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夜9時。チューリヒ郊外ビューラッハ ( Bülach ) 駅の待合室で電車を待っていた。隣に座っている中学生と思われる少年2人が、木製のベンチにライターで火をつけようとしている。
待合室には木の焦げる匂いが充満。一緒にいる少女は嫌そうな顔をしているが、注意できないでいる。外から見ている人も注意しない。筆者が最近、経験した出来事だ。
9月上旬には、電車内でサッカーファンと称するネオナチのグループが凶暴化した様子がスイスドイツ語報道番組 ( 10 vor 10 ) で公開された。このような事態は例外だろう。しかし、電車や路面電車内でのいたずら書き、座席を切り刻むといった行為が、最近目につく。
自分の「勇気」を誇示したい
チューリヒ市内の路面電車を運行するチューリヒ交通局 ( VBZ ) では、2年前から、バス18台と路面電車1台に防犯カメラを設置するようになった。「いたずらの防止と、犯人の特定のため」であると広報担当のアンドレアス・ウール氏は説明する。VBZでは2001年から、いたずらによる被害を統計的に把握するようになった。停留所と車内の被害を含めると、過去3、4年の平均被害額は130万フランから150万フラン ( 約1億3000万～1億5000万円 ) に上り、増加傾向にあるという。
犯人は主に青少年の男女。「フラストレーションを、器物を破壊することで解消する。今の社会の傾向だ。また、自分はこんなこともできるのだと、友だちに自分の『勇気』を誇示したいと思う若者も中にはいる」とウール氏は言う。「進学校に通う頭も良い、スイスの裕福な家庭の子女もいる」と、外国人家庭の子女の暴力化が取りざたされる昨今、ウール氏は犯人に対する市民が持ちがちな先入観を批判した。
激しい怒り
VBZで修理を担当するレネー・ゼン氏によると、特に多いのは太いマジックペンでのいたずら書き。窓ガラスが鋭利な金属で引っ掻かれたり、割られてしまうこともある。車内放火事件も過去1年間で2、3回起こった。停留所の悪質ないたずらには告発に対して1000フラン ( 約10万円 ) の賞金を出したが、結局犯人は捕まらないうちにうやむやになってしまったという。
ダメージを受けた路面電車は、ほぼ24時間営業のガレージで即急に修理される。いたずらされたままの状態で、市内を走ることはない。「路面電車はチューリヒの顔ですから」。ただし「修理代を払わなくともよいと思っている犯人には、激しい怒りを感じます」とゼン氏。「いたずらはまったく理解できない」と語気を強めた。
連邦鉄道では減少傾向
一方、スイス連邦鉄道 ( SBB/CFF ) の2005年のいたずらの被害額は、330万フラン ( 約3億2400万円 ) だった。500万から600万フラン ( 4億9000万円から5億9000万円 ) の幅で推移した2000年から04年までと比較し「減少の傾向にある」と広報担当のラヘル・ケルフゲン氏。「鉄道警察の巡回を強化し、ローカル線の列車にはビデオカメラを設置している。犯人を警察に引き渡すといった、毅然 ( きぜん ) たる態度が効果を上げる」と文書で具体的な対策を答えた。
連邦鉄道はいたずらをさらに減らそうと昨年から、車掌など職員に対し若者との触れあい方を指導する、いたずら防止対策「レール・フェア ( Rail Fair ) 」を始めた。職員の存在を周囲に示すよう、制服を着た職員を要所に配置する。職員は乗客と気軽に対話する。いたずらを毅然 ( きぜん ) とした態度で注意すると共に、状況の危険度を判断する力を養うといった訓練だ。さらに、学校の遠足などで鉄道を利用する子どもたちにも、公共施設を大切にするように指導を行っている。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )