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スイス人をリーダーとする研究チームによると、人間の知的好奇心を刺激し発明を促進するには、特許よりも市場のほうが効果的だ。
ペーター・ボッサルト教授が率いる連邦工科大学ローザンヌ校( ETHL ) の研究チームは、特許制度と自由市場制度が発明と知的財産権保護の問題に与える影響力を測定する実験を行った。この実験結果は米科学誌サイエンスの最新号に掲載されている。
特許制度VS市場制度
ボッサルト氏の研究チームは、特許取得者だけが一定期間、先行者利益を得る特許制度よりも、ほかの発明者も自分の発明の重要な部分の使用権利を売買取引できる市場制度の方が、受益者の数、共同研究の水準、開発スピードの面で特に優れていると主張する。
「古典的な経済の観点からすると、この結果はむしろ驚きです。特許制度は発明の促進に役立ちますが、市場制度もまた効果的で、ある意味ではより優れています」
とボッサルト氏は語る。
研究チームは、発明の成果すべてが最初に出願して特許を取得した1人だけのものになってしまい、同様の発明をしたものの、2番目、3番目に申請をした出願者は手ぶらで立ち去るしかないことが問題だと論ずる。
特許制度を有効に機能させ、発明を促進するためには、
「自分が絶対ベストだと考える人間が大勢存在することが必要です」
とボッサルト氏は言う。特許法の基盤となっている経済理論は、ベストになるチャンスはすべての人間に等しく与えられていると言う。
「しかし実際には、1つしかない問題解決方法を誰よりも早く思いつくことができるのは自分だけだと考える人はほとんどいません。そのため問題を解いてみようと試みることさえする人もほとんどいないのです。そして結局ほかの誰かが先に特許を取ってしまうだろうと考えるようになるのです」
とボッサルト氏は説明した。
しかしまた同時に、人間は一般的に言って自信過剰でもあるとボッサルト氏は指摘する。
「80%の人間が自分は平均以上だと言うでしょう」
これは数字的にありえない話だが、この自信が市場取引を作り出す上で役立つとボッサルト氏は言う。
リュックサック・ゲーム
「リュックサック実験」では、各被験者に対しリュックサックにすべて入りきらない数の品物をたくさん与えられるが、彼らの任務はその中からいかにして「価値の高い」品物を選び、できるだけ多くリュックサックに詰め込むかその方法を探ることだ。
1回目の実験では、最初に問題を解いた人に報酬が与えられるという伝統的な特許制度の方法を使用して被験者数人がゲームに取り組んだ。
2回目の実験では、それぞれの品物の「証券」を売買する自由取引制度にのっとってゲームを行った。
その結果、「市場制度グループ」の被験者数人は実行可能な方法を見つけ出して金銭的な利益を得たが、問題を完全に解くことはできなかった。
「彼らは問題の一部のみを解くことができました。これが答えだと信じる品物を見つけるか、それらしい品物を持っていないことに気付き、それらの品物の売買に集中したのです」
とボッサルト氏は説明した。
ボッサルト氏は、自由市場は第1発明者にとっても利点があるが、
「2番手、3番手となった発明者も自分の研究の成果から利益を得ることができる」
と言う。また、実験を繰り返すたびに、新しいアイデアを試す被験者が多数現れた。
現実世界への応用
燃料電池の触媒の例を使って、この論理を現実世界に簡単に応用できるとボッサルト氏は言う。
「例えばある科学者が、自分が発明した燃料電池にとってプラチナが最高の触媒であると確信し、その発明が公開されるとプラチナの値段が上がると知っていたら、彼は先物のプラチナを大量に買いつけるべきでしょう」
もしこの発明の特許が存在しなければ、ほかの人もプラチナを触媒に使った燃料電池を作ることができる。しかし、それでも第一人者になる利点はある。つまり発明者はプラチナが最低価格の時に買い占めることができるといる利点があるとボッサルト氏は説明した。
納得がいかない
誰もがこの新しい研究に納得するわけではない。
「これはゲーム理論の面白い実験ですが、全体的に言って市場制度が特許制度よりも優れていることを納得させてくれるようなデータではありません」
と連邦知的財産権協会 ( IGE/IP ) のフェリックス・アドール氏は言う。
特許制度には一定期間の独占性、利用制限、手続き費用などの短所もあるが、自由市場制度に次ぐ最良の方法だとベルン大学の教授でもあるアドール氏は指摘する。
「現在までのところ、より優れた方法はほかにはありません。しかし特許制度は、勝者が市場を独占するような状況を作り出すのではなく、無形の発明を取引可能な有形財産に変えるのです」
swissinfo、サイモン・ブラッドレー 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
技術革新への挑戦
経済革新の水準は、商品とサービス、生産と流通方法、ビジネスモデルとマーケティングなど、多数の指標で測定することができる。
アルフレッド・エッシャー ( クレディ・スイス銀行・Credit Suisse Bank、スイス連邦鉄道・Swiss National Railways、スイス・ライフ・Swiss Life、連邦工科大学・The Federal Institute of Technology ) 、アンリ・ネスレ ( ネスレ・Nestlé ) そしてチャールズE.L. ブラウン( ABB ) など、スイスは偉大な発明家を輩出した長い歴史を持つ。
技術革新面での国際競争力を測る指標のほとんどにおいてスイスは首位を占める ( 世界経済フォーラム、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット調べ) 。しかし、この優位性が脅威にさらされつつある。
現在スイス国内では約3000人の技術者と科学者が不足している。ボストン・コンサルタンシー・グループ ( BCG ) は2016年までにこの数字が倍増すると推定している。
調査にあたったスイス企業の3分の2が国外における研究開発費の増加を予定している一方、スイス企業の40%が国内での研究開発費を増資すると答えた。過去10余年の間、国外向けの研究開発費は国内向けに比べて1.4倍のスピードで増加している。
知的財産権保護のためにスイスが取得した特許数は、ほかのどのヨーロッパ諸国よりも多い。しかし2004年にビジネスに新規参入した企業の数は、スイスではわずか3.5%の増加だが、ニュージーランドでは18.3%、ドイツでは17.4%、ハンガリーでは10.3%の増加となっている。これはスイスにおいて、発見や考案のビジネスへの転用が低下したことを物語っている。
世界銀行は、企業設立に必要な日数を、スイスでは平均約20日間、シンガポールでは5日間、オーストラリアでは2日間と推計している。
商標の国際登録
ジュネーブにある世界知的所有権機関 ( WIPO ) によると、昨年、商標の国際登録申請数は新記録を出したが、経済危機の深刻化につれて減少した。
国際登録による商標保護を規定する「マドリッド協定議定書」に基づき、2008年の国際登録申請数は4万2075件で5.3%の増加となった。
自社商標の国際登録申請数で世界第2位のネスレ ( Nestlé ) と第5位のノバルティス( Novartis ) が位置するスイスの申請数は世界5位に上昇。
スイスの昨年の特許申請数は2885件で、8.6%増加。