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フィリピンの故フェルディナンド・マルコス大統領の独裁下で戒厳令の被害を受けた人々は、かつて元大統領がスイスの銀行に隠した財産の一部をもうじき補償金として受け取れる見通しだ。補償金の支払いには複雑な手続きが必要で不満も寄せられているが、今では独裁者資産回収の国際的モデルとなっている。
補償金の支払いを求めている被害者の数は、予想の倍以上の４万７千人近くに上った。申請は５月３０日まで受け付けているため、この数は今も増加中だ。支払いは来年までに行われる予定だ。来年は、スイス政府がマルコスの隠し口座を初めて凍結してからちょうど３０年になる。
被害者が長い間待たされたことで問題は悪化したと、フィリピンの人権被害者補償請求委員会（Human Rights Victims’ Claims Board）はフェイスブック上に投稿している。
「つらい経験を蒸し返し、思い出すのはただでさえ難しいことだ。細かい手続きのためにそれを何度も繰り返さなければならないのは、本当に、本当に不愉快だ」と被害者のマーレット・マラシガンさんは書いている。「私たちは既に被害者なのに、今度は手続きの被害者にされる」
スイスは世界で先頭に立って独裁者の横領資産の返還を行い、１８億ドル（約２１６３億円）をフィリピンその他の国々に返してきた。これは世界銀行の推計によると世界中で返還された資産５０億ドルの３分の１以上に当たる。
この数字からわかるのは、資産回収に積極的な国がスイスのほかにはあまりいないということだと、各国の資産回収と腐敗撲滅を支援するバーゼル統治研究所のグレッタ・フェンナー所長は話す。
「スイスは孤独な戦いを強いられている。スイスだけではこの戦いを終わらせることはできない」
先陣を切って
秘密主義の伝統が染み込んだスイスはこの数十年、「世界中の汚い資金を洗浄している国」という汚名を返上しようと努力してきた。米国などから脱税や知能犯罪対策を強化するよう圧力がかけられたことも、透明性の向上につながった。
１９８６年にマルコスのスイス銀行口座を凍結して以降、スイス政府はこのような資金を正当な持ち主に返還するよう努めてきた。
「スイス政府が資産回収を始めたきっかけは、マルコスの件だ」とフェンナー所長。
「宣伝が目的だったのか、それとも腐敗との戦いに責任を感じたためだったのかは私にはわからない。しかしその頃には、資産回収は重要な問題だと政府が理解していたことは明らかだ」
政治的意思と１５０年以上に及ぶ２国間の緊密な協力体制に後押しされ、マルコスの件は解決に向けて進みだした。
スイスが凍結したマルコスの資産６億８５００万ドルは「泥棒政権下にあった国に返還された額としては過去最大級」だと、スイス外務省のステファン・フォン・ベロウ広報担当官は説明する。
「これをきっかけに国際的な資産回収計画が始まり、今後の資産回収および不法資金の使用法について新たな基準が打ち立てられた。また国連腐敗防止条約の交渉にも直接的な影響を与え、条約では資産回収に丸ごと１章が充てられることになった」
資産回収を行うメリットは大きい。フィリピンにとっては、返還されたお金は困難だった時代を終わらせるのに役立つ。スイスにとっては、独裁者や独裁政権にスイスの金融センターを悪用させないよう本気で取り組んでいるというアピールになる。
横領された公的資金の返還には、通常は少なくとも数年はかかり、関係国間の情報共有と協力の度合いでその長さが異なってくる。また複雑な法的、金融的問題が絡むため、スイスは手続きの迅速化を目指した新法を制定してきた。
資産回収は現在、スイスの外交政策の優先課題となっている。「スイスはこの分野で世界のリーダーだ」（フォン・ベロウ広報担当官）
態度の変化
フィリピンに返却された６億８５００万ドルの用途は、何年もの交渉と両国での裁判所の判決を経てようやく決定した。資金の３分の２は、１９８７年の憲法に則し、土地を持たない農民の利益となる農業改革に充てられた。残る３分の１は被害者への補償だ。
２０年に及ぶマルコスの独裁政権下では、政敵が拷問を受けたり、即決処刑にされたり、失踪したりするケースが相次いだ。１９７２〜８１年に戒厳令を敷いたマルコスは、不正行為を認めないまま、亡命先のハワイで８９年に死去した。
マルコス政権を打倒したのは、ベニグノ・アキノ３世現大統領の母、コラソン・アキノ元大統領だった。スイスがマルコスの口座を凍結した同年、「善政に関する大統領諮問委員会」を設立した。
息子のアキノ現大統領は２０１４年２月、マルコス政権の被害者やその家族に補償金を支払う補償請求委員会を設立した。委員会は、支払いの前に請求の正当性を確認しなければならないため、スイス政府はその作業に必要な技術的支援を行っている。
前出の大統領諮問委員会でマルコスの不法財産回収を担当するアンドレス・バウティスタ委員長は、アキノ政権は１６年６月の任期終了までにお金を配分したい意向だと説明する。バウティスタ氏はハーバード大学で学んだ弁護士で、アキノ大統領から委員長に任命された。
フィリピン政府はこれまでにマルコスの資産約４０億ドルを回収している。大半はココナツ産業から略奪されたものだ。しかし政府は、あと最大で６０億ドルものお金がどこかに隠されている可能性があると考えている。
また、失われた宝物が次々と見つかっている。例えば昨年、フィリピンの元大統領夫人の元側近が、３２００万ドルのクロード・モネの絵画をスイス人のバイヤーに売ろうと計画したかどで投獄された。
「こういうことがあるので、私たちはスイスその他のヨーロッパ諸国に隠し資産がないかどうか、探し続けている」とバウティスタ氏。ただ、スイス政府からはフィリピン政府に対し、マルコスの隠し口座はこれ以上存在しないと話があったとも付け加える。
資産回収を巡っては、スイスのような富裕国がフィリピンの主権に干渉することになるのではないかという懸念が当初はあった。しかし、両国が共通の利益に基づいたプロセスを歩むにつれ、こうした懸念は消えていった。
バウティスタ氏は言う。「お金が被害者たちのもとに渡ることが望ましいとスイス政府は表明しているが、それが干渉に当たるとは私たちは全く考えていない。なぜなら、私たちもそう信じているからだ」
（英語からの翻訳・西田英恵 編集・スイスインフォ）, swissinfo.ch