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夕方になると、レザン(Leysin)上空を鳴き合いながら、ダイナミックな飛行技を見せてくれていた雨燕も、８月になると気圧の変化を感じたのか、南アフリカを目指して飛び立ってしまいました。今頃、どのあたりを飛んでいるのか、群れになって南へ南へと長い旅を続けていることでしょう。また来夏、大空を自由自在に舞う姿を見せてもらいたいものです。
私の住むヴォー州(Vaud)はスイスの南西に位置しています。日本でも各地で郷土菓子があるように、ヴォー州にもこの地方特有のお菓子があります。今日は、その一つであるガトー・ヴァン・キュイ(Gâteau Vin Cuit)をご紹介します。
色からすると、チョコレート、名前からすると、ワインと関わりのあるような感じがしますが、実は、梨とりんご（フリブール州<Fribourg>では梨のみ）を煮詰めたレジネ(raisinée)、または、ヴァン・キュイ(Vin Cuit)と呼ばれる、アルプ地方やスイス・ロマンド地方（フランス、イタリア語圏）に古くから伝わる独特のシロップを用いて焼くお菓子です。材料は果物のみで、決してワインは使用されていません。１００ｋｇの果物から、７０L程のジュースが搾れます。このジュースを大きな銅製の鍋で、薪を使って２４～３０時間、休まずに煮詰めます。７０Lのジュースからできるレジネは、わずか７Lです。出来上がったレジネは、瓶に詰めると半永久的に保存できます。ヴォー州ヴヴェイ(Vevey)にあるアリマンタリウム（食の博物館）には、１９３９年製のレジネが保管されていて、今でも使える状態にあるそうです。レジネは、昔、収穫した果物を無駄にしない目的で作っていました。砂糖が高級嗜好品であった頃は、砂糖の代用品として使われ、身体の弱い人のための栄養強化剤として利用した時代もありました。その後、人々の興味が薄れ、忘れられた食品となっていましたが、１９８０年代に、再度注目されるようになります。このレジネ作りは秋に行われることが多く、仲間や近所同士で共同作業をして調理したりします。また、地方によっては、市町村の祭りの一環としてレジネ作りを実施するところもあります。
わが家に８年物のレジネがあります。レザンの中学生が修学旅行の資金作りにと販売したものです。これまで調理法もわからず、ワイン棚で長い間、眠っていました。塵の積もった貴重な一瓶ですが、今回、ガトー・ヴァン・キュイとして調理することになりました。ご指導下さったのは、１９１９年生まれ、９２歳を超える、レザン在住のアーネスト・ブラター氏(Ernest Blatter)です。ブラターさんは３０歳の時、病気治療のため、ベルン州、ヴァルト(Wald<旧ツィンマーヴァルト、Zimmerwald>)からレザンに引っ越して来ました。快復後も故郷には戻らずにレザンに居住、現在もお元気に暮しておられます。パティシエ(菓子職人)であったブラターさんですので、今回、プロのお手並みを拝見することができました。
８年物のレジネをお見せしたところ、「トレ・ボン（大変おいしい）」とのこと。レジネの状態が良かったので、すぐに調理に入ります。時間を短縮するため、タルト生地は市販のものを用いました。材料は、市販の生地、生クリーム、砂糖、コーンスターチ、小麦後、卵、そしてレジネです。まず、生地をオーブンで下焼きします。ここで登場したのが、「カイユ/石(cailloux)」と呼ばれるブラターさんが大切にしておられる道具です。「石」とは何でしょう。見せてくださったのはアプリコット（杏子）の種でした。この「石」を生地に敷き詰めて下焼きすると、むらなく焼け、膨らみ過ぎも防げます。５０年という歳月を経たアプリコットの種には美しい輝きがありました。生地が焼きあがったら「石」をとって、生地を冷まします。その間に、生クリームに砂糖、コーンスターチ、小麦粉、さらに卵、そして最後にレジネを加えて混ぜ合わせます。このフィリングを焼いた生地に注いで、１８０度のオーブンで２５～３０分間焼くと、ガトー・ヴァン・キュイの出来上がりです。
手際よく、リズミカルに作業するブラターさんは、無駄が出ることを嫌って、全てのものを大切にします。少しだけ余った生地も、こね直して小さなガトー・ヴァン・キュイにしていました。大きなガトーは翌日、食べるようにとのことでした。いよいよ、待ちに待ったガトーをいただきます。口に含むと、ただ、「おいしい」という一言で片付けてしまうには、もったいない印象を受けました。今まで食べたお菓子とは異なる新鮮な味覚です。まろやかで、コクがあり、甘さと酸っぱさがほどよく調和した、食べる人を幸せな気分にしてくれるお菓子のように思えました。見た目には素朴で地味なお菓子ですので、レストランやお店のショーケースにあっても見逃してしまう可能性があります。スイスの旅先で、長い歴史を持つレジネから作ったガトー・ヴァン・キュイが幸運にも見つかったら、ぜひお試しください。初めて口にした時の感動はいつまでも心に残り、忘れられないスイスの思い出となることでしょう。
小西なづな
プロフィール：小西なづな
１９９６年よりイギリス人、アイリス・ブレザー（Iris Blaser）師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、１女１男。スイス滞在１６年。