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アメリカが租税回避地の取り締まり強化に乗り出し、バミューダ諸島やケイマン諸島から企業が撤退しはじめた。この措置の恩恵を受けているのがスイスだ。
例えばアメリカの石油関連企業「ウェザーフォード・インターナショナル ( Weatherford International ) 」は昨年、バミューダ諸島とヒューストンから引き上げて、11月半ばにスイス株式市場での取引を開始した。
スイスの磁力
税の優遇措置のほか、保険やコモディティ ( 商品・産物 ) に強いスイスの長所が強力な磁力となっている。
バミューダ諸島やケイマン諸島などの小さなオフショア・アイランドは、バラク・オバマ米大統領が精力的に進めている対策強化で最初にターゲットとなった租税回避地 ( タックスヘイブン ) だ。海外利益がアメリカに還流されたときにかかる高い法人税を回避するため、オフショアでの業務を開始した企業は数多い。
オバマ政権の猛攻撃は税収をアメリカに還流させるためのものだったが、各企業はヨーロッパへと活動場所を移しはじめた。そして、新境地として人気を呼んでいるのがスイスやアイルランドだ。
世界最大の電子コネクタメーカー「タイコ・エレクトロニクス ( Tyco Electronics ) 社」は昨年、スイスの法人税が低額であることを理由に事業をバミューダ諸島からシャフハウゼン ( Schaffhausen ) に移して企業再編を行うと発表した。
経済協力開発機構 ( OECD ) の加盟国であり、世界の主要経済国を相手に租税条約を交渉しているスイスは、アメリカの租税回避地取り締まりに対する大きな防御手段を持っているといえよう。
フライパンの中へ
イギリスの税制監視団体「タックス・リサーチUK ( Tax Research UK ) 」のリチャード・マーフィ氏は
「アメリカは、租税回避地に籍を置いても企業に有利なことはあまりないということを明らかにした。だが、スイスはOECDの標準に則した租税条約を締結しており、土俵はバミューダ諸島とはかなり異なる」
と語る。
マーフィ氏はまた、アメリカの中間選挙で共和党が勝利したことにより、オバマ米大統領の租税回避地撲滅運動は当分の間難航すると予測する。ただし、政界の変化が減速しても、取り締まりがストップすることはないと見る。
「これらの企業は ( バミューダ諸島、ケイマン諸島という ) 火事現場から ( スイスという ) フライパンの中へ飛び込んだ。つまり、ここでも追跡は止まないということだ」
しかし、スイスでは伝統的に保険業界が強く、コモディティ分野でも競争力が増大している。ここに魅力を感じている企業はほかにもある。
ウェザーフォードは石油ガス産業に従事しており、ドリルやポンプ、エレベーターのほか一連の開発サービスを専門としている会社だ。同社のスイス移転には、2年前にオペレーションをケイマン諸島からスイスへ移した海洋掘削会社「トランスオーシャン ( Transocean ) 」の移転が反映されている。
エルドラド
フリブール経営専門大学 ( HEG ) でコモディティを専門としているエマヌエル・フラニエール教授は、ジュネーブやツークに定着し、さらに発展を続けているコモディティ分野も移転の理由の一つだとにらんでいる。
「ジュネーブはコモディティ分野で働く優秀な人材にとって新しいエルドラドになっている。長期的な目標には高度のスキルを持った企業戦士、また法的サービスなどその企業戦士をサポートする構造すべてに対するアクセスが必要だ」
フラニエール氏は、最近のアメリカの政治的な動揺もスイスに都合の良い結果になったと言う。11月に行われた下院および上院の選挙では共和党が勝利したが、これは右派の「ティー・パーティ ( Tea Party ) 運動」が大々的なキャンペーンを繰り広げた結果だ。
「企業は突如、安定したプロフェッショナルな管理を妨げる風見鶏的な政策が取られることになるかもしれないと気づいた。一方で、スイスは政治的にも金融的にも非常に安定している」
とフラニエール氏は分析する。
保険ブーム
さらにバミューダ諸島は、政治や規制に圧力がかかることにより、国際的な再保険企業の拠点としての伝統的な魅力が減少した。例えば「アライド・ワールド ( Allied World ) 」は10月、バミューダ諸島からチューリヒへ拠点を移すと発表したほか、「エースグループ ( ACE Group ) 」もオペレーションの一部をケイマン諸島とバミューダ諸島からチューリヒへ移転させる予定だ。
またイギリス資本の「アムリン・リー ( Amlin Re ) 」は今年初旬、バミューダ諸島から行っていたサービスをチューリヒに移すと発表。「カトリン・グループ ( Catlin Group ) 」もバミューダ諸島での業務を内部で引き受けるためにチューリヒ支部を設置した。2年前には「パリ・リー ( Paris Re ) 」が、バミューダ諸島の業務をチューリヒ支店に吸収させると発表した。
バミューダ諸島に業務を残そうとしている保険会社もあるが、アメリカはスイスと租税条約を結んでいることから、スイスに拠点を置く子会社を作ればアメリカの徴税を回避できると観測筋はみている。
ビジネスロケーションとしてのスイス
KPMGが行った法人税に関する国際調査の結果、経済不況にもかかわらず、最高税率の平均は2009年の25.44%から今年24.99%に下がった。
だが、付加価値税などの間接税は15.41%から15.61%に上昇。
スイスはここ数年間、法人税の引き下げ競争で国際企業を誘致している。
スイスでは国際企業の欧州本社や国内のホールディング会社を誘致するために、各州が独自に税率を定めることができる。低い税率で特に成功を収めているのは、ツークやシュヴィーツなどの小さな州。
最近の法人税率の国際比較によると、スイスのどの州に拠点を置くかによって税率に12.5%から24.5%の開きが出ている。税率が最も低いのはオプヴァルデン準州とアッペンツェル・アウサーローデン準州で、最も高いのはジュネーブ州。
スイスの法人税率の全国平均は18.8%。アメリカは40％、フランスは33%、ドイツは29.4%、イギリスは28%、シンガポールは17%、アイルランドは12.5%。
過去数年間でスイスに拠点を構えたり、業務進出したりした多国籍企業に、食品製造の「クラフト ( Kraft ) 」「イーベイ ( Ebay ) 」「プロクター&ギャンブル ( Procter & Gamble ) 」「マイクロソフト ( Microsoft ) 」「ダウ・ケミカルズ ( Dow Chemicals ) 」「グーグル ( Google ) 」などがある。
しかし、隣国に比べて明らかに税率が低いスイスの税競争システムは、欧州連合 ( EU ) の批判の的になっている。
EUはこれを、当時の欧州共同体 ( EC ) とスイスの間で1972年に調印された自由貿易協定に違反する行為だとみなしている。スイスは否定しており、過去18カ月間荒波は収まっているものの、不和が長引いている。
( 英語からの翻訳、小山千早 ) , swissinfo.ch