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スイスにはおよそ176万人の外国人が住んでおり、全住民の22％以上を占めている。だが、スイスに移住してからも、故郷の風習を多かれ少なかれ守っている人は決して少なくない。さて、スイスに住む外国人、大晦日はどんなふうに過ごしているのだろうか。
一般に、スイスではクリスマスを家族で祝い、大晦日は友人などと街へ繰り出して、除夜の鐘ならぬ0時の教会の鐘とともにシャンペンを開けて新しい年を祝うことが多いようだ。
1日だけ身につけて捨てる赤い下着
「12月31日には毎年、レンズ豆とコテキーノ ( Cotechino ) というソーセージを食べるわ。そうすると、翌年に幸運が訪れると言われているの」
と言うのは、イタリア南部出身のフランカ・インカリアトさん ( 60歳 ) だ。フランカさんは1967年に夫のアマデオさんとともにスイスへやってきた。アマデオさんは当初、季節労働者として同じ村から来たほかの大勢の人とともにチューリヒの工事現場で働いていた。
当時はイタリア人が今より多く住んでおり、イタリアの食材を扱う店がすでにぽつぽつとあった。
「コテキーノはそういうお店で仕入れたの。スイスの店にはまだスパゲティも置いていなかった時代よ」
もともと安価なソーセージなので、輸入品として多少値段が上がっていても問題なく買うことができたという。
フランカさんにはもう一つ、長年守っている習慣がある。
「大晦日にシャワーを浴びた後、赤い下着を身につけ、元旦にまたシャワーを浴びたらそれをゴミ箱に捨てちゃうのよ」
これも幸運を招く風習なのだそうだ。今でこそ、物価の高いスイスでも割安の下着を見つけられるようになったが、40年前にはまだ「ミグロ ( Migros ) 」などのスーパーもなく、たった1日使っただけで捨ててもいいと思えるような安い下着を見つけることは難しかった。また、スイスで売られていた下着は白ばかりで、赤もなかなかない。そのため、
「イタリアに里帰りしたときに、娘2人、それから同居している姪の分も含めて何枚もパンティを買ってきたわ」
とフランカさんは昔を思い起こす。
ガチョウとウォッカ
1974年に19歳でチャイコフスキー国際コンクール優勝を飾ったロシアの著名ピアニスト、アンドレイ・ガヴリーロフ氏 ( 54歳 ) は、2000年から家族3人でチューリヒ州に住んでいる。演奏旅行で家を離れることが多く、9月から12月までは1日おきにコンサートがあり、ハードスケジュールが続く。そんなガヴリーロフ氏、年末年始には必ず休みを取って家族水入らずで過ごすのが楽しみだ。
ロシアでは、ソ連時代の1960年代に宗教が弾圧されてクリスマスを祝えなくなり、その代わりに12月31日を盛大に祝うようになった。この習慣は今でも続いており、クリスマスプレゼントも大晦日に交換されている。ガヴリーロフ氏はそんな大切な日をローマで祝うのが好きだと言う。毎年訪れるわけではないが、
「わたしはロマンチックな人間。この日を過ごすに、深い歴史を感じるローマよりロマンチックな場所がどこにあるでしょう。ローマはわたしの未来への滋養でもあります」
と語る。
大晦日の夜の食卓を飾るのは伝統的なガチョウ料理だ。
「それにモスクワサラダ」
とガヴリーロフ氏。一般的には「ロシアンサラダ」として知られるマヨネーズ味の野菜サラダだ。
「それから、もちろんウォッカ。何をおいてもこれだけは欠かせないよ」
と笑う。
由佳夫人 ( 38歳 ) は日本人。いつもロシア式で、日本の年越しそばは懐かしくならないのだろうか。
「今は息子の学校関係の付き合いばかりで日本人との付き合いが減ってしまいました。そのせいか、あまり日本の物を恋しいと思わないんですよね」
また、サハリンで生まれ育った日系のガリーナ・サトウさん ( 52歳 ) もロシアの習慣を一つ教えてくれた。
「年が明ける5分前にみんなで乾杯をするんだけど、そのときはその年にあった悪いことを考えながらグラスを合わせるの。そして新年が明けてからもう一度、今度は新しい年がいい1年になるように願いながら乾杯するのよ」
日本の味も大切に
ベルン市に住む坂本美和子さん ( 58歳 ) と正夫さん ( 62歳 ) は音楽家夫婦。ベルン交響楽団に所属している正夫さんは、毎年12月31日にコンサートがある。
「そのコンサートが終わってから友人宅でいつも年を越します」
と美和子さん。そこでの食事は洋食。ほぼ毎日1回は和食を食べるという坂本夫妻は、正夫さんがコンサートへ出かける前に2人で年越しそばを作って食べる。
「そばはチューリヒにある日本食品店で購入したり、里帰りしたときに買ってきたり」
美和子さんは現在、ムーリ市 ( Muri ) の音楽学校でピアノを教えている。スイスに住み、「日本のお正月から遠ざかっているだろうから」と大晦日にはおせち料理に腕を振るい、元旦に日本人の友人や学生を自宅に招く。昨年、新しくできたおせち料理のケータリングを使ってみたところ
「好評だったので、また利用するつもり」
と楽しそうだ。
小山千早 ( こやまちはや ) 、swissinfo.ch