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米国は2000年にナノテクノロジーを大々的に国家戦略として打ち立てた。これを境に各国が予算を大幅につけ、世界的にナノテクノロジーに関する研究が加速している。中でも顕著なのが医療現場だ。
ナノテクシリーズ第２回目は、チューリヒ大学病院の現場からお届けする。医療現場ではナノテクとバイオ技術を駆使した治療が行われているが、実際それは患者の体の中でどのような働きをしているのか。
これまで、医療現場で代表的なナノテクは最新の電子顕微鏡だった。対象物に電子をあてると自動的にコンピュータで解析され、コンピュータ画面に映し出される。この電子顕微鏡の登場で0.3ナノメートルの世界が人類の前に広がったことになる。しかし、これからは遺伝子での検査が主流になるという。
遺伝子検査
病理学専門のマイケル・クーアラー医師は、これは個人的な意見ですが、と断ってから話し出した。「遺伝子の異常を検査することが可能となったおかげで、細胞の異常を検査する電子顕微鏡も今では時代遅れとなりつつあります」
癌とはそもそも遺伝子の異常によって起こる。まず、異常な遺伝子が出している異常なタンパク質に色を付けて識別する。乳癌や肺がんなどは、X線で見て比較的簡単に見つけやすいが、リンパ球癌、上皮腫癌など、なかなか見つけにくい癌もある。しかし、タンパク質を見れば癌の種類によって違うので、そのタンパク質だけに付く色のついた物質を付着する。その癌特有のタンパク質が見つかれば、遺伝子にも異常が起きているということが分かるのだ。
電子顕微鏡では、細胞の形を「これは四角だからこの癌かな」「これは楕円形っぽいからあの癌かもしれない」という方法で識別していたが、それぞれの癌細胞の持つタンパク質が色で識別でき、遺伝子の変異がわかるのだから間違いようがない。
これで治療法がすぐ判明すればここでおしまいだが、より複雑な場合はタンパク質だけではなく遺伝子そのものを検査する。例えば、白血病患者の細胞に異常な動きをする遺伝子が見つかったとする。その遺伝子を詳細に見て、この遺伝子を正常に戻す遺伝子を細胞の中に入れてやる。
ナノの世界にご招待
ナノテクとバイオテクノロジーが合体し、コンピューターが進化したおかげで医療は飛躍的に進歩した。実際に細胞の中で起こっていることが手に取るように見えるようになったのだ。さて、色をつけたタンパク質は、実際どのように追跡されるのか。
例えば、青と赤と緑の物質をそれぞれの種類のタンパク質に付け、３つのタンパク質がどこにあるか、どのような動きをしているか、コンピュータの画面上でのぞいてみる。キーを押せば３次元となり、細胞が奥行きのある立体になって浮かび上がってくる。
「このような手法ができるまでは、タンパク質と細胞の区別はつかず、画面も白黒でした」とクーアラー医師は語る。
今まで医者や科学者が見ていた白黒の２次元の世界では、細胞の中身を上から見た場合、全てが同じところに重なって見えていた。しかし、３次元の世界が開かれて、物質がそれぞれ違う空間にあるということが発見された。１枚の紙に絵が描いてあるように見えていたのが、実はそれが奥行きのある家で、手前の部屋、その奥の部屋、もっと奥の部屋が存在することが分かるようになったのだ。
本来手前の部屋にいるべきタンパク質が奥の部屋にいた場合、それは異常なタンパク質だということになる。このタンパク質をターゲットに異常遺伝子をつきとめる。
また、異常に増殖している癌細胞がこのような方法で解析され、その異常増殖の原因となる遺伝子も突き止めることが可能になった。犯人が見つかれば後は簡単だ。様々な化学物質を試して、その増殖を止める化学物質を特定し、これが薬品開発につながる。このようにして、新たな薬品が毎日のように生まれている。１カ月前、助からなかった命が、今月は助かるかもしれないのだ。
ナノテク医療技術のこれから
現在はまだマウス実験の段階だが、エイズウイルスで癌細胞を殺すということも行われている。まず、エイズウイルスの毒性だけを取り除き、癌細胞だけに感染するように遺伝子操作する。このエイズウイルスに薬を付け、癌患者の体に注射する。エイズウイルスは癌細胞に向けて発進する薬の運び屋となるのだ。
クーアラー医師は語る。「ナノテクとバイオテクノロジーが合わさったおかげで、今まででは考えられなかった治療法が次々に出てきています。しかし、宗教カルト集団や独裁国家がこの技術を持てば大変な生物兵器となるでしょう。髪や目を作る遺伝子があるのと同じように、遺伝子情報が完全に解析されれば毒を持った菌やウイルスも簡単に作れるようになってしまいます。これは恐ろしいことです。包丁は料理をするのになくてはならない道具ですが、殺人者の手に渡れば凶器になります。ナノテクも同じことですね」
swissinfo、遊佐弘美（ゆさひろみ）