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今年は人気アニメ「アルプスの少女ハイジ」のテレビ放映35周年に当たる。スイス人作家ヨハンナ・シュピリの物語『ハイジ』をもとに日本で作られ、世界中を魅了した作品だが、実はスイス放送協会はこのアニメを放映したことがない。そしてまた、これからも放映予定はないという。
ハイジが生まれたスイスのドイツ語圏は、「日本のハイジ」を一体どのような目で見ているのだろうか。
知識人の拒否反応
「わたしの記憶が正しければ、『アルプスの少女ハイジ』がヨーロッパでも大人気となった当時、スイスの文化人は一様に拒否反応を示しました」
と語るのは、「スイス児童・青少年メディア基金 ( Schweizerisches Institut für Kinder- und Jugendmedien ) 」付属ヨハンナ・シュピリ文書館に長年勤務していたフェレナ・ルチュマン氏だ。
「アルプスの少女ハイジ」は1976年にまずスペインで大ヒットした。その後、ドイツ国営テレビ「ZDF」などでも1977年から繰り返し放映された。スイスでは隣国のテレビ放送も受信できるため、自国のテレビ局が放映していなくてもこのアニメを観たというスイス人は少なくないはずだ。
だがルチュマン氏は、70年代の当時は今と異なり、コミックやアニメに対して教育者などの知識人は全体的にかなり強烈に反発したと語る。
「最近の『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』などのアニメ作品は大人も鑑賞できるものですが、ハイジに対する評価はアニメ自体が受け入れられるようになって以前とは変わってきたものの、今でもそれほど高くありません」
原作の重要性
長年スイス国営テレビドイツ語放送局の文化部門を率いたヨゼフ・ブリ氏は、同局が｢アルプスの少女ハイジ｣を放映しなかった理由の一つを次のように説明する。
「スイスの原作 ( 書籍や映画 ) はとても親しまれていました。一方、日本アニメでは現実が美化されており、スイスの視聴者が持つイメージや習慣、体験からずいぶんかけ離れていたため、このシリーズは拒否されるかもしれないと考えたのです」
具体的には、例えば原作には出てこないセントバーナード犬がアニメに登場することを指摘する。
「おそらく当時、日本ではスイスのアルプにはセントバーナード犬がつきものだと考えられていたのでしょう」
前出のルチュマン氏も同じ意見で
「セントバーナード犬はスイスの典型的なイメージというだけで使われたのではないでしょうか」
と言う。これがスイスの文化人の癇 ( かん ) に障ったようだ。
「また、大きな目をした、いつも同じ表情のハイジも批判の対象となっていました」
アニメ「アルプスの少女ハイジ」の世界的な成功はもちろんスイスでもよく知られており、「この大ヒットに対する敬意はあった」と両者とも口をそろえる。しかし、スイスの関係者にとっては原作の持つ重要性の方がはるかに大きいようだ。ブリ氏は
「スイス人作家のヨハンナ・シュピリが描いた現実からかけ離れた、神聖化された世界を巧みに作り上げて原作を台無しにし、過小評価していたという理由で、このアニメはわれわれにとってかなり耐えがたい作品でした。ねばねばしてどうしようもなく甘い、腹痛を起こさせる模造品だったのです」
と手厳しい当時の評価を述懐する。
欧米用に手を加えたアニメ
しかし、演出を担当した高畑勲氏ら制作グループは、「アルプスの少女ハイジ」を作るにあたってわざわざスイスやドイツを訪れてロケハンを行うほどの時間と労力と費用をかけた。今から40年近くも前のアニメ界では前代未聞のことだ。2009年ロカルノ映画祭に招かれた際、高畑氏はこのときの詳細な調査に関し、スイスインフォに次のように語った。
