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チューリヒは、町なかで見知らぬ人に向かって滅多に笑うことがない街だ。やたら笑いかける街こそ怖そうだが、ここではみんな忙しそうに歩いている。観光客 も多いけれど、路上で会話が始まることはほとんどない。そんな中で先日、ほっと心が緩んだことが2回あった。両方とも「ありがとう」という言葉を聞いたと きだった。
一つ目は会社のすぐ近くの、交通量が結構激しい通りで。横断歩道がいくつもあって、お昼休みなどの人通りが多いときは車は停まってばかり。そのときはあま り急いでなかったので、私はゆっくり歩いていた。横断歩道で向こう側に渡ろうと思ったら、車の波は途切れていたけれど、そこに自転車で走ってくる人が見え た。停まらせるのもなんだなと思って、横断歩道の前で彼が通り過ぎるのを待っていたら、通り過ぎるときに「ありがとう～！」と叫んでいった。なんだかうれ しかった。
二つ目は電車で家に帰るとき。チューリヒを出て、うちの駅に着いた。電車を降りてホームを歩いていたら、向こう側から若い男性が走ってくる。この電車を逃 したら30分待たなければならない。通り過ぎる間際に最後尾のドアを開けるボタンを押してあげたら、「ありがとう」とすれ違いざまににっこり。こちらも にっこり。
こんなささいなことでも、気分がさわやかになる。「ありがとう」の持つ威力は大きい！