8件が実施中または募集中）は、ウクライナの少なくとも1つの施設で治験を行っている。また、昨年FDAが特定の肺がんに対して承認した治療薬「テセントリク」については、ウクライナで18件の臨床試験が進行中または募集中だ。
ロシュの声明によると、同社が実施する国際共同治験の有効患者数のうち、約1.5％はウクライナの患者が占める。ただし個々の臨床試験におけるウクライナ人患者の割合を示すデータはない。
戦争が未来に落とす影
戦争が続く中、製薬会社の間では、多数の臨床試験とその被験者の今後を危ぶむ声や不透明感が強まっている。
戦争の影響で、医療物資の供給に支障が出ている。治験の内容を記録しモニターするどころか、患者や医師の命が危険にさらされている状態だ。世界保健機関（WHO）は3月24日、戦争の勃発以来、64カ所の医療施設他のサイトへが攻撃を受けたと報告した。
ロシュは対策本部を設置し、状況を監視するとともに、患者が情報・サポートを得られるようホットラインを開設した。また抗生物質や試薬に加え、インフルエンザや関節リウマチ、各種がん治療用の特殊な医薬品も寄付した。
同社の広報担当者はswissinfo.chに対し、「被験者がウクライナを離れて他国に移動した場合でも、治療を継続できる解決策を模索中だ」と述べた。
インサイトの臨床試験に携わるウクライナのある医師は、被験者の治療続行のために自ら国境まで薬を取りに行き、現地に持ち帰っているという。メディアの報道によると、治療続行のために医療関係者が多大な苦労を強いられているケースはめずらしくない。
ロシアとウクライナの戦争に終わりが見えない中、何百万人もの人々が身の安全の確保に努めている。この状況下、医薬品開発への長期的な影響を予測するのは困難だ。大半の医薬品は開発に10年以上かかり、1つの臨床試験のフェーズが4～5年かかることもある。製薬会社が出資してウクライナで行われている治験のほとんどは国際共同治験であるため、被験者はそれぞれ異なる国の施設で登録されている。
スタイン氏は、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）のパンデミック（世界的大流行）で構築されたデジタルシステムやツールが、今、患者や医師との意思の疎通に役立っていると説明。コロナ禍中は患者が病院に通えなくなり、臨床試験が多数中断された苦い経験から、FDAなどの機関は、データの欠如にも対処できる統計方法を確立した。
ウクライナの施設が治験の対象から外されたのか、あるいは別の被験者を見つけて続行しているのかについて、ロシュは回答を控えた。だが国際通信社ロイター他のサイトへは3月11日、同国で臨床試験を行う少なくとも7社に支障が出ていると報じた。
スタイン氏はswissinfo.chに対し、インサイトは患者が確実に治療を受けられるよう全力を尽くすが、患者との連絡が絶たれれば、代理の被験者が必要になるだろうと述べた。そして「例えば、ある都市や拠点が完全にロシアに占拠され、現場や患者とのオンライン通信が絶たれた場合、そうせざるを得ない。これは色々な意味で苦渋の決断だ」と語った。
倫理的なジレンマ
大手製薬会社の多くはロシアでの臨床試験にも出資するが、こちらも先行きは不透明だ。ロシュがスポンサーの臨床試験の約38％は、少なくとも1つの治験施設がロシアにある。今年後半に発売予定のロシュの有望なアルツハイマー治療薬「ガンテネルマブ」は、少なくとも6件の治験がロシアで行われている。ノバルティスの場合、ウクライナでの治験は少ないが、FDAの登録によれば、同社の国際共同治験の26％にロシアの治験実施施設が含まれている。
医薬品は制裁の対象外だが、臨床試験の資金調達にはロシアの国営銀行が関わっているため、企業出資の治験の多くに間接的な影響が出ている。インサイトがロシアで行っている数件の臨床試験には、26人の患者が登録されていが、「問題は金銭面だ。制裁の下で、治験実施施設にどうやって対価を払えばいいのか」とスタイン氏は頭を抱える。
既に幾つかの企業は、同国における新規治験の登録にストップをかけた。ノバルティスは3月22日、ロシアでの設備投資やメディア広告などのプロモーション活動を停止するほか、臨床試験の新規開始や、既存の治験への新規患者受け入れを一時中止するとの声明他のサイトへを発表した。
ロシュもロシアでの新たな治験開始や被験者の募集を保留している。広報担当者は「現在の優先事項は、ロシアで既存の臨床試験に参加する全ての患者が治療を続行できるようにすることだ」とした。
インサイトの場合、企業出資の治験を続けるか否かの判断は、通常個々の治験施設に委ねるが、「現時点では、これ以上ロシアにおける被験者募集を促すことはないだろう」とスタイン氏はswissinfo.chに述べた。
経済制裁で私企業の活動が禁止されているわけではないが、企業は今後もロシアでのビジネスを続けるかどうかという道徳的なジレンマに直面している。3月上旬、ウクライナ臨床研究協会のイワン・ヴィシュヌヴェツキー氏は、ロシアで事業を続ける企業は「非倫理的で恥ずべき存在」だとする文書他のサイトへを協会を代表しLinkedIn（リンクトイン）に掲載した。また企業のCEOや幹部、投資家ら800人以上が署名した公開書簡他のサイトへは、製薬会社にロシアとのビジネスを止めるよう求めている。医薬品の供給停止は避けたものの、既に一部のグローバル企業は出荷を「必須医薬品」に制限すると発表している。
こういった圧力に反し、ロシュのセベリン・シュバン最高経営責任者（CEO）は3月29日、ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーに対し、同社の医薬品に頼る全ての患者に対する責任他のサイトへがあるとし、「命を救う抗がん剤を、一方的にロシアの患者から奪うわけにはいかない」と述べた。
（英語からの翻訳・シュミット一恵）
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