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アルプスの素朴なたたずまいを残すウーリ州アンデルマット。豪華なリゾート地やゴルフ・コース建設の巨大プロジェクトを前に、この村で農家を営む人々はただ立ち尽くすばかりだ。
レグリさん一家は、プロジェクトに必要な土地の売却を拒否した。彼らは「丹精をこめた牧草地をつぶしてゴルフ・コースを作るのは、多くの村人にとって生きる道を断つようなものだ」と語る。
マヤ・レグリさんは村の一番高い所に登って、車を降りた。彼女が伸ばした手の先にあるのは、将来のゴルフ・コースだ。
初めは言うことなしだった
エジプトの大富豪が持ってきたこの巨大プロジェクトは、過疎のこの町で、当初住民に拍手を持って迎えられた。しかしその時の説明では、リゾート開発にはスイス軍が撤退した跡地が使われるというものだった。
誰にとってもハッピーなプロジェクトに見えた。地元政府は喜んで土地を売り、仕事のない人は職にありつき、エジプト人ビジネスマン、サミー・サヴィリス氏はヨーロッパへの足固めをここで作ることができる。
去年の年末にサヴィリス氏がこのプロジェクトを発表した時には、地元政府も議会も住民も、諸手をあげて歓迎したものだ。ところが今年7月に入って、雲行きが変わってきた。サヴィリス氏が「世界的に通用するゴルフ・コースを建設するには、もっと土地が必要だ。農家から土地をいくらか買わなければいけない」と発表したのだ。
そして9月に入ると、さらにもっと土地が必要だということを明らかにした。土地の所有者たちに与えられた時間はわずかだった。もし土地を売らないのなら、このプロジェクトを白紙に戻すと脅しをかけ、今年12月初旬までに売るかどうか決めよと最後通達を出したのだ。
この結果、住み慣れたアンデルマットを離れた者あり、未来のリゾート地の社員になるためにこの地に残った者あり。15軒あった農家のほとんどは、こうやって先祖から守ってきた土地を売る決心をした。ところがレグリ家だけが売るのを拒否したのだ。
村で一番恵みをもたらす土地
レグリ家に対して、もちろん地元政府や、プロジェクト撤廃を心配する住民からの圧力はまったくないという。それでも、レグリ家の人々は、売るか売らないかを表明する12月初旬のことを思うと緊張する。
しかし、セバスチアン・レグリさんの意志は強い。「どんな値段を付けられても絶対に売らない」。土地を売って、企業の社員になるなんて、セバスチアンさんにとっては考えられないことだ。「何年も同じ事を繰り返しやらされた挙句、ある日突然、今度は人間としての尊厳もないような仕事が与えられる。そしてしまいには、ぽいと道ばたに放り出される。そんなケースを、いくらでもあげることができる」
彼によると、もしサヴィリス氏の言うなりに山の斜面にゴルフ・コースを作れば、アンデルマットの村から牧草地はなくなってしまうだろう。サヴィリス氏の指定した場所は、村で最も肥沃な土地なのだ。
そうなれば、アンデルマットの魂は永久に失われてしまう。「私はそれを恐れているんだ」とセバスチアンさんは言う。手入れの行き届いたアルプスの美しい風景。絵葉書に出てくるような光景が、そこにある。「だからこそ、観光客がスイスにやってくるのだ」。もしこの風景がなくなってしまったら、果たして観光客は来るだろうか。
「この巨大プロジェクトが完成した暁には、アンデルマットは本物のアルプスの村ではなくなり、どこからかヤギでも買ってきて村を練り歩かなくてはならなくなる。観光客のためにね」とセバスチアンさんは言う。これは有名な観光地、ツェルマットで実際に取られている手法だ。
レグリ家の土地は2.5ヘクタール、そこで一家は30頭の家畜を飼っている。
例外が認められればいいけれど
「サミー・サヴィリス氏は『ゴルフをしながら牛を見れたらいいな』といつも言っています。ゴルフ場で牛を放牧するのは実際には不可能でしょうから、本物の牧草地を例外的に認めて下さったらいいのです」とマヤさんは強い口調で語る。「そうでなければ、彼は嘘つきということになります」
レグリ家の人々は「地元政府はサヴィリス氏に従順に従い、投資家が求める全てを叶えることに躍起になっている。ここで長年培われてきた生活が破壊されることなんてお構いなしだ」と感じている。
彼らの25歳の娘、カロリンも両親に同感だ。しかし彼女は両親より少し楽観的らしい。「あのエジプト人は、フェアウェイの近くに牛を飼うことについては最初の約束を守るのではないかしら」
夢は広がる。「もしいつの日か、この村に観光客が押し寄せる日が来れば、農家を魅力的に見せるためにチーズ作りのデモンストレーションを始めるのもいいかもしれないわ。チーズを作るには土地が必要じゃないの。そうしたら、ゴルフ・コースの真ん中に農家が必要じゃない？牛にからんからんと鳴る大きなベルをつけて観光客を呼び込むの」
swissinfo、デイル・ベヒテル ( アンデルマットにて ) 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳
キーワード
アンデルマットは、海抜1444メートルにある、人口1264人の村。
現在、20軒のホテルとゲストハウスがあり、宿泊収容人数は800人。
サミー・サヴィリス氏はこの数を2倍にする計画。
オラスコム・グループ
サヴィリス家が実権を握るオラスコム・グループは世界的に事業を展開するエジプトのビジネス・グループ。通信、建築、旅行の3つの部門に分かれており、サミー・サヴィリス氏は旅行部門のトップ。
現在、紅海沿岸で3つのリゾートを経営しており、4つ目をアラブ首長国連合、5つ目をオマーンで建設している。同社の企業戦略は「ロケーションの良い未開発地を買収し、充分に地元に受け入れられた開発を行う」。
中でもエジプトのエル・グウナ ( El Gouna ) は最大規模で、ホテルやレストラン、ショッピング・センターなどが併設されている。このリゾートには空港や学校、病院まであり、1万人が住んでいる。