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秋も深まると、アルプスの小さな村で、金より高価な花が咲く。海抜1200メートル、このアルプスの小さな村の名前はムント ( Mund )。
北アルプスで唯一、香辛料の元となるサフランのお花畑ができる場所だ。1グラム約12フラン ( 約1140円 )。金より高い計算だ。
アルプスの高い峰にあるムント村は、秋の初めから雪に覆われている。
美しいアルプスの村
しかし、10月も半ばになって気温はさらに下がってくるというのに、サフランの花は一夜にして土を押し上げ、地上に顔を出す。そしてあっという間に、ムント村の大地は薄紫色に染まるのだ。
透明な秋の朝の光の中で、コケの生えた石葺きの屋根が連なる村を、太陽は豊かな輝きでいっぱいにする。
木でできた家々の間には、野菜畑があり、丸々太ったトマトの明るい赤が、目に飛び込んできた。ニワトコの実も、うっとりするような深いルビー色を輝かせている。
しかし、トマトは村人が自分たちで食べる。ニワトコの実はジャム用だ。
サフラン万歳
しかしサフランは別格だ。サフランこそが、ムント村の過去と最も強くつながっているのだ。
村がサフランの職人組合 ( ギルド ) を作って27年になる。当時、サフラン栽培は風前のともしびだった。14世紀から続いていた伝統をなんとか消さないように、村人たちが一致団結したのだ。
サフランは1グラム12フラン ( 約1140円 ) ほどで、金より高いが、村人がサフランでお金持ちになったということは一度もない。それどころか、1970年代までに、サフラン栽培をしている人は、ほとんどいなくなってしまった。
しかし、ギルドが発足した1979年から、サフラン畑は毎年広がり続け、今では1万6000平方メートルにも及ぶ。このおかげで、ムント村は地図に載ったほどだ。
食前酒にも
ヴァレー州のこの地域には、特産を持つ村々が多い。ツェルマットにはマッターホルン、フィスペルテルミネン ( Visperterminen ) はヨーロッパで最も高い位置にあるワイン畑を自慢にしている。そして、ムント村は、サフランが咲く、ヨーロッパで最も北にある場所だと本に載った。
この評判を聞きつけたユルゲン・ローメダー氏は、家族を伴って、ドイツのバイエルン州からムント村にやってきた。イランからサフランを輸入して食前酒を作っていたのだが、すぐ隣のスイスでもサフランを生産していると知ってびっくりした。
「すぐさまムント村からサフランを取り寄せて、実際にどんな質のものか、確かめてみました。そしたら、なんと、これは世界のどこよりも質の高いものだということが分かったのですよ！」
このサフランの質に感動したローメダー氏、家族もろともこの地に引っ越してきてしまった。そして今では自分の畑を持ってギルドの一員となり、ムント産のサフランを使った食前酒の生産を始めている。
静かな静かな村
村の上のほうには、寂れた小道がある。下から見ると、まるで静物画のようだ。古い穀物倉の脇にはしごが、無造作に立てかけてある。他の家の羊が迷い込んだり、バイクが入れないようにするためのものだ。
納屋のドアには、曲がったバスケットボールのゴールが垂れ下がり、階段の下には、たきぎが積まれている。信じられないが、村人によると、これが村の農繁期なのだそうだ。
「ムント村にサフランがあって良かった。観光客を呼び込んでくれますからね」と語るのは村の店で働くマドレン・イムステンフさん。ここは村で唯一、サフラン製品をが買える場所だ。
店にはサフラン・パスタ、ローメダー氏のサフラン食前酒、パン、サフランの柱頭が入った小さな瓶などが売られている。でも、今日はパンは売り切れなのだとか。そして本物のサフランは11月にならないと手に入らないのだそうだ。
特産地
イムステンフさんによると、需要は供給を大きく上回っている。なにせ、ムント村のサフランは、毎年約3キロしか出荷されないのだ。ほとんどのサフランは、自分たちの家での食事や、村のレストラン、村の外に住む家族や友人のプレゼントとして使われてしまう。
村のてっぺんにあるレストラン・サルヴァルドにも行ってみた。ぶくぶくおいしいそうな音をたてているリゾットの鍋を、ゆっくりかき回していたマルタ・シュニーディリックさんに話を聞いた。新鮮なサフランをひょいとつまんで鍋に入れる。
「とても沢山の人がここに来て、サフラン料理を食べて行ったわよ」とシュニーディリックさん。彼女の家族もサフラン畑を持っているが、レストランのメニューをまかなうにはとても量が足りないので、他の村人から売ってもらっているそうだ。サフランは、フォンデュにも使われる。レストランのオープン期間は、観光客が来る6カ月間だそうだ。
大変な手作業の末
「1グラム取るのに、130本の花を摘まなければならないのですよ」とローメダー氏の夫人、マルグレットさんは腰をかがめながら言って、彼女の畑から数本の花を引き抜いた。花が開ききってしまう前に摘み終えなければいけないらしい。
「全て、一家総動員でやっています。子供たちも、孫たちも、花を家に持ち帰って柱頭を抜くのです」。マルグリットさんの手にはクリップボードに留めた一枚の紙。これで花を1つ1つ数えていくのだが、家族それぞれ自分のやり方があるらしい。
「他の人に、『一体どうやってちゃんとできるの？』って聞くんですけどね、数えていって100本まできたら小石を１つ、拾ってポケットに入れるそうなんですよ。もう100本摘んだら、2個目の小石。全部摘み終わって、小石がいくつあるか見るんですって。それで全部で何本摘んだか分かるそうなの」
「確かに石を使うやり方は簡単かもしれないけれど・・・私は書きとめるのが性に合っているんです」。マルグレットさんが持ち分の区域を全部終えてしまうと、1組のカップルが手にバスケットを持って、薄紫の畑を降りてきた。
マルグレットさんと違って、彼らは「花がちゃんと開花するまで摘むのを待たなければならない」と信じているそうだ。
さらにもう何本か花を抜きながら、マルグレットさんは「ムント村の人々はサフランの柱頭の数によってあだ名を付けているんですよ」と説明してくれた。
「4つの柱頭を持っているのはお姫様、5つの柱頭を持っているのは女王様、6つも柱頭を持っているのは女帝陛下」。この言葉が全てを表しているのだろう。
swissinfo、 デイル・ベヒテル、ムント村にて 遊佐弘美 （ ゆさ ひろみ ） 意訳
キーワード
サフランはアヤメ科で学名crocus sativus。
1グラムの柱頭を得るために130本の花が必要。
ムント村は欧州で最も北にある畑。
サフランの生産はスペインとイランが世界総生産の8割 ( 800トン ) を占める。
補足情報
サフランがスイスに紹介されたのは14世紀。当時、全国津々浦々で栽培された。
現在、サフランの栽培が残っているのはヴァレー州のムント村のみ。
ムント村のサフランは、産地独特のものだとする地理的表示 ( AOC ) の認定を受けている。