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「マリンバの音は木の音。木の魂を感じる。また、大自然の中から音が湧き出てくるイメージがいつもある」と安倍圭子氏 ( 72歳 ) は言う。
マリンバをソロ楽器として独立させ、世界に広めたのが安倍氏だ。自身の作曲や日本の作曲家への委嘱作品も数多く「今日あるマリンバは日本から発信された」と話す。今回、打楽器と歌曲が課題楽器の「ジュネーブ国際音楽コンクール」の審査員として招待され、同時に2都市で演奏会を催す安倍氏に聞いた。
swissinfo.ch ：マリンバの魅力は何でしょうか。
安倍 ： マリンバの音は木の音。木の魂をわたしはいつも感じます。大地の深い、大自然の音をマリンバから感じます。低音は、人の心を癒すような深い、温かい音。高温は輝かしく明るく、あるときは鋭く、あるときは力強く表現できる楽器。だから魅かれています。
swissinfo.ch ： クラシック音楽も弾かれますか。
安倍 ： もちろんクラシックをマリンバ用に編曲して弾くこともありますが、マリンバという楽器のために書かれた曲だけを弾こうとしてきました。いつまでもクラシックの編曲物ばかりだと、協奏曲が演奏できるクラシックのソロ楽器として認められなかったからです。
今から40年前に、日本人の作曲家への委嘱を始め、また自分でも作曲し、マリンバだけのために書かれた作品を中心に演奏してきました。その後、こうした流れがアメリカに渡りヨーロッパに影響を与えるようになり、やがて、各国のマリンバ演奏家、作曲家がマリンバのための曲を書くようになりました。
以前マリンバは単なる大衆楽器で、芸術祭には参加できないと言われました。しかし、委嘱作曲家が三善晃さんなど日本を代表する現代作曲家だったので、認められたというところはあります。
また、普通、演奏家は、演奏が終わると次の演奏地に向かうだけですが、わたしは必ず演奏した地域の大学のマスターコースで教え、わたしの作品やこうした日本の作曲家の作品を紹介し、各地に日本のマリンバの花の種を播きました。その花が世界中に花開き、今では日本の作曲家の曲を世界の音楽大学でみなが勉強しています。
swissinfo.ch ： マリンバは日本ではぐくまれてきたということですね。
安倍 ： そうなのです。日本人は西洋の音楽はすべて外国から来たと思いがちですが、マリンバは、日本から発信されました。コンサート用マリンバとして自立させ、ソロ楽器として確立させたのは、自分でいうのも気がひけますが、わたしが努力してきたからだと思います。40年間の人生をそれに捧げてきました。
ただ、マリンバはまだ成長過程にあります。これからも色々な曲が作曲され、今後50年、100年たって、ピアノと同じように良い曲や、良い演奏家が淘汰 ( とうた ) されるのだと思います。
マリンバはピアノと違って一つの音の幅が広く、たたくタッチで微妙に音が変わる難しい楽器です。また聴衆の耳もまだできていない。そのため演奏家も、早く動けたり、カッコよく弾けたりする人が評価され、自分もそれでいいと甘えている場合があります。しかし、やがて良い演奏家だけが残ると思います。また、曲もマリンバの特性を生かした、魂を伝えるものだけが残っていくでしょう。
swissinfo.ch ： ご自分で作曲されるときの過程を教えて下さい。
安倍 ： わたしにとって作曲は日記のようなものです。孤独なとき、矛盾を感じたとき、悲しいことに出会ったときなどにマリンバに向かって話しかけます。頭の中にイメージがあって、メロディーが浮かんでくるときと、ポツン、ポツンとマリンバを弾いていて、それが即興になって作品に変わって行く場合と2つのタイプがあるようです。
また、民謡のメロディーが聞こえてくることもあります。民謡にのめり込み、そこからインスピレーションをもらい、一部メロディーをもらったりして作曲する場合もあります。
例えば、「風紋」というわたしの作品ですが、秋田で見た黄金色の稲の上を風がわたる、または砂漠に風が風紋を作る、そういう場面から始まり、真ん中は心象風景です。その心象風景が最後は自然界に戻って消えて行く。いわば、生まれ自然に戻っていく一瞬の人間の命をイメージして作曲し、また演奏するときもそのようなイメージを描いて弾いています。
