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これまでいろいろな所で心に残る美しい景色に出合いました。ヴォー州レザンから見渡すローヌ谷も大好きな眺めの一つです。ローヌ谷はヴァレー州（Valais/Wallis）からヴォー州（Vaud）にかけて東西に貫く幅の広い長い谷です。レザンからですと、ヴァレー州のサン・モーリス（Saint-Maurice）という小さな町付近からレマン湖にかけて眺望することができます。この谷は様々な歴史の舞台となった谷であり、多くの人間ドラマが生まれた谷です。今回はその人間ドラマのいくつかについて触れてみたいと思います。
まずは、偽金造りのファリネ（Joseph-Samuel Farinet）氏。1845年にイタリアで生まれた彼は、イタリアとフランスで罪に問われ、ローヌ谷にあるサイヨン（Saillon）という町付近に逃げ込んで来ました。硬貨を偽造する機械を開発し、スイス20サンチーム硬貨（約１６円）のみを造って、貧しい人々に配ったそうです。注目すべきは、ファリネ自身、偽金を使わなかったことです。貧しい人々の救済に貢献した彼でしたが、やはり罪人ですので警察に追われ、1880年４月、サイヨン近くの谷で彼の死体が見つかるまで、１０年間もローヌ谷で逃亡生活を送りました。
私の住むレザンの麓にエーグル（Aigle）という町があります。人口8,300人 （スイス政府観光局、2011年11月23日付）、美しい葡萄畑が広がりワイン造りが盛んです。また、古くから交通の要所として栄えた町でもあります。この町を流れるグランドー川（La Grande Eau）にナポレオン橋（Pont Napoléon）という、「1723年」と刻まれた石造りの橋が架かっています。
1800年5月半ば、ナポレオン（Napoléon Bonaparte）がアルプスをグラン・サン・ベルナール峠（Grand-Saint-Bernard）で越え、北イタリアに入ります。苦戦を強いられましたが、同年6月14日、マレンゴ（Marengo）の戦いにおいてオーストリア軍に劇的な勝利を収めました。そのナポレオンの4万人の軍隊が渡ったのがこの橋だとされています。この橋を渡り、ローヌ谷をグラン・サン・ベルナール峠に向け移動している軍隊の様子は、ひょっとするとレザンから見えていたかもしれません。ナポレオンのグラン・サン・ベルナールの峠越えはダヴィット（Jacques-Louis David、1805年作）とドラローシュ（Paul Delaroche、1845年作）の二人の画家によって「アルプス越えのナポレオン」という題目で描かれています。構図は似ていますが、かなり異なったアプローチで描かれています。
最後は３世紀末、ローマ時代のヴァレー/ヴァリス州、サン・モーリス（当時はアガウヌムと呼ばれていた）での出来事です。ローヌ谷はこの町で谷幅が極端に狭くなっていることから、軍事上の大切なポイントになっていました。ここに司教座聖堂参事会長だったモーリス指揮下、アフリカ、テーベ（Thebes）で徴兵された6,600人のローマ軍団が駐在していたのですが、彼らがキリスト教禁教令を守っていないことを理由にローマ本国の軍団に虐殺されてしまいます。その中に虐殺を逃れたフェリックスとレグラ（Felix, Regula）という兄妹がいました。二人は命がけでローヌ谷を逃亡しましたが、チューリヒで捕まり斬首されます。現在、サン・モーリスの教会はスイス最古の教会として知られており、教会内には虐殺、殉教を物語るステンドグラスがあります。チューリヒでは「グロス・ミュンスター・カテドラル」とカトリック教会「聖フェリックス・レグラ教会」がフェリックスとレグラに関係のある教会になっています。
サン=ゴタール山塊、ローヌ氷河が源泉であるローヌ川はヴァレー州のブリーク、フィスプ、ロイク、シエール、シオン、マルティ二、サン・モーリス（Brig, Visp, Leuk, Sierre, Sion, Martigny, Saint-Maurice）と流れ、レマン湖となってからジュネーブでフランスに入り、リヨンではソーヌ川と合流し、最終的に地中海に注ぐ全長812km（スイス国内231km）に及ぶ大河です。スイスに水源を持つローヌ川が、その旅路を終えるのが地中海であることを改めて考えてみると、こちらも感慨深いものです。思わず「ボン・ボヤージュ！」と励ましたくなります。ファリネの時代、ナポレオンの時代、そしてフェリックスとレグラのいずれの時代にもローヌ川は流れ続け、人々の暮らしを支えていました。ローヌ谷は歴史とロマンの詰まった谷です。絶え間ない川の流れのように、これからも引き続き、多くの人間ドラマが繰り広げられていくことでしょう。
小西なづな
参考文書及び参考文献
八チロー千夜一夜No.84 「ファリネ」春風八チロー
八チロー千夜一夜 33玉 4玉「サン・モーリス」春風八チロー著
プロフィール：小西なづな
１９９６年よりイギリス人、アイリス・ブレザー（Iris Blaser）師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、１女１男。スイス滞在１６年。インフォボックス終わり