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今回、ジュネーブ大学神経学科ドミニク・ミュラー教授が率いる研究チームは、若齢ラットの脳切片を研究することで、人間の記憶と学習のメカニズムの解明へと1歩近づいた。個人の活動に応じて発達した神経回路を通して、脳が情報伝達を行なっていることが分かったからだ。このコンテンツは 2008/10/12 15:26
学習行為により脳細胞が次々に連結することは、すでに科学者の知るところだったが、この脳の回路を正確に把握するまでには至っていなかった。
環境に適応する脳
脳は必要に応じて新しい経路を形成し、あまり使わなくなった経路を消去する。これにより、なぜ学生が試験に合格しても、その後、必要が無くなると学んだことを忘れてしまうのかという、「使わなければ失われる」の法則にも説明がつく。
「特に成長段階での学習行為は、脳の編成プロセスに重大な影響をもたらす。脳の編成では、脳が機能するのに最適なネットワークが形成されるからだ」
とミュラー氏は言う。
シナプスの橋渡し
記憶力と学習のメカニズムを解明するべく、ミュラー氏のチームは若齢ラットの脳組織の切片を約1カ月単位で培養しながら3年間研究を続けた。細胞レベルで見れば、ラットの脳は人間の脳と同様、シナプスと呼ばれる極めて小さな「橋」を介して神経細胞同士が連結する。
1つの脳細胞には1万のシナプスがあることもあり、どれがどう使われるかで、学習活動に影響が出るということが今回明らかになった。学習プロセスのシュミレーションをおこなうべく、電気ショックと化学浴法を用いてラットの神経細胞を刺激し、人間が学習する際に脳内で起こるシナプス間の単発的だが強力な伝達物質の放出を引き起こさせた。神経細胞が連結する様子は染色法を用いて表示された。
驚いたことに、神経細胞は固定されたルートに従ってシナプスを作動させるのではなく、選択的に行なっているということだ。情報伝達に携わったシナプスはその後も活性だが、ほとんど関わらなかったシナプスは使われなくなり、消滅する。さらに、もっとも興味深い点は、神経細胞は必要に応じて新しいシナプスを作り出し、大抵、この新しいシナプスは既存の活発なシナプスのそばに出来るという。
「今回の実験は、人間の約2秒間の学習時間に相当するが、脳の回路の再編成まで見られた。つまり、短時間でも非常に大きな影響を与えうるということだ」
とミュラー氏は言う。
精神機能障害へのアプローチ
老いた脳に比べ、若い脳は敏速な再編成力と適応力を見せる傾向があり、この脳の再編成を科学者は「大脳可塑性」と呼んでいる。実用面に関して言えば、今回の研究結果は、統合失調症を含むさまざまな精神機能障害に取り組む際の手掛かりになると、ジュネーブ大学の分子神経生物学者アンソニー・ホルトマート氏は言い、
「今回の研究報告からは、われわれも得るものがある。（ 報告書の執筆陣は ) 記憶のメカニズムの解明に貢献している」
と研究結果の有効性を認めた。
また、焼きたてのケーキの匂いや祖母の声のような外的刺激による神経経路の発達については、まだ正確なことは分かっていないが、今回の研究で、脳の機能に対する科学者の理解は深まった。さらにこの理解が、脳卒中、統合失調症、自閉症から生じる知的障害への取り組みに貢献できるかもしれないとミュラー氏は言うが、
「こうした応用はまだかなり先の話だ。重要な点は、今回の研究から精神機能障害との関係性が示唆され、病気の克服につながりそうなメカニズムが発見されたということだ」
と慎重に語った。
swissinfo、ティム・ネヴィル 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳
神経回路の形成
ドミニク・ミュラー氏の研究チームは、脳の奥深くにあり、学習をつかさどる主要部位である海馬を研究した。脳内の海馬の位置が問題となり、生きたラットは使えなかった。
今回の研究では、個人の活動に合わせて発達した神経回路の編成・再編成の仕組みに焦点が当てられた。
ジュネーブ大学の分子神経生物学者であるアンソニー・ホルトマート氏は、学習活動とその結果形成される神経回路を、森を歩くことに例えた。同じ所を何度も歩けば、段々と歩きやすい道ができ、逆に、あまり使われない道はいつしか草に覆われてしまうという意味だ。
今回の研究によると、このような道は毎回同じ場所に出来るわけではない。新しい道が作られる場合、絶えず情報伝達がおこなわれている神経回路を構成する既存の道のそばに出来るという。
例えば、ピアノの練習をしている人は、特に指先を器用に動かすための神経経路を発達させることになる。この経路が使われなくなれば、ほかの機能によって置き換えられる。