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愛が世界を動かすと言うが、絶滅の危機にある動物にとってチューリヒ動物園の繁殖プログラムは必要不可欠だ。
ドキュメンタリー映像作家のマリアンヌ・プレッチャー氏は、チューリヒ動物園がオランウータンやユキヒョウの赤ちゃんを誕生させるまでの2年半の努力を追った。
花嫁は7頭
愛、死、そしてもちろんセックス、またさらに動物保護という真剣なメッセージのすべてがこのドキュメンタリー映画には入っている。映画は第1部と第2部に分かれており、このほど第1部がスイステレビ ( DRS ) で放映された。主人公の1人は、ドイツからやってきた若いオスのオランウータン、ジャリウスだ。以前チューリヒ動物園にいたオランウータンの群れのリーダーは高齢で、彼が死んだ後にジャリウスが送られてきた。
しかし7頭もいるメスのオランウータンのうちの1頭に赤ちゃんが誕生するまで約1年半もかかった。
「ジャリウスが7頭もいる花嫁に1頭ずつ会ったとき、ことは非常に早く終わりました。お互いの周りを飛び回って、私たちは一体何が起きているのかよく分かりませんでした。どうもジャリウスたちはやるべきことをちゃんとやっていたようですが、動きがあまりにも速かった上、体毛が多くてよく分からなかったのです」
とプレッチャー氏は語った。
猿の物まね
ジャリウスがまだ若いせいもあったが、前にいたリーダーのオスが死んだ後、メスたちは最年長のメスを群れのリーダーに据えて、オスのいない生活に慣れてしまっていた。
「ジャリウスはメス全員と一緒にいる時、とても恥ずかしそうにしていました。その時はまだお互いにどうふるまうか基準やルールというものがありましたし、彼の体もまだ大きく成長しておらず、新しい支配者になれるほど強くはなかったのです。従って時間がかかりましたが、今ではとても可愛い赤ちゃんのハディアも生まれ、皆ハッピーになりました。そしてジャリウスもボスらしく行動しています」
とプレッチャー氏はチューリヒ動物園での上映時に説明した。
自由になったヴィリー
未亡人となったユキヒョウのジャミリアの再婚相手としてエストニアのタリン ( Tallin ) から送られてきたヴィリーはもっとシャイだった。ヴィリーの旅は、1頭の動物を送るためにどれだけの時間、労力そして複雑な役所手続きが費やされたかを物語るよい例だが、野生の動物にとってストレスの多い体験だった。
「1つの場所を出て新しい場所にたどり着くのがいかに大変なことであるかをヴィリーと一緒に過ごして実感しました。そしてヴィリーが檻 ( おり ) から出られるようになるまで1年近くかかりました。ヴィリーが以前住んでいた場所はそんなに良いところではなかったため、突然チューリヒ動物園で与えられた自由に怯えていたのです」
とプレッチャー氏は語る。
ヴィリーも今では父親になった。しかしオスの虎が花嫁候補のメスを殺してしまった例もあるように、うまくいかないこともある。
新鮮な遺伝子
遺伝子の多様性を確保するために、世界中の動物園から動物が送られてくる。チューリヒ動物園の園長ロベルト・ツィンク氏によると、理想的には、親から受け継がれる遺伝子の可変性が95%以上あるのが望ましく、その場合100年から200年間はその可変性を子孫に引き継ぐことができる。
「欧州動物園・水族館協会 ( The European Association of Zoos and Aquaria ) 」に加盟している動物園は繁殖プログラムを運営し、お似合いの候補者を組み合わせる。例えばタジキスタンでハンターの罠 ( わな ) にかかって捕らえられたメスのユキヒョウのジャミリアは、片足が不自由になり野生環境では生きていけない。しかし動物園にとってジャミリアの「新鮮な」遺伝子の価値は非常に高い。ジャミリアの相手のヴィリーはタリンの動物園で生まれている。
チューリヒ動物園は約50種の動物の繁殖プログラムに参加しており、そのうち4つのプログラムの責任者になっている。また同動物園はガラパゴスゾウガメの繁殖に成功したヨーロッパ唯一の動物園だ。
敵は人間
推定では世界中の動物の4分の1が絶滅の危機にさらされており、その中でもオランウータンとユキヒョウの絶滅が最も危惧 ( きぐ) されている。オランウータンは世界に9000頭しか残っていないにもかかわらず、その生息環境の破壊が進んでいる。ユキヒョウの多くは狩猟者によって殺され、世界中で生き残っている数は多く見積もっても7500頭以下だ。
このドキュメンタリー映画にはユーモラスなシーンの裏に真剣なメッセージが込められているとチューリヒ動物園のディレクター、アレックス・リュベル氏は言う。
「最終的なゴールは、野生環境にいるこうした種の保存です。この点から動物園にとって最も重要な役割は、これらの動物がなぜ世界中で絶滅の危機にあり、どうやったら種の保存のために保護できるかを伝えることです」
遺伝子の予備軍
「私は、野生動物にとって動物園が、使節や仲介のような役割を果たすことができると考えています。そして動物園にいる動物は、再度動物たちを野生に戻す必要があったときのための予備軍になります」
野生環境に生き残っている個体数が5、60頭しかいない種類の動物もいるとリュベル氏は言う。リュベル氏とプレッチャー氏は、番組中の可愛らしい赤ちゃんオランウータンや抱きしめたくなるようなユキヒョウの赤ちゃんのシーンを観た視聴者が、絶滅の危機にある動物を保護することが、いかに大切であるかを分かってくれることを願っている。
番組の続編も動物園の世界的な繁殖プログラムを通して、愛が世界を動かしていることを伝える。
swissinfo、イゾベル・レイボルド・ジョンソン、チューリヒ動物園にて 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
ドキュメンタリー
50分間のドキュメンタリー映画2本のうち1本が「スイステレビ ( DRS ) 」とドイツのテレビ局「3sat」で放映された。オランウータンやユキヒョウのほかに、サイ、トラ、ライオン、ガラパゴスゾウガメも特集されている。2本ともDVD化が予定されている。
マリアンヌ・プレッチャー氏はチューリヒとアメリカでドキュメンタリー映像の製作を学んだ。作品の受賞経験があり、ドキュメンタリー映像の制作の教授もしている。
2004年にチューリヒ動物園を撮影した際、現代の動物園がいかにグローバルになったかに気付いたことから今回の映画製作プロジェクトのアイデアが生まれた。もともとのプロジェクトではジャリウスだけを追う予定だったが、彼が「義務」を果たすのにあまりにも時間がかりすぎたため、ほかの動物も撮影することになった。
絶滅の危機に瀕している動物
オランウータン ( Orang-utan )
レッド・エイプ ( red ape) 、または「森の老人」とも呼ばれるオランウータンは樹木の上に住む最大の哺乳類。寿命はおよそ60年。
ヤシ油農園の土地を開拓するために生息環境である森林を伐採され、オランウータンは絶滅の危機に陥った。スマトラ・オランウータンは、年間1000頭の割合で急速に個体数が減っており、推計では世界中には約9000頭しか残っていない。
ユキヒョウ ( Snow leopards )
ユキヒョウは中央アジアに生息し、寿命はおよそ21年。夜明けとたそがれ時に狩りをし、単独行動を好む。
ユキヒョウの骨と毛皮は密漁者にとって実入りのよい商売になる上、ユキヒョウは農民にも嫌われている。現在生き残っている野生のユキヒョウの数はわずか4500頭から7500頭程度と推定されている。