swissinfo.ch ： 今回審査員をなさっているジュネーブコンクールの特色を説明していただけますか。
安倍 ： 普通、コンクールは、決められた作品を弾くだけですが、このコンクールのアートディレクターのジョン・ジョフロワは、演奏者に創造性を与え、素晴らしいものになっています。
具体的には、課題曲が12ページあるとすると全ページを弾くのではなく、ページの組み合わせが異なる4つのパターンを選んで演奏でき、また持ち込む打楽器もある程度演奏家が自由に選べるというものです。
こうすると、課題曲を初めからスタートする人もいれば、途中から演奏する人もいて、また終わりが、消えるように、またはエネルッシュにと色々あります。こうすると、その演奏家の表現力や構成力などを、審査員としてより良く理解できます。
swissinfo.ch ： かなり自由ですが、コンクールの評価基準はどこにあるのでしょうか。
安倍 ： 結局音楽性です。音楽とはその人の個性を表現することですから、その個性を音楽として訴えられる人が高得点を取ります。技術的にうまく弾けることではない。技術はあくまでサポートであって、個性のある、感性の強い人で、それを音楽として訴えられることが一番大切です。
専門家は手が早く動くとか、ミスタッチがなかったとかそういうことをつい言いがちですが、あなたの心に響いてきたかということを一番に考えなさい、そして響いてきたら、ありがとうと言うこと。それが良いマリンバ奏者を育てることであり、良い音楽の社会を育てることだといつも言っています。
里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch
安倍圭子氏略歴
国際的マリンバ演奏家。演奏活動は世界50カ国に及ぶ。
マリンバの新たな奏法を次々と開拓しながら音楽表現の幅を拡げ、数多くの作曲家への委嘱活動を実践すると同時に、自身のオリジナル作品も生み出すことにより、マリンバを独奏楽器として確立させてきた。演奏の場は幅広く、ソリストとしてオーケストラや室内楽、打楽器合奏団やジャズ奏者との共演など、ジャンルを超えたユニークな活動が注目されている。
強烈な集中力を持った自由自在な表現力は、芸術性の高い独自のマリンバの世界を築き上げ、音楽史上に残るアーティストとして世界各地で絶賛され、確固たる評価と地位を得ている。
文化庁芸術祭優秀賞6回受賞。1993年、アメリカに於いて国際打楽器芸術協会 ( PAS )より打楽器界のノーベル賞といわれるホール・オブ・フェーム栄誉賞を世界最初の女性として受賞。
桐朋学園大学特任教授、名古屋音楽大学大学院客員教授。
シュツットガルト音楽大学ビジティング・プロフェッサー。元ユトリヒト音楽大学客員教授。( 安倍圭子公式サイトから全て引用 )
安倍圭子氏演奏会
11月8日、11時、会場 : ジュネーブBâtiment de Force Motorice ( BFM ) ,
切符購入 : Orchestre de Suisse Romande OSR Tel : 022 807 0000
11月9日、20時30分、会場 : ローザンヌ Basilique de Saint-Valentin
切符購入 : <email-pii>
Tel : 夜、078 8926125
ジュネーブ国際音楽コンクール
1939年から始まった最も古い国際コンクールの一つ。ショパン国際ピアノコンクールなどと並ぶ古さを持つ。
毎年全ての楽器の中から、二つの楽器を選んでコンクールを行う。全ての楽器を対象とするという点で数少ない特殊なコンクール。ミュンヘン国際音楽コンクールが同様の形式を持つ。
打楽器のコンクールでは、同コンクールとミュンヘン国際音楽コンクールが世界の2大コンクール。
同コンクールで打楽器が選ばれたのは今年で5回目。1972年の第1回コンクールでは日本の打楽器奏者、吉原すみれ氏が優勝した。
今年はジュネーブにある「国際打楽器センター ( CIP ) 」のジョン・ジョフロワ氏がコンクールのアートディレクターと審査委員長を務め、同時にさまざまなコンサートを企画した。
打楽器コンクールでは、マリンバやヴィブラフォーンのけんばん楽器とティンパニーや中国のドラなど100種類近い打楽器の2種類に基本的に別れ、参加者は両方の曲目を弾かなくてはならない。