「人間にとって一番大事で当然なのは、日常生活。そこに住んでいる人が朝起きてから夜寝るまで何をするのか、何を食べて何を作っているのか、それを調べる義務があると当時から思っていた」
高畑氏は2001年、ヨハンナ・シュピリの没後100周年記念行事でチューリヒに招かれ、「アルプスの少女ハイジ」について講演を行っている。その際には、制作のいきさつや作品に対する思い入れを詳しく語っており、ルチュマン氏はこの講演を聞いて「非常に納得した」と言う。
「日本版ハイジがスイスの文化人の間であまり評価されていないのは、もしかしたら高畑氏が講演の冒頭で述べていたように、欧米用にアニメに手が加えられたせいもあるのかもしれません。一般的には、スイスでもオリジナルよりこのアニメの方がよく知られていると思います」
と言うルチュマン氏の言葉を裏付けるように、親子で「アルプスの少女ハイジ」を楽しんでいる人もいる。
明るく楽しい日本のハイジ
シュヴィーツ州プフェフィコン ( Pfäffikon ) に住む60歳代のリッタ・マルティさんは
「ハイジはとても生き生きしていて、やさしくて…」
と、若い頃に初めて観た和製ハイジを語る。カラー放送も新鮮だったようだ。マルティさんの8人の子どももこの「個性的なハイジがとても魅力的なアニメ」を観て育った。今は、孫が楽しむ番だ。
スイス国営テレビドイツ語放送の文化部門に勤めるアニータ・エッガーさんも、幼い頃日本のアニメに釘づけだった1人だ。「アルプスの少女ハイジ」のシリーズは11、2歳の頃に初めて観て以来、最低3回は観たと言う。
「簡単なことばで分かりやすかったですね。子どもの頃はそれが日本のアニメだとは知らなかったけれど、『ハイジ』がスイスの物語だということは知っていたので関心は高かったです。原作にないセントバーナード犬が出てくることも特に気にはなりませんでした」
エッガーさんはその頃すでにスイス映画の「ハイジ」も観ていたが、白黒のこの実写は劇的で悲しい印象があったそうだ。
「それに比べて、アニメの方のハイジはまさにエネルギーの塊という感じで、とても楽しくて明るい作品」
とエッガーさんは語る。
これまですでに50を超える言語に訳されてきたヨハンナ・シュピリの『ハイジ』はスイスの誇りだ。原作に忠実な「スイスのハイジ」と世界中で大勢の人々の心をつかんだ「日本のハイジ」。スイスではこれからも2人のハイジが共存していくのだろう。
小山千早 ( こやまちはや ) 、swissinfo.ch
スイスのハイジ
スイス国営テレビドイツ語放送局は1978年、ドイツとオーストリアとの共同制作で原作に忠実な実写のテレビ映画「ハイジ」 ( 26話、各25分 ) を制作した。この映画は各国で大ヒットした。
同局では今後もアニメ「アルプスの少女ハイジ」を放映する予定はなく、この秋から児童番組でテレビ映画シリーズの「ハイジ」を放映するという。
高畑勲氏とハイジ
高畑勲氏が2001年のチューリヒの講演で説明したところによると、スペインで放映されたアニメは原作の吹き替えだったが、それ以後、欧米で放映されたアニメには手が加えられた。ドイツ語版のアニメでは、主題歌も日本のものとは全く異なる。
高畑氏は「当時、日本に必要なアニメ」という意識で「アルプスの少女ハイジ」を制作した。現代の日本のアニメは、実際に生きていくための活力や賢さを子どもに示すことができていないと指摘する。
「愛と勇気さえあれば、必ず成功する。でも、現実はそうではない。ものすごい訓練をしなければ剣の達人にはなれない。だが、日本のアニメは訓練しているところを描いていない。心意気、精神主義のみでおかしい。挫折も描いていないし、子どもをいい気にさせるだけだ」
「アルプスの少女ハイジ」放映35周年の公式記念本
『アルプスの少女ハイジの世界』
発売日：2008年11月
出版社：求龍堂
著者：ちばかおり
代表的なシーンのほか、アニメと実際の風景の比較、高畑勲氏のチューリヒでの講演の内容なども掲載されている。