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５ 効果的な優先戦略の諸要素
特別報告者によると、優先戦略は、大規模人権侵害の嫌疑を受けた者を訴追する規則を定義する管轄権の中で、事案を分類・整理する判断から明らかにされる。特別報告書は特定の優先戦略の採用を提示したり、異なる諸要素の優先順位を示すことはしないが、諸要因の多様性、それらの利点などを示す。
１） もっとも容易な事案を訴追する戦略。証拠をそろえ有罪を得るのが容易な事案の訴追を優先する管轄例がある。検察官が勝訴の成果を上げやすくする。最小限の費用で有用な証拠を収集できる。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、アルゼンチンで採用された。これには明らかな欠点がある。第一に、戦略が前例から独立して判断される。なぜこの事案が他の事案よりも優先されたのかを問い続けることになる。第二に、侵害の全体的なパターンを解明することにならないので、事案の重大性や責任の程度の判断が個別的になる。一方の集団に対する証拠ばかりが容易に入手できる場合、偏見が促進される。一時的には魅力のある選択肢であるが、包括的な戦略にならない。ボスニア・ヘルツェゴヴィナでは途中から、もっとも重大な事案を優先する戦略に変更された。
２） インパクトの強い事案を訴追する戦略。世論に積極的に影響を与えて過去の侵害の諸側面を意識させ得るような事案を優先する管轄例がある。リーディング・ケースとなるような事案の優先である。１９８０年代のアルゼンチンでのシモン事件がその例である。軍事政権の裁判で免責された事案だが、２００１年に人権団体が掘り起こして、連邦地裁判事が、免責法は国際人権法上の瀬義務に反し、憲法違反であると判断した。ブエノス・アイレス高裁もこれを是認し、多くの事案の再審につながり、２００３年の法律が旧法の無効を確認した。しかし、インパクトが強いか否かは偶然的なものである。裁判所がどれがリーディング・ケースであるかを判断するのも容易でない。インパクトの強い事案を優先する戦略の基準が意味を有するのは、遡及的ではなく、展望的になされる場合であろう。
３） 最も重大な事案を優先する戦略。生命や身体の完全性に対する侵害のような重大侵害の訴追を優先する戦略である。人道に対する罪、ジェノサイド、戦争犯罪は国際的に承認され、国際刑事裁判所規程でももっとも重大な犯罪とされている。これには長い歴史がある。１９８５年のアルゼンチンの軍事裁判では恣意的処刑、強制失踪、拷問が組織的計画の下で行われた。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、シエラレオネ、コンゴ民主共和国、グアテマラ、ウガンダも同じである。最も重大な事案を訴追する戦略は、より軽い事案との比較で重大事案を説明できる利点がある。しかし、問題がないわけではない。重大性、深刻性の基準は必ずしも明確ではない。国際法上も明確な定義が確立しているわけではない。重大性と他の諸要因の関連が必要とされていない。広く行われた行為が国際法上の重大性に該当しない場合、不処罰のギャップが生まれる。旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷はこの戦略を用いたし、国際刑事裁判所もこれを採用している。国際刑事裁判所検事局は「訴追戦略」を練っている。
４） 最も責任のある実行者を訴追する戦略。以上と競合して、あるいは選択的に、重大侵害について最も責任の重い実行者の訴追を優先する戦略である。上級の指導者、計画立案者、重大犯罪の命令・煽動をした者などである。グアテアラのエフレン・リオス・モントの事案が好例である。モントは２０１３年にジェノサイドで有罪となった。チリのアウグスト・ピノチェト、ペルーのアルベルト・フジモリ、コンゴ民主共和国の性暴力事案の訴追も同じである。この戦略は法の前の平等に適っている。誰も法の上に絶てないことを示す意味がある。この戦略は、最大の責任には必ずしも犯罪行為への直接関与を要しないことを示す。しかし、「最も責任のある」という語句の解釈によっては、最悪の侵害に焦点を当てられなくなる場合もありうる。
５）象徴的事案の戦略。すべての事案を訴追することが不可能な場合に、訴追をこのタイプに限定する理由が生じうる。しかし、有名な事案、関心を呼ぶ事案に限定するなら、世論に含まれる偏見を反映したものになるかもしれない。象徴的であるかどうかを判断するには、重大性、侵害の類型、地理的分散、被害者や実行者の人数などが考慮されよう。
６）「構造的犯罪」につながる戦略。以上の諸要因を検討すれば、移行期司法は違反・侵害を可能とする構造を無化するべきだと言える。人道に対する罪、ジェノサイド、戦争犯罪のような国際犯罪は、個人単独の犯罪ではなく、ネットワークが前提となる。訴追戦略はシステムや構造を改変するものとなるべきである。