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長年の間スイスの滝は観光客を惹きつけ、詩人にひらめきを与えてきた。そして現在も貴重な観光名所となっている。
ベルナー・オーバーラントのラウターブルンネン谷には多数の滝がある。観光案内によると、谷には72もの滝がある。しかしその数が記録的なものかどうかは記されていない。
ゲーテとバイロンの滝
ベルン州ラウターブルンネン谷の名所シュタウブバッハの滝 ( Staubbachfall ) で風と水の共演を観たドイツの偉大な詩人ゲーテは、「人間の魂は水のようだ。天国からやって来て、そして再び天国へ帰る」と記した。ゲーテの詩「水の上の精霊の歌 ( Gesang der Geister über den Wassern ) 」は後にシューベルトによって歌曲となった。一方バイロンは同じ滝を「黙示録に登場する死に取りつかれた青白い馬の尾のよう」と表現している。
この滝の名前は、ほこりや塵を意味する ドイツ語のシュタウブ ( Staub ) のような、風で渦を巻きながら舞い上がる細かい水しぶきに由来している。ゲーテやバイロンと同様に、岩に砕け散った水流が「雲の波」に変化する様を無数の観光客が見てきた。そしてまた数え切れないほどのスイスの子どもたちが、シュタウブバッハの滝をスイスで最大の落差を持つ滝であると習ってきた。しかし地理の教科書を書き直す必要性が出てきたようだ。
近寄り難い場所へ挑む
地理学者であり滝の専門家のフロリアン・シュピヒティク氏は同僚のクリスティアン・シュヴィック 氏とともに、スイスの滝を研究している。両氏は2007年に、スイス国内の印象深い129の滝を特集した写真集『 スイスの滝 ( Die Wasserfälle der Schweiz ) 』を出版した。2人はシュタウブバッハの滝を撮影するために滝の頂上まで1度なら2度も登った。
すべての滝が最大または最長になることはあり得ない。いずれにせよこれはシュピヒティク氏が指摘するように、滝をどのように定義づけるかによって決まる。シュタウブバッハの滝のライバルと呼ばれたザンクトガレン州アムデン ( Amden ) のゼーレンバッハの滝 ( Seerenbachfalle ) が、スイス一落差の大きい滝として認知されるまで長い時間がかかったが、それは驚くべきことではない。
スイス東部にあるバーレン湖 ( Lake Walen ) の ゼーレンバッハの滝の落差は、シュタウブバッハの滝の落差よりも大きい可能性があると知られていたが、滝の全長を測定することは困難を極めた。ゼーレンバッハの滝は3段に分かれているカスケード型で、全長は585メートルであることが判明していた。しかし2006年に恐れ知らずの地理学者2人が調査のためにこの滝に登るまで、登攀不可能と言われていた中段の正確な高さは不明だった。
「この中段を測定するためには、真っすぐに降下しなければなりませんでした。懸垂降下が終わった時、この滝がシュタウブバッハの滝より8メートル高く、全長305メートルであることが証明されました」
訂正に次ぐ訂正
しかしその後も2人は別の滝の推測値を訂正しなければならなかった。そしてその結果ラウターブルンネン谷に再び記録が戻ってきた。今回はミューレンバッハの滝 ( Mürenbachfalle ) だ。
「滝の定義で間違いを犯していたことを発見しました」
とシュピヒティク氏は認めた。
2人は最初に行った研究でミューレンバッハの滝をカスケード として分類していた。カスケードは階段状のいくつかの段層から成っており、各段層の間には幅数メートルの水流が水平に広がっていなくてはならない。しかし至近距離から調査をしたところ、自分たちが間違いを犯していたことが分かった。
「ミューレンバーン・ケーブルカーでの特別乗車が許可されました。約半分の地点で止まり、滝の詳細を検査することができました。そして前回あると思っていた水平の広がりが実際には存在しないことが分かったのです」
とシュピヒティク氏は説明した。ミューレンバッハの滝の高さを正確に測るために、2人は異なる地点から3回測定し、滝の落差が合計で417メートルあることをつきとめた。
しかし、シュタウブバッハの滝はその名声を完全に失ったわけではない。
「シュタウブバッハの滝は、滝口の標高が、スイスにあるどの滝よりも高く、そこから水が一気に落下する滝です。滝全体ではありませんが、水流が滝つぼまで岩に触れることなく落下する部分があるのです」
とシュピヒティク氏は言った。
「私たちは1200メートルまでの距離を測定することのできるレーザー機器を持っています。その機械には、傾斜を測定することのできる機能がついています。滝の中である地点に立ち、滝の上部と下部を測定することによって、誤差が50センチメートル以内の正確な全長が分かるのです」
とシュピヒティク氏は説明した。
ラインの滝
落差は滝を測定する唯一の方法ではない。滝の水量に関しては、ドイツとの国境からそう遠くないスイスのシャウハウゼン ( Schaffhausen ) を流れるラインの滝以外どこを探しても勝るものはない。ライン川の落差は23メートル程度にすぎないが、幅は150メートルもある。毎秒約60万リットルもの水が流れる夏は最も壮観だ。過去に測定された最大水量は1965年の毎秒125万リットルだ。
しかしこの数字は世界最大級の瀑布のものと比べたら微々たるものだ。ナイアガラの滝はラインの滝の6倍、コンゴ川流域にある世界最大のインガ滝は115倍の水量を誇る ( 実際は、インガ滝は一連の急流にすぎないため、該当しないと考える人もいる ) 。ヨーロッパにはこのような巨大な滝は存在しない。
ラインの滝はスイスだけでなくヨーロッパでも最大級の滝で、これに匹敵する滝があるのはアイスランドだけだ。何世紀もの間、ラインの滝もまた観光客を惹きつけ、芸術家にひらめきを与えてきた。19世紀にはイギリスの画家J.M.W.ターナーがライン川の滝を研究し、数点の作品を描き上げた。過去においてラインの滝が水力発電所の建設計画を何年間も据え置くことができたのは、おそらく観光客の誘致という経済的価値があったためと考えられる。
ラインの滝には、スイス一観光客が多い滝という記録もある。しかしシュタウブバッハの滝には、偉大な詩人にインスピレーションを与えた滝という無形資産の記録がある。
ジュリア・スレーター 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )
スイスの滝
滝は通常、異なる硬さの岩の層の上を川が流れることによって形成される。比較的柔らかい層は浸食して徐々に削られていくが、硬い層は浸食に対する抵抗性を持っている。
そのため滝は、主に岩がはっきりと階層化された地帯で発見される。
スイスの滝の約3分の2が、ヴァレー / ヴァリス州の南西からアルプス北部を横切りオーストリアとの国境にあるライン谷の間に広がる「ヘルベティック・ナップ ( Helvetic nappes ) 」に存在する。
スイスの滝の5分の1は、ヴァレー州の南東とティチーノ州北部の「ペニニック・ナップ ( Penninic nappes ) 」にある。ナップとは、現地性基盤をおおう異地性の巨大な岩体。
滝の大きさは、地質だけでなく降雨量や河川の流域によって変わる。
ラインの滝の大きさは、川の流域の規模によるところが大きい。
中央アルプスのスイスの高原には大きな滝はほとんど無い。
滝
滝にはさまざまな形態があるので、比較を行うのは難しい。
滝の基本的な区分けとしては、滝口から滝つぼまで一直線に落下するものと、カスケードのように段層から段層へと連続して落下するものに分けられる。
双方とも、一本の水流、または複数の平行の水流、または複数に枝分かれした後再び合流する水流、幅広いカーテン状の水流など、異なる形態がある。