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チューリヒ大学の発掘隊が、アルプス地方で今からおよそ3000年前の山小屋の発掘作業を進めている。オーストリアの国境に近いシルヴレッタで発掘されたのは鉄器時代の家屋で、アルプス地方最古の遺跡である。
発掘された山小屋は、羊飼いが夏の間に使っていたものらしく、現代の酪農家と同じように当時も、牧草地に家畜を放ち、乳を絞りチーズを作っていたらしいということが分かっている。
3000年前の羊飼い
「スイスにとっては『典型的なスイスの生活』をしていただけということになるのだろうが、この遺跡は非常に古いことのほか、いろいろな点で興味を覚えさせられるものだ」
チューリヒ大学の考古学科教授で今回の発掘を指揮したトーマス・ライトマイヤー氏はこう語る。グラウビュンデン州のシルヴレッタ ( Silvretta ) 、標高2264メートルで発掘された山小屋は炭素14による年代測定で、ローマ帝国が現在のスイスに侵攻する以前の、人々が湖の湖畔に住居を構え、ケルト民族より古い民族が住んでいた紀元前800年代初期ころのものと判明した。
現在残っているものは多くはないが、ライトマイヤー氏の発掘隊はこの3年間、丹念に発掘を進めてきた。重なって発掘された石は、小屋の木の壁と屋根を支えていたが、時とともに崩れ落ち、泥と草の根に覆われてしまったもので、小屋の大きさは4人から6人が住めるほど。
「数千年前、夏に羊飼いが山小屋で生活していたことは分かっていたが、これまで発掘された遺跡でもっとも古いものは中世のものだった。しかし、今回の発掘で、より古いものが発見された」
とライトマイヤー氏はこの発掘の意味を語る。
「肥沃な土地」を探し当てる
ライトマイヤー氏の発掘隊はアルプス地方の古代の居住区で多くの発掘をしているが、今回公開された小屋は一連の発掘の1つに過ぎない。
「当時のアルプス周辺の外見や構造は分かっているが、それ以上のことはまだ解明されていない。高所で放牧をしていたらしいことは分かっている。そこで、山小屋がこの周辺にあると仮定した」
と言う。
当時、エンガディンの低地の谷間、現在のラモシュ ( Ramosch ) 付近では、現在より気候が温暖で、乾燥していてほかの場所より人が住みやすい環境にあったということが分かっている。当時の人たちが夏、このアルプスの高所に住みかを移動する理由は十分にあったとライトマイヤー氏は指摘する。言語学者も原始時代の言語でこの地方の一部が肥沃もしくは豊かという意味の「フィンバ ( Fimba ) 」もしくは「フィンバー ( Fimber ) 」と呼ばれ、良い牧草がある場所として使われたことを指摘する。
2007年からライトマイヤー氏は、スイスの鉄器時代前期の人たちは、谷に沿って現在のオーストリア方面に向かい、アルプスの山にたどり着いたと想定し、双眼鏡を使い、原始人が居を構えそうな場所を探した。
「観察場所から非常に遠いところで、周囲の地形とは異なった場所が見つかった。確信は持てなかったが、なにかあるのではないかと思い、現場を実際掘ってみたところ、驚く発見があった」
と言う。
発見の向こうにある発見
発掘を始めてすぐ、炭化した木片が出土した。早速、連邦工科大学チューリヒ校 ( EHTZ ) で調べたところ、約3000年前のものであることが判明した。この現場は、1889年に建てられ現存する「ハイデルベルク山小屋 ( Heiderberg Hütte ) 」から徒歩で2分しか離れていない。遺跡の痕跡は年とともに消されてしまい、このような近くに3000年前の山小屋が建てられていたなどと、誰も思ってもみなかった。
「ここに人が住んでいたということについては、不思議はないが、この場所をわざわざ選んだことは驚きだ」
とハイデルベルク山小屋を運営するパウル・フーバー氏は語る。
「もし、3000年前の自分だったら、峠の向こうを選ぶ。向こうの方がより開けているから」
その後の発掘作業で、発掘現場より地下10センチメートルの地点で灰の層が発見された。これは、小屋が焼けたらしいことを意味する。ただし、火事になって住民がここから退去したのかどうかは分からない。
この夏、土器が出土したほか、狩猟生活から農耕生活に移行する時期に当たる紀元前5000年ころのかまどの跡も発見された。7月には異常気象で発掘現場は雪が降ったため、現場は泥にまみれている。その中、ライトマイヤー氏は発掘された広く円形に広がる石の山を指さす。半分は草に覆われ、まだ手が付けられていない。
「気候のことを考えると、ここに山小屋を作る必要が分かってくる。雪に視界が遮 ( さえぎ ) られ、牛は谷にそって下って来たのだろう。よって、これより古い小屋がアルプス地方にあることは確かだ。今後、青銅器時代の小屋が発見されるはず」
とライトマイヤー氏は確信しているという。
テイム・ネヴィル フィンバー峠付近にて
( 英語からの翻訳、佐藤夕美 )
アルプス地方最古の住居
このほど公開されたオーストリア国境付近、シルヴレッタの山小屋は、数千年前のアルプスの生活の様子を解明するパズルの一片にすぎない。
植物学を通して、山小屋に人が住んでいた頃の気候も判明した。
「ずっと以前から人類が土地に手を加えていたことは明らか。牧草地は美しいが、人間が作ったものだ」
とトーマス・ライトマイヤー氏は言う。
3000年前の山小屋は、現在のスイス国内「ハイデルベルク山小屋」に近い場所で、オーストリアのイシュグル ( Ischgl ) の南方に位置する。風が強く、木は生えないフンバー峠に続く。小屋が建てられた時代のこの地方は木で囲まれていたが、家を木材を利用して造り、薪にするため木を伐り、牧草地を作った。
現在はオーストリア側から行く方が、追い風のため楽だが、当時はスイスのフィンバー峠を越えて来たとみられる。峠越えには4時間ほど掛かる。スイス側から来たという理由は、スイス側には多くの居住地があったが、オーストリア側には1カ所もないことが挙げられる。