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スイスには、カルテ・ジュルナリエ（Carte journalière Commune）と呼ばれる大変お得な乗車券があります。市町村の役所が１日に２枚「限定」販売するもので、列車、バス、トラムや船を指定日に限って乗り放題できます。今回はこのカルテ・ジュルナリエを利用して、ジュネーブ州カルージュ（Carouge）の「ルリユール(relieur)」、ルシアン・ウォーカー氏（Lucien Walker）の工房を訪問しました。
人口２万１千人（２０１４年６月現在）の町、ジュネーブ州カルージュ。ジュネーブを流れるアルヴ川を挟んで南に隣接したこの町には、スイス連邦鉄道ジュネーブ駅から１８番のトラムでジュネーブ旧市街の美しい景色を楽しみながら１５分ほどで到着します。
１８世紀にサヴォア公が再建して、サヴォアの商業都市として発展したカルージュは、町を流れるアルヴ川が軍事戦略上の大切な役割を持っていたため、サルディニア王国やフランスによる支配が繰り返されました。１８１６年になってトリノ条約が結ばれてようやく、スイス連邦に加盟していたジュネーブ州の一部となったのでした。
町の景観はその歴史的な背景から、北イタリアの文化的影響が強く残っています。ネオ・クラシカル風の家造りや中庭のある建物の多くは、今ではレストランやファッション・ブティックをはじめ、芸術家のアトリエや職人のワークショップとなっています。
ルシアンさんのワークショップもカルージュの目抜き通りに沿った１８世紀の建物の中にあります。西洋には製本を手作業で行う伝統工芸が古くからあり、その仕事に携わる職人たちをフランス語で「ルリユール」と呼びます。高価な古書の修復・復元・保存から個人の蔵書の修理までいろいろな仕事をします。
カルージュには現在３名のルリユールがいます。ルシアンさんのワークショップの前身は古書の修復・復元・保存の専門家として評判の高いミッシェル・マニン氏（Michel Magnin）の工房（5, rue Ancienne）でした。子供の頃から文学や芸術に興味を持っていたルシアンさんですが、２００４年にマニン氏と運命的な出会いをします。それ以来、マニン氏の元で修業を積み、２００９年からは独立した職人として恩師と一緒に仕事をしてきましたが、２０１３年１２月のマニン氏の工房移転（22, rue de la Filature）に伴って、ルシアンさんは恩師の工房を引き継いで、現在は女性ルリユールと一緒に工房を運営しています。
「レストラション・ドゥ・リーヴル（本の修復）」と書かれた看板が掲げられたワークショップはトラムが行き交う通りにあります。ルシアンさんが「古い建物で古い本を修復するなんてノスタルジックでぴったりだろう」と言いながら迎えてくれました。私が訪問した際、ルシアンさんの恩師マニン氏も来ておられました。ルシアンさんは、徒歩５分とお互いの職場も近いし、仕事に関して何でも相談できるので心強いと言います。
今日の製本業は１００％を手作業で行う製本と、工場の高速機械で行う製本の２つに分類されます。全ての過程を手作業で行う製本職人の分野は、本を手作りする技を身に着けたブック・バインダー、古書を修復、復元、保存するための専門的な知識を持つルリユール、そして芸術的な本を創る製本家のアート・ブック・バインダーの３つに分かれるとルシアンさんが説明してくれました。その中で、ブック・バインダーの分野は、今では機械が取って代わってしまったために廃れてきているのが現実です。
さっそくルシアンさんは、古い本を修復する際には欠かせないもので、彼が好んで使っている日本製の道具を見せてくれました。それは、和紙、刷毛や筆でした。和紙については破損したページを修復する際に利用しますが、ルシアンさん曰く、「例えて言えば、和紙は皮膚移植にも耐えるが、西洋の紙はまるで絆創膏」とその質において大変な格差があることを強調します。また、刷毛や筆についても同様の意見でした。
修復を終えたばかりの貴重な作品をルシアンさんに見せてもらいました。１７世紀以前に製本されたロシア語の聖書（①）と１８９６年製のロシア語の聖書（②）の２冊です。この２冊の大きな違いは紙質にあります。①は綿、ヘンプ（産業用大麻）や麻を素材とした紙で、②は木材から作った紙で製本しています。紙質としては、①の方が年代は古くても丈夫だそうです。また、当時はロウソクの灯火で聖書が読まれていたため、蝋がたくさん飛び散った跡があるのが印象的でした。
ルシアンさんは、この２冊の聖書の全てのページを丁寧に洗って乾燥させてから、ページの角が欠損している場合は、和紙に小麦で作ったのりをつけて修復したそうです。①の聖書は留め金が１つ欠損していたので、カルージュのメタル職人にそっくりなものを作ってもらいました。この他にも表紙、扉、背、綴じ方や装飾に至るまでを詳しく分析して、顧客と相談しながら修復を進めたのでした。
ルシアンさんは「ルリユール」の仕事は、顧客や図書館などが持ち込む本の歴史を考慮しながら、本の価値を失わずに現状を維持するための最善の方法を見出して良心的にアドバイスすることだと言います。特に顧客の場合は予算も重要なポイントになります。場合によっては古書を守るために顧客の要望を鵜呑みにせず、古書自体にとっての最良策を説明して理解してもらう努力を惜しみません。古書は手入れをして良い状態で守ってやると非常に長持ちします。一言でいえば建築物と一緒だそうです。
ルシアンさんは「僕はブック・バインダーではなくルリユールであることを、たまに自分に言い聞かせなければならないことがあるよ」と笑いながら教えてくれました。ルリユールという職人は、自分の思いつきで本を修復したり改造したりすることが許されない仕事なのです。自分の頭脳と手が正確に働いてくれた時に格別な喜びを感じると言うルシアンさんはこれからも「学び、そして試し続ける」をモットーとしています。
ルシアンさんは３４歳。もうすぐ２歳になる双子の父親です。奥さんのミジャヌさん（Mijanou）はローザンヌにあるアール・ブリュット美術館（Collection de l’Art Brut）で美術品の修復・保存の技師として働いていて、夫婦で接点のある仕事についています。
最後に日本の人々に対してメッセージがあるか聞いてみました。「僕は一人一人に個人的に話すのが本当は好きなのだけど…。日本の美しい伝統を守る人々、そして日本の職人技が作り出す質の高さに心から感謝の気持ちを伝えたい」とのことでした。
小西なづな
プロフィール：小西なづな
１９９６年よりイギリス人、アイリス・ブレザー（Iris Blaser）師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、１女１男。スイス滞在１６